朝倉 国 語教 育 講座 読 む こ と の教 育
監修
倉澤 栄 吉
野 地 潤 家
朝倉 書 店
2
監修者 倉 澤 栄 吉 日本国語教育学会会長 野 地 潤 家 広島大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授
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朝倉 国 語教 育 講座 読 む こ と の教 育
監修
倉澤 栄 吉
野 地 潤 家
朝倉 書 店
2
監修者 倉 澤 栄 吉 日本国語教育学会会長 野 地 潤 家 広島大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授
編 集 者( )は 編集担当巻 白 石 寿 文 佐 賀大 学 名誉 教授(第
1巻,第
小 田 迫 夫 大 阪教 育 大学 教授(第
2巻)
3巻)
浜 本 純 逸 神 戸 大学 名誉 教授/早 稲 田大学 教授(第 松 山 雅 子 大 阪教育 大学 教授(第
2巻)
山 元 悦 子 福 岡教育 大学 教授(第
3巻)
菅 原
4巻)
稔
兵庫 教育 大学 教授(第
中 西 一 弘 大 阪教 育大学 名誉 教授(第 森 田 信 義 広 島大 学教授(第
2巻)
4巻)
4巻)
世 羅 博 昭 鳴 門教 育大 学教授(第
5巻)
三 浦 和 尚 愛 媛大 学教 授(第 5巻) 大 槻 和 夫 広 島大 学名 誉教 授 /安 田女子 大 学教授(第
吉 田 裕 久 広島大学教授(第 6巻) 植 山 俊 宏 京 都教 育大 学教 授(第 6巻)
6巻)
刊 行 の言葉
昭 和 二四 ︵一九 四 九 ︶ 年 四 月 に学 生 を 迎 え 入 れ て発 足 し た 新 制 大 学 も 、 既 に 半 世 紀 を 超 え る 歳 月 を 閲 し た 。 そ
の 間 、 教 育 ・研 究 両 面 に実 績 を 挙 げ てき た が 、 新 し い世 紀 に入 って、 組 織 ・運 営 面 に 抜 本 的 改 革 が な さ れ る こと にな った 。 新 制 大 学 と 歩 み を 共 に し て来 た 者 と し て深 い感 慨 を 覚 え る 。
新 制 大 学 教 育 系 学 部 に は 、 国 語 科 教 育 法 担 当 者 が 配 置 さ れ 、 教 職 科 目 単 位 取 得 希 望 者 に ﹁国 語 科 教 育 ﹂ 関 係 の
授 業 を 担 当 し た が 、 昭 和 二 八 (一九 五 三 ) 年 四 月 、 大 学 院 ︵ 当 初 、 修 士 課 程 、 続 いて 博 士 課 程 ) が 設 置 さ れ て か ら は 、 国 語 科 教 育 専 攻 の院 生 の指 導 も 担 当 す る こと に な った 。
新 制 大 学 で 国 語 科 教 育 を 担 当 す る教 官 方 は 、 石 井 庄 司 博 士 ︵ 東 京 教 育 大 学 教 授 ) の ご 先 導 ・ご 高 配 に よ って、
昭 和 二 五 (一九 五 〇 ) 年 九 月 、 全 国 大 学 国 語 教 育 学 会 を 創 設 し 、 全 国 を 九 ブ ロ ック ︵ ① 北 海 道 ・② 東 北 ・③ 関
東 ・④ 東 海 ・⑤ 北 陸 ・⑥ 近 畿 ・⑦ 中 国 ・⑧ 四 国 ・⑨ 九 州 ) に分 け 、 毎 年 二 回 ︵ う ち 、 一回 は東 京 で) 学 会 を 開 催 す る こ と に な った 。 既 に 百 回 を 超 え る 学 会 が 重 ね ら れ て き た 。
国語 科 教 育 実 践 界 で は 、 日 本 国語 教 育 学 会 を 初 め 、校 種 ︵ 小 ・中 ・高 ︶ 別 に、 さ ら には 研 究 組 織 ご と に 研 究 会
が 設 立 さ れ 、 そ れ ぞ れ 活 発 に活 動 が 続 け ら れ た 。 ま た 、 国 立 国 語 研 究 所 ︵初 代 所 長 、 西 尾 実 博 士 ︶、 文 化 庁 国 語
課 、 国 立 教 育 政 策 研 究 所 な ど で 行 な わ れ た 研 究 ・調 査 等 も 、 国 語 科 教 育 の実 践 ・研 究 に大 き く 寄 与 す るも の で
あ った 。20 世 紀 後 半 に お い て、 わ が 国 の国 語 科 教 育 研 究 の組 織 化 は よ く 整 備 さ れ 、 そ れ ぞ れ実 績 を 挙 げ て い った
と 思わ れる。
朝倉 書店 は、先般来 、 ︿ 朝倉 国語教 育講座﹀ ︵ 全 六 巻 ︶ 刊 行 の企 画 を 立 てら れ た 。 企 画 に 当 た って は 、 こう し た
企 画 経 験 の豊 富 な 中 西 一弘 教 授 に 世 話 人 を お 願 いし 、 各 巻 ご と に編 集 担 当 者 を 依 頼 し 、 各 巻 の構 成 、 執 筆 者 への
連 絡 等 を 分 担 し ても ら う こと に な った 。 こ のよ う な 経 緯 か ら 、 日 本 国 語 教 育 学 会 西 日 本 集 会 の 開催 ・推 進 に協 力 を いた だ いた 方 々 に編 集 ・執 筆 を お 願 いし た 。
全 六 巻 か ら 成 る 、本 講 座 の 目 指 す と こ ろ は 、 内 容 を 清 新 な も のと し 、 記 述 に当 た って は 、 正 当 か つ平 易 な も の
た ら し め る こ と 、 ま た 、 そ れ ぞ れ 解 説 ・説 明 に重 点 を 置 いて いく よ う に す る こと であ る 。 企 画 側 と し て は 、 学
生 ・院 生 の皆 さ ん を 初 め 、 国 語 科 教 育 の実 践 ・研 究 に 取 り 組 ん で い る 人 た ち 、 関 連 分 野 の 研 究 者 にも 、 一般 の
人 々 にも 、 手 に取 って 読 ん で いた だ け れ ば と 願 って い る 。広 く 開 か れ た ﹁講 座 ﹂ であ り た いと いう 思 いを こ め て いる 。
20世 紀 に あ って は 、 国 語 教 育 講 座 が数 社 か ら 既 に 刊 行 さ れ た 。 こ れ ら の講 座 が 国 語 科 教 育 実 践者 ・研 究 者 に そ
れ ぞ れ 役 に 立 つこと も 多 か った と 思 わ れ る 。 講 座 は 刊 行 さ れ た 、 そ の時 期 そ の時 期 か ら の羅 針 盤 に も な り 、 相 談 窓 口 にも な った か と 思 わ れ る 。
単 行 本 の中 か ら 自 分 にと って の﹁一 冊 の本 ﹂ を 見 つけ 、 そ こか ら摂 取 し う る も のを 見 い出 し 、自 己 の実 践 ・研
究 に十 分 に生 か し て いく こ と が 望 ま れ る。 同 時 に 、 ﹁講 座 ﹂ に 接 し て、 そ の質 量 に 押 さ れ る こ と な く 、 活 用 し て
いく 方 途 を 自 ら 発 見 し て いく こと も 望 ま れ る 。 ﹁講 座 ﹂ と の出 会 いに よ って、 国 語 科 教 育 へ の視 野 が 開 け 、 何 を
ど う 耕 し 、 深 め て 、成 果 を どう 導 き 出 し て いく のか に多 く の示 唆 が得 ら れ る こ と も 夢 で は な い。
国 語 科 教 育 界 で は 、 戦 前 ・戦 後 、 著 作 集 ・個 人全 集 (垣内 松 三 ・西 尾 実 ・大 村 は ま ・倉 澤 栄 吉 ︶ も 刊 行 さ れ 、
近 現 代 国 語 科 教 育 のみ のり の豊 か さ が 見 ら れ る 。 ︿ 朝 倉 国 語 教 育 講 座 ﹀ 刊 行 に は 、 国 語 科 教 育 実 践 ・研 究 の み の
り であ る と 共 に 、 さ ら に未 来 に 向 け て 、 新 し い成 果 を 生 み 出 す 母 胎 と も な り 、 指 針 と も な る 、 役 割 を 期 待 す る こ とが できる。
監 修 者 倉
地
澤
潤
栄
家
吉
本 講 座 が そ の使 命 ・役 割 を 十 分 に 果 た す よ う 願 って 、監 修 者 か ら の言 葉 と し た い。
野
ま え が き
国 語 科 教 育 は 、 明 治 時 代 の国 語 科 成 立 以 来 、 読 む こと の指 導 を 中 心 と し て お こな わ れ てき た 。 そ の こ と は 、 か
つて 国 語 教 科 書 の書 名 が ﹁小 学 読 本 ﹂、 ﹁小 学 国 語 読 本 ﹂ な ど と な って いた こ と 、 一九 四 一 (昭 和 一六) 年 制 定 の
国 民科 国 語 で は 低 学 年 使 用 書 が ﹁ヨミ カ タ﹂、 ﹁よ み か た ﹂ と な って いた こ と か ら も う か が え る 。
戦 後 の国 語 科 教 育 は 、指 導 目 標 を ︿音 声 言 語︱ 聞 く ・話 す 、 文 字 言 語︱ 読 む ・書 く ﹀ の 二対 四 面 の言 語 活 動 力
を 育 て る こと に お き 、 学 習 指 導 要 領 は そ の 目 標 構 造 に 即 し て、 指 導 事 項 ︵指 導 内 容 ︶ を ︿聞 く こと ・話 す こと ・
話 す こと ・聞 く こ と 、 B
書く こと 、 C
読 む こと ﹀ と あ る よ う に 表 現
読 む こ と ・書 く こ と ﹀ の順 に 提 示 し た 。 一九 七 七 ︵昭和 五 二︶ 年 の要 領 改 訂 以 降 、 そ の記 述 順 序 に は紆 余 曲 折 が あ り 、 現 行 で は 、 周 知 のよ う に 、 ︿A
活 動 を 先 行 さ せ る 示 し 方 に な って いる 。 こ れ は 、 国 語 科 授 業 が な お 戦 前 の 傾 向 を 受 け 継 ぎ 、依 然 と し て ︿読 む こ
と ﹀ 中 心 に お こ な わ れ て いる 状 況 に 対 処 す べ く 、 表 現 能 力 の育 成 の重 要 性 を 強 調 す る 意 図 を 示 す も の で あ る 。
今 日 、 情 報 化 社 会 の急 速 な 発 達 に 応 じ る言 語 能 力 と し て、 コミ ュ ニケ ー シ ョン の伝 達 力 、 伝 え 合 う 力 の育 成 が
重 要 視 さ れ 、表 現 ・伝 達 活 動 に 重 点 を お く 授 業 改 革 への取 り 組 み が 意 欲 的 に お こな わ れ る よ う に な った 。し か し 、
も のご と の 理解 ・認 識 活 動 な く し て 表 現 ・伝 達 活 動 は成 立 し な い。 表 現 ・伝 達 の力 は 理 解 ・認 識 の確 か さ や深 さ
を そ の内 実 と し て いる 。 そ の意 味 で 、 理 解 ・認 識 の力 は 、 言 語 能 力 の核 心 と な り 、 土 台 と な る も の であ る 。 読
む こと に お け る 理 解 ・認 識 の心 的 活 動 は 極 め が た い奥 深 さ を 秘 め て い る。 そ のた め に 、 読 む 作 用 お よ び 読 み の指
導 の理 論 的 研 究 は 、 ︿聞 く ・話 す ・書 く ﹀ こ と の指 導 理 論 に比 し て、 は る か に 多 く の 蓄 積 が あ り 、 そ の内 容 も 多
岐 に わ た って いる 。 本 巻 は 、 そ れ ら を ふま え て 、 こ れ ま で の指 導 実 践 や そ の研 究 の到 達 点 を 確 か め 、 こ れ か ら の 実 践 研 究 の課 題 を 明 ら か に す る こ と を 意 図 し て 執 筆 さ れ た 。
第 一章 は 総論 と し て 、 読 書 の教 育 的 機 能 を 分 析 し て 、 そ の機 能 が も た ら す 教 育 的 価 値 を 明 ら か に し 、 読 む こ と
の 教 育 全 体 が め ざ す べ き 指 針 を 示 し て いる 。 第 二章 は 体 系 論 と し て、 読 書 と 読 解 を ど う か か わ ら せ て 読 む こと の
( 詩 )、 説 明 的 文 章 (小 ・中 学 校 )、 論 説 ・評 論
( 高 校 )、 古 典 ﹀ の教 材 ジ ャ ン ル
指 導 の構 造 化 、 体 系 化 を 図 る べ き かを 論 じ た 。 第 三 章 は 、各 論 と し て 、 読 む こ と の指 導 の内 容 と 方 法 に 関 し て、 読 む対象 を ︿ 物 語、小 説、韻文
に 分 け 、そ れ ぞ れ の研 究 を 専 門 と す る 立 場 か ら 、そ の研 究 成 果 の 一端 を 記 述 し て も ら った 。第 四 章 は 終 章 と し て 、
こ れ か ら の社 会 を 生 き 抜 く た め に 必 要 な 読 書 の内 容 と 方 法 を 、 こ れま で の実 践成 果 を ふ ま え て明 ら か に示 し て い る。
読 む 力 の低 下 が 新 た な 問 題 と な って いる 今 日 、 本 書 が 、 読 む 力 の 何 た る か を 認 識 し 、 読 む 力 を 伸 ば す 指 導 の改 善 、 改 革 の礎 と な る こと を 望 ん で いる 。 二〇 〇五年 十月
本
雅
純
子
逸
夫
浜
山
第 二 巻 編者 小田迪
松
目
次
第 一章 読 む こと の機 能 と 教育
[野 地 潤 家 ] 1
1
︱そ の史 的展開 一 読 む こと ︵ 読 書 行 為 ︶ の機 能
4
[ 小 田迪 夫 ] 26
8
二 読 む こと ︵ 読書行為 ︶ の価値 三 読 む こと ︵ 読書生活 ︶ の設計 四 読 み手 ︵ 学 習者︶ の習得す べき読書機能 五 個 性読 み の育 成 そ の 一 六 個 性読 みの育 成 そ の二 七 読 む こと の指 導 の史 的展開 ︱先行研究 への案内
第 二章 読 む こと の指 導体系 ︱読 みの方 法 の指導 体系を求 め て 一 指導 体系 の意 義
13
16
18
26
5
二 読 む こと の指 導 の体系 化 の枠組 み 三 読書 ・読解指導 過程 の体系化 四 指導 内容 の段 階的系列 化 五 読 む こと の指導 の発展 方向 ︱情報読書 と教養読書
三 韻文 の学習指導
二 小説 の学習指導
一 物語 の学習指導
[植 山 俊 宏 ] 99
[足 立 悦 男 ] 79
[山 元 隆 春 ] 62
[ 松山雅 子] 47
五 論 説 ・評 論 の学 習 指 導 ︱︿価 値 判 断 ﹀ と ︿対 話 ﹀ の成 立
六 古典 の学習指導
第 四章 これ か ら の読 む こ と の学 習 指 導 ︱ 認 識 世 界 を 広 げ 、 確 か な 国 語 学 力 を 育 て る
一 子供時代 の読書体 験
[ 浜 本 純 逸 ] 157
[ 渡 辺春美 ] 135
[守 田庸 一] 117
四 説明 的文章 の学 習指導
第 三章 読む こと の指導 の内容 と方法
28
32
37
44
47
158
索
二 読 む こと の種 類
164 159
185
三 読む こと の学 習指導 引
第 一章 読 む こと の 機能 と 教 育
︱そ の史 的 展 開
一 読 む こと ︵ 読 書 行 為 ︶ の機 能
読 む こと ︵ 読 書 行 為 ︶ の機 能 と し て は 、ま ず 精 読 ・多 読 の 二 つが 見 い出 さ れ る。精 読 と 多 読 と 、 こ れ ら 二 つは 、
︵ 児
読 む こと ︵ 読 書 行 為 ︶ の両 極 で あ る と も 見 ら れ る 。精 読 と いう 読 書 機 能 は 、読 み 手 ︵学 習 者 ︿児 童 ・生 徒 ・学 生 ﹀︶
の思 考 力 を 精 密 な も の にし て いく 。 精 確 な も の に し て いく 。 そ れ に 対 し て、 多 読 と いう 読 書 機 能 は 、 読 み手
童 ・生 徒 ・学 生 ︶ の視 野 を 広 げ 、 問 題 ︵あ る いは 課 題 ︶ を 多 角 的 に発 見 し て いく 力 を 育 て て いく 。 読 み手 に ﹁発 見 力 ﹂ を 育 て て いく 機 会 を 得 さ せ る。
思 考 力 を 精 密 に し 、 発 見 力 を 豊 か にす る 読 む こ と ︵ 読 書 行 為 ︶ の 両 極 を な す 精 読 ・多 読 は 、 読 み手 の人 間 性 の 内 面 に、 求 心 的 に 、 ま た 拡 散 的 に 係 わ る と こ ろ大 で あ る 。
つ いで 、 読 む こ と ︵ 読 書 行 為 ︶ の機 能 と し て 、 形 象 読 み ・情 報 読 み の 二 つが 見 い出 さ れ る 。 精 読 ・多 読 が ﹁何
を ど う 読 む か ﹂ のど う に 力 点 を 置 い て考 え ら れ て い る のに 対 し て、 ﹁何 を ど う 読 む か ﹂ の何 に 力 点 を 置 いて 考 え る と 、 読 書 行 為 の対 象 と し て の形 象 ・情 報 が 見 い出 さ れ てく る 。
形 象 読 み は 、 読 み手 に内 面 的 世 界 を 構 築 さ せ る 。 読 み手 が ま と ま り を 持 った 、 一つの 世 界 を 構 築 し て いく と い
う 営 み は 、 読 書 行 為 の機 能 と し て最 も 注 目 さ せ ら れ る 。 こ の形 象 読 み に対 し て、 情 報 読 み は 、読 み 手 に 必 要 と す
る情 報 を 得 さ せ る 。 必 要 と す る情 報 の確 保 あ る いは 摂 取 に よ って 、 読 み手 の学 習 者 ・生 活 者 ・職 業 人 と し て の活
動 は 、新 陳 代 謝 を す る こと が でき 、あ る い は潤 滑 油 を 得 る 。 広 く 、 随 時 に 、 必 要 な 情 報 を 入 手 し 、 摂 取 し 、 活 用
し て いく 情 報 読 み も ま た 、 読 書 行 為 の 機 能 と し て、 読 み手 の日 常 生 活 に 重 要 な 役 割 を 保 ち 続 け る 。
←何を ←どんなに
と いう 、動機 ←目的
︵ 読
読 書 行 為 の機 能 が 、 精 読 ・多 読 、 形 象 読 み ・情 報 読 み の いず れ で あ れ 、 そ の機 能 を 活 動 さ せ 、 充 足 さ せ て いく
た め に は 、 読 む こと の技 能 ︵スキ ル︶ を 視 野 に 入 れ 、 そ の活 用 を 工夫 し て いか な け れ ば な ら な い。読 む こと
←何のために
書 行 為 ︶ を 読 む こと の技 能 ︵スキ ル︶ と いう 機 能 的 視 点 か ら 分 節 し てと ら え て いく こと が 必 要 にな る 。 ﹁読 む こと ﹂ ︵ 読 書 行 為 ︶ は 、 そ の活 動 態 を 、きっかけ ←対象︵資料︶ ←方法 と し て と ら え る こ と が でき よ う 。
読 み 手 の心 情 を 豊 か に し て いく た め の ﹁た のし み読 み ﹂、 知 識 情 報 を 求 め る た め の ﹁し ら べ読 み ﹂、 こ れ ら は い
ず れ も 読 書 行 為 の 機 能 と し て 代 表 的 な も の で あ る 。 いず れ も 、 読 み 手 が 興 味 ・関 心 に 触 発 さ れ つ つ、 何 か︵ 文 章 ・作 品︶ を 選 ん で読 み進 み 、 読 み 取 り 、 読 み 深 め て いく こと に な る 。
心 情 を 豊 か にし て いく た め の ﹁た の し み 読 み ﹂ は 、 形 象 読 み と 密 接 に係 わ り 、 精 読 ・多 読 と も 係 わ り を 持 つ。
︵ 読 書 行 為 ︶ の主 要機 能 を 、 方 法 の面 か ら 精 読 ・多 読 、 対 象 の面 か ら 形 象 読 み ・情 報 読 み 、 目
知 識 ・情 報 を 求 め る た め の ﹁し ら べ 読 み ﹂ は 、 情 報 読 み そ のも の で あ り 、 精 読 ・多 読 と も 係 わ り を 持 つ。 以 上 、 読 む こと
的 の面 か ら ﹁た の し み 読 み ・し ら べ読 み ﹂ と し て 取 り 上 げ た が 、 こ れ ら の読 書 機 能 は 、 ど のよ う な 活 動 と し て生
か さ れ て いく のか 。主 要 機 能 の活 動 態 と し ては 、左 のよ う に 三 つが見 い出 さ れ る 。
︵一︶仕 事 ︵ 職 業 ︶ の た め の読 書 行 為 ︵二︶ 余 暇 ︵趣 味 ︶ の た め の読 書 行 為
︵ 職 業 ︶ の た め の読 書 行 為 に つ い て
︵三︶省 察 ︵探 索 ︶ の た め の読 書 行 為
︵一︶仕 事
︵ 職業︶ に熟達 し、仕事 ︵ 職 業 ︶ を 充 実 さ せ 、 選 ん で仕 事
︵ 職 業 ︶ を 創 造 し て いく の
は っき り と し た 目 的 ・目 標 を 持 ち 、 必 要 感 に 立 って、 実 用 性 を 目 ざ し た 、 職 業 人 ︵ 社 会 人 ︶ に 欠 く こ と の でき な い読 書 行 為 で あ る 。 仕 事
に、読 書 行 為 は ど う いう 役 割 を 果 た し て いく のか 。読 書 行 為 は 、ど う いう 仕 事 ︵職 業 ︶ に も 必 須 のも のと な ろ う。
︵二︶余 暇 ︵ 趣 味 ︶ の た め の 読 書 行 為 に つ いて
余 暇 の過 ご し 方 ・愉 し み 方 は 、読 書 行 為 に の み限 ら れ る べき も の で は な い。 多 角 的 、 多 面 的 であ って よ い。 余
暇 のた め の読 書 を し な いか ら と 言 って、 そ の こと で責 め ら れ る べき で は な い。 し か し 、 余 暇 のた め の 読 書 行 為 の
︵ 探 索 ︶ の た め の読 書 行 為 に つ いて
意 義 、 在 り 方 に つ いて は 、 指 導 者 ・学 習 者 共 に 実 地 に 体 験 し て いく こ と が 望 ま し い。
︵三︶省 察
これ は、︵一 、︶ ︵二 の︶ 読 書 行 為 と 深 く 係 わ り 、 重 な る 面 も 多 い。︵二 の︶ 余暇 ︵ 趣 味 ︶ のた め の読 書 は 、 し な く ても す
む 面 も あ る が 、 こ の︵三 省︶ 察 ︵ 探 索 ︶ の た め の読 書 は 、 読 み手 一人 ひと り が ど う 生 き て いく か を 求 め 、 省 み 、 探 っ
て いく た め の読 書 と し て、 不 可 欠 のも ので あ る 。︵二 、︶ ︵三 は︶、 両 者 係 わ り 合 う 場 合 が あ り 、截 然 と 分 け てし まう こ
と は でき な いが 、 読 み 手 が 主 体 と し てど う 生 き て いく べき か を 、 た え ず 探 り 求 め 、 確 か め て いく 読 書 行 為 は 、 目
の前 の実 用 的 ・功 利 的 目 的 か ら は 遠 い存 在 で あ る が 、 生 き 方 の 上 で は 、 最 も 重 要 であ る 。 世 に 言 わ れ る 、﹁一冊 の 本 ﹂ は 、 こ の︵三 に︶ 属 す る 書 物 が多 い。
︵ 探 索 ︶ のた め の読 書 は 、 専 門 ・余 暇 の根 底 に主 軸 と し て位 置 づ け ら れ る べ き も のと 見 る
︵一 仕︶事 ︵職 業 ︶ のた め の読 書 、︵二 余︶ 暇 ︵ 趣 味 ︶ のた め の読 書 は 、 読 み 手 に と って 、生 活 の両 面 ︵ あ る いは 表 裏 ︶ と も 言 う べく 、︵三 省︶ 察
こと も でき よう 。 そ れ は真 の意 味 で 、 ﹁教 養 ﹂ のた め の読 書 と 言 い得 よ う 。
二 読 む こと ︵ 読 書 行 為 ︶ の価 値
読 む こ と ︵ 読 書 行 為 ︶ の機 能 の活 動 か ら 、 ど う いう 価 値 が 生 み 出 さ れ る で あ ろう か 。 左 の よ う にも 考 え ら れ よ う 。
︵一︶ 読 書 行 為 に よ る 、 新 し い心 情 体 験 の喚 起 ・増 幅 ・確 か め ・反芻 ・洗 練
︵二︶ 読 書 行 為 に よ る 、 新 し い思 考 体 験 の 獲 得 、 論 理 の獲 得 、 問 題 点 ︵む ず か し さ ︶ の解 決 、 解 決 への示 唆 ︵三︶ 読 書 行 為 に よ る 、 抽 象 化 ・概 念 化 ・具 象 化 への 契 機 ・実 質 の把 握
これ ら は 、 既 に読 書 行 為 の効 用 と し て 指 摘 さ れ 、 説 述 さ れ てき た 項 目 であ る が 、 自 発 的 自 主 的 な 読 書 行 為 が ど
れ だ け 多 く の価 値 を 生 み出 し創 成 し て いく 可 能 性 を 有 し て いる か 。 改 め て、 そ の豊 か さ ・多 様 さ に 注 目 せ ず に は いら れ な い。
︵ 態 ︶ と も 見 る こと が でき る 。 そ れ ら は 形 象 的 世 界 性 ・論 理 的 構 造 性 を 有
読む こと ︵ 読 書 行 為 ︶ の対 象 、 あ る いは 媒 材 と し て の書 物 ︵ 文章 類、作品 ︶は、目 的に即す る構造を有 し、人 間 の知 恵 ・思 考 ・心 情 ・行 為 の結 晶 体
︵ 探 索 ︶ のた め の読 み︱
に着目
精 読 ・多 読 、 形 象 読 み ・情 報 読 み、 ﹁た の し み 読 み ﹂・
︵ 読 書 行 為 ︶ に よ る 、 さ ま ざ ま な 価 値 の 産 出 ・創 成 が 目 ざ さ れ て いる と 言 え よう 。
す る。 読 み 手 と し て 、 読 む こ と ︵ 読 書 行 為 ︶ を 通 し て、 何 か を 感 受 し 、 思 考 し 、 把 握 す る と いう 時 、 そ こ に は 読 む こと
︵ 読 書 行 為 ︶ の持 つ機 能 面︱
︵ 職 業 ︶ のた め の 読 み ・余 暇 ︵ 趣 味 ︶ のた め の 読 み ・省 察
読 み手 と し て、 読 む こと ﹁し ら べ読 み﹂、 仕 事
し つ つ、自 ら の読 書 行 為 を 真 に 意 義 あ ら し め る よ う 努 め る こと 、 本 格 的 読 書 行 為 た ら し め る こ と は 、 自 ら の読 書
行 為 を 通 し て、 さ ま ざ ま な 新 し い価 値 を 生 み出 そ う と し て い る の だ と 考 え ら れ る 。
三 読 む こと ︵ 読 書 生 活 ︶ の設 計
読 み手 と し て、 自 ら の読 む こ と ︵ 読 書 行 為 ︶ を 律 し て いく の に は 、 さ ら に 充 実 さ せ て いく の に は 、 自 ら の読 書
読む こと ︵ 読 書 行 為 、 習 慣 を 含 む ︶ を 成 立 さ せ るた め に は 、 読 書 に 関 す る 、 読 書 のた め の 、 生 き た
生 活 の 設 計 を ど う す る か が 重 要 な 課 題 と な る。 何 のた め に 、 何 を 、 ど の よう に 、 ど う いう き っか け で、 読 ん で い く のか 。︱
情 報 が 必 要 と な る 。 と り わ け 、 何 を 読 む べき か 、 何 を こ そ 読 む べ き か に つ い ては 、 読 み 手 一人 ひ と り が適 切 な 読
書 情 報 を 確 保 し な け れ ば な ら な い。
読 み 手 一人 ひ と り が そ れ ぞ れ各 自 の読 書 生 活 を 設 計 し て いく た め に は 、 す ぐ れ た 読 書 生 活 者 ︵ 行 為 者 ︶ の指 導
助 言 、 あ る いは 垂 範 に よ ら な く ては な ら な い。 同時 に 、 自 ら 読 書 生 活 のた め の情 報 を 入手 し 、 活 用 し て いく 方 法
私 ︵ 野 地 ︶ は 、 か つて 、 司 書 講 習 の 講 師 を 依 頼 さ れ 、 広 島 の某 女 子 大 学 四年 生 有 志 を 対 象 に し て 、 ﹁図 書
を 習 得 し て いか な く て は な ら な い。 ︱
︵ 資 料 ︶ の選 択 ﹂ に つ いて 講 義 を し た こ と が あ る 。 受 講 者 の 感 想 に は 、 読 書 の た め の読 書 情 報 のあ る こ と を 初 め
︵ 新 聞 ・月 刊 誌 ・週 刊 誌 ︶ ・書 評 ・新 刊 案 内 ︵広 告 を 含 む ︶ ・解 説 書 ・図 書 館 情 報
て 知 った と 記 し た 者 が 多 か った 。 出 版 図 書 目 録 ・参 考 図 書 目 録 ・読 書 新 聞 ・読 書 雑 誌 ︵﹁図 書 ﹂ ︿岩 波 書 店 刊 ﹀ を 初 め各 出 版 社 刊 行 ︶・読 書 欄
︵ 案 内 を 含 む ︶ な ど の存 在 に 、 あ ま り に も 無 関 心 であ った と 言 う ので あ る 。 彼 女 た ち の読 書 情 報 と し ては 、 学 友
か ら 直 接 受 け る読 書 体 験 情 報 が 主 な も のだ った 。 学 友 た ち の ﹁読 ん で お も し ろ か った ﹂ と いう 体 験 情 報 は 、 読 書
意 欲 ︵興味 ︶ に点 火 し て いく 。 そ れ は生 き た 情 報 で あ っても 、 仲 間 の間 の情 報 で あ って 、 そ れ だ け 限 ら れ た も の
︵ 児 童 ・生 徒 ・学 生 ︶ が 読 書 情 報 にた え ず 関 心 を 持 ち 、 そ れ ら を 適 切 に 的 確 に 把 握 し て 、 各 自 の 読 書 生
と な り やす い。 学習者
︵ 読 書 行 為 ︶ に つ いて ﹁典 型 体 験 ﹂
活 の設 計 に 役 立 つよう にし て いく こと 、 そ れ に は指 導 者 に よ る指 導 を 受 け て 、 そ の基 礎 を 固 め て いか な く ては な ら な い。 さ ら に 、 読 み 手 の読 書 生 活 の設 計 を 確 か な も の に し て いく に は 、 読 む こと と も いう ベ き も の を 大 事 に し て いか な く ては な ら な い。
読む こと ︵ 読 書 行 為 ︶ の機 能 的 傾 向 と し て、 左 のよ う に考 え て み る こ と も で き よ う 。
︵1 ︶ 求 心 性 ・凝 集 性︱
一 つ の テ キ ス ト 、 一人 の 作 家 ・作 者 、 一 つ の 領 域 、 一つ の 主 題 に つ い て 、 自 ら
の 読 者 行 為 を 集 中 さ せ 、 凝 集 さ せ て いく 。
あ れ こ れと 、 幅 広 く 、 手 あ た り 次 第 に 、 こ だ わ り な く 読 ん で いく 。
あ る 領 域 ・種 類 な ど に 極 端 に偏 って しま いや す い。
︵2 ︶ 断 続 性 ・散 発 性︱
︵3︶ 偏 向 性︱
そ こか ら 、 読 み手 は自 ら の読 書 行 為 を 通 し て、 読 書 の し か た ・骨 法 を と ら え て いく よう に す る 。
こうし た、さまざ まな読む こと ︵ 読 書 行 為 ︶ の機 能 的 傾 向 を 、 自 ら 納 得 の いく ﹁典 型 体 験 ﹂ と し てと ら え てみ る こ と︱
読む こと ︵ 読 書 体 験 ︶ の究 極 目 標 が 、 個 性 ﹁読 み ﹂ に設 定 さ れ る と す れ ば 、 読 み 手 各 自 は 自 ら の典 型 的 読 書 体
験 を 把 握 し て いく こ と を 必 須 と す る。 し か し 、 個 々 の読 み手 が 自 己 の典 型 的 読 書 体 験 を 決 め る こ と は 容 易 で は な
む こと ︵読 書 行 為 ︶ への没 入 ・没 頭︱
︵ 読 書 行 為 ︶ 指 導 の 核 心 は、 読 み 手 に 典 型 的 な 読 書 体 験 を ど の よう に 持 た
そ こか ら 読 書 の機 能 と 価 値 を 実 感 し て と ら え て いく こと も でき よう 。
い。 読 み 手 に と って 、 ﹁読 み ご た え ﹂ のあ った も のを 典 型 への手 が か り の 一つと す る こ と は で き よう 。 ま た 、 読
こ の よう に 考 え て く れ ば 、 読 む こと せ て いく か に 求 め ら れ よ う 。
︵ 職 業 ・専 門 ︶ の た め の読 書 に お い て、 必 読 の書 物 が出 現 し 、 そ れ を 入 手 し た 場
読 み手 と し て、 読 む こと ︵読 書 生 活 ︶ の設 計 を し て いく 場 合 、 臨 機 的 な 設 計 、 永 続 的 な 設 計 の 二 つが考 え ら れ る 。 そ の 一つ ︵ 前者 ︶は、仕事
合 、 そ の書 物 を 読 む こ と を 優 先 さ せ 、 読 み 抜 いて いく 方 式 が 習 慣 化 さ れ て いく 。 そ う す れ ば 、 読 書 を 日常 生 活 に
位 置 づ け て いく 予 定 し た バ ラ ン スは く ず れ ても 、 生 活 の流 れ を 中 断 し つ つ、 読 む こと ︵読 書 行 為 ︶ を 取 り 込 ん で
く る 。 そ れ は 読 み手 に と って 、 止 む に止 ま れ ぬ読 書 と も 言 え る 。 そ れ は 読 み手 に と って ﹁書 物 ﹂ と の喜 ぶ べ き 出
会 いと も 言 え る 。
も う 一つ ︵ 後 者 ︶ は 、 毎 日 、一定 の時 間 を 確 保 す る よ う 努 め 、 あ る いは 、 わ ず か の時 間 を も う ま く 生 か し て、
た え ず 読 み続 け て いく 、 長 期 永 続 型 の読 書 設 計 であ る 。 ね ば り 強 さ が 求 め ら れ る。 息 の長 い、 収 穫 の多 い、 喜 び に恵 ま れ る読 書 設 計 であ る 。
︵ 学 習 者 ︶ の 習得 す べき 読 書 機 能
読 むこと ︵ 読 書 生 活 ︶ の設 計 に は 、 短 期 決 戦 型 の読 書 行 為 、 長 期 持 久 型 の読 書 行 為 、 こ の 両 者 への 配 慮 が 求 め ら れる。
四 読 み 手
学 習 者 が 読 み手 と し て 目 ざ す べ き 読 書 機 能 と し て は 、 左 の よう に 三 つを 挙 げ る こ と が でき る 。
︵一︶ひと ま と ま り の文 章 表 現 を 読 み取 り 、 読 み 味 わ う こ と が でき る 。
︵ 読 書 活 動 ︶ の基 本 の機 能 、︵二 を︶読 書 行 為 ︵ 読 書 活 動 ︶ の 中 核 の機 能 、︵三 を︶ 読
深 さ ・鋭 さ ・ら し さ ︵ 読 み 手 一人 ひ と り の読 み の独 自 性 ︶ を 持 っ て読 ん で いく こ と が で
︵二︶読 む こと に よ って、知 識 ・情 報 ・問 題 が 見 い出 さ れ 、そ れ ら を 思 案 ・観 照 の対 象 と す る こと が でき る 。 ︵三︶個 性 読 み︱ き る 。
こ れ ら︵一 ∼︶ ︵三 は︶、︵一 を︶読 書 行 為
書行 為 ( 読 書 活 動 ) の仕 上 げ の機 能 と 考 え る こ と が で き よ う 。
読 み手 ︵ 学 習 者 ︶と し て 、読 書 機 能 が 正 確 か つ着 実 で あ り 、創 造 的 であ り 、個 性 的 であ る こ と︱ 読 書 指 導 に 当 た っ て、 た え ず 心 に 留 め 、 努 め て いか な け れ ば な ら な い。
こ の こと は 、
こ れ ら︵一 ∼︶ ︵三 の︶読 書 機 能 に つ い て は 、︵一 課︶ 題 読 み 、︵二 自︶由 読 み 、︵三 個︶ 性読 みに分け 、それ ぞれ指導を進 め てい く こと が でき る。
︵一︶ 課 題 読 み の指 導 ︱読 書 行 為 の 基 本 機 能 に 即 す る 指 導
ひ と ま と ま り の 文 章 表 現 を 読 み 取 り 、 読 み味 わう こと が でき る よう に 、 読 む こ と ︵ 読 書 行 為 ︶ の基 本 機 能 を 習 得 さ せ る に は 、 指 導 過 程 を どう 組 織 し て いけ ば い いか 。
形象読 み ︵ 精 読 ︶・情 報 読 み ︵ 精 読 ︶、 いず れ の場 合 も 、 読 書 行 為 の基 本 機 能 を 習 得 さ せ る た め 、 精 読 を 中 心 と した指導 過程が目ざ され る。
︵1︶ 課 題 の提 示 、 あ る いは 発 見 ︵2︶ 文 章 ︵ 作 品 ︶ への接 近 ︵3︶ 課 題 に も と づ く 精 読 ︵4︶ 精 読 を も と に し た 討 議 ︵5 ︶ 課 題 の 解 決 、 ま と め
課 題 読 み の指 導 過 程 は 、 課 題 に も と づ く 精 読 の訓 練 課 程 と な る 。 従 って、 精 読 材 料 と し て 何 を 選 ぶ か が 大 切 で
︵ 作 品 ︶ を 正 確 に精 し く 読
︵ 学 習 者 ︶ の読 み であ る 。 ︵4 ︶ の討
あ る 。 ま た 、 課 題 と し て、 指 導 者 が 、 読 書 機 能 のう ち 、 何 を 選 ぶか 、 ま た 学 習者 が 課 題 を ど の よう に 発 見 し て い く か が 大 切 で あ る。 前 掲 ︵2︶ の接 近 は 、 読 み の準 備 で あ り 、 ︵3︶ の精 読 は 、 個 々 の読 み手
議 は 、 個 々 の精 読 を も と に し て の話 し 合 い であ り 、 読 み 深 め であ る 。 与 え ら れ た 文 章 み 取 って いく 力 は読 解 力 の根 幹 で あ る 。
︵二︶自 由 読 み の指 導 ︱読 書 の中 核 機 能 に 即 す る指 導
読 む こ と ︵ 読 書 行 為 ︶ に よ って、 知 識 ・情 報 ・問 題 を 見 い出 し 、 さ ら に そ れ ら を 思 考 ・観 照 の対 象 と し て いく こと が で き る よう に さ せ る に は 、 ど う いう 指 導 過 程 を 組 織 す れ ば い いか 。
︵1 ︶ 読 物 ︵ 資 料 ︶ の選 択 、 あ る いは 発 見 ︵2 ︶ 文 章 ︵ 作 品 ︶ への接 近 ︵3 ︶ 問 題 ・知 識 ・情 報 な ど の 発 見
︵4 ︶ 発 見 し得 た も の の 深 化 ・拡 充 ︵5 ︶ 自 由 読 み の結 果 の 報 告 ・発 表
こ れ ら の指 導 過 程 の 実 践 は 、 一時 間 に は 収 め に く い。 二時 間 な いし 数 時 間 に 及 ぶ こと も あ ろ う 。 ︵1︶∼ ︵5︶
︵ 学
に 、 そ れ ぞ れ 一時 間 、 あ る い は そ れ 以 上 の時 間 を 配 当 し て いく こと も あ ろう 。 そ う な れ ば 、 ︵1 ︶∼ ︵5 ︶ 各 活 動 ・作 業 ご と に適 切 な 指 導 を 用 意 し な け れ ば な ら な い。
自 由 読 み は 、 課 題 読 み と 対 比 さ れ る が 、 提 示 さ れ た 課 題 に向 か って 読 ん で いく 課 題 読 み では な く 、 読 み手
習 者 ︶自 ら が自 ら の課 題 を 見 い出 す 読 み であ る 。自 由 読 みも ま た 、読 み 手 自 ら が 求 め て読 む 課 題 読 み と も 言 え る。
自 由 読 み を 通 し て 、 読 み手 ︵学 習 者 ︶ が そ れ ぞ れ 何 を ど のよ う に読 み 取 り 、 読 み 深 め 、 自 ら の読 書 行 為 を ど う
豊 か に し て いく か 。 価 値 あ ら し め る か 。 読 書 行 為 の喜 び を ど の よ う に し て得 て いく か 。 自 由 読 み の指 導 過 程 は 、 た え ず そ の こと を 目 ざ し て営 ま れ る 。
︵5︶ の自 由 読 み の結 果 の発 表 ・報 告 は 、 ︵1) の読 物 ︵ 資 料 ︶ の選 択 や 発 見 に 刺 激 や示 唆 を 与 え る であ ろう 。
︵3︶ の 問 題 ・知 識 ・情 報 な ど の発 見 は 、 主 と し て 情 報 読 み ︵し ら べ読 み 、 精 読 ・多 読 ︶ に お け る場 合 で あ っ
て、形象読 み ︵ た の し み 読 み 、 精 読 ・多 読 ︶ の場 合 に は 、 感 動 ・問 題 ・疑 問 な ど 、 生 き た 、 人 間 と し て の在 り 方 に 関 し て 、 多 く のも のを 読 み取 る であ ろ う 。
︵4︶ の発 見 し 得 た も の の深 化 ・拡 充 は 、 学 習 者 の 発 達 段 階 に よ って、 そ の程 度 を 十 分 考 慮 し て か か ら な け れ
︵ 学 習者︶ にさせ るか
ば な ら な い。 指 導 者 に よ る 、 深 化 ・拡 充 へ の示 唆 、 励 ま し 、 助 言 、 時 に は 賞 賛 を 必 要 と す る 。
自 由 読 み の指 導 で は 、 ︵1︶ の 読 物 ︵ 資 料 ︶ の選 択 あ る いは 発 見 を 、 ど のよ う に 読 み手
