金田一 春 彦 著 作 集
第七巻
玉川大学出版部
(1) 観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄
(2) 伏 見 宮 家 本 ・古 今 和 歌 集
(4) 文 永 本 ・朗 詠 要 集
(3) 熱 田 本 ・日 本 ...
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金田一 春 彦 著 作 集
第七巻
玉川大学出版部
(1) 観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄
(2) 伏 見 宮 家 本 ・古 今 和 歌 集
(4) 文 永 本 ・朗 詠 要 集
(3) 熱 田 本 ・日 本 書 紀
金田 一春彦 著作 集 第 七巻 目 次
国 語 ア ク セ ン ト の 史 的 研 究 原 理と 方法 はしがき
17
15
︹一︺ 国 語 の ア ク セ ント と は
18
序 論 ア ク セ ン ト 史 研 究 の意 義
︹二 ︺ ア ク セ ント は 社 会 的 な 慣 習 の 一 つ
19
26
25
23
21
︹三 ︺ ア ク セ ント は 語 音 の 配 偶 ︹四 ︺ 社 会 的 慣 習 と し て の ア ク セ ン ト の 性 格 ︹五 ︺ ア ク セ ント は 社 会 が ち が え ば 変 わ る ︹六 ︺ ア ク セ ント の歴 史 と は ︹七 ︺ ア ク セ ント 史 研 究 の効 用 本 論 ア ク セ ント 史 研 究 の方 法
第一 章 ア ク セ ン ト 史 研 究 の 原 理
︹八 ︺ ア ク セ ント の史 的 研 究 の 可 能 性
38
35
35
︹九 ︺ ア ク セ ント の 規 則 性 の 原 因
4 0
第 一節 ア ク セ ン ト の 体 系性
︹十 ︺ ア ク セ ント の 単 位 は 有 限
︹十 一︺ 拍 数 がきま れ ば種 類も きま る
43
49
4 8
︹十 三 ︺ 語 の 種 類 と ア ク セ ント と の 関 係
52
︹十 二 ︺ ア ク セ ント の 型 の意 味
︹十 四 ︺ 同 根 語・ 同 源 語 間 の 型 の照 応
53
60
60
︹十 五 ︺ 過 去 の ア ク セ ント に 窺 わ れ る 規 則 性 第 二 節 ア ク セ ント 史 研 究 と 比 較 言 語 学 ︹十 六 ︺ ア ク セ ン ト 史 研 究 を一 層 容 易 に す る も の
61
そ の規則 性
︹十 七 ︺ 音 韻 変 化 の基 本 的 性 格︱
63 66
︹十 八 ︺ アク セ ント の変化 も規 則的 か
︱アク セ ント 変 化 の規 則性 の証
︹十 九 ︺ 諸 方 言 間 の型 の対 応
69 70
︹二 十 ︺ アク セ ント変 化 の規則 性 ︹二 十 一︺ ア ク セ ン ト の 語 類
82 84
︹二 十 二 ︺ 語 類 か ら 語 群 へ ︹二 十 三 ︺ 語 類 ・語 群 の意 味 す る も の
86
89
88
︹二 十 四 ︺ 比較 言 語学 の方法 に ついて ︹二 十 五 ︺ 型 の対応 と は ︹二 十 六 ︺ ア ク セ ント の史 的 研 究とは
第 三 節 ア ク セ ント 変 化 の性 格
93 93 95
︹二十 七︺ 語音 と対 比し た アク セ ント の特 性 ︹二十 八︺ 語音 変化 の二種類︱
100
音韻変化と形態変化
︹二 十 九 ︺ ア ク セ ント 変 化 の 種 類
103 105
︹ 三 十 ︺ 音 韻 変 化 に 属 す る ア ク セ ント 変 化 ︹ 三 十 一︺ 形 態 変 化 に 属 す る ア ク セ ント 変 化
1 10
10 8
︹ 三 十 二 ︺ 他 の 言 語 体 系 か ら の借用
︱言語 体 系 の取 換 え
︹三 十 三 ︺ ア ク セ ント 変 化 に 似 て 非 な る も の
11 8
118
113
︹ 三 十 四 ︺ ア ク セ ント に お け る ズ プ ストゥ ラ ー ト ゥ ム の問 題 112 ︹ 三 十 五 ︺ ア ク セ ント 変 化 の 記 述 の方 法 第 二 章 ア ク セ ント 史 研 究 の 資 料 と 扱 い方 第 一節 資 料 の 種 類
現在 の諸 方 言 の アク セ ント
︹三 十 六 ︺ ど ん な も の が あ る か ︹三 十 七 ︺ 第一 種 の資 料︱
ア ク セ ントを 記載 し た 過 去 の文 献
12 1
119 ︹三 十 八 ︺ 第 二 種 の資 料 ︱
過 去 の アク セ ント を 反 映す るも の
1 33
12 0 ︹三 十 九 ︺ 第 三 種 の資 料︱
︹ 四 十︺ 三 種 類 の 資 料 の関 係 に つ い て
︹四 十七︺ 単 語結 合 と アク セ ント の変化 付アクセ ントの式
︹ 四 十六︺ アク セ ント の型 の変異 の範囲
︹ 四 十五︺ アク セ ントと 単語 と の関係
︹四十 四︺ 現 在諸 方言 に 見られ る過 去 から の遺 産
︹ 四 十三︺ 特 に京 阪 式方 言 のアク セ ント の概 説
︹ 四 十 二︺ 全 日本 諸方 言 のア ク セ ント 概観
︹四十 一︺ 現 在諸 方言 の資 料 とし て の強 み
179
172
167
162
162
148
136
136
136
︹四十 八︺ そ のま ま 過去 の資 料と な る方 言事 実
186
第 二 節 ア ク セ ント 史 資 料 と し て の現 在 の諸 方 言
︹ 四 十九︺ 二 つの方 言 の比較 によ る過 去 の推定
︹ 五 十 一︺ 過 去 の文献 の資料 とし て の強 み
201
200 200
195
︹ 五 十 二︺ そ の種 類
203
︹五十︺ 現 在諸 方 言 の資 料 とし て の弱 み
︹五 十三︺ 第 一種 の文献 、四 声に よ る記述
第 三 節 ア ク セ ント 史 資 料 と し て の過 去 の文 献
︹ 五 十四︺ 第 二種 の文献、 術 語 ﹁声﹂ によ る記 述
216
209 21 ︹五 十五︺ 第 三種 の文 献、 具体 的高 低 の記 述 ︹五 十六︺ 第 四種 の文献 、平 上去 の文 字 の註記
︹五 十 九 ︺ 第 七 種 の文 献 、 文 字 の使 い 分 け
︹ 五 十 八 ︺ 第 六 種 の文 献 、 音 譜 の註 記 2
︹ 五 十 七 ︺ 第 五 種 の文 献 、 声 点 の 註 記 2
239
34
17
︹ 六 十三 ︺ 注意事 項 三、 時代 を考 慮 せよ
︹六 十 二 ︺ 注意事 項 二、 方言 を 明ら か に
︹六 十 一︺ 注 意 事 項 一、 書 誌 学 的 考 察 2
59 2
2 55
253
43
24 2
︹ 六 十四 ︺ 注意事 項 四、 語 の文脈 に注 意
2 64
︹ 六 十 ︺ 過 去 の文 献 の 扱 い方
︹ 六 十五 ︺ 記 述 ・書 写 の 正 確 度 の 計 り 方
第 四 節 ア ク セ ント 史 資 料 と し て の歌 謡 の旋 律 と 楽 譜
78 2
277 2 77
︹六 十 七 ︺ 現 代 歌 謡 と ア ク セ ン ト
2 79
︹六 十六︺ アク セ ント 史 の資料 と して の歌曲 の意 味
︹六 十 八 ︺ 現 行 邦 楽 歌 謡 へ の ア ク セ ント の反 映
︹六十九 ︺ 過去 か ら伝 わ って いる歌 謡旋律 の利用 の方 法
28 832 842
︹七十 ︺ 同じ 旋律 をも つ同 類 の語 ︹七 十 一︺ 旋 律 のち が う 同 類 の語
287 90
︹ 七 十 二︺ 音 譜 と 語 類 と の関 係 ︹ 七 十 三 ︺ 歌 い方 に関 す る 口 伝 書 2
︹七十 九︺ 楽 譜 のちが いの意 味
︹ 七 十 八︺ 楽 譜 ・楽書 には書 誌学 的考 察を
︹七十 七︺ 旋律 は時 代 ととも に変 わ る
︹七十 六︺ 歌謡 の種 類 とア ク セ ント反 映 度と の関 係
︹七十 五︺ 旋律 へのア クセ ント の反映 度
︹七十 四︺ 資料 と して の旋律 ・楽 譜 の扱 い方
306
305
3 30
301
293 294
292
317
313
310
︹ 八 十︺ 楽譜 の歴 史 の考察 を
アクセ ント の変 遷と そ の実 相
付 図 現代 日本 語 アク セ ント 分布 図
日本 の方 言 はしがき 日 本 の方 言
374
34 7
東 西 両 ア ク セ ン ト の違 い が で き る ま で
4 15
︱九州 諸方 言 の アク セ ント の対 立 はどう し て でき た か
対 馬 ・壱 岐 の ア ク セ ント の 地 位
熊 野 灘 沿 岸 諸 方 言 の ア ク セ ント
ア ク セ ント か ら 見 た 琉 球 語 諸 方 言 の 系 統
9 50
531
471
佐 渡 ア ク セ ント の 系 統 讃 岐 ア ク セ ント 変 異 成 立 考
569
比較 方 言学 の実 演 の 一例 と し て
隠 岐 ア ク セ ント の系 譜 ︱
9 61
︱新 潟 県村 上方 言 のア クセ ント に つ いて 北 奥 ア ク セ ント の 特 殊 な 性 格 に つ い て
630
7 62
東 北 の 一型 ア ク セ ン ト の 源 流
音韻 変 化 から ア ク セ ント 変 化 へ *
661
味 噌 よ り は新 しく 茶 よ りは 古 い
5 67
916
687
服部 博 士 へのお 答 え 秋 永 一枝 氏 の 魚 島 方 言 の報 告 を 読 ん で
後記
金 田 一春彦 著作集 第 七巻 国語学 編七
上参郷祐 康
上野
秋 永一
節尚
編集委員
倉島
茂治
枝
桜井
良洋
不 二男
和昭
南
代表 芳賀綏
装釘 清 水
秀樹
地図 ジェイ・ マップ
楽譜 新保
国 語 ア ク セ ント の史 的 研 究 原理と方法
こ の小 著 を 亡 き 父 金 田 一京 助 の霊 に 捧 げる
(5言 )語 国訛
(6諸)講 祭 文
(7) 貞 享 版 ・補 忘 記
(8文 )雄 ・和字大 観 抄
[口絵 写 真] (1) 観 智 院本 ・類 聚 名 義抄 天 理 図書 館 蔵 。全 十 巻。 鎌 倉 初期 の写 と され る。 原本 か ら少 な く とも三 回 の転 写 を経 て い るの で、 声 点 の位 置 の 正 し くない もの が少 な くな いが 、 声 点 を施 した和訓 語 彙 の 数 は数 千 に 達 し、 ア ク セ ン ト史研 究 第一 の 資料 とい う定 評 が あ る。 多 くの複 製 本が あ るが、 こ こ には広 浜 文 雄 氏 に お願 い して仏 中巻 の 一 ペ ー ジの 原 色写 真 を載 せ る こ とがで きた。 (2) 伏 見 宮 家 本 ・古 今和 歌 集 現 在 宮 内 庁 書 陵部 蔵 。 歌 は 片 仮 名 書 き、顕 昭 の奥 書 きが あ る。 数 あ る古 今 集 声 点本 の 中 で、 声 点 の数 も多 く、 かつ 正 確 な 方。 写 真 は物 の名 の 条 。秋 永一 枝 氏 の撮 影 した もの を借 りた。 (3) 熱 田本 ・日本 書 記 熱 田 神 宮 蔵。 十 四巻 現 存 。 応永 五 年 にト 部 兼敦 の書 写 で 、 い わ ゆ るト 部 家本 の系 統 。書 写 年 代 は必 ず し も古 くは な いが 、 歌 謡 に付 せ られ た声 点 は岩 崎 家本 ・前 田 家本 に比 して遜 色 な く、 時 には その あや ま りを 訂 正 で きる。 写 真 は雄 略紀 の 一 部。 他 の 本 は複 製 本 が 出て い るの で、 こ こに は 名古 屋大 学 在 職 時 代 に撮 影 した この本 を掲 げ た。 (4) 文 永本 ・朗 詠 要 集
呉 文炳 氏 蔵 とか。 巻 子 本 一 軸 。 四十 一 首 の朗 詠 の 藤
氏 の秘 譜 で あ る。 心 空 が、 栄 賢 か ら授 か っ た もの に増 補 して 、 文永 四 年 に 因空 に授 け た もの 。 もと内 閣 文庫 にあ っ た と きに、 山田孝 雄 氏 が撮 影 してお か れ た、 その 複写 を山 田 俊 雄 氏 に乞 い受 け て こ こに掲 げ た。 稀 に声 点 もあ る。 [前頁 写 真] (5) 言 語 国訛
林大 氏 蔵 。 全 一 巻 。表 紙 と も十 二 丁 。著 者 未 詳。 巻 末 に、 天
保 八年 に松 園 の 主人 とい う人 が 、羽 鳥 の 翁 か ら借 りて写 した とい う識 語 が あ る。 平 曲 の心 得 の あ る人 の著 した標 準 語 ア クセ ン ト語彙 集 とも言 うべ き もの。 も と 佐 佐木 信 綱 氏 の 蔵 だ っ た。 今 回初 め て 公 開 され るア ク セ ン ト資料 で あ る。 (6) 諸講 祭 文 巻 子 本 一 軸 。奥 書 き は な いが 寛 永 の 版 と見 られ る。 真 言 宗 に 伝 わ る祭 文 の 譜本 で、 これ は 御影 供 祭 文 の う ちの一 部 であ る。 新 義 派 に伝 わ る この旋 律 は、鎌 倉 時代 の 日本 語 の生 きた標 本 として貴 重 で あ る。 (7) 貞享 版 ・補 忘 記 観 応 の 著。 二 巻 。 下 巻 の奥 に 貞 享 四年 河原 崎 吉 左 衛 門 刊 行 とい う文 字 が あ るが 、 山 田忠 雄 氏 は この 版 は もっ とあ との刷 りと判 定 され た。新 義 真 言 宗 に伝 わ る論議 の参 考 書 で あ るが 、服 部 四郎 氏 か ら イ ロハ 引 きア クセ ン ト辞 典 と評 価 され 、 類 聚 名義 抄 に次 ぐ著 名 な ア クセ ン ト資 料 で あ る。 写 真 は イの 部 の 一 部 。馬 渕 和 夫 氏以 来 室 町 時代 の ア ク セ ン ト資料 と見 られ て い る。 (8) 文雄 ・和 字 大 観 抄 宝 暦 四 年 刊。 か な文 字 概 論 で 、 こ こ に掲 げ たの は、 巻 末付 録 の ア ク セ ン ト付 き仮 名書 き分 か ち 書 きの 実例 の 一 部 で あ る。
は し が き
こ の本 の骨 子 は 、 昭 和 十 八 年 に 日本 方 言 学 会 編 の ﹃国 語 ア ク セ ント の話 ﹄ に 載 った 旧 稿 、 ﹁国 語 ア ク セ ント の
史 的 研 究 ﹂ であ る。 あ れ は 、 講 演 会 で発 表 し た 草 稿 に 手 を 入 れ た 程 度 のも の だ った の で、 書 き た い こと を は し ょ
った 部 分 が 多 く 、 充 分 尽 し て いな い恨 み が あ った 。 私 にと って あ の テ ー マは 、 そ の後 も ず っと 頭 を 去 ら ず 、 他 日 詳 し く し て単 行 本 に し よ う と 絶 え ず 思 って いた 。
今 度 の こ の本 は そ の念 願 を は じ め て 具 体 化 し た も の で、 私 にと っては 誠 に嬉 し い出 版 であ る。 章 段 の立 て 方 そ
の他 も大 体 も と のま ま に し た のも 、 前 の発 表 に 特 別 の愛 着 を 覚 え る せ いであ る 。 そ れ に し ても 、 前 の発 表 か ら す
で に 三 十 年 を 経 過 し て いる こと に 思 い至 れ ば 、 う た た烏兎怱 々 の感 にた え ず 、 今 回も わ ず か に そ の前 半 だ け を 活
字 にす る こと を 考 え る と 、 わ が身 の不 敏 を か こた ざ る を 得 な い。 後 半 も ひ き つづき 世 に 送 る は ず であ る 。
思 え ば 私 が こ のよ う な 研 究 を 進 め る こと が でき た に つ い て は、 こ の本 の 中 に引 く 多 く の先 人 の学 恩 に 負 う が、
こ と に前 の論 文 の折 に御 名 を 掲 げ た 、 橋 本 進 吉 先 生 、 服 部 四郎 先 生 と も う 一人 池 田 要 氏 に は 、 計 り知 れ な いも の
を 頂 いた 。 こ こ に再 び 御 名 を 録 し て深 甚 の謝 意 を 表 す る 。 ま た こ の稿 の出 来 上 が り を 待 ち 、 こ の本 を 出 版 に運 ば
れ た 塙 書 房 の白 石 静 男 専 務 以 下 の方 々 お よ び 西 田 製 版 所 に厚 く 御 礼 申 し 上 げ る。 そ れ か ら、 書 き な ぐ り の原 稿 を
き れ い に清 書 さ れ た 、 木 村 律 子 さ ん 、 中 沢 郁 子 さ ん 、 ほ か の方 々 にも 改 め て感 謝す る 。
と こ ろ で 、 こ の本 の出 来 を一 番 首 を 長 く し て待 って いた の は 、 亡 き 私 の父 、 金 田 一京 助 だ った 。 ﹃国 語 ア ク セ
ント の 話 ﹄ に載 った も の は、 は じ め 、 昭 和 十 六 年 に 丸 の内 の蚕 糸 会 館 で 開 かれ た 公 開 講 演 会 で の 発 表 の原 稿 を も
と に し た も の であ る が、 蚕 糸 会 館 で の発 表 の 折 は 、 私 に と って は じ め て の 公 開 講 演 と いう わ け で 、 私 は 父 の前 で
草 稿 と時 計 を 見な が ら リ ハー サ ルを し て、 ま ず い点 を 細 か く 注 意 し て も ら った も のだ った 。 講 演 のあ と 、 ﹃国 語
アク セ ント の 話﹄ に 載 った時 は 大 変 に 喜 ん で、 こ れ を も っと 詳 し く し て単 行 本 にし ろ と 勧 め 、 私 が 雑 文 を 書 き ま
く って いる のを 歯 が ゆ が って は 口ぐ せ のよ う に 、 あ の本 は ま だ かま だ か と 言 って いた が 、 私 がぐ ず ぐ ず し て いる う ち に 老耄 し 、 一昨 年 他 界 し てし ま った 。
き ょう は 父 の知 人 の何 人 か と 親 戚 のも のと 集 ま り 、 父 の菩 提 寺 本 郷 の喜 福 寺 でそ の三 回 忌 を 営 ん だ が、 せ め て
こ の 日ま で に はち ゃん と し た 本 に作 り た か った 。 わ ず か に 遺 影 の 写真 の前 に 、 線 香 と菊 花 と とも に 、 校 正 刷 り を
具 え て 不 勉 強 を わ び る に と ど ま った が 、 いた ず ら に送 った 三 十 年 の長 さ を き ょ う ほど 痛 感 し た こ と は な か った 。
父 ま さ ば 眼 細 め て こ の書 の表 紙 か き 撫 で 愛 で給 は ん か 父 のみ の いさ め に 違 ひ いた づ ら に 三 十 年 を 経 し 不 肖 の身 わ れ 灯 明 の影 に か が よ ふ父 のみ は よ し と一言宣 れ る ご と 児 ゆ 昭 和 四 十 八 年 十 一月 十 四 日
金 田一 春 彦
序 論 ア ク セ ント 史 研 究 の意 義
︹一︺ 国 語 の ア ク セ ント と は
﹁春 ﹂ ﹁秋 ﹂ は 下 降 調 に 発 音 す る 、 ﹁夏 ﹂ ﹁冬 ﹂ は 上 昇 調 に 発 音 す る と い
ア ナ ウ ン サ ー に 、 ﹁春 ﹂ と か ﹁秋 ﹂ と か い う 単 語 を 言 わ せ て み る と 、 ハ ル と か ア キ と か 、 第 一拍 を か な ら ず 高 低 高 低 高 高 低 高 低 く 言 う 。 か り に ハ ル と か ア キ と か 言 った ら 、 そ れ は 間 違 い と いう わ け で 、 あ わ て て ハ ル と か ア キ と か 言 い な お 低商 低 高 高 低 高 低 ﹁冬 ﹂ と か いう 単 語 だ と 、 今 度 は ナ ツ と か フ ユ と か の よ う に 第 二 拍 を 高 く 言 い 、 ナ ツ と か フ ユ と す 。 ﹁夏 ﹂ と か か 言 う こ と は な い 。 つま り 、 標 準 語 で は
う 、 が っち り し た き ま り が あ る 。 こ の よ う な、 ︽ 一つ 一 つ の 語 句 に つ い て き ま って い る 高 低 の 配 置 ︾、 こ れ が ︽日
こ こ に ア ク セ ント の定 義 に つ いて 述 べた が 、 問 題 が 二 つあ る 。
(acc) e︾ nと t 言 わ れ る もの で あ る 。
一 つは 、 ﹁一つ一 つ の 語 句 に つ い て ﹂ と いう 部 分 で あ る 。 こ う 断 った の は 言 葉 の 上 に 見 ら れ る 高 低 の 配 置 に は、 ﹁語
本 語 の ア ク セ ント
句 に つ い て き ま って い る ﹂ の で は な いも の が あ る こ と で あ る 。 例 え ば 相 手 に 何 か 問 い掛 け る 場 合 に は 、 こ と ば の最 後
を 上 げ る 、 と か 、 は っき り 断 定 す る 場 合 に は 、 こ と ば の 最 後 を 下 げ る 、 と か いう よ う な の が そ の例 で、 こ れ は 、﹁一
つ 一つ の語 句 に つ いて ﹂ き ま って い る 高 低 の 配 置 で は な く 、 ﹁そ の こ と ば を 発 す る 人 の気 持 ち の ち が いを 表 わ す 高 低
の 配 置 ﹂ で あ る 。 こ れ は イ ント ネ ー シ ョ ン (inton︶ aと ti 呼o びn、 ア ク セ ント と は 呼 ば な い。 な お ﹁語 句 に つ い て ﹂
と いう 、 そ の ﹁語 句 ﹂ と は 単 語 か 文 節 か そ れ ら の 集 合 か を いう 。 こ の こ と に つ い て は ︹四 十 五 ︺ に 触 れ る 。
も う 一つ、 問 題 に な る の は 、 ﹁ 高 低 の配 置 ﹂ と いう こ と であ る が 、 外 国 語 に つ い て ア ク セ ン ト と いう 場 合 は 、 必 ず
し も、 高 低 の配 置 で は な く 、 し ば し ば 強 弱 の 配 置 で あ る こ と であ る。 例 え ば 、 英 語 と か ド イ ツ語 ・ ロシ ア 語 ・イ タ リ
ー 語 な ど の 場 合 は そう であ る 。 高 低 の 配 置 と 、 強 弱 の 配 置 と で は大 き な ち が い が あ り、 英 語 な ど のも の が ア ク セ ン ト
﹃ 言 語 研 究 ﹄ 第 四 八 号 に ﹁高 低 ア ク セ ント は ア ク セ ント に あ ら ず ﹂ と い う 小 論 を 投 稿 し た 。( 1) し か し 、
な ら ば 、 日 本 語 の も のは ア ク セ ン ト と 呼 ぶ の は 適 当 でな い と いう 考 え も あ り う る 。 私 も 、 そ う いう 考 え 方 も あ り う る と考 え、雑 誌
両 方 と も 個 々 の語 句 に つ い て の ﹁際 立 た し さ の 配 置 ﹂ で あ る と いう 点 か ら 見 れ ば 、一 緒 に で き る の で 、 そ の よ う な 観
点 に立 って ﹁ア ク セ ン ト ﹂ と 併 称 す る の が 慣 例 で あ る 。 こ こ で は そ れ に 従 った 。 日 本 語 の ほ か 、 中 国 語 ・タ イ 語 ・ヴ エト ナ ム 語 な ど も 高 低 の ア ク セ ント を 有 す る 。
つま り、 ア ク セ ント の中 に は 、 ︽強 弱 ア ク セ ン ト ︾ と ︽高 低 ア ク セ ント ︾ と いう 二 種 類 が あ る と い う こ と に な る 。
︹ 二︺ ア ク セ ン ト は 社 会 的 な 慣 習 の一 つ
と こ ろ で 、 そ れ で は 、 な ぜ ア ナ ウ ン サ ー は 、 ﹁春 ﹂ ﹁秋 ﹂ を 下 降 調 に 言 い 、 ﹁夏 ﹂ ﹁冬 ﹂ を 上 昇 調 に 言 う の か 。 こ
(har )uと い う 音 そ の も の 、 ﹁秋 ﹂ を 表 わ す
﹁春 ﹂ ﹁秋 ﹂ の 第 二 拍
﹁秋 ﹂ と か い う 内 容 は 、 第 一拍 を 高 く 言 わ な け れ ば な ら
の 問 題 は 、 難 し い 。 一往 、 ﹁東 京 語 で そ う だ か ら ﹂ と は 言 え る が 、 そ れ で は 東 京 語 で な ぜ そ う いう 調 子 で 言 う の か 、 と 開 き 直 ら れ た ら 、 そ の 答 え に 窮 す る 。 ﹁春 ﹂ と か
﹁春 ﹂ と い う 意 味 を 表 わ す
な いよ う な も のか と 考 え て み る と 、 決 し て そ う で は な い。 そ の証 拠 に、 京 都 人 や 大 阪 人 は 目 の ル や キ を高 く 言 う 。 そ れ で は 、 次 に
﹁張 る ﹂ と い う 語 の 場 合 は ル の 部 分 を 高 く 言 い、 ﹁飽 き ﹂ と いう 語 の 時 に は 、 キ の 部 分 を 高 く 言 う 。
(ak )iと い う 音 そ の も の が 、 ハ を 高 く 言 わ せ た り ア を 高 く 言 わ せ た り す る の か と いう と 、 そ う で も な い 。 東 京 人 でも
そ う す る と 、 現 在 、 東 京 人 が﹁ 春 ﹂ ﹁秋 ﹂ を ハル ・ア キ と 言 っ て い る 理 由 は 明 ら か に し が た い と いう ほ か は な
い 。 わ か る こ と は ︽東 京 と い う 地 域 社 会 で は 、 い つと は わ か ら ぬ 昔 か ら 、 ﹁春 ﹂ ﹁秋 ﹂ は 、 ハル ・ア キ と 言 っ て いた
(cust )om
ら し い 。 今 の 東 京 人 は そ れ に 従 って そ う 言 う の だ ︾ と い う こ と だ け で あ る 。 ﹁夏 ﹂ ﹁冬 ﹂ を 、 ナ ツ ・フ ユ と 言 う の
も 全 く 同 様 で あ る 。 す な わ ち 、 ア ク セ ン ト と い う も の は 、 ︽一 つ一 つ の 語 句 に つ い て の 社 会 的 な 慣 習
道 徳 ・人 間 世 間 ・宗 教 ・娯 楽 な ど を 並 べあ げ て い る。
﹁風 習 ﹂ と 訳 し て いる ) と し た 。 ﹁制 度 ﹂ は 、 合 理 的 な 支 持 が あ
Sa )uは ss﹃ u 一r 般e言 語 学 講
L )eは r、 ca hrbitrで aは ir いe け な い、fortuit,con( t 小i 林n氏 g訳 en﹁ t 偶 然 的 ﹂) だ と 言 う べ き だ 、
Linguis) t( i3 q で ) u ae rbg ie tn re a ( 小 r i林 a rl ee 英 夫 氏 の ﹃言 語 学 言 論 ﹄ で の 訳 は、 ﹁ 恣 意 的 ﹂) だ と 言 つた
ア ク セ ント に お け る 、 そ の意 味 と 形 式 と の関 係 の よ う な も の を 、 ソ シ ュー ル (F. de
de
に雷 同的 に、あ る いは、盲 目的 に受 け 入れ て採 用す るも ので、流 行 の服飾 形式 を代 表的 なも のとし、 あ わせ て言 語 ・
って 存 在 す る も の で、 生 活 様 式 ・科 学 ・政 治 ・法 律 ・教 育 な ど を 含 め 、 ﹁風 習 ﹂ は、 特 に 合 理 的 な 理 由 を も た ず 、 単
を 二 つ に 分 け 、institu制 t度 i) on と( custo( m これを
custo はm 松 本 潤 一郎 氏 の ﹃文 化 社 会 学 原 理 ﹄( 2) の 用 法 に 従 った 。 松 本 氏 は 、 広 く 人 間 の文 化 と 呼 ば れ て い る も の
と し て き ま って い る 高 低 配 置 ︾ と いう こ と が で き る 。
義 ﹄ (Cours が 、 レ ル ヒ (Eugen
と 言 った 。( 4)arbitra訳 i、 re ﹁ 恣 の意 的 ﹂ と い う 語 感 は、 個 人 が 勝 手 に 好 き な よ う に 取 り 換 え ら れ そ う に 思 わ せ る が 、
ア ク セ ント は 実 際 は そ う で な い の で 、 ﹁ 恣 意 的 ﹂ は よ く な い。 ﹁偶 然 的 ﹂ の方 が よ ろ し い 。 な お、 ソ シ ュー ル の こ の 著
とc がo 同nじ v意 en 味tに i用 on いn らelと
書 は 、 彼 の ジ ュネ ー ヴ 大 学 で の 講 義 に 基 づ いて いる が 、 柴 田 武 氏 に よ る と 、 ソ シ ュー ル の講 義 は 毎 年 少 し ず つ変 化 し
て お り 、 年 に よ って はconventiと o言 nnっ eて lい る 時 も あ る と いう 。arbitraire
れ て いる 、 と す る と 、 た し か に ﹁恣 意 的 ﹂ は ま ず か った 。 ﹁非 必 然 的 ﹂ と いう 意 味 の 言 葉 が あ れ ば 、 ぴ った り の と こ ろであ る。
︹三︺ ア ク セ ント は 語 音 の 配 偶
ア ク セ ン ト は 、 そ ん な わ け で ︽個 々 の 語 に つ い て の 社 会 的 な 慣 習 と し て の き ま り ︾ の 一 つ で あ る 。 今 、 こ の 事
(ha) と い う 音 か
実 に 対 し 、 音 の高 低 と いう こと か ら 離 れ て 、 少 し ひ ろ い観 点 か ら 考 え て 見 る と 、 こ ん な こ と が 言 え る 。
( 北 京 官 話 ) で は 、 ﹁春 ﹂ を
(t∫') u〓 とnい う が 、 そ う い う一 拍 の 語
(ru) と いう 音 か ら 出 来 て い る 。 こ れ は 、 決 し て ﹁春 ﹂ と いう 内 容 は そ う い う 音 で な け
例 え ば 、 ﹁春 ﹂ と い う 語 は 東 京 語 を 含 め 、 ひ ろ く 日 本 語 で 二 拍 の 単 語 で あ り 、 そ の 第 一拍 は ら 出 来 て お り 、 第 二拍 が れ ば 表 現 でき な いと 言 う の では な い。 支 那 語
音 で も り っぱ に 表 わ す こ と が で き る し 、 ま た 英 語 に お け る よ う に (spr) iと 〓 いう 語 音 で 表 現 し て も 支 障 は 起 こ
﹁春 ﹂ と い う 語 が
﹁語 句 の 外 形 ﹂(5)と 呼 ば れ た 。 短 く
(高 低 ) と い う ア ク セ ン ト を も っ て い る と いう こ と は 、 そ れ と 全 く 並 行 的 な こ と で あ る 。
ら な い 。 そ う いう 個 々 の 語 に つ い て の 音 素 連 結 は 、 ︽社 会 的 な 慣 習 と し て 個 々 の 語 に 固 定 し て い る ︾ も の で 、 東 京 語 で
こう いう 社 会 的 慣 習 と し て 個 々 の語 に 固 定 し て いる 音 形 式 を 、 神 保 格 氏 は
︽語 形 ︾ と 呼ぼ う 。 と す る と 、 語 音 も ア ク セ ン ト も 語 形 の 一部 で あ っ て 、 語 音 は 語 形 の う ち の 音 の 質 の 変 化 の 配
置 であ り 、 ア ク セ ント は 語 形 のう ち の音 の量 の変 化 の配 置 であ る と いう こ と が でき る 。 こ の 関 係 は 、 家 に た と え
る な ら ば 、 語 音 は 夫 、 ア ク セ ン ト は 妻 と し て 、 対 等 の位 置 で 語 形 と い う 一家 を 構 成 し て い る よ う な も の で あ る 。
語 音 と ア ク セ ン ト が 本 質 的 に い って 同 じ 種 類 の も の で、 広 義 の ︽音 韻 ︾ の一 種 で あ る と いう こ と は 、 今 で は 学 界 で
は 常 識 に な って し ま って い る が、 昭 和 の は じ め ご ろ ま で は そ う で は な か った 。 佐 久 間 鼎 氏 の ﹃日 本 音 声 学 ﹄( 6)そ の
他 、 菊 沢 季 生 氏 の ﹃国 語 音 韻 論 ﹄( 7)な ど 、 いず れ も 当 時 の名 著 で あ る が 、 ア ク セ ント の 本 質 に つ い て は 、 ︽音 節 の 連
﹃ 言 語 学 概 論 ﹄( 9)の 中 で ア ク セ ン ト を 音 韻 の 一種 で あ る と いう 見 方 を 早 く か ら
結 す る 場 合 に 起 こ る 相 互 の 関 係 の 一種 ︾ ぐ ら い に 取 り 扱 って いる 。( 8) 神 保 格 氏 は 、大 正 末 年 に 出 た 名 著
と って いた 学 者 で あ る が 、 音 素 と の 関 係 を は じ め て 明 言 し た 文 献 と し て は 、 日本 で は 有 坂 秀 世 氏 の名 が 記 憶 さ れ る べ
き で あ る 。 有 坂 氏 が 、 ﹁音 声 の認 識 に つ いて ﹂ と いう 論 文 ( 10) に、 ア ク セ ント の型 と いう も のを 本 質 に お い て 音 素 と 同 等 の も の と 断 言 し た の は 、 日本 の言 語 学 史 上 記 念 す べき 出 来 事 で あ った 。
も っと も 筆 者 に 言 わ せ る と 、 音 素 と ア ク セ ント
(の型 ) と が 同 等 な の で は な く 、 ア ク セ ント と 同 等 な の は 、 音 素 が
連 結 し た 語 音 で あ り、 音 素 に そ っく り 該 当 す る も の は 、 ア ク セ ント を 構 成 し て いる (高 ) と か (低 ︶ と か いう 段 階 で
あ る 。 語 音 の面 に お け る 音 素 に 対 す る も のを 、 ア ク セ ン ト の 面 で 探 が し 、 そ れ を ﹁調 素 ﹂ (tone )m とe呼 ぶ と す る な ら ば 、 (高) や (低 ︶ が ま さ し く そ の ︽調 素 ︾ で あ る 。
こ の論 に つ いて は 、 私 は ﹁日 本 語 ア ク セ ント 卑 見 ﹂( 11)と いう 旧 稿 で 詳 し く 開 陳 し た 。 従 来 は 、 ﹁語 音 ﹂ と いう 術 語
が な く 、 ア ク セ ント を 音 素 と 同 等 のも のと いう よ う に無 造 作 に 言 って い た た め に 、 ア ク セ ント の変 化 と いう と、 そ れ
がす な わ ち 音 韻 変 化 の一 種 の よ う に解 釈 さ れ て ま ず いこ と が あ った 。 ︹三 十 一︺ の注 で そ の こ と に 触 れ る 。
語 音 ﹂ と いう 章 で こう いう 使 い方 を し て お ら れ る 。 こ こ で は 個 々 の 語 に つ い て
こ の ﹁語 音 ﹂ と いう 術 語 は 、 早 く 松 坂 忠 則 氏 に 、 雑 誌 ﹁カ ナ ノ ヒ カ リ ﹂ 誌 上 で 使 わ れ た 用 例 が あ り、 神 保 格 氏 も ﹃言 語 理 論 講 話 ﹄( 12)の ﹁語 句 の 形︱
き ま って いる 音 素 の 連 結 の こ と で 、 日本 語 で は 、 こ れ が ア ク セ ント と 結 び つ い て 一語 の ﹁語 形 ﹂ が 出 来 上 る と 見 る 。
﹁語 形 ﹂ と いう 術 語 は、 ﹃国 語 学 辞 典 ﹄( 13)の ﹁語 形 交 替 ﹂ ﹁語 形 変 化 ﹂ お よ び ﹁形 態 ﹂ な ど の項 目 の 用 法 を 参 酌 し た 。
︹四 ︺ 社 会 的 慣 習 と し て の ア ク セ ント の 性 格
以 上 の よ う に 、 ア ク セ ン ト は 、 語 音 と 共 に 語 形 の一 部 で あ り 、 大 き く 見 れ ば ︺ ︽社 会 的 な 慣 習 と し て の き ま り ︾
の 一種 で あ る 。 ︽社 会 的 慣 習 と し て の き ま り ︾ に は い ろ い ろ な も の が あ る 。 わ れ わ れ が 世 界 地 図 や 日 本 地 図 を 描
く 時 に 北 方 を 上 に す る と いう よ う な のも そ れ で あ る 。 道 を 歩 く と き に 右 側 通 行 に 従 う か 左 側 通 行 に 従 う か と い う
﹁春 ﹂ を
(ハ ル ) と い い 、 ま た
(ハ) を 高 く 唱 え
(ル ) を 低 く 唱 え る と い う の は 、 そ う い う も の の 一種
の も そ れ で あ る 。 着 物 の え り を 合 わ せ る 時 に 右 を 前 に す る か 、 と か 、 左 を 前 に す る か 、 と か いう の も そ れ で あ る 。 東京語 で
で あ る か ら 、 一般 的 な 社 会 的 慣 習 が 有 す る 性 格 は 、 す べ て 語 音 に も ア ク セ ン ト に も 見 出 だ さ れ る わ け で あ る 。 例えば、
(一 )そ れ は 習 得 に よ っ て 覚 え る も の で あ る こ と 。 (二 )そ れ は 不 注 意 な 場 合 に は 、 間 違 え た り 忘 れ た り す る こ と も あ る こ と 。
(三 )正 し い も の を 覚 え そ こ な う と こ ろ か ら 、 し ば し ば 個 人 に よ り ち が い が あ る こ と 。
な ど は 、 社 会 的 な 慣 習 に 共 通 に 見 ら れ る 性 格 で あ る 。 ア ク セ ン ト も 語 音 も 全 く 同 様 に 、 習 得 に よ って 初 め て 覚 え
ら れ る も の で あ り 、 聞 き 違 え た り 忘 却 し た り す る こ と のあ るも の であ り 、 ま た 個 人 個 人 に よ り し ば し ば 変 異 が 生
し た と こ ろ 、 ソ バ を せ い ろ う に 入 れ た ま ま で上 か ら お つゆ を さ っと か け た 。
C) u( l) 14 tな uど re を, 見1る 9と 3、 4 善 行と考 え ら れるも のが民 族 によ り いかにち がう か、
道 徳 が 社 会 慣 習 の 型 の 一つだ と 聞 く と 、 抵 抗 を 感 ず る 人 も あ る か も し れ な い が 、 ベ ネ デ ィ ク ト (R.F. of
語 音 が社 会 慣 習 の 一つ で あ る こ と は一 層 明 瞭 な こと で、 日 本 の昔 話 に 、 知 能 指 数 の低 い男 が 結 婚 し て 女 房 の 里 に 行
が価値 あ る ことと され ると 言う 。
カ イ ン デ ィ ア ン に 属 す る クゥ キ トゥ ル 族 で は 、 貯 え た 魚 油 を 客 の前 で や た ら に 火 に そ そ いだ り し て無 駄 使 いす る こ と
が よ く 知 ら れ る 。 ニ ュー ギ ニア 島 の 属 島 にす む ド ブ 族 で は 、 意 地 悪 や ず る さ は そ の人 の長 所 と さ れ る と 言 う 。 ア メ リ
の ﹃文 化 の 型 ﹄ (Patterns
Ben )edict
ー スを か け て し ま った 話等 。 筆 者 の家 に遊 び に 来 た 中 国 人 の留 学 生 に 、 こ れ は お いし いも の だ と 言 って ザ ル ソ バ を 出
習 慣 を 知 ら な いた め に 起 こ る 笑 い話 が 多 い。 指 先 を 洗 う コ ップ の水 を 飲 ん で し ま った 話 、 運 ば れ て 来 た お し ぼ り に ソ
着 物 の 着 方 で は 前 の 合 わ せ 方 が 、 女 の 場 合 、 東 洋 と 西 洋 と で 逆 で あ る こ と は 有 名 であ る 。 食 事 の 場 合 の作 法 に な る と 、
な い。 筆 者 な ど 、 いま だ に本 郷 は 東 京 の 北 の方 と いう 感 じ が し な い。 東 だ と も 思 わ な いが 要 す る に 右 の方 だ と 感 じ る 。
は 、 京 都 や 名 古 屋 の人 に 比 べ て 、一 般 に 東 と か 西 と か いう 方 角 の観 念 が 弱 いが 、 そ う いう こ と も 関 係 が あ る か も し れ
旧 市 域 の 地 図 は、 新 宿 の方 、 つま り 西 の 方 を 上 に 描 く の が 普 通 で、 都 電 の乗 り 換 え 切 符 な ど そ う であ った 。 東 京 の人
地 図 で 北 を 上 に 描 く こ と は 、 何 か 積 極 的 な 理 由 が あ り そ う で あ る が 、 ど う も 何 も な いよ う であ る 。 終 戦 前、 東 京 都
じう る も の で あ る 。
った と こ ろ が 、 歓 迎 さ れ 、 ダ ンゴ を 振 舞 わ れ た 。 大 変 お いし い の で 帰 った ら 女 房 に も 作 ら せ よ う と、 名 前 を 尋 ね る と
ダ ン ゴ だ と 言 う 。 忘 れ て は い け な いと 、 帰 る 道 々 、 ダ ン ゴ 、 ダ ン ゴ ⋮ ⋮ と 言 いな が ら 来 る と 、 途 中 に ち ょ っと し た 溝
が あ った 、 云 々、 と いう の が あ り 、 各 位 も 御 承 知 と 思 う 。 あ の中 に は、 物 の名 を お ぼ え 、 忘 れ 、 ま た 思 い出 す 過 程 が 描 か れ て お り 、 社 会 的 慣 習 と し て の語 音 の性 格 を よ く 伝 え て いる 。
ア ク セ ント が 同 様 で あ る こ と は 、 例 え ば 同 じ 高 低 ア ク セ ント を 有 す る 中 国 語 で、 ﹁梨 ﹂ と ﹁栗 ﹂ と ﹁李 ﹂ と が同 じ
﹁リ ー ﹂ で 、 そ の ア ク セ ント のち が い で区 別 さ れ る と 聞 い て 、 ど れ が ど う いう ア ク セ ント か 知 ら な け れ ば 見 当 が つ
か な い。 ﹁梨 ﹂ は 上 昇 型、 ﹁栗 ﹂ は 下 降 型、 ﹁李 ﹂ は 低 平 型 で あ る が 、 む こ う へ渡 った 日 本人 が よ く 間 違 え る と い う が
く
無 理もな いこと であ る。
自 国 語 の場 合 、 自 分 の方 言 のア ク セ ント は 自 然 に 覚 え た よ う な 気 が す る が 、 そ う でな いこ と は 、 例 え ば 高 木 卓 氏 が 、
ア ク セ ント の表 を 壁 に 貼 り つけ て 勉 強 し た こ と を 述 べ て い る ( 15)こ と に よ って も わ か る 。 大 阪 の堂 島 に 関 西 放 送 文 化
連 盟 と いう 講 習 所 があ って 、 水 谷 謙 吾 校 長 のも と に 、 若 い男 女大 勢 が、 壁 に 標 準 語 の ア ク セ ント の 表 を 貼 った 教 室 で 、
︽社
本 ア ク セ ン ト 学 院 ﹂ と いう、 これ は ア ク セ ント を 専 門 に 勉 強 さ せ る 教 室 が で き 、 ア ク セ ント の 社 会 的 慣 習 性 を ま ざ ま
毎 日 標 準 語 の ア ク セ ント の 習 得 に励 ん で い る 状 況 を ひ と 目 見 て も わ か る 。 東 京 に も 先 年 、 坂 井 清 成 氏 に よ っ て 、 ﹁日
ざ と 見 せ つ け て いる 。
︹五 ︺ ア ク セ ン ト は 社 会 が ち が え ば 変 わ る
社 会 的 慣 習 に は 、 前 項 に 述 べ た 以 外 に も う 一 つ 重 要 な 性 格 が あ る 。 そ れ は 、 ︽社 会 的 慣 習 ︾ は あ く ま で も
会 的 ︾ な も の で あ って 、一 つ の 社 会 か ら 他 の 社 会 に 移 れ ば 必 ず し も 同 じ で あ る と は 限 ら な い こ と で あ る 。 道 の 通
﹁春 ﹂ に 対 し て 、 あ る い は (ハ ル ) で あ り 、 あ る い は
(t∫') uで 〓n あ り、 あ る いは
(spr )i〓
り 方 の 規 則 や 着 物 の合 わ せ 方 の き ま り と か が 、 世 界 の 各 地 で 様 々 に 成 っ て い る の は 、 著 名 な 事 実 で あ る が 、 語 音 も これ と同 じ よう に 同 じ
と な って いる 。 ま た、 社 会 的 慣 習 は 、 異 な る 社 会 で は 全 く 正 反 対 にな って いる こ と も あ る 。 ア メ リ カ と 日本 と で
は 道 の通 行 の側 が左 右 反 対 に な って いる が、 ア ク セ ント に お い ても こ のよ う な こと は、 き わ め て普 通 で あ る 。 語
音 や ア ク セ ン ト の 地 方 的 相 違 と い う こ と が 見 ら れ る わ け で あ る が 、 例 え ば 、 ﹁春 ﹂ と い う 語 の ア ク セ ン ト が 、 東
京 と 京 都 ・大 阪 と で 正 反 対 な 高 低 配 置 に な っ て い る の は そ の 典 型 的 な 実 例 で あ る 。
東 京 のト ー モ ロ コシ を大 阪 でナ ン バ と 言 い、 さ ら に 名 古 屋 で は コー ラ イ と 言 う 。 こ う いう俚 言 のち が いは 、 地 域 社
会 に よ って、 同 じ 内 容 を 表 わ す 語 音 が ち が って い る 例 で あ る 。 ま た 東 北 地 方 や 出 雲 地 方 の 方 言 を さ し て ズ ー ズ ー 弁 と
言 う 場 合 は 、 語 音 を 構 成 し て い る 音 素 自 体 が 、 そ の地 域 社 会 で は ち が って いる こ と を 表 わ し て い る 。 ア ク セ ン ト の 地
域 によ る ち が いは 、 も う 今 で は 常 識 化 し て い る が、 次 の 例 は 、 日 本 のノ ー ベ ル賞 作 家 の 文 学 作 品 の中 に こ の問 題 が 取 り 扱 わ れ て い る点 で 興 味 を そ そ る 。
﹁加 代 が ね 、 帰 る 二 三 日 前 だ った か な 。 わ た し が 散 歩 に 出 る 時、 下 駄 を は こう と し て 、 水 虫 か な と 言 う と ね 、 加
代 が 、 お ず れ で ご ざ いま す ね 、 と 言 った も ん だ か ら 、 い い こ と を 言 う と 、 わ た し は え ら く 感 心 し た ん だ よ 。 そ の
前 の 散 歩 の時 の鼻 緒 ず れ だ が ね 、 鼻 緒 ず れ のず れ に 敬 語 の お を つけ て 、 お ず れ と 言 った 。 気 が き い て 聞 え て、 感
心 し た ん だ よ 。 と こ ろ が 今 気 が つ い て み る と 、 緒 ず れ と 言 った ん だ ね 。 敬 語 の お じ ゃ な く て 鼻 緒 の お な ん だ ね 、
な に も 感 心 す る こ と は あ りゃ し な い。 加 代 の ア ク セ ント が 変 な ん だ 。 ア ク セ ント に だ ま さ れ た ん だ 。 今 ふ っと そ れ に気 が つ いた 。﹂ と 信 吾 は 話 し て 、 ﹁ 敬 語 の 方 の お ず れ を 言 って み てく れ な い か 。﹂ ﹁お ず れ 。﹂ ﹁鼻 緒 ず れ の 方 は ? ﹂ ﹁お ず れ 。﹂
﹁そ う 。 や っぱ り わ た し の考 え て いる の が 正 し い。 加 代 の ア ク セ ント が ま ち が って い る 。﹂ 父 は 地 方 出 だ か ら、 東 京 風 の ア ク セ ント に は 自 信 が な い。( 川端 康 成 ﹁山 の音 ﹂)
ま た 、 社 会 慣 習 は 、一 般 に 自 分 の も の と ち が う 種 類 のも の に 出 逢 う と 、 深 い根 拠 も な く 、 そ れ が 正 し く な いも の の
よ う に 思 い、 正 当 な 理 由 も な く 不 快 に 感 じ た り す る が 、 ア ク セ ン ト も 正 に そ う いう も の で、 例 え ば 、 高 橋 義 孝 氏 は 、
﹁目 黒 ﹂ の メを 高 く 言 わ れ た り、 ﹁渋 谷 ﹂ の シ を 高 く 言 わ れ た り す る と 不 愉 快 だ 、 と 言 わ れ た ( 16)こ と が あ り 、 吉 田 精
一氏 に 至 って は 、 ﹁東 京 生 ま れ の者 の 常 と し て 地 方 な ま り を き く と 、 ど ん な 美 人 で も 興 醒 め で、 異 様 な ア ク セ ン ト を 聞 く と 、 虫づ が 走 る ﹂ と 放 言 さ れ た 。(1 )7
︹六 ︺ ア ク セ ン ト の 歴 史 と は
以 上 の よ う で 、 社 会 的 慣 習 は 、 そ う し て そ の 一種 で あ る ア ク セ ン ト は 、 異 な る 社 会 に お い て は 必 ず し も 同 じ で
は な い。 し か し 、 こ れ は 同 じ 時 代 に 属 す る 異 な る 社 会 に お け る 社 会 的 慣 習 に つ い て の 話 で あ り 、 ま た ア ク セ ン ト
に つ い て の 話 で あ った 。 そ れ な ら ば 、 次 に 、 異 な る 時 代 に 属 す る 同 じ 社 会 の 社 会 的 慣 習 な り 、 ア ク セ ント な り は
ど う か 。 時 代 が 異 な れ ば 、 同 一の 社 会 に お け る 社 会 的 慣 習 も 異 な る こ と が あ る の は 明 白 な 事 実 で あ る 。 衣 服 の 着
方 は 、 日 本 で も 古 い 時 代 に は 右 を 前 に 合 わ せ た 。 ア ク セ ン ト と 同 じ 性 質 の も の と 言 った 一語一 語 の 語 音 も 、 時 代
﹁春 ﹂ の ア
( 春 ) に し て か ら が、
(par )uで あ っ た ろ う と 言 わ れ る 。 そ う す る と 、 同 じ
が 変 わ れ ば 変 わ る こ と が あ る 、 と いう の が 言 語 学 の 常 識 で あ る 。 ﹁春 ﹂ の 語 音 に し て も 、 国 語 史 の 研 究 に 従 え ば 、 古 い 日 本 語 で は(〓aru ) で あ り 、 も っと 古 く は
ク セ ン ト も 、 時 代 が 異 な れ ば 、 当 然 異 な る こ と が 有 り う る わ け で あ り、 例 え ば 東 京 語 の ハ ル
今 で こ そ ハ ル と い う が 、 古 い 時 代 に は 案 外 ハ ル と 言 っ て い る か も し れ な い と い う こ と に な る 。 す な わ ち、 ア ク セ
語 音 が時 代 と 共 に 変 化 す る と いう こ と は 今 で こ そ 常 識 に な って いる が、 以 前 は そ う で は な か った 。 一般 に 言 語 が 時
ン ト に は 、 ︽時 代 的 変 化 ︾ と いう も の が 考 え ら れ 、 し た が っ て ︽ア ク セ ン ト の 歴 史 ︾ と いう も の が 考 え ら れ る 。
代 と と も に 変 化 す る と いう 考 え も 、 明 治 ご ろ は 一般 化 し て いな か った た め に 、 ﹃日 本 文 法 史 ﹄ と いう 名 で 実 は 日 本 文
法 の 研 究 史 が書 か れ て い る 状 態 であ る 。
語 音 に 関 し て は な お の こ と で 、 日 本 で 語 音 が 時 代 と と も に 変 化 す る こ と を 正 面 か ら 取 り 上 げ て 論 じ た 最 初 の文 献 は 、
明 治 三 十 一年 に 上 田 万 年 が ﹃ 帝 国 文 学 ﹄ に 発 表 し た ﹁P 音 考 ﹂( 18)だ と 言 わ れ る が 、 か れ が こ の 論 文 の 中 で 、 日 本 語
の ハ行 の 子 音 は 、 古 い時 代 に p であ った と 述 べ た と こ ろ 、 当 時 の第 二 高 校 の国 語 学 の教 授 岡 沢 鉦 次 郎 は 、 そ ん な ば か
な こ と が あ る か 、 そ れ で は 恐 れ 多 く も わ が 皇 室 の 御 先 祖 の 御 名 は ピ コポ ポ デ ミ ノ ミ コト に な って し ま う で は な い か 、
と い う こ と を 、 大 マ ジ メ に な っ て同 誌 に 再 三 に わ た り 書 い て いる 。 こ れ は 、 十 九 世 紀 の ヨ ー ロ ッ パ人 が、 人 間 と いう
も の は 下等 な 動 物 か ら 進 化 し て 出 来 た のだ と いう こ と を ダ ー ヴィ ン に 聞 か さ れ て、 ピ ンと 来 な か った と 同 様 の こ と で あろ う。
こ の こ と は ア ク セ ント も 同 様 で、 時 代 と と も に 変 化 し て 来 て 、 今 日 に 至 った に 相 違 な い が 、 そ の 認 識 は大 分 お く れ
た 。 明 治 ・大正 の こ ろ、 舞 鶴 に 井 上奥 本 と いう 人 が い て、 過 去 の ア ク セ ン ト を 記 載 し た 文 献 を 集 め て いた 。 私 た ち は
氏 を、 ﹁日 本 語 ア ク セ ント 史 の 研 究 の開 祖 ﹂ と 言 って い る が 、 氏 が 発 表 さ れ た 論 文 の題 は 、 ﹁日本 語 調 小 史 ﹂ で は な く 、
﹁日 本 語 調 学 小 史 ﹂( 19)であ った 。 ア ク セ ント の歴 史 的 研 究 が本 格 的 に は じ め ら れ た の は 、 昭 和 に 入 って 服 部 四 郎 氏 に よ る も の で あ る 。( 20)
︹七 ︺ ア ク セ ント 史 研 究 の効 用
こ の 本 で こ れ か ら 述 べ て 行 こ う と い う も の は 、 日 本 語 の ア ク セ ン ト の 歴 史 で あ る 。 も っと も ア ク セ ン ト の 歴 史
な ど と いう と 、 そ ん な こ と を 研 究 し て ど う いう 意 味 が あ る か と いう よ う な 質 問 が 出 そ う であ る 。 そ の 答 え を こ こ に述 べ て おき た いと 思 う 。
ア ク セ ント と い う も の は 、 ま ず 、 広 く 人 間 の 文 化 と 言 わ れ る も の の 中 で 、 き わ め て 特 殊 な 位 置 を 占 め る 注 目 す
べ き も の と 言 って よ い。 ア ク セ ン ト は 言 語 の 一部 で あ る が 、 こ の 言 語 と 言 う も の が 人 間 の 文 化 の 中 で 、 特 殊 な 地
位 を 占 め る も の で 、 一言 に し て 言 え ば 一番 個 人 か ら 離 れ た と こ ろ に あ る も の で 、 す な わ ち 、 一番 社 会 的 な も の で
あ る。
文化 の中 でも 、 文 学 と か 芸 術 と か いう も のは 他 方 の端 にあ るも の で、 こ れ は 個 人 の力 が働 き か け る こ と が大 き
い。 戦 前 に は 文 学 作 品 は 社 会 が 生 む も の で、 漱 石 が いな く ても 、 あ のよ う な 作 品 が 生 ま れ た と いう 説 も あ った が 、
そ れ は 暴 論 で 、 夏 目 漱 石 の個 人 的 素 質 や 環 境 が 原 因 で 生 ま れ た漱 石 の人 生 観 、 社 会 観 が漱 石 の作 品 の基 調 にな っ て いる と 考 え る 。 夏 目漱 石 の作 品 は 、 漱 石 が いな け れ ば 書 け な か った 。
言 語 は こ れ に 対 し て 個 人 の意 志 ・感 情 が働 き か け る と こ ろ が 非 常 に少 な い。 語 彙 の面 で は 個 人 が新 語 を 創 作 し
少 な く と も そ れ に 近 いと 考 え ら れ る。 自 分 個 人 のも って い
て は 社 会 に通 用 さ せ る と いう こ と も あ る が 、 文 法 体 系 ・音 韻 体 系 と も な る と 、 個 人 の力 は 次第 に弱 く な り 、 ア ク セ ント の面 で は 個 人 が 参 与 す る と いう こと は 絶 無︱
る ア ク セ ント 体 系 を 変 え る こ と で さ え 、 非 常 に困 難 であ る こ と は よ く 知 ら れ て いる 。 こ の こ と は 言 語 、 こ と に ア
ク セ ント は 文 化 の 一部 と 言 いな が ら 非 人 間 的 な も の で、 そ の 点 で自 然 の 一部 に 近 いよ う な 観 を 呈 す る 。 こ のよ う な も の は、 文 化 のう ち の 一つ の極 限 にあ る も の と し てま ず 注 目 さ れ る。
一体 、 個 人 の感 情 ・意 志 に 対 し て独 立 し て いる と いう 性 質 は 、 文 化 の中 でも 一般 に慣 習 と 言 わ れ て いる も の の
中 に 多 く 見 出 だ さ れ る が、 そ の中 で言 語 は ま た 特 色 を も つ。 慣 習 と いう も の は、 一般 に混 然 と し た 文 化 の中 に 存
在 し 、 他 のも の か ら 分 離 さ せ る こと が 難 し い。 そ のた め に 研 究 の対 象 と す る 場 合 に、 いろ いろ な 困 難 があ る 。
言 語 は、 そ れ に 対 し て、 そ の研 究 の 対象 を 他 の文 化 のも のか ら 分 離 し て、 扱 いや す い。 具 体 的 な 個 人 の物 を 言
ソ シ ユー ル のラ ング は 、 ソ シ ュー ル が言 った よ う に 、 そ れ だ け で 一つ のま と
う 行 動 や 、 話 を 理解 す る 心 の働 き は 、 た し か に複 雑 で分 析 が 難 し い。 し か し そう いう 個 々 の行 動 ・作 用 の わ く に な って いる 言 語 体 系 と いう も の︱
ソ シ ュー ル の 言 う 言 語 記 号 の 一つ一 つは、 さ ら に具 体 的 な 存 在 であ る。
ま り を も った 総 体 で、 他 か ら 切 り 離 し て 研 究 し う る 対 象 で あ る 。( 21) ラ ング の構 成 要 素 を な す 個 々 の語 句︱
同 じ 語句 の研 究 で も 、 意 義 の面 と な る と 、 対 象 の分 離 が 困 難 で、 ま た 意 義 素 と いう よ う な も のも 必 ず し も 体 系 的
に な っ て いな い の で 、 そ の 研 究 は 後 れ て い る が 、 音 韻 の 部 面 は 、 あ と に
︹九 ︺ で 述 べ る よ う に 、 一定 数 の 、 相 互
に は っき り 切 り 離 さ れ た 、 そ う し て 全 体 と し て 見 事 な 体 系 を も った 単 位 の集 合 で あ る 。 そ の た め に 、 対 象 の 分 離
も 容 易 で、 そ のた め に 、 言 語 学 の中 でも 音 韻 論 は最 も 進 んだ 部 面 と さ れ て い る。 こ の こ と は 、 結 局 あ ら ゆ る文 化 科 学 の 中 で 一番 進 ん だ 分 野 と 認 め ら れ て い る こ と に な る 。
と こ ろ で 、 こ こ で 問 題 に す る ア ク セ ント は 、 音 韻 の 中 で も 、 他 の 部 面 と か か わ り の 最 も 少 な い 分 野 で 、 感 情 や
意 志 か ら も 離 れ て純 粋 にそ れ だ け で研 究 で き る 分 野 であ る。 こ れ は 言 語 学 全 体 の中 で そう いう 対 象 で あ り 、 そ れ
は 同 時 に 文 化 科 学 全 体 の 中 で も そ う だ と い う こ と に な る 。 こ の 方 面 で 歴 史 と いう も の を 研 究 す る な ら ば 、 そ れ は
言 語 学 の 、 そ う し て す べ て の 文 化 科 学 の 歴 史 研 究 の一 つ の 典 型 と な り う る も の と 考 え ら れ 、 一般 文 化 科 学 の 進 歩
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Desc ( 22 r) i のp 1tの i14 ve を 参L照 iさ nれ gu たiい s。 tア ic メs リ"カ で 言 語 学 ブ ー ム が 起 こ
言 語 学 が 一般 文 化 科 学 の中 で 、 す ぐ れ た 位 置 を 占 め る も の で あ る こ と に つ い て は 、 例 え ば 、 グ リ ー ス ン (H.A.
に大 い に 貢 献 す る と 考 え る 。
Introduction
った と き に、 週 刊 誌 の ﹃タ イ ム﹄ が そ の 理 由 づ け と し て、 ﹁文 化 科 学 の う ち で も 最 も 自 然 科 学 に 近 い か ら だ ﹂ と 解 説
Gleas )o のn "An
し て いた こ と が あ った 。( 23) 日 本 語 の ア ク セ ント の 歴 史 を 研 究 す る こ と は 、 そ う い う 文 化 科 学 の 進 歩 のた め に と い う
大 き な 問 題 への 奉 仕 も あ る が 、 そ れ よ り 先 に 、 い ろ い ろ の効 用 を も って い る も の と 考 え る 。
何 よ り 先 に、 過 去 の 日 本 語 の ア ク セ ント が 明 ら か に な る こ と は 、 古 典 の作 品 の ほ ん と う の 姿 を 知 る 上 に役 立 つ は ず
で あ る 。 筆 者 は 、 一昨 年 三 月 二 十 二 日 の N H K の 放 送 記 念日 の特 集 番 組 に ﹃ 万 葉 集 ﹄ の 短 歌 一首 、 ﹃ 枕 草 子 ﹄ の第 一
段 、 ﹃平 家 物 語 ﹄ の ﹁那 須 与一 ﹂ の 章 の 一部、 狂 言 ﹁花 子 ﹂ の 一節 、 浄 瑠 璃 ﹁野 崎 村 ﹂ の酒 屋 の段 を え ら び 、 そ の 作
成 時 代 の ア ク セ ン ト を 語 音 と と も に 推 定 し て 、 新 劇 の 関 弘 子 さ ん、 放 送 劇 の 木 下 秀 雄 君 、 山 内 雅 人 君 に 朗 読 さ せ て み
た 。 筆 者 の 、 各 時 代 の ア ク セ ン ト の 推 定 に は ま だ 問 題 が 多 く 、 あ れ で当 時 の 発 音 が そ っく り 復 原 し た と い う 自 信 は な
いが 、 し か し あ あ いう も の は そ れ ら の古 典 作 品 の直 接 の 理 解 に は 役 立 つと 思 う 。 そ れ が 機 縁 に な って 昨 年 の春、 コ ロ
ム ビ ア ・レ コー ド か ら 、 池 田 弥 三 郎 氏 と 共 同 監 修 、 関 弘 子 さ ん の 吹 込 み で 、 ﹃源 氏 物 語 ﹄ の ﹁夕 顔 ﹂ と ﹁須 磨 ﹂ の 一 節 を 、 推 定 さ れ る 当 時 の語 音 ・ア ク セ ント を 復 原 し て レ コー ド に し た 。
﹁実 践 と 展
筆 者 は 、 ま た 以 前 に ﹁ア ク セ ント 史 の 研 究 が何 に役 立 つか ﹂ と いう 論 文 ( 24)を 書 い た こ と が あ る が 、 あ れ は 国 語 ア
ク セ ント 史 の 研 究 が 国 語 学 の他 の 分 野 の 研 究 に役 立 つか 、 と いう こ と を 書 いた も の だ った 。 こ の 本 の下 巻
開 編 ﹂ の 巻 末 に そ え る も の が そ れ で あ る が、 ア ク セ ント 史 の 研 究 の効 能 は そ れ だ け で は な い。
ア ク セ ント 史 の 研 究 は 、 書 誌 学 に も 役 立 つは ず で 、 例 え ば 、 古 代 の ア ク セ ント 符 号 で あ る ︽声 点 ︾ は、 時 代・ 時 代
に よ る 特 色 を 表 わ す か ら 、 そ れ を 調 べ る こ と に よ って 、 そ の 写 本 の成 立 の時 代 を 、 も し く は 、 そ の 写 本 は 何 時 代 のも
のを 正 確 に 写 し た も の か を 、 推 定 で き る 。 声 点 に つ い て は ︹五 十 七 ︺ に 改 め て 述 べ る が 、 概 要 を 言 う な ら 、 和 訓 に 声
点 を 施 す こ と は 、 平 安 朝 時 代 の末 期 に は じ ま り 、 そ の こ ろ は、 (平 ) (上 ) ( 去 ) の三 種 類 で、 こ のうち 去 声点 は単 語
の第 一拍 に差 さ れ た 。 文 献 に よ って は 、 平 声 の ほ か に 、 ﹃東 声 ﹄ と 称 す る や や 高 い位 置 に 差 し た 例 も あ る 。 鎌 倉 時 代
の も の は 、 去 声 点 が な く 、 平 安 朝 時 代 のも のを 基 と し て 考 え た 場 合 、 去 声 点 が 期 待 さ れ る と こ ろ に 上 声 点 が 差 し て あ
る 。 東 声 点 も な い か ら 、 鎌 倉 時 代 のも の は 、 最 も 簡 素 で あ る 。 室 町 時 代 に は じ め て つけ ら れ た も の は 、 再 び 去 声 点 が
見 ら れ 、 に ぎ や か で あ る が 、 こ の 時 代 ご ろ に な る と 、 そ れ ま で 左 側 に 差 さ れ て いた 濁 音 を 表 わ す 点 が 今 の よ う に 去 声
﹃涅槃講 式 ﹄ を 、 そ の 声 点 の位 置 か ら 、 鎌 倉 時 代 の 本 、 ま た は そ
の 位 置 に 差 さ れ る よ う に な り 、 本 来 の 去 声 を 表 わ す 点 と 紛 ら わ し く な っ て い る、 と いう 風 に 言 え る 。 筆 者 は 、 ﹃四 座 講 式 の 研 究 ﹄( 25) の 中 で、 山 田 忠 雄 氏 蔵 の大 慈 院 本
れ を 正 確 に 写 し た 本 と 推 定 し た が 、 間 違 い は 犯 し て いな いと 思 う 。
ま た 、 国 語 の ア ク セ ント 史 の 研 究 が 、 邦 楽 史 の 研 究 に 役 立 つ べ き こ と は 、 ﹁邦 楽 の旋 律 と 歌 詞 の ア ク セ ン ト ﹂ と い う 旧稿 の中 に 述 べ た 。( 26)
昔 か ら 伝 わ って い る 邦 楽 の歌 曲 の中 に は 、 歌 詞 の ア ク セ ン ト が そ の 旋 律 に 反 映 し て いる も の が あ る が 、 そ う いう 曲
に つ い て は 、 そ の ア ク セ ント を も と に今 の旋 律 が 成 立 し た 時 代 を 推 定 す る こ と は 容 易 で あ る 。 例 え ば 仏 教 歌 謡 の 中 の
︽講 式 ︾ ︽祭 文 ︾ ︽表 白 ︾ と 呼 ば れ る も のは大 体 鎌 倉 時 代 のも の を 伝 え て い る と 見 ら れ る 。 邦 語 歌 詞 の 仏 教 歌 謡 の 中 で
最 も 古 いも の は 、 ﹃ 古 典 全 集 ﹄ の ﹁歌 謡 集 ﹂ ( 上 ) に 譜 の出 て いる ﹁百 石 讃 嘆 ﹂ で 、 こ れ は 平 安 末 期 か そ れ 以 前 の 旋 律
を 伝 え て い る と 思 わ れ る 。 た だ し 並 ん で出 て いる ﹁法 華 讃 嘆 ﹂ は そ れ よ り 新 し く 、 鎌 倉 時 代 のは じ め ご ろ の出 来 か も
し れ な い。 ﹁法 華 讃 嘆 ﹂ が 藤 原 師 長 の作 曲 ・作 譜 な ら ば 、 ﹁百 石 讃 嘆 ﹂ は も う 少 し 前 の 時 代 の も の を 師 長 が作 譜 し た も
の で あ ろ う 。 ﹁四 座 講 式 ﹂ で代 表 さ れ る 講 式 類 は 、 祭 文 や 表 白 の 類 と 並 ん で 、 鎌 倉 時 代 の も の が 大 体 今 に 伝 わ っ て い
る も の と 推 定 さ れ る。 新 義 真 言 宗 に伝 わ る ﹁仏 遺 教 経 ﹂ は 、 南 北 朝 時 代 の曲 であ ろ う 。 和 讃 の類 は 室 町 時 代 ( 27)の も のか。
平 曲 は 、 現 行 のも の は 、 いろ いろ な 時 代 に 出 来 た 旋 律 を 総 合 し て い る よ う で 、 ﹁折 声 ﹂ と 呼 ば れ る 部 分 は 、 あ る い
は 南 北 朝 時 代 に作 ら れ た も の を 写 し て い る と 見 ら れ 、 注 目 さ れ る 。 ﹁指 声 ﹂ の 部 分 は 室 町 時 代 、 他 の ﹁三 重 ﹂ ﹁中 音 ﹂
﹁初 重 ﹂ の類 も 同 類 か と 見 ら れ る 。 ﹁口 説 ﹂ ﹁拾 ﹂ に は 江 戸 時 代 に 出 来 た も の が ま じ り 、 ﹁ 素 声 ﹂ は 江 戸中 期 のも のと 判 定 さ れ る 。( 28)
︹ 譜 1 ︺( B︶ の よ う に 唱 え ら れ る 。
﹃平 家 正 節 ﹄ ( 巻一 下 ) で は 、 次 の よ う に 表 記
次 に 、 ア ク セ ント 史 の 知 識 は 、 譜 本 の旋 律 を 復 原 す る こ と に役 立 つ こ と が あ る は ず で あ る 。 細 か い こと に な る が 、 例 え ば 、 平 曲 ﹁海 道 下 り ﹂ と い う一 節 が あ る が 、 江 戸 中 期 の 平 曲 譜 本 し て いる。
推 し 量 ら れ て あ はれな り
︹ 譜 1 ︺( A)
仙 台 の館 山 甲 午 氏 は、 こ の部 分 を 演 奏 さ れ る 日 本 唯 一人 の 人 であ る が 、 こ こ を
し か し 、 こ の と こ ろ の 歌 詞 の ア ク セ ン ト は 、 ほ か の 文 献 に よ る と、 オ シハ カ ラ レ テ ア ワ レ ナ リ の はず と 推 定 さ れ る 。
平 曲 の 旋 律 は 、 一般 に ア ク セ ント に忠 実 だ った と 想 定 さ れ 、 こ こ で、 ﹁お し ﹂ のあ た り は 、 た し か に ア ク セ ン ト ど お
り の旋 律 に な って いる が 、 問 題 に し た い の は 、 ﹁あ は れ ﹂ と いう 部 分 であ る 。 今 こ こ で、 ﹁あ は れ ﹂ の ﹁ア﹂ が A で、
次 の ワ が H に な って い る の に 比 べ て 、 よ り 低 く 唱 え ら れ て い る こ と は 、 推 定 さ れ る 当 時 の ア ク セ ント と は 合 わ な い。
そ こ で こ の ﹁ア ﹂ に 付 け ら れ た ﹁﹀﹂ と いう 譜 を 、 ほ か の例 に つ い て い ろ いろ 当 た って み る と 、 い つも 次 の拍 よ り も
( それ
︹二 十 一︺ で 述 べ る 同 じ 類 の 語 に 同 じ 譜 が 配 さ れ て い る こと に よ って
の 研 究 そ の も の が中 国 語 の ア ク セ ン ト 史 の 研 究 に 役 立 つ こ と に な る 。
筆 者 の ﹁日 本 四 声 古 義 ﹂( 32)と が 紹 介 さ れ て いる 。 こ う な る と 、 日本 語 の ア ク セ ン ト 史
た も の を 明 ら か に し た 文 献 の例 と し て 、 頼 惟 勤 氏 の ﹁ 漢 音 の 声 明 と そ の声 調 ﹂( 31)と 、
と 同 時 に 、 越 南 や 日 本 に 輸 出 さ れ た 四 声 の調 価 も 重 要 な 資 料 と な って おり 、 日本 に 入 っ
に お け る 研 究 方 法 が き っと 参 考 に な る に 相 違 な い。 ま た 現 代 の 中 国 諸 方 言 の ア ク セ ント
さ か の ぼ る 方 法 の方 が 期 待 さ れ る が 、 そ の発 展 は 今 後 に あ る ら し い。 こ の場 合 、 日 本 語
ど が 出 色 の も の ら し い。 そ れ よ り 現 代 の中 国 語 諸 方 言 の ア ク セ ント の比 較 か ら 古 い姿 に
で、 個 々 の声 調 の調 価 を 説 明 し て い る 文 献 は 少 な く 、 日 本 の安 然 の ﹃ 悉曇 蔵 ﹄ の記事 な
さ れ る が 、 ﹃中 国 文 化 叢 書 ﹄( 29)第 一巻 の ﹃言 語 ﹄( 30) に 従 う と 事 実 は そ う で は な いよ う
史 の 研 究 に役 立 ち そ う に 思 う 。 中 国 語 な ど は 四 声 の 歴 史 に さ ぞ 文 献 が 多 く あ る か と 想 像
と こ ろ で、 国 語 の ア ク セ ン ト の史 的 研 究 は 、 広 く 日 本 語 を 離 れ て外 国 語 の ア ク セ ント
照 ら せ ば、 か な り 多 く の譜 本 の 表 わ す 意 味 が 明 ら か に な る は ず で あ る 。
のよ う に 並 ぶ か、 と か 、 段 落 の 切 れ 目 に は ど の 音 が 来 る か 、 と か いう 邦 楽 の 一般 規 則 に
知 ら れ る )、 譜 相 互 の相 対 的 な 高 さ のち が い が 判 定 さ れ 、 あ と は 、 ど の音 は ど の 音 と ど
は同 じ語、 ま たは
類 が 残 さ れ て いる が 、 ア ク セ ン ト が そ の 旋 律 に 影 響 を 与 え て いる と 判 定 が つけ ば
H E の ユリ を 表 わ す 譜 で あ ろ う 、 と 言 った 具 合 で あ る 。 一体 、 邦 楽 に は夥 し い数 の 譜 本
音 を 表 わ し て いた で あ ろ う 。 そ う し て 次 の﹁ ろ ﹂ と いう 譜 は 、 C E の ユリ で は な く て、
高 く 発 音 さ れ た 、 と 推 定 さ れ る 拍 に つ け ら れ て いる 。 そ う す る と、 こ こ の ﹁﹀﹂ を 付 け ら れ た ﹁ア ﹂ は 半 音 高 いC の
〔譜1〕(B)
も っと も 中 国 語 の ア ク セ ント は 、 高 低 ア ク セ ン ト だ と 言 っても 日 本 語 の そ れ と は か な り 異 質 であ る か ら 、 そ の歴 史
的 研 究 に は 日 本 語 の応 用 は そ れ ほ ど 期 待 で き な い か も し れ な い。 日 本 語 に よ く 似 た ア ク セ ン ト の 言 語 の場 合 に こ そ 、 応 用 の 価 値 は大 き いに ち が いな い。 代 表 的 な 例 は 朝 鮮 語 であ る。
現 代 の朝 鮮 語 は 、 京 城 方 言 ほ か 大 部 分 の 方 言 で は 、 型 の 区 別 を 全 く 失 って お り 、 いわ ゆ る 一型 ア ク セ ント の 方 言 で
あ る が 、慶 北 大 学 の 全 在 昊 氏 に よ る と 、慶 尚 南 北 両 道 か ら 江 原 道 南 部 の方 言 と 、咸 鏡 南 北 道 の 方 言 に は 、明瞭 な 型 の 区
( 例、「namecips奉 ar 公i )、●
別 が あ る と 言 う 。( 33) 私 は た ま た ま 慶 尚 北 道大邱 市 の方 言 の ア ク セ ント を 、 東 大 在 学 中 の 羅 聖 淑 さ ん に つ い て 調 査 し た が、 羅さ ん に従う と 例え ば 五拍 語 の型 の区 別 は次 のよう だ とあ る。 ●○ ○ ○ ○ 型
( 例 、san「t〓〓s〓〓山 maru
( 例 、to「tukkoja〓i野) 良 、猫 ○ ● ●○ ○ 型 ( 例 、te「ri
「cucamcari、 と○ んぼ ●) ●● ●型
●○○○ 型 ( 例 、 「wenamuta 一r 本i橋 )、 ○ ● ○ ○ ○ 型 rsa」Wik'a 養m子 聟向 き の男 )、 ○ ● ● ● ○ 型 ( 例 、to の 背 )。
これ は 驚 く べ き ほ ど 日 本 語 と 似 て いる で は な い か 。 ○ ● ○ ○ ○ 型 、 ○ ● ● ○ ○ 型 、 ○ ● ● ● ○ 型 が あ る な ど と いう
と ころ は 、 日 本 語 、 そ れ も 東 京 や 広 島 な ど の方 言 と そ っく り で は あ る 。 羅 さ ん に よ る と、 釜 山 の方 言 の ア ク セ ント も
セ ント 体 系 か ら 変 化 し て 出 来 た も の と 推 定 さ れ そ う で あ る 。 京 城 方 言 も 、 今 で こ そ 型 の 区 別 を 失 って い る と いう も の
同 様 ら し い。 こ の こ と は そ の 起 源 に お い て 、 東 京 方 言 や 広 島 方 言 の ア ク セ ント が 生 ま れ た よ う な 過 程 を 経 て 他 の ア ク
の 、 諺 文 の 制 定 さ れ た 李 王 朝 の成 祖 の 時 代 に は 、 型 の 区 別 を も って いた と 推 定 さ れ る 。( 34)
ま た 朝 鮮 語 に は 、 日 本 語 と 同 様 に、 と いう よ り も 日本 語 以 上 に 、 中 国 語 が 流 入 し て お り 、 そ の ア ク セ ント も 中 国 語
時 代 の 四 声 の別 を 反 映 し て いる 。( 35) そ の 助 け を 得 て、 朝 鮮 語 の ア ク セ ン ト の 史 的 研 究 は 大 い に有 望 で あ る 。 そ う し
て 先 に 述 べ た よ う に 、 朝 鮮 語 の ア ク セ ン ト そ のも の が 日 本 語 の ア ク セ ント そ のも の に よ く 似 て い た が 、 こ れ は 、 朝 鮮
語 の祖 語 の ア ク セ ント が 、 日 本 語 の 祖 語 の ア ク セ ント に よ く 似 た も の で な か った か と 、 推 測 さ せ る こ と 充 分 で あ る 。
こ れ に は 朝 鮮 語 の諸 方 言 の ア ク セ ント を 比 較 す る こ と も 有 効 であ ろ う 。 こ の よ う な 事 実 は 、 朝 鮮 語 の ア ク セ ント 史 の
研 究 を 進 め る こ と は 、 単 に そ れ だ け に と ど ま ら ず 日 本 語 と 朝 鮮 語 の 系 統 の研 究 を す る 場 合 にも ひ と 役 買 う の で は な い
か とま で期待 さ れる。
そ の他 、 イ ギ リ ス や ア メ リ カ に お い て は 、 ア フ リ カ の 諸 言 語 や、 ア メ リ カ ・イ ンド 人 の諸 言 語 の ア ク セ ン ト の 研 究
が 盛 ん で あ る が 、 そ れ ら の諸 言 語 に は 過 去 の ア ク セ ント を 記 録 し た 文 献 が 乏 し く 、 そ の歴 史 的 研 究 は 困 難 で あ る 。 そ
の方 面 の研 究 にも 日本 語 の ア ク セ ント 史 の 研 究 は き っと 示 唆 す る こ と が あ ろ う と 想 像 さ れ る 。
注 (1) 金 田 一春彦 ﹃日本 語 音 韻 の研 究 ﹄ 東京 堂 刊 行 ( 昭 四十 二 ・三) の中 に ﹁音韻 論 的 単位 の考 ﹂ と 改題 し て再 録。
( 3) 小 林 英夫 氏 の訳 が、 ﹃ 言 語 学 原 論 ﹄ の名 で 岩 波書 店 か ら 刊 行 ( 昭 十 五 ・三 )、 ﹃一般 言 語 学 講 義 ﹄ の名 で 岩 波 書 店 か ら
(2 ) 弘文 堂 刊 行 ( 昭十 五 ・四 ) 、 ペー ジ一 〇一 。
改版刊行 ( 昭 四 十 七 ・十 二 )。
( 4) 小 林英 夫 訳 ﹁記号 の本 質 に つ いて﹂ ﹃言 語研 究 ・現代 の問 題 ﹄ 養徳 社 刊 行 ( 昭 二十 ・二 ) 、 ペー ジ八 六。 ( 5) ﹃ 言 語 理論 講 話 ﹄ 刀江 書 院 刊 行 ( 昭 三 十 五 ・三 )、ペー ジ 四八︲五 〇 。
)。
( 6) 京 文 社刊 行 ( 昭 四 ・四︶。 (7) 賢 文 館刊 行 ( 昭 十 ・十
( 8) 有坂秀世 ﹃ 国 語 音 韻 史 の研 究 ﹄ 三省 堂 刊 行 ( 昭 三 十 二 ・十)、 ペー ジ 六七 〇 。
( 昭 六) 所 載 。
(9) 岩 波 書 店刊 行 ( 大 十 一 ・十 一)。 (10 ) ﹃ 音 声 の研究 ﹄Ⅳ
(11 ) ﹃ 国 語 研 究﹄ ( 国 学 院 大) ( 第七号 ( 昭 三 十 二 )所 載 。 金 田 一春 彦 ﹃日本 語 音 韻 の研究 ﹄ ( 1 に前 出 ) に再 録。 (12 ) (5) に前 出 。 ペー ジ 四九 以 下 。 (13 ) 国 語 学 会 編 、東 京 堂 刊 行 ( 昭 三 十 ・八)。 (14 ) 米 山俊 直 氏 の訳 で社 会 思想 社 か ら 刊行 ( 昭 四 十 八 ・三 )。 ( 15 ) ﹃言語 生 活 ﹄第 三九 号 ( 昭 二十 九 ) 所載 。
( 16 ) ﹃東京 新 聞 ﹄ ( 昭 和 二十 八 ・二 ・五 ) 紙 上。 ( 17 ︶ ﹃ 言 語 生活 ﹄ 第 一九 号 ( 昭 二 十 八)。
( 昭 三 ) 所載 。
( 18 ) ﹁語学 創 見 ﹂ と 題 し て同 誌 四 の 一 ( 明 三 十 一 ・ 一) 所 載。 のち に 、 ﹃ 国 語 のた め第 二﹄ に採 録。 ( 19 ) ﹃ 音声 の研 究 ﹄Ⅱ
( 20 ) 日本 方 言 学 会 編 ﹃日本 語 のア ク セ ント ﹄ ( 昭十 七 ・三 )所 載 の服部 四郎 ﹁補 忘 記 の研 究 ﹂を 参 照 。 ( 21 ) ( 3 ) に同 じ 。 ペー ジ 二七。 ( 22 ) 竹 林 滋 ・横 山 一郎 共 訳 ﹃記 述言 語 学 ﹄大 修 館 刊 行 ( 昭 四十 五 ・六)。
( 23 ) 昭 和 四十 八 年 三 月 二十 三 日 付 ﹃日本 経 済新 聞 ﹄ 所 載 の渡 部 昇一 ﹁現代 言 語 学 の問 題 点 ﹂ によ る。 ( 24 ) ﹃言 語 民俗 論 叢 ﹄三 省 堂 刊 行 (昭二 十 八 ・五 ) 所 載。 ( 25 ) 三 省堂 刊 行 ( 昭 三十 九 ・三 ) 、 ペー ジ 四 一︲四 二 を参 照 。
( 26 ) 田 辺尚 雄 先 生 還暦 記 念 論 文集 ﹃ 東 亜 音楽 論 叢 ﹄ 山 一書 房 刊 行 ( 昭十 八 ・八 )所 載 。 ( 27 ︶ こ のあ た り のこ と、 ( 2 5) に前 出 の金 田一 春 彦 ﹃四座 講 式 の研究 ﹄ を 参 照 。
( 28 ) こ の こと は 、 ﹁平曲 の音 声﹂ ﹃日本 音 声学 会 会 報 ﹄ 九九 ・一〇 一 ( 昭 三 十 四) に述 べた 。 ( 29 ) 牛島 徳 次 ほ か 編、大 修 館 刊 行 ( 昭 四 十 二 ・十一 ) 。 ( 30 ) 平 山久 雄 執筆 ﹁ 中 古 漢 語 の音 韻 ﹂。 ( 31 ) ﹃言語 研 究 ﹄第 一七 ・一八 ( 昭 二十 六 )所 載 。 (32 ) 寺 川喜 四 男 ほ か編 ﹃ 国 語 ア ク セ ント論 叢 ﹄ ( 昭 二 十 六 ・十 二) 所 載 。 ( 33 ) 直 話。
(34 ) 河 野六 郎 ﹁諺文 古 文 献 の声 点 に就 いて﹂ ﹃ 朝 鮮 学報 ﹄ 第一 輯 ( 昭 二十 六 ) 所載 によ る。
(35 ) こ の こと は 、服 部 四 郎 ﹁ 朝 鮮 語 のア ク セ ント ・モーら ・音節 ﹂ ﹃こと ば の宇 宙 ﹄ 三 ・五 ( 昭 四 十 三 )所載 に 言 及 が あ る。
一章 ア ク セ ン ト 史 研 究 の 原 理
本 論 ア ク セ ント 史 研 究 の方 法
第
第 一節 ア ク セ ン ト の 体 系 性
︹八︺ アク セ ント の史的 研究 の 可能性
国 語 のア ク セ ント の史 的 研 究 を 試 み る 。 こ ん な こと を 言 う と 、 あ る い は ︽一体 そ んな こと が で き る だ ろ う か ︾
と いう 疑 問 を も つ方 があ る か も し れな い。 こ の疑問 は 次 のよ う な 考 え が根 底 に あ る と 思 わ れ る。
︽ア ク セ ント 史 の研 究 の価 値 が 知 ら れ た と し ても 、 我 々 が そ の アク セ ント を 明 ら か にし な け れ ば な ら な い語
句 の数 は無 数 であ る。 そ う し て 、 我 々 は 過 去 の ア ク セ ント を 直 接 耳 にす る こ と が でき な い。 過 去 のア ク セ ン
ト を 推 定 す る 第 一の 手 掛 り は 過 去 の ア ク セ ント を 記 載 し た 文 献 であ ろ う が 、 そ の分 量 は 恐 ら く 多 いと は 言 わ
れ ま い。 ま た、 は た し て 我 々 の要 求 す る よ う に 、 正 確 に、 ま た 精 密 に、 ア ク セ ン ト を 記 載 し て いる だ ろ う か︾
今 こ の点 に つ い て のお 答 え を す る と 、 ま ず 、 過 去 の アク セ ント が直 接 に は 聞 か れ な いこ と 、 こ れ は 事 実 で あ る。
こ の研 究 の た め に我 々は あ ら ゆ る 資 料 を 総 動 員 し な け れ ば な ら な い。 し か し 、 ア ク セ ント と いう も の に は、 次 項
以 下 に述 べる よ う に 、 き わ め て奇 麗 に 規 則 で律 せ ら れ る性 格 が あ る と 見 な さ れ る た め に 、 過 去 の ア ク セ ント に つ
いて の推 定 は 、 漠 然 と 想 像 し て いる よ り は 遙 か に 容 易 で あ る と いえ る 。 ま た 、 過 去 のア ク セ ント を 記 載 し た 文 献
も 、 少 な く は な いと 言 って い い。 そ う し て そ れ の正 否 を 吟 味 す る 場 合 にも 、 アク セ ント の上 に 見 ら れ る法 則 的 な
事 実 を も と と し て 行 な う こ と が で き る の で 、 こ の 章 で は ア ク セ ン ト の も って い る 規 則 性 と いう も の を ま ず 見 て 行 き、 以 後 、 項 を 追 っ て そ の 研 究 方 法 の 論 に 進 ん で ゆ き た い 。
た 。 昭 和 二 十 六 年 ご ろ ま で の研 究 に つ いて は 、 稲 垣 正 幸 氏 の ﹁国 語 ア ク セ ント 史 研 究 の 回 顧 ﹂(1 ︶を 参 照 さ れ た い。
日本 語 の ア ク セ ント の史 的 研 究 は 、 服 部 四 郎 氏 に よ って は じ め ら れ た 。 こ の こ と は 前 項 の ︹ 六 ︺ の 小 字 の条 に 述 べ
そ の後 の研 究 は ま す ま す 盛 ん で 、 毎 月 のよ う に 雑 誌 そ の 他 に 発 表 さ れ る論 文 は 、 応 接 に遑 が な い が 、 そ の中 で、 ま
ず 文献 によ る研究 とし て は、 小松英 雄氏 が、 ﹃ 図 書 寮 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ の声 点 の 中 に 、 ︽東 点 ︾ と いう も のが あ る こ と
を 発 見 し 、 そ の成 果 を ﹁和 訓 に 施 さ れ た 平 声 軽 の 声 点 ﹂( 2)と し て 発 表 さ れ た こ と が 特 筆 に 値 す る 。 こ れ に よ って 平
安 朝 末 期 の 日 本 語 の ア ク セ ント 体 系 は 、 そ れ ま で 考 え ら れ て いた よ り も 、 遙 か に 複 雑 で 華 麗 であ った こ と が 明 ら か に
﹃ 類 聚 名 義 抄 ﹄ の和 訓 に
さ れ 、 ア ク セ ント 史 研 究 は こ こ に 一時 期 を 画 し た 。 小 松 氏 は 、 そ の後 も 、 ﹃ 金 光 明 最勝 王 経音 義 ﹄ そ の他 の文 献 に同
つ い て 書 誌 学 的 な 研 究 を 進 め て 、大 著 ﹃日 本 声 調 史 論 考 ﹄ と し て 世 に 送 り 出 し た 。
種 の声 点 のあ る こ と を 報 告 し て 、 ﹁平 安 末 期 畿 内 方 言 の音 調 体 系 ﹂︹Ⅰ・ ︺︹Ⅱ ( 3 ︺)を 発 表 し 、ま た
﹁ 平 安 ・院 政 時 代 に お け る 複 合 名 詞 の ア ク セ ント 法 則 ﹂( 4) 、上
小 松 氏 と 雁 行 し て 、 文 献 に よ る 研 究 を 精 力 的 に 続 け て いる の は 、 桜 井 茂 治 氏 で 、 論 文 の 数 は 数 十 篇 に 上 る が 、 ﹃類 聚名 義 抄﹄ 時代 のア ク セ ント複 合 の法 則を 報 告 した
代 の 形 容 詞 は 実 は 二 語 の連 続 で あ った こ と を 明 ら か に し た ﹁古 代 日 本 語 の形 容 詞 の 構 造 ﹂( 5) 、 上 代 の特 殊 仮 名 遣 い
と ア ク セ ント と の 関 係 を 論 じ た ﹁日 本 語 の 母 音 調 和 と ア ク セ ント ﹂( 6)な ど は 、 射 程 の大 き い、 野 心 的 な 発 表 で あ る 。
﹃古 今 集 ﹄ の声 点 に 力 を 注 いだ 秋 永一 枝 氏 に は 、 ﹁顕 昭 の 声 点 本 に つ い て ﹂( 8)な ど の手 堅 い労 作 が あ った が 、 最 近 研
奥 村 三 雄 氏 は 、 こ と に 字 音 語 の ア ク セ ント に 心 を 寄 せ 、 ﹁漢 語 の ア ク セ ント ﹂( 7)そ の他 一連 の 発 表 が あ る 。 専 ら
究 の 成 果 を 総 合 し て ﹃古 今 和 歌 集 声 点 本 の研 究 ﹄( 9)に ま と め た の は め で た い。 た だ し 今 出 て い る の は 、 そ の う ち の
﹁ 資 料篇 ﹂ であ る。 そ の他、 南 不二男 氏 の ﹁ 名 義 抄 時 代 の京 都 方 言 に 於 け る 二 字 四 段 活 用 動 詞 の ア ク セ ント ﹂( 01 ︶は 、
﹃ 補 忘 記﹄ が室 町 時代 のア
比 較 言 語 学 の立 場 か ら ア ク セ ン ト 史 を 解 説 し た オ ー ソ ド ック ス の研 究 と し て 味 わ う べ き で あ り 、 馬 淵 和 夫 氏 が ﹁定 家
か なづ か いと 契 沖 か なづ か い﹂( 11) で 従 来 江 戸 時 代 の ア ク セ ント 資 料 と し て 扱 わ れ て いた
ク セ ント 資 料 で あ る こ と を 指 摘 し た の は 、 小 稿 の 後 篇 な ど に は大 き な 影 響 を 与 え た 。 な お 、 平 安 朝 時 代 の 文 献 か ら ア ク セ ント 資 料 を 数 え た 人 に 、 ︹五 十 七 ︺ に あ げ る築 島 裕 氏 そ の 他 が あ る 。
次 に 、 方 言 に よ る ア ク セ ント 史 の 研 究 と し て は 、 平 山 輝 男 氏 に 山 梨 県 奈 良 田 郷 の ア ク セ ント の 成 立 を 明 ら か に し た
﹁言 語 島 の音 調 体 系 成 立 と そ の 解 釈 ﹂( 12)が あ る 。 筆 者 は 石 川 県 能 登 地 方 の 方 言 、 な ら び に 三 重 県 南 の 北 牟 婁 地 方 の方
言 を 基 と し た 、 東 京・ 京 阪 両 ア ク セ ン ト の 分 離 の過 程 に つ いて そ の推 定 ( 13)を 述 べ た が 、 こ れ は 多 く の 学 者 の反 響 を
呼び 、 奥 村 三 雄 氏 の ﹁東 西 ア ク セ ント 分 離 の時 期 ﹂( 14) 、 桜 井 茂 治 氏 の ﹁形 容 詞 の音 便 の 方 言 分 布 と そ の 解 釈 ﹂( 15)な
ど が 出 た 。 徳 川 宗 賢 氏 の ﹁日本 語 方 言 ア ク セ ン ト の 系 譜 試 論 ﹂( 16)も 加 え て よ い か も し れ な い。 筆 者 は 、 ま た 、 ﹁対 馬
付壱 岐 ア ク セ ント の 地 位 ﹂( 17) で 、 九 州 西 南 部 方 言 の ア ク セ ント が一 種 の 東 京 式 ア ク セ ン ト か ら 変 化 し て出 来 た も の
であ る こ と を 論 じ 、 そ の 勢 で 、﹁ア ク セ ン ト か ら 見 た 琉 球 諸 方 言 の系 統 ﹂( 18)を 発 表 し た 。 そ の 他 、 京 阪 式 方 言 の 中 で
も一 風 変 わ って お り 、 変 異 の 激 し い讃 岐 ア ク セ ン ト ( 19)の 成 立 、 瀬 戸 内 海 に 分 布 す る 特 殊 の ア ク セ ント で あ る ﹁真 鍋
式 ア ク セ ント ﹂( 20)の 成 立 そ の他 を 論 じ 、 最 後 に 、 現 在 の諸 方 言 のう ち で 最 も 出 自 を 明 ら か に し が た いと 思 わ れ る 隠
岐 島 方 言 の ア ク セ ント の 系 統 に つ い て 考 察 し た 。( 21) 真 鍋 式 ア ク セ ント と いう の は 、 昭 和 二 十 九 年 に 虫 明 吉 治 郎 氏 が
岡 山 県 真 鍋 島 で 発 見 し た 、 東 京 式 ・京 阪 式 と 系 統 のち が う 特 殊 な ア ク セ ント ( 22)で、 ア ク セ ント 史 の 研 究 に 有 力 な 方
言 であ る が 、 そ の後 四 十 一年 に 至 り 、 和 田 実 ・妹 尾 修 子 両 氏 が 、 そ れ と 程 遠 か ら ぬ 香 川 県 伊 吹 島 に 、 今 度 は ﹃類 聚 名
義 抄 ﹄ な ど に よ って 知 ら れ る 平 安 時 代 の ア ク セ ント に 、 き わ め て 近 い ア ク セ ン ト 方 言 ( 23)を 発 見 ・報 告 し 、 話 題 を 呼 んだ。
そ の他 、 過 去 の歌 曲 の旋 律 に よ る ア ク セ ント 史 の研 究 と し て は 、 桜 井 茂 治 氏 が 早 く か ら 手 を 染 め 、 こと に ﹁論 議 ﹂
に 力 を 入 れ 、 ﹁﹃ 論 議 ﹄ の旋 律 に 反 映 し た 室 町 時 代 初 期 の ア ク セ ント ﹂ そ の 他 の 発 表 ( 24)が あ る 。 筆 者 も 、 ﹃四 座 講 式
の研 究 ﹄( 25)で 鎌 倉 時 代 の ア ク セ ン ト を 明 ら か に し よ う と し た が、 ﹁講 式 ﹂ と いう 声 明 の 旋 律 の復 原 に 頭 を 悩 ま し 、 ア
ク セ ント の研 究 の 方 は お ろ そ か な も の に な って し ま った 。 ま た 、 奥 村 三 雄 氏 が 平 曲 の テ キ ス ト ﹃平 家 正 節 ﹄ を 京 都大
学 本 に よ り 複 製 さ れ た こ と は 、 江 戸 時 代 の ア ク セ ン ト の 研 究 に大 き な 便 宜 を 与 え る も の と 考 え る 。 奥 村 氏 に は 別 に
﹁平 曲 譜 本 に 反 映 し た ア ク セ ン ト ﹂( 26)の発 表 が あ る。 昨 年 か ら 日本 最大 の 国 語 辞 典 と し て 世 に送 り 出 さ れ て いる 小 学
館 刊 行 の ﹃日 本 国 語大 辞 典 ﹄( 27) に ア ク セ ント 史 の 項 も あ って 、 知 ら れ る 限 り の語 彙 に つ い て 何 時 代 の ア ク セ ン ト は
こ う と 註 記 さ れ て い る 。 ア ク セ ント の史 的 研 究 も 、 か く ま で に 至 った か と いう 感 が 強 い。
︹九 ︺ ア ク セ ント の 規 則 性 の 原 因
(F.
de
Sau )sの sい ur わeゆ る
﹁恣 意 的 ﹂ で あ り 、 レ ル ヒ
ア ク セ ント は 、 前 章 の ︹三 ︺ に 述 べ た よ う に 、 語 音 と 同 じ 性 質 の も の で 、 社 会 的 な 慣 習 と し て 個 々 の 意 義 と 結 合 し て いる。 す な わ ち 、 意 義 と の関 係 は 、 ソ シ ュー ル
の い わ ゆ る ﹁偶 然 的 ﹂ で あ る 。 こ う い う も の が 人 間 に 記 憶 さ れ る た め に は 、 記 憶 さ れ や す い よ う に な っ て い な け
れ ば な ら な い 。 そ の た め に は 構 成 単 位 の数 が 有 限 で 全 体 が 体 系 的 に な っ て い る こ と が 何 よ り で あ る 。
例 え ば 、 個 々 の語 の 語 音 は 、 何 種 類 か の 拍 の組 合 せ か ら 出 来 て お り 、 そ の拍 も 、 少 数 の音 素 の 組合 せ で出 来 て
いる と 解 さ れ る が 、 こ れ は 全 く 語 音 が 記憶 さ れ や す いよ う に出 来 て いる 、 す な わ ち 使 いよ いよ う に出 来 て い る 証
拠 で あ る 。 個 々 の 語 の ア ク セ ン ト も 、 全 く そ れ に 並 行 的 で 、 体 系 的 な 性 格 を も って い る は ず で あ る 。 こ れ は 、 広
︹ 十 ︺︱ ︹十 四 ︺ に 述 べ る と お り で あ る 。
く 現 代 日本 語 の諸 方 言 の アク セ ント を 観 察 し て みれ ば 、 正 に そ のと お り で、 そ の例 は ど こ で も 拾 う こ と が でき る こと、次 項以下
個 々 の 語 音 が 一 疋数 の拍 の 組 合 せ で 出 来 て い る こ と は 、 国 語 学 界 ・言 語 学 界 で 誰一 人 と し て 疑 わ な い厳 然 た る 事 実
で、 こ こ に こ と さ ら 述 べ る ま で の こ と も な い。 た だ し 、 日 本 語 の い わ ゆ る 全 国 共 通 語 が ど れ だ け の 拍 か ら 成 り 立 って
ァ ・フィ … … の 類 で あ る。 …はフ 〔付 表1〕(注)(hua)(hui)…
・ヴィ … … スィ ・ズィ … …
Rは 引 く音 を 表 わ す 。 こ の ほ か ヴァ
キ エ ・リエ… … な どの 音 は まだ定 着 して い ない もの と見 て 省 い た。
いる か に つ いては学 者 によ って多 少 解 釈 がち が
う 。 筆 者 の 考 え を こ こ に 述 べ て お け ば 上 の ︹付
表 1︺ のよ う に な る。ま た音 素 の数 は 、拍 か ら
抽 象 さ れ る と お り で、あ と の ︹ 付 表 2︺ の よう にな る。
な お 、 ︽拍 ︾ と いう 術 語 は 、 日 本 語 の 韻 文 で 単
位 に な る 、 ﹁ひ と 文 字 ﹂ ﹁ふ た 文 字 ﹂ の こ と で 、
日本 語 な ら ば 日本 語 、英 語 な ら ば英 語 を 用 いて
い る 人 が 、 そ の 言 語 体 系 の 一 つ 一つ の 語 句 を 発
音 の面 で 分 析 す る 場 合 に 到 達 す る一 番 小 さ い単
位 の こ と で あ る 。 有 坂 秀 世 氏 に よ って ﹁音 節 ﹂、
特 に ﹁音 韻 論 的 音 節 ﹂( 28)と いう 術 語 で 用 い ら れ
て 来 た も の であ る が 、 ﹁音 節 ﹂ と いう 術 語 は 、 服
部 四 郎 氏 ・柴 田 武 氏 と い った 、 有 力 な 言 語 学 者
に よ って ち が う 意 味 に 使 わ れ る の で、 こ こ で は
や め て 、 亀 井 孝 氏 の創 唱 の ︽拍 ︾( 29)と いう 語 を
使 う こ と に し た 。 中 国 語 で は 、 漢 字 一字 ず つ の
表 わ す 音 が、 韻 文 の 最 小 単 位 で あ る か ら 、 そ れ
が 拍 に 相 当 し、 英 語 や ド イ ツ 語 な ど で は 、 従 来
sylla とb 言lわ eれ て い る も の が 、 韻 文 の 単 位 で あ
る か ら、 そ れ が 拍 で あ る 。( 30)
︹付 表 2 ︺
つ い で に 服 部 氏 ・柴 田 氏 は 、 音 節 の ほ か に モ ー ラ と いう 術 語 を 使 わ れ る が 、 これ も 韻 律 上 の単 位 と は い つも 一致 し
て は いな いよ う で、 拍= モ ー ラ と 置 き 換 え る こ と は で き な い。 例 え ば 、 朝 鮮 語 の ︹ma:l ︵ 言 ︺葉) のよう な語 を 、服
つま り 、 一言 語 体 系 の ア ク セ ント は 、 一定 数 の 単 位 か ら 成 り 立 っ て お り 、
部 氏 は 二 モー ラ の 語 (3 )1 と 見 な さ れ る が 、 あ れ は 韻 文 の 場 合一 つ の単 位 と し て 用 いら れ る の で 、 ﹁ 拍 ﹂ で数 え れ ば 一 拍 の語 である 。
︹十 ︺ ア ク セ ント の 単 位 は 有 限 第 一に 、 諸 方 言 の ア ク セ ン ト は 、︱
︵低 ︶ か いず れ か で あ る 。 (高 ) で も
(低 ︶ で も な い
し か も 、 そ の 単 位 の 結 び つ き に は 、 一定 の 制 約 が あ る 。 例 え ば 、 東 京 語 の ア ク セ ン ト は 、 よ り 高 い ︽段 ︾ と 、 よ り 低 い ︽段 ︾ と か ら 成 り 立 っ て お り 、 一 つ の 拍 は 、 (高 ) か
(低 ︶ で
と い う も の は な い 。 た った 二 種 類 で あ る 。 そ う し て 、 こ の ︵高 ︶ の 拍 と 、 (低 ︶ の 拍 と の 結 び 付 き は 、 さ ら に 次 の (イ)( ︱ハ の)よ う な 制 限 の も と に 行 な わ れ る 。
(高 ) な ら 第 二 拍 は
(○ ● ⋮ ⋮ ︶ の よ う な ア ク セ ン ト を も ち、 こ れ 以 外 の 形 、 例 え ば 、
(高 ) で あ る 。 し た が っ て 、 (高 ) を ● で 表 わ し 、 (低 ︶ を ○ で 表 わ す な
(イ )第 一拍 と 第 二 拍 と は 常 に 高 さ が ち が わ な け れ ば な ら な い 。 つま り 、 第 一拍 が あ り 、 第 一拍 が (低 ︶ な ら 第 二 拍 は
ら ば 、 す べ て の 語 は︵ ● ○ ⋮ ⋮ ︶、 ま た は
一拍 に 限 る か 、 あ る い は 連 続 し た 数 拍 か で あ る こ と を 要 す る 。 す な わ ち 、 (● ○ ● ○ ︶、 (●
(● ● ⋮ ⋮ ︶、 (○ ○ ⋮ ⋮ ︶ の よ う な ア ク セ ン ト を も つ 語 は 一 つも 存 在 し な い 、 東 京 語 に 何 十 万 と い う 単 語 が あ って も。 (ロ )(高 ) の 拍 は、
(○ ) で あ る こ と は で き ず 、 必 ず
(● ○ ︶、(● ○ ○ )、 (● ○ ○ ○ ) の よ う な 形 で 、
○ ○ ● ︶ と い う よ う な、 (高 ) の 拍 が 二 か 所 に 別 れ て 配 置 さ れ て い る ア ク セ ン ト を も つ 語 は 、 存 在 し な い。 し た が っ て 二 拍 以 上 の 語 で 、 第一 拍 が (● ) な ら ば 、 全 体 は (低 ︶ の 拍 ば か り で あ る 。
(● ) の 拍 を も た ね ば な ら ぬ 。 す な わ ち 、 一拍 の 語 は
つま り第 二 拍 以 下 は (ハ)す べ て の 語 は (● ) と いう ア ク セ ント で な け れ ば な ら ぬ 。
東 京 以 外 の方 言 の ア ク セ ン ト に つ いて は 、 ︹四 十 五 ︺ で 述 べ る。
さ て こ こ に 東 京 語 の ア ク セ ント を 筆 者 は (高 ) (低 ︶ と い う 二 つ の段 階 か ら 出 来 て い る と 述 べ た が 、 こ れ を (高 )
(中 ) (低 ︶ の三 つ の 段 階 か ら 出 来 て いる と いう 見 方 も あ る 。 佐 久 間 鼎 氏 の ︽ア ク セ ン ト 三 段 観 ︾( 32) と い う 名 で 知 ら
れ て いる も の が そ れ であ る 。 そ れ に し ても、 組 合 せ は 有 限 で あ り 、 少 数 で あ る こ と に 変 わ り は な い。 な お 筆 者 が 二 段
観 に 従 う の は 、 そ の 方 が 簡 便 であ り 、 し か も 音 韻 論 の 立 場 か ら よ り す ぐ れ て い る と 見 ら れ る こ と に よ る 。 三 段 観 に 対
す る 批 評 は 、 早 く 宮 田 幸 一氏 ・佐 伯 功 介 氏 ・有 坂 秀 世 氏 に よ っ て 出 さ れ て お り 、( 33) こ と に 有 坂 氏 の ﹁ア ク セ ント の 型 の本 質 ﹂( 34)の論 が 説 得 力 に 富 み 、 今 で は 二 段 観 が 学 界 の定 説 と な って いる 。
こ れ は 、 東 京 語 以 外 のす べ て の 日本 語 の諸 方 言 に つ い て 言 え る こ と で 、 日 本 語 の 諸 方 言 で (高 ) (中 ) (低 ) の 三 段
で な け れ ば 観 察 で き な い方 言 は 一つも な い。 例 え ば 和 田 実 氏 は 香 川 県 伊 吹 島 方 言 に 対 し て 、(高 低 ) 型 と (高 中 ) 型 の
︺ 調 の 語 の ほ か に ︹○ ﹁○○○
︺
対 立 が あ る よ う に 言 わ れ た が 、 筆 者 の 見 る と こ ろ で は 和 田 氏 が (高 中 ) 型 と 見 ら れ た も の は( 高 高 低 ) 型 で あ る 。( 35) また 山 口幸洋 氏 は、静 岡県 春 野町 の方 言 には、 ︹ ○ ﹁○ ○ ○ ︺ 調 の語 、 ︹○ ﹁○○○
調 の語 があ ると述 べておら れ る ( 36)が 、 筆 者 は そ れ は (低 高 高 低 ) 型 の 語 が 無 造 作 な 発 音 の 場 合 に第 三 拍 が や や 低 く
発 音 さ れ る 傾 向 が あ る 、 そ れ を 観 察 し て 言 って いる も の で 、 ○ ● ● ○ 型 の 音 声 学 的 な 変 異 と いう べ き も のと 考 え る 。 他 の方 言 も大 体 同 じ よ う に 解 釈 で き る も の と 考 え る 。
東 京 ア ク セ ント に つ い て の 見 方 に は 、 ほ か に (高 ) (低 ︶ と いう 段 階 で 解 釈 せ ず に、 前 の拍 よ り 上 る と か 下 る と か
平 ら だ と か 、 そ の よ う に見 る 見 方 も あ る 。 亀 井 孝 氏 ・芳 賀綏 氏 ・馬 瀬 良 雄 氏 は そ う いう 見 方 を さ れ る 。( 37) お も し ろ
い見 方 で あ る が 、 こ の 見 方 は 、 拍 の途 中 で高 低 変 化 が 現 わ れ る よ う な 方 言 の 扱 い に 不 便 であ り、 過 去 の 日 本 語 の ア ク セ ン ト と 比 較 す る 場 合 に は 一層 そ う な の で、 そ の立 場 は と ら な い。
学 界 の 中 に は さ ら に 第 三 の 見 方 と し て 、 単 語 を 全 体 的 に 眺 め て 、 こ の 語 の ア ク セ ン ト の核 は ど こ に あ る と いう 見 方
を す る 人 が 多 い が 、 こ の見 方 は 、 歴 史 的 研 究 に は ま す ま す 不 便 な の で 、 こ の稿 で は 採 用 し か ね た 。 た だ し ︹四 十 六 ︺
に 触 れ る と こ ろ が あ る 。 最 前 名 を あ げ た 宮 田 幸一 氏 は 、 そ う いう 見 方 を 最 初 に 唱 導 し た 人 だ った 。( 38)
な お 、 小 さ い こ と で は あ る が 、 こ こ に 述 べ る よ う な ア ク セ ント 二 段 観 に 立 つ場 合 、 一拍 語 に は (高 ) 型 の も の と 、
(低 ︶ 型 のも のと が あ る と 見 る 学 者 が 多 い。 先 に 名 を あ げ た 佐 伯 ・有 坂 の 二 氏 は そ う 考 え る 。( 39) 宮 田 氏 は (高 ) で
も (低 ︶ で も な いも の だ と 見 る よ う だ 。( 40) 私 は 一拍 語 は 単 独 で は す べ て ( 高 ) 型と見 る。
次 に 、 (高 ) を ● 、 (低 ︶ を ○ で 表 わ す ア ク セ ント 表 記 の方 式 は 、 早 く 井 上 奥 本 が ﹁日 本 語 調 学 小 史 ﹂( 41)な ど に 用
あ る い は 今 で も そ の方 式 の方 が よ り一 般 的 に普 及 し
い て いた が 、 戦 後 、 昭 和 二 十 九 年 に 林大 氏 が ﹁ア ク セ ン ト 私 見 ﹂( 42)に 使 わ れ た の が 契 機 と な って 一般 化 し た も の で あ る 。 従 来 は 、 高 い拍 を 傍 線 で 表 わ す 方 式 が 普 及 し て いた が︱
て い る が 、 傍 線 式 は 、 印 刷 の 場 合 誤 植 さ れ や す い こ と 、 ま た 傍 線 式 の 場 合 、 低 平 型 であ る こ と と、 ア ク セ ント 符 号 を
つ け な いこ と と 同 じ に な っ て し ま う 不 便 が あ る の で、 こ こ で は ● ○ の 林 方 式 を 用 いる こ と に し た 。 こ の 場 合 次 の こ と
す。
高 い平 ら な 拍 は ● で 示 す 。 カ ナ の右 側 に 付 す る 場 合 も 同 様 。 す な わ ち 、 カ ゼ (● ● ︶ と カ ゼ と は 同 じ 内 容 を 表 わ
に 注 意 さ れ た い。
低 い平 ら な 拍 は ○ で 示 す 。 カ ナ の 右 側 に 付 す る 場 合 も 同 様 。 す な わ ち 、 ア メ (● ○ ︶ と ア メ と は 同 じ 内 容 を 表 わ
下 降 調 の拍 は〓 で 示 す 。 カ ナ の右 側 に 付 す る 場 合 は● ○ で 示 す 。 す な わ ち 、 ア メ (○〓 ) と ア メ と は 同 じ 内 容 を
す。
表 わす。
上 昇 調 の拍 は〓 で 示 す 。 カ ナ の 右 側 に 付 す る 場 合 は ○ ● で 示 す 。 す な わ ち 、 ヒ (〓) と ヒ と は 同 じ 内 容 を 表 わ す 。
︹十一 ︺ 拍 数 が き ま れ ば 種 類 も き ま る
こ の よ う な き ま り が あ る た め に 、 東 京 語 の 単 語 が 有 す る ア ク セ ント の 種 類 は 、 非 常 に 限 ら れ て お り 、 す べ て の
語 は、 ︹付 表 3 ︺ に あ げ る う ち の 、 い ず れ か の ア ク セ ン ト を も つ こ と と な る 。 ● が 高 い拍 を 、 ○ が 低 い 拍 を 表 わ す 。 ︹付 表 3 ︺
も っと も 、 東 京 語 で は 最 後 の拍 が 高 く 終 る ア ク セ ント の語 に は 、 次 に 他 の語 が 来 た と き 、 そ の語 を 低 く つか せ
る も のと 、 高 く つか せ る も の と の 二種 があ る 。 そ のた め に、 ア ク セ ント の種 類 は ︹付 表 3 ︺ よ り も 各 拍 語 とも も
う 一種 ず つ多 く 数 え る の が普 通 で あ る 。 す な わ ち 東 京 語 の ア ク セ ント の種 類 は ︹付 表 4︺ のよ う に表 わ す 。 が 、
し か し 、 そ れ だ け の話 であ る 。 つま り、 一拍 語 のア ク セ ント は 二種 類 に 限 り、 二 拍 語 の ア ク セ ント は 三 種 類 に 限
り ⋮ ⋮ と いう こ と が 言 え る 。
な お ︹付 表 4︺ で ﹁起 伏 式 ﹂ ﹁平 板 式 ﹂ と いう のは 佐 久 間 鼎 氏 の命 名 で 、 これ に つ い て は ︹四 十 七 ︺ に述 べる 。
① ② ③ ⋮ ⋮〓 は、 筆 者 が金 田 一京 助 監 修 ﹃明解 国 語 辞 典 ﹄ に用 いた 略 符 号 で あ る 。 ︹付 表 4 ︺
︹ 付 表 4 ︺ に あ げ た よ う に 、 例 え ば、 ﹁花 ﹂ と ﹁鼻 ﹂ と は 同 じ ○ ● 型 に 属 す る が 、 助 詞 を つけ れ ば ﹁花 が﹂ は ○ ● ○
型 であ り ﹁ 鼻 が﹂は ○● ●型 であ るよ うな のがこれ であ る。 すな わ ち○● 型 に二 種類あ る と いう こと になる 。同様 に
三 拍 語 の○ ● ● 型 に も 、 四 拍 語 の○ ● ● ● 型 に も 二 種 類 の 型 が あ る 。一 拍 語 の● 型 に も 、 ﹁火 ﹂ の よ う に 助 詞 が つ い て ● ○ 型 に な る も の と 、 ﹁日﹂ の よ う に 助 詞 が つ い て ○ ● 型 に な る も のと が あ る 。
こ の 場 合 、 筆 者 は 簡 単 に ﹁助 詞 を つけ れ ば ﹂ と 言 った が、 こ れ は 、 助 詞 を 次 に つく 語 の 代 表 と 見 た も の で あ って、
と ころ で、 こ の、 次 に他 の語 が 来 る 場合 のア ク
こ の 二 種 の 別 は 付 属 語 が つく 場 合 一般 に 及 び 、 さ ら に ﹁花 切 る ﹂ (○ ● ○ ○ ) と ﹁鼻 切 る ﹂ (○ ● ● ○ ︶ の よ う に 、 動 詞 のよ う な 自 立 語 が 直 接 つ く 場 合 にも 当 て は ま る 。 ︹付 表 5 ︺
(morphophone-
セ ント の区 別 は 、 実 は 純 粋 の 音 韻 論 (Phone) mics
上 のこ と で は な く て、 形態 音 韻 論
mic ︶s 上 の こ と であ る と 考 え る 。
フ ラ ン ス 語 で 、 動 詞"avoir は"、 第 二 人 称 現 在
単 数 で は"as"第 三 人 称 現 在 単 数 は"a" と 書 か れ 、
文字 の上 では 区 別 はあ る が、発 音 の上 で は 区別 が
な い。 と も に (a ) であ る 。 音 韻 論 の 上 で は、 こ の
二 つは 全 く 同 じ だ と 言 わ ざ る を え な い。 と こ ろ が、
aの ime"
ainme"
あ と に他 の語 が続 く場 合 、も し そ の語 が 母 音 で は
a
as
じ ま る 語 の 場 合 に は 、 区 別 が 生 じ 、"Il
の 方 は(ilaε) mで eあ る の に 対 し 、"Tu
方 は 、眠 っ て い る s が 活 躍 を は じ め 、 (tyaz) εme
で あ る 。 こ の よ う な 場 合 、"as" と"a" と は 、 形
態 音 韻 論 の上 でち が いが あ るも のと 扱 わ れ る。 東
京語の ﹁ 鼻 ﹂ と ﹁花 ﹂ と の 区 別 は こ れ に 似 た も の と 解 さ れ る 。
し か し 、 形 態 音 韻 論 上 の問 題 で は あ る が 、 そ の 語 の ア ク セ ント 上 の性 格 と し て は 重 要 な の で 、 単 語 の ア ク セ ント の
型 を 云 々す る 場 合 に は一 々 言 及 す る のが 習 慣 で あ る 。 こ の稿 で は 、 ﹁花 ﹂ の よ う に 次 に 来 る 語 を 低 く つか せ る○ ● 型
は○● ︵ ○ ︶型 で 示 し 、 ﹁鼻 ﹂ のよ う に 、 次 に 来 る 語 を 高 く つか せ る ○ ● 型 は ○ ● ︵ ● ︶型 で 表 記 し た 。 な お こ の性 質 は 、
あ く ま でも 次 に 何 か 語 が 来 る 場 合 に 現 わ れ る 性 格 で あ る か ら 、 次 に 何 も 語 が 来 な いも の は 、 そ の う ち いず れ に 属 す る
か を いう こ と は で き な い。 挨 拶 語 の ﹁さ よ う な ら ﹂ や ﹁こ ん に ち は ﹂ は 、 ○ ● ● ● ● 型 だ と いう だ け で 次 の語 が 高 く つく と も 低 く つく と も いえ な い 。
︹ 付 表 5︺ のよう で
京 都 ・大阪 語 の ア ク セ ン ト の 種 類 は、 も う 少 し 多 いが、 そ れ で も 京 都 語 で 二 拍 語 に は 四 種 類 、 三 拍 語 に は 七 種 類 、
四 拍 語 に は 十 種 類 と いう こ と が で き る 。 あ と で ︹四 十 三 ︺ に 詳 し い内 容 を 示 す が 、 大 体 の様 子 は ある。
高 松 方 言 ・観 音 寺 沖 の 伊 吹 島 方 言 な ど が こ れ に 次 ぐ 。( 44) が 、 そ れ で も 、 二 拍 語 で 言 う な ら ば 、 高 松 ・伊 吹 島 方 言 で
香 川 県 下 に は 従 来 知 ら れ る ア ク セ ント の最 も 複 雑 な 方 言 が あ り 、 多 度 津 沖 の佐 柳 島 方 言 が ( 43)最 も 多 く の型 を 有 し 、
は五 種類 にす ぎず、 佐 柳島 でも 六種 類 にとど ま る。
三 拍 語 に な れ ば 、 も う 少 し ア ク セ ント の種 類 は 殖 え る が 、 そ れ で も 、 高 松 方 言 ・伊 吹 島 方 言 で 七 種 類 、 佐 柳 島 方 言 で 八 種 類 以 上 に は な ら な い。 こ の こ と に つ いて は ︹ 付 表 6 ︺ を 参 照。
︹ 付 表 6 ︺ で、 佐 柳 島 方 言 の ○〓 型 の 二 種 の う ち 、 第 1 種 は 、 次 に 助 詞 が 付 く 場 合 に 、 タ ケ ガ 型 に な り 、 第 2 種 の 方
は カ タ ガ 型 にな る。 こ の区 別 は 文 中 に は い って さ ら に は っき り し て 、 ﹁竹 が ⋮ ⋮ 」 は タ ケ ガ ⋮ ⋮ で あ る の に 対 し 、﹁肩
が ⋮ ⋮ ﹂ の方 は カ タ ガ⋮ ⋮ と な る 。 も し 、 東 京 語 の起 伏 式 ・平 板 式 の 呼 び 方 を 流 用 す る な ら ば 、 ﹁竹 が ﹂ の 方 は 起 伏 式
に 、﹁肩 が ﹂ の方 は 平 板 式 に 入 れ ら れ る べき も の で あ る 。 三 拍 語 の○ ●○ 型 の 二 種 に も 同 様 な 対 立 が あ る 。 三 拍 語 の
○ ● ○ 型 の二 種 類 は 、 た だ 助 詞 を 付 け た 段 階 で は 、 イ ノ チ ガ 、 イ ワ シ ガ 、 で ち が い は な い が 、 文 中 に 入 れ る と 、 ﹁命 が ﹂ は イ ノ チ ガ ⋮ ⋮ 、 ﹁鰯 が ﹂ は イ ワ シ ガ ⋮ ⋮ の よ う な ち が いが 現 わ れ る 。
高 松 方 言 で は ○ ● 型 が そ の直 前 の 語 の ア ク セ ント が ど の よ う であ る か に よ って 二 つ に 別 れ る 。 これ は ち ょう ど 、 東
京 語 の○ ● 型 が 次 に 来 る 語 を ど の よ う に 従 え る か に よ って 二 種 の 型 に 別 れ る の と 同 巧 で あ る 。 こ れ も 形 態 音 韻 論 上 の
問 題 で、 例 え ば フラ ン ス語 で言 う 、 無 音 の h と 有 音 の h と の 対 立 が こ れ に 似 て い る 。 稲 垣 正 幸 氏 は 、 ○ ● 型 の第 2 種 は ○〓 型 だ と 言 う 。 そ れ に 従 え ば 、 三 拍 語 の ﹁ 雀 ﹂ は ○ ○〓 型 に な る 。 ︹ 付表 6 ︺
伊 吹 島 方 言 の 二 拍 語 の ●〓 型 は 、 個 人 に よ り ● ● 調 に も 発 音 さ れ る 。 同 様 に 三 拍 語 の● ●〓 型 も 、 個 人 に よ っ て は
● ● ● 調 に も 発 音 さ れ る。 ● ●〓 型 の 二 種 類 の 区 別 は、 助 動 詞 ﹁じ ゃ﹂ を 付 け た 時 に、 ﹁頭 ﹂ の 方 は ア タ マジ ャ と な
る の に 対 し て 、 ﹁命 ﹂ の方 は 、 イ ノ チ ジ ャ と な る 点 に あ る 。 ﹁命 ﹂ の方 は ●〓 ○ 型 と 見 る べ き か も し れ な い。 こ の 伊 吹
島 方 言 の ア ク セ ント は ︹四 十 三 ︺ に述 べ る が 、 現 在 の諸 方 言 中 平 安 朝 時 代 の京 都 語 の ア ク セ ント に 最 も 近 いも のと し て 、 注 目 す べき も の で あ る 。
︹十 二︺ ア ク セ ント の 型 の 意 味
こ の よ う に 一言 語 体 系 に 存 在 す る ア ク セ ント の 種 類 は大 き く 制 限 さ れ て い る 。 と こ ろ で 一方 、 ア ク セ ン ト を 担
︽同 音 語 ︾ と 言 う が 、 そ れ に 相 当 す る も の で 、 ︽同 調 語 ︾ と 呼 ぶ べ き も の で あ
う べ き 語 の 数 は 無 限 に 近 い。 そ こ で 、 単 語 の 中 に は 、 全 く 同 じ ア ク セ ン ト を 有 す る 語 が 沢 山 あ る こ と に な る 。 語 音 の面 で は 、 全 く 同 じ 語 音 の語 を る。
が 、 同 音 語 と 同 調 語 に は大 き な 差 異 が あ る 。 一 つ の 言 語 体 系 で は 、 同 音 語 の 数 は大 し た こ と は な く 、 あ れ ば 、
し ば し ば 話 題 に 取 り 上 げ ら れ る こ と 周 知 の 事 実 で あ る 。 例 え ば 国 立 国 語 研 究 所 の 編 集 の ﹃同 音 語 の 研 究 ﹄ と い う
文 献 があ る の は そ のあ ら わ れ であ る。 これ に 対 し て、 同 調 語 の方 は 無 数 に存 在 す る。 そ こ で同 じ アク セ ント だ と いう こ と を 表 わ す 専 用 の術 語 が いる こ と にな る 。
︽同 じ 型 に 属 す る 語 ︾ と 呼 ぶ 。 す な
︽下 降 型 の 語 ︾ と か い い 、 ○ ● と い う ア ク セ
国 語 学 で は こ れ に 対 し て 、 ︽型 ︾ と い う 術 語 を 使 う 慣 習 が あ り 、 同 調 語 を わ ち ● ○ と いう ア ク セ ン ト を も つ 語 を 、 ︽高 低 型 に 属 す る 語 ︾ と か
ン ト を も つ語 を 、 ︽低 高 型 に 属 す る 語 ︾ と か ︽上 昇 型 の 語 ︾ と か い う 。
こ の ︽型 ︾ と いう 語 は し ば し ば ︽ア ク セ ント ︾ と いう 語 と 同 じ よ う な 文 脈 に 用 いら れ る が 、 別 の意 味 で あ る こ と 言
う ま でも な い。 つま り ﹁春 ﹂ の ア ク セ ント は 高 低 型 で あ る 。 ア ク セ ント の点 で ﹁春 ﹂ は 高 低 型 に 属 す る 。 と いう よ う に 用 い る べき で あ る 。 次 の よ う に 言 う こ と は 避 け た い。 ﹁春 ﹂ (の型 ) は、 高 低 の ア ク セ ント で あ る 。
﹁型 ﹂ に 関 し て 大 切 な の は 、 型 は 、 音 韻 論 上 の術 語 で あ って 、 音 声 学 上 の術 語 で は な いと いう こ と で あ る 。 服 部 四 郎
氏 は 過 般 、 ﹁音 韻 論 か ら 見 た 国 語 の ア ク セ ント ﹂( 45)と いう 論 文 の 中 で 、 ﹁型 ﹂ を 音 声 学 上 の 術 語 と し て 使 う こ と に し
よ う と 提 案 さ れ た が 、 そ れ は 佐 久 間 鼎 氏 以 来 の慣 用 に 反 す る 。 佐 久 間 氏 の ︽下 中 中 型 ︾ と いう よ う な 考 え 方 を 服 部 氏
は 音 声 学 的 と 見 ら れ た の であ ろ う が、 あ れ は あ れ で 音 韻 論 的 見 方 だ と 筆 者 は 解 す る 。 筆 者 は 音 声 学 の 術 語 と し て は 、 ﹁ 何 々 調 ﹂ と 言 う 術 語 を 使 って いる 。 こ の 稿 で も そ の 習 慣 に 従 う 。
︹ 十 三︺ 語 の 種 類 と アク セ ン ト と の 関 係
︽A 型 で な い ︾ と いう こ と を 知 った
同 一の 方 言 の ア ク セ ント の 種 類 は 、 一定 数 以 上 は な い と こ ろ か ら 、 ア ク セ ント の 研 究 に は 便 利 な こ と が あ る 。 一 つ の 方 言 のn 拍 の 語 に ︽三 種 類 の 型 が あ る ︾ と いう こ と を 知 り 、 そ の 語 が
と す る 。 そ の 時 は そ の 語 は 、 ︽B 型 かC 型 で あ ろ う ︾ と い う よ う に 推 定 す る こ と が で き る わ け で あ る 。 ま た 、一
つ の 語 の ア ク セ ン ト は 、 一部 の 高 低 の 姿 を 知 った だ け で 、 全 体 の 高 低 の 姿 を 推 定 す る こ と も で き る 場 合 も あ る わ
け で あ る 。 例 え ば 、 東 京 語 や大 阪 語 で そ の 語 が 三 拍 語 で あ り 、 第 一拍 が ● 、 第 二 拍 が ○ な ら ば 、 第 三 拍 は ○ に 相 違 な い。
さ ら に 一 つ の方 言 の 型 の 種 類 は 、 そ の 語 の 文 法 的 性 格 そ の 他 に よ って 制 限 が 加 わ る 場 合 も あ る 。 例 え ば 動 詞 と
か 、 形 容 詞 と か 、 擬 声 語 ・擬 態 語 と か 、 あ る い は 名 詞 で も 、 地 名 と か 、 人 名 と か 、 漢 語 と か 、 洋 語 と か と 限 っ て
行 く と 、 そ こ に見 ら れ る 型 の 種 類 は さ ら に 制 限 さ れ 、 一種 か 二 種 に 限 ら れ て い る と い う こ と が あ る 。
東 京 語 の動 詞 に つ い て 、 連 体 形 の ア ク セ ン ト を 調 べ て み る と す る 。 二 拍 語 の も の は ● ○ 型 か ○ ● 型 か で あ る の
は 当 然 であ る が 、 三拍 語 でも 、 特 別 のも のを 除 いて ○ ● ○ 型 か ○ ● ● 型 か の いず れ か で あ り 、 四 拍 語 は、 ○ ● ● ○ 型 か ○ ● ● ● 型 か の いず れ か で あ る 。
方 言 に 目を 転 ず る と 、 さ ら に 音 韻 の種 類 が も と に な って、 ア ク セ ント の型 が 制 限 さ れ る 場 合 も あ る 。
動 詞 や 形 容 詞 、 擬 声 語 ・擬 態 語 の ア ク セ ン ト に 、 型 の 上 の制 限 が あ る と いう の は、 語 音 の 面 で 、 こ れ ら の 語 が 、
(u ) で 終 る と か (i) で 終 る と か い う 制 限 が あ る と い う の と 、 並 行 的 な 現 象 で あ る 。 動 詞 ・形 容 詞 の語 音 や ア ク セ ン ト の 型 に 制 限 が あ る こ と は 、 動 詞 や 形 容 詞 が 語 形 変 化 を す る こと と 関 係 が あ る 。
え ば ○ ● 型 を 言 う の に 、 ○ ● ︵○ ︶型 であ る か 、 ○ ● ︵ ● ︶型 で あ る か は っき り し な い で 不 便 だ か ら で あ る 。 以 下 こ の稿
動 詞 の ア ク セ ント を 言 う の に 、 連 体 形 の 型 を 言 った の は 、 終 止 形 は 次 に 何 も 語 が 続 か な い の を 本 則 と す る の で 、 例
で 現 代 語 の動 詞 の ア ク セ ン ト に つ いて 言 う 場 合 は 、 連 体 形 に つ い て 言 って い る も のと 知 ら れ た い。 形 容 詞 の 場 合 も 同 様 であ る 。
さ て 、 東 京 語 の動 詞 は 、 例 え ば 三 拍 語 で は ○ ● ○ 型 と ○ ● ● 型 の 二 種 類 し か な いと 述 べ た が、 例 外 と し て ﹁通 る ﹂
﹁申 す ﹂ ﹁入 る ﹂ な ど 少 数 の も の が ● ○ ○ 型 で あ る 。 こ れ は ど う い う の か と いう と 、 第 二 拍 が 引 く 拍 で あ った り 、 (i)
と いう 母 音 だ け の 拍 で あ った りす る 語 で あ る 。 そ う いう 語 は 、 ○ ● ○ 型 に 発 音 し に く い、 す な わ ち 、 元 来 ○ ● ○ 型 で
あ る べ き も の が 、 そ の た め に ● ○ ○ 型 に な って いる と 説 明 で き る 。 ﹁通 る ﹂ な ど が ○ ● ○ 型 の 変 種 で あ る こ と は 打 消
形 のよ う な も の で は 、 ト ー ラ ナ イ で あ って 、 連 体 形 が ○ ●○ 型 の動 詞 、 例 え ば 、 ﹁ 動 く ﹂ の打 消 形 ウゴ カナ イ と同 じ 型 であ る こ と か ら も 知 ら れ る 。
と に か く 東 京 語 に は 、 第 二 拍 が 引 く 音 、(i) だ け の拍 か ら な る 三 拍 語 に は ○ ● ○ 型 のも の は 原 則 と し て は な い。 ほ
か に第 二 拍 が は ね る 音 、 つ め る 音 、 (u ) の 母 音 だ け の拍 の 語 に も 、 ○ ● ○ 型 の も の は 原 則 と し て は な い。 ● か ら ○
へ移 る と こ ろ 、 こ れ を ︽ア ク セ ント の 滝 ︾( 46)と いう が 、 東 京 語 で は ア ク セ ント の滝 の直 前 に (イ) (ウ ) (シ ) (ツ)
(ー) が 来 な い傾 向 が あ る の で あ る 。 こ の よ う な の が 、 拍 の語 音 の 種 類 が ア ク セ ン ト の 型 を 制 限 す る 例 であ る 。 方 言
に よ って は 、 さ ら に 一つ の拍 の 母 音 が 、 (a ) (e ) (o ) の よ う な 広 い母 音 であ る か 、(i)︵u)のよ う な 狭 い母 音 で あ る か に よ って 、 滝 の位 置 が 制 約 を 受 け る も の が あ る 。
︹十 一︺ の ︹付 表 6 ︺ に 掲 げ た う ち で 、 佐 柳 島 方 言 と 高 松 島 方 言 と は そ の 例 で 、 二 拍 語 で例 を と る な ら ば 、佐 柳 島 で
は 、 ● ● 型 と ● ○ 型 と は 、 す べ て 第 二 拍 の母 音 の 狭 い語 に 限 ら れ 、 ○ ● 型 と ○〓 型 と は す べ て第 二 拍 の 母 音 の広 い 語
に 限 ら れ る 。 高 松 方 言 の● ● 型 は 第 二 拍 が 引 く 音 であ る 語 に 限 ら れ 、 逆 に○ ● 型 第1 種 に は 、 そ の よ う な 語 は 一つも
属 さ な い。 ま た、 ● ○ 型 は、 第 二 拍 が す べ て 狭 い母 音 の 語 ば か り であ る 。 す な わ ち 、 狭 い 母 音 の拍 の直 後 、 あ る い は 広 い 母 音 の拍 の直 前 に は 滝 が 来 にく い と いう 方 言 が あ る わ け であ る 。
こ のよ う な ︽語 音 と ア ク セ ント の型 と の 関 連 ︾ は、 北 奥 か ら 新 潟 県 北 部 に か け て の 諸 方 言 、 千 葉 県 中 部 以 南 の 諸 方
言 、 富 山 ・石 川 二 県 の 諸 方 言 、 出 雲 方 言 と 隠 岐 方 言 の 一部 、 香 川 県 東 部 の 方 言 、 飛 ん で 長 崎 県 対 馬 の方 言 な ど 、 多 く
裏 日本 の 諸 方 言 に 見 ら れ る 。( 47) 反 対 に 語 音 と ア ク セ ン ト の 関 係 が ほ と ん ど 見 ら れ な い方 言 と し て は 、 高 知 県 方 言 が 代 表 で 、一 般 に京 阪 式 諸 方 言 に は そ の 傾 向 が あ る 。
な お 、 ど の方 言 でも一 般 に 拍 数 の多 い語 で は、 型 の 種 類 が 多 い の が 原 則 で あ る が 、 鹿 児 島 の方 言 の ご と き は 、 拍 数
が 多 い 語 でも 、 単 語 の 型 の種 類 は、 ● ○ 型 と ○ ● 型 、 ○ ● ○ 型 と ○ ○ ● 型 、 ○ ○ ● ○ 型 と ○ ○ ○ ● 型 ⋮⋮ と いう よ う
に 二 種 類 に と ど ま る 。 長 崎 方 言 そ の他 、 九 州 の 西 南 部 の方 言 はす べ て そ のよ う な 性 質 を も つ。 隠 岐 島 の大 部 分 の方 言
は 、 拍 の数 が 殖 え て も 、 型 の 種 類 は 三 種 類 に と ど ま り 、 そ の中 で も 知 夫 方 言 は 二 種 類 に と ど ま り、 九 州 西 南 部 の方 言 と 似 て いる 。
こ れ ら の 方 言 の ア ク セ ン ト に つ い て は、 平 山 輝 男 氏 の ﹃ 九 州 方 言 の 音 調 の 研 究 ﹄( 48)広 戸 惇 ・大 原 孝 道 両 氏 の ﹃山 陰 地 方 の ア ク セ ン ト ﹄( 49)と いう 、 精 密 で 信 頼 す べ き 労 作 が あ る 。
︹十 四︺ 同根 語 ・同源 語間 の型 の照応
ア ク セ ント の体 系 的 な 性 格 は 、 そ の語 の文 法 的 職 能 と 型 と の関 係 、 あ る い は そ の語 の成 立事 情 と 型 と の関 係 を
観 察 し た 場 合 、 一層 顕 著 な も の が 見 出 さ れ る 。 す な わ ち 、 現 実 の諸 方 言 に お いて 、 A B C D ⋮ ⋮な る 語 が 揃 って
⋮ ⋮ も 、 揃 ってP な る 型 を 有 す る傾 向 が
P な る 型 を 有 す る 場合 に は 、 原 則 と し て A B C D ⋮ ⋮ の活 用 形 A B C D ⋮ ⋮ は 揃 って P な る 型 を 有 す る と いう こ と が 言 え る 。 ま た A B C D ⋮ ⋮ か ら そ れ ぞ れ で き た 派 生 語ABCD
あ り、 A B C D に 同 じ 語 根 が つ いて でき た 複 合 語 A B C D ⋮ ⋮ も 、 同 じP な る 型 を 有 す る 傾 向 を 有 す る。
例 え ば 、 東 京 語 に お いて 、 ﹁見 せ る ﹂ ﹁投 げ る ﹂ ﹁垂 れ る﹂ ﹁詰 め る ﹂ な ど は 、 連 体 形 が ○ ● ○ 型 の動 詞 で あ る が、
これ ら の中 止 法 と し て 用 いら れ た 連 用 形 は、 ミ セ 、 ナ ゲ 、 タ レ、 ツ メ の ご と く一 致 し て● ○ 型 であ る。 そ し て、
これ か ら 派 生 し た 名 詞 、 ﹁店 ﹂ ﹁投 げ ﹂ ﹁垂 れ ﹂ ﹁詰 め ﹂ は揃 って ○ ● ︵○ ︶型 で あ り 、 こ れ ら の 下 に ﹁か け る ﹂ が つ
いた 複 合 動 詞 、 ﹁見 せ か け る ﹂ ﹁投 げ か け る ﹂ ﹁垂 れ か け る ﹂ ﹁詰 め か け る ﹂ は 、 揃 って ○ ● ● ● ● 型 であ る 。
こ の よう な 、 同 じ 語 の、 異 な る 形 相 互 の間 に 見 ら れ る 型 の規 則 性 、 乃 至 は、 あ る 語 と 、 そ の 語 の派 生 語 ・複 合
語 と の 間 に 見 ら れ る 型 の規 則 性 は 、 佐 久 間 鼎 氏 が ︽型 の照 応 ︾( 50)と 呼 ば れ た も の で あ る。 小 林 英 夫 氏 の ﹃言 語
学 通 論 ﹄( 51) は 、 従 来 ﹁変 化 ﹂ と 呼 ば れ て いた 現 象 を 厳 密 に 呼 び 分 け る こと を 述 べ て お ら れ る が 、 そ れ に従 え ば、
︽アク セ ント の 型 の交 替 ︾ と 言 う こ と に な ろう 。 と に か く 同 じ 言 語 体 系 の ア ク セ ント の 間 に こ のよ う な 型 の交 替
が存在 す る。 こ の こ と か ら 、 わ れ わ れ は 、 任 意 の 言 語 体 系 の未 知 の 語 に つい て 、 そ の ア ク セ ント を 他 の語 (ま た
は 他 の語 形 ) の アク セ ント を も と と し て推 測 し て当 て る こと が でき る 。 例 え ば 、 現 在 京 都 語 で、 ﹁上 げ る ﹂ ﹁曲 げ
る﹂ ﹁暮 れ る ﹂ ﹁や め る﹂ の終 止 形 が ● ● ● 型 で あ り 、 ﹁上 げ る﹂ の中 止 形 がアゲ で あ り 、 転 成 名 詞 がアゲ であ る
こ とを 知 った と す る 、 そ の場 合 他 の ﹁曲 げ る ﹂ ﹁暮 れ る ﹂ ﹁や め る ﹂ の中 止 形 がマゲ 、クレ ⋮ ⋮ であ る こと を 推 定
し 、 転 成 名 詞 が マゲ 、 ク レ⋮ ⋮ であ る こと を 推 測 す る こ と が で き る が ご と く であ る 。
佐 久 間 鼎 氏 は 東 京 語 に 関 し て 型 の照 応 の 法 則 を 数 多 く 発 見 さ れ た 功 労 者 で 、 そ う いう 事 実 を 報 告 し た ﹃国 語 の発 音
と ア ク セ ン ト ﹄( 52) ﹃日本 音 声 学 ﹄( 53)は 、 ア ク セ ント に 関 す る 人 々 の興 味 を 集 め た 名 著 で あ った 。 早 く は 山 田 美 妙 斎
の ﹃日 本大 辞 書 ﹄( 54)にも 先 駆 的 な 研 究 が あ り 、 佐 久 間 氏 の あ と で は、 三 宅 武 郎 氏 ( 55)・寺 川 喜 四 男 氏 ( 56) ・秋 永 一枝
氏 ( 57)が そ の 方 面 に 成 果 を あ げ て い る 。 ま た 隠 れ た 研 究 者 と し て 、 作 曲 家 の本 居 長 世 氏 が あ った 。( 58)京 都・ 大 阪 諸
方 言 の ア ク セ ント に 関 し て は 、 池 田要 ( 59) ・和 田 実 ( 60)・楳 垣 実 ( 61) ・前 田 勇 ( 62)の 諸 氏 に、 多 く の報 告 が あ る 。
こ のよ う な 場 合 、 注 意 す べき こ と は 、 一つ の語 の活 用 形 相 互 の 場 合 は 、 型 の 照 応 は き わ め て規 則 的 であ る が 、 一つ
の語 と 派 生 語 と の 場 合 は 必 ず し も そ う でな い こ と で あ る 。 例 え ば 、 東 京 語 の ﹁見 せ る ﹂ ﹁投 げ る ﹂ の連 用 形 は 、 す べ
( 禿 ) な ど は そ れ で あ り、 ﹁晴 れ ﹂ も 、ハレ
︵ 晴 れ ) とハレ
( 晴 れ ) と いう 二 種 類 の 型 と 結 び 付 い て い
てミセ 、ナゲ で あ る が 、 連 用 形 か ら 出 来 た 名 詞 の方 は、大 部 分 が ○ ● 型 に な る と は 言 う も の の、 稀 に は 例 外 が あ る 。 例 えば、ハゲ
る 。 こ の こ と は 、 二 つ の活 用 形 は 一 つ の同 じ 単 語 で あ る が 、 一つ の語 の 派 生 語 は 、 そ の語 と は 別 の 単 語 であ る こ と を 示す も のと考 え られ る。
あ る 語 と そ の 語 を 一部 分 と す る 複 合 語 と の 間 に も 、 か な り 規 則 的 な 法 則 が あ る が 、 こ れ も 万 能 で は な い こ と を 認 め な け れ ば な ら な い。
こ の よ う に 、 あ る 語 と 、 そ の語 の派 生 語 や 複 合 語 と の型 の照 応 に は 例 外 が あ る と いう こ と は 、 多 少 過 去 の ア ク セ ン
ト に つ い て の推 定 の 時 に 不 便 を 感 じ さ せ る が、 こ の現 象 は 、 ま た 反 って そ れ に先 立 つ時 代 の ア ク セ ン ト 事 実 を 推 定 す
る の に 役 立 つ こ と が あ る 。 こ れ に つ い て は 別 に 述 べよ う 。 ︹ 四 十 八 ︺ の︹2の ︺(イ)を (参 ロ照 )。
︹十 五 ︺ 過 去 の アク セ ン ト に 窺 わ れ る 規 則 性
以 上 、 ︹十 ︺︱ ︹ 十 四 ︺ に述 べた よ う な 、 体 系 的 な 性 格 と いう も のは 、 過 去 の 国 語 の ア ク セ ント も も って いた ろ
う と 推 定 さ れ る 。 そ う いう 目 で 、 実 際 に 過 去 の 文 献 に お け る ア ク セ ント の 記 載 を 検 討 し て み る と 、 は た し て そ の
と お り で 、 そ こ に 記 載 さ れ た ア ク セ ン ト も 一定 数 の 単 位 か ら 成 り 立 っ て お り 、 そ れ ら の 単 位 の 並 び 方 に は 、 一定
の 制 限 が あ る こ と が 知 ら れ る 。 そ う し て さ ら に 、 同 じ 語 の 異 な る 活 用 形 相 互 の間 、 あ る 語 と そ の 語 の 派 生 語 ・複
﹃ 補 忘 記 ﹄( 63)で は、 ﹁節 ハカ セ ﹂ と 呼 ば れ る 、 仏 教 音 楽 に 用 いら れ る 音 譜 で ア ク
合 語 と の間 に、 規 則 的 な 関 係 の存 在 す る こと も 、 全 く 現 代 語 の ア ク セ ント と同 じ であ る こ と が推 定 さ れ る。
室 町 時 代 の ア ク セ ン ト 資 料 であ る
セ ント を 註 記 し て いる が 、 こ れ ら は 宮 ・商 ・角 ・徴 ・羽 と いう 五 種 類 あ る も の の う ち 、 ︽徴 ︾ ︽角 ︾ と いう 二 種 類 の も
の だ け を 用 い て 、 す べ て の和 語 の ア ク セ ント を 注 記 し て いる の は 、 当 時 の ア ク セ ン ト の 型 が 現 代 のよ う に 高 低 の 二 元
﹃ 類 聚 名 義 抄 ﹄( 64)は 平 安 朝 院 政 時 代 を 代 表 す る ア ク セ ント 資 料 で あ る が 、 こ の中 で は 、 ︽平 ︾ ︽上 ︾ ︽去 ︾ と い
で あ った こ と を 証 明 し て い る 。 また
(=ア ク セ ント 記 号 ) で 国 語 の ア ク セ ント を 表 記 し て いる が 、 こ のう ち 去 声 の点 は 、 必 ず と 言 って も
い い ほ ど 、 第 一拍 の文 字 に つけ ら れ て い る 。 こ れ は 、 当 時 の国 語 の ア ク セ ント で 、 去 声 点 で 表 記 す る よ う な 音 調 は 第
う 三種 類 の声点
一拍 に し か 来 な か った こ と を 表 わ す も の と 考 え ら れ 、 当 時 の国 語 で も 調 素 の 並 び 方 に 一定 の 制 限 が あ った こ と を 推 測 さ せ る。
と こ ろ で 、 ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ のう ち の ﹃図 書 寮 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄( 65) の ペ ー ジ 三 一二 を 見 る と 、 ﹁紛 ﹂ と いう 文 字 の 条
に ﹁ 尾 布 久 呂 ﹂ と いう 和 訓 が 出 て いて 、ブ ク ロの部 分 の音 調 は わ か る が 、 ヲ の部 分 に は 註 記 が な い。 そ う す る と こ の
語 全 形 の ア ク セ ン ト は わ か ら な いか と 言 う と 、 諦 め る こ と は な い。 ブ ク ロの 部 分 は 、 そ れ ぞ れ (低 低 高 ︶ で あ る 。 そ
は 高 で は あ り え ず 、 し た が って低 で あ ろ う 、 全 体 は ヲ ブ ク ロ と い う 型 で あ ろ う と 推 定 で き る 。 ﹃観 智 院 本 ・類 聚 名 義
う す る と 、 原 則 と し て 一つ の語 の中 で 二 か 所 が 別 れ て (高 ) で あ る こと は な い と いう こ と が考 え ら れ る か ら 、 こ の ヲ
抄 ﹄ に は こ の 語 の 全 体 に ア ク セ ント 註 記 が あ る が 、 ち ゃ ん と 低 低 低 高 に な って いる 。 が 、 わ れ わ れ は ア ク セ ント の も
って いる 性 質 を 知 る こ と に よ って 、 ﹁観 智 院 本 ﹂ を 見 な い で も 正 し い ア ク セ ント を 推 定 で き た は ず であ る。
ま た 、 鎌 倉 時 代 の ア ク セ ント 資 料 で あ る ﹃ 浄 弁 本 ・拾 遺 集 ﹄( 66)に は 、 ﹁花 盛 り ﹂ と いう 語 が× ×低 高 低 型 に 、 ﹁人
頼 め ﹂ と いう 語 は× ×高 高 低 型 に 記 載 し て あ る 。× × のと こ ろ の ア ク セ ント は 不 明 で あ る が 、 ﹁花 盛 り ﹂ の 方 は 、 今 の
ヲブ ク ロに 応 用 し た 原 理 を 利 用 す れ ば × × の部 分 は 二 つと も 低 で あ ろ う 。 全 体 は ハナ ザ カ リ と いう ア ク セ ント で あ っ
た ろう と推定 さ れる。 ﹁ 人 頼 め ﹂ の 方 は、 こ の原 理 だ け で は 解 決 でき な いが、 鎌 倉 時 代 以 前 に は 、 ︽ 一つ の語 が高 く は
じ ま れ ば 、 そ の 語 の活 用 形 ・派 生 語 ・そ の 語 を 先 部 と す る 複 合 語 は す べ て 高 く は じ ま る ︾ と いう 原 理 が あ る 。 こ の 語
の 先 部 ﹁人 ﹂ は、 当 時 の ア ク セ ン ト で はヒト で 、 高 く は じ ま る 。 と す れ ば ﹁人 頼 め ﹂ の ヒ は 高 であ る は ず で あ り 、 ヒ
が 高 、 ダ ノ も 高 な ら ば 、 当 然 ト も 高 だ と いう こ と に な り 、 全 体 は ヒ ト ダ ノ メ と いう ア ク セ ン ト であ った ろ う と 推 定 さ れ る。
こ の よ う に 、 そ の語 の 一部 を 知 る こ と に よ って 、 全 体 を 推 測 でき る か ら 、 ア ク セ ント の推 定 は 相 当大 規 模 に 押 し 進 める こと が できる。
か つ て大 野 晋 氏 は 、 ﹁仮 名 遣 の起 源 に つ いて ﹂( 67)と いう 論 考 の中 で 、 中 世 の定 家 仮 名 遣 いは ﹁を ﹂ と ﹁お ﹂ の 使 い
分 け に 関 す る 限 り、 ア ク セ ン ト に よ る も の で 、 ﹁を ﹂ は 高 い拍 を、 ﹁お ﹂ は 低 い拍 を 表 わ す と いう こ と を 明 ら か に し た 。
今 こ れ を 応 用 す る と 、 例 え ば 、 ﹁折 る ﹂ は オ ルと 書 か れ て い る 。 と す る と 、 こ の第 一拍 は 低 か った こ と に な る 。 と こ
ろ が 当 時 の京 都 語 で は 、 二 拍 の 動 詞 は 二 つ の型 の いず れ か に 属 し て お り 、 終 止 形 で 言 え ば 、 高 低 型 か 低 高 低 型 か で あ
る 。 と す れ ば 、 こ の 語 は 当 時 オ ル で あ ろ う と いう わ け で 、 こ こ で も ア ク セ ン ト の 記 載 のな い、 ル の 拍 の 音 調 も 推 定 で き る 。 事 実 、 ﹁折 る ﹂ は 、 他 の 資 料 に よ って ○〓 型 で あ る こ と が 明 ら か に な る 。
そ れ に 対 し て ﹁手 折 る ﹂ と いう 動 詞 は 、 わ ざ わ ざ 仮 名 を 変 え て ﹁た を る ﹂ と 表 記 さ れ て い る 。 と す れ ば 、 こ の第 二
拍 は 高 い拍 で あ った と 推 定 さ れ る 。 当 時 の 京 都 語 三 拍 の動 詞 は ほ と ん ど す べ て が ● ● ○ 型 か ○○〓 型 か に 属 し て いた 。
と す れ ば 、 こ の 動 詞 は 前 者 の方 に な る わ け で タ オ ルと いう ア ク セ ント を も って いた ろ う と 推 定 さ れ 、 こ の 場 合 に は た
った 一拍 の 音 調 を 知 る だ け で 他 の 二拍 の 音 調 も 明 ら か にす る こ と が で き る こ と に な る 。
﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ な ど で は 、 あ と に 述 べ る よ う に 過 去 の ア ク セ ント を 記 載 し た 文 献 に は 、 品 詞 によ って は あ る 語 の 一部
のア ク セ ント し か 示 さ な い も の が あ る 。 これ は そ の 品 詞 に は 何 種 類 の 型 が あ る か と いう こ と を 心 得 れ ば 、 そ の語 全 体
の ア ク セ ント が 推 定 で き る は ず であ る 。 あ る い は 文 献 に ア ク セ ント を 註 記 し た 人 も 、 ア ク セ ン ト の そ う いう 性 格 を 心
得 て いた か ら 、一 部 の ア ク セ ント し か 示 さ な いも のも あ る の か も し れ な い。
注 ( 1) ﹃国 語学 ﹄ 第一 〇輯 ( 昭 二十 七) 所 載 。 ( 2) ﹃国 語学 ﹄ 第 二 九輯 ( 昭 三 十 二) 所 載 。 ( 3) ﹃国 語学 ﹄ 第 三 九 ・四 〇 輯 ( 昭 三十 四 ・三十 五 ) 所載 。 ( 4) ﹃国 語学 ﹄ 第 三 三輯 ( 昭 三 十 三︶ 所 載 。 ( 5) ﹃国 語国 文 ﹄ 三 一の八 ( 昭 三十 七) 所 載。 ( 6) ﹃国語 研 究 ( 国学 院大 )﹄第 二五 号 ( 昭 四十 三 ) 所 載。 ( 7) ﹃国 語国 文 ﹄ 三 〇 の一 ( 昭 三十 六 )。 ( 8) ﹃国文 学 研 究 ( 早大 )﹄ 第 二 五号 ( 昭 三 十 七) 所 載 。 ( 9) 校倉書房刊行 ( 昭 四十 七 ・三)。 ( 10 ) ﹃国語 学 ﹄ 第 二 七輯 ( 昭 三 十一 ︶ 所 載 。
( 12 ) ﹃国語 と 国 文学 ﹄ 三 二 の 一二 ( 昭 三 十 )所 載 。
(11 ) ﹃続 日本 文 法講 座 ﹄ 第 二 巻表 記 編 ( 昭 三 十三 ︶ 所載 。
(13 ) ﹁ 東 西 両 アク セ ント の違 いが でき る ま で﹂ ﹃ 文 学﹄ 二 二 の 八 ( 昭 二十 九 ) 所載 、 ﹁ 南 牟 婁 ア ク セ ント の 一例 ﹂ ﹃ 三 重 県方 言 ﹄ 紀勢 本 線 全 通 記念 特 集 号 ( 昭三 十 四 )所 載 、 な ど 。 (14 ) ﹃ 国 語 国 文 ﹄ 二 四 の一 二 ( 昭 三 十 ) 所載 。 (15 ) ﹃日本 文 学 論究 ﹄ 第 二 四 号 ( 昭 四 十 )所 載 。 (16 ) ﹃ 国 語 国 文 学会 誌 ﹄ ( 学 習院 大 ︶ 第 六 号 ( 昭 三 十 七) 所 載 。 (17 ) ﹃対馬 の自 然と 文 化 ﹄ 古 今書院 刊 行 (昭 二十 九 ・九 ) 所 載 。 (18 ) ﹃ 東 京 外 国 語大 学 論集 ﹄第 七号 ( 昭 三 十五 ) 所 載。
(19 ) 金 田 一春 彦 ﹁讃 岐 アク セ ント 変 異 成 立 考 ﹂ ( 上 ・下 ) ﹃国 語 研 究 ( 国 学 院大 )﹄第 二 一・二二 号 ( 昭 四 十 ・四 十 一) 所
載。
( 20 ) 金 田一 春 彦 ほか ﹁ 真 鍋 式 アク セ ント の考 察﹂ ﹃ 国 語 国 文﹄ 三 五 の 一 ( 昭 四 十 一)所 載 。
(21) 金 田一 春彦 ﹁隠 岐 ア ク セ ント の系 譜 ﹂ ﹃現代 言 語 学 ﹄ 三 省堂 発 行 ( 昭 四十 七 ・三) 所 載 。 (22 ) 虫 明 吉 治郎 ﹃ 岡 山 県 のアク セ ント﹄ 山陽 図 書出 版 発 行 ( 昭 二十 九 ・十 一)。
アク セ ント ﹂ 同 上誌 所 載 。
(23 ) 和田実 ﹁ 第 一次 アク セ ント の発 見 ﹂ ﹃ 国語研究 ( 国 学 院 大 )﹄ 第 二二 号 ( 昭 四 十 一) 所 載 、 妹 尾 修 子 ﹁ 香 川県 伊 吹 島 の
(24 ) ﹃国語 国 文 ﹄ 三 二 の五 ( 昭三 十 八 ) 所載 。 ( 25 ) 三省 堂 刊 行 ( 昭三 十 九 ・三)。 ( 26 ) ﹃国 語と 国 文 学﹄ 四七 の一〇 ( 昭 四 十 五 )所 載 。 ( 27 ) 日本 大 辞 典 刊 行会 編 集 、第一 巻 ( 昭 四 十 七)。
( 28 ) 有 坂 秀世 ﹃ 国 語 音韻 史 の研 究﹄ 明世 堂 刊 行 ( 昭 十 九 ・七 ) 、増補新版三省堂刊行 ( 昭 三 十 二 ・十)、 ペー ジ三 九 九 以 下
(29 ) 亀 井 孝 ﹁﹃ 音 韻 ﹄ の概 念 は 日本 語 に有 用 な り や ﹂ ﹃ 国 文 学攷 ﹄ 第一 五 号 ( 昭 三 十一 ) 所 載 、 のち ﹃日本 語 学 のた め に﹄ 吉 川弘 文 館 刊 行 ( 昭 四 十 六 ・六 ) 所載 。
(30 ) 金 田 一春彦 ﹃日本 語 音韻 の研 究﹄ 東 京 堂 刊 行 ( 昭 四十 二 ・三 )、 ペー ジ五 八 以 下。
(31 ) ﹁ 朝 鮮 語 の ア ク セ ント ・モー ラ ・音 節 ﹂ ﹃こ と ば の宇 宙 ﹄ 三 の五 ( 昭 四 十 三 ) 所 載 、 そ の後 ﹃ 服 部 四郎 退 職 記 念 論 文 集 ﹄ に 収録 。
(32 ) 佐 久 間 鼎 ﹃国語 の発 音 と ア ク セ ント﹄ 同 文 館 刊 行 (大八 ・八)。 ﹃ 日 本 音声 学 ﹄ 京 文社 刊 行 ( 昭 四・ 四) な ど。
( 昭 七) 所 載 。
アク セ ント 観 と ア ク セ ント 表 記法 ﹂ ﹃ 音 声 の研 究 ﹄Ⅰ
( 昭 二) 所 載 そ の他 、 佐 伯功 介 氏 のも の は ﹁﹃ 日本 音声 学 ﹄ を 読 む ﹂
( 33 ) 金 田 一春 彦 ﹁ 東 京 語 にお け る ﹃花﹄ と ﹃ 鼻 ﹄ の区 別﹂ ﹃日本 語 音 韻 の研 究 ﹄ 所 載参 照。 宮 田 幸 一氏 のも の は ﹁ 新しい
﹃ 音 声 の研究 ﹄Ⅴ
( 34 ) ﹃ 言 語 研究 ﹄ 第 七= 八号 ( 昭 十 六) 所 載。 のち に有 坂 秀世 ﹃ 国 語 音韻 史 の研 究﹄ (28 に前 出) に所 収 。 ( 35 ) 和 田 実 ﹁ 第一 次 ア ク セ ント の発見 ﹂ ( 23 に前 出 ︶。
載。
(36 ) 山 口幸 洋 ﹁静 岡 県 春 野 町 方 言 の アク セ ント に見 ら れ る ﹃ く ぎり の 下降 ﹄ に つ い て﹂ ﹃音声 の研 究 ﹄Ⅹ ( 昭 三 十 八 )所
(37 ) 金 田 一春 彦 ﹃日本 語 音韻 の研 究 ﹄ ( 30 に前 出) ペ ー ジ二 五 三 ・二六 八 に 紹介 し た。 馬 瀬 氏 のも のは、 ﹁ 新 し いア ク セ ン
ト 論 と長 野 県 方 言 ア ク セ ント の体 系 ﹂ ﹃長 野県 短 期大 学 紀 要 ﹄第 一六号 ( 昭 三十 七 ) 所 載。 (38 ) ( 33) に前 出 の ﹁新 し いア ク セ ント観 とア ク セ ント 表 記 法﹂ そ の他 。 (39 ) ( 33) ( 34 ) にあ げ た 論考 に見 え る 。
( 昭 三 )所 載 。
Ⅱ ( 昭 三) 所 載 ペー ジ三 七 に 見え る 。
( 40 ) 宮 田氏 の直 談 によ る 。 二拍 語 に つ いて の考 え 方 は、 宮 田 幸 一 ﹁日本 語 の ア ク セ ント に関 す る私 の見 解 ﹂ ﹃音 声 の研 究﹄
( 41 ) ﹃音声 の研 究﹄Ⅱ (42 ) ﹃跡見 学 園紀 要 ﹄ ( 昭 二 十九 ) 所 載。
(43 ) 金 田一 春 彦 ほ か ﹁真 鍋 島 アク セ ント の考 察 ﹂ ﹃ 国 語国 文 ﹄ 三 五 の 一 ( 昭 四 十 一)所 載 、 秋 永 一枝 ﹁ 佐 柳 ア ク セ ント の 提 起す るも の﹂ ﹃国文 学 研 究 ( 早 大 )﹄第 三三 集 ( 昭 四十一) 所載 。
者 が 昭和 四 十 六 年十 二月 、秋 永 一枝 ・水 谷謙 吾 氏等 と 現地 調 査 し た結 果 に 従 った 。
(44 ) ( 23) に前 出 の和 田 実 ﹁ 第 一次 ア ク セ ント の発 見﹂ ﹃ 国語研究 ( 国 学 院大 )﹄ 第 二二 号 所 載 。 た だ し 、 こ こ の記 述 は筆
(45 ) ﹃国 語 研 究 ( 国 学 院大 )﹄第 二 号 ( 昭 二 十 九 ) 所 載 。 の ち に 服 部 四郎 ﹃ 言 語 学 の方 法 ﹄ 岩 波 書 店 刊 行 ( 昭 三 十 五 ・十 二) に所 収 。 (46 ) ︹四十 六 ︺ ペー ジ 一六七 を参 照 。 (47 ) 秋 永 一枝 ﹁ 佐 柳 アク セ ント の提 起す るも の﹂ ( 43 に前 出 ) が詳 し い。
( 49 ) 報 光社 刊 行 ( 昭 二十 八 ・三 )。
(48 ) 学 界 の指 針 社刊 行 ( 昭 二 十 六 ・八 ) 。
(50 ) 佐 久間 鼎 ﹃国語 の発 音 と ア クセ ント﹄ ( 32 に 前 出)。 ( 51 ) 改 訂三 版、 三省 堂 刊 行 ( 昭 二十 二 ・十)、 ペー ジ 一九 四。
( 53 ) 京文社刊行 ( 昭 四 ・四 ) 、 風間 書 房 から 復 刻 ( 昭三 十 八 ・九)。
(52 ) ( 32) に前 出。
( 54 ) 明法 堂 刊 行 (明 二十 五 ・七)。 ( 55 ) ﹃ 音声 口語 法 ﹄ ( 国 語 科 学講 座 の 一冊 、 昭九 ・十 )。 ( 56 ) 寺 川 ・日下 共 著 ﹃ 標 準 日本 語発 音 大 辞 典﹄大 雅 堂 刊 行 ( 昭 十 九・ 六 )。 ( 57 ) 金 田一 春 彦 監 修 ﹃明解 日本 語 アク セ ント辞 典 ﹄ 三 省 堂刊 行 ( 昭 三 十 三・ 六 ) 。
(58 ) 一 部 は 金 田 一春 彦 ﹁ 標 準 アク セ ント 習 得 の方 法 ﹂ ﹃ 国 語文 化 ﹄ 三 の一 二 ( 昭 十 八) に紹 介。 (59 ) 昭 和 七 年度 の国 学 院大 学 国 文 学科 卒 業 論 文 に発 表 。
(60 ) 和田実 ﹁ 複 合 語 ア ク セ ント の後部 成 素 と し て 見 る 二音 節名 詞﹂ ﹃ 方 言 研究 ﹄ 第 七 号 ( 昭 十 八 ) 所載 。
十 八 ・三) 所 載 。
(61 ) 楳垣実 ﹃ 京 言葉 ﹄ 高 桐書 院 刊 行 ( 昭 二十一 ・十 二 ) 、﹁ 音 調 差 異 と そ の法 則 ﹂ ﹃国 語 研究 ( 国 学 院 大)﹄第 一五 号 (昭 三
( 62 ) 前 田勇 ﹃ 大 阪弁 の研 究 ﹄ 朝 日新 聞 社 刊行 ( 昭 二 十 四・ 八 )。 ( 63 ) ︹ 五 十 八︺ の ペー ジ二 三 四 を参 照 。 ( 64 ) ︹ 五 十 七︺ の ペー ジ 二 二 一︲二 二三 を 参 照。 ( 65 ) ︹ 五 十 七︺ の ペー ジ 二 二〇 を 参 照。 ( 66 ) ︹ 五 十 七 ︺ の ペー ジ 二 三 二を 参 照。 (67 ) ﹃ 国 語 と 国 文学 ﹄ 二 七 の一 二 ( 昭 二十 五 ) 所載 。
第 二 節 ア ク セ ント 史 研 究 と 比 較 言 語 学 ︹十 六 ︺ アク セ ン ト 史 研 究 を一 層 容 易 に す る も の 前 節 に述 べた よ う な 事 実 に よ って、 わ れ わ れ は、 こ ん な こ と が でき る 。
︽過 去 の 時 代 の 、 あ る 語 の あ る 形 の ア ク セ ン ト を 推 定 す る 場 合 、 そ の 語 の 他 の 活 用 形 の ア ク セ ン ト を 知 る こ と によ り 、 そ の 形 の アク セ ント を 推 定 す る ︾ ま た 、 こ ん な こと も で き る 。
︽そ の 語 と 成 立 に お い て 関 係 を も つ語 の ア ク セ ン ト を 知 る こ と に よ って 、 そ の 語 の ア ク セ ン ト を 推 定 す る ︾
と こ ろ が さ ら に 、 ︽そ の 語 と 全 然 語 源 に お い て 関 係 の な い 語 の ア ク セ ン ト を 知 る こ と に よ っ て も 、 そ の 語 の ア
ク セ ント を 推 定 す る ︾ こ と も でき る こ と は 注 意 す べき で あ る 。 そ れ は 、 さ ら に意 味 に お いても 、 ま た 用 法 にお い
ても 関 係 のな い語 の ア ク セ ント を 知 る こと に よ って、 そ の語 の ア ク セ ン トを 推 定 す る 手 掛 り に な る は ず であ る。
それ は ア ク セ ント 変 化 に想 定 さ れ る 規 則 性 か ら 来 る こ と で 、 こ れ は 比 較 言 語 学 の原 理 の応 用 に よ る も ので あ る。
﹃ 類 聚 名 義 抄 ﹄ を は じ め 、 平 安 朝 に 出 来 た 多 く の漢 字 辞 書 は 、 そ の性 質
︹十 七 ︺ 以 下 に こ の こ と に つ い て 述 べ よ う 。
︹ 十 五 ︺ の 小 字 の 条 に 述 べ た ア ク セ ント 資 料
こ の第 二 節 で は
か ら 言 って 、 動 詞 は 原 則 と し て 終 止 形 の ア ク セ ン ト し か 示 さ れ て いな い。 そ れ で は 終 止 形 以 外 の ア ク セ ン ト は 全 然 知
る こ と は で き な い か と いう と、 終 止 形 が同 じ ア ク セ ン ト を 有 す る 動 詞 の 同 じ 活 用 形 は 同 じ ア ク セ ント を 有 す る 、 と 推
定 さ れ る こ と に よ り 、 も し、 そ の う ち の 一 つの 動 詞 でも 、 連 用 形 と か 連 体 形 と か いう 語 形 の ア ク セ ン ト が 知 ら れ た ら 、
他 の動 詞 の 連 用 形 ・連 体 形 も す べ て推 定 し て よ い は ず で あ る 。 例 え ば 、 ﹁言 ふ ﹂ と い う 動 詞 は 、 ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ に 終 止
形 は (上 平 ) 型 、 連 体 形 は (上 上 ) 型 に 記 載 さ れ て お り 、 「泣 く ﹂ と いう 動 詞 は 終 止 形 が (上 平 ) 型 に 記 載 さ れ て い
﹃図 書 寮 本 ・允 恭 紀 ﹄( 1)を 見 る と 、 ち ゃ ん と (上 上 ) 型 に 記 載 さ
る が 、 連 体 形 は 記 載 さ れ て いな い。 し か し 終 止 形 が 同 型 であ る 以 上 、 ﹁ 泣 く ﹂ は 連 体 形 も 同 型 で、 (上 上 ) 型 で あ ろ う 、 そ う 推 定 し て 、 あ と で 同 じ 時 代 の ア ク セ ント 資 料
れ て いる が ご と く で あ る 。 こ の方 法 を 用 いれ ば 、 ﹁入 る ﹂ ﹁産 む ﹂ ﹁売 る ﹂ ﹁置 く ﹂ ⋮ ⋮ な ど は 、 終 止 形 し か 例 が な い が、
終 止 形 が (上 平 ) 型 で あ る と いう こ と か ら 、 特 別 の事 情 のな いか ぎ り、 連 体 形 は (上 上 ) 型 と 考 え て よ い であ ろう 。 事 実 そ う 考 え て こ そ 、 鎌 倉 時 代 以 後 の ア ク セ ント の 関 係 が 自 然 に 説 明 さ れ る 。
同様 に、 ﹃ 類 聚名 義 抄﹄ に ﹁ 乗 る﹂ と いう 語 は 、 ア ク セ ント が (上 平 ) 型 と し て 記 載 さ れ て いる が 、 他 動 詞 化 し た
﹁載 す ﹂ と いう 語 の ア ク セ ント は 示 さ れ て いな い。 し か し 、 自 動 詞 が (上 平 ) 型 の よ う な (上 ) で は じ ま る 動 詞 は 、
他 動 詞 に な った 場 合 、 も し 二 拍 語 な ら ば (上 平 ) 型 で あ る 。 ﹁着 る ﹂ に 対 す る ﹁ 着 す ﹂、 ﹁寄 る ﹂ に 対 す る ﹁寄 す ﹂ な
ど、 そ の例 であ る。 とす ると 、 こ の ﹁ 載 す ﹂ は 特 別 の事 情 の な いか ぎ り 、 (上 平 ) 型 で あ ろ う と 推 定 さ れ る 。
平 安 朝 時 代 の ﹁載 す ﹂ と いう 語 の ア ク セ ント は 、 ま だ 文 献 の 上 に 実 証 し て は いな いけ れ ど も 、 後 世 の こ の語 の ア ク
その 規則性
セ ント か ら 考 え て も 、 こ の語 の平 安 朝 時 代 の ア ク セ ン ト は 、 (上 平 ) 型 だ った と 推 定 す る の が 最 も 適 当 であ る。
︹十 七 ︺ 音 韻 変 化 の 基 本 的 性 格︱
﹁春 ﹂ が
︽同 じ 条 件 の も と に あ
(ハ ル ) と いう 語 音 を も って い る と い う の と
︽音 素 ︾ な る も の に は 、 も し 変 化 す る と す れ ば
(高 低 ) 型 で あ る と い う の は 、 東 京 語 で ﹁春 ﹂ が
一 つ の 語 の ア ク セ ン ト は 、 ふ た た び 繰 り 返 す ご と く 、 そ の 語 の ︽語 音 ︾ と 同 じ 性 格 の も の で あ る 。 す な わ ち 、 東京 語で
全 く 並 行 的 な 事 実 であ る。 と こ ろ で 、 個 々 の ︽語 音 ︾ の 単 位 を な す
る も の は 、 す べ て 同 じ 方 向 に 変 化 す る 性 質 が あ る ︾ と い う の が 言 語 学 上 の 基 本 原 理 で あ る 。 ゲ ル マ ン 語 に 、 ︽グ
(ファ)
リ ム の 法 則 ︾ と し て 知 ら れ る 有 名 な 子 音 の 音 韻 変 化 が 行 な わ れ た 時 に は 、 同 じ 環 境 に あ る 同 じ 音 素 は 、 一斉 に 同
じ 音 素 に 変 化 し た 。 日 本 語 か ら 例 を と れ ば 、 ﹁は ﹂ と い う 文 字 で 表 わ さ れ る 拍 は 、江 戸 時 代 の 初 頭 に す べ て
から
(ハ) に と いう 変 化 を し た と いわ れ て い る が 、 (ファ )> (ハ) の 変 化 が 起 こ った 時 は 、 も と
(フ ァ) の 拍 を 有 し
(ハ) に 変 化 し た と 推 定 さ れ る が ご と く で あ る 。
(ハ) に 変 化 し た と い う と 、 な ぜ こ の よ う に き れ い に 変 化 し た の か 、 と ち
て いた 語 は 、 特 別 の事 情 のな いか ぎ り、 す べ て ﹁は ﹂ の つ く 語 が 一斉 に (フ ァ) か ら
ょ っと 不 思 議 の よ う に 思 わ れ る か も し れ な い 。 が 、 実 は 何 で も な い。 そ れ は 、 ﹁は ﹂ の 音 に 変 化 が 起 こ った と い
う の は 、 そ れ が 現 わ れ る 単 語 の意 義 や 職 能 や 語 源 と は 全 然 無 関 係 に 、 そ こ に 共 通 に 含 ま れ る 語 音 に 、 ︽両 唇 摩 擦
﹁ な ﹂ も〓 と 言
(カ ) に 変 わ る も の だ と
︹g ︺ に な っ て し ま う 。 カ タ イ ナ ー と 言 お う と す る と 、 カ カ イ〓 ー と な る 。 ナ ン テ カ タ イ ン ダ
︹d︺と か いう 音 は 、 一切 正 し く 発 音 で き ず 、 そ の 部 分 は 一斉
音 (Φ)が 喉 頭 の 摩 擦 音 の (h )に ︾ と い う 、 音 素 そ の も の の 変 化 が 起 こ った か ら で あ る 。 今 、 口 の 中 に 大 き な 梅
︹k︺や
干 し 飴 を頬 張 っ て 何 か 言 お う と す る と 、 ︹t︺ と か に 一種 の
ロー は 、〓 ン ケ カ カ イ ン ガ オ ー と な る 。 こ れ に 対 し 、 よ く ま あ ど の (タ ) も 同 じ よ う に
﹁ な ﹂ を〓 と 言 った か ら と い って 、 そ の 義 理 で ﹁何 て ﹂ の
︹d︺そ の も の が 変 化 す る か ら で あ る 。 (フ ァ)> (ハ) の 場 合 も 同 様 で 、 一 つ 一 つ の 音 素 の た
感 心 す る 人 は い な い。 ﹁固 い な あ ﹂ の う の で は な い 。 ︹t︺ や
(Φ) と いう 音 素 そ の も の が (h ) に 変 化 し た の であ る 。
め の 調 音 運 動 は 、 一つ 一 つ の 語 の 語 音 か ら 抽 象 さ れ て 人 々 の 脳 裡 に 記 憶 さ れ て い る が 、 こ の 記 憶 の 対 象 と な っ て いる
音 素 は こ のよ う に そ の意 義 や 職 能 か ら 独 立 に変 化 す る こ と が あ る。 そ れ ゆ え 、 同 じ 拍 は も し 変 化 す ると す れ ば 、
( haル ) に 変 化 し た 、 ﹁遙 か に ﹂ の 語 根
﹁遙 ﹂ も い っ し ょ に
(Φ a
(h aル ) に 変 化 し
一斉 に 同 じ 方 向 に 変 化 し 得 る は ず の も の で あ り 、 も し こ こ に 、 意 義 や 職 能 は 全 く 異 な って い て も 、 語 音 の 同 じ 語
(Φaル ) か ら
が あ る な ら ば 、 そ れ は 全 く 同 じ 方 向 に 変 化 し 得 る は ず で あ る 。 事 実 、 ﹁春 ﹂ が (Φaル ) か ら た 場 合 に は 、 同 時 に 、 ﹁張 る ﹂ も
(haル) に 変 化 し た と 考 え ら れ 、 そ れ を 否 定 す る 資 料 は 何 も な い 。
︽同 じ 条 件 下 に あ る 同 じ 音 素 は 同 じ 方 向 に 変 化 す る ︾。 こ の 意 味 の こ と を 表 現 し た 言 葉 と し て は 、 レ ス キ ー ン ( A.
ル )から
(Jung-
Lesk) ie のn﹁音 韻 法 則 に 例 外 な し ﹂ ( Ausnahmlosigkeit d) eと r いL うa 言u葉 tが g有 es 名eで tあ zる e 。 こ れ は 、 彼 が 一八
七 六 年 に ﹁ス ラ ヴ ・リ ト ア ニ ア 語 派 及 び ゲ ル マ ン語 派 に 於 け る 名 詞 の 格 変 化 ﹂ の 序 文 の 中 で 青 年 文 法 学 派
(H. Schu) ch やaジ rリ dt エロン
(J. Gil )lた iち er のo 反n 対 は あ る が 、 シ ュ ハ ル ト の場 合 は 、 ﹁法 則 ﹂ と いう 言 葉 で 呼 ん だ こ と を 問 題 に し て い る に す ぎ
grammat) iを ke 代r表 し て 述 べ た も の と い う 。 こ の考 え 方 に 対 し て は 、 シ ュ ハ ル ト
な い。( 2) ジ リ エ ロ ンは 言 語 地 図 の 上 で 、 同 一の 地 点 で 音 韻 変 化 を 受 け た 語 と 受 け な い 語 と あ る こ と を 指 摘 し て 、 音
韻 変 化 の 不 規 則 法 を 叫 ん だ も の であ る が 、 そ れ は 二 つ の方 言 の境 界 付 近 に 起 こ って い る こ と で 、 そ れ も よ く 検 討 し て
み る と 、 A 方 言 で は 規 則 的 な 変 化 を 起 こ し B 方 言 で 変 化 を 起 こ さ な か った 場 合 、 一方 か ら 他 方 に 影 響 を 与 え た と か 、
あ る いは 相 互 に 影 響 を 与 え あ った と か いう と き に 起 こ った 例 で あ って 、 A 方 言 は り っぱ に 音 韻 変 化 を 起 こ し て い る
と 認 め ら れ る。 つま り 、 ジ リ エ ロ ンは 事 実 を 深 く 見 な い で 、 表 面 に 現 わ れ た 点 だ け を 唱 え て 反 対 を し た わ け で あ る 。
(L. Bloo) mも fi﹁ e 音l変 d化 に つ い
ジ リ エ ロ ン の こ の 見 方 の 不 十 分 であ った こ と に つ い て は 、 亀 井 孝 氏 が ﹃言 語 史 研 究 入 門 ﹄( 3)に 説 得 力 のあ る 見 解 を 述 べて いる。 音 韻 変 化 が規 則 的 に 起 こ る こ と は 、 ア メ リ カ の言 語 学 者 、 ブ ル ー ム フ ィ ー ルド
て のノー ト﹂ ( A Note on the So) u( n 4) dの 中 Ch でa 証n明 gし e て い る と お り で 、ホ ー ル (R. A. H) aの ll ﹃ア J メr リ.カ
言語 学 二十五 年史 ﹄ ( American Linguist) i( c 5s )に 1 よ9 れ2ば 5、 ︲1 ア9 メ5 リ0カ の 言 語 学 者 た ち は 、 歴 史 言 語 学 者 に も
科 学 的 研 究 を 可 能 に し て く れ た 発 言 で 、 自 分 た ち が 青 年 文 法 学 者 の追 随 者 であ る こ と を 誇 り と し て いる と いう 。 ブ ル
ー ム フィー ルド の ﹃ 言 語 ﹄ の 20 ・9 ( 6)に も ジリ エ ロ ン た ち の言 語 地 理 学 に 見 え る 意 見 に 対 す る 明快 な 反 論 が 見 え る 。
﹁秋 ﹂ ﹁箸 ﹂ ﹁空 ﹂ と い う 語 が 同 じ ● ○ 型 の ア ク セ ン ト を も つ と い う こ と は 、
︹十 八 ︺ ア ク セ ン ト の変 化 も 規 則 的 か さ て 、 東 京 で ﹁春 ﹂ と いう 語 と
﹁遙 ﹂ と い う 語 根 と 、 同 じ 語 音 を も つと いう こ と と 全 く 同 じ 事 情 で あ る 。
﹁春 ﹂ と い う 語 の ア ク セ ン ト が も し 変 化 す る な ら ば 、 ﹁秋 ﹂ ﹁箸 ﹂ ﹁空 ﹂ も 同 時 に 同 じ 方 向 に 変 化 す るだ
﹁春 ﹂ と いう 語 が 、 ﹁張 る ﹂ と いう 語 や それな ら
ろ う 、 と 想像 さ れ る 。 これ は 実 際 にも 、 そ のと お り のよ う で、 例 え ば 現 実 の諸 方 言 の間 には 、 次 の(1 () 2 の) ような
例 が 存 在 す る 。 こ れ は 、 あ る 語 の ア ク セ ント が 変 化 す る 場合 、 そ の 型 に 属 す る 他 の単 語 も す べて 同 じ 方 向 に変 化 し う る こ とを 証 明 し て いる と考 え ら れ る。
(1 ) 諸 方 言 の中 に は 、 あ る 型 に 属 す る 語 を 、 丁寧 に発 音 し た 場 合 と無 造 作 に 発 音 し た 場 合 と で 、 か な り ち が っ
た 音 調 に 発 音 す る も の があ る 。 例 え ば 、 広 島 市 方 言 で は 、 ﹁男 ﹂ ﹁力 ﹂ ﹁桜 ﹂ ﹁形 ﹂ な ど ○ ● ● 型 に 属 す る 語 は、
丁 寧 に発 音 し た 場 合 に こ そ ○ ● ● 調 に な る が、 無 造 作 な 発 音 で は、 す べ て例 外 な く ○ ○ ● 調 に 発 音 さ れ る 。
自 然 の発 音 で第 二拍 が 低 く な る と いう のは 第 一拍 の低 に 引 か れ て低 く 発 音 す る こと が 容 易 だ か ら であ ろう 。
こ のよ う な 場 合 は 、 こ の方 言 に お いて、 ○ ● ● 型> ○ ○ ● 型 と いう 法 則 的 な 変 化 が起 こ る 寸 前 の状 態 にあ る こ と を 示 し て いる 。
の音 調 でも 発 音 さ れ、 乙 調 で発 音 さ れ る 語 は す べて 同 時 に 甲 調 でも 発 音 さ れ 、 いず れ を そ の地 方 で標 準 型 と
2)( 諸 方 言 の中 には 、 あ る 一群 の語 を 甲 乙 二 種 類 の音 調 に発 音 し 、 甲 の音 調 で 発 音 さ れ る 語 は す べて 同 時 に 乙
見 做 す か 決 定 し が た い場 合 があ る 。 例 え ば 、 埼 玉県 南 埼 玉 郡蓮 田 町 方 言 では 、 ﹁大 ﹂ ﹁山﹂ ﹁石 ﹂ ﹁川 ﹂ のよ う
な 語 は 、● ○ 調 に も ○ ○ 調 に も 発 音 さ れ て いる が ご と き が こ れ であ る 。( 7)これ は 、こ の 方 言 に お い て は、 一
方 の 型 か ら 他 方 の型 へと いう 規 則 的 な 変 化 が 行 な わ れ て い る 途 中 の状 態 に あ る こ と を 示 し て いる と 見 ら れ る。
ソシ ュー ル (F. de S )aはu音s素sが u規 r則 e的な 変化 を遂 げ る のを、 ピ ア ノ の鍵 盤 の 一つが狂 ったた め に、 そ のキ
ー に触 れる た びに狂 った 音程 の音 が聞 こえる こと にた とえ た。( 8)これ は そ の性質 から 言 って、 アク セ ント 変化 の規
則性 を たと える と 一層 ぴ った り であ る。例 え ば、 C のキー が H の音 に変 化し たと す ると、 D Cと いう 音 の連続 は、 ど んな 曲 の場合 にも DHと な って響 くは ず であ る。
と ころで、 このピ アノ の鍵 盤 のゆる みよ りも っと ア ク セ ント の変化 に近 いも のがあ る。 音 階 の変 化 がそれ である 。
〔 譜2〕
旧 制 一高 の 寮 歌
﹁ 嗚 呼 玉 杯 に﹂ は、原 曲 は
︹ 譜 2 ︺(Aの )よ う で あ る と
い う 。 と こ ろ が 、 戦 前 、 昭 和 の 十 年 代 の こ ろ に は 、 (B の)よ う に 歌 って い
た 。 こ の場 合 、 リ ズ ム の 変 化 の 方 は 無 視 し て いた だ い て い い。問題 は 、
高 さ の 変 化 の方 で つま り 、 e の 音 、 a の 音 が 一様 に 半 音 ず つ低 い の で あ
る 。 と いう こ と は 、 ハ短 調 に し て ラ ラ ラ ド シ ド ミ と 歌 って いる と 言 う こ
と に な る 。 こ れ に 対 し て、 よ く e や a が 出 て く る た び に 覚 え て い て 半
音 下 げ た も の だ と 感 心 す る こ と は な い。 e や a を と こ ろ ど こ ろ 半 音 下
げ る よ り も む し ろ 、 全 部 の e、 全 部 の a を 一様 に 下 げ る 方 が 遙 か に や
さ し い こ と は 、 誰 で も 歌 っ て み れ ば わ か る 。 いか に や さ し いか と いう 証
拠 に は 、 こ の 種 の変 化 は 、 大 正 か ら 昭 和 の 初 頭 に 多 く の 歌 の上 に 現 わ れ
た 。 三 高 寮 歌 ﹁紅 萠 ゆ る ﹂ で も 、 北 大 寮 歌 ﹁都 ぞ 弥 生 の ﹂ で も 、 同 様 で
あ った 。 江 戸 時 代 の 初 め 、 寛 文 四 年 に 出 来 た 譜 本 ﹃糸 竹 初 心 集 ﹄ を 見 る
と 、今 の箏 唄 の 入 門 曲 、 ﹁姫 松 小 松 ﹂は 、 ﹁岡 崎 女 郎 衆 ﹂と い う 歌 詞 で 、ド
( 慶 長 十九 年︱ 貞 享 二年 ) だ と いう 。( 9)
レ レ ミ ソ ミ ソ ⋮ ⋮ と 歌 わ れ て いた こ と が 知 ら れ る 。 箏 の 調 絃 を 現 代 のよ う な陰 旋法 に変 えた のは八橋 検校
そ の こ ろ 、今 の ラ シ シ ド ミ ド ミ ⋮ ⋮ に 変 え た も の と 見 ら れ る 。こ れ は 、音
の 高 さ が 時 代 と と も に 変 化 し た 例 で 、 同 じ 音 は 同 じ 時 代 に 変 化 し た であ
ろ う 。 ア ク セ ント が 規 則 的 に 変 化 す る と いう の は これ と 同 じ も の で あ る 。
こ の 種 のち が い は 、 地 域 に よ って も 起 こ る こ と が あ り 、 久 保 け ん お 氏
の ﹃ 南 日 本 民 謡 曲 集 ﹄( 10)を 見 る と 、 ﹁稲 摺 り 節 ﹂ と い う 民 謡 は 、 鹿 児 島
県 の 徳 之 島 以 北 で は 、 日 本 内 地 の民 謡 音 階 で、 ド ミ ミ ミ ー レド レ レ ミ ソ
ー ラ ー ソ ラ ⋮ ⋮ と 歌 う の に 対 し て、 沖 の エラ ブ 島 以 南 で は 琉 球 式 音 階 に な って 、 ミ ソ ソ ソ ー フ ァ ミ フ ア フ ア ソ シ ド ー
シ ド ⋮ ⋮ と 歌 う と いう 、 興 味 深 い事 実 を 報 告 し て い る 。 ド の 音 と ソ の 音 と が 半 音 ず つ 上 って い る わ け で あ る 。
ア ク セ ント 変 化 の 規 則 性 の 証
こ う い った こ と は 、 次 項 に述 べ る 、 方 言 のち が い に 応 じ て ア ク セ ン ト が 規 則 的 に 対 応 し て ち が って い る 事 実 を 想 起 さ せる こと がら であ る。
︹十 九 ︺ 諸 方 言 間 の 型 の 対 応︱
し か も 、 意 義 に お いて 、 ま た 語 義 に お い
そ う し て ア ク セ ント が 規 則 的 に 変 化 す る 証 拠 と し て さ ら に次 のよ う な こと があ る 。 今 、 現 在 の諸 方 言 の ア ク セ ント を 比 較 し て み る と 、 甲 ・乙 ・丙 ・丁 ⋮ ⋮ と い う よ う な 語 の 群 、︱
︹二 十 二 ︺ で 述 べ る と お り 、 全 く 並 行 的 な 現 象
て 全 然 関 係 の な い語 の 群 が 、 一類 を な し て 、 A 方 言 で は そ ろ っ て A の 型 に 属 し て お り 、 B 方 言 で は そ ろ っ て B の 型 に 属 し て い る と いう 事 実 が あ る 。 例 え ば 、 ︹付 表 7 ︺ を 見 よ 。 こ の 表 で は 、 名 詞 + 助 詞 と いう 形 で 統 一し て 掲 げ た が 、 あ と に
が、 名 詞 単 独 の形 であ ろ う と 、 動 詞 の活 用 形 であ ろ う と 、 そう いう 職 能 のち が いを 超 越 し て 見 ら れ る の であ る 。
つま り 、 意 義 も 、 職 能 も 、 語 源 も 、 そ う し て 語 音 も ち が う 一群 の 語 が 、 各 地 の 方 言 で 同 一に な っ て い る 。 こ れ は 、
服 部 四 郎 氏 以 来 、 方 言 間 の ︽型 の 対 応 ︾ の 原 理 と い う 名 で 知 ら れ て い る 事 実 で あ る 。
こ の事 実 は 、 ア ク セ ント が規 則 的 に変 化 し た あ と を 例 証 す る も のと 考 え ら れ る で は な いか 。
日本 語 の ア ク セ ント の地 方 的 相 違 に つ い て は 、 ︹ 四 十 二 ︺ ︹四 十 三 ︺ で 詳 し く 述 べ る はず で あ る が 、 次 項 に 述 べ る こ と に関連し て ︹ 付 表 7 ︺ の方 言 に つ い て解 説 し て お く な ら ば 、︱
これ ら の 方 言 の う ち 、 ま ず 盛 岡 ・鶴 岡 ・新 潟 ・東 京 ・松 本 ・名 古 屋 ・豊 岡 ・広 島 ・松 江 ・大 分 は 似 て い る 点 が あ る
か ら ︽東 京 式 方 言 ︾ と 呼 ぶ こ と が で き る 。 そ のう ち 、 盛 岡 ・鶴 岡 ・新 潟 ・松 江 ・大 分 は 、 ﹁夏 ﹂ ﹁冬 ﹂ ⋮ ⋮ に 次 の 助 詞
が 平 ら に 続 い て 行 く 点 で 共 通 し て お り 、 地 理 的 に は 遠 隔 の 地 方 に 分 布 し て いる と こ ろ か ら 、 ︽外 輪 東 京 式 方 言 ︾ と 呼
ぶ 。 東 京 ・松 本 ・広 島 は 、 典 型 的 な 東 京 式 方 言 で、 ︽中 輪 東 京 式 方 言 ︾ で あ る 。 名 古 屋 と 豊 岡 は、 こ の表 で は そ の 性 格 は 明 ら か でな い が 、 共 通 の 性 格 を 有 し 、 こ れ は 、 ︽内 輪 東 京 式 方 言 ︾ と 呼 ぶ 。 ︹ 付 表 7︺
京 都 ・大 阪 ・高 知 の方 言 は 似 た 点 が あ り 、 こ れ は ︽京 阪 式 方 言 ︾ と 呼 ん で い い。 敦 賀 と 赤 穂 も 似 て い る か ら 、 こ れ
は ︽準 京 阪 式 方 言 ︾ と 呼 ぶ 。 尾 鷲 は や や 異 な る の で、 ︽京 阪 式 に 似 た 方 言 ︾ と 称 す る 。 丸 亀 は こ こ で は 京 都 と の ち が
い が 明 ら か で な い が、 重 大 な 差 違 を も って い る の で 、 特 に似 た も のを 含 め て ︽讃 岐 式 諸 方 言 ︾ と 呼 ん で 別 に 扱 う 。 長
崎 と 鹿 児 島 は 、 いず れ か と いう と 、 京 阪 の方 言 に 近 い外 貌 を 呈 す る が 、 性 質 で 大 き く ち が う 点 が あ り 、 ︽西 南 九 州 方
言 ︾ と 呼 ぶ 。 服 部 四 郎 氏 は京 阪 式 を ︽甲 種 方 言 ︾、 東 京 式 を ︽乙 種 方 言 ︾ と 呼 ば れ た 。
︹二十 ︺ ア ク セ ント 変 化 の 規 則 性
前 項 の ︹付 表 7 ︺ に あ げ た よ う な 事 実 に 接 す る と 、 わ れ わ れ は 、 そ れ で は 過 去 の あ る 時 代 の あ る 方 言 で も 、 こ
れ ら同 じ グ ル ープ の語 は、 同 じ ア ク セ ント を も って いた の で はな いか と 推 察 し た く な る 。 そ こ で 実 際 に、 過 去 の
ア ク セ ント を 記載 し た 文 献 に ぶ つか って、 こ れ ら の 語彙 を 調 べ て み る と 、 正 に予 想 さ れ た と お り で、 こ こ にあ げ
ら れ た 語 彙 の う ち 、 知 り う る か ぎ り の 語 彙 は 、 同 一文 献 に は 同 一の ア ク セ ン ト で 表 記 さ れ て い る 。 こ れ は 、 同 一
の ア ク セ ン ト の 語 は 、 同 じ 方 向 に 規 則 的 に 変 化 し た も の で あ る こ と を 例 証 す る も の と 言 わ な け れ ば な ら な い。
例 え ば 右 の ﹁春 ﹂ ﹁秋 ﹂ の類 は 、 も し 江 戸 中 期 の ア ク セ ン ト 資 料 であ る ﹃ 平 家 正節 ﹄ に ついて みる と、 そ こ に現 わ
れ る か ぎり 、 (×上 ) と いう 形 に表 記 さ れ て お り 、 他 方 ﹁夏 ﹂ ﹁冬 ﹂ の類 を 鎌 倉 時 代 の ア ク セ ント 資 料 で あ る ﹃四 座 講
て いた だ く 予 定 であ る 。
式 ﹄ に つ いて み る と 、 そ こ に 現 わ れ る か ぎ り (\ 一) と い う 記 号 で表 現 さ れ て いる 類 であ る が 、 こ の実 例 は 後 篇 で 見
な お 、 つ い で に 申 し 述 べ る な ら ば 、 今 、 わ れ わ れ が 現 実 に 過 去 の ア ク セ ント を 記 載 し た 文 献 に ぶ つか って そ の 註 記
を 読 ん で み る と 、 そ れ ら の 記 述 し て い る ア ク セ ント は 現 在 の そ の方 言 と 異 な って いた ろ う と 推 定 さ れ る こ と が あ る 。
例 え ば 、 ﹃補 忘 記 ﹄ は 室 町 時 代 の京 都 語 の ア ク セ ント を 記 載 し た と 見 ら れ る 文 献 で あ る が 、 こ こ で は 、 現 在 京 都 語 で
○○ ● 型 の語 ﹁ 中 に ﹂ ﹁背 中 ﹂ ﹁隠 す ﹂ の類 を 、 す べ て (一\ \) と いう 記 号 で 表 記 し て お り 、 こ れ は ○ ● ● 型 と いう
ア ク セ ン ト を 表 記 し て い た ろ う と 見 な さ れ る が ご と き で あ る 。 こ の場 合 、 京 都 語 に お い て ○ ● ● 型> ○ ○ ● 型 と い
う 規 則 的 な 変 化 が 起 こ った ろ う と 推 測 さ れ る 。 こ の よ う に し て 、 や は り 、 ア ク セ ント と い う も の は、 あ る 型 に変 化 が
起 こ る 場 合 に 、 そ の 型 に 属 す る 語 は 一斉 に 同 じ 変 化 を 起 こす も の であ ろ う と いう こ と が 推 測 さ れ る 。
︹二十 一︺ アク セ ント の語類
って同 じ方 向 に変 化 す る と 考 え ら れ る 。
以 上 の考 察 によ って 、 ア ク セ ント と 言 う も の は 、 あ る 型 に 変 化 が 起 こ ると き は 、 そ の型 に 属 す る 語 は、 全 部 揃
これ は 、 わ れ わ れ の ア ク セ ント の研 究 に 大 き な 光 明 であ る は ず であ る 。 と いう のは 、 そ う だ と す れ ば 、 わ れ わ
れ は 、 あ る 語 のあ る 時 代 の ア ク セ ント 価 を 推 定 す る 場 合 、 そ の語 の ア ク セ ント を 直 接 つき と め る こ と が でき な く
て も い いこ と にな る か ら であ る 。 現 在 同 じ 型 に属 す る 他 の 語 に つい て、 そ の時 代 の ア ク セ ント を 知 る こと に よ り 任 意 の語 のア ク セ ント を 推 測 す る こと が で き る から であ る。
そ う す る と 過 去 の ア ク セ ント を 推 定 す る に あ た り 、 現 在 の 諸方 言 でど の語 と ど の語 と が 同 じ 型 に属 し て いる か
を 知 る こと が き わ め て 重 要 な こ と と な る。 今 、 現 在 諸 方 言 で、 同 じ 型 に 属 し て いる 語 を 同 じ ﹁類 ﹂ の 語 と 呼 び、 一拍︱ 三 拍 の 日 常 語 を 各 類 に分 け れ ば 、 ︹付 表 8 ︺ のよ う で あ る 。
語彙 の中 で、× じ る し のも のは 、 東 京 語 で対 応 の例 外 を な す 語 、 △ じ る し のも の は 、 京 都 語 で 対 応 の例 外 を な
す 語、 *じ る し のも の は、 平 安 朝 の文 献 でま だ 例 証 さ れ てな い 語 、 ★ じ る し のも のは 、 現 代 諸 方 言 の比 較 か ら は
そ の類 に 入 って いる こと が 予 想 さ れ る に も か か わ ら ず 、 平 安 朝 時 代 に は そ の類 に 入 って いな い語 を 表 わ す 。
柄。 蚊。香。 子。瀬。血 。戸。帆 。緒。 ⋮⋮
ま た 、 ﹁東 京 式 ﹂ と か ﹁京 阪式 ﹂ と か の 術 語 に つ いて は 、 前 項 の注 を 参 照 。 ︹ 付 表 8︺
︹1︺一拍 名 詞 第 1類
以 上 は、東京 語 をは じめ とし て東京 式諸方 言 では カ ( ガ )型 。 京 阪 語 を は じ め と し て 京 阪 式 諸 方 言 で
はカー (ガ)型 、 ま た は 短 か くカ (ガ)型 。 た だ し 、 讃 岐 式 諸 方 言 で は 、 第 2 類 に 合 流 し てカ︱ (ガ)型
第 2 類
に 言 う 傾 向 が あ る 。 長 崎 ・鹿 児 島 等 の 西 南 諸 方 言 で は カ ガ 型 。 名。葉。 日。藻。鵜 。矢。 ⋮⋮
型 、 ま た は 短くキ∼キガ
。西
木。 粉。酢。 田。手。 砥。菜。荷 。根。 野。 火。 屁。穂 。箕 。目。 芽。 湯。 夜。輪 。絵 。
は第 1類と 同じ くナ ガ 型。
式 諸 方 言 ではナ ( ガ )型 と な る 。 京 阪 式 諸 方 言 で はナー (ガ)型 、 ま た は 短くナ (ガ)型 。 西 南 諸 方 言 で
以 上は、 東京 式方 言 では第 1類と 区別 なく ナ ( ガ )型 の と こ ろ が 多 い が 、 名 古 屋 方 言 な ど の 内 輪 東 京
第 3 類 尾。 ⋮⋮
南諸方 言 で はキ ガ型。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で はキ (ガ)型。 京 阪 式 諸 方 言 で はキー∼キーガ
右 のほ か 現 在 諸 方 言 か ら では 何 類 に 入 れ て よ い か 不 明 の 語 が いく つか あ る 。 ﹁ 毛 ﹂ ( 第 1類か第 2類
灰 汁 。 姉 。飴 。 蟻 。 烏 賊 。 牛 。 梅 。 魚 。 枝 。 海 老 。 柿 。 瘡 。 風 。 蟹 。 金 。 鐘 。 壁 。 顔 。 釜 。
か ) ﹁巣 ﹂ ﹁背 ﹂ ﹁歯 ﹂ ﹁刃 ﹂ ﹁世 ﹂ な ど が そ れ で あ る 。 ︹2︺二 拍 名 詞 第 1 類
粥 。 雉 子 。 疵 。 君 。 桐 。 霧 。 釘 。 口。 国 。 頸。 鍬 。 暮 。 腰 。 籠 手 。 駒 。 薦 。 此 。 先 。 鷺 。 酒 。
笹 。 里 。 鯖 。 鮫 。 皿。 品。 芝 。 皺 。 鋤 。 杉 。 鈴 。 裾 。 末 。 底 。 袖 。 其 。 鷹 。 滝 。 竹 。 龍 。 蓼 。
棚。 塵。筒。 壺。爪。釣 。床。虎。 鳥。西。 庭。布。 軒。箱。端 。蓮。 縁。蜂。鼻 。羽 根。灰。
蝿 。 稗 。 髯 。 膝 。 菱 。 暇 。 紐 。 鰭 。鱶 。 蓋 。 札 。 藤 。 筆 。 笛 。 臍 。 星 。 的 。 舞 。 右 。 道 。 水 。
峰 。 宮 。 虫。 籾 。 桃 。 森 。 宵 。 嫁 。 丘 。 甥 。 誰 。 何 処 。 友 。 真 似 。 棟 。 籠 。 仮 名 。 甲 斐 。 株 。 蚊 帳。胡麻。 城。艶。 藪。槍。床 。百合 。横。
以 上は 、東京 式 諸方 言 では ア メ ( ガ )型 。 京 阪 式 諸 方 言 で は ア メ ( ガ )型 。 西 南 諸 方 言 で は ア メ ∼ ア メ
第 2 類
ガま た はア メガ のよう な 型。
。門 。牙 。
痣。石。 岩。歌。 音。垣。方 。型。 川。紙。北 。串。鞍。 下。旅 。度。塚。 次。蔦。 褄。
弦 。 梨 。 橋 。 旗 。機 。 肘 。 昼 。 冬 。 町 。 胸 。 村 。 八 重 。 雪 。 故 。 業 。鯵 。彼 。栗毬 杭 。 頃 。 蝉 。 妻 。 人 。 姫 。 文 。 殼。 為 。 夏 。 虹 。 余 所 。 ⋮ ⋮
垢 。 足。 明 日 。 網 。 綾 。 泡 。 池 。 犬 。 家 。 芋 。 色 。 蛆 。 腕 。 畝 。 馬 。 裏 。 鬼 。 親 。 鍵 。 勝
1類 に合流 。
式 諸 方 言 で は 第1 類 に合 流 す る 。 京 阪 式 諸 方 言 で は イ シ (ガ )型 で 第 3 類 に 合 流 。 西 南 諸 方 言 で は 第
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は イ シ (ガ ) 型 で 、 次 の 第 3 類 に 合 流 す る の が 標 準 的 で あ る が 、 外 輪 東 京
第 3 類
ち。神 。髪 。 瓶。菊 。 岸。 際。 肝 。茎 。草 。櫛 。靴 。 熊 。組 。倉 。栗 。 苔。 事。 米。 坂。銹
び 。 竿 。 舌 。 塩。 潮。 島。標 。 霜 。 尻 。鮨 。脛 。 炭 。 墨 。 芹 。丈 。 谷 。柄 。 月 。 土 。 綱 。 角 。
面 。 弟 子 。 時 。 毒 。 年 。 波 。 縄 。 糠 。熨 斗 。 蚤 。 海 苔 。 墓 。 萩 。 刷 毛 。 鉢 。 恥 。撥 。 花 。 浜 。
腹 。 晴 れ 。皸 。 房 。 節 。 縁 。 幕 。 枡 。胯 。 鞠 。 耳 。 室 。 物 。 樹 脂 。 山 。 闇 。 指 。 弓 。 夢 。 脇 。
腋 。枠。 綿。 麻。 孔。皮 。貝。 糞。桑 。雲 。太 刀。鯛 。 塔。 玉。 後 。 豆。姪 。 鰐 。膿 。恋 。 堀。孫 。店。
∼ アシガ 型。 跡 。 粟 。 息 。 板 。 市 。何時
。笠 糟。。 数 。 肩 。角 。 鎌。上。
絹。
( ガ )型 で 、 第 1 類 に 合 流 。 西 南 諸 方 言 で は ア シ
。 糸 。 稲 。 臼 。 海 。 瓜 。擢
アシ( ガ )型 が 標 準 で あ る が 、 讃 岐 式 方 言 で はアシ
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ア シ ( ガ )型 で 、 中 輪 ・内 輪 諸 方 言 で は 第 2 類 に 合 流 。 京 阪 式 諸 方 言 で は
第 4 類
。箆 。 松 。 味 噌 。 蓑 。 麦 。 罠 。 藁 。 我 。桁 。 下 駄。父
。槌 。 他。尼。
杵 。 錐 。 管 。 屑 。 今 朝 。 今 日 。 鞘 。 汁 。 筋 。 隅 。 銭 。 側 。 空 。 種 。 罪 。 杖 。咎 。 中 。 何 。 苗 。 鑿 。 箸 。 肌 。 針。 舟。紅
帯。外。 乳。鍔。粒 。主。宿 。
秋 。汗。 虻。雨。鮎。 藍。蔭。 黍。蜘 蛛。 琴。鯉。 声。猿。 足 袋。常。 露。鶴。 鍋。鰹。
南 諸 方 言 で は 第 3 類 に合 流 。
以 上は 、 東 京 式 諸 方 言 で は アト (ガ )型 。 京 阪 式 諸 方 言 で は アト ∼ アト ガ 型 。 ま た は ア ト (ガ )型 。 西
第 5 類
春 。 蛭 。 鮒 。 窓 。 前 。 眉 。 繭 。聟 。 股 。 桶 。 青 。 赤 。 朝 。 兄 。 牡 蠣 。 黒 。 白 。 鮭 。 縦 。 蛇 。 井 戸。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ア キ (ガ )型 で、 第 4 類 へ合 流 。 京 阪 式 諸 方 言 で は ア キ (ガ )型 、 ま た は ア キ (ガ )型 で、 独 立 。 西 南 諸 方 言 で は 第 3 ・4 類 に 合 流 。
右 の 他 、 現 代 の 諸 方 言 の ア ク セ ン ト か ら は ど の 類 に 入 れ て よ い か 決 し が た い 語 に 、 ﹁上 ﹂ ﹁う ち ﹂
﹁先 ﹂ ﹁下 ﹂ ﹁程 ﹂ ( 以 上 第 1 類 か 第 2 類 か )、 ﹁亀 ﹂ ﹁鴨 ﹂ ﹁蛸 ﹂ ﹁鳩 ﹂ ( 以 上 第 3 類 か 第 5 類 か )、 ﹁今 ﹂
﹁夜 ﹂ ( 以 上 第 4 類 か 第 5 類 か )、 ﹁こ こ ﹂ ﹁そ こ ﹂ (第 1 類 か 第 2 類 か 第 4 類 か )、 ほ か に 、 ﹁沖 ﹂ ﹁奥 ﹂
値 。 葵 。 筏 。 錨 。 巌 。 鰯 。 嗽 い。 漆 。 己 。〓 。篝 。 飾 。 霞 。 形 。 桂 。 鰹 。 骸 。 着 物 。 鎖 。
﹁供 ﹂ ﹁本 ﹂ ﹁元 ﹂ ﹁許 ﹂ な ど が あ る 。 ︹3︺三 拍 名 詞 ﹁形 ﹂ 類
轡 。 位 。 車 。 煙 。 仔 牛 。 今 年 。 氷 。 小 山。 今 宵 。 衣 。 魚 。 盛 。 桜 。 悟 り。 障 り。 舅 。 印 。 仕 業 。
鱸 。 相 撲 。 薪 。 畳 。粽 。 序 。 使 。 机 。 常 盤 。 隣 。 泊 り 。 膠 。 寝 言 。 望 み 。 初 。 蓮 。 鼻 血 。 埴 輪 。
庇 。 額 。 棺 。 羊 。 日 照 り 。 布 海 苔 。 汀 。霙 。 港 。 深 山 。櫓 。 柳 。 寡 婦 。涎 。 鎧 。 渡 り 。 夫 。 終 。
霰 。 蕪 菁 。 昔 。鏃 。 麹 。 河 原 。 竈 。 子 供 。 小 鳥 。 障 子 。 名 前 。 昇 り 。 二 十 日 。 日 和 。 二 日 。 埃 。
味 方 。 帝 。 操 。 三 日。 都 。 六 日。 息 子 。 八 日。 奴 。 四 日 。 田 舎 。 踊 り 。
以上 は、 東京 式諸方 言 で はカ タチ ( ガ )型 。 京 阪 式 諸 方 言 で は カ タ チ (ガ )型 。 西 南 諸 方 言 で は カ タ チ
小 豆 。 毛 抜 き 。 二 重 。 娘 。 三 つ 。 六 つ。 八 つ。 四 つ 。 女 。 二 つ。 二 人 。 夕 べ 。 東 。
ガ ・カ タ チ ガ な ど の よ う な 型 。 ﹁小 豆 ﹂ 類
明 日 。 頭 。 袷 。 扇 。 余 り 。 鼬 。 項 。廐
。 族 。 男 。 軍 。 暇 。 潮 。
。 恨 。 表 。 鏡 。 頭 。 敵 。 刀 。 言 葉 。 暦 。 棲 処 。 宝 。
の他 の 乱 れ も あ る 。 西 南 諸 方 言 で は 第 1 類 に 合 流 。
ア ズキ ( ガ )で あ る が 、 そ れ に 対 し て京 都 語 で は ア ズ キ ( ガ )型 。 た だ し 、 各 方 言 と も ア ズ キ (ガ )型 そ
型 、 外 輪 で は ア ズ キ ガ 型 が 普 通 であ る が 、 多 少 乱 れ が あ る 。 京 阪 式 諸 方 言 で は 、 大 阪 方 言 そ の 他 で
以上 は、 東京 式諸 方 言 では中 輪 でア ズキ ( ガ )型 が 標 準 で あ る が 、 例 外 も 多 く 、 内 輪 で は ア ズ キ ( ガ)
﹁頭 ﹂ 類
谷 間 。 験 。 包 。 唾 液 。 剣 。 俘 。 渚 。 縫 目 。 袴 。 光 り 。 響 き 。 袋 。 仏 。蓆
団 扇 。 鶉 。 思 い。 境 。 類 。 鯰 。 鋏 。 林 。 衾 。 痛 み 。 五 日 。 祈 り。 鉋 。 昨 日。 定 め 。 白 髪 。 硯 。
住 居 。 峠 。 助 け 。 頼 み 。袂 。 俵 。 鼓 。 勤 め 。 流 れ 。 歎 き 。 七 日 。 匂 い 。 願 い 。 別 れ 。 恐 れ 。
。 紅 葉 。鮑
。 山 葵 。
朝 日 。 五 つ 。 命 。 神 楽 。鰈 。 胡 瓜 。 心 。 柘 榴 。 姿 。 涙 。 錦 。 情 。 茄 子 。 箒 。 単 衣 。 火 箸 。
た だ し 、 讃 岐 式 方 言 で は 第 1 類 へ合 流 。 西 南 諸 方 言 で は ア タ マ ∼ ア タ マ ガ 型 。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は 大 体 ア タ マ (ガ )型 。 京 阪 式 諸 方 言 で も ﹁小 豆 ﹂ 類 へ合 流 し て さ ま ざ ま 。
﹁命 ﹂ 類
枕 。 眼 。 油 。 簾 。 柱 。 主 。 哀 れ 。 従 兄 弟 。 親 子 。襷
孰 れ 。 兎 。 鰻 。 蛙 。 狐 。蝨 。 芒 。 雀 。 李 。 背 中 。 高 さ 。 鼠 。 跣 足 。 雲 雀 。 誠 。 蚯 蚓 。 蓬 。
た だ し 讃 岐 式 方 言 で は 第 1類 に 合 流 。 西 南 諸 方 言 で は ﹁ 頭 ﹂ に合流 。
型 。 そ う し て 各 地 と も 少 数 のも の は イ ノ チ (ガ )型 に な っ て い る。 京 阪 式 諸 方 言 で は イ ノ チ ( ガ )型 。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で はイ ノ チ (ガ )型 が 標 準 で あ る が 、 東 京 ・静 岡 な ど 少 数 の 方 言 で イ ノ チ ( ガ)
﹁ 兎 ﹂ 類
菖 蒲 。 大 人 。鴎 。 団 子 。 田 圃 。 燕 。 長 さ 。 裸 。 左 。 広 さ 。
以上は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ウ サ ギ (ガ )型 が 多 く 、 た だ し 外 輪 で は ウ サ ギ (ガ )型 が 多 い。 京 阪 語 で は
﹁兜 ﹂ 類
ウ サ ギ ∼ ウ サ ギ ガ 型 、 周 辺 地 区 方 言 に は 、 ウ サ ギ ー ウ サ ギ ガ 型 の と こ ろ 、 ウ サ ギ (ガ )型 の と こ ろ も あ る 。 西 南 諸 方 言 で は ﹁頭 ﹂ 類 に合 流 。
苺 。 蚕 。 辛 子 。 薬 。 鯨 。 便 り 。盥 。 千 鳥 。 椿 。 畠 。 病 。 一人 。 後 。 卵 。 鉛 。 一 つ。 緑 。
以 上は、 東京 式 諸方 言 では、 カ ブト ( ガ )型 が 多 い が 、 外 輪 方 言 を 除 い て は カ ブ ト ( ガ )型 も ま じ る 。 京 阪式諸 方 言 では カブト ( ガ )型 。 西 南 諸 方 言 で は ﹁頭 ﹂ 類 に 合 流 。
﹁形 ﹂ 類 と
﹁兜 ﹂ 類 に 近 い )、 ﹁斜 ﹂ ﹁蕨 ﹂ (以 上
﹁形 ﹂ 類 と
﹁命 ﹂
﹁命 ﹂ 類 に 近 い )、
﹁命 ﹂ 類
﹁命 ﹂ 類 と
﹁頭 ﹂ 類 と
﹁小 豆 ﹂ 類 と
﹁小 豆 ﹂ 類 に 近 い )、 ﹁欠 伸 ﹂ ﹁胡 座 ﹂ ﹁足 駄 ﹂ ﹁草 鞋 ﹂ (以 上
以 上 の ほ か 、 三 拍 名 詞 に は 何 類 に 入 れ て よ い か 現 在 の 諸 方 言 か ら は 決 し が た い も の が 多 い。 ﹁間 ﹂ ﹁所 ﹂ (以 上
﹁小 豆 ﹂ 類 と
類 に 近 い)、 ﹁あ た り ﹂ ﹁あ な た ﹂ ﹁嵐 ﹂ ﹁力 ﹂ ﹁二 十 歳 ﹂ ﹁向 う ﹂ ( 以 上
﹁頭 ﹂ 類 と
﹁兜 ﹂ 類 に 近 い )、 ほ か に 、 ﹁泉 ﹂ ﹁翁 ﹂ ﹁栄 螺 ﹂ ﹁翼 ﹂ ﹁麓 ﹂ ﹁ 御 輿﹂
﹁兜 ﹂ 類 に 近 い )、 ﹁狸 ﹂ ﹁螢 ﹂ ﹁炎 ﹂ ﹁社 ﹂ (以 上
に 近 い )、 ﹁仲 間 ﹂ ﹁盲 ﹂ ( 以上
﹁柏 ﹂ ﹁と か げ ﹂ ﹁釣 瓶 ﹂ ( 以上
﹁兜 ﹂ 類 に 近 い )、 ﹁烏 ﹂ (﹁兎 ﹂ 類 と ﹁南 ﹂ な ど は そ の 一部 で あ る 。
( 連 用 形 は 一拍 、 連 体 形 は 二 拍 のも の)
着 る。 為 る 。 似 る 。 煮 る。 寝 る 。 居 る 。
︹4︺ 一、 二 拍 動 詞 第 1 類
得 る。 来 る 。 出 る 。 経 る。 見 る 。
式 方 言 で は 連 体 形 が キ ル (モ ノ )型 。 西 南 九 州 諸 方 言 で は キ ー ∼ キ ル (モ ノ )型 、 ま た は キ ル (モ ノ )型 。
以 上 は 、東 京 式 諸 方 言 で は キ ∼ キ ル (モ ノ )型 、京 阪 式 諸 方 言 で は キ ー ∼ キ ル (モ ノ )型 。た だ し 、讃 岐
第 2 類
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ミ ∼ ミ ル (モ ノ )型 。 京 阪 式 諸 方 言 で は ミ ー ∼ ミ ル (モ ノ )型 、 あ る い は ミ
ル (モ ノ )型 。 讃 岐 式 方 言 で は ミ ∼ ミ ル (モ ノ )型 。 西 南 諸 方 言 で は ミ ∼ ミ ル (モ ノ )型 ま た は ミ ル (モ ノ )型 。
︹5︺二 拍 動 詞 第 1 類
明 く 。 言 う 。 入 る 。 産 む 。 売 る 。 置 く 。 押 す 。 追 う 。 欠 く 。 嗅 ぐ 。 貸 す 。 買 う 。 苅 る。 聞
く 。 汲 む 。 消 す 。 越 す 。 咲 く 。 敷 く 。 知 る 。 鋤 く 。 透 く 。 吸う 。 添 う 。 焚 く 。 足 す 。 散 る。 突
く 。 継 ぐ 。 積 む。 摘 む。 問 う 。 飛 ぶ。 泣 く 。 鳴 く 。 鳴 る 。 抜 く 。 塗 る。 乗 る 。 履 く 。 張 る。 貼
る 。 引 く 。 弾 く 。 退 く 。 茸 く 。 踏 む 。 振 る 。 巻 く 。 増 す 。 舞 う 。 揉 む。 盛 る 。 焼 く 。 止 む 。 遣
る 。 行 く 。 結 う 。 呼 ぶ。 依 る。 寄 る 。 沸 く 。 湧 く 。 割 る 。 織 る 。 去 る。 往 ぬ。 死 ぬ 。 釣 る 。 拭 く。向 く。
合 う 。 編 む 。 有 る 。 打 つ。 討 つ 。 倦 む 。 膿 む 。 書 く 。 掻 く 。 勝 つ 。 飼 う 。 噛 む 。 切 る 。 食
岐 式 方 言 で は 連 体 形 が オ ク (モ ノ )型 。 西 南 諸 方 言 で はオキ ∼ オ ク (モ ノ )型 、 ま た は ス ル (モ ノ )型 。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は オ キ ∼ オ ク (モ ノ )型 、 京 阪 式 諸 方 言 で は オ キ ∼ オ ク (モ ノ )型 、 た だ し 讃
第 2 類
う 。 組 む。 繰 る 。 扱 く 。 漕 ぐ 。 乞 う 。 裂 く 。 指 す 。 刺 す 。 住 む 。 澄 む 。 磨 る 。 堰 く 。 剃 る 。 立
つ。 断 つ。 絶 つ。 附 く 。 着 く 。搗 く 。 照 る 。 解 く 。 研 ぐ 。 取 る 。 為 す 。 綯 う 。 成 る 。 生 る 。 脱
ぐ 。 縫 う 。 練 る 。 のす 。 飲 む。 掃 く 。 吐 く 。 剥 ぐ 。 這 う 。 吹 く 。 伏 す 。 降 る 。 干 す 。 掘 る 。 彫
る 。 蒔 く 。 撒 く 。 待 つ。 蒸 す 。 召 す 。 持 つ。 漏 る 。 病 む 。 読 む 。縒 る 。 酔 う 。 折 る 。 飽 く 。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は カ キ ∼ カ ク (モ ノ )型 。 京 阪 式 諸 方 言 で は カ キ ∼ カ ク (モ ノ )型 、 ま た は カ
キ ∼ カ ク (モ ノ )型 。 西 南 諸 方 言 で は カ キ ∼ カ ク (モ ノ )型 、 ま た は カ キ ∼ カ ク (モ ノ )型 。 右 の 他 第 1 類 に 近 い が 、 入 れ が た い も の に ﹁居 る ﹂ が あ る 。 ( 連用 形は 二拍 、連 体 形は 三拍 のも の)
明 け る 。 上 げ る 。 当 て る。 荒 れ る 。 入 れ る 。 失 せ る 。 埋 め る 。 植 え る 。 欠 け る 。 替 え る 。
︹6︺二 ・三拍 動 詞 第 1 類
枯 れ る 。 着 せ る 。 消 え る。 暮 れ る。 呉 れ る。 越 え る 。 染 み る 。 助 け る。 据 え る 。 添 え る 。 染 め
る 。 尽 き る 。 漬 け る 。 告 げ る 。 抜 け る 。 濡 れ る 。 腫 れ る 。 惚 れ る 。 負 け る 。 曲 げ る。 咽 せ る。
燃 え る 。 痩 せ る 。 止 め る。 寄 せ る。 詫 び る。 終 え る 。 捨 てる 。 借 り る 。 載 せ る 。
韲 え る 。 生 き る 。 出 で る 。 癒 え る 。 受 け る 。 飢 え る 。 起 き る 。 落 ち る 。 生 い る 。佩 び る 。
諸 方 言 で は ア ケ ー ア ケ ル (モ ノ )型 、 ま た は ア ケ ル (モ ノ )型 。
阪 式 諸 方 言 で は ア ケ ∼ ア ケ ル (モ ノ )型 。 た だ し 、 讃 岐 式 方 言 で は ア ケ ∼ ア ケ ル (モ ノ )型 。 西 南 九 州
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ア ケ ∼ ア ケ ル (モ ノ )型 。 稀 に 内 輪 で は 連 体 形 が ア ケ ル (モ ノ )型 に も 。 京
第 2 類
老 いる 。 下 り る 。 掛 け る 。 兼 ね る 。 朽 ち る。 侮 いる 。 肥 え る 。 覚 め る 。 冴 え る。 強 いる 。 占 め
る 。 締 め る 。 過 ぎ る 。 攻 め る。 闌 け る。 建 て る 。 耐 え る 。 矯 め る。 絶 え る 。 垂 れ る。 解 け る 。
遂 げ る。 閉 じ る 。 投 げ る 。 撫 で る 。 舐 め る。 馴 れ る 。 逃 げ る 。 延 び る。 述 べ る。 化 け る 。 恥 じ
る 。 晴 れ る 。耄 け る 。 誉 め る 。 吠 え る 。 見 え る 。 分 け る 。 籠 め る 。 詰 め る 。 果 て る 。 跳 ね る 。 更 け る 。 伏 せ る 。 見 せ る 。 漏 れ る 。茹 で る 。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ウ ケ ∼ ウ ケ ル (モ ノ )型 。 稀 に 方 言 に よ り 、 ウ ケ ル (モ ノ)型 。 京 阪 式 諸 方
言 では 、 ウケ ∼ウ ケ ル ( モ ノ )型 あ る い は ウ ケ ル (モ ノ )型 、 連 体 形 は 方 言 に よ り 、 ウ ケ ル 型 、 ウ ケ ル
型 に も 。 後 者 は 辺 境 方 言 に見 ら れ る 。 讃 岐 式 方 言 で は ウ ケ ∼ ウ ケ ル (モ ノ )型 。 西 南 九 州 諸 方 言 で は
上 る。 当 る 。 荒 ら す 。 洗 う 。 怒 る。 勇 む 。 致 す 。 至 る。 浮 ぶ。 歌 う 。 送 る。 贈 る。 威 す 。
ウ ケ ∼ ウ ケ ル (モ ノ )型 、 ま た は ウ ケ ル (モ ノ )型 。 ︹7︺三 拍 動 詞 第 1 類
及 ぶ 。 屈 む。 囲 う 。 囲 む 。 飾 る 。 語 る。 代 る。 変 る 。 通 う 。 枯 ら す 。 香 る。 刻 む 。 来 す 。 嫌 う 。
括 る 。 下 す 。 下 る 。 窪 む 。 削 る 。 殺 す 。 捜 す 。 探 る。 諭 す 。 悟 る 。 触 る 。 晒 す 。 慕 う 。 沈 む 。
印 す 。 掬 う 。 救 う 。 竦 む 。 荒 ぶ 。 濯 ぐ 。 進 む 。啜 る 。 畳 む 。 誓 う 。 違 う 。 使 う 。 続 く 。 繋 ぐ 。
積 も る。 鳴 ら す 。 並 ぶ 。 握 る 。 濡 ら す 。 眠 る 。 覗 く 。 望 む 。 臨 む 。 昇 る 。 運 ぶ。 塞 ぐ 。 振 う 。
奮 う 。 誇 る 。 曲 る 。 勝 る 。 学 ぶ 。 磨 く 。 向 う 。毟 る 。 結 ぶ 。 咽 ぶ 。 巡 る 。 貰 う 。 歪 む 。 揺 る 。
譲 る。 沸 か す 。 渡 す 。 渡 る 。 笑 う 。 犯 す 。 躍 る。 踊 る。 終 る 。 遊 ぶ 。 食 う 。 凝 ら す 。 注 ぐ 。 尽
す 。 拾 う 。 明 かす 。暮 ら す 。 忍 ぶ。 散 ら す 。 飛 ばす 。 名 乗 る 。 外 す 。 祭 る。
発く。 扇ぐ。余 す。余 る。歩 む。憩 う。急 ぐ。痛 む。厭 う。挑 む。祈 る。 祝う。癒 す。穿
方 言 で は ア ガ ル (モ ノ )あ る いは ア ガ ル (モ ノ )型 。
ア ガ リ 型 、 連 体 形 は 、 ア ガ ル (モ ノ )型 。 た だ し 、 讃 岐 式 方 言 で は 連 体 形 が ア ガ ル (モ ノ )型 。 西 南 諸
以 上は 、東京 式 諸方 言 では アガ リ ∼アガ ル ( モ ノ )型 。 京 阪 式 諸 方 言 で は 中 止 形 は ア ガ リ 型 、 ま た は
第 2 類
つ。 動 く 。 移 す 。 移 る 。 奪 う 。 恨 む 。 潤 む 。 起 こす 。 起 こ る 。 落 と す 。 思 う 。 泳 ぐ 。 下 ろ す 。
懸 る 。 限 る 。 炊 ぐ 。 担 ぐ 。 叶 う 。 乾 く 。 構 う 。 絡 む 。 軋 る 。 競 う 。 潜 る 。 砕 く 。 挫 く 。抉 る 。
崩 す 。 曇 る。 狂 う 。 好 む 。 溢す 。 籠 る 。 懲 ら す 。 下 る。 騒 ぐ 。撓 う 。 凌 ぐ。 縛 る 。 絞 る 。 過 す 。
迫 る 。 違 う 。 手 繰 る 。 叩く 。 正 す 。 頼 む 。 給 う 。 弛 む。 掴 む 。 作 る 。 包 む 。 集 う 。 募 る 。 紡 ぐ 。
尖 る 。 届 く 。 響 む 。 流 す 。 歎 く 。 詰 る 。 懐 く 。 泥 む 。 靡 く 。嬲 る 。 悩 む 。 習 う 。 憎 む 。 濁 る 。
担 う 。 匂 う 。 睨 む。 拭 う 。 盗 む 。 嫉 む。 遺 す 。 残 る 。 計 る。 謀 る。 励 む。 挾 む。 弾 く 。 走 る 。
果 す 。 放 つ。 孕 む 。 僻 む 。 光 る 。 浸 す 。 捻 る 。 響 く 。 開 く 。 含 む 。 耽 る 。 防 ぐ 。 紛 う 。 交 る 。
惑 う 。 招 く 。 守 る 。 迷 う 。 戻 る 。 休 む 。 窶 す 。 雇 う 。 宿 る 。 許 す 。 弛 む 。 装 う 。 分 つ。 描 く 。
惜 し む 。 返 す 。 帰 る 。 孵 る 。 透 す 。 通 る 。 申 す 。破 る 。 選 ぶ 。 稼 ぐ 。 被 る 。 口 説 く 。 滑 る。 す
ま す 。 育 つ。 背 く 。 倒 す 。 直 す 。 直 る 。 願 う 。 延 ば す 。 払 う 。 ひ る む。 肥 る。 罷 る。 恵 む。 漏 らす。 拝む。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ア マ リ ∼ ア マ ル (モ ノ )型 。 京 阪 式 諸 方 言 で は ア マリ ∼ ア マ ル (モ ノ )型 が
本 来 の 型 であ る は ず で あ る が 、 京 都 語 ・大 阪 語 な ど 大 部 分 の 方 言 で は 連 体 形 が ア マ ル (モ ノ )型 に な
って い る 。 讃 岐 式 方 言 で は 連 体 形 が ア マ ル (モ ノ )型 。 西 南 諸 方 言 で は ア マ ル (モ ノ )型 、 ま た は ア マ
歩く。 隠す。這 入る。参 る。⋮ ⋮
ル (モ ノ )型 。 ﹁ 歩 く ﹂ 類
以 上は 東京 式諸 方言 で は第 2類 に合流 す る こと が 多 いが、 稀 に ア ルキ ∼ア ルク型 にも 。京 阪 式諸 方
言 では、連 用 形は ア ルキ 型。連 体 形 は、 ア ルク ( モ ノ )型 、 ま た は ア ル ク (モ ノ )型 。 讃 岐 式 方 言 で は 連 体 形 が ア ル ク (モ ノ )型 。 西 南 諸 方 言 で は 第 2 類 動 詞 に 合 流 。
与 え る 。 慌 て る 。 埋 め る。 生 れ る 。 後 れ る 。 重 ね る 。 掠 め る。 固 め る 。 聞 え る 。 勧 め る 。
︹8︺三 ・四拍 動 詞 ( 連 用 形 は 三 拍 、 連 体 形 は 四拍 の も の ) 第 1 類
廃 れ る 。 爛 れ る 。 伝 え る 。 留 め る 。 並 べ る 。 始 め る 。 拡 げ る。 脹 れ る。 亡 び る 。 迎 え る 。 報 い
る 。 忘 れ る。 教 え る。 仕 え る。 溢 れ る 。 勝 れ る。 呆 れ る 。 浮 べ る 。 比 べ る。 萎 れ る。 外 れ る 。 纒 める。
崇 め る。 集 め る。 合 せ る 。 憂 え る 。 恐 れ る。 覚 え る 。 数 え る 。 奏 で る。 構 え る 。絡 げ る 。
サ ネ ル 型 。 西 南 諸 方 言 で は カ サ ネ ル型 、 あ る いは カ サ ネ ル 型 な ど 。
式 諸 方 言 で は 連 用 形 は カ サ ネ 型 ま た は カ サ ネ 型 、 連 体 形 は カ サ ネ ル型 。 讃 岐 式 方 言 で は 連 体 形 が カ
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は カ サ ネ ∼ カ サ ネ ル 型 が 標 準 で あ る が 、 内 輪 で は 時 に カ サ ネ ル型 に。 京 阪
第 2 類
極 め る 。 清 め る 。 崩 れ る 。 零 れ る。 定 め る 。 授 け る 。 鎮 め る 。 調 べ る。 精 げ る 。 供 え る。 類 え
る 。 助 け る 。 尋 ね る。 譬 え る 。 束 ね る 。 務 め る 。 咎 め る。 流 れ る 。 宥 め る 。 離 れ る 。 開 け る 。
弘 め る 。 隔 て る 。 設 け る。 儲 け る。 委 せ る 。 交 え る 。 見 え る。 乱 れ る 。 求 め る 。 別 れ る 。 納 め
る 。 修 め る。 湛 え る。 答 え る 。 破 れ る 。 預 け る 。 抑 え る 。 叶 え る 。 被 せ る 。 汚 れ る 。 毀 れ る 。
痺 れ る 。 倒 れ る 。 疲 れ る。 紛 れ る。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ア ツメ ∼ ア ツ メ ル 型 。 稀 に ア ツ メ ル 型 に 。 京 阪 式 諸 方 言 で は ア ツ メ ∼ ア
ツ メ ル型 が 多 い が 、 周 辺 地 域 に は 連 体 形 が ア ツ メ ル 型 の 地 域 も 。 讃 岐 式 方 言 で は 連 体 形 が ア ツ メ ル
抱 え る。 隠 れ る。 支 え る 。 捕 え る 。 捧 げ る 。
型 ま たは ア ツメ ル型。 西南 諸方 言 では ア ツメ ル型。 ﹁抱 え る ﹂ 類
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は第 1 類 ・第 2 類 に 分 属 。 京 阪 式 諸 方 言 で は カ カ エ∼ カ カ エ ル 型 が 普 通 。
時 に連 体 形 はカ カ エ ル 型 。 讃 岐 式 方 言 で は 連 体 形 が カ カ エ ル 型 。 西 南 諸 方 言 で は カ カ エ ル型 。 ︹9︺二 拍 形 容 詞
﹁な い ﹂ ﹁よ い ﹂ と も に 同 一の 類 に 属 す る 。 動 詞 の 第 2 類 に 相 当 す る も の で 、 動 詞 の 第 1 類 に 相 当 す る 語彙 は な い。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ナ イ (モ ノ )型 に 、 京 阪 式 諸 方 言 で は ナ イ ∼ ナ イ (モ ノ )型 、 ま た は ナ イ
赤 い 。 浅 い 。 厚 い 。 甘 い 。 荒 い 。 薄 い。 遅 い。
(モ ノ )型 に 属 す る 。 西 南 九 州 諸 方 言 で は ナ イ (モ ノ )、 ま た は ナ イ (モ ノ )型 。
。 辛 い。
(ク 活 用 の も の。 シ ク 活 用 の も の は な い )
︹10三 ︺拍 形 容 詞 第 1 類
重 い。 堅 い 。 暗 い 。 遠 い。軽い
(シ ク 活 用 の も の ) 欲 し い 。 惜 し い。 (ク 活 用 の も の ) 熱 い 。 淡 い。 痛 い 。 旨 い 。 多 い。 痒
イ (モ ノ )型 。 西 南 諸 方 言 で は ア カ イ (モ ノ )型 ま た は ア カ イ (モ ノ )型 。
が 、 和 歌 山 ・高 知 な ど 周 辺 方 言 で は ア カ イ (モ ノ )型 で 、 第 2 類 と 区 別 さ れ る 。 讃 岐 式 方 言 で は ア カ
類 と 区 別 が な い。 京 阪 式 諸 方 言 で は 、 京 都 語 ・大 阪 語 で は ア カ イ (モ ノ )型 で 、 第 2 類 と 区 別 が な い
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ア カ イ (モ ノ )型 。 た だ し 内 輪 諸 方 言 で は ア カ イ (モ ノ )型 に 属 し て 、 第 2
第 2 類
い 。 辛 い 。 清 い。 臭 い。 黒 い 。 強 い 。 寒 い 。 渋 い 。 白 い 。 狭 い 。 高 い 。 近 い 。 強 い 。 長 い 。 鈍
い 。 早 い 。 広 い 。 深 い。 太 い 。 古 い 。 細 い 。 脆 い 。 易 い 。 緩 い 。 若 い 。 悪 い 。 青 い。 凄 い。 苦 い。 低 い。
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は ア ツ イ (モ ノ )型 。 京 阪 式 諸 方 言 で は ア ツイ (モ ノ )型 、 た だ し 讃 岐 式 方 言
で は ア ツイ (モ ノ )型 、 ま た は ア ツイ (モ ノ )型 。 西 南 諸 方 言 で は ア ツ イ (モ ノ )型 、 ま た は ア ツ イ (モ ノ )型 。
(シ ク 活 用 の も の ) 悲 し い 。 空 し い 。 や さ し い 。 宜 し い 。 怪 し い 。 卑 し い 。
︹11︺ 四拍 形 容 詞 第 1 類
(シ ク 活 用 の も の ) 厳 し い 。 苦 し い。 詳 し い。 恋 し い 。 親 し い 。 涼 し い。 正 し い 。 楽 し い 。
カ ナ シイ 型 、 ま た は カ ナ シ イ 型 。
は カナ シイ 型 である が、 周辺 諸方 言 では カナ シイ 型。 讃 岐式 方 言 で はカ ナ シイ 型。 西南 諸 方 言 では
以 上 は 、 東 京 式 諸 方 言 で は カ ナ シイ 型 、 た だ し 内 輪 諸 方 言 で は カ ナ シ イ 型 。 京 阪 式 諸 方 言 で は 多 く
第 2 類
乏 し い。 激 し い。 久 し い。 等 し い。 嬉 し い。 悔 し い。 淋 し い。
以 上 は、東京 式 諸方 言 では ウ レシイ 型。京 阪 式諸 方 言 では ウ レシイ 型、 ただ し 讃岐 式 方 言 では ウ レ シ イ 型 、 ま た は ウ レ シイ 型 。 西 南 諸 方 言 では ウ レ シイ 型 。
特 に 二 音 節 名 詞 に 就 て ﹂( 11)で 二 拍 名 詞 を 五 類 に 分 け た の に は じ ま る 。 つ い で 大 原 孝 道 氏 が ﹁類 聚 名 義 抄 の ア ク
単 語 を こ の よ う な 語 類 に 分 け 、 そ れ を 番 号 で 呼 ぶ こ と は 、 筆 者 が ﹁現 代 諸 方 言 の 比 較 か ら 観 た 平 安 朝 ア ク セ ント ︱
セ ント と 諸 方 言 の ア ク セ ント と の対 応 関 係 ﹂( 12)に お い て 三 拍 名 詞 に つ い て 試 み ら れ た 。 そ の 後 、 筆 者 が ﹁ 国語アク
セ ント の史 的 研 究 ﹂( 13)に 、 他 の 語彙 と と も に 提 案 し た も の が 、 一般 に 用 い ら れ て い る が 、 三 拍 名 詞 の 類 な ど に つ い
ては、 ま だ問題 が 多く、 将来 の研究 が待 たれ る。
︹二十 二︺ 語 類 から語 群 へ
前 項 に あ げ た 語 彙 表 で特 に注 意 さ れ る こ と は 、 あ る いは す で に お 気 付 き と 思 う が 、 各 方 言 で 同 じ ア ク セ ント を
も って いる の は、 同 一品 詞 のも の の間 に限 る の では な い こと であ る 。 品 詞 の別 を 越 え て、 こ の語 と こ の語 と は 、
東 京 語 で も 同 じ ア ク セ ント 、 京 阪 語 で も 同 じ ア ク セ ント だ と いう よ う にな って いる こ と であ る 。 第 1 類 二 拍 名 詞
と 第 1 類 二 拍 動 詞 は 、 職 能 は 全 然 ち が う が、 東 京 で は共 に ○ ● ( ● )で同 じ 型 であ り、 京 都 ・大 阪 で は 共 に ● ● で
同 じ 型 で あ る 。 つま り こ れ は 本 来 同 じ 類 に属 す と す べき も の であ った 。 こ こ では 単 語 全 体 を 一次 的 に 名 詞 ・動 詞
と いう 分 類 を 行 な った か ら こ のよ う な 体 裁 にな った のに す ぎ な いと 知 る べき であ る。 今 、 こ のよ う に 、 品 詞 は ち
第 2類 一拍 名 詞+ 一般 一拍 助 詞 、 第 2 類 二 拍 名 詞 の単 独 形、 第 1類 二拍 動 詞 の連 用 形 。
第 1類 一拍 名 詞+ 一般 一拍 助 詞 、 第 1 類 二 拍 名 詞 の単 独 形、 第 1類 二拍 動 詞 の連 体 形 、
が いな が ら 同 じ類 に属 す べき も のを 一つ 一つま と め る と 、 全 語 彙 は 次 の ︹付 表 9 ︺ のよ う な 群 に 再 整 理 さ れ る。 ︹ 付 表 9︺
第 1群 二拍 語 等。 第 2群 二拍 語
第 3群 二拍 語
第 3 類 一拍 名 詞+ 一般 一拍 助 詞 、 第 4 類 二拍 名 詞 の単 独 形 、 第 2 類 二 拍 動 詞 の連 体 形 、
第 3類 二拍 名 詞 の単 独 形 。
こ こ に は 掲 げ な か った が命 令 形 も 。
第 4群 二拍 語
第 5 類 二拍 名 詞 の単 独 形 、 第 2 類 二拍 動 詞 の連 用 形 。 命 令 形 も 。
二 拍 形 容 詞 ﹁よ い﹂ ﹁な い﹂ の連 体 形 、 等 。 第 5群 二拍 語
第 1群 三拍 語 形、等。 第 2群 三拍 語
第 1類 二拍 名 詞+ 一般 一拍 助 詞 、 ﹁形 ﹂ 類 三 拍 名 詞 の 単 独 形 、 第1 類 三 拍 動 詞 の連 体
こ こ に 掲 げ な か った が、 第 1 類 二 拍 名 詞+ 一拍 助 詞 ﹁も ﹂・引 用 の ﹁と ﹂、 ﹁小 豆﹂ 類
第 2類 二 拍 名 詞+ 一拍 助 詞 。 ﹁二 十 歳 ﹂ 類 三 拍 名 詞 の単 独 形 、 こ こ に 掲 げ な か った が、
三 拍 名 詞 の単 独 形 、 第 1類 三 拍 動 詞 の連 用 形 、 命 令 形 も 、 第 1類 三 拍 形 容 詞 の連 体 形・ 連 用 形、 等 。 第 3 群 三拍 語
第 4群 三拍 語
第 3 類 二 拍 名 詞+ 一般 一拍 助 詞 、 ﹁命 ﹂ 類 三 拍 名 詞 の単 独 形 、 第 2 類 三 拍 動 詞 の連 体
﹁男 ﹂ 類 名 詞 の単 独 形 。
第 1 類 二 拍 動 詞 の制 止 形 ・接 続 形 、 第 1類 二 ・三 拍 動 詞 の接 続 形 、 等 。
第 5群 三拍語
第 4 類 二 拍 名 詞+ 一拍 助 詞 ﹁も ﹂・引 用 の ﹁と ﹂ の 形 、 第 5 類 二 拍 名 詞+ 一拍 助 詞 、
第 4 類 二 拍 名 詞+ 一般 一拍 助 詞 、 ﹁兎 ﹂ 類 三 拍 名 詞 の単 独 形 、 ﹁歩 く ﹂ 類 三 拍 動 詞 の連
形 、 第 2 類 三 拍 形 容 詞 の連 体 形、 等 。 第 6群 三拍 語 体形、等。 第 7群 三拍 語
﹁兜 ﹂ 類 三 拍 名 詞 の単 独 形 、 第 2 類 二 ・三 拍 動 詞 の接 続 形 、 ﹁歩 く ﹂ 類 三 拍 動 詞 の連 用 形 ・命 令 形 、 第 2 類 三 拍 形 容 詞 の連 用 形、 等 。
す な わ ち 、 過 去 の ア ク セ ン ト を 明 ら か に す る 場 合 、 品 詞 の 職 能 の ち が った 語 の ア ク セ ン ト が 明 ら か に な っ て も 、 そ の 語 の アク セ ント を 推定 す る こ と が でき る は ず だ と 言 う こと に な る 。
こ の よ う に 職 能 の ち がう も のを ま と め て ア ク セ ン ト を 比 較 す る こ と を 日 本 で 最 初 に 試 み た 人 は 、 昭 和 八 年 の ﹃ア ク
セ ント と 方 言 ﹄( 14) の服 部 四 郎 氏 で あ った 。 筆 者 は そ の 四 年 の の ち に ︹二 十 一︺ に あ げ た ﹁現 代 諸 方 言 の 比 較 か ら 観
た 平 安 朝 の ア ク セ ント ﹂ を 書 い た が、 そ の 時 は 、 こ の事 実 を 見 逃 し て いた 。 筆 者 が こ の ﹁群 ﹂ の考 え を 理解 し え た の
は 、 昭 和 十 三 年 に ﹁埼 玉 県 下 に 分 布 す る 特 殊 ア ク セ ント ﹂( 15)を 発 表 し た と き で あ る 。 筆 者 の ﹁ 類 ﹂ は こ の文法 的 職
能 のち が う も の を も 一括 し た 場 合 に 一層 ふ さ わ し いも の であ る が 、 同 じ 品 詞 の語 彙 の 分 類 の名 に な って し ま い、 品 詞
の 別 を 越 え た 場 合 に は 、 ﹁群 ﹂ と いう 別 の 名 を 持 ち 出 さ ざ る を え な か った の は 筆 者 の 不 敏 の 致 す と こ ろ で 申 し わ け な いこと であ る。
な お 、 こ の項 に 上 げ た ﹁ 群 ﹂ の 呼 び 方 は 、 例 え ば 三 拍 語 な ら ば 後 篇 で 明 ら か に す る 平 安 朝 時 代 の京 都 語 を 頭 に お い
て ● ● ● の 形 を 1 と し 、 以 下 ● ● ○ 、 ● ○ ○ 、 ○ ○ ○ 、 ○ ○ ● 、 ○ ● ● 、 ○ ● ○ の 順 に、 2 3 4 ⋮ ⋮ と 呼 ん だ 。
右 の う ち 、 第 2 群 二 拍 語 に 属 さ せ た 第 1 類 二 拍 名 詞+ ﹁も ﹂ の形 、 第1 類 三 拍 形 容 詞 の 終 止 形 ・連 体 形 は 、 平 安 朝
時 代 に ● ● 〓 と 見 ら れ る か ら 、 第 2群 と 言 う のは 、 好 も し く な く 、 ● ● ● 型 の 一種 と し て 、 第 1 群 乙 種 と し た 方 が よ
さ そ う だ 。 つま り 、 〓 と いう 拍 は ● の 変 種 と 見 て そ の 乙 種 と す る の で あ る 。 そ う す る と 、 第 5 群 三 拍 語 の中 で も 、 三
拍 形 容 詞 の 連 体 形 は 第 5 群 乙 種 と なり 、 第 7 群 三 拍 語 の中 で 、 第 5 類 二 拍 名 詞+ 一拍 助 詞 の 形 は 、 第 7 群 乙 種 と な る 。
同 様 に 、 平 安 朝 時 代 に〓 ○ 型 と 想 定 さ れ る 語 は 、〓 の拍 を ○ の変 形 と 見 、 第 3 群 丙 種 と す る こ と が で き よ う 。 二 拍
そ う し て そ れ に 応 じ て 、 第 5 群 三 拍 語 と し た も の は す べ て第 4 群 乙 種 と な る 。
語 の形 容 詞 ﹁よ い﹂ ﹁な い﹂ の 連 用 形 、 第 2 類 動 詞 ﹁見 る ﹂ ﹁来 る ﹂ の類 + ﹁て ﹂ の 形 な ど 、 そ れ に 属 す る 語 彙 は け っ こうあ る。
︹付 表 8 ︺ に は 幾 つ か 注 意 す べ き こ と が あ る 。 第 一に 、 表 に あ げ た 語 彙 に お い て 、 同 じ 類 に 属
︹二 十 三 ︺ 語 類 ・語 群 の意 味 す る も の 前 々 項 に 掲 げ た
す る 語 は 、 各 方 言 体 系 に お い て 、 同 一の 型 で 発 音 さ れ て い る が 、 そ れ で は 異 な る 型 に 属 す る 語 は ど う か と い う と 、
必 ず し も 別 々 の 型 に 属 し て い る わ け で は な いと いう こ と で あ る 。 例 え ば 、 右 の 表 の あ と の 注 に 見 ら れ る よ う に 、
東 京 語 で は 二 拍 名 詞 の第 2 類 と 第 3 類 と が 、 と も に ○ ● ( ○ )型 と いう 同 一の 語 に 属 し て お り 、 第 4 類 と 第 5 類 と
が、 と も に● ○ ( ○ )型 と い う 同 一 の 型 に 属 し て い る が ご と き で あ る 。 九 州 西 南 部 諸 方 言 の ご と き は 、 二 拍 名 詞 で
あ ろ う と 、 三 拍 名 詞 で あ ろ う と 、 全 体 を 二 つず つ の グ ル ー プ に ま と め て 、 発 音 し て い る 。( 16) 現 在 知 ら れ て い る
と こ ろ で は 、 二 拍 名 詞 の第 1 類 か ら 第 5 類 ま で が す べ て 別 々 の ア ク セ ント に な っ て い る 方 言 は 、 香 川 県 伊 吹 島 方 言 し か な い。( 17)
次 に 、 同 一の 類 に 属 し て い る 語 は 、 方 言 体 系 に よ っ て は 、 時 に 、 異 な る 型 に 分 属 し て い る こ と も な い で は な い 。
た だ し 、 そ の 場 合 に は 原 則 と し て 分 属 の 仕 方 に 、 一定 の 標 準 が 見 出 さ れ る こ と を 注 意 す べ き で あ る 。 例 え ば 、 高
松 市 方 言 で は 、 二 拍 名 詞 の 第 2 類 の 語 は 、 一部 は ● ○ 型 に 発 音 さ れ 、 一部 は ○ 〓 型 に 発 音 さ れ て い る が 、 そ の 別
(a) (e) (o) の も の で あ る 。( 18) こ れ は 後 世 に 分 離 し た も のと 想 像 さ れ る 。
れ 方 を 調 べ て み る と 、 ● ○ 型 に 属 す る も の は す べ て 第 二 拍 の 母 音 が (i) (u) の も の で あ り 、 ○ 〓 型 に 属 す るも のは す べ て第 二拍 の母 音 が
と に か く 、 右 の 表 の 各 類 の 語 は 、 現 在 の 諸 方 言 に お い て は 、 原 則 と し て 揃 っ て 同 一の 型 で 発 音 さ れ て い る 傾 向
が あ る 。 し か し 、 そ れ よ り 重 要 な こ と は 、 前 々 項 に あ げ た 一 つ 一つ の 類 の も と に 集 ま っ て い る 語 彙 は 、 意 義 の 上
にも 、 語 源 の上 にも 、 勿 論 語 音 の上 にも 、 何 ら 共 通 点 が な く 、 そ う し て こと に前 項 にま と め た 群 に お いて は 、 文
法 的 職 能 に お い て も 、 何 ら 共 通 点 が な く 、 類 と 類 、 群 と 群 と は 、 た だ ア ク セ ン ト だ け で 対 立 し て い る と いう 事 実
で あ る 。 こ れ は 別 に 注 意 す る に 足 り な いこ と のよ う に 思 わ れ る か も し れ な いが、 比 較 言 語学 の上 で は これ は き わ め て重 要 で あ って 、 こ の こと に つ いて は 項 を 改 め て 考 察 す る 。
こ れ ら の 語 類 ・語 群 は 、 語 音 ・意 義 ・成 立 ・職 能 の 上 に 対 立 が な い と 言 った 。 た だ し や か ま し く 言 う と 、 例 外 が あ
る 。 例 え ば 成 立 で いう と 、 三 拍 動 詞 の ﹁歩 く ﹂ 類 、 四 拍 動 詞 の ﹁抱 え る ﹂ 類 は 、 語 彙 が 少 な い上 に複 合 語 と 解 釈・ 推
定 さ れる も のば かり であ る。 これは 複合 語 が出来 た結 果 生じ たも のと 推定 され る。
ま た 、 二 拍 名 詞 の第 4 類 と 第 5 類 の 間 に は 、 意 義 の上 に 多 少 対 立 が あ り 、 第 5 類 の方 に は ﹁ 猿 ﹂ ﹁鶴 ﹂ ﹁蛇 ﹂ ﹁ 蜘 蛛﹂
い。 と す る と 、 あ る い は こ の 二 つ の類 は 、 祖 語 の体 系 で は 同 一の型 に 属 し て いた の が 、 意 義 の 相 違 に よ って 分 化 し た
の よ う な 動 物 名 、 あ る いは ﹁春 ﹂ ﹁秋 ﹂ ﹁ 朝 ﹂ の よ う な 対 比 を 表 わ す 語 が 多 く 属 し 、 第 4 類 の方 に は そ う いう 色 彩 が 薄
か も し れ な いと 言 え る 。 こ の こ と に つ い て は 小 川 武 雄 氏 ・大 原 孝 道 氏 ( 19)に 説 が あ り 、 注 目 さ れ る 。 三 拍 名 詞 で 言 う と、﹁ 兎 ﹂ 類 の中 に 、 動 物 名 が 比 較 的 多 く は い って い る 。
ま た 、 語 音 と の関 係 で 言 う と 、 寺 川 喜 四 男 氏 が 、 か つて 、 タ 行 五 段 活 用 動 詞 は 、 す べ て第 2 類 に 属 し 、 第 1類 に 属
す る も のが な い こ と 、 逆 に バ 行 五 段 活 用 動 詞 は 、 ほ と ん ど す べ て 第 1 類 に 属 し 、 第 2 類 に 属 す る も の が き わ め て 稀 で
で 言 う と 第 4 類 ・第 5 類 の も の が ほ と ん ど な く 、 三 拍 語 で 言 う と 、 ﹁ 兜 ﹂ 類 ・﹁兎 ﹂ 類 のも の が ほ と ん ど な いよ う であ
あ る こ と を 指 摘 し た こ と が あ る 。( 20) ま た 、 こ と に 名 詞 に お い て、 第 一拍 が 無 声 化 す る よ う な 語 音 のも の に 、 二 拍 語
る が 、 偶 然 で あ ろ う か 。( 21)
大 野 晋 氏 は 、 二 拍 名 詞 の 中 で ﹁雨 ﹂ ﹁酒 ﹂ のよ う な 、 複 合 語 の時 に 母 音 が エか ら ア に 変 わ る も の 、 つま り 、 第 二 拍
の エが 上 代 仮 名 遣 い の 乙 類 に属 す る 語 は 、 第 1類 ・第 4 類 ・第 5 類 に 属 し 、 第 3 類 に 属 さ な い こ と に 注 意 し た 。 こ れ
は 、 上 代 の 日 本 語 の 音 韻 と の 関 係 を 指 摘 さ れ た も の で あ る 。( 22) そ う 言 え ば 、 一拍 名 詞 で ﹁木 ﹂ ﹁荷 ﹂ ﹁火 ﹂ ﹁手 ﹂
﹁目 ﹂ の よ う な 、 単 独 で 母 音 が (i) (e) で 、 複 合 語 に な る と ( o) (a) に 変 わ る も の は 、 第 3 類 に 属 し て 、 第 1 類 ・
︹付 表 9 ︺ で は 文 法 的 職 能 も 共 通 で は な く 、 共 通 な の は ア ク セ ン ト
︹ 付 表 8 ︺ に あ げ た 各 類 の 語 彙 は 意 義 ・語 源 あ る い は 語 音 の 点 で は 全 く 共
第 2類 に属 す る も の が な いこ と に も 気 付 く 。 こう いう こ と が 何 を 意 味 す る か に つ いて は 将 来 の研 究 の 進 展 に 待 つ。
の
︹二十 四 ︺ 比 較 言 語 学 の 方 法 に つ い て も う 一度 繰 り 返 す が 、 ︹二 十一︺
通 点 の な い も の で あ る 。 ︹二 十 二 ︺ に あ げ た
だ け で あ る 。 こ れ は 、 正 し く ヨ ー ロ ッ パ の 文 化 科 学 の 花 と 言 わ れ る ︽比 較 言 語 学 ︾ で 扱 う 対 象 で あ る 。
﹁夏 ﹂ も 同 じ くsia で あ る 。 そ れ が ﹁霞 ﹂
中 国 語 の 各 地 の方 言 で ﹁霞 ﹂ ﹁下 ﹂ ﹁夏 ﹂ と いう 語 は 、 意 義 ・職 能 は 全 く ち が い 、 恐 ら く 語 源 も 全 く ち が い な が ら 同 じ 語 音 の 語 群 で あ る 。 ﹁霞 ﹂ は 北 京 方 言 で はsiaで あ る が 、 ﹁下 ﹂ も
﹁下 ﹂ も
﹁夏 ﹂
(B. Karl )gは rこ en う 解 釈 し た 。( 23) ︽こ れ ら の 語 は 、 共 通
﹁夏 ﹂ も 同 じ く?o で あ る 。 ﹁霞 ﹂ を haと い う 広 東 方 言 で は 、 ﹁下 ﹂ も
﹁暇 ﹂ もhaで あ る 。 こ の 事 実 に 対 し て カ ル ル グ レ ン
を?o と い う 温 州 方 言 で は も
中 国 語 で はγa と い う 語 だ った 。 そ れ が 方 言 に な り 、 あ る い はha に 、 あ る い はhiaを 経 過 し てsiaに 、 あ る い は
?a を 経 過 し て?o に な った ︾。 こ れ が 比 較 言 語 学 の 方 法 で 、 こ の 事 態 の 解 釈 と し て は こ れ 以 上 の も の は 考 え ら れ な い。
比 較 言 語 学 では 、 こ れ ら の語 彙 が 意 義 語 源 そ の 他 一切 の関 係 を も って い な い と い う こ と が 重 要 で あ る 。 も し 、 意 義
そ の 他 で 関 係 が あ る な ら ば 、 一方 が も と で 一方 が そ れ か ら 変 化 し た も のと いう こと に な る か ら 、 た ま た ま 同 一の 音 に な って い て も 不 思 議 で は な い。
メ イ エ ( A.Meil) lは e、 t 比 較 言 語 学 で 取 り 上 げ る こ の問 題 を 、 デ ュメ ジ ル と いう 学 者 が 明 ら か に し た 民 話 の 研 究
に 比 較 し て い る 。( 24) ヨー ロッ パ 諸 民 族 の間 に、 不 老 長 寿 の 酒 に 関 す る 民 話 が あ る そ う で あ っ て 、 た だ そ れ だ け な ら
ば 、 人 間 に と って 共 通 の願 望 の 現 わ れ と し て 、 各 民 族 で 別 々 に 発 生 し た と 考 え て も よ い。 と こ ろ が 、 ヨ ー ロ ッ パ 民 族
の 不 老 長 寿 の 酒 の 話 に は 、 必 ず ニ セ の花 嫁 の 話 が 何 か の 形 で結 び付 い て い る 。 こ の 不 老 長 寿 の酒 と 、 ニセ の花 嫁 と は 、
ど う 考 え て も 必 然 的 な 結 び 付 き は な い。 そ こ で デ ュメ ジ ルは 、 ヨ ー ロ ッ パ 諸 民 族 の これ ら の 民 話 は 、 す べ て 一つ の源
か ら 出 た も の で 、 そ れ が 各 民 族 の間 に伝 播 し て 伝 承 さ れ 、 今 日 に 至 った と 考 え た と いう 。 こ の解 釈 は 、 カ ル ルグ レ ン の 行 き 方 と 全 く 並 行 的 であ る 。
な お こ こ に 引 い た カ ル ル グ レ ン の 論 考 に つ い て 、 こ の よ う な 場 合 、 一般 に は 音 素 を 単 位 に 記 述 す る こ と が 行 な わ れ
て い る 。 し か し 音 素 に つ いて 言 わ れ る こ と は 拍 に つ いて 言 わ れ る わ け で あ り 、 単 語 の語 音 に つ いて 言 わ れ る の は 当 然
で あ る の で 、 そ の場 合 そ の場 合 で あ る い は 拍 を 単 位 に と り 、 あ る いは 語 音 を 単 位 に と った 。 音 素 を 単 位 に と る 方 が 、
( ? ) のよ う に 思 わ れ る が 、 そ れ な ら ば 、
( g) の音 が (i) の 前 で (t )〓の 音 や (d〓) の 音 に 変 化 し て い る よ う な 場
拍 や 語 音 を 単 位 に と る よ りも 分 析 的 であ り 包 括 的 に 記 述 で き て 、 よ り 科 学 的 例 え ば 沖 縄 方 言 で 、 内 地 方 言 で (k) の音
合 は (k) の音 を 軟 口 蓋 閉 鎖 の 要 素 と 無 声 の 要 素 に 、 (g ) の 音 を 軟 口蓋 閉 鎖 の要 素 と 有 声 の 要 素 に 分 け 、 ﹁ 軟 口蓋 の
の は 平 常 使 う 文 字 が 一つ 一つ音 素 を 表 わ す 習 慣 に よ る にす ぎ な い。 欧 米 の 音 素 万 能 主 義 が 決 し て 最 上 のも の で な い こ
閉 鎖 音 は ︽) (i の前 で ⋮ ⋮ ﹂ と 記 述 す る 方 が 、 よ り 分 析 的 ・包 括 的 で あ る 。 欧 米 言 語 学 で 音 素 を も と に し て 記 述 す る
と に つ い て は 、 亀 井 孝 氏 に ﹁﹃音 韻 ﹄ の 概 念 は 日 本 語 に 有 用 な り や ﹂( 25)と い う 論 文 が あ る。 氏 の い う 音 韻 と は phonem のe 訳 語 で 、 こ の小 著 の ﹁音 素 ﹂ に 相 当 す る 。
な お 、 こ こ に 引 い た カ ル ルグ レ ン の 研 究 で 、 語 頭 の 子 音 (h) を さ し お い て 有 声 音 の (γ) と 想 定 し た の は 、 日 本
語 で こ れ ら の 語 が 呉 音 で (g e) に な って い る こ と を も 考 慮 し た こ と に よ る よ う であ る 。
︹二十 五 ︺ 型 の 対 応 と は
今 こ の考 え を 、 語 類 の別 、 語 群 の別 にあ て は め る と 、 次 の よう な 考 え 方 を 発 誘 す る 。 (1) 日 本 語 諸 方 言 は 以 前 に 同 一 の ア ク セ ン ト を も った 言 語 体 系 で あ った ろ う 。
(2) こ こ に 挙 げ る よ う な 語 彙 は 、 現 在 の諸 方 言 の ア ク セ ン ト の ち が い が 出 来 る よ り 以 前 に 存 在 し て い た ろ う 。 (3)そ う し て 、 同 じ 群 に 属 す る 語 彙 は 同 じ ア ク セ ン ト を も って いた ろ う 。 (4)ち がう 群 に属 す る 語 彙 は ち が う ア ク セ ント を も って いた ろ う 。
( あ る いは あ る方 言 で は 起 こさ な か
︽型 の 対 応 ︾ と い う 事 実 は 、 ア ク セ ン ト 変 化 の 規 則 性 を 証 明 す る も の と 見 ら れ る と 同 時 に 、 ア ク
った が そ れ も 群 単 位 だ った )、 そ の た め に 今 日 の よ う な ア ク セ ン ト の ち が った 方 言 に な った の で あ ろ う 。
(5)そ れ が 各 方 言 で 、 こ れ ら の 語 彙 は 群 ご と に ま と ま っ て 変 化 を 起 こ し て
こ れ は 、 結 局
セ ン ト の 史 的 研 究 と は 何 を す る こ と か と いう こ と を も 示 唆 す る も の で あ る 。
今 (1)(2)( に3述 )べ (4 た)こ (と 5を ) 具 体 的 に 言 う な ら ば 、 例 え ば 二 拍 の 第 5 類 名 詞 、 例 え ば 、 か り に ﹁春 ﹂ ﹁秋 ﹂ ⋮ ⋮
﹁ 露 ﹂ の よ う な 語 は 、 祖 先 の方 言 で は ● ○ 型 で あ った
( そ う し て ほ か の 語 は ● ○ 型 で は な か った ) と 考 え る 。 そ う す
る と 、 盛 岡 ⋮ ⋮ 大 分 の諸 方 言 で は こ れ ら の 語 は 古 い ア ク セ ント を そ のま ま で 今 日 ま で 持 ち 伝 え た が 、 赤 穂 方 言 で は 次
の 拍 ま で高 く 発 音 す る よ う に な って ● ● 型 に な った 。 尾 鷲 で は さ ら に 助 詞 の 部 分 ま で (高 ) を 送 って ● ● ● 型 と な っ
た 。 京 都 語 ・大 阪 語 で は 次 の拍 の 前 半 に高 い部 分 を 送 って ○ 〓 型 に な った 。 高 知 の方 言 で は 次 の拍 に高 い部 分 を 送 っ
て ○ ● 型 と し た 。 そ う し て 長 崎 と 鹿 児 島 の方 言 で は 、 付 属 語 が つ いた 場 合 、 付 属 語 の 部 分 を 高 く 発 音 す る よ う に な っ
て ○ ○ ● 型 にな った 、 と 見 る わ け で あ る 。 これ は 服 部 四 郎 氏 が ﹁原 始 日 本 語 の 二 音 節 名 詞 の ア ク セ ン ト ﹂( 26)の 中 に 発 表 さ れ た 考 え であ る 。
こ れ に は 別 の考 え 方 も で き る わ け で 、 例 え ば 助 詞 を 伴 った 場 合 こ れ ら を 通 じ て 京 都 の よ う な ○ 〓 ○ の 形 が 古 い。 大
阪 語 な ど 多 く の近 畿 方 言 で は こ れ を ○ ● ○ 型 に 変 え た 。 長 崎 ・鹿 児 島 で は さ ら に そ れ を ○ ○ ● 型 に変 え た 。 東 京 を 含
ん で盛 岡 か ら 大 分 に 至 る 方 言 で は さ ら に ● ○ ○ 型 に変 え た と 見 る こ と も で き る わ け で あ る 。 服 部 氏 は そ れ 以 前 に は 、
そ の よ う な 考 え 方 に 立 って お ら れ た 。( 2 7) ど う いう 見 方 が 正 し いか は 他 の いろ い ろ な 資 料 に よ って 決 定 す る こ と で あ る。
︹二十 六 ︺ ア ク セ ント の 史 的 研 究 と は
前 項 の 考 察 に よ って 、 国 語 の ア ク セ ント の 史 的 研 究 と は 、 そ の 窮 極 に お い て こ う い う こ と を 明 ら か に す る こ と
﹁原 始 日 本 語 の ア ク セ
に な った 。 ︽現 在 諸 方 言 の ア ク セ ン ト は 同 一の 体 系 の ア ク セ ン ト を も ち 、 一 つ 一 つ の 語 彙 が 同 一の 型 に 属 し て い
これは服部 氏以来
で あ って 、 そ れ が ど の よ う に 変 化 し て 現 在 の 諸 方 言 の 状 態 に 達 し た か ︾ と い う こ と を
た 方 言 か ら 別 れ た も の で あ ろ う が 、 そ れ は 、 ど の よ う な ア ク セ ン ト︱ ン ト ﹂ と 呼 ば れ て い る︱ 研究 す る こ と と な る。
服 部 四 郎 氏 に よ る と 、 日 本 語 の ア ク セ ント 史 の 研 究 と は こ う い う も の だ と いう こ と は 、 早 く ポ リ ワ ノ フ (E.D.
(こ の 条 ︹四 十 ︺ の 注 を 参 照 )。 ﹃ 語 勢 沿 革 研 究 ﹄( 28)に よ れ ば 、 旧 制 高 校 在 学 中 の有 坂 秀 世 氏 も そ の よ う な 解
Polivan がo 気v付 ) い て い た よ う で、 そ の内 容 は 彼 の ﹃ 東 洋 語 研 究 者 の た め の 言 語 学 概 論 ﹄ と いう 著 書 の 中 に 見 え る と いう
釈 を 独 立 に 思 い付 い て いた 。 し か し 、 こ の方 面 に 本 格 的 な 研 究 を 進 め た の は 服 部 四 郎 氏 で 、 は じ め て そ の 説 を 発 表 し
た ﹁国 語 諸 方 言 の ア ク セ ン ト 概 論 (1) (︱ 6 ﹂) ( 29)は 、 日 本 語 の ア ク セ ント 史 の 研 究 史 上 の画 期 的 な 論 文 だ った 。
氏 は さ ら に 、 ﹃ア ク セ ン ト と 方 言 ﹄( 30)を 執 筆 し 、 原 始 日 本 語 の ア ク セ ン ト に つ いて の 推 定 を 進 め た 。 そ の 第 一回 は 、
昭和 十 二年 の ﹃ 方 言 ﹄ 七 の六 に 発 表 さ れ た ﹁ 原 始 日本 語 の二音 節 名 詞 のア ク セ ント﹂ ( 次 の ︹ 付 表 10 ︺ で A 案 と 呼
ぶ ) が そ れ で 、 終 戦 後 、 こ の考 え を 改 め て 、 前 に あ げ た ﹁原 始 日 本 語 の ア ク セ ン ト ﹂ (︹ 付 表 10 ︺ で B 案 と 呼 ぶ ) を
寺 川喜 四郎氏 ほ か編 の ﹃ 国 語 ア ク セ ント 論 叢 ﹄( 31)に 発 表 し て お ら れ る 。 二拍 名 詞 に 関 す る と こ ろ を 抜 萃 す れ ば 、 氏 の想 定 さ れ る 原 始 日本 語 の ア ク セ ント は 次 のよ う で あ った 。 ︹付 表 10 ︺
右 の表 は 二 拍 名 詞 に 付 属 語 の つ いた 形 を 示 す 。 な お 、 二 つ の論 文 と も 、 そ れ ぞ れ 原 案 と 改 訂 案 と を 発 表 し て い る 。
ま た 氏 は A の 改 訂 案 を 発 表 し た あ と 、﹁ 琉 球 語 管 見 ﹂( 32)と いう 論 文 の 編 末 に 、 第 1 類 は ● ● ( ● )型 、 第 2 類 は ● ●
(○ )型 だ った と 考 え て も い いと 言 っ て お ら れ る 。 B の 改 訂 案 に つ い て は 、 第 3 類 の 第 二 拍 は 低 高 低 の よ う な 中 高 調
に も 発 音 さ れ た 、 第 4類 ・第 5 類 の第 一拍 は 低 平 調 に も 発 音 さ れ た 、 と 考 え て お ら れ る 。
注 ( 1 ) ︹五十 七 ︺ のペー ジ二 二 七を 参 照 。
(2 ) 小林 英 夫 ﹃ 言 語 研 究 ・問題 篇 ﹄ 三省 堂 刊 行 ( 昭十 二 ・十 二) 所 載 のシ ュ ハルト ﹁ 音 韻 法 則 に つい て少 壮 文 法 学 派 を 駁 す﹂ 。 (3 ) ﹃日本 語 の歴史 ﹄ の別巻 、 平 凡 社 刊行 ( 昭 四 十 一 ・六 )、 ペー ジ九 三 以 下。 (4 ) (5) に引 く文 献 の ペー ジ 三 二 の記述 によ る 。
( 6 ) 三 宅鴻 ・日 野 資純 共 訳 本 、 ページ 四 七三︲四 七 四。
(5 ) 興津 達 朗 訳 ﹃ア メリ カ 言 語学 史 ﹄ 大修 館 刊 行 ( 昭 三十 三 ) 、ページ 三 三 。
( 7 ) ﹁関 東地 方 に於 け る アク セ ント の分 布 ﹂ 日本 方 言 学会 編 ﹃ 日本 語 の アク セ ント ﹄ ( 昭 十 七 ・三 ) 所載 。 ( 8 ) 小 林英 夫 訳 ﹃言 語学 原 論 ﹄ 岩波 書 店 刊行 ( 昭 十 五 ・三)、 ペー ジ 一二六 を参 照。 ( 9 ) 吉 川英 史 ﹃日本音 楽 の歴 史﹄ 創 元 社 刊 行 ( 昭 四 十 ・六)、 ペー ジ 二〇 六 。 (10 ) 音 楽 之友 社 刊 行 ( 昭三 十 五 ・六)、 ペー ジ 一三 六 。
( 昭 四十 三 ) 所載 、 に異 説 があ る 。
(1) 1 ﹃ 方 言﹄ 七 の六 ( 昭十 二) 所載 。 日下 部 文夫 氏 の ﹁ 沖 縄 北 部 方 言 ア ク セ ント 調 査 語 彙 に つ いて ﹂ ﹃ 言語研究﹄第五二号
(12) ﹃日本 語 の アク セ ント ﹄ (7 に前 出 ) 所 載 。 (3 1) 日本 方 言学 会 編 ﹃ 国 語 アク セ ント の話 ﹄ 春 陽堂 刊 行 ( 昭 十 八 ・三 )所 載 。 (14 ) ﹃ 国 語 科 学 講座 ﹄ のう ち の 一冊 。
(15 ) 日本 音 声 学協 会 第 四 三 回例 会 で の発表 。 のち に金 田 一春彦 ﹃ 埼 玉 県 下 に 分布 す る特 殊 アク セ ント の考 察 ﹄ 自家 版 ( 昭
二十 三 ・十 二) と し て発 表 し た。 (16 ) 平 山輝 男 ﹃九州 方 言 音 調 の研 究 ﹄ 学 界 ノ指 針 社 (昭 二十 六 ・八)。 (17 ) ︹八︺ にあ げた 和 田 実 ・妹 尾 修 子 氏 の論 考 を 参 照。
(18 ) 和 田実 ﹁複雑 な アク セ ント 体 系 の解 釈﹂ ﹃ 国 語 学 ﹄第 三 二 号 ( 昭 三 十 三 ) 所 載。 玉井 節 子 ﹁香 川 県 の アク セ ント ﹂ ﹃ 国 語 研究 ﹄ 第 二 〇 号 ( 昭 四 十 )所 載 。
(19 ) 小 川 武 雄 ﹁近畿 アク セ ント に於 け る 下上 (乙) 型 の性 質 ﹂ ﹃日本 語 の アク セ ント ﹄ ( 12 に前 出) 所 載 。 大 原 孝 道 ﹁近畿
アク セ ント にお け る下 上 型 名 詞 の甲 類 ・乙類 の発 生 に 関 す る 一考 察 ﹂寺 川 喜 四男 ほ か編 ﹃ 国 語 アク セ ント 論 叢﹄ 法 政大 学 出 版部 刊 行 ( 昭 二十 六 ・十 二) 所 載 。 (20 ) 寺 川 ・日 下 共 編 ﹃ 標 準 日本 語 発 音 大辞 典 ﹄ 大 雅堂 刊 行 ( 昭 十九 ・六 )。
(21 ) 金 田 一春彦 ﹁ 国 語 アク セ ント 断 想 ﹂ ﹃ロー マ字 世界 ﹄ 三 三 の 一 ( 昭 十 八) に述 べた。
sur
la
Pho( n 中o 国l 語o 訳gi ﹃中 e国 音 C韻 hi 学n 研o 究i ﹄) s、 eペー ジ 五 四八 。
(22 ) 昭和 二十 六 年秋 に行 な われ た 日 本 言 語学 会 の研究 発 表 会 で 聞 いた 。 (23 ) Etudes
(24 ) 泉 井 久 之 助 訳 ﹃ 史 的 言 語学 に於 け る比 較 の方法 ﹄ 政 経 書 院 刊行 ( 昭 九 ・四)、ページ 二。 (25 ) ﹃ 国 文 学 攷 ﹄第 一五 号 ( 昭三 十 一)所 載 。 (26 ) 寺 川 喜 四 男 ほ か編 ﹃国 語 アク セ ント論 叢 ﹄ ( 19 に前 出 ) 所 収。 ペー ジ 一︲一七 。 (27 ) 服 部 四 郎 ﹃ア ク セ ント と方 言 ﹄ ( 14 に前 出 )。 (28 ) 三 省 堂 刊 行 (昭三 十 九 ・十 一)。 (29 ) ﹃ 方 言 ﹄ 一の 一 ・三 ・四、 二 の 一 ・四、 三 の六 ( 昭 六︲八) 所 載 。 (30 ) (14)に前 出。 (31 ) (26)に前出 。 (32 ) ﹃ 方 言 ﹄ 七 の 一〇 ( 昭 十 二) 所 載 。
第 三 節 ア ク セ ン ト 変 化 の 性 格 ︹二十 七︺ 語音 と対 比し た アク セ ント の特 性
比 較 言 語 学 に お いて 共 通 祖 語 を 想 定 す る 時 に は 、 言 語 の変 化 と いう も の は、 ど のよ う に 行 な わ れ る も の で あ る
か と いう こと を 心 得 て いな け れ ば な ら な い。 こ れ が 研 究 を 進 め る 上 の羅 針 盤 であ る。 そ う す る と 、 原 始 日 本 語 の
ア ク セ ント を 想 定 す る た め に も 、 ︽ア ク セ ント の変 化 ︾ と いう も の は ど ん な も の で 、 ど ん な ふう に 行 な わ れ る も の か、 と いう こ と を 明 ら か に し て お か な け れ ば な ら な い。
こ の問 題 は 少 し でも 、 何 か 資 料 に よ って、 現 実 に過 去 の ア ク セ ント が 明 ら か と な り 、 いく つか の方 言 の アク セ
ント の歴 史 的 研 究 が で き て 見 た 上 で な け れ ば 考 え が た い問 題 であ る 。 が、 幸 いに、 ア ク セ ント と 同 じ 性 格 であ る
はず の語 音 に つ い て、 そ の変 化 は ど う いう も の か、 と いう こ と が 明 ら か に な って いる 。 そ れ を 基 に し て考 え れ ば 、 ア ク セ ント の変 化 も ど ん な も のか 見 当 が つく は ず で あ る 。
( Phone )mがe、 日本 語 でも 母
も っと も 、 は じ め に ち ょ っと 注 意 す べ き こと があ る 。 そ れ は 語 音 と ア ク セ ント と の性 格 の違 い の確 認 であ る 。 そ れ は、 ま ず 、 両 者 の構 成 に 関 す るも の で、 語 音 の方 は 、 そ の単 位 を な す 音 素
(Phon) eが me(高) と (低 ) と 二 種 類 し か な く 、 一拍 は 原 則 と し て (高 ) か (低 ) で
音 ・子 音 合 わ せ て 三 十 近 く も あ り 、 そ の組 合 せ の方 式 も 単 純 では な い。 そ れ に 比 し て ア ク セ ント の方 は 、 日本 語 の場 合 、 単 位 を な す 調 素
あ り、 お ま け に そ れ が 組 み合 わ さ れ る 場 合 にも 、 ま た や か ま し い制 限 が あ って 自 由 に は 行 かな い の で、 型 の数 と
いう も のも 多 寡 が 知 れ て いる 。(1 ) 東 京 語 の 一拍 語︱ 六拍 語 に 見 ら れ る 全 部 の型 を 集 め て も 、 東 京 語 の全 部 の音
素 の数 に 及ば な い。 そ こ で 、 語 音 の面 で の変 化 を 言 う 場 合 に、 一つ 一つ の音 素 ま た は 拍 に つ いて 変 化 を 云 々す る
の に 対 し 、 ア ク セ ント の面 では 、 調 素 に つ いて 変 化 を 云 々す る代 わ り に 型 に つ いて 変 化 を 云 々す る こ と が 便 宜 で
あ る。 これ は決 し て音 素 と アク セ ント の型 と が 同 じ 水 準 のも の だ と 考 え る わ け で は な い。 便 宜 だ から そ う す る に
す ぎ な い。
次 に 、 こ れ は 語 音 の 単 位 で あ る 音 素 の数 に 比 べ て 、 ア ク セ ン ト の 単 位 で あ る 調 素 が 問 題 に な ら な い く ら い 少 な
い と いう と こ ろ か ら 副 次 的 に 来 る こ と で あ る が 、 同 音 語 の 数 に 比 べ て 同 型 語 の 数 は 、 比 較 を 絶 し て 多 い。 こ の こ
と か ら ア ク セ ント は、 語 と 語 の識 別 に発 揮 す る 力 が 、 語 音 に 比 す る と、 段 ち が い に小 さ いと 言 わ な け れ ば いけ な
︹十 ︺ で
い 。 ﹁多 寡 が ア ク セ ン ト ﹂ と い う よ う な 蔑 称 は 、 そ こ に 根 ざ す と こ ろ が あ る 。 あ る 語 の 語 音 が が ら っ と 変 わ る と 、
別 の 語 が 生 ま れ た と 解 釈 す る が 、 あ る 語 の ア ク セ ン ト が 一変 し て も 、 別 の 語 に な った と は 言 わ な い 。
し か し 、 ア ク セ ント は お の ず か ら 別 の 働 き 場 所 を も つ。 一つ の 語 の ま と ま り を 示 す 力 で あ る 。 例 え ば
(高 ) の 部 分 が 二 つ に 別 れ て 存 在 す る こ と は な い 。
東 京 語 の ア ク セ ント に は 、 (1) 一つの単 語 の中 に
2) ( 第 一拍 と 第 二 拍 と の 高 さ は 常 に ち が う 。
と いう 性 格 が あ る と 述 べ た 。 こ の う ち 、 (1 は)、 一語 が あ や ま っ て 二 語 と 聞 か れ る こ と を 防 い で い る も の で あ り 、
(2 は)、 語 の は じ ま り を 明 示 し て い る も の で あ る 。 こ の よ う な 、 一語 に ま と ま り を 与 え る 点 で は 、 ア ク セ ン ト の 方
が 、 語 音 に 比 べ て 、 働 き が は る か に 大 き い。 こ の よ う な 語 音 と ア ク セ ン ト と の 相 違 点 は 、 当 然 語 音 の 変 化 と ア ク
セ ン ト の 変 化 の 上 に ち が い と な っ て 現 わ れ て く る は ず で 、 こ れ に 対 し て は 後 に 触 れ る 。( 2)
ア ク セ ン ト が 語 の ま と ま り を 示 す 力 を も って い る こ と を 説 いた 文 献 と し て 、有 坂 秀 世 氏 の ﹃音 韻 論 ﹄( 3)第 二 篇 第 九
章 が あ る 。 こ の は た ら き は ア ク セ ント の中 でも 強 弱 ア ク セ ント の方 に こ と に 顕 著 で、 例 え ば 英 語 な ど で も 、 ア ク セ ン
ト に よ って 語 の 区 別 が でき る の は 、abst対 ra ab c' tstr のa よcう tな 一方 が 名 詞 ・形 容 詞 、 一方 が 動 詞 と いう よ う な 場 合
が 主 で 、 こ れ で は 日 常 生 活 に あ ま り 問 題 に な る こ と も な さ そ う で あ る 。 チ ェ ッ コ語 や ハ ンガ リー 語 な ど は 、 す べ て の
単 語 の ア ク セ ン ト の 頂 点 は 第 一拍 に あ る と いう ( 4)か ら 、 こ う な る と 語 の区 別 に役 立 つ力 は 零 に等 し い。 そ の代 わ り 、
そ の ア ク セ ン ト の 頂 点 が 一つ 一つ の 語 の は じ ま り を 示 す わ け で あ る か ら 、 語 の ま と ま り を 示 す 力 は 絶 大 で あ る 。 英 語
の ア ク セ ント も 、'black ' (= b黒 ir いd 鳥 、 二 語 ) 対'blackb( i =r ツd グ ミ 、 一語 ) の よ う な 例 で 知 ら れ る よ う に 、 語 のま と ま り を 示 す 力 が 大 き い。
高 低 ア ク セ ント の 言 語 の 方 で は 、 タ イ 語 ( 5)や ア フ リ カ の エ フィ ック (Ef) i 語k( 6)の よ う な 、 ( 高 ) (中 ) (低 ) の
三 段 組 織 の言 語 、 メキ シ コ の マサ テ コ (Mazat )語 ec ( 7 o)や 中 国 奥 地 の サ ニイ 語 ( 8)の よ う な 、 (最 高 ) ( 中 高 ) (中 低 )
(最 低 ) のよ う な 四 段 組 織 の言 語 な ど で は 、 ア ク セ ント が 語 の 識 別 に 役 立 つ こ と が 多 い は ず で あ る 。 こ と に こ れ ら の
言 語 で は 、 原 則 と し て 強 弱 ア ク セ ント の言 語 と ち が い、 一拍 の 中 で ( 高 ) か ら (中 ) へ、 あ る いは (高 ) か ら (低 )
(K. L.) の p" iT ko ene Langu( g 9e )s に" よ る と 、 マサ テ コ 語 で は 、 口 笛 で 言 葉 の 用 を 弁 ず る こ と が で
へと いう よ う に 、 高 さ の 変 化 が 行 な わ れ る か ら 、 強 弱 ア ク セ ン ト の 言 語 に 比 べ て 語 の 識 別 に 貢 献 す る と こ ろ は 著 大 で あ る。 パイ ク
き る と いう か ら 、 ア ク セ ン ト の働 き の大 き い こと 知 る べき で あ る 。 し か も 、 こう いう 言 語 で も 一語 の ア ク セ ント と し
て ( 高 低 高 ) と い う よ う な 型 は存 在 し な い傾 向 が あ る よ う で、 こ れ は 、 ア ク セ ント が 語 のま と ま り を 表 わ す の に役 立 と う と し て いる 現 わ れ で あ る 。
日本 語 の ア ク セ ント は (高 ) (低 ) の二 段 し か な く 、 多 く は 拍 の 途 中 で 高 さ の変 化 も 現 わ れ ず 、 こ と に 東 京 方 言 で
は ( 高 ) の拍 と (低 ) の 拍 と の配 置 に 制 限 が あ る か ら 、 語 を 識 別 す る 機 能 は ま こ と に 小 さ い。 が 、 こ の 配 置 の 様 式 こ
そ が 語 の ま と ま り を 示 し て い る の で、 (高 ) の部 分 が (低 ) の部 分 を は さ ん で 位 置 す る こ と が な い こ と は 、 二 語 と い
う 感 を 与 え な いよ う に 配 慮 さ れ て いる こ と を 表 わ し て いる 。 も う 一つ の 語 の、 は じ ま り の 二 拍 の高 さ が 必 ず ち が って
音 韻変 化 と形 態変 化
い る と いう こ と は 、 語 の は じ ま り を 示 す 力 を 発 揮 し て いる こ と を 意 味 し て いる 。
︹二 十 八 ︺ 語 音 変 化 の 二 種 類︱
さ て ア ク セ ント の 変 化 を 語 音 の 変 化 に 準 じ て 考 え る に あ た り 、 い く つ か 注 意 す べ き こ と が あ る 。
第 一に 、 語 音 が 変 化 し た と い う 場 合 、 そ れ に は 、 二 種 類 の も の が あ る こ と で あ る 。 一 つは 、 い わ ゆ る ︽音 韻 変
(ハ)
(Φa) を 経 過 し て (h a) に な った と い う よ う な の は 、 音 韻 変 化 で あ る 。 ﹁私 ﹂ の 語 音 で あ る
﹃ 国 語 音 韻 論 ﹄( 01 )の 説 く と こ ろ が 明 快 で あ る が 、 例 え ば 、 日 本 語 の ﹁春 ﹂ ﹁花 ﹂ ﹁旗 ﹂ な ど の
化 ︾ と 呼 ば れ る も の で 、 他 は ︽形 態 変 化 ︾ と 呼 ば れ る も の で あ る こ と で あ る 。 こ の 二 つ の 区 別 に つ い て は 、 金 田 一京 助 氏 の の 拍 が 、 (Pa) か ら
ワ タ ク シ が 、 ア タ ク シ と な った り 、 ワ タ シ と な った り 、 あ る い は ア タ シ 、 ア タ イ 、 ワ シ に な っ た り す る の も 、 音
韻 変 化 で あ る 。 こ れ に 対 し て 、 シ ャ ボ ン を セ ッ ケ ン と 呼 び 変 え た り 、 カ ツ ド ー シ ャ シ ンを エ イ〓 と 呼 び 変 え た り 、
あ る い は 、 シ ジ ュ ー を ヨ ン ジ ュー と 言 った り 、 ス リ バ チ を ア タ リ バ チ と 言 い換 え た り 、 あ る い は タ ダ と い う の を 、 ふ ざ け て ロハ と 言 った り す る の は 形 態 変 化 に 属 す る 。
こ の よ う な 例 で は 、 二 つ の 変 化 の 相 違 は す こ ぶ る 明 瞭 で あ る 。 音 韻 変 化 の 方 は 、 古 い 形 と 新 し い 形 と の 間 に 類
似 点 が あ り 、 形 態 変 化 の方 は、 古 い形 と 新 し い 形 と が 似 ても 似 つかな いも の だ か ら であ る 。 し か し 、 中 間 のも の
(立 て る ) ・ ハ
( 当 つ る ) ・タ ツ ル
に な る と 、 そ の いず れ で あ る か 迷 う 場 合 が あ る。 ﹃ 国 語 音 韻 論 ﹄ に 言 う 、 ﹁音 韻 変 化 に 紛 れ る 形 態 変 化 ﹂ (1 )が 1 そ れ であ る。
日 本 語 の ﹁当 て る ﹂ ﹁立 て る ﹂ ﹁果 て る ﹂ の よ う な 動 詞 の 連 体 形 は 、 古 代 に あ っ て は ア ツ ル
( 当 て る )・タ テ ル
と いう と 、 金 田 一氏 は そ う で な い
﹁下 二 段 活 用 の 下 一段 活 用 化 ﹂ で あ る 。 こ の 場 合 、 ア ツ ル
(果 つる ) と い う 形 で あ った が 、 近 代 の 日 本 語 で は 、 ア テ ル
( 果 て る ) と いう 形 に な っ て い る 。 国 文 法 に い う
( 立 つる )・ハツ ル テ ル
と ア テ ル、 タ ツ ル と タ テ ル は そ れ ぞ れ 形 が 似 て いる 。 そ れ で は 音 韻 変 化 か ?
と さ れ る 。 こ の よ う な の が 、 ﹁音 韻 変 化 に 紛 れ る 形 態 変 化 ﹂ で あ る 。 な ぜ 、 こ れ は 形 態 変 化 な の か 。
例
そ も そも 、 音 韻 変 化 と 形 態 変 化 と は、 ま ず 、 起 こ る 原 因 が ち がう 。 音 韻 変 化 の方 は 、 そ の社 会 のお と な の無 造
作 な 発 音 が 、 そ れ を 学 ぶ 子 ど も た ち に よ っ て 他 の 発 音 の よ う に 聞 こ え る こ と を 契 機 と し て 起 こ る も の で 、︱
(Φa ) の発 音 を
(Pa) を 発 音 す る つ も り で も 、 唇 を 完 全 に 閉 じ る こ と を 怠
(Φa) の 音 を 発 音 し て い る よ う に 解 し て 、 自 分 た ち は は じ め か ら
え ば 、 ﹁春 ﹂ ﹁花 ﹂ ﹁旗 ﹂ に つ い て 言 う な ら 、 お と な が ると ころから子ど もた ち には
す る よ う に な り 、 そ の結 果 (Pa)← (Φa) の変 化 が 実 現 す る こと にな る 。
これ は 全 く 機 械 的 な も の で あ る 。 心 理 が そ の間 に は た ら く と し て も 、 暗 々裡 のう ち に 自 然 に は た ら く 生 理 ・心
理 学 的 な も の に過 ぎ な い。 こ れ に 対 し て 、 形 態 変 化 の方 に は、 明瞭 に人 間 の心 理 が は た ら く 。 ﹁ 活 動 写真 ﹂ が ﹁映
画 ﹂ に変 わ った りす る 場 合 は 、 古 い呼 び 名 にあ き た ら ず 改 新 し よ う と いう 意 向 が は た ら いて お り 、 ﹁た だ ﹂ を ロ
ハと 言う 場 合 に は 、 他 の人 に わ か らな いよ う に 言 お う と いう 秘 密 の心 理 が は た ら いて いる 。 ア ツ ル ・タ ツ ル が ア
テ ル ・タ テ ルと いう 場 合 に は 、 使 用度 の多 い連 用 形 の ア テ ( 当 て) タ テ ( 立 て ) と いう 形 への ︽類 推 ︾ と いう 心
理作 用 が は た ら いて ア テ ル ・タ テ ル と いう 形 に な った と いう の が、 氏 の説 であ る 。
音 韻 変 化 と 形 態 変 化 と のち が い は原 因 だ け にあ る の で は な い。 経 過 そ のも の にま た 明瞭 な ち が いが あ る。
ま ず 音 韻 変 化 の場 合 に は、 そ の語 の古 い形 と新 し い 形 と の間 に は 、 聴 覚 的 に 似 て いる と いう 性 質 がな け れ ば な
ら な い。 そ う し て、 そ の進 行 の過 程 に は 、 ワ タ ク シが ワ タ シ ・ワ シ や ア タ ク シ に な るよ う な 場 合 で も 、 お と な の
ワ タ ク シ の発 音 で 、 ク の 音 や タ の音 が は っき り し な か った り 、 ワ の Wの音 が 聞 き 取 れな か った り す る こ と が 契 機
と な る。 す な わ ち 、 古 い形 と 新 し い形 と の中 間 のよ う な 形 が 実 際 に 口 頭 に発 音 さ れ る と いう こ と が 条 件 にな る 。
形 態 変 化 の場 合 に 属 す る 語 音 変 化 の場 合 は こ れ と ち がう 。 シ ャボ ン が セ ッケ ン にな る 場 合 、 中 間 の形 を 通 ら な
か った こ と は 言 う ま でも な いが 、 ア ツ ルが ア テ ル に変 わ った と いう 場 合 、 そ の過 渡 期 に お い て、 ツと も つか ず テ
と も つか な い音 が 聞 か れ た と は 考 え ら れ な い。 そ の社 会 のす べ て の人 が ア ツ ルと 言 って いた と こ ろ へ、 何 人 か の
人 が突 如 類 推 を 起 こ し て ア テ ルと 言 いは じ め 、 漸 次 そ の数 が 殖 え て 、 つい に社 会 全 体 が ア テ ル と いう よ う に な っ た 、 と いう の が実 際 であ ろう 。
そ う いう わ け で 、 形 態 変 化 と 音 韻 変 化 と は 、 と も に 語音 の変 化 に は ち が いな いが 、 そ の間 に は 、 明 瞭 な ち が い
があ る。 そ う し て ﹁当 つる ﹂ か ら ﹁当 て る ﹂ へ の変 化 は 、 ﹁類 推 ﹂ と 言 う 名 の形 態 変 化 だ と いう こ と に な る 。 こ
のよ う な 、 音 韻 変 化 に紛 れ る 形 態 変 化 に は 、 ︽類 推 ︾ の ほ か に 、 ︽語 源 俗 解 ︾ (Volksety )mと o呼 lば og れi てeい る
も の 、 イ ェ ス ペ ル セ ン (O. Je sper s en) が ﹃言 語 ﹄( 12)で
﹁単 語 の 混 同 ﹂ と 呼 ん で い る 現 象 な ど が あ る 。
﹁語 源 俗 解 ﹂ と は 、 そ の 語 を 使 って い る 人 が 、 そ の 語 源 を 考 え て 思 い ち が い の 解 釈 を し 、 そ の た め に 本 来 の 語 形
を 変 え て し ま う も の で あ る 。 例 え ば 、 昔 、 疫 病 の コ レ ラ を コ ロ リ と も 言 っ た が 、 そ れ は か か った が 最 後 、 コ ロ リ
と 死 ぬ も の だ と 思 った か ら で 、 別 に レ ラ の 音 が 段 々 に ロ リ に な った の で は な い 。 関 西 方 面 で 、 ﹁煙 突 ﹂ を エ ン タ
ツ と いう 人 が あ る が 、 こ れ は 高 く 立 って い る も の と い う 意 識 か ら ト ツ を タ ツ と 変 え た も の で 、 こ の 例 に は い る 。
イ ェ ス ペ ル セ ン に よ る と 、 英 語 で コ ウ モ リ を 古 く は bak,bakkeと 言 っ て い た が 、 そ れ を 今 batと い う の は 、
﹁棒 ﹂ と いう 語 と 混 同 し た の だ と い う 。 コ ウ モ リ と 棒 で は 何 の 関 係 も な く 、 類 似 点 も な い が 、 子 供 は 発 音 さ え 似
﹁い ざ 知 ら ず ﹂ と な っ た の は 、 誘 い か け の 副 詞
﹁い ざ ﹂ と 混 同 し た
て い れ ば 、 ど ん ど ん い っ し ょ に し て し ま う 。 そ の 混 同 が 後 に 伝 わ った と いう の で あ る 。 こ う いう こ と は 日 本 語 に も し ば し ば 見 ら れ る 。 ﹁い さ 知 ら ず ﹂ が 後 世 も の であ ろ う 。
高 津 春 繁 氏 は 、 ﹁音 韻 変 化 ﹂ と ﹁類 推 ﹂ を 比 較 し 、 物 的 対 心 的 と す る の は 当 た ら ず 、 無 意 識 的 対 意 識 的 と 考 え る べ
き だ と 言 った 。( 13) 筆 者 は 、 音 韻 変 化 は 語 義 に 関 係 の な い変 化 、 形 態 変 化 は 語 義 に 関 係 のあ る 変 化 と 規 定 す る 。
音 韻 変 化 の原 因 に つ い て は 、 有 坂 秀 世 氏 の ﹃音 韻 論 ﹄( 14)が 出 色 で あ る 。 氏 は 従 来 多 く の 学 者 か ら 原 因 と し て 数 え
ら れ て いた も の を 整 理 し て、 次 のよ う な 形 に 組 み立 て ら れ た 。 こ の稿 を 草 す る に あ た り 、 こ の 著 書 に 負 う と こ ろ が 多 いこ と を 感 謝 す る 。 A 表 現 の目 的 に 関 係 あ る も の
1 発 音 を 容 易 な ら し め る 欲 求
Ⅰ 表 現 手 段 を 簡 易 な ら し め る 欲 求
2 記 憶 の負 担 を 軽 減 す る 欲 求
1 発 音 を 明 瞭 ・明 晰 な ら し め る 欲 求
Ⅱ 表 現 手 段 を 有 効 な ら し め る 欲 求
2 言 語 単 位 の自 己 統 一を 明 瞭 ・明 晰 な ら し め る 欲 求 3 種 々 な る 表 現 効 果 を 目 指 す 欲 求 B 表 現 の 目 的 に 関 係 な き も の I 言 語 活 動 以 外 の隣 接 領 域 に 起 こ った 変 化 の影 響 Ⅱ 身 体 的 又 は 精 神 的 素 質 の変 化
今 、 こ のう ち B は 勿 論 の こと 、 A の I Ⅱ の1 2 に つ い て 見 る と 、 そ こ に あ げ ら れ た 例 は いず れ も き わ め て機 械 的 な
原 因 であ る と 言 う こ と が で き る 。 た だ し 、 氏 が挙 げ ら れ た 中 で 、 A Ⅱ 3 ﹁表 現 の効 果 を ね ら う ﹂ と いう も の は 、 心 理
的 要 素 が 強 く 、 形 態 変 化 に 属 さ せ た 方 が よ いと 思 う 。 こ の あ た り に つ い て の 筆 者 の考 え は 、 ﹃金 田 一京 助 博 士 米 寿 記
念 論 文 集 ﹄( 15) の中 の ﹁音 韻 変 化 か ら ア ク セ ント 変 化 へ﹂ の 中 に 述 べ た 。 ﹁打 つ﹂ を ブ ツと 言 い、 ﹁退 く ﹂ を ド ク と 言 う のは こ の 変 化 の例 と 見 る 。
ま た 、 A の音 素 か ら B の音 素 へ音 韻 変 化 が 行 な わ れ る 場 合 、 A と B と が 聴 覚 的 に 類 似 し て いる だ け で は 十 分 で な い。
に よ り 制 限 を 受 け る 、 例 え ば (i) の前 の (k)は(t∫ ) の 音 に 変 わ り や す い が 、 そ の 逆 は 起 こ り に く い、 と か いう よ
例 え ば 語 末 の 子 音 は 消 え る こ と は あ る が そ の逆 は 起 こ り に く い 、 と か 、 子 音 は し ば し ば そ のあ と に つづ く 毎 日 の 口 型
つま り 文 字 を 間 違 え て読 む こ と か ら 起 こ る 変 化 が あ る 。 印 刷 界 で
う な 変 化 の方 向 にも 制 限 が あ る 。 日本 語 に お け る そ の 径 路 に つ い て は 、 金 田 一京 助 氏 の ﹃国 語 音 韻 論 ﹄ 第 三 章 が 詳 し い 。
最 後 に 、 形 態 変 化 の 中 に は 、 文 字 の影 響 で︱
﹁植 字 ﹂ を チ ョク ジ と 言 い 慣 わ し て いる のは 、 ﹁植 ﹂ の字 を そ の ツ ク リ に よ って チ ョク と 読 み ち が え た の が 原 因 で 、 別
に シ ョ> チ ョと いう 音 韻 変 化 を 起 こ し た も の で は な い。 こ の 種 のも の の際 ど いも の にな る と 、 音 韻 変 化 に 紛 ら わ し い
も の が 現 わ れ る 。 例 え ば ﹁頬 ﹂ を ホ ホ と いう 人 が あ る の は 、 戦 前 の歴 史 的 仮 名 遣 い で ﹁ほ ほ ﹂ と 書 いた 、 そ れ を そ の
と おり読 んだ こと に起 こるも の であ る。逆 に ﹁ほほえ む﹂ を ホ ー エムと発 音す る人 が あ る が、 これ は、 ﹁ほ ほ﹂ と書
いたも のは ホーと 発音 す るん だと いう知 識 に基 づ いたも のとす れ ば、 文字 によ る影 響 の例と 見ら れ るが、 も し ﹁頬笑 む﹂ だと考 え て そう言 う のな らば、 ︽語 源俗 解︾ の例 には いる。
︹二十 九︺ アクセ ント変 化 の種 類
前 項 に 述 べ た よ う な 、 音 韻 変 化 と し て の 語 音 変 化 と、 形 態 変 化 と し て の語 音 変 化 、 そ れ ぞ れ に 相 当 す る も の は、
ア ク セ ント 変 化 に も き っと あ る に相 違 な い。 そ れ で は具 体 的 に ど う いう ア ク セ ント 変 化 が音 韻 変 化 に属 す る も の であ り 、 ど う いう ア ク セ ント 変 化 が 形 態 変 化 に 属 す るも の であ る か 。
語 音 変 化 の 場合 には 、 音 韻 変 化 と 形 態 変 化 のち が い の不 明 な も のが あ った が 、 ア ク セ ント 変 化 では こ の境 界 は
さ ら に 識 別 は 困 難 な 場 合 が あ る 。 語 音 変 化 の場 合 は 、 音 素 の種 類 、 拍 の種 類 が 多 い の で、 例 え ば タ ダ か ら ロ ハに
変 わ る よ う な 場 合 、 そ の形 が全 く ち が い、 形態 変 化 であ る こと は 明 ら か であ る が、 ア ク セ ント の方 で は、 ○ ● 型、
● ● 型 、 ○ ○ 型、 ● ○ 型 と いう よ う に 二 拍 語 に 普 通 に 見 ら れ る 型 を 四 種 類 集 め た 場 合 、 ど の 型 の語 を ど の型 の語
と 聞 き 間 違 え る こ と も 起 こ り そ う に も 思 わ れ る 。 そ こ で 、 ア ク セ ント 変 化 に お け る こ の二 種 類 の変 化 の区 別 を 明
ら か に す る た め に 、 語 音 変 化 に お け る こ の 二 種 類 の変 化 を も う 少 し 調 べ て み よ う 。
ま ず 第 一に、 二 つの変 化 の中 で、 音 韻 変 化 の方 は 、 先 に 述 べた よ う に規 則 的 な 変 化 を 起 こす 性 質 が あ る 。パ が
フ ァに 変 化 し た 場 合 は そ の例 で、 ﹁春 ﹂ や ﹁花 ﹂ の第 一拍 は勿 論 の こ と 、 ﹁川 ﹂ や ﹁庭 ﹂ のよ う な 語 の第 二 拍 でも
そ の よ う に変 化 し た と 考 え ら れ る。 そ う し ても し 、 変 化 を 起 こさ な いも の が あ る と す れ ば 、 あ る いは 、 ま た 違 っ
た 方 向 に 変 化 を 起 こし た も のが あ る とす れ ば 、 そ れ は何 か あ る 条 件 のも と に そ う な った と 考 え ら れ る 。 例 え ば 、
フ ァが ハにな る場 合 、 ﹁春 ﹂ や ﹁花 ﹂ な ど の第 一拍 は 現 在 ハに な って いる が 、 ﹁川 ﹂ や ﹁庭 ﹂ の第 二 拍 は 現 在 ワ に
な って いる 。 ハに は な って いな い。 こ れ は フ ァが ハに変 化 す る 以 前 に 、 一つ の語 の第 二 拍 以 下 に 来 る 場 合 に 限 り 、
フ ァ が ワに な る と いう 条 件 変 化 を し た こ と によ るも の であ る 。 音 韻 変 化 の規 則 性 を 制 限 す る 条 件 と し て は 、 こ の
よ う な そ の音 の環 境 によ る こ と が主 で 、 語 頭 か 語中 か 語 尾 か と いう ち が い、 あ る いは ど う いう 音 の前 に来 る か と
か 後 に 来 る か と か が 決 定 の要 素 と な る 。 あ る いは 、 そ の 語 が 無 造 作 に 発 音 さ れ る こと が 多 いと か 少 な いと か そ う
いう こ と も 変 化 を 起 こす 条 件 にな る も の で、 先 の ﹁私 ﹂ と いう 語 が ワタ シ ・ア タ ク シな ど の語 形 に 変 化 し た のは 、
﹁私 ﹂ と いう 語 が無 造 作 な 形 で発 音 さ れ る こ と が 多 い こ と によ る も の であ る 。 だ か ら 、 使 用 頻 度 の 少 な い ﹁ 渡し
舟 ﹂ は ア タ シ ブ ネ に は な ら な か った し 、 タ ク シ ア ゲ ルと いう 動 詞 も 、 タ シ ア ゲ ル に は な ら な か った 。
これ に比 す る と 、 形 態 変 化 の方 には 規 則 的 変 化 と いう こと が 起 こら な い。 タダ が ロハ にな った 場 合 、 ﹁正 し い﹂
と か ﹁た だ れ る ﹂ と か いう 語 が 、 い っし ょ に ロ ハシ イ と か ロハ レ ルと か いう 形 に な ら な か った こと 、 言 う ま で も
な い。 ﹁無 料 ﹂ の意 味 の ﹁た だ ﹂ と いう 語 に 限 った 変 化 であ った 。 そ う いう 中 で 近 世 の初 め に ﹁ア ツ ル﹂ ﹁タ ツ
ル﹂ ﹁ハツ ル﹂ のよ う な 形 か ら 今 の ﹁ア テ ル﹂ ﹁タ テ ル﹂ ﹁ハテ ル﹂ の形 に 変 化 し た の な ど は 、 規 則 的 変 化 の よ う
に見 え る が、 同 じ ⋮ ⋮ ツ ルと いう 形 の動 詞 で も 、 ﹁移 る ﹂ や ﹁祭 る ﹂ のよ う な 、 いわ ゆ る 四 段 活 用 の動 詞 は 、 ウ
テ ルや マテ ル のよ う な 形 に は 変 化 し て いな い。 これ は、 や は り 規 則 的 変 化 の 類 に は 入 ら な い。 音 韻 変 化 に 似 て い る が 、 形 態 変 化 の方 に 属 す る た め で あ る 。
有 坂 氏 の ﹃音 韻 論 ﹄ の中 に、 音 韻 変 化 の 一種 と し て ︽種 々な る 表 現 の効 果 を 目 指 す 欲 求 に基 づ く も の︾ と いう
のが あ る ( 16)が 、 あ れ は常 に 個 別 的 に 変 化 を 起 こす よ う で あ る 。 あ れ は 形 態 変 化 の方 に 属 さ せ て、 音 韻 変 化 に最 も 近 い形 態 変 化 と す べき も の と考 え る 。
と こ ろ で、 語 音 変 化 に お け る 音 韻 変 化 と 形 態 変 化 の間 に は 、 も う 一つ重 要 な 性 質 の相 違 が あ る 。パ 行 音 ← フ ァ
行 音 ← ハ行 音 の場 合 の音 韻 変 化 を 考 え る と 、 音 韻 変 化パ 行 音 が フ ァ行 音 にな った 場 合 に は 、 フ ァ行 音 と いう 新 し
い拍 が 発 生 し 、パ 行 音 と いう 在 来 あ った 拍 が消 失 し た こ と に な る。 フ ァ行 音 が ハ行 音 に な った 場 合 に も 、 古 い拍
の消 失 と 新 し い拍 の誕 生 が あ った 。 音 韻 変 化 が 行 な わ れ る 場 合 は、 こ のよ う に 、 旧 音 韻 の消 失 、 新 音 韻 の誕 生 と
い う よ う な こ と が 起 こ り う る わ け で 、 こ の 意 味 で 、 音 韻 変 化 は ︽音 韻 体 系 の 変 化 ︾ で あ る 。 音 韻 変 化 が 起 こ れ ば
﹁当 つ る ﹂ ﹁立 つ る ﹂ ﹁果 つ る ﹂ が
﹁当 て る ﹂ ﹁立 て
必 ず 音 韻 体 系 の 変 化 が 起 こ る と いう わ け で も な い が 、 と に か く そ の よ う な こ と が 伴 う こ と が あ る と い う 点 で 大 い に特 色 が あ る 。 これ に 対 し て、 形 態 変 化 の場 合 に は 、 例 え ば
る ﹂ ﹁果 て る ﹂ に な る と い う よ う な か な り 規 模 の 大 き い 変 化 が 起 こ っ て も 、 そ の た め に 古 い 音 韻 が 消 失 し た り 、
新 し い 音 韻 が 発 生 し た り す る こ と は 、 一般 に は な い 。 一つ の 語 、 ま た は 一群 の 語 の 語 音 が 、 そ の 音 韻 体 系 を 構 成 メ ン バ ー の 一 つ か ら 他 の も の へ変 動 す る だ け で あ る 。
こ の よ う に見 て く る と 、 音 韻 変 化 に 属 す る 語 音 変 化 は 、 形 態 変 化 に 属 す る 語 音 変 化 に 比 べ て 、 比 較 を 絶す る く ら いそ の言 語 体 系 に と って 重 要 な 意 味 を も つと 言 う べき で あ る 。
高 津 春 繁 氏 の ﹃比 較 言 語 学 ﹄ で は 、 音 韻 変 化 に 二 つ のも の が あ り 、 ︽条 件 変 化 ︾ と ︽無 条 件 変 化 ︾ と さ れ た 。( 17)語
音 の変 化 に そ の例 を 求 め れ ば 、 日 本 語 の 上 に 起 こ った (P)>(Φ) と いう 変 化 は 、 あ ら ゆ る 位 置 の (P ) の上 に 起 こ っ
た 変 化 であ る か ら 、 無 条 件 変 化 に 属 す る が 、 つ い で ﹁川 ﹂ や ﹁庭 ﹂ の 上 に 起 こ った (Φ)>(W ) と いう 変 化 は 、 語 頭 以 外 と いう 、 限 ら れ た 位 置 だ け に 起 こ った 変 化 であ る か ら 、 条 件 変 化 に 属 す る 。
さ て 、 ア ク セ ント 変 化 にも こ の 二 つ の 別 が あ る は ず で あ る 。 が 、 実 際 に は 、 語 音 の 面 に お け る 無 条 件 変 化 に 対 応 す
る 変 化 は 、 ア ク セ ント の 面 で は 例 が ほ と ん ど な さ そ う だ 。 な ぜ な ら ば 、 ア ク セ ン ト の 面 に お い て、 音 素 に 対 応 す る 調
調 素 が た った 一種 類 に な って し ま う 。
素 は 、 一般 に き わ め て 少 数 で あ り 、 日 本 語 の 場 合 は (高 ) (低 ) 二 種 し か な い。 も し 、 そ のう ち の 一方 が 他 に 変 化 す つま り (低 )← (高 ) と いう よ う な 変 化 が 起 こ った と す れ ば︱
( 高 ) が (低 ) に変 化 す る と か いう 風 で あ る 。 す な わ ち 、
こ れ は ア ク セ ント の 廃 滅 を 意 味 す る も の で あ る か ら 、 こ う いう 変 化 は め った に 起 こ る も の で は な い。 多 く の 変 化 は 、
る と す れ ば 、︱
(高 ) に 続 く (低 ) が (高 ) に変 化 す る と か 、 (低 ) に 続 く
ア ク セ ント の変 化 は ほ と ん ど 全 部 が 条 件 変 化 で あ る と いえ る 。 た だ し 、 そ れ な ら ば ア ク セ ント 変 化 に無 条 件 変 化 が 絶
対 に 起 こ ら な い か と いう と 、 そ ん な こ と は な い。 日 本 語 方 言 の中 に ︽一型 ア ク セ ント ︾( 18)の 方 言 と 称 す る も の が あ
る 。 こ の方 言 は 、 原 則 と し て 拍 は 一種 類 の 調 素 し か も た な い。 こう いう ア ク セ ント 体 系 が で き た に つ い て は 、 無 条 件
変 化 が 行 な わ れ た に 相 達 な い。 ま た 、 日 本 語 か ら 離 れ て 、 他 の 言 語 の ア ク セ ン ト を 考 慮 す る と 、 ︹二 十 七 ︺ に 述 べ た
よう な ( 高 ) (中 ) ( 低 ) の 三 段 組 織 の ア ク セ ン ト 体 系 を も つ言 語 も あ り 、 さ ら に 、 四 段 組 織 のも の も あ る と 言 う 。 こ のよ う な 言 語 に お い て は 、 ア ク セ ン ト の無 条 件 変 化 も 起 こ り や す い に相 違 な い 。
な お 、 ソ シ ュー ル (F ・ d se a u s su r e) は 、 音 韻 変 化 は 原 則 的 に は 条 件 的 に 生 じ る も の で、 一見 無 条 件 のよ う に 思 わ
れ る も のも 、 実 は 、 条 件 が 隠 れ て いる た め に 、 あ る いは 、 あ ま り 一般 的 にす ぎ る た め 、 人 に 気 づ か れ な いか ら であ る 、
と 言 って い る 。( 19) す る と 、 無 条 件 変 化 が な いと いう のは ア ク セ ン ト の 面 に 限 った こ と で も な い か も し れ な い。
ま た 、 ソ シ ュー ル は 音 韻 変 化 と 類 推 と を 比 較 し て、 音 韻 変 化 は 新 し い形 が 生 ま れ る た め に は 、 古 い形 が 消 失 す る こ
と が 条 件 で あ る の に 対 し て 、 類 推 の 場 合 は 、 新 し い 形 が 生 ま れ て も 、 古 い形 も 共 存 し う る こ と を あ げ て いる 。( 20) ソ
シ ュー ル が 類 推 に つ いて 言 った こ と は 、 形 態 変 化 一般 に 言 え る こ と で 、 ワ セ ダ ダ イ ガ ク の略 称 ソ ー ダ イ が 生 ま れ て も 、
ワセ ダ ダ イ ガ ク と いう 本 称 も そ の ま ま 用 い ら れ る 。 ソ シ ュー ルは こ の こ と か ら 、 類 推 作 用 と いう も のは 新 し い語 の誕 生 で あ って 、 古 い語 が 変 化 し た の で は な い と 説 いた 。
︹三十 ︺ 音 韻 変 化 に 属 す る アク セ ン ト 変 化
前 項 の考 察 に導 かれ て 、 ア ク セ ント の変 化 の中 を 、 音 韻 変 化 に 属 す るも のと 、 形態 変 化 に 属す る も のと に分 け て み れ ば 次 のよ う にな る 。
ま ず 、 意 義 ・用 法 な ど に か か わ ら ず 規 則 的 な 変 化 を 起 こ す も の は 、 音 韻 変 化 と し て の ア ク セ ン ト 変 化 に 入 れ ら
れ る 。 私 たち は 、 日本 各 地 の諸 方 言 の ア ク セ ント に 規 則 的 な 型 の対 応 関 係 が 見 ら れ る こと か ら 、 祖 語 の ア ク セ ン
﹁型 そ の も
ト 体 系 か ら 規 則 的 な 変 化 を 遂 げ て 現 在 の よ う な 状 態 に 達 し た と 解 釈 し た 。 こ の よ う な 場 合 に 起 こ った と 想 定 し た
ア ク セ ント の 変 化 は 、 音 韻 変 化 に 属 す る ア ク セ ント 変 化 に 相 違 な い。 服 部 四 郎 氏 は こ のよ う な 変 化 を
の の 変 化 ﹂ と 呼 ば れ た 。 ︽型 そ のも の の 変 化 ︾ が 起 こ る 場 合 に は 、 今 ま で あ った 型 が 消 失 し た り 、 あ る い は 今 ま
でな か った よ う な 型 が発 生 す る こ と が あ る はず であ る。 し た が って アク セ ント 変 化 の中 で、 こ のよ う な 型 そ のも
の の 変 化 は 、 重 要 な 性 質 を も った 変 化 であ る と いう べ き で あ る 。 そ う す る と 、 ア ク セ ント の歴 史 を た ず ね る 場 合
に は 形態 変 化 を さ し お いて 、 型 そ のも の の変 化 を ま ず 考 え 、 そ れ に よ って歴 史 を 構 成 し 、 あ と そ れ に 付随 し て 形 態 変 化 に 属 す る ア ク セ ント 変 化 を 考 え る べき だ と いう こ と にな る。
そ れ で は 、 祖 語 の ア ク セ ント か ら 現 在 諸 方 言 の ア ク セ ント に 分 派 す る 場 合 、 ど の よ う な 径 路を 通 って き た か 。
一つ の型 か ら そ の型 と 聴 覚 的 に類 似 し た 型 へと 変 化 し て き た に相 違 な い。
︹Ⅰ に︺ よ(れ2ば )、聴 覚 印 象
有 坂 秀 世 氏 の ﹃音 韻 論 ﹄ の 説 く と こ ろ ( 21)に 従 え ば 、 ま ず そう いう 変 化 の原 因 と し て 、 次 のよ う な も の が働 き 、
︹Ⅰ(︺1) 発 音 を 容 易 な ら し め る欲 求 (2) 記 憶 の負 担 を 軽 減 す る欲 求 ︹Ⅱ︵︺1) 発 音 を 明 瞭・ 明 晰 な ら し め る 欲 求 (2) 言 語単 位 の自 己 統 一を 明 瞭 ・明 晰 な ら し め る 欲 求
そ の 際 、︹Ⅰ(︺1 に) よ れ ば 、発 音 し にく い型 から 発 音 し や す い型 へ変 化 し た であ ろ う し 、
の似 た 型 の統 合 と いう 線 に 変 化 し た で あ ろ う 。︹Ⅱ(︺1 に)よ れ ば 、 類 似 の型 に 対 し て そ れ と は ち がう 方 向 へ変 化 し
た 場 合 も あ る であ ろ う し 、 ︹Ⅱ︺に (よ 2れ ) ば 、 一語 と し て のま と ま り を 示す の に都 合 のよ い型 、 語 頭 が は っき りす る
よ う な 型 に 変 化 す る こと が あ った であ ろ う 。 そう し て、 ︹Ⅱ︺の (言 2語 ) 単 位 の 自 己 統 一を 示 す こ と が 、ア ク セ ント の
大 事 な 働 き であ って み れ ば 、 ︹Ⅱ(︺2 に) よ って変 化 す る こ と は 、 語 音 変 化 の場 合 よ り も 多 か った であ ろ う 。
先 に、 ︹ 十 八 ︺ に述 べ た 広 島 方 言 で、 ○ ● ● 型 の 語 が 一斉 に ○ ○ ● 型 に 変 化 し つ つあ る と す る 。 こ の原 因を 考
え て み る と 、 元 来 高 い音 を 発 す る こと は 、 低 い音を 発 す る よ り も 声 帯 を よ け い振 動 さ せな け れ ば な ら ず 、 労 力 を
よ け い使 う か ら 、 と か く 嫌 わ れ る 。 そ の上 、○ ● ● と いう 音 調 は 、 第 二 拍 を 第 一拍 と ち が う 高 さ で 発 音 す る と い
そ う し て、 ほ か に、 ○ ○ ● 調 の型 が元 来 な く て、 他 の型 と混 同 す る 恐 れ が
う こ と で も う 一 つ抵 抗 が あ る 。 ○ ○ ● 調 な ら ば 、 第 一拍 と 同 じ 高 さ で 第 二 拍 を 発 音 し て い い 。 こ う い う 二 つ の 望 ま し く な い こ と を 除 去 す る た め に︱
な いと い う 消 極 的 な 理 由 が あ っ て 、 ○ ● ● 型 が ○ ○ ● 型 に 変 化 し よ う と す る も の と 思 わ れ る 。
先 に 音 韻 変 化 と 呼 ん だ 語 音 変 化 の 場 合 に は 、 ﹁私 ﹂ ← ワ タ シ、 ア タ ク シ のよ う な 、 無 造 作 に 発 音 さ れ る た め に 起 こ
った 個 別 的 変 化 と も 見 ら れ る よ う な 音 韻 変 化 の例 があ った 。 ア ク セ ン ト 変 化 の 場 合 に は 、 こ のよ う な 例 は な いだ ろ う
か 。 考 え つく の は 、 今 東 京 語 で 、 ﹁僕 ﹂ と いう 第 一人 称 の 代 名 詞 が 、 ボ ク か ら ボ ク と い う 型 に 変 化 し つ つあ る こ と が
思 い当 た る 。 こ れ は ﹁僕 ﹂ と いう 語 が 日 常 あ ま り プ ロミ ネ ン スを 置 か れ て 発 音 さ れ る こ と が な いた め に 、 ボ ク と いう
ア ク セ ント を も つ語 で あ る か 、 ボ ク と いう ア ク セ ント を も つ語 で あ る か は っき り し な く な り 、 ボ ク と いう ア ク セ ン ト
が 生 ま れ た も の と 想 像 す る 。 も し こ の 想 像 が 当 た っ て いる な ら ば 、 こ れ は 無 造 作 に 発 音 さ れ る こ と が 原 因 に な った ア
︹ 三 十一︺ に 述 べ る 表 現 効 果 を め
ク セ ント 変 化 の 一例 と 考 え る 。 し か し 、 ま た 、 ﹁僕 ﹂ と いう 言 葉 の 内 容 は ● ○ 型 の ア ク セ ン ト よ り も ○ ● 型 の ア ク セ
ント の 方 が ふさ わ し い と い う 原 因 か ら 変 わ った と 見 ら れ な く も な い。 そ う 解 す れ ば ざ し た 形 態 変 化 の 一種 と い う こ と に な る 。
ン ニチ ワ 、 サ ヨ オ ナラ のよ う な 型 に 変 化 し た と 考 え ら れ る が 、 こ れ も サ ヨ オ ナ ラ が サ イ ナ ラ にな った り 、 コ ン ニチ ワ
ま た 、 ﹁今 日 は ﹂ ﹁さ よ う な ら ﹂ の よ う な 挨 拶 に 用 いら れ る 語 は 、 コ ン ニチ ワ 、 サ ヨオ ナ ラ のよ う な 型 か ら 、 今 の コ
が ンチ ャー と な った り す る も の と 同 じ も の で 、 無 造 作 に 発 音 す る こと が 原 因 で 起 こ った 個 別 的 音 韻 変 化 の例 か と 解 さ
﹁八 が 岳 ﹂ を 略 し て
れ る 。 し か し こ れ も 、 こ れ ら の言 葉 が い つも い っし ょ に 用 いら れ る イ ント ネ ー シ ョ ン の影 響 に よ る 変 化 の例 と も 解 さ れ る。
︹三 十 一︺ 形 態 変 化 に 属 す る アク セ ン ト 変 化
次 に 、 ア ク セ ン ト 変 化 の中 で 、 形 態 変 化 に 属 す る も の に は ど ん な も の が あ る か 。 山 の 名 前
﹁や つ﹂ と いう 場 合 が あ る が 、 こ の と き 語 音 が 短 縮 す る と 同 時 に 、 ア ク セ ント も ○ ● ● ○ ○ か ら ● ○ に 変 わ る。
こ のよ う な のは 形 態 変 化 の方 だ 、 と 言 う の は 、 拍 の 数 も 変 化 す る か ら 明 ら か す ぎ る 。 問 題 は や は り 音 韻 変 化 に 紛
れ る 形 態 変 化 の 場 合 で あ る。 語 音 変 化 の 面 で、 ﹁当 つる ﹂ ﹁立 つる ﹂ ﹁果 つる ﹂ が ﹁当 て る ﹂ ﹁立 て る﹂ ﹁果 て る﹂
に な った の は 、 多 く 用 いる 連 用 形 への類 推 に よ る 形 態 変 化 だ と 述 べた が、 こ れ に似 た も のを ア ク セ ント 変 化 の 面
で 探す と 、 秋 永 一枝 氏 は 、 東 京 で 、 今 子 供 た ち は 、 ﹁白 か った ﹂ と いう 語 を シ ロカッ 外 と 言 い、 ﹁白 け れ ば ﹂ を シ
ロケ レ バと 言 う こと を 注 意 し て いる 。( 22) これ は 、 シ ロイ と いう 終 止 形 や 、 他 方 、 ア カ カ ッタ 、 ア カ ケ レ バと い
う 形 への類 推 に ち が いな い。 も し 、 これ が 一時 的 な も の では な く て、 シ ロカ ッタ> シ ロカ ッタ と いう 変 化 が実 現
す れ ば 、 そ れ は 類 推 に よ る 変 化 の例 であ る。 こ れ は 形態 変 化 の 一種 であ る 。 アク セ ント は 日本 の正 字 法 で は 文 字
に表 わ さ れ ず 、 ま た 、 そ のち が いは 比 較 的 無 関 心 で過 ご さ れ てき た 。 そ のた め に類 推 によ る変 化 は ず いぶ ん 活 発
に行 な わ れ てき た にち が いな い。 東 京 語 で ﹁赤 と ん ぼ﹂ ﹁影 法 師 ﹂ な ど が、 アカ ト ン ボ 、 オ ゲ ボー シ の形 か ら 、
ア カ ト ンボ 、 カ ゲ ボ ー シ の形 に移 り つ つあ る 。 これ は、 よ く 話 題 に な る が 、 あ れ も ﹁何 々と ん ぼ ﹂ ﹁何 々 ぼう し ﹂
と いう 形 の ア ク セ ント が大 部 分 ○ ● ● ● ○ 型 で あ る こ と への類 推 に よ るも の と 解 さ れ る 。 三 拍 名 詞 に○ ● ● (● )
型 の語 が 多 く な り つ つあ り 、 四 拍 名 詞 に ○ ● ● ● (● )型 の語 が多 く な り つ つあ る のも 、 多 数 へ の類 推 に よ る 場 合 が 多 い であ ろう 。
次 に 、 形 態 変 化 に 属 す る 語 音 変 化 のう ち 、 ︽語 源 俗 解 ︾ に 相 当 す るも のを 、 ア ク セ ント の面 か ら 探 す と 、 東 京
で若 い世代 が オ ト メ (乙女 )、オキ ナ ( 翁 ) の よ う な 語 を 、 オ ト メ、 オ キ ナ のよ う な ア ク セ ント で 言 う 傾 向 が あ
る 。 ○ ● ○ 型 と いう 型 は 名 詞 に は あ ま り 多 く 現 わ れ な い型 で あ って、 他 の 型 か ら 新 し く こ の型 に転 向 す る と いう
こと は 、 よ く よ く の こ と であ る 。 で は な ぜ ﹁乙 女 ﹂ ﹁翁 ﹂ は 変 化 す る の か。 そ れ は 、 ﹁お 何 ﹂ と いう 形 の 語 に は、
オ ヤ ツ、 オ ス シ な ど 、 ○ ● ○ 型 のも の が 比 較 的 多 い。 そ う す る と、 こ れ ら の 語 は 、 若 い 人 は こ れ を ﹁お ﹂+ ﹁何 々﹂ と いう 形 に俗 解 し 、 そ の結 果 ○ ● ○ 型 に発 音 す る も の と 考 え ら れ る 。
ま た 、 先 に有 坂 氏 の ﹃音 韻 論 ﹄ の中 で は、 音 韻 変 化 の 一種 と さ れ て いた が、 ︹二 十 九 ︺ で 筆 者 が 形 態 変 化 の 一
種 と 考 え よ う と し た も の に 、 ︽種 々な る表 現 効 果 を 目 指 す 欲 求 に よ る変 化 ︾ と いう も の が あ った 。 こ の種 の 変 化
は 当 然 アク セ ント 変 化 に も あ る 。 例 え ば 東 京 語 で、 数 詞 の ﹁五 ﹂ や ﹁九 ﹂ は 、 一時 代 前 ま で は 、 ○ (● )型 であ っ
た のを 、 今 で は 、 ● (○ )型 に言 う のが 普 通 で あ る 。 こ れ は な ぜ か と考 え て み る と 、 ○ ( ● )型 の よ う に、 そ の名 詞
の部 分 だ け 低 く 発 音 す る の は、 印 象 が 薄 く 、 相 手 に 対 し て 正 確 に伝 わ り そ こな う も の であ る が、 ﹁五 ﹂ や ﹁九 ﹂
の よ う な 数 字 は間 違 え て 伝 わ る と 、 し ば し ば 重 大 な 事 態 を ひ き 起 こし か ね な い。 そ のた め に こ の語 は は っき り発
音 し な けれ ば と いう わ け で、 ● ( ○ )型 の ア ク セ ント に 変 化 し た も のと 思 わ れ る 。 ﹁ど こ ﹂ ﹁だ れ ﹂ の よう に疑 問 を
表 わ す 語 が 、 東 京 語 で 頭 高 型 に な って いる のも 、 同 じ よ う な 原 因 で変 化 し た 結 果 で あ ろ う 。
以 上 の よ う に、 形態 変 化 に属 す る ア ク セ ント 変 化 には いろ いろ の種 類 のも の が あ り 、 多 く の具 体 例 が あ げ ら れ
る が、 こ れ ら は す べて 語 音 変 化 にお け る 形 態 変 化 と 同 様 で次 のよ う な 性 格 を 有 す る も の と考 え ら れ る 。
(1) そ れ が規 則 的 な 変 化 で あ る こ と は な く 、 そ の変 化 を 起 こす 語 は 、 一語 か あ る いは意 義 の上 で 、 職 能 の上 で 共 通 の性 質 を も つ 一群 の語 であ る。
(2) そ の変 化 は 、 A の 型 か ら Aと は 全 然 似 寄 り のな いB の型 へ跳 躍 的 に移 る こと があ る 。 そ の変 化 の途 中 で、
A B 両 型 の いず れ と も つか な い発 音 が聞 か れ る と いう よ う な こ と は 必 要 でな い。
(3)こ のよ う な 変 化 が 起 こる こ と に よ って 、 新 た な 型 が 殖 え る こと は な い であ ろう 。 消 滅 す る こと も 原 則 と し て な いであ ろ う 。
こ の意 味 で は 、 形 態 変 化 に属 す る 変 化 は、 す べ て 語彙 的 変 化 と 呼 ぶ べ き も の であ る 。 す な わ ち ア ク セ ント の変
化 のう ち で 、 音 韻 変 化 に 属 す るも の に比 べ て よ り 重 要 性 の少 な い変 化 であ る 。 た だ し 、 こ の種 の変 化 は 突 発 的 に
起 こり 、 平 地 に波 瀾 を 起 こす の で、 音 韻 変 化 に属 す る ア ク セ ント 変 化 よ り も 一般 人 の注 意 を ひ く こ と が 大 き い こ
と は 注 意 し な け れ ば な ら な い。 よ く 世 間 で 若 い人 た ち の ア ク セ ント が め ち ゃく ち ゃだ と 言 い、 ま た ア ク セ ント な
ど と いう も の は 簡 単 に 変 化 し や す いも の だ と いう 叫 び を 聞 く の は こ の 種 の ア ク セ ン ト 変 化 に 注 意 し て の こ と で あ る。
イ ェ スペ ル セ ン が ﹃言 語 ﹄ で い った ︽単 語 の 混 同 ︾( 23)に相 当 す る ア ク セ ント 変 化 も あ る に 相 違 な い 。 我 々 が 日 常
滅 多 に 用 いな い語 を 口 に す る 場 合 、 そ の ア ク セ ン ト は 、 よ く 用 い る 同 音 語 の そ れ と 同 じ に す る こ と が し ば し ば あ る 。
例 えば 、 ﹁ 椀 ﹂ と い う 語 に 遭 遇 す る と 、 ﹁毬 ﹂ の よ う に 言 い、 ﹁葡 萄 ﹂ と いう 語 に ぶ つ か る と ﹁海 老 ﹂ と 同 じ ア ク セ ン
ト に 言 う 。 これ ら は 古 い時 代 に は ち が い が あ った か も し れ な い と 思 わ れ る 。 東 京 で ﹁雲 ﹂ と ﹁蜘 蛛 ﹂ を 同 じ ア ク セ ン
ト で 言 う の でよ く 地 方の人 に 攻 撃 さ れ る が 、 あ れ も 東 京 人 の先 祖 が ﹁雲 ﹂ の ア ク セ ント を ﹁蜘 蛛 ﹂ に混 同 し た の で は な いかと思 われ る。
さ て 筆 者 は 、 ア ク セ ント 変 化 を 、 前 項 と こ の 項 と で 、 音 韻 変 化 に 属 す る も のと 、 形 態 変 化 に 属 す る も の と に 分 け て
論 じ た が 、 こ の 区 別 は 、 筆 者 が 論 文 ﹁音 韻 変 化 か ら ア ク セ ン ト 変 化 へ﹂( 24)中 で初 め て 論 じ た と こ ろ で あ る 。 こ の 区
別 は 、 当 然 多 く の人 に よ って 指 摘 さ れ る べ き で あ った が 、 指 摘 す る 人 な し に 今 日 に至 った 。 こ れ は な ぜ か と 考 え る と 、
従 来 の 学 者 は ア ク セ ン ト と いう も のを 音 素 の 同 等 のも のと 見 、 筆 者 の語 音 に 相 当 す る 術 語 が な か った 。 ア ク セ ント の
変 化 と いう と 、 そ れ は す な わ ち 音 素 の 変 化 に な って し ま った 。 こ の稿 で ア ク セ ント 変 化 に こ の二 つを 考 え る こ と が で
き た の は 、 ア ク セ ント を 音 素 で は な く て、 語 音 に 相 当 す る も の と 考 え た た め で、 こう いう こ と か ら 、 ア ク セ ン ト に お
け る 調 素 と いう も の が 、 語 音 に お け る 音 素 に相 当 す る も の だ と いう 筆 者 の考 え 方 が よ い こ と が 知 ら れ る と 思 う が 、 い か が で あ ろ う か 。( 2 5)
︹三 十 二 ︺ 他 の 言 語 体 系 か ら の 借 用
ア ク セ ン ト 変 化 と い う こ と に つ い て 、 次 に も う 一つ 触 れ て お き た い こ と は 、 ︽他 の 言 語 体 系 か ら の 借 用 ︾ と い
う 問 題 で あ る 。 比 較 言 語 学 で 、 一 つ の 音 韻 変 化 が 規 則 的 に 行 な わ れ る の を 妨 げ る 要 因 と し て 二 つ のも の を 重 要 視
す る が、 そ の 一つと し て ︹二十 八 ︺ に述 べ た ︽類 推 ︾ を 数 え 、 も う 一つ、 類 推 と 並 べ て ︽借 用 ︾ と いう も のを 数 える。
例 え ば 、 東 京 語 で ﹁白 く ﹂ に ﹁ご ざ いま す ﹂ が つく と 、 シ ロー ゴ ザ イ マ ス と いう 。 こ れ は、 (ku) が (u) を
経 過 し て ︽引 く 音 ︾ に成 る と いう 音 韻 変 化 を し た よ う に 思 わ れ る が 、 ﹁東 京 語 で﹂ と いう 限定 を 加 え た 場 合 は 、
そ う 言 っては 正 し く な い。 (ku)>(u)>(R) の変 化 は 関 西 地方 で 起 こ った も の で あ る。 関 西 方 言 で そ う いう 音 韻
変 化 を し た そ のあ と の形 を 、 東 京 語 で 移 入 し た と いう の が事 実 であ る 。 こ の よ う な 場 合 に は 、 東 京 語 で は ク> ー
と いう 規 則 的 な 音 韻 変 化 が こ の方 言 に 起 こ って いな いに も か かわ ら ず 、 あ る 一部 の 語 に 、 こ の ク>ー と いう 変 化
の結 果 が 現 わ れ る 。 他 言 語 ・他 方 言 か ら の借 用 の場 合 に は 、 音 韻 変 化 は 個 々 の語 あ る いは 語 群 の上 に起 こ る の が 普 通 で、 こ の点 、 形 態 変 化 と 似 て いる 。
ア ク セ ント にお いて も 、 こ のよ う な 変 化 は 当 然 あ った にち が いな い。 現 在 東 京 に 近 い神 奈 川 ・埼 玉 ・群 馬 や 静
岡 県 下 の 伊 豆 地 方 な ど で、 ﹁命 ﹂ ﹁眼 鏡 ﹂ の類 の 語を 、 老 人 はイ ノ チ 、 メ ガネ と 言 う が、 若 い世 代 はイ ノ チ 、 メ ガ
ネ と 言 う 傾 向 が盛 ん であ る。 これ は こ の地 方 で ○ ● ○ 型> ● ○ ○ 型 と いう 変 化 が 起 こ って いる と は 解 釈 し が た い。
な ぜ な ら 、 ○ ● ○ 型 に属 す る 他 の多 く の語 は 、 ○ ● ○ 型 で が ん ば って い て微 動 だ にも し な いか ら 。 と す る と、 こ
れ は 、 こ れ ら の 地 方 で東 京 のア ク セ ント で● ○ ○ 型 に言 う のを 聞 いて 、 これ に 魅 力 を 感 じ 、 これ ら の語 に 限 って ● ○ ○ 型 に発 音 す る よ う に な った も のと 考 え る 。
こ こに述 べたよ うな こと は過 去 の日本 語 にも き っとあ った ろう と思 われ る。 も っとも 過去 の日本語 のアク セ ント の
姿を 示す 文献 が京 都 以外 は残 って いな いか ら、 し っかり と こ の例 を定 め るに は いかな いが、 例え ば東 京 語 にこん な例 があ る。
東 京 では 、元 来京 都語 で○ ●○ 型 の語は 、東京 語 で● ○○ 型 であ る が、 次 のよう な ﹁お 何 々﹂と いう 形 の語 に限 っ
て東 京 で も ○ ● ○ 型 で あ る 。
﹁お 供 ﹂ ﹁お 世 話 ﹂ ﹁お も ち ゃ﹂ ﹁お 昼 ﹂ ﹁お 三 ﹂ ﹁お 露 ﹂ ﹁お 菓 子 ﹂ ﹁お し ゃれ ﹂ ﹁お つむ ﹂ ﹁お む つ﹂ ⋮ ⋮ そ う し て 京 都 語 で ○ ○ ● 型 の 語 は 、 東 京 で ○ ● ● 型 であ る 。
﹁お 宮 ﹂ ﹁お 客 ﹂ ﹁お 寺 ﹂ ﹁お 米 ﹂ ﹁お 山 ﹂ ﹁お ほ め ﹂ ﹁お 鉢 ﹂ ﹁お 菜 ﹂ ﹁お あ し ﹂ ﹁お こ わ ﹂ ﹁お そ ば ﹂ ﹁お か ゆ﹂ ﹁お 礼﹂ ⋮⋮
こ の よ う な 型 の対 応 は 、 他 の種 類 の 語 に つ いて は 、 全 く 見 ら れ な い。 そ う だ と す る と 、 こ れ は 京 都 語 が ア ク セ ント ごと東京 語 の中 に移 入さ れた例 と考 え られ る。
な お、 本 文 に述 べた ﹁ 命 ﹂ ﹁眼 鏡 ﹂ な ど の 語 が 、 東 京 語 で そ れ ら の 地 域 と ち が って ● ○ ○ 型 に な って い る の は な ぜ
か と いう こ と が 問 題 に な り そ う だ 。 こ れ は 、 筆 者 は 、 東 京 語 で 一時 代 前 に 、 ● ○ ○ ○ 型 と ○ ● ○ ○ 型 と の混 同 と いう
音 韻 変 化 が 起 こ っ て 、 こ の時 に イ ノ チ ガ 、 メ ガ ネ ガ が 、 イ ノ チ ガ 、 メ ガ ネ ガ に 変 わ った の だ と 思 う 。 東 京 で 周 辺 の方
のを ア リ ガ ト ー と 言 う のも 、 こ の時 の 変 化 に よ る も のと 考 え る 。 こ の あ と 、 単 独 の 場 合 の ○ ● ○ 型 が 、 助 詞 の つ いた
言 と ち が い 、 ﹁赤 か った ﹂ ﹁赤 け れ ば ﹂ の類 を 、 ア カ カ ッタ 、 ア カ ケ レ バ と 言 い、 ア リ ガ ト ー と 言 った ら よ さ そ う な も
形 に 類 推 し て ● ○ ○ 型 に 変 化 し た も の で 、 そ れ は 形 態 変 化 の例 と 考 え る 。 こ の こ と は 、 ﹁東 京 ア ク セ ン ト の特 徴 と は
言 語体系 の取換 え
何 か ﹂ と﹁ 房 総 ア ク セ ン ト 再 論 ﹂ の 中 で 述 べた 。( 26)
︹三十 三︺ ア ク セ ント 変 化 に 似 て 非 な る も の︱
前 項 に 述 べ た の は 、 他 の 方 言 か ら 個 々 の 語 を 移 入 し た 場 合 で あ った 。 こ れ に 似 た も の に 、 他 の 言 語 体 系 全 体 を
移 入 す る 場 合 が あ る 。 ア フ リ カ の ナ イ ル 河 沿 岸 に 住 む エ ジ プ ト 人 は 、 ア ラ ビ ア 人 の侵 寇 に あ い 、 輝 か し い 伝 統 を
奥 羽 方 言 と 全 国 共 通 語 の ま じ った よ う な も の が
も つ エ ジ プ ト 語 を 捨 て て 、 ア ラ ビ ア 語 を 使 う よ う に な った の は そ れ で あ る 。 日 本 の 北 海 道 地 方 に は 、 今 で こ そ 日 本 語 が 行 な わ れ て い る︱
行 な わ れ て いる と 言 う が 、 江 戸時 代 以 前 は ア イ ヌ語 が 行 な わ れ て いた 。 こ のよ う な 場 合 は、 個 々 の語 に 、 日 本 語
取 換 え で あ る。( 27︶
の音 韻 を 移 入 し た と いう の で は な く て、 日 本 語 と いう 言 語 体 系 が北 海 道 に進 出 し た の であ る 。 こ れ は 言 語 の 変 化 では な く て、 泉 井 久 之 助 氏 の術 語 を 用 いれ ば 、 ﹁言 語 の更 改 ﹂︱
こ のよ う な こ と は 方 言 の間 にも 当 然 行 な わ れ る こ と で、 例 え ば 、 ﹃万 葉 集 ﹄ 巻 十 四 に よ る と 、 奈 良 時 代 の 関 東
地 方 の方 言 は当 時 の大 和 地 方 の言 語 と 非 常 に ち が う も ので あ った ば か り でな く 、 現 代 の関 東 地方 の方 言 と も 著 し
く ち が った も の であ る。 これ は当 時 の関 東 方 言 が 変 化 し て 現 代 の関 東 方 言 に な った の では な く 、 い つの 時 代 か に
畿 内 地 方 の言 語 が 関 東 地 方 に進 出 し て当 時 の関 東 方 言 を 駆 逐 し 、 そ れ が 変 化 し た も のが 現 在 の関 東 方 言 と 見 る べ
きも の であ る 。 と す れ ば 、 こ こ に も 方 言 の取 換 え が行 な わ れ た も の で、 個 々 の語 の語 音 を 移 入 し た と いう よ う な も の では な い。
こ のよ う な こと は 、 ア ク セ ント の面 でも 当 然 起 こ り う る こ と と 考 え ら れ る 。 筆 者 が昭 和 十 二年 ご ろ 調 査 し た 時
の記 憶 に よ る と 、 埼 玉 県 北 足 立 郡 旧原 市 町 の ア ク セ ント は 、 東 京 語 と は 全 く ち が う も の であ った 。 例 え ば 、 ﹁秋 ﹂
﹁朝 ﹂ ﹁雨 ﹂ ﹁跡 ﹂ ⋮ ⋮ は 、 ○ ● (○ )型 で、 ﹁犬 ﹂ ﹁足 ﹂ ﹁石﹂ ﹁飴 ﹂ ﹁梅 ﹂ ﹁風 ﹂ ⋮ ⋮ な ど の 語 は 、 ○ ○ ( ● )型 で あ っ
た 。 そ れ が 昭 和 二 十 七 年 ご ろ 、 上 甲幹 一氏 が 調査 し た 結 果 によ る と 、 若 い人 は ほと ん ど 完 全 な 東 京 語 と 同 じ よ う
な ア ク セ ント を 話 し て いた と いう 。( 28) 今 、 上 甲 氏 の 調 査 、 筆 者 の 調 査 と も に、 そ の ま ま 信 頼 で き る も のと す る 。
そう す る と 、 こ の場 合 、 こ の 旧原 市 町 方 言 は ○ ● 型> ● ○ 型 、 ○ ○ 型> ○ ● 型 と いう 型 の変 化 を 遂 げ た の で はな
い。 従 来 の 旧原 市 町 方 言 の ア ク セ ント が全 部 消 滅 し 、 新 し い東 京 式 の ア ク セ ント が 取 って代 った の であ る 。
わ れ わ れ は 一つの方 言 の ア ク セ ント の変 化 を 考 え る よ う な 場 合 、 こ の 種 の取 換 え を 、 一般 の アク セ ント の変 化 と 混 同 す る こ と は 、 最 も 避 く べ き こと であ る 。
東国方 言 の歴 史 に つ いては 、筆 者 は ﹁ 東 国方 言 の歴史 を考 え る﹂( 29)を 書 いた。 旧原 市 町方 言 に つ いては、 ﹁関 東 地
方 に於 け るア クセ ント の分 布﹂( 30を)参 照 さ れた い。 旧原 市 町 に 限ら ず、 今、 埼 玉県 東南 部 一帯 は、東 京 都 の延 長 と
化 し て 団 地 が立 ち 、 そ の ア ク セ ント の様 相 を 一変 し つ つあ る 。 そ の状 況 に つ い て は 、 九 学 会 連 合 利 根 川 流 域 調 査 委 員
会 が 昭 和 四 十 一 ・四 十 二 年 の 二 回 に 亘 って 調 査 し た こ と が あ り 、 そ の 結 果 が 大 冊 ﹃利 根 川 ﹄( 31)に ﹁利 根 川 上 ・中 流
域 の ア ク セ ント ﹂ と いう 題 で、 秋 永 一枝 ・佐 藤 亮 一 ・金 井 英 雄 の名 で報 告 さ れ て いる 。 別 に 、 さ ら に 、 昨 年 五 月 の 日
(Substrat日 u本 m, 語訳
﹁基 層 ﹂)( 34)
本 方 言 研 究 会 の例 で 、 木 野 田 れ い 子 氏 の 発 表 、 ﹁ 埼 玉 県 東 北 部 ア ク セ ン ト の変 化 に つ い て ﹂( 32)も あ った 。 大 橋 勝 男 氏 に も 詳 し い調 査 が あ る 。( 33)
︹三十 四︺ ア ク セ ント に お け るズ プ スト ゥ ラ ー ト ゥ ム の 問 題 言 語 ・方 言 の 取 換 え に 関 連 し て 問 題 に な る こ と に ズ プ ス ト ゥ ラ ー ト ゥ ム
と いう 名 で知 ら れ て いる事 実 があ る 。 これ は 、 一つの 言 語 が今 ま で 音 韻 体 系 を 異 にす る 他 の 言 語 あ る いは 他 の方
言 を も って いた 人 に使 用 さ れ る時 に 、 前 にも って いた 言 語 の音 韻 上 の性 格 が 、 新 し い言 語 や 新 し い方 言 の上 に 現
(y ) の音
わ れ る も の の こと であ る 。 これ は 、 使 用 者 で は な く そ の言 語 、 そ の方 言 を 主 と し て 言 え ば 、 他 の言 語 、 他 の方 言
(u) の 音 が
(f) の 音 が (h) の 音 に 変 化 し た こ と な ど そ の 例 と さ れ 、 フ ラ ン ス 語 の 方 は ゲ ー
の 影 響 で 変 化 し た と 言 って よ い も の で あ る 。 同 じ ラ テ ン 語 か ら 出 た 中 で 、 フ ラ ン ス 語 で に変 化 し た こ と 、 ス ペイ ン語 で
ル 語 の基 層 に よ る も の、 ス ペイ ン語 は ア ラ ビ ア 語 の基 層 に よ る 変 化 と 言 わ れ る 。 こ の種 の変 化 は 、 変 化 が 規 則 的
に 行 な わ れ る 場 合 も あ る こ と で 、 他 言 語 や 他 方 言 の 借 用 と ち が った 性 質 を も つ 。 新 し い 音 韻 の 発 生 、 古 い 音 韻 の
消 滅 も し ば し ば 見 ら れ る こ と が あ り 、 こ う い った 意 味 で は 語 音 変 化 の 中 で 音 韻 変 化 に 準 ず る 重 要 な 性 質 を 帯 び た も の と 言 わ な け れ ば な ら な い。
ア ク セ ント の 部 面 に も ズ プ ス ト ゥ ラ ー ト ゥ ム は 起 こ り う る わ け で あ る 。 例 え ば 平 山 輝 男 氏 が 北 海 道 に 住 む ア イ
ヌ 民 族 の 日 本 語 の ア ク セ ン ト を 調 査 し た 結 果 、 そ の ア ク セ ント の 型 は 、 北 奥 地 方 な ら び に 北 海 道 の 大 部 分 の 地 方
に行 な わ れ て いる 方 言 の も のと 酷 似 し な が ら 全 平 型 と いう も のを も って いな か った こ と を 明 ら か にさ れ た 。 こ れ
は 、 アイ ヌ語 の ア ク セ ント を 考 え る とき 、 アイ ヌ 語 のズ プ スト ゥ ラ ー ト ゥ ム が 現 わ れ た も のと 見 る こと が で き る 。
平 山氏 の研究 は早 く ﹁全 日本 アク セ ント 概 説﹂ ( 北海 道 篇 )( 35)に発 表 され た が、 のち に ﹃日本 語音 調 の研 究﹄( 36)
に転載 さ れた。 ペー ジ四三 七 の注 の ﹁感 謝と喜 びに ひた った﹂ とあ る のは実 感 だ った であ ろう。 そ の前 の注 に見え る
﹁仲間 の言 語学 者 のあ る人達 ﹂と は筆 者 の こと で、 平 山氏 は筆 者 を傷 つけ ま いと いう 配 慮 から 、筆 者 の名 を 伏 せた の
であ る。筆 者 は ここ の考 え をも と にし て北奥 方 言 のアク セ ント に お ける アイ ヌ語 のSubstra のt 例uをm発 表 し た こ と があ る。( 37)
︹三十五 ︺ アク セ ント 変化 の記 述 の方 法
以 上 のよ う で、 あ る 方 言 であ る 語 の ア ク セ ント が 変 化 し た と いう 場 合 、 実 に さ ま ざ ま のも の があ る こ と が 明 ら
か にな った 。 こ と に そ の地 方 の方 言 が ほ か のも のに 取 り 換 え ら れ た 場 合 、 こ の場 合 は 、 そ の地 域 を 中 心 と し て 見
る 場 合 に は 、 ア ク セ ント は ま こ と に ち が った も のに な った わ け であ る が、 こ れ は も と のア ク セ ント 体 系 が消 滅 し
た と 見 る べき も の で 、 ︽ア ク セ ント 変 化 ︾ と いう 名 で 呼 ぶ べき も の で は な い。 も し そ の場 合 、 古 い方 言 の発 音 基
層 が新 し く 進 出 し て 来 た 方 言 の上 に露 呈 す る よ う な ら ば 、 そ の新 し く 進 出 し て き た 方 言 の方 に そ のよ う な アク セ ント 変 化 が 起 こ った と 考 え る べき で あ る 。
次 に 、 幾 つか の語 に つ い てあ る他 の方 言 の ア ク セ ント を 輸 入 し た 場 合 、 こ れ は、 ︽ア ク セ ント 変 化 ︾ に は い る
が、 こ のよ う な 場 合 に は 、 変 化 す る 語 彙 は 少 数 に限 ら れ る であ ろ う か ら、 大 き な 変 化 と 考 え る べき で は な い。 わ
れ わ れ は 大 き な 変 化 を 述 べた そ の つ い で に特 に 重 要 な も の に つ い て述 べ れ ば よ いは ず であ る 。 類 推 そ の他 、 形 態
変 化 に属 す る 変 化 も 、 そ れ に属 す る 語 彙 は 一定 の範 囲 の中 に 限 ら れ て いる は ず で あ る か ら 、 そ の重 要 な も の に つ い て必 要 に 応 じ て触 れ れ ば よ いは ず であ る 。
そ う いう 点 か ら 見 る と 、 音 韻 変 化 に 属 す る ア ク セ ン ト 変 化 は 、 新 た な 型 を 創 造 し た り す る も の で 、 こ れ は 、
個 々 の語 の ア ク セ ント の変 化 で はな く 、 ア ク セ ント 体 系 そ のも の の変 化 で あ る 。 そ の性 質 は 、 形 態 変 化 に 属 す る
変 化 と か 他 方 言 か ら の輸 入 によ る 変 化 と は ち が い、 質 的 に比 較 を 絶 す る ほ ど 重 要 な 変 化 であ る 。
こ の こと は ア ク セ ント の歴 史 を 考 え る 場 合 に 、 重 要 な 示 唆 を 与 え る 。 つま り 、 ア ク セ ント の歴 史 のあ と を た ど
る に は 、 ま ず そ の ︽言 語 に 起 こ った 型 そ の も の の 変 化 ︾ の あ と を た ど り 、 そ の 変 化 の 骨 格 を 明 ら か に す る こ と が
必 要 であ る。 そ う し て 、 そ の上 で 、 可 能 な か た ち 、 個 別 的 変 化 に 及 ぶ と いう こと が 望 ま し いは ず で あ る 。
岡 田荘 之輔 氏 の ﹁ た じ ま ア ク セ ント ﹂( 38)に よ る と 、 但 馬 地 方 の う ち 播 磨 地 区 や 丹 波 地 区 に 近 い地 域 で は 、 各 地 に
( 東 京 型 ) が行 わ れ る と こ ろ だ が 、 こ こ に 東 南 か ら 強 力 な 甲
東 京 式 のア ク セ ント か ら 京 阪 式 ア ク セ ント への 推 移 が 観 察 さ れ る よ う であ る 。 野 元 菊 雄 氏 は か つ て こ の 本 の こ の 部 分 を 紹介 して、 但 馬 地 方 の ア ク セ ント は 、 いわ ゆ る 乙 種 ア ク セ ント
種 ア ク セ ント が 及 ん で、 だ ん だ ん 甲 種 化 し て い る よ う に 述 べ ら れ て いる 。 金 田 一春 彦 氏 の ﹁東 西 両 ア ク セ ン ト の
違 い が で き る ま で ﹂ な ど で は 、 ア ク セ ント は 、 甲 種 ← 乙 種 の推 移 を 示 し 、 か つそ の 方 が 容 易 だ と 述 べ ら れ て い る
が 、 こ の 逆 の 但 馬 で の 乙 種 ← 甲 種 の 推 移 が 、 ど う いう 型 の段 階 を 経 て い か に 行 わ れ る か な ど に つ い て 、 著 者 岡 田 氏 の 見 解 が も っと 詳 細 に 聞 き た いと こ ろ だ 。
と 述 べ て い る 。( 39) こ の 野 元 氏 の 意 向 は 、 は っき り わ か ら な い が 、 こ こ に は 二 つ の 全 く ち が った 種 類 の ア ク セ ン ト の
変 化 が い っし ょ に考 え ら れ て いる と 思 う 。 但 馬 に お け る 乙 種 ← 甲 種 は、 他 方 言 の影 響 の 例 で あ る 。 そ れ に 対 し て ﹁東
った 。 都 竹 通 年 雄 氏 の ﹁東 西 両 方 言 の違 い は ど う し て で き た か ﹂( 40)に は 、 こ の 岡 田 氏 の報 告 を も と に し て 、 但 馬 地
西 両 ア ク セ ン ト の 違 いが で き る ま で ﹂ の 中 で 筆 者 が考 え た の は 、 純 粋 の音 韻 変 化 の 一種 と し て の ア ク セ ン ト 変 化 で あ
方 で は 、 筆 者 が 述 べた の と 反 対 方 向 の変 化 が あ る よ う に 述 べ て お り 、 こ の 混 同 は 専 門 的 な 学 者 の間 に も か な り 一般 的 なも ののよう に思 わ れる。
( 昭 十 五 ・二 )、 増 補 版 刊 行
(2 ) ︹三 十 ︺ に 後 出 。
注 (1 ) ︹十 一︺ ︹十 二 ︺ に 前 出 。
(3 ) 三 省 堂 初 版
(昭 三 十 四 ・五 )。
Press
﹃世 界 言 語 概 説 ﹄ (下 )、 タ イ 語 の条 の 松 山 納 氏 の 記 述 に よ る 。
(4 ) 徳 永 康 元 氏 の 教 示 に よ る 。 (5 ) 市 河 ・服 部 共 編
(一九 五 一 ・四 ) に よ る 。
Univ (. 1o 9f 4 )8 にMよ ic るh 。gan
﹃言 語 学 原 論 ﹄ ペ ー ジ 一九 三 。 ﹃一般 言 語 学 講 義 ﹄ページ
﹁単 語 の 混 雑 ﹂。
(昭 十 三 ・五 )。
(昭 二 ・七 )、 ペ ー ジ 三 〇 六 。 原 訳
(昭 十 ・五 )、 新 訂 増 補 版
﹃言 語 ﹄ 岩 波 書 店 刊 行
(昭 七 ・三 )、 増 訂 版
Langu(7 ag にe前s出 " ) ペ ー ジ三 六 。
﹃撒 尼彝 語 の 研 究 ﹄ 商 務 印 書 館 刊 行
Languages"
(6 ) Linguaph のoレnコ eー ド な ら び に 解 説 に よ る 。
(8 ) 馬 学 良
(7 ) K.L.Pike"Tone
(9 ) "Tone (10 ) 刀 江 書 院 刊 行 、 初 版 (11) 第 三 章 第 六 節 。 (12 ) 神 保 格 ・市 河 三 喜 共 訳
(昭 十 七 ・九 )、 ペ ー ジ 一九 二 。
(昭 四 十 六 ・十 )。
二 二 八︱ 二 二 九 を 参 照 。
(13 ) ﹃比 較 言 語 学 ﹄ 河 出 書 房 刊 (14 ) (3 ) に 前 出 。ページ
(15 ) 田 辺 正 男 ほ か 編 、 三 省 堂 刊 行
(16 ) (3 ) に 前 出 。 ペー ジ 二 六 五 。 ︹二 十 八 ︺ の ペ ー ジ 九 八 に 前 述 。 (17 ) (13) に 前 出 。 ペ ー ジ 一七 七 。
﹃言 語 学 原 論 ﹄ ペ ー ジ 二 一八 。 ﹃一般 言 語 学 講 義 ﹄ ペ ー ジ 二 二 八 。
(18 ) ︹四 十 二 ︺ を 参 照 。 (19 ) 小 林 英 夫 訳
二 〇 三。 (20 ) 小 林 英 夫 訳
﹁ア ク セ ン ト 推 移 の 要 因 に つ い て ﹂ ﹃国 語 学 ﹄ 第 三 一輯
(21 ) (14) に 前 出 。 (22 ) 秋 永 一枝 (23 ) ︹二 十 八 ︺ ペ ー ジ 九 九 を 参 照 。 (24 ) (15 ) に 前 出 。
﹃言 語 生 活 ﹄ 八 三
(昭 三 十 五 ) 所 載 。
(昭 三 十 二 ) 所 載 。
(昭 三 十 三 ) 所 載 と 、 ﹃国 語 学 ﹄ 第 四 〇 号
(25 ) ︹三 ︺ ペ ー ジ 二〇︲ 二 一を 参 照 。 (26 ) そ れ ぞ れ
(27 ) メ イ エ ﹃史 的 言 語 学 に 於 け る 比 較 の方 法 ﹄ ペ ー ジ 一〇 二 。 (28 ) 直 話 。 (昭 四 十 二 ) 所 載 。
﹃日 本 語 の ア ク セ ン ト ﹄ (昭 十 七 ・三 ) 所 載 。
(29 ) ﹃国 語 学 ﹄ 第 六 九 輯 (30 ) 日 本 方 言 学 会 編
(昭 四 十 四 ・七 )、 ペ ー ジ
自 然 ・文 化 ・社 会 ﹄弘 文 堂 刊 行 (昭 四 十 六 ・三 )、 ペ ー ジ 一六 四 以 下 。 (昭 四 十 七 ) 所 載 。
(31 ) 九 学 会 連 合 利 根 川 流 域 調 査 委 員 会 編 ﹃利 根 川︱ (32 ) 日 本 方 言 研 究 会 第 一四 回 研 究 発 表 会 原 稿 集
(33 ) 広 島 方 言 研 究 所 発 行 の 紀 要 に 掲 載 の 予 定 と か 。
(昭 三 十 七 ・十 一)、 新 装 版
(昭 四 十 ) 所 載 。
(昭 十 七 ) に 連 載 。 の ち に 、 ﹃日 本 語 音 調 の 研 究 ﹄ 明 治 書 院 刊 行
﹁言 語 ﹄ 大 修 館 刊 行 。 初 版
(昭 十 六 )、 四︲ 二 、 四︲ 三 、 四︲ 六
(34 ) ブ ル ー ム フ ィ ー ル ド 、 三 宅 ・日 野 訳 五 〇 七。 (35 ) ﹃コト バ ﹄ 三︲ 一〇
(昭 三 十 二 ・六 )。
(昭 三 十 二 ・六 ) に 再 録 。 (36 ) 明 治 書 院 刊 行
(昭 四 十 六 )、 ペ ー ジ 五 六 。
(昭 三 十 二 )、 ペ ー ジ 七 七 。
(昭 三 十 二 ・七 )。
(37 ) ﹁北 奥 方 言 に お け る ア イ ヌ 語 のSubstraの tu 例m ﹂ 日 本 方 言 研 究 会 第 一回 研 究 発 表 会 原 稿 集 (38 ) 自 家 版
(39 ) ﹃言 語 生 活 ﹄ 第 七 四 号
(40) ﹃言 語 生 活 ﹄ 第 二 三 七 号
井 上 奥 本 翁 の こと ど も
井 上 奥 本 翁 は 、 日 本 の ア ク セ ント 史 研 究 の先 覚 者 で あ る 。 後 の進 ん だ 研 究 の水 準 か ら 見 れ ば 、 至 ら ぬ 点 も 多 々あ る
が、 し か し 、 あ の早 い時 代 に ﹁日 本 語 調 学 小 史 ﹂ ﹁日本 語 調 学 年 表 ﹂ を 発 表 し て 、 多 く の ア ク セ ント 史 の 資 料 を 紹 介 し た 功 績 は 高 く 評 価 し て よ い。
翁 は 明 治 四 年 十 月 十 八 日 、 豪 農 井 上 豊 次 郎 の長 男 と し て舞 鶴 市 余 部 上 三 四 六 番 に 生 ま れ た 。 小 学 校 四 年 で 止 め 、
家 業 に 従 事 し て いた が 、 明 治 三 十 三 年 舞 鶴 に 海 軍 鎮 守 府 が 出 来 る こ と に な って 井 上 家 の地 所 は 高 額 で 買 い 取 ら れ た 。
翁 は そ の資 金 で 借 家 を 立 て 、 以 後 そ の 収 入 で優 雅 な 生 涯 を 送 った の で 、 当 時 の土 地 成 金 の 一人 だ った 。 翁 は そ の財 力 と 暇 を 、 ア ク セ ント 史 研 究 に 注 いだ の であ る 。
翁 が そ う いう 研 究 を 何 か ら 思 い付 いた か は わ か ら な い。 た だ 一度 高 野 山 へ登 って 、 声 明 家 に 四 声 の こ と を 尋 ね た こ
と が 知 ら れ て い る 。 大 正 五 年 そ れ ま で の 研 究 を ま と め て 、 ﹁日 本 語 調 学 序 説 ﹂ と 題 し ﹃国 学 院 雑 誌 ﹄ に 投 稿 連 載 し た
が 、 当 時 は 学 界 の反 響 皆 無 で 、 翁 を 失 望 さ せ た よ う であ る 。 そ の後 、 日本 音 声 学 会 が 誕 生 し 、 翁 は 機 関 誌 ﹃音 声 の 研
究﹄ Ⅱ ( 昭 四 ) に 前 掲 の 論 文 二篇 を 発 表 し た ほ か 、 ﹁ 舞 鶴 地 方 のアク セ ント ﹂な どを も 投稿 し て いる。翁 は こ こ で三 宅 武 郎 氏 ほ か の 中 央 の学 者 と わ ず か に 交 渉 を も った 。
いう 。 翁 は ま た 数 学 が 得 意 で 機 械 い じ り に 興 味 を も ち 、 音 声 記 録 装 置 な ど を 工 夫 し て 、 ひ と り で ア ー ア ー と 大 声 を 出
翁 は 和 歌 を 好 ん で 詠 み、 毛 筆 で 日 本 式 ロー マ字 綴 り で 書 いて 雑 誌 に 投 稿 し て 、 雑 誌 社 を 面 食 わ せ た こ と が あ った と
し て 夢 中 に な って いた の で 、 近 所 か ら 変 人 と 見 ら れ て いた と 言 う 。 在 世 中 、 乞 わ れ て 土 地 の 小 学 校 の 臨 時 教 員 に 出 た
こ と も あ り 、 ま た 余 部 町 の 町 長 の 臨 時 代 理 を 勤 め た こ と も あ った が 、 正 式 に は 職 に つく こ と な く 、 昭 和 八 年 四 月 二 十 日、 六 十 二 歳 で 出 生 地 で 他 界 し た 。
私 は 昭 和 三 十 二 年 十 二 月 十 七 日 、 舞 鶴 で の講 演 の 途 次、 翁 の 旧 居 を 訪 ね た が 、 翁 の 書 斎 は 翁 の 生 前 そ のま ま に 遺 愛
の古 文 献 、 苦 心 の作 製 の 器 械 等 、 整 然 と 置 か れ て お り 、 翁 が ふす ま を 開 け て 姿 を 現 わ し て も お か し く な いよ う で あ っ
た の に は 感 動 し た 。 翁 は 四 男 二 女 に 恵 ま れ 、 長 男 七 良 氏 が 翁 の家 を 継 ぎ 、 今 は 長 孫 の 元 氏 が舞 鶴 市 役 所 に 勤 め て お ら れ る 。 翁 の 次 男 の光 夫 氏 は 、 出 て 横 浜 国 立 大 学 の 工 学 部 の教 授 で あ る 。
第 二 章
ア ク セ ント 史 研 究 の 資 料 と 扱 い 方
第 一節 資 料 の 種 類 ︹三十 六 ど んなも のが あ るか
ア ク セ ント の史 的 研 究 は 、前 章 に述 べた よ う な 原 理 に 導 か れ て行 な う こ と が でき る と考 え ら れ る が 、 そ れ な ら
ば 、 次 に 史 的 研究 の資 料 と な る べ きも の に は ど ん な も のが あ る か。 筆 者 は、 そ の主 な も のと し て 、 三 つ のも のを
数 え る。 第 一種 は 、 現 在 各 社 会 ・各 地 域 に行 な わ れ て いる 言 語 の ア ク セ ント 、 第 二種 は 、 現 在 残 って いる 過 去 の
文 献 、第 三 種 は 、 私 た ち が 現 在 接 す る も の の中 の、 何 ら か の意 味 で 過 去 のア ク セ ント を 反 映 し て いる も の であ る。
ヨー ロ ッパ の言 語 な ど の場 合 に は 、 以 上 のほ か に同 系 の言 語 のア ク セ ント や 、 同 系 の言 語 のア ク セ ント と 関 係
のあ る事 実 の内 容 が 、 そ の言 語 の古 い時 代 の ア ク セ ント の姿 を 推 定 さ せ る有 力 な 資 料 に な って いる 。 が、 残 念 な
がら 、 日 本 語 の場 合 に は 、 日 本 語 と 同 系 であ る こと が は っき り 証 明 さ れ て いる 言 語 は 、 ま だ 発 見 さ れ て いな いの で、 こ の種 の資 料 は 今 の と こ ろ 諦 めな け れ ば いけ な い。
こ こ で は、 ︹ 三 十 七 ︺ ︹三 十 八︺ ︹ 三 十 九 ︺ に 、 右 の第 一種 の資 料 、 第 二 種 の資 料 、 第 三 種 の 資 料 に つ いて 簡 単 に 述 べよ う 。
広 く言 語史 の研 究 の資料 とし て、ど のよう な 種類 のも のがあ るか に つ いて は、高 津春 繁氏 の ﹃比較 言 語学 ﹄ では、
(1文 )典 、(2)辞 典 、 (3言 )語 に つ い て の 種 々 の 記 録 、 お よ び 、 (4現 )代 語 、 と し て い る 。(1)(1)(は 2筆 )者 (3 の) 第 二種 の資
料 で あ り 、 (4は )第 一種 の資 料 に は い る 。 橋 本 進 吉 氏 の ﹃国 語 音 韻 史 ﹄ で は 、 音 韻 史 の資 料 を 、 (1現 )代 言 語 の 音 声 ・
音 韻 と 、(2)過 去 の 文 献 と に 二 大 別 し て い る 。( 2) (1 は)筆 者 の 第 一種 、(2は )筆 者 の第 二 種 に 相 当 す る 。 ヴ ァ ンドリ エ
ス(J.Vend es r )y は 、 ﹃ギ リ シ ャ語 の ア ク セ ント 綱 要 ﹄ (T raited'Accentuati ( 3 o )n の 中gで r、 e古 cq 代uギ eリ )シ ャ語 の
ア ク セ ント を 研 究 す る 資 料 と し て 、 (1ア )ク セ ン ト 記 号 を 付 し た 文 献 、(2文 )法 教 師 や 学 者 た ち の 解 説 、(3ギ )リ シ ャ音
現 在 の 諸 方 言 の ア ク セ ント
楽 に 関 す る 記 録 、 と いう 三 つ の も の を 数 え て い る 。 (1)は (筆 2者 ) の第 二 種 に は いり 、(3は )第 三 種 に は いる 。
︹三 十 七 ︺ 第 一種 の 資 料︱
ア ク セ ン ト 史 的 研 究 の 資 料 の 第 一は 、 現 在 各 社 会 ・各 地 域 に 行 な わ れ て い る 言 語 の ア ク セ ン ト で あ る 。 ﹁言 語 ﹂
と い っても 明 ら か に し た い言 語 体 系 の子 孫 に あ た る 言 語 であ る か ら 、 こ の場 合 日本 語 であ る。 も し 何 か の原 因 で 、
あ る 社 会 ・あ る 地 域 の 言 語 が 昔 と ち っと も 変 わ ら ず に 伝 わ って い る と す れ ば 、 そ れ は そ の ま ま で 貴 重 な 資 料 と な
る は ず で あ る が 、 そ う で な く て も 、 現 在 各 社 会 ・各 地 域 に 分 布 し て い る 方 言 の ア ク セ ント な ど は 、 実 際 耳 で 聞 く
こ と が でき る と いう 点 で 、 す ぐ れ た 資 料 で あ る は ず で あ る 。 そも そ も あ る 地 域 の方 言 は 、 特 別 の事 情 のな いか ぎ
り 、 過 去 の 時 代 の 国 語 の ア ク セ ン ト が 徐 々 に 変 化 を 遂 げ て 出 来 た も の で あ る か ら 、 そ の 地 方 の 過 去 のあ る 時 代 の
ア ク セ ン ト を 考 え る 場 合 に は 、 現 在 の そ の 方 言 の ア ク セ ント を も と に し て 、 前 代 の ア ク セ ン ト が ど の よ う に 変 化 し て 現 在 の ア ク セ ン ト に な った か 、 と いう こ と を 、 考 察 す る と い う 便 宜 が あ る 。
何 か の原 因 で古 い 発 音 法 が 残 って い そ う な 社 会 は 、 宗 教 界 や 芸 能 界 な ど で あ る。 橋 本 進 吉 氏 も 、 こう いう 社 会 で は 、
師 匠 に つ い て 習 った も の を 、 少 し も 違 え ま いと し て 伝 え て いく 保 守 的 な 気 風 が あ る か ら 、 そ う いう も の に 過 去 の音 韻
が 保 守 さ れ る 可 能 性 が 多 いと 言 わ れ た 。( 4) す な わ ち 、 仏 教 界 で の祈 祷 の こと ば や 呪 文 の 類 、 そ の他 に は 古 い発 音 が
保 存 さ れ 、 芸 能 界 でも 、 歌 舞 伎 の セ リ フや 、 寄 席 ・演 芸 の言 葉 づ か いに は 、 古 い江 戸 の ア ク セ ント の名 残 り が あ る は
ず で あ る 。 一つ の 例 と し て 、 川 上 蓁 氏 に よ れ ば 、 歌 舞 伎 の ﹁髪 結 新 三 ﹂ の 一場 面 に、 ﹁⋮ ⋮ 渡 って 歩 き ﹂ と い う セ リ
フ が あ り 、 六 代 目 尾 上 菊 五 郎 は 、 こ こを ワタッ テ ア ルキ と 言 つて いた と 言 う 。 これ な ど 前 時 代 の ア ク セ ント か と 思 わ れ る 。( 5)
そ れ か ら 、 語 音 の面 で 言 う と 、 いわ ゆ る ︽文 語 体 ︾ の言 い方 と いう も の は 、 ﹁白 し ﹂ と か 、 ﹁白 き ﹂ と か 、 古 い 形 態
を 具 え て いる 。 そ う す る と 、 ア ク セ ント の面 で も 古 い姿 を 伝 え て いな いだ ろ う か と 疑 わ れ る。 比 較 言 語 学 の方 で、 サ
ン ス ク リ ット 語 や ラ テ ン語 ・ギ リ シ ャ語 のよ う に学 者 の間 に 相 伝 さ れ て い る も の は 、 伝 承 さ れ て いる 生 き た 言 語 に 比
べ て 変 化 す る こ と が 少 な い傾 向 が あ る そ う であ る。( 6) ﹁上 って ﹂ ﹁行 って ﹂ のよ う な 形 の 東 京 語 の ア ク セ ント は 、 口
ン ト ﹂( 7)に よ る と 、 こ れ は 、 東 京 語 の 古 い ア ク セ ン ト を 伝 え て いる か のよ う で あ る 。 私 が 中 学 時 代 に 習 った 漢 文 の
語 で は ア ガ ッ テ 、 イ ツ テ で あ る が 、 文 語 で は ア ガ ッ テ、 ユイ テ だ と さ れ る 。 都 竹 通 年 雄 氏 の ﹁動 詞 の 連 用 形 の ア ク セ
先 生 は 、 ﹁勿 れ ﹂ と いう 語 を 生 徒 が ナ カ レ と 読 む と 一々 と が め て ナ カ レ と 訂 正 さ せ た。 こ れ も 古 い 形 を 伝 え て いる の か も し れ な い。
﹁ 白 し ﹂ ﹁白 き ﹂ ﹁赤 し ﹂ のよ う な 語 を 、 シ ロ シ 、 シ ロキ 、 ア カ シ の よ う に 言 う の は ど う で あ ろ う か 。 京 都 ・大 阪 の文
語 で 、 逆 に シ ロシ 、 シ ロキ と いう と こ ろ か ら 考 え る と 古 い ア ク セ ント を 伝 え て い る と は 思 わ れ な い が 、 し か し そ れ に
アクセ ント を記 載し た過去 の文献
し て も 何 か 理 由 が あ り そ う な も の で 、 ど う し て 生 じ た の か 、 き わ め て み た い問 題 で あ る 。
︹三 十 八 ︺ 第二 種 の 資 料︱
資 料 の 第 二 は 、 現 在 残 って い る 過 去 の 文 献 で あ る 。 す な わ ち も し 文 献 の う ち に 、 な に か 国 語 の ア ク セ ン ト に つ
い て観 察 し 、 記 載 し た も のが あ れ ば、 そ れ は 、 そ の文 献 が 出 来 た 時 代 の ア ク セ ント を 考 察 す る最 も 有 力 な 資 料 と
す る こ と が で き る は ず で あ る 。 も っ と も 、 ﹁ア ク セ ン ト ﹂ と い う こ と ば は 、 明 治 以 前 に あ っ て は 日 本 人 の 間 で は
使 わ れ て い な か った か ら 、 私 ど も は 文 献 に よ る 考 察 を 行 な う に 先 立 ち 、 過 去 の 文 献 に お け る ど う い う 記 載 が ア ク
セ ン ト に 関 す る 情 報 を 伝 え て く れ る も の と 見 ら れ る か 、 と いう こ と を 考 え な け れ ば な ら な い 。
sive
thesavri
ling 大v
Lingoa 土d 井e忠 生 Ia 氏p のa翻 m訳 , があ
も っと も 、 ヨ ー ロ ッ パ 人 が 日 本 語 の 観 察 を し た 文 献 で は 、 ﹁ア ク セ ン ト ﹂ と いう 術 語 を 用 い て 、 日 本 語 の ア ク セ ン da
(D.Col) la のdo ﹃羅 西 日 辞 典 ﹄ (Dictionarivm
ト を 説 明 し て い る 。 ロド リ ゲ ス(J.Rodri) gの ue﹃ z 日 本 大 文 典 ﹄ (Arte る )( 8)や 、 コ リ ヤ ー ド
は 少 な い が 、 彼 が 日 本 に 渡 来 し た 当 時 、 正 し い ア ク セ ント の分 布 し て いる 地 域 は ど こ ど こ であ った か を 示 し て い る 記
塚 光 信 氏 の 解 題 ・索 引 が あ る )( 9)な ど が そ れ で あ る。 こ のう ち 、 ロド リ ゲ ス のも の は 、 ア ク セ ン ト を 註 記 し た 語 彙
述 が あ り 、 こ の 部 分 は ま こ と に貴 重 な 資 料 であ る 。 す な わ ち 全 国 の 中 で 正 し く 自 然 な ア ク セ ント が 行 な わ れ て い る の
は 五 畿 内 と 、 越 前 ・若 狭 ・丹 波 ・近 江 ・播 磨 だ と いう 。 こ の条 、 橋 本 進 吉 氏 著 の ﹃国 語 音 韻 史 ﹄( 10)お よ び 、 服 部 四
郎氏 の ﹁ 補 忘 記 の 研 究 ﹂( 11)を 参 照 。 コリ ャー ド の も の は 多 く の 語 彙 に ア ク セ ン ト 記 号 が つ い て い る が 、 こ れ は ど こ
過 去 の アク セ ン ト を 反 映 す る も の
の方 言 を 観 察 し た も の か わ か ら な い点 で 価 値 が 乏 し い。 コリ ャー ド の 記 録 し た ア ク セ ント に つ い て は 小 島 幸 枝 氏 に 考 察 が あ る 。( 12)
︹三十 九 ︺ 第 三種 の 資 料︱
そ う いう も の が 考 え ら れ る 。
資 料 の 第 三 に は 、 私 た ち が 現 在 接 し う る も の の 中 に 、 過 去 の ア ク セ ン ト を そ っく り 伝 え て お ら ず と も 、 あ る 程
度 、 過 去 の 国 語 の ア ク セ ント を 考 え る 参 考 資 料 と す る こ と が で き る と 思 わ れ る 、︱
と い う と 、 は っき り し な い か も し れ な い が 、 具 体 的 に は 、 こ の 種 の 代 表 的 な も の と し て は 、 過 去 か ら 現 在 ま で に
伝 わ っ て い る 歌 謡 や 語 り 物 の 旋 律 な ら び に そ の 楽 譜 が あ る 。 し か し そ の 他 に 、 次 の も の も 、 用 い方 に よ って 過 去 の ア ク セ ント を 考 え る 資 料 と す る こ と が でき る と 思 う 。
(イ )古 く 日 本 語 か ら 外 国 語 に 輸 出 さ れ た 単 語 の ア ク セ ン ト 。 こ れ は 、 そ の外 国 語 に 日 本 語 の ア ク セ ン ト が そ の
ae
Iapon
ま ま の形 か 、 あ る いは 何 か 反 映 し た 形 で伝 わ って いる と いう 想 定 に 基 づ く も の で、 し た が って そ の外 国 語 に
輸 出 さ れ た 時 代 に 近 い ア ク セ ント がわ か って いる 場 合 ほ ど 、 つま り ア ク セ ント が 明ら か な 時 代 が古 いも の ほ
ど 資 料 と し て価 値 が 高 い。 も っと も 、 そ の外 国 語 自 身 の ア ク セ ント の歴 史 的 変 遷 がわ か って いる な ら ば 、 そ
の語 が そ の国 語 に は い って か ら 時 代 が た った こ ろ の ア ク セ ント でも 、 さ し つか え な い。
当 時 ど のよ う な ア ク セ ント を も って いた か が わ か れ ば、 日 本 へ輸 入 さ れ た 当 時 の そ の語 の ア ク セ ント が知 ら
( ) ロ 日本 語 には い って い る外 来 語 の ア ク セ ント 。 これ は、 そ の語 の原 籍 であ る 外 国 語 で 、 そ の語 が輸 入 さ れ た
れ る わ け で、 そ れ は さ ら に 、 日本 で 現 在 ま で そ の語 が 日 常 語 と し て 用 いら れ て いれ ば 、 資 料 と し て の価 値 は 上 る。
(ハ ) 直 接 ア ク セ ント を 表 記 し て は いな い が、 そ の音 の 写 し 方 が ア ク セ ント の性 質 を 反 映 し て いる と 見 ら れ る 例 。
) ( ニ ア ク セ ント が原 因 と し て は た ら いた と 考 え る と う ま く 解 釈 の つく 音 韻 変 化 の例 。 ( ホ) ア ク セ ント の組 合 せ のお も し ろ さ を 応 用 し た と 考 え ら れ る 詩 歌 の例 。
) ( ヘ 古 い時 代 の 言 掛 け や 洒 落 の類 で、 そ の 二 つ の こと ば の間 に、 ア ク セ ント の 一致 が 期 待 さ れ る 例 。
( ト) 鳥 の啼 き 声 のよ う な 外 界 の音 を 日 本 語 で 聞 き な し た例 で 、 そ の曲 調 ま で も 写 そ う と し た と 見 ら れ るも の。
(チ) 会 話 を 写 し た 文 章 の中 に、 二 つ の同 音 語 が 出 て来 て 、 そ の 二 つは ア ク セ ント が ち が わ な け れ ば 、 意 味 が 通 じ ま いと 見 ら れ る 場 合 。
(リ) 聞 き ち が い の例 で、 ア ク セ ント が 要 因 に な って いは し な いか と 疑 いの か か る も の。
( ) ヌ 昔 の人 の 不 用 意 な 書 き 誤 り で、 ア ク セ ント が 同 じ で あ る た め に 混 同 し た と 考 え ら れ る も の。
このうち 過去 の歌 謡 や語 り物 に つ いては、 こ の章 の第 四 節 に改 めて考 察す る こと にし て、 それ 以外 の資 料 に つ いて、 ひと とお り考え ておき た い。
(イ ) 外 国 語 に 輸 出 さ れ た 国 語 の ア ク セ ント 。 こ れ は 他 国 語 の 研 究 にあ って は 有 力 な 資 料 と さ れ て いる が 、 日 本 語 の場
ント は あ ま り に 単 純 で あ って 、 日本 語 か ら ど ん な ア ク セ ント の語 が 入 っ て い って も 、 み な 法 則 的 に 一つ の 型 に し て
合 に は 残 念 な が ら 期 待 薄 で あ る 。 日 本 語 か ら は 、 ア イ ヌ語 そ の 他 に 少 教 の 語彙 が 入 って い る が 、 ア イ ヌ語 の ア ク セ
し ま う 傾 向 が あ る ら し い か ら で あ る 。(1 )3朝 鮮 語 や シ ナ 語 、 あ る いは 、 中 世 のポ ル ト ガ ル 語 、 そ の他 に 入 った 単 語 の ア ク セ ント を 考 え て も 、 ど う も 成 果 は 上 り そ う も な い。
る 。 日本 語 に お け る 古 い外 来 語 と いえ ば 中 国 か ら 入 った 漢 語 で あ る が 、 例 え ば﹁一 ﹂ ﹁二 ﹂﹁三﹂⋮ ⋮
﹁十 ﹂ な ど の
︵ロ )日本 語 に 輸 入 さ れ て い る 外 来 語 の ア ク セ ント 。 こ れ は 、 (イ と) ち が い 、 日本 語 の場 合 にも 資 料 と し て 十 分 期 待 で き
数 詞 の ア ク セ ン ト を 調 べ て み る と 次 のよ う に な っ て いる 。 東 京 の ﹁五 ﹂ ﹁ 九 ﹂ は 一時 代 古 い 形 を 用 いた 。 ︹ 付 表11︺
こ れ は ︹二 十 一︺ にあ げ た ︹付 表 8 ︺ と 比 べ て み る と 、 き れ い に 固 有 の和 語 に 並 行 し て 型 の対 応 を し て いる こ と が
わ か る 。 す な わ ち 、 ﹁五 ﹂ ﹁九 ﹂ の 二 語 は 第 1 類 の 一拍 名 詞 で あ り 、 ﹁二 ﹂ ﹁四 ﹂ の 二 語 は 第 3 類 の 一拍 名 詞 で あ り 、
﹁三 ﹂ の 一語 は 第 1 類 の二 拍 名 詞 で あ り 、 ﹁一﹂﹁六 ﹂ ﹁七 ﹂ ﹁八 ﹂ お よ び ﹁十 ﹂ は 第 3 類 の 二 拍 名 詞 であ る 。 と こ ろ
で こ れ ら は 、 イ チ ・ニ 、 あ る い は 、 ロク ・ク と い った 語 音 か ら 考 え て 、 漢 音 で は な く 呉 音 で あ る こ と が 明 ら か で
﹁五 ﹂ ﹁九 ﹂
上声
あ る が 、 これ ら の 呉 音 で の 四 声 は ﹃法 華 経 音 義 ﹄ そ の他 呉 音 の辞 書 に よ り 、
﹁一﹂ ﹁六 ﹂ ﹁七 ﹂ ﹁八 ﹂ ﹁十 ﹂
﹁三 ﹂
﹁二 ﹂ ﹁四 ﹂ 入声
上声
平声
と いう こ と が 知 ら れ る 。 ﹁呉 音 の 四 声 ﹂ と は ︹ 五 十 三 ︺ で 改 め て 述 べ る が 、 こ れ は 中 国 の 呉 方 言 で の ア ク セ ント と
いう の で は な く て 、 平 安 朝 初 期 ご ろ 、 漢 音 の 四 声 の 知 識 を 日本 人 が 学 ん だ 時 に 、 そ の 眼 で 日 本 で ﹁呉 音 ﹂ と 呼 ん
で いた 外 来 の 中 国 音 を 眺 め た 場 合 の 調 価 で あ る 。 つま り 、 ﹁五 ﹂ ﹁九 ﹂ お よ び ﹁三 ﹂ の 三 語 は 漢 音 で 言 え ば 上 声 と
恐 ら く 長 安 方 言 の 平 声 ・上 声 の 音 価 が わ か れ ば 、 ﹁二 ﹂ ﹁四 ﹂ ﹁三 ﹂ ﹁五 ﹂ ﹁ 九﹂ の
言 う べ き ア ク セ ント を も ち 、 ﹁二 ﹂ ﹁四 ﹂ は 漢 音 で 言 え ば 平 声 と いう べ き ア ク セ ント を も って い た の で あ る 。 つ ま り 、 平 安 朝 初 期 ご ろ の中 国 語︱
当 時 の 日 本 語 と し て の ア ク セ ント が わ か り 、 こ れ か ら 、 第 1 類 の 一拍 名 詞 の ア ク セ ント 、 第 3 類 の 一拍 名 詞 の ア
ク セ ント が わ か る と いう わ け で あ る 。 た だ し 現 在 の と こ ろ は ︹七 ︺ の 小 字 の 条 に 述 べ た よ う に 当 時 の 長 安 方 言 の
ア ク セ ント は 、 向 こ う の資 料 で は は っき り せ ず 、 逆 に 日 本 語 に 伝 わ って い る 漢 音 ・呉 音 の ア ク セ ン ト が 、 向 こ う の当 時 の ア ク セ ント を 推 察 さ せ る 資 料 と し て 期 待 さ れ て い る 事 態 で あ る 。
﹃ 観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ に 、
﹁腓 ﹂ と いう 漢 字 の訓 を ハア ギ と 仮 名 書 き し た 例 があ り 、 ハギ と 表 記 し た ら よ さ そ う な 語 に 対 し て 、 ハと ギ の 間 に
( ) ハ ア ク セ ント の 性 質 を 反 映 し て いる と 見 ら れ る 文 字 表 記 の 例 。 平 安 朝 末 期 の 漢 字 字 書
ア と いう 仮 名 が 挿 入 さ れ て いる 。 こ れ は ど う し た こ と か と 調 べ て み る と 、 別 に ハギ と 註 記 し た 例 も あ り 、 そ の 場
合 、 ハ の仮 名 に 対 し て 去 声 の声 点 の 註 記 が あ る 。 つま り 、 ハの 拍 は 去 声 、 す な わ ち 上 昇 調 と い う 長 く 発 音 さ れ る
性 質 を も った 拍 で あ る 。 だ か ら こ そ 、 ハの 拍 を 他 の 個 所 で は あ た か も 二 拍 であ る よ う に ハア と 表 記 し て い る も の
と 解 さ れ る 。 そ う す る と 、 過 去 の文 献 で、 一個 の 拍 で あ る べき も の が 、 ま る で 二 個 の 拍 で あ る か の よ う に、 つま
り 長 く 引 い て 発 音 さ れ た こ と を 表 わ す も の は 、 ア ク セ ント か ら 言 って 特 別 の拍 を も って い た ろ う と 推 定 さ れ る ご とき であ る。
築 島 裕 氏 の ﹃平 安 時 代 語 新 論 ﹄( 14)を 見 る と 、 訓 点 資 料 の中 に 、 ﹁皿 ﹂ の ﹁さ ﹂、 ﹁渚 ﹂ の ﹁さ ﹂ な ど を サ ア と 表 記
し た 例 が あ る が 、 こ の あ た り ど う で あ ろ う か 。 ﹁皿 ﹂ の サ は 上 昇 調 、 ﹁渚 ﹂ の サ は 下 降 調 で あ った の で は な い か 。
ただし ﹁ さ ﹂ の 例 ば か り 多 い の は 不 審 で あ る 。 く だ って ﹃平 家 物 語 ﹄ の ﹁鼓 判 官 ﹂ の 章 に ﹁や ね い に 楯 を つき お
そ へ の石 を 取 り 集 め て ﹂ と い う 個 所 が あ り 、 ヤ ネ イ は 屋 根 の こ と と す れ ば 、 ネ の 拍 が 下 降 調 で あ った こ と を 示 す
と 見 る こ と が で き た ら お も し ろ い と 思 う 。 ﹃狂 言 記 ﹄ の中 の ﹁岡 太 夫 ﹂ と いう 作 品 の中 に 、 ﹁こ の 仕 様 を を な あ が
﹁か か
存 じ て ゐ ま す ﹂ と あ り 、 ﹁を な ﹂ は ﹁ を な ご ﹂ を 意 味 す る と 見 ら れ る が 、 こ れ は こ の 語 が、 オ ナ ア と いう ア ク セ ン
ト を も って いた こ と を 暗 示 し て いる と 見 ら れ な いか 。 江 戸 時 代 に は いる と 、 ﹃ 東 海 道 中 膝 栗 毛 ﹄ に ﹁嬶﹂ を
あ ﹂ と し て いる (15 の) を はじ めと し て、 ﹁ 爺 ﹂ ﹁婆 ﹂ を ジ ジ イ 、 バ バ ア と 表 記 し て いる 。 こ れ は 、 第 二 拍 の ジ ・バ の 部 分 が 下 降 調 であ った こ と を 表 明 し て い る の で は な か ろ う か 。
と し て 知 ら れ て い る ア ク セ ン ト を 契 機 と す る 音 韻 変 化︱
や か ま し く いう と 音 韻 不 変 化 の事 実 な ど が あ る 。 いや 、
(ニ ) ア ク セ ント と 関 係 の あ る 音 韻 変 化 の 例 。 イ ン ド ・ヨー ロ ッ パ 語 な ど で は 、 例 の ︽フェ ルネ ル (Vern )eの r法 則 ︾
そ ん な 特 殊 な も の を 持 ち 出 さ な く て も 、 弱 く 発 音 さ れ る 語 尾 の 母 音 は 、 さ か ん に 脱 落 す る と い うapocoと pe か synco とpか eいう 名 で 呼 ば れ て い る 現 象 があ る 。( 16)
と に か く ヨ ー ロ ッ パ 語 で は ア ク セ ント が 音 韻 変 化 の 原 因 と し て 相 当 は た ら く こ と に な って いる 。 日 本 語 の ア ク セ
ン ト は 、 ヨー ロ ッ パ の 言 語 の ア ク セ ン ト と ち が い高 低 ア ク セ ント であ る か ら 、 こ の よ う な こ と は 少 な い か も し れ
な い が 、 そ れ でも 現 在 の東 京 語 な ど の例 を 見 る と 、 例 え ば 母 音 の無 声 化 や 脱 落 に は ア ク セ ン ト が 一役 買 っ て い る
こ と は 争 え な い事 実 であ る 。 こ れ に は 早 く 杉 山 栄 一氏 に ﹁東 京 語 に 於 け る 母 音 の無 声 化 に つ い て ﹂( 17)と いう 研 究
が あ った 。 ま た 、 都 竹 通 年 雄 氏 の ﹁飛 騨 萩 原 方 言 に 於 け る 動 詞 と 形 容 詞 と の活 用 ﹂( 18)に よ る と 、 岐 阜 県 萩 原 町 方
( 出 し て)、 ホ シ テ ( 乾 し て ) の よ う な 下 降 型 の場 合 に は イ 音 便 形 の 形 、 ダ イ テ 、 ホ イ テ と も な る が 、 オ シ テ
言 で は 、 サ 行 四 段 活 用 の動 詞 の連 用 形 に イ 音 便 の 形 が 起 こ る か 起 こ ら な い か は ア ク セ ン ト が 関 係 す る よ う で 、 ダ シテ
( 押 し て )、 コ シ テ ( 漉 し て ) の よ う な 平 板 型 の場 合 に は な ら な いと い う 。 藤 原 与 一氏 の ﹁﹃を ﹄ 格 に 於 け る ア ク セ
ント 法 ﹂( 19)に も 興 味 あ る ア ク セ ント と 文 法 と の関 係 が 報 告 さ れ て いる 。 こ のよ う な こ と は 昔 も あ った か も し れ ず 、
音 韻 変 化 のあ と か ら 、 当 時 の ア ク セ ント を 推 定 す る こと が 可 能 か も し れ な い。 早 く 、 菊 沢 季 生 氏 は ﹃国 語 音 韻 論 ﹄( 20)の中 で 、
﹁少 し ば か り ﹂ な ど と い ふ 場 合 のbakar がi 関 西 地 方 に 於 て はbakar とi い ふ 様 にkaに 上 げ 声 が あ る た め 、 そ れ
が 強 調 さ れ て 最 後 のriは 無 視 さ れbaka と な り 、 東 北 地 方 に 於 て は 、bakaと r擡 i 頭 的 で あ る た めba に 隣 った
kaはba に 同 化 さ れ てbaar とiな り 、 遂 にbariと い ふkaを 脱 し た 形 を 見 せ て ゐ る 。
と 言 った 。 近 く は 桜 井 茂 治 氏 が 、 ﹁形 容 詞 音 便 考 ﹂ と いう 論 考 で 、 形 容 詞 の連 用 形 に 関 し て 、 愛 知 県 三 河 以 東 の方
言 は 、ク の形 を 残 し て い る の に 対 し 、愛 知 県 尾 張 以 西 の 方 言 で は ウ 音 便 の 形 に な って いる 事 実 を 説 明 し て、当 時 、三
河 以 東 方 言 で は ク の拍 が高 く 発 音 さ れ て い た ろ う 、 尾 張 以 西 で は ク の 拍 が 低 く 発 音 さ れ て いた ろ う 、 と 論 じ た 。( 21)
(ホ) ア ク セ ント を 応 用 し た 詩 歌 の 例 。 も し 、 そ の よ う な 詩 作 の 例 が あ れ ば 、 ア ク セ ント 資 料 と し て 利 用 でき る は ず で あ る が 、 こ れ も 現 在 の と こ ろ し っか り し た 例 を 見 出 し て いな い の は 残 念 で あ る 。
も と も と 強 弱 ア ク セ ン ト の言 語 で は 、 ア ク セ ント の変 化 が 詩 歌 の リ ズ ム を 構 成 す る 重 要 な 要 素 と な って い る 。 高
低 ア ク セ ン ト を も って い る 言 語 の 中 で も 、 中 国 語 で は 、 そ の 詩 の 上 に ︽平仄 ︾ と いう 名 で ア ク セ ント の 組 合 せ が 唱
え ら れ て い る か ら 、 日 本 語 の詩 に も そ のよ う な 例 は な いと は 言 わ れ な い と 思 う 。 大 正 中 期 、 筆 者 の 子 ど も の こ ろ 、 東 京 の本 郷 界 隈 で 行 な わ れ た 子 供 の遊 び に 、 〓今 晩 は 。〓 何 御 用 。〓 忘 れ も の 。〓 ど ん な も の。〓 こ ん な も の 。
と 言 いな が ら 、 手 の指 を 順 々 に 折 って 行 き 、 最 後 に 妙 な 形 の も の を 作 る の が あ った 。 筆 者 は こ れ を 唱 え な が ら 、 コ ン バ ン ワ ナ ニ ゴ ヨー ワ ス レ モ ノ ド ン ナ モ ノ コ ンナ モ ノ
と いう 、 ち が った ア ク セ ント の組 合 せ を 子 供 心 に き れ いだ と 感 じ た も の だ った 。 一人 の 子 供 が 、 こ れ に 対 し 、 ﹁お ば あ さ ん 今 晩 は 忘 れ も の ど ん な も の こ ん な も の ﹂
と いう の が 正 し いと 言 った が 、 私 は 承 引 し か ね た 。 そ れ は ど う も ア ク セ ント の組 合 せ が ま ず いせ いだ った よ う に 思 う。
現 代 の 作 品 の中 で は 、 大 木 惇 夫 氏 の ﹁希 望 の歌 ﹂ な ど は 、 一番 か ら 三 番 ま で 完 全 に ア ク セ ント の 同 じ 言 葉 で 作 ら
れ て お り 、 そ れ が 長 谷 川 良 夫 氏 によ って ア ク セ ント を 活 か し た 美 し い 節 が つけ ち れ て いる の で、 実 に 見 事 な 作 品 と
特 に漢 詩 の影
な って いる 。 土 岐 善 麿 氏 ・野 上 彰 氏 ・薩 摩 忠 氏 に も そ の よ う な 作 品 が あ る 。 近 く は 、 山 上 路 夫 作 詞 、 いず み た く 作 曲 の 歌 謡 曲 ﹁世 界 は 二 人 の た め に﹂ も そ う いう 配 慮 のも と に作 ら れ て いた 。
こ ん な 風 で あ る か ら 、 昔 の詩 にも 、 何 か ア ク セ ント の 組 合 せ を 考 え て作 った も の が あ って も 、︱
響 の も と に 出 来 た も の の中 に は あ っ ても よ さ そ う に 思 う が 、 は っき り そ う いう 意 図 を も って 作 ら れ た 作 品 を ま だ 見
つけ て い な い。 た だ 、 そ の 中 に あ っ て、 私 は 鎌 倉 期 初 頭 の 詩 人 慈 円 僧 正 が 四 季 のあ わ れ を 歌 った 今 様 歌 、 あ れ の 夏
の部 は 、 何 か ア ク セ ント の 調 和 を 意 図 し て いる よ う に 思 わ れ て な ら な い。 現 代 語 の 東 京 式 ・京 都 式 の ア ク セ ント を 註 記 す る と 次 のよ う で あ る 。
慈 円 の 時 代 の ア ク セ ン ト も 、 現 代 語 の ア ク セ ント と 規 則 的 な 型 の対 応 関 係 を 持 っ て いる 以 上 は 、 や は り こ の歌 の
歌 詞 も 、 根 本 的 に は 、 現 代 語 と 同 じ よ う な ア ク セ ン ト の 調 和 を も って いた ろ う と 思 わ れ る が 、 い か が であ ろ う か 。
こ の 歌 で第 一行 、 第 二 行 、 第 四 行 を ひ と し く ﹁な り ﹂ で と め た と こ ろ に 、 漢 詞 の押 韻 を 応 用 し て い る と 思 わ れ る 。
と す る と 、 平仄 を も 考 慮 し て然 る べ き で は な い か 。 も し こ の作 品 が そ う だ と いう こ と が 証 明 さ れ 、 ま た 同 類 の作 品 が 見 出 さ れ る な ら ば 、 そ れ ら は ア ク セ ント 資 料 と し て 力 を も つは ず で あ る 。
な お 、 こ れ は 組 合 せ の美 を ね ら った と いう のと は ち ょ っと ち が う が 、 平 安 朝 中 期 に 出 来 た ﹁い ろ は 歌 ﹂ の 先 祖 、
﹁天 地 の こ と ば ﹂ と いう も の は 、 小 松 英 雄 氏 に よ る と 、 ア メ 、 ツ チ 、 ホ シ、 ソ ラ ⋮ ⋮ の よ う に な って い て シ ナ 語 の
四 声 に 熟 達 す る よ う に わ ざ と 種 々 の ア ク セ ント を も つ語 を 集 め て あ る も の だ ろ う と 言 わ れ る 。( 22) も し 、 こ の推 定
が 正 し い と す る と 、 こ れ も ア ク セ ント を 反 映 し た 資 料 の 一種 と いう こ と にな る が 、 た だ し ど の単 語 が ど う いう ア ク セ ント か を 推 定 す る に は 、 ほ か の資 料 の 援 用 が 必 要 で あ る 。
は な く 、 そ の ア ク セ ン ト も 一致 し て いる 方 が 効 果 的 で あ り 、 こ と に 語 音 の へだ た り が 激 し い 場 合 は 、 ア ク セ ント の
(ヘ ) 言 い掛 け や シ ャ レ の 類 。 ︿洒 落 ﹀ や ︿語 呂 合 せ ﹀ は 、 そ こ に 用 い ら れ た 双 方 の 語 句 の 語 音 が 類 似 し て い る だ け で
一致 が 洒 落 を 成 立 さ せ る 強 力 な さ さ え と な る 。 ﹁ 御 慶 ﹂ と いう 落 語 が あ る が 、 例 に よ って 、 無 学 の 八 さ ん が 、 ど う
し た は ず み か 年 の暮 れ に 買 った 富 札 が 大 当 り を し て 、 一夜 のう ち に 大 金 持 に な った 。 こ れ か ら は 今 ま で の 八 じ ゃ な
いん だ ぞ と ば か り 、 着 付 け な い紋 付 ・袴 に 身 な り を 整 え 、 さ て 年 始 参 り と し ゃれ た が 、 長 々 し い 挨 拶 の 言 葉 は 覚 え
る の が 難 し い。 物 知 り の 御 隠 居 が 、 そ れ で は ﹁御 慶 ﹂ と いう の が 簡 単 で い いだ ろ う と 教 え て く れ た の で 、 八 さ ん 大
喜 び 、 知 り 合 いに 逢 う た び に 、 ﹁御 慶! ﹂ ﹁御 慶 ! ﹂ と や って い い気 分 に な っ て いた 。 と こ ろ が 向 こ う か ら 、 こ れ も
無 学 の 熊 さ ん が や って き た 。 あ い つを 一つ驚 か し て や ろ う と ば か り 、 八 さ ん ﹁ 御慶 ﹂ と ぶち かま し た が、熊 さ ん に
は 通 じ な い 。 目 を パ チ ク リ し て 、 ﹁何 だ っ て ? ﹂ と 聞 き 返 し て く る 。 八 さ ん 、 教 養 のな い や つは だ か ら つ き あ い に
く いと ば か り ﹁御 慶 って ん だ ﹂ と 言 う と 、 熊 さ ん ﹁あ あ 、 お れ か 。 恵 方 参 り よ ﹂ と 言 った と いう 。
﹁御 慶 って ん だ ﹂ と いう 八 さ ん の 言 葉 を 、 熊 さ ん は ﹁ 何 処 へ行 った ん だ ﹂ と 聞 き ち が え た と いう わ け で あ る が 、
﹁御 慶 って ん だ ﹂ と ﹁何 処 へ行 った ん だ ﹂ と で は 語 音 が相 当 ち が う 。 これ を 聞 き ち が え た こ と に す る た め に は 、 ﹁御
慶 って ん だ ﹂ と ﹁何 処 へ行 った ん だ ﹂ と の ア ク セ ント が 同 じ でな け れ ば いけ な い 。 恐 ら く 、 こ の 落 語 が 生 ま れ た 時
に、江 戸語 では、 ﹁ 御 慶 ﹂ と ﹁何 処 へ﹂ の ア ク セ ン ト が 現 在 同 様 に 同 じ で あ った ろ う と 考 え た い の で あ る が 、 い か が であ ろう か。
﹁ 駒 込 の 吉 祥 寺 ﹂ を し ゃ れ て ﹁気 が も め の 吉 祥 寺 ﹂ と い い、 ﹁十 五 夜 お 月 さ ん 見 て は ね る ﹂ を 落 語 ﹁道 具 屋 ﹂ で
〔譜3〕
﹁道 具 屋 お 月 さ ん 見 て は ね る ﹂ と ひね る 。 こ れ ら は い ず れ も 、 ア ク セ ン ト の 一致 に た よ って い る が 、 昔 も 定 め し こ
のよ う な こと は あ った ろ う と 思 わ れ 、 一方 の ア ク セ ント を 明 ら か に す る こ と に よ り 、 他 方 の ア ク セ ン ト も 明 ら か に なる ことがあ り そう に思う 。
和 田 実 氏 は 、 ﹁ア ク セ ント を 按 排 し た 詩 ﹂( 23) の中 で 、 安 永 十 年 京 都
版 の ﹃口 合 草 結 び ﹄ と い う 本 の 中 に ﹁露 は 天 ね ん 、 雨 は ま ん べ ん ﹂ と
いう 例 が あ る こ と を 取 り 上 げ 、 こ れ は 、 ﹁鶴 は 千 年 亀 は 万 年 ﹂ を も と と
し た 語 呂 合 せ と 推 定 さ れ る 、 ﹁亀 ﹂ と い う 語 は 当 時 、 ﹁雨 ﹂ と 同 じ ア ク
セ ン ト だ った の で は な い か 、 と いう 疑 いを か け ら れ た 。 ﹁亀 ﹂ は ア ク セ
ント の難 し い語 で 、 現 在 京 都 語 で は 、 ﹁雨 ﹂ と 同 じ ア ク セ ント であ る が、
古 い 時 代 に は 、 ﹁山 ﹂ や ﹁犬 ﹂ の類 と 同 じ ア ク セ ン ト で あ った か と 疑 わ
れ る語 で、 も し こ の語呂 合 せ が アク セ ントを 配 慮 し て いる のな ら ば、
そ の 変 化 は 、 安 永 年 間 に は 完 成 し て いた こ と を 表 わ す わ け で 、 ち ょ っ とし た資 料 ではあ る。
な く 甲 府 に あ った 歩 兵 第 四 十 九 連 隊 に 入 隊 し 、 の ち 、 朝 鮮 の 龍 山 に あ
︵ト ) 鳥 の啼 き 声 な ど を 聞 き な し た 言 葉 の例 。 筆 者 は 学 校 を 卒 業 し て 間 も
った 第 七 十 九 連 隊 に 移 さ れ た が 、 そ こ で お も し ろ い 経 験 を し た 。 日 本
の軍 隊 で は 起 床 ・就 床 す べ て ラ ッパ に よ って 合 図 が 行 な わ れ 、 そ の 旋
律 の ち が い が 起 床 と か 就 床 と か を 意 味 し た 。 就 床 の ラ ッパ の 旋 律 は
︹ 譜 3 ︺ の よ う で あ った が 、 甲 府 の 連 隊 で は 、 こ の 旋 律 を 覚 え る の に
︵A の) よう に ﹁ 泣 か ず に 寝 る ん だ よ 。 ホ ラ 出 る ぞ 出臍 が ﹂ と 聞 き な し た 。
これ に 対 し て 龍 山 で は 、(Bの )よ う に 、 ﹁新 兵 さ ん は 可 愛 そ や な 、 ま た 寝
て泣 く の か よ ﹂ と 聞 き な し た 。 こ のち が いは 、 ま さ し く 両 方 の連 隊 に は い って い る 兵 隊 た ち の 出 身 地 のち が いを 反
映 し て いる も の で 、 甲 府 で は、 東 京 か ら 神 奈 川 ・山 梨 と い った 地 方 の 兵 隊 が多 か った た め に 、 ナ カ ズ ニネ ル ン ダ ヨ ホ ラ デ ルゾ デ ベ ソガ
シ ン ペ サ ン ワカ ワイ ソ ヤ ナ マ タ ネ テ ナ ク ノ カヨ
と いう 言 葉 に 聞 き な し た が 、 龍 山 で は 大 阪 ・兵 庫 方 面 の 兵 隊 が 多 か った た め に 、
と いう ア ク セ ント を も つ言 葉 に 聞 き な し た も の で あ る 。
こ のよ う に 、 わ れ わ れ は メ ロ ディ ー を 聞 いた 場 合 、 そ の メ ロデ ィ ー のよ う な ア ク セ ント を も った 言 葉 を 連 想 す る こと は 珍 し く な い こ と で、 明治 大 正 ご ろ は や った コチ ロ ン と いう 曲 を 、
〓爺 さ ん 酒 飲 ん で 酔 っぱ ら って屁 垂 れ た 。 婆 さ ん そ れ 見 て び っく り し て屁 垂 れ た 。
のを 、 東 京 の 子 供 が 、
な ど と いう 歌 詞 を つ け た のも そ の例 で あ った が 、 終 戦 後 ピ ア ノ の 初 歩 の練 習 曲 の ミ ド ソ ミ ミ、 ミ ド ソ ミ ミ 、 と いう
〓猫 踏 ん じ ゃ った 、 猫 踏 ん じ ゃ った 。
と 聞 き な し た のも そ の例 で あ った 。 そ こ で 昔 の 何 か メ ロディ ー を こ と ば に 聞 き な し た も の が あ り 、 そ の メ ロデ ィ ー と こ と ば と が 知 ら れ れ ば 、 そ の こ と ば の ア ク セ ント が わ か る は ず で あ る 。
こ の方 面 で 今 最 も 有 望 な の は 鳥 の啼 き 声 で あ る 。 高 津 春 繁 氏 の ﹃ 比 較 言 語 学 ﹄( 24)に よ る と 、 動 物 の鳴 き 声 の 写
し 方 は 、 音 韻 史 の資 料 に な る も の と し て 、 ギ リ シ ャ語 の 研 究 で 応 用 さ れ て い る そ う であ る 。 日 本 で も 橋 本 進 吉 氏 の
﹁駒 の いな な き ﹂( 25)や 、 亀 井 孝 氏 の ﹁春 鶯囀 ﹂( 26)で は 、 馬 の いな な き や 、 鳥 の さ え ず り の 聞 き な し 方 を 音 韻 史 の 資料 に活 用 した例 があ る。
たし
ア ク セ ント 史 の 研 究 に 役 立 ち う る こ と は 当 然 で、 ホ ト ト ギ ス の声 は 、 従 来 ﹁て っぺ ん か け た か ﹂ ま た は 、 ﹁ 本尊
か け た か ﹂ と 聞 き な す こ と にな って い る が 、 私 の経 験 に よ る と 、 は じ め て ホ ト ト ギ スを 聞 いた と き に は 、︱
か 大 学 在 学 中 、 中 西 悟 堂 氏 の お 伴 で 富 士 裾 野 へ出 か け た 時 と 記 憶 す る が 、 ど う し て も こ のよ う に は 聞 こ え な か った 。
キョ キョ キョ キョ
考 え て み る と 、 ﹁て っぺ ん か け た か ﹂ で は 東 京 式 の ア ク セ ント だ と 、 テ ッ ペ ン カ ケ タ カ で あ る 。 と こ ろ が ホ ト ト ギ スは 、 キョ キ・ ョ
と いう よ う な フ シ で 鳴 く の で 、 そ う は 聞 え な い の であ った 。 ﹁て っ ぺ ん か け た か ﹂ ﹁本 尊 か け た か ﹂ は 関 西 で 言 い な ら さ れ た ホ ト ト ギ ス の 聞 き な し 方 で あ る 。 た し か に 、 京 都 の ア ク セ ント な ら ば 、 テ ッ ペ ンカ ケ タ カ ホ ンゾ ンカ ケタ カ
で あ る か ら 、 そ の 抑 揚 は ホ ト ト ギ ス の啼 き 声 に そ っく り だ 。 そ う す る と 、 こ の 聞 き な し 方 が い つ始 ま った か と い う
こ と が 明 ら か に な った ら 、 そ の 時 代 の ﹁て っ ぺ ん か け た か ﹂ と いう こ と ば の 京 都 ア ク セ ント は 、 す で に 現 在 と 同 じ
で あ った と 見 て よ い か と 思 わ れ る 。 ち な み に 、 愛 知 県 三 河 の 鳳 来 寺 山 は 、 あ の あ た り で の 野 鳥 の名 所 で あ る が 、 そ
こ で は ホ ト ト ギ ス の声 を ﹁特 許 許 可 局 ﹂ と 聞 き な し て いる 。 三 河 地 方 の ア ク セ ント は 、 東 京 と よ く 似 て い て 、 ﹁特
許 許 可 局 ﹂ の ア ク セ ン ト は 、 ト ッキ ョキ ョカ キ ョク で 、 ホ ト ト ギ ス の声 の 抑 揚 に そ っく り だ 。 さ す が に 、 東 京 式 の
アク セ ント の地域 だ け のこと があ る。 惜 し むら く は、 ﹁ 特 許 許 可 局 ﹂ と いう 言 葉 は 最 近 出 来 た 言 葉 であ る こ と で あ
﹁子 ろ 来 ﹂ と 聞 き な し た 例 が あ り 、 ﹃古 今 集 ﹄ に は 、 ウ グ イ ス の 啼 き 声 を ﹁人
る 。 昔 は 何 と 聞 き な し て いた の か は 聞 き そ こ な った のは 残 念 で あ る 。 ﹃ 万 葉 集 ﹄ に は 、 カ ラ ス の啼 き 声 を
来 ﹂ と 聞 き な し た 例 が あ る 。 い ず れ も 当 時 の ア ク セ ント を 伝 え て い る も の か も し れ な い。 亀 井 氏 の ﹁春 鶯囀 ﹂ に よ
る と 、 ﹁人 来 ﹂ と は 、 今 の ピ ー チ ク に あ た る 擬 声 語 で 、 ﹁ う ぐ ひ す ﹂ は こ こ で は 小 鳥 一般 を 指 し て い る の だ ろ う と 言 う。
が り と佯 って 、 傘 を 売 り 付 け ら れ る く だ り が あ る 。 こ こ で 太 郎 冠 者 が 、 ﹁ざ れ 絵 と は ? ﹂ と た ず ね る と 、 ス ッ パ が 、
( チ) ア ク セ ント が 違 う と 見 ら れ る 同 音 語 の 例 。 狂 言 の ﹃末 広 が り ﹄ の 中 に 太 郎 冠 者 が京 の 町 で 、 ス ッ パ に 逢 い 、 末 広
﹁絵 の こ と で は お り な い。 柄 の こ と で お ざ る ﹂
と いう。 今 の 狂 言 の テ キ ス ト に は そ の よ う に 書 い てあ る が 、 昔 も し こ のと お り 口 で し ゃ べ った の だ と す る と 、 ﹁ 絵﹂
と ﹁柄 ﹂ と は ア ク セ ン ト が ち が わ な け れ ば 意 味 が 通 じ な い は ず で あ る 。 と す る と 、 こ の 場 合 、 ﹁柄 ﹂ と ﹁絵 ﹂ と は
ち が った ア ク セ ント を も っ て いた 語 で は な いか と 思 わ れ る 。 漢 語 の例 に な る が 、 ﹃平 家 物 語 ﹄ の ﹁千 手 前 ﹂ の 章 に 、
平 家 の 公 達 、 平 重 衡 が 源 氏 に捕 わ れ の身 と な って い る と き に 、 千 手 の前 と いう 女 性 が 、 そ の 憂 さ を な ぐ さ め る た め
に 箏 を 弾 奏 し た 。 そ の 曲 に 対 し て 、 重 衡 は 、 ﹁こ の楽 を ば 、 普 通 に は 五 常 楽 と 言 へど も 重 衡 が た め に は 後 生 楽 と こ
そ 観 ず べ け れ ﹂ と い う 、 シ ャ レ を 言 った こ と に な っ て い る 。 ﹁五 常 楽 ﹂ と ﹁後 生 楽 ﹂ と は 完 全 に 同 音 語 で あ る か ら
に は 、 こ れ ま た 、 こ の 二 つは ア ク セ ント が ち が って いた の で は な いか と 思 わ れ る 。 今 、 平 曲 で こ こを 演 ず る と き に
は 、 ち が った メ ロディ ー で 唱 え る が 、 古 く か ら そ う いう 習 慣 が あ った の で あ ろう 。
子 部 の ス ガ ルに 、 ﹁蚕 を 集 め て 参 れ ﹂ と 命 じ た と こ ろ 、 子 ど も を 集 め て 来 た と いう 話 が あ る 。 ま た 、 ﹃平 家 物 語 ﹄ の
( リ) 聞 き ち が い の例 。 過 去 の 文 献 や 物 語 に 幾 つか 聞 き ち が い の 例 は 見 出 さ れ る 。 古 く は ﹃古 事 記 ﹄ に 、 雄 略 天 皇 が 小
﹁猫 間 ﹂ の章 に は、 木 曽 義 仲 が 上 京 し て 牛 車 に 乗 り 、 ﹁や れ 、 小 牛 健 児 ﹂ と 言 った と こ ろ 、 そ の ﹁や れ ﹂ は 感 動 詞 の
つも り で あ った が 、 都 の 牛 飼 童 は 、 動 詞 の 命 令 形 の ﹁遣 れ ﹂ と 解 し て 、 車 を さ ら に 速 め た 話 が あ る 。 ま た ﹃徒 然
草 ﹄ の第 四 十 四 段 に よ る と 、 川 で馬 を 洗 う 男 が 、 馬 の 脚 を 洗 お う と し て ﹁脚 々﹂ と 言 った と こ ろ 、 栂 尾 の 明 恵 上 人
ま た 事 実 で な い に し ても 、 作 者 が も っと も ら し い、 い か に も そ う い
は 、 ﹁阿 字 不 本 生 ﹂ の ﹁阿 字 ﹂ を 繰 り 返 し て 言 った も のと 誤 解 し て 、 感 涙 に む せ ん だ と あ る 。 今 も し 、 こ れ ら が 事 実 の 話 だ と す る と 、︱
う こ と が 起 こ り そ う だ と いう 気 持 で 書 いた のだ と す る 。 と す る と 、 こ れ ら の 二 つず つ の 語 は も し や ア ク セ ン ト が 同 じ だ った の で は な い か と 疑 わ れ て く る 。
﹁蚕 ﹂ と ﹁子 ﹂ は 平 安 朝 時 代 は 同 じ ア ク セ ン ト で あ った こ と が 証 明 さ れ る 。 木 曽 義 仲 の方 言 の感 動 詞 の ﹁ヤ レ ﹂
と 当 時 の京 都 語 の 動 詞 ﹁ 遣 る ﹂ の命 令 形 ﹁ 遣 れ ﹂ と 同 じ ア ク セ ン ト であ った ろう と いう こ と にな る が 、 ど う で あ ろ
う か 。 同 様 に 明 恵 上人 の時 代 に ﹁脚 ﹂ と いう 名 詞 は ﹁阿 字 ﹂ と いう 語 と 同 じ ア ク セ ント で あ った ろ う と い う こ と に
な る 、 た だ し 、 こ れ は そ う いう 可 能 性 が 強 いと いう だ け で 、 決 定 的 な こ と は 何 も 言 え な い。 こ と に 、 馬 を 洗 っ て い
そう解 す る のが通 説 であ る が、実 は そう では
﹁芦 ﹂ と いう のを 呼 ん だ の か も し れ な い。 そ う だ と す る と 、
た男 は ﹁ 馬 の 脚 ﹂ の意 味 で ﹁あ し あ し ﹂ と い った の で は な く て 、︱ な く 、 こ の馬 が 芦 毛 の 馬 だ った の で 、 そ の男 は 馬 の名
ア ク セ ント が 明 ら か に な る 当 面 の単 語 は 、 ﹁脚 ﹂ で は な く 、 同 音 語 の ﹁芦 ﹂ の方 だ と いう こ と に な る 。
る 。 例 え ば 、 大 久 保 彦 左 衛 門 の書 いた ﹁三 河 物 語 ﹂ に は 、 ジ と ヂ 、 ズ と ヅ の書 き 間 違 い が 多 いと いう と こ ろ か ら 、
(ヌ) 過 去 の 時 代 の 語 音 の 面 で の 音 価 を 決 定 す る の に 、 文 字 の書 き 間 違 いが 有 力 な 資 料 と さ れ る こ と は 著 し い こ と で あ
彦 左 衛 門 の 時 代 に は 、 こ の 二 つ の 音 が 同 じ 音 に な って いた ろ う と 推 定 さ れ る が ご と き で あ る 。 そ う す る と 、 ア ク セ
ント の 面 で も こ の よ う な こ と が あ る に 相 違 な い。 も し こ う いう こ と が 言 え る な ら ば 、 つ いう っか り 書 い て し ま った 漢 字 に よ って、 ア ク セ ント の混 同 を 推 定 す る こ と が で き る か も し れ な い。
︹四十 ︺ 三 種 類 の資 料 の 関 係 に つ い て
国 語 ア ク セ ン ト 史 の 資 料 に は 、 以 上 三 種 のも の が あ る が 、 そ の 特 色 を 言 っ て み れ ば 、 第 一種 は 基 礎 的 資 料 、 第 二種は中心的 資料、第 三種は補 助的資料 である。
以 下 の 諸 節 に は 、 右 に あ げ た 三 種 の 資 料 と し て 、 現 実 に は ど の よ う な も の で あ る か 、 と いう こ と を 述 べ 、 さ ら
に 、 こ れ ら の 資 料 を 取 り 扱 う 場 合 に 、 ど う い う 点 に 注 意 す べ き か と いう 点 に つ い て 、 考 察 を 試 み よ う 。
(E.
こ の 節 の は じ め に 筆 者 は 日 本 語 と 同 系 の言 語 が あ った ら 、 そ の ア ク セ ント も 過 去 の ア ク セ ント を 明 ら か に す る 資 料
に な る だ ろ う と 述 べ た 。 そ の こ と に ち な ん で 、 こ ん な 研 究 が あ る 。 ロシ ア の 音 声 学 者 ・東 洋 語 学 者 の ポ リ ワ ノフ
D.Poliva )n はo、 v朝 鮮 語 で ﹁鶴 ﹂ はturum とi言 い、 ﹁朝 ﹂ はacamと い う が 、 こ れ ら の語 は 、 そ れ ぞ れ 日 本 語 の ツ
ル ・ア サ と 関 係 が あ る と 考 え た 。 す な わ ち 日 本 語 の ツ ル ・ア サ は 、turum のi mi と か 、acam のm と か が 消 失 し て 出
来 た も の で 、 消 え た 代 償 と し て そ の 部 分 が 下 降 の拍 の末 尾 に な った 、 そ れ が 、 京 都・ 大 阪 語 の ツ ル、 ア サ と いう ア ク
セ ント の 起 源 だ と 言 う の で あ る 。 こ の考 え 方 に よ る と 、 京 都 ・大 阪 式 の○〓 型 の由 来 は 非 常 に古 いも の と な る わ け で
あ る が 。 も し こ う いう こ と が 考 え ら れ る な ら ば 、 や はり 過 去 の ア ク セ ント を 推 定 さ せ る た め の資 料 の 一つで あ る 。
な お 、 ポ リ ワノフ の こ の考 え は 、 三 十 年 も 前 の 筆 者 が 学 生 だ った こ ろ 、 服 部 四 郎 博 士 のお 宅 に 伺 った と き に 教 え ら
れ た の で 、 ポ リ ワ ノフ の ﹃東 洋 語 研 究 者 のた め の 言 語 学 概 論 ﹄( 27)と いう 本 の 中 の 一節 であ った 。 今 思 い出 し て 書 い
て い る の で 、 記 憶 のち が い が あ る か も し れ な い。 ︹ 七 ︺ の 項 に 述 べ た よ う に 、 朝 鮮 語 南 部 方 言 の ア ク セ ント の 型 の 体
系 は 、 日本 語 の、 そ れ も 東 京 式 方 言 の型 の体 系 に び っく り す る ほ ど 似 て い る の で 、 こ う いう 研 究 は 進 展 す る か も し れ
な い。 な お 、 ポ リ ワノフ の本 は 、 至 る と こ ろ 日 本 語 に つ いて 鋭 い観 察 が 行 な わ れ て お り 、 日本 語 の研 究 者 は 是 非 広 く
読 む べ き も の だ そ う であ る が 、 近 く 吉 町 義 雄 ・村 山 七 郎 両 氏 の 翻 訳 が 出 る そ う で 、 め で た い こ と で あ る 。
ほ か に 、 村 山 七 郎 ・大 林 太 良 両 氏 共 著 の ﹃日 本 語 の 起 源 ﹄( 28)に よ る と 、 チ ベ ット ・ビ ル マ語 の 権 威 、 西 田 龍 雄 氏
が 、 日 本 語 の単 語 の高 低 ア ク セ ント は 、 チ ベ ット ・ビ ル マ語 が も って いる よ う な 一音 節 ず つ のト ー ン が 結 合 し て 生 じ
た の か も し れ な い、 と 述 べ た と いう 。 も し 、 こ の よ う な こ と が 証 明 でき れ ば お も し ろ い が 、 そ れ は 随 分 困 難 な こと で あ ろう 。
注 (1 ) 河出 書 房刊行 ( 昭 十 七 ・九 )、 ペー ジ 二九 〇︲三一 二。
Klincksieck
Paris,1945.
( 2) 橋本 進 吉 博 士 著 作 集 、 第 六 冊 、 岩波 書 店刊 行 ( 昭 四 十 一・ 一)、 ペー ジ 二四 以 下 、 ペー ジ 二 〇 四 以 下 、 ペ ー ジ 二 七 七 以 下を 参 照 。 (3 ) Librarie
(4 ) ﹃ 国 語 音 韻史 ﹄ (2に前 出 ) ペー ジ 二六 ・二 〇 四な ど 参 照。
(5 ) こ の方 面 の研 究 を 進 め て いる 人 と し て、 川 上蓁 氏 と N H K の竹 内 ア ナ ウ ンサ ー の名 があ げ ら れ る。 ( 6) 高津春繁 ﹃ 比 較 言 語学 ﹄ (1に前 出 ) ペー ジ 三 一 一︲三一三 。
(7 ) 寺 川 喜 四 男 ほか 編 ﹃国 語 アク セ ント 論 叢 ﹄ 法 政大 学 出 版部 刊 行 ( 昭 二十 六 ・十 二) 所 載 。
(昭 三 十 ・三 )。
(昭 十 七 ・三 ) 所 載 。
(昭 四 十 一 ・十 一)。
(8 ) ﹃ロド リ ゲ ス 日 本 大 文 典 ﹄ の 名 で 三 省 堂 か ら 刊 行 (9 ) ﹃羅 西 日 辞 典 ﹄ の 名 で 臨 川 書 店 か ら 刊 行 (10 ) (4 ) に 前 出 、 ペー ジ 九 八︲ 一〇 〇 。 ﹃日 本 語 の ア ク セ ント ﹄ 中 央 公 論 社 刊 行
西 日 辞 書 の 自 筆 稿 本 を め ぐ って ﹂ ﹃国 語 国 文 ﹄ 四 一 の 一 一 (昭 四 十 七 ) 所 載 。
(11) 日 本 方 言 学 会 編 (12 ) ﹁コ リ ャー ド の ア ク セ ン ト︱
(昭 十 一 ・七 )、 ペ ー ジ 四︲ 六 を 参 照 。
﹃ア イ ヌ 語 法 概 説 ﹄ 岩 波 書 店 刊 行
( 昭 三 十 七 ・十一 )、 ペ ー ジ 五 〇 一。
(昭 二 十 五 ・八 ) 所 載 。
(昭 三 十 九 ) 所 載 。
﹃言 語 ﹄ 大 修 館 刊 行
(昭 四 十 四 ・六 )、 ペ ー ジ三 九 五︲三 九 六 。
(13 ) 金 田 一京 助 ・知 里 真 志 保 共 著 (14 ) 東 大 出 版 会 刊 行 (15 ) 初 編 の 六 郷 川 を 越 え た あ た り で の 馬 方 の 言 葉 。 (16 ) L ・ブ ル ー ム フ ィ ー ル ド 、 三 宅 鴻 ・日 野 資 純 共 訳 (昭 八 ) 所 載 。 (昭 十 六 ) 所 載 。
(17 ) ﹃方 言 ﹄ 三 の 二 (18 ) ﹃方 言 研 究 ﹄ 第 四 号
(昭 十 六 ) 所 載 。
(昭 四 十 一) 所 載 。
(昭 十 ・十 一)、 ペ ー ジ 五 五 。
(19 ) ﹃方 言 研 究 ﹄ 第 三 号 (20 ) 賢 文 館 刊 行
(21 ) ﹃国 学 院 雑 誌 ﹄ 六 七 の 一〇
( 国 学 院 大 )﹄ 第 一九 号 (昭 二 十 八 ) 所 載 。
(22 ) ﹁阿 女 都 千 か ら 以 呂 波 へ﹂ ﹃国 語 研 究 (23 ) ﹃国 学 院 雑 誌 ﹄ 五 四 の 三
(24 ) (1 ) に 前 出 、 ペ ー ジ 二 九 四 。 ﹃国 語 音 韻 の 研 究 ﹄ 岩 波 書 店 刊 行 (昭 三 十 四 ) 所 載 。
(25 ) 橋 本 進 吉 博 士 著 作 集 、 第 四 冊 (26 ) ﹃国 語 学 ﹄ 第 三 九 輯
(昭 四 十 八 ・四 )、 ペ ー ジ 一九 四 。
(27 ) 一九 二 八 年 に レ ニ ング ラ ー ド か ら 刊 行 さ れ た と い う 。 (28 ) 弘 文 堂 刊 行
第 二 節 ア ク セ ント 史 資 料 と し て の 現 在 の諸 方 言 ︹四 十 一︺ 現 在 諸 方 言 の 資 料 と し て の 強 み
過 去 の 国 語 の ア ク セ ン ト を 考 え る 第 一種 の 資 料 、 す な わ ち 、 ︽現 在 諸 方 言 の ア ク セ ン ト ︾ は 、 過 去 の ア ク セ ン
ト を 考 え る 上 の基 礎 的 な 資 料 と いう べき も の であ る 。 そ う し て 、 これ は 、 我 々 が 実 際 に そ の音 を 耳 で 聞 け る と い
う こ と の ほ か に、 我 々 の欲 す る ま ま に、 ど のよ う に で も 詳 しく 研 究 す る こと が で き る 点 に 、 す ぐ れ た 強 味 を も つ。
か ら 知 ろ う と す る と 隔 靴 掻 痒 の感 が あ る が 、 現 代 の ギ リ シ ャ語 で も た ま た ま そ の魚 は 昔 な が ら の名 前 で 呼 ば れ て い る
高 津 春 繁 氏 に よ る と 、 古 典 ギ リ シ ャ語 に 何 と か と いう 魚 が あ り 、 そ れ が ど の よ う な 魚 であ る か 古 典 の 文 献 か ら だ け
︹t︺︹ ︺nの 一種 が あ る こ と が 知 ら れ 、 そ れ を 文 献 に 述 べ て あ る 所 だ け 読
の で 、 そ の実 物 を 見 れ ば そ の単 語 の 意 味 は 一目 瞭 然 だ と いう 。( 1) 音 韻 の 場 合 も 正 し く そ う で 、 古 代 の イ ンド 語 の音 韻 を 説 明 し た 文 献 に 、 変 わ った 発 音 を す る
む と 、 果 し て そ ん な 音 素 が 存 在 し た か ど う か 疑 わ し く な る が 、 今 のイ ンド 語 に は そ の文 献 に 記 述 さ れ て いる と お り の
︹︺ t ︹n ︺ の 一種 が あ る の で 、 そ の文 献 の 記 述 に つ い て の 正 し さ を 肯 定 せ ざ る を え な く な る 。
ア ク セ ント に つ い て も ま さ し く そ う いう こ と が あ る は ず で 、 も し 東 京 語 の ア ク セ ント の知 識 だ け を も っ て古 代 京 都
語 の ア ク セ ント を 記 載 し た 文 献 を 読 む と 、 一つ の 拍 の 途 中 で 音 程 が 変 化 す る 単 語 と いう よ う な も の が あ って よ い のだ
ろ う か と 思 い か ね な いが 、 今 の京 都 方 言 の ﹁雨 ﹂ や ﹁秋 ﹂ な ど の ア ク セ ン ト を 聞 く に 及 べば 、 そ の記 述 に 関 す る 疑 問 は氷解 す る。
︹四 十 二 ︺ 全 日 本 諸 方 言 の ア ク セ ン ト 概 観
現 在 の諸 方 言 のア ク セ ント の分 布 状 況 に つ いて は 、 服 部 四 郎 氏 の研 究 に は じ ま り、 平 山 輝 男 氏 そ の他 熱 心 な 学
者 の輩 出 努 力 に よ って、 随 分 詳 し いと こ ろ ま で調 査 が 進 ん で いる 。 ごく 大 ざ っぱ に 概 略 を 述 べれ ば 次 のよ う であ る。
現 在 の 日本 語 諸 方 言 の アク セ ント は 、 大 き く 言 って 三 つの類 型 に 分 け る こと が で き る。 第 一は 、 東 京 式 、 第 二
は京 都 ・大 阪 式 、 第 三 は 一型 式 で あ る 。 東京 式 と 、 京 都 ・大 阪 式 と は、 よ く 知 ら れ て いる よ う に、 二 拍 の単 語 の
ア ク セ ント が 逆 にな って お り 、 ︹二 十 一︺ の ︹ 付 表 8 ︺ の語 彙 に つ い て言 え ば 、 二 拍 名 詞 の う ち 、 第1 類 と 第 2
類 ・第 3 類 の第 一拍 を 低 く 言 う の が東 京 式 、 反 対 に 高 く 言 う の が京 都 ・大 阪 式 で あ り 、 第 4 類 と 第 5 類 と の第 一
拍 を 高 く 言う の が東 京 式 、 反 対 に 低 く 言う の が京 都 ・大 阪 式 で あ る 。 具 体 的 に 言 え ば 、 東 京 の ﹁箸 ﹂ は 京 都 ・大
阪 の ﹁橋 ﹂ であ り 、 京 都 ・大 阪 の ﹁箸 ﹂ は 東 京 の ﹁橋 ﹂ で あ る 。 一型 式 と いう のは 、 こ の二 種 を 合 わ せ た 全 体 に
対 立 す るも の で、 同 じ 拍 数 の 語 は す べ て 同 じ 型 で 言う と いう も の で、 第 1 類 の語彙 は ど う 、 第 2類 の語 彙 は ど う
と いう ち が いが 全 然 な いも の であ る 。 こ の方 言 で は 、 ﹁ 箸 ﹂ と ﹁橋 ﹂ の区 別 は な い。 ﹁箸 ﹂ と ﹁橋 ﹂ に と ど ま らず 、 ﹁雨 ﹂ と ﹁飴 ﹂、 ﹁鼻 ﹂ と ﹁花 ﹂ そ の他 ど のよ う な 型 の 区 別 も な い。
日本 語 諸 方 言 の ア ク セ ント は 、 大 部 分 は 右 の三 類 型 のど れ か に近 いが 、 仔 細 に 見 る と 多 少 ず つち が い があ る 。
ま た 少 数 のも の が、 右 のど れ か 二 つ の中 間 のよ う な 性 格 を も つ。 そ れ ぞ れ 名 前 を つけ て 、 そ の 分 布 状 態 を 地 図 で
示せば巻末 [ 本書三 一〇 ページ] の ︹付 図 ︺ のよ う にな る。 こ の三 つ の方 言 の 分 布 を 概 略 的 に言 う と 、 ︽近 畿 地 方 を
内 側 と し て 一番 中 心 に京 阪式 方 言 が分 布 し 、 東 京 式 方 言 が そ の周 辺 の 東 西 南 北 に 行 な わ れ 、 一型 式 と そ の他 の方
言 が主 と し て東 京 式 に接 し て 各 地 に間 隙 を 縫 って 分 布 し て いる ︾ と いう 情 況 で あ る 。
京 阪 式 方 言 に つ いて は 次 の ︹四 十 三 ︺に詳 し く 述 べ る と し て、こ こ に は 他 の方 言 に つ い て述 べ れ ば 、ま ず 東 京 式
方 言 は、 三 種 の方 言 の中 で最 も 広 い 地 域 に 行 な わ れ て いる 。 そ う し て そ の中 に は 、 ︹十 九 ︺ に 述 べ た よ う に (1内)
輪、 2 ()中 輪 、(3外 )輪 の三 種 類 のも の が あ り、 東 京 語 は 、 そ のう ち の中 輪 方 言 に属 す る 。 中 輪 方 言 に は 、 関 東 西 部 か ら 中 部 地 方 の大 部 に至 る 地 方 の方 言 お よ び 中 国 地 方 大 部 の方 言 も 属 し 、 ︹二 十 一︺ の ︹付 表 8 ︺ の 語 彙 で言
う と 、 そ こ で東 京 語 に つ いて 述 べた よ う な こと が 中 輪 諸 方 言 に は 概 略 あ て はま る 。
内 輪 方 言 は 濃 尾 地方 、 岡 山 県 地 方 、 但 馬 地 方 、 奈 良 県 の 十 津 川 ・北 山 地 方 、 四 国 の南 北 宇 和 ・幡 多 地 方 、 愛 媛
県 伯 方 島 お よ び 石 川 県 鹿 島 郡 中 乃 島 村 な ど 、 京 阪 式 方 言 に 接 触 す る 地 方 に 行 な わ れ て いる 。 そ の 特 色 を ︹二 十
一︺ の ︹付 表 8 ︺ の語彙 で 言う と 、 中 輪 方 言 で ○ ● 型 の 語 の 一部 が、 ● ○ 型 にな って お り 、 中 輪 方 言 で○ ● ● 型
の語 の 一部 が 、 ○ ● ○ 型 ま た は ● ○ ○ 型 に な って いる 、 と いう こと に 尽 き る 。 京 阪 式 方 言 と の型 の対 応 は 、 中 輪 方 言 ・外 輪 方 言 に比 べ て、 よ り 規 則 的 であ る 。
こ れ ら に 対 し て外 輪 方 言 は遠 江 ・東 三 河 地 方 、 越 後 や 北 奥 の地 方 の 一部 、 出 雲 ・伯耆 の 一部 の地 方 、 九 州 の豊
前 ・豊 後 地方 の方 言 が そ れ で、 遠 江 ・三河 のも のを 除 い て、 辺 境 地 方 に 分 布 す る 。 中 輪 方 言 に比 べ る と 、 ○ ● ○
型 の語 の 一部 を ○ ● ● 型 に言 う 傾 向 があ り 、 そ の反 面 、 内 輪 や 中 輪 で○ ● ● ( ● )型 であ る 語 の 一部 を ● ○ ○ 型 に
言 う 傾 向 も あ る 。 中 輪 ・内 輪 に 比 し て、 京 阪 式 方 言 と の間 の 関 係 は 型 の 対 応 が 不 規 則 であ る が 、 九 州 西 南 部 の方 言 と の間 に は 規 則 的 な 対 応 関 係 を 結 ん で いる 。
新 潟 県 岩 船 郡 奥 三 面 地 方 、 山 形 県 東 田 川 郡 大 鳥 地 方 のも のは 、 地 理的 に は 隔 た って いる が 、 内 容 は、 内 輪 式
のも の に 一番 近 い。 同 じ 種 類 のも のは 、 岡 山 県 ・広 島 県 の 一部 か ら も 報 告 さ れ て いる 。
東京 式 方 言 と 接 続 し て いる 地 帯 に は 、 内 輪 ・中 輪 ・外 輪 の いず れ か に似 て 、 型 の姿 が多 少 ち が って いる 方 言 が
あ る。 いわ ば (4 東)京 式 方 言 の 一変 種 であ る 。 こ れ ら は 東 京 式 の ● ○ ○ 型 が ● ● ○ 型 にな って い る 、 あ る いは ○
● ○ 型 に な って い る と いう よ う に 、 (高) か ら (低 ) に 移 る 部 分 が 、 一拍 う し ろ に 移 って い る も の が 多 い。 愛 媛 県 宇 和 島 沖 の九 島 方 言 、 東 京 都 伊 豆 大 島 旧 波 浮 港 村 方 言 な ど が そ れ であ る。
これ ら に似 て、 ● ○ ○ 型 の大 部 分 が ● ● ○ 型 や ○ ● ○ 型 にな って お り 、 そ れ は 、 語 音 の制 約 で そ う な って い る、
と いう 方 言 があ る 。 越 後 か ら奥 羽 北 部 、 北 海 道 に 至 る広 大 な 地 域 に 分 布 し て いる も のが そ れ で 、 同 じ よ う な 方 言 は 、 千 葉 県 の房 総 地 方 、 と ん で島 根 県 の出 雲 地 方 にも あ る 。
ほ か に、 福 岡 県 筑前 地 方 、 壱 岐 ・対 馬 地 方 の 一部 や 、 静 岡 県 浜 名 湖 沿 岸 地 方 な ど には 、 外 輪 方 言 の型 が 一つ減
った 方 言 が 分 布 し て いる 。 大 島 一郎 氏 に よ れ ば 、 福 島 県 の秘 境 桧 枝 岐 地方 のも の も そ れ ら し い。 生 田 早 苗 氏 が 、
近畿 式 方 言 と 接 触 す る 幾 つか の 地 域 で発 見 し て ﹁A 型 ア ク セ ント ﹂ と 呼 ん だ も の も 同 じ 種 類 のも のと 見 ら れ る。 新 潟 県 の村 上 市 付 近 の方 言 な ど は 型 の区 別 が 暖 昧 化 し て い る。
次 に、 鹿 児 島 ・熊 本 ・長 崎 ・佐 賀 の 四 県 に か け て 分 布 す る 九 州 西 南 部 の方 言 は 、 ︹十 八 ︺ に 見 ら れ る よ う に 、
(5京)阪 式 に似 た 外 観 を も った 方 言 で あ る 。 た だ し 型 の 対 応 は、 外 輪 東 京 式 方 言 に 対 し て規 則 的 で あ り、 中 間 に 壱 岐 ・対 馬 の方 言 を お い て み る と 、 外 輪 東 京 式 か ら 変 化 し て出 来 た も の であ る こ と が 推 定 さ れ る 。( 2)
これ と 同 じ よ う な ア ク セ ント は 、 埼 玉 県 東 部 ・山 梨 県 南 巨 摩 郡 の奈 良 田 郷 に 分 布 し 、 柴 田 武 氏 に 従 え ば 、 岩 手
県 久 慈 郡 種 市 町 中 野 の方 言 も 似 た も のと いう 。( 3)宮 城 県 北 部 か ら 岩 手 県 南 部 に か け て の方 言 も 、 そ の 一種 と 見
る こ と が で き よ う 。 筆 者 は 、 さ ら に、 島 根 県 隠 岐 島 方 言 のも のも そ れ だ と 考 え る 。 埼 玉 県 東 部 方 言 ・宮 城 県 北 部 の方 言 は 型 の区 別 が 明 瞭 でな い。
鹿 児 島 県 枕 崎 地 方 と 種 子 島 、 隠 岐 の 五 箇 村 地 方 に は 、再 転 し て 東 京 式 に 近 い外 貌 を 呈 す る方 言 も あ る 。 (6東)京 式 に 似 て 非 な る 方 言 と 言 う べ き か 。 種 子島 方 言 も 型 の区 別 は曖 昧 化 し て いる 。
福 井 県 の嶺 北 地 方 に は 、 福 井 平 野 を 囲 む 周 辺 地 域 に 、 東 京 式 にち ょ っと 似 た ア ク セ ント を も った方 言 が 分 布 し
て い る。 こ れ は各 型 への そ の 所 属 語 彙 の配 分 から 考 え て、 京 阪 式 方 言 が 特 殊 な 変 化 を 遂 げ て 出 来 た も のと 考 え ら れ る 。( 4)型 の区 別 は や や 不 明瞭 であ る。
︹二 十 ︺ で ﹁特 殊 の ア ク セ ント ﹂ と 折 紙を 付 け た 三 重 県 尾 鷲 市 方 言 は、 京 阪 式 と 似 て いる が 、 か な り ち が った も
の であ る 。 右 の福 井 平 野 を 取 り 囲 む地 方 の方 言 と と も に、(7 京)阪 式 か ら 特 殊 な方 向 に変 化 し た 方 言 と 言 う べ き か
と 推 定 さ れ る 。 同 じ よ う な 方 言 は 三 重 県 北 牟 婁 地 域 か ら 奈 良 県 北 山 郷 の池 原 方 面 に ひ ろ が って いる 。 ま た 海 岸 地 区 の 一部 で は 型 の 区 別 が 曖 昧 化 し て いる。
同 種 の方 言 は 、 更 に福 井 県 の今 庄 付 近 と 、 金 沢 市 を 含 め て 石 川 県 加 賀 地 方 に広 く 分 布 し て いる 。 愛 媛 県 東 西 宇
和 郡 地 方 、 岐 阜 県 の関 が 原 か ら 滋 賀 県 の 山 東 にか け て の地 域 な ど に 分布 し て い るも のは 、 そ れ ら と似 て いる とも
言 い がた いけ れ ど も 、 特 殊 な 方 面 へ変 化 し た アク セ ント だ と いう 点 で は 同 じ 趣 き で あ る 。 最 後 に、(8一 )型 ア ク セ ント の方 言 は 、 地 図 に見 ら れ る よ う に 、 (イ ) 関東東 北部から奥 羽南部 にかけ て (ロ ) 静 岡 県 大 井 川 上流 地 方 ( ハ) 福 井県福井平 野地方 ( ニ) 愛 媛 県 大 洲 市 近傍
(ホ )九 州 の鹿 児 島 ・宮 崎 ・熊 本 ・大 分 ・福 岡 ・佐 賀 ・長 崎 の諸 県 に 亘 る 帯 状 の地 方 、 お よ び五 島 列 島 の大 部 ︵ヘ ) 伊 豆 八 丈 島 と そ の属 島 ( ト) ト カ ラ 列 島 の う ち の宝 島 と そ の 属 島
の各 地 に 分 布 し て いる 。 芳 賀綏 氏 は、 そ のほ か に 石 川 県 能 登 北 部 に 西 保 村 大 沢 と いう 集 落 が 一つだ け そ のよ う な 方 言 の 地 点 であ る こ と を 発 見 し た 。( 5)
こ の中 で 、 水 戸 ・仙 台 、 熊 本 な ど に 分 布 す る方 言 は 、 ア ク セ ント のな い方 言 と も 言え る も の で 、 そ の よう な 全
く 質 のち が った 方 言 が 、 日本 語 と いう 同 じ 国 語 の中 に存 在 す る こと は き わ め て 注 目 す べき こと で あ る 。 こ の方 言
は、服部 四郎氏 ( 6)以 来 、 他 の方 言 のよ う な 、 型 の 区 別 を も って いた 方 言 か ら 変 化 し て 発 達 し た 方 言 と 想 定 さ れ
てお り、 そ の内 容 は 平 山 氏 ( 7)の論 文 に詳 し い。 変 化 の経 路 に つ い ては ま だ 定 説 化 し た 推 定 説 が な い。
日本 語 のア クセ ント がど のよう に分布 し て いるか に つ いて、 詳し く述 べた文献 と し ては、 平山 輝男 氏 に ﹃ 全 日本 ア
クセ ント の諸相 ﹄( 8)以 来数 多く の労作 があ る が、 比較 的 新し く詳 し いも のとし て ﹃日本 語音 調 の研 究﹄ ﹃ 全国アクセ
﹃日 本 方 言 地 図 ﹄(1に 1) も 記 載 さ れ て いる 。
ント 辞 典 ﹄(9 )が あ り 、 ﹃方 言 学 講 座 ﹄( 10)第 一巻 の ﹁概 説 ・ア ク セ ント ﹂ の 条 に も 、 簡 潔 に 要 約 し た 文 章 が あ る 。 分 布 図は 同じ 著者 によ り、 東条古 稀 記念 会編
( 芳 賀 綏 )、 青 森
( 此 島 正 年 )、 岩 手
( 以 上 、 鏡 味 明 克 )、 新 潟
( 加 藤 正 信 )、 富 山 ・
( 小 松 代 融 一)、 群 馬 ・埼 玉 (以 上 、 上 野 勇 )、 千 葉 ・東 京 ・神 奈 川 (以
﹃方 言 学 講 座 ﹄ では 次 の よ う に 都 道 府 県 別 に 諸 家 に よ って そ の ア ク セ ン ト が 概 説 さ れ てあ って 便 利 であ る 。 北海 道
( 以 上 、 馬 瀬 良 雄 )、 愛 知 ・岐 阜
( 以 上 、 広 戸 惇 )、 香
( 山 名 邦 男 )、 三 重 ・奈 良 ・
( 前 川 秀 雄 )、 鳥 取 ・島 根
( 以 上 、 奥 村 三 雄 )、 大 阪 ( 和 田 実 )、 兵 庫
( 以 上 、 虫 明 吉 治 郎 )、 山 口
( 秋山
( 寺 師 忠 夫 ・春 日 正 三 )。
( 以 上 、 小 野 志 真 男 )、 熊 本
( 後 藤 利 彦 )、 奄 美 大 島
( 杉 山 正 世 )、 福 岡 (都 築 頼 助 )、 佐 賀 ・長 崎
( 以 上 ・糸 井 寛 一)、 鹿 児 島 ・宮 崎 南 部
( 以 上 、 宮 城 文 雄 )、 愛 媛
( 以 上 、 西 宮 一民 )、 岡 山 ・広 島
( 以 上 、 岩 井 隆 盛 )、 京 都 ・滋 賀 ・福 井
上 、 加 藤 信 昭 )、 山 梨 ・静 岡 ・長 野 石川 和歌 山 川 ・徳 島 正 次 )、 大 分 ・宮 崎 北 部
筆 者 も ﹁国 語 ア ク セ ント の地 理 的 分 布 ﹂( 12)以 来 、 東 条 操 編 ﹃日 本 方 言 学 ﹄( 13)の中 そ の他 に、 筆 者 の立 場 か ら 見 た
分 布 の 記 述 を 書 いた 。 変 わっ た 見 方 を し た も の と し て、 柴 田 武 氏 の ﹁日 本 語 の ア ク セ ン ト 体 系 ﹂( 14)の も の 、 徳 川 宗 賢 氏 の ﹁日 本 諸 方 言 ア ク セ ント の系 譜 試 論 ﹂( 15)の も の が あ る 。
東 京 式 ア ク セ ント を も つ方 言 の こ と に つ いて 書 いた も の は 、 上 記 の文 献 の ほ か に、 筆 者 の ﹁東 京 語 ア ク セ ン ト の再
検 討 ﹂( 16)が あ る 。 内 輪 式 ・中 輪 式 ・外 輪 式 の 区 別 は 、 そ こ で は じ め て 発 表 し た も の で あ る が 、 ち ょ っと 手 に 入り に く いだろう 。 そ の 他 各 地 の 方 言 の ア ク セ ン ト に つ い て の文 献 を あ げ れ ば 、 (1 ) 内 輪 東 京 式 ア ク セ ント の方 言 に つ い て は 、 濃尾 方言 に ついて
﹁ 名 古 屋 ア ク セ ント の 一特 質 ﹂ ( ﹃音声 学 会 会 報 ﹄ 一〇 二 ・ 一〇三 所 載 、共 に昭 三 十 五 )
柴田武 ﹁ 愛 知 県 のア クセ ント の分布﹂ ( 柴田 ﹃ 文 字 と 言葉 ﹄ 所 載 、 昭 二十 四 ) 水 谷修
平 山 輝 男 ﹁飛 騨 ア ク セ ント の所 属 ﹂ (﹃ 音 声 学協 会 会 報 ﹄ 六〇︲六 一所載 、 昭 十 五 )
十津 川方 言 に ついて 吉 町義 雄 ﹁ 所 謂 十 津 川 ア ク セ ント の 一例 ﹂ ( ﹃ 方 言 ﹄ 二 の 八所 載 、 昭 七)
生 田 早 苗 ﹁近 畿 ア ク セ ント 圏 辺 境 地 区 の諸 ア ク セ ント に つ い て ﹂ ( 寺 川 ほ か編 ﹃ 国 語 ア ク セ ント 論 叢﹄ 所 載 、 昭 二十 六 ・十 一) 但 馬 ・丹 後 の方 言 に つ い て 岡 田 荘 之 輔 ﹃た じ ま ア ク セ ント ﹄ ( 昭 三 十 二 ・七、 自 家 版) 幡 多 ・宇 和 の方 言 に つ い て ﹃土 佐 言 葉 ﹄ ( 昭 三 十三 ・九、 市 民 図書 館 ︶
高 知 県 幡 多 郡 の ア ク セ ント ﹂ ( ﹃ 国 語 学 ﹄一六 所 載 、 昭 二十 九 )
土 居重俊 同﹁ 岡 山 県方言 に ついて
虫 明 吉 治 郎 ﹃岡 山 県 の ア ク セ ント ﹄ ( 昭 二十 九 ・十 一、 山 陽 図書 )
広 戸 惇 ﹁岡 山 県 に 於 け る ア ク セ ン ト の 分 布 ﹂ ( ﹃ 島 根大 学 論 集 ﹄六 所 載 、 昭 三十 七 )
﹁ 越 智 郡 地 方 の ア ク セ ン ト 分 布 の様 相 ﹂ ( ﹃愛媛 国 文 研 究﹄一 ・二所載 、 共 に 昭 二十 八)
愛 媛 県伯方 島 の方言 に ついて 杉 山正世
藤 原 与 一ほ か ﹁ 瀬 戸 内 海 伯 方 島 方 言 ﹃語 ア ク セ ント ﹄ 調 査 成 果 ﹂ ( ﹃ 方 言 研 究年 報 ﹄ 一 一︲一二所 載 、昭 四 十 三 )
﹁東 西 両 ア ク セ ント の違 い が で き る ま で﹂ ( ﹃文学 ﹄ 二二 の八所 載 、 昭 二十 九 ︺
石 川県 鹿島 郡中 乃島 村 の方言 に ついて 金 田 一春 彦
川 本 栄 一郎 ﹁能 登 島 の 老 ・若 に お け る 二 音 節 名 詞 第 四 ・五 類 の ア ク セ ン ト ﹂ (﹃ 密 田 良 二教 授 退 官 記 念 論 文 集 ﹄ 所載 、 昭 四 十 四 ・三 )
﹁ 仙 境 ﹃奥 三 面 ﹄ の音 調 ﹂ ( ﹃音声 研 究 ﹄ 七六 所 載 、 昭 二十 五)
新 潟 県 奥 三 面 ・山 形 県 大 鳥 村 の方 言 に つ いて 平 山輝男
柴 田武
広 島 県 作 木 村 に つ い て ﹂ (﹃ 音 声 学会 会 報 ﹄ 七九 所 載 、 昭 二十 七)
﹁山 形 県 大 鳥 方 言 の 音 韻 分 析 ﹂ ( ﹃言 語民 俗 論 叢﹄ 所 載 、 昭 二十 八 ・五 )
岡 山 ・広 島 県 下 の 特 殊 の方 言 に つ いて 和 田 実 ﹁1 ・2 ・3 型 の ア ク セ ント 体 系︱ (2) 中 輪 東 京 式 ア ク セ ント の 方 言 に つ い て は、 関 東 ・甲 信 駿 の方 言 に つ い て
﹁ 関 東 地方 に於 ける アク セ ント の分布 ﹂ ( 日本 方 言 学 会 編 ﹃日本 語 のア ク セ ント﹄ 所 載 、 昭 十 七 ・三)
﹁静 岡 ・山 梨 ・長 野 県 下 の ア ク セ ント ﹂ (﹃音声学 協 会 会報 ﹄ 七 二︲七 三、 七 四︲七五 所 載、 昭十 八 )
金 田 一春 彦 同
﹁ 栃 木 県 方 言 の ア ク セ ン ト と そ の 境 界 線 ﹂ (﹃ 音 声 の研究 ﹄Ⅷ 所 載、 昭 三 十 二 )
中 沢 政 雄 ﹁群 馬 ア ク セ ント に つ い て ﹂ (﹃ 季 刊国 語 ( 群 馬)﹄ 二所 載、 昭 二十 二 ) 原 弘昌
平 山 輝 男 ﹁豆 南 諸 島 の ア ク セ ント と そ の 境 界 線 ﹂ ( ﹃ 音 声 学 協 会会 報 ﹄ 六 七︲六 八 所載 、 昭 十 六 ) 前 川 秀 雄 ﹁静 岡 方 言 の ア ク セ ン ト ﹂ ( ﹃ 方 言 研 究 の問 題 点 ﹄所 載 、 昭 四 十五 )
柴田武 ﹁ 愛 知 県 の ア ク セ ン ト 分 布 ﹂ ((に 1前 )出 )
西 三河方 言 に ついて
中 国方言 に ついて ﹃山 陰 地 方 の ア ク セ ン ト ﹄ ( 昭 二十 八 ・四、 島 根 県 ・報 光 社 )
﹁ 中 国 地 方 の ア ク セ ント ﹂ (﹃ 音声 の研 究 ﹄Ⅸ 所 載 、 昭 三十 六 )
広 戸 惇 ・大 原 孝 道 広 戸惇
﹁山 口 県 に 於 け る ア ク セ ン ト の 分 布︱
石 見 と の 関 連 に お い て ﹂ (﹃ 山 陰 文化 研究 所 紀 要 ﹄ 島 根 大 学 一所 載 、 昭 三
同 ﹁広 島 県 に 於 け る ア ク セ ン ト の 分 布 ﹂ ( ﹃ 島 根大 学 論 集 ・人 文 科 学 ﹄ 一〇 所 載 、 昭三 十 六 ) 同
十六) (3) 外 輪 東 京 式 ア ク セ ント の方 言 に つ いて は 、 越 後 ・北 奥 方 言 に つ い て
平 山輝 男 ﹁ 奥 羽 ア ク セ ント の 諸 相
( 上 )( 下 )﹂ (﹃ 文 化 ﹄ 七 の 一〇 ・一一所 載 、 昭十 七 )
金 田 一京 助 ﹁北 奥 方 言 の 発 音 と そ の ア ク セ ン ト ﹂ (﹃ 音 声 の研究 ﹄Ⅴ 所載 、 昭 七 )
鈴 木 一郎 ﹁新 潟 県 下 の ア ク セ ント 分 布 に つ い て ﹂ (﹃ 音 声 学協 会 会 報 ﹄ 七 一所 載 、 昭 十 七) 芳 賀 綏 ﹁東 北 ア ク セ ン ト の 一動 向 ﹂ (﹃ 東 洋 大学 紀 要 ﹄ 一五所 載 、 昭 三十 六)
金 田 一春 彦 ﹁静 岡 ・山 梨 ・長 野 県 下 の ア ク セ ント ﹂ ( (2) に前 出 )
遠 江 ・東 三 河 の方 言 に つ いて
柴 田 武 ﹁愛 知 県 の ア ク セ ント の 分 布 ﹂ ( (1 に) 前出)
﹃ 豊 橋 地方 の方言 ﹄ ( 昭 四 十 七 ・十 、 豊 橋文 化 協 会 )
寺 田 泰 政 ﹃遠 州 方 言 の ア ク セ ント ﹄ ( 昭 四 十 五 ・十 、 静 岡県 ・美 哉 堂 ) 吉 川 利 男 ・山 口 幸 洋 出 雲 ・伯耆 の 方 言 に つ い て 広 戸 惇 ・大 原 孝 道 ﹃山 陰 地 方 の ア ク セ ン ト ﹄ ( (2) に前 出 ) 九 州 東 北 部 方 言 に つ いて
平 山 輝 男 ﹁九 州 東 北 部 の ア ク セ ント と そ の系 統 ( 上 )( 下)﹂ ( ﹃ 国 学 院 雑 誌﹄ 四 七 の 一 ・二所 載 、 昭十 六 ) 同 ﹃九 州 方 言 音 調 の研 究 ﹄ ( 昭 二十 六 ・八、 学 界 の指 針 社 ) (4 ) 東 京 式 か ら の 変 種 の方 言 に つ い て は 、 愛 媛 県 九 島 の 方 言 ・東 京 都 下 波 浮 港 の方 言 に つ い て
﹁伊 豆 諸 島 方 言 の音 韻 と ア ク セ ン ト と ころ ど こ ろ ﹂ ( ﹃ 方 言 研 究 ﹄ 八所 載 、 昭 十 八)
杉 山 正 世 ﹁宇 和 島 市 沿 岸 地 区 の ア ク セ ン ト に つ い て ﹂ ( ﹃ 愛 媛 国 文 研究 ﹄ 九 所載 、 昭 三 十 五) 金 田 一春 彦
越 後 ・北 奥 ・北 海 道 地 方 の方 言 に つ いて ( 上 )( 下)﹂ ( (3) に前 出 )
( 北 海 道 編 ) (一)︲( 四) ﹂ ( ﹃コト バ﹄ 三 の 一〇、 四 の二 ・三 ・六 所載 、 昭 十 六︲十 七 )
平 山 輝 男 ﹁奥 羽 ア ク セ ント の諸 相 同 ﹁全 日 本 ア ク セ ント 概 況
﹃地 域 社 会 の言 語 生 活
( 鶴 岡 )﹄ ( 昭 二 十 八 ・八)
鈴 木 一郎 ﹁新 潟 県 下 の ア ク セ ン ト 分 布 に つ いて ﹂ ( ( 3) に前 出 ) 国 立国 語研 究所 芳 賀 綏 ﹁東 北 ア ク セ ン ト の 一動 向 ﹂ ( ( 3) に前 出)
望 月 信 彦 ﹁新 潟 県 粟 島 ア ク セ ン ト の 研 究 ﹂ ( 望月 ﹃ 国 語 アク セ ント の研 究﹄ 所 載 、 法 政大 学 出 版 局、 昭 二十 八 ・四)
ア ク セ ント 篇 ﹂ (﹃ 方 言 ﹄ 六 の六 所 載 、 昭十 一)
﹁ 福 島 県 桧 枝 岐 方 言 の性 格 に つ いて ﹂ ( ﹃ 東 京 都 立 大 学 人文 学 報 ﹄ 一九 所 載 、 昭 三十 四)
大 島一 郎 ﹁新 潟 県 境 に 接 す る 福 島 県 西 部 方 言 ア ク セ ント の 研 究 ﹄ (﹃ 音 声 の研究 ﹄Ⅷ 所載 、 昭 三 十 二 ) 同 出雲 方言 に ついて
﹃ 山 陰 地 方 の ア ク セ ント ﹄ ( (3 に) 前出)
加 藤 義 成 ﹁中 央 出 雲 方 言 音 韻 考︱ 広 戸 惇 ・大 原 孝 道 千 葉 県 房 総 地 域 の方 言 に つ いて
﹁関 東 地 方 に 於 け る ア ク セ ント の 分 布 ﹂ ( (2 に) 前 出)
﹁房 総 ア ク セ ント 再 論 ﹂ ( ﹃国 語学 ﹄ 四 〇 所載 、 昭 三 十 六)
金 田 一春 彦 同
福 岡 県 筑 前 地 方 、 壱 岐 ・対 馬 の方 言 に つ いて 平 山 輝 男 ﹃九 州 方 言 音 調 の 研 究 ﹄ ( (3) に前 出 ) 同 ﹁壱 岐 ・対 馬 両 方 言 の 音 調 ﹂ (﹃ 音 声 の研 究 ﹄Ⅶ 所 載 、 昭 二 十 六) 静 岡 県 浜 名 湖 沿 岸 の方 言 に つ い て
前 川 秀 雄 ﹁浜 名 湖 畔 の ア ク セ ント に つ い て﹂ ( ﹃音声 学 会 会 報﹄ 八 八所 載 、 昭三 十 )
寺 田 泰 政 ﹁遠 州 地 方 の ア ク セ ン ト の 分 布 と そ の問 題 点 ﹂ (﹃ 音 声 学会 会 報 ﹄ 九 六所 載 、 昭 三 十 三) 福 島県 桧 枝 岐 方 言 に つ い て
大 島 一郎 ﹁福 島 県 西 南 部 の ア ク セ ント と 境 界 線 ﹂ ( ﹃ 国 語研 究 ( 国 学院 大 )﹄ 創刊 号 所 載 、 昭 二十 七 ) 近 畿 周 辺 の特 殊 ア ク セ ン ト の 方 言 に つ い て
生 田 早 苗 ﹁近 畿 ア ク セ ント 圏 辺 境 地 区 の 諸 ア ク セ ン ト に つ い て ﹂ ( (1 に) 前出)
(1 )︲(4 )﹂ ( ﹃コト バ﹄ 七 の 四 ・五 ・七 ・八 所 載 、 昭 十 二)
( 上 )(下)﹂ (﹃ 方 言﹄ 六 の四 ・五 所載 、 昭 十一 )
( 5) 京 阪 式 に 似 た 外 観 を も つ特 殊 の 方 言 に つ い て は 、 九州 西南 部 の方 言 に ついて 平 山 輝 男 ﹁南 九 州 ア ク セ ン ト の 研 究 同 ﹁北 九 州 に 於 け る 二 型 ア ク セ ント の 研 究 同 ﹃九 州 方 言 音 調 の研 究 ﹄ ( ( 3) に前 出 ) 六六 所載 、 昭 十 六 )
﹁対 馬 付壱 岐 ア ク セ ント の 地 位 ﹂ ( ﹃対馬 の自 然 と文 化 ﹄ 所 載 、古 今 書 院、 昭 二十 九 ・九 )
上 村 孝 二 ﹁甑 島 方 言 の ア ク セ ント ﹂ (﹃ 音 声 学協 会 会 報 ﹄ 六 五︲ 金 田 一春 彦 鹿 児 島 県 枕 崎 ・種 子 島 の方 言 に つ い て
上 村 孝 二 ﹁方 言 研 究 補 遺 ﹂ (﹃ 鹿 児島 大 学 ・文 学 科論 集 ﹄ 八 所載 、 昭 四 十 八 )
平 山 輝 男 ﹁ト カ ラ 群 島 ・屋 久 島 ・種 子 島 の方 言 ﹂ ( ﹃ 国 語 学 ﹄ 六九 所 載 、 昭 四十 二) 埼玉 県東 部 の特殊 方言 に ついて 金 田 一春 彦 ﹁関 東 地 方 に 於 け る ア ク セ ン ト の 分 布 ﹂ ( (2) に前 出 ) 同 ﹃ 埼 玉 県 下 に 分 布 す る 特 殊 ア ク セ ント の考 察 ﹄ ( 昭 二十 三 ・十 二、 自 家 版) 山 梨 県 奈 良 田 地 区 の方 言 に つ い て
平 山 輝 男 ﹁言 語 島 の 音 調 体 系 成 立 と そ の解 釈 ﹂ ( ﹃国 語 と国 文 学﹄ 三 二 の 一○ 所載 、 昭 三 十)
稲 垣 正 幸 ﹁奈 良 田 方 言 の ア ク セ ント ﹂ ( 稲 垣 ほ か編 ﹃奈良 田 の方 言﹄ 所 載 、 甲府 ・山梨 民 俗 の会 、 昭 三 十 二 ・八 )
( 担当 、石 田春 昭) ﹃ 隠 岐 島 方 言 の研 究 ﹄ ( 昭 十 一、 同 学校 )
島 根 県 隠 岐 島 の方 言 に つ いて 島 根女 子師範 学校
﹃山 陰 地 方 の ア ク セ ント ﹄ ( (2) に前 出 )
広 戸 惇 ﹁隠 岐 島 ア ク セ ン ト の考 察 ﹂ (﹃ 島 根大 学 論 叢 ( 人文科学) ﹄ 一所 載 、 昭 二十 六 ) 広 戸 惇 ・大 原 孝 道
大 原 孝 道 ﹁隠 岐 島 の ア ク セ ント ﹂ ( ﹃ 方 言 研 究 年報 ﹄ 二所 載、 昭三 十 四 ) (6) 京 阪 式 か ら 特 殊 の方 向 に 変 化 し た 方 言 に つ い て は 、 三 重県 尾 鷲 地 方 の方 言 に つ い て 生 田 早 苗 ﹁近 畿 ア ク セ ント 圏 辺 境 地 区 の諸 ア ク セ ント に つ い て ﹂ ( (1 に) 前出)
金 田 一春 彦 ﹁熊 野 灘 沿 岸 諸 方 言 の ア ク セ ント ﹂ ( ﹃名古 屋 大 学文 学 部 十 周 年 記念 号 ﹄ 所載 、 昭 三 十 四) 福 井 県 今 庄 付 近 の方 言 に つ い て
(1)︲ (3)﹂(﹃ 音 声 学会 会 報 ﹄ 八 三︲八 五所 載 、 昭 二 十 八︲二 十九 )
生 田 早 苗 ﹁近 畿 ア ク セ ント 圏 辺 境 地 区 の諸 ア ク セ ント に つ い て ﹂ ((に 1前 )出 ) 平 山 輝 男 ﹁福 井 県 嶺 北 方 言 の 音 調 と そ の境 界 線 加 賀 地方 の方 言 に つ いて
﹁石 川 方 言︱
そ の分布 と区 画﹂ ( ﹃国 語学 ﹄一一 所載 、 昭 二十 八)
﹁ 北 陸道 方 言 の音調 ﹂ ( 寺 川 ほ か編 ﹃国 語 アク セ ント 論 叢 ﹄ 所載 、 (1 に) 前 出 、 昭 二 十 六 ・十 一)
平 山 輝 男 ﹁北 陸 道 ア ク セ ン ト の概 観 ( 上 )( 中 )( 下)﹂ (﹃ 音 声 学協 会 会 報 ﹄ 五 二 ・五 三 ・五五 所 載 、 昭十三︲ 十 四) 同 岩井 隆盛
愛媛 県宇 和 地方 の方言 に ついて
﹁四 国 ア ク セ ン ト と そ の 境 界 線 ﹂ ( ﹃ 音 声 学 協会 会 報 ﹄ 六 四所 載 、 昭 十 五)
平 山 輝 男 ﹁四 国 方 言 の ア ク セ ン ト 体 系 と そ の系 譜 ﹂ ( ﹃音 声 の研 究 ﹄Ⅷ 所 載 、 昭 三十 二) 同
岐 阜 県 の 関ヶ原 地 方 の方 言 に つ いて 生 田 早 苗 ﹁近 畿 ア ク セ ント 圏 辺 境 地 区 の諸 ア ク セ ント に つ い て ﹂ ( (1 に) 前出) 福 井 平野 を囲 む地 域 の方 言に ついて 平 山 輝 男 ﹁福 井 県 下 の 音 調 ﹂ (﹃ 音声 学 会 会 報﹄ 七七 所 載、 昭 二十 六 ) を 参照。
最 後 に 、 (8)の型 一ア ク セ ント の方 言 に つ い て は 、 平 山 輝 男 氏 の ﹁ア ク セ ン ト 分 布 と 一型 ア ク セ ン ト ﹂、 同 ﹁日 本 語
アク セ ント の統 合 ﹂( 17)な ど に詳 し い。
︹四十 三︺ 特 に京阪 式方 言 の アクセ ント の概 説
後 篇 に お いて は 、 実 際 に 史 的 研 究 が 可 能 な のは 、 文 献 の制 限 が あ って、 京 都 語 を 中 心 と す る 畿 内 の方 言 に限 ら
れ る。 そ こ で、 そ の京 都 ・大 阪 式 ア ク セ ント の諸 方 言 の内 容 を 、 こ の項 で 多 少 詳 しく 紹 介 す る 。
京 都 語 の ア ク セ ント の型 の種 類 と 所 属 語 彙 の例 を 掲 げ る と 、 次 の ︹ 付 表 12 ︺ の よう にな る。 一拍 語 は、 日常 の
会 話 で は 、 二拍 語 のよ う に 発 音 す る 方 が普 通 で あ る 。 そ の場 合 は ● 型 は ● ● 型 に、〓 型 は ● ○ 型 に、〓 型 は ○ ●
型 にな る 。 ま た、 こ こ に は 一語 の ア ク セ ント の型 だ け を 掲 げ た が 、 も し 、 語 が結 合 し た 場 合 を も 掲 げ る な ら ば 、 ︹付表 12︺
これ 以外 に 、 〓 ○ 型 ( 例 、 ﹁日 が ﹂) 〓○ 型 ( 例 、 ﹁火 も ﹂)
● ●〓 型 ( 例 、 ﹁こ の 日﹂) 〓
○○ 型 ( 例 、 ﹁日 に は ﹂)
○ ○ ○ 型 (例 、 ﹁火 や った (‖火 ダ ッタ )﹂) ○○●●型 ( 例 、 ﹁ど の道 ﹂)
〓○ ○型 ( 例 、 ﹁火 ま で﹂) ○〓 ○ 型 (例 、 ﹁春 が﹂) ● ● ●〓 型 ( 例 、 ﹁あ く る 日﹂) 〓 ○ ○ ○ 型 ( 例 、 ﹁日 ば か り﹂) 〓 ○ ○〓 ○ 型 ( 例 、 ﹁マ ッチ が﹂) のよ う な 型 も 現 わ れ る 。 三 語 の結 合 の 場 合 に は、 さ ら に、 ● ●〓 ○ 型 ( 例 、 ﹁こ の 日 は﹂) が追 加 さ れ る 。
京 阪式 ア ク セ ント を 有 す る と 見 ら れ る方 言 の 分 布 地 域 は、 大 体 巻 末 の ︹付 図 ︺ の示 す と お り であ る が 、 こ れ ら
の ア ク セ ント は ま た 次 のよ う に 分 類 さ れ 、 そ れ ぞ れ の特 色 は そ の条 に 示 す と お り であ る 。 な お こ こ に 何 々郡 と い
う 場 合 に は 、 旧 地 名 に よ って いる の で 、 当 然 そ の地 域 内 の 市 街 地 も そ の中 に含 ま れ る。 例 え ば 、 和 歌 山 県 西 牟 婁
郡 地 方 と 言 え ば 、 も と 郡 内 の町 であ った 今 の 田 辺 市 も 含 ま れ る 。 ど う も 近 ご ろ む や み に 行 な わ れ る 地 名 の変 更 は 、 方 言 研 究 家 にと って あ り が た く な い。
︹ A︺ 京都 語 ・大 阪語 とよ く似 た アク セ ント の方 言。 ( 1) 京 都 式 方 言 京 都 府 ︹山 城 地 域 全 部 ・丹 波 の東 南 半 ︺ 滋 賀県 ︹ 大 部 、 す な わ ち 東 北 三 郡 を 除 いた 全 地 域 ︺ 奈 良県 ︹ 大 部 、 す な わ ち 吉 野 郡 の南 半 を 除 く 全 県 ︺ 三 重県 ︹ 伊賀 地方︺
(2) 大 阪 式 方 言 大 阪府 ︹全 域 ︺ 兵 庫 県 ︹摂 津 ・淡 路 の全 域 と 、 播 磨 の東 南 部 ・丹 波 の 東 部 ︺ 和 歌 山 県 ︹有 田 郡 以 北 と 、 と ん で東 牟 婁 郡 南 部 か ら 西 牟 婁 郡 東 南 部 ︺ ( 3 ) 伊 勢 式方 言 三 重 県 ︹伊 勢 の大 部 、 す な わ ち 太 平 洋 岸 を 除 いた 全 域 、 志 摩 の大 部 ︺ 愛媛県 ︹ 松 山 ・今 治 ・西 条 な ど 伊 豫 地方 ︺ (4) 小 浜 式 方 言 福井県 ︹ 若 狭 地 区 の小 浜 付 近 ︺
こ れ ら の地 域 の 方 言 は 、 型 の 種 類 も 大 体 京 都 語 に 一致 し 、 大 体 ︹付 表 12 ︺ の よ う に、 す な わ ち 、 ︹二 十一︺ の
︹ 付 表 8 ︺ に 掲 げ た 語 彙 を 、 そ こ に 提 示 し た京 都 語 のよ う な ア ク セ ント で発 音 す る 。 た だ し 、 細 か い点 を 言 え ば 、 次 のよ う な ち が いが あ る。
(1 () 4 の) 方 言 では 、 名 詞 + 付 属 語 の 形 に○〓○ 型 と いう 型を 有 す る が 、 (2) ( 3) の地 域 で は有 せ ず 、 そ れ ら の 語彙 を
○ ● ○ 型 に 発 音 す る。(3の)地 域 では 、○〓 型 も 有 せ ず 、 こ れ を ○ ● ( ○ )型 に発 音 す る傾 向 を も つ。
(1) (( 4 の 3 ) 地 )域 で は 、 ● ● ○ 型 は 、 単 語 の ア ク セ ント に は 稀 に し か な い。(2の)地 域 で は ● ● ○ 型 の語 が 多 く 、
︹付 表 8 ︺ で 三拍 名 詞 ﹁男 ﹂ 類 の語 、 ﹁小 豆 ﹂ 類 の 語 を ● ● ○ 型 に いう 。 (4 の) 地 域 では 、 三 拍 語 で ○ ○ ● 型 は 、 名
詞 プ ラ ス付 属 語 の形 だ け に 現わ れ 、 ﹁兎 ﹂ 類 三 拍 名 詞 の単 独 の 形 な ど は ● ● ● 型 に属 す る 。 し た が って(1)の (方 2)
言 に 比 べ る と 、 や や 純 粋 で はな い。 こう いう や や 純 粋 でな い京 阪 式 方 言 は 、 岐 阜 県 西 北 隅 に も 分布 し て い る と い う。
︵ 5) 徳 島 式 方 言 徳 島 県 ︹西部 の山 地 を 除 く 一帯 の地 域 ︺ 香川県 ︹ 東 南 隅 。.例 、 引 田 町 ︺ 和 歌 山 県 ︹日 高 郡 の 東 南 部 。 例 、 龍 神 村 地 方 ︺ (6) 高知式方 言 高知県 ︹ 幡 多 郡 以 外 の諸 郡 の海 岸 地 帯 ︺ 和 歌 山県 ︹西 牟 婁 郡 大 部 ︺ 兵庫県 ︹ 播 磨 のう ち 加 東 ・加 西 ・美 嚢 の諸 郡 、 多 可 郡 南 部 ・神 崎 郡 南 部︱
和 田 実 氏 に よ る︺
︺ ︹B 京 都語 ・大 阪語 とや や異 な る アク セ ントを も つ方 言。 ただ し、 同じ 系統 と見 られ るも の、第1 種 。
こ れ ら の地 域 の方 言 の ア ク セ ント は 、︹ A︺ の地方 に似る が、) (5 の地 域 で は ○ ○ ○ ● 型 を も た ず 、 ﹁兎 ﹂ 類 名 詞 +
助 詞 の形 な ど を ○ ○ ● ● 型 に 言 う 。 ( 6) の地 域 で は ○ ○ ○ ● 型 を も た な いば か り でな く 、 ○ ○ ● 型 、 ○ ○ ● ○ 型を
も も たず 、 例 え ば 二 拍 第 4 類 名 詞 + 付 属 語 の 形 、 三 拍 ﹁兎 ﹂ 類 名 詞 の単 独 の形 、 三拍 ﹁歩 く ﹂ 類 動 詞 の連 体 形 を
○ ● ● 型 に言 う 。 そ れ に準 じ て京 阪 語 で○ ○ ● ○ 型 のも のを ○ ● ● ○ 型 に 、 ○ ○ ○ ● 型 のも のを ○ ● ● ● 型 に 言 う。
﹁実 証 展 開 篇 ﹂ で 考 察 す る と こ ろ で は 、 こ れ ら の地 域 のう ち 、 ) (5 の地 域 の方 言 の ア ク セ ント は 、 江 戸 時 代 中 期 の
京 都 ア ク セ ント に よ く 似 た も の であ り 、 (6) の地 域 の方 言 の ア ク セ ント は 、 室 町 時 代 の京 都 ア ク セ ントを ほう ふ つ さ せ る ア ク セ ント であ る こ と が知 ら れ る 。
︵ ) 7勝浦式 方言
︹C京 ︺ 都語 ・大 阪語 と やや 異な る アク セ ントを も つ方 言。 ただ し 同じ系 統 と見 られ るも の、 第 2種。
和 歌 山 県 ︹勝 浦 町 付 近 ︺ 三 重 県 ︹度 会 郡 太 平 洋 岸 ︺ ( 8) 能 登 式 方 言
石 川 県 ︹能 登 のう ち の羽 咋 郡 南 部 、 鹿 島 郡 大 部 、 鳳 至 郡 東 南 部 、 珠 洲 郡 全 域 ︺
こ れ ら の地 域 では 、 京 都 語 の● ● 型 、 ● ● ● 型 、 ● ● ○ 型を 持 た ず 、 一拍 第1 類 名 詞 + 付 属 語 の 形 、 二拍 第1
類 名 詞 の単 独 の 形 、 二拍 第1 類 動 詞 の連 体 形 を ○ ● 型 に 言 い、 二 拍 第1 類 名 詞 +付 属 語 の 形 、 三 拍 ﹁形 ﹂ 類 名 詞
の単 独 の形 、 三拍 第 1類 動 詞 の連 体 形 を ○ ● ● 型 に 言 い、 三 拍 ﹁小 豆 ﹂ 類 、 ﹁男 ﹂ 類 名 詞 の 単 独 の形 、 三 拍 第1 類 形 容 詞 の連 体 形 を ○ ● ○ 型 に言 う 。
の語 を ○ ● ○ 型 に 、京 都 語 の● ● ○ 型 の語 を ○ ● ● (○ )型 に言 い、 さ ら に京 都 語 の ○ ● 型 の 語 を○○ 型 に 、 京 都
(8 ) にあ げ た 能 登 の大 部 の地 域 の方 言 では 、 そ の ほ か に京 都 語 の● ○ 型 の 語 を ○ ● ( ○ )型 に 、京 都 語 の● ○ ○ 型
語 の○ ○ ● 型 の 語 を ○ ○ ○ 型 に 言 う か ら 、 外 観 は か な り ち が い、 東 京 式 方 言 に 通 う 点 を も つ。 こ れ ら と そ っく り
では な いが 、 京 阪 式 か ら 同 じ よ う な 方 向 に 変 化 し た ア ク セ ント は、 三 重 県 南 牟 婁 郡 の 一部 や 、 平 山 輝 男 氏 によ れ ば 、 高 知 県 の幡 多 郡 の 一部 にも 行 な わ れ て い る。
ま た 能 登 の西 北 部 に は 、 こ れ と は かな り ち が い、 型 の区 別 が 曖 昧 化 し た ア ク セ ント ( 9) も 行 な わ れ て いる 。
︹D ︺ 京 都 語・ 大阪 語 とや や異な る アク セ ントを も つ方言 。た だ し同 じ系統 と 見ら れるも の、第 3種 。
滋 賀 県 ︹東 北 三 郡 の各 地。 例 、 木 之 本 付 近 ︺
京 都 府 ︹丹 後 の東 南 部 。 例 、 舞 鶴 市 ︺
︵ 10 舞) 鶴 式方言
兵 庫 県 ︹播 磨 の 西 半 の大 部 分 と 丹 波 の多 可 地 区 ︺
和 歌 山県 ︹東 牟 婁 郡 の 一部 。 例 、 本 宮 地 方 ︺ 三 重 県 ︹南 牟 婁 郡 の 一部 。 例 、 熊 野市 ︺ 徳 島 県 ︹那 賀 郡 木 頭 地 方 ︺ 愛 媛 県 ︹浮 穴 郡 地 方 ︺ 福 井 県 ︹若 狭 の大 部 と大 野 郡 平 野 部 ︺ 高 知 県 ︹山岳 地 帯 ︺ l () 1 垂井式方 言 京 都 府 ︹丹 波 の西 北 半 ︺
生 田 早 苗 氏 に よ る︺
滋賀県 ︹ 東 北 三 郡 の各 地 。 例 、 長 浜 市 ︺ 奈 良 県 ︹吉 野 郡 宗 桧 村︱
兵 庫 県 ︹丹 波 の 氷 上 地 域 、 但 馬 朝 来 郡 南 端︱ 福 井 県 ︹敦 賀 地 方 ︺ 岐阜 県 ︹ 垂井 町付近︺ ) 2 (1 越中式方 言 富 山県 ︹ 全 県︺ 徳 島 県 ︹祖 谷 地 方 ︺ (1 熊3 野)式方 言
和歌 山県 ︹ 新宮 市付近︺ 三重県 ︹ 旧木之本 町付近︺
和 田 実 氏 によ る︺
こ れ ら の地 方 の方 言 で は 、京 都 ・大 阪 語 で● ● 型 の 語 と 、 ○ ● 型 の語 と が い っし ょ に な り、 京 阪 語 で ● ● ● 型
の 語 と ○ ○ ● 型 の語 と が い っし ょ に な り 、 京 阪 語 で● ● ○ 型 の 語 と ○ ● ○ 型 の語 が い っし ょ に な って いる 傾 向 が
あ る。 そ う し て(10の )地 (域 11 で) は、こ れ ら が● ● 型 、 ● ● ● 型 、 ● ● ○ 型 にな って お り 、(1 の2地)域 では ○ ● 型 、 ○
● ● 型 、 ○ ● ○ 型 にな って お り 、( 13) の地 域 で は ○ ● 型、 ○ ○ ● 型 、 ○ ● ○ 型 にな って いる 。 か つ、 京 阪 語 ○ 〓 型
の 語 が(1の 2地 )域 で は ●〓 型 にな ってお り、(1の1地)域 お よ び(1の 2う )ち の富 山 県 地 方 で は ● ○ 型 の語 に 合 流 し て お
り、 ● ● ○ 型 ・● ○ ○ 型 ・○ ● ○ 型 の三 者 も 合 流 し て いる 。(1の3地)域 で は京 阪 語 の● ○ ○ 型 の語 が● ● ○ 型 に合 流 し て い る。
香 川 県 ︹西 半 。 そ の中 で も 、 観 音 寺 付 近 と 丸 亀 付 近 と で は 多 少 ち が う 。 地 理 的 に は 東 讃 に属 す る が、 白 鳥
() 4 1 西讃 式方言
︹E︺ 京 都 語 ・大 阪 語 と か な り 異 な る ア ク セ ント の方 言 。 た だ し 、 同 じ 系 統 と 見 ら れ る も の、 第 l 種 。
徳島 県 ︹ 美 馬 ・三 好 二 郡 の北 半 ︺
は 観 音 寺 に似 て お り 、 津 田 町 は 丸 亀 に似 て いる ︺
愛媛 県 ︹ 新 居浜市付近︺
玉 井 節 子 氏 によ る ︺
香 川県 ︹ 東 部 。 代 表 は 高 松 市 。 小 豆 島 大 部 (例 、 土 庄 ) も これ に準 ず る ︺
() 5 1 東讃式方 言
香 川県 ︹ 塩 飽 本 島 ・粟 島 と 小 豆 郡 内 海 町 苗 羽 付 近︱
() 6 1 粟島式方 言
徳 島 県 ︹三 好 郡 山城 村 と 美 馬 郡 一宇 村︱
愛 媛 県 ︹宇 摩 郡 一帯 ︺
森 重 幸 氏 によ る︺
こ れ ら の 地 方 の 方 言 は 、︹B︺−︹ のD方 ︺言 よ り さ ら に 、 京 都 ・大 阪 語 と 隔 た る ア ク セ ン ト を も ち 、 ︹二 十 ︺ で 、 ﹁讃
岐 式 方 言 ﹂ と 呼 ん だ も の であ る。 これ ら の方 言 の ア ク セ ント は、 地 域 に よ る 変 化 が激 し いが 、 今( 14) の観音寺と 丸
亀 、( 15) の 高 松 と 土 庄 、( 16) の 塩 飽 本 島 だ け に つ い て 述 べ る な ら ば 、 京 阪 語 の ○ ● 型 ・○ 〓 型 ・○ ○ ● 型 ・○ ● ○ 型
は大 体 、 京 阪 語 と 同 じ で、 た だ し 、 観 音 寺 付 近 では ○ ● 型 は ○ ○ 型 に、 ○ ○ ● 型 は ○ ○ ○ 型 に な って いる 。 京 阪
語 の● ● 型 ・● ● ● 型 は 、(1の4う)ち の観 音 寺 付 近 で は そ のま ま ● ● 型 、 ● ● ● 型 で あ る が、 同 じ (1 の4 丸) 亀 市 と(15) の土 庄 町 で は ● ● 型 と ●○ 型 と に 別 れ て いる 。(1 の5 高)松 市 で は 、 全 体 が ○ ● 型 と ● ○ 型 と に 別 れ て お り 、 塩 飽 本
島 全 部 が ● ○ 型 にな って い る。 ま た 京 阪 語 の● ● ● 型 も これ に 並 行 的 に( 14) のう ち の丸 亀 で は 半 数 が● ○ ○ 型 に 、
(1 の5 高)松 で は 全 部 が○ ● ● 型 と ○ 〓 ○ 型 と に 別 れ 、 土 庄 町 で は 半 数 が○ ○ 〓 型 に な って お り 、(1 の6 塩)飽 本 島 で は
全 部 ○ ● ○ 型 にな って いる 。 京 阪 語 で●○ 型 の語 は 、(1 の4 観)音 寺 ・丸 亀 、(1 の5土)庄 で は● ● 型 と ●○ 型 に別 れ て
いる が、 こ れ が ︹二 十 二 ︺ の ︹付 表 9 ︺ の第 2 群 と第 3 群 と に 対 応 し 、 第 2 群 は こ の地 方 で ● ○ 型 に 、 第 3群 が
● ● 型 に な って いる。(1の6塩 )飽 本 島 で は第 3 群 の方 が○ ● 型 、(1 の5 高)松 では 第 3 群 が○ ● 型 にな って いる 以 外 に、
第 2 群 が ● ○ 型 と ○〓 型 に別 れ て いる。 京 阪 語 の● ○○ 型 ・● ● ○ 型も これ に並 行 し て、 観 音 寺 ・丸 亀 で は ● ●
● 型 ・● ○ ○ 型 ・○ ● ○ 型 な ど に分 属 し 、( 15) の 土 庄 で は ○ ○ 〓 型 に な って いるも のも あ り 、 高 松 で は ● ● ● 型 に
な る はず のも の が ○ ● ● 型 に な って いた り 、 ● ○ ○ 型 の はず のも の が ○ 〓○ 型 に な って いた り す る と いう 風 で ち
が いが大 き い。 高 松 方 言 は 、 型 の種 類 の豊 富 な 方 言 であ る こと ︹ 十 ︺ に 述 べ た 。( 16) の塩 飽 本 島 で は 、 ○ ● ○ 型 か ● ○ ○ 型 か の いず れ か にな って い る。
以 上 のよ う で、 高 松 方 言 や 塩 飽 本 島 方 言 の ご と き 、 京 都 ・大 阪 語 と は 随 分 ち が った ア ク セ ント を も って いる が、
︹二 十 二︺ の ︹付 表 9︺ に お け る 二 拍 語 の第 4 群 と 第 5 群 と を 区 別 し て いる 点 な ど 、 ︹四 十 二 ︺ に 述 べた 諸 方 言 と
は ち が い、 や は り京 阪 語 に 近 い。 後 篇 に 明 ら か に す る が 、 こ れ ら(14)の (方 1言 5) は( 、1 鎌6倉)時 代 以 後 、 京 阪 語 と は ち がっ た方 向 に変 化 し た 方 言 で あ る こ と が 明 ら か に さ れ る 。
︹F ︺ 京 都 語 ・大 阪 語 と か な り 異 な る ア ク セ ント の方 言 。 た だ し 、 同 じ 系 統 と 見 ら れ る も の 、 第 2 種 。
香川県 ︹ 瀬 戸内海上 に浮 かぶ伊吹島︺
( 17) 伊 吹 島 式 ア ク セ ント
こ の 地 方 の方 言 では 、 現 在 や や 混 乱 し て いる が 、 老 人 層 の ア ク セ ント は京 都 ・大 阪 語 で● ○ 型 の 一部 を ● 〓 型
に言 い、 ● ○ ○ 型 の語 の 一部 、 ● ● ○ 型 の語 の 一部 を 、 ● ● 〓 型 に 言 う 。 そ れ は 、 ち ょう ど(14) の方 言 で ● ● 型 、
● ● ● 型 に言 う 語 、 二拍 第 3 類 名 詞 、 三 拍 の ﹁男 ﹂ 類 名 詞 、 ﹁命 ﹂ 類 の名 詞 が 相 当 す る。 こ の こと は 、 こ の方 言
が(1の 4方 )言 に よ く 似 て いる よ う に 見 え る が 、 実 は も っと 重 大 な 性 格 を も つ方 言 で、 後 篇 に述 べる が、二拍 名 詞 の
第 1 2 3 4 5 のす べ て の類 を 区 別 す る 点 、 平 安 朝 時 代 の京 都 語 に 、 最 も 似 た ア ク セ ント を も った 方 言 であ る 。
() 8 1 新 潟 県 佐 渡 が島 の アク セ ント
右 のほ か 、 ど のよ う に 変 化 し て 出 来 た か は 明 瞭 で は な いが 、 ︹G 京︺阪 語 か ら 脱 化 し て 出 来 た か と 見 ら れ る も の に、
があ る 。 ま た 、 東 京 式 ・京 阪 式 の両 方 に対 し て 異 色 があ る け れ ど も 、 強 いて 言 え ば 京 阪 式 に近 いも の に、
岡山県 ︹ 真 鍋 島 と そ の属 島 ︺
(1 9 真) 鍋 式 ア ク セ ント
香川県 ︹ 佐 柳島 ほか︺
があ る 。
(1 の8 佐) 渡 が島 の方 言 は、 地 域 によ り 多 少 の相 違 が あ る が 、 京 阪 語 の● ○ 型 と ● ○ ○ 型 と は そ のま ま 変 わ ら ず 、
京 阪 語 の● ● ○ 型 も 、 大 体 ● ● ○ 型 で 変 わ ら な い が、 京 阪 語 の○ ● 型 は ● ● 型 に、 京 阪 語 の ○ ○ ● 型 は ● ● ● 型
に な って いる 。 京 阪 語 の● ● 型 と ○〓 型 は 合 し て、 方 言 に よ り 、 ● ● 型 に、 ま た は ● ○ 型 にな って お り、 京 阪 語
の● ● ● 型 と ○ ●○ 型 は 合 し て、 方 言 に よ り 、 ● ● ● 型 に、 ま た は ● ● ○ 型 にな って いる 。
京 阪 語 の○ ● 型 と ○ 〓 型 と が 異 な る 型 に 別 れ て いる 点 で は 、 い か に も 京 阪 式 の系 統 と 思 わ れ る が 、 ● ● 型 と ○
〓 型 と いう 、 ま った く ち が った 型 が合 流 し て いる点 が 、 中 間 に ○ ● 型 を さ し お いて ど の よ う にし て そ う な った か 説 明 し にく い。
) (1 9 の真 鍋島 方 言 は 、 方 言 に よ り 相 当 な 差 異 があ る が 、 真 鍋島 の 二拍 語 で言 う と 、 京 阪 語 の○ ● 型 は そ の ま ま 、
京 阪 語 の● ○ 型 は(1の 4方 )言 のよ う に、● ● 型 と ● ○ 型 の 二 つに 別 れ 、 京 阪 語 の ● ● 型 と ○ 〓 型 は合 し て いる こと 、
佐 渡 方 言 と 同 じ よ う であ り、 と も に○ ● 型 に似 た 型 に な って い る が 、 助 詞 が つき 、 さ ら に他 の文 節 と 結 合 す る と
明 瞭 な 相 違 が 現 わ れ る 。 京 阪 式 と の関 係 は さら に 、 た ど り が た いが 、京 阪 語 の○ ● 型 と ○ 〓 型 と が ち がう 型 で対 応 し て いる点 で、 や は り 京 阪 式 と 同 系 の方 言 と 推定 さ れ る 。
同 じ く(19) に属 す る 佐 柳 島 方 言 は 型 の種 類 が 豊 富 な こ と 、日 本 一の方 言 と し て ︹ 十 一︺ に紹 介 し た こ と が あ る 。 真 鍋 島 方 言 か ら 変 化 し て生 じ た も のと 推 定 さ れ る 。
こ こ に は 、 京 阪 系 ア ク セ ント を 有 す る と 見 る の が 学 界 の定 説 に な って い る 方 言 に 限 って 取 り 上 げ た 。 こ れ 以 外 の 諸
方 言、 例え ば 、東京 式方 言 な ども 、筆 者 は京 阪 式 の方 言 から 変化 し て出来 た も のと 推定 ( 18)し て お り 、 し た が って
筆 者 の 意 見 に よ る と す べ て の 諸 方 言 の ア ク セ ント は み な 京 阪 系 と いう こ と に な って し ま う が 、 こ こ で は そ れ を 証 明 す る だ け で も 紙 面 が か さ む の で 、 一切 省 筆 す る こ と に し た 。
こ こ に 述 べ る ア ク セ ント 並 び に そ の分 布 地 域 に つ いて は 、 次 のも の が 絶 好 であ る 。
奥 村 三 雄 ﹃近 畿 諸 方 言 の ア ク セ ント ﹄ ( 楳 垣実 編 ﹃近畿 方 言 の総合 的 研 究 ﹄ 所載 、 昭 三 十 七 ・三 、 三 省 堂) 周 辺 の 地 域 のも の に 詳 し いも の と し て 、
生 田 早 苗 ﹃近 畿 ア ク セ ント 圏 辺 境 地 区 の諸 ア ク セ ント に つ い て﹄ ( 寺 川ほか編 ﹃ 国 語 アク セ ント 論 叢 ﹄ 所 載、 昭 二十 六 ・十 一、法 政 大 学 出 版部 ) 中 心 部 の地 域 に つ い て は、 次 のも の が あ る 。 大 原 孝 道 ﹃上 方 言 葉 の ア ク セ ント ﹄ (﹃ 国 語教 育 ﹄ 一七 の六所 載 、 昭 七)
金 田 一春 彦 ﹁近 畿 中 央 部 ア ク セ ント 覚 え 書 き ﹂ ( 近畿 方 言 学 会 編 ﹃ 東 条 操 先 生古 稀 祝 賀 論文 集 ﹄ 昭 三 十 ・四 ) な お 、 個 々 の方 言 に つ い て の詳 し い発 表 を 紹 介 す れ ば 、 (1 ) 京 都式方 言 に つ いては、 楳 垣 実 ﹃京 言 葉 ﹄ ( 昭 二 十 一 ・十 二、 再 昭 二 十 四 ・ 一、 高桐 書 店 ) 池 田 要 ﹁近 畿 ア ク セ ント の体 系 ﹂ ( ﹃ 国 語 アク セ ント 論 叢 ﹄ ( 前 出 ) 所 載) (2 ) 大 阪式方 言 に つ いては、
安 藤撫 子 ﹁ 大 阪 方 言 の ア ク セ ント 型 (1 (2) ) ﹂ (﹃ 国 文 ・国 史 ﹄ 一の三 ・四 所載 、 昭十 ・十 一) 前 田 勇 ﹃大 阪 弁 の研 究 ﹄ (昭 二十 四 ・八、 朝 日新 聞社 ) 楳 垣 実 ﹃京 阪 方 言 比 較 考 ﹄ ( 昭 二 十三 ・五 、 土俗 趣 味 社 )
﹁ 国 語 諸 方 言 ア ク セ ント 概 観
1︲ 4﹂ ( ﹃ 方 言 ﹄ 一の 一 ・三 ・四 、 昭六 、 二 の 一所 載 、 昭 七)
荘 田康 子 ﹁ 和 歌 山 ア ク セ ント の統 計 的 研 究 ﹂ (﹃ 田 辺 文化 財 ﹄ 四︲九 所 載 、 昭 三十 五︲四 十)
服部 四郎
( 3) 伊 勢 式 方 言 に つ い て は 、
﹁四 国 方 言 の ア ク セ ント 体 系 と そ の系 譜 ﹂ ( ﹃ 音 声 の研究 ﹄Ⅷ 所 載 、 昭 三十 二)
金 田 一春 彦 ﹁熊 野 灘 沿 海 岸 諸 方 言 の ア ク セ ント ﹂ ( ﹃名古 屋大 学 文 学 部十 周 年 記念 論 集 ﹄ 所 載、 昭三 十 四 ) 平 山輝男
や や 純 粋 で な い京 阪 式 ア ク セ ン ト の方 言 のう ち 、
﹁ 福 井 県 下 の 音 調 ﹂ (﹃ 音 声 学 会会 報 ﹄ 七 七所 載 、 昭 二 十六 )
(4 )小 浜 式 方 言 に つ い て は 、 平 山輝男
﹁ 西 濃 揖 斐 郡 北 部 の ア ク セ ン ト ﹂ (﹃ 岐 阜 大 学学 芸 部 研究 報 告 ( 人 文科 学 )﹄ 一一所 載 、 昭 三 十 七)
岐阜 県 西北 隅 の方 言 に ついては 、 奥 村 三雄
﹁四 国 方 言 の ア ク セ ント 体 系 と そ の系 譜 ﹂ ( ( 3) に前 出 )
金 沢 治 ﹃阿 波 に於 け る ア ク セ ント の研 究 ﹄ ( 昭 二十 五、 自 家 版 )
( 5) 徳 島 式 方 言 に つ い て は 、
平 山輝男
森 重 幸 ﹁徳 島 県 の ア ク セ ント 概 観 ﹂ (﹃ 国 文論 叢 ( 神 戸大 )﹄ 七 所載 、 昭 三 十 三)
土 居 重 俊 ﹁国 語 方 言 ア ク セ ン ト の 比 較 考 察 ( 東 京 ・幡 多 ・高 知 )﹂ ( ﹃ 高 知大 学 教 育 学 部 研 究 報 告 ﹄ 二 所 載 、 昭 二十
(6) 高 知 式 方 言 に つ い て は 、
七) 土 居 重 俊 ﹃土 佐 言 葉 ﹄ ( 昭 三 十三 ・九 、市 民図 書 館 )
和 田 実 ﹁兵 庫 県 下 の ア ク セ ント に つ いて ﹂ ( 神 戸大 学教 育 学 部 明 石 分校 編 ﹃ 論 苑﹄ 一の 一所載 、 昭 二 十 六) 荘 田 康 子 ﹁和 歌 山 ア ク セ ント の統 計 的 研 究 ﹂ ( ( 2) に前 出)
金 田一 春 彦 ﹁熊 野 灘 沿 海 岸 諸 方 言 の ア ク セ ント ﹂ ( (3) に 前出 )
( 7) 勝 浦 式 方 言 に つ い て は 、 生 田 早 苗 氏 の も の の ほ か 、
平 山 輝 男 ﹁北 陸 道 方 言 の 音 調 ﹂ ( 寺 川 ほ か編 ﹃国 語 ア クセ ント論 叢 ﹄ ( 前 出) 所 載 )
(8) 能 登 式 方 言 に つ い て は 、
自 然 ・文化 ・社 会 ﹄ 所載 、 昭 三 十 ・十 二、 平 凡社 )
金 田 一春 彦 ﹁東 西 両 ア ク セ ント の 違 い が で き る ま で ﹂ (﹃ 文 学 ﹄ 二 二 の八 所載 、 昭 二十 九 ) 岩 井隆盛 ほか ﹁ 方 言 の様 相 ﹂ ( 九学 会 連 合 編 ﹃ 能 登︱
土 居 重 俊 ﹁高 知 県 幡 多 郡 の ア ク セ ント ﹂ (﹃ 音 声 学会 会 報 ﹄ 九 〇所 載 、 昭 三 十一)
( 9) 高 知 県 幡 多 地 方 の特 殊 ア ク セ ン ト に つ いて は
平 山 輝 男 ﹁四 国 の幡 多 方 言 の ア ク セ ント の 系 譜 ﹂ (﹃ 音 声 学 会会 報 ﹄ 九 七 所載 、 昭 三十三 )
井 上 奥 本 ﹁舞 鶴 地 方 の ア ク セ ント ﹂ ( ﹃ 音 声 の研 究 ﹄Ⅲ 所 載 、 昭 五)
() 0 1 舞 鶴 式 方 言 に つ い て は 、 生 田 氏 のも の が 詳 し い が 、 ほ か に 、
奥 村 三 雄 ﹁方 言 分 布 区 画 ﹂ ( ﹃兵庫 方 言 ﹄ 五所 載 、 昭 三 十 二) 和 田 実 ﹁兵 庫 県 下 の ア ク セ ン ト に つ い て ﹂ ( ( 6) に前 出) 金 田 一春 彦 ﹁南 牟 婁 ア ク セ ン ト の 一例 ﹂ ( ﹃三重 県 方 言 ﹄ 九所 載 、 昭 三 十 四)
﹁ 福 井 県 嶺 北 方 言 の 音 調 と そ の境 界 線 一 ・二 ・三 ﹂ ( ﹃音声 学 会 会報 ﹄ 八 三︲八 五所 載 、 昭 二 十八︲二 十九 )
﹁四 国 方 言 の ア ク セ ント 体 系 と そ の系 譜 ﹂ ( ( 3) に前 出)
平 山輝男 同
服部 四郎
﹁兵 庫 県 氷 上 郡 美 和 村 の ア ク セ ン ト ﹂ ( ﹃ 音 声 学 協 会 会報 ﹄ 六 九 所載 、 昭 十 六 )
﹁ 近 畿 アク セ ントと 東方 アク セ ント の境界 線﹂ ( ﹃ 音 声 の研 究 ﹄Ⅲ 所 載 、 昭 五)
(1 1 垂)井 式 方 言 に つ い て は 、
大原 孝道
井 之 口有 一 ﹃滋 賀 県 言 語 の調 査 と 対 策 ﹄ ( 昭 二 十 七、 自 家 版 ) () 2 1 越中 式方 言 に つ いては、 大原 孝 道 ﹁ 富 山 県 泊 町 の ア ク セ ント ﹂ ( ﹃ 方 言 ﹄ 八 の二所 載 、 昭 十 三)
平 山 輝 男 ﹁北 陸 道 ア ク セ ント の概 観 1 ・2 ・3﹂ ( ﹃音声 学 協 会会 報 ﹄ 五 二 ・五三 ・五 五 所載 、 昭 十 三 ・十 四)
同 ﹁富 山 県 下 のア ク セ ント に 就 い て ﹂ (﹃ 音 声学 協 会 会報 ﹄ 七 二 ・七 三所 載 、 昭 十 八) 森 重 幸 ﹁徳 島 県 の ア ク セ ント 概 観 ﹂ (﹃ 国 文 論叢 ( 神 戸 大 学)﹄ 七 所 載 、昭 三 十 三 )
村 内 英 一 ﹁新 宮 ア ク セ ント の性 格 ﹂ (﹃ 音 声 学会 会 報 ﹄ 八 九所 載 、 昭 三 十 )
3 (︶ 1 熊 野式方 言 に ついては、
( そ の 一 ・二)﹂ (﹃ 音 声学 会 会 報 ﹄ 八 四 ・八 五 所 載、 昭 二十 九 )
荘 田 康 子 ﹁和 歌 山 ア ク セ ン ト の統 計 的 研 究 ﹂ ( (2) に前 出 )
山 名 邦 男 ﹁四 国 方 言 ア ク セ ント の研 究
() 4 1 西 讃 式 ・(15) 東 讃 式 両 方 言 に つ い て は、
﹁ 讃 岐 アク セ ント変 異成 立考
( 上)( 下 )﹂ ( ﹃国 語研 究 ( 国 学院 大 )﹄二一 ・二 二所 載、 昭 四 十 ・四十 一)
玉 井 節 子 ﹁香 川 県 の ア ク セ ント ﹂ (﹃ 国 語研 究 ( 国 学 院大 )﹄ 二 〇所 載 、 昭 四 十) 金 田 一春 彦
﹁徳 島 県 の ア ク セ ント 概 観 ﹂ ((に 1前 2出 ))
玉 井 節 子 ﹁香 川 県 の ア ク セ ント ﹂ ((に 1前 4出 ))
() 6 1 塩 飽 本 島 式 方 言 に つ いて は 、
森 重幸 () 7 1 伊 吹 島 の方 言 に つ い て は 、
和田 実 ﹁ 第 一次 ア ク セ ント の発 見 ﹂ ( ﹃ 国語研究 ( 国学院大) ﹄ 二 二所 載 、 昭 四十一) 妹 尾 修 子 ﹁香 川 県 伊 吹島 の ア ク セ ント ﹂ ( 右 に同 じ )
山 口 幸 洋 ﹁伊 吹 島 方 言 の 二 拍 名 詞 の ア ク セ ント に つ いて ﹂ ( ﹃日本 方 言 研 究 会第 十 二回 発表 原 稿 集 ﹄所 載 、 昭 四 十六 )
剣 持 隼 一郎
﹁佐 渡 ア ク セ ント の 系 統 ﹂ ( 九 学 会 連合 編 ﹃佐渡︱ 自 然 ・文 化 ・社 会 ﹄所 載 、 昭 三 十九 ・三 、 平 凡社 )
﹁ 佐 渡 の音 調 ﹂ (﹃ 佐 渡 ﹄ 八 所載 、 昭 二 十九 )
平 山 輝 男 ﹁佐 渡 ア ク セ ント に つ い て ﹂ (﹃コト バ﹄ 五 の 一所 載 、 昭 十 八)
() 8 1 佐 渡 の方 言 に つ い て は、
金 田 一春 彦
新 潟 大 学 方 言 研 究 会 ﹁新 潟 県 両 津 市 鷲 崎 方 言 の 研 究 ﹂ ( ﹃ 方 言 の研 究 ﹄第 二号 第 一冊所 載 、 昭 四 十五 )
虫明吉 治郎
﹃岡 山 県 下 の ア ク セ ント ﹄ (( 昭 二 十九 ・十 一、 山陽 図 書 )
() 9 1 真 鍋 式 ア ク セ ント に つ い て は 、
金 田 一春 彦 ほ か ﹁ 真 鍋 式 ア ク セ ント の考 察 ﹂ ( ﹃ 国 語国 文 ﹄ 三五 の 一所載 、昭 四 十 一)
秋 永 一枝 ﹁佐 柳 ア ク セ ント の提 起 す る も の ﹂ ( ﹃ 国文学研究 ( 早 大 )﹄ 三 三所 載 、 昭 四十 一)
佐 伯 哲 夫 ﹁香 川 県 志 々島 ア ク セ ント 小 報 告 ﹂ ( ﹃ 国文学 ( 関西 大 学 )﹄ 四 七所 載 、 昭 四十 七 ) があ る。
︹四 十 四 ︺ 現 在 諸 方 言 に 見 ら れ る 過 去 か ら の 遺 産
さ て、 次 に 、 現 代 諸 方 言 の ア ク セ ント は 、 そ の 内 容 は 千 差 万 別 であ る が 、 そ の中 に は 、 お のず か ら 日本 語 の ア
︹四 十 五 ︺ ︹四 十 六 ︺ ︹四 十 七 ︺ に あ げ る よ う な
ク セ ント と し て共 通 の性 格 と いう も のも 見 出 さ れ る 。 そ う いう 共 通 の 性 格 な る も の は、 特 別 の事 情 のな いか ぎ り 、 過 去 の 国 語 の ア ク セ ン ト に も 見 出 さ れ る も の に ち が い な い。 次 の
も の は 、 そ の 例 で 、 こ れ ら は 過 去 の ア ク セ ン ト の 内 容 を 考 え る 一助 と な り そ う に 思 わ れ る 。 こ れ ら の 性 格 は 、 現
と 言 って い る 。 ア ク セ ント に 関 し て も 、 当 然 こ れ は 期 待 し て よ いこ と と 思 わ れ る 。
共 通 遺 産 であ る と 見 な し て 差 支 え が な い。
残 存 す る 記 憶 が 全 体 的 あ る い は 部 分 的 一致 を 示 す 場 合 に は 、 多 く の例 外 は あ る が 、 こ れ を 分 化 以 前 の時 代 か ら の
学 ﹄ の中 で 、(1 )9
過 去 の言 語 の姿 は 現在 の方 言 の上 に何 ら か の痕 跡 を と どめ るは ず であ る。 こ のこと を 高 津 春 繁 氏 は ﹃ 比較 言語
在 、 一型 ア ク セ ント を 除 く す べ て の 諸 方 言 の 中 に 共 通 す る も の で あ る 。
︹四十 五︺ ア ク セ ント と 単 語 と の 関 係
ま ず 第 一に 、 現 在 諸 方 言 の ア ク セ ン ト は 大 体 単 語 ご と に 一定 し て い る 。 よ く 、 例 え ば 東 京 語 で 、 ﹁雨 ﹂ が 単 独
﹁雨 ﹂ と は 独 立 の 、 別 の 単 語 で あ る か ら 、 ア ク セ ン ト が ち が っ て い て 構 わ な い の で 、 ア
で は ア メ で 、 ﹁雨 模 様 ﹂ と な る と ア メ モ ヨ ー で あ る こ と に つ い て 、 ﹁雨 ﹂ が 一定 の ア ク セ ン ト を も た な い と 言 う 人 が あ る が 、 ﹁雨 模 様 ﹂ は
ク セ ント は単 語 ご と に き ま って いる こと を 、 立 証 す る も の であ る 。
こ の 場 合 、 ﹁単 語 ﹂ と い う の は 、 学 校 文 法 で 言 う 大 槻 文 彦 以 来 の 単 語 と は ち ょ っと ち が う こ と に 注 意 さ れ た い 。
す な わ ち 名 詞・ 副 詞・ 接 続 詞 な ど の い わ ゆ る 活 用 の な い 自 立 語 は 、 ま た 動 詞 ・形 容 詞 で も 終 止 形 や 命 令 形 な ど の
よ う な 単 独 で 用 いら れ る 形 は 単 語 で あ って問 題 は な いが 、 動 詞 の未 然 形 や 音 便 形 の よ う な も の は 一語 のう ち の 一
部 と考 え ら れ る。 付 属 語 は め ん ど う で 、 ま ず 付 属 語 のう ち 助 詞 は特 殊 のも のを 除 いて単 語 と 認 め ら れ る が、 助 動
詞 と 呼 ば れ て いる も のは 、 ﹁だ ﹂ ﹁ら し い﹂ ﹁よ う だ﹂ (こ れ は 二 語 ) を 除 いて は 一語 のう ち の 一部 分 と 見 な さ れ る 。
こ の認 定 の基 準 は 大 体 、 山 田 孝 雄 氏 ・田 丸 卓 郎 氏 ・服 部 四 郎 氏 の 文 典 で の 単 語 の認 定 に 一致 す る 。
事 実 、 打 消 し の助 動 詞 と 言 わ れ る ナ イ と いう モ ル フ ェー ムは 、 書 カ ナ イ で は ○ ● ○ ○ 型 、 置 カ ナ イ で は ○ ● ●
● 型 で 、 固 有 の ア ク セ ント を も って いる と は 解 し が た い。 こ の結 果 、 ﹁書 か な い﹂ と か ﹁置 か な い﹂ と か いう 形
は、 全 体 が 動 詞 の一 変 化 形 式 と いう こ と にな る 。 つま り 、 名 詞 ・副 詞 の類 や 、 動 詞 ・形 容 詞 の自 立 でき る 活 用 形 、
助 詞 の大 部 分 は ア ク セ ント を 有 す る が 、 動 詞 ・形 容 詞 の活 用 形 の 一部 は 、 次 に 助 動 詞 ・助 詞 の つ いた 形 と な って
はじ め て 、 ま た 、 助 動 詞 の大 部 分 は 、 そ の前 の動 詞 に つ いた 形 とな って は じ め て、 ア ク セ ント を も つこ と に な る。
ま た 、 名 詞 と ち が い、 動 詞 ・形 容 詞 は 、 語 音 に お いて 活 用 を 行 な う よ う に 、 アク セ ント の 面 でも 語 形 変 化 を 行
な う も の で、 例 え ば 、 東 京 語 で ﹁書 く ﹂ ﹁置 く ﹂ ﹁下 げ る ﹂ ﹁上 げ る﹂ と いう 動 詞 は 次 の よ う に変 化 す る 。 ︹付表 13︺
も し 、 京 都 語 を 例 に と る な ら ば 、 ﹁書 く ﹂ ﹁置 く ﹂ は 次 の よ う に 変 化 す る 。
﹁書 く ﹂ カ カ ン ・カキ ⋮ ⋮ ・カ イ テ ・カ ク ・カ ケ バ ・カ ケ ・カ コー ﹁置 く ﹂ オ カ ン ・オキ ⋮ ⋮ ・オ イ テ ・オ ク ・オ ケ バ ・オ ケ ・オ コー 次 に、 二 つ の単 語 が 接 し て、 臨 時 的 に 一つ の単 語 のよ う に発 音 さ れ る と 、︱
つま り 、 服部 四 郎 氏 の いわ ゆ る
︽単 語 結 合 ︾( 20)の 形 に な る と 、 一定 の法 則 に 従 った 高 低 の姿 を と る。 こ の こと は ︹四 十 七 ︺ で詳 し く 述 べる が 、
こ う いう 場 合 、 多 く の 諸 方 言 で 、前 に来 る 語 の ア ク セ ント の方 が 保 存 さ れ る 傾 向 が あ る 。 自 立 語 に付 属 語 が付 い
た よ う な 場 合 は 、 単 語 結 合 を 行 な う こと が 多 い の で 、 結 局 名 詞 や 動 詞 の よ う な 語 は 、 次 に 助 詞 の類 が つ い ても 、
ア ク セ ント を 保 存 す る こと が多 く 、 助 詞 の方 が いろ いろ に形 が 規 則 に応 じ て 変 化 す る こと が 多 い こ と に な る。
し か し 、 付 属 語 は服 部 氏 の付 属 形 式 と は ち が い、 固有 の ア ク セ ント を も つ。 例 え ば 東 京 語 の二 拍 の付 属 語 に は 三 種 類 のも のが あ り、 ○ ● (● )型 の名 詞 に つく 時 に は っき りす る 。 ○ ● ● ● 型 にな る も の ﹁か ら ﹂ 例 、トリ カ ラ ○ ● ● ○ 型 にな る も の ﹁よ り﹂ 例 、トリヨリ ○ ● ○ ○ 型 にな る も の ﹁し か﹂ 例 、トリシカ
● ○ 型 に つく と 、 こ れ ら は みな ○ ○ 型 にな ってし ま う け れ ど 、 そ れ は名 詞 と 単 語 結合 を し た 場 合 、 前 のも の に左
右 さ れ る 性 格 を も つ 、 そ の 現 わ れ で あ る 。 一拍 の 助 詞 は 、 東 京 語 で は す べ て
﹁か ら ﹂ と 同 じ 性 質 を も ち 、 ﹁の ﹂
だ け が や や 特 殊 の 性 質 を も つ 。 京 都 ・大 阪 語 で は 、 ﹁の ﹂ が 特 殊 な 性 格 を も つ ほ か に 、 ﹁も ﹂ ﹁へ ﹂ が 一拍 の 助 詞
﹃日本 文 法 論 ﹄ ﹃日 本 文 法 学 概 論 ﹄( 2 1)そ の他 の 文 典 、 田 丸 卓 郎
で あ り な が ら 東 京 語 の ﹁し か ﹂ の よ う に 低 く つ く 性 質 を も っ て い る 。
山 田 氏 ・田 丸 氏 ・服 部 氏 の単 語 の 認 定 は 、 山 田 孝 雄
﹃ロー マ字 文 の 研 究 ﹄( 22) 、 服 部 四 郎 ﹁付 属 語 と 付 属 形 式 ﹂( 23)の う ち に 書 か れ て いる 。 橋 本 進 吉 氏 の 文 法 論 は 、 今 の
助 詞 か ら 遠 く 、 接 尾 語 に 近 いも の の よ う に 見 て いて 、 こ の 山 田 ・田 丸 ・服 部 三 氏 の考 え に 近 か った よ う に 解 さ れ る 。
学 校 文 法 が そ の ま ま そ っく り そ れ だ った よ う に 受 け 取 ら れ て いる が 、 ﹃国 語 法 要 説 ﹄( 24)で 見 る と 、 い わ ゆ る 助 動 詞 は
ほ か に 近 い考 え を も って いる 学 者 を あ げ れ ば 、 ﹃ 国 語 法 品 詞 論 ﹄( 25) の杉 山 栄 一氏 と 、 ﹃日本 文 法 の輪 郭 ﹄( 26)の宮 田 幸 一氏 が あ る 。
我 々が 日 本 語 の 文 章 を ロー マ字 で 書 こ う とす る と 、 自 然 こ の 切 り 方 に 従 って 日 本 語 を 書 いて し ま う が 、 そ れ は こ の
単 語 の認 め 方 が一 番 合 理 的 であ る こ と に よ る と 思 う 。 右 の 学 者 の中 で 、 い わ ゆ る 助 動 詞 の類 を 単 語 以 下 と 認 め る 根 拠
に つ い て は 、 服 部 氏 の ﹁付 属 語 と 付 属 形 式 ﹂ の論 が 一番 す ぐ れ て いる 。 氏 に よ れ ば 、 ま ず 単 独 で 使 用 さ れ る も の は 単
語 (自 立 語 ) で あ り 、 つ いで 、 単 独 で は 使 用 さ れ な く ても 職 能 の ち が った 語 に 自 由 に つき 得 る も のも 単 語 で 、 こ れ が
付 属 語 で あ る 。 こ の、 職 能 のち が った 語 に 自 由 に つ き う る か ど う か を 基 準 に し た 点 が 見 事 で 、 例 え ば 、 助 詞 の ﹁は ﹂
は 名 詞 、 動 詞 ・形 容 詞 の連 用 形 、 副 詞 と い う よ う な 職 能 の ち が った も の に つき う る か ら 単 語 と な る が 、 助 動 詞 ﹁ま
す ﹂ は 動 詞 の 連 用 形 に し か つ か な いか ら 、 動 詞 と い っし ょ に な って は じ め て 単 語 と いう こ と にな る 。 こ の結 果 、 助 動
詞 は 大 部 分 単 語 以 下 の も の と な り 、 助 詞 で は 、 ﹁て ﹂ ﹁な が ら ﹂、 制 止 を 表 わ す ﹁な ﹂ な ど 少 数 のも の を 除 い て 単 語 と
認 定 さ れ る 。 一方 、 動 詞 の 未 然 形 ・仮 定 形 な ど も 、 単 独 で 用 いら れ な いと いう こ と で、 単 語 以 下 のも の と な る 。
一体 日 本 語 の ア ク セ ント は 、 よ く 文 節 に つ い て き ま って いる と 言 わ れ る が 、 筆 者 は 単 語 を 右 の よ う に解 す る こ と に
よ って 、 単 語 に つ い て き ま って い る と 言 って よ いと 思 う 。 こ の こ と は 、 筆 者 は前 に 述 べた こ と が あ る が 、 例 え ば 、 多
く の人 は 、 ア メ が ( 雨 が ) と いう ア ク セ ント を 、 ノ ハラ
( 野 原 ) と いう ア ク セ ント と 全 く 同 じ 内 容 の も の と 見 る が 、
筆者は ﹁ 雨 が ﹂ の ア ク セ ン ト は本 来 は ア メ ガ であ って 、 ア メ ガ の方 は そ れ が 単 語 結 合 し た 場 合 の ア ク セ ン ト 、 ︹ 四十
七 ︺ で 述 べ る 神 保 格 氏 の ︽準 ア ク セ ン ト ︾( 27) で あ る と 思 う 。 ﹁よ い 子 ﹂ と い う 二 語 の連 結 も 、 ヨ イ コ と いう 場 合 と
ヨイ コと いう 場 合 と が あ り 、 ア メ ガ は こ のう ち の ヨイ コに 相 当 し 、 別 に ヨイ コに 相 当 す る ア メ ガ が あ り 、 これ が 助 詞
﹁が ﹂ の ア ク セ ント が 現 わ れ て いる 形 と 解 す る 。 は っき り し な い の は 、 助 詞 が 一拍 で あ る か ら で、 ﹁雨 さ え ﹂ な ら ば 、
ア メ サ エと い う 単 語 結 合 を し た 形 の ほ か に 、 ア メ サ エと いう 形 が あ る こ と は 容 易 に 納 得 が い こ う 。
語 ・京 阪 語 な ど 主 要 な 方 言 に つ い て は 言 わ れ る が 、 言 わ れ な い方 言 も あ る こ と は 注 意 す べき で あ る 。
な お 、 ア ク セ ン ト が 単 語 に つ い て き ま って い る と 言 う 場 合 、 助 詞 の大 部 分 が ア ク セ ン ト を も つと 言 う こ と は 、 東 京
例 え ば 、 鹿 児 島 方 言 で は ﹁鼻 ﹂ ﹁ 花 ﹂ の 二語 に つ い て 、 単 独 の場 合 、 ﹁ぢ ゃ﹂ が つ いた 場 合 、 一般 の 助 詞 が つ いた 場
つま り、 東 京 語 の 一般 助 詞 の よ う な つき 方 を し て い
合 のアク セ ントを 比較 し てみ ると、次 の ︹ 付 表 14 ︺ の よ う であ る 。 ︹付 表 14 ︺
す な わ ち 、 ﹁ぢ ゃ ﹂ は 名 詞 の部 分 を 変 え な い で 接 し て い る︱
る か ら 、 こ れ は そ れ 自 身 き ま った ア ク セ ント を も って い る と 言 え る が 、 一般 助 詞 の方 は 、 一定 の高 低 を も た ず 、 し か
に 相 当 す る 語 は 、 東 京 語 や 京 阪 語 と は ち が い 、 付 属 語 で は な く 付 属 形 式 に な り 下 が っ て い る 。 し た が っ て 、 ﹁花 が ﹂
も 名 詞 の部 分 を 変 え て いる 。 こ れ で は 、 東 京 語 の いわ ゆ る 一般 助 動 詞 と 同 じ であ る 。 こ の こ と は 、 鹿 児 島 方 言 で 助 詞
の 形 は ア ク セ ント か ら 言 って 名 詞 の格 変 化 であ る と 見 ら れ る 。 こ れ は 、 鹿 児 島 方 言 で ﹁水 ﹂ と いう 名 詞 は 、 単 独 の 場
合は ミッ と言 い、 ﹁水を ﹂ にあ たる 形は ミ ヅと言 ってお り、 これ は 格変 化 を 起 こし て いる と 見ら れ る が、 それ と並 行
的な 変化 を起 こし たも のと し て興味 があ る。 辺境 方言 であ る がた め に起 こした 変化 の例 にち が いな い。
方 言 によ って、 助詞 と言 われ るも の の、単 語と し て の独立性 が ちが う こと、 注意 す べき であ る。 こ のこと は、 アク セ ント の歴史 的研 究を 行な う場 合 にも 心を 留め てお かな けれ ばな らな い。