に 、 細 心 の 心 配 り を 要 す る 。 自 由 読 み が 個 々 の学 習 者 に 喜 び を も た ら し 、 み の り多 いも の に な る時 、 そ れ は そ れ
ぞ れ の読 み手 が や が て 典 型 的 な 読 書 体 験 を す る契 機 に な ろう 。 読 書 行 為 の典 型 を ど の よう に 得 さ せ る か 。 自 由 読 み の指 導 は 、 た え ず そ れ を 目 ざ し て営 ま れ る 。
︵三︶ 個 性 読 み の指 導 ︱読 書 の 仕 上 げ の機 能 に即 す る 指 導
課 題 読 み 、 自 由 読 み 、 そ れ ぞ れ の指 導 が 究 極 的 に 目 ざ し て いる のは 、 個 性 読 み であ る 。 読 み手
︵ 学 習 者 ︶ 一人
ひ と り が 課 題 読 み ・自 由 読 み を 自 在 に こ な し て いく よう に 努 め つ つ、 読 み手 と し て の自 己 確 立 を 目 ざ し て いく 。 そ こ に期 待 さ れ る のが 個 性 読 み であ る 。
︵1︶ 読 み 手 各 自 の読 書 生 活 の設 計 ︵2 ︶ 読 み 手 各 自 の読 書 行 為 の展 開 ︵3 ︶ 読 み 手 各 自 の読 書 行 為 の省 察 ︵4 ︶ 読 み手 相 互 に行 なう 読 書 成 果 の交 換
︵ 学 習 者 ︶ 一人 ひ と り が 各 自 そ れ ぞ れ に 読 書 行 為 、 読 書 生 活 を 豊 か に し て いく よ う に 、 一人 ひ と り の読
︵5 ︶ 読 み手 相 互 に努 め る 読 書 生 活 の向 上
読 み手
み 振 り 、 読 書 活 動 が 常 時 ほ ん と う に 大事 に さ れ て いく よ う に 指 導 過 程 を 手 が た く 組 ん で いく よう にし た い。
個 性 読 み は 、 読 み 手 一人 ひ と り に特 有 の創 造 的 な 読 み で あ り 、 そ れ ぞ れ の 読 み 手 ら し い、 深 さ 、 鋭 さ を 持 った
読 み で あ って、 わ が ま ま な 独 り よ が り の読 み は 認 め ら れ な い。 読 み手 相 互 に 読 み 振 り 、 読 み方 を 認 め合 い、 確 か め 合 い、 高 め 合 う こと が 望 ま れ る。
受 動 的 な 読 み か ら 自 発 的 な 読 み へ、 自 発 的 な 読 み か ら自 在 な 読 み へ、 さ ら に は 個 性 読 み へと 高 め て いく 、 こう
し た 読 書 行 為 ・読 書 生 活 を 深 め て いく 道 程 は 、 読 み手 あ る。
︵ 学 習 者 ︶ 一人 ひ と り の言 語 生 活 の確 立 し て いく 道 程 で も
個 性 読 み の指 導 は 、 読 み 手 ︵学 習 者 ︶ を 読 書 にお け る 創 造 に参 与 さ せ る こと を 目 ざ し て 努 め ら れ る 。 個 性 読 み
を 目ざ し て努 め る 時 、 各 自 の読 書 行 為 ・読 書 生 活 は 、 い つも 理 想 を 志 向 し つ つ、 常 時 緊 張 裡 に 高 め ら れ る 。
五 個 性 読 み の育 成 そ の 一
読 み 手 と し て、 読 書 行 為 ︵ 営 み ︶ が 初 々 し く 、 着 実 でか つ正 確 、 そ う し てそ の 人 ら しく 個 性 的 で あ る こと 、 こ
う し た 読 み手 の育 成 を 、 読 む こ と ︵ 読 書 行 為 ︶ の指 導 に 当 た る ひ と は 、 た え ず 念 頭 に置 い て努 めな け れ ば な ら な
い。 個 性 読 み は 、 読 書 行 為 の機 能 と 価 値 と を 主 体 的 に 包 み込 ん だ 、 一人 ひ と り の読 書 生 活 の充 実 ・確 立 を 目ざ す
も の であ り 、そ れ は 恣 意 的 ・独 断 的 な わ が ま ま 読 み であ っては な ら な い。個 性 読 み は 、自 己 の ペ ー ス で読 み 取 り 、
読 み 味 わ い、 読 み 深 め て いく 営 み であ る 。 ど れ だ け 読 み得 た か と いう 読 み の分 量 を 軽 視 す る こ と は でき な い が 、
そ の量 的 面 よ り も 、 個 性 読 み に よ って、 ど う いう 価 値 を 自 ら 生 み 出 し得 た か と いう 質 的 な 面 に重 き を 置 く 読 み で あ る。
本 来 、 読 み手 が 読 書 す る と 言 う 時 、 そ こ に は ﹁個 性 読 み﹂ し か な いと も 言 え る 。 し か し 、 そ れ は 単 に恣 意 的 な
読 み 振 り 、 読 み 方 を も ってよ し と す る の で は な い。 鋭 く 、 深 く 、 ら し さ ︵ そ の読 み 手 ら し さ ︶ を も って、 読 ん で
いく こ と に よ って成 り 立 つ、 読 み の理 想 像 と も 言 う ベ き も のを 目 ざ し て いく の で あ る 。 そ う いう 個 性 読 み ので き
る読 み 手 ︵ 学 習 者 ︶ を 育 て て いく こ と 、 そ れ は 読 書 指 導 の永 遠 の課 題 で あ る と 言 ってよ い。
︵ 職 業 ︶ のた め の読 み ・余 暇
︵ 趣 味 ︶ のた め の読 み ・省 察
︵ 探 索 ︶ のた め の読 み
既 に読 む こ と ︵ 読 書 行 為 ︶ のは た ら き 、 在 り 方 と し て取 り 上 げ てき た 、 精 読 ・多 読 、形 象 読 み ・情 報 読 み 、 た の し み 読 み ・し ら べ読 み 、 仕 事
等 、 これ ら の 読 書 機 能 は 、 す べ て 個 性 読 み に 統 合 さ れ て いく と も 考 え ら れ る 。
︵ 学 習 者 ︶ 一人 ひと り
︵ 学 級 ︶・社 会 ︵ 公 共 図 書 館 ・児 童 図 書 館 な ど ) に お け る読 書 環 境 の整 備 さ れ て い る の
︵ 生 活 ︶ 人 と し て 、 あ る いは 読 書 行 為 者 と し て 育 て て いく こと を 意 味 す る 。 個 性 読 み が 生 い立
個 性 読 み は 、 読 み手 と し て の自 己 確 立 を 目 ざ す も のと 言 って よ い。 そ れ は ま た 、 読 み手 を個性 豊かな読書 つた め に は 、 家 庭 ・学 校
が 望 ま し い。 と 共 に 、 読 書 習 慣 が あ る 程 度 読 み 手 ︵学 習 者 ︶ 一人 ひ と り に 身 に つ いた も のと な って 、 読 む こと
︵ 学 級 ︶ に お け る読 む こと ︵読 解 ・読 書 ︶ の学 習 指 導 は 、 時 と し て 一斉 読 み の 形 態 に傾 き や す い。 一人 ひ
︵ 読 書 行 為 ︶ の継 続 と 集 積 が 可能 と な る よ う に 、 た え ず 配 慮 さ れ て いか な け れば な ら な い。 教室
と り の 個 別 読 みを 育 て る こ と の重 要 な のは 十 分 承 知 し て いな が ら 、 な お 一斉 的 な 扱 いに 重 点 が 置 か れ やす い。 一
人 ひと り の読 みを 育 て て いこう と す る 、 個 別 読 み育 成 へ の心 配 り が な さ れ て 、 初 め て 個 性 読 み が 生 い立 ってく る のを 可 能 に す る。
読 み手 一人 ひ と り が 自 ら の読 み を 深 め 、 高 め て いく の に 、 す ぐ れ た 読 み 手 の豊 か な 読 み 振 り 、確 か で鋭 く 深 い
読 み 振 り に 接 し て 、読 む こと ︵読 書 行 為 ︶ に お け る 発 見 の喜 び や 楽 し さ を 直 接 味 わ う こと は 大 事 で あ る 。 個 性 読 み への開 眼 、 会 得 のき っか け は 、 そ こ か ら 得 ら れ る と 思 わ れ る 。
個 別 読 み か ら 個 性 読 み へと 、 読 み手 と し て の自 己 確 立 を 目 ざ し 、 豊 か な 読 み手 と し て 成 長 し て いく た め に は 、
読 書 仲 間 の存 在 が ど う し ても 必 要 で あ る 。 め いめ い自 由 に自 主 的 に読 書 生 活 を 設 計 し 営 ん で いく の は 、 も と よ り
本 筋 で あ る が 、 読 書 行 為 に 関 し て 、 ま た 読 書 設 計 に 関 し て、 さ ら に 読 書 生 活 に関 し て 、 相 互 に 啓 発 し合 い、 励 ま
し 合 い、 深 め 合 って いく こ と の でき る 読 書 仲 間
︵ 読 書 グ ルー プ ︶ の存 在 は、 一人 ひと り の読 書 生 活 を 一層 開 か れ
た 、 か つ 一層 力 強 いも のと し て いく のに 欠 く こ と が でき な い。
以 上 、 個 性 読 み の育 成 に つ い て、 指 導 上 、 考 え て いか な け れ ば な ら な い問 題 と し て 、 左 の 五 つを 取 り 上 げ た 。
︵1 ︶ 読 書 環 境 への配 慮 ︵2 ︶ 読 書 習 慣 への配 慮 ︵3 ︶ 個 別 読 み 指 導 の 必 要 性 ︵4 ︶ 個 性 読 み 開 眼 への 配 慮 ︵5︶ 読 書 仲 間︵ グ ル ー プ︶ の必 要 性
こう し て み る と 、 一人 ひ と り の読 み 手 ︵ 学 習 者 ︶ と し て自 己確 立 を 目 ざ す よ う に さ せ 、 個 性 読 みを 生 い立 た せ る た め に は 、 指 導 上 、 深 い配 慮 を 要 す る こ と に 改 め て気 づ か さ れ る 。
︵ 学 習 者 ︶ の読 書 習 慣 は ど う いう 実 態 で あ ろ う か 。 さ ら にま た 、 子 ど も た ち 一人 ひ と り へ の読 む こ と ︵ 読書 行
わ が 国 の子 ど も た ち を 取 り 巻 いて い る、 現 下 の読 書 環 境 は 、 ど のよ う に 整 備 さ れ て い る の か 。 ま た 、 子 ど も た ち
こう し た 点 ︵ 課 題 ︶ を ふり 返 って み る と 、 わ が 国 の子 ど も た ち が 個
為 ︶ の指 導 上 の心 配 り が ど こま で な さ れ て いる か 。 個 性 読 み へと 指 導 し て いく た め の基 本 と 具 体 的 方 法 と は、 ど の よう に 見 い出 さ れ て いる であ ろう か 。︱
性 読 み を 会 得 し て いく 道 は 、 な お険 し く 遠 いと 思 わ れ てく る 。
六 個 性 読 み の育 成 そ の 二
私 が 個 性 読 みを 育 て て いく 方 途 と し て考 え た のは 、 た と え ば 、 左 のよ う な 項 目 に な る。
︵1 ︶ 読 み 手 と し て 、 た え ず 自 己 に 忠 実 で あ り 、 正 直 で あ る こ と 。
︵2︶ 読 み手 と し て、 読 む こ と ︵ 読 書 行 為 ︶ を 心 が け て いく こと 。
︵3 ︶ 読 み 手 と し て 、 読 み 取 り 方 、 読 み 深 め 方 に つ い て 、 自 己 の ペ ー ス を つ か ん で い く こ と 。
︵4︶ 読 み 手 と し て、 多 く の個 性 読 み に 啓 発 を 受 け 、自 ら の個 性 読 み の確 立 に資 し て いく よ う に す る こ と 。
︵5 ︶ 読 み 手 と し て 、 書 き 手 と し て 、 話 し 手 と し て 、 聞 き 手 と し て 、 自 ら の 言 語 生 活 へ の 省 察 を 鋭 く し 、
そ の向 上 に 意 欲 的 で あ る こと 。
︵6 ︶ 読 み手 と し て 、 読 書 情 報 への 関 心 が 深 く 、 そ れ ら を 自 ら の読 書 生 活 に 、 そ の設 計 に生 か し て いく こ と 。
︵7︶ 読 み手 と し て 、 数 多 く の書 物 ︵著 書 ・作 品 ︶ と の 出 会 いを 通 し て、 自 ら の人 格 形 成 を 目 ざ し て いく よう に す る こ と 。
︵ 職 業 ︶ の た め の読 み ・余 暇 ︵趣 味 ︶ のた め の読 み ・省 察 ︵探 索 ︶ のた め の読 み 等 に よ って 、 自
︵8 ︶ 読 み 手 と し て 、 精 読 ・多 読 を 通 じ て 、 ま た 、 形 象 読 み ・情 報 読 み 、 た の し み 読 み ・し ら べ 読 み 、 仕
事
ら の読 書 の世 界 を 、 柔 軟 で 、 堅 固 な も のた ら し め る こ と 。
こ れ ら ︵1 ︶∼ ︵8︶ は 、 本 格 的 な 個 性 読 み への心 構 え と し て 取 り 上 げ た 項 目 で あ る が 、 そ の基 本 は 、 読 み手 と
し て の自 己 の ペー スを 自 得 し て いく こと に 求 め ら れ よ う 。 読 書 行 為 ・読 書 生 活 に お い て、 ま た 読 書 仲 間 ︵グ ル ー
プ ︶と の読 書 活 動 に お い て、各 自 そ の ペ ー スを 持 し て いく こ と は 、 や さ し く は な い。 や は り 、各 自 が 工夫 を 重 ね 、 努 力 を し 、自 得 し て いく こと が 期 待 さ れ る 。
こう し た 個 性 読 み への方 法 を 、 学 習 者 一人 ひ と り に ど の よ う に習 得 さ せ て いく か 。 指 導 す る側 か ら の取 組 み と
し ては 、 ま ず 、 個 別 読 み の指 導 を 通 し て 、 さ ら に読 書 仲 間 ︵グ ル ー プ ︶ の指 導 を 通 し て 、 さ ら に は 課 題 読 み 、 自
由 読 み の 学 習 指 導 を 通 し て 、 こ れ ら の読 み の基 礎 あ る いは初 歩 を 習得 さ せ て いく よ う に し た い。指 導 理 念 な いし
到 達 目 標 と し て の個 性 読 みを 、 指 導 者 と し て見 失 う こと なく 、 す べ て の読 書 指 導 を 個 性 読 み へ の軌 道 に乗 せ て い
︵ 児 童 ・生 徒 ・学 生 ︶ と し て 、 指 導 者 か ら 、 ま た 、 級 友 ・読 書 仲 間 ︵ グ ル ー プ ︶ か ら 、 自 己 の読 み お よ
く よ う に し た い。 学習者
び 読 み 得 た こと に つ い て の 発 言 ・発 表 が 認 め ら れ 、 大 事 に 扱 わ れ た と いう 喜 び ・安 心 感 ・自 信 に は 、 第 三 者 が 推
察 す る 以 上 に深 く 大 き いも のが あ る 。 指 導 者 と し て、 学 習 者 一人 ひ と り が各 自 の読 み に お いて 、 進 境 いち じ る し
く 、 そ こ に個 性 読 み への確 か な 芽 ば え 、 そ の清 新 な 成 長 ぶ り を 認 め る こと の でき る喜 び は 格 別 で あ る 。
個 性 読 み を 育 て て いこう と す る指 導 者 の視 野 の中 に は 、 左 に掲 げ る 各 項 が 課 題 と し て据 え ら れ て いな け れ ば な ら な い。
︵1 ︶ 読 み手 各 自 の読 書 生 活 の設 計 ︵2 ︶ 読 み手 各 自 の読 書 行 為 の展 開
︵3︶ 読 み手 各 自 の読 書 行 為 の省 察 ︵4︶ 読 み手 相 互 の読 書 成 果 の交 換 ︵5 ︶ 読 み手 相 互 の読 書 生 活 の向 上
これらは、読 み手 ︵ 学 習 者 ︶ の読 書 生 活 に お い ても 大 事 な 事 項 で あ り 、 そ の自 己確 立 の た め 、 そ れ ぞ れ 発 達 水 準 に ふ さ わ し い目 標 と 方 法 と を 見 い出 し て いか な け れば な ら な い。
現 下 の 読 書 指 導 に お いて は 、 活 字 離 れ 、 読 書 離 れ の問 題 を 初 め 、 読 物 の問 題 な ど 、 多 く の問 題 ︵ 課題︶ を抱え
︵ 国 、 地 域 ︶ は 、 ど のよ う に 協 力 し て いけ ば よ いか 。 問 題 は 重 く 、 か つ困 難 では
て い る 。 こ の課 題 に 対 し て 、 人 間 形 成 と し て の 読 書 を ど のよ う に位 置 づ け 、 ど う 指 導 し て いけ ば よ い か。 こ の課 題 に対 し て、 学 校 ・家 庭 ・社 会
あ るが 、 私 と し て は 、 一つ の方 途 と し て 、 ﹁ 個 性 読 み﹂ を 提 示 し た 。
七 読 む こと の指 導 の史 的 展 開 ︱ 先 行 研究 への案 内
わ が 国 の読 む こと の 教 育 の史 的 展 開 に つ い て は、 注 目 す べ き 先 行 研 究 の積 み上 げ が 着 実 に な さ れ て き た 。 こ こ で は 、 そ の主 要 研 究 を 取 り 上 げ 、 紹 介 さ せ て いた だ き た い。
︵一︶全 国 大 学 国 語 教 育 学 会 によ る 、 読 む こ と の成 果 と 展 望
全 国 大 学 国 語 教 育 学 会 で は 、 読 む こ と の 学 習 指 導 研 究 の成 果 と 展 開 に つ い て、 分 担 し て調 査 ・研 究 ・考 察 が進
め ら れ 、 そ の成 果 が ﹃ 国 語 科 教 育 学 研 究 の成 果 と 展 望 ﹄ ︵二 〇 〇 二年 六 月 、 明 治 図 書 出 版 ︶ に収 録 さ れ た 。 報 告 は 五節 十 二項 か ら 成 り 、左 のよ う に 担 当 さ れ て いた 。
読 む こと の教 育 課 程 に 関 す る 研究 の成 果 と 展 望
冒 頭 に 、 ﹁序 ﹂ と し て、 小 田迪 夫 氏 に よ り 、 研 究 史 的 展 望 が な さ れ て い る 。
1
読 む こと の指 導 内 容 論 の成 果 と 展 望 ︵ 担 当 高木 まさき氏 ︶
1︶
読 む こと の 指 導 過 程 論 の成 果 と 展 望 ︵ 担 当 竹長 吉正氏︶
読 む こと の教材論研究 の成果 と展望
2︶
2
読 む こと の教材論研 究 の成果と 展望 ︵ 担 当 渋谷 孝氏 ︶
3︶
教科書教材 史研究 の成果と展望 ︵ 担当 橋本暢夫 氏︶
読 む こと の学習指導 の実践 に関す る研究 の成果と 展望
4︶
3
読 む こと の学習指導 実践史研究 の成果と 展望 ︵ 担 当 寺井 正憲氏︶
5︶
文 学的文章 の領域 におけ る実 践研究 の成 果と展望 ︵ 担当 足立悦男 氏︶
6︶
説明的文章 の領域 におけ る実 践研究 の成 果と展望 ︵ 担当 植 山俊宏 氏︶ 7︶
古 典領域 におけ る実 践研究 の成 果と展 望 ︵ 担当 世羅博 昭氏︶ 読 む こと の研 究 に お け る パ ラ ダ イ ム論 的検 討
8︶
4
学 習 者 論 的 アプ ロー チ の 現 状 と 課 題
9︶
︵ 担当 山元隆春 氏︶
発 達 論 的 アプ ロー チ の成 果 と 展 望 ︵担 当 岩 永 正 史 氏 ︶
読書 研究 の成 果と展望
て い る。
読書 心理学 の成 果と展望 ︵ 担当 塚田泰彦氏 ︶
読 書 指 導 の 理 論 ・実 践 研 究 の成 果 と 展 望 ︵ 担 当 増 田 信 一氏 ︶
第 11巻 ﹃国 語 科 理 解 教 育 論 ﹄ ︵1︶、 物 語 ・小 説 教 材 指 導 論Ⅰ
︵所 収 論 文 計 二 五 編 、 担 当 浜 本 純 逸 氏 、
なお、 こ の ﹃ 国 語 教 育 基 本 論 文 集 成 ﹄ に は 、 読 む こと の指 導 ・教 育 に 関 す る 論 文 ・論 考 が 左 の よ う に収 録 さ れ
に 所 収 論 文 に つ いて ﹁解 題 ﹂ が な さ れ て い る。
後 期 の読 書 指 導 論 の 時 代 的 展 開 ︵ 昭 和 二 〇 年 代 、 三 〇 年 代 、 四 〇 年 代 、 五 〇 年 代 、 六 〇年 代 ︶ が 解 説 さ れ 、 さ ら
第 18巻 ﹃国 語 科 読 書 指 導 論 ﹄ に は 、 計 二 四 編 の論 文 が 収 録 さ れ て お り 、 担 当 者 ・村 石 昭 三 氏 に よ って、 昭 和 戦
な る 論 文 を 収 録 し 、実 践 者 ・研究 者 に提 供 し た 、 画 期 的 な 刊 行 であ った 。
﹃国語 教 育 基 本 論 文 集 成 ﹄ ︵ 全 三 〇 巻 ︶ は 、 昭 和 戦 後 期 ︵一九 四 五 ∼ 一九 八 八年 ︶ の国 語 教 育 進 展 の確 か な 証 と
︵二 ︶﹃国 語 科 読 書 指 導 論 ﹄ ︵﹃国 語 教 育 基 本 論 文 集 成 ﹄ 第1 8巻 、 一九 九 三年 、 明 治 図 書 刊 ︶
な お 、 増 田 信 一氏 は 、 労 作 ﹃ 読 書 教 育 実 践 史 研 究 ﹄ ︵一九 九 七 年 四 月 、 学 芸 図 書 刊 ︶ を 刊 行 し て お ら れ る 。
5
10) 12) 11)
︵ 所収 論文 計 二五編、 担当 浜本純 逸氏 、
︵ 所 収 論文 計 四〇編 、担 当 渋 谷 孝 氏、 解
︵ 所 収 論 文 計 三 一編 、 担 当 渋 谷 孝 氏 、 解
︵ 所 収 論 文 計 三 七 編 、 担 当 望 月 善 次 氏 、 編 集 ・解
﹃ 国 語 科 理解 教 育 論 ﹄ ︵2 ︶、 物 語 ・小 説 教 材 指 導 論Ⅱ
解 説 ・解 題 ︶ 第 12巻 解 説 ・解 題 ︶ 第 13巻 ﹃国 語 科 理 解 教 育 論 ﹄ ︵3︶、 詩 歌 教 材 指 導 論 説 ・解 題 ︶ 第 14 巻 ﹃国 語 科 理 解 教 育 論 ﹄ ︵4 ︶、 説 明 文 教 材 指 導 論Ⅰ 説 ・解 題 ︶ 第 15 巻 ﹃国 語 科 理 解 教 育 論 ﹄ ︵5 ︶、 説 明 文 教 材 指 導 論Ⅱ 説 ・解 題 ︶
︵ 所 収 論 文 計 三 〇 編 、 担 当 小 和 田 仁 氏 ・小 川
第 16巻 ﹃国 語 科 と 文 学 教 育 論 ﹄、 文 学 教 育 論 と 指 導 研 究 ︵ 所 収 論 文 計 二 五 編 、 担 当 市 毛 勝 雄 氏 、解 説 ︶ 第 17巻 ﹃国 語 科 と 古 典 教 育 論 ﹄、 古 典 教 育 論 と 指 導 研 究 雅 子 氏 、 編 集 ・解 説 ︶
な お 、 国 語 科 教 材 、 教 材 研 究 方 法 に つ いて は 、 左 の よう に収 録 さ れ て いる 。
第 7巻 ﹃国 語 科 教 育 内 容 論 ﹄、 教 材 ・教 科 書 論 ︵ 所 収 論 文 計 三 六 編 、 担 当 中 洌 正堯 氏 、 解 説 ︶
第 24巻 ﹃国 語 教育 方 法 論 ﹄ ︵1︶、 教 材 研 究 方 法 論 ︵所 収 論 文 計 二 七 編 、 担 当 橋 本 暢 夫 氏 、編 集 ・解 説 ︶
︵三︶ ﹃国 語 教 育 史 資 料 ﹄第 一巻 ﹃理 論 ・思 潮 ・実 践 史 ﹄ ︵一九 八 一・昭 和 五 六 年 四 月 、東 京 法 令 出 版 刊 、野 地 潤 家 担当︶ 本 書 は 、左 の よう に 二編 八章 か ら 構 成 さ れ て いる 。
第 一編 国語 教 育 理論 ・思 潮 史
第 一章 明 治 期 ︵ 第 一節 初 等 教 育 、所 収 論 考 七 編 / 第 二節 中 等 教 育 、 所 収 論 考 九 編 ︶
第 三章 昭和戦前期
︵ 第 一節 初 等 教 育 、 所 収 論 考 一八編 / 第 二節 中 等 教 育 、 所 収 論 考 一二編 ︶
︵ 第 一節 初 等 教 育 、 所 収 論 考 二 〇編 / 第 二節 中 等 教 育 、 所 収 論 考 九 編 ︶
第 二章 大 正 期 ︵ 第 一節 初 等 教 育 、所 収 論 考 二 〇 編 / 第 二 節 中等 教 育 、所 収 論 考 七 編 )
第 四章 昭 和 戦 後 期 第 二編 国語教育実 践史
( 第 一節 読 む こ と 、 所 収 論 考 一三 編 / 綴 る こと 、 所 収 論 考 六 編 、話 す こ と 、 所 収 論 考
第 一章 明 治 期 ︵ 第 一節 初 等 教 育 、所 収 論 考 一九 編 /第 二 節 中等 教 育 、 所 収 論 考 三 編 ︶ 第 二章 大 正 期
︵ 第 一節 初 等 教 育 、 所 収 論 考 一九 編 / 第 二節 中 等 教 育 、 所 収 論 考 一〇 編 ︶
四編 / 第 二節 中 等 教 育 、 所 収 論 考 八 編 ︶ 第三章 昭和戦前期
第 四章 昭 和 戦 後 期 ︵ 第 一節 初 等 教 育 、 所 収 論 考 九 編 /第 二節 中 等 教 育 中 学 校 、 所 収 論 考 五編 / 高 等 学 校 所 収 論 考 四編 ︶
こ れ ら各 章 に は 、 初 め に ﹁概 説 ﹂ を 収 め 、 所 収 論 考 に は 、 各 論 に ﹁解 題 ﹂ を 附 し た 。
本 書 に は 、 明 治 期 以 降 、 現代
︵一九 五 七 ・昭 和 三 二年 ) に 至 る ま で の近 代 国 語 教 育 の 理 論 ・思 潮 史 並 び に実 践
史 に 関 す る資 料 ︵ 論 考 等 ︶を 精 選 し て収 録 し た 。冒 頭 に ﹁概 説 ﹂を 置 き 、各 期 ︵ 明 治 ・大 正 ・昭 和 ︿戦 前 ・戦 後 ﹀︶ の初 め にも ﹁概 説 ﹂ を 附 し た 。
︵五︶ ﹃教 科 教 育 百 年 史 ﹄ 本 文 編 ︵一九 八 五 ・昭 和 六 〇 年 九 月 、建帛 社 刊 、 生 江 義 男 代 表 、 伊 藤 信 隆 ・佐 藤 照 雄 ・ 瀬 戸 仁 ・宮 脇 理 編 / 同 上 、 資 料 編 ︶ 本 書 で は、 本 文 編 第 三 部 第 三 編 に お いて 、 左 の よう に 章 立 て が な さ れ て い る。
第 一章 明治期 の国語 科教育︱
大正 期 の国語 科教育︱
担当︶ 第 二章 第 三章 昭和 前期 の国 語科教育︱
新 学 制 期 の国 語 科 教 育︱
教育体 制 の整 備と 教科と し て の国語 科 の成 立 ︵一∼ 三節︶ ︵ 古 田東朔 氏
︵ 井 上敏 夫氏担 当︶
︵ 飛田多喜雄 氏担当 ︶
大正 デ モクラシー教育思潮 と文芸主義 国語科 教育︱
国語科 教育 におけ る社会 主義と 国家 主義︱
︵ 藤 原 宏 氏担
︵ 藤原 宏氏担当 ︶
生 活 経 験 への推 進 と コミ ュ ニケ ー シ ョン の言 語 教 育︱
こ の よう に 記 述 さ れ て お り 、 つ いで 、 第 四部 第 三 編 に お い て は、 左 の よう に 四 章 が 立 てら れ て い る 。
第 一章
系統 学習 の主 張と基礎 学力充 実 の視点︱
当)
第 二章 戦後 独立期 の国語科 教育︱
国語 の充実 と言語生活 の向上︱
人間形 成 の基礎 とし ての言語能力 の育成︱
︵ 瀬 戸 仁 氏担当︶
︵ 渡辺富美 雄氏担当 ︶
第 三章 高 度成長期 の国語科 教育︱
第 四章 現代国語科 教育 の課題と展望︱
こ こ に は 、 一九 四 〇 年 代 か ら 八 ○年 代 に か け て の 国語 科 教 育 の歩 みが 周 到 にか つ的 確 に述 ベ ら れ て いる 。
︵﹃ 六 国︶ 語 教 育 通 史 ﹄ ︵野 地 潤 家 著 、 一九 七 四 ・昭 和 四 九 年 九 月 、 共 文 社 刊 ︶
本 書 に は 、 初 等 ・中 等 国 語 科 教 育 の史 的 展 開 の ほ か 、 ﹁中 等 古 典 教 育 の史 的 展 開 ﹂ を 収 め て いる 。
︵﹃ 七 新︶ 編中学校国 高語 等学 科 教育法﹄ ︵ 湊 吉 正 ・野 地 潤 家 共 編 、 平 成 四 ・ 一九 九 二年 四 月 、 お う ふ う 刊 ︶ 本 書 に は 、 ﹁読 む こ と の教 育 の 展 開 ﹂ を 収 め て いる 。
以 上 、 読 む こと の指 導 の史 的 展 開 に つ い て、 主 要 先 行 研 究 への文 献 案 内 を さ せ て いた だ いた 。 直 接 、 論 述 を 進
め る こ と を 念 じ な が ら 、 こ のた び は そ の こと を 果 た す こ と が でき ず 、 紹 介 の み と さ せ て いた だ いた 。 ご 容 認 を い
た だ き た い。 な お 、 論 述 が 、 小 著 ﹃個 性 読 み の 探 究 ﹄ ︵一九 七 八 ・昭 和 五 三 年 一 一月 、 共 文 社 刊 ︶ に 拠 って い る こと も ご 諒 承 を いた だ き た い。
第 二章 読 む こと の指 導 体系 ︱読 み の方 法 の指 導 体 系 を求 め て
一 指導体系の意義
指 導 体 系 と はど のよ う な も の か。 ま ず 、 ﹁体 系 ﹂ の意 味 を 国 語 辞 典 で 確 か め て み る。 ﹁個 々 のも のを す じ みち を
立 て て 秩 序 づ け た 組 織 の全 体 。ま た 、個 々 の 認 識 を 一定 の原 理 に 基 づ いて 論 理 的 に 統一 し た 知 識 の全 体 ﹂ (﹃明 鏡 ﹄
大 修 館 書 店 ︶ と あ る 。 こ の ﹁体 系 ﹂ の意 味 記 述 に あ て は め て ﹁指 導 体 系 ﹂ を 定 義 し て み よう 。 記 述 の前 半 にあ て
は め れ ば 、 ︿個 々 の指 導 を す じ み ち を 立 て て秩 序 づ け た 組 織 の全 体 ﹀ と いう 意 味 に な る 。 こ の場 合 、 ﹁す じ みち を
立 て て ﹂ の ﹁す じ み ち ﹂ は 、 個 々 の指 導 の関 係 、 関 連 性 を 意 味 す る 。 後 半 の記 述 語 句 に あ て は め れ ば 、 ﹁個 々 の
認 識 ﹂ は ︿個 々 の指 導 内 容 ﹀ にあ た り 、 そ れ ら を 論 理的 に統 一す る ﹁原 理 ﹂ は ︿ 指導 目標﹀ にあた る。した が っ
て 、指 導 体 系 と は ︿一定 の指 導 目 標 の も と に個 々 の指 導 内 容 が 関 連 性 を 持 って 論 理 的 に 統 一さ れ た 組 織 の全 体 ﹀ の こ と で あ ると 定 義 づ け る こと が で き る。
授 業 者 は 、こ のよ う な 指 導 体 系 の知 識 を 持 って いれ ば 、そ れ に照 ら し て年 間 の指 導 計 画 を 立 て る こと が で き る 。
ま た 、 当 面 の指 導 が 指 導 体 系 の組 織 のど こ に位 置 す る か を 常 に意 識 し て 、 ほ か の指 導 に関 連 づ け た 授 業 を 構 想 す
る こ と が でき る 。 先 行 す る 指 導 と の関 連 性 や後 の指 導 への方 向 性 を も 見 通 し た 授 業 を 組 織 す る こと が でき る よ う
になる。
し か し 現 実 に は 、 教 科 書 単 元 の当 面 の指 導 内 容 を 明 確 に把 握 す る こ と に は 努 め ても 、 そ の学 年 を 通 し て の指 導
目 標 や 指 導 内 容 の構 成 に そ れ を 位 置 づ け て把 握 し 指 導 す る と いう 意 識 を 持 た な い で 授 業 し て い る 場 合 が 多 い。
も っと も 、 教 科 書 は 、 学 習 指 導 要領 に準 拠 し て、 学 年 単 位 の 、 さ ら に全 学 年 を 通 し て の指 導 の目 標 ・内 容 を 体 系
的 に構 成 し て いる の で 、 教 科 書 の内 容 や そ の指 導 指 示 に 忠 実 な 授 業 を す れ ば 、 形 の上 で は 一応 、 指 導 体 系 に即 し
た 指 導 を し て いる と いえ る かも し れ な い。 し か し 、 ﹁体 系 ﹂ の本 義 に 即 し て いえ ば 、 個 々 の指 導 内 容 は 、 ほ か の
指 導 内 容 と の 関 連 性 に お い てそ の存 在 意 義 、 存 在 価 値 を 持 つ。 し た が って、 そ の 関 連 的 意 義 が 把 握 さ れ て いな け
れ ば 、 そ の指 導 を ほか の指 導 に か か わ る よう に 組 織 し て、 学 力 を 効 果 的 に 伸 ば す 授 業 を 作 り 出 す こ と は 難 し い で あ ろう 。
さ ら に、教 科 書 を 順 次 こ な し て いく 指 導 で は な く 、学 習者 の状 況 に 応 じ た 独 自 の単 元 を 作 成 し よ う と す る な ら 、
そ の前 提 に 、 国 語 科 指 導 全 体 の 目標 と 内 容 に 関 す る体 系 的 な 認 識 が 必 要 で あ る。 自 主 単 元 の目 標 ・内 容 を そ の体
系 に位 置 づ け る こ と に よ って、 そ の指 導 が ど のよ う な 国 語 学 力 の形 成 に資 す るも のと な る か が 確 認 で き る か ら で あ る。
し か し 、 現 在 、 指 導 実 践 の拠 って 立 つべき そ のよ う な 指 導 体 系 が す で に 確 立 さ れ て い る わ け では な い。 実 践 者
や研 究 者 が 実 践 経 験 や そ の理 論 的 考 察 か ら 体 系 を 志 向 す る 論 や試 案 を 提 示 し て は いる が 、 知 識 と し て 共 有 さ れ る
べき 確 た る 体 系 は ま だ 確 立 さ れ て いな い。 いま だ そ れ は 、 体 系 を 求 め る者 の意 識 の中 に理 念 の レ ベ ル で 存 在 す る
と いう のが 実 情 で あ ろう 。 本 論 も 、 そ の理 念 を よ り 確 か な も のと す る た め の思 考 作 業 にと ど ま る 。
﹁読 む こと ﹂ の指 導 体 系 は 、 何 を ど う 読 ま せ て 、 ど ん な 読 む 力 を 育 て る の か を 課 題 と し て 、 読 む 対 象 す な わ ち
教 材 の選 択 ・配 列 の体 系 と 、 読 ま せ 方 お よ び そ の読 み に よ って つけ る能 力 ︵ 技 能 ︶ の体 系 を 構 想 す る こと が で き る 。 本 論 は 、 そ の後 者 に 関 す る考 究 であ る 。
二 読 む こと の指 導 の体 系 化 の 枠 組 み
︵一﹁生 ︶ 活 読 み﹂ と ﹁学 習 読 み ﹂
﹁読 む こと ﹂ の指 導 は 、 二 つの 柱 立 て か ら 成 り 立 つと 考 え ら れ て い る。 一つは 日 常 の読 書 行 動 力 を 育 て る読 み
の指 導 であ る 。 も う 一つは 、 読 書 活 動 に内 在 す る読 み 解 き 、 読 み 味 わ う は た らき を 強 め 、 そ の読 み 方 を 学 ば せ る
指 導 であ る 。 こ の 二 つ の指 導 部 門 に対 し て 、 か つて倉 澤 栄 吉 は 、 前 者 を ﹁生 活 読 み (目的 読 み )﹂、 後 者 を ﹁学 習
読 み﹂と名 づけた ︵ 注 1︶。 一般 に 、 前 者 を 読 書 指 導 、 後 者 を 読 解 指 導 と 呼 ぶ 習 わ し に な って いる 。
(3)﹂、
小 ・中 学 校 学 習 指 導 要 領 で は 、 周 知 のよ う に学 年 目 標 で 、 読 解 行 為 を 能 力 目標 、 読 書 行 為 を 態 度 目 標 と し て 示
し て い る。 し か し 、 こ の 二 つの 目 標 に は 相 互 関 係 は な い。 例 え ば 、 第 三 ・四学 年 の ﹁目標
目 的 に 応 じ 、 内 容 の中 心 を 捉 え た り 段 落 相 互 の関 係 を 考 え た り し な が ら 読 む こと が で き る よう に す る と と も に、 幅 広 く 読 書 し よ う と す る 態 度 を 育 てる 。
に お い て 、 ﹁内 容 の中 心 ﹂ や ﹁段 落 相 互 の関 係 ﹂ を 読 み と る こと と 、 ﹁幅 広 く 読 書 ﹂ す る こ と に は 、 直 接 の 関係 は な い。
﹁内 容 ﹂ に お い ても 、 第 三 ・四 学 年 の ﹁C 読 む こ と ﹂ の ﹁ア︱ いろ い ろ な 読 み 物 に 興 味 を 持 ち 、 読 む こ と ﹂
は 読 書 に 関 す る 事 項 で、 イ 以 下 の読 解 に 関 す る 事 項 と は か か わ り を 持 た な い。 イ 以 下 は 、 簡 略 化 し て いえ ば 、
︿イ︱ 論 理 的 理 解 、 ウ︱ 想 像 的 理 解 、 エ︱ 読 みと り 方 の 個 人 的 差 異 、 オ︱ 目 的 に 応 じ た 読 み と り 方 、 カ︱ 音 声 化
読 み ﹀ を 示 す 内 容 で あ る 。 イ ・ウ は ︿文 章 形 態 に 応 じ た 読 み ﹀、 エ ・オ は ︿読 み手 主 体 に 即 し た 読 み ﹀、 カ は
︿文 章 と 読 み手 の両 立 場 か ら の理 解 を 総 合 化 し た 音 読 ﹀ と いう よ う に事 項 が構 造 化 さ れ て いる 。 す な わ ち 、 読 書
に 関 す る アと 読 解 に関 す る 構 造 化 さ れ た イ 以 下 と が 並 立 し て いる の であ る 。 そ れ は 他 学 年 も 同 様 であ る 。
﹁読 む こと ﹂ の指 導 の体 系 化 の 大 き な 課 題 は 、 こ の よ う に学 習 指 導 要 領 で 並 立 記 述 になっ て いる 日 常 の ﹁生 活
読 み ﹂ に つな が る 読 書 指 導 と 、 教 室 の ﹁学 習 読 み﹂ と し て の 読 解 指 導 と を ど う か か わ ら せ 、 構 造 化 す べき か 、 と いう こ と であ る 。
︵二﹁生 ︶ 活 読 み﹂ と ﹁学 習 読 み ﹂ の接 点
︱ 通 読力
現 在 、 わ れ わ れ の共 有 す る読 解 指 導 の理 念 は 、 遡 る と 西 尾 実 著 ﹃国 語 国 文 の教 育 ﹄︵ 一九 二九︶ に 行 き つく 。
西 尾 は 、 読 解 の過 程 を ﹁読 み、 解 釈 、 批 評 ﹂ の 三段 階 に分 け て 、 ﹁読 む 作 用 の体 系 ﹂ と し た 。 こ の読 み の ﹁体 系 ﹂ に お い て注 目 し た いの が 第 一段 階 の ﹁読 み ﹂ の作 用 で あ る。
西 尾 は 、 ﹁読 み﹂︵通 読︶ の意 義 を 近 世 の ﹁素 読 ﹂ に 学 んだ 上 で、 次 のよ う に述 べ て いる 。
⋮ ⋮読 み の作 用 に は 既 に 解 釈 が 要 求 と し て働 き 、 批 評 の萌 芽 も そ こ に芽 ぐ ん で ゐ る こと を 否 む こ と は 出 来
な い。 又解 釈 は こ の読 み の 中 に 胚 胎 し つ つ、 同 時 に批 評 意 識 に導 か れ てそ の職 能 を 完 了 す る。 し た が つて 批
評 は ま た 、 読 み の段 階 に基 礎 を 置 き 、 解 釈 の 段 階 に は 指 導 原 理 と し て 働 き 、 や が て独 自 の任 務 に 到 達 す べ き
作 用 であ つ て 、 (中 略 ) こ れ を 具 体 的 な 意 識 作 用 と し て 省 察 す れ ば 、 要 す る に読 み に出 発 し読 み に 原 動 力 を
得 て展 開 す る 一作 用 で あ る 。 (中 略 ) 故 に 読 み は 理 解 に 対 す る 単 な る 準 備 過 程 で は な く て、 理 解 の 基 礎 体 験 に外 な ら ぬ ( 注 2)。
西尾 は ﹃ 国 語 教 室 の問 題 ﹄ (一九 四 〇 ) でも 、 ﹁読 み は 読 み方 教 授 の始 め で あ り 、 ま た そ の終 わ り で あ る ﹂ ( 注
3) と 述 べ、 ﹁﹃読 み﹄ を ﹃ 読 み﹄ と し て指 導 す る こと は 、 ﹃解 釈 ﹄ お よ び ﹃ 批 評 ﹄ を も そ の根柢 に於 い て指 導 す る こと に外 な ら な い﹂ (注 4) と 述 べ て いる 。
この ﹁ 読 み ﹂ に つ い ては 、蘆 田 恵 之 助 が そ れ よ り 古 く 、 ﹃ 読 み方 教 授 ﹄ (一九 一六 ) の 中 で ﹁読 む と いふ こ と は
読 み 方 教 授 の 第 一義 で あ る ﹂、 ﹁徹 底 し た 通 読 は 、 今 日 の読 み 方 教 授 に 特 に 声 を 大 に し て 要 求 す べ き 事 で あ る ﹂
( 注 5) と 述 べ て い る。 西 尾 実 が ﹁素 読 ﹂ に見 出 だ し た ﹁ 読 み ﹂ の は た ら き の重 要 性 を 、 授 業 実 践 の中 で自 得 し
て いた こと を 示 す 発 言 であ ろう 。 同 書 に 示 さ れ た ﹁冬 景 色 ﹂ の授 業 は 、 そ れ ま で の訓 古 注 釈 主 義 の読 み方 で な く
﹁通 読 ﹂ を 軸 に し た も の で 、 周 知 のよ う に 垣 内 松 三 の セ ン テ ン ス メ ソ ッド 理 論 の実 例 と な った 。 ま た 西 尾 実 は 、
の ち に確 立 さ れ た蘆 田 教 式 の特 質 を ﹁﹃よ む ﹄ に 始 ま つ て ﹃よ む ﹄ に 終 つて ゐ る こ と ﹂、 ﹁﹃よ む ﹄ を 基 本 軸 と し 、 そ れ の三 次 的 展 開 を 含 ん だ 立 体 的 発 展 ﹂ と と ら え て いる ( 注 6 )。
﹁読 み ﹂ す な わ ち ﹁通 読 ﹂ が こ のよ う に ﹁解 釈 ﹂ や ﹁批 評 ﹂ を 萌 芽 的 に内 在 さ せ た も の であ る と す る な ら 、 そ
れ は 日 常 の読 書 生 活 の読 み に お い ても 同 様 で あ ろう 。 通 読 に と ど ま る 日常 読 書 に お いて も 、 ﹁解 釈 ﹂、 ﹁批 評 ﹂ を
胎 胚 さ せ た 理 解 活 動 が お こ な わ れ て いる と 考 え る の であ る 。 し た が って、 日 常 読 書 で 無 自 覚 の う ち に培 わ れ た 通
読 力 は 、 ﹁学 習 読 み﹂ の読 解 の 原 動 力 と な る 。 ま た 、 ﹁学 習 読 み﹂ の指 導 過 程 で ﹁通 読 ﹂ を 適 切 に 導 く こと は 、 読
解 学 習 を 充 実 さ せ る だ け で な く 、 さ ら に ﹁生 活 読 み ﹂ の通 読 力 を も 高 め る 結 果 を も た ら す であ ろう 。そ の意 味 で 、
通 読 力 は ﹁生 活 読 み ﹂ の読 書 力 と ﹁学 習 読 み﹂ の読 解 力 と の接 点 と な ると 考 え る の で あ る 。
︵三 ︶︿ 読 書 ← 読 解 ← 読 書 ﹀ の指 導 構 造
読 解 作 用 が 読 書 活 動 に内 在 す るも のと す れ ば 、 作 用 は 活 動 な し に は 生 じ な いの で あ るか ら 、 ま ず 活 動 を 起 こ さ
せ る 指 導 を 先 行 さ せ な け れ ば な ら な い。 読 解 授 業 に お い て ﹁通 読 ﹂ が 重 要 視 さ れ る ゆ え ん で あ る 。 教 室 で の読 み
の 作 業 は 、 学 習 者 が そ れ ま で の読 書 経 験 で 培 った 既 有 の通 読 力 を は た ら か せ る こ と か ら 始 ま る 。 と す れ ば 、 ま ず 通 読 活 動 を 導 く 読 書 指 導 が 読 解 指 導 に 先 行 し てお こ な わ れ る 必 要 が あ る 。
読 解 指 導 は 、 読 書 活 動 に内 在 す る 読 解 作 用 を と り 立 て て 、 そ の は た ら き を 強 め る作 業 で あ る 。 そ の 意 味 で 、
﹁読 む こ と ﹂ の指 導 の枠 組 み は 、 読 解 指 導 が 読 書 活 動 お よ び そ の指 導 の コン テ ク スト の中 に 位 置 づ け ら れ る よ う
( 現 筑 波 大 学 ) 附 属 小 学 校 国 語 科 研 究 部 が 一九 六 四 年 に 作
に 構 成 さ れ る べき であ る 。 そ の 位 置 づ け を ど の よう に す べき か 。 そ の手 が か り と な る も の に 、 か つて 東 京 教 育 大 学
成 し た ﹁読 む こと ﹂ の指 導 の 目 標 ・内 容 (指 導 事 項 ) の体 系 が あ る。 学 習 指 導 要 領 の 目標 ・内 容 を 細 か く 分 化 し
て 示 し た よう な 細 目体 系 であ る 。そ のう ち の ︿ 読 書 ﹀に 関 す る学 年 別 目 標 は 、次 のよ う に設 定 さ れ て いた ( 注 7)。
一学 年 読 み 物 に 興 味 を 持 ち 、 進 ん で読 も う と す る 。
二学 年 読 み 物 に 親 し み、 終 わ り ま で 読 み 通 す 。 三 学 年 読 書 の範 囲 を ひ ろ げ 、 読 ん だ 本 に つ い て感 想 を も つ。
四 学 年 目 的 を も って読 書 し 、 必 要 な と こ ろ は 読 み かえ し た り 、 辞 書 を 調 べ た り す る 。 五 学 年 読 み物 を 自 主 的 に 選 択 し て 読 み 、 感 想 や 記 録 を 書 く 。
六 学 年 良 書 を 選 択 し て読 み 、 自 分 の読 書 生 活 を 反 省 し な が ら 、 そ の向 上を は か る 。
こ の読 書 行 為 の発 展 段 階 に お い て読 解 読 み が 接 点 を 持 ち 得 る のは 、 二 学 年 に位 置 づ け ら れ た ﹁終 わ り ま で読 み
通 す ﹂ 力 、 す な わ ち 通 読 力 で あ る 。 し た が って、 こ の指 導 目 標 に 即 す れ ば 、 ﹁終 わ り ま で 読 み 通 す ﹂ 通 読 力 の形
成 レ ベ ル に応 じ て、読 解 指 導 が 組 織 的 発 展 的 に お こな わ れ る よ う に す れ ば よ い。 ︿ 読 み 物 に興 味 を も ち 、親 し み ﹀、
︿読 書 の範 囲 を ひ ろ げ ﹀、 ︿目 的 を も って 読 書 し ﹀、 ︿ 読 み 物 を 自 主 的 に 選 択 し ﹀ と い った読 書 行 為 の指 導 は 、 読 解
指 導 の枠 の外 にあ って 読 解 指 導 を 包 摂 す る 指 導 領 域 と な る 。 既 有 の 通読 力 にも と づ く 読 解 指 導 に よ り 、 さ ら に 高
め ら れ た 通読 力 でも って、 読 書 範 囲 の拡 大 、 目 的 に 応 じ た読 書 、 読 み物 の選 択 な ど が お こ な わ れ 得 る よ う に 、 読 解 ・読 書 指 導 の体 系 を 組 織 す べ き であ る 。
三 読 書 ・読 解指 導 過 程 の体 系 化
以 上 の考 え にも と づ い て 、 ︿ 読 書 ← 読 解 ← 読 書 ﹀ 指 導 の展 開 過程 を デ ザ イ ンし て み よ う 。
Ⅰ 通 読 力 を 育 て る指 導
読 み聞 か せ 、 ブ ック ト ー ク 、 図 書 紹 介 な ど 。
︵ 基 礎 過程 ︶
︵1︶ 読 書 への いざ な い︱ ︵2︶ 読 み 進 め 、 読 み通 す こと の継 続
○ 叙 述 を た ど って 文 脈 の意 味 の展 開 を 理 解 す る 力 を つけ る 。 ○ 読 む こ と を 楽 し み つ つ、読 む スピ ー ド を つけ る 。 ︵3︶ 多 読 に よ る 通 読 力 の形 成
Ⅱ 読解力 を育 てる指導 ︵ 基 本 過 程 と 練 習 ・応 用 過 程 ︶ 1 基 本 学 習 ︵1︶ 通 し 読 み ○ 叙 述 を た ど り 、 通 読 力 に 応 じ て 内 容 を 読 み と る。 ○ 必 要 に応 じ て 漢 語 ・語 句 そ の他 の理 解 を 補 う 。
構 成 ・叙 述 を 分 析 し て
○ 通 し 読 み で 生 じ た 感 想 か ら 詳 し い読 み へ の意 欲 を 引 き 出 す 。 ︵2︶ 分 析 読 み︱
○ 通 読 で得 た 内 容 を さ ら に筋 道 だ て て 理解 し な が ら 、 詳 し く 読 み と る 。 ○ 通 読 で得 た イ メ ー ジ を き め こ ま か く 鮮 明 に す る 。
分析的 理解をま とめ て
○ 表 現 の仕 方 と そ の効 果 を 理 解 す る。 ︵3︶ 統 合 読 み︱
○ 主 題 、 要 旨 を 把 握 す る。
○ 作 者 ・筆 者 のも の の見 方 、 考 え 方 、 思 想 を 理解 し 、 感 想 ・批 評 文 を 書 く 。
○ 表 現 効 果 を 味 わ いな が ら 、 理 解 内 容 を 音 読 ・朗 読 に よ って 鑑 賞 す る。 文 章 の 一部 分 や短 い作 品 全 文 を 暗誦 す る。 ○ 分 析 ・統 合 学 習 の プ ロ セ ス を 学 習 作 文 に ま と め る 。 2 練 習 ・応 用 学 習
( 漢 字 ・語 彙 ・文 法 ・文 章 法 ・レ ト リ ック 等 )
︵1︶ 応 用 教 材 を 用 い て ︿通 し 読 み← 分 析 読 み ← 統 合 読 み ﹀ を 反 復 す る。 ︵2︶ 基 本 教 材 ・応 用 教 材 の理 解 過 程 で学 習 し た 言 語 事 項
を 確 認 、 整 理 し 、 練 習 学 習 に よ ってそ の定 着 を 図 る 。
︵3︶ 基 本 教 材 ・応 用 教 材 の読 解 内 容 を 活 用 し た表 現 活 動 や教 材 の 表 現 形 式 を 利 用 し た 作 文 活 動 な ど に より 、 分 析 ・総 合 読 み の学 習 成 果 の深 化 を 図 る 。 ︵4︶ 教 材 内 容 を 教 材 と 異 な る 表 現 形 態 で表 し、 表 現 能 力 の幅 を 広 げ る 。
読書力 を伸ば す指導 ( 発展過程) 1 課 題 読 書 ︵1︶ 情 報 読 み
○ 基 本 ・応 用 学 習 で 見 出 だ さ れ た 課 題 を 追 求 、 解 決 す る た め に 調 べ 読 みを す る 。
○ 調 ベ 読 み と そ の事 後 活 動 を と お し て、 必 要 な 情 報 の ︿検 索 ・収 集 ﹀、 ︿選 択 ・処 理 ﹀、 ︿再 構 成・
Ⅲ
創 造 ﹀ の方 法 を 習 得 す る 。 ︵2︶ メ タ 情 報 読 み
○ 情 報 資 料 か ら 伝 達 意 図 と 表 現 方 法 を 読 み と り 、 情 報 価 値 を 批 評 、 批 判 し て 、 メ デ イ ア ・リ テ ラ シ ー の基 礎 能 力 を 養 う 。 ︵3︶ 鑑 賞 読 み
○ 基 本 ・応 用 教 材 の作 者 の他 の作 品 を 一定 の 観 点 か ら 比 較 し な が ら 読 ん で 、 作 者 の個 性 や 思 想 を 知 り、文体 を味わう。
○ 基 本 ・応 用 教 材 と 題 材 ・テー マ ・思 想 、 文 体 、 人 物 造 型 な ど が 比 較 でき る 他 の作 者 の作 品 を 読
課 題 読 書 に 触 発 さ れ た 興味 関 心 か ら自 由 に図 書 を 選 ん で 読 み 、読 書 生 活 を 豊 か にす る 。
ん で、 読 書 の幅 を 広 げ る 。 2 自 由 読 書︱
以 上 のよ う に 、 Iを ﹁基 礎 過 程 ﹂、Ⅱ を ﹁基 本 過 程 お よ び 練 習 ・応 用 過 程 ﹂、Ⅲ を ﹁発 展 過 程 ﹂ と し て構 成 し た 。
学 年 段 階 は 考 慮 に 入 れ な い で、 ︿ 読 書 ・読 解 ・表 現 ﹀ を つな ぐ 観 点 か ら 、 指 導 内 容 の基 本 的 な も のを 一通 り 網 羅
し 、配 置 し たも の であ る 。学 年 段 階 を 考 え る な ら 、﹁I 基 礎 過 程 ﹂は 小 学 校 低 ・中 学 年 段 階 で 、 ﹁Ⅲ 発 展 過 程 ﹂
は学 年 段 階 が 上 が る に つれ て比 重 を 大 き く し て いく 指 導 が な さ れ る べき で あ ろう 。
Ⅰ の ﹁読 み進 め 、 読 み 通 す ﹂ 活 動 は 、 物 語 読 み物 を 中 心 と し て お こな う 。 物 語 の展 開 、 筋 を 追 う 楽 し さ を 味 わ
い つ つ読 み 進 む う ち に 、 話 の筋 を と ら え な が ら 読 み 通 す 力 が 育 つか ら であ る。 筋 を と ら え る力 は 、 物 事 の筋 道 、
論 理を と ら え る 力 の基 と な り 、 文 学 作 品 の み な ら ず 、 説 明 的 文 章 を 読 み解 く 基 礎 力 と も な る 。
Ⅱ の 1 ﹁基 本 学 習 ﹂ は 、 ﹁学 習 読 み﹂ の伝 統 的 な 手 順 に従 った 指 導 過 程 で あ る 。︵1︶ 通 し 読 み 、 ︵2︶ 分 析 読
み 、︵3︶ 統 合 読 み は 、 西 尾 実 ︿ 素 読 ・解 釈 ・批 評 ﹀、 石 山 脩 平 ︿通 読 ・精 読 ・味 読 ﹀ ︵ 注 8︶、 藤 原 与 一 ︿ 素材
読 み ・文 法 読 み ・表 現 読 み﹀ ︵ 注 9︶、 田近 洵 一 ︿表 象 化 ・構 造 化 ・創 造 化 ﹀ ︵ 注 10) な ど の そ れ ぞ れ の三 項 に 通 じ る 指 導 内 容 を と り あ げ て いる 。
﹁基 本 学 習 ﹂ は 、 後 の ﹁発 展 過 程 ﹂ で の ﹁情 報 読 み ﹂ ︵ 主 に説 明 的 文 章 ︶ と ﹁鑑 賞 読 み ﹂ ︵ 主 に文学 的文章 ︶ の 基 礎 と な る読 み の基 本 的 技 能 を 含 ん で いる 。
﹁基 本 学 習 ﹂ の ︵3︶ ﹁統 合 読 み ﹂ は 、表 現 活 動 に よ って 理 解 学 習 が統 合 さ れ る よ う に す る 。 表 現 す る こ と で理 解 を確か にさせ るのである。
Ⅱ の 2 ﹁応 用 教 材 ﹂ に つ い て言 え ば 、 こ れ ま で の教 科 書 は 、 一般 に応 用 学 習 に 適 う 教 材 を 具 備 し た 構 成 に は
な って いな いも の が多 い。 し か し 、 読 解 技 能 の習 得 のた め に は 反 復 学 習 が 必 要 で あ り 、 そ れ が 可 能 な 教 材 の開 発
に 努 め る べき であ る。 基 本 は応 用 す る こと で定 着 す る 。 そ の 意 味 で 、応 用 過 程 は 指 導 体 系 に 必 須 の要 件 であ る 。
﹁練 習 ・応 用 学 習 ﹂ ︵4︶ の ﹁教 材 内 容 を 教 材 と 異 な る 表 現 で 表 す ﹂ と いう の は 、 リ ラ イ ト 作 文 そ の他 、 さ ま ざ
ま の形 態 の多 様 な 表 現 活 動 を 意 味 す る 。 上 記 、 田近 洵 一の いう ︿創 造 化 ﹀ の活 動 であ る 。 創 造 は 材 料 す な わ ち 教
材 内 容 の深 い理 解 が あ って可 能 に な る 。 し た が って 、 こ の場 合 も 理 解 を 深 め る表 現 活 動 と な る 。
な お 、 ﹁言 語 事 項 ﹂ の練 習 学 習 は 、 基 本 教 材 の 学 習 過 程 に 付 随 し てお こな う ほ う が適 切 な 場 合 も あ ろう 。
Ⅲ の ︵1︶ ﹁情 報 読 み ﹂ は 、 課 題 追 求 、 問 題 解 決 の ﹁目 的 読 み ﹂ で あ る が 、 情 報 の摂 取 や 活 用 に 必 要 な ﹁調 べ
読 み ﹂ の方 法 を 学 ば せ る 点 で は 、 ﹁学 習 読 み ﹂ で あ る。 し か し 、 ﹁基 本 学 習 ﹂ に は な い読 み 方 が 学 習 さ れ る 。 ﹁調
べ 読 み ﹂ の対 象 は 必 ず し も 読 み物 的 な ひ と ま と ま り の文 章 で は な い。 読 む 目 的 に よ って 、 単 行 本 、 事 典 、 図 鑑 、
雑 誌 、 新 聞 そ の他 さま ざ ま であ り 、 読 み方 も さ ま ざ ま であ る 。 そ れ らを ま る ご と 読 む の で は な く 、 そ の 一部 か ら
必 要 な 情 報 を 抜 き 出 す 読 み方 で あ った り 、 情 報 の見 つけ 方 の学 習 で あ った り す る 。 例 え ば 、 ﹁書 名 ﹂、 ﹁目 次 ﹂、
﹁索 引﹂、 ﹁小 見 出 し ﹂、 ﹁は じ め の こと ば ﹂、 ﹁あ と が き ﹂ な ど が 情 報 を 見 つけ る 手 が かり と な る こ と を 学 ば せ る 。
た だ し 、情 報 解 読 、 情 報 処 理 に は 、 キ ー ワ一 ド、 キ ー セ ン テ ン ス、 要 点 、 要 旨 な ど を 捉 え る 読 解 技 能 、 要 約 す
る 技 能 な ど が 要 求 さ れ る 。 そ の 点 では 、 ﹁調 べ 読 み ﹂ は ﹁基 本 ・応 用 ﹂ の読 解 学 習 にも と づ く 発 展 学 習 で あ る 。
﹁鑑 賞 読 み ﹂ は 通 読 本 位 の読 み と な る が 、 先 に 述 べ た よ う に 読 解 作 用 ︵読 解 機 能 ︶ が 通 読 力 に 内 在 す る こと を 考 えれば 、同じく ﹁ 基 本 ・応 用 学 習 ﹂ か ら の発 展 で あ る と いえ よ う 。
Ⅲ の ﹁メ タ 情 報 読 み﹂ は 、 メ デ イ ア ・リ テ ラ シ ー 教 育 の 立 場 か ら 情 報 教 材 を 取 り あ げ て 、 ﹁基 本 学 習 ﹂、 ﹁練
習 ・応 用 学 習 ﹂ の過 程 を 組 ん で 指 導 す る のが 本 道 で あ る が 、 こ こ で は ﹁情 報 読 み ﹂ に付 随 す る 形 に し てと り あ げ て い る。
四 指導内容 の段階的系列化
︵一︶指 導 事 項 の系 列 化 の 問 題 ︱ 学 習指導 要領の検討
指 導 体 系 に は 学 年 段 階 を 跨 が った 指 導 事 項 の系 列 化 が 求 め ら れ る 。 あ る 学 年 段 階 で学 ば せ る 知 識 や 技 能 は 、 そ
の 前 の学 年 段 階 で習 得 し た 知 識 ・技 能 を 基 と し て学 ば せ 、 さ ら に 次 の学 年 段 階 の 学 習 の基 と な る よう に 、 指 導 事
項 を 系 と し て 設 定 す る の であ る 。 そ れ に よ って学 習 内 容 が 着 実 に 身 に つ い て いく よ う な 指 導 が でき る と 考 え る 。
わ れ わ れ は 、 そ のよ う な 体 系 の基 本 を 示 す も の が 学 習 指 導 要 領 であ る と いう 通 念 を 持 って い る 。 そ こ で 、 学 習
指 導 要 領 を モ デ ルと し て小 ・中 ・高 を 通 し た 指 導 系 列 の具 体 化 が でき な いか と 考 え て み る 。
事 実 、 旧 来 の学 習 指 導 要 領 は 、 概 ね 指 導 事 項 の系 列 を た ど る こ と が で き る よ う に構 造 化 さ れ て いた 。 し か し 、
現 行 の学 習指 導 要 領 は 、 小 学 校 で 低 ・中 ・高 の 三段 階 に、 中 学 校 で 二段 階 に区 切 って指 導 事 項 を 示 す よ う に改 訂
さ れ た た め 、 事 項 数 が 減 って そ の系 を 見 出 だ し にく く な って いる 。 指 導 事 項 の体 系 化 の た め には 、基 礎 ・基 本 と
な る 指 導 事 項 の精 選 と いう 立 場 か ら 事 項 を 限 定 す る の でな く 、 読 む 力 を 形 成 す る た め に 必 要 な 知 識 ・技 能 を 網 羅
し て そ の系 列 化 を 図 る べき であ る 。 そ れ に よ って 、 常 に、 と り あ げ る学 習 内 容 の指 導 系 列 への位 置 づ け を 自 覚 し た指導が できるか らである。
指 導 系 列 は 、 さ ら に 小 学 校 か ら 中 学 校 へ、 中 学 校 か ら 高 校 へと レ ベ ル 差 を つけ て つな が る よ う に 示 さ れ る べ き
で あ る 。 し か し 、 現 行 の学 習 指 導 要 領 で は そ の つな が り の段 差 は 必 ず し も 明 瞭 で は な い。 例 え ば 、小 学 校 第 五 ・
六 学 年 と 中 学 校 第 一学 年 の ﹁1 目 標 ︵3︶﹂ の能 力 の記 述 を 比 べ てみ ると 、 次 の よう な 問 題 が あ る 。
○ 目 的 に 応 じ 、内 容 や要 旨 を 把 握 し な が ら 読 む こと が で き る よ う に す る ⋮ ⋮ ︵ 小 五 ・六 ) ○ 様 々 な 種 類 の文 章 を 読 み内 容 を 的 確 に 理 解 す る 能 力 を 高 め る ⋮ ⋮ ︵ 中 一)
﹁でき る よ う に す る ﹂ と﹁ 能 力 を 高 め る ﹂ と は 差 を 示 す が 、 ﹁内 容 や要 旨 を 把 握 ﹂ と ﹁内 容 を 的 確 に 理 解 ﹂ と を
比 べ ると 、 ﹁要 旨 ﹂ が な い後 者 が レ ベ ル が 高 いと は いえ な い。 段 階 的 に は 、 内 容 の理 解 か ら 要 旨 の把 握 へと 進 む
のが 指 導 の順 序 であ る 。 そ の意 味 では 、 中 学 校 で後 退 し た よう な 記 述 に な って いる 。 中 学 校 に ﹁要 旨 ﹂ を 補 って
﹁内 容 や 要 旨 を 的 確 に ﹂ と す れ ば 、 ﹁的 確 に ﹂ が 段 階 性 を 示 す こ と ば と し て 効 い て く る 。
ま た 、 ﹁2 内 容 ﹂ で は、 小 学 校 第 五 ・六 学 年 と 中 学 校 第 一学 年 の情 報 読 み 指導 の記 述 の差 が あ いま いで あ る 。
オ 必 要 な 情 報 を 得 る た め に 、 効 果 的 な 読 み方 を 工 夫 す る こと 。 ︵ 小 五 ・六 ︶
カ 様 々な 種 類 の文 章 か ら 必 要 な 情 報 を 集 め る た め の読 み 方 を 身 に 付 け る こ と 。 ︵ 中一︶
﹁必 要 な 情 報 を 得 る た め﹂ の ﹁効 果 的 な 読 み方 を 工 夫 す る ﹂ と 、 ﹁必 要 な 情 報 を 集 め る た め の読 み方 を 身 に付 け
る﹂ と は 、 ど ち ら が よ り 高 度 な 読 み方 な の か 判 別 し に く い。 ﹁効 果 的 な 読 み 方 ﹂ のほ う が レ ベ ル の高 い技 能 の習 得 を 求 め て いる よ う に も 読 め る 。 段 差 を つけ た つな が り と は 認 め にく い。
さ ら に系 列 で問 題 な のは 、 中 学 校 の文 学 学 習 に 関 す る事 項 で あ る 。 小 学 校 の ウ の系 列 ﹁登 場 人 物 の心 情 や 場 面
に つ いて の描 写 な ど 、 す ぐ れ た 叙 述 を 味 わ いな が ら 読 む こ と ﹂ ︵ 第 五 ・六 学 年 ︶ を受 け 継 ぐ 事 項 が 中 学 校 で は 明
示 さ れ て いな い。 こ れ は いう ま でも な く 文 学 の学 習 に 必 須 のも の で、 平 成 元 年 版 ま で は 必 ず あ つた 事 項 で あ る 。
﹃ 学 習 指 導 要 領 解 説︱ 国 語 編︱ ﹄ に よ れ ば 、 第 二 ・三 学 年 の ﹁ウ 表 現 の仕 方 や文 章 の特 徴 に 注 意 し て読 む こと ﹂
が文 学 の読 み を 含 む と いう 。 ﹁表 現 の仕 方 ﹂ の中 に、 ﹁説 明 や 描 写 、 比喩 な ど 主 と し て文 学 的 な 文 章 に 多 く 用 いら
れ て いる様 々な 表 現技 法 を も 含 め ﹂ て いる ︵ 注 11 ︶ と いう ので あ る 。 し か し 、 こ れ は 文 学 か ら そ の表 現 特 性 のみ を 取 り 立 て た も の で 、 小 学 校 のウ 系 列 を ま る ご と 継 承 し た 事 項 と は いえ な い。
高 等 学 校 で は ﹁国 語 総 合 ﹂ に ﹁ウ 文 章 に描 か れ た 人 物 、 情 景 、 心 情 な ど を 表 現 に即 し て読 み 味 わ う こ と ﹂ と
あ って 、 これ が 中 学 校 を 超 え て小 学 校 の系 列 を 引 き 継 いだ 形 と な って いる 。 ま た 、 ﹁現 代 文 ﹂ のイ に も 同 類 の記
述があ る。
学 習 指 導 要 領 を 、 小 ・中・高 を 通 し た 指 導 内 容 ︵ 事 項 ︶ の体 系 化 の手 が か り と す る た め に は 、 上 記 の よ う な 不 備 を 改 善 し て体 系 の具 体 化 を 図 る 必 要 が あ る。
︵二︶ 読 書 ・読解指 導内容 の系列化
上 記 の 読 書 ・読 解 指 導 過 程 の体 系 案 では 、 指 導 内 容 は概 要 的 に し か 示 し て いな いが 、 そ れ を 系 列 化 し 、 具 体 化
す る 場 合 、 そ の枠 組 み 設 定 の参 考 に な る のは 、 学 習 指 導 要 領・高 等 学 校 ﹁現 代 文 ﹂ の ﹁内 容 ﹂ で あ る 。 ﹁読 む こ
と ﹂ だ け の科 目 で あ る ﹁現 代 文 ﹂ は、 ﹁国 語 総 合 ﹂ の ﹁読 む こ と ﹂ よ り も 、 項 目 が 明 確 に設 定 さ れ て いる 。
ア 論 理 的 な 文 章 に つ い て、 論 理 の展 開 や 要 旨 を 的 確 にと ら え る こと 。
イ 文 学 的 な 文 章 に つ い て、 人 物 、 情 景 、 心 情 な ど を 的 確 に と ら え 、表 現 を 味 わ う こと 。
ウ 様 々 な文 章 を 読 む こと を 通 し て 、 人 間 、社 会 、 自 然 な ど に つ い て自 分 の考 え を 深 め た り 発 展 さ せ た り す る こと 。
エ 語 句 の意 味 、 用法 を 的 確 に 理 解 し 、 語 彙 を 豊 か に す る と と も に 、文 体 や修 辞 な ど の表 現 上 の特 色 を と らえ ること。
オ 目 的 や課 題 に 応 じ て 様 々な 情 報 を 収 集 し 活 用 し て 、 進 ん で 表 現 す る こと 。
こ の枠 組 み で 示 さ れ た 事 項 の内 容 を 具 体 化 し 、 段 階 的 に 系 統 化 す る こ と に よ って 、 ﹁読 む こと ﹂ の指 導 の系 列
的 な 方 法 体 系 を 形 作 る こと が で き よ う 。
︵ 注 12︶ を 示 す 。 エ の ﹁文 体 や 修 辞 な ど の表 現 上 の特 色 を と ら え る こ と ﹂ の内 容 も 合 わ せ
以 下 、 ア の ﹁論 理 的 な 文 章 ﹂ ︵説 明 的 な 文 章 も 含 め る ︶ の指 導 内 容 を 系 統 化 す る た め の 基 礎 作 業 と し て 、 そ の 内 容分析を試 みた素案 て と り あ げ る 。 な お 、 文 章 内 容 を ﹁情 報 ﹂ と 呼 ぶ こ と に す る 。
Ⅰ 文 章 の構 成 と 叙 述 に 即 し た 情 報 の読 み と り 方
① 話 題 の展 開 の筋 を た ど り 、 部 分 的 な ま と ま り を と らえ な が ら 全 体 を 読 む 。
② 展 開 に お け る つな が り や 切 れ 目 を 示 す こと ば を 手 が か り にし な が ら 読 む 。
③ ま と ま り の核 と な る文 や 語 句 を 見 出 だ し 、 そ れ と ほ か の文 や語 句 と の か か わ り を と ら え な が ら 読む。 ④ ま と ま り を 、 そ の前 後 の ま と ま り や 全 体 に か か わ ら せ な が ら 読 む 。 ⑤ 全 体 の中 心 と な る 部 分 を と ら え る 。 ⑥ 全 体 の展 開 と 構 成 か ら内 容 を 要 約 し 、 要 旨 を と ら え る 。 ⑦ 展 開 や 構 成 、 あ る い は叙 述 か ら 筆 者 の意 図 を 読 み と る 。
⑧ 筆 者 のも の の見 方 、 と ら え 方 、 考 え 方 を 読 み と り 、 評 価 、 批 評 す る 。 Ⅱ 情 報 の論 理 的 理 解 の思 考 の仕 方 A 事 象 の本 質 を 認 識 す る 思 考 ① 事 象 の推 移 、 変 化 の順 序 を と ら え る 。
② 事 象 の推 移 、 変 化 に 発 展 性 や法 則 性 を 見 出 だ す 。 ③ 対 比 表 現 か ら 事 象 の差 異 性 を 認 め る 。 ④ 列 挙 や 反 復 的 表 現 か ら事 象 の共 通 性 、 類 似 性 を 見 出 だ す 。 ⑤ 類 化 ・分 類 に よ り 、 事 象 の差 異 性 、 共 通 性 を と ら え る 。 ⑥ 帰 納的順序 で個別 から共通性を 見出だす 。 ⑦ 演 繹 的 順 序 で共 通 性 を 個 別 に敷衍 し て認 め る 。 B 事 象 の認 識 に 至 る 過 程 の思 考 ① 事 象 の成 り 立 ち の原 因 、 理 由 を と ら え る 。 ② 事 象 の変 化 を 原 因 と 結 果 、 前 提 と 帰 結 な ど の関 係 で と ら え る 。 ③ 事 象 の成 り 立 ち 、 変 化 な ど を 類 推 に よ って想 定 す る 。
④ 事 象 の成 り 立 ち 、 変 化 な ど の 原 因 ・根 拠 を 仮 定 推 理 に よ って 蓋 然 的 に 認 め る。 ⑤ 事 象 の成 立 に 必 要 な 条 件 を と ら え る 。 ⑥ 仮 説 と そ の 証 明︵ 実 証 、 論 証︶ の仕 方 を と ら え る 。 ⑦ 命 題 ・主 張 と そ の根 拠 の関 係 を と ら え る 。 C 事 象 を 構 造 的 に と ら え る 思 考 ① 事 象 の全 体 に お け る部 分 の役 割 、 は た ら き を と ら え る 。 ② 事 象 相 互 の相 関 関 係 を と ら え る 。 Ⅲ 情 報 の表 現 の仕 方 と そ の効 果 の理 解
次 のような表 現方法 のはたらき、効 果を理解 する。 ① 対 比 す る述 べ方 によ って 、 対 象 の特 質 が 明 瞭 にな る 。
② 同 類 の事 例 の列 挙 に よ って、 述 べ よ う と す る こと の説 得 性 が 強 ま る。 ③ 反復 的 表 現 に よ って 、 述 べよ う と す る こと の強 調 点 が よ く 伝 わ る 。
④ 具体 例 を 挙 げ る こと に よ って 、抽 象 的 な 考 え や論 理 の理 解 が 可 能 にな る 。
⑤ 比喩 的 表 現 に よ って 、未 知 、 未 経 験 の物 事 の理 解 ︵類 推 ︶ が 可 能 にな る 。
⑥ 引用 ︵ 権 威 者 の文 言 、格 言 な ど ) に よ って 、 述 べ よう と す る こ と の信 頼 性 が 高 ま る 。
⑦ 数 量 的 デ ー タ を 根 拠 に使 う こと に よ って述 べ よ う と す る こと の確 か さ が 強 ま る。 ⑧ 冒 頭 の述 べ方 の工 夫 が読 み 手 の知 的 興 味 を 高 め る。 Ⅳ 情 報 の求 め 方 ・活 か し 方 ︵ 内 容 は 省 略 ︶ ︵注 13︶
以 上 の よ う に、説 明 的 ・論 理 的 文 章 の読 み の指 導 内 容 を 、 ︿Ⅰ 正 確 な 読 み と り 方 ﹀、 ︿Ⅱ 論 理 的 な わ か り 方 ﹀、
︿Ⅲ 効 果 的 な 表 し 方 の 理解 ﹀、 ︿Ⅳ 情 報 の求 め 方 ・活 か し方 ﹀ の観 点 か ら 分 析 し て、 四 つの系 で そ の体 系 を 示
す こと が で き る と 考 え て い る。 高 校 レ ベ ル では 、 よ り 高 度 な 内 容 を さ ら に 加 え て いく べき であ ろう 。
な お 、 いう ま でも な く 、 上 記 イ の ﹁文 学 的 な 文 章 ﹂ に お い ても 、 読 解 、 解 釈 、 鑑 賞 、 批 評 の読 み の方 法 を 分 析
し 、 系 列 化 す べき であ る が 、 こ こ では 省 略 す る 。 上 記 エの ﹁語句 の意 味 、 用 法 ﹂ ほ か 読 む こと に か か わ る ﹁言 語 事 項 ﹂ に つ い ても 同 様 で あ る。
こ れ ら の指 導 内 容 は 、 学 年 段 階 別 に割 り 付 け て示 せ ば 、 そ れ ぞ れ の 学 年 で何 を 指導 す べ き か が明 確 に な る よ う
に 思 わ れ る が 、 そ れ ぞ れ の内 容 は 、 学 習 者 の既 有 の学 力 に応 じ てそ の学 習 が 可能 であ る か ど う か が 判 断 さ れ な け
れ ば な ら な い こと で あ る 。 し か も 、 こ のよ う な 理解 の技 能 は スパ イ ラ ルな 反 復 学 習 に よ って身 に つ い て いく 。 し
た が って 、 そ れ ぞ れ の技 能 内 容 を 各 段 階 に 固 定 す る の で なく 、 お お ま か な 順 序 で 示 す に と ど め る のが 適 切 で あ る
と 考 え る 。 上 記 の番 号 づ け は 学 習 の順 序 性 を あ る 程 度 考 慮 し た も の で あ るが 、 論 理 的 に考 え 得 る 仮 説 的 な 順 序 に
す ぎ な い。 指 導 実 践 に よ って そ の適 否 が 検 討 さ れ 、 修 正 、 改 善 さ れ る べき た た き 台 の レ ベ ル のも の であ る 。
五 読 む こと の 指導 の 発 展方 向
︱情報読書と教養読書
﹁読 む こと ﹂ の指 導 体 系 は 、 個 別 の学 習 内 容︵ 技 能︶ を 順 次 積 み 上 げ て いく 形 で は な く 、 同 類 の内 容 に 、 関 連
す る内 容 を 新 し く 加 え つ つ反 復 学 習 さ せ る よう に、 指 導 事 項 を 配 置 す べ き で あ る 。 そ れ で は 、 反 復 に 新 し い内 容 を 加 え て学 習 を 変 化 発 展 さ せ て いく 原 理 は 何 か 。
西 尾 実 は 、 文 学 教 材 の場 合 、 先 述 の ﹁読 む 作 用 の体 系 ﹂ の ︿読 み ( 鑑 賞 )← 解 釈 ← 批 判︵ 価 値 判 断︶﹀ を 発 展
原 理 と し て いる 。 小 ・中 学 校 で は ︿鑑 賞 ﹀ を 、 高 等 学 校 で は ︿解 釈 ﹀ を 、 大 学 で は ︿批 判 ﹀ を そ れ ぞ れ 主 体 と す
る 指 導 ︵注 14︶ で 、 ︿鑑 賞 ﹀ 学 習 の反 復 継 続 の 中 で ︿ 解 釈 ﹀ が 萌 芽 を 伸 ば し 、 ︿解 釈 ﹀ 学 習 の展 開 の 中 で ︿批 判 ﹀ の芽 が 成 長 し て いく 、 と い った 有 機 的 発 展 関 連 の体 系 を 構 想 し て い る。
近 代 詩 の 研 究 者 分 銅 惇 作 は 、 詩 の指 導 の体 系 的 原 理 を ︿︵ 1︶ 生 活 への め ざ め ←︵2︶ 言 語 への め ざ め ←︵3︶
思 想 への めざ め ﹀ と し て いる 。 小 学 校 で児 童 の生 活 詩 に よ って ﹁詩 心 の芽 生 え ﹂ を 育 て る 。 中 学 か ら 高 校 へ向 け
て ﹁詩 的 表 現 を 可 能 に す る 言 語 機 能 ﹂ を 理 解 さ せ、 ﹁詩 的 感受 性 を み が き あ げ る ﹂。 さ ら に 高 校 で ﹁詩 の思 想 性 を
理 解 す る 力 を 養 う ﹂ と いう (注 15)。 こ の ﹁生 活 ﹂、 ﹁言 語 ﹂、 ﹁思 想 ﹂ は 、 西 尾 理 論 の ﹁鑑 賞 ﹂、 ﹁解 釈 ﹂、 ﹁批 判 ﹂ に 通 い合 う 面 を 持 って いる 。
湊 吉 正 は 、 ﹁国 語 科 の構 造 ﹂ が ﹁言 語 生 活 ﹂、 ﹁言 語 体 系 ﹂、 ﹁言 語 文 化 ﹂ の 三分 野 の関 連 か ら な る こ と を 述 べ て
いる ( 注 16)。 こ の ﹁生 活 ﹂、 ﹁言 語 ﹂、 ﹁文 化 ﹂ も 同 様 に 、 学 習 発 展 を 導 く 指 導 体 系 の核 概 念 と し てと ら え る こ と が 可 能 であ る 。
﹁読 む こと ﹂ の指 導 が めざ す の は 、 一人 ひ と り の読 書 生 活 の確 立 で あ り 、自 立 学 習 力 の 形 成 で あ る 。 読 書 の 内
容 は 、 実 用 読 書 、 情 報 読 書 、 教 養 読 書 、 文 学 読 書 、 娯 楽 読 書 な ど にわ た る が 、 大 学 で の学 問 や 生 涯 学 習 の基 礎 と
し て 重 要 な の は 、 情 報 読 書 と 、 文 学 を 含 む 教 養 読 書 で あ る。 情 報 の収 集 ・活 用 の 技 は 、 実 生 活 でも 学 問 研 究 で も
ま す ま す 必 要 と な る 。 教 養 読 書 は あ ら ゆ る 学 習 に必 要 な 知 的 思 考 力 や創 造 力 の 基 礎 を 養 う 。 そ の意 味 で 、 ﹁読 む
こ と ﹂ の指 導 体 系 も 、 小 ・中 学 校 か ら 高 校 に 及 ん で 、 情 報 読 書 の諸 技 能 と 、 教 養 読 書 ( 例 えば新書本 を読 みこな
す ) に 必 要 な 知 的 抽 象 的 理 解 力 を 高 め る こ と に 重 点 を 置 いた 指 導 の筋 道 を 作 る ベ き であ ろう 。
前掲
(3 ) 九 一頁
注 5 蘆 田恵之 助 ﹃ 読 み方教 授﹄ 一九 一六 ・﹃ 近代 国語 教育 論体 系 5﹄ 光村 図書 一九 七五所 収 七 四頁
注 4 西 尾 実
注 3 西 尾 実 ﹃国語教 室 の問 題﹄ 古今 書院 一九 四〇 一八頁
注 1 倉澤 栄吉 ﹃ 読 解指 導︱ 読 み の基礎能 力︱ ﹄朝 倉 書店 一九 五六 注 2 西尾 実 ﹃国語 国文 の教育 ﹄ 古今 書院 一九 二六 七 五頁
注
注 6 西 尾 実 前 掲
︵ 3 ︶ 一〇 八 ∼ 一〇 九 頁
集 成 18 ﹄ 明 治 図 書 一九 九 三 所 収 一 一五 頁
﹃二
注 7 藤 井圀 彦 ﹁国 語科 に おけ る読書 指導 の体系 ︵ 試 案 ︶﹂・﹃ 教育 研 究﹄ 二五巻 三号 一九七 〇 ・﹃ 国 語教 育基 本論 文 注 8 石山脩 平 ﹃ 教育 的 解釈 学﹄賢 文館 一九 三 五
注 9 藤 原与 一 ﹃ 毎 日 の国語 教育﹄ 福 村書 店 一九 五 五 ・﹃国語 教育 の技 術と 精神﹄ 新 光 閣書店 一九 六 五 注 10 田近洵 一 ﹁文学 教育 論﹂ ﹃ 教 育学 講座 8 国語 教育 の理論 と構 造﹄ 学 習研究 社 一九 七九
注 11 ﹃中学校 学 習指 導要 領 ︵ 平成 十年 十 二月︶ 解説︱ 国語 編︱﹄ 文 部省 一九九 九 五 三頁
注 12 こ の素 案 は 、 ﹁説 明 文 の指 導︱ 何 の た め に 、 何 を 、 ど う 読 ま せ る か︱ ﹂ ︵ 小 田迪 夫 ・渡 辺 邦 彦 ・伊 崎 一夫編
に ﹁ 情 報処 理
︵ 読 書 ︶ 能 力 系 統 案 ﹂ が 示 さ れ て いる 。 小 ・中 ・高 に 段 階 化 し た 精 密 な 系 統 案 であ る 。
十 一世 紀 に生き る説明文 指導 ﹄東 京書 籍 一九九 六︶ に示 し たも のを補 訂 したも のであ る。 注 13 ﹁情報 の求 め方 ・活 か し方﹂ に関し ては 、倉 澤栄吉 ・青年 国語 研究 会 ﹃ 読 書 の指導 過程 ﹄新光 閣書 店 一九七 五
注 14 西 尾 実 ﹁﹃ 現 代国 語﹄ の学 習指導 に つ いて﹂・﹃現代 国語 l 学習 指導 の研 究﹄ 筑摩 書房 一九 六三 注1 5 分銅 惇作 ﹁詩 の鑑賞 指 導﹂ 伊 藤 整 ・吉 田 精 一他編 ﹃読解 講 座 現 代詩 の鑑 賞 5﹄ 明 治書 院 一九 六 八 ・﹃国 語 教育 基本 論文 集成 16﹄ 一九九 三所収
注 16 湊 吉 正 ﹁国語 科 の構 造﹂ ﹃ 新編 中 学校 ・高 等学 校 国語 科教育 法﹄ 桜 楓社 一九 八 四
第 三 章 読 む こと の指 導 の内 容 と 方 法
一 物語の学 習指導
︵一︿物 ︶ 語 リ テ ラ シ一 ﹀ に 着 目 し た 物 語 の学 習 指 導 に 向 け て
物 語 を 学 ぶ と いう のは 、 ど の よう な こと ば の力 の育 み を めざ す こと な のだ ろ う か 。 ひと り で読 ん だ と し ても 、
十 分 、 楽 し み 読 み が 可 能 な テ ク ス ト で あ る 。 そ れ だ け に 、 教 室 で指 導 者 を 伴 った 学 び の対 象 と す る 必 然 性 を 無 理
な く 受 け 入 れ る よ う な 学 習 環 境 作 り 、 指 導 法 の開 発 、 そ し てな に よ り も 、 指 導 の目 標 と 評 価 のあ り よ う が 深 く 問
わ れ る 。 こ こ で は 、 考 え る ベ き 基 本 的 事 柄 と し て、 つぎ の四 点 を 掲 げ た い。 ① 物 語 と は 、 ど のよ う な 特 質 を 持 つ
テ ク スト な の か 、② そ の特 性 に そ いな が ら 、 テ ク スト のな に に 、ど の よ う に反 応 す る こ と を 学 ぶ の か 、③ そ れ が 、