︹四十 六︺ アクセ ント の型 の変 異 の範囲
次 に 一つ の方 言 に存 在 す る ア ク セ ン ト の型 に は 、 ︹十 ︺ に 述 べ た よ う な 一定 の 制 限 が あ る。 そ こ に は 東 京 語 を
例 に あ げ た が 、 日本 の諸 方 言 を 全 般 的 に眺 め て も 、 共 通 の性 格 が 見 出 さ れ る 。 次 の ︹1︺ ︹− 4が ︺そ れ であ る。
︹1︺ 諸 方 言 に 存 在 す る ア ク セ ント の型 は、 原 則 と し て (高 ) の段 と (低 ) の段 と いう 二 つ の ︽段 ︾ の組 合 せ か
ら 出 来 て いる 。 つま り 調 素 は (高) と (低 ) の 二種 であ る 。 他 の 言 語 、 例 え ば 、 中 国 語 の広 東 方 言 や タ イ 語
な ど に は (高 ) の段 、 (低 ) の段 の ほ か に 、 (中 ) の段 と いう 第 三 のも の があ る が、 日 本 の諸 方 言 に は そ の よ
う な も のは 存 在 し な い。 例 え ば 、 東 京 語 の三 拍 語 に 見 ら れ る 型 の種 類 は ︹ 十 一︺ の ︹ 付 表3︺ で見られ るよ
う な 三 種 類 であ り 、 付 属 語 のよ う な も のが 次 に つく 場 合 の性 質 を 考 慮 に 入 れ て も ︹ 十一︺ の ︹ 付表 4︺ にあ
げ た よう に 四 種 類 に と ど ま る 。 こ れ ら は す べ て (高) の部 分 と (低 ) の部 分 か ら 成 る も の で あ る 。京 都 ・大
阪 語 で は 、 ︹四 十 三 ︺ の ︹ 付 表 12 ︺ に あ げ た よ う に 、 単 語 と し て は ● ● ● 型 ・● ● ○ 型 ・● ○ ○ 型 ・○ ● ○
型 ・○ ○ 〓 型 ・○ ○ ● 型 のう ち のど れ か に属 し 、 連 語 の場 合 に は、 も う 少 し 数 が 殖 え る が 、 それ でも す べて (高 ) ( 低 ) 二段 の組 合 せ であ る 。
︹ 2︺ 各 地 の諸 方 言 を 通 じ て お のお の の拍 は 、 原 則 と し て平 ら であ る。 し た が って 高 さ の変 化 は 、 一つ の拍 か ら
次 の拍 へ移 る 境 目 に 起 こ る のが 並日通 で あ る 。 北 京 官 話 に は 一拍 の中 で 音 の上 昇 や 下降 の見 ら れ る こと が 多 い
が 、 日本 語 で は こ のよ う な 例 は 少 な い。 例 え ば 、 東 京 語 で は 、 存 在 す る す べ て の型 を 構 成 し て いる 一つず つ
の拍 はす べ て平 ら であ り、 京 都 ・大 阪 語 でも さ き の マッ チ のよ う な 語 の第 三 拍 は 非 常 な 例 外 で 、 ほと ん ど す べ て の語 は 、 平 ら な 拍 の連 続 か ら 成 る 型 に属 す る 。 以上 の ︹ 1︺ の性 格 と ︹ 2︺ の性 格 と か ら 次 のよ う な 事 実 が 生ま れ る 。 す な わ ち
︽日本 語 諸 方 言 を 通 じ て、 大 部 分 の 型 は (● ) (○ ) と いう 二 種 類 の拍 か ら 成 り立 って いる ︾ と 言 って大 体 不 都 合 を 生 じ な い。
︹ 3︺ も っと も 、 方 言 に よ って は 、 今 の大 阪 語 の マッ チ の チ の拍 のよ う な 、 特 に 一つの拍 の中 で音 の高 低 変 化 が
現 わ れ る こと があ る 。 た だ し 、 そ れ は 稀 で、 そ の種 類 も 限 ら れ 、 現 わ れ る 環 境 も 限 ら れ て いる 。 す な わ ち 、
(イ )一拍 の内 部 に 高 低 変 化 が 現 わ れ る と 言 って も 、 それ は (高低 ) ま た は (低 高 ) で、 そ れ 以 上 複 雑 な 変 化
は 存 在 し な い。 例 え ば 、 京 都 語 の ﹁春 ﹂ ﹁秋 ﹂ の第 二拍 で は、 声 の 高 低 変 化 が 現 わ れ る が、 そ れ は 単 な る (高低 ) で あ る 。 も し 、 記 号 で 表 わ せ ば 〓 であ る 。
( ロ) 一般 に〓 の よ う な 拍 の現 わ れ る のは 、 一拍 語 か 、 ま た は 、 二拍 以 上 の語 な ら ば 語 尾 に現 わ れ る こ と が 多
く 、 現 わ れ る語 彙 の種 類 も 限 ら れ て いる 。 例 え ば 、 大 阪 語 ・和 歌 山 方 言 な ど で は、 〓 の拍 は稀 に現 わ れ る
が、 そ れ は 名 詞 と 動 詞 の命 令 形 に 限 る 。 し か も 二拍 以 上 の語 の場 合 は 、 最 後 の拍 に 限 り 、 さ ら にそ の語 の 〓 以 外 の拍 は す べて ○ で あ る 。
) (ハ 一拍 の中 に、〓 のよ う な 曲 調 を も つ例 は 、 多 く の 方 言 で 一拍 語 に の み 現 わ れ る 。 例 え ば 、 京 都 語 で
﹁手 ﹂ ﹁火 ﹂ は 一拍 内 部 で 上 昇 が 現 わ れ る が、 そ れ は 一拍 語 と し て 発 音 し た 場 合 であ る 。
︹4 ︺ 低 い部 分 と 高 い部 分 と の配 置 に は 、 次 の よう な 制 限 が 存 在 す る 傾 向 があ る 。
(イ ) (高 ) の部 分 は 一個 の拍 か、 ま た は連 続 し て いる 幾 拍 か で あ って、 (高 ) の部 分 が 二 か 所 に 別 れ て 存 在 す
る こ と は ま ず な い。 つま り 三 拍 の語 に お いて ● ○ ● と いう 型 は原 則 と し て存 在 せず 、 四 拍 語 に は ● ○ ● ● 、
● ○ ● ○ 、 ● ● ○ ● 、 ○ ● ○ ● と いう よ う な 型 は 存 在 し な い。 前 述 の東 京 語 ・京 都 語 の三 拍 語 に 見 ら れ る
型 は 、 す べて こ の 制 限 の中 に あ る 。 こ の 理 由 は 簡 単 で 、 (高 ) の部 分 が 二 か 所 に 別 れ て存 在 す る と 、 一語 と し て の統 一感 が失 わ れ る か ら にち が いな い。
そ の ほ か で は 、 ● ○ ● 型 ほ ど では な いが 、 ○○○ 型 、 ○ ○ ○ ○ 型 のよ う な 、低 の拍 ば か り の 型も 例 が少
な い。 こ れ は 耳 に 聞 いた 場 合 、 は っき り し な いた め に嫌 わ れ る の で あ ろ う 。 ま た 、 例 え ば 四拍 語 で○ ○ ●
● 型 と いう 型 は例 が 少 な い。 一般 に 四拍 以 上 の 語 に は 、 ○ ○ ● ● ● 型 と か ○ ○ ○ ● ● 型 と か いう 型 は 少 な
い。 つま り 、 前 半 の低 い部 分 と 後 半 の 高 い部 分 が と も に 二拍 以 上 で あ る こと は 少 な いと 言 え る。 先 に述 べ
た ● ○ ● 型 が 少 な いこ と は ほ か の国 語 でも そう ら し い が 、 ○ ○ ● ● 型 は ほ か の国 語 に は 珍 し いわ け でも な
いよ う で あ る と こ ろ を 見 る と 、 日本 人 の耳 の 習 慣 で あ ろう か。 以 上 は、 ︽絶 対 的 な 型 不 在 の法 則 ︾ と いう べき も の で あ る。
( ) ロ 次 に ︽相 対 的 な 型 不 在 の法 則 ︾ と いう べき も のが あ る 。 例 え ば ● ● ● 型 と いう よ う な (高 ) の拍 ば か り の型 が あ る と 、○○○ 型 と いう よ う な (低 ) ば か り の 型 は 共 存 す る こと が少 な い。 こ れ は 、 両 者 のち が い
が は っき り 聞 き 分 け にく いた め であ ろ う 。 ま た 、 三 拍 語 で 言 う と 、 ○ ● ● 型 と ○ ○ ● 型 と は 共 存 し にく い
傾 向 が あ る 。 これ は 反 対 の ● ● ○ 型 と ● ○ ○ 型 は 、 ごく 普 通 に共 存 し て いる のと 著 し い対 照 を 示す 。 (イ の)
条 に○ ○ ● ● 型 が 稀 であ る こ と を 述 べた が、 稀 に 存 在 す る 場 合 は 、 ○ ● ● ● 型 と 共 存 し に く く 、 ま た ○ ○
○ ● 型 と も 共 存 し にく い。 ● ● ● ○ 型 、 ● ● ○ ○ 型 、 ● ○ ○ ○ 型 が ご く 普 通 に 共 存 す る のと 大 き く ち がう 。
日 本 人 の 耳 は (低 ) か ら (高 ) へ の変 化 に 対 し て は 、 (高 ) か ら (低 ) への変 化 に 対 す る よ う に は 敏 感 で
は な い の で あ ろう か。 日 本 語 では (低 ) か ら (高) への変 化 よ り 、 (高) か ら (低 ) の変 化 の 方 が 重 要 だ
と いう こ と を 表 わ す と いう ほ か はな い。 平 野 健 次 氏 は、 か つて 日本 の邦 楽 の世 界 で は 、 上 昇 の旋 律 よ り 下
降 の旋 律 を 喜 び、 細 か い小 ブ シ の変 化 を つけ な が ら 低 い音 に落 ち つく 旋 律 が 多 く 現 わ れ 、 そ の 種 類 が多 い こと を 注 意 さ れ た 。( 28)考 え 合 わ せ て 興味 が深 い。
と こ ろ で︹4︺の(ロ で) 述 べ た (高 ) か ら (低 ) へ の下 り 目 が 重 要 だ と いう こ と は 、 日本 語 の ア ク セ ン ト に 関 し て
注 意 す べき こと で あ る 。 こ の こと は 、 東 京 語 に つい て具 体 的 に例 を 述 べれ ば 、 今 、 東 京 語 の五 拍 語 に見 ら れ る す
(ホ) ○ ● ● ● ● 型
(ニ ) ○●●●○ 型
(ハ ) ○●●○ ○型
(ロ ) ○●○○ ○型
(イ ) ●○○○ ○型
例、 イイナ ズケ
例 、 ワタシブネ
例 、 カ シ ワ モチ
例 、チガイ ダナ
例、カ ゲボー シ
べ て の 型 を 網 羅 し た 場 合 、 次 のよ う で あ る 。
す な わ ち 、 (イ か) ら(ニ ま)で の起 伏 式 の型 は 、 (高 ) か ら (低 ) に 変 わ る と こ ろ は 一つ 一つで 皆 ち が って い て、 共
通 のも の は な い。 そ れ に 対 し て 、 ( 低 ) か ら (高 ) に 変 わ る と こ ろ は 、 ( ) ロ) (ハ (ニ ) (ホ) す べ て 共 通 であ る 。 と いう こ と は 、 一つの 型 を 言 う 場 合 に 、 こ の型 は ど の 位 置 で (低 ) から (高) に 登 る と言 っても 、 ど の型 を 意 味 す る か わ か
ら な い。 そ れ に 対 し て、 こ の型 は ど の位 置 で (高 ) か ら (低 ) に変 わ る 、 あ る い は こ の 型 は (高 ) か ら (低 ) に
変 わ る と こ ろ が な いと 言 え ば、 ど の 型 を 意 味 す る か す ぐ に わ か る 。 そ の型 を そ の 型 た ら し め る も の は 、 (高) か
ら ( 低 ) に降 る 部 分 だ と いう こ と が でき る。 これ は 四拍 以 下 の語 の場 合 で も 、 六 拍 以 上 の 語 の場 合 でも 同 様 で あ
る 。 そ う し て、 東 京 語 以外 の方 言 の場 合 にも 、 同 じ よう な 傾 向 が 見 ら れ る 。 こ の こ と か ら 、 日 本 語 で (高 ) か ら
(低 ) に降 る 個 所 を 特 に ︽ア ク セ ント の 滝 ︾ と 呼 ん で重 要 視 す る 。 ア ク セ ント の滝 に つ いて は 、 ︹四 十 七 ︺ にも 言 及 す る は ず であ る 。
ここ の前 半 に述 べた ことを 要約 す れば 、 日本 語 のアク セ ント は概 し て単純 であ り、 そう し て型 の種 類も 少な いと い
う こと にな る。 これ は 日本 語 の音 素 の種 類が 少な いこと、 音素 が拍 を組 織す る方 式 が単 純 であ ること 、し た が って拍
の 種 類 が 少 な い こ と 、 そう し て そ の組 合 せ に き ま り が あ る こ と か ら 同 音 語 が 多 い こ と 、 な ど と 関 係 が あ る 性 格 と 考 え ら れる。
日 本 語 の 諸 方 言 の中 で 最 も 複 雑 な ア ク セ ン ト 組 織 を も つも の は 、 ︹ 十 一︺ に 触 れ た よ う に、 香 川 県 佐 柳 島 の 方 言 の
ア ク セ ント で あ り 、 ︹付 表 6 ︺ に 示 し た よ う に、 二 拍 語 の 型 の 種 類 は 六 種 類 で あ った 。 こ う いう 方 言 で は 、 〓 や〓 の
よ う な 拍 が 語 の 内 部 に き て ○ 〓 ○ のよ う な 型 を 作 る が 、 こ のよ う な 例 は 全 国 的 に 見 て ま こ と に 少 な い。 こ の よ う な こ
( 高 ) が 二 か 所 に 別 れ て い る 型 は 全 く 珍 し い。 筆 者 の 知
と に つ い て は 、 秋 永 一枝 氏 の ﹁佐 柳 ア ク セ ント の提 起 す る も の﹂( 29)と いう 論 文 に 考 察 が あ る 。 ︽絶 対 的 な 型 不 在 の 法 則 ︾ に 述 べ た 型 の中 で ● ○ ● の よ う な
って い る 範 囲 で は 、 山 梨 県 南 巨 摩 郡 旧 西 山 村 奈 良 田 郷 の方 言 が 僅 か に そ の 候 補 であ る が 、( 30)そ れ も 疑 わ し い。 も っ と も こ う いう 型 は 、 日 本 語 以 外 の 高 低 ア ク セ ント の言 語 にも 少 な いよ う で あ る 。
こ れ に 比 す る と 、 ○ ○ ○ 型 、 ○ ○ ○ ○ 型 の方 は 少 数 な が ら 例 が あ る 。 鳥 取 県 大 部 の 方 言 に そ の例 が あ り 、 岩 手 県 盛
岡 市 付 近 の 方 言 ・山 形 県 鶴 岡 市 付 近 の 方 言 にも そ の例 が あ って、 北 奥 に は か な り あ り ふ れ た 傾 向 ら し い。 ま た 、 稀 な
例 で あ る が 、 石 川 県 七 尾 市 付 近 の方 言 や 、 香 川 県 旧 観 音 寺 町 付 近 の 方 言 で は ● ● ● 型 と ○ ○ ○ 型 の共 存 と いう こ と も 起 こ って いる 。( 31)
○ ○ ● ● 型 の方 は 、 名 古 屋 市 付 近 の 方 言 や 、 ︹四 十 三 ︺の ︹B︺ ( 5) に 述 べ た 徳 島 市 付 近 の 方 言 、 和 歌 山 県 龍 神 村 方 言 な
ど に 例 が あ る 。( 32) し か し 、 これ ら の 方 言 に は ○ ● ● ● 型 や ○ ○ ○ ● 型 が な く 、 そ れ ら と の 共 存 の 例 は ま だ 知 ら れ て
いな い。 ○ ○ ● ● ● 型 も 、 以 上 の名 古 屋 市 付 近 ・徳 島 市 付 近 ・龍 神 村 の 方 言 に は 見 ら れ る が、 ○ ○ ○ ● ● 型 と いう 型
は ま だ ど こ か ら も 存 在 を 聞 か な い。 ○ ● ● 型 と ○ ○ ● 型 の 共 存 は 、 和 歌 山 県 勝 浦 町 方 言 な ど 、 ︹四 十 三 ︺の︹ C︺ ( 7) に 述 べ た 方 言 に 例 が あ り 、 珍 し い。
○ ○ ● ● のよ う な 型 は 、 沖 縄 県 下 の方 言 に は す で に 例 が 多 く 、 那 覇 方 言 な ど で は ○ ○ ○ ● 型 と 共 存 し て お り 、( 33)
嫌 う の は 日 本 の 内 地 方 言 の特 性 のよ う だ 。 と いう わ け で 、 ︽ア ク セ ン ト の 滝 ︾ と いう 術 語 は 、 沖 縄 方 言 に は 意 味 が な いよ う だ 。
︹四 十 七 ︺ 単 語 結 合 と ア ク セ ント の 変 化 付 ア ク セ ン ト の式
次 に 、 諸 方 言 の ア ク セ ン ト に は 、 二 つ の 語 を 続 け て 発 音 し た 場 合 に 、 ア ク セ ン ト が 一語 の よ う な 形 に 、 臨 時 に
﹁単 語 結 合 ﹂( 34)と 呼 び 、 神 保 格 氏 は 出 来 上 った 臨 時 的 な ア ク セ ン
﹁準 ア ク セ ン ト ﹂ ( 35)と 名 付 け ら れ た 。 こ の 場 合 、 も と の 語 と 、 出 来 上 っ た 準 ア ク セ ン ト と の 間 に は 、 一定
変 化 す る 現象 が あ る。 服 部 四 郎 氏 は 、 こ れ を ト を
の傾 向 が あ り 、 そ の傾 向 は 諸 方 言 を 通 し て 共 通 であ る 。 今 、 東京 語 に例 を と れ ば 、 三 拍 語 の各 種 類 の ア ク セ ント が 続 き あ った 場 合 、 次 の ︹付 表 15 ︺ の よ う に な る 。 ︹付 表 15 ︺
前 々項 に 述 べた 名 詞 + 助 詞 の形 の ア ク セ ント も こ れ と 同 じ 種 類 の現 象 で あ る 。 次 の例 を 比 較 せ よ 。 フル ( 降 る )+ ヒ (日) ← フ ルヒ ( 降 る日) ア メ (雨 )+ ガ ← ア メ ガ (雨 が ) ナ ク ( 鳴 く )+ コ エ ( 声 ) ← ナ ク コ エ (鳴 く 声 ) ト リ ( 鳥 )+ ナ ド ( 等) ← トリナド ( 鳥 など) 自 立 語 +付 属 語 の形 はす べ て こ れ に準 じ て よ い。
神 保 氏 の ︽準 アク セ ント ︾ と単 語 の ア ク セ
こ のよ う な 、 単 語 結 合 の場 合 の アク セ ント の現 象 に つい て、 いく つか 注 意 す べき こと があ る 。 第 一に は こ のよ う に し て 二 語 が 連 結 し て 出 来 上 った アク セ ント︱
ント と の 関係 で 、 多 く の方 言 で、 準 ア ク セ ント に 見 ら れ る 型 の種 類 を 集 め て み る と 、 そ れ は 単 語 の ア ク セ ント の
型 の種 類 に一 致 す る 傾 向 があ る こ と であ る 。 す な わ ち 、 東 京 方 言 な ど は ぴ った り 一致 す る例 で、 右 の例 で言 え ば 、 フ ルヒ ( 降 る 日 )‖ア メ ガ ( 雨 が )‖カ ブ ト ( 兜) ナ ク コエ ( 鳴 く 声 )‖ト リ ナ ド ( 鳥 な ど )‖ア マガ サ (雨傘 ) となる。 五 拍 の語 に つ いて 言 う な ら ば 、 次 の ︹付 表 16︺ のよ う で あ る 。
た だ し 、 方 言 によ って は、 単 語 結 合 の ア ク セ ント の型 の方 が 多 いも の であ り、 京 都 語 な ど の単 語 結 合 の型 に は 、
単 語 の ア ク セ ント に は な いア メ ガ ( 雨 が ) のよ う な ○ 〓 ○ 型 が 現 わ れ る 。 ま た 、 京 都 語 ・大 阪 語 と も に 、 自 立 語
が 重 な る 場合 に は、 ノ ム ミ ズ (飲 む 水 ) のよ う な 型 が 現 わ れ る 。 こ のこ と は ︹四 十 三 ︺ の ︹付 表 12 ︺ で述 べ た 。
準 ア ク セ ント の 現 象 に つ いて 、 第 二 に 注 意 す べき こと は 、 二 つの 語 が 結 合 し て 準 ア ク セ ント の 現 象 を 起 こ し た
場 合 、 そ の語 の位 置 よ り 、 ま た 型 の種 類 に よ り、 ア ク セ ント が 変 わ り や す いも のと 、 変 わり にく いも のと が あ る こと であ る 。
︹ 付 表 16 ︺
一般 に 、 二 つ の語 が結 合 す る 場 合 、 アク セ ント が変 わ る のは 後 の単 語 であ り 、 前 の単 語 は 変 わ り にく い。 先 に
あ げ た 三 拍 語+三 拍 語 の場 合 を 見 ても 、 す べ て 変 わ る のは あ と の単 語 であ って、 前 に 立 つ単 語 は ア ク セ ント を 変
え る こ と は な い。 東 京 語 で は こ の原 則 が 常 に当 て は ま り、 例 外 は た だ 一つ ﹁蚊 ﹂ ﹁葉 ﹂ の よ う な 一拍 の名 詞 に 助
詞 が 付 いた 場 合 、 ○ ● 型 に な る こ と で 、 も し 単 独 の場 合 を ● 型 であ る と す る と 、 ● が ○ に変 化 す る こ と に な り 、 これ が 唯 一の例 外 であ る。 前 に来 る 語 の ア ク セ ント の強 さ を 知 る べき であ る 。
他 の方 言 でも 原 則 と し て 高 低 配 置 が 変 化 す る のは 、 あ と に 従 う 部 分 で、 前 に 立 つ部 分 が 変 化 す る の は非 常 に稀
であ る 。 注 意 す べき は、 こ のよ う な 準 ア ク セ ント が出 来 る 場 合 、 あ と の語 の型 が壊 れ る の は、 必 ず し も 日 本 語 で
は後 の語 の意 味 が 軽 いか ら と いう わ け では な い こと であ る 。 前 の部 分 の意 味 が 軽 い場合 にも 、 出 来 上 った 全 体 の
準 ア ク セ ント を 調 べ て み る と 、 あ と の部 分 のア ク セ ント が 壊 れ て いる こ と 次 のよ う であ る。
例 え ば 、 ﹁約 、 三 百 ﹂ と いう よ う な 連 合 の場 合 、 意 味 の重 要 性 は ﹁約 ﹂ よ り ﹁三 百 ﹂ の方 にあ る と 思 わ れ る が 、
ヤ ク+ サ ン ビ ヤク の準 ア ク セ ント は 、 ヤ ク サ ンビ ャク で あ る 。 も っと も 、 こ う 発 音 し た の で は 実 際 の コミ ュ ニケ
ー シ ョン の場 合 は 不 便 な の で、 ヤ ク サ ン ビ ャク と いう 二 つの語 が 融 合 し な い形 を 使 う こと が 多 い が、 そ れ は 次 の
条 に 言 う べき 別 の話 で、 ﹁約 三 百 ﹂ を ヤ ク サ ン ビ ャク と 言 う こ と は な い の であ る か ら 、 ﹁約 三 百 ﹂ の準 ア ク セ ント
は ● ○ ○ ○ ○ ○ 型 であ り 、 こ の場 合 でも 、 ︽変 化 す る のは あ と に 従 う 語 の方 であ る ︾ と いう 鉄 則 は 破 れ て いな い と いう こと にな る 。
と こ ろ で、 こ れ に 関 連 し て前 に 立 つ語 の ア ク セ ント が 強 いと 言 っても 、 そ の強 さ が 型 の種 類 に よ って ち が う こ
とも 注 意 し な け れ ば な ら な い。 例 え ば 先 の 三 拍 語+ 三 拍 語 の形 の準 ア ク セ ント の場 合 、 ● ○ ○ 型 、 ○ ● ○ 型 の よ
る。 ︹四 十 六 ︺ に述 べた ﹁滝 ﹂ と いう 術 語 を 使 う な ら ば 、 ︽滝 のあ る 型 は 強 い型 だ︾ と いう こ と にな る。
う に 終 り が (低 ) の 型 は 、 特 に次 に 来 る 型 を 低 平 型 に 変 化 さ せ る 傾 向 があ る 。 これ は 本 来 強 い型 と 言 う べき であ
こ れ ら に対 し 、 ○ ● ● 型 のよ う に 最 後 が 高 い型 は、 あ と に来 る 型 を 変 え な い場 合 が あ り、 ま た 変 え た と し ても
不完 全 に し か変 え な い。 ︹付 表 15 ︺ の例 で ﹁赤 い兜 ﹂ は 変 え な い例 、 ﹁赤 い 玩 具 ﹂ ﹁赤 い小 鳥 ﹂ は 不 完 全 に 変 え た
例 で あ る 。 そう す る と、 こ の、 (高 ) で終 る 型 は 、 本 来 強 く な い型 と 言 う こ と が で き る 。 ﹁滝 ﹂ と いう 術 語 を 使 う な ら ば 、 ︽滝 のな い型 は 弱 い型 であ る︾。
次 に 、 あ と に 続 く 型を 検 討 し て み る と 、 ● ○ ○ 型 と いう 型 は 、 あ と に続 い ても そ の形 を 変 え な い場 合 があ る。
﹁赤 い兜 ﹂ のよ う な 場 合 が そ れ で あ る と す る と 、 こ の (高 ) で は じ ま る 型 は 、 強 い中 でも 強 い型 と 言 う こ と が で
き る 。す な わ ち 、 ︽第 一拍 の直 後 に 滝 のあ る 型 は 最 も 強 い︾、以 上 のこ と を ま と め れ ば 次 の ︹付 表 17︺ のよ う にな る 。
︹付 表 17 ︺
こ れ と 同 じ 傾 向 は 、 二拍 語 にも 見 ら れ る し 、 四 拍 以 上 の語 にも 見 ら れ る。 ま た 、 東 京 式 以 外 の方 言 にも 、 並 行
し て 見 ら れ る の で、 結 局 、 最 後 が (低 ) で終 る 型 、 す な わ ち 滝 のあ る 型 は あ る 型 で共 通 の性 格 を 有 し 、 最 後 が
(高 ) で 終 る 型 、 す な わ ち 滝 のな い型 は 、 そ れ に 対 立 す る 型 と いう こ と にな り 、 す べ て の型 は 大 き く 二 分 さ れ る 。
佐 久 間 鼎 氏 は 、 前 者 を ﹁起 伏 式 ﹂ の 型 と 名 付 け 、 後 者 を ﹁平 板 式 ﹂ の 型 と 呼 ば れ た が 、( 36)こ の式 の 存 在 は ア ク セ ント 研 究 史 上 の注 目 す べき 一つ の発 見 だ った 。
ま た 、 ︹付 表 15︺ に 述 べた 三 拍 語+ 三 拍 語 の単 語 結 合 の変 化 の う ち 、 ﹁赤 い玩 具 ﹂ の例 で、 ﹁玩 具 ﹂ の ア ク セ ン
ト は 、 ○ ●○ 型 か ら ● ● ○ 型 にな る わ け で、 (低 ) か ら (高 ) へ移 る 部 分 は 消 失 す る が 、 (高 ) か ら (低 ) へ移 る
部 分 は 変 わ ら な か った 。 つま り、 ア ク セ ント の滝 の位 置 は 変 化 し な いわ け で 、 滝 と いう も の の重 要 性 が 知 ら れ る 。 ﹁滝 ﹂ と いう 観 念 を は じ め て 唱 導 し た 人 は 、 宮 田 幸 一氏 ( 37)であ った 。
と ころ で方 言 の中 に は 、 稀 に最 初 か ら 最 後 ま で (低 ) の拍 ば か り で出 来 て い る ○ ○ 型 、 ○ ○ ○ 型 と いう 型 があ
る。 前 項 に述 べた 鳥 取 市 方 言 や 香 川 県 旧観 音 寺 町 方 言 な ど に例 が あ る が 、 そ れ ら の型 が 単 語 結 合 を 作 る 場 合 の 性
質 は 、 全 く ○ ● 型 、 ○ ● ● 型 と同 じ で、 あ と に来 る 語 の ア ク セ ント を よ く 保 存 す る 。 これ は 平 板 式 に 属 す る型 と
見 る べき も の であ る。 と す る と 、 平 板 式 と は (高 ) で終 る 型 と 見 る よ り も 滝 を も た ぬ 型 と 考 え る のが よ い。
滝 の有 無 、 これ は佐 久 間 鼎 氏 の術 語 で は 、 つま り 式 の対 立 に な る が、 こ の こ と は 、 こ のよ う な 単 語 結 合 の準 ア
ク セ ント の場 合 だ け に有 効 な の で は な い。 前 項 の ︹付 表 13 ︺ に 述 べた 東 京 語 の動 詞 の語 形変 化 で、 終 止 形 が● ○
型 、 ○ ● ○ 型 のよ う に 最 後 が 低 く 終 るも のは 、 他 の活 用 形 で も そ う で あ る 傾 向 が あ り、 終 止 形 が ○ ● 型 や ○ ● ●
型 のよ う に 最 後 が 高 く 終 る も の は 、 他 の 形 で も そ う で あ る 傾 向 があ る 。 こ れ は 佐 久 間 氏 が ︽式 保 存 の法 則 ︾( 36) と呼ば れたも のである。
準 ア ク セ ント の現 象 に つ いて 最 後 に 注 意 す べ き こと は 、 個 々 の 語 の固 有 の ア ク セ ント が 消 え やす い場 合 、 つま
り 準 ア ク セ ント が 出 来 や す い場 合 と 、 固 有 の ア ク セ ント が 消 え にく く 、 準 ア ク セ ント が 出 来 に く い場 合 と が あ る
こと であ る 。 これ は 、 拍 の 数 に よ り 、 ま た 、 そ の語 の連 接 す る語 彙 の融 合 度 に よ る が 、 ま た ア ク セ ント の型 のち が いに も よ り 、 そ れ が さ ら に 方 言 の ち が い にも よ る よ う で あ る 。
連 接 す る 語 彙 の 融 合 度 で は 、 名 詞 + 助 詞 、 動 詞 + 助 詞 のよ う な 自 立 語 +付 属 語 の場 合 が 最 も 強 いか ら 、 こ の場
合 は最 も 準 ア ク セ ント が出 来 や す く 、 む し ろ 出 来 な い場 合 の方 が稀 な く ら いで あ る 。 そ れ に つ い で は、 ﹁咲 い て
い る﹂ と か 、 ﹁これ に よ って﹂ と か の よ う な 、 補 足 語 +被 補 足 語 の場 合 で、 こ の場 合 も 、 準 ア ク セ ン ト に な る こ
と の方 が 多 いかも し れ な い。 先 にあ げ た 修 飾 語 +名 詞 の場 合 は、 必 ず し も 、 準 ア ク セ ント が い つも 現 わ れ る と は
か ぎ ら ず 、 拍 数 が 多 く な る と 、 非 常 に 現 わ れ に く く な る 。 修 飾 語 +動 詞 の場 合 も 同 様 であ る。
次 に 、 型 の 種 類 で いく と 、 さ き の例 で 、 ﹁赤 い 小鳥 ﹂ の よ う に 、 前 の部 分 が 、 平 板 型 の 場 合 は 準 ア ク セ ント が 現 わ れ や す いが、 前 の部 分 が 起 伏 型 の場 合 、 そ う し て後 の部 分 が 頭 高 型 の シ ロイ ( 白 い)+ カ ブ ト ( 兜)
のよ う な 場 合 は、 最 も 現 わ れ にく いと 言 う こ と が でき る 。 ま た 方 言 によ って 、 東 京 語 は 京 都 ・大 阪 語 よ り も 準 ア
ク セ ント の現 象 を 起 こ し や す いと 言 う こと が あ る よ う で あ る 。 川 上蓁 氏 あ た り は 、 京 都 ・大 阪 語 で は、 自 立 語 +
自 立 語 の場 合 は 、 準 ア ク セ ント が 現 わ れ な いよ う に言 って いる が、( 38)し か し そ ん な こ と は な い。 程 度 の差 であ
る と考 え ら れ る 。 京 都 ・大 阪 語 の準 ア ク セ ント の法 則 に つ い て は 、 ︹六 十 四 ︺ で 述 べ る 。
東 京 語 の単 語 結 合 の 法 則 に 関 し て 、 一往 注 意 す る こと が あ る 。 ○ ● ● 型 は 次 に 来 る 型 を 尊 重 す る と 述 べ た が 、 例 外
が あ って 、 ○ ● ● 型 の 中 で 、 名 詞 の ﹁男 ﹂ ﹁頭 ﹂ の よ う な も の は 、 次 の よ う に 起 伏 式 の 型 な み に 次 の 型 を 低 平 型 に 変 化さ せ てしま う。 オ ト コ+ ミ タ イ ← オ ト コミ タ イ サ ク ラ+ ミタイ ← サク ラミ タイ
( ○ ) を 伴 う ○ ● ● 型 は 、 語 の末 尾 に 滝 が あ る と 見 る こと が で き る 。 つま り ﹁ 桜 ﹂ と ﹁男 ﹂ は 、 そ れ だ
︹十 一︺ の ︹付 表 4︺ に○ ● ● ( ○ )型 のよ う に 表 記 し た ○ ● ● 型 が こ れ で あ る 。 こ のよう な
け で は 両 方 と も ○ ● ● 型 であ る が 、 性 質 か ら 言 う と ﹁男 ﹂ の方 は ● ○ ○ 型 や ○ ● ○ 型 に 近 く 、 起 伏 式 に 属 す る と 見 る
べ き で あ る 。 こ のよ う な 例 か ら 見 ても 、 平 板 式 と は ( 高 ) で 終 る 型 であ る と 定 義 し て は いけ な い こ と が わ か る 。
そ れ は と も か く と し て 、 こ こ に 述 べ た よ う な こ と か ら 、 日 本 語 の ア ク セ ント で 、 降 る 個 所 が 登 る 個 所 よ り も 重 要 な
役 目 を も つ。 こ れ は た し か な こ と で 、これ を 契 機 と し て 、︽日 本 語 の ア ク セ ント は 、 個 々 の拍 を 高 いと か 低 い と か 言 う
の は 音 韻 論 的 な 見 方 でな い ︾ と いう 見 方 が 生 れ る 。宮 田 幸 一( 39)・服 部 四 郎 ( 40)・柴 田 武 (4 )・ 1和 田 実 ( 42)・川 上蓁 ( 43) の 諸 氏 の奉 ず る 見 立 、 川 上 氏 の言 う ﹁ア ク セ ント 方 向 観 ﹂ が そ れ で あ る 。
こ の 見 方 は 、 東 京 語 な ど の ア ク セ ント の解 釈 に は 、 き わ め て 有 効 であ る 。 そ れ は た し か で あ る 。 し か し 京 阪 語 の ア
ク セ ント に 対 す る と 、 も う 力 が 不 足 し てく る 。 例 え ば 、 服 部 氏 や 和 田 氏 が 高 ア ク セ ント ・低 ア ク セ ント と か 、 高 起
式 ・低 起 式 と か 言 う 場 合 に ﹁高 ﹂ と か ﹁低 ﹂ と か いう 術 語 を 使 わ な け れ ば な ら な く な った と いう こ と が そ れ で あ る 。
筆 者 は 、 そ の 場 合 も 、 低 起 式 の も の を ︽語 頭 の滝 ︾ と 考 え る こ と に よ って方 向 観 を 進 め る こ と が で き る か と 試 み た こ
と も あ った が 、そ れ にも 限 度 が あ った 。( 44)柴 田 氏 の ﹁上 り 核 ﹂ ﹁下 り 核 ﹂ の考 え も 未 完 成 で あ る 。 そ う し て 、 いず れ
の 方 式 で も 、 平 安 朝 の ア ク セ ント に 立 ち 向 か う 時 は 、 こ の種 の ア ク セ ント 観 は 、 歯 が 立 た な い。 こ の稿 で 、 方 向 観 を
と ら ず 、 個 々 の拍 を (高 ) と か ( 低 ) と か 、 あ る い は そ の組 合 せ の ( 高 低 ) と か (低 高 ) と か で 表 記 し た の は そ う い う 理由 に よ る 。
ま た こ の 稿 で ﹁滝 ﹂ と 呼 ん だ 現 象 は 、 ﹁ 核 ﹂ と いう 名 で 呼 ぶ 方 が 普 通 で あ る 。 ﹁ 核 ﹂ は 宮 田 氏 が、 ﹁滝 ﹂ の 別 名 を
であ る 。 注 意 す べき は 、 滝 は 音 の (高 ) か ら (低 ) への 変 化 そ の も のを 表 わ す の に 対 し て 、 核 は 、 そ の ( 高 ) から
﹁中 核 ﹂ と 呼 ん だ の に 始 ま り 、 服 部 四 郎 氏 が ﹁音 韻 論 か ら 見 た 国 語 の ア ク セ ント ﹂( 45)の中 で ﹁ 核 ﹂ と呼 び かえ た も の
前 者 を 第 二 拍 の 途 中 に 滝 が あ る 型 、 後 者 を 第 二 拍 のあ と に 滝 があ る 型 と 呼 ん で区 別 で き る が 、 核 と いう 術 語
( 低 ) へ変 化 が 現 わ れ る 直 前 の拍 を 言 う 。 そ の た め に 、 ﹁滝 ﹂ と いう 術 語 を 使 え ば 、 ○ 〓 ○ 型 と ○ ● ○ 型 と を 区 別 で き る 、︱
で は 区 別 で き な い こ と に な る 。 両 方 と も 第 二 拍 に核 があ る 、 と な って し ま う 。 こ れ で は 現 代 語 でも 、 高 松 方 言 な ど の
ア ク セ ント を 説 明 す る の に 不 便 で あ り 、 古 代 語 の ア ク セ ン ト を 説 明す る 場 合 に は 一層 不 便 で あ る 。 筆 者 の いう ﹁語 頭
の滝 ﹂ と 言 う こ と も 言 え な く な る 。 そ ん な こと か ら 、 筆 者 は ﹁ 核 ﹂ と いう 術 語 は 好 ま し く な いと 思 う 。
︹四十 八 ︺ そ のま ま 過 去 の 資 料 と な る 方 言 事 実
現 在 諸 方 言 の ア ク セ ント は 、 以 上 のよ う な 意 味 で 、 古 い時代 の ア ク セ ント の 基 本 的 性 格 を 考 え る た め に 重 要 な
研 究 資 料 で あ る 。 し か し 、 次 の よ う な 方 言 で は 、 さ ら に 進 ん で 、 そ の方 言 の 過 去 の ア ク セ ン ト の 具 体 的 な 調 価 を 推定 す る のに 役 立 つと 考 え ら れ る 。
︹1 ︺あ る 一部 の 人 た ち 特 に 老 人 が ち が った ア ク セ ン ト を 用 い て い る 場 合 。 例 え ば 、 あ る 地 方 で ︽あ る 語 、 ま た
は あ る 一群 の 語 が A B の 両 種 の 型 で 発 音 さ れ 、 一般 の 人 た ち は B の 型 で 発 音 し 、 A の 型 で 発 音 す る 人 は 稀 で 、
(又 は そ の 一群 の 語 ) は 、 A 型 に の み 発 音 さ れ て い た の で は な い か ︾ と 疑 う こ と が で き る と 思 う 。
た だ 、 老 人 た ち が A の 型 で 発 音 す る ︾ と い う よ う な 場 合 が あ る 。 こ の 場 合 、 そ の 地 方 で は 、 ︽ 一時 代 前 に は そ の語
︹三 十 一︺ で 述 べ た が 、 現 在 東 京 で 、 ﹁赤 と ん ぼ ﹂ ﹁一 肩 車 ﹂ な ど の 語 は 、 ア カ ト ン ボ ・カ タ グ ル マ、 ア カ ト ン
︽こ れ ら の 語 は 古 く 、 ア カ ト ン ボ 、 カ タ グ ル マ の よ う に の み 発 音 さ れ て い た の で は な い か ︾ と
ボ ・カ タ グ ル マ と い う 二 種 の ア ク セ ン ト で 発 音 さ れ る が 、 後 者 の方 が 一般 的 で 、 前 者 は 老 人 に 多 く 聞 か れ る 。 このことから
推 定 す る が ご と き であ る 。
こ のよ う な 場 合 、 然 ら ば 、 な ぜ そ の語 を 若 い人 が A 型 に発 音 せ ず 、 B 型 に 発 音 す る か、 と いう 理由 を 明 ら
か にす る こと が でき れ ば 、 そ の推 定 は 確 実 さ を 増 す はず であ る。 今 の東 京 語 の場 合 、 ﹁︱ ト ンボ ﹂ ﹁︱ グ
ル マ﹂ のよ う な 語 は 、 若 い人 た ち は 勿 論 の こ と 、 老 人 た ち も 、 一般 に シ オ カ ラト ンボ ・ム ギ ワラ ト ンボ 、 ミ
ズ グ ル マ ・ダ イ ハチ グ ル マの ご と く 、 ⋮ ⋮ ト ンボ 、 ⋮ ⋮ グ ル マ の 型 に 発 音 す る 。 そ う す る と、 ﹁赤 と ん ぼ ﹂
﹁肩車 ﹂ を 若 い人 が、 ア カ ト ンボ 、 カ タ グ ル マと いう のは ︽多 数 の 語 への 類 推 ︾ に よ る も のと 推 定 さ れ る 。
( )ロ 老 人 は 若 い こ ろ は B 型 の ア ク セ ント の方 を 用 いて いた の で は な いか と 一往 疑 って み る 必 要 があ る 。
(イ ) そ の語 は 老 人 が 若 い こ ろ か ら 存 在 し て いた 語 で 、 使 い つけ て いた 語 で な け れ ば な ら な い。
こ の よ う な 方 法 を 用 いる 場 合 に は 、 特 に次 の こと を 注意 す る 必 要 が あ る 。
な お 、 A B の対 立 は 、 老 人 対 若 い人 と いう の でな く 、 そ の 語を 使 い つけ て いる 人 、 対 、 そ の語 を あ ま り 使 い つけ ず 、 た だ 文 字 の 上 で 親 し ん で いる 人 、 と いう 対立 でも 差 支 え な い。
︹ 2︺ パ ウ ル (H.Pa )uが l ﹃言 語 史 の原 理 ﹄( 46)で語 の 孤 立 化 ( Isoli) er とu 呼n んgで いる こと があ て は ま る 場 合 。 パ ウ ルに よ る と、 古 代 の高 ド イ ツ語 か ら 中 世 の高 ド イ ツ語 に変 化 す る 時 に 、 語 末 の (r) は 長 音 の あ と で 脱
落 し、dar はdaと な り 、 hie はrhiと eな った 。 と こ ろ が 、 次 に 来 る 語 と密 接 な 関 係 が あ る 場 合 に は 、 (r) が
hと ie なrっ aてnいる 。 す な わ ち 、 単 語 と し て は な く な った も の が 、 複 合 語 の場 合 に は 生 き て 残
って いる こと が あ り 、 こ の原 理を 応 用 す れ ば 、 複 合 語を 通 し て、 古 い時 代 の単 語 の姿 を 推 す こ と が で き る は
残 り、daran
ず であ る 。
日本 語 に例 を と れ ば 、 ﹁明 け る ﹂ は 、 今 日下 一段 活 用 の動 詞 と な って いる が、 ﹁あ く る 日﹂ と いう 語 で は 、
いま だ に 下 二段 活 用 だ った 音 の 姿 を 伝 え て い る し 、 ﹁つ﹂ と いう 音 の 完 了 の 助 動 詞 は 、 ﹁と つお い つ﹂ と か ﹁持 ち つ持 た れ つ﹂ な ど の慣 用 語 に残 存 し て用 いら れ て い る よ う な 例 が あ る 。
こ の こ と は 、 ア ク セ ント に も 当 て は め る こと が で き る と 思 わ れ る。 例 え ば 、 東京 語 で ﹁垣 根 ﹂ や ﹁玩 具 ﹂
のよ う な ○ ● ○ 型 の名 詞 に 、 名 詞 ﹁の﹂ が 付 く 場 合 に は 、 名 詞 の部 分 の ア ク セ ント は 変 わ ら ず 、 ﹁の﹂ の部
分 が低 く つき 、 カ キ ネ ノ と いう 型 に な る の が原 則 で あ る 。 と こ ろ が 、 ﹁砂 糖 ﹂ と か ﹁匂 ﹂ と か ﹁日本 ﹂ と か
少 数 の 語 で は 、 単 独 では 、 ○ ● ○ 型 で あ りな が ら 、 ﹁の ﹂ が つく と 、 サ ト ー ノ 、 ニオ イ ノ 、 ニホ ン ノ のよ う
に 、 第 三拍 が 高 く 、 助 詞 も 高 く つき 、 照 応 の例 外 を な す 。 こ のよ う な 例 外 を な す 語 を 調 べ て み る と 、 第 三 拍
が いず れ も ﹁ー ﹂ ﹁イ ﹂ ﹁ン﹂ の よ う な 独 立 性 の乏 し いよ う な 語 であ る 。 一方 東 京 語 で は 、 ﹁ー ﹂ ﹁イ ﹂ ﹁ン﹂
が 第 三 拍 に 来 る 語 で 、 そ の直 後 に 滝 が 来 る 語 は な い。 ︹十 三 ︺ の小 字 の条 を 参 照 。 元 来 ﹁の﹂ が つ いて ○ ●
● ● 型 に な る と いう のは 、 東 京 語 で は、 単 独 で は ○ ● ● 型 の場 合 であ る 。 ○ ● ● 型 は○ ● ● (● )型 でも ○ ●
● (○ )型 で も よ い。 ﹁の﹂ は 一般 の付 属 語 と ち が い、 ○ ● ● (○ )型 に つ い ても ○ ● ● ● 型 にな る 。 そう す る と 、 こ れを も と に し て、
︽東京 語 で は 、 これ ら ﹁砂 糖 ﹂ ﹁匂 ﹂ ﹁日本 ﹂ のよ う な 語 は 、 元 来 ○ ● ● ( ○ )型 だ った の であ ろ う 。 と こ
ろ が 、 第 三 拍 のあ と に 滝 を 置 き にく い の で、 そ れ が 一拍 ず れ て ○ ●○ 型 に な った 。 し か し ﹁の﹂ が つく
時 だ け は 、 ず れ る べ き 滝 を 失 う ので 、 そ のま ま ○ ● ● ( ● )型 を 保 って いる の であ ろ う ︾ と 推 定 す る ごと き で あ る 。
こ の よう な 場 合 、 ほか にも こ れ を 支 持 す る よ う な 証 拠 が あ れ ば 、 こ の説 は 一層 強 ま る は ず であ る 。 例 え ば 、
﹁匂 ﹂ と いう 名 詞 は 、 ○ ● ○ 型 の動 詞 ﹁匂 う ﹂ の 派 生 語 で あ る が 、 ○ ● ○ 型 の動 詞 か ら 派 生 し た 名 詞 は 、
﹁話﹂ ﹁光﹂ な ど に 見 ら れ る よ う に、 原 則 と し て、 ○ ● ● ( ○ )型 であ る 。 つま り こ の点 か ら も ﹁匂 い﹂ は 、 元
来 ○ ● ● (○ )型 で あ る べ き は ず で 、 こ れ は 、 ﹁匂 い﹂ が ○ ● ● (○ )型 であ った と いう 推 定 に 強 く 支 持 さ れ る
こと にな り 、 ひ い て は、 ﹁砂 糖 ﹂ や ﹁日 本 ﹂ に 対 し て も 、 ○ ● ● ( ○ )型 で あ った ろ う と いう 推 定 を 間 接 に 強
め る役 を な す 、 と考 え ら れ る 。 た だ し 、 こ の よう な 型 の 対 応 の例 外 を も と に し て推 理を 試 みる 場 合 、 いく つ
か の点 に つ いて 注 意 す べき こ と が あ る 。
( イ) 第 一に は 、 古 いと 見 た 形 が案 外 新 し い形 か も し れ な い場 合 が あ る こ と であ る 。 例 え ば ﹁匂 い﹂ と いう 語
は 、 ﹁話 ﹂ や ﹁光 ﹂ と いう 語 と と も に 、 一時 代 前 の東 京 語 です べ て ○ ● ○ 型 だ った か も し れ な い。 と こ ろ
が これ に 対 し て東 京 語 に○ ● ○ 型> ○ ● ● ( ○ )型と いう 型 の規 則 的 変 化 が 起 こ った 。 そ の時 ﹁話﹂ や ﹁光 ﹂
は○●● ( ○ )型 にな る の に差 支 え が な か った の で、 そ の波 に乗 って ○ ● ● ( ○ )型 に な った が、 ﹁匂 ﹂ は ○
●●( ○ )型 に 変 化 し に く か った た め に、 ○ ●○ 型 に 取 り 残 さ れ た の で はな い か、 と も 疑 わ れ る 類 であ る 。
も っと も こ の 場 合 に は、 ﹁の﹂ が つ いた 場 合 に○ ● ● 型 にな る と いう 事 実 があ る ので、 古 く は 、 ○ ● ● ( ○)
型 だ った ろ う と の推 定 は動 か な いと考 え ら れ る 。 ま た 、 も し 、 ○ ● ○ 型 が 古 いま ま の型 を 保 って い る のだ
と いう こと が事 実 だ と し て も 、 ﹁匂 い﹂ は 、 東 京 語 で○ ● ● ( ○ )型 に成 って いる は ず の 語 だ と いう こ と は 、 は ば か る と こ ろ な く 言 え る こと であ る 。
( ) ロ 前 章 の ︹三 十 一︺ で述 べた よ う に 、 一つ の言 語 の ア ク セ ント は 、 ︽類 推 ︾ のは た ら き に よ って 型 の照 応
が 規 則 的 に な ろう と す る。 そ こ でた だ 型 の照 応 が 不 規 則 で あ る こ と だ け で は 、 決 し て新 し い形 だ と は 言 え
ず 、 む し ろ 古 い形 と 見 る べ き こ と が多 いと 考 え ら れ る 。 例 え ば 、 東 京 語 で、 連 体 形 が ○ ● ○ 型 の動 詞 か ら
派 生 し た 名 詞 は 、 ﹁話 ﹂ ﹁光 ﹂ のよ う に ○ ● ● ( ○ )型 で あ る も の が 多 い が、 稀 に ● ○ ○ 型 の も の が あ る 。
﹁た よ る ﹂ か ら 出 来 た ﹁た よ り ﹂、 ﹁ど も る ﹂ か ら 出 来 た ﹁ど も り ﹂ な ど そ の例 で あ る。 こ れ は 、 古 く ○ ●
●( ○ )型 で あ った も のが 、 ● ○ ○ 語 に変 化 し た も のと 見 てよ い であ ろう か 。 し か し 、 こ の場 合 、 こ れ ら の
語 が 、 ど う いう 理由 で 、 ○ ● ● ( ○ )型 か ら ● ○ ○ 型 に 変 化 し た か 、 説 明す る こ と は 困 難 であ る 。 案 外 これ
ら の語 は も と も と ● ○ ○ 型 だ った も の で、 動 詞 の方 も 逆 に● ○ ○ 型 であ った と も か ぎ ら な い。 そ う だ と 推
定 す る こと も で き な いが 、 打 ち 消 す こと は 困 難 であ る 。 つま り、 さ き の ﹁匂 ﹂ ﹁砂 糖 ﹂ ﹁日本 ﹂ の場 合 に は 、
型 の照 応 の例 外 だ った と いう ば か り でな く 、 も と ○ ● ● ( ○ )型 だ った ろう と 考 え さ せ る 歴 然 と し た 他 の理
由 が あ った と いう 点 を 注 意 す べ き で あ る 。
︹3︺ はな は だ 不 合 理 な ア ク セ ント を も って いる 場 合 。 方 言 によ って は 、 あ る群 の語 で、 語 音 と ア ク セ ント の型 と の間 に 、 いろ いろ な 意 味 で不 合 理 な 関 係 が 見 出 さ れ る 場 合 があ り 、 こ れ は 何 か の事 情 によ る 過 去 に お け る ア ク セ ント の規 則 的 な 変 化 が あ った こ と が推 定 さ れ る。
極 端 な 例 を あ げ る と 、 例 え ば 、 山 梨 県 南 巨 摩 郡 旧 西 山村 奈 良 田 方 言 で は、 二拍 の名 詞 に は、 助 詞 を つけ た
場 合 を 見 る と 、 ● ○ ○ 型 と ○ ● ○ 型 と ○ ○ ● 型 と の 三 種 類 のも の が あ る が、 こ こ で は ﹁金 ﹂ ﹁銀 ﹂ ﹁パ ン﹂
﹁ペ ン﹂ と いう よ う に第 二 拍 が ハネ ル音 で あ る よ う な 語 は 大 部 分 が ○ ● ○ 型 に属 し 、 ● ○ ○ 型 に属 す るも の
が少 数 で 、 ○ ○ ● 型 に属 す る も の は 皆 無 であ る 。 が、 こ れ は ま こ と に変 だ と いう べき では な いか 。 と いう の
は 、 ハネ ル音 の拍 は 、 そ の発 音 の性 質 か ら 言 って、 種 々 の拍 の中 でも 、 そ の直 後 に 滝 を 置 き に く いも の であ
る 。 に も か か わ ら ず 、 そ の大 部 分 が そ の直 後 に 滝 を 持 ち 、 ま た 、 そ う いう 語 が属 し てち っと も 差 支 え な さ そ
う な ○ ○ ● 型 に は 、 そ う いう 型 が 一つも 属 し て いな いと は 。 こ れ に 対 し て は 、 次 のよ う な 事 情 が考 え ら れ る。
こ の方 言 の ア ク セ ント は 、 過 去 に 、 型 の規 則 的 変 化 を 遂 げ た も の であ ろ う 。 す な わ ち 以 前 に 、 こ の方 言 で は、
第 二拍 に パネ ル音 を 含 む 語 は 、 す べて ● ○ ○ 型 に属 し て いた 。 そ の こ ろ ○ ● ○ 型 に 属 し て いる べき も のも 、
滝 を 一拍 前 にず ら し て、 ●○○ 型 に な って いた 。 そ れ が 、 型 の 規 則 的 な 変 化 が起 こり 、 今 ま で の● ○ ○ 型 が
一斉 に ○ ● ○ 型 に 変 化 し、 今 ま で の○ ● ○ 型 は ○ ○ ● 型 に変 化 し た 。 そ の結 果 、 現 在 のよ う な ○ ○ ● 型 に は
□ ン□ と いう 語 音 のも のが 一つも な く 、 ○ ● ○ 型 に は□ ン□ と いう 語 音 のも の が む や み に 多 いと いう 変 則 的
な 状 態 に な った の で、 つま り こう いう 不 合 理 な ア ク セ ント は 、 過 去 に お け る 型 の 規 則 的 な 変 化 のあ った こと を 疑 わ せ る と いう わ け であ る 。
な お 以 上 の よう な 事 情 で あ る か ら 、 こう いう 方 言 で は 、 こ のあ と い つま でも 第 二 拍 に撥 音 を 含 む 語 を ○ ●
○ 型 のま ま に し て お く こ と は 考 え ら れ な い。 恐 ら く 、 遠 か ら ぬ う ち に そう いう 語 だ け を ● ○ ○ 型 に戻 す であ
ろ う 。 そ う 考 え ら れ る か ら に は 、 こ の 種 の方 言 で 、 ● ○ ○ 型> ○ ● ○ 型 、 ○ ● ○ 型> ○ ○ ● 型 、 と いう 変 化
を 遂 げ た の は、 過 去 と い っても 、 比 較 的 近 い過 去 の こ と であ ろう と 推 定 さ れ る 。
不 合 理 な ア ク セ ン ト の 例 と し て は、 東 京 語 の 複 合 動 詞 の ア ク セ ン ト な ど も あ げ る こ と が で き る 。 す な わ ち 、
複 合 動 詞 の 前 の部 分 の 動 詞 が ○ ● 型 、 ○ ● ● 型 ⋮ ⋮ の よ う な 滝 の な い 型 の 場 合 は 、 複 合 し た 全 体 の 形 が ○ ●
● ○ 型 、 ○ ● ● ● ○ 型 ⋮ ⋮ のよ う な 滝 のあ る 型 に な り、 前 の部 分 の動 詞 が ● ○ 型 、 ○ ● ○ 型 ⋮ ⋮ のよ う な 滝
の あ る 型 の 場 合 に は 、 複 合 し た 全 体 の 形 が ○ ● ● ● 型 、 ○ ● ● ● ● 型 の よ う な 滝 の な い 型 に な る 。 つま り 、
佐 久 間 鼎 氏 の ︽式 保 存 の 法 則 ︾ の 完 全 に 裏 を い っ て い る 現 象 が こ こ に 見 ら れ る 。 こ れ は 何 と も 不 思 議 な こ と
で 、 一時 代 前 の 姿 は ど う で あ った ろ う と い う こ と は 、 俄 か に 推 定 し が た い が 、 何 か 型 の 規 則 的 な 変 化 が 行 な わ れ た こ と は 、 確 か であ ろう 。
︹1 の︺ 例 のよ う に 、 一つ の 社 会 で 一部 の 人 が ち が った ア ク セ ント を 用 い、 そ れ が 古 い ア ク セ ント だ と 解 釈 さ れ る 時 に
は 、 個 々 の単 語 の前 の時 代 の ア ク セ ント が 知 ら れ る ば か り でな く 、 前 の 時 代 の ア ク セ ン ト の 一般 的 な 性 格 が 推 定 さ れ
る 場 合 も あ る と 思 う 。 例 え ば 、 東 京 語 で 、 ア カ 卜 ン ボ 、 カ ゲ ボー シ の よ う な 古 い形 の ア ク セ ント と 、 ア カ ト ンボ 、 カ
ゲ ボ ー シ の よ う な 新 し い型 の ア ク セ ント と を 比 較 し て み る と 、 古 いタ イ プ で は 複 合 語 の前 の部 分 の ア ク セ ント が 、 全
体 の 型 を 決 定 し て お り 、 新 し い タ イ プ で は 複 合 語 の後 の部 分 が 全 体 の 型 を 決 定 し て いる と 見 る こ と が でき る 。 こ の よ
う な こ と か ら 、 前 の 時 代 の複 合 語 の ア ク セ ント で は 、 現 在 よ り も 前 の部 分 が 有 力 だ と いう 性 格 が あ った の で は な いか と 推 定 し て よ さ そ う に思 わ れ る 。
に修 飾 語 が つく と ○ ● (○ )型 に 変 化 す る と いう 、 有 坂 秀 世 氏 の 発 見 し た 法 則 ( 47)が あ る 。 これ も 、 変 化 し た の は 単 独
︹ 2︺ の ア ク セ ント の 例 と し て は 、 東 京 語 で、 ﹁上 ﹂ ﹁下 ﹂ ﹁人 ﹂ の よ う な 語 が 、 単 独 で は ○ ● (● )型 で あ り な が ら 、 前
の 形 の方 で 、 以 前 は 単 独 の形 も ○ ● ( ○ )型 であ った の で は な い か と 疑 わ れ る 。 ﹁あ の﹂ の ア ク セ ント が ○ ● ( ● )型 で
あ りな がら 、 ﹁ あ の 人 ﹂ ﹁あ の 子 ﹂ な ど の 語 が ○ ● (○ )型 で あ る の も 注 目 さ れ る 。 ﹁ 亀 の子 ﹂ な ど の ア ク セ ント が 、 カ
メ ノ コで あ る の と 比 較 す る と 、 ﹁ あ の ﹂ の部 分 が 前 の時 代 に ● ○ 型 だ った 、 そ れ が 規 則 的 に ○ ● 型 に 変 化 し た の で は な いかと推 測さ せ る。
以 上 は 単 純 語 対 複 合 語 の対 立 の 場 合 であ った が、 基 本 語 対 派 生 語 の対 立 の 場 合 に も 同 様 な こ と が あ る は ず で 、 こ こ
に 例 に あ げ た 東 京 語 の ﹁た よ り ﹂ ﹁ど も り ﹂ の ア ク セ ント な ど は そ の例 の候 補 に な り う る も の だ った 。
( 下 り )、 ウ ラ ミ
( 恨 み ) の よ う に● ○ ○ 型
︹ 二 十一︺ の ︹ 付 表 8 ︺ に 当 た って み る と 、 ● ● ● 型 の名 詞 を 作 る も のは 、 第 1 類 三
( 霞 ) の よ う に ● ● ● 型 のも の と 、 サ ガ リ
京 都 語 で は 、 三 拍 五 段 活 用 の動 詞 は 、 連 体 形 の ア ク セ ント は 、 ほ と ん ど す べ て が ● ● ● 型 で あ る が 、 派 生 名 詞 の 方 は、 アガ リ ( 上 が り )、 カ ス ミ のも のと 二 つに別れ る。 これを
拍 動 詞 であ り 、 ● ○ ○ 型 の名 詞 を 作 る も の は、 第 2 類 三 拍 動 詞 であ る 。 と す る と 、 こ の 二 つ の動 詞 は も と 別 の 型 に 属
し て いた と いう こと が 、 派 生 名 詞 の ア ク セ ン ト に よ って 知 ら れ る と 言 う こ と が で き る 。
( 鼻 が ) と な る 。 つま り 、 単 独 の場 合 と 助
( 例 、 ﹁鼻 ﹂) と 二 種 類 のも の が あ る が、 ハナ 型 の 語
( 花 が ) と な り 、 ハナ 型 の 語 に 助 詞 が つく と ハナ ガ
( 例 、 ﹁花 ﹂) と 、 ハナ 型
︹3︺ の 不 合 理 な ア ク セ ント の 例 と し て は 、 上 村 孝 二 氏 の報 告 さ れ た 鹿 児 島 県 枕 崎 市 方 言 のも のな ど も 例 に あ げ ら れ よ
に 助 詞 が 付 く と ハナ ガ
う 。 こ の方 言 の 二拍 の 名 詞 に は 、 ハナ 型
詞 が 付 いた 場 合 と で は 高 低 の配 置 が 逆 に な って いる と いう 珍 し い ア ク セ ン ト で あ る 。 思 う に 、 こ の方 言 の ● ○ 型 、 ○
● ○ 型 は 以 前 ○ ○ 型 、 ○ ○ ○ 型 で あ った 。 ● ○ ● 型 は ○ ○ ● 型 であ った と いう よ う に 、 も っと 規 則 的 であ った も の が 、
二 つ の○ のう ち の前 の方 の も の が 規 則 的 に ● に な って こ の よ う な 形 に な った も のと 想 像 さ れ る 。
な お 、 こ の よ う な 内 容 の 不 合 理 な ア ク セ ン ト と いう も の は 、 あ ま り 広 い範 囲 に 分 布 し て いな いこ と が 多 い。 奈 良 田
方 言 と い い、 枕 崎 方 言 と い い、 分 布 領 域 は ご く 狭 い。 これ は 不 合 理 な ア ク セ ン ト と いう も の は 、 型 の 規 則 的 な 変 化 が
と 合 理 的 な も の に 変 化 さ せ て し ま う た め であ ろ う 。
盲 目 的 に 行 な わ れ た 結 果 と し て 生 じ た も の で 、 そ れ を 用 い て い る こ と は 、 何 も よ い こ と が な い の で、人 々は 早 く も っ
︹四十 九︺ 二 つの方 言の比 較 によ る過去 の推 定
現 代 諸 方 言 は 、 さ ら に 二 つ以 上 のも のを 比 較 し て考 え る 場 合 に は 、 も っと 強 力 に 前 の時 代 の ア ク セ ント の 姿 を 推 定 す る 上 に 役 立 つと考 え ら れ る 。 い ろ いろ の場 合 が あ る 。
︹1 ︺ 非 常 に よ く 似 た ア ク セ ント 内 容 を も った 二 つ の方 言 に ア ク セ ント が 一致 し な い語 彙 が あ る 場 合 。 例 え ば 、 東 京 語 と 八 王 子方 言 と は、 型 の種 類 は 完 全 に 一致 し 、 大 部 分 の 語彙 がど の型 に属 す る か も 一致 し 、
少 数 の語 彙 に つ いて の み相 違 が見 ら れ る 。 こ のよ う な 二 つ の方 言 で は 、 現在 異 な る 型 に 属 す る 語 彙 も 、 も し
そ れ が古 く か らあ る と 認 め ら れ る も のな ら ば、 古 い時 代 に は 両 方 の方 言 で、 同 じ 型 に 属 し て いた ろ う と 推 定
し て よ いと 思 わ れ 、 そ の 場合 、 一方 で 変 化 し た 事 情 が 明 ら か にな る な ら ば、 いず れ が古 い形 か を 推 定 で き る
と 考 え ら れ る 。 例 え ば 、 右 の 二方 言 で 、 ﹁織 る ﹂ を 東 京 語 で ● ○ 型 に、 八 王 子 で は ○ ● 型 に 言 い、 ﹁桑 ﹂ を 東
京 で●○型 に、八王 子 では○ ● ( ○ )型 に いう 。 思 う に 、 ﹁織 る﹂ と か ﹁桑 ﹂ と か いう 語彙 は 、 古 来 養 蚕 業 や
機 織 業 のさ か ん な八 王 子 地方 で は、 日 常 親 し い単 語 であ る が、 東 京 で はあ ま り 日常 親 し く な い単 語 で あ る 。
東 京 で は 元 来 日 常 親 し く な い 二拍 の単 語 は、 名 詞 でも 、動 詞 でも 、 ● ○ 型 に 発 音 す る 傾 向 が あ る 。 そ う す る
と 、 こ の場 合 ﹁織 る ﹂ ﹁桑 ﹂ のア ク セ ント は 八 王 子 のよ う な ○ ● 型 、 ○ ● (○ )型 が 伝 統 的 な 言 い方 で、 東 京 語 の● ○ 語 は 変 化 し た 新 し い型 であ ろ う と 考 え ら れ る 。
こ れ と や や 性 質 の異 な る 例 と し て は 、 京 都 府 下 の峰 山 町 ・網 野 町 ・久 美 浜 町 は、 地 理 的 に 近 い場 所 に あ り 、
そ の方 言 の ア ク セ ント 体 系 、 各 型 へ の所 属 語彙 も 互 いに よ く 似 て い る が 、 語 彙 に よ って は次 の ︹付 表 18 ︺ の よ う な 対 立 が 見 ら れ る。
こ れ は 同 じ 形 か ら 別 れ た も の と 見 ら れ る が 、 ど れ が 古 い形 だ ろ う か。 峰 山 の 形 が も と の形 にち が いな い。
こ こ では ま ず 、 いわ ゆ る 助 動 詞 ﹁た ﹂ が 動 詞 の固 有 の部 分 に 対 し て 低 く つ いて いた 。 と こ ろ が、 ﹁ー ﹂ の拍
と か 、 ﹁ッ﹂ の拍 と か 、 無 声 化 し や す い ﹁シ ﹂ の 拍 と か の直 後 に、 滝 を 置 く こ と は 発 音 し に く い。 そ こ で滝
︹付 表 18 ︺
が後 へす べ って網 野 の形 が出 来 た 。 つま り 文 節 の末 に滝 が 出 来 た 。 こ う な る と 、 そ の動 詞 の部 分 は 発 音 し や
す いと いう 点 で は よ いが、 次 に来 る名 詞 は 、 ど ん な 型 のも の でも 、 低 平 型 に 変 化 さ せ ら れ る こ と に な る。 こ
れ も 不便 で あ る。 こう し て 生 ま れ た のが 、 語 末 の滝 の消 え た 久 美 浜 の形 であ ろ う と 考 え ら れ る。 つま り 峰 山
が最 も 古 い形 、 網 野 が そ れ か ら 変 化 し た 形 、 久美 浜 のも のは さ ら に そ れ か ら 変 化 し た 形 で、 最 も 新 し いも の と いう こと にな る 。
以 上 のよ う な 場合 、 必 要 な こと は 問 題 の語 彙 が 以 前 か ら そ れ ら の方 言 に存 在 し て いた と いう こ と が認 め ら
れ な け れ ば な ら な い。 例 え ば 新 し く 用 いら れ る よ う に な った 流 行 語 の類 が 二 つ の方 言 の間 で ち が った ア ク セ
ント を も って発 音 さ れ て いて も 、 そ れ は いず れ か の型 の方 が古 いと いう こ と は でき な い。 ま た 、 ど う し て 一
方 の方 言 で そ の語彙 の ア ク セ ント が 変 化 し た か と いう こと が説 明 でき な け れ ば な ら な い。
︹2︺ 次 に 、 ︽言 語 地 理 学 ︾ ︽方 言 地 理 学 ︾ の方 法 を 応 用 し て 、 ア ク セ ント の 地 理 的 分 布 か ら 、 古 い形 、 新 し い形
を 推 定 す る こ と が でき る は ず であ る 。 例 え ば 、 あ る 地 域 の中 心 部 に は B、 周 辺 部 に は A と いう よ う に 、 アク
セ ント に 関す る ち が いが あ る 場 合 に、 周 辺 部 の A の 方 を 一往 古 いと 考 え 、 中 心 部 のB の方 は 新 し いと 推 定 す
る方 法 で、 柳 田 国 男 氏 の いわ ゆ る ︽方 言 周 圏 論 ︾( 48)の適 用 であ る 。 例 え ば 、 佐 渡 が 島 で は 、 相 川 市 が第 一
番 の首 邑 で、 古 来 、 政 治 ・文 化 の中 心 部 で あ る が、 島 全 体 の ア ク セ ント が 似 て いる 中 で、 東 の両 津 ・南 の 小
木 ・北 の大 倉 な ど で は 、 ﹁書 く ﹂ ﹁取 る ﹂ の よ う な 第 2 類 二 拍 動 詞 が ● ● 型 であ り な が ら 相 川 付 近 だ け は ● ○
型 に な って いる 。 こ れ に 対 し 相 川 でも 以 前 は 、 周 囲 の地 域 と 同 じ よ う に ● ● 型 で あ った ろう と 想 像 す る 類 で あ る。
こ う いう 周 圏 論 の適 用 は 、 言 語 地 理学 ・方 言 地 理 学 でき わ め て人 気 のあ る 方 法 で 、 B 型 に 言 う 地 域 が 多 い
ほ ど 、 そ う し て相 互 に 孤 立 し て いる 時 ほ ど 確 実 さ を ま す 。 し か し 、 ア ク セ ント の部 面 に 適 用 す る 場 合 には い ろ いろ な 点 に 注 意 す べき であ る。
す な わ ち 、A型> B 型 の変 化 よ り 、 B 型>A 型 の変 化 の方 が 起 こ り易 いと 見 ら れ る 場 合 は 、 こ の適 用 は さ
け な け れ ばな ら な い。 か つてド ー ザ (A. Dauz) aは t ﹃言 語 地 理 学 ﹄ で 、 音 韻 の面 に 関 し て は、 文 化 の中 心
地 は 、 む し ろ 保 守 的 で あ って 、 辺 境 の地 域 の方 が む し ろ 進 歩 的 だ と 言 った。( 49)日本 語 の方 言 を 全 体 的 に 見
た 場 合 、 古 い (アイ ) と いう 連 母 音 の ご と き 、 永 い間 、 文 化 の中 心 地 で あ る 京 都 ・大 阪 と そ の近 傍 で は 、 そ
のま ま の 姿 を 保 って いる の に 対 し 、 奥 羽 か ら 中 部 に か け て、 お よ び中 国 か ら 九 州 に か け て の辺 境 の地 域 で は
(エー ) と か (エァ ー ) と か いう 音 に 変 化 し て いる 。 こ の場 合 、 辺 境 の音 だ か ら と 言 って訛 った 形 を よ り 古
い形 だ と 推 定 す る こ と が でき な い こと は、 国 語 史 の明 ら か にす る と こ ろ であ る。 辺 境 の 地方 は 、 む し ろ 進 歩
的 で、 発 音 し や す いよ う にと 、 ど ん ど ん 変 化 さ せ て し ま った の であ る。 アク セ ント も 正 し く そ の と お り で、
む し ろ 文 化 の中 心 地 こ そ 古 い姿 を 伝 え て いる こ と が 多 いだ ろう と 考 え た 方 が 正 し いと 思 わ れ る 。
筆 者 は、 文 化 の中 心 地 帯 と 辺 境 地 帯 と の間 に 対立 が あ る 場 合 、 そ う し て以 前 は 双 方 が 同 じ 音 韻 ・ア ク セ ン
ト を も って いた と 想 定 さ れ る 場合 、 辺 境 地 帯 の方 が 新 し いこ と が多 い、 と いう 法 則 が加 え ら れ る と 思 う 。 例
え ば 、 隠 岐 島 の諸 方 言 の ア ク セ ント な ど は 、 中 心 地 区 の 旧浦 郷 町 、 旧 西 郷 町 のも のが 最 も 古 風 で 、最 も 辺 鄙
な 地 域 で あ る 五 箇 地 区 の も の と 、 知 夫 地 区 のも の は 最 も 新 し い様 相 を も って いる よ う に 見 受 け ら れ る 。( 50)
言 語 地 理 学 ・方 言 地 理 学 の原 理 を 用 いる 場 合 に も 、︹ 1︺ の場 合 と 同 じ よ う に、 ア ク セ ント は ど のよ う に 変 化 す
る も の かを 考 え 、 そ の変 化 の線 に そ って 変 化 が行 な わ れ た と考 え る こ と が望 ま れ る 。
︹ 3︺ 型 の対 応 の原 理 が 応 用 で き る 場 合 。 現 在 諸 方 言 の ア ク セ ント 相 互 の間 には 、 ﹁型 の対 応 ﹂ の原 理 が存 在 し 、 例 え ば 、 前 章 の ︹二 十 一︺ の ︹ 付 表 8 ︺ に あ げ た 同 じ 類 に 属 す る 語 、 ︹二 十 二︺ の ︹付 表 9 ︺ で 同 じ 群 に属
す る 語 は 、 同 じ 方 言 体 系 の中 で は 、 同 じ 型 に発 音 さ れ て いる べき も の、 異 な る 型 に属 す る 語 は 、 少 な く と も
以 前 は 異 な る 型 に発 音 さ れ て いた も の と 推 定 さ れ た 。 であ る か ら 、 も し あ る方 言 体 系 で、 あ る 類 、 あ る 群 に
属 す る 語 は 一般 に A 型 で発 音 さ れ て いな が ら 、 そ の中 の 一部 の語 が B の型 で 発 音 さ れ て いる と いう よ う な 場
合 に は ︽そ の語 は 以前 に は A 型 で発 音 さ れ て いた の では な いか ︾ と 疑 わ れ る。 例 え ば 、 東 京 方 言 で、 二拍 第
3 類 名 詞 は 、 原 則 と し て○ ● (○ )型 に 発 音 さ れ る が ﹁貝 ﹂ ﹁亀 ﹂ ﹁雲 ﹂ な ど は ● ○ 型 に 発 音 さ れ る 。 これ は 、
︽一時 代 前 に は ○ ● ( ○ )型 に 発 音 さ れ て いた の では な いか ︾ と 疑 わ れ る が ご と き で あ る 。
こ のよ う な 場 合 、 そ の 地 方 で、 然 ら ば 、 何 故 、 A 型> B 型 の変 化 が 起 こ った か 、 と いう 理 由 が 、 よ く 説 明
さ れ る こ と が 望 ま し い。 東 京 語 の ﹁貝 ﹂ は 、 (イ ) と いう 拍 が 独 立 性 が 乏 し いた め に 、 滝 が 一拍 前 に す べ っ
た の であ ろ う 。 ﹁亀 ﹂ は 恐 ら く ﹁亀 ﹂ 単 独 で いう 場 合 よ り、 ﹁亀 の 子﹂ と いう 方 が普 通 に な って 、 ﹁亀 ﹂ 単 独
の ア ク セ ント が忘 れ ら れ た も の であ ろう し 、 ﹁雲 ﹂ は ︹三 十 一︺ に 触 れ た が 、 ﹁蜘 蛛 ﹂ と アク セ ント の混 同 を 起 こ し た も の で あ ろ う と考 え る が、 ど う であ ろ う か 。 さ て 、 こ の方 法 を 用 いる 場 合 は 、 次 の こと に 注 意 す べき であ る。
(イ ) そ の地 方 で 、 そ の 語 が A 型> B 型 の変 化 を 遂 げ た と 想 定 す る よ り 、 他 の語 が B 型> A 型 の変 化 を 遂 げ た
と 想 定 す る方 が 、 自 然 で あ る 場 合 は 、 こ の仮 説 は 捨 て る べき であ る 。 た だ し 、 こう いう 場 合 でも 、 そ の語
は A 型 にな って い る はず の語 だ と ま では 言 え る であ ろ う 。
( )ロ そ の 地方 で、 そ の 語 類 は 、 以 前 に は す べ て C 型 で あ って 、 そ れ ら の語 は C 型> A 型 の変 化 、 お よ び C
型> B 型 の 変 化 を 遂 げ た も の かも し れ な いか ら 、 そう いう 可能 性 を 考 慮 に 入 れ る べき で あ る 。 た だ し 、 そ
の 場 合 でも 、 そ の語 はA 型 であ る は ず の 語彙 だ と いう こと は で き る であ ろ う 。
) ( ハ そ の語 が古 く は そ の地 方 に 用 いら れ て いな か った と いう 場 合 に は 、 こ の推 定 は 諦 め る べき であ る 。
し か し そ れ よ りも 、 問 題 は ︹二十 一︺ の ︹ 付 表 8 ︺ であ って、 こ れ は 現 在 諸 方 言 の ア ク セ ント を も と に し て作
った も の で 、 そ れ 以 上 のも ので は な いこ と であ る 。 あ る 場 合 には 、 そ の方 言 で そ の語 が 類 に は い って いな い の が
正 し いの で 、 ほ か の方 言 の ア ク セ ント が す べ て 変 化 し た 結 果 な の かも し れ な い。 こう いう 場 合 に は 、 し た が って
ア ク セ ント の変 化 が、 ど っち の方 向 に行 な わ れ た か と いう こ と を 明 ら か にす る こ と が望 ま し い。
ま た ︹付 表 8 ︺ に お いて、 筆 者 は 、 あ の 一つ 一つ の類 に属 す る 語彙 は 、 祖 語 の体 系 で は 同 じ ア ク セ ント を も ち 、
ち が った類 に 属 す る 語彙 は ち が った ア ク セ ント を も って いた と 考 え た 。 そ こ で 、 A の方 言 で、 二 つ の類 を 区 別 し
て お り 、 B の方 言 で 二 つの類 を 混 同 し て いれ ば 、 B の方 言 の方 が新 し い形 と 推 定 でき る わ け であ る 。 が、 こ の場
合 も 、 は た し てあ の類 の別 が よ か った か ど う か 、 む し ろ 方 言 の ア ク セ ント を も と にし て 、 修 正 す べき 可能 性 が あ る こと を 忘 れ ては な ら な い。
以 上 、 二 つ以 上 の方 言 を 比 較 し て ア ク セ ント の歴 史 を 考 え る 場 合 を 総 合 す る と 、 結 局 重 要 な の は 、 アク セ ント
の変 化 は ど のよ う に進 む か と いう こと を 心 得 る こ と が 必 要 と いう こ と に な る 。 そ れ さ え わ か れ ば、 二 つの ア ク セ
ント がど う いう 語 彙 に つ いてち が って いよ う と 、 そ のあ た り の ア ク セ ント の 分 布 がど う な って いよ う と 、 ど ち ら
が 古 い と か 、 ど ち ら の前 の 形 が ど う だ と わ か る はず であ る。 こと に、 二 つの ア ク セ ント の体 系 的 な 相 違 に 関 し て
は 、 ア ク セ ント の 型 の変 化 が ど のよ う に 進 む か わ か ら な け れ ば 、 手 も 足 も 出 な いわ け で あ る 。
愛 媛 県 の宇 和 島 市 の沖 合 いに 、 九 島 と いう 島 があ る が、 宇 和 島 の方 言 と そ こ の百 ノ浦 と いう 集 落 の方 言 と本 九
島 と いう 集 落 の方 言 と の間 に は、 次 の ︹ 付 表 19 ︺ のよ う な き わ め て規 則 的 な 型 の対 応 が 見 ら れ る 。 ︹付 表 19 ︺
規 則 的 な 対 応 が見 ら れ る 以 上 は 、 ど れ か が 古 く て 、 ほ か のも のは そ こ か ら 出 た と いう 風 に な って いる か も し れ な い。 と す る と 、 ど のア ク セ ント が 古 形 だ ろ う か。
我 々 が無 造 作 な 発 音 を す る場 合 、 一つ の拍 の音 の高 さ は 同 化 の原 理 に よ って 、 そ の直 前 の高 さ と 同 じ に な ろ う
とす る 。 ま た 言 葉 の は じ ま り は、 いき な り 高 く 始 め る よ り 低 く 始 め る 方 が 楽 であ る か ら 、 最 初 の (高 ) は ( 低)
にな ろ う とす る 。 ま た (高) の拍 は (低 ) の拍 に 比 べ て発 音 に 労 力 が いる か ら 、 な る べ く な ら あ と の拍 に 送 ろ う
と す る 傾 向 が あ ろ う と 思 わ れ る。 今 こ の見 地 に 立 って 、 こ の三 つの方 言 に 対 す る と 、 ま ず 、 宇 和 島 市 の方 言 が 一
番 古 い形 であ ろ う 。 そ れ が ﹁朝 が ﹂ ﹁烏﹂ で は 第 一拍 の ( 高 ) が 第 二 拍 を 同 化 し て ● ● ○ 型 に な った 。 ﹁足 が ﹂
﹁心 ﹂ で は 二 つの (高) を 次 の拍 に 送 って、 ○ ● ● (○ )型 にな った 。 ﹁牛 が ﹂ ﹁桜 ﹂ で は 、 第 一拍 の (高 ) が (低 )
とな り、 ○ ● ● 型 に な った 。 こう し て出 来 た も の が 、 百 ノ浦 の ア ク セ ント であ ろ う 。 さ ら に 百 ノ 浦 の ﹁朝 が ﹂
﹁烏 ﹂ の第 一拍 の (高 ) が (低 ) に な った。 次 に 、 ﹁足 が﹂ ﹁心 ﹂ の (高 ) の部 分 が あ と に 送 ら れ た 。 さ ら に ﹁牛
が﹂ ﹁桜 ﹂ の第 二 拍 の (高 ) が第 一拍 に同 化 さ れ て (低 ) にな った 。 こう し て出 来 た の が、 本 九 島 の ア ク セ ント
で、結 局 宇 和 島 市 の ア ク セ ント が最 も 古 く 、百 ノ 浦 ・本 九 島 のア ク セ ント が 順 次 に 出 来 上 が ったも の と考 え ら れ る 。
こ の 推 定 が 正 し い か ど う か は 別 と し て 、 と に か く 方 言間 の ア ク セ ン ト の 古 さ 新 し さ を き わ め る の に は 、 ア ク セ
ント の変 化 は ど のよ う な 方 面 に 行 な わ れ る か を 心得 る こと が 望 ま し い。 こ の問 題 は 日本 語 の ア ク セ ント の歴 史 的 変 遷 が わ か った 上 で た し か め て み た い 問 題 で あ る 。
二 つ 以 上 の 方 言 の ア ク セ ン ト の 新 旧 を 考 え る 場 合 、 方 言 周 圏 論 の 適 用 は ほ ど ほ ど にす べ き こ と は 注 意 す べ き で あ る 。
さ き の場 合 で も 、 詳 し く 調 べ て み る と 、 相 川 の 近 在 に 姫 津 と いう 集 落 が あ って 、 こ こ が 一番 変 化 の 先 端 を 行 って いる
と 見 ら れ る 。( 51) つま り 辺 境 地 域 の 一つ で あ る 姫 津 に 変 化 が 起 こ り 、 こ れ が 合 理 的 な 変 化 であ った た め に歓 迎 さ れ て 、
周 囲 の 地 域 に ひ ろ が り 、 こ れ が 相 川 を 侵 し て 現 在 の よ う にな った と 見 る べき で は な い か と 考 え ら れ る 。
一体 、 日 本 の諸 方 言 の ア ク セ ン ト を 全 般 的 に 眺 め る と 、 ︹四 十 二 ︺ に 述 べた と お り 、 昔 の 文 化 の 中 心 地 京 都 ・大 阪
付 近 に は 型 の 区 別 の最 も 複 雑 な 方 言 が 行 な わ れ て お り 、 そ の 周 囲 に は 、 型 の 区 別 のや や 少 な い東 京 式 方 言 が 広 ま って
お り 、 一番 の辺 境 地 域 の 九 州 や 隠 岐 や 東 北 地 方 に は 、 型 の区 別 の 少 な い方 言 や 、 あ る い は 全 く 型 の 区 別 を も た な い 一
型 ア ク セ ント の方 言 が 行 な わ れ て いる 。 日本 語 の 祖 語 の ア ク セ ント は ︹二 十 一︺ に 述 べた よ う な 複 雑 な 型 の区 別 を も
って い た と す る と 、 中 央 の 方 言 が 一番 古 形 に 近 く 、 周 囲 の方 言 ほ ど 新 し い形 で あ り そ う で あ る 。 こ う いう こ と か ら 見
て も 、 方 言 周 圏 論 は 、 ア ク セ ント の分 布 に あ て は ま ら な い、 と いう こ と に な る 。 む し ろ 逆 に 考 え た 方 が い い の で は な いかとさ え 思われ る。
言 語 地 理 学 ・方 言 地 理 学 の応 用 と し て 、 徳 川 宗 賢 氏 は ア ク セ ント の 分 布 状 態 を も と に 、 ア ク セ ント の 変 化 の あ と を
考 え る お も し ろ い方 法 を 提 案 し た 。 そ れ は 、 隣 接 し た 地 域 は な る べく 同 じ 変 化 が 起 こ った と 考 え て 、 日 本 語 諸 方 言 の
ア ク セ ント の ち が いを 説 こ う と す る も の で あ る 。 ︹ 四 十 二 ︺ に 名 を あ げ た ﹁日 本 語 方 言 ア ク セ ント の 系 統 試 論 ﹂ が そ れ であ る。
氏 の考 え に よ る と 、 濃 尾 方 面 の 東 京 式 ア ク セ ント 、 石 川 県 能 登 島 の 東 京 式 ア ク セ ン ト 、 つま り 筆 者 の 言 う 内 輪 東 京
式 ア ク セ ン ト は 、 京 都 ・大 阪 語 の よ う な 畿 内 の ア ク セ ント と は 境 を 接 し て い る け れ ど も 、 東 京 ・横 浜 の よ う な 中 輪 東
京 式 ア ク セ ント と は 、 直 接 境 を 接 し て いな い。 中 間 の静 岡 県 遠 江 地 方 か ら 新 潟 県 越 後 地 方 に か け て 行 な わ れ て いる 外
輪 東 京 式 ア ク セ ント に よ って中 断 さ れ て い る 。 し た が って 、 内 輪 東 京 式 ア ク セ ン ト は 、 畿 内 ア ク セ ント か ら 出 た と い
った ろ う と 言 わ れ る 。 こ れ は 、 筆 者 の ﹁東 西 両 ア ク セ ント の ち が い が 出 来 る ま で ﹂ に 対 す る 修 正 意 見 で あ って 、 筆 者
う こ と は 言 え て も 、 中 輪 東 京 式 に つ い て は そ う は 言 え な い、 例 え ば 、 二拍 名 詞 の第 4 類︱ 第 5 類 は 早 く 統 合 し て し ま
が東 京 の よ う な 中 輪 東 京 式 方 言 が、 内 輪 東 京 式 方 言 と 同 じ よ う に 、 京 都 ・大 阪 式 ア ク セ ント か ら 出 た と す る こ と を 非 と した考 え であ る。
こ の 説 は 証 拠 と す る と こ ろ が間違 って いる 点 に問 題 が あ る 。 静 岡 県 と 新 潟県 の 二 つ の外 輪 東 京 式 方 言 は 地 続 き で は
な く 、 長 野 県 の 西 部 ・南 部 で 断 ち 切 ら れ て い る 。 し た が って 内 輪 ・中 輪 の両 東 京 式 ア ク セ ント は 地 続 き にな って い る 。
る か も し れ な い。 筆 者 も そ う 言 わ れ て 反 対 す る 根 拠 は ち っと も な い 。 こ の説 は 、 証 拠 と す る と こ ろ に は 問 題 が あ る が 、
た だ し 、 こ こ の着 眼 は お も し ろ く 、 第 4 類 ・第 5 類 が 中 輪 東 京 式 ア ク セ ント で 早 く 合 流 し た と いう 考 え は 当 た って い
そ の結 論 は 有 効 で あ る 。 こ の 論 考 は 、 日 本 の方 言 の ア ク セ ント か ら 見 た 系 統 を 新 し く 考 え な お し て 記 念 す べき 発 表 で あ った 。
と こ ろ で 、 こ の項 で筆 者 は ︹二 十一︺ の ︹付 表 8 ︺ が 、 諸 方 言 の ア ク セ ント の過 去 の 姿 を た ど る の に 、 多 く の こ と
を 教 え て く れ る こと を 述 べ た が 、 前 項 に 触 れ た 、 東 京 語 の ﹁ 匂 ﹂ ﹁砂 糖 ﹂ のよ う な 語 も 、 こ う いう 表 が 完 全 に 出 来 上
( ガ )、 サ ト ー (ガ ) と いう 型 に 属 し て いた
が れ ば 、 そ れ に よ って そ こ に 述 べ た 推 定 が 増 す で あ ろ う 。 現 在 ま で の 考 察 に よ る と 、 ﹁匂 ﹂ ﹁ 砂糖﹂は三拍名詞 の ﹁男 ﹂ 類 に 属 す る よ う で あ る か ら 、 そ こ に 述 べた よ う に 、 以 前 は 、 ニオ イ
と 見 て よ さ そ う であ る 。 東 京 語 の ﹁貝 ﹂ ﹁鯛 ﹂ ﹁塔 ﹂ ﹁十 ﹂ ﹁金 ﹂ ﹁銀 ﹂ の よ う な 語 は 、 諸 方 言 を 比 較 す る と いず れ も 第
3 類 の 二 拍 名 詞 で、 東 京 語 で は 本 来 ○ ● ( ○ )型 であ って 然 る べ き 語 、 そ れ が 第 二 拍 の語 音 が特 殊 で あ る と こ ろ か ら 、 現 在 の よ う な ● ○ 型 にな って いる も のと 推 定 さ れ る 。
こ の よ う な 語 類 の 表 を も と に し て 現 実 の諸 方 言 の ア ク セ ント と を 検 討 す る と 思 い も か け ぬ 方 面 に 過 去 に お け る ア ク
セ ント の変 化 が 想 定 さ れ る 場 合 も あ る 。 例 え ば 、 岡 山 県 東 部 方 言 は 、 内 輪 東 京 式 方 言 の 一つで 、 こ の 方 言 で は 第 2 類
三 拍 形 容 詞 は 、 ○ ● ○ 型 で 多 く の東 京 式 方 言 と 一致 す る 。 と こ ろ が 、 ﹁近 い ﹂ ﹁ 深 い﹂ と いう 二 語 は 例 外 を な し て ○ ●
● 型 で 第 1 類 の 形 容 詞 と い っし ょ に な って い る 。( 52) こ れ は な ぜ か と 考 え て み る の に 、 ﹁近 い ﹂ ﹁深 い﹂ は と も に 第 一
拍 が 母 音 の 無 声 化 し や す い 語 で あ る こ と に 気 付 く 。 し か し 、 第 一拍 の母 音 が 無 声 化 す る こ と が 直 接 の原 因 に な って 、
○ ● ○ 型 が ○ ● ● 型 に 変 化 す る と いう こと は 考 え ら れ な い。 第 一拍 が 無 声 化 し や す い語 の 場 合 に は 、 ● ○ ○ 型 の語 が 、
● ● ○ 型 に な った り 、 ○ ● ○ 型 に な った り す る と い う こ と な ら 、 起 こ り や す そ う な こ と で あ る 。 と す る と 、 こう いう
︽こ の 方 言 で こ れ ら の第 2類 の 三 拍 形 容 詞 は 、 一時 代 前 に す べ て ● ○ ○ 型 で あ った 。 つま り 京 阪 式 の ア ク セ ント
こと が 考 え ら れ な い だ ろ う か 。
と 同 じ であ った 。 そ の 時 に ﹁近 い﹂ ﹁深 い﹂ の 二 語 は 、 第 一拍 の特 殊 な 性 質 の た め に ● ● ○ 型 に 変 化 し た 。 た ま
の で 、 こ こ で ﹁近 い﹂ ﹁ 深 い﹂ は 第 1 類 形 容 詞 と 同 型 に な った 。 そ の あ と で 、 こ の方 言 に 、
た ま こ の時 代 に は 第 1 類 の 三 拍 形 容 詞 は こ の ● ● ○ だ った 、 す な わ ち 今 の和 歌 山 県 や 徳 島 県 の方 言 のよ う だ った
● ○○ 型 は○● ○型 に ● ●○ 型は ○● ● ( ○ )型 に 、 そ う し て さ ら に ○ ● ● ( ● )型 に
と いう き わ め て 規 則 的 な 変 化 が 起 こ った 。 そ の た め に 、 現 在 の よ う な 、 一般 第 2 類 形 容 詞 は ○ ● ○ 型 、 た だ し ﹁近 い﹂ ﹁深 い﹂ の 二 語 は 、 第 1 類 形 容 詞 と と も に ○ ● ● 型 に な って いる ︾
こ の想 定 が 正 し いと す る な ら ば 、 こ れ は す べ て の 東 京 式 の 諸 方 言 の ア ク セ ント の 過 去 の変 化 を 暗 示 し て い る も の と
考、 えら れ る 。 す な わ ち 、 東 京 式 諸 方 言 の ○ ● ○ 型 は 、 以 前 に お い て は ● ○ ○ 型 で あ った 、 東 京 式 方 言 の ○ ● ● ( ○ )型
は 、 以 前 に お い て は す べ て ● ● ○ 型 で あ った と 想 定 す る こ と に な る 。 こ の よ う に 考 え る と 、 こ の 事 実 は 結 局 東 京 式 方
言 は 、 以 前 京 阪 語 のよ う な ア ク セ ント を も って いた ろ う と いう 推 定 を 支 持 す る 事 実 と な り 、 問 題 は 大 き く 広 が る が 、 そ こま で論 ず る た め に は 、 な お 、 そ う いう 資 料 を 集 め な け れ ば な ら な い。
︹五 十 ︺ 現 在 諸 方 言 の 資 料 と し て の 弱 み
以 上 、 こ の節 で述 べた よ う に、 現 在 諸 方 言 の ア ク セ ント を 基 に し て、 あ る 程 度 ま で、 過 去 の ア ク セ ント の姿 、
あ る い は 、 過 去 に 起 こ った ア ク セ ン ト の 変 化 の 実 相 を 推 測 す る こ と が 可 能 で あ る 。 し か し 、 ま た 、 比 較 言 語 学 の
教 え る と こ ろ に よ る と、 全 く 関 係 のな い二 つ の言 語 に 、 独 立 に 並 行 的 な 変 化 が起 こ る こ とも あ る 。 後 世 のす べて
の言 語 に 全く 同 じ 方 向 への変 化 が 起 こ って 、 昔 の様 相 を あ と か た も な く 失 ってし ま う こと も あ る と いう 。 こ と に 、
後 世 の 方 言 を も と に し て 、 そ う い う ア ク セ ン ト で 発 音 さ れ た の は 何 時 代 か 、 と いう 問 題 に な る と 、 現 在 諸 方 言 の
ア ク セ ント は ほ と ん ど 答 え を 与 え て く れ な い の が 普 通 で あ る 。 こ の 問 題 を 考 察 す る に は 、 是 非 次 に 述 べ る 第 二 種 の 資 料 に よ ら な け れ ば な ら な い。
高 津 春 繁 氏 の ﹃比 較 言 語 学 ﹄( 48)は 、 ( 同 じ 印 欧 祖 語 か ら 出 た ) ギ リ シ ャ語 と ラ テ ン 語 は 共 に h を 失 った こ と 、 古 い
アイ ス ラ ン ド 語 、 ラ テ ン 語 お よ び ギ リ シ ャ語 の 二 、 三 の 方 言 は 、 sを rに 変 化 せ し め る 、 いわ ゆ る ロタ シ ズ ム の 現 象
を 共 通 に 起 こ し た こ と 、 ギ リ シ ャ語 、 イ タ リ ア 語 派 の オ ス ク 語 、 ケ ル ト 語 派 の ウ ェー ル ズ 語 は 、 印 欧 共 通 基 語 の
(k をw )) を 共 に (p)に 変 化 せ し め た こ と 、 を 指 摘 し て い る 。 日 本 語 で も 、 服 部 四 郎 氏 は 、 内 地 の 中 心 部 の方 言 と 琉 球
の中 心 部 の方 言 と で 、 並 行 的 に 、 (zi)の拍 と 、 (di)の拍 と を 、 (z) u の 拍 と (du) の 拍 と を 合 流 さ せ た こ と を 指 摘 し て い る 。( 53)
こ のよ う な こ と が 多 い と 、 後 世 の 方 言 に 共 通 な 性 格 を 無 雑 作 に 古 い時 代 の 日 本 語 の性 格 だ と 考 え る こ と を ひ か え な
け れ ば な ら な い と 反 省 さ せ ら れ る。 こ と に 昔 の 祖 語 のも って い た 性 格 が後 世 の す べ て の方 言 で 消 失 し て い る こ と も あ
る 。 例 え ば 、 メ イ エ (A.Mei) ll にeよ tれ ば 、 古 典 ラ テ ン 語 に あ った 名 詞 の 対 格 の 語 尾 の鼻 音 (m) は 、 ラ テ ン 語 の
後裔 であ る 後 世 の す べ て の 言 語 で消 失 し て い る と いう 。( 5 4)し た が っ て ラ テ ン 語 の こ の (m) は 、 後 世 の言 語 だ け を
資 料 と し て は 、 当 時 存 在 し た こ と を 誰 も 推 定 す る こ と が で き な いは ず のも の で あ る 。
次 に 後 世 の方 言 の内 容 か ら 、 昔 の 言 語 の ア ク セ ント を 推 定 し よ う と し て、 一番 困 難 な のは 、 そ の時 代 に 関 し て で あ
る 。 一 つ 一 つ の方 言 は 、 自 分 の ア ク セ ント に 対 し て こ の ア ク セ ン ト は い つご ろ のも のだ と いう こ と を 一々 に つ い て 示
し て い な い か ら 。 が、 特 殊 な 場 合 に は 、 こ れ が 相 対 的 な 年 代 な ら 多 少 明 ら か に な ら な く も な い。 例 え ば 、 ﹁貝 ﹂ や
﹁鯛 ﹂ のよ う な 語 は 、 東 京 語 で は 今 ● ○ 型 に な っ て い る が 、 こ れ は 古 く ○ ● ( ○ )型 だ った ろ う と いう こ と が 、 対 応 の
原 理 に よ って ほ ぼ 推 定 さ れ る 。 こ の ○ ● ( ○ )型 か ら ● ○ 型 に 移 った 時 代 は い つか と いう と 、 こ の 類 が ● ○ 型 に 移 った
の は 、 ﹁貝 ﹂ ﹁鯛 ﹂ な ど の語 の第 二 拍 が(i)と いう 独 立 性 の 弱 い拍 で あ る こ と が 原 因 と 見 ら れ る 。 と こ ろ が 国 語 史 の
教 え る と こ ろ に よ る と 、 ﹁貝 ﹂ ﹁鯛 ﹂ の 第 二 拍 は 、 古 く は (p) iで あ り 、 そ れ が (〓i)、 (wi)を 経 て 今 の (i) に な っ
た と 言 わ れ て い る 。 (p) iと か 、 (〓i)と か 、 (wi) と か で あ った 時 代 に は 、 ● ○ 型 に な る 必 要 は な い。 と す る と こ れ
ら の語 に、○ ● ( ○ )型> ● ○ 型 と いう 変 化 が 起 こ った の は 、 ﹁貝 ﹂ ﹁鯛 ﹂ の第 二 拍 に 、 (wi)>(i) と いう 音 韻 変 化 が 起
こ った よ り も あ と の こ と だ と い う 推 定 が で き る ご と き で あ る 。 も っと も そ れ な ら ば 、 東 京 語 で 、 こ れ ら の 語 に 、
(wi)>(i) の 変 化 が 起 こ った の は い つだ と いう こ と は 、 は な は だ 難 し い。 東 京 語 の 祖 で あ る 江 戸 語 、 あ る い は さ ら に
そ れ 以 前 の 草 深 い 武 蔵 野 の いな か の 方 言 の こ と を 考 え て 、 そ の 時 代 に い つこ う いう 変 化 が 起 こ った か と いう こ と は 、
京 都 語 に お け る 変 化 と 同 時 代 と き め る こ と も でき な い以 上 、 な か な か 難 し い問 題 で あ る 。
桜 井 茂 治 氏 は 、 か つて 、 ﹁白 く ﹂ ﹁赤 く ﹂ の よ う な 形 容 詞 の連 用 形 の 語 尾 が 多 く の 東 京 式 方 言 の 地 域 で ﹁く ﹂ のま ま
で あ る が 、 京 阪 式 方 言 の地 域 で は 多 く ﹁う ﹂ と な って い る こ と を 考 察 し て、 京 阪 式 方 言 で (ク )← (ウ )の 変 化 が起 こ
った のは 、 た ま た ま 第 三 拍 が 低 か った 、 そ れ に 対 し て 東 京 式 方 言 で は 第 三 拍 が 高 か った の で は な いか と 考 え た 。( 55)
す な わ ち 、 京 阪 式 で は 、 ア カ ク シ ロク と いう ア ク セ ン ト であ る が 、 東 京 式 で は そ れ か ら 変 化 し て 、 ア カ ク シ ロク
と いう ア ク セ ント で あ る 時 代 が あ った 、 そ の 時 に こ の 変 化 が 起 こ った の であ ろ う と 想 定 し た の で あ る 。 中 国 地 方 以 西
で は東 京 式 ア ク セ ント に な って いな が ら 、 ﹁あ か う ﹂、 ﹁し ろ う ﹂ の形 に な って い る 事 実 も あ る か ら 簡 単 に は 賛 同 し が た いが 、 興 味 あ る 話 題 の提 供 と 考 え る 。
ま た 、 ︹三 十 二 ︺ の 注 に 述 べ た 東 京 語 の ﹁お 供 ﹂ ﹁お 世 話 ﹂ ﹁お 宮 ﹂ ﹁お 客 ﹂ な ど の 女 房 こと ば の ア ク セ ント の 問 題 も 、
も う 少 し 歴 史 的 事 実 が 明 ら か に な れ ば 、 東 京 語 で 今 の○ ● ○ 型 、 ○ ● ● 型 が い つ か ら こ の 型 で あ る か を 知 る 一つ の手
掛 り と な る は ず で あ る 。 し か し 、 そ れ も 、 確 実 に 直 接 に京 都 語 か ら 江 戸 語 に は い った か ど う か と いう 点 、 ほ か の 法 則
が は た ら い て 東 京 語 で 今 のよ う な 形 に な った と 言 え る か も し れ な い の で 、 非 常 に 強 力 な 資 料 と も 言 い が た い。
注 (1 ) ﹃ 比 較 言 語学 ﹄ 河 出書 房刊 行 ( 昭 十 七 ・九 ) 、 ペー ジ三 〇 四︲三〇五 。
(2 ) 金 田 一春彦 ﹁ 対 馬 付壱 岐 のア ク セ ント の地位 ﹂ ﹃ 対 馬 の自 然 と 文 化﹄ 古 今 書 院刊 行 ( 昭 二 十九 ・九 )所 載 。
(3 ) N HK 編 ﹃ 全 国 方 言 資料 ﹄ 第 七 巻、 日本 放 送出 版 協 会 刊行 ( 昭 四 十 二 ・三 )、 ペー ジ 一六。
自 然 ・文 化 ・社 会 ﹄ 平 凡社 刊 行 ( 昭 三 十 ・十 二)、 ペー ジ 一八 六 参 照。
(4 ) 金 田 一春彦 ﹁ 隠 岐 ア ク セ ント の系譜 ﹂ ﹃ 現 代言 語 学 ﹄ 三省 堂 刊 行 ( 昭 四十 七 ・三 ) 、 ペー ジ 六 四 二。 (5 ) ﹃ 能 登︱
( 6) 服部四郎 ﹁ 国 語 諸方 言 の アク セ ント 概 観 4﹂ ﹃ 方 言 ﹄ 二 の一 ( 昭 七 )所 載 。
(7 ) 平 山 輝 男 ﹁日 本 語 ア ク セ ント の 統 合﹂ 橋 本 進 吉 博 士 還 暦 記 念 会 編 ﹃国 語 学 論 集 ﹄ 岩 波 書 店 刊 ( 昭 十 九 ・十) 所 載 、 ﹃日本 語音 調 の研究 ﹄ 明 治書 院 刊 行 ( 昭三 十 二 ・六) の ペー ジ 二九 七︲ 三一二な ど。 (8 ) 育 英 書 院 刊行 ( 昭 十 五 ・三 )。 (9 ) 前者は ( 7) に前 出。 後 者 は 東京 堂 刊 行 ( 昭 三十 五 ・六)。 (10 ) 遠 藤 嘉 基 ほ か編 、 東京 堂 刊 行 ( 昭三 十 六 ・ 一︲六 )。 (1) 1 吉 川 弘 文館 刊 行 ( 昭 三 十 一 ・十 ) 。 (12 ) 国 語教 育学 会 編 ﹃標準 語と 国 語教 育 ﹄ 岩波 書 店 刊 行 ( 昭十 五 ・九) 所載 。 (13 ) 吉 川 弘 文館 刊 行 ( 昭 二 十九 ・一) 。 (14) ﹃ 国 語 学﹄ 第 二一 輯 ( 昭三 十 ・六) 所 載 。 (15 ) ﹃ 学 習 院大 学 国 語 国 文学 会 誌 ﹄ 六 ( 昭 三 十 七) 所 載 。 (16 ) ﹃ 国 語 教育 誌 ﹄ 四 の八 ・九 ( 昭 十 六) 所 載。
(17 ) ﹃ 国 語 ア ク セ ント の話﹄ 春 陽 堂 刊行 ( 昭 十 八 ・三) 所 載。
(18 ) 金 田一 春 彦 ﹁ 東 西 両 ア ク セ ント の違 いが で き るま で﹂ ﹃ 文学﹄二二の八 ( 昭 二 十九 ) 所 載。 (19 ) (1)に前 出 。 ペー ジ 二三 。 (20 ) ︹ 四 十 七 ︺ に後 出 。 ( 2 1) ﹃ 文 法 論﹄ は 宝 文 館刊 行 ( 明 四 十 一 ・九 ) 、﹃ 概 論 ﹄ は宝 文 館 刊 行 ( 昭 十 一・八)。 ( 22 ) 日 本 の ロー マ字社 刊 行 ( 大 九 ・十 一)。
( 23 ) ﹃言 語 研究 ﹄第 一五号 ( 昭 二 十五 ) 所 載。 のち 、 服部 ﹃ 言 語 学 の方 法 ﹄ 岩波 書 店 刊 行 ( 昭三 十 五 ・十 二) に 収録 。
( 24 ︶ ﹃国 語 科 学講 座 ﹄ の 一冊 と し て刊 行 ( 昭 九 ・十 二)。 戦 後、 ﹃ 国語法研究﹄ ( ﹃橋本 進 吉 博 士 著 作 集 ﹄ 第 二 冊 ) に 収 録。 そ の ﹁助動 詞 と 接辞 ﹂ の事 項 を参 照 。 ( 25 ) 三 省堂 刊 行 ( 昭十 八 ・十 二)。 (26 ) 三省 堂 刊 行 ( 昭 二十 三 ・十 二)。
(27 ) ﹁日本 語 のア ク セ ント ﹂ 岩淵 悦 太 郎 ほ か編 ﹃講座 現 代 国 語学 ﹄ 第 二 巻 、筑 摩 書 房刊行 ( 昭 三 十 二 ・十 二 ) 所載 。 (28 ) 東 洋 音 楽学 会 第 十 五 回 研究 発 表 会 (昭三 十 九 ・十 ) で の研究 発 表 。 (29 ) ﹃ 国 文 学 研究 ( 早 大)﹄第 三 三 号 (昭 四十 一)所 載 。
三 ) に再 録。
(30) 金 田一 春彦 ﹁ 丁 寧 な 発音 の弁 ﹂ ﹃ 国 語 国 文﹄ 三 四 の 二 ( 昭 四 十 )所 載 。 ﹃日本 語 音 韻 の研 究 ﹄ 東京 堂 刊行 ( 昭四十 二 ・
( 3 1) 金 田 一春 彦 ﹃ 日本 語音 韻 の研究 ﹄ ( 30 に前 出 ) ペー ジ 四 四、 注 ( 17)に例 を あ げた 。
五) 所 載 を参 照 。
( 32 ) 名 古 屋 方 言 に つ い ては 、 水 谷 修 ﹁ 名 古 屋 ア ク セ ント の一 特 質 ( 前 ・後 )﹂ ﹃ 音 声 学 会 会 報﹄ 一〇 二 ・ 一〇 三 ( 昭 三十
( 33 ) 例 は 、金 田一 春彦 ﹃日本 語 音韻 の研 究﹄ (30 に前 出) の ペー ジ 二五 八 を 参 照。
( 34 ) 服部 四郎 ﹁具 体的 言 語 単 位 と抽 象 的 言 語 単 位﹂ ﹃コト バ﹄ 二 の 一二 (昭 二十 四) 所 載。 のち に、 服 部 ﹃言 語学 の方 法 ﹄ (23 に前出 ) に収 録。
(35 ) ﹃ 国 語 音 声学 ﹄ 明 治 図書 刊 行 ( 大 十 四 ・九 )。 ペー ジ 一八 八 以下 。
(36 ) ﹃ 国 語 の発 音と アク セ ント ﹄ 同 文館 刊 行 ( 大 八 ・八)、 ﹃ 日本 音 声 学 ﹄京 文 社 刊 行 ( 昭 四 ・四 ) 。
(37 ) 宮 田 幸 一 ﹁日本 語 のア ク セ ント に関 す る 私 の見解 ﹂ ﹃ 音 声 の研 究 ﹄Ⅱ (昭三 ) 所載 。
( 3 8) 川 上蓁 ﹁ 京 阪 アク セ ント の分 析 的表 記法 ﹂ ﹃音声 学 会 会 報﹄一〇 九 ( 昭 三十 七 ) 所載 。
(39 ) 宮 田幸 一 ﹁ 新 し いア ク セ ント 観 と ア ク セ ント表 記法 ﹂ ﹃ 音声 の研 究 ﹄Ⅰ ( 昭 二 ) 所載 。
(40 ) 服部四郎 ﹁ 音 韻 論 か ら 見た 国 語 のア ク セ ント ﹂ ﹃ 国語研究 ( 国学院大) ﹄ 第 二号 ( 昭 二十 九 ) 所載 。 (41 ) 柴 田 武 ﹁日本 語 のア ク セ ント 体 系﹂ ﹃ 国 語 学 ﹄第 二一 輯 ( 昭三 十 ) 所載 。
(42 ) 和 田実 ﹁アク セ ント の核 と滝 ﹂ ﹃ 国 語 研究 ( 国 学 院 大)﹄ 第 六 号 ( 昭三 十 二 ) 所載 。 (43 ) 川上蓁 ﹁﹃花高 し ﹄ と ﹃ 鼻 高 し ﹄﹂ ﹃音声 学 会 会報 ﹄ 八 二 ( 昭 二十 八 ) 所載 。
(44 ) 金 田 一春彦 ﹁ 私 のア ク セ ント 非 段 階観 ﹂ ﹃ 国 語 研究 ( 国 学 院大 )﹄ 第 一七号 ( 昭 三 十 八) 所 載 。
( 46 ) 福本喜之助訳 ﹃ 言 語 史 の原 理﹄ 講 談 社刊 行 ( 昭 四 十 ・十 一)、 ペ ー ジ 一八 七。
(45 ) ( 40) に前 出。
( 47 ) 服部 四 郎 ﹃ア ク セ ント と方 言 ﹄ ( ﹃国 語科 学 講 座 ﹄ 四五 ) 明 治書 院 刊 行 ( 昭 八 ・八 ) 。 (48 ) ( 1) に前 出。 (49 ) 松原秀治 ﹃ 言 語地 理 学 ﹄ 冨山 房 刊 行 (昭十 三 ・十)、 ペー ジ一 八 七 。 ( 50 ) 金 田一 春 彦 ﹁ 隠 岐 アク セ ント の系 譜﹂ ( 4 に前 出)。 ( 51 ) 九学 会 連 合委 員 会 編 ﹃佐渡 ﹄ 所 載 の ﹁ 方 言 の諸 相﹂ ペー ジ一六 一以 下 に 詳 し い。 (52 ) 虫 明吉 治 郎 ﹃ 岡 山県 のア ク セ ント﹄ 山陽 図 書 刊 行 ( 昭 二十 九 ・十 一) に よ る。
(53 ) ﹁﹃ 琉球語﹄と ﹃ 国 語 ﹄ と の音 韻 法 則﹂ ﹃ 方 言 ﹄ 二 (昭七 ) 所載 。 服 部 ﹃日本 語 の系統 ﹄ に収 録 。 ペー ジ三 二︲ 一。
( 54 ) 泉 井久 之 助 訳 ﹃ 史 的 言 語 学 に於 け る 比較 の方 法 ﹄ 政経 書 院 刊 行 ( 昭 九 ・四 ) 、 ペー ジ 二 一。
( 55 ) 桜井 茂 治 ﹁形容 詞音 便 の方 言 分 布 と そ の解 釈 ﹂ ﹃日本 文 学 論究 ( 国学院大) ﹄ 第 二四 号 ( 昭 四十 )。
第 三 節 ア ク セ ント 史 資 料 と し て の過 去 の文 献
︹五 十 一︺ 過 去 の 文 献 の 資 料 と し て の 強 み
前 節 に 述 べ た 現 在 諸 方 言 の ア ク セ ン ト は 、 過 去 の ア ク セ ント を 考 え る 基 本 的 資 料 で あ る が 、 惜 し い こ と に は 、
そ れ に よ っ て 知 ら れ る ア ク セ ント は 年 代 の 裏 付 け を も た な い。 資 料 が 年 代 を 示 す と い う 点 で 断 然 た る 強 み を 有 す
るも のは 、 先 に第 二 種 の 資 料 と し て あ げ た 、 過 去 の ア ク セ ント に つい て 記 録 し た 文 献 であ る 。 こ の章 で は 、 以 下
こ の 種 の 資 料 に は ど の よ う な も の が あ る か 、 そ の 扱 い方 と し て は 、 ど の よ う な 点 に 注 意 す べ き か に つ い て 述 べ よ う。
今ま で過 去 の アク セ ント に ついて 記述 記載 し た文 献 の名を あ げ て いるも のと し ては、 早 く は 明治時 代 の ﹃ 古事類 苑 ﹄ の ﹁文 学 部 ﹂ (一) の ﹁四 声 ﹂ の 条 と 、 佐 藤 寛 の ﹁本 朝 四 声 考 ﹂( 1)が あ る 。
大 正 時 代 に 入 る と 、 舞 鶴 在 住 の 隠 れ た 学 者 井 上 奥 本 氏 が ア ク セ ン ト を 記 載 し た 日 本 の 古 い文 献 を 集 め て、 ﹃ 国学院
雑 誌 ﹄( 2)に ﹁語 調 原 理 序 論 ﹂(一)( 五) ︲を 連 載 し た が 、 当 時 そ れ を 読 ん で 理 解 で き た 人 が いな か った と いう 。 井 上 氏 は 、
のち に 昭 和 三 年 、 ﹃ 音 声 の 研 究 ﹄Ⅱ に ﹁日本 語 調 学 小 史 ﹂ ﹁日 本 語 調 学 年 表 ﹂ と いう も のを 寄 せ て 、 日 本 最 初 の ア ク セ ント 研 究 史 を 書 いた 。
国 語 学 者 の中 で 早 く か ら 古 い時 代 の ア ク セ ント 研 究 に 関 心 を も って いた の は 橋 本 進 吉 氏 で 、 多 く の 資 料 を 集 め て
﹃日本 文 学 大 辞 典 ﹄ の ﹁ア ク セ ント ﹂ の 項 目 の解 説 を 書 き 、 ま た 、 東 京 帝 国 大 学 で の講 義 を 通 じ て 昭 和 以 後 の ア ク セ
ント 史 の 研 究 の興 隆 の も と を 作 った 。 そ の 後 、 多 く の 文 献 資 料 を 紹 介 し た 人 と し て 、 服 部 四 郎 ( 3)・大 野 晋 ( 4)・馬 淵 和夫 ( 5)・築 島 裕 ( 6)・小 林 芳 規 ( 7)な ど の学 者 を 数 え る 。
筆 者 は、 そ の時 ま で に 知 ら れ て い る ア ク セ ント 史 の資 料 の主 な も の を 、 ﹁国 語 ア ク セ ン ト の 史 的 研 究 ﹂( 8)・﹁ 古代
ア クセ ント から 近代 アク セ ント ヘ﹂( 9)・﹁国 語ア クセ ント の時代 的変 遷 ﹂(1 )な 0ど で紹介 した 。
︹五十 二︺ そ の種 類
橋 本 進 吉 氏 は 、 ﹃国 語 音 韻 史 ﹄ の中 で 、 日本 語 の音 韻 の歴 史 を 研 究 す る 資 料 と し て、 二 種 類 のも のを 区 別 し た 。
一つは 過 去 の音 韻 に つ い て記 述 し た も の、 他 は 、 過 去 の音 韻 に よ って表 記 し た も の であ る。 ア ク セ ント 史 の資 料
︽東 京 語 で ﹁箸 ﹂ の アク セ ント は 下 降 型 で ﹁橋 ﹂ は上 昇 型 だ ︾
った ら 、
に も 、 こ の 二 種 類 があ る は ず で あ る 。 一つは 国 語 のア ク セ ント に つ いて 記 述 し た文 献 と 言 う べき も ので 、 今 で言
と 言 う よ う な 事 を 述 べ た も の であ る 。 も う 一つは 国 語 の ア ク セ ント を 註 記 し た 文 献 と 言 う べき も の で、 例 え ば、
ハシ (橋)
個 々 の語 の ア ク セ ント を 表 記 し た 辞 典 の類 に 、 記 号 を 用 い て、 ハシ ( 箸 )
ハシ②
と いう よ う に 傍 線 を 引 い て高 い拍 を 示 し たり 、 ハシ①
の よ う に数 字 で滝 のあ り か を 示す 体 裁 で そ の語 の ア ク セ ント を 表 わ し た り す る よう な も の で あ る 。 過 去 の ア ク セ
ント を 記 載 し た 文 献 にも 、 こ の 二 つ に相 当 す る も の が あ り 、 こ の 二種 類 の文 献 は 、 取 り 扱 い上 、 ち がう 方 法 が 必 要な の で、 分 け て述 べる こと にす る 。
も っとも 、 こ の 二 種 類 は 、 判 然 と 分 け ら れ る わ け で は な い。 例 え ば 、 契 沖 は 、 ﹃和 字 正 濫 抄 ﹄ の巻 五 の巻 末 で、
平 声 は 声 の本 末 上 ら ず 下 ら ず 一文 字 のご と く し て 長 し 。 上 声 は 短 かく し てす ぐ に の ぼ る 。 去 声 は な ま る やう
﹁平 上 去 入 ﹂ と いう 問 題 を 扱 った 条 に 、
に声 を ま は す 。
と 説 明 し 、 そ の あ と の方 に 、
樋ひ
火ひ 毛け
和 語 に も 平 ・上 ・去 の 三 声 あ り 。 と し て、
得 べし。
一字 仮 名 で 言 は ば 、 日ひ
蹴け 食け 二 字 仮 名 橋はし 端はし 箸はし 弦つる 釣つる 鶴つる此 類 に て 心
と 述 べ て い る が 、 こ の よ う な も の は ど っち と も 定 め が た い 。 文 章 全 体 と し て は 、 ア ク セ ン ト を 記 述 し て い る 文 献
で あ っ て 、 こ こ に ﹁日 ﹂ ﹁樋 ﹂ ﹁火 ﹂ の よ う な 例 も 、 上 か ら 平 声 の 語 、 上 声 の 語 、 去 声 の 語 と い う 順 に 並 ん で い る
と 考 え ら れ る 点 を 重 要 視 す れ ば 、 個 々 の単 語 の 部 分 も 、 そ の ア ク セ ント を 記 述 し た 文 献 と 言 う こ と が で き る が 、
﹁日 ﹂ ﹁樋 ﹂ ﹁火 ﹂ な ど の 語 に 施 さ れ た 圏 点 は 、 ア ク セ ン ト を 註 記 し た も の と 見 ら れ る 。 こ れ な ど は ア ク セ ン ト を 記 述 し 、 註 記 し た 文 献 と 呼 ぶ のが 正 し いで あ ろ う 。
ま た 、 稀 な 場 合 で あ る が、 過 去 の文 献 の中 に は、 アク セ ント のち が い によ って 文 字 を 書 き 分 け た 種 類 のも のが
あ る 。 こ れ は 一往 ア ク セ ン ト を 註 記 し た 文 献 の 方 に 入 れ る 、 ア ク セ ン ト を 記 述 し た 文 献 と は 言 い が た い の で 。
ヴ ァ ンド リ エ ス(J.Vendr )yは e、 s﹃ギ リ シ ャ語 の ア ク セ ント 提 要 ﹄(1 )1 に お いて 、 古 典 ギ リ シ ャ語 の ア ク セ ント を 研 究す る文 献と し て、 (1 ) ア クセ ント 記号を 付し た文 献 (2) 文 法 の教 師 ・学 者 に よ る 学 説 の 二 つを 区 別 し て いる が 、 こ れ は こ こ の 二 種 の 資 料 に 対 応 す る も の で あ る 。
鴨 かも 是 は 平 声 の軽 な る に 、 鴨 川 が かは も こ れ は 上 声 、 鴨 社 かし もの ろや 是 は 去 声 な り 。 つづ き に よ り て 、 同 じ 言 も か く 声 の か
また 契沖 は本 文 に紹介 し たよう な ことを 述 べた あと さら に、
は るな り。
﹃ 和 字 正 濫 通 妨 抄 ﹄ ﹃和 字 正
と 述 べ て い る 。 こ こも 、全 般 的 に は 、ア ク セ ン ト を 記 述 し た 例 であ る が 、そ の中 の 圏 点 を 付 し た 部 分 は 、ア ク セ ント を
註 記 し た 例 に な る 。 契 沖 は 国 語 の ア ク セ ン ト に 強 い関 心 を 示 し て いた 人 で 、 こ の 本 以 外
﹁ 契 沖 の 仮 名 遣 書 所 載 の 国 語 ア ク セ ント ﹂( 12) 、 こ れ を 批 評 し た 前 田 富祺
﹁契 沖 の ア ク セ ン ト 観 ﹂( 13)
濫 要 略 ﹄ に も い ろ い ろ ア ク セ ント に つ い て の記 述 を 行 な って い る 。 契 沖 の 記 載 し た ア ク セ ント を 取 り 扱 った 研 究 と し て は 、金 田 一春 彦 があ る 。
︹五 十 三 ︺ 第一 種 の 文 献 、 四 声 に よ る 記 述
過 去 の ア ク セ ント を 記 述 し た 文 献 の 中 で 、 代 表 的 な も の は 、 中 国 語 の ア ク セ ン ト で あ る ︽四 声 ︾、 す な わ ち 、
︽平 声 ︾ ︽上 声 ︾ ︽去 声 ︾ ︽入 声 ︾ の一 つ 一つ に よ って 日 本 語 の 発 音 を 解 説 し た 文 献 で あ る 。 中 国 語 の ア ク セ ン ト は 、
日本 語 のア ク セ ント と 同 じ く 高 低 ア ク セ ント であ る か ら 、 日 本 語 の 単 語 全 体 の発 音 を 、 あ る いは 単 語 の 一つ 一つ
﹃仙 源 抄 ﹄ に は 、 そ の跋 に こ ん な 記 述 が あ る 。
の拍 を 、 四 声 の 一つに あ て て 説 明 し て いる も の は 、 そ の単 語 の ア ク セ ント を 述 べた も の と 見 てよ いは ず であ る 。 例 え ば 、 中 世 の 源 氏 物 語 辞 典 であ る 長慶 院 の
い ろ は を つね に よ む や う に 声 を さ ぐ ら ば 、 ﹁お ﹂ 文 字 は 去 声 な る べ し 。 定 家 が ﹁お ﹂ 文 字 つ か ふ べ き 事 を 書
く に 、 ﹁山 の お く ﹂ と 書 け り 。 ま こ と に 去 声 と おぼ ゆ る を 、 ﹁お く 山 ﹂ と う ち か へし て い へば 、 去 声 に は よ ま
﹁お し む ﹂ は
﹁お し か ら ぬ ﹂ と い ふ を り は 去 声 に な る 。 ﹁お も ひ ﹂ も 、 ﹁お も ひ お も
れ ず 、 上 声 に 転 ず る 也 。 ﹁お し む ﹂ ﹁お も ひ ﹂ ﹁お ほ か た ﹂ ﹁お ぎ の 葉 ﹂ ﹁お ど ろ く ﹂ な ど 書 け り 。 こ れ は み な 去 声 に あ ら ず 。 こ の内
ひ ﹂ と い ふ を り は 、 は じ め の ﹁お ﹂ 文 字 は 去 声 、 の ち の は 去 声 に は よ ま れ ぬ な り 。
こ れ は 、 和 語 の 単 語 の 一 つ の 拍 を 、 中 国 語 の 四 声 の 一 つ 一つ に あ て て 説 明 し て い る と 見 ら れ る か ら 、 こ の 種 の 代 表 的 な 文 献 と いえ る 。
一体 日本 で 国 語 の ア ク セ ント と いう も の に関 心を も つよ う に な った のは 、 中 国 語 の四 声 を 学 び、 そ の知 識 を 日
本 語 に応 用 し た の が、 そ のは じ め であ る。 こ の こ と か ら 、 四声 によ って 日 本 語 のア ク セ ント を 観 察 ・記 述 し た 文
献 の数 は き わ め て多 く 、 古 く は 鎌 倉 時 代 初 頭 の顕 昭 の ﹃袖 中 抄 ﹄ や ﹃六 百 番 陳 状 ﹄ の中 の記 述 があ り 、 南 北 朝 時
代 末 期 の、 長慶 院 の ﹃仙 源 抄 ﹄ を 経 て、 室 町 末 期 の猪 苗 代 兼 載 の伝 授 を 兼 純 が書 いた ﹃ 古今 私秘聞﹄ など に現わ
れ 、、江 戸 時 代 に は いれ ば 、 前 項 に 述 べ た 契 沖 の著 書 も そ の 一種 と 見 る こ と も で き る 。 ま た 、 文 雄 の ﹃和 字 大 観
抄 ﹄、 富 士 谷 成 章 の ﹃脚 結 抄 ﹄、 本 居 宣 長 の ﹃漢 字 三 音 考 ﹄、 伊 勢 貞 丈 の ﹃安 斎 随 筆 ﹄ も 同 様 であ る 。 資 料 と し て
は 珍 し く も 江 戸 語 の ア ク セ ント に つ いて 記 述 し よう と し た 斎 藤 彦 麿 の ﹃音 声 論 ﹄ も こ の数 に 入 る 。
や か ま し く 言 う と 、 日本 人 が 四 声 と いう も のを ど のよ う に 捕 え て いた かを 明 ら か にす る こと が 必 要 であ る 。
こ の種 の文 献 を 資 料 と し て 扱 う 上 に は 、 ︽四 声 ︾ と いう も の の具 体 的 音 価 が、 ど の よ う な も の で あ った かを 、 ︱
去声
上声
平声
低 い平 ら な 音 調 で、 た だ し 、 拍 の末 に 閉 鎖 の 過 程 の み の (p ) (t)( )k を伴う 音。
(低 ) から (高 ) へ上 昇 す る 音 調
高 い平 ら な 音 調
低 い平 ら な 音 調
平 安 朝 ご ろ 、 漢 音 の四 声 と し て 日本 人 が 学 ん だも の の内 容 は 、 次 のよ う であ った と 推 定 さ れ る 。
入声
そ し て 、 平 安 朝 中 期 ご ろま では 、 そ れ ぞ れ に 軽 声 と 重 声 と があ った が、 院 政 時 代 以後 、 上 声 の 重 は 去 声 に 紛 れ 、
去 声 の 軽 は 上 声 と 混 同 し てと も に 失 わ れ 、 残 った のは 、 (1平)声 の 軽 ・(2) 平 声 の重 ・( 3) 上 声 (の 軽)・(4去)声 (の
重 )・ (5 ) 入 声 の軽 ・(6 ) 入 声 の重 と いう 六声 に な った 。 こ のう ち 平 声 の重 は 、 本 来 の平 声 で低 平 調 、 平 声 の 軽 は 、 高 か ら 低 への 下降 調 と し て落 ち 付 いた 。 これ は 、 ﹃金 光 明 最 勝 王 経 音 義 ﹄ の凡 例 に よ り 、 ︽東 声 ︾ と も 呼 ば れ る 。
ま た 入声 の重 は、 本 来 の 入声 で低 く 平 ら 、 入声 の 軽 の方 は、 徳 声 と も 呼 ば れ 、 高 く 平 ら な (p ) (t) (k ) を伴う 音 と な った 。
こ の四 声 の内 容 は、 こと に 江 戸 時 代 にな る と 、 学 者 によ って さ ま ざ ま に 解 釈 さ れ て いる の で 、 そ れ を た よ って
﹃ 古 今 私 秘 聞 ﹄ のも の は 、
想 ﹂(16 と)いう 考 察 も あ る 。
﹁思 ひ 思 ひ ﹂ と 繰 り 返
か な づ か い﹂( 15)と い う 二 つ の論 考 が あ り 、 最 近 に は 、 望 月 郁 子 氏 に ﹁﹃仙 源 抄 ﹄跋 文 の 語 調 標 示 の 方 法 と そ の 発
な お、 ﹃ 仙 源 抄 ﹄ の こ の 記 述 に つ い て は 、 大 野 晋 氏 の ﹁仮 名 遣 の起 源 ﹂( 14)と 馬 淵 和 夫 氏 の ﹁定 家 かなづ か いと 契 沖
ア ク セ ント に よ って ﹁お ﹂ と ﹁を ﹂ と を 書 き わ け る と いう の は 不 便 で は な い か 。
声 で は な い で はな い か 。 し た が って こ れ を ﹁お ﹂ と 書 く と いう の は いけ な い こ と に な る 。 こ ん な こ と を 考 え る と 、
し て いう 場 合 に は 、 第一 拍 の ﹁オ ﹂ は 去 声 だ 。 だ か ら こ れ は ﹁お ﹂ と 書 いて よ い。 し か し 、 第 四 拍 の ﹁オ ﹂ は 去
去 声 と な る か ら 、 そ の 場 合 だ け 、 ﹁お ﹂ を 書 く と いう な ら 話 は わ か る 。 ﹁ 思 ひ ﹂ と いう 語 も
な いは ず で は な い か。 右 の 語 の う ち 、 ﹁惜 し む ﹂ と い う こ と ば は ﹁ 惜 し か ら ぬ ﹂ と いう 場 合 に は ﹁オ ﹂ の部 分 が
よ う に 言 って いる が 、 こ れ ら の語 の ﹁オ ﹂ の 部 分 は 必 ず し も 去 声 で は な い。 そ う す る と 、 ﹁お ﹂ を 書 い て は い け
る 。 ま た 、 定 家 は 、 ﹁惜 し む ﹂ ﹁思 ひ ﹂ ﹁大 方 ﹂ ﹁荻 の葉 ﹂ ﹁ 驚 く ﹂ の ﹁オ ﹂ の 部 分 を す べ て ﹁お ﹂ の 字 で 表 記 す る
ば 、 こ れ は 、 上 声 の 場 合 に 用 いる こ と に な って い る ﹁を ﹂ を 使 って 、 ﹁山 のを く ﹂ と 書 く べ き だ と いう こ と に な
﹁オ ﹂ を 調 べ て み る と 、 こ れ は 去 声 で は な い。 上 声 に な って い る 。 そ う す る と 、 も し 、 定 家 の定 め ど お り に す れ
る か ら 、 こ れ は 問 題 は な い。 と こ ろ が 、 ﹁山 の 奥 ﹂ で は な く 、 ひ っく り 返 し て ﹁ 奥 山 ﹂ と 言 っ て、 そ の 場 合 の
奥 ﹂ の場 合 は 、 ﹁お ﹂ の 仮 名 を 用 い る よ う に な って いる 。 た し か に ﹁奥 ﹂ と いう 単 語 の ﹁オ ﹂ の部 分 は 去 声 で あ
今 の 世 に 行 な わ れ て いる 仮 名 遣 いを 定 め た 藤 原 定 家 の ﹁オ ﹂ と いう 拍 の表 記 法 を 調 べ て み る と 、 例 え ば 、 ﹁山 の
︽いろ は 歌 ︾ を 普 通 唱 え る よ う に 唱 え た 場 合 に は 、 ﹁ウ ヰ ノ オ ク ﹂ の ﹁オ ﹂ の 部 分 の ア ク セ ン ト は 去 声 で あ る 。
顕 昭 の用例 は、 次 の ︹ 五 十 四 ︺ に 引 く 。 は じ め に引 いた ﹃仙 源 抄 ﹄ の文 章 は ほ ぼ こ う いう 意 味 と 解 さ れ る 。
国 語 の ア ク セ ント を 考 え る 時 に は 、 そ の人 は ど のよ う な 解 釈 の 上 に 立 って いる かを 見 定 め る こ と が必 要 で あ る 。
そ へう た 風 也 上 声 也 ス グ ニ読 ベ シ ソ ヘタ テ マ ツ ルト いふ 時 ハソ ヘノ 字 平 声 也 ア タ リ テ 読 也
と いう よ う な も の で 、 こ れ は ﹁ す ぐ﹂ と か ﹁ あ た る ﹂ と か いう 術 語 で 、 音 の 高 低 を 写 そ う と し て いる と こ ろ も お も し
ろ い。 これ は 仏 教 音 楽 の術 語 と 見 ら れ る 。 こ の 本 に は ほ か に も ち ょ いち ょ い用 例 を 見 る 。 そ の次 に あ げ た 文 雄 以 下 の
論 文 の 中 で 、 文 法 学 者 と し て 高 名 な 富 士 谷 成 章 の 付 属 語 の 研 究 書 ﹃脚 結 抄 ﹄ の中 の 記 述 は 、 次 の よ う で あ る 。
﹁か へり ご ゑ ﹂ と い ふ 。 上 な り 。( 中 田 ・竹 岡
一、 三 声 ﹁井 ﹂ ﹁筆 ﹂ な ど 読 む 声 を ﹁ゆ き ご ゑ ﹂ と い ふ 。 も ろ こ し ご ゑ の平 な り 。 ﹁野 ﹂ ﹁船 ﹂ な ど 読 む 声 を ﹁た
﹃ あ ゆ ひ抄新 注 ﹄ ペー ジ 一〇 八 )
ちご ゑ ﹂ と い ふ 。 も ろ こ し ご ゑ の 去 な り 。 ﹁日 ﹂ ﹁花 ﹂ な ど 読 む 声 を
文 雄 ・宣 長 ・貞 丈 のも の は 、 便 宜 上 ︹五 十 五 ︺ で扱 う 。 文 雄 に は 、 別 に ﹁摩 光 韻 鏡 指 要 録 ﹂ の中 に も 同 じ よ う な 記
述があ る。 本居 宣 長は 、 ﹃ 古 事 記 伝 ﹄ の中 に や は り 四 声 に よ る ア ク セ ント の 説 明 を し て い る 箇 所 があ る 。 斎 藤 彦 麿 の ﹃ 音 声論 ﹄ に ついては、 ︹ 六 十 五 ︺ で触 れ る 。
と こ ろ で 、 四 声 の 具 体 的 内 容 で あ る が、 こ れ は 中 国 の方 で 古 く 四 声 の 調 価 が ど のよ う で あ った か が わ か っ て い れ ば 、
そ れ を 何 より 参 照 す べ き で あ る が 、 ︹ 七 ︺ に 触 れ た と お り、 中 国 語 の 古 代 の 四 声 は 、 は な は だ茫漠 た る も の で 、 平 山
久 雄 氏 に よ れ ば 、 む し ろ 、 ﹃悉 曇 蔵 ﹄ の よ う な 日 本 の 文 献 や 、 日 本 の漢 字 音 に 入 って い る 音 調 の 方 が 古 代 の調 価 を 推
定 す る 有 力 な 資 料 の よ う で あ る 。( 17)こ こ に 述 べ た 推 定 は 、 筆 者 が 、 日 本 の諸 方 言 に 伝 わ って い る 字 音 語 の ア ク セ ン
ト 、 仏 教 界 に伝 え ら れ て い る 四 声 の 調 価 、 古 代 の 日 本 の文 献 に 見 え る 四 声 の 調 価 に つ いて の 解 釈 な ど を も と に し て 考
察 し 、 ﹁日 本 四 声 古 義 ﹂(1 )と 8 し て ま と め た も の で あ る が 、 平 山 氏 の も の に、 頼 惟 勤 氏 の ﹁漢 音 の声 明 と そ の 声 調 ﹂( 19)
と 並 ん で古 代 の調 価 を 考 え る 上 の主 要 な 参 考 文 献 と し て引 用 さ れ て い る 有 様 であ る 。 な お 、 頼 氏 に ﹁丹 陽 方 言 と 日 本
漢 字 音 と の声 調 に つ いて ﹂( 20)と いう 考 説 が あ る が 、 こ れ は 、 江 蘇 省 の 南 京 に 近 い 丹 陽 と いう 地 方 の 中 国 方 言 の 四 声
の調 価 が、 そ の 文 語 の 場 合 、 筆 者 が 推 定 し た 日 本 の漢 字 音 の 四 声 の 調 価 に よ く 似 て い る こ と が 報 告 さ れ て お り 、 興 味 が 深 い。
と こ ろ で 、 こ こ を 読 ま れ た 読 者 の 中 に は 、 こ こ に述 べた 四 声 の 具 体 的 音 価 に つ いて 不 審 を も た れ た 向 き が あ ろ う か
︹ 五 十 五︺ へ
と 思う。 ︹ 五 十 二 ︺ に 引 いた 契 沖 の 記 述 に 対 し て も 半 信 半 疑 の向 き も あ った か も し れ な い。 実 は 四 声 の内 容 は ﹃仙 源
抄 ﹄ あ た り か ら 、 変 な こ と に な って 、 江 戸 時 代 の学 者 の 四 声 観 に は 複 雑 な 事 情 が あ る の で 、 こ の こと は 行 って 詳 述 す る 。
そ れ か ら 、 四 声 に は 、 本 文 で ち ょ っと 触 れ た ︽軽 重 ︾、 つま り ﹁上 声 之 軽 ﹂ と か ﹁上 声 之 重 ﹂ と か いう 問 題 が あ っ
て、 昔 、 金 沢 庄 三 郎 氏 ( 21) ・岩 橋 小 弥 太 氏 ( 22)・朝 山 信 弥 氏 ( 23)な ど の 学 者 た ち は 、 そ の 正 体 を 探 る の に 苦 し ん だ よ
う で あ る 。 が 、 こ れ は 、 筆 者 に す れ ば 簡 単 な こ と で 、 ﹁軽 ﹂ は 高 く は じ ま る 音 調 、 ﹁重 ﹂ は低 く は じ ま る 音 調 と 解 し て
そ れ で 十 分 だ と 思 う 。( 24) 平 声 と 入 声 と に は 軽 重 が あ って 、 上 声 と 去 声 に は 軽 重 が な いと いう が 、 そ れ は 、 (イ 上) 声 の
重 と(ロ)去 声 の軽 と(ハ)去 声 の 重 、 こ の 三 つが い ず れ も 上 昇 調 の音 で 、 そ の ち が い は 、 微 妙 な 昇 り 方 で あ った た め に 紛
れ て し ま い、 去 声 と いう 一つ の声 に 合 流 し て し ま った も の と 解 さ れ る 。 こ の 間 の 消 息 は 、 藤 原 宗 忠 の ﹃ 作 文大 体﹄
上 声 重 渉二去 声 一、 去声 軽渉 二 於 上 声 一、 逓 難 二分 別 一 故也
( 嘉 承 三年 ごろ の成 立 ) の
と いう 記 述 に よ く う か が わ れ る 。
平 安 朝 の中 期 ご ろ ま で は 、 日 本 で も 上 声 の 軽 重 、 去 声 の軽 重 を ち ゃ ん と 心 得 て いた よ う で 、 そ の こ と は 、 源 順 の
﹃ 和 名 類 聚 抄 ﹄ の字 音 の 註 記 に 、 ﹁上 声 之 重 ﹂ と か ﹁上 声 之 軽 ﹂ と か いう 文 字 が 見 え る こ と で も 知 ら れ る 。 馬 淵 和 夫 氏 に よ れ ば 、( 25)仁 治 二年 に 成 立 の ﹃ 道 範 記﹄ と いうも のに、 凡 四 声 ニ皆 有 二軽 重 。 一故 成 二八声 一。 俗 家ニ上 ノ重 去 ノ重 濫 。 故 ニ 只 読 二六 声 一。
と あ る と の こと で 、 これ に よ り 、 順 は 八 声 の区 別 を わ き ま え て いた が 、 当 時 一般 に は 区 別 が あ や し く な っ て い た こ と がうか がわ れる 。
な お 、 順 の ﹃和 名 類 聚 抄 ﹄ の字 音 の註 記 に は 、 ﹁菊 ﹂ と いう 語 、 ﹁ 枠 ﹂ と いう 語 に 対 し て 、 俗云二 本 音 之重 一
と いう 注 を 加 え た 個 所 が あ る 。 こ の ﹁本 音 之 重 ﹂ は 、 文 脈 か ら 見 て 、 ﹁入 声 の 重 ﹂ と いう こ と で 、 日 本 語 で は 、 こ の
二 つ の 語 は 外 来 語 と し て 低 く 平 ら な ア ク セ ン ト で 発 音 さ れ て い る と いう 意 味 と 解 さ れ る 。 ﹃和 名 類 聚 抄 ﹄ の 成 立 は 、
承 平 四年 ( 九 三 四 ) ご ろ で あ る と す る と 、 こ の 記 述 は 、 今 の と こ ろ 、 単 語 の ア ク セ ント を 述 べ た 日 本 で 最 古 の 文 献 と
いう こ と に な る 。 小 松 英 雄 氏 ( 26)は 、 ﹃図 書 寮 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ の中 に 、 ﹁塔 ﹂ と い う 語 が 日本 語 に な った 場 合 、 入 声
の 重 で あ る と 源 順 が 言 って い る 記 述 が あ る こ と を 注 意 し て い る 。 こ れ は 現 存 の ﹃ 和 名類 聚抄 ﹄ には 見え な いが、 こ の
記 述 は 、 ﹁菊 ﹂ ﹁枠 ﹂ の ア ク セ ント 註 記 と 同 様 に有 用 で あ る 。 な お 、 入 声 の 拍 は 、 小 松 氏 に よ れ ば 、 中 国 漢 音 で は 軽 声 のも の の 方 が 多 く 、 入 声 の大 部 分 は 軽 声 だ った と いう 。( 27)
さ て 、 日 本 の四 声 に つ い て は 、 ま だ 問 題 が 多 い。 何 よ り め ん ど う な の は 、 ﹁漢 音 と 呉 音 と は 四 声 が 逆 だ ﹂ と い う 伝 承 が あ る こと で、 心 蓮 の ﹃ 悉 曇 口伝 ﹄ に 、 呉 音 平 成 二漢 上 声 一、 如 二是 字 一。 呉 音 上 成 二漢 平 一、 如 二如 字一。 呉 音 去 成 二漢 平 軽 一、 如 二金 字 一。 呉 平 軽 成 二漢 去 一、 如 二 聖 字 一。 呉 音 入 即 漢 入 也 。 於 レ漢 無 二入 重一、 於 レ呉 無 入 軽一⋮ ⋮ 。
と あ る のは そ の 例 で あ る 。( 28)現 在 中 国 の 諸 方 言 は 、 地 方 に よ り 四 声 の 調 価 は ま ち ま ち で あ る が、 ど こ の 方 言 は 北 京
官 話 と 四 声 の関 係 が 逆 だ と いう よ う な こ と は な い。 北 京 官 話 で 平 声 の語 は 、 ど の方 言 で も 大 体 平 声 で 、 た だ そ の調 価
が ち が って い る だ け で あ る 。 日本 の漢 音 と 呉 音 と で は 、 漢 音 で 平 声 の文 字 は 呉 音 で は 上 声 ま た は 去 声 で あ り 、 漢 音 で 上 声 ・去 声 の文 字 は 呉 音 で は 去 声 であ る 、 と いう の であ る か ら 大 変 だ 。
これ は ど う 解 す べ き な のだ ろ う 。 井 上 奥 本 氏 は 、 例 え ば ﹁去 声 ﹂ と いう 場 合 、 漢 音 と 呉 音 で そ の音 価 が ち が って い
た と解 し た ( 29)が 、 こう 考 え て は 全 然 収 拾 が 付 かな く な る 。 こ の と き 、 ﹁平 声 ﹂ と か ﹁上 声 ﹂ ﹁去 声 ﹂ と か いう の は 、 頼 氏 が説 かれ るよう に ( 30)調 価 を い っ て いる の で 、
漢 音 で 平 声 の 文 字 は 、 呉 音 で は 一部 は 漢 音 で ﹁上 声 ﹂ と 呼 ば れ る 声 調 で 発 音 さ れ 、 一部 は 漢 音 で ﹁去 声 ﹂ と 呼 ば れ る 声 調 で 発 音 さ れ る。
漢 音 で 上 声 の 文 字 、 漢 音 で 去 声 の文 字 は 、 呉 音 で は 、 共 に 漢 音 で ﹁平 声 ﹂ と 呼 ば れ る 声 調 で 発 音 さ れ る 。
要 す る に 、 平 声 ・上 声 ・去 声 が そ れ ぞ れ ど う いう 声 調 を 表 わ す か と いう こ の頃 の問 題 の 解 決 に は 、 こ の 漢 音 ・呉 音
と いう 意 味 と 解 せ ら れ る 。 実 情 を 見 る と 大 体 そ う な って いる 。
の問題 を考 慮し なく ても よ いことは幸 いであ る。
︹五 十 四︺ 第 二種 の文 献 、 術 語 ﹁ 声 ﹂ によ る記述
﹁こ ゑ ﹂ と か い っ
﹁声 ﹂ と 言 う 語 を 用 い た 。 ﹁声 ﹂ は 、 は じ め 字 音 読 み で 、 ﹁し ゃ う ﹂ と 言 った が 、 の ち に は 訓 読 み に し
日 本 人 は 、 中 国 語 の ︽四 声 ︾ を 学 び 、 日 本 語 の ア ク セ ント の 存 在 に 気 付 いた が 、 そ れ 以 来 ア ク セ ン ト を 表 わ す 術 語とし て
て 、 ﹁こ ゑ ﹂ と も 言 った よ う で あ る 。 そ う いう わ け で 、 国 語 の 単 語 の 発 音 に 関 し て 、 ﹁声 ﹂ と か
﹃袖 中 抄 ﹄ の ﹁さ ほ ひ め ﹂ の 条 に 、
て いる 文 献 は 、 国 語 のア ク セ ント を 述 べ て いる も のと 解 す る こ と が でき る 。 例 え ば 、歌 学 者 藤 原 顕 昭 の
﹁ 賀 茂 ﹂ と 相 違 、 ﹁い な り 山 ﹂
﹁か す が ﹂ と 相 違 、 或 は か み に ひ か れ 、 或 は し も に ひ か れ て 、 便 に よ
﹁お ほ は ら 野 ﹂ と 相 違 せ り 。 ﹁か も 河 ﹂ と
﹁い な リ ﹂ と 相 違 、 ﹁か す が 山 ﹂ と
声 と 義 と の 相 違 常 事 也 。 ﹁大 原 ﹂ と と り て声 は 不 定 也 。
と あ る の は こ の例 であ る 。 こ れ は 次 の よう な 意 味 と 解 さ れ る。
﹁稲 荷 ﹂ 単 独 の 場 合 と で 、 ﹁春 日 山 ﹂ と
﹁賀 茂 ﹂ 単
﹁春 日 ﹂ 単 独 の 場 合 と で ア ク セ ン ト は ち
﹁野 ﹂ を つ け て ﹁大 原 野 ﹂ と い う 場 合 と で ア ク セ ン ト が ち が う 。 同 様 に 、 ﹁賀 茂 川 ﹂ と
一 つ の 語 の 意 味 が 同 じ で も 、 複 合 語 に な る と 、 ア ク セ ン ト が 変 わ る こ と は 普 通 で あ る 。 ﹁大 原 ﹂ を 単 独 に い う場合 と
独 の 場 合 と で 、 ﹁稲 荷 山 ﹂ と
﹁声 ﹂ と い う 術 語 で 日 本 語 の ア ク セ ン ト を 記 述 し て い る 文 献 と し て は 、 ほ か に 清 原 宣 賢 の
﹃日 本 書
が う が 、 こ の よ う に 上 の 言 葉 と 結 合 し た り 、 下 の 言 葉 と 結 合 し た り し て ア ク セ ント が 変 化 す る こ と は 珍 し く な い。 こ のよ う な
紀神代抄 ﹄があ り、また
﹁こ ゑ ﹂ と や わ ら げ て 言 う と 同 時
﹁こ ゑ ﹂ と 和 訓 で 言 っ て い る と 見 ら れ る も の は 、 ︹五 十 八 ︺ で 述 べ る 金 春 禅 鳳 の ﹃毛 端
私 珍 抄 ﹄ が あ る 。 前 項 に 引 い た 富 士 谷 成 章 は 、 ﹃あ ゆ ひ 抄 ﹄ の中 で ︽四 声 ︾ を
﹁ゆ き ご ゑ ﹂ ﹁か へ り ご ゑ ﹂ ﹁た ちご ゑ ﹂ と 言 い 直 し て 、 そ の 術 語 で 日 本 語 を 観
﹁声 ﹂ と いう 術 語 は 、 ︽ア ク セ ン ト ︾ を 意 味 す る と 同 時 に 、 ︹五 十 七 ︺ で 述 べ る ア ク セ ン ト 記 号
に 、 平 声・ 上 声 ・去 声 を そ れ ぞ れ 察 し て いる。 な お ﹁声 点 ﹂ を も 意 味 し た よ う で あ る 。
今 案 に ﹁さ ほ 姫 ﹂ は ﹁佐 保
山 ﹂ の 神 よ り 事 お こ り て、 ﹁さ ほ 山 の 霞 ﹂ を 詠 歌 等 に よ せ て、 春 を 染 神 と 云歟 。 然
者 ﹁さ ほ ど の﹂ ﹁さ ほ 山﹂ ﹁ さ ほ 川 ﹂ 皆 ﹁棹﹂ の声 な り 。 平 声 に 可 詠 也 。
五 条 三 位 入 道 は な に と は 不レ知 、只 、 ﹁さ ほ 姫 ﹂ と 上 声 に 申 付 け た り と 云 々 ⋮ ⋮
﹁鹿 火 屋 ﹂ な ら ば ﹁鹿 ﹂ の部 分 が 平 声 で あ る か ら 、 は っき り 区 別 す べき であ る 。
判 者 の藤原 俊 成は 、 ﹁ 鹿 火 屋﹂ と ﹁ 蚊 火 屋 ﹂ をご っち ゃ に 扱 って いる が 、 ﹁蚊 文 屋 ﹂ な ら ば ﹁ 蚊 ﹂ の部 分 が 上 声 で 、
と い う 趣 旨 と 解 さ れ る 。 顕 昭 は ア ク セ ント に つ い て 一家 言 の あ った 人 で 、 こ れ ら の こ と に つ い て は、 秋 永 一枝 氏 の
と 述 べ て い る 。 こ の条 は 、
ば いか が さ し 侍 る べき 。 ﹁蚊 ﹂ な ら ば 上 声 な り 、 ﹁鹿 ﹂ な ら ば 平 声 な り 。 ⋮ ⋮
判 者 は ﹁蚊 火 ﹂ と ﹁鹿 火 ﹂ と 被 二相 兼 一 た り。 ( 中 略 ) 如 二判 者 の 儀 一 ﹁蚊 ﹂ と ﹁鹿 ﹂ と 相 兼 ね ば 、 ﹁か ひ や ﹂ の 声 を
顕 昭 は さ ら に ﹃六 百 番 陳 状 ﹄ ( ﹃ 群 書 類 従 ﹄ 巻 二 二七 所 収 ) の 中 で ﹁か ひ や ﹂ と い う 語 句 に 関 し て、
価 を も って いる こ と 、 を 示 し て い る と 解 さ れ る 。
が で き る 。 す な わ ち 、 こ れ は ﹁佐 保 殿 ﹂ ﹁ 佐 保 山 ﹂ ﹁佐 保 川 ﹂ の ﹁さ ほ ﹂ の部 分 な ら び に ﹁棹﹂ と いう 単 語 は 平 声 の 調
と 結 ん で い る 。 こ のあ た り の 術 語 の使 い方 は 、 ﹁四 声 ﹂ と いう 術 語 で 国 語 の ア ク セ ント を 記 述 し た 文 献 に 数 え る こ と
と 述 べ て 、 次 に 、 前 項 に 述 べ た ﹁声 と 義 と の相 違 常 事 也 云 々﹂ の論 を 展 開 し 、
顕 昭 は ﹃ 袖 中抄 ﹄ の ﹁ さ ほひめ ﹂ の条 で、
であ る
此声
﹁顕 昭 の声 点 本 に つ い て ﹂( 31)と いう 論 考 を 参 照 さ れ た い。 清 原 宣 賢 の ﹃日本 書 紀 神 代 抄 ﹄ ( 宮 内庁 蔵 ) のも の は 、 仮 令 大 和 ノ 国 、 此 声 、 ヤ マト ウ タ ノ 声 也 。 大 和 瓜 ヤ マ ト フ ミ ト 云 声 ハ山 戸 、 山 止 ノ 義 也 。
ヤ マト フ ミ ノ 声 也 。 ヤ マト 歌 ト 云 声 ハ、 山 跡 ノ 義 也 。
﹃ 古 今 和 歌 集 ﹄ の聞 書 き に ﹃延 五 記 ﹄ と い
と あ る の が そ れ で 、 こ の本 で は ﹁声 ﹂ の 字 に シ ヤ ウ と 振 仮 名 が つ い て い る の で 、 こ れ に よ って ﹃ 袖 中 抄﹄ 以 下 のも の も シ ヤ ウ と 読 む も のと 考 え ら れ る 。 ま た 、 秋 永 一枝 氏 に よ って 紹 介 さ れ た
あ ひ 見 ね ハこ ひ こ そ ま さ れ ⋮ ⋮ 何 ニ フ カ メ テ コヒ コ ソ マ サ レ 此 声 ハ法 界 ノ 恋 ナ ラ ハ コヒ コ ソ ト ヨ ムヘ ケ レ ト
う も の が あ る が 、 こ こ に は 同 歌 集 の七 六〇 番 の 歌 に 注 し て 、
︹ 五 十七︺ でま た触 れ る。
モ我 身 上 ノ 心 ナ レ ハ別 ノ 声 ニ ヨ メ リ と あ る と いう 。( 32)こ の本 に つ い て は
﹃ 徒 然 草 ﹄ の 第 一四 一段 に は 、 悲 田 院堯 蓮 上 人 と い う 人 の こ と ば つき を 形 容 し て 、 この聖、 声う ち ゆが み⋮ ⋮
と あ る が 、 こ の ﹁し や う ﹂ も 塚 本 哲 三 氏 が ﹃ 徒 然 草 解 釈 ﹄( 33)で 述 べ ら れ た よ う に ア ク セ ン ト を 意 味 す る も のと 思 わ
﹁こ ゑ ﹂ と 言 った 例 と し て は 、 ﹃ 毛 端 私 珍 抄 ﹄ の も の が あ る が 、 こ れ は ︹五 十 八 ︺ に 紹 介 す る 。 ほ か
れ る 。堯 蓮 上 人 と や ら は 東 国 の出 身 で 、 京 都 の 兼 好 法 師 か ら 見 れ ば 、 ア ク セ ント が 変 だ った の であ ろ う 。 アク セ ントを
に ﹃平 家 物 語 ﹄ の ﹁実 盛 最 期 ﹂ の 章 に 、 手塚 光 盛 が 木 曽 義 仲 に向 か い、 組 打 ち の 相 手 斎 藤 実 盛 を 批 評 し て 、 こゑは 坂東 声 で候 ひ つる。
と 言 って い る 箇 所 が あ る 。 こ れ も 、 ﹁ア ク セ ン ト は 関 東 ア ク セ ン ト で し た ﹂ の 意 味 と 解 さ れ る 。
な お ﹁声 ﹂ と いう 術 語 を ア ク セ ント 記 号 、 つま り ﹁声 点 ﹂ の意 味 に 用 いた 例 と し て は 、 顕 昭 の ﹃ 古 今 集序 注﹄ の 奥書 き に、
文 治 二 年 正 月 廿 四 日 依 二重 仰 一 差レ 声 加 レ点 了 。 建 久 二 年 九 月 五 日 重 下 賜 加 レ点 差 レ 声訖 。 顕 昭
番 陳 状 ﹄ の 例 も そ う だ った 。 源 素 寂 の ﹃紫 明 抄 ﹄ ( 内 閣 文 庫本 ) の 巻 二 に は 、
(=藤 原 定 家 ) も 冷 泉 為 家 大
と あ る 、 こ の ﹁声 ﹂ を あ げ る こ と が で き る 。 ﹁差 レ声 ﹂ と は 、 ア ク セ ント 記 号 を つけ る 意 味 と 解 せ ら れ る 。 先 の ﹃六 百
五 条 の 三 位 殿 俊 成 卿 に故 光 行 申 あ は せ て 句 を き り 声 を さ し て 候 ひき 。 京 極 中 納 言 殿 納 言 殿 も よ も 難 ぜ さ せ候 は じ 。
と あ る と いう 。( 34)こ の ﹁声 を さ し ﹂ も 同 様 に 解 さ れ る 。 な お 、 こ の ﹁声 ﹂ と い う 字 は 、 文 献 に よ って は 、 ﹁性 ﹂ と い
(=単 点 ) ハ清 也 、 二 指
(=双 点 ) 者 濁 也 。
う 漢 字 、 ﹁正 ﹂ と い う 漢 字 で 代 用 さ れ て いる こ と が あ る 。 ﹃文 字 反 ﹄ と いう 反 音 の こ と を 書 い た 鎌 倉 時 代 の 文 献 に、 指 レ性 時 、 一指
一切 の文 字
(=チ ガ ッテ モ) 節 よ け れ ば く る し か ら ず 。
(=自 立 語 ) は 、 正 が 違 へば訛 る 也 。 ( 中 略 ) て に は の字 の 正 は 、 云 流 す 言 葉 の 吟 のな び き に よ り 、
と あ り 、 世 阿 弥 の ﹃花 鏡 ﹄ の ﹁音 習 道 之 事 ﹂ の章 に、
正 が 少 し 違 へど も と あ る の は 、 そ の例 と 見 ら れ る。
︹五 十 五 ︺ 第 三 種 の 文 献 、 具 体 的 高 低 の 記 述
︹五 十 三 ︺ ︹五 十 四 ︺ に 述 べ た 文 献 と 並 ん で 国 語 の ア ク セ ン ト を 記 述 し た 文 献 と し て 扱 わ れ る も の に は 、 一 つ 一
つ の語 に つ いて 、 こ の 語 は ど こ が 高 いと か 、 ど こ が 低 いと か いう こ とを 具 体 的 に 述 べた 文 献 があ げ ら れ る はず で
あ る 。 ち ょ っと 考 え る と 、 そ う い う 種 類 の 文 献 は 、 ア ク セ ン ト を 記 述 し た 文 献 の 中 で も 代 表 的 な も の で 、 ご く 普
通 に あ ってよ さ そ う な も の であ る が 、 実 際 に は 驚 く べく 少 な く 、 こと に 純 粋 な も のは な いと 言 っても よ い こ と は 注 意 す べき で あ る 。
勿 論 、 ど こ か 高 いと か 低 いと か 、 上 ると か 下 ると か 言 って いる 文 献 も 皆 無 で は な い が、 そ れ は 多 く は 中 国 語 の
平 上 去 入 を そ う 説 明 し 、 そ の 例 と し て 日 本 語 の 単 語 を 引 き 合 い に 出 し て い る も の で あ る 。 前 に 、 ︹五 十 二 ︺ に 掲
げ た 契 沖 の ﹃和 字 正 濫 抄 ﹄ も そ う で あ った が 、 本 居 宣 長 の ﹃漢 字 三 音 考 ﹄、 伊 勢 貞 丈
( 正徳 五︲ 天 明 四) の
﹃ 安 斎随
筆 ﹄ な ど 、 いず れ も そ の 例 で あ る 。 こ れ ら の 中 に あ っ て 、 次 の 文 雄 の ﹃和 字 大 観 抄 ﹄ の 一節 な ど は 、 四 声 に あ て
﹁端 ﹂ (は し ) と い ふ は 、 何 の く せ も な く 平 ら か に 和 ぎ 出づ る 声 な り 。 是 を 平
( 中 略 ) ﹁箸 ﹂ と い ふ 類 に て 、
( 声 ) と 云 ふ 。 ﹁橋 ﹂ と い ふ は
て いる個 所 を 取 り 去 っても 意 味 が通 じ る 点 で、 ま ず こ の種 の文 献 の代 表 と 言 う こと が で き る 。
声 強 く 、 は げ し き 故 に 、 ひづ み て の ぼ る な り 。 是 を 上 声 と 云 ふ 。 (中 略 ) 去 は い よ い よ 声 ひづ み て 過 ぎ 去 り 遠 ざ か る や う な る を 、 去 声 と い ふ な り 。 ⋮⋮
この記述は、 ︹ 五 十 二 ︺ に紹 介 し た 契 沖 の記 述 と の間 に 矛 盾 が あ る こ と を 気 付 か れ た 読 者 があ る で あ ろう 。 文 雄 は 四 声 に 関 し て 、 契 沖 と は ち が う 考 え を も って い た よ う で あ る 。 ﹃ 漢 字 三 音 考 ﹄ の中 のも のは 、 次 のよ う であ る 。
(=日 本 ) ニ テ 四 声 ト 云 フ ハ、 ( 中 略 )其 声 ノ 形 状 ニ ツキ テ 、 平 ラ カ ナ ル ヲ 平 、 昇 ル ヲ上 、 降 ル ヲ 去 ト
次 に宣 長 の 此方
﹁ 樋 ﹂ ハ去 声 、 ﹁火 箸 ﹂ ト 云 ト キ ノ
﹁火 ﹂ ハ上 声 ト ナ リ 、 ﹁山 ﹂ ハ
心 得 タ ル 故ニ 、 其 実 ヲ 失 ハ ザ ル 也 。 ( 中 略 ) ﹁日 ﹂ ハ 平 声 、 ﹁樋 ﹂ ハ上 声 、 ﹁火 ﹂ ハ去 声 ナ ル ヲ 、 ﹁日 影 ﹂ ト 云 ト キ ノ ﹁日 ﹂ ハ上 声 、 ﹁掛 樋 ﹂ ト 云 ト キ ノ
平 声 ナ ル ヲ 、 ﹁山 風 ﹂ ﹁山 松 ﹂ ナ ド ト 云 ト キ ハ去 声 ト ナ リ 、 ﹁東 山 ﹂ ﹁西 山 ﹂ ナ ド 云 ト キ ハ上 声 ニ ナ リ 、 ﹁宇 治 ﹂
ハ去 声 ナ ル ヲ 、 ﹁宇 治 川 ﹂ ト イ ヘ バ 上 声 、 ﹁宇 治 橋 ﹂ ト イ ヘ バ 平 声 ニナ ル 如 ク 、 何 レ ノ 言 モ 皆 其 声 転 ズ ル ヲ 、 若 シ本 音 ノ マ マ呼 ブ ト キ ハ、 其 義 異 也 。( ﹁四声 の事 ﹂ の条 )
ま た 、 伊 勢 貞 丈 の ﹃安 斎 随 筆 ﹄ の 中 の も の は 、 次 の よ う で 、 こ れ は 関 東 ・関 西 の ア ク セ ン ト の ち が い を 述 べ て い る点 で お も し ろ い。
﹁花 ﹂ を ハナ と 云 ふ は 去 声 な り 。 ナ の 音 下 り て 弱 し 。 関 東 の 人 の 詞 に は
和 語 四 声 は 、 五 畿 内 の 人 の 詞 に ﹁月 ﹂ を ツキ と 云 ふ は 去 声 な り 。 キ の 音 下 り て 弱 し 。 関 東 の 人 の 詞 に は 上 声 な り 。 キ の音 上 り て 強 し 。 畿 内 の 人
上 声 な り 。 ナ の 音 上 り て 強 し 。( ﹁音 の四 声 ﹂ の条 )
な お こ の 種 の 文 献 の 一例 と し て 、 ︹五 十 八 ︺ に 述 べ る る。
﹃補 忘 記 ﹄ に 見 え る 次 の よ う な 記 述 も あ げ る こ と が で き
山 山 ノ 字 一字 訓 ニ云 時 ハ マ ノ 仮 名 卑 シ 。 西 山 東 山 等 ト 連 ナ ル 時 ハ マ ノ 仮 名 モ 高 シ
す な わ ち 、 ﹁山 ﹂ と いう 語 は 、 単 独 で は ● ○ 型 、 ﹁西 山 ﹂ と 言 う 場 合 は ● ● ● ● 型 、 ﹁東 山 ﹂ の と き は ● ● ● ●
高 低 と い う 術 語 で ア ク セ ント を 記 述 し た 文 献 が 少 な い の は 、 音 の 振 動 数 の 多 寡 を 他 の術 語 で 形 容 す る 風 も あ った こ
● 型 だ 、 と いう こ と を 言 って いる も の と 解 さ れ る。
と に よ る も の で 、 こ れ に つ い て は ︹六 十 ︺ に 述 べ る 。 こ こ に 注 意 す べき は 、 四 声 と いう も の の記 述 が、 文 雄 ・宣 長 ・
貞 丈 で 三 人 三 様 の観 を 呈 し て い る こと で、 こ の三 つ の 説 の中 で、 宣 長 の も の は 、 契 沖 の 四 声 観 を 受 け 継 ぐ も の で こ れ が 伝 統 的 の も の で あ った 。 す な わ ち 、
平 声= 低 平 調 、 た だ し そ の 一種 の 軽 平 声 は 下 降 調 、 上 声=高 平 調 、 去 声= 上 昇 調
と いう 内 容 で あ る が 、 平 声 は 平 ら な 声 と 言 い な が ら 、 下 降 調 の ﹁日 ﹂ や ﹁山 ﹂ を も っ て き た のは ま ず か った 。 こ れ は
軽 平 声 す な わ ち 東 声 で 、 普 通 の平 声 で は な か った も のを 混 同 し た も のと 見 ら れ る 。 こ の混 同 は ︹五 十 二 ︺ に 引 いた 契
沖 に す で に 起 こ って い て 、 平 声 は ﹁声 の本 来 上 ら ず 下 ら ず ﹂ と 言 っ て い て 、 ﹁日﹂ や ﹁橋 ﹂ を 出 し て い る 。 宣 長 は そ
の 例 に な ら った も の で 、 ﹁降 る を 去 と 心 得 て ﹂ い る と こ ろ な ど も 、 正 し く な か った 。
文 雄 のも の は 、 当 時 の 新 派 で、 前 々 項 に 述 べた 富 士 谷 成 章 のも の は 文 雄 の 系 統 を 引 く も の で あ る 。 伊 勢 貞 丈 は 第 二 の 新 派 で あ った 。 そ のち が いを 表 示 す れ ば 、 次 の ︹ 付 表 20︺ の よ う で あ る 。
で あ る のは 、 兄 の皆 川淇 園 を 通 じ て当 時 の 中 国 音 を 勉 強 し て いた の で あ ろ う か 。
文 雄 は 当 時 の 中 国 の杭 州 方 言 の 四 声 を 研 究 し 、 そ れ を 日本 語 に あ て は め た も の と 思 わ れ る 。 成 章 が文 雄 と 同 じ 考 え
貞 丈 のも の は 、 上 声 ・去 声 と いう 文 字 の 意 味 を 頭 で考 え 、 上 声 は 上 る 声 ⋮ ⋮ と 解 し た も の で 、 恐 ら く 平 声 は 平 ら な
声 と 考 え て いた に ち が いな い。 こ れ は 一番 当 た って い そ う に 見 え る が 、 実 は 一番 拠 り 所 も 伝 統 も な い 見 方 で あ った 。
︹付 表 20 ︺
し か し 、 こ の三 派 の中 で、 最 後 に優 位 に 立 った の は 、 伝 統 を も た な い伊 勢 貞 丈 式 の解 釈 であ った 。 例 え ば 、 明 治 以
後 の 国 語 学 者 ・漢 学 者 は 、 大 体 そ う い う 考 え を も っ て い た こ と は 、 山 田 孝 雄 氏 の ﹃ 古 事 記 概 説 ﹄( 35) 、塩谷温氏 の
﹃作 詩 便 覧 ﹄( 36)な ど で う か が う こ と が で き る 。井 上 奥 本 翁 も こ の 考 え に 引 き ず ら れ た 。( 3 7) 有 坂 秀 世 氏 は 、 ﹃語 勢 沿
革 研 究 ﹄( 38)で 、 日 本 語 の ア ク セ ント 史 の研 究 を 志 し な が ら 、 契 沖 や 宣 長 の 取 り 扱 っ て い る ア ク セ ント が 、 上 方 の ア
ク セ ント で あ る よ り も 、 江 戸 の ア ク セ ン ト の よ う に 解 さ れ 、 結 局 扱 い か ね た の は 、 こ れ も ま た 、 伊 勢 貞 丈 流 の 考 え 方 に 災 いさ れ た も の だ った 。 こ の 中 に あ って 珍 し い例 は 、 柳 田 国 男 氏 が ﹃地 名 の 研 究 ﹄( 39) の中 で 、
木 曽 の福 島 は フク ジ マと 濁 って 上 声 に 云 ふ べ き で あ る が 、 今 日 は 岩 代 の 福 島 な ど と 同 じ に な って し ま った 。
と 言 って いる こ と で あ る 。 こ れ は 、 ﹁福 ﹂ の部 分 が 今 は 下降 型 の 平 声 に な っ て し ま った こ と を 意 味 し て い る と 見 ら れ
る 。 こ れ は 契 沖 ・宣 長 の伝 統 を 引 く も の で あ る 。 ま こ と に 敬 重 す べ き で あ る が 、 ど こ か ら 学 ば れ た も の で あ ろ う か 。 な お 、 最 後 に 触 れ た ﹃補 忘 記 ﹄ は 別 の 箇 所 で 次 の よ う な こ と を 述 べ て いる 。 平 仁 波 楚 天 佐 須 毛 奈 礼 利 は 皆 高 シ乃 登 不 津 倶 知 機 ハ卑 キ 仮 名 ナ リ
﹁に ﹂ ﹁は ﹂ の 類 が 高 い助 詞 、 ﹁の ﹂ ﹁と ﹂ ⋮ ⋮ の 類 が 低 い助 詞 と いう こ と を 示 す よ り も 、 ﹁を ﹂ ﹁に ﹂ ﹁は ﹂ ⋮ ⋮ の 類 は
こ れ は 、 テ ニ ヲ ハ の類 が 自 立 語 に つ く 場 合 の ア ク セ ン ト を 示 す 言 葉 で あ る が 、 こ れ は や か ま し く 言 う と 、 ﹁を ﹂
上 声 の拍 と 同 じ 性 格 の ア ク セ ント を も つ助 詞 、 ﹁の﹂ ﹁と ﹂ ⋮ ⋮ の 類 は 平 声 の拍 と 同 じ 性 格 の ア ク セ ント を も つ助 詞 で あ る こと を 述 べ た も の と 解 す る 方 が い い。
︹五 十 六 ︺ 第 四 種 の 文 献 、 平 上 去 の 文 字 の 註 記
以 上 、 ︹五 十 三 ︺ ︹五 十 四 ︺ ︹五 十 五 ︺ に 述 べ た も の は 、 国 語 の ア ク セ ン ト を 記 述 し た 文 献 と い う べ き も の で あ る が、 次 に 国 語 のア ク セ ント を 註 記 し た と 言 う べき 文 献 に つ いて 述 べる 。
﹁去 ﹂ と い う 文 字 を 註 記 し た の が こ の 例 で あ る 。 こ れ ら は 、 ウ ヒ ヂ ニ ノ
そ の第 一は 、 ﹁平 ﹂ ﹁上 ﹂ ﹁去 ﹂ ﹁入 ﹂ と い う 文 字 を 本 文 の 文 字 の 下 ま た は わ き に 註 記 し た も の で 、 ﹃古 事 記 ﹄ に 、
﹁上 ﹂ ま た は
宇 比 地邇上 神 須 比 智邇 去神 のよ う に 万 葉 仮 名 の所 々 に
カ ミ のニ の 拍 が 上 声 の 調 価 を も ち 、 ス ヒ ヂ ニ ノ カ ミ のニ の 拍 が 去 声 の 調 価 を も っ て い た こ と を 表 わ す も の と 解 さ
︹五 十 五 ︺ に あ げ た
﹃和 字 大 観 抄 ﹄ (下 巻 ) の 巻 末 の 付 録 に ﹁か な 合
﹃あ
れ 、 こ れ ま た 、 日 本 語 の ア ク セ ン ト 史 の 資 料 と 見 ら れ る 。 な お 、 ﹃古 事 記 ﹄ の こ の 例 は 、 日 本 語 の ア ク セ ン ト に 関す る 最 古 の記 載 と し て 注 目 さ れ て い る。
ゆ ひ 抄 ﹄ の 一部 な ど が あ る 。 ま た 、 こ れ も
四 声 を 註 記 し た 文 献 と し て は 、 ほ か に 先 に 名 を あ げ た 契 沖 の ﹃和 字 正 濫 通 妨 抄 ﹄ の 一部 や 、 富 士 谷 成 章 の
字 ﹂ と い う も の が 出 て い る が 、 文 雄 は 四 声 の 一 つ 一つ を 傍 線 で 表 わ す 方 式 を 考 え て 、
のよ う な 方 法 を 案 出 し て いる 。 巻 頭 写 真 (8 ) を 参 照 。 こ れ も 四声 を 註 記 し た も の に 準 じ て考 え てよ い であ ろう 。
﹃ 古 事 記 ﹄ の ア ク セ ント の 記 載 は 年 代 の古 いも の と し て 重 要 で あ る が 、 語 彙 が 少 な く て 三 十 二 し か な く 、 ま た 後 世 の
も のと 比 較 し に く いよ う な 神 名 な ど に 付 け ら れ た も の が 大 部 分 で あ る こ と は 残 念 であ る 。 こ と に 三 十 二 例 のう ち 三 十
一例 ま で が 上 声 の註 記 で 、 去 声 は 右 の ス ヒ ヂ ニ ノ カ ミ 一例 であ る こ と も 資 料 と し て の価 値 を 弱 め る 。 現 在 のと こ ろ 、
こ の資 料 を 取 り 扱 った 論 考 と し て は 、 和 田 実 氏 の ﹁古 事 記 の 声 の注 ﹂( 40)が す ぐ れ て お り 、 桜 井 茂 治 氏 の ﹁古 事 記 四
﹃ 国 語 史 学 基 礎 論 ﹄( 43)と いう 、 も っぱ ら こ の 問 題 を 扱 った 大 が か り の考 察 が あ る 。
声 注 記 私 見 ﹂( 41) 、 石塚 晴 通 氏 の ﹁古 事 記 に 於 け る □ 上 □ 去の表 記 ﹂( 42) の論 考 も 一読 に 値 す る 。 小 松 英 雄 氏 に は 、 最 近
契 沖 の ﹃和 字 正 濫 通 妨 抄 ﹄ の 一部 と は 、 一拍 名 詞 に つ いて 平 上 去 の 三 声 を 注 記 し て い る 箇 所 で 、 そ の最 初 の 部 分 を
(﹃ 契 沖 全集 ﹄ 巻 七 のべ ー ジ二 一三 )
引 け ば 次 の よ う であ る 。 な お こ の本 の中 に は 、 四声 と いう 術 語 を 用 い て 国 語 の ア ク セ ン ト を 記 述 し た 部 分 も は な は だ 多 い △ い 胆 射 並上声 △ろ 艫 上 △ は 歯 葉 羽翳 共平声 △ 端 上半 上半 去双六場 去 ⋮⋮
﹃和 字 大 観 抄 ﹄ の か な 合 字 は 、 左 側 の線 は 上 声 を 表 わ し 、 右 側 の線 は 去 声 を 表 わ し 、 側 線 のな いも の は 平 声 を 表 わ す
と いう 。 文 雄 は こ の 方 法 に よ り ﹁い ろ は 歌 ﹂ と ﹁ 古 今 集 序 ﹂ に アク セ ン ト を 註 記 し て い る が 、 こ れ に つ い て は 、 稲 垣 正 幸 氏 の考 察 が 一部 公 表 さ れ て いる 。( 44)
︽声 点 ︾ と いう 小 さ な 圏 点 ・朱 点 ・墨 点 、 ま た は 短 線 を 施 し た 文 献 を あ げ る こ と
︹五 十 七 ︺ 第 五 種 の 文 献 、 声 点 の 註 記 次 に、文字 の肩や裾な どに
が で き る 。 声 点 は そ の文 字 の四 声 を 示 す 点 で 、 これ を 付 け る こ と を ﹁差 す ﹂ と いう が 、 上
図 のご と く 、 も し 、 文 字 の左 裾 に差 し てあ れ ば そ の 文 字 は 平 声 に 、 左 肩 に 差 し て あ れ ば そ
の 文 字 は 上声 に 、 右 肩 に差 し てあ れ ば そ の 文 字 は 去 声 に 、 右 裾 に 差 し て あ れ ば そ の文 字 は
入声 に 発 音 す べき こと を 意 味 す る。 文 献 に よ って は稀 に 左 中 位 の少 し 下 った と こ ろ に差 す
こ と が あ り 、 こ れ は 平 声 の 一種 で 軽 平 声 、 す な わ ち 東声 を 表 わす 。 ま た右 中 位 の 少 し 下 っ
た と ころ に差 す こと も あ り 、 も し あ れ ば 、 入 声 の 軽 声 、 す な わ ち 徳 声 に 発 音 す べき こと を 意 味 す る。 す な わ ち 、
声 点 を 施 す こ と は 、 そ の文 字 の四 声 を 記 す こと にな り 、 こ の意 味 か ら 、 こ の種 の註 記 のあ る も の は、 前 項 にあ げ
た 四 声 の 註 記 を し た 文 献 と 全 く 同 様 に、 ア ク セ ント を 記 載 し た 文 献 と 見 る こ と が で き る わ け であ る。 ﹃類 聚 名 義
抄 ﹄ ﹃日 本 書 紀 ﹄ の古 写 本 、 例 え ば ﹃岩 崎 家 本 ・推 古 紀 ﹄ ﹃ 前 田 家 本 ・仁 徳 紀 ﹄ な ど 、 ﹃古 今 和 歌 集 ﹄ の古 写 本 、
例 え ば ﹃高 松 宮 家 嘉 禄 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ な ど は 、 代 表 的 な こ の 種 の文 献 で 、 例 え ば 次 のよ う な 例 が 見 出 だ さ れ る 。
勢 曽ゝ 久
ヒヽ ル フ カ シ
● ○ の点 は いず れ も 朱 点 で、 上 声 点 と平 声 点 が 多 い。 沖 湍
ヲ ム ナ
激 迅 トクト シ ( 以 上 、 ﹃図書 寮 本 ・類聚 名 義 抄﹄ ペー ジ 一五) 女
モ シ ム カ シ サ キ ユク タ ト ヒ ニタ リ 禾 ニ ヨ ( 以 上 、 ﹃観智 院 本 ・類 聚 名義 抄 ﹄ 仏中 巻 ペー ジ六 )
ナ ム チ ヲ ム ナ コ メ ア ハ爪
如
( 以上 、 ﹃ 高 松宮 家 嘉 禄 本 ・古 今 和 歌集 ﹄)
( 以上 ﹃ 岩崎本 ・皇極紀﹄)
や ま と う た は ⋮ ⋮ ⋮ ⋮ し た て る ひ め に ⋮ ⋮ す な ほ に し て ⋮ ⋮ そ へう た か そ へう た な す ら へう た た た こと う た
伊 波 能 杯〓 古 佐 屡 渠 梅 野 倶 渠 梅 多〓 母 多礙 底 騰〓〓 栖 歌 麻 之 々能烏膩
右 の例 では 、 位 置 が は っき り し て いな い が、 ﹃皇 極 紀 ﹄ の歌 謡 の第 三 句 の ﹁母 ﹂ の 字 、 第 四 句 の ﹁栖 ﹂ の字 の
点 は 裾 か ら や や 上 に 差 さ れ お り 、 東 声 を 表 わ す 。 こ の種 の声 点 を 差 し た 文 献 の数 は、 き わ め て 多 く 、 いや し く も ア ク セ ント を 記載 し た 全 文 献 のう ち の恐 ら く 半 数 以 上 を 占 め る。
ま ず 、 右 にあ げ た 文 献 以 外 に 、 ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ と 同 類 の辞 書 と し て は 、 著 者 未 詳 の ﹃世 尊 寺 本 字 鏡 ﹄、 橘 忠 兼 の
﹃ 色 葉 字 類 抄 ﹄、 百 科 辞 書 と し て は 、 時 代 は 先 立 つが 源 順 の ﹃和 名 類 聚 抄 ﹄ の古 写 本 があ る。 さ ら に 、 仏 教 辞 書
で これ ら と 似 た 体 裁 を な す も のに 、 ﹃金 光 明最 勝 王 経 音義 ﹄ ﹃法 華 経 単 字 ﹄ な ど が あ り、 特 殊 な 辞 書 と し て ﹃香 字
抄 ﹄ の よ う な も の や 、 は る か 時 代 がく だ る が洞 院 実 煕 の有 職 故 実 の辞 書 ﹃名 目 抄 ﹄ も こ の種 の文 献 で あ る。
﹃日本 書 紀 ﹄ のよ う な 体 裁 を な す 文 献 と し て は、 ﹃古 事 記 ﹄ の古 写 本 、 ﹃万 葉 集 ﹄ の古 写 本 、 ﹃延 喜 式 ﹄ の古 写 本
があ り、 な お 、 漢 籍 に 訓 点 を 施 し た、 いわ ゆ る 訓 点 本 の 類 にお び た だ し い文 献 が あ る こ と が 報 告 さ れ て いる 。
﹃古 今 和 歌 集 ﹄ に 似 た 体 裁 の文 献 と し て ﹃拾 遣 和 歌 集 ﹄ の古 写 本 、 ﹃伊 勢 物 語 ﹄ の古 写 本 、 ﹃土 佐 日 記 ﹄ の古 写 本 、
﹃源 氏 物 語 ﹄ の古 写 本 、 な ど があ り 、 さ ら に 藤 原 顕 昭 の ﹃古 今 集 注 ﹄、 渡 来 延 明 の ﹃古 今 訓 点 抄 ﹄ 等 のよ う な 、 こ れ ら の作 品 の注 釈 書 や 聞 書 き の類 に も 、 声 点 を 差 し た 文 献 が 少 な く な い。
室 町朝 に
そ の他 、 ﹃山槐 記 ﹄ の よ う な 貴 族 の 日誌 、 ﹃ 延 慶 本 ・平 家 物 語 ﹄ の よ う な 戦 記 物 語 の古 写 本 に も 声 点 を 差 し た
も の が あ り 、 鎌倉 時 代 の片 仮 名 書 き 資 料 にも 、 相 当 量 の 資 料 が あ る よ う であ る 。 す な わ ち 、 平 安 朝︱ 著 述 ・書 写 さ れ た 、 非 常 に 多 く の 文 献 に声 点 が 見 え る と 言 って よ い。
そ し て 、 特 に こ れ ら の 文 献 の中 で 、 ﹃ 観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ ( 十 巻 )は 、 二 拍 名 詞 だ け でも 、 約 七 百 語 に つ い
て ア ク セ ント を 註 記 し て お り 、 収 容 語彙 の豊 富 な 点 で、 断 然 他 の文 献 の上 に 卓 越 し て いる 。 そ の こと か ら 、 こ の
書 、 お よ び同 類 の辞 書 が 出 た 院 政 時代 は 、 日本 語 の 一千 年 の歴 史 を 通 じ て、 最 も 詳 し く アク セ ント の考 察 を 進 め う る 時代 と 見 ら れ てき た。 口絵 写 真 (1 を) 参 照。
声 点 の起 源 ・発達 に ついては 、早 く吉 沢 義 則氏 に ﹁濁 点 源流 考﹂( 45)と いう労 作 が あ り、橋 本 進吉 氏 ( 46)・春 日政 治氏 ( 47)にも発 表 があ るが、 最 近 では築島 裕氏 の ﹁濁点 の起源 ﹂( 48)が詳密 であ る。
これら に よると 、ま ず そ の起 源 は中 国に あり 、 日本 には平 安朝 中期 に渡 来 したも の のよう であ る。 日本 で声点 を表
記し た最 古 の文献 は、 宇多 天皇宸 翰 の ﹃ 周 易抄 ﹄ であ ると いう。 これ は紙 背 が寛 平 九 年 ( 八九七)の文 書 にな ってお
り 、 ほ ぼ そ の こ ろ の 成 立 だ ろ う と いう 。
築 島 氏 に よ れ ば 、 声 点 は は じ め 天 台 宗 の 僧 侶 の 間 で 、 陀 羅 尼 の文 字 や 、 梵 語 を 音 訳 し た 漢 字 に 対 し て 施 さ れ て お り 、
そ れ は 当 然 そ の 漢 字 の 音 の 四 声 を 示 す も の で あ った 。 と こ ろ が 、 大 東 急 記 念 文 庫 蔵 の ﹃金 剛 界 儀 軌 ﹄ と いう も の に 、
や は り 陀 羅 尼 の 中 で は あ る が 、 ﹁羯﹂ と いう 文 字 の 右 側 に振 り 仮 名 が あ る 。 そ れ に 対 し て 、 ケ ル の よ う に 、 ま た ﹁母 ﹂
と いう 字 に 対 し て 、 ホ と 声 点 が 差 し て あ り 、 こ れ が 、 仮 名 に 施 さ れ た は じ め だ ろ う と いう 。( 49) こ れ は 永 延 年 間 か 長
元 年 間 か の も の と の こ と で あ る 。 次 いで 、 ﹃建 立 曼荼 羅 護 摩 儀 軌 ﹄ (一〇 四〇 ) と いう も の の 中 に、 ﹁築 ﹂ と いう 文 字
の 訓 に ツイ テと いう 声 点 を 差 し た 例 が あ り 、 こ れ が 現 在 知 ら れ て いる 和 語 に 対 し て声 点 を 施 し た 確 実 な 最 古 の 例 で あ ると言 う。
こ う し て 、 平 安 末 期 ・院 政 時 代 に は 声 点 の 全 盛 時 代 を 迎 え 、 数 多 く の 和 語 に声 点 を 施 し た も のを 見 、 鎌 倉 時 代 に 持
ち 越 さ れ た 。 と こ ろ が 、 南 北 朝 時 代 に は いる と 、 ア ク セ ン ト の大 変 化 が あ った た め に 、 声 点 の意 味 が は っき り し な く
な って 混 乱 が 起 こ った 。 一方 声 点 は そ の発 生 後 ほ ど な く 、 拍 の清 濁 を 表 わ す 符 号 と 結 び 付 き 、 そ のた め に 一時 は 単 に
清 濁 を 示 し た いと き に も 、 つ い で に ア ク セ ン ト を 示 し て し ま う よ う な 場 合 も あ った が 、 鎌 倉 時 代 に は 、 清 濁 だ け を 表
わ す た め に 、 声 点 を 借 り る よ う に な り 、 そ の 位 置 のち が い に つ い て は 関 心 を 払 わ な く な っ て し ま った 。 そ う し て こ れ
が 右 肩 に 固 定 し て 、 今 の濁 点 の起 源 と な った 。 こ れ に よ って も ア ク セ ント の 註 記 は 衰 え た よ う であ る 。 な ぜ 右 肩 に 固
定 し た か に つ いて は 、 小 松 英 雄 氏 の ﹁声 点 の 分 布 と そ の機 能 ﹂(Ⅱ)( 50) に考 察 が あ る 。
﹃ 類 聚名 義抄 ﹄ ﹃ 古 今 集 ﹄ ﹃日本 書 紀 ﹄ の 例 は す べ て そ う で あ る 。 ま た 声 点 の形 に は ﹃日 本 書 紀 ﹄ の よ う な 圏 点
と こ ろ で 、 こ の声 点 の色 ・形 に つ い て述 べ る と 、 ま ず 、 声 点 は 墨 で 施 す こ と も あ る が 、 朱 で 施 す こ と が 多 い。 先 に あ げた
○ のも の、 ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ ﹃ 古 今 集 ﹄ の よ う な 星 点 ● のも の が あ り 、 さ ら に 、と いう 形 のも の、 時 に は 横 の短 線︱ の も
の も あ る。 最 も 早 い ﹃周易 抄 ﹄ のも の な ど は 圏 点 の も の で あ る が 、 上 野 精 一氏 蔵 の ﹃ 漢書楊雄伝﹄( 九四八)に な る
と 星 点 のも の が 最 も 普 通 に な った。、点 のも の は 多 く は無 造 作 に 付 け た も の で 、 横 の 短 線 のも の は 、 ﹃日 本 書 紀 ﹄ の 和 訓 のよ う な 、 狭 い場 所 に 多 く のも のを 施 し た 時 に 用 い ら れ て い る 。
つ の点 です ま せ る も の と が あ る 。 ﹃ 漢 書 楊 雄 伝 ﹄ な ど の も の は 後 者 で、 小 松 氏 に よ る と 、 こ の あ と の 様 式 の 方 が 古 式
ま た 、 声 点 の中 で 、 濁 音 を 表 わ す も の に は 、 そ の拍 に 二 つの 点 を 施 す も の と 、 濁 音 の 漢 字 を 用 い る こ と に よ って 一
ら し い。 や が て 十 世 紀 末 か 十 一世 紀 に 至 り 、 濁 音 を 表 わ す た め に〓 や〓 の よ う な 双 点 が 用 いら れ る に 至 った も の と 言 う。
し か し 声 点 に つ い て 最 も 注 意 す べ き こ と は 、 そ の位 置 で あ る 。 そ の 声 点 を 施 し た 人 が 、 四 声 体 系 を 頭 の 中 に 考 え て
いた か 、 六 声 体 系 を 頭 に持 って い た か に よ って点 の差 し 方 が 変 わ る わ け で あ る か ら 、 文 献 に 接 し た 場 合 、 わ れ わ れ は
ま ず そ の いず れ で あ る か を 考 え な け れ ば な ら な い。 六 声 体 系 を も って いれ ば 、 下 降 調 の 拍 は 、 東 声 の位 置 に 点 を 差 す
こ と が で き る が 、 四 声 体 系 を も った 人 の場 合 は 、 下降 調 の 拍 に 対 し て 一種 の平 声 と考 え て 、 平 声 の位 置 に 点 を 差 す か
も し れ な いし 、 あ る いは 上 声 に 音 調 が 近 い と 見 て 、 上 声 の 位 置 に差 す か も し れ な いと いう よ う な こ と があ る 。 先 に あ
げ た 文 献 の中 で ﹃図 書 寮 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ と ﹃日 本 書 紀 ﹄ の 声 点 は 、 東 声 軽 の 点 も あ り 、 六 声 体 系 の立 場 と 見 ら れ 、 ﹃観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ と ﹃古 今 集 ﹄ と の 声 点 は 四 声 体 系 の 立 場 と 見 ら れ る 。
な お 、 こ う いう 文 献 にな ぜ 声 点 が 施 さ れ る に 至 った か に つ い て は 、 小 松 英 雄 氏 に考 証 が あ り 、 古 辞 書 や 音 義 な ど に
施 さ れ る に 至 った の は 、 単 語 が 前 後 の 文 脈 な し に 表 記 さ れ る た め に、 そ の 意 味 を 正 確 に 示 す 必 要 か ら と いう 見 解 を 述 べて いる。
ま た 、 声 点 が そ う いう 文 献 で 特 に ど のよ う な 種 類 の語 句 に つ いて 施 さ れ た か に つ い て も 、 小 松 氏 に 考 察 が あ り 、 氏
は、 ﹃ 前 田 家 本 ・色 葉 字 類 抄 ﹄ の声 点 を 付 し た 和 訓 を 点 検 し た 結 果 、 同 音 異 義 語 を も つ語 句 に 、 著 し く 差 さ れ て い る
事 実 を 報 告 さ れ 、 ま た 、 ﹃観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ に お け る 用 例 を 点 検 し た 結 果 と し て は 、 そ の 和 訓 が し っか り し た
典 拠 を も った 訓 で あ る こと を 示 す た め と 、 そ の 語 句 に 濁 音 の 拍 が あ る 場 合 に そ れ が 濁 音 であ る こ と を 示 す た め に 、 機 械 的 に ア ク セ ント を も 示 し て し ま う 場 合 が あ る こ と を 指 摘 さ れ た 。
。
﹃ 類 聚 名 義 抄 ﹄ は 漢 字 辞 書 で、 著 者 、 成 立 年 代 と も に 不 明 で あ る 。 戦 前 ま で は 古 写 本 と し て ﹁観 智 院 本 ﹂ だ け が 知 ら
次 に こ の稿 に 掲 げ た 声 点 の施 さ れ た 文 献 に つ い て 一通 り の 解 説 を し て お け ば︱
﹁図 書 寮 本 ﹂ の よ う な 原 本 が 法 相 宗 の僧 侶 に よ っ て 作 ら れ た 、 そ れ を 改 編 し て 、 よ り
﹃ 類 聚 名 義 抄 の研 究 ﹄( 51)が あ った が 、 戦 後 は 中 田 祝 夫 氏 の ﹁類 聚 名 義 抄 使 用 者 の た め に ﹂
れ て いた が 、 戦 後 、 一見 は な は だ 異 な る、 清 水 谷 家 旧 蔵 の ﹁図 書 寮 本 ﹂ が 発 見 さ れ 、 そ の研 究 は 大 き く 飛 躍 し た 。 先 に岡 田希雄 氏 に詳 細な 研究 が 出 、( 52)こ れ に よ れ ば 、 ま ず
(一〇八 一) 以 後 、 一 一〇 〇 年 前 後 に 成 立
日 本 の 辞 書 化 し た も の が 、 ﹁観 智 院 本 ﹂ の 原 本 であ ろ う と いう こと に な った 。 ﹁図 書 寮 本 ﹂ は 、 ﹁法 ﹂ 巻 の前 半 の零 本 一冊 で 、 築 島 裕 氏 に よ れ ば 永 保 元 年
し た ろ う と 言 わ れ る 。( 53)個 々 の 和 訓 に は し ば し ば 万 葉 仮 名 も ま じ り 、 そ の 和 訓 に 出 典 名 が 詳 し く 註 記 し て あ る 点 に
特 色 が あ り 、 そ の和 訓 に き わ め て 精 確 に声 点 が 付 せ ら れ て い る 。 戦 前 、 こう いう 声 点 の 種 類 は 、 筆 者 が ﹁観 智 院 本 ﹂
を もと にし て平 上去 入 の四種 と考 え て ( 54)以 来 、 こ れ が定 説 に な っ て い た が 、 ︹八 ︺ に 述 べ た よ う に 小 松 英 雄 氏 が こ
の 本 で 東 声 点 を 発 見 し て 以 来 、 平 上 去 入 東 徳 の 六 声 の 点 が 施 さ れ て い る こ と が決 定 的 と な った 。 宮 内 庁 書 陵 部 か ら 複 製 本 が 出 て いる 。
﹁観 智 院 本 ﹂ は 、 仏 法 僧全 巻 の揃 って い る ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ 唯 一の 古 写 本 で、 中 田 氏 に よ れ ば 、 ﹁図 書 寮 本 ﹂ のよ う な
も の を 、 恐 ら く 真 言 宗 の 僧 侶 が 今 のよ う な 形 に 改 め た 、 そ れ を 仁 治 二 年 に 慈 念 が 写 し 、 さ ら に 建 長 三 年 に 顕 慶 が 写 し
た も のを 、 も う 一人 何 人 か が あ ま り 時 代 を 経 な い こ ろ 写 し た も のだ ろ う と 言 う 。 最 後 に 写 し た 人 は 、 無 造 作 な 人 で 、
っぱ な 資 料 で あ る 。 な お 中 田 氏 は 、 慈 念 と は 空 観 上 人 の 若 い時 の 名 で あ る こ と を 明 ら か に し 、 築 島 氏 は 、 治 承 二 年 ご
ま た 声 点 の 理 解 も 十 分 でな か った よ う で、 至 る と こ ろ に 声 点 の 乱 れ が 見 ら れ る が 、 し か し 豊 富 な 声 点 を 擁 す る点 で り
ろ ま で に 中 川 流 乃 至 高 野 山 に 関 係 のあ る 僧 侶 の 手 に 成 った ろ う と 見 た 。( 55)戦 前 、 貴 重 図 書 複 製 会 か ら 、 山 田 孝 雄 氏
の解 説 付 き で 複 製 本 が 出 た ほ か に 、 戦 後 、 風 間 書 房 か ら 漢 字 ・和 訓 の 索 引 と 、 中 田 祝 夫 氏 の解 説 付 き で 複 製 本 が 出 て 、 利 用 し や す く な った 。
﹃ 類 聚 名 義 抄 ﹄ の 古 写 本 と し て は 、 他 に ﹁高 山 寺 本 ﹂ が あ り 、 こ れ も 戦 後 思 い が け な く 、 姿 を 表 わ し て 天 理 図 書 館 に
収 ま った 。 ﹁ 観 智 院 本 ﹂ の よ う な 体 裁 の も の で、 鎌 倉 初 期 の 写 と 覚 し く 、 ﹁観 智 院 本 ﹂ の仏 上 巻 ・仏 中 巻 の 二 冊 に あ た
る 部 分 で 、 ﹁三 宝 類 字 集 ﹂ と 題 さ れ て いる 。 こ れ も ﹁観 智 院 本 ﹂ よ り は 声 点 の 位 置 が 正 確 で あ る 。 伴 信 友 が 筆 写 し た
本 が あ って 、 こ れ が 早 く 京 都 大 学 の ﹃ 国 語 国 文 ﹄ の別 刊 第 二 号 に渡 辺 実 氏 の解 説 を 添 え て 複 製 さ れ た 。 ま た 、 近 く 天 理 大 学 蔵 の 本 も 同 氏 の解 説 が 添 え ら れ て 天 理大 学 出 版 部 か ら 複 製 ・刊 行 さ れ た 。
さ ら に近 く は ﹁ 蓮 成 寺 本 ﹂ の 鎌 倉 末 期 の写 と 覚 し い写 本 が 、 尾 崎 知 光 氏 に よ り 、 桑 名 市 の 鎮 国 守 国 神 社 に あ る こ と
﹃ 観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ で仏 上 巻 ペ ー ジ一 に ﹁人 ﹂ 字 の 訓 ワ レ に 差 し た 声 点 が 平 平 型 で
が 発 見 さ れ 、 そ の複 製 本 が氏 の 解 説 付 き で 、 豊 橋 市 の 未 刊 国 文 資 料 刊 行 会 か ら 出 た 。 こ れ ま た ﹁観 智 院 本 ﹂ よ り は 声 点 は 正 し いよ う で、 例 え ば
あ る のは 、 他 の資 料 と の釣 合 い か ら 見 て 不 審 で あ った が 、 ﹁高 山 寺 本 ﹂ ﹁蓮 成 寺 本 ﹂ に は 平 上 型 に 註 記 し て あ る 。 こ れ は、 ﹁ 高 山寺 本 ﹂ ﹁ 蓮 成 寺 本 ﹂ に よ って 、 ﹁観 智 院 本 ﹂ の あ や ま り を 正 す一 例 で あ る 。
な お 、 ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ の和 訓 と そ の 出 典 に つ い て は 、 築 島 裕 氏 ( 56)・吉 田 金 彦 氏 ( 57) に 研 究 が あ り 、 小 松 英 雄 氏 の ﹃日 本 声 調 史 論 考 ﹄ は 以 上 の 多 く の研 究 を 集 大 成 し て いる 。
﹃世 尊 寺 本 字 鏡 ﹄ は 、 や は り 著 者 ・成 立 年 代 の 不 明 の 漢 字 辞 書 で、 東 洋 文 庫 に 、 鎌 倉 時 代 の 写 本 の 一部 が あ る 。 世 尊
寺 伊 行 の 著 と いう 言 伝 え が あ って こう 呼 ば れ る が 、 信 じ ら れ な い。 築 島 裕 氏 は 、 ﹁中 古 辞 書 史 小 考 ﹂( 58) で 、 法 相 宗
の僧 侶 の 撰 で は な い か と 言 わ れ る 。 成 立 年 代 に つ い て は 、 川 瀬 一馬 氏 ( 59)・前 田 富祺 氏 ( 60)は 、 ﹁図 書 寮 本 ﹂ の よ う
な 体 裁 の ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ よ り は あ と 、 ﹁ 観 智 院 本 ﹂ の よ う な ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ よ り は 以 前 と 推 定 さ れ た 。 つま り 、 ﹃類 聚
名 義 抄 ﹄ と 相 前 後 し て出 来 た も の で 、 そ れ を 補 う も の と し て活 用 で き る 。 こ の本 の声 点 は 、 左 肩 ・左 裾 ・右 肩 に あ る
こ と は 確 か で、 そ れ 以 外 に は 見 え ず 、 四声 体 系 の よ う であ る 。 貴 重 図 書 影 本 刊 行 会 か ら 、 岡 田 希 雄 氏 の解 説 付 き で 複 製本 が出 て いる。
﹃ 世 尊 寺 本 字 鏡 ﹄ よ り さ ら に あ と に 出 来 た と 見 ら れ る 辞 書 で 、 和 訓 のイ
ロ ハ順 に 漢 字 を 提 出 し て い る 点 で 、 後 世 の ﹃ 節 用集 ﹄ の類 に似 て いる 。 二 巻 本 ・三 巻 本 ・十 巻 本 が あ る が 、 こ のう ち
次 に 、 ﹃色 葉 字 類 抄 ﹄ は 、 ﹃ 類 聚名義 抄 ﹄や
三 巻 本 は 序 文 に よ って 天 養 ・治 承 の こ ろ 、 橘 忠 兼 と いう も の が 編 集 し た も のと さ れ る 。 そ の う ち の 鎌 倉 時 代 中 期 写 の ﹁ 前 田家 本 ﹂ に 、 和 訓 に 声 点 を 施 し た 個 所 が あ り 、 相 当 正 確 と 見 ら れ る 。
﹃色 葉 字 類 抄 ﹄ に は 、 別 に 江 戸 時 代 の書 写 で は あ る が 、 ﹁黒 川 本 ﹂ が あ り 、 そ の 一部 の 訓 にも 声 点 が つ い て い て、 ﹁前
田家本 ﹂ の欠を 補う ことが でき る。ま た
﹃ 色 葉字 類抄 ﹄ とよく 似 た体裁 を した辞 書 で、 同じ もと か ら別 れた と推定 さ
れ て いる も の に 、 ﹃節 用 文 字 ﹄ と 呼 ば れ て い る 辞 書 が あ る 。 こ れ に も 一部 の訓 に 声 点 が つ い て お り 、 こ れ ら の 本 の 関
﹃ 節 用文 字﹄ は古 典保 存 会
( 解 説 は共
係 に つ い て は 、 多 く の学 者 の研 究 が 出 て い る が 、 最 も 新 し いも の と し て は 、 若 杉 哲 男 氏 の ﹁世 俗 字 類 抄 ・節 用 文 字 か ら 色 葉 字 類 抄 へ﹂( 61)があ る 。 な お ﹁ 前 田 家 本 ﹂ は 育 徳 財 団 か ら 、 ﹁黒 川 本 ﹂ と に 山 田 孝 雄 氏 ) か ら 複 製 本 が 出 て いる 。
ま た 、 先 の ﹃世 尊 寺 本 字 鏡 ﹄ か ら 大 き な 影 響 を 受 け た と いう 辞 書 に ﹃字 鏡 抄 ﹄ と いう 漢 字 辞 書 が あ り 、 山 田 忠 雄 氏
編 の ﹃本 邦 辞 書 史 論 叢 ﹄ に 、 山 田 氏 と 貞 苅 伊 徳 氏 の研 究 が 発 表 さ れ て いる 。( 62) 現 存 の 写 本 は 、 室 町 期 後 半 の も の で
山 田 氏 は 、 鎌 倉 時 代 か ら 室 町 時 代 に か け て の ア ク セ ント の 資 料 と し て有 用 で あ ろ う と 見 て いる 。
あ る が 、 山 田 氏 に よ る と 、 現 本 は 鎌 倉 時 代 の 中 期 以 前 の成 立 だ ろ う と いう 。 こ れ に 声 点 が 施 さ れ て いる と の こ と で 、
菅 原 為 長 の撰 の ﹃ 字 鏡 集 ﹄ と し て 知 ら れ る 辞 書 は 、 こ れ ら の 後 身 で あ る と い う 。 伴 信 友 の ﹃仮 名 本 末 ﹄ ( 下巻 ) に
﹃ 名 語 記 ﹄ に 、 声 点 の記 載 が あ る と いう 。 こ れ は 時 代 が 鎌 倉 時 代 末
よ る と 、 ﹃字 鏡 集 ﹄ の 写 本 に も 声 点 を 差 し た も の が あ った 、 た だ し 、 そ れ は 誤 写 が 多 く 、 声 点 の 位 置 に つ い て は 信 を お き が た か った と いう 。 北 野克氏 による と、 文永 六年 に初 稿本 が出 来た
と いう 文 献 の 乏 し い時 代 な の で 、 用 例 は 少 な い が 資 料 と し て は 貴 重 で あ る 。 築 島 裕 氏 は 、 文 永 ・弘 安 の こ ろ 出 来 た と
﹃編 目 次 第 ﹄ ( 十 一冊) と い う ﹃和 玉 篇 ﹄ の 異 本 が
推 定さ れ て いる ﹃ 塵 袋 ﹄ に も 、 漢 語 ・和 語 に 声 点 を 加 え た 例 が あ る こ と を 報 告 さ れ た 。( 63) ま た 、 川 瀬 一馬 氏 の ﹃ 古 辞 書 の 研 究 ﹄( 64)に よ る と 、 内 閣 文 庫 蔵
あ り 、 室 町 中 期 ご ろ の筆 写 と 見 ら れ る そ う で あ る が 、 小 松 英 雄 氏 に よ る と 、 こ の中 に も 訓 に 声 点 が差 さ れ て い る と い
( 九 三 四) 源 順 が 勤 子 内 親 王 の た め に 編 集 し た 百 科 辞 典
う 。( 6 5) 北 恭 昭 氏 の教 示 に よ る と 、 そ の 声 点 は 、 鎌 倉 時 代 の資 料 と し て 使 え る よ う であ る 。 次に ﹃ 和 名 類聚 抄﹄ は、 これら の辞書 よ り早く 、 承平 四年
︹ 六 十一︺ で 触 れ る こ と に し て 、 川 瀬 一馬 氏 の ﹃ 古 辞 書 の 研 究 ﹄、 馬 淵 和 夫 氏 の ﹁和 名 類 聚 抄 に ほ ど こ さ れ た 声
で あ る が、 写 本 に よ り 、 万 葉 仮 名 で 書 か れ た 和 訓 に声 点 が 施 さ れ た も の が あ る 。 こ の声 点 は い つ付 け ら れ た か に つ い ては
点 に つ い て ﹂( 66)に よ る と 、 ﹁ 東 大 国 語 研 究 室 所 蔵 本 ﹂ ﹁前 田 家 本 ﹂ ﹁伊 勢 十 巻 本 ﹂ ﹁ 伊 勢 二 十 巻 本 ﹂ ﹁高 山 寺 本 ﹂ ﹁類 聚
本 ﹂ な ど にあ る と いう 。 馬 淵 氏 に よ る と 、 ﹁東 大 国 語 研 究 室 所 蔵 本 ﹂ は 、 狩 谷〓 斎 に よ って ﹁ 京 本﹂ と 呼 ばれ た 本 の
中 冊 そ の も の で、 ﹁前 田 家 本 ﹂ は そ の写 し 、 これ ら と ﹁伊 勢 十 巻 本 ﹂ は 十 巻 本 系 統 のも の で 、 そ の原 本 は 院 政 期 の成
立 で あ ろ う と いう 。 ﹁伊 勢 二 十 巻 本 ﹂ は 二十 巻 本 系 統 のも の で 、 こ れ ま た 独 立 に 院 政 期 に成 立 し た も の 、 ﹁高 山 寺 本 ﹂
は 従 来 二 十 巻 本 系 と見 ら れ て いた が 、 築 島 裕 氏 は 、 よ り 古 い原 撰 本 の姿 を 残 し て い る も の では な いか と 言 わ れ た 。( 67)
﹁類 聚 本 ﹂ は そ れ と 同 系 と いう 。 ﹁高 山 寺 本 ﹂ は 、 史 料 編 纂 所 と 天 理 大 学 出 版 部 か ら 複 製 本 が 出 て お り 、 あ と の も の に
(一〇七九 ) の 成 立 で ﹃ 金 光 明最 勝 王 経﹄ の
は 、 渡 辺 実 氏 の 解 説 が 添 え ら れ て い る 。 ほ か に 、 大 東 急 記 念 文 庫 蔵 の ﹃新 撰 字 鏡 ﹄ に も 、 付 訓 の真 仮 名 に声 点 が 加 え てあ ると三 言う 。(﹃ 古 辞書 叢 刊 ﹄ の内 容 見 本 に よ る) ﹃金 光 明 最 勝 王 経 音 義 ﹄ は 、 次 の ︹五 十 九 ︺ に 再 度 述 べ る が 、 承 暦 三 年
漢 字 を 抽 出 し て 音 と 訓 を 示 し た 辞 書 で あ る 。 万 葉 仮 名 で 書 か れ た 和 訓 に 声 点 が 施 さ れ て お り 、 六 声 体 系 に従 って い る 。
﹃ 法 華 経 単 字 ﹄ は 、 ﹃法 華 経 ﹄ の漢 字 を ぬ き 出 し て音 と 訓 を 注 し た 辞 書 で 、 百 五 十 内 外 の カ タ カ ナ の 和 訓 に 記 号 が つ い
て い る。 現 存 の 写 本 は 源 実 俊 と いう 人 が 保 延 二 年 (一一三 六 ) に 写 し た も の で、 原 本 は も う 少 し 前 に あ った も の だ ろ う と 言 わ れ て いる 。 貴 重 図 書 影 本 刊 行 会 か ら 、 複 製 本 が 出 て い る 。
音 義 類 で は 、 こ れら の ほ か 、 ﹃ 大 般 若 経 音 義 ﹄ の 室 町 初 期 の書 写 と 推 定 さ れ る 本 が 大 東 急 記 念 文 庫 に あ り 、 ま た 、
他 に も こ れ に 準 ず る 写 本 が あ る 。 こ れ ら の和 訓 に 声 点 が 差 さ れ て い る と の こ と で 、 桜 井 茂 治 氏 ・小 松 英 雄 氏 に 考 察 が
あ る 。( 68)こ の本 に つ い て は 、 築 島 裕 氏 の ﹁大 般 若 経 音 義 諸 本 小 考 ﹂( 69)が 詳 し い。 別 に ﹁倶 舎 論 音 義 ﹂ と いう も の に
﹃ 香 字 抄 ﹄ と いう 、 仏 教 儀 式 に 用 い る 香 薬 の類 に
声 点 の 記 載 が あ り 、 京 都 大 学 に転 写 本 が あ る 。 吉 田 金 彦 氏 と 奥 村 三 雄 氏 に考 察 が あ る 。( 70) 次 に、専 門 分野 の辞書 類 に つ いて述 べれば、 まず 、 心誉 が撰 した
関 す る 知 識 を 簡 単 に知 る 辞 書 が あ る 。 伝 本 の う ち 、 ﹁高 山 寺 本 ﹂ ( 現在 京 都大 学 図書 館 蔵 ) は 、 川 瀬 一馬 氏 に よ る と 、 奥 書 き に 永 万 二 年 (一一六 六 )以 前 の 写 本 と 見 ら れ る が 、 懐 香 本 草 和 名 云 和 名 久 礼 乃 於 毛
と いう 一節 が あ り 、 こ の ﹁久 礼 乃 於 毛 ﹂ に 声 点 が 付 い て い る と いう 。 同 類 の書 カ タ カ ナ で和 訓 を 注 し た も の で 、 これ に も 声 点 を 施 し た 例 が あ る と いう 。( 71)
﹃香 薬 抄 ﹄ も 、 香 ・薬 の 名 目 に対 し て
川 瀬 氏 は 、 右 の ﹃香 字 抄 ﹄ の記 述 に よ り 、 深 根 輔 仁 撰 の ﹃本 草 和 名 ﹄ の 原 典 にす で に 声 点 が差 し て あ った ろ う と 推
定 し て いる が 、 こ れ は ﹃和 名 類 聚 抄 ﹄ の場 合 と 同 様 に 、 時 代 が 早 す ぎ て 賛 成 し が た い。 ﹃ 本 草 和名 ﹄ の原本 には 万 葉
﹃医 心 方 ﹄ があ る 。 永 観 二 年 ( 九 八 四 ) の 丹 波 康 頼 の 撰 と いう 。 ﹁仁 和 寺 本 ﹂ を
仮 名 だ け が書 い て あ った の で は な い か 。 な お 、 築 島 裕 氏 は 、 ﹃香 字 抄 ﹄ の例 に つ い て も 、 原 本 に は な か った の で は な
﹃本 草 和 名 ﹄ に 似 た 文 献 に 、 医 学 書
いか と 疑 い を 出 し て い る 。( 72)
見 る と 、 薬 物 の 名 を あ げ た と こ ろ に、 和 訓 に声 点 を 施 し た 例 があ る 。 こ れ も 、 他 の文 献 に 比 す る と 、 僅 か に 早 す ぎ る 。
後 の人 が 施 し た も の で は な いか 。 築 島 裕 氏 に よ る と 、 高 山 寺 蔵 の ﹃ 作 法 口訣 ﹄ ( 鎌 倉 初 期 書 写 、 無 題 )と いう も の に も 、
﹃ 本 草 和 名 ﹄ を 引 い て 仮 名 の 和 訓 を 付 し 、 そ れ に 声 点 を 施 し た と こ ろ があ る と いう 。( 73)
ず っと く だ っ て、 洞 院 実熙 の ﹃名 目 抄 ﹄ は 、 室 町 初 期 に 出 た 有 職 故 実 の 語 彙 集 で あ る が 、 ﹃ 新 校 ・群 書 類 従 ﹄ で 見
る と 、 漢 字 に付 け た カ タ カ ナ の振 り 仮 名 に 、 か なり 豊 富 な 声 点 が 見 え る 。 ち ょう ど ア ク セ ント 資 料 の暗 黒 時 代 を 埋 め
る 貴 重 な 資 料 で あ る が 、 こ こ の声 点 の内 容 は 、 ﹃ 類 聚 名 義 抄 ﹄ のも の な ど と は 大 分 ち が う よ う で 、 取 り 扱 い に 注 意 を 要 す る。
﹃日 本 書 紀 ﹄ の 古 写 本 は 、 本 に よ り 、 本 文 の う ち の万 葉 仮 名 で 書 か れ た 歌 謡 と 訓 注 に 声 点 が つ い て お り 、 ま た 時 に は
本 文 に 付 せ ら れ た カ タ カ ナ の訓 点 に 施 さ れ た も の が あ り 、 こ れ ま た厖 大 な ア ク セ ント 史 資 料 群 で あ る 。 本 に よ り 、 声
点 の量 は 著 し く ち が い、 平 安 朝 初 期 の 写 本 か と 言 わ れ る 佐 佐 木 信 綱 氏 旧 蔵 の ﹃神 代 紀 ・上 ﹄ や 、 ﹁田 中 本 ﹂ の巻 十 な
ど に は 、 全 然 声 点 が な い。 次 の ﹁岩 崎 家 本 ﹂ の ﹃推 古 紀 ﹄ ﹃ 皇 極 紀 ﹄ は 、 寛 平 ・延 喜 ご ろ の 写 本 と 言 わ れ て い る が 、
万 葉 仮 名 の部 分 だ け に つ いて お り 、 ﹁前 田 家 本 ﹂ の ﹃仁 徳 紀 ﹄ ﹃雄 略 紀 ﹄ は 、 藤 原 道 長 の 二 人 の息 、 頼 宗 と 能 信 の写 と
伝 え る が 、 万 葉 仮 名 の 部 分 には 勿 論 の こ と 、 そ れ 以 外 の カ タ カ ナ で 付 さ れ た 和 訓 にも夥 し い声 点 が 見 ら れ る 。 そ の 他 、
﹁前 田 家 本 ﹂ の う ち の ﹃継 体 紀 ﹄ ( 藤 原 能 信 写 と 伝 え る)、 ﹁北 野 神 社 本 ﹂ の ﹃ 神 武 紀﹄ ﹃ 仁徳紀﹄( 以 上 、ト 部 兼 永 写 )、
﹃推 古 紀 ﹄︱
﹃ 継体
﹃ 皇 極 紀﹄ ( 吉 野 時 代 ま た はそ れ 以 前 の写 ) 、 ﹁熱 田 神 宮 本 ﹂ の ﹃ 神 武 紀﹄ ﹃ 神 功 紀﹄ ﹃ 応 神 紀﹄ ﹃ 履中
﹃ 持 統 紀﹄ ( 以 上、 院 政 時 代 お よ び 江 戸時 代 の写 ) 、 ﹁図 書 寮 本 ] の ﹃神 代 紀 ・上 ﹄ ﹃履 中 紀 ﹄︱
紀 ﹄ ﹃用 明 紀 ﹄︱
紀﹄﹃ 允 恭 紀 ﹄ ﹃雄 略 紀 ﹄ ﹃清 寧 紀 ﹄ ﹃ 顕 宗 紀 ﹄ (いず れも 応 安 五 年、ト 部兼 敦 ほか の写 ) に も 、 万 葉 仮 名 の歌 謡 そ の 他 の部 分に声 点 が施し てあ る。
歌 謡 に 施 さ れ た 声 点 は 、 丁 寧 に 明 瞭 に 書 い て あ る の で 信 頼 で き そ う に 見 え る が 、 互 い に 比 べ合 わ せ て 見 る と 異 同 が
あ り 、 必 ず し も そ う と は 言 え な いよ う で 、 取 り 扱 い に は 注 意 を 要 す る 。 そ う し て 、 こ れ ら の声 点 は い つ誰 が つ け た か
﹃ 類 聚名 義抄 ﹄ のも のと 同じ ような も のと 見られ 、 もと は六声 体 系 のも のと見 られ る。
と いう こ と に な る と 、 は な は だ 難 し い。 こ れ ら の写 本 の も のが 同 じ も と か ら 出 た か ど う か も 不 明 であ る。 そ こ に 写 さ れ た ア ク セ ント 体 系 は 、 大 体
古 写 本 の う ち 、 ﹁岩 崎 文 庫 本 ﹂ ﹁前 田 家 本 ﹂ ﹁図 書 寮 本 ﹂ は 、 早 く 毎 日 新 聞 社 か ら 、 黒 板 勝 美 氏 の解 説 付 き で 複 製 さ
れ て いる 。 ﹁前 田 家 本 ﹂ の ﹃仁 徳 紀 ﹄ は 、 こ れ と は 別 に 育 徳 財 団 か ら 複 製 が 出 て お り 、 ほ か に ﹁北 野 神 社 本 ﹂ は 、 貴
重 図 書 複 製 会 か ら 、 宮 地 直 一氏 の 解 説 付 き で複 製 さ れ た 。 ﹃日 本 書 紀 ﹄ の声 点 に つ い て は 、 早 く 大 原 孝 道 氏 に 研 究 が
あ り 、(7 )4 戦 後 は 、 大 阪 府 立 女 子 大 学 の 岡 田 尚 子 氏 の 研 究 、 ﹁日 本 書 紀 古 写 本 の ア ク セ ント と 古 今 訓 点 抄 の ア ク セ ント
に ついて ( 上 )(下)﹂( 75)が 出 た 。 ﹃日 本 書 紀 ﹄ の こ れ ら の写 本 の書 誌 学 的 性 質 に つ い て は 、 ﹃日 本 古 典 文 学 大 系 ﹄ 67 の ﹃日 本 書 紀 ﹄ ( 上)に大 野晋 氏 の簡 明な解 説 がある 。
﹃日 本 書 紀 ﹄ に 関 連 し て 、 そ の 注 釈 書 であ る ﹃日本 書 紀 私 記 ﹄ の写 本 に も 、 声 点 を 施 し た も の が あ る 。 写 本 の内 容 に
よ って 、 黒 板 勝 美 氏 は 、 ﹁甲 本 ﹂ ﹁乙 本 ﹂ ﹁丙 本 ﹂ の名 で 呼 ば れ た が 、 いず れ も 声 点 の 記 載 が あ り 、 中 で 、 乙 本 を 存 す
る 御 巫 清 白 氏 所 蔵 の 御 巫 本 の も のが 正 確 で あ る 。 ほ か に ﹃国 史 大 系 ﹄ に 収 め ら れ た 本 に も 声 点 は あ る が 、 乱 雑 で あ る 。
﹁ 御 巫 本 ﹂ は 、 応 永 三 十 五 年 の奥 書 き を 有 し 、 古 典 保 存 会 か ら 橋 本 進 吉 氏 の解 説 付 き で 複 製 本 が 出 て いる 。
﹃日 本 書 紀 私 記 ﹄ の 声 点 に つ い て 注 意 す べき こ と は 、 少 な く と も ﹁御 巫 本 ﹂ に 関 す る か ぎ り 、 (平 ) (上 ) 二 種 の点 し
か な く 、 ﹃日 本 書 紀 ﹄ の 古 写 本 の 声 点 と は 性 質 が や や ち が い、 鎌 倉 時 代 の ア ク セ ント 資 料 に 類 す る こ と で あ る 。 小 林
芳 規 氏 の ﹁日 本 書 紀 古 訓 と 漢 籍 の古 訓 読 ﹂( 76)に よ れ ば 、 こ の 本 の 原 型 は 平 安 末 期 の 康 保 年 間 の 成 立 か と さ れ る そ う
で あ る が 、 声 点 は 、 発 生 を 異 にす る も の で 、 も っと あ と のも の と 考 え ら れ る 。
﹃古 事 記 ﹄ に つ い て は 、 前 項 にも 触 れ た が 、 後 世 の写 本 の 中 に は 、 本 文 に 施 さ れ た 訓 注 や 傍 訓 に声 点 が 施 さ れ て いる
も の が あ る 。 ﹁伊 勢 本 ﹂ 系 統 と 言 わ れ る ﹁道 果 本 ﹂ ﹁道 祥 本 ﹂ ﹁ 春瑜 本 ﹂ が そ の 例 で 、 これ は 前 項 に 述 べ た 本 文 の ﹁上 ﹂
﹁ 去 ﹂ と い う 文 字 に よ る 注 と は 関 係 が な いよ う だ 。 こ れ に つ い て は 和 田 実 氏 に ﹁伊 勢 本 古 事 記 の声 点 ﹂( 77)と いう 論 考
が あ る 。 ﹁道 果 本 ﹂ は 貴 重 図 書 複 製 会 か ら 宮 地 直 一氏 の 解 説 付 き で、 ﹁伊 勢 本 ﹂ は 古 典 保 存 会 か ら 橋 本 進 吉 氏 の 解 説 付 き で、 複 製 本 が 出 た 。
﹃古 語 拾 遺 ﹄ は 、 平 安 朝 の ご く 初 期 に 出 来 た 史 書 で 、 こ れ も 本 に よ り 、 和 訓 に 声 点 が 見 ら れ る 。 前 田 家 に蔵 さ れ て い
る 三 点 の写 本 な ど が そ れ で あ る 。 岩 波 文 庫 の ﹃古 語 拾 遺 ﹄ で も 、 そ の 一斑 を う か が う こと が で き る 。
﹃万 葉 集 ﹄ は 写 本 に よ り 、 傍 訓 に 声 点 が 施 さ れ た も の が あ り 、 秋 永 一枝 氏 の調 査 に よ る と 、 ﹁西 本 願 寺 本 ﹂ と ﹁ 京大
本 ﹂ が そ う で あ る と いう 。 桜 井 茂 治 氏 に ﹁﹃西 本 願 寺 本 万 葉 集 ﹄ 所 載 の ア ク セ ント 表 記 に つ い て (1 )( 2)﹂( 78)と いう 研 究 が あ る 。 こ の本 は 、 佐 佐 木 信 綱 氏 が 解 説 を 付 け て 複 製 本 を 出 さ れ た 。
﹃延 喜 式 ﹄ で は、 平 安 末 の写 本 と 言 わ れ る ﹁九 条 家 本 ﹂ の巻 九 ・巻 十 に 、 万 葉 仮 名 で書 か れ た 神 社 名 に 、 克 明 に 声 点
が 施 さ れ て いる 。 こ れ は 稲 荷 神 社 か ら 、 宮 地 直 一氏 の 解 説 付 き で 複 製 本 が 出 て い る 。 ま た ﹃古 典 全 集 本 ﹄ の ﹃延 喜
式 ﹄ の巻 七 の巻 末 を 見 る と 、 松 平 斉 恒 撰 の ﹁延 喜 式 考 異 附 録 ﹂ と いう も のが つ い て い て 、 そ の ﹁上 巻 発 字 篇 ﹂ と いう
と ころ に、 ﹁ 京本﹂﹁ 貞 享 本 ﹂ と い う 二 つ の古 写 本 に 見 ら れ る 四 声 の 註 記 を 写 し て いる 。 松 平 斉 恒 は 、 近 世 後 期 の 出 雲
松 江 の 藩 主 で 、 不 昧 公 治 郷 の 子 で あ った 。 谷 川 士 清 の ﹃倭 訓 栞 ﹄ に よ る と 、 ﹃貞 観 式 ﹄ の 写 本 の 中 にも 、 和 訓 に声 点 が 施 さ れ た 本 があ る と い う 。
さ て 、 ﹃日本 書 紀 ﹄ 以 下 の声 点 の 例 は 、 大 き く 見 れ ば いわ ゆ る 訓 点 資 料 の 和 訓 に 施 さ れ た 声 点 の一 種 で あ る 。 さ き
にあ げ た ﹃ 建 立 曼荼 羅 護 摩 儀 軌 ﹄ の例 に 見 ら れ る よ う に 、 日 本 語 に 声 点 を 施 し た の は こ う いう 訓 点 資 料 か ら 起 こ った
の で あ る か ら 、 訓 点 資 料 に 声 点 の例 の 多 い こ と は 当 然 で あ る 。 右 の文 献 の ほ か に 、 遠 藤 嘉 基 ・築 島 裕 ・小 林 芳 規 氏 ら に よ って 次 の よ う な も の が 報 告 さ れ て いる 。
東 寺蔵
﹃ 大 日 経 広 大 成 就 儀 軌 ﹄ 康 平 二 年 (一〇 五 九 )ま た は 延 久 二年
﹁濁 点 の 起 源 ﹂ に よ る 。
(一〇七 〇 ) に 訓 点 を つけ た 。 こ こ に 見 ら れ
﹃ 南 海 寄 帰 内 法 伝 古 点 ﹄ 天 喜 ・康 平 ご ろ の加 点 か と いう 。 大 坪 併 治 氏 が ﹃島
る ワ ガ ネ テ と い う 訓 に 施 さ れ た 声 点 は 、 和 訓 に 濁 点 を 施 し た 現 在 知 ら れ て い る 最 も 古 い 訓 と いう 。 築 島 氏 の
天理 図書館 およ び京 都国 立博 物館 蔵
﹃不 動 使 者 陀 羅 尼祕 密 法 一帖 ﹄ 康 平 八 年
(一〇 六 五) 訓 点 。 サ ケ (上 平 ) そ の 他 の点 が 見 え る と
根 大 学 論 集 ﹄ に報 告 し た も の で 、 コナ カ キ (平 平 上 平 ) そ の 他 の 例 が あ る と いう 。 高 野 山持 明院蔵 いう 。 ﹁濁 点 の起 源 ﹂ に よ る 。
﹃史 記 本 紀 ・孝 文 本 紀 ﹄ 延 久 五 年 (一〇 七三 ) 大 江 家 国 加 点 。 ハラヘ リ (平 平 上 平 ) そ の 他 の例 が 見
(一〇八 八 )点 。 遠 藤 嘉 基 氏 の ﹃訓 点 資 料 と 訓 点 語 の 研 究 ﹄( 80)に 引
え る と いう 。 早 く 大 矢 透 氏 の ﹃ 仮 名 遣 及 仮 名 字 体 沿 革 史 料 ﹄( 79) に 引 か れ た 。 濁 点 に 双 点 を 用 い て いな い点 変
狩野 氏蔵本
って い る 。 ﹃ 大 日経 蘇 悉 地 経 ﹄ 寛 治 二 年
﹃ 大 慈 恩 寺 三 蔵 法 師 伝 ﹄ 巻 七 か ら 巻 十 ま で の 済 賢 の 訓 点 。 承 徳 三 年 (一〇 九 九)。 ア ツ シ (上 上 上 )
三井寺 法 明院蔵 く。 興福 寺蔵 本
の よ う な 例 が あ る と いう 。 ﹁ 濁 点 の起 源 ﹂ に 引 く 。
宮 内 庁 書 陵 部 蔵 ﹃文 鏡祕 府 論 ﹄ 保 延 四 年
(一一三 八) 点 。 早 く 星 加 宗 一氏 の ﹁濁 点 の成 立 に つ い て﹂( 81)に 引 く 。
そ の他 、 十 二 世 紀 に 入 って か ら 出 来 た も の に は 、
清 原 頼 業 点 ﹃春 秋 経 伝 集 解 ﹄ 保 延 五 年 (一一三 九) 点 。 ﹃ 国 語 学 辞 典 ﹄ の中 田 祝 夫 氏 執 筆 の ﹁国 語 史 年 表 ﹂ に引 く 。
な お 、 築 島 裕 氏 の ﹁濁 点 の起 源 ﹂ に、 数 多 く の 文 献 の名 と 声 点 の実 例 が 挙 が って い る が 、 こ の よ う な 、 文 献 が た く
さ ん 出 現 し た 平 安 末 期 に は 、 声 点 は す っか り 一般 化 し た ら し い。 例 え ば ﹃山槐 記 ﹄ は 中 山 忠 親 の 日 記 であ る が 、 吉 沢 義 則 氏 の ﹁濁 点 源 流 考 ﹂ (ペー ジ 二九 二) に よ る と 、
今 日 神 輿 令 出 輪 田 御 崎 給 、 亥 刻 還 御 本 宮 、 在 人 等 云 オ レ ソ キ 於 福 田 有 祓 也 云 々 御禊歟
と いう 記 事 があ り 、 こ のオ レ ソ キ と いう 語 に 声 点 が つ い て い る と いう 。 オ レ ソ キ は オ ン ソ ギ であ ろ う 。
を 施 し た も の が 多 い と の こ と で 、 中 で も 、 ﹃光 言 句 義 釈 聴 集 記 ﹄ ( 二 軸 。正 安 元年 校 本 )、 ﹃解 脱 門 義 聴 集 記 ﹄ ( 鎌倉 末 期
小 林 芳 規 氏 の ﹁中 世 片 仮 名 文 の国 語 史 的 研 究 ﹂( 8 2)に よ れ ば 、 鎌 倉 時 代 の カ タ カ ナ で 書 か れ た 各 種 の 文 献 に 、 声 点
写 本 。 金 沢文 庫 蔵 )な ど は 、 豊 富 な 声 点 を 有 す る 資 料 と い う 。 と も に 明 恵 上 人 の講 義 の筆 記 録 を 弟 子 の高 信 が 編 集 し
た も の で、 あ と のも の に は 、 喜 海 ・高 信 の聞 書 き も 含 ま れ て い る そ う だ 。 ま た 、 あ と のも の は 、 擬 声 語 ・擬 態 語 の ア
ク セ ント を 示 し て いる 点 で お も し ろ い。 こ れ に は 、 築 島 裕 氏 に ﹁金 沢 文 庫 蔵 本 解 脱 文 義 聴 集 記 所 載 の 国 語 ア ク セ ント
に つ いて ﹂( 83)と いう 発 表 が あ り 、 ま た 、 ﹃ 金 沢 文 庫 研 究 ﹄ の 第 四 号 に 、 こ の本 の 翻 刻 が 出 て い る 。
鎌 倉 時 代 以 後 に な る と 、 声 点 は 平 仮 名 で 書 か れ た 作 品 に も 点 ぜ ら れ る に 至 る が 、 ま ず ﹃古 今 和 歌 集 ﹄ 関 係 の 写 本 に
﹃ 古 今 和 歌 集 ﹄ に 解 説 を し 、 ﹁顕 昭 の声 点 本 に つ い て﹂( 84)等 を 発 表 し た が 、 近 く 、 大 著 ﹃古 今 和 歌 集 声 点 本 の研 究 ﹄
夥 し い声 点 の例 を 見 る 。 こ れ に つ い て は 秋 永 一枝 氏 が 詳 し い研 究 を 展 開 し て お り 、 先 に 、 ﹃日 本 古 典 文 学 大 系 ﹄ の
( 資 料 篇 ) を 世 に 送 ら れ た 。( 8 5) こ れ ら に 従 う と 、 声 点 の施 さ れ た 古 いも の と し て ま ず 、
伝 藤 原 顕 昭 筆 の ﹃伏 見 宮 家 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ ( 宮 内 庁 書 陵 部蔵 。 書 陵部 か ら複 製 本 が出 て いる。) 伝 藤 原家 隆筆 の ﹃ 家 隆 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ ( 天 理図 書 館蔵 。 竹 柏 園 旧蔵 。) ﹃片 仮 名 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ ( 清 輔 本 。 下巻 一冊。 天 理図 書 館蔵 。)
等 が あ り 、 続 い て、 藤 原 定 家 の 写 本 の系 統 の ﹁貞 応 本 ﹂ ﹁ 嘉 禄 本 ﹂ に夥 し い数 の 声 点 資 料 が あ る 。 例 え ば 、 伝 藤原 為 世筆 の ﹁ 高 松宮 家 貞応 本﹂ ( 貞 応 元 年 の定 家 の奥書 き あ り 。 高 松宮 家 蔵 。) 伝 藤 原 為 明 筆・ の ﹁ 梅 沢家 本﹂ ( 貞応 二年 の定 家 の奥 書 きあ り。 梅 沢 記念 館 蔵 。) ﹁ 中 院本 ﹂ ( 貞 応 二年 の定 家 の奥 書 き あ り 。京 都 大 学 付 属 図書 館 蔵 。中 院 家 旧 蔵。)
﹁高 松 宮 家 嘉 禄 本 ﹂ ( 前 出 。 嘉 禄 二年 の定家 の奥 書 き あ り。 高 松 宮 家 蔵。 有 栖 川家 旧蔵 。 高 松 宮 家 か ら 複 製 本 が 出 て いる 。 福 井久 蔵 ・日 野西 資 孝 氏 解説 。)
平 氏。)
﹁伊 達 家 本 ﹂ ( 藤 原定 家 筆 。 奥書 き に年 次 がな い。 伊達 家 旧蔵 。 貴重 図 書 影本 刊行 会 か ら複 製 本 が出 て い る。 解 説 は 山 岸 徳
﹃ 古 今 集 序 注 ﹄ (︹ 五 十 四︺ に前 出。 奥 書 き によ り顕 昭 が声 点 を 施 し た こと 明 瞭。)
﹃ 古 今 和歌集 加 注﹄ ( 弘安 元 年奥 書き 。 古 文 学秘 籍 複 製 会か ら 三 条 西 公正 氏 の解説 付 き で複 製本 が出 て いる。)
﹃古 今 秘 註 抄 ﹄ ( 正応 四 年 上 観 の奥 書 き 、 元応 二年 に朱 名 氏 の奥 書 き あ り。)
﹃三 秘 抄 古 今 聞 書 ﹄ ( 某 が藤 原 為 家 の家 説 を筆 記し た も の。 声 点 ま で 翻刻 さ れ た本 があ る 。)( 87)
﹃毘 沙 門 堂 本 ・古 今 集 註 ﹄ ( 清 輔 ・定 家 の奥 書 きあ り。 東大 国語 研 究室 に橋 本 進 吉 氏 の声 点 の写 しあ り 。)
寂 恵筆
﹃古 今 問 答 ﹄ ( 答 者 は 藤原 俊 成 。 ﹃ 国 語 国 文 学 研究 史 大 成 ・古 今 集 ・新古 今 集 ﹄ に声 点 つき で 翻刻 が出 て いる。)
同 ﹃古 今 集 注 ﹄ ( 片 仮 名本 ・平 仮 名本 な ど 、 何種 類 か あ る。 文 治 元 年顕 昭 の奥 書 き。)
顕昭
藤 原 教 長 ﹃古 今 和 歌 集 註 ﹄ ( 貴 重 図 書 影本 刊 行 会 か ら、 吉 沢義 則 氏 の解 説付 き で複 製本 が出 て いる。 声 点 は 少な い。)
等 が あ る 。 ま た 、 注 釈 書 ・聞 書 き の 類 に は 、 次 の も の が あ る と いう 。( 8 6)
﹃古 今 集 秘 註 ﹄ ( 天 理図 書 館蔵 。 二冊 。 下 冊 は古 記 別 紙 とし て 古 今注 七 十 二首 。)
﹃ 古 今集 声 句 相伝 聞 書﹄ ( 明応 三年堯 恵 が慶 玉 殿 に相 伝 し た 奥 書 き あ り。 これ に 細 川 幽 斎 の著 と 伝 え る ﹃ 古今和
岡 田 尚 子氏 の ﹁日本 書 紀 古 写本 の アク セ ントと 古 今 訓点 抄 のア ク セ ント ﹂ ( 上)( 下 ) と いう 発 表 があ る。)
﹃ 古 今訓点 抄﹄ ( 嘉 元三 年 度 会 延 明著 。 山 田孝 雄 氏 の解説 付 き で 、古 典 保存 会 から 複 製 本 が出 て いる。 こ の声 点 に つい ては 、
堯恵 筆
﹃ 古 今 集 聞 書 ﹄ (一名 、 延五 記 。 ︹五十 四 ︺ に 引 いた 。 延 徳 四年 に堯 恵 が憲 輔 に相伝 の奥 書 き が あ る。)
歌 集 ﹄ の聞書 き と い っし ょ にし て ﹃ 古 今 口 訣﹄ の坤 巻 とし て いる 本も あ る。 ︹五 十八 ︺ を 参 照。) 伝堯 恵 筆
﹃古 今 聞 書 ﹄ (一名 、 ﹁六巻 抄 ﹂。寛 正 二年 に円 雅 が常 縁 に 相伝 の奥書 き があ る 。)
﹃古 今 私 秘〓 ﹄ ( 永 正五 ・六 年 に兼 載 が 兼 純 に相 伝 し た奥 書 き と 天文 四年 の兼 純 の奥 書 き があ る。 ﹁頓 阿真 筆 古 今 集 声 句 点 ﹂
を 付 す る。 ノー ト ルダ ム清 心女 子大 学 古 典叢 書 刊 行 会 から 、 赤 羽 淑 氏 と秋 永 一枝 氏 の解 説 付 き で、 声 点 の つ いた 翻 刻 が 出 た 。)
これ ら の 諸 本 の声 点 は 互 い に 異 同 が あ り 、 そ れ が 二 条 家 ・六 条 家 、 あ る いは 冷 泉 家 ・京 極 家 の歌 学 の 伝 統 と か ら み
合 って 複 雑 な 様 相 を 呈 し て いる ら し い。 一般 に 、 ﹃古 今 集 ﹄ 関 係 の声 点 は 、 (上 )(平 ) の 二 種 類 し か な く 、 平 安 朝 時
代 の 文 献 の も の と ち が う 。 ま た 、 ︽定 家 仮 名 遣 い︾ に つ い て の 最 古 の 文 献 と さ れ る 藤 原 定 家 の ﹃ 下 官 抄 ﹄ に、 ﹃ 古今
が つ い て いる 。
集 ﹄ の 歌 を 引 い て 掲 げ た と こ ろ が あ る が 、 ﹃国 語 学 大 系 ﹄ 所 載 の 橋 本 進 吉 氏 の 校 訂 本 ( 88)に よ る と 、 そ の箇 所 に 声 点
﹃古 今 集 ﹄ 以 外 の勅 撰 集 に も 、 声 点 を 差 し た 写 本 が 少 な く な い ら し い が 、 中 に 、 ﹃拾 遺 集 ﹄ の 一写 本 で 浄 弁 の 写 し た
﹃ 後 拾 遺集 ﹄ の注
も のは、築 島裕 氏 の ﹁ 浄 弁 本 拾 遺 和 歌 集 所 蔵 の ア ク セ ン ト に 就 い て ﹂( 89)と いう 研 究 が 出 て 、 あ ま ね く 活 用 さ れ た 。
こ の本 は 育 徳 財 団 か ら 、 大 野 木 克 豊 氏 の 解 説 が 付 い て 複 製 本 が 出 て い る 。 顕 昭 の ﹃拾 遺 集 ﹄ の注 や
に も 、 声 点 が つ い て いた こ と が 、 そ の奥 書 き で 知 ら れ る 。 秋 永 一枝 氏 に よ る と 、 こ の ほ か 、 か れ の ﹃ 散 木 集 注 ﹄ ﹃顕
秘 抄﹄ にも 声点 があ り、さ ら に、 ︹ 五 十 四 ︺ に 引 い た ﹃袖 中 抄 ﹄ に も 声 点 の つ い た 写 本 が あ る と いう 。 井 上 奥 本 氏 は
﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ に 、 声 点 のあ る 写 本 が 多 い。 池 田 亀 鑑 氏 の ﹃ 伊 勢 物 語 に 就 き て の 研 究 ﹄( 91)
早 く 百人 一首 に 声 点 を 付 け た 文 献 を 紹 介 し て いる 。( 90) 物語 類 に は いれ ば、 まず
の ﹃ 研 究 篇 ﹄ に 従 え ば 、 藤 原 定 家 自 筆 の、 い わ ゆ る ﹁天 福 本 ﹂ 系 統 の本 と ﹁武 田 本 ﹂ 系 統 の本 と に 、 集 中 し て声 点 が
むく つけき こと
なそ へな く
(天 福 本 )
みちま か ふか に
む く つけ き こと
なそ へな く
( 武田 本)
見 ら れ る よ う で あ る 。 そ う し て こ の 二 つ の 本 の声 点 は 、 清 濁 に 関 し て 次 のよ う に 多 少 ち がう 点 が あ る と いう 。
みちま か ふか に
﹃源 氏 物 語 ﹄ で は 、 ﹁河 内 本 ﹂ 系 統 の本 に 、 声 点 の 記 載 が あ る よ う で 、 ﹁尾 州 徳 川 家 蓬 左 文 庫 蔵 本 ﹂ な ど 、 本 文 の 処 々
複 製 本 のあ る も の で は 、 ﹁時 頼 本 ﹂ に 少 数 見 え る 。 橋 本 進 吉 氏 の 解 説 付 き で 古 典 保 存 会 か ら 出 た 。
に 声 点 が付 せ ら れ て い る 。 山 岸 徳 平 氏 の 解 説 付 き で 、 尾 張 徳 川 黎 明 会 か ら 複 製 本 が 出 た 。 ﹃源 氏 物 語 ﹄ に つ い て は 、
そ の 辞 書 ・注 釈 書 に も 声 点 の記 載 の あ る も の も あ り 、 前 に 引 いた ﹃仙 源 抄 ﹄ ﹃ 紫 明 抄 ﹄ の ほ か 、 ﹃千 鳥 抄 ﹄ が 知 ら れ て
いる が 、 秋 永 一枝 氏 に よ れ ば 、 ﹃河 海 抄 ﹄ ( 四 辻 善 成 著 ) ﹃原 中 最 秘 抄 ﹄ ( 源親 行 著 ) お よ び ﹃源 氏 声 句 相 伝 聞 書 ﹄ ﹃源 氏
清 濁 ﹄ な ど に、 声 点 お よ び 声 点 に つ い て の 註 記 が 見 え る と いう 。( 92) 例 え ば 、 ﹃ 仙 源 抄 ﹄ は ︹五 十 三 ︺ に 引 い た 文 のあ と、
す べ て いづ れ の文 字 に も 平 上 去 の 三 声 は よ ま る べき な り 。 た と へば か 文 字 と み 文 字 と を 合 せ よ む に 、か み 神也か み 上也か み 紙也又 一文 字 に て は は 木葉也 は 楽破也
と あ る 。 去 声 の拍 が 多 い点 、 注 意 さ れ る 。 ﹃紫 明 抄 ﹄ ﹃河 海 抄 ﹄ に は 、 玉 上 琢 弥 氏 編 の、 声 点 入 り の 翻 刻 が あ る 。( 93)
﹃ 土 佐 日 記 ﹄ で は 、 池 田 亀 鑑 氏 の ﹃古 典 の 批 判 的 処 置 に 関 す る 研 究 ﹄( 94)第 一部 に 従 え ば 、 三 条 西 実 隆 の 写 本 系 統 の
る。
も の に 、 声 点 が 施 さ れ て いる と いう 。 ﹁三 条 西 家 本 ﹂ は 、 古 典 保 存 会 か ら 、 橋 本 進 吉 氏 の 解 説 付 き で 複 製 本 が 出 て い
﹃ 平 家 物 語 ﹄ で は 、 吉 沢 義 則 校 注 ﹃応 永 書 写 延 慶 本 ・平 家 物 語 ﹄ に よ る と 、 ﹁延 慶 本 ﹂ と 呼 ば れ る 写 本 に 、 ﹁重 盛 軍 兵
被 集 事 ﹂ の条 の ﹁ば け て ﹂ と いう 語 そ の他 、 稀 に 声 点 を 付 し た 語 が あ る よ う で あ る 。
声 点 は さ ら に 、 歌 謡 の歌 詞 に ま で 及 ぶ 。 歌 謡 の 歌 詞 に は 、 次 項 に 述 べる よ う な 日本 の 固 有 の音 譜 で そ の 旋 律 が 示 さ
れ て い る が 、 そ の 音 譜 と い っし ょ に 、 あ る いは そ の 音 譜 のも と の よ う な 形 で、 声 点 が つ い て い る の を 見 か け る 。 例 え
ば 、 岩 波 書 店 か ら 刊 行 さ れ た 山 井 基 清 氏 の ﹃風 俗 歌 譜 ﹄ の巻 頭 に 、 多 家 に 伝 わ って い る 風 俗 歌 譜 の 写 真 が 出 て い る が 、
そ こ に は 、 す べ て の仮 名 に 亘 って 、 旋 律 譜 と 声 点 と が 見 出 だ さ れ る 。 平 出 久 雄 氏 の 撮 影 し た 写 真 に よ れ ば 、 多 家 に 伝
わ った 多 久 春 編 の ﹃ 御 神 楽 譜 ﹄ も 同 様 で あ る 。 次 の節 で盛 ん に 引 用 す る ﹃朗 詠 要 抄 ﹄ の 譜 面 に も 、 数 こ そ 少 な い が 声 点を 拾う ことが でき る。
︹五十 八︺ 第 六種 の文献 、 音譜 の註 記
日本 語 の ア ク セ ント は 音 の高 低 変 化 で あ る 点 で歌 の旋 律 と 似 て いる 。 日本 に も 古 く か ら 歌 の旋 律 を 表 わ す 音 譜
が あ った が 、 例 え ば 、 仏 教 界 で声 明 の 譜 と し て 用 いる ︽節 博 士 ︾ は そ の 一例 であ る 。 こ の節 博 士 を 国 語 の単 語 に
註 記 し て 発 音 を 説 明 し て いる 文 献 があ れ ば 、 こ れ は そ の 語 のア ク セ ント を 表 記 し て い るも のと 見 て よ いと 思う が 、
現 実 に こ のよ う な 文 献 は いく つか あ る。 釈 観 応 の ﹃補 忘 記﹄ は 、 近 世 初 期 に で き た 論 議 の参 考 書 とも いう べき も
の であ る が 、 そ の 一例 で論 議 に 常 用 す る約 七 百 の単 語 を イ ロ ハ調 に排 列 し て声 明 の譜 を つけ てお り、 服 部 四郎 氏
今
況 亦 曰
か ら 、 ﹁京 都 語 ア ク セ ント 辞 典 ﹂ の称 を 受 け た ほ ど のも の であ る。 例 え ば 、 ﹁以 ﹂ の部 の 一部 分 を あ げ れ ば 次 の よ
如何
う にはじま る。
聊
こ の式 で ア ク セ ント を 記 載 し た 文 献 を 取 り 扱 う 場 合 に は 、 声 明 の譜 の 音 価 に つ いて 考 究 す る こ と が 必要 であ る。
な お こ の書 と 同 様 に声 明 の譜 を も って ア ク セ ント を 表 記 し た と 見 ら れ る 文 献 と し て は 、 ほ か に 著 者 不 明 の ﹃開合 名 目抄﹄ ( 根来寺版) そ の他 室 町 時 代 以 後 に で き た 論 議 の参 考 書 類 が あ る 。
つ い で、 恐 らく 声 明 の音 譜 の影 響 を 受 け て と 見 ら れ る が 、 謡 曲 の譜 や 幸 若 舞 の譜 や 平 曲 の譜 な ど が 生 ま れ た 。
過 去 の文 献 の中 に は 、 こう いう 譜 を 用 い て国 語 の発 音 を 註 記 し て いる も のも あ る 。 こう いう 文 献 は 、 前 項 に あ げ
た 文 献 と 同 様 に、 そ の譜 の付 いた 語 句 の ア ク セ ント を 説 明 し て いる も の、 と 考 え てよ い。
そ の例 と し て、 ま ず 謡 曲 の譜 、 俗 に いう ︽胡 麻 点 ︾ を 用 い て説 明 し た も の で は 、 金 春 禅 鳳 の ﹃ 毛 端 私 珍 抄 ﹄ の、
喩 へば 犬 を イ ヌと 言 ふ は京 声 な り 。 犬 を イ ヌと 言 ふ は 坂 東 ・筑 紫 な ま り な り 。 犬 を イ ヌと 言 ふ は 四 国 な ま り な り。
と いう 記 述 が あ る。 こ れ は 、 ﹁犬 ﹂ と いう 語 のア ク セ ント が 、 京 都 と 、 九 州 ・関 東 と、 四 国 と で そ れ ぞ れ ち が っ
て いる こ とを 述 べた も のと 見 ら れ る 。 こ の種 の文 献 の解 説 に は 、 謡 曲 の譜 の音 価 を 研 究 す る こと が必 要 であ る 。
同 様 の方 式 で ア ク セ ント を 説 明 し た も の に、 細 川 幽 斎 の ﹃古 今 口訣 ﹄ ( 乾巻 )、 著 者 不 明 の仮 名 遣 い の 書 ﹃ 蜆 縮
凉 鼓 集 ﹄、 著者 不 明 の諸 国 民 謡 集 ﹃山 家 鳥 虫 歌 ﹄ な ど が あ り 、 大 体 室 町 時 代 以 降 に で き た 文 献 であ る 。 富 士 谷 成
章 の ﹃稿 本 あ ゆ ひ抄 ﹄ の ﹁お ほ む ね ﹂ の条 の記 述 に も 、 謡 曲 の譜 の応 用 と 見 ら れ る 符 号 で音 の高 低 を 示 し て いる 。
次 に、 幸 若 舞 の 音 譜 で ア ク セ ント を 示 し た と 見 ら れ る 文 献 に は ﹃音 曲 秘 伝 ﹄ と いう も のが あり 、 いろ は 歌 に 室
町 時 代 の ア ク セ ント が う か が わ れ る よ う で あ る 。 も う 一つ、 平 曲 の譜 を 用 いた と 思 わ れ るも のと し て は 、 林 大 氏
出羽
下野
上野
信濃
飛騨
美濃
近江 ⋮ ⋮
が 竹 柏 文 庫 か ら 発 見 さ れ た ﹃言 語 国訛 ﹄ と いう も のが あ る 。 こ れ は
陸奥
と い う よ う に 、 約 五 百 近 く の 語 彙 に 対 し て 平 曲 の 譜 で 言 葉 の 発 音 を 示 し た も の で 、 こ れ は こ の 種 のも の の 中 で す ぐ れ た 資 料 であ る。
論 議 と は 、 仏 教 の 真 言 ・天 台 の二 宗 で 行 な わ れ て き た 儀 式 の 一つで 、 重 要 な 仏 教 思 想 を 表 わ す 語 句 に つ い て僧 侶 が
問 答 を 行 な う も の で あ る 。 そ の場 合 に 使 う 語 句 の ア ク セ ン ト に つ い て 正 不 正 を や か ま し く 吟 味 す る こ と か ら 、 論 議 の 参 考 書 に ア ク セ ント 辞 典 のよ う な も の が 生 じ た の は 奇 縁 と 言 う べき で あ る 。
こ の中 で ﹃ 補 忘 記 ﹄ は 、 新 義 真 言 宗 で出 来 た も の で 、 貞 享 四 年 の 版 と 元 禄 八 年 の版 と 二 種 類 のも の が あ る が、 語 彙
の 多 いこ と と 、 表 記 の信 頼 で き る 点 か ら 、 現 在 で は ア ク セ ント を 註 記 し た 文 献 と し て 最 も 著 名 な も の の 一つ であ る 。
先 般 、 両 版 と も 複 製 本 が 刊 行 さ れ て お り 、 元 禄 版 の 方 に は 平 山 輝 男 氏 の解 説 が 付 さ れ て い る 。 こ こ の 語 句 に 註 記 さ れ
た 声 明 の譜 は 、 \︱/ の よ う な 線 か ら 成 立 し て いる が 、 あ と に 述 べ る 謡 曲 の 場 合 と は 反 対 に 多 く は 文 字 の左 側 に つき 、
\が 高 い音 を 、︱ が 中 位 の 音 を 、/ が 低 い音 を 表 わ す 。 す な わ ち 、 右 に 掲 げ た ﹃補 忘 記 ﹄ の 記 載 は 、 イ サ サ カ 、 イ カ
ン、 イ マ、 イ ワ ン ヤ 、 イ ワ ク の よ う に 解 読 す べ き こ と に な る 。 ﹃ 補 忘 記 ﹄ の ア ク セ ント に つ い て は 、 早 く 、 服 部 四 郎
氏 の ﹃補 忘 記 の 研 究 ﹄、 筆 者 の ﹃ 補 忘 記 の 研 究 、 続貂 ﹄( 95) が あ り 、 桜 井 茂 治 氏 に も 、 ﹁ア ク セ ン ト 史 資 料 と し て の ﹃ 補 忘 記 ﹄ (1)( 2)﹂( 96)が あ る 。
﹃開 合 名 目 抄 ﹄ は 、 成 立 年 代 未 詳 であ る が 、 根 来 寺 刊 行 と いう か ら 、 江 戸 時 代 に 入 る 以 前 の、 恐 ら く 室 町 末 期 の 成 立
で、 ﹃ 補 忘 記 ﹄ よ り 古 いも の と 考 え ら れ る 。 ﹃ 補 忘 記 ﹄ と 同 じ 性 格 の新 義 真 言 宗 で の論 議 の 参 考 書 で あ る が 、 ﹃ 補 忘記 ﹄
﹃開 合 名 目 抄 ﹄ よ り さ ら に 語 彙 の 少 な いも の に 、 ﹃大 疏 百 条 第 三 重 読 曲 ﹄ と い う 刊 本 が あ る 。 旧 有 坂 秀 世 氏 の 所 蔵 の
よ り 語 彙 が 少 な く 、 表 記 法 も 粗 雑 であ る 。
も の が 、 今 筆 者 の手 も と に あ る が 、 こ れ は 、 ﹁六 大 法 身 ﹂ と か ﹁実 智 俗 縁 ﹂ と か 論 議 の題 目 ご と に 語 彙 を あ げ て 、 声
点 と 節 博 士 を 付 し た も の で 、 ﹃補 忘 記 ﹄ な ど の よ う に 、 イ ロ ハ順 に 整 理 さ れ て は いな い。 恐 ら く こ う いう も の が あ っ て 、 ﹃開 合 名 目 抄 ﹄ ﹃補 忘 記 ﹄ へと 進 ん だ も の に ち が いな い。 こ の本 は 、 巻 末 に 、 実 名 祐 宜
野 州 之 住 長善 房
永 禄六 年 八月 廿九 日記之 畢
と あ る 。 と す る と 、 こ れ は 室 町 末 期 の成 立 だ 。
﹃開 合 名 目 抄 ﹄ ﹃ 補 忘 記 ﹄ と 同 様 の論 議 の参 考 書 と し て は 、 ﹃四 声 開 合 初 心 抄 ﹄ ( 刊 本) ﹃論 議 引 進 抄 ﹄ ( 写本) ﹃ 仮名声
集﹄( 写 本 ) な ど が あ り 、 井 上 奥 本 氏 の ﹁日本 語 調 学 小 史 ﹂、 服 部 四 郎 氏 の ﹁補 忘 記 の 研 究 ﹂、 馬 淵 和 夫 氏 の ﹁国 語 の
音 韻 の 変 遷 ﹂( 97)、 桜 井 茂 治 氏 の ﹁﹃ 論 議 ﹄ の 旋 律 に 反 映 し た 室 町 時 代 初 期 の ア ク セ ント ﹂( 98)な ど に 名 が あ が って い
のよ う な も の があ る が 、 あ と に ︹七 十 六 ︺ に 述 べる よう に 元 来〓 は 高 い音 を 、〓 は中 位 の 音 を 、
﹃ 補 忘 記 ﹄ を 凌 駕 す る。 た だ し ア ク セ ント の 註 記 が 不 徹 底 で、 資 料 と し て の価 値 は 必 ず し も 高 く な いよ
る 。 中 で ﹃仮 名 声 集 ﹄ は 早 く 井 上 氏 が 注 目 し て いた 文 献 で 、 山 田 忠 雄 氏 が 一本 を 蔵 し て いる が 、 つ いて 見 る と 、 語 彙 数は最 も 多く う だ。 謡 曲 の 譜 に は〓〓〓
〓は 低 い音 を 表 わ す 。 す な わ ち ﹃毛 端 私 珍 抄 ﹄ の 記 述 は 、 ﹁犬 ﹂ と いう 名 詞 を ● ○ 型 に いう の は 京 都 ア ク セ ント で 、
○ ● 型 に いう の は 関 東 ア ク セ ント 、 ● ● 型 に いう の は 四 国 ア ク セ ント だ 、 と いう 意 と 解 さ れ る 。 こ こ の 記 述 は 、 現 代
の近 畿 方 言 と 関 東 方 言 の ア ク セ ン ト の 対 立 を そ のま ま 示 し て い て お も し ろ い。 当 時 少 な く と も 第 3 類 の 二 拍 名 詞 に つ
い て は 、 恐 ら く 今 日 の よ う な 状 態 に あ った こ と を 示 し て い る と 解 し て よ い。 ま た か れ が 四 国 な ま り と 言 っ て いる のは
今 日 の香 川 県 西 部 か ら 徳 島 県 美 馬 ・三 好 地 方 の ア ク セ ン ト と 同 じ であ る 。 か れ は こ の 地 方 の ア ク セ ント を さ し て 言 っ
て いる も の と 解 せ ら れ る。 香 川県 東 部 の ア ク セ ント は 、 今 日 で は や や ち が って い る が、 こ れ は ま た 当 時 は こ こ に 述 べ る も の の よ う だ った と 見 て よ い。
次 に、 ﹃ 古 今 口訣 ﹄ ( 乾巻)は、 ︹ 五 十 七 ︺ に あ げ た堯 恵 の ﹃古 今 口 訣 ﹄ ( 坤 巻 ) と 一対 に な る も の で 、 細 川 幽 斎 の作
とさ れ て いる。 ﹃ 古 今 集 ﹄ の中 か ら いく つ か の 語 句 を 抽 出 し て 、 そ の清 濁 や ア ク セ ント を 註 記 し た も の で、 ア ク セ ン
ト は 四 声 註 記 にま じ え て声 点 を も っ て表 記 し て あ る が 、 中 に 次 の よ う に 謡 曲 の 胡 麻 点 を も って し た 部 分 が あ る 。 た ひ 行 人 を い つと か ま た ん ( ﹁た ひ﹂ は旅 ) 庭 も籬 も 秋 の 野 ら な る