ど の よう な こと ば の力 と な る のか 、④ そ の学 び に は 、 いか な る体 系 化 と そ れ を 支 え る 構 造 が 考 え ら れ な け れ ば な ら な い のか 、 で あ る 。
物 語 の学 習 指 導 にお いて は 、 ど の項 目 も 避 け て通 れ な いば か り か 、 こ れ ら 四 点 が か か わ り あ った 総 合 的 な 力 と
し て 、 ど の よ う な 物 語 リ テ ラ シ ー が め ざ さ れ る べき か が 、 問 わ れ る 。 こ の ︿物 語 リ テ ラ シ ー﹀ と いう こ と ば は 、
︿ 物 語 文 法 ﹀ 同 様 、 我 が 国 の 国語 教 育 に お い て十 分 市 民 権 を 得 た 用 語 と は 言 いが た い。 物 語 文 法 の存 在 に気 づ き 、
テ ク スト と 自 ら のか か わ り に 物 語 文 法 が な ん ら か の作 用 を 及 ぼ し て いる こ と に気 づ か さ れ て いく 、 ひ い ては 、 表
現 者 と し て意 識 的 ・無 意 識 的 に 物 語 文 法 を 活 か し て、 自 他 の コミ ュ ニケ ー シ ョ ン の場 に 参 加 す る 。 大 づ か み で は
あ る が 、 こ の 一連 の言 語 行 為 に 働 く 力 と し て物 語 リ テ ラ シ ー を と ら え て み よ う 。 こ こ で は 、 そ の内 実 を 明 ら か に
す る 手 が か り を 、 イ ギ リ ス の ナ シ ョナ ル ・カ リ キ ュラ ム の到 達 目 標 に 求 め、 物 語 の学 習 指 導 が め ざ す べき ︿物 語 リ テ ラ シ ー > に つ い て考 え を 深 め た い。
な ぜ な ら 、 イ ギ リ スは 、 国 語 科 の根 幹 を 文 学 テ ク スト︵ 小 説 ・詩 ・戯 曲︶ の学 習 を 軸 に 展 開 し てき た 伝 統 を 持
ち 、 ︿物 語 リ テ ラ シー > 教 授 法 を 、 時 間 を か け て開 発 し てき た 経 緯 が あ る 。 我 が 国 同 様 、 イ ギ リ ス に お け る 文 学
観 、物 語 テク スト 観 も 、時 代 のイ デ オ ロギ ー や 理 論 的 言 説 を 反 映 し 、 一様 で は な い。が 、今 日 の多 言 語 共 存 社 会 、
な ら び に 、多 種 多 様 な メ デ ィ アが 相 関 す る 社 会 の マ ル チ ・モダ リ テ ィ 化 に対 応 す る ︿リ テ ラ シ ー ﹀ を 見 通 す にあ
た り 、 テ ク スト 理 論 の変 化 を 受 け 止 め な が ら 積 み 重 ね ら れ て き た 教 授 伝 統 と そ れ に 基 づ く 苦 心 ・工 夫 が 、 カ リ キ ュラ ム に 見 て取 れ る と 考 え ら れ るか ら で あ る 。
National
for
:
Englis ︵同 h上 、 :前Y 期e 中a等rs
7,8
:
an
Framew︵ ﹁ oリrテ kラ シ fo ーr に 関Tすeaching
Teaching
Literacy Strategy
ま た 、 リ テ ラ シ ー と いう と 、 小 学 校 の入 門 期 を 思 いが ち だ が 、 イ ギ リ ス で は 、 カ リ キ ュラ ム実 施 細 目 に当 た る 奨 励 要 件 で あ る 、The
る 全 国 共 通指 導 方 略 指 針 ﹂ 一九 九 八 )、"Framework
教 育 版 二 ○ ○ ○ 、 以 下 、 両 者 ﹁指 針 ﹂ と し て 一括 ) が 公 刊 さ れ 、 入 門 期 か ら 中 学 校 二年 に 相 当 す る 第 九 学 年 ま
で を 包 括 し 、 全 カ リ キ ュ ラ ム の 基 底 と し て 一貫 し て 定 着 が 図 ら れ る基 礎 力 の系 統 的 学 習 の具 現 化 が め ざ さ れ て い
る 。 そ こ に 、 物 語 テ ク スト の学 ば れ 方 も 明 確 に位 置 づ け ら れ て い る の が 、 特 徴 の 一つであ る 。 こ こ で は 、 ま ず イ
ギ リ ス の母 国 語 教 育 の 骨 格 を な す ナ シ ョナ ル .カ リ キ ュラ ム を 中 心 に取 り 上 げ る こと と す る 。
︵二︶ 義 務 教 育 必 須 の レ ベ ル と し て の第 三 レ ベ ル に 見 る 物 語 の 学 習 指 導 1 第 三 レ ベ ル の 位 置 づ け
︵Key
St1 a、 g第 e
Sta、 g第 e 三2∼ 第 六 学 年 、 八 ∼一一 歳 ) の 二段 階 構 成 と さ
イ ギ リ ス の 初 等 教 育 段 階 は 、 ナ シ ョナ ル ・カ リ キ ュ ラ ム の施 行 に 当 た り 、 第 一教 育 段 階 一 .第 二 学 年 、 五 ∼ 七 歳 ) と 第 二 教 育 段 階 ︵Key
れ た 。 本 稿 で は 、 中 学 校 は 取 り 上 げ な いが 、 中 学 校 も 、 第 七 学 年 か ら第 九 学 年 ま で の第 三 教 育 段 階 と 、 義 務 教 育
修 了 資 格 公 試 験 G C S E受 験 学 年 であ る第 四 教 育 段 階 ( 第 一〇 ∼ 一 一学 年 ) の二 ま と ま り か ら 構 成 さ れ て いる 。
次 表 は 、 一九 八九 年 版 、 一九 九 九 年 改 訂 版 カ リ キ ュラ ム のレ ベ ル構 成 を 対 照表 化 し た も の であ る 。
︿ 教育 段階と 到達 レベル﹀
※○ 印 は各 教 育 段 階 終 了 時 に 望 ま れ る 達 成 度 を 示 す 。
大 き な 違 いが 見 ら れ る第 四 教 育 段 階 は 、 当 初 、 一〇 レ ベ ル に 細 分 化 さ れ て いた も の が 、 指 導 内 容 の過 密 さ ゆ え
に 実 施 段 階 で支 障 を き た す 場 合 が 多 く 、 一九 九 五年 の修 正 以 来 、 八 レ ベ ルと そ の上 の発 展 段 階 と いう 構 成 と な っ
て 一九 九 九年 改 訂 版 に 継 承 さ れ て いる 。資 格 試 験 G C S E の評 価 項 目 が 、 義 務 教 育 の到 達 点 と し て 明 確 に打 ち 出 された格好 であ る。
こ のよ う な 改 定 に あ って 、第 三 レ ベ ル は 、 レ ベ ル 編 成 と そ れ に応 じ た 到 達 す べ き 内 容 の微 調 整 を は ら み な が ら
も 、 両 者 と も に小 中 学 校 一貫 し て 求 め ら れ てお り 、 義 務 教 育 期 にお いて 必 須 の 到 達 レ ベ ル と 考 え ら れ る 。 両者 を
比 較 す ると 、 格 段 に文 言 量 に差 が あ る が 、 一九 八九 年 版 の細 目 が 今 日 ﹁指 針 ﹂ の細 案 に吸 収 、 敷衍 さ れ て いる と
考 え れ ば 、 一九 九 八年 の第 三 レ ベ ル に、 義 務 教 育 必 須 の読 む こ と の力 のと ら え 方 を 見 てと る こと が で き る 。
親 し み やす い物 語 な ら び に詩 を 、 流 暢 に 、 か つ適 切 な 表 現 を 用 い て朗 読 す る。
● 一九 八 九 年 版 第 三 レ ベ ル 読 む こと a
︵ 実 践 例 登 場 人 物 の違 いが わ か る よ う に 声 に 高 低 を つけ る 。︶ b 集 中 力 を 維 持 し な が ら 黙 読 す る 。
C 物 語 を 注 意 深 く 聴 き 、 場 面 設定 、 ス ト ー リ ー 、 登 場 人 物 に つ い て語 る こ と が で き 、 重 要 な 部 分 に つ い
ては 、詳 細 を 思 い起 こす 。
︵ 実 践 例 ど のよ う な出 来 事 が 人 物 の運 命 を 変 え た か に 触 れ な が ら 、 物 語 に つ いて 語 る。︶
d 物 語 や 詩 に つ い て語 る と き に、 行 間 を 読 み 取 り 、 隠 れ た意 味 を 見 出 し 、 精 読 す る た め に 、推 論 法 、 演 繹 法 、 既 存 の読 書 経 験 を 活 用 し 始 め て いる こと が わ か る 。
︵ 実 践 例 既 知 の物 語 の 冒 険 の結 末 を 踏 ま え 、 こ の場 面 で は 人 物 に何 が 起 こ る か話 し 合 う 。︶
e 物 語 に つ い て書 いた り 、 討 論 を す るな か で、 物 語 構 造 に つ い てあ る 程 度 の 理 解 を 得 る 。
︵ 実 践 例 ﹁最 初 は ﹂、 ﹁最 後 に ﹂ 等 を 手 が か り に 、 物 語 の 断 片 を 配 置 す る 。 ﹁三 匹 の こ ぶ た ﹂、 ﹁ゴ ル
デ ィ ロ ック と 三 匹 の熊 ﹂ の よ う に 、 次 の展 開 が 予 想 でき る 物 語 の型 に 気 づ く 。︶
f 適 切 な 情 報 な ら び に参 考 図 書 を 、 学 級 文 庫 や 学 校 図 書 館 か ら 選 び 出 し 、 活 用 を す る た め に は 、 ど の よ ぅ な 順 序 で 調 べ て い った ら い いか を 工夫 す る。
︵ 実 践 例 ﹁野 生 ﹂ を 学 習 課 題 と す る と 、 鳥 の大 き さ や 色 彩 、 食 物 と 生 息 地 に つ い て の情 報 が 必 要 で あ る こと を 知 り 、 実 際 に調 べ てみ る。) ● 一九 九 九 年 版 第 三 レ ベ ル 読 む こ と
児 童 は 、 無 理 な く 、 正 確 に 幅 広 い テク ス ト を 読 む 。 意 味 を 読 み 取 る た め に適 切 な 方 略 を 用 い て、 ひと
り 読 みを 行 う 。 フ ィ ク シ ョ ンな ら び に ノ ン ・フ ィ ク シ ョンを 読 む 場 合 、 主 要 部 分 の 理解 を 示 し 、 自 分
の感 想 を 表 す 。 本 のあ り か を 特 定 し て、 情 報 を 見 つけ る た め に 、 ア ル フ ァベ ット 順 に つ い て の知 識 を 活 用す る。
読 む こ と の到 達 点 を 考 え るう え で 、 いま ひ と つ着 目 す べ き は 、 ﹁指 針 ﹂ を 軸 に基 礎 学 力 の底 上 げ を 具体 的 な 数
Blu がn 、k一 e九t九 t七 年 就 任
値 目 標 と し て 明 示 し 、 教 育 重 視 を 鮮 明 に打 ち 出 した 、 政 府 主 導 型 の国 際 競 争 力 強 化 を 見 据 え た リ テ ラ シ ー 教 育 の
推 進 が めざ さ れ て い る こ と であ る 。 こ の数 値 目 標 と は 、 当 時 の教 育 雇 用 相 David
後 打 ち 出 し た 、 二 〇 〇 二年 ま で に 公 立 小 学 校 に 通 う 一 一歳 児 の八 ○ % が 、 国 語 科 ナ シ ョナ ル ・カ リ キ ュラ ム の第
二 教 育 段 階 第 四 レ ベ ル に 到 達 し て いる こと であ る。 第 三 レ ベ ル は 、 国 家 と し て努 力 目 標 に 据 え た 第 四 レ ベ ル の実 現 を 下 支 え す る 必 須 の レ ベ ルと 位 置 づ け ら れ た と 言 い換 え る こ と も でき よ う 。
2 第 三 レ ベ ル の基 本 的 特 徴 に 見 る ︿ 物 語 リ テ ラ シ ー﹀
ま ず 、 物 語 テ ク ス ト の読 む こ と の到 達 点 と いう 観 点 か ら 、 一九 八 九 年 版 第 三 レ ベ ルを 概 観 す る 。掲 げ ら れ た 六
つ の項 目 は 、 音 読 の力 、 黙 読 の力 、 物 語 テ ク ス ト の読 解 力 、 情 報 検 索 力 の 四 つに 分 け ら れ る 。 六 項 目 のう ち 、 半
分 を 占 め る 三 項 目 が物 語 読 解 力 に 当 て ら れ 、 分 析 的 な 読 み の方 略 の 習得 が 明 確 に 基 本 に据 え ら れ て いる 。 小 学 校
修 了 時 に身 に つけ て いる こと が 望 ま し いと さ れ る第 四 レ ベ ル 、 義 務 教 育 修 了 資 格 試 験 の基 盤 と し て 望 ま れ る第 五
レ ベ ルと か か わ ら せ な が ら 、 イ ギ リ ス のナ シ ョナ ル ・カ リ キ ュラ ム が 明 示 し た物 語 リ テ ラ シ ー の特 徴 を 、 つぎ の 五点から整 理し考察 した。
① 基 礎 力 と し て の声 に よ る物 語 の 共 有
a ﹁親 し み やす い物 語 な ら び に 詩 を 、 流 暢 に 、 か つ適 切 な 表 現 を 用 い て朗 読 す る ﹂ は 、 朗 読 の力 と いう 音 声 表
現 スキ ル で あ るが 、 イ ギ リ ス の社 会 にあ って、 こ のよ う な 言 語 スキ ル の習 得 は 、 一人 の言 語 主 体 に と って ど のよ
う な 社 会 文 化 的 ニー ズ 、 必 然 性 を 持 って いる の で あ ろう 。 そ こ に は 、 物 語 は 語 り 出 さ れ る こ と で場 に 共 有 さ れ 、
場 に 息 づ く テ ク ス ト に な る こと に 、 一つ の価 値 を 見 出 す 文 学 観 が 感 じ ら れ る。 活 字 メ デ ィ アは 音 声 メ デ ィ ア に 語
り な お さ れ る こと で 、 新 た な テ ク スト が立 ち 上 が る 。 そ の変 化 、 変 容 を 受 け と め 、 自 ら の読 みを フィ ー ド バ ック
す る 。 口承 と 書 承 が 行 き 来 す る場 のあ り よう が 、 物 語 を 享 受 し てき た イ ギ リ ス の伝 統 的 な 文 化 の型 で あ ると す る
な ら 、 語 ら れ る 場 を と も に 分 か つこ と は母 国 語 教 育 の大 前 提 と 考 え ら れ る 。 そ の 場 に 参 加 し う る 音 声 表 現 力 ︵朗
読 に よ る テ ク スト 再 現 力 ︶ の習 得 が 、 義 務 教 育 必 須 の 力 と し て 取 り 立 て ら れ て いる 。
第 四 レ ベ ル に も 、 対 象 テク スト を 広 げ 、 a ﹁慣 れ 親 し ん だ 範 囲 の文 学 を 、 表 情 豊 か に、 流 暢 に、 十 分 な 自 信 を
持 っ て朗 読 す る﹂ ︵ 実 践 例 感 情 を 表 現 す る た め や 特 徴 、 雰 囲気 を 表 す た め に 、 朗 読 の速 さ や 口 調 を 変 え る︶ が
掲 げ ら れ て いる 。 け れ ど も 、 我 が 国 の中 一、 二 学 年 に相 当 す る 中 学 校 第 三 教 育 段 階 で 習 得 が 望 ま れ る第 五 レ ベ ル
には 、 そ う し た文 言 は 見 ら れ ず 、 音 声 を 通 し て 物 語 テ ク スト を 共 有 す る力 、 声 に よ る 物 語 テ ク スト 表 現 力 ︵ 再現
力 ︶ は 、 初 等 教 育 で マス タ ー す べき も の であ る こと が知 ら れ る 。 学 習 者 に と って は 、 暗 記 の 正 確 さ や 流暢 さ が 第
一の関 心 事 であ る か も し れ な いが 、 正 誤 、 上 手 下 手 と いう 観 点 を 超 え た 声 の個 性 、 一つ の テ ク スト 解 釈 の表 出 の
場 に お のず と 立 ち 会 わ さ れ る こと が 期 待 さ れ て いる の で は な い か。 中 学 校 の 文 学 教 育 は 、 こ の場 の基 本 概 念 と そ
の場 に能 動 的 に参 加 し う る ︵ 語 る ・聴 く ・分 か ち 合 う ︶ 力 を 基 盤 と し て、 構 想 さ れ て いる と 考 え ら れ る 。
わ れ わ れ が こ こ か ら 考 え る べ き こと は 、 社 会 に あ って 、 物 語 は共 有 さ れ る こ と を 望 ま れ て いる のか 、 も し 望 ま
れ て いると し た ら 、 い つ、 ど こ で 、 ど のよ う に 、 な ぜ 分 かち 合 う こ と を 求 め ら れ て いる のか 、 そ れ は 、 我 が 国 の
社 会 文 化 にあ って 、 そ のよ う な 必 然 性 を 持 ち う る のか 、 持 た な い の か 。 そ のと き 、 物 語 を 再 現 す る 力 は 、 ど のよ
う に 価 値 づ け ら れ る の で あ ろう か 。 こ れ ら は 、 遠 回 り の よ う に 見 え て 、 実 は 、 物 語 の学 習 指 導 を 考 え るう え で 、
避 け ては 通 れ な いも のと 考 え る 。
朗 読 の力 が 作 り 出 す 場 と は質 は 異 な る が 、 今 日 的 な 創 作 シ ス テ ム と し て の 場 の 一例 と し て、 ネ ット 上 の書 き 込
み に よ って協 働 のう ち に出 来 上 が って いく テ ク スト 、 そ れ が 、 活 字 メ デ ィ ア と し て出 版 さ れ 、 読 者 層 を 広 げ 、 映
像 メ デ ィ ア化 さ れ る こ と で 、 さ ら に多 く の他 者 に 共 有 さ れ て いく と い った 現 象 が す で に起 こり 始 め て いる 。 こう
し た 電 子 メ デ ィ ア に よ る物 語 の共 有 と 場 の創 造 は 、 こ れ ま で の、 こ れ か ら の わ れ わ れ の言 語 文 化 にど の よ う な 意
味 を 持 ち う る のだ ろう か 。 教 室 で 扱 う 物 語 教 材 も 、 そ う し た社 会 文 化 的 場 意 識 と 無 縁 のと こ ろ に は 存 在 し な い。
物語 リ テラシーは 、 ︿ 場 ﹀ を 対 象 化 す る 力 と 深 く か か わ って いる の で は な い か 。 基 本 的 言 語 スキ ル の習 得 が 社 会 文 化 的 営 み へ参 与 し 寄 与 す る 力 と な り う る かど う か が 、 問 わ れ て いる 。
② メ タ 言 語 の獲 得 を 支 え る ︿教 育 的 ﹀ な 場 の 構 築
ま た 、 こ の朗 読 と 対 の よ う にめ ざ さ れ るも のと し て 、 第 四 レ ベ ル b ﹁各 人 が こ れ ま で読 ん で き た 物 語 や 詩 に つ
い て 語 る こ と で、 自 ら の好 む と こ ろを 探 求 す る 力 を 明 示 す る ﹂ と いう 、 物 語 に つ い て ︿語 る﹀ 力 が 指 摘 でき る 。
これ は 、 第 五 レ ベ ル で は 、 質 の異 な る 語 り 合 う 場 の 具 現 化 と そ こ への参 加 と 寄 与 に か か わ る力 と し て 、 発 展 的 に 継 承 さ れ て いく よ う 求 め ら れ て いる 。 具 体 的 に は 以 下 のよ う であ る 。
a ﹁ 各 人 が 自 分 の読 ん で き た 物 語 や 詩 に つ い て語 った り 、 書 いた り す る こ と で 、自 ら の好 む と こ ろを 説 明 す る
力 を 明 示 す る﹂/ c ﹁ 物 語 や詩 、 ノ ン フィ ク シ ョ ンや そ の他 の テ ク ス ト に つ いて 語 った り 、 書 いた り す ると き に 、
自 分 の見 解 を 発 展 さ せ た り 、 自 分 の見 解 を テ ク ス ト の 部 分 を 参 照 し て根 拠 づ け た り す る 可 能 性 を 明 ら か に 示
す ﹂/ d ﹁ 非 文 学 テ ク スト や マ ス メ デ ィ ア ・テ ク スト に つ い て の討 論 のな か で 、事 実 と し て表 さ れ て い る内 容 と 、
意 見 と し て表 さ れ て いる 内 容 を いか に 判 断 で き る か を 示 す ﹂/ e ﹁ 筆 者 の言 葉 選 び の特 徴 や、 そ れ ら の読 者 への 効 果 に対 す る 気 づ き を 、 討 論 を 通 し て 示 す ﹂。
こ のよ う に 、 第 五 レ ベ ル で は 、 取 り 上 げ る テ ク スト の広 が り と 読 み の質 の深 ま り が 求 め ら れ 、 自 ら の見 解 や 分
析 的 な 発 見 を 場 に供 す る 力 へと 敷衍 さ れ る こと が期 待 さ れ て いる 。 分 析 的 な 読 み 方 に基 づ く 発 見 、 理 解 であ る こ
と が ひ と つ。 そ のう え で、 テ ク スト 分 析 力 を 身 に つけ る に止 ま ら ず 、場 のな か で 共 有 し 、 反芻 し 、 そ の結 果 、 必
然 的 な 修 正 、 変 更 を も 受 け 止 め る 柔 軟 な 音 声 表 現 主 体 が 求 め ら れ て いる 。 語 り 合 う 場 の洗 礼 を 受 け る こと で 、 テ
ク スト の読 み 手 と し て の自 分 自 身 を メ タ的 に と ら え る こと が で き る。 き わ め て ︿教 育 的 ﹀ な 場 の創 出 が 、 国 語 科
の 読 む こと の 授 業 を 支 え る よ う 期 待 さ れ て いる 。 イ ギ リ ス の ナ シ ョ ナ ル ・カ リ キ ュ ラ ム が 当 初 か ら め ざ し た物 語
の 学 習 指 導 は 、 こ の取 り 立 て ら れ た ︿ 場 ﹀ のな か で 、 物 語 テ ク スト の読 み 手 と し て再 現 す る 力 、 再 現 す る 自 分 を 語 る ︿こと ば ﹀ の獲 得 と 活 用 の力 の育 み が 求 め ら れ て い ると 考 え ら れ る 。
こ う し た メ タ的 認 識 は 、 我 が 国 の国 語 科 で も 目 標 と し て 掲 げ ら れ てき た 事 柄 であ る 。 物 語 を 再 現 す る こ と ば 、
語 る自 分 を 語 り 出 す こ と ば 。 両 者 が 一体 と な って、 わ れ わ れ の 日 常 社 会 のき わ め て 実 用 的 な 力 と な り う る 。 こ れ
ら の ︿こ と ば ﹀ の力 が 、 実 用 主 義 、 技 術 主 義 に 陥 ら ぬ た め に は 、 スキ ル が生 き て働 く と は どう いう こ と か 、 そ れ
を 求 め る 場 と は ど のよ う な も の か 、 場 そ のも の の メ タ 的 理 解 も ま た 不 可 欠 な も の で あ る。 イ ギ リ ス で は 、 ジ ャ ン
ル や メ デ ィ ア表 現 形 態 の広 が り 、筆 者 の言 語 選 択 や 受 け 手 意 識 な ど の学 習 の広 が り を 支 え るも のと し て 、先 の a、
cの よ う に、 物 語 テ ク ス ト の読 み方 に 自 ら の嗜 好 や判 断 を 代 弁 さ せ る よ う な 音 声 ・書 記 双 方 の表 現 力 が 置 か れ て
い る。 対 象 テ ク スト が 広 範 に わ た る d や eで は 、 書 き こ と ば に は 言 及 さ れず 、 話 し こ と ば に よ る 経 験 を 到 達 目 標
と し 、 討 論 と いう 場 のな か で 、 メ タ 的 な 理 解 を 育 む こと が め ざ さ れ て い る。 物 語 の学 習 指 導 に 限 る な ら ば 、 物 語
を いか に 読 ん だ ︿私 ﹀ な のか を 語 り 出 す こ と の意 味 を 問 い直 す と こ ろ か ら 始 め な いか ぎ り 、 学 習 者 に と って 、 そ
れ は ひ と つの こな す べ き 課 題 で あ って、 主 体 に か か わ る 行 為 と は な り に く い。 物 語 に つ い て語 る こ と の意 味 を 問 う こ と は 、 物 語 の教 材 価 値 を ど こ に 見 据 え る か と 同 義 語 でも あ る 。
③ ひ と り読 み の 根 幹 で あ り 、 到 達 点 と も 言 え る黙 読 の力
物 語 に つ い て語 る ︿こと ば ﹀ を 育 む た め には 、 ひ と り 読 み の力 の充 実 が 不 可 欠 であ る 。 第 三 レ ベ ル b ﹁集 中 力
を 維 持 し な が ら 黙 読 す る ﹂ で あ る 。 ﹁集 中 力 ﹂ を ﹁維 持 ﹂ す る と は 、 言 い換 え れ ば 、 読 む と いう 孤 独 な 言 語 行 為
を な す た め の 基 礎 力 を 取 り 立 てた に 等 し い。 内 省 的 な 読 み の基 礎 力 は 、 第 三 レ ベ ル以 降 に は 文 言 と し て 表 れず 、
義 務 教 育 必 須 の読 み の力 と し て、 最 低 限 譲 れな い基 礎 力 で あ る こと が 知 ら れ る 。 第 三 レ ベ ル に 掲 げ ら れ た 情 報 収
集 力 の基 礎 、 f ﹁適 切 な 情 報 な ら び に 参 考 図 書 を 学 級 文 庫 や 学 校 図 書 館 か ら 選 び 出 し 、 活 用 を す るた め に は 、 ど
のよ う な 順 序 で調 べ て い った ら い いか を 工 夫 す る ﹂ も 、 黙 読 の力 と 連 動 し合 って実 行 力 を 持 ちう る の は 、 言 う ま でも な い。
④ 物 語 テ ク ス ト の 特 性 に そ った 読 み の 方 略 の 習 得 と 予 測 し 推 論 す る 力 の 活 用
物 語 テ ク スト の 基 本 構 成 要 素 を い か に 意 識 さ せ 、 自 ら の 分 析 的 な 読 み の実 際 的 な 方 略 と し て 具 現 化 し う る か 。
こ れ は 、 第 三 レ ベ ル六 項 目 中 三項 目 を 割 いて 中 核 を な し て いる 。 第 三 レ ベ ル の cで は 、 物 語 テ ク ス ト の構 成 要 素
︵ス ト ー リ ー ︶ を と ら え て 全 体 を 把 握 す る 一方 で 、
であ る ﹁場 面 設定 、 ス ト ー リ ー、 登 場 人 物 ﹂ に そ って 、 あ る程 度 細 部 に も 目 配 り を し た メ タ 的 な ︿こ と ば ﹀ の獲 得 が め ざ さ れ て い る 。 聴 解 を 扱 った cで は 、 出 来 事 の 展 開
﹁ど のよ う な 出 来 事 が 人 物 の運 命 を 変 え た か に触 れ な が ら 、 物 語 に つ い て語 る ﹂ と いう 実 践 例 に 如 実 な よ う に、 プ ロ ット 理 解 への観 点 と し て人 物 への着 目 を 促 す 。
d で は 、 精 読 法 と し て 、 ﹁推 論 ﹂、 ﹁演 繹 ﹂、 ﹁既存 の読 書 経 験 ﹂ の活 用 を 意 識 し 始 め る こ と が 望 ま れ て いる 。 ﹁既
知 の物 語 の冒 険 の結 末 を 踏 ま え 、 こ の場 面 で は 人 物 に何 が 起 こ る か 話 し合 う ﹂ と 実 践 例 にあ る よ う に 、 読 書 体 験
を 援 用 し て、 人 物 を 軸 と し た スト ー リ ー 読 み か ら プ ロ ット 読 み へ の導 入 が 意 識 さ れ て い る。 こ のよ う に 、 c、 d
で は 、 学 習 者 に と って最 も 抵 抗 感 の 少 な い人 物 を 取 り 上 げ 、 聞 く 、 話 す 場 で 、 物 語 読 解 を 共 有 し う る力 が 求 め ら
れ る よ う 具 体 的 提 案 が な さ れ る 。 一方 、 eで は 、 ﹁物 語 に つ いて 書 い た り 、 討 論 を す る な か で 、 物 語 構 造 に つ い
てあ る程 度 の理 解 を 得 る﹂ と 、 書 記 ・音 声 双 方 の表 現 を 掲 げ 、 ﹁﹁最 初 は ﹂、 ﹁最 後 に﹂ 等 を 手 が か り に、 物 語 の断
片 を 配 置 す る﹂ と い った 並 べ 替 え や 、 ﹁﹁三 匹 の こ ぶ た ﹂、 ﹁ゴ ル デ ィ ロ ックと 三 匹 の熊 ﹂ のよ う に 、 次 の 展 開 が 予
想 でき る物 語 の型 に 気 づ く ﹂ と い った 、 既 存 の読 書 を も と に 、 時 系 列 にそ った 出 来 事 想 起 型 の物 語 展 開 パ タ ー ン の意 識 化 が 求 め ら れ て い る 。
︵ 語 り の型 ︶ の把 握 と そ の組 み 立 て の 約 束 事 の意 識 化 と いう 、 具 体 的 な 指 針 が 明 示 さ れ て い る。 共 通 し て いる
こ の よう に 、 物 語 テ ク ス ト の特 性 を 語 り 出 す メ タ 的 言 語 行 為 に対 し 、 読 み の観 点 の活 用 や精 読 法 の試 み 、 全 体 像
の は 、 中 核 に 置 か れ て いる 言 語 行 為 が 、 音 声 表 現 で あ る こと であ る。 朗 読 の力 が 対 象 テ ク スト の声 に よ る再 現 と
す る な ら 、 右 の観 点 や方 略 を 意 識 さ せ な が ら 分 析 的 に 自 ら の テク スト 体 験 ︵ 読 み ︶ を 再 現 す る の が 、 c∼ eの項
目 で あ る。 話 し こと ば を 通 し て メ タ 的 な 言 語 行 為 を 繰 り 返 す こ と が 、 書 き こと ば に よ る分 析 的 な 読 解 のあ と づ け
へ の予 行 練 習 と し て意 図 さ れ て いる 。 こ の意 味 に お いて も 、 教 育 的 な ︿ 場 ﹀ の構 築 が 、 物 語 リ テ ラ シ ー の育 み の 基 盤 に 据 え ら れ て い ると 言 え よ う 。
第 四 レ ベ ル に な る と 、 対 象 テ ク ス ト が 、 物 語 ・詩 に 止 ま ら ず ノ ン フ ィ ク シ ョ ンや そ の他 の テ ク ス ト に 拡 大 し 、
同 様 の読 み方 の活 用 力 の進 展 を 示 す よ う 求 め て いる ︵c︶。 そ の実 践 例 に は 、 ﹁つぎ の展 開 を 予 想 す る た め に テ ク
ス ト 中 の手 が か り を 読 み 取 って活 用 す る ﹂ と あ り 、 テク ス ト に 沿 った 言 及 が 求 め ら れ 始 め る 。 改 訂 版 カ リ キ ュ ラ
ム の第 五 レ ベ ル に は 、 ﹁核 心 的 な と こ ろを 抜 き 出 し た り 、 必 要 に応 じ て予 測 や 推 論 を し な が ら 、 幅 広 い テ ク スト
に つ い て理 解 を 示 す ﹂ と いう 文 言 が 明 記 さ れ 、 当 初 のカ リ キ ュラ ム よ り も 、 予 測 力 、 推 測 ・推 論 の力 、 な ら び に
引 用 の活 用 を 、 初 等 か ら 中 等 に 続 く 読 み の方 略 と し て反 復 提 示 し 強 調 す る 姿 勢 が 伺 え る 。
⑤ テクストを語 りなおす行為 とそ のメタ的な 認識
② 、 ④ で す で に 繰 り 返 し 触 れ てき た こ と であ る が 、 テ ク スト を 語 り な お す 行 為 の習 得 と いう 一項 目 を 、特 徴 と
し て掲 げ てお き た い。 先 に掲 げ た 第 四 レ ベ ル b に は ﹁物 語 や 詩 に つ い て語 る こ と で、 自 ら の好 む と こ ろ を 探 求 す
る 力 を 明 示 す る﹂ と あ った 。 実 践 例 に は 、 ﹁ 自 分 の 個 人 的 な 思 いや 感 想 を呼 び 起 こ し てく れ る 詩 や物 語 に つ い て、
そ の特 質 を 述 べ る ﹂ と あ る 。 言 い換 え れ ば 、 テ ク スト の 具 体 に言 及 し な が ら 、 自 ら が 読 み 取 った ︿物 語 ﹀ を でき
る だ け 客 観 的 に 語 り な お す こ と であ る 。 さ ら に 言 え ば 、 自 分 の読 み の行 為 、 読 み のあ り よ う を 語 り な お す こと で
あ る 。 こ れ は 、 第 五 レ ベ ル にお い ても 、 ﹁自 ら の好 む と こ ろを 説 明 す る 力 ﹂ や ﹁自 分 の見 解 を テ ク スト の 部 分 を
参 照 し て根 拠 づ け た り す る 可 能 性 ﹂ と し て繰 り 返 し 取 り 立 て ら れ る 。 当 初 第 三 レ ベ ル に は 、文 言 と し て 明 示 さ れ
て は いな か った が 、 改 訂 版 に は 、 第 三 レ ベ ル ﹁フ ィ ク シ ョンな ら び に ノ ン ・フ ィ ク シ ョンを 読 む と き 、 主 要 部 分
の 理解 を 示 し 、 自 分 の感 想 を 表 す ﹂ と あ り 、 第 四 レ ベ ル では ﹁自 分 の考 え を 説 明 す る た め に 、 テ ク ス ト に 言 及 す
る﹂、 第 五 レ ベ ル で は ﹁テ ク スト の読 みを 通 し て 、 主 要 な 特 徴 、 主 題 、 人 物 を 認 識 し 、 自 分 の考 え を 根 拠 づ け る
た め に句 や 文 、 関 連 事 項 を 選 ぶ ﹂ と 、 自 ら の読 み のあ り よ う を 語 り な お す た め の方 略 を 学 び 重 ね て いく こ と が 、 一層 明 ら か な 系 統 的 到 達 目 標 と し て掲 げ ら れ て いる 。
状 況 設 定 ・人 物 ・プ ロ ット と いう 物 語 テ ク スト の 基 本 構 成 要 素 への着 目 と 理 解 、 予 測 法 、 推 測 ・推 論 法 、 演 繹
法 、 読 書 経 験 の活 用 、 引 用 法 と い った 、 読 み の方 略 は 、 テ ク ス ト を 語 り な お す 方 法 であ り 、 学 習 者 の 読 み 取 った
︵ 語 り な お し た ︶ 内 な る テ ク スト を 他 者 と 共 有 し う る場 へと 導 き 出 す 方 略 と 位 置 づ け ら れ て い る 。 第 五 レ ベ ル と
も な る と 、 筆 者 の こと ば 選 び や そ の効 果 へ の気 づ き な ど 、 文 体 論 的 な 読 み が 登 場 す る 。 著 名 な 作 家 の 文 体 を 意 識
的 に 読 む と いう と 受 動 的 な 読 みを 想 像 し やす いが 、 相 手 意 識 を 持 った 表 現主 体 の モデ ルと し て 作 家 の こ と ば に出 会 う こ と に重 き が 置 か れ て い ると 読 み 替 え る こ と も で き よ う 。
⑥ 既存 のテクスト体験 に逆照射 される読 み
く わ え て、 a∼ eに 一貫 し て見 ら れ る こと に 、 学 習 者 が 親 し ん で き た 物 語 テ ク ス ト 、 既 知 のテ ク ス ト の活 用 が
挙 げ ら れ る 。 既 知 の テ ク スト と の対 話 を 通 し て 、 未 知 の テ ク スト を と ら え て いく と いう 重 層 的 な 読 み の行 為 が 、
音 声 表 現 、 書 記 表 現 双 方 の 語 り な お し の行 為 に お い て、 き わ め て 具 体 的 に意 識 さ れ る よ う 配 慮 が 見 ら れ る 。 こ れ
に よ って 、 新 た な テ ク ス ト への抵 抗 感 を 和 らげ 、 読 み の方 略 の学 び に 集 中 で き る 学 習 状 況 を 可 能 に す る 。 就 学 前
か ら 多 様 な メ デ ィ ア形 態 を と お し て享 受 し てき た 物 語 テ ク スト 群 を て こ に、 新 た な テ ク スト を 弁 別 、 価 値 づ け て
いく こ の 行 為 は、 お のず と 自 ら の物 語 環 境 そ のも のを メ タ 的 に体 系 化 し て いく こと でも あ る。 イ ギ リ ス で よ く 言
わ れ ると こ ろ の ワ イ ダ ー リ ー デ ィ ン グ の ﹁広 が り﹂ は 、 こう し た 体 系 化 の意 識 を 育 む 土 壌 にあ って 活 か さ れ る こ と が 意 図 さ れ て いる 。
3 イギ リ ス の ナ シ ョナ ル ・カ リ キ ュラ ム に 見 ら れ る 物 語 リ テ ラ シ ー を 手 が か り に
以 上 を 踏 ま え 、 イ ギ リ ス のナ シ ョナ ル ・カ リ キ ュラ ム が 示 す 義 務 教 育 必 須 の読 み の力 を 手 が か り に 、物 語 の学
習 指 導 に お い て め ざ さ れ る 物 語 リ テ ラ シ ー を 図 に表 し て み た 。 試 み の構 造 図 であ り 、 誤 解 を 招 く こと を 恐 れ な が
ら も 、 こ のよ う に 整 理 し て み ると 、 イ ギ リ ス の物 語 リ テ ラ シ ー に 見 ら れ た 、 既 知 の テ ク ス ト と そ れ に 対 す る読 み
の構 え に 照 ら し 合 わ せ 、新 た な テ ク スト に読 み 入 って いく あ り よ う が 、 物 語 の学 習 指 導 を 理 論 的 にも 、 方 法 論 的
に も 、 少 な か ら ぬ 役 割 を 担 って いる こと が 一層 明 ら か であ る 。 そ れ は 、 読 み の方 略 であ り 、 物 語 特 性 にそ った 分
析 的 な 読 みを 支 え 、 解 釈 者 ・表 現 者 と し て の ︿私 ﹀ に 気 づ か さ れ て いく こと に つな が る読 み の力 と し て、 物 語 の 学 習 のな か に ゆ るぎ な く 位 置 づ け ら れ て いる 。
既 知 の テ ク スト を フ ィ ル タ ー に 未 知 の テ ク ス ト を 位 置 づ け る こと は 、 お のず と 、 す で に 身 に つけ た 、 物 語 を 受
け と め る構 え を 意 識 さ せ 、 顕在 化 さ せ る こと に な る 。 重 層 的 な テ ク スト 解 釈 者 と し て の自 分 を 意 識 さ せ る の であ
る 。 既 知 の テ ク ス ト は 、 活 字 メ デ ィ ア のみ な ら ず 、 個 々 の生 育 環 境 に お いて 遭 遇 し た多 種 多 様 な メ デ ィ ア表 現 形
態 を も つ テ ク ス ト 群 であ る 。 読 書 量 の多 寡 と い った 観 点 で は な く 、 活 字 、映 像 、 マル チ メ デ ィ アと い った 表 現 形
態 の差 異 を 超 え て 、 自 分 が 出 会 った物 語 テ ク スト と し て 統 括 し え 、 再 び 位 置 づ け る こ と が で き る 。 こう し た 読 み
手 と し て の自 分自 身 の振 り 返 り の行 為 は 、 ど のよ う な 言 語 文 化 背 景 の学 習 者 にも 可 能 であ り 、 ひ と り の物 語 体 験
者 と し て等 し く 、 授 業 と いう ︿ 場 ﹀ の参 加 者 と な り う る パ ス ポ ー ト にも 似 た 働 き を 担 う の で は な いか 。
こ のよ う に 、 自 ら の 物 語 体 験 の内 省 を も と に 、 物 語 テ ク ス ト 所 有 の特 性 に そ った 分 析 的 な アプ ロー チ を 活 用 し
て 、 物 語 テ ク スト と いか に出 会 え た 自 分 で あ る かを 語 り 出 す こ と 、 さ ら には 、 そ れ を 場 で 共 有 す る こ と を 、 基 盤
に 据 え た 物 語 リ テ ラ シ ー であ る 。 言 い換 え れ ば 、物 語 テ ク スト の読 み に よ って 、 自 ら を 代 弁 す る こ と を 必 須 の こ
と ば の力 と し て求 め る 。 学 習者 の既 存 の物 語 体 験 と 地 続 き のと こ ろ で 、 物 語 テク スト に自 ら を 代 弁 さ せ 、 他 者 と
分 か ち 合 い、 交 歓 し 、自 ら の読 み を 再 構 築 す る 。 こう し た 営 み の繰 り 返 し のな か に 構 想 さ れ て いく 物 語 リ テ ラ
シ ー の学 び は 、 ︿場 ﹀ を 意 識 し た 社 会 的 個 の育 み に通 じ る 物 語 の学 習 指 導 と 言 え よ う か 。
二 小説の学 習指導
︵一︶ 教室 で小説 を扱う理由
﹁小 説 ﹂ が 他 のジ ャ ン ル の文 章 と いち じ る し く 異 な る の は ど う い った 点 に お い てな の であ ろ う か 。 イ ギ リ ス の 作 家 であ り 、 批 評 家 でも あ る デ イ ヴ ィ ッド ・ロ ッジ は 次 の よ う に言 う 。
手 紙、日記、供述書、
を 小 説 は 取 り 込 ん で 、 みず か ら の 目 的 に適 合 さ せ て し ま う 。 リ ス ト に し ても 、 時 は いか
し か し 、 小 説 の文 章 と いう も のは 、素 晴 ら し く 雑 食 的 で あ る。 あ り と あ ら ゆ る言 説ー さ ら に は リ スト︱
にも リ ス ト ら し い箇 条 書 き の形 そ のま ま で再 現 さ れ 、 そ れ を 囲 む 文 章 と の コ ン ト ラ ス ト が 強 調 さ れ る こと も ある ︵ 注 1 ︶。
ロ ッジ の発 言 は 大 げ さ な も の で は な い。 た と え ば 、 ︽ド キ ュ メ ン タ リ ー ・ノ ベ ル︾ の傑 作 で あ る 、 ア ヴ ィ の
﹃ 星 条 旗 よ永 遠 な れ ﹄ ︵ 注 2 ︶ では 、 ま さ し く ロ ッジ の言 う と お り 、 連 絡 文 書 ・日 常 会 話 ・電 話 で の会 話 ・日 記 ・
手 紙 ・電 報 等 の ﹁あ り と あ ら ゆ る 言 説 ﹂ が 織 り 合 わ さ れ 、 ス ト ー リ ー が 形 成 さ れ て いく 。 あ る高 校 生 の悪 戯 が 、
﹁あ り と あ ら ゆ る 言 説 ﹂ に よ って人 か ら 人 へと 歪 曲 さ れ な が ら 伝 達 さ れ た た め 、 や が て全 米 に 波 紋 を 呼 ぶ模 様 が
そ こ に は 示 さ れ て いく 。 こ と ば を 用 いる メ デ ィ アに よ って 真 実 が つく ら れ て いく 模 様 が 形 成 さ れ て いく のだ 。
﹃星 条 旗 よ永 遠 な れ﹄ は い さ さ か 特 別 な のか も し れ な い が 、 こと ば に よ って構 築 さ れ たも の であ る と いう 点 に 、
﹁小 説 ﹂ の大 き な 特 徴 が あ る と 言 う こと は で き る 。 だ が 、 こ の規 定 だ け では 、 弱 い。 な ぜ な ら 、 ﹁詩 ﹂ も ﹁評 論 ﹂
も ﹁報 道 ﹂ も ﹁スピ ー チ ﹂ も 、 あ る いは ﹁議 論 ﹂ も 、 す べ て こと ば に よ って構 築 さ れ た も の で あ る か ら だ 。 ﹁小
説 ﹂ は 単 一の声 に よ る 語 り で はな く 、 作 者 と 語 り 手 と の、 語 り 手 と 登 場 人 物 と の、 作 者 と 登 場 人 物 と の対 話 で あ
る (注 3)。 こ の こ と が 、 ロ ッジ の言 う よ う に 、 小 説 を ﹁素 晴 ら し く 雑 食 的 ﹂ な も の に す る の で あ る 。
︵ 話 の要 点 ︶ が あ る程 度
﹁物 語 ﹂ や ﹁寓 話 ﹂ であ れ ば 、 語 り 手 は エピ ソー ド の枠 の外 側 に立 って そ の エピ ソ ー ド を 語 ろ う と す る 。 た と
え ば ﹁か さ ご じ ぞ う ﹂ ︵ 岩 崎 京 子 再 話 ︶ は 、 再 話 者 が 何 を 語 ろ う と す る の か と いう こと
明 確 で あ る と 言 って よ い。 だ か ら こ そ 、 私 た ち は 再 話 者 が ど の よう に語 ろう と す る の か と いう こ と よ り も 、 か
え って ス ト ー リ ー ︵ 物 語 内 容 ︶ に身 を ゆだ ね て いこ う と す る 。 こ れ に 対 し て 、 ﹁小 説 ﹂ 教 材 と し て国 語 教 科 書 に
掲 載 さ れ て い る、 ﹁走 れ メ ロ ス﹂ ︵ 太 宰 治 ︶ に し ても ﹁山 月 記 ﹂ ︵ 中 島 敦 ︶ に し ても 、 そ の ﹁語 り 手 ︵話 者 ︶﹂ と
いう 存 在 が す べ てを 知 って いる と いう わ け で は な く 、 何 を 語 ろ う と す る の か と いう こと に つ いて 明 確 な ﹁解 ﹂ を
有 し て いる わ け で は な い。 だ か ら こそ 小 説 は 、 作 者 が ﹁語 り 手 ﹂ に 何 を ど の よ う に語 ら せ て いる のか と いう こと が、当然 問題とな る。
作 者 が ﹁語 り 手 ﹂ に ど の よ う に語 ら せ て い る のか と いう こと が問 題 と な る のも 、 作 者 と ﹁語 り 手 ﹂ な いし ﹁登
場 人 物 ﹂ と の間 に ﹁距 離 ﹂ な いし ﹁間 隔 ﹂ が あ り 、 こ れ が 小 説 の叙 述 の な か で は 大 切 な 要 素 と な る か ら で あ る
︵ 注 4︶。 こ のた め 、 小 説 の読 者 は 、 そ の テ ク スト の ﹁語 り 手 ﹂ や ﹁登 場 人 物 ﹂ と の 間 に 何 ら か の距 離 を 置 い て み
た り 、 そ れ ら に寄 り 添 って み た り す る こと に な る 。 も ち ろ ん 、 こう し た 読 者 と 語 り 手 ・作 中 人物 と の距 離 は 、 作
者 と 語 り 手 ・作 中 人 物 と の 間 の 距 離 で も あ る 。 スト ー リ ー ︵ 物 語 内 容 ︶ に 身 を ゆ だ ね て いる だ け で は 、 作 者 が
﹁語 り 手 ﹂ に ど のよ う に 語 ら せ て いる のか と いう 問 題 は 読 者 の意 識 のな か で ク ロ ーズ ア ップ さ れ ず 、 そ の小 説 の
﹁要 点 ﹂ を 捉 え る こと は でき な い。 ﹁走 れ メ ロ ス ﹂ が ︽誠 実 さ ︾ や ︽人 を 信 じ る こと の大 切 さ ︾ を 描 い た小 説 であ
る と いう 捉 え 方 は 、 こ の小 説 を 単 一の声 に よ って語 ら れ た ﹁物 語 ﹂と し て のみ 捉 え 、そ の スト ー リ ー ︵ 物語内容 ︶
に 身 を ゆだ ね た だ け の捉 え 方 で あ って 、 け っし て 作 者 ・太 宰 治 と ﹁語 り 手 ﹂ な いし ﹁登 場 人 物 ﹂ と の ﹁距 離 ﹂ が 生 み出 す 葛 藤 を 視 野 に 入 れ た も の で は な い。
こ の よう に 、 ﹁走 れ メ ロ ス﹂ を 一つ の ︽訓 え ︾ と 読 む のも 一つ の読 み方 で あ る し 、 ︽友 情 の大 切 さ ︾ を 伝 え て い
る 話 だ と 思 う 一読 者 の思 いは 、 誰 に も 止 め る こと は でき な い。 だ が 、 ﹁小 説 ﹂ と いう 表 現 形 式 は 、 作 者 が ﹁語 り
手 ﹂ や 登 場 人 物 を 造 型 し な が ら 、 苦 心 し て ﹁語 り 手 ﹂ にど う に か し て 語 ら せ て いる と こ ろ に 特 徴 が あ る。 一つ の
︽訓 え ︾ を 伝 え る ﹁物 語 ﹂ と し て単 声 化 し て し ま って は 、 ほ か でも な い ﹁小 説 ﹂ を 教 材 と し て授 業 を お こな う 意 義 が そ こな わ れ て しま う 。
︵二︶小 説 と 現 実 と
小 説 は 現 実 と の緊 張 関 係 の上 に成 り 立 つ。 あ る小 説 に よ って こ と ば で構 築 さ れ た 世 界 は、 つね に現 実 と の緊 張
関 係 を 持 つは ず で あ る。 こ れ は 、す べ て の小 説 が 現 実 の模 像 を 描 いた も の だ 、と いう こ と では な い。む し ろ 逆 で、
現 実 と は 遠 いと こ ろ にあ る は ず のも のが 虚 構 な の であ る 。 し か し 、 逆 に小 説 が 現 実 と は 無 縁 だ と す れ ば 、 そ れ は
小 説 の力 を 半 減 さ せ て しま う と いう だ け でな く 、 無 化 し て し ま う こ と にも な り か ね な い。 小 説 は あ る意 味 で現 実
を 補 完 す る。 し か し 、 な いも のを 単 純 に 補 う と いう の で は な く 、 既 に あ る も のを 背 景 にす る か ら こ そ成 り 立 つ。
こ れ が 、 虚 構 にお け る 現 実 と の緊 張 関 係 であ る 。 虚 構 は 現 実 を さ え も 、 自 ら を 成 り 立 た せ る た め の要 素 に す る 。
た と え ば 、 ロイ ス・ ロ ー リ ー の ﹃ザ ・ギ バー ﹄ ︵ 講 談 社 一九 九 六 ︶ ︵ 注 5︶ や 、 す やま た け し の ﹁素 顔 同 盟 ﹂
︵ 注 6 ︶ は 、 近 未 来 の架 空 社 会 を 舞 台 に し て おり 、 そ の 意 味 で 現 実 と は 切 り 離 さ れ た 世 界 が そ こ に 展 開 さ れ て い
る 。 し か し 、多 く の S F 小 説 や フ ァン タ ジ ー が そう で あ る よう に 、 こ の架 空 世 界 は 、 そ の総 体 で 現実 に対 す る 作
者 の アイ ロ ニカ ルな 見 方 を 反 映 し た も の であ る と 言 う こと が でき る だ ろ う 。 ﹁寓 意 ﹂ に満 ち た 小 説 ほ ど 、 こ の傾 向 が 強 いも のと 思 わ れ る 。
﹃ 難波 土産﹄ ︵ 穂 積 以 貫 ︶ の な か に見 ら れ る近 松 門 左 衛 門 の ﹁虚 実 皮 膜 ﹂ 説 は 、 こ の こ と を 考 察 し た も の で あ る と 言 え るだ ろ う 。
あ る 人 の い は く 、 ﹁今 時 の人 は 、 よ く よ く 理 づ め の実 ら し き こ と に あ ら ざ れ ば 、 合 点 せ ぬ 世 の中 、 昔 語 り
にあ る こと に当 世 受 け 取 ら ぬ こ と 多 し。 さ れ ば こ そ 、 歌 舞 伎 の役 者 な ど も 、 と か く そ の所 作 が 実 事 に 似 る を
上 手 と す 。 立 ち 役 の家 老 職 は本 の家 老 に 似 せ 、 大 名 は大 名 に 似 る を も つて 第 一と す 。 昔 の や う な る 子 供 だ ま
し の あ じ や ら け た る こ と は 取 ら ず 。﹂ 近 松 答 へて いは く 、 ﹁こ の論 も つと も の やう な れ ど も 、 芸 と いふ も の の
真 実 の いき か た を 知 ら ぬ 説 な り 。 芸 と いふも のは 、実 と 虚 と の皮 膜 の間 にあ る も のな り 。な る ほ ど 、今 の世 、
実 事 に よ く 写 す を 好 む ゆ ゑ、 家 老 は ま こ と の家 老 の身 ぶ り ・口 上 を 写 す と は い へど も 、 さ ら ば と て 、 ま こ と
の大 名 の家 老 な ど が 、 立 ち 役 のご と く 顔 に紅 ・お し ろ ひ を 塗 る こ と あ り や 。 ま た 、 ま こと の家 老 は 顔 を かざ
ら ぬ と て、 立 ち 役 が 、 む し や む し やと ひ げ は 生 え な り 、 頭 は は げ な り に舞 台 へ出 て芸 を せ ば 、 慰 み に な る べ
き や 。 皮 膜 の間 と いふ が こ こ な り 。 虚 に し て虚 に あ ら ず 、 実 に し て実 に あ ら ず 、 こ の間 に 慰 み が あ つた も の
な り 。 絵 そ ら ご と と て 、 そ の姿 を 描 く に も 、 ま た 木 に刻 む に も 、 正 真 の 形 を 似 す る う ち に 、 ま た お ほ ま か な
ると こ ろあ る が 、 け つく 人 の愛 す る種 と は な る な り 。 趣 向 も こ のご と く 、 本 の こ と に 似 る う ち に 、 ま た お ほ
ま か な る と こ ろ あ る が 、 け つく 芸 にな り て、 人 の心 の慰 み と な る 。 文 句 のせ り ふ な ど も 、 こ の心 入 れ に て 見 る べ き こ と 多 し 。﹂ ︵ 注 7︶
小 説 も ま た 、 近 松 の言 う ﹁実 と 虚 と の皮 膜 の間 に あ る も の﹂ で あ る と 言 っ てよ い。 ﹁実 と 虚 と の皮 膜 の 間 ﹂ の
こ と であ る か ら こ そ 、 私 た ち は そ れ に か か わ り あ う こと を 、 私 た ち 自 身 の こ と や 私 た ち の つな が り の こと に つ い
て 考 え る た め の ﹁共 有 地 ﹂ と し て いく こ と が で き る の で は な いだ ろう か 。 す べ ては 、 こ と ば で創 造 さ れ た 世 界 で
あ る 。 こ と ば で創 造 さ れ た 世 界 を 読 む こ と で、 心 のな か に 生 み 出 さ れ る こと ど も を 重 く 見 る か ら こそ 、 教 育 で虚 構 を扱おう とす るのだ。
︵三︶小 説 の 何 を 学 習 の 問 題 と す る か
﹁走 れ メ ロ ス﹂ を 私 た ち は 学 ぶ のか 、 そ れ と も ﹁走 れ メ ロ ス﹂ で 何 か を 学 ぶ の か 。 あ る い は ﹁走 れ メ ロス ﹂ に
学 ぶ こと も あ る の か 。 そ し て 、 そ も そ も ﹁走 れ メ ロ ス﹂ を 扱 う 必 要 性 は あ る の か 、 と いう こと を 考 え て いく 必 要
が あ る。 ﹁走 れ メ ロ ス﹂ と いう 作 品 自 体 の解 釈 も も ち ろ ん の こと な が ら 、 こ の作 品 を 中 学 校 二年 生 が 読 む と いう
こ と が 、 彼 ら にと って ど のよ う な 意 義 を 帯 び る こ と に な る のか と いう こと を 考 え て いか な け れば 、 ﹁走 れ メ ロ ス﹂
に 取 り 組 む こ と が 国 語 教 育 に お い てな ぜ 必 要 な の か と いう 問 い への答 え を 導 く こ と は で き な い。
文 章 を 読 む と いう こ と は 、 別段 授 業 を 通 さ な く て も 可 能 な こ と で あ る 。 あ る いは 、 授 業 のな か の い ろ いろ な 局
面 で 私 た ち は 読 む こ と を 営 ん で い る 。 で は 、 ﹁読 む こと ﹂ の 学 習 は いか に 可 能 な の か 。 私 た ち の生 活 のな か で
﹁読 む こ と ﹂ は ど のよ う に位 置 づ いて いる の か 。 わ け ても 、 小 説 を 読 む と いう こと に つ い て は ど う な の だ ろ う か 。
少 な く と も 、 日 常 生 活 に お い てす べ て の人 が 小 説 を 読 ま な け れ ば な ら な いと いう こ と は な い。 小 説 は 、 学 習 し
な け れ ば 読 む こと の でき な いも の で は な い。 し か し 、 放 ってお いて は 見 え て こ な い日 常 の諸 事 の、 そ の いず れ か
の局 面 を ク ロ ーズ ア ップ し て、 一つの 世 界 と し て再 構 成 す る 営 み こ そ 、 小 説 を 書 く と いう 営 み で は な い のだ ろう
か 。 小 説 と いう 虚 構 は も ち ろ ん イ コー ル現 実 で は な い。 現 実 のす べ てを 写 し 取 った も の でも な い。 だ か ら 、 小 説
を 読 む と いう こと で 、現 実 のす べ て を 理 解 で き る か と いう と 、そう いう こと に は け っし てな ら な いだ ろう 。だ が 、
日 常 を 生 き る な か では 、 け っし て持 つ こと の で き な い視 角 を 小 説 は 用 意 し て く れ る。 そ れ を ︽相 互 主 観 ︾ と 言 っ
ても よ いし 、 ︽多 層 的 世 界 観 ︾ と 言 って も よ い。 そ の よ う な 視 角 を 手 に 入 れ る こと が 、 小 説 を 読 む 価 値 であ り 、
教 材 と し て の価 値 な の であ る 。 作 者 が ﹁語 り 手 ﹂ に ど の よ う に語 ら せ て いる のか と いう 問 いが 、 そ の価 値 を 私 た
ち に考 え さ せ てく れ る 。 そ し て、 小 説 を 学 習 す る な か で 、 作 者 が ﹁語 り 手 ﹂ に ど の よ う に語 ら せ て い る のか と い
を 持 つ こと にも つな が る の であ る 。
何 を 選 択 す れ ば よ い のか 、 何 を 捨 て れ ば よ い の か 、 ど こ を 強 調 し た り 誇 張 す る と 伝
う 問 いを 意 識 す る と いう こ と は 、 ﹁読 む こと ﹂ だ け の問 題 に と ど ま ら な い。 た と え ば 、 経 験 を 書 く こ と で 果 た す ﹁再 構 成 ﹂ に 対 す る 意 識︱
わ る の か 、 と いう こと に 関 す る 意 識︱
小 説 は 現 実 を ︽断 片 ︾ 化 し 、 そ の ︽断 片 ︾ を ︽編 集 ︾ す る こと で 成 立 す る 構 造 体 で も あ る 。 書 き 手 は 、 自 ら に
既 有 の多 種 多 様 な 情 報 を 、 あ る や り 方 で構 築 し て いく のだ 。 ウ ェイ ン ・ブ ー ス に よ る ﹃フ ィ ク シ ョ ン の修 辞 学 ﹄
︵ 注 8︶ は 、 そ の ﹁や り 方 ﹂ を 体 系 的 に論 じ た 著 作 で あ る 。 そ れ は 、 ︽虚 構 ︾ 化 に際 し て用 いら れ る ︽修 辞 ︾ の諸
相 を 明 ら か に し て い こう と し た 試 み で あ り 、 書 き 手 ︵ 作 者 ︶ の側 の 世 界 構 築 に あ た って用 いら れ る 手 法 を 分 析 し
記 述 し よ う と す る企 て であ った 。 ︽虚 構 ︾ と いう 織 物 を 織 り 上 げ る た め の技 法 を 明 る み に出 し た の で あ る 。 ブ ー
ス が明 る み に出 し た よ う な 、 小 説 家 の世 界 構 築 の営 み に 、 読 者 が ど のよ う に 関 与 し て いく の か と いう こ と を 、 小
説 の指 導 論 のな か で は 考 え て いか な く て は な ら な い。 そ れ は 、 虚 構 を 織 り 上 げ る 作 者 側 の工夫 を 読 者 と し て吟 味
し て いく こ と でも あ る 。 こ の こ と を 考 え る に至 って 、 は じ め て ﹁分 析 批 評 ﹂ や ﹁言 語 技 術 教 育 ﹂ の強 調 す る ﹁批
評 の文 法 ﹂ を 教 え る 必 然 性 が 、 浮 か び 上 が る ︵ 注 9︶。 も ち ろ ん 、 小 説 は 多 様 な の で そ の対 応 の仕 方 が 一様 で は
な い のも 確 か な こと で あ る が 、 小 説 と いう 形 式 で の ︽編 集 ︾ に 際 し て 用 いら れ た 作 者 側 の工 夫 を 知 る こと は 、 読 者 に と って小 説 世 界 に 分 け 入 る た め の有 力 な 武 器 と な る か ら で あ る。
︽再 読 ︾ と は 、 つね に 新 た な 目 で 世 界 を 見 つ め て いく と いう 営 み で あ る 。 小 説 は ま ず 世 界 を 異 化 す る こ と で成
り 立 つ芸 術 で あ る 。 そ れ は 独 自 の視 点 か ら 世 界 を 描 き 出 し て いく と いう こ と でも あ る 。 ﹁サ ー カ ス の馬 ﹂ が 私 た
ち にも た らす のも そ う し た 異 化 の効 果 で あ る。 ﹁馬 ﹂ と ﹁ヤ ス オ カ ﹂ 少 年 と の間 に は 、 共 通 点 は 元 来 な か った の
であ って 、 す べ て は ﹁ヤ スオ カ ﹂ 少 年 の ﹁思 い込 み ﹂ だ った の であ る 。 そう いう 意 味 で 言 う と 、 こ の小 説 の中 心
は ﹁ヤ スオ カ ﹂ 少 年 の ﹁思 い込 み ﹂ が 晴 ら さ れ た 、 と いう と こ ろ に あ る と 言 う こと が で き るだ ろ う 。
そ し て 、 読 者 側 の ﹁思 い込 み ﹂ も ま た 晴 ら さ れ る こと に な る 。 つま り 、 中 心 人 物 と み ら れ る ﹁ヤ ス オ カ ﹂ 少 年
の側 に 立 って 、 す べ てを 判 断 し よ う と す る そ の姿 勢 に 冷 水 を 浴 び せ か け た のが 、 こ の結 末 だ った のだ 。 ﹁サ ー カ
ス の馬 ﹂ の作 者 寄 り の ﹁語 り 手 ﹂ は 、 中 途 ま で ﹁ヤ ス オ カ ﹂ 少 年 の目 と 心 に 寄 り 添 い つ つ、 実 は 単 な る 回 想 者 で
は な いそ の正 体 を 、 結 末 近 く で見 せ る こ と にな った の で あ る 。 小 説 を 読 む と いう こと は 、 こ の よ う な ︽は ぐ ら か し ︾ に出 会 う と いう こ と でも あ る 。
竹 内 常 一が か つて 示 し た よう に ︵ 注 10︶、 こ の小 説 に お いて は ︽見 る ︾ と いう こ と が 重 要 な 行 動 に な って いる 。
た と え ば 、 視 覚 に か か わ る語 彙 を 抜 き 出 し て いく と いう こ と で 、 ﹁僕 ﹂ と いう 人 物 が ﹁馬 ﹂ ば か り で な く 、 外 界
と ど んな ふう にか か わ って いる のか と いう こと を 探 る こと が でき る 。何 し ろ 舞 台 は サ ー カ ス で あ る。当 然 ﹁見 る﹂
︱﹁見 ら れ る﹂ と いう 関 係 のな か に 登 場 人 物 も 包 ま れ る と 言 って よ いだ ろう 。 ﹁ヤ スオ カ﹂ 少 年 が ぼ ん やり と 窓 の
外 を 眺 め て 、 そ の視 界 に サ ー カ ス の見 世 物 小 屋 の裏 側 が と び こ ん でき た と いう こ と が 話 の始 ま り だ った 。 九 段 の
靖 国 神 社 の近 く の ﹁中 学 校 ﹂ に 彼 は 学 び 、 そ こ で 周 縁 にあ る と いう 自 覚 す ら あ った 彼 で あ る 。 そ の目 にと び こ ん
で き た 背 中 の湾 曲 し た 馬 を 、 彼 が サ ー カ ス の周 縁 に 置 き 去 り に さ れ た存 在 であ る と 勘 違 いし ても 何 ら 不 思 議 は な い 。
だ か ら こ そ 、 な お さ ら ﹁ヤ スオ カ﹂ 少 年 が 学 校 で 先 生 の期 待 に応 え る 優 等 生 に な る と いう 解 釈 は 貧 し い の であ
る 。 周 縁 に あ る者 が 中 心 に近 づ く こと を め ざ す も のと し て こ の小 説 を ︽物 語 ︾ 化 し て し ま う こと に な る か ら であ
る 。 そ れ は 、 同 時 に 、 ﹁サ ー カ ス の花 形 ﹂ であ る と いう こと も ﹁中 学 校 ﹂ で 優 等 生 で あ る と いう こと と 同 じ 価 値
を 持 つと す る 解 釈 で あ る と 言 う こ と が で き る。 こ の小 説 は 、 わ ざ わ ざ そ の よう な ︽物 語 ︾ を 伝 え る た め の も のな
の であ ろう か 。 け っし てそ う で は な い。 む し ろ逆 に そ の よう な 単 一の ︽物 語 ︾ か ら 外 れ て、 そ れ でも な お 生 き る
道 は あ る のだ と いう こ と を ﹁ヤ スオ カ﹂ 少 年 は 強 く 感 じ 取 った か ら こ そ 、 自 ら の ﹁勘 違 い﹂ が は っき り し た と し
て も ﹁拍 手 ﹂ を す る こ と が で き た の であ る 。 あ る いは 、 そ のよ う な 少年 の姿 を 作 者 は ﹁語 り 手 ﹂ に 語 ら せ た の で ある。
︵五︶小 説 を 読 む こ と で は た ら く 思 考
小 説 の読 み は つね に ︽物 語 ︾ 化 の危 険 と 背 中 合 わ せ であ る 。 時 に そ れ が 小 説 を 教 材 と し て ︽聖 典 ︾ 化 す る こと
に も な り か ね な い。 ﹁サ ー カ ス の馬 ﹂ は 、 一人 の少 年 の ︽改 心 ︾ の物 語 と し て読 む こと も 可 能 で あ る 。 学 校 的 な
日 常 のな か で は 活 躍 の場 が 与 え ら れ て いな い少 年 が 心 を 入 れ 替 え る話 と し て読 ん だ と こ ろ で、 お も し ろ いは ず は
な い の に 、 そ う 読 ん で し ま いた く な る欲 望 が 私 た ち の心 の ど こ か に あ る のだ 。 む し ろ 、 そ う 読 み た い のな ら 別 に
そ れ でも か ま いは し な いと 、安 岡 章 太 郎 は 私 た ち に 語 り か け て、 そ のよ う な 欲 望 にあ る意 味 で揺 さ ぶ り を か け て く る。
﹁愛 のサ ー カ ス﹂ ︵別 役 実 ︶ の場 合 、 ﹁ 走 れ メ ロ ス﹂ や ﹁サ ー カ ス の馬 ﹂ で 可能 であ った よ う な ︽物 語 ︾ 化 は き
わ め て困 難 で あ る。 は じ め か ら そ のよ う な こと を 拒 絶 し て いる テ ク スト であ る か ら だ 。読 者 に多 く の こと を 考 え
さ せ る小 説 だ が 、教 科 書 教 材 と し て扱 いに く い部 類 に 入 る こ と も 確 か だ (現 に 平 成 十 四年 度 か ら ﹁愛 のサ ー カ ス﹂
は 教 科 書 か ら 消 え て いる )。 こ の小 説 の内 部 に は 捉 え る べ き 何 か が 隠 さ れ て いる わ け で は な いか ら で あ る 。 読 み
解 く と いう 行 為 自 体 を 拒 否 し て い ると こ ろ があ る 。 そ れ は 、 従 来 の国 語 教 育 に お け る読 み への鋭 い批 判 と も な っ て い る。
で は 、 小 説 が つね に ﹁読 解 ﹂ の対 象 か と いう と 、 必 ず しも そ う いう わ け で は あ る ま い。 ﹁愛 のサ ー カ ス ﹂ や 、
冒 頭 で触 れ た アヴ ィ の ﹃星 条 旗 よ 永 遠 な れ﹄ な ど の テ ク スト は 、 ﹁読 解 ﹂ を 拒 み 、 む し ろ読 者 の 固定 化 し た 読 み
の姿 勢 を 解 き ほぐ す 。 決 め手 が な い、 と いう よ り も 、 自 分 た ち の側 の問 題 を 考 察 す るき っか け が 示 さ れ て いる と 言 え る の で は な いだ ろ う か 。 冒 頭 に 引 用 し た デ イ ヴ ィ ッド ・ロ ッジ は 、 次 の よ う にも 述 べ て いる 。
現 代 の 小 説 家 は 、 登 場 人 物 にま つわ る事 実 を 、 そ の言 動 に よ って さ ま ざ ま に 色 づ け し 、 あ る い は実 際 にそ れ
を 通 し て描 写 し な が ら 、 徐 々 に提 示 す る手 法 を 好 む 場 合 が多 い。 いず れ に せ よ 、 小 説 中 の 描 写 は す べ て選 択
的 にな さ れ るも ので あ り 、 そ の基 本 と な る修 辞 技 法 は 、 部 分 で全 体 を 表 す 提 喩 であ る ︵ 注 11︶。
ロ ッジ が 述 べ て い る よ う に、 ︽提 喩 ︾ ︵ 部 分 で全 体 を あ ら わす 修 辞 技 法 ︶ こ そ 、 小 説 中 の描 写 の基 本 と な る修 辞
技 法 であ る。 そ のた め 、 描 か れ る事 物 は いず れ も 象 徴 性 を 担 う こと にな る 。 ﹁走 れ メ ロ ス﹂ と いう 小 説 のな か で 、
メ ロ ス の身 体 か ら 少 し ず つ衣 服 が は ぎ と ら れ 、 最 後 に 全 裸 にな る と いう こと は、 こ の小 説 の場 合 、 メ ロ ス の心 も
ま た 覆 い隠 す も の を 取 り 去 った と いう こ と を 意 味 し て い る 。 ま た 、 ﹁サ ー カ ス の馬 ﹂ の ヤ スオ カ も 、 部 分 し か 描
か れ な い。 こ の中 学 生 の描 か れ て いな い部 分 に も 目 を 向 け て いけ ば 、 小 説 は ま た 違 った 意 味 を 帯 び る こ と に な り は し な いだ ろう か 。
小 説 の読 み の学 習 で可 能 に な る の は 、 こ の よ う に多 様 な 側 面 か ら も のを 見 て 、 そ れ を こと ば に よ って実 行 す る
と いう こ と な の で あ る 。 論 説 ・評 論 文 以 上 に 、 小 説 だ か ら こそ 可能 にな る こ と が 少 な く な いはず であ る 。 小 説 の
こと ば が 、 こう し た 多 様 な 面 を そ な え た ︽喩 ︾ だ か ら こ そ 、 私 た ち が そ れを 読 み、 そ れ ら に つ い て会 話 を 営 ん で いく こと に 意 味 が あ る のだ 。
小 説 の学 習 だ か ら こそ 可能 にな る 思 考 と は ど のよ う なも のな のだ ろう か 。 小 説 の遠 近 法 の交 替 に揺 り 動 か さ れ
な が ら 、 私 た ち は 描 か れ た 世 界 を 内 面 に構 築 し て いく 。 そ の構 築 に 際 し て 働 く 思 考 こ そ 、 小 説 的 思 考 と呼 ぶ こと
の でき る も の で は な いか 。 そ し て そ のよ う な 思 考 は 、 論 説 や評 論 の読 み に お い て求 め ら れ る 思 考 と は や は り 異 種 のも ので あ る こ と は 間 違 いな い。
ほ と ん ど の物 語 に は 読 者 を 驚 か す 要 素 が含 ま れ て いる 。 話 の展 開 が す べ て 予 測 でき た と し た ら 、 物 語 と し
︵ペ リ ペ テ イ ア︶ と 呼 ん だ 。 こ れ は 、 あ る事 態 か ら
て 面 白 く も 何 と も な い であ ろ う 。 だ が 、 物 語 の展 開 は 、 意 外 で あ ると 同 時 に 、 な お か つそ れ な り の説 得 力 を 持 た ね ば な ら な い。 ア リ スト テ レ スは こ の効 果 を 激 変
ま った く 異 な った事 態 への 急 展 開 の こと であ る が 、 そ こ に は 登 場 人 物 の無 知 を 知 へと 転 換 す る 要 素 、 す な わ ち ﹁発 見 ﹂ が 伴 って いる こと が多 い ︵ 注 12︶。
読 者 を 驚 か し 、 ﹁発 見 ﹂ に 至 ら し め る 。 登 場 人 物 にと っても ﹁発 見 ﹂ に いざ な わ れ る ほど の展 開 を 、 いか に捉
え て いけ ば よ い の か 。 こ の こと が 先 ほど か ら 言 及 し て い る ﹁サ ー カ ス の馬 ﹂ に は 、 じ つに み ご と に あ ら わ れ て い
る 。 ヤ スオ カ 少 年 の無 知 を 知 へと 転 換 す る要 素 と は 、 こ の小 説 の 場 合 、 と く に 結 末 の 、 馬 が サ ー カ ス の 花 形 で
あ った こと が 明 る み に 出 さ れ る 場 面 であ る 。 こ の場 面 で は、 も ち ろ ん ヤ スオ カ少 年 の無 知 が 明 か さ れ る だ け で は
な い。 サ ー カ スに と って余 計 者 で あ る と 思 わ れ た 馬 が 花 形 で あ った と いう こ と に 驚 か さ れ る のは 読 者 と て同 じ で
あ る 。 が 、 こ の ﹁激 変 ﹂ の作 用 は そ れ に と ど ま ら ず 、 登 場 人 物 より も ま ず 、 読 者 側 の内 部 を 揺 さ ぶ る 働 き を し 、
そ の 上 で ヤ スオ カ 少 年 の言 動 を 捉 え よ う と す る こ と に 読 者 を いざ な う 。 ﹁サ ー カ ス の 馬 ﹂ は そ の よ う な か た ち で
読 者 側 の ﹁思 い込 み ﹂ に働 き か け る 。 小 説 の学 習 で は 、 こ の ﹁激 変 ﹂ を こ そ 押 さ え る 必 要 があ る 。
こ のよ う に 、 登 場 人 物 の無 知 か ら 知 へ の転 換 点 と し て の ﹁激 変 ﹂ のあ ら わ れ を 捉 え る と いう こ と は 、 読 者 に
と っても ﹁発 見 ﹂ の契 機 と な る の で は な いだ ろう か 。 辻 仁 成 の ﹁僕 は そ こ に いた ﹂ ︵注 13︶ の ﹁僕 ﹂ も 、 安 岡 章
太 郎 の ﹁サ ー カ ス の馬 ﹂ の ﹁僕 ﹂ も 、作 中 でそ のよ う な 転 換 点 を 迎 え る 。 そ う し た 転 換 点 を 捉 え よ う と す る 営 み が 、 読 む こ と のお も し ろ さ に読 者 を いざ な う 契 機 と な る のだ 。
︵六︶小 説 の 読 み と 教 師 ︱﹁作 者 側 に 立 つ﹂ と いう こと
教 師 が ど の よ う にそ の小 説 教 材 を 解 釈 す る のか 、 と いう こと が 、 授 業 に お け る読 み の広 さ と 深 さ を 決 定 す る と
言 って よ い。 こ れ は 、 教 師 の内 部 に ど の よう な 矛 盾 ・葛 藤 が あ ら わ れ る の か と いう 問 題 でも あ る 。
﹁走 れ メ ロ ス﹂ の場 合 、 中 心 人 物 メ ロ ス の 言 動 を 軸 に解 釈 を 進 め て いく こと が 多 いわ け で あ る が 、 も ち ろ ん こ
の小 説 の作 者 .太 宰 治 が そ の ま ま メ ロ ス で あ る と いう わ け で は な いだ ろ う 。 む し ろ 、 王 デ ィ オ ニ ソ スも 、 メ ロ
ス の ︿竹 馬 の友 ﹀ セ リ ヌ ン テ ィ ウ スも 、 ︿シ ラ ク ス ﹀ の民 衆 も ま た 、 太 宰 治 にと って は 自 ら の分 身 であ る と 言 う
こと が で き る の で は な いだ ろ う か。 そ う す ると 、 メ ロ スを 中 心 に 読 む と いう だ け で は 、 明 ら か に 作 者 の葛 藤 を な
い が し ろ にし たも の であ る わ け だ し 、 生 徒 か ら 提 出 さ れ る は ず の反 応 の多 く を 取 り 逃 が し て し ま う こ と に も な り
か ね な い。 教 師 の教 材 研 究 と し て の小 説 解 釈 に は 、 こ の意 味 で ﹁作 者 側 に 立 つ﹂ 必 要 が あ る のだ 。 作 者 側 に立 っ
て考 え て み ると いう こと が 、 解 釈 を 一つに 限定 す る と いう よ り も む し ろ逆 に 解 釈 の多 様 性 の 立 ち あ ら わ れ る根 拠
を 問 う こ と に つな が る ので あ り 、 小 説 の教 材 研 究 に お い てそ の こ と が 大 切 な こと な の であ る 。
さ ら に 、 こ のこ と は 、授 業 に お い て教 師 の教 材 解 釈 を 絶 対 化 し た り 、 権 威 化 し た り し な いと いう こ と にも つな
が って いく はず であ る 。 解 釈 の押 し つけ と いう 事 態 に 至 って し ま う の は 、 教 師 自 身 が そ の教 師 自 ら の 一人 の読 者
と し て の解 釈 に 信 を 置 い てし ま う か ら な の で あ る。 ﹁作 者 側 に立 つ﹂ と いう こ と を し な け れ ば 、 ﹁読 者 中 心 ﹂ の名
の も と に各 自 の解 釈 を 強 化 す る だ け に 終 わ って しま い、 互 い の理 解 と いう こと は 生 ま れ な い。 小 説 と いう 、作 家
の つく り 出 し た テ ク ス ト を 教 材 と し て、 読 む こと の 授 業 を 進 め る と いう こと の大 き な 理由 の 一つが 、 こ の作 者 側
に 立 つ理 解 のし か た を 学 ぶ と いう こと な の であ る。 小 説 の 登 場 人 物 が作 者 そ の人 と は 異 な る も の と し て造 型 さ れ
て いる か ら こ そ 、 そ のよ う な 営 み が 可 能 に な る のだ と 考 え る こ と が で き る だ ろう 。 こ の こ と は ま た 、 テ ク スト 産 出 の過 程 に 思 いを ひ そ め な が ら テ ク ス ト解 釈 に取 り 組 む と いう こと でも あ る。
一人 一人 の読 者 反応 が 、 こ のよ う な プ ロ セ スを 通 じ て生 み 出 さ れ た も の であ る のか どう か と いう こと に 、 私 た
ち は 思 いを 向 け な く て は な ら な い。 読 者 反 応 の産 出 には 、 あ る 程 度 個 々 の読 者 の自 由 に 任 さ れ て いる と こ ろ が あ
る け れ ど も 、 そ れ らを そ のま ま に す べ て 認 め て し ま う な ら 、 小 説 の読 み と 解 釈 は 恣 意 的 な も の で あ る と いう 印 象
を 、 生 徒 の間 に 招 い て し ま いか ね な い。 少 な く と も 読 み で あ る 限 り に お いて 、 私 た ち は ま った く 自 由 で は な い。
テ ク スト に制 約 さ れ ると いう 事 態 を 免 れ る こ と は でき な いか らだ 。 だ か ら と い って 、 作 者 側 に 立 つ、 と いう こ と
が 読 者 反 応 を 制 御 し た り 、 制 約 し た り す る こと な の で は な い。 む し ろそ の逆 であ る 。
作 者 側 に立 つ、 と いう こ と は 作 者 の意 図 に こ だ わ ると いう こと で は な い。 作 者 の意 図 を 追 う 誤 り を あ え て進 め
て いる わ け で は な い。 ﹁柿 食 へば 鐘 が 鳴 る な り 法 隆 寺 ﹂ と いう 句 に し ても 、 こ の句 の作 者 が 何 を 思 っ て こ の
よ う な 句 を 詠 んだ のか と いう こと を お し は か る こ と は 、 実 作 者 の ﹁意 図 ﹂ が 実 のと こ ろ ど こ に あ った の か と いう
こと と は 、 別 のと こ ろ で の考 察 と な る 。 わ ず か 十 七 音 の こ と ば に も 正 岡 子 規 と いう 作 者 が あ り 、 そ の人 が 何 事 か
を 考 え な が ら 、 こ れ ら の こ と ば を 構 成 し た と いう こと に読 者 と し て の生 徒 た ち が 注 意 を 払 う こ と の でき る よ う に
し て いく と いう そ のこ と が 、 読 み や解 釈 の ﹁共 有 地 ﹂ を 互 い に分 け持 つた め に 大 切 な こ と な の で あ る 。
︵七︶小 説 の 読 み と 読 者
こ の点 で 、 ヴ ォ ル フガ ン グ ・イ ー ザ ー の ﹃ 行 為 と し て の読 書 ﹄ の な か で展 開 さ れ た 、虚 構 テ ク スト の 二 つ の不
確 定性と して の ︿ 空 所 ﹀ お よ び ︿否 定 ﹀ に 関 す る議 論 は 、 邦 訳 出 版 後 二 十 年 を 経 過 し て多 く の批 判 も 出 さ れ て い
る と は いえ 、 依 然 と し て多 く の 示 唆 を も た ら す も の であ ると 言 って よ い。 イ ー ザ ー は 、 け っし て読 者 の自 由 を 無
制 限 に 容 認 し た わ け で は な い。 む し ろ、 読 む と いう 行 為 は ど こ ま で行 っても テ ク スト に規 定 さ れ る 、 と いう こ と
がその ︿ 作 用美 学 ﹀ の 中 心 であ った 。 テ ク スト の ︿スト ラ テ ジ ー ﹀ と ︿レ パ ー ト リ ー ﹀ に 規 定 さ れ る 範 囲 内 で 読
者 の自 由 を 論 じ て いた のが イ ー ザ ー の ﹃行 為 と し て の読 書 ﹄ だ った の で あ る 。 ﹃ 行 為 と し て の読 書 ﹄ が 国 語 教 育