白女 か はな くさ
当 時 は 四 声 の 調 価 が あ ま り は っき り し な く な った の で 、 よ り は っき り高 低 を 表 わ す 謡 曲 の 譜 を も 用 いた も の と 見 ら
れ る 。 こ の ころ は 謡 曲 の 譜 は 相 当 に 普 及 し て いた も の のよ う で、 亀 井 孝 氏 蔵 の ﹃和 漢 朗 詠 集 ﹄ の写 本 に は 、 筆 で 書 き
込 み が あ り 、 奥 書 き に よ る と 徳 川 光 貞 の写 であ る が 、 中 に 謡 曲 の譜 で ア ク セ ント を 示 し た 例 が 見 え る 。
次に ﹃ 蜆 縮凉 鼓集 ﹄ ( 元 禄 八年・一 六 九 五) は 、 著 者 不 明 の ジ ヂ ズ ヅ に 関 す る 仮 名 遣 い の書 で あ る が 、 凡 例 の中 に、 京 都 の ア ク セ ント を 端 箸 橋 と 註 記 し た 例 が あ る 。( 94) ﹃山 家 鳥 虫 歌 ﹄ で は 、 巻 上 の 下 野 国 の 条 に 、
下 野 、 陸 奥 は 、 こ と ば訛 多 し と い ふ と は じ め て、
( ﹃ 古 典全 集 ﹄ 歌 謡 集
こ の 国 に か ぎ ら ず 諸 国 と も 四 声 のわ か ち を 言 へば 、 雲 は く も 、 蜘 蛛 は く も 、 恋 は こ い、 鯉 は こ い、 海 人 は あ ま 、
尼 は あ ま 、 此 平 上 去 入 の事 を 心 得 る と き は 、 み な わ か つ こ と な れ ば 、 みづ か ら 知 る べ き な り (下))
と あ る 。 栃 木 県 以 北 の 地 方 の ア ク セ ント が 異 様 で あ った こ と は 、 当 時 も 今 も 同 じ だ った と 知 ら れ る 。
﹃音 曲祕 伝 ﹄ 所 載 い
﹃音 曲 秘 伝 ﹄ は 、 幸 若 の音 曲 に つ い て 述 べた 文 献 で 幸 若 小 八 郎 家 に 伝 え ら れ 、 今 そ の 末裔 の桃 井豁 氏 の 所 蔵 だ そ う で、
笹 野堅 氏 の ﹃ 幸 若 舞 曲 集 序 説 ﹄ に 掲 載 さ れ て いる 。 こ れ に つ いて は 、 西 尾 寅 弥 氏 の ﹁幸 若 舞 伝 書 ろ は 歌 の ア ク セ ン ト に つ い て ﹂( 99)と いう 考 証 が あ る 。 ﹃言 語 国訛 ﹄ は 、 こ の 小 著 の巻 頭 に 写 真 を 掲 げ た が 、 此 書 ハ畢竟 平 家 ノ 声 ヲ サ シ申 ス為 ニ自 ラ 記 シ 侍 ル 也 と は じま る本 で、 戊 寅 ノ 孟 ノ 夏 竹 陰 ニ坐 シ テ蕉 葉 ノ 露 ヲ滴 テ 筆 ヲ染 ル モ ノ ナ リ と あ る 。 こ の戊 寅 の年 は 元 禄 十 一年 か と 思 う が 、 あ る い は宝 暦 八 年 か も 知 れ な い 。 な お 、 富 士 谷 成 章 の ﹃稿 本 あ ゆ ひ 抄 ﹄ のも のは 、
の よ う な 表 で、 竹 岡 正 夫 氏 の ﹃ 富 士 谷成章 全集 ﹄ ( 上 ) の ペ ー ジ 四 六 二︲ 四 六 三 に 全 貌 が 出 て いる 。 ﹁雨 ﹂ ﹁ 鮒 ﹂ の部 分
は 謡 曲 譜 と ち ょ っと ち が う が 、 そ の応 用 に な る も の で あ ろ う 。 こ の本 に 表 記 さ れ て い る ﹁芒 ﹂ ﹁か り が ね ﹂ の 譜 は 江 戸 中 期 の京 都 ア ク セ ント を 決 定 す る の に 重 要 な 意 味 を も つ。
︹五十 九︺ 第 七種 の文 献、 文字 の使 い分 け
次 に 過 去 のア ク セ ント を 記 載 し て いる 文 献 の第 七 種 のも のと し て 、 文 字 の使 い分 け が アク セ ント を 示 し て いる
と 目 さ れ る文 献 が あ る。 こ の種 の 文 献 と し て は 、 ま ず 、 万 葉 仮 名 で 書 か れ た 文 献 の例 に 、 ﹃金 光 明最 勝 王 経 音 義 ﹄
一巻 が あ る。 こ れ は 、 そ の巻 頭 に 、 ︽こ の本 の和 訓 に は 、 上 平 二声 の使 い分 け を し た ︾ と いう 趣 旨 と 解 せ ら れ る
註 記 が あ り、 中 に間 々施 さ れ て いる 声 点 と そ の万 葉 仮 名 と を 比 較 し て 見 る と 、 ︽大 体 甲 の 文 字 に は 、 上 声 の 声 点
が差 さ れ 、 乙 の文 字 に は 、 平 声 の声 点 が差 さ れ て いる ︾ と いう 傾 向 が見 ら れ る か ら 、 こ の種 の文 献 と 見 て よ い。
仮 名 書 き の文 献 に つ い ては 大 野 晋 氏 の業 績 を 言 わ な け れ ば な ら な い。 大 野 晋 氏 は 、 か つて ︽いわ ゆ る定 家 仮 名
遣 い で書 か れ た 文 献 に お い て は、 す べ て、 ﹁お﹂ の文 字 は 平 声 に 用 いら れ 、 ﹁を ﹂ の 文 字 は 上声 を 表 わ す のに 用 い
ら れ て いる ︾ と いう 事 実 を 発 見 ・報 告 し て 注 目 を あ び た こと があ った 。 定 家 仮 名 遣 いは 、 こ れ は 古 く か ら 四 声 に
よ る も の と いわ れ て いた が 、 は た し てそ う で あ る か ど う か 一般 に は 疑 わ れ て いた 。 そ れ を 、 克 明 に他 の ア ク セ ン
ト 資 料 と 比較 し た 結 果 、 ﹁お ﹂ と ﹁を ﹂ に関 す る かぎ り 、 ア ク セ ント に よ って 見 事 な 使 い分 け が さ れ て いる こ と が 明 ら か に さ れ た も ので あ る 。
こ の こ と か ら 定 家 仮 名 遣 いに よ る 文 献 は 、 原 則 と し て こ の種 類 の アク セ ント 資 料 と な りう る こと が 知 ら れ た わ
け で、 そ の数 は す こ ぶ る 多 い。 も っと も 、 ア ク セ ント を 使 い分 け て い る 拍 は ﹁お﹂ と ﹁を ﹂ に 限 る こ と か ら 、 ア
ク セ ント の直 接 知 ら れ る 拍 の数 は 少 数 であ る 点 資 料 と し て弱 いが 、 し か し ア ク セ ント のも つ組 織 的 な 性 格 か ら 言 って 、 応 用範 囲 は 一般 の想 像 を 上 ま わ る と 言 って い い。
﹃ 金 光 明最勝 王 経音義 ﹄ に つ いては ︹五十 七︺ に触 れ た。 ﹃ 金 光 明最 勝 王経 ﹄ に関 す る漢 字 辞書 で、 久 しく 転 写本 し
か世 に知 ら れ て いな か った が、 戦後 原本 がひ ょ っこり現 われ て、 今 は大東 急文 庫 にあ る。巻 頭 に、 先 可知所 借字
とあ り、 耳尓
本保
へ反
止 都⋮ ⋮
波ハ
呂路
一つ 一つ の拍 に 対 し て 上 声 の文 字 と 平 声 の 文 字 と 二 種 類 の文 字 を 出 し た 表 が あ り 、 さ て 本 文 の万 葉
以伊
と い った 凡 例︱
ツ加 留 (平 上 平 ) 疲 る
可 流 (平 上) 駈 る
仮名 を検 討し て みる と
﹁﹃金 光 明 最 勝 王 経 音 義 ﹄ に 見 え る 一種 の 万 葉 仮 名 遣 ﹂(1 )0 を0 参 照。
の よ う に 、 上 声 の 文 字 と 平 声 の 文 字 を 使 い 分 け て いる 。 こ れ は ア ク セ ント に よ る 万 葉 仮 名 遣 いと 言 う べき も の であ る 。 詳 し く は 、 金 田 一春 彦
な お 、 右 の 論 文 で筆 者 は 、 す べ て の 万 葉 仮 名 は 、 上 声 と 平 声 の 二 種 類 と 解 し て いた が 、 小 松 英 雄 氏 は ﹁平 安 末 期 畿
内 方 言 の 音 調 体 系 ﹂(1 )0 で1 、 平 声 と 見 ら れ る 中 に 、 純 粋 の平 声 と 、 東 声 と いう 二 種 類 の も の が あ る こ と を 明 ら か に し た 。 こ の 本 は 、 大 東 急 記 念 文 庫 か ら 複 製 本 が 出 、 川 瀬 一馬 氏 が 解 説 を 書 い て いる 。
ア ク セ ント に よ る 万 葉 仮 名 遣 い の例 は 、 こ の 音 義 以 外 に は 、 今 は っき り し た 例 が な いが 、 例 え ば 、 愛 媛 県 の国 名 の
イ ヨに 対 し て 、 今 は ﹁伊 予 ﹂ と 書 く が 、 古 く は 推 古 朝 に た て ら れ た ﹃伊 予 温 泉 碑 文 ﹄ と い う も の に 、 ﹁夷 与 ﹂ と 書 か
れ て い る 。 こ れ に 対 し て、 岡 井 慎 吾 氏 は 、 イ と いう 漢 字 、 ヨ と いう 漢 字 は た く さ ん あ る が 、 ﹁伊 ﹂ ﹁ 夷 ﹂ はとも に 平声
であ り 、 ﹁予 ﹂ ﹁ 与 ﹂ は と も に 上 声 で あ る こ と を 注 意 し て いる 。(1 )0 あ2る い は こ れ な ど も ア ク セ ン ト を 示 そ う と し た 例 か も し れ な い。
次 に、 定 家 仮 名 遣 いは 、 ア ク セ ント に よ る 仮 名 遣 い で あ る と 早 く か ら 伝 え ら れ て 来 た が 、 これ を オ と ヲ に 関 す る か
ぎ りそう だ と実 証した のは、大 野 晋氏 の ﹁ 仮 名 遣 の 起 源 に つ い て ﹂(10 と3い )う 発 表 で あ る 。 氏 の 論 は 、 仮 名 遣 書 に 見
え る 口伝 と 、 ﹁お ﹂ で 書 か れ て い る 拍 、 ﹁を ﹂ で書 か れ て いる 拍 の 具 体 的 調 価 を 他 の 文 献 と 比 較 し て決 定 し た も の で 、
定 説 と 見 て よ い。 大 野 氏 の 調 査 に よ る と 、 藤 原 定 家 の自 筆 本 と 言 わ れ る ﹃ 熊 野 御幸 記 ﹄ ﹃ 金槐 和 歌 集 ﹄ ﹃ 定 頼 集﹄ ﹃ 更
級 日記﹄ ﹃ 近 代 秀 歌 ﹄ ﹃恵 慶 集 ﹄ ﹃ 伊 達 家 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ な ど は 、 す べ て オ と ヲ に 関 す る か ぎり ア ク セ ント に よ る 書
き 分 け が 認 め ら れ る と い い、 定 家 書 写 の本 の臨 模 本 ま た は 影 響 本 と 言 わ れ る ﹃高 松 家 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ ﹃後 撰 和 歌 集 ﹄ ﹃拾 遺 和 歌 集 ﹄ ﹃ 源 氏 物 語 奥 入 ﹄ ﹃源 氏 物 語 ﹄ ( 柏 木 巻 初 頭) な ど も 同 様 だ と いう 。
こ れ ら は 、 す べ て ア ク セ ント 史 の 資 料 と いう こ と に な る が 、 さ ら に定 家 仮 名 遣 い のき ま り を 書 い た ﹃下 官 抄 ﹄や、
行 阿 す な わ ち 源 知 行 の ﹃仮 名 文 字 遣 ﹄ は 勿 論 の こ と、 二 条 良 基 の ﹃ 後 普 光 園 院 御 抄 ﹄ と か 、一 条 兼 良 の ﹃仮 名 遣 近
道 ﹄ の類 も 、 有 力 な ア ク セ ント 史 の 資 料 と な る 。 馬 淵 和 夫 氏 の ﹁ 定 家 か なづ か いと 契 沖 か なづ か い﹂(1 )0 に4は 、 仮 名 遣 い に 関 す る書 が た く さ ん あ が って い る 。
大 野 氏 は 、 定 家 が こ う いう ア ク セ ン ト に よ る 仮 名 遣 いを 思 い付 い た の は 、 ﹃ 色 葉 字 類抄 ﹄ のよ うな 辞 書 から だ ろう
と 推 定 さ れ 、 ﹃色 葉 字 類 抄 ﹄ の ﹁お ﹂ と ﹁を ﹂ の条 が ア ク セ ント に よ る 使 い 分 け に よ っ て な さ れ て い る こ と を 指 摘 し
﹃ 大 般 若経 音義 ﹄ ( 鎌倉 初期 写 ) に 、 小 林 芳 規 氏 は 真 福 寺 本
﹁ を ﹂ の 書 き 分 け が あ る こ と を 報 告 し た 。(105︶
った 。 そ の後 、 築 島 裕 氏 は 無 窮 会 蔵
﹃将 門 記 ﹄ に、 同 様 の
て いる 。 こ れ に よ って ﹃ 色 葉 字 類 抄 ﹄ は 、 声 点 の付 い て いな い部 分 こ の種 の ア ク セ ン ト 資 料 で あ る こ と が 明 ら か と な
ア ク セ ン ト に よ る ﹁お ﹂ と
大 野氏 が ﹃ 色 葉 字 類 抄 ﹄ が ﹁お ﹂ と ﹁を ﹂ の使 い 分 け の手 本 に な った と 考 え た こ と に つ い て は 、 小 松 英 雄 氏 か ら 異
論 が 出 て い る が 、 と に か く 定 家 以 後 の 定 家 仮 名 遣 い で 書 か れ た 文 献 が す べ て ア ク セ ント 史 の資 料 で あ る こ と いう ま で
︹ 十 五 ︺ の 小 字 の 条 に 触 れ た 。 築 島 裕 氏 は 、 ﹁を ﹂ を 上 声 、 ﹁お 」 を 平 声 、 と 考 え る こ と は 、 伊 呂 波 歌 で
も な い。 す な わ ち 中 世 に書 か れ た 文 献 の非 常 に 多 く が ア ク セ ント 資 料 と いう こ と に な り 、 こ の 貢 献 は 少 な く な い。 こ の こと は
﹁を ﹂ が 上 声 、 ﹁お ﹂ が 平 声 にな って い る こ と と 関 係 が あ ろ う と 見 て いる 。(1 )06
い る こ と か ら 、 知 行 の時 代 に は 、 前 の 時 代 の○ ○ 型 、 ○ ○ ○ 型 が 、 ○ ○ ● 型 よ り 一足 早 く ● ○ 型 、 ● ●○ 型 に な って
ま た 、 大 野 氏 は 、 ﹁鬼 ﹂ ﹁〓﹂ ( お こ じ ) な ど の オ に 対 し て、 定 家 等 は ﹁お ﹂ と 宛 て て お り、 知 行 は ﹁を ﹂ と 宛 て て
いた 、 と いう よ う な こ と を 明 ら か に し た が 、 こ れ も ま た 、大 き な 功 績 であ る 。
︹六 十 ︺ 過 去 の 文 献 の 扱 い方
過 去 の ア ク セ ン ト に つ い て 記 述 し て い る 文 献 、 も し く は 記 載 し て い る 文 献 の 種 類 は 、大 体 以 上
︹五 十 三 ︺︱
︹五 十 八 ︺ に 挙 げ た よ う な も の で あ る 。 そ れ で は こ れ ら の 文 献 を 資 料 と し て 過 去 の ア ク セ ン ト を 考え る 場 合 、 ど ん な こ と に注 意 す べき だ ろ う か 。
過 去 の ア ク セ ン ト に つ いて 註 記 し た 文 献 は 、 以 上 で 尽 き る わ け で は な い。 例 え ば 、 ﹃ 本 朝 文 粋﹄ に掲載 さ れ た、兼 明 親 王 の ﹁兎裘 賦 ﹂ の 自 註 に、
亀緒 便 亀 山也。 猶 如 亀 尾 之 。読 之 故 云。 ( 本 文 は 日本 古 典 文 学大 系本 によ る。)
とあ る のを、 契沖 は、 ﹃ 和 字 正濫通 妨抄 ﹄ の ﹁ 亀 尾 山 ﹂ の 条 で 、 ﹁亀 の緒 ﹂ と ﹁亀 の尾 ﹂ と が ア ク セ ント が 同 じ であ る
﹁重 ﹂ と ﹁軽 ﹂ と で 区 別 し て い る 文 献 があ る 。 ﹁四 声 の 軽 重 ﹂ と い う 場 合 が そ も そ も そ れ であ る が 、
こ と を 言 って いる と 見 た 。 た し か に そ う だ と 思 わ れ る 。 ま た 音 の高 低 を
い わ ゆ る 定 家 仮 名 遣 い の き ま り を 書 いた 本 に そ のよ う な 記 述 が 見 ら れ る よ う で、 筆 者 の 手 も と に 三 条 西 実 条 が 写 し た と 記 す ﹃仮 名 遣 近 道 ﹄ と いう 本 が あ る が 、 ﹁お ﹂ と ﹁ を ﹂ と の区 別 を す る と こ ろ に 、 男 ハ重 く 女 ハ軽 く 奥 山 は 重 く 送 る は 軽 く
と いう よ う な こ と が 書 い てあ る 。 ﹁男 ﹂ ﹁ 奥 山 ﹂ の ﹁オ ﹂ は 低 く 、 ﹁ 女 ﹂ ﹁送 る ﹂ の 「オ ﹂ は 高 く 発 音 さ れ る こ と を 表 わ し て いる と 思 わ れ る 。
と こ ろ で 一体 わ れ わ れ は 今 日本 語 の語 彙 に つ いて 、 こ の 語 は ど こ が高 い、 ど こ が 低 いと い って 、 ア ク セ ン ト を 表 わ
し て いる が 、 考 え て み る と 、 空 間 上 の高 さ 、 つま り 地 面 か ら の垂 直 の 距 離 と 、 音 響 の高 さ つま り 音 波 の 振 動 数 と は 別
而 平 声 也。 呼 垣、 日 葛
に 必 然 的 な 関 係 が あ る わ け で は な い。 振 動 数 の多 い の を 別 の 形 容 詞 で表 現 し て も い い は ず で あ る 。 例 え ば 、 佐 藤 寛 の ﹃本 朝 四 声 考 ﹄(1 )0 と7いう 本 に ﹃ 韻 学 私 言 ﹄ と いう 文 献 が 引 か れ て いる が 、 中 に、
本 邦 之 語 、 猶 華 域 之音。 今 呼 柿 、 日 葛 幾、 則雙 深 。 日 渇 起、 則雙 浅 。 倶 無 高 低
起、 則 先 深 後 浅 、 而 如 上 声。 呼 蠣、日
渇 幾、 則 浅 後 深 、 而 如 去 声。
と あ る と 言 う 。 こ の場 合 、 ﹁ 深﹂は ﹁ 高 ﹂ の意 、 ﹁浅 ﹂ は ﹁ 低 ﹂ の 意 か と 解 せ ら れ る が 、 こ れ ま た ア ク セ ント を 表 わ し
そ の他 、 声 明 な ど の 旋 律 を 表 わ す 術 語 を 用 い て 、 語 句 の高 低 を 表 わ そ う と し た も の も あ る こ と 、 ︹ 五 十 三︺ に触 れ
たも のと見 られ る。
た。
︹六十 一︺ 注意事 項一 、 書誌 学的 考察
ま ず 、 ア ク セ ント を 記 述 ・註 記 し た 文 献 に 対 し て行 な う べき こ と は 、 そ の文 献 の書 誌 学 的 考 察 であ る 。 こ の場 合 、 ア ク セ ント を 記 述 し た文 献 と 、 註 記 し た 文 献 と で事 情 は か な り ち が う 。
つま り 原 本 を 他
ア ク セ ント を 記 述 し た 文献 の場 合 に は 比 較 的 簡 単 で あ る 。 そ れ も そ の 文 献 が、 著 者 の原 本 な ら ば 、 問 題 は ほ と
ん ど な い。 特 別 に 矛 盾 の な い かぎ り 、 そ の ま ま 資 料 と し て使 え る 。 著 者 の原 本 でな い場 合 、︱
人 が書 写 し た 本 、 ま た は 印 刷 刊 行 し た 本 の 場 合 、 これ も あ と か ら 何 人 か が 訂 正 し た と か 書 き 加 え た と か いう 疑 い
の か か ら な いか ぎ り 、 ま た 、 諸 種 の事 実 と 比 較 し て矛 盾 の生 じ な い かぎ り 、 原 著 者 の記 載 のも のと 見 て よ ろ し か
ろう 。 も し 、 内 容 のち が う 異 本 が あ れ ば 、 比 較 校 合 す る こと に よ っても と の姿 を 考 え る こ と が でき る で あ ろ う 。 ︹五 十 五 ︺ に 引 いた 安 斎 随 筆 の記 述 は、 あ のと お り 伊 勢 貞 丈 が 書 いた と 解 す る 。
面 倒 な の は ア ク セ ント を 註 記 し た 文 献 の場 合 で あ る 。 例 え ば ﹃古 今 和 歌 集 ﹄ に 声 点 が施 し て あ る場 合 、 ﹃古 今 和 歌 集 ﹄ の編 者 で あ る紀 貫 之 た ち が 付 け た と は 決 め ら れ な い。
こ う いう 場 合 も 、 問 題 の本 が版 本 な ら ば 、 問 題 は 少 な い。 ア ク セ ント の註 記 も 印 刷 さ れ て いる な ら ば 、 そ の版
本 の本 文 と同 時 に 、 そ れ は 著 者 ・編 者 が そ れ を 記 載 し た と し て よ い。 ﹃ 補 忘 記﹄ の場 合 が こ れ で あ る 。 も っと も
版 を 重 ね るう ち に、 変 更 さ れ る こ と があ る か も し れ な いか ら、 そ の点 は 警 戒 を 要 す る 。 ま た 、 最 初 は 版 本 で は な
く 、 写 本 で 伝 え ら れ て き た 、 そ れ があ る 時 代 に版 本 にな って 現 わ れ た 、 と いう 場合 も あ り 、 原 著 者 が 註 記 し た と
は 必 ず し も 言 え な い。 こ のよ う な 場 合 は 版 本 の 前 に あ った 写 本 を 検 討 し な け れ ば な ら な い。 ﹃開合 名 目 抄 ﹄ の 場
合 は これ に 当 た る。 ま た 、 版 本 の場 合 、 原 本 の ア ク セ ント 記 号 が し ば し ば 誤 って 彫 ら れ る こと が多 い こと は 注 意
す べき であ る 。 版 行 の仕 事 に従 事 す る人 に と って は アク セ ント の符 号 な ど は、 意 味 不 明な 線 や 点 に す ぎ な いか ら 、 ま ち が って 写 さ れ て も 気 付 かず 終 る こ と が 多 いに ち が いな い。
と こ ろ で 問 題 は写 本 の場 合 で あ る 。 写 本 に見 え る アク セ ント 註 記 を ど のよ う に 考 え た ら よ いか。 ま ず 、 誰 が そ
の註 記 を 行 な った と 見 る べ き か 。 こ れ は 、 いわ ゆ る 訓 点 資 料 の書 誌 学 的 考 察 で 訓 点 を 註 記 し た のは 誰 か を 考 え る のと 同 じ問 題 であ る 。
ま ず 、 そ の文 献 の中 に、 何 か そ の こ と に触 れ た 個 所 があ れ ば 、 一往 そ れ に 従 って おく こと が で き る 。 例 え ば 、
顕昭 の ﹃ 古 今 集 註﹄ で は 、 奥 書 き の中 に 、 顕 昭 自 身 が声 点 を 施 し た こ と に触 れ て いる。 ﹃ 観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄
のよ う な 改 編 本 の ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ や 、 ﹃色 葉 字 類 抄 ﹄ も 、 序 文 に よ る と 、 著 者 が 声 点 を 施 し た と 見 ら れ る。 こ の
類 の文 献 は 、 そ の ア ク セ ント 註 記 は 、 少 な く と も そ の一 部 は 原 本 にす で にあ った と 見 て よ い。 こ れ ら は 反 証 のあ
が ら な いか ぎ り 、 原 著 者 が ア ク セ ント 註 記 を 行 な った も のと 考 え る こと に し よ う と 思 う 。 た だ し 、 一部 に は 後 世 の人 の 加 え た も の が ま じ って いる か も し れ な いか ら 充 分 の警 戒 を 要 す る 。
そ れ か ら 、 文 献 の中 に は 、本 文 の中 に そ の ア ク セ ント 註 記 に関 し て 別 に こ と わ り が な く ても 、 そ の前 後 の文 脈
か ら 言 って 、 ま た そ の文 献 の性 格 か ら 言 って 、 ア ク セ ント 註 記 が な け れ ば 、 意 味 を な さ な いと いう よ う な も の が
あ る 。 こ れ も 、 原 著 者 が ア ク セ ント を 註 記 し た も の と 考 え て よ いは ず であ る 。 例 え ば 、 ﹃毛 端 私 珍 抄 ﹄ の 謡 曲 の
譜 は 、 文 脈 から 見 て 、 著 者 が 付 け た に ち が いな い。 ま た 、 渡 会 延 明 の ﹃古 今 訓 点 抄 ﹄ は 、 ﹃ 古 今集﹄ から 注意す
べき 語 句 を 抜 き 出 し て、 そ れ に声 点 を 註 記 し た も の であ る が 、 こ れ な ど 、 声 点 は 原 著 者 が 註 記 し た と考 え な け れ
ば 、 こ の著 作 の 趣 旨 か ら 言 って無 意 味 であ る か ら 、 声 点 の註 記 は 原 著 者 のし た こ と と 見 てよ いと 思 う 。 た だ し 、
こ れ も一 部 に後 世 の人 の 添 加 が ま じ る 可 能 性 も な いと は 言 え な いが。
と こ ろ が文 献 の中 に は原 著 者 が 註 記 し た と も 、 し な か った と も 、 何 と も 断定 でき な いも の があ る 。 こ れ は ど う
し た ら よ い だ ろ う か 。 こ れ は 仮 に原 著 者 が註 記 し た と 見 て 別 に矛 盾 を 来 た さ ぬ な ら 、 こ れ も 、 し ば ら く そう 見 て
お いて よ い ので は な か ろ う か。 ﹃ 古 事 記 ﹄ に 見 ら れ る、 文 字 に よ る 四 声 の 註 記 、 ﹃袖 中 抄 ﹄ ﹃仙 源 抄 ﹄ の声 点 は そ れ であ る 。 こう いう も の に は 、 後 世 の人 の追 加 が 一層 多 く 予 想 さ れ る 。
し か し 、 そ れ では 原 著 者 が 註 記 し た と 見 て は 都 合 の 悪 い文 献 は な いか 。 な け れ ば よ いが 、 そ れ が あ る の であ る 。 都 合 が 悪 いと は 次 のよ う な 文 献 であ る 。
( イ) 原 本 が で き た 時 代 に は 、 ま だ そ う いう 様 式 の ア ク セ ント 註 記 が 、 用 いら れ て いな か った ろ う と 見 ら れ る文
献 。 例 え ば ﹃日本 書 紀 ﹄ の古 写 本 に は声 点 に よ って ア ク セ ント が 註 記 さ れ て いる が 、 ﹃日 本 書 紀 ﹄ の原 本 が
成 立 し た時 代 に は声 点 は 発 明 さ れ て おら ず 、 か り に さ れ て いた と し て も 、 それ は 中 国 で の話 で 日本 に は ま だ 伝 わ って いな か った ろ う と 思 わ れ る。
(ロ ) 著 者 の原 本 、 あ る いは 原 本 の忠 実 な 模 写 本 が 現 存 し 、 そ れ には ア ク セ ント の註 記 のな い文 献 、 例 え ば ﹃土 佐 日記 ﹄ は こ の例 で あ る 。
( ハ) 古 い時 代 の写 本 に は アク セ ント の 註 記 がな く 、 後 世 の 写本 に の み ア ク セ ント の註 記 の見 え る 文 献 。 例 え ば ﹃ 古 今 和 歌 集 ﹄ が これ で あ る 。
右 の(イ () ロ)の(よハう )な 文 献 に つ いて は 、 ア ク セ ント 註 記 のあ る後 世 の本 に つ い て奥 書 にあ た る 、 あ る いは 異 本 を
校合 す る、 そ の他 の方 法 によ って 、 ア ク セ ント の 註 記 者 を 推 定 し な け れ ば な ら な い。
以 上 は そ の文 献 の ア ク セ ント を 最 初 に 記載 し た 人 が 誰 か を 考 え る こ とを 述 べ た。 が 、 現 実 の文 献 に 対 し て は、
そ れ が 原 本 で な い場 合 に は ど の よ う に写 し 伝 え ら れ て 現 在 の 姿 に な って いる か も 考 え な け れ ば いけ な い。 異 本 が
数 多 く あ る 場 合 に は、 そ れ を 比 較 し て正 し い姿 を 考 え る こと が で き る 。 ア ク セ ント を 註 記 し た 文 献 の場 合 に は、
転 写 者 のう ち には 、 そ の意 味 を 理 解 で きな い人 も 少 な く な いこ と であ ろ う か ら、 誤 って 写 さ れ る 場 合 が多 いこ と
で あ る 。 こ こ で は 、 特 に ア ク セ ン ト を 註 記 し た 文 献 を 扱 う 場 合 に 心 得 る こ と を 述 べた い。
﹃古 今 集 序 註 ﹄ の奥 書 は 、 前 に ︹ 五 十 四︺ に掲 げた。 ﹃ 類 聚 名 義 抄 ﹄ の 改 編 本 に は 、 巻 頭 に、
付
り ︹五 十 七 ︺ に あ げ た 池 田 亀 鑑 氏 の ﹃ 古 典 の批 判 的 処 置 に 関 す る 研 究 ﹄ の 第 二 部 な ど は 、 こ の方 面 の研 究 の バイ ブ ル
ア ク セ ント を 記 述 し た 文 献 ・註 記 し た 文 献 を 問 わ ず 、 書 誌 学 的 研 究 が 必 要 で あ る こ と 、 言 う ま でも な い。 さ し あ た
と想像さ れる。
朱 音 者 正 音 也 、 墨 声 者 和 音 也 。 片 仮 名 有 朱 点 者 、 皆 有 証 拠 、 亦 師 説。 無 点 者 、 雑 雑 書 中 、 随 見 得 註 之。 不 知 所 、 追 々 可 決 之 。
の よ う な 凡 例 が つ いて お り 、 これ に よ って 和 訓 に 声 点 を 付 け た の は 編 者 で あ る と 推 定 さ れ る 。 右 の 文 章 は 少 し は っき
人 、雖
弁如
懸河詞
傾 三峡
名 目不正
則 伝 襲 之道為虧也
。依茲
、 千 百 之 中摘
其一二以付剞
り し な いが 、 小 松 英 雄 氏 の 言 う よ う に 、 ﹁片 仮 名 有 朱 点 者 ﹂ と いう 部 分 は 、 ﹁和 訓 で 朱 の声 点 の つ い た も の は ﹂ の 意 と 解 釈 さ れ る 。(1 )08
経疏
﹃ 補 忘 記 ﹄ は 、 ﹁元 禄 版 ﹂ の凡 例 に 、 講
〓。 若 欲 広 研 究 之、 須 馳 具 門 受 訣矣 。
﹃ 言 語 国託 ﹄
次 に 、 前 後 の文 脈 か ら 考 え て ア ク セ ン ト 註 記 が 原 本 に あ った と 見 ら れ る 例 は 、 ﹃ 毛 端 私 珍 抄 ﹄ の ほ か に ﹃山 家 鳥 虫
に 見 え る 平 曲 の譜 も、 そ の序 文 に よ って 原 本 にあ った こ と 明 ら か で あ る 。
と いう 註 記 が あ る 。 こ れ か ら 見 て 本 文 の 節 博 士 は す べ て原 著 者 が 施 し た と 見 ら れ る 。 ︹五 十 八 ︺ に 引 いた
﹃ 古 今 訓点 抄﹄ のほ か に、 ﹃ 古
歌 ﹄ の 謡 曲 の 譜 、 ﹃和 字 正 濫 通 妨 抄 ﹄ の声 点 の 註 記 、 ﹃和 字大 観 抄 ﹄ の巻 末 の 傍 線 な ど が あ る 。
そ の 文 献 の性 格 か ら 言 って 原 本 に ア ク セ ント 註 記 が あ った と 見 ざ る を 得 な い も の は
今 集 声 句 聞 書 ﹄ ﹃古 今 口 訣 ﹄ ( ﹁乾 ﹂ ﹁ 坤 ﹂ と も ) な ど の古 今 集 の 註 釈 書 、 ﹃開合 名 目 抄 ﹄ そ の 他 の 論 議 の 参 考 書 な ど が
あ る。
原 著 者 が ア ク セ ント 註 記 を し た と も し な か った と も 何 と も 言 え な い文 献 に は 、 ﹃古 事 記 ﹄ の 四 声 註 記 、 ﹃ 世 尊 寺本 字
鏡﹄﹃ 法 華 経 単 字 ﹄ な ど の よ う な 院 政 時 代 に 出 来 た 辞 書 類 の 声 点 が あ る 。 ﹃袖 中 抄 ﹄ ﹃仙 源 抄 ﹄ や ﹃ 和 字 正濫 抄 ﹄ そ の
他 の契 沖 の 著 書 の声 点 、 ﹃ あ ゆ ひ 抄 ﹄ に 見 え る 上 平 の 註 記 も こ れ に 準 じ る 。 こ れ ら は 、 一往 原 本 に あ った と 見 よ う 、
著 者 が ア ク セ ン ト 註 記 を し た と 考 え て、 そ れ を 妨 げ る 事 情 は 何 も な い か ら 。 ﹃ 古 事 記﹄ に つ いて は、 石 塚晴 通 氏 が
︹五 十 六 ︺ に 引 いた ﹁古 事 記 に 於 け る □上□ 去の表 記 ﹂ の中 で、 古 事 記 成 立 の時 にす で に あ った ろ う と い う こ と を 推 定 し た。
次 に 、 原 本 に は ア ク セ ント 註 記 がな か った ろ う と 見 ら れ る 文 献 に つ い て述 べ る と 、 ま ず 、(ィ 原)本 が 出 来 た 時 代 に は
﹃日本 書 紀 ﹄ の古 写 本 に 声 点 を 施 し た 人 が 誰 であ る か と いう こ と が 問 題 に な る が 、
ま だ そ う いう ア ク セ ント 註 記 の 方 法 が な か った ろ う と 見 ら れ る 文 献 の 例 と し て は ﹃日 本 書 紀 ﹄ ﹃万 葉 集 ﹄ な ど 奈 良 時 代 の作 品 の 写 本 が あ る 。 そ う す る と
ク セ ント の 内 容 を 他 の文 献 のも のと 比 較 し た 結 果 を も と にす る と 、 ほ ぼ 一〇 七 〇 年 に 近 い年 代 に 、 誰 か ﹃日 本 書 紀 ﹄
広 く 一般 に 和 語 に声 点 を 施 し は じ め た 時 代 が 、 一〇 七 〇 年 前 後 で あ る と いう 事 実 と 、 そ う し て そ こ に 施 さ れ て い る ア
講 読 の権 威 の 人 に よ って は じ め て つけ ら れ た も の で は な い か と 想 像 さ れ る 。(1 )0林 9勉 氏 (1 )と 10 小 林 芳 規 氏 (1 )に 11﹃日 本 書 紀 ﹄ の 訓 点 に つ い て の考 察 が あ る 。
﹃万 葉 集 ﹄ のも の は ﹁西 本 願 寺 本 ﹂ で 見 る と、 傍 訓 は 黒 ・朱 ま た は 青 で 書 か れ て お り 、 声 点 は 黒 ま た は 朱 で 施 さ れ て
いる 。 奥 書 き に よ れ ば 、 黒 は 古 点 ・次 点 に よ った も の 、 青 は 古 点 ・次 点 を 仙 覚 が 改 め た も の、 朱 は 仙 覚 が 新 た に 付 け
れ る 。 な お 、 古 点 を 付 け た 人 は、 源 順 ・清 原 元 輔 ・紀 時 文 ・大 中 臣 能 宣 ・坂 上 望 城 の五 人 で あ り 、 次 点 を つ け た 人 は 、
た も の と あ る か ら 、 こ れ に よ って 、 黒 の 声 点 は 大 体 の 見 当 が つき 、 朱 の 声 点 は は っき り 仙 覚 が 加 点 し た も のだ と 知 ら
山 阿 の ﹃詞 林 釆 葉 抄 ﹄ に よ れ ば 、 藤 原 道 長 ・大江 定 国 ・藤 原 孝 言 ・大 江 匡 房 ・源 国 信 ・源 師 頼 ・藤 原 基 俊 等 と い う こ
と に な って お り 、 さ ら に、 ﹃ 校 本 万 葉 集 ﹄ の 巻 上 ・巻 下 で は 、 藤 原 敦 隆 ・同 長 忠 ・同 清 輔 ・道 因 ・顕 昭 を 追 加 し て い
る 。 ま た 、 山 阿 の あ げ た ﹁藤 原 孝 言 ﹂ は 、 佐 佐 木 信 綱 氏 に よ れ ば 、 ﹁ 惟 宗 孝 言 ﹂ の 間 違 いだ ろ う と いう 。(1 )12
﹃ 土 佐 日 記 ﹄ の声 点 は 、 ︹五 十 七 ︺ に 述 べた が 、 池 田 亀 鑑 氏 が 諸 本 を 比 較 し た 上 で、 三 条 西 実 隆 の写 本 系 統 の本 だ け
に 見 え る こ と か ら、 現 存 本 の声 点 は 実 隆 自 身 が 施 し た も の で あ ろ う と 推 定 さ れ た 。 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ の声 点 は 、 ﹁天 福 本 ﹂
と ﹁武 田 本 ﹂ と に 集 中 し て い る と こ ろ か ら 考 え て 、 付 け た の は 藤 原 定 家 で は な い か と 考 え ら れ る が 、 両 者 の 声 点 の一
致 し な い点 は ど う 考 え た ら よ い か 決 定 し が た い。 小 松 英 雄 氏 は 、 声 点 を 施 す 文 献 は 、 平 安 朝 時 代 に は、 訓 点 本 ・辞
書 .音 義 の よう な 、 男 性 的 な 、 ︽カ タ カ ナ 系 の文 献 ︾ に 限 ら れ て お り 、 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ の よ う な ︽ひ ら が な 系 の 文 献 ︾ に も 及 ぶ よ う にな った の は 、 鎌 倉 時 代 以 後 の こ と と 考 証 し て いる 。( l13︶
﹃古 今 和 歌 集 ﹄ の も の は 、 秋 永一 枝 氏 の調 査 に よ って 、 諸 本 の声 点 の 註 記 は 、 藤 原 顕 昭 に発 す る も の 、 同 定 家 に 発 す る も の、 と いう 二 つ の大 き な 流 れ が あ る こ と が 明 ら か にな った 。( 1) 14
﹃和 名 類 聚 抄 ﹄ あ た り は 、 ﹃日 本 書 紀 ﹄ や ﹃ 古 今 和歌 集 ﹄な ど に比 べる と、成 立 年代 がか な りく だ る から、 ま た、 同
類 の 辞 書 に は原 本 に 声 点 の あ った も の が あ る か ら 、 あ る いは 原 本 に 声 点 が あ った か と も 疑 わ れ 、 川 瀬 一馬 氏 あ た り は
そ う いう 意 見 を も って お ら れ る 。(11 し5か )し 、 現 存 の 十 巻 本 のう ち の最 も 善 い本 と いう 折 紙 つき の 松 井 本 に は な い そ
う で あ り 、 原 本 にあ った と は 見 が た い。 馬 淵 和 夫 氏 は 、 ﹃和 名 類 聚 抄 ﹄ の本 文 に は 、 一々 の 漢 字 に つ い て 、 ﹁上 声 之
重 ﹂ と い った よ う な 四 声 註 記 が 見 ら れ る が 、 も し 著 者 の源 順 が 声 点 の使 用 を す る く ら いな ら 、 そ の よ う な 註 記 を す る
必 要 は な か った ろ う か ら 、 原 本 に は 、 声 点 が な か った ろ う と 言 わ れ る 。( 1︶ 1筆 6 者も そ れ に賛成 す る。な お 、馬 淵氏 は、
現 在 の 十 巻 本 系 統 の 本 と 、 二 十 巻 本 系 統 の本 と で は 、 独 立 に 別 々 に 声 点 を 差 し た も のだ ろ う と 判 定 さ れ た 。
次 に 、 ﹃源 氏 物 語 ﹄ は 、 現存 の写 本 の う ち 、 青 表 紙 本 系 統 に は 声 点 が な く 、 河 内 本 系 統 の 本 だ け に 声 点 が あ る 。 と こ ろ で 素 寂 の ﹃紫 明 抄 ﹄ の中 に 、
給候はじ
五 条 三 位 殿 俊 成 卿 に 故 光 行 申 あ は せ 句 を き り 声 を さ し て 候 き 京 極 中 納 言 殿 も 冷 泉 為 家 大 納 言 殿 も よ も 難 ぜ さ せ
と あ る と い う 。() 1こ 17 れ に よ る と 、 源 氏 物 語 の 声 点 は 、 鎌 倉 初 期 の古 典 学 者 、 源 光 行 が 施 し た も の と 考 え ら れ る 。
以 上 は 、 そ の ア ク セ ント の 註 記 を し た 人 は 誰 か に つ い て考 え る べ き こ と を 述 べ た が 、 現 実 の ア ク セ ン ト 資 料 の 文 献
に 接 し た 場 合 に は 、 そ の 文 献 は 、 そ の原 本 か ら ど のよ う に 伝 承 し て い る か を 考 え な け れ ば な ら な い。
ア ク セ ント 註 記 の 中 で も 、 声 点 の よ う な も の は 、 恣 意 的 な 性 格 の 点 で あ る か ら 、 特 にあ や ま っ て 写 さ れ や す い と 思
わ れ る が、 ﹃ 観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ な ど のよ う な も のは 、 ︹五 十 七 ︺ に 触 れ た よ う に 少 な く と も 三 回 の転 写 を 重 ね て
お り 、 三 回 目 の書 写 者 は こ と に 多 く のあ や ま り を 犯 し た と 推 定 さ れ て いる 。(11 仏8下 )末 巻 に ﹁ひ ろ ま る ﹂ と いう 単 語
の 一つ 一つ の仮 名 に 、 入 声 の声 点 を 差 し て いる と こ ろ な ど を 見 る と 、 こ の 人 は 声 点 の意 味 を 全 然 理解 し て いな か った
の で は な いか と 疑 わ れ 、 こ の調 子 で は 他 の部 分 も 機 械 的 に 、 あ る 場 合 に は 適 当 に 、 写 し て いた の で は な い か と あ や ぶ まれ る。
秋 永 一枝 氏 に よ る と、 ﹃陽 明 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ で は 、 声 点 を 直 接 筆 で 記 さ ず 、 わ ざ わ ざ 別 の紙 に 朱 で 星 点 を 書 き、
そ れ を 然 る べ き 個 所 に 貼 っ てあ る そ う で あ る が 、 (11 こ9の ︶よ う な 場 合 に は 、 こ と に あ や ま り が 多 い で あ ろ う 。 か つ、
﹁三 輪 山 を し か も 隠 す か ⋮ ⋮ ﹂ の歌 に 註 し た 声 点 の 場 合 、 こ の差 点 者 は 、 貼 る べ き 箇 所 に は す で に 紙 が 貼 って あ った
か ら と いう 理 由 で、 紙 の貼 って な いと こ ろ に 声 点 の 紙 を 貼 る こ と も し た ら し い。 こ の人 も 声 点 の意 味 を 知 ら な か った
こと 明 ら か で 、 そ のよ う な 声 点 が 、 こ と に ま た 他 の人 に 写 さ れ た 場 合 に は 、 と ん で も な いも の に な って いる で あ ろ う 。
今 、 こ こ に 、 声 点 と いう も の があ や ま って 写 さ れ る よ う な ケ ー スを 考 え て み る と 、 次 の(1)︲の (よ 13 う) に な る 。(︶ 120
(1 ) 類 似 の場 所 に 付 け ら れ て いる と こ ろ か ら 見 馴 れ て いる 方 に あ や ま って 写 さ れ る 。
例 え ば 、 東 声 の点 は 、 平 声 の 点 と 近 い 。 ﹃日 本 書 紀 ﹄ の 歌 謡 の声 点 で、 平 声 で は じ ま る 動 詞 の 終 止 形 や 命 令 形 が
平 平 型 に表 記 さ れ て い る の は 、 第 二 拍 の 東 声 の点 が 、 平 声 の点 に 見 誤 ら れ た も の と 考 え る 。 (2 ) 場 所 が 狭 い と こ ろ に書 き こ む 場 合 に は、 声 点 の 位 置 が は っき り し な く な る 。
例え ば、 ﹃ 観 智 院 本 ・名 義 抄 ﹄ 仏 上 巻 で 、 ﹁徒倚 ﹂ 字 の条 の タ、 ス ム の 、の 点 は 平 位 であ る べき も の が 上 位 に な っ
て い る も の 、 ペー ジ 二 三 の ﹁側 ﹂ 字 の条 の カ タ ハラ の ハの 点 は 平 位 にあ る べ き も の が 上 位 に な って い る も の 、 な ど
は こ の 例 と 考 え る 。一 般 に、 ﹁ヘ﹂ ﹁ハ﹂ ﹁、﹂ な ど に さ さ れ た 声 点 の 位 置 が 狂 って いる こ と が 多 い の は 、 こ れ ら の 字 が平 た いこと、 小さ いこと による と見 られ る。
﹃観 智 院 本 ・名 義 抄 ﹄ の仏 上 巻 ペー ジ 二 八 の ﹁依 ﹂ 字 の条 の ウ ツ ク シ ウ の ウ ツ の 字 の声 点 は 中 位 に な っ て い る が 、
(3 ) 文 字 の字 体 が 変 化 し た た め に 、 声 点 の 位 置 が ず れ た 場 合 も あ る と 見 ら れ る 。
本 来 は 平 位 にあ る べき も の で あ る 。 こ れ は 、 ウ ツ の仮 名 は 以 前 は 裾 の 切 れ た も の で、 そ の た め に ウ の左 端 の縦 棒 の
下 、 ツ の左 端 の点 の下 あ た り が そ の 文 字 の左 裾 であ った 。 し た が って 原 本 で は そ の位 置 に 平 声 の 点 が 施 さ れ て い た
が 、 仮 名 の 字 体 の変 化 と と も に中 位 に 移 って し ま った も の と 解 さ れ る 。一 般 に ﹁観 智 院 本 ﹂ の ウ と ツ に は 、 左 側 中 位 の点 が 多 い が 、 こ れ ら は す べ て 左 側 裾 位 に あ る べき も の と 考 え ら れ る 。
が 差 さ れ て い る が、 こ の 双 点 の方 は 濁 音 で あ る こ と を 示 し た も の で 、 去 声 の 調 価 を 示 す も の と は 見 ら れ な い。
﹃古 今 私 秘 聞 ﹄ の ﹃古 今 集 ﹄ 四 二 三 番 の歌 の ﹁と よ む る ﹂ と いう 条 に は 、 上 声 の 位 置 に単 点 が 、 去 声 の 位 置 に 双 点
位 にあ る べきも のであ る。
三九 の ﹁ 徹 ﹂ 字 の条 の ケ ツ ル の ツ、 ペー ジ 四 〇 の ﹁径 ﹂ 字 の条 の タ、 チ の 、の点 な ど は そ れ で 、 正 し く は 平 位 か 上
れ て いる も の は 、 室 町 時 代 以 後 の 習 慣 が 露 呈 し て い る も のと 見 ら れ る 。 ﹃ 観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ の 仏 上 巻 ペ ー ジ
そ の場 合 は 、 ア ク セ ント の こ と は 深 く 考 え な いで 施 さ れ る 場 合 も あ った と 見 ら れ る 。 こ と に 去 声 点 の 位 置 に 差 さ
(4 ) 声 点 は そ の仮 名 が 濁 音 で あ る こ と を 示 し た いと いう こ と が 主 要 な 目 的 で施 さ れ る 場 合 が あ る 。
(5 )声 点 を 施 す 場 合 、 あ や ま って本 文 の他 の語 の同 じ 仮 名 や 類 似 の仮 名 に差 す こと が あ る と 思 わ れ る 。
﹁ハ﹂
秋 永 一枝 氏 に よ る と 、 ﹃ 高 松 宮 家 貞 応 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ で は 、 ﹃ 古 今 集 ﹄ の 六 八 〇 番 の歌 の ﹁い へば ﹂ の ﹁い﹂ の
﹁い﹂ に 差 し た も の であ ろ う と 説 か れ る 。
仮 名 に 平 声 の濁 点 の 声 点 が 付 い て い る 。 こ れ は 、 も と ﹁い へ ば ﹂ の ﹁ば ﹂ が ﹁ハ﹂ と 書 か れ て いて 、 ﹁い﹂ と と の類 似 か ら 、 ﹁は ﹂ に さ す べき 声 点 を
(6 ) 声 点 を 施 す 場 合 、 一つ の点 を 平 声 の 位 置 に差 す と 、 次 の点 も 平 位 に 差 し た く な り 、 一つを 上 声 の位 置 に 差 す と 、 次 も 上位 に差し たく な る傾向 があ る と考え られ る。
に し て あ や ま ら れ た と 覚 し いも の が 多 く 見 ら れ 、 例 え ば 仏 上 巻 ペー ジ 一の ﹁人 ﹂ の条 の禾 レ の レ は 、 禾 に 引 か れ て
こ れ は 音 韻 変 化 の う ち の 順 行 同 化 に 並 行 的 な も の と 考 え ら れ る 。 ﹃観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ の 声 点 に は こ の よ う
平 位 に なり、 、 ペ ー ジ 二 の ﹁倡導 ﹂ の字 の イ ザ ナ ヒ の ヒ の点 は 、 平 声 の 位 置 に あ る べ き も の が ナ に 引 か れ て 上 声 の 位 置 に 移 って いる 。
(7 )一つ の 文 字 に施 さ れ て いた 声 点 が 、 あ や ま って 隣 の文 字 の点 の よ う に 見 誤 ら れ る こと が あ り 、 こ れ も 声 点 が 間 違 つた 位 置 に差 さ れ る 原 因 に な る 。
例 え ば 、 ﹃観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ の 仏 上 巻 の ペー ジ 三 三 の ﹁仮 ﹂ の 字 の訓 カ リ の り の右 裾 に つ いて い る 点 は 、
右 隣 の 訓 カ ル の左 裾 に つ い て いた も の が あ や ま り 写 さ れ た も の と 考 え ら れ る 。 ペ ー ジ 七 六 の ﹁焉 ﹂ の 字 の訓 イ ヅ ク ンゾ のイ の条 の双点 は、 ツにある べきも のであ る。
秋 永 氏 に よ れ ば 、 ﹃伏 見 宮 家 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ で は、一 九 七 番 の 歌 の ﹁わ が こ と も の や ﹂ と いう 句 の ﹁や ﹂ に 上
声 点 が つ い て いる が 、 ﹁の ﹂ の 平 声 点 が あ や ま り 写 さ れ た も の で あ ろ う と 言 う 。 同 じ 本 の 四 二 九 番 の歌 の ﹁か ら も
も のは な ﹂ の ﹁の﹂ の平 声 点 、 ﹁は ﹂ の 上 声 点 は い っし ょ に な って ﹁は ﹂ の 上 声 の 位 置 に つけ た 双 声 の よ う に 見 え る が 、 こ の よ う な も の が 誤 写 のも と に な る で あ ろ う 。
(8 )﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ のよ う な 辞 書 で は 、 同 じ 漢 字 に ち が った 語 、 ち が った 語 形 を 並 べ て 註 記 す る 場 合 、 ア ク セ ン ト が
同 じ で な い 語 、 ま た は 語 形 で も 、 労 力 を 惜 し ん で 共 通 の 部 分 を一 度 し か 書 か な い 場 合 が あ る 。 そ れ に 声 点 を 施 す 場
合 、一 方 の 語 の ア ク セ ント を 差 す と こ ろ か ら 、 も う 一方 の方 は ち が った ア ク セ ン ト に な る 場 合 が あ る と 思 わ れ る 。
例 え ば 、 ﹁観 智 院 本 ﹂ の 仏 上 巻 ペー ジ 二 四 の ﹁〓﹂ 字 の 訓 ア ヤ マ チ は 、 平 平 上 平 型 に な って い る が 、 元 来 ア ヤ マ
チ は 平 平 平 平 型 であ る べき も の、 こ の マ の声 点 は 隣 の 訓 の、 ア ヤ マ ツ の マの 点 を 施 し た も の と 見 ら れ る 。 同 様 に 、
仏 上 巻 ペ ー ジ二 七 の ﹁估﹂ の字 の 条 の 訓 ア キ ナ ヒ のナ の上 声 の 点 は 、 ア キ ナ ヒ の 点 と し て は 正 確 で は な く 、 隣 の 訓
ア キ ナ フ の ナ の点 と 見 ら れ る 。 同 じ よ う な 事 情 か ら 、 一つ の語 に 二 種 類 の声 点 を つ け る 場 合 、 文 字 を も う 一度 書 く
の を 厭 って 左 側 に つけ る べ き も のを 右 側 に つけ た こ と が あ った か も し れ な い。 例 え ば 、 ﹃毘 沙 門 堂 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ で 、 こ の歌 集 の三 六 八 番 の歌 の ﹁せ き な ﹂ と いう 語 句 に 対 し て 、 セキ ナ
セキ ナ
と いう 声 点 が あ る 。 これ に 対 し て 、 秋 永 氏 は 、 セキナ
と す べ き も のを 簡 単 に 示 し た も の か も し れ な いと 言 わ れ た が 、 あ た っ て いる で あ ろ う 。 こ の時 代 の声 点 は 、 和 語 の
場 合 は 上 平 二 点 の み で、 必 ず 文 字 の左 側 に つく こと にな り 、 右 側 は あ い て い る わ け で あ る か ら 、 労 力 と ス ペ ー ス の
節 約 の た め 、 こ のよ う な 表 記 を し た こ と は た し か に 自 然 であ る 。 し た が って こ の よ う な 場 合 は、 去 声 点 は 上 声 点 に 、 入 声 点 は 平 声 点 に お き か え て よ ま な け れ ば い け な い。
(9 )訓 の 文 字 を 読 み ち が え た こ と か ら、 ち が う 語 の声 点 に な っ て し ま う 場 合 も あ る 。
例 え ば 、 ﹃観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ の ペ ー ジ 五 三 の ﹁〓﹂ の字 の 条 の マグ は ニグ のあ や ま り で あ ろ う 。 ペー ジ 八
二 の ﹁四 十 二 人 ﹂ の 条 の 訓 ヒ ソ フタ リ は 、 ヨ ソ フ タ リ の あ や ま り であ ろ う 。 ヨ の 異 体 字 の 読 み ち が え に由 来 す る と 思 われ る。
() 0 1 二 拍 の音 に よ む 漢 字 を 仮 名 に 改 め た 、 そ の時 も と の漢 字 に つ いて いた 声 点 を そ のま ま 仮 名 に 移 し た こ と か ら 意 味 が ち が って く る こと も あ り う る 。
﹁ 真 ぜ い法 し ﹂ の よ う に一 部 仮 名 書 き に し 、 ﹁ぜ ﹂ に 去 声 を さ し て いる 。 こ れ は も と ﹁静 ﹂ と いう 漢 字 が 書
秋 永 氏 に よ る と 、 ﹃高 松 宮 家 貞 応 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ で は ﹃ 古 今 集 ﹄ で五 五 六 番 の 歌 の 詞 書 き の ﹁ 真 静 法 師﹂ と い う 語を
い て あ った 、 そ こ に 去 声 点 が つ いて いた の を 仮 名 に 改 め な が ら 、 そ の声 点 を 踏 襲 し た も の と 考 え ら れ る と いう 。
﹃観 智 院 本 ・名 義 抄 ﹄ の ペ ー ジ 三 〇 の ﹁俔﹂ の 字 の条 に ウ ガ ラ と いう 訓 が あ り、 ウ に (上 ) (平 ) 二 様 の 声 点 、 ガ
(11)(7)と(混 9同 )と のの 例も あ る。
と ラ に 平 声 の点 が 差 さ れ て いる が 、.こ れ は 元 来 ウ カゞ フと いう 訓 に 上 上 上 平 型 の 点 が 施 さ れ て い た も の が 、 訓 が 読
みあ や ま ら れ 、 声 点 の位 置 も 狂 った も の で あ ろ う 。 同 じ く ペー ジ 四 〇 の ﹁従 来 ﹂ と い う 語 の訓 に モ ト ク キ と あ り 、
平 平 上 平 型 の声 点 が つ いて いる が 、 こ れ は ﹁ も と よ り ﹂ のあ や ま り で、 原 本 で は モ ト彳 と あ った 、 そ れ に 付 い て い た 声 点 が モ ト ク キ と いう 仮 名 に 付 い て し ま った も の と 解 さ れ る 。
秋 永氏 によ ると、 ﹃ 長 流 本 ・古 今 集 聞 書 ﹄ に は
﹃ 古 今 集 ﹄ の 四 二 六 番 の 歌 の ﹁あ な う め に ﹂ と い う 句 の ﹁ う﹂ の
() 2 1 声 点 は そ の 形 か ら 言 う と 単 な る 点 に 過 ぎ な い の で 、 他 の些 細 な 符 号 と 見 間 違 え て 写 す こ と が あ る 。
仮 名 に 、 (上 ) (平 ) 両 様 の 声 点 が 差 し て あ る が 、 平 声 点 の 方 は 、 そ のも と の本 で は ﹁う ﹂ と ﹁め ﹂ の間 に あ った 句 点 が声 点 に紛 れたも のであ ろう と言 う。
﹃ 古 今 集 ﹄ の 写 本 の 声 点 は 、 ﹃梅 沢 家 本 ・古 今 和 歌 集 ﹄ のも の を 写 し た も
ま た、 ﹃古 今 訓 点 抄 ﹄ の 巻 末 近 く ﹁大 歌 所 御 歌 ﹂ の 条 に ﹁オ ホ ナ ホ ヒ ノ ウ タ ﹂ と い う 文 字 が あ り 、 ノ と ウ の 間 に
と言う 。
の ペ ー ジ に 書 か れ て いた 文 字 の 上 に ベタ ッと つ いて し ま った 、 そ れ を そ こ の声 点 だ と 感 ち が いし て 写 し た 例 が あ る
の と 推 定 さ れ る が、 ﹁梅 沢 家 本 ﹂ にあ る 語 句 に差 さ れ た 声 点 が、 ま だ 朱 の 乾 か ぬ う ち に 本 を 閉 じ た こ と か ら 反 対 側
秋 永 氏 に よ る と 、 ﹁広 島 大 学 本 ﹂ と いう
3)( 1声 点 を さ ら に 紙 の し み や 汚 れ の類 と 間 違 え る こ と が あ る 。
声 点 が あ る よ う に 見 え る が 、 秋 永 氏 に よ れ ば 、 原 本 で は こ れ は 裏 面 にあ る 紙 背 文 書 のう つ り で 、 声 点 で は な いと い
う 。 こ の よ う な も の は 、 誤 写 の も と にな り そ う で あ る 。 ま た 、 ﹃古 今 訓 点 抄 ﹄ の九 二 七 の 歌 の あ た り 、 九 三 三 の 歌 の あ たり に は 、 朱 点 の し み が 点 々と あ って 声 点 か と 見 間 違 え る も の があ る と い う 。
︹六 十 二︺ 注 意 事 項 二、 方 言 を 明 ら か に
過 去 の ア ク セ ン ト を 記 載 し た 文 献 に つ い て 、 誰 が い つ 記 載 し た も の か が わ か った と す る 。 第 二 に 考 え る べ き こ
︽何 地 方 の 方 言 の ア ク セ
︹四 十 二 ︺ ︹四 十 三 ︺ に 述 べ た と お り で あ る が 、 こ の 形 勢
と は 、 そ こ に 記載 さ れ て いる ア ク セ ント は 、 何 地 方 の方 言 のも ので あ る か と いう こ と であ る 。 現 在 、 日 本 語 の ア ク セ ント が各 地 非 常 にま ち ま ち であ る こ と は 、 す で に
は 昔 も 変 り な か った こ と と 考 え ら れ る 。 と す れ ば 、 一つ の ア ク セ ン ト に 対 し て 、 そ れ は ント か ︾ と いう こ と を 念 頭 に お か ず に 考 察 す る こ と は 無 意 味 で あ る 。
そ れ では 、 何 地 方 の ア ク セ ント であ る こ と は 、 ど の よう にし て 決 定 す る か 。 ま ず 、 そ の文 献 の中 に 、 そ れ に 関
す る 記 述 が あ れ ば 、 一往 そ れ に 従 って お く こ と が で き る 。 例 え ば 、 ︹五 十 五 ︺ に あ げ た
﹃ 安斎 随筆 ﹄ の例など が
こ れ で あ る 。 こ う いう 文 献 の 記 述 は 、 一往 そ れ に 従 って お き 、 あ と で 他 の 資 料 と 比 較 し て と く に そ れ は 信 じ が た い と い う 時 に 反 省 す れ ば よ ろ し い 。 ﹃補 忘 記 ﹄ も そ う 見 て い い 。
﹃古 今 和 歌 集 ﹄ の写 本 な ど い ず れ も そ う で あ る 。 こ れ は ど う す る か 。
と こ ろ で、 多 く の 文 献 で は 、 ど こ の 地 方 の ア ク セ ン ト を 記 述 ・註 記 し た か 断 り 書 き が な い の が 普 通 で あ る 。 ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ や
思 う に 、 平 安 時 代 以 後 江 戸 時 代 以 前 に お い て、 京 都 語 は 全 国 の 標 準 語 と し て 比 類 の な い 地 位 を 占 め て 来 た 。 こ
れ は 現 在 の東 京 語 の よ う な も の であ る。 現 在 、 東 京 語 の ア ク セ ント を 記 述 す る人 は 、 ど こ の地 方 のア ク セ ント と
い う 断 り 書 き を し な い で 書 く 人 が 多 い。 昔 も 事 情 は 同 様 で あ った と 思 わ れ る 。 あ る い は 、 現 在 以 上 だ った か も し
れ な い。 京 都 に生 ま れ 、 京 都 に 生 活 し 、 京 都 語 を 使 って いた 人 は 、 京 都 語 に対 し て、 京 都 語 は す な わ ち 日本 語 で
あ った と 考 え て い た で あ ろ う 。 そ こ で 、 そ の よ う な 人 が 記 述 ・註 記 し た ア ク セ ン ト は 、 何 も 断 り 書 き が な く て も 、 し ば ら く 京 都 語 の ア ク セ ン ト と し て 扱 って 行 っ て よ い と 思 う 。
た だ し 、 京 都 以 外 の 人 が 、 ア ク セ ント を 記 述 ・註 記 し た 場 合 は ど う だ ろ う か 。 そ の 場 合 も 、 京 都 語 を 記 載 し よ
う と し た も の で あ ろ う 。し か し 、 そ う い う 場 合 、自 分 の も っ て い る 地 方 の ア ク セ ン ト と 京 都 の ア ク セ ン ト と の ち が
い に 気 付 か ず 、 京 都 の ア ク セ ン ト の つも り で 、 知 ら ず 知 ら ず 自 分 の 故 郷 の ア ク セ ン ト を 記 載 し て し ま う こ と が あ
った か も し れ な い。 そ こ で そ の よ う な 疑 い の か か る 著 者 の 書 い た 文 献 に つ い て は 、 特 に 吟 味 し な け れ ば な ら な い 。
大 正 か ら 昭 和 の は じ め に か け て 、 神 保 格 ・佐 久 間 鼎 ・三 宅 武 郎 ・宮 田 幸 一な ど と いう 人 た ち に よ って 東 京 語 の ア ク
セ ント の研 究 が 進 め ら れ 、 さ か ん に発 表 さ れ た が 、 そ れ ら の 研 究 で は 、 ﹁東 京 語 の ア ク セ ント は こ う こう だ ﹂ と い う
よ う に は 一々断 って な く 、 ﹁ 国 語 の ア ク セ ント は こ う こ う だ ﹂ と い う よ う に書 か れ て いた 。 今 日一 々 ﹁東 京 語 の ア ク
セ ント と は ⋮ ⋮ ﹂ な ど と 断 っ て書 く の は 、 服 部 四 郎 氏 以 来 の 傾 向 で あ る 。(1 )2 こ1れ は そ の当 時 、 国 語 の ア ク セ ン ト と
言 え ば 、 東 京 語 のそ れ を さ す と いう よ う に 考 え ら れ て いた こ と を 示 す も の で 、 こ れ は ち ょ う ど 、 今 ︽日 本 語 の 文 法 ︾
と 言 う と 、 東 京 語 の 文 法 を さ し て い る のと 同 じ よ う な 関 係 だ った の だ 。 大 正 時 代 の進 ん だ 文 典 、 松 下 大 三 郎 氏 の ﹃標
準 日本 文法 ﹄ には、 単 語 の認 定 に関 連 し て複合 語 のア ク セ ント に つ いて触 れ て いる が、 (12 こ2こ )の 記 述 は 、 読 む 人 に
は さ っぱり ぴ ん と 来 な い 。 こ れ は 、 松 下 氏 が 知 ら ず 知 ら ず 、 東 京 語 の ア ク セ ント と 氏 の郷 里 で あ る 静 岡 県 遠 江 地 方 の
方 言 の ア ク セ ン ト と のち が いに 気 が つか ず 、 遠 江 地 方 の方 言 の複 合 語 の ア ク セ ン ト の 法 則 を 述 べ て し ま った こ と に よ る。
︹六 十 三 ︺ 注 意 事 項 三 、 時 代 を 考 慮 せ よ
過 去 の ア ク セ ン ト を 記 述 ・註 記 し た 文 献 に つ い て は ま だ 第 三 に 考 え る べ き こ と が あ る 、 そ れ は 、 そ こ に 記 載 さ
れ て いる アク セ ント は 、 何 時 代 の ア ク セ ント で あ ろ う か と いう こ と であ る。 ア ク セ ント は 時 代 に よ って 変 わ る と
考 え ら れ る 以 上 、 何 時 代 の ア ク セ ン ト を 記 述 ・註 記 し た か と い う こ と は 、 明 ら か に し な け れ ば な ら な い こ と 当 然 であ る。
一 つ の 文 献 の ア ク セ ン ト の 時 代 を 明 ら か に す る 。 こ れ は 、 ち ょ っと 考 え る と 、 ご く 簡 単 な こ と と 見 ら れ る か も
し れ な い 。 と いう よ り 、 そ ん な こ と を 問 題 に す る の は お か し い と 思 わ れ る か も し れ な い 。 す な わ ち 、 そ の ア ク セ
ント を 記 載 し た 時 代 と 見 れ ば い い で は な い か、 と 考 え ら れ そ う であ る 。 と こ ろ が 、 必 ず し も そう は 言 え な い。
﹁日 本 語 に 平 上 去 の 声 あ り ﹂ 云 々 と 言 い、 ﹁日 ﹂ ﹁樋 ﹂ ﹁火 ﹂
例 え ば 、 た び た び 引 く 佐 藤 寛 の ﹁本 朝 四 声 考 ﹂ に 引 用 さ れ て い る も の に 、 鍋 島 誠 と い う 人 の ﹃ま す み の 鏡 ﹄ と いう 文 献 が あ る 。 文 久 年 間 の 作 で 、 こ の 中 に 、 か れ は
な ど の例 を あ げ て ア ク セ ント のち が いを 述 べ て いる が、 そ の語 例 を 見 る と 、 こ れ は 元 禄 年 間 に契 沖 が書 いた も の
を そ っく り 写 し た も の で あ る こ と が 知 ら れ る 。 そ こ で こ う い う 問 題 が 起 こ る 。 ︽契 沖 の 時 代 と 、 誠 の 時 代 と で 、
ア ク セ ン ト が 変 わ って いな か った の か ︾。 も し 変 わ っ て いな か っ た の な ら ば 問 題 は な い。 し か し 、 変 わ っ て い た
と し た ら ど う だ ろう 。 変 わ って いた ら 誠 は 変 わ った よ う に こ こを 書 き か え る と いう 慎 重 な 注 意 を 払 った ろ う か 。 そ れ は 必 ず し も 期 待 で き な いと 思 う 。
こ の種 の代 表 的 な も の に、 ﹃古 今 和 歌 集 ﹄ の聞 書 き や 注 の 類 が あ る 。 こ れ ら の も の は 、 鎌 倉 時 代 以 後 出 来 た も
の が夥 し い数 に 及 ぶ が 、 こ こ に施 さ れ て いる 声 点 は そ れ ら の本 を 通 じ て大 き く は 変 わ って いな い。 あ と で 述 べる
が、 室 町 時 代 は 、 鎌 倉 時 代 と の 間 に 大 き な ア ク セ ント 変 化 を 経 た こと か ら 考 え る と 、 明 ら か にち が った ア ク セ ン ト 体 系 を も った ア ク セ ント を 記 載 す る こと があ る と 見な け れ ばな ら な い。
こ のよ う な こ と を 考 慮 す る と 、 ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ の声 点 の ご と き も 、 原 著 者 が 記 載 し た と は 言 って も 、 何 か 先 行
文 献 の 記 載 を そ の ま ま 踏 襲 し 、 そ の 結 果 そ の成 立 年 代 以 前 の ア ク セ ント を 伝 え て いる 、 と いう よ う な こ と があ る
か も し れ な い。 こう な ると 問 題 は 非 常 に め ん ど う であ る 。 これ に 対 処 す る に は ど う し た ら よ いか 。 筆者 はこうしよう と思う。す なわち、
(1 ) そ の文 献 の中 に 何 か 前 代 の ア ク セ ント を 写 し た も ので あ る こ と が 書 か れ て いれ ば 、 そ れ を考 慮 す る 。 (2 ) 先 行 文 献 を 調 査 し 、 そ れ か ら 写 し た と 見 られ る も の が あ れ ば 、 警 戒 す る。
(3 ) 歴 史 的 な 事 情 か ら 、 前 時 代 のも のを 伝 え て いる 可 能 性 が あ れ ば 、 注 意 す る 。
︵4 ) 以 上 の よ う な 事 情 のな い場 合 は 、一 往 そ の成 立 時 代 の ア ク セ ント を 写 し た も のと 見 て お く 。 た だ し 、 他 の
資 料 と 比 較 し て、 は た し て そ の時 代 の ア ク セ ント と 見 て よ いか ど う か の検 討 を 怠 ら な いよ う にす る 。
があ る
多 く の場合 、書 か れた 言語 は固 定し たも のであ つて、 そ のあ らはす 形 は数 世紀 にわ た つて 殆ん ど変化 しな いこと
メイ エは、 ﹃史的 言 語学 にお ける比 較 の方 法﹄ の中 で、
と 言 って いる。(12 日3 本) 語 の音 韻 に関 し ても 、有 坂 秀世 氏 に従 え ば、 ﹃ 新 撰 字鏡 ﹄ で は、そ のこ ろ失 わ れ て いた と 考
え ら れ る 母 音 の 甲 乙 二 類 の 区 別 を 万 葉 仮 名 の使 い方 の上 に 残 し て い た と いう 。() 124
ま た 、 そ う いう 例 を 考 え な く ても いわ ゆ る 歴 史 的 仮 名 遣 い のよ う な も の は 、 平 安 朝 時 代 の語 音 の 区 別 を 明治 以 後 ま
で伝 え て い る 。 ア ク セ ン ト 註 記 も 、 時 代 が 変 わ って も 、 古 い時 代 の表 記 法 を そ のま ま 踏 襲 す る こ と は 、 大 いに あ り う
る 。 権 威 のあ る 書 物 に の って いる こ と は 、 自 分 の実 際 の 発 音 を た し か め ず 、 そ のま ま 写 し て し ま う こ と が あ る と 思 う 。
﹃ 古 今祕 註 抄 ﹄ と いう 本 は 、 正 応 四 年( 一二九一︶ に 、 上 観 が 奥 書 き を 書 いた 本 で あ る が 、 こ の中 に ﹃ 古 今 集 ﹄ の四
わ た の は ら と は 渡 原 と か け り 。 わ た の は ら こ の声 は 有 家 の 説 な り 。 わ た の は ら こ れ ハ定 家 家 隆 如 願 み
〇 七 番 の 歌 を 引 き 、 ﹁わ た の は ら ﹂ と いう 部 分 に つ いて 、
な此 声 を用 と あ る と いう 。() 12 (あ 5と の例 で ﹁は ﹂ の点 は や や 上 位 。)
こ のよ う な も のは 、 こ こ に 引 か れ て いる わ だ の は ら や わ た の は ら の よ う な ア ク セ ン ト は 、 上 観 の 時 代 のも の で
は な く 、 藤 原 有 家 な り 、 定 家 ・家 隆 ・如 願 な り の時 代 の も の か と 考 え て 扱 う べ き も の と 思 わ れ る 。
た だ し 、 こ の よ う な 場 合 に は こう いう 場 合 で 、 ま た 大 い に 警 戒 す べ き こ と が あ る 。 高 津 春 繁 氏 は ﹃ 比 較 言 語 学 ﹄(1 )26 に いう 。
昔 の 人 は 、 そ の 先 人 の説 を 自 由 に 自 己 の説 と し て発 表 す る こ と は憚 ら な か った と 同 時 に 、 屡 々自 己 の 説 に 重 要 性
を 附 す る 目 的 で も って 先 人 の 名 を 冠 す る こ と が あ る 。 殊 に こ れ は 支 那 や 印 度 等 の 東 洋 の著 書 に 多 い。
つま り、 そ の ま ま 盲 従 す る こ と は は な は だ 危 険 で 、 は た し て有 家 や 定 家 た ち の 時 代 のも のと 見 て 矛 盾 し な い か 、 充 分 注 意 し な け れ ば な ら な い。
以 上 が (1の )場 合 の 例 で 、(2)の 場 合 に は 、 ﹁ま す み の鏡 ﹂ の 記 述 が あ て は ま る 。(3)の場 合 の例 と し て は 、 古 今 伝 授
と 関係 し て、 ﹃ 古 今 和 歌 集 ﹄ や そ の聞 書 き や 注 釈 書 の声 点 が そ れ に 該 当 す る 。 ﹃ 伊 勢 物 語 ﹄ や ﹃源 氏 物 語 ﹄ の 場 合 にも
そ の 疑 い が か け ら れ る 。 こ こ に 、 代 表 的 な 文 献 の 一 つと し て 江 戸 時 代 の初 期 に 出 来 た ア ク セ ント 資 料 、 ﹃ 補 忘 記﹄ を と りあ げ る。
す な わ ち 近 世 初 期 の京 都 ア ク セ ント のよ う
﹃補 忘 記 ﹄ は 、 貞 享 四 年 の 成 立 で、 著 者 は そ の巻 頭 に京 都 の ア ク セ ント を 標 準 ア ク セ ント と 考 え る と いう む ね を 声 明 し て いる 。 そ れ が原 因 で 、 こ の本 に 扱 わ れ て いる ア ク セ ン ト は 、 当 時︱
に 扱 わ れ て き た 。 少 な く と も 筆 者 は そ の よ う に 考 え て 、 いく つか の 論 文 を 発 表 し た 。 と こ ろ が 、 馬 淵 和 夫 氏 は 、 こ れ
に 対 し 、 ﹁国 語 の音 韻 の 変 遷 ﹂ の 中 で 、 論 議 の 方 式 と いう も の は 室 町 時 代 に き ま った も の で、 ﹃補 忘 記 ﹄ は そ の 方 式 に
従 って 書 い て いる か ら 、 そ こ に 反 映 し て いる のは 室 町 時 代 の ア ク セ ント であ ろ う と 論 ぜ ら れ た 。 こ れ に 対 し 今 のと こ
ろ 反 駁 の余 地 は な く 、 従 う ほ か は な い。 こ の本 の ﹁実 証 ・展 開 篇 ﹂ で、 ﹃ 補 忘 記 ﹄ を 室 町 時 代 の ア ク セ ント 資 料 と し
﹃ 開 合 名目 抄 ﹄ は勿 論 の こ と 、
﹃ 仮 名 声 集 ﹄ で も 、 論 議 の参 考 書 で あ る ア ク セ ント 資 料 は、
て 扱 う の は 、 そ の た め で あ る 。 ﹃補 忘 記 ﹄ に 限 ら ず 、 ﹃補 忘 記 ﹄ よ り 古 い成 立 と 見 ら れ る ﹃補 忘 記 ﹄ よ り 成 立 が お く れ た ﹃四 声 開 合 初 心 抄 ﹄ で も 同様 であ る。
い る と 見 ら れ る 文 献 が あ る こ と を 述 べた 。 が 、 重 ね て 注 意 す べき こ と が あ る 。 そ れ で は 、 そ う いう 文 献 は 、 す べ て そ
さ て 、 以 上、 文 献 の う ち に は 、 そ の文 献 の ア ク セ ント 記 載 者 が 生 存 し て いた よ り 以 前 の時 代 の ア ク セ ント を 写 し て
のよ う な 前 代 の ア ク セ ント の み を 写 し て い る か と 言 う と 、 そ う は み ら れ な い こ と で あ る 。 昔 の人 は 、 ア ク セ ント が 時
代 と と も に 変 化 す る こ と を 知 ら な か った 。 と こ ろ が 実 際 は 変 化 す る 。 記 載 者 は 、 前 の時 代 の ア ク セ ン ト を 写 し て いる
つも り で 、 知 ら ず 知 ら ず 自 分 の 時 代 の ア ク セ ント を も ま ぜ て 記 載 し て いる こ と も あ り う る こ と に 注 意 し な け れ ば いけ な い。
例 えば 、 ﹃ 古 今 和 歌 集 ﹄ の聞 書 き の 一つ であ る ﹃ 古 今 私祕〓 ﹄ は 猪 苗 代 兼 載 の 伝 え を 弟 子 の 兼 純 が筆 記 し た も の で 、
そ こ に 註 記 さ れ て い る ア ク セ ント は 、 秋 永 一枝 氏 の 研 究 に よ る と 、 大 部 分 は 二 条 家 の相 伝 の 古 写 本 か ら 写 し た も の で
あ ろ う と いう 。(1 ︶2 と7す る と 、 そ れ は 鎌 倉 時 代 の ア ク セ ン ト で あ る は ず だ 。 と こ ろ が 逐 一検 討 し て み る と 、 ﹁物 の名 ﹂
と いう 語 を 上 上 平 平 型 に表 記 し て いる 。 こ れ は 、 他 の 資 料 と の比 較 に よ る と 、 鎌 倉 時 代 な ら ば 平 平 平 上 型 であ って ほ
し いと こ ろ だ 。 こ れ は 、 室 町 時 代 以 後 のア ク セ ント で あ る 。 兼 載 自 身 か 、 あ る い は 少 し 前 の 時 代 の ア ク セ ント が こ こ に 露 呈 し て いる と 見 ざ る を 得 な い。
さ き の ﹃補 忘 記 ﹄ に し て か ら が 、大 部 分 は 馬 淵 氏 の推 定 ど お り 室 町 時 代 の ア ク セ ント と 解 し て よ いと 思 わ れ る 。 と
こ ろ が中 に、 ﹁月 の如 し ﹂ と か ﹁夢 の 如 し ﹂ と か いう 語 句 を、 徴 々 々 々角 々 型 に 表 記 し て い る 。 他 の 文 献 と 比 較 し た
結 果 で は 、 こ れ は 江 戸 時 代 の ア ク セ ン ト で 、 室 町 時 代 な ら ば 徴 々 角 々 々 々 型 で あ る は ず であ る 。 つま り 、 こ こ に は 観 応 の 時 代 の ア ク セ ン ト が混 入 し て いる と 見 な け れ ば な ら な い。
こ の よ う な こ と が あ る と す る と 、 わ れ わ れ は ど う し た ら よ いか 。 前 代 の ア ク セ ント を 写 し て いる 資 料 と し て 扱 いな
が ら も 、 細 心 の 注 意 を 払 って、 他 の資 料 と 比 較 す る こと に よ り 、 後 世 の ア ク セ ン ト が ま じ って いる 疑 い が あ った ら 、 そ れ は 資 料 と し て 別 扱 いす る と いう 方 式 を と ら な け れ ば な ら な い。
︹六 十 四︺ 注 意 事 項 四 、 語 の 文 脈 に 注 意
過 去 の ア ク セ ン ト を 記 述 ・註 記 し た 文 献 に つ い て 注 意 す べ き こ と は ま だ あ る 。 第 四 と し て は 、 そ こ に 記 述 ・註
﹁小 鳥 ﹂ の 部 分 は 低 く 平 ら に な る 。 ま
﹁小 鳥 ﹂ と いう 語 の ア ク セ ン ト は 、 単 独 で は 、 コ ト リ で あ る が 、 ﹁白 い 小 鳥 ﹂ と い う 連 語
記 さ れ た ア ク セ ント は 、 ど ん な 文 脈 に 用 い ら れ る ア ク セ ン ト か と い う こ と で あ る 。 ︹四 十 七 ︺ に 述 べ た こ と で あ る が 、 現 在 の東 京 語 で
と な り 、 全 体 が一 語 の よ う に 発 音 さ れ る 場 合 に は 、 シ ロイ コト リ の よ う に
た 、 ﹁赤 い 小 鳥 ﹂ と いう 連 語 の 全 体 を 一語 の よ う に 発 音 す る 場 合 に は 、 ア カ イ コ ト リ の よ う に ﹁小 鳥 ﹂ の 部 分 は
高 く 平 ら にな る 。 いわ ゆ る 単 語 結 合 の場 合 の準 ア ク セ ント の 現象 であ る 。 さ ら に 、 これ に特 殊 な イ ント ネ ー シ ョ
ン が 加 わ っ て ち が っ た 音 調 に な る 場 合 も あ る が 、 こ れ ら を す べ て 混 同 し て ︽小 鳥 は 上 昇 型 に も 高 平 型 に も 低 平 型 に も な る ︾ な ど と い って は 、 い け な い は ず で あ る 。
こ う いう こ と は 、 過 去 の 時 代 の ア ク セ ン ト に も 当 然 考 え ら れ る こ と で 、 こ の よ う に そ の 語 の 位 置 に よ っ て 、 変
化 す る 性 格 が あ った か も し れ な い 。 し た が って 、一 つ の 例 に 接 し た 場 合 、 こ れ は ど の よ う な 発 音 に お け る 形 か と いう こ と を は っき り 弁 え な け れ ば な ら な い 。
︹四 十 七︺ に は 、 東 京 語 の場 合 を 述 べた の で、 こ こ で は 、 現 在 の京 都 ・大 阪 語 の 場 合 を 述 べる と 次 の ︹付 表 21 ︺
のよ う で、 東京 語 よ り 複 雑 であ る 。 や は り 三 拍 語 を 例 に と る 。 単 語 で は 例 を と り に く いの で 、 名 詞 十 助 詞 の場 合 も か り る。
こ の変 化 を 見 る と 、 ︹ 付 表15 ︺ に述 べた 東 京 語 と 同 様 、 ﹁菊 が ﹂ ﹁竹 も ﹂ ﹁松 も ﹂ のよ う に ( 高 ) か ら (低 ︶ へ下 ︹付 表 21 ︺
降 す る 個 所 のあ る 型 、 す な わ ち 起 伏 式 の 型 は 強 力 な 型 で、 あ と の型 を す べて 低 平 型 に 変 え る 力 を も つ。 こ れ に対
し ﹁竹 が﹂ ﹁松 が﹂ のよ う に (高 ) のあ と に (低 ︶ が 来 る こ と の な い型 は 弱 い型 で、 あ と に 続 く 型 の 音 調 を あ ま
り破 壊 し な い。 し か も 、 ﹁竹 が ﹂ ﹁松 が ﹂ 二 つ の平 板 型 の中 で、 よ り 弱 いの は ﹁松 が﹂ の低 く は じ ま る ○ ○ ● 型 の
方 で あ る 。 こ れ は ● ○ ○ 型 ・● ● ○ 型 ・● ● ● 型 のよ う な (高 ) で はじ ま る 型 の前 で は 、 そ の型 に対 し て 敬 意 を
表 し て 自 分 は低 平 型 に変 化 し てし ま う 。 前 に立 つ型 が こ のよ う に変 化 す る のは 、 東 京 語 の三 拍 語 では 見 ら れ な い と こ ろ で あ った。
よ う に 、 第一 拍 が (高) の型 は 強 く 、 ﹁竹 が ﹂ ﹁松 が﹂ の型 のあ と に 来 た 場 合 に 自 分 の 型 を 守 る が、 ﹁松 も ﹂ ﹁松
ま た、 京 阪 語 の場 合 は そ れ だ け で は な い。 他 の 語 のあ と に 来 た 場 合 の方 を 見 る と 、 ﹁菊 が ﹂ ﹁竹 も ﹂ ﹁竹 が﹂ の
が ﹂ のよ う に 第 一拍 が (低 ︶ の型 は 弱 く 、 ﹁竹 が ﹂ ﹁松 が﹂ のあ と に来 た 場 合 、 低 平 型 に変 化 す る 。 つま り 平 板 式
の型 のあ と に 来 ても 、 起 伏 式 の型 のあ と に 来 た 場 合 と 同 じ にな って滝 を 失 ってし ま う 点 、 東 京 語 と ち が う こと に 注意 す べき で あ る 。
つま り 、 京 阪 語 で は 型 全 体 を 高 く は じ ま る 型 と 低 く は じ ま る 型 と いう 風 に大 き く 分 類 でき る わ け で、 こ れ は 池
田 要 氏 の創 見 (1 )で 2あ 8 った 。 和 田 実 氏 は 、 高 く は じ ま る 型 を ︽高 起 式 ︾、 低 く は じ ま る 型 を ︽低 起 式 ︾と 呼 ん だ (129)
が、 こ の高 起 .低 起 の 分類 は 、 佐 久 間 鼎 氏 の平 板 ・起 伏 の式 の発 見 に 比 肩 す る も の で 、京 阪 語 は 、 平 板 ・起 伏 の 式 の 対 立 と 、 高 起 ・低 起 の式 の 対立 と 二元 的 で あ る と いう こと が で き る 。
そ う いう わ け で 、 あ る文 献 に そ の 語 の アク セ ント が文 の 途 中 に来 て低 平 型 に表 記 し てあ った と す る 。 こう いう
場 合 、 東 京 語 で は 、 そ れ が本 来 ど う いう 型 であ る か 推 定 す る こ と は 不 可 能 であ る 。 ま た 、 京 都 ・大阪 語 の場 合 で
も 、 も し そ の直 前 の語 が起 伏 式 の型 の場 合 は 、 推 定 不 可 能 で あ る が、 し か し そ の直 前 の 語 が 平 板 式 の語 の場 合 に
は 、 そ の 語 が 低 平 型 に 表 記 さ れ て いれ ば、 そ の語 は 、 低 起 式 の語 であ る と 推 定 さ れ る 。 例 え ば、 二拍 語 な ら ば 、
○ ● 型 と か ○〓 型 と か 、 三 拍 語 な ら ば ○ ○ ● 型 と か ○ ● ○ 型 と か いう こ と が 推 定 で き る こ と に な る 。
型 と いう も の は な い。 そ こ で 、 平 板 型 の直 後
こ れ は 決 し て 軽 ん ず べ き こ と で は な い 。 例 え ば 、 三 拍 動 詞 の 型 は 現 代 の 京 都 ・大 阪 語 で は 、 連 体 形 は ● ● 型 か ○ ● 型 か で あ る 。 僅 か に ﹁居 る ﹂ が 一語 だ け ● ○ 型 で あ る が 、○〓
に 、 ○ ○ 型 に 表 記 し て あ る 動 詞 が あ った ら 、 こ れ は 無 条 件 に ○ ● 型 の 動 詞 で あ ろ う と 推 定 す る こ と が で き る こ と で あ る 。 こ の 方 法 は 、 ﹁実 証 と 展 開 編 ﹂ で大 い に 活 用 す る は ず で あ る 。
高 起 式 ・低 起 式 の区 別 は 、 京 都 ・大 阪 語 で は 、 ち ょ う ど う ま く 第 一拍 が 高 い 型 と 第 一拍 が 低 い 型 に符 合 す る か ら 好
都 合 で あ った 。 方 言 によ って は 高 起 式 の 語 が 必 ず し も 第 一拍 が高 いと は 限 ら な い点 め ん ど う で あ る 。 例 え ば 、 高 松 市
方 言 の ご と き は 、 ○ ● 型 や ○ ● ○ 型 な ど は 、 平 板 式 の 型 の直 後 に 来 た 場 合 、 低 平 型 に 変 化 す る と いう こ と が な い。 す
な わ ち 、 こ れ は 高 起 式 の型 と す べき も の で あ る 。 極 端 な の は 、 三 重 県 尾 鷲 市 方 言 で、 こ こ の 三 拍 語 に は 、 ● ● ● 型 ・
● ● ○ 型 ・● ○ ○ 型 ・○ ● ○ 型 ・○ ○ ● 型 と いう 五 種 類 の 型 が あ る が 、 こ の う ち 、 実 際 に 高 く は じ ま る 型 のう ち 高 起
式 な のは ● ○ ○ 型 だ け で 、 ● ● ● 型 と ● ● ○ 型 は 低 起 式 の 型 で 、 逆 に○ ● ○ 型 と ○ ○ ● 型 が 高 起 式 に な って いる 。 こ
れ は筆 者 が ﹁熊 野 灘 沿 岸 諸 方 言 の ア ク セ ント ﹂(1 )3 に0 報 告 し たも ので、 国 語学 会編 の ﹃ 方 言 学概 説 ﹄ の中 の、和 田 実 氏 の ﹁各 説 ・ア ク セ ン ト ﹂ に 引 か れ て いる 。
ま た こ の項 に 述 べた よ う に 見 て き た 場 合 、 京 都 ・大阪 語 の 型 に ア ク セ ン ト の滝 と いう 考 え を 適 用 す る と 、 ● ● ● 型
は 滝 が な く 、 ● ● ○ 型 と ● ○ ○ 型 と は 、 そ れ ぞ れ ● か ら ○ へ移 る 個 所 に 滝 が あ る こ と に な る 。 ○ ● ○ 型 も ● か ら ○ へ
﹂○ ○ ● 型 。
﹂○ ● ﹂○ 型 。
移 る と こ ろ に 滝 が あ る こと は よ いと し て 、 ○ ● ○ 型 と ○ ○ ● 型 と は 、 語 頭 に 滝 が あ る と 見 ら れ る こ と に な る 。 つま り
● ﹂○ ○ 型 。
滝 の 位 置 を ﹂ の 形 で 示 す と 、 次 のよ う に な る 。 ● ● ● 型 。 ● ● ﹂○ 型 。
東 京 語 の よ う な 語 末 に 滝 の あ る 型 は な いが 、 そ の 代 り 語 頭 に滝 を も つ 型 も あ る こ と に な り 、 こ と に 滝 を 二 つも った 欲
張 った 型 も あ る こ と に な る 。 ま た ○〓 型 や○○〓 型 で は 、 拍 の 途 中 に滝 を も った 型 も あ る こ と に な り 、 や はり 京 都 ・ 大 阪 語は、 東京 語 に比 べて多彩 であ る。
︹六十 五︺ 記 述 ・書 写 の 正確度 の計 り方
以 上 のよ う な 諸 点 に 注 意 を 払 って 、 あ る 文 献 に 記載 さ れ て いる アク セ ント が、 何 時 代 の何 地 方 の、 ど う いう 場
合 のア ク セ ント を 記 述 ・註 記 し た も の であ る か が 明 ら か にな った と す る。 こ の場 合、 そ の 記 述 あ る いは 註 記 を そ
のま ま 信 用 し 、 直 ち に、 そ の 地方 、 そ の時 代 の ア ク セ ント は、 斯 様 し か じ か と 述 べ てよ いで あ ろ う か。 こ こ に 恐
ら く 読 者 各 位 が いだ いて お ら れ る で あ ろ う 大 き な 不安 が 浮 か び 上 る 。 そ れ は 、 ア ク セ ント の記 述 者 ・註 記 者 の観
察 を ど の程 度 ま で信 用す べき か と いう 問 題 で あ る 。 一体 原 著 者 は 果 し て 正 し く ア ク セ ント を 観 察 し 得 、 正 し く 記
述 ・註 記 し 得 た であ ろう か 。 ︹六 十 二︺ に述 べた 、 そ れ を 転 写 す る 人 、 ま た は そ れ を 印 刷 に 付 し た 人 が、 正 し く 転 写 し 得 た か、 正 し く 版 を 起 こし 得 た か 、 と いう 問 題 は そ の先 の問 題 であ った 。
現 在 、一 般 の人 達 の ア ク セ ント に 関 す る感 覚 は 、 決 し て 完 全 で は な く 、 例 え ば 、 東京 に育 った 人 に ﹁花 ﹂ と い
う 語 の アク セ ント を 尋 ね て み る と 、 あ る いは ハの方 が高 いと 言 い、 あ る いは ナ の方 が 高 いと 言 い、 ま ち ま ち であ
る。 し か も 、 こ れ は 言 語 ・国 語 に つ い て研 究 し て いる 人 が 、 必 ず し も 正 確 な 耳 の持 主 では な い こと は注 意 し な け
れ ば な ら な い。 私 の知 人 の 一人 な ど は 、 自 分 の こと ば のア ク セ ント は す べ て 平 ら で特 別 の フシ が つ いて お ら ず 、
自 分 と ち が った ア ク セ ント は す べ て フ シ が つ いて いる と 思 って いる く ら いで あ る 。 こう いう こ と は 、 昔 も 変 わ り
は な か った ろう と 思 わ れ る 。 そ う す る と 、 昔 の人 がや れ ︽﹁橋 ﹂ は ハが 高 い︾ と か 、 や れ ︽﹁箸 ﹂ は シ が高 い︾ と
か いう よ う に記 述 し た と し て も 、 ど の程 度 ま で 信 用 す べき か 、 迷 わ ざ る を 得 な いと いう の が 現実 で あ る 。
そ れ で は 、 過 去 の文 献 に 接 し て、 そ れ がは た し て信 用 で き る も のか 、 ど う し て判 断 し よ う か。 こ れ は 実 に 難 し
い注 文 で あ る 。 が、 や は り考 え て お か な け れ ば な ら な い大 切 な 問 題 で あ る。 私 は こ れ に つ いて は、 暫 く 次 のよ う な 方 法 を と った ら よ い か と考 え る 。
︽か り にそ の記 述 ・註 記 のと お り そ の語 を 発 音 し て み る 。 そう し て、 現在 のそ の方 言 の そ の語 の ア ク セ ント
と 比較 し 、 ま た 、 そ の時 代 ま た は そ の前 後 の 時 代 の、 そ の方 言 の 、 そ の語 のア ク セ ント の記 載 を 参 照 し 、 も し 矛 盾 が な く 通 れ ば 、 一往 正 し いも の と 考 え る ︾
そ し て 、 ま た 、 そ こ に 記 載 さ れ た ア ク セ ン ト は 、 現 在 諸 方 言 の ア ク セ ン ト を 通 し て 見 ら れ た ア ク セ ン ト の 一般
的 性 格 に 矛 盾 し な い か ど う か 、 と いう こ と 、 ま た 現 在 諸 方 言 を 通 じ て 見 ら れ た 例 の ﹁型 の 対 応 ﹂ が 見 ら れ る か ど
う か 、 な ど と いう こ と も 、 そ の ア ク セ ン ト 記 載 の 正 否 を 判 定 す る の に 役 立 つと 思 わ れ る 。
な お 、 そ れ か ら 、 一 つ の 文 献 の ア ク セ ン ト 記 述 ・註 記 に 対 し て 、 観 察 に あ や ま り が あ る と 断 定 す る た め に は 、
ど う し て 著 者 が そ のよ う な あ や ま り を 犯 し た か と いう 、 そ の原 因 が説 明 さ れ れ ば 最 も 望 ま し い こ と であ る。
前 に ︹ 五 十 三 ︺ に 珍 し い江 戸 語 の ア ク セ ン ト 史 の資 料 と し て 紹 介 し た も の に 、 斎 藤 彦 麿 の ﹃音 声 論 ﹄ と いう も の が
あ った 。 が 、 実 は 残 念 な が ら これ は 資 料 と し て は な は だ 信 頼 性 が お き が た い。 と いう の は、 そ こ に 記 述 さ れ て いる ア
ク セ ン ト は 、一 つ の 体 系 と 見 る と き 、 現 在 の東 京 語 と の 間 は 勿 論 の こ と 、 他 のど こ の方 言 と の 間 に も 規 則 的 な 対 応 関
係 が 認 め ら れ な い か ら で あ る 。 つま り [二 十 一] に あ げ た 、一 つ 一つ の 類 の 語 が ち っと も ま と ま って 同一 の ア ク セ ン
ト に 表 記 さ れ て いな い の であ る 。 明 治 維 新 に 先 立 つ百 年 ば か り 前 の ア ク セ ン ト が こ の よ う であ った と は 到 底 考 え ら れ
な い。 こ の 場 合 、 こ の資 料 は 、 著 者 が ア ク セ ント を 観 察 す る 力 量 が な か った も の と し て 、 捨 て る ほ か は な い。 彦 麿 の
こ の文 献 に つ いて は 、 福 島 邦 道 氏 に 、 ﹁江 戸 言 葉 のア ク セ ン ト に つい て の一 資 料 ﹂(1 ︶3 と1いう 考 察 が あ る 。
そ れ と も う 一つ、 そ こ に 記 載 さ れ て い る ア ク セ ント が 、 信 頼 で き そ う も な く 思 わ れ る 場 合 は 、 同 じ 条 件 に あ る 同 じ
語 が 、 二 種 類 の ち が った 型 に 表 記 さ れ て いる 場 合 で あ る 。 こ の よ う な 場 合 、 一方 が 正 し く 一方 が あ や ま り で あ る 可 能
性 が 強 い。 例 え ば ︹五 十 八 ︺ にあ げ た ﹁仮 名 声 集 ﹂ の よ う に 、 語 ご と に 二 種 以 上 の ア ク セ ント が 挙 が っ て いる のは 、
そ う で あ る 。 も し か し た ら 、 これ は そ のう ち の 一つ は 著 者 が 実 際 に 耳 に 観 察 し た ア ク セ ント 、 も う一 つは 他 人 か ら 教
え ら れ た 他 の言 語 体 系 の ア ク セ ント か も し れ な い。 た だ し 、 現 代 語 の ア ク セ ント を 例 に と って 考 え て み る と 、 た ま た
ま そ の 語 が 二 様 の ア ク セ ント を も って い た 、 そ れ を 反 映 し て いる の か も し れ な いと 解 さ れ る 場 合 も あ る 。 も し ち ょう
ど 、 ア ク セ ント 変 化 が 進 行 し て いる 場 合 に は、 こ の よ う な こ と が 起 こ り う る の で 、 こ れ は 反 っ て、 ア ク セ ント 変 化 の 方 向を 示す 貴重 な資 料 とな る。
﹁誠 ﹂ と いう 語 は 、 ﹃ 図 書 寮 本 ・類 聚 名 義 抄 ﹄ の中 に 七 例 現 わ れ る が、 三 例 が 上 上 上 型 に、 二例 が 平 上 上 型 に、 一例
が マ コ の部 分 に 対 し て 上 上 型 に表 記 さ れ 、 ほ か に 、 コト の部 分 に 対 し て 上 上 と 表 記 し 、 マ の部 分 に 対 し て は 上 と 平 と
﹁ 真 事 ﹂ と 考 え て み る と 、 本 来 は マ コト と いう 型 で あ り そ う であ る 。 と す る と、 こ の 例 は 、 こ の時 期 が 、 マ コ
二 種 の 点 を 施 し てあ る 。 こ の語 は 後 世 の ア ク セ ン ト と 比 較 す る と、 当 時 マ コト の 型 で あ って よ さ そ う に 思 わ れ る が 、 語源を ト か ら マ コト へ移 る 過 渡 期 だ った の か も し れ な い。
が 、 そ う は 言う も の の 音 の高 低 と いう も の は 、 人 は 必 ず し も 正 し く 捉 え る こ と が で き な い こ と は 事 実 で あ る 。 こ れ
は 、 言 語 学 を 修 め た 人 で も 、 あ る い は 音 楽 の 専 門 家 で も そ う で あ る こ と は 驚 く べき こ と で あ る が 、 事 実 で あ る 。 こ の
こ と は 過 去 の ア ク セ ン ト を 研 究 す る 場 合 、 事 態 を き わ め て 困 難 にす る 。 そ れ な ら ば 間 違 え て 捉 え る 方 向 に 、 何 か 法 則 性 は な い だ ろう か。
が大 学 三 年 の時 だ か ら 昭 和 十一 年 の こ と 、 有 坂 氏 は 当 時 数 え 年 で 二 十 九 歳 だ った 。 私 は 卒 業 論 文 を 書 く 上 の指 導 を 仰
こ の点 に 関 し て は 、 私 は 貴 重 な 資 料 を 保 管 し て い る 。 故 有 坂 秀 世 氏 か ら 頂 い た 書 簡 で あ る 。 頂 いた と い って も 、 私
ぐ た め に 、 初 夏 の 一日 有 坂 邸 を 訪 問 し 、 多 く のも のを 教 わ って 帰 宅 し た 。 そ の あ と 、 追 い掛 け る よ う にし て 頂 い た 手
紙 が 次 に か か げ る も の で あ る 。 故 人 に無 断 で 公 開 す る の は 心 苦 し い が 、 恐 ら く 誰 に 見 せ て も は ず か し く な い り っぱ な
内 容 であ る の で、 故 人 の霊 に謝 し つ つ、 前 後 のあ い さ つ の部 は 省 い て 、 主 要 な と こ ろ を 引 用 さ せ て いた だ く 。
⋮ ⋮ な お 先 日 申 し 落 し ま し た が、 音 の 昇 降 に 関 す る 宣 長 等 の説 を 解 す る に つ い て 、 多 少 御 参 考 に な る か も 知 れ ま
せ ん か ら 、 現 代 支 那 人 の ア ク セ ント 意 識 に 関 し て 私 の 経 験 し た 所 を 少 し 申 し 上 げ ま せ う 。
私 が 鎌 倉 に 居 り ま し た 頃 、 古 い 山東 系 移 民 の子 孫 か ら 成 る 旅 順 近 郊 の 一部 落 か ら 出 た 支 那 人 と 知 り 合 ひ に な り
ま し た 。 こ の 人 と 始 め て 話 を し た の が、 一昨 年 の 大 晦 日 で ご ざ いま し た が 、 そ の 時 試 み に 、 ﹁四 声 と は 一体 ど ん
なも の で す か ﹂ と 尋 ね て 見 ま し た 。 す る と 、 そ の 人 が 言 ふ に は 、 ﹁四 声 に つ い て は 、 平 ・上 ・去 ・入 と い ふ 文 字 が ち や う ど そ れ ぞ れ の 実 例 に な つ て ゐ る 。 例 へば、 平 声 は
と いふ 風 に 平 で 長 く 引 く し 、 ( と 言 ひ な が ら、 火 鉢 の 灰 の 上 に 右 の や う な 図 を 描 き ま し た ) 上 声 は
と いふ 風 に 昇 る し 、 去 声 は
と いふ 風 に降 る し 、 入 声 は
と いふ 風 に 短 い の だ ﹂ と 答 へま し た 。 然 る に 、 実 際 私 の 耳 に響 い た 音 の昇 降 は 、 大 体 左 の通 り で し た 。 (一 )平 piη は 殆 ど 平 ら で 、 いく ら か 昇 り 気 味 に 発 音 さ れ ま す 。 (二 )上 saη は降 りま す。
は 低 く て 昇り ま す 。
(三 )去 cψy も 降 り ま す 。 (四 ) 入 y
つま り 、 こ の人 は ﹁上 声 はsaηの や う に 昇 る ﹂ と 言 つ て 火 鉢 の灰 の上 に
の や う な 形 を 描 き な が ら 、 そ の 実 は 降 る 調 子 でsaηを 発 音 し て 居 り ま し た 。
そ こ で、 私 は 更 に、 ﹁上saηと 去cψy と は 私 に は ど ち ら も 降 る や う に 聞 え ま す が、 ど こ が 違 ふ の で せ う か ﹂
と 尋 ね ま し た 。 す る と 、 こ の 支 那 人 は 、saη,cψy,saη,cψy⋮⋮と 三 四 回 発 音 し て 考 へ た 後 、 ﹁上saηの 方 が 長 い の で す ﹂ と 答 へま し た 。
は全く 同 型
( 去 声 ) に 属 す る も の で あ る こ と が 分 り ま し た 。cψy よ り 長 い や う に も 感 ぜ ら れ ま す け れ ど 、 音 韻
併 し 多 く の 語 彙 に つ い て 調 べ て 見 ま し た と こ ろ 、 結 局 、 こ の人 の ア ク セ ント の 体 系 で は 、 上saηと 去cψy と
論 的 に 見 る な ら ば、 そ れ は 決 し て 型 の 区 別 で は あ り ま せ ん 。 ( 北 京 官 話 で も ﹁上 声 ﹂ の ﹁上 ﹂ は 去 声 で ご ざ いま す 。)
四 型 以 外 に 、 な ほ 、 東doη の や う な 別 の 型 が ご ざ いま す 。 こ れ は 、 低 い降 調 で 、 末 尾 が 少 し 昇 り ま す 。 こ れ が
さ う し て 、 こ の人 が 入 声 と 考 へ て ゐ る 所 の低 い昇 調 は 、 そ の実 上 声 であ る こ と が 分 り ま し た 。 そ の上 に、 右 の
北 京 官 話 の 陰 平 に 対 応 す る も の で 、 前 の平piη の 型 は 陽 平 に対 応 す る も の で あ る こ と が 分 り ま し た 。
(二 ) 陽平
(一 ) 陰平
( 五) 低く て昇 りま す。 ( 北 京 官 話 の 場 合 よ り は 、 いく ら か 短 う ご ざ いま す 。)
( 平 ) 高 く 略 平 ら で 、 いく ら か 昇 り ま す 。
( 東 ) 低 い降 調 で 、 末 尾 が 微 か に 昇 り ま す 。
つま り こ の 人 の ア ク セ ント の体 系 は 、 左 の四 型 か ら 成 つ て 居 り ま す 。
(三 ) 上声
さ う し て 、 古 の入 声 に 対 応 す る 音 節 は 、 右 の (一 () 二 () 三 () 四 の) 中 の いづ れ か の 型 に 変 つ て 居 り ま す 。 例 へ ば ﹁入 ﹂ の 字
(四 ) 去 声 (去 ︶ 降 り ま す 。
は上声 にな つて居 ります 。
つま り 、 こ の人 は 、 小 学 校 以 来 上 声 は 昇 る も の と 教 へら れ て 来 た の で 自 ら ﹁上 ﹂ を 降 調 で 発 音 し な が ら も 、 あ
た か も 昇 調 に 発 音 し て ゐ る か のや う に 信 じ て 、 今 ま で少 し も 疑 は な か つ た の で ご ざ いま す 。 服 部 君 か ら も 同 じ や
う な 例 を 聞 き ま し た 。 確 か 台 湾 の 陰 上 声 は 明 瞭 な 降 調 で あ る の に、 発 音 者 自 身 は 昇 調 のや う に 感 じ て ゐ た 、 と い
ふ 風 な 話 であ つた か と 記 憶 致 し ま す 。 兎 に角 、 言 語 上 の 習 慣 と いふ も の は 恐 ろ し いも の で、 右 の や う な 場 合 に は 、
明 瞭 に降 る も のを あ た か も 昇 る か のや う に感 ぜ し め て 居 り ま す 。
佐 久 間 博 士 も ﹁陶 冶 さ れ な い聴 覚 の 鈍 感 は、 一般 の国 人 に 、 高 低 変 化 の 上 下 の方 向 を 判 断 す る に さ へ、 ま ご つ
か せ る 程 の場 合 も あ る や う に 見 え る 。﹂ (﹁ 国 語 アク セ ント 講 話 ﹂九 九 頁) と 言 つ て 居 ら れ ま す 。 か や う な 事 実 か ら
推 し て考 へる と 、 音 の 昇 降 に 関 す る 古 人 の 意 識 な ど は か な り 疑 は し い も の で、 例 へ ば 、 昔 の 人 が 、 ﹁上 声 者厲 而
挙 ﹂ と 書 い て ゐ る と し て も 、 こ の 記 述 だ け か ら 直 ち に 、 ﹁当 時 そ の 方 言 で 、 上 声 は 昇 る 調 子 で あ つ た ﹂ と 断 言 し
て よ いも の か ど う か 、 躊 躇 さ れ ま す 。 宣 長 な ど の昇 降 意 識 に つ い ても 、 や は り 同 様 な 事 情 が 考 へら れ は 致 し ま す ま いか 。 ⋮ ⋮
と 言う も のであ る。
こ の 有 坂 氏 の お 手 紙 か ら ア ク セ ン ト の間 違 った 評 価 に 対 し て 貴 重 な 示 唆 が え ら れ る。 一言 に し て 言 え ば 、 ︽人 は 先
入 観 に と ら わ れ る 。︾ と いう こ と で あ る 。 な お こ こ に 、 筆 者 が 今 ま で 各 地 の 方 言 そ の 他 の ア ク セ ント を 観 察 し な が ら 気 付 いた 傾 向 を 書 き つ け て お く と、 次 のよ う に な る 。
し ば 段 々 高 く な る 音 調 と と ら れ や す い。 段 々 声 が 苦 し く な る せ い で あ ろ う か 。 低 い 平 ら な 音 調 は 段 々低 く な る 音 調
(1 )下 降 す る 音 調 は 平 ら な 音 調 と と ら れ や す い。 発 音 が 楽 で 、 自 然 で あ る た め で あ ろ う か 。 高 い 平 ら な 音 調 は、 し ば
と と ら れ や す い。 こ れ も 続 く と 苦 し く な る せ い で あ ろ う か 。
(2 ) 本 文 に 述 べ た こ と で あ る が 、 一般 に自 分 の 発 音 は 自 然 で ク セ がな く 平 ら だ と 感 じ る 傾 向 が あ る 。 女 流 声 楽 界 の 権
威 四 家 文 子 女 史 は 、 弟 子 に 歌 曲 を 教 え る 際 、 標 準 語 の ア ク セ ント を や か ま し く 指 導 し て い る 、 得 が た い教 育 者 で あ
る が 、 指 導 の 様 子 を わ き か ら 見 て いる と 、 東 京 語 で 頭 高 型 の 語 であ ろ う と 、 中 高 型 の 語 で あ ろ う と 、 東 京 語 の方 は
す べ て フ シ が な く 、 他 方 言 の方 は ヘンな フ シ が つ い て い る と いう 扱 いで あ る 。 そ れ で 、 ち ゃん と 指 導 が 出 来 て いる
の は 、 女 史 の 情 熱 の せ い で あ ろ う が 、 は た 目 に は ま こ と に ほ ほ え ま し い。一 般 の東 京 人 が 、 茨 城 や 栃 木 の 方 言 を さ し て、茨 城 の尻 上り、 栃木 の尻上 りと言 う のも それ と同 じ傾向 の現象 であ る。
異 の 感 を い だ き 、 変 な フ シ が つ い て い る と 思 う こ と が 多 い。 自 分 が 高 く は じ め る 語 を 、 相 手 が低 く は じ め る 場 合 に
(3 ) 自 分 と ち が った ア ク セ ント に 接 し た 場 合、 自 分 が 低 く は じ め る 語 を 相 手 が 高 く は じ め る ア ク セ ント を 使 う と 、 奇
は 、 少 し 変 だ ぐ ら い で 、 そ れ ほ ど び っく り す る こ と は な い。 ア ク セ ント の 乱 れ を いう 時 に 、 地 方 の 人 が し ば し ば 東
京語 のク モ ( 雲 ) を 問 題 に し 、 東 京 の 老 人 が 子 供 た ち の ク マ の ア ク セ ント を 気 に し 、 若 い 人 が 老 人 の ア ク セ ント の
ア カ ト ンボ を 笑 う の は そ れ であ る 。 東 京 人 が 関 西 語 を 高 く は じ ま る 単 語 が 多 いと 感 じ 、 関 西 人 は 、 東 京 語 を 高 く は じ ま る 単 語 が 多 いと 感 じ る のも そ の た め であ る 。(1 )32
(4 )﹁上 声 ﹂ と か ﹁平 声 ﹂ と か いう こ と ば に 引 か れ や す い。 つ ま り ﹁上 声 ﹂ と 呼 ば れ る も の は 昇 る よ う に 感 じ 、 ﹁平
声 ﹂ と 呼 ば れ る も の は 平 ら な よ う に 感 じ る 。 こ こ の有 坂 氏 が 調 査 さ れ た 山 東 省 人 も そ う で あ った が 、 ︹五 十 二 ︺ に
引 いた 契 沖 が 、 ﹁日 ﹂ と か ﹁橋 ﹂ の よ う な 語 を 引 い て 、 平 声 は 上 ら ず 下 ら ず 平 ら だ と 言 っ て い る の も そ の 例 と 見 ら
れ る 。 東 京 方 面 に は 、 ﹁水 戸 の 尻 上 り ﹂ と か ﹁栃 木 の 尻 上 り ﹂ と か いう 諺 が 普 及 し て いる が 、 純 朴 な 茨 城 人 ・栃 木
人 の 中 に は 、 こ の 評 価 を 鵜 飲 み に し 、 自 分 た ち の平 ら な ア ク セ ント を す べ て 尻 上 り だ と 解 し て いる 人 が あ る 。
注 (1) ﹃ 国 文論 叢 ﹄ ( 明治 三十 六 ・十 )所 載 。 ( 2) ﹃国 学院 雑 誌 ﹄ 二 二 の一︲四、 二 二 の七︲一〇 ( 大 五 )。 ( 3) ﹁補 忘 記 の研 究 ﹂ 日本 方 言 学会 編 ﹃ 日 本 語 の アク セ ント ﹄ ( 昭 十 七 ・三 ) 所 載。 ( 4) ﹁仮 名遣 の起 源 ﹂ ﹃ 国 語 と 国 文学 ﹄ 二七 の 一二 ( 昭 二 十五 ) 所載 。
6) ﹁濁 点 の起 源 ﹂ ﹃ 東 京 大 学教 養学 部 人 文科 学 科 紀 要 ﹄ 国文 学 ・漢 文 学 X ( 昭 三十 九 ︶ 所載 、 な ど 。
( 5) ﹃ 日 本韻 学 史 の研究 ﹄Ⅰ 、 日本 学 術 振 興 会刊 行 ( 昭 三 十 七 ・三 ) 。(
( 7) ﹁中 世片 仮 名 文 の国語 史 的 研究 ﹂ ﹃ 広 島大 学 文 学 部 紀要 ﹄ 特 輯 三 (昭四 十 六 )所 載 。 ( 8) ﹃国 語 ア ク セ ント の話 ﹄ 春 陽堂 刊 行 ( 昭 十 八 ・三 )所 載 。 ( 9︶ ﹃国 語学 ﹄ 第 二 二輯 ( 昭 三 十) 所 載 。
d
'Accentuation
grecque.
(10 ) ﹃ 国 語 と 国文 学 ﹄ 三 七 の 一〇 ( 昭 三十 五 ) 所載 。 (11 ) Traite (12 ︶ ﹃ 国 語 と 国文 学 ﹄ 二〇 の四 ( 昭 十 八) 所 載 。 (1) 3﹃ 文 芸 研 究﹄ 第 四〇 集 ( 昭 三 十 七 年) 所 載 。 ( 14 ) ﹃ 国 語 と 国 文学 ﹄ 二 七 の一 二 ( 昭 二 十五 ) 所載 。
Paris1945.
(15 ) ﹃ 続 日本 文 法講 座 ﹄ 二 表記 編 、 明治 書 院 刊 行 ( 昭 三 十 三 ・六) 所 載 。 (16 ) ﹃ 常 葉 女 子短 大 紀 要 ﹄ 五 ( 昭 四 十 八) 所 載 。
(17 ) 平山久雄 ﹁ 中 古 漢 語 の音 韻 ﹂ ﹃中国 文 化 叢 書﹄ 一、 大 修館 刊 行 ( 昭 四十 二 ・十 一) 所 載 。
(1) 8 寺 川 喜 四 男 ほか 編 ﹃国 際 アク セ ント 論 叢 ﹄法 政 大 学 出 版 刊行 ( 昭 二十 六 ・十一 )所 載 。
( 20 ) ﹃お茶 の水 女 子大 学 ・人文 科 学 紀 要﹄ 第 五 巻 ( 昭 二十 九 )所 載 。
(1) 9 ﹃ 言 語 研 究﹄ 第 一七 ・一八合 併 号 ( 昭 二十 六 )所 載 。
( 21 ) ﹁四声 軽 重考 ﹂ ﹃ 東 洋 学 研究 ﹄ 創 刊 号所 載 。
(22 ) ﹁ 和 名 抄 の音 注 に見 ゆ る某 声 の軽 又 は重 と いふ事 ﹂ ﹃ 国 学 院雑 誌 ﹄ 一九 の 一一 ( 大 二) 所 載。
(23 ) ﹁ 古 代 漢 音 に お ける 四 声 の軽 重 に つ いて﹂ ﹃国語 ・国 文 ﹄一一 の 一一 (昭十 六 ) 所載 。 (24 ︶ ﹁日本 四 声古 義 ﹂ ( 18 に前 出 ) ペー ジ六 六 を参 照 。 (25 ) ﹃日本 韻 学史 の研 究 ﹄Ⅰ (5 に前出 ) ペー ジ 五六 七 。 (26 ︶ ﹃日本 声 調 史論 考 ﹄ 風 間書 房 刊 行 ( 昭四 十 六 ・四 ) ペー ジ 四二三︲ 四 二四 。 (27 ︶ ﹃日本 声 調 史論 考 ﹄ ( 26 に前 出 ) ペー ジ五 二 一。
にもあ ると いう。 同 書 、 ペー ジ五 〇 二。
( 28 ) 小 西甚 一 ﹃ 文 鏡 秘 府 論 考 ﹄ 研究 篇 ( 上 )、 大 八 洲 出版 刊 行 ( 昭 二十 三 ・四) ペ ー ジ 四 九 四 。 了尊 の ﹃ 悉曇 輪略図抄﹄
(29 ) ﹁日本 語 調学 小史 ﹂ ( 2 に前 出 ) ペー ジ七 七、 八行 。 (30 ) ﹁ 丹 陽 方 言 と 日本 漢 字 音と の声 調 に ついて ﹂ ( 20 に前 出 ︶ ペー ジ六九 。
(31 ) ﹁ 国文学研究 ( 早 大 )﹄第 二五 集 ( 昭 三十 七 ) 所載 。
(32 ) ノ ート ルダ ム清 心 女 子 大学 古 典 叢書 刊 行 会 ﹃古今 私 秘 聞 ﹄ ( 昭 四十 五 ・五) の ﹁ 解 題 ﹂ ペー ジ 三 七。 (33 ) 有 朋堂 刊 行 ( 大 十 四 ・十)。 ( 34 ) ﹃源氏 物 語 大 成﹄ 中 央 公 論 社刊 行、 巻 七 の ペー ジ一一 七 。 ( 35 ︶ 中央 公 論 社 刊 行 ( 昭十五) 。 ( 36 ) 弘道 館 刊 行 ( 昭十 七 ・五 ) 。 ( 37 ) ﹁日本 語 調 学 小史 ﹂ (29 に前 出 )。 ( 38 ) 昭和 三年 稿 成 る。 三 省 堂 刊行 ( 昭 三 十九 ・十 一)。
( 39 ) 古 今書 院 刊 行 ( 昭十 一・ 一) 、 ペー ジ 一〇。 ﹃ 定本 柳 田国 男 集﹄ ( 筑 摩書 房刊 行 ) 第 二 〇巻 所 収 。 ( 40 ) ﹃国 語 と国 文 学 ﹄ 二九 の六 ( 昭 二十 七 )所 載 。 ( 41 ) ﹃国 学院 雑 誌 ﹄ 六 二 の 一二 ( 昭三 十 六 ) 所載 。 ( 42 ) ﹃五 昧智 英 先 生 還暦 記 念 上 代文 学 論 叢 ﹄ 桜楓 社 刊 行 (昭 四十 三 ・十 二) 所載 。 ( 43 ) 笠 間書 院 刊 行 ( 昭 四十 八 ・一) 。 ( 44 ) ﹃ 都 留文 化 大 学 紀 要﹄ 第 六 ・七号 ( 昭 四 十五 ︶。 ( 45 ) ﹃ 国 語説 鈴 ﹄ 立 命 館出 版 部 刊 行 ( 昭 六 ・九)。 (46 ) 藤 村作 編 ﹃日本文 学大 辞 典 ﹄ の ﹁ 音 符 ﹂ の項 。 ( 4 7︶ ﹃ 国 語文 化 講 座 ﹄第 二巻 ( 昭 十 六) の ﹁仮名 の沿 革﹂ の項 。 (48 ) ( 6 ) に前 出 。 (49 ) (48) の文 献 の ペー ジ三 二三 。
(50 ) ﹃ 国 語 国 文﹄ 三 七 ・二 ( 昭 四 十 三 ) に所 載。 のち に ﹃日本 声 調 史論 考 ﹄ (26 に前 出 ) に収 録。 (51 ) 一條書 房刊 行 ( 昭 十 九 ・六 )。 (52 ) 正宗敦夫編 ﹃ 類 聚 名義 抄 ﹄ 風 間書 房 刊 行 ( 昭三 十 ・六 )第 二巻 所 載。
( 53 ) ﹃平安 時 代 の漢 文訓 読 語 に つき て の研究 ﹄ 東 大 出版 会 刊 行 ( 昭三 十 八 ・三) の ペー ジ九 七 五。
( 54 ) ﹁類聚 名 義 抄 和 訓 に施 さ れ た声 符 に 就 て﹂ ﹃ 国 語学 論 集 ﹄ 岩波 書 店 刊 行 ( 昭 十 九 ・十) 所 載 。
( 55 ︶ ﹁改編 本 系 類 聚名 義 抄 の成 立時 期 に つ いて﹂ ﹃ 福 田良 輔 教 授 退官 記 念 論 文集 ﹄ ( 昭 四 十 四 ・十 ) 所載 。 ( 56 ) ﹁訓読 史 上 の図書 寮 本 類 聚名 義 抄 ﹂ ﹃ 国 語学 ﹄ 第 三 七輯 ( 昭 三 十 四) 所 載。
( 57 ) ﹁図書 寮 本 ・類 聚名 義 抄 出典攷 ﹂ ﹃ 訓点 語 と訓 点 資料 ﹄ 第 二 ・三 ・五 号 ( 昭 二十 九 ・三 十) 所 載。 ( 58 ) ﹃国 語と 国 文 学 ﹄ 四 一の一〇 ( 昭 三 十 九) 所 載。 ( 59 ︶ ﹃ 古 辞書 の研 究 ﹄講 談 社 刊 行 ( 昭 三 十 ・十一 )。
( 60 ) ﹁世尊 寺本 字 鏡 の成 立 ﹂ 山 田忠 雄 編 ﹃本邦 辞 書 史 論叢 ﹄ 三 省 堂刊 行 ( 昭 四 十 二 ・二) 所載 。 ( 61 ) ﹃ 本 邦辞 書 史 論 叢﹄ ( 60 に前 出 ) 所 載 。 ( 62 ) 山 田忠 雄 ﹁字 鏡鈔 と字 鏡 抄﹂、 貞 苅 伊 徳 ﹁ 注 文 か ら 見た 字 鏡鈔 ・字 鏡集 の考 察 ﹂。
三一 一。
( 63 ︶ 古 田東 朔 ・築島 裕共 著 ﹃国 語学 史 ﹄ 東 大 出版 会 刊行 ( 昭 四 十 七 ・十 一)、 ペー ジ 一二 三︲ 一二 四。 ( 64 ) ( 59 ) に前 出 。 ( 65 ) ﹃ 日 本声 調 史 論 考﹄ ( 26 に前出 ) ペー ジ三 〇九︲ ( 66 ) ﹃ 国 語 と国 文 学 ﹄ 四一 の一 〇 ( 昭 三 十 九) 所 載 。 ( 6 7) ﹃ 国 語 と国 文 学 ﹄ 四 〇 の七 ( 昭三 十 八) 所載 。
( 68 ) 桜 井茂 治 ﹁ 大 東 急 文庫 蔵 ﹃大 般 若 経 音 義 ﹄所 載 の ア ク セ ント ﹂ ﹃国 語 研 究 ( 国 学 院 大 )﹄ 第 一〇 号 ( 昭 三 十五 ) 所 載 。
小松 英 雄 ﹁大般 若 経 音義 にみ え る和 訓 の声点 ﹂ ﹃か がみ﹄ 第 五 号 ( 昭三 十 六 ) 所載 。 ( 69 ) ﹃ 東京大 学 教 養 学部 人 文 科 学科 紀 要 ﹄ 国文 学 漢 文 学Ⅵ ( 昭 三 十 五 ︶所 載 。
( 70) 奥 村 三雄 ﹁ 倶 舎 論 音 義 和 訓 の ア ク セ ント ﹂ ﹃岐阜 大 学 学 芸 学 部 研 究 報 告 人 文 科 学 ﹄ 八 ( 昭 三十四)所載。吉田金彦 ﹁ 倶 舎 論 音義 に つ いて ﹂ ﹃ 国 語 国 文﹄ 二三 の六 (昭 二十 九) 所 載 。 ( 71 ) ﹃ 古 辞 書 の研 究 ﹄ ( 59 に前 出 ) ペー ジ二 五 二。 ( 72 ) ﹁本 草 和名 の和 訓 に ついて ﹂ ﹃ 国語学研究 ( 東 北大 )﹄五 ( 昭 四 十 )所 載 。
( 73 ) 古 田 ・築 島 共 著 ﹃ 国 語 学 史﹄ (63に前 出) ペー ジ一一三 。
載 な ど。
( 74) ﹁近畿 ア ク セ ント に お け る 下上 型 名 詞 の 甲類 ・乙 類 の別 の発 生 に 関す る考 察﹂ ﹃ 国 語 アク セ ント 論 叢 ﹄ ( 18 に前 出 )所
(75 ) ﹃女 子大 文 学 ( 大 阪 女 子大 )﹄ 八 ・九 ( 昭 三 十一) 所 載 。 (76 ) ﹃ 佐 伯 梅 友博 士古 稀 記念 国 語 学 論集 ﹄ 表 現 社 刊行 ( 昭 四 十 四 ・六 ) 所載 。 (77 ) ﹃ 国 学 院 雑誌 ﹄ 五 七 の七 ( 昭 三 十 一︶ 所 載 。 (78 ) ﹃ 国 学 院雑 誌 ﹄ 六 八 の七 ・八 ( 昭 四十 二) 所載 。 (79 ︶ 国 定 教科 書 共 同販 売 所刊 行 ( 明 四十 二 )。 (80 ) 京 大 文学 部 国 文 学 会 刊行 ( 昭 二 十 七 ・三 ) 。 ( 8 1) ﹃ 国 語 と 国文 学 ﹄ 九 の 一二 ( 昭 七) 所 載 。 ( 82 ) (7) に前 出 。 ( 83 ︶ ﹃ 金 沢文 庫 研 究 ﹄一 六 の九 ( 昭 四十 五 ) 所載 。 ( 84 ) ( 3 1) に前 出 。 ( 85 ) 資料 篇、 校 倉書 房刊 行 ( 昭 四十 七 ・三)。
( 86 ) こ れ ら の文 献 に つ いて は、 井 上 宗 雄 ﹃中 世歌 壇 史 の 研究 ﹄ ( 室 町 前 期 ) 風 問書 房刊 行 ( 昭 三 十 六 ・十 二 ) そ の他 に詳 し い。 ( 87) 片桐 洋一 ﹃中 世古 今 集 註 釈書 解 題 一﹄ 赤 尾 照 文堂 刊 行 ( 昭 四十 六 ・十 ) 。
( 昭 三 )所 載 。
(88 ) ﹃国語 学 大 系﹄ 第 九 巻 ﹁ 仮 名 遣 ﹂ ペー ジ 一〇︲一一 。 (89 ) ﹃ 国 語 アク セ ント 論 叢﹄ ( 18 に前 出 )所 載 。 (90 ) 井 上 奥 本 ﹁百人 一首 写真 解 説 ﹂ ﹃音声 の研究 ﹄Ⅱ (91 ) 有 精 堂 刊行 ( 昭 三 十 五 ・十 )、 ペー ジ二 四 六。 (92) 岡一 男 ﹃ 源 氏 物 語事 典 ﹄ 春 秋 社刊 行 ( 昭 三 十九 ・十 二)。
(93 ) 玉上 琢 弥 編 、 山本 利 達 ・石 田禳 二 校 訂 ﹃ 紫 明 抄 ・河 海 抄 ﹄角 川 書 店 刊 行 ( 昭 四 十 三 ・六 )。 (94 ) 岩波書店刊行 ( 昭 十 六 ・二)。
(95 ) ﹁ 補 忘 記 の研究 ﹂ ﹁補 忘 記 の研 究 、 続貂 ﹂ と も に ﹃日本 語 のアク セ ント﹄ (3 に前 出 )所 載 。 (96 ) ﹃ 国 学 院 雑 誌﹄ 六 七 の四 ・五 ( 昭 四 十 一) 所 載。
(97 ) ﹃ 国 語 教 育 の ため の国 語 講座 ﹄ 第 二巻、 朝 倉書 店刊 行 ( 昭 三十 三 ・十 ) の ペー ジ一 六六 。 (98 ) ﹃ 国 語 国 文﹄ 三 二 の五 ( 昭三 十 八) 所 載 。 (99 ) 寺 川 喜 四 男 ほ か編 ﹃国 語 ア クセ ント論 叢 ﹄ (1に 8前 出 ) 所載 。
( 昭三 十 四 ・三十 五 ) 所載 。
(00 1) ﹃ 国 語 と 国文 学 ﹄ 二 四 の 一 一 ( 昭 二 十 二) 所 載。 (01 1) ﹃ 国 語 学 ﹄ 三九 ・四〇
( 昭 二十 五 ) 所載 。
( 広 島大)﹄第 四 九 号 ( 昭 四 十 四) 所 載 。
(02 1) ﹃日本 漢 字学 史 ﹄ 明 治書 院 刊 行 ( 昭九 ・九 ) ペー ジ三 三。 (1) 0 3 ﹃ 国 語 と 国文 学 ﹄ 二 七 の一二
(1) 0 4 ﹃ 続 日 本 文法 講 座 ﹄ 二表 記編 ( 15 に前 出 ) 所載 。 (1) 05 ﹁ 将 門 記 承徳 点 本 の仮名 遣 を め ぐ って﹂ ﹃ 国 文学攷
( 106 ) 古 田 ・築島 共 著 ﹃国 語学 史 ﹄ ( 63 に前 出 ) ペー ジ一 五 六。 (1) 0 7 (1) に前 出 。
(1) 08 ﹁ 語 調 資 料と し て の類聚 名 義 抄 ﹂ ﹃ 東 京 教 育 大学 文 学部 紀 要﹄ 第 九 輯 ( 昭 三 十 九) 所 載 、 のち に ﹃日本 声 調史 論 考 ﹄ に 収録 。 (09 1) 古 田 ・築 島共 著 ﹃国 語学 史 ﹄ ( 63 に前 出 ) ペー ジ 一三 〇。
(1) 10 ﹁ 岩 崎本 日本 書 紀 の訓点 ﹂ ﹃ 五 味智 英 先 生 還暦 記 念 上代 文 学 論 叢 ﹄ (42 に前 出 )所 載 。
(1) 1 1﹃ 漢 籍 訓 読 の国 語 史 的研 究 ﹄ 東 大出 版 会 刊 行 ( 昭 四 十 二 ・三 ) のう ち の ﹁漢 籍 に おけ る 声点 附 の和 訓 の性 格 ﹂。
(1) 12 上 田 英夫 ﹁ 古 点 次 点 の歌 と そ の点 者 ﹂ ﹃万 葉集 大 成 ﹄ 二文 献 篇 ( 昭 二 十八 ) 所載、 参 照 。 (1) 1 3﹃日本声 調史 論 考 ﹄ ( 26 に前 出 )序 説 第 五 と第 七 。
(14 1) ﹁古 今 問 答 私 見 ﹂ ﹃国 文 学 研 究
(早大 )﹄ 第 二 二 集
(15 1) ﹃古 辞 書 の 研 究 ﹄ (59 に 前 出 ) ペ ー ジ 九 一。
(昭 三 十 五 ) 所 載 。
(6 11 ) ﹁﹃和 名 類 聚 抄 ﹄ に ほ ど こ さ れ た 声 点 に つ い て ﹂ ﹃国 語 と 国 文 学 ﹄ 四 一の一 〇 (7 11 ) ﹃源 氏 物 語 大 成 ﹄ 巻 七 、 ペー ジ 一一 七 。 ﹃類 聚 名 義 抄 の 研 究 ﹄ (51 に 前 出 )。
︵1 永19 一枝 ) ﹃ 秋古 今 和 歌 集 声 点 本 の 研 究 ﹄ (8 5 に 前 出 ) ペ ー ジ 八 一。
(8 11 ) 岡 田 希 雄
(昭 三 十 九 ) 所 載 。
(20 1) こ の条 は、 秋 永一 枝 氏 の ﹃ 古 今 和歌 集 声 点 本 の研 究 ﹄ ( 85 に前 出 ) に よる と ころ が多 か った こと を 感 謝す る。
(21 1) 例 え ば 、 服部 四郎 ﹁ア ク セ ント方 言﹂ ﹃ 国 語科 学 講 座 ﹄ 四五 ( 昭 八 ) のペー ジ 一四。
(22 1) 改撰本 ( 紀 元社 刊 行 、 昭三 ・四 ) の第 二篇 第 四章 第 七 節 ﹁ 原 辞 の結合 と音 緩 急 の変化 ﹂ の条。 (23 1) 泉 井 久 之 助 訳、 政 経 書院 刊 行 ( 昭 九 ・四 )、 ペー ジ一 一。
収 録。
(24 1) 有坂秀世 ﹁ 新 撰 字 鏡 に於 け る コ の仮 名 の用 法 ﹂ ﹃ 国 語 と国 文 学 ﹄一 四 の一 ( 昭十二) 、 のち に ﹃国 語 音韻 史 の研究 ﹄ に
(25 1) 秋 永 一枝 ﹃ 古 今 和 歌 集声 点 本 の研究 ﹄ (85に前 出) ペー ジ 三 四 一。 (26 1) 高 津 春 繁 ﹃比較 言 語 学﹄ 河 出書 房刊行 ( 昭 十 七 ・九 )、 ペー ジ 二九 三。 (27 1) ﹃ 古 今 私 秘 聞﹄ ( 3 2に 前出 ) ペー ジ 三 五。 (28 1) 昭和 七 年 度国 学 院 大 学卒 業 論 文 。 (29 1) 和 田 実 ﹁ア ク セ ント 観 ・型 ・表 記 法﹂ ﹃ 季刊国語 ( 群 馬)﹄二 ( 昭 二十 二) 所 載 。 (30 1) 名 大 文 学 部 十 周年 記 念 号 ( 昭 三 十 四 )所 載 。 (31 1︶ ﹃ 国 語 学 ﹄第一 二輯 ( 昭 二十 八 ) 所載 。
(32 1) 金 田一 春彦 ﹁ 東 京 アク セ ント の特徴 は何 か ﹂ ﹃言語 生 活 ﹄第 八三 号 ( 昭三 十 三 ) 所載 、 参 照 。
第 四 節 ア ク セ ント 史 資 料 と し て の歌 謡 の旋 律 と 楽 譜 ︹六 十 六 ︺ ア ク セ ント 史 の 資 料 と し て の 歌 曲 の意 味
前 節 に は、 も っぱ ら 過 去 の ア ク セ ン ト を 記 述 ・註 記 し た 前 代 の 文 献 に つ い て 述 べ た が 、 こ れ は 、 第 一節 で 過 去
の ア ク セ ン ト を 明 ら か に す る 上 の第 二 種 の資 料 と 呼 ん だ も の で あ った 。 こ の 節 で は 、 過 去 の ア ク セ ント を 明 ら か
に す る 上 の 、 第 三 種 の 資 料 に つ い て 述 べ よ う 。 こ れ は、 我 々 が 現 在 接 し う る も の の 中 で 、 あ る 程 度 、 過 去 の 時 代
の ア ク セ ン ト を 反 映 し て い る と 期 待 さ れ る も の で あ る 。 こ れ に は 種 々 の も の が あ る こ と 、 第 一節 に 述 べ た と お り
で あ る が 、 そ の う ち の代 表 的 な も の は 、 ︽過 去 か ら 現 在 ま で 伝 わ っ て い る 歌 謡 ・語 り 物 の 旋 律 ︾ ︽そ の 旋 律 を 表 わ し た 楽 譜 ︾ お よ び 、 ︽そ の 歌 い 方 ・語 り 方 に 関 す る 注 意 を 書 い た 文 献 ︾ で あ る 。
ア ク セ ント 史 の 資 料 と し て 、 歌 謡 や 語 り 物 の 旋 律 が え ら ば れ る と 言 う の は、 日 本 語 の ア ク セ ント が 同 じ ア ク セ ント
と 言 って も 高 低 ア ク セ ント であ る た め で 、 ヨー ロ ッパ の 多 く の諸 言 語 のよ う な 強 弱 ア ク セ ント の 場 合 に は 、 事 情 は大
き く ち が う に ち が いな い。 ヨ ー ロ ッ パ の 言 語 の中 で も 、 古 典 ギ リ シ ャ語 は 、 日 本 語 と 同 じ よ う な 高 低 ア ク セ ント で あ
d'accentu) aで ti はo 、n ギ リ gシ re ャcque
った た め に 、 学 者 は 古 典 ギ リ シ ャ語 の ア ク セ ント を 明 ら か にす る 一つ の資 料 と し て 、 古 代 の歌 の 譜 を 重 要 視 し て いる 。 例え ば 、 ヴ ァ ンド リ エ ス(J.Vendr) yの es﹃ギ リ シ ャ語 音 調 提 要 ﹄ (Traite
語 の ア ク セ ン ト を 学 び 、 そ の法 則 を 確 立 す る た め に拠 る べ き 資 料 と し て 、 (a)ア ク セ ン ト 記 号 を 付 け た 文 献、 (b)文 法 の教 師 ・学 者 に よ る 学 説 、 と 並 べ て 、 (c ) ギ リ シ ャ音 楽 に 関 す る 文 献
を 挙 げ て い る こ と 、 ︹三 十 六 ︺ に 述 べた 。 こ れ は 、 日本 語 の ア ク セ ント の 史 的 研 究 のた め に 、 過 去 の 音 楽 の 旋 律 や 楽 譜 が 有 用 であ ろ う と いう こ と を 示 唆 す る も の と 見 ら れ る 。
高 津 春 繁 氏 の ﹃比 較 言 語 学 ﹄(1)に よ れ ば 、 古 代 ギ リ シ ャ の デ ルポ イ
(Delphの oi ア) ポ ロー ン に 捧 げ ら れ た 讃 歌 に
音 譜 が つけ ら れ た も の が 残 って お り、 そ の中 で、 ア ク セ ント 符 号 の つ い て いる 拍 は 、 そ う で な い拍 に 比 べ て 高 い音 で
歌 わ れ て お り 、 こ れ に よ って 当 時 の ア ク セ ント が 高 低 ア ク セ ント で あ る こ と が 知 ら れ る と い う 。
︹六 十 七 ︺ 現 代 歌 謡 と ア ク セ ン ト
現在 日本 に行 な わ れ て いる 歌 謡 の旋 律 が、 歌 詞 の ア ク セ ント と 、 あ る 程 度 の関 係 を も って作 ら れ て いる こと は、
見 逃 す こ と の で き な い事 実 で あ り 、 こ と に 邦 楽 系 統 の 曲 に お い て は そ の 傾 向 は 著 し い 。
洋 楽 系 統 の 歌 謡 でも 、 旋 律 が ア ク セ ント を 考 慮 し て 作 ら れ る こ と があ る こ と は 勿 論 の こと で あ る 。 本 居 長 世 氏 は大
正 年 代 に 日 本 語 愛 護 の 立 場 か ら こ の こ と を 叫 び 、 早 く 西 条 八 十 氏 作 詞 の ﹁お 山 の大 将 ﹂ ﹁蝋人 形 ﹂ な ど と い った 曲 に
そ の こ と を 実 行 し て み せ た 。 こ れ に つ い で、 山 田 耕筰 ・中 山 晋 平 ・藤 井 清 水 ・橋 本 国 彦 ・近 衛 秀 麿 と いう 人 た ち の作
る 曲 も 、 ア ク セ ント を 反 映 し て お り 、 山 田 耕筰 氏 の ﹁か ら た ち の 花 ﹂ ( 北 原 白 秋 作 詞) ﹁曼 珠 沙 華 ﹂ ( 同 上 )、 中 山 晋 平
氏の ﹁ 雨 降 りお月 さん ﹂ ( 野 口雨 情 作 詞 ) ﹁証 城 寺 の 狸囃 子 ﹂ ( 同上) 、 藤 井清 水 氏 の ﹁ 信 田 の藪﹂ ( 野 口雨 情 作 詞)、 橋 本
国 彦 氏 の ﹁お 菓 子 と 娘 ﹂ ( 西 条 八十 作 詞 ︶、 近 衛 秀 麿 氏 の ﹁ち ん ち ん 千 鳥 ﹂ ( 北 原 白 秋 作 詞 )な ど の曲 は 、一 番 二 番 と 歌
詞 が ち が う に つれ て 、 ち が った メ ロデ ィー が 配 さ れ て い る 。 た だ し 、 ﹁荒 城 の 月 ﹂ ﹁早 春 賦 ﹂ ﹁昼 の夢 ﹂ ﹁ 浜 辺 の歌﹂ と
か、 あ る いは ﹁ 螢 の光 ﹂ ﹁ 故 郷 を 離 る る歌 ﹂ と か い った 、 早 い時 代 の 唱 歌 調 の 曲 や 、 西 洋 の メ ロデ ィ ー に あ と か ら 歌
詞 を つ け た も の は 、 ア ク セ ン ト と メ ロデ ィ ー と ち ぐ は ぐ のも のが 多 い。 し か し 、 堀 内 敬 三 氏 の 編 集 に な る ﹃日 本 歌 曲
集 1 2 ﹄( 2︶と い った も のを ひ も と い て み る と 、 清 瀬 保 二 ・清 水 脩 ・高 田 三 郎 ・貴 島 清 彦 ・団 伊 玖 磨 ・中 田 喜 直 ・大
中 恩 ⋮ ⋮ と い った 、 現 在 第一 線 に 立 って 作 曲 界 を リ ー ド し て いる 人 は 、 大 部 分 が ア ク セ ント にあ う よ う な 曲 を つ け よ う とし て いる人た ち であ る。
歌 謡 曲 や ポ ピ ュラ ー ソ ン グ の 類 で も 、 ﹁今 日 は 赤 ち ゃ ん ﹂ ( 中 村 八 大 曲 )、 ﹁見 上 げ て ご ら ん 夜 の星 を ﹂ (いず み た く
曲) 、 ﹁リ ン デ ン バ ウ ム の歌 ﹂ ( 山 本 直 純曲 ) な ど 、 き れ い に ア ク セ ン ト が守 ら れ て い る 。 そ う し てさ ら に 、 早 く は、 伊
に 合 う よ う な ア ク セ ント を も った 歌 詞 を え ら ん で 作 ろ う と いう 運 動 が 起 って 来 て い る。 こ の分 で は 歌 に お け る ア ク セ
藤 武 雄 氏 ・野 上 彰 氏 ら が 、 今 で は 薩 摩 忠 氏 が 中 心 に な っ て、 外 国 の歌 に 日 本 語 で 訳 詞 を 付 け る 場 合 に も 、 メ ロデ ィ ー
ン ト と メ ロデ ィ ー の 一致 と い う こ と は 、 将 来 一般 的 にな る か も し れ な い。
な お 、 洋 楽 系 統 の 歌 謡 曲 一般 に お け る 旋 律 と 歌 詞 の ア ク セ ント の 関 係 を 論 じ た も の と し て は 、 堂 本 淳 子 氏 の ﹁歌 詞
と メ ロデ ィ ー ﹂( 3)と い う 文 献 が あ る 。 特 に 訳 詞 に お け る こ の 問 題 に つ い て は 、 ﹃ 新 し い訳 詩 に よ る 世 界 名 歌 曲 集
﹁越 後 獅
(1)( 2) ﹄( 4)に、 そ の見 事 な 実 践 の結 果 を 見 ら れ た い。 筆 者 の ﹁歌 謡 の 旋 律 と 歌 詞 の ア ク セ ント ﹂( 5)は 、 洋 楽 ・邦 楽 全 般 に つ い て考 察 を 行 な った 。
︹ 譜 4 ︺ は 吉 住 小 十 郎 氏 が ﹃長 唄 新稽 古 本 ﹄( 6)に 作 譜 し た 長 唄
︹六 十 八 ︺ 現 行 邦 楽 歌 謡 へ の ア ク セ ン ト の 反 映 今 、 そ の例 を 二、 三 挙 げ れ ば 、 ま ず
子 ﹂ を 筆 者 が 五 線 譜 に 書 き 改 め た も ので あ る 。 こ の旋 律 は、 東 京 語 の アク セ ント に き わ め て忠 実 で あ る 。 す な わ ち、 こ の歌 詞 の ア ク セ ン ト は 、 ボ タ ン ワ ・モ タ ネ ド ・ エ チ ゴ ノ ・シ シ ワ ・オ ノ ガ ・ ス ガ タ オ ・ ハナ ト ・ミ テ
﹁持 た ね ど ﹂ ﹁己 が ﹂ ﹁花 と ﹂ は 、 譜 に お い て す べ て 低 く は じ ま る 旋 律 が 付 け ら
で あ る が 、 こ の う ち で 第 一拍 の 高 い 語 、 ﹁牡 丹 は ﹂ ﹁獅 子 は ﹂ ﹁姿 を ﹂ ﹁見 て ﹂ は 、 譜 に お い て す べ て 高 く は じ ま る 譜 が 付 い て お り 、 第 一拍 の 低 い 語
﹁三 勝 半 七 ﹂ の一 節 を 筆 者 が 採 譜 し た も
れ て い る 。 こ の よ う な 傾 向 は 、 長 唄一 般 に 見 え 、 さ ら に 義 太 夫 ・清 元 ・新 内 ・常 磐 津 ・歌 沢 ・端 歌 あ る い は 浪 花 節 な ど に広 く 見 ら れ る も の で あ る。 ︹ 譜 5 ︺ は 、 豊 竹 呂 昇 の歌 う 義 太 夫 の であ る が 、 キ ヨ ネ ン ノ ・ア キ ノ ・ ワ ズ ラ イ ニ ・イ ッ ソ シ ン デ ・シ モ ー タ ラ ⋮ ⋮
と いう大 阪 の ア ク セ ント を よ く 伝 え て いる 。
特 に 興味 のあ る のは 、 同 じ 曲 を ち が った 歌 詞 で 歌 う 場 合 に、 旋 律 が 変 化 す る こ と が あ る事 実 で あ る 。 ︹ 譜 6︺
は 柳 家 三亀 松 が歌 った ﹁都 々逸 ﹂ の 採 譜 で、 ︵A と) ( ︶B と は 三 味 線 の伴 奏 は 同 一で 、 同 じ 旋 律 で歌 わ れ る は ず のも の
で あ る が 、 歌 詞 の ア ク セ ン ト は 、 一は 、 ム ネ ノ ・オ モ イ で あ り 、 他 は ミ ン ナ ・ミ テ ク レ で あ る と こ ろ か ら 、 旋 律
﹁越 後 獅 子 ﹂ の 譜 は 、 吉 住 小 十 郎 氏 編 の ﹃長 唄 新稽 古 本 ﹄ 第 三 巻 か ら 採 った 。 こ の譜 本 は 現 行 長 唄 曲 七 十 四 篇 に、 三
が 異 な って い る も の と 見 な さ れ る 。
味 線 の 譜 、 唄 の 譜 を 掲 げ て いる が 、 そ の歌 詞 の ア ク セ ント を 考 え な が ら 歌 の 部 分 の譜 を 見 て ゆ く と 、 全 曲 を 通 じ て ア ク セ ント を 尊 重 し て 旋 律 が つ い て い る こ と が 知 ら れ る。
﹃ 雁 金 ﹄ で言 え ば 、 ク ド キ の中 の ﹃ 厭 う へだ て の﹄ の いと う は 、 江 戸 弁 で
吉川 英史 氏 の ﹃ 邦 楽 鑑 賞 入 門 ﹄( 7)に は 、 長 唄 の ほ か 、 清 元 や 箏 曲 で 、 歌 詞 の ア ク セ ント が 重 ん ぜ ら れ る事 実 を 伝
清 元 で は ナ マ ル のを 嫌 いま す 。 例 え ば
え て い る が 、 例 え ば 、 清 元 志 寿 太 夫 氏 は、
は 後 に ア ク セ ント を つけ て ﹃ イ ト オ ﹄ と な る べ き で、 四 の フ シ と し て は 、 ﹃ イ ト オ ﹄ と ﹃イ ﹄ を 高 く 唄 い た い 所 でも 、 ﹃イ ﹄ を 下 げ る よ う に す る 。 ⋮ ⋮
と 言 って い た と あ る 。 新 内 の富 士 松 亀 三 郎 氏 の ﹃ 三 味 線 の知 識 邦 楽 発 声 法 ﹄( 8)は、 ﹁邦 楽 発 声 法 ﹂ の中 に一 章 を 設
け て ﹁朝 ﹂ と ﹁麻 ﹂ の よ う な 例 を あ げ、 国訛 り のあ る 方 は 十 二 分 に 注 意 せ よ と 言 っ て いる 。
こ ん な 風 で あ る か ら 、 同一 の 歌 詞 が 、 歌 わ れ る 地 方 に よ り 、 そ の方 言 の ア ク セ ント が ち が う と 、 ち が う 旋 律 で 歌 わ れ る と いう 例 を 見 付 け 出 す こ と も で き る 。
例 え ば 、 ︹譜 7 ︺ は 同 じ 歌 詞 の わ ら べ歌 ﹁開 い た 開 いた ﹂ を 東 京 の も の(A) と 京 都 のも の(B) を 比 較 し て か か げ た も のであ る。
〔譜4〕
〔譜5〕
〔譜6〕
〔 譜7〕
︹六 十 九 ︺ 過 去 か ら 伝 わ って い る 歌 謡 旋 律 の 利 用 の 方 法
こ の よ う に 、 歌 謡 ・語 り 物 の 旋 律 は 、 歌 詞 の ア ク セ ン ト に 左 右 さ れ て 出 来 て い る と い う こ と が 知 ら れ る が 、 も
し そ う だ と す る と 、 わ れ わ れ は こ れ を 応 用 し て 、 次 項 以 下 の よ う な 方 法 に よ り 、 歌 謡 ・語 り 物 の 旋 律 を 、 過 去 の ア ク セ ント を 推 測 す る 手 掛 り と す る こ と が でき る は ず で あ る 。
歌 謡 の旋 律 が 歌 詞 の ア ク セ ン ト に支 配 さ れ る と いう こ と は 、 か な り 早 い時 代 か ら 識 者 に よ って 注 意 さ れ て いた こ と で あ る 。 藤 原 顕 昭 は ﹃袖 中 抄 ﹄ の中 に 、
而 神 楽 ・催 馬 楽 ・風 俗 ・雑 芸 等 に は 、 必 ず し も 文 字 のま ま 詞 のま ま に も う た は ぬ こ と 多 し 。 或 は あ が り て 云 ふ べ き 詞 を も 下 り て い ふ。 さ が り た る 文 字 を あ げ て う た ふ 事 も あ り 、 云 々。
と 言 って い る 。 こ れ は 文 字 ど お り 読 む と 、 催 馬 楽 の 旋 律 は 、 言 葉 の ア ク セ ント に よ ら な い こ と を 言 って いる こ と に な
る が、 これ は ﹁ 必 ず し も 云 々 ﹂ と 言 って いる そ の言 外 に は 、 数 あ る 催 馬 楽 曲 の 中 に は 、 歌 詞 の ア ク セ ント に 従 っ て い
な いも の が あ って 目 立 つ か ら こ の よ う な 記 述 を し た の で 、 多 く は ア ク セ ント に 従 って いる 、 そ れ が 原 則 で あ る こ と を 暗 示し て いるも のと考 え る。
謡 曲 は 、 現 行 の 物 に 関 す る か ぎ り 、 そ の 旋 律 は ア ク セ ント と は 無 関 係 の も の の よ う に 見 え る が 、 世 阿 弥 の ﹁曲 附 書﹂ に は、 文 字 の声 のお の づ か ら に 合 ひ た る は 、 上 上 の 曲 な る べし と 言 い、 あ る い は 、 文 字 の声 に か な へる と か な は ざ る と に曲 を あ て が ふ事 、 よ く よ く 心 う べし
と 言 って い る 。 小 西 甚 一氏 は ﹃文 鏡祕 府 論 考 ﹄( 9)に こ の こ と を 引 い て、 謡 曲 の旋 律 が 歌 詞 の ア ク セ ント に 合 う よ う に 注 意 し た こ と を 表 わ し た と 見 ら れ た が 、 いか に も そ の と お り だ ろ う と 思 う 。
︹七 十︺ 同 じ旋律 をも つ同 類 の語
例 え ば 、 第一 に は過 去 か ら 現在 ま で伝 わ って いる曲 で、 あ る 一つ の 語 ・あ る いは一 類 の 語 が 、 い つも 現 在 の そ
の方 言 の ア ク セ ント を 活 か す よ う な 旋 律 で歌 わ れ 、 し か も 、 そ の旋 律 が古 く か ら 変 化 し て いな いと いう こと が 証
平家 琵 琶 と いう 語 り物 で は ﹁岸 ﹂ ﹁山﹂ ﹁沖 ﹂ ﹁弓 ﹂ と い った 、 ︹二 十 一︺ の ︹ 付 表 8 ︺ で第 2 類 ・第 3
明 さ れ る場 合 であ る。 そ のよ う な 場 合 、 そ の語 は そ の方 言 で そ の旋 律 に合 う よ う な ア ク セ ント であ った と 考 え ら れ る。 平 曲︱
類 と 呼 ん だ 二拍 名 詞 が 出 て く る と、 原 則 と し て 第 一拍 を 高 く 、 第 二 拍 を 低 く ﹁オ キ ﹂ と いう よ う に 語 ら れ 、 こ れ
は 現 在 の京 都 のア ク セ ント に合 う 。 平 家 琵 琶 は 、 現 在 名 古 屋 と 弘前 に伝 え ら れ た も のが 残 って いる が、 弘 前 平 曲
で は そ う であ り 、名 古 屋 平 曲 でも 、し ば し ば 同 調す る よ う で 、し か も そ の旋 律 は名 古 屋 方 言 の アク セ ント と も 弘 前
方言 の アク セ ント と も ち が う 。 恐ら く 名 古 屋 と 弘 前 の平 曲 が 別 れ る 以 前 か ら の傾 向 で あ った ろ う と 推 定 さ れ 、 す
な わ ち 、 近 世 中 期 の荻 野検 校 の こ ろ にま で遡 る こ と が で き る と 考 え ら れ る 。 ︹譜 8 ︺ を 参 照 。 そ う す る と 、 こ の
類 の語 が 京 都 の方 言 で、 ● ○ 型 の ア ク セ ント で あ る の は 、 近 世 中 期 も 同 様 で あ った ろ う と 見 ら れ る ご と く であ る。
平曲 は 、琵琶 の伴 奏 に合 わせ て平家 物 語 の詞章 を 語る 語り物 で、 鎌倉 時代 にはじ まり 、大 体盲 人 の間 に伝 承され て
今 日に至 った。 室 町時代 に全 盛期 を 迎え た が、江 戸時代 には三 味線 音楽 の優 勢 にお され 、政 府 の保 護 によ って辛う じ
て命脈 を伝 え て来 たが、 明治 維新 に際会 し て決 定 的な 打撃を 受 け、 今、 滅亡 の寸前 にあ る。 江戸時 代 に前 田流 ・波 多
野 流 の二流 派 があ った が、今 伝わ って いるも のは前 田流 の方 で、名 古屋 のも のは、 江戸時 代中 期 に こ の地 に住 んだ 名
検 校、 荻 野知 一の伝 統を 受 け て いるも のであ る。 今、 井野 川幸 次 ほか 二人 の検 校 が 健在 で、 十曲 ば かりを 伝え る。 弘
前 のも のは、も と津 軽藩 の藩 士 が江 戸 へ出 て、 時 の検 校 麻岡 長 歳 一に学 ん だ そ の流 れ で、藩 士 の間 に 伝 わり 、晴 眼
者 が演 奏 してき た。 明治 の末 期、 平家 琵琶 の振興 ・保存 のため に活 躍し た館 山漸 之進 の嗣子、 館 山甲午 氏 が今 仙台 に
居 住 し て いる の で 、 よ く 仙 台 の平 曲 と 言 わ れ る が 、 も と は 弘 前 か ら 出 て い る 。 テ キ ス ト と し て は 、 名 古 屋 ・弘 前 と も
荻 野 知一 の ﹃ 平 家 正 節 ﹄ を 用 い て い る が、 こ れ は 、 す ば ら し い楽 譜 で 、 江 戸 時 代 の優 秀 な ア ク セ ント 資 料 と し て 、 あ と で重 用 す る 。 ︹譜 8 ︺(A)
︹七十一 ︺ 旋律 のち がう 同 類 の語
第 二 に は 過 去 か ら 現 在 ま で に行 な わ れ て いる 曲 の中 に 、 あ る語 、 ま た はあ る 一群 の語 が 出 て く る 場 合 に 、 現 在
の そ の語 の ア ク セ ント と は 、 全 然 似 も や ら ぬ旋 律 で歌 わ れ て いる が 、 そ れ を 注 意 し て み る と 、 そ う な る 語 は 、 い
つも 同一 の語 であ る 、 あ る いは ︹二 十 一︺の ︹付 表 8︺ に お け る 同 一の類 の語 であ る と いう 場 合 であ る。 例 え ば 、
田 辺尚 雄 氏 採 譜 の義 太 夫 ﹁本 朝 二 十 四 孝 ﹂ ( 十種 香 の段 )( 10)には 、 ︹ 譜 9 ︺ に 示 す よ う に、 ﹁返 す ﹂ ﹁思 う ﹂ ﹁頼 む ﹂
の よう な 、 先 の ︹付 表 8︺ にお いて 三 拍 四 段 活 用 第 2類 動 詞 と 呼 ん で挙 げ た 語 が 何 回 か 出 てく る が 、 こ れ ら は 必
ず カ エ ス、 オ モオ 、 タ ノ ム のよ う な 節 で歌 わ れ 、 現 在 の大 阪 の ア ク セ ント と は 異 な る 。 こ の場 合 、 偶 然 の 一致 と
仏教 儀 式 歌 曲 のう ち に、 明 恵 上 人 作 詞 と伝 え る ﹁四座 講 式 ﹂
は 思 わ れ ぬ と こ ろ か ら 、大 阪 で は 過 去 のあ る時 代 に、 こ れ ら は ● ○ ○ 型 に発 音 さ れ て いた の で は な いか と 疑 う こ と が で き る 。 ま た 、 真 言宗 に伝 え ら れ る 声 明曲︱
〔譜8〕(B)
〔 譜9〕
〔譜9〕
と いう 曲 が あ り 、 こ こ に
﹁涙 ﹂ と い う 語 が 出 て く る 。 そ の 場 合 、 助 詞
﹁を ﹂
あ る いは 明 恵 上 人 の時 代 に は、
︹譜 10 ︺ (Bの )1 2 3 4 の ご と く で あ る 。 こ れ は 、 こ の 語 は 、 今 で こ
﹁に ﹂ と と も に 用 い ら れ て い る が 、 必 ず 2 2 3 3 と いう 旋 律 で 唱 え ら れ る こ と 、 次 にあげ る
そ 京 都 方 言 で ナ ミ ダ オ と 発 音 す る が 、 前 代 に︱
( A)
ナ ン ダ オ と い う ア ク セ ン ト を も って い た か と 疑 わ せ る こ と 充 分 で あ る 。 ︹譜 10 ︺
1 流 二痛 惜 之 涙 干 双 林 入滅 一 乎。
収 レ涙 。
雨 レ涙 。
2 漂 干 二哀 恋 之 涙 詩 3 悲 泣 4 以 レ手
こ の 項 に 述 べ る よ う な 場 合 は 、 前 項 の 場 合 と ち が っ て 現 代 の そ の方 言 と は ち
が った ア ク セ ン ト で あ る こ と を 明 ら か に し よ う と す る の で あ る か ら 、 推 定 の 結
﹁ 本 朝 二 十 四 孝 ﹂ の ﹁思 う ﹂ ﹁頼 む ﹂ の語 類 の場 合 は、 和 歌 山 と か 徳 島 と か、
果 が 正 し け れ ば 、 プ ラ ス は 大 き い が 、 推 定 に は 慎 重 で な け れ ば な ら な い。 義 太 夫
が あ る か ら 、 こ の 推 定 は 自 然 であ る 。
大 阪 式 の 諸 方 言 で オ モ ウ と か タ ノ ム と か いう ア ク セ ント で 発 音 さ れ て いる 事 実
﹁四 座 講 式 ﹂ の 場 合 は 、 材 料 が 格 式 を 重 ん じ る 真 言 宗 で あ る か ら 、 伝 統 が 相 当
に よ く 保 存 さ れ て い る だ ろ う と 推 測 さ れ 、 右 の 事 実 は、 尊 重 さ れ る 。 ﹁四 座 講
式 ﹂ は 、 一年 に 一度涅槃 会 の 夜 に 朗 唱 さ れ る 声 明 曲 で あ る が 、 全 曲 朗
唱 す れ ば 、 二 時 間 、 三 時 間 に も 及 ぶ 、 声 明 曲 随一 の 大 曲 で あ る 。 こ れ
は 、 音 楽 的 に も よ く 形 式 の 整 った 名 曲 で 、 声 明 界 で は 、 こ の曲 に 精 通
す れ ば 他 の全 声 明 曲 が 唱 え ら れ る よ う に な る と 言 わ れ 、 邦 楽 学 界 で は 、
中 世 以 後 の 日 本 の 語 り 物 は す べ て こ の曲 を 祖 と す る と いう く ら い に 重
ん ぜ ら れ て いる 曲 で あ る 。 今、 高 野 山 の 進 流 と 、 智 積 院 ・長 谷 寺 の新
義 派と に伝 えら れ て いる が、 こ こは よ り多く 古 体 を存 す る と思 わ れ る
新 義 派 の 演 奏 の方 に 従 った ︹譜 10 ︺ (B を) 見 ら れ よ 。 進 流 で は 、 ﹁涙 を ﹂ の部 分 に 対 し て ダ を 下 げ 、 のば し て 全 体 を 、 3 3 3︲ 5 と 唱 え る 。
﹁四 座 講 式 ﹂ を 含 め て 真 言 宗 声 明 に つ い て は 、 岩 原 諦 信 氏 の ﹃ 声 明 の 研 究 ﹄( 11)が 詳 し く 、 特 に ﹁四 座 講 式 ﹂ に つ い て は 、 金 田 一春 彦 の ﹃四 座 講 式 の 研 究 ﹄( 12)が あ る 。
いう 事 実 が 見 出 さ れ る 。 観 世 流 の 謡 曲 譜 で は 、 ︹二 十 一︺ の
︹譜 11 ︺( A)
今 ははや
( 紅 葉狩 )
〓〓 と い う 譜 が つ い て い る 傾 向 が あ る 。
︹付 表 8 ︺ で 第 4 類 ・第 5 類 の 二 拍 名 詞 と 呼 ん だ 語 が 出 て く る 場 合 、 多 く
いう 譜 を 見 て い る と 、 次 の よ う に 、 し ば し ば 同 じ 語 、 ま た は 同 じ 類 の 語 に 、 い つも 同一 の 譜 が つ け ら れ て い る と
第 三 に 、 催 馬 楽 ・朗 詠 ・宴 曲 ・謡 曲 お よ び 声 明 諸 曲 な ど に は 、 昔 の 譜 本 が 相 当 数 現 在 ま で 残 っ て い る が 、 そ う
︹七 十 二︺ 音 譜 と 語 類 と の 関 係
〔譜10〕(B)
人 こ そ 見 え ね 秋 の来 て ( 同)
しぐ るる空を 眺 め つつ ( 同) ︹二 十 一︺ の ︹付 表 8 ︺ で は
これは
﹁た よ り ﹂ と い う 語︱
また ﹁り ﹂ の 文 字 に 常 に ア タ リ と いう 譜 が つ い て い る 。 (B) ( 狂女)
くる場合 ︹ 譜 11 ︺ 風 の た よ り と 思 へど も か か る た よ りを 松 枝 の ( 高砂)
﹁兜 ﹂ 類 に 属 す る 語 で あ る が 、 こ の 語 が 出 て
小 松 静 雄 氏 の教 示 に よ る と 、 現 在 こ の〓 と か〓 と か いう 胡 麻 点 は 、 現 行 の 謡 曲 の旋 律 に は 何 の 関 係 も 持 ち 合 わ
せ な い、 あ っても な く ても 同 じ であ る と いう 。 し か し 、 こ の譜 が出 来 た こ ろ は 、 有 意 義 な も の だ った にち が いな い、 そう し て、 そ の語 の ア ク セ ント を 反 映 し て いた も の と考 え ら れ る 。
ま た朗 詠 に ﹁上 陽 人 ﹂ と いう 曲 があ り、 そ の譜 が 内 閣 文 庫 旧 蔵 の ﹃朗 詠 要 抄 ﹄ に出 て いる 。 今 こ の曲 譜 は 、 現
マ ユ⋮⋮
在 で は そ の方 面 で 用 いら れ て いな いよ う であ る が 、 こ の中 で ﹁眉﹂ と いう 語 は い つも︱ \と いう 譜 で写 さ れ て い
マ ︱ユ ︱カ︱ イ︱ テ
る こ と、 次 のよ う であ る。 ︹譜 12 ︺ セ ︱イ ︱タ ︱イ
こ れ も ﹁眉 ﹂ と いう 語 が 、 こ の曲 が 出 来 た こ ろ 、 あ る いは こ の譜 の出 来 た ころ 、︱ \ と いう 譜 の表 わす 旋 律 に ふさ わ し いア ク セ ント を も って いた こ と を 物 語 る も の と 思 わ れ る。
前 々項 に述 べた 平 曲 、 前 項 に述 べた 声 明 曲 に も 、 過 去 か ら 現 代 に 伝 わ る 譜 本 があ る が 、 こ れ ら の音 譜を 見 ても 、
こ の項 に 述 べ た 謡 曲 ・朗 詠 の本 と 同 じ よ う な 事 実 が観 察 さ れ る。 例 え ば、 ﹁四 座 講 式 ﹂ の本 の 一つで あ る 元 禄 版
﹁四 座 講 式 ﹂ で見 る と 、 第 2類 二 拍 名 詞 が 出 て く る場 合 は、 ほ と ん ど 例 外 な く (徴 ・徴 角 ) と 呼 ば れ る 譜 が 付 い
て おり 、 第 3 類 二 拍 名 詞 が出 て く る 場 合 に は 、 ほ と ん ど 例 外 な く (角 角 ) と いう 譜 が 付 い て い る こ と 次 の ︹譜
13︺ のよ う であ る 。 (﹁河 ﹂ ﹁胸 ﹂ は 第 2類 の名 詞、 ﹁色 ﹂ ﹁髪 ﹂ は 第 3 類 の名 詞 。) こ の二 類 の名 詞 は 、 現行 の ﹁四
座講 式 ﹂ でも ち が った 旋 律 で 唱 え ら れ る が、 こ の譜 本 に よ って そ の事 が 少 な く と も 元 禄 時 代 か ら 行 な わ れ て いた
こと が 知 ら れ る。 これ は、 今 で こ そ京 都 で第 2 類 名 詞 と第 3 類 名 詞 と は 、 同 じ アク セ ント で 唱え ら れ て いる が 、
古 い時 代 には ち が った ア ク セ ント で 唱 え ら れ て いた こと を 推 測 さ せ る 事 実 で あ る 。 ︹譜 13 ︺ 龍 神 の 涙 は 地 に流 れ て河 と な り ( 涅槃講式) 満 月 の 容 に哀 恋 の色 を 含 み ( 同)
( 同)
胸 を 打 って大 き に 叫 ぶ者 あ り ( 同) 自 ら髪を抜 く者あ り
な お 、 こ こ では 、 前 項 に述 べた ﹁涙 ﹂ と いう 語 は 、 右 の よう に (︱︱\\︶ と いう 形 の譜 が 付 け ら れ て いな い
が 、 これ は ︹六 十 四︺ に 述 べ た よ う な 単 語 結 合 の ア ク セ ント 変 化 を 反 映 し て いる も のと 解 す る 。
こ の例 で知 ら れ る よ う に、 も し 現 行 の曲 の旋 律 だ け し か 知 ら な い場 合 に は 、 そ のよ う に 唱 え て いた のが い つ の
時 代 の こと で あ る か 正 確 に推 定 し が た い のに 比 し て 、 譜 本 の場 合 は 、 何 時 代 に そ う だ った と いう 裏 付 け を 与 え て く れ る 点 で、 価 値 が高 い。 各 種 邦 楽 曲 の譜 本 が 重 ん ぜ ら れ る ゆ え ん であ る 。
こ こ に述 べ た よ う な こ と か ら 、 ア ク セ ント 史 の 研 究 に は、 前 代 の 音 楽 の楽 譜 ・譜 本 の 知 識 が 必 要 で あ る 。 現 在 のと
こ ろ 、 日 本 語 の ア ク セ ント 史 の た め に 有 用 で あ り そ う な の は、 平 曲 と、 声 明 諸 曲 の う ち の講 式 ・表白 ・祭 文 ・和 讃 の
(上 )(下 )﹂、 奥 村 三 雄 氏 の ﹁平 曲 譜 本 に 反 映 し た ア ク セ ント ﹂ な ど に 考 察 が あ る 。( 13) 声 明 曲 の
類 で、 ほ か に新 義 派 の 真言 宗 に 伝 え る ﹁仏 遺 教 経 ﹂ と いう 美 し い 曲 が あ る 。 平 曲 に 反 映 す る ア ク セ ント に つ い て は 、 筆 者 の ﹁平 曲 の音 声
ア ク セ ン ト に つ いて は 、 前 項 に あ げ た 筆 者 の ﹃四 座 講 式 の 研 究 ﹄﹁声韻 史 資 料 と し て の真 言 声 明﹂、 ほ か に 桜 井 茂 治 氏 の数 々 の論 文 が あ る 。( 14︶
平 曲 の 譜 本 類 に つ いて は ﹃ 国 語 国 文 学 研 究 史 大 成 ﹄ の ﹃平 家 物 語 ﹄ の ペ ー ジ 二 四 七︲ 二 四 八 に 解 説 があ り、 詳 し く
は 、 渥 美 か を る 氏 に ﹃平 家 物 語 の基 礎 的 研 究 ﹄( 15) の中 の ﹁室 町 末 期 の 平 曲 と 譜 本 ﹂ (ペー ジ八 三 以 下 ) ﹁江 戸 平 曲 と 譜
詳 し いが 、 岩 原 諦 信 氏 に 前 項 に あ げ た ﹃ 声 明 の研 究 ﹄ の ほ か 、 ﹃声 明 教 典 ﹄( 17)が あ る 。 天 台 宗 のも の に つ い て は 、
本 ﹂ (ペ ー ジ九 三 以 下 ) の章 の 記 述 が あ る 。 声 明 諸 曲 の譜 本 に つ い て は 、 中 川 善 教 氏 の ﹃声 明 本 展 覧 目 録 ﹄( 16)が 最 も
吉 田 恒 三 ・多 紀 道 忍 両 氏 共 編 の ﹃天 台 声 明大 成 ﹄ ( 上 ・下 ) ( 18)があ る 。
内 閣 文 庫 旧蔵 の ﹃ 朗 詠 要 抄 ﹄ と 呼 ば れ る も の は 、 朗 詠 四 十 一曲 の譜 を 集 め た 延 慶 二 年 に 因 空 が 書 写 し た 本 で 、 暫 く
行 方 不 明 に な って いた が 、 戦 後 発 見 さ れ て、 呉 文炳 氏 のも と に 収 め ら れ た 。 巻 頭 の 口絵 写 真 を 参 照 。 こ の中 に 、 寛 喜
四 年 に 栄 賢 が 公 任 ・師 長 ・孝 道 ⋮ ⋮ を 経 た 伝 授 を 受 け た も の で あ る こ と を 記 し て いる 。
が 掲 載 さ れ て い る 。 同 じ 語 に同 じ よ う な 譜 が 配 さ れ て お り 、 ア ク セ ント を 反 映 し て い る か を し のば せ る。
以 上 の 種 類 の譜 の ほ か に 、 ︹六 十 九 ︺ に あ げ た 小 西 甚 一氏 の ﹃ 文 鏡祕 府 論 考 ﹄ の ペ ー ジ 五 一二 に、 宴 曲 の 譜 の 一例
︹七 十 三︺ 歌 い方 に 関 す る 口伝 書
﹃音 曲 玉 淵 集 ﹄ と い う 著 書 が あ る が 、 そ の 巻 四 の ﹁説 の
ま た 、 こ れ ら 歌 謡 の歌 い 方 ・語 り 方 を 注 意 し た 文 献 の 中 に 、 過 去 の ア ク セ ン ト を 考 え る 資 料 と な る も の が あ る よ う であ る 。 例 え ば 、 近 世 中 期 の 謡 曲 家 、 時 中 庚 妥 に
事 ﹂ の 条 に 、 ﹁右 側 の 章 の 如 く 言 ふ べ し 。 左 側 の 章 は訛 な り ﹂ と し て 、
田村
藤戸 彼 のおきな かた って曰 はく
藤 戸 のわ たり教 へよ と の
の よ う な 例 を あ げ て い る 。 ﹁訛﹂ と いう 用 語 か ら 考 え て 、 こ の 記 載 は 、 右 側 の よ う な 旋 律 は 当 時 の 標 準 語 の ア ク
セ ント に忠 実 で あ る よう に つけ ら れ た 例 、 左 側 のよ う な 旋 律 は 、 当 時 の標 準 ア ク セ ント を 無 視 し て つけ ら れ た 例 、 と 見 る こと が で き そ う で あ る 。 ﹃申 楽 談 儀 ﹄ の 中 に は 、
﹁人 の 宿 を ば 貸 さ ば こ そ ﹂、 言 ひ 掛 け て 落 と す 。 わろ し 。 さ や う の こ と も あ れ ど も 、 こ こ に て は わろ し 。 ﹁貸
世阿弥 の
さ ば ﹂ の ﹁ば ﹂ よ り 下 ぐ べ し 。 夏 の 祝 言 に 、 ﹁受 け 継 ぐ 国 ﹂、 ﹁つ ぐ ﹂ と 当 た る 、 わ ろ し 。 直 に 言 ふ べ し 。 ﹁三 笠 の 森 ﹂ の ﹁の ﹂ 文 字 、 直 な る べ し 。 ⋮ ⋮
と あ る 。 こ れ も、 ﹁貸 さ ば ﹂ は、 ﹁ば ﹂ を 下 げ て 言 う こ と 、 ﹁受 け 継 ぐ ﹂ の ﹁継 ぐ ﹂ は 高 く 平 ら に 言 う こ と 、 ﹁三 笠
の ﹂ の ﹁の ﹂ は 、 三 笠 か ら 続 け て 高 く 平 ら に 言 う こ と が 、 ア ク セ ン ト に 叶 った 歌 い 方 だ った の で は な い か と 見 ら れる。
こ こ で 述 べ た よ う な こ と か ら 、 前 代 の歌 曲 や 語 り 物 に つ いて の覚 え 書 き の類 は 、 資 料 と し て貴 重 な も の であ る 。
世 阿 弥 の ﹃申 楽 談 儀 ﹄ ﹃曲 附 書 ﹄ ﹃花 鏡 ﹄、金 春 禅 竹 の ﹃ 五 音 三 曲 集 ﹄ な ど は 、こ の 意 味 で 尊 重 す べ き 文 献 で 、 こ れ ら
に つ い て は 、 小 西 甚 一氏 ・桜 井 茂 治 氏 ・前 田 富祺 氏 に考 察 が あ る 。( 19)前 節 の ︹五 十 八 ︺ に ﹃ 毛 端 私 珍 抄 ﹄ と いう も
のを ア ク セ ント を 示 す 文 献 と し て挙 げ た が、 こ れ も ほ ん と う は 、 謡 曲 の唱 え 方 の覚 え 書 の 一種 で あ る 。 小 西 氏 の ﹃ 文
鏡祕 府 論 考 ﹄ に よ れ ば 、 ﹃塵 芥 抄 ﹄ と いう も のも あ る と い う 。 西 尾 寅 弥 氏 が 手 が け た ア ク セ ン ト 資 料 ﹃音 曲祕 伝 ﹄( 20)
は 、 幸 若 舞 の 語 り 方 を 書 いた 文 献 で あ った 。 室 町 時 代 第一 の ア ク セ ント 資 料 と し て 有 名 な ﹃補 忘 記 ﹄ を は じ め と す る
論 議 の参 考 書 も 、 実 は こ こ で述 べ る べ き 種 類 のも の と 言 う べ き で あ る か も し れ な い。 平 曲 の 方 面 に は 、 こ れ ま た 十 八 ︺ に 述 べ た ﹃諸 国訛 事 ﹄ が あ る 。
︹七 十 四︺ 資 料 と し て の 旋 律 ・楽 譜 の 扱 い方
︹ 五
歌 謡 .語 り 物 の 旋 律 ・楽 譜 お よ び 口 伝 の 類 は 、 以 上 の よ う な 意 味 に お い て 、 過 去 の 時 代 の ア ク セ ン ト を 考 え る
上 に、 重 要 な 資 料 であ る が 、 これ を 過 去 の ア ク セ ント を 考 え る 資 料 と す る 場 合 に 、 ど ん な こと に 注 意 す べ き だ ろ うか。
過 去 の歌 謡 .語 り 物 の 旋 律 が ア ク セ ント 史 の 資 料 だ と す る と 、 国 語 の ア ク セ ン ト の 研 究 の た め に は 、 邦 楽 の歴 史 に
つ い て の知 識 が 必 要 と な って く る 。 今 邦 楽 の知 識 を 与 え て く れ る 文 献 と し て は 、 代 表 的 な も の と し て 先 に 田 辺 尚 雄 氏
の ﹃日 本 の 音 楽 ﹄( 21)が あ り 、 近 く は 吉 川 英 史 氏 の ﹃日 本 音 楽 の歴 史 ﹄( 22)が す ぐ れ て い る 。 ま た 、 平 凡 社 の ﹃音 楽 辞
典 ﹄ の 邦 楽 に 関 す る 項 目 に は 、 そ れ ぞ れ の方 面 に つ い て そ れ ぞ れ の方 面 の 権 威 が 詳 し く 書 い て お り 、 よ い参 考 に な る 。
れ ば︱
ま た 、 そ れ ら 邦 楽 諸 曲 を 実 際 に 耳 に 聞 か せ て く れ る レ コー ド ・ソ ノ シ ー ト の 類 は 、 数 多 く 出 来 て いる 。 一部 を 掲 げ
﹁邦 楽 大 系 ﹂ ( 十 三枚 。 演 奏 ・中 能 島 欣 一ほ か、 解 説 ・岸 辺 成 雄 ほ か) 筑 摩書 房 。
﹁日 本 の伝 統 音 楽 ﹂ ( 十 三 枚 。 演奏 ・芳村 伊 十 郎 ほ か 、解 説 ・星旭 ) コ ロムビ ア レ コー ド。
﹁雅 楽大 系 ﹂ ( 声楽 篇 三 枚 。演 奏 ・雅 楽 紫絃 会 、 解 説 ・田辺 尚 雄 ・芝 祐 泰 ) ビ クタ ー レ コー ド 。 ﹁ 真 言声 明﹂ ( 四 枚。 演 奏 ・秋 山祐 雅 ほ か、 解 説 ・金 田一 春彦 )ポ リ ド ー ルレ コー ド 。 ﹁天 台 声 明 ﹂ ( 四枚 。 演 奏 ・中 山玄 雄 ほ か、 解 説 ・片 岡 義 道 )ポ リ ド ー ルレ コー ド 。
﹁新 義 真 言 声 明 集 成 ﹂ ( 正篇 六 枚 ・続 編 二枚、 演 奏 ・青 木 融光 、 解 説 ・小泉 文 夫 ) ビク タ ー レ コード 。
﹁平 家 琵 琶 ﹂ ( 二枚 。 演 奏 ・非 野 川検 校 ほか 、 解 説 ・藤 井 制 心) フ ィリ ップ ス レ コード 。
﹁日 本 琵 琶 楽 大 系 ﹂ ( 演 奏 ・辻靖 剛 ほ か、 解 説 ・田 辺尚 雄 )ポ リ ドー ル レ コード 。 ﹁ 能 上 下﹂ ( 演奏 ・観 世 寿夫 ほか 、 解説 ・横 道 万 里雄 ) ビ ク ター レ コー ド。 ﹁ 狂 言 上 下﹂ ( 演 奏 ・山本 東 次 郎 ほ か、 解 説 ・小 山 弘志 ) ビク タ ー レ コー ド 。 ﹁ 義 太 夫 の曲 節 ﹂ ( 演奏 ・竹 本津 太 夫 ほ か 、解 説 ・長尾 荘 一郎 ) ビ ク ター レ コード 。
﹁三 味 線 う た の 生 い た ち と そ の 移 り 変 り ﹂ ( 演 奏 ・富 山清 琴 ほ か、 解 説 ・町 田佳 声 ) コ ロムビ ア レ コード 。 ﹁三 味 線 音 楽 事 始 ﹂ ( 演 奏 ・米川 文 子 ほ か、 解 説 ・平野 健 次 ) C B S ソ ニー。 ﹁上 方 の端 唄 ﹂ ( 演 奏 ・菊原 初 子 、 解説 ・平 野 健次 ) ビ ク タ ー レ コー ド。
﹁ う た 沢 の成立 と発 展﹂ ( 演 奏 ・歌 沢寅 右 衛 門 ほ か、 解 説 ・町 田佳 声 )キ ング レ コード 。
﹁ 東 西 花 競 べ上 方 芸 と 江 戸 芸 ﹂ ( 演 奏 ・芳 村 伊 十郎 ・竹 本 綱太 夫 ほか、 解 説 ・町 田佳 声 ) コ ロム ビ ア レ コード 。
︹七 十 五 ︺ 旋 律 への ア ク セ ント の 反 映 度
︽ア ク セ ント を 尊 重 し て い る ︾ と 言 う だ け
﹁都 々 逸 ﹂ の 旋 律 な ど 、 ︽第 一拍 が
︽あ る 程 度 ア ク セ ン ト を 反 映 し た 旋 律 が つ い て い る ︾ と 言 う だ け で あ っ て 、 ア ク セ ン
第 一に 心 得 て お く べ き こ と は 、 歌 謡 ・語 り 物 の 旋 律 は 、 あ く ま で も で あ る と いう こ と 、 つま り
ト そ の ま ま で は な い と 言 う こ と で あ る 。 例 え ば 、 ︹六 十 八 ︺ に あ げ た 三 亀 松 の
高 い 語 は 、 高 く 始 ま る 譜 が つ い て お り 、 第 一拍 が 低 い 語 は 、 低 く 始 ま る 譜 が つ い て い る ︾ と は 言 え る が 、 言 え る
の は 、 大 体 そ の程 度 であ って、 そ れ 以 上 の こ と 、 例 え ば 、 第 二拍 以 下 の こ と は 何 と も 言 え な い ので あ る。 例 え ば 、
﹁み ん な ﹂ の ﹁な ﹂ は そ の 拍 は 平 ら な 拍 で あ る が 、 ﹁な ﹂ の 旋 律 は 下 降 的 に つ い て い る が ご と き で あ る 。
箏 唄 の ﹁さ く ら ﹂ は 最 初 の サ ク ラ サ ク ラ の と こ ろ が 、 6 6 7︱ 6 6 7 と な って い て 、 ﹁桜 ﹂ の ア ク セ ント サ ク ラ
と ぴ った り一 致 し て いる わ け で は な い が、 ア ク セ ン ト が そ こな わ れ た 感 を 与 え な い 。 も し 、 こ れ が 7 6 7︱ 7 6 7︱
︹付 表 22 ︺
と いう メ ロ デ ィー で あ った ら 、 ﹁佐 倉 、 佐 倉 ﹂ と い って いる よ う に 聞 こ え 、 ア
ク セ ント が そ こ な わ れ た と いう 感 を 与 え る 。
に な って く る が 、 こ れ は そ の 方 言 で ど のよ う な 型 が あ る か に よ っ て 決 っ て く
一つ の ア ク セ ン ト に は ど の範 囲 に ま で 許 さ れ る か と いう こ と が 重 要 な 問 題
る よ う で 、 例 え ば 東 京 語、 京 都 ・大 阪 語 の 場 合 に は 、 三 拍 語 で は 、 そ れ ぞ れ
の 型 は 上 の ︹付 表 22 ︺ の よ う な 範 囲 の 中 で の メ ロデ ィ ー の変 種 が 許 さ れ る 。
サ ク ラ の旋 律 は 、 東 京 式 の○ ● ● 型 の第 三 番 の 場 合 であ った 。
﹁ 桜 ﹂ を サ ー ク ラ と 声 を 引 い て 、 サ ー のと こ ろ に 、 3 2 と か 3 4 と か いう メ
ロテ ィ ー を つけ る よ う な 場 合 を 考 え る と 、 単 純 で は な い が 、 サ ー ク ラ ・サ ー
﹁佐 倉 ﹂ の 方 に 聞 こ え ﹁桜 ﹂
のよ う に は 聞 こえ な い よ う に 思 う 。 途 中 で 音 が 下 が る 拍 は 、 あ と で 上 げ て も
ク ラ と いう 節 で歌 って み る と 、 こ れ は 二 つ と も
高 い拍 のよ う に 聞 こ え 、 途 中 で 音 が 上 が る 拍 は 、 次 の拍 へ上 が って 、 ま た は
平 ら に つ け ば 、 低 い拍 の よ う に 聞 こ え 、 下 が って つ け ば 高 い拍 の よ う に 聞 こ
え る よ う で あ る 。 ﹃長 唄 新稽 古 本 ﹄ に よ る と 、 長 唄 の方 で は こ の よ う な こ と に
○ ● ○ ○ 型 の実 現 の よ う に も 聞
た だ し 最 初 の 3 は 付 点 四 分 音 符 ・次 の 3 は 八
関 し て 細 か い 工 夫 の あ と が う か が わ れ る 。 そ の 他 、 細 か い こ と に な る が 、2/4 拍 子 で 、 3 3 2 2 と や る と︱
分 音 符 ・あ と 二 つ の 2 は 四 分 音 符 と す る︱
こ え るが 、 ●○○○ 型 の実 現 の よ う に も 聞 こ え る と いう よ う な こ と が あ り 、 ま だ ま だ 問 題 は あ る 。
︹七 十 六 ︺ 歌 謡 の 種 類 と アク セ ン ト 反 映 度 と の 関 係
第 二 に 注 意 す べ き は 、 旋 律 が ど の 程 度 ア ク セ ント を う つす か と い う こ と が 、 楽 曲 の ジ ャ ン ル に よ り 異 な り 、 ま
〔譜14〕
た 、 同 じ 楽 曲 で も 、 一人一 人 の 謡 い手 に よ り 異 な り、 一つ 一つ の曲 に よ り 異 な り 、 時 に は 、 そ の同 じ
曲 の中 でも 曲 節 の種 類 に よ り 異 な り 、 さ ら に 部 分 に よ って異 な る こと で あ る 。 例 え ば 、 同 じ 邦 楽 に 属
し な が ら 、 義 太 夫 ・平 曲 や 声 明 のう ち の講 式 ・祭 文 の類 は 最 も ア ク セ ント に 忠 実 で あ って 、 長 唄 ・新
内 ・歌 沢 や 、 声 明 のう ち の表 白 ・和 讃 あ た り が これ に次 ぐ が、 地 唄 ・箏 曲 のう ち の伝 統 的 な 曲 、 現 行
の謡 曲 や 催 馬 楽 の類 の旋 律 は 、 ほ と ん ど ア ク セ ント と の関 係 を 示 さ な いよ う であ る 。 ま た 、 ジ ャ ン ル
に よ れ ば 、 演 奏 者 のち が いが は っき り し て お り 、 同 じ 長 唄 でも 、 吉 住 小 三 郎 氏 一派 のも の は 、 ア ク セ
ント を 重 ん ず る こ と が大 で あ る が、 松 永 和 風 氏 一派 のも のは 、 あ ま り ア ク セ ント の拘 束 を 受 け な い節 が聞 かれるよう である。
さ ら に 、 ジ ャ ン ル によ って は 、 部 分 によ り ア ク セ ント を 反 映 す る 度 合 いが ち がう こと も 注 意 す べ き
であ る 。 義 太 夫 は 、 井 野 辺潔 氏 によ る と 、 フシ の部 分 ・ジ アイ の部 分 ・コト バ の部 分 ・イ ロ の部 分 に
分 け ら れ る が、 最 も 忠 実 に ア ク セ ント を 反 映 す る の は コト バ の部 分 、 つ い では イ ロの部 分 で 、 ジ ア イ
か ら フシ に 移 る と 、 時 に ア ク セ ント が 旋 律 の 犠 牲 にな って いる。 コト バ と は 会 話 の部 分 、 ジ ア イ と フ
シは 歌 う 部 分 で 、 た だ し ジ ア イ は義 太 夫 に オ リ ジ ナ ルな 部 分 で、 フ シ は 他 の曲 、 謡 曲 と か 文 弥 節 か ら 来 た も の、 イ ロは ジ アイ と コト バ の中 間 の部 分 であ る。( 23)
平 曲 で は 、 素 声 と 呼 ば れ る 言 葉 の 部 分 が最 も アク セ ント に重 き を お き 、 口 説 ・指 声 ・折 声 に な る と
や や 劣 り 、 初 重 ・中 音 ・三 重 と 呼 ば れ る 部 分 に な る と、 アク セ ント か ら や や 離 れ た 節 が つ いて い る よ う であ る 。( 24)
そ れ か ら 、 ま た 一つ 一つ の曲 に つ いて 、 ど う いう 部 分 に は 比 較 的 ア ク セ ント に忠 実 な 旋 律 が つけ ら
れ る か、 ど う いう 部 分 は そう では な いか と いう 傾 向 があ る こと も 考 え て お く 必 要 があ る 。 第 一に、 ち
が う 歌 詞 で 同 じ 旋 律 を 歌 う よ う にな って い る 場合 、 も と に な った 歌 詞 の ア ク セ ント ほ ど 旋 律 に 忠 実 に
なっ てい る こ とは、 現在の歌曲から見て容易に想像できる
こ とであ
る。例
えば、 山田耕筰氏の﹁
この道 ﹂﹁赤 と
ん ぼ ﹂ な ど の 旋 律 は 、 い わ ゆ る 一番 の ア ク セ ン ト に ぴ った り で あ る が 、 二 番 ・三 番 と も な れ ば 、 ア ク セ ン ト は 旋
律 か ら か な り ず れ た も の に な っ て い る 。 昔 も こ の よ う な こ と が あ った ろ う と い う こ と は 容 易 に 想 像 で き る 。
ま た 、 細 か い こ と で あ る が 、 今 の 歌 曲 で み ると 、 セ ン テ ン ス の は じ め の部 分 に は 比 較 的 ア ク セ ント に 忠 実 な 旋
律 が つけ ら れ る が 、 後 の方 の部 分 に な る と 旋 律 の自 然 の進 行 に 抑 え ら れ て 、 歌 詞 のア ク セ ント は 犠 牲 に さ れ る 傾
向 が あ る 。 こ の こ と も 昔 の 歌 曲 に も あ て は ま り そ う で あ る が 、 な お一 つ 一つ の 曲 に つ い て は 固 有 の 事 情 が あ る こ と も 想 像 に難 く な い。
町 田 佳 声 氏 に よ る と 、 松 永 和 風 氏 が 孝 次 と い った 時 代 の コ ンビ で、 ま た 指 導 者 で あ った 先 代 の 今 藤 長 十 郎 氏 は 、 旋
律 本 位 の歌 い方 の 主 張 者 で 、 ﹁私 は 小 三 郎 さ ん の歌 い方 は あ ん ま り 文 句 ど お り で 面 白 く な い ﹂ と 、 氏 に 語 った こ と が あ った と いう 。
町 田 氏 の ﹁邦 楽 と ア ク セ ント の 問 題 ﹂( 25)に よ る と 、 元 来 邦 楽 と いう も の は、 舞 台 芸 術 を 除 い て は 、 自 分 で 演 じ て
楽 し む の が第一 目 的 で 、 聞 い て い る 人 に わ か ら せ よ う な ど と いう 配 慮 は あ ま り な か った は ず だ と 言 って お ら れ る が、
ま こ と に こ れ は 邦 楽 を 知 る 人 の意 見 で あ る 。 一般 に は 、 い い声 で お も し ろ い フ シ で 歌 って いれ ば そ れ で よ か った わ け
で 、 平 曲 のよ う な 自 分 で 楽 し む よ り も 他 人 に 聞 か せ る 芸 と な っ て 、 ア ク セ ント に も 考 慮 す る よ う にな った と いう のは 大 い に 理 のあ る こ と で あ る 。
ど のよ う な 音 楽 が 、 歌 詞 の ア ク セ ント を よ く 反 映 し て いる か に つ い て は 、 本 居 長 世 氏 が よ く 研 究 し て いた と こ ろ で 、
︹六 十 七 ︺ に 述 べた 筆 者 の ﹁歌 謡 の旋 律 と 歌 詞 の ア ク セ ン ト ﹂ は 、 氏 か ら 多 く の こ と を 教 わ り つ つ、 田 辺 尚 雄 氏 の 還
暦 祝 賀 記 念 論 文 集 で あ る ﹃東 洋 音 楽 論 叢 ﹄ に 、 ﹁ 邦 楽 の旋 律 と 歌 詞 の ア ク セ ント ﹂ と いう 題 で 発 表 し た も のだ った 。
ア ク セ ント を よ く 生 か し て お り 、 和 田 実 氏 に 従 え ば ア ク セ ン ト を 表 わ す テ ツと いう 術 語 ま で でき て いる と いう 。 一方 、
メ ロ デ ィー の 上 で の ア ク セ ン ト の 現 わ れ 方 は 、 音 楽 の ジ ャ ン ル に よ って 異 な り 、 最 も 忠 実 な の は 義 太 夫 で、 大 阪 の
東 京 の ア ク セ ント を 、 メ ロデ ィ ー の 上 に よ く い か し て い る の は 新 内 と 浪 花 節 と つ い で 長 唄 で あ る 。
常 磐 津 は お も し ろ い楽 曲 で 、 原 則 と し て 、 東 京 ア ク セ ント の メ ロ デ ィ ー で い き な が ら、 東 京 で ○ ● 型 、 京 都 ・大阪
で ● ○ 型 の 二 拍 名 詞 に 限 って ● ○ 調 の メ ロデ ィ ー を つけ て 、 上 方 起 源 の 音 楽 で あ る こ と を 示 し て い る 。 清 元 は 常 磐 津
ィー を も って い る 、 と い った 調 子 で あ る 。 ﹁色 ﹂ も こ れ に 準 ず る 言 葉 ら し い。 琵 琶 は 個 人 に よ っ てち が い 、 い わ ゆ る
に 似 て いる が 、 吉 川 英 史 氏 ( 26)に よ る と 、 ﹁月 ﹂ ﹁雪 ﹂ ﹁花 ﹂ の 三 語 に 限り 、 ツキ 、 ユキ 、 ハナ と いう 上 方 式 の メ ロ デ
正 派 の薩 摩 琵 琶 は 、 あ ま リ ア ク セ ント を 重 視 し な い が 、 東 京 で 生 ま れ た 錦 心 流 や 、 そ れ か ら 出 た 錦 琵 琶 は 、 よ く 東 京
ア ク セ ント を 反 映 す る 。 筑 前 琵 琶 は 個 人 に よ って ち が う 。 た だ し 、 東 京 ア ク セ ント に 忠 実 に 節 づ け し よ う と いう 意 慾
は 、 す べ て の 人 に 見 ら れ る よ う で、 田 中 旭 嶺 女 史 が筆 者 の作 詞 に曲 を 付 け ら れ た ﹁新 曲 経 正 ﹂ な ど は 全 曲 ア ク セ ント を そ のま ま 反 映 し た フ シ に な って いる 。( 27)
ま た 、 こ の 項 で 、 伝 統 的 な 箏 曲 や 現 行 の 謡 曲 は 、 ア ク セ ン ト を あ ま り 反 映 し て いな いと 言 った が 、 箏 曲 は 琵 琶 歌 同
様 個 人 に よ る も の で、 宮 城 道 雄 氏 や 中 能 島 欣一 氏 ・中 田 博 之 氏 な ど 現 代 の 楽 匠 の作 曲 に な る も のは 、 明 瞭 に東 京 ア ク
セ ント を 反 映 し て い る 。 謡 曲 は 、 現 行 の も のは ア ク セ ン ト と 無 関 係 と 言 わ ざ る を え な いが 、 こ れ は 古 く か ら の性 質 で は な か った 。
一体 謡 曲 の テ キ ス ト の 一番 古 いも の は 、 世 阿 弥 が 作 った と 言 わ れ る も の であ る が 、 た だ し 、 こ れ は 心 お ぼ え を し る
し た と いう に と ど ま り 、 ま だ 譜 の 体 裁 を な し て いな い。 横 道 万 里 雄 氏 に よ る と 、 譜 と し て 体 裁 が と と の った の は 、 小
﹁光 悦 本 ﹂ よ り 複 雑 な 体 裁 を も つも の を テ キ ス ト と し て 用 い て い る。 観 世 流 最 新
次 郎 信 光 のも の、 そ れ に次 ぐ の が、 古 典 全 集 に 複 製 さ れ て い る ﹁光 悦 本 ﹂ だ と いう 。 現 在 の五 流 で 用 い る 譜 本 は 、 そ れ ぞ れ 少 し ず つち がう が 、 いず れ も のも の は こ と に 複 雑 を き わ め る 。( 28)
よ う な 複 合 し た 形 の も の と に 分 け ら れ る 。 こ の う ち 単 純 な 形 の も の は 、 標 準 的 な一 拍 の
一体 現 在 の 譜 本 に た よ って 、 謡 曲 を 習 う と いろ いろ な 事 実 が 分 か って く る 。 ま ず 墨 譜 は 、大 き く 分 け て〓〓 の よ う な 単 純 な 形 の も のと 、〓の
長 さ で 唱 え ら れ る も の、 複 合 し た 形 の も の の方 は 、 二 拍 以 上 に引 き 延 ば し て 唱 え ら れ る も のと いう わ け で 、 こ の ち が
いは 問 題 な い。 問 題 は 、〓 と〓 と〓 の よ う な 同 じ 単 純 な 形 を も つ三 つ の む き のち が った も の で 、 こ れ は そ の ち が い に
か か わ ら ず ち が った 意 味 を も って いな い。〓 と あ る か ら と 言 って 高 く 歌 う 、〓 と あ る か ら と 言 って 低 く 唱 え る と い う
き ま り は な い。( 29)し か し 、 こ れ は 古 く は 何 か 唱 え 方 に ち が い が あ った、 そ れ が 混 同 さ れ て し ま った も の に ち が いな い。
と こ ろ で 今 度〓〓 の付 け ら れ た 語 句 の種 類 と〓〓 の む き の ち が い と を 比 較 し て み る と 、 注 目 す べ き 事 実 に 気 付 く 。
そ れ は 京 都 ・大 阪 で 現 在 ○ ● 型 の 語 句 に は 、〓〓 と いう 形 の 譜 が つく こ と が 多 く 、 京 都 ・大 阪 で 現 在 ● ○ 型 の語 句 に
対 し て は 、〓〓 と い う 形 の譜 が つく こ と が 多 い こ と であ る 。 京 都 ・大 阪 で ○ ● 型 の語 と は 、 平 安 朝 以 来 そ う いう 型 だ
った 語 で あ る し、 京 都 .大阪 で ● ○ 型 だ った 語 は 、 室 町 時 代 以 後 は や は り ● ○ 型 だ った 語 だ 。 と す る と 、 当 然 次 の(1) (2 () 3 の)こ と が 想 定 さ れ る。 す な わ ち (1 )謡 曲 は も と は ア ク セ ン ト を 反 映 す る フ シ を も って いた 声 楽 な の だ 。 ( 2) そ う し て〓 は よ り高 い音 を 、〓 は よ り 低 い音 を 表 わ す 譜 で あ った ろ う 。
そ う し て 、 一方 こ の推 定 を 助 け る よ う な 次 のよ う な 事 実 が あ る 。
(3 )そ れ が 現 代 に 至 る ま で に そ の伝 統 が 失 わ れ て〓 と〓 の 区 別 が な く な って し ま った の だ ろ う 。
(4 )現 在〓 の譜 は 下 ゲ ブ シ と い う 呼 び 名 を も って い る 。
(5 ) ま た 古 い時 代 の 文 献 で、〓 を よ り 高 い音 の表 記 に 、を よ り 低 い音 の 註 記 に 用 いた 例 が あ る 。 例 え ば ﹃音 曲 玉 淵 集 ﹄ 巻 五 の ﹁下 ぐ る 節 の事 ﹂ と いう 章 に 、
と あ る の は 、 そ の例 と 見 ら れ る 。
こ の︵4 () 5 の) 事 実 は 前 の (2 の) 推 定 を 支 持 す る も の に ち が い な い。 そ う す る と (1)も (同 3時 ) に証 明さ れた こと にな る。実 際 次 の(6 の)よ う な 事 実 が 指 摘 で き る のは 興 味 深 い。
次 第 ﹂ で、
(6 )初 期 の謡 曲 家 た ち は 、 謡 曲 の フ シ が ア ク セ ント に 合 致 す る こ と を 喜 ん で いる 例 が あ る 。 例 え ば 世 阿 弥 は ﹁曲 附
文 字 の声 に曲 の お の づ か ら 似 合 ひ た る は 上 々 の 曲 な る べ し
と 言 って い る のは 典 型 的 な 例 で あ る 。 ま た 、 方 言 の ア ク セ ント の相 違 を 指 摘 し て い る 例 と し て し ば し ば 引 か れ る が 、 ︹五 十 八 ︺ に あ げ た 金 春 禅 鳳 の書 い た も の に、 な ま る 事 、 坂 東 ・筑 紫 な ど の な ま り ⋮⋮
現 行 の謡 曲 は 、 そ う で は な い が 、 以 前 の 謡 曲 は 、 ア ク セ ント 史 の資 料 と し て 役 に 立 つ で あ
と いう よ う な 語 が 見 え る の も 、 謡 曲 は、 正 し い ア ク セ ント で唱 え ら れ る べ き だ と いう 気 持 が あ れ ば こ そ で あ ろ う 。 そ う す る と 謡 曲 は 、︱
ろ う と 推 定 さ れ る。 以 前 の 謡 曲 そ の も の の再 現 は む つか し い か も し れ な い が 、 少 な く と も そ の初 期 の 譜 は そ の 時 代 の アク セ ントを 示す有 力 な資 料と 判定 され る。
以 上 の事 実 は 実 は 私 が は じ め て 言 い出 し た こ と で は な い。 東 京 で は 野 村 和 世 氏 が 、 京 都 で は 藤 田 弘 子 氏 ( 3 0)が こ の 方 面 の研 究 を 進 め て お ら れ る 。
次 に セ ン テ ン ス の は じ め の部 分 の ア ク セ ン ト が 比 較 的 重 ん じ ら れ る と い う こ と は 、 は じ め の部 分 は 聞 き 手 に と っ て
何 が 言 い 出 さ れ る か わ か ら な い か ら 、 ア ク セ ン ト も 忠 実 に 旋 律 の上 に 実 現 さ せ な け れ ば な ら な いが 、 あ と の方 にな る
と 、 大 体 文 脈 に よ って 使 わ れ る 言 葉 も 予 想 さ れ る の で 、 ア ク セ ント と ち が った 旋 律 で 歌 わ れ て も 理 解 に さ し つか え な
いと いう よ う な 理 由 に よ る も の であ ろ う 。 東 京 語 な ど で、 二 つ の文 節 が 接 続 す る 場 合 、 接 合 の度 合 い が強 い と 一方 の
文 節 の ア ク セ ント が 破 壊 さ れ て 高 い部 分 が 一つ に な る 性 格 があ る が 、 こ の よ う な 場 合、 ア ク セ ント が 破 壊 さ れ る の は 、
︹四 十 七 ︺ に 述 べ た よ う に、 必 ず あ と の 文 節 の方 で あ る 。 こ れ も 同 じ よ う な 理 由 に よ る も の と 考 え ら れ る 。
〔 譜15〕
中 山 晋 平 氏 の 童 謡 、 ﹁雨 降 り お 月 さ ん ﹂ の 中 に 、
﹁ひ と り で 傘 さ し て 行 く ﹂ と い う 章 が あ る が 、 こ の
︹ 譜 15︺ の よ う に な って お り 、 ヒ ト
リ デ ・カ ラ カ サ ・サ シ テ の部 分 は ア ク セ ン ト に よ
部 分 の旋 律 は
く あ う の に 対 し て 、 ユク の部 分 は あ って いな い が 、
し か も 不 自 然 に は 聞 こ え な い。 最 後 の ﹁お 馬 に ゆ
ら れ て 濡 れ て ゆ く ﹂ と いう 条 で は 、 ア ク セ ン ト に
正 確 に あ う の は最 初 のオ ウ マ ニの部 分 だ け で、 ユ
ラ レ テ の部 分 ・ヌ レ テ ユク の部 分 は ち っと も あ っ
て いな いが、 これ ま た 不 自 然 に感 じ ら れ な いと い
う の は 、 こ の 理 由 に よ る も の に ち が いな い。 名 詞
や 動 詞 のよう な 自 立 語 に助 詞 の類 が つく 場合 、 自
立 語 の ア ク セ ント が 変 わ る と 異 様 な 感 を 与 え る の
に 対 し て 、 助 詞 の方 は 、 そ れ ほ ど で も な い の も 同 じ 理由 であ ろう 。
室 町 時代 に謡 曲家 世 阿弥 は ﹃ 花 鏡 ﹄ の中 で、
訛は 悪 か る べし 。 此 分 目 又 大 事 也 。
又 音 曲 に訛 る 事 、 節訛 は く る し か ら ず 、 文 字
と 言 って い る が、 桜 井 茂 治 氏 ・前 田 富祺 氏 ( 31)に
よ る と ﹁節訛 り ﹂ と いう の は 、 附 属 語 の ア ク セ ン
ト が 狂 う こ と 、 ﹁文 字訛 り ﹂ と いう の は 自 立 語 の ア
ク セ ント が 狂 う こ と と 見 ら れ る と いう 。 世 阿 弥 は す で に こ の こ と を 心 得 て いた と 考 え ら れ る 。
最 後 に 、 一つ 一つ の 曲 に つ い て の 固 有 的 な 事 情 を 言 え ば 、 例 え ば 、 内 閣 文 庫 旧 蔵 の ﹃朗 詠 要 抄 ﹄ の 譜 面 を 見 る と 、
った 形 の 墨 譜 に な って い る 。 こ れ は 低 高 高 ・低 低 高 高 と いう 旋 律 を 表 わ す も の と 想 像 さ れ る が 、 こ の部 分 に は 、 必 ず
こ こ に は 四 十 一の 曲 が 採 録 さ れ て いる が 、 こ れ ら の す べ て の 歌 い出 し の文 節 は 、 (八 十 十 ) と か (八 八 十 十 ) と か い
し も そ う いう ア ク セ ン ト を も つ語 が き た と は 限 る ま いと 思 う 。 そ う いう 型 の 語 が 来 る こ と も あ った ろ う が 、 そう で な
い語 も 来 た であ ろ う と 思 わ れ る 。 そ う だ と す る と 、 と に か く 、 こう は じ ま る の が こ の 本 に お け る 朗 詠 の歌 い方 の型 な
の で 、 こ の部 分 は ア ク セ ン ト を 反 映 す る こ と が 少 な か った と 推 測 で き る 例 であ る。 平 曲 のう ち に 、 ﹁上 歌 ﹂ と いう 曲
節 が あ る が 、 こ の 部 分 は 、 す べ て の 歌 を 通 じ て 大 体 同 じ よ う な 旋 律 形 式 で 歌 わ れ て いる 。 と す る と 個 々 の 語 の ア ク セ ント に 合 わ な い旋 律 が つく こ と が 多 か った ろ う と 思 わ れ る 。
そ の他 、 前 後 の 旋 律 と の 調 和 のた め に 、 自 然 に ア ク セ ン ト に そ む いた 旋 律 が つけ ら れ る こ と は 、 各 曲 と も 多 か った に ち が いな い。
︹七 十 七 ︺ 旋 律 は 時 代 と と も に 変 わ る
﹁鶴 亀 ﹂ と い う 曲 の 中 に 、 ﹁瑪瑙 の 橋 ﹂ と い う 一条 が あ る 。 こ れ は 吉 住 小 十 郎 氏 編 の
第 三 に 注 意 す べき は 、 旋 律 そ のも のが 時 代 に よ り 変 化 す る こと があ る こと で あ る 。 長 唄 の ごと き は 、 変 わ り 方 がき わ め て活 溌 で 、 例 え ば
﹁瑪瑙 ﹂ と い う 語 の ア ク セ ン ト が 東 京 に お い て 、 メ ノ オ か ら メ ノ オ に 変 わ り つ つ あ る 事 実 に 適
﹃長 唄 新〓 古 本 ﹄ に よ れ ば 、 ︹譜 16 ︺ の︵ A︶ の よ う な 旋 律 で 歌 う べ き も の と な っ て い る が 、 最 近 は︵ B) の よ う に も 歌 わ れ て いる 。 これ は
応 し て いる も の と 見 ら れ る が 、 こ の よ う に 、 ア ク セ ント の 変 化 に つれ て 旋 律 も 動 く よ う で は 、 旋 律 を も と に し た
古 い 時 代 の ア ク セ ン ト を 推 定 す る に は よ ほ ど 注 意 し な け れ ば な ら な い。 謡 曲 の 旋 律 な ど も 、 そ の 楽 譜 の 形 式 と 、
現 行 の 旋 律 と を 比 較 す る 場 合 に は 、 そ の創 作 時 代 か ら 以 後 、 相 当 の 変 化 を し た も の と 推 定 さ れ る 。 こ の よ う な も
〔 譜16〕
〔 譜17〕
のは 、 現行 の旋 律 は 資 料 と し て は 不 適 当 で、 そ の古 い楽
譜 の方 を 資 料 と す べき こ と が 知 ら れ る。
長 唄 界 指 折 り の 学 匠 吉 住 小 三 八 氏 の直 話 によ る と 、 現
在 の 小 三 郎 一派 の ア ク セ ント に 即 し た 歌 い方 は 、 二 代 目
小 三 郎 に は じ ま った も の で 、 二 代 目 小 三 郎 は 、 寛 政︱ 安
の忠 実 な 模 倣 と す る と 、 そ の時 代 の ア ク セ ント の資 料 に
政 の こ ろ の人 だ と 言 う 。 と す る と 、 も し 現 行 の も の が そ
な る は ず であ る 。 こ の 節 が ど こ ま で 忠 実 に 伝 わ って いる も の であ ろ う か 。
謡 曲 の 楽 譜 、 いわ ゆ る 胡 麻 点 に つ いて は ︹七 十 六 ︺ に
述 べ た が 、 こ の 〓 〓 〓の向 き のち が い は 、 現 行 の旋 律 と
は 、 ま ず 没 交 渉 で あ る 。 現 行 の譜 で 高 さ を 表 わ す の は 何
か と いう と 、 例 え ば 、 上 の譜 で 、 ﹁し ぐ れ ﹂ の シ の わ き
の ﹁上 ﹂ の 註 記 が 上 と いう 高 さ を 表 わ し 、 ﹁し ぐ れ ﹂ の
グ の 条 の 〓の 下 の ﹁ウ ﹂ と いう 註 記 が、 グ を 唱 え な が ら
一音 高 い ﹁上 ノ ウ キ ﹂ と いう 段 階 に 上 る こ と を 表 わ し 、
﹁紅 葉 狩 ﹂ の ヂ の条 の 〓の 下 に あ る ﹁下 ﹂ と いう 註 記 が
上 ノ ウ キ か ら ﹁中 ﹂ と いう 、 完 全 五 度 だ け 低 い 音 に 移 る
︹ 譜 17 ︺ のよ う な 旋 律 を 表 わ す わ け で あ る が 、
こ と を 表 わ す 。 こ の よ う に し て 、 ﹁紅 葉 狩 ﹂ の 最 初 の 二 句は 概略
れ は 変 則 で あ る に ち が いな い。
こ れ を 要 す る に 音 の 高 低 変 化 を 表 わ す も のは 、 胡 麻 点 で は な く 、 胡 麻 点 のわ き に 註 記 さ れ て い る 文 字 で あ る 。 が、 こ
恐 ら く 、 謡 曲 の 胡 麻 点 が 発 明 さ れ た 時 代 に は 、 胡 麻 点 の 向 き が 、 音 の 高 低 のち が いを 示 し て い た 。 そ れ が 後 世 胡 麻
点 の向 き と 音 の 高 低 と の 関 係 が 薄 く な って し ま った の で 、 胡 麻 点 以 外 に 上 と 下 と か ウ と か いう 註 記 を し て 旋 律 を 表 わ
す よ う に な った も の が 現 行 の 譜 で 、 現 行 の 譜 に こ のよ う な 不 要 な 胡 麻 点 の 向 き の ち が いと いう も のが 見 ら れ る こ と 、
謡 曲 の楽 譜 にも 見 ら れ る が 、 ま た 、 し ば し ば 楽 譜 で は 、 そ の註 記 を し た 文 字 は 特 別 の旋 律 変 化 を も た ず 、 註 記 のあ
そ の こ と が 、 謡 曲 の 旋 律 が 時 代 と と も に 変 化 し た こ と を 物 語 って い る 。
る 直 後 の文 字 が 特 殊 な 旋 律 変 化 を す る と い う 約 束 の も の が あ る 。 これ は 旋 律 の変 化 が あ って 、 元 来 そ の 註 記 に あ った
旋 律 の性 質 が 、 一律 に 直 後 の 拍 に 移 った も のと 考 え ら れ 、 や は り 、 過 去 に お け る 旋 律 の変 化 を う か が わ せ る 。 例 え ば 、
平 家 琵 琶 で は 、 ︽口 説 ︾ と いう 曲 節 に 、 コと いう 音 符 が 現 わ れ る が 、 館 山 氏 の演 奏 で は こ れ は そ れ が つ け ら れ た 文 字
に は 何 等 変 化 を 与 え ず 、 そ の直 後 の文 字 に ア タ リ と 呼 ば れ る 変 化 を 与 え る ご と き で あ る 。 こ れ は 現 在 は 消 失 し た が、 コ と いう 文 字 に あ った 小 旋 律 型 が 次 の拍 に 影 響 を 与 え て いる 例 と 考 え ら れ る 。
︹七 十 八 ︺ 楽 譜 ・楽 書 に は 書 誌 学 的 考 察 を
と こ ろ で 、 資 料 と し て 、 現 実 の 楽 曲 で は な く 、 前 の 時 代 の楽 譜 な り 、 音 楽 書 の 類 を 用 い る 場 合 に は 、 ま た 特 殊
な 注 意 が い る 。 す な わ ち 、 第 三 節 で ア ク セ ン ト 資 料 と し て 過 去 の ア ク セ ン ト を 記 載 ・註 記 し た 文 献 を 扱 う 場 合 に
考 え た と 同 じ よ う な 書 誌 学 的 な 考 察 であ る 。 す な わ ち 、 そ の楽 譜 は い つ出 来 た か 、 そ う し て ど のよ う に し て 現在
に伝 え ら れ て き た か、 と いう こ と を 考 え な け れ ば な ら な い。 ま た 、 そ の楽 譜 が具 体 的 にど の よ う な 旋 律 を 表 わ す も の であ る か を も 明 ら か にし な け れ ば な ら な い。
そ の楽 譜 が い つ出 来 た か に つ い て は 、 そ の 楽 譜 に そ の旨 の 註 記 が あ れ ば 、 一往 そ れ に 従 う こと が で き る 。 平 家 琵 琶
の楽 譜 で あ る ﹃平 家 正 節 ﹄ は 、 そ の序 跋 に よ り 、 荻 野 知 一検 校 の 編 で あ る と 断 定 で き る 。 近 世 三 味 線 の 楽 譜
﹃ 糸 竹初
心集 ﹄ は 中 村 宗 三 の作 で あ る と 断 定 で き る 。 地 唄 の 譜 本 であ る ﹃絃 曲 大 榛 抄 ﹄ (一八 二 八成 ) は 光 崎 検 校 の 校 閲 で あ る と 断 定 で き る 。 これ ら は 、 いず れ も そ の例 であ る 。
ま た 、 楽 譜 に 註 記 が な く て も 、 誰 の 作 と いう 言 い伝 え のあ る も の は 、 一往 そ れ を 尊 重 し 、 特 に 矛 盾 を 生 じ な いか ぎ
り、 そ う 考 え て お く と いう 方 法 も あ る 。 謡 曲 の 古 譜 ﹁阿 古 屋 の松 ﹂ は 、 世 阿 弥 自 筆 と いう 所 伝 が あ る の で 、 そ れ に 基
づ い て 、 世 阿 弥 の作 と 扱 う の は 、 そ の 一例 であ る 。 声 明 の 一曲 で あ る ﹃ 舎 利 讃 嘆 ﹄ の 譜 を 藤 原 師 長 の作 と 推 定 し た の も 一例 で あ る 。( 32)
し か し 、 こ の よ う な 場 合 に は い ろ いろ な 事 実 を 明 ら か に し な け れ ば な ら な い。 例 え ば 、 ま ず そ の時 代 に は そ の よ う
な 楽 譜 が あ り う る か と いう よ う な 考 証 が 必 要 で あ る 。 ﹃ 朗 詠 要 抄 ﹄ の朗 詠 の 譜 は 、 巻 末 に 藤 原 公 任 か ら 教 通 ・師 通 ・
忠 実 ・師 長 ・孝 道 ・栄 賢 ・心 空 と 伝 わ った 旨 の 系 図 が 出 て いて 、 ち ょ っと 見 る と 公 任 が 作 った 譜 の よ う で あ る 。 が 、
公 任 の時 代 に こ のよ う な 方 式 の楽 譜 が あ った か ど う か 疑 わ し く 、 こ の 楽 譜 は 公 任 以 後 、 心 空 に 至 る 間 の 、 誰 か の作 譜 であ る と 考 え た い。 筆 者 は 蒲 原 忠 実 あ た り の作 で は な いか と 思 う 。
平 家 琵 琶 の譜 本 に、 東 京 教 育 大 学 蔵 ﹃平 家 物 語 ﹄ と いう 本 が あ って 、 渥 美 か を る 氏 は 平 家 琵 琶 に 関 す る 現 存 最 古 の
譜 本 と いう 折 紙 を つ け ら れ た 。 そ の 理 由 は 、 こ の譜 本 に 限 って 、 そ の 中 に 下 ゲ と 呼 ぶ 曲 節 の 註 記 がな い こ と で 、 下 ゲ
は 三 味 線 音 楽 の渡 来 以 後 そ の影 響 で 発 生 し た も の であ ろ う と いう 推 定 に よ る も の で あ る 。( 33︶し か し 、 そ の 譜 面 を 点
検 し て み る と 、 ﹁下 ゲ﹂ と いう 註 記 こ そ な い が 、 後 世 の譜 本 で 下 ゲ と 呼 ば れ て い る よ う な 曲 節 は 、 こ の 譜 本 にも す で
に あ った と 見 ら れ る 。 つま り 、 ﹁下 ゲ ﹂ と い う 註 記 が な い か ら と 言 っ て ﹃教 育 大 本 ・平 家 物 語 ﹄ を 今 知 ら れ て い る 最
古 の 譜 本 と 呼 ぶ こ と は 危 険 と 思 わ れ る 。 筆 者 の 見 る と こ ろ で は 、 田 辺 尚 雄 氏 ・吉 川 英 史 氏 が 一部 ず つを 蔵 し て お ら れ
る 譜 本 ﹃平 家 書 ﹄ の方 が 古 色 全 巻 に 満 ち て お り 、 こ の 方 が 室 町 時 代 成 立 のも の で は な いか と 思 う 。 も っと も 、 こ れ は ほか に積 極的 な証 拠 がな いので、 それ 以上何 とも 言え な いのは残念 である。
︹七 十 九 ︺ 楽 譜 の ち が い の意 味
資 料 と し て 、 過 去 の 楽 譜 を 用 い る 場 合 、 も う 一 つ 注 意 す べ き こ と が あ る 。 そ れ は 楽 曲 の旋 律 が 時 代 と と も に 変
( 2) の 場 合 に は 、 古 い 楽
化 す る の に 似 て 、 楽 譜 の 書 き 方 も 時 代 と と も に 変 化 す る こ と で あ る 。 こ れ に 対 し て 、 わ れ わ れ は 、 ( 1) 楽 曲 の 旋 律 は 同 じ で あ って 、 楽 譜 の 書 き 方 だ け が 変 化 し た の か 。
(2 ) 楽 曲 の 旋 律 が 変 化 し た た め に 、 そ れ に 応 じ て 楽 譜 の 書 き 方 が 変 化 し た の か 。
の い ず れ か を 見 き わ め な け れ ば な ら な い。︵1︶の 場 合 は 、 そ れ 以 上 ど う い う こ と は な い が 、
譜 だ け でな く 、 後 世 の変 化 し た 楽 譜 も ア ク セ ント 史 の資 料 と し て 有 力 だ と いう こ と を 忘 れ て は な ら な い。
長 唄 の 楽 譜 に は 、 現 行 の も の と し て 、 小 十 郎 式 のも の の ほ か に 、 杵 家 弥 七 流 の、 勘 所 を 漢 数 字 で表 わ す も の、 杵 家
栄 蔵 流 の 、 勘 所 を い ろ は 四 十 八 字 で 表 わ す も の で あ り 、 ち ょ っと 見 た と こ ろ で は 、 こ れ が 同 じ 曲 の同 じ 旋 律 を 表 わ し
た も の か と は 到 底 思 え な い ほど ち が う 。 昔 も こう いう こ と が あ った に ち が いな い。
﹁布 薩 の 声 明 ﹂ と 呼 ば れ る 声 明 曲 の 墨 譜 に は 、 全 く ち がう 二 種 の も の が あ り 、 こ れ が 同 じ 旋 律 を 表 わ す と は 、 そ の道
の専 門 家 に 教 え ら れ 、 は じ め て 合 点 が いく 。( 34︶ 言 わ れ て み れ ば 、 一方 の 甲 が 他 方 の A に 、 一方 の 乙 が 他 方 の B に 対
応 し て い る こ と は わ か る が 、 同 じ 種 類 の声 明 の 譜 を 使 って いる だ け に 同 じ 旋 律 を 表 わ し て いる こ と に 気 付 き に く い。
平 曲 は 、 室 町 時 代 の末 頃 以 来 、 いく つ か 譜 本 が 出 来 て お り 、 後 世 のも の ほ ど 註 記 が 精 密 に な って い る の で 、 旋 律 が 変
化 し て い る の か と 思 わ れ る が 、 仔 細 に 調 査 し て み る と 、 そ う いう こ と は あ って も 稀 で 、 た だ 表 記 法 だ け が 精 密 化 し た も の のよ う で あ る 。( 35)
も っと も こ れ ら に 対 し 、 旋 律 が 変 化 し た の に 従 って 、 譜 面 が 変 わ った 場 合 も 勿 論 あ る 。 謡 曲 で は いわ ゆ る 強 吟 な る
唱 え 方 は創 始 時 代 は な か った も の で 、 今 のよ う な 唱 え 方 は 、 江 戸 時 代 以 後 に 出 来 上 った も の だ と の こ と で あ る ( 36)か
ら 、 譜 本 のう ち の そ れ に 関 係 あ る 部 分 は 、 後 世 の変 化 で あ る こ と が 知 ら れ る 。 声 明 曲 の う ち の 、 ﹁四 座 講 式 ﹂ の カ カ
リ と 称 す る 旋 律 型 のよ う な も の は 、 他 の流 派 に は 、 曲 の上 にも 譜 の上 に も な い と こ ろ を 見 る と 、 江 戸 時 代 以 降 の進 流
〔 譜18〕
で発 明 し た 節 であ る こ と が 知 ら れ る 。 ど ち ら の 場 合 で あ る か 、 し っか り 見 き わ め な け れ ば いけ な い。
︹八 十 ︺ 楽 譜 の 歴 史 の 考 察 を
以 上 のよ う な こと を 考 え てく る と 、 歌 謡 の旋 律 に よ る 日本 語 の ア ク セ ント の 史 的 研 究 の た め に は 、
日 本 に お け る 楽 譜 の 歴 史 と いう こ と を 心 得 な け れ ば な ら な く な っ て く る 。
日本 の楽 譜 の歴 史 に つ い て は 、 平 凡 社 の ﹃音 楽 辞 典 ﹄ の ﹁記 譜 法 ﹂ と いう 項 が す ぐ れ て い る 。 筆 者 も 、
( 上)( 下 )﹂( 37︶を 連 載 し た が 、 特 殊 な 雑 誌 の性 質 上 、 こ の本 の読 者 の方 に は 見 て いた
か つ て N H K 交 響 楽 団 の音 楽 雑 誌 ﹃フ ィ ル ハー モ ニー ﹄ に 連 載 さ れ た ﹁シ リ ー ズ 楽 譜 に つ いて ﹂ の︹ 13︺・ ︹︺ 4 1 に、 ﹁邦 楽 の 楽 譜
だけな いだろう と 残念 であ る。
大 体 を 言 え ば 、 日 本 の楽 譜 は 、 平 安 朝 の 中 ご ろ 以 降 のも の が 現 存 す る が 、 音 楽 の ジ ャ ン ル に よ り 、 ま
た 同 じ ジ ャ ン ル でも 流 派 に よ り 、 ち が う 形 の も の を 用 いた 、 は な は だ 複 雑 な も の と な って いる 。 楽 譜 は 、
大 き く 楽 器 の楽 譜 と 、 歌 唱 の楽 譜 と いう 二 つ の も の に 分 れ、 前 者 は 、 元 来 、 楽 器 の 渡 来 と と も に 中 国 か
ら 輸 入 さ れ た も の で 、 後 世 そ れ に な ら って 、 日 本 で 発 明 さ れ た も の も あ る 。 後 者 に は 、 楽 器 の 譜 を 応 用
し た も のと 、 は じ め か ら 日 本 で歌 唱 の譜 と し て 発 明 さ れ た も の と が あ る。 楽 器 の譜 を 応 用 し た も の のう ち 、 代 表 的 な も の は 、 十 三 弦 の箏 の譜 を 応 用 し て、 巾為 斗 十九 八 七六五 四三 二 一
のよう な 記 号を 歌 詞 に註 記す る ( 38)も の で 、 古 典 全 集 の ﹃歌 謡 集 ﹄ ( 上 ) に 出 て い る ﹁舎 利 讃 嘆 ﹂ ﹁法 華
︹ 譜 18 ︺ のよ う な 音 価 を 有 し 、 た だ し 鎌 倉 時 代 に は 六 と 三 が 半 高 音 い 音 程 に 変 化 し
讃 嘆 ﹂ な ど が そ の例 で あ る 。 ﹁巾 為 斗 ⋮ ⋮ ﹂ 以 下 は 箏 の絃 の 名 で 、 こ のよ う な 註 記 のも の は 、 林 謙 三 氏 に よれ ば それ ぞれ 元来
た も のと 推 定 さ れ て いる 。 声 明 曲 の 譜 のう ち に は 、 笛 の 譜 を 応 用 し て 出 来 て いる も のも あ る 。( 39)
次 に 歌 唱 の 譜 と し て 発 明 さ れ た も の の中 で は 、 興 味 深 いも のと し て 、 声 明 ・雅 楽 で 早 く か ら 用 い る / ︱\ のよ う な
短 線 を 用 い るも の が あ り 、 これ が 後 に 謡 曲 ・平 曲 そ の他 多 く の邦 楽 の 譜 と し て 利 用 さ れ 発 展 し た 。 こ れ は 元 来 、 個 々
の文 字 に 註 記 さ れ る 、 声 点 か ら 発 達 し た も の の よ う で 、 そ の こ と を 最 初 に 発 見報 告 し た 文 献 は 、 頼 惟 勤 氏 の ﹁諸 天 漢
語 讃 に つ い て﹂( 40)で あ る 。 こ う いう 点 に も ア ク セ ント 記 号 と 楽 譜 と の 、 し た が って ア ク セ ント と 旋 律 と の 連 関 を 認 め ざ る を 得 な い。
注 ( 1 ) 河 出書 房 刊 行 ( 昭十 七 ・九 ) 、 ペー ジ 三 二 〇。 ( 2 ) ﹃世界 大 音 楽 全集 ﹄ ( 声 楽 編 ) の 二三 ・二 四。 音 楽 之友 社 刊 行。 ( 3 ) ﹃言 語生 活 ﹄第 一 一三 号 ( 昭 三十 六 ) 所載 。 ( 4 ) ﹁波 の会 ﹂ 編 、 全音 楽 譜 出版 社 刊 行 ( 昭 四十 六 、 四 十 七)。 ( 5 ) ﹃日本 語 音 韻 の研究 ﹄ 東 京堂 刊 行 ( 昭 四 十 二 ・三 )所 載 。 ( 6 ) 第 一巻︲ 第 八 巻。 邦 楽 社 刊 行 ( 昭 三 十︲三十 八 ) 。 ( 7 ) 創 元社 刊 行 ( 昭 三十 四 ・十 ) 、 引 用 は ペー ジ 二五 二。 ( 8 ) 南雲 堂 刊 行 ( 昭三 十 九 ・十 一)、 ペー ジ 二三 九 。 (9 ) 大 八洲 出 版 刊 行 ( 昭 二十 三 ・四 )、 ペー ジ五 〇 九︲五 一〇 。 (10 ) 春 秋 社 ﹃ 世 界 音楽 全 集 ﹄ 一八 ﹃日本 音楽 集 ﹄ ( 昭 六 ・ 一) 所載 。 (11 ) 京 都 ・藤 井 佐 兵衛 刊 行 ( 昭 七 ・六 )。 (12 ) 三省 堂 刊 行 ( 昭三 十 九 ・三)。
(13 ) 筆 者 のも のは ﹃ 音 声 学 会会 報 ﹄ 九 九 ・ 一〇 一 ( 昭 三 十 四) 所 載 。 奥村 氏 のも のは ﹃ 国 語と 国 文 学 ﹄ 四 七 の 一〇 ( 昭四 十 五 ) 所載 。
﹃ 国 語 学 ﹄ 四 四 ・四 五 ( 昭三 十 六 ) 所載 。 ﹁論 議 の旋 律 に反映 した 室 町 時代 初 期 のア ク セ ント ﹂ ﹃国語 国 文﹄ 三 二 の五 ( 昭
( 14 ) 筆 者 のも のは ﹃ 国 語 学﹄ 第 四 三 輯 ( 昭 三 十 六 ) 所 載 。桜 井 氏 のも の は ﹁ア ク セ ン ト 史 資 料 と し て の ﹃声 明 ﹄﹂) (( Ⅰ )Ⅱ
三 十八 )、 そ の他 。 ( 15 ) 三 省 堂刊 行 ( 昭 三十 七 ・三 ) 。 ( 16 ) 昭 和 三年 、 高 野 山 で声 明 本 の展観 が催 さ れ たと き の目録 。 ( 17 ) 高 野 山 ・松 本 日進 堂 刊 行 ( 昭 十三 ・十 一︶ 。 ( 18 ) 比 叡 山 延暦 寺 刊 行 ( 昭 三 十 五 ・五 )。 ( 19 ) ( 31 ) に後 出 。
( 20 ) 西 尾 寅 弥 ﹁ 幸 若舞 伝書 ﹃ 音 曲 秘 伝 ﹄ 所 戴 いろ は 歌 のア ク セ ント に つ いて﹂ 寺 川 ほ か ﹃ 国 語 ア ク セ ント 論 叢 ﹄ ( 昭二十 六 ・十 一)所 載 。 ( 21 ) 文化 研究 社 刊 行 ( 昭 二十 九 ・十 一)。 ( 22 ) 大 阪 ・創 元 社 刊行 ( 昭 四 十 ・六)。
( 23 ) 井 野 辺潔 ﹁ 義 太夫 表 現 の本 質﹂ によ る。 東 洋 音 楽 学 会研 究 発 表会 で発 表 ( 昭 三十 五 ・七 ・十 七︶。 ( 24 ) ﹁平 曲 の音 声 ﹂ ﹃ 音 声 学 会 会報 ﹄ 九 九 ・ 一〇 一 ( 昭 三 十 四) 所 載。 ( 25 ) ﹃言 語生 活 ﹄第 一九 号 ( 昭 二 十 八) 所 載。 ( 26 ) ﹃邦楽 鑑 賞 入 門﹄ ( 7 に前 出 ) ペー ジ二 五 三。 ( 27 ) キ ング レ コー ド、 S KK 五 〇 六 一、 B 面。 演 奏 ・田中 旭 嶺 。 ( 28 ) 平 凡社 ﹃ 音 楽 辞典 ﹄ の ﹁謡本 ﹂ の条 を参 照。 ( 29 ) 平 凡社 ﹃ 音 楽 辞典 ﹄ の ﹁記 譜法 ﹂ の条を 参 照 。 ( 30 ) 藤 田 弘 子 ﹁懸 詞 の アク セ ント調 査 ﹂ ﹃国 語国 文 ﹄ 二 六 の九 ( 昭 三十 二) 所載 。
(31 ) 桜 井 茂 治 ﹁ 世 阿弥 の能 楽 書 と ア ク セ ント ﹂ ﹃国学 院 雑 誌﹄ 六 六 の 二 ・三 ( 昭 四 十 )所 載 。前 田 富祺 ﹁能 楽 論 に お け る アク セ ント 観 ﹂ ﹃ 国 語学 研 究 ( 東 北 大 )﹄ 五 (昭 四十 ) 所載 。
( 32 ) 金 田 一春 彦 ﹁音 韻史 資 料 と し て の真 言 声 明﹂ (14に前 出 ) のペ ー ジ六︲七 。
( 33 ) 渥 美 かを る ﹁中 世平 曲 の曲 節 と そ の詞 章﹂ ﹃ 愛 知 県 立女 子短 大 ・紀 要 ﹄ 第 四輯 (昭 二十 九) 所 載 。 ( 34 ) 金 田 一春 彦 ﹃ 四 座講 式 の研究 ﹄ (12 に前 出) ペー ジ 一八 二。
( 35 ) 金 田 一春 彦 ﹁平 曲 の大 旋 律 型 の種 類 ﹂ ﹃日本 音 楽 と そ の周 辺 ( 吉 川 英 史 先 生 還 暦 記 念 論 文集 ) ﹄音楽之友社刊行 ( 昭四 十 八 ・三 ) 所載 、 ペー ジ 一四 一。 ( 36 ) ビク タ ー レ コー ド ﹃ 能 ﹄ の横 道 万 里 雄 氏 の解 説 ペー ジ 一二 によ る。 ( 37 ) 昭 和 四 十 二年 の九 月号 ・十 月 号。 ( 38 ) ﹃ 四 座 講式 の研 究 ﹄ ( 12 に前 出 ) ペー ジ 一六三 。 ( 39 ) 同 右 ペー ジ五 九 。 (40 ) ﹃ お 茶 の水 女 子 大 学 ・人 文 科 学紀 要 ﹄ 第 一二巻 ( 昭 三 十 四) 所 載。
〔付 図 〕 現 代 日本 語 ア ク セ ン ト分 布 図
日 本 の 方 言 アク セ ント の変遷 と そ の実 相
は し が き
これ が私 に と って は 、 大 学 で 国 語 学 に 志 望 を 定 め て から の最 大 関 心 事 だ った 。 こ の本 は 、 そ
日 本 語 のア ク セ ント は 、 御 承 知 のと お り 、 方 言 に よ り 種 々雑 多 であ る 。 こ れ は ど のよ う に し て こ のよ う に な っ た も のだ ろ う か︱
う いう 問 題 を 扱 った 私 の 旧稿 を 集 め た も の であ る 。
こ の中 の代 表 的 な 一編 は、 第 三 番 目 に 置 いた ﹁東 西 両 ア ク セ ント の違 い が で き る ま で ﹂ であ る 。 私 は 、 昭 和 二
十 六 年 初 秋 、 石 川 県 の七 尾 湾 に 浮 か ぶ 能 登 島 と いう 島 に渡 って、 そ こ の ア ク セ ント を 調 べ て いる 時 に、 東 京 式 ア
ク セ ント は 京 阪 式 ア ク セ ント が 変 化 し て でき た も のだ と気 付 いた。 推 論 し た いき さ つを 述 べ たも の が こ の論 文 で、
そ の他 のも の は そ れ と 前 後 し て、 ま た そ れ に勢 いを 得 て書 き つづ り 、 雑 誌 そ の他 に発 表 し た も の であ る。
こ こ に 並 べた のは 大 体 発 表 順 で、 終 わ り の方 に 添 え た ﹁東 北 の 一型 ア ク セ ント の 源流 ﹂ の 一編 は 、 今 度 こ の本
のた め に 新 た に書 き 下 ろし た も の であ る 。 巻 頭 の 一編 ﹁日 本 の方 言 ﹂ は 、 私 が こ の よう な 特 殊 な 題 目 に 重 要 な 意 義 を 認 め る そ の 理 由 を 述 べた も の と し て、 特 別 に 置 いたも の であ る 。
こ の本 を ま と め る に当 た っては 、 三 省 堂 で国 語 の教 科 書 を 編 修 し て いた こ ろ か ら の知 友 高 木 四 郎 氏 に徹 頭 徹 尾
お世 話 に な った。 著 者 に と っては 、 こ のよ う に 旧 稿 が単 行 本 の 形 で 再 び 日 の目 を 見 る よ う にな る のは 大 き な 喜 び
であ る が 、 そ の 計 画 を 作 って 勧 め て く れ た の が 信 光 社 の高 木 氏 であ った 。 そ う し て 私 が ほ か の仕 事 に か ま け て い
る 間 に、 氏 は 幾 つか の原 稿 を 複 写 し、 不 備 や誤 り を 整 え 正 し 、 ま た 見 ら れ る よ う な 精 細 な 索 引 を 作 ってく れ ち れ
た 。 こ こ に 刊 行 を 快 く 引 き 受 け ら れ 、 発 表 当 時 の姿 と は 見 違 え る よう な 出 来 栄 え に仕 上 げ てく だ さ った 教 育 出 版 株 式 会 社 に 感 謝 の意 を 表 す る と と も に、 高 木 氏 の名 を 掲 げ て 厚 誼 を 深 謝 す る。
今 度 本 に し て み て 気 にな る のは 、 こ の本 の題 で あ る 。 私 は ﹁比 較 方 言 学 の方 法 ﹂ と し た か った が 、 高 木 氏 が こ
の題 を 主 張 し て 譲 ら れ ず 、 私 も 考 え て み る と 、 最 初 の 一編 で 、 そ の方 言 の ア ク セ ント 体 系 を 比 較 す る こ と が そ の
金 田 一春 彦
方 言 を 比 較 す る こ と に な る と 論 じ て いる の であ る か ら 、 あ え て こ の看 板 を 掲 げ て お 目 見 得 す る こと に踏 み 切 った 。 昭和五 十 年七 月 一日
私 の 書 いた も の で 、 こ の 本 に 載 せ な か っ た こ の 種 の 論 文 と し て は 、 な お次 のよ う な も の があ る 。
﹃埼 玉 県 下 に 分 布 す る 特 殊 ア ク セ ント の 考 察 ﹄ ( 昭 二 十 六年 十 二 月 ) 私家 版 ﹁房 総 ア ク セ ン ト 再 論 ﹂ ( 昭 三 十五 年 三 月 、 ﹃ 国 語 学 ﹄第 四〇 輯 所載 ) ﹁真 鍋 式 ア ク セ ン ト の 考 察 ﹂ ( 秋 永 一枝 ・金 井 英 雄 の両 氏 と 共 同 執 筆 ) ( 昭 四十 一年 一月、 ﹃ 国 語 国文 ﹄ 第 三 五巻 第 一号 所載 )
増 補 版 の辞
私 の ﹃日本 の方 言 ﹄ が こ のた び増 刷 さ れ る こ と にな った 。 三度 目 の増 刷 で あ る 。 こ ん な 特 殊 な 問 題 を 取 り 上 げ
た 著書 がと 考 え る と 、 ま こ と に嬉 し い。 教 育 出 版 の皆 さ ん の御 好 意 を 有 り 難 いと 思 う 。
こ の前 の版 を 出 し た あ と 、 こ のよ う な 話 題 に 関 し て若 い方 々 の 研 究 がた く さ ん 出 て 、 そ の中 に は お 答 え し た い も のも あ った が 、 こ の際 時 間 が な く 、 失 礼 さ せ て いた だ く 。
増 刷 す る にあ た り 、 同 じ よ う な 趣 旨 の論 文 を 一つ添 え て 増 補 版 と し た 。 家 父 金 田 一京 助 が米 寿 を 迎 え 、 記 念 論
文 集 が 出 る と き に書 いた も の で、 こ れ は 昭 和 四 十 六 年 十 月 、 三 省 堂 刊 行 の ﹃ 金 田 一博 士米 寿 記 念 論 文 集 ﹄ に 載 っ た 。 こ れ に つ いても 、 教 育 出 版 の皆 さ ん に御 面 倒 を か け た こ と を 感 謝 す る 。 平 成六 年十 一月 三 日
金 田 一春 彦
凡
例
1 こ こ に 並 べ た 論 文 は 、 以前 雑 誌 そ の他 に発 表 し た ま ま の形 で採 録 す る こ と に努 め た 。 2 た だ し 次 の点 は 、 全 体 の統 一を 考 え て書 き 換 え た 。
a 音 の高 低 を 傍 線 で 示 し て いた も のは 、 こ の際 す べて ● ○ 式 に 改 め た 。 ● は 高 い拍 を 、 ○ は 低 い拍 を 表 し 、
〓 は 前 半 だ け が 高 い拍 を 、 〓 は後 半 だ け が高 い拍 を 表 し 、 ▼ ▽は 名 詞 の場 合 次 に 付 け て 用 いら れ る 助 詞 の
音 の高 低 を 表 す 。 ま れ に 用 いる 〓 は 、 自 然 な 発 音 で は 高 く 、 丁 寧 な 発 音 で は 低 く な る 拍 を 表 す 。 私 の音 韻
論 で は、 音 韻 論 的 に は ○ と 同 じ 価 値 を 持 つと いう こ と に な る 。 ま た 必 要 に 応 じ て 示 し た ア ク セ ント の 滝 は 、'で 表 記 し て み た 。
た だ し 、 ﹁琉 球 語 諸 方 言 の 系統 ﹂ の論 文 では 、 引 用 文 の 関係 も あ り、 ﹁音 節 ﹂ のま ま で残 し た 。
b ﹁音 節 ﹂ と いう 術 語 は 、 学 者 によ って 違 った意 味 に用 いる こと が あ る の で、 ﹁拍 ﹂ と いう 術 語 に置 き 換 え た 。│
c 敬 称 は 一律 に ﹁氏 ﹂ に 統 一し よ う と し た が 、 こ れ は 徹 底 しな か った 。
3 そ れ ぞ れ の編 の終 わ り に ︹ 付 記 ︺ を 付 し て 関 連 す る と こ ろを 述 べ、 発 表 後 私 の考 え が変 わ った と こ ろ 及 び 関連発表論文等 を ︹ 補 注 ︺ 欄 に 記 し た の で 、 参 照 いた だ き た い。
日本 の方 言
一
日本 語 の方 言 の違 いを 説 明 し た 一番 有 名 な 、し か も 人 気 のあ る 学 説 は 、柳 田国 男 翁 が ﹃蝸 牛 考 ﹄ に発 表 し た "方 言 周 圏 説 " です 。
翁 は 、 デ ン デ ンム シと か カ タ ツ ム リ と か 言 わ れ る 動 物 の異 名 を 全 国 的 に 調 べ て、 そ の分 布 状 態 を 地 図 に し ま し た 。 こ れ を 全 国 的 に 見 ま す と 、 京 都 ・大 阪 を 中 心 と し て 、 中 央 に は 、 デ ン デ ン ム シ と いう 異 名 が 行 わ れ 、 そ の 外 に は 、 順 次 マイ マイ の 地 域 、 カ タ ツ ム リ の 地 域 、 そ の外 側 に ツ ブ リ と か ミ ナ と か いう 地 域 が あ る 。 大 ざ っぱ に は 、 第 1 図 の よ う に な っ て いま す 。 柳 田 翁 は こ の分 布 を 解 釈 し て 、 今 外 側 に 行 わ れ て いる ツブ リ と か、 ミ ナ と か 、 カ タ ツ ム リ と か いう こ と ば は 、 か つ て は 、 中 央 に 行 わ れ て い た 、 そ れ が 周 辺 の 地 へ広 が って い く う ち に 、 中 央 に は 新 し い 言 い方 が 生 ま れ た 。 こ の よ う に し て 、 次 々 に 新 し い言 い方 が 中 央 に 生 ま れ て は 、 そ れ が 地 方 に 伝 わ っ て い った た め に 現 在 の よ う な 環 状 の 分 布 を 示 し て いる 、 こ のよ う に説 明 し た の で す 。
第1図 柳 田国 男翁 の 『蝸牛 考』 の 考 え を図 に表 せ ば
こ の結 果 、 こう いう こ と に な りま す 。 一つは ミ ナ と か ツブ リと か いう 、 今 は 中 央 に 行 わ れ て いな い こ と ば でも 、
古 い時 代 には 中 央 に 行 わ れ て いた 、 し か も 外 側 にあ るも のは 、 内 側 に あ るも のよ りも 古 い時 代 の中 央 のこ と ば で あ る、 こ う 解 釈 さ れ る こ と にな りま す 。
こ れ が "方 言 周 圏 説 " と 呼 ば れ る も の で、 非 常 な 人 気 を 博 し た 説 でし た 。 な ぜ方 言 周 圏 説 が 人 気 を 博 し た か と
い いま す と 、 一つは 、 雑 多 な 、 秩序 も な にも な いよ う に 見 え る方 言 の分 布 に 対 し て 、 一つの 見 事 な 解 釈 が 与 え ら
れ た こと 、 も う 一つは 、 地 方 に 住 ん で いる 人 に 対 し て 、 自 分 た ち の使 って いる 方 言 と いう も のは 、 実 は 中 央 で 昔
行 わ れ て いた こと ば で 、 誇 る べ き 古 代 の こ と ば であ る と いう 自 信 を 与 え た た め です 。
こ の周 圏 説 は 、 確 か に お も し ろ い 一面 の真 理 を 言 いあ て て いま す 。 し か し 、 残 念 な が ら 、 方 言 の 分 布 に対 す る
最 大 の法 則 と いう わ け には いき ま せ ん 。 と いう の は 、 こ の説 は 、 新 し い こと ば は す べ て文 化 の中 心 地 に発 生す る
と いう 仮 説 に 立 って いま す 。 し か し 、 実 際 には 、 地 方 に 分布 し て いる こ と ば の 現 象 で、 地 方 に発 生 し た と 思 わ れ る も の が たく さ ん あ る か ら です 。
た と え ば 、 東 北 弁 は シと ス を 混 同 す る の で有 名 で す 。 シ と ス が 一緒 に な って いる 傾 向 は 、 東 北 六 県 か ら 北 海 道
の 一部 、 新 潟 の北 部 が 本 場 です 。 が、 千 葉 県 の 山 武 郡 あ た り に も あ り 、 そ の ほ か 、 は る か に 離 れ た 中 国 の 、 出 雲
地 方 にも あ る 。 さ ら に 、 部 分 的 ・語 彙 的 に は 、 関 東 東 北 部 や 石 川 県 の 一部 、 大 き く 飛 ん で、 鹿 児島 県 にも 、 ﹁石 ﹂ と ﹁椅 子 ﹂ を 混 同 す る 傾 向 が あ り ま す 。
つま り 、 シと ス の混 同 は 、 鹿 児 島 県 と か 出 雲 と か 東 北 地 方 と か、 こう い った 辺 境 の 地 に そ れ ぞ れ 孤 立 し て 存 在
す る 。 も し 方 言 周 圏 説 を 適 応 す る な ら ば 、 それ が 何 か古 い日 本 語 の姿 であ る と 考 え た く な り ま す 。 し か し 、 そ う
いう こ と は 言 え な い こ と は 明 ら か です 。 と いう のは 、 日 本 のど んな 古 い文 献 を 見 ま し て も 、 シ と スと は、 は っき
り区 別 さ れ て いる 。 こう い った よ う な 例 を 集 め て み る と 、 む し ろ 辺 境 の方 言 に こ そ何 か 新 し く 変 化 し た も の が 多 いの で は な いか と 、 私 な ど は 考 え る の であ りま す が。︹ 補1︺
二
方 言 は、 そ れ で は ど う いう ふ う に分 布 し て いる のか 。 こ の問 題 に つ い て、 日本 の中 央 の学 界 に も 定 説 と し て 重
ん ぜ ら れ て いる の は、 "方 言 周 圏 説 " に 対 立 す る 東 条 操 教 授 の "方 言 区 画 説 " です 。 方 言 区 画 説 と は 、 日 本 の方
言 の いろ いろ な 現 象 を 調 べ て幾 つか の領 域 に 分 け る考 え です が 、 東 条 教 授 の場 合 は 、 大 き く 東 日本 の方 言 と 西 日
た り 、 ﹁ジ﹂ と ﹁ヂ ﹂ の区 別 を 保 存 し た り 、 古 い 時
ま た 九 州 方 言 は 、 上 下 二 段 活 用 の動 詞 を 今 でも 使 っ
と 言 う か、 そ う いう よ う な 違 いを 基 準 と さ れ ま し た 。
う か 、 ﹁行 かな い﹂ (東 ) と 言 う か 、 ﹁行 か ん ﹂ (西 )
買 った ﹂ ( 東 ) と 言 う か 、 ﹁物 を 買 う た ﹂ (西 ) と 言
基 準 と し て は 、 文 法 現 象 の 違 いを 重 視 さ れ 、 ﹁物 を
東 条 教 授 は 、 東 日 本 方 言 と 西 日本 方 言 と を 分 け る
て 、 今 、 定 説 に 近 い位 置 を 占 め て いま す 。
画 と いう こと 、 これ は学 界 か ら も 摩 擦 な く 迎 え ら れ
る こ と が 好 き で す か ら、 東 日本 対 西 日本 の方 言 の 区
は 、 一般 に 日本 人 は 関 東 文 化 圏 と 関 西 文 化 圏 に分 け
日本 の方 言 を 大 き く 東 日 本 と 西 日 本 に 分 け る こ と
す 。︹ 補2︺
本 の方 言 に分 け る 、 さ ら に 九 州 の方 言 は ま た 別 だ 、 と いう ふう に立 て ま す 。 最 近 の お 考 え で は 第 2 図 の よ う で
第2図 東条操 教授 に よる最 新 の方 言 区画
第3図 加藤 正信 氏 の等 語線 に よ る方言 分布 図の 一部
代 の姿を多く 伝える特殊 な方言
地 域 だ と いう こ と で、 東 日本 方
言 ・西 日本 方 言 に対 す る 第 三 の
方 言とされま した。
た だ こ こ で 注 意 す べき は 、 先
に 掲 げ た の は 東 条 教 授 の 一番 最
近 の分 類 であ って、 大 正 末 期 に
は じ め て方 言 区 画 の説 を 発 表 さ
れ て か ら 、 こ こ に至 る ま で に は
何 回 か 違 った 区 画 図 を 発 表 し て
お ら れ る こ と です 。 ま た 、 教 授
に は 後 継 者 の人 が何 人 か いま す
が、都竹 通年雄さ んとか奥村 三
雄 さ ん と か 、 そ う いう 人 た ち が
ま た 少 し ず つ東 条 説 を 修 正 し た
説を 出 し て お ら れ る こ と で
す 。︹ 補3︺
た と え ば 、 東 条 教 授 は 、 最 初
は 愛 知 ・三 重 の間 が 東 西 方 言 の
境 界 であ る と は 言 って お ら れ ま
せ ん 。 こ こ に も 一つ の境 界 線 が あ る が、 そ の ほ か に 、 関 東 地方 と 中 部 地 方 の 間 に も 一つ の境 界 が あ る と 言 わ れ 、
そ の中 間 に 、 中 部 方 言 と いう も のが あ る と 言 って お ら れ た 。 そ れ が 昭和 の初 期 に 、 服 部 四郎 氏 の ア ク セ ント 境 界
線 の発 見 に よ って、 中 部 方 言 と いう も の が な く な り 、 そ れ が東 日 本 方 言 の方 に繰 り 入 れ ら れ て、 今 のよ う にな り ま した。
こ れ に対 し 都 竹 さ ん は 、 親 不知 か ら 日本 ア ルプ ス ・浜 名 湖 の境 界 を 、 東 西 方 言 の大 き な 境 界 と 考 え て いま す 。
奥 村 さ ん は、 九 州 方 言 の地 位 に異 を 立 て、 東 条 教 授 が 九 州 と 中 国 の間 に 重 要 な 境 界線 が あ る と 見 て お ら れ る の に
対 し 、 福 岡 県・ 大 分 県 あ た り の方 言 は む し ろ中 国 地 方 に 近 いと いう 考 え を 述 べ て いる 。 つま り 、 学 者 に よ って 一 人 一人 内 容 が 違 って いる と 言 って い い状 態 です 。
こ れ は 重 要 な こ と です 。 ど う し て学 者 ご と に そ う いう 違 い が 生ま れ る か と いう と、 二 つの 地方 の こ と ば が違 う 、
そ の基 準 に 何 を 取 る か と いう こと が違 う か ら で す 。 し た が って方 言 区 画 を す る 場 合 に は 、 基 準 の取 り 方 、 選 び方 が 重 要 な 問 題 にな ってく る わ け です 。
三
等 語線 ができる。 それを
こ れ に 対 し て、 あ る 人 は こう いう ふう な こと を 言 いま す 。 方 言 区 画 を す る た め には 、 で き る だ け いろ いろ な 事
項 に つ いて 分 布 を 調 べる 、 そう す る と 、 一項 ご と に 同 じ 言 い方 を す る領 域 を 表 す 線︱ 重 ね 合 わ せ れ ば 、 お の ず か ら 大 き な 境 界 線 が 出 てく る であ ろう と 。
第 3 図 は国 語 研 究 所 の加 藤 正 信 さ ん と いう 若 い研 究 家 の発 表 で す が、 奥 羽 地 方 の南 部 か ら 新 潟 県 の 一部 に か け
て の方 言 分 布 図 です 。︹ 補4︺た と え ば ﹁山エ ﹂ と 言 う の は ど の範 囲 か、 ﹁山 サ ﹂ は ど の範 囲 か 、 ﹁山 ば か り ﹂ と い
う のを ﹁山 バ カ リ ﹂ と 言う か 、 ﹁山 バリ ﹂ と 言 う か、 いろ いろ な 基 準 を 当 て て 線 を 引 く と 、 こ のよ う に そ れ ぞ れ
が勝 手 な 方 向 に 向 か って 走 って いる。 これ ら を ま と め て 、 多 く の線 が 一緒 に な った と こ ろを た ど って み ま す と 、 図 のよ う な 太 い線 が で き る 。 これ を 境 界 線 と 見 れ ば い いと いう わ け です 。
奥 村 さ ん あ た り も そう いう 考 え を 述べ て お ら れ る。 が、 こう な り ま す と 、 た ま た ま 自 分 が 扱 った 材 料 がど こ か
に 固 ま って いる と 、 そ こ のと こ ろ に 太 い線 が でき て 、 そ れ が境 界 に な る と いう 危 険 が あ りま す 。 そ こ で、 ど う い