に携 わ る 多 く の人 々 の 興味 ・関 心 を 引 き 出 す 大 き な 要 因 と な った のは 、 そ れ が 制 限 つき な が ら 読 者 の自 由 を 認 め
るも の であ った と いう こ と よ り も 、 む し ろ読 む こと が作 者 の 用意 し た 巧 み な ︿ス ト ラ テジ ー ﹀ と 作 者 が 踏 ま え る
︿レ パ ー ト リ ー ﹀ に左 右 さ れ るゲ ー ム だ と いう こと を 解 き 明 か す も の であ った か ら だ 。
枠 が あ り 、 そ の枠 が 強 固 な も の であ れ ば あ る ほ ど 、 枠 の存 在 を 前 提 と し つ つ自 由 を 求 め る営 み は 強 化 さ れ て い
く 。 ﹃行 為 と し て の読 書 ﹄ に お け るイ ー ザ ー の立 論 の妥 当 性 に今 更 な が ら 強 く 思 い至 る と 同 時 に、 き わ め て 不 満
を 覚 え る のは 、 彼 が ﹁作 者 ﹂ と いう 位 相 を ほと ん ど 問 題 に し よ う と し な か った と いう こ と だ 。 た と え ば 、 彼 の言
う ︿ス ト ラ テジ ー ﹀ は い った い誰 の仕 掛 け た も のか と いえ ば 、 そ れ は ﹁作 者 ﹂ を お い てほ か に な い。 にも か か わ
らず、 イーザ ーは ︿ 受 容 理 論 ﹀ の立 場 を 堅 持 す る た め で あ った の か 、 あ る いは ﹁読 者 ﹂ の読 み の過 程 に焦 点 化 す
る 議 論 を 展 開 す る 必 要 性 のゆ え で あ った た め か 、 ﹁ 作 者 ﹂ な る存 在 を 極 力 論 述 の表 面 に は 浮 か び 上 が ら せ て いな
い。 そ し て、 テ ク スト の生 産 過 程 に は ほ と んど 注 意 を 払 わ な い か のよ う な 立 論 にな って い る ので あ る 。
こ の点 が 、 後 に ﹁読 者 論 ﹂、 ﹁読 者 反 応 理 論 ﹂ に 対 す る 誤 解 を 生 じ さ せ る 大 き な 原 因 と な った 。 つま り 、 ﹁ナ ン
デ モ ア リ ﹂ の読 み を 賞 揚 す る の が ﹁読 者 論 ﹂、 ﹁読 者 反 応 理 論 ﹂ だ と いう 誤 解 であ る 。 テ ク ス ト の解 釈 過 程 にし か
注 意 を 払 って いな いか のご と く 、 多 く の論 者 が 書 いてき た か ら こ そ 、 そ う いう 誤 解 が 生 じ た ので は な か った だ ろ
う か。 イ ー ザ ー のよ う な論 を 展 開す る こと が で き ると いう こと は 、 テ ク スト の生 産 過 程 に お け る ﹁作 者 ﹂ の企 て
や苦 心 を あ ら か じ め 十 分 に 検 討 し た か ら であ る と 言 う こと も でき る 。 ︿テ ク スト 受 容 ﹀ 側 の分 析 は 、 常 に ︿テ ク
ス ト生 産 ﹀ の 問 題 と か か わ ら せ て いか な け れ ば 、 そ れ こ そ ﹁ナ ンデ モ ア リ﹂ ︵ 注 14︶ に な って し ま う 。
小 説 教 材 の指 導 のあ り 方 を 、読 者 反 応 を 核 と す る も のと し て構 想 し て いく 場 合 に こ そ 、問 題 を ︿テ ク ス ト受 容 ﹀
に 限 ら な いよ う に し て いく 必 要 があ り は し な いか 。 小 説 と いう 表 現 形 式 の受 容 が ︿空 白 ﹀ や ︿否 定 ﹀ に そ の多 く
を 負 って いる 以 上 、 ︿空 白 ﹀ や ︿ 否 定 ﹀ が作 者 に よ って ど の よう に 工 夫 さ れ 、 布 置 さ れ て い る の か 、 と いう こ と
を 想 像 し 、 考 察 す ると いう こと が で き る読 者 を 、 私 た ち は 育 て て いか な け れ ば な ら な い。 メ デ ィ ア ・リ テ ラ シ ー
を 育 て て いく と いう 学 習 を お こな いな が ら 、 小 説 の学 習 だ け が 作 者 側 の問 題 、 つま り テ ク ス ト 生 産 過 程 の問 題 を
封 印 し た ま ま で 、 生 徒 を ︿語 り 手 ﹀ に 追 随 さ せ る と いう こ と を の み 求 め て いけ ば よ いと い こと に は な ら な い。 メ
デ ィ ア ・リ テ ラ シ ー の教 育 こそ は、 テ ク スト の 生 産 過 程 と 解 釈 過 程 を 吟 味 し て いく こ と を 求 め る 教 育 で あ り 、 小 説 の指 導 も そ の例 外 で はな い。
︵ス コー ル ズ の言
そ の よ う な 営 み は 、 小 説 に 対 す る ︿批 評 ﹀ ︵ロ バ ー ト ・ス コー ルズ の 言 う ﹁テ ク ス ト に 対 抗 す る テ ク ス ト ﹂ を
生 み出 す 営 み ) を お こな わ せ る と いう こ と に つな が って いく 。 こ れ は 、 従 来 多 く の場 合 ︿解 釈
う ﹁テ ク スト に つ い て の テ ク スト ﹂ を 生 み 出 す 営 み ) を 求 め る こ と が 中 心 で あ った 教 室 で の小 説 の読 みを 一歩 進
め て いく こ と にな る 。 と 同 時 に 、 読 む こ と を 中 心 に 構 想 さ れ 、 実 践 さ れ てき た 小 説 の 学 習 指 導 を 、 書 く こ と や話
す こと と 結 び つけ て いく こ と にも な る 。 具 体 的 に は 、 ︿ 批 判 ﹀ 的 スタ ン ス で小 説 テ ク スト に つ い て の 反 応 を 生 み
出 し て いく 学 習 を 従 来 よ り も 多 く 取 り 入 れ て いく こ と に な る し 、生 徒 各 自 の反 応 文 を 繰 り 返 し自 己 修 正 さ せ た り 、
気 づ いた こ と を 互 いに 述 べあ いな が ら 、 ︿ 批 判 的 態 度 ﹀ を 築 いて いく こ と に も な る だ ろ う 。
そ れ は 、 各 々 の読 者 が 自 ら の読 み を 繰 り 返 し 、 新 し く 読 み直 し て いく と いう こと に つな が る 方 向 であ り 、 ﹁ナ
ン デ モ ア リ ﹂ と いう こ と と は ま った く 逆 の方 向 で あ る 。 そ れ は ま た 、 捉 え よ う のな い ﹁ 作 者 の意 図 ﹂ を 絶 対 視 す る 姿 勢 を 拒 絶 し て いこ う と す る 方 向 でも あ る 。
︵ 空 白 ︶﹀ や ︿ 否 定 性 ﹀ は 、 言 う な れ ば ﹁雑 食 的 ﹂ な る ﹁小 説 ﹂ に 必 然 の属 性 で あ る と 言 う こ と が で き
冒 頭 で 引 用 し た ロ ッジ は 、 ﹁小 説 と いう 文 章 ﹂ が ﹁素 晴 ら し く 雑 食 的 ﹂ な も の で あ る と 述 べ た 。 イ ー ザ ー の言 う ︿空 所
る 。 そ れ は 、 ﹁小 説 ﹂ が 構 造 体 と し て は 絶 え ず 脆 弱 な も の であ る と いう こ と を 意 味 す る。 そ し て そ の脆 弱 さを 見
据 え る こと が 、 ﹁小 説 ﹂ を 読 む こと に よ る 学 び を 紡 い で いく た め に 必 要 な こ と な の で あ る 。
注 注 1 デ イ ヴ ィ ッド ・ロ ッジ
︵ 柴 田 元 幸 ・斎 藤 兆 史 訳 ︶ ﹃ 小 説 の技 巧 ﹄ 白 水 社 一九 九 七 八 九 頁
注 2 アヴ ィ ︵ 唐 沢則幸 訳 ︶ ﹃ 星 条旗 よ 永遠 なれ﹄ く も ん出版 一九九 六
︵ 伊 藤 一郎 ・佐 々 木 寛 訳 ︶ ﹃ミ ハイ ル ・バ フ チ ン 全 著 作
︵ 伊 藤 一郎 訳 ︶ ﹃ 小 説 の 言 葉 ﹄ 新 時 代 社 一九 七 九 、 平 凡 社 ラ イ ブ ラ リ ー 一九 九 六 。 ま
た 、 こ の 問 題 に 対 す る パ フチ ン の考 え は 、 パ フ チ ン
注 3 ミ ハイ ル ・パ フ チ ン 第 1巻 ﹄ ︵ 水 声 社 一九 九 九 ︶ に 詳 し く 記 さ れ て いる 。
︵ 掛 川 恭 子 訳 ) ﹃ザ ・ギ バー︱ 記 憶 を 伝 え る 者︱ ﹄ 講 談 社 一九 九 六
も 、 垣 内 松 三 の ﹃国 語 の力 ﹄ に お い て も 引 き 継 が れ 、 そ れ は 遠 く 西 郷 竹 彦 の ﹁視 点 論 ﹂ に ま で つな が って いる 。
注 4 こ の点 を 問題 にし た のが夏 目 漱石 の ﹃文学 論﹄ に おけ る ﹁間隔 論﹂ であり 、 こ の問 題系 は国 語教 育 学 にお いて 注 5 ロイ ス ・ロー リ ー
注 6 ﹃中学 国語 伝 え合 う言 葉 3﹄ ︵ 教育 出 版 平成 十 四年度 版 )に採 ら れ て いる。
注 8 ウ ェイ ン ・ブ ー ス ︵ 米 本 弘 一他 訳 ︶ ﹃フ ィ ク シ ョ ン の 修 辞 学 ﹄ 書肆 風 の 薔 薇 一九 九 一
注 7 引 用 は、秋 山 虔他 編 ﹃ 高等 学校 用 総合 古典 ﹄ ( 筑摩 書 房 一九 八五 ︶ によ る。
注 9 た とえ ば、 井 関義 久 ﹃ 批 評 の文 法︱ 分析 批 評と 文 学教 育︱ ﹄ ︵ 大 修館 書 店 一九 七 二) や鶴 田清 司 ﹃ 言 語技 術 お いて重 要な 意義 を持 つの である 。
教 育 と し て の文 学 教材 の指 導﹄ ︵ 明 治図 書 一九九 六 ︶等 に提 案 さ れ て いる こと は、 こ の意 味 で小説 の指導 に
む 1﹄ 風 信 社 一九 七 九 。 な お 、 こ の竹 内 の ﹁読 み ﹂ を 千 田 洋 幸 は 批 判 的 に 捉 え て い る 。 千 田 洋 幸 ﹁文 学 教
注 10 竹内 常 一 ﹁﹁サ ーカ ス の馬﹂ を どう 読 むか︱ 教 師 の読 み と市 民 の読 み﹂ 岡 野弘 彦 ・中 野孝 次 編 ﹃ 国語 教 材 を読
五月 二〇 ∼二 三頁。
材論 の前提︱ 三 つの ﹁サ ー カ ス﹂ に触 れな が ら﹂ ﹃ 月 刊 国語 教育 ﹄ 第 22巻第 2号 東 京法 令 出版 二 〇〇 二年
注 12 同 前 一〇 二 頁
注 11 ロ ッジ前 掲書 九 九頁
﹃ 小 説 の力 ﹄ ︵ 大 修 館 書 店 一九 九 六 ︶ な ど で ポ ス ト ・モ ダ
注 13 ﹃ 新 し い国 語 1﹄ ︵ 東京 書籍 平 成十 四年 度 版︶ に採 られ て いる。
ンの文 学研 究 の状況 への批 判を 込 めて展 開 した論 も こ の方 向 にあ る。 田中 の批判 の矛 先 は ﹁エセ読 み のアナー
注 14 読 者 論 ・読 者 反 応 理 論 を は じ め と し た 、 田 中 実 が
いた め の 一つ の 方 策 であ る と 考 え る。
キ ー ﹂ に堕 す る ﹁読 み ﹂ に 向 け ら れ て い る 。 本 稿 に 言 う
三 韻文の学 習指導
︵一︶ 音 読 ・群 読 ・暗 唱
︱韻文 のリズ ムを生 かす学習指 導
﹁ 作 者 側 に 立 つ﹂ こ と が 、 そ の ﹁エセ 読 み ﹂ に陥 ら な
国 語 教 科 書 に は 、 詩 ・短 歌 ・和 歌 ・俳句 な ど の韻 文 教 材 が 載 って いる が 、 児童 ・生 徒 に 、 そ ん な に好 ま れ て い
︵ 注 1︶。 決 し て 高 い数 字 で は な いが 、 韻 文 の指 導 法 を 多 様 に 工 夫 す
な いジ ャ ン ルと 言 わ れ て いる 。 中 学 ・高 校 生 へ の ア ン ケ ー ト に よ る と 、 国 語 の中 で、 詩 ・短 歌 ・俳 句 が好 き と 答 え た 生 徒 は、 二 二 ・九 六 % で あ った と いう
た に か わ し ゅん た ろ う
る こと で 、 も っと 多 く の生 徒 を 引 き つけ る こと が でき る 。 本 稿 で は 、 韻 文 の 教 育 を 、 そ う いう 観 点 か ら考 え て み た い。 最 初 に 、 一つの 実 践 例 を 取 り 上 げ る 。
か っぱ
か っぱ か っぱ ら った か っぱ ら っぱ か っぱ ら った
と って ち って た
か っぱ な っぱ か った か っぱ な っぱ い っぱ か った か っ て き っ て く った
谷 川 俊 太 郎 詩 集 ﹃こと ば あ そ び う た﹄ ︵一九 七 三 ︶所 収 の、 よ く 知 ら れ た 作 品 であ る 。 ﹃こと ば あ そ び う た ﹄ は 、
詩 の世 界 に 言 葉 遊 び を 導 入 し 、 詩 教 材 の世 界 を 豊 か に開 拓 し てく れ た 詩 集 であ る 。 国 語 教 科 書 にも 多 く 採 用 さ れ た。
た と え ば 、 こ の詩 を 黒 板 に書 い て 、 ﹁読 ん で み ま し ょう ﹂ と 指 示 し て、 し ば ら く す る と 、 ど の教 室 で も 、 子 ど
も た ち は こ の詩 の リズ ム に の って声 に 出 し て 読 み は じ め る 、 と いう 。 ﹁か っぱ ﹂、 ﹁ら った 、 か った 、 く った ﹂ な
ど の韻 を ふ む リズ ム感 は 、 声 に 出 し て み る と 快 い。 ﹁か っぱ ﹂ の楽 し い音 読 風 景 は 、 小 学 校 一年 生 か ら 高 校 三 年
生 ま で、 ど の国 語 教 室 に お いて も 生 ま れ る 現 象 であ る 。 ﹁か っぱ ﹂ のよ う な ﹁こと ば あ そ び う た ﹂ の音 読 ・朗 読 を 嫌 いな 生 徒 は いな い。
﹁か っぱ ﹂ の よ う な リ ズ ム 感 のあ る 詩 は 、 音 読 教 材 に 適 し て いる が 、 音 読 効 果 を も っと 引 き 出 そ う と す る と 、
群 読の 学 習 指 導 を 構 想 で き る。群 読 と は 分 担 し て読 み合 う こと で 、小 学 校 で は ﹁わ かち 読 み ﹂と も 言 わ れ て いる 。 小 学 校 に お いて 、 こ の詩 を 教 材 と し た 、 す ぐ れ た 群 読 の実 践 が あ る ︵ 注 2︶。
模 造 紙 に書 いた ﹁か っぱ ﹂ の詩 を 黒 板 に貼 って、 ﹁み ん な で 読 ん で み よ う ﹂ と 指 示 す る 。 そ のあ と 、 ﹁男 子 ・女
子 に 分 か れ て、 一行 ず つリ レ ー式 に読 も う / 男 女 交 代 で いく よ ﹂。 男 女 に分 か れ て の 一行 ず つの 群 読 で あ る。 次
に 、 ﹁今 度 は 、 一行 は 声 を 出 し て 、 つぎ の行 は 声 を 消 し て読 む と いう よ う に 一行 ご と に変 え る よ 。 み ん な の声 が
そ ろ う か ど う か / つぎ は 一行 目 を 消 し て、 前 と 反 対 に 二行 目 を 声 に 出 す よ ﹂。 声 に 出 す 、 声 を 消 す 、 と いう 群 読 で あ る 。 練 習 を 重 ね て 、 気 持 ち を 一つに合 わ せ ら れ る と 、 で き る よ う に な る 。 そ の次 に 、 ﹁か っぱ の輪 唱 ﹂ であ る 。 こ こ で は 次 の よう な 学 習 が 展 開 さ れ る 。
・﹁つぎ は 右 側 の人 が 読 ん だ あ と を 左 側 の人 が 追 いか け て 読 も う 。 う た の お いか け っこ ︵ カ ノ ン︶ と 同 じ で
す 。 右 側 の 人 が 一行 目 が お わ った ら 、 左 側 の 人 が 読 み は じ め る 。 つら れ てど こを 読 ん で いる か、 わ か ら な く な った ほう が 負 け だ ね ﹂ ・﹁右 と 左 を 逆 に や ってみ よう ﹂
・﹁こう いう の で き るか な 。 ﹃か っぱ ﹄ と 読 ん だ ら 、す ぐ あ と の人 が追 いか け て 読 む 。 右 と 左 で や って み よ う ﹂ ・﹁三 人 で や った ら ど う だ ろう ﹂
こ の実 践 で は 、 ﹁か っぱ ﹂ の 詩 に 内 在 す る リ ズ ム ( 韻 律 ) が 、 群 読 の方 法 でう ま く 引 き 出 さ れ て いる 。 よ く 工 夫 さ れ た 実 践 と いえ る 。
ま た 、 中 学 校 に お い て は 、 こ の詩 を 教 材 と し て、 さ ら に グ レ ー ド ア ップ し た 群 読 法 が 開 発 さ れ た ︵ 注 3︶。
四 人 の グ ル ー プ ︵A ・B ・ a ・b ︶ に よ る 群 読 で、 前 連 で は ﹁か っぱ ﹂、 後 連 で は ﹁な っぱ ﹂ を B G M と し て
重 ね る と いう 方 法 で あ る 。 A が 前 連 を 読 む と き 、 aは 、 低 く 小 さ な 声 か ら だ ん だ ん 高 く 大 き な 声 で ﹁か っぱ
か っぱ か っぱ ⋮ ⋮﹂ と 重 ね て いく 。 後 連 のB ・bも 同 様 であ る 。 そ し て 、 後 連 の群 読 が 終 わ った あ と 、 少 し 間
を お い て 、 四 人 全 員 で、 鋭 く 、 短 く 、 ﹁く った ! ﹂ と 声 を 合 わ せ て 一気 に し め く く る 。 中 学 生 レ ベ ル の生 徒 た ち
の 、 興 味 .関 心 を 十 分 引 き つけ る よ う に 工夫 さ れ て いる 。 ﹁こと ば あ そ び ﹂ の詩 は 、 群 読 の 工 夫 に よ って 、 生 徒 た ち を 快 い韻 律 の世 界 に 引 き 入 れ る力 が あ る。
近 年 、 国 語 教 科 書 の学 習 の手 引 き も 、 韻 文 教 材 の特 徴 を 生 か し て 、 音 読 ・朗 読 ・暗 唱 を 重 視 し は じ め た 。 こ れ
ま で の読 解 中 心 で あ った 韻 文 学 習 か ら 、﹁声 に 出 し て読 み た い 日本 語 ﹂学 習 ︵ 斎 藤 孝 ︶ への転 換 の試 みと いえ る 。
詩 歌 の世 界 を 音 声 言 語 表 現 と し て見 直 す 試 み であ り 、 韻 文 教 育 のも っと も 新 し い研 究 分 野 で あ る。
韻 文 は 、 も と も と 日 本 語 に 特 有 の韻 律 の内 在 す る 文 学 で あ った 。 先 の ﹁か っぱ ﹂ の 音 読 ・群 読 の 実 践 は 、
﹁か っぱ ﹂ の詩 に内 在 す る 日 本 語 の韻 律 を 十 分 に 生 か し た 実 践 であ った 。 韻 文 教 材 と し て み ると 、 リ ズ ム を も っ
た 詩 だ け で な く 、 短 歌・ 和 歌・ 俳 句 な ど 、 五 音 ・七 音 の韻 律 を 基 調 と し た 短 詩 型 文 学 も 、 こ れ か ら は 音 読 ・朗
読 ・群 読 の音 声 言 語 教 材 と み て いく 研 究 が 必 要 であ る 。 そ の た め に は、 韻 文 教 材 に内 在 す る 日 本 語 の韻 律 の研 究 と 、 韻 律 の構 造 を 生 か し た 音 声 言 語 教 育 の 研 究 が 必 要 であ る 。
︵二︶ つづ け よ み ︱問 いを 追 求 し つづ け る学 習 指 導
国語 教 科 書 に は 、各 学 年 に 二 ∼ 三 編 の 詩 が 載 って い て、 一編 ず つ順 に 読 解 ・鑑 賞 学 習 が 行 わ れ て いる 。し か し 、
そ の方 法 だ け で は 、 学 習 後 に ず っと 心 に 残 る よ う な 、 韻 文 と の深 い出 会 いは難 し い。 そ のた め に は 、 詩 と の出 会
い方 を 多 様 に仕 組 む よ う な 研 究 が 必 要 であ る。 文 芸 研 ︵ 文 芸 教 育 研究 協 議 会 ︶ の開 発 し た ﹁つづ け よ み ﹂ は 、 そ
の 有 力 な 一 つ の 方 法 と いえ る 。 ﹁つ づ け よ み ﹂ と は 、 ﹁ 一つ の テ ー マ 、 一 つ の 問 いを 、 読 者 が 持 続 し 、 追 求 し つ づ
ま ど ・み ち お
け る こと ﹂ であ る 。 ﹁ま ど ・み ち お の愛 の思 想 に迫 る ﹂ ︵小 学 校 四年 ) と いう 、 す ぐ れ た 実 践 が あ る。 同 じ 作 者 の 七 編 の詩 を ﹁つづ け よ み﹂ し て いく 学 習 であ る ︵ 注 4 ︶。
チ ョウ チ ョウ
チ ョウ チ ョウ は/ ね む る と き / は ね を た た ん で ね む り ま す
だ れ の じ ゃ ま に も な ら な い/ あ んな に 小 さ な 虫 な の に そ れ が ま た は ん ぶ ん に な って/ そ っと ⋮
だ れ だ って そ れ を 見 ます と / せ か いじ ゅう に / し ー っ! と めく ば せ し た く な り ま す
こ の詩 と 出 会 った 子 ど も た ち は 、 い い詩 だ な 、 と いう 表 情 を し て い た 。 ﹁は ん ぶ ん にな って や代 て﹂ と いう つぶ
やき が も れ る 。 黙 読 し た あ と 、 声 に 出 し て 読 ん で いた 子 ど も た ち の声 が 、 だ んだ ん ひ そ や か に な って い った 、 と
いう 。自 分 の声 が チ ョウ チ ョ ウ の 眠 り を 覚 ま す よ う な 気 が し た の であ ろ う か 。 直 感 的 に 、詩 の世 界 の核 心 に ふ れ
た も のと 思 わ れ る 。 そ れ 以 上 深 入 り し な い で、 同 じ 作 者 の ﹁ア リ ﹂ と いう 詩 に移 って いく 。
アリ
ア リ は / あ ん ま り 小 さ いの で / か ら だ は な いよ う に 見 え る
い のち だ け が は だ か で/ き ら き ら と / は た ら いて い る よ う に 見 え る
ま ど ・み ち お
﹁ア リ ﹂ の 詩 の 感 想 を 聞 く と 、 ﹁は た ら い て い る ア リ の よ う す が 、 す ご く 光 っ て い て 、 と て も ま ぶ し い 。
ほ ん の ち ょ っと で も / さ わ った ら/ 火 花 が と び ち り そ う に ⋮
ここで
ま ど さ ん は 、 チ ョ ウ チ ョ ウ の 詩 と 同 じ で 、 心 の や さ し い 人 だ ﹂。 ﹁ア リ は と っ て も 小 さ い の に 、 ま ど さ ん は こ ん な
こ ま か い と こ ろ ま で 見 て い る の か と お ど ろ い た 。 チ ョ ウ チ ョ ウ と 同 じ よ う に 、 や さ し く 語 っ て い る ﹂。 ﹁ま ど さ ん
の 目 に は 何 で も 見 え る ん だ﹂ 。 小 さ な も の へ の 愛 を と ら え た 感 想 で あ る 。 授 業 者 に よ る と 、 感 想 の 大 部 分 は
﹁チ ョ ウ チ ョ ウ ﹂ の 詩 と の つ な が り に ふ れ て い た 、 と い う 。 同 じ よ う な テ ー マ の 詩 を 重 ね る こ と で 、 一 つ の 詩 を 単 独 で読 む と き よ り 、 確 か に 、 豊 か に読 む こと が で き る 、 と いう こ と であ る 。
﹁コ オ ロ ギ ﹂ は 、 次 の よ う な 作 品 で あ る 。
こ の 後 、 ﹁ス イ カ の た ね ﹂、 ﹁イ ナ ゴ ﹂、 ﹁コ オ ロ ギ ﹂、 ﹁カ ﹂ な ど 、 ま ど ・み ち お の 詩 の ﹁つづ け よ み ﹂ が 続 け ら れた。たとえ ば
コオロギ
く さ の 中 で / コオ ロギ が な い て いる
ひ と す じ に わ き つづ け る/ いず み の よ う に
ま って
あ あ / 手 に す く いた い/ そ の ま ま 手 に / た た え て いた い
小 さな空 が お り て き て / ほ ほず り す る の を
そ れ から そ っと / も と に か え し た い
ま ど ・み ち お
鳴 い て い る コ オ ロ ギ の 声 を 手 で す く い た い 、 と い う 。 な ん と いう 静謐 な 世 界 で あ ろ う か 。 こ の 詩 も ま た 、 小 さ
な も の へ の 愛 に 満 ち て い る 。 こ の ﹁つ づ け よ み ﹂ で は 、 一編 一編 、 て い ね い に 読 み 重 ね て いく こ と で 、 ま ど ・み ち お の世 界 を と らえ て いく 。
こ の 授 業 の ま と め は 、 ﹁共 通 の 題 を つ け る ﹂ と いう 学 習 で あ っ た 。 子 ど も た ち か ら 、 ﹁小 さ な い の ち 、 い の ち 、
﹁キ ラ キ ラ 輝 く い の ち ﹂ に ま と め ら れ て い っ た 。
小 さ な いき も の、 小 さ な 世 界 ﹂ な ど の 題 名 が 出 て き た 。 な ぜ 、 そ う いう 題 に し た か 、 そ の理 由 を 発 表 し て いく う ち に 、 ﹁小 さ な い の ち ﹂、 ﹁い の ち ﹂ の 二 つ に し ぼ ら れ 、 最 後 に
こ の実 践 は 、 同 じ 作 者 の同 じ よ う な テー マの作 品 の ﹁つづ け よ み ﹂ の例 で あ る 。 同 じ よ う な テ ー マの違 う 作 者
の作 品 で構 成 す る こ と も でき る 。 短 歌 ・和 歌 や 俳句 の短 詩 型 文 学 は 、 い ろ ん な 主 題 や話 題 を も って いる か ら 、 同
じ 作 者 や 同 じ よ う な テー マや 話 題 に よ って、 ﹁つづ け よ み ﹂ を 構 想 す る こ と が でき る 。 ﹁つづ け よ み ﹂ は 、 多 く の
作 品 と の 関 連 的 出 会 いを 演 出 す る 方 法 で あ り 、 韻 文 教 育 の多 様 な 展 開 を 可 能 と し て いる 。 ま た 、 文 芸 研 で は 、 詩 の世 界 を 比 較 す る ﹁く ら べ よ み ﹂ と いう 方 法 も 開 発 さ れ て いる 。
︵三 ︶ア ン ソ ロジ ー の 授 業 ︱﹁私 の 詩 ﹂ を 見 つけ る学 習 指 導
児 童 ・生 徒 が 、 詩 ・短 歌 ・俳 句 と 自 然 な 形 で 出 会 う 方 法 は な いだ ろう か 。 私 は 、 そ の学 習 指 導 法 と し て 、 ア ン
︵ 注 5︶。 大 村
ソ ロジ ー の授 業 を 提 案 し てき た 。 ア ン ソ ロジ ー と は 、 詩 歌 、 文 芸 作 品 の撰 集 、 詞 華 集 と いう 意 味 であ る 。 ア ン ソ
ロジ ー の 授 業 は、 た く さ ん の 詩 の中 か ら ﹁私 の 詩 ﹂ を 見 つけ て いく 、 と いう 学 習 指 導 法 であ る 。
大村 はま ︵ 中 学 校 ︶ の ﹁詩 の味 わ い方 ﹂ ︵昭 和 二 八 年 ︶ は 、 こ の分 野 で の先 駆 的 な 実 践 で あ った
の授 業 ﹁詩 の味 わ い方 ﹂ は 、① た く さ ん の詩 歌 を 集 め る 、② 集 め た 詩 歌 の ﹁味 わ い方 ﹂ を 学 習 す る 、 と いう 展 開
であ った 。 そ し て 、 ﹁味 わ い方 ﹂ と し て十 二 も の方 法 が 例 示 さ れ て いた 。 た と え ば 、 集 め た 詩 に絵 を か き そ え る 、
写 真 を そ え る 。 ﹁私 は こ の詩 ︵ 短 歌 ・俳 句 ︶ が 好 き で す ﹂ と いう 短 文 を 詩 に つけ る 。 そ れ ぞ れ の詩 ︵ 短 歌 ・俳 句 ︶
を 誰 か に 贈 る こと に し 、 な ぜ そ の人 に 贈 る か を 書 く 。 詩 や 短 歌 や俳 句 を 入 れ た カ レ ンダ ー を 作 る 、 と い った 十 二
の ﹁味 わ い方 ﹂ が 例 示 さ れ て いる 。 いろ ん な タ イ プ の ﹁味 わ い方 ﹂ か ら 、 ﹁私 の詩 ﹂ を 見 出 し て いく 、 と いう 、 スケ ー ル の大 き な ア ン ソ ロジ ー の単 元 学 習 であ る 。
ま た 、 野 地 潤 家 の試 み た 、 一六 編 の詩 を 教 材 化 し た ア ン ソ ロジ ー の研 究 授 業
(昭 和 三 三 年 ) が あ る ︵ 注 6︶。
一六 編 の詩 の プ リ ン ト を 配 布 し 、好 き な 順 番 に 並 べ る 。 そ し て表 紙 を つけ 、 目 次 を 作 り 、 自 分 の 一冊 の詩 集 を 作
る 。 そ し て 、 そ れ ぞ れ の 詩 に つ い て の 感 想 を 発 表 し合 う 、 と いう 展 開 の授 業 で あ る 。 一六 編 の作 品 は 同 じ で も 、
好 き な 順 番 は 生 徒 に よ って違 う 。 そ の差 異 に 注 目 し た ア ン ソ ロジ ー の授 業 で あ る 。好 き な 順 序 に 配 列 す る こと を 通 し て ﹁私 の 詩 ﹂ と 出 会 う 。 自 然 な 詩 と の出 会 い方 が 工 夫 さ れ て い る。
ま た 、 ﹁ヒ ロシ マ のう た ﹂ と いう 詩 歌 ア ン ソ ロジ ー を 作 成 し 、 テ ー マを つけ て分 類 す る 、 と いう 実 践 や 、 秋 の
詩 を 集 め た ア ン ソ ロジ ー に よ って 、 季 節 ︵ 晩 夏 、 初 秋 、 仲 秋 、晩 秋 ︶ に分 類 す る、 と いう 中 谷 雅 彦 の実 践 も あ る ︵ 注 7︶。
私自 身 も 、 実 験 授 業 ︵ 高 校 一年 ︶ に よ って 、 ア ン ソ ロジ ー の詩 の授 業 の有 効 性 を 検 証 し た こ と が あ る ︵ 注 8︶。
工 藤 直 子 詩 集 ﹃のは ら う た ー﹄ ︵一九 八 四 ︶ か ら 、 九 編 の作 品 を ア ン ソ ロジ ! と し て選 び 教 材 化 し た 。 そ し て 、
生 徒 た ち は 、 そ の中 か ら ベ スト 1 ︵一番 好 き な 詩 ︶ を 選 び 、 ﹁ベ スト 1 に し た 理 由 ﹂ を 書 く 。 ﹁ベ スト 1 に し た 理
由 ﹂ に は 、 ① 五行 く ら いで 、② 詩 の 中 の こと ば を 引 用 し て、 ③ 好 き な 理 由 が 他 の人 に伝 わ る よう に 、 と いう 三 つ
の条 件 を つけ た 。 選 ん だ 詩 の良 さ を 明 確 に し 、 詩 の フレ ー ズ を 引 用 し て、 相 手 に 伝 わ る よ う に 説 明 す る、 と いう 学習 である。
︵いけ
詩 集 ﹃のは ら う た﹄ は 、 作 者 の 工藤 直 子 が 代 理 人 にな って、 野 原 のみ んな の歌 を 書 いた 、 と いう 設 定 の 詩 集 で
あ る。 そ の中 か ら 選 ん だ の は 、 あ いさ つ ︵へび いち のす け ︶、 お れ は か ま き り ︵か ま き り り ゅう じ ︶、 お と
し ず こ ︶、 ひ だ ま り ︵ と か げ り ょう いち ︶、 め が さ め た ︵や ま ば と ひと み ︶、 さ び し い よ る ︵こ お ろぎ し ん さく ︶、
こ こ ろ ︵こ いぬ け ん き ち ︶、 く ら し ︵ き り か ぶ だ い ぞう ︶、 い のち ︵け や き だ いさ く ︶ の九 編 であ った 。 で き る だ
け 多 様 な 詩 の世 界 を 読 み味 わ う 、 と いう 多 様 性 の原 理 で 選 ん だ 。
事 前 に、 一番 好 き な 詩 を 選 び 、 ﹁ベ ス ト 1 にし た 理 由 ﹂ を 書 い てき て も ら い、 授 業 の前 半 で、 選 ん だ 詩 の朗 読
と 理 由 を 発 表 し 合 った 。 そ し て生 徒 た ち に は 、 朗 読 と 理 由 を 聞 き な が ら 、 ﹁も う 一つ の ベ スト 1 ﹂ を 選 ぶ こと を
と か げ り ょ う いち
指 示 し てあ った 。 他 の生 徒 の選 ん だ 詩 の中 か ら 、 も う 一つ の好 き な 詩 を 選 ぶ 、 と いう 学 習 で あ る 。 た と え ば 、 十 人 の生 徒 が 選 ん で 、 一番 人 気 のあ った のは 次 の 詩 であ った 。
ひだまり
し ろく / や わ ら か い お な か を いし に / ぴ った り と く っつけ いき を / す った り は いた り す る と
し っぽ の さ き ま で/ ね む く な る
︵a︶ ﹁いし に / ぴ った り と く っ つけ ﹂ と か 、 ﹁し つぽ の さ き ま で/ ね む く な る ﹂ か ら 、 と か げ は安 心 し て
休 ん で い る ん だ な と 思 いま す 。 題 が ﹁ひだ ま り ﹂ な の で、 こ の 詩 が 終 わ った あ と 、 と か げ は 、 日 が当 た って
いる 中 で気 持 ち よ く 眠 って い る ん だ ろう な 、 と 思 いま し た 。 気 持 ち よく 眠 って いる と か げ が す てき だ った か ら 、 こ の詩 を 選 び ま し た 。 ︵K︶
︵b ︶ ぼ く は ﹁お と ﹂ の次 に 選 ん だ 詩 は ﹁ひ だ ま り ﹂ で し た 。 ぼく も こ の詩 を 読 ん だ と き に 、 気 持 ち よ さを 感
じ た か ら で す 。 そ れ に 、 K さ ん が 、 詩 の後 の こ と を 想 像 し て いた の で 、 作 者 のと か げ り ょう いち の気 分 に な り 、 題 の意 味 を よ く考 え てあ った の で 選 び ま し た 。 ︵0 ︶
︵a︶ は ﹁ベ スト 1 に 選 ん だ 理 由 ﹂、 ︵b ︶ は ﹁も う 一つ の ベ スト 1﹂ に 選 ん だ 理 由 であ る 。 こ の詩 を 多 く の生
徒 が選 ん だ こと は 意 外 だ った 。も っと お も し ろ そう な 詩 は い っぱ いあ る の に、し ん み り と し た 地 味 な こ の作 品 が 、
や ま ば と ひ と み
生 徒 の関 心 を 集 め た 。 多 忙 な 学 校 生 活 を お く る 高 校 生 に と って 、 ﹁ひ だ ま り ﹂ のよ う な 世 界 は あ る種 の憧 憬 と み え た の で あ ろう か 。 選 ぶ こと で 見 え て き た 高 校 生 の心 象 風 景 であ る 。 次 の詩 は 、 一人 の生 徒 し か 選 ん で いな か った 。
めがさめ た
お つき さ ま わ た し は いま か き の き の て っぺ ん で ひ と り です あ そ び に/ き て く だ さ い
︵a︶ た ぶ ん 、 夜 中 に 目 が さ め てし ま った と き の こ と だ と 思 いま す 。 一人 で寝 て い て 、 夜 中 に急 に 目 が さ め て
し ま って 、 さ び し く て、 だ れ か いた ら い いな あ と 思 う 、 こ の やま ば と の気 持 ち が よく わ か り ま す 。 やま ば と
が お つき さ ま に ﹁あ そ び に き てく だ さ い﹂ と 言 って いる と こ ろ が よ いと 思 いま し た 。 ︵T ︶
︵b ︶ 私 は Tさ ん が 発 表 す る 前 は 、 や ま ば と が ど う いう 様 子 な の か わ か ら な か った け ど 、 T さ ん の感 想 を 聞 い
てわ か り ま し た 。 私 も 目 が さ め た と き 、 さ み し い気 持 ち にな る の で、 み ん な 同 じ な ん だ と 思 いま し た 。 ︵H ︶
こ の詩 は た った 一人 の生 徒 に し か 選 ば れ な か った が 、 そ の 一人 の生 徒 の選 択 に も 固有 の価 値 が 生 ま れ る 。 選 ん
だ 理 由 を 聞 い て み た い、 と いう 他 の生 徒 の関 心 が 出 てく る か ら で あ る 。 事 実 、 H は T の発 表 を 聞 い て、 そ の理 由
に 納 得 し 、 こ の 詩 を ﹁も う 一つ の ベ ス ト 1 ﹂ に選 んだ 。 ﹁ベ スト 1 の詩 を 選 ぶ ﹂、 ﹁も う 一つ の ベ ス ト 1 を 選 ぶ ﹂
こと は 、 他 の生 徒 た ち と 詩 の世 界 を 共 有 す る と いう こと で あ る。 学 習 者 に 複 数 の選 択 肢 を 提 供 す る ア ン ソ ロジ ー の授 業 の特 徴 で あ る 。
私 は 、 ア ン ソ ロジ ー の授 業 に は 、 三 つ の メ リ ット が あ る と 考 え て いる 。 一つに は 、差 異 ・多 様 性 の原 理 で あ る 。
ア ン ソ ロジ ーと いう 形 態 が そ う であ り 、 ま た 、 学 級 の 子 ど も た ち に と って も 、 いろ い ろな 詩 と 出 会 え る と いう メ
リ ット が あ る 。 二 つに は 、 選 択 ・決 定 の 原 理 で あ る。 ア ン ソ ロジ ー の授 業 で は 、 受 容 者 は作 品 を 選 ぶ こ と を 自 分
にま か さ れ て いる 。 複 数 の テ ク スト の存 在 が そ れ を 可能 にす る 。 三 つに は 、 相 対 ・交 流 の 原 理 であ る 。 ア ン ソ ロ
ジ ー の テキ ス ト の選 択 に は 、 絶 対 的 な 評 価 基 準 は な い。 選 んだ そ の子 に と って、 ど う いう 意 味 を も つか 、 と いう
観 点 だ け が 重 要 であ る 。そ の意 味 で、 ア ン ソ ロジ ー の授 業 は 、多 く の詩 の 中 か ら 、 ﹁私 の詩 ﹂ を 求 め て 、﹁私 の詩 ﹂ を 見 出 し 、 お 互 い の ﹁私 の詩 ﹂ を交 流 す る 、 と いう 学 習 法 で あ る 。
四︶ 鑑賞文 の活 用 ︱ 韻 文 の 読 み方 ・味 わ い方 の 学 習 指 導
子 ど も た ち に 、 韻 文 の学 習 指 導 を 通 し て 、 詩 を 心 に 沁 み る 詩 ・心 に残 る 詩 と し て定 着 さ せ た いと 思 う 。 学 習 し
て終 わ り と いう の で は な く 、 大 人 に な って も 心 に残 って い て 思 い出 す 、 そ う いう 息 の長 い受 容 体 験 と し て、 韻 文
の授 業 は でき な いも の で あ ろう か 。 音 読 ・群 読 に よ って音 声 言 語 と し て の受 容 体 験 を 繰 り 返 す こと も 、 そ の 一つ
の 方 法 で あ る 。 ま た 、 ﹁つづ け よ み ﹂ に よ って 、 同 一テ ー マを 追 求 す る こと で、 心 に 残 る 印 象 的 な 作 品 と 出 会 う
︵ 歌 人 ︶ の鑑 賞 文 が あ る。 俵 万 智 の短 歌 を 解 説 し た 文 章 であ る ︵ 注 9 ︶。
こ と も あ る。 そ の ほ か に 、 韻 文 の す ぐ れ た 鑑 賞 文 を 教 材 化 す る方 法 も あ る 。 次 のよ う な 佐 佐 木 幸 綱
﹁寒 いね ﹂ と 話 し か け れ ば ﹁寒 いね ﹂ と 答 え る 人 の いる あ た た かさ
俵 万智
寒 さ か け る寒 さ イ コ ー ル あ た た か さ 、 と いう 意 味 です ね 。 ど ん な 場 面 を 思 い浮 か べま す か 。 恋 人 ど う し 、
老 夫 婦 、 二人 っき り の家 族 、友 達 ど う し で も い い か も し れ ま せ ん 。 静 か な 冬 の夜 、 一人 が ぽ つり と ﹁寒 いね ﹂
と つ ぶ や く と 、 も う 一人 が ﹁寒 いね﹂ と 答 え る 。 こ のな にげ な い やり と り に、 ふ っと 人 間 ど う し に あ た た か
み が 通 い合 った 、 と いう わ け です 。 一人 一人 の人 間 は 孤 独 な 存 在 です 。 し か し 、 孤 独 と 孤 独 と が こ う いう か た ち で出 会 う こ と が で き れ ば 、 そ こ に孤 独 で は な い世 界 が 出 現 す る の で す 。
中 学 生 の読 者 を 対 象 と し た 軽 妙 な 鑑 賞 文 で あ り 、 俵 万 智 の短 歌 の核 心 を う ま く と ら え て い る 。 韻 文 の文 芸 で
は 、 な ん と な く い い歌 だ な 、 と 思 って いても 、 う ま く 説 明 で き な い こと が多 い。 多 く の生 徒 に と って も 、 ま た 教