う 点 に 関 す る 違 いを 重 く 見 る か と いう こと を 、 ぜ ひ真 剣 に 考 え ね ば な ら な く な って き ま す 。
先 ほ ど 紹 介 し た よ う に 、 柳 田国 男 翁 は 、カ タ ツ ム リ と いう も の の言 い方 が ど の よ う に 地方 に よ って 違 う か と い
う こ と を 報 告 さ れ ま し た が 、 考 え て み る と 、 カ タ ツム リ と いう こと ば は あ ま り重 要 な こ と ば では あ り ま せ ん。 私
な ど 一体 、 今 年 にな って カ タ ツム リ と いう 単 語 を 使 った か どう か 。 そう いう も のが A の 地 域 と B の地 域 と で 違 っ
て い ても 、 大 し て重 要 で は な いと 思 いま す 。 そ う いう カ タ ツム リ と か、 あ る いは イ タ ド リ と か 、 モノ モ ライ と か
いう よ う な も の の 異名 の分 布 を 調 べ ても 、 そ れ は そ れ で意 味 は あ り ま す が、 全 国 の方 言 を 区 画 す る と き に は意 味
が な いよ う に 思 いま す 。 細 か いも の に つ い てた く さ ん 等 語 線 を つく って みる と、 線 が いろ いろ に交 差 し て し ま い、
柳 田 翁 は こ の こと か ら 、 東 条 教 授 の言 う よ う な 方 言 境 界 線 と いう も のは 存 在 し な い、 東 条 教 授 の "方 言 区 画 説 "
を 無 意 味 な も のだ と 言 わ れ ま し た 。 し か し これ は、 こ のよ う な も のを 基 準 に と る の が いけ な いの で 、 な に か や は り、境界線 はあ るであろう と思われます 。
言 語 学 の方 で は 、 こと ば と いう も の を 一つの 体 系 、 つま り た く さ ん の語 彙 が集 ま って 一つの体 系 を な し て いる
と 見 ま す 。 こ のよ う な 場 合 に 、 方 言 と いう の は 、 地 域 社 会 に 一つ 一つ言 語 体 系 が あ る、 そ の 一つ 一つが方 言 だ 、
こう 見 る わ け です 。 と こ ろ で 、 そ の言 語 体 系 の 中 に 非 常 に 重 要 な 部 分 、 根 幹 的 部 分 と、 そ う でな い部 分、 枝 葉 的
部 分 と が あ る 。 も し 言 語 と いう も のを 比 較 す る な ら ば 、 言 語 体 系 全 体 を 比 較 し て違 う か ど う かを 言 うべ き で す が、
全 体 を 比 較 す る こ と が 無 理な ら ば 、 そ の根 幹 的 な 部 分 を 比 較 す べき だ 、 こう 考 え ら れ ま す 。 そう し ま す と 、 言 語
のう ち の根 幹 的 な 部 分 と いう も の は 一体 ど う いう も の か と いう こ と 、 これ を 考 え る こ と が 大 切 に な って き ま す 。
四
ヨー ロ ッパ で こ と に大 き な 発 達 を 遂 げ た 学 問 に "比 較 言 語 学 " と いう 学 問 が あ りま す 。 ヨー ロ ッパ の諸 言 語 は 、 そ の学 説 によ って 、 そ の相 互 の関 係 が 明 ら か に さ れ て いま す 。
そ う し ま す と、 日 本 語 の方 言 です が 、 これ はも と が同 じ 言 語 体 系 が 別 れ た も のと 見 て い いと 思 いま す か ら 、 一
度 こ の比 較 言 語 学 の原 理を 応 用 し て解 釈す る 、 こ れ が 一番オ ー ソド ック スな 方 法 では な いか と 考 え ら れ ま す 。 こ
の比 較 言 語 学 の立 場 で は 、 言 語 を 比 較 す る と 申 し ま し ても 、 結 局 こ の根 幹 的 部 分 を 比 較 し て そ の 系 統 を 考 え ま す 。︹ 補5︺
日 本 の諸 方 言 に対 し て、 そう いう 比 較 言 語 学 を 応 用 し た 系 統 的 考 察 と いう べき も のは 、 今 ま でな さ れ な か った
か と い いま す と 、 実 は あ る の で あ り ま す 。 昭 和 の早 い時 代 に 、 服 部 四郎 博 士 が ﹃ 方 言 ﹄ と いう 雑 誌 に 御 発 表 にな った ﹁国 語 諸 方 言 のア ク セ ント 概 観 ﹂、 これ がま さ し く そ れ でし た 。
そ れ ま で 日 本 語 の ア ク セ ント に つ い て は、 幾 ら か のこ と は 分 か って いま し た 。 た と え ば 東 京 と 、 も う 一つの 日
本 の文 化 の中 心 地 であ る京 都 ・大 阪 と い った 地 点 と で は 、 ア ク セ ント が 正 反 対 であ る と い った よ う な こ と は 分 か
って いた の です 。 ﹁橋 ﹂ と ﹁箸 ﹂ と の アク セ ント が 反 対 で、 東 京 で ﹁ハシ が 折 れ た ﹂ と 言 いま す と 、 食 事 の時 に
手 に持 つ棒 が折 れ た だ け の こと です が 、 京 都 あ た り で は ﹁人 死 に があ った ん と 違 う か。﹂ と 大 騒 ぎ にな る わ け で す。
と こ ろ で、 東 京 と 、 京 都 ・大 阪 と で ア ク セ ント が 反 対 に な って いる が 、 そ の中 間 の 地 点 は ど う な って いる だ ろ
う 。 恐 ら く 西 へ行 く に従 って 東 京 式 か ら 京 都 ・大 阪 式 に だ ん だ ん 変 わ って い って い る ので あ ろう 。 ま た 京 都 ・大
阪 よ り も も っと 西 に 行 った ら、 京 都 ・大 阪 でさ え 東 京 と 反 対 だ か ら、 ど ん な こ と にな る か 分 か ら な いと 想 像 さ れ
点 の ア ク セ ン ト。 服 部 四 郎 博 士 の 調 査 に な る4地 第1表
表 記 は 改 め た。
第2表 服 部 四郎 氏 説の 日本 方 言体 系
て い た の だ と 思 いま す 。
と こ ろ が 、 服 部 博 士 が東 海 道 線 の 一駅 ご と︱
で も な か った
で し ょ う が 、 こ の 辺 で 変 わ り そ う だ と い う 所 へ来 る と 、 そ の た
び に 降 り て は そ の 地方 の人 を つか ま え て 、 アク セ ント を お 調 べ
に な った 。 そ う し た と こ ろ が 、 驚 く べ き こ と に は 、 東 京 か ら 愛
知 県 の西 の端 ま で、 正 確 に言 いま す と 木 曾 川 を 越 え て三 重 県 の
って 桑 名 の 町 に 足 を 入 れ ま す と 、 す べ て と い っ て い い ほ ど の こ
長 島 と いう 町 ま で は 東 京 と そ っく り で あ り ま し て 、 一歩 川 を 渡
と ば が 京 都 ・大 阪 式 に な っ て い る と いう 事 実 を 発 見 さ れ た の で あ り ま す 。︹ 補6︺
で は 京 都 ・大 阪 か ら 先 は ど う な る か 。 岡 山 、 広 島 、 山 口 へ 行
き ま す と 、 す っか り も と の と お り ひ っく り 返 っ て し ま い 、 東 京
と 同 じ に な って い る と い う こ と が 分 か り ま し た 。 今 度 は 四 国 に
渡 って み ま し た ら 、 こ れ は 京 都 ・大 阪 と そ っく り だ 、 と いう ふ う な こと を 発 見 さ れ ま し た 。
第 1 表 は 昭 和 六 年 に 服 部 博 士 が 四 つの 地 点 の ア ク セ ント の 比
較 を さ れ た も の の 一部 分 で す 。︹ 補7︺ 東 京 と 広 島 県 の 一村 、 三
重 県 の 一 つ の 町 、 そ れ と 高 知 県 の 一つ の 村 で す 。 こ れ で 分 か り
ま す よ う に 、 東 京 と 中 原 が そ っく り 、 亀 山 と 一宮 が そ っく り で
す 。 服 部 博 士 は こ れ に解 釈 を 加 え て 、 第 2表 のよ う な 関 係 を お
考 え にな りま し た 。
こ こ で大 切 な の は 、 "東方 ア ク セ ント " と な さ ら ず に "東 方 方 言 " と な さ った 点 です 。 こ こ に 大 き な 意 味 が あ
る わ け で、 私 は そ の こ と は 後 に な って知 り ま し た。 ま た 甲 種 、 乙 種 とあ り ま す が 、 甲 が近 畿 ・四 国 方 言 に な って
う な 見事 な 対 応 が 見 ら れ る の でし ょう か 。
事 に 当 た るわ け です 。 さ て 、 そ れ で は ど う し て 甲 種 方 言 と 乙種 方 言 と の 問 に こ のよ
﹁鏡 が﹂ と 同 じ 型 です 。 そ う す る と 、 京 都 ・大 阪 では ウ レ シ イ だ ろ う と 考 え て、 見
例 え ば 形 容 詞 で、 東 京 で ﹁ 嬉 し い﹂ を ウ レ シイ と 言 う 。 こ れ は 第 3 表 で ﹁離 れ る ﹂
他 方 の方 言 で は こ う いう ア ク セ ント に な って いる だ ろう と 推 定 す る こと が で き る 。
う よ う に な り ま す 。 こう な り ま す と、 一方 の方 言 で こう いう ア ク セ ント の こ と ば は 、
例 え ば 近 畿 ・四 国 の方 で ﹁受 け た ﹂ を ウ ケ タ と いう こ と ば は 、 関 東 で ウ ケ タ と い
よ う な こ と が 分 か り ま し た。 第 3 表 を 御 覧 下 さ い。
な って いる も の が 、 関 東 で は こう いう 型 に な って いる と いう よ う に 言 え る と い った
文 法 の違 いと か、 そ う いう こ と に全 然 お か ま いな し に、 近 畿 の方 で は こう いう 型 に
て いる か を 調 べ て ご ら ん にな った わ け で す が、 そ う し た と ころ が、 意 味 の違 いと か 、
拍 数 の こ と ば を 集 め て 、 近 畿 の方 でど う いう 型 の こ と ば が、 東 京 や 広 島 でど う な っ
が ち ゃ ん と あ る わ け で 、 こ の こ と も 後 で 申 し 上 げま す 。 と こ ろ で服 部 博 士 は 、 同 じ
そ の時 私 な ど 思 った の です が、 よ く 考 え て みま す と 、 近 畿 ・四 国 が 甲 種 にな る意 味
いて 、 乙 が 東 京 ・広 島 の方 言 です 。 服 部 博 士 御 自 身 の生 ま れ故 郷 だ けあ って、 近 畿 の方 を 甲 に な さ って ず る いと 、
語例 『ア ク セ ン トと 方 言 』(昭8)の 第3表
五
﹁白 い﹂ と か ﹁山 が ﹂ と か ﹁余 る ﹂ と か 、 文 法 的 機 能 か ら 言 っても 意 味 か ら 言 っても 、 全 然 別 の こ と ば が同 じ ア
ク セ ント に な って いる と いう こ と は 、 結 局 、 大 阪 の方 言 と東 京 の方 言、 甲 種 方 言 と 乙 種 方 言 が 同 じも と か ら 出 た
も の に違 いな い。 昔 は 同 じ ア ク セ ント を 持 って いた 。 時 代 と と も に そ の アク セ ント が 規 則 的 に変 わ って い った 。
例 え ば 、 昔 は ﹁白 い﹂ も ﹁山 が ﹂ も ﹁余 る ﹂ も 甲種 のよ う に 高 低 低 型 だ った 。 甲 種 方 言 で は そ れ が変 わ ら ず に今
に 至 った が、 乙 種 方 言 では 最 初 か ら 高 く す る の は面 倒 だ と 横 着 を き め こ ん で、 最 初 の高 を 第 二 拍 に移 し た 、 と 考
え る わ け です 。 こ のよ う に 考 え ま す と 、 今 、 東 京 で も 区 別 し て お り 、 大 阪 で も 区 別 し て いる単 語 は 、 昔 も ち ゃ ん
と 区 別 があ った 。 東 京 でも 同 じ 形 、 大 阪 で も 同 じ 形 に な って いる 単 語 は、 ま ず 特 別 の事 情 がな い限 り 、 昔 も 同 じ 形 の 単 語 だ った と 見 る わ け であ り ま す 。
こう 考 え て く る と 、 さ ら に ほ か の考 え 方 を 導 き ま す 。 日本 に は 不 思 議 な こ と に、 ア ク セ ント の区 別 が 全 然 な い
地 方 が あ り ま す 。 例 え ば、 東 日本 で は 茨 城 県 、 福 島 県 、 九 州 で は 熊 本 県 、 宮 崎 県 あ た り が そう で し て、 草 を 刈 る
﹁か ま ﹂ でも 、 煮 た き を す る ﹁か ま ﹂ でも 区 別 があ り ま せ ん 。 こ れ は 別 に ア ク セ ント が 未 発 達 だ と いう こと で は
な い。 昔 は ち ゃん と 型 の区 別 を 持 って いた が、 ア ク セ ント と いう よう な 煩 わ し いも の は 捨 て てし ま った 地 方 で あ ると解 釈され ることにな ります。
そ う い った わ け で 、 服 部 博 士 の御 研究 は 、 当 時 大 変 進 ん だ 研 究 で し て 、 日本 の アク セ ント と いう も のは 、 大 き
く 見 て、 東 京 式 のも のと 大 阪 式 のも の の、 ど ち ら か に近 いも の であ る と いう と こ ろ ま で お考 え にな って いま し た 。
こ れ は 、 ア ク セ ント の地 方 的 相 違 が 明ら か にな った 今 日 でも 承 認 でき る 研 究 であ った と 考 え ま す 。
六
服 部 博 士 のそ う いう 研 究 に、 私 な ど は 大 き な 刺 激 を 受 け て方 言 の研 究 に 入 った も の です が 、 今 、 都 立 大 学 に い る 平 山 輝 男 さ ん と いう 方 、 こ の 人 と 私 と 、 二 人 が一 番 影 響 を 受 け た と 思 いま す 。
平 山 さ ん が つく ら れ た 詳 細 な 全 日 本 の ア ク セ ン ト 分 布 図 に は 、 カ ラ フト ま で つ い て いて ち ょ っと お も し ろ いで
す が 、 べ つに カ ラ フト の日 本 領 有 を 主 張 し て い る ので は な い ので 、 ソ連 と の国 境 ま でお 調 べ にな った そ の記 念 で
す 。︹ 補8︺ 壱 岐 ・対 馬 は む ろ ん の こ と 、 八 丈 島 よ り南 の方 の青 ガ 島 や 南 太 平 洋 に も 、 八 重 山 列 島 の 一番 西 の島 に
も 行 って お ら れ る。 去年 う か が いま す と 、 三 六 七 八 地 点 の ア ク セ ント を 調 べた と 言 わ れ ま す か ら 、 これ は 方 言 学 者 と し て は 日 本 一であ り ま す 。
そ う い った こ と か ら ア ク セ ント に 関 し て 非 常 に 詳 し い分 布 が 明 ら か に な って いる 。 甲 種 式 の ア ク セ ント が 近 畿
地方 を 中 心 と し て中 央 に 分 布 し 、 そ の周 り に 乙種 式 の ア ク セ ント があ る 。 さ ら に外 側 の と ころ に ア ク セ ント の区
別 のな い方 言 が あ る 。 そ れ か ち 九 州 の西 南部 には 、 非 常 に珍 し い、 型 の区 別 の大 変 少 な い特 別 な ア ク セ ント が あ
る 。 そ れ は 、 琉 球 の方 へ続 いて いき 、 ま た 、 一方 そ れ と 同 じ よ う な 方 言 が 東 北 地 方 にも あ る と いう よ う な こ と が 明 ら か にさ れ ま し た 。
七
一方 、 私 の方 は、 日本 語 の ア ク セ ント の歴 史 の考 察 を 進 め て みま し た 。 ア ク セ ント に つ い て は、 江 戸 時 代 以 前
の 学 者 でも 、 そ の時 代 の ア ク セ ント を 調 べ て報 告 し た 人 が いま す の で 、 平 安 朝 時代 以 来 の京 都 のア ク セ ント の歴 史 な ど に つ い て は、 か な り は っき り 分 か る の です 。︹ 補9︺
能登 の アクセ ン ト *の 語 の うち,文 末 に立 つ もの は語 末 に滝 が あ る。
そ れ か ら 今 度 は 、 甲 種 ア ク セ ント と 乙 種 アク
セ ント と は 、 服 部 博 士 が同 じも と か ら 分 か れ た
と 言 わ れ た け れ ど も 、 私 は そ れ は ど う いう ふう
に し て同 じ も と か ら 分 か れ た のだ ろ う か と いう
問 題 を 明 ら か に し よ う と 思 いま し た 。︹ 補10︺
昭 和 二十 六 年 に、 私 は 能 登 に 参 り ま し た 。 こ
﹁羽
こ で お も し ろ い アク セ ント を 見 つけ た の で す 。
第 4 表 を 御 覧 下 さ い。 三 番 目 に 書 い て あ る
咋 ﹂ と いう の が そ れ で 、 多 く の 語彙 の ア ク セ ン
ト は 東 京 と そ っく り で す が 、 時 に 違 う も の が あ
る。 例 え ば 、 ( 4) (10)) ( 11 な ど 。 こ の 能 登 の ア ク セ ン
ト を 大 阪 の方 と 較 べ て み ま す と 、 そ れ は 次 のよ
う に な っ て いま す 。
a 原 則 と し て 大 阪 で 高 い と こ ろ が 能 登 で は
一拍 ず つ後 に ず れ て い る 。 た と え ば 、︵2︶︵3︶
) (( 6 7)( 8)( 9)( 0)1。
﹁空 ﹂ に 助 詞 の ﹁も ﹂ が 付 き ま す と 、 大 阪 で はソ ラ モ と な り
ま す が 、 能 登 で は ソ ラ モ と 言 って 、 や は り( 01 ) の特 色 を 発 揮 す る 。 これ か ら 見 ま す と 、 能 登 のア ク セ ント と いう の
こ のき ま り は 大 変 や か ま し く 守 ら れ て いて 、 も し
c 大 阪 で 最 初 の 二 拍 続 け て 高 い も の は 、 能 登 で は 第 一拍 が 低 く な って い る 。 た と え ば 、 (1) ( 5) 。
b 大 阪 で 最 後 だ け 高 い も の は 、 能 登 で は し か た が な い か ら 低 い 平 ら な 型 に な っ て い る 。 た と え ば 、 (4)( 11) 。
第4表
は そ の見 か け に か か わ ら ず 大 阪 の ア ク セ ント に 近 い関 係 が あ る の で は な いか。 例 え ば大 阪 の よう に 発 音 す べき と
こ ろを 、 あ る拍 を 高 く 発 音 す る と いう こと の労 力 を 惜 し ん で、 次 の拍 へ送 って し ま う 、 高 い拍 を 二 つ続 け る のは
面 倒 だ と いう わ け で 、 最 初 を ち ょ っと 下 げ る 。 そ う し て で き た ア ク セ ント が能 登 のも のだ ろ う と考 え る 。
こ れ は お も し ろ いと 思 いま し て 、 能 登 を 方 々歩 き ま し た と こ ろ が 、 う ま く 七 尾 の 近 く のと こ ろ に 、 こ こ に 掲 げ
た 羽 咋 の ア ク セ ント と東 京 の ア ク セ ント のち ょう ど 中 間 み た いな 、 例 え ば︵4︶︵の 1語 0彙 ︶︵ の1 第1一 ︶拍 を 上 げ た よ う な 、
上 げ な いよ う な 、 そ う いう 調 子 のア ク セ ント を 持 つ地 域 が あ った 。 そ の沖 に 能 登 島 と いう 島 が あ り ま す が 、 そ こ
へ行 き ま す と、 東 京 そ っく り の ア ク セ ント も あ る 。 私 は そ れ を 見 て 、 東 京 のア ク セ ント は 能 登 か ら 変 わ った ん だ 、
し か も そ れ は京 都 ・大 阪 の ア ク セ ント か ら 変 わ った ら し い から 、 これ で東 京 ア ク セ ント は 京 都 ・大 阪 ア ク セ ント
か ら 変 わ った こ と にな り 、 こう し て 甲 種 ・乙 種 の分 か れ の起 源 の な ぞ が解 け た と いう 、 感 激 的 な 気 分 に な った も の で し た 。︹ 補11︺
八
自 分 の こ と は そ のく ら い に し て 、 服 部 博 士 の方 に お 話 を も ど し ま す と、 先 ほど 申 し ま し た よ う に、 博 士 は 日本
語方 言 の ア ク セ ント を 詳 し く お 調 べ にな った 。 こ のこ と は 、 決 し て方 言 の アク セ ント の部 面 だ け の比 較 と し て は
考 え ておら れな か った と 思 いま す 。 す で に 申 し ま し た よ う に、 第 2表 は 服 部 博 士 が 昭 和 六 年 に 御 発 表 に な った 論
文 の引 用 で あ り ま す が 、 そ こ で は 甲 種 方 言 と 乙種 方 言 と いう 区 別 にな って いる。 近 畿 方 言 と 四 国 方 言 が 甲 種 方 言
で あ って、 甲 種 ア ク セ ント と は 書 い てあ り ま せ ん 。 これ が大 切 です 。 こ れ は 、 ア ク セ ント が 近 いと いう こと を 根
拠 と し て、 こ の 二 つず つの方 言 が 近 いの だ 、 そ う 考 え ら れ た と 見 ら れ ま す 。 乙 種方 言 の方 も 同 様 で 、 ア ク セ ント
が 近 いと いう こと を 、 こ の 二 つ の方 言 が 近 いと いう こと の例 証 に さ れ た わ け です 。
服 部 博 士 の こ の研 究 は 、 も ち ろ ん 学 界 に 多 く の 影響 を 与 え ま し た 。 方 言 の境 界線 を 引 く と き に、 ア ク セ ント の
し か し こ の説 を 全 面的 に採 り 入 れ た 学 者 は な か った よ う です 。 例 え ば こ こ で 関 東 の方 言 と 山 陽 道 の方 言 と を 同
違 いと いう こ と を 重 ん じ て、 東 条 教 授 な ど は 御 自 分 の説 を お 変 え にな り ま し た 。
じ 系 統 の方 言 だ と 服 部 博 士 は 言 ってお ら れ る わ け です 。 と こ ろ が これ は 、 似 て いる の は ア ク セ ント だ け で はな い
か。 ア ク セ ント だ け似 て いる と い って 、 これ を 一つ系 統 と し てま と め る こと は 余 り に大 胆 す ぎ る と いう の が 一般
の考 え 方 だ った よ う です 。 確 か に 文 法 の 面 な ど 見 ま す と 、 山 陽 道 の方 言 は 関 東 の方 言 に似 て いる と は ち ょ っと 言
いか ね る。 こう い った こと か ら 、 結 局 、 山 陽 道 方 言 は ア ク セ ント の 面 で関 東 の方 言 に似 て い る け れ ど も 、 や は り 西 日 本 の方 言 の 一部 だ と いう ふ う に考 え る の が 一般 的 でし た。
私 も 山 陽 道 の方 言 は いろ いろ な 点 に お いて 関 東 の方 言 に似 て い る よ り も 、 四 国 や 近 畿 の方 言 に 近 いと いう こ と
を 、 三 年 ぐ ら い前 ま で は 考 え て お りま し た 。 し か し 最 近 、 考 え が変 わ って ま いり ま し た 。 そ れ で は な ぜ 山陽 道 方
言 と 東 方 方 言 の関 係 を 見 つけ る こと が で き な か った か と 申 し ま す と 、 一つ の方 言 と いう 言 語 体 系 の枝 葉 的 部 分 だ
け に 注 意 し て いた せ いだ 、 と 思 う よ う に な った の です 。 根 幹 的 な 部 分を 比 較 し た な ら ば 、 ア ク セ ント 以 外 の点 で
も 、 東 方 方 言 と 山陽 道 方 言 は 近 いと 言 う べき で は な い か。 今 日 お 話 し し た い のは 、 そう い った 、 私 の到 達 し た 新 し い考 え 方 で あ りま す 。
九
日 本 の方 言 の系 統 を考 え る 上 に 、 一番 大 切 な の は 、 一つ の方 言 体 系 の上 で の 根 幹 的 部 分 であ る と し て、 そ れ は
一体 何 で あ る か 。 前 述 の、 カ タ ツ ム リ の異 名 な ど と いう も のは 、 語彙 の上 でも 根 幹 的 な も の で は な いと 考 え る の
です が、 語彙 のう ち の根 幹 的 な 部 分 は何 か と いう こと は後 で 見 ると し て 、 前 節 の最 後 に 触 れ た ア ク セ ント の面 に
つ いて 見 ま す と 、 これ は 比 較 的 簡 単 で す 。 服 部 博 士 の いろ いろ な 研 究 に出 てま いり ま し て、 例 え ば ﹁山 ﹂ と い っ
た 一つ の こと ば のア ク セ ント がど こ で ど う な って いる か、 な ど と いう こと は、 そ の単 語 に限 る こ と です か ら 、 そ
れ だ け 切 り 離 し ま す と 枝 葉 的 部 分 です 。 そ れ に 対 し て、 例 え ば 大 阪 の方 言 のア ク セ ント 全 体 を 見 渡 し て、 こ の方
言 に は こう い った "型 " が あ る が、 東 京 に は な いと い った こと 、 こ れ は 根 幹 的 な 部 分 に 違 いな い。
第 5 表 は 、 東 京 の方 言 と 大 阪 の方 言 で、 ア ク セ ント の型 にど の よ う な も のが あ る か と いう 比較 です 。 東京 の サ
ク ラ のよ う な 型 は 大 阪 に は な い、 そ の代 わ り 、 大 阪 に は 東 京 にな いオ ト コと いう よ う な 型 があ り ま す 。 こ う いう
場 合 、 東 京 の方 言 に 突 如 と し て オ ト コと いう 型 が 生 ま れ る こと が あ る だ ろう か と いえ ば ち ょ っと 起 こ り そう も あ
りま せ ん 。 そう し ま す と 、 東 京 に ○ ● ● と いう 型 があ る 。 大 阪 に は ● ● ○ と いう 型 が あ る 。 こ れ は 個 々 の単 語 を
セ ント 以 外 のも の に つ いて は ど う で し ょう か。
見 ま す と 、 そ う いう 分 布 に な る と 思 う の です が 、 そ れ で は 、 ア ク
す 。 ア ク セ ント の 面 の 一番 根 幹 的 な 部 分 に つ いて 日 本 語 の方 言 を
く 、 地 方 に 行 く に し た が って 少 な く な る と いう こ と が大 観 で き ま
あ りま す 。 そ し て、 京 都 ・大 阪 を 中 心 に 中 央 地帯 は 型 の 種 類 が多
案 外 似 て いる 。 型 の区 別 のな いと こ ろ 、 いわ ば 一種 類 の と ころ が
種 方 言 は大 体 共 通 で 、 奥 羽 地方 の北 の方 と 九 州 の西 南 部 の方 と は
の型 を 持 って いる。 東 京 ・名 古 屋 あ る いは 岡 山 ・広 島 と い った 乙
士 が 甲 種方 言 と 呼 ば れ て いた 地 方 の ア ク セ ント は いろ いろ な 種 類
て いる か 。 三 拍 の単 語 に見 ら れ る 型 の種 類 を 調 べま す と 、 服 部 博
それ で は 日本 各 地 の方 言 で 、 ア ク セ ント の 型 の種 類 は ど う な っ
離 れ た 型 の問 題 で、 ア ク セ ント の 面 の根 幹 的 な 部 分 だ と いう こ と に な り ま す 。
第5表 東京 ・大阪 方言 の型 の種類 の 違 い
十
ま ず 音 韻 の面 です が 、 方 言 に お け る 音 韻 の面 の根 幹 的 な 部 分 は何 で あ る か考 え て みま す と 、 た と え ば ﹁イ ﹂ と
﹁エ﹂ の区 別 が あ る かな いか 、 ﹁シ﹂ ﹁ス﹂ の区 別 が あ る か な いか 、 こ う いう の は 語 彙 の面 に 比 べ れ ば か な り 多 く
の語 彙 に 渡 る わ け で す か ら、 重 要 な も の では あ り ま す 。 し か し 、 そ れ は 一つ の拍 に 限 って見 ら れ る 特 徴 です 。 そ
の点 で は 、 や は り枝 葉 的 な 部 分 に属 す る 。 も っと 根 幹 的 な 部 分 はな いか と いう と 、 わ れ わ れ の単 語 の形 と いう も
のは 、 音 素 が 一応 拍 と いう 単 位 を つく り 、 そ の連 結 し たも のと し て で き 上 が って い る。 そ う す る と 、 そ の拍 と い
う も の の構 造 の 上 に な に か 違 い があ れ ば 、 こ れ は す べ て の語 句 に わ た る こ と で す か ら、 こと ば の根 本 的 な 性 格 に な る わ け です 。
木 造 新 田 の下 相 野
次 に 引 く のは 青 森 県 で歌 わ れ て いる 弥 三 郎 節 と いう 民 謡 です が、 歌 詞 の 扱 い方 が、 東 京 や 京 都 ・大 阪 な ど と は だ いぶ 違 いま す 。 一ツ ァ エー
村 の端 ンず れ コの弥 三 郎 ア家
二人と 三人と人頼 ん で
ア リ ャ弥 三 郎 エー
二 ツ ァ エー
開 の万 九 郎 か ら 嫁 も ら った ア リ ャ弥 三 郎エ ー
ヒト ツ に対 し て キ ズ ク リ と は 随 分 乱 暴 な 数 え歌 です が 、 ま あ そ れ は い いと し ま し ょ う 。 問 題 は 文 字 の数 え 方 です 。
﹁木 造 新 田 の ﹂ と いう 部 分 は 、 仮 名 が き にす る と 九 文 字 です が 、 こ の地 方 の人 は こ れ を 七 文 字 と 数 え る 。 ﹁嫁 も
ら った ﹂ は東 京 だ った ら 六 文 字 です が 、 こ の地 方 で は こ れ で五 文 字 だ そ う で す 。 つま り 、 東 京 で はハ ネ ル音 ・ツ
メ ル音 を 一つ 一つ の独 立 し た 一文 字 と 考 え ま す が、 こ の地 方 の方 言 では 、 そ う いう 音 は す ぐ 前 の母 音 にく っ つけ
て 一文 字 と 考 え る 。 キ ンズ ク リ シ ンデ ンノ と か 、 ヨメ モラ ッ夕 と や る わ け で 、 こ の 地 方 では 拍 の組 織 が 変 わ って
いる と いう こ と にな り ま す 。 こう いう 傾 向 が 実 は 奥 羽北 部 以 外 の多 く の 地方 にあ る ので は な いか と 考 え て お り ま
す 。 こ の こと に つ い て は 、 柴 田 武 さ ん が以 前 か ら 注 意 を し てお ら れ て、 青 森 のよ う な 方 言 を シ ラ ベー ム方 言 と い
う 名 前 で 呼 ん で お ら れ ま す 。︹ 補12︺ そ れ に 対 し て、 東 京 と か 京 都 ・大 阪 の方 言 は モ ー ラ方 言 で す が、 そ の 二 つ が ど の よ う に分 布 し て いる か に つ いて は 後 で 見 て いた だ き ま す 。
十 一
次 は 文 法 の 面 であ りま す 。 今 ま で 、 方 言 の文 法 を 調 べた 学 者 は、 た と え ば ﹁行 く ﹂ の打 消 し は ﹁行 かな い﹂ と
言 う か 、 ﹁行 か ん ﹂ と 言 う か、 と か 、 ﹁買 う ﹂ の過 去 形 は ﹁買 った ﹂ と 言 う か 、 ﹁買 う た ﹂ と 言 う か、 と か いう よ
う な こ と を 調 べ、 そ の 対 立 は ど こ と ど こ の境 を 通 る と いう よ う な こ と を 重 要 視 し て いま し た 。 確 か に こ れ は 大 き
な 文 法 の違 いで は あ り ま す が 、 考 え て みま す と 、 動 詞 と いう 一つ の品 詞 の、 否 定 形 と か 、ワ 行 五 段 活 用 の過 去 形
と か 、 いず れ も 一つ の 派 生 形 の違 いを 問 題 に し て いる に す ぎ ま せ ん 。 私 の考 え で は、 そ れ よ りも 、 一つ の品 詞 が
A の方 言 に はあ る が B の方 言 に はな いと いう こ と があ れ ば 、 さ ら に 根 幹 的 な 対 立 だ と 思 いま す 。
た と え ば 、 芳賀綏 さ ん によ りま す と 、 秋 田 県 の方 言 では 形 容 詞 の活 用 が だ い ぶ東 京 と 変 わ って い る。︹ 補13︺
こ れ は ど う も 、 形 容 詞 が 活 用 を 失 って いる と 見 ら れ そ う です 。 例 え ば ス レグ は 連 用 形 だ ろ う と ち ょ っと考 え た
く な り ま す が、 こ のグ は ﹁読 め る ﹂ と いう よ う な 動 詞 に も 自 由 に つ い て、 ﹁読 め る よ う に な る﹂ と いう 意 味 を ヨ
メ ル グ ナ ルと 言 う そ う です 。 服 部 博 士 が ﹁付 属 語 と 付 属 形 式 ﹂ に 示 さ
れ た 基 準 に 照 ら せ ば グ は 立 派 な 独 立 の助 詞 です 。 ス レ バ (白 け れ ば )
の バ は、 動 詞 に付 く と ヨ メ ル バ ( 読 め れ ば ) と いう よ う に な る そう で
す か ら、 これ ま た立 派 な 助 詞 と いう こ と にな りま す 。 こう いう こ と は
﹁白 い﹂ 以 外 のす べ て の形 容 詞 に つ いて 言 え る わ け で、 秋 田 方 言 に は
活 用 す る 形 容 詞 と いう よ う な 品 詞 はな いと いう こ と にな り ま す 。︹ 補14︺
こう 考 え て みま す と 、 今 度 は 名 詞 が 語 形 変 化 を す る と で も 言 う べき
方 言 も あ り ま す 。 虫明 吉 治 郎 さ ん の岡 山 の方 言 に つ い て の報 告 に よ りま す と 、 岡 山 県 の方 言 の名 詞 は 曲 用 す る と
言 わ れ る。 す な わ ち 名 詞 に ﹁は﹂ と か ﹁へ﹂ と か ﹁を ﹂ と か いう 助 詞 が 付 いた 場 合 、 そ れ が 融 合 し て し ま って 、
酒 は←サキャー 、 酒 へ← サ ケ ー 、 酒 を ← サ キ ョー と いう よ う に 違 った 形 に な る。 こ の場 合 、 こ の方 言 では こ の 融
合 し た 形 し か 使 わ な いと いう こ と にな れ ば 、 名 詞 が 語 形 変 化 す る 方 言 と いう こと に な り 、 大 き な 特 色 だ と 思 いま す 。︹ 補15︺
と こ ろ で 、 語 形 変 化 と いう こ と を こ こ で 改 め て 考 え て み た い。 東 京 の こと ば を 標 準 と し た 学 校 文 法 で は 、 ﹁活
用 ﹂ と いう 場 合 に は、 カ ナ か ロー マ字 で書 いた 場 合 に 、 違 った 形 に な る も のだ け を 活 用 と 言 って いる。 し かし 、
例 え ば 、 こ と ば の発 音 を 広 く 考 え ま す と 、 ﹁白 い﹂ が ﹁白 く ﹂ に な った と いう の は 、 シ ロイ の イ が ク に変 わ った
だ け では あ り ま せ ん。 東京 方 言 な ら ば シ ロイ と いう 高 さ の配 置 が シ ロク と いう ふう に な る。 こ れ も 形 が か わ った
う ち では あ り ま せ ん か 。 つま り、 ○ ● ○ と いう の が ● ○ ○ にな った こと も 活 用 のう ち に 含 ま せ る べき だ と 考 え る
ので す 。 も し シ ロイ と シ ロク の違 い が ア ク セ ント の 問 題 で、 文 法 の問 題 で は な いと主 張 す るな ら 、 そ の人 は ﹁白
い﹂ に対 す る ﹁白 く ﹂ は 、 文 法 の問 題 で は な く 、 音 韻 の問 題 だ と 反 論 さ れ て も し か た が な いと 思 いま す 。
こ のよ う に 見 て みま す と 、 さ ら に 問 題 が 出 て き ま す 。 例 え ば 擬 態 語 で す 。 ﹁ガラ ガ ラ と こ わ れ る﹂ と いう 場 合
と ﹁ガ ラ ガ ラ に こわ れ る ﹂ と いう 場 合 と で は 、 東 京 で は 、 ガ ラ ガ ラ の部 分 の ア ク セ ント が 違 いま す 。 カ ナ で書 く
と ど ち ら も 同 じ です か ら 、 従 来 ﹁ガ ラ ガ ラ ﹂ と いう 単 語 は 活 用す る 単 語 と は 認 め ら れ て いま せ ん で し た が、 シ ロ
イ ・シ ロク のよ う に、 ガ ラ ガ ラ 対 ガ ラ ガ ラも や は り 活 用 と 言 う べき では な い か 。 ﹁カ ン カ ン照り つけ る ﹂ 対 ﹁カ ンカ ン に乾 いて いる ﹂ も 同 じ よ う な 例 です 。
名 詞 の方 に も よ く 似 た 問 題 が 起 こり ま す 。 例 え ば 鹿 児 島 の方 言 です が 、 平 山 輝 男 さ ん の 資 料 から いた だ き ま す
と 、 名 詞 に助 詞 が付 いて 、 名 詞 の部 分 の アク セ ント が 変 わ って く る 。 ﹁あ か ぎ れ ﹂ と いう こ と ば は 、 単 独 で は ア
カ ギ レ でギ が高 く 発 音 さ れ ま す が 、 助 詞 が 付 く と ア カ ギ レ ガ と な って 、 高 い部 分 が 次 の レ に 移 って し ま う 。 つま
り名 詞 だ け の場 合 と 、 助 詞 が付 いた 場 合 と では 山 の位 置 が違 う わ け で 、 こう な る と 、 名 詞 と ﹁が﹂ と いう 部 分 と
は 融 合 し て 一語 にな って い る。 助 詞 と いう も の の独 立 性 が、 東京 と か京 都 ・大 阪 あ た り よ り も 小 さ く な って いる 、
あ る いは 助 詞 と いう 単 語 は な いと いう べき か も し れ な い。 こ のよ う に 助 詞 の機 能 あ る いは存 在 と いう 対 立 が 方 言
の間 に見 つか る と いう こと は、 これ は大 き な 違 いで す 。 そ の言 語 体 系 の根 幹 的 な 部 分 の違 いと 言 え る の で は な い で し ょう か 。︹ 補16︺
十 二
最 後 に語 彙 の問 題 に 入 り ま し ょう 。 語 彙 と いう も のは 一つ 一つ がば ら ば ら で 、 な に か 根 幹 的 な 部 分 がな いよ う
な 感 じ がし ま す 。 も ち ろ ん 語 彙 の中 に は 重 要 な も のと そ う で な いも の が あ り、 カ タ ツ ム リ と デ ンデ ン ム シ の対 立
よ り は 、 例 え ば 生 物 の存 在 を 表 す ﹁いる ﹂ と いう 動 詞 と ﹁お る ﹂ と いう 動 詞 の対 立 な ど は 、 は る か に 重 要 で あ る
と 言 え る と 思 いま す 。 が 、 そ れ に し ても 、 そ れ は 個 別 的 な 現 象 だ と 認 め ざ るを え ま せ ん。 そ れ で は 語彙 の 面 に は 、
ア ク セ ント の面 、 音 韻 の面 、 文 法 の面 に 見 ら れ た よ う な 、 多 く の語 彙 に わ た って 見 ら れ る よ う な 対 立 は な い の で
し ょう か。 私 は や は り 語彙 の面 に も 多 く の 項 目 に つ いて 、 方 言 の間 で 対 立 し て いる こ と が あ ると 思 いま す 。
そ のう ち の 一つは、 東京 方 言 で 一拍 の こ と ば です 。 す な わ ち 、 東 京 で は ﹁目 ﹂ と か
﹁歯 ﹂ と か いう の が 一拍 の単 語 であ り ま す が 、 そ う いう 一拍 の単 語 が 全 然 な い地 方 が
あ る 。 御 承 知 のと お り 、京 都 ・大 阪 地 方 の方 言 で、 ﹁目 が 見 え る﹂ は ﹁メ ー が 見 え る﹂
と 言 い、 ﹁歯 が 痛 い﹂ は ﹁ハー が 痛 い﹂ と な り ま す 。 二 拍 に な って し ま う 。 こ う いう
方 言 に は 一拍 語 が な い。 こう いう 一拍 の 語 が あ ると か な いと か いう 対 立 は 、 従 来 は 音
韻 の面 の 対 立 と いう よ う に考 え ら れ て いま し た が、 これ は そ こ の方 言 の語 彙 が ど のよ
う な 形 の制 限 を 持 って いる かと いう こと を 表 す 問 題 で、 語 彙 の面 の対 立 と す べき で は
な い でし ょう か 。 ま た そ れ はあ る 方 言 に は 全 然 外 来 語 が な いが 、 あ る方 言 に は外 来 語
こ のよ う な 、 ど の語 類 と ど の語 類 が 同 じ ア ク セ ント に な って いる か 、 こ れ は 音 韻 の面 でし た ら 同 音 語 の問 題 に
第 二 類 が い っし ょに な って ﹁橋 が﹂ と ﹁端 が﹂ の区 別 がな い。
す 。 と ころ が大 分 で は、 第 二 類 が イ シガ 、 オ ト ガ と 言 って 、 第 三 類 と の間 に 区 別 があ る 。 そ の代 わ り 、 第 一類 と
ガ で 、第 三 類 の単 語 と 同 じ に な り ま す か ら 、 ﹁紙 が ﹂ と ﹁髪 が﹂ の 区 別 が つき ま せ ん 。 名 古 屋 や 広 島 で も そ う で
と こ ろ が 第 二類 と 呼 ん だ ﹁石 ﹂ ﹁川 ﹂ ⋮ ⋮ と いう 単 語 は、 東 京 と 大 分 と で は 違 いま す 。 東 京 で は イ シ ガ、 オ ト
第 三 類 ・第 四類 ・第 五 類 の語 の ア ク セ ント は 、 東 京 でも 大 分 でも 同 じ です 。
比 べま す と 多 少 の違 い があ り ま す 。 第 6 表 に、 二 拍 の名 詞 を 五 種 類 に 分 け て挙 げ ま し た が 、 こ の う ち の第 一類 、
り と 、 岡 山 ・広 島 か ら 北 九 州 ・大 分ま であ た り に 行 わ れ て いる と申 し ま し た が 、 個 々 の単 語 ご と に アク セ ント を
と こ ろ で語 彙 の面 には 、 も う 一つこ う いう こ と が あ りま す 。 さ き に 、 乙 種 方 言 と いう も の が東 京 ・名 古 屋 あ た
があ る と いう の と 同 じ よ う な 問 題 と考 え てよ いと 思 いま す 。
第6表 二 拍 名詞 の表
な る で し ょう が、 ア ク セ ント で す から 同 型 語 の間 題 と 言 いま し ょう か 。 こ の同 型 か 異 型 か の問 題 は 一体 何 で し ょ
う か 。 従 来 これ は ア ク セ ント の面 の問 題 だ と さ れ て いま し た 。 し か し 今 私 に は 語彙 の面 の問 題 の よ う な 気 が し ま
す 。 ア ク セ ント の異 同 の面 か ら 見 た 語 彙 の分 属 の 問 題 だ と 言 う べき で は な いで し ょう か。 これ は 語彙 の面 の問 題
と し て は 珍 し く 多 く のも の に 共 通 に 現 れ る 性 格 で す 。 そ し て これ が 語彙 の面 に お け る、 そ の言 語 体 系 の根 幹 的 な 部 分 であ る と 考 え る わ け であ り ま す 。
十 三
以 上 のよ う に、 私 は ア ク セ ント ・音 韻 ・文 法 ・語彙 そ れ ぞ れ の 面 に つ いて 、 そ の方 言 の根 幹 的 な 部 分 と いう も
のを 考 え て 来 ま し た 。 で は そ う し た 根 幹 的 部 分 の違 いを も と にし て 、 全 国 の方 言 を 区 画 し た ら ど のよ う な 結 果 に な る で し ょう か 。
こ れ が 本 日 の 私 の話 の 眼 目 です が 、 そ の結 果 を 一口 に 申 し ま す と 、 ア ク セ ント ・音 韻 ・文 法 ・語 彙 と 部 面 は 違
って も 、 そ の区 画 の でき る線 は 非 常 に よ く 一致す る 傾 向 が あ る と いう こと で す 。 以 下 具 体 的 に お 話 し し ま し ょう 。
ま ず ア ク セ ント の面 の 区 画 です が 、 第 4図 を 見 て下 さ い。 こ れ は 二 拍 語 に 何 種 類 の型 があ る か と いう こと を も
と に し て 作 った 分 布 図 です が 、 近 畿 地 方 、 そ し て 四 国 地方 を 中 心 と し て、 中 央 に近 いと こ ろ で は 、 四 つ の型 があ
り、 最 も 多 い。 こ れ に隣 接す る 関 東 ・東 海 地 方 、 中 国 か ら 九 州 の 入 口 に か け て の地 方 で は 三 つ の型 、 そ し て 北 奥
地 方 で は 、 は んぱ な 数 です が 、2 万. と5な って いま す 。 こ の詳 し い説 明 は 、 専 門 の本 を 見 て いた だ く こと に し て 省 略
し ま す 。 一方 の端 の九 州 の西 南 部 で は 二 つの 型 が 多 い。 一つ の 型 と いう 一番 少 な い方 言 が、 奥 羽 と か九 州 と か 八
丈 島 と い った 僻 遠 の地 方 に あ って、 結 局 、 京 都 ・大 阪 を 中 心 と す る あ た り が 、 型 の 種 類 が豊 富 と いう こ と にな る 。
そ こ か ら 外 側 へ行 く にし た が って 型 の種 類 が 少 な く な って いる 。 中 央 部 対 辺 境 地 帯 と いう 分 布 を し て いる と 言 え
第4図 二 拍 名詞 の種 類 か ら見 た分 布図
る でしょ う 。
次 に音 韻 の面 で は ど う か。
ハネ ル音 ・ツメ ル音 を 一拍
と 数 え な い方 言 は 、 青 森 ・
岩 手 な ど の北 奥 地 方 、 北 海
道 の入 口 のあ た り に 見 ら れ
ま す 。 そ れ か ら 飛 ん で、 石
川 県 の能 登 にも 見 ら れ る こ
と を 、 金 沢 大 学 の岩 井 隆 盛
さ ん が 言 って お ら れ ま す 。
も う 一つ大 き く 飛 ん で、 鹿
児島県 から宮崎 県にもそう
し た 方 言 が あ る と いう こ と
を 、 柴 田 武 さ ん が書 い て お
ら れ ま す 。 結 局 こう し た 方
言 は 、 遠 隔 の地 帯 に あ る わ
け で 、 中 央 の方 言 に は そ う
い った も の は な い。 こ こ で
も 中 央 対 辺境 の対 立 が 見 ら
れます 。
第5図 広 戸 惇氏調査 中国地 方 の 「酒 をのむ」 の分 布
次 に文 法 の面 。 ま ず 先 ほ ど 秋 田 の方 言 で形 容 詞 の活 用を
失 って いる も の があ る と 言 いま し た 。 そ う いう 方 言 は 山 形
県 の北 の 地 方 、 そ れ 以 北 に 多 く 見 ら れ ま す 。 そ れ か ら 、 芳
賀 さ ん が、 秋 田 ・岩 手 の方 言 で 、 動 詞 の活 用 が 非 常 に少 な
く な って いる も の が あ る と 書 い て いま す 。︹ 補17︺ こ の 動 詞
の活 用 が 少 な く な り か け て いる の が、 九 州 の鹿 児島 のあ た
り と 五 島 列 島 で す 。 例 え ば ﹁取 る﹂ と いう 動 詞 が 、 終 止
形 ・連 体 形 と も に ﹁ト ッ﹂ とな ってし ま い、 同 時 に ﹁と れ
ば ﹂ が ﹁ト ッバ﹂、 ﹁と り ま す ﹂ が ﹁ト ッマ ス﹂ にな った り
し て、 動 詞 の語 形 変 化 が 乏 し く な る 。 も っと も 、 全 く 変 化
が な く な って いる わ け では な く 、 ﹁取 ろ う ﹂ と か ﹁取 ら ん ﹂
と いう の は そ のま ま で す け れ ど も 。
次 に名 詞 に 助 詞 が融 合 し て名 詞 の格 変 化 のよ う な 形 にな
って い る か ど う か と いう こ と の分 布 は、 残 念 な が ら 詳 し く
調 査 さ れ て お り ま せ ん 。 現 在 分 か って いる と こ ろ で は 、 山
梨 県 、 長 野 県 、 静 岡 県 、 神 奈 川 県 、 千 葉 県 ⋮ ⋮ と い った 地
方 に 見 ら れ る こと が報 告 さ れ て いま す 。 近 畿 や 四国 方 面 に
は な いよ う です 。 と こ ろ が 中 国 地方 で は、 島 根 大 学 の広 戸
って いま す 。︹ 補18︺ 第 5 図 が そ れ で す 。 こ れ は ﹁酒 を ﹂ と
惇 さ ん と いう 方 が 非 常 に 詳 し く 調 査 さ れ た 結 果 が地 図 に な
いう のを サ キ ョー と 言 う か 言 わ な いか と いう
こ と を 調 査 し た も の で す 。 こ れ で 見 る と、 サ
キ ョー と 言 う 地 帯 が中 国 地 方 を ほ と ん ど 席 巻
し て し ま って 、 山 陰 のあ た り に わ ず か に サ キ
ョー と 言 わ な い方 言 が あ る だ け で す 。 東 日 本
に つ い て は詳 し い調 査 が さ れ て いま せ ん。 文
法 に つい て の調 査 は、 ア ク セ ント の調 査 な ど
に 比 べ てま だ ま だ 遅 れ て い るよ う に思 わ れ ま す。
次 に形 容 詞 の変 化 が ア ク セ ント にま で及 ん
で いる か ど う か 。 こ の分 布 状 態 は か な り詳 し
く 判 明 し て いま す 。 東 京 と 京 都 ・大 阪 と は 、
ア ク セ ント が 反 対 であ る と よ く 言 わ れ ま す が 、
終 止 形 ・連 体 形 と 連 用 形 と で ア ク セ ント が 違
う 点 では 一致 し て いる 。 新 潟 あ た り で は ﹁シ
ロイ ﹂ に対 し て ﹁シ ロク ﹂ で、 ア ク セ ント の
変 化 は あ りま せ ん 。 長 崎 でも 、 ﹁シ ロク ﹂ ﹁シ
擬態 語 の活 用 に つ いて は 、 ま だ 充 分 な 調 査 が さ れ て お り ま せ ん 。 私 の 現 在 の予 想 では 、 擬態 語 が 活 用 す る の は 、
中 央 対 辺 境 と いう 対 立 が こ こ でも 見 ら れ ま す 。
ロイ ﹂ でや は り 区 別 が な い。 全 国 的 に見 る と 、 中 央 に 対 し て、 区 別 のな い方 言 が 周 囲 の地 方 に 分 布 す る と いう 、
第6図 徳 川 宗 賢氏 に よる同型 語の調 査(中 央 部 日本)
京 都 ・大 阪 、 あ る いは 東 京 ・広 島 のよ う な 中 央 部 で 、 九 州 な ど では 活 用 し な い。 こ こ でも 中 央 対 辺 境 の対 立 があ
次 に格 助 詞 の類 が 一つ の単 語 と し て の 形 を も って いる か ど う か の分 布 で す が、 こ の調 査 は か な り 詳 し く で き て
る の で はな いか と 思 わ れ ま す 。
いま す 。 近 畿 の方 言 と 辺 境 の方 言 と が変 わ る 方 に 入 って いま す 。 これ に つ い て は、 秋 永 一枝 さ ん の 調査 があ りま す 。︹ 補19︺
次 に 語 彙 の問 題 です が 、 一拍 の単 語 を 持 って い る か いな いか。 そ の 分布 状 態 は、 こ れ も か な り よ く 分 か って い
ま す 。 私 の 調 査 では 、 一拍 の単 語を 持 た な い方 言 は、 近 畿 ・四 国 に集 ま って お り 、 そ れ が北 陸 地 方 に 延 び て いる 。
そ れ 以 外 の ほ と ん ど す べて の方 言 が 一拍 の単 語 を 持 って いま す 。 そ の 分 布 は 楳 垣 実 さ ん が 調 査 さ れ たも の です 。
こ れ は 結 局 、 服 部 博 士 の甲 種 方 言 と そ の 他 と の対 立 に な りま す 。 な お 、 鹿 児 島 県 は 短 い 一拍 語 と 長 い 一拍 語 があ り 、 ち ょう ど 中 間 の性 質 を も って いま す 。
も う 一つ、柴 田 武 さ ん に よ って提 唱 さ れ た 、 ど の 語 類 と ど の語 類 と が同 型 語 であ る か と いう こと を も と に し た
方 言 の 分 類 。 そ の分 布 図 が 第 6 図 です 。 こ の 分 布 図 は 国 立 国 語 研 究 所 の徳 川 宗 賢 さ ん によ って 作 ら れ た も の で す 。︹ 補20︺
﹁ム﹂ と か ﹁レ﹂ と いう し る し で 、 ど の 語 と ど の 語 が 同 型 語 かを 示 し て いま す 。 ま た ロー マ字 で書 か れ て いる 地
方 は そ れ ぞ れ 共 通 の性 格 を 、 カ ナ で書 か れ て いる 地方 も ま た 、 そ れ ぞ れ 共 通 の性 格 を 持 って いる 、 と いう よ う に
作 ら れ て いま す 。 全 体 の傾 向 を 言 いま す と 、 近 畿 ・四 国 あ た り に ロー マ字 の変 種 の方 言 が広 が って お り 、 そ の 周 辺 の隣 接 地 域 に カ タ カ ナ の変 種 の方 言 が広 が って いる⋮ ⋮ と いう こと にな り ま す 。
十 四
以 上 の よ う な 分 布 状 態 を 通 観 し ま す と 、 す で に お気 づ き と 思 いま す が、 近 畿 ・四 国 を 中 心 と す る 地 域 と 、 奥
羽 ・九 州 と い った 辺 境 地 域 と が 対 立 し て いる 、 そ の間 に大 き な 相違 が あ る と いう こと が ま ず 言 え ま す 。 そ れ か ら
東 海 ・関 東 お よ び 中 国 は、 そ の 二 つ の地 域 の中 間 地 域 と 考 え ら れ る と いう こ と が 言 え ま す 。 そ れ で は 、 中 央 の地
域 と 辺 境 の地 域 、 さ ら に は中 間 地 域 と いう 三 つ の対 立 し た 地 域 の方 言 は 、 ア ク セ ント 、 音 韻 、 文 法 、 語 彙 と いう 面 か ら 総 合 的 に見 た と き 、 ど う いう こ と が そ れ ぞ れ 言 え る ので し ょう か 。
京 都 ・大 阪 な ど の中 央 地 帯 は 、 ア ク セ ント で 言う と 型 の 種 類 が多 いし 、 音 韻 の面 で は完 全 な モ ー ラ 方 言 です 。
ま た 、 文 法 の面 で 言う と 、 形 容 詞 でも 動 詞 、 擬 態 語 でも 活 用 が 発 達 し て い て、 助 詞 は ま あ ま あ 独 立 性 が 強 い。 語
彙 で は 一拍 の単 語 を 欠 く と いう 大 き な 特 徴 があ り、 同 型 語 の結 び つき で 他 の方 言 と 異 な る と いう こ と が で きま す 。
奥 羽 ・九 州 の辺 境 地 帯 は こ れ と 大 き く 対 立 し 、 ア ク セ ント の型 の種 類 は 少 数 、 音 韻 の 面 で は 多 く 、 三 三 三ペ ー
ジ で シ ラ ベー ム方 言 と 呼 ん だ方 言 です 。 文 法 の 面 で は 活 用 が 停 止 し て いた り 、 停 止 し て いな いま でも 不 活 発 で す 。
関 東 ・東 海 ・東 山 ・山 陽 ・九 州 入口︱
の方 言 は モ ー ラ方 言 であ り 、 動 詞 ・形 容 詞 ・擬 態 語 の活
助 詞 は 影 が薄 く 、 自 立 語 と の結 合 が強 い。 語 彙 の 面 では 一拍 の単 語 があ り 、 同 型 語 の結 び つき 方 に 独 自 性 を 持 っ て いま す 。 中 間 地 帯︱
用 が 活 発 と いう 点 で、 中 央 の方 言 に似 て いま す 。 が 、 一拍 の 単 語 を 持 つ点 で は 辺 境 の方 言 と 似 て お り 、 ア ク セ ン
ト の型 の数 で は 中 央 ・辺 境 の中 間 の性 質 を 持 ち 、 同 型 語 の問 題 でや は り 中 間 地 帯 に 共 通 的 な 性 格 を 有 す る と いう
こ と にな り ま す 。 こ れ を 地 図 に ま と め ま す と 、 次 ペー ジ の区 画 図 のよ う に な りま す 。︹ 補21︺
私 は 三 つ の地 帯 を 内 輪 ・中 輪 ・外 輪 と 呼 ん で みま し た が、 こ の中 で近 畿 の南 や 四 国 の西 部 は し ば し ば 中 輪 的 で
あ り 、 中 国 地 方 でも 出 雲 や 隠 岐 あ た り はし ば し ば 外 輪 的 であ り ま す 。 ま た 、 北 陸 三 県 の地 方 に は いろ いろ のも の
私 の方 言区 画図
が 混 じ り合 って、 複 合 的 で あ る と いえ ま す 。
十 五
私 は 日 本 の方 言 を 、 以 上 の大 き く 三 つに 分 け て考 え て いま す 。 が 、 こ の分 布 状 態 は 、 き ょう の講 演 の初 め に だ
め だ と 言 わ ん ば か り の こ と を 申 し 上 げ た 柳 田 国 男 翁 の方 言 周 圏 論 と 同 じ よ う な 形 に な って しま いま し た 。 た だ、
こ こ に お 断 り し てお き た い のは 、 私 の見 方 は 形 の上 で は 柳 田 翁 のも の と そ っく り で す が、 そ の精 神 に お い て は 正 反 対 に な って いる と いう こ と です 。
つま り 、 私 が 内 輪 方 言 の特 色 と 見 てき たも のは 、 活 用 の活 発 な こと 、 助 詞 の 独立 性 の強 い こと 、 一拍 の こ と ば
が な い こと な ど 、 す べ て 保 守 的 ・古 風 であ り ま す 。 そ し て外 輪 の方 言 に 見 ら れ る 内 輪 と は 反 対 の いろ い ろな 性 質
は 、 む し ろ 新 し く 変 化 し た も の が 多 いと いう こと です 。 柳 田 翁 と 反 対 に 、 日本 の保 守 的 な 方 言 と いう の は内 輪 の
方 言 で あ る 、 先 端 を 切 って 大 いに 変 化 し た のは 外 輪 の方 言 で あ る 、 こう いう 考 え に 立 つわ け であ り ま す 。
柳 田 翁 は 外 輪 、 辺 境 の地 帯 の方 言 は 古 い時 代 の姿 を 残 し て いる 、 だ か ら これ は国 語 史 の 研 究 に は 非 常 に貴 重 で
あ る と 言 わ れま し た が、 私 の場 合 は 、 辺 境 の こと ば の方 に自 由 で 新 鮮 な息 吹 き を感 じ ま す 。 日 本 語 を 自 然 の ま ま
に し て お いた ら 、 ど う いう 方 向 に 進 む か と いう こ と は 、 む し ろ 外 輪 の方 言 か ら いろ い ろ学 ぶ こ と が でき る わ け で す。 乱 暴 き わ ま る お 話 で し た が、 以 上 で私 の発 表 を 終 わ り ま す 。
︹ 付 記︺ 昭和 四十 一年 十 一月 二十四 日、 テ ック の東京 言 語研究 所主 催 で開 かれ た講 演会 で発 表し た内 容を 、 ﹃ことば の宇
補
宙 ﹄ 第 四 号 ・第 五 号 ( 昭 四 十 二年 四 月 五日 ) に 掲 載 し た 、 そ れ を 多 少 辞 句 の 訂 正 を 行 な って 収 め た 。
図 や 表 は 元 の 形 に 準 じ た が 、 第 4 図 は 元 の図 に 間 違 いが あ った の で 根 底 か ら 書 き 改 め た 。 そ の数 字 の 意 味 は 型 の 種
類 の 数 を 表 す が 、2'の よ う な も の は 、 型 の 種 類 は 2 よ り 多 い が 、 そ れ は 音 韻 の 性 質 に よ り 数 が 多 く な って い る にす ぎ
な いも の 、 5 2. のよ う な も の は 、 三 つ の 型 が あ る が 三 つ目 の型 に は 限 ら れ た 音 韻 条 件 のも の し か 属 さ な い の で、 3 と は し が た い こと を 表 す 。
講 演 の折 に は 、 W ・A ・グ ロー タ ー ス神 父 そ の他 の 人 か ら 、 人 間 不 在 の研 究 の 印 象 を 受 け る が そ れ で よ いか ど う か
の質 疑 が 出 て 、 応 答 に 忙 し か った 。 こ の こ と に つ いて は 、 ﹃ 国 語 と国文 学﹄ 第 五〇 巻第 六号 ( 昭 四十 八年 六 月 ) に 載 せ
た ﹁比 較 方 言 学 と 方 言 地 理 学 ﹂ の中 に答 え て お いた 。 こ の稿 は 、 次 の ﹁対 馬 ・壱 岐 の ア ク セ ン ト の 地 位 ﹂ 以 下 の 稿 の 意 義 を 説 明 す る も の と し て 巻 頭 に置 いた 。
注
︹1︺ こ の考 え は、 ﹃ 言 語 生 活﹄ 第 一七 号 ( 昭 二十 八年 二月 ) に発 表 し た ﹁辺境 地 方 の言葉 は 果 し て古 いか ﹂ に述 べた 。
︹ 2 ︺ 東 条 操 編 ﹃日本 方 言 学﹄ ( 昭 二十 八 年十 二月 、吉 川 弘 文 館刊 ) の序 説 ﹁ 国 語 方 言 区画 ﹂ の章参 照。
︹ 3 ︺ こ れ ら の諸 説 は、 日 本 方 言 研 究 会 編 ﹃日本 の方 言 区 画 ﹄ ( 昭 三 十 九 年 十 一月、 東 京 堂 刊 ) に所 載 の楳 垣 実 ﹁方 言 区 画 論 小 史﹂ を 参 照 。
︹4 ︺ ︹3︺ に挙 げた ﹃ 日本 の方 言 区 画﹄ 所 載 の加 藤正 信 ﹁北奥 方 言 と 南奥 方 言 と 越後 方 言 の境 界﹂ によ る 。
︹5 ︺ こ の こと に つ いて は、 こ の稿 の発表 のあ と で 、 ︹ 付 記 ︺ の条 に挙 げ た ﹁ 比 較 方 言学 と 方 言 地 理学 ﹂ で述 べた 。
︹6 ︺ 服 部 四 郎 ﹁ 近 畿 アク セ ント と 東 方 ア ク セ ント の境 界 線 ﹂ ( ﹃ 音 声 の研究 ﹄ Ⅲ 所 載 、 昭五 年 三 月 )
︹ 8 ︺ 平 山輝 男 ﹃日本 語 音 調 の研究 ﹄ ( 昭 三十 二年 六 月、 明治 書 院刊 )
︹7 ︺ 服 部 四 郎 ﹁ 国 語諸 方 言 のアク セ ント概 観 (3) ﹂ ( ﹃ 方 言 ﹄ 第 一巻 第 四 号 所載 、 昭 六 年 十 二月 )
︹ 9 ︺ 日本 方 言 学会 編 ﹃ 国 語 ア ク セ ント の話 ﹄ ( 昭 十 八年 三 月 )所 載 の金 田 一春 彦 ﹁国 語 アク セ ント の 史的 研 究 ﹂ な ど に発 表 し た 。
︹10 ︺ 服部 四 郎 ﹁ 原 始 日本 語 の二音 節 名 詞 の アク セ ント﹂ ( ﹃方言 ﹄ 第 七 巻第 六号 所 載、 昭十 二 年 八 月 )、同 ﹁原 始 日本 語 の アク セ
ント ﹂ ( 寺 川喜 四 男 ほ か編 ﹃ 国 語 ア ク セ ント論 叢 ﹄ 所 載 、昭 二十 六年 十 二月 )
︹11 ︺ こ の こと に ついて は ﹃ 文 学 ﹄第 二 二巻 第 八号 ( 昭 二十 九 年 八 月 ) 所載 の ﹁ 東 西 両 ア ク セ ント の違 い が でき る ま で﹂ に 発表 した 。 この本 の三 七 四 ペー ジ以 下 に収 め た も の がそ れ であ る。 ︹12 ︺ 柴 田 武 ﹁ 方 言 の音 韻体 系 ﹂ ( ﹃ 解 釈 と 鑑 賞 ﹄ 所載 、 昭 三 十五 年 九 月 )
︹13 ︺ 芳 賀 綏 ﹁ 方 言 の実 際︱東 北 ・北海 道 ﹂ ( ﹃ 解 釈 と 鑑 賞 ﹄ 二 一七 号、 昭 二十 九 年六 月 ) の記 述 そ の他 。 ︹14 ︺ 服 部 四郎 ﹃ 言 語 学 の方 法 ﹄ 所 収。
︹15 ︺ 東 条 操監 修 ﹃ 方 言 学 講座 ﹄ 第 三巻 ( 昭 三 十 六年 四 月 )所 載 の虫 明 吉治 郎 ﹁ 方 言 の実 態 と 共通 語 化 の問 題点 、 岡 山 ・広 島 ﹂
︹16 ︺ 平 山 輝 男 ﹁ 南 九 州 ア ク セ ント の研究 ( 上)( 下)」︵ ﹃ 方 言﹄ 第 七 巻 第 四 ・五 号 所載 、 昭 十 一年 四 ・五 月 ) ︹17 ︺ ︹13︺ に前 出 の文 献。 ︹18 ︺ 広 戸 惇 ﹃ 中 国 地 方 五 県言 語 地 図﹄ ( 昭 四 十年 七月 、 風 間書 房 刊 )
︹19 ︺ 秋 永 一枝 ﹁ 佐 柳 ア ク セ ント の提 起 す る も の﹂ (﹃ 国 文 学 研究 ﹄ 第 三 三号 所 載 、 昭 四十 一年 三月 )
試論﹂ ( ﹃ 学 習 院 大 学 国 語国 文 学 会 誌﹄ 六 所 載 、昭 三 十 七年 五 月 )
︹20 ︺ 柴 田 武 ﹁日本 語 のア ク セ ント 体 系﹂ (﹃ 国 語 学﹄ 第 二 一輯 所 載 、 昭 三十 年 六 月 ) 、 徳 川 宗 賢 ﹁"日本 語 方 言 ア ク セ ント の系 譜 "
︹21 ︺ こ の詳 細 は ﹃日本 の方 言 区 画 ﹄ ( ︹3︺ に前 出) 所 載 の ﹁ 私 の方 言 区画 ﹂ に述 べた。
九 州 諸 方 言 のア ク セ ント の対 立 は ど う し て で き た か
対 馬 ・壱 岐 の ア ク セ ン ト の 地 位 ︱
た と 想 定 さ れ る ア ク セ ント の変 化 は 、 九 州 各 地 に行 わ れ て いる ア ク セ ント の変 種 が 生 ず る に 至 った 経 路 を 推 定 す る 上 に、 重 要 な 役 割 を 演 ず る と 思 わ れ る の であ る。
た 、 対 馬 の ア ク セ ント に 特 に関 係 の深 そ う な 、 九 州 北 岸 の各 地 のア ク セ ント を 踏 査 し た 。 そ し て 、 そ れ ら の地 方
私 は 対 馬 滞 在 中 に こ の事 実 に気 づ いた 。 だ か ら 、 私 は な る べく 早 く 対 馬 の調 査 を 切 り 上 げ て 、 壱 岐 に 赴 き 、 ま
の ア ク セ ント に つ い て 、 今 ま で 一般 に は 等 閑 に 付 せ ら れ て いた 幾 つか の事 実 を 明 ら か に し 得 た つも り であ る 。
私 が こ こ に 述べ よ う とす る の は、 そ のよ う な 目 でな が め た 、 対馬 方 言 の ア ク セ ント と 、 そ れ を 基 と し て 試 み た
九 州 諸 方 言 の ア ク セ ント の系 統 論 で あ る 。 対 馬 の ア ク セ ント を 調 査 し た 時 の状 況 と 、 対 馬 ア ク セ ント の概 観 に つ
いて は 、 ﹃人 文 ﹄ 第 一号 ( 特 集 ・対 馬 調 査 ) に 発 表 し た 、 別 稿 ﹁対 馬 の言 語、 ア ク セ ント の部 ﹂ を 御 参 照 いた だ き た い。(1)
注( 1) ﹁ 壱岐 ・対馬両方言 の音調 について﹂ (﹃ 音声の研究﹄第 七輯所載、昭二十六年五月)
二 九 州 本 土 諸 方 言 の ア ク セ ント の概 要
そ も そ も 、 九 州 本 土 諸 方 言 の ア ク セ ント は 、 そ の主 な 特 徴 を 比 較 す れ ば 、 次 の第 1表 の ご と く で あ る 。︹ 補2︺
( 代 表 高 知 )・仙 台 ・福 井 の諸 方 言 の ア ク セ ント を 合 わ せ 掲 げ た 。 こ こ に は 、 二拍 名 詞 の例 だ け し か
第 1 図 と 対 照 し な がら 通 覧 さ れ た い。 比 較 のた め に、 関 東 ( 代 表 東 京 )・中 国 ( 代 表 広 島 )・近 畿 ( 代 表 京 都 )・土 佐
掲 げ な か った が 、 これ は 、 これ 以外 のす べ て の語彙 の上 に見 ら れ る 傾 向 (1)を も 相 似 的 に 示 す も の で あ る 。 な お、
九 州 本 土 の ア ク セ ント の内 容 に つ いて は 、 そ の分 布 状 態 と と も に 、 大 部 分を 平 山 輝 男 氏 の、 一部 分 を上村 孝 二氏 の、 尊 敬 す べ き 研 究 ( 2︶に負 う と こ ろ が 多 か った こ と を 記 し て 謝 意 を 表 す る 。
︹1︺︲ ︹4︺ の よ う な 事 実 を 見 取 る こ と が で き よ う 。
さ て 、 次 の ペ ー ジ の 第 1 表 に 見 ら れ る 九 州 各 地 の ア ク セ ント は 、 一見 は な は だ 無 統 制 の よ う に 見 え る か も し れ な い。 が、 少 し 注 意 す れ ば 、 次 の
︹ 1︺ 九 州 本 土 の ア ク セ ント は 、 大 き く 見 て 三 種 類 に 分 け る こ と が で き る 。
表 で ﹁東 北 部 方 言 ﹂
︹2︺ 第 1 種 の も の は 、
と 呼 ん だ も の で、 豊 前 ・豊 後 ・筑 前 な ど に分 布す る 。 こ の種 の方 言 で は 、 第 一 ・ 二 ・三 類 の語 彙 と 、 第 四 ・五 類 の 語彙 と の問 に 型 の対 立 が 見 ら れ 、第一・ 二 ・三 類 は大 体上昇調 に、第 四 ・五 類 は 大 体 下 降 調 に発 音 さ れ る。 こ の種 のア ク セ ント は 、 関 東 式 ・中 国 式 な ど の ﹁東京 式 方 言 ﹂ の も のに よ く 似 て お り 、
九州 地 方 ア ク セ ン ト分 布 図 第1図
第 1 表 九 州 本 土 諸 方 言 ア ク セ ント 対 照 表
西 南部 方言(二 型方 言) 芦北式
玉名式
杵島式
藤津式
三河内式
鹿児島県長島郡 の 一部
熊本 県西 南部
熊本 県西 北部
佐賀県杵島郡地方など
佐賀 県 藤津 郡地方
長崎県東彼杵郡北端
長崎県主流 長崎県彼杵・高来地方など
長島式
南薩摩式 枕 崎 市地方
薩 摩 半島 の南 岸
鹿児島県主流 鹿児 島県 の大 部
枕崎式
屋久島 の 一部
部 上甑島江石式 鹿児島県上甑島 の 一 屋久宮之浦式 屋久 一湊式 同 上 屋久栗 生式 同 上
(4 ) 助 詞 の部 分 は多 少 高く 発 音 さ れ る と いう 。
( 3) 〓 は 中 位 の高 さ と いう 。 ◎ 〓は高 低 を 超 越 した 高 さ を表 す 。
(2) 第 一拍 に広 い母 音 を、 第 二拍 に狭 い母 音 を有 す る語 は ● ○型 に発 音さ れ る 。
注( 1) 助 詞 の付 いた形 のう ち、 右 は ﹁の﹂、 左 は ﹁が﹂。
▼は付 く 助 詞 が 高く 、 ▽は低 く 発 音 さ れ る こと を 示す 。
九州 本土 諸 方言
ことに表 で
﹁外 輪 東 京 式 方 言 ﹂ と 呼 ん だ も の に そ っく り で あ る 。
︿一型 ア ク セ ン ト ﹀ の 方 言 で あ る 。
布 す る 。 こ の 種 の方 言 では 、 す べて の語 が 全 く 同 じ アク セ ント で発 音 さ れ る。 これ は 仙 台 お よ び 福 井 の方 言
︹3︺ 第 2 種 の も の は 、 表 で ﹁中 央 部 方 言 ﹂ と 呼 ん だ も の で 、 大 体 肥 前 北 部 か ら 筑 後 ・肥 後 ・日 向 に わ た っ て 分
と 全 く 同 じ 性 質 のも の で、 平 山 氏 の いわ ゆ る
( 平 山 氏 の い わ ゆ る A 型 ) は 、 大 体 下 降 調 に 発 音 さ れ 、 第 三 ・四 ・五 類
( 平 山 氏 の いわ ゆ る B
摩 ・大 隅 に 至 る 。 こ の 種 の 方 言 で は 、 第 一 ・二 類 の 語 と 、 第 三 ・四 ・五 類 の 語 と の 間 に 型 の 対 立 が 見 ら れ 、
︹ 4︺ 第 3 種 の も の は 、 表 で ﹁西 南 部 方 言 ﹂ と 呼 ん だ も の で 、 分 布 領 域 は 肥 前 南 部 か ら 肥 後 西 部 を か す め て 薩
第 一 ・二 類
型 ) は 多 く 上 昇 調 、 時 に、 方 言 に よ って は 全 平 調 に発 音 さ れ る 。 ( た だ し 早 岐 ・宮 之 浦 ・枕 崎 な ど に 注 目 す
︿二 型 ア ク セ ン ト ﹀ の 方 言 と 呼 ば
べ き 例 外 が あ る 。) そ し て 、 本 州 方 言 に 比 較 す る と 、 そ の 外 貌 に お い て 、 関 東 ・中 国 方 言 に 対 し て よ り も 、 む し ろ 近 畿 ・土 佐 方 言 に 対 し て 類 似 性 を 持 つ。( 3) 平 山 氏 は か つ て こ れ を れ た。
豊 後方 言 で○ ● ● 型 であ り 、 筑前 方 言 ・鹿 児 島 方 言 で○ ● ○ 型 で あ り、 長崎 方 言 で● ●○ 型 であ り、 藤 津 方 言 では ● ○ ○ 型
注 ( 1) 例 え ば、 関東 ・中 国方 言 で○ ● ● 型 であ り 、 近 畿 ・土 佐 方 言 で● ● ○ 型 であ る、 第 一類 二拍 名 詞 + 助 詞 の形 は、 豊 前 ・
であ る。 そう す る と、 関 東 ・中 国 方 言 で ○ ● ● 型 であ り 、 近畿 ・土 佐 方 言 で● ● ● 型 であ る 語 、 例 え ば ﹁形﹂ 類 三 拍 名 詞 の
単 独 の形、 第 一類 三拍 動 詞 の終 止 形 ・連 体 形 な ど も 、豊 前 ・豊 後 方 言 では ○ ● ● 型 、 筑前 方 言 ・鹿 児 島 方 言 で は○ ● ○ 型 、 長 崎方 言 では ● ○ ○ 型、 藤 津 方 言 で は● ○ ○ 型 であ る と 見 て、 大 体 よ い。
( 2) 数 々 の論 文 があ る が、 それ ら は 氏 の ﹃ 九 州方 言音 調 の研 究﹄ の中 に 総合 さ れ て いる。
( 3) た だ し 鹿 児島 県 南 端 の枕 崎 市方 言 は、 型 の相 が むし ろ 関 東 ・中 国 式 に 近く 、 興 味 深 い。
三 九 州 本 土 の ア ク セ ン ト の 対 立 は ど う し て で き た か さ て 、 こ れ ら 九 州 本 土 の アク セ ント の諸 変 種 は ど う し て でき た も の か。
ま ず 、 東 北 部 方 言 であ る が、 こ れ は 、 関東 ・中 国 な ど 東 京 式 方 言 と 同系 統 と いう の が定 説 で あ る 。 つま り 、 同
じ も と か ら 大 体 同 じ よう な 経 路 を 経 て でき 上 が ったも のと 考 え る の であ る 。 こ れ は 問 題 あ る ま い。 と に かく 、.こ れ ほ ど よ く 似 て いる の で あ る か ら 。
も っと も 、東 北 部 方 言 のう ち 、 豊 前 ・豊 後 方 言 で は 、 第 二 類 の語 の ア ク セ ント が 関 東 ・中 国 方 言 と 違 って いる 。 が 、 こ れ は 、 服 部 四 郎 氏︵1)にな ら って、 次 のよ う にし て でき たも のと 考 え た い。
︽関 東 ・中 国 方 言 お よ び豊 前 ・豊 後 方 言 が同 一ア ク セ ント を 持 って いた こ ろ 、 ︿第 二 類 名 詞 +助 詞﹀ の形 は、
︿第 一類 名 詞 +助 詞 ﹀ の形 、 ︿ 第 三 類 名 詞 +助 詞 ﹀ の形 の いず れ と も 違 う 、 第 三 の 型、 し か も そ れ は 、 ○ ● ▼
型 にも 、 ○ ● ▽ 型 に も 変 化 す る 可能 性 のあ る 型 であ った 。 そ れ が 、 関 東 ・中 国 方 言 で は ○ ● ▽型 に変 化 し て
第 三 類 に 合 流 し 、 豊 前 ・豊 後 方 言 で は 、 ○ ● ▼ 型 に変 化 し て、 第 一類 に合 流 し た 。︾
こ の推 定 は 、 二拍 名 詞 以 外 の語 の ア ク セ ント に お け る 、 豊 前 ・豊 後 方 言 の特 色 の成 因を も 十 分 説 明 し つく す こ
とが ( 2)でき る か ら 、 妥 当 な も の と し てよ いで あ ろう 。 な お 、 表 で ﹁外 輪 東 京 式 方 言 ﹂ と し てあ げ た 越 後 ・遠 江 地 方 の方 言 は 、 こ の 豊前 ・豊 後 方 言 と 全 く 同 一種 類 のも の で あ る 。
す な わ ち 、 豊 前 ・豊 後 方 言 は 、 関 東 ・中 国 方 言 な ど と と も に 、 大 き く ︿東 京 式 方 言 ﹀ の 一種 と言 う べき 方 言 の
一分 派 で、 特 に 、 そ の う ち 、 外 輪 東 京 式 方 言 に属 す る も のと 見 な し て 不 都 合 は な い、 と いう こ と に な る 。
次 に 、 東 北 部 方 言 の う ち 、 筑 前 主 流 方 言 は 、 豊 前 ・豊 後 の方 言 がさ ら に 一変 化 を 起 し て でき たも のと 考 え て よ か ろ う 。( 3) そ こ に起 こ った 変 化 と は 次 のよ う な も の であ った ろ う と 思 う 。
︽豊 前 ・豊 後 方 言 で は 、 ○ ● ● 型 の 語 が 、 一時 代 前 に○ ○ ○ 型 に 変 化 し 、 再 転 し て、 ○ ● ○ 型 にな り、 も と
か ら ○ ●○ 型 であ った 語 に合 流 し た。︾
筑 前 主 流 方 言 の 二拍 名 詞 以 外 の語 の ア ク セ ント を 検 討 ( 4)し ても 、 こ の推 定 は 支 持 さ れ る 。
た だ 、 こ こ に 注 意 す べき は 、 こ の方 言 で は 、 第 一類 二 拍 名 詞 で 、 ● ○ ∼ ● ○ ▽ 型 に な って いる も の が 少 数 見 い
だ さ れ る こ と で あ る 。 例 え ば 、 ﹁牛 ﹂ ﹁柿 ﹂ ﹁紙 ﹂ ﹁鳥 ﹂ ﹁橋 ﹂ な ど が そ れ であ る。(5︶ が、 今 、 こ れ ら の語 を 検 討し
て み る と 、 第 1 表 の注 に 注 記 し た よ う に、 いず れ も 、 第 二 拍 に狭 い母 音 を 有 す る 語 で あ る 。 こ れ ら は ︿第 二 拍 を
高 く 発 音 す る こ と が や や 不 自 然 な 語 だ ﹀ と 言 って よ い。 し か ら ば、 こ の点 に つ いて の解 釈 は 簡 単 だ 。 そ れ ら は 、 ○ ● ○ 型 にな り そ こね て ● ○ ○ 型 にな った の だ 。 つま り、 こう 考 え ら れ る。
︽筑 前 主 流 方 言 は 、 以前 、 豊 前 ・豊 後 方 言 のよ う な ア ク セ ント 体 系 を 持 って いた 。 そ し て、 ○ ● ● 型 の上 に
変 化 が起 こ り 、 大 部 分 は ○ ● ○ 型 に 変 化 し た が 、 ○ ● ○ 型 にな り に く いも のは ● ○ ○ 型 に変 化 し た 。︾
お そ ら く 、 今 、 ● ○ ○ 型 に な って いる 語 は 、 も と ○ ● ● 型 か ら 、 ○ ○ ● 型 に 変 化 し 、 ● ○ ● の よ う な 形 を 通 っ て、 今 の● ○ ○ 型 に 変 化 し た も の であ ろ う 。
ま た 、 筑前 方 言 のう ち で、 第 1 表 の 糸 島 式 方 言 は 、 ︿第 三 類 名 詞 +﹁の﹂﹀ の形 が ○ ● ● 型 で と ど ま って い る 点
で 、 筑 前 主 流 方 言 に 対 し て異 色 を た た え て いる 。 こ の方 言 の こ の形 は、 第 三 類 名 詞 を 単 独 に 言 う 場 合 の ア ク セ ン
ト に 牽 制 さ れ た た め に 、 ○ ○ ○ 型 に変 化 せ ず 、 そ のた め に、 ○ ● ○ 型 に 変 化 す る こ と がな か った も のと 考 え ら れ る。 以 上 の考 察 を 総 合 す る と 、 こう な る 。 ︽筑 前 諸 方 言 は 、 豊前 ・豊 後 方 言 の 一変 化 し た も の であ ろう 。︾
次 に 中 央 部 の 一型 ア ク セ ント 方 言 は ど う し て でき た か 。 これ は 形 態 上 は、 第 1表 に 掲 げ た 仙 台 方 言 ・福 井 方 言
と 全 く 同 種 類 の も の であ る 。 し か ら ば 、 仙 台 ・福 井 両 方 言 と 同 じ 系 統 の も のと す べ き か 。 否 。 何 と な れ ば 、 仙
台 ・福 井 方 言 と、 九 州 中 央 部 方 言 と が 同 じ も と か ら 同 じ よ う に変 化 し て でき た も のと す る な ら ば 、 そ こ に は 何 か 、
そ う いう こ と を 支 持 す る 傍 証︱
例 え ば ︿ア ク セ ント 以 外 の部 面 に お け る 言 語 的 事 実 の 一致 ﹀ と いう よ う な 傍 証
があ って よ いは ず であ る が、 そう いう も のが 何 も 得 ら れ な いか ら であ る 。
元 来 、 一型 ア ク セ ント のよ う な 、 型 の区 別 のな いア ク セ ント 体 系 の成 立 に つ いて は 、 服 部 氏 ( 6)以 来 祖 語 のア
ク セ ント 体 系 が 崩 壊 し て でき たも の であ る こ と が定 説 と な って いる 。︹ 補3︺ こ れ に 異 論 は な い。 と こ ろ で 、 そ の崩
壊 の過 程 に は いろ いろ違 った 経 路 が 考 え ら れ る 。 現 に 、 第 1表 に見 ら れ る 屋 久 島 一湊 方 言 の アク セ ント な ど 、 も
し 、 ● ○ 型 ← ○ ● 型 と いう 型 の変 化 が起 こ った ら 、 第 一 ・二 ・三 類 の名 詞 単 独 の形 は 第 四 ・五 類 の 型 の単 独 の形
と 区 別 が な く な り 、 たち ま ち 一型 アク セ ント にな る で あ ろ う 。 屋 久 島 栗 生 方 言 のア ク セ ント の ご と き も 、 明 日 に
でも 一型 ア ク セ ント にな り か ね ま じ い様 相 を し て る。 服 部 氏 自 身 も 、 か つ て、 一型 アク セ ント 成 立 の過 程 に つ い
ての推定とし て、後 に ( 7)紹介 す る よ う な も のを 発 表 し た こ と があ る 。 と に か く 、 一型 ア ク セ ント は さ ま ざ ま な
った と考 え る こ と は 強 引 に 過 ぎ る。 そ れ で は 、 九 州 中 央 部 のも のは ど の よ う な 過 程 を 経 て で き 上 が った も の か。
過 程 を 経 て成 立 し 得 るも のゆ え 、 仙 台 ・福 井方 言 と 、 九 州 中 央 部 の方 言 が 、 全 く 同 じ 経 路 を と って今 の状 態 にな
これ に つ い て は 他 の ア ク セ ント 体 系 の成 立 を 考 え た あ と で、 考 察 す る こ と と す る。
最 後 に 、 九 州 西 南 部 に 分 布 す る 二 型 アク セ ント は 、 ど う か。 ま ず 、 こ の 二 型 ア ク セ ント は 、 長 崎 県 下 のも の、
佐 賀 県 下 のも の ⋮ ⋮ と いう よ う に、 地 域 ・地 域 に よ り 型 の相 は 少 し ず つ変 わ って いる 。 が、 全 体 と し て 互 い に似
て いる こ と 、 ま た 、 各 地 方 言 の間 で、 き わ め て 規 則 的 な 型 の対 応 関 係 が 見 ら れ る ( 8)こと を 注 意 し な け れ ば な ら
な い。 こ れ は 、 こ れ ら 二 型 ア ク セ ント 諸 方 言 の成 立 に 関 し て次 のよ う な 事 情 が あ る こ と を 暗 示す る 。
︽こ れ ら の方 言 のう ち のあ る も のか ら 他 のす べ て の方 言 が出 た か 、 そ れ と も 、 こ れ ら の方 言 は す べ て 共 通 の
祖 か ら 分 か れ 出 た か 、 そ れ と も 、 これ ら のう ち のあ る も の (例 え ば D E F ) は 他 の あ る も の ( 例 え ばA B C) か ら 出 、 そ れ ら ( す な わ ち A B C ) が 共 通 の 祖 先 か ら 出 た か 。︾ そ し て 、 こ のう ち で、 第 三 の場 合 が 可 能 性 が 多 いと 考 え る 。
次 に、 こ の 二型 ア ク セ ント の体 系 は 、 そ の外 見 は 、 東 京 式 ア ク セ ント に 似 て いる よ りも 、 む し ろ近 畿 ・土 佐 方
言 な ど で代 表 さ れ る京 阪 式 ア ク セ ント に似 て いるも の であ った 。 し か ら ば 、 系 統 的 にも 、 二 型 ア ク セ ント は京 阪
系 と す べ き であ ろう か 。 か つて 、 服 部 氏 は 、 そ う いう 見 方 に 立 つ推 論 を さ れ た (9︶こ と があ り 、 平 山 氏 も そ れ に
似 た 考 え を く り か え し 主 張 し て お ら れ る。( 10︶ ︹ 補4︺ つま り 、 二 型 ア ク セ ント 体 系 は、 系 統 的 に 言 って、 京 阪 式 に 属 す ると いう の が 通 説 であ る 。
今 、 こ の二 型 ア ク セ ント を 京 阪 系 と 見 る 考 え は、 そ の上 に 起 こ った変 化 を 、 規 模 の小 さ いも の と し て解 釈 で き る 点 で優 れ て いる。 が 、 私 は そ こ に は 三 つば か り 難 点 があ る と 思 う 。
第 一は 、 ︿第 一類 二拍 名 詞 +助 詞 ﹀ の形 の ア ク セ ント に つ い て で あ る。 現 在 二 型 方 言 で は 、 こ の 形 はす べ て 平
山 氏 の いわ ゆ る A 型 、 す な わ ち 、 ● ● ○ 型 又 は ○ ● ○ 型 の よ う な 型 であ る 。 と こ ろ が、 こ の見 方 で は 、 そ れ が ●
● ● 型 か ら 変 化 し て 出 た と考 え る 。 例 え ば 服 部 氏 は 、 ● ● 型 に 付 く 助 詞 の中 に は 低 く 付 く も の があ る 。 そ れ に 類
推 し て、 例 え ば ﹁は ﹂ のよ う な 助 詞 も 低 く 付 く に 至 り 、 ︿名 詞 +助 詞 ﹀ の 形 は す べ て● ● ▽ 型 にな った と 解 釈 し
てお ら れ る 。( 1) 1し かし 、 今 二型 ア ク セ ント 方 言 を検 討 し て み る と 、 東 京 方 言 で ○ ● ● 型 の語 、 京 阪 方 言 で● ●
● 型 の語 は 、 動 詞 の連 体 形 のよ う な も の でも 、 二 型 方 言 で は す べ て ● ● ○ 型 で あ って 例 外 は な い。(12 そ︶う す る
と 、 東 京 語 の○ ● ● 型 、 京 阪 語 の● ● ● 型 と 、 二 型 ア ク セ ント の A 型 と は 、 何 か ︿型 そ のも の の変 化 ﹀ が起 こ っ
て他 方 が でき た、 そ う いう こ と によ って 生 じ た 型 の対 立 で あ る と 見 た 方 がよ いと 思 わ れ る 。 す な わ ち 、 二 型方 言
に お け る ︿第 一類 名 詞 +助 詞 ﹀ の 形 のア ク セ ント の成 立 に つ い て、 ︿類 推 ﹀ と いう よ う な 原 因 を 考 え る こ と は 望 ま し く な いと 思う 。
第 二 の難 点 は、 二 型 方 言 に お け る、 平 山 氏 の いわ ゆ る ︿B 型 の 二拍 名 詞 + 助 詞 ﹀ の 形 で あ る 。 こ の中 に は 、 京
阪 式 方 言 で、○ ● ▼ 型 又 は ○ ○ ▼型 の 語 、す な わ ち 、 ︿第 四 類 二 拍 名 詞 +助 詞 ﹀ の 形 が 入 って いる 。が、 二 型 方 言
の B 型 は 、地 域 に よ っては 、例 え ば 、三 河 内 方 言 ・宮 之 浦 方 言 の ご と く ○ ● ○ 型 と いう 低 く 終 わ る 型 で あ る。︹ 補5︺
ま た、 長 崎 主 流 方 言 は じ め 多 く の方 言 では ○ ○ ● 型 であ って 、 京 阪 式 方 言 と似 て いる が 、 これ は、 次 に来 る 語 が
低 く 付 く こと を 要 求 す る と こ ろ の ○ ○ ● 型 であ る 。 例 え ば 、 長 崎 方 言 でカ タ ガ ( 肩 が )+ ハル ( 張 る)を、 全体
一文 節 のよ う に 言 う と 、 カ タ ガ ハルと な り、 カ タ ガ ハル と は な ら な い。 つま り 、 ○ ○ ● 型 は 、 そ の直 後 に ︿ア ク
セ ント の滝 ﹀ が あ り 、 こ の点 、 近 畿 方 言 の○ ○ ● 型 と は性 格 が違 って いる こ と に注 意 し た い。
と こ ろ で、 ア ク セ ント 変 化 の法 則 の上 から いう と 、 ○ ● ○ 型 、 ○ ● ● 型 、 ○ ○ ● 型、 ○ ● ●'型 ('は滝 を 表 す )、
○○ ●' 型 と いう 五 つ の型 の問 で、 型 の変 化 は ど の方 向 に起 こ り や す いか と いう と 、
︽○ ● ○ 型 か ら ○ ● ● '型 又 は ○ ○ ●'型 へは 起 こ り や す い が、 そ の逆 は 起 こ り に く い。 ○ ● ● '型 か ら ○ ●
● 型 へ、 ○ ○ ● '型 か ら ○ ○ ● 型 へは 起 こ り やす い が、 そ の逆 は 起 こ り にく い。︾ と 言えると思う 。
す な わ ち 、 二 型 方 言 のB 型 は 、 一時 代 前 に は ○ ● ○ 型 であ った の では な い か と 推 定 さ れ る 。 で 、 ︿第 四 類 二 拍
名 詞 + 助 詞 ﹀ の 形 な ど に お い て、 二 型方 言 は 、 京 阪 式 ア ク セ ント か ら 出 た と は 考 え が た いと 思 う の であ る 。( 13)
二 型 方 言 を 京 阪 式 系 と す る 第 三 の 難点 は 、 九 州 西 南 部 方 言 に は 、 ア ク セ ント 以 外 の 点 で、 特 に 近 畿 方 言 、 四 国
方 言 に 似 て いる点 のな いこ と であ る 。 九 州 西 南 部 方 言 は 全 般 的 に ど こ の方 言 に 似 て いる か と いう と 、 や は り 、 地
理 的 に 近 い だ け あ って、 九 州 中 央 部 の方 言 に 近 く 、 そ れ に 次 いで は 九 州 東 北 部 の方 言 に 近 いの であ る 。 そ こ で こ うな る。
︽九 州 西 南 部 の ア ク セ ント 体 系 も 、 も し や 、 九 州 中 央 部 ま た は 九 州 東 北 部 の ア ク セ ント 体 系 に 近 縁 関係 を 持
つも のだ と いう こ と が 言 え な いだ ろ う か。 も し 言 え れ ば 、 そ の方 が合 理 的 と 思 わ れ る が。︾
私 は 、 九 州 西 南 部 の ア ク セ ント 体 系 に対 し て 、 こ の よう に 見 る こ と が で き る と 思 う 。 こ の考 え は 、 第 六節 で述
べ よう 。 私 が こ の考 え に 立 ち 至 った のは 、 今 度 、 九 学 会 の調 査 に 加 わ って 対 馬 の ア ク セ ント を 知 り 、 壱 岐 の アク
セ ント を 知 り、 北 九 州 の ア ク セ ント を 再 検 討 し た から で あ る 。 次 節 に は 、 そ の、 壱 岐 ・対 馬 の ア ク セ ント の性 格
を 紹 介 し よう 。
注 (1 ) 服部 四郎 ﹁ 原 始 日本 語 の二音 節 名 詞 のアク セ ント﹂ (﹃ 方 言﹄ 七 の六 所 載) を 参 照。
(2 ) 例 えば 、 第 一類第 一拍 名 詞 ( 例 、 ﹁蚊﹂ ﹁ 子 ﹂ な ど)+﹁ま で﹂ ﹁ な ら ﹂ の形、 第 一類 二拍 動 詞 ( 例 、 ﹁置 く ﹂ ﹁ 泣く﹂など)
+﹁ば ﹂ ﹁ な ﹂ の形 が、 東 京 ・広島 方 言 では ○ ●○ 型 であ り、 豊前 ・豊 後 方 言 で は○ ● ● 型 であ る こと、 な ど 。 ( 3) 平 山 輝 男 氏 の前 出 ﹃ 九 州 方 言 音 調 の研 究﹄ の 二一 五 ペー ジを 参 照。
(4 ) 例え ば 、 筑前 大 部 の方 言 では 、 ○● ● 型 の語 が 全 然 なく 、 第 一類 三 拍 動 詞 ( 例、 ﹁ 上 がる ﹂ ﹁明 け る﹂ な ど ) の終 止 形 ・ 連 体 形 、 ﹁形﹂ 類 の三拍 名 詞 の単 独 の形 な ど が○ ● ○ 型 にな って いる こと 、な ど。
( 4) ﹂ (﹃方 言 ﹄ 二 の 二) を 見 よ。
( 5) ほか に 、 ﹁ 車 ﹂ ﹁桜﹂ の単 独 の形 など 、 第 二拍 の母 音 の狭 いも のは 、 豊前 ・豊 後 方 言 で○ ● ● 型 の三 拍 名 詞 でも 、 ● ○ ○ 型 にな って いる 傾向 があ る 。 ( 6) 服 部 四郎 博 士 ﹁国 語諸 方 言 のア ク セ ント概 要 ( 7) 三 六 八 ペー ジを 見 よ。 ( 8) 平山輝男 ﹃ 九 州 方 言音 調 の研 究﹄ の第 二章 を 参 照 。 ( 9) 服 部 四郎 ﹁ 原 始 日本 語 の二 音節 名 詞 のア ク セ ント ﹂ ( 1 に前 出 ) そ の他 を 参 照。 ( 10 ) 平 山 輝男 ﹃ 全 日本 アク セ ント の諸 相 ﹄ 二 二 八 ペー ジ そ の他 。 ( 11 ) 服 部 四郎 ﹁琉 球 語管 見 ﹂ ( ﹃ 方 言﹄ 七 の九) 二 一ペー ジを 見 よ 。
( 12 ) 例 え ば、 ﹁ 形 ﹂ 類 三拍 名 詞 の単独 の形 、第 一類 三 拍動 詞 ( 例、﹁ 上 がる ﹂ ﹁明 ける ﹂ な ど ) の終 止 形 ・連 体 形 な ど。
( 13 ) これ に 対し て 、 ︽ 京 阪式 方 言 の方 で、古 く ○ ● ● 型 の最 後 にあ った ﹁ 滝 ﹂ を 震 い落 し てし ま った ︾ と は考 え ら れな いか、
と いう 疑 いも 起 こ る。 ま た ︽三 河 内 方 言な ど で第 四類 名 詞 +助詞 の形 を ○ ●○ 型 に 言う のは 、 他 の語 への類推 に よ るも の だ︾
と は 見 られ な いか、 と いう 疑 いも 起 こ る。 が、 こ れ は ほか に 何も 成 案 がな い場 合 に は じめ て取 り 上げ れ ば よ いと思 う 。
四 対 馬 ・壱 岐 諸 方 言 の ア ク セ ン ト の 概 要
対 馬 ・壱 岐 の方 言 の アク セ ント と は ど ん な も の か 。 これ に つ い て は、 前 述 の よ う に、 平 山 氏 の以 前 の研 究 が 最
近 公 開 (1さ )れ 、 私 の調 査 の結 果 ( 2)も す で に 一部 活 字 に な った か ら 、 詳 細 は そ れ に ゆ ず って 、 こ こ に は 概 略 を
述 べる に と ど め よ う 。 前 に掲 げ た 第 1表 と 対 照 し て これ ら の 諸 方 言 の ア ク セ ント を 表 示す れ ば 、 次 の第 2表 のよ う であ る。 第 2 図 を 参 照 し つ つ見 ら れ た い。
第 2表 を 、 第 1表 と 比 較 し て み る と 、 対 馬 ・壱 岐 方 言 の性 格 と し て 次 のよ う な 事 実 が指 摘 さ れ る。
( 例 え ば 第 三 ・四 ・五 類 ) は 九 州 東 北 部 方 言 に 似 て いる が、 一部 の語
場 合 に 、 こう 言 え る 。 ︽筑 前 糸 島 地 方 の方 言 は 、 他 のど れ よ り も 、 壱 岐 大 部 の方 言 に似 て いる 。︾
︹1︺ 壱 岐 主 流 方 言 は 、 九 州 東 北 部 の方 言 、 特 に 筑 前 糸 島 地 方 の方 言 にそ っく り であ る。 これ は、 逆 にし て 見 た
︹2︺ 壱 岐 西 北 部 方 言 は 、 半 ば 以 上 の語彙
彙 ( 例 え ば 第 一 ・二類 ) は 、 む し ろ 、 九 州 西 南 部 の 二 型方 言 に似 て い る。 ま た 、 大 部 分 の語 彙 が ● ○ ∼ ● ○
▽ 型 と いう 同 一の型 で発 音 さ れ て いる 点 を 重 要 視 す れ ば 、 九 州 中 央 部 の 一型 方 言 に似 て い る と も 言 え る 。 そ
し て 、 一方 、 次 に 述 べ る 対 馬 主 流 方 言 と も 著 し い類 似 を 持 つ ( 第 一 ・二類 が 第 四 ・五 類へ 合 流 し て とも に 下 降 型 で あ る こ と な ど )。
二 ・四 ・五 類 へ合 流 し て し ま って いる 点 であ る 。 が、 こ う な る と 、 全 語 彙 の ほと ん ど す べ て が 同 一の ア ク セ
︹3︺ 対 馬 主 流 方 言 は 、 何 よ り も ま ず 壱 岐 西 北 部 の方 言 に似 て いる 。 著 し く 違 う 点 は 、 第 三 類 の 半 数 が 第 一 ・
ント で 発 音 さ れ て いる こ と にな る ゆ え 、 一型 ア ク セ ント に、 い っそ う 歩 み 寄 った こ と と な る。
ど )。 た だ し 、 第 二拍 の音 韻 の違 いが ア ク セ ント の違 いに 反 映 し て い る点 に異 色 が あ る 。 久 根 式 方 言 は 、 豆
︹4︺ 対 馬 豆 酘 方 言 は 、 筑 前 主 流 方 言 に 最 も よ く 似 て いる (第 一 ・二・三 類 が 合 流 し て 上 昇 型 にな って いる 点 な
酘 方 言 と 、 対 馬 大 部 の方 言 と の中 間 の色 彩 を 持 つ。
第 2 表 壱 岐 ・対 馬 諸 方 言 ア ク セ ント 対 照 表
注( 1) 右 の ▼は ﹁の﹂、 左 の ▽は ﹁が﹂。
(2) の右 欄 は 第 二拍 に広 い母 音を 有 す る 語を 指 し 、 左欄 は 第 二拍 に狭 い母 音を 有 す る 語を 指 す 。
以 上︹1︺︱を︹総 4合 ︺す れ ば 、 次 のよ う に な る。 ︹ A︺ 対 馬 ・壱 岐 の方 言 は 、 そ れぞ れ 二部 に 分 か れ て いる 。 ︹B ︺ 壱 岐 の主 流 方 言 およ び 対 馬 豆酘式方言 は、筑前 地方 の方 言 と 親 近 性 を 有 す る 。 ︹ C︺ 壱 岐西北部方 言およ び対 馬主流 方言 は、九州東北部 方 言 に 比 較 的 近 いが 、 一型 方言 にも近く、 二型方言 に も 似 た点 があ る。 こ の結 論 は 、 す で に 平 山 氏 が 出 さ れ た も のと ほ ぼ同 一であ る 。 た だ 、 壱 岐 西 北 部 方 言 お よ び対
( 2) 同 上 。 特 に、 豆酘 方 言 に つ いて は、 論 集 ﹃対馬 の自 然 と文 化 ﹄ ( 八 学会 連 合 対 馬共 同 調 査 委員 会 )
注 (1 ) 第 一節 を 参 照。
馬 大 部 の 方 言 と 、 九 州 東 北 部 の 方 言 と の 開 き を よ り 大 き く 見 、 一型 方 言 と の 関 係 を 強 調 す る 点 で ち ょ っと 違 う 。
第2図 対馬 お よび壱 岐 ア クセ ン ト分布 図
こ こ に 思 い起 こ す のは 、 筑 前 方 言 で第 一 ・二 類 の語 の 一部 が ● ○ ∼● ○ ▽型 にな って いた こと であ る 。 こ れ は
壱 岐 主 流 方 言 に も 見 ら れ る と こ ろ であ る 。 私 は 、 以 前 に、 ︽○ ● ● 型 が○○○ 型 に 変 化 し た 時 に、 ○ ● ○ 型 にな
り に く いも の が ● ○ ○ 型 に 変 化 し た ︾( 4) と 考 え た。 今 、 壱 岐 西 北 部 の第 一 ・二 類 の語 に こ の考 え 方 を 適 用 し た
いと 思 う 。 す な わ ち 、 こ の方 言 で は 、 ○ ● ● 型 は 、 筑 前 方 言 と は 違 い、 ○ ● ○ 型 に 変 化 せず 、 す べ て ● ○ ○ 型 に
変 化 し た と 考 え る の であ る 。 こ の考 え は 二拍 名 詞 以 外 の語 に つ い て考 え た 時 に も 具 合 が よ い。(5) 同様 に、助 詞
の付 か な い形 で は 、 ○ ● 型 が ● ○ 型 に 変 化 し た と 考 え る の であ る 。 お そ ら く 、 ○ ● 型 が● ○ 型 に変 化 す る 時 は、
途 中 、 ○ ○ 型 を 迂 回 し た で あ ろ う 。 ○ ● ● 型 も ○ ○ ● 型 を 経 過 し て ● ○ ○ 型 に変 化 し た も の と考 え る 。
以 上 のよ う に し て 、 私 は 、 壱 岐 西 北 部 の第 一 ・二類 の● ○ 型 、 ● ○ ○ 型 は 、 九 州 東 北 部 の ○ ● 型 、 ○ ● ● 型 か
ら 変 わ った も の と 考 え る 。 こ こ に 注意 す べき は 、 壱 岐 西 北 部 方 言 の第 一 ・二 類 の● ○ 型 、 ● ○ ○ 型 は 、 九 州 西 南 部 方 言 に 通 う 形態 であ る と いう 点 であ る。 す な わ ち 、 こう 考 え ら れ る。
︽こ の 見 方 を 応 用す れ ば 、 西 南 九 州 方言 の● ○ 型 、 ● ○ ○ 型 ( す な わ ち A 型 ) は 、 九 州 東 北 部 の方 言 か ら 変 化 し て で き た も のと 見 る こ と が でき る の では な か ろ う か。︾ こ れ に つ いて は 、 後 に 改 め て論 じ よ う 。
次 に対 馬 の方 言 に移 って 、 ま ず 、 豆 酘 方 言 お よ び久 根 式 方 言 を と りあ げ よ う と 思 う が、 こ れ に つ いて は 、 別 稿
に述 べる から こ こ に は省 筆 し よ う 。 た だ そ の結 論 だ け を 記 す な ら ば 、 次 のよ う にな る 。
︽豆 酘 方 言 は 、 お そ ら く 一時 代 前 に は ︿第 一 ・二 ・三 類 名 詞 +助 詞 ﹀ の形 はす べ て ○ ● ▽型 であ った ろう 。
そ れ が、 発 音 容 易 化 の要 求 に よ って 、 第 二拍 に狭 い母 音 を 持 つ語 に お い て は ○ ● ○ 型 ← ○ ○ ● 型 と いう 型 の
変 化 が起 こ って 現在 のよ う に な った も の であ ろう 。 そう す れ ば 、 豆 酘 方 言 は 、 一時 代 前 には 、 今 の筑 前 方 言
と 大 体 同 じ よ う な も のだ った こと に な る 。 ま た 、 久 根 式方 言 は、 豆 酘 方 言 の○ ○ ● 型 が ● ○ ○ 型 へ合 流 し 、
○ ● 型 の 一部 の 語 ( す な わ ち 、 第 二 拍 の母 音 が 狭 い語 ) が 、 ● ○ 型 に変 化 し た も の であ ろう 。︾︹ 補7︺
な お 、 豆 酘 方 言 ・久 根 式 方 言 の成 因 を 考 え た に つ いて 、 記 憶 し て お く べき こと が あ る 。 一つは ︽豆 酘方 言 で、
一部 の第 一 ・二 ・三 類 名 詞 +助 詞 の形 が○ ○ ▼型 で あ った と いう こと 、 そ し て、 そ れ は 、 ○ ● ▽型 か ら 変 わ って
来 た と 考 え ら れ た ︾ と いう こ と で あ る 。 も う 一つは 、 ︽久 根 式 方 言 で は 、 ○ ○ ● 型 ← ● ○ ○ 型 と いう 型 の 変 化 が
行 わ れ た ︾ と いう こ と であ る 。 これ ら は と も に、 九 州 西 南 部 方 言 の成 立 を 考 え る 上 に、 参 考 と す べき 事 実 と 思 う 。
最 後 に残 った の が、 対 馬 主 流 方 言 であ る 。 こ の方 言 は 、 壱 岐 西 北 部 の方 言 に似 て い る が 、 違 う 点 は ︽第 一 ・二
類 +助 詞 が第 四 ・五 類 +助 詞 と 同 じ く ● ○ ▽型 にな って い る ほ か に、 第 三 類 名 詞 +助 詞 が 、 半 数 ま で も 、 ● ○ ▽
型 に な って いる こ と で あ った。 第 一 ・二 類 名 詞 +助 詞 が ● ○ ▽型 にな って い る点 に つ いて は 、 壱 岐 西 北 部 方 言 に
起 こ った と 全 く 同 じ 変 化 が起 こ った と 見 て よ い。 ○ ● ● 型 ← ○ ○ ○ 型 ← ● ○ ○ 型 の変 化 か 、 あ る いは ○ ● ● 型 ←
○ ○ ● ← ● ○ ○ 型 の変 化 が起 こ った も ので あ ろ う 。 と に かく 、 こ の第 一 ・二類 は 九 州 東 北 部 方 言 の 形 か ら 出 て 、 九 州 南 西 部 方 言 の 形 に な って いる 点 を 重 ね て注 意 し てお き た い。︾
次 に、 対 馬 主 流 方 言 の第 三 類 名 詞 であ る が、 こ れ は 、 第 二 拍 の母 音 の狭 い語 が そ ろ って ● ○ ∼ ● ○ ▽型 にな っ
て い る。 これ は、 久 根 式 方 言 の第 一 ・二 ・三 類 名 詞 の上 に 見 ら れ る のと 全 く 同 じ 現 象 であ る 。 し か ら ば 解 釈 に は 、 そ の場 合 を 適 用し て よ い。 す な わ ち 、 こう な る。
︽対 馬 主 流 方 言 で は、 第 三 類 名 詞 +助 詞 の 形 は 一時 代 前 に は す べて ○ ● ○ 型 であ った ろ う 。 と こ ろ が、 ○ ●
○ 型 のう ち 第 二 拍 を 高 く 発 音 し に く いも の は ● ○ ○ 型 に 変 化 し た。 そ の結 果 、 第 三 類 名 詞 の 半 数 は ● ○ ▽型 に変 化 し 、 第 一 ・二 ・四 ・五 類 の 名 詞 に合 流 す る に 至 った 。︾
あ る いは 、 ○ ● ○ 型 ← ● ○ ○ 型 の途 中 では 、 ○ ○ ● 型 と いう 型 を 経 過 し た か も し れ な い。 ま た 、 対 馬 の 西 北 部
で、 時 々 ﹁犬 ﹂ や ﹁耳 ﹂ のよ う な 語 が ○ ● ▽ 型 に 発 音 さ れ る の が聞 か れ る が、 これ は 、 古 いお も か げ を 伝 え て い る も のと 推 定 さ れ る 。
と に か く 、 こ れ で対 馬 主 流 方 言 も 、 九 州 東 北 部 方 言 か ら 変 化 し た 形 と いう こ と にな った が 、 こ こ で重 ね て 注 意
﹁ 端 ﹂、 ﹁髪 ﹂ と
﹁紙 ﹂ と
﹁上 ﹂ な ど 、 大 部 分 の 同 音 異 義 語 は 同 一ア ク セ ン ト を も っ て い る と 言
﹁飴 ﹂、
し て お く べ き こ と は 、 こ の 対 馬 主 流 方 言 で は 二 拍 名 詞 が ほ と ん ど す べ て ● ○ ∼ ● ○ ▽ 型 と い う 、 同 一の 型 に な っ
﹁ 箸 ﹂と
て い る と い う こ と で あ る 。 つ ま り 、 ︿型 の 区 別 ﹀ が あ る と い っ て も 、 名 ば か り で あ る 。 事 実 、 ﹁雨 ﹂ と ﹁橋 ﹂ と
っ て よ い 。 こ う な れ ば 一型 ア ク セ ン ト に あ と 一歩 と い う と こ ろ で あ る 。 こ の よ う な 、 一型 ア ク セ ン ト に 近 い方 言
が、 九 州 東 北 部 の方 言 か ら 分 か れ 出 た と 推 定 さ れ た 、 と いう こと 、 こ れ を 注 意 し てお き た いと 思 う の であ る 。
注 ( 1 ) 平 山 輝 男 ﹁ 壱 岐 ・対馬 両 方 言 の音 調 に つ いて﹂ ( 前 出) によ る 。 ( 2) 第 三 節を 参 照 。 (3 ) 平山輝男 ﹁ 壱 岐 ・対馬 両 方 言 の音 調 に つ いて﹂ ( 前 出) を 参 照。 (4 ) 第 三 節を 参 照 。
(5 ) 例 え ば、 壱 岐 西 北部 方 言 で、 ﹁ 形 ﹂ 類 三拍 名 詞 の単 独 の形 、第 一類 三 拍 動 詞 の終 止 形 ・連 体 形 な ど、 いず れ も ●○ ○ 型 に な って いる こ と、 な ど 。
六 九 州 本 土 の ア ク セ ント の成 因 再 論
前 節 で、 壱 岐 ・対 馬 の ア ク セ ント の成 立 に つ いて 一通 り 考 察 し 終 え た が 、 こ の考 察 によ って 、 次 の よう な 事 実 を つか みえ た 。
(1 ) 第 一 ・二 類 名 詞 を ○ ● ∼ ○ ● ▽型 に いう 地 方 、 ● ○ ∼ ● ○ ▽型 に 言 う 地 方 があ った が、 そ れ は 豊 前 ・豊 後 方 言 の○ ● ∼○ ● ▼ 型 か ら 変 化 し た も のと 説 明す る こと が で き た 。
( 2) あ る地 域 で、 ○ ● ○ 型 の 語彙 の上 に ○ ● ○ 型 ← ○ ○ ● 型 と いう 型 の変 化 が起 こ った こ と 、 ○ ○ ● 型 ← ● ○
○ 型 と いう 型 の 変 化 が起 こ った こ とを つき と め え た 。
︵3 ) 方 言 のう ち に は 、 実 質 的 に は 、 非常 に 一型方 言 に近 いも のが あ り 、 そ れ も 豊前 ・豊 後 方 言 の体 系 か ら 出 た も の で あ る と 説 明 す る こ と が でき た。
これ ら の事 実 は 、 私 は 、 九 州 本 土 の ア ク セ ント の諸 変 種 の成 立 を 考 え る の に、 重 要 な カ ギ にな る と 思 う 。 今 、
次 に、 第 三 節 で宿 題 と し て残 し て お いた、 九 州 西南 部 の 二 型方 言 、 九 州 中 央 部 の 一型 方 言 に つい て、 そ の成 立 を 考 え てみよう。
ま ず 最 初 に 、 二 型方 言 に つ いて 考 え る と 、 こ の方 言 では 、 地 域 によ り 、 第 一 ・二 類 名 詞 は ● ○ ∼● ○ ▽型 のも
の、 ● ○ ∼ ○ ● ▽ 型 のも のな ど いろ いろあ った 。 藤 津 方 言 のよ う な ● ○ ∼○ ● ▽ 型 のも の は 、 壱 岐 西 北 部 方 言 、
対 馬 主 流 方 言 な ど にな ら って そ の成 立 を 考 え るこ と が でき る。 す な わ ち 、 これ ら の方 言 で は 、 お そ ら く 一時 代 前
に は これ ら を ○ ● ∼ ○ ● ▼型 で 発 音 し て いた ろ う 。 そ れ が、 ○ ● 型 ← ○ ○ 型 ← ● ○ 型 、 ○ ● ● 型 ← ○ ○ ● 型 ← ●
○ ○ 型 と いう よ う な 変 化 を 起 こ し 、 そ う し て でき 上 が った のが 、 藤 津 方 言 だ と 思 う 。 ○ ● ▼ 型 か ら ○ ○ ▽ 型 に な
れ ば 、 ● ● ▽型 にも ○ ● ▽ 型 に も 変 化 す る こと が で き る 。 ● ● ▽型 にな った の が 長 崎 主 流 方 言 そ の他 であ り、 ○
● ▽型 に な った の が 鹿 児 島 主 流 方 言 であ ろ う 。 も っと も 、 ○ ● ▽型 、 ● ● ▽ 型 の中 に は 、 ● ○ ▽ 型 か ら 再 転 化 し た も のも あ る か も し れ な い。
こ のよ う に し て、 二 型 方 言 の いわ ゆ る A 型 は 、 豊 前 ・豊 後 方 言 の○ ● ∼○ ● ▼ 型 か ら 変 化 し た 形 だ と 推 定 す る
が 、 こ の よう な 推 定 が 許 さ れ る のは 、 たま た ま ︿二 型 方 言 に お け る A 型 の語 彙 と 、 豊 前 ・豊 後 方 言 に お け る○ ●
● 型 の語 彙 と が 一致す る ﹀ と いう 事 実 があ った か ら こ そ であ る 。 両 方 言 の間 に お け る 、 こ の規 則 的 な 型 の対 応 関 係 は 、 従 来 無 視 さ れす ぎ て いた の では な いか と 思う 。
次 に、 二 型 方 言 に お け る B 型 の語 彙 は ど う か 。 こ こ では ま ず 、 二 型方 言 のう ち の三 河 内 方 言 ・宮 之 浦 方 言 に 注
意 し た い。 こ こ で はす べ て の B 型 の語 彙 は ○ ● ∼○ ● ▽型 にな って いる 。 これ を 古 い形 と 考 え る 。 な ぜ な ら ば 、
ほ か の 形 か ら こ の形 へは変 化 が 起 こ り に く いと 思 う か ら で あ る 。 そ れ な ら ば 、 ど う し て 、 第 三 ・四 ・五 類 の語 彙
が 、 ○ ● ∼ ○ ● ▽ 型 にな って いる か。 お そ ら く 、 一時 代 前 に は 、 豊 前 ・豊 後 方 言 の よ う に 、 第 三 類 は ○ ● ∼○ ●
▽型 、 第 四 ・五 類 は ● ○ ∼ ● ○ ▽型 であ った と 思 う 。 そ のう ち 、 ● ○ 型 、 ● ○ ○ 型 に 変 化 が起 こり 、 ア ク セ ント
の山 が後 の拍 にす べ って○ ● 型 、○ ● ○ 型 へ合 流 し た 。 こう し て で き た の が 早 岐 方 言 ・宮 之 浦 ( 1)方 言 であ ろう
と 思 う 。 そ れ か ら ほ か の 型 、 例 え ば 長 崎 方 言 な ど の○ ● ∼○ ○ ▼,型 の成 因 は わ け は な い。○ ● ○ 型 か ら、ア ク セ
ント の山 が も う 一つ後 にす べれ ば ○ ○ ●'型 と な る 。 つま り、○ ○ ●,型 に 見 ら れ る 語 末 の ︿滝 ﹀ は 、 以 前 ○ ● ○
型 であ った と いう こと の貴 重 な 痕 跡 ( 2)で あ る 。 最 後 に滝 のな い○ ○ ● 型 は、○ ○ ●,型 か ら 変 化 し た も の で あ ろ う 。 藤 津 方 言 な ど の○ ○ ○ 型 は 、 さ ら に そ れ か ら 変 化 し た も のと 考 え る 。
以 上 のよ う に し て 、 二 型方 言 の B 型 は 、 豊 前 ・豊 後 方 言 の ア ク セ ント か ら 変 化 し て でき た も のと 推 定 し た 。 今 、 これ と 先 に述 べた A 型 の 場合 と 総 合 す れ ば 、 こう 言 え る 。 ︽九 州 西 南 部 の 二 型 方 言 は 、 豊 前 ・豊 後 方 言 の 一変 種 であ る 。︾
で は 次 に九 州 中央 部 の 一型 方 言 の成 立 に つ い て は同 様 な 解 決 は 望 め な いだ ろ う か 。 こ こ に 思 い起 こ さ れ る の は 、
壱 岐 ・対 馬 の方 言 のう ち に 、 一型方 言 に非 常 に 近 いも のが あ り、 そ れ が豊 前 ・豊 後 方 言 か ら 分 か れ 出 た と 推 定 さ
れ た 事 実 であ る。 対 馬 主 流 方 言 は そ の 一例 で あ る が、 今 、 対 馬 主 流 方 言 か ら 一型 方 言 が 生 ま れ る こ とを 考 え る の
は 困 難 で は な い。 す な わ ち 、 ︿第 三 類 二 拍 名 詞 +助 詞 ﹀ の形 の○ ● ▽ 型 が 、 一部 だ け ● ○ ▽型 に 変 化 す る代 わ り
に 、 全 部 が ● ○ ▽型 にな れ ば 、 そ こ に 立 派 な 一型 方 言 が 生 ず るわ け であ る 。 こ の場 合 、 ○ ● ▽型 は 、 一旦 ○ ○ ▼
型 を 通 って● ○ ▽型 にな る であ ろう が、 と に か く こう いう 変 化 を 遂 げ て 一型 方 言 が で き 上 が る と 想 像 す る こ と は 無 理 で は な いと 思 う 。
も っと も 、 九 州 本 土 の 一型 方 言 の成 立 に つ い て は 、 次 のよ う に 考 え る 方 が 自 然 か も し れ な い。 ま ず 、 ︿第 四 ・
五 類 名 詞 +助 詞 ﹀ の形 が 、 二 型 方 言 の上 に 起 こ った と 想 像 し た よ う に○ ● ▽型 にな る 。 そ の後 、 第 一 ・二類 名 詞
の 上 に 、 筑 前 方 言 、 壱 岐 ・対 馬 の 一部 の 方 言 の 上 に 起 こ った と 想 像 し た よ う に 、 ○ ● ● 型 ← ○ ○ ○ 型 ← ○ ● ○ 型
と いう 変 化 が 起 こ る と 想 像 す る の で あ る 。 こ れ で も 一型 方 言 が で き 上 が る わ け で あ る 。(以 上 第 一案 )
あ る いは ま た 次 の よ う に考 え る こ と も で き る。 こ れ は 服 部 氏 ( 3)が か つ て 公 け に さ れ た も の で あ る が 、 ︿第
三・ 四・ 五 類 + 助 詞 ﹀ の 形 の 上 に 、 ○ ● ▽ 型 ← ○ ○ ▼ 型 ← ○ ○ ▽ 型 と い う 変 化 が 起 こ り 、 一方 、 ︿第 一 ・二 類 +
助 詞 ﹀ の 形 の 上 に 、 ○ ● ▼ 型 ← ○ ○ ▽ 型 と い う 変 化 が 起 こ った と 考 え る の で あ る 。 こ う し て も 、 一型 方 言 は で き 上 が る は ず で あ る 。( 以 上 第 二案 )
実 際 に は 、 ど の 過 程 を 経 て 現 在 の一 型 方 言 が で き た か は 不 明 で あ る 。 が 、 いず れ に せ よ 、 豊 前 ・豊 後 方 言 か ら 、 一型 方 言 が で き た と 想 像 す る こ と は 無 理 で は な い と 思 う 。
○ 型← ○ ○ ● 型 の変 化 が起 こ った も のと 思 う 。 つま り ︿B型 二拍 名 詞 +助 詞 ﹀ の 形 が ○● ▽ 型 であ る の は、 二 語 と いう 意 識
注 (1 ) B 型三 拍 名 詞 の単 独 の形 が宮 之 浦方 言 で○ ○ ● 型 であ る の は、 こ の地 方 にも 、 一般 的 に は、 長 崎 方 言 な ど と 同 様 な ○ ●
と、 名 詞 の部 分 の アク セ ント を 変 えな いと いう 心 理と が は たら い て、古 い○ ● ○ 型 から 変 化 しな か った も のと 思 う 。
いアク セ ント を と ど め て いる も のと考 え る 。
(2 ) 長 崎方 言 でも ︿B型 二拍 名 詞 +指 定 の助動 詞 ﹁じ ゃ﹂﹀ の形 は、 ソ ラ ジ ャ ( 空 じ ゃ) のよう に○ ●○ 型 であ る。 これ も 古
( 3) 服部 四 郎 ﹁ 原 始 日本 語 の二音 節 名 詞 のアク セ ント﹂ ( 前 出 ) によ る。
七 む す び
以 上 、 前 節 ま で に 考 察 し 得 た と こ ろ を 総 合 す れ ば 、 私 は 、 九 州 各 地 の ア ク セ ン ト 体 系 は 、 いず れ も 、 豊 前 ・豊
後 方 言 の も の か ら 分 か れ 出 た も の と 推 定 す る こ と が で き る と 思 う 。 今 、 一応 、 そ の 分 か れ 出 た 事 情 を 表 で 表 せ ば
次 の ペー ジ の第 3 表 のよ う にな る 。 ま た 、 以 上 の諸 関 係 を 、 言 葉 で 述 べれ ば 次 の よう に な ろ う 。
(1 )九 州 諸 方 言 中 、 最 も 古 い ア ク セ ン ト 体 系 を 保 つ も の は 、 入 口 の 豊 前 ・豊 後 地 方 の も の で あ る 。
(2 )筑 前 地 方 の も の は そ れ が や や 変 化 し た も の で 、 壱 岐 大 部 の も の も こ れ に 準 ず る 。 対 馬 豆 酘 方 面 の も の は 、 さ ら に そ れ の再 転 し た も ので あ る 。
(3 )九 州 西 南 部 の も の は 、 豊 前 ・豊 後 方 言 か ら は な は だ し い 変 化 を 遂 げ た も の で あ る 。 中 央 部 の も の は 、 中 途
半 端 な 変 化 を 遂 げ た た め に 、 か え っ て ア ク セ ン ト そ の も の を 失 って し ま った も の で あ る 。
(4 )対 馬 大 部 の も の と 、 壱 岐 西 北 部 の も の と は 、 よ く 似 た も の で 、 豊 前 ・豊 後 の も の 、 九 州 中 央 部 の も の 、 西
(のち 九 学 会 ) で対 馬 を 調 査 し た 時 に 、 言 語 班 の一 員 と し て 同 行 し た 時 の 研 究
南 部 のも の の いず れ と も 通 う 点 が あ る 。 そ の た め に そ れ ら の ア ク セ ン ト 体 系 の 成 因 を 考 え る 上 に 、 重 要 な 資 料 と し て 、 尊 重 す べき も ので あ る 。
︹ 付 記 ︺ 昭 和 二十 五 年 八 月 、 八 学 会 連 合
報 告 。 八 学 会 連 合 編 の ﹃対 馬 の自 然 と 文 化 ﹄ ( 昭 二 十九 年 九 月 、古 今 書 院 刊 ) に ﹁対 馬 付壱 岐 の ア ク セ ント の 地 位 ﹂ と 題
Ken( ky 昭 二u 十" 二3 年 三月 )に発 表 し た ﹁語 調 変 化 の 法 則 の探 及 ﹂ に初 め て 言 及 し た 。
し て 発 表 し た も の の再 録 で あ る 。 九 州 西 南 部 の ア ク セ ント が 乙 種 ア ク セ ント か ら 変 わ った も の だ ろ う と いう こ と は 、 こ の 論 文 に 先 立 ち 、"Toyogo
こ の 論 文 は 、 こ の本 に 収 め た も の の中 で 一番 古 いも の で あ る 。 こ の 論 文 を 書 く 時 に は 、 ま だ 次 に挙 げ る ﹁東 西 両 ア
ク セ ン ト の 違 い が で き る ま で ﹂ と いう 小 稿 は 書 い て お ら ず 、 そ こ に 述 べ て いる こ と は 夢 想 す る こ と さ え し て い な か っ
た 。 ﹁東 西 両 ア ク セ ント の 違 い が で き る ま で ﹂ を 発 表 し た 今 に な って み れ ば 、 例 え ば こ の論 集 三 五 三 ペ ー ジ の 八 行︱ 十 一行 の ︽ ︾ の 中 は 、 次 の よ う に 書 き 換 え な け れ ば いけ な い。
九 州 諸方 言 の系統 推定 図
第 3表 ア クセ ント から見 た
形 の ア ク セ ン ト 、︿第 三 類 名 詞 + ﹁が ﹂﹀ の 形 の ア ク セ ン ト 、︿第 四 ・五 類 名 詞+ ﹁が ﹂﹀ の
(1 ) 各 々 の 枠 の 中 に あ る 三 列 の ア ク セ ン ト は 、 右 か ら 順 に 、︿第 一 ・二 類 名 詞 + ﹁が ﹂﹀ の
形 の ア ク セ ント で あ る 。 (2 ) A 式 ・B 式 ⋮ ⋮ G 式 と い う の は 、 現 在 に は 存 在 し な い が 、 現 在 の ア ク セ ント の 諸 変 種 が でき る 過 程 に お い て 存 在 し た ろ う と 考 え ら れ る ア ク セ ン ト 体 系 。 (3 ) ◎ は ● と も ○ と も つ か ぬ 音 。 (4 ) 〓 は 丁 寧 に 言 え ば 低 く 無 造 作 に は 高 い と 推 定 さ れ る 音 。
︽乙 種 の 方 言 は 以 前 甲 種 の方 言 同 様
﹃名 義 抄 ﹄ の 示 す よ う な ア ク セ ント 体 系 を 持 って いた 。 関 東 や 中 国 の方 言 な ど
の中 輪 乙 種 方 言 は 、 そ のま ま ﹃補 忘 記 ﹄ の よ う な ア ク セ ント 体 系 に 進 ん だ が、 豊 前 ・豊 後 の方 言 な ど の外 輪 乙 種 方 言 で は 、 そ の前 に 次 の よ う な 型 の統 合 を 起 こ し た 。
︾
第一 類 名 詞 ● ● ▼ = ● ● ▼ 第 二 類 名 詞 ● ○ ▼〓 第 三類名 詞 ○ ○ ▼
注
が あ り 、 そ の 先 見 に は 敬 服 せ ざ る を え な い。
部 四郎 博 士 が す で に ﹃方 言 ﹄ 第 七 巻 第 六 号 の ﹁ 原 始 日 本 語 の 二 音 節 名 詞 のア ク セ ント ﹂ の 四 九 ペー ジ に 言 わ れ た こ と
つま り 、 ○ ○ ▼← ● ○ ▼ ← ● ○ ▽ 型 と いう 変 化 は 、 第 三 類 の 語 だ け に 起 こ った と 考 え る わ け で あ る 。 こ の考 え は 、 服
補
︹1 ︺ ︹ 付 記︺ に 挙 げた ﹃ 対 馬 の自 然 と 文化 ﹄ の中 で別 に発 表 し た 。
︹2 ︺ 第 1表 で大 阪・ 京 都 方 言 の ﹁雨﹂ の類 を ○ ● ∼ ○ ● ▽ 型 と表 記 し て いる が、 こ の論 文 の発 表 当 時 は ま だ 〓 と いう 表 記 を 考
え つ いて いな か ったた め で、 現在 な ら ば、 京 都 方 言 は○ 〓 ∼○ 〓 ▽型 、 大 阪方 言 は ○〓 ∼○ ● ▽型 と 表 記 す る と ころ であ る 。
ま た、 枕 崎 市 の〓 ○ ▽型 の〓 は 、 上 村 孝 二 氏 は中 位 の高 さ と 言 わ れ る。 筆 者 は自 然 の発 音 で は中 位 の高 さ であ る が、 丁 寧 な
発音 では 低 の高 さ にな る も のと 観 察 し た 。す な わ ち 調素 の考 え で いけ ば、 ○ と な る も のと 見 る。〓 で 表 記 し た 拍 は す べて 同 様 であ る 。
それ か ら 枕 崎方 言 の第 三 類 ∼第 五 類 の名 詞 は、 私 自 身 のそ の後 の調 査 の結 果 で は、 丁寧 に は○ ○ ∼○ ○ ▽調 で、 自然 な 発
音 では ● ○ ∼○ ● ▽調 に発 音 さ れ る 。 す な わ ち、 も し〓 と いう 記 号 を 使 う と す れ ば 、〓 ○ 型 、 ○〓 ▽ 型 と表 記す べきも の と
観 察 さ れ た。 上 甑 島江 石 方 言 の助 詞 の付 いた 形 の アク セ ント は 、〓 ○ ▽型 に表 記す べき も ので はな いか と考 え る 。
な お こ の発 表 のあ と で報 告 さ れ た 変 わ った アク セ ント と し ては 、 平 山 輝 男 氏 が ﹃ 国 語学 ﹄ 第 六 九 輯 ( 昭 四 十 二 年 六 月) 所
載の ﹁ ト カ ラ群 島・ 屋 久 島・ 種 子島 の方 言 ﹂ に報 告 さ れ た 種 子 島 のア ク セ ント が 注 目 さ れ る 。す な わ ち、 同 島 西 表 市 方 言 で
は A 型 の語彙 ○ ● 型、 ○ ● ● 型、 ○ ● ● ● 型、 ⋮ ⋮ B型 の語彙 ● ○ 型、 ○ ● ○ 型、 ○ ● ● ○ 型、 ⋮ ⋮
のよ う で、他 のす べ て の二 型 方 言 と 違 い、 全体 は 乙種 方 言 に 近 い様 相 を 呈 し て いる 。 平 山 氏 は こ れ に 対 し て、 一般 の 二型 方
言 がさ ら に変 化 し て でき 上 が った も のと 推 定 し て お ら れ る が、 私 も 全 く 同 意 見 であ る 。第 3表 に あ る薩 摩南 部 式 ・上 甑 島 江
ント の中 でも 一番 先端 を 行 ったも のと 推 定 さ れる 。
石式 のよう な アク セ ント が、 さ ら に 進 ん で で き た ア ク セ ント に相 違 な い。 こ の方 言 は 、枕 崎方 言 と並 ん で、 九 州 二 型 アク セ
ま た 、熊 本 県 天 草島 本 渡 市 の佐 伊 津 と いう 漁 村 の ア ク セ ント は、 周 囲 の も のと 違 う と 言 わ れ て いる が、 これ は 二 拍 語 のA
型 が、 ○ 〓 型 のよ う な拍 の途 中 に音 の下 降 が 現れ る こと が 耳立 つと いう だ け で、 特 に大 き く違 う も ので はな い。
︹ 3︺ ﹃方 言﹄ 第 二 巻第 二号 ( 昭 七年 二月 ) 所載 の服 部 四郎 ﹁ 国 語 諸方 言 の アク セ ント 概 観(4 ﹂) に初 見 。 ︹ 4 ) 平 山 氏 は現 在 こ の考 え は 捨 て られ た 。
︹ 5︺ あ る いは これ ら の方 言 の● ○ 型、 ○ ● ○ 型は 二 次 的変 化 か も し れな い。 そ の場 合 に は 、 こ の考 え は成 立 し な い。
︹ 6 ︺ ○ ● ○ 型と ● ● ○ 型 では 、 ●● ○ 型 か ら ○● ○ 型 の方 へ変 化 が 起 こり や すく 、 反 対 の方 向 に は起 こ り にく いと 考 え ら れ る。
とす る と、 ● ● ○ 型 は ○● ○ 型 か ら の変 化 と は考 え ら れ な い。 こ の原 稿を 書 いた 時 は 全 然夢 想 も し て いな か った が、 次 の稿
﹁ 東 西 両 ア ク セ ント の違 いが でき るま で﹂ に 見 られ る よう に、 大 分方 言 な ど の○ ● ○ 型 は、 ● ○ ○ 型 か ら 変 わ った も のだ と い
う 推 定 がな さ れ た 。 とす る と 、 こ の● ● ○ 型 は、 そ の前 の● ○ ○ 型 から 変 化 し たと 見 る 方 がよ い。
︹ 7 ︺ こ の方 言 で、 そ れ ら の拍 の ︹i︺ ︹u︺ の母音 が脱 落す る こと を 契機 と し て 起 こ った 変 化 であ ろう 。
東 西 両 ア ク セ ント の 違 いが で き る ま で
前 置 き
東 京 語 を代 表 と す る 東 京式 アクセ ント と 、 京 都 ・大 阪 語 を 代 表 とす る 京阪式 アク セ ント と は 、 日本 語 の アク セ ン
ト の中 の両 極 を 示す 存 在 であ る 。 こ の違 いは ど の よう にし て で き た か。 こ れ は 、 日 本 語 の研 究 に、 特 に 日本 語 の
方 言 、 ま た は 、 ア ク セ ント の 研 究 に従 事 し て いる者 に と って は 、 最 も 大 き な 研 究 テ ー マ の 一つ であ る 。 私 も 十 数
年 前 方 言 の アク セ ント の研 究 に 手 を 染 め て 以 来 、 ひ そ か に いだ い て いた 野 望 は 、 こ の問 題 の解 決 で あ る が、 近 ご
ろ ふと し た 機 会 で、 急 に 、 こ の問 題 を 解 く 一つの カ ギ を 見 つけ た よ う な 気 がす る の で、 こ こ に私 が そ れ に導 か れ
と 私 が 言 った の は 、 石川県 七尾 湾 に浮 かぶ能 登島 及び そ の周辺
て到 達 し た考 え を 申 し 述 べ て 、 諸 賢 の批 判 を 受 け た いと 思 う 。 東 西両 アク セ ント の違 いが できた なぞ を解 く カギ︱
地方 の アク セ ントの分 布状 態 で あ る 。 昭 和 二 十 六 年 秋 、 私 は 、 国 立 国 語 研 究 所 の方 言 調 査 団 に 加 わ って 、 初 め て能
登 の地 を 踏 み 、 七尾 市 か ら 能 登島 に渡 った 。 と こ ろ が 、 能 登 一般 の ア ク セ ント は 、 京 阪 式 ア ク セ ント の 一変 種 と
見 ら れ る のに 対 し て 、 能 登 島 の向 田 と いう 集 落 に は 、 東 京 式 ア ク セ ント そ っく り の アク セ ント が、 そ し て そ の付
近 に は、 京 阪 式 ア ク セ ント か ら 東 京 式 ア ク セ ントへ 変 わ る ち ょう ど 途 中 のよ う な ア ク セ ント や 、 あ と 一歩 で 東京
式 に 変 わ る と 言 いた いア ク セ ント が 、 見 つか った の で あ る 。 そ こ で 、 私 は 、 簡 単 に言 え ば ︽東京 式 アク セ ント な
るも のは、京 阪式 アク セ ント が変 わ って できた も ので はな いか︾ と いう 憶 断 に到 達 し た の であ る 。
例 え て 言 う な ら ば 、 私 は 子 供 であ る。 京 阪 式 ア ク セ ント は 赤 いザ ラメ であ る 。 東 京 式 ア ク セ ント は カ ルメ 焼 き
であ る 。 私 と いう 子 供 は、 す で に、 赤 いザ ラメ を 見 、 カ ルメ 焼 き を 見 て、 色 や 味 か ら、 同 じ も と か ら で き た も の
と 思 って いた 。 が 、 ど っち か ら ど っち が でき たも のか 見当 が つか な か った 。︹ 補1︺ が、今 度 、能 登 と いう カ ルメ 焼
き 商 人 の店 へ行 って みた ら、 砂 糖 を カ ルメ 焼 き のな べ に 入 れ た ば か り のと こ ろ 、 な べ の中 で煮 立 って いる 砂 糖 、
な べ の中 で 大 体 カ ルメ 焼 き の形 を な し た と こ ろ、 な べ か ら 取 り 出 し た ば か り の、 ま だ プ ツプ ツ泡 を 吹 いて いる カ
ルメ 焼 き 、 そ ん な も の が 目 に 入 った 。 そ れ に よ って、 赤 いザ ラメ と カ ルメ 焼 き の関 係 は 、 カ ルメ 焼 き か ら 赤 い ザ
も っと も 、 果 た し て、 近 畿 アク セ ント を 赤 いザ ラメ に例 え て い いも の か、 東 京 式 ア ク セ ント
ラメ が で き た の で は な く て 、 赤 いザ ラメ か ら カ ルメ 焼 き が でき た のだ と いう こ と が 分 か った 。 ま あ こん な ふ う な も の だ と 思 う 。︱
を カ ルメ 焼 き に例 え て い いも のか 、 ま た 能 登 島 の アク セ ント の諸 変 種 を カ ルメ 焼 き 屋 の店 先 のも の に例 え て い い
も の か ど う か、 こ れ に つ い ては 十 分検 討 さ れ る べき であ って、 各 位 の冷 静 な 批 判 を 待 た な けれ ば な ら な い。
な お 私 は 、 翌 二 十 七 年 夏 、 九 学 会 連 合 能 登 調 査 団 に 参 加 し て、 さ ら に詳 し く こ の地 方 の ア ク セ ント を 調 査 し、
上 の信 念 を さ ら に 強 め る こ と が でき た 。 こ こ に 発 表 す る も の は、 そ の調 査 の結 果 で あ る 。 発 表 に 当 た り 、 研 究 に
便 宜 を 与 え ら れ た 中 村 通 夫 氏 、 岩 井 隆 盛 氏 、 平 山 輝 男 氏 、 柴 田武 氏 、 野 元 菊 雄 氏 、 芳 賀 綏 氏 、 吉 沢 典 男 氏 、 ア ク セ ント の被 験 者 と な ら れ た こ の地 方 の方 々に 謝 意 を 表 す る 。
一
東 西 両 ア ク セ ント 体 系 の違 いは、 ど う し て 生 じ た か 。 こ の問 題 を 論 じ る に当 た り 、 ま ず 、 東 西 両 ア ク セ ント の 違 い の本 質 を 再 検 討 し て み た い。
今 、 両 ア ク セ ント 体 系 の間 に お け る 違 いを 文 節 単 位 に ま と め て み る と 、 次 の第1 表 を 得 る。 な お 、 京 阪 式 ア ク
セ ント の代 表 と し て 、 京 都 ・大 阪 語 よ り 古 型を 保 有 す る こ と の 多 い 和歌 山市 方 言 を 採 り 、 東 京 式 ア ク セ ント の代
表 と し て 、 多 く の諸 方 言 の中 で比 較 的 古 い姿 を 多 く 持 って いる と 見 ら れ る 山 梨県 甲府 市方 言 を 採 った 。 ﹁ 第 何類﹂
と いう 術 語 に つ いて は 次 の第 2 表 を 参 照 さ れ た い。 ま た、 参 考 と し て ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ そ の他 に よ って知 ら れ る 院
政 期 の京 都 ア ク セ ント 、 ﹃補 忘 記 ﹄ そ の他 に よ って知 ら れ る近 世 初 期 の京 都 ア ク セ ント を 掲 げ た 。︹ 補2︺ ● は 高 い 第 1表 東 西両 アク セ ント の型 の対応 表 ︹ 補3)
︹ 備考︺ (2 と) (7 は) 文 末 に 立 た ぬ語 。(3 と) (8 は) 文 末 に立 ち う る 語。 (4 と) (5 は)﹃ 名 義 抄﹄ 時 代 あ る 種 の助 詞 が 付 いた 場 合 、差 異 の有 無
未 詳 。( 10) の語彙 のう ち、 ﹁ 兎 ﹂ 類 三拍 名 詞 は 甲府 で○ ● ● 型 の こと が 多 い。( 12) の語類 は、 ﹃名義 抄 ﹄ 時 代 は 三拍 語 であ った 。
拍 を 、 ○ は 低 い拍 を 表 し 、,の印 は 、 次 に来 る 語 が 必 ず 低 く 付 く こ と を 表 す 。
こ の表 を 見 て、 現 実 の方 言 ア ク セ ント が 、 ほ ん と う に こ の よ う な 見 事 な 対 応 関 係 を 示す か と いぶ か る 人 が あ る
か も し れな い。 も ち ろ ん 語 彙 の中 に は、 対 応 の例 外 を な す も のも あ る 。 例 え ば 、 次 の よ う な 外 来 語 や 漢 語 は 、 東
パ ンが 。 バ タ が 。 タ ンク 。 ポ ンプ 。 馬 車 が。 主 婦 が。 電 気 。 焜 炉 。 ⋮ ⋮
西 両 ア ク セ ント で と も に● ○ ○ 型 であ って 、 区 別 が な い。
け だ し 、 これ ら は後 世 にな って 発 生 し た と 見 ら れ る 語 であ る 。 こ のよ う な 後 世 にな って 発 生 し た 語 、 そ れ か ら 後
世 にな って 、 種 々 の原 因 か ら 個 別 的 な ア ク セ ント 変 化 を 遂 げ た と 見 ら れ る 語、 これ は例 外 であ る。 が 、 そう いう
すな わ ち、
語 を 除 いた 場 合 に は 、 両 方 言 は 、 前 ペー ジ のよ う な 見 事 な 対 応 関 係 を な す と 言 ってよ い。 特 に、 注 意 す べき は 、
前 ペー ジ の表 に おけ る 一つ 一つの対 応 関係 は、 一方 で Aな ら A と いう 型 に属 す る す べ て の語 の上 に 、︱
個 々 の語 の意 義 や文 法的 職能 の いかん を問 わず す べて の語 の上 にわた って見ら れ る こと であ る 。 こ れ は 何 を 表 す か 。
日本 語 ア ク セ ント 史 の 研究 の教 え る と ころ に よ れ ば 、 ア ク セ ント の変 化 が起 こる 場 合 、 同 一型 に 属 す る 語 は 、
そ の語 の意 義 ・文 法 的 職 能 の い か ん を 問 わ ず 、 同 一の型 に 変 化 す る 傾 向 が あ る。 例 え ば 、 ﹃ 名 義抄﹄ 時代 に、○
○ ● 型 で あ った 語 は 、 名 詞 + 助 詞 の 形 で あ ろ う と 、 名 詞 単 独 の形 で あ ろ う と 、 動 詞 の 連 体 法 であ ろ う と 、 ﹃補 忘
記 ﹄ 時 代 に は 、 す べ て、 ● ○ ○ 型 に変 化 し てし ま って いる が ご と き で あ る 。 こ れ は 一見 不 思 議 な こ と のよ う に思
わ れ る が 、 考 え て み れ ば 当 然 で あ る 。 何 と な れ ば 、 ア ク セ ント の型 は 、 有 坂秀 世 博 士 の指 摘 さ れ た よ う に、 音 韻
と 同 性 格 のも の であ る 。︹ 補5︺ 同 一の 音 韻 は 、 も し 変 化 す る 場 合 に は 、 同 一の方 向 に変 化 す る 傾 向 があ る と いう
の が、 言 語 学 で の定 説 であ る 。 そ う だ と す れ ば、 東 西 両 ア ク セ ント 間 の、 こ のよ う な 型 の対 応 関 係 は 、 日 本 語 の
第 二 類 一拍 名 詞
第 一類 一拍 名 詞
︹ 名義 抄 では 平型
︹ 名義 抄 で は平型
( 重 声 と 推 定 さ れ る )︺ 絵 。 尾 。 木 。 粉 。 酢 。 田 。 手 。 菜 。 荷 。 根 。 野 。 火 。 穂 。
( 軽 声 と 推 定 さ れ る )︺ 名 。 葉 。 日 。 藻 。 ⋮ ⋮
︹ 名 義 抄 で は 上 型 ︺ 柄 。蚊 。子 。血 。帆。 実。 身 。 ⋮⋮
第 2表 ア ク セ ン ト か ら 見 た 主 要 語彙 分 類 表 ︹ 補4︺
第 三 類 一拍 名 詞 目。芽 。 湯。 夜。 ⋮ ⋮
︹ 名 義 抄 で は 上 上 型 ︺ 飴 。 蟻 。 魚 。 牛 。 梅 。 枝 。 蝦 。 顔 。 柿 。 瘡 。 風 。 金 。 壁 。 釜 。 雉 子 。 傷 。
( 助 詞 は 高 く 付 い た か と 推 定 さ れ る )︺ 跡 。 粟 。 息 。 糸 。 稲 。 海 。 奥 。 帯 。 笠 。
︹ 名 義 抄 で は 平 平 型 ︺ 足 。 網 。 泡 。 家 。 池 。 色 。 腕 。 馬 。 裏 。 鬼 。 鍵 。 神 。 髪 。 瓶 。 岸 。 草 。 櫛 。
︹ 名 義 抄 で は 上 平 型 ︺ 痣 。 石 。 岩 。 歌 。 音 。 垣 。 紙 。 川 。 北 。 鞍 。 下 。 旅 。 弦 。 寺 。 梨 。 夏 。 橋 。
桐。霧 。 釘。 口。 頸。 腰。此 。 酒。 笹。 里。 皿。 杉。 鈴。 底。 ⋮ ⋮
第 一類 二 拍 名 詞
第 二類 二拍 名詞 人。 ⋮ ⋮ 第 三類 二拍 名詞 靴。倉 。 栗。 事。 竿。 坂。 塩 ⋮⋮ ︹ 名 義抄 では平上 型
( 助 詞 は 低 く 付 いた か と 推 定 さ れ る )︺ 秋 。 汗 。 鮎 。 蔭 。 黍 。 蜘 蛛 。 鯉 。 琴 。
糟 。 数 。 肩 。 鎌 。 上 。 絹 。 今 日 。 屑 。 今 朝 。 鞘 。 :::
第 四類 二拍 名詞
第 五類 二拍 名 詞 ︹ 名 義抄 では平 上型 猿。 露。 鶴。 春。 鮒。 窓。 ⋮ ⋮
﹁形 ﹂ 類 三 拍 名 詞 ︹名 義 抄 で は 上 上 上 型 ︺ 筏 。 錨 。 鰯 。 己 。 飾 。 霞 。 形 。 着 物 。 轡 。 煙 。 仔 牛 。 氷 。 小 山 。 衣 。 魚 。
︹ 名 義抄 では上上 平 型︺ 間 。 小 豆 。 毛 抜 。 釣 瓶 。 と か げ 。 二 つ。 二人 。 昨 夕 。 ⋮ ⋮
舅。 印。 机。 隣。 初。 鼻 血。庇 。額 。羊 。都 。 ⋮ ⋮ ﹁小 豆 ﹂ 類 三 拍 名 詞
﹁二 十 歳 ﹂ 類 三 拍 名 詞 ︹名 義 抄 で は 上 平 平 型 ︺ 黄 金 。 小 麦 。 栄 螺 。 力 。 二 十 歳 。 岬 。 ⋮ ⋮
﹁頭 ﹂ 類 三 拍 名 詞 ︹名 義 抄 で は 平 平 平 型 ︺ 頭 。 鼬 。 う な じ 。 恨 。 男 。 女 。 表 。 鏡 。 敵 。 刀 。 言 葉 。 暦 。 宝 。 剣 。 袴 。 東。 光。 袋。 仏。 蓆。 ⋮⋮
﹁兎 ﹂ 類 三 拍 名 詞
﹁命 ﹂ 類 三 拍 名 詞
︹ 名 義 抄 では 平 上 平 型 ︺ 苺 。後 ろ。 蚕 。鯨 。薬 。便 り。 盥。 病。 ⋮ ⋮
︹ 名 義抄 では平上 上 型︺ いず れ 。 兎 。 鰻 。 狐 。 雀 。 高 さ 。 背 中 。 鼠 。 雲 雀 。 誠 。 操 。 蚯 蚓 。 ⋮ ⋮
︹ 名 義抄 では平平 上 型︺ 朝 日 。 五 つ。 命 。 鰈 。 胡 瓜 。 心 。 姿 。 涙 。 錦 。 火 箸 。 眼 。 ⋮ ⋮
( 軽 声 と 推 定 さ れ る )、 連 体 形 上 上 型 ︺ 言 う 。 入 る 。 産 む 。 売
﹁兜 ﹂ 類 三 拍 名 詞 第 一類 二 拍 動 詞 ︹名 義 抄 で は 終 止 形 上 平 型 又 は 平 型
︹ 名 義 抄 で は 終 止 形 平 上 型 又 は 去 型 、 連 体 形 平 上 型 ︺ 合 う 。 打 つ。 書 く 。 勝 つ。 切 る 。 食 う 。 住
る。追う 。 置く 。押 す。 買う 。貸 す。 苅 る。聞 く。 咲 く。 知る。 散 る。泣 く。 ⋮⋮着 る。 寝 る。す る。 ⋮ ⋮ 第 二類 二拍動 詞
む。剃 る。 取 る。脱 ぐ。 飲 む。 ⋮⋮出 る。 見 る。来 る。 ⋮ ⋮
第 一類 三 拍 動 詞 ︹名 義 抄 で は 終 止 形 上 上 平 型 又 は 上 平 型 、 連 体 形 上 上 上 型 ︺ 上 が る 。 当 た る 。 洗 う 。 浮 ぶ 。 歌 う 。
送 る。 語る。 探 す。 進む。 握 る。 運 ぶ。 ⋮⋮ 明ける 。植 え る。借 り る。消 え る。染 め る。 負け る。 燃 え る。焼 け る。 ⋮ ⋮
第 二類 三 拍 動 詞 ︹名 義 抄 で は 終 止 形 平 平 上 型 又 は 平 上 型 、 連 体 形 平 平 上 型 ︺ 余 る 。 痛 む 。 祈 る 。 移 る 。 恨 む 。 起
こす 。 落 す 。 思 う 。 乾 く 。 崩 す 。 頼 む 。 悩 む 。 ⋮ ⋮ 生 き る 。 起 き る 。 落 ち る 。 覚 め る 。 過 ぎ る 。 建 て る 。 付 け る 。
︹ 名 義 抄 で は 終 止 形 平 上 平 型 、 連 体 形 平 上 上 型 ︺ 歩 く 。 隠 す 。 は い る 。 参 る 。 ⋮ ⋮
溶け る。 投 げる。 ⋮ ⋮ ﹁ 歩 く ﹂ 類 三拍 動 詞
﹁ よ い﹂ 類 二 拍 形 容 詞 ︹ 名 義抄 では終 止形 、連 体形 とも に平 上 型︺ な い。 よ い。 ⋮ ⋮
第 一類 三 拍 形 容 詞 ︹名 義 抄 で は 終 止 形 ・連 体 形 と も に 第 一 ・二拍 上 上 型 ︺ 赤 い。 浅 い。 厚 い。 甘 い。 荒 い。 薄 い。 遅 い 。 重 い。 堅 い。 軽 い。 暗 い 。 遠 い。 ⋮⋮
第 二類 三拍 形 容 詞 ︹ 名 義 抄 で は 終 止 形 ・連 体 形 と も に 平 平 上 型 ︺ 熱 い。 黒 い。 白 い。 高 い。 近 い。 強 い。 長 い。 早 い。 低 い。 深 い。 若 い。 悪 い。 ⋮ ⋮
ハの音 に、 琉 球 語 の パ の音 や フ ァ の音 が 対 応 す る よ う な も ので あ る 。
服 部 四 郎 博 士 は 、 こ の こ と に 思 い 至 り 、 昭 和 六 年 、す で に 次 の よ う な 解 釈 を 試 み ら れ た 。︹ 補6︺ こ れ は ま こ と に
卓 見 で あ って 、 東 西 両 ア ク セ ン ト の 成 立 に 関 し て は 、 こ の 解 釈 に よ ら ず に は 考 え を 進 め る こ と が で き な い と 言 う
双 方 に お い て 、 ア ク セ ン ト の 型 そ の も の の 変 化 が 起 こ り 、 そ の 結 果 現 在 の よ う に な った 。︾
︽以 前 東 西 両 ア ク セ ン ト は 、 同 一の ア ク セ ント 体 系 を 持 って い た 。 と こ ろ が 、 両 ア ク セ ン ト の 一方 、 ま た は
べき であ る。
︽例 外 を な す 語 は 、 両 ア ク セ ン ト の 間 に 違 い が で き て 以 降 、 両 ア ク セ ン ト の 一方 ま た は 双 方 に お い て 、 発 生
そして、
し た か 、 あ る い は 、 個 別 的 な 変 化 を 遂 げ た か し た 語 で あ る 。︾
︽そ の よ う な 型 そ の も の の 変 化 を 遂 げ た の は 、 両 ア ク セ ン ト の う ち い ず れ で あ ろ う か 。︾
そ れ な ら ば 、 問 題 は こ う な る。
す な わ ち 、 答 え は 次 の 三 つのう ち の いず れ か でな け れ ば な ら ぬ 。 a 東 京 式 は 京 阪 式 か ら 変 化 し て で き た 。 b 京 阪 式 は 東 京 式 か ら 変 化 し て でき た 。 c 両 式 と も 第 三 の も の か ら 変 化 し て で き た 。
こ れ は 、 第 1 表 の (1)( ︱1の 2各 ) 項 ご と に 考 え ら れ る べ き で あ る 。 事 実 は a ・b ・ c三 つ の う ち の いず れ か で あ ろ
う か 。 ま ず 三 つ の う ち で 、 cは aや b に 対 し て 存 在 価 値 が 少 な い と 思 う 。︹ 補7︺ な ぜ な ら ば 、 c は 、 aや b と 違 い 、
現 実 に 存 在 し な い アク セ ント 体 系 を 仮 設 し 、 そ れ を も と と し て推 論 す る か ら であ る。 比 較 言 語 学 で、 も し 、 あ ら
ゆ る イ ン ド ・ ヨ ー ロ ッ パ 語 が 、 サ ン ス ク リ ット 語 か ら 分 か れ 出 た こ と が 証 明 せ ら れ る な ら ば 、 何 を 好 ん で そ れ 以
外 に 原 始 イ ン ド ・ヨ ー ロ ッパ 語 な る も の を 想 定 す る こ と が あ ろ う 。 す な わ ち 、 c の想 定 は 、 a、 b の 想 定 で は ど
う し ても 説 明 でき な い場 合 に は じ め て考 慮 に入 れ て よ いと 思 う 。 し か ら ば a、 b のう ち いず れ か で解 釈 で きな い で あ ろ う か。
私 は 、 く り 返 し 述 べる よ う に 、 東 京 式 ア ク セ ント の体 系 は 、 す べ て京 阪 式 ア ク セ ント の体 系 か ら 出 た も のと 推
定 す る。︹ 補8︺ す な わ ち ︿aで解 釈 で き る ﹀ と 断 定 す る の であ る 。 し か ら ば そ の ︿内 容 ﹀ は いか に。 章 を 改 め て 論 じよう。
二
東 西 両 ア ク セ ント は ど のよ う に し て 分 か れ た も のか 。 これ に は 東 西 両 ア ク セ ント が過 去 に お いて ど のよ う な 変
化 を た ど って き た かを 明 ら か に し な け れ ば な ら ぬ 。 そ のた め に、 ま ず 資 料 と な る べき も のは 、 過去 のア クセ ント
を 記載 し た文 献 で あ る 。 が、 当 面 の問 題 に つ いて は 、 過 去 の文 献 は 積 極 的 な 解 答 を ほ と ん ど し て く れ な い。 ま ず 、
東 京 式 ア ク セ ント の方 は 、 過 去 の文 献 を ほ と ん ど 持 た な い。 他 方 京 阪 式 アク セ ント の方 は ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ のよ う
な 文 献 によ って、 平 安 朝 末 期 ま で か な り詳 し く 変 化 のあ と を さ か の ぼ る こと は で き る 。 も し 、 平 安 朝 の京 都 の ア
ク セ ント の 姿 が 、 現在 の東 京 式 ア ク セ ント そ っく り で でも あ る な ら 文 句 は な い。 が 、 事 実 は そ う で は な い。 平 安
朝 の京 阪 式 ア ク セ ント と いう も のは 、 東 京 式 ア ク セ ント と は似 も や ら ぬ も の であ る 。 つま り 、 こ の意 味 で、 文 献
は 、 ︽京 阪式 アク セ ント が東 京式 アク セ ント か ら出 た も のと は言 いが た い︾ と いう 、 消 極 的 な 解 答 し か 与 え て く れ な
い の であ る。 た だ 、 平 安 朝 の京 都 ア ク セ ント に つ いて 知 ら れ る 次 の事 実 は 、 当 面 の問 題 を 考 え る に当 た り 、 考 慮 に 置 く べき で あ る 。
1 (3 の) 語彙 は 、 現 代 の京 阪 語 では 、 ● ○ 型 にな って いる が 、 平 安 朝 の京 都 語 では 、 ● ○ 型 の 語 と ○ ○ 型 の語
と に 分 か れ て いた 。 そ し て そ れ ら の 語 の間 に は 、 意 義 そ の他 の対 立 は 見 ら れ な い。
2 (8 の) 語 彙 は、 現 代 の京 阪 語 で は ● ● ○ 型 に な って いる が、 平 安 朝 の京 都 語 で は、 ● ● ○ 型 の語 と ○ ○ ○ 型
の 語 と に分 か れ てお り、 そ れ ら の語 の間 に は 、 意 義 そ の他 の対 立 は 見 ら れ な い。
3 (9 の) 語 彙 は、 現 代 の京 阪 語 で は ● ○ ○ 型 に な って いる が、 ︿単 語 の場 合 ﹀、 平 安 朝 の京 都 語 で は ● ○ ○ 型 の
語 と○ ○ ● 型 の語 と に 分 か れ て お り 、 こ れ ら の語 の間 には 、 意 義 そ の他 の対 立 が 見 ら れ な い。
4 ︵1 の2 語)彙 は 、 現 代 の京 阪 語 で 二 拍 語 であ る が、 平 安 朝 の京 都 語 では 、 三 拍 語 的 だ った ら し い。︹ 補9︺
次 に東 西 両 ア ク セ ント の過 去 の変 化 のあ と を 明 ら か に し て く れ そ う な も の は 、 今 日東 西 両 方 言 に 伝 わ って いる
漢字 音 の アクセ ント で あ る 。 こ れ は 、 研 究 が 進 め ば 、 あ る 程 度 有 力 な 手 掛 か り にな り そ う であ る 。 そ れ は、 今 日
の漢 語 のア ク セ ント と いう も のは 、 か な り 、 は っき り 古 い字 音 の 四 声 を 伝 え て い るら し いか ら で あ る。 し か し 、
これ も 現 在 の研 究 段 階 で は 、 当 面 の問 題 に つ いて は 、 ほ と ん ど 手 掛 か り を 与 え てく れ な い。 と いう のは 、 字 音 の
四 声 は 、 漢 音 と 呉 音 と で 逆 に な って お り 、 そ れ が 中 国 で す で に そ う だ った のか 、 日本 へ伝 わ って か ら そ う な った の か は っき り せ ず 、 研 究 が 大 変 難 し いか ら で あ る 。︹ 補1︺0
さ て 、 東 西 ア ク セ ント の いず れ が 古 い かと いう こと を 推 定 す る 資 料 と し て は 、 次 に 音声 学 的な解 釈 が あ る と 思
う 。 音 韻 史 の方 で 、 琉 球 語 の フ ァや パ の音 と 日 本 語 の ハの音 と 、 いず れ が古 い かと 推定 す る時 に は 、 音 声 学 的 な
解 釈 、 つま り パ ・フ ァか ら ハへ は移 り や す いが 、 ハか ら フ ァ ・パへ は 移 り に く いと いう 、 音 韻 変 化 の法 則 の適 用
東 西 ア ク セ ント の 対 応 関 係 は ど のよ う に 解 釈 さ れ る か。 今 、 先 の
が 一役 買 った に 相 違 な い。 ア ク セ ント 変 化 に 関 し ても 、 こ のよ う な 法 則 があ る は ず で あ る 。 こ のよ う な ア ク セ ン ト 変 化 の法 則 に 照 ら し た 時 に 、 当 面 の問 題︱
第 1表 を 簡 単 な 形 に し て 、第 3表 に 改 め よ う 。 ま た 第 1表 で︵1 の2 語)彙 は 、 語 例 が少 な く 、 か つ ︿拍 の短 縮 ﹀ と い
う 特 殊 な 問 題 が か ら ん で いる ゆえ 、 以 下 の考 察 か ら は当 分 は ず す こ と と す る。︹ 補1︺ 1
(1 () 2 () 3 の) 語彙 の対応 関 係 こ の場 合 、 東 京 式 が も と で 、 京 阪 式 が そ れ か ら 変 化 し て で き た も のだ と は 、 考 え る
こ と が 困 難 で あ る 。 な ぜ な ら ば 、 東京 式 の○ ● 型 の 語 は 、 京 阪 式 では ● ● 型 と ● ○ 型 と の 二 つ の 型 に 分 属 し て い
る。 と こ ろ が 、 ● ● 型 の 語 と ● ○ 型 の語 と の間 に は、 意 義 そ の他 の、 対 立 は 全 然 見 ら れ な い。 つま り 、○ ● 型 と
いう 同 一の型 に 属 し て いた 語 が、 どう し て 一部 が 、 ● ● 型 にな り、 他 が ●○ 型 にな った か 、 そ の原 因 が 説 明 で き ぬか らである。
ず 、 (2 () 3 の) 語 彙 に お い て京 阪 式 の● ○ 型 は 、 東 京 式 で は ○ ● 型 と ○ ●'型 と の二 種 の型 に な って いる 。 が、 こ の
こ れ に 反 し て、 京 阪 式 が も と で東 京 式 が そ れ か ら 変 化 し て でき た も のだ と いう こ と は 、 容 易 に 説 明 が つく 。 ま
二 型 に属 す る 語 に は 、 文 末 に立 た な い語 と 立 つ語 と いう 、 文 法 的 職 能 の上 で の対 立 が 見 ら れ る。 文末 に立 つ語 は 、
︽●○ 型 は ア ク セ ント の山 を 後 に 送 って、○ ●'型 にな った 。 ○ ●'型 のう ち 、文 末 に 立 た ぬ も のは 、 語 末 の滝 、
○ ●'型 であ る が 、 文 末 に立 ち 得 な い語 は 、 ○ ● 型 であ る 。 これ は、 次 のよ う に し て 変 化 し た も のと 解 釈 が つく 。
す な わ ち' が 消 え て○ ● 型 に な った ︾︹ 補12︺
な お 、 一般 に 言 って ●○ 型 か ら ○ ●'型 へと いう 変 化 は 、 起 こ り や す い ア ク セ ン ト 変 化 の 一つと 見 てよ いと 思
う 。 な ぜ な ら ば 、 元 来 高 い発 音 は低 い発 音 よ り 労 力 を 伴 う 。 こ のよ う な 拍 は 、 少 し で も 後 へ送 って発 音 し よ う と
す る こ と は 、 自 然 だ か ら で あ る 。 日 本 語 の ア ク セ ント 変 化 に こ の種 の変 化 が 存 在 す る こと は、 佐 久間 博 士 が早 く
注 意 し て お ら れ る 。 こ の 種 の ア ク セ ント 変 化 を "アク セ ントの山 の後 退 の変 化" と 呼 ぶ こ と に し よ う 。︹ 補13︺
それ か ら 次 に、 京 阪 式 の(1 の) 語 彙 に 起 こ った と 見 ら れ る 、 ● ● 型 か ら 東 京 式 の○ ● 型 への変 化 も 起 こ り や す い
"
と 思 う 。 第 一拍 か ら 高 く 発 音す る こ と は 労 力 を 伴 う 。 最 初 低 く 出 た方 が は る か に 楽 であ る 。 す な わ ち 、 語 頭 の 二
拍 以 上 が高 い型 に あ って 、 第 一拍 が 低 下 す る 変 化 は起 こ り や す い変 化 だ と 思 う 。 こ れ を 以 後 "語 頭低 下 の変 化 と呼 ぶことにしよう。
(4 () 5 の) 語 彙 の対応 関 係 こ の 場 合 は 、 東 京 式 か ら 京 阪 式 へ の変 化 は そ れ ほど 困 難 で は な い。 な ぜ な ら ば 、 東 京
式 の● ○ 型 は 、 京 阪式 では 、 ○ ● 型 と ○ ●'型 と の二 種 に 分 か れ て いる が 、 ○ ● 型 の語 と ○ ●'型 の 語 と の間 に は
意 義 ・文 法 的 職 能 の対 立 が 多 少 見 ら れ る か ら であ る。︹ 補1︺ 4● ○ 型 か ら ○ ●'型 への 変 化 も 起 こ り や す い こ と は前
に述 べた と お り であ る。 す な わ ち 、 ○ ● 型 の語 と○ ●'型 の 語 と の間 の 対 立 の事 情 が 明 瞭 に な れ ば 、 東 京 式 ← 京 阪 式 の変 化 は考 え て よ か ろ う 。
が、 こ の場 合 、京 阪 式 か ら 東 京 式 への変 化 も 、 そ れ に 劣 ら ず 容 易 に起 こ り 得 る。 な ぜ な ら ば 、 ま ず 、 ○ ● 型 と
〔 備 考〕― は 文末 に立 ち 得 る語 の 対 応関 係 … … は 文末 に立 ち得 ない 語 の 対応 関 係
近 く 発 音 さ れ る こ と が あ る 。 そ のた め に ● ○ 調 に 発 音 し て も 、 ア ク
も し 、 高 く 終 わ る語 の次 に来 る 時 に は 、前 の拍 の惰 性 で、 ● ○ 調 に
な る が、 無 造 作 に発 音 す ると ●○ 調 に な る 。 元来 、 ○ ○ 型 の語 は、
の方言 で は 、 第 1表 の(1 () 2 の) 語彙 は、 丁 寧 に発 音 す れ ば、 ○ ○ 調 に
●○ 型 に 変 わ り 得 る と 思 う 。 例 え ば 、 山 形 県 庄 内 地 方 や宮 城 県 北 部
さ て、 ○ ○ 型 にな った ら 次 は ど う な る か 。 私 は 、 こ の型 な ら ば 、
労 力 の節 約 を 図 る ア ク セ ント 変 化 の 一種 と 認 め ら れ る。
高 さ) への同 化 の変 化" と 言 う べき も の で あ ろ う 。 こ れ も 、 一種 の
型 の 変 化 は 、 起 こ り や す い変 化 に 違 いな い。 こ れ は "直 前 の拍 (の
く 始 ま る 語 が来 る と 、○○ 型 に変 化 す る 性 質 が あ る 。 ○ ● 型 ← ○ ○
の移 動 を 起 こす 前 触 れ だ と 思 う 。 元 来 、 京 阪 語 の○ ● 語 は 、 次 に 高
調 に 発 音 す る 傾 向 が 見 ら れ る と いう 。 これ は 、○ ● 型 か ら ○ ○ 型 へ
に よ れ ば 、 現 代 の大 阪 方 言 で は 、 若 い人 た ち の間 に こ の語 彙 を ○ ○
と であ る 。 が 、 こ こ に 注 意 す べき は 、 上 甲 幹 一氏 の報 告 であ る 。 氏
型 と いう 型 か ら ● ○ 型 と いう 型 への変 化 は 、 や や 不 自 然 だ と いう こ
○ ●'型 と いう よ う な 類 似 し た 型 が 統 合 し て 一つの 型 に な る こ と は 、 自 然 だ か ら であ る 。 た だ 問 題 な の は 、 ○ ●
東 西 両 ア ク セ ン トの 型 の 対 応 関 係 簡 略 表 第3表
セ ント が 違 った と 受 け 取 ら れ な い で通 る 。 一方 、○ ○ 調 と いう 音 調 は 、 ア ク セ ント と し て 機 能 の 弱 い音 調 で あ り 、
好 ま れ ざ る 音 調 で あ る 。 こ の 点 、 ● ○ 調 な ら ば 申 し 分 な い。 そ こ で 、 明 晰 な 発 音 を し よ う と す る と 、 ● ○ 調 に な
る のだ と 思 う 。 こ れ は 、 ○ ○ 型 が ● ○ 型 に 変 化 す る 可 能 性 を 示す も の であ る 。 こ の変 化 を "語 頭隆 起 の変 化" と
呼 ぼ う 。 と に かく 、 も し 中 間 に 、 ○ ○ と いう 型 を 考 え る な ら ば 、 ○ ● 型 は 、 ●○ 型 に変 化 し 得 る と考 え て よ い。
(6 () 7 () 8 の) 語彙 の対 応 関係 こ の 関 係 で は 、 東 京 式 ← 京 阪 式 の変 化 を 考 え る こ と は 困 難 で、 京 阪 式 ← 東 京 式 を 考
え る こと は 容 易 であ る 。 な ぜな ら ば 、 こ の関 係 は、 (1 () 2 () 3 の) 関 係 と 全 く 並 行 的 で あ る 。 京 阪 式 の● ● ● 型 の 語彙
と ● ● ○ 型 の語 彙 と の間 に は、 意 義 そ の他 の対 立 が 見 ら れ な い。 す な わ ち 、 東 京 式 の○ ● ● 型 が、 京 阪 式 の ● ●
● 型 と ● ●○ 型 と に 分 裂 し た と 考 え る の は 困 難 で あ る。 そ れ に 引 き 換 え 、 東 京 式 の○ ● ● 型 の語 と 、 ○ ● ●'型
の語 と の間 に は 、 職 能 の上 に 対 立 が見 ら れ る 。 す な わ ち 、 ○ ● ● 型 が 、○ ● ●'型 か ら 分 か れ て で き た と 見 る こ
と は 、 自 然 で あ る 。 そ し て 、 か つ、 ● ● ○ 型 か ら ○ ● ●'型 へ の変 化 も 、 上 に 述 べた "ア ク セ ント の山 の 後 退 の 変 化 " であ る ゆ え 、 反 対 方 向 へ の変 化 よ り は る か に 自 然 であ る 。
(9 の) 対応 関係 こ の関 係 は 、 平 安 朝 の京 都 語 を 考 え に 入 れ な け れ ば 、 東 京 式 か ら 京 阪 式 が 出 た と 考 え ら れ な い
こ と は な い。 ○ ● ○ 型 か ら ● ○ ○ 型 への変 化 は 、 起 こ り 得 る か ら であ る 。 が、 平 安 朝 の京 都 語 では 、 こ の類 の 語
は、 二 つの 型 に 分 属 し て いた 。 こ の事 実 を 考 え 合 わ せ る と 、 東 京 式 の方 が古 い型 だ と す る こ と は 、 不 可 能 にな る。
これ に 対 し て 、京 阪 式 の方 が 古 いと す れ ば 、 き わ め て 自 然 に説 明 が つく 。 平 安 朝 の京 都 ア ク セ ント を 考 え ても 同
様 で あ る 。 何 と な れ ば 、 ● ○ ○ 型 は 、 "ア ク セ ン ト の 山 の後 退 の変 化 " を 起 こし 、 容 易 に 、 ○ ● ○ 型 に 移 る と 見
ら れ る か ら 。 ま た 、 平 安 朝 の ア ク セ ント を 考 え に入 れ て も 、 好 都 合 であ る。 何 と な れ ば 、 ○ ○ ● 型 と ●○ ○ 型 と
が統 合 し て、 ま ず 、 京 阪 式 の● ○ ○ 型 が でき 、 そ れ か ら○ ● ○ 型 に な った と 見 れ ば よ いか ら 。
(10 の) 語( 彙1の 1対)応 関係 こ の場 合 は 、 東 京 式 か ら 京 阪 式 が 出 た と す る こ と は 、 ま ず 不 可 能 であ る 。 何 と な れ ば 、
京 阪 式 の○ ○ ● 型 の語 と○ ● ○ 型 の語 と の間 に は 、 意 義 そ の他 の点 で、 対 立 が 見 ら れ な いか ら で あ る 。 す な わ ち 、
● ○ ○ 型 か ら○ ○ ● ・○ ● ○ 両 型 に 分 か れ た と す る こ と は 不 可能 で あ る。 他 方 、 京 阪 式 か ら 東 京 式 が出 た と す る
こ と も あ ま り 容 易 で はな い。 が、 不 可 能 で は な いと 思 う 。 な ぜな ら ば 、 第 一に 、 ○ ● ○ 型 は 、 "ア ク セ ント の山
の後 退 の変 化 " を 起 こ せ ば 、 ○ ○ ● 型 にな る ゆ え 、 こ の両 型 の統 合 は 容 易 に 起 こ り 得 る と 思 わ れ る から 、○ ○ ●
○ ○● 型←●○ ●型←●○○ 型
型 に な れ ば 、 次 のよ う に し て、 ● ○ ○ 型 にな る こと は 不 可 能 で は な いと 思 う 。
こ れ は 、 ︵4 () 5 の) 語 彙 に つ い て想 定 し た "語 頭 隆 起 の変 化 " であ る 。 も っと も 、 若 い世 代 の ア ク セ ント に つ い て の
上 甲 幹 一氏 の報 告 や 、連 語 の ア ク セ ント に お け る変 化 を 考 慮 に 入 れ ると 、 大 阪 方 言 で は 、 ○ ○ ● 型 は○ ○ ○ 型 に
○ ○● 型←○○○ 型←●○○ 型
変 化 を 起 こ そ う と し て いる よ う であ る。 そう だ と す れ ば 、 第 二 の場 合 と し て、 次 の変 化 を 考 え ても よ い。
あ る い は、 ま た 、 第 三 の場 合 と し て、 ○ ○ ● 型 は ○ ○ ● ← ○ ○ ○ ← ● ○ ○ の道 を 進 み 、 ○ ●○ 型 は 、 ○ ● ○ ←○
○ ● ← ● ○ ● ← ● ○ ○ の道 を 進 ん だ と 、 考 え る こ と も 不 自 然 で は な い。 と に かく 、 ○ ● ○ 型 お よ び○ ○ ● 型 と い う 京 阪 式 か ら 、 ● ○ ○ 型 と いう 東 京 式 が 生 ま れ る こ と は 、 有 り 得 る こ と と 思 う 。
以 上 のよ う に 考 え て く る と 、 ( 1 (︱ を( 通1じ 1て )、 ︽東 京 式が 変 化 し て京 阪式 に な ると 考 え る ことは 、多 く の場 合 不 可
能 に近 いが、 京阪 式 が変 化し て東京 式が でき ると考 え ること は、す べて の場合 可能 だ︾ と いう こ と にな った 。 ま た 、 こ
こ に注 意 す べき は、 (4 () 5 の) 語彙 であ って 、 私 は、 東京 式 の方 が 古 いと 見 る こ と も で き る と は 言 った が 、 そ れ は 、
他 の語 彙 の アク セ ント を 考 察 に 入 れ な い場 合 の 話 で あ る 。 も し 、 (2 () 3 の) 語 彙 が 、京 阪 式 の方 が 古 いと いう こ と に
決 ま れ ば、 (4 () 5 の) 語彙 は 東 京 式 が 古 いと は 言 わ れ な く な る。 な ぜ な ら ば 、 (3 () 4 が) 京 阪 式 が古 く 、 (4 () 5 が) 東京 式が
古 いと いう こと にな れ ば 、 (2 () 3 () 4 () 5 の) 語彙 は 、 す べ て古 い時 代 に は、 同 一の● ○ ○ 型 だ と いう こと に な る か ら で
あ る。 そ れ では 、 現 在 の東 京 式 ・京 阪 式 で(2 () 3 の) 語彙 、 (4 () 5 の) 語 彙 が 違 う 型 に 属 し て いる 理 由 が説 明 でき な い。
そ ん な わ け で、 東 京 式 の方 は 、 全 部 を 古 いと 見 る こ と も で き ず 、 一部 を 古 いと 見 る こ とも 支 障 を き た す 。 こ れ に
比 べ る と 、 京 阪式 を 古 いと 見 る こと は 、 す べ て に 対 し て 好 都 合 に ゆく 。 た だ 、 比 較 的 想 定 が 困 難 な のは 、 (4 () 5 の)
場 合 と(10の︶場(合 1と 1︶ であ る 。 が 、 こ の場 合 も 、 も し 、 東 京 式 の方 で 過 去 に、 ○ ○ 型 、 ○ ○ ● 型 、 ●○ ● 型 と いう
よ う な 姿 の型 を 経 過 し た と いう こと が 想 定 でき れ ば 、 こ の 困 難 は 、 完 全 に消 滅 す る であ ろ う 。
以 上 、 私 は 、 音 声 学 的 な 立 場 に立 って 京阪式 アク セ ント から東 京 式 アク セ ントが生 ず ると いう 可能 性 を 考 え て み た 。
が こ こ に お 断 り し な け れ ば な ら な いこ と は 、 以 上考 察 し た こと は 、 服部 四郎 博 士 が、 す で に 二 十 年 の 昔 、 こ れ に
近 い考 え に到 達 し てお ら れ た こと であ る 。 す な わ ち 、 昭 和 八 年 八 月 刊 行 の ﹃アク セ ントと 方言 ﹄ の 六 ○︲ 六 一ペ
ー ジ の中 で、 これ と非常 によく似 た東 西 両 アクセ ント の分裂 の考え を書 いておら れ る の で あ る 。 も っと も そ の中 で、
博 士 は 、 第 3表 の(4 (︶ 5 の︶ 語彙 の対 応 関 係 に つ いて 、 類 推 が 働 いた と考 え ら れ た 、 つま り 、 ア ク セ ント の 型 そ のも
の の 変 化 で は な いよ う に 説 い てお ら れ る 。 そ の へん に つ い ては 、 私 の考 え の方 が少 し 進 ん で いる よ う に 思 う 。 が、
私 が 、 と に かく 、 多 少 自 信 を も って 、 こ の考 え に到 達 し た のは 、 博 士 の説 を 読 み 、 考 え 、 そ れ か ら 二十 年 以 上 も
経 過 し た 今 日 で あ る こ と を 思 い、 当 時 の大 学 院 学 生 服 部 四 郎 氏 に、 今 さ らな が ら 、 深 い敬 意 を 表 す る 次 第 であ る。
と こ ろ で、 服 部 博 士 は 、 昭 和 十 二 年 五 月 、 こ の考 え を い っそ う 詳 し く 発 展 さ せ 、 国 学 院 大 学 方 言 研 究 会 の席 で
公 表 さ れ た 。 雑 誌 ﹃方 言 ﹄ (七の六)に 発 表 さ れ た ﹁原 始 日本 語 の 二 音 節 名 詞 のア ク セ ント ﹂ の本 文 の 説 が そ れ で
文 字 ど お り 一晩 にし て 捨 てら れ た 。 そ し て、 そ の後 全 然 新 し
︽東 西 両 ア ク セ ント は、 遠 い昔 に 同 じ も と か ら 、 二 つに 分 か れ 出 た も の であ る ︾ と いう 説 を 立 て ら れ た。
あ る 。 と こ ろ が 、 博 士 は 、 そ の説 を 一晩 に し て︱ い説︱
そ し て、 そ の説 を 幾 度 か 改 変 さ れ て 今 日 に 及 ん で いる ので あ る。 私 は 今 度 、 忽 然 と し て 、 服 部 博 士 の 旧 説 、 京 阪
式 か ら 東 京 式 が でき た と いう 説 の よ さ に気 づ いた 。 いわ ば 、 服 部 博 士 が 二 昔 前 に む し つて捨 て た 花 束 を 拾 い上 げ
て、 喜 ん で いる よ う な も の であ る 。 な ぜ そ のよ う な こ と に な った か 。 そ れ は 、 今 度 能 登 へ行 き 、 能 登 島 へ渡 って、
京 阪 式 か ら 東 京 式 が 生 ま れ る 過 程 を ま ざ ま ざ と 見 た よ う に思 った か ら であ る 。 私 は 思 う 。 も し 、 服 部 博 士 が、 こ
の能 登 島 へ出 掛 け ら れ た ら 、 や は り 、 も う 一度 こ の 旧 説 を 採 り 上 げ ら れ る の では な いか 、 と 。 そ の能 登 地 方 の ア
ク セ ント と は、 ど ん な も のか 。
三
そ も そ も 、 能 登 島 を 含 む 能 登 地 方 は 、 一般 に ア ク セ ント の 地方 差 の激 し い地 方 で あ る 。 が 、 一般 的 に 言 え ば 、
そ のア ク セ ント は 、 周 囲 の加 賀 や 越 中 地 方 と 同 様 に、 京 阪 式 ア ク セ ント に 近 い性 格 を 持 って いる 。 これ は 、 平 山
輝 男 氏 が指 摘 し て お ら れ る と お り で あ る 。︹ 補15︺ こ こ に 主 な 地 帯 の ア ク セ ント を 対 照 し て 示 す と 、 次 の第 4 表 の よう に な る 。第 1図 と 対 照 さ れ た い。 な お 、 次 の 三点 に 注 意 。
1 第 2 表 に挙 げ た 語 彙 は 、 大 体 (1 (︶ 2 (︶ 3 ⋮︶⋮ のよ う に 分 か れ て 、 そ れ ぞ れ の ア ク セ ン ト で 発 音 さ れ る。 主 な
例 外 に つ い て は 、表 の下 に 注 記 し た 。 注 記 に 見 ら れ る よう に 、 これ ら の地 方 で は 、 語 の第 二 拍 の性 質 に よ っ
て同 類 の語 が異 な る 型 に属 す る こと が 多 い。 こ れ は 、 過 去 に お い て は 、 同 じ 型 に 属 し て いた も のに 違 いな い。
表 で は 、す べ て第一 ・第 二 ・第 三 拍 とも に広 い母 音 を 有 す る 語 を 標 準 的 タイ プ と 見 て、 そ う いう 語 の ア ク セ ント を 掲 げ た 。
2 〓 の 印 は 、 丁寧 な 発 音 で は 低 く な る が 、 無 造作 な 発 音 で は 高 く な る 拍 を 表 す 。
3 能 登 のう ち 、 鳳 至 郡 大 部 と 羽 咋 郡 北部 の ア ク セ ント は 、 曖 昧 ア ク セ ント あ る いは 一型 ア ク セ ント で、 こ こ に は関 係 が な いゆ え 省 いた 。
さ て、 こ の表 で見 ら れ る と お り 、 能 登 の中 で異彩 を放 つ のは 、 ︵g の︶ 中 乃島 村向 田 の アクセ ント で あ る 。 す な わ ち 、 こ こ に見 ら れ る よ う に 、 完全 な東 京式 アクセ ント と 言 っても よ いも の であ る。
ど う し て こん な と こ ろ に孤 立 し て東 京 式 ア ク セ ント が 行 わ れ て い る のか 。 こ れ に つい て は 、 い ろ いろ な 想 像 が
成 り 立 つ。 例 え ば、 過 去 の時 代 に 東 京 式 地方 か ら 移 住 があ った の で はな いか 、 あ る いは 、 東 京 式 地 方 と の間 に 交
通 そ の他 特 殊 な 関 係 を
持 って いる の で は な い
か、 な ど 。 が、 そ れ ら
は す べ て根 拠 のな いこ
と で あ る。 な ぜ な ら ば 、
第 一に 、 こ こ の島 の歴
史 や 伝 説 に は 、 そ のよ
うな ことを支 持する事
実 が 何 も な いか ら であ
る 。第 二 に、 言 語 の他
の部 面 に お いて 、︱
例 えば語彙 とか語法と
か 、 ア ク セ ント 以 外 の
部 面 に お いて は 、 少 し
も 東京 式 に 近 い点 は 見
ら れ な いか ら で あ る。
私 は 、こ の向 田 の アク セ ント は 、能 登 の他 の地 方 の ア ク セ ント と 同 様 に、 ︽京 阪式 アクセ ント から変 化 し て出た も の
はな いと 思 う 。
ク セ ント を 持 って いる と いう のと 同 じ よ う な も の で、 移住 による とか他 の方 言 の影響 による とか と解 釈 す べき も の で
す な わ ち 能 登 島 の ア ク セ ント が東 京 式 だ と いう こと は 、 ち ょう ど 大 和 の 十津 川 地 方 や 四 国 の幡 多 地 方 が 東 京 式 ア
第1図 能登地 方 ア クセ ン ト分 布図
第 4 表 能 登 各 地 ア ク セ ント 対 照 表 ︹ 補16︺
(2) の語彙
各 地 とも 一拍 名 詞 +助 詞 の形 ( 例 ﹁蚊 が﹂) は ● ● 型。 向 田 を 除 き、 第 二拍 が有 声 子 音 +狭 母 音 の語 ( 例 ﹁振 る﹂)は
︹ 備 考 ︺ 右 欄 の(1 )( 2) (3 ) ⋮⋮ は 、 それ ぞ れ第 1表 の番 号 を 示す 。 (1) の語彙
(3) の語 彙
高 浜 で は、
向 田 を 除 き、 第
(5) の語 彙
( 6) の語彙
各 地と も 第 二拍 が有 声 子音 +狭 母 音 の語 ( 例 ﹁紙﹂) は ●○ 型。
各 地 とも 第 二類 一拍 名 詞 +助 詞 の形 ( 例 ﹁ 葉 が﹂) は ●〇 型 。 各 地 とも 第 一類 一拍 名 詞 + "も " "へ" の形
● ● 型。 ( 例 ﹁ 蚊 も ﹂) は ●● 型 。
第 二 拍 が有 声 子 音 +狭 母 音 の語 ( 例 ﹁春﹂) は● ● 型。 七 尾 ・鵜 川 ・飯 田 で は同 上 の語 は● 〇 型 。
(7) に同 じ。
(9 ) の語 彙
(6) に準 じ る 。 そ の他、 各 地 と も 第
各 地 と も第 二 拍 が有 声 子 音 +狭 母 音 の
(7) の 語彙
二 拍 が有 声 子 音 +狭 母 音 の語 ( 例 ﹁車 ﹂) は● ● ● 型。 小 木 ・飯 田 で は、 第 二 拍 が無 声 子 音 + 狭 母 音 の語 は○ ○ ● 型。 一般 に三
(8 ) の語 彙
拍 名 詞 の アク セ ント には 例 外 がや や 多 い。 これ は (7) 以 下 の語 に つ いても 同 様 。 三 拍 が狭 母 音 だ け の語 ( 例 ﹁ 赤 い﹂) は○ ● ○ 型 。
各 地 とも 、 第 三拍 が狭 母 音 だけ の語 ( 例 ﹁ 白 い﹂) は○ ● ○ 型。 高 浜 では 、第 五
語 ( 例 ﹁ 涙 ﹂) は ●○ ○ 型 。 高浜 ・小 木 ・飯 田 では 、第 二拍 が無 声 子音 +狭 母 音 の語 は〇 〇 ● 型 。 そ の他 各 地 とも 第 一類 一拍 名 詞+ " よ り" "ま で " の形 は未 詳 。( 11) の語 彙
類 二 拍名 詞 +助 詞 の形 で、 第 二拍 が有 声 子音 +狭 母 音 の 語例 ( ﹁ 春 が﹂) は ● ●● 型 。 七尾 ・鵜 川 ・飯 田 では 、 同上 の語 を ●○ ○ 型 。 七尾 ・鵜 川 で第 四 類 二拍名 詞 + "も ""ヘ" の形 は〇 〇 ● 型。
と見 る ことが でき る︾ と 思 う の であ る 。し か ら ば 、そ れ は 、ど のよ う な 経 路 を 経 て、現 在 の よ う に 変 わ った も の か。
ま ず 、 能 登 島 に属 す る (g向)田 と (h野)崎 を 除 こう 。 他 の 一般 の能登 の市 町村 の アク セ ント 、 それ が京 阪式 アク セ ン
ト から出 た ことを論 証 し てみ た い。 改 め て、 第 4 表 を 検 討 さ れ た い。 語 彙 別 に そ の成 立 を 考 え よ う 。
ま ず 、 (1 の) 語 彙 と(6 の) 語 彙 。 こ れ は 簡 単 であ る 。 こ れ は 、 京 阪 式 の● ● 型 、 ● ● ● 型 が、 "語 頭 低 下 の変 化 "
を 起 こ し た と 見 れ ば よ い。 こ れ に つ いて 支 障 にな る こと は 何 も な い。 す な わ ち 、 ● ● 型 ←○ ● 型 、 ● ● ● 型 ←○
● ● 型 で 現 在 のよ う に な った と考 え ら れ る 。 京 阪 式 方 言 のう ち で、 地 理 的 に は 隔 た った 和 歌 山 県 勝 浦 地 方 の方 言
や 、 三 重 県 度 会 郡 南 部 の方 言 でも 、 こ の語 類 は○ ● 型 、 ○ ● ● 型 で あ る 。 ● ● 型 ← ○ ● 型 、 ● ● ● 型 ← ○ ● ● 型
の変 化 は 起 こり や す い変 化 な のだ 。 能 登 地 方 の方 言 も 、 こ れ ら の地 方 と 並 行 的 な 変 化 を 遂 げ た も の と 見 れ ば よ い。
ま た 、 注 に掲 げ た 一拍 名 詞 +助 詞 の形 は、 名 詞 の部 分 を 多 少 引 き 延 ば し て 言 う のが 普 通 で あ る た め に 、 特 別 に ● ● 型 に な って いる も の と 認 め ら れ る 。
(3)の(語9彙 )の問 題 も 簡 単 であ る 。京 阪式 の● ○ 型 、 ● ○ ○ 型 か ら "ア ク セ ント の山 の後 退 の変 化 " を 起 こ せ ば 、
諸 方 言 に 見 ら れ る、 ○ ●'型 、 ○ ● ○ 型 と な る 。 平 山 輝 男 氏 、 岩 井 隆 盛 氏 に よ れ ば 、 能 登 地 方 と 類 似 し た ア ク セ
ント を 有 す る 加 賀 の白 峰 地 方 で は 、 こ れ ら の語 は ●○ 型 、 ●○ ○ 型 であ る と いう 。 これ は 、 古 い姿 を 伝 え て いる
も の であ ろう 。︹ 補17︺ 能 登 の諸 方 言 で は 、 多 く の 語彙 は ○ ●'型 ・○ ● ○ 型 に な って いる が、 第 二 拍 が 狭 い母 音 と
有 声 の子 音 を 持 つ語 、例 え ば 、 ﹁犬 ﹂ ﹁紙 ﹂ ﹁犬 が ﹂ ﹁紙 が﹂ の類 は ● ○ 型 ・● ○ ○ 型 にな って い る 。 これ は、 これ ら の地 方 で 一部 の語 が古 い姿 を 伝 え て いる も の であ ろ う 。
(7 () 8 の) 語彙 も 、 こ れ に 似 て簡 単 であ る。 京 阪 式 の● ● ○ 型 か ら 、 "ア ク セ ント の 山 の後 退 の変 化 "を 起 こ せば 、
○ ● ●'型 にな る。 そ の 語 が 文 末 に 立 つか 立 た ぬ か によ って 滝 の有 無 が でき る の は 自 然 であ る 。 す な わ ち 、 (7 の︶
語彙 の方 は 、 常 に文 の途 中 に 用 いら れ る た め に、 語 末 の滝 が す り 切 れ て消 失 し た も ので あ ろ う 。︹ 補18︺
(2 の) 語 彙 も 簡 単 で あ る 。 す な わ ち 、 (3 の) 語 と 同 じ よ う に "ア ク セ ント の 山 の後 退 の変 化 " が 起 こ った と 見 れ ば
よ い。 (3 と) 違 って○ ●'型 で な い のは 、 常 に文 の途 中 に 用 いら れ る 語 ゆ え 、 語 末 の滝 が す り 切 れ た も の と 見 ら れ
る 。 た だ(2 の) 語 彙 の場 合 は、 注 に 触 れ た 一拍 語 + 助 詞 の場 合 が注 意 す べき であ る が、 これ は 最 終 節 へ行 って 言 及 する。
次 に、 (4 の︶ 語 彙 は 、(1 の0 語︶彙 と 一緒 に 考 察 す べき であ る 。(4 ︵︶ 1 の0 語︶ 彙 は 、 (e 石) 崎 を 除 い てす べて の地 方 で ○ ○
型 ・○ ○ ○ 型 であ る 。 これ は 、 ど う し て でき た か 。 これ は 、 前 節 に 触 れ た 若 い大 阪 の人 た ち の発 音 に通 じ る も の
であ る。 す な わ ち、 現 代 の京 阪 語 の○ ● 型 ・○ ○ ● 型 の第 二拍 が第 一拍 に 引 か れ 、 第 三 拍 が第 二 拍 に引 か れ て低
下 し た 、 す な わ ち 、 "直 前 の拍 への同 化 の変 化 " を 起 こ し た も の と 見 ら れ る 。 な お、 (e の︶ 石 崎 の ア ク セ ント に つ い て は後 に 触 れ る。
最後 に 残 った のは 、 (5 の︶ 語 彙 と︵ 11︶ の語 彙 であ る 。 (5 の︶ 語 彙 は 各 地 と も ○ ●'型 ま た は○ ● 型 であ る 。 こ れ は 問
題 は な い。 (1 の1 語︶彙 は 、 能 登 の 半 数 で ○ ○ ● 型 にな って いる 。 こ れ は 、 ○ ●○ 型 が "アク セ ント の山 の後 退 の変
化 " を 起 こし て で き た 型 で あ ろ う 。 な お 、 (b の) 高 浜 町 で は 、 ○ ● ● 型 にな って いる。 これ は、 第 二 拍 に 引 き ず ら
大 体現 代 の京 阪式 の アクセ ント
れ て第 三 拍 も 高 く な ったも の であ ろ う 。 こう な る と 、 こ の地 方 で は (6 (︶ 7 の︶ 語彙 と 統 合 し てし ま う こと にな る 。 以 上 の考 察 に よ って、 能 登 の(a︶ (︱ d 、) (i) (︱ k の) 市 町村 のアク セ ントは 、京 阪式︱
の体系 から 変 化し てでき たも のだ と 推 定 し た 。 問 題 は 、 能 登 島 の ア ク セ ント 、 殊 に(g の) 中 乃 島 村 向 田 と (h の) 東島村
野 崎 と の ア ク セ ント であ る 。 こ の ア ク セ ント の成 立 は、 ど のよ う に 説 明 さ れ る か 。 私 は 、 度 々く り 返 す よ う に、
この 向田 ( 野 崎も ) のア ク セ ント は 、 上 に考 察 し た 能登本 土各 地 の アク セ ントと 同 様 に、京 阪 式 アク セ ント か ら変 化
し たも のだ と 言 お う と す る わ け であ る が、 これ に 対 し て 、 こう いう 疑 問 が 出 る か も し れ な い。 ︽そ れ な ら 逆 に、
能 登本 土 の ア ク セ ント が、 向 田 の ア ク セ ント か ら 変 化 し た も の だ と いう こ と も 考 え ら れ は し な いか 。︾ 私 は そ れ
に 対 し て ︽そ れ は でき な い︾ と 答 え る 。 な ぜな ら ば 、 例 え ば 、 (1 の0 語︶彙 と (1 の1 語)彙 と は 、 能 登 各 地 で別 の型 に属
し て いる 。 能 登島 の中 の野 崎 でさ え も 別 の 型 に 属 し て いる 。 (1 の0 語︶ 彙 と (1 の1 語) 彙 と は 先 に述 べた よ う に意 義 そ の
島 の中 の野 崎
他 の 対 立 を 持 って いな い。 と こ ろ が 、 向 田 で は これ が、 ●○ ○ 型 と いう 同 一の型 に属 し て い る 。 す な わ ち 、 向 田
の ア ク セ ント を 古 い形 と し て、 こ れ が 変 化 し て 能 登 各 地 の ア ク セ ント が でき た と 考 え る こと は︱
の ア ク セ ント で さ え も 、 向 田 の ア ク セ ント から でき た と は考 え ら れ な いと 思う か ら で あ る 。
し か ら ば 、 向 田 および 野崎 のアク セ ントが京 阪式 から変 化し たも のだ と いう 私 の考 え は ど のよ う に し て 可 能 で あ る
か 。 今 、 第 4 表 の 各 語 彙 に つ い て論 じ て 行 き た いが 、 こ のう ち (1 () 2 () 3 () 6 () 7 () 8 () 9 の) 語彙 に ついては問題はな かろう。
な ぜな ら ば 、 それ ら は す べ て 能 登 の 他 の地 方 の ど れ かと 一致 し て いる 。 つま り 、 そ れ は 上 に試 み た のと 全 く 同 一
の手 順 で 、 京 阪語 の ア ク セ ント 体 系 か ら 出 た も の であ る こ と が証 明 で き る か ら 。 問 題 は 、 (4 () 5 () 1 (0 1 の) 1 語)彙 で あ る 。
ま ず 、(4 () 1 の0 語) 彙 に つ いて 。 向 田 、 野 崎 と も に ● ○ 型 ・● ○ ○ 型 で あ る 。 こ れ は 、 どう し て で き た か。 こ の語
彙 は 能 登 一般 で は○ ○ 型 、 ○ ○ ○ 型 で あ る 。 私 は○ ○ 型 か ら ● ○ 型 へ、 ○ ○ ○ 型 か ら ● ○ ○ 型 へ変 化 し て で き た
も の と推 定 す る。 こ こ に、 興 味 のあ る のは 、 第 4表 で(e の)七 尾市 石 崎 の アク セ ント で あ る 。 実 は、 こ の傾 向 は 鹿
島 郡 余 喜 村 、 崎 山村 鵜 の浦 、 能 登 島 西 島 村 通 、 同 村 須 曾 、 東 島 村鰀 目 、 な ど に も 見 ら れ る も の であ る。 こ の へ
ん 、 第 2 図 を 参 照 。 す な わ ち 、 これ ら の地 方 で は 、 (4 () 1 の0 語) 彙 は 、 丁寧 に発 音す れ ば 、 ○ ○ 調 、 ○ ○ ○ 調 にな る
が、 無 造 作 な 発 音 で は ● ○ 調 、 ● ○ ○ 調 にな る 傾 向 があ る 。 これ は前 節 に触 れ た 山 形 県 庄 内 地 方 のア ク セ ント に
明できたと思う。
こう し て でき た も のが 向
阪 式 か ら 変 化 し て で き た も のと いう こと が説
ト は 、 能 登 一般 式 か ら 、 そ し て結 局 京 都 ・大
わ ち 、 向 田 ・野 崎 式 の(4 () 1 の0 語)彙 の ア ク セ ン
崎式 へ変 化 す る途 中 にあ るも の であ ろう。︾ す な
鰀目 の ア ク セ ント は、 能 登 一般式 から 向 田 ・野
し て で き たも ので あ ろ う。 そ し て 石崎 ・須 曾 、
石 崎 や須 曾 ・鰀目 の よう な 状 態 を 経 過 し て変 化
●○ ○型 は 、能 登 一般 の○ ○ 型 、○ ○○ 型 か ら、
る の で あ る 。 私 は 思 う 。 ︽向 田、 野崎 の●○ 型、
田や野崎 におけ る●○型、 ●○○ 型だと考え
し てし ま え ば 、︱
型 に 移 る態 勢 にあ る も のと 観 察 さ れ る 。 固 定
○ ○ 型 、 ○ ○ ○ 型 で あ る が、 ●○ 型 、 ●○ ○
見 ら れ る のと 全 く 同 種 の 現象 であ る。 す な わ ち 、 これ は、 こ の地 方 で は 、 型 と し て は、 能 登 大 部 の地 方 と 同 様 に
第2図 能登 島付近 ア クセ ン ト分 布図
次 に(5 () 1 の1 語) 彙 に つい て。 ま ず (1 の1 語) 彙 に つ い て検 討 す る と 、 野 崎 では 、 ○ ○ ● 型 で 、 向 田 で は 、 ● ○ ○ 型 で
あ る。 ○ ○ ● 型 と ● ○ ○ 型 で は 随 分違 う 。 と こ ろ が 現 実 に は 、 こ の 二 つは かな り 似 て 聞 か れ る の で あ る 。 な ぜ か 。
そ れ は 、 野 崎 で は 、 丁 寧 に 発 音 す れ ば 、 ○ ○ ● 調 にな る。 が 、 無 造 作 に発 音 す る と 、 第 一拍 が高 く な って● ○ ●
調 に実 現 す る の で あ る 。 ●○ ● 調 な ら ば 、 ● ○ ○ 調 と の 間 の違 いは ご く 小 さ いと 言 って よ い。 な ぜ な ら ば 、 向 田
の● ○ ○ 型 でも 、 何 か イ ント ネ ー シ ョン が加 わ れ ば 、 ● ○ ● 調 に実 現 す る か ら であ る。 そ し て、 向 田 付 近 の方 言
を 調 べて み る と 、 こ の語 彙 が 自 然 な 発 音 で● ○ ● 調 に な る のは 、 野 崎 ば か り で は な い。 東 島 村 二 穴 ・西 島 村 須 曾
も 同 様 であ る。 二 穴 の ご と き は 、 丁 寧 な 発 音 に お いて も ● ○ ● 調 に 実 現 す る 傾 向 が 見 ら れ る。 私 は 、 こ の野 崎 ・
二 穴 ・須 曾 の こ の類 の語 彙 の ア ク セ ント を も って 、 能 登 各 地 に 多 い○ ○ ● 型 か ら 、 向 田 の● ○ ○ 型 が生 ま れ る 中
間 のア ク セ ント だ と 見 な し た い ので あ る 。 そ う す ると こう な る 。 ︽野崎 の○ ○ ● 型は、 こ れ は 能 登 の 羽 咋 町 ・田 鶴
浜 町 ・小 木 町 ・飯 田 町 のも のと 同 じ も の ゆえ 、 前 に述 べた よ う に 、 京 阪 語 の○ ●○ 型 から 転 じ たも ので あ る。 そ し
て 、 野崎 で自 然な 発音 で●○ ● 調 にな ると いう のは、 新 たな 変 化を 起 こそう と し て いるも ので あ る、 す な わ ち 、 石 崎、
通 、須 曾、鰀 目な ど で○ ○○ 型 が●○ ○ 調 に実 現す るのと 同じ 種類 のも の であ る。も し 二穴 の●○ ● 調 が ﹁型﹂ と 見 てよ
いな らば、 ○○ ●型 から ●○ ● 型 にな ったも の であ る。向 田 の●○ ○ 型 は、 ●○ ● 型 から 一転 し た も の であ ろう。︾ す な
わ ち 、 向 田 の● ○ ○ 型 は 、 野 崎 や 能 登 各 地 の○ ○ ● 型 か ら 変 化 し て でき た も の であ り 、 そ れ は 、 京 阪 語 の○ ● ○
型 か ら 変 化 し て でき たも のと 見 る こ と にな る の であ る 。 細 かく 観 察 す ると 、 向 田 に 近 い中 乃 島 村 の曲 と いう 集 落
で は 、 こ の類 の語 は 、 ●○ ○ 型 で 発 音 さ れ る と は いう も の の、 高 い拍 と 低 い拍 と の 開 き が ごく わ ず か で 、 向 田 と
違 い、 上 が り 下 がり が、 は っき り し て いな い。 これ は 、○ ○ ● 型 か ら ● ○ ● 型 を 経 て ● ○ ○ 型 に変 化 し た 、 ま だ 落 ち 着 かな い状 態 を 示 し て いる と 私 は 考 え た い。
次 に 、 (5 の) 語 彙 は どう か 。 野 崎 で は○ ○ 型 であ る が、 これ は 能 登大 部 分 の○ ●'型 か ら 変 化 し て で き た も の と
見 て よ いであ ろ う 。 原 因 は 、 能 登 大 部 分 で(4 の) 語 彙 が○ ● 型 か ら○ ○ 型 に 移 った のと 同 じく 第 二 拍 の "直 前 の拍
へ の同 化 " と考 え る。 ○ ○ 型 に 変 化 し た とす れ ば 、 あ と 向 田 の● ○ 型 への変 化 は 自 然 であ ろ う 。 こ れ は 、 野 崎 で
(2)(3)の 語彙 ●○ →○ ●'…→○ ● (山の後 退、 滝の 消失) (4)の 語彙
○ ●→○ ○→ ●○ (直前 の拍へ の 同化 、語頭 の隆起) (5)の 語彙
○ ●'→○ ○→ ●○ (直前 の拍 への 同化 、語 頭の 隆起) (6)の 語彙
● ●●→○ ● ● (語頭 の低 下)
(7)(8)の 語 彙 ● ●○→○ ● ●'…→○ ●● (山の後 退 、滝 の消失) (9)の 語彙
●○ ○→○ ●○ (山の後退) (10)の語彙
○○ ●→ ○○○ → ●○○(直 前 の拍 へ の同化 、語頭 の 隆起 (11))の 語彙
○ ●○→ ○○ ●→ ●○ ●→ ●○○
(山の後 退 、語 頭の 隆起 、第二 の 山の消 失) 〔 備 考 〕 … → は文 末 に立 た ぬ 文節 にの み起 こ っ た変 化
︱
高 低 の差 は 小 さ い がと に か く ● ○ 調 に な る 傾 向
そ っく り 同 じ で な く ても よ い が、 と に かく 同 じ よ う な 過 程 を
に お いて向 田 アク セ ント が経 過 し たと 見 ら れ るよ うな 変 化過 程 を経 て
ク セ ントを含 め て、代 表 的 な東 京 式 アク セ ントは 、す べて過 去 の時 代
た も の で あ る こ と が 説 明 で き た こ と だ と 思 う 。 す な わ ち 、 東京 ア
と は 、 同 時 に 、 東 京 式 ア ク セ ント が京 阪 式 ア ク セ ント か ら 変 化 し
向 田 ア ク セ ント が京 阪 式 ア ク セ ント か ら 出 た こ と が 説 明 でき た こ
った 部 分 に つ いて は 、 次 々 節 ( 四〇七 ページ) で触 れ る。 と に か く 、
違 い が で き た 事 情 は ほ ぼ説 明 し 尽 く せ る よ う に 思 う 。 尽 く さ な か
東 京 式 ア ク セ ント と 一致 し な い点 も な いで は な い。 が、 そ う いう
説明 し得 た つも り であ る 。 向 田 ア ク セ ント に は 、 細 か く 見 れ ば 、
いも の であ るが、 それ が 京阪 式 ア クセ ント から変 化 し て でき た 過程 を
合 す れ ば 、 能登島 向 田 の アク セ ント は、非 常 に東京 式 アク セ ント に近
以 上 、 向 田 お よ び 野 崎 の ア ク セ ント に つ い て述 べた と こ ろ を 総
○ ●'型か ら変 化し て できた も のだ と 推 定 し 得 た と 思 う 。
いても、向 田 の●○ 型 は 能登 一般 の○ ●'型 から 、し たが って京 阪 語 の
る 中 間 過 程 に あ る ア ク セ ント だ と 思 う 。 と に か く 、 (5 の) 語彙 に お
が 観 察 さ れ た 。 これ は 野 崎 の○ ○ 型 か ら 、 向 田 の● ○ 型 に 変 化 す
は ●○ 調 に、︱
(4 の) 語 彙 が○ ○ 型 か ら ● ○ 型 に 変 化 し た のと 全 く 並 行 的 な 変 化 で あ る。 な お 、 東 島 村 二 穴 で は 、 無 造作 な 発 音 で
和 歌 山 ア ク セ ン トか ら 向 田 ア ク セ ン トへの 変 遷 の 状 況 〔 補19〕 第5表
●● →○ ● (語頭 の低 下) (1)の 語彙
経 て︱
現在 の状 態 にな った と考 え る の で あ る 。︹ 補20︺こ こ に 、 向 田 ア ク セ ント が 経 過 し た と 推 定 さ れ る ア ク セ ン
ト 変 化 を も う 一度 整 理 し て 示 せ ば 、 第 5 表 のよ う に な る 。
四
前 節 に お い て、 能 登 島 向 田 方 言 が、 過 去 に お いて 経 過 し た と 推 定 さ れ る ア ク セ ント 変 化 を 考 え 、 そ れ に よ って
︽東京 式 ア ク セ ント は 全国 の各 地 に 散 在 し て いる 。 そ のよ う な 相 互 に連 絡 のな い地方 で同 じ よ う な 変 化 が 起
東 京 式 ア ク セ ント の成 立 を 考 え て み た が 、 こ こ で こう いう 疑 問 を 持 た れ る 向 き が あ る かも し れ な い。 こ り 得 た と は 変 で はな いか 。︾
今 、 日 本 各 地 のア ク セ ント の分 布 の状 態 を 見 る と 、 第 3 図 に見 ら れ る よ う で 、 京 阪 式 ア ク セ ント を 、 東 京 式 ア
ク セ ント が 、 四方 か ら 取 り 囲 ん で いる 格 好 であ る 。 も し 、 こ こ に柳 田 先 生 創 唱 の方 言 周圏 説 の適 用 が 許 さ れ る な
ら ば、 当 然 周 囲 に 行 わ れ て いる 東 京 式 ア ク セ ント は 古 いも の、 中 央 の京 阪 式 ア ク セ ント は 新 し いも の、 と いう 結
論 が出 て く る はず であ る。 が 果 た し て そ う 考 え てよ い か ど う か 。 こ こ に 、 問 題 が あ る 。 そ れ は 、 方 言 周 圏説 は そ
のよう に分布 し て いる語彙 が あ ると いう ことを 示す だ けであ って、す べての方 言 現象 が、 そ のよう に、 周 圏的 に分 布 し て いるはず だ と言 え る説得 力が な いこ と であ る 。
現 に 、 音 韻 に つ い て は、 正 反 対 の説 も 出 て いる こ と は 注 目 し な け れ ば な ら な い。 例 え ば 、 言 語 地 理 学 のド ー ザ 、
日 本 で は 、 小 林 好 日 博 士 な ど は 、 語 彙 で こそ 、 古 い言 い方 が 地 方 に 残 る が 、 音 韻 の点 で は、む し ろ中 央 部 の方 に古
いも のが残 る と いう 説 を 立 て て お ら れ る こ と は 傾 聴 す べき であ る 。︹ 補21︺ 確 か に 音 韻 現 象 に つ いて は 、 中 央 地 帯 の
方 が、 保 守 的 であ る 。 例 え ば 、 奥 羽 地方 の ご と き 、 た ま に は フ ァ行 音 を 残 し て いる と いう よ う な こと も あ る が 、
イ と エ の混 同 、 シ と ス の混 同 そ の他 、 新 し い変 化 の方 を は る か に 多く 持 って いる 。 九 州 で も 、 鹿 児 島 方 言 のご と
第3図 日本 主 要地 区 ア クセ ン ト分 布 図
き 、 語 尾 のキ ・ク ・チ ・ツな ど の拍 を 促 音 化 し て いる よう に、 ほ か の地 方 に は 見 ら れ な いは な は だ し い変 化 のあ
と を 示 し て いる 。 音 韻 が 、 こ のよ う に 、 多 く 辺 境 地 方 で、 新 し い変 化 を 遂 げ て いる のは な ぜ か。 これ は、 広 い意
味 で の言 語 教 育 が 行 わ れ な い こと 、 他 地 方 と の交 渉 が 少な い こ と、 文 字 や 文 学 の類 と縁 が 浅 いこ と 、 と いう よ う
な こ と か ら 、 音 韻 の上 に 起 こ る 自 由 な 変 化 を 抑 え る 力 が 少 な い こ と に よ るも の に違 いな い。
こ の理 論 は 、 ア ク セ ント に お いても ま さ し く 当 ては ま る は ず であ る 。 す な わ ち 、 ア ク セ ント も 中央 の方 が 保 守
的 であ って、 地方 の方 が急 進 的 であ る に 違 いな い。 た だ ア ク セ ント の分 布 の 場 合 に は、 東京 式 の方 は 、 相 互 に 関
係 がな いと 見 ら れ る 地 域 に 、 符 を 合 わ せ た よ う に 行 わ れ て いる 。 そ の点 で、 東京 式 の方 が 古 そ う だ と も 見 ら れ る
わ け であ る 。 が、 今 、 あ る変 化 が起 こ り や す い変 化 であ って 、 し かも そ れ が 単 純 な 変 化 だ と す る 。 そ う す れ ば そ の変 化 は 各 地 に独 立 し て起 こ り 得 る はず であ る 。
例 え ば 、 アイ と いう 連 母 音 は 、 近 畿 ・四 国 や 東京 山 の手 で は 、 アイ と いう 古 い形 を と ど め て いる が 、 関 東 ・中
部 ・北 陸 ・中 国 ・九 州 と いう よ う な 相 互 に 全 然 連絡 のな い地方 で、 広 く エ ー と いう 音 に 変 化 し て いる 。 こ れ は 、
。
アイ ← エー と いう 音 韻 変 化 が 起 こ り や す い変 化 で あ った か ら に違 いな い。 そ う す る と 、 か り に、 京 阪 式 アク セ ン
ト から東 京式 アクセ ント への変 化 と いうも のが、 ごく起 こり やす い自 然 のも の であ るな ら ば、 東 国 ・中 国 ・九 州 ・奥 大 和 と い った 隔た った地方 で独 立 に起 こ っても変 で はな いと 、 考 え ら れ る。
って く る。 私 は 言 え る と 思 う 。 今 、 第 5表 の各 語 類 に 起 こ った と 考 え た 変 化 を 、 総 合 し て整 理 ・配 列 し て みよ
そ う す る と 、 問 題 は 、 京 阪 式 か ら 東 京 式 へと いう 変 化 が、 起 こり やす い単 純 な 変 化 だ と 言 え る か ど う か に か か
次 の第 6 表 が そ れ であ る 。 こ こ で 、 一つ 一つ の過 程 に あ る ア ク セ ント 体 系 に比 較 的 近 い例 を 、 現 実 の方 言 の中 か ら 探 し て、 そ の名 で 呼 ん でお いた 。
さ て、 こ の表 に お いて 次 の点 に 注 意 さ れ た い。 ま ず 、 現 実 の東京 式 諸 方 言 は、 す べ て の 語彙 に お いて 並 行 的 に
第 二 期 、 第 三 期 と 順 序 よ く 進 ん で第 九 期 に達 し た の で は な いか も し れ な い。 あ る方 言 は 、 (4 の) 語 彙 は第 五 期 に進
東 京 式 ア ク セ ン ト変 遷 想 定 図 〔 補22〕 第6表
〔 備 考 〕(1)(2)(3)… … は 第1表 の 語彙 の 番 号。=は 前 の時 代 と変化 せ ぬ こ とを、 → は前 の 時代 か ら変 化 す る こ とを表 す。
み な が ら 、 (1 の) 語彙 は ま だ 第 四 期 のま ま だ と い
う こと が あ った か も し れ な い。 前 に 触 れ た 現在
の大 阪 の若 い人 の アク セ ント な ど は 、 そ の状 態
にあ る 。 こ の大 阪 の新 ア ク セ ント 体 系 も 、 も し
次 に(1 () 6 の) 語 彙 が 変 化 す れ ば 、 第 五 期 にな る わ け であ る 。
し か し 、 注 意 す べき は 、 これ ら の変 化 に は 、
全 然 順 序 がな いわ け で はな い こ と で あ る 。 た と
え ば 、 (1 の1 語)彙 が 第 六 期 の状 態 にな る の は、 (9)
の語 彙 が 第 六 期 の状 態 にな る のよ り も 遅 れ て は
いけな い。 な ぜ な ら ば 、 も し (9 の) 語 彙 が○ ● ○
型 にな った 時 に 、(1 の1語)彙 がま だ○ ● ○ 型 で ま
ご まご し て いて は 、 こ の二 つの 語彙 は 型 の統 合
を 起 こ し 、 以 後 常 に歩 調 を そ ろ え て 同 じ 方 向 に
の み変 化 す る に 相 違 な いか ら であ る 。 も し そ う
な った 場 合 に は 、 現 在 の東 京 式 ア ク セ ント 体 系
は でき 上 が ら な いは ず であ る 。 第 4 表 の(d の) 七
尾 市 の アク セ ント は 、 (1 の1 語)彙 が○ ● ○ 型 で あ
る 間 に 、 (9 の) 語彙 が○ ●○ 型 に追 い つ いた方 言
の例 で あ る 。 こ の アク セ ント 体 系 は 、 今 後 発 展
し て 東 京 式 ア ク セ ント に 変 化 す る こ と はま ず な いは ず で あ る 。
ま た も う 一つ、 第 三 期 を ﹁補 忘 記 期 ﹂ と 呼 ん だ が 、 これ は 単 に "﹃ 補 忘 記 ﹄ に見 ら れ る よ う な ア ク セ ント 体 系
を 持 った 時 期 " の意 味 で あ る 。 必ず し も 時 代 が ﹃補 忘 記 ﹄ の で き た 時 代 、 す な わ ち 貞 享 ・元 禄 の こ ろ に こう だ っ
た と いう わ け で は な い。 東 京 式 ア ク セ ント が こ のよ う な アク セ ント 体 系 に な った のは 、 時 代 的 にも っと 以 前 で有
り 得 る し 、 実 際 に も そ う で あ った ろ う と 思 わ れ る 。 な ぜ な ら ば、 室 町 時 代 に 能 楽 師 ・金 春 禅 鳳 の書 いた も の の中
に、 東 国 方 言 で は (3 に) 属 す る 語 彙 が ○ ● 型 で あ った と いう 記 述 があ る か ら であ る 。︹ 補23︺す な わ ち 、 当 時 東 国 の
東 京 式 アク セ ント は 、 第 六 期 以 後 に 進 ん で いた ろ う と 思 わ れ る。 ﹁補 忘 記 期 ﹂ と いう 意 味 は 、 年 代 は 未 詳 であ る
が、 東 京 式 ア ク セ ント も 一度 は ﹃ 補 忘 記 ﹄ 式 の アク セ ント 体 系 を 持 った時 代 があ った ろ う 、 と いう 意 味 であ る。 そ の後 、 さ ら に 発 展 し て 現 在 の よう にな った と 見 る ので あ る 。
さ て 、 第 6表 を 見 て、 いろ いろな こと が 頭 に 浮 か ぶ。 第 一に、 東 京 式 ア ク セ ント は 、 和 歌 山 期 以 後 、 数 次 の ア
ク セ ント 変 化 を 遂 げ て 現 状 に達 し た わ け であ る が 、 そ れ ら の変 化 のう ち で 、 ど の変 化 が 一番 根 本 的 な 変 化 か と い
う こ と であ る。 そ れ は 第 五 次 の変 化 だ と 思 う 。 第 一次 ・第 二次 ・第 三 次 の変 化 で は、 京 阪 式 方 言 も 東 京 式 方 言 と
足 並 み を そ ろえ て 進 ん で き て いる。 第 四 次 変 化 も ほ ん の小 規 模 な 改 変 にす ぎ な い。 第 五次変 化 によ って京 阪 式 アク
セ ント と東京 式 アク セ ントと の間 に大 き な隔 たり が できた わ け であ る 。 次 の第 六 次 変 化 は 、 単 に類 似 し た 型 が 一緒 に
な り、 文 法 機 能 の点 で 不便 な 型 が他 の型 に移 った 変 化 で あ る 。 こ れ は 当 然 起 こら な い では いな い変 化 で あ る 。 次
の第 七 次 変 化 は 、 東 京 式 ア ク セ ント の 一つ の特 徴 が 生ま れ 出 る重 要 な 変 化 で は あ る。 が 、 こ れ は 第 一次 変 化 と よ
く 似 て いる 。 思 う に、 こ れ は 、 第 一期 の ア ク セ ント 体 系 と 第 七期 の ア ク セ ント 体 系 と が 類 似 し て い る こ と によ る
も の で あ ろ う 。 こ の両 体 系 に は 、 低 平 型 が 存 在 す る 。 こ のよ う な 型 に は 、 "語 頭 隆 起 の 変 化 " が 発 生す る のが 自
然 な の であ ろう 。 実 際 、 第 七 期 の よ う な 、 頭 高 型 が な いア ク セ ント 体 系 は 、 アク セ ント の機 能 の上 か ら 言 って好
ま し く な い に違 いな い。 第 八 次 変 化 は 、 第 七 次 変 化 の続 き で、 第 二 次 変 化 に 相 似 的 な も の であ る 。 そう す る と 、
第 六 次 以 後 の 変 化 は 、 第 五 次 変 化 が 起 これ ば 、 続 いて 起 こ る の が 自 然 な 変 化 で あ って 、 結 局 第 五次 変化 が東 京 式 アク セ ント が生 まれ 出 る契機 と な った重要 な変 化 だと 言 う こと にな る 。
さ て、 こ こ で こ の節 の 初 め の問 題 に 帰 ろう 。 す な わ ち 、 東 京 式 アク セ ント は 、 全 国 各 地 に散 在 し て いる ゆえ 、
こ の第 五 次 の変 化 は 、 全 国 各 地 で 独 立 に起 こ った と 言 わ な けれ ば な ら ぬ 。 ど う し て こ のよ う な 変 化 が 相 互 に連 絡 な し で起 こ り 得 た の であ ろ う か。
今 、 こ の第 五 次 変 化 の内 容 を も っと 詳 し く検 討 し て み よ う 。 ま ず 、 こ の 変 化 は、 (( 23 ) () 7 () 8 () 9 () 1 の1 語) 彙 で、 ア ク
セ ント の 山 が 一拍 後 退す る 変 化 で あ る 。 と こ ろ で第 四 次 変 化 は 、 (1 () 6 の) 語彙 で は第 一拍 が低 下 す る変 化 であ る。
今 、 こ の 二 つ の変 化 の性 質 を 考 え て み る と 、 よ く 似 た 点 を 持 って い る こ と に気 づく 。 す な わ ち 、 これ ら は と も に
語 頭 に近 い部分 が低 下す る変 化 で あ る と 言 ってよ い。 そ し て こ れ ら は発 音 す る場 合 の 労 力 の節 約を 図 る変 化 で あ る
と いう 点 で 一致 し て いる 。 つま り 、 第 五 次 変 化 は そう いう と こ ろ に 根 本 的 性 格 を 持 った 変 化 であ る。
と ころ で、 注 意 す べき は 第 三 次 変 化 、 (4 () 1 に0 お)け る 第 四 次 変 化 の性 格 で あ る 。 こ れ ら の変 化 は ど の拍 か を 直 前
の拍 と 同 じ 高 さ に低 め る 変 化 であ った 。 第 三 次 変 化 は 、 第 6表 では 、 三 拍 語 の第 二 拍 の 山 が 第 三 拍 に す べる 変 化
であ る 。 も し 、 これ が 四 拍 語 な ら ど う な る か 。 ○ ● ● ● 型 が○ ○ ● ● 型 ま た は ○ ○ ○ ● 型 に な る 変 化 で あ る 。 そ
う す る と 、 こ れ ら は や は り 、 語 頭 にな る べく 近 いと こ ろ を 低 く す る 変 化 、 ま た は そ の続 き の変 化 であ る 。 そ し て
こ れ ま た 労 力 の節 約 を 図 る 変 化 であ る 点 で 一致 し て いる 。 す な わ ち 、 第 三次 ・第 四次 ・第 五次 の変 化は 、す べて同
じ動機 に よ る同 じ方 向 に向 か って の変 化 であ る こ と に な る。 と こ ろ で、 京 阪 式 ア ク セ ント は 、 第 四 期 ま た は第 五 期
で と ど ま って いる 。 そ う す ると 、 京阪 式 アク セ ントは こ う い った 変 化 を 起 こ し て 中途 半端 な段 階 で踏 み と どま って
いる ア ク セ ント だ と 言 う こと にな る 。 そ し て第 五 期 以 上 に 進 ん だ 能登 諸 方 言 の アク セ ント およ び東 京 式 アク セ ント
は、 その変 化を 徹底 的 に完 遂し た アク セ ントだ と 言 う こと に な る。 先 に 触 れ た 和 歌 山 県 勝 浦 町 ・三 重 県 度 会 郡 南 部
の ア ク セ ント も 、 変 化 が 起 こ った 語 彙 と 、 そ の変 化 の進 ん だ 程 度 に違 いは あ る が 、 や は り 、第 四 期 以 後 、 語 頭 に
近 い拍 が 低 下 し た と いう 同 じ 方 向 の変 化 を 、 和 歌 山 市 のア ク セ ント よ り も う 数 歩 よ け い に進 ん だ わ け であ る 。
今 、 こ こ で音 韻 史 の事 実 を 考 え て み る と 、 こ れ は 次 のよ う な 音 韻 変 化 と 対 照 さ る べき も の で あ る 。 す な わ ち 、
橋 本 進 吉 博 士 は、 室 町 時 代 には ア行 のオ も ワ行 の ヲも と も にwo と いう 音 であ った が、 京 都 で は 、 江 戸 時 代 には す
べ て oの音 に変 化 し た と 説 か れ た。 つま りwo ←o 変 化 が 徹 底 的 に 行 わ れ た わ け であ る 。 と こ ろ が 現 在 各 地 に お け
る ﹁お ﹂ と ﹁を ﹂ の音 価 を 調 べ て み る と 、 奥 羽 各 地 ・北 陸 の 一部 ・長 野 県 北 部 ・九 州 の一 部 な ど 、 諸 処 に 点 々と
し て、 一部 の語 彙 に はwo を 用 い、多 く の 語彙 に はo を 用 い る 地 方 があ る 。︹ 補24︺ こ こ で はwo ←o の 変 化 が 京 都 のよ
う に徹 底 的 に は行 わ れ な か った の で あ る 。 つま り 変 化 が よ り 小 規 模 であ った こと にな る 。 と こ ろ で、 問 題 は 、 そ
う いう 小 規 模 な 変 化 の方 が 、 小 規 模 だ と いう 理 由 で起 こ り や す いと 言 え る か 、 と いう こと であ る 。 そ れ は 、wo ←
oの変 化 の行 わ れ た 地 域 の広 さ が答 え て いる と 思 う 。 す な わ ち 、 変 化 が 小規 模 だ と いう こと は 、 決 し て そ の変 化
が 自 然 で あ る こ と を 意 味 し は し な い。 中 途 半端 な 変 化 よ り は 、 徹 底 的 な 変 化 の方 が は る か に起 こ り や す い。 ア ク
セ ント 変 化 の場 合 も これ と 同 じ こ と が 言 え は し な い か。 す な わ ち 、 第 三 期 以 後 、 東 京 式 地 方 と いわ ず 、 京 阪 式 地
方 と いわ ず 、 語 頭 に 近 い部 分 の低 下 の変 化 が 起 こり つ つあ る が、 恐 ら く 京 阪式 に 見ら れ る 不徹底 な変 化 よ りも、 能
登式 ・東 京式 の徹 底 した 変化 の方 が、 よく 起 こり やす く 、よ り自 然 な のだ ろ う と 思 う 。 そ れ だ か ら こそ 、 第 五 次 変 化
は 、 そ の起 こ った 地 域 の方 が 起 こ ら な か った 地 域 に比 し て は る か に 広 く 、 か く て、 東 京式 アクセ ント は、 京 阪式 ア
ク セ ントに 比較 し て、は る かに広 い地 域 に、 しかも 全国 各地 に飛 び 飛び に行 われ て いる のだ ろう と考 え る 。 先 に考 察 し
た 羽 咋 地 方 の ア ク セ ント も 、 第 五 次 変 化 を 遂 げ た 以 上 は 、 東 京 式 ア ク セ ント と 歩 調 を 合 わ せ て いる ゆえ 、 今 後 は、 騎 虎 の 勢 い で第 九 期 ま で進 ん で行 く か も し れ な い。
さ て 、 こ こ で最 後 に考 え て み た い のは 、 日本語 におけ る アク セ ント変 化 の全般 的 な 傾向 であ る 。 第 6 表 で、 第 二
次 ・第 六 次 ・第 八 次 の三 変 化 は 、 直 前 の変 化 の結 果 でき た ア ク セ ント 体 系 の整 理 のよ う な も の で あ った 。 で、 こ
れ は省 く 。 ま た 、 第 三 次 ・第 四 次 ・第 五 次 は同 種 類 の変 化 と いう こ と にな った 。 そ こ で、 これ ら を 一緒 に し 、 全
体を 第 一次、 第 三 ・四 ・五次、 第 七次 の 三 つの変 化 と し て 考 え て み る 。 と 、 こ のう ち 、 第 一次 変 化 と 第 七 次 変 化 の
" と 見ら れ た 。 ま た 、 第 三 ・四 ・五 次 変 化 は 労 力 の節 約 を 図 る 変 化 と 見 ら れ た が 、 こ れ に 対 比
本 質 は 、 先 に 述 べた よ う に 、 "語 頭 隆 起 の 変 化 " で あ る 。 こ れ に 対 し て 、 第 三 ・四 ・五 次 変 化 は 、 広 い意 味 で の "語 頭 低 下 の変 化
す る と 、 第 一次 ・第 七 次 の変 化 は 、 発 音 の明 晰 化 を は か る 変 化 だ と 言 え よ う 。 そ こ で、 こ ん な こと が 言 え そ う だ 。
︽日本 語 の ア ク セ ント の変 化 は 、 語 頭 が 低 く な って、 語尾 が 高 い状 態 が来 る か と 思 う と 、 語 頭 の低 い の が漸
次 語 尾 の方 へ伝 わ って ゆく 。 そ のう ち に 語 頭 の方 が 再 び高 く な って 語 尾 が低 く な る 。 そ のう ち に ま た 語 頭 の 高 さ が後 退 し て 行 く ⋮ ⋮ そ れ を く り 返 し て いる 変 化 であ る 。︾
そ し て、 こ れ は 、 ︽労 力 を 節 約 し よう と いう 要 望 と 、 明 晰 な 発 音 を し よ う と いう 要 望 と を 交 替 に 満 た す 変 化 だ ︾ と 言 っても よ さ そう に 思 う 。
妙 な 例 え であ る が 、 私 は 終 戦 の翌 年 の秋 であ った か 、 一人 で吉 野 山 へ出 かけ た こと が あ る 。 季 節 は ず れ で も あ
った の で、 宿 屋 へ泊 ま っても ほ か に は 全 く 客 は お ら ず 、 広 い風 呂 へも 一人 で 入 った 。 と こ ろ が 、 そ の風 呂 が 五 右
衛 門 風 呂 で 、 底 が 一枚 の板 に な って いて 、 そ の上 に し っか り乗 って いな いと ひ と り で に浮 いて く る 。 そ れ が大 き
な 風 呂 な の で、 大 変 具 合 い が 悪 い。 板 の右 端 に乗 って い る と、 左 の端 が 持 ち 上 が る 。 左 端 に 位 置 を 換 え ると 、 右
の方 が浮 いて く る。 一人 であ っち こ っち と 場 所 を 移動 ば か り し て いて、 せ っか く き れ いな 風 呂 へ入 り な がら 、 ち
っと も ゆ っく り で き ず 残 念 で あ った 。 が、 今 に し て 思 え ば 、 日本 語 の アク セ ント と いう も のは 、ま さ しく あ の 五 右
衛門 風呂 のゲ ス板 の ような も の であ る。 語 の前 の部 分 と 、 後 の部 分 と が代 わ る が わ る 持 ち 上 が って変 化 し て 行 く も
の であ って 、 東 京 式 ・京 阪 式 両 ア ク セ ント で、 同 じ 語 の上 が り 下 が り が 反 対 だ と いう の は 、 極 言 す れ ば 、 五 右 衛
門 風 呂 の底 板 の右 端 が 上 が った 場 合 と 左 端 が 上 が った 場 合 の よ う な 違 いだ と 思 う 。
平 山 輝男 氏 は 、 か つて 、 ﹁国 語 音 調 の 一性 格 ﹂ と いう 論 文 の 中 で、 日 本 語 の ア ク セ ント は 、 型 の 統 合 と いう 方
向 に向 か って 進 む と いう こと を言われた 。︹ 補25︺ あ れ は た し か に 日 本 語 の ア ク セ ント 変 化 の 一方 向 を 示 さ れ た も
のと 思う 。 いわ ゆ る 一型 ア ク セ ント の成 因 は、 ま さ し く そ れ で説 明 さ る べき も の であ ろう 。 が、 そ の ほ か に 、 私
は 、 日本語 のアク セ ントに は、 語 の初 め と終 わり が代 わ るがわ る上 が った り下が った りす る変 化 もあ ると 思う。 東京 式 ・
京 阪式 の アクセ ント の違 いの成立 は、 まさ に この原 理 によ って説 明さ る べきも の だと 思 う 。
日本 語 の ア ク セ ント が、 こ のよ う に 進 む も の と す れ ば 、 東 京 式 は ま た い つの 日 か に 、 "語 頭 低 下 の 変 化 " を 起
こし て、 再 び 京 阪 式 ア ク セ ント のよ う な 姿 にな る か も し れ な い。 私 は こ のよ う に し て で き た アク セ ント が 現実 に
存 在 す る と 思 う 。 例 え ば 、 埼 玉 県 東 部 一帯 に分 布 す る 、 一見京 阪 式 の よ う な ア ク セ ント 、 山 梨 県 南 巨 摩 郡 西 山 村
奈 良 田 に行 わ れ る 特 別 な ア ク セ ント な ど は 、 いず れ も そ の例 だ と 思 う 。 そ れ か ら 、 さ ら に 、 九 州 西 南 部 に 分布 す
る 一種 の京 阪 式 ア ク セ ント も 、 私 は そ う し て でき た 、 いわ ば 第 二 次 的 な 京 阪 式 ア ク セ ント で あ る と 思う 。︹ 補26︺
特 に長崎方
服 部 四 郎 博 士 は 京 阪 式 ア ク セ ント を 甲種 アク セ ント、 東 京 式 アク セ ント を 乙種 アク セ ント と 呼 ば れ た が 、 これ は
こ の意 味 で非 常 に面 白 い。 こ の命 名 法 を 進 め て 行 け ば 、 埼 玉 県 東 部 、 山 梨 県 奈 良 田 、 九 州 西 南 部︱
面 のア ク セ ント は 、 丙種 アク セ ント と 呼 び た いと 私 は 思 う 。 し か ら ば 丁 種 は ? 上 村 孝 二 氏 の報 告 に よ れ ば 、 鹿
児島 県 甑 島 地 方 の ア ク セ ント は 、 鹿 児島 地 方 の ア ク セ ント か ら 語 頭 の隆 起 を 起 こ し つ つあ る も の で 、 も う 一度
東 京 式 と 似 た ア ク セ ント に 変 わ ら ん と し て いる も の のご と く であ り 、 南 薩 枕 崎 市 の ア ク セ ント は 、 も う 完 全 に東
京 式 ア ク セ ント に 似 た も のに な った ら し い。 あ る い は こ れ ら は 丁種 アク セ ント にな り つ つあ る アク セ ント 、 あ る い は 丁種 アク セ ント にな った アク セ ント と 言 ってよ い のか も し れ な い。︹ 補27︺
五
私 は 、前 節 ま で の中 で、 東 京 式 ア ク セ ント な る も の は、 京 阪 式 ア ク セ ント な る も の が 変 化 し て で き た も のだ ろ
う と いう 考 え を 述 べて みた 。 も っと も 、 そ れ に挙 げ ら れ た東 京 式 ア ク セ ント は、 甲 府 市 の アク セ ント ( な らび に
能 登島 向 田 の ア ク セ ント ) であ って 、 東 京 式 ア ク セ ント に は 、 ま だ さ ま ざ ま の変 種 があ る 。 が、 し か し 、 私 は 、
上 の 推 論 が正 し いな ら ば 、 そ れら の変 種が 標準 的な 東京 式 アク セ ント から途中 分 かれ 出た も の であ る こと も、 証明 す る ことが でき るよ う に 思 う 。
例 え ば 第 2表 の第 二 類 一拍 名 詞 +﹁が ﹂ の 形 は 、 東 京 式 ア ク セ ント で多 く は ○ ● 型 であ る が、 ● ○ 型 に な って
いる 地 方 があ る 。 能 登 島 の向 田 も そ う であ った が、 尾 張 ・美 濃 ・飛 騨 ・但 馬 ・備 前 ・十津 川 ・土 佐幡 多 な ど 、 第
3 図 でA の 地 方 が そう で、 す べて京 阪 式 地 方 に 近 い地 方 であ る 。 こ れ は な ぜ か。 思 う に こ の種 の 語彙 は古 く 第 一
拍 が 長 く 発 音 さ れ 、 全 体 は 第 6表 の(9 の) 語彙 の ごと く ● ○ ○ 型 に発 音 さ れ て いた も の であ ろ う 。 と こ ろ が 、 京 阪
式 か ら 遠 い地 域 で は、 第 一拍 の 短 縮 が起 こ って、 第 五 次 変 化 を 遂 げ る 以 前 に ●○ 型 にな った 。 す な わ ち 第 六 期 以
後 は 、 (2 () 3 の) 語 彙 と歩 調 を 同 じ く し て進 ん だ 。 さ れ ば こ そ 、 現 在 ○ ● 型 な の で あ ろう 。 と こ ろ が 、 京 阪 式 に近 い
地 域 では 、 後 世 ま で第 一拍 を 長 く 引 い て発 音 し て いた 。 さ れ ば 、第 六 期 以 後 も(9の)語 彙 と 歩 調を 共 に し、 か く て
第 八 期 の○ ● ○ 型 にな った 。 現 在 のよ う に 第 一拍 が 短 く な った のは そ の後 であ る 。 さ れ ば こ そ● ○ 型 にな った の であろう。
ま た 、 東 京 式 アク セ ント で は 、 型 の 対 応 の原 理 か ら 言 う と 、 ﹁人 が﹂ ﹁下 が﹂ ﹁北 が ﹂ ﹁力 ﹂ ⋮ ⋮ のよ う な 語 は 、
○ ●○ 型 であ る は ず で あ る 。 に も か か わ ら ず 、 東 京 を は じ め 多 く の東 京 式 地 方 で は 、 ﹁人 が﹂ な ど は○ ● ● 型 、
﹁力 ﹂ は○ ● ●'型 であ る 。 な ぜ か 。 思 う に 、 これ ら の語 は、 第 6 表 で(9 の) 語 彙 で あ る。 つま り 最 も 古 く は 、 ● ○
○ 型 であ った 。 と こ ろ が 、 これ ら の語 は 、 第 一拍 が 無 声 化す る 傾 向 を 持 つ。 東 京 式 ア ク セ ント の地 方 は 、 一般 に
母 音 の無 声 化 が 盛 ん で あ る 。 そ のた め に 、 早 く 、 ● ○ ○ 型 ← ● ● ○ 型 と いう 変 化 を 起 こ し て し ま った のだ と 思 う 。
って いた 。 そ れ ゆ え 、 以 後 、 (7 () 8 の) 語 と 連 れ 立 って 変 化 し 、 第 七 期 以 後 は 文 の 途 中 に の み 用 いら れ る ﹁人 が ﹂
こ の変 化 は、 第 6 表 の第 五 次 変 化 が起 こ る 以 前 に 行 わ れ て いた 。 す な わ ち 、第 五 期 で は (7 () 8 の) 語彙 と 同 じ 型 に移
⋮ ⋮ は ○ ● ● 型 に な り 、 文 の 最 後 にも 立 つ ﹁力 ﹂ は 、 ○ ● ●'型 に な った と 解 す る 。 な お 、 同 じ 東 京 式 ア ク セ ン
ト の中 でも 、 中 国 (出雲 を 除 く ) 地 方 で は 、 これ ら を 現 在 ○ ●○ 型 に 発 音 し て いる 。 これ は 、 こ の 地 方 で は 、 東
京 地 方 な ど と 違 い、 母 音 の無 声 化 が 盛 ん でな い の で 、 第 五 次 変 化 を 終 わ る ま で ●○ ○ 型 に と ど ま って いた た め と 考 え ら れ る 。︹ 補28︺
私 は ま た 、 上 の よ う に推 論 し な がら 、 そ れ な ら ば 、 東 京 式 アク セ ント が 京 阪 式 アク セ ント か ら 分 か れ 出 た のは
い つか 、 つま り 、 東 京 式 ア ク セ ント の上 に、 第 6 表 にお け る 第 五 次 の変 化 、 第 七 次 の変 化 が起 こ った の は い つか
と いう 問 題 に答 え を 与 え な か った 。 こ の 問 題 は、 先 に触 れ た 漢 語 の ア ク セ ント の研 究 を 進 め る こ と によ って 、 少
し ず つ明ら か に な って 来 る と 思 う 。 が、 こ こ に、 他 の方 面 か ら 見 ら れ る 大 体 の 見 当 だ けを 申 し 述 べて お き た い。
そ れ は 、 第 二 節 以 来 伏 せ て お いた 第 1表(12) の 語彙 の ア ク セ ント に関 連 し て であ る 。私 は こ の 方 面 か ら 見 て、東 京
式 の地方 では 、第 6表 の変 化 はか なり 早く進 ん で、 例え ば鎌 倉 時代 の初 頭 には、 す で に第 八 期 に入 って いた と 言 え る よ う に思 う 。
(1 の2語 )彙 は 、 現 在 、 東 京 式 ア ク セ ン ト 、 京 阪 式 ア ク セ ン ト と も に ● ○ 型 で 同 型 で あ る 。 こ れ は 珍 し い こ と で あ
る 。 ど う し て こ う な の か 。 こ の 語 彙 は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ に よ れ ば 、 平 安 末 期 の 京 都 語 で は 、 第 一拍 が 長 く な っ て 、 し
か も ア ク セ ン ト は ○ ● ○ 型 的 で あ っ た 。︹ 補29︺ そ う す る と 、第 6 表 で い う と 、(1の 1語 )彙 と 共 に 変 化 し て 進 む は ず で
あ った 。 と こ ろ で、 こ の語 彙 は 現 在 普 通 の 二拍 語 で あ る 。 つま り 、 現 在 ま で の間 に第 一拍 が短 く な った の であ る。
文 献 に よ れ ば 、 京 都 語 でそ の変 化 が起 こ った の は 、 平 安 末 期 と 鎌 倉 中 期 と の 間 ご ろ の こ と であ る 。 す な わ ち 、 ○
● ○ 型 か ら ● ○ 型 に な った 。 だ から 、 以 後 は 、 (2 () 3 の) 語 彙 と 行 動 を 共 にし 、 現 在 の● ○ 型 に至 って い る の であ る。
要 す る に 、 京 阪 式 ア ク セ ント で は 、 第 6 表 の第 一期 に第 一拍 の短 縮 が 行 わ れ た と 見 ら れ る 。
し か ら ば 、 東 京 式 ア ク セ ント では どう か 。 こ れ は 、 第 八 期 以 後 だ ろ う と 思う 。 な ぜな ら ば 、 も し 第 五 期 以 前 に
第 一拍 が 短 縮 し た な ら ば 、 そ れ は ● ○ 型 にな って し ま う はず であ る。 そ う す れ ば 、 第 五 次 変 化 以 後 は 、 (2 () 3 の) 語
彙 と 連 れ 立 って 変 化 し 、現 在 は○ ● 型 に な って いな け れ ば な ら ぬ か ら で あ る 。ま た 、第 六 期 、第 七 期 に拍 が 短 縮 し
た と し た ら︱
そ れ でも 、 や は り そ れ は 、 ○ ●'型 ま た は ○ ● 型 に な る は ず であ って、 や は り(2 () 3 の) 語彙 と連 れ
立 つはず に な る。 そ う す る と 、 東 京 式 ア ク セ ント に お け る こ の 語彙 の 二拍 語 化 は、 第 八 期 以 後 と いう こ と にな る 。
し か ら ば 、 東 京 式 の第 八 期 は 、 時 代 的 に何 時 代 に当 た る か 。 先 に 京 都 語 で、 こ れ ら の 語彙 の第 一拍 が 短 縮 し た
の は、 平 安 末 期 と 鎌 倉 中 期 と の間 だ と いう こ と にな った 。 東 京 式 の方 は ど う だ ろう か 。 私 は ど う も 京 阪 地 方 よ り
お そ いと は 思 え な い。 こ れ に つ いて し っか り し た 証 拠 が な い のは 残 念 であ る が、 現 在 の東 京 式 ア ク セ ント の 地 方
で は、 一般 に拍 を 引 いて発 音 す る と いう 傾 向 が 少 な い。 これ は古 く か ら の傾 向 で は な か った か と 思 う 。 そ う す る
と 、 京 阪 語 で こ れ ら の語 の第 一拍 が 短 縮 し た 時 に 、 東 京 式 の方 で 第 一拍 が 長 く 発 音 さ れ て いた と は 想 像 し に く い と思 う。
私 の考 え で は 、 せ いぜ い京 阪 式 と 同 時 期 か 、 あ る いは 東 京 式 ア ク セ ント の方 が 早 か った か と 思 う 。 東 京 式 アク
セ ント が第 6表 の第 八期 に進 ん だの は 以 上 の よ う な 理 由 で、 鎌 倉初 期 以前 であ った ろう と 思 う 。 第 六 期 に 進 ん だ のは
さ ら に 早 か った に違 いな い。 そう す る と 、 東 京 式 アクセ ント ・京 阪 式 アクセ ント の対 立が は っき り現 れ た のは、 大 体 平安 末 期 以前と いう こと に なる ので は な か ろ う か 。
な お 、 前 節 に 東京 式 ア ク セ ント と 言 った能 登 島 中 乃 島 村 向 田 の アク セ ント で は、( 12) の 語 は ○ ● 型 で あ る。 これ
は、 第 七 期 以 前 に 第 一拍 の母 音 が 短 縮 し たも のに 違 いな い。 こ れ は 、 こ の方 言 で は 、 第 八 期 が お そ く 来 た こ と 、
つま り 、 比 較 的 新 し い時 代 に東 京 式 アク セ ント へ変 化 し た 方 言 で あ る こ と を 示 す の であ ろう 。
十九 年 八月 、雑 誌 ﹃文学 ﹄第 二 二巻 第 八号 に掲載し たも の。 口頭 で発表を し て から、 二十七年 の夏 、 九学 会連 合 の能
︹付記 ︺ 昭和 二十 六年 十 二月 八日、 東大 文学 部教 室 で開 かれ た国 語学 会第 二十 三 回例会 で行 な った 発表 の内 容 を、 翌 二
登 調査団 に加わ って、 もう 一度 能 登 の地を 踏 ん で再 調 査し たと ころ によ って補 って いる の で、雑 誌 へ発表 した 内 容 は
口 頭 発 表 の内 容 よ り 詳 し く な って いる 。 た だ し 、 全 体 の 趣 旨 には 変 化 は な い。
筆 者 が 今 日 ま で に発 表 し た も の の中 で 最 も 情 熱 を 注 いで 書 き 上 げ た も の で、 事 ご と に 宣 伝 し た た め に 、 随 分 多 く の
人 に 注 目 さ れ 、 紹 介 さ れ 、 引 用 さ れ 、 批 評 を 受 け た 。 山 口 幸 洋 氏 の ﹁能 登 の ア ク セ ン ト ﹂ ( ﹃ 国 語学 ﹄ 第 五 六 輯 所 載 、 昭
三 十九 年 三 月 ) 、 都 竹 通 年 雄 氏 の ﹁東 西 方 言 の 違 い は ど う し て で き た か ﹂ ( ﹃ 言 語 生 活﹄ 第 二三 七 号所 載 、 昭 四 十 六年 六 月 )
は 、 反 論 の詳 し いも の で、 筆 者 は そ れ に 対 し て 、 ﹁ 東 西 ア ク セ ン ト 発 生 の 問 題 点 ﹂ (﹃ 国 語 学 ﹄第 五 八 輯 所載 、 昭 三 十 九 年
C.
C.I.C.Far
Eastの ern
Yamag 氏iが wミ aシ ガ ン大 学 出 版 部 か ら
La (n 一九 g六 ua 五g 年e )の a中 nに d はL 、i日 n本 g語 ui 専s 攻tの i学 c生 s" に読 ま せ る 論 文 の 一
B氏 ai のl 英e語 y訳 が 載 せ ら れ 、J・
Japaness
of
九 月)、 ﹁東 西 方 言 の 違 い の成 立 に つ い て ﹂ (﹃ 言 語 生 活﹄ 第 二四 一号所 載 、 昭 四 十六 年 十 月 ) を 書 いた 。 一方 、 楳 垣 実 、 平
in
(一九 六四 年 刊 ) に は 、Don
山 輝 男 、 奥 村 三 雄 等 の諸 氏 は 賛 意 を 寄 せ ら れ 、 ま た 、 ミ シ ガ ン大 学 の"Papers 一九 六 三 年 号 出 さ れ た 、"Readings 編 とし て採 録さ れた。
今 読 み 返 し て み る と 、 東 西 両 ア ク セ ント が 第 三 の も の か ら 出 た と す る 考 え を 抑 え よ う と し て い る 点 が よ く な か った
と 思 う 。 こ れ は 、 服 部 四 郎 博 士 の ﹁原 始 日本 語 の ア ク セ ント ﹂ の 考 え に 言 及 せ ざ る を え な く な り 、 そ う す る と 、 記 述
が 難 し く な る と 思 って 筆 を 避 け た の で あ った が 、 は っき り 対 決 す べき であ った 。 仮 に 私 の 説 が 正 し いと し て も 、 最 後
の方 へ行 って 述 べ て いる よ う に 、 ﹁よ く ﹂ ﹁見 て ﹂ の よ う な 形 は 、 乙 種 方 言 も 平 安 朝 時 代 の京 都 ア ク セ ント か ら 出 た と
言 わ ざ る を 得 ず 、 多 く の 乙 種 方 言 の三 拍 語 ﹁雀 ﹂ 類 の ア ク セ ント も 同 様 で あ る 。 外 輪 乙 種 方 言 の成 因 に 至 って は 、 特
﹁ 柴 田 君 の ﹃日 本 語 の ア ク セ ント 体 系 ﹄ を 読 ん で﹂ (のち に ﹃日本
に そ う いう 部 分 が 多 い。 例 え ば 別 稿 ﹁対 馬 ・壱 岐 の ア ク セ ント の 地 位 ﹂ の ︹付 記 ︺ の最 後 あ た り を 参 照 。 こ れ ら に つ い て は 、 別 の機 会 に補 説 し た い。 ﹃ 国 語 学﹄ 第 二六 輯 ( 昭 三 十 一年 十 月 ) に 発 表 し た
語 音韻 の研 究 ﹄ に転 載 ) の中 でも 、 ま た 、 こ の 本 に 収 め た 小 稿 ﹁熊 野 灘 沿 岸 諸 方言 の ア ク セ ント ﹂ でも 、 こ の 説 を 補 強
し た 。 ︽乙 種 ア ク セ ント な る も の は 、 甲 種 ア ク セ ン ト か ら 、 最 初 の滝 が 一拍 ず つ後 へず れ て で き た ア ク セ ント 体 系 で
あ る ︾ と いう 論 で あ る 。 な お こ の ほ か 、 次 の論 文 の 次 の 記 述 も 、 乙 種 ア ク セ ント な る も の は 甲 種 ア ク セ ント が 変 化 し
Langua
補
﹃四 座 講 式 の研 究 ﹄ ( 昭 三 十 九 年 三月 ) の三 一〇 ペ ー ジ の 注 ( 1 )に 述 べ た 、 岡 山 市 方 言 に お け る ﹁居
て で き た こ と を 証 す る も の と考 え て いる 。 1 金 田 一春 彦
(お ) る ﹂ と いう 語 の 活 用 形 の ア ク セ ント 。 こ れ は 甲 種 方 言 の ﹁居 る ﹂ の 活 用 形 か ら 変 化 し た も の と 解 す る の が 、 一番 自 然 で あ る 。
奈 良 県 十 津 川 村 の方 言 で 、 ﹁居 (お ) る ﹂ ﹁見 た ﹂ ﹁出 た ﹂ ﹁ 着 た ﹂ ﹁寝 た ﹂ ⋮ ⋮ の よ う な 語 が ● ●'の よ う な 語 末 に
2 ﹃国 語 学 ﹄ の第 六 九 輯 (昭四 十 二 年六 月 ) 所 載 の小 稿 ﹁東 国 方 言 の歴 史 を 考 え る ﹂ の 四 一︲四 二ペ ー ジ に 述 べ た 、
滝 の あ る 型 に 属 し て い る事 実 。 こ れ は 京 阪 式 の ● ○ 型 か ら 変 化 し た と 見 る の が 最 も 自 然 で あ る 。 こ れ と 同 じ こ と
﹁東 西 方 言 の 違 い の 成 立 に つ い て ﹂ の六 三ペ ー
は 、 山 口 県 周 防 大 島 の方 言 に も 、 福 井 県 大 野 郡 石 徹 白 地 方 の方 言 に も 見 ら れ る と いう 。 3 ﹃言 語 生 活 ﹄ の第 二 四 一号 (昭 四十 六 年十 月 ) 所 載 の前 出 の 小 稿
ジ に 述 べた 岡 山 県 東 部 の 方 言 で 、﹁近 い﹂ ﹁深 い﹂ が 、ま た 山 梨 県 か ら 静 岡 県 御 殿 場 地 方 に か け て の 方 言 で ﹁近 い﹂
が 他 の 第 二 類 三 拍 形 容 詞 と 異 な り 、 ○ ● ● 型 に 属 し て いる 事 実 。 つま り こ れ ら の 語 は 、 古 く ● ○ ○ 型 で あ った 時
﹃ 国 語 ア ク セ ント の 史 的 研 究 ﹄ ( 昭 四十 九 年 三 月、 塙 書 房 刊) の 一九 〇︲ 一九 一ペー ジ で再 説 し た 。
代 に 、 第 一拍 の 母 音 が 無 声 化 す る た め に● ● ○ 型 に な り 、 第一 類 形 容 詞 に 合 流 し た の であ ろ う と 考 え る 。 こ の こ と 、金 田 一春 彦
事 実 も こ の 想 定 を 支 持 す る と 考 え る。
以 上 の ほ か 、 こ の 本 に 載 せ た ﹁隠 岐 ア ク セ ント の系 譜 ﹂ の六 一三︲六一 四 ペー ジ の注 (12 ) 注 (13 )に 注 意 し た
○ 型 、 ● ● ○ ○ 型 か ら 変 化 し た も の と 解 す る の であ る 。
セ ント が ○ ● ○ 型 、 ○ ● ● ○ 型 で 、 助 詞 ﹁の ﹂ の直 後 に 滝 が あ る 事 実 。 こ れ は 室 町 時 代 の 京 都 ア ク セ ント の ● ○
4 3 に 前 掲 の ﹃ 国 語 ア ク セ ン ト の 史 的 研 究 ﹄ の 一八 一ページ に 述 べ た 、 東 京 方 言 で ﹁あ の 子 ﹂ ﹁ 亀 の子 ﹂ のア ク
注 ︹1 ︺ ﹁双方 が同 じ も と から 出 た のか﹂ と いう 一句 が必要 だ った 。
︹2 ︺ ﹃ 補 忘 記 ﹄ は馬 淵 和夫 氏 によ り 、 現在 では室 町時 代 の京 都方 言 のア ク セ ント 資 料だ と さ れ て い る。 これ を 書 いた ころ は 、筆 者 は そ れ を知 ら な か った。
は、 ま だ 〓と いう 表 記法 に気 付 いて いな か った。 ﹃ 名義 抄﹄ の アク セ ント は 、 そ の後 小 松英 雄 氏 ら の発 表 に よ って幾 つか 訂正
︹3 ︺ 和 歌 山方 言 の型 の表 記は 不 精 密 だ った 。(5 の)﹁ 雨﹂﹁ 書 け﹂ のア ク セ ント は○ 〓型 であ る と 見 ら れ る。 こ の稿 を 書 いた こ ろ
さ れ た 。(4 () 5 の) 語彙 の間 に は 、○ ● ▼型 対 ○ 〓 ▼型 と いう 別 が あ った 。(8 の) 語彙 のう ち ﹁ 赤 い﹂ の連 体 形 は ● ● 〓 型 で 、そ
れ が室 町時 代 ま で の間 に● ● ○ 型 に合 流 し た。(9 の) ﹁ 白 い﹂ の連 体 形 は○ ○ 〓 型 であ った。 (1 の1﹁ ) 雨 が﹂ は○ 〓 ● 型 であ っ た ら し い。 ﹁ 掛 け て ﹂も そ う であ った か も しれ な い。(1 の2 語) は 〓○ 型と す べき だ った 。
︹4 ︺ 第 1 表 の訂 正 に応 じ て、 こ の表 の字 句 も 訂 正を 要 す る。 全 般 的 に ﹁ 平型 ( 軽 声 と 推定 ⋮ ⋮)﹂ と あ る のは ﹁平 型 (東声 と 推
第 五 類 二 拍名 詞 平東 型と 推 定 さ れ る。
定⋮⋮) ﹂ と改 め る 。
第 二類 二 拍動 詞 終 止 形は 平 東 型ま た は去 型 。
﹁ 歩 く ﹂ 類 三拍 動 詞 終止 形 は 平 上東 型 。
第 二類 三 拍動 詞 終 止 形は 平 平 東 型ま た は 平 東型 。
﹁ よ い﹂ 類 二拍 形 容 詞 終 止 形 は 平東 型 。 第 一類 三 拍形 容 詞 終止 形 ・連 体 形は 上 上 東 型。 第 二類 三 拍 形容 詞 終 止形 ・連 体 形 は平 平東 型。
︹5 ︺ や かま し く 言う と 、 アク セ ント は 音素 ( Phone )m にe 相 当す るも の ではな く て、 音素 連 結 に相当 す るも のと考 え る。 こ のこ
と 、 旧稿 ﹁日本 語 アク セ ント 卑 見 ﹂ ( ﹃ 国 語 研 究 ﹄第 七号 所 載 、 のち に ﹁日本 語 音 韻 の研 究 ﹄ に 所 収) に詳 述し た 。
︹ 6︺ ﹃ 方 言 ﹄ 第 一巻 第 一号 ( 昭 六年 九 月 ) に発 表 さ れ た ﹁ 国 語諸 方 言 のア ク セ ント 概観 (1 ﹂) の二 九 ペー ジ。 ︹7 ︺ あま り結 論 を急 ぎ す ぎ て お り、 よ くな か った 。
か ら出 た と 言 え ると 思 う 。
︹ 8︺ 前 述 のよ う に、 現 在 の京 阪式 アク セ ント か ら 全部 が出 た と は言 え な い。 し かし 、 ﹃名義 抄 ﹄ ま でさ か の ぼれ ば 、 大 体京 阪 式
語 に変 わ り はな か った。
︹9 ︺ 三 拍 語 と言 う ほ ど で はな か った と 、実 は考 え て いる。 第 一拍 がや や 長 く 発 音 さ れ る のが 自 然 であ った ろ う が 、 や は り 二拍
︹10 ︺ 奥村三雄氏が ﹃ 国 語 国 文 ﹄第 二 六 五 号 ( 昭 三 十 年 十 二月 ) に 発 表 し た ﹁ 東 西 ア ク セ ント の分 離 の時 期 ﹂ は 、 こ の問 題を 取 り上 げ た 論文 であ る 。 ︹1︺ 1 ︹ 9 ︺ を 参照 。
︹12 ︺ A の語 の語末 に滝 があ ると 、 そ の語 の次 に B の語 が 接 続す る 場合 、 も し そ の結 合 の度 合 い が強 く な る と 、 B の語 は い つも
低 平 調 に 変化 し てし まう 。 これ は B の語 の ア ク セ ント を 不 明瞭 にす る と いう 不 都 合 を 生 ず る 。 こ のこ と か ら 語 末 の 滝 は き ら
わ れ 、 消 失す るも のと考 え る。 た だ し 、 A の語 が 文末 に 来 る こ と の 多 いも の は、 次 に来 る 語 が 多 く は 付 属 語 の類 で、 低平 調 に発 音 さ れ ても 大 き な支 障 は な い ので、 語 末 の滝 は 消 えず に残 る も の と考 え る 。
K第 e三 n号 ky 所u 載" 、 昭 二十 二 年
八月 ) と いう 題 で発 表 し た こと があ った が、 こ こ で 整 理 し た 形 で 発 表 し な お し た。 こ の本 に掲 載 した 別 稿 ﹁隠 岐 ア ク セ ント
︹13 ︺ これ ら の ア クセ ント変 化 の法 則 に ついて は、 以 前 に ﹁語 調変 化 の法 則 の探 求 ﹂ ("Toyogo
の系 譜 ﹂ に は 、も う一 度 こ れを 取 り 上げ た 。
( 乙) 型 の性質 ﹂ は 、 こ の問 題 を 扱 ったも ので あ る。
︹1︺ 4 日本 方 言 学 会 編 ﹃ 日 本 語 のア ク セ ント ﹄ (昭十 七年 三 月 、 中央 公 論 社 刊 )所 載 の 小 川 武 雄 ﹁近 畿 ア ク セ ント に於 け る 上 下
︹ 15 ︺ 平 山輝 男 氏 の ﹁北 陸道 方 言 の音 調 ﹂ ( 寺 川 喜 四男 ほか 編 ﹃ 国 語 アク セ ント 論 叢 ﹄ 所 載 ) を 参 照。 ま た 、 ここ で 取 り 上 げ た 能
登島 のア ク セ ント に つ い て は、 川 本栄 一郎氏 に ﹁ 能 登 島 の老 ・若 に お け る 二 音 節 名 詞第 四 ・五 類 の ア ク セ ント ﹂ (﹃ 密田良二 教 授 退 官 記念 論 集 ﹄ 所載 、 昭四 十 四 年 三月 ) と いう 詳 密 な 論文 があ る 。
︹16 ︺ (b の) 高 浜 の(5 の) 語彙 は 、語 末 の滝 の有 無 不 詳 。 ( 参 考 ) の和 歌 山 の(5 の) 語 彙 は 、○ ●'型 では な く て○ 〓 型 。
方 言を 挙 げ る べき だ った 。
︹ 17 ︺ 白 峰 方 言 のア ク セ ント は、 加 賀 地 方 一般 の方 言 のも のに 近 いも の で、能 登 のも の と は必 ず しも 近く はな い。 こ こ には 佐 渡
︹1︺ 8 ︹12︺ を 参 照。 ︹ 19 ︺ (5 の) 語彙 は、 そ の前 に ﹁ ○ 〓 型 ← ﹂を 添 え る べきだ った 。
も 同様 であ った かも し れ な いが、 東 京 方 言 な ど は 、 (4 の) 語彙 と (5 の) 語彙 と が ま ず 一緒 に な り 、 そ のあ と で● ○ 型 に変 化 し た
︹20 ︺ 徳 川宗 賢 氏 は 、能 登島 向 田 の方 言 の(5 の) 語 彙 は 、(4 の) 語彙 と 別 々 に● ○ 型 に変 化 し た 、 愛 知 県 の尾 張 方 言、 岐 阜 県 の方 言
D著 au ・松 za 原t 秀 治 訳 ﹃言 語 地 理学 ﹄ 第 三 部 第 三 章、 小林 好 日 ﹃ 方言語彙学的研究﹄ ( 昭 二 十 五 年 十 一月) の 一八
ので はな いか と 言わ れ る 。 徳 川宗 賢 ﹁"日本 語 方 言 ア ク セ ント の系譜 " 試 論 ﹂ ( 三四六ページの ︹ 20 ︺ に前 出 ) 。 あ る いは そう か も しれ な い。 ︹21︺ Alberr 五︲ 一八 六 ペー ジを 参 照 。 ︹ 22 ︺ (5 の) 語 彙 は 、第 一期︱ 第 五期 を 通 じ て○ 〓 型 と表 記す べき だ った 。
︹ 23 ︺ 橋 本 進 吉 博 士 の発 見 。金 田 一春彦 ﹁ 国 語 アク セ ント の史 的 研究 ﹂ ( 三 四五 ペー ジ に前 出 ) の 一三四 ペー ジ に 引 用。
︹24 ︺ 東 条 操 編 ﹃日本 方 言 学﹄ ( 昭 二 十 八年 十 二月 、吉 川 弘 文 館刊 ) の中 の金田 一春 彦 ﹁ 音 韻 ﹂ の条を 参 照 。 ︹25 ︺ ﹃ 国 語 と 国 文学 ﹄ 第 二 七巻 第 九 号 ( 昭 二十 五 年九 月 ) 所 載。
︹26 ︺ 埼 玉 県 東部 の アク セ ント に つ い ては 、金 田一 春 彦 ﹁ 関 東 地 方 に於 け る アク セ ント の分 布 ﹂ ( ︹14︺ に引 いた ﹃ 日 本 語 のア ク
セ ント ﹄ 所載 ) を 、 山 梨県 奈 良 田 の ア クセ ント に ついて は、 稲 垣 正 幸 ほ か編 ﹃ 奈 良 田 の方 言﹄ ( 昭 三 十 二年 八月 、 山 梨 民 俗 の 会 刊 ) を 参 照。 ほか に隠 岐 島 大 部 の方 言 も 、丙 種 方 言 と 見 る。
︹27 ︺ こ の本 の五 八〇 ペー ジ に引 いた 島 根 県 隠 岐 の五 箇 ・中 村 な ど の方 言 、 三 七 二 ペ ー ジ の ︹ 2 ︺ に 引 いた 種 子島 方 言も 典 型的 な 丁 種 の方 言 と な る。
平 谷方 言 (こ の本 の 四五 一ペー ジを 参 照 ) は 乙種 方 言 であ る が、 第 一類 二 拍 名詞 +﹁も ﹂ の形 に、 カ ゼ モ ( ○ ● ●' ) のよ う に
︹28 ︺ ほ か の乙種 アク セ ント が 新 しく 変 化 し た 形 であ る こ とを 示 す 証 と し ては 、 ︹付 記︺ に述 べた 以 外 に 、奈 良 県吉 野 郡十 津 川村
語 末 の滝 が現 れ る こと も 数 え 得 る と 思 う。 こ のよ う な 性 質 は 、 愛 媛 県 越智 郡 吉 海 町津 島方 言 に も 見 ら れ、 都 竹 通 年 雄 氏 によ る と、 岐 阜 県 萩 原町 方 言 に も 見ら れ る と いう 。 ︹29 ︺ ︹9︺ に述 べたよ う に、 三拍 語 と 言 う ほど のも ので はな か った。
熊 野 灘 沿 岸 諸 方 言 の ア ク セ ント
I 北 牟 婁 郡 の 部 一 序説
三 重 県 の南 端 、 南 北 牟 婁 郡 地 方 は 、 日 本 全 土 のう ち で方 言 ア ク セ ント 分 布 上 最 も 興 味 深 い地 方 の 一つであ る 。
そ こ に は 、 京 都 ・大 阪 式 の いわ ゆ る "甲 種 ア ク セ ント " の諸 変 種 が広 く 分 布 し て い ると こ ろ に、 奈 良 県 吉 野 郡 の
南 半 に 広 が って いる 東 京 式 、 す な わ ち "乙 種 ア ク セ ント " が食 い込 ん で 来 て、 錯 綜 し た 状 況 を 示 し て いる。 中 に
は、 一つ の町 村 の中 の ア ザ ご と に 違 った ア ク セ ント 体 系 を 有 す る も のも あ り、 ま た 、 甲 乙 両 種 の中 間 ア ク セ ント
を 有 す る 町 村 や 、 甲 乙両 種 か ら 逸 脱 し て 一種 の "曖 昧 アク セ ント " に 変 化 し つ つあ るも のも 認 め ら れ る 。 こ こは 、
面 積 ・人 口 に比 し 、 全 国 屈 指 の複 雑 な ア ク セ ント 分 布 を 示 す 地 帯 と いう こと が で き る。
従 来 、 こ の 地 方 の ア ク セ ント の調 査 を 試 み た 学 者 は 何 人 か あ る 。(1) 昭 和 初 年 の服 部 四 郎 氏 を は じ め と し て、
生 田 早 苗 ・藤 原 与 一 ・柴 田 武 ・青 木 千 代 吉 ・杉 浦 茂 夫 の諸 氏 は 、 かわ る が わ る こ の地 を 訪 れ ら れ た 。 こ れ ら の研
究 のう ち のあ る も の は、 す で に活 字 にな り、 公 にも さ れ て いる 。 特 に 生 田 氏 のも の は 調 査 ・発 表 と も に詳 密 き わ ま り な い業 績 で あ る 。
私 の調 査 は、 昭 和 三 十 一年 三 月 と 七 月 の二 期 に 分 か れ る約 十 日 間 で 、 調 査 地 点 の数 は 約 三 十 弱 で あ る が 、 そ の
結 果 は 今 ま で の諸 家 の発 表 にな お 追 加 報 告 す べき 収穫 があ った よ う に 思 う 。 こ こ に発 表 す る も のは 、 そ の前 半 の
北 牟 婁 郡 方 言 に 関 す る部 分 であ る が 、 南 北 両 牟 婁 郡 の ア ク セ ント 体 系 を 通 じ て 明 ら か に し え た 中 で、 重 要 と 思 わ れ る事 項 を 箇 条 書 き に並 べれ ば︱
ある
いわ ば 、 乙 種 にな り そ こね
(1 ) 長 島 ・錦 ・相 賀 ・尾 鷲 な ど のア ク セ ント は 、 甲 種 か ら 変 化 し た ア ク セ ント であ る が、 そ の変 化 を す る 時 に
乙 種 と 似 た方 向 に、 し か し や や 違 った 方 向 に変 化 し た アク セ ント 体 系 で あ る︱ た ア ク セ ント 体 系 であ る 。
(2 ) 木 之 本 ・新 鹿 等 の ア ク セ ント 体 系 は 最 も 甲 種 に近 いア ク セ ント 体 系 で 、 甲 種 か ら 変 化 し て でき た︱ いは 甲 種 か ら 変 化 し よ う と し て いる 状 態 に あ る ア ク セ ント 体 系 であ る。
(3 ) 阿 田 和 そ の 他 南 牟 婁 郡 南 部 の ア ク セ ント 体 系 は 甲 種 ・乙 種 の中 間 のも の で、 甲 種 か ら 乙 種 に 変 化 す る 過 渡
( 地 図 の小 坂 ) か ら 入 鹿 (地 図 の板 屋 ) に至 る南 牟 婁 山 間 部 の地 域 の ア ク セ ント 体 系 は 、 乙種 ア ク セ
期 にあ る 、 興 味 あ る ア ク セ ント 体 系 であ る。 (4 ) 飛鳥
( 三 木 里 ・古 江 ) に は 曖 昧 ア ク セ ント に 近 い ア ク セ ント 体 系 も 行 わ れ て お り ( 例 、 古 江 )、
ント で あ り 、 こ れ は 、 甲 種 か ら 阿 田 和 ア ク セ ント を 通 って 変 化 し て でき た ア ク セ ント 体 系 で あ る 。 (5 ) 南 北輪内地方
これ は 、 や は り 甲 種 ア ク セ ント 体 系 か ら 変 化 し て でき た も の で、 甲 種 ← 乙 種 の変 化 と は 似 て は いる が、 違 っ た 方 向 を た ど った た め に で き 上 が った ア ク セ ント 体 系 で あ る 。 調 査 の結 果 を 図 に表 せ ば 、 次 ペー ジ の 図 のよ う に な る 。
な お 、 調 査 語彙 は、 地 点 によ り 粗 密 があ る が 、 少 な く と も 次 の語 彙 は漏 れ な く 調 査 し た 。 被 調 査 者 は 、 そ の土 地 生 え ぬ き の教 員 な ら び に 教 育 関 係 の公 務 員 の人 た ち が 多 い。
な お 、 こ の地 域 を 歩 き な がら 特 に 感 じ た こ と は、 一般 に ア ク セ ント に 対 す る意 識 が き わ め て は っき り し て いる
こ と であ る。 私 が 調 査 に 赴 く と 、 言 語 学 者 で も 音 声 学 者 でも 何 で も な い人 が 、 "東 長 島 で は ナ ンド レと 言 う の に、
西 長島 では ナ ンド レと 言う 。 お か し い ノ シ " と い った よ う な こ と を いき な り 言 い出 し 、 何 か 私 が 調 査 し に 来 る こ
と を 知 って い て 予 習 で も し て お い た か と い う 錯 覚 に 陥 り そ う に な った こ と が 一再 で は な か った 。 こ れ は 、 こ れ ら
の 地 方 が ア ク セ ント の 対 立 が 激 し く 、 し か も そ れ ら の ア ク セ ン ト 体 系 が い ず れ も 明 確 で あ る こ と に よ る も の と 思 う。
● ● 型 の 語 。( 2) (1蚊 ) 。 子 。 血 。 戸 。 実 。 (2)牛 。 柿。 風。竹。鳥 。 庭 。 鼻 。 水 。 (3) 買う。 貸す。 聞く。 鳴 る。 振 る 。 着 る 。 (お る )。
(お る )。
(4着 )て 見 て ︹B ︺標 準 甲 種 方 言 で ● ○ 型 の語 。 (1)毛 。 名 。 葉 。 日 。 歯 。 (2)石 。 音。 紙。川。胸 。 足。犬 。馬。米 。
花。 (3 居)る。 (4 着)た。 見 た。 (5買)え。 ( よ う ( な る )。のう (な る )。
(1木)。 手。 根。 火。 目。 (2糸)。 帯。 肩。 空。 種。 箸。 舟。 麦。 (3書)く。 切 る。 食 う。 立 つ。飲 む。 見 る。 (4よ)い。 な い。
︹ D標 ︺ 準甲種方言 で○〓 型 の語。 (1 秋) 。 朝。 雨。 蜘 蛛。 鶴。 春。 (2書)け。 ︹ 三一 拍 の語︺ 標 準 甲 種 方 言 で ● ● ● 型 の語。
(1 子) 供。 桜。魚。 柳。(2 上) る。笑 う。 明 け る。負 け る。(3 買) わ ん。買 お う。(4 実) が。血 が。(5 牛) が。柿
が。風が。竹 が。鳥 が。庭が。鼻 が。水 が。︵6 石︶ の。紙 の。川 の。足 の。犬 の。花 の。 ︹ F標 ︺準 甲種方言 で●●○ 型 の語。
(1 小) 豆。 二 つ。頭。鏡。 境。(2 上) がれ。 笑え。(3 赤)い。軽 い。(4 赤) う ( なる)。(5 実) も。 ︹ G標 ︺準 甲種方言 で●○○ 型 の語。
(1 力) 。 二十歳。 油。命。 心。涙。柱。 (2 動) く。 思う。起 き る。晴れ る。(3 買) うた。 貸し た。聞 いた。鳴 い
た。買 うな。(4 動) け。 思え。(5 書) かん。書 こう。 (6 熱)い。白 い。高 い。(7 葉) が。日 が。(8 石) が。音 が。 紙 が。川が。胸 が。足 が。犬が。馬 が。米 が。花 が。 ︹ H標 ︺準 甲種方言 で○○●型 の語。
(1 兎) 。烏。 雀。 背中。(2 歩) く。隠 す。(3 手) が。火 が。(4 糸) が。帯 が。肩 が。空 が。種が。箸 が。舟 が。麦 が。 ︹I ︺ 標準 甲種方 言 で○ ●○型 の語。︹ 補1︺
(1兜 )。 薬 。 野 原 。 畠 。 (2書 ) いた。 切 った。 ︹ 食 う た 。︺ 飲 ん だ 。 (3書 )く な 。 (4歩 )け 。 (5白 )う
も 。 目 も 。 (7秋 )が 。 朝 が 。 雨 が 。 蜘 蛛 が 。 鶴 が 。 春 が 。 (8帯 )も 。 糸 も 。 肩 も 。 ︹四 拍 の語 ︺ 標 準 甲 種 方 言 で ● ● ● ● 型 の語 。
(生 1ま ) れ る 。 忘 れ る 。 (2実 ) か ら 。 実 に は 。 (3魚 )が 。 子 供 が。 桜 が。 柳 が ︹ K標 ︺準 甲 種 方 言 で ● ● ● ○ 型 の 語 。
(1桜)も 。 魚 も 。(2実)で も 。 ︹ L︺ 標 準 甲 種 方 言 で ● ● ○ ○ 型 の語 。 (1倒)れ る 。 離 れ る 。 (2実)ま で。 (3小)豆 が 。 二 つが 。 頭 が。 鏡 が 。 境 が 。
(1力)が。 二 十 歳 が。 油 が 。 命 が 。 心 が 。 涙 が 。 柱 が。 ︹ N︺ 標 準 甲 種 方 言 で○ ○ ○ ● 型 の語 。 (1答)え る 。 (2手)か ら 。 手 に は 。 (3 兎)が 。 烏 が。 雀 が 。 背 中 が 。 ︹ O︺ 標 準 甲 種 方 言 で○ ○ ● ○ 型 の語 。 (1手)でも 。 (2兎)も 。 雀 も 。 ︹P ︺ 標 準 甲 種 方 言 で○ ● ○ ○ 型 の 語。 (1手 )ま で 。 (2薬 )が。 兜 が。 畠 が 。 野原 が 。
(な る )。 (6木 )
注 ( 1) 服部 氏 の研 究 は、 ﹃ 方 言 ﹄ 三 の六 所載 の ﹁東京 方 言学 会 第 四 回例 会 記事 ﹂ にそ の 一端 が う か が え る。 柏 崎 ・長 島 ・尾鷲 ・
木 之本 な ど の調査 であ った。 私 も そ の時 の服 部 氏 の採 録 さ れ た アク セ ント の資 料 を ﹁ 国 語 アク セ ント の地 方 的 分 布 ﹂ ( 国語教
育学 会 編 ﹃標準 語 と 国 語教 育﹄ 所 収 ) そ の他 に引 用 さ せ て いた だ いた。 生 田 氏 のも のは 、 寺 川 ・金 田 一 ・稲 垣 共 編 の ﹃国 語
ア ク セ ント 論 叢﹄ の中 に 、 ﹁ 近 畿 ア ク セ ント 圏 辺 境 地 区 の諸 アク セ ント ﹂ と題 し て 掲載 さ れ て いる。 そ の ほ か、 ﹃ 三 重 方 言﹄
第 一号 に杉 浦 茂夫 氏 によ る 木之 本 方 言 の ア ク セ ント に ついて の考 察 が載 って お り、 ﹃東条 操 先 生 古 稀 祝賀 論 文 集 ﹄ に 載 った 藤
原与 一氏 の ﹁南紀 ( 三 重 県)南 牟 婁 郡 下 の文 アク セ ント ﹂ は 、南 牟 婁 郡 相 野 谷村 と そ の付近 の方 言 の ア ク セ ント に 触 れ て いる 。
● 型← ○ ○ ● 型、 ○ ● ● ○ 型← ○ ○ ●○ 型、 ○ ● ●● 型 ←○ ○ ○● 型 と いう ﹁型 そ のも の の変 化 ﹂ だ け を 起 こ し て で き 上 が
(2 ) 標準 甲 種 方 言 ( 仮 称 ) と いう のは、 ﹃ 補 忘 記 ﹄ によ って知 られ る近 世 初期 の京 都 方 言 の アク セ ント 体 系 が 、 そ のま ま ○ ●
った と想 定 さ れ る アク セ ント体 系 を も つ方 言 の こと。︹ 補2︺ 現 実 の近 畿 諸 方 言 は多 く これ に近 いが、 例 え ば 京 都 方 言 な ど は 、
こ のほか に● ●○ 型← ● ○ ○型 と いう 変化 を 遂 げ か け て いる 上 に、動 詞、 形 容 詞 の活 用 形 の一 部 が、 他 の多 く 使 わ れ る 活 用
形 への類 推 によ る変 化 を 遂 げ て いる た め に、 不 純 な も の にな って いる 。和 歌 山市 方 言 ・姫 路 市 方 言 な ど 、 特 に 前 者 は 比 較 的
﹁標準 甲種 ア ク セ ント 体 系 ﹂ に近 いが 、 それ でも 三拍一 段 活 用 動 詞 の終 止 形 ・連 体 形 が ●○ ○ 型 ではな く 、 ○ ○ ● 型 に な って
いる 点な ど で完 全 で はな い。 こ のあ た り金 田 一春 彦 ﹁ 近 畿 中 央 部 のア ク セ ント の覚 え 書 ﹂ ( ﹁ 東条操先生古稀祝賀論文集﹄所
・南 度 会 地 区 の ア ク セ ン ト
載 )参 照 。 な お、 こ の稿 を 通 じ、 ● は高 い拍 、 ○ は低 い拍 、 〓 は前 半 が 高く 後 半 が 低 い拍を 表 す 。
二 志 摩 地 区
一 旧 鳥 羽 町 (=現 鳥 羽 市 鳥 羽 ) の アク セ ン ト
は じ め に 、 比 較 の た め 、 南 北 牟 婁 郡 の 外 に な る が 、 こ れ に 地 理 的 な 関 係 の 深 い、 志 摩 地 方 の ア ク セ ン ト と 、 度 会 郡 南 部 の ア ク セ ント に つい て概 略 を 述 べて お く 。
名 古 屋 大 学 の野 村 正 良 教 授 は、 今 年 、 中 日 主 催 の伊 勢 湾 周 辺 綜 合 学 術 調 査 に参 加 さ れ た が 、 そ の 折 調 査 さ れ た
結 果 に 従 え ば 、志 摩 地方 の ア ク セ ント は、 面 積 の小 さ い割 合 に か な り違 いが 激 し いよ う であ る 。 が、 中 では 旧鳥
羽 町 鳥 羽 の ア ク セ ン ト 体 系 は 、 最 も 広 い 地 域 に 行 わ れ る も の で 、 志 摩 地 区 に 代 表 的 な も の と 見 て い い ら し い。 こ
れ は 、 松 阪 ・山 田等 あ た り の、 伊 勢 地 方 南 部 一般 の ア ク セ ント と大 体 同 じ 種 類 の ア ク セ ント 体 系 であ る 。 四 一七
シ 型。
︲四 一九 ペー ジ に 掲 げ た 語彙 に つ い て の調 査 の結 果 を 述 べ る と 次 のよ う で 、 標 準 甲 種 方 言 のア ク セ ント 体 系 と ほ と ん ど 違 わ な い。
ノ
ーナ ル 型。
﹁買 う な ﹂、(4の ) ﹁動 け ﹂ ﹁思 え ﹂ は カ ウ ナ ・ウ ゴ ケ 型 、(5の ) ﹁ 書 か ん ﹂ は カ カ ン 型 、 ﹁書 こ う ﹂ は カ コ 型 。
化 の結 果 と 見 ら れ る 。
﹁動 け ﹂ ﹁思 え ﹂ の ● ● ○ 型 、 ﹁書 か ん ﹂ の○ ○ ● 型 は 、 他 の 活 用 形 の ア ク セ ン ト へ の 類 推 に 基 づ く 新 し い 変
る ﹂ の ア ク セ ン ト は 他 の 四 日 市 ・津 な ど の 伊 勢 方 言 と 足 並 み を そ ろ え て 変 化 し た 形 で あ る 。( 3) ﹁買 う な ﹂
﹁動 く ﹂ は 古 型 を 存 し て い る が 、 ﹁思 う ﹂ は 京 都 ・大 阪 方 言 と 同 様 の 新 し い 型 に な って い る 。 ﹁起 き る ﹂ ﹁晴 れ
ち
た だ し 、(2は ) ﹁動 く ﹂ が ウ ゴ ク 型 、 ﹁思 う ﹂ は オ モ ウ 型 、 ﹁起 き る ﹂ ﹁晴 れ る ﹂ は オ キ ル ・ハ レ ル 型 。(3)の う
標 準 甲 種 方 言 と大 体 一致 し 、 原 則 と し て は 、 イ ノ チ ・ウ ゴ ク 型 。 ︵1 と︶ (6)(7 し)か (り 8) 。(3の )大 部 も し か り 。
で アカ ナ ル型 。
こ れ は 古 型 の 保 存 で あ る 。( 2)︵3︶の ﹁赤 い﹂ ﹁軽 い ﹂ の み は 、 ア カ イ ・カ ル イ 型 。(4の ) ﹁赤 う な る ﹂ は 、 全 体
京 都 方 言 あ た り と 違 い、標 準 甲 種 方 言 に 同 じ 。 す な わ ち 、 原 則 的 に は ア ズ キ ・ア ガ レ 型 。(1)︵2 し︶か ︵り 5︶ 。
標 準 甲 種 方 言 と違 わ な い。 サ カ ナ ・ア ガ ル 型。
え 、 私 の滝 観 で 言 え ば 語 末 に 滝 があ る こと にな る 。(1)
標 準 甲 種 方 言 に 対 し 少 し 違 う 。( ︵1 2︶ ︶ と も ○〓 型 で はな く 、 アキ ・カ ケ型 。 そ の直 後 に 従 う 語 は 低 く 付 く ゆ
同 上 、 す な わ ち 、(1)︱( を4通 )じ て 、 キー・ イ ト 型 。
ル
同 上 。 す な わ ち 、(1)︱(5通 )を じ て ケ ー ・イ シ 型 。 た だ し(6)の ﹁よ う ﹂ ﹁の う ﹂ は﹁ な る ﹂が つ い て ヨ ー ナ
標 準 甲 種 方 言 に 同 じ 。 す な わ ち 、(1︶︱︵ を4通 ︶じ て 、 カ ー・ウ
〔B〕〔A〕 〔D〕 〔C〕 〔F〕 〔E〕 〔G〕
ナ カ 型 。 他 は ○ ○ ● 型。
︹H︺ 原 則 と し て 標 準 甲 種 方 言 と 同 じ く 、 ウ サ ギ ・ア ル ク 型 。(2)(3 し)か (4 り) 。 た だ し 、(1)の う ち 、 ﹁背 中 ﹂ は セ
︺ 同 じ く 、 サ ク ラ モ・ミ ー デ モ 型 。
多く の 乙種 方 言 で ミ ニ ワと な って いる のを 考 え 合 わ せ る べき だ ろ う か 。
に ワが 低 下 す る 。 これ は 以 下 述 べ る 南 北 牟 婁 郡 の諸 方 言 に も 一致 し て 見 ら れ る 傾 向 で あ る。(4)東 京 語 な ど
︹J︺
原 則 と し て は標 準 甲 種 方 言 と 同 じ く ワ ス レ ル ・サク ラ ガ 型 。 た だ し(2の)う ち ﹁実 に は ﹂ は ミー ニワ のよ う
シ ロナ ル 型 。
標 準 甲 種 方 言 と 同 じ く 原 則 と し て は カ ブ ト ・カ ク ナ 型 。(1︶(3)(4) し(か 6り )( 。7 () 2は ( )8 す)べ て カ イ タ 型 。(5は )
〔I〕
方 言 と軌 を 一にす る 。
る傾 向 ( 5)で あ る が 、 ● ● ○ 型 が 安定 し て いる 点 で伊 勢 北 部 の諸 方 言 と 異 な って、 大 阪 ・兵 庫 ・和 歌 山 方 面 の諸
ま た 、 ● ● ○ 型 が 比 較 的 安定 し て いる こ と が 注意 さ れ る。 ○〓 型 を 欠 く こ と は 三 重 県 伊 勢 地 区 の方 言 にも 見 ら れ
以 上 を 総 括 す る と 、 こ の方 言 は 、標 準 甲 種 方 言 と大 体 同 一の 体系 を 有 す る が 、○〓 型 を 欠 く 点 で 異 色 が あ り 、
︹ P︺ 同 じ く 、 カ ブ ト ガ 型 。
︹O︺同 じ く 、 ス ズ メ モ 型 。
︹ N︺ 同 じ く 、 スズ メ ガ 型 。 た だ し(2 の) う ち ﹁手 に は﹂ は テー ニ ワ型 。 こ れ は ︹J の︺ (2 の)﹁実 に は ﹂ の ﹁は﹂ が 低 下 す る の と 並 行 的 な 事 実 であ る。
︹ M︺ 標 準 甲種 方 言 に準 じ て 、 イ ノ チ ガ 型 。
動 詞 への類 推 に よ る 変 化 の結 果 と 考 え ら れ る 。
同 じ く 、 ア ズ キ ガ ・ミー マデ 型 。 例 外 と し て(1 は) タ オ レ ル 型 。(1 は) 活 用 形 の ア ク セ ント を 通 じ て の、 他 の
〔L〕〔K
注 ( 1 ) ﹁ア ク セ ント の滝﹂ と は 、 必ず 現れ る 音 の下 降 の こと 。 例 え ば 標 準 甲 種 方 言 の︹B︺の 彙語では イ ヌ のイ と ヌ の間 に 滝 が あ る
と 見 、︹D︺の 語 彙 に は 、 第 二 拍 の 内 部 ま た は そ の あ と に 滝 が あ る と 見 る 。 一方 、 [A の︺語 彙 に は 滝 が な く 、︹C︺の 語 彙 は 、 そ の 語
の内 部 には 滝 がな いが 、 他 の語 の直後 に来 た 時 に 低く 接 す る 性 質 があ る こと から 考 え て第 一拍 の直 前 に滝 があ る と 見 る 。︹D︺
の語彙 は 、 標準 甲種 では第 二拍 の内部 ま たは そ のあ と に 、志 摩 方 言 で は語 末 に滝 があ ると 見 る こ と上 述 のよ う であ る が、 他
の語 の直 後 に付く 時 には 、︹C の︺ 語 彙 と 同様 な 性 質 を有 す る ので 、︹C の︺ 語 と 同様 第 一拍 の直 前 に、 も う 一つの滝 が あ る と 見 る 。
滝 観と は 、 そ の方 言 の型 の種 類を 、 高 低 と いう 術 語を 用 いず に、 こ のよ う に考 え た 滝 の有 無 と そ の位 置 の違 い によ って、
○ ○ 型 。
B
○'○ 型 。 C'
○ ○ 型 。 D'
○ ○'型 。
記 述 しよ う とす るも ので 、 すな わ ち 、 こ の方 言 の二拍 語 の︹A︺︳︹ のD 型︺は 、 次 の よう に表 記さ れ る 。'は滝 のし る し 。 A
系 ﹄ を読 ん で﹂ ( ﹃ 国 語 学 ﹄ 二 六輯 ) を 見 て いた だ け れ ば幸 いであ る。 そ こ で述 べた よ う に、 滝 観 は、 宮 田幸 一氏 ・和 田 実 氏
滝 観 に つ いては 、 小稿 ﹁京 阪 ア ク セ ント に つ いて の新 し い見 方 ﹂ ( ﹃近畿 方 言 ﹄Ⅲ )、 同 ﹁柴 田 君 の ﹃日本 語 の アク セ ント 体
の考 え方 か ら 導 か れた も のであ る が、 私 は、 こ の滝 観 が "アク セ ント 契 機 " "ア ク セ ント核 " の考 え方 を 徹 底 さ せ た 考 え 方 の
六 二 輯 一二 二 ペ ー ジ )
よ う に思 う 。 な お 、標 準 甲 種 の︹D の︺ 語彙 の滝 の位 置 の決 定 は 、 平 山 輝男 氏 の提 唱 に従 い、 以前 の説 を 少 々改 め た。( ﹃ 国 語学 ﹄
(2 ) 例え ば 、 小稿 ﹁ 古 代 アク セ ント から 近 代 ア ク セ ント ﹂ ( ﹃国 語学 ﹄ 二 二輯 ) を 参 照 さ れ た い。楳 垣実 氏 に よ れ ば、 和 歌 山
県 か ら生 阪 府 のごく 一部 にか け て、 ﹁赤 い﹂ ﹁ 軽 い﹂ も ● ●○ 型 であ る地 方 が あ ると いう 。 ﹃近畿 方 言 ﹄ 二 の 二九 ペー ジ参 照 。
大 原 孝道 氏 の ﹁上 方言 葉 のア ク セ ント ﹂ ( ﹃ 国 語教 育 ﹄ 一七 の六 ) に よ れ ば、 伊 勢 南 部 に は そう いう 地 方 が最 近 ま であ った ら し い。
﹁国 語諸 方 言 のア ク セ ント 概 観(3 ﹂) (﹃ 方 言 ﹄ 一の四 ) の説 が、 不 滅 の光 を 放 って いる。 これ は 、 こ の地 方 の方 言 の ﹁買う な ﹂
(3 ) ﹁思 う﹂ ﹁ 動 く ﹂ ﹁起 き る ﹂ ﹁ 晴 れ る﹂ が 近 畿 諸 方 言 で な ぜ● ● ● 型 や ○ ● ○ 型 にな った か の説 明 に 関 し て は 、 服 部 氏 の
﹁動 け﹂ ﹁ 思 え ﹂ ﹁書 か ん﹂ の アク セ ント 変 化 をも 説 明 し お お せる 卓 説 であ る。
目 であ る。
( 4 ) 例 えば 四二 六 、 四三〇 ペー ジ︹J を︺ 見 よ。 東 京 方 言 な ど と の 一致 の理 由 は ま だ 分 か ら な い。 将 来 の研 究 に待 つ興 味 あ る題
( 5) 杉浦 氏 の報 告 に 、第 二拍 の下降 に つ いて、 ﹁ 近 頃 では都 市 の若 い人 々 の間 で は こ の現 象 は徐 々 に失 われ つ つあ る の では な
いか ﹂ とあ る。 そ うす ると 、 私 の捕 ら え た ○●'型 は 若 い世 代 の発 音 で、 鳥 羽 町 でも 老 人 に は○ 〓 型 が 聞 か れ る のか も し れ な
い。 な お杉 浦 氏 の ﹁ 都 市 の﹂ は ﹁三重 県 伊 勢志 摩 地区 の都 市 の﹂ の意 味 で あ ろ う。 野村 正 良 氏 も 今 年 、 中 日 主 催 の伊 勢 湾 周
辺 綜 合学 術 調 査 に 参加 さ れ 、志 摩 地区 の多 く の地 方 のア ク セ ント を調 査 し て 、 こ の類 の語 は○ 〓 型 では な く ○ ●'型 で あ る と 断 じ ら れ た。 二 南 度 会 地 区 の ア ク セ ン ト
こ の 地 区 の ア ク セ ント は 、 生 田 早 苗 氏 ( 1)に よ って す で に 紹 介 さ れ て い る が 、 大 ざ っぱ に 言 え ば 、 標 準 甲 種 方
( 次 の三 村 と 合 併 し て南
言 の ● ● ⋮ ⋮ 型 の 語 彙 の 第 一拍 の ● が○ に な って い る ア ク セ ント 体 系 だ と 言 っ て よ い 。 服 部 氏 ・生 田 氏 の 調 査 に
よ り 、 こ の 種 の 方 言 の 分 布 領 域 は 、 三 重 県 度 会 郡 の 南 辺 す な わ ち 柏 崎 ・大 内 山 ・旧 島 津
(以 下
﹁柏 崎 ﹂
浦
島 町 と な っ て い る )・旧 吉 津 ・旧 鵜 倉 ・旧 中 島 の 諸 村 と 、 和 歌 山 県 東 牟 婁 郡 勝 浦 町 ・田 原 村 ・浦 神 村 ・下 里 村 ・
﹁吉 津 ﹂ と 略 称 す る ) 方 言 に つ い て 述 べ 、 時 に 同 郡 柏 崎 村 柏 崎 方 言
湯 川 村 及 び 、 新 宮 市 三 輪 崎 地 方 と に 分 か れ て 存 在 す る こ と が 知 ら れ て い る 。 こ こ に 代 表 と し て 旧 吉 津 村神前 (=現 南 島 町 の 中 心 部 、 以 下
と 略 称 す る ) に つ い て調 査 し た 結 果 に つ い て触 れ る 。
語 の直 後 に 来 て 一文 節 の よ う に 発 音 さ れ る 場 合 に は 、 第 一拍 が 高 ま り 、コ ノウシ・
イ ト オ カ ウ のよ う に な る 。
︹A︺ (2)︱す (4 べ) て 第 一拍 が 低 く 、 ウ シ 、 カ ウ 型 で 標 準 甲 種 方 言 と 異 な る 。 た だ し 、 こ れ ら は 、 高 く 終 わ る 型 の
つま り 、 ○ ● 型 の 直 前 に 私 の いう ア ク セ ン ト の 滝 (2)が な い 点 、 ︹Cの ︺語 彙 と 異 な り 、 乙 種 方 言 の 平 板 型 に 類 す る 。(1だ )け は 、 例 外 で カ ー ・ コ ー で 、 標 準 甲 種 方 言 に 同 じ 。
︹ 直 後 に 滝 が あ る ︺キタ
型。
(6) の
﹁の う ﹂ は 吉 津 で ノ ー ナ ル 、 柏 崎 で 不 使 用 。
︹ B︺ 標 準 甲 種 方 言 と 同 じ 。 す な わ ち 、( 1)︲ ( 3︶ および( 5) は す べ て ● ○ 型 。 例 外 と し て (4の ) ﹁着 た ﹂ は 母 音 の 無 声 化 のため
︹C︺ 標 準 甲 種 方 言 に 同 じ 。 す な わ ち 、 ( 1)︲ (4 す︶べ て ○ ● 型 。 ﹁高 く 終 わ る 型 の 直 後 に 来 た 場 合 ﹂ ( 3)に は 、 コ ノ
イ ト ・キ オ キ ル と な る 。 こ の 点 ︹A の︺語 と はっ き り 異 な り 、 私 の 滝 観 に よ る と 、 そ の 直 前 に 滝が あ る こ と に な る 。( 4) ︹D ︺標 準 甲 種 方 言 に 同 じ 。 す な わ ち ( 1) (2 )と も に ○ 〓 型 。
︹E ︺ ( 1)︲ (3)、 ( 5)︲ (7) す べ て 、 コド モ ・ア ガ ル 型 。 ﹁高 く 終 わ る 型 の直 後 に 来 た 場 合 ﹂ に は 、 第 一拍 が 高 く 変 わ
り、 乙 種 方 言 の こ の 語彙 の ア ク セ ント と よ く 似 て いる 。 語 頭 に 滝 はな い。 (4 の)﹁実 が﹂ は 標 準 甲 種 方 言 の よ う にミー ガ型。
﹁熱 い﹂ の み ア ツイ 型 。 (2) の う ち の
﹁起 き る ﹂ ﹁晴 れ る ﹂、(6の )う ち 、 ﹁白 い ﹂ ﹁高 い ﹂ は
﹁動 く ﹂ ﹁思
( 飼 う 牛 も ) と な る 。 つ ま り 、 語 頭 に 滝 は な く 、 標 準 甲 種 の︹Jの ︺語 彙 と は 異 な る 。 (4 ) の ﹁赤
︹F︺ す べ て、 ア ズ キ ・ア ガ レ型 。 ﹁高 く 終 わ る 型 の 直 後 に 来 た 場 合 ﹂ に は 第 一拍 の 低 が 高 く な り 、 コ/ ア ズ キ ・カ ウ ウ シ モ
う ﹂ は 吉 津 は ア ッ コ (ナ ル )、 柏 崎 は ア カ ナ ル で あ った 。
(6 )は
︹G ︺原 則 と し て は 、 標 準 甲 種 方 言 に 同 じ 。 す な わ ち 、︵1︶︵3︶は ︵す 4︶べ ︵て 8イ ) ノ チ ・ウ ゴ ク 型 。 ( 2︶ も う ﹂は しかり。
オ キ ル ・シ ロイ 型 。︵ 5) の ﹁書 か ん ﹂ は 吉 津 は カ カ ン 、 柏 崎 で は カ カ ン 、 ﹁書 こ う ﹂ は と も に カ コ 型 。︱
﹁兎 ﹂ ﹁背 中 ﹂ は ウ サ ギ ・セ ナ カ 型 。 他 は す べ て ○ ○ ● 型 。 標 準 甲 種 方 言 に 一致 す る 。
﹁動 く ﹂ に は 古 形 が 見 ら れ る が 、 ﹁書 か ん ﹂ そ の 他 で は 他 の 活 用 形 へ の 類 推 の 結 果 と お ぼ し い変 化 の あ と が 見 ら れ る 。(5) ︹H︹ ︺3︺(1 補 の)う ち
と なり、
︹ F︺ の 語 彙 と 合 流 し て い る 点 注 意 を 要 す る。 (2) 以
︹I ︺単 独 の 場 合 標 準 甲 種 方 言 に 準 ず る 。 す な わ ち 、 原 則 と し て カ ブ ト ・カ ク ナ 型 。︵3︶︵4︶し ︵か 6︶ り︵。 7た ︶だし( 1) は 高 く 終 わ る 語 の 直 後 に 来 た 場 合 に は 、コノカブト
(2) の う ち
﹁書 い た ﹂ ﹁飲 ん だ ﹂ は カ イ タ 型 で あ る が 、 ﹁切 った ﹂ は ○ ○ 〓 型 。 ﹁白 う
( な る )﹂ は シ
下 は そ う な ら な い。 つ ま り こ の 方 言 の ○ ● ○ 型 に は 、 語 頭 に 滝 の あ る も の と な いも の と 二 種 類 あ る わ け で あ る。ま た、 ロナ ル 型 。
︹J ︺原 則 と し て ン マ レ ル・ サ ク ラ ガ 型 。 た だ し 、(2)の ﹁実 に は ﹂ は ミー ニ ワ で 、 ワ が 低 下 す る 。 鳥 羽 に 見 ら れ
型。 ただし
﹁兎 が ﹂ ﹁背 中 が ﹂ はウサギガ
型。
型 で︹Eの ︺語 彙 へ合 流 し て い る 。 ﹁手 に は ﹂ は
型 。 語 頭 に 滝 な し 。 た だ し 、 ﹁倒 れ る ﹂ ﹁離 れ る ﹂ はタオレル
た の と 同 一の 傾 向 で あ る 。 四 二 二 ペ ー ジ の︹J 参︺照 。 柏 崎 で は 、 ﹁実 か ら ﹂ も ミ ー カ ラ 型 。 ︹K ︺ す べ て サ ク ラ モ 型 。 ︺ ︹L 原 則 と し てアズキガ ︹M ︺ す べてイノチ ガ型。 ︹N ︺ 原 則 と し てスズメガ
吉津 ・柏 崎 と も に テー ニワ で ワが 低 下 す る 。 柏 崎 は ﹁手 か ら﹂ も テ ー カ ラ 型 。 一方 吉 津 は ﹁答 え る﹂ が コタ
エ ル 型 で 珍 し い。 柏 崎 は コタ エ ル型 。 コタ エル は 連 用 形 あ た り への 類 推 の結 果 であ ろう か 。( 6)
・クスリガ 型 。 た だ し 、 (1 は) 直 前 に滝 が あ り 、(2 は)滝 がな い。
︹ O︺ 原 則 と し て スズ メ モ ・テー デ モ型 。 た だ し 、 ﹁兎 も ﹂ ﹁背 中 も ﹂ は ウ サ ギ モ型 。 ︹P べ︺ て 、す テーマデ
以 上 の 旧吉 津 村 神 前 浦 な ら び に柏 崎 村 の両 方 言 で代 表 し た 南 度 会 地 区 の ア ク セ ント 体 系 は ど のよ う に し て 、 成
立 し た も の であ る か 。こ れ に つ い て は 、前 稿 に し ば し ば 触 れ た こ と で は あ る が 、 ( 7)標 準 甲 種 と 南 度 会 と の 根 本 的
な 相 違 は 、標準 甲 種 で● ● ⋮ 型 の第 一拍 が 南 度 会 方 言 で は低 にな って いる と いう こと に 尽 き る 。そ う す る と 、これ
︹ A︺ ●● 型←○● 型
(b の) 変化
︵a の) 変化
るも のは 、 元来 ● ● ○ 型 の語 に(c の) 変 化 が起
ら 南 度 会 方 言 は 、 次 のよ う に標 準 甲 種 方 言 か ら ● ● ⋮ 型 の第 一拍 が 低 下 し て でき た も の であ る こ と 明 ら か であ る。
︹E ︺ ●●● 型←○●● 型
︹ F︺ ●●○ 型←○●○ 型 (の c) 変化 そう し て細 か い こと を 言 え ば 、 元 来 ○ ● ○ 型 の語 の中 で名 詞 に 属
こ った た め に で き た 新 し い○ ● ○ 型 の語 彙 と の間 に混 同 を 起 こ し 、 語 頭 の 滝 を 失 った も のと 解 釈 さ れ る 。
な お 、 私 は 別 稿 ﹁東 西 両 ア ク セ ント の違 いが でき る ま で﹂ の中 で、 いわ ゆ る 乙種 方 言 の ア ク セ ント 体 系 は 、 甲
種 方 言 の ア ク セ ント 体 系 か ら 変 化 し て でき た も の であ ろ う と いう 推 定 を 試 み た が、( 8)そ の 変 化 の中 に は、
〔A〕 〔E〕
のよ う に変 化 し て でき た と す る。
(8 ) 雑 誌 ﹃ 文 学 ﹄ (二 二 の八) 所載 。 今 回 、 こ の論 集 に 収 め た 。 全 体 の趣旨 は、 乙種 方 言 の各 型 は 標 準 甲 種 方 言 の各 型 から 次
の ﹁近畿 中 央 部 のアク セ ント覚 え 書 ﹂ な ど。
(7 ) 例 え ば、 日本方 言 学 会 論 文集 ﹃日本 語 のアク セ ント﹄ 所 収 の ﹁補忘 記 の研究 ・続 貌 ﹂、 ﹃ 東 条 操 先 生古 稀 祝 賀 論 文 集 ﹄ 所 収
型 ← ○● ○ ○ 型 と いう 型 そ のも の の変 化 が 一部 の語彙 に 起 こ った の か とも 思 わ れ る が、 類 例を 知 ら な いの で何 と も 言 え な い。
(6 ) た だし こ の動 詞 は、次 に 言 及す る南 北牟 婁 方 言 で特 色 あ る ア ク セ ントを 有す る。それ か ら考 え る と、こ の方 言 でも ○ ○ ○ ●
動詞 ﹁ 行 く ﹂ な ど の否 定 形 ﹁行 か ん﹂ が ●● ● 型 で あ る こと への類 推 によ る と 説 明 でき る。
(5 ) 前 節 の注 ( 3 )に引 いた 服 部 氏 の説 にな ら って ﹁書 く﹂ と いう動 詞 の多 く の活 用形 が 低 く始 ま る こと、 ま た 終 止 形 ● ● 型 の
(4 ) 前 節 の 注 (1 )を 見 よ 。
ろ 。 以後 も ﹁高 く 終わ る 型 の直 後 に来 た 場合 ﹂ と いう 言 い方 の意 味 はす べて 同様 。
(3 ) 厳 密 を 期 せ ば、 ﹁ 高 く 終 わ る型 の語彙 の直 後 に来 て全 体 が 一文 節 の よう に発 音 さ れた 場 合 の ア ク セ ント ﹂ と 言 う べき と こ
(2 ) 前 節 の 注 (1 )を 見 よ 。
注 (1 ) 生 田 早 苗 氏 の ﹁近 畿 ア ク セ ント 圏 辺 境 地 区 の 諸 ア ク セ ント ﹂。 四 一九 ペ ー ジ の 注 (1 )を 見 よ 。
に第 二歩 ・第 三 歩 を 進 め て いる も の も あ る。 南 北 牟 婁 諸 方 言 の ア ク セ ント 体 系 の 興 味 の 一つ は こ の点 に あ る 。
体 系 は、 いず れ も こ の(a)(の b変 )化 (を c) 遂 げ た (ま た は 遂 げ つ つあ る ) と 見 ら れ るも の で、 方 言 に よ って は 、 さ ら
か ら 乙 種 方 言 へ の変 化 の第 一歩 を 踏 み 出 し た ア ク セ ント 体 系 だ と 言 え る。 以 下 に述 べる 南 北 牟 婁 郡 の ア ク セ ント
の 語彙 に お け る 、 上 の(a)(の b変 )化 (と c) 全 く 同 様 の変 化 を 数 え た 。 こ の意 味 では 、南 度 会 方 言 は 、標 準 甲 種 方 言
〔F〕
これは、石川県羽咋郡能登島付近 の諸方言 のアクセ ントに多種類 のヴァライ ェティーがあり、 それを整 理 ・配列すると甲 種方言から乙種方言に変化し て行く 一々の段階ができ上がると いう事実に基 づく。
以上 の表 で○●型←○○ 〓○ ←型とある のは、○〓 型の語がひとまず○●型に合流し てそ の後 もともと○●型 の語とともに
○○型に変化した ことを表す。○〓型が直接に○○型に変化した意味ではな い。以下 ← のような形はす べて同じ意味。
三 長島 地区 の アク セ ント 一 概説
現 長 島 町 西 長 島 、 以 下 ﹁長 島 ﹂ と 略 称 ) であ る。 こ こ の方 言 の ア ク セ ント 体 系 に つ いて 具 体 的 な 高 低 の相 を 順 次
紀 勢 本 線 の列 車 が 伊 勢 海 斜 面 か ら 熊 野 灘 斜 面 へ出 た 時 に 最 初 に 迎 え る 町 が 、 山 紫 水 明 の北 牟 婁 郡 旧 長島 町 (=
確 か め て 行 く と 、 さす が に地 理 的 位 置 の示 す と お り 、 甲種 方 言 に近 い。 し か し 、 か な り 違 った 部 分 も 目 立 ち 、 時
に 乙 種 方 言 の ア ク セ ント 体 系 に 近 い点 も 見 え る。 特 に 所 属 語彙 を 離 れ て 、 構 成す る 型 の 相 だ け を 見 れ ば 、 む し ろ
乙 種 方 言 に 近 いと いえ る 。 あ と に 述 べ る よ う に 同 郡 旧 二 郷 村 (=現 長 島 町 東 長 島 、 以 下 ﹁二郷 ﹂ と 略 称 )・同 郡
錦町 ( 以 下 ﹁錦 ﹂ と 略 称 ) の ア ク セ ント は 、 調 査 の結 果 、 長島 のも のに 近 いも の であ る。 が 、 ま ま 長 島 以 上 に乙
種 ア ク セ ント 体 系 に似 た 点 を 有 し 、 注 目 さ れ る 。 と も あ れ 、 長 島 と 同 様 な ア ク セ ント 体 系 は 、大 体 、 東 北 は 錦 町
か ら 、 西 南 は 赤 羽 村 ・三 野 瀬 村 ま で、 つま り 旧 北 牟 婁 郡 の北 部 一帯 に分 布 し て いるも のと 考 え ら れ る 。 四 一九ペ
ー ジ の地 図を 見 よ 。 こ の種 の ア ク セ ント 体 系 の成 因 に つ い て の考 察 は 後 述す る が、 要 は 、 いず れ も 甲 種 ア ク セ ン
ト か ら 乙 種 ア ク セ ン ト への変 化 の道 を 途 中 ま で進 み、 や や 異 な る 方 向 に 変 化 し た ア ク セ ント 体 系 だ と 考 え ら れ る 。
二 旧長 島 町 のアク セ ント体系
北 牟 婁 郡 旧 長 島 町 (=現 長 島 町 西 長 島 ) に お け る 四 二 〇︲ 四 二 二 ペー ジ の語 彙 の 調 査 の結 果 は 次 の よう であ る。
被 調 査 者 は樋 口 元 氏 ( 紀北中学教諭 ・大正十一生)お よ び長 島 中 学 校 の 生 徒 数 名 で あ る 。 型 の区 別 は き わ め て 明 瞭 で 、 ア ク セ ント は よ く 安 定 し て いる 。
︹ A︺ 単 独 では 、 二 の二 にあ げ た 南 度 会 地 区 と 同 じく 原 則 と し てウ シ ・カ ウ 型 。 (1 の) 語彙も ミー型 である点南度 会 よ り 徹 底 し て いる 。(2)︱は (も 3ち ) ろ ん ○ ● 型。 こ の︹ A︺ の型 の語 は 、 直 後 に 他 の語 を 伴 い、 全 体 が 一文 節 の
よう に発音され ると、 カ ワオ ル ︵ 蚊 は 居 る)、 カ ワト ブ ( 蚊 は 飛 ぶ ) のよ う に、 語 末 の ● が○ に 変 わ る 点 、
南 度 会 と 違 う 。 も っと も 、 こ れ は 直 後 に 滝 がな い こと を 表 す わ け で 、 こ の点 で は 、標 準 甲 種 にも 、 南 度 会 に
も 、 ま た 、 乙種 方 言 にも 似 て いる 。 な お こ の方 言 では 助 詞 ﹁が ﹂ を 用 いぬ ゆえ 、 す べて ﹁は ﹂ で代 用 し た 。
︹ B︺ 標 準 甲 種 方 言 な ら び に 二 の 二 にあ げ た 南 度 会 方 言 に同 じ 。 す な わ ち 、 す べて ● ○ 型。 特 に(1)(2に )は (例 3)(5) 外 が な い。(4 で) ﹁着 た ﹂ は 、○〓 型 。 母 音 の無 声 化 に よ る 変 化 と 見 ら れ る。(6 は) ﹁よう な る ﹂ 全 体 で○ ○ ○ ● 型。
︹C ︺ 二 種 類 に別 れ る 。(1)は(キ 4ー ) ・ヨイ の型 。(2)は(第 3二 )拍 の内 部 で 下 降 が 現 れ 、 ○〓 型 。 (1) は(第4二 )拍 が従
属 拍 で あ る よ う な 語 ば か り で あ る と こ ろ を 見 る と 、(2)の (○ 3〓 )型 が標 準 型 で、︵1︶の ︵● 4○ ︶型 は 二 次 的 な 変 化 の結 果 と 見 ら れ る 。
︹ D標 ︺ 準 甲 種 お よ び 南 度 会 に 同 じ 。(1)と(も 2に )○〓 型 。
︹E ︺ 原 則 と し て 、 サ ク ラ ・ア ガ ル 型 。(1)(2)は (4 す)べ(て 5し )か (6 り) 。 ﹁直 後 に 他 の 語 を 伴 った 場 合 ﹂ に は 、 ウ シ ワ オ ル、 ウ シ オ カ ウ 等 の よ う に語 末 の● が○ に 変 化 す る。 語 末 に滝 が な いと 見 ら れ る こ と は︹Aの︺語彙 に同 じ 。
な お ﹁牛 は ﹂ ﹁風 は ﹂ と いう 行儀 のよ い言 い方 は、 こ の方 言 で は あ ま り 用 いず 、 ウッ シ ャ、 カッ ジ ャと 言 う
型。 た だ し 、(3の)み はアカイ ま た はアッカイ 型 。 連 用 形 を 通 し て 、 語 彙 の
こと が普 通 と いう 。 こ の こ と は 他 の名 詞 に助 詞 が 付 いた場 合 にも あ て は ま る 。(3 は)カ ワ ヘン ・カ オ 型 。 ︹F︺ (1)す (2 べ) て( ア3 タ) マ( ・4 ア) ガレ 多 い︹G の︺ 形 容 詞 と 混 同 し たも のだ ろう 。
︹ G︺ (1)(2)(3 す)べ (て 4、 )イ (ノ 6チ )(・ 8ウ )ゴク 型 。 た だ し 、(5 は) ﹁書 かん ﹂ はカカヘン 、 ﹁ 書 こう ﹂ はカコ。
︹H ︺ 三 種 に 別 れ る。 (1 は) ウ サ ギ 型 。(2)は(ア 3ル )ク ・テ ー ワ 型 。(4 は) イ ト ワ型 。 (1 と) (2 は) 語 彙 数 の多 い型 へ類 推
型。(2は)二 種 に 別 れ、
し た も の、(3 は) 第 二 拍 の従 属 的 な 性 質 に よ る変 化 で、(4 の)○ ●○ 型 が標 準 的 な 形 と 見 ら れ る 。
︹I︺ 原 則 と し てカブト 型。(1)(3)( す5 べ)て(し 7か )り (8 。) た だ し 、(4)は(ア6ル)ケ・キーモ
﹁書 い た﹂ ﹁飲 ん だ ﹂ は カ イ タ 型 、 ﹁切 った ﹂ ﹁食 う た﹂ は キッ タ 型 。︹ 補4︺(2 の) ﹁切 った ﹂ の類 と(6 は)第 二 拍
の従 属 性 のた め の変 化 であ ろ う 。(4 は)多 数 語 彙 へ の類 推 の結 果 の変 化 で あ ろ う 。
︹J︺ (は 1ワ )( ス3 レ)ル・ サ カ ナ ワ型 。(2 の) ﹁実 には ﹂ はミーニワ 型 で南 部 三 重 県 的 な 性 格 を た だ よ わ せ る 。(1) ︹K ︺ す べ て サ ク ラ モ・ ミ ー デ モ 型 。 ︹L︺ す べ て タ オ レ ル ・ア ズ キ ワ 型 。(2 の) ﹁実 ま で﹂ も ミ i マデ。 ︹ Mす ︺ べてイノチ ワ型。
︹ N︺ (1 は) コタエル 型 。(3 は) テーカラ・テーニワ 型。(2は)ウサギワ 型。 (1) を(見3る )と 、 こ の 型 の語彙 の標 準 形 は、 ○ ●○○ 型 と し て標 準 甲 種 に 対応 し て いる よ う に 見 え る 。
︹ ︺ O(1は )テーデモ 型 、(2 は) ウサギモ 型 。(2 は)多 数 語 彙 への類 推 の結 果 であ ろう。 (1 は) 第 二拍 の従 属 性 に よ る、
○ ● ○ ○ 型 か ら ス べリ の結 果 と 見 ら れ る 。
︹ P︺ (1 は)テ ー マデ 型 、 (2) は ク ス リ ワ型 。 ( 2) が 標 準 的 な 形 と 見 ら れ る 。 長島 に お け る 調 査 の結 果 は 、 以 上 のよ う で あ る が、 こ のう ち︹A︺ ︹︹ Jの E ︺諸 ︺語彙 が属 す る 型 は 多 少 注 意 す べき 性 格
を も つ。 こ れ ら の語 彙 の直 後 に他 の語 が来 た 場 合 に 語 末 の● が ○ に変 わ る と いう 点 だ け を 考 え る と 、︹ A︺ の型 は 標
準 甲 種 方 言 の︹C の︺ 語 彙 のア ク セ ント に似 て いる が、 性 質 は 違 う 。 カ ワ + ト ブ は カ ワト ブ であ って、 カ ワトブ で は
な い。 コノ + ウ シは コノ ウ シ であ って、 コノ ウ シ で は な い。 つま り ○ ● 型 の直 前 に は 滝 はな い。 和 田 実 氏 の術 語
を 使 え ば 、 低 起 式 で はな い。( 2) そ う す る と 、 これ は 具 体 的 な 型 の姿 こ そ 違 う が、 標 準 甲 種 式 の● ● 型 ・● ● ●
型 や、 二 の 二 に 述 べた 南 度 会 方 言 や 乙 種 方 言 の平 板 型 と 同 じ 性 格 の型 と 見 ら れ る。 ︹E の︺ の︹型Jも︺同 じ よう な 性 格 の
型 で、 こ のよ う な 型 は熊 野 灘 沿 岸 の各 方 言 に 見 ら れ 、 方 言 に よ っては 、 こ れ が 無 造作 な 発 音 では 、 ● ○ ⋮ ⋮ 調 に 実 現 し て、 こ の地 方 の方 言 色 を 添 え る も ので あ る 。
以 上 の語 彙 のア ク セ ント の型 を 総 合 す る と 、 こ の方 言 は 、 次 のよ う な 型 の種 類 を 擁 す る こ と が知 ら れ る 。 も し 、
こ れ ら を 滝 観 で 解 釈 ・表 記 す れ ば、 そ れ は中 欄 のよ う に な る 。︹ 補5︺ 下欄 は 対 応 す る標 準 甲 種 方 言 の型 であ る 。 ︹ 二拍 語︺
︹ 三拍 語 ︺
︹四 拍 語 ︺
こ の方 言 は 高 ト ネ ー ム ( 4)が 二 拍 以 上 を 占 有 し な い 点 で 、 柴 田 武 氏 の 分 類 に よ れ ば 奥 羽 諸 方 言 と 同 じ 種 類 の ア
ク セ ント 体 系 を な す 。( 5) ま た 私 の 分 類 に よ る と 、 滝 が 語 末 に 来 な い 点 で 、 甲 種 方 言 に 近 く 、 語 頭 に 滝 が 来 る こ
と の な い こ と は 、 和 田 実 氏 の い わ ゆ る 高 起 式 ・低 起 式 の 別 の な い こ と を 表 し 、 こ の 点 で は む し ろ 乙 種 方 言 に 近 い。
(2 ) 和 田実 ﹁ア ク セ ント ・型 ・表 記 法 ﹂ ( ﹃ 群 馬 国 語﹄ 第 六号 所 載 )
注 ( 1 ) 四 二 二 ペー ジ の︹J 、︺ 四 二 六 ペ ージ の︹J を︺ 参照。
(3 ) た だし こ の'は第二 拍 の中間 にあ る。 (4 ) 金 田 一春 彦 ﹁日本 語 アク セ ント 卑 見 ﹂ (﹃ 国 語 研究 ﹄ 第 七 号 所載 )
﹁二 郷 ﹂ と 略 称 す る ) ・錦 町
(以 後
﹁ 錦 ﹂ と 略 称 ) のア ク セ ン ト 体 系 に つ
(5 ) 柴 田武 ﹁ア ク セ ント 体 系を 一つの式 で表 わ す 試 み﹂ (﹃ 国 語 研究 ﹄ 第 七 号 所載 )
(=現 長 島 町 東 長 島 ・以 後
三 周 辺 地 域 の ア ク セ ン ト 旧 二郷 村
いて 生 田 早 苗 氏 ( 1)にす で に報 告 があ り 、 私 の調 査 の結 果 も 大 体 一致 す る。
全 般 的 に は 、 三 の 二 に述 べ た 長 島 町 旧 長 島 (こ の稿 で は ﹁長 島 ﹂ と 略 称 ) の アク セ ント 体 系 と よ く 似 て お り 、
詳 し く 言 う と 、 こ の 二 つの中 で は 地 理 的 位 置 を 反 映 し て、 二郷 の方 が 長 島 に 、 よ り 近 い。 二郷 お よ び錦 が 長 島 と
違 う 主 な 点 は 次 の よう であ る 。︹A︺︹お Bよ ︺び ︹︹ EJ ︺ 以︺ 下 に つ い ては 長 島 と の間 に 違 いは な い。
︹C ︺二 郷 で は(3 の)﹁書 く ﹂ ﹁切 る ﹂ ⋮ が す べてカク ・キ ル型 で 乙 種 式 。 あ と は 長 島 に 一致 す る 。 錦 で は (3) が 二
郷 式 ・乙 種 式 に ● ○ 型 で あ る ほ か に、 ( 2︶ が 二 部 に 分 か れ 、 ﹁糸 ﹂ ﹁肩﹂ ﹁空 ﹂ ﹁舟 ﹂ ﹁麦 ﹂ が 乙種 式 にイ ト 型 で、 ﹁帯 ﹂ ﹁箸 ﹂ だ け が ○ 〓 型 。
︹D ︺ 二 郷 で は( 2 ) の ﹁書 け﹂ が ● ○ 型 で、 乙 種 式 。 錦 で は(2 の)ほ か に(1 の) う ち の ﹁朝 ﹂ ﹁蜘 蛛 ﹂ ﹁春 ﹂ も ア サ 型 で 、 乙 種 式 。 ﹁秋 ﹂ ﹁雨 ﹂ ﹁鶴 ﹂ は 甲 種 式 に ○ 〓 型 。
ー ナ ル。
(ー ) 型 。(6は )二 郷 で は ア ッ ツイ ・ア ツイ 両 型 。 錦 で は ア ツ イ 型 。
︹F ︺(3) の ﹁赤 い ﹂ ﹁軽 い ﹂ は 二 郷 で は 長 島 に 同 じ 。 錦 で は ア カ イ 型 。 (4 は)二 郷 で は ア ッカ ナ ル 、 錦 で は ア ッ コ
︹G ︺ (5は ) 二 郷 ・錦 と も に カ カ ン ・カ コ
( 5) は 二 郷 で は シ ロナ ル 、
﹁書 い た ﹂ ﹁飲 ん だ ﹂ が ● ○ ○ 型 、 ﹁切 った ﹂ ﹁食 った ﹂ は ○ ○ 〓 型 。 錦 で
︹H ︺ ( 1) (2)(3 は)二 郷 ・錦 と も 長 島 に 一致 。 (4 は) 錦 で は大 部 分 が ● ○ ○ 型 で 乙 種 に 一致 。 そ の語彙 は︹ C︺ の(2) のう ち
﹁書 い た ﹂ の 類 は 、 二 郷 で は
● ○ 型 の も の + ﹁が ﹂ の 形 。 ︹I ︺(2)
は す べ て カ イ タ 型 。(3)の ﹁書 く な ﹂ の 類 は 、 二 郷 ・錦 と も に カ ク ナ 型 で 、 乙 種 式 。
錦 で は シ ロー 。 ( 7) ( 8) も 、 錦 で は 名 詞 単 独 で ● ○ 型 の も の は ● ○ ○ 型 。 四 拍 以 上 の 語 に つ い て は 特 に 違 い は な い 。
以 上 のよ う で、 二 郷 ・錦 と も に、 型 の種 類 そ のも の は 全 く 長 島 と 同 様 で あ る 。 が 、 語 彙 に か な り出 入 り があ り 、
注 意 す べき は 、 二 郷 ・錦 が 長 島 と 違 う 点 は ほ と ん ど 全 部 が 乙種 方 言 と 一致 す る こ と であ る。 そ う し て 錦 が特 に 長
島 と 違 う と いう こと は 、 錦 町 が 最 も 乙 種 方 言 に近 いこ と を 示 す 。 錦 は 決 し て 地 理 的 に 乙種 と 関 係 を も った 地 方 で
は な く 、 む し ろ 最 も 他 の乙 種 方 言 か ら 隔 た って いる と ころ であ って 、 し か も そ の ア ク セ ント 体 系 が こ ん な ふう だ と いう こと は 、 最 も 注 目 に値 す る 。
四 長島 地区 アク セ ント の成立 過程
こ の章 に述 べた よ う な 長 島 地 区 のア ク セ ント 体 系 は 、 ど の よう に し て で き た も ので あ ろ う か 。
私 は 以 上 の 長 島 ・二 郷 ・錦 の ア ク セ ント 体 系 は そ れ ぞ れ 標 準 甲 種 ア ク セ ント 体 系 か ら 次 の よ う に別 れ て でき た
も のと 想 定 す る 。︹A︺ ︹B ︺ ︹ D︺︲ ︹G︺ と ︹I 以︺ 下 に お いて は 、 三 者 と も に 同 一方 向 を と った が 、 ︹ ︺C と︹H と︺に お いて こ の三 者 は 別 の方 向 に動 いた た め に 現 在 の よ う な 違 いを 生 じ た と 見 る の で あ る 。
こ れ ら の変 化 のう ち ︹A ︹︺ E︺︹︹FK︺︺の ︹︹上 JL︺ に ︺起 こ った ︹1︺ の 変 化 は 、 二 の 二 に触 れ た 南 度 会 諸 方 言 の上 に起 こ っ
た 変 化 と 同 一のも の であ る 。 し た が って 乙 種 方 言 の上 に起 こ った と 想 定 し た 変 化 と も 同 一のも の で あ る 。 ︹C︺︹H︺︹N︺
の上 に 起 こ った 変 化 のう ち ︹1︺ 'の○ ● 型 ← ○ ○ 型、 ○ ○ ● 型 ← ○ ○ ○ 型 、 ○ ○ ○ ● 型 ← ○ ○ ○ ○ 型 の変 化 も 、
私 が 乙 種 方 言 の上 に起 こ った と想 定 し た 変 化 であ り、 こ の意 味 に お いて こ の地 区 の方 言 は 、 前 章 に 述 べた 南 度 会
︹2︺ の変 化 が 起 こ った と 想 定 し た。 こ のう ち ○ ○ 型 ← ●○ 型 の変
方 言 以 上 に 甲種 ← 乙 種 と いう 変 化 の道 を 進 ん だ も のと 言 え る。 た だ し 、 乙 種 で は ○ ○ 型 、 ○ ○ ○ 型 に な って か ら 、 ○ ○ 型 ← ● ○ 型 、 ○ ○ ○ 型 ← ● ○ ○ 型 と いう
化 は 、 二 郷 と錦 に 起 こ り 、 ○ ○ ○ 型 ← ● ○ ○ 型 の 変 化 は 、 錦 の上 にだ け 起 こ り、 これ ら は 、 乙 種 方 言 と 足 並 み を
同 じ く し た 。 が 、 長 島 に は こ の 変 化 は 起 こ ら ず 、 代 わ り に ○ ○ 型 ←○〓 型 、 ○ ○ ○ 型 ← ○ ● ○ 型 と いう ︹2' ︺の
変 化 が 起 こ り、 た も とを 分 か った 。 そ の結 果 、 二郷 ・錦 、 特 に 後 者 は 乙 種 アク セ ント に 近 い面 を 生 じ た が、 長 島
は か な り 乙 種 と は 違 った ア ク セ ント 体 系 に 成 り お わ った と 考 え る の であ る 。 そ の他、︹B︺︹︹ DI ︺︺ ︹︹ G な M ︺ ど ︺の ︹型 P︺ に変
化 が 起 こら な か った こ と は 、 甲種 方 言 と の間 の類 似 を 保 ち 、︹E ︹︺ J︺の︹語 K彙 ︺に お いて ︹1︺'の変 化 を 遂 げ た こ と は 、
甲種 方 言 と も 乙 種 方 言 と も 隔 た る 原 因 にな った 。︹Oの︺語 彙 に お け る︵3の︶変 化 は、 四 の 四 の尾 鷲 方 言 と 歩 調 を そ ろ え た も の であ る 。
長 島 地 区 方 言 に は、 そ の ほ か︹ C︺ H︹ ︺ の 語彙 の上 そ の他 に いろ いろ 細 か い型 の 異 同 があ る が 、 これ ら は 他 の 語彙 ・ 語 形 への類 推 そ の他 の原 理 で解 釈 でき る と 思 う 。
︵1 の) 語彙 は、 二 の二 南 度 会 地 区 で は そ の半 数 ﹁ 兎 ﹂ そ の他 が
︹E に︺ 合( 流1し )て いた 。 そ うす る と、 長 島 ・二 郷 ・錦 でも 、︹H︺(1)
( 2 ) 長島 ・二郷 ・錦 の各 方 言 を 通 じ、︹H︺の (語 1彙 ) ﹁雀 ﹂ 以 下 が︹E︺ の( 語1 彙) ﹁ 子 供﹂ 以 下と 合流 し て いる こ と も 注 目 さ れ る。︹H︺
注 (1︶ ﹁近 畿 アク セ ント 圏 辺境 地 区 の諸 アク セ ント﹂ ( 四 二〇 ペー ジ前 出 ) に8 9、 90 の方 言 と し て 登場 す る 。
の語彙 は 、○ ● ○ 型 又 は●○○ 型 にな る以前 に、 ● ● ● 型 ←○ ● ● 型 ← ○○ ● 型 と 進 ん で来 た︹E︺の (語 1彙 )と の間 に混 同 を 起
こし 、 多 数派 の属 す る︹E︺ の( 方1へ )合 流 し て し ま った も の で あ ろう か。 も っと も︹H︺の (語 1彙 )が 乙種 方 言 の大 部 分 で︹E︺ の( 語1彙 )
と 合 流 し て いる 点 も 思 い合 わ せ ら れ る。 す る と、 こ の語 彙 が古 く ○ ● ● ● 型 であ る 時 期 に︹E︺ の( 語1彙 )が ● ● ● ● 型 ← ○ ● ● ● 型 の変化 を 起 こし、 そ の時 に 混同 を 起 こし たも の であ ろう か。
が がっ ち り○ ● ○ 型 でお さ ま って いる の で、 こ の変 化 は 想 定 し な い。(2)の (語 3彙 )の● ○ ○ 型 は、︹C︺の (語 1彙 )のカク ・キルと
( 3 ) ︹ のI う︺ ち の(2) の( 語3 彙)を 見 ると 、 錦 で は○ ● ○ 型 が ←○ ○ ● ←○○○ ← ● ○○ の変 化 を遂 げた か と 思わ れ る が、(1 の) 語彙
いう よう な アク セ ント に引 か れ たも の であ ろ う 。 た だ、︹D︺の (語 1彙 )の 一部 が●○ 型 にな って お り、 (8 の) 語 彙 の 一部 が ● ○ ○
型 にな って いる のは、 個 別 的 に 早く ○ ● 型 ・○ ○ ● 型 にな り、︹C︺ の︹ 語H彙 ︺へ合流 し た も のか と思 う 。
四 尾 鷲 地 区 の ア ク セ ント 一 概説
北 牟 婁 郡 の主 邑 であ った 旧尾 鷲 町 (=現 尾 鷲 市 尾 鷲 、 以 下 ﹁尾 鷲 ﹂ と 略 称 ︶ の ア ク セ ント は 、 上 に述 べた 長 島
地 区 の ア ク セ ント に似 て い る が 、 ま た 異 色 があ る。 長 島 地 区 のう ち で は 、 長 島 のも の に 最 も 似 て いる が、 錦 と 長
島 の違 い に 比 し て 、 長 島 と 尾 鷲 の違 い の方 が は る か に大 き く 、 型 の体 系 そ のも のも 違 う 。 そ う し て 甲 種 ・乙 種 へ
の類 似 性 は 、 長 島 地 区 に比 べて 乙種 に も 甲 種 に も 遠 い特 殊 ア ク セ ント にな って い る。 旧 九 鬼 村
(=現尾 鷲 市 九 鬼 、
以 下 ﹁九鬼 ﹂ と 略 称 ) の ア ク セ ント は 、 尾 鷲 に 近 く 、 ま た 小 異 があ る 。 旧相 賀 町 (=現 海 山町 の 一部 、 以 下 ﹁相
賀 ﹂ と 略 称 ) のも のは 、 尾 鷲 のも の に 似 て いる と 同 時 に、 前 章 に 述 べた 長 島 地 区 のも の に 一歩 近 いア ク セ ント 体
系 を も つ。 簡 単 な 調 査 によ る と 、 旧 引本 町 ・旧樫 山 村 ・旧 船 津 村 (中 里 )・旧須 賀 利 村 ・旧 桂 城 村 の ア ク セ ン ト は 、 大 体 相 賀 のも のに 似 た も の のよ う で あ る 。( 四 一七ペー ジの地図参照)
これ ら の ア ク セ ント 体 系 の成 因 は後 述 す る が 、 いず れ も 現 在 の 甲 種 から 変 化 し た も の で、︹ A︺ の長 島 方 言 と 同 じ く 、 乙 種 と は姉 妹 関 係 にあ る も の と考 え ら れ る 。
二 旧尾鷲 町方 言 の アクセ ント体 系
尾 鷲 、 す な わ ち 旧 尾 鷲 町 尾 鷲 の方 言 に つ いて の四 一七︲ 四 一九 ペー ジ の語彙 の ア ク セ ント 調 査 の結 果 は 次 の よ
う であ る 。 被 調 査 者 は 主 に 土 井 治 氏 ( 教育 委員 長 ・大正 二生)と 佐 々木 昭 二 氏 ( 中学校教諭 ・昭二生)で あ る。 型 の 区 別 は き わ め て 明瞭 で、 よ く 安 定 し て いる 。
︹ A︺ す べ て ウ シ ・オ ク 型 。(1 も)カ ー 型 であ る こ と 、 長島 地 区 に 同 じ 。 直 後 に他 の語 を 伴 った 場 合 に最 後 の● が ○ に変化す ることも、 長島地区 に同じ。 ︹B ︺原 則 と し て 、 イ ヌ ・オ ル 型 。 ︵1)︱を (6 通)じ 例 外 な し 。 ︵6 も)ヨ ー ナ ル 。
︹ C︺ 原 則 と し て 、 イ ト・ カ ク 型 。 直 後 に 他 の 語 を 伴 った 場 合 に は イ ト+ キ ル ← イ ト キ ル 、 カ ク+ モ ノ ← カ ク モ
ノ のよ う に な る 。 た だ し ﹁糸 は ﹂ は イ タ ー。 こ の方 言 で は ﹁が ﹂ を 用 いな いゆ え 、す べて ﹁は ﹂ の つく 形 で 代 用した。
︹D ︺ ︹C︺ 同とじ く︵1︶と︵も 2に ︶アキ ・カケ 型 。(1)と(も 2例 )外 な し 。 他 の語 が直 後 に来 た 場 合 の性 質 も ︹C に︺ 全 く 同 じ。
つま り 後 に 来 る す べ て の語 は低 く 変 わ り 、 た だ し 一拍 の助 詞 だ け は高 く 付 く 。
る。 な お 、(5は )ウッシャ・カッキャ
の よ う な 形 に な る の が普通。
例 外 と し て、(7)はイシノ・アシ
ノ 型 の方 が
︹E︺原 則 と し て コド モ・ ア ガ ル 型 。(1)︱( す6べ )て し か り 。 他 の 語 を 直 後 に 伴 った 場 合 の 変 化 は︹A︺の 場 合 に 準 じ
型 。(1)︱(4)、(6は )例 ︲( 外8な ) し。(5)も
・カールイ
が普
型。 ﹁書 こう ﹂ は
型。(5)もシロナル
で その一
型。 ● ● ● 型 を 標 準 形 と す べ き か 。
﹁兜 ﹂ ﹁畠 ﹂ はカブト
型 で 、 こ の あ た り が 標 準 形 ら し い。(1)はウサギ 型 で︹Eの ︺ 型、 ﹁歩 く ﹂ はアルク 型 で、 ち ょ っと お も し ろ い。
﹁書 か ん ﹂ はカカン
型 。(1)(2 は)す (5 べ) て し か り。(3)( は4例 )外 ら し く、(3)はアッカイ
普 通 ら し く 、 被 調 査 者 は い ず れ も そ う 発 音 し た 。 も っと も ア シ ノ 型 に 言 わ な い と い う デ ー タ は 出 な か った 。 ︹F︺原 則 と してアタマ・アガレ
・ウゴク
通 、(4は ) アッ コ ナ ル が 普 通 と いう 。
例 外 で カ コ型 と いう 。
︹G︺ 原 則 と し て 、イノチ
︹ H︺ い ろ い ろ に な って い る が 、(3)( は4 キ) ーワ・イター 語 彙 に 合 流 し て い る 。(2)のう ち ﹁隠 す ﹂ はカクス
型。(1)も そ の う ち 型 。(4)(6 は) ア( ル8 ケ) ・キーモ
・カクナ
﹁薬 ﹂ ﹁野 原 ﹂ はクスリ
︹I︺ 二種類あ り 、︵2︶︵3 は︶ カ︵ イ7 タ︶ 種。た だし
型。
型。(3)はスズメガ 型。(2の )● ●
︹J ︺ (3す )べ て サ カ ナー 型 。(1の ) ﹁忘 れ る ﹂、(2)の ﹁実 か ら ﹂ も し か り 。 た だ し(1の ) ﹁生 ま れ る ﹂ はンマレル ︵2の ︶ ﹁実 に は ﹂ は ミ ー ニャ ー 型 。 ︹K ︺す べ て サ ク ラ モ 型 。 ︹Lべ ︺て タ オ レ ル型 。
︹M ︺ す べて ハタ チ ャー 型 。 ︹N︺ さまざ ま であ る 。(1 の) ﹁答える﹂ はコタエル 型 。(2 は) テーカラ・テーニワ ● ○ 型を 標 準 形 と 見 た い。(1 は)第 三拍 の従 属 性 によ る変 化 であ ろう 。 ︹O ︺ (1 は) テ ー デ モ 型 。(2 は)ス ズ メ モ型 。 (1 が) 標 準 形 であ ろ う 。
︹P︺ は (テ 1ー )マデ 型。 ︵2 は)﹁兜 は ﹂﹁畠は﹂ がカブター 型。(2が)標 準 形 で あ ろ う か 。 ﹁薬 は ﹂ ﹁野 原 は ﹂ はクス
リャ ー 型 。
以 上 の 調 査 の結 果 を 総 合 す る と 、 こ の方 言 に は 次 のよ う な 型 が あ る こと が 知 ら れ る 。 ︹二 拍 語 ︺ ︹ 三 拍語 ︺ ︹ 四 拍語 ︺
と こ ろ で 、 これ ら を 滝 観 で 解 釈 し た ら ど う な る か 。 こ れ は ち ょ っと 一仕 事 であ る。 ま ず 、 そ のた め に は 、 神 保
格 教 授 の いわ ゆ る ﹁準 ア ク セ ント ﹂ の現 象 を 明 ら か に し な け れ ば な ら な い。 各 種 類 の型 の 組合 せ を 作 って それ が
連 結 し た 場 合 の変 化 を 検 討 す る と、 次 のよ う で あ る こ と が知 ら れ た 。 前 部 に 立 つ時 に 問 題 を は ら む のは 、︵イ︶の ︵ニ︶
類 の 型 で あ る 。 そ し て特 に 注 意す べ き は 、 後 に (ハ () チ の) 類 の型 の 語 を 連 結 し た 場 合 で あ る 。す な わ ち こ う な る。
︹法 則1︺ 最 後 の拍 の み が 高 い 型 が前 部 に立 ち 、 第 一拍 ・第 二拍 が と も に 高 い型 を 後 部 に 従 え る時 に は、 そ の 型 自 身 の 姿 は 変 わ ら ず 、 後 部 の型 を 低 平 型 に 変 え る 。 例 え ば︱ コノ + イ ト ← コノ イ ト ︵此 の糸 ︶ ウッ ショ + カ ウ ← ウッ ショ カ ウ ︵ 牛を飼う ) コノ +カ ブ ト ← コノ カ ブ ト ︵こ の兜 ︶ カッ ジャ + フィ タ ← カッ ジャ フイ タ ︵風 は 吹 いた ) ノ ル + フネ モ ← ノ ル フネ モ ︵ 乗 る舟も) ミッ チョ + ア ルク ← ミッ チョ ア ルク ︵ 道を 歩く)
も っと も 、 こ の場 合 、 後 部 の語 は 全 低 型 に な ら な いで 中 途 半端 な 形 に 変 化 す る こと も あ る よ う であ る 。 す な わ
ち 、 イ 卜 や カ ウ は イ 卜 や カ ウ の よ う な 形 で 、 カブ ト や フイ タ は カ ブ ト や フイ タ のよ う な 形 で、 フネ モ や ア ル ク は
フネ モや ア ルク のよ う な 形 で と ま る こ と も あ る。 こ れ は 、 連 結 が完 全 に行 わ れ な い場 合 と 考 え ら れ る。 そ う し て 、 そ の場 合 に も 、 第 一拍 の高 は あ く ま でも 低 に な り た が る こと は注 目 さ れ る 。
次 に、(イ () ニ の) 類 の 語 が 前 部 に 立 つ場 合 のう ち 、 (ハ () チ 以) 外 の類 の 語を 後 部 に従 え る場 合 は ど う な る か。 こ の場 合
に は 次 の法 則 に従 う が 、 こ れ は 長 島 地 区 アク セ ント 体 系 に も 見 ら れ た のと 同 じ 傾 向 で あ る ゆえ 、 問 題 は 少 な い。
︹法則 2︺ 最 後 の拍 のみ 高 い型 が前 部 に立 ち、 第 一拍 ・第 二拍 の いず れ か が低 い型 を 後 部 に従 え る 時 に は 、 そ の 型 自 身 は低 平 型 に変 化 し 、 後 部 の型 は そ のま ま 保 存 す る。 例 は次 のよ う であ る 。 ウッショ + カ ウ ← ウッ ショ カ ウ ︵牛 を 買 う ) コノ + コド モ ← コノ コド モ ︵こ の子 供 ) ウッ シャ + オ ル← ウッ シャ オ ル ︵牛 は 居 る ) コノ + ハシ ラ ← コノ ハシ ラ (こ の柱 ) コノ 十 カ ガ ミ ← コノ カ ガ ミ (こ の鏡 ) ウ シ ノ + ハナ モ← ウ シ ノ ハナ モ ( 牛 の鼻 も )
これ で見 ると 、 ﹁居 る ﹂ ﹁柱 ﹂ な ど 四 三 九 ペー ジ の (ロ () ヘ の) 型 の第 一拍 の 高 は 、 同 じ ペー ジ の︵ハ (︶ チ の︶ 第 一拍 の高 と 性格 が違うも のと知られ る。
次 に 、 (イ︶ 以(外ニの )型 が前 部 に立 つ時 は 簡 単 で あ る。 こ の場 合 に は 次 の法 則 で い っぺ ん に 決 ま る。
︹法則 3︺ 最 後 の拍 が低 い型 、 あ る いは最 後 の拍 が 高 く ても 、 各 拍 がす べ て 高 い型 が前 部 に 立 つ時 は、 後 部 に ど
のよ う な 型 を 従 え ても 、 そ の型 自 身 の姿 は 変 わ ら ず 、 後 部 の 型 を 低 平 型 に 変 え る 。
例 は 、 次 の と お り で 、 こ の中 に は 、 (ハ () チ の) 型 が前 部 の型 と し て現 れ る 場 合 も 含 ま れ る。
( 無 い命 )
︵見 た 牛 )
ナ イ + イ ノ チ← ナ イ イ ノ チ ︵ 犬を 飼う)
ミ タ + ウ シ← ミ タ ウ シ
イ ノー + カ ウ ← イ ノー カ ウ イ ヌ ノ + ア タ マ ← イ ヌ ノ ア タ マ (犬 の 頭 )
︵飼 う 牛 )
︵白い 糸 も )
カ ウ 十ウ シ ← カ ウ ウ シ (降 る 雨 )
シ ロ イ + イ ト モ ← シ ロイ イ ト モ
フ ル十 ア メ← フ ル ア メ ︵ 無 い物 は ) (雨 は 降 る )
ナ イ 十 モ ナー ← ナ イ モ ナー ア ン ミャ + フ ル ← ア ン ミャ フ ル
(切 れ た 糸 も ) (飼 う )、 イ ト モ
キ レタ +イ ト モ ← キ レタ イ ト モ な お(ハ)(チ の)型 (、 リ) こ の場 合 で は カ ウ
イト モ型になる点、 ︹ 法 則 1︺ の場 合 に同 じ 。
( 糸 も ) は 、 後 部 に 来 た 場 合 、 連 結 が ゆ る いと 、 カ ウ ・
さ て 以 上 の よ う な 考 察 の 結 果 か ら す る と 、 次 の よ う な 型 に つ い て は 、 滝 の 位 置 は 問 題 な い と 思 う 。 ま ず 、 ︹法 則 3︺ に よ り 、
︹法 則 3 ︺ に よ り ま ず 問 題 は な い か と 思 う 。
Ⅰ ● ○ 型 、 ● ○ ○ 型 、 ○ ●○ 型 、 ● ● ○ 型 で は 、 ● の 拍 と ○ の 拍 と の 間 に 滝 が あ る 。 次 の よう な こと も
Ⅱ ● ● 型 、 ● ● ● 型 は 、 直 後 に は 滝 があ る 。
( 兜を )
こ う 考 え て 、 ち ょ っと 都 合 の 悪 い の は 次 の よ う な Ⅱ の 語 の 直 後 に 助 詞 が 付 く 場 合 で あ る 。 こ の 場 合 、 尾 鷲 で は 、
(糸 は )、 カ ブ ト + オ ← カ ブ トー
助 詞 も 高 にな り 、 ● ● ● 型 、 ● ● ● ● 型 に な る 。 イ ト + ワ← イ ト ワ
こ の場 合 、 ● ● 型 、 ● ● ● 型 の語 末 の 滝 は ど う な った か 。 元 来 、 ﹁は ﹂ ﹁を ﹂ の よ う な 一拍 助 詞 は、 こ の ● ● 型 ・● ● ● 型 の語 の直 後 に 来 た 場 合 に 限 り 、 直 後 に滝 を も つ。 す な わ ち 、 ツッ ラ + オ ル← ツッ ラ オ ル ( 鶴 は居る ) ツッ ロ+ コー タ← ツッ ロ コー タ ︵ 鶴 を 買う た ) ︹ 比 較 ︺ ウッ シャ + オ ル← ウッ シャ オ ル ︵牛 は 居 る ︶ ウッ ショ + コー タ ← ウッ ショ コー タ ︵牛 を 買 う た )
った 滝 が次 の助 詞 の 語 末 にす べ った と 解 釈 す る こ と が でき る。
そ う だ とす る と 、 ﹁は ﹂ ﹁を ﹂ は 本 来 滝 を も た ず 、 ● ● 型 ・● ● ● 型 の直 後 に来 た 時 に は、 そ の名 詞 の語 末 に あ
次 に、︵イの︶○ ● 型、 (ニ の) ○ ○ ● 型 に は少 し 面 倒 な 問 題 があ る 。 これ ら は 、 ︹法 則 2︺ に よ り、 Ⅲ の1 そ の直 後 に 滝 はな い。
と 言 え る 。 ま た 、 ︹法 則 2︺ にお いて 、 これ ら の 型 相 互 が 連 結 し た 場 合 に 、前 部 に 立 つ○ ● 型 、 ○ ○ ● 型 の方 が 低 平 化 す る こ と か ら考 え る と、 Ⅲ の2 そ の直 前 にも 滝 は な い。
と 言 う べ き こと が 分 か る 。 そう な る と 、 問 題 は 、 こ れ ら の ○ ● 型 、 ○ ○ ● 型 が前 に立 ち、 ● ● 型 、 ● ● ● 型 、 お
よ び ● ● ○ 型 が後 に 従 う 場 合 で あ る。 こ の 場 合 、 ︹法 則 1 ︹ に よ れ ば 変 わ ら な い の は前 部 の○ ● 型 、 ○○ ● 型 で
あ って、 後 部 の● ● 型 、 ● ● ● 型 、 ● ● ○ 型 の方 が 変 化 す る の であ る。 これ は 調 査 前 の 予 想 か ら ち ょ っと 外 れ る
意 外 な 事 実 であ った 。 こ の事 実 だ け取 り 上 げ る と ○ ● 型 、 ○ ○ ● 型 の語 末 に 滝 が あ る と 見 た く な る 。 が、 そ う 見
る と 、Ⅲ の1 の見 解 と 衝 突 す る 。 とす る と 、 残 さ れ た道 は た だ 一つ であ る。 そ れ は、 こう 見 る こ と だ 。 Ⅳ ● ● 型 、 ● ● ● 型、 ● ● ○ 型 は 語 頭 に 滝 があ る。
こ のⅣ の見 解 は か な り 異 様 な 印 象 を 与 え る か も し れ な い。 滝 の直 後 の拍 は 、 低 いと いう の が 一般 であ った。 全
国 諸 方 言 にお け る 滝 は 、 従 来 、 す べて 低 い拍 の前 に想 定 さ れ た 。 し か し 、 私 は あ え て 、 尾 鷲 の● ● 型 、 ● ● ● 型 、
● ●○ 型 に語 頭 の滝 を 認 め よ う と 思う 。 そ も そ も 私 が 滝 と いう 観 念 を 想 定 し た の は ﹁高﹂ と か ﹁低 ﹂ と か いう 、
いわ ば ﹁音 声 学 的 ﹂ な 意 味 を も つ術 語 を な る べく 用 いな い で、 各 型 の特 色 を 言 い表 す のが ネ ライ だ った 。 私 が和
田 実 氏 の高 起 式 ・低 起 式 の提 唱 に 敬 服 し つ つも 、 な お 語 頭 の滝 の有 無 に よ る 解 釈 を 言 い立 て た意 図 は そ こ にあ っ
どう し ても 変 だ った ら、 他 の 語 と 連 結 し
な ど と いう こ と も 矛 盾 で は な く な る の で あ る 。 と す る と 、 滝 の 直 後 の 高 を 想 定 す る こ と も 、 か え っ
た 。 だ か ら こ そ 、 ほと ん ど 全 部 の 乙 種 アク セ ント 体 系 で は 語 頭 に 滝 を も た な い が、 し か も 、 第 一拍 は 高 で は な く て、 低 だ︱
て滝 の内 容 を 純 粋 にす る こと にな って い い ので は な いか 、 と 思 う 。︱ た 場 合 に だ け 臨 時 に滝 が でき る と 見 ても よ い。
と にか く 、 そ ん な わ け で、 私 は 上 の Ⅳ の想 定 を 行 う 。 私 は 、 こ の見 方 が、 こ の方 言 の ア ク セ ント 体 系 の成 立 を
考 え る 上 にも 有 効 だ と 考 え る の で あ る が、 こ れ に つ いて は 、 四 四 九 ペー ジ に 触 れ る。
以 上 の よう なⅠ︲ Ⅳ の想 定 か ら す る と 、 こ の尾 鷲 の 各 型 は、 滝 観 によ れ ば 次 の中 欄 のよ う に 解 釈 さ れ る 。 下欄 は、 対 応 す る 標 準 甲 種 方 言 の型 で あ る 。 ︹ 二拍 の語︺
︹ 三拍 の語︺
︹四 拍 の語︺
三 周 辺地 域 のアク セ ント
旧 北 牟 婁 郡 旧相 賀 町 (= 現 海 山 町 相 賀 、 以 後 ﹁ 相 賀 ﹂ と 略 称 ) 方 言 の アク セ ント も 、 前 項 の尾 鷲 、す な わ ち 、
尾 鷲 市 旧 尾鷲 の ア ク セ ント に 似 て いる。 た だ し 、 三 の二 に 述 べた 長 島 の方 言 に 近 いと こ ろ が あ り 、 地 理的 位 置 の
示 す と お り 、 尾 鷲 か ら 長 島 へ 一歩 接 近 し て いる 。 こ こ に相 賀 の アク セ ント が、 尾 鷲 ア ク セ ント と 違 う 主 な 点 を 示 す 。 す な わ ち 、 四 一七︲ 四 一九 ペー ジ の語彙 別 に 見 れ ば︱
型 で、 つま り︹Hの︺語彙 同 様 ほ と ん ど 全 部 が ● ●○ 型 に 統 一の傾 向 を 示 す
︹F︺ の(3)はアカ型 イ、 (4 は) アコナル 型 。 ︹Hの ︺( 5 は) す べて イ ト ワ・ テー ワ型 であ る のが 尾 鷲 と大 き く 違 う 。 ︹Iの ︺( 1 が) 原 則 と し てカブト・アサワ
点 、 尾 鷲 と 対 比 す る 。 た だ し 、 (2の ) ﹁書 い た ﹂ そ の 他 、 (3の ) ﹁書 く な ﹂ が わ ず か に カ イ タ 型 。(1)の ﹁薬 ﹂
﹁野 原 ﹂ は ク ス リ 型 、(7)の ﹁白 う
(な る )﹂ は シ ロ ナ ル ∼ シ ロー ナ ル 。
︹J︺ の (1 は)二 つ と も ン マ レ ル と も ン マ レ ル と も 。
︺ ︹Pは ( 2) の ﹁兜 は ﹂ ﹁畠 は ﹂ が カ ブ ト ワ 型 で 尾 鷲 と は か な り 違 う 。 ﹁薬 ﹂ ﹁野 原 ﹂ は ク ス リ ガ 型 、 ﹁手 ま で ﹂ も 尾
鷲 同 様テーマデ 型 。 ︹A︺ ︹︹ KC ︺︺ ︹︹ LD ︺は ︺ ︹︹ 違 ME ︺ わ︺な い。
こ の方 言 は 、 型 の種 類 に つ いて は 尾 鷲 と よ く 似 て お り 、 直 前 や 直 後 に 他 の語 が 連 結 し た 場 合 の ア ク セ ント 変 化
も 尾 鷲 に そ っく り であ る。 し か し 仔 細 に調 べる と 、 尾鷲 に見 ら れ た ● ● ● ● 型 が こ の相 賀 に は 欠 け て お り、 尾 鷲
に見 ら れ た ● ● ● 型 ・● ● ● ○ 型も 、 こ の相 賀 で は第 二 拍 が従 属 的 な 語 に の み見 いだ さ れ る 。 こ の こ と は 二 つ の
意 味 を 持 つ。 一つは 、 相賀 の方 が 一つの語 の直 前 ・直 後 に他 の語 が連 結 し た 場 合 の ア ク セ ント 変 化 の法 則 が 簡 単
に解 け る こと で あ る 。 す な わ ち ● ● 型 や ● ● ● 型 に 助 詞 が 付 く 場 合 は 例 外 だ ( 四四一 ページ のⅡ)な ど と 言 わ な い
です む 。 も う 一つは 、 相 賀 と 標 準 甲 種 と の型 の対 応 関 係 が尾 鷲 と 標 準 甲 種 と の場 合 よ り 簡 単 であ る こと を 意 味 す
る 。 な ぜ な ら ば 、 尾 鷲 で ● ● ● 型 と ● ● ○ 型 に分 か れ て い る 語 は 、 相 賀 では 原 則 的 に● ● ○ 型 に合 流 し て お り 、
尾 鷲 で● ● ● ● 型 、 ● ● ● ○ 型 に 分 か れ て いる 語 は 、 相 賀 で は 原 則 的 に ● ● ○ ○ 型 に合 同 し て いる か ら で あ る 。
今 、 四 四 四 ペー ジ の表 のう ち 対 応 に 関 す る部 分 だ け 取 り 出 し て 、 尾 鷲 の位 置 に相 賀 を 代 用 す れ ば 次 のよ う に な る。
そうし て) (ト の● ● ● 型 は (チ) の● ● ○ 型 の変 種 、 (カ) の● ● ● ○ 型 は (ヨ) の● ● ○ ○ 型 の変 種 と な り 、 ) (ワ の● ● ● ●
型は欠番と なる。 次 に 、 四 三 七 ペ ー ジ に ち ょ っと 触 れ た 旧 北 牟 婁 郡 旧 九 鬼 村
(=現尾 鷲 市 九 鬼 、 以 下 ﹁九 鬼 ﹂ と 略 称 ) 方 言 の ア
ク セ ント は 相 賀 のも のと 違 い、 尾鷲 のも の に近 く 、 さ ら に そ れ か ら変 化 し た よ う に見 え る ア ク セ ント 体 系 であ る。
尾 鷲 と の大 き な 相 違 点 だ け 述 べれ ば 、 第 一には 尾 鷲 で● ○ ○ 型 の 語 は 、 と かく 自 然 な 発 音 で は● ● ○ 調 に な る こ
と であ る。 こ れ は ● ○○ 型 か ら ● ● ○ 型 へ変 化 す る 直 前 の状 態 にあ る ア ク セ ント 体 系 で あ る こ と を 示 す も の の よ
う であ る。 こ れ に準 じ て● ● ○○ 型 の 語 も 自 然 の発 音 の場 合 には ○ ● ● ○ 調 に 実 現す る 傾 向 が 見 ら れ る。 第 二 に
は 、 九 鬼 で は 、 語 が連 結 す る 場 合 の準 ア ク セ ント の現 象 は 尾 鷲 と 少 し 違 い、 例 え ば カ ガ ( 蚊 が ) の型 、 デ ル ( 出
る ) の 型を 連 結 さ せ る と カ ガ デ ル の 型 に な る こ と であ る。 こ の方 言 の型 を 滝 観 で解 釈 す れ ば 、 ● ● 型 に は 語 頭 に
滝 が な いと す べき で あ ろ う 。 な お 、 こ の方 言 で は ﹁が﹂ を 用 い る ら し い。 ガ 行 鼻 音 が 存 在 す る 点 でも こ の地 区 で は 異 色 があ る 。
四 尾鷲 地 区 アク セ ント の成 立 過程
尾 鷲 地 区 の ア ク セ ント 体 系 は ど の よ う にし て 成 立 し た も の か。 私 は 尾 鷲 地 区 の ア ク セ ント を か な り 珍 奇 な 体 系
だ と 言 った 。 し か し 、 そ のう ち の相 賀 の ア ク セ ント 体 系 の ご とき 、標 準 甲 種 アク セ ント 体 系 に 対 し て 、 き わ め て
規 則 的 な 型 の対 応 を す る。 これ は長 島 地 区 のア ク セ ント 体 系 に 対 し ても 規 則 的 な 型 の対 応 関係 を 保 って い る こ と を示す 。
尾 鷲 地 区 の ア ク セ ント 体 系 も 、 長島 地 区 ア ク セ ント 体 系 と 同 様 、標 準 甲 種 から 変 化 成 立 し た も の と 推 定 し て よ
いよ う に 思 う 。 そ の過 程 に は 、 長島 地 区 同 様 に 南 度 会 ア ク セ ント 体 系 を 経 過 し た に ち が いな い。 相 賀 アク セ ント
体 系 が標 準 甲 種 か ら 生 じ る 過 程 は次 のよ う で あ った と 推 測 す る 。︹C と︺ ︹Dの︺語彙、︹Hと ︺︹I の︺ 語彙、︹Nと ︺︹O と︺ ︹P の︺ 語 彙 が合 流 し た と 見 ら れ る点 に長 島 地 区 の場 合 と の相 違 が あ る。
右 の変 化 のう ち で︹A︺︹C︺︹E︺︹Fの ︺上 ︹に H︺ 起︹ こJっ ︺た ︹K︹1 ︺︺ ︹L ︹1 ︺'︺ ︹N の︺ 変 化 は 、 す で に 長 島 地 区 方 言 の 上 に起 こ
った と 想 定 し た 変 化 と 全 く 同 一のもの であ る 。 問 題 は︹C︺︹D︺︹H︺ の︹ 上Iに ︺起 ︹こ N︺ っ︹ たO︹ ︺2 ︹︺ P︹ ' ︺ ' 3 ︺ ︹3, ︺ の変 化 で
あ る 。 が、 こ のう ち、︹C︺︹に Hお ︺け ︹N る︺︹2' ︺' の 変 化 は 、 長 島 地 区 方 言 に 想 定 し た 型の 変 化 と 同 性 質 のも の であ る 。
す な わ ち 、 長 島 方 言 では ︹1︺の 次 に○○型 ←○〓 型 、 ○○ ○ 型 ← ○ ● ○ 型 と いう 、 第一 拍 は 低 を 保 つ変 化 を 想
定 し た が 、 相 賀 で は ○○ 型 か ら ●〓 型 へ、 ○ ○ ○ 型 から ● ●○ 型 と いう 第 一拍 も 高 に な る 変 化 を し た と 想 定す る
わ け で あ る 。 こ れ が ︹2"︺の 変 化 だ 。 こう いう 場 合 、例 え ば︹C︺の○○型 は ●〓 型 へ変 化 し た と す る よ り も 、 直 接
に ● ● 型 に 変 化 し た 、 あ る いは ●○ 型 に ひと ま ず 変 化 し て 次 に●〓 型 に再 転 し た と 想 定 す る 方 が よ いと いう 論 が
出 るだ ろ う か。 が 、 直 接 ● ● 型 に変 化 し た と し て は 、 ● ● 型の 語 末 に あ る 滝 が な ぜ で き た か解 釈 が つか ぬ 。 ま た 、
ひと ま ず ●○ 型 に 変 化 し て、 そ れ が、 さ ら に ● ●' 型 に 変 化 し た と 考 え れ ば 、 語 末 に 滝 があ る 理 由 は 説 明 が つく
が 、 そ う す ると 元 来 ●○ 型の 語 彙 、 つま り︹B︺語の彙 と 混 同 し な か った 理由 の 説 明 が つか な い。 つま り、 ︹B︺ 語の彙
が な ぜ ● ○ 型 で と ど ま って いた の か の解 釈 に さ し つ かえ る 。 そ こ で ○ ○ 型 か ら 長 島 地 区 方 言 に お け るの と は や や 違 う ●〓 型 への 変 化 を 遂 げ た と 考 え よう と 思 う 。
次 に︹D︺︹に I︺ ︹3 ︹︺ Pの ︺ 変 化 を 想 定 す る こと は無 駄 のよ う に 思 わ れ る か も し れ な い。 つま り、︹Dの︺○〓 型 は た だ
ち に●〓 型 に、 ︹I の︺ ○ ● ○ 型 は た だ ち に ● ●○ 型 に 変 化 し た と いう よ う に 見 る 方 が簡 単 で い いよう にも 思 わ れ る。
し かし 例 え ば 、︹I で︺○ ● ○ 型 ← ● ● ○ 型 の変 化 を 想 定 す る と 、 ︹F に︺ お け る ● ● ○ 型 ← ○ ● ○ 型 との 衝 突 を な ぜ 避
って いる 現 状 は 説 明 つか ぬ 。︹O の︺ 語 彙 が ︹3︺ '︹1︺'︹2︺ "の よ う な 回 り 道の 変 化 を 遂 げ た と す る な ら ば 、当 然︹D︺
け 得 た かの 説 明 に窮 す る。 ま た 、︹O︺語の彙 に つ い ては ど う し ても ︹3' ︺の 変 化 を 考 え な け れ ば 、 ● ● ○○ 型 にな
︹I︺︹語 P彙 ︺も の並 行 的 変 化 を 遂 げ た と 考 え るの が合 理 的 だ と 思 う 。
な お 、 相 賀 で(ハ の) ● ● 型 ・(の チ● ) ●○ 型 は 語 頭 に 滝 があ る と いう 事 実 があ った 。 こ れ は こう いう わ け だ と 思 う 。
︵ハ の) 語 彙 は 以 前 は︹C○︺● 型 のよ う な 、 (チ) 語の 彙 は 以 前 は︹H○ ︺○ ● 型 又 は︹I○︺● ○ 型の よ う な 低 起 型 で あ った 。
(ハ の) 場合
● ●︱ ○ ○○○
● ●︱ ○○
○ ●︱ ○ ○ ●︱ ○ ○ ○
● ● ●︱ ○ ○ ○
● ● ●︱ ○ ○
○ ○ ●︱ ○ ○○
○ ○ ●︱ ○ ○
す な わ ち 、 以 前 は(ハ) 語の彙 ・(の チ語 ) 彙 が 他の 高 く 終 わ る 型の 直 後 に 来 た 場 合 、
( チ) の 場 合
のよ う に 、 低 く 付 き 、 し か も 低 の拍 ば か り の 形 に な る性 格 を も って いた 。 と ころ が(ハ () チ の) 型 は 、 ○ ○ 型 ・○ ○ ○
型 を 経 過 し て、 単 独 で は ● ● 型 ・● ● ○ 型 に 変 化 し た 。 と こ ろ が 他 の語 の直 後 に連 結 し て発 音 さ れ る場 合 の ア ク
セ ント に は 、 前 代 の性 格 が 残 り、 他 の語 に低 く 付 こう と す る の だ 、 と 解 す る の であ る 。 私 は 、(ハ)の (型 チが )見 か け
は 高 起 式 の型 で あ り な が ら 、 準 ア ク セ ント の 場 合 だ け 低 起 式 に な る 理 由 に 対 し て は こ の解 釈 が 一番 よ いと 思 う 。
つま り 、 相 賀 に お け る語 頭 の滝 な る も の は、 そ の古 い姿 を 伝 え る 貴 重 な メ ルク マー ルだ と 思 う の で あ る 。
以 上 のよ う に し て相 賀 の ア ク セ ント 体 系 の成 立 の 過 程 は 推 定 さ れ た とす る 。 そ れ が で き れ ば 、 他 の尾 鷲 の ア ク セ ント 体 系 ・九 鬼 の ア ク セ ント 体 系 の成 立 の過 程 は容 易 に推 定 さ れ る 。
す な わ ち 、 相 賀 の ア ク セ ント 体 系 か ら 、︵チ︶●●○ 型 の語 彙 が 一部 を 残 し て● ● ● 型 と いう (ト︶ 型のに 変 化 し 、 (ヨ︶
の● ● ○ ○ 型 の 語彙 は 、 全 部 が● ● ● ○ 型 に一 応 変 化 し 、 あ と で さ ら に そ の 一部 が ● ● ● ● 型 と いう (ワ の) 型に変
化 し た と す れ ば 、 尾 鷲 の アク セ ント 体 系 が で き 上 が る 。 変 化 し た 語 彙 、 し な か った 語 彙 の違 い が で き た 理由 は 次 のようかと考え る。
ま ず 、 (チ︶ うのち 、 変 化 を 妨 げ る 理 由 のな い語 は す べて ● ● ● 型 に 変 化 し た 。 た だ し ﹁木 も ﹂ ﹁糸 も ﹂の 類 は 、
﹁牛 も ﹂ のよ う な 語 で ﹁も ﹂ が 低 く 付 く 、 そ れ への類 推 が働 いて、 ● ● ○ 型 に と ど ま った 。 ﹁薬 ﹂ は 早 く 第 一拍 が
無 声 化 し た た め に、 も と か ら ○ ● ○ 型 の 語 へ合 流 し た 。 ﹁野 原 ﹂ は 日常 あ ま り 用 いな い語 ゆ え 考 察 か ら は ず し て
よ い。 ﹁歩 く ﹂ ﹁歩 け ﹂ は 、 完 了 形 が ア ルイ タ と でも いう の で 、 そ れ に類 推 が働 いた の で で も あ ろう か 。
次 に 、︹O︺語 の彙 は 一応 ● ● ●○ 型 に な って か ら 、 ﹁兜 は﹂ ﹁畠 は﹂ の 類 は、 助 詞 が 名 詞 に癒 合 し てkabuta:・
hatakj さa ら:に ,短 縮 し てkabut ・a hataと k三 ja 拍 に 発 音 さ れ る こ と も あ った 。 そ の第 三 拍 の中 で 高 か ら 低 へピ
ッチ を 変 化 さ せ る こ と が 困 難 だ と いう こ と か ら、 ● ● ● ● 型 にな った も の で あ ろ う 。 一方 ﹁手 か ら ﹂ ﹁手 ま で﹂
の類 は 、 ﹁か ら ﹂ ﹁ま で ﹂ のと こ ろ で ● ○ と いう 音 調を と る こ と が 一向 困 難 でな い の で● ● ● ○ の 型の ま ま で 残 っ
た。 こ う し て で き た のが 尾 鷲 の ア ク セ ント 体 系 だ と 思 う 。 尾 鷲 の● ● ● 型 ・● ● ● ● 型 は いず れ も 語 末 に 滝 を も
って いた が、 そ れ は ● ● ○ 型 ・● ● ● ○ 型 か ら 変 わ ったも のだ か ら と 説 明 で き る 。
つま り、 前 代 の遺 物 的 存 在 で あ って そ れ 自 体 は 特 に積
尾 鷲 の アク セ ント 体 系 が で き 上 が れ ば 、 九 鬼 の アク セ ント 体 系 が でき 上 が る の は容 易 であ る。 す な わ ち 、 尾 鷲 アク セ ント 体 系 に あ って、 ち ょ っと奇 怪 な 存 在 で あ る︱
極 的 な 存 在 意 義 を も た な い語 頭の 滝 が 消 失 し た のが 九 鬼 ア ク セ ント 体 系 であ る 。
Ⅱ 南 牟 婁 郡 の 部 一 南 牟 婁 郡 の ア ク セ ン ト と 阿 田 和 町 の ア ク セ ント
日本 全 国 に郡 が 幾 つあ る か 知 ら な いが 、 あ る点 に お いて 三 重 県 南 牟 婁 郡 は 全 国 随 一で あ る 。 そ れ は ︽郡 の 中 の 諸 方 言 の アク セ ント に変 化 が 多 い︾ と いう 点 で あ る 。
も っと も 昭 和 三 十 四 年 の 現 在 では 、 一部 の村 が熊 野 市 に 入 り 、 他 の 一部 は尾 鷲 市 に繰 り 入 れ ら れ て し ま った の
で、 堅 苦 し く 言 う と 、 これ は 二 、 三 年 前 ま で の 話 で は あ る。 が、 そ れ は 大 し た 問 題 で はな い。 と に か く こ の南 牟
婁 郡 地 方 は 決 し て広 い地 域 で は な いの に 、 そ の ア ク セ ント の分 布 の複 雑 さ か ら 言 って、 中 国 地 方 全 体 にも 比 し て 遜 色 な いと いう の は 注 目 す べき こと で あ る 。
南 牟 婁 郡 地 方 に 分 布 す る ア ク セ ント のvariは e、 ty 主 な も のを 数 え る と 、︹A︺︹の B三 ︺︹ つC に︺ な る。 その 特 色 は 別
に 掲 げ た 第1 表 に 示す と お り で あ る が、 要 は 、︹A は︺京 都 ・大阪 の ア ク セ ント に似 た も の、︹B は︺東 京 ア ク セ ント に
似 た もの で あ る 。︹C は︺型 の区 別 のは な は だ 曖 昧 な も の で、 日本 語 の ア ク セ ントの 第 三の 類 型 と さ れ る ︿一型 ア ク
セ ント ﹀ に 、 一歩 近 いも の であ る 。 こ れ ら の分 布 状 態 は 、 前 掲 の地 図 に 示 す が ご と く で、 中 心 部 に︹A が︺ 広 がり、
︹B と︺ ︹C と︺は 辺 境 に身 を ひ そ め て いる 感 じ で あ る 。 な お 、 隣の 北 牟 婁 や奈 良 県 吉 野 郡 下 北 山村の 一部 に は 、 そ のほ
か に︹Dの ︺ ︿甲 種 と も 乙 種 と も つ か ぬ ﹀ ア ク セ ント が 分 布 し て い る 。
私 が こ れ ら の地 方 のア ク セ ント を 調 査 し た のは 、 昭 和 三 十 一年 三 月 と 七 月 の約 十 日 間 であ る 。 こ れ ら の ア ク セ
( 旧 木 之 本 町 ) のア ク セ ント に つ い て は 、 ﹃三 重 県 方 言 ﹄第 一号 に杉 浦
ント の代 表的 な も の に つい て は 、す で に 生 田 早 苗 氏 が ﹁近 畿 ア ク セ ン ト 圏 辺 境 地 区 の諸 ア ク セ ント に つ い て﹂ の 中 で報 告 (1 )し て お り 、ま た 、 特 に熊 野市
茂夫 氏 の発 表 ( 2)も あ る。︹ 補6︺ こ れ ら の発 表 、 特 に杉 浦 氏 のもの に 対 し て は 、 多 少 私 見 を さ し はさ み た い点 も な 第 1表 南牟 婁郡 地方の アク セ ント異 同 一覧
( 注) 板 屋 の ﹁風も ﹂ は そ の直 後 に滝 があ る 。
い で は な い 。 が 、 そ れ は 別 に 発 言の 機 会 も あ ろ う 。 こ こ で は 、 私 が 一番 強 い 興 味 を 覚 え た 阿 田 和 町 方 言 の ア ク セ
ント に つ いて 、 知 り 得 た こ と ( 3)を 報 告 す る 。 こ の ア ク セ ン ト は 、 大 き く 見 れ ば 、 ︽甲 種 ア ク セ ン ト に 属 し て い
る ︾ と 目 さ れ る が 、 そ の 端 々 に 乙 種 的 な 性 質 を 持 ち 、 ︽甲 種 ア ク セ ン ト か ら 脱 化 し て 乙 種 ア ク セ ン ト に な ろ う と し て い る 中 間 の ア ク セ ン ト ︾ と 考 え ら れ る も の で あ る 。( 4)
報 告 し て いる 。
注 (1) ﹃ 国 語 ア ク セ ント 論 叢 ﹄ 所 収。 こ の中 に、 市 木 村 ・木 之 本 町 ・五 郷 村 和 田 ・飛鳥 村 小 坂 ・北 輪 内 村 三 木 里の 方 言 に つ い て
( 2 ) ﹁ 南 牟 婁郡 ( 旧 ︶木 之本 町の ア ク セ ント に つ いて﹂ と 題す る論 文 。
沿 岸 諸 方 言﹂ と い っても 、 北 牟 婁地 方 だ けの 報 告 で 終わ ってし ま った 。 今 度 こ の論 文 は 、 そ の続 き で、 南 牟 婁 一帯 に つい て
( 3 ) 私は ﹃ 名 古 屋大 学文 学 部 十周 年 記念 論 集﹄ に ﹁熊 野 灘 沿岸 諸 方 言の アク セ ント﹂ と いう 論文 を 発 表 し た 。 こ れ は ﹁ 熊野灘
述 べる はず であ った が、 紙 面 の加減 で阿 田 和 だけ にと ど めた 。
ペー ジ に 言及 し た こ と があ る 。
( 4 ) 私 は こ の方 言 のア ク セ ント に つい て ﹃国 語学 ﹄二 六 号 の ﹁ 柴 田 君 の ﹃日本 語の アク セ ント 体系 ﹄ を 読 ん で﹂ の三 七︲ 三 八
二 阿 田 和 町 ア ク セ ント の具 体 的 内 容
阿 田 和 方 言 は 、 私 が 調 査 し た 結 果 で は、 次 のよ う な ア ク セ ント を も つ。 イ ン フ ォー マ ント は 、 鈴 木 幹 夫 氏 で 、
明 治 三 十 九 年 生 ま れ 、 前 阿 田 和 中 学 校 の 校 長 で 、 こ の 土 地 に 生 ま れ 、 今 で も 阿 田 和 に 在 住 さ れ る 。 調 査 し たの は 、 昭 和 三 十 一年 七 月 で あ った 。
一 ︹二拍 語 ︺
次 の語 が こ れ に 属 す る 。
次 の︹ A︺︱D ︹︺ の型 があ る 。
︹ A︺ ○● 型
牛 。 柿 。 風 。 竹 。 鳥 。 庭 。 鼻 。 水 。 買 う 。 貸 す 。 聞 く 。 鳴 る。 振 る 。 着 る 。
こ れ ら は 無 造 作 な 発 音 で は ○ ● 調 に 実 現 す る ほ か 、 ○ ○ 調 に も 、 ● ● 調 に も 実 現 す る 。 ︽○ ○ 調 に も 実 現 す る ︾
と い う 点 で 、 あ と に 出 る ︹C の︺型 の 語 と ま ぎ ら わ し い 。 が 、 ﹁こ の 牛 ﹂ ﹁鳥 が 鳴 く ﹂ の よ う に 前 に ︽高 く 終 わ る 型 ︾
(牛 が ) ・ト ブ ト リ
( 飛 ぶ鳥 ) 型 で、 音 調 は 変 わ ら な い。 も し 滝 観 ( 3)で 考 え る
の 語 が 来 た 場 合 (1 )に 、 コ ノ ウ シ ・ト リ ガ ナ ク の よ う に 、 高 平 型 に な る 点 で 違 う 。 直 後 に 、 ︽語 頭 に 滝 の な い 型 ︾ の語 が来 た 場 合 ( 2)に は 、 ウ シ ガ
な ら ば 、 \○ ○ \ 型 と 解 釈 さ れ る 。 大 体 、 標 準 甲 種 方 言 ( 4)で ● ● 型 の 語 が 、 阿 田 和 で こ の 型 に な る 。 こ の 型 の
次 の 語 が こ れ に 属 す る 。 こ の 方 言 で は こ れ ら は 二 拍 に 発 音 さ れ る 。
音 調 は 、 甲 種 的 と いう よ り 、 む し ろ 乙 種 的 で あ る 。 ︹︺ ' A ● ●型 蚊 。 子 。 血 。 実 。
こ れ ら は ● ● 調 の ほ か 、 ○ ○ 調 に も 実 現 す る 。 ○ ● 型 の 一変 種 で 、 第 二 拍 の 音 韻 が 独 立 性 に 乏 し い 語 の 場 合 に
﹁毛 ﹂ 以 下 も 二 拍 語 。
こ の 型 に な る も の と 判 定 さ れ る 。 こ の 型 に 属 す る 語 の 音 調 は 甲 種 方 言 と 全 く 同 じ で あ る 。 滝 観 に よ る と \○ ○ \
次 の 語 が こ の 型 に 属 す る 。 こ の 方 言 で
石 。 音 。 紙 。 川 。 胸 。 足 。 犬 。 馬 。 米 。 花 。 着 た。 見 た 。 買 え 。 毛 。 名 。 葉 。 日 。 歯 。
●○ 型
型 と 解 釈 さ れ 、︹A︺の 語 彙 と 区 別 さ れ な い 。 ︹B︺
こ の 型 の 語 は い つ も ● ○ 調 に 実 現 し 、 よ く 安 定 し て い る 。 直 前 に ︽高 く 終 わ る 型 ︾ の 語 が 来 た 場 合 に は 、 コ ノ
イ シ 型 ・ウ シ オ ミ タ 型 で 、 音 調 は 変 わ ら な い が 、 あ と に 、 他 の 語 が 付 く 場 合 ( 5)に は オ ト ガ ・ミ タ モ ノ の よ う に 、
︽第 二 拍 も 高 い ︾ 型 に 変 わ る の が 普 通 で あ る 。 も っと も 、 ﹁毛 ﹂ 以 下 の 語 は そ の 場 合 に も ケ ー ガ 型 を 押 し 通 す 。 こ
れ は \○' ○ \型 と \○ ○' \型 と の間 を 浮 動 し て いる と す べ き であ ろ う か。 標 準 甲 種 方 言 で ● ○ 型 の 語 が 阿 田 和 で
次 の 語 が 属 す る。 ﹁木 ﹂ 以 下 も 二 拍 語 であ る 。
は こ の型 にな って いる 。 甲 種 方 言 に 近 いが 、 乙 種 と も ち ょ っと似 て い る。 ︹ C︺ ○○型
糸 。 帯 。 肩 。 空 。 種 、 箸 。 舟 。 麦 。 朝 。 書 く 。 切 る 。 食 う 。 立 つ。 飲 む 。 見 る 。 食 え 。 な い。 木 。 手 。 根 。 火。目。
こ の型 は ○ ○ 調 に 実 現す る ほ か に ○ ● 調 に実 現 す る こ と も あ る よ う であ る 。 が、 ○ ○ 調 が 正 式 だ と いう 。 珍 し
い の は こ の型 の語 の直 前 に 高 く 終 わ る 型 の 語 が 付 いた 場 合 で、 こ の場 合 、 コノ イ ト ・ウ シ オ ミ ル ( 牛を 見る) の
よ う に 、第 一拍 が 高 く な る の が普 通 だ と の こ と であ る。 こ の点 で︹A の︺ ○ ● 型 と は は っき り 区 別 さ れ る 。 直 後 に、
︽語 頭 に 滝 の な い型 の 語 ︾( 6)が 付 く と 、 イ ト ガ ・カ ク モ ノ の よ う な 低 平 の音 調 を 保 つ。
滝 観 で 解 釈 す る と 、\'○ ○ \型 と \○' ○ \型 と の間 を 浮 動 し て いる と す べき だ ろ う 。 こ の型 に は 、 標 準 甲 種 で○
● 型 の 語 が 所 属 す る 。 た だ し 上 の語 彙 の中 で ﹁朝 ﹂ は 例 外 であ る。 こ の型 の 語 が ︽高 く 終 わ る 型 の語 ︾ の後 に来
た と き に コノ イ ト のよ う な 音 調 にな る のは 一見 は な は だ 奇 抜 であ る 。 つま り 、 こ の型 の語 は 一般 に は 甲種 的 であ
つま り 、 第 二 拍 が 下降 調 の型 。 次 の語 が 属 す る 。
る が 、 前 に 他 の語 が 来 る と 乙 種 的 にな る こ と があ る と 言 え る 。 ︹ D︺ ○〓 型
秋 。 雨 。 蜘 蛛 。 鶴 。 春 。 書 け 。
こ の 型 は ○〓 調 に安 定 し て いる 。 直 前 に 高 く 終 わ る 型 の 語 が 来 る と き は 、 コノ アキ 、 コノ ア メ で 変 わ ら な い。
あ と に他 の語 が 来 る と き も 、 ア キ ガ ・ア メ ガ で こ れ も ま ず 変 わ ら な い。 滝 観 で解 釈 す る と これ は \'○ ○' \型 で あ
る 。︹ 補7︺ 標 準 甲 種 方 言 で ○〓 型 の語 が こ の型 に 所 属 し て いる 。 こ の型 は 、 甲 種 方 言 と 全 く 同 じ 音 調 を も ち 、 乙 種 とは違う。
二 ︹三拍 語 ︺
次 の語 が属 す る 。
次 の︺ ︹︱ E ︹J の︺ 種 類 の型 があ る。 ︹E ︺ ○ ●●型
子 供 。 魚 。 桜 。 柳 。 兎 。 背 中 。 上 が る 。 笑 う 。 明 け る 。 負 け る 。 買 わ ん 。 買 おう 。 牛 が。 柿 が 。 風 が 。 竹 が 。 鳥 が 。 鼻 が 。 水 が。
こ の型 は、 ○ ● ● 調 の ほ か、 ○ ○ ● 調 に 実 現 す る こと が 多 い。 音 韻 論 的 に いう と ○ ● ● 型 と ○ ○ ● 型 と の間 を
浮 動 し て いる と 見 る べき か も し れ な い。 ま た 、 ○ ○ ○ 調 に も ● ● ● 調 に も 実 現 し 、 要 す る に次 の拍 が そ れ 以 前 の
拍 よ り 低 く な ら な け れ ば 、 ど の音 調 でも い いら し い。 こ の 語 の直 前 に、 高 く 終 わ る 型 の 語 が 付 く と 、コ /コド
モ ・ト ー オ ア ケ ル の よ う な 高 平 型 にな る 。 直 後 に ︽語 頭 に 滝 のな い他 の語 ︾ が 付 いた場 合 に は、 コド モ ガ ・ア ケ
ル モノ の よう で、 つま り 変 化 し な い。 こ れ は \○ ○ ○ \型 と 解 釈 さ れ る 。 標 準 甲 種 方 言 で ● ● ● 型 の 語 が こ の型
に な って いる 。 た だ し ﹁兎 ﹂ ﹁背 中 ﹂ は 例 外 で あ る。 こ の型 の 語彙 の音 調 は 甲 種 よ り 乙 種 に 近 い。 次 の語 が属 す る 。
( カ ー ) が 。 子 が。 血 が。 戸 が 。 実 が。
︹E ' ●︺● ● 型 蚊
こ の類 の語 は 、 ○ ○ ● 調 に も 実 現 す る よ う で あ る 。 ● ● ● 型 と ○ ○ ● 型 と の間 を 浮 動 し て いる も の と受 け 取 ら
れ た 。 ○ ● ● 型 の 一変 種 で、 第 二拍 の音 韻 が独 立 性 の弱 い場 合 に、 こ の 型 に な る も のと 見 ら れ る 。\○ ○ ○ \型 と 解 釈 さ れ る 、 これ は 全 く 甲種 型 だ 。 ︹ F︺ ○ ●〓 型 、 つま り 第 三 拍 が 下 降 調 の型 。 次 の語 が属 す る 。 牛 も 。 風 も 。 竹 も 。 上 が れ 。 笑 え 。
こ の類 の語 は 、 ○ ●〓 調 の ほ か に○ ○〓 調 に も 実 現 す る よ う で、 つま り、 ○ ●〓 型 と ○ ○〓 型 と の間 を 浮 動 し
て い る ご と く であ る 。 こ の 型 の語 の直 前 に 高 く 終 わ る 型 の語 が 立 つと 、 コノ ウ シ モ と な り 、 こ の型 の直 後 に 他 の
語 が 続 く と 、 ウ シ モア ルと な って 、 最 後 の〓 が ● に 変 わ る 。 こ の 型 は、\○ ○ ○' \型 と 解 釈 さ れ る 。︹ 補8︺ 標 準 甲
種 方 言 の ● ● ○ 型 の 一部 が こ れ に対 応 す る 。 こ れ は あ と に 述 べ る︹ G︺ の○ ● ○ 型 と 関係 が あ る が 、 こ の 型 に な って
( カー)も 。血も。
次 の 語 が 属 す る。
いる 語 の方 は 、 甲 種 よ り 乙 種 に 一歩 近 いと 言 え る 。 ︹ F' ●︺●〓 型 鳴 った 。 振 った 。 蚊
こ の 類 の 語 は ● ●〓 型 と ○ ○〓 型 と の 間 を 浮 動 し て い る も の の よ う で あ った 。 ︹F の︺○ ●〓 型 の 一変 種 で 、 標 準
甲 種 方 言 で、 ● ● ○ 型 の 語 のう ち 、 第 二拍 の音 韻 が独 立 性 の弱 い場 合 に こ の型 にな って いる も のと 判 定 さ れ た 。
こ の 型 の語 も 甲 種 よ り 一歩 乙 種 方 言 に 近 づ いて いる 。 ﹁鳴 った ﹂ ﹁振 った ﹂ は 本 来 ● ○ ○ 型 で あ り そう な 語 であ る 。
次 の 語 が 属 す る。
第 二拍 が 促 音 の場 合 に は ● ● ○ 型 を 飛 び 越 え て 、 ● ●〓 型 にな って いる も のと 推 定 さ れ る。 ︹G ︺ ○●○ 型
(イ小 )豆 。 二 つ。 頭 。 鏡 。 境 。 着 た る 。 見 た る 。 白 う 。 赤 う 。 (ロ)秋 が 。 雨 が。 蜘 蛛 が。 鶴 が。 春 が 。
こ の型 は 単 独 で は ○ ● ○ 調 で安 定 し て いる 。 こ の 型 の直 前 に 高 く 終 わ る 型 の語 が 立 つと、 (イ の)﹁小 豆 ﹂ 以 下 の
語 は コノ アズ キ ・コ ノ ア タ マ型 に 変 じ 、(ロの) ﹁秋 が﹂ 以 下 の語 は コ ノ ア キ ガ 型 で 、 つま りも と の音 調 を 保 つ。 直
後 に他 の語 が従 う と 、 (イ の)﹁小 豆﹂ 以 下 は ア ズ キ ガ ・ア タ マガ 型 に な って 、 滝 が 一拍 後 へ移 る 。 ) ( ロの ﹁秋 が﹂ 以
下 は ア キ ガ キ タ で 変 わ ら な い。 滝 観 で 解 釈 す る と 、 ﹁小 豆 ﹂︱﹁境 ﹂ は \○ ○' ○ \型 、 ﹁秋 が ﹂ 以 下 は \'○ ○'○ \型
で、 つま り (イ と) (ロ は) 音 韻 論 的 に別 のも のと 見 ら れ る 。 こ の型 の語 は 、 標 準 甲 種 方 言 では 、 (イ は) ●● ○型 の語 の 一
部 で あ り 、 (ロ) は ○〓 ○ 型 の語 であ る 。 た だ し ﹁白 う ﹂ は (イ に) 属 す る 。 こ の類 の 語 は 、 (イ の) 方 は 甲 種 、 乙種 の 中 間
次 の 語 が 属 す る 。
のよ う な 外 見 を 呈 す る。 ) ( ロの方 は 甲 種 ア ク セ ント に 近 い。 ︹H ︺ ●●○ 型
力 。 は た ち 。 油 。 命 。 心 。 涙 。 柱 。 動 く 。 思 う 。 隠 す 。 起 き る 。 晴 れ る 。 熱 い 。 白 い 。 高 い。 赤 い 。 軽 い 。
動 け 。 思 え 。 書 か ん 。 書 こう 。 貸 し た 。 石 が。 音 が。 紙 が 。 川 が。 胸 が。 足 が 。 犬 が 。 馬 が。 米 が。 花 が 。 石 の 。( 7)紙 の 。 川 の 。 足 の 。 犬 の 。 花 の 。
こ れ ら の 語 は 、 時 に ● ○ ○ 調 に も 実 現 す る よ う で あ った が 、 こ れ は 音 声 学 的 変 異 で は な く て 、 ● ● ○ 型 と ● ○
○ 型 と の間 を 浮 動 し て い る も の と 観 察 さ れ た 。 こ の 型 の 語 の 直 前 に 高 く 終 わ る 型 の 語 が 立 つ 時 に は コ ノ イ ノ チ ・
ソ ラ ガ ハレ ルと な って、 音 調 は 変 わ ら な い。 ま た 直 後 に 他 の 語 が 来 る と き も 、 イ ノ チ ガ ・オ モ ウ コト と な って 音
調 は変 わ ら な い。 滝 観 で は \○' ○ ○ \型 か ら \○ ○'○ \型 に 移 り つ つあ る と す べき であ ろう か 。 こ れ ら は 標 準 甲
種 方 言 で、 大 体 ● ○ ○ 型 の語 の大 部 分 であ る 。 も っと も ﹁赤 い﹂ ﹁軽 い﹂ ﹁隠 す ﹂ は 例 外 で あ る 。 こ の型 の 語 の音
(ケ ー ) が 。 名 が 。 葉 が 。 日 が 。 歯 が 。
次 の語 が属 す る 。
調 は 、 甲 種 方 言 に 対 す る よ り も 乙 種 方 言 に 近 いと 言 え る 。 ︹ H' ●︺ ○ ○型 買 う た。 聞 い た。 買 う な 。毛
こ れ ら は ● ○ ○ 調 に 安 定 し て いる 。 恐 ら く ● ● ○ 調 に実 現す る こと も あ り は し な いか と 後 で考 え つ い た が 、 調
( 柿 買 う た )・コ
︵こ の 毛 が ) と な り 、 滝 の 位 置 は 変 わ ら な い 。 直 後 に 他 の 語 が 続 く 時 は 、 コ ー タ モ ノ ・ケ ー ガ ア ル で 、
査 の 時 は 気 が つ か な か った 。 こ の 型 の 語 の 直 前 に 高 く 終 わ る 型 の 語 が 立 つ 時 に は 、 カ キ コ ー タ ノケーガ
こ れ も ま た 型 が 変 化 し な い 。 こ れ は \○'○ ○ \型 で あ る 。 標 準 甲 種 方 言 で は 、 ● ○ ○ 型 の 語 の 一部 、 つ ま り 第 二
次 の語 が属 す る 。
拍 の 音 韻 が 独 立 性 の 弱 い 語 に 限 って 所 属 す る 。 甲 種 方 言 に 近 い 。 ︹I︺○ ○ ● 型
( キ ー ) が 。 手 が。 根 が。 火 が。 目 が 。
雀 。 烏 。 歩 く 。 書 い た 。 切 った 。 食 う た 。 飲 ん だ 。 糸 が 。 帯 が 。 肩 が 。 空 が 。 種 が 。 箸 が 。 舟 が 。 麦 が 。 朝 が。 木
こ の 型 の 語 は 、 ○ ○ ● 調 の ほ か 、 ○ ○ ○ 調 に も 実 現 す る 。 ○ ○ ● 調 ・○ ○ ○ 調 に 実 現 す る 点 で︹ E︺ の語 と ち ょ っ
・コノカラス
と な る の が 普 通 だ と い う 点 で 、 ︹E の︺型 と 違 う 。 直 後 に 、 語 頭 に 滝 の あ る
と ま ぎ ら わ し い が 、 ○ ● ● 調 ・● ● ● 調 に は 実 現 し な い。 ま た 、 直 前 に 高 く 終 わ る 型 の 語 が 立 った 時 は 、 第 一拍 が 高 く な っ て 、 コ ノ ス ズメ
他 の 語 が 続 く と 、 低 平 調 に変 化 し 、 スズ メ ガ ・イ ト オ マク と な る。 服 部 博 士 が ﹁甲 種 ア ク セ ン ト に も ● ○ ⋮ ●
( 低 ア ク セ ント 素 に属 し な がら ) のよ う な 実 例 が 見 出 さ れ る 可 能 性 が あ る ﹂( 8)と 言 わ れ た の は、 こ う いう 方 言 を
頭 に 置 か れ て の 発 言 であ ろう か 。 そう いえ ば、 こ の型 は単 独 でも 語 頭 がも ち 上 が って〓 ○ ● 調 に 発 音 さ れ る こと があ る。
滝 観 で は 、\'○ ○ ○ \型 と \○'○ ○ \型 と の 間 を 浮 動 し つ つあ る と 解 釈 さ れ る 。 標 準 甲 種 方 言 で ○ ○ ● 型 の語 が
次 の語が属す る。
こ の 型 に 所 属 し て い る こ と に な る。 ( た だ し ﹁朝 が ﹂ は 例 外 。) 甲 種 に近 いが 、 連 語 の準 アク セ ント に お いて 乙種 と 似 た点 を 示 す 。 ︹J ︺ ○ ○〓 型
薬 。 兜 。 畠 。 野 原 。 歩 け 。 書 く な 。 糸 も 。 帯 も 。 肩 も 。 木 も 。 目 も 。
こ の類 の語 は 、 ○ ○〓 調 の ほ か 、 ○ ● ○ 調 に も 実 現 す る こと があ った 。 ま た 、〓 ○〓 調 にも 実 現 す る よ う だ 。
こ のう ち 、 ○ ● ○ 調 に実 現 す る の は これ ら の語 が ○ ○〓 型 と ○ ● ○ 型 と の 間 を 浮 動 し て いる こ と を 表 す も の で、
音 韻 論 的 に は 二 つ の型 に 所 属 し て いる も の と観 察 さ れ た 。 こ の 型 の語 の直 前 に 高 く 終 わ る 語 が立 つと 、 コノ ク ス
リ ・コ ノ イ ト モ 型 に な る よ う だ 。 こ の 型 の 語 の 直 後 に 他 の 語 が 続 く と 、 ク ス リ ガ ・イ ト モ マ ク の よ う に な る も の
と 観 察 さ れ た 。 滝 観 で は 、\'○ ○ ○'\型 と \'○ ○'○ \型 と 両 型 を も つも の と 解 釈 さ れ る 。︹ 補9︺ 標 準 甲 種 方 言 で ○
● ○ 型 の 語 が 阿 田 和 で こ の 型 に な って い る 。 こ の 型 は 、 甲 種 と も 乙 種 と も 違 う 。 が 、 他 の 語 と い っし ょ に な った 場 合 の準 ア ク セ ント で は、 わ ず か に 乙 種 に 近 い。
三 ︹四拍 語︺ 次 の ︹K︺ ︹︱ R の︺ 種 類 の型 が あ る 。 ︹ K︺ ○ ● ● ● 型 次 の語 が属 す る 。 子 供 が。 魚 が 。 桜 が 。 柳 が。 兎 が 。 背 中 が 。 実 か ら 。 白 な る 。 赤 な る 。
こ の 型 の語 は、 ○ ● ● ● 調 の ほ か 、 ○ ○ ○ ● 調 に実 現す る こ と も 多 く 、 ま た 、 ○ ○ ○ ○ 調 や ● ● ● ● 調 にも 実
現 す る 。 ○ ● ● ● 型 と ○ ○ ○ ● 型 と の間 を 浮 動 し て いる と 見 る べき であ ろう か 。 直 前 に、 高 く 終 わ る 型 の語 が 立
てば コノ コド モ ガ 型 にな り 、 直 後 に 、 語 頭 に 滝 のな い語 が 従 え ば 、 コド モガ ナ ク 型 で音 調 が 変 わ ら な い。 こ の型
は \○ ○ ○ ○ \型 と 解 釈 さ れ る 。 標 準 甲 種 方 言 で ● ● ● ● 型 の語 が こ の型 に 属 す る 。 た だ し 、 ﹁兎 が﹂ ﹁背 中 が﹂
肴も。桜 も。兎も 。
︹ L︺ ○ ● ●〓 型 次 の語 が属 す る 。
﹁白 な る﹂ ﹁赤 な る ﹂ は 例 外 。 こ の 型 の語 は 乙 種 に 近 い。
こ の型 の語 は ○ ● ●〓 調 の ほ か 、○○○〓 調 にも 実 現 す る。 直 前 に、 高 く 終 わ る 語 が立 て ば 、 コノ サ カ ナ モ型
に変 化 し 、 直 後 に 、 語 頭 に 滝 のな い語 が 従 え ば サ カ ナ モ カ ウ 型 に 変 化 す る。\○ ○ ○ ○' \型 と 解 釈 さ れ る 。︹ 補10︺
標 準 甲 種 方 言 で は ● ● ● ○ 型 の語 が、 阿 田 和 で は こ の 型 に 所 属 す る 。 (た だ し 、 右 の 語 例 の中 で ﹁兎 も ﹂ は 例
次 の語 が属 す る 。
外 。) 甲 種 よ り 一歩 乙 種 に近 づ いた ア ク セ ント で あ る 。 ︹M ︺ ○●●○ 型
答 え る。 倒 れ る。 離 れ る 。 生 ま れ る。 忘 れ る。 小 豆 が。 二 つ に。 頭 が 。 鏡 が 。 境 が。
こ の 型 は 、 ○ ● ● ○ 調 のほ か に ○ ○ ● ○ 調 にも 実 現 す る 。 こ れ は 、 音 韻 論 的 に は 二 つの違 う 型 の 間を 往 来 し て
い る の で あ ろう 。 こ の 型 の語 の直 前 に高 く 終 わ る 語 が 立 つと 、 コノ ア ズ キ ガ 型 に 変 わ る 。 直 後 に他 の語 が続 く 場 合 に は 、 ア ズ キ ガ ⋮ ⋮ で 型 は 変 わ ら な い。
次 の語 が 属 す る 。
﹁答 え る﹂ ﹁生 ま れ る﹂ ﹁忘 れ る ﹂ は 例 外 。 全 体 は 乙 種 方 言 に 近 い。
滝 観 で は \○ ○ ○'○\型 と 解 釈 さ れ る 。 こ の型 に は 、 標 準 甲 種 方 言 で ● ● ○ ○ 型 の 語 が 所 属 し て いる 。 た だ し 、
︹M ' ●︺ ●● ○型 実 ま で 。 実 に は。 実 でも 。
こ の型 の 語 は 、 ○ ○ ● ○ 調 にも 実 現 す る 。 ● ● ● ○ 型 と ○ ○ ● ○ 型 と の間 を 浮 動 し て いる も の と考 え ら れ た 。
︹M の︺ ○ ● ● ○ 型 であ る べき 語 のう ち 、 第 二 拍 の音 韻 が 独 立 性 の乏 し いも の が、 こ の型 にな る も の と 判 定 さ れ る 。
こ れ には 元来 標 準 甲 種 で ● ● ○ ○ 型 の語 が 属 す る は ず であ る が、 ﹁実 に は ﹂ と ﹁実 で も ﹂ は と も に 例 外 であ る 。
こ れ ら は ﹁に は ﹂ ﹁でも ﹂ のと ころ が 複 合 助 詞 で あ る こ と か ら 対 応 の 関 係 を 乱 し て いる の で あ ろ う 。 全 体 は 乙 種
次 の語 が属 す る 。
方 言 の方 に近 いと 言 え る 。 ︹ N︺ ●●○ ○型
力 が。 は た ち が。 命 が。 涙 が 。 柱 が 。 油 が。 心 が 。
こ の型 は安 定 し て お り 、 常 に● ● ○ ○ 調 に 実 現 す る よ う であ る 。 こ の型 の直 前 に 、 高 く 終 わ る 語 が 来 ても 、 コ
ノイノチガ で 音 調 は 変 化 せ ず 、 直 後 に 他 の 語 が続 い て も イ ノ チ ガ ナ イ のよ う で 、 変 化 し な い。\○ ○'○ ○ \型 と
次 の語 が属 す る 。
解 釈 さ れ る。 こ の型 に は 標 準 甲種 方 言 で いう と ● ○ ○ ○ 型 の 語 が 所 属 す る 。 こ の型 の語 の音 調 は 、 甲 種 よ り も 乙 種 に 近 い。 ︹P ︺ ○○○ ●型
雀 が。 烏 が 。 手 か ら。
こ の型 の語 は、 ○ ○ ○ ● 調 の ほ か、 ○ ○ ○ ○ 調 にも〓 ○ ○ ● 調 に も 実 現す る 。 こ の型 の語 の直 前 に高 く 終 る 語
が立 つと 、 コノ スズ メガ のよ う に第 一拍 が高 い型 に変 化 す る 。 こ の型 の 語 の直 後 に 語 頭 に滝 のな い語 が 続 く と 、
スズ メ ガ ト ブ の よ う に、 低 平 型 に変 化 す る 。 滝 観 で解 釈す れ ば 、\'○ ○ ○ ○ \型 か ら \○' ○ ○ ○ \型 へ変 化 の途 中
にあ る と す べき か 。
次 の語 が属 す る 。
標 準 甲 種 方 言 で は ○ ○ ○ ● 型 の語 が 、 阿 田和 で は こ の 型 に属 す る 。 甲 種 に 近 い が、 乙 種 にも ち ょ っと似 て いる と言え る。 ︹Q ︺ ○ ○ ○〓 型 雀も。烏 も。
こ の型 の語 は、 ○ ○○〓 調 の ほ か に ○ ○ ○ ● 調 にも 、〓 ○ ○ ● 調 にも 実 現 し 、 さ ら に ○ ○ ● ○ 調 にも 実 現 し た 。
こ の 型 の語 の直 前 に 高 く 終 わ る 語 が立 つと 、 コノ スズ メ モ型 にな り 、 こ の 型 の語 の直 後 に他 の語 が 従 う と 、 スズ
メ モ ナ ク 型 にな る 。 滝 観 で は \'○ ○ ○ ○' \型 と \○'○ ○ ○' \型 の 両 型 に 属 す る と 解 釈 さ れ る。︹ 補11︺ 標 準 甲 種 方
次 の語 が属 す る 。
薬 が。 兜 が 。 畠 が 。 野 原 が 。 手 ま で。 手 に は。 手 でも 。
︹ R︺ ○○● ○型
言 で ○ ○ ● ○ 型 の語 が こ の型 に属 す る 。 甲 種 と も 乙種 とも 違 う が 、 乙 種 に似 た 点 が 現 れ る こ と が 注 意 さ れ る 。
こ の型 の語 は 、 普 通 ○ ○ ● ○ 調 で 時 に〓 ○ ● ○ 調 にも 実 現 す る よ う に 観 察 さ れ た 。 こ の型 の語 の直 前 に 、 高 く
終 わ る 語 が立 つと 、 コノ ク スリ ガ 型 に 発 音 さ れ 、 こ の 型 の語 の直 後 に他 の 語 が 従 った 場 合 に は ク ス リ オ カ ウ で、
音 調 は 変 わ ら な い。 滝 観 で 解 釈 す る と 、\'○ ○ ○' ○ \型 と な る 。 標 準 甲 種 方 言 で は ○ ● ○ ○ 型 の語 が こ の 型 にな って いる 。 た だ し ﹁手 に は ﹂ ﹁手 でも ﹂ は 例 外 であ る 。
例 秋 から 。 秋 ま で。 秋 に は 。
例 葉 から 。 葉 ま で。 葉 に は。
私 が 調 査 し て 、 阿 田和 方 言 に在 存 す る こ と を 確 め た 四 拍 語 の 型 は 、 以 上 の ︹K︺︹ L︺ ︹ M︺ ︺ ︹M ' ︹N︺ ︹ P︺ ︹ Q︺ ︹ R︺ にと ど ま る が、 恐 ら く こ の ほ か に 次 の 二 つ の型 も あ り 、 次 の よ う な 語 彙 が 属 す る も のと 推 定 さ れ る。 ︹N' ●︺ ○ ○ ○ 型 ︹ S︺ ○ ● ○ ○ 型
︹S︺ の語 は \'○ ○' ○ ○ \型 と 解 釈 さ れ る は ず であ る 。 標 準 甲 種 方 言 で は 、
二 つ の型 の語 は 、 そ の直 前 に、 高 く 終 わ る 語 が来 た 場 合 にも 、 直 後 に、 他 の語 が 来 た 場 合 に も 、 変 化 し な いだ ろ
こ のう ち︹Nの'型︺は、 ● ● ○ ○ 調 にも 実 現 す る であ ろ う 。 ︹S︺ の型 は よ く 安 定 し て いる であ ろ う 。 そう し て、 こ の
う 。 ︹N の' 語︺は \○' ○ ○ ○ \型 と 解 釈 さ れ 、
︹N︺ の語 彙 は、 ● ○ ○ ○ 型 であ り、︹Sの︺語彙 は ○〓 ○ ○ 型 であ る だ ろ う 。 阿 田 和 町方 言 の 二拍︱ 四 拍 の語 の ア ク セ ント の 型 の種 類 と そ の所 属 語彙 は 以 上 のよ う であ る 。 こ こ に こ れ ら の 語彙 を 整 理 し てか か げ れ ば 次 の第 2 表 の よ う にな る 。 第 2表 阿 田和方 言 の型 一覧表
︹ ︺ は 音 韻論 的 に別 の型と 意 識 さ れ て いる 音 調 。
( 注 ) ( ) は 他 の語と 連 接 し た場 合 だ け に 現れ る 変 異。
︹E︺ ' ︹ ︺ E︹ I︺、 四 拍 語 の う ち の︹K︺︹K の'語︺が ︹P そ︺う で あ る 。 ︹ C︺
も これ に準 ず る 。 ﹁ 高 く 終 わ る 型 の語 が来 た場 合 ﹂ と は、 詳 し く 言 え ば ︽高 く 終わ る型 の語 が 来 て、 全 体 が 一語 の よ う に発 音
注 (1 ) ﹁高 く 終 わ る 型 の 語 ﹂ と は 、 二 拍 語 の う ち の︹A︺︹三 A' 拍︺語 、のう ち の
さ れ た場 合 ︾ の意 。 以後 の 用例 も これ に準 ず る。 た だ し、 ︹D ︹︺ G︺︵ ︹ロ J の ︶ ︺ よ 、う な 型 の場 合 は 例 外 で、 一語 の よう に発 音 さ れ る こと がな い。
(2) ﹁ 語 頭 に 滝 のな い型 の語﹂ と は 、 こ の原稿 で 言う な ら ば、 二拍 語 のう ち 、︹A ︹︺ A ︹' B 、︺ ︺ 三 拍 語 のう ち 、︹E︺︹E( イ) '︹ ︺H ︹︺ F 、︹ ︺ 四 H ︹ 拍 ' G︺ ︺
語 のう ち 、 ︹ K︺ ︹L︺ ︹ M︺︹ M'︺ ︹N︺ ︹ N'︺ で ある。 助 詞 のうち、 ﹁が ﹂ ﹁は﹂ の類 は 語 頭に 滝 のな い型 ﹁ も ﹂ ﹁へ﹂ の 類 は 語 頭 に 滝 があ る 型に 属 す る と 見 る。 直 後 に ︽語頭 に滝 のあ る型 ︾ の語 が来 たら ど う な る かと いう と 、 これ は ち ょ っと 複 雑 で、大 部 分 の場 合 に は
直 後 に続 く 語 の第 一拍 の直 後 で 音 が 下 降す る。 例 え ば タ ケキ ル ( 竹切る) 、 カ ウイ ト ワ ( 買 う 糸 は )。 た だ し、 助 詞 の ﹁も ﹂
は そ の ﹁も ﹂ の拍 の途 中 で音 が下 降 し、 ○〓 型 ・○ ● ○ 型 のよ う な 語 で は、 語 と 語と の つな が る所 で、 音 が 下 降 す る 。例 え
ば、 タ ケ モ ( 竹 も )、 トブ ツ ル ( 飛 ぶ鶴 ) 。 こ のよ う な、 直 後 にあ ら ゆる 型 が 来 た 場合 の 変 化を 述 べる べき か と も 思 わ れ る が 、
こ こ では 語 尾 に滝 があ る かな いか 決定 す る こと が 目的 であ り、 そ のた め には 、 語 頭 に 滝 のな い型 が 続 く 場合 を 見 れ ば 分 か る
ので、 語 頭 に滝 のあ る 型 が続 く 場 合 は述 べな か った 。 高く 終 わ る 語 の場 合 に はす べて こ の伝 に従 う 。 な お こ の ﹁⋮ ⋮ 型 が 来
た場 合 ﹂ も 、 詳し く 言 え ば、 注 ( 1 ) と同 様 に、 ︽⋮ ⋮ 型 が来 て全 体 が一 語 のよ う に発 音 さ れ た 場 合 ︾ の意 であ る 。 以 後 の 用
例 も す べて これ に 準ず る。
( 3 ) 滝 の有 無 と 位 置 だ け で、 す べて の型 を 解釈 し よ う とす る 行 き方 。 ﹃ 近 畿 方言 ﹄ の第 三 号 に提 唱 。
( 4 ) 標 準 甲 種方 言 は前 稿 ﹁熊 野灘 沿岸 諸 方 言 の ア ク セ ント ﹂ の四 二 〇 ペー ジ に 詳 し く 述 べた。 ﹃ 補 忘 記 ﹄ な ど に よ って 知 ら れ
る近 世 の京 都 アク セ ント が、 規 則的 な 型 の変化 のみ を 起 こし て で き上 が った ア ク セ ント 体 系 の こと。 最 も これ に近 いも のは 、 和 歌 山 市 ・姫 路 市 な ど の アク セ ント 。
( 5 ) ︹A の︺ ○ ● の場 合 に は、 ﹁ 直 後 に ︽語 頭 に 滝 のな い型 ︾ が従 う 場合 ﹂ と 言 った が、 ︹B の︺ ● ○型 の場合 に は、 ﹁直 後 に 他 の語 が
(降 る 雨 ) の よ う な 場
(切 る 糸 ) の よ う に 、 後 に 続
(糸 も )、 フ ル ア メ
(糸 切 る )、 キ ル イ ト
つく 場 合﹂ と 言 い替 え た。 ︹B の︺ ●○ 型 の場 合 に は 、 ︽語 頭 に滝 のあ る 型︾ の語 が 従 お う と 、︽語 頭 に滝 のな い型 ︾ の語 が 従 お う と 、 区 別な く ● ● 型 にな る か ら であ る 。 (6 ) も し 、 直 後 に ︽語 頭 に 滝 の あ る 型 ︾ の 語 が 続 く と 、 多 く は 、 イ ト キ ル
く 型 の 第 一拍 の 後 に 滝 が で き る こ と が 多 い 。 も っ と も 後 に 続 く 型 に よ り 、 イ ト モ 合 も あ り 、 こ の 関 係 は 注 (2 ) に 述 べ た︹ A︺の 型 の 場 合 と 同 じ で あ る 。
( 7 ) これ 以 下イ シノ 型 にも 発 音 さ れ る かも し れな い。 調 査し そ こな った。
( 8 ) ﹃ 国 語 研究 ﹄ 第 三 号 所載 の ﹁﹃音韻 論 か ら 見 た国 語 のア ク セ ント﹄ 補 説 ﹂ の五三︲五 四 ペー ジ。
三 阿 田 和 ア ク セ ン ト の 国 語 史 上 の 意 味
さ て 、 以 上 に 述 べ た 、 阿 田 和 ア ク セ ン ト は ど の よ う に し て で き 上 が った も の で あ る か 。
今 、 こ の 問 題 に 答 え る た め に 、 標 準 甲 種 方 言 を 中 心 と し て 、 ︽標 準 甲 種 で ど の よ う な 型 に 属 す る 語 が 、 阿 田 和
でど のよ う な 型 に 属す る か ︾を 表 示 す れ ば 、 別 掲 第 3 表 のよ う にな る。 参 考 と し て 乙 種 ア ク セ ント も 掲 げ る。 こ の表 に よ り 次 のよ う な こ と が 明 ら か に な る 。
第 一に 、 標 準 甲 種 ア ク セ ン ト と 阿 田 和 の ア ク セ ン ト と の 型 相 互 を 比 べ て み る と 、
( 1) 標 準 甲 種 の● ● ⋮ 型 は 、 阿 田 和 で は ○ ● ⋮ 型 に な って いる ︹ A︺︹E︺( ︹イ ︹K F) ︺ ︺︹ ︹L G を ︺ ︺見 ︹よ M︺ 。 そ の逆 に な って い る こと は な い。
〓 、 ○〓 、 ○ ● に な っ て い る か す る 。
第 3 表 標 準 甲 種 ・阿 田 和 乙 種 ア ク セ ント 対 応 表
( 2) 標 準 甲 種 の語 頭 ・語 中 ・語 尾 の● ○ は 、 次 の条 件 に よ り 阿 田和 で 同 じ く ● ○ であ る か 、 あ る い は● ● 、 ●
(イ前 ) 後 に 拍 の な い も の は ● ○ の ま ま 。 例 、︹B。 ︺ (ロ) 語 尾 の も の は 、 直 前 が ● で あ る 場 合 は ●〓 。 例 、 ︹ F︺ ︹ L︺ 。 ) ( ハ同 じ く 直 前 が ○ で あ る 場 合 に は ○〓 。 例 、 ︹J︺。 ︹Q︺ (ニ語 ) 頭 に あ る も の 、 ま た 、 語 中 で あ って も 直 前 が 高
( 注) 標 準 乙 種 の* は直 後 に 滝 があ る。
で あ っ て 、後 に ま だ 拍 の あ る も の は ● ● 。 例 、︹H︺︹。 N︺︹M︺ (ホ) 直 前 が 低 で あ って 、 後 に ま だ 拍 の あ る も の は ○ ● 。 列 、 ︹R 。︺
これ ら に例 外 は な い。 ( 3) 標 準 甲 種 の〓 と いう 拍 は、 阿 田 和 で〓 か ● であ る。 阿 田 和 の〓 が 甲 種 で● に な って いる こと は な い。
これ を 総 括 す る と 、 阿 田和 の ア ク セ ント は、 標 準 甲 種 ア ク セ ント と の型 が 違 う 場 合 、 必 ず ︽高 いと こ ろ が 阿 田 和 の 方 で 一拍 か 半 拍 ず つ後 へず れ て いる ︾ と いう 傾 向 で 一貫 し て いる。 これ は、 阿 田 和 のア ク セ ント と いう も のは 、 標 準 甲 種 ア ク セ ント か ら 、 高 い所 が 一拍 か 半 拍 後 へず れ て でき
た も のだ ろ う と の推 定 を 暗 示 す る 事 実 と 考 え ら れ る 。 も っと も 、︹H︺の ︹よ Hう 'な ︺ 語 彙 で は 、 標 準 甲 種 で 同 一の 型 に
属 す る 語彙 が 、 阿 田 和 で は 二 つの 型 に 分 属 し て いる ゆ え 、 こ の表 だ け か ら 見 る と 、 標 準 甲 種 ← 阿 田 和 の変 化 は 、
説 明 不 可 能 のよ う にも 見 え る 。 し か し 、 阿 田和 で 二 つ の型 に分 属 し て いる のは 、 そ の音 韻 の 違 い にち ゃん と 対 応
し て いる 。 そ れ ゆ え 、 こ こ に 推 定 し た 変 化 は起 こり 得 る も のと 想 定 し て差 し 支 え な い。
す な わ ち 、 阿 田 和 ア ク セ ント は 標 準 甲 種 ア ク セ ント か ら 次 の よう に変 化 し て でき た も のと 推 定 さ れ る 。 (1 ) 拍 〓 は 、 ● に 変 化 し た 。︹ 補12︺
(2) 語 頭 の● ● ⋮ ⋮ は 、 第 二 拍 が特 殊 の音 韻 の場 合 を 除 い て○ ● ⋮ ⋮ に変 化 し た。 (3) ● ○ は 前ペ ー ジ 五 行 目 の(2 )(イ ( ) ロ︶ (ハ (︶ ニ ( ホ)︶ に よ る 条 件 のも と に変 化 し た 。
て いる も のは 、 原 則 と し て 乙 種 ア ク セ ント と 一致 し て いる こと が注 意 さ れ る 。 こ の問 題 を 考 え て みる と 、 ま ず 、
次 に、 阿 田 和 の ア ク セ ント を 乙 種 ア ク セ ント と 比 較 す る と 、 阿 田 和 で標 準 甲 種 よ り 一拍 ず つ高 いと こ ろ がず れ
阿 田 和 の ア ク セ ント は 上 に考 察 し た と お り 甲 種 か ら 変 わ った も のだ 。 そ う す る と 、 乙 種 アク セ ント が 甲 種 アク セ
つま り、 私 が巻 頭 に 述 べた 仮 説 を 証 明 し てく れ る も の で は な いか と 疑 わ
ント よ りも 高 いと こ ろ が 一拍 後 へ食 い違 って いる と いう の も 、 阿 田 和 と 同 じ よ う に、 乙 種 ア ク セ ント でも 、 過 去 に お い て後 へず れ たも の で はな いか︱ れてくる。 も っと も 、 これ に は 幾 つか問 題 があ る。
第 一に、 二 拍 語 の● ○ 型 の 語彙 な ど は 標 準 甲 種 ・阿 田 和 で 一致 し て いる 。 一拍 後 へず れ て いる のは 乙種 だ け だ
と いう よ う な こと があ る 。 し か し 、 これ は 、 ● ○ 型 と 関 係 の深 い甲 種 の● ○ ○ 型 や 、 ● ○ ○ ○ 型 が す べ て ● ● ○
型 や ● ● ○ ○ 型 に 変 化 し て いた 事 実 と 結 び つけ て考 え て よ い。 そ う す る と こう な る 。 ︽阿 田 和 に お いて 、 今 度 は
こ の へん にも 変 化 が起 こ って● ● 型 にな り そ う だ 。︾ つま り 、 ︽阿 田 和 の アク セ ント は 、 変 化 の中 途 に あ る ア ク セ
ント 体 系 な の で 、 乙種 ア ク セ ント で こ の語 彙 が ○ ● 型 に な って いる の は 、 こ の阿 田 和 町 で 起 こり そ う な 変 化 を す
で に 遂 げ た も のだ ろ う ︾ と 推 定 さ れ る。
第 二 に、 標 準 甲 種 で 低 く 始 ま る 型 が 乙 種 で高 く 始 ま る 型 に な って いる 事 実 は 、 以 上 に 述 べ た事 実 だ け か ら は 何
と も 説 明 で き な い。 と こ ろ で 忘 れ て は な ら な い の は 、 ︽標 準 甲 種 で ○ ● 型 、 ○ ○ ● 型 のよ う な 低 く 始 ま る 型 の、
阿 田 和 に お け る 他 の 語 のあ と に 来 た 場 合 の ア ク セ ント の変 化 ︾ であ る 。 こ れ ら は 阿 田 和 で型 と し ては ○ ○ 型 、 ○
○ ● 型 だ 。 と こ ろ が これ は高 く 終 わ る 語 の直 後 に 来 る と 、 ● ○ 型 、 ● ○ ○ 型 のよ う な 第 一拍 が高 い音 調 が 現 れ た 。
つま り ︽準 ア ク セ ント の場 合 に乙 種 方 言 と 同 じ 音 調 に な る ︾ わ け で あ る。 ︽単 独 の 場 合 に 甲 種 的 であ り な が ら 、
連 語 にな った 場 合 に 乙 種 的 に な る 。︾ これ ら は ち ょ っと 妙 な 気 が す る 。 そ ん な 変 化 を す る こ と が あ ろ う か と も 考 え ら れ る 。 が、 考 え て み る と 、 こ れ は ち っと も 不 思 議 で は な い。 つま り こ う だ 。
︽標 準 甲 種 で コノ イ ト (此 の糸 ) と いう ア ク セ ント は 、 オ ト コガ (男 が ) な ど の語 の ア ク セ ント と 同 じ も の
だ 。 オ ト コガ の型 は 、 阿 田 和 で は オ ト コガ と な る 。 そ う す る と 、 コノ イ ト は 当 然 コノイ ト に な る は ず で はな
いか 。 我 々 が ち ょ っと 不 思 議 のよ う に 思う の は、 こ の不 思 議 でも 何 で も な い コノ イ ト と いう ア ク セ ント に 対
し て 、 わ ざ わ ざ 語 源 を 考 え て コノ と イ ト と いう 二 つ の部 分 に 分 解 し 、 そ う し て ﹁糸 ﹂ の 単 語 の場 合 のイ ト と いう 形 と 比較 す るた め であ る 。︾
ほ か の ﹁雀 ﹂ で も ﹁歩 く ﹂ でも 全 く 同 様 で 、 単 独 で ○ ○ ● 型 、 他 の語 のあ と に 付 く と ● ○ ○ 型 にな る の は、 ち
っと も 不 思 議 で は な い。 こ う な る と 、 甲 種 の○ ● 型と 乙 種 の● ○ 型 と の対 立 、 甲 種 の○ ○ ● 型 と 乙 種 の● ○ ○ 型
と の 対 立 も 、 甲 種 の● ○ 型 と 乙種 の○ ● 型 と の対 立 と 何 ら 質 の違 った も の で は な く 、 ︽乙 種 の方 が 甲 種 の方 よ り
一拍 だ け 後 方 に高 い部 分 が 移 動 し て いる ︾ と いう 大 き な 原 則 の も と に抱 括 し て説 明 でき る の であ る。
私 は 以 前 、 "東 西 両 ア ク セ ント の 違 い が でき る ま で " と いう 論 文 ( 三 七四ページ)を 書 いた 時 に、 乙 種 方 言 に お
け る ● ○ 型 、 ● ○ ○ 型 は 、 ○ ○ 型 、 ○ ○ ○ 型 の第 一拍 が 段 々高 く な って で き た も のだ と 推 定 し た 。 これ は 、 石 川
県 七 尾 市 近 傍 の方 言 に 、 丁 寧 に 発 音 す れ ば 、 ○ ○ 調 、 ○ ○ ○ 調 に な る が 、 無 造 作 な 発 言 で は〓 ○ 調 、〓 ○ ○ 調 に
実 現 す る 例 が 見 い だ さ れ た か ら であ った 。 あ れ は 今 に し て 思 う と 、 そ の時 は 調 査 し そ こ な った が 、 直 前 に ﹁こ
の﹂ と いう よ う な 語 でも 付 け た 場 合 に は 、 も っと は っき り ● ○ ○ 調 に実 現 す ると いう 例 が 見 つか った か も し れ な か った のだ 。
私 は 思 う 。 乙 種 の方 言 で は 、 一時 代 前 に は 、 標 準 甲 種 の○ ● 型 、 ○ ○ ● 型 の語 を 単 独 で は ○ ○ 型 、 ○ ○ ○ 型 に 、
前 に ︽高 く 終 わ る 文 節 ︾ が 来 る と ● ○ 型 、 ● ○ ○ 型 に発 音 し た時 期 があ った 。 と こ ろ が、 こ の第 一拍 を 高 く 発 音
す る 傾 向 が 単 独 の 場 合 にも 現 れ 、 そ れ が 、 型 と し て固 定 し た の が 現 代 の 乙 種 方 言 の姿 であ ろう 。
現 代 乙 種 方 言 で は 、 標 準 甲 種 で○ 〓 型 の 語も ● ○ 型 に な って いる 。 こ の○ 〓 型 は、 阿 田 和 で は 、 ○ 〓 型 で動 か
な い。 こ れ は 第 二 拍 が● で は な く て 〓 型 であ る こと が変 化 を 食 い止 め て いる の であ ろ う 。 も し 、 ○ 〓 型 の〓 が ●
に 変 化 す れ ば 、 も と の○ ● 型 と 並 行 的 に変 化 し て● ○ に な った で あ ろ う 。 現 代 の 乙 種 方 言 で、 これ ま で も ● ○ 型 に な って いる の は 早 く ○ 〓 型 が ○ ● 型 に 変 化 し た の であ ろ う 。
そ の他 、 乙 種 方 言 では 、 標 準 甲 種 の ○ ○ ○ ● 型 、 ○ ○ ● ○ 型 な ど が 、 今 ● ○ ○ ○ 型 に な って いる も のが 多 いこ
と も 注 意 す べき かも し れ な い。 これ は 今 、 乙種 方 言 で は 多 く ○ ● ● ● 型 にな って いる 。 これ に つ い て は、 阿 田 和
で も 、 標 準 甲 種 の○ ○ ○ ● 型 のう ち の 一部 が○ ● ● ● 型 に な って いる 事 実 と 関 係 があ ろ う 。 恐 ら く これ は 、 こう
いう ふう に 説 明 さ れ る べき も の であ ろ う 。 ︽阿 田 和 の ○ ○ ○ ● 型 の語 は、 ○ ○ ○ ● 調 、 ○ ○ ○ ○ 調 に 実 現 す る 一
方 、 ○ ● ● ● 型 も 、 ● ● ● ● 調 、 ○ ○ ○ ● 調 、 ○ ○ ○ ○ 調な ど に実 現 す る。 こ のあ た り か ら 、 ○ ● ● ● 型 と ○ ○
○ ● 型 と の 間 に部 分的 な 混 乱 が 起 こ り、 幾 つか の語 は ○ ● ● ● 型 の方 に 流 入 し た も の で あ ろう 。︾ 乙 種 方 言 で は 、
こ の混 乱 が い っそ う 激 し く 行 わ れ 、 原 則 的 には ○ ● ● ● 型 の方 に統 合 し てし ま い、 特 殊 な も の だ け が ○ ○ ○ ● 型 ← ○ ○ ○ ○ 型 ← ● ○ ○ ○ 型 と いう 変 化 を 遂 げ た も のと 推 定 す る 。
以 上 考 察 し た こと を 最 後 にま と め ると 次 のよ う に な る 。
︽阿 田 和 ア ク セ ン ト は 標 準 甲 種 ア ク セ ン ト か ら 変 化 し て で き た ア ク セ ン ト で あ っ て 、 今 な お 変 化 の 途 上 に あ
る。 こ れ は 乙 種 アク セ ント の方 に 向 か う 変 化 であ る。 こ の事 実 は 、 今 の乙 種 ア ク セ ント が 過 去 に お いて 甲種 ア ク セ ン ト か ら 変 化 し て で き た も の で あ る こ と を 証 明 す る も の と 考 え る 。︾
( 昭 三 十 四 年 十 月) に 発 表 し た も の で あ る 。
︹ 付 記 ︺ こ の論 文 の前 半 のⅠ 北 牟 婁 郡 の部 は 、 昭 和 三 十 四 年 三 月 ﹃名 古 屋 大 学 文 学 部 十 周 年 記 念 論 集 ﹄ に 発 表 し た 。Ⅱ 南 牟 婁 郡 の部 は 、 そ の 後 、 倉 田 正 邦 氏 の 主 宰 す る ﹃三 重 県 方 言 ﹄ の 第 九 号
Ⅰ と Ⅱ と で 多 少 文 脈 が お か し く な って い る の は 、 二 回 に 分 け て 発 表 し た た め で あ る 。 そ の 後 、Ⅰ 北 牟 婁 郡 の部 も 、 ﹃ 三 重 県 方 言 ﹄ の 第 一六 号 に 再 録 さ れ た 。
三 重 県 北 牟 婁 郡 の ア ク セ ント は 、 甲 種 ア ク セ ント に 近 い が、 乙 種 ア ク セ ント に近 い点 も あ り 、 特 殊 の ア ク セ ント で、
そ の 成 立 を 明 ら か に し よ う と し た の が 前 半 、 南 牟 婁 郡 の ア ク セ ント は 、 そ のう ち の 阿 田 和 と い う 町 の ア ク セ ン ト が 、
甲 種 か ら 乙 種 へ変 化 す る 過 渡 期 の 姿 を 伝 え て いる と 見 、 甲 種 ← 乙 種 と いう 私 説 の 強 化 に 役 立 つも の と 考 え て 報 告 し た のが後半 であ る。
日 本 語 の 諸 方 言 の ア ク セ ント の 型 を 、 滝 の 有 無 と 位 置 だ け で 書 き 分 け よ う と いう 方 式 は 、 こ れ を 書 い た あ と 、 京
都 ・大 阪 方 言 の単 語 結 合 の場 合 に 現 れ る ○ ○ ● ● の よ う な 型 ( 例 、 ﹁飲 む 水 ﹂) の 扱 いに 困 じ て 捨 て て い た が 、 最 近 出
Phonological
Component
of の中aで、 Gこ ra のm よmう aな r型o をf \'○J '○ ap ○a ○n \e のs よeう "に 表 記 し て い る ら
た 奥 田 邦 男 氏 の ﹃日 本 語 方 言 ア ク セ ン ト の 生 成 音 韻 論 的 研 究 ﹄ ( 昭 五 十年 三 月 、 文 化 評論 出 版刊 ) を見 る と 、J.McCawley が"The
し い こと を 知 り 驚 倒 し た 。 こう いう の が ﹁水 平 思 考 ﹂ と いう も の で あ ろ う か 。
た だ し 、 こ の方 式 で は ○ ○● ● 型 の方 が 、 ○ ○ ○ ● 型 よ り 、 滝 の 記 号 を 余 計 使 わ な け れ ば い け な いと こ ろ が 気 に な る 。
補
注
︹1 ︺ ︹Ⅰ の︺ う ち の(7 の)﹁秋 が ﹂ の類 は 、 京都 方 言 な ど で は○ 〓 ○ 型。
︹ 2︺ ﹃ 補 忘 記 ﹄ は室 町時 代 のア ク セ ント資 料 と 考 え る べき こと が、 こ のあ と で 明ら か にな った 。 別稿 ﹁ 東 西 両 アク セ ント の違 い が でき る ま で﹂ の補 注 ︹3︺ を 参 照。 ︹ 3︺ こ の条 、 も と の原 稿 で は 脱落 し て いた のを 、今 度 こ の稿 で補 った 。 ︹4 ︺ ﹁切 った ﹂ に は、 語 末 に 滝 があ る か も しれ な い。
考 え た わ け で はな い。
︹ 5︺ \ ○ ○ \のよ うな 表 記 は、 こ のよ う な発 表 が通 用 し て いる の で、 ま ね を し て み た も の。 こう し な け れ ば 音 韻 論 にな ら な いと
︹6 ︺ 最 も新 し いも のとし て、 ﹃三重 県 方 言 ﹄第 三 〇号 に 掲載 さ れ た 山 口幸 洋 氏 の、 ﹁熊 野 親 地 町方 言 の文 資 料 のア ク セ ント﹂ も あ る。 ︹7 ︺ 第 二拍 のあ と の滝 は、 第 二拍 の中 間 に置 いた 方 がよ か った 。 ︹8 ︺ ︹9 ︺ 第 三拍 のあ と の滝 は、 第 三拍 の中 間 に置 いた 方 が よ か った 。 ︹10 ︺ ︹1︺ 1 第 四 拍 のあ と の滝 は、 第 四 拍 の中 間 に置 いた方 が よ か った 。 ︹12 ︺ これ は、 な く て よ か った。
ア ク セ ント か ら 見 た 琉 球 語 諸 方 言 の 系 統
一 はじめに
近 ご ろ、 服 部 四郎 氏 の琉 球 大 学 出 講 、 九 学 会 連 合 の奄 美 大 島 の 総合 調 査 あ た り を 機 縁 と し て 、 琉 球 語 諸 方 言 の
ア ク セ ント の研 究 が 急 速 に進 み つ つあ る こ と は 、 喜 ば し い こ と で あ る 。 こ と に今 度 出 た 、 国 立 国 語 研 究 所 編 の
﹃こと ば の研 究 ﹄ に 上 村 幸 雄 氏 が 寄 せ ら れ た 論 文 、 ﹁琉 球 諸 方 言 に お け る 一 ・二 音 節 名 詞 の ア ク セ ント 概 観 ﹂ は、
東 北 は 喜 界 島 か ら、 西 南 は 与 那 国 島 に わ た る 、 二 十 五 地 点 の琉 球 語 諸 方 言 のア ク セ ント の特 徴 を 比 較 ・対 照 し た
も の で、 こ れ を 読 ん だ 印 象 は、 乗 って いる 飛 行 機 の機 体 が雲 の間 を 出 て、 個 々 の地 形 ・地 物 が 手 に 取 る よ う に 見
え て 来 た 時 のよ う な 感 が あ る。 これ と、 他 の数 人 の学 者 の苦 心 の報 告 を 合 わ せ 見 て いる と 、 早 く 提 出 さ れ た 服 部
四 郎 氏 や 平 山 輝 男 氏 な ど 先 人 の研 究 のあ と も そ の位 置 が 定 ま って 来 て、 琉 球 語 諸 方 言 の ア ク セ ント の 系 統 が、 お
のず か ら 組 立 て ら れ て く る よ う な 気 がす る 。︹ 補1︺ 私 は 、 奄 美 ・沖 縄 の 地 を 踏 ん だ こ と も な く 、 た ま た ま 上 京 中
の これ ら の 地方 出 身 の人 々数 人 に 小 時 間 ず つ接 し た に 過 ぎ な い。︹ 補2︺ し か し 、 あ ま り 諸 学 者 の報 告 が 見事 に 出 そ ろ った の で、 私 な り の解 釈 を 提 案 し た く て たま ら な く な った 。
﹃日本 語 の系統 ﹄
服部
材 料 と し て 用 いる 諸 方 言 の 出 所 は 次 のよ う であ る 。 * 印 は 、 私 自 身 在 京 の知 人 に つ い て 観 察 でき た も のを 表 す。 (1 ︶ 喜 界島早 町小野津方 言
(2) 同
同 町 阿 伝 方 言
(6) 同
( 5) 同
宇検
大 和村 戸 円方 言
名瀬 市方言 *
( 3︶ 同 喜 界町手久津 久方言 (4 ︶ 奄 美 大 島 笠 利 (カ サ リ ) 村 佐 仁 (サ ニ) 方 言
( 7︶ 同 旧古 仁 屋 町 蘇 刈 (ソ カ ル) 方 言
( ウ ケ ン) 村 宇 検 方 言
( 8) 同
(10 同) 瀬 戸 内 町 諸 鈍 (シ ョド ン) 方 言
( 9) 加 計 呂 麻 島 旧 鎮 西 村 押 角 (オ シカ ク︶ 方 言
東 天 城 (ア マギ ) 村 花 徳 (ケト ク ) 方 言
( 11 徳) 之 島 旧亀 津 町 井 之 川 方 言 ( 12 同)
﹃こと ば の研究 ﹄ ﹃日本 語 の系統 ﹄
﹃こ と ば の 研 究 ﹄
上村
上村 服部
上村
﹃ア ク セ ン ト と 方 言 ﹄ 服 部
﹃こと ば の研究 ﹄
服部
上村 ﹃日本 語 の系統 ﹄
服部
同
同
服部
平山
上村
同 ﹃ 方 言﹄ 七 の六
服部
﹃こと ば の研究 ﹄
﹃日本 語 の系統﹄
同
服部
服部
服部
天 城村 与 名 間方 言
同
服部
同
( 14 同)
同 村 松 原 西 区方 言
同
( 15 同)
同村 浅間方 言
服部
(13 同) 同 村 金 見 (カ ナ ミ) 方 言
( 16 同)
同
徳川
( 17 同) 伊 仙 村 馬 根 (バ ネ ) 方 言
同
徳川
徳川
同
﹃ 人 類科 学﹄X 同 町 国 頭 ( ク ニガ ミ ) 方 言
( 18 沖) 之 永 良 部 島 和 泊 (ワド マリ ) 町 大 城 方 言 ( 19 同)
( 20 与)論 島 与 論 村 立 長 方 言
( 28 同)
( 27 同)
( 26 同)
( 25 同)
(2 4 同)
( 23 同)
石 川市石川方 言
久 志 村 汀 間 (テ イ マ)方 言
名 護町安和方 言
今 帰仁 ( ナ キ ジ ン) 村 与 那 嶺 方 言
羽地村川上方 言
大宜 味 ( オ オ ギ ミ) 村 大 兼 久 方 言 *
同 村 半 地 方 言
(2 2 沖)縄 本 島 国 頭 村 奥 方 言
同
﹃ことば の研 究﹄
﹃日本 語 の系 統﹄
﹃ 方 言﹄ 七 の六
﹃方 言﹄ 七 の 一○
﹃ことば の研 究﹄
同
同
﹃ことば の研 究﹄
上村
上村
服部
平 山
服 部
上村
上村
上村
上村
(2 1 伊)是 名 島 伊 是 名 村 仲 田方 言
( 29 同)
読 谷 (ヨ ミ タ ン) 村 大 木 方 言
上村
︱
( 30 同)
同
平 山
北 中 城 (ナ カ グ ス ク ) 村 屋 宜 原 方 言
服 部
﹃ことば の研 究﹄
上村
上村
平 山
﹃こと ば の研究﹄
﹃方 言﹄ 七 の六
﹃国 語研究 ﹄ 二
﹃方 言﹄ 七 の六
( 31 同)
那覇市方言 *
首 里市方言 *
( 33 同)
島 尻郡佐敷村 新里方 言
(32 同)
( 34 同)
上村
上村 ﹃こと ば の研究 ﹄
上村
同 東 風 平 (ク チ ンダ ) 村 東 風平 方 言
同
( ナ カ ンダ カ リ) 方 言
(3 6 同)
糸満町方言
上村
玉 城 (タ マグ ス ク ) 村 仲 村 渠
( 37 同)
同
(3 5 同)
( 38 久) 米島中 里村比嘉方 言
城 辺 (グ ス ク べ) 町 西 里 添 方 言
( 39 宮) 古 島 平 良 (タ イ ラ) 市 東 仲 宗 根 ( ナ カソネ)方言 ( 40 同) (4 )1 石 垣島 石 垣 市 大 川 方 言
同
同
上村
上村
平 山
上村
﹃ 方 言﹄ 七 の六 ﹃こ と ば の研 究 ﹄
上村
上村
上村 同
﹃ことば の研究 ﹄
( 43 西) 表 (イ リ オ モテ ) 島 竹富 町 古 見方 言
同
( 42 小)浜島 竹 富 町 小 浜 方 言
( 44 与)那 国 島 与 那 国 町 祖 納 (ソナ イ )方 言
二 琉 球 語 諸 方 言 の ア ク セ ント 総 覧
右 の四 十 四 の諸 方 言 に つ いて、 そ の ア ク セ ント の違 いを 具 体 的 に表 示 す る と 次 の第 1表 のよ う で あ る 。 第 一類
︱ 第 五 類 は、 二 音 節 名 詞 の類 別 で あ る 。︹ 補3︺ ま た 各 方 言 を 種 類 分 け に し た 地 図 は 、 五 〇 六︲ 五 〇 七 ペ ー ジ に 掲
げ た 。 ● は高 い音 節 、 ○ は 低 い音 節 、 ▼ ▽ は 一拍 の助 詞 を 表 す 。 私 は こ れ を も と に し て琉 球 語 ア ク セ ント の系 統
表 を 構 成 し よ う と いう の であ る が 、 第 1表 を 作 る にあ た って は 、 私 な り の解 釈 に よ った と こ ろ が 入 って いる か ら 、
あ や し いと 思 わ れ る 個 所 に つ いて は 、 読 者 は 、 も と の原 典 を 見 、 ま た 次 の注 を 読 ん で いた だ き た い。
ま た 、 表 の︹Ⅰ︺︹Ⅱは ︺ア ︹ク Ⅲ︺ セ︹ンⅣト︺の種 類 別 で、 そ の内 容 に つ い て は第2 表 を 見 ら れ た い。 第 一類︱ 第 五 類 の詳
し い内 容 は 、 国 語 学 会 編 の ﹃国 語 学 辞 典 ﹄ の巻 末 付 録 九 九 四︱ 九 九 五 ペー ジ の条 あ た り を 参 照 さ れ た い。
こ れ ら の諸 方 言 の ア ク セ ント を 知 って、 ま ず 注 意 さ れ る こ と は 、 これ ら 奄 美 ・沖 縄 地 方 は 、 面 積 ・人 口 に 比 し
て ア ク セ ント が驚 く べく 多 種 ・多 彩 であ る こ と であ る 。 も っと も こう いう 傾 向 は内 地 の 小 さ い離 島 で も し ば し ば
遭 遇 す る こと で あ る が、 そ れ にし て も 琉 球 諸 島 では そ れ が 一層 顕 著 に再 現 し て いる こと を 感 ぜ ざ るを 得 な い。
第 1表 琉球 語諸 方言 におけ る 二拍 名 詞 のア クセ ント の対照 表
第 1 表 の 注 (1∼︶(44 の)順 に 注 す る 。
( 1) こ の 文 献 で は 、 各 型 の 具 体 的 な 高 低 変 化 の 相 に 触 れ ず 、 た だ 型 の 区 別 の し 方 だ け 書 い て あ る の で 、 こ の よ う に う つ す 。 こ こ
の x型 ・ y型 は 、 第 三 類 と 第 四 ・五 類 が 同 じ 型 に 属 し 、 第 一 ・二 類 は こ れ と 別 の 型 に 属 す る 意 で あ る 。 こ の よ う に 注 記 し た も
の と 、( 32) の首 里 方 言 のよ う に 注 記し たも の と で は、 見 た 目 がず いぶ ん 違 う が 、 全 く 同 じ ア ク セ ント 体 系 で あ る こ と も あ り 得 る こ と に 注 意 。 以 下 x 型 、 y 型 、 z型 と い う 記 号 を 使 う 時 は す べ て 同 じ 。︹ 補 4︺
に よ るも ので音 韻 論 的 に は第 一音 節 は低 調 素 か ら成 る と 解 し た。 ﹁話 調﹂ に つ い て は、 寺 川 ・金 田 一 ・稲 垣 編 ﹃国 語 ア ク セ ント
(2 ) 第 一 ・二 ・三 類+ 助 詞 の 形 は、 自 然 の発 音 で は第 一音 節 が 高 く 発 音 さ れ る と いう。 これ は 寺 川 喜 四 男 氏 の いわ ゆる ﹁話 調 ﹂
論叢 ﹄ 所 収 の寺 川 氏 の論 文を 見 よ 。 (3 ) (2 の) 方 言 と同 じ こと が 言え る 。
(4 )いわ ゆる 型 の区 別 のな い 一型 アク セ ント であ る。 以 下 x型 一本 で注 記 した も のはす べ て同 じ 。
単 独 の場 合 、プ ラ ス助 詞 の場 合 を 通 じ て ﹁ 滝 ﹂ があ る。 上村 氏 の報 告 に 、 ﹁ 滝 ﹂ ま た は これ に準 ず る 現 象 に つ いて の記 述 が な い
( 5) 私も 東 京 外 語大 シャ ム 語 科 一年 松 畑 行 治 君 に つ いて 観察 し た。 私 が観 察 し た と ころ によ る と 、第 一 ・二 ・三 類 の語 末 に は 、
のは惜 し い。 (6 ) (4 に) 準 じ る。 (7 ) (1 に︶ 準 じ る。 (8︶ (4 に) 準 じ る。
( 9) 第 三類 と 第 四 ・五 類 と で は、 単 独 の場 合 には 型 の区 別 が あ る が、 助 詞 が付 く と 区 別 がな く な る意 であ る 。
照。 も っと も こう す る と 、第 一 ・二 類 の単 独 の場合 の第 二音 節 の前 半 の 高 や、 第 一 ・二 類 +助 詞 の場合 の第 二 音 節 の 高 も 話 調
() 0 1 第 三 ・四 ・五類 +助 詞 の形 の場 合 上 村 氏 は 第 二音 節 の前 半 を 高 く 表 記 し て いる が これ は ﹁話 調﹂ の現 れ と 見 た 。(2 の) 注を参
と 見 る べき か も し れ な い。 今 し ば ら く ︽一つの ア ク セ ント 単 位 の中 で、高 い部 分 は二 つな い の が原 則 だ ︾ と いう 考 え で、 第
三 ・四 ・五 類 の場 合 だ け を 話調 と 見た 。 〓 は 一つ の音 節 の中 で前 半 高 く 後 半 低 い印。 こ の場 合 に は、 多 少 長 く 引 いて 発 音 さ せ る であ ろ う が、 二音 節 分 は 取ら な いも の と見 た 。 〓 に ついて は 以下 同 じ 。 ( 11 第︶一 ・二類 名 詞 は、○ ●∼ ○ ● ▼型 のよう な 型 と解 釈 す べき かも し れ な い。
っとも 第 四 ・五類 の〓 の前 半 の低 は 、あ る いは 話 調 によ る も のかも し れ な い。 と す る と、 これ は ● と表 記 す べき こと に な る。
() 2 1 第 一 ・二類 と第 三 類 の名 詞 の具 体 的 な 型 の相 は記 述 さ れ て いな い。〓 は前 半 低 く後 半 は高 い印。〓 に つ いては 以 下 同 じ 。 も
() 3 1 ○ ●○ のよう に ス ラー で まと め た 二 つの円 は 、一 音 節 が二 音節 分 に延 び たも のを 表す 。 () 5 1 プ ラ ス助 詞 の場合 、 個 人 によ り○○ ○ ▼型 にも 。 () 7 1 第 一音 節 は わず か に長 いと いう 。
() 8 1 第 一 ・二類 は、 他 の型 の音調 から 見 て高 平 型 ではな く 、 低 平 型 であ ろ う と 見 た。wui は● ○ 型 ら し いが、 これ は第 二音 節 が 独
立性 のな いた め の変 異 であ ろう 。
(1 9 第)一 ・二類 は 、あ る いは○ ○ ∼○ ○ ▽型 と す べき か。 第 三 類 の語 頭 が 高 い こと 、特 に、 プ ラ ス助 詞 の場 合 に助 詞よ り高 い こ
い。 こ こ で徳 川 氏 がwui を特 別 に し て○ ● ∼○ ● ▽型 だ と 言 って いる こと が 気 にか か る 。 こ れ は第 四 類 が○ ● ∼○ ● ▼ 型 であ
と など 解 し が た い。 こ の へん の ︽音 韻 論 的 解 釈 ︾ は 自信 が な い。 第 四 ・五 類 + 助 詞も ○ ● ● 型 と 見 た が、 ○ ○ ● 型 か も し れ な
る の に対 し て第 五類 が規 則的 に○ ● ∼○ ● ▽型 であ る のだ ろ う か 。 そう だ とす る と、 こ の方 言 の ア ク セ ント の成 因 に対 し て重
っか りし た 語 の例 がな く 、第 五 類 の例 に はた ま た ま第 二音 節 の影 の薄 い語 し か上 が って いな い点 、 も ど か し い。 こ こ で は、wui
大 な変 更 が加 え られ る こと にな り、 こ の原 稿 全 体 も 、大 幅 に書 き 改 め ら れな け れ ばな ら ぬ。 第 四 類 には た ま た ま 第 二音 節 のし
が特 別 の型 にな って いる のは ︽たま たま 第 二 音節 が 独立 性 に乏 し いから で、 第 五 類 であ る せ い では な い︾ と解 す る。 つま り、
った が、wui は第 二音 節 が 弱 いた め ●○ ∼● ○ ▽型 に とど ま った。 ● ○ ∼ ● ● ▽型 は そ のあ と、 山 を 後 へ送 って○ ● ∼○ ● ▼型
︽ 第 四 ・五 類 とも に古 く は ●○∼ ● ○ ▽ 型 だ った が 、 そし て、 そ の上 に規 則 的な 変 化 が 起 こり 、 一般 の語 は ●○ ∼● ● ▽ 型 にな
にな った が 、wui はた ま た ま● ○ ●○ ▽ 型だ った ので、 これ に 平行 し た 変 化 を起 こし 、 そ の結 果 ○ ● ∼○ ● ▽に な った︾ と解 す る の であ る 。 ( 20 第) 四 ・五 類 は● ● ∼● ● ▼型 と 見 る べき かも し れな い。
( 21 第) 四 ・五 類 は 他 の類 と 混 同 し て いる 語 彙 が多 い。 こ こ で は ● ● ∼● ● ▽型 にな って いるも の と、 ○○ ● ∼○ ○ ● ▽型 にな っ て いる も のとを 正規 の変 化を 遂 げ た も のと 考 え 、 こ のよ う に表 記 した 。 (22 )第 (2一 3・ ) 二類 は 、 他 の 型と の釣 り合 いを考 え て全 低 型 と 見 た。 ( 24 東) 京 外 語大 ドイ ツ語 一年平 良 研 一君 の発 音 観 察 の結 果 によ る。
言 だ け助 詞 にgaを つけた 場 合 を観 察 し て いる が、 こ のこ とと 関 係 があ る のだ ろ う か 。 あ る いは、 後 に述 べ る琉 球 語 で○ ● ○ 型
( 25 第)一 ・二 類 が単 独 の場合 と プ ラ ス 助 詞 の場 合 と で 、音 調 の関 係 が変 則 であ る 。○ ○ ∼○ ○ ▽ 型 であ ろう か。 上 村 氏 は こ の方
を きら う こと と 関係 あ る のだ ろう か 。
( 26 服) 部 氏 によ る と、 第 一 ・二類 に助 詞 が付 いた 時 、 助 詞 の下 が り方 が少 な いと いう 。 あ る いは、 ○ ○○ ▽ 型と す べき か。 (2 7第) 一 ・二 ・三 類 の 第 二 音 節 は 短 い と す べ き か 。
(2 9 上)村氏 の 一二 九 ペー ジ の表 記 によ って 、第 一 ・二 類 が低 平 型 であ る こと 明 ら か であ る 。
(3 0 上) 村 氏 の一三 七 ペー ジ の注 記⑪ に書 か れ た と こ ろ を 読 む と 、第 一 ・二 類 は ○ ○ ∼○ ○ ▽型 と し た方 が よ さ そう に も 思 う が、 し ば らく 一二九 ペー ジ の表 の注 記 の方 を尊 重 し た 。
(3 1 上) 村 氏 は 第 一.二類 名 詞 の単 独 の形 を 中 平 調 に表 記 し て いる が 、 一音 節 名 詞 の場合 に は高 平 調 に 表 記 し て あ り 、同 類 と 見 て よ いと思 う ので高 平 型 と 解 釈す る。 第 三 ・四 ・五 類 の場 合 も これ に準 ず る 。
(3 2 第︶三類 と 第 四 ・五類 は 、 私 が佐 渡 山 安 勇 氏 に つ い て行 な った 観 察 の結 果 によ り 、高 平 型 と 認 め る。 こ の方 言 の 一音 節 名 詞 の 第 一 ・二類 は、 助 詞 が 付 いた 場 合 二 音 節 名 詞 の第 一・二類 と違 い、 ●○ ▽型 であ る 。あ る いは、 二音 節 名 詞 の場 合 も 平 山氏 の よう に●○ ▽型と 見 る べき かも し れな い。
(3 3 平)山氏 の記述 、 お よ び 私 が金 城 朝 永 ・外 間 守 善 両 氏 の発 音 を 観 察 し た 結 果 に 従 って 、す べ て の 語 の単 独 の場 合 、 高 平 型 と 見 る。 第 一 ・二類 に助 詞 が付 いた 場 合も 、 高 平 型 と 見 る。 こ の直 後 には 滝 があ る。 (34 )( 高3 平5 型) は いず れも 低 平 型 かも し れ な い。し ば ら く 那覇 方 言 に類推 す る。
平 型 と 推定 す る。
(36 第) 三 類 お よ び第 四 ・五類 の単 独 の場 合 は、 自 然 の発 音 で下 降 調 にも な ると いう 。 上 村 氏 の一三 八 ペー ジ ⑰ の注 記 に従 って低
九 ペー ジ の四 行 ・五
(3 7 第)一音節 の長 い第 四 ・五 類 名 詞 の第 一音節 の前 半 が 高 いと いう 。 そ れ は、 寺 川 氏 の いう ﹁話 調﹂ によ る 変 化 で、 本 来 は 低 平 調 と 解す る。 (2) の注 を参 照 。 ( 38 第)一 ・二類 の第 一音節 がや や高 いと いう 。(3 と6 同) 様 ﹁話調 ﹂ によ るも のと 見 る。 (39 )(4 の) 0 注) に 準じ る。 (4 1一 )音節 名 詞 の第 一 ・二類 +助 詞 は、 二 音 節名 詞 のそ れ と違 い、 ●○ ▽型 であ る。 ( 42 第) 三 ・四 ・五 類 は首 里 にな ら ってし ば ら く全 高 型 と 見 る。
(4 3 上) 村 氏 の一三 六 ペー ジ の表 記を 見 る と、 第 一類 と 第 二類 と の間 に区 別 があ る か と 疑 わ れ る が、 氏 の一 三 行 の注記 に従 って同 型と 見 なす 。
(4 4 第)三類 は 、 上村 氏 によ る と 第 一音 節 の前 半 が や や 高 いと いう が 、 話勢 と解 す る。 第 四 ・五 類 に 付 く 助 詞 は、 前 半 の み高 いと
いう。
第 2表
と こ ろ でそ れ ら の ア ク セ ント の 変 種 を 個 別 的 に見 て いく と 、 これ ら の ア ク セ ント は 、 大 き く 右 の 四 通 り の ど れ か に 入 れ ら れ る 。 こ れ は 上 村 幸 雄 氏 の言 わ れ る と お り であ る。
そ う し て、 こ の対 立 は 、 単 純 な 地 理 的 な 対 立 で はな い。 つま り 、 ナ ニ島 には︹Ⅰの︺方 言 が、 カ ニ島 に は︹Ⅱ の︺ 方言
が 、 と い う ふ う に 分 布 し て は いな い 。 そ う で は な く 、 た と え ば 奄 美 大 島 に は︹Ⅱと ︺︹Ⅲと ︺︹Ⅳが ︺見 い だ さ れ 、 喜 界 島 に
は︹ Ⅱ︺ と︹Ⅲ が︺ 見 いだ さ れ 、 沖 縄 本 島 に は︹Ⅰ と︺ ︹Ⅱ と︺ ︹Ⅳ が︺見 いだ さ れ 、 石 垣 島 に は ま た︹Ⅱ と︺ ︹Ⅳ と︺が 見 い だ さ れ る と いう 状 態 で あ る。
右 の︹Ⅰ︺︹Ⅱを ︺内 ︹地 Ⅲ︺ の︹ 方Ⅳ 言︺にも って行 け ば 、︹Ⅳ は︺ 九 州 の熊 本 ・佐賀 ・宮 崎 の方 言 に近 く 、︹Ⅱ は︺同 じ く 長崎 ・鹿 児
島 の方 言 に近 く 、︹Ⅲ は︺福 岡 の方 言 に 近 く 、︹Ⅰ は︺大分 の方 言 に近 い、 す な わ ち 、 上 村 氏 が 見事 に指 摘 し て いる よ う
に、 琉球 各 地 の島 に は 、 九 州 各 地 に分 布 し て いる ア ク セ ント の諸 変 種 が そ のま ま 散 在 し て い るわ け で、 こ の意 味
で は 沖 縄 本 島 の ご と き は 九 州 全 体 の縮 図 の観 があ る 。 これ ら の アク セ ント は、 た だ 型 の 所 属 の分 か れ 方 が 九 州 諸
方 言 のそ れ と 同 じ であ る ば か り で な く 、 型 の相 そ のも のも 九 州 諸 方 言 のそ れ に 近 い こと に 注 意 す べき であ る 。︹Ⅰ︺
の幾 つか は、 実 に 思 いが け な いも の で、 以前 、 平 山 氏 によ って 徳 之 島 に あ る こ と が 指 摘 さ れ て いた が 、 氏 の調 査
が在 京 の出 身 者 によ る 調 査 の結 果 であ る た め に、 そ の報 告 も 半 信 半 疑 で 受 け 取 ら れ て いたも の であ る 。 上 村 氏 の
報 告 に よ る と 、 例 え ば 、(2 の3 方)言 のご と き は 、 各 型 への語 類 の所 属 状 況 が 大 分 と よ く 似 て いる と いう だ け に と ど
ま ら ず 、 そ の 個 々 の 型 が も つ音 調 の姿 自 身 も 、 大 分 方 言 と よ く 似 て いる 。 私 が 調 べた(2 も4同︶様 であ った が、 こ れ は 見 のが し て は な ら な い こと と 思 わ れ た 。 第 3表
三 琉 球 方 言 の ア ク セ ント の 系 統 を 考 え る た め に
前 項 に 述 べた よ う に 琉 球 諸 方 言 の ア ク セ ント は 、 九 州 に 存 在 す る ア ク セ ント のvariと eよ ty く 似 て い る 。 これ
は 、 琉 球 諸 方 言 の ア ク セ ント の系 統 関 係 や そ の 出 自 を 暗 示す る 有 力 な事 実 で あ る と 考 え る 。 す な わ ち 、 九 州 ア ク
セ ント 諸 方 言 のvariが et でy き た よう に し て、 琉 球 諸 方 言 のvariも et でy き た ので あ ろ う と 解 釈 さ れ る 。 九 州 方 言
の ア ク セ ント の系 統 関 係 に つ い て は、 私 が か つて 試 案 を 提 出 し 服 部 氏 の批 判 を 仰 いだ こ と が あ った 。"Toyogo
kenkyの u第 "三 号 の 四 八 ペー ジ以 下 のも の が そ れ であ る 。 そ の 趣 旨 は 、 ︽大分 方 言 が 最 も 古 いも の で、 他 のvari
etは yす べて そ れ か ら 分 かれ た ︾ と す る の であ る。 服 部 氏 は 、 小 稿 の あ と に引 いた 講 評 の中 で、 "そ れ も 一説 " と
さ れ た 。 私 は そ の後 ﹃対 馬 の自 然 と 文 化 ﹄ の三 八 ペー ジ に お いて 、 同 じ考 え を も う 少 し 詳 し く 述 べ た 。︹ 補5︺
も し あ れ に 関 す る 私 説 がよ いと す る な ら ば 、 琉 球 語 の 各 諸 方 言 のア ク セ ン ト のvariも et 全y く それと並 行的 に
解 釈 さ れ る こ と にな る。 す な わ ち 、︽大分 と よ く 似 て いる︹Ⅰの ︺ア ク セ ント が 古 いも の で 、 他 の︹Ⅱ︺︹は Ⅲす ︺べ ︹Ⅳ て︺ そ
れ が 変 化 し て で き た も の︾ と 考 え る の であ る 。 私 は そ う 考 え て い いと 思 う 。 こ の小 論 で 開 陳 し て み た いと いう の は そ の考 え で あ る 。 そ の変 化 の過 程 は 次 章 で 示 す と お り であ る 。
一体 、 琉 球 語 の ア ク セ ント のvariが e九 ty 州 方 言 に近 い こ と は 、 上 村 氏 も ま た 、 そ し て、 服 部 氏 も 認 め て お ら
れ る 。 し か し 服 部 氏 が 琉 球 諸 方 言 のvariが et 出y た 過 程 に 対 す る 考 え は 私 説 と 同 じ で は な い。 上 村 氏 は こ の点 に
つ い て沈 黙 し て お ら れ る 。 服 部 氏 は 、︹Ⅰ を︺古 いと さ れ る 点 で は 私 説 と 同 じ で あ る が 、 ︽C 群 名 詞 の第 一音 節 が 高
い方 言 のあ る の は、 古 い姿 で は な く 、 第 一音節 は も と 長 く 発 音 さ れ た 、 そ れ が 後 に高 い 音 節 に 変 化 し た のだ ろ
う ︾ と さ れ る 。︹ 補6︺ C 群 名 詞 と 呼 ば れ る 語 は 、 大 体 大分方 言 では 第一 音 節 は高 い。 そ し て 短 い。 私 は 大 分方 言 を
古 形 と す る 以 上 は 、 第一 音 節 が 高 く 、 そう し て短 い のを 古 形 と 考 え る わ け であ る。 こ の点 で、 服 部 氏 の お考 え に
私 の考 え は ぶ つ かる よ う だ 。 な お 、 第 一音 節 が短 いと いう のは 音 韻 論 の世 界 で の話 で、 そ れ に対 立 す る 長 い音 節 がな か った の意 味 であ る 。 音 声 の面 で は 長 く ても か ま わ な い。
一体 、 琉 球 語 の二 音 節 名 詞 に は 、 第 一音 節 を 長 く 発 音 す る も の が あ り 、 そ れ が 各 諸 方 言 で 一致 し て現 れ る 傾 向
が あ る 。 例 え ば 、 内 地 語 のイ キ ( 息 ) が 、 石 川 ・大木 ・屋宜 原 ・首 里 ・那覇 な ど でイ ー チ と な り、 ム コ ( 婿 ) が、
奥 ・川上 ・仲 田 で ム ー フ、 半地 ・石 川 ・大木 ・屋宜 原 ・首 里 ・那覇 で ム ー ク のよ う にな って いる の が そ れ であ る 。
服 部 氏 は こ の事 実 を 重 要 視 し て、 これ を 琉 球 語 の古 い姿 を 伝 え る も の と考 え 、 例 え ば ア ク セ ント に お い ても 、 そ
の 音 節 が短 縮 し た こと を 契 機 と し て 型 の区 別 が 生 じ た よ う に考 え てお ら れ る よ う だ 。 例 え ば 、 服部 氏 は 言 わ れ る 。( ﹃日本語 の系統﹄二八〇ー二八一 ページ)
徳 之 島 の大 部 分 の方 言 で は 、 C 群 名 詞 の第 一音 節 の母 音 は短 く 且 つ高 い が、 花 徳 、 馬 根 のよ う に 、 こ の 母 音
を 僅 か 長 め に 発 音 す る も のも あ る 。( 第 二 音 節 は も ち ろ ん 低 い。 花 徳 は 第 一音 節 が や や 上 昇 気 味 で あ る 。) 一
方 、 こ の C 群 名 詞 の第 一音 節 母 音 を 長 く 発 音 す る諸 方 言 のア ク セ ント は 次 の よ う であ る 。 (﹁甕 ﹂ に 当 る 単 語 を 例 に と る 。)
与 名 間 式 の発 音 の第 一音 節 母 音 が 短 かく な れ ば 花 徳 式 発 音 と な り 、 こ の母 音 が 更 に短 かく な れ ば、 第 一種 系 の他 の諸 方 言 式 発 音 (︹〓k'a︺ 〓 )mと iな る 。 ま た 、 那 覇 方 言 の
と い う ア ク セ ン ト は 与 名間 式 の ア ク セ ン ト か ら 変 化 し た も の と 考 え る こ と が で き る 。 ( 注 ) 印 刷 の都 合 上 、 原文 ではiに横 線 のは い った文 字 をi に改 め た。
私 は こ の 方 言 に つ い て 服 部 氏 の 報 告 以 外 に 何 も 知 識 が な い 。 が 、 こ ん な ふ う に 思 わ れ る 。 ︽こ こ に 現 れ た こ と
だ け か ら 言 う な ら ば 、 こ こ で は 徳 之 島 の 大 部 分 の 方 言 に 見 え る と い う〓k'a〓miと い う の が 古 い 形 だ ろ う 。 と こ
ろ が広 く 琉 球 語 諸 方 言 に は高 い部 分 を あ と の音 節 に送 る傾 向 が生 じ、 次 第 に そ の傾 向 が 著 し く な った 。 そ こ で徳
之 島 以 外 の方 言 の中 には そ の結 果〓k'a〓mi〓とな った も のが あ る。 し か し 徳 之 島 の方 言 の う ち に は そ の中 間 の
も のも あ る 。 す な わ ち 、 第 一音 節 の高 ま り を 次 の音 節 に 送 る ま で に 至 ら ず 、 や は り 第一 音 節 の 内部 に高 い部 分 を
残 し て お き 、 し かも 語 頭 を 低 め よ う と し た 。 そ の結 果 、 例 え ば 、 与 名 間 ・金 見 ・浅 間 ・松原 西区 の方 言 で は、〓k'a
〓〓〓miと いう 形 にな った 。 与 名間 では こ こ で 変 化 が停 止 し た 。 と こ ろ が 浅間 ・松 原 西 区 の 方 言 で は 、〓k'a〓〓〓mi
に な った 後 も 、 高 い部 分 を 後 に 送 ろ う とす る動 き は や ま な か った 。 そ のた め に こ れ ら の方 言 で は、〓k'a:〓 とmi
な って いる 。 ま た 、 金 見 方 言 で は、 プ ラ ス助 詞 の場 合 に は こ の変 化 が 起 こ った が、 単 独 の場 合 には 起 こ ら な か っ
た 。 そ こ で、〓k'a〓〓〓mi,〓k'aと 〓い 〓う mi 、〓 与g 名a 間 ・浅 間 の 中 間 の形 を と って いる 。 ま た 松 原西 区 で は 、 助 詞
の 付 く 場 合 に は 、 さ ら に 最 後 の 音 節 に ま で 高 め る 傾 向 が 及 ん で し ま って 、k'a〓miあ 〓る nu いはk'a〓〓mi とn なu
った 。 ま た 花 徳 ・馬 根 の よう に第 一音 節 を わ ず か に長 め に 発 音 す る と いう のは 、 特 に 花徳 で第 一音 節 が や や 上 昇
気 味 だ と いう のは 、 与 名間 以 下 の方 言 に起 こ った 高 い部 分 を 後 に 送 る 傾 向 が き ざ し た ちょ う ど そ の時 の状 況 を 伝 え るも の であ る 。︾
以 上 が 卑 見 で あ る 。 一体 、 第 一音 節 が 長 い のは ど う いう 種 類 の語彙 であ る か 。 服 部 氏 は 、 早 く そ れ ら は 、 内 地
語 の二 音 節 名 詞 のう ち の京 阪 語 で○ ● 型 の語 に 多 いこ と を 指 摘 さ れ た。(﹃ 方言﹄二 の三 の五九七 ページ) こ れ は 私 の
術 語 で いう と第 四 類 の 語 だ 。 し か し 、 そ の後 の諸 学 者 の研 究 を 総 合 し て み る と 、 こ う いう のは 第 四 類 の語 に 限 ら
ず 、 第 五 類 の語 にも 多 いと いう こ と が 言 え そ う であ る 。 上 村 氏 の報 告 で、 ﹁影 ﹂ ﹁婿 ﹂ ﹁桶 ﹂ がす で に 延 び て いる 。
奥 村 三 雄 氏 は 、 ﹁音 韻 と ア ク セ ント ﹂ ( ﹃国語国文﹄二七巻九号︶ の中 で こ の問 題 を 取 り 上 げ 、 八 重 山 方 言 に お い て 、
第 一音 節 が 延 長 さ れ る のは 第 四 類 よ り む し ろ 第 五 類 で あ る こ と を 指 摘 し て お ら れ る 。( 六ページ の下段八行)
今 、 各 方 言を 比 較 し て み る と 、 ﹁海 ﹂ ﹁舟 ﹂ は 、 首 里 で は 延 び て いな い が 、 石 川 ・比嘉 で は ﹁海 ﹂ が ウ ー ミ で あ
り、 半地 で ﹁舟 ﹂ が ヒ ン ニ であ る。 ﹁雨﹂ は 、 上 村 氏 の報 告 さ れ た 限 り の方 言 で は ど こ も 延 び て いな い が、 宮 良
当 壮 氏 の ﹃八 重 山 語彙 ﹄ を 見 る と 、 こ れ も 延 び て いる 地 方 が あ る 。 ﹁汗 ﹂ も 延 び た 例 が見 え る 。 こ の よ う な 例 を
集 め て み る と 、 ﹁今 日﹂ のよ う な 音 韻 の性 質 か ら い って 延 び にく いも のや 、 ﹁春 ﹂ ﹁秋 ﹂ のよ う な 文 語 的 な も のな
ど特 殊 な も のを 除 く と 、 第 四 ・五 類 の 語彙 は 大 抵 第一 音 節 が ど こか で 延 び る 傾 向 を も って いる よ う だ 。 そ し て 逆
に第一 音 節 の長 い二 音 節 名 詞 は、 ほ ぼ第 四 ・五 類 に集 ま って いる よ う に 思 わ れ る 。
う 。︵Ⅰ︶と す る と 、 第 一音 節 の 長 い二 音 節 名 詞 す な わ ち 第 四 ・五類 名 詞 だ と いう こ と が お お ま か に 言 え そ う だ 。
問 題 は 、 第 三 類 の名 詞 に 第一 音 節 の長 い語 が 少 し 見 え る こ と であ る が 、 これ は 別 に考 え る こと が で き そ う に 思
私は そう考え て論を進 めようと思う 。
と こ ろ で、 第 四 .五 類 の語彙 は 、 大分 方 言 で 第一 音 節 だ け が高 い語 彙 であ り 、 逆 に 第 一音 節 が 高 い二 音 節 名 詞
は 第 四 .五 類 だ け だ 。 こ こ に 注 目 す る 。 す な わ ち 、 私 は ︽琉 球 諸 方 言 で は、 第 四 ・五 類 の語 頭 が 高 か った の が古
い形 であ った 。 と ころ が、 琉 球 方 言 で は 高 い部 分 が 、 特 に こ こ で は 、 語 頭 の高 い部 分 が 片 端 か ら 語 の後 の方 へ移
動 し よ う と いう 動 き が 発 生 し た 。 し か し 、 次 の音 節 にま で は 移 し た く な い、 と いう 気 持 ち も 働 いて 、 あ く ま でも
第 一音 節 に 高 ま りを 保 存 し た 。 そ の結 果 、 こ の 類 の語 に は 長 く 引 く も の が見 ら れ る の だ ろ う ︾ と 思 う 。
こ の間 の事 情 を も う 少 し 詳 し く 述 べ るな ら ば 、 芳 賀綏 氏 に よ る と 奥 羽 方 言 のア ク セ ント に 次 の よ う な 事 実 が 見 ら れ る と いう 。 北 奥 諸 方 言 で は 第 四 ・五 類 は 次 の第 4 表 の よ う にな って いる 。
こ れ を 見 る と 、 これ ら の語 彙 は 、 これ ら の諸 方 言 では 、 第 一音 節 が高 い の が古 い形 であ る こと 明 ら か であ る 。
つま り (6 の) 方 言 が 古 形 と 見 ら れ る 。 同 時 に 、 第 一音 節 の山 を 後 へ送 る傾 向 が これ ら の多 く の方 言 の上 に 生 じ て い
る こ と が 知 ら れ る 。 そう し て ﹁雨﹂ ﹁空 ﹂ ﹁糸 ﹂ ﹁ 鮒 ﹂ に お け る アク セ ント のvariは et 、y そ の対 処 の し 方 の 違 いを
さ な が ら 示 し て いる 観 が あ る。 す な わ ち 、 (1 () 2 の) 方 言 の よ う に ○ ●'型 に な って いる も の は あ っさ り 次 の 音 節 へ
送 って し ま ったも の であ る 。 (4 () 9 の) よ う に○〓 型 にな って い るも のは 、 送 ってし ま った け れ ど も 、 第 二 音 節 の後
半 を 低 く し て、 ま だ第 二音 節 が も と 低 か った と き の姿 を し のば せ て い る 。 (3 の) 方 言 は 、 そ ろ そ ろ○ ●'型 に 変 ろ
第 4表 北 奥 諸方 言 の第 四 ・五 類 のア クセ ント比 較表
う と し て いる 。 (5 () 8 の) 方 言 は 、 し ぶ し ぶ 半 数 の語 彙 だ け ○〓 に し た 。 これ は条 件 つき だ 。 お も し ろ いの は 、 (7 と)
︵1 の0 方)言 で あ る 。 (7 の) 方 言 は 、 これ も 高 ま り を 後 に 送 る趨 勢 に 抗 し か ね て、 語 頭 を 低 く し は じ め た 。 と こ ろ が第
二 音 節 に送 って し ま う 決 断 が つか ぬ 。 そ の結 果 、 第 一音 節 が 半 分 低 く 半 分 高 い型 にな り か け た 。︵1の0方︶言 で は 、
す で に こ の傾 向 が進 み 、 半 数 以 上 の語 彙 は こ の型 に な った 。 一部 の 語彙 で は、 (5 () 8 () 9 の) 方 言と歩 調を そろえ 、高
の部 分 を 第二 音 節 に完 全 に移 し 終 え た 。 つま り こ の北 奥 諸 方 言 でも 、第 一音 節 の高 ま り を 後 へ送 る 傾 向 が 諸 方 言
に働 き か け た 結 果 、 あ る 方 言 で は 第 一音 節 が 延 長 し た のだ 。 思 う に 、 服 部 氏 が 指 摘 さ れ た 徳 之 島 方 言 の 花 徳 ・馬 根 のも の は 、 これ と 同 じ も の では な いか 。
そ れ で は、 琉 球 諸 方 言 で第二 音 節 へ高 ま り を 移 す こ と を 阻 止 す る事 情 と は 何 か 。 ● ○ ○ 型 の高 い部 分 が後 へ送
ら れ る と す れ ば 、 ○ ● ○ 型 か ● ●○ 型 か に な る わ け で あ る 。 私 は 、 そう な ら な い原 因と し て 、 琉球 語 の ア ク セ ン
ト に は 内 地諸 方 言 の ア ク セ ント に は 見 ら れ な い一 つ の特 色 が あ る と 思 う 。 そ れ は 、 ︽○ ● ○ 調 ま た は ● ●○ 調 の よ う な 、 最 後 の一 音 節 だ け を 低 め る 音 調 を 嫌 う ︾ と いう 傾 向 が 強 い こ と で あ る 。
今 、 那覇 方 言 に 例 を と る と 、 こ の方 言 の三 音 節 語 に は 四 種 類 に お よ ぶ 型 が あ る が 、 そ れ は ● ● ● 型 、 ○ ● ● 型 、
○ ○ ● 型 、 ● ○ ○ 型 であ る 。 こ こ に は 、 ︽最 後 の 一音 節 だ け が 低 い︾ と いう 型、 つま り 、 ● ●○ と か ○ ● ○ と か
いう 型 は な い。 そ れ か ら ま た 、 那覇 方 言 の○ ● ● 型 の名 詞 に 一音 節 の助 詞 を 付 け た 場 合 のア ク セ ント が お も し ろ
い。 ち ょ っと 考 え る と○ ● ● ▼ 型 か○ ● ● ▽ 型 か にな り そ う だ 。 が、 事 実 は 、 ○ ● ○ ▽ 型 に な る 。 こ れ は ど う い
う こ と な の か。 私 は 、 こ れ は 、 単 独 の場 合 ○ ● ○ 型 で あ る はず のも の が 、○ ● ● 型 に な って いる の だ と 解 す る 。
│こ う いう 諸 事 実 は 、 いず れ も 、 最 後 の一 音 節 を 下 げ る 音 調 を い か に き ら って いる か と いう こと の有 力 な 証 拠 では な いか 。
最 後 の 一音 節 を 低 く す る 型 を き ら って いる
は 内 地 の諸 方 言 に は ごく 普 通 に見 ら れ る 型 であ る 。 こ の型 の両 方 を 欠 く と いう ア ク セ ント 体 系 は 、 よ ほ ど 特 殊 な
こう いう 傾 向 は 、 私 は 那 覇 方 言 に と ど ま らず 琉 球 語 各 諸 方 言 に 見 ら れ る と 思 う 。 ○ ● ○ 型 、 ● ● ○ 型 と いう 型
も の であ る 。 そ の目 で、 こ の小 稿 の二 に掲 げ た 第 1表 を 見 る と 、│
傾 向 は、 幾 つか の方 言 にも 看 取 さ れ る では な いか 。 と に か く 、 ●○○ 型 が〓 ○ ○ 型 に な り 、 さ ら に○ ●○ ○ 型 に
な った こ と に は、 こ の へん に 原 因 があ る と 思う 。 な お ○ ●○ ○ 型 に な って か ら は 各 地 で ○ ○ ●○ 型 に 変 化 し て い
る 。 これ は○ ○ ● ○ 調 は ○ ● ○ 調 に比 し てき ら わ れ る こ と が 少 な か った も のと 考 え る。
次 に 服 部 氏 は 、 第 四 ・五 類 名 詞 の第 一音 節 の長 いの を古 いと 考 え る 根 拠 と し て、 名 瀬 方 言 に 見 ら れ る 事 実 、 ア
イ ヌ 語 に 見 ら れ る ア ク セ ント と 音 長 と の関 係 に つ い て 言 及 し て お ら れ る 。 名 瀬 方 言 の場 合 の例 は 、 被 調 査 者 の発
音 が お か し か った の で は な い か。 こ こ の観 察 の結 果 は 、 上 村 氏 の報 告 さ れ た 名 瀬 の ア ク セ ント と 少 し 違 う 。 私 が
名 瀬 出 身 の人 に つ い て 調 べた 結 果 は 、 不 完 全 き わ ま る も の で、 強 い こと は 言 え な いが 、 服 部 氏 のも のと 一応 違 う
結 果 が 出 た 。 ア イ ヌ語 の 例 も 、 私 に は 、 ア ク セ ント の 区 別 があ った も の が 、 長 短 の違 い にな った と 説 明 でき る と 思う 。 そ う し て そ の方 が よ いよ う に 思 う が、 頭 が 固 い の であ ろう か 。
昔 、 私 ど も が ま だ 服 部 氏 の学 生 だ った こ ろ 、 氏 は 、 私 ど も が ほ ん と う に 言 語 学 が 分 か った か ど う か を テ スト さ
れ る た め に、 わ ざ と 正 し く な い推 論 を 口 に さ れ 、 私 ど も が 反 駁 す る と 、 会 心 の微 笑 を 漏 ら さ れ る こと が し ば し ば
であ った 。 私 が 今 服 部 氏 の こ こ の文 章 を 読 む と 、 服 部 氏 は 、 あ の や り 方 で 私 ど も を 試 み て お ら れ る の で は な いか と いう 気 が し て な ら な い。
そ ん な わ け で 、二 音 節 名 詞 の第 一音 節 の長 短 の問 題 は 面 倒 な 問 題 であ る が 、 私 は 一応 それ は 大 体 新 し い発 生 で
あ り 、 琉 球 ア ク セ ント の古 い姿 を 考 え る 上 に 特 に重 要 視 し な く て も い いと いう 立 場 に 立 つこ と に す る。 と こ ろ で 、
琉 球 語 の ア ク セ ント を考 え る 上 に 、 も う 一つ考 慮 し て お か な け れ ば いけな い こ と が あ る 。 そ れ は 、 内 地 の諸 方 言
︽内 地方 言 では 、 一音 節 名 詞 の第 三 類 の アク セ ント は 、 単 独 の場 合 も 、 プ ラ ス助 詞 の場 合 も 、 二 音 節 名 詞 の
と 琉 球 語 諸 方 言 と の 間 に 、 次 の よ う な 差 違 が 見 ら れ る こと であ る 。
第 四類 と 一致 す る 。 と こ ろ が 、 琉 球 語諸 方 言 で は 、 一音 節 名 詞 の第 三 類 の ア ク セ ント は 、 単 独 の場合 、プ ラ ス助 詞 の場 合 共 に、二 音 節 名 詞 の第 三 類 と 一致 す る 傾 向 が あ る ︾
これ は、 上 村 氏 の挙 げ ら れ た 表 を 見 る と す ぐ 知 ら れ る こと で あ る 。 す な わ ち 、 ﹁木 ﹂ ﹁田 ﹂ ﹁目 ﹂ のア ク セ ント
は 、 そ こ に挙 げ ら れ て いる ほ と ん ど す べ て の地 域 の方 言 を 通 じ て 、 ﹁花 ﹂ ﹁雲 ﹂ ﹁年 ﹂ と は 常 に 一致 し 、 ﹁息 ﹂ ﹁海 ﹂
﹁船 ﹂ ﹁今 日﹂ と は 一致 す る こ とも あ る が 、 し な いこ と も あ る。 こ れ は 注意 す べ き こ と であ って 、 琉 球 語 諸 方 言 の
成 立 に つ いて 仮 説 を 立 て る 場 合 に は 、 そ の仮 説 は 是 非 こ の事 実 を 説 明す る 仮 説 で な け れ ば な ら な い。│ れ は 簡 単 に解 釈 でき そう に 思 う 。
が、 こ
平 安 朝 の優 れ た ア ク セ ント 資 料 であ る ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ を 調 べ て み る と 、 第 三 類 一音 節 名 詞 の ア ク セ ント は 、 単
独 の 場 合 平 声 に 記 載 さ れ て い る。 去 声 で は な い。 こ れ は 、 長 く 引 い て発 音 さ れ れ ば 、二 音 節 名 詞 の第 三 類 と 同 型
であ って、 第 四 ・五 類 と は 違 って いた は ず で あ る 。 そ う す る と 、 ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ 以 来 、 日 本 語 の ア ク セ ント が ほ
ん と う に規 則 的 に型 の変 化 を 遂 げ た と す る と 、 そ れ は 、 琉 球 語 のよ う に な った はず であ る。 つま り、 今 の 京 都 方
言 や 東 京 方言 のよ う にな って いる のは かえ ってお か し い の であ る 。 思う に 、 ︽内 地 諸 方 言 で は、 ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ 以
来 、一 貫 し て 、一 音 節 名 詞 は、 短 く 発 音 さ れ る 形 の方 が標 準 的 と 考 え ら れ 、 そ の方 の ア ク セ ント が 支 配 し て き た 。
そ れ に 対 し 琉 球 語 諸 方 言 では 、 長 く 一音 節 分 延 ば し て 発 音 さ れ る 方 が標 準 的 と 考 え ら れ て き た ︾ も のと 解 釈 さ れ
る。 す な わ ち 、 次 の第 5 表 で、 現 在 の京 都 ・大阪 方 言 や 東京 方 言 は、一 音 節 名 詞 の場 合 、︵c の′道)を 通 った た め に 、
二音 節 名 詞 第 四 類 単 独 の場 合 と 同 じ 変 化 の 道 を た ど った も の で あ ろ う 。 そ の結 果 、 現 在 テ ワ の型 ( 京 都 ・大阪 方 第 5表 内地 方言 と琉 球 語と にお け る第 三 類 一音節 名詞 のアク セ ント の変遷
( 東京 方 言 ) にな って いる の だ と 解 さ れ る 。 こ れ に 対 し て、 琉 球 語 諸 方 言 で は 、 (c の) 道 を通
った た め に 、 (a の) 二 音 節 名 詞 第 三 類 +助 詞 と 同 じ 型 の変 化 を 遂 げ た も ので あ ろう 。 そ の結 果 例 え ば 、 一番 古 い形
言 ) ま た はテ ワ の型
と 見 ら れ る 半地方 言 な ど では 、 現 在 、 テー ワ のよ う に 二 音 節 名 詞 の第 三 類 と 同 型 に な って いる も のと解 さ れ る 。
や か ま し く いう と 川上 方 言 を 除 いて︱
﹁の﹂ が 付 いた 場 合 が挙 げ てあ る 。 と こ ろ が 元 来 こ の ﹁の﹂ と いう
も っと も こ れ に つ いて は 、 こ ん な こと が あ る。 上 村 氏 が こ こ に挙 げ た 例 で は 助 詞 が付 いた 場 合 と し て す べ て ︱
助 詞 は 、 は な は だ く せ も の で 、古 く は ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄時 代 か ら 今 に 至 る ま で 、そ う し て 、平 山 輝 男 氏 に よ る と 、 今
﹁の ﹂ は 他 の 助 詞 を 代 表 し て い る と は 夢 に も 言 え な い。︹ 補7︺
では 、 南 は 鹿 児 島 方 言 か ら北 は 北 海 道 ア イ ヌ人 の使 う 日本 語 に至 る ま で、 そ の アク セ ント は 、 他 の助 詞 のア ク セ ント に 対 し て異 色 が あ る も の のよ う で あ る 。 だ か ら
が 、 上 村 氏 ほ ど の 人 が こ れ に 気 づ か れ ぬ は ず は な い 。 思 う に 、 琉 球 語 諸 方 言 で は 、 ﹁の ﹂ の ア ク セ ン ト は 他 の
一般 助 詞 の ア ク セ ン ト と 同 じ な の で あ ろ う 。 そ れ で ﹁の﹂ の ア ク セ ン ト を 示 す こ と に よ っ て 一般 の 助 詞 に 代 表 さ
せ た の で あ ろ う 。 私 が 調 べ た と こ ろ で も 、 名 瀬 方 言 ・那 覇 方 言 で は 、 ﹁の ﹂ は 、 な ん ら ア ク セ ン ト に 関 し て 特 色
を 示 さ な か った 。 そ こ で 、 こ こ で は 、 ﹁の ﹂ は 一般 の 助 詞 の 代 表 と 見 て 論 を 進 め る こ と に す る 。
注 (1︶ 上 村 幸 雄 氏(一三 八 ペー ジ) によ る と、 首 里 方 言 で第 三類 の名 詞 と お ぼし いも の の中 で第 一音 節 が長 く 発 音さ れ る も の
に は 、次 のよう な も の があ る。 ﹁ 指﹂﹁ 甕 ﹂ ﹁亀 ﹂ ﹁百﹂ ﹁〓﹂ ﹁ 幕 ﹂ ﹁豆﹂ ﹁襟﹂ ﹁ 折 ﹂。 大 湾 政 和 氏 の ﹃語調 を 中 心 と せ る 琉 球 語
の研 究﹄ の七 〇 ペー ジ以 下 の表 に よ ると 、 第 三 類 に 属 す る 語 で、那 覇 方 言 で ● ● ∼● ○ ▽型 のも の、 つま り そ れ ら と 同 類 で
あ る べき 語 は ﹁膿 ﹂ ﹁ご み﹂ ﹁匙﹂ ﹁ 梨 ﹂ ﹁蚤 ﹂ ﹁ひび ﹂ ﹁ 骨 ﹂ (フ ニ) ﹁や に﹂ ﹁弓﹂ の九 語 で あ る。 今 これ ら の語 を な が め て み る
と 、 音韻 構 造 の上 にあ る片 寄 り が 見 ら れ る こ と に気 づく 。 す な わ ち 、 こ れ ら の 語 に は、 第二 音 節 が ミ ・ビ ・リ ・ニ ・ジ の よ
これ は、 石 川 県 鹿島 郡中 乃 島村 向 田 のア ク セ ント を 連 想 さ せ る も ので あ る。 同 方 言 は、 ほと ん ど 完 全 な 乙種 方 言 であ る が 、
う な も の が多 い。 琉 球語 諸 方 言 に おけ る 第 三 類 名 詞 で ﹁ 第 一音節 が 長 い語 ﹂ にそ う いう 音 韻 の語 が多 いと 言 え る と す る と 、
二音 節名 詞 に例 を と って言 う と、 第 二 ・三 類 のう ち 第 二 音 節 のう ち の母 音 が 狭 く 子 音 が 有 音 声 のも のが 第 四 ・五 類 と い っし
ょ にな り 、 ●○ ▽型 にな って い て、 甲種 諸 方 言 と同 様 であ る こと が 注 意 を ひく 。 ﹁ 網 ﹂ ﹁犬 ﹂ ﹁ 膿 ﹂ ﹁襟 ﹂ ﹁ 鬼﹂ ﹁ 鍵 ﹂ ﹁紙 ﹂ ﹁ 髪﹂
﹁ 栗 ﹂ ﹁ご み﹂ ⋮⋮ な ど いず れ も そ う で あ る 。 これ は、 吉 沢 典 男 氏 が 推 定 し た よ う に、一 般 の第 二 ・三 類 の語 に● ○ ▽← ○ ●
▽型 と いう 変化 が起 こ った時 に、 音韻 の 関係 で、 ● ○ ▽型 に 残 り と ど ま った こと に よ る も のと考 え ら れ る。 とす る と、 琉 球
語 諸 方 言 の二音 節 名 詞 にも 以 前 似 た よう な 事 情 が あ って 、一 部 だ け が第 四 ・五 類 に統 合 し てし ま った も の では な いか と 推 定 される。
四 琉 球 語 ア ク セ ン ト のvarieのtで yき る 具 体 的 過 程
こ こ に 私 が 琉 球 方 言 のア ク セ ント の変 種 が でき た 過 程 に つ いて ど う 推 定 す る かを 申 し 述 べ る 。 便 宜 上 、 上 村 氏
の いう︹Ⅰ︺︹Ⅱの ︺四 ︹Ⅲ つ︺ の︹ 方Ⅳ言 ︺に 分 け て 取 り 扱う 。 一音 節 名 詞 の第一 類 ・第二 類 ・第 三 類 は、 そ れ ぞ れ二 音 節 名 詞 の第 一類 ・第二 類 ・第 三 類 に 並 行 的 ゆ え 、 こ こ に は 説 明 を 省 く 。
ま ず 、 す べ て の方 言 を 通 じ て、 次 の第 6表 のよ う な 形 が 最 も 古 い共 通 の 形 であ ろう 。 これ は 内 地 の中 の 大分 市
方 言 のも のと ほ と ん ど 同 じ も の で、 た だ 、 前 節 の最 後 に 触 れ た一 音 節 名 詞 、 特 に第 三 類 の所 属 だ け が ち ょ っと 違 う。 第 6表 琉 球 語諸方 言祖 形 の 二音 節 名詞 のアク セ ント
な お︹Ⅳ︺の 一型 ア ク セ ント に属 す る も の に つ い て は決 定 的 な 推定 説 を 出 し にく い の で、 論 述 を 控 え る 。 いず れ 、 それ ぞ れ 近 く に 行 わ れ る ア ク セ ント 体 系 か ら く ず れ て で き た も ので あ ろう 。
︹Ⅰ︺(・ 一二類)(三類)(四 ・五類) の方 言 に ついて
こ れ ら の方 言 は 、 第 6 表 に見 られ る ア ク セ ント にも っと も 近 いも の で 、 そ の大 部 分 は 、 こ の表 の ア ク セ ント か ら で き た も の と いう こ と が 簡 単 に 説 明 でき る 。
ま ず 、 第二 章 にあ げ た 諸 方 言 の中 で、︵1の1井 )之 川 と、( 23) の 半 地 は 、 最 も こ の共 通 祖 形 に 近 い。 第 三 類 ・第 四 ・
○ ● ∼○ ● ▼型 ← ○ ● ∼○○ ▼型 ← ○ ○ ∼○○ ▽ 型
五 類 は 、 第 6 表 のま ま で あ る 。 第 一 ・二類 は 次 のよ う な 変 化 を 起 こし た も の であ ろ う 。
○ ● ∼○ ● ▽ 型 ←○ ● ∼○○ ▼型
(2の2奥)は 、 第 一 ・二 類 が 半 地 に 起 こ った 変 化 を 起 こし た ほ か に 、 第 三 類 に次 のよ う な 変 化 が起 こ った も の だ ろ う。
こ の方 言 の第 三 類 に は 、 単 独 の場 合 、 助 詞 の付 いた 場 合 、 とも に、 末 尾 に 滝 があ る であ ろう 。
4 () 2 の 大 宜味 はち ょ っと 見 る と 、 半 地 よ り 一段 古 い形 のよ う に 見 え る。 が、 調 べて み る と 、 これ は第 一 ・二 類 の
○ ○ ∼○○ ▽ 型 ← ● ○ ∼○ ● ▽型 ← ○ ● ∼○ ○ ▼型
末 尾 に滝 があ る 。 こ の事 実 を 重 ん じ う る な ら ば 、 こ れ は 、 半地 のあ と 次 のよ う な 変 化 を 遂 げ た も の であ ろ う 。
大宜 味 の第 三 類 、 第 四 ・五 類 は( 23) の半 地 のま ま にち が いな い。
第三 類
● ○ ∼● ○ ▽型 ← ○ ● ∼○ ● ▽型
○ ● ∼○ ● ▽型 ← ○〓 ∼○○ ▼型
5 ︵) 2 の川 上 は ち ょ っと 変 わ って いる が 、 そ のう ち 第 三 類 、 第 四 ・五 類 は 、 次 のよ う にし て で き た も の で あ ろう 。
第 四 ・五 類
第 一 ・二 類 は 、 第 一表 に掲 げ た と お り で は 、 妙 な ア ク セ ント であ る が 、 も し これ で い いと す るな ら ば 、 半 地 の第
一 ・二類 か ら 次 の よ う にし て で き た も ので あ ろ う か 。 助 詞 の付 いた 形 に は、 そ の直 後 に 滝 が あ り そ う であ る 。 ○ ○ ∼○○ ▽ 型 ← ○〓 ∼○ ● ▽型 ←○〓 ∼○ ● ▼型
最 後 の段 階 はち ょ っと 問 題 であ る。 単 独 の場 合 の ア ク セ ント が変 化 せ ず 、 助 詞 の付 いた 形 だ け が 変 化 す る と い
う の はち ょ っと 突 飛 であ る 。 し か し 、 も し こう な ら ば 、 私 は 思 う 。 那覇 方 言 な ど で● ○ 型 、 ● ● ○ 型 、 ○ ●○ 型
のよ う な 型 を 、 ● ● 型 や 、 ● ● ● 型 、 ○ ● ● 型 に 変 化 さ せ て い る実 例 が あ る。 これ は、 す で に述 べた よ う に 、 琉
球 語 に お け る 、 ︽最 後 の 一音 節 を 低 く す る のを き ら う 傾 向 ︾ の現 れ と 解 さ れ る 。 こ の方 言 にも 、 こう いう 傾 向 が 現 れ た も のと 解 釈 し 、一 応 上 のよ う に考 え る こ と に す る。 6 () 2 の与 那嶺 は 次 の よ う であ ろ う か 。
第 四 ・五 類 は 第 6 表 のま ま 変 化 せず 、 第 三 類 は 、 川 上 の第 三 類 の第二 音 節 が二 つに 割 れ て 次 のよ う に な った 。 ○〓 ∼○ ○ ▼ 型 ← ○ ○ ● ∼ ○ ○ ○ ▼ 型
恐 ら く ● や ▼ の直 後 に は 滝 が あ る の であ ろ う 。 第 一 ・二類 は 半地 や 奥 のあ と 次 のよ う に 変 化 し たも の であ ろ う 。
○ ○ ∼○ ○ ▽ 型 ← ○〓 ∼○ ● ▽型 ←○ ● ○ ∼○ ● ● ▽ 型 ← ○ ● ● ∼ ○ ● ● ▽型
最 後 の○ ● ○ 型 ←○ ● ● 型 変 化 は 、 琉 球 語 に 多 いと 考 え た 、 ︽最 後 の一 音 節 を 低 め る こ と を き ら う 傾 向 ︾ の現 れ の 一例 で あ る 。
(2 の7 安)和 は 、 ま ず 第 一 ・二 類 は 、 与 那嶺 に起 こ った ○ ○ ∼ ○ ○ ▽ 型 か ら ○〓 ∼○ ● ▽ 型 へ変 化 を 起 こす 直 前 の
状 態 であ ろ う 。 第 三 類 は 、 与 那嶺 と 同 じ 変 化 が、 第 四 ・五 類 に は 、 与 那 嶺 の 形 か ら さ ら に ● ○ ∼ ●○ ▽ 型 ←○ ● ∼ ○ ● ▽ 型 と いう 変 化 が起 こ った と 見 ら れ る 。
8 () 1 の 大 城 は 第 6表 か ら 次 の よ う に変 化 し て で き た も の であ ろ う 。 第 一 ・二 類 は 半地 よ り 古 い形 を 伝 え る 唯 一の 方 言 であ る 。
第 四 ・五 類
第 三 類
第 一 ・二類
● ○ ∼ ● ○ ▽ 型 ← ○ ●∼ ○ ● ▽ 型
○ ● ∼○ ● ▽ 型 ←○〓 ∼○ ○ ▼型
○ ● ∼○ ● ▼ 型 ← ○ ○ ∼○ ○ ▼型
2 () 1│ 17( ) の 四 つ の方 言 は 、第一 ・二 ・三 類 の ア ク セ ント が 報 告 さ れ て いな いが 、 第 四 ・五 類 の型 か ら 見 る と 、(11)
の 井 之 川 方 言 に 似 た も の で あ ろう が 、 第 四 ・五 類 に つ い て は、 前 に 触 れ た が 、 も う 一度 述 べ れ ば 、 次 のよ う にな
根
●○ ∼● ○ ▽型 も と のま ま 。
った も の であ ろう 。 馬 ● ○ ∼● ○ ▽型 ←〓 ○ ∼〓 ○ ▽ 型
与 名 間 の○ ● ○ ∼○ ●○ ▽型 ←○ ● ○ ∼○ ○ ● ▽ 型
徳
見
金見 の○ ●○ ∼ ○ ○ ● ▽型 ← ○ ○ ● ∼○ ○ ● ▽型
花
金 間
浅間 の○ ○ ● ∼○ ○ ● ▽ 型 ← ○ ○ ●∼ ○ ○ ● ▼型
花 徳 の〓○ ∼〓 ○ ▽ 型← ○ ● ○ ∼○ ● ○ ▽ 型
浅 原
与名 間
松
プ ラ ス助 詞 の場 合 に、 個 人 に よ って○ ○ ○ ▼型 にも 言 う と いう の は、 さ ら に○ ○ ● ▼ 型 ←○○○ ▼ 型 と いう 変 化 を 起 こし つ つあ る も のと 思 う 。
第三類
第 一 ・二類
一部 は ● ○ ∼ ● ○ ▽ 型 ← ● ● ∼ ● ● ▽ 型
(18) の大 城 に同 じ 。
○ ○ ∼○ ○ ▽ 型 ← ●○ ∼ ● ● ▽ 型 ← ● ● ∼ ● ● ▼ 型
1 () 2 の仲 田は 、 半 地 の あ と 、 次 のよ う に 変 化 し た も の であ ろ う か 。
第 四 ・五 類
た だ し 第一 音 節 の母 音 の長 く 延 び た も のは 、 ● ○ ∼● ○ ▽ 型 ←〓 ○ ∼〓 ○ ▽ 型 ← ○ ● ○ ∼○ ● ○ ▽型 ← ○ ○ ● ∼○ ○ ● ▽型 。
第一 ・二 類
第 6 表 のあ と 、 ○ ● ∼ ○ ● ▽ 型 ← ○ ● ∼○ ○ ▼ 型 ← ○ ○ ∼○ ○ ▽ 型 ← ● ● ∼ ● ● ▼ 型
半地 ・奥 に同 じ 。
,9 () 2 の 石川 は 次 のよ う に し て で き た も の で あ ろ う 。
第三 類
第 6 表 のあ と 、 ● ○ ∼ ● ○ ▽ 型 ←〓 ○ ∼〓 ○ ▽ 型 ←○● ○ ∼○● ○ ▽型 ←○
● ∼○● ○ ▽
第 四 ・五 類 型
第 四 .五 類 の最 後 の段 階 で単 独 の場 合 に のみ 変 化 が 起 こ った のは 、 最 後 の一 音 節 を 低 下 さ せ る こ と のき ら いな 琉 球 語 の例 の癖 が 出 た も のと 見 る。
(2 の半 3) 地、(2の2奥)のあ と 、 次 のよ う な 変 化 を 遂 げ た 。
(3の 3那 )覇 は 最 も 変 化 を 想 定 し がた い。 が 、 こ ん な と こ ろ で あ ろ う か 。 第一 ・二類
○ ○ ∼○ ○ ▽ 型 ← ● ○ ∼● ● ▽型 ← ● ● ∼● ● ▼型
る 。 ● ○ ∼ ● ● ▽ 型 であ った 時 期 は短 く 、 す ぐ に ● ● ∼ ● ● ▼型 に 変 化 し た ろ う 。 ● ○ 型 や ● ●○ 型 は琉 球 語 で
単 独 の 場 合 、 プ ラ ス助 詞 の場 合 と も に 直 後 に 滝 が あ る が 、 これ は 、 ● ○ ∼ ● ● ▽ 型 か ら 変 わ った た め と 思 わ れ
(2 の2 奥)のあ と 、(2 石9川)と 同 じ よ う な 、 し か し 少 し 違 う 、 次 のよ う な 変 化 を 起 こ し た も ので あ
き ら わ れ る 型 であ る か ら 。 第三類
ろ う 。 ○ ● ∼○ ○ ▼ 型 ← ○ ○ ∼○ ○ ▼ 型 ← ● ○ ∼○ ○ ▼ 型← ● ● ∼○ ○ ▼型
単 独 の場 合 、 ● ● 型 の直 後 に 滝 が あ る の は 、 ● ○ 型 を 通 った こ と を 示す も のと 考 え ら れ る 。 第 二 段 階 か ら第 三
段 階 に 移 る 際 に 単 独 の場 合 の み に 変 化 が起 こ った の は 、 ● ○ ▼ と いう 二 つ の山 を も つ型 を き ら った も のと 考 え る 。
次 のよ う な 変 化 が 想 定 さ れ る 。
● ○ 型 の時 期 は 短 く て、 す ぐ ● ● 型 に移 った も の であ ろ う 。 第 四 ・五 類
● ○ ∼ ●○ ▽ 型 ←○ ● ∼ ●○ ▽型 ← ○ ○ ∼● ○ ▽型 ← ● ● ∼● ○ ▽型
プ ラ ス助 詞 の形 が変 化 し な か った のは 、 第一 段 階 か ら 第二 段 階 へ移 る 際 、 次 に 予 想 さ れ る ● ● ○ 型 あ る いは○ ● ○ 型 と いう 型 が 琉 球 語 で き ら わ れ る 型 であ る た め であ ろ う 。
第 三類
第 一 ・二類
● ○∼ ● ○ ▽ 型 ←〓 ○∼〓 ○ ▽ 型 ← ○ ● ○ ∼○ ● ○ ▽型 ← ○ ○ ● ∼○ ○ ● ▽型
22 () の奥 に同 じ 。
(23) の 半地、( 22) の奥 に同 じ 。
(3 の8 比) 嘉 の成 因 は 容 易 に説 け る 。
第 四 ・五 類
● ○ ∼ ● ○ ▽ 型 ← ●〓 ∼ ● ● ▽ 型
○ ● ∼○ ● ▽ 型 ← ○ ○ ∼○ ○ ▼ 型 ← ○ ○ ∼○ ○ ▽ 型
(21) の 仲 田と 同 じ 。
( 44 ) の祖納 は 次 の よ う であ ろ う。 第 一 ・二 類 第 三 類 第 四 ・五 類
︹Ⅱ︺(一 二・ 類 )(三・四 ・五類) の方 言 に つ いて
こ の種 の方 言 は 、 九 州 の 長 崎 ・鹿児 島 な ど の西 南 部 諸 方 言 と 同 種 類 の アク セ ント であ り 、 そ の 型 の高 低 の 相 も
お お む ね 似 て いる 。 私 は か つて そ れ ら の西 南 九 州 諸 ア ク セ ント は 、 大 分 式 の ア ク セ ント か ら 分 か れ 出 た も のと 推
定 し た 。 こ こ の琉 球 語 の (一 ・二類 ) (三 ・四 ・五 類 ) の 諸 方 言 の ア ク セ ント も 、 同 じ よ う な 経 過 を た ど って 成
立 し た も のと 考 え る。 す な わ ち こ れ ら の諸 方 言 で は 、第 一 ・二 類 、 第 三 類 、 第 四 ・五 類 は 、 そ れ ぞ れ 、 前 に 掲 げ
た 第 6 表 に掲 げ た ︹Ⅰ の︺ 方 言 の祖 形 か ら 、 第 7 表 のよ う な 変 化 を 起 こし て でき た も の であ ろう 。︹ 補8︺
こ れ は 、 決 し て、 こ の︹Ⅱ の︺ 方 言 が 特 別 な 変 化 を 遂 げ た こ とを 意 味 す る も の で は な い。 ︹Ⅰ の︺ 方 言 に も これ と 同 じ
よ う な 変 化 を 遂 げ た 例 が 沢 山 あ った 。 す な わ ち 、 こ のう ち 、 第 一 ・二類 に起 こ った 変 化 の第 一次 は 、 先 に 述 べた
) (2 3 半地 ・(2 奥2な)ど 、 ︹Ⅰ の︺ 諸 方 言 に起 こ った と 想 定 し た 変 化 と 同 一のも の であ る 。 第 三 類 に 起 こ った 変 化 は、(22)
第 7表
奥 ・︵2石 9川 ︶ ・︵3 那3覇 ︶ に 起 こ った と 想 定 し た 変 化 と同一
の も の で あ る 。 第 四 ・五 類 の 上 に 起 こ った 変 化 は 、 そ の 途
・二 類 ) ( 三・ 四 ・五 類 ) 諸 方 言 は 、 上 に 述 べ た よ う な 変 化 を 遂 げ て 成 立 し た も の と
中 ま で は 、 (2 川5上 ) ・︵2 石9川 ︶ ・︵3 那3覇 ︶の 上 に 起 こ っ た と 想 定 し た 変 化 と 同 種 の も の で あ る 。 と に か く 、 琉 球 語 の︵一
考 え る 。 そ う し て 、 少 な く と も 第 一 ・二 類 の 第 一次 変 化 は 、 み な 共 通 に 起 こ った も の と 考 え る 。 つま り こ れら︹Ⅱ︺
の方 言 の 祖 形 は 次 の第 8表 のよ う であ った と 考 え る 。
第 9表︹Ⅱ︺の 方 言 の祖 形 そ の 2
も っと も 、 第 四 ・五 類 の 語 は 、 ● ○ ∼● ○ ▽ 型 ← ○ ● ∼○ ● ▽ 型 と いう 変 化 を 起 こ す 時 に、 第 一音 節 が 延 び た 第 8 表︹Ⅱ︺の方 言 の 祖 形 そ の 1
も のも あっ た ろう。 そ れは 次 のよ う な 変化 を し た に ず で あ る。
● ○∼ ● ○ ▽ 型 ←〓 ○ ∼〓 ○ ▽ 型 ←○ ● ○ ∼○ ● ○ ▽ 型 ← ○ ○ ● ∼○ ○ ● ▽型 ← ○ ○ ● ∼○ ○ ○ ▼ 型
こ の場 合 には 、 第 9 表 の よ う にな る。 ま た 、 多 く の方 言 で は 、 第 四 ・五 類 の 一部 の 語彙 に の み第 一音 節 の母 音 の 延 長 が行 わ れ た 。 し た が って 次 の第 10 表 のよ う な 場 合 が 多 い。 第 10 表︹Ⅱ︺の方 言 の 祖 形 そ の 3
第 8 表 の ま ま 。
○ ○ ∼○○ ▽ 型 ← ○〓∼ ○ ● ▽ 型
さ て 、︹Ⅱ に︺ 属 す る 琉 球 語 諸 方 言 の中 で、︵1の0諸 ︶鈍 方 言 は 右 の第 8 表 の 形 か ら 発 足 し て 次 のよ う に変 化 し た も の と思う 。 第一 ・二 類 第 三 ・四 ・五 類
あ る いは 第 一 ・二類 は ● ○ ∼ ●○ ▽型 と いう 段 階 を経 て い る か と も 考 え ら れ る。 諸 鈍 付 近 の諸 方 言 のア ク セ ン
ト は、 多 少 変 化 が あ る か も し れ な いが 、 お お む ね こ の方 式 で説 明 で き る で あ ろ う 。
○ ● ∼○ ○ ▼型 ← ○ ○ ∼○ ○ ▼型
○ ○ ∼○ ○ ▽ 型 ← ● ○ ∼ ● ○ ▽ 型
) (3 6 の東 風平 は 、 第 10表 のあ と 、 次 のよ う な 変 化 を 遂 げ た も の と 思 う 。 第一 ・二 類
第 三 ・四 ・五 類
な お 、 第 四 ・五 類 の第 一音 節 の母 音 の 長 いも の は第 10 表 の ま ま 。 も し 、 こ の方 言 の第 三 ・四 ・五 類 が、 単 独 の
場 合 に ● ● 型 であ る な ら ば 、 想 定 を 変 え て 、 こ のあ と ○ ○ 型 が ● ● 型 に 変 化 し た も の と 見 る 。
○ ● ∼○ ○ ▼ 型 ←○ ○ ∼○ ○ ▽ 型 ← ● ● ∼ ● ● ▼ 型
○ ○ ∼○ ○ ▽型 ← ● ○ ∼● ○ ▽型
) (3 4 の新 里 ・(4 の2 小) 浜 ・(古 4見 3) の諸 方 言 は第 10 表 のあ と 、 次 のよ う に変 化 し た も の であ ろ う 。︹ 補9︺ 第 一 ・二類 第 三 ・四 ・五 類
新里 の第 四 ・五 類 の 一部 ○ ○ ● ∼○ ○ ○ ▼型 ← ○ ○ ○ ∼○ ○ ○ ▽ 型 ← ● ● ● ∼ ● ● ● ▼ 型