師 に と っても そう であ る 。 そ ん な と き 、 歌 の核 心 を と ら え た 鑑 賞 文 は、 す ぐ れ た 詩 歌 鑑 賞 の手 引 き に な る 。
海 に 出 て 木 枯 帰 る と ころ な し
山 口誓子
こ の句 に つ い て、 鷹 羽 狩 行 ︵俳 人 ︶ の卓 抜 な 鑑 賞 文 が あ る 。 中 学 生 向 け に書 か れ た 文 章 で あ る ︵ 注 10︶。
冬 の句 。 木 枯 ら し は 、 秋 の終 わ り か ら 冬 の初 め に か け て吹 く 季 節 風 。 陸 上 で吹 き す さ んだ 木 枯 ら し だ が 、
い った ん海 上 に 出 る と 遮 る も の の な いま ま 、 あ てど も な く 吹 き 渡 って ゆ き 、 戻 る こと は な い。 ﹁帰 る と こ ろ
な し ﹂ は 、 木 枯 ら し を 擬 人 化 し た 表 現 で 、 こ れ に よ って 、 や が て は 消 え う せ る し か な い木 枯 ら し の悲 哀 が伝 わ って く る。
さ ら に こ の句 は 、 木 々を 枯 ら す ほ ど のす さ ま じ い力 を ふ る った も の が 、 海 へ出 てし ま う と 、 自 分 では い つ
ま で も ﹁木 枯 ﹂ の名 に ふ さ わ し いも ので あ り た いと 望 み な が らも 、 つ いに そ れ に は 戻 れな いと い った 悲 し み
を 感 じ さ せ る 。 こ こ に 、 故 郷 を 離 れ 、 ま た は失 って、 都 会 化 さ れ た 近 代 の人 間 の 哀 愁 と 一脈 通 じ合 う と こ ろ があ ろ う 。
鑑 賞 文 の前 半 は 、 俳 句 の内 容 解 説 であ る が 、 後 半 にな ると 俳 句 の 思想 的 な 意 味 づ け であ る 。 ﹁木 枯 ら し の悲 哀 ﹂
ま で はと ら え ら れ ても 、 ﹁近 代 の人 間 の 哀 愁 ﹂ と ま で は 、 ふ つう 読 み き れ な い。 鑑 賞 文 に よ って 、 新 し い読 み 方
を 教 え ら れ る 。 こ の読 み 方 に よ って、 こ の 一句 は 、多 く の生 徒 に と って 忘 れ ら れ な い俳 句 に な る。
こ う い った 鑑 賞 文 だ と 、 鑑 賞 文 に導 か れ て 、 歌 の内 容 が ﹁わ か る ﹂ だ け でな く 、 歌 のよ さ を ﹁な っと く す る ﹂
ことが できる ( 注 11)。 と 同 時 に 、 韻 文 文 芸 の読 み 方 ・味 わ い方 の学 習 にも な る 。 韻 文 の受 容 と 受 容 の方 法 を 同
時 に 学 習 す る こと が で き る 。 そ の た め に は 、 す ぐ れ た 鑑 賞 文 の 教 材 開 発 と そ の活 用 法 の研 究 が 必 要 で あ る 。
︵五︶韻 文 の表 現 学 習 ︱ 表 現 指 導 の基 礎 ・基 本
韻 文 の授 業 に つ い て、 こ こ ま で は 、 詩 の音 読 ・群 読 な ど の音 声 言 語 の 学 習 指 導 、 ﹁つづ け よ み﹂ の学 習 指 導 、
ア ン ソ ロジ ー の学 習 指 導 、 鑑 賞 文 の学 習 指 導 、 と いう 点 か ら み て き た 。 そ こ で、 最後 に、 韻 文 教 材 を じ っく り 学
習 す る 、詩 の表 現 指 導 に つ いて考 え て み た い。次 のよ う な 西 郷 竹 彦 の 俳 句 の授 業 ( 小 学 校 六 年 生 )が あ る ︵ 注 12 ︶。
ま ず 、 黒 板 に、 ﹁街 頭 風 売 る 風 車 ﹂ と いう 語 句 を 板 書 す る。 そ し て 、 こ の 四 つの語 句 を 使 って短 文 を 書
か せ る と 、 子 ど も た ち の多 く は 、 ﹁街 頭 の風 の中 で 風 車 を 売 って いる ﹂/ ﹁風 の吹 く 街 頭 で風 車 を 売 って い る ﹂/
﹁風 車 を 売 る 街 頭 に 風 が 吹 い て い る﹂ と い った 作 文 を 書 いた 。 こ れ ら の作 文 を 板 書 し 、 作 文 に 共 通 す る ﹁こ と ば
の つな げ 方 ﹂ ︵ 措 辞 ︶ を 探 す と 、 ﹁風 車 を 売 る﹂ であ った 。 そ こ で 、 授 業 者 は 、 次 の 一句 を 板 書 す る 。
街頭 の風を売 るなり風車
三好達 治
す る と 、 子 ども た ち か ら ﹁ホ ー﹂ と いう 声 が も れ た 、 と いう 。 興 味 ぶ か い授 業 展 開 であ る 。 子 ど も た ち の常 識
は ﹁風車 を 売 る﹂ であ った が 、 目 に し た 俳 句 は ﹁風 を 売 る ﹂ であ った 。 俳 句 的 表 現 ︵ 措 辞 ︶ と の鮮 烈 な 出 会 いで あ った 。
そ のあ と 、 授 業 者 は 、文 芸 は 虚 構 の世 界 で あ り 、 虚 構 と は 、 現 実 を ふ まえ 現 実 を こ え る世 界 であ る 、 と いう 文
芸 学 の基 本 を 教 え 、 こ の句 も そ の よう な 世 界 で あ る こと を 説 明 す る 。 す な わ ち 、 風 が 吹 く か ら 風 車 が ま わ って売
れ る 、 と いう 現 実 を ふ ま え な が ら 、 こ の句 は 、 ︿風 を 売 る ﹀ と いう 現 実 を こえ た と こ ろ で成 立 し て い る 、 と いう
説 明 で あ った 。 そ し て、 俳 句 の美 は 、 ﹁な る ほ ど そう だ ︵ 真 ︶﹂、 ﹁お も し ろ い ︵ 美 ︶﹂ と いう 二 つの 要 素 か ら 成 り
︵ 五 、 七 、 五︶、季 語 、 切 れ 字 の理 解 で終 わ る が 、 こ の授
立 って いる こと を 説 明 す る 。 俳 句 と は ど の よう な 文 芸 な のか 、 と いう 基 礎 ・基 本 の表 現 学 習 と いえ る 。 小 学 校 高 学 年 の 俳句 の学 習 で は 、 俳 句 に お け る 定 型
業 は 、 俳 句 と は何 か 、 俳 句 の表 現 と は ど の よう な も の か 、 俳 句 の本 質 に つ い て、 わ か り や す く 学 習 し て いる 。 一
句 の作 品 を 取 り 上 げ て、俳 句 の美 の構 造 を と ら え て いく 授 業 であ る。韻 文 教 材 のす ぐ れ た 表 現 指 導 の事 例 であ る 。
表 現 学 習 の授 業 例 を も う 一つ取 り 上 げ る 。 阿 部 治 悦 の 詩 の授 業 ︵小 学 校 六 年 生 ︶ で あ る ︵ 注 13 ︶。
はじめ て小烏が 飛んだと き
は じ め て小 鳥 が 飛 ん だ と き 森 は し いん と し ず ま った 木 々 の小 え だ が 手 を さ し の べ た
う れ し さ と 不 安 で 小烏 の小 さ な む ね は ど き んど き ん 大 き く な って いた ﹁心 配 し な いで ﹂ と か あ さ ん烏 が や さ しく か た を だ いて や った ﹁さ あ お と び ﹂ と と う さ ん鳥 が ぽ ん と 一つ か た を た た いた
は じ め て 小 鳥 が じ ょう ず に 飛 ん だ と き 森 は は く 手 か っさ い し た
原田直友
こ の詩 は 、 小 鳥 が は じ め て飛 ん だ と き の、 母 、 父 、 森 な ど の役 割 を 描 い て いる 。 子 ど も の自 立 、 親 の役 割 、 周 囲 の環 境 の役 割 な ど の問 題 を 、 わ か り やす く 描 い た 、 す ぐ れ た 文 芸 作 品 であ る。
授 業 は 、 ﹁題 名 読 み﹂ か ら は じ ま った 。 ﹁⋮ ⋮と き ﹂ と いう 題 の つけ 方 に つ い て 、 子 ど も た ち は 、 ﹁ど う な った
か な 、 と 、 先 を 読 み た く な る﹂/﹁小 鳥 のま わ り で何 か が あ ったと 思 う ﹂/﹁そ の瞬 間 、時 間 が と ま った よ う な 感 じ ﹂
C 違 いま す 。︵一斉 に 言 う 。︶
と 発 表 し た 。 読 者 を 引 き つけ る題 名 と は ど う いう 題 名 か 、 と いう 表 現 学 習 で あ る 。 そ の後 、 ﹁は じ め の感 想 ﹂ を
C ︵ 斉 読︶
発 表 し合 った 後 、 ﹁問 い﹂ に よ って読 み深 め る 授 業 展 開 と な った 。
T 二 連 を い っし ょ に読 ん で み よう 。︱
T か あ さ ん鳥 と と う さ ん 鳥 の し た こと は 、 同 じ です か 、 違 いま す か 。︱
C か あ さ ん鳥 は や さ し く 肩 を 抱 いた け ど 、 と う さ ん 鳥 は ぽ ん と 肩 を た た いた と こ ろ が 反 対 で す 。
C い いです 。
C ﹁心 配 し な いで﹂ と いう か あ さ ん鳥 の やさ し い のと 、 ﹁さ あ 、 お と び﹂ と いう と う さ ん鳥 の方 は き び し そ う で 、 対 比 に な って いま す 。 T 対 比 で い い です か 。︱
T では 、 か あ さ ん鳥 と と う さ ん鳥 と 、 同 じ と こ ろ は な いで す か 。 C ︵⋮ ⋮ ︶
C と う さ ん 鳥 も か あ さ ん 鳥 も 、小 鳥 を か わ いが る、元 気 づ け る 気 持 ち は 同 じ で 、反 復 さ れ て いる と 思 いま す 。
C と う さ ん 鳥 も や さ し い心 か ら 、 勇 気 づ け る よう に 励 ま し て い る の だ か ら 、 同 じ です 。
T そ う す る と 、 反 復 でも あ る し 、 同 時 に 対 比 で も あ る んだ ね 。 ど う し て こう な った んだ ろ う 。
C ど っち も 子 ど も を 思 って 、 か わ いが って い る 心 が 、 お 母 さ ん ら し い のと 、 お 父 さ ん ら し い のと 違 って 、 態 度 に表 れ てき て いる か ら だ と 思 いま す 。
︵ う んうん︶
T
︵﹁え え っ﹂ と いう 顔 を し て いた が 、 見 つけ ると ﹁は い っ、 は い っ﹂ と 手 を 挙 げ た 。︶
そ う いう と こ ろ が 、 ほ か にも あ る よ 。
C
C
一連 の 森 は ﹁し い ん ﹂ と 音 が な く て 、 三 連 の 森 は ﹁は く 手 か っさ い﹂ と に ぎ や か に な って対 比 だ け ど 、
︵ 中略︶
C
ど っち の森 も 小 鳥 を 応 え んし て 飛 ば せ た い気 持 ち は 同 じ で 反復 さ れ て い る。
C 小 鳥 を お も う や さ し い心 は 反 復 さ れ て いる け ど 、 三 連 で、 ﹁じ よ う ず に ﹂ 飛 ベ た と き の森 は 、 ﹁し いん と ﹂ が ﹁は く 手 か っさ い﹂ と 対 比 に も な って い る。
T そ う で す ね 。 反 復 が 同 時 に 対 比 にも な って いる 、 と いう 勉 強 は 初 め て です ね 。
反 復 と 対 比 と いう 、 こ の詩 の表 現 方 法 を 取 り 上 げ た 、 み ご と な 表 現 学 習 の場 面 であ る 。 詩 の表 現 に お いて は 、
作 品 の テ ー マを 強 調 す る た め に、 反 復 や対 比 の方 法 を 使 う こと が多 い。 反 復 や対 比 の方 法 は 、 詩 の基 本 的 な 表 現
方 法 であ る。 こ の実 践 に お い ても 、 反 復 と 対 比 と いう 表 現 方 法 を み て いく こと で 、 子 ど も た ち は 詩 の内 容 を 正 し
く 深 く受 容 し て い った 。 一般 に、 韻 文 の表 現 方 法 を 学 習 す る こ と は 、 同 時 に 、 韻 文 の表 現 内 容 を 正 し く 深 く 理 解
す る こと にな る 。 そ の た め に、 韻 文 の技 法 ・表 現 法 は 、 そ の学 習 に ふ さ わ し い テ キ スト に よ って 、き ち ん と 体 系
的 に 指 導 し 、 詩 ・短 歌 ・和 歌 ・俳 句 そ れ ぞ れ の技 法 ・表 現 法 を 、 国 語 科 の基 礎 ・基 本 学 力 と し て定 着 を は か る 学 習 指 導 が 必 要 であ る。 こ の分 野 の体 系 的 な 研 究 も こ れ か ら の課 題 であ る 。
以 上 、 韻 文 教 材 の学 習 指 導 に つ い て 、 研 究 の現 状 を ふ ま え て 、 五 つの 観 点 か ら 考 察 し てき た 。 詩 ・短 歌 ・和
歌 .俳 句 な ど の韻 文 教 材 は 、 日 本 の伝 統 的 な 文 芸 文 化 で あ り 、 そ の継 承 ・発 展 のた め に 、 今 後 も 学 習 指 導 法 の 開 発 研 究 が 必 要 であ る 。
﹁﹃わ か る ﹄ こ と か ら
﹃ な っと く す る ﹄ こと へ﹂ ﹃﹁わ か る ﹂ と いう こ と の 意 味 ﹄ 岩 波 書 店 一九 八 三
注 12 西郷 竹彦 ﹁俳句 を 授業 す る﹂ ﹃文芸 教育﹄ 六〇号 明 治図 書 一九 九 二 注 13 阿部 治悦 ﹁﹃はじ め て小 鳥 が飛 んだ とき﹄ の授業 ﹂文 芸研 編 ﹃ 詩 の授業 小学 校高 学年﹄ 明 治 図書 一九八二
注 11 佐 伯 胖
注 9 佐佐 木幸 綱 ﹁短歌 鑑賞 の楽 し み﹂ ﹃中学 国語 2﹄教 育出 版 二〇 〇二 注 l0 鷹 羽狩行 ﹁俳句︱ 世界 で最 も短 い詩﹂ ﹃ 国語 2﹄ 光 村 図書 一九 八七
注 8 足立 悦男 ﹁ 授 業 研究 ﹃のは らう た﹄の世 界﹂ ﹃ 国 語教 育論 叢﹄ 第 十 一号 島 根 大学 教育 学部 国文 学会 二〇 〇 一
注 6 野地 潤家 ﹁国語 科単 元 の実 践 的展 開﹂ ﹃ 国 語科 教育 ・授 業 の探究﹄溪 水社 一九九 六 注 7 中谷 雅彦 ﹃ 高 等 学校 にお け る詩 学 習指 導 の軌跡﹄溪 水社 一九九 六
注 5 大村 は ま ﹁詩 の味わ い方 ﹂ ﹃ 大 村 はま 国語 教室﹄ 第 4巻 筑 摩書 房 一九 八三
注 3 高橋 俊 三 ﹁群読 の展 開﹂ ﹃ 群 読 の授 業﹄ 明 治図 書 一九 九 〇 注 4 椿 原正 道 ﹁まど .みち お の愛 の思 想 にせま る授 業﹂ 文芸 研 編 ﹃詩 の授 業 小 学校 中学 年﹄ 明 治図 書 一九 八 二
注 2 鈴木 清 隆 ﹁か っぱ の輪唱 ﹂ ﹃こと ば遊 び、 五十 の授 業﹄ 太郎 次郎 社 一九 八四
注 1 ﹁現代 中高 生 の生活 と意 識﹂ ﹃ 月 刊 国語 教育 ﹄ 一九九 六年 三月 号 東京 法令 出 版
注
四 説 明的文章 の学習指導
︵一︶説 明 的 文 章 指 導 に お け る 問 題 の 所 在
従 来 の 説 明 的 文 章 指 導 の成 果 と 問 題 点 の 再 整 理 を 試 み る 。 ﹁意 味 ﹂ の理 解 と は 何 か と いう 点 に 絞 って 、 国 語 科 に お け る 説 明 的 文 章 学 習 の本 質 に つ いて考 察 す る 。
長 期 的 な視 点 に立 って説 明 文 学 習 の経 験 を 調 べ た 結 果 を と り 上 げ る 。 大 学 生 に 対 し て 、 小 学 校 一年 生 時 に お い て 学 習 し た 文 章 の内 容 に つ いて ど れ だ け 記 憶 し て い るか を 調 査 し た 。
﹁どう ぶ つの赤 ち ゃん﹂ ︵ 光 村 図 書 1 下 ︶ の ラ イ オ ン の赤 ち ゃ ん の大 き さ と か 、 し ま う ま の赤 ち ゃん が お ち ち だ
け の ん で いる 時 間 と を 尋 ね た も の で は 、 ほと んど の学 生 が 覚 え て いな いと 答 え て い る。 ﹁ど う ぶ つ の赤 ち ゃ ん ﹂
は 印 象 の 強 い教 材 ら し く 、 学 習 経 験 自 体 は 記 憶 に あ る学 生 が 多 いが 、内 容 の精 細 は お ろ か 、 概 略 す ら 記 憶 に と ど
め て いな い。 と いう こ と は 、 情 報 を 正 確 に 理 解 さ せ る学 習 は 、 結 果 と し て記 憶 の蓄 積 に は 結 び つ い て いな い。 知
識 を 蓄 え ると いう 古 典 的 な 学 習 で は な く 、 情 報 を 正 確 に 理 解 す る ト レ ー ニ ング と し て の学 習 であ った の で あ る 。
ま た 、 対 比 や 類 比 と い った 認 識 法 の学 習 も ほと ん ど 記 憶 に 残 って いな か った 。 これ は 、 一つの教 材 で は何 ら か の
思考法 や認識 法が ﹁ 体 得 ﹂ は さ れ ても 、 ﹁定 着 ﹂ に は 至 らな いと いう 学 習 の性 格 を 表 し て い る と 考 え ら れ る 。 こ
の こと は 、 継 続 的 な 学 習 に よ って、 実 生 活 的 な 応 用 と 基 本 と の往 復 運 動 、 最 終 的 に は 習 慣 化 と いう 学 習 の経 路 が 成立す ることを示 し ている。
こ こ に 、 説 明 文 学 習 の重 要 な ポ イ ン ト が 示 さ れ て い る 。 理 科 や社 会 の学 習 で あ れ ば 、内 容 の記 憶 も 一つ の学 力
で あ ろう 。 し か し 、 国 語 の説 明 文 学 習 で は 、 そ こ に 眼 目 は な い。 正 確 に 理 解 す る こと 自 体 、 理 解 し た こと を 整 理
す る こと 自 体 、 理 解 し た こと か ら 考 え る こ と 自 体 が 学 習 内 容 で あ って 、 理 解 の対 象 であ る 題 材 に 関 す る情 報 は 学
習 の重 要 な内 容 で は な い。 説 明 的 表 現 に慣 れ つ つ、 説 明 的 文 章 を 読 ん で いく 方 法 を 学 ん で いく こと が 重 要 な の で ある。
新 聞 を 例 に と れ ば 、記 事 に よ って読 み 方 が異 な る こと を 意 識 し な が ら 読 む 方 法 を 身 に つけ る と いう こ と に な る 。
テ レビ 欄 は 、 時 間 と チ ャ ンネ ルを 確 認 し 、 予 告 の概 要 を と ら え 、 そ の番 組 を 見 る の か見 な い の か を 判 断 す る 資
料 と す る た め に読 む 。 論 理 的 思 考 力 を 駆 使 し て読 み と る と いう も の で は な い。 最 低 限 の情 報 を 把 握 す る こと に 意 味 があ る。
一方 、 投 書 欄 を 読 む 際 は 、 書 か れ て いる 情 報 だ け を と らえ た の で は意 味 を な さ な い。 そ の投 書 に 対 し て 、自 分
な り の意 見 を 持 た な け れ ば な ら な い。 読 む 以 上 、 無 関 心 や鵜 呑 み と いう 態 度 は読 み 手 と し て ふさ わ し く な い。 短
い意 見 文 を 読 ん で筆 者 の立 場 を 的 確 にと ら え 、 意 見 を 唱 え る 条 件 の整 理 ・補 充 も 行 い つ つ、 そ の意 見 に対 す る 自 分 の意 見 を 明 確 にす る こと が求 め ら れ る 。
ま た 、 社 説 に 対 し て は 、 あ る 一定 の分 量 の論 説 を 受 け 止 め る 論 理 の構 造 的 な 把 握 力 が 必 要 であ る 。 自 分 な り の
意 見 を 持 つ こと が 理 想 で あ る が 、 一般 的 に社 会 問 題 が そ の基 盤 に あ る ので 簡 単 に そ れ が 行 え な い。 そ う す る と 、
自 分 な り に社 会 問 題 を 整 理 し つ つ、論 点 を 把 握 す ると こ ろ か ら 読 み を 始 め る 必 要 が あ る 。部 分 的 に 納 得 を し た り 、
ま た は 批 判 し た り 、 あ る い は判 断 を 保 留 し た り し な が ら 、 全 体 的 な 判 断 を 得 よう と 自 分 の 読 み を 導 い て いく 。
そ の他 、 専 門 用 語 の 解 説 文 、 事 件 欄 な ど 、 そ れ ぞ れ そ の文 章 の目 的 と 性 格 を 見 き わ め た 読 み 方 があ る 。 単 純 に 新 聞 の読 み方 と い って も 一様 で は な い。
国 語 の 説 明 的 文 章 学 習 は 、 こ の よう に 読 み 方 の学 習 であ る と こ ろ に意 味 が あ る 。 そ し て、 そ の読 み 方 学 習 は 、
めざ す べき 学 力 の様 態 に 合 わ せ教 材 の特 性 を 活 か し た 学 習 活 動 に よ って こ そ 、 そ の実 が 挙 げ ら れ る こ と に な る 。
そ れ は 次 の 二 つに大 別 さ れ る。 一つに は 、 情 報 伝 達 の文 章 や マ ニ ユア ルを 代 表 と す る説 明 書 き な ど の説 明 的 文
章 の 情 報 性 を 前 面 に出 し た 学 習 で あ る 。 ま た 一つに は 、 科 学 物 語 や 論 説 文 な ど の 説 明 的 文 章 の論 理 性 を ふ ま え た
︵ 注 ︶ も 指 摘 し て いる
学 習 であ る。 両 者 と も 、 学 習 者 の 今 後 の言 語 生 活 に資 す る 視 点 で 重 視 さ れ る べき も の であ る 。
︵二︶説 明 的 文 章 に お け る 情 報 的 文 章 の側 面 1 情 報 的 文 章 の特 徴
説 明 的 文 章 の読 み の能 力 と し て、 情 報 的 文 章 の読 み が 挙 げ ら れ る 場 合 が あ る 。 渋 谷 孝
よう に 、 文 章 と し てま と ま り 、 筆 者 と 読 者 の心 理 的 な 契 約 関 係 と し て、 これ ら は 説 明 的 文 章 教 材 と は 性 格 を 異 に
す る 。 実 生 活 場 面 に お い て の需 要 は 大 き いが 、 そ の 実 用 的 な 側 面 以 外 に は 、 大 き な 特 徴 は な い。 文 章 の読 みを 通 し た 認 識 変 革 は あ ま り 期 待 でき な い のも 、 そ の性 格 と し て挙 げ ら れ る。
2 広 告 ・情 報 文 の場 合
メ デ イ ア ・リ テ ラ シー 重 視 の傾 向 に 伴 っ て、 実 生 活 的 な 読 み の能 力 育 成 も 重 ん じ ら れ 始 め て い る。 あ る 種 の商
業 的 な 圧 力 に 対 抗 す る能 力 と し て 唱 え ら れ て いる 。 つま り 、 ﹁だ ま さ れ な い﹂、 ﹁損 を し な い﹂ 読 み の能 力 を 身 に
つけ る と いう 主 張 であ る 。 実 用 的 側 面 は 、 一概 に国 語 学 習 の み で覆 いき れ る も の で は な く 、 家 庭 科 学 習 、 社 会 科
学 習 が 担 う べ き 性 格 のも の であ る が 、 基 礎 的 な 能 力 の育 成 は 国 語 科 教 育 の領 域 に 入 る と 考 え てよ い。
た と え ば 、 新 聞 の折 り 込 み 広 告 を考 え て み る 。 不 動 産 広 告 か ら 形 式 の み を 取 り 出 す 。
○ ○ 万 円 。 × × 町 ⋮ ⋮ 丁 目 。 ∼ ∼ 校 区 。 西 斜 面 陽 当 た り 良 好 。 土 地 ∼ ∼ m2。 延 床 * * m2。 ⋮ ⋮ 年 築 、 × × 年 改 築 。
室 内 丁 寧 に 使 用 。 駐 車 普 通 ▽台 可 。 都 市 ガ ス 、 市 水 道 。 ◇ ◇ 線 ○ ○ 駅 徒 歩 ⋮ 分 。 大 型 ス ーパ ー近 接 。 △ △幼 稚 園 徒歩 ⋮分 。
こ の広 告 の 読 み に論 理 的 思 考 力 と か 文 章 構 成 把 握 力 な ど と い った も の は 、 直 接 に は 求 め ら れ な い。 読 者 が 必 要
な 情 報 を 自 分 の生 活 の 要 求 に 合 わ せ て受 容 し 、 吟 味 す る 能 力 が 必 要 な の で あ る。 い ってし ま え ば 、 こ の広 告 の読
み の 能 力 は 、 読 者 の生 活 上 の要 求 が な い場 合 に は 、 必 要 が な い。 生 活 上 の必 要 が あ る 場 合 、 美 点 を 中 心 に 掲 げ る
広 告 の表 裏 を 見 抜 く リ テ ラシ ー が重 要 にな っ てく る の で あ る。 国 語 科 の 学 習 の範 囲 と いう よ り 、 用 語 の読 解 力 と
いう 基 礎 的 な 能 力 を 底 辺 的 な 基 盤 と し た 家 庭 科 や社 会 科 の学 習 内 容 であ る 生 活 認 識 の能 力 が 要 求 さ れ る こと に な る。
ま た 、 こ の よう な 表 現 は 、全 体 が 問 題 にな る と は 限 ら な い。読 者 に と って必 要 な 部 分 が 問 題 と な る 。た と え ば 、
自 動 車 を 使 用 し な い人 に と って は 、 そ れ に 関 わ る記 述 は 必 要 が な い。 幼 稚 園 児 の いな い家 庭 に お いて は 、 そ の 部
分 に 関 す る情 報 は 意 味 を な さ な い。 読 み方 自 体 が 説 明 的 文 章 の読 解 と は 異 な る。 天気 予 報 の受 け 止 め方 と よ く 似
て いる 。 必 要 な 部 分 の み に 着 目 す れ ば い い ので あ る 。 説 明 的 文 章 と 説 明 的 な 情 報 の 相 違 と し て 考 え る と 理 解 し や
す い。 効 能 書 き な ど の 説 明 書 き も 同様 な 性 質 を 持 ち 、 説 明 的 文 章 に 分 類 さ れ る べき も の で は な い。
3 情 報 的 文 章 の 側 面 ︱マ ニ ユア ル ・説 明 書 き
今 日 、 マ ニ ユア ル の必 要 性 が 高 ま り つ つあ る 。 一般 的 に は ﹁わ かり や す さ﹂ の考 察 が 進 み 、 徐 々に 専 門的 な 見 地 か ら 非 専 門 的 な 立 場 を 考 慮 し た 表 現 が 工 夫 さ れ つ つあ る 。
マ ニ ユア ルは 、 あ る種 の行 動 ・実 行 を 前 提 と し た 表 現 で あ る 。 実 現 が 難 し い行 動 ・実 行 を 遂 行 、 成 功 さ せ る こ
と に 目 的 が あ る 。 小 学 校 教 材 にも 、 マ ニ ユ ア ル的 な 文 章 が 見 受 け ら れ 、 ほ ぼそ れ は 文 章 表 現 学 習 へ の展 開 を 企 図
し た も の と な っ て い る 。 一例 を 挙 げ て 検 討 す る 。 小 学 校 二年 生 教 材 に ﹁き つ つき ﹂ ( 教 育 出 版 2 下 ) と いう ﹁お も ち ゃ﹂ の作 り 方 を 説 明 し た 教 材 が あ る。
き つつき
﹁き つ つ き ﹂ と いう お も ち ゃを 見 た こ と が あ り ま す か 。 き つ つき が 、 く ち ば し で ぼ う を つ つき な が ら 下 り て い く おもち ゃです 。 み な さ ん も 、 こ の お も ち ゃを 作 って 、 よ く う ご く よ う に く ふ う し て み ま し よ う 。
︵ 長 さ 五十 セン チ メート ルぐ ら い)
一 用 意 す る ざ い り よう
︵ 太 さ 四 ミ リ メ ー ト ル ぐ ら い 。 長 さ 三十 セ ン チ メ ー ト ル ぐ ら い)
工ナ メ ル線 一本 竹 ひ ご 一本
画 用 紙 一ま い ︵ はが きぐ ら いの大 きさ ) あ ぶ ら ね ん 土 ひ と にぎ り セ ロ ハン テ ープ
二 作 り 方 ︵一︶ コ イ ルば ね を 作 る
︵※引 用 者 注
① ∼ ③ の 写 真 は いず れ も 省 略 ︶
エ ナ メ ル 線 を つ か って 、 コイ ル ば ね を 作 り ま し ょう 。
き つく ま き つ け ま す 。 こ の 時 、エ ナ メ ル 線 の は し を 、 五 、 六 セ ン チ メ ー ト ル ぐ ら い の こ し て お き ま す 。 こ う し て 、
は じ め に 、 つぎ の ぺ ージ の① の し ゃ し ん の よ う に 、エナ メ ル 線 を 竹 ひ ご に ま き つけ ま す 。す き ま が な い よ う に 、
② の よ う に 、 一セ ン チ メ ー ト ルぐ ら い の コ イ ルを 作 り ま す 。
︵ 以 下、省 略 ︶
つぎ に 、 コ イ ル か ら 竹 ひご を ぬ き と り ま す 。 す る と 、 ③ の よ う な コ イ ル ば ね に な り ま す 。
冒 頭 のよ う に対 読 者 的 表 現 も 見 ら れ 、 純 粋 に 説 明 書 き の系 統 に 分 類 さ れ る も の で は な いが 、 少 な く と も 読 ん で
楽 し む と いう 内 面 的 な 活 動 を 期 待 し て いる も の で は な い。 ﹁き つ つき ﹂ と いう お も ち ゃを 作 る こと を 前 提 と し た
文 章 で あ る 。 そ う す る と 、 ﹁き つ つき ﹂ を 作 る 気 の な い読 者 は 対 象 外 と いう こ と にな る し 、 ま た こ の文 章 を 読 ま
な いでも ﹁き つ つき ﹂ を 作 る こ と が で き る読 者 も ま た 対 象 と な ら な い こと に な る。
情 報 通 り に 読 ん で 行 動 し て い け ば 、 ﹁き つ つき ﹂ が でき る か 否 か で、 こ の文 章 の評 価 が 決 ま る。 いく ら論 理 的
整 合 性 が 高 く ても 、 用 語 一つの説 明 が 不 足 し 、 ﹁き つ つき ﹂ が で き あ が ら な け れ ば 、 こ の文 章 は ﹁よ く な い﹂ 文
章 と いう こと に な る の であ る 。 論 理 的 思 考 力 と は 別 種 の 能 力 育 成 が こ の教 材 で めざ さ れ て いる こと が わ か る 。 つ
ま り 、 社 会 的 な 行 動 力 と し て 、 用 意 や 順 序 、 条 件 お よ び 注 意 事 項 な ど を 的 確 に 読 み と って、 そ れ を 自 身 の行 動 へ
と 結 び つけ て いく 能 力 の育 成 が 目 的 と さ れ て いる の で あ る 。 現 実 的 に 考 え る と 、 こ の 方 面 の能 力 は 、 学 校 教 育 と
し て十 二 分 に陶 冶 が 求 め ら れ る と は考 え ら れず 、 そ の 入 口 部 分 を 示 す な り 、 初 歩 的 な 経 験 を 施 す な り の 位 置 づ け
と し て 扱 わ れ る べ き も の で あ り 、 実 際 の能 力 は 、 社 会 的 な 活 動 の 中 で磨 く と いう と ら え 方 が適 切 であ ろう 。
表 現 面 で いう と 、 筆 者 の 見 解 や 判 断 、 意 見 を 述 べ る ﹁の で す ︵の だ 文 ︶﹂ が ま った く 使 用 さ れ て いな い。 後 略
し た 部 分 を 含 め 最後 ま で 登 場 し な い。 基 本 的 に 、 緩 や か な 指 示 の 機 能 や そ の結 果 を 表 す ﹁∼ ま す ﹂ 文 に よ り ほと
んど が占 め ら れ て い る。 当 然 、 読 者 も 指 示 の内 容 と そ の結 果 と の 関 係 を 考 え な が ら 、 行 動 す る こ と にな り 、 文 章 に 対 す る 判 断 や評 価 は 特 に 必 要 と さ れ な い。
4 情 報 的 文 章 の 教 材 性 と 学 習 内 容
情 報 的 文 章 の教 材 性 は 、 近 年 注 目 さ れ 始 め た 分 野 であ る 。 特 に活 動 的 な 学 習 が 推 進 さ れ る よう に な ると 、 こ の
活 動 の実 行 ・実 現 に 関 わ る文 章 表 現 の有 効 性 と 重 要 性 が 指 摘 さ れ る よ う に な り 、 ま た 学 習 内 容 と し て比 重 を 高 め
る よ う にも な ってき た 。 こ の 分 野 の学 力 は 、 あ る 行 動 の実 行 、 具 体 物 の作 成 が 目 的 にあ る た め、 特 に 発 展 性 のあ る も のと は いえ な い。留 意 点 は 、 次 の 三点 で あ る 。
① 読 み の成 果 を 活 動 の実 行 ・目 的 物 の実 現 の結 果 と 結 び つけ て、 文 章 の合 理 的 ・能 率 的 な 説 明 方 法 と そ の有 効
性 を と ら え る こ と 。 内 面 的 な 読 み の能 力 を 活 動 と し て の実 行 力 に 強 く 関 わ ら せ て 学 習 の有 効 性 と 有 効 範 囲 を 想 定 す る こ と が 求 め ら れ る。
② 手 順 的 な 合 理 性 が 高 いこ と が 前 提 であ る の で、 論 理 的 な 整 理 力 の育 成 に は つな が っても 、 吟 味 力 、 評 価 力 の
育 成 に 対 し て は多 く は 望 め な いと いう こと 。 本 格 的 な 論 理 的 思 考 力 の学 習 を 担 う こ と は かな り 難 し いと 考 え ら れ る。
③ 読 む 能 力 の育 成 と 並 ん で、 書 く 能 力 ・話 す 能 力 の育 成 に 展 開 す る 必 要 が あ る と いう こ と 。 ﹁読 め る﹂ よ う に
な る だ け で な く ﹁使 え る ﹂ よう に な る こ と が 重 要 で あ る。
︵三︶説明 的文章 における論 理的文章 の側面 l 形 式 的 論 理 と 実 質 的 論 理
形 式 的 論 理 は 、 通 常 論 理 構 成 あ る いは 文 章 構 成 そ のも のと し てと ら え ら れ る 。 起 承 転 結 や序 破 急 と い った 典 型
的 な 形 式 論 理 の レ ベ ルや 序 論 ・本 論 ・結 論 と いう 論 の性 格 を 前 面 に 出 し た レ ベ ル、 問 題 提 起 ・問 題 解 決 ・結 果 と
いう 論 理 の実 質 に 関 わ る レ ベ ルな ど 、 さ ま ざ ま な レ ベ ル が 考 え ら れ る 。 論 理 の抽 象 化 の度 合 いに よ ると らえ 方 の
相 違 と も いえ る が 、 読 み のあ り 方 に関 わ って、 そ のと らえ 方 も 異 な る 。 つま り 、 形 式 そ のも のを と ら え る こ と を
め ざ す 読 み も あ れ ば 、 問 題 解 決 の実 質 を 吟 味 す る 読 み も あ る の で 、 読 み の 目的 に よ って 枠 と し て 想 定 さ れ る 論 理 の形 式 が 異 な ると いう こと で あ る 。
こ れま で の説 明 的 文 章 学 習 の目 標 は 、 形 式 的 論 理 に重 点 が 置 か れ が ち であ った 。 説 明 的 文 章 の科 学 性 と いう も
のが 尊 重 さ れ 過 ぎ て いた こと も あ り 、 ど の文 章 に も 通 じ る 原 理 や 原 則 が あ り 、 何 ら か の形 で普 遍 の論 理 が 一般 化
でき ると 考 え ら れ て き た と いえ る 。 そ れ は 一面 事 実 で はあ る が 、 そ の 一般 化 は 非 可 逆 的 で、 具体 化 への道 筋 が 十
分 見 え な いも の であ った 。 つま り 、 論 理 の形 式 面 を 抽 出 す る 能 力 を いく ら 身 に つけ ても 、 そ の 過 程 にあ る 抽 象 的
思 考 の活 動 を 保 障 す る だ け で 、 別 の説 明 的 文 章 の読 み へ の適 用 ・応 用 が 円 滑 に 行 え な か った り 、 ま った く 稼 働 し
な か った り す る こと が し ば し ば 起 こ った 。 結 果 と し て 、 日 常 生 活 のレ ベ ル で 説 明 的 文 章 を 読 む 際 に 、 実 効 性 は 乏 し か った と いう こ と にな る 。
こ れ に 対 し て 、文 章 の 目的 ・機 能 に 即 し て説 明 的 文 章 を いく つか の文 章 のタ イ プ に 分 類 し 、 そ れ ぞ れ の論 理 の
実 質 を 見 き わ め て いく 論 理 的 思 考 力 の考 え 方 が 登 場 し て いる 。
実 験 ・調 査 に よ る科 学 的 な 手 法 を 前 面 に 出 し て いる 説 明 的 文 章 の論 理 は 、 実 験 ・調 査 の集 約 や そ の意 義 づ け ・
結 論 づ け の妥 当 性 を 問う と いう 形 で論 理 を と ら え て いく 。 形 式 的 な 仮 説 の部 分 、 実 験 ・調査 の部 分 、 結 論 の 部 分
と いう 単 純 な 読 み分 け を も って論 理 の読 み と は せ ず 、 論 理 的 思 考 力 を 働 か せ た と は せ ず に 、 論 理 の実 質 と し て そ の文 章 の方 法 と し て妥 当 か ど う か を 判 断 し て いく 読 み であ る 。
2 実 質 的 論 理 の 読 み と 納 得
論 理 を 読 み、 読 者 な り の判 断 を 行う 行 為 は 、 あ る種 の責 任 行 為 であ る 。 単 に 論 理 を 読 みと り 、 そ の形 や 内 容 を
受 容 ・整 理 す る と いう レ ベ ルは 存 在 す る 。 論 理 の受 容 ・整 理 自 体 を 学 習 内 容 と す る こ と も 説 明 的 文 章 の読 み の学
習 に お け る 基 礎 ・基 本 の段 階 と し て は 設 定 さ れ る べき で あ る。 し か し 、 そ こ でと ど ま って いて は 、 ま さ に 学 習 の
た め の 学 習 であ り 、 実 効 性 は 期 待 で き な い。 説 明 的 文 章 か ら 論 理 を 読 む と いう 行 為 は 、 そ の筆 者 に 対 し て責 任 を 持 って自 分 の立 場 が 表 明 で き る と いう 段 階 に至 って こ そ価 値 を 生 む 。
説 明 的 文 章 に対 し て、 読 者 が 働 き か け を 行 う と いう 意 志 を 持 つこ と か ら 始 め な け れ ば な ら な い。 現 状 で は 、 こ
の働 き か け は 、 し ば し ば ル ー ル の意 識 の な い 一方 的 な 行 為 に 陥 る こと が 多 い。 た と え ば 、 ﹁人 類 よ 、 宇 宙 人 に な
れ﹂ ︵ 教 育 出 版 6 下 ︶ の読 み に お いて 、 筆 者 の 立 花 隆 に 対 し て 、 ﹁地 球 の危 機 に 対 し て何 の解 決 策 も 示 さ ず に 、
地 球 外 への 移 住 を 進 め る な ん て 無 責 任 だ ﹂ と いう 学 習 者 の 読 み が 出 さ れ た こと が あ る。 一見 、 筋 の通 った議 論 の
よう に見 え る 。 だ が 、 立 花 隆 は 、 地 球 環 境 の危 う いバ ラ ン スを 指 摘 し 、 宇 宙 飛 行 士 た ち へイ ンタ ビ ユー を 行 い、
宇 宙 への移 住 の価 値 と 可 能 性 を 説 い て いる の であ る 。 そ れ は論 点 を 絞 った 論 説 文 と い って も よ い。 そ の論 点 を 絞
ると いう 行 為 は 、 実 は読 者 と の約 束 を 結 ぶ行 為 であ り 、 あ る種 の信 頼 関 係 の確 立 で あ る 。 こ れ を 対 話 に 置 き 換 え
て み る と 、対 話 の 論 題 に同 意 し てそ れ を 進 め る 以 上 、 一応 論 題 に 沿 って 思 考 し 、反 応 す る と いう のが 原 則 に な る。
そう し な いと 対 話 は 成 り 立 た な い。 説 明 的 文 章 の読 み にお いて も 、 筆 者 と 読 者 の信 頼 関 係 は 必 要 で あ る 。 そ こ に
筆 者 が いな いか ら と い って、 自 由 な 読 み と 称 し て逸 脱 を 権 利 のよ う に と ら え る のは 誤 り で あ る。 対 話 的 な 読 み を