5 (3 ) の 仲 村渠 は 、 第 三 ・四 ・五 類 は 、 新 里 と 同 じ に 変 化 し 、 た だ し 、 第 一 ・二 類 が次 のよ う な 変 化 を し た も の で あ ろう。 ○○ ∼○ ○ ▽ 型 ← ● ○ ∼○ ● ▽ 型
( 1)4 の大 川も 、 第 三 ・四 ・五 類 は 、(4 の3小)浜 と 同 様 の 変 化 を 遂 げ 、 た だ し 、 第 一 ・二 類 の 一部 が 、 ○○ ∼○○ ▽型←●○ ∼●● ▽型
の変 化 を 遂 げ た も のと 見 ら れ る 。 も っと も 、 一類 名 詞 の場 合 は、 プ ラ ス助 詞 の場 合 に は ● ○ ▽型 に変 化 し て いる が 、 こ れ は 、 第 二 モー ラ の独 立 性 が 乏 し いた め の変 異 と 見 ら れ る 。
(3 の2 首) 里 は 新 里と 全 く 同 じ と 見 ら れ る が 、 私 自 身 首 里方 言 を 観 察 し た 印 象 では 、 ○ ○ ∼○ ○ ▽ 型 ← ● ○ ∼● ○ ▽ 型 ← ● ○ ∼ ● ● ▽ 型
と いう 変 化 を 遂 げ た よ う に 見 え る。 あ る いは 、 さ き の 仲村 渠 も 、 ● ○ ∼ ● ○ ▽型 と いう 段 階 を 経 過 し た か も し れ な い。 ( 1)3 の屋宜 原 は ま ず 首 里 の方 言 のよ う に 変 化 し 、 後 、 さ ら に 第 一 ・二類 が、 ● ○ ∼● ● ▽型 ← ● ● ∼● ● ▽型
と いう 変 化 を 遂 げ た も ので あ ろ う 。 た だ し、 問 題 は 、一 音 節 名 詞 の第 三 類 が ● ○ ∼○ ○ ▼ 型 であ る こ と であ る 。
こ の方 言 は 、 一音 節 名 詞 と二 音 節 名 詞 と の第 三 類 の ア ク セ ント が 一致 し て いな いと いう 点 で 、 琉 球 語 の中 で珍 し い方 言 のよ う で あ る 。 こ の方 言 で は 、 第 三類 一般 がま ず 、 ○ ● ∼○ ○ ▼型 ← ○ ○ ∼○ ○ ▼ 型 と いう 変 化 を 起 し 、 そ れ か ら二 音 節 語 で はさ ら に 、 ← ○ ○ ∼○ ○ ▽ 型← ● ● ∼● ● ▼型
と いう 変 化 を 起 こし 、 一方 一音 節 語 では 、 ← ●○ ∼○ ○ ▼型 と いう 別 の道 を 歩 いた も のだ ろ う か 。 こ れ は ち ょ っ と 困 った 。
︹Ⅲ︺︵一 二・・三類 )(四 ・五類 ) の方 言 に つ いて
こ の種 の方 言 は 、 九 州 で いう と 、 福 岡方 言 の ア ク セ ント と よ く 似 たも の であ る 。 琉 球 方 言 の中 で も (5 名︶ 瀬 ・︵3︶
手久津 久 ・︵2 阿︶ 伝 な ど は 、 そ の型 の相 も 福岡 方 言 に似 た 点 があ る 。 こ れ は 福 岡 方 言 と 同 じ よ う な 経 過 を た ど って
次 のよ う に 変化 し 、 一方 第 三 類 、 第 四 ・五 類 は 変 化 し な か った た め に 、 第 一 ・
こ の ア ク セ ント は 四 九 二 ペー ジ の第 6 表 に挙 げ た ア ク セ ント の第 一 ・二類 が
成 立 し た ア ク セ ント 体 系 と 見 て い いと 思 う 。 福岡 方 言 の ア ク セ ント は 次 の第 11 表 の よう であ る。 第11表 ︹Ⅲ の︺ 諸方 言 の祖形 の 二音 節名 詞
二 類 と 第 三 類 と が合 流 し 、 そ う し て で き た も のと 解 せ ら れ る 。 第 一 ・二類 の第
三 段 階 、 す な わ ち 全 低 型 の段 階 は 、 ︹Ⅰ に︺ 属 す る 半 地 や 奥 と 同 じ 段 階 であ って 、
○ ● ∼○ ● ▼型 ← ○ ○ ∼○ ○ ▼型 ←○ ○ ∼○ ○ ▽型 ← ●○
これ も 特 に 特 異 な 変 化 を 遂 げ た わ け で は な い。 第 一 ・二 類
∼○ ● ▽型 ← ○ ● ∼○ ● ▽型
琉 球 諸 方言 のう ち︹Ⅲ の︺ 諸 方 言 は 、 大 体 こ の 福 岡 方 言 の体 系 から 生 じ た と 説 明
す る こと が で き る と 思 う 。 す な わ ち 、 右 の第 11表 は 、 福 岡 方 言 の ア ク セ ント を 示 す と 同 時 に ︹Ⅲ の︺ 諸方 言 の祖形を
示 す も の であ る 。 た だ 違 う と こ ろ は 、一 音 節 語 の第 三 類 は、 こ の表 でも二 音 節 語 の第 三 類 の方 に属 し て いる点 で
第 一 ・二・三 類 第11 表 のま ま 。
○ ● ∼○ ● ▽ 型 ←○ ● ∼○ ○ ▼ 型
あ る 。 例 え ば 、 (5 の) 名 瀬方 言 は こ の第11 表 のあ と 、 次 のよ う に変 化 し て で き た も のと 見 る 。
第 四 ・五 類
ち ょ っと 見 る と 、 第 一 ・二 類 は 先 の第 6 表 の○ ● ∼○ ● ▼ が 変 化 し て ○ ● ∼○ ○ ▼ に な った だ け のよ う に も 見
え る 。 し か し 、 こ の方 言 の○ ● 型 、 ○ ○ ▼ 型 に は、 いず れ も 末 尾 に滝 が あ る 。 こ れ は 、 一度 ○ ● ∼○ ● ▽ 型 の時 代 を 経 過 し た と 見 る方 が い いと 思 い、 右 のよ う に想 定 し た。
な お 、 こ の方 言 で は 、 自 然 の発 音 で、 第 一 ・二 ・三 類 が ●○ ▼調 に 実 現 す る 。 これ は 、 こ の方 言 が ○ ● ∼ ● ○ ▽型 に変 化 し よ う と し て いる こ と を 表 す と 思 う 。
第一 ・二 ・三 類
● ○ ∼ ● ○ ▽ 型 ← ● ● ∼ ● ● ▽ 型 ←○ ● ∼○ ● ▼型
そ の ま ま 。
9 (1 ) の国 頭方 言 は 、 (5 の) 名瀬 のあ と 、 次 のよ う に 変 化 し た も の であ ろ う 。
第 四 ・五 類
こ の方 言 は 、 ○ ● ▼ 型 の末 尾 に 滝 があ る か も し れ な い。
0 () 2 の立 長方 言 は 、 ま ず 第 一 ・二 ・三 類 は、( 19) の国 頭 のあ と 、 さ ら に 次 の よう に変 化 し て でき た も の であ ろ う 。 ○ ● ∼○ ○ ▼ 型 ← ○ ○ ∼○ ○ ▽型 ← ● ○ ∼ ●○ ▽型 第 四 ・五 類 は 次 のよ う であ ろ う 。 ● ○ ∼ ● ○ ▽ 型 ← ○ ● ∼○ ● ▽型 ←○ ○ ∼○ ○ ▼型 ←○ ○ ∼○ ○ ▽型
最 後 に 一つ(3 7) の 糸 満 が残 った が 、 こ れ は 、 上 村 氏 も は っき り 音 調 を 示 し て お ら れ な い の で、 推 定 は 見 合 わ せ る こ と にす る。
原 稿 を 書 き 終 え た あ と で 、 奄 美 諸 島 の ア ク セ ント に 関 す る 次 の二 つ の業 績 に 接 し 、 多 く の事 実 を 教 え ら れ た 。
﹁奄 美 諸 島 の 諸 方 言 ﹂ ﹁奄 美 諸 島 諸 方 言 の 言 語 年 代 学 的 調 査 ﹂ ( とも
沖 永 良 部 島 、 徳 之 島 の部 ﹂ (﹃ 鹿 児島 大 学 文 科 報 告﹄ 第 八 号 所載 )、
前 者 は 、 き わ め て 多 く の地 点 の 方 言 に つ い て 精 密 な 音 声 学 的 な 記 述 を 試 み て いる 点 で 尊 重 す べ く 、 後 者 は 、 ア ク セ
◎ 上 村 孝二 氏 ﹁奄 美 方 言 の ア ク セ ン ト︱
に 九学 会 連合 奄 美 大 島 共 同 調査 報 告書 ﹃ 奄 美 ﹄ 所載 )、
◎ 服 部 四 郎 ・上 村 幸 雄 ・徳 川 宗 賢 三 氏 共 同 執 筆
︹ 補 記 ︺
ント の 系 統 を 考 え る 上 に 重 要 な 語彙 に つ い て、 そ の ア ク セ ント が 示 さ れ て いる 点 であ り が た い 。 こ こ で こ れ ら の成 果
を 頂 戴 し て 、 も う 一度 初 め か ら 稿 を 改 め よ う か と も 思 った が 、 い か に せ ん 原 稿 の で き 上 が り は こ れ 以 上 延 期 を 許 さ れ
ぬ し 、 ま た 、 こ こ に 述 べ た 私 の結 論 は こ の 新 し い業 績 に よ って も 特 に 変 え な け れ ば な ら な いと こ ろ は な さ そ う に 思 わ
れ る の で 、 あ え て も と の ま ま の 形 で 公 開 す る こ と に し た 。 わ ざ わ ざ 抜 き 刷 り を 御 恵 与 く だ さ った 服 部 博 士 ほ か の諸 氏 に慎 ん で 非 礼 を お 詫 び す る 。
次 に 、 こ れ ら の業 績 の中 か ら 、 私 の 小 論 と 深 い関 係 を も つ部 分 を 私 の 言 葉 で 取 り 次 が せ て いた だ く 。
1 奄 美 諸 島 の方 言 の ア ク セ ント は 、 大 体 こ の小 論 で 取 り 扱 った 方 言 のど れ か と 類 似 す る も の で 、 特 に は な は だ し
く 違 う も の は な いよ う だ 。 つま り 、 こ の稿 で取 り 扱 わ な か った 諸 方 言 の ア ク セ ント も 、 こ こ に 取 り 扱 った 諸 方 言 と ほ ぼ 同 様 に し て そ の系 統 を 推 定 す る こと が で き そ う だ 。
2 第 1 表 で 、 型 の 具 体 的 な 相 のは っき り し な か った 諸 方 言 の ア ク セ ント は 、 服 部 氏 に よ っ て第 12 表 のよ う で あ る
( ウ ケ ) 島 の地 徳 方 言 は 、 こ の 付 近 で は 珍 し い(一 ・二類 ) (三 類 ) (四 ・五 類 )
こ と が 明 ら か に さ れ た 。 いず れ も 助 詞 を 付 け な い単 独 の場 合 であ る。 3 服 部 氏 に よ る と 、 奄 美 大 島 請
( ← ● ○ 型 )、 第 四 ・五 類 に ● ○ 型
( あ る い は ● ○ 型 か )、 第 三 類 は ○ ● 型 、 第 四 ・五 類 ・二 類 に○ ● 型 ← ○ ○ 型
の方 言 で あ る ら し い。 そ の 型 の 相 は 、 第 一 ・二類 は ○ ○ 型 は ● ● 型 で あ る 。 こ れ は 、 第 6 表 の 方 言 か ら 第一
第 12 表
← ● ● 型 と いう 変 化 が 起 こ って で き た 方 言 で あ ろ う 。
4 服 部 四 郎 氏 ・上 村 孝 二 氏 に よ る と 、 徳 之 島 徳 之 島 町 各 地 の、 諸 方 言 の ア ク セ ント は 、 第 2 表 に 挙 げ た 沖 縄 本 島
北 部 の 諸 方 言 よ り も 、 な お 九 州 の 大 分 地 方 の ア ク セ ン ト に 似 て い る 。 こ れ は 、 三 音 節 名 詞 に 至 って も そ う で あ る 。
こ れ は 、 平 山 輝 男 氏 が 昭 和 十 二年 の昔 に 在 京 の知 人 に つ い て 行 わ れ た 調 査 報 告 が 正 し か った こと を 物 語 る も の で 、 こ れ ま で 氏 の発 見 を 利 用 す る こ と を 知 ら な か った 私 は 愚 か で あ った 。︹ 補10︺
5 た だ し 、同 じ 徳 之 島 で も 、西 部 ・南 部 の ア ク セ ン ト は 、第一 ・二類 と 第 三 類 と で 型 の相 違 が 逆 であ った り 、両 方
と も 歩 み 寄 った り し て いて 、な か な か 単 純 で は な い こと が 分 か った 。逆 に な って いる 場 合 に は 、第一 ・二 類 に ○ ○
▽ 型 ← ○ ● ▽ 型 と いう よ う な 変 化 が 、 第 三 類 に は 、 ○ ● ▽ 型 ← ○ ○ ▼ 型 と いう よ う な 変 化 が 起 こ った と 想 定 す る 。 6 徳 川 氏 に よ る と 、 与 論 島 麦 屋 西 の方 言 は 、一 型 ア ク セ ント に近 い 。
た が 、 上 村 孝二 氏 の 報 告 を 読 ん で 、 そ の 心 配 は 除 か れ た 。 氏 に よ る と 、 同 じ 町 の 西 原 で 、 ﹁ 桶 ﹂ は ● ● ∼ ●○ ▽
7 第1 表 で︵1 の9国 ︶頭 方 言 に つ いて は 、二 音 節 名 詞 の第 四 類 と 第 五 類 と の区 別 が あ る の か と 本 文 の中 で 疑 いを 残 し
型 であ る が 、 第 四 類 の 語 で も 、 第二 音 節 が 独 立 性 の弱 い音 韻 を も つも のは 規 則 的 に そ う な って お り 、 そ れ も 共 通
語 の 形 で発 音 す れ ば○ ● ∼○ ● ▽型 に な って し ま う と いう 。 こ れ は う れ し い報 告 だ った 。 逆 に 第 五 類 の う ち 、 第
二 音 節 の独 立 性 の 強 いも の は 、 ○ ● ∼ ○ ● ▽ 型 で あ る 。 そ う だ と す る と 、 国 頭 で も ○ ● ∼ ○ ● ▽ 型 に 属 し た 語 が
音 韻 の違 い に よ って二 つ の 型 に 分 裂 し た こ と 明 ら か で あ る 。 な お 、 第 三 類 は 単 独 の 場 合 、 ○〓 型 と す べ き か も し れ な か った 。
8 上 村 孝 二 氏 の 報 告 の 中 に は 、 幾 つか の方 言 に お け る 三 音 節 名 詞 の ア ク セ ント が 言 及 さ れ て いる が 、 そ こ に 見 ら
れ る 範 囲 内 で は 、 一音 節 名 詞 ・二音 節 名 詞 に つ い て 私 が試 み た 推 定 を 破 る こと な く 、 ま た 三 音 節 名 詞 の変 化 の あ
と も 一音 節 名 詞 ・二音 節 名 詞 の 場 合 に 準 じ て 推 定 で き る も の の よ う で あ る 。 動 詞 ・形 容 詞 の ア ク セ ン ト に つ い て
は 、 は っき り し た こ と は 言 え な い が 、 こ れ は 、 奄 美 ・琉 球 諸 方 言 の 動 詞 ・形 容 詞 の 語 形 が 内 地 諸 方 言 の そ れ と 違 う た めに 、関係 を にわ か に明ら か にし がた いのであ ろう。
( 幸︶ ・徳 川 ・上 村
( 孝) の 諸 氏 の研 究 を 十 分 に 利 用 し き って いな い点 が 気 に な る が、 こ のあ と 、 平 山 輝 男 氏 ら に よ っ
︹ 付 記 ︺ 筆 者 が 、 今 ま で に 琉 球 語 に つ いて 発 表 し た た だ一 つ の リ ポ ー ト で あ る 。 ︹ 補 記 ︺ に 記 す よ う に 、 服 部 ・上 村
て大 規模な 研究 が行わ れ てそ の成果 も公 表さ れ てお り、筆 者自 身も 沖 縄と 八重 山 の地を 踏 ん で多少 調査 を 進 めた こと
も あ り 、 そ れ ら の結 果 を 盛 り 込 む と 、 ど こま で 手 を 入 れ て よ いか 収 拾 が つか な く な る の で 、 思 い切 って も と の 原 稿 の
ま ま で 収 め る こ と に し た 。 平 山 氏 が 大 体 こ の 稿 に 述 べ る 趣 旨 に 賛 意 を 寄 せ ら れ た こ と 、 外 間 守 善 氏 が 買 っ てく だ さ っ た ことは 、心 強 いこと であ る。
第1図 琉 球 語 諸 方 言 ア ク セ ン ト分 布 図
補
注
︹1︺ 服 部 四郎 ﹃ ア ク セ ント と 方 言 ﹄ (﹃ 国 語科 学 講 座 ﹄ 中 の一 冊 、 昭八 年 八月︶、 ﹁琉 球 語 管 見 ﹂ (﹃ 方 言 ﹄ 第 七 巻 第一 ○ 号 所 載 、
昭 十 二年 十二 月 )、 ﹃日本 語 の系 統 ﹄ ( 昭 三 十 四 年一 月 、岩 波 書 店 刊 )、 平 山 輝 男 ﹁ア ク セ ント か ら観 た 琉 球方 言 の系 統 ﹂ (﹃ 方 言 ﹄第 七巻 第 六 号所 載 、 昭 十 二年 八 月︶ な ど 。
︹2 ︺ 昭 和 三 十 八年 十二 月、 十 日間 ば か り旅 行 し 、 那 覇 ・名 護 と 石 垣 に滞 在 し 、 外 間 守 善 ・屋 比久 浩 氏 の指 導 で幾 つか の町村 の ア ク セ ント を 調査 し た 。
︹3 ︺ こ の稿 で は、 ﹁凡例 ﹂ で述 べた よう に、も と の原 稿 の ﹁ 音 節 ﹂ と いう 術 語 を ﹁ 拍 ﹂ と いう術 語 に書 き 換え る こと を控 え た 。 ︹4 ︺ そ の後 具 体 的な 調価 がは っき りし た ので、 五 〇 三 ペー ジ以 下 に 補記 し た 。 ︹5 ︺ こ の本 の三 四 七 ペー ジ 以 下 に掲 げ た 小稿 の こと 。
︹6 ︺ 服部 四郎 ﹁奄美 群 島 の諸方 言 に つ いて﹂ (﹃ 日 本 語 の系 統 ﹄ 所載 、 ︹1︺ に前 出 ) の二 八〇︲二 八二 ペー ジ 。
︹7︺ 第 三類 二 拍 名詞 の語 に 付く 時 に、前 の拍 と 同 じ高 さ にな ろう とす る 傾 向 が多 く の諸方 言 に見 ら れ る。 ︹8 ︺ こ の本 に 載 せた ﹁対 馬 ・壱 岐 ア ク セ ント の地 位﹂ に述 べた。 ︹9 ︺ こ の推定 は無 理 であ る。 第 三 ・四 ・五 類 は 低 平 型 では な いか。 ︹10 ︺ ﹁アク セ ント か ら 観 た琉 球 語 の系統 ﹂ (︹ 1 ︺ に前 出)。
佐 渡
一
ア ク
セ ン ト
は じ め に
の 系 統
佐 渡 方 言 の ア ク セ ン ト に つ い て は 、 す で に 早 く 、 平 山 輝 男 氏︵1) ・剣 持 隼一 郎 氏 (2 ) ・生 田 早 苗 氏 ( 3)に よ っ
て 調 査 が な さ れ て お り 、 さ ら に 近 く は 九 学 会 連 合 で の 岩 井 隆 盛 氏 の 発 表 も あ って 、 そ の 性 格 も 大 体 の と こ ろ は 明
ら か に な っ て い る 。 諸 氏 の 説 を 総 合 す れ ば 、 佐 渡 方 言 の ア ク セ ン ト は 、 対 岸 の 越 後 方 言 と は 異 な って 、 著 し く 近
畿 方 言 の ア ク セ ント に 似 て お り 、 そ れ は 富 山 県 以 西 の 諸 方 言 の ア ク セ ン ト に 近 い も の だ と い う こ と に な る 。
私 の今 度 の調 査 ( 4)も 、 こ の 点 に お い て は 、 こ れ ら の 先 達 諸 氏 の 研 究 を そ の ま ま 支 持 す る の で 、 特 に 改 め て 調
査 の 結 果 を 公 開 す る 意 義 も 少 な い が 、 こ こ で 私 は 、 諸 氏 が 黙 し て お ら れ る 、 ﹁佐 渡 ア ク セ ン ト は ど の よ う に し て
近 畿 諸 方 言 の ア ク セ ン ト か ら 分 か れ 出 た か ﹂ と いう 過 程 に つ い て の 私 見 を 述 べ る こ と に す る 。
注 (1 ) ﹃コト バ﹄第 五巻 第 一号所 載 の ﹁佐渡 アク セ ント に就 いて ﹂ (2) 郷 土 研究 ﹃ 佐 渡 ﹄ 第 一集 所 載 の ﹁ 佐 渡 の音 調﹂
昭 和 十 九年 九 月 六 日 に 開 かれ た 東大 の言 論 学 研究 会第 十 三 回例 会 に ﹁ 佐 渡 の アク セ ント ﹂ と いう 題 で 口 頭 発 表 が 行 わ れ、 そ
(3 ) 小 倉 進 平博 士 の還 暦 記念 祝 賀 の論 文 集 に載 る 予 定 で書 か れ た も のだ った が、当 時 の 出 版事 情 か ら 活 字 にな らな か った。
の簡 単 な 記事 が 、"Toyogo Keの n 創k刊 y号 uの "一 〇 三 ペー ジに出 て いる 。
(4) 三 十 五 年 八月五︲ 十 二 日 の八 日 間 にわ た り 行な った 。一 部 は同 行 の南 不二 男 ・芳賀綏 両 氏 に調査 を 依 頼 し た。
二 概 観
は じ め に 、 調 査 で き た 地 点 と そ の ア ク セ ント の大 体 の性 格 を 示 す と、 図 のよ う に な り 、 ア ク セ ント の具 体 的 様
相 を 示す と 、 表 の︹A︺︱の ︹よ Ⅰう ︺に な る 。(1︶ 図。の ︹ ︺ 印 は 同 行 の南 不 二 男 氏 に、 ( ) 印 は 同 じ く 芳 賀綏 氏 に 、
そ れ ぞ れ 調 査 を お 願 いし た も のを 表 す 。 *印 は 私 自 身 そ の 地 を 踏 ま ず 、 佐 渡 の 他 の地 点 で 調 査 を 遂 げ た も のを 表 す 。︵ 2)
大 部 分 の 佐 渡 方 言 のア ク セ ント は 、 本 州 諸 方 言 のア ク セ ント に比 べ、 多 少 不 安定 な 傾 向 が 目 立 ち 、 特 に、 ● ●
型 か ○ ● 型 か 、 ま た ● ● ● 型 か ○ ● ● 型 か と いう 第一 拍 の高 低 に関 す る 判 定 は 、 難 し か った 。 表 で は 、 相 川 ・姫
津 だ け 第 一拍 を 低 く 、 他 の方 言 では 第 一拍 を 高 く 聞 き な し た が 、 あ る いは こ の 区 別 は な いか も し れ な い。 ま た 、
︹E︺︹の H二 ︺拍 ︹名 I︺ 詞 + 助 詞 の 形 は 、 両 津 ・小 木 ・外 海 府 な ど 広 い地 域 に わ た って ● ● ● 型 と ● ● ○ 型 と の間 を 移 動 し て いる よ う に観 察 さ れ た 。( 3)
図 な ら び に 表 の︹ A︺︱ ︹I を︺ 大 観 す る と 、 佐 渡 方 言 の ア ク セ ント に つ いて こう いう こと が 言 え る。
(1 ︶ 佐 渡 の代 表 的 な ア ク セ ント は 、 両 津 を は じ め 、 河 原 田 ・金 沢 ・畑 野 ・水 津 と い った 、 国 中 平 野 地 域 か ら 東
海 岸 に 分 布 し て いる も の であ る。 こ れ は 確 か に 、 越 後 方 言 の ア ク セ ント よ り 種 々 の点 で近 畿 方 言 に似 た も の であ る 。
(2 ︶ 西 南 部 の 小木 ・羽 茂 ・赤 泊 ( 徳 和 )・西 三 川 地 域 の ア ク セ ント は、 多 少 性 格 の違 う も の で 、 い っそ う 近 畿
方 言 に 似 た 点 が あ る 。 北 部 の高 千 ( 北 片 辺 ・田 野 浦 )・外 海 府 (小 田 ・大 倉 ) 方 面 のも のも 小 木 町 そ の 他 の
も のに 似 て いる が、 多 少 違 う 点 も あ る 。 小木 町 沢 崎 のア ク セ ント が 地 理的 位 置 を 無 視 し て、 高 千 ・外 海 府 方
言 のも の に よ く 似 て いる こと は 注 目 さ れ る 。 真 野 ・黒 姫 に は、 (1 と) (2 の) 中 間 の よう な ア ク セ ント が行 わ れ て いる 。
佐 渡 ア クセ ン ト分布 図
ら れ る あ ら ゆ る 種 類 のア ク セ ント を 持 つ町 村 を 渡 り 歩 く こ と に な る 。
3 ︹旧内 海 府村 黒姫 ︺
2 *小 木 町沢 崎
2 旧真 野 町 ・旧 河崎 村 ・旧 水津 村 ・*旧岩 首 村 赤 玉 ・*畑 野村 畑野
両 津 式 アク セ ント 1 両津 市 、 *旧 加 茂村 ・*旧 吉井 村 ・旧 金 沢村 ・旧 河原 田 町 ・*旧 八幡 村 ・*旧二 宮 村 ・*旧沢 根 町 ・
注 (1 ) 調査 地 点を アク セ ント の違 いご と に類 別 し て挙 げ る と、 次 のよ う にな る。
旧二 見村 ・*新 穂村
小 木 式 ア ク セ ント 小 木 町 ・︵ 羽 茂 町)・西 三 川村 ・︹ 旧 赤 泊村 徳 和 ︺ 外 海 府 式 ア クセ ント 1 ︵ 旧 高 千村 北 片 辺 )・︹ 同 田 野浦 ︺・︹ 旧 外 海府 村 小 田 ︺・同 大 倉 金 泉 式 ア ク セ ント ︹ 旧金 泉 村 達 者︺・︹ 同 北狄 ︺・*同 戸 中 相 川 式 ア ク セ ント 相 川町 姫 津 式 ア ク セ ント 旧金 泉 村 姫津
( 2 ) 図 の ︽ ︾ の印 は、 生 田 早 苗 氏 の調 査 の結 果 を 借 り た こと を 表す 。 同 氏 に 従う と 、 旧 外 海府 村 関 ・旧内 海 府 村 願 の ア ク セ ント は 、 北片 辺 ・大 倉 に似 た も のら し い。
( 3 ) 平 山 氏 によ る と 、河 崎 村 羽 二 生 ほか 、 四 つの地 域 で 、 二拍 名 詞 +助 詞 の形 が近 畿 諸 方 言 と そ っく り の ア ク セ ント を 持 って
おり 、 二 見村 窪 田 で は、 ﹁ 風 が﹂ の類 と﹁ 肩 が﹂ の類 と が合 流 し て、 ﹁ 雨 が﹂ の類 が 分 か れ て いる よ う に報 告 さ れ て いる。 こ
れ は 、 こ れら のア ク セ ント が 不 安定 であ る た め に、 違 って 聞 き な さ れ た ので は な いか と 解 す る。 剣 持 氏 の報 告 にも そ のよ う な 個 所 が 見受 け ら れ る。
︹A︺ 室 町時 代 の京 都方 言 で●● 型 の語彙
︹B︺ 室 町 時 代 の 京 都 方 言 で● ○ 型 の 語彙 ︹ 補l︺
︹C︺室 町 時代 の京 都方 言 で○ ●型 の語彙 ︹ 補2︺
︹D︺室 町時代 の京都 方言 で○〓 型 の語彙 ︹ 補3︺
︹E︺ 室 町時代 の京 都方 言 で● ●● 型 の語彙
︹F︺ 室 町 時 代 の京 都 方 言 で ● ● ○ 型 の 語 彙 ︹ 補4︺
︹G︺室 町時 代 の京都 方 言 で●○ ○型 の語彙
︹H︺室 町 時代 の京 都方 言 で○ ●● 型 の語彙
︹I︺ 室町 時代 の京 都方 言 で○ ●○ 型 の語彙 ︹ 補5︺
三 佐 渡 ア ク セ ント の 成 立 過 程
さ て 以 上 の よう な 佐 渡 諸 方 言 の ア ク セ ント は 、 他 の日 本 諸 方 言 と ど の よ う な 関 係 を 持 つも の であ ろう か 。 主 流
の諸 方 言 と は 、 い つ、 ど のよ う に し て分 か れ 出 た も の であ ろう か 。 こ のア ク セ ント は 、 案 外 系 統 の た ず ね が た い
ア ク セ ント で あ る 。 し か し 、 佐 渡 以 外 の日 本 語 諸 方 言 の ア ク セ ント は大 部 分 室 町 時 代 の京 都 アク セ ント か ら 分 か
れ 出 た も のと し て説 明 でき る。 こと に、 系 統 上 佐 渡 に似 て いそ う な 富 山 県 以 西 の諸 方 言 は す べ て そ う 考 え る の が
定 説 であ る 。 そ こ で 、 こ の方 言 の ア ク セ ント も そ のよ う に し て説 明 で き な いか ど う か 、 一応 試 み る こと とす る 。
考 察 は 表 の︹A︺ ︹︱の︹各Iグ ︺ルー プ ご と に行 な う が、 順序 は 最 も 容 易 な も のか ら 先 に 取 り 扱 う 。 (1) 室 ︹町 B時 ︺代 の京都 方言 で● ○ 語 の語彙
こ う いう こ と が 言 え る
これ は も っとも 説 明 簡 単 で あ る 。 佐 渡 諸 方 言 でも ほ と ん ど す べて ● ○ 型 で あ る 。 し た が って 、 こ の 語彙 は 、 室
町 時 代 の京 都 方 言 の ア ク セ ント が、 佐 渡 方 言 で は そ の ま ま 保 た れ て いる と 見 てよ い。︱
の は 北 陸 ト ンネ ル以 東 の北 陸 諸 方 言 で は、 石 川 白 山 麓 の別 天 地 の白 峰 方 言 と 佐 渡 方 言 あ る のみ であ る 。 佐 渡 方 言 の こ の点 に お け る 伝 統 保 守 性 は尊 重 し て よ い。
た だ 、 姫 津 では 、 ﹁葉 が﹂ の類 を ●○ 型 、 ○ ● 型 の両 様 に 言 う 。 こ の方 言 で は 、 一拍 名 詞 の● 型 と ○ 型 と の間
に混 同 が 起 こ った こと の証 拠 と 見 ら れ る 。( (8 を)参 照) (2 ) ︹F室︺町時 代 の京都 方言 で● ● ○型 の語彙
こ れ は ほ と ん ど す べ て の方 言 で● ● ○ 型 であ る 。 これ も 室 町 時 代 の京 都 方 言 の ア ク セ ント が そ のま ま 保 た れ た
も の と解 す る 。 相 川 で は○ ● ○ 型 であ る が 、 こ れ は ● ● ○ 型 ← ○ ● ○ 型 と いう 変 化 を 起 こ し た と 見 れ ば よ い。 相
川 と 姫 津 では ● ● ⋮ ⋮ と いう 形 の 型 は な く 、 そ の代 わ り に ○ ● ⋮ ⋮ と いう よ う な 形 の 型 が あ る。 こ の両 方 言 では 、
● ● ⋮ ⋮ と いう 型 が規 則 的 に ○ ● ⋮ ⋮ 型 に変 化 し た と 解 さ れ る 。 黒 姫 ・北狄 ・戸 中 な ど の地 域 で は ﹁風 も ﹂ の形
が● ● ● 型 と な って いる が 、 これ は こ の地 方 で 助 詞 ﹁も ﹂ の ア ク セ ント を 一般 の助 詞 と 同 じ 型 に 混 同 し て し ま っ
た と 考 え れ ば よ い。 北 片 辺 ・大 倉 で は ● ● ○ 型 であ る が、 こ の 地方 では 逆 に ﹁風 が﹂ も ﹁風 も ﹂ と と も に ●●○
型 で あ る 。 要 す る に、 大 佐 渡 の中 部 以 北 で は 、 ﹁ も ﹂ と いう 助 詞 の ア ク セ ント と 他 の 助 詞 の ア ク セ ン ト の混 合 が 起 こ った と 解 さ れ る 。 (3 ) ︹G室︺町 時代 の京 都方 言 で●○ ○型 の語彙
佐 渡 諸 方 言 でも 大 体 ● ○ ○ 型 で あ る 。 こ れ ら の語 彙 も 、 原 則 と し て室 町時 代 の京 都 方 言 の ア ク セ ント を そ のま
ま 保 存 し て いる も のと 見 ら れ る。 こ れ も 、 水 津 ト ンネ ル以 東 で の珍 し い特 色 であ る。 た だ し 、 ﹁起 き る ﹂ ﹁動 く ﹂
の類 が 相 川 か ら 戸 中 に か け て の方 言 で、 ﹁白 い﹂ の類 が 全 島 の多 く の方 言 で、 ● ● ○ 型 ま た は ○ ●○ 型 で あ る 。
こ れ は 、 そ れ ぞ れ 日常 頻 繁 に 用 いる 、 ﹁起 き て﹂ ﹁動 いて ﹂ ﹁白 う ﹂ のよ う な 形 の ア ク セ ント へ類 推 し て 変 化 し た
ので あ ろ う 。 ﹁白 い﹂ を 北 片 辺 の地 方 で ● ○ ○ 型 に 言 って いる のは 、 古 形 保 存 の例 と 見 ら れ る 。 ﹁書 か ん﹂ の形 は
地 域 に よ りさ ま ざ ま に な って いる が、 こ れ も ﹁書 く ﹂ ﹁書 い て﹂ な ど の 形 へ の類 推 の結 果 によ る も の で、 ● ○ ○ 型 が 古 形 と 見 ら れ る。 (4) 室 ︹町 C時 ︺代 の京 都方 言 で○● 型 の語彙
多 く の方 言 を 通 じ て ● ● 型 であ る 。 これ は○ ● 型 か ら 規 則 的 に 変 化 し た も の に違 いな い。 とす る と 、 そ れ は ●
● 型 と ○ ● 型 と の間 に 混 同 が起 こ って、 す ぐ 変 化 し たも の か と も 思 わ れ る が 、︱
ま た そ う いう 方 言 も あ る か と
思 わ れ る が 、 こ れ は ち ょ っと 問 題 であ る。 相 川 ・姫 津 方 面 で一 部 が●○ 型 に な って い る例 が あ る点 に 注 意 し た い。
そ う す る と 、 ○ ● 型 か ら 一度○ ○ 型 に変 化 し 、 し か る 後 ● ● 型 と ● ○ 型 と に分 か れ た と 見 た ほ う が よ さ そ う に 思
う 。 これ は 、 次 の○ ● ● 型 の語彙 の変 化 を考 え る場 合 に い っそ う 適 当 と 考 え ら れ る 。 (5 ) ︹ H︺室 町時 代 の京都 方言 で○ ●● 型 の語彙
多 く の方 言 を 通 じ て ● ● ● 型 にな って いる 例 が 多 い。 こ れ は ○ ● ● 型 が規 則 的 に変 化 し て で き た も のと 思 わ れ
る 。 た だ し 、 そ れ は ○ ● ● 型 か ら 直 接 ● ● ● 型 に 変 化 し た と 考 え る こ と は 困 難 であ る。 な ぜな ら ば 、 佐 渡 方 言 で
︹E の︺ 語 と 、 ︹I の︺ 語 と が 混 同 し て同 じ 型 に な って お り 、︹ H︺ の型 の語 の み が 別 の型 にな って い る場 合 が あ る か ら であ
る 。 小 木 ・沢 崎 ・北 片 辺 ・大 倉 で︹H︺の﹁肩 が﹂ の類 が● ● ● 型 に な って いる のは こ れ で、 ︹E の︺﹁風 が﹂ の類 、 ︹I︺
の ﹁雨 が ﹂ の類 が 共 に● ● ○ 型 にな って いる の に、 な ぜ︹H の︺ 語 が ● ● ● 型 に な って いる の か、 ま こと に 不 思 議 で
あ る。 こ の事 実 を 説 明す る た め に は 、︹H の︺○ ● ● 型 は 一応 ○ ● ● 型 ← ○ ○ ● 型 ← ○ ○ ○ 型 と いう 経 過 を た ど り 、
そ の後 で● ● ● 型 に変 化 し た と 見 た い。 相 川 ・姫 津 の○ ● ● 型 は 二 次 的 変 化 と 見 ら れ る 。︹ H︺ の語 彙 の中 に は、 方
言 に よ り ● ● ○ 型 、 ○ ● ○ 型 のも のが 混 じ って いる が 、 こ の事 実 の説 明 のた め に も 、 変 化 す る 中 間 に ○ ○○ 型 だ った 時 期 があ った と 考 え ら れ る 。 (6 ) ︹D室︺町時代 の京 都方 言 で○〓 型 だ った語彙
こ の種 の語 彙 は 佐 渡 方 言 で ● ● 型 ま た は ● ○ 型 に な って いる 。 こ れ は (7 に) 述 べる ︹I の︺ 語彙 の場 合 に 準 じ て考 え
る な ら ば 、一 度 ○ ● 型 にな り 、 も と の● ● 型 と 統 合 し た 。 そ の後 、 ○ ○ 型 を 経 て ● ● 型 に 変 化 し た が、 ﹁書 け ﹂
の類 は、 文 末 に 用 いら れ る こ と が 多 いと いう 理 由 で、 末 尾 が 低 く な り 、 ●○ 型 に な った も のと 見 ら れ る。 相 川・
姫 津 の ﹁雨 ﹂ ﹁秋 ﹂ の類 の○ ● 型 は、 ● ● 型 に 変 化 し て 以 後 の 二 次 的 な 変 化 の結 果 で あ ろ う 。 両 津 で ﹁書 け ﹂ の
類 が● ●・ ● ○ 両 型 であ る のは ○ ○ 型 か ら 変 化 す べき 方 向 に迷 って いる 状 態 に あ るも の であ ろう 。
(7 ︹ )I室 ︺町 時代 の京 都方 言 で○● ○型 の語 彙
佐 渡 方 言 で は ● ● ○ 型 にな って いる も のが 最 も 多 いが 、 ● ● ● 型 にな って いる も の が かな り あ る。 こ の成 因 を
説 く のは な か な か 難 し い。 こ の類 の語 彙 だ け を 見 て いる と 、 ● ● ○ 型 に な って いる のは 、 も と の○ ● ○ 型 が、 ●
● ○ 型 と の間 に 混 同 を 起 こし た も のと 解 し た く な る が 、 そ れ で は ● ● ● 型 に な って いる も の の説 明 に 困 る 。 広 く
他 の 語彙 を 参 照 し て み る と 、︹ E︺ に挙げ た も と ● ● ● 型 だ った 語 彙 と 、 多 く の諸 方 言 で同 じ 型 に な って いる も のが
多 いこ と に気 づ く 。 そう す る と、 古 い● ● ● 型 と ○ ● ○ 型 と の 間 に 混 同 が 行 わ れ た も のと 考 え ら れ る 。
こ の混 同 は ど う し て 起 こ った の で あ ろ う か 。 ● ● ● 調 と ○ ● ○ 調 は 聴 覚 的 にも 随 分 違 う 。 し か も こ の際 、 も と
の○ ● ● 型 と も と の● ● ○ 型 と は こ の● ● ● 型 ・○ ●○ 型 と 混 同 し な か った 。 そ れ に も か か わ ら ず ● ● ● 型 と ○
● ○ 型 と が混 同 を 起 こ し た と いう 過 程 を 説 明 し な け れ ば な ら な い のだ か ら大 変 だ 。 こ の説 明を 試 み る のは 、 多 く
の人 目を 忍 ん で ロメ オ と ジュ リ エッ ト が 会 う 瀬 の手 引 き を す る よ う な も ので あ る 。
で、 こ の○ ● ○ 型 は ○ ● ● 型 と な った 。 そ の時 も と の ● ● ● 型 も ○ ● ● 型 に な り 、 こ こ で、 も と ● ● ● 型 の語 彙
思 う に 、 も と の○ ● ● 型 は 、 (5 に) 述 べた よ う に○ ○ ● 型 にな った 。 そ う し てさ ら に ○ ○ ○ 型 に な った。 そ の後
と も と ○ ● ○ 型 の語彙 と の合 流 と いう こと が実 現 し た ので は な いか と 考 え る 。 両 者 が ○ ● ● 型 に な って か ら は 、
も と の○ ● ● 型 の あ と を 追 う よ う にし て ○ ○ ● 型 、 ○ ○ ○ 型 と 進 み 、 これ か ら 、 あ る 語彙 は ● ● ● 型 の方 向 に、
あ る 語 彙 は ● ● ○ 型 の方 向 に 変 化 し た の では な いか と 思 う 。 元 来 、 同一 の 型 の語 が 二 つ の型 に 分 か れ る と いう こ と は 、 よ く よ く の こ と であ る。 ど う し て そ のよ う な こと が 行 わ れ た か 。
これ に は 種 々 の原 因 が作 用 し た も の と 思 わ れ る 。 す な わ ち 、 ● ● ○ 型 にな った と 推 定 さ れ る ﹁ 白 う﹂ の類は、
第 三 拍 が 長 音 であ った た め で あ ろ う 。 ﹁歩 け ﹂ の 類 は 常 に 文 の末 尾 に 用 いら れ 、 イ ント ネ ー シ ョン の 関 係 で、 第 三 拍 が低 く 発 音 さ れ る こと が 多 か った た め であ ろう 。
他 方 ﹁兜 ﹂ の類 が ● ● ● 型 に な った のは 、 助 詞 の付 いた 形 が ● ● ● ○ 型 と な った 。 そ の形 への 類 推 が働 いた も
の と 見 ら れ る 。 ﹁雨 が ﹂ ﹁秋 が ﹂ の 類 が 方 言 に よ り 、 ● ● ○ 型 に あ る い は ● ● ● 型 に な って いる の は、 語彙 の性 格
から い って両 方 の音 調 が 出 や す か った た め と考 え ら れ る 。 事 実 こ れ ら の 語彙 は こ の 両 形 の間 を動 揺 し て いる 方 言
が多 い。 これ ら は○○○ 型 か ら 、 いず れ に 落 ち 着 く べき か 定 め か ね て いる 状 態 にあ る も の と 判 定 す る 。 (8 ) ︹A︺室 町時 代 の京都 方 言で● ●型 だ った 語彙
こ の種 の語 彙 は 、 佐 渡 諸 方 言 で ● ● 型 に な って いる も の が、 ま た ● ○ 型 にな って いる も のが 多 い。 も と の ● ●
型 は 恐 ら く い った ん ○ ● 型 を 通 って ○ ○ 型 に な った 。 そ の後 、 あ る 語 彙 は ● ● 型 に 、 た だ し 、 他 の語 彙 は ● ○ 型
に変 化 し た も の であ ろう 。 そ の変 化 の原 因 は 、 (7 の) ︹I の︺ 語 彙 の場 合 と 似 た も の であ った ろ う と 思 わ れ る。 ﹁風 ﹂
﹁水 ﹂ の類 が 、 ● ● 型 に 変 化 し た の は、 助 詞 の つ い た 形 が ● ●○ 型 (ま た は ● ● ● 型 ) で あ る こ と へ の類 推 に よ
るも の であ ろ う 。 相 川 ・姫 津 で ○ ● 型 にな って い る のは 、 そ れ か ら さ ら に 二 次 的 に 変 化 し た も の と考 え る 。 ﹁ 着
る﹂ の類 、 ﹁置 く ﹂ ﹁買 う ﹂ の類 が 、 表 の沢 崎︱ 大 倉 の諸 方 言 で ● ○ 型 に な って いる のは 、 ﹁着 た﹂ ﹁置 いた ﹂ の形
へ の類 推 が働 いた も ので あ ろ う 。 ﹁蚊 が ﹂ の 類 が 各 方 言 で ●○ 型 であ る こ と の説 明 は 一番 難 し いが 、 一拍 名 詞 は 、
と か く 発 音 が は っき り し な く な る の で、 助 詞 の部 分 か ら き わ だ た せ る た め に● ○ 型 にな った も の と推 測 す る こ と
が で き る 。 姫 津 で ﹁蚊 が ﹂ の類 の形 が二 様 に な って いる の は、 一拍 名 詞 の● 型 と○ 型 と の間 に、 混 同 が 起 こ った た めと見られ る。 (9 ) ︹E室 ︺町時 代 の京 都方 言 で●● ●型 の語 彙
こ の種 の 語彙 は 多 く の佐 渡 方 言 で● ● ● 型 であ り 、 と き に 語彙 に よ り 、 ● ● ○ 型 にな って い る。 そ う し て さ ら
に、 相 川 ・姫 津 では ○ ● ● 型 ま た は ○ ● ○ 型 にな って いる 。 そ の状 況 は 、 (7 の) ︹I の︺ 語 彙 の場 合 と 全 く 同 様 で あ る 。
● ● ○ 型 と に 分 か れ 進 ん だ も の と 見 ら れ る 。 ● ● ● 型 に 進 ん だ ﹁子 ど も ﹂ の類 は 、 助 詞 の付 いた 形 が ● ● ● ○ 型
( ま た は ● ● ● ● 型) で あ る の に 類 推 し た も の、 ﹁明 け る ﹂ ﹁上 が る﹂ の類 が ● ● ○ 型 であ る の は 、 ﹁明 け た﹂ ﹁上
が った ﹂ の形 へ類 推 し たも の であ ろ う 。 ﹁買 わ ん﹂ の形 、 ﹁風 が﹂ の形 が、 方 言 に よ り ● ● ● 型 ・● ● ○ 型 の両 様
にな って いる のは 、 類 推す る も の が な いの で 、 方 言 に よ り 好 き な 方 向 に 変 化 の進 路 を 定 め たも の であ ろ う 。
四 ま とめ
以 上 で、 粗 略 な がら 、 佐 渡 諸 方 言 の ア ク セ ント の 成 立 の過 程 を 考 証 し た 。 も う 一度、 方 言 ご と に変 化 の過 程 を ま と め て 述 べ る な ら ば︱
(1 ) 佐 渡 諸 方 言 の ア ク セ ント は 、 す べ て室 町 時 代 の京 都 ア ク セ ント か ら 大 体 似 た よ う な 経 過 を た ど って変 化 し
て でき た 。 こ の点 、 富 山県 以 西 の北 陸 諸 方 言 と 同 じ であ る 。 す な わ ち 、 も と の● ○ 型 、 ● ●○ 型 、 ●○○ 型
は 変 化 せ ず に そ のま ま の 形 を 伝 え た。 も と の ○ ● 型 と ○ ● ● 型 は、 そ れ ぞ れ○○ 型、 ○ ○ ○ 型を 経 て、 ● ●
型 、 ● ● ● 型 にな った 。 も と の● ● ● 型 と ○ ●○ 型 は、 ○ ○ ● 型 か ら ○ ○ ○ 型 にな った 後 で、 そ れ ぞ れ の事
情 に従 って、 あ る いは ● ● ○ 型 に、 あ る いは ● ● ● 型 に な った 。 も と の● ● 型 と ○〓 型 と も こ れ に準 じ て 変 化を遂 げた。
(2 ) 両 津 式 ・小 木 式 ・外 海 府 式 お よ び金 泉 式 は、 佐 渡 ア ク セ ント を 代 表 す る 四 類 型 であ る が、 こ れ は 、 も と の
● ● ● 型 、 ○ ● ○ 型 が○ ○○ 型 にな って以 後 、 ● ● ● 型 と ● ● ○ 型 と に ど のよ う に 分 か れ る か 、 そ の 分 か れ
方 の 違 い によ って 生 じ た 姉 妹 アク セ ント であ る 。 し た が って、 こ の中 の ど れ が古 色 を 保 つと も 言 いき れ な い 関 係 に あ る 。︵1)
(3 ) 相 川 式 は 、 金泉 式 が 変 化 し た も の で、 こ れ は 新 し いも のと 言 え る 。 姫 津 式 は さ ら に そ れ が 変 化 し た も の で、
こ れ は 最 も 新 し い アク セ ント であ る 。
こ こ に 述 べ た 佐 渡 諸 方言 の ア ク セ ン ト の 成 立 に つ い て の 推 定 は 、 多 少 問 題 が 残 る 。 私 が 試 み た 全 国 諸 方 言 の ア
ク セ ン ト の 変 種 に つ い て の 推 定 の 中 で は 、 出 来 は よ く な い ほ う だ 。 こ れ は 、 一方 に も と の ● ● ● 型 と ○ ● ○ 型 と
が 合 流 し て いな が ら 、 他 方 ○ ● ● 型 は 合 流 し て いな いと いう 珍 し い事 実 があ る せ いで あ る 。 こ のよ う な方 言 は 全
国 ほ と ん ど 類 例 が な い 。 わ ず か に 知 ら れ て い る の は 、 虫 明 吉 治 郎 氏 に よ って 報 告 さ れ た 岡 山 県 真 鍋 島 と そ の 属 島
の方 言 で あ る 。 佐 渡 ア ク セ ント は、 こ の方 言 の アク セ ント と 比 較 し て考 察 し な お す べき か と も 思 う 。 こ の点 は 後 考 を 期 す る 。(2︹ ︶6︺ 補
注 (1 ) 生 田 早 苗氏 は、 外海 府 式 が離 れ た 二 つの地 域 に行 わ れ て いる こと を も って古 形 を存 す る も のと考 え た 。 これ はち ょ っと無
理だ と 思 う。 外 海 府 式 では 、 ﹁ 置 く ﹂ ﹁着 る ﹂ 類と ﹁居 る ﹂ の類 と が 全 く 同 じ 型 にな って いる。 これ がど う し て他 の地 域 に お け るよ う に違 う 型 に分 かれ た か を 説 明す る こと は困 難 であ る。
(2) あ る いは、 室 町 時 代京 都方 言 で、 ● ●● 型 だ った語 は 、 も っと 古 く は ● ●〓 型 だ ったと 推 定 す べき かと 思 う 。 あ る いは、
室町 時 代 に ● ● ●型 だ った 語 は、 も っと古 く は● ● ○ 型 だ った 。 そ う し て室 町 時 代 に● ● ○ 型 だ った 語 は 、も っと古 く は ●
〓○ 型だ った 、 と いう よう に推 定 す べき か と も 思 う 。し か し、 こう 推 定 す る た め には 、 他 に いろ いろ考 慮 す べき 点を 残 す の で、 簡 単 には考 え がた い。
自 然 ・文 化 ・社 会 ﹄ ( 昭三 十 九 年 三 月、 平 凡社 刊︶ に 発 表 。
︹ 付 記 ︺ 昭 和 三 十 五 年 八 月 、 九 学 会 連 合 の佐 渡 調 査 に 言 語 班 の 一員 と し て 参 加 し た 折 の報 告 。 九 学 会 連 合 佐 渡 調 査 委 員 会 編 ﹃佐 渡︱
佐 渡 の ア ク セ ント が 甲 種 系 で あ る こ と は 早 く か ら 多 く の人 に言 わ れ て いた が 、 ど の よ う に し て 標 準 甲 種 か ら 分 か れ
補
出 た も のか に つ い て、 推 定 説 を 提 出 し た も の。二 拍 名 詞 の第一 類 と 第 五 類 が合 流 し 、 第 四 類 が 別 に な って い る と こ ろ が ク セ モ ノ で 、 推 論 は 、 自 分 な が ら あ ま り う ま く い って いな い。
注
︹1 ︺ 新 潟 ・東京 の ﹁山 ﹂ ﹁石﹂ ﹁買 え﹂ に は語末 に滝 があ る。 こ の論 文 に は、 語 末 の滝を一 々付 け て いな い ので、 注 意 さ れ た い。 ︹2 ︺ 新 潟 の﹁肩 ﹂ には 、 語末 に滝 があ る。 ︹3 ︺ 新 潟 の ﹁ 雨 ﹂ ﹁書 け﹂ に は、 語末 に滝 があ る。
︹4 ︺ 七 尾 の ﹁頭 ﹂ ﹁風も ﹂、 富 山 ・新 潟 ・東 京 の ﹁頭﹂ に は、 語 末 に 滝 が あ る。 富 山 の ﹁ 頭 ﹂ は 、あ る いは第 三拍 の中間 に あ る か。
︹5 ︺ 七 尾 の﹁肩 も ﹂ ﹁箸も ﹂、 富 山 の ﹁ 兜 ﹂ には 、 語末 に滝 があ る。 富 山 の ﹁ 兜 ﹂ は 、 あ る いは策 三拍 の中 間 に あ る か。
︹6 ︺ 岡 山 県 真鍋 島 方 言 のア ク セ ント に ついて は 、 ﹁ 国 語 国 文 ﹄第 三 五 巻第一 号 ( 昭 四 十 一年 一月) に 、秋 永一 枝 ・金 井 英 雄 両 氏
と連 名 で ﹁ 真 鍋 式 ア ク セ ント の考 察 ﹂を 発 表 した 。 こ の本 に収 め た 別 稿 ﹁ 讃 岐 ア ク セ ント 変 異成 立 考 ﹂ の五 五 五 ペー ジも 参
照。 な お 、 こ の本 の別稿 ﹁ 東 西 両 ア ク セ ント の違 いがで き るま で﹂ の三九一︲三 九二 ペー ジ に引 いた 石 川 県 羽咋 郡 高 浜 町 の ア
ク セ ント のよ う な も のがあ る と す る と、 こ こに述 べた よう な変 化 は 自然 に起 こり え た の かも し れな いと も 思う 。
讃 岐 ア ク セ ント 変 異 成 立 考
一 はじ め に
玉 井 節 子 さ ん の ﹁香 川 県 のア ク セ ント ﹂ が本 誌 先 号 ( ﹃ 国語研究﹄第二〇号︶に 活 字 にな った こ と は 、 う れ し いこ
と であ る。 玉 井 さ ん は 、 香 川 大 学 に在 学 中 、 和 田 実 氏 か ら ア ク セ ント 研 究 の手 ほど き を 受 け た 才 媛 であ る が、 私
が 数 年 前 、 香 川 大 学 に招 か れ て講 師 を 勤 めた 時 に は 、 す で に香 川 全 県 のア ク セ ン ト の概 要 を 知 り え て 、 そ れ を 国
語 の研 究 会 で発 表 し た り し て いた 。 あ の原 稿 の大 体 は 、 そ の時 す で に で き て いた と 言 っても よ いも ので 、 そ の後
小 豆島 へ渡 って 教 職 に 就 き 、 そ こ で新 た に 明 ら か に し え た と こ ろを 補 って ま と め た も の が 、 先 号 の発 表 で あ っ た。
香 川 県 方 面 の ア ク セ ント は 、 玉井 さ ん の論 文 にあ る よ う に ﹃ 類 聚 名 義 抄 ﹄ 以 後 、 他 の 日本 語 の多 く の諸 方 言 の
ア ク セ ント と は 別 の道 を 進 ん で今 日 に 至 った ア ク セ ント で、 し た が って、 日 本 語 のア ク セ ント の史 的 研 究 に は、
特 殊 な 存 在 価 値 を 有 す る。 そ れ が玉 井 さ ん の 論 文 で知 ら れ る よ う に 、 地 域 地 域 によ る 変 異 に富 ん で いる の で、 そ
の価 値 は い っそ う 大 き い。 非 香 川 式 ア ク セ ント の中 に 、 京 都 ・大 阪 ア ク セ ント や北 陸 アク セ ント 、 熊 野 アク セ ン
ト 、 さ ら に東 京 ・広 島 ア ク セ ント が あ る よ う に 、 香 川 式 アク セ ント の中 に も いろ いろ な ヴ アラ イ エテ ィー があ る 。
東 京 ・広 島 ア ク セ ント に 相 当 す るも のは 無 理 だ と し て も 、 北 陸 ア ク セ ント や 熊 野 ア ク セ ント に 当 た るも のは 立 派
に 存 在 す る 。 地 域 の狭 い割合 に は そ う だ と いう こと は 、 注 目 す べき こと で 、 そ の 比 較 研 究 は 、 大 き な 意 義 を も つ
と 言 って よ い。
と こ ろ が、 こ の方 言 の ア ク セ ン ト は 大 変 調 査 が む つか し い。 高 松 の ア ク セ ント は 、 か つて 和 田 実 氏 に よ って
﹁全 国 一の複 雑 な 体 系 を も つア ク セ ント ﹂ と いう 折 り 紙 を 付 け ら れ た が 、 あ れ で 分 か る よ う に 、 何 種 類 の 型 を 認
私 に言 わ せ る と 、 認 定 せ ざ る を え な い方 言 も あ る 。 こう いう 方 言 は 、 香 川 ア ク セ ント の所 有 者 であ る
め る べき か と いう こ と が、ま ず 問 題 にな る 方 言 が あ る 。︹ 補1︺そ う し て、途 中 で 声 が下 降 す る 拍 が あ る と 認 定 し た く な る︱
玉 井 さ ん に よ って、 は じ め て 信 頼 の置 け る 調 査 が でき た と 言 ってよ い。
お ま け に 、 香 川 ア ク セ ント は こ の複 雑 な 型 の 体 系 を 持 ち な がら 、 型 と 型 と の区 別 が な か な か 聞 き 取 り に く い。
あ る いは 、 ﹁持 つか ら ﹂ と 言 う べき であ ろ う か。 例 え ば 高 松 方 言 で ﹁釜 が ﹂ と ﹁鎌 が﹂ の ご と き 、 玉 井 さ ん は ○
● ▼型 と ○ ○ ▽型 と いう ふ う に あ っさ り 区 別 を つけ て いる が 、 こ ん な 拍 の内 部 で高 低 が 変 化 し な いア ク セ ント で
も 、 ち ょ っと 聞 き 取 り にく い。 昔 、 菊 池 寛 の戯 曲 ﹁父 帰 る ﹂ を 市 川 猿 之 助 が 上 演 し た こと があ った が、 そ の時 菊 池 寛 は 、 猿 之 助 の セ リ フを 批 評 し て、
由 来 讃 岐 言 葉 に は 、 あ ま り は っき り し た ア ク セ ント が な い。 で、 こ の一 種 間 伸 び し た 調 子 は、 沢 田 (正二
郎 ) が 抑 揚 を 強 め てし た に 反 し 、 猿 之 助 が 、 こと さ ら 抑 揚 を 殺 す 行 き 方 でし て、 却 って遙 か に、 真 に 近 い効 果 を 挙 げ て ゐ た 。 事 些 細 のや う で は あ る が ⋮ ⋮ 、
と 言 った 。(﹃ 菊池寛全集十二、評論随筆編﹄ 一八三 ページ) 一般 に、 言 語 に素 人 の 人 の、 こ う いう 自 分 の方 言 の ア ク セ
ント に対 す る 評 価 は 、 主 観 的 で非 科 学 的 な も のに な り が ち であ る が 、 こ の場 合 の か れ の言 葉 ﹁ 讃 岐言葉 にはあ ま
り は っき り し た ア ク セ ント が な い﹂ は 、 見 事 に 正 鵠 を 射 て いた 。 と にか く そ う いう ア ク セ ント で あ る か ら 、 他 の
地 方 の人 で は 、 ち ょ っと 観 察 し にく いも の で、 玉 井 さ ん と いう 熱 心 な 研 究 家 が 出 た こ と は 、 ま こと に 結 構 な こ と だ った 。
そ ん な わ け で、 と に かく 香 川 県 の ア ク セ ント の詳 し い分 布 調 査 が 活 字 にな った 。 そ の大 要 は 、 ま と め ら れ て、
巻 末 の 一葉 の 地 図 と 表 にな って いる。 地 図 を か た わ ら に 置 き 、 こ の表 を な が め て いる と 、 ど のよ う に し て こ の 香
川 県 下 の アク セ ント の変 種 が 生 じ た か に つ いて 、 妄 想 雲 のご と く わ き 出 て、 興 趣 の 尽 き る と こ ろ を 知 ら な い。 こ こ に私 の考 え つ いた と こ ろ を 述 べ て、 同 学 の士 の批 判 を 乞 う こ と に す る 。
な お、 香 川 県 下 の ア ク セ ント の中 で も 、 最 も 東 に位 す る 引 田 町 の アク セ ント は 京 都 ・大 阪 な ど の ア ク セ ント と
同 じ も の であ って 、 これ は こ こ の考 察 から は 除 く 。 他 の諸 方 言 の ア ク セ ント を一 括 し 、 ︿讃 岐 ア ク セ ント ﹀ と 呼 び 、 そ の系 統 を 考 え る こ と に す る 。
ま た 、 こ こ で 玉 井 さ ん の発 表 に つ い て 一言文 句 を つけ る な ら ば 、 研 究 史 の章 を 欠 いた こ と だ った 。 これ は注 意
を 怠 った 私 の 罪 で は あ る が 、 例 え ば 現 在 と な っては 、 日 本 音 声 学 会 の会 報 八 四 号 に 、 か な り 詳 し い分 布 研 究 を 発
表 さ れ た 山 名 邦 男 氏 の名 を 逸 す べ き で は な か った 。︹ 補2︺ こ こ で、私 か ら そ の こ と を 一言 申 し 述 べ 、玉 井 さ ん に代 わ って、 山 名 氏 は じ め 先 学 各 位 に お わ び す る。
二 諸 方 言 の ア ク セ ント の整 理
讃 岐 アク セ ント の変 種 が ど う し て でき た か 。 これ を 明 ら か に す る た め に は 、 玉 井 氏 の原 稿 の五 六︱ 五 七 ペ ー ジ
の一 覧 表 を 、 ア ク セ ント の型 と いう も のを 基 準 に整 理 し な おす のが 便 利 で あ る。 名 詞 ・動 詞 と い った 区 別 を 撤 廃
し 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で同 じ 拍 数 の同 じ 型 の語 が 、 香 川 県 各 地 で ど う な って いる か を 表 に す る と 次 ペー ジ 以 下 の ﹁対 照 表 ﹂ のよ う に な る 。 た だ し 、 次 の点 に 注 意 。
1 原 則 と し て玉 井 氏 の調 査 の結 果 に従 った が、 地 点 のう ち﹁G︺琴 平 と ︹I広︺島 は 、 私 の調 査 の結 果 で補 った 。
ま た 土 庄 町 小 瀬 は 玉 井 氏 の調 査 も あ る が 、 私 の調 査 の結 果 に よ った 。 土 庄 町 四 海 は 、 玉 井 氏 の調 査 の代 わ り に、 私 の土 庄 町 長 浜 のも のを 用 いた 。
讃 岐 ア ク セ ント ・変 異 対 照 表
(5 ) ﹁名 が﹂ ﹁ 葉 が ﹂ の類 が● ● 型
( 4' ﹁庭 )﹂ ﹁ 鳥 ﹂ の類 が●〓 型 に も 発音 さ れ る か
(4 ) ﹁庭 ﹂ ﹁ 鳥 ﹂ の類 が●〓 型
(3) ﹁庭 ﹂ ﹁ 鳥 ﹂ の類 が○ ● 型
( 2' ﹁血 )が﹂ ﹁ 戸 が ﹂ の類 の 一部 が● ● 型
(2 ) ﹁血 が﹂ ﹁ 戸 が ﹂ の類 が● ● 型
( 1' ﹁血 )が﹂ ﹁戸 が ﹂ の類 の 一部 が● ○ 型
(1 ) ﹁血 が﹂ ﹁ 戸 が ﹂ の類 が● ○ 型
() 3 1 ﹁庭 が﹂ ﹁ 鳥 が ﹂ の類 が● ● ○ 型 にも 発 音 さ れ ると 見
() 2 1 ﹁書 け﹂ ﹁ 取 れ ﹂ の類 が○〓 型
() 1 1 ﹁雨﹂ ﹁ 猿 ﹂ の類 が○ ○ 型
() 0 1 ﹁見 る﹂ ﹁出 る ﹂ の類 が● ○ 型
(9 ) ﹁書く ﹂ ﹁ 取 る ﹂ の類 が○ ○ 型
(8 ) ﹁ 空﹂ ﹁ 松 ﹂ の類 が○ ● 型
(7 ) ﹁血も ﹂ ﹁ 戸 も ﹂ の類 が● ● 型
(6 ' ﹁名 )が﹂ ﹁葉 が ﹂ の類 の一部 が● ○ 型
(6 ) ﹁名 が﹂ ﹁ 葉 が ﹂ の類 が● ○ 型
︹ 対 照 表 ︺に対 す る 例外 の語 。
( 5' ﹁名 )が﹂ ﹁ 葉 が﹂ の 類 の 一部 が ●● 型
受 け られ た 。 そう 発 音 さ れ るな ら 、 二 拍名 詞 の 一類 ︱ 五類 がそ れ ぞ れ別 の型 で発 音 さ れ る こと にな る 。 ﹁庭も ﹂ ﹁鳥 も ﹂ の類 が● ● ● 型 ﹁庭 も﹂ ﹁ 鳥 も ﹂ の類 が● ● ○ 型 ﹁庭 も﹂ ﹁ 風 も ﹂ の類 が〇 ● 〇 型 ﹁洗 え﹂ ﹁ 運 べ﹂ の類 が〇 〇 〓 型 ﹁ 赤 い﹂ の類 の 一部 が● 〇 〇 型
﹁余 る ﹂ ﹁ 動 く ﹂ の類 が〇 〇 〓 型
﹁余 る﹂ ﹁ 動 く ﹂ の類 が● 〇 〇 型
﹁売 った﹂ の類 が ●〇 〇 型
(18')
(28) (27) (26) (25') (25) (24) (23) (22)
と 見 て 、 こ こ に は 省 いた 。 坂 出 市 加 茂 町 (坂出 市 王 越 町 )・庵 治 村 ( 三 木 町︱ 立 し な か った )・粟 島 ( 本 島 )。
﹁起 きる ﹂ ﹁逃 げ る﹂ の類 が ●● ● 型
﹁起 きる ﹂ ﹁逃 げ る﹂ の類 が ○● 〇 型
﹁起 き る﹂ ﹁逃 げ る﹂ の類 が 〇〇 〇 型 のうち ﹁白 い﹂ の類 が● 〇 〇 型
﹁白 う﹂ の類 の 一部 が● 〇 〇 型 ﹁白 う﹂ の類 が 〇● 〇 型 ﹁空 も﹂ の類 が 〇〇 〓 型
﹁空 が﹂ の類 のう ち、 第 二 拍 の母 音 の広 いも のは
〇 ● ● 型、 狭 いも の は〇 ● 〇 型
3 語 例 の条 で 、 五 段 活 用 の動 詞 の ﹁売 る﹂ ﹁咲 く ﹂ ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ﹂ に つ いて は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の終 止 形 で はな く 、
上 声 、 第二 拍 が 軽 平声 の意 味 であ る 。
2 ﹃名 義 抄 ﹄ の表 記 の条 の ﹁東 ﹂ は ﹁軽 平 声 ﹂ の意 味 であ る 。 し た が って、 ﹁上東 型 ﹂ と いう の は 、第一 拍 が
は、 金 井 英 雄 氏 の調 査 に よ る と︹V︺土 庄 町 の大 部 と いう 地 域 に近 いも の であ る 。
郡 小 手 島 の ア ク セ ント は 、 秋 永一 枝 氏 に よ れ ば︹H︺ 丸 亀 に 近 いも の で あ り 、 小 豆 郡 土 庄 町 豊 島 の アク セ ン ト
ま た 、 こ こ に挙 が って いな い、 玉 井 氏 が 触 れ な か った 地 点 の アク セ ント に つ いて 追 加 す る な ら ば 、 仲 多 度
﹁歩 く ﹂ の ア ク セ ント が 違 って い る が 、 小 差 と 見 て特
玉 井 氏 の表 に 上 が って いる う ち 、 次 の 地 点 の ア ク セ ント は、 そ れ ぞ れ 括 弧 の中 の地 点 のア ク セ ント と 同一
(21) (20) (19) (18) (17) (16) (15) (14)
連 体 形 のア ク セ ント が 後 世 の終 止 形 の ア ク セ ント に な った と 見 た 。
ま た 、 語 例 のう ち 、 ( ) 内 の も の は、 玉 井 氏 のも の にな く 、 私 の調 査 で補 った も の で あ る。 も っと も 、 私 の調 査 地 点 は、 次 の個 所 に と ど ま る。
︹A観︺音 寺 ・︹H 丸︺ 亀・ (G琴︺平 ・︹I広︺島 ・︹M 高︺ 松・(S白 )鳥 ・︹T 土︺ 庄 町 小 瀬・(U土 )庄 町 長 浜 。
欄 の中 の(1) な(ど2の )数 字 は、 対 応 の例 外 を な す 語 彙 と そ の ア ク セ ント で あ る。 そ の具 体 的 な 内 容 は 、 ﹁例 外
の語 ﹂ の条 を 見 ら れ た い。 ( ) の中 の語 彙 は 、 私 の調 べな か った 地 域 で も 例 外 を な し て いる こ と が あ ろ う が、 明 ら か に し え な か った。
5 各 欄 で 、 ○ ○ 型 や ○ ○ ○ 型 のよ う にす べ て の 拍 が 低 く 表 記 さ れ て いる 型 (た と え ば 観 音 寺 の平 上 型 の語 、
平 上上 型 の語 な ど ) の語 彙 は 、 各 方 言 とも 、 最 後 の 拍 が 高 に な った り 、 上 昇 拍 に な った り し て浮 動 し て いる。
私 は 最 後 の拍 は上 昇 拍 、 他 の拍 は 低 平 拍 と す べき か と 思 った が 、 こ こ では す べ て玉 井 氏 の観 察 に従 った 。
三 讃 岐 ア ク セ ント の 類 型
以 上 の よ う に書 き 替 え て み る と 、複 雑 き わ ま る 香 川 県 下 の ア ク セ ント も 、次 のよ う な 類 型 に、容 易 に 整 理 でき る 。 一 観音 寺式 アク セ ント
﹃名 義 抄 ﹄ の型 の区 別 に 、 一番 規 則 的 に 対 応 す る。 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上上 型 と 上 上上 型 と が 、 ● ● 型 と ● ● ● 型 と で
一貫 し て いる 。︹A観︺音 寺 市 と 、 (B 財)田 町 と 、︹C託 ︺間 町 と 、 それ か ら 地 理 的 に は 隔 た って いる が 、︹S白 ︺鳥 町 と︹X︺ 内 海 町 福 田 と が こ の 仲 間 に加 わ る 。 二 丸亀 式 アク セ ント
観 音 寺 式 に 似 て いる が 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 上 型 の語 が ● ● 型 と ● ○ 型 と に分 属 し て いる 点 が ま ず 違 う 。 こ れ に 応
じ 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上上 上 型 の語 も 、 い ろ い ろ の型 に な って いる 。 表 で、︹D高 ︺瀬 町 、︹E 善︺通 寺 町 ・︹G 琴︺平 町 ・︹H︺
丸 亀 市 、 そ れ か ら 飛 ん で、︹Q津 ︺田 町 と︹R大 ︺内 町 と が こ れ に属 す る 。︹F仲 ︺南 村 は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上 上 平 型 のも の の対 応 が 少 し 違 う が 、 や は り こ の数 に 入 れ る 。 三 高 松式 アク セ ント
﹃名 義 抄 ﹄ の 上 上 型 の語 、 上 上 上 型 の 語 が二 種 類 の型 に 分属 し て対 応 し て い る点 、 丸 亀 式 と 似 て いる が 、 ● ● 型 、
● ● ● 型 と い った 最 初 の 二拍 以 上 が連 続 し て高 い型 が な く 、 丸 亀 で● ● 型 、 ● ● ● 型 の 語 が 、 ○ ● 型 、 ○ ● ● 型
のよ う な 、第一 拍 の低 い型 にな って いる点 が 注 目 さ れ る 。 そ れ と 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 平 型 、 上 平 平 型 の語 の 半 数 が 、
し た が って 観 音 寺 や 丸 亀 で ●○ 型 、 ● ○ ○ 型 の 語 の半 数 が○〓 型 、○〓 ○ 型 にな って いる 点 が 特 異 であ る 。︹M高 ︺
松 市 の ほ か 、︹L坂 ︺出 ・︹O 三︺ 木 ・︹P 志︺ 度 が こ れ に属 す る 。︹K綾 ︺上 も これ の 一種 と 見 て い い。
﹃名 義 抄 ﹄ の 上平 型、 上 平 平 型 の 語 が 、 ●〓 型 、 ● ● ○ 型 に、 平 上 平 型 の語 が○ ○〓 型 にな って いる と いう ふ う
四 土庄 式 アク セ ント
で、 ●○ 型 、 ● ○ ○ 型 を も た な いと いう 特 色 を も つ。︹T土︺庄 町 小 瀬 と︹U同︺長 浜 と が こ れ に 属 す る が 、︹V同 ︺大 部 も これ に 近 い。 五 塩飽 本島 式 アク セ ント
﹃名 義 抄 ﹄ の 上上 型 、 平 平 型、 上上 上 型 、 平 平 上 型、( お そ ら く 平 平 平 型 も ) が、 低 く 終 わ る 型 にな って い る点 で
異 彩 があ る。 地 理的 に は 隔 た って いる︹J︺本 島 と 粟 島 と が こ れ に属 し 、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ の 上上 型 ・平 平 型 が ﹃名 義 抄 ﹄
の平 東 型 と い っし ょ にな って い る点 で 、 岡 山 県 の真 鍋 島 ・佐 柳 島 のア ク セ ント に 一歩 近 い。︹ 補3︺︹W内 ︺海 町 苗 羽 のア ク セ ント も これ に 似 て い る 。 六 直島 式 アク セ ント
︹N 直︺島 だ け が こ れ に属 し、き わ め て 特 殊 であ る 。 ﹃名 義 抄 ﹄ の上 上上 型 の語 の半 数 と 平 平 上 型 の語 と が 同 じ 型 に
な って い る と いう 点 か ら 讃 岐 ア ク セ ント のう ち に 入 れ た が 、 こ こ に挙 げ る ア ク セ ント の中 で 最 も 特 異 で あ る 。
﹃名 義 抄 ﹄ で 平 上上 型 の語 の分 属 様 式 な ど 、 全 国 的 に言 って も 珍 し い妙 な 条 件 で分 か れ て い る 。
四 観 音 寺 式 のア ク セ ント の 成 立
﹃名 義 抄 ﹄ か ら の 変 化 は 、 比 較 的 単 純 であ る 。 ま ず 大 き な 変 化 は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 平 平 型 の語 が ● ● 型 に、 ﹃名 義
抄 ﹄ の平 平 平 型 の語 と 平 平 上型 の 語 と が● ● ● 型 にな って いる こ と であ る 。 こ れ は 、 讃 岐 ア ク セ ント 全 般 に 見 ら
れ る 性 格 で、 京 都 ・大 阪 ・東 京 ・名 古 屋 を は じ め 、 多 く の ﹃補 忘 記 ﹄ 系 統 の ア ク セ ント と 対 立 す る特 色 であ る 。 こ れ は す で に 玉 井 氏 の論 文 にも 出 て い る よ う に、
と いう 変 化 を 遂 げ た も のと 見 ら れ る。 これ は服 部 四 郎 氏 の ﹁原 始 日 本 語 の 二 音 節 名 詞 の ア ク セ ント ﹂ 以 来 言 わ れ
て い る こ と で問 題 な い。 強 い て念 を 押 す な ら ︽○ ○ ● 型 が 直 接 に ● ● ● 型 に な った ので は な く て 、 ○ ○ ○ 型 を 経
て、 ● ● ● 型 にな った ろう ︾ と いう こ と で あ る 。 そ う で な いと 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の ○ ● ● 型 が ● ● ● 型 に な ら な いで
いる 理由 が説 明 し にく い。 な お 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の平 平 上 型 の 語彙 の中 で ﹁起 き る ﹂ ﹁逃 げ る ﹂ の類 は 、 ● ● ● 型 に な
ら ず 、 ○ ○ ○ 型 であ る 。 これ は ﹁起 き て﹂ ﹁逃 げ て﹂ と いう 形 が、 観 音 寺 で オ キ テ ・ニゲ テ と いう 型 で あ る 、 そ
れ に 類 推 し た も の であ ろ う 。 こ れ は 近 畿 大 部 の方 言 で 、 こ の類 が 、 オ キ テ ・ニゲ テ と な って いる 、 そ れ に つ い て
の服 部 四 郎 氏 の解 釈 を 応 用 す れ ば よ い。 ま た 、 ﹁白 い﹂ の類 が シ ロイ 型 に な ら ず に、 シ ロイ 型 に な って いる 。 こ
の原 因 は ち ょ っと 説 明 し にく い。 ﹁赤 い﹂ の 類 へ類 推 し た と 言 いた い が、 ﹁赤 い﹂ の類 の方 が 語 彙 の数 が 少 な いの
で、 それ は 困 難 の よ う だ 。 シ ー ロイ と いう 強 調 形 が シー ロイ と でも 言 い、 そ の イ ント ネ ー シ ョ ンが 固 定 し た も の で でも あ ろ う か 。
次 に ﹃名 義 抄 ﹄ で 上上 平 型 の語 彙 は、 観 音 寺 で は ● ○ ○ 型 に な って いる 。 こ れ は 、 ● ● ○ 型 と ● ○ ○型との間
に 型 の混 同 が 起 こ り 、 ● ○ ○ 型 に 統 合 さ れ た も の と 解 す る。 ● ● ○ 型 と ● ○ ○ 型 と の混 同 は 近 畿 地方 の京 都 ・奈
良 以 東 の方 言 に行 わ れ て いて 、 珍 し いも の で は な い。 も っと も 、 上 上 平 型 のう ち 、 ﹁庭 も ﹂ の類 は 例 外 と し て 、
● ● ○ 型 に と どま って いる 。 こ れ は 、 ニ ワ ( 庭 ) と いう 単 独 の場 合 の ア ク セ ントへ の類 推 が は た ら い て、 原 型 を 保 った も のと 見 ら れ る 。
つ い でな が ら 、 愛 媛 県 新 居 浜 市 方 言 は、 こ の観 音 寺 と よ く 似 た ア ク セ ント を も つが 、 ﹁庭 も ﹂ ﹁鳥 も ﹂ の類 も 、
● ○ ○ 型 にな って お り 、 ● ●○ 型 と いう も のを 全 く 欠 く と 言 って も い い。 観 音 寺 のア ク セ ント も 徹 底 的 に変 化 が
行 わ れ た ら 、 そ う な る と ころ であ った 。 ま た 、 名 詞 ﹁あ ず き ﹂ の類 は 、 観 音 寺 で ○ ● ○ 型 にな って いる が 、 こ れ
は 四 拍 語 で は ● ● ○ ○ 型 が ○ ● ○ ○ 型 に変 化 し て、 ア ズ キ ガ が ア ズ キ ガ と な った 。 そ れ に引 か れ て、 単 独 の場 合 も 、 ア ズ キ と な った も の であ ろう 。
次 に 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 平 上 型 の語 彙 は 、 観 音 寺 で は 規 則 的 に ○ ○ 型 に な って お り 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で平 上 上 型 の語 彙 は 、 観 音 寺 で は 規 則 的 に○ ○ ○ 型 にな って いる 。 こ れ は ○●型←○ ○型 ○ ● ● 型 ← ○ ○ ● 型← ○ ○ ○ 型
と いう 変 化 を 遂 げ た も の で あ ろ う 。 こ のう ち 、 ○ ● ● 型 ← ○ ○ ● 型 の変 化 は ﹃補 忘 記 ﹄ 時 代 以 後 、京 都 ・大 阪 を
は じ め多 く の方 言 に 起 こ った と 全 く 同 じ 種 類 の 変 化 であ る 。 ○ ● 型 ← ○ ○ 型 、 ○ ○ ● 型 ← ○ ○ ○ 型 と いう 変 化 は、
大 阪 方 言 な ど に起 こり つ つあ る こと が 、 上 甲 幹 一氏 以 来 指 摘 さ れ て いる 。( これ については ﹃ 近畿方言双書﹄第 六冊所載
の楳垣実氏 の ﹁ 大阪方言アクセント変化 の傾向﹂を参照)そ れ が 一足 早 く こ の方 言 に起 こ った も のと 考 え る 。
ま た ﹃名 義 抄 ﹄ で 平 東 型 の語 は 、観 音 寺 で ○ ● 型 に な って いる が 、 こ れ は 、 第 二 拍 に〓 ←● と いう 変 化 が 起 こ
った と 見 れ ば 、 簡 単 に解 決 す る 。 こ の変 化 は 、 甲 種 方 言 の中 で、 高 知 ・徳 島 ・松 山 な ど 四国 の諸 方 言 に は 普 通 に
起 こ って い る。 し た が って 、 観 音 寺 の方 言 に も 起 こ った と 考 え る こと は ご く 自 然 で あ る 。
次 に個 別 的 な 変 化 を 遂 げ た 語 彙 と し ては 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上上 型 の語 彙 のう ち の、 ﹁血 が ﹂ ﹁戸 が﹂ の類 の 一部 が
● ○ 型 に な って お り 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 平 型 の語 彙 のう ち 、 ﹁名 が﹂ ﹁葉 が ﹂ の類 の 一部 が● ● 型 に な って い る。 つ
ま り 、 一拍 名 詞 + 助 詞 の 形 のう ち 、 ● ▼型 と ● ▽型 と が 混 同 を 起 こし て いる と い って よ い。 こ の原 因 は 何 だ ろう 。 ち ょ っと 難 し いが 、 考 え ら れ な いで も な い。
思 う に、 ﹁血 ﹂ と か ﹁戸 ﹂ と か いう 語 に は ﹁に は ﹂ と か ﹁でも ﹂ と か いう 助 詞 が 付 き 、 そ の場 合 、 チ ニワ、 ト
デ モ と 言 う 。 と ころ が 先 に 述 べ た よ う に 、 こ の方 言 で● ● ○ 型 ← ● ○ ○ 型 と いう 変 化 が 起 こ った た め に、 チ ニ
ワ ・ト デ モと な った 。 こ のチ ニワ ・ト デ モ と い った 形 が も と に な って、 助 詞 は こ れ ら の名 詞 に低 く 付 く と いう よ
う な 印 象 が 強 め ら れ 、 一拍 の助 詞 も チ ガ、 ト ガ と いう よ う にな った の で は な か ろう か 。
も っと も 、 ● ▽型 に変 化 し な い語 も あ る と ころ を 見 る と 、 こ の類 推 は 徹 底 的 に は 行 わ れ な か った た め と 見 ら れ る。
︹B︺ の財 田 と︹Cの ︺託 間 と は よ く 似 て いて 、大 体 は 、 観 音 寺 と 同 じ 変 化 を 遂 げ て で き た ア ク セ ント と 解 さ れ る 。 違 った点 だ け に つ い て述 べれ ば︱
財 田 では 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の平 平 上 型 の 語 のう ち 、 ﹁起 き る ﹂ ﹁逃 げ る﹂ の類 が ○ ● ○ 型 に な って いる 。 こ れ は 、 ﹁起
き た ﹂ ﹁逃 げ た ﹂ と いう 形 が 、 こ の方 言 で オ キ タ 、 ニゲ タ であ る 。 そ れ に 類 推 し た 結 果 であ ろう 。 近 畿 諸 方 言 の
中 で 、 こ の類 は 、 京 都 ・大 阪 方 言 のよ う に 、 オ キ ル ・ニゲ ルと な って いる 方 言 と 、 三 重 県 伊 勢 地 方 のよ う に 、 オ
キ ル ・ニゲ ルと な って いる 地 方 と があ る。 観 音 寺 のよ う に、 オ キ ル ・ ニゲ ル と な って いる 地 方 と 、 財 田 のよ う に
オ キ ル ・ニゲ ル のよ う に な って いる 地 方 と 両 方 あ る の は 、 全 く そ れ と 同 巧 であ る 。 財 田 で は︹ ︺Zの語 彙 は 観 音 寺
の よ う な 不 規 則 な 変 化 を し て い な い。
︹C︺ の 託 間 も 、 観 音 寺 と 似 て い る が 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 上 上 型 の 語 の う ち 、 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ の 類 、 ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け
る ﹂ の 類 が ○ ● ○ 型 に 変 化 し て い る 。 こ の う ち 、 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ の 方 は 、 ﹁た ﹂ の 付 い た 形 が ア ロ ー タ ・ ハ コ ン
ダ か ら 、 ア ロー タ ・ ハ コ ン ダ に 変 化 し た 。 そ の 形 へ類 推 が 働 い て 、 ア ロ ー 、 ハ コ ブ と い う 型 に 変 化 し た も の で あ
で あ り 、 ﹁歩 く ﹂+ ﹁て ﹂ の 形 もアルイテ
と も 言 う 。 こ れ へ の 類 推 が 原 因 でアルク
とな ら ず 、
﹃名 義 抄 ﹄ の 平 上 上 型 の 語 彙 の う ち 、 ﹁歩 く ﹂ の 類 が ア ル ク と な っ て い る 。 こ れ は 、 ﹁歩 く ﹂十
ろ う 。 一方 の ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け る ﹂ が 、 な ぜ ス テ ル ・ マ ケ ル と 言 う か の 方 は 説 明 困 難 で 、 こ の 解 決 は 後 考 を 待 つ ほ か は な い。 託間 ではさら に ﹁た ﹂ の 形 がアルイタ ア ル ク と な った も の で あ ろ う 。
﹁ 歩 く ﹂ の 類 の 変 化 だ け で あ る が 、 こ れ は 託 間 に 見 ら れ た も の で あ った 。 そ う す る と 、
︹ S︺ の 白 鳥 の ア ク セ ン ト は 、 観 音 寺 に 最 も 近 く 、 こ こ に 起 こ った ア ク セ ント は ほ と ん ど 観 音 寺 に 見 ら れ た も の ば か り で あ る 。 例 外 は 、︹ 12︺ の
こ の方 言 の変 化 に つ い ては こ こ で 述 べ立 て る 必 要 は な い。 一方 観 音 寺 に 起 こ った 変 化 は 白 鳥 に 全 部 起 こ って い る
わ け では な い。 ︹2︺ ︹ 10︺ の語 彙 の 変 化 は 白 鳥 で 起 こ って いな い。 観 音 寺 式 の ア ク セ ント は 、 讃 岐 ア ク セ ント で 最 も 古 型 を 保 つと 言 った が、 そ の中 で も 白 鳥 のア ク セ ント は 最 も 多 く 古 い形を 保 存 し て い る と 言 って い い。
観 音 寺 式 の中 で こ れ に 劣 ら ず 多 く 古 色 を 保 存 し て いる の は 、︹X の︺ 内 海 町 福 田 の ア ク セ ント であ る 。 こ こ では 、
︹ 01 ︺ の ﹁白 い﹂ ま で ● ● ● 型 で 、 ﹃名 義 抄 ﹄ に 対 し て 規 則 的 で あ る 。 こ の 小 豆 島 の 東 北 地 点 の 方 言 は 、 辺 境 の ゆ え
を も っ て 、 他 に 見 ら れ ぬ 古 い姿 ま で 伝 え た と 言 う べ き だ ろ う か 。 た だ し 、 こ こ で は 、 ほ か の 方 言 で ● ● ● 型 の ま
・ハコンダ
で あ ろ う 。 そ の 形 へ の 類 推 が 働 い て 、 原 形 もアラ
ま の ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ の 類 、 ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け る ﹂ の 類 が ● ● ○ 型 に な っ て い る 。 こ れ は ど う し た の か 。 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ の 方 は 、 ﹁た ﹂ ﹁て ﹂ の 付 く 形 がアロータ
ウ ・ ハ コブ と な った も の で あ ろ う 。 ﹁捨 て る ﹂ の 方 は そ う は 行 か ぬ 。 託 間 の ス テ ル ・ マ ケ ル と 同 様 、 解 釈 不 能 と
いう ほ か は な い。
も っと も 、 こう いう 方 言 に た び た び 接 し て く る と 、 ﹃名 義 抄 ﹄ 以前 の 中 央 語 で、 こ う いう 動 詞 の連 体 形 が ● ●
〓 型 と いう 形 であ った の が 、 中 央 語 で は 早 く ● ● ● 型 にな ってし ま った 、 そ れ が● ● ○ 型 にな って讃 岐 諸 方 言 に
残 って いる の で は な いか、 な ど と 考 え た く な る が 、 そう 考 え れ ば考 え る で 、 中 央 語 で ﹁赤 き ﹂ の類 が、 な ぜ 後 ま で● ● 〓 型 で残 存 し て いた か を 説 明す る 必 要 が 起 こ って く る 。 未 考 と し て お く 。
五 丸 亀 式 ア ク セ ント の 成 立
︹H ︺ の 丸 亀 の ア ク セ ント は 、 大 体 は 観 音 寺 のア ク セ ント に 似 て い る が 、 一つ、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上上 型 の語 彙 、 上 上
上 型 の語 彙 、 平 平 上 型 の 語彙 の半 数 のも の が 変 化 し て いる 点 が、 重 要 な 相 違 点 と考 え ら れ る 。 そ の 例 は︹1の ︺語
彙 のう ち の ﹁売 る ﹂ ﹁咲 く ﹂ の類 、 ﹁着 る ﹂ ﹁寝 る ﹂ の類 の原 形 が 、 ウ ル ・キ ル 型 に な って お り、 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂
の類 、 ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け る ﹂ の類 の原 形 が 、 ア ラ ウ ・ス テ ル の 型 に な って いる こ と であ る 。 ま た 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 平
平 上 型 の ﹁余 る ﹂ ﹁動 く ﹂ ﹁起 き る ﹂ ﹁逃 げ る ﹂ ﹁白 い﹂ が ア マ ル ・オ キ ル ・シ ロイ 型 に な って い る。 な ぜ 、 こ れ ら の類 に 変 化 が 起 こ った の であ ろう か 。
元 来 、 香 川 県 の方 言 で ﹁売 る﹂ ﹁着 る ﹂ の類 の原 形 が● ○ 型 にな って い る こ と は 、 早 く か ら 注 目 を 集 め 、 ﹃ 名義
抄 ﹄ の アク セ ント を そ のま ま 保 存 し て い る のだ と 騒 が れ た も の で あ った 。 私 も 以 前 ﹁﹃補 忘 記 ﹄ の研 究 ・続 貂 ﹂
の中 で そ のよ う に考 え た が 、 し か し こ の考 え は 大 い に 疑 わ し い。︹ 補4︺ 香 川 県 以 外 の他 の諸 方 言 で は 、 す べ て動
詞 に つ い て は連 体 形 のア ク セ ン ト を 伝 え て お り 、 そ れ は 国 語 史 の上 か ら考 え て 、 ま こと に 自 然 であ る の に、 な ぜ
香 川 県 の ア ク セ ント に 限 って終 止 形 の ア ク セ ント の伝 統 を 引 く の であ ろ う かと いう と、 こ れ に は答 え る す べが な
い。 私 は 、 今 こ の方 言 の動 詞 の原 形 の ア ク セ ント も 、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ の連 体 形 の後 胤 であ る と 考 え る 。 で は ど う し て 、
( 着 る が ) で あ った 。 そ れ が 、
﹁売 る ﹂ ﹁着 る ﹂ の 連 体 形 が 、 ﹃名 義 抄 ﹄ よ り 前 の 時 代 に ウ ル ・キ ル だ っ た と で も いう の な ら ば 、 そ れ
● ● 型 で は な く 、 ●○ 型 に な っ て い る の か 。 中央語 の
( 売 る か )、 キ ル が
が 変 わ った と 言 え る が 、 今 そ れ を 考 え な い と す る と 、 次 の よ う に 考 え て は と 思 う 。 す な わ ち、 恐 ら く これ ら の動 詞 に助 詞 の付 いた 形 が 、 ウ ルカ
った 。 こ れ が 元 に な って 類 推 が 行 わ れ 、 ﹁売 る ﹂ ﹁ 着 る ﹂ の 単 独 の 場 合 の ア ク セ ン ト も 、 ウ ル ・キ ル と な った の で
讃 岐 ア ク セ ン ト 一般 に ● ● ○ 型 ← ● ○ ○ 型 と いう 変 化 が 起 こ った た め に 、 こ れ ら が 、 ウ ル カ ・キ ル ガ の よ う に な
は な い か 。 な お 一方 、 ﹁売 る ﹂ ﹁着 る ﹂ の 類+ ﹁て ﹂ ﹁た ﹂ の 形 が ウ ッ タ ・ウ ッ テ 、 キ タ ・キ テ で あ る 。 そ れ へ の 類
推 も 働 い て 、 ウ ル ・キ ル と いう 形 が 生 じ た と 考 え ら れ る 。 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 上 型 の 語 の う ち 、 ﹁庭 ﹂ ﹁鳥 ﹂ の 類 に 変
化 が 起 こ ら な か った の は 、 ニ ワ モ ・ト リ モ と い う 形 が 、 ニ ワ モ ・ト リ モ と 発 音 さ れ か け た が 、 ﹁が ﹂ ﹁の ﹂ ﹁に ﹂
﹁を ﹂ の よ う に 高 く 付 く 助 詞 の 方 が 多 く 、 ニ ワ ガ ・ト リ ガ と い う 形 が か っち り と が ん ば っ て い た た め で あ ろ う と 考 える。
﹃ 名 義 抄 ﹄ で 上 上 上 型 の 語 の う ち の ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ の 類 の 語 、 ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け る ﹂ の 類 の 語 が ● ○ ○ 型 に な っ
て い る の も 、 こ れ に よ く 似 た 事 情 に よ る も の と 考 え る 。 す な わ ち 、 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ に ﹁た ﹂ の 付 い た 形 は 、 こ の
方 言 で は 元 来 ア ロー タ ・ ハ コ ー ダ で あ る が 、 第 二 拍 と 第 三 拍 が い っ し ょ に な って 短 く 一拍 の よ う に 発 音 さ れ て ア
ロ タ ・ ハ コ ダ と な っ た 。︹ 補5︺ そ の た め に ● ● ○ ← ● ○ ○ 型 と い う 変 化 の 流 れ に 巻 き こ ま れ て ア ロ タ と な り 、 そ
れ に 引 か れ て ハ コン ダ と な った。 こ の 形 が も と にな って類 推 が 行 わ れ 、 で き た 形 が 今 の ア ラ ウ ・ ハコブ であ ろ う 。
ま た 、 ﹁捨 て た ﹂ ﹁負 け た ﹂ は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 時 代 に す で に 、 ス テ タ ・マ ケ タ で あ る 。 こ の 形 へ の 類 推 の 結 果 で き た ア ク セ ント が 、 ス テ ル ・マケ ルに 違 いな い。
次 に 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 平 平 上 型 の 語 の う ち 、 半 数 以 上 の 語 が ○ ● ○ 型 に な っ て い る 点 も 、 観 音 寺 と 異 な る 。 こ れ
ら の う ち の 、 ﹁起 き る ﹂ ﹁逃 げ る ﹂ の 類 が ○ ● ○ 型 で あ る の は 、 オ キ タ ・ニ ゲ タ と い う 形 へ の 類 推 に よ る も の で あ
ろう と解 釈 でき る 。 し か し 、 ﹁余 る ﹂ ﹁動 く ﹂ の類 が ア マ ル ・ウ ゴ ク の形 で あ る こ と の説 明 は 難 し い。 こ れ は 今 の と こ ろ 解 釈 不 能 と いう ほ か は な い。
形 容 詞 の ﹁白 い﹂ の類 が シ ロイ 型 で あ る の は、 連 用 形 の シ ロー に 類 推 し た も の で あ ろう と 見 る 。 そ の他 、 ﹃名
義 抄 ﹄ で平 上 型 の 語 のう ち ﹁見 る ﹂ ﹁出 る ﹂ を ミ ル ・デ ルと 言 って いる が 、 これ も 、 ミ タ ・デ タ と いう 形 への 類
推 であ ろ う 。 ﹃名 義 抄 ﹄ の平 上上 型 の語 の ﹁歩 く ﹂ の類 が ア ルク と な って い る のも 、+﹁た ﹂ の 形 が ア ルイ タ であ
る のに 類 推 し た も の と解 す る 。 要 す る に、 こ の方 言 の動 詞 の原 形 の ア ク セ ント は、 大 幅 に連 用 形 の影 響 を 受 け た と見 られる。
︹D高︺瀬 ・︹E 善︺ 通 寺 ・︹F 仲︺ 南 ・︹G 琴︺平 ・︹K 綾︺ 上 の ア ク セ ント は 、 右 の丸 亀 の アク セ ント に 似 た も の で 、 同 じ
よ う に し て成 立 し た ア ク セ ント と考 え ら れ る 。 次 に は 違 う 点 だ け を 取 り上 げ て考 え を 述 べ る 。
ま ず 、︹E の︺ 善 通 寺 は、 丸 亀 よ り 、 も っと ﹃名 義 抄 ﹄ に 対 し て 対 応 が 規 則 的 であ る 。 上 掲 の表 に関 す る 限 り 、 丸
亀 と よ く 似 て お り 、 問 題 は な い。 ﹁白 い﹂ の類 が シ ロイ の 型 にな って いる のは 観 音 寺 と 同 じ で、 観 音 寺 の場 合 と
同 じ よ う な 原 因 が 働 いた の であ ろ う 。 仲 南 も よ く 似 て いる が、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上上 平 型 の 語 の大 部 分 が ● ○ ○ 型 に
な ら ず 、 ○ ● ○ 型 にな って い る 点 異 色 が あ る 。 こ れ は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ 以 後 、 ● ● ○ 型 が ● ○ ○ 型 に統 合 せ ず 、 ○ ●
○ 型 と 統 合 し た 結 果 生 ま れ た ア ク セ ント と 見 ら れ る。 ﹁庭 も ﹂ ﹁鳥 も ﹂ の類 が ニ ワ モ ・ト リ モ の 型 で あ る の は 、
﹁庭 ﹂ ﹁鳥 ﹂ の単 独 の場 合 の ア ク セ ント を 保 存 し た も のと 考 え る 。 こ の仲 南 で起 こ った と 想 像 す る ● ● ○ 型 ← ○ ●
○ 型 と いう 変 化 は 、 高 松 を は じ め 香 川 県 東 部 の方 言 に普 通 に 見 ら れ る 変 化 で あ る 。 ま た 、 仲 南 で は 、 ﹃名 義 抄 ﹄
で平 平 上型 の語 の中 で ﹁余 る ﹂ ﹁動 く ﹂ の類 が ア マ ル ・ウ ゴ ク 型 であ る 点 、 奇 抜 であ る 。 これ は 、 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ﹂
の類 と 混 同 し て し ま った の であ ろ う と 思 わ れ る 。 も っと も そ の場 合 、 む し ろ ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ﹂ の方 が ● ● ● 型 に 変化 したら よさそうな と ころではある。
G ︹︺ の琴 平 のア ク セ ント は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で平 平 上 型 のう ち の ﹁余 る ﹂ ﹁動 く ﹂ の類 、 ﹁白 い﹂ の類 が ● ○ ○ 型 で あ
る点 が 、 丸 亀 と 違 う 。 丸亀 と 善 通 寺 ・仲 南 と の中 間 のア ク セ ント で あ る 。
D︺高 瀬 の ア ク セ ント は 、 右 の仲 南 の ア ク セ ント が 不 徹 底 に起 こ った も の で、 ﹃名 義 抄 ﹄ で平 上 型 の語 の う ち 、
﹁見 る ﹂ ﹁出 る﹂ の類 が ミ ル ・デ ル の型 であ り、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ で平 平 上 型 のう ち 、 仲 南 で○ ● ○ 型 に な った ﹁起 き る ﹂
﹁逃 げ る ﹂ の類 が オ キ ル ・ニゲ ル であ る。 つま り、 観 音 寺 式 ア ク セ ント と 丸 亀 式 ア ク セ ン ト と の中 間 体 であ る 。
観 音 寺 式 の ア ク セ ント だ った と こ ろ へ、 丸 亀 式 のア ク セ ント が影 響 し て でき たも のか と 見 ら れ る。
東 讃 の︹Q 津︺田 ・︹R 大︺ 内 の両 ア ク セ ント は 、大 体 、丸 亀 ・仲 南 ・高 瀬 ア ク セ ント と 似 た り 寄 った り で 、 変 わ った 特 色 は な い。 し た が って、 特 に 成 立 に つ い て問 題 に な る こ と は な い。
興 味 が あ る の は 、 玉 井 氏 も 触 れ て いる が 、 分 布 状 況 であ る 。 す な わ ち 、 高 松 を 中 心 と し て 一番 変 化 を 遂 げ た 形
が 中 央 に 、 そ れ ほ ど 変 化 を しな い ア ク セ ント であ る 丸 亀 式 が 丸 亀 付 近 と 津 田 ・大 内 付 近 と に 分 かれ て そ の両 側 に
あ り 、 さ ら に 最 も 古 い形 と 見 ら れ る 観 音 寺 式 が、 観 音 寺 地 方 と 白 鳥 地 方 と に分 か れ て 、 一番 そ の外 側 に 分 布 し て
いる こ と で あ る 。 こ れ は 、 方 言 周 圏 論 の 正 し さ を 裏 書 き し て いる 典 型 的 な 分 布 図 で あ る 。
六 高松 式 アク セ ント の成立
高 松 式 ア ク セ ント の代 表 、︹Mの︺ 高松 ( 市 ) の アク セ ント は 高高 ⋮ ⋮ で始 ま る 型 のな い こと 、 拍 の母 音 の広 狭 に
よ って 、 型 が し ば し ば 二 つ に分 か れ る こ と が 特 徴 であ る 。 型 の種 類 は す こ ぶ る 豊 富 で 、 ○ ● ○ 型 の ほ か に 、 第 二
拍 の内 部 に高 低 変 化 が 見 ら れ る ○ 〓 ○ 型 があ り 、 し かも そ の○ 〓 ○ 型 の中 に 、 和 田 実 氏 の いわ ゆ る 高 起 式 に 属 す
るも のと 、 低 起 式 に属 す る も のと が存 在 す る 。 こ の方 言 は 、 ど の よう にし て で き た も のか 。
ま ず 、 ﹁名 義 抄 ﹂ の 上 上上 型 の語彙 は、 こ こ で、 ○ ● ● 型 に な って お り 、 上 上 平 型 の語 彙 は ○ ● ○ 型 にな って
お り、 上上 型 の語 彙 は ○ ● 型 に な って いる 。 これ は、 こ の方 言 で 、 第 一拍 が 低 下 し て 、
●●型 ←○●型 ●●○ 型←○● ●型 ●●○ 型←○●○ 型 と いう 変 化 を 遂 げ た も のと 見 ら れ る 。
ま た 、 こ の方 言 で は、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 平 平 上 型 、 平 平 平 型 も 、 ○ ● ● 型 に な って お り 、 平 平 型 も ○ ● 型 に な って いる。 これ は こ の方 言 に も 観 音 寺 式 方 言 ・丸 亀 式 方 言 と 同 じ よう に、 ま ず
の よう な 変 化 が 起 こ って ﹃名 義 抄 ﹄ の 上 上 型 、 上 上上 型 に合 流 し 、 そ のあ と 上 上 型、 上 上上 型 と と も に 、 前 に 述 べた ●●型 ←○●型 ●●● 型←○●● 型 の 変 化 を 遂 げ た も の と考 え ら れ る 。
こ こま で は 問 題 は な いと 思 う が 、 こ の第 一拍 が 低 下 す る 変 化 は、 近 畿 ア ク セ ント と し て は 、 和 歌 山 県 勝 浦 付
近 ・三 重 県 度 会 郡 南 部 ・兵 庫 県 小 野 郡 付 近 の方 言 に 見 ら れ るも の で、 さ ら に北 陸 の越 中 か ら 能 登 に か け て の方 言
や 徳 島 県 の 祖 谷 地 方 の方 言 に起 こ った と 認 め ら れ る も の であ る 。 さ ら に も し ︽乙 種 方 言 と 呼 ば れ る 東京 式 ア ク セ
ント が 甲 種 方 言 か ら 出 た ︾ と いう 私 の推 定 が 当 た って い るな ら ば 、 そ の乙 種 に属 す る ほと ん ど 全 部 の諸 方 言 の上
に 起 こ った と考 え ら れ る 変 化 であ る 。 こ んな こと か ら 言 って 、高 松 方 言 の上 に こう いう 変 化 が 起 こ った と 考 え て、 不 自 然 でな い。
こ こ で も し 注 意 す べき こ と と いえ ば 、 ﹃名義 抄 ﹄ の 上上 型 ・上上上 型 の 語 を 、 ○ ● 型 ・○ ● ● 型 に 発 音 し て い
る 方 言 に は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 平 型 の語 を 、 ○ ● 型 ま た は ○ 〓 型 に 、 上 平 平 型 の語 を ○ ● ○ 型 ま た は ○ 〓 ○ 型 に 発
音 し て いる 傾 向 が し ば し ば 見 ら れ る こ と であ る。 乙 種 の方 言 の ほと ん ど す べ て の上 に起 こ った と 見 ら れ る 以外 に、
甲 種 の方 言 と 見 ら れ る 方 言 の中 でも 、 富 山 県 の諸 方 言 と 、 能 登 の諸 方 言 にそ の傾 向 が見 ら れ る こ と は す で に知 ら
れ て いる と お り であ る 。 こ こ に 述 べ る高 松 式 諸 方 言 にも 、 次 に 述 べ る よ う に同 じ 傾 向 が 見 ら れ る わ け で、 こ れ は
偶 然 で はな いと 思 わ れ る 。 こ の事 実 は 、 こ れ ら の方 言 で は、 語 頭 を 低 め よ う 、 つま り 語 頭 の 拍 の︵ 高︶ を︵ 低︶
に し よ う 、 も し 、 次 の拍 が︵ 低︶ な ら ば、 そ の︵高︶ を 次 の拍 に 送 ろ う と す る 変 化 が 起 こ った と 見 る べき も の で
あ ろ う 。 こ の意 味 で、 高 松 式 ア ク セ ント は 、 丸 亀 式 ア ク セ ント よ り も 、 一歩 乙種 ア ク セ ント の方 へ近 づ いた ア ク セ ント と 言 う こと が で き る 。
な お 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 上 型 の語 のう ち 、 ﹁売 る ﹂ ﹁咲 く ﹂ の類 、 ﹁着 る ﹂ ﹁寝 る﹂ の類 は高 松 で ○ ● 型 でな く 、 ●
○ 型 にな って お り 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 、 上 上 上 型 のう ち 、 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ﹂ の類 、 ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け る ﹂ の 類 は 、 ○ ● ●
(→ ウ ル カ ) と かウッテ と か、キルカ
(→キルカ) と かキテ と か いう 形 への類
型 で は な く 、 ○ ● ○ 型 に な って いる 。 ﹁売 る ﹂ ﹁咲 く ﹂ の類 、 ﹁着 る ﹂ ﹁寝 る﹂ の類 が ● ○ 型 であ る のは 、 先 に述 べ た 丸 亀 方 言 と 同 じ 傾 向 で 、ウルカ
と な り、 そ のアロテ・ハコデ
の形 や、ステテ・マケテ
の 形 への類 推 が原 因
推 が原 因 で、 ● ● 型 か ら ● ○ 型 に移 った も ので あ ろ う 。 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ の類 、 ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け る ﹂ の類 も 、アロ ーテ ・ハ コーデ の形がアロテ・ハコデ
で、 ● ● ● 型 か ら ● ○ ○ 型 に移 り、 そ のあ と で 、 改 め て 次 に 述 べ る ●○○型← ○〓○型 と いう 変 化 を 起 こ し た も の で あ ろう 。
高 松 で は 、 そ の ほ か に、 右 に 述 べ た よ う に ﹃ 名 義 抄 ﹄ で 上 平 型 の 語 の 一部 が ○ 〓 型 に な り 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 平
平 型 の 語 の 一部 が ○ 〓 ○ 型 に な り 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で平 上 平 型 の 語 の 一部 が ○ ○ 〓 型 に な って いる 。 こ れ は 、 玉 井 氏
の言 わ れ る よ う に、 全 く そ の語 彙 の拍 の音 韻 の性 質 に よ る も の で、︹ 補6︺ (a ) 上平 型 の 語 で 第 二拍 の母 音 が(e)(o) のも のは ○ 〓 型 に な る。
2)第 二拍 に 、 はね る 音 ・つめ る 音 ・引 く 音 、 あ る いは 子 音 と 結 び 付 か な い(i)(u)を も つ。
1 ) 第 二拍 の母 音に(i)(u) を も ち 、 し かも 第 三 拍 の 母 音 に(a)(e)(oを)も つ。
(b ) 上 平 平 型 の語 で次 の条 件 に合 わ な いも ので は ○ 〓 ○ 型 にな る 。
( c平 ) 上平 型 の語 で、 第 三 拍 の 母 音 が(a)(e)(oの )も のは ○ O 〓 型 にな る 。
と 言 え る 。 思 う に、一 時 代 前 に は 、 そ れ ら は ● ○ 型 ・● ○ ○ 型 、 ○ ● ○ 型 で あ った 。 そ こ へ、 高 い拍 を 後 へ送 ろ
う と す る 傾 向 が 生 じ 、 後 へ送 り や す い構 造 を も つ語 に 限 り 後 へ送 った 結 果 が 、 現 在 の状 態 と 考 え ら れ る 。
前 に ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ﹂ の類 、 ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け る ﹂ の類 が 、 ● ○ ○ 型 ← ○ 〓 ○ 型 と いう 変 化 を 遂 げ た ろ う と 考 え
た 。 こ の 変 化 も 今 言 った 変 化 の流 れ に 乗 った 変 化 と 見 ら れ る 。 な お 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 平 型 の 語 のう ち 、 ﹁ 名 が﹂
﹁葉 が ﹂ の類 が 、 ●○ 型 で と ど ま って いる の は 、 長 く 引 いて 発 音 さ れ る場 合 の、 ナ ー ガ ・ ハー ガ と いう 形 への類
推 によ る も の であ ろ う 。 ま た 、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ で 平 東 平 型 で あ る ﹁雨 が﹂ ﹁猿 が﹂ の類 が ○ ○ 〓 型 に な ら ず 、 ○ 〓○ 型
で が んば って いる のは 、 第 二 拍 が単 な る ● で は な く て 、 〓 と いう 拍 で あ る た め で あ ろ う 。 そ の他 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で
平 上 型 の語 のう ち 、 ﹁見 る﹂ ﹁出 る ﹂ が● ○ 型 に な って い る点 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 平 上上 型 の ﹁歩 く ﹂ の類 が ○ ● ○ 型
にな って いる 点 は 丸 亀 と 同 様 であ る。 丸 亀 と 同 じ よ う に 、 そ れ ぞ れ ミ テ ・デ テ ・ア ルイ テと いう 連 用 形 の形 へ類 推 し て変 化 し た も のと 考 え ら れ る 。
も っと も 、 今 、 高 松 で は 、 ﹁見 て ﹂ ﹁見 た ﹂ の ア ク セ ント は 、 ミ テ ・ミタ であ って 、 ミ テ ・ミ タ では な い。 ミ テ
の型 は ミ テ の型 か ら 変 化 し た も の と 見 ら れ る。 つま り、 ﹁見 て ﹂ ﹁見 た ﹂ を ミ テ ・ミ タ と 言 った 時 代 があ って、 そ
の時 代 に ミ ル の ア ク セ ント を 引 っ張 って ミ ル と 変 え た 。 そ のあ と で 、 ミ テ ・ミ タ が 、 ミ テ ・ミ タ に変 化 し た と 考
え る わ け で あ る 。 こ れ は 、 文 献 の証 明 を 待 た ず 、 論 理的 な 見 地 か ら 二 つの ア ク セ ント 変 化 の時 代 の先 後 を 推 理す
る こ と にな る が 、 当 た って い る こ と を 期 待 す る 。
な お 高 松 方 言 に つ いて 音 韻 論 上 注意 す べ き こ と がら と し て、 高 起 ・低 起 二 種 類 の ○ 〓 ○ 型 の存 在 の問 題 が あ る。
す な わ ち 、 一つは 、 名 詞 +助 詞 の 形 に 現 れ る も の で、 ア メ ガ ( 雨 )・サ ルガ ( 猿 ) な ど が これ に 属 し 、 連 文 節 で
は コノ ア メガ の よ う な 形 を 守 る 。 語 頭 に滝 があ る と 見 ら れ る 。 こ れ は 本 来 の○ 〓 ○ 型 に 見 ら れ る 性 格 で、 こ の場
( 力 )、アガル
(上 が る )・アカイ
( 赤 い) な ど の類 が これ に属 し 、 連 文 節 で は、 コノ チ
合 に は 、 第 二拍 の母 音 が狭 く 、 第 三拍 の母 音 が 広 く ても 差 し 支 え な いら し い。 も う 一つは 、 一つ の単 語 の場 合 に 見 ら れ る も の で、チカラ
カ ラ (こ の力 ) のよ う な ア ク セ ント に な る 。 語 頭 には 滝 が な いと 見 ら れ る。 こ れ は ● ○ ○ 型 か ら 変 化 し た も の で、
● ○ ○ 型 であ った と き は 、 語 頭 に滝 が な か った 、 そ の性 格 を 伝 え て いる も の と 解 さ れ る 。
れ る が、 現 在 は 語 頭 に 滝 があ る よ う であ る 。 単 独 の場 合 のオト ・ムラ が、アメ
(雨 )、サル
( 猿 ) に同 化 し て 、
も っと も 、 こ れ に は 例 外 が あ る よ う で、 オ ト ガ (音 が)・ム ラ ガ ( 村 が ) な ど は 、 も と ● ○ ○ 型 だ った と 思 わ
語 頭 に 滝 を も つよ う にな った た め であ る 。 ま た ○ ● ○ 型 に 属 す る ク スリ ( 薬 ) の類 は 、 も と あ った 滝 を 失 って 、 アズ キ (小 豆 ) と 全 く 同 じ 型 に な って いる よ う で あ る 。
次 に高 松 式 ア ク セ ント の方 言 のう ち 、︹L の︺ 坂 出 王 越 と︹Oの ︺三 木 と︹P志 ︺度 小 田 の三 方 言 は 同 じ よう な も の で 、
特 に 問 題 にす べき こ と も な い。 坂 出 王 越 と 高 松 と の違 いは 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で平 上 型 の ﹁見 る ﹂ ﹁出 る ﹂ の類 を ミ ル ・
デ ルと 言 う 点 であ る。 これ は高 松 にお け る よ う な 、 ﹁見 て ﹂ ﹁出 て﹂ と いう 型 へ の類 推 が行 わ れ な か った も の と 見
られる。志度 小田 では、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ の平 東 平 型 が○ ● ○ 型 であ る が 、 こ れ は 第 二拍 に 〓 ← ● と いう 小 さ な 変 化 が 起 こ った も のと 見 ら れ る 。
︹K︺ の綾 上 山 田 のも のは 、 高 松 で ○ ● 型 の語 が ● ● 型 に な って お り 、 ○ ● ● 型 の 語 が ● ● ● 語 に な って いる 。 つ
ま り 丸 亀 と同 じ であ る 。 た だ し 、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ で 上 平 型 の語 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 平 平 型 の 語 は 、 高 松 と 同 じ よ う に、一
部 が ○ 〓 型 や ○ 〓 ○ 型 に な って いる 。 も と の上 上 ⋮ ⋮ 型 の語 彙 で は 丸 亀 と 同 じ よ う に古 い形 を 伝 え 、 も と の上 平
⋮ ⋮ 型 の 語彙 では 高 松 と 同 じ よ う な 変 化 を 遂 げ た 方 言 と 解 せ ら れ る。 ﹃名 義 抄 ﹄ で平 平 上 型 の語 の アク セ ント も 丸 亀 と 同 じ で あ る 。 丸 亀 式 ・高 松 式 の ち ょう ど 中 間 の ア ク セ ント と言 って い い。
七 土 庄 式 ア ク セ ント の成 立
土 庄 式 を 代 表 す る ア ク セ ント であ る︹T︺土 庄 町 小 瀬 アク セ ント は 、 ● 〓 型 の よ う な 型 を も って お り 、 ﹃名 義 抄 ﹄
の● ○ 型 が● 〓 型 にな って いる の が 特 色 であ る 。 ま た、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ の○ ● ○ 型 は ○ ○ 〓 型 に な って いる 。 こ れ は 、
﹃名 義 抄 ﹄ の ア ク セ ント が次 のよ う な 滝 の後 退 を 起 こし た 結 果 でき 上 が った も の に相 違 な い。 ●○型← ●〓型 ●○○ 型←●●○ 型 ○●○ 型←○○〓 型
こ れ ら の 変 化 は 滝 の後 退 で、 私 が 甲 種 ア ク セ ント か ら 乙 種 ア ク セ ント が 生 ま れ る 時 に行 わ れ た ろう と 推 定 す る 変
化 と 同 じ 性 質 のも ので あ る が、 す べ て の● ○ 型 の語 、 す べ て の● ○ ○ 型 の語 の上 に起 こ った と 見 る 点 で、 こ の方 言 は 高 松 方 言 以 上 に 乙 種 方 言 に 近 いと 言 え る 。
た だ し 、 ﹃名義 抄 ﹄ で ● ○ 型 の ﹁名 が﹂ ﹁葉 が ﹂ の類 は 一部 が ● ● 型 にな り 一部 は● ○ 型 に と ど ま って いる 。 名
詞 の部 分 が 長 く 引 か れ る こ と によ る変 異 であ ろ う 。 ﹃名 義 抄 ﹄ の● ● ○ 型 は そ のま ま 変 化 し な か った が 、 ﹁風 も ﹂
の類 は ● ● ● 型 に 変 化 し て いる 。 ﹁も ﹂ のア ク セ ント が 他 の 助 詞 のア ク セ ン ト と 混 同 し た も のと 見 ら れ る が、 こ れ も 他 の多 く の型 の上 に 滝 の後 退 が 起 こ った こ と と 関係 が あ ろう 。
次 に ﹃名 義 抄 ﹄ の平 平 型 の語 は ● ● 型 で、 平 平 上型 と 平 平 平 型 と の語 は 、 半 数 が● ● ● 型 であ る 。 これ は 、 ○ ○ 型 ← ● ● 型 、 ○ ○ ● 型← ● ● ● 型 、 ○ ○ ○ 型 ← ● ● ● 型
と いう 香 川 県 一般 の ア ク セ ント 変 化 が こ こ に も 起 こ った こ と を 表 す 。 た だ し 、 こ の 場 合 、 ﹁起 き る ﹂ ﹁逃 げ る ﹂ の
類 は ● ● ● 型 に な っ て い る が 、 ﹁余 る ﹂ ﹁動 く ﹂ の 類 は 、 ● ● ○ 型 に な って い る 。 こ れ は 、 ﹁余 った ﹂ ﹁ 動 いた ﹂ と
いう 形 が ア マ ッ タ ・ウ ゴ イ タ と いう 型 で あ る か な に か の た め に 、 そ の 型 へ の 類 推 に よ る も の で あ ろ う 。 ﹁白 い ﹂
の 類 が ● ● ○ 型 に な っ た の は 、 第 三 拍 が イ と い う 独 立 性 の 弱 い 拍 だ った た め で あ ろ う 。
﹃名 義 抄 ﹄ の 平 上 型 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 平 上 上 型 に 起 こ った 変 化 は 、 他 の 讃 岐 諸 方 言 の 上 に 起 こ った 変 化 と 同 じ も の であ る か ら 、 説 明 す るま で も な い。
ま た 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 平 東 型 の 語 の う ち 、 ﹁雨 ﹂ ﹁猿 ﹂ の 類 が 、 ア メ ・サ ル と いう 低 平 型 に な っ て い る の は 、 助 詞
の 付 い た 形 が 、 ア メ ガ ・サ ル ガ に な っ て い る 、 そ の ア ク セ ン トへ の 類 推 の 結 果 で あ ろ う 。
難 し い の は、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ で 上上 型 の 語 、 上 上上 型 の語 で あ る 。 ま ず そ のう ち で、 現 在 ● ● 型 、 ● ● ● 型 であ る
も の は 特 に 問 題 は な い。 ﹃名 義 抄 ﹄ 時 代 か ら 変 化 を 遂 げ な か った と 見 て い い。 ﹃ 名 義 抄 ﹄ の 上 平 型 ・上 平 平 型 ・平
上 平 型 に 関 し て は 、 高 松 方 言 を 上 ま わ る 乙 種 方 言 へ の 接 近 が 見 ら れ た が 、 上 上 型 ・上 上 上 型 に お い て は 、 高 松 方
﹃名 義 抄 ﹄ で 上 上 型 ・上 上 上 型 の 語 の う ち 、 こ の 方 言 で ● ● 型 、 ● ● ● 型 で は な い も の に つ い て
言 の よ う な 接 近 は し な か った こ と に な る 。 注意 す べ き は
﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ の 完 了 形 が ア ロー タ ・ ハ コ ンダ か ら ア ロ ー タ ・ ハ コ ン ダ に 変 化 し た 、
で あ る 。 た と え ば 、 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け る ﹂ の 類 は 、 ○ ○ 〓 型 に な って い る 。 こ れ は 、 ど う し た の か 。 恐 らく 五 段 活 用 動 詞 の方 は
ア ロー ・ ハ コ ブ は そ れ に 類 推 し て ア ロー ・ ハ コ ブ と な り 、 さ ら に ○ ● ○ 型 ← ○ ○ 〓 型 と いう 、 一般 変 化 の 波 に の
っ て ア ロオ ・ ハ コ ブ と な った も の で あ ろ う 。 一段 活 用 動 詞 の 方 は 、 完 了 形 が ス テ タ ・ マ ケ タ が ス テ タ ・ マ ケ タ を
﹁上 が れ ﹂ の 類 が 、
経 て ス テ タ ・ マ ケ タ と な った 、 そ れ に 類 推 し て 、 ス テ ル ・ マ ケ ル と な った も の が 、 同 じ く ○ ● ○ 型 ← ○ ○ 〓 型 と
いう 一般 変 化 の 波 に の って 、 ス テ ル ・ マ ケ ル と な っ た も の で あ ろ う 。 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 上 平 型 の ア ガ レと な って いる のも 、 同 じ 形 への類 推 の結 果 と 見 ら れ る。
﹃名 義 抄 ﹄ で 上上 型 の語 のう ち 、 ﹁売 る ﹂ ﹁咲 く ﹂ の類 が ウ ル ・サ ク の型 にな って いる こ と は 説 明 が 一番 困 難 で あ
る 。 ﹃名 義 抄 ﹄ で 平 上 型 の動 詞 ﹁書 く ﹂ ﹁取 る ﹂ ﹁見 る﹂ ﹁出 る ﹂ の類 と 混 同 を 起 こ し 、 多 数 の語 彙 が 属 す る そ の型 へ合 流 し て し ま った も のと 見 る べき であ ろ う か。
︹ U︺ の 土庄 町 長 浜 のア ク セ ント は 、 土庄 町 小 瀬 のア ク セ ント に近 いが 、 そ の 成 立 を 考 え る こと は案 外 に 難 し い。
大 き な 特 色 は 、 ● ● 〓 型 と いう 型 が あ って、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上 上上 型 と 平 平 上 型 が い っし ょ に な って そ の● ● 〓
型 にな って い る こ と であ る 。 これ は 、 ど う し て でき た も のか 。 ﹃名 義 抄 ﹄ の平 平 上型 が ○ ○●型← ○○○型← ●●○ 型
と いう 変 化 を 起 こ し て、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上上 平 型 の 語 と 合 流 し 、 次 に● ● ○ 型 と ● ● ● 型 と が 混 同 し て ● ● ○ 型 に
な った 。 そ れ が 、 さ ら に ● ● 〓 型 に な った と で も 考 え る べき だ ろ う か 。 た だ し 、 ● ● ○ 型 と ● ● ● 型 と が 合 流 し
て● ● ○ 型 にな る と 考 え る こと に 多 少 無 理 が あ る よ う に 思 わ れ る 。 こ う いう 方 言 が あ る と 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上 上 上
型 は 、 そ れ 以前 に ● ● 〓 型 と か ● ● ○ 型 と か 言 った よ う な 型 で は な か った か と いう 疑 問 を 起 こし た く な る 。 私 が
別 に 発 表 し た ﹁真 鍋 式 ア ク セ ント ﹂ の考 察 か ら も そ のよ う な こと が考 え ら れ た 。︹ 補7︺が、 そ れ は 及 ぼす と こ ろ の 大 き な 重 要 な 問 題 な の で、 別 に考 え る こ と と す る。
次に ﹃ 名 義 抄 ﹄ で 上 平 平 型 の語 は 、 小瀬 で● ● ○ 型 であ る にも か か わ ら ず 、 長 浜 で は ● ● 〓 型 に な って いな い。 ● ● ○ 型 で あ る 。 こ れ は 、 長 浜 では 、 ●○○ 型←●● ○型 と いう 変 化 が 、 ● ●○型←● ●〓型
と いう 変 化 と 並 行 的 に 起 こ った た め で あ ろ う 。 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 上 平 型 の 語 のう ち 、 ﹁赤 い﹂ の類 が 例 外 的 に ● ● ○ 型 であ る のは 、 第 三 拍 の音 韻 の関 係 で ● ● 〓 型 に な り そ こね た も の、 と 見 る 。
﹃名 義 抄 ﹄ で 上平 平 型 の 語 のう ち の ﹁買 う た ﹂ の類 が ● ○ ○ 型 で あ る のも 、 同 様 に 、 第 二拍 の音 韻 の 関 係 で● ●
○ 型 に な り そ こ ね た も のと 見 る 。 ﹃名 義 抄 ﹄ で平 上 平 型 の語 のう ち の ﹁白 う ﹂ の 類 も 、 第 三拍 の音 韻 の 関 係 で 、 同 様 に ○ ○ 〓 型 に な ら ず 、 ○ ● ○ 型 に と ど ま った 。
と ころ で長 浜 方 言 の ア ク セ ント で注 意 す べき も の に 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の平 上 平 型 、 平 上上 型 の語 彙 があ る 。 す な わ
つま り 旧 四 海 村 地 域 の方 言
ち 、 これ ら は 、 そ れ ぞ れ ○ ○ 〓 型 お よ び ○ ○ ○ 型 に な って いる が 、 こ れ は 丁 寧 な 発 音 で こ そ ○ ○ 〓 調 、 ○ ○ ○ 調 に 実 現 す る が 、 無 造 作 な 発 音 で は 、 第 一拍 が 高 く な って、 ○ ○ 〓 型 は〓 ○ 〓 調 に ○ ○ ○ 調 は〓 ○ ○ 調 に
実 現 す る こと であ る 。 これ は 長 浜 方 言 の ほ か に 、 土 庄 町 伊 喜 末 方 言 に も 聞 か れ る︱
に聞 か れ る 傾 向 で あ る が、 こ の場 合 、 第 一拍 の〓 は 、 第 二 拍 の○ に 比 し て か な り は っき り 高 く 発 音 さ れ る の で、
ち ょ っと 聞 く と、 小 豆 島 の他 の部 落 の方 言 と は 随 分 異な った 印 象 を 受 け る こ と があ る 。 土 庄 町 旧 市 域 の人 た ち の
間 でも 、 旧 四海 村 の ア ク セ ント は 非 常 に耳 立 つと の こ と であ った 。 私 の 印象 で は、 こ の型 に 属 す る こ れ ら の語 彙
は 、 た ま た ま ﹁雨 が﹂ ﹁猿 が ﹂ ﹁空 が ﹂ ﹁麦 が ﹂ ⋮ ⋮ と い った 語 彙 な の で、 さ き の ﹁音 が ﹂ ﹁石 が ﹂ ⋮ ⋮ の類 が● ●
○ 型 に 発 音 さ れ る こと と 相 ま って 、 ち ょ っと 乙 種 ア ク セ ント の方 言 に接 し て いる 思 い が し た 。 こ の ○ ○ 〓 型 ・○
○ ○ 型 は 、 も し 今 の状 態 が 続 く と す れ ば 、 将 来 に お い て、 ● ○ ○ 型 に変 化 し て し ま う の で は な いか と 推 測 さ れ 、 こ こ に 一種 の乙 種 ア ク セ ント の誕 生 が期 待 さ れ て いる よ う に 思 わ れ る。
︹ V ︺ の土 庄 町 大 部 の ア ク セ ント は 、 大 体 、 小 瀬 よ り 一段 古 い形 を 伝 え て いる も の と 見 ら れ る。 ﹃ 名 義 抄 ﹄ で 上平 型
の語 が● ○ 型 であ り、 ﹃名義 抄 ﹄ で 上 平 平 型 の語 が● ○ ○ 型 であ る のな ど は そ の例 で あ る 。 た だ し 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で 平 上平 型 の語 は 小 瀬 ・長 浜 と 同 じ よう な 変 化 を 起 こ し て ○ ○ 〓 型 に な って いる 。
八 塩 飽 本 島 式 ア ク セ ント の 成 立
本 島 式 ア ク セ ント の代 表 、︹J本︺島 ア ク セ ント は 、 一般 の香 川 県 諸 方 言 に 比 し て 型 の種 類 が 少 な く 、 全 平 型 と
いう も の が な い点 に特 色 が あ る 。 そ う し て 丸 亀 式 ・高 松 式 な ど の諸 ア ク セ ント で 、 平 板 型 の語 は○ ● ○ 型 の よ う な 型 にな って い る。 こ れ は ﹃ 名 義 抄 ﹄ と の型 の対 応 を 考 え る と 、
の よう にな る。 こ れ は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ にあ った 上 上 型、 平 平 型 が 平 東 型 に統 合 し 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上上 上 型 、 上上 平
型 、 平 平 上 型 、 平 平 平 型 が 平 上 平 型 に統 合 し て でき たも の に相 違 な い。 た だ し 、 そ の統 合 の過 程 を 推 測 す る こ と は ち ょ っと 難 し い。
ま ず 、 三 拍 語 で は、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ の 上 上 平 型 は平 上 平 型 と の間 に 統 合 を 起 こし て ○ ● ○ 型 に な った で あ ろ う 。 次
に 平 平 上 型 が ○ ○ ● 型 ← ○ ○ ○ 型 と いう 変 化 を 起 こ し て 平 平 平 型 に 合 流 し 、 さ ら に 上上 上 型 であ る ● ● ● 型も 統 合 を 起 こ し て 、 ○ ○ ○ 型 に合 流 し た も の で あ ろ う 。 そ う し て 、 そ れ ら が
○ ○○型←○ ●○型
と いう 変 化 を 起 こ し 、 こ の結 果 、 ○ ● ○ 型 に数 多く の語 彙 が 属 す る に 至 った も の であ ろう 、 と 推 定 す る 。
こ の 場 合 、 も と の● ● ● 型 が 、 ○ ○ ○ 型 に合 流 し た と 考 え る の は、 こ の方 言 で は 、 高 い拍 が 二 つ以 上 続 く こ と
を き ら う 心 理 が働 いた た め と 解 す る 。 上 上 平 型 が ○ ● ○ 型 に な った のも そ の 現 れ と 見 る。 同 じ 原 因 で ﹃名 義 抄 ﹄
の平 上 上 型 は 、 ○ ○ ● 型 に な った 。 そ う し て○ ○ ● 型 は 、 ○ ○ ○ 型 が ○ ● ○ 型 に合 流 し た あ と を 受 け て、 ○ ○ ○ 型 に 変 化 し て 現在 に至 った 、 と 考 え る 。
一体 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上 上上 型 が 平 上 平 型 と 合 流 し て いる のは 、 本 島 式 ア ク セ ント と 地 域 を 接 し て 行 わ れ て いる 岡
山 県真 鍋 島 ・香 川 県 佐 柳島 ・高 見島 の アク セ ン ト の特 色 であ る 。 こ の方 言 の ア ク セ ント に つ いて は 、 ﹁真 鍋 式 ア
ク セ ント ﹂ と 呼 ん で先 般 実 地 調 査 し た と こ ろ を 、 秋 永 一枝 ・金 井 英 雄 両 氏 と の連 名 で ﹃国 語 国 文 ﹄ ( 三五巻 一号) に 寄 稿 し た 。 こ の方 言 で も 、 私 は ●● ●型←○○ ○型←○● ○型
の変 化 を 想 定 し た 。( 同論文、 二九 ページを参照)も っと も そ の場 合 、 変 化 の過 程 と し て 、 ●● ●型←○ ●●型←○ ○●型←○ ○○型
と いう も のを 想 定 し た が、 こ れ は 無 条 件 で は 認 め が た いに違 いな い。 と いう のは 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で は 別 に 平 上上 型
と いう も のが あ って 、 そ の 型 は 、 上 上上 型 と 合 流 し て いな いか ら であ る 。 そ う す る と 、 上上 上 型 は ○ ● ● 型 に は
変 化 し た と い って も 、 も と の平 上上 型 と は 違 った ○ ● ● 型 に な った も のと 思 わ れ る 。 も と の平 上 上 型 の○ ● ● 型
は 、 高 知 方 言 の○ ● ● 型 のよ う な 語 頭 に 滝 を も つ○ ● ● 型 、 新 し い○ ● ● 型 は 、 東 京 語 の○ ● ● 型 のよ う な 、 語 頭 に 滝 のな い○ ● ● 型 と考 え る 。
﹃ 名 義 抄 ﹄ で 平 上上 型 の 語 のう ち 、 ﹁歩 く ﹂ の類 が ○ ● ○ 型 で あ る の は 、 ﹁歩 いた ﹂ と いう 形 へ の類 推 の結 果 によ
るも の で、 こ れ は 、 丸 亀 式 ・高 松 式 の多 く の諸 方 言 に 起 こ った 変 化 と 同 じ性 質 のも のと 見 る 。
●●型←○ ○型 }
←●○ 型
次 に 、 二拍 語 に つ いて は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ か ら 次 の よ う な 変 化 が 起 こ った も の と 想 定 す る 。
上上型 O○ 型=○○ 型
○ ●型←○ ○型
○ 〓型←○ ●型
● ○型=● ○型 = ● ○ 型
平平 型 上平 型 平東型 平上型
し れ な い。 ﹃名 義 抄 ﹄ で平 平 型 の語 、 ﹁山 ﹂ ﹁犬 ﹂ の類 が、 今 そ ろ って ○ ● 型 に な って お り、 ● ○ 型 に な って いる
右 のう ち 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の平 平 型 が本 島 で● ○ 型 に 変 化 し て いる と 認 定 す る こと に つ いて は 、 不 審 を 抱 か れ る か も
った と 考 え る 。 そ れ が 、 助 詞 の付 いた 形 が ○ ● ▽型 であ る。 そ れ に 類 推 し た 結 果 ○ ● 型 に 移 った も のと 考 え た い。
も のは な いか ら であ る 。 私 は、 ﹁山 ﹂ ﹁犬 ﹂ は 、 こ の方 言 で は 上 のよ う な 経 過 を た ど って ● ○ 型 に な る はず の語 だ
﹃名 義 抄 ﹄ で 上 上 型 の語 のう ち の ﹁庭 ﹂ ﹁鳥 ﹂ が 今 ○ ● 型 であ る のも 同 様 で 、 助 詞 の付 いた 形 が 、 ● ● ▼ か ら ○
○ ▽を 経 て ○ ● ▽ 型 に 変 化 し た 、 そ の 形 に 類 推 し て ○ ● 型 に な った も のと 考 え る 。
玉 井 節 子 氏 によ る と 、 ﹁売 る﹂ ﹁咲 く ﹂ ﹁着 る ﹂ ﹁ 寝 る ﹂ の 類 の 一部 は 、 ○ ○ 型 に も 言 う よ う であ る が 、 そ れ は 、
﹁着 く ﹂ ﹁取 る ﹂ ﹁見 る﹂ ﹁出 る ﹂ の ア ク セ ント へ合 流 し て し ま った も の と 見 ら れ る。 こ れ は 、 ﹁売 る ﹂ 以 下 が ● ●
型 か ら ○ ○ 型 に 変 化 し た 時 に、 ﹁書 く ﹂ 以 下 が ○ ● 型 で あ る 、 そ の型 にま ぎ れ た も の であ ろ う 。 こ のあ た り も ﹁真 鍋 式 ア ク セ ント ﹂ と よ く 似 て お り 、 相 互 の関 係 の深 さ を 思 わ せ る。
︹ W︺ の苗 羽 方 言 は 本 島 方 言 に 似 た ア ク セ ント を も つが、 次 の点 が 異 な り 、 一般 に○ ● 型 ・○ ● ○ 型 に属 す る 語 彙 が少 な い。 ( 1) 本 島 で○ ● 型 の ﹁庭 ﹂ ﹁鳥 ﹂ の類 、 ﹁山﹂ ﹁犬 ﹂ の類 が ● 〓 型 。
(2 ) 本 島 で ○ ● ○ 型 の ﹁庭 が﹂ ﹁鳥 が ﹂ が ● ● ○ 型 。 た だ し 、 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ﹂ の類 、 ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け る ﹂ の 類
は ○ ●○ 型 。 (3) 本 島 で○ ● ○ 型 の ﹁赤 い﹂ の類 が ● ○ ○ 型 。
( 4) 本 島 で○ ● ○ 型 の ﹁山 が ﹂ ﹁犬 が﹂ の類 、 ﹁余 る ﹂ ﹁動 く ﹂ ﹁起 き る ﹂ ﹁逃 げ る﹂ の類 、 ﹁白 い﹂ の類 が● ● ○ 型。 こ の アク セ ント は ど う し て でき た か 。 ま ず 、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ の 上上 平 型 には ● ● ○ 型← ● ○ ○ 型
の 変 化 が起 こ って 、 上 平 平 型 に 合流 し た ろ う 。 そ の結 果 (3) の よう に、 ﹁赤 い﹂ の類 が ● ○ ○ 型 にな った 。
次 に 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上上 上 型 ・平 平 上 型 ・平 平 平 型 は 、 そ ろ って○ ○ ○ 型 にな った こ と 、 本 島 と 同 様 であ る が 、 そ のあ と ○ ○ ○ 型 ← ○ ● ○ 型 と いう 変 化 を 起 こさ ず 、 ○○○ 型←●●○ 型
と いう 変 化 を 起 こ し た も の と 推 定 す る 。 こ の結 果 、(2 と) (4 に)記 す よ う な ア ク セ ント にな った 。(1の) ﹁庭 ﹂ ﹁鳥 ﹂
の類 、 ﹁山﹂ ﹁犬 ﹂ の類 が●〓 型 であ る のは 、 助 詞を 付 け た場 合 が● ● ▽型 であ る の に類 推 し た も のと 見 ら れ る 。
解 釈 し が た い の は 、(2 に) 挙 げ た ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ の 類 、 ﹁捨 て る ﹂ ﹁負 け る ﹂ の類 が ○ ● ○ 型 に な って いる 事 実 で
あ る。 ど う し て ● ● ○ 型 で は な い の だ ろ う か。 こ れ は 何 か 他 の活 用 形 への類 推 の結 果 か と 思 わ れ る が 、 他 の活 用 形 の ア ク セ ント が 知 ら れ な い の で、 未 詳 と いう ほ か はな い。
九 直 島 式 ア ク セ ン ト の 成 立
こ の タイ プ に属 す る も の は、︹N香 ︺川 県 の中 で直 島 方 言 あ る の み で、珍 し い ア ク セ ント であ る 。 か つて 虫 明吉 治
郎 氏 も こ の方 言 の ア ク セ ント を 調 査 さ れ た が 、 そ の結 果 は、 玉 井 氏 のも のと は か な り 違 った も の にな った よ う に
聞 い て いる 。 あ る いは 、 こ こ の島 の方 言 は 、 個 人 差 が激 し い の かも し れ な いが 、 今 、 詳 し い内 容 が知 ら れ て いる
玉 井 氏 の報 告 によ る も のを 、 一応 標 準 的 な 直 島 のア ク セ ント と 見 な し て考 察 を 進 め る。
こ の方 言 の ア ク セ ント は香 川 県 のア ク セ ン ト の中 で、 一番 乙 種 ア ク セ ント に 近 い形態 を 備 え て い る。 型 の種 類
な ど がま ず そ う で、 こ の方 言 に は 語 頭 の滝 と いう も の がな いら し い。 ﹁手 が ﹂ の 類 を テ ガ と 言 い、 ﹁雨 が ﹂ の類 を
ア メ ガ と 言 う のも 乙 種 式 の例 であ る。 地 理 的 に も 児 島 半島 に近 いと ころ にあ り 、 玉 井 氏 の言 う よ う に 乙 種 ア ク セ
ント の影 響 が 及 ん だ か と いう こと は考 え や す いが 、 こ こ で は 一応 、 讃 岐 ア ク セ ント の中 で変 化 し た も の と 見 る立 場を とろう。 ま ず 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の平 平 上 型 が ○ ● ● 型 に な って いる 点 が 著 し い。 これ は、 ○ ○ ● 型 ← ○ ○ ○ 型 ← ● ● ● 型← ○ ● ● 型
と いう 、 高 松 式 ア ク セ ント に 起 こ った と 同 じ ア ク セ ン ト 変 化 が 起 こ った も の と 想 定 す る 。 こ の 場 合 、 ﹃ 名 義抄﹄ で上 上上 型 の語 も 、 巻 きぞ え を 食 って、 ●● ●型←○ ●●型
の変 化 を 遂 げ た と考 え る 。 ﹁庭 が ﹂ ﹁鳥 が﹂ の 類 は 、 そ のよ う に し て ○ ● ● 型 にな った 。 た だ し 、 ﹃ 名 義抄 ﹄ の 上
上上 型 の語 のう ち 、 ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ﹂ の類 、 ﹁捨 て る﹂ ﹁負 け る ﹂ の類 は 、 ○ ● ○ 型 に な って いる 。 ﹁捨 て る﹂ ﹁負 け
る ﹂ は 難 し い が ﹁洗 う ﹂ ﹁運 ぶ ﹂ は 、 他 の活 用 形 の ア ク セ ント へ の類 推 の結 果 と 見 る 。 恐 ら く ﹁洗 う た ﹂ ﹁運 ん だ ﹂ を ア ロー タ ・ハ コン ダ と 言 う の で あ ろ う 。
﹃名 義 抄 ﹄ の 上 上 上 型 が 、 ○ ● ● 型 にな った 以 上 は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上 上 型 は 、 ○ ● 型 に な ってし か る べき で あ る 。
﹁庭 ﹂ ﹁鳥 ﹂ の類 は 、 そ う な った 。 と こ ろ が ﹁血 が ﹂ ﹁戸 が﹂ の類 、 ﹁売 る﹂ ﹁咲 く ﹂ の類 、 ﹁着 る ﹂ ﹁寝 る ﹂ の類 は 、
● ○ 型 に な って いる 。 こ れ は 丸 亀 式 ・高 松 式 のア ク セ ント に起 こ った よ う に 、 他 の 形 への類 推 が働 いた 結 果 と 思 わ れ る。
﹃名 義 抄 ﹄ で 上上 平 型 の ﹁赤 い﹂ の類 が ○ ● ○ 型 であ る の は 自 然 で あ る 。 ● ● ○ 型 ← ○ ● ○ 型 の変 化 が 起 こ った
と 見 ら れ る 。 ﹃名 義 抄 ﹄ で 上 平 型 の語 、 上 平 平 型 の語 は● ○ 型 、 ● ○ ○ 型 で あ る が、 こ れ は 、 ア ク セ ント 変 化 が 起 こら な か った と 見 て 問 題 な い。
難 し い のは 、 ﹃名 義 抄 ﹄ で平 上 型 の語 、 平 上 上 型 の語 、 平 上 平 型 の語 であ る 。 こと に ﹃名 義 抄 ﹄ で平 上 上 型 に
属 す る 語 のう ち 、 二拍 名 詞 + 助 詞 の形 で は 、 第 二 拍 の母 音 の狭 いも のが ○ ● ▽型 であ り 、 広 いも のは ○ ● ▼型 だ
と いう 。 こ れ は ま こ と に 不 自 然 な こと で あ る 。 こ れ に はど う いう 変 化 が 起 こ った と 想 定 す べき で あ る か。 ま ず 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の こ れ ら の型 に 次 のよ う な 変 化 が 起 こ った と 見 ら れ る 。
○ ● ○ 型 ← ○ ○ ●'型 ← ● ○ ○ 型
○ ● 型← ○ ○ 型 ← ● ○ 型
平上平型
○ ● ● 型 ← ○ ○ ● 型 ← ○ ○ ○ 型 ← ○ ● ○ 型
平 上 型
平上上型
﹃名 義 抄 ﹄ で平 上 型 の 語 で は 、 ﹁絵 が﹂ ﹁手 が ﹂ の類 、 ﹁見 る ﹂ ﹁出 る ﹂ の類 は これ で説 明 が つく 。 ﹁ 空 ﹂ の 類 が○
● 型 であ る のは ? これ は ﹁空 が ﹂ の 形 が ○ ● ○ 型 、 ま た は ○ ● ● 型 であ る 。 そ の ア ク セ ント へ類 推 が働 き 、 ○ ● 型 にも ど った の で あ ろ う 。
﹁書 く ﹂ ﹁取 る﹂ の類 は 玉 井 氏 に よ る と ○ ○ 型 であ る と 言 う 。 恐 ら く こ れ は ﹁空 ﹂ ﹁松 ﹂ の類 と 同 じ で ○ ● 型 の誤
り であ ろう 。 な ぜ な ら こ の方 言 は ほ か に○○ 型 の語 彙 がな い。 ○ ● 型 と し て よ いな ら、 これ は 連 用 形 が 恐 ら く ○ ● ● 型 と いう よ う な 型 であ って 、 そ の 型 に引 か れ た 形 であ ろ う 。
次 に ﹃名 義 抄 ﹄ で 平 上 平 型 ( 実 は平 東 平 型 ) の語 は 、 ﹁雨 が ﹂ ﹁猿 が ﹂ の類 で あ る が、 これ は こ の方 言 で ● ○ ▽ 型 に な って いる 。 こ れ は ○ ● ○ 型 ← ○ ○ ●'型 ← ● ○ ○ 型 と いう 変 化 を 経 過 し た も の と考 え る。
こ の 二段 の変 化 は 、 二 拍 語 の 上 に 起 こ った ○ ● 型 ← ○ ○ 型 ← ●○ 型
と いう 変 化 と 並 行 し て起 こ った も の であ ろう 。 最 後 に 残 る の は 、 さ っき触 れ た ﹃名 義 抄 ﹄ で平 上 上 型 の語 で あ る 。
﹁空 が﹂ ﹁松 が﹂ の類 が ○ ● ▼ 型 と ○ ● ▽ 型 と に分 か れ て いる が 、 こ こ の分 かれ 方 は 、 玉 井 氏 によ る と 、 第 二 拍 の
母 音 の広 いも のが 、 ○ ● ▼型 、 母 音 の狭 いも の が○ ● ▽型 だ と いう 。 こ れ は非 常 に 不 思 議 であ る。 母 音 の広 狭 に
よ って 、 同 じ 類 の語 が 二 つ の 型 に 分 かれ る こと は、 日 本 の 各 地 の方 言 に 見 ら れ る と こ ろ で あ る が、 これ は 、 元 来
狭 い母 音 の拍 の次 に 滝を 置 き にく い こと が原 因 で発 生 す る 現象 であ る か ら 、 こ こ のよ う に ○ ● ▼ 型 と ○ ● ▽型 と
に 分 属 す る な ら ば 、 ○ ● ▼ 型 の方 に 第 二拍 の狭 い語 が 来 て 、 ○ ● ▽ 型 の方 に第 二 拍 の広 い語 が来 そ う な も の であ
る のに 、 こ の方 言 は、 広 狭 と 滝 の位 置 と が 入 れ か わ って いる ! これ は 実 に珍 し い こ と と 言 って い い。 ど う し て こ のよ う な こ と が起 こ った の であ ろ う か。
思 う に こ の方 言 で は 、 ま ず ﹃名 義 抄 ﹄ の平 上 上 型 す な わ ち ○ ● ● 型 は 、 多 く の甲 種 方 言 と 同 様 に ○ ○ ● 型 への
変 化 が 起 こ り か け た が 、 そ の 折第 二 拍 の 狭 い語 で は そ こを 低 く 発 音 し や す いた め に、 そ の種 類 の語 だ け が ○ ○ ●
型 に な り、 第 二 拍 の 広 い語 は ○ ● ● 型 に と ど ま った。 こ の と ど ま った 方 は 現 代 に 至 る ま で そ のま ま な の で、 ﹃名
義 抄 ﹄ の上 上 上型 の 語 、 平 平 上型 の語 と 合 流 す る に 至 った が 、 第 二 拍 の狭 い語 は 、 そ の後 、 ○●● 型←○○ ●型←○ ○○型←○ ●○型
と 変 化 し て 現 在 に至 った と 見 る の であ る 。 こ の変 化 は ﹃ 名 義 抄 ﹄ で平 上 平 型 の語 の上 に 起 こ った 変 化 と 並 行 的 で
あ る が 、 平 上 平 型 の 語 の方 は、 第 二 拍 の あ と に滝 が あ り 、 そ れ が 第 三 拍 のあ と に 移 って も 消 え る こ と がな か った
た め に、 ○ ○ ● 型 か ら ○ ○ ○ 型 にな る こ と がな か った の に 対 し 、 も と 平 上 上 型 の方 は 語 中 に滝 が な いた め に 、 ○
○ ● 型 か ら あ っさ り ○ ○ ○ 型 に 変 化 し た 。 こ の○ ○ ● 型 と ○ ○ ○ 型 と の対 立 が 、 今 、 ● ○ ○ 型 と ○ ● ○ 型 と いう
対立 に な って 現 れ て いる も の と 見 る 。 ﹃名 義 抄 ﹄ で平 上 上 型 の類 の語 のう ち 、 ﹁歩 く ﹂ の類 は 第 二拍 の母 音 が 狭 い
か ら 、 今 ○ ● ○ 型 に な って いる の は よ く 理 屈 に 合 う 。
と に か く 、 こ の方 言 は母 音 の広 狭 と 滝 の有 無 と の間 の関 係 が普 通 に見 ら れ る 方 言 と は 逆 にな って いて 、 不 合 理
と 言 わ ざ る を え な い関 係 で 結 ば れ て いる 。 こ のよ う な ア ク セ ント の例 は 、 埼 玉 県 東 部 の方 言 に 見 ら れ るも の で、
た と え ば 、 南 埼 玉 郡 蓮 田 町方 言 で は 、 第 二類 ・第 三 類 の二 拍 の名 詞 は 、 第 二 拍 の音 韻 的 性 格 に よ って 二 つ に分 か
れ て いる が 、 正 常 の拍 を も つも の は ○ ○ ▼ 型 で あ って 、 は ね る 音 、 引 く 音 、 母 音 i だ け の拍 に 限 って ○ ● ▽ 型
に な って いる 。 こ れ は 、 こ の方 言 は 一時 代 前 に 、 東 京 のよ う な ア ク セ ント を も って いた 、 そ れ が 一拍 分ず つ滝 が
後 方 にす べ った た め に こ のよ う な 不 合 理 な 性 格 を 呈 し て いる も のと 考 え ら れ る 。 こ の直 島 の ア ク セ ント も 同 じ よ
う な 性 格 のも の で 、 こ のよ う な 方 言 は 、 音 韻 と 型 と の 関 係 が 合 理 的 に対 応 し て いる 体 系 か ら 、 規 則 的 に 変 化 し て でき た も の であ る こと を 表 す も の と考 え ら れ る 。︹ 補8︺
十 讃 岐 ア ク セ ント 総 括
以 上 述 べた と こ ろ で、 香 川 県 諸 方 言 の ア ク セ ント 体 系 の変 種 が ﹃類 聚 名 義 抄 ﹄ のア ク セ ント 体 系 か ら 変 化 し て
分 かれ て 来 た あ と を 推 定 し て み た つも り であ る 。 動 詞 や 形 容 詞 の活 用 形 の上 に起 こ った 変 化 に つ いて の推 定 の あ
た り に は 、 ま だ 不 十 分 な 点 が あ り、 あ る い は ﹃名 義 抄 ﹄ 以 前 の 形 か ら 変 化 し た と 推 定 す べ き か と も 思 う が 、 大 体 は 以 上 のよ う でま ち が いは な い か と考 え る 。
これ を 要 す る に 、 讃 岐 諸 方 言 の ア ク セ ント 体 系 は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ 以 後 、 ﹃ 補 忘 記 ﹄ に 見 え る よ う な ア ク セ ント を 経 過 せず 、 上 上 型 と 平 平 型 の合 流 上上 上型 と 平 平 上型 と 平 平 平 型 の合 流
と いう 、 全 国 他 の方 言 に 見 な い特 殊 な 変 化 を 遂 げ た 。 そ う し て 東京 ・京 阪 方 言 そ の他 多 く の ﹃補 忘 記﹄ 系 の諸 方 言 の 上 に 起 こ った 上平 型 と 平 平 型 の合 流 上平 平 型 と 平 平 上型 の合 流 上上 平 型 と 平 平 平 型 の合 流
と いう 変 化 を 起 こ さ ず 、 ま た 北 奥 ・出 雲 ・九 州 と い った 辺 境 地 区 の多 く の方 言 の上 に 起 こ った 上上 型 と 上 平 型 の合 流 上上 上型 と 上上平 型 と 上 平 平 型 の合 流
と い った 変 化 も 起 こさ な か った 。 こ の結 果 、 瀬 戸 内 海 沿 岸 に沿 った 狭 い地 域 な が ら 、 異 色 のあ る ア ク セ ント 体 系 を 備 え る に至 った と 見 ら れ る 。
と こ ろ で、 讃 岐 諸 方 言 のう ち 、 観 音 寺 式 方 言 は 、 そ の後 、 平 上 型 ・平 上上 型 のよ う な 型 の上 に変 化 が 起 こ った
程 度 で、 も っと も 古 い形 を も って いる 。 こ れ は、 ﹃ 補 忘 記﹄ 系 の 諸 方 言 に似 た も の を 求 め れ ば 、 和 歌 山 や 松 山 の
ア ク セ ント に 比 す べき も の であ ろ う 。 丸 亀 式 方 言 は、 これ に 対 し て、 動 詞 ・形 容 詞 の上 に 類 推 そ の他 に よ って 型
の変 化 を 起 こし て いる 。 これ は 、 ﹃補 忘 記 ﹄ 系 諸 方 言 に 求 め る な ら ば 、 京 都 や 大 阪 の ア ク セ ント に 比 す べき も の
であ る 。 そ う し て、 も し 、 ﹃ 名 義 抄 ﹄ の古 い 上 平 型 ・上 平 平 型 ・上 上 平 型 に 変 化 を 起 こ さ な い方 言 を 、 ︽甲 種 方
言 ︾ と 名 づ け て よ いも の な ら ば、 以 上 の観 音 寺 ・丸 亀 の諸 方 言 は 、 和 歌 山 ・松 山 ・京 都 ・大 阪 の諸 方 言 と と も に 、 甲種 方 言 と 称 す べき も のと 思 わ れ る 。
と こ ろ で、 次 の高 松 式 方 言 は、 ﹃名 義 抄 ﹄ の 上上 型 と 上 上上 型 ・上上 平 型 の 上 に 、 第一 拍 を 低 め る 変 化 が 起 こ
り、 同 時 に 上平 型 ・上平 平 型 ・平 上 平 型 の上 に 第 一拍 ・第 二拍 のあ と にあ る 滝 を 、 一拍 分後 に 送 る 変 化 が起 こ り
か け て いる 。 も し 、 甲 種 方 言 の滝 を一 拍 分 あ と に送 った 方 言 が 、 ︽乙 種 方 言︾ だ と す る 私 の推 定 が 正 し いな ら ば 、
これ は 、 乙 種 方 言 に一 歩 近 づ いた 方 言 と 言 う こと が で き る 。 ﹃補 忘 記 ﹄ 系 諸 方 言 の中 の能 登 の方 言 に 近 いも の と
言 え る か も し れ な い。 土 庄 式 方 言 も 、 上上 型 ・上 上 上 型 ・上 上 平 型 に は 変 化 を 起 こ さ な い が、 上 平 型 ・上 平 平
型 ・上 上 平 型 に お け る 滝 を 送 る 変 化 に お い て は 、 高 松 式 方 言 以 上 に 進 ん で いる 。 別 な 方 向 か ら 乙 種 方 言 に 近 づ い
た 方 言 と 言 え よ う 。 土 庄 式 方 言 の中 で 、 旧 四海 村 諸 方 言 では ﹃ 名 義 抄 ﹄ の平 上上 型 ・平 上 平 型 が ○ ○ ○ 型 ・○ ○
〓 型 にな り 、 自 然 の発 音 で 、第 一拍 が 高 め に発 音 さ れ た 。 これ は 、 能 登 島 の東 部 に、 丁 寧 に 言 え ば 甲 種方 言 の よ
う に聞 こ え な がら 、 無 造 作 な 発 音 で は 乙 種 方 言 のよ う に 聞 こえ る ア ク セ ント が あ る。 そ の方 言 に よ く 似 て い る。
次 に、 本 島 式 方 言 は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の平 平 上 型 が ○ ● ○ 型 に な って いた り す る と こ ろ か ら 、 乙 種 方 言 と ア ク セ ン
ト の 一致す る 語 彙 を 多 く も つが 、 し か し これ は 、 ● ● ● ・● ● ○ ・○ ● ○ ・○ ○ ● ・○ ○ ○ と いう 、 多 く の種 類
の型 が い っし ょ に な って○ ● ○ 型 にな った 、 そ の中 に、 た ま た ま 乙 種 方 言 で ○ ● ○ 型 の語 彙 も 見 ら れ る と いう の
に す ぎ ず 、 これ を も って 乙 種方 言 に 近 いと いう こ と は で き な い。 そ れ よ りも 、 多 く の型 の間 に 統 合 が行 わ れ た と
いう 点 で 、 も し ﹃補 忘 記 ﹄ 系 諸 方 言 の中 か ら 似 た も のを 求 め るな ら ば 、 垂 井 式 方 言 あ た り に擬 す べき も の であ ろ う。 最 後 に 、 直 島 式 方 言 は 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の上 上型 ・上 上上 型 ・上 上平 型 の 上 に、 ● ●型←○● 型 ● ●●型←○ ●●型 ● ●○型←○ ●○型
と いう 第 一拍 低 下 の変 化 が 起 こ った 以外 に 、 ﹃名 義 抄 ﹄ の平 上 平 型 、 平 平 上 型 の● の拍 が 後 の 拍 へ送 ら れ 、 そ の
あ と で、 第 一拍 あ る いは 第 二拍 に 二次 的 な 隆 起 が 起 こ った点 で、 乙 種 ア ク セ ント によ く 似 て いる 。 上 平 型 、 上 平
平 型 、 上上 平 型 に 滝 を 後 へ送 る 変 化 が 起 こ ら な か った 点 に 、 多 少 物 足 り な い点 が あ る が 、 いわ ゆ る 高 起 式 ・低 起
式 の区 別も 失 わ れ て いる ら し い点 な ども 、 甲 種 方 言 に近 いと いう よ り 、 乙 種 方 言 に は る か に近 い。 これ は 乙 種 方
言 に 属 す る 讃 岐 ア ク セ ント と 呼 ぶ べき であ ろ う 。
動 物 学 の本 を のぞ いて み た ら 、 オ ー スト ラ リ ア 大 陸 に 住 む 野 生 の哺 乳 類 は 、 す べて カ ン ガ ルー のよ う な 有 袋 類
に属 す る も のば か り だ そ う で あ る が 、 そ の種 類 は き わ め て 多 く 、 わ れ わ れ の目 に は、 ウ マの よ う に見 え る も の、
と いう か ど う か 、 つ
ウ サ ギ のよ う に 見 え るも の、 ネ ズ ミ のよ う に 見 え るも の の ほ か に 、 ク マ のよ う に 見 え る も のも 、 ネ コ のよ う に 見
え る も の も 、 オ オ カ ミ の よ う に 見 え る も の ま で も い る と あ った 。 思 う に 、 旧 大 陸 で 無 袋︱
ま り 有 袋 類 以 外 の哺 乳 類 動 物 が 繁 栄 分 化 し て 、齧 歯 類 ・有 蹄 類 ・食 肉 類 ⋮ ⋮ な ど の 別 が で き た よ う に 、 オ ー ス ト
﹃補 忘 記 ﹄ 系 諸 方 言 に 甲 種 方 言 ・乙 種 方 言 そ の 他 が あ る よ う に 、 讃 岐 諸 方 言 に も 甲 種
ラ リ ア の大 陸 で は 、 有 袋 類 の哺 乳 類 動 物 が 分 化 し て同 じ よ う な 区 別 が でき た も のら し い。 東 京 語 ・京 阪 語 が 属 す る
方 言 ・乙 種 方 言 そ の 他 が あ る よ う で あ る の は 、 ま こ と に 興 味 あ る こ と で あ る 。
注
( 昭和 四 十 年 十 一月 )
( 昭和 四十一 年 五月 ) に 分 載 し た 。 第 二 二 号 に は 、 和 田 実 ・妹 尾 修 子 両 氏 の 伊 吹 島 の ア ク セ ン ト の報 告 も 載
心 な 学 生 が い て 、 講 義 は 楽 し か った 。
った 。 筆 者 が 香 川 大 学 へ出 講 し た の は 、 昭 和 三 十 一︲ 三 十 二 年 の こ と で 、 玉 井 さ ん の ほ か にも 方 言 研 究 を し て い る 熱
と第 二二号
が ど の よ う に し て 成 立 し た も の か を 説 明 し よ う と し た も の 。 国 学 院 大 学 の ﹃国 語 研 究 ﹄ 第 二 一号
︹ 付記︺ 香 川 県 諸 方 言 の ア ク セ ント に つ い て は 、 早 く か ら 注 目 し て い た が 、 玉 井 節 子 氏 の発 表 を 機 縁 と し て 、 そ の 分 派
補
︹1 ︺ 和田実 ﹁ 複 雑 な アク セ ント 体 系 の解 釈 ﹂ ( ﹃国 語学 ﹄ 第 三 二輯 所 載 、 昭 三十 三 年 三 月)
︹2 ︺ 山名邦男 ﹁ 四 国 方 言 ア ク セ ント の研 究(一) ﹂(( 二 ﹃ 音 )声 学 会会 報 ﹄ 第 八 四 ・八五 号 所載 、 昭 二 十 九年 三 ・八 月 )
︹3 ︺ こ の広 島 方 言 のア ク セ ント は 、 ある いは 和 田 実 氏 の報 告 さ れ た 伊 吹 島方 言 の よう なも のかも し れな い。 ど な た か 有 志 の調
査 を 待 つ。 ︹4 ︺ ﹃日 本 語 の ア ク セ ント ﹄ (四一三
ペー ジ の ︹14 ︺ に前 出 ) 所 載 。
︹5 ︺ 香 川 県方 言 でも 、 以前 は 、 バ行 五 段 活 用動 詞 はウ 音便 の形 を と って いた も のと解 す る 。 ︹6 ︺ こ の条 、 前 稿 で は 誤記 を し た の で、 訂 正 した 。 ︹7 ︺ こ の項 の こと 、 別稿 ﹁ 佐 渡 ア ク セ ント の系統 ﹂ の補 注 ︹ 6 ︺ に前 出 。
︹ 8︺ ﹃国 語 アク セ ント の史 的 研究 ﹄ ( 四 一一ペー ジ に前出 ) 一七 九 ペー ジ の︹3 と︺そ の注 を 参 照さ れ た い。
隠 岐 ア ク セ ン ト の 系 譜︱
比 較 方 言 学 の実 演 の 一例 と し て
一 隠 岐 ア ク セ ント に つ い て の従 来 の解 釈
出 雲 半 島 を 北 に 隔 た る こ と 二十 里、 日 本 海 の沖 合 いに 浮 か ぶ離 島 、 隠 岐 島 は 、 そ の地 理 的 な 位 置 か ら 見 て興 味 あ る ア ク セ ント を 有 す る 地 域 と し て、 早 く か ら 注 目 さ れ て き た 。
第 一に は 、 そ の面 積 ・人 口 に比 し て 変 異 が は な は だ し い こと 。 隠 岐 島 は も と 十 二 の町 村 か ら 成 立 し て い る が 、
こ こ に 十 種 類 のア ク セ ント が 行 わ れ て いる。 つま り 町村 ご と に 違 う ア ク セ ント が発 達 し て いる と 言 って い い。
第 二 は 、 そ のう ち の浦 郷 と か西 郷 と か、 交 通 そ の 他 文 化 の中 心 地 の ア ク セ ント は 、 中 国 地 方 一般 のも のよ り も 、
地域 的 に は離 れ た 京 都 ・大 阪 のも の に は る か に似 て いる こ と。 こ の こ と は 、 過 去 に お い て、 こ の島 の中 心 部 と京 都 地 方 と の 間 に 何 か の 交 渉 のあ った こと を 暗 示 す る よ う に見 え る 。
第 三 に は、 町 村 のう ち には 、 中 国 地 方 一般 のも のに 近 いア ク セ ント を 有 す るも のも あ り、 これ は 五 箇 村 ・中 村
のよ う な 辺境 の地 域 のも の が そう であ る こ と 。 こ のこ と は 、 何 か 古 い時 代 の ア ク セ ント が 周 辺 地 区 に 残 存 し て い る の では な いか と 想 像 さ せ る 。
これ ら の事 実 、 特 に 第 二 ・第 三 の事 実 は 、 石 田春 昭 氏 ( あ と に述 べる 文 献︹1) ︺ 、 広戸惇 氏 ( 同じく 文献 ︹ 2︺︹ 3︺ )、
大原孝道 氏 ( 同 じ く 文 献︹3︺) ︹の 4三 ︺ 先 達 に重 要 視 さ れ て、次 のよ う な 趣 旨 の解 釈 が 相 継 い で発 表 さ れ 、そ れ が 定 説 にな って い る観 が あ る 。
( 1) 五箇 村 そ の他 中 国 のも のに 近 い周 辺 地 区 の ア ク セ ント は 、 隠 岐 全島 に 古 く か ら 分 布 し て いた も の であ る。
(2) 浦 郷 町 そ の他 、 近 畿 方 言 に似 た と こ ろ のあ る 中 心 地 区 のア ク セ ント は 、 新 し く 生 じ た ア ク セ ント であ る 。
隠 岐 に は後 鳥 羽 院 や 小 野 篁 ・文 覚 上 人 な ど 都 の人 た ち が配 流 さ れ た 歴 史 的 事 実 が あ り 、 そ の中 心 部 の ア ク セ ント
が 京 都 方 言 の影 響 を 受 け た と考 え る こ と は 、 ち ょ っと 魅 力 のあ る 考 え 方 と 思 わ れ る か も し れ な い。
し か し 、 筆 者 は こ の隠 岐 方 言 の ア ク セ ント は 次 のよ う な 成 立 のも ので 、 中 央 地 区 と 京 都 の ア ク セ ント と の類 似 は 、 表 面 的 な 、 いわ ば 他 人 の空 似 の よう な も の と考 え る 。 ( 1) 一見 中 国 方 言 に 似 た 周 辺 地 区 の ア ク セ ント は 、 新 し い発 生 であ る 。 (2) 一見 近 畿 方 言 に似 た 中 心 地 区 のア ク セ ント こそ 、 島 で 古 いも ので あ る。
( 3) こ の中 心 地 区 の ア ク セ ント は 、 中 国 方 言 のア ク セ ント か ら 変 化 し た も ので あ る 。
以 下 こ こ に述 べよ う と す る の は、 そ う い った 、 いわ ば 定 説 に対 し て 、 造 反 的 な 新 説 の提 唱 の 詳 細 で あ る。︹ 補1︺
こ こ に 、 推 論 に 使 用 す る 資 料 に つ いて 述 べ て お け ば 、 筆 者 自 身 昭 和 三 十 四 年 の秋 N H K の仕 事 で こ の 地 に 遊 ん
だ と き に 、 旧 西郷 町 に 一泊 し 、 都 万村 ・旧 磯 村 を 訪 ね 、 島 前 ・島 後 の五 つの 町 村 の ア ク セ ント を 調 査 し た 、 そ れ を 基 本 的 な 資 料 と す る 。(1)な お次 の文 献 か ら 多 く 事 実 を 学 び え た 。
文献 ︹ 1︺ 島 根 女 子 師範 学 校 編 ( 石 田春 昭担 当) ﹃ 隠 岐 島 方 言 の研 究 ﹄ ( 昭+ 一年九月)
文献 ︹ 2︺ 広 戸 惇 ﹁隠 岐 島 ア ク セ ント の考 察 ﹂ ︹ 島 根大 学論集 ﹃人文 科学 ﹄第 一号所載 ︺ ( 昭二十六年三月) 文献 ︹ 3︺ 広 戸 惇 ・大 原 孝 道 共 著 ﹃山 陰 地 方 の ア ク セ ント ﹄ ( 昭二十八年三月) 。
文献 ︹ 4︺ 大 原 孝 道 ﹁隠 岐 島 のア ク セ ント ﹂ ︹ 広島 大学 方 言 研究 会 編 ﹃方言 研 究 年報 ﹄第 二巻所 載︺ ( 昭三十四年三月)
こ れ ら は いず れ も 良 心 的 な 信 頼 す べき 発 表 で あ る が、こ と に文 献︹3は ︺そ の詳 細 ・精 密 な 点 で 、 ま こ と に 敬 服 す
べ き も の であ る 。 以 下 の記 述 に 活 用 さ せ て いた だ く こ と を 感 謝 し て や ま な い。( 2)
こ こ に隠 岐 の文 化 地 理 に つ いて 、 ち ょ っと 申 し 述 べる な ら ば、 隠 岐 は 現在 こそ 隠 岐 一郡 であ る が、 つ い最 近 ま
隠 岐 ア ク セ ン ト分 布 図
で は島 前 が 二 郡 、 島 後 が ま た 二 郡 に 分 か れ て
いた 。 こ の 狭 い面 積 の 中 に 四郡 あ った と は 、
いか に各 地 域 相 互 が 孤 立 し て いた か が知 ら れ
よ う 。 こ と に 島 前 の海 士 町 は、 海 士 郡海 士 村
と いう 全 国 でも 例 のな い 一郡 一村 の 例 であ っ た。
航 路 も 今 は 鳥 取 県 境 町 を 出 港 し た も の が、
島 前 の旧 浦 郷 町 の ほか 黒木 村 ・旧海 士 村 ・旧
知 夫 村 に 寄 って 、 そ れ か ら 島 後 の 旧 西 郷 町 に
向 かう が 、 以 前 は 旧浦 郷 町 に寄 港 す る だ け で 、
他 の島 への交 通 は 不便 で あ った 。 こと に知 夫
村 は集 落 が島 の南 側 に あ って、 他 の浦 郷 や 海
士 に 対 し て 背 を 向 け て いる 形 で あ り 、 孤立 の 性 質 が強 い。
一方 島 後 は 、 港 は 旧 西 郷 町 に あ る だ け で、
他 は 山 を 越 え て陸 路 を 行 く の であ る か ら 、 こ
れ ま た 相 互 の交 通 は 不 便 を き わ め る。 し か も 、
そ の バ ス の路 線 は 南 岸 ・東 岸 は よ いと し て、
西 岸 ・北 岸 方 面 は 旧 西 郷 町 か ら 旧中 条 村 へ北
上 し 、 こ こ か ら 都 万 村 ・五 箇 村 、 旧 中 村 へ別
れ る の で 、 都 万 ・五 箇 ・旧 中 村 の 問 に は 相 互 の 交 渉 が 全 く な い 。
昭 和 十 八 年 ご ろ こ の 地 へ方 言 調 査 を 試 み ら れ た 大 原 孝 道 氏 の 談 で は 、 五 箇 で 調 査 を 終 え て 、 次 に 東 隣 の 中 村 へ
行 こ う と し た が 、 中 条 方 面 へ行 く バ ス は す で に 出 て し ま った 。 あ す 中 条 へ出 て 、 そ れ か ら 中 村 へ行 こ う と す る と
時 間 の 都 合 が 悪 く て 、 ど う し て も 中 条 か 西 郷 で 一泊 し な け れ ば な ら な い 。 そ れ は ば か ば か し い と い う わ け で 、 い
っそ 歩 い て 越 え よ う と 、 翌 日 早 朝 五 箇 を 出 て 地 図 と 磁 石 を た よ り に 、 山 路 に 踏 み 込 ん で み た が 、 道 は 細 く 険 し く 、
そ れ も 途 中 で な く な っ て し ま い 、 散 々 苦 し ん だ 挙 句 、 暗 く な っ た こ ろ 中 村 へた ど り 着 い た と い う 。
こ う い う こ と か ら 見 て 、 島 前 の 知 夫 、 島 後 の 都 万 ・五 箇 ・中 村 は 互 に 交 渉 の な い 辺 境 の 村 と い う こ と に な る 。
注 ( 1 ) 主 な 発 音 の提 供 者 は次 の各 位 であ った 。
( 大 正 二 年 生)。 同 村 福浦: 池 田 和之 氏 ( 昭 和 三年 生 )、 同村 代: 八 幡 恒夫 氏 。 島前 旧浦 郷 町 :中 上 千代 乃氏 ( 昭 和 十 二年 生 )。
島 後 旧 西郷 町: 松 井 延 二 氏 ( 大 正 十 三年 生)、 高 梨 礼 子 氏 。 同都 万村: 野 津 幸 夫 氏 ( 昭利六年生) 。 五 箇 村 南 方: 藤 田 猛 夫 氏
海 士 町 御波: 前 田 正 氏 (明治 四 十 三年 生 )。 同 町海 士: 岡本 正 志 氏 ( 大 正十 三 年 生)。
ア ク セ ントを 調査 し て 、 そ の結 果 が利 用 でき た。 発 音 の提 供者 は 次 の二人 であ る 。 旧浦 郷 町: 岡 本 賢 雄 氏 ( 大 正 七 年 生)。 知
(2 ) こ の稿 が 印刷 所 へ送 ら れ る直 前 の昭和 四 十 五 年 十月 隠 岐 島前 に渡 る 機会 があ り 、 旧 黒木 村 に 一泊 し、 旧 浦 郷 町 と 知 夫 村 の
夫 村 郡: 渡部 良 夫 氏 ( 大正四年生) 。
二 比 較 方 言 学 の原 理
隠 岐 方 言 の ア ク セ ン ト の 成 立 に つ い て 、 先 学 と 違 った 解 釈 を 提 唱 す る 以 上 は 、 そ の 根 拠 を 明 ら か に し て お く 必 要 があろう。
筆 者 は、 方 言 の ア ク セ ント の相 違 の原 因 を 考 え る た め に は、 何 よ り 比 較 言 語 学 の原 理 で 解 釈 で き な い か ど う か
を 検 討 す べ き だ と 思 う が 、 先 学 諸 氏 は、 そ の方 法 を と ら ず 、 言 語 地 理 学 の原 理 を 用 いて いる よ う に 見 え る。 ど う
いう 点 が そ う か と いう と 、 五 箇 地 区 の よ う な 周 辺 地 域 の ア ク セ ント は 古 いも の、 特 に 地 理 的 に隔 た った も う 一つ
の周 辺 地 区 であ る知 夫 地 区 と 共 通 に 見 ら れ る 性 質 は 古 いも の で、 中 央 の浦 郷 地 区 に見 ら れ る性 質 は 新 し いも の と
解 さ れ る あ た り 、 ド ー ザ の 言う 地 区 連 続 の法 則 の応 用 と 見 ら れ る。 が 、 筆 者 の考 え で は 、 そう いう 言 語 地 理学 の
方 法 を ま ず 適 用 す る 場 合 は 、 全 く 異 な る 起 源 を も つ事 柄 の 分 布 に 対 す る 時 で あ る。 例 え ば 、 ﹁蝸 牛 ﹂ の 異 名 で あ
る カ タ ツ ムリ ・デ ン デ ンム シ ・マイ マイ ツブ ロ等 で は、 一つの異 名 が 他 か ら 変 化 し て でき たも の で は な く 、 そ れ
ぞ れ 独 立 に発 生 し た も の で あ る 。 こ のよ う な も の の 分布 に 対 し て は 、 地 区 連 続 の法 則 と か方 言 周 布 の 説 と か いう
よ う な 原 理 を 適 用 し な け れ ば 、 どう にも な ら な いと 言う べき であ る 。 し か し 、 今 問 題 の隠 岐 の ア ク セ ント は、 各
町 村 の アク セ ント を 互 いに 比 較 し て みる と、 一つが 他 か ら 変 化 し て で き た 、 あ る いは 、 双方 が 共 通 の祖 先 か ら 変
化 し て でき た と 解 せ ら れ る も の で あ る 。 と いう の は 、 そ れ ら のア ク セ ント の間 に は 、 き わ め て規 則 的 な 型 の対 応
が 見 ら れ る か ら であ る 。 こ のよ う な 事 実 に 対 し て は 、 比 較 言 語 学 の方 法 こそ 適 用 す べき も のと 考 え る 。 二 つ の方
言 の間 の比 較 言 語 学 を ﹁比 較 方 言 学 ﹂ と 呼 ぶ な ら ば 、 比 較 方 言 学 こ そ 、 こ の場 合 ま ず 適 用 す べ き だ と いう こと に な る。
比 較 言 語 学 では 、 ま ず ︽同 一の ア ク セ ント を 有 す る 語 は、 意 義 ・用 法 の いか ん に か か わ ら ず 、 も し 変 化 す る と
す れ ば 、 同 一の条 件 下 にあ って は 同 一の方 向 に 変 化 す る ︾傾 向 があ る と 仮 定 す る 。 し た が って 、 こう な る 。
︹法 則 1︺ も し 二 つの方 言 の間 に 、 あ る 語 彙 群 が 甲 方 言 で A 型 に属 し て お り 、 そ れ が 意 義 ・用 法 の いか ん に か
かわ ら ず 、 乙方 言 で そ ろ って B 型 に 属 し て いる と いう 関 係 が認 め ら れ る な ら ば 、 そ れ ら は も と す べて X 型 と い
う 一つ の型 に属 し て いた と 判 定 さ れ る 。 た だ し X 型 は A 型 ・B 型 の いず れ か に 一致 す る こ と も あ り 、 いず れ と も 一致 し な いこ と も あ る 。︹ 補2︺
と こ ろ で、 あ る 方 言 であ る 語 彙 群 がP 型 からQ 型 に変 化 す る と 考 え る な ら ば 、 そ の 地 域 で 旧成 層 の人 た ちP 型
の発 音 の実 現 が、 新 成 層 の 人 た ち に は Q 型 の実 現 のよ う に 聞 こえ る と いう こ と が 契 機 に な る と 解 せ ら れ る 。 す な わ ち 、 こ う な る。
︹法則 2︺ 甲方 言 であ る 語彙 群 が A 型 に属 し て お り、 乙 方 言 で は そ の語 彙 群 が B 型 に 属 し て いる 場 合 、
( 1) も し 、 A 型 の実 現 が B 型 の実 現 のよ う に 聞 こえ う る が 、 B 型 の実 現 は A 型 の実 現 と は 聞 こ え 難 いと 認 め ら れ る な ら ば 、 B 型 は A 型 か ら 変 化 し た も の と考 え ら れ る 。
(2) も し 、 A 型 の実 現 は 、 B 型 の実 現 に は聞 こえ な いが 、 M 型 に 聞 こえ 、 M 型 の実 現 が B 型 に 聞 こえ う る と 考
え ら れ る な ら ば 、 B 型 は A 型 か ら M 型 を 経 過 し て変 化 し た も の と考 え ら れ る 。
以上( 1) (2) の場 合 は 、 と も に 乙 方 言 のB 型 の 語彙 は 、 も と A 型 に属 し て いた と 認 め ら れ る こと に な り 、 甲 方 言 は 古 い姿 を 伝 え て お り 、 乙方 言 は 新 し い姿 を 示 し て い る こ と に な る。
(3) も し 、 A 型 と B 型 と は 相 互 に 聞 き 紛 れ な いが 、 第 三 の型 、 N 型 の実 現 が 、 A 型 の実 現 と も B 型 の実 現 と も
聞 き 紛 れ う る と 解 せ ら れ る な ら ば 、 A 型 も B 型 も と も に N 型 か ら 変 化 し て き た も のと 考 え ら れ る 。 こ の(3) の場 合 は 、 甲 ・乙 両 方 言 と も 新 し い姿 にな って い る こ と に な る 。
次 に、 そ れ な ら ば 、 一つ の方 言 のP 型 がQ 型 の実 現 の よ う に聞 こ え る と いう こと は 、 ど のよ う な 場 合 に 起 こ る か 。 ア ク セ ント の変 化 は、 第 一に労 力 の節 約 を 計 る 方 向 に 起 こ る。 一般 に、 (1 ) 任 意 の 一つ の拍 は、 と か く 直 前 の拍 と 同 じ 高 さ に 発 音 さ れ よ う と す る。
(2) 最 初 か ら いき な り高 い拍 を 続 け て 発 音 す る よ りも 、 第 一拍 は低 く 始 め て 、 第 二 拍 か ら 高 く 発 音 す る 方 が 労 力 は少なく てすむ。 (3) ア ク セ ント の山 は、 な る べく 後 の拍 に送 ろ う と す る 。 と いう 傾 向 が 考 え ら れ る。 す な わ ち 、
︹法 則 3︺ 一群 の語 彙 に 関 し て 、 甲 方 言 と 乙 方 言 と の 間 に次 のよ う な 対 立 が 見 ら れ る場 合 、 そ の 語 群 に 関 し て は 甲 方 言 の方 が 古 い姿 、 乙 方 言 の方 が新 し い姿 であ る と 解 せ ら れ る 。
( 1) 甲 方 言 では 一つ の拍 が 高、 次 の拍 が低 に な って いる の に 対 し て (あ る いは低 高 に な って いる の に 対 し て)、
乙 方 言 で は そ の拍 も 次 の拍 も 高 ( そ の拍 も 次 の拍 も 低 ) にな って いる場 合 。 (=高 さ の同 化 の法 則 )
(2) 甲 方 言 で第 一拍 が 高 、 第 二拍 も 高 であ る 語 彙 が 、 乙 方 言 で 第 一拍 が 低 、 第 二 拍 が 高 であ る場 合 。 (=語 頭 低 下 の法 則 )
( 3) 乙方 言 の方 が 甲 方 言 よ り も ア ク セ ント の 山 が 一つあ と の拍 に あ る 場 合 。(=ア ク セ ント の山 後 退 の法 則 )( 3)
注 ( 3 ) こ こ で は問 題 を単 純 化 し て、 す べて の拍 が平 ら に 発 音さ れ る 場合 の みを 考 察 し た。 も し 甲方 言 で上 昇 調 の拍 が、 乙 方 言 で
低 平 調 にな って いるな ら ば 、 甲方 言 の方 が古 い姿 だ、 と いう よ う な 法 則 がま た 提 出 さ れ る はず であ る。 ま た 、 高 ・低 二 段 の
方 言 に 限 った が、 仮 に 高 ・中 ・低 三 段 の方 言 が あ った場 合 も 、 形 が複 雑 に な った だ け で、 ま た 同 様 の趣 旨 の法 則 が考 え 出 さ れ る はず であ る 。
と こ ろ で 、 ア ク セ ント の 変 化 は 、 第 二 に 、 そ の 機 能 が よ く 発 揮 さ れ る よ う な 方 向 へ変 化 す る こ と も あ る 。 た と え ば 、 一般 に 、
( 1) 語 頭 に 二 つ 以 上 低 い 拍 が 続 く よ う な 語 は 、 そ の う ち の ど れ か 、 特 に 初 め の 部 分 が 高 く 発 音 さ れ る 方 が 、 語 の 始 ま り を 示 す 点 で 望 ま し い 。
望 ま し い。
(2) 二 つ の 山 が 分 か れ て 存 在 す る 型 よ り も 、 山 が 一 つし か な い型 の方 が 、 一語 で あ る こ と を は っき り 示 す 点 で
( 3) そ の 語 の 前 に 他 の 語 が 来 て 単 純 結 合 体 を 作 る 場 合 に 、 そ の 語 自 身 の ア ク セ ン ト が は っき り し な く な る よ う
な 型 、 そ の語 の後 に 語 が 来 て 単 語 結 合 体 を 作 る 場 合 に 、 後 の語 のア ク セ ント を は っき り さ せ な く す る よ う な
型 は 、 共 に 好ま し く な い。 そ の た め に
︹法則 4 ︺ 一群 の語 に 関 し て 甲 方 言 と 乙 方 言 と の 問 に次 のよ う な 対 立 が 見 ら れ る 場 合 、 そ の語 の ア ク セ ント に 関 し て甲 方 言 の方 が 古 い姿 、 乙方 言 の方 が 新 し い姿 で あ る と 解 せ ら れ る 。
( 1) 甲 方 言 で 低 低 ⋮ ⋮ 型 、 低 低 低 ⋮ ⋮ 型 で あ る 語 彙 が 、 乙 方 言 で 高 低 ⋮ ⋮ 型 、 高 低 低 ⋮ ⋮型 、 高高 低 ⋮ ⋮ 型 な ど にな って いる 場 合 。 (=語 頭 隆 起 の法 則 )
( 2) 甲 方 言 で は 二 か 所 に 山 があ る 場 合 に、 乙 方 言 で は そ のう ち の 一方 し か な い場 合 。 (=山 の 一元 化 の 法 則 ) こ の 場合 、 後 の 山 の方 が消 え る の が定 石 であ る 。
(3 ) 甲 ・乙 両 方 言 と も 同 じ 音 調 を も つが 、 甲 方 言 で は 語 頭 ま た は 語 尾 に滝 が あ り 、 乙 方 言 で は 滝 を 欠 く 場 合 。 (=滝 消 失 の法 則 )
さ て、 型 の変 化 と は 、 ア ク セ ント 体 系 の変 化 であ る か ら、 甲 方 言 の 一つの 型 で あ る A 型 が B 型 に 変 化 す る と す
る な ら ば 、 A 型 と 同 じ 性 格 を 有 す るA' 型 ・A"型 ⋮ ⋮ も 一斉 にB' 型 ・B"型 ⋮ ⋮ に 変 化 す る の が自 然 のは ず であ る 。
も っと も A 型 の属 性 は 単 一で は な いか ら 、 A 型 と 共 に変 化 す る の がA' 型 ・A"型 ⋮ ⋮ で は な く て、A' 型 ・A"型 ⋮ ⋮ であ る か も し れ な い。 そ こ で 、
︹法則 5︺ あ る方 言 に A 型 ← B 型 と いう 変 化 が 起 こ る と 想 定 す る 場 合 、 A 型 の ど の よ う な 属 性 の変 化 であ る か
を考 え 、 そ の性 格 を も って いる 他 の 型 も す べ て並 行 的 に 変 化 を 遂 げ る と 想 定 し な け れ ば な ら な い。 (=型 の並 行変化 の法則)
次 に 、 あ る方 言 の A 型 が B型 に 変 化 し よ う と す る場 合 、 B 型 は す で に そ の方 言 の体 系 内 に存 在 し て いる 型 であ
って 、 そ の 型 に は 変 化 が 起 こら な い こと が あ り う る。 こ の場 合 、 A 型 の 語彙 と B 型 の語 彙 と は 統 合 し て 、 B 型 と
いう 同 一の 型 にな り、 型 の種 類 は 一つ減 る わ け であ る 。 これ は 、 語 の意 義 の区 別 か ら 言 う と 望 ま し く な い が、 記
憶 の経 済 か ら は 歓 迎 さ れ る。 す な わ ち 、
︹法 則 6︺ 甲 方 言 で A 型 と B 型 に 分 属 し て いる 語 彙 群 が 、 乙 方 言 で は X 型 と いう 一つ の 型 に な って いる 場 合 、
特 別 の事 情 のな い限 り、 甲 の方 言 の方 が 古 い姿 を 、 乙 の方 言 の方 が 新 し い姿 を 示 し て いる と 判 定 さ れ る。 (= 型統 合 の法 則 )
た だ し 、 こ の場 合 注 意 す べき こ と は 、 型 の種 類 が 一つ減 る こ と は 、 ア ク セ ント 体 系 の 一部 が 崩 れ る こと にな る 。
ア ク セ ント 体 系 は 記 憶 に た よ って存 在 し て いる も の で あ る か ら に は 、 整 然 と し た 秩 序 のあ る も の であ ろ う とす る 。
そ のた め に は 、 A 型 の実 現 が B 型 の実 現 のよ う に 聞 こえ る こ と が 統 合 の契 機 とな った と し て も 、 そ の場 合 双 方 が
B 型 に統 合 す る と は 限 ら な い。 A 型 の方 が 体 系 全 体 か ら 見 て 望 ま し い場 合 に は 、 双 方 が A 型 に統 合 す る こ と も 考 え て お か な け れ ば な ら な い。
と に か く 、 ア ク セ ント は 好 ん で統 合 の方 向 に 進 む が、 分 裂 に進 む 場 合 も な い で はな い。 す な わ ち 、 音 韻 上 の 対
立 、 職 能 上 の対 立 が 契 機 と な って A 型 の語 群 の 一部 が B 型 にな る こ と 、 あ る いは 、 A 型 の語 群 が B ・C 両 型 に 分
属 す る こ と があ る 。 こ の場 合 、 し ば し ば 新 し い型 が 誕 生 し 、 型 の数 が殖 え る こと も あ る わ け で あ る が 、 これ は よ
く よ く の こと で あ る か ら 、 音 韻 上 の性 格 で そ の発 音 の方 が 容 易 で あ ると か 、 職 能 上 の性 格 か ら 言 って 新 し い型 の 方 が合 理 的 であ る と か いう 場 合 に 限 ら れ る。 す な わ ち 、
︹法 則 7︺ 甲 方 言 で A 型 の語 彙 が 乙 方 言 で A 型 と B 型 、 あ る い は B 型 と C 型 に 分 属 し て い る 場 合 、 も し A 型 と
B 型 、 あ る いは B 型 と C 型 と の間 に 音 韻 上 の 対 立 、 職 能 上 の対 立 が 認 め ら れ る な ら ば 、 甲 方 言 の方 が 古 い姿 を 、 乙 方 言 の方 は新 し い姿 を も つも の と 判 定 さ れ る 。 (=型 分裂 の法 則 )
こ の場 合 も 注 意 し て お く こ と は 、 例 え ば 音 韻 が 契 機 と な って 変 化 が 起 こ る 場 合 、 特 殊 な 音 韻 を も つ語 が 変 化 を
起 こし て 新 し い型 を作 る 場 合 も あ る が 、 時 に は 一般 の 語 が 変 化 を 起 こし た のに 対 し 、 特 殊 な 音 韻 を も つ語 だ け が
従 来 の 型 を 固 持 す る こと も あ り う る こ と であ る 。 ま た 、 一部 の 語 が 変 化 を 起 こし た 場 合 、 い つも 新 し い型 が 生ま
れ る わ け では な く 、 一部 の語 が 従 来 あ る 他 の 型 に 合 流 し て 、 変 化 を 起 こし た 場 合 、 型 の数 は 変 化 し な いこ と も あ り う る こ と 、 言 う ま でも な い。
以 上 、 こ こ で は も っぱ ら ア ク セ ント の変 化 と 称 し て 型 そ のも の の 変 化 ば か り を 説 いて き た が、 一つの 型 に 属 す
る あ る 一語 、 あ る いは あ る 一群 の語 が 、 一般 の 語 と 離 れ て 所 属 を 変 え る こ と も あ りう る 。
そ れ は 、 日常 あ ま り 用 いら れ な い語 が 、 他 の 語 への類 推 に よ って 変 化 す る こ と 、 同 音 語 に同 化 さ れ る こ と 、 あ
る いは、 そ の語 の意 義 ・用 法 にと って 、 望 ま し い型 に変 化 す る 場 合 な ど で、 いず れ も 他 の型 への 移 籍 が行 わ れ る
は ず であ る 。 ま た 、 一つ の方 言 で 一つ の型 の変 化 が 行 わ れ た あ と で そ の方 言 に 誕 生 し た 語 彙 ・復 活 し た 語彙 ・転 入 し て来 た 語 彙 は 、 そ の変 化 を 経 験 し な か った は ず であ る 。 そ こ で 、 ︹法則 8︺ 甲 ・乙 両 方 言 の間 で、 規 則 的 な 対 応 の例 外 を な す 語 彙 は 、 ( 1) 一方 の方 言 で類 推 そ の他 の原 因 で個 別 的 な 変 化 を し た か 、
(2) 一方 の方 言 でそ の変 化 の行 わ れ た 時 に存 在 し て いな か った の が 、 他 方 言 か ら の 移 入 な ど の事 情 で そ の方 言 に 存 在 す る よ う にな った か 、 であ る 。 (=対 応 の例 外 の取 扱 い に つ いて の法 則 )
三 隠 岐 ア ク セ ント 内 部 の対 応 関 係
こ こ で 、 隠 岐 各 方 言 の ア ク セ ント の相 違 を 大 観 す る た め に 、 各 方 言 で同 一の型 に属 す る 語 彙 群 を 一つず つ の表
にま と め て み る と 、 次 の第 1 表︱ 第 9 表 のよ う に な る。 隠 岐 諸 方 言 のア ク セ ント は、 相 互 に激 し い相 違 が あ る と
い っても 、 そ の間 に規 則 正 し い型 の対 応 関 係 が 見 ら れ る の で、 こ の よ う な 表 を作 る こ と が でき る わ け であ る が 、
こ の事 実 は 隠 岐 諸 方 言 はも と 同 一の ア ク セ ント を も った 方 言 か ら 分 裂 し て で き た も の で あ る こと を 物 語 る ( 法則
1 )。 な お 参 考 と し て 、 地 理的 に 関 係 の深 い 山 陰 地 方 か ら 四 つ の方 言 を と り 、 ま た 、・ 中 世 の京 都 ア ク セ ント の お
も か げ を 伝 え る方 言 と し て 、 高 知 のア ク セ ント を 対 照 し て掲 げ た 。 ま た 次 の点 に 注 意 。
( 1) 語 彙 の 条 に 掲 げ た 単 語 は 同 じ 類 に属 す る 多 数 の語 彙 を 代 表 し て い る は ず で あ る。 文 献︹3︺を ︹参 4︺ 照。 ( )
のな い単 語 は 筆 者 が 調 査 し た も の、( ) を 付 し た 単 語 は 文 献︹3︺に ︹よ 4︺ った も の。×印 を 付 し た も のは 、 音 韻
の関 係 か ら 浦 郷 ・海 士 ・磯 で 特 殊 な 変 異 を 示す 語彙 。 そ の語 の 調査 のな い場 合 、 ま た 、 そ の方 言 でた ま た ま
そ の 語 が 個 別 的 な 変 化 を 起 こし た と 見 ら れ る 場 合 に は、 同 じ 類 に 属 し 、 か つ適 当 と 見 ら れ る 他 の語 で代 え た
場 合 が あ る。 片 仮 名 で テ ・エのよ う に 注 記 し た の は そ の例 で、 表 1 表 の(1 の) 語 彙 で 、 テと あ る の は ﹁手 が﹂ の ア ク セ ント 、 エとあ る のは ﹁絵 が ﹂ の ア ク セ ント で あ る 。
(2) 地 点 は 、文 献︹3に ︺従 い、隠 岐 の 旧 町 村 名 で 示 し た 。 文 献︹4で ︺は 新 町 村 名 で 示 し てあ る 。 地 名 に ( ) を 付
さ な いも の は 筆 者 の調 査 し た 地 点 、( ) を 付 し た も の は 文 献︹3︺に ︹従 4︺った 地 点 。 鳥 取 以 下 の地 点 で は 、 そ
の地 点 で 調 査 のな い場 合 、 そ の地 点 で そ の語 が た ま た ま 例 外 的 な 型 に 属 し て いる 場 合 は 、 似 た ア ク セ ント を
有 す る他 の地 点 、 あ る い は同 一類 と 目 さ れ る他 の語 彙 を 選 ん で代 え た 場 合 が あ る 。 地点 に つ いて 言 う と、 鳥
取 市 の場 合 に は同 県 八 頭 郡 八 東 村 を 、 米 子 市 の場 合 に は同 県 日 野 郡 巌 村 を 、 浜 田 市 の場 合 に は 同 県 津 和 野 市
を と った 。八 東 村 以 下 の地 点 のア ク セ ント も 文 献︹3に ︺な った 。 米 子 市 に つ い ては 関 谷 浩 君 の 調 査 に 従 った 部 分 があ る 。
は、推定
(3) 具 体 的 に個 々 の語 の ア ク セ ント を 示 し た 欄 で は 、 ( ) の な い の は 、 筆 者 の 調 査 し た も の、 お よ び 文 献︹3︺
︹4 に︺ よ った も の。 ( ) を 付 し た も の は 、 文 献︹3︺の ︹記 4︺ 述 か ら 演 繹 的 に 推 定 し た も の で あ る。︱
を 見 合 わ せ た こ と を 、× は音 韻 のた め に 特 殊 の ア ク セ ント に な って いる こと を 示 す 。 ● と ○ のう ち 、 ● は 高
い拍 、 ○ は低 い拍 を 表 し 、 〓 は 自 然 の発 音 で○ よ り は 高 いが 、 ● ほ ど で は な いも のを 表 す 。 こ れ は 丁 寧 な 発
音 で は○ に 変 化 す る 傾 向 があ る 、 ま た は 、 あ るよ う に 推 定 さ れ る。'は 語末 の滝 を 表 す 。
第 1表
第1表
の注
1) 浦 郷 で は(1)を
単 独 で は 長 音 化 し て エ ー ・エ ー の 両 様,黒
木 ・海 士 ・
磯 ・西 郷 ・中 条 ・東 郷 ・布 施 ・知 夫 も こ れ に 準 ず る。 2) 浦 郷 ・海 士 で は イ ー 。 3) 磯 で は,老 の167‐170ペ
人 の 発 音 な ど に ● ● と い う 高 平 型 も 現 れ る と い う(文 献 〔3〕 ー ジ)。
4) 都 万 で は(1)を
単 独 で は エ ー と 引 い て 言 い,○
○ ・〓 ○ 両 様 。
5) 都 万 の ア ク セ ン トは 文 献 〔3〕〔4〕で ● ○ 型 で あ る が,筆 に よ り○ ○ 型 と 改 め た 。
者 の調 査 の 結 果
第 2表 6) 五 箇 で は(1)を で あ る が,き
単 独 で は,大
ざ っ ぱ に は かす か な下 降 調
わ め て ゆ っ く り した 発 音 で は,語
な 上 昇 が 現 れ る と い う(文 献 〔3〕の159ペ
尾 にか す か
ー ジ)。 中 村 も こ
れ に準 じる。 7) 五 箇 で は(6)を
単 独 に は,ご
く ゆ っ く り 発 音 さ せ る と語
尾 に か す か な 上 昇 が 現 れ る。 中 村 も 同 様 と い う(文 献 〔3〕 の168ペ
ー ジ)。
8) 浜 田 ・鳥 取 ・米 子 ・松 江 は 9) 高 知 で は テ ー モ と3拍
「出 え 」 「見 い 」 の 形 を と る。
に発 音 され る。
第2表 の注 1) (1)(2)の
語 彙 は,単
独 で は 隠 岐 各 方 言 と も引 い て ● ○ と も,短
く● と も。
2) (4)の 語 彙 の中 に は,「 貝 」 「鯛 」 「銀 」 「塔 」 の よ う な 語 も 含 ま れ て い る 。 多 くの 中 国 ・雲 伯 方 言 で は ● ○ 型 で あ る が,地 様 に(5)の
域 に よ っ て は ○ ●'型 で あ る。 同
語 彙 の う ち に は 「杭 」 「天 」 の 類 も含 ま れ て お り,こ
● ○ 型 が 多 い が,地 3) 浦 郷 で は(4)(5)の
れ も中 国 方言 で
域 に よ っ て は ○ ●'型 で あ る 。 語 彙 の う ち,第1拍
の 母 音 の 無 声 化 す る も の は,多
く第1
表 の 語 彙 に 転 属 し て い る 。 例,「 舌 」 「草 」 … 「癖 」 「鹿 」 … 。 ○ ●'の 型 に は な って い ない こ とに注 意 。 4) 浜 田 ・鳥 取 ・米 子 ・松 江 は
「寝 よ 」 「煮 よ 」 の 代 り に 「寝 え 」 「煮 い 」。
第 3表
第3表
の注
1) 「居 る 」 は オ ル と よむ 。 そ の ア ク セ ン トは 文 献 〔2〕に よ っ た 。 2) 浦 郷 で(1)の
語 彙 は 第2拍
が や や 延 び て ○ 〓 の よ う に も 。(4)
の 語 彙 の う ち 、 「聞 く」 「引 く」 … … の 類 は ○ ●'型 に 。 3) 布 施 で(3)を
○ ●'型 に も。
4) 中 村 で(1)(2)(4)の も。
語 彙 を● ○ の よ う に も 。 お そ ら く 「居 る」
第 4表
第4表
の注
1) 磯 で は 老 人 の 発 音 な ど に ● ● ● と い う 高 平 型 も 現 れ る と い う(文 献 〔3〕の169‐ 170ペ
ー ジ)。 な お 、 こ こ の
「絵 か ら」 「絵 で も」 は ○ ● ● 型 の 誤 り か と疑 わ れ る
が 、 一 応 文 献 〔3〕に 従 っ て お い た 。 2)西
郷 で は ○ ○ ● と い っ て も、○ ● ● 型 に 近 い 。中 条 ・東 郷 も こ れ に 準 ず る 。
3)都
万 は 文 献 〔3〕 〔4〕で は 〓 ○ ○ 型 な の を 、 私 見 で 改 め た 。 青 少 年 層 の 発 音 に は
○ 〓 ○ 調 が 現 れ る 傾 向 が あ る と い う(文 献 〔3〕の169,196ペ
ー ジ)。
4) 五 箇 で は(8)の
「書 け ば 」 「出 れ ば 」 を 第6表
5) 浜 田 ・鳥 取 ・松 江 は 「掛 け え 」 の 形 。 6) 「い つ も」 は 鳥 取 の 代 わ り に 八 東 村 。
の 語 彙 と 同 じ型 に も。
第 5表
第5表 の 注 1) こ の類 の 語 の う ち 「油 」 「 柱 」 …… の よ うに 第2拍 の 母 音 が 狭 く、 第3 拍 の母 音 の 広 い もの は、 隠 岐 方 言 で は 第4表 の 語 彙 に 転属 して い る(文献 〔3〕 の158ペ ー ジ)。 中 国 方 言 ・雲 伯 方 言 で は 第6表 に属 しそ うな 語 彙 で あ る(文 献 〔3〕23ペー ジ を参照)。 2) 「歩 け」 は 音韻 構 造 か ら言 っ て ●○ ○ 型 に な りそ うな もの で あ るが 、● ● ○型 で あ る。 動 詞 の 活 用 形 の 中 には 多 くの 語 へ の類 推 に よって 音 韻構 造 に かか わ らぬ ア クセ ン トを持 つ もの が あ る と言 え る。
3) 文 献 〔3〕 の173ペ
ー ジお よび 巻 末 の表 に よる と、 浦 郷 で は 、(5)の 語 彙
の うち 、 「 草 が 」 「舌 が 」 な ど、(6)の 語 彙 の う ち、 「鹿 が 」 「 癖 が 」 な ど、 (11)の語 彙 の う ち、 「つ か む」 「腐 る」 な ど、 第1拍 の母 音 の無 声化 す る も の が〓 〓 ○ 型 にな っ て第4表 の語 彙 に合 流 して い る。 他 の個 々の 方 言 で ど うな っ て い るか は報 告 にな い が、 五 箇 で は ちゃ ん と第5表 の よ うな型 に属 して い る とい う。 4) 海 士 で は これ らの 語彙 は従 来の 文献 で は● ●○ 型 に表 記 され て い るが 、 筆 者 の調 査 の 結 果 で は● ○ ○ 型 と認 め られ たの で 、 その よ うに 改 め た。
第 6表
第6表
の注
1) 浦 郷 ・黒 木 ・海 士 で は(12)の 語 彙 を ウ キ ャ と も。 そ の 場 合 ア ク セ ン ト は ● ○ 型 に な る。 2) 中 条 で は(7)の 3) 布 施 で は
語 彙 を ○ ○ ●'型 に も。
「風 が 」 「魚 が 」 な ど を ● ● ○ 型 に も,ま
た 〓 ○ ● 型 に も(文 献
〔3〕162ペ ー ジ)。 「遊 ぶ 」 の 類 を ○ ● ○ 型 に も 。(12)の 語 彙 を ○ ○ ● 型 に も と い う(文 献 〔3〕188ペ ー ジ 〉,○ ○ ●'型 の 誤 りか 。
4) 知 夫 で は(7)(8)の 語 彙 を文 献 〔3〕 〔4〕に○ ● ○ 型 に 言 う とあ り,変 で は ない か と筆 者 も調 べ てみ た ら,確 か に この とお りで あ った 。 文献 〔3〕 の信 頼 性 の 高 さ に敬 服す る。 な お,老 人の 発 音 で● ○ ●型 に も と言 う。 5) 都 万 方言 は,文 献 〔3〕 〔4〕 で は〓 ○ ●'型に表 記 して い る。 6) 五 箇 方 言 は,文 献 〔3〕 〔4〕 で は ● ○ ● 型 に表 記 して い るが,筆 者 の調 査 の結 果 に よ って 〓○ ● 型 に改 め て掲 げた 。
第 7表 7) あ る い は ま ち が い か も し れ な い が,一 応 文 献 〔3〕に 従 っ て お く。 形 容 詞 は 一 般 に個 別 的 変化 を してい るか もしれ ない 。 8) 浜 田 ・鳥 取 ・米 子 ・松 江 は 「当 て よ 」 の 代 わ り に 「当 て え 」 の 形 。 9) 高 知 は コ ー タ の 形 。
第 8表 第7表
1) 浦 郷 で は 第2表 の(4)(5)第5表
の(7)
(11)に関連 した事 実 が あ るが 省 略す る。 2) 海 士 の この 類 の 語 の ア クセ ン トは,先 行 文献 で は● ● ○ ○ 型 で あ るの を,筆 者 の 調 査 に よ り改 め た 。
の注
1) 磯 で は 老 人 の 発 音 な ど に ● ● ● ● 型 も
第8表 の注
現 れ る と い う(文 献 〔3〕169‐170ペ ー ジ)。 2) 西 郷 ・東 郷 で は ○ ● ● ● 調 に 近 く も 実 現 され る と い う(文 献 〔3〕169ペ ー ジ)。 3) 五 箇 で は(7)の
語 彙 を○ ○ ● ○ 型 に も
(文 献 〔3〕193ペ ー ジ)。 4) 鳥 取 の 代 わ り に 八 東 村 。 5) 米 子 の 代 わ り に 巌 村 。
3) 知 夫 で は(3)の
語 彙 を 老 人 は ● ● ○ ○ 型 に(文 献 〔3〕の167ペ
4) 都 万 で は 青 少 年 層 で は(2)の
語 彙 を ○ ● ● ○ 型 に 発 音 し,他
に も こ の よ う な 傾 向 が 見 ら れ る と い う(文 献 〔3〕の195‐196ペ 5) 鳥 取 の 代 わ り に 八 東 村 。 6) 高 知 は オ モ ー タ と い う形 の ア ク セ ン ト。
ー ジ)。 の語彙 ー ジ)。
第 9表
第9表 の注 1) 「 柳 が 」 の ア クセ ン トは文献 〔2〕に よっ た。 2) 浦 郷 で は,4拍
動 詞 の うち 「 教 え る」 「隠 れ る」 「 預 か る」 「う ず ま る」 の よ う に
第2拍 の母 音 が 狭 く,第3拍
の母 音 の 広 い もの は ○○ ● ○ 型 に な る。
3) 浦郷 ・海 士,(15)の 形 容詞 が も し第2拍 の母 音が 狭 く,第3拍
の 母 音 が広 か った
ら,○ ○● ○ 型 にな る とこ ろ。 4) 海 士 の ア ク セ ン トは筆 者 の 調査 を もとに して諸 文献 の 記 述 ○ ●● ○ 型 を訂正 した。
5) 西 郷 で は○ ● ● ○ 型 に も。 6) 中条 と布施 とは,こ の類 の 語 で は同 一 の ア ク セ ン トを持 つ が,拍 数 が ふ えて 「 魚 で も」 とな る と,中 条 は○ ○● ○ ○ 型,布 施 は○ ○ ○ ●○ 型 。 7) 布 施 で は ほか に〓 ○● ○ 調 に発音 す る人 もある とい う(文献 〔3〕 の162ペー ジ)。 8) 都 万 方 言 は,文 献 〔3〕 〔4〕 で は〓 ○ ● ○ 型 に表 記 して い る。 9) 五 箇 方 言 は,文 献 〔3〕 〔4〕 で は● ○ ● ○ 型 に表 記 して い るが,筆 者 の調 査 の 結 果 に よ って〓 ○ ● ○ 型 に改 め て掲 げ た。
10) 浜 田の 代 わ りに津 和 野 地 方。 11) 浜 田以 下 松 江 まで は 「重 ね よ」 の 代 わ りに 「重 ね え」。 12) 浜 田以 下 松 江 まで は 「別 れ よ」 よ代 わ りに 「別 れ え」。 13) 鳥取 の 代 わ りに 八東 村 。 ここ で は 「重 ね よ」 の代 わ りに 「 重 ね え」。 i4) 米 子の 代 わ りに巌 村 。 I5) 松 江の 「雷 」 は○ ○ ● ● 型。 最 後 に滝 は な い とい う。
四 隠 岐 ア ク セ ント の祖 形 は
今 、 第 二節 で考 察 し た 法 則 を 頭 に 置 いて 、 こ の第 1 表︱ 第 9 表 に対 す る 時 、 隠 岐 ア ク セ ント の 祖 形 は そ れ ぞ れ 次 の よ う に解 釈 さ れ る 。
第 1表 の語彙
大 部 分 の方 言 で は○ ● 型 であ る が 、 周 辺 地 区 の都 万 で○ ○ 型 、 五 箇 ・中 村 で 〓 ○ 型 であ る 。 ○ ○ 型 は ○ ● 型 か
ら 変化したも の ( 法 則 3(1 )、 )〓 ○ 型 は さ ら に そ れ か ら 変 化 し た も の ( 法 則 4(1 )) と見ら れる。 ●○型 なら、 それ
か ら ○ ● 型 へと いう 変 化 も 考 え ら れ る が ( 法 則 3(3 )、 )五 箇 ・中 村 の〓 ○ 型 は 、 微 弱 な 下 降 型 で あ り 、 中 心 地 区
の ○ ● 型 の方 は し っか り し た 上 昇 型 であ る こと 、 ○ ● 型 の方 は そ の末 尾 に滝 を 持 た な いこ と 、 の 二 条 から そ の変
化 は 成 立 し な いと 見 る 。 第 4 表 ・第 7 表 と の関 連 を 考 え ても ( 法 則 5)、 ○ ● 型 ← ○ ○ 型 ← 〓 ○ 型 の 変 化 は 妥 当
であ る 。 す な わ ち 、 周 辺 地 区 の 五 箇 ・中 村 な ど の ア ク セ ント は 新 し いも のと な る 。 注 意 す べき は 、 磯 の老 人 の間
に、 こ れ ら の 語 を ● ● 型 に発 音 す る 傾 向 が あ る と いう こ と ( 注 3) で、 ● ● 型 ← ○ ● 型 の変 化 は 自 然 であ る ( 法
則 3( 2) )。 そ う す る と 、 こ の ● ● 型 が 最 も 古 い型 で、 ○ ● 型 は そ れ か ら 変 化 し た 型 と 見 ら れ る 。 多 く の方 言 に お
け る( 11) の ﹁よ う ﹂ の ア ク セ ント 、 浦 郷 と海 士 の ( 2 ) の ﹁今 日﹂ と 、 ( 5) の ﹁よ い﹂ の アク セ ント は 第 二 拍 の性 格 か ら 古 形 を 保 存 し た も の であ ろ う ( 法 則 7)。 以 上 の結 論 と し て、 こ の 類 の 語 の共 通 隠 岐 方 言 の ア ク セ ント は ● ● 型 で あ った と 解 す る 。 第 2表 の語彙
す べ て の方 言 で● ○ 型 であ って 、 これ 以 上 古 い形 にさ か のぼ る こ と が でき な い。 共 通 隠 岐 方 言 の ア ク セ ント は ● ○ 型 で、 す べ て の方 言 が そ の形 を 保 って いる と いう こ と に な る 。
第 3表 の語彙 地 域 的 に、 島 前 の方 言 と島 後 の方 言 と に 二 分 さ れ る 。
島 前 の方 言 は ほ と ん ど 全 部 の語 彙 が ● ○ 型 で 、 た だ(1の) ﹁風 ﹂ ﹁牛 ﹂ の類 だ け が 島 前 の多 く の方 言 で ○ ●'型、
知 夫 で○ ● 型 だ 。 ○ ●'は 、 助 詞 の 付 い た 形 が ○ ● ▽型 な の で、 そ れ に 引 か れ て ● ○ ▽ か ら 変 化 し た も の ( 法則
8(1 )、 )海 士 の○ 〓、 浦 郷 で時 に 聞 か れ る カ ゼ は 、 そ の中 間 の 形 で あ ろ う 。 知 夫 の ○ ● は 、 ○ ●'のさ ら に 変 化 し
たも のであろう ( 法 則 4(3 )。 )す な わ ち 、 古 い形 は す べ て ● ○ 型 だ った と 解 す る 。 そ う す る と 、前 の第 2 表 の 語
彙 と 同 じ 型 と いう こと にな ってし ま う が、 こ の二 つは 島前 で は 型 の統 合 を 起 こし た と 解 せ ら れ る ( 法則 6)。
次 に 、 島 後 の方 言 で は 、 ほ と ん ど 全 部 が ○ ●'型 で あ る か ら 、 一応 こ れ を 古 い 型 と 定 め る こ と に す る。 島 前 の
● ○ 型 と こ の ○ ●'型 と を 比 較 す る と 、 ● ○ 型 ← ○ ●'型 と いう 変 化 は 自 然 で あ る か ら ( 法 則 3(3 )、 )島 後 も 古 く は
● ○ 型 で あ った と 考 え た く な る が、 そ う す る と 、 困 る こ と は 、 な ぜ ●○ 型 と いう 同 一の型 の 語彙 の 一部 が ● ○ 型
にと ど ま り 、 他 のも の が ○ ●'型 に変 化 し た か を 説 明 す る こ と が でき な いこ と で あ る ( 法 則 7)。 こ こ は、 島 後 の
古 い形 は ○ ●'型 と 見 て 、 改 め て本 州 諸 方 言 と の関 係 を 考 え る 時 に 再考 す る 。 な お 、 中 村 の○ ○ 型 は 、 ○ ●'型 ←
○ ● 型 ← ○ ○ 型 と いう 変 化 を し て で き た 形 ( 法 則 4(3 と) 3(1 )、 )(注 4) の● ○ 調 にも と いう のは さ ら に新 し い形
であ ろ う 。 中 条 ・布 施 の(3 の) 語 彙 の ニン は 、第 二拍 の 音 韻 の関 係 で変 化 を 遂 げ た も の であ ろ う ( 法 則 7)。
要 す る に、 共 通 島 前 の ア ク セ ント は ● ○ 型 、 共 通 島 後 の ア ク セ ント は ○ ●'型 と な る。 第 4表 の語彙
大 ざ っぱ に 言 って、 島 前 の中 心 地 区 は○ ● ● 型 、 島 後 の中 心 地 区 は○ ○ ● 型 、 南 北 の周 辺 地 区 に〓 O ● 型 、 ○
○ ○ 型 、 〓 ○ ○ 型 が あ る 。 これ ら の系 譜 は 次 のよ う に 考 え る のが 妥 当 で あ ろ う 。 浦 郷 ・海 士 では 、 ﹁海 が﹂ ﹁雀 ﹂
そ の 他 、 第 二拍 の母 音 が 狭 く 、 第 三 拍 の母 音 が 広 い語 彙 は 、 他 の語 彙 に 先 ん じ て○ ● ● 型 か ち ○ ○ ● 型 に進 ん だ
と 見られ る ( 法則 7)。 ← 印 のそ ば に 3(1 の) よ う に記 し た のは "法 則 3(1 に)よ る " の意 味 であ る 。
( 注 3 ) に見 え る 都 万 の 青 少 年 の 発 音 傾 向 は 、 ○ ○ ○ 型 か ら 〓 ○ ○ 型
浦 郷 ・西 郷 な ど 中 心 地 区 の ア ク セ ン ト は 比 較 的 古 いも の 、 知 夫 ・五 箇 ・中 村 な ど 周 辺 地 区 の ア ク セ ント は 比 較 的 新 し いも の と 見 る こ と に な る 。 第 4 表 の
へ と い う 五 箇 の た ど った 変 化 を 追 お う と し て い る も の と 解 せ ら れ る 。 注 意 す べ き は 、 ( 注 1) に 見 え る よ う に 、
磯 で は 、 老 人 の 間 に こ の 類 の 語 を ● ● ● 型 に 発 音 す る も の が あ る と い う 一事 で 、 ● ● ● 型 は ○ ● ● 型 の 以 前 の 形 と 見られ る
( 法則5) 。 浦 郷 ・海 士 で
﹁今 日 が ﹂ ﹁は い る ﹂ な
( 法 則 3 (2 ) )。 そ う す る と 、 こ の 類 の 語 の 共 通 隠 岐 ア ク セ ン ト は 、 ● ● ● 型 と 解 せ ら れ る 。 第 1 表 の
語 彙 と の関 係 か ら 言 っても 、 そ のよ う に 考 え る のが 妥 当 であ る
ど が ● ● ● 型 で あ る のは 、 第 二拍 の音 韻 の性 質 か ら 、 古 い形 を 保 存 し た も の に相 違 な い ( 法 則 7)。 西 郷 そ の 他
( 法 則 8(1 )。 )( 4)
( 法 則 7 )、 も う 一 つ の 形
で( 11) の ﹁掛 け よ ﹂ ﹁起 き よ ﹂ が 対 応 を 乱 し て い る こ と に つ い て は 、 後 に 触 れ る 。( 六 一三 ペー ジを 参 照 ) 布 施 ・知 夫
﹁厚 う ﹂ の 型 ア ツ ー と 紛 れ た も の で あ ろ う
で( 12) の語 彙 が ア ツ ー 型 で 対 応 を 乱 し て い る のは 、 ア ツ ー が 音 韻 の関 係 で ア ツ ー と な り 容 詞
注( 4 ) こ の表 には 出 さ な か った が 、浦 郷 ・黒 木 ・海 士 で ﹁よけ れ ば ﹂ が ヨ ケリ ャとな って対応 を 乱 し て いる のは 、 三拍 以上 の 形
容 詞 のそ の形 が す べ て タカ ケ リ ャ ・カ タ ケ リ ャと な って いる 、 そ の 形 へ類 推 した も のであ ろう ( 法 則 8(1 )。 )
第 5表 の語彙
ほ と ん ど す べ て の方 言 で● ● ○ 型 であ る が 、 海 士 では ● ○ ○ 型 、 北 辺 の都 万 ・五 箇 ・中 村 で ○ ● ○ 型 で あ る 。
○ ●○ 型は ●●○ 型か ら変化 したも のに相違 な い ( 法 則 3(2 )。 )● ○ ○ 型 は ● ● ○ 型 の古 い形 で あ ろ う ( 法則3
こ と にな る 。 浦 郷 ・磯 で(5)の(語6彙)に 現 れ る ● ○ ○ 型 は 、 第 二 拍 の音 韻 の性 格 か ら 、 一部 の語 彙 に 古 形 が 保 存 さ
(1 ) )。 とす る と 、 海 士 が特 に 古 形 を 保 存 す る 方 言 と し て注 目 さ れ 、 都 万 ・五 箇 ・中 村 は 新 し い方 言 の 地 域 と いう
れ た例 とな る ( 法 則 7)。 ま た 、 多 く の 学 者 が 海 士 の こ の類 の 語 を ● ● ○ 型 に 記 録 し て いる の は 、 同 村 の 新 し い
ア ク セ ント を 採 集 し た も のと 見 る 。 こ の類 の語 の 共 通 隠 岐 ア ク セ ント は 、 以 上 のよ う に し て、 近 畿 方 言 と 同 じ ● ○ ○ 型 と いう こ と に な る 。 第 6表 の語彙
島前 ・島 後 を 通 じ て、 中 心 地 域 の方 言 で は ○ ● ○ 型 であ る が、 中 間 地 区 の中 条 ・布 施 ・都 万 で は ○ ○ ●'型 で
あ り 、 五 箇 では 〓 ○ ●'型 、 最 も 周 辺 的 な 地 区 の知 夫 と 中 村 で は 同 じ 〓 ○ ● 型 であ る 。 こ れ ら の 関 係 は 次 のよ う
に 想 定 す る のが 穏 当 で あ ろ う 。 知 夫 ・中 村 のう ち で 、 知 夫 は 第 4表 の語 彙 と統 合 し て お り 、 こ れ は ○ ○ ● 型 に進
んだと き に統合 が行わ れた と見た ( 法 則 6)。 中 村 は統 合 を し て いな い の で 、 ○ ○ ● 型 を 通 った と 解 す る こ と が で き ず 、 〓 ○ ●'型 を 通 った と 解 し た 。 隣 村 の 五 箇 と 同 じ 経 路を 進 ん だ と 見 る 。
浦 郷 に折 々現 れ る○ ○ ●'型 は 、 第 二 拍 が特 殊 な 音 韻 構 造 を も つ語 に ○ ● ○ ← ○ ○ ●'の変 化 が 逸 早 く 起 こ った 例
・ウイタ の ア ク セ ント
(法則 7)、 海 士 の○ ○ 〓 型 は そ の過 渡 期 の姿 を 表 す 例 と 見 る。 し た が って 、 こ の 語 彙 に 関 し て は、 黒 木 ・磯 ・西
郷 ・東 郷 の 四 地 点 が、 最 も 古 い形 を 多 く 低 え て いる こと に な る 。(1の4語)彙 に 現 れ るカッタ
は、 第 二拍 の音 韻 構 造 の た め に 変 化 を 起 こ し た 例 と 見 る ( 法則 7)。 中 条 ・布 施 ・知 夫 で(7 の)語 彙 ・ (8) の 語 彙 を ア ツイ 、 ア ツー と 発 音 し て い る のは 第 三 拍 の音 韻 構 造 か ら ○ ● ○ 型 か ら 先 へ行 く 変 化 を 起 こ さ な か った 例 と 見 る
( 法 則 7)。 知 夫 で(12の )語 (彙 1を 3) カ エ バ ・カ ナ ウ の型 に 言 う の は 、 上 の変 化 で 説 明 す る こ と が でき ず 、 こ れ は 第 5
表 の 語彙 と 同 じ 型 か ら 変 化 し て で き た も のと 考 え な け れ ば な ら な い。 こ れ は 、 のち に な って 特 別 に考 察 す る 。 六 一 一ペ ー ジ ( 注 11 ) を 参 照 。 第 7表 の語彙
島 前 で は ○ ● ● ● 型 が 一般 、 島 後 で は ○ ○ ○ ● 型 が 一般 で、 周 辺 地 区 に 〓 ○ 〓 ○ 型 、 ○ ○ ○ ○ 型 、 〓 ○ ○ ○ 型 、
○ 〓 〓 ○ 型 が あ る。 第 4 表 の語彙 と ほ ぼ 並 行 的 な 分 布 を 示 し て お り 、 し た が ってそ の場 合 と 同 じ よ う に解 す べき
も のと 考 え ら れ る 。 す な わ ち 次 のよ う な 系 譜 で、 第 4 表 の語彙 の系 統 表 と は知 夫 の位 置 だ け が違 う 。
浦 郷 ・海 士 に時 折 現 れ る○ ○ ● ● 型 は 、 ○ ● ● ● 型 と ○ ○ ○ ● 型 と の中 間 形 で第 二拍 の音 韻 の影 響 で 生 じ た も
のと 見 ら れ る ( 法 則 7)。 ( 4 表 の語 彙 と 比 較 す る と 、 知 夫 が〓 ○ ○ ● 型 に な ら な い のは 不 思 議 のよ う であ る が、
こ こ では 五 拍 語 の こ の型 に相 当 す る 型 は〓 ○ ○〓○ 型 で あ る。 ( 文献︹3 一︺ 七 一ページ) こ こ で は 低 平 型 の第 一拍 と
語 尾 か ら 二番 目 の拍 と が 隆 起 し よ う と し た 。 た だ し そ れ が第一 拍 と 接 す る こ と は でき な い の で、 三拍 語 で は最 後
の拍 が 隆 起 し た と 解 せ ら れ る。 そ う す る と 三 拍 語 は ○ ○ ● 型 が 一応 ○ ○ ○ 型 にな って、 そ のあ と 他 の語 に 引 き ず ら れ て〓 ○ ● 型 にな った の かも し れ な い ( 法 則 5)。
と ころ で、 こ の類 の語 も 、 磯 で は 老 人 の間 に● ● ● ● 型 が 聞 か れ る。 これ が古 形 であ ろ う (法則 3(2 )。 第 8表 の語 彙
第 5表 の語彙 と よく 似 た 対立 を な す が、 第 5表 の● ●○ 型 に 相 当 す る ● ●○○ 型 の 地 域 が や や 狭 く て、 や や 周
辺 に 近 い布施 と 知 夫 で ● ● ● ○ 型 であ る。 都 万 ・五 箇 と 中 村 と も 違 い、 前 者 は ○ ○ ● ○ 型 、 後 者 は ○ ● ● ○ 型 で
あ る 。 こ れ ら の関 係 は 次 の よう に 想 定 さ れ 、 や は り 海 士 の ● ○ ○ ○ 型 が 古 形 と し て注 目 さ れ る。 知夫 で老 人 層 が
● ● ○ ○ 型 だ と いう のは 、 知夫 で起 こ った と 推 定 す る ● ● ○ ○ 型 ← ● ● ● ○ 型 の変 化 を 実 証 す る も のと 考 え る 。
布 施 の青 少 年 層 の ア ク セ ント の変 異 は 、 中 村 で 起 こ った と 想 定 す る 変 化 を 起 こし つ つあ る こと を 示 し て いる 。
浦 郷 と磯 と で は、 第 二拍 が 特 殊 の音 韻 構 造 の 語 だ け に古 形 が 残 って いる 。
第 9表 の語彙
浦 郷 ・黒 木 ・磯 の三 方 言 が ○ ● ● ○ 型 、 西 郷 そ の他 島 後 の主 要 地 域 の方 言 が○ ○ ● ○ 型 、 そ の他 の方 言 は 各 種
の 型 に な って いる 。 こ れ ら の関 係 は 次 のよ う に 推 定 さ れ 、 こ こ で も 海 士 は古 色 を 示 し て いる。 知 夫 は ○ ○ ○ ● 型
の段 階 で第 7表 の語 彙 と合 流 し た。 そ う す る と 中 村 は そ の段 階 を 通 った と 見 る こ と は 不 適 当 で、 隣 村 の五 箇 のア ク セ ント から 変 化 し て 行 った も の と 見 た 。
語 彙 に よ って は 、 音 韻 構 造 か ら 浦 郷 で○ ● ○ ○ 型 の古 形 を 保 つも の、 海 士 と と も に 新 し い形 ○ ○ ● ○ 型 に移 っ て行 って いる も のが あ る。 要 す る に、 こ の類 の 語彙 の古 形 は ○ ● ○ ○ 型 と 認 め ら れ る 。( 5)
注 (5) 文献 ︹3 によ ︺ると、﹁よか った﹂のアク セントは磯 ・中条 ・都万 ・五箇 ・中村で対応を乱 して いる。 これは島後 の西北部 一 帯 で第7表 の語彙に属していると認められる。
以 上 こ の節 で考 察 し た こと を 総 合 す れ ば 、 次 の よ う にな る。
( 1) 隠 岐 方 言 の アク セ ント の変 異 は 、 そ の中 で生 じ た も のと 解 釈 でき る 。 こ の こ と は、 一部 の成 因 と し て 、 隠 岐 以 外 の方 言 の大 き な 影 響 と いう こ と を 考 え な く ても よ さ そう だ と いう こ と にな る 。
方言 である。
( 2) 隠 岐 方 言 の古 い形 は 次 の よ う であ った と 想 定 さ れ る。 ( ) の中 は そ のよ う な ア ク セ ント を 現 在 保 存 す る
つ いで に 各 方 言 が 共 通 隠 岐 方 言 か ら 変 化 し た 程 度 を 概 略 的 に数 字 化 す れ ば 、 巻 頭 の 地 図 で 、 各 集 落 名 のわ き
( ) の中 に記 し た 数 字 のよ う にな る 。 これ は 隠 岐 の 中 心 部 は 古 色 を た た え 、 特 に 海 士 が一 番 古 形 を 保 存 し て い
る こ と を 示す 。 他 方 、 周 辺 地区 は 新 し い色 彩 が 目立 ち 、 こ と に 島 後 の中 村 に お い て濃 厚 で あ る 。 こ れ は 、 石 田 春
昭 氏 以 来 唱 え ら れ て き た 、 ︹A︺浦 郷地 区、 ︹B︺ 五箇地 区、 ︹C︺知 夫地 区 と いう 三 区 画 説 を 支 持 す る こと に な る 。
た だ し 、 そ の特 色 と し て 、 ︹A︺ は 古 い方 言、 ︹B︺ ︹C︺ は 共 に 新 し い方 言 と いう こ と に な る。 ま た 、 さ ら に そ の
中 を 区 画 す れ ば 、 ︹A︺ の浦 郷地 区 は、浦 郷 ・黒木 ・海 士 に島 後 の磯 を 加 え た 海士 地 区 と そ れ 以 外 の西 郷地 区 に 分 け
る こと が で き る 。 ︹B︺ の 五箇 地区 は 五箇 ・都 万 か ら 成 立 す る 都 万地 区 と 中 村 一つか ら 成 る 中 村 地 区 と に分 け る こ と が でき る。( 6)
注 (6) ごく概略を述べた。島前と島後に ついては、第3表 の条に述べたような対立もある。また細か いこと について言うと、浦
郷方 言は第 2表の( に属す る ﹁ 草﹂﹁舌﹂ (5 に属 )する ﹁鹿﹂ ﹁ 癖﹂などが第l表 の語 に合流 し てお り、第 5表 の(に 1属 1す )る
﹁ 掴 む﹂﹁腐る﹂などが第4表 の語に合流し ている。 これらに ついては別に触れる六 一三ページ注 (1 )2 を参照。
五 共 通 隠 岐 ア ク セ ン ト と 中 国 ・近 畿 ア ク セ ント と の 対 応 関 係
前 節 で は隠 岐 ア ク セ ント の 祖 形 を 考 え た が、 次 に これ と本 土 アク セ ント と の関 係 を 考 え る 段 取 り と な った 。 祖
形 の中 で ︹語 彙 2︺ ︹ 語 彙 5 ︺ ︹語 彙 8︺ な ど 、 ま さ し く 近 畿 そ のま ま で あ り 、 ︹ 語 彙 4 ︺ ︹語 彙 7 ︺ も 中 国 のも の
よ り は 近 畿 のも の に 近 い。 先 学 が 近 畿 系 と 推 定 さ れ る の は、 ま こと に無 理 がな いと も 思 わ れ る。 が 、 し か し 隠 岐 のア ク セ ント を 近 畿 系 と 断 言す る た め に は 、 いろ いろ な 問 題 が 横 た わ って いる 。
第一 に隠 岐 の ア ク セ ント が 近 畿 系 だ とす る た め に は 、 ア ク セ ント 以 外 の面 で も 、 隠 岐 の方 言 に は 対 岸 の中 国 本
土 以 上 に 近 畿 的 な 色 彩 が 見 ら れ な け れ ば な ら な い。 と こ ろ が 、 文 献 ︹2 に︺よ れ ば 、 語 法 や 語 彙 の 面 で隠 岐 の方 言
が 中 国 方 言 と 違 い、 近 畿 方 言 と 一致 す る よ う な 例 は 皆 無 であ る か の よう であ る。 音 韻 の 面 も 同 様 で 、 た だ 一つ、
いわ ゆる 一拍 の名 詞を 長 く 引 く と いう 性 質 が あ り、 これ は中 国 と一 致 せ ず 、 近 畿 に 一致 す る 。 こ れ は 重 要 視 し て
よ い問 題 で は あ る が、 これ は た ま た ま そ の古 色 が 近 畿 と 隠 岐 に 残 った と 解 す れ ば す む こ と で 、 近 畿 系 であ る こと の決 定 的 な 証 拠 であ る と は な し が た い。
そ こ でも う 一度 ア ク セ ント に 立 ち 返 って み る と 、 今 述 べた よ う な 点 で近 畿 と 似 て は いる けれ ど も 、 も し 型 の対
応 と いう 問 題 から な が め て み る と 、 隠 岐 と 中 国 と の関 係 は 密 接 で あ る が 、 隠 岐 と 近 畿 と の 関係 は 薄 いと 言 わ な け れ ば な ら な い。 こ の節 の最 後 に 掲 げ る 第 10 表 が こ の関 係 を 示 す 。 そも そ も 近 畿 ア ク セ ント には 、 次 のよ う な 性 格 があ る 。
(1 )一拍 名 詞。 ﹁歯 ﹂ の類 が ﹁葉 ﹂ の類 と 同 型 で 、 ﹁手 ﹂ の類 と は 違 う 型 に 属 す る 。 (2 ) 二 拍 名 詞。 ﹁ 空 ﹂ の類 と ﹁雨 ﹂ の類 と が違 う 型 に属 す る 。 ( 3) 三 拍 名 詞。 ﹁ 兜 ﹂ の類 が ﹁兎 ﹂ ﹁烏 ﹂ の類 と は 違 う 型 に 属 す る 。
(4 ) 二 拍 動 詞 。 ﹁出 る ﹂ ﹁見 る ﹂ の類 の終 止 形 ・連 体 形 の デ ルと ︺ 完 了 形 の デ タ 、 接 続 形 の デ テ と は 違 う 型 に 属 する。 (5 )二拍 動 詞 。 ﹁居 る ﹂ は ﹁置 く ﹂ ﹁買う ﹂ の類 と は 違 う 型 に 属 す る 。
(6 ) 三 拍 動 詞 。 ﹁歩 く ﹂ ﹁入 る ﹂ の類 が ﹁動 く ﹂ ﹁泳 ぐ ﹂ の類 と 違 う 型 に 属 す る。
(7 ) 二拍 形 容 詞 。 ﹁よ い﹂ ﹁ な い﹂ の 終 止 形 ・連 体 形 が連 用 形 と は 違 う 型 に 属 す る。
(8 )一拍 助 詞 。 ﹁も ﹂ ﹁へ﹂ は 一般 の 助 詞 ﹁が ﹂ ﹁は ﹂ ﹁に ﹂ ﹁を ﹂ な ど と 違 う 型 に 属 す る。 (9 ) 二 拍 助 詞 。 ﹁ま で ﹂ ﹁で も ﹂ ﹁か ら ﹂ は そ れ ぞ れ 違 う 型 に 属 す る。
そ う し て 一般 に 甲 種 方 言 、 あ る いは 甲 種 系 統 と 呼 ば れ て いる 方 言 は 、 こ れ ら の性 質 を 近 畿 と 共 有 す る 。 服 部 博
士 以 来 ﹁垂 井 式 方 言 ﹂ と 呼 ば れ て、 近 畿 周 辺部 に分 か れ て 分 布 し て いる方 言 、 四国 の香 川 県 を 中 心 と し て広 が っ
て いる ﹁讃 岐 式方 言 ﹂ な ど 、 いず れ も (1) (︱ 9 の) す べ て の性 質 を 持 つ。 佐 渡 島 の方 言 な ど 、 日 本 で最 も 東 北 部 に 位
置 す る 甲 種 系 方 言 と 言 わ れ る の は 、(1) (︱ 9 の) 一 部 分 の性 質 を 持 って いる か ら で、 あ る 人 た ち が甲 種 系 方 言 とす る
こ と に 反 対 し て い る能 登 の諸 方 言 も 、 上 の( 1) (︱ 9 の) す べ て の点 で近 畿 方 言 と 軌 を 一にし て いる 。 北 陸 諸 方 言 のう
ち に は 、 福 井 県 三 国 地 方 の方 言 のよ う に一 分 変 わ り 果 て て いて 、 近 畿 方 言 よ り は 関 東 方 言 に 近 いよ う に見 え る も
の も あ る が 、 そ れ で も 上 の (1)︱ (9の )性 質 を 幾 つ か 共 有 す る こ と に よ を 表 し て い る。 (7)
「牛 ﹂ ﹁風 ﹂ ⋮ ⋮
﹁蚊 が ﹂ ﹁血 が ﹂ ⋮ ⋮ ﹁書 く ﹂ ﹁切 る ﹂
って、 近 畿 方 言 か ら 由 来 し た も の で あ る こ と
「木 が ﹂ ﹁手 が ﹂ ⋮ ⋮
二拍 語 に は● ○ 型 と○ ● 型 と があ り、 次 のよう な 語彙 が所 属 す る 。
注 (7 ) 一例 と し て 、 福 井 県 三 国 町 方 言 の ア ク セ ント は 次 の よ う で あ る 。
﹁海 ﹂ ﹁空 ﹂ ⋮ ⋮
「頭 ﹂ ﹁女 ﹂ ⋮ ⋮
﹁桜 ﹂ ﹁魚 ﹂ ⋮ ⋮
﹁上 る ﹂ ﹁当 た る ﹂ ⋮ ⋮
「晴 れ る ﹂ ﹁掛 け る ﹂
⋮⋮ ﹁白 い﹂ ﹁高 い﹂ ⋮ ⋮ 。 他 の 語 が つ け ば 、 こ れ
﹁明 け る ﹂ ﹁負 け
「葉 が ﹂ ﹁日 が ﹂ ⋮ ⋮ 。 他 の 語 が つ け ば 、 こ れ ら は ア シ ガ ・ヤ マ ガ ⋮ ⋮ の よ う に
﹁よ い ﹂ ﹁な い﹂。 他 の 語 が つけ ば 、 こ れ ら は ア キ ガ ・ア メ ガ ⋮ ⋮ の よ う に な る 。
﹁紙 ﹂ ﹁川 ﹂ ⋮ ⋮
﹁行 く ﹂ ﹁置 く ﹂ ⋮ ⋮
● ○ 型 ﹁秋 ﹂ ﹁雨 ﹂ ⋮ ⋮ ⋮⋮ ○ ● 型 ﹁足 ﹂ ﹁山 ﹂ ⋮ ⋮ な る。
● ● ○ 型 ﹁兜 ﹂ ﹁野 原 ﹂ ⋮ ⋮ ﹁兎 ﹂ ﹁雀 ﹂ ⋮ ⋮
三 拍 語 に は ● ● ○ 型 と ○ ● ● 型 と が あ り 、 次 のよ う な 語 彙 が 所 属 す る 。
余 る ﹂ ﹁動 く ﹂ ⋮ ⋮
る ﹂ ⋮ ⋮ ﹁赤 い﹂ ﹁堅 い﹂ ⋮ ⋮ 。 他 の 語 が つ け ば 、 こ れ ら は カ ブ ト が 型 に な る 。
ら は イ ノチ ガ 型 にな る。
○ ● ● 型 ﹁命 ﹂ ﹁涙 ﹂ ⋮ ⋮
﹁余 る ﹂ ﹁動 く ﹂ ⋮ ⋮ か ら 離 れ た ア ル ク 型 で あ り 、
こ ん な ふ う で 、 お よ そ 近 畿 色 が 乏 し く 、 む し ろ 関 東 色 が 濃 いく ら い であ る が 、 ﹁歯 が ﹂ は ハガ で ﹁葉 が ﹂ ﹁日 が ﹂ と 同 型 で あ り 、 ﹁居 る ﹂ は 他 の 動 詞 か ら 孤 立 し て オ ル 型 、 ﹁歩 く ﹂ ﹁隠 す ﹂ ﹁這 入 る ﹂ は
近 畿 ア ク セ ント か ら 派 生 し た 形 跡 が は っき り し て い る 。 思 う に 近 畿 ア ク セ ント か ら 、
な ど のよ う に 変化 し て でき たも の であ ろう 。
こ れ に 対 し て、 山 梨 県 南 巨 摩 郡 奈 良 田 方 言 、 埼 玉 県 北 埼 玉 郡 加 須 方 言 、 静 岡 県 浜 名 郡 舞 阪方 言 な ど は、 幾 つか
の語 彙 群 の ア ク セ ント が 近 畿 のも のと そ っく り であ る が 、 上 の 九 つ の基 準 に 照 ら す 時 、 す べ て の点 で 近 畿 と 一致
せず 、 乙 種 ア ク セ ント か ら 変 化 し た も の であ る こと を 物 語 って いる 。 問 題 の隠 岐 方 言 も 、 こ の点 で は 奈 良 田方 言
と 同 様 で、 上 の(1︶︱の (基 9準 ) で、 す べ て の点 で近 畿と 一致 せず 、 中 国 と一 致 す る 。 これ は 、 隠 岐 の方 言 が近 畿 系
で は な く 、 変 わ り 果 て て こそ いる が 、 中 国 方 言 か ら 変 化 し て で き た も のと 疑 わ せ る の に 十 分 であ る。
と ころ で、 隠 岐 方 言 が 中 国 方 言 ・雲 伯 方 言 か ら 出 た と 言 う た め に は、 中 国 方 言 ・雲 伯 方 言 の側 に 、 も う 少 し 隠
岐 方 言 の 祖 形 に近 い姿 のも の が あ って ほ し いよ う に 思 わ れ る 向 き が多 い であ ろう 。 私 は中 国 方 言・ 雲 伯 方 言 の中
に 隠 岐 方 言 の方 に向 か って変 化 し て いる 例 を 見 つけ る こ と が でき る と 思 う 。 次 の( 1)︱の(諸3事 )実 が そ れ で あ る 。
(1 ) 中 国方 言 ・雲 伯 方 言 の 一部 で は ア ク セ ント の山 が後 の拍 に送 ら れ つ つあ る 。 最 も 具 体 的 な 例 は 、 広 戸 惇・
(ガ)、アサガオ ←アサガオ 、アマザケ ←アマザケ
のよ う に、 鳥 取 県 の他 の地 方
大原 道孝 二氏 に よ って報 告 さ れ た鳥 取 県 東 伯 郡 と 気 高 郡 と の境 界 地 方 の方 言 で、 文 献 ︹3 の︺ 五 三︲ 五 五 ペー ジ に よ れ ば 、イノチ ←イノチ
に 比 べ て、 ア ク セ ント の山 が 語 ご と に 一拍 ず つ後 退 し て いる。 雲 伯 方 言 で は 、 松 江 市 ・出 雲 市 な ど 出 雲 中 央
部 の方 言 に こ う い った 傾 向 のあ る こ と 、 早 く か ら 知 ら れ て い る と お り であ る 。︹ 補3︺ こ と に 松 江 で は ﹁雀 ﹂ のよ う な 特 殊 な 音 韻 構 造 を も つ語 彙 で は 、 二拍 も 後 に 山 を 送 って いる 。
(2 ) 中 国 方 言 ・雲 伯 方 言 の中 に は 、 一般 に 、 ○ ● ●'型 ・○ ● ● 型 であ る 語 を 最 後 の拍 だ け 卓 立 さ せ て ○ ○ ●'
型 ・○ ○ ● 型 に言 った り 、 ○ ● 型 ・○ ● ● 型な ど の いわ ゆ る 平 板 型 の語 を 低 平 型 に発 音 し た りす る 方 言 が あ
。 雲 伯 方 言 のう ち の松 江 方 言 に も 、 そ う い っ
る 。 鳥 取 市 を 代 表 と す る 因幡 方 言 に そ の傾 向 が 著 し いが、 広 島 市 を 含 む 安 芸 諸 方 言 で は 特 に 坂 町 方 言 ( 8)に 顕 著 であ り 、 藤 原 与 一氏 に よ れ ば 、 倉 橋 島 方 言 も そ う だ と い た 傾 向 が 見 え る。
注 ( 8 ) 坂町方 言に ついては、近藤四郎 ﹁ 広島県安芸郡坂町方言アクセ ント の特殊性に ついて﹂ ( 広島大学国 語国文学会編 ﹃ 国文 学攷﹄第一九号所載)と いう文献 がある。
● ○ ● 型 、 ● ○ ○ 型 に な ろう と す る 趣 のも の があ る 。 文 献 ︹3 の︺ 三 〇︲ 三 一ペー ジ に よ れ ば 、 鳥 取 県 の東 伯
(3 ) 中 国 方 言 のう ち に は 、 ○ ○ ●'型 、 ○ ○ ● 型 、○○○ 型 のよ う な 形 か ら さ ら に 第 一拍 を 高 め て ● ○ ●'型 、
郡 一帯 の方 言 に そ の傾 向 が見 ら れ る と のこ と であ り 、 山 陽 筋 で は 、 広 島 県 坂 町方 言 が そ の性 格 で有 名 であ る 。
以 上 (1 () 2)の(傾3向 )が そ のま ま 進 め ば 、 次 の よ う な 型 の変 化 が起 こ る は ず で あ る。 そ う し て 、 現 に途 中 ま で起 こ し て いる方 言 も あ る 。
こ のよ う な 変 化 が 完 了し た 場 合 、 そ れ は 近 畿 方 言 に劣 ら ず 隠 岐 方 言 に 似 た も の にな る では な いか 。
さ て、 次 に 掲 げ る第 10 表 は 、 共 通 隠 岐 方 言 で 同 一の ア ク セ ント を 持 つと 想 定 さ れ た 語彙 ご と に 、 中 国 方 言 ・雲
伯 方言 のそれぞれ 祖形 ( 9) を 想 定 し た も の、 中 世 末 期 ご ろ の近 畿 方 言(1) 0 の 型 を 対 照 し て 示 し た も の であ る 。隠
岐 方 言 が中 国 方 言 ・雲 伯 方 言 と は 規 則 正 し い型 の対 応 を な す が 、 近 畿 方 言 と の関 係 は 非 常 に 入 り く ん で いる と い う 事 実 が 明 ら か に 見 取 ら れ る。
第 10 表
注 ( 9 ) 中国 方 言 ・雲 伯 方 言 の祖 形 に つ いて は、 広 戸 氏 の数 々 の発表 に負 う と こ ろ が多 い。 ﹁ 兎 ﹂ ﹁雀 ﹂ の類、 ﹁ 野 原 ﹂ ﹁鯨﹂ の類 の
祖 形を ● ○ ○ 型 とし た のは、 大 原 氏 が 日本 方 言 学 会 編 ﹃日本 語 の アク セ ント﹄ に発 表 さ れ た論 文 の七五︲八 〇 ペー ジに よ った
が 、 ○● ● 型 に も● ○ ○ 型 にも 変 化 し う る 形 と 考 え る べき か と も 思 う 。 ﹁貝﹂ ﹁鯛 ﹂ ﹁ 塔﹂ ﹁ 銀 ﹂ ⋮ ⋮ の類 は第 2表 に の せ た方
言 で は ●○ 型 で あ る が、 ○ ●'型を 古 形 と 見た 。 広 戸惇 氏 の ﹁山 口県 に於 け る ア ク セ ント の 分布 ﹂ ( ﹃山 陰 文 化 研 究 所 紀 要 ﹄ 1
所 載 ) によ る と 、 山 口県 の東部 には これ らを ○ ●'型 に言 う 傾 向 が広 が って いるよ う であ る。 ( 10 ) 前代 京 都 では1 の a、 b 、 dな ど 低 く始 ま る語 に は 語頭 に滝 があ ると 考 え る。
(11 ) 知夫 方 言 では 6 のg の語彙 ﹁ 寝れば﹂﹁ 寝 るな ﹂ ⋮ ⋮ の類 が● ● ○ 型 であ り、 こ れ は 共 通 隠 岐 方 言 の● ○ ○ 型 に 由 来 す る
も のと 推定 さ れ る。 とす る と 、知 夫 方 言 に 限 り こ の語彙 は 5 の eの条 に入 る べき こと にな る。
六 隠 岐 ア ク セ ン ト が 中 国 ア ク セ ン ト か ら 変 化 す る ま で
前 節 の 第 10 表 の 対 応 関 係 は 隠 岐 方 言 成 立 の 推 定 に 関 し て ど の よ う な 暗 示 を 与 え て い る か 。 筆 者 は 、 次 に 語 彙 別
に 分 け て 述 べ る よ う に 、 中 国 方 言 ま た は 雲 伯 方 言 か ら 出 た も の で あ る こ と を 示 し て いる も の と 考 え る 。 語彙1
隠 岐 と 中 国 ・雲 伯 と の 型 の 対 応 関 係 が 規 則 的 で あ る か ら 、 そ の 成 立 は 説 明 し や す い。 す な わ ち 、
● ○ 型 ← ● ●'型 ← ● ● 型
こ れ を も し 近畿 方 言 か ら 変 化 し た こと を 言 お う と す る と 、 型 の対 応 が 規 則 的 でな いた め に 非 常 に困 難 であ る 。 語彙 2 ・3 便 宜 上 い っし ょ に扱 う 。 島 前 方 言 に つ いて は 簡 単 で あ る 。
こ れ は 中 国 方 言 ・雲 伯 方 言 の 一部 に も 起 こ り つ つあ る と 述 べ た 変 化 であ る 。 島 後 方 言 の方 は ● ○ 型 ・○ ●'型 の
二 つ に分 かれ て い る か ら 、 多 少 面 倒 だ 。 ま ず 、 中 国 方 言 で ○ ●'型 の も の と ○ ● 型 のも の と は 、 次 のよ う に別 の 変 化 を た ど った と 考 え る 。 ( ) の中 は 、 次 に 来 る 語 の第 一拍 であ る 。 ○● ︵ ○ ︶型 ← ○ ○ ( ●')型 ← ● ○ ︵ ●' )型 ← ● ○ ︵○ ︶型 ○● ︵ ● ︶型 ← ○ ○ ( ○ )型← ○ ● ︵○ ︶型
こ の場 合 、 問 題 は 中 国 で○ ● 型 の ﹁葉 が﹂ ﹁蚊 も ﹂ ﹁蚊 が ﹂ お よ び ﹁寝 た ﹂ の類 で あ る 。 が、 思 う に、 これ ら の語
は方 言 によ って 第 一拍 が 長 く 引 か れ る 語 で 、 そ の 点 ﹁風﹂ ﹁寝 る ﹂ ﹁寝 ん﹂ ﹁買 う ﹂ の 類 と 違 う 。 隠 岐 方 言 が 分 か れ る 以 前 の中 国 方 言 で そ う だ った 。 そ れ が 次 のよ う に 変 化 し た と 見 る。 カ アガ ← カ ア ガ ← カ ア ガ
こ のカ ア ガ が つま れ ば 、 カ ガ と は な ら ず カ ガ と な る に相 違 な い。 と に か く こう し て島 前 の方 言 と 島 後 の方 言 と は 違 う 経 路 を と った と考 え る 。 語彙 4 ︹語 彙 1 ︺ と 全 く 並 行 的 な 変 化 を 起 こ し た と 見 る。 す な わ ち 、 ● ○ ○ 型 ← ● ● ○ 型 ← ● ● ●'型 ← ● ● ● 型
た だ し 、 先 に 述 べ た よ う に 、 第 4 表 の 語 彙 の 中 で ﹁掛 け よ ﹂ ﹁起 き よ ﹂ の 類 は 、 隠 岐 の一 部 の 方 言 で 第 5 表 の 語
彙 と 同 じ 型 に な って い る 。 こ れ は 、 そ の 方 言 が こ の 語 彙 に 関 し て は 中 国 方 言 か ら 出 発 し た の で は な く て 、 出 雲 方
﹁蚊 か ら ﹂ の 類 だ け は こ の方 式 で
言 のよ う な ○ ● ○ 型 か ら 出 発 し た た め と 見 る。 出 雲 方 言 で こ の 語 が ○ ● ○ 型 であ る のは 、 他 の活 用 形 カ ケ ルな ど の ア ク セ ン ト へ類 推 し た の で あ ろ う 。 語彙 5 中 国 方 言 の○ ● ○ 型 か ら 次 の よ う に変 化 し て でき た も の と 見 ら れ る。 ○ ● ○ 型 ← ○ ○ ●'型 ← ● ○ ●'型 ← ● ○ ○ 型 こ れ は 現 実 の中 国 方 言 のう ち のあ る も のに 起 こ り つ つあ る 変 化 であ る 。 た だ し
︹ 語 彙 9 ︺ の ﹁魚 が ﹂ ﹁上 が ら ん ﹂ な ど と い っし ょ に 次 の よ う に 変 化 し た は ず で あ る 。
︹語 彙 9 ︺ の ﹁風 で も ﹂ ﹁小 豆 が ﹂ な ど と い
︹ 語 彙 5 ︺ に 仲 間 入 り す る こ と に な る 。 eの から変 化し たも ので、や はり
﹁蚊 ま で ﹂、
は 説 明 が つ か な い 。 思 う に 、 ﹁蚊 ﹂ は 共 通 隠 岐 方 言 で は 長 く 発 音 さ れ 、 ﹁蚊 か ら ﹂ は カ ア カ ラ で あ った 。 そ う す る と カ ア カ ラ← カ アカ ラ← カ ア カ ラ
、カアデモ
の と こ ろ が つ ま れ ば かカラ と な り 、 こ こ の
﹁蚊 で も ﹂ もカアマデ
こ の あ とカア f の
っし ょ に ○ ● ○ ○ 型 に な り 、 そ れ が ● ○ ○ 型 に な った も の と 考 え る 。( 12)
注 (12 ) 浦 郷 方 言 で は、 五 箇 方 言 な ど で ︹ 語彙 5 ︺ に属 し て いる ﹁草 が ﹂ ﹁ 舌 が﹂ ⋮ ⋮ ﹁ 鹿 が﹂ ﹁ 癖 が ﹂ ⋮⋮ ﹁ 掴 む﹂ ﹁腐 る ﹂ ⋮ ⋮
の類 が○ ● ● 型 にな って いて、 ︹ 語彙 4 ︺ に転 向 し て いる事 実 があ った 。 ● ○○ 型 が 具合 が悪 いな ら ば● ● ○ 型 か ○● ○ 型 に
な って いる と いう のな ら ば事 は簡 単 であ る が、 ○ ● ● 型 にな って いると は 不審 であ る 。 これ はど のよ う に し て 起 こ り え た か。
思 う に こ の方 言 でも 中 国 式 の○● ○ 型 か ら ○○ ●'型 に変 化 し た 。 そ れ から ● ○○ 型 に変 化 す る と き に 、 音 韻 の関 係 で ● ● ○
型 に変 化 し た 。 そ の時 ︹語彙 4︺ に属 し て いる も の は ● ○ ○ 型 ← ● ● ○ 型 の変 化 を 遂 げ た と こ ろ だ った 。 そ のた め に 以 後
︹語彙4︺と歩調を合わせて今日に至 ったと解す る。
語彙 6
︹5 ︺
中 国 方 言 の ○ ● ●'型 と ○ ● ● 型 と が 次 のよ う な 変 化 を 起 こし 、 途 中 で 合 流 し て共 通 隠 岐 方 言 の形 に な った も ので あ ろ う 。
﹁寝 れ ば ﹂ ﹁寝 る な ﹂ ﹁買 え ば ﹂ ﹁買 う な ﹂ の 類 は 、 中 国 方 言 で は ○ ● ○ 型 で あ る か ら 、 そ の ま ま 変 化 す れ ば
の 語 彙 と い っし ょ に な って ● ○ ○ 型 に な る は ず で あ った が 、 共 通 隠 岐 方 言 で は ○ ● ○ 型 で あ る 。 こ れ ら の 語 に 関 し て は 、 隠 岐 方 言 の 祖 先 の 方 言 は 雲 伯 方 言 と 同 じ ○ ● ● 型 だ っ た の だ ろ う 。(1 ︶3
た だ し 知 夫 方 言 に 限 り 、 こ れ ら の 語 彙 も 中 国 方 言 の ○ ● ○ 型 か ら 変 化 し た も の と 考 え ら れ る 。( 14)
注 (13 ) 隠 岐 方 言 で は、 中 国方 言 と の対応 から いう と、 ︹ 語彙 6︺ に属 し そう な ﹁ 油﹂ ﹁ 柱 ﹂ な ど いく つか の語 が ︹ 語 彙 4︺ に 属 し
て いる 。 近畿 方 言 な ど と の対 応 を考 え る と ︺ これ は 筆 者 の ﹁命 ﹂ 類 の名 詞 で、 ︹語彙 5 ︺ に属 し て いそ う な 単 語 であ る 。 こ れ
私 は 乙 種 方 言 は 甲 種方 言 か ら 変化 し て
でき た と考 え る が、 そ の時 に これ ら の語彙 に 起 こる は ず だ った ● ○ ○ 型 ← ○ ● ○ 型 の変 化 が第 二拍 の性 質 のた め に 起 こ らず
ら の語 は一 致 し て第 二拍 の母 音 が狭 く 、第 三 拍 の 母 音 が広 い。 こう な った 原 因 は︱
● ○ ○ 型 にと ど ま った 。 そ のた め に 、 ﹁心﹂ の類 か ら 離 れ、 ﹁ 兎 ﹂ ﹁雀 ﹂ ⋮ ⋮ ﹁野 原 ﹂ ﹁ 兜 ﹂ ⋮ ⋮ の 類 と 統合 し 、 そ の あ と ︹語
彙 4︺ の語と と も に 変化 し て今 日 に至 った も のと考 え る。 近 畿 方 言 か ら 直 接 変 化 し た と 考 え る 時 は、 こ の類 の ア ク セ ント の
起 源 は 説 明し にく い。 これ は ( 注12 ) の事 実 と 併 せ て、 隠 岐 方 言 が中 国 方 言 か ら 、 そ う し て 中 国方 言 が前 代 の 近畿 方 言 か ら 由 来 し た こと を 推 測 さ せる 一つの事 実 のよう に考 え ら れ る。 (14 ) ︹ 第 10表 ︺ の脚注 ( 注 11 )を 参 照 。
語彙 7 ︹語 彙 1 ︺ ︹語彙 4 ︺ と 並 行 的 な 変 化 を 経 過 し た も のと 考 え る 。 ● ○ ○ ○ 型 ← ● ● ○ ○ 型 ← ● ● ● ○ 型 ← ● ● ● ●'型 ← ● ● ● ● 型
問 題 は ﹁鶏 ﹂ で代 表 さ れ る 語 群 であ る 。 これ は 中 国 ・雲 伯 と と も に ○ ● ● ● 型 であ る か ら 、 共 通 隠 岐 方 言 で○ ●
○ ○ 型 であ る は ず だ 。 な ぜ● ● ● ● 型 に な って いる の か。 こ の推 理 は ち ょ っと 困 難 であ る が、 ま だ 中 国 方 言 の体
系 を 持 って いた 時 に ○ ● ● ● 型 か ら来 た ○ ○ ○ ○ 型 は 、 ○ ● ● 型 か ら 来 た ○ ○○ 型 よ り いち 早 く 語 頭 の 隆 起 を 起
こし 、 ●○○○ 型 と 混 同 し た の で はな いか 。 そ のた め に ﹁兎 が﹂ な ど の 語 と い っし ょ の変 化 の道 を た ど り 、 共 通
隠 岐 方 言 の● ● ● ● 型 にな った の で は な か ろう か 。 こ の変 化 は 名 詞 だ け に 起 こ り、 動 詞 や 形 容 詞 に は 起 こ って い
な い が、 そ れ は、 他 の活 用 形 の ア ク セ ント や 三 拍 語 以 下 の語 の ア ク セ ント に 引 か れ て、 も と の形 にと ど ま った も
語彙 8
のと 見 る 。
○ ● ○ ○ 型 か ら 出 発 し て 次 のよ う な 経 路 を と った と 解 す る 。 つま り 、 ︹語 彙 5 ︺ と 並 行 的 な 変 化 であ る。 ○ ● ○ ○ 型← ○ ○ ● ○ 型 ← ● ○ ● ○ 型 ← ● ○ ○ ○ 型 語 彙 9
中 国 ・雲 伯 の○ ● ● ○ 型 ・○ ● ● ●' 型 ・○ ● ● ● 型 が 次 のよ う に 変 化 し 、 途 中 で 統 合 し 、 共 通 隠 岐 方 言 の ○ ● ○ ○ 型 にな った と 推 定 す る 。
こ れ は、 中 国 ・雲 伯 の いず れ か ら 由 来 し た か。 (h の)﹁小 豆 が ﹂ は、 ︹語彙 5 ︺ の ﹁音 が﹂ ﹁石 が ﹂ の ア ク セ ント か
ら 考 え て、 中 国 方 言 のよ う な ○ ● ● ○ 型 か ら と 見 ら れ る が、 し か し ﹁当 てれ ば ﹂ ﹁上 が れ ば ﹂ ﹁上 が る な ﹂ は、
︹ 語 彙 6 ︺ と の関 係 から 考 え て、 雲 伯 方 言 の ○ ● ● ● 型 か ら 来 た と 見 ら れ る 。 ﹁甘 酒 ﹂ も 同 様 か も し れ な い。 ﹁重
ね よ ﹂ ﹁重 な れ ﹂ ﹁金 持 ﹂ な ど も 、 雲 伯 方 言 の○ ● ● ● 型 が 出 自 であ ろ う 。 た だ し 知 夫 方 言 は ︹語 彙 6 ︺ の条 か ら
考 え て、 中 国 方 言 の○ ● ● ○ 型 か ら 来 た も の であ る 。 (1 の)﹁別 れ た ﹂ ﹁め で と う ﹂ の類 は 中 国 ・雲 伯 で○ ● ○ ○
型 であ る が 、 これ は 、 他 の 活 用 形 ﹁別 れ る﹂ ﹁め でた い﹂ の 形 へ の類 推 で 早 く ○ ● ● ○ 型 にな って いた 、 そ の た
め に ● ○ ○ ○ 型 にな ら ず 、 ○ ● ○ ○ 型 な の であ ろ う 。 (k の)﹁別 れ よ ﹂ は 雲 伯 方 言 の ○ ● ● ○ 型 か ら 来 た も の、 た
だ し 、 そ れ も 以 前 の形 は ○ ● ○ ○ 型 で あ った が 、 他 の活 用 形 への類 推 によ って○ ● ● ○ 型 にな って いた のか も し れ な い。
七 結 び
筆 者 は こ の稿 で、 隠 岐 方 言 の ア ク セ ント の由 来 に つ いて考 察 を 試 み た 。 筆 者 の考 え が 正 し いと す る な ら ば 、 次 のよ う な こ と が言 え る は ず で あ る 。︹ 補4︺
︹1 ︺隠 岐 方 言 と 近 畿 方 言 と の類 似 は 、 近 畿 方 言 と 山 梨 県 奈 良 田方 言 の類 似 のよ う な 表 面 的 な も の にす ぎ な い。 ︹2 ︺隠 岐方 言 は、 そ の対 岸 の中 国 地 方 の方 言 、 つま り 乙 種 方 言 か ら 出 た 。
︹3 ︺隠 岐方 言 の 出 自 であ る 乙 種 方 言 は 、 中 国 方 言 の祖 形 に 雲 伯 方 言 の性 格 を 少 し 交 じ え た よう な も ので あ った。 ︹4 ︺注 意 す べき 点 と し て、
(イ ) ﹁兎 ﹂ ﹁雀 ﹂ ﹁兜 ﹂ ﹁野原 ﹂ の類 は ● ○ ○ 型 に 属 し て いた (=中 国 ・雲 伯 と 共 通 )。
(ロ ) ﹁貝 ﹂ ﹁鯛 ﹂ ﹁塔 ﹂ ﹁銀 ﹂ ﹁天 ﹂ ⋮ の 類 は ○ ●,型 に 属 し て いた (=中 国 の 一部 に残 存 )。
(=雲 伯 方 言 と の み 共 通 )。 お そ ら く 活
(ハ ) ﹁音 ﹂ ﹁石 ﹂ の類 は ○ ●,型 だ った ( し た が って ﹁小 豆 ﹂ の類 は ○ ● ●'型 だ った ) (=中 国 と の み 共 通 )。 (ニ ) ﹁寝 れ ば ﹂ ﹁ 寝 る な ﹂ ﹁買 え ば ﹂ ﹁買 う な ﹂ の類 は ○ ● ● 型 だ った
用 形 ・派 生 語 の類 は 、 そ の基 本 に な る 語 形 に 対 し て 類 推 に よ る 変 化 を 遂 げ て いた も の で あ ろ う 。 (ホ ) ﹁鶏 ﹂ の類 は 、 早 く ● ○ ○ ○ 型 に 変 わ って いた 。 ) ( ヘ 知 夫 方 言 は 、 雲 伯 方 言 的 の性 格 を も た ぬ 中 国 方 言 か ら 由 来 し た 。
あ と がき
﹁比 較 方 言 学 ﹂ は 比 較 言 語 学 の方 法 で (日本 語 の) 方 言 の違 い の由 来 を 説 明 し よ う と す るも の であ る 。 日 本 に お
け る比 較 方 言 学 の濫觴 は、 服 部 四郎 先 生 が 昭 和 六︱ 七 年 に雑 誌 ﹃方 言 ﹄ に 連 載 さ れ た ﹁国 語 諸 方 言 の ア ク セ ント
概 観 (1) (︱ 6 ﹂) で、私 が 方 言 学 に 志 し、服 部 先 生 への 弟 子 入 り を 決 意 し た のは 、こ の論 文 を 読 ん だ 感 激 か ら で あ った 。
爾 来 先 生 に師 事 す る こ と 三 十 余 年 、 現 在 の 日本 語 方 言 の ア ク セ ント は、大 体 平 安 朝 時 代 の京 都 ア ク セ ント の形 か
ら 変 化 し て で き た も の で あ った こ と が 解 釈 で き た よ う に 思 う 。 こ の稿 は 、 私 が最 後 ま でも て あ ま し た 方 言 であ る
隠 岐 方 言 の ア ク セ ント に 関 す る 比 較 言 語 学 的考 察 で あ る が、 受 納 し て いた だ け る 出 来 にな って いれ ば 幸 せ であ る 。
︹付記 ︺ 服部 四郎博 士 が昭 和 四十 四年三 月 に東大 を停 年 退官 され たと き、 そ の記念 事業 と し て教 え 子た ち が論文 を 持 ち
寄 って、 昭和 四十 七年 三月 に三 省堂 から 論文 集 ﹃現代 言 語学﹄ を刊 行 した。 そ れ に教え 子 の 一人 と し て投 稿 した のが こ の原 稿 であ る。
日本 諸方 言 の中 で、 アク セ ント の系統 の最 も探 り にく いも の の例 と し て、 隠岐 方 言 のアク セ ント の由来 を 推定 し た
も の。 こ れ で大 体 日 本 諸 方 言 の 系 統 表 は 完 成 し た と 思 う が 、 いか が であ ろ う か 。 こ こ に は 併 せ て ﹁比 較 方 言 学 ﹂ の存
別に ﹃ 国 語 と国文 学﹄ 第五 〇巻 第 六号 ( 昭 四 十 八年 六月 ) に ﹁比 較 方 言 学 と 方 言 地 理 学 ﹂ と い う 題 で 発 表 し て あ る 。
在 を PR した。
(昭 四 十 九 年 四 月 ) に 批 評
﹁ 方 言 地 理学と 比較方 言 学﹂ を書 かれ た。 これも 併せ 見 られ る こ とを お
併 せ て 見 て い た だ け れ ば 幸 せ で あ る 。 な お 、 筆 者 の こ れ ら の 発 表 に つ い て は 、 徳 川 宗 賢 氏 が 学 習 院大 学 の ﹃ 国 語国 文 学 会 誌 ﹄ 第 一七 号
注
勧 め する 。
補
岐 島 のア クセ ントを 乙種 ア ク セ ント の変 種 と 見 て お ら れ る よ う で 、先 覚 者 と し て敬 意 を 表 す る。 た だ し 、 五 箇村 のア ク セ ン
︹1 ︺ 多く の学 者 の中 で、 平 山 輝 男氏 ひと り は ﹃日本 語 音 調 の研 究 ﹄ ( 三 四五 ペー ジ の ︹ 8 ︺ に前 出 ) の巻 頭 の地 図 によ る と 、 隠
ト を古 形と 見 て お られ る とす れ ば、 そ こは卑 見 と 違 う。
︹2 ︺ こ の法 則 ︹1︺︲ ︹8︺ の条、 別 稿 ﹁比較 方 言 学 と方 言 地理 学 ﹂、 徳 川 氏 の論 文 と比 較 さ れ た い。 こ の本 の ﹁東 西 両 ア ク セ ン ト の違 いが でき るま で﹂ の三 八 六 ペー ジとも 比 較 さ れ た い。
︹3 ︺ た と え ば五 七 〇 ペー ジ に ︹ 文 献 3︺ と し て挙 げ た 広 戸 惇 ・大原 孝 道 ﹃ 山 陰 地 方 の アク セ ント ﹄ の ﹁ 出 雲 アク セ ント ﹂ の章 に詳 し い。
いか と いう 考 え を 発表 さ れ た 。 こ の考 え は 、 佐 渡 方 言 ・真 鍋島 式 方 言 ・ 一部 の讃 岐 方 言 の アク セ ント の説 明 にき わ め て有 利
︹4 ︺ 徳 川宗 賢氏 は ﹁ 方 言 地理 学 と 比較 方 言 学 ﹂ の中 で、隠 岐 方 言 の ○● ○ 型 の 語 は、 日本 語 の祖 語 で● ● ○ 型 だ った の では な
で、 私 も何 度 か そ う考 えよ う か と 思 った ( 例 えば 、 こ の本 の五 二九 ペー ジ の注(2 、) 五 四五 ペー ジ、 五 五 五 ペー ジな ど を 参 照 )
が、 ﹃ 類 聚名 義 抄 ﹄ の●● ● 型 ・● ●〓 型 ・● ●○ 型 が 、 そ の● ● ○ 型 から 分 か れ出 た事 情 が 説 明 で きな いの で、 いま だ に踏 み切 り か ね て いる 。
東 北 の 一型 ア ク セ ン ト の 源 流︱
一
新潟県村 上方言 のアク セ ントに ついて
日本 に は 各 地 に 一型 アク セ ント の方 言 が 見 いだ さ れ る 。 こ の種 の方 言 は 、 早 い時代 に は ︽ア ク セ ント の区 別 の
ま だ 発 達 し て いな い方 言 ︾ と いう よ う に 見 ら れ て いた が 、 昭 和 七 年 、 服 部 四 郎 氏 に よ り、 ︽以 前 は 型 の 区 別 を 持
って いた が 、 そ の 区 別 を 失 って 現 在 の よ う にな った 方 言 ︾ と 推 定 さ れ 、 そ の後 平 山 輝 男 氏 が 幾 つか の論 文 で こ の こと を 繰 り 返 し力 説 し てお ら れ る 。
こ の 見方 は 、 現在 のと こ ろ 反 対 す る余 地 は な く 、 定 説 と 見 ら れ る が 、 さ て そ れ では 、 ど のよ う に し て こ の 種 の
方 言 が 生 ま れ た か と いう 過 程 に つ いて は 、 詳 し く 論 じ た 説 が ま だ 提 出 さ れ て いな いよ う に 思 わ れ る 。 服 部 氏 が 、
昭 和 十 二 年 ﹁原 始 日本 語 の 二 音 節 名 詞 のア ク セ ント ﹂ に 言 及 さ れ た のも 、 一つ の思 い つき であ ろう 。
一型 諸方 言 のう ち 、 九 州 中 央 部 に 行 わ れ て いる も の に つ い ては 、 私 も 推 定 説 を 出 し た こ と があ る 。 が、 関東 ・
東 北 部 か ら 奥 羽 南 部 に か け て の広大 な 地 域 にわ た る 一型 方 言 に つ いて は 、 ま だ触 れ た こ と が な い。 と ころ が最 近
新 潟 県 北 部 の村 上 市 の方 言 のア ク セ ント を 調 べ て いる う ち に 、 こ の広 い地 域 の 一型 ア ク セ ント の 成 立 の過 程 に つ
い て こ う 推 定 し た ら い か が と いう 腹 案 を 得 た の で 、 こ こ に 公 け に し て 各 位 の 批 判 を 仰 ぎ た いと 思う 。
二
村 上 市 は新 潟 県 北 部 第 一の都 会 であ る が 、 こ こ の方 言 の ア ク セ ント は ち ょ っと 変 わ って いる 。 越 後 各 地 の人 を
一堂 に 集 め て ア ク セ ント を 調 査 し て い ると 、 新 潟 ・長 岡 ・高 田 ・柏 崎 ・十 日町 ・津 川 等 、 他 の地 方 の人 は 活 発 に
反 応 す る が、 村 上 地 方 の人 だ け は 反 応 が鈍 い。 つま り 新 潟 県 の大 部 分 の地 方 の方 言 は 明瞭 な 型 の区 別 のあ る ア ク
セ ント を 持 って い る が 、 村 上 地方 の方言 は 、 型 の区 別 の は っき り し な い、 平 山 輝 男 氏 の いわ ゆる ︽曖 昧 ア ク セ ン
ト ︾ な の であ る 。 村 上 方 言 の ア ク セ ント が 曖 昧 ア ク セ ント で あ る こと は 、 す で に 平 山 輝 男 氏 、 剣 持 隼 一郎 氏 に 指
摘 が あ り 、 私 に 調 査 の 橋 渡 し を さ れ た 新 潟 大 学 の大 橋 勝 男 氏 も 気 付 いて お ら れ た 。
大 橋 勝 男 氏 は 、 方 言 研 究 に関 し て の優 れ た 指 導 教 官 で、 私 が 新 潟大 学 に 国 語 学 の集 中 講 義 に出 向 いた 時、 す で
に村 上 地 方 出 身 のよ い研究 生 、 長倉 恭 子 さ ん と 佐 藤 美 和 子 さ んを 養 成 し て お ら れ た 。 長 倉 さ ん は 村 上 本 町 の ア ク
セ ント を 、 佐 藤 さ ん は 同 市 岩 倉 の ア ク セ ント を 、 そ れ ぞ れ レポ ー ト に書 いて 私 に 提 出 さ れ た が 、 これ は き わ め て 優 れ た も のだ った 。
私 の経 験 で は、 地 方 に集 中 講 義 に 行 ってす ば ら し いア ク セ ント 研 究 家 だ と 思 った のは 、 香 川大 学 で 会 った 玉 井
節 子 さ ん が第 一で あ る が、 こ こ の 二 人 は そ れ に 次 ぐ 人 と し て 敬意 を 表 す る 。 こ の よう な 人 が 地 方 に出 た な ら ば 、
日本 語 方 言 の ア ク セ ント の研 究 は、 数 年 で隅 か ら 隅 ま で 明 ら か に な る に違 いな い。
と に か く 私 は 二 人 の研 究 か ら 非 常 な 興 味 を そ そ ら れ 、 昭 和 四十 五 年 六 月 二 十 八 日、 村 上 市 を 訪 問 、 村 上 高 校 の
国 語 の教 官 、 板 橋 忠 氏 の援 助 の も と に 、 そ の 土 地 生 ま れ の 生 徒 ( 昭和二十八年または二十九年生まれ)を 借 り て 調 査
を し た が 、 そ れ に つけ ても 、 長 倉 さ ん ・佐 藤 さ ん の研 究 に 負 う こ と が 大 き か った こ と を 感 謝 す る 。
三
村 上 市 の市 街 地 は 、 士 族 町 であ る 旧 村 上 町 と 町 人 町 で あ る 村 上 本 町 と から 成 り 、 村 上 出 身 の 江 見 靖 彦 教 諭 によ
る と 、 以前 は そ の間 に方 言 の対 立 が あ った と 言 わ れ る が 、 ア ク セ ント の上 か ら 見 る と 現 在 の と こ ろ 違 いは な いよ う だ った 。 ま ず二 拍 名 詞 に つ いて 調 査 し た と ころ を 述 べれ ば︱
A型 第 四 類 ・第 五 類 で第 二 拍 の 母 音 が(i)(u) の も の、 例 え ば ﹁箸 ﹂ ﹁春 ﹂ が これ に 属 す る 。 単 独 で は ● ○
調 で 、 こ の場 合 第 一拍 が や や 長 く 発 音 さ れ る 。 バー ル、 ハー シ と 言 った 感 じ であ る 。 一拍 の助 詞 ・助 動 詞 の類 が
付 く と 、 ハー ルダ 、 ハー シ ガ ⋮ ⋮ のよ う に 聞 こえ る 。 こ の場 合 も 第一 拍 は いく ら か 長 い。 そ う し て第 二 拍 が第 一
拍 より 低 く な る こ とも あ る 。 こ と に丁 寧 に 言 っても ら う と そ う な る 傾 向 が あ る よ う だ 。
B型 第 四 類 ・第 五 類 名 詞 のう ち 、 ﹁空 ﹂ ﹁雨 ﹂ の よ う に、 第 二拍 の 母 音 が(a)(e)(oの )も の、 お よ び 第 三
類 名 詞 が こ れ に属 す る 。 こ れ ら は 単 独 で は ○ ● 調、 助 詞 ・助 動 詞 の類 が 付 く と、 ア メ ダ、 ソ ラ ガ、 イ ヌダ 、 ヤ マ
ガ 、 で、 こ れ は 安 定 し て いる。 ﹁犬 ﹂ のよ う な 第 二拍 の母 音 が狭 いも の でも 、 第一 拍 が 長 く な る こと は な い。
c型 第 一類 ・第 二 類 名 詞 が これ に属 す る 。 こ れ は ち ょ っと 正 体 を つか ま え が た い。 単 独 の 場 合 に は 、 ● ○ 調 、
○ ○ 調 、 さ ら に○ ● 調 の いず れ にも な り 、 ど の 語 が ど の 調 と いう こ と は な い。 そ う し て ● と ○ と の音 の高 さ の 開
き は 微 妙 であ る。 丁 寧 な 発 音 では 高 さ の差 が 小 さ く な り 、 ○ ○ 調 に 近 づ く と 見 た 。 助 詞 ・助 動 詞 が 付 いた 場 合 は、
● ● ○ 調 に な る こ と が 最 も 多 く 、 ○ ● ○ 調 に 聞 え る こ と も あ る 。 いず れ に し ても 、 第 二 拍 の ● と 第 三 拍 の○ と の
開 き は単 独 の場 合 よ り は 少 し は っき り し て いる 。 た だ し 、 高 さ の開 き がな く な って ○ ○ ○ 調 に な る こ と も あ る。 最 も 丁寧 な 発 音 で は ○ ○ ○ 調 にな る と 見 た 。
大 体 以 上 の よう で、 A・ B・ C 型 への語 彙 の分 か れ方 は 新 潟 県 新 潟 市 以 北 の方 言 と 同 じ で 、 そ の 型 の相 も 似 て
お り 、 そ れ と 同 系 統 で あ る こ と は 問 題 は な い が、 B 型 と C 型 と がと も に ○ ● ○ 調 にな って 耳 に聞 き 分 け にく く 、
A 型 も ● ● ○ 調 であ る と こ ろ か ら 時 に C 型 と 同 じ よ う に 聞 こ え る の で 、 全 体 が は な は だ 紛 ら わ し い。 生 徒 自 身 に、
例 え ば ﹁花 ﹂ と ﹁鼻 ﹂、 ﹁釜 ﹂ と ﹁鎌 ﹂、 ﹁ 飴 ﹂ と ﹁雨 ﹂ の よ う な 語 の 区 別 を 質 問 し て み る と 、 結 局A 型 ・B 型 ・C
型 の三 つ の区 別 があ る と 言 う が 、 区 別 を 言 う ま で に時 間 が か か り 、 あ と で生 徒 の 一人 に 同 音 語 の 一方 を 言 わ せ て
み る と 、 他 の生 徒 は 必 ず し も 当 て る こ と は でき な か った 。 これ は 一種 の曖 昧 ア ク セ ント 方 言 と推 定 さ れ る 。
二 拍 名 詞 以 外 も大 体 こ れ に準 ず る も の で、一 拍 名詞 は す べ て第 三 類 名 詞 も キ ー ダ ( 木 だ )、 テ ー ガ ( 手 が)、 第
一類 ・第 二 類 名 詞 も カ ー ダ ( 蚊 だ )、 ヒ ー ガ (日 が)、 のよ う に● ○ 調 に発 音 さ れ る傾 向 が 見 ら れ た 。 た だ し 、 第
一類 ・第 二 類 の方 が いく ら か ● と ○ と の開 き が 小 さ いと も 聞 か れ た が 、 そ れ は こち ら が そ う 思 って聞 く か ら か も し れ な い。
三拍名 詞 は単 独 の場 合 、 ほと ん ど のも の が 単 独 で は ○ ● ○ 調 に 、 そ う し て 助 詞 ・助 動 詞 が 付 く と 、 ○ ● ● ○ 調
に発 音 さ れ た 。 時 に単 独 の場 合 、 ﹁小 豆﹂ ﹁東 ﹂ のよ う な も の が低 平 調 に発 音 さ れ る こ と も 、 ﹁形 ﹂ ﹁魚 ﹂ な ど が 助
詞 ・助動 詞 を 伴 った 場 合 、 ○ ● ○ ○ 調 に発 音 さ れ る こ と も あ った が 、 い つも 固 定 し て そ う 発 音 さ れ た わ け で はな い 。
二拍 の動 詞 は 、 第 二 類 動 詞 の 終 止 形 が カ ク ( 書 く )、 ヨ ム ( 読 む ) のよ う に ● ○ 調 に 発 音 さ れ (こ の場 合 も 第
一拍 が 長 く 発 音 さ れ る )、第 一類 動 詞 の 終 止 形 が オ ク 、 カ ウ、 のよ う に発 音 さ れ る のと は 違 って 聞 か れ る こと が
多 か った 。 し か し 、 三拍 の動詞 にな る と 、 ほ と ん ど 全 部 が ○ ● ○ 調 に 発 音 さ れ た 。
四
以 上 述 べ た と こ ろ に よ って、 村 上 市 旧市 域 の ア ク セ ント が 一種 の曖 昧 アク セ ント であ る こ と は 知 ら れ た と 思 う 。
今 ま で に 私 が 知 り得 た と こ ろ で は 、 村 上 市 の 旧村 上 町 ・旧村 上 本 町 と 旧 岩 船 町 、 そ れ と 瀬 棚 町 ぐ ら
こ こ で 注 意 す べき こ と が 二 つあ る 。 一つは 、 こ の曖 昧 ア ク セ ント を 持 って い る の は 、 村 上 市 付 近 の ご く 狭 い地 域 だ け で︱
いな も の であ った 。 岩 船 町 の ア ク セ ント は 、 同 じ 曖 昧 ア ク セ ント と い って も 村 上 旧 市 域 のも のと は か な り 異な っ
て いた が 、 瀬 棚 町 のも のは ま た 第 三 のも の ら し い。 が 、 曖 昧 ア ク セ ント であ る こ と は 共 通 な の で こ れ は 一括 す る
と し て 、 次 に 北 隣 の岩 船 郡 朝 日村 の方 言 、 南 隣 の同 郡 荒 川 町 の方 言 を 調 べ て み る と 、 こ れ は 新 潟 市 や 津 川 町 の方
言 と 同 じ よ う な 型 の区 別 のは っき り し た ア ク セ ント を 持 って いた 。 村 上 高 校 の教 官 江 見 靖 彦 氏 に よ る と 、 同 じ 村
一型 ア ク セ
上 市 内 でも 山 辺 里 と いう と こ ろ は 、 今 は村 上 市 のう ち に入 った が、 こ こ の方 言 も 村 上 市 中 心 部 と は 違 う と いう か
ら 、 村 上 旧市 内 のよ う な 曖 昧 方 言 は ご く 狭 い地 域 に 孤 立 し て 行 わ れ て いる こ と に な る 。
こ こ でも う 一つ注 意 す べき こ と は 、 村 上 市 旧 市 域 は 、 別 に 近 ご ろ にな って新 し く 他 の 地方 か ら︱
ント の地 域 か ら大 勢 の人 間 が 入 り こん で 膨 張 し た 都 会 で はな い こと であ る 。 そう す る と 、 村 上 地 方 の ア ク セ ント
は 、 こ の 地 域 独 自 で曖 昧 化 し た も のと 見 ざ る を え な い。 ど のよ う に し て こ の よ う な こと が 行 わ れ た の であ ろ う か 。
五
ま ず 、 村 上 方 言 の ア ク セ ント は 、 音 韻 論 的 に は ど う 解 す べき であ ろ う か。 丁 寧 な 発 音 が そ の音 韻 論 的 な 姿 を 示
B型
A型
○ ○ ▽ 型 例 、 ﹁風 ﹂ ﹁鳥 ﹂
○ ● ▽ 型 例 、 ﹁雨 ﹂ ﹁空 ﹂ ﹁犬 ﹂ ﹁山 ﹂
● ○ ▽ 型 例 、 ﹁春 ﹂ ﹁箸 ﹂
す と いう 持 論 によ れ ば 、 た と え ば 二拍 名 詞 の三 つ の型 は そ れ ぞ れ 次 のよ う に 解 釈 す る こ と が でき よ う 。
C型
これ は 新 潟 県 北 部 一帯 の ア ク セ ント と よ く 似 て いる 。 違 いは 新 潟 市 な ど で は C の 型 が ○ ● ▼ 型 であ る点 であ る
が、 ○ ○ ▽型 に し ても ○ ● ▼ 型 に し て も 、 滝 が な い点 で は 同 じ で、 近 い性 質 だ と いう こ と に な る 。村 上 を 除 く 新
潟 県 北 部 一帯 で は 、 自 然 の発 音 でも大 体 そ の 型 に 近 い音 調 で発 音 さ れ る 。 そ れ が 村 上 方 言 では 、 前 に述 べ た よ う に、 次 のよ う に発 音 さ れ る の であ る。 A型 ● ● ▽調 B 型 ○ ● ▽調 C 型 ● ● ▽調 ま た は ○ ● ▽調
思 う に 、 こ の方 言 で は、 話 し 手 が 型 の示 す と お り よ り も 楽 な 発 音 を し よ う と す る気 持 ち が 強 く 、 そ のよ う な 発
音 に 対 し て聞 き 手 も そ れ を 寛 容 す る気 持 ち が 強 い の であ ろ う 。 そ のた め に、 A 型 で は第 一拍 の高 さ を 後 ま で変 え
る こ と な く 、 第 二 拍 ま で高 め る 傾 向 が 生 じ 、 B 型 は い いと し て、C 型 で は最 後 の拍 を 低 く し さ え す れ ば い いと い
う 気 持 ち か ら 、 第 一拍 ・第 二 拍 のあ た り を 高 く 発 音 す る 傾 向 が 生 じ た も の と考 え ら れ る 。 A 型 の語彙 を、 助 詞 を
伴 った 場 合 ● ● ▽調 に 発 音 す る傾 向 と いう のは 、 第 四 類 ・第 五 類 の語 に お け る ● ○ ▽型 ← ○ ● ▽型 と いう 変 化 と
同 じ 性 質 のも の であ る。 こ の変 化 な ら 、 新 潟 県 北 部 諸 方 言 では 第 二 拍 が広 い母 音 に お い ては す で に起 こ った も の
で、 そ れ が こ の村 上 地 方 で は 第 二拍 が 狭 い母 音 の方 にも 起 こり つ つあ る こ と を 示 す も のと 見 ら れ る 。
C 型 の語 彙 が 助 詞 を 伴 った 場 合 ● ● ▽調 に 発 音 さ れ る と いう のは 、 新 潟 県 北 部 方 言 で は ○ ● ▼ 型 であ る た め に
第 一拍 ・第 二拍 が 高 く な り に く く 、 安 定 し て いる が、 村 上 市 方 言 のよ う な 第 一拍 ・第 二 拍 が高 く 発 音 さ れ る 傾 向
は、 北 の鶴 岡 方 言 な ど ○ ○ ▽型 の方 言 には 見 ら れ る 傾 向 で あ る 。 恐 ら く ○ ● ▼型 が、 第 一拍 に第 二 拍 ・第 三 拍 が
同 化 さ れ て○ ○ ▽型 にな った 、 そ の こと が原 因 で● ● ▽調 に発 音 さ れ る 傾 向 が 生 じ た も のと 思 わ れ る 。 二 拍 語 や 四拍 以 上 の 語 に も 、 こ れ と 同 じ よ う な 変 化 が 起 こ った と 想 像 す る。
以 上 のよ う に 見 れ ば 、 こ の曖 昧 ア ク セ ント村 上 方 言も 、 北 越 後 方 言 の 一変 種 であ る 。 が、 こ のよ う にな って み
る と 、 これ は ひ た す ら 一型 ア ク セ ント への道 を 進 ん で いる と 言 え る の で はな いか 。 A 型 の● ○ ▽型 と C 型 の○ ○
▽ 型 と は 自 然 の発 音 で ほ と ん ど 同 じ ● ● ▽ 調 に 実 現す る 。 そう し て これ は B 型 の実 現 ○ ● ▽調 と 紙 一重 であ る 。
事 実 、 C 型 の 語 は ○ ● ▽調 にも 発 音 さ れ る 。 これ は遠 か ら ず ○ ● ○ 型 と いう 一つ の型 に統 合 さ れ る 運 命 にあ る の
で は な い か。 す べ て の 三 拍 語 が ○ ● ○ 型 に な れ ば 、 結 局 ど こ を 高 く 発 音 し な け れ ば いけな いと いう 規 範 意 識 が 失
わ れ 、 ◎ ◎ ◎ 型 のよ う な 全 平 型 に 変 化 す る こと も 可 能 であ る 。 同 様 な こ と は 、 二 拍 語 や 四 拍 以 上 の語 にも 考 え ら れ る。
六
私 は 、 茨 城 ・栃 木 か ら 宮 城 ・山 形 に か け て の広大 な 地 域 の方 言 で は 、 過 去 に お い て 、 こ の村 上 方 言 のよ う な 状
態 を 経 て、 今 のよ う な一 型 ア ク セ ント に な った の で はな い か と 想 像 す る 。(1)こ れ ら の 地 方 の 方 言 で は、 型 と し
て は 全 平 型 で あ る と 推 定 さ れ る が 、 自 然 の発 音 で は 、 二 拍 語 な ら ● ○ 調 に、 三 拍 語 な ら ○ ● ○ 調 に、 四拍 語 な ら
○ ● ● ○ 調 に 発 音 さ れ る こ と が 多 い。 これ も 、 こ の村 上 方 言 のよ う な 過 程 を 経 て で き た 一型 方 言 と し て 、 ま こ と に ふさ わ し い。
そ れ で は 、 こ の 変 化 は こ の地 域 に 一斉 に起 こ った か、 あ る いはあ る 地 域 に 起 こ って 、 そ の 地 域 の 一型 ア ク セ ン
ト が ほ か の地 域 に 運 ば れ た か 、 と いう こと にな る が、 こ れ は ま だ何 と も 言 え な い。 ま た 、 そ の変 化 が い つ起 こ っ た か はさ ら に知 り が た い。
文 献 に よ る と 、 著 者 不 明 の ﹃山 家 鳥 虫 歌 ﹄( 2)と いう 民 謡 の本 の 下 野 の 部 に、 下 野 か ら 奥 羽 に か け て、 アク セ
ント の区 別 がな い こと を 述 べた よ う に 見 え る文 字 があ る 。 こ の本 は 近 世 初 期 の成 立 か と 言 わ れ る 。 と す れ ば 、 そ
の こ ろ、 少 な く と も こ れ ら のか な り広 い地 域 で、 す で に 一型 ア ク セ ント に な って いた か と推 測 さ れ る 。
注 ( 1) や か ま しく 言 う と、 同 じ 一型方 言 に接 す る 地域 のう ち で、 新 潟 県 か ら北 奥 に か け て の地 方 と 、 群 馬 県 か ら 埼 玉・ 千 葉 県
にか け て の地 方 と で は、 各 型 への語 彙 の所 属 状 況 が 少 し 違 う。 こ こ に述 べた こと は 、 福島 県 以 北 の 一型方 言 に つ いて該 当 す
る。 群 馬 ・埼 玉 ・千 葉 県 下 の東 京 式 ア ク セ ント 方 言 で は 、第 二 類 二拍 名 詞 は 第 三 類 二拍 名 詞 と 同 型 で あ る。 とす る と 、茨
城 ・栃 木県 下 の 一型方 言 では 、第 二類 は第 三 類と 同一 の グ ルー プ と し て変 化を 遂 げた と考 えな け れ ば な らな い。 ( 2) ﹃ 古 典 全集 ﹄ の ﹃ 歌 謡集 ( 中) ﹄ に所 収 。
︹ 付 記 ︺ こ の 本 を 出 す に あ た り 、 地 理 的 に広 い 面 積 を 占 め る 関 東 か ら 奥 羽 へか け て の一 型 ア ク セ ン ト の 成 立 に つ い て の
言 及 が な い の は ま ず か ろ う と 、 新 た に 書 き お ろ し た も の。 筆 者 が 新 潟 大 学 へ集 中 講 義 に 出 か け た の は 、 昭 和 四 十 五 年 十 二 月 の こ と で あ った 。
北 奥 ア ク セ ント の特 殊 な 性 格 に つ いて
奥 羽 地 方 北 半 の方 言 は、 ア ク セ ント か ら 見 て 乙 種 方 言 の一 分 派 であ る が 、 芳 賀綏 氏 に従 え ば 、 そ の中 で、 青 森
県 か ら 岩 手 県 海 岸 部 に か け て の方 言 は 、 カ ジ ヤ フグ (風 が 吹 く )、 ア ガ エ ハナ ( 赤 い花 ) の よ う に 、 他 の方 言 で
平 板 型 の語 を 、 文 節 の最 後 に滝 を 持 つ型 に 変 え て いる と いう 点 で、 異 彩 を 放 つ。 こ れ は 全 国 の 乙 種方 言 の中 で は 類 の 少 な い こ と であ る が 、 ど う し て こ の よ う な 性 格 が 生 じ た のだ ろ う か 。
青 森 県 から 岩 手 県 海 岸 地 帯 に か け て の 地 方 は 、 本 州 の中 で最 後 ま で ア イ ヌ民 族 が 住 ん で いた 地 方 で、 アイ ヌ語
に 由 来 す る 地 名 の 多 い 地 方 で あ る。( 金田一京助 ﹁ 北奥 地名考﹂)(1︶こ の点 か ら、 ア イ ヌ語 の影 響 が あ る の で は な い か と 疑 わ せ る こと 、 十 分 であ る 。 ア イ ヌ 語 のア ク セ ント は、 知 里 真 志 保 氏 に従 え ば 、 (a ) 高 低 ア ク セ ント であ る 。 ) ( b 高 い拍 が 必 ず 一個 あ り 、 し かも 一個 に 限 る 。 (c) 第 二 拍 が高 いと いう の が最 も 標 準 的 な 形 で あ る。
と いう 性 格 のも の だ と いう 。( 金田一京助 ・知里真志保 ﹃アイ ヌ語法概説﹄)こ れ ら の性 格 は 、 北 奥 方 言 の ア ク セ ント に
通 じ るも の で、 殊 に (b の) 性 格 は、 全 国 の 乙種 の方 言 の 中 で、 青 森 県 と 岩 手 県 海 岸 通 り の方 言 だ け が持 って いる性 格 であ る こと は 注 目 に価 す る 。
と こ ろ で、 北 海 道 に住 む アイ ヌ 人 が 用 いる 日本 語 の アク セ ント に つ いて 、 平 山 輝 男 氏 は 興 味 あ る報 告 を し て お
ら れ る 。 す な わ ち 、 氏 が 北 海 道 の 登 別 地 方 お よ び旭 川 付 近 に住 む アイ ヌ人
の 日 本 語 の発 音 を 調 査 し た と こ ろ 、 そ れ は 次 のよ う で 、 そ の周 辺 地 域 に 住
む内 地 人 と の問 に 明瞭 な 対 立 があ る と いう 。( ﹃コト バ﹄四の二、四 の六所載 ﹁ 全 日本アクセント概説﹂ による)
こ こ で注 意 す べき は 、 登 別 と旭 川 付 近 と いう 、 全 く 関 係 な い 二 つ の地 点
で、 並 行 的 に 同 じ 変 化 が 起 こ って いる こ と であ る。 これ は 、 こ の場 合 の ア
イ ヌ人 の 日本 語 の発 音 は 、 ア イ ヌ語 のSubstra にtよuる mも の であ る こ と
を 推 定 さ せ る も の で あ る 。 す な わ ち 、 ア イ ヌ語 に は 日本 語 にあ る よ う な 平
板 型 がな い。 そ こ で 、 例 え ば 日 本 語 の○ ○ ○ 型 を アイ ヌ 語 にあ る ○ ● ○ 型
お よ び○ ○ ● 型 と し て 採 り 入 れ た も のに 違 いな い。 ○ ○ ○ 型 の 語を ○ ● ○
型 と いう か な り聴 覚 的 に は違 う 型 に採 り 入 れ た も の が 目立 つの は 、 アイ ヌ
語 に第 二 拍 が 高 い型 が 多 いこ と と 関 係 が あ る で あ ろ う 。
こ の事 実 を 参 考 に す る と、 青 森 県 お よ び 岩 手 県 の海 岸 部 の方 言 で 、 平 板
型 の 語 が ○ ●, 型 や ○ ○ ●'型 に変 化 し た も のも 、 平 板 型 のな い アイ ヌ語 の
Substra のt たu めmで は な い か と 想 像 で き る。 思 う に、 こ れ ら の 地 方 に は
以 前 アイ ヌ人 が 多 く 住 み、 ア イ ヌ 語 を 使 いな が ら 日本 語 を も 使 った 。 そ の
場 合 、 ア イ ヌ 語 の発 音 の 場合 のク セ が 日本 語 を 発 音 す る 場 合 に も 移 さ れ 、
平 板 型 のな いア ク セ ント 体 系 と いう も の が 生 じ た の で あ ろ う 。
な お、 さ ら に考 え を 進 ま せ れ ば 、 奥 羽 地 方 の北 部 の方 言 は 、 一般 の 乙 種 方 言 で 平 板 型 の 語 のう ち 、 固 有 名 詞 は 、
ほと ん ど 例 外 な く 滝 を 持 った 型 に 変 え て いる 。 こ の点 も 、 アイ ヌ語 の ア ク セ ント の影 響 を 思 わ せ る。 ま た 、一 体
に一 拍 だ け を 卓 立 す る 傾 向 が 強 く 、 第 一拍 に あ る 高 を 第 二 拍 に 送 っ て い る 語 が 多 い 。 こ れ に も 、 ア イ ヌ 語 の ア ク セ ント の影 響 が あ る か も し れ な い。
注 (1 ) 金 沢 庄 三郎 博 士 の還暦 記 念 祝 賀 論 文 集 ﹃東洋 語 学 乃 研 究﹄ ( 昭 七 年 十 二月 ) 所 載。 金 田 一京 助 ﹃ 言語研究﹄ ( 昭 八年十一 月) に再 録 。
た も の の 要 旨 であ る 。
︹ 付 記 ︺ こ れ は 昭 和 四 十 年 六 月 五 日、 大 阪 帝塚 山短 期大 学 で開 か れ た 日 本 方 言 研 究 会 の第 一回 研 究 発 表 会 の折 に 発 表 し
ト のま ま で論 文 の体 裁 を な し て い な いが 、 言 いた いこ と は 言 い尽 く し て あ る の で 、 手 を 加 え ず に こ こ に 再 録 す る こ と
こ の学 会 で は 、 発 表 の 要 旨 を あ ら か じ め 印 刷 し て 出 席 者 に 配 る こ と に な って お り 、 これ は 、 そ の 配 布 さ れ た プ リ ン
に し た 。 な お 、 も と の題 は ﹁北 奥 方 言 に お け る ア イ ヌ 語 のSubstra のt 例u﹂ mで あ った 。
﹃国 語 音 韻 論 ﹄ の 著 者 の 歎 き
音 韻 変 化 か ら ア ク セ ント 変 化
一
へ
こと し 米 寿 を 迎 え た ﹃国 語 音 韻 論 ﹄ の 著 者 金 田 一京助 は、 そ の第 三 章 で、 従 来 漠 然 と ︽音 韻 の変 化 ︾ と考 え ら
れ て いた コト バ の変 化 の中 に、 二 種 類 のも の が混 在 し て いる こと を 、 峻 別 し て 示 し た 。 一つは 、 古 い時 代 のヰ ド
( 井 戸 )・ヰ ル (居 る ) ⋮ ⋮ な ど の(wi)が、 後 世 (i) に 変 化 し て イ ド ・イ ル⋮⋮ と な った よ う な も の で、 こ れ
は 純 粋 の ︽音 韻 変 化 ︾ であ る が 、 も う 一 つは 、 古 い時 代 の動 詞 の連 体 形 カ ク ル (掛 く る)・タ ツ ル ( 立 つる )
⋮ ⋮ の類 が 、 後 世 カ ケ ル ・タ テ ル⋮ ⋮ と な った よ う な も の で 、 つま り こ こ に ク> ケ、 ツ> テと いう 音 韻 変 化 が あ
った よ う に 見 え る が、 これ は音 韻 変 化 で は な く 、 ︽音 韻 変 化 に 紛 れ る 形 態 変 化 ︾ であ る と 断 じ て い る。 著 者 に よ
る と 、 ﹃国 語 音 韻 論 ﹄ の こ の章 は 、 こ の本 全 巻 中 ﹁一番 光 って い る 所 ﹂ で あ る は ず で、 こと に こ の章 の 最 後 のあ
た り は ﹁私 が息 も つか ず 書 き 続 け た 所 で 最 も 膏 が 乗 って書 き 進 ん だ 部 分 ﹂ で あ り 、 ﹁ま と も な 批 評 がな さ れ な か
った こと を 残 念 に 思 って﹂ いる と こ ろ のよ う で あ る。(1)私 も こ こ の論 述 は た し か にも う 少 し 注 目 さ れ ても よ か
った よ う に 思 う 。 例 え ば 有 坂秀 世 氏 の名 著 ﹃音 韻 論 ﹄ に こ の著 書 が全 然 参 照 さ れ て いな いよ う に 見 え る の は 遺 憾
で あ って、 も し こ の部 分 で説 く と こ ろ の精 神 に 賛 成 し て お ら れ た ら 、 そ の第 三 章 の ﹁音 韻 変 化 の 進 行 過 程 ﹂、 第
四 章 の ﹁音 韻 変 化 の 諸 原 因 ﹂ あ た り の章 の記 述 が も う 少 し す っき り し た も の に な り は し な か った か と 愚 考 す る が、 こ れ は 身 び いき のな す と こ ろ で あ ろ う か 。
そ れ は と も か く と し て 、 私 が 専 攻 し て い る コト バ の ア ク セ ント な る も の は 、 有 坂 氏 が 早 く 明 ら か にさ れ た ( 2)
︽ア ク セ ン ト の 変 化 ︾ と 簡 単 に 同一 視 さ れ て い る も の の 中 に も 、 ︽純 粋 の 音 韻 変 化 の 一種 と し
よう に、 音 韻 と 同 等 のも の であ る か ら に は 、 そ の 変 化 は 音 韻 の変 化 と 同 じ 性 質 のも の で あ る と 考 え ら れ 、 そ う で あ るから には従来
て の ア ク セ ン ト の 変 化 ︾ と 、 ︽形 態 変 化 と し て の ア ク セ ン ト の 変 化 ︾ が あ り 、 さ ら に そ の 中 に は ︽音 韻 変 化 に 紛
れ る 形 態 変 化 と し て のア ク セ ント の変 化 ︾ も あ る も のと 想 定 さ れ る 。 そ れ で は 具 体 的 に は 、 ど の変 化 が前 者 であ
り 、 ど の 変 化 が 後 者 で あ ろ う か 、 そ う し て そ の 性 格 は 音 韻 の 面 の 変 化 に 平 行 的 な も の で あ ろ う か 、 と いう のが、 こ こ で考 え た い問 題 であ る。
注 ( 1) ﹃ 方 言 ﹄ の 三 の六 所 載 の金 田 一京助 ﹁ 国 語 音 韻論 のド グ マと其 の正 体 ﹂ の二〇︲ 二 一ペー ジ にこ の気 持 が表 明さ れ て いる 。 ( 2) ﹃ 音 声 の研 究 ﹄IV 所載 の ﹁音 声 の認識 に つ いて﹂ が最 も 早 い。
二 音 韻 変 化 と 形 態 変 化 の ち が い 、 再 考
純 粋 の 音 韻 変 化 と 音 韻 変 化 に紛 れ る 形 態 変 化 と は ど のよ う にち が う も の か 、 ア ク セ ント の 変 化 を 考 え る に先 立
ち 、 そ のち が いを ﹃国 語 音 韻 論 ﹄ の記 載 によ って 改 め て 明 ら か にす る な ら ば、 次 の よ う であ る 。
(1 ) 音 韻 変 化 の方 は、 原 因 が ︽発 音 の容 易 化 ︾ と いう よ う な 生 理 的 な も の であ る 。 (w) iが (i) に変化 した と
いう のは 、 (w) iの よう に 二 回 の調 音 を 行 な う よ り も 、 (i) のよ う に 一回 の調 音 です ま せ る 方 が 簡 単 で い い。
それ で こ の変 化 が 行 な わ れ る ので あ って 、 し た が って(i) か ら (w) i へと いう よ う な 逆 の方 向 の 変 化 は 起
こ り に く い。 こ れ に対 し 、 形 態 変 化 の方 は 、 原 因 が 他 の語 や 他 の語 形 への類 推 と いう よ う な 心 理 的 な も ので
あ る 。 ﹁掛 く る﹂ が ﹁掛 け る ﹂ にな った こと に つ い て 言 え ば 、 こ の動 詞 は 、 ﹁掛 け て﹂ と か ﹁掛 け た り﹂ と か
﹁掛 け ず ﹂ と か 、 カ ケ ⋮ ⋮ と いう 語 形 が 掛 ク ⋮ ⋮ と いう 語 形 よ り 遙 か に 多 く 現 わ れ る と いう こと か ら 、 こ の
変 化 が 起 こ る わ け で、 し た が って 場 合 によ って は 、 発 音 が 容 易 な 音 か ら 発 音 が 面 倒 な 音 に変 化 す る こ と も 起 こ りう る こと に な る 。
(2 ) 音 韻 変 化 の様 相 は 、 一つ の音 か ら そ の音 と 聴 覚 的 に似 た 他 の 音 に 変 化 す る わ け で 、 著 し く ち が った 他 の音
に変 化 す る こと は な い。 (wi)が (i) に 変 化 す る 場 合 を 考 え る と 、 (w) iの う ち の (w) の要 素 が 現 実 の 会
話 の 上 で 段 々と 微 弱 に 聞 き と り に く いよ う に 発 音 さ れ る よ う にな り 、 そ れ を 社 会 の 若 い世 代 に は (i) の実
現 と 聞 き あ や ま る 人 が出 て き て、 つ い に (w) i>(i) と いう 変 化 が 起 こ る に 至 る 。 ﹁掛 く る﹂>﹁掛 け る ﹂ の場
合 は、 別 にカ ク ル のク を 不 明 瞭 に発 音 す る 人 が 現 わ れ る と いう こ と な く 、 ﹁カ ケ ル﹂ と 発 音 す る 人 が 数 を 増
し て き て ﹁カ ク ル﹂ にと って 代 わ る。 し た が って こ の場 合 には ク か ら ケ へと いう よ う な 、 かな り 音 の ち が っ
た 音 の問 にも 変 化 は 起 こ りう る し 、 現 実 に そ の中 間 の よう な 発 音 が 行 な わ れ る と いう よ う な 段 階 も な い。
以 上 は 、 ﹃国 語 音 韻 論 ﹄ の中 の 記 述 か ら 知 ら れ る が 、 さ ら に考 え を 推 し 拡 め て み る と 、 こ の二 つ の変 化 の 間 に は 次 のよ う な ち が いも あ る と 考 え る 。
( 3) 音 韻 変 化 の方 は 、 そ の変 化 によ って 新 し い音 節 や 音 素 が 発 生 す る こ と が あ り う る。 例 え ば ﹁春 ﹂ ﹁花 ﹂ な
ど の ハが 、 (p) aか ら (Φa) に な った 場 合 に音 節 (Φa) や 音 素 (Φ ) が 生 じ た と いう よ う な 。 こ れ に 対 し て 、
形 態 変 化 は 、 それ に よ って新 し い音 節 や 音 素 が 生 じ る こ と は ま ず あ り え な い。
(4 ) 音 韻 変 化 の場 合 は 、 あ る 条 件 を 限 定 す れ ば 例 外 のな い規 則 的 な 変 化 が 起 こ り う る 。 (w) i>(i) の 変 化 、
( p) a>(Φa) の変 化 が 起 こ った 場 合 は 、 正 に そ の例 であ った 。 これ に 対 し て 形 態 変 化 の 場 合 は、 そ の よ う な
変 化 はま ず 起 こら な い。 これ は こ の 二 つを 見 分 け る の に有 力 な き め 手 に な る。
純 粋 の音 韻 変 化 と 、 音 韻 変 化 に 紛 れ る形 態 変 化 の 間 に は 、大 体 以 上 (1) (︱ 4 の) ような 相違 があ ると考 えら れる が、
音 韻 変 化 に つ いて は 、 そ の後 有 坂 氏 が ﹃音 韻 論 ﹄ の中 で 深 い考 察 を 進 め ら れ 、 例 え ば 音 韻 変 化 の原 因 に つ い て、
次 のよ う な も の が あ る こ と を 明 ら か に さ れ た 。(1) A 表 現 の 目的 に 関 係 あ る も の Ⅰ 表 現 手 段 を 簡 易 な ら し め る 欲 求 1 発 音を 容 易 な ら し め る 欲 求 2 記 憶 の負 担 を 軽 減 す る 欲 求 Ⅱ 表 現手段を有効 ならし める欲求 1 発 音 を 明瞭 ・明 晰 な ら し め る欲 求 2 言 語 単 位 の 自 己 統 一を 明 瞭 ・明 晰 な ら し め る 欲 求 3 種 々な る表 現 効 果 を 目 指 す 欲 求 B 表 現 の目 的 に 関 係 無 き も の (こ の中 に 二 つ のも のを 数 え て お ら れ る が 、 こ こ で は 省 略 す る )
こ のよ う に考 察 が精 密 にな る こ と は大 変 結 構 な こ と で、 AⅡ の1 の ﹁発 音 を 明 瞭 ・明 晰 な ら し め る 要 求 ﹂ と いう
の3
のは 、 ﹃国 語 音 韻 論 ﹄ で ﹁異 化 ﹂ と 言 わ れ て いた も の で 、 こ の 呼 び方 の方 が遙 か に よ い。AⅠ の 2 とⅡ の 2 と は
﹃国 語 音 韻 論 ﹄ に 挙 が って いな か った も の で 、 こ の 二条 を 加 え た こ と に も 高 い敬 意 を 表 す る。 た だ しAⅡ
と し て ﹁種 々な る表 現 効 果 を 目 指 す 欲 求 ﹂ を 挙 げ ら れ た の は ど う で あ ろ う か 。 こ こ に は 心 理的 な 要 素 が 類 推 の場
合 に劣 ら ず 入 り こ ん でお り 、 ま た こ の原 因 によ る 変 化 は 規 則 的 な 変 化 に はな り え ず 、 他 の全 然 似 よ り のな い音 へ
も 変 化 す る こと が で き 、 中 間 の発 音 を 飛 ん で他 の音 に変 化 す る こ と も でき る 。 これ は 類 推 に よ る 変 化 と 性 質 の よ
く 似 たも の であ り 、 音 韻 変 化 と 呼 ぶ よ り 形 態 変 化 の 一種 と 見 る 方 が よ い と考 え る 。
な お、 こ こ の有 坂 博 士 の考 え 方 は、 原 因 を いず れ も 何 々 の欲 求 と 考 え るも の で、 も し こ の考 え 方 に従 う な ら ば 、
音 韻 変 化 を 生 理的 な 原 因 に よ る も のと 規 定 す る こと は で き な く な る 。 高 津 春 繁 氏 は 、 音 韻 変 化 と 形 態 変 化 と の ち
が いを 論 じ て 、 前 者 を 無 意 識 的 な 変 化 、 後 者 を 意 識 的 な 変 化 と 呼 ば れ た ( 2)が、 こ の 方 が よ さ そ う だ 。 私 は 前 者
を 語 句 の意 義 に 関係 のな い変 化 、 後 者 を 語 句 の意 義 に関 係 を も つ変 化 と 呼 び 分 け た いと 思 う 。 そ う し て こ の 二 つ
を 児 分 け る 一番 い い 方 法 は 、 規 則 的 な 変 化 が 起 こ り う る か ど う か を 見 る こ と ( 3)だ と 考 え る 。
注 (1) ﹃音韻 論 ﹄ 二 二 八︲二二九 ペー ジ ( 2 ) ﹃ 比 較 言 語学 ﹄ 一九 三 ペー ジ
の み起 こる と 言わ れ る。 ﹃ 音 韻 論 ﹄一 五五 ペー ジ参 照 。 私 に 言 わ せる と 、 チ ャガ マ ( 茶 釜) がチ ャ マガ にな った と いう の は
( 3 ) 純 粋 の音 韻 変 化 と 呼 ば れ る も の の中 でMetath︵ e 音s韻 i顛 s倒 ) と 呼 ば れ るも の は、 ほと ん ど 常 にた だ 個 別 的 変 化 と し て
例え ば 、 ﹁茶を 刈 る専 用 の鎌﹂ と いう よう な 意 昧 の チ ャガ マと いう 単 語 があ ったら 、 や は りそ の語 も い っし ょ
チ ャのあ と に 立 った ガ マと いう 例 が たま た ま これ だけ し か な か った か ら 個 別 的 変化 のよう に 見 え る だ け で、 も し 意 味 の全 然ち がう︱
に チ ャ マガ に 変化 し た で あ ろう と 思 う。 とす れ ば 、あ る条 件 下 に起 こ った 規則 的 変 化 と考 え る こと が でき る 。 そ れ でも し 、
﹁茶釜 ﹂ の方 だ け チ ャ マガ と な り、 ﹁ 茶 鎌 ﹂ の方 は チ ャガ マで 残 った と し た ら 、 それ は ﹁ 茶 釜 ﹂ の方 は ﹁ 茶 ﹂+﹁釜 ﹂と いう
語 源意 識 が薄 れ て いた のに 対し て、 ﹁茶 鎌﹂ の方 は ﹁ 茶 ﹂+﹁鎌 ﹂ と いう 意 識 が は っき り し て いた 場 合 と解 せら れ 、 こ の場 合
は ﹁ 茶 鎌 ﹂ の方 に いわ ゆる 保存 的 類 推 (Preservat) iv がe 働い aた nも aの lと o考 gy え る。
三 "ア ク セ ン ト 変 化 " の 範 囲 、 そ の 他
さ て 、 ア ク セ ン ト の 変 化 に つ い て 考 察 す る に 先 立 ち 、 注 意 し て お く こ と が 二 つあ る 。
一つは 、 ア ク セ ント の変 化 のう ち に は 、 心 ず や 音 韻 変 化 に 相 当 す る 変 化 と 、 形 態 変 化 に相 当 す る 変 化 と の 二 種
類 のも のが あ る に 相 違 な いと 想 定 す る も の の、 考 え て み れ ば ア ク セ ント は音 韻 と 同 等 のも の で あ る か ら 、 音 韻 変
化 に相 当 す る 変 化 のみ が ア ク セ ント の変 化 であ って、 形 態 変 化 に 相 当 す るも のは ア ク セ ント の変 化 と は 言 え な い
こと に な り そう だ 。 そ れ は あ く ま で も 形 態 変 化 の 一種 と 言 う べき で あ ろう 。 し かし そ のよ う に 呼 ん で 記 述 し て 行
いや 、 実 例 を あ げ よ う 。 例 え ば東 京 で今 老 年 層 で は ﹁赤 と ん ぼ ﹂ を アカ ト ンボ と
く こ と は は な は だ 不 便 で あ る 。 と いう の は従 来 、 あ る 語 の ア ク セ ント が変 わ った と す る と 、 そ れ は と に か く ﹁ア ク セ ント の変 化 ﹂ と 呼 ん で︱
いう ア ク セ ント で発 音 す る が、 若 い世 代 は アカ ト ンボ と 発 音 す る 。 こ の原 因 は、 ﹁何 々と ん ぼ ﹂ と いう 名 詞 は 一
般 に ○ ● ⋮ ● ○ ○ 型 であ る の で そ れ に類 推 し て ア カ ト ン ボと いう よ う に な った と 解 さ れ る が 、 も し そ う だ と す る
と 、 これ は ﹁掛 く る ﹂ が ﹁掛 け る ﹂ に変 化 し た も のと 同 性 質 のも の で、 ﹁形 態 変 化 ﹂ と いう べき も の で あ る 。 音
韻 変 化 で は な い はず で あ る 。 し た が って ア ク セ ント 変 化 で は な いと いう こと に な る 。 こ れ は 一般 の慣 用 と随 分 ち が う も の で は な いだ ろ う か 。
そ う 言 って す ま す と ころ が学 問 だ と いう 立 場 も あ り う る が 、 や は り 一般 の 慣 用 を 重 ん じ な け れ ば 記 述 に は 不 便
で あ る 。 そ こ で こ の際 以 上 のよ う な も のは 、 厳 密 に は ア ク セ ント 変 化 と 呼 ぶ こ と は 不 適 当 だ と 考 え ら れ て も 、 一
往 ︽形 態 変 化 に属 す る ア ク セ ント 変 化 ︾ と 呼 ぼう と 思 う 。 そ し て そ れ に対 し て 純 粋 のア ク セ ント の変 化 の方 は 、 ︽音 韻 変 化 に 属 す る ア ク セ ント 変 化 ︾ と 呼 ん で区 別 す る こと に し た いと 思 う 。
次 に 注 意 す べ き は 、 ア ク セ ント の 変 化 を具 体 的 に検 討 す る と い って、 ア ク セ ント の変 化 のあ と を 最 も 詳 し く た
ど る こ と が でき る のは 、 九 世 紀 以 来 永 い間 日本 の中 心 で あ った京 都 の方 言 の アク セ ント であ る 。 そ こ で 次 の三 章
で は京 都 方 言 に お け る ア ク セ ント の変 化 を 例 に と って考 え て 行 き た いと 思 う 。 な お 、 ﹁名 義 抄 時 代 ﹂ と か ﹁補 忘
記 時 代 ﹂ と か いう 、 そ う いう 文 献 に よ る 時 代 の 名 に つ いて は 、 ﹃国 語 学 ﹄ 第 二 二輯 所 載 の小 稿 ﹁古 代 ア ク セ ント
か ら 近 代 ア ク セ ントヘ ﹂、 ﹃国 語 と 国 文 学 ﹄ 二 七 の 一〇 所 載 の 小 稿 ﹁国 語 ア ク セ ント の史 的 変 遷 ﹂ を 参 照 さ れ た い が、大 ざ つぱ に は大 体 次 のよ う で あ る 。 ﹁名 義 抄 時 代 ﹂︱ 院 政 時 代 初 期 。 ﹁講 式 時 代 ﹂︱ 鎌 倉 時 代 初 期 。
﹁訓 点 抄 時 代 ﹂︱ 鎌倉 時 代 後 期 。 ﹁仏 遺 教 経 時 代 ﹂︱ 南 北 朝 時 代 か 。 ﹁名 目 抄 時 代 ﹂︱ 室 町 時 代 初 期 。 ﹁補 忘 記 時 代 ﹂︱ 室 町 時 代 後 期 か と いう 。
﹁ 契 沖 時 代 ﹂︱ 江 戸 時 代 初 期 。 た だ し 大 阪 方 言 か 。 主 と し て 一拍 名 詞 に 限 り 問 題 と す る 。 ﹁教大 平 家 時 代 ﹂︱ 桃 山 時 代 か江 戸 時 代 初 期 。
一拍 名 詞 に つ いて
﹁平 家 正 節 時 代 ﹂︱ 江 戸 時 代 中 期 。 や かま し く 言 え ば ﹁平 家 正 節素 声・ 口 説 時 代 ﹂ と いう べ し 。
四 京 都 方 言 の ア ク セ ン ト 変 化 の 考 察︱
︹1第 ︺一 類 の名 詞。 例 、 ﹁子 ﹂ ﹁実 ﹂ 等 。 こ の類 に 属 す る 名 詞 の大 部 分 は 、 名 義 抄 時 代 以 後 現 代 ま で 目 立 った 変
化 を し て いな い。 た だ し 、 こ の中 で ﹁世 ﹂ と いう 語 は、 名 義 抄 時 代︱ 平 家 正 節 時 代 を 通 じ て● 型 であ る が 、 現 代
は〓 型 に な って いる 。 ● 型>〓 型 と いう 変 化 を 起 こし た わ け であ る が 、 こ の 語 以 外 の ● 型 の語 は 、 一般 的 に は こ
う いう 変 化 を 起 こ し て いな い の で、 個 別 的 な 変 化 を し た も のと 見 ら れ 、 音 韻 変 化 の方 の例 で はな いと 推 定 さ れ る 。
こ の 語 が〓 型 に変 化 し た 原 因 を 考 え て み る と 、 こ の語 は や や 文 語 的 な 響 き を も つ語 で、 こ の語 よ り も っと 頻繁 に
使 う 同 音 語 の ﹁夜 ﹂ は〓 型 であ る 。 恐 ら く そ の 二 つ の間 に混 同 が 起 こ り 、 多 く 用 いる 語 の アク セ ント に同 化 さ れ たも のと推定され る。
アク セ ント は 、 同 音 語 の区 別 に役 立 つと いう 事 実 を 重 く 見 る と 、 こ の よ う な 変 化 は 起 こ ら な そ う に 見 え る が 、
実 際 に は 多 く の実 例 が あ る 。 東 京 方 言 で 、 ﹁雲 ﹂ が ﹁蜘 蛛 ﹂ と 混 同 し て ク モと な った のも こ れ であ ろ う し 、 佃 煮
の アミ が ﹁網 ﹂ と 同 じ ア ク セ ント を も って いる こと 、 ﹁額 (ひ た い)﹂ を 意 味 す る ヌカ が ﹁糠 ﹂ と 同 じ ア ク セ ント
であ る こ と も 、 過 去 に こ の種 の変 化 が 起 こ った こと を 推 定 さ せ る。( 1)O.Jespe はr 英s語eで nコウ モ リ の こ と を 昔
ba たk はま bokke言 と った が、 子 供 は 、 意 味 が 全 然 ち が う が 音 の 似 て いるbat( 棒 ) と いう 語 と 混 同 し て ﹃bと at
いう よ う にな った と 言 って い る。 象 の鼻 を のtrと un いk う のも 、 樹 の幹 の意 味 の語 と の混 同 の結 果 であ る ( 2)と い
で き る であ ろ う 。 つま り 、 音 が 似 て いる 語 は 、 あ ま り 耳 に熟 さ な い方 の語 が 熟 し た 語 の方 に 引 っ張 ら れ て そ れ と
う 。 も し 日本 語 に 例 を と る な ら ば 、 静 岡 県 三 島 付 近 の方 言 で 、 ツ ツ ジ の花 を ヒ ツ ジ の花 と いう 類 を あ げ る こ と が
同 音 にな る傾 向 が音 韻 の分 野 に あ る 。 そう す る と、 アク セ ント の分 野 で も 、 ア ク セ ント のち がう 二 つの同 音 語 が
あ る 場 合 、 耳 に熟 さ な い言 葉 の方 の ア ク セ ント が 耳 に 熟 し た 言 葉 の 方 に同 化 し てし ま う こ と が あ り、 ﹁世 ﹂ は 正
に そ の例 だ と いう こ と にな る。 と 、 こ れ は 形 態 変 化 の 一種 で 、 ﹁同 音 語 への 類 推 ﹂ と 呼 ぶ でき も の と 考 え る 。 こ
のよ う な 変 化 にあ って は 、 そ の● 型 か ら〓 型 に 移 る 過 渡 期 と い って も 、 ● 型 と〓 型 と のち ょう ど 中 間 の音 調 が 聞 か れ た な ど と いう こと はな い であ ろう 。
︹2第 ︺二 類 の名 詞 。 例 、 ﹁葉 ﹂ ﹁日﹂ 等 。 こ の類 の語 も 名 義 抄 時 代 以 来大 き な 変 化 を 遂 げ て いな いが 、 こ の類 に
属す ると 推定 される ﹁ 毛 ﹂ は 、 名 義 抄 時 代 に ● 型 に表 記 さ れ て いな が ら 、 契 沖 時 代 に は〓 型 に な って お り、 ●
型>〓 型 の変 化 が 推 定 さ れ る 。 こ の変 化 は ど う し て起 こ った か 。 ﹃名 義 抄 ﹄ の表 記 は あ や ま り だ ろう と いう 説 も
あ る が 、( 3) ﹃仏 生 会 祭 文 ﹄ と いう 文 献 に ﹁ 毛 の﹂ と いう 形 が ● ● 型 に表 記 さ れ て いる と ころ を 見 る と 、 あ や ま
り でな いか も し れ な い。 こ の語 は 、 単 独 の 場 合 に は ● 型 、 助 詞 が つ いた 場 合 に は ● ▽型 に な る と いう 特 殊 な ア ク
セ ント を も って いた の で は な いだ ろ う か。 そ れ が● ▽と いう ア ク セ ント は 、 他 の第 二類 の名 詞 す な わ ち 単 独 では
〓 型 の名 詞 に 助 詞 が つ いた 形 と 全 く 同 型 で あ る 。 そ こ で多 数 の語 が属 す る〓 型︱ ● ▽ 型 と いう 型 の交 替 に 引 か れ
て単 独 の場 合 に〓 型 に な った も のと 推 定 さ れ る 。 そ う す る と 、 こ の 変 化 は 類 推 によ る変 化 で、 形 態 変 化 の 一種 で あ る。
︹3第 ︺三 類 名 詞 。 例 、 ﹁木 ﹂ ﹁手 ﹂ 等 。 こ の 類 に 属 す る 語 の大 部 分 は 名 義 抄 時 代 、 講 式 時 代 に は ○ 型 だ った と 見
ら れ る が 、 契 沖 時 代 に は 現 代 と 同 様〓 型 であ り 、 ○ 型>〓 型 の変 化 が考 え ら れ る 。 こ の 変 化 は 、 例 外 を ほ と ん ど
見 な いと ころ を 見 る と 純 粋 の 音 韻 変 化 の例 か と 疑 わ れ る が 、 二 拍 名 詞 の第 三 類 が 、 名 義 抄 時 代 ・講 式 時 代 に ○ ○
型 であ った の が、 補 忘 記 時 代 に● ○ 型 に な って いる こ と を 考 え る と 、 音 韻 変 化 と は考 え が た い。( 4︶ こ と に ○ 型
か ら〓 型 へと いう 変 化 は 、 音 声 学 の 見 地 か ら 見 て も 説 明 し に く い。 思 う に こ の類 の語 は 、 助 詞 の つ いた 場 合 は 補
忘 記 時 代 も 依 然 と し て○ ▼ 型 のま ま だ った 。 助 詞 の つ いた 形 は 単 独 の形 に 比 べ て 日常 は る か に 多 く 用 いら れ る 。
そ こ で こ の形 に牽 制 さ れ て第 一拍 が高 く は じま る こと が で き ず 、 と 言 って低 く 平 ら であ る こ と は 型 の体 系 上 許 さ
れ ず 、 や む を 得 ず 拍 の後 半 が 持 ち 上 が って〓 型 に な った も の と 推 定 さ れ る。 そ う す る と 、 こ の 変 化 は ︹2 と︺ 全く 同 じ 性 質 のも の で 、 類 推 に よ る 形 態 変 化 の例 と 判 定 さ れ る 。
︹4類 ︺外 の語 ﹁巣 ﹂ ﹁歯 ﹂。 名 義 抄 時 代 こ の 二 つの 語 は 共 に〓 型 に表 記 さ れ て い る が 、 契 沖 時 代 に は ﹁巣 ﹂ は ●
型に ﹁ 歯 ﹂ は 〓 型 に 、 表 記 さ れ て いる 。 同 じ 型 だ った 二 つ の語 が後 世 ち が う 型 にな って いる か ら 、 一方 が あ る い は 双方 が 不 規 則 な 変 化 を し た の か と 疑 わ れ る が 、 簡 単 に は 断 じ ら れ な い。
現代 諸 方 言 と の比 較 か ら 考 え る と 、 助 詞 が つ いた 場 合 に ﹁巣 ﹂ の方 は ○ ▼ 型 の よ う な ア ク セ ン ト に 、 ﹁歯 ﹂ の
方 は〓 ▽ のよ う な ア ク セ ント であ った の で は な い か と 想 定 さ れ る 。(5) と こ ろ が 講 式 時 代 に移 る 際 に 、〓 と いう
途 中 で高 さ が 変 化 す る拍 が 消 失 し 、 す べ て ● と いう 高 平 の拍 に 変 化 し た 。 こ の変 化 は 例 外 な く 行 な わ れ た よ う で 、
す な わ ち 音 韻 変 化 の 一種 であ る。 原 因 は〓 と いう 拍 の途 中 で高 低 が 変 化 す る 音 調 は 発 音 し に く く 、 そ こ で● の拍
に変 化 し た も のと 想 定 さ れ る 。 も っと も〓 型 が ● 型 に 変 化 す る こと は、 も と か らあ る ● 型 の語 と 統 合 す る こ と で
あ る か ら 型 の種 類 が 一つ少 な く な る こ と で 、 記 憶 の負 担 を 少 な く す る欲 求 も 原 因 と し て働 いた と い って よ い。 と
に か く こ の結 果 ﹁巣 ﹂ の方 は 単 独 では ● 型 、 助 詞 が つく 場 合 は ● ▼ 型 に な った 。 す な わ ち も と の第 一類 名 詞 と 全
く 同 じ にな った わ け で あ る 。〓 型 が● 型 に 変 化 す る 過 渡 期 に お い て は ○ 型 の実 現 で あ りな が ら ● 型 の実 現 であ る
か のよ う に 聞 き 取 ら れ る 中 間 の発 音 が 聞 か れ た こ と で あ ろう 。 他 方 、 ﹁歯 ﹂ の方 は 単 独 で は ● 型 、 助 詞 が つけ ば
● ▽ 型 に な った 。 こ れ は
﹁巣 ﹂ と い う 語 の 上 に 起 こ った と 同 じ 音 韻 変 化 で あ る 。 こ の 結 果 、 ︹2 に︺あ げ た
﹁毛 ﹂ と
同 じ ア ク セ ン ト に 変 化 し た 。 ﹁毛 ﹂ は 類 推 に よ り 〓 型 に な っ た 。 こ の ﹁歯 ﹂ も ま った く 同 じ 理 由 で 〓 型 に な った
と 考 え ら れ る 。 そ う す る と 、 ﹁巣 ﹂ の 方 は 音 韻 変 化 の一 種 の ア ク セ ン ト 変 化 を 起 こ し て ● 型 に な り 、 ﹁歯 ﹂ の 方 は 、
音 韻 変 化 と 、 類 推 に よ る 形 態 変 化 と を 続 け て 起 こ し て 〓 型 に な った と 考 え ら れ る 。 ﹁歯 ﹂ が〓 型 か ら ● 型 へ移 る 時 に も 、〓 型 と ● 型 と の 中 間 の よ う な 音 調 の 発 音 が 聞 か れ た こ と で あ ろ う 。
( 2 ) 神 保 ・市 河共 訳 ﹃ 言 語﹄ の三 〇 六︲三〇 七 ペー ジ。
注 ( 1) ﹃ 類 聚 名義 抄 ﹄ によ る と、 佃 煮 にす る ア ミ、額 の意 味 のヌ カは いず れも 第 一類 の語 で ﹁網 ﹂ や ﹁ 糠 ﹂ と は 異な る。
( 3) 寺川 ・金 田一 ・稲 垣 共 編 の ﹃ 国 語 ア ク セ ント 論叢 ﹄ 所 載 の服部 四 郎 ﹁ 原 始 日本 語 のアク セ ント﹂ の五 七 ペー ジ。 (4 ) 奄美 ・沖 縄 の諸 方 言 では規 則 的 な 音韻 変 化 を 遂 げ て いる 。
二) 拍︱名 二詞 に つ い て
(5 ) 金 田 一春 彦 ﹃四座 講 式 の研 究 ﹄ の三 三一︲三三二ペー ジ。
五 京 都 方 言 の ア ク セ ント 変 化 の考 察 (
こ の 類 に属 す る か と 見 ら れ る
﹁溝 ﹂ は 、 名 義 抄 時 代 、 小 松 英 雄 氏 の 推 定 に よ る と ● 〓 型 だ った と 言 わ れ る 。(1 ︶
︹5︺ 第 一類 の 名 詞 。 例 、 ﹁風 ﹂ ﹁竹 ﹂ 等 。 こ の 類 に 属 す る 語 は 、 名 義 抄 時 代 以 来 目 立 った 変 化 を し て い な い が 、
が 、 い つ変 化 し た か 平 家 正 節 時 代 に は ● ● 型 にな って お り 、 現 代 に 至 って いる 。 これ は ● 〓 型 と いう 型 に属 す る
単 語 で 確 実 の も の が ほ か に な く 、 た った 一 つ の こ の 語 が ● ● 型 に な った と いう の で あ る か ら 、 規 則 的 変 化 の 例 で
音 韻 変 化 の 一例 と 扱 いた く な る が 、 考 え て み る と 、 ● 〓 型 と ● ● 型 と は 姿 が 似 て い る か ら ● 〓 型 か ら ● ● 型 へ の
変 化 は無 理 がな いと 判 断 さ れ よ う が、 助 詞 の つ いた 場 合 を 考 え る と 、 ● 〓 ▼ 型 か ら ● ● ▼型 へ の変 化 を 想 定 し な
け れ ば な らな い。 こ の変 化 はち ょ っと き つ い。 と いう の は、 〓 と いう 拍 は ほ か の 語 の例 を 考 え る と 次 の拍 を 低 に
変 化 さ せ る力 を も って いそ う だ か ら であ る 。 そ う す る と 、 こ の語 の上 に 起 こ った ● 〓 型 か ら ● ● 型 への変 化 は 、
似 て いて し か も 多 く の語 が所 属 す る ● ● 型 へ の変 化 で、 ︽多 数 への 類 推 ︾ と いう 、 一種 の形 態 変 化 の例 と 考 え ら れる。
︹6︺ 第 二類 の名 詞 。 例 、 ﹁川﹂ ﹁紙﹂ 等 。 こ れ ら の類 に 属 す る 語 に 一般 の 一拍 の助 詞 ﹁は ﹂ ﹁に﹂ な ど の つ いた 形
は 、 名 義 抄 時 代 は ● ○ ▼型 で あ った が、 講 式 時 代 に は ● ○ ▽型 にも 発 音 さ れ る よ う にな り 、 訓 点 抄 時 代 に は ● ○
▽型 が普 通 に な って 現 代 に 及 ん で いる。 これ は 平 安 時 代 に は ︺ 助 詞 の独 立 性 が 強 く 、 は っき り し た 二 語 であ った
た め に、 二 か 所 に高 い部 分 を も って発 音 さ れ て いた の で、 鎌 倉 時 代 に は 次 第 に 名 詞 と 融 合 し て 一語 のよ う に 発 音
さ れ る こ と が 多 く な った こ と を 示 す も の で、 そ のよ う な 場 合 、 も と の● ○ ● 型 は 規 則 的 に ● ○○ 型 にな った も の
と 想 定 さ れ る 。 類 例 と し て ﹁示 す ﹂ と いう 動 詞 の終 止 形 が 、 名 義 抄 時代 に シ メ スと 表 記 さ れ 、 講 式 時 代 に シメ ス
の型 にな って いる が 、 こ の語 も 、 平 安 時 代 ﹁ス﹂ の部 分 に 独 立 性 が あ った のが 、 鎌 倉 時 代 に は完 全 に 一語 と し て
融 合 す る に至 った こと を 示 す も の に ち が いな い。 そ う す る と 、 こ の名 詞+ 助 詞 の形 に 現 わ れ た 変 化 は 、 規 則 的 な
音 韻 変 化 の例 で、 そ の原 因 は 有 坂 氏 の ﹃音 韻 論 ﹄ に いう 、 言 語 単 位 の自 己統 一を 明瞭 な ら し め る 欲 求 と 呼 ぶ べき
も の であ る 。 も っと も ● ○ ● 型 が● ○ ○ 型 に 変 化 す る こ と は 、 発 音 の容 易 化 でも あ り 、 ま た も と か ら あ る ● ○ ○
型 の 語 と 統 合 す る こと であ る か ら 、 型 の種 類 が 減 る こ と に な り 、 記 憶 の負 担 を 軽減 す る 欲 求 も 働 いた と 見 てよ い。
同 じ く 第 二 類名 詞 に助 詞 ﹁の﹂ が つ いた 形 は 、 名 義 抄 時 代︲ 平家 正 節 時 代 を 通 じ て ● ○ ▽ 型 で あ る が、 現 代 で
は● ● ▼型 に も 発 音 さ れ、 そ の方 が む し ろ 普 通 にな って いる 。 な ぜ こ の 変 化 が起 こ った か と 想 像 す る と、 名 義 抄
時 代 に は ○ ○ 型 だ った 第 三 類 の名 詞 が 名 目 抄 時 代 以 後 ● ○ 型 にな って こ の第 二類 の 名 詞 と 同 じ 型 にな った が、 そ
の類 の語 は助 詞 ﹁の﹂ が つく と ● ● ▼型 にな り 、 語 彙 の数 に お いて そ の 類 の方 が は る か に多 い。 そ こ で 多 数 への
類 推 の原 理 に よ り 、 第 二 類 の名 詞+ ﹁の﹂ の 形 に も 、 ● ● ▼ 型 の 発 音 が 現 わ れ て き た も のと 想 定 さ れ る。 そ う だ
と す る と 、 こ れ は 多 数 への類 推 に よ る 形 態 変 化 の例 と 見 ら れ る 。
と ころ で、 こ の ﹁の﹂ が つ いた 場 合 に ● ● ▼ 型 に な った こ と に つ いて も う 一つ考 え る べき こと が あ るよ う だ 。
現在 の東 京 方 言 に つ い て見 る場 合 、 平 板 型 動 詞 の いわ ゆ る 終 止 形 と 連 体 形 と は ○ ● 型 、 ○ ● ● 型 ⋮ ⋮ で同 型 であ
る が 、 終 止 形 の場 合 には ユクガ ・ユクカ ラ ⋮ ⋮ のよ う に 起 伏 型 化 す る に 対 し 、 連 体 形 の方 は ユク ヒ ト . ユク ハズ
⋮ ⋮ のよ う に 平 板 型 を 固 守 す る 。 形 容 動 詞 の ﹁大事 ﹂ と いう 語 は終 止 形 はダ イ ジダ で あ る に対 し て連 体 形 は ダ イ
ジ ナ であ る 。 そ う す る と 連 体 的 な 用法 を も つ語 節 は 平 板 的 な ア ク セ ント で次 の語 へ続 い て ゆ こう と す る 性 質 を も
って いる と 言 え そ う だ 。 名 義 抄 時 代 ・講 式 時 代 の京 都 方 言 の高 起 式 動 詞 が、 終 止 形 が ● ○ 型 、 ● ●○ 型 ⋮ ⋮ であ
る の に対 し て連 体 形 が● ● 型 、 ● ● ● 型 ⋮ ⋮ で あ る のも そ の一 例 と 見 ら れ る 。 思 う に 連 体 的 な 語 節 は 、 次 の語 と
の結 合 が 比 較 的 堅 いた め に 、 そ の内 部 にあ る いは そ の直 後 に ア ク セ ント のタ キ を 置 き にく いも のと 考 え ら れ る 。
そ う す る と 、 こ の第 二類 名 詞 + ﹁の﹂ の 形 が ● ○ ▽型 か ら ● ● ▼ 型 に変 わ った 場 合 に は、 有 坂 氏 の いわ ゆ る 表 現
効 果 を 目 指 す 欲 求 も 働 いた と 思 わ れ る 。 そ う す る と 、 これ は有 坂 氏 によ れ ば 一種 の音 韻 変 化 でも あ る と 言 う こ と
にな る よ う だ 。 た だ し 私 は 、 これ は 形 態 変 化 の 一種 と 見 る こと 前 に 述 べ た と お り で あ る 。 こ の場 合 に は 、 ● ○ ○
型 か ら ● ● ● 型 に 変 化 す る と 言 って も 、 中 間 の音 調 が 口頭 で発 せ ら れ た と は 考 え ら れ な い。
次 に 同 じ く 第 二 類 名 詞 と 見 ら れ る ﹁虹 ﹂ は 、 小 松 英 雄 氏 に よ って名 義 抄 時 代 は 〓 ○ 型 の語 だ った と 推 定 さ れ て
いる 。( 2)現 代 で は ● ○ 型 で あ り、 い つ〓○ 型> ● ○ 型 の 変 化 が 行 な わ れ た か 文 献 に よ る あ と づ け は で き な い。
思 う に 〓 ○ 調 と ● ○ 調 と は 聴 覚 的 に似 て お り 、 ● ○ 調 は 〓 ○ 調 に比 べて 、 発 音 が 遙 か に 容 易 であ る 。 発 音 容 易 化
の線 に そ って 行 な わ れ た 変 化 で、 音 韻 変 化 の例 と 見 ら れ る 。 恐 ら く こ の語 が 〓 ○ 型 から ● ○ 型 に 変 化 を 起 こ し た
時 、 も し ほ か に〓 ○ 型 の語 があ れ ば 、 そ の語 も ● ○ 型 に変 化 し た であ ろ う 。 そ の変 化 の 時 期 は、 ○ ● 型 や〓 ○ 型
の消 滅 し た 平 安 時 代 ・鎌 倉 時 代 の境 で、 こ の時 に第 一拍 を 長 く 発 音 す る 語 が 一斉 に短 く 発 音 す る よ う に 変 わ った ろう と 推 定 す る 。
︹7第 ︺ 三 類 名 詞 。 例 、 ﹁花 ﹂ ﹁山﹂ 等 。 こ の類 の 語 は 名 義 抄 時 代 ・講 式 時 代 に は 、 単 独 の場 合 は ○ ○ 型 、一 般 の
一拍 助 詞 の つ いた 場 合 は ○ ○ ▼ 型 であ った 。 これ が 仏 遺 教 経 時 代 にな る と 単 独 の場 合 は ●○ 型 にな って現 代 と 同
様 に な り 、 助 詞 の つ いた 形 は ● ○ ▼型 にな り 、 名 目 抄 時 代 にな る と 助 詞 の つい た 形 が ● ○ ▽型 にな って現 代 と 同 じ に な った 。
こ の変 化 は ど う し て 起 こ った か と いう と 、 ま ず 助 詞 の つ いた 場 合 に○ ○ ▼型 か ら ● ○ ▼ 型 に 移 った のは 、 そ の
時 期 に は ﹁命 ﹂ 類 三 拍 名 詞 の単 独 の形 、 第 二 類 四 段 活 用 三 拍 動 詞 の連 体 形 な ど 、 以前 の○○ ● 型 の 語 は す べ て ●
○ ● 型 に変 化 し た と 見 ら れ る から 、 これ は 見事 な 音 韻 変 化 の例 と 見 ら れ る 。 これ は ○ ○ ● 調 と いう ア ク セ ント は 、
語 のは じ ま り が は っき り し な いこ と か ら 嫌 わ れ て の 変 化 で、 有 坂 氏 の いわ ゆ る 発 音 を 明 瞭 な ら し め る 欲 求 によ る
も の であ ろう 。 次 の● ○ ▼型 が● ○ ▽型 に 変 化 し た の も 、 ● ○ ● 型 のす べて の語 に こ の変 化 が 起 こ った と 見 ら れ
る か ら 、 音 韻 変 化 の例 と 判 定 さ れ る 。 そ の原 因 は 、 高 の拍 が 二 か 所 にあ って は 語 と し て の統一 が 失 わ れ る こと に
よ る も のと 見 ら れ 、 言 語 単 位 の自 己 統 一を 明瞭 な ら し め る 欲 求 に よ る も のと 解 さ れ る 。 も っと も 、 ● ○ ● 調 は ●
○ ○ 調 に 比 し て 発 音 は 面 倒 であ り、 ● ○ ● 型 が ● ○ ○ 型 に 変 化 す る こと は 以前 か らあ る ● ○ ○ 型 の語 と統 合 す る
こと で あ る か ら、 発 音 を 容 易 な ら し め る 欲 求 ・記 憶 の負 担 を 軽 減 し よ う と いう 欲 求 も 同 時 に働 いた と 言 ってよ い。
ま た これ ら の語 の単 独 の形 は、 名 義 抄 時 代 か ら 訓 点 抄 時 代 ま で は ○ ○ 型 で あ った が 、 名 目 抄 時 代 に● ○ 型 にな
った 。 こ の こ と に つ い て は、 前 の時 代 に○ ○ 型 の語 の例 が 少 な いが 、 し かし 副 詞 の ﹁し か ﹂ も ○ ○ 型 か ら ● ○ 型
に変 わ ってお り、 ま た 音 声 学 的 に考 え て も 、 ○ ○ ● 型 が ● ○ ● 型 に 変 化 す る 時 に は○ ○ 型 は ● ○ 型 に変 わ る の が
当 然 であ る か ら 、 こ の 変 化 も 規 則 的 に行 な わ れ た も のと 見 ら れ 、 音 韻 変 化 の 一例 と 考 え ら れ る 。 原 因 は ○ ○ ▼
型> ● ○ ▼型 の変 化 の場 合 と 同 じ く 発 音 を 明瞭 な ら し め る 欲 求 が大 き く 働 いた と 判 定 さ れ る 。
以 上 こ の項 であ げ た 変 化 はす べ て純 粋 の音 韻 変 化 であ る か ら 、 過 渡 期 に は そ の中 間 の 音 調 が聞 か れ た ろう︱
す な わ ち ○ ○ ● 型 が ● ○ ● 型 に 変 化 す る 場 合 に は 、 話 し 手 の意 図 と し て は ○ ○ ● 型 の つも り であ り な がら 、 聞 き
手 の耳 に は ● ○ ● 型 の実 現 と 聞 こえ る よ う な 発 音 が 現 わ れ た で あ ろう と 察 せ ら れ る 。
次 に こ れ ら の語 に 助 詞 ﹁の﹂ の つ いた 形 は 、 訓点 抄 時 代 ま で は ○ ○ ▽ 型 であ った が 、 名 目 抄 時 代 に は ● ● ▽ 型
に な り、 補 忘 記 時 代 に は 現 代 のよ う な ● ● ▼型 にな った と 見 ら れ る。 こ のう ち ○ ○ ▽型> ● ● ▽ 型 と いう 変 化 は 、
﹁頭 ﹂ 類 三 拍 名 詞 の単 独 の形 な ど 、 以 前 の○ ○ ○ 型 の語 の 上 に 一斉 に 起 こ った と 見 ら れ る か ら 、 こ れ ま た 純 粋 の
音 韻 変 化 の例 と 判 定 さ れ る。 そ の原 因 は 、 ○ ○ 型 の上 に起 こ った 変 化 と 同 じ く 、 発 音 を 明 瞭 な ら し め る 欲 求 が 主
で、 同 時 に言 語 単 位 の自 己 統 一を 明瞭 な ら し め る 欲 求 も 働 いた と 思 わ れ る 。 次 の● ● ▽型> ● ● ▼ 型 の変 化 の方
は 、 こ れ は ち ょ っと 複 雑 な 事 情 があ り 、 ﹁の﹂ と いう 助 詞 が 次 に 来 る 語 が高 く は じ ま る 場 合 に は ● ● ▽ 型 にな っ
た が、 低 く は じま る 場 合 に は ● ● ▼ 型 に な った の で はな か ろ う か。 つま り名 目 抄 時 代 に ● ● ▽ 型 ・● ● ▼ 型 両 様
と な った の で はな か ろ う か 。 そ れ が ● ● ▼型 の方 は 、 第 一類 名 詞+ ﹁の﹂ の場 合 の ア ク セ ント と 同 じ であ り 、 ま
た ﹁の﹂ が つ いた 形 が平 板 型 であ る こ と は 連 体 語 と いう そ の職 能 か ら 言 って も 好 ま し い の で● ● ▼型 の方 が 勝 ち
を 占 め た の で はな か ろう か 。 と す る と 、 こ の場 合 は 他 の語 への類 推 と いう 変 化 と 、 表 現 効 果 を 目 ざ す 欲 求 によ る 変 化 と の、 二 つ の合 作 の形 態 変 化 と 判 定 さ れ る 。
と ころ で 、 第 三 類 名 詞 のう ち ﹁亀 ﹂ ﹁鴨 ﹂ ﹁鳩 ﹂等 、 こ れ ら は 例 え ば ﹁鴨 ﹂ は 契 沖 時 代 に ● ○ 型 で あ り 、 ﹁亀 ﹂
﹁鳩 ﹂ は 平 家 正 節 時 代 に● ○ 型 であ った が 、 現 代 京 都 方 言 では ○ 〓 型 にな って いる 。 つま り ● ○ 型> ○ 〓 型 と い
う 変 化 を 行 な った わ け であ る が 、 こ の変 化 は な ぜ起 こ った か。 ○ 〓 型 の 語彙 は 数 か ら 言 って ●○ 型 の 語彙 に比 べ
て も と も と 少 な く 、 し た が って ● ○ 型 から ○ 〓 型 へ の変 化 は よ く よ く の こ と がな け れ ば 起 こ る わ け のも の で はな
い。 と こ ろ で す ぐ 気 が 付 く こと は 、 これ ら の語 彙 は いず れ も 動 物 の名 で あ る 。 思 う に 動 物 の名 は、 ● ○ 調 で表 わ
す よ り も ○ 〓 調 で表 わ す 方 が し っく り す る と いう 気 持 ち が働 いた の で は な か ろう か 。 小 川 武 雄 氏 に早 く考 察 が あ
る( 3) が 、 ○ 〓 型 に は、 特 殊 な 感 情 が 宿 って いる 語 彙 が集 ま って いる 。 ○ 〓 型 と いう 型 は 、 私 の解 釈 で は 、 二 か
所 に ア ク セ ント の タ キ を も つ型 (4)で聴 覚 的 に 強 い印 象 を 与 え る 型 であ り 、 特 殊 な 感 情 を 盛 り こ む に は最 も ふ さ
わ し い型 であ る 。 そ ん な こ と か ら動 物 名 を 表 わ す 語 彙 が こ の 型 に流 れ 込 ん だ も の で は な か ろう か 。 有 坂 氏 は 、 英
語 のgreat いと う 単 語 が 、 本 来 (gr)iと 〓い tう 音 韻 で あ って 然 る べき で あ る に も 拘 ら ず (grεと :な t)って いる 理
由 を 説 明し て 、 こ の 語 の意 義 は (gr) 〓の tも つ重 々し い響 き に ふさ わ し いと 考 え ら れ た か ら だ と 言 って いる 。( 5)
こ れ ら の動 物 名 が○ 〓 型 に変 化 し た の は 正 に これ と 同 じ も の で 、 表 現 効 果 を 目 指 す 欲 求 の 現 わ れ と 考 え ら れ 、 私 見 によ れば 形 態 変 化 の 一種 と いう こと に な る 。
ま た 、 第 三 類 名 詞 のう ち ﹁皮 ﹂ ﹁玉 ﹂ の類 は 、 平 家 正 節 時 代 に ● ○ 型 であ り な が ら 、 現 代 京 都 で は ○ ● 型 にな
って いる。 こ れ ま た ● ○ 型 の語 のう ち のご く 一部 で あ る が、 これ がど う し て○ ● 型 に 変 化 し た の か そ の原 因を た
ず ね る こ と は大 変 難 し い。 気 が つく こと は 、 いず れ も 第一 拍 ・第 二 拍 の 母 音 が (a ︶であ る ことで、同様 な語 と
し て、 名 義 抄 以 後 の文 献 に ま だ 例 証 を 見 つけ な いが 、 ﹁穴 ﹂ ﹁麻 ﹂ があ り 、 第 二 類 の語 彙 だ った ﹁殻 ﹂ も こ れ に 準
ず る語 と 見 な さ れ る 。 し か し 同 じ よ う な 音 韻 構 造 を も ち な が ら ﹁花 ﹂ ﹁山 ﹂ ﹁坂 ﹂ ﹁縄 ﹂ な ど は こ の よ う な 変 化 を
遂 げ て お ら ず 、 ま た 二拍 と も (a ) の母 音 の語 にな ぜ こ う いう 変 化 が起 こ り や す いか と いう 理 由 も 考 え つか な い。
これ は 何 か わ か ら ぬ 理 由 で ● ○ 型 か ら ○ ● 型 に 変 わ った とす る ほ か は な い。 比 較 言 語 学 で は 形 態 変 化 の規 則 性 を
乱 す 最 も 主 要 な 要 因 と し て、 類 推 と 他 言 語 ・他 方 言 か ら の 借 入 と を 数 え て いる 。( 6)も し か し た ら 、 京 都 方 言 に
影 響 を 与 え る方 言 の中 に こ れ ら を 規 則 的 に○ ● 型 に言 う 方 言 があ って こ の影 響 を 受 け た の で はな いか 、 そ う だ と
す れ ば 、 これ は 音 韻 変 化 で も 形 態 変 化 でも な いと いう こ と にな る が 、 そ の方 言 の目 当 て は な い。
︹8︺ 第 四 類 名 詞 。 例 、 ﹁跡 ﹂ ﹁ 息 ﹂ 等 。 こ れ ら の 名 詞 に 一般 の 一拍 助 詞 の つ いた 形 は 、 補 忘 記 時 代 ま で は ○ ● ▼
型 で あ った が 、教 大 平 家 時 代 以 後 、 現 代 と 同 じ ○ ○ ▼ 型 に変 化 し て いる 。 ○ ● ● 型> ○ ○ ● 型 の変 化 は、 古 い○
● ● 型 の語 を 調 べ て み る と 、 こ の 類 の語 形 のほ か 、 ﹁兎 ﹂ 類 名 詞 の単 独 の形 、 ﹁歩 く ﹂ 類 の動 詞 の連 体 形等 、 す べ
て 例 外 な く 後 世 ○○ ● 型 に変 化 し て いる か ら 、 音 韻 変 化 の 一例 で あ る こ と 疑 う 余 地 が な い。 そ の原 因 は第一 拍 と
同 じ 高 さ で第 二 拍 を 発 音 し よ う と いう 欲 求 で 、 つま り 発 音 容 易 化 の欲 求 の典 型 的 な 一例 と 判 定 さ れ る 。 も っと も
● ● ● 型 と の ち が いを は っき り さ せ る 心 理 も 働 いた と す れ ば 、有 坂 氏 の いわ ゆ る 発 音 を 明 晰 な ら し め る 欲 求 も 働
いた と 見 てよ い。 そ れ は と も かく 、 こ の変 化 の結 果 、 ○ ○ ● 型 と いう そ の時 にな か った 新 し い型 が発 生 し た こ と
は 注 目 す べき であ る。 ○ ● ● 型> ○ ○ ● 型 の変 化 の途 次 に は 、 ○ ● ● 型 の実 現 で あ り な が ら 、 ○ ○ ● 型 の実 現 の よ う な 発 音 が 多 く 聞 か れ た であ ろ う 。
次 に こ の類 の語 に助 詞 ﹁の﹂ が つ いた 形 は 、 平 家 正 節 時 代 ま では ○ ● ▽型 で あ り な が ら 、 現 代 で は ○ ○ ▼ 型 に
な って いる。 こ の変 化 は 、 他 の多 く の 助 詞 が つ いた 場 合 ○ ○ ▼型 にな る の で、 多 く 現 わ れ る 形 へ の類 推 と いう 原
因 で 形 態 変 化 が 起 こ った も の と 見 ら れ る が 、 ま た ︹7 に︺ 述 べ た よ う な ﹁の﹂ に は 平 板 型 を 作 ろ う と す る 傾 向 が あ り 、 そ の 欲 求 も 働 いた かも し れ な い。
な お、 第 四 類 名 詞 のう ち の ﹁粟 ﹂ ﹁下 ﹂ (も と ) は 名 義 抄 時 代 共 に ○ ● 型 であ った が 、 ﹁粟 ﹂ は い つ変 化 し た か
現 代 語 で ● ○ 型 で あ り 、 ﹁下 ﹂ は 講 式 時 代 にす で に ○ ○ 型 に 変 化 し て い る 。 思 う に ﹁粟 ﹂ は 日常 よ り 頻 繁 に 用 い
る 同 音 語 ﹁泡 ﹂ と 混 同 し た も の、 ﹁下 ﹂ は 同 音 語 の ﹁本 ﹂ お よ び ﹁旧﹂ ( も と ) へ類 推 し た も ので あ ろう 。 と も に 形 態 変 化 の 一種 で あ る 。
︹9第 ︺五 類 の名 詞 に つ いて は特 に言 う こ と も な い。 類 外 の名 詞 ﹁腓 ﹂ (は ぎ ) は、 名 義 抄 時 代 に は〓 ○ 型 であ っ
た が、 現 代 語 で は ● ○ 型 に な って いる 。 こ れ は 平 安 時 代 と 鎌 倉 時代 と の 間 に 語 頭 の〓 の拍 が 一斉 に● に 変 化 し た
と 見 な さ れ る か ら 、 そ の時 に● ○ 型 に 変 化 し た も の で、 随 つて 音 韻 変 化 の 一種 と 判 定 さ れ る 。 副 詞 ﹁も し ﹂ ﹁ま
づ﹂、 形 容 詞 ﹁よ し ﹂ ﹁な し ﹂ の連 用 形 ﹁よ く ﹂ ﹁な く ﹂ な ど も 同 時 に 変 化 し た も の と考 え ら れ る 。
(3) 日本方言学会編 ﹃日本語 のアクセント﹄所載 の小川武雄 ﹁ 近畿アクセントに於ける下上 ( 乙)型 の性質﹂を参照。
注 (1)(2) ﹃国語学﹄三九所載 のこま つ ・ひでお ﹁平安末期畿内方言 の音調体系﹂(を 1参 )照。
(4) 金田 一春彦 ﹃ 日本語音韻 の研究﹄所載 の ﹁ 京 阪アクセ ント の新し い見方﹂﹁ 柴 田氏 の ﹃日本 語のアクセ ント体系﹄を読ん
で﹂、 特 に後 者 の三一 六 ペー ジ [ 本 著 作 集 第 六巻 三 五 七 ペー ジ] を参 照 。 (5 ) 有 坂秀 世 ﹃音韻 論 ﹄ の二 六五 ペー ジ
三) 拍︱名 三詞 に つ い て
(6 ) 高津 春 繁 ﹃ 比較 言語 学 ﹄ 一九 四 ペー ジ、 市 河 三 喜 ・服 部 四 郎 ﹃ 世 界 言 語概 説 ﹄ ( 下 ) の 七〇︲七 二 ペー ジ な ど。
六 京 都 方 言 の ア ク セ ント 変 化 の考 察 (
︹1﹁ 0形 ︺﹂ 類 の名 詞 。 例 、 ﹁ 魚 ﹂ ﹁桜 ﹂ 等 。 こ の 類 の 語 は 、 名 義 抄 時 代 以 来 目 立 っ た 変 化 を 遂 げ て いな い が 、 中 で
﹁昔 ﹂ は 、 名 義 抄 時 代︲ 平 家 正 節 時 代 を 通 じ て ● ● ● 型 で あ った のを 、 現 代 で は ○ ○ ● 型 にな って い る。 ● ● ●
型 か ら ○ ○ ● 型 へ の変 化 は 個 別 的 な 変 化 で あ る 。 こ の原 因 は 、 こ の語 は し ば し ば ﹁今 ﹂ と いう 語 と 対 に な って 用
いら れ る が、 ﹁今 ﹂ の ア ク セ ント が○ ● 型 であ る 。 そ れ と の 対 照 のた め に 同 じ 種 類 の ア ク セ ント で あ る ○ ○ ● 型 に 変 化 し たも の で、 類 推 に よ る 形 態 変 化 の例 と 考 え ら れ る。
1 ︹︺ 1﹁ 小 豆 ﹂ 類 の名 詞 。 こ の 類 に 属 す る 語 のう ち 、 典 型 的 な 語 、 ﹁小 豆 ﹂ ﹁扉 ﹂ ﹁東 ﹂ ﹁眼 ﹂ な ど は 、 平 家 正 節 時 代
以 前 は す べて ● ● ○ 型 であ った が 、 現 代 で は ● ○ ○ 型 に変 化 し て い る。 平 家 正 節 時 代 以 前 の● ● ○ 型 の語 を 調 べ
て み る と 、 ﹁赤 い﹂ ﹁堅 い﹂ の よ う な 第一 類 三 拍 形 容 詞 の終 止 形 ・連 体 形 、 ﹁上 り ( あ が り )﹂ ﹁上 れ ( あ が れ )﹂ の
よ う な 第 一類 三 拍 四段 活 用 動 詞 の中 止 形 ・命 令 形な ど があ る が 、 いず れ も 現 代 京 都 で● ○ ○ 型 にな って い る か ら 、
こ の変 化 は 規 則 的 な 変 化 で音 韻 変 化 の例 と 判 定 さ れ る 。 原 因 は ● ● ○ 型 と ● ○ ○ 型 と の混 同 と いう わ け で、 有 坂
氏 の 用語 を 借 りれ ば 記 憶 の負 担 の軽 減 の要 求 と いう こ と に な る 。 た だ し 、 ﹁風 も ﹂ の よ う な 第 一類 二拍 名 詞+ 助
詞 ﹁も ﹂ の形 な ど は 現 代 でも ● ● ○ 型 に と ど ま って いる が、 これ は 名 詞 の部 分 が ● ● 型 で あ る と いう 意 識 が 強 く 働 き 、 ア ク セ ント 変 化 を 起 こ さ な か った 例 と 想 定 さ れ る 。
と こ ろ で、 ﹁小 豆 ﹂ 類 名 詞 のう ち に は 、 楳 垣 実 氏 が か つ て警 告 さ れ た ご と く 、 平 家 正 節 時 代 ま で ● ●○ 型 で あ
り な が ら そ の後 種 々 の型 に 変 化 し て い った も の が 多 く 、 問 題 は複 雑 であ る。(1 )
ま ず ﹁間 ﹂ ﹁所 ﹂ の 二 語 は 、 現代 ● ● ● 型 に 成 って い る。 思 う に こ れ ら は意 義 が 抽 象 的 で色 彩 ・情 感 に 乏 し い
語 であ る 。 こう いう 語 は、 ア ク セ ント のタ キ を も た ぬ ● ● ● 型 が 簡 素 で ぴ った り だ と いう 理 由 で● ● ● 型 に転 向
し た も のか と 推 測 さ れ る。 も し そう だ と す れ ば 、 こ れ は 表 現 効 果 を 目 ざ し た 変 化 で、 私 見 に よ れ ば 形 態 変 化 の 一
種 と いう こと にな る 。 も っと も ま た 考 え て み る と 、 こ れ ら は 日 常 多 く 使 わ れ 、 し か も あ ま り 注 意 さ れ ず 無 造作 に
使 わ れ る 語 であ る 。 日常 多 く 無 造 作 に 使 わ れ る 語 は 、 音 韻 の 面 の変 化 で いう と、 し ば し ば 短 縮 し た 形 に発 音 さ れ 、
そ の よ う な 形 は 個 別 的 に 変 化 す る こと が知 ら れ て いる 。 例 え ば ﹁給 は れ ﹂ が タ マ ワ レ か ら タ モ レ ・タ モイ・ タ モ
と な った り、 ﹁私 ﹂ が ワ タ ク シか ら ワタ シ ・ワシ と な った り す る よ う な 伝 であ る 。 ● ● ● 型 は タ キ を も た ぬ 点 で
最 も 簡 素 な 型 であ る と ころ を 見 る と 、 ﹁間 ﹂ ﹁所 ﹂ の アク セ ント の変 化 は こ の 類 か も し れ な い。 と す る と、 これ は 特 殊 な 音 韻 変 化 の一 種 と いう こ と にな る。
問 題 は ﹁間 ﹂ と ﹁所 ﹂ と が変 化 の過 渡 期 にお いて ● ● ○ 型 と ● ● ● 型 と の中 間 の よ う な 音 調 で 発 音 さ れ る こ と
が あ った か ど う か に か か って いる 。 こ れ は 、 ○ ● ● 型 が ○ ○ ● 型 に 変 化 す る 場 合 の よ う には 、 中 間 の 形 が 実 現 す
る こと はな か った と考 え ら れ る が 、 し か し 強 調 さ れ な い位 置 に お か れ て● ● ○ 型 の 弱 化 し た 形 か ● ● ● 型 の弱 化
し た 形 か わ か ら ぬ よ う な 形 で 実 現 す る こと は 多 か った 。 こ の場 合 を 中 間 の形 の例 と 見 る べき か と も 思 わ れ る。 し
か し 考 え て み る と 、 そ う いう 場 合 のそ う いう 形 は 多 少 の差 こそ あ れ 、 他 のす べ て の語 にも 起 こり う る こと であ る
と も 言 え る の で、 何 と も 決 定 し が た く 、 こ のア ク セ ント の変 化 は ど っち か と 言 え ば 形 態 変 化 の方 に 入 れ た 方 が よ さそう に思わ れる。
次 に ﹁小 豆 ﹂ 類 名 詞 のう ち 、 ﹁緑 ﹂ ﹁二 つ﹂ ﹁と か げ ﹂ ﹁む か で ﹂ の諸 語 は ○ ● ○ 型 に変 化 し て現 代 に 至 って いる 。
こ のう ち ﹁緑 ﹂ は 補 忘 記 時 代 にす で に ● ● ○ 型 ・○ ●○ 型 の両 様 に 発 音 さ れ て 過 渡 期 の状 態 を 示 し て お り 、 ﹁二
つ﹂ も 平 家 正 節 時 代 にす で に○ ● ○ 型 に変 化 し てし ま って いる 。 ﹁と か げ ﹂ ﹁む か で ﹂ の 類 は 名 義 抄 時 代 以 外 には
記 載 文 献 がな い が、 恐 ら く い つ の時 代 に か ○ ● ○ 型 に変 化 し た も の であ ろ う 。 そ の 理由 を 考 え る と 、 ま ず ﹁と か
げ ﹂ ﹁む か で﹂ は 、︹7 で︺ 述 べた ﹁亀 ﹂ ﹁ 鴨 ﹂ ﹁鳩 ﹂ が● ○ 型 か ら ○ 〓 型 へ変 化 し た と 同 様 で、 動 物 名 と いう と こ ろ
か ら 二 つ のタ キ を も った ○ ●○ 型 がそ の意 義 に ふ さ わ し いと いう わ け で 変 化 し た も の で あ ろ う 。 表 現 効 果 を 目 ざ
し た 形 態 変 化 の例 と 見 ら れ る。 ﹁緑 ﹂ も 、 二拍 の色 の名 ﹁白 ﹂ ﹁赤 ﹂ ﹁黒 ﹂ ﹁青 ﹂ な ど が そ ろ って○ 〓 型 であ る こと
を 考 え る と 、 ○ ●○ 型 が ふ さ わ し い型 と 認 め ら れ た も のと 推 定 す る 。 ﹁二 つ﹂ は 対 と し て 用 いら れ る ﹁一つ﹂ が
○ ● ○ 型 な の でそ れ に 引 か れ て 変 化 し たも の で、 対 にな る 語 への感 染 の例 と 見 ら れ る 。 た だ し ﹁一つ﹂ と いう 語 のア ク セ ント に つ いて は︹16︺ で後述す る。
最 後 に同 じ ﹁小 豆﹂ 類 の 語 のう ち ﹁昨 夕 ﹂ (ゆ う べ ) は、 平 家 正 節 時 代 ま で は ● ● ○ 型 で あ り な が ら、 現 代 で
は ○ ○ ● 型 に な って いる 。 こ の● ● ○ 型> ○ ○ ● 型 の変 化 は ち ょ っと 解 釈 が 難 し い が、 同 じ 意 味 の ﹁よ べ ﹂ と い
う 語 が○ ● 型 に でも 発 音 さ れ て 、 そ れ へ類 推 し て ○ ○ ● 型 に な った も の であ ろ う か 。 形態 変 化 の 例 であ る 。
2 ︹︺ 1﹁ 二 十 歳 ﹂ 類 の名 詞 。 こ の類 に属 す る と 認 め ら れ る 語 ﹁黄 金 ﹂ は 名 義 抄 時 代 以 来 平 家 正 節 時 代 ま で、 文 献 は
現 わ れ れ ば ● ○ ○ 型 に 表 記 さ れ て いる が 、 現 代 で は ● ● ● 型 に 変 化 し て いる。 これ は こ の語 が 耳 遠 い語 で あ る と
こ ろ から 正 し いア ク セ ント が 忘 れ ら れ、 ﹁⋮ ⋮ が ね ﹂ と いう 語 が 多 く ● ● で 終 る 型 であ る と こ ろ か ら そ れ ら への
類 推 が行 な わ れ 、 ● ● ● 型 に 変 化 し た も の であ ろう 。 こ れ も 形 態 変 化 の例 であ る 。
次に ﹁ 螢 ﹂ と いう 語 は 、 元 来 ち がう 類 の語 で古 く は 別 の 型 であ った か と 思 わ れ る が、 平 家 正 節 時 代 に は ● ○ ○
型 で あ り、 現 代 は ○ ● ○ 型 であ る 。 こ れ は ﹁螢 ﹂ が 動 物 名 で あ る と こ ろ か ら○ ● ○ 型 が ふ さ わ し いと 考 え ら れ た
こと によ る 変 化 と 推定 さ れ 、 ︹1 の1﹁ ︺ と か げ ﹂ ﹁む か で﹂ と 同 じ 性 格 の変 化 と 考 え ら れ る 。 す な わ ち 表 現 効 果 を 目 指 し た 形 態 変 化 の一 例 であ る。
3 ︹︺ 1﹁ 頭 ﹂ 類 の名 詞 。 例 、 ﹁頭 ﹂ ﹁男 ﹂ 等 。 これ ら は 名 義 抄 時 代 か ら 訓 点 抄 時 代 ま で○ ○ ○ 型 であ った が、 仏 遺 教
経 時 代 に ● ● ○ 型 に 変 わ り、 平 家 正 節 時 代 ま で そ の型 で 来 た が 、 現代 に 至 る 間 に ● ○ ○ 型 に 変 化 し て いる 。 ○ ○
○ 型 か ら ● ● ○ 型 へ の変 化 は 前 に︹7に ︺述 べた と お り 、 す べ て の○ ○ ○ 型 の語 の上 に 起 こ った と 見 ら れ る か ら 純
粋 の 音 韻 変 化 で あ って、 そ の原 因 は 発 音 を 明瞭 な ら し め る 欲 求 と 判 定 さ れ る 。 次 に ● ○○ 型 への再 度 の変 化 は、
︹1 に1 述︺べた ﹁小 豆 ﹂ 類 名 詞 の上 に 起 こ った 変 化 と 全 く 同一 の変 化 で 、 こ れ は 記 憶 の負 担 を 軽 減 す る 欲 求 に 基 づ く 音 韻 変 化 の 一例 と 判 定 さ れ る 。
と ころ で ﹁頭 ﹂ 類 名 詞 のう ち に は 、 こ のよ う な 変 化 の方 向 を た ど ら な か った も のも あ り 、 た と え ば ﹁林 ﹂ のご
と き は 、 い つ変 化 し た か 現 代 京 都 では ● ● ● 型 にな って いる 。 こ の 理由 は ち ょ っと 見 当 が つか な いが 、 京 都 以 外
の地 域 で ● ● ● 型 に発 音 す る 地 域 が相 当 に 広 いよ う であ る。 あ る いは そ う いう 方 言 の影 響 が 働 いた か も し れ な い、 と す る と 、 こ れ は 音 韻 変 化 ・形 態 変 化 のほ か であ る 。
次 に ﹁軍 (いく さ )﹂ ﹁刀 ﹂ ﹁鋏 ﹂ な ど の 語 は 、 名 義 抄 時 代 に は○○○ 型、 平 家 正 節 時 代 に は ● ● ○ 型 であ る が 、
現 代 京 都 で は ○ ● ○ 型 にな って い る。 これ はも と ● ● ○ 型 の語 のう ち で○ ● ○ 型 に変 化 し た 例 が あ った 、 あ れ と
同 じ 種 類 のも の か と 思 わ れ る が 、 は た し て ﹁軍 ﹂ ﹁刀 ﹂ ﹁鋏 ﹂ の意 義 が ○ ● ○ 型 の ア ク セ ント に ふ さ わ し いと 言 い
切 れ る か と な る と 疑 問 であ る 。 こ れも 京 都 の付 近 に● ● ○ 型 の名 詞 が 規 則 的 に ○ ● ○ 型 に変 化 し た 方 言 が あ って、
これ ら の語 は そ の方 言 の影 響 を 受 け た のか とも 思 う が、 確 実 な こ と は 何 とも 言 え な い。
︹1﹁ 4 命︺﹂ 類 の名 詞 。 例 、 ﹁油 ﹂ ﹁ 命 ﹂ 等 。 こ れ ら の 語 は 名 義 抄 時 代 ・訓 点 抄 時 代 は ○ ○ ● 型 、 仏 遺 教 経 時 代 はも
し あ れ ば ● ○ ● 型 、 補 忘 記 時 代 以 後 は ● ○ ○ 型 であ る 。 こ の変 化 は︹7に ︺述 べた と お り で 、 名 義 抄 時 代 に ○ ○ ●
型 で あ った 語 は 、 意 義 ・職 能 のち が い に関 係 な く 、 す べて こ の よ う な 変 化 を た ど って い る か ら 、 これ は 規 則 的 音
韻 変 化 の典 型 的 な 例 であ って、 そ の原 因 は 、 ○ ○ ● 型> ● ○ ● 型 の場 合 は 、 発 音 を 明 瞭 な ら し め る欲 求 によ る も
の、 ● ○ ● 型> ● ○ ○ 型 の変 化 の場 合 は、 言 語 単 位 の自 己 統 一を 明 瞭 な ら し め る 欲 求 が主 と し て働 き 、 発 音 を 容
易 な ら し め る 欲 求 と 記 憶 の負 担 を 軽 減 せ し め る 欲 求 と が副 と し て働 いた と 考 え ら れ る 。
︹1﹁ 5 兎︺﹂ 類 の名 詞。 例 、 ﹁兎 ﹂ ﹁雀 ﹂ 等 。 これ ら の語 は 名 義 抄 時 代 か ら 補 忘 記時 代 ま で ○ ● ● 型 で あ る が、 教 大
平 家 時 代 ・平 家 正 節 時 代 は 現代 と 同 じ く ○ ○ ● 型 に な って いる 。 ○ ● ● 型 か ら ○ ○ ● 型 へと いう 変 化 が 行 な わ れ
た と 見 ら れ る が 、 こ の変 化 に つ い ては︹8の︺条 に述 べた 。 す な わ ち 、 規 則 的 な 音 韻 変 化 の例 で あ って、 そ の原 因 は 発 音 を 容 易 な ら し め る 欲 求 と 発 音 を 明 晰 な ら し め る 欲 求 と で あ る と 判 定 さ れ る。
﹁兎 ﹂ 類 名 詞 のう ち ﹁頭 ﹂ (か う べ) は 、 名 義 抄 時 代 ・講 式 時 代 に○ ● ● 型 、 平 家 正 節 時 代 に ○ ○ ● 型 で 一般 の
﹁兎 ﹂ 類 名 詞 と 同 じ 変 化 を 遂 げ て来 た が 、 現代 で は ● ○ ○ 型 に転 向 し て いる 。 こ れ は こ の語 が あ ま り 耳 に 熟 さ な
いと ころ か ら 正 し いア ク セ ント が 忘 れ ら れ 、 同 音 語 が 日常 多 く 耳 にす る ﹁神 戸﹂ と いう 語 の アク セ ント と 混 同 を 起 こ し た も の であ ろう 。 形 態 変 化 の 一種 で あ る 。
次 に ﹁兎 ﹂ 類 名 詞 のう ち の ﹁操 ﹂ は 、 名 義 抄 時 代 に○ ● ● 型 であ った が 、 い つ変 化 し た か ● ● ● 型 に変 化 し て
現 代 に至 って いる 。 個 別 的 な 変 化 であ る が 、 思 う に ﹁操 ﹂ と いう 語 はあ ま り 日常 耳 に しな い語 であ る と こ ろ か ら
正 し いア ク セ ント が忘 れ ら れ 、 多 く の 語彙 が 属 す る ● ● ● 型 に 変 化 し た も のと 考 え ら れ る 。 と す れ ば 類 推 に よ る
形 態 変 化 の例 と 考 え ら れ る 。 あ る いは ﹁操 ﹂ と いう 語 が ﹁身 さ お﹂ と いう よ う に意 識 さ れ 、 ﹁身 何 々﹂ と いう 複
合 語 の ア ク セ ント が ● ● ● 型 で あ る と こ ろ か ら 変 化 し た の か も し れ な い。 と す れ ば 、 語 源 意 識 、 そ れ も 誤 った 語
源 意 識 に よ る 変 化 で 、 形 態 変 化 の一 種 、 ﹃国 語 音 韻 論 ﹄ に いう ス テ ー シ ョ ンが ス テ ン シ ョ ンに な る 類 と 同 じ も の か も し れ な い。
6 ︹︺ 1﹁ 兜 ﹂ 類 の名 詞。 例 、 ﹁兜 ﹂ ﹁鯨 ﹂ 等 。 こ の類 の語 は あ ま り 目 立 つ変 化 を し て いな いが 、 中 で ﹁一つ﹂ と いう
語 は 、 名 義 抄 時 代︲ 平 家 正 節 時 代 を 通 じ て ○ ● ○ 型 であ った が 、 現 代 ● ● ○ 型 に な って いる と いう 珍 し い語 で あ
る 。 ど う し て 珍 し いか と いう と、 ● ● ○ 型 は ︹1 で1 述︺べた よう に 、 平 家 正 節 時 代 以 後 そ の 型 に 属 し て いた 語 が ほ と
ん ど ほ か の型 に転 向 し てし ま った 。 ほ と ん ど 消 滅 し か け た ● ● ○ 型 に 他 か ら 進 ん で飛 び 込 ん で行 った 様 子 は 、 ま
る で 大 坂 落 城 の折 、 夏 の陣 の直 前 に徳 川側 か ら 大 坂 側 に寝 返 って入 城 し た 勇 士増 田 盛 次 のよ う な も の で、 は な は
だ 奇 特 であ る 。 な ぜ こ のよ う な 変 化 を 起 こし た のか 、 そ の原 因 を 探 る こと は ち ょ っと 困 難 であ る が 、 平 家 正 節 時
代 、 ﹁一枝 ﹂ (ひ と え だ ︶ と か ﹁一雨 ﹂ (ひ と あ め) と か 、 ﹁ひ と﹂ と いう 形 の語 が 多く ● ● ○ ⋮ ⋮ 型 であ る 。 こ れ
ら の 語 に 類 推 し た 結 果 と 考 え ら れ る 。 と す れ ば これ は 類 推 によ る 形 態 変 化 の例 と な る が、 と に か く こう いう 少 数
の語 のた め に、 由 緒 あ る ● ● ○ 型 が 辛 う じ て滅 亡 を 免 れ て いる様 子 は 奇 観 であ る。 ﹁ひ と つ﹂ の ほ か に ﹁ひ と り ﹂ も 、 文 献 によ る あ と づ け は 難 し いが 、 同 じ 変 化 を た ど った 語 と考 え ら れ る 。
一 ︹重 1﹂ 7﹁ ︺炎﹁﹂等 、 少 数 の類 外 の 語 。 これ ら の語 は、 名 義 抄 時 代 あ る いは 講 式 時 代 に○ ○ 〓 型 と 思 わ れ る が、
現 在 ﹁一重 ﹂ は ● ● ○ 型 、 ﹁炎 ﹂ は○ ● ○ 型 で あ る。 名 義 抄 時 代 ○ ○ 〓 型 で あ った 語 を 探 す と 、 第 二 類 三 拍 形 容
詞 の連 体 形 、 第 三 類 二 拍 名 詞+ 助 詞 ﹁も ﹂ の形 な ど が そ う で、 も し こ れ ら と い っし ょ に 規 則 的 な 音 韻 変 化 を 起 こ
す な ら ば 、 ○ ○ 〓 型> ● ○ 〓 型> ● ○ ○ 型 と な って い て し か る べき で あ る が、 な ぜ そ の よ う な 型 に な って いる の
か 。 恐 ら く こ れ ら も 文 献 の上 で の証 明 こ そ でき な い が、 一度 ● ○ ○ 型 に な った も の であ ろ う 。 そ れ が ﹁一重 ﹂ は
︹1 で6 述︺べ た ﹁一つ﹂ と 同 様 に 他 の ﹁ひ と ⋮﹂ と いう 語 への類 推 に よ り 、 ● ● ○ 型 に な った も の であ ろ う 。 ﹁炎 ﹂
は や や 難 し い が、 ﹁ほ の﹂+﹁ほ ﹂ と いう 語 源 意 識 が 働 いた 。 ﹁ほ の﹂ は ﹁火 の﹂ で ○ ● 型 だ 。 ﹁ほ の﹂ と ﹁ほ﹂ と
重 ﹂ は 他 の類 似 の語 への 類 推 に よ る 、
の間 に複 合 語 の切 れ 目 が あ る が 、 複 合 語 の 切 れ 目 に は と か く ア ク セ ン ト の タ キ を 置 こう と す る 傾 向 があ る 。( 2) そ の気 持 が 働 い て ○ ● ○ 型 に な った も のと 考 え ら れ る 。 と す る と 、一 ﹁炎 ﹂ は 語 源 意 識 に よ る 、 と も に 形 態 変 化 の例 と 考 え ら れ る。
注( 1) 近畿方言学会 編 ﹃ 方言論文集﹄Ⅱ所載 の楳 垣実 ﹁ 大 阪方言 アク セント変化 の傾向﹂および ﹃ 帝塚 山短大研究年報﹄第6 号所載 の楳垣実 ﹁アクセント変化 過程 の実態 ( 資料編︶﹂を参照。
われと見る。
( 2) 東京方言 で後部成素が 一拍の名詞である複合名詞 には、○●○型、○●●○型、○●●●○型 のも のが多 いのはそ の現
七 東 京 方 言 の ア ク セ ント 変 化 の考 察
以 上 、 前 章 で は 過 去 の京 都 方 言 の上 に 起 こ った 主 要 な ア ク セ ント 変 化 の例 を 、 一 ・二 ・三 拍 の 名 詞 から 拾 い出
し て、 音 韻 変 化 に 属す る も の、 形 態 変 化 に 属 す る も の、 そ れ 以 外 の も の、 に 分 類 し て み た 。 次 に 東京 方 言 の上 に
過 去 に起 こ った と 想 定 さ れ る 主 要 な ア ク セ ント 変 化 、 現在 起 こ り つ つあ る 変 化 に つ いて 試 み れ ば 次 のよ う で あ る。
ま ず 、 東京 方 言 は そ の 源 に お い て、 私 は 過 去 の京 都 方 言 か ら 大 体 分 か れ て 出 来 た も の と 考 え る 。 こ の こ と は 以
前 に 発 表 し て批 判 を 受 け て い る か ら 、1(︶詳 し く は 繰 返 さ な いが 、 現代 の東 京 ア ク セ ント の大 体 の骨 組 は 平 家 正
節 時 代 の京 都 ア ク セ ント か ら 分 か れ 出 た と 見 て よ い。 例 え ば 次 の よ う であ る 。( 2) ︹1 ︺ ● ● 型> ○ ● 型 (例 、 第 一類 一拍 名 詞+ 一般 助 詞 の形 ) ︹2 ︺ ● ○ 型> ○ ● 型 (例 、 第 二類 一拍 名 詞+ 助 詞 の 形 ) ︹3 ︺ ○ ● 型> ○ ○ 型> ● ○ 型 ( 例 、 第 三 類 一拍 名 詞+ 一般 助 詞 の形 ) ︹4 ︺ ● ● ● 型> ○ ● ● 型 ( 例 、 第 一類 二拍 名 詞+ 一般 助 詞 の 形 ) ︹5 ︺ ● ● ○ 型> ○ ● ● 型 ( 例 、 第 一類 二拍 名 詞 +助 詞 ﹁も ﹂ の形 ) ︹6 ︺ ● ○ ○ 型> ○ ● ○ 型 ( 例 、第 二 ・三 類 二 拍 名 詞+ 一般 助 詞 の形 ) ︹7︺ ○ ○ ● 型> ○ ○ ○ 型> ● ○ ○ 型 ( 例 、 第 四 類 二 拍 名 詞+一 般 助 詞 の形 )
︹8 ︺ ○ ● ○ 型> ○ ○ ● 型> ● ○ ● 型> ● ○ ○ 型 ( 例 、第 五 類 二 拍 名 詞+一 般 助 詞 の形 、 等 ︶
(3)の(第7一 )次 8( の変 化 は 、 高 の拍 を 低 にす る 、 あ る いは 後 へ
これ ら の変 化 はす べ て規 則 的 な 音 韻 変 化 と 推 定 さ れ る。 原 因 は いろ いろ あ る が す べ て京 都 方 言 に 起 こ った 音 韻 変 化 の場 合 と 同 様 な も の で、 例 え ば (1 () 2) (( 6 の 5 ) 変 )化 、
送 る こ と によ る発 音 の容 易 化 の欲 求 に 基 づく も の、(3)(の 7第 )二 (次 8) の変 化 は 、 語 頭 を 高 く し て発 音 を 明瞭 な ら し
め る 欲 求 に基 づく も の、 (8 の) 第 三 次 の変 化 は、 高 の拍 を 一つにし て 語 の統 一を 明 瞭 な ら し め る欲 求 と 、 発 音 容 易
化 の欲 求 と 、 さ ら に 型 の種 類 を へら す こ と に よ る記 憶 の容 易 化 の欲 求 と が い っし ょに な ったも のと 解 せ ら れ る 。
な お 、 (2 の) 場 合 に は 、 第 二 ・三 類 名 詞 単 独 の形 の よ う に、 そ の直 後 に タ キ のあ る ○ ● 型 で、 (1 の) 変 化 に よ って
生 じ た ○ ● 型 と は ち が う の が建 前 の はず で あ る が、 一拍 名 詞 +助 詞 の 形 のよ う な 他 の語 節 へ続 い て 行 く 語 節 の 場
合 は 、 そ のタ キ が 摺 り 切 れ て 失 わ れ 、 (1 の) 変 化 に よ って 生 じ た 形 と 同 じ にな って し ま った も のと 解 さ れ る 。 (4)(5)
の変 化 の 場 合 にも 、 平 行 的 な 現 象 が 見 ら れ る が、 こ れ ら は 語 句 の職 能 のち が いに よ って、 同 一の 型 が 二 つの 型 に 分 裂 し た 例 であ る 。
次 に(2 の) 例 で は 、 多 く の 語 例 で は、 こ のよ う な 変 化 を 遂 げ た が、 ﹁貝 ﹂ ﹁金 (き ん )﹂ ﹁塔 ﹂ のよ う な 、 第 二拍 が
特 殊 な 音 韻 であ る 語 は 、 こ の変 化 を 起 こさ ず 、 ● ○ 型 に と ど ま った 。 ( あ る い は ○ ● 型 に変 化 し た あ と ● ○ 型 に
戻 った か 。) 他 方(3の)変 化 を 遂 げ た 語 彙 のう ち 、 ﹁ 乳﹂﹁ 槌 ﹂ の よ う な 第 一拍 の 母 音 が無 声 化 を 起 こ す よ う な 音 韻
を も つ語 に お いて は 、 こ のあ と さ ら に ○ ● 型 に 変 化 し て いる 。 こ れ ら の変 化 は いず れ も 規 則 的 に 行 な わ れ た も の
と 推 定 さ れ 、 つま り 拍 の音 価 に よ って 、 同 一の型 に属 し て いた 語 が 二 つ の型 に分 裂 す る こ と が あ る こ と が 認 め ら れ 、 これ も 音 韻 変 化 に 属 す る ア ク セ ント 変 化 と 考 え ら れ る 。
次 に東 京 方 言 の上 に 起 こ った と 想 定 さ れ る ア ク セ ント 変 化 と し て は 、 ﹁命 ﹂ 類 三 拍 名 詞 に ○ ● ○ 型> ● ○ ○ 型
と いう も のが 想 定 さ れ る 。 (これ も あ る い は● ○ ○ 型 のま ま 変 化 し な か った と いう べき か も し れ な い。) これ は ●
○ ○ ○ 型 と ○ ● ○ ○ 型 と の統 合 のあ お り を 食 った も の で、 ﹁命 が﹂ と か ﹁兜 が ﹂ と か いう 助 詞 の付 いた 形 が 統 合
し た た め に 単 独 の場 合 にも そ れ が 及 ん だも のと 見 ら れ 、 かな り 大 規 模 に 行 な わ れ た が 、 徹 底 し た 規 則 的 な 変 化 と
は 言 いか ね る と こ ろ が あ る 。( 3)こ れ は 千 葉 県 北 部 か ら 今 の東 京 都 の 下 町 地 帯 ・埼 玉 県 東 部 に か け て 行 な わ れ た
アク セ ント の規 則 的 変 化 が 影 響 を 与 え た の で はな いか と 疑 わ れ 、 こ れ は 他 方 言 の影 響 に よ る 変 化 ( 4)と考 え ら れ
る 。 三 宅 武 郎 氏 に よ って 提 起 さ れ た 、 四 拍 名 詞 ﹁年 寄 ﹂ ﹁物 差 ﹂ の類 に お け る A B 両 型 の問 題 ( 5)も 同 様 の事 情 があ って 難 し い。
次 に、 ﹁北 ﹂ ﹁東 ﹂ のよ う な 語 が 平 板 化 す る の は、 東 京 の北 方 ・西 方 一帯 の方 言 の影 響 のよ う に 推 定 さ れ る。( 6)
﹁卵 ﹂ が タ マゴか ら タ マゴ に 変 わ り つ つあ る のは 、 南 方 か ら 東 海 道 す じ の方 言 の影 響 が あ る か と 見 ら れ る が 、 あ る いは タ マ+ コと いう 複 合 意 識 に 基 づく ア ク セ ント 変 化 の例 か も し れ な い。
と こ ろ で 、 東 京 方 言 に起 こ った 変 化 と し て有 名 な も の に 、 ﹁電 車 ﹂ と か ﹁映 画 ﹂ と か いう 語 の、 佐 久 問 鼎 博 士
の いわ ゆ る ︽平 板 化 の現 象 ︾ が あ る。 ち ょう ど 京 都 方 言 に 見 ら れ た ﹁間 ﹂ ﹁所 ﹂ の よ う な 語 が 平 板 型 に変 化 し た
のと 同 じ よう な も ので 、 音 韻 変 化 の例 とも 形 態 変 化 の例 と も 見 ら れ る が 、 日常 化 し た 語 は ア ク セ ント のタ キ を 付
け ず に言 った 方 が好 ま し い と いう 意 識 に基 づ く も の で、 表 現 効 果 を 目 ざす 欲 求 に よ る 形 態 変 化 の例 と 見 た 方 が よ
いと 思 う 。 人 名 の サイ ジ ヨー ヤソ ( 西 条 八 十 ) が人 口 に膾炙 す る と サ イ ジ ヨーヤソ に な り 、 モリ シ ゲ ・ヒ サヤ ( 森
繁 久 弥 ) が 人 気 を 呼 ん で モリ シゲ ヒサ ヤ に な る のも 、 そ のよ う な ア ク セ ント が 簡 素 で ふさ わ し いと いう 意 識 に 基 づ く も の で、 これ も 同 種 の変 化 と 見 ら れ る 。
数 字 の ﹁五 ﹂ ﹁九 ﹂ が低 の型 か ら高 の型 に変 化 し た のは 、 発 音 を は っき り さ せ て 他 と ま ち が わ れ な いよ う に と
の配 慮 に よ る も の で、 これ こ そ は 表 現 効 果 を 目 指 す 変 化 に相 違 な い。 ﹁誰 ﹂ ﹁ど こ﹂ の類 が 頭 高 型 にな った のも 同
様 で あ る 。 ハト (鳩 )・カ メ (亀 )・ア ジ ( 鰺 )・タ コ ( 蛸 ) な ど が ○ ● 型 か ら ● ○ 型 に 変 わ った のは 、 ち ょう ど
京 都 方 言 で幾 つか の動 物 名 が● ○ 型 か ら ○ 〓 型 に移 った 変 化 と 同 巧 異 曲 のも の で 、動 物 名 に ふ さ わ し い型 と し て ● ○ 型 に変 わ った 例 、 や は り表 現 効 果 を 目 指 す 一例 で あ る 。
イ タ ベー ︵ 板 塀 ) がイ タ ベー に な り 、 ヤ マデ ラ (山寺 ︶ が ヤ マデ ラ にな り つ つあ る のは 、 複 合 語 の 切 れ 目 に ア
ク セ ント の タ キ を 置 こ う と す る意 識 の現 わ れ で、 こ れ も ま た 広 い意 味 で の表 現 効 果 を 目 指 す 欲 求 の現 わ れ と 見 ら
れ る 。 ﹁神 ﹂ や ﹁母 ﹂ な ど が カ ミ ・ハハか ら カ ミ ・ハ ハに移 り つ つあ る の も 、 表 現 の効 果 を 目 指 し て の変 化 か も
し れ な い が、 単 な る多 数 への類 推 の例 かも し れ な い。 ﹁赤 と ん ぼ﹂ ﹁海 坊 主 ﹂ の類 が アカ ト ンボ ・ウ ミ ボ ー ズ か ら
平 凡 な 型 ア カト ン ボ ・ウ ミボ ー ズ に 変 化 し た のは 、 多 数 のも の への類 推 に よ る も ので 形 態 変 化 の典 型 的 な 例 にな
( 煮 魚 ) ・ヒ ガ エ リ (日 帰 り ︶ が ニ ザ カ ナ ・ヒ ガ エ リ に な る の も 同 様 で あ る 。 ﹁林 ﹂ ﹁い た ち ﹂ ﹁北 風 ﹂
( さ か ず き )﹂ な ど 、 三 拍 名 詞 ・四 拍 名 詞 が な だ れ を う つよ う に 平 板 型 に 変 化 し て いく の は 、 表 現 効 果 を 目
る 。 ニザ カナ ﹁酒 杯
( 酢 の 物 ) ・テ ノ ヒ ラ
(掌 ) を ス ノ モ ノ ・テ ノ ヒ ラ と 言
( 神 輿 ) が ミ コ シ に な った の は オ ミ コ シ と い う 頻 出 形 へ類 推 し た 例 で 、 フ ロ (風 呂 ) が フ ロ に な った の
指 す 場 合 も あ ろう が 、 多 数 への類 推 の場 合 が 多 か ろ う 。 ミ コシ も オ フ ロ への同 じ 種 類 の 類 推 の結 果 であ ろう 。 ス ノ モ ノ
う の は 語 源 意 識 が は た ら い た ア ク セ ン ト 変 化 と 見 ら れ る 。 ﹁翁 ﹂ ﹁乙 女 ﹂ が オ キ ナ ・オ 卜 メ か ら オ キ ナ ・オ 卜 メ に
変 化 し つ つあ る が 、 こ れ は 語 頭 の オ の 拍 が 接 頭 語 の ﹁お﹂ の よ う に 意 識 さ れ て 、 ﹁お か め ﹂ ﹁お や ま ﹂ な ど に 類 推
し て の 変 化 か と 疑 わ れ る 。 も し そ う だ と す れ ば 、 あ や ま った 語 源 意 識 に よ る ア ク セ ン ト 変 化 で 、 や は り 形 態 変 化 の例 とな る 。
﹁梅 雨
(つ ゆ )﹂ が ﹁露 ﹂ と 同 じ 型 に な り つ つあ る こ と 、 ﹁穂 ﹂ と
﹁帆 ﹂ と が
﹁雲 ﹂ が ク モ か ら ク モ に 変 わ った の は 、 同 音 語 の ﹁蜘 蛛 ﹂ の ア ク セ ント に 引 か れ て 同 化 し た も の と 推 測 す る こ と は、 前 に 述 べ た 。 同 様 の 例 と し て は
﹁兄 ﹂ へ の 同 化 か も し れ な い 。
同 じ 型 に な り つ つ あ る こ と な ど が 挙 げ ら れ る 。 ﹁姉 ﹂ が ア ネ か ら ア ネ に 変 化 し つ つ あ る の は 、 多 数 へ の 類 推 と も 解 せ ら れ る が、 特 に対 語
体系 ﹄ を 読 ん で﹂ な ど に述 べた 。
注 (1) ﹃文学 ﹄ 二二 の八所 載 の小 稿 ﹁東西 両 ア ク セ ント のち が いが出 来 るま で﹂ お よ び前 出 の ﹁ 柴 田君 の ﹃日本 語 の アク セ ント
( 2) 徳 川宗 賢 氏 は ﹃学習 院 大 学 国 語国 文 学 会誌 ﹄ 第 六 号 所載 の﹁ "日本 語 方 言 ア ク セ ント の系譜 "試 論 ﹂ の中 で、 こ のう ち︹7︺
の語 彙 は ○ ○ ●型 の前 の○ ● ● 型 の段 階 で︹8︺ の○ ● ○ 型 と 合 流 し て ○ ○ ● 型 に な った ので は な いか と 言 わ れ る。 あ る いは そ の方 がよ いかも し れ な い。 (3 ) ﹃ 言 語 生活 ﹄ 三 三 の 八所 載 の小稿 ﹁東京 ア ク セ ント の特 徴 は 何 か ﹂ に述 べた。
( 4) ﹃ 国語学﹄四〇所載 の小稿﹁ 房総アクセント再論﹂五二 ページを参照。
(5) 寺川 ・金田 一・稲垣共編 ﹃ 国語アクセント論叢﹄所載 の満 田新 一郎 ﹁いわ ゆるA型B型 アクセ ントはどうな ったか﹂を 参照。
約
( 6) 次の ﹁ 卵﹂ の例 とともに ( 3)の小稿を参照。
八 要
小 稿 で考 察 し た こ と を 最 後 に ま と め るな ら ば 次 の よ う にな る。
第一 条 普 通 に アク セ ント の変 化 と 呼 ば れ て いる も の の中 に は、 音 韻 変 化 の 一種 と し て の ア ク セ ント 変 化 と 、 形 態 変 化 の 一種 と し て の ア ク セ ント 変 化 と が あ る。
第 二条A 音 韻 変 化 の 一種 と し て の ア ク セ ント 変 化 で は、 同 じ 条 件 下 にあ る 同 じ 型 に 属 す る 語 は、 意 義 の如 何 を
問 わ ず 一斉 に同 じ 型 に変 化 す る 性 質 が あ る 。 こ の場 合 、 聴 覚 的 に 類似 し た 型 に 変 化 す る き ま り があ り 、 変 化 の
過 渡 期 に あ って は 古 い 型 の実 現 が新 し い型 の 実 現 のよ う に 聞 か れ る 。 こ の 変 化 の結 果 、 し ば し ば 新 し い型 が 発
生 す る こと があ り 、 古 い型 が 消 滅 す る こと も 多 い。 つま り ア ク セ ント 体 系 の変 化 を し ば し ば ひ き 起 こす 。
第 二条B 音 韻 変 化 の 一種 と し て のア ク セ ント 変 化 は、 (1発 )音 の容 易 化 を 目 指 し て、 (2)記 憶 の容 易 化 を 目 指 し
て、(3)発 音 の明 瞭 化 、 時 に 明 晰 化 を 目 指 し て、 (4語 ) の統 一の 明瞭 化 を 目 指 し て、 行 な わ れ る。 同 一の型 は 意
義 のち が いに 関 係 な く 同 一の型 に 変 化 す る が 、 音 韻 のち が いによ り 、 職 能 のち が いに よ り 、 二 つ の 型 に き れ い に 分 裂 す る こ と も あ る。
第 三条A 形態 変 化 の 一種 と し て の アク セ ント 変 化 の様 相 は 、 同 じ 型 に属 す る う ち の 一部 の語 の 上 だ け に 行 な わ
れ 、 そ の語 群 は 意 義 の上 で共 通 の要 素 を も つ。 変 化 の方 向 に は 制 限 がな く 、 聴 覚 的 に は ま った く ち が った 型 に
変 化 す る こと も あ り 、 過 渡 期 に お い て中 間 の姿 の音 調 が 実 現 す る こと は な く 、一 つの 型 か ら 他 の 型 に跳 躍的 に 移 る。
第 三条B 形 態 変 化 の 一種 と し て の ア ク セ ント 変 化 は、 そ の原 因 か ら 見 て 、 (1表 )現 効 果 を 目 指 し て 好 ま し い型
に成 ろ う と す る も の、 (2)多 く の 語 、 頻 出 す る 語 形 に 類 推 す る も の、(3)語 源 意 識 が働 く も の、 (4同 )音 語 や 対
語 と 混 同 す る も の、 な ど が あ る 。 日 常 多 く 使 わ れ 、 あ ま り重 き を 置 か な いで使 わ れ る 語 は 、 タ キ のな い型 や 、
タ キ の少 な い型 に変 化 す る こ と が あ る。 これ は 音 韻 変 化 に 一歩 近 い形 態 変 化 で あ る。 形 態 変 化 と し て のア ク セ
ント 変 化 は 、 時 に音 韻 変 化 の一 種 と し て の ア ク セ ント 変 化 が 起 こ る 時 に、 一部 の語 のア ク セ ント 変 化 を 食 い止 め る こと が あ る 。
第 四条 音 韻 変 化 ・形 態 変 化 以 外 の ア ク セ ント 変 化 には 、 他 方 言 か ら の輸 入 が あ り、 これ は し ば し ば 規 則 的 な ア
ク セ ン ト 変 化 を 乱す こと 、 ま た、 不完 全 な 規 則 的 な ア ク セ ント が 起 こ った よ う な 見 せ か け の音 韻 変 化 を 起 こす こ と があ る 。
味 噌 よ り は 新 し く 茶 よ り は 古 い他
味 噌 よ り は 新 し く 茶 よ り は 古 い︱
一
アク セ ントから 見た 日本 祖語と字音 語
本 誌 に 連 載 さ れ た ﹁日本 祖 語 に つ い て﹂ と いう 長 大 な 論 文 の最 後 の章 、 ﹁日本 祖 語 に関 す る 二 三 の 問 題 ﹂ と い
う 章 で 、 服 部 四郎 博 士 は、 ︽琉 球 方 言 の ア ク セ ント は 内 地 の九 州 方 言 の ア ク セ ント か ら 変 化 し て出 来 た ︾ と いう 、
私 の考 え に鉄 槌 を 下 さ れ 、 そ の非 と す る 理由 を 詳 し く 説 明 さ れ ま し た 。 私 の 蕪 雑 な 原 稿 を 丁 寧 に 読 ま れ 、 懇 切 な
教 え を 賜 わ った 御 厚 志 に 対 し て は、 私 は 衷 心感 謝 いた し ま す 。 琉 球 方 言 に つ い て の私 の調 査 は き わ め て粗 略 な も
の で あ り 、 ま た 、 そ の 調 査 を 補 充 す る 計 画 も 、 今 の と こ ろ メド が 立 ち ま せ ん 。 琉 球 諸 方 言 の ア ク セ ント の出 自 に
つ いて の私 の考 え は 、 暫 く 徹 回 し て 、 他 日も っと 詳 し い調 査 が出 来 ま し たあ と で、 改 め て 公表 し た いと 思 いま す 。
と ころ で、 服 部 博 士 は 、 そ の 注 の中 で、 イ チ (一)、 ロク ( 六 )、 シチ (七 )、 ハチ (八 )、 のよ う な 字 音 語 は、
博 士 の 日 本 祖 語 に 遡 る 単 語 と す る わ け に は 行 か な いと 言 って お ら れ ま す 。( 昭和五 十四年十一 月号、 一〇七 ペー ジ)
イ チ ・ロク ・シチ ・ ハチ が 日本 語 に輸 入さ れ た の は 、 奈 良 朝 よ り も っと 以前 の こ と です 。 と す る と 、 博 士 は、 日
本 本 土 の諸 方 言 の ア ク セ ント のち が いが 生 じ た の は 、 少 く と も 甲 乙 両 種 ア ク セ ント のち が いが 生 じ た のは 、 奈 良
朝 を 遡 る、 相 当 昔 のこ と と 考 え て お ら れ る と 解 さ れ ま す 。 私 は 、 現 在 の本 土 の諸 方 言 の ア ク セ ント は 、 大 体 のと
ころ 平 安 朝 時 代 の京 都 方 言 の ア ク セ ント か ら 、 別 れ 出 た も のと 考 え て お り ま す の で、 も し 、 諸 方 言 の別 れ る 以 前
の形 を ﹁日 本 祖 語 ﹂ と 呼 ぶ と し ま す と 、 ア ク セ ント の上 か ら 見 た 日本 祖 語 は 、 平 安 朝 時 代 の京 都 語 が そ れ だ と い
う こ と にな りま す 。 博 士 のお 考 え と 衝 突 し ま す 。 私 の考 え の根 拠 は 、 そ の有 力 な も のは 、 博 士 が 退 け ら れ た 諸 方
言 の字 音 語 の 上 に 伝 わ って いる ア ク セ ント で す 。 こ の稿 では そ の考 え を 述 べ て、 博 士 な ら び に 読 者 各 位 の御 批 判 を 賜 り た いと 思 いま す 。
二 は じ め に お 断 り し て お く こと が 二 つあ りま す 。
そ の 一つは 、 これ は誤 解 は 万 々な いと 思 いま す が、 私 は 平 安 朝 時 代 の京 都 語 の ア ク セ ント を 今 の諸 方 言 の ア ク
セ ント の先 祖 だ と 見 ま す が 、 だ か ら と 言 って 、 平 安 朝 時 代 に今 の本 土 一帯 に 京 都 語 と 同 じ ア ク セ ント の方 言 が広
が って いた と 見 る わ け で は な いこ と です 。 ﹃万 葉 集 ﹄ の第 十 四 巻 に よ り ま す と 、 奈 良 時 代 の関 東 地 方 の 言 葉 は 、
当 時 の奈 良 地方 の言 葉 と は 、 音 韻 や 文 法 の 面 で 大 変 ち が って いま し た 。 ア ク セ ント の面 でも 、 あ れ と 同 じ よ う に
奈 良 時 代 の 関 東 の言 葉 のア ク セ ント は 、 奈 良 地 方 のも のと さ ぞ ち が って いた ろ う と 思 いま す 。 現 在 の 関 東 地 方 の
音 韻 は 、 奈 良 時 代 の奈 良 方 言 の そ れ か ら 変 化 し た も ので す 。 当 時 の関 東 地 方 の音 韻 や 文 法 は、 現 在 に 至 る 間 に有
力 な中 央 方 言 の勢 力 のも と に影 を 失 い、 そ れ を 伝 え る方 言 は 、 今 では 僅 か に 伊 豆 八丈 島 地 方 に 残 って いる にす ぎ
ま せ ん 。 ア ク セ ント に つ い ても 、 八 丈 島 の ア ク セ ント は あ る いは 、 当 時 の関 東 地 方 の言 葉 の後裔 か も し れ ま せ ん。
が 、 そ れ 以 外 の本 土 の 諸方 言 の ア ク セ ント は 、 す べ て 平 安 朝 時 代 の ア ク セ ント か ら 変 化 し た 姿 であ る と 考 え ま す 。
も っと も 、 今 の関 東 方 言 にも 、 動 詞 の命 令 形 の ﹁し ろ ﹂ ﹁見 ろ ﹂ の よ う な 、 奈 良 時 代 の 中 央 語 の 子 孫 と は 考 え
ら れ な いも のも あ る こ と は あ り ます 。 が、 そ れ は ごく 一部 です 。 アク セ ント の面 でも 、 今 の本 土 諸 方 言 の ア ク セ
ント の中 に は 、 平 安 時 代 の京 都 語 か ら 変 化 し て 出 来 た と は 考 え に く い部 分 が な い でも あ り ま せ ん 。 し か し 、 そ れ
は あ く ま でも ほ ん の 一部 で す 。 大 多 数 の 語彙 の アク セ ント は 、 当 時 の京 都 ア ク セ ント か ら 変 化 し て出 来 た も の と
推 定 でき る と 考 え て お り ます 。
お 断 り し て おく こ と の 二 つは 、 本 土 諸 方 言 のア ク セ ント が別 れ た の は 、 字 音 語 が 輸 入 さ れ て 以 後 だ と いう 考 え
は 、 今 こ こ に は じ め て発 表 す る 考 え で は な い こと です 。 私 は、 昭 和 十 六 年 、 ﹁国 語 ア ク セ ント 断 想 ﹂(1 )と いう 小
論 に 触 れ た こと が あ り 、 戦 後 に 活 字 に し た ﹁日 本 四 声 古 義 ﹂( 2)と いう も の に 、 も う 少 し 詳 し い内 容 を 発 表 し ま
し た 。 し か し 、 私 よ り 早 く 、 E ・D ・ポ リ ワノフ ( 3) は 、 大 正 年 間 の早 い時 代 に そ の意 見 を 提 出 し て お り 、 ま た 、
昭 和 二 十 六 年 以 後 、 奥 村 三 雄 氏 が ﹁東 西 ア ク セ ン ト 分 離 の時 期 ﹂( 4) ﹁ 漢 語 の ア ク セ ント ﹂( 5)な ど の論 文 で繰 返
し 論 じ て お ら れま す 。 奥 村 氏 の論 考 は 、 し っか り し た 資 料 に基 づ く も ので 、 私 は も う こ れ は 学 界 の定 説 にな って
いる と 思 って いま し た 。 そ ん な 風 で 以 下 に 述 べる と こ ろ は 奥 村 氏 の発 表 に 負 う と こ ろ が著 大 であ る こ と を 記 し 、 改 め て感 謝 の意 を 表 し ま す 。
三
︽今 日 の本 土 諸方 言 の ア ク セ ント のち が いは 、 漢 字 音 が 輸 入 さ れ て 以 後 の こ と で あ る ︾、 こう 考 え る 根 拠 の第 一
は 、 昔 か ら 日常 よ く 用 いて き た 字 音 語 の ア ク セ ント が 、 本 土 諸 方 言 の 間 で 、 実 に 規 則 的 な 型 の対 応 を 見 せ る と い
う 事 実 で す 。 今 、 一モ ー ラ 語 と 二 モー ラ 語 に つ い て 、 そ の一 端 を 掲 げ ま す と 、 ︹付 表 ・諸 方 言 字 音 語 ア ク セ ント
対 照 表 ︺ の よ う に な り ま す 。 方 言 と し て こ こ で は 、 た ま た ま 教 示 を 受 け る 便 宜 のあ った 二 十 の方 言 を 選 び ま し
た 。( 6)これ 以 外 の方 言 も 大 体 こ れ と 変 り な さ そ う に思 いま す 。 ま た 、 三 モ ー ラ 以 上 の単 語 に つ い て 試 み て も 、 大 体 こ れ に平 行 し た 結 果 が 出 ると 見 て い いと 思 いま す 。
な お 、 諸 方 言 の ア ク セ ント の 型 を 示 す のに 、 こ こ で は 紙 面 の節 約 を 考 え 、 符 号 を 用 いま し た 。 大 部 分 の方 言 に
用 いた① ② ⋮ ⋮ の番 号 は 、 語 頭 か ら 数 え て 博 士 の言 わ れ る ︽ア ク セ ン ト 核 ︾ の あ る モ ー ラ の位 置 を 表 わ し ま す 。
核 のな いも のは 、 川 上蓁 氏 の 提 案 の〓 を 用 いま し た 。 和 田実 氏 の いわ ゆ る 低 起 式 のも の に は ②'〓の'よ う に ダ ッシ
ュを つけ て 、 高 起 式 で な いこ と を 表 わ し ま し た 。 ま た 、 長 崎 方 言 ・鹿 児 島 方 言 に つ いて は 、 平 山 輝 男 氏 の創 始 の 〓〓 で型 の区 別 を 表 わ し ま し た 。
こ の表 で 見 ら れ ま す よ う に 、 日 常 親 し く 用 いら れ てき た 字 音 語 は、 (1 (2)) ( 3) のよ う な 語 類 に別 れ 、 そ れ ら 各 語 類
のア ク セ ント は 、 各 方 言 の間 で き わ め て 規 則 的 な 対 応 を し て いま す 。 時 折 例 外 も 出 て き ま す が、 こ と に、 高 松 、
鶴 岡 、 盛 岡 、 長 崎 、 鹿 児 島 に は 例 外 が 少く あ り ま せ ん 。 が、 高 松 は 大 阪 の影 響 の強 いと こ ろ 、 鶴 岡 以 下 は京 都 か
ら 遠 隔 の 地 だ と す る と 、 こ のく ら いの 乱 れ は 自 然 と 言 って い いか と 思 いま す 。 長 崎 に は 、 こと に 乱 れ が多 い感 じ
で す が、 あ る いは 二 人 の人 か ら 報 告 を 得 た こと が よ く な か った のか も し れ ま せ ん 。
服 部 博 士 は 、 東 京 語 と 京 都 語 と で ﹁一﹂ ﹁六 ﹂ ﹁七﹂ ﹁八 ﹂ のよ う な 字 音 語 の ア ク セ ント が ち が って いる こ と に
つ い て、 方 言 には 新 し い単 語 が 入 って来 た 時 に、 そ れ を 受 け 入 れ や す い型 と いう も の が あ って、 そ の型 が 甲 乙 両
種 方 言 でち が って いた 、 そ の た め に、 同 じ 字 音 語 に つ いて今 日 のよ う な 対 立 が 出 来 た と考 え ら れ ま し た 。 が 、 そ
う だ と し た ら 、 一つ の方 言 でも っと 多 く の字 音 語 が 同 じ 型 に な り そ う な も の で は な いで し ょう か。 乙 種 方 言 で 、
﹁一﹂ ﹁六 ﹂ ⋮ ⋮ の 語を ② の 型 に 取 り 入 れ る 時 に、 ど う し てa 類 の語 やc 類 の語 は 、 ② の 型 に 取 り 入 れ な か った か
と いう 疑 問 を 感 じ ま す 。︹一︺の︵3 の︶ 注 に掲 げ た よ う な ﹁意 ﹂ 以 下 の語 、︹ 二︺ の ( 4) にあ げ た ﹁京 ﹂ ﹁蜜 ﹂ ﹁ 菓 子 ﹂ のよ う な 語 の中 に は 、 諸 方 言 で受 け 入 れ や す い型 に 受 け 入 れ た 例 だ と 思 いま す 。 ﹁京 ﹂ 以 下 の語 は 、 京 都 か ら 岩 手 に 至
る 諸 方 言 で 多 く ① の 型 に な って いま す 。 と 言 って、 ︹二 の︺ ( 2) の 一群 の語 は 、 乙 種 諸 方 言 で 以前 ② の 型 だ った のが 、 第 二 モー ラ の音 韻 の性 格 か ら 核 の位 置 が滑 って① に な った も のと 考 え ま す 。
付 表 の字 音 語 の ︹の 一( ︺ と︵2 l) 、︶ ︹ 二︺ の( l) と ( 2) (2 )'と(3 の)振 分 け は 、 和 語 の場 合 の振 分 け を 思 い起 さ せ るも の があ り ま
す 。 香 川 県 の方 言 で は 、京 阪語 で ︹の 一( ︺1 の) 和 語 の半 数 以 上 が〓 型 にな って いま す 。 字 音 語 で も︹ 二︺ の (2 ) (2)' の 語彙 に、 〓 型 に な って いる も の が 多 い の は 和 語 と 平 行 的 な 事 実 です 。 こ のよ う な こ と は 、 各 方 言 の ア ク セ ント が 同 じ だ っ
た 祖 語 の時 代 に 、 これ ら の字 音 語 は す で に そ の中 に存 在 し て いた と 見 る こ と を慫慂 す る も の では な いで し ょう か 。
付 表 の) (1 ( 2) ( 3) の 一群 ず つ の字 音 語 には 、 ま った く 同 じ 型 の 対応 を す る単 語 が、 和 語 のう ち に 見 出 だ さ れ ま す 。
例 え ば 、 一モ ー ラ 語 の a類 の字 音 語 ﹁気 ﹂ ﹁図 ﹂ ⋮ ⋮ は 、 京 阪 式 方 言 ・東 京 式方 言 の両 方 で〓 型 で す が、 こ れ は 、
一モー ラ第 一類 名 詞 ﹁蚊 ﹂ ﹁子 ﹂ ⋮ ⋮ と 同 じ です 。 b 類 の字 音 語 は、 京 阪 式 方 言 で〓 型 、 東 京 式 方 言 で ① 型 で 、
こ れ は 、 一モ ー ラ 第 三 類 名 詞 ﹁木 ﹂ ﹁手 ﹂ ⋮ ⋮ と 同 じ です 。 二 モ ー ラ 語 も 次 のよ う にな って い て、 abb'cの 各 類 の語 は 、 そ れ ぞ れ 同 じ 対 応 を な す 和 語 を も って いま す 。
一般 の第 三 類 和 語 (例 、 ﹁山 ﹂ ﹁犬 ))
a類 字 音 語 ( 例 、﹁曲 ﹂ ﹁胡 麻 ﹂)︱ 第 一類 和 語 (例 、 ﹁風 ﹂ ﹁鳥 ﹂) b類字音 語 ( 例 、﹁幕 ﹂ ﹁知 恵 ﹂)︱
b' 類字音 語 ( 例 、﹁門 ﹂ ﹁蝋﹂)︱ 第 三 類 和 語 のう ち の第 二 モー ラ が イ の音 ・引 く 音 な ど のも の ( 例 、﹁貝 ﹂ ﹁十 ﹂) c類 字 音 語 ( 例 、﹁恩 ﹂ ﹁味 噌 ﹂)︱ 第 四 類 和 語 ( 例 、 ﹁空 ﹂ ﹁麦 ﹂)
こ の こと は a類 の字 音 語 は 、 第 一類 名 詞 の中 に 、 b 類b' 類 の 字 音 語 は 、 第 三 類 名 詞 の中 に 、 c類 の 字 音 語 は第 四 類 名 詞 の中 に 、 そ れ ぞ れ 編 入し て よ い こ と を 示 す と 思 いま す 。
ま た 、 一モ ー ラ 語 、 二 モー ラ 語 を 通 じ て x類 の字 音 語 は 、 各 方 言 で き れ いな 対 応 を し て いま せ ん 。 これ ら は 、
各 方 言 の ア ク セ ント に ち が いが で き て か ら輸 入 さ れ た 語 、 あ る いは 、 各 方 言 で そ れ ぞ れ 変 化 し た 語 で あ ろ う と 思
いま す 。 こ の よ う な 単 語 が あ って も アク セ ント に関 す る 限 り、 日 本 祖 語 以 来 、 字 音 語 の か な り のも の が 存 在 し た と いう 推 定 は 崩 れ な いと考 え ま す が 、 いけ ま せ ん で し ょう か 。
四
そ う す る と 、 これ ら の字 音 語 も 入 って いた と いう 、 私 の 日本 祖 語 は、 何 時 代 の 日 本 語 と いう こと に な る で し ょ
うか。 ︹ 付 表 ︺ の右 欄 に、 辞 書 類 の記 載 な ど か ら 知 ら れ る 、平 安 朝 時 代 のそ の 語 の アク セ ント を 注 記 し ま し た 。( 7)
これ に は ち ょ っと 面 倒 な 問 題 が あ り ま し た 。 と いう のは 、 当 時 の字 音 語 に は、 呉 音 のも のと 、 漢 音 のも の と が あ
り 、 そ のア ク セ ント が 互 に ち が って いた こと です 。( 8) 大 体 漢 音 で 平 声 の語 は 、 呉 音 で去 声 (の ち に は 一モ ー ラ
のも の は 上 声 に 変 化 し た ) で あ り 、 漢 音 で上 声 ま た は 去 声 の語 は 、 呉 音 で平 声 で し た 。 入 声 のも のは 、 漢 音 ・呉
音 を 通 じ て 入 声 で し た が、 漢 音 で入 声 のも の は原 則 と し て 軽 入 声 であ り 、 呉 音 で 入 声 のも のは 、 原 則 と し て 重 入 声 でし た 。
一つ 一つの字 音 で、 漢 音 か 呉 音 か 字 書 類 に 示 さ れ て いる も の は よ い の で す が (例 え ば 、 ﹁気 ﹂ は 漢 音 キ 、 呉 音
ケ。 漢 音 は 上 声 、 呉 音 は平 声 )、 ﹁詩 ﹂ のよ う に 、 漢 音 シ ・呉 音 シ のよ う に同 音 で、 ア ク セ ント だ け が違 って いた
可 能 性 のあ るも のは 、 シ と いう 音 に 四 声 を し る し てあ って も 、 こ れ が 漢 音 の ア ク セ ント か 呉 音 のア ク セ ント か 決
定 が困 難 です 。 こ のよ う な も の に つ いて は 、 今 後 、 研 究 を 進 め て お ら れ る 各 位 の教 示 を 待 つこ と に し て 、 こ こ で は わ か った だ け のも のを 記 す にと ど め ま し た 。
さ て 、 以 上 のよ う に し て 、 当 時 の字 音 語 と し て の ア ク セ ント を 推 定 し 、 現 在 の諸 方 言 の ア ク セ ント を 比 較 し て
みま す と 、 現代 諸 方 言 の字 音 語 は、 あ る も のは 平 安 時 代 の漢 音 の語 、 あ る も のは 呉 音 の語 がも って いた ア ク セ ン
ト の区 別 を 、 そ のま ま 反 映 し て いる と 見 て よ いと 思 いま す 。 具 体 的 に は、 各 類 の字 音 語 の平 安 朝 時 代 のア ク セ ン ト は、 次 のよ う で あ った こ と にな り ま す 。 ︹ 一一 ︺モー ラ の字 音 語
( 1) a類 の語 。 漢 音 な ら ば 上 声 、 呉 音 な ら ば 去 声 の語 。 呉音 のも のも 後 に上 声 に 変 化 しま し た 。 ( 2 ) b 類 の語 。 呉 音 で 平 声 の語 。 ︹二二 ︺モー ラ の字 音 語
(1) a類 の語 。 漢 音 な ら ば 上 声 ま た は 入 声 の 語 。 呉 音 な ら ば 上 声 の 語 。 漢 字 二字 の語 な ら ば 、 上 上 型 、 ま た
は 去 上 型 の語 。 沼 本 克 明氏 は 、 こ のう ち 去 上 型 が は じ め の姿 で、 のち に 上 上 型 に変 化 し た も のと 推 定 し て いま す 。( 9)
(2) b 類 の語 。 (2 )' b' 類 の語 。 呉 音 で平 声 、 ま た は 入 声 の語 。 二 字 の 語 な ら ば 、 呉 音 で平 平 型 の 語。 ( 3) c類 の語 。 漢 音 ま た は 呉 音 で 去 声 だ った 語 。 二 字 の語 な ら ば 平 上 型 の語 。 四 声 の 調 価 は それ ぞ れ 次 の よ う だ った と考 え ま す 。(1 )0 平 声 低 平 調 。 た だ し 軽 の平 声 は 下 降 調 です が 、 こ こ で は 問 題 に し ま せ ん 。 上声 高平調。 去声 上昇調。 入 声 二 種 あ り 、 重 の 入声 は 低 平 調 。 軽 の 入 声 は 高 平 調 。
そ の 他 のx 類 の 字 音 語 は 、 一モー ラ のも のも 、 二 モー ラ のも のも 、 多 く の方 言 であ と で変 化 を 遂 げ た 語 か 、 あ
と か ら 輸 入 さ れ た 語 と 見 て よ いと 思 いま す 。 ﹁象 ﹂ ﹁天 ﹂ な ど は 、 第 二類 の和 語 ( 例 、 ﹁雪 ﹂ ﹁川﹂) に 似 た 対 応 を
見 せ る と こ ろ か ら考 え ま す と 、 あ る いは 軽 平 声 で、 平 安 朝 の京 都 語 で高 低 型 だ った のか も し れ ま せ ん。
以 上 のよ う に考 え て 特 に 注 意 す べ き こと は、 呉 音 の字 音 語 ば か り でな く 、 漢 音 の字 音 語 も 、 そ の ア ク セ ント が
現 代 諸 方 言 の ア ク セ ント の 上 に反 映 し て い る よ う に 見 ら れ る こ と です 。 例 は 少 いです け れ ど も 、︹ 二︺ の 入 声 の語 彙
な ど は そ れ です 。 呉 音 の 入 声 の語 が︹ 二︺ の b類b' 類 の中 に 収 ま って いる の に 対 し て、 漢 音 の 入 声 の語 は a類 に集 ま
って いま す 。 ま た 、︹ 二︺ の (3) の漢 音 の 去 声 の 語彙 は 有 力 と 思 いま す 。 奥 村 三 雄 氏 は こ の こと を も と に し て 、 今 の諸 方 言 のア ク セ ント のよ う な ち が い が 生 じ た の は 、 漢 音 が 輸 入 さ れ た 以 後 と いう 説 を 発 表 さ れ ま し た 。() 1あ 1る い
は そう か し れ な いと 思 いま す 。 漢 音 が 盛 ん に 輸 入 さ れ た のは 、 奈 良 朝 以後 、 平 安 朝 初 期 の 遣 唐 使 の 派 遣 が行 わ れ 、
中 国 か ら 多 く の帰 化 人 が 来 た 時 代 で す 。 こ のよ う な こ と が言 え る と し ま す と 、 日本 語 の本 土 諸 方 言 の アク セ ント
は、 平 安 朝 時 代 の初 期 以後 の京 都 方 言 か ら 別 れ て出 た と 推 定 さ れ る こ と に な りま す 。
〔付 表 〕
諸 方 言 字 音 語 ア ク セ ン ト対 照 表
〔 一 〕 一 モ ー ラ の 字 音 語 (1) a類 の語
「句 」 「気 」 「下 」 な ど の 語 も こ れ に 準 ず る 。
(注) こ の ほ か に 次 の 語 も こ れ ら に準 ず る ア ク セ ン ト を 有 す る 。 「我 」 「蛾 」 「紗 」 「朱 」 「分 」 「絽」 「爐」 … … 。 (2) b類 の 語
(注) 上 の ほ か
(3) きれ い な対 応 を示 さな い もの
(注) 上 の ほか 「意 」 「 愚」 「 死 」 「師」 「 智 」 「非」 「 美 」 「無 」 … な ど京 都 系 方言 で〓 型 に、 東 京 系 方言 で① 型 に 、西 南 九州 方 言 で〓 型 に発 音 され る多 くの語 が あ る。
a類 の 語
〔 二 〕 二 モ ー ラ の 字 音 語 (1)
の語
」(= 副 食 物)、
「札 」 「産 」(= 出 産)、 「情 」、 「質 」、 「賊 」、 「徳 」、
「櫃 」、 「別 」、 「辺 」、 「陸 」、 「碌」、 「愚 痴 」、 「公 家 」、 「枸杞 」、 「慈 悲 」、 「邪 魔 」、 「首 尾 」、 「無 事 」、 「瑠 璃 」 な ど の 語 も これ らに準 ず る。
(注) 上 の ほか 、 「易」 「逆 」 「経 」 「骨 」(= 秘 訣)「菜
(2) b類
「畫」 「吉 」 「柵 」 「式 」 「尺 」 「酌 」 「箔 」 「撥」 「福 」 「服 」 「欲 」 「〓(枠)」 「義 理 」 「所 作 」 「世 話 」 な ど の 語
もこれ らに準 ず る。
(注) 上 の ほ か
(2)' b'類 の 語
(注) 上 の ほ か
の語
(注) 上 の ほ か
(3) c類 の語
(4) x類
「椽」 「金 」 「銀 」 「棺 」 「十 」 「性 」 「風 」 「分 」 な ど の 語 も こ れ ら に 準 ず る 。
「害 」 「姓 」 「僧 」 「中 」 「籐 」 「胴 」 「念 」 「論 」 「餓 死 」 な ど の 語 も こ れ ら に 準 ず る。
(注) 上のほか
﹁倍﹂ ﹁錠﹂ ﹁鉄﹂ ﹁夏至 ﹂などが
不規則な対応を示している。また
﹁凶﹂ ﹁才﹂ ﹁犀﹂ ﹁線﹂ ﹁狆﹂ ﹁蝶﹂ ﹁唐﹂
﹁銅﹂ ﹁風﹂ ﹁方﹂ ﹁万﹂ ﹁妙﹂ ﹁竜﹂ ﹁火事 ﹂ ﹁獅子 ﹂ ﹁地理 ﹂ ﹁琵琶 ﹂ ﹁武士 ﹂な ど多 くの語が ﹁京﹂ ﹁蜜﹂ と同じような 対応をな し、 ﹁癇﹂ ﹁勘﹂ ﹁灸﹂ ﹁痰﹂ ﹁外科 ﹂ ﹁下痢 ﹂ ﹁土地 ﹂などの語は ﹁根﹂ ﹁紫蘇 ﹂と同じような対応をなす。
平 安 朝 以 後 に 日 本 語 の 間 に ひ ろ ま った 字 音 語 は 、 ア ク セ ント の対 応 を 乱 し て いま す 。 こ の中 で 一つ注 意 さ れ る
の は 、 甲 種 方 言 で〓 型 で 、 乙 種 方 言 で〓 型 の も の が幾 つか あ る こと です 。︹一︺の ︵3﹁ ︶ 茶 ﹂ と か︹ 二︺( の4﹁ )根 ﹂ ﹁紫 蘇 ﹂
な ど が そ れ です 。 こ の よ う な 対 応 は 和 語 に は ほ と んど 例 が な く 注 目 さ れ ま す 。 思う に こ のよ う な 語 が 京 都 語 に 発
生 し た 時 に、 乙 種 方 言 で は す で に 一モ ー ラ の語 の第 三 類 の 語、 二 モ ー ラ 語 の第 四 類 の型 は 、 今 の よ う な ① の 型 に
な ってし ま って いた ので は な いか 、 そ の た め に、 一番 聴 覚 的 に 近 い〓 型 で受 け 入 れ た の で は な いか と 想 像 し ま す 。
つま り 、 こ の〓︱〓 の対 応 を な す 語 、 こ れ は 服 部 博 士 の言 わ れ る 甲 乙 両 種 方 言 の ア ク セ ント が大 き く ち が って の ち に 、 諸 方 言 に ひ ろ ま った 単 語 の例 で は な い かと 思 いま す 。
同 じ 、 食 品 でも ﹁味 噌 ﹂ ( 古 く は未 醤 と 書 か れ ま し た ) の方 は 諸 方 言 に 規 則 的 な 型 を 見 せま す が、 ﹁茶 ﹂ の方 は
そ う で は な い。 ア ク セ ント か ら 見 た 日 本 祖 語 の時 代 は 、 味 噌 の普 及 よ り は新 し く 、 茶 の普 及 よ り は 古 か った の で は な いか と いう こ と にな りま す 。
注( 1 ) ﹃ロー マ字世 界 ﹄三三- 一所載 。 ( 2) 寺 川 喜 四 男 ほか 編 ﹃ 国 語 アク セ ント 論 叢 ﹄ (昭和 二 十 六) 所 載 。 ( 3 ) E ・D ・ポ リ ワノフ 著 、 村 山 七郎 訳 ﹃日本 語研 究 ﹄ 四 四 ペー ジ。 ( 4) ﹃ 国 語 国文 ﹄ 二四- 一二所 載 。 ( 5) ﹃ 国 語 国文 ﹄ 三 〇- 一所 載 。
楳 垣実 氏 、 天 沼寧 氏 。 *和 歌 山 県 御 坊市= 同 市 教 育 委 員 長 山 中襄 氏 。 高知 市= 土 居 重 俊 氏 。 香 川 県 丸亀 市= 玉 井 節 子氏 。 高
( 6) こ こで は、 *を 除 き諸 家 から 教 え ら れ た 結 果 を並 べた。 教 示さ れ た 各 位 の名 を 記 し 、 深 甚 の謝 意 を 表 す る。 京 都 語= 故
松 市= 稲 垣 正 幸 氏 。 兵 庫 県 ( 但 馬 ) 温 泉 郡 湯= 岡 田荘 之 輔 氏 。 岡 山 市= 虫 明 吉治 郎 氏。 名 古 屋 市= 水 谷 修 氏。 山 口県 ( 周防
大島 )大 島 郡 橘 町 日前= 金 井 英 雄 氏 。 *静 岡 県 西 伊 豆 町 仁 科= 岩 田 斉 氏 。 東 京 都= 神 保 格 氏 ほ か 。 長 野 県 北 佐 久 郡 岩 村 田
町= 倉 島 節 尚 氏。 浜 松 市= 寺 田泰 政 氏。 大 分 県 臼 杵 市= 糸井 寛 一氏 。 新 潟 県 刈 羽 郡 刈 羽 村= 剣 持 隼 一郎 氏。 島 根 県 出 雲 市=
広 戸惇 氏 。 山 形 県鶴 岡市= 井 上 史 雄 氏 。 岩 手 県 岩 手 郡 雫 石 町= 上 野 善 道 氏 。 長崎 市= 林 田 明氏 、 中 村 徳 三 氏。 鹿 児島 市= 上 村 孝 二氏 。
( 7) こ こ の四 声 の決 定 に は、 奥 村 三 雄 氏 ( ﹁ 漢 語 の ア ク セ ント ﹂ ( 前 出) 、﹁ 漢 音 アク セ ント の 一性 格 ﹂、 ﹃ 国 語国 文 ﹄ 三 の 二所
った こ とを 感 謝す る。
載な ど) 沼 本 克 明氏 ( 注 9 の文 献 ) 、高松政雄氏 ( ﹁呉 音 の声 点 ﹂、 ﹃ 国 語 国 文 ﹄ 四 八 の 一 一所 載) の研 究 に負 う と ころ が多 か
( 8) こ の こと は、 多 く の四声 を 説 く 文献 に見 え る が、 馬 淵 和夫 氏 によ る と、 心 蓮 の ﹃ 悉 曇 口伝 ﹄ に見 え る のが最 初 と いう。
( 9) 沼本 克 明 ﹁呉音 の声 調 体 系 に つ いて﹂ (﹃ 国 語 学 ﹄ 一〇 七集 所載 )、 ﹁平 安 時 代 に 於 け る 日 常 漢 語 のア ク セ ント ﹂ (﹃ 国語国 文 ﹄ 四 八 の六 所載 ) 。
一四 ペー ジな ど 。
れ て いる。 本 誌 二 月号 のラ ム ゼイ 氏 の発 表 は問 題 が 多す ぎ て従 えな い。
(10 ) ﹁日本 四声 古義 ﹂ ( 前 出 ) で論 証 し た 。奥 村 氏 ・小 松 英 雄 氏 そ の他 の各 位 の論考 に も、 そ れを 補 強す る事 実 が発 見 報 告 さ
(1) 1 奥村三雄 ﹁ 漢 語 の アク セ ント ﹂ ( 前 出)一三-
﹁味 噌 よ り は 新 し く 茶 よ り は 古 い ﹂ へ の 補 訂
本 誌 六 月 号 に ﹁服 部 博 士 への お答 え ﹂ と いう 一文 を 発 表 さ せ て 頂 いた が、 そ の後 、 高 知 の 土 居 重 俊 氏 、 岡 山 の
虫 明 吉 治 郎 氏 、 臼 杵 の 糸 井 寛 一氏 、 鶴 岡 の井 上 史 雄 氏 、 鹿 児 島 の上 村 孝 二氏 と いう 五 人 の方 か ら 、 四 月 号 に載 っ
た 私 の ﹁味 噌 よ り は新 し く ⋮ ⋮﹂ の九 二 ペー ジ [ 本書 六六 八ペー ジ]以 下 の表 に つ いて 補 訂 の教 示 を 頂 いた 。 中 で
も 、 井 上 氏 のも の は夫 人 の母 堂 の発 音 を 観 察 さ れ た 結 果 の発 表 で 詳 密 な も の であ る が 、 こ こ で は 紙 面 のか さ む の
を 恐 れ 、 私 の前 稿 の誤 記 を 正 し て 下 さ った も の の報 告 だ け に と ど め て謝 意 を 表 す る 。
︹ 鹿 児 島 ︺︹二︺( 1) ﹁職 ﹂〓 ←〓 、 ﹁棕梠﹂〓 ←〓 。
︹岡 山 ︺︹二︺(1)﹁袈 裟 ﹂〓 ←② 。 ︹ 鶴 岡 ︺︹二︺ (1﹁ ︶ 得 ﹂〓 を 追 加 ( 2)﹁熱 ﹂ ② ←〓 。 ︹臼 杵 ︺︹ 一( ︺1)﹁譜 ﹂ ① ←〓 。
服 部 博 士 への お 答 え 一
本 誌 四 月 号 に載 った 小 稿 ﹁味 噌 よ り は 新 し く 茶 よ り は 古 い﹂ に対 し、 服 部 四郎 博 士 は、 本 誌 に 掲載 さ れ る よ う
な 、 質 問 と 注 文 を 寄 せ ら れ た 。 活 字 に な る 前 に、 編 集 部 か ら 見 せ て頂 いた の で 、 取 敢 え ず お 答 え を 認 め る こ と に
し た 。 前 稿 は 博 士 の構 想 雄 大 な 高 論 の 、 ほ ん の 一部 の こ と に 食 い付 いた も の で、 これ がも し 失 礼 であ った ら お わ
び 申 し 上 げ る 。 博 士 にと って は 論 旨 のご く 一部 の こと かも し れ な いが 、 私 に と っては 、 三 十 年 間 考 え 続 け て き た
日本 語方 言 の ア ク セ ント の変 異 に つ い て の考 え で 、 ﹁定 説 ﹂ と ま で 言 って 下 さ る 方 が あ る考 え 、 そ れ の根 本 的 な
と こ ろ を 衝 か れ た の で、 一言 弁 ぜ ざ る を 得 な か った 。 博 士 に と って は ほ ん の刷 毛 序 で で あ ろ う が 、 私 に と って は、
イ ソ ップ 物 語 に 見 え る 、 子 ど も に 小 石 を ぶ つけ ら れ た 蛙 の心 境 で し た 。
二 は じ め に御 下 問 の、 前 稿 八 八 ペ ー ジ 下 段 [ 本書六六 一ページ]に、 も し 、 諸 方 言 の別 れ る 前 の形 を ⋮ ⋮
と 述 べた ﹁諸 方 言 ﹂、 あ れ は、 ﹁本 土 の諸 方 言 ﹂ の意 味 で す 。 今 回 は 琉 球 諸 方 言 に つ いて の言 及 は 一切 控 え る と 、
同 ペー ジ上 段 に 宣 言 いた し ま し た 。 服 部 博 士 の言 わ れ る ﹁祖 語 ﹂ と は ち が う と いう 意 味 で 、 ﹁も し ⋮ ⋮ ﹃日本 祖
語﹄ と 呼 ぶ と し ま す と ⋮ ⋮ ﹂ と 書 き ま し た 。 こ の ﹁諸 方 言 ﹂ の中 に は 、 琉 球 諸 方 言 と 、 そ れ か ら 八 丈 島 方 言 は 入 って お り ま せ ん 。
次 に 、 九 二- 九 六 ペ ー ジ [ 本書六六八-六七三 ページ] の表 に掲 げ た 現 在 諸 方 言 の ア ク セ ント ( 以下 ﹁ア﹂ と略称 )
の資 料 です が 、 これ は 可 能 な 限 り、 私 自 身 の調 査 に よ ら ず 、 そ の方 言 の ア の権 威 の方 に 教 え て いた だ いた と こ ろ
を も と にし ま し た 。 そ れ に は ﹁胃 ﹂ ﹁我 ﹂ ﹁蛾 ﹂ ﹁気 ﹂ ⋮ ⋮ と いう 、 二 七 〇 ば か り の単 語 を 書 き 連 ね た 調 査 票 を 郵
送 し て そ の方 言 の アを 記 入 し て頂 き 、 そ の内 容 を 私 の 記 号 に統 一 ・翻 訳 し て 掲 げ た のが あ の表 で す 。 調 査 票 を 送 り、 ま た 返 し て 頂 いた のは 、 昨 年 十 二 月 か ら こと し の 一月 ま で の間 です 。
私 自 身 の 調 査 の結 果 を 利 用 し な か った の は 旅 行 す る余 裕 がな か った こ とも あ り ま す が 、 調 査 に 先 入 見 が 働 く こ
とを 怖 れ た か ら です 。 で す か ら 、 東京 語 も 、 す べ て神 保 格 ・常 深 千 里 両 氏 編 の ﹃国 語 発 音 ア辞 典 ﹄ と 、 N H K の
﹃日本 語 ア 辞 典 ﹄ に よ り ま し た 。 京 都 語 は 、 楳 垣 実 氏 が ﹃日本 国 語 大 辞 典 ﹄ に 注 記 さ れ た ア を 第 一の 資 料 と し ま
し た が、 ﹃日本 国 語 大 辞 典 ﹄ の ﹁櫓 ﹂ ﹁九 ﹂ ﹁根 ﹂ に つ い て は 誤 植 と 思 わ れ ま し た ので 、 天 沼 寧 氏 の援 助 を 求 め ま した。
ま た 、 静 岡 県 西 伊 豆 町 と 和 歌 山 県 御 坊 市 は 例 外 で、 私 自 身 の 調 査 によ り ま し た 。 御 質 問 のあ った * じ る し は そ
の 標 示 です 。 御 心 配 の よう な 電 話 で 調 べた 方 言 は 一つも あ り ま せ ん 。
そ れ ぞ れ の資 料 提 供 者 の紹 介 を と いう 御 注 文 です が、 メ ン バ ー のう ち 、 高 知 市 の土 居 重俊 氏 、 兵 庫 県 但 馬 温 泉
の 岡 田 荘之輔 氏 、 岡 山市 の虫明 吉 治 郎 氏 、 大 分 県 臼 杵 の糸 井 寛 一氏 、 新 潟 県 刈 羽 郡 の剣 持 隼 一郎 氏 、 島 根 県 出 雲
市 の 広戸惇 氏 、 鹿 児 島 市 の上 村 孝 二 氏 は 、 そ れ ら の方 言 の代 表 的 権 威 、 国 立 国 語 研 究 所 の地 方 調 査 員 を 勤 め た 方
で 、 こと にア に つ いて は 著 述 ・著書 も あ り、 御 紹 介 の要 は な いと 思 いま す が 、 いか が でし ょう 。 高 松 市 の稲 垣 正
幸 氏 、 浜 松 市 の寺 田泰 政 氏 も 、 地方 調 査 員 こ そ つと め ら れ ま せ ん が 、 こ れ に 準 ず る 人 と 思 いま す 。 鶴 岡 市 の井 上
史 雄 氏 と 、 岩 手 県 同 郡 の上 野善道 氏 は 、 若 手 の方 言ア の研 究 家 と し て定 評 が あ り、 先 生 も 親 し い人 た ち で 、 ま す ま す 御 紹 介 の要 は あ り ま せ ん で し ょう 。
以 上 の方 々か ら の御 教 示 のう ち 、 刈 羽 郡 の剣 持 氏 のア は、 氏 が 御 郷 里 の新 潟 県 湯 沢 町 のア と 、 現 住 所 の刈 羽 郡
のア と を 教 え ら れ た、 そ れ が似 て いる ので つい混 同 し て誤 記 を し てし ま いま し た 。前 稿 の表 に 出 て いる の は、 大
体 湯 沢 町 のア で、︹ 二︺(1 の)﹁俗 ﹂ の① 、(2の) ﹁数 珠 ﹂ と(3 の)﹁縁 ﹂ の〓 、(2の) ﹁寒 ﹂ ﹁損 ﹂ ﹁段 ﹂ ﹁壇 ﹂ ﹁ 本 ﹂ の② は
いず れ も 湯 沢 のも ので 、 刈 羽 で は 、 ﹁俗 ﹂ は〓 、 ﹁数 珠 ﹂ は② 、 ﹁寒 ﹂ ﹁損 ﹂ ﹁段 ﹂ ﹁壇 ﹂ ﹁本 ﹂ ﹁縁 ﹂ は① だ そ う で す 。
ま た 、︹二 (︺ 1 の)﹁三 ﹂ のう ち 、② は 湯 沢 で 、① は 刈 羽 、(2 の)﹁菊 ﹂ の〓 は 湯 沢 、 刈 羽 は② だ そ う です 。 ま た 、︹一︺(1)
の ﹁碑 ﹂ の〓 と ﹁譜 ﹂ の① は 逆 にし 、 ﹁櫓 ﹂ は〓 の代 り に① と 改 め た く 、︹ 二︺(﹁ 4 根)﹂ の〓 は 消 し ま す 。
﹁順 ﹂ と は 取 り 換 え る 、 ﹁芸 ﹂ ﹁毒 ﹂ ﹁棕梠 ﹂ は〓
( ﹁郡 ﹂ は 誤 り ) のア で は 、︹ 二︺( の2) ﹁' 賽﹂、(3 の)﹁縁 ﹂ は① が 正 し く 、 斜 線 のう ち、(4)
ま た 、 稲 垣 氏 に よ る 高 松 市 のア で は 、︹一︺の (2 ﹁絵 )﹂ は〓 、︹二︺の (2 ﹁' 賽﹂ ) は① 、 ﹁塔 ﹂ は〓 、(4の) ﹁気 味 ﹂ は① がよ いそ う です 。 岡 田氏 によ る但 馬 温 泉 町
の ﹁枇 杷 ﹂ は② 、 ﹁気 味 ﹂ は① だ と の こ と で す 。 上 野 氏 に よ る 岩 手 郡 のア で は 、 ﹁五 ﹂ は① が 正 し い 、 ﹁直 ﹂ と にす べき だ った と いう 誤 記 を し ま し た 。
そ う いう わ け で こ こ では 、 そ れ 以 外 の人 に つ いて 御 紹 介 を し ま す と 、
京 都・ 天 沼 寧 氏 。 大 妻 女 子大 教 授 。 用 字 や 語 彙 の研 究 で有 名 な 人 。 大 正 三 年 生 。 奈 良 の 生 ま れ です が、 幼 年 時
代・ 少 年 時 代 を 京 都 で育 ち 、 早 大 の国 文 学 科 を 卒 業 の時 、 京 都 ア に つ い て論 文 を 書 か れ 、 ま た 日本 音 声 学 会
の会 報 に 京 都 ア に つ い て の論 文 を 発 表 さ れ た こ と も あ りま す 。 私 は 、 天 沼 氏 が N H K の ア 辞 典 の 全 語 彙 に京
都 ア を つけ た も のを 愛 蔵 し て お り 、 今 度 も 、 前 記 ﹁櫓 ﹂ ﹁九 ﹂ ﹁根 ﹂ の ほ か 、 ﹁胃 ﹂ ﹁紫 蘇 ﹂ ﹁髪 ﹂ の三 語 に つ
き 、 楳 垣 氏 の アを 天 沼 氏 の ア で訂 正 し ま し た 。 な お 、 京 都 ア のう ち 、 ﹁気 味 ﹂ は ① の誤 記 で し た 。 ﹁ 娑 婆 ﹂ は、 楳 垣 氏 ・天 沼 氏 一致 せ ず 、 未 詳 と す べ き でし た 。
和 歌 山 県 御 坊 市 ・山 中 嚢 氏 。 旧臘 た ま た ま 御 坊 へ行 く 機 会 があ り 、 調 査 し た 結 果 です 。 氏 は 大 正 三 年 御 坊 市 の 生
ま れ 、 育 ち 、 今 、 御 坊 市 の教 育 委 員 長 の職 にあ りま す 。 明確 な ア の持 主 で、 調査 の折 、 御 坊 出 身 の国 語 教 育
家 岡 本 正 純 氏 も 立 合 わ れ ま し た か ら 、 こ の結 果 は信 頼 し て頂 け る と 思 いま す 。 た だ し 、︹二︺の ︵1 ﹁椅 ︶子 ﹂ と(4) の ﹁枇 杷 ﹂ は〓 と す べき でし た 。
丸 亀・ 玉 井 節 子 氏 。 昭 和 十 年 十 二 月 、 丸 亀 市 の生 ま れ 、 高 校 を 出 る ま で丸 亀 で 過 し 、 昭 和 三 十 三 年 香 川 大 学 を 卒
業 。 今 、 坂 出 の中 学 校 の教 員 です 。 香 川 大 学 で県 下 の ア に つ いて 卒 業 論 文 を 書 き ま し た が、 耳 が 鋭 敏 で 、 私
が 地 方 へ集 中 講 義 を し て 逢 ったう ち 、 ア研 究 で第 一の秀 才 です 。 国 学 院 大 学 の ﹃国 語 研 究 ﹄ の第 二〇 号 に 、 香 川 県 各 地 の ア の研 究 が 載 って いま す 。
名 古 屋・ 水 谷 修 氏 。 名 古 屋 ア と 三 言え ば 、 柴 田 武 氏 に と 思 った の です が 、 あ ま り に も 多 忙 そ う な の で 、 第 二候 補 に
お 願 いし た 。 水 谷 氏 は 、 昭 和 七年 の名 古 屋 市 の生 れ 、 育 ち 。 こ の春 ま で国 立 国 語 研究 所 に いて 、 外 国 人 の 日
本 語教 育 の第 一人 者 です が 、 ﹃日 本 語 音 声 学 ﹄ ( くろしお出版)と いう 著 書 が あ り 、 音 声 学 協 会 会 報 の 昭 和 三 十
五 年 四 月 号 に 名 古 屋 方 言 のア の論 文 を 発 表 し て いま す 。 今 回 は 父 君 の アを も 調 査 し て報 告 し て来 ら れ ま し た 。
周 防 大 島・ 金 井 英 雄 氏 。 昭 和 五 年 周 防 大 島 橘 町 の 生 れ 、 育 ち 。 今 、I C U の 日本 語 学 の教 授 。 ﹃国 語 国 文 ﹄ の 昭
和 四 十 一年 一月 号 に瀬 戸 内 海 の島 のア の研 究 を 発 表 さ れ た こと あ り 。 今 回 は 私 の前 で 発 音 を し て く れ 、 自 分
は、 東 京 在 住 が 長 いか ら と 言 って 、 最 近 上 京 し た 姪 御 さ ん の ア を 改 め て 調 査 報 告 し て 来 ら れ た 、 そ れ に 拠 っ
たも の です 。 本 人 と姪 御 さ ん の ア は よ く 似 て いま し た 。︹ 二︺ (2) の ﹁肉 ﹂ は〓 に改 め 、 ﹁鉢 ﹂ は〓 を 削 り た いと のこ と です 。
静 岡 県 西 伊 豆 町 ・岩 田 斉 氏 。 全 国 学 校 図 書 館 協 議 会 の常 任 理 事 。 大 正 十 年 同 地 の生 ま れ 、 育 ち 。 中 学 校 は 下 田 市 。
私 の以 前 の調 査 で 下 田 の ア が、︹二 ( 2)︺ b'の語 彙 に 関 し て 異 彩 が あ る の で、 そ の代 り に 調 査 さ せ て頂 いた が、 私
は 東 京 のア の影 響 を 受 け て し ま って いて と 盛 ん に 言 わ れ ま す 。 これ は 一往 徹 回 いた し ま し ょう 。
長 野 県 佐 久 ・倉 島 節 尚 氏 。 同 地 の生 ま れ 、 育 ち 。 東 大 の国 文 科 出 身 で、 今 三 省 堂 の国 語 辞 書 の担 当 部 長 。 慶 大 の
国 語 学 の講 師 も 勤 め た 学 者 で 、 三 省 堂 では 明解 国 語 や ア辞 典 の面 倒 を 見 て いて 、 ア感 覚 は 明 敏 。 調 査 票 に 自 分 で ア 記 号 を つけ 、 私 の前 で発 音 し て く れ ま し た 。
長 崎 市 ・林 田 ・中 村 両 氏 。 林 田 氏 は 千 葉 大 人 文 学 科 教 授 で、 ﹃国 語 年 鑑 ﹄ に 見 え る 国 語 学 者 。 ア は 専 門 で な いか
ら と 固 辞 さ れ な が ら 調 査 票 を 送 って 下 さ った の で、 改 め て 長 崎 市 在 住 の中 村 氏 に調 査 を お 願 いし 、 両 方 を 総
合 し た も の。 か な り ち が い があ り 、 これ は 如 何 に解 す べき か。 こ れ は 改 め て も っと す っき り し た 結 果 を報 告
す る こと を 約 束 いた しま す 。林 田氏 、中 村 氏 、服 部 博 士 、読 者 各 位 の お許 し を 乞 う 。 今 回 は徹 回 さ せ て 下 さ い。
と こ ろ で、 以 上 の諸 家 か ら 手 紙 で答 え が来 た 場 合 、 表 記 法 そ のも のを 公 刊 せ よ と いう 御 下 命 で 、 これ は ち ょ っ
と 困 り ま し た 。 皆 さ んま ち ま ち で、 印 刷 も 大 変 で 誤 植 を 起 こし やす く 、 か つ、 多 大 の紙 面 を く いま す 。 も し 博 士
が御 覧 にな り た いも の が あ れ ば 、 先 方 の方 々 の許 可 を 得 た 上 で、 ゼ ロ ック スに し て博 士 あ て お 送 り いた し ま す 。
そ れ で我 慢 な さ って 下 さ い。 な お 、 私 の表 記 法 に統 一し た こと に 異 議 を 言 って 来 ら れ た 向 き は 、 一人 も あ り ま せ んでした。
ま た 、 こ れ ら の人 々に 調 査 を 依 頼 し た漢 語 語 彙 は、 古 来 日本 人 の間 で 日 常 用 いら れ た 二 モ ー ラ以 下 の語 彙 は 総
て網 羅 し た つも り です 。 も し 落 ち た 重 要 な 語彙 が あ った ら 、 今 後 調 査 し た いと 思 いま す の で、 御 教 示 下 さ い。 前
稿 の 九 六 ペー ジ の(4﹁ )x類 の語 ﹂ は 、 ﹁き れ いな 対応 を 示 さ な いも の﹂ と す べき で し た 。
三
そ れ か ら 、 こ れ ら の字 音 語 の平 安 朝 時 代 のア に つ いて そ の典 拠 を と の御 下 命 です が 、 これ は原 則 と し て 原 典 に
当 た って いま す の で、 そ れ を 記 し ま す 。 ﹁盆 ﹂ と ﹁ 意 地 ﹂ と ﹁皮 膚 ﹂ の三 語 だ け は 奥 村 氏 の研 究 か ら の孫 引 き で す 。 消 去 し ま し ょう か。 こ こ で 用 いた 略 称 お よ び テキ スト は 次 のよ う です 。
観 ・名 義= 観 智 院 本 ・類 聚 名 義 抄 。 金 音義= 金 光 明 最 勝 王 経 音 義 。 四座 講 式= 元 禄 版 四 座 講 式 、 涅槃 講 式 な
ど と 記 し た のも 同 断 。 諸 講 祭 文= こ こ で は 延 宝 版 を 用 いた 。 他 の版 も 同 様 か と期 待 す る。 図 ・名 義= 図 書 寮
本 ・類 聚 名 義 抄 。 東 ・和 名= 東 大 国 語 研 究 室 蔵 和 名 類 聚 抄 。 補 忘 記= 特 に断 ら ぬ 限 り 、 貞 享 版 ・元 禄 版 の両
方 に 記載 あ り 。 法 音 義= 心空 ・法 華 経 音 義 、 古 典 全 集 本 。 法 音 訓= 法 華 経 音 訓 、 古 典 全 集 本 。 法 単 字= 法 華 経 単 字 。 前 ・色 葉= 前 田 家 本 ・色 葉 字 類 抄 。
ま た 次 のよ う にし て 推 定 し た 前 稿 の ﹁平 安 時 代 京 都 ﹂ の ア が ど う いう 意 味 を も つか は 、 前 稿 九 八 ペ ー ジ [ 本書
六七四 ページ] に掲 げ た 奥 村 氏 ・沼 本 氏 の論 考 を 参 照 頂 き た く 思 いま す 。 個 々 の 語 音 が 漢 呉 いず れ の字 音 か の決 定 、
ま た 漢 音 の 四 声 の決 定 に つ い て は 、 藤 堂 明保 氏 の ﹃ 学 研 漢 和 大 字 典 ﹄ に従 いま し た。 前 稿 の論 旨 に有 利な も の は
◎ 印 、 有 利 の方 に傾 いて いる も のは ○ 印 、 不 利 な も の は ×印 、 不 利 に傾 いて い るも のは △印 、 いず れ と も 断 じ が た いも の は □ 印 を つけ ま す 。
︹ 一 一︺モー ラの語
(1 ︶a類 。○ 胃= 意 味 か ら 考 え 、 漢 音 か。 と す れ ば 去 声 。 ◎ 気= キ は 漢 音。 と す れ ば 上 声 。 □ 詩= 未 勘 考 。 ◎
痔=
﹃ 観 ・名 義 ﹄ 法 下 巻 一二 二 ペー ジ に、 ヂ ノ ヤ マヒ と いふ 訓 あ り 、 ヂ に 去 声 点 を 付 す 。 ○ 図= 呉 音 。 漢 音 は
平 声 な れ ば 、 去 声 、 の ち 上 声 か 。 □ 碑= 未 勘 考 。 □ 麩= 未 勘 考 。 ◎ 魔= ﹃前 田 家 本 一本 ・和 名 抄 ﹄ 一巻 五 枚 裏
の注 記 に、 ﹁此 間 音 麻 ﹂ と あ り 、 ﹁麻 ﹂ に 去 声 点 を 付す 。 ﹃観 ・名 義 ﹄ 法 下 巻 一〇 四 ペ ー ジ にも 類似 の表 記 見 ゆ 。
◎ 櫓= ﹃前 田家 本 ・和 名 抄 ﹄ 三 巻 六 〇 枚 裏 の ﹁艫﹂ 字 の 条 に 、 ﹁魯 と 同 じ ﹂ と 注 し 、 上 声 点 を さ す 。 ﹃前 ・色 葉 ﹄ 上 巻 一八 枚 表 にも 類 似 の表 記 あ り 。
( 2) b類 。◎ 絵= ﹃法 音 義 ﹄ の ﹁ 書 ﹂ 字 の条 に、 平 声 点 を 付 す 。 ﹃法 単 字 ﹄ 五 一ペー ジ の ﹁書﹂ 字 の条 の 注 記 も 、 平 声 な る こ と を 窺 は し む 。 ◎ 苦= ﹃観 ・名 義 ﹄ 僧 上 巻 六 ペー ジ に 、 和 音 ク と あ り 、 平 声 点 を さ す 。 ﹃法 単 字 ﹄ 二
七 ペー ジ に も 例 あ り 。 ◎ 四= ﹁一﹂ ﹁二 ﹂・﹁六 ﹂ ⋮ ⋮ ﹁十 ﹂ が す べ て 呉 音 な れ ば 、 シも 呉 音 な る べ し 。 ﹃法 単 字 ﹄
一五 ペー ジ 、 ﹃法 音 訓 ﹄ 一〇 ペ ー ジ に、 平 声 点 を 付 す 。 ﹃ 諸 講 祭 文 ﹄ の巻 頭 の ﹁四 年 ﹂ の条 に呉 音 と し て平 ・去
両 声 の点 を 付 し た る は 不審 。 ﹃四 座 講 式 ﹄ は 一例 を 除 き 、 す べて 平 声 点 を 付 し 、 ﹃補 忘 記 ﹄ の用 例 も す べ て 平 声 。
祭 文 のも の は、 特 殊 な 事 情 あ り し な る べし 。 ◎ 字= ジ は 呉 音 。 ﹃涅槃 講 式 ﹄ 二 二 枚 三 行 の、 ﹁字 ヲ見 ル ニ﹂ の条
の ﹁字 ﹂ に平 声 点 あ り。 ﹃法 音 訓 ﹄ 二九 ペー ジ にも 平 声 点 を 付 す 。 ◎ 地= ヂ は 呉 音 。 ﹃金 音 義 ﹄ の三 ペー ジ に 平
声 点 を 付 す 。 ﹃法 音 訓 ﹄ 一五 ペー ジ にも 。 ◎ 二=ニ は 呉 音 。 ﹃法 単 字 ﹄ 一五 ペー ジ の ﹁四 ﹂ 字 の 条 に 、 平 声 点 を
さ したる例あ り。 ﹃ 諸 講 祭 文 ﹄ の巻 頭 の ﹁二 年 ﹂ の条 に、 呉 音 で は平 声 な る こ とを 記 す 。 ﹃四座 講 式 ﹄ で も 常 に 平声 。
字 ﹄ 五 三 ペー ジ では 、 去 声 点 を 付 さ れ 、 し か も そ の解 説 は 、 上 声 な る こ と を 思 は し む 。 ﹃法 音 義 ﹄ に は、 平 上
( 3 ) そ の他 の語 。〇 九= ク は 呉音 。 こ の声 調 は 問 題 あ り 。 漢 音 は 上 声 な れ ば 、 呉 音 は 当 然 平 声 か と 思 へど 、 ﹃法 単
去 の三 点 が差 さ れ 、 混 乱 せ る語 な り し と 見 ゆ 。 ﹃諸 講 祭 文 ﹄ の巻 頭 に は 、 呉 音 は 上 声 な り と し 、 ﹁九 年 ﹂ の例 を
あ ぐ 。 ﹃四 座 講 式 ﹄ に は 、 平 声 の例 、 上 声 の例 混 在 し 、 ﹃補 忘 記 ﹄ は す べて 上 声 の例 の み。 思 ふ に、 は じ め 呉 音
と し て は平 声 な りし も 、 何 か の事 情 あ り 、 早 く 去 声 を 経 て、 上 声 に移 り た る も のな る べし 。 〇 五= ゴ は 呉 音 な
﹁五 十 ﹂ と
﹃ 法 単 字 ﹄ の解 説 に は 、 ﹁何 祖 反 ﹂ と あ り 、 ﹁祖 ﹂ は 去 声 に し て 、 こ の あ た り よ り
る べし 。 こ の声 調 、 ﹁九 ﹂ に 似 た り 。 漢 音 は 上 声 な れ ば 、 呉 音 は 平 声 な る べ く 、 ﹃法 単 字 ﹄ の 三 二 ペ ー ジ 、 ﹃法 音 義 ﹄ に平 声 点 あ り 。 た だ し
不 審 な り 。 ﹃諸 講 祭 文 ﹄ の 巻 頭 に は 、 呉 音 と し て 上 声 と 記 し 、 ﹁五 年 ﹂ の 例 を あ ぐ 。 ﹃四 座 講 式 ﹄ は
﹁五 常 ﹂ は 、 古 く は 平 声 な り し と あ り 。 思 ふ に 、 こ の 語 、 古 く は 呉 音 で 平 声 な り し が 、 早 く 上 声 に 転 じ 、
﹁五 色 ﹂ の 時 の み 平 声 で 、 他 は 多 く 上 声 な り 。 ﹃補 忘 記 ﹄ で も 、 七 例 が 上 声 、 二 例 が 平 声 、 上 声 の 例 の う ち に も 一例
熟 語 に よ り て は 、 後 世 ま で も 平 声 の も の あ り し な る べ し 。 □ 碁= ﹃図 ・名 義 ﹄ の 一四 八 ペ ー ジ に 、 ﹁此 間 音 五 ﹂
と あ り 、 ﹁五 ﹂ に 去 声 の 濁 音 を 付 す 。 □ 座= ザ は 呉 音 。 ﹃法 単 字 ﹄ に 平 声 ら し き 注 記 あ り 。× 茶= ﹃前 ・色 葉 ﹄ 上 巻 六五枚裏 に平声点あ り。
︹二 ︺ 二 モー ラの語
(1 )a類。 ◎ 額= 入 声 。 ガ ク は 漢 音 。 然 ら ば 軽 入 声 の は ず 。 ○ 客= 不 審 な 語 。 キ ャク は 呉 音。 ﹁羅 漢 講 式 ﹂ の 一
三 枚 六 行 に 軽 入 声 の 注 記 あ り て 、 カ クと 記 す 。 あ る いは 呉 音 の場 合 、 キ ャク と 読 み な がら 、 特 殊 の 語 と し て軽
入 声 な り し も の か。 ◎ 急= 入声 でキ フは漢 音 な れ ば 、 軽 入 声 。 ◎ 曲= 入 声 で、 キ ョク は漢 音 な れ ば 、 軽 入 声 。
〇 三= 難 し い語 。 ﹁一﹂ ﹁二﹂ ﹁六 ﹂ ⋮ ⋮ ﹁十 ﹂ よ り 類 推 す れ ば 、 呉 音 な る べ し 。 ﹃法 単 字 ﹄ 九 ペー ジ に 去 声 点 を
付 し 、 ﹃諸 講 祭 文 ﹄ の巻 頭 に も 呉 音 ・去 声 と す 。 さ れ ど ﹃法 音 義 ﹄ に は 上 去 の両 点 を 付 し 、 ﹃四 座 講 式 ﹄ で は、
去 声 を 原 則 と し 、 他 の文 字 のあ と に 立 て ば 上 声 と な り 、 平 声 のも のも 一例 あ り 。 ﹃補 忘 記 ﹄ で は、 二 四 例 ま で
去 声 、 一例 が 上 声 、 軽 平 声 が 三 例 あ り、 思 ふ に こ の語 、 呉 音 で も と 去 声 な り し が 、 のち に 上 声 にも 用 いら る る
や う にな り 、 続 き に よ り、 軽 平 声 にも 言 ふ や う に な り し か 。 ○ 直= 入 声 で、 ヂ キ は 呉 音 。 ﹃補 忘 記 ﹄ に ﹁直 修
直 満 」 と いふ 語 を 挙 げ て、 ﹁直 の 字 は 入 声 の 軽 な り ﹂ と 断 つ てあ り 、 も つと も ﹁重 の入 声 に も 苦 し か ら ず ﹂ と
あ り 。 古 く よ り 特 別 の語 と し て 軽 入 声 な り し も のか、 知 り が た し 。 ◎ 職= 入声 に し て シ ョク は 漢 音 。 然 ら ば 軽
入 声 な り し な ら ん。 ﹃ 前 ・色 葉 ﹄ 下 巻 七 二 枚 裏 に、 シ ョク の仮 名 一文 字づ つに 上 声 点 を 付 す 。 △膳= ゼ ンは 呉
音 。 漢 音 セ ンは 去 声 。 然 ら ば 呉 音 は 平 声 か 。×俗= 入 声 ゾ ク は 呉 音 。 然 ら ば 重 入 声 か。 ◎ 宅= 入 声 、 タ ク は漢
音 。 然 ら ば 軽 入 声 か 。 ﹁涅槃講 式 ﹂ 四 枚 三 行 に も 軽 入 声 点 を 付 せ る 例 あ り。 ◎ 敵= 入 声 に し て漢 音 な れ ば、 軽
入 声 。 ○ 点= 漢 呉 音 と も テ ン。 ﹁ 点 ﹂ と いふ 字 の意 義 か ら 言 ひ て、 漢 文 関 係 か ら 来 た る も のな ら ず や。 然 り と
す れ ば 、 漢 音 よ り か 。 漢 音 と す れ ば 上 声 。 ○ 得= 奥 村 氏 の ﹁漢 語 の ア ク セ ント ﹂ 五 ペー ジ 下 段 に よ れ ば 、 ﹃蒙
求 ﹄ の訓 点 のう ち に、 平 声 軽 を 点 じ た る 例 あ り と 見 ゆ。 ﹃補 忘 記 ﹄ の ﹁ほ ﹂ の部 に 、 ﹁ 方 得 転 故 ﹂ と いふ 語 あ り 、
﹁ふ﹂ の部 に ﹁不 従 師 得 ﹂ と いふ 語 あ り 、 と も に ﹁得 ﹂ 字 に 軽 入 声 の点 あ り 。 あ と のも の に 対 し 、 元 禄 版 に は 、
特 に 、 ﹁得 ノ 字 言 付 ニ テ高 シ。 或 云 、 得 ノ 字 入 ノ 軽 ナ リ ト ﹂ と 注 す 。 本 来 さ る ア の 語 と す る 説 も あ り し こ と を
知 る 。 た だ し 、 ﹁本 得 本 迷 ﹂ の場 合 に は 、 重 入 声 の 点 を 付 せ り 。 ◎ 晩= バ ンは 漢 音 。 漢 音 の場 合 は 上 声 。 ◎
表= ﹃ 前 ・色 葉 ﹄ 上 巻 五 一枚 裏 に ヘウ と 注 し て 上 上 の 声 点 を 施 す 。 ◎ 品= ヒ ン は 漢 音 。 漢 音 の場 合 は 上 声 。×
屏= ヘイ は 漢 音 。 そ の場 合 は 、 平 声 ら し 。 ◎ 棒= ﹃観 ・名 義 ﹄ 仏 下 本 巻 八 四 ペ ー ジ に 、 俗 音 バ ウ と あ り て、 上
上 の声 点 を 付 す 。×盆= ボ ンは 呉 音。 c類 の ﹁盆 ﹂ 字 の条 を 参 照 。 ◎ 礼= レイ は 漢 音 。 漢 音 の場 合 は 上 声 。 □
椀= 未 勘 考 。 □ 医 者= 未 勘 考 。 □ 椅 子= 未 勘 考 。 ◎袈 裟= ﹃伊 勢 十巻 本 和 名 抄 ﹄ 五 巻 五 枚 表 に、 ﹁加 沙 二 音 俗 云
介 佐 ﹂ と注 し 、 ﹁介 佐 ﹂ に そ れ ぞ れ 上 声 点 を 付 す 。 ﹃図 ・名 義 ﹄ 三 二 八 ペー ジ に も 類 例 あ り 。 ◎ 胡 麻= ﹃東 ・和
名 ﹄ 九 巻 四 四 枚 表 に 、 ﹁五 万 ﹂ と 注 し て、 去 上 の 声 点 を 付 し 、 ﹁宇 古 万 ﹂ と 注 し て、 平 上 上 の声 点 を 付 す 。
﹃ 東 ・和 名 ﹄ 十 巻 七 四枚 裏 に、 ﹁梭櫚﹂ の文 字 を 注 し て ﹁俗 音 種 路 ﹂ と あ り 、 ﹁種 路 ﹂ の文 字 に
﹃観 ・名 義 ﹄ に も 、 類 似 の 記 載 あ り 。 ◎ 娑 婆= ﹃前 ・色 葉 ﹄ 下 巻 八 四 枚 表 に、 ﹁娑 婆 ﹂ の文 字 あ り。 去 上 の声 点 を 付 す 。 ◎棕梠
去 上 の声 点 を 付 す 。ま た 、 ﹃観 ・名 義 ﹄ の仏 下本 八 八 ペ ー ジ に、俗 音 シ ュウ ロと 注 し 、平 上 上 上 の声 点 を 注 記 す 。
( 2) b 類 の語 ◎ 一=入 声 。 イ チ は 呉 音 。 然 ら ば 重 入 声 な り 。 ◎ 菊= ﹃二 十 巻 本 ・和 名 抄 ﹄ の 二 〇 巻 の ﹁ 菊 ﹂字 の 条 に、 ﹁俗 云本 音 之 重 ﹂ と あ り、 呉 音 で重 入 声 な り し こ と し る し 。 ◎ 軸= ヂ ク は 呉 音 。 ﹃ 前 ・色 葉 ﹄ 上 巻 六 七 枚
裏 に、 チ ク と 注 し 、 ﹁軸 ﹂ の文 字 に 濁 入 声 点 を さ す 。 ◎ 七= 入 声 で 、 シチ は 呉 音 。 故 に 重 入 声 。 ◎ 質= ﹁七 ﹂ に
同 じ 。 □実= 入 声 。 ジ ツ は慣 用 音 な り と いふ 。 ◎ 術= ジ ュツは 呉 音 。 故 に 重 入声 。 ◎ 毒= ド ク は 呉 音 。 故 に 重
入 声 。 ◎ 肉= ニク は 呉 音 。 故 に 重 入 声 。 ◎ 熱= ネ ツは 呉 音 。 故 に 重 入声 。 ◎ 八= ハチ は 呉 音 。 故 に 重 入 声 。 ◎
鉢= ﹃東 ・和 名 ﹄ 四 巻 一九 枚 裏 に、 ﹁俗 云 波 知 ﹂ と 注 し 、 ﹁波 知 ﹂ の文 字 に 平 平 の点 を 施 せ り 。 ﹃観 ・名 義 ﹄ 僧 上
巻 一二 〇 ペー ジ にも 同 様 の注 記 あ り 。 ◎ 罰= バ チ は 呉 音 。 故 に 重 入声 。 ◎ 百= ヒャ ク は 呉 音 。 故 に 重 入 声 。 ◎
幕= ﹃観 ・名 義 ﹄ 法 中 巻 一〇 五 ペー ジ に ﹁和 (音 ) マク ﹂ と あ り 、 平 平 の点 を さ す 。 ◎ 役= ヤ ク は 呉 音 、 故 に
重 入声 。 ◎ 厄= ﹁役 ﹂ に同 じ 。 ◎ 楽= ラ ク は 呉 音 、 故 に 重 入声 。 ◎ 六= ロク は 呉 音 、 故 に 重 入声 。 ○ 意 地= 奥
村氏 の ﹁ 漢 語 の ア ク セ ント ﹂ に よ れ ば、 心 空 の も の に 平 平 と 注 せ る 例 あ り と い ふ 。 ◎ 餓 鬼= ﹃観 ・名 義 ﹄ 僧 下
巻 四 七 ペー ジ に、 ﹁俗訛 音 ガ キ ﹂ と あ り 、 平 平 の点 を 注 記 。 ﹃ 前 ・色 葉 ﹄ 上 巻 九 五 枚 表 にも 同 様 の注 記 あ り。 ◎
数 珠= ﹃前 ・色 葉 ﹄ 下 巻一一 六 枚 表 に 、 ズ スと い ふ仮 名 あ り 、 平 平 の点 を 注 記 。 ◎ 知 恵= ﹃ 前 ・色 葉 ﹄ 上 巻 七 〇
枚 表 に 、 平 平 点 を 注 記 し た る 例 あ り 。 ◎ 弟 子= ﹃前 ・色 葉 ﹄ 下 巻 一九 枚 裏 に 、 デ シ と 注 し 、 平 平 点 を 注 記 、 ﹃涅 槃 講 祭 文 ﹄ に平 平 の譜 を 付 し た る 例 あ り 。
(2) b 類' 。 ◎ 寒= ﹃観 ・名 義 ﹄ 法 下 巻 四 七 ペー ジ に ﹁和 ( 音 ) カ ン﹂ と あ り 、 平 声 点 を 注 記 。 ○ 講= 未 勘 考 。 た だ し 、 呉 音 よ り 来 た る も の と 見 ら るゝ と せ ば 、 ﹃法 単 字 ﹄ の 二 七 ペー ジ と 、 ﹃ 法 音 訓 ﹄ の 一九 ペ ー ジ に 平 声 点 を
さ し た る 例 あ り。 ◎賽= ﹃ 観 ・名 義 ﹄ 仏 下 本 巻 一四 ペー ジ に 和 音 サ イ と あ り、 平 平 の 点 を さ す 。 □ 機= 未 勘
考 。×陣= ヂ ンは 呉 音 、 ﹃法 単 字 ﹄ 一二 六 ペー ジ に 上 声 の点 あ り 。 ○ 損= ﹃法 音 訓 ﹄ 七 〇 ペ ー ジ に 平 声 点 を さ し
た る例 あ れ ど 、 呉 音 と 見 て よ き や 如 何 。 ◎ 段= ﹃観 ・名 義 ﹄ 僧 中 巻 六 六 ペ ー ジ に ﹁和 音 堕 ン﹂ と あ り、 平 声 点
を さ す 。 ○ 壇= ダ ンは 呉 音 。 漢 音 は 平 声 な る と こ ろ よ り す れ ば 、 呉 音 は 去 声 か。 ◎ 塔= ﹃観 ・名 義 ﹄ 法 中 巻 四
八 ペ ー ジ に 、 ﹁俗 云 音 之 重 ﹂ と あ り 、 呉 音 で 重 入 声 な り し こと 明 ら か な り 。 □ 便= ビ ンは 慣 用 音 な りし と い ふ。
□鬢= 右 に 同 じ 。 ○ 本= 漢 呉 いづ れ か 不 明 。 ﹃金 音 義 ﹄ の四 ペー ジ、 ﹃法 単 字 ﹄ に は 、 いづ れ も 平 声 の注 記 あ る
六 ペ ー ジ に 、 ﹁和
(音 ) ユ ウ 又 は ヨ ウ ﹂
も の を 。× 門= モ ン は 呉 音 。 ﹃法 単 字 ﹄ 四 二 ペ ー ジ に 上 声 と あ り 、 ﹃法 音 義 ﹄ に は 上 去 両 点 あ り 、 と も に 不 審 。 ﹃四 座 講 式 ﹄ で は 、 上 声 ・平 声 定 ま ら ず 。 ◎ 用= ﹃観 ・名 義 ﹄ 仏 中 巻一三
に 、 ﹁俗 音 ラ フ﹂ と 注 し て 平 平 点 を さ す 。
と あ り 、 平 声 点 一箇 を 注 記 。 □ 猟= 入 声 。 呉 音 と 認 め て よ け れ ば 重 入 声 。 ◎ 牢= ﹃前 ・色 葉 ﹄ 上 巻 八〇 枚 表 に 平 声 点 あ り 。 ◎ 蝋= ﹃ 観 ・名 義 ﹄ 僧 下 巻 二 七ページ
下 巻 一五 枚 裏 に上 上 の注 記 あ り 、 不 審 。 ﹁涅槃講 式 ﹂ 四 枚 二行 と 二 三 枚 一行 と に ﹁縁ニ ﹂ と いふ 連 続 あ り 。 縁
( 3 ) c類。 □ 運= 未 勘 考 。 ﹃法 音義 ﹄ に 記 載 な き こ と 不 思議 。 □ 縁= ﹃法 単 字 ﹄ 二一 ペ ー ジ に 上 声 点 、 ﹃ 前 ・色 葉 ﹄
の字 に 去声 点 、 ﹁ニ﹂ に は 徴 譜 あ り 、 こ の 声 調 が 一般 な り し な ら ず や 。 ﹃補 忘 記 ﹄ は 二例 と も 去 声 。 ○ 王= ﹃法
単 字 ﹄ 二ページ に 去 声 の点 あ り 。 こ れ よ り 出 で た る か 。 ○ 恩= ﹃法 単 字 ﹄ に 上 声 の 点 あ れ ど 、 も と も と 去 声 な
り し こ と を 窺 は し む る 注 記 あ り。 呉 音 は 以 前 去 声 な り し に あ ら ず や 。 ﹃法 音 義 ﹄ に は 去 点 を 付 す 。 ◎ 会= ク ワ
イ は漢 音 。 然 ら ば 去 声 。 ◎ 芸= ゲイ は 漢 音 。 然 ら ば 去 声 。 ◎ 剣= ケ ン は 漢 音 。 然 ら ば 去 声 。 も っと も ﹃ 金音
義 ﹄ に よ れ ば 呉 音 も 去 声 か 。 ○ 芯= ﹁心 ﹂ に 対 し て、 ﹃法 単 字 ﹄ 五 ペー ジ に 去 声 と あ り 、 一緒 に考 へて は 悪 し き
か 。 ◎ 精= セイ は 漢 音 。 去 声 。 ◎ 千= ﹁十 ﹂ ﹁百 ﹂ ﹁万 ﹂ な ど に 類 推 す れ ば 、 呉 音 な る べし 。 ﹃ 法 単 字 ﹄ 八ページ
に 去 声 と あ り。 ﹃四座 講 式 ﹄ に ﹁千 の﹂ と いふ 語 に 対 し て去 徴 の譜 あ り 。 ◎ 台= ダ イ は 呉 音 。 ﹃法 単 字 ﹄ の 一〇
二 ペー ジ に去 声 と あ り 。 ◎ 題= ダ イ は 呉 音 。 後 世 のも の な れ ど も 、 ﹃元 禄 版 ・補 忘 記 ﹄ に ﹁題 ﹂ の 字 三 例 あ り 、
いづ れ も 去 声 。 ◎ 宙= チ ウ は 漢 音 、 去 声 。×腸= チ ャウ は 漢 音 。 然 ら ば 平 声 。 ◎ 堂= ﹃観 ・名 義 ﹄ 法 中 巻 五 〇ペ
ー ジ に 和 音 タ ウ と あ り、 平 上 の点 を 付 す 。 □ 判= 未 勘 考 。 □ 番= 未 勘 考 。 ◎ 盆= 呉 音 。 奥 村 氏 の ﹁漢 語 の ア ク
セ ント ﹂ の中 に 、 心 空 の も の に去 声 点 を 注 し た る 例 あ る こと を 指 摘 。 ○ 紋= モ ン は 呉 音 。 漢 音 は 平 声 な り 。 と
す れ ば 、 呉 音 は 去 声 な ら ず や 。 ◎ 味 噌= ﹃観 ・名 義 ﹄ 僧 下 巻 六 〇 ペ ー ジ に ﹁味 醤 ﹂ と ﹁高 麗 醤 ﹂ を ミ ソと 訓 み 、
平 上 の点 を 注 記 。 ○ 皮 膚= 奥 村 氏 の ﹁漢 語 のア ク セ ント ﹂ に よ れ ば 、 ﹃貞 元 華 厳 経 音 義 ﹄ と い ふも の に 、 平 上
の点 を 注 記 し た る 例 あ り 。 ◎ 是 非= ﹃前 ・色 葉 ﹄ の 下 巻 一 一 一枚 裏 に 平 上 の声 点 を 注 記 。
去 平 点 を 注 記 。 ○気 味= ﹃前 ・色 葉 ﹄ 下 巻 六 三 表 に 去 平 点 を 注 記 。 □〓= ﹃観 ・名 義 ﹄ 僧 上 巻 一〇 八 ペ ー ジ の
( 4) そ の他 の語。 □ 対= ツイ は 唐 音 な り と 。 □枇 杷= ﹃観 ・名 義 ﹄ 仏 下 本 巻 一〇 〇 ペー ジ に ﹁此 間 音 ビ ハ﹂ と あ り 、
﹁餅 粉 ﹂ の条 に 、 ア ンな る 訓 みあ り 、 平 平点 を 注 記。 こ の語 と 見 て よ き や 。 ○ 象= ﹃四座 講 式 ﹄ に ﹁象 ノ ﹂ と い
ふ語 の ﹁象 ﹂ に 平 点 を 、 ﹁ノ﹂ に 角 譜 を 注 記 し た る 例 あ り。 ○ 天= ﹃法 単 字 ﹄ 一四 ペ ー ジ に 去 声 点 あ り、 ﹃法 音
訓 ﹄ 一〇 ペ ー ジ に は 上 去 の両 点 あ り 。 ﹁羅 漢 講 式 ﹂ 一五 枚 一〇 行 の ﹁天 ノ 西 北 ﹂ の ﹁天 ﹂ の字 に 対 し て 軽 平 声
の点 を さ し た る 例 あ り 。 た だ し 、 ﹁舎 利 講 式 ﹂ の六 枚 九 行 の ﹁天 ノ﹂ に 対 し て は、 去 +角 の点 と 譜 を さ し た る
呉音 な れ ど 未 勘 考 。 □ 蜜= ﹃観 ・名 義 ﹄ 法 下 巻 五 五 ペー ジ に ﹁此 間 音 ミ チ ﹂ と あ り 、 平 声 点 を さ す 。 □ 菓 子=
例 あ り 、 そ の他 様 々 に て定 ま ら ず 。 ○ 留 守= ﹃ 前 ・色 葉 ﹄ 上 巻 七 九 枚 裏 に 例 あ り 、 去 平 の声 点 を さ す 。 □京=
未 勘 考 。 □ 根= ﹃ 法 音 義 ﹄ に 上 去 の両 点 あ れ ど も 。 □ 紫 蘇= 未 勘 考 。
四 大 凡 以 上 の よ う で、 こ れ ら の資 料 は 前 稿 の考 え 、
(1 ) 本 土 の日 本 語 諸 方 言 の間 に広 く 親 し く 使 わ れ て いる 字 音 語 の アは 平 安 朝 時 代 のそ の語 のア と 規 則 的 な 対 応 をなす。
( 2 ) 平 安 朝 時 代 の京 都 語 のそ れ ら の語 の ア は 呉 音 あ る いは 漢 音 の アと 一致 す る 。
と いう 考 え を 支 持 す る よ う に愚 考 し ま す 。 こ れ は 、 服部 博 士 の 御 高 説 にさ か ら う よ う で恐 縮 し て お り ま し た が、
博 士 の祖 語 の ア の推 定 に も 有 用 だ と の こと で 同 慶 に存 じ ま す 。 雀 輩 の私 に は 、 ど う いう 御 鴻 論 が 展 開 さ れ る か 見 当 も 付 き ま せ ん 。 御 発 表 を お待 ち し て お り ま す 。
秋 永 一枝 氏 の魚 島 方 言 の報 告 を 読 ん で
( 例 、 ﹁胸 ﹂ ﹁石 ﹂ な ど ) と が 同 じ よ う な ア ク セ ント だ と の こ
本 誌 八 月 号 に載 った 、 愛 媛 県 魚 島 の ア ク セ ント に つ いて の秋 永 一枝 氏 の報 告 を 興 味 深 く 読 ん だ 。 同 島 で は 、 二 音 節 名 詞 の第 一類 ( 例 、 ﹁風 ﹂ ﹁水 ﹂ な ど ) と 第 二類
と で あ る 。 以 前 秋 永氏 か ら 、 同 島 の ア ク セ ント を 調 べた が、 変 った ア ク セ ント だ った と いう こと は 聞 いて いた が、
今 度 そ の内 容 を 詳 しく 知 り 、 改 め て考 え さ せ ら れ た 。 第 一類 名 詞 と 第 二 類 名 詞 と が同 型 に な って いる の は 北奥 と
か 出 雲 と か 九 州 ・琉 球 と か の よ う な 、 多 く 京 都 ・大 阪 か ら遠 隔 の地 域 の方 言 に 見 ら れ る傾 向 だ った 。 そ れ が 瀬 戸
内 と いう 、 大 阪 ・神 戸 と 交 通 の比 較 的 に便 利 な 地 域 の方 言 に も 見 つか った と いう の は驚 き で、 日本 語 の ア ク セ ン ト の地 域 的 変 化 が端倪 す べ か ら ざ る こ と を 示 し て いる 。
秋 永 氏 は 、 こ の稿 で 、 同 島 のア ク セ ント 体 系 が ど のよ う に し て出 来 た も の か と いう こ と に つ いて 、 私 に意 見 を
求 め てお ら れ る 。 そ の答 え は、 あ と で 開陳 す る こ と にし て、 秋 永 氏 が巻 頭 に 述 べら れ た こ と に対 す る 私 の感 想 を 申 し 述 べ た い。
秋 永 氏 は 、 服 部 四郎 博 士 が か つ て私 を 評 し て ﹁ 金 田 一君 は 、 A ア ク セ ント 体 系 か ら B ア ク セ ント 体 系 へ の変 化
ば か り を 考 え て来 ら れ た ﹂ と 言 わ れ た のに 対 し て、 そ れ は ち が う と 言 ってお ら れ る 。 こ れ は 有 難 い こと で 、 私 も
秋 永 氏 があ げ ら れ る よ う な 論 文 で 甲 乙両 種 方 言 の祖 形 と し て X アク セ ント 体 系 を 考 え て いる 。 も し 、 強 いて 行 き
方 のち が いを 言 う な ら ば 、 ﹁金 田 一は 、 別 の X ア ク セ ント 体 系 を 建 て る こ と に臆 病 で、 と か く A B 両 ア ク セ ント
体 系 の ど っち が古 いと 考 え る こと が 多 い﹂ と 言 って 頂 き た か った 。
ま た 、 上 野 善 道 氏 が、 観 音 寺 方 言 の ○ ○○ 型 を 第 一類 名 詞 プ ラ ス助 詞 の形 の祖 形 と 考 え る こ と に 、 秋 永 氏 は 反
対 し て お ら れ る が 、 こ の点 も 秋 永 氏 の意 見 に大 賛 成 であ る 。 観 音 寺 方 言 で そ の語 を 高 高 中 型 と いう が 、 中 の部 分
と 高 の部 分 と は 高 さ の ち が い が実 に 微 妙 で、 ま ず 普 通 に は 高 い平 ら な 音 調 と 聞 い て し ま う 。 こ のよ う な ア ク セ ン
ト が 、 一千 年 以 上 も 一つ の方 言 で守 ら れ た と考 え る こ と は 、 どう 考 え ても 不 自 然 であ る 。 こ の○ ○ ○ 調 は 、 こ の
方 言 に ほ か に ○ ○ ○ 型 と いう 全 平 の型 があ る 。 そ れ と 区 別 し よ う と し て実 現 す る 音声 学 的 な も の で はな か ろ う か。
そ れ から 、 私 の考 え で は 、 こ のよ う な ど こ か で見 つか った 型 を 古 い形 と 見 、 他 の方 言 は こ れ か ら 変 化 し た 形 と 解
す る の は、 現 実 の ど こか の ア ク セ ント 体 系 を 古 形 と 見 る 行 き 方 と 、 そ の 精 神 に お いて 、 似 た 性 質 の考 え 方 と 思 わ れ る が、 間 違 いで あ ろ う か。
そ れ は さ て お いて 、 も う 一つ、 秋 永 氏 は 、 こ こ で、 私 が 二 音 節 名 詞 の第 一類 名 詞 プ ラ ス助 詞 の 形 に 対 し て、 祖
形 を○○ ▽型 か と 思 い つき な がら 、 そ のよ う に 断 定 し な か った 理由 を問 わ れ て い る。 私 の考 え で は 、 一つは 、 二
音 節 名 詞 に起 こ った こ と は 一音 節 名 詞 にも 平 行 的 に起 こ った は ず で あ る が、 一音 節 名 詞 に つ いて 、 よ い考 え が 出
な か った から で あ る。 一音 節 名 詞 の第 二 類 ( 例 、 ﹁葉 ﹂ ﹁日﹂) の 祖 形 はま ず ○ 型 、 引 き 延 ば し て 言 う と ○ ○ 型 で
あ ろ う 。 そう す る と、 第 一類 名 詞 (例 、 ﹁蚊 ﹂ ﹁実 ﹂) の祖 形 は 、 ど う 想 定 し た ら よ い の だ ろ う か 。 こ れ も 語 尾 が
下 が った とす る と 、○ 型 であ ろう か 。 これ は 引 き 延 ばす と ○ ○ 型 か と 思 う が 、 ち ょ っと そ う いう ア ク セ ント は 考
え が た い。 要 す る に 、 高 く 始 ま る 型 で、 そ の音 節 内 に 服 部 博 士 の術 語 ﹁核 ﹂ を も つ型 が 二 つあ る こ と に な り、 こ れ は 実 在 し にく いと 思 った か ら で あ る 。
ま た、 二 音 節 名 詞 に見 ら れ る こと は 、 二 音 節 動 詞 に も 、 平 行 し て 見 ら れ た と想 定 さ れ る が 、 二音 節 動 詞 の第 一
類 ( 例 、 ﹁押 す ﹂ ﹁行 く ﹂) の類 の祖 形 は 、 終 止 形 は ○ ○ 型 だ った と 思 わ れ る と し て、 連 体 形 は ど う だ った の だ ろ
う か 。 ○ ○ 型 だ った の だ ろ う か 。 そう す る と 、 第 二 類 の動 詞 ( 例 、 ﹁書 く ﹂ ﹁読 む ﹂) の方 と の関 係 は ど う な る の
だ ろ う 。 そ っち の終 止 形 は○○ 型 だ った のに 対 し て 、 連 体 形 が 現 在 のよ う な ○ ○ 型 で は、 う ま く 釣 合 い が と れ な い。 ○ ○ 型 と でも 想 定 す べき か と 考 え て、 躊 躇 さ れ た か ら で あ る 。
さ て、 こ こ で秋 永 氏 の報 告 さ れ る 魚 島 方 言 の ア ク セ ント の考 察 に進 む が 、 秋 永 氏 によ る と 、 こ の方 言 で は 二 音
節 名 詞 の第 一類 は 第 二 類 と と も に 、 高 く 始 ま り 低 く 終 る 。 そ う す る と 服 部 博 士 は 、 こ れも 第 一類 名 詞 が 古 く は 低
く 終 った こ と を 示 す 材 料 と 見 ら れ る であ ろ う か 。 私 は 簡 単 に そ う 考 え て は いけな いと 思う 。
秋 永 氏 の報 告 に よ る と 、 こ こ で 第 一類 と 第 二類 は 大 体 同 じ よ う に発 音 さ れ る が 、 こ れ は 以 前 は 別 の型 に属 し て
いた の が 一緒 にな った も の であ る こと は 言 う ま でも な い。 そ う し た そ の混 同 は、 私 は 遠 隔 方 言 の 場合 と 異 な り 、
比 較 的 新 し い時 代 に 起 こ ったも のと 考 え る 。 と いう のは 、 こ の 二 つ の類 が、 と も に、 ○ ○ 調 であ った り 、 ○ ○ 調
で あ った り 、 安 定 し て いな いか ら であ る 。 第 一類 ・第 二類 は 、 一時 代 前 に、 ど ん な 対 立 を し て いた と 見 ら れ る か 。
前 に戻 る が 、 服 部 博 士 の よう に 、 祖 語 の体 系 で 、 第 一類 が 第 二類 と と も に 語尾 が下 降 す る 型 だ った と 想 定 す る
場 合 、 そ の降 り方 に ど のよ う な 相 違 があ った と 見 ら れ る か。 魚 島 方 言 以 外 の方 言 を 基 と し て 推 定 す る 場 合 、 第 一
類 の方 が、 第 二類 よ り も 、 語尾 に 近 い部 分 が下 降 す る 型 だ った と 推 測す る の が 自 然 と 考 え る 。 私 が 、 真 鍋 島 方 言
な ど を 扱 った 際 にも 、 そ の よ う に 考 え た 。 た と え ば 、 第 二 類 は 、 ○ ○ 型 のよ う な 第 一音 節 に 核 が あ った の に 対 し て 、 第 一類 は ○ ○ 型 のよ う な 第 二 音 節 に 核 があ った と いう よ う に。
し かし 、 こ の魚 島 方 言 の場 合 、 両 類 が 混 同 す る 以 前 の 型 の区 別 は そう であ った か。 私 は 、 第 一類 は ○ ○ 型 、 第 二 類 は○ ○ 型 であ った の で は な い かと 推 定 す る。 そ の 理 由 は 、 ま ず 、
(l) 一音 節 名 詞 の場 合 、 第 一類 プ ラ ス助 詞 の 形 よ り も 、第 二 類 プ ラ ス助 詞 の形 の方 に ○ ○ 調 が 多 く 聞 か れ る と
いう こと (三 一 九ペー ジ下段 六-七行)で 、 第 一類 の方 に は ○ ○ 調 のも の が多 い こと と 推 測 さ せ る。 これ は 二 音 節 名 詞 の第 一類 、 第 二 類 にも 平 行 し た 傾 向 が あ り は し な い か と 想 像 さ せ る 。 次 に、 そ れ を 裏 書 き す るよ う に 、
(2) 二 音 節 名 詞 で 、 単 独 の 場 合 、 ○ ○ 、 ○ ○ の両 調 が 現 れ る 語 と し て 、 第 一類 の語 に は ﹁顔 ・柿 ⋮ ⋮ ﹂ と 六 語
が あ が って お り 、 第 二 類 の語 に は ﹁型 ・川 ⋮ ⋮﹂ の三 語 し か あ が って い な い。(一 四〇 ペー ジ上段 二行 -五行)
も し 、 両 類 を 同 数 ぐ ら い の語 に つ いて 調 べ た と す る な ら ば 、 第 二 類 の方 が ○ ○ 調 に 発 音 さ れ る 傾 向 が 強 いよ う であ る 。 あ る いは、 こ の ほ か に 、
(3) 二 音 節 五 段 活 用 第 一類 の動 詞 で は 、 終 止 連 体 形 ( 例 、 ﹁押 す ﹂ ﹁行 く ﹂) で は ○ ○ 型 が 多 く 聞 か れ 、 命 令 形
(例 、 ﹁ 押 せ ﹂ ﹁行 け ﹂) で は ○ ○ 型 が 多 く 聞 か れ る と いう こと があ る の で はな か ろ う か 。
以 上 の(3) は と も かく と し て( 1) (2) の条 項 か ら 考 え て 、 私 は、 こ の方 言 で は 、 ひ と 昔 前 、 第 一類 ・第 二 類 の 間 に は 、 第 一類 ○ ○ ▽ 型 第 二類 ○ ○ ▽ 型
のよ う な 区 別 が あ った か と 想 定 す る 。 ( 第 三 類 は ○ ○ 型 だ った 。) も し そ う だ と し た ら 、 ほ か の方 言を も と に し て
考 え た 祖 語 の体 系 と で は 、 核 の位 置 が逆 に な って いる 。 そ れ で は そ う いう 祖 語 の体 系 か ら 、 こ の 一時 代 前 の魚 島 のア ク セ ント 体 系 が 生 ま れ る こ と は 、 はな は だ 困 難 であ る。
式 )、 ○ ○ ▽ 型 (同 上 ) を 経 過 し て 、 ○ ○ ▽ 型 に な った 。 ○ ○ ▽ 型 が ○ ○ ▽ 型 ( 高 起 式 ) に な った 例 は 、 三 重 県
思 う に、 魚 島 ア ク セ ント の第 一類 は 、 以前 京 都 ・大 阪 の よ う な ○ ○ ▽ 型 だ った 。 そ れ が ○ ○ ▽ 型 (た だ し高 起
尾 鷲 市 方 言 な ど に例 が あ り 、 生 田 早 苗 氏 に よ れ ば 、 同 方 言 の自 然 の発 音 では 、 そ れ の第 一音 節 が高 く な る 傾 向 が
あ る 。( 寺川喜四男 ほか編 ﹃国語アクセ ント論叢﹄所載 の ﹁近畿アクセ ント圏辺境地区 の諸アクセ ントに ついて﹂ 二五 ページの注)
こ の形 が 固定 し て、 ○ ○ ▽型 に な った も のと 考 え る 。 第 二類 の方 は 、 ○ ○ ▽型 が ○ ○ ▽ 型 に 変 化 し た と 解 す る 。
秋 永 氏 は、 こ の方 言 のア ク セ ント の内 容 を 今 後 も っと 詳 し く 紹 介 さ れ る 予 定 と 聞 く 。 そ の発 表 を 見 て 、 ま た 私 見 を 追 加 あ る いは 訂 正 す る かも し れ な い。
後
記
﹃ 国 語 アク セ ン
ト の 史 的 研 究 ﹄ と ﹃日 本 の 方 言 ﹄ の 二 冊 と 、 ﹁味 噌
一、 本 巻 に は 単 行 本 と し て 刊 行 さ れ た
よ り は 新 し く 茶 よ り は 古 い﹂、 ﹁服 部 博 士 へ の お 答 え ﹂、 ﹁秋 永 一枝 氏 の魚 島 方 言 の 報 告 を 読 ん で ﹂ の三 つの論文 を 収め た。 一、 本 書 の表 記 法 は 原 則 と し て 、 そ れ ぞ れ の 底 本 に 従 い 、 画 一的 な 統 一は と ら な か った 。 一、 本 書 に は 今 日 の 視 点 か ら 差 別 表 現 と さ れ る 用 語 が 使 用 さ れ て いる が 、 本 書 所 収 の著 書 が 執 筆 さ れ た 当 時 の時 代 状 況 、 お よ び 著 者 が 差 別 助 長 の意 図 で 使 用
(一九 七
し て いな い こ と を 考 慮 し 、 発 表 時 の ま ま と し た 。
* ﹃国 語 ア ク セ ント の 史 的 研 究 ﹄ は 昭 和 四 十 九
*
四)年三 月、 塙書 房 より刊 行さ れ た。
﹃日本 の 方 言 ﹄ は 昭 和 五 十(一 九 七 五) 年 九 月 、 教 育
出 版よ り 刊行 。 平成 七
(一九 九 五 ) 年 四 月 、 増 補 版 が
*
刊 行 さ れ た 。 本 書 の底 本 は 増 補 版 であ る 。
﹁味 噌 よ り は 新 し く 茶 よ り は 古 い﹂ は 昭 和 五 十 五(一
九 八〇 ) 年 四 月 刊 の ﹃言 語 ﹄ ( 大修 館書店)に 発表 。同
論 文 へ の補 訂 を 同 誌 七 月 号 に発 表 。
*
﹁服 部 博 士 へ の お 答 え ﹂ は 昭 和 五 十 五 年 六 月 刊 の ﹃言
語 ﹄ に発 表 。 同 誌 同 号 に 掲 載 さ れ た 服 部 博 士 の 論 文 は
金 田 一春 彦 君 へ の 質 問 と お 願 い
次 のと おり であ る。
本 誌 に 二 年 間 に亘 って 連 載 し た 私 の 論 文
﹁日 本 祖
服 部 四郎
語 に つ い て﹂ の 、 ほ ん の 一部 分 に 関 連 す る こ と に つ
い て 、 金 田 一春 彦 君 は 、 本 誌 本 年 四 月 号 の ﹁味 噌 よ
意 見 を 開 陳 さ れ た 。 そ れ を 一読 し た と こ ろ 、 残 念 な
本 祖語と 字音 語﹂ と題 す る論 文 にお いて、 ご自身 の
方 言 の こ と な の か 。 私 の 言 う ﹁日本 祖 語 ﹂ は 本 土 な
球
み の 諸 方 言 の 意 味 な のか 、 そ れ と も 本 土 な ら び に琉
と書 いてお られ るが、 こ の ﹁ 諸 方 言﹂ と は、本 土 の
と呼 ぶ としま す と、
が ら 私 の考 え 方 が 全 く 判 って お ら れ な い こ と が 、 再
アク セ ントか ら見 た 日
び 明 ら か に な って い る 。 し か し 多 く の 根 本 資 料 を 提
の ﹁諸 方 言 ﹂ は 本 土 の諸 方 言 を 意 味 す る よ う に 取 れ
ら び に琉 球 の 諸 方 言 の祖 語 の意 味 で あ る 。 金 田 一君
り は 新 し く 茶 よ り は 古 い︱
出 さ れ る な ど 、 私 にと って も 有 難 い面 が あ る の で 、
に 対 し 、 次 のよ う な 質 問 を し 、 か つ次 のよ う な お 願
にな る 惧 れ が あ る の で 、 本 誌 面 を 借 り て 、 金 田 一君
言 語 的 根 本 資 料 に 疑 問 があ る と 、 議 論 が 砂 上 の楼 閣
を 公 刊 し た いと 考 え て い る 。 し か し 、 術 語 の意 味 や
そ う な の で、 本 誌 に ご 迷 惑 を 掛 け な い や り 方 で拙 論
私 見 を 詳 し く 述 べ た いと 思 う が 、 あ ま り に 長 く な り
ー ジ 下 欄 八 行 に 亘 って
同 君 の 右 の 論 文 の 九 一ペ ー ジ 上 欄 二 三 行 か ら 同ペ
誤 表 を 同 時 に 公 刊 し て 頂 き た い。
論 文 に誤 植 ・誤 記 が あ った 場 合 に は 、 そ の 完 全 な 正
次 に、 こ れ は 当 然 の こ と だ が 、 金 田 一君 の右 述 の
願 いし た い。
る ふ し も あ る の で 、 こ の点 に 関 す る 明 確 な 回 答 を お
( 奄 美 群 島 、 沖繩 群 島 、 宮 古 ・八 重 山 群 島 ) の諸
同 君 の こ の論 文 を さ ら に精 読 し て 、 そ れ に 関 連 す る
いを し た い。
ら れ た ﹂ と いう のは 何 を 意 味 す る の か 、 ﹁調 査 し た ﹂
*を 除 き 諸 家 か ら 教 え ら れ た 結 果 を 並 べ た 。
と いう の と は ど のよ う に 違 う の か。 ま た *印 は 何 を
と し て、 諸 家 の 氏 名 等 が 列 挙 し て あ る 。 こ の ﹁教 え
う に 展 開 し よ う と も 、 琉 球 諸 方 言 の ア ク セ ント に 関
意 味 す る の か 知り た いと 思 う 。
の考 え を 開 陳 す る わ け だ が 、 そ の 私 の議 論 が ど のよ
す る 金 田 一春 彦 説 が ﹁根 底 か ら 崩 壊 し 去 った ﹂ ( 本
楳 垣実 氏、 神保 格 氏 のお名前 も 見え る から、 文献
そ れ ら に 対 す る 金 田 一君 の お 答 え が あ って か ら 私
い の であ る 。
の論 著 の タ イ ト ル、 公 刊 年 月 日 、 問 題 の資 料 の 見 え
等 に よ った 場 合 も あ る よ う だ が 、 そ の 場 合 に は 、 そ
誌 昨年 十 二月 号 一〇五 ペー ジ下 ) こ と に は 変 わ り は な
春彦 君 は、本 誌本 年 四月 号八 八 ペー ジ下欄 に お いて、
る ペ ー ジ な ど を お 教 え 頂 き た い。
さ て 、 私 の第 一の質 問 は 次 のよ う で あ る 。 金 田 一
も し 、 諸 方 言 の 別 れ る 以 前 の 形 を ﹁日本 祖 語 ﹂
手 紙 、 電 話 、 面 接 等 に よ った 場 合 に は 、 そ の いず
ら れ る 、 平 安 朝 時 代 の そ の 語 の ア ク セ ント を 注
略 )、 沼 本 克 明 氏 ( 中 略)、 高 松 政 雄 氏 ( 中 略)
( 中
(1) と し て 九 八 ペー ジ 上 欄 に 、
記 し た 。( 1) と あ って 、 そ の 注
れ であ る か、 そ し て そ の調 査 年 月 日 ( 年 月 でも よ い) を 公 表 し て 頂 き た い。
(1 ) ここ の四声 の決 定 に は、奥 村 三 雄氏
手 紙 によ った 場 合 に は 、 諸 家 の 表 記 法 そ の も の と
か ど う か 。 そ う せず に 、 原 典 に 一々 当 た って 、 原 典
とあ るが、 これら の諸 氏 の論文 から 孫引 きさ れ た の
の 研 究 に負 う と こ ろ が 多 か った こ と を 感 謝 す る 。
電 話 そ の他 に よ る 場 合 に は 、 金 田 一君 が 直 接 問 い
い 。
金 田 一君 自 身 の 表 記 法 と の 関 係 と を 公 刊 し て 頂 き た
合 わ せ調 査を され た のか、 他人 に頼 ま れた のか、 ま
名 と そ れ ら の 字 音 語 の 出 現 箇 所 と を 明 記 し て頂き た い 。
た 金 田 一君 あ る いは そ の頼 ま れ た 人 の表 記 法 は ど の よ う に な って い る の か 、 明 記 し て頂 き た い。 頼 ま れ
刊 し て 頂 く よ う 、 金 田 一君 に お 願 いす る 。
取 り あ え ず 、 右 の諸 点 に 関 す る お 答 え を 本 誌 に 公
*
十 一 (一九 八 六) 年 十 月 刊 の ﹁ 言 語﹄ に発 表。
﹁ 秋 永 一枝 氏 の魚 島 方 言 の報 告 を 読 ん で ﹂ は 昭 和 六
た 人 の氏 名 も も ち ろ ん 公 表 し て い た だ き た い。
( 月 日)を 同時 に公 刊し て頂 きた
諸 家 の お 一人 お 一人 の お 生 ま れ に な り 、 か つ成 人 さ れた 場所、 生 年 い。
︹ 付 表 ︺ の最 下欄 に、 辞書 類 の記 載 な ど か ら知
金 田 一君 の右 述 の 論 文 九 一ペ ー ジ 下 欄 に は 、
金 田 一春 彦 著 作 集 第 七 巻
者 金 田 一春 彦
二〇 〇五 年三 月 二十 五 日 第 一刷
著
発 行 者 小 原 芳 明
〒 一九 四︲八 六 一〇 東京 都 町 田 市 玉 川学 園 六︲一︲一
発 行 所 玉 川 大 学 出 版 部
T E L 〇 四 二︲七三 九︲八九 三 五 F A X 〇 四 二︲七三 九︲八 九 四 〇 http://www.tamagawa.jp/introduction/
Japan
in
振 替 〇〇 一八 〇︲七︲二六 六 六 五
2005
printed
印 刷 所 図 書 印 刷 株 式 会 社
Kindaichi
落丁本 ・乱 丁本 はお取り替え いたしま す。 〓 Tamae
C3380
出0501276-501
4-472-01477-7
JASRAC ISBN