終 え た 後 、 論 題 を 取 り 巻 く 状 況 を 吟 味 し 、 別 の論 題 が 必 要 だ と 考 え た り 、 指 摘 し た り 、 意 見 と し て 表 明 す る こと
は 読 み の発 展 と し て 望 ま し い こと だ が 、 対 話 的 な 読 み の 間 は 、 基 本 は 筆 者 の ﹁話 ﹂ に 耳 を 傾 け つ つ判 断 を 行 う こ
と が 求 め ら れ る 。 逸 脱 的 な読 み は 、時 に 読 み の能 力 の高 さ と 勘 違 いさ れ 、 弊 害 を 招 く 。
︵四︶ 説 明 的 文 章 教 材 の 説 明 の手 法 及 び 性 格 ・分 類 1 説 明 的 文 章 教 材 の 性 格 分 類 の 視 点
こ こ で は 、 主 要 な 説 明 的 文 章 教 材 の説 明 の手 法 と 性 格 を と り 上 げ 、 そ の文 章 の理 解 の方 法 ・表 現 の方 法 、 お よ
び 学 習 指 導 上 の要 点 に つ い て考 察 す る。 説 明 的 文 章 の読 み と 叙 述 への 反 応 と の 関 わ り に焦 点 を 置 い て、 実 際 の読
み の学 習 指 導 に お い て 着 目 さ せ る ベき 表 現 と そ の 機 能 、 そ し て そ れ ら の表 現 を 有 す る 説 明 的 文 章 の本 来 的 な 性
事 例列挙型
格 ・目 的 と の関 係 を と ら え る 。
2
﹁ど う ぶ つ の赤 ち ゃん ﹂ ︵ 光 村 図 書 1下 ︶ や ﹁は た ら く じ ど う 車 ﹂ (教 育 出 版 1 下 ) な ど が 典 型 的 な 教 材 であ る 。 ﹁ど う ぶ つ の赤 ち ゃん ﹂ を と り 上 げ 、 そ の性 格 を 検 討 し て み る 。
どう ぶ つの赤 ち ゃん
し て 大 き く な っ て いく の で し ょ う 。
ま す いみ つ こ
ど う ぶ つの 赤 ち ゃ ん は 、 生 ま れ た ば か り の と き は 、 ど ん な よ う す を し て いる の で し ょ う 。 そ し て 、 ど の よ う に
は 、 ど う ぶ つ の 王 さ ま と い わ れ ま す 。 け れ ど も 、赤 ち ゃ ん は 、 よ わ よ わ し く て 、 お か あ さ ん に あ ま り に て いま せ
ラ イ オ ン の 赤 ち ゃ ん は 、 生 ま れ た と き は 、 子 ね こ ぐ ら いの 大 き さ で す 。 目 や 耳 は 、 と じ た ま ま で す 。 ラ イ オ ン
ん。
ては こん でも らう のです 。
ラ イ オ ン の 赤 ち ゃん は 、 じ ぶ ん で は あ る く こ と が で き ま せ ん 。 よ そ へ いく と き は 、 お か あ さ ん に 、 ロ に く わ え
ラ イ オ ン の 赤 ち ゃ ん は 、 生 ま れ て 二か 月 ぐ ら いは 、 お ち ち だ け の ん で い ま す が 、 や が て 、 お か あ さ ん の と った
え も の を た べ は じ め ま す 。 一年 ぐ ら いた つと お か あ さ ん が す る の を 見 て 、 え も の の と り か た を お ぼ え ま す 。 そ し
︵ 以 下 、 ほ ぼ 同 じ 情 報 の 提 出 順 で ﹁し ま う ま の 赤 ち ゃ ん ﹂ の 事 例 が 記 述 さ れ て いく 。︶
て 、 じ ぶ ん で つか ま え て た ベ る よ う に な り ま す 。
形 式 的 に は 課 題 解 明 型 に分 類 さ れ る が 、 二 種 類 の ど う ぶ つ の事 例 提 示 だ け で 、 ﹁ど う ぶ つ の赤 ち ゃ ん ﹂ 一般 に
関 す る 課 題 が 解 明 さ れ た と は い いが た い。 終 結 部 分 が 設 け ら れ て いな いこ と も そ の理 由 に よ る と 考 え ら れ る。
学 習 学 年 の発 達 段 階 を ふま え て 、 数 字 表 現 を 控 え る 、 な ぞ ら え 表 現 の多 用 な ど 説 明 の 工夫 が 見 ら れ る 。 全 体 的
に 、 紹 介 的 な 色 彩 が 濃 く 、 問 題 意 識 を 持 った 主 体 的 な 読 み を 強 く 求 め て いる と は考 え に く い。 ま た 時 間 経 過 が 一
つの 要 素 に は な って いる が 、 そ れ を 着 実 にと ら え つ つ読 む こと の 重 要 性 は さ ほ ど 高 く な い。 事 例 が 二例 続 け ら れ
て いる の で、 最 初 の事 例 の記 述 項 目 と 記 述 順 に 合 わ せ て 、 後 の事 例 を 読 み 、 対 比 を し て いき 、 両 者 の相 違 を 観 点
に従 って見 き わ め る こと が 読 み の 眼 目 と な って い る。 読 み によ る論 理 的 思 考 力 の育 成 と は 、 こ のよ う な 読 み の方
法 に基 づ く こと が 肝 要 であ る 。 こ こ で は 、 観 点 を そ ろえ て事 例 を 対 比 す る 読 み の方 法 と いう こと に な る 。
事象 変化型
な って し ま う 。 そ れ も 重 要 な 学 習 事 項 で は あ る が 、 論 理 的 思 考 力 の育 成 も 加 味 す る と す る と 、 大 き さ を 生 物 の牛
節 と 場 所 を お さ え な が ら 読 み と って いく こ と が 求 め ら れ る が 、 そ れ だ け だ と 単 に 情 報 受 容 ・情 報 整 理 の読 み と
具 体 的 に は 、卵 か ら ﹁二 セ ンチ メ ー ト ルぐ ら い﹂、 そ し て ﹁三 セ ン チ メ ー ト ルぐ ら い﹂ と い った 長 さ の伸 び を 季
小 学 校 二年 生 と いう 発 達 段 階 を 考 慮 し て 、 可 視 的 な ﹁長 さ ﹂ を 大 き さ の基 準 と し て い る 。 そ の 大 き さ の変 化 、
︵ 後 略︶
に な が さ れ な が ら 、 いく 日 も い く 日 も か か って 、 川 を 下 って いき ま す 。
春 に な る こ ろ 、 五 セ ン チ メ ー ト ル ぐ ら い に な った さ け の 子 ど も た ち は 、 海 に む か っ て 川 を 下 り は じ め ま す 。 水
︵ 中 略 。 産 卵 の 場 面 お よ び孵 化 後 の 場 面 。︶
いき お い よ く 川 を 上 り ま す 。 三 メ ー ト ルぐ ら い の た き で も の り こえ て 、 川 上 へ 川 上 へと す す ん で いき ま す 。
秋 に な る こ ろ か ら 、 大 人 の さ け は 、 た く さ ん あ つ ま って 、 た ま ご を う み に 、海 か ら 川 へや って き ま す 。 そ し て 、
て 大 き く な った の で し ょ う 。
さ け は 、 北 の 海 に す む 大 き な 魚 で す 。 あ の 七 十 セ ン チ メ ー ト ルほ ど も あ る 魚 は 、 ど こ で 生 ま れ 、 ど の よ う に し
さけ が大 きくな る ま で
﹁さ け が 大 き く な る ま で﹂ を と り 上 げ 、 考 察 を 加 え る。
﹁た ん ぽ ぽ の ち え ﹂ ( 光 村 図 書 2上 ) や ﹁さ け が 大 き く な る ま で﹂ ( 教 育 出 版 2 下) な ど が代 表 的 な 教 材 であ る 。
3
き る力 に結 び つけ て、 実 感 的 に読 み 深 め さ せ た い。 ﹁七 十 セ ン チ メ ー ト ル ほ ど も あ る ﹂ ﹁大 人 の さ け ﹂ は 、 ﹁三
メ ー ト ルぐ ら い の た き で も の り こ え ﹂ ら れ る し 、 ﹁川 上 へ川 上 へと す す ん で い﹂ け る 。 そ れ に対 し 、 ﹁五 セ ン チ
メ ー ト ル ぐ ら いに な った さ け の子 ど も た ち ﹂ は 、 ﹁水 に な が さ れ な が ら 、 いく 日も いく 日 も か か って 川 を 下 って
い﹂ く 。 運 動 能 力 、 泳 力 の差 は 一目 瞭 然 と し か い いよ う が な い。 こ の能 力 は 、 ﹁ぶ じ に 生 き の こ って大 き く な っ
た さ け は、 ︵﹁さ め や あ ざ ら しな ど に ﹂ 食 べら れ る こ と な く ︶ 三 年 も 四年 も 海 を お よ ぎ ま わ り ま す ﹂ と いう 生 き る 力 に 見 事 に 結 び つ いて いく 。 こ れ を 実 質 的 な 論 理 の読 み と 考 え た い。
これ は内 容 の読 み と いう より も 表 現 の読 み に強 く 接 点 を 持 って いる 。 ﹁川 上 へ川 上 へ﹂ と ﹁いく 日も いく 日も ﹂
は 場 所 と 時 間 と いう 違 い こ そあ れ 、 反 復 表 現 と し て 、 さ け の ﹁大 人 ﹂ と ﹁子 ど も ﹂ の 運動 能 力 の大 き な 相 違 を 強
調 す る表 現 効 果 を 持 つ。 ま た文 章 末 尾 に も 同 様 な ﹁し か け ﹂ が 見 ら れ る 。 大 き く な る途 中 のさ け は ﹁さ め や あ ざ
ら し な ど に ﹂ ﹁食 べら れ て し ま ﹂ う 、 一方 大 き く な り き った さ け は ﹁海 を お よ ぎ ま わ ﹂ る 。 対 照 的 な書 き 分 け が
な さ れ て お り 、 実 質 的 な 論 理 の読 み を 的 確 に導 いて く れ る 。 優 れ た 説 明 的 文 章 に は 、 論 理 の読 み と 表 現 の読 み と が 適 切 に結 び つけ ら れ る よ う な し か け が 施 さ れ て いる の であ る 。
4 課 題 解 明 型
一般 的 に 課 題 解 明 型 に分 類 さ れ る教 材 は 多 いが 、 課 題 に は 二種 類 あ る と 考 え ら れ る 。
一つは 、 限 定 的 で 、 規 模 の大 き く な い問 題 的 事 象 を 小 課 題 と し て 設 定 す るも の であ る 。 小 規 模 も し く は微 細 な
科 学 現 象 を と り 上 げ 、 そ の メ カ ニズ ムを 解 明 し て いく 。 実 験 や 調 査 に よ る科 学 的 実 証 過 程 を そ のま ま 説 明 の手 法
と し た も の が多 い。 ﹁あ り の行 列 ﹂ ︵光 村 図 書 3 上 ︶ や ﹁花 を み つけ る手 が か り ﹂ ︵ 教育 出版 4上︶ などが有 名教
材 であ る 。
も う 一つは 、 あ る 程 度 広 範 な 問 題 的 事 象 を 網 羅 的 にと ら え 、 大 き な 課 題 と し て 設 定 す る も の で あ る。 多 角 的 あ
る いは 歴 史 過 程 的 な 論 証 ・実 証 過 程 を 内 容 と し 、 そ れ を 記 述 し て いく 手 法 を と る。 現 行 教 材 で は な いが 、 ﹁大 陸
は動く﹂ ︵ 光 村 図 書 平 成 十 二年 度 版 5上 ︶ や ﹁魚 の感 覚 ﹂ ︵ 学 校 図 書 平 成 十 二年 度 版 5上 ︶ な ど が好 例 であ る 。
こ こ で は 課 題 解 明 型 と し て ﹁魚 の感 覚 ﹂ を と り 上 げ る 。 ﹁ 魚 の感 覚 ﹂ は 、 金 魚 が え さ を み つけ る と き に使 用 す
る 感 覚 は何 か と いう 課 題 に対 し て、視 覚 、聴 覚 、味 覚 、嗅 覚 と い った 五 感 の大 半 にま で広 げ て 解 明 を 行 って いく 。
し か も 、 そ れ は 、 実 験 過 程 であ った り 、 歴 史 的 事 実 の検 討 で あ った り す る 。 ま ず 冒 頭 の視 覚 に 関 す る 一部 分 を と り 上 げ る。
い った い 、魚 に は 、色 が 分 か る の で し ょ う か 。魚 の 中 に は 、あ る 種 の 深 海 魚 の よ う に 目 の な い の も あ り ま す が 、
ふ つう は 、 頭 の 左 右 に 、 一対 の 目 を 持 って いま す 。 こ れ を よ く 調 ベ て み る と 、目 に 必 要 な 部 分 は そ ろ って い る し 、
色 に 感 じ る 円 す い体 と い う 部 分 も あ る の で 、 物 を 見 る 感 覚 は あ る と 思 わ れ ま す 。 し か し 、 構 造 だ け で は 、 そ の 働
き は よ く 分 か り ま せ ん 。 魚 が 実 際 に 物 を 見 分 け 、 色 に 感 じ る こと が で き る か ど う か を 調 べ る た め に 、 科 学 者 た ち は 、次 のよう な実 験 をし まし た。
青 い 皿 と 赤 い 皿 を 用 意 し 、青 い皿 を 見 せ た と き は 、そ れ に え さ を の せ て あ た え ま す が 、赤 い 皿 を 見 せ た と き は 、
︵ 以 下 、 実 験 過 程 が 精 細 に 記 述 さ れ 、 ﹁そ の 魚 は ﹂ 青 と 赤 だ け で な く ﹁い ろ いろ な 色 ﹂ を 区 別 す る 、 大 小 や 形 状
ぼう か何 か で魚を いじめ るの です。
の 識 別 も で き る 、 と い った こ と が 発 展 的 に 解 明 さ れ た こ と を 示 し て い く 。︶
いわ ば科 学 実 験 の記 録 の性 格 を 持 って い る。 も ち ろ ん 、 科 学 実 験 の報 告 そ のも の で は な く 、 類 似 の実 験 内 容 の
場 合 は 過 程 を 省 略 し 、結 果 のみ を 示 す な ど の読 み 物 と し て の文 章 の色 彩 も 有 す る 。読 者 は 、解 明 の段 階 性 に着 目 す
る こと が 求 め ら れ 、 そ の段 階 の認 識 自 体 が 読 み の成 果 に直 結 す る 。 つま り 、 単 に情 報 と し て解 明 結 果 を 把 握 し 整
理 す る の で はな く 、 解 明 結 果 の 一般 化 の過 程 を 実 質 的 な 論 理 と し て と ら え な け れ ば な ら な いと いう こと で あ る。 つ い で、 聴 覚 に 関 す る 一部 分 を と り 上 げ る 。
そ れ で は 、 音 は ど う で し ょう か 。
二 十 世 紀 の 初 め 、 ド イ ツ の あ る 養 魚 場 で 起 こ った で き ご と で す 。 そ の 養 魚 場 に は 、 マ ス が 飼 わ れ て い て 、一 人
いま し た 。
の 番 人 が いま し た 。 番 人 は 、 近 く の 教 会 で 鳴 ら す 朝 八 時 の か ね を 聞 く と 、 す ぐ に 、 マ ス に え さ を や る こ と に し て
と ころ が 、 あ る 朝 、 番 人 は 、 朝 ね ぼ う を し て し ま い、 八 時 の か ね が 鳴 り 終 わ って し ば ら く た って か ら 、 え さ を
持 っ て 、 池 の ふ ち に 行 き ま し た 。 す る と ど う で し ょ う 。 い つも な ら 、 番 人 が 池 の ふ ち に 立 っ て か ら 、 マ ス が 集
ま って く る の に 、 そ の 日 は も う 、 水 面 に た く さ ん の マ ス が 顔 を 出 し て 、 え さ を さ いそ く す る よ う な 様 子 を し て い
る ので した 。し かも 、 この不 思議 な現象 は、そ の 日ば かり でなく 、そ の後 、教 会 の かねよ りも おく れ てえさ を や る たび に起 こる ので した 。
﹁う ん 、 そ う だ 。 マ ス に は 、 か ね が 聞 こ え る ん だ な 。 教 会 の か ね が 鳴 れ ば 、 え さ を も ら え る こ と が 分 か って い る ん だ な 。﹂ 番 人 は 、 こ の お も し ろ い事 実 に気 が つき ま し た 。
︵ 以 下 、 ﹁マ ス は 音 が 聞 こ え な い﹂ と いう 説 を 唱 え る ラ ド ク リ ッ フ博 士 が こ の 養 魚 場 に 訪 ね て き て 、 こ の 現 象 を
見 て 自 説 を 撤 回 す る と い う 歴 史 的 事 実 の 提 示 が 示 さ れ る 。 ﹁こ の 後 、 ド イ ツ の フ リ ッ シ ュ博 士 ﹂ の え さ を 使 っ た 科 学 実 験 の結 果 が 示 さ れ 、 こ の 解 明 結 果 は さ ら に 補 強 さ れ る 。)
前 節 の視 覚 の解 明 実 験 と は か な り 雰 囲 気 の変 わ った 記 述 と な って いる 。 科 学 性 と いう よ り 歴 史 的 事 実 のよ う な
書 き ぶ り であ る 。 実 際 、 ラ ド ク リ ッ フが 目 に し た 現 象 の 記 述 は 、 以 下 のよ う に 臨 場 感 溢 れ た も のと な って いる 。
ま し た 。 口 を 水 面 に 出 し て 、 た が い に 他 を お し の け る よ う に し て 寄 り 集 ま った た め 、 ま る で 、 タ 立 が か わ いた 木
や が て 、 教 会 の か ね が 鳴 り だ し ま し た 。 す る と 、 え さ 場 付 近 が に わ か に さ わ が し く な っ て 、 マス が 集 ま っ て き
の 葉 を た た く よ う な 、 や か ま し い水 音 が し て いま す 。 ラ ド ク リ ッ フ 博 士 も 、 こ れ を 見 て 、 自 分 の考 え を 変 え な い わ け に は いき ま せ ん で し た 。
明 ら か に ﹁物 語 ﹂ 的 な 説 明 の手 法 で あ る。 こ の 二 つ の タ イ プ の 記 述 が 一つの文 章 の 中 に混 在 し て いる こと は 、
問 題 点 と し て指 摘 でき る が 、 単 に科 学 実 験 の報 告 的 な 文 章 と し て 単 調 化 し て いく こ と を 避 け る た め の手 法 と し て
見 る こと も でき る 。 ﹁魚 ﹂ に え さ を や ると いう 行 為 は 、読 者 で あ る 小 学 生 にも 経 験 が あ り 、 親 近 感 を 誘 う 。 そ れ
を こ の歴 史 的 事 実 に重 ね 合 わ せ て読 ま せ る こ と を ね ら って い ると し た ら 、 科 学 的 な 厳 密 性 と いう 見 地 よ り も 読 み
の動 機 づ け と いう 機 能 を 優 先 さ せ た と 見 る こと が でき る。 角 度 を 変 え て いう と 、 説 明 的 文 章 は 、 ﹁科 学 読 み 物 ﹂
の性 格 を 持 って お り 、 単 に科 学 的 事 実 を 理 解 す る こと よ り も 、 読 者 の生 活 や経 験 に結 び つけ て 、 よ り 深 く 納 得 し て いく こ と が 求 め ら れ ると いう こと で あ る 。
科 学 的事 実 を 文 字 と いう 媒 介 を 通 し て 間 接 的 に 納 得 し て いく こと が 説 明 的 文 章 の読 み に お け る 一つの相 で あ る
と し た ら 、 物 語 的 な 説 明 手 法 の存 在 理 由 も う な ず け る と こ ろ であ る。 た だ こ の こ と は 、 科 学 的 事 実 を 的 確 に 表 現
し た 文 章 を 読 む と いう 能 力 育 成 を 正 面 に 据 え た 場 合 、逆 に そ の足 を ひ っぱ る 要 因 にな る と いう こ と も 可 能 で あ る。
文 章 と 読 者 と の接 点 ・距 離 のあ り 方 と いう 点 で、 あ る 種 の問 題 提 起 的 な意 味 も 持 つと いえ る 。
5 説 明 的 文 章 の指 導 法 ・指 導 過 程
内 容 の教 授 に ウ エイ ト が 置 か れ た 時 期 は 、 基 本 的 に 情 報 処 理 ・情 報 整 理 の指 導 が 中 心 であ った 。 三読 法 が 大 半
を 占 め 、 大 意 の把 握 、内 容 の精 査 、 成 果 の整 理 と いう 三 段 階 の指 導 が 行 わ れ た 。 こ の指 導 法 は 、 整 備 に 整 備 を 重
ね 、 合 理 性 の精 緻 を 極 め て いく 。 そ の結 果 、 指 導 過 程 と し て の定 式 化 、 カ リ キ ユラ ム の系 統 化 な ど 指 導 上 の問 題
が か な り の部 分 に お いて 解 決 さ れ 、 説 明 的 文 章 の授 業 自 体 は き わ め て進 め や す く な って い った 。 反 面 、 説 明 的 文
章 学 習 全 般 に つき ま と い、 な か な か 払 拭 しき れ な い学 習 意 欲 の 低 迷 に代 表 さ れ る よ う に 、 情 意 的 領 域 の 学 力 の側
面 に 大 き な 問 題 が 生 じ 、 そ れ が 増 大 す る 傾 向 が 見 ら れ た 。 こ の 問 題 は 、 説 明 的 文 章 の学 力 を 生 活 的 な 能 力 へ拓 く 意 味 に お い て 一つ の大 き な 阻 害 要 因 と な って いる 。
こ の 問 題 を 解 決 す る方 向 と し て 、 いく つか の視 点 を 分 け た 取 り 組 み が 進 め ら れ て いる 。
一つは 、 説 明 的 文 章 の読 み そ のも のを 魅 力 的 、 生 動 的 な も の に し て いく 実 践 であ る 。 単 に 、 文 章 内 容 の整 理 や
形 式 論 理 の抽 出 に と ど ま らず 、 問 題意 識 を 重 視 し た 読 み の方 法 を 積 極 的 に指 導 過 程 に 取 り 込 ん で いく 方 式 の追 求
であ る 。 こ れ は 、読 み の意 識 と 方 法 の 一体 化 を ね ら う 方 向 と 考 え て よ い。 文 章 の読 みを 間 接 的 な 認 識 の過 程 と 考
え る わ け で 、 そ の認 識 の能 力 を 高 め る こ と を 主 な ね ら いと す る の で あ る 。 そ れ は 、 読 者 自 身 の対 象 認 識 力 を 育 て
る こと を 主 眼 と す る の で 、読 み の活 性 化 も 重 要 な 要 素 と な る 。 こ こ で 扱 わ れ る 論 理 的 思 考 力 は 、 論 理 的 認 識 力 で
あ り 、 文 章 の形 式 論 理 の側 面 よ り も 、 論 理 的 整 合 性 の吟 味 や 評 価 が 中 心 と な る 。 一読 総 合 法 が そ の代 表 的 な 指 導 過 程 であ る 。
ま た 一つに 、 説 明 的 文 章 の 読 み か ら 表 現 的 な 言 語 活 動 に 展 開 す る 、 関 連 学 習 的 な 方 法 も 開 拓 さ れ て い った 。 学
力 の転 移 と いう 概 念 で 語 ら れ る 、 新 た な 言 語 能 力 への発 展 で あ る。 つま り 、 論 理 的 思 考 力 と いわ れ る 能 力 を 論 理
的 表 現 力 の面 へも 拡 充 し よ う と いう も の であ った 。 実 質 的 に は 、 論 理 的 思 考 力 は 、 そ れ が何 ら か の言 語 表 現 の形
を 取 ら な け れ ば 実 働 し て いる かど う か は 定 か では な い。 指 導 者 の側 に そ れ が 把 握 で き る か否 か では な く 、 当 の学
習 者 に お いて自 ら の能 力 と し て発 揮 でき る か ど う か が 自 覚 でき な いと いう こと であ る 。 こ の自 覚 の問 題 は 、 実 は
学 力 のあ り よう と し てき わ め て重 要 な 問 題 と いえ る。 た と え ば テ スト な ど の外 的 な 評 価 手 段 を 通 し て学 力 が 認定
さ れ た と し ても 、 そ れ が 実 効 性 を 持 つの は学 習 者 の実 生 活 であ る 。 実 生 活 で実 際 に 働 い て初 め て学 力 で あ ると す
ると 、 そ の自 覚 が な い、 乏 し いと いう こと は 学 力 の機 能 に お いて は な はだ 問 題 があ る と いわ ざ る を え な い。
論 理 的 表 現力 の側 面 は 、 単 に 理 解 力 を 表 現 力 へと 転 移 す ると いう 問 題 で は な く 、 論 理 的 思 考 力 の実 効 性 のあ る 機 能 の問 題 と いう こと に な る 。
説 明 的 文 章 の指 導 法 ・指 導 過 程 は 、 ど の よ う な 学 力 の育 成 を 目 的 と す る か に より 異 な って く る 。 し ば し ば 学 習
者 の活 動 が 前 面 に 出 さ れ た 指 導 法 ・指 導 過 程 が 喧 伝 さ れ る が 、 そ の学 習 活 動 が 学 習 者 の生 活 の実 質 に結 び つか な
け れ ば 、 そ れ は 指 導 者 の自 己 満 足 、 典 型 的 な 学 校 知 の育 成 と いう 結 果 を 招 く こと に な る。 指 導 法 ・指 導 過 程 の案 出 に は 、 こ の点 への留 意 が 必 要 と な る 。
渋 谷 孝﹃ 説明 的文 章 の教材 本質 論﹄ 明治 図書 一九 八 四
注
︿ 対 話 ﹀ の成 立
五 論 説 ・評 論 の学 習指 導 ︱︿価 値 判 断 ﹀ と
は じ め に
論 説 ・評 論 ︵ 注 1︶ の授 業 に お け る ﹁教 材 の文 章 論 的 な 論 理 に従 った 没 主 体 的 な 読 解 学 習 ﹂、 ﹁形 式 的 徴 表 を 重
視 し た 技 能 操 作 的 学 習 ﹂ ︵注 2 ︶ が 、 こ れ ま で に 繰 り 返 し 批 判 さ れ てき た 。 そ れ は 同 時 に 、 こう し た 学 習 が 継 続
し て指 導 さ れ て き た 経 緯 を 物 語 って い る 。 も ち ろ ん 、 工 夫 のあ る 実 践 は 報 告 さ れ て いる 。 し か し 、 一般 的 に は、
教 師 や 学 習 者 が そ の あ り 方 に疑 問 を 感 じ な が ら も 、 あ る 一つ の教 材 を 対 象 に、 そ の内 容 の 読 解 あ る いは 表 現 の形
式 的 側 面 の 整 理 に重 点 を 置 く 授 業 が 多 い現 状 にあ る 。 論 説 ・評 論 の学 習 指 導 研 究 の課 題 は 、 依 然 と し て こ の よ う な 現 状 の打 開 に あ る と 言 え よう 。
本 稿 は 、 こ の 課 題 に 応 え る た め の 一考 察 で あ る。 こ こ で は 、 ︿価 値 判 断 ﹀ と ︿ 対 話﹀を キ ーワード にし て、望 ま し い論 説 ・評 論 の学 習 指 導 に つ い て検 討 し た い。
︵一︿ 価 ︶ 値 判 断 ﹀ が 伴 った 筆 者 と の ︿対 話 ﹀ 1 ︿ 事 実確認的 な読み﹀ に終始す る授業
教 材 の正 確 な 読 解 を 要 求 す る論 説 ・評 論 の 学 習 指 導 では 、 学 習 者 の読 み は テ ク ス ト の叙 述 を事 実 と し て確 認 す
る営 み と な る。 こ こ で は 仮 に 、 こ の よ う な 読 み を ︿ 事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ と 名 づ け る こ と にす る 。
多 く の論 説 ・評 論 教 材 は 、 学 習 者 にと って み れ ば 難 解 な 文 章 で あ る。 そ れ ゆえ 、 ど の よう な 学 習 指 導 を 実 践 す
る に し ても 、 ︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ を 行 わ ざ るを え な い場 合 が 多 い︵ 注 3︶。 さ ら に 言 え ば 、 読 解 力 を 向 上 さ せ る
た め に は 、 あ え て 難 解 な 文 章 に 立 ち 向 か わ せ る こと も 必 要 で あ ろ う 。 そ の意 味 で 、 ︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ の必 要
性 は 否 定 で き な い。 問 題 は 、 論 説 ・評 論 の授 業 に お い て ︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ が自 己 目 的 化 し 、 学 習活 動 が そ の
よう な 読 み の実 践 に終 始 し て しま う と こ ろ に あ る。 し た が って 、 端 的 に 言 う な ら ば 、 そ れを いか に避 け るか が授 業 改 善 のた め の 一つ のポ イ ン トと な る。
2 筆 者 と の ︿ 対話﹀ を志向す る授業
論 説 ・評 論 の学 習 指 導 と し て 、 筆 者 と の ︿対 話 ﹀ を 志 向 す る 指 導 が 考 え ら れ る 。 論 説 ・評 論 と は 、事 物 事 象 に
対 す る 筆 者 の考 え が 説 得 的 に 述 ベ ら れ て いる 文 章 で あ る。 そ のよ う な 文 章 の読 み で は 、 本 来 、 筆 者 と 読 者 の ︿対
話 ﹀ が 産 ま れ る ベき で あ る︵ 注 4︶。 こ こ で言 う 筆 者 と の ︿ 対 話 ﹀ と は 、 具 体 的 に は 、 述 ベら れ て いる事 物 事 象
に 対 す る筆 者 の 考 え と 、 そ れ に 対 す る 自 ら の考 え が 照 合 さ れ 、 共 感 を 覚 え な が ら 、 あ る いは 反 駁 を 加 え な が ら 、
納 得 でき る か 否 か を 判 断 し つ つ進 め ら れ る読 み のあ り よ う を 指 す 。 筆 者 と の ︿対 話 ﹀ を 志 向 す る学 習 指 導 と は 、 こ のよ う な 学 習 者 の読 み を 実 現 さ せ るた め の指 導 のこ と であ る 。
学 習 者 に筆 者 と の ︿対 話 ﹀ を 求 め る学 習 指 導 は 、 授 業 に お け る 読 み が ︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ に終 始 し て し ま う
問 題 の解 決 に 結 び つく と 考 え ら れ る 。 な ぜ な ら 、 そ こ で最 も 尊 重 さ れ る のは ︿ 事 実 確 認 的 な 読 み﹀ そ のも の で は
な いか ら で あ る 。 重 要 な の は 、 そ う し た 読 み に よ って得 ら れ る 成 果 が 、 学 習 者 に 対 し て何 を ど の よう に 働 き か け
る のか 、 そ し て、 そ の働 き か け に 彼 ら が いか に反 応 す る の か と いう 点 で あ る。 す な わ ち 、筆 者 の説 得 と いう 行 為
に応 じ る か 否 か が 鍵 であ り 、 論 説 ・評 論 と いう 価 値 判 断 の言 説 に対 す る 学 習 者 自 身 の価 値 判 断 が 焦 点 と な る の で ある。
3 読 み に お け る ︿価 値 判 断 ﹀
論 説 ・評論 の読 み で は 、 テ ク ス ト が 納 得 に 値 す る も のな の か 、読 者 に よ って そ の値 う ち が 評 価 さ れ る 。 つま り 、
論 説 .評 論 と は 、 あ ら か じ め価 値 が 内 包 さ れ て いる わ け で は な く 、 読 者 の値 ぶ み に よ って は じ め て そ の価 値 が 決
め ら れ る テ ク スト な の であ る。 そ う でな け れ ば 、 読 者 は 筆 者 の表 現 を 受 け 容 れ る だ け の存 在 であ り 、 筆 者 は 説 得
的 に テ ク ス ト を 記 す 必 要 も な い。 従 来 の学 習 指 導 で は 、 こう し た 価 値 判 断 と し て の論 説 ・評 論 の読 み が 十 分 に 視 野 に 入 れ ら れ てき た と は いえ な い の で はな いか 。
以 下 、 本 稿 で は 、 読 者 が テ ク ス ト の価 値 を 判 断 す る 営 みを ︿ 価 値 判 断 ﹀ と 略 記 す る 。 論 説 ・評 論 の 学 習 指 導 で
は 、学習者 の ︿ 価 値 判 断 ﹀ の顕 在 化 を ね ら い、 筆 者 と の ︿対 話 ﹀ に 臨 ま せ る よ う に し な け れ ば な ら な いと 考 え る ︵ 注 5︶。
そ の た め に は 、 教 材 の読 み に 入 る前 に 、 述 べ ら れ て いる 事 物 事 象 に 対 す る 学 習 者 の認 識 を 明 確 に し て お く こと
が 有 効 で あ ろう 。 例 え ば 、 ミ ロ の ヴ イ ー ナ ス像 の失 わ れ た 両 腕 に つ い て述 べ ら れ て いる 評 論 教 材 ﹁ミ ロ のヴ イ ー
ナ ス﹂ ( 清 岡 卓 行 ) を 扱 う の で あ れ ば 、 教 科 書 に 掲 載 さ れ て い る ミ ロ の ヴ イ ー ナ ス像 の写 真 等 を 活 用 し て 、 両 腕
のな い像 に つ い て ど のよ う に感 じ る かを あ ら か じ め 問 い、 認 識 を 掘 り 起 こさ せ た り 、 新 た に形 作 ら せ た り す る こ
と が でき る だ ろう 。 あ る い は 、 単 元 学 習 を 展 開 す る 中 で、 学 習 者 が 問 題 を 感 じ て い る事 物 事 象 を 取 り 上 げ て い る
教 材 を 用 意 す れ ば 、 読 み に 向 かう 以 前 に彼 ら の認 識 は 相 当 に 深 ま って いる こと が 期 待 でき る 。 いず れ にせ よ 、 述
べら れ て いる 事 物 事 象 に対 す る 相 応 の 考 え を も って いな け れ ば 、 読 み と った 情 報 を 誤 り のな い事 実 と し て 判 断 せ
ざ るを え な い。 そ のよ う な 読 み は、 ︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ と 質 的 に異 な ら な い の で あ る 。
さ ら に 、 教 材 を 読 み 進 め る 過 程 で は 、 学 習 者 に 自 ら の ︿価 値 判 断 ﹀ のあ り よ う を 相 対 化 さ せ 、 自 覚 的 に と ら え
直 さ せ る 必 要 が あ る 。 ︿事 実 確 認 的 な 読 み﹀ に重 点 を 置 く 学 習 指 導 で は 、 一人 ひ と り の ︿ 価 値判断 ﹀ は、読解指
導 を 終 え た 後 に設 定 さ れ る 表 現 活 動 で は じ め て 問 わ れ る こと が多 いよ う で あ る。 例 え ば 、 筆 者 に 対 す る 意 見 を 書
き 記 す 学 習活 動 等 が こ れ に 当 た る 。 そ れ で は 、 ︿ 価 値 判 断 ﹀ の伴 う 筆 者 と の ︿対 話 ﹀ は 、 学 習 活 動 の中 核 に位 置
づ か な い。 テ ク スト に相 対 す る自 ら の ︿ 価 値 判 断 ﹀ を 意 識 し 、筆 者 と ︿対 話 ﹀ し な が ら 教 材 を 読 み進 め ら れ る 学 習 活 動 が 展 開 さ れ な け れ ば な ら な い の であ る 。
4 ︿ 価 値判断﹀ の実際
こ こ で、 議 論 を 具 体 的 に進 め る た め に 、 実 際 の学 習 者 に よ る ︿価 値 判 断 ﹀ の 一例 を 示 す こ と にす る 。
稿 者 の手 元 に 、 学 習 者 の ︿ 価 値 判 断 ﹀ のあ り よう を う か が う こと ので き る資 料 が あ る 。 こ の資 料 は 、 高 等 学 校
一年 生 八 ○名 が 評 論 教 材 ﹁ミ ロ のヴィ ー ナ ス﹂ の初 読 時 に 、 ﹁こ の文 章 は 面 白 いか 、面 白 く な いか ﹂ を 考 え 、自 分
な り の評 価 を 記 し た 文 章 であ る ︵ 注 6︶。 記 述 に 当 た って は 、 叙 述 に 即 し た 評 価 の根 拠 を 記 す よ う 求 め ら れ る と
と も に、 評価 の観 点 と し て ﹁書 か れ て いる 内 容 に つ い て﹂、 ﹁表 現 の し か た 、 文 体 に つ い て﹂ が 例 示 さ れ て いる 。
﹁ミ ロ のヴ ィ ー ナ ス﹂ で は 、 "二 本 の美 し い腕 が失 わ れ る こ と に よ って、 そ れ が 表 現 に お け る有 か ら 無 へと 質 的
に 変 化 し 、 存 在 す ベ き 無 数 の美 し い腕 が 暗 示 さ れ 、 ミ ロ の ヴ ィ ー ナ ス は 全 体 性 や普 遍 性 を 得 て いる " こ と か ら 、
"ミ ロ の ヴ ィー ナ スが 魅 惑 的 で あ る た め には 、 両 腕 を 失 って いな け れ ば な ら な か った " と いう 筆 者 の 主 張 が 記 さ
れ て いる 。 こ の テ ク スト は 、 ﹁ミ ロ のヴ ィ ー ナ スを 眺 め な が ら ﹂ 得 ら れ た ﹁実 感 ﹂ に よ って書 か れ て い る 。 す な
わ ち 、 筆 者 の 主 張 と そ の根 拠 は 彼 の思 索 に 基 づ い てお り 、 ﹁ミ ロ のヴ ィ ー ナ ス﹂ は 一種 の印 象 批 評 で あ る。 そ れ
ゆ え 、 客 観 性 の高 い デ ー タ が 根 拠 と さ れ る 論 説 ・評 論 を 読 む 場 合 と 比 べ て、 読 者 は 反 発 や 疑 問 を 感 じ やす く 、 柔 軟な評価 が期待 できる。
さ て 、 こ の資 料 のう ち 、 個 々 の ︿ 価 値 判 断 ﹀ を 比 較 的 と ら え や す い記 述 を 選 び 、 以 下 に 引 用 す る 。 いず れ も 、 同 じ ク ラ スに 所 属 す る 学 習 者 が 記 し た 文 章 であ る 。
① 自 分 に と って面 白 い。 ど こ が ← た か が 手 に つ いて 、 こ んな に考 え が 広 が って いる か ら 。
ミ ロ の ヴ ィ ー ナ ス の失 わ れ た手 に つ いて 、 よ く 偶 然 か ら 生 ま れ た 芸 術 品 みた いな 書 き 方 を し て いる 本 が 多 い
け れ ど 、 な ぜ 偶 然 で な く て は いけ な い の か 。 も し か し た ら 、 作 者 も 、 今 、 私 た ち が 考 え て いる 様 に 、 人 間 が 、
他 の動 物 と 比 べ て、 発 達 し 、 芸 術 や 文 化 を 造 ってき た 手 と いう も の に対 し て、 自 分 の作 品 を 見 てく れ る 人 に想
像 し てく れ る こ と を 期 待 し て、 自 ら 切 り 落 と し た と し た ら ⋮ ⋮ と 、 私 は考 え て しま った 。
こ の文 に書 い てあ る通 り 、 手 が失 わ れ て いる か ら こ そ 、 こ の作 品 は 、 人 々 の目 を ひ く の で あ って、 いく ら 美
し く て完 成 さ れ た も の で あ っても 、手 が あ れ ば 、 私 た ち の心 の ど こか に飽 き を 生 む の では な いか と 思 った 。
た だ 、 手 と いう も の に対 し て、 こ ん な に考 え る 人 が いた のだ と 感 心 し た け れ ど 、 も っと わ か り やす く 、 素 直 な か き か た を す れ ば 、 も っと 多 く の人 に読 ん で も ら え た の にな あと も 思 った 。
② 私 は今 ま で ミ ロ のヴ ィ ー ナ ス の両 手 が な い の は 、 最 初 か ら つく ら れ てな いも のだ と 思 って いた の で、 そ う い
う の が 分 か って面 白 か った です 。 確 か に ミ ロ の ヴ ィ ー ナ ス の 両 腕 の復 元 は 私 も 見 た く な いな あ と 思 いま し た 。
ミ ロ のヴ ィ ー ナ スが 有 名 な のも 、 腕 が な いこ と で 、 いろ ん な 魅 力 が 出 て いる か ら じ ゃな い の かと 思 いま し た 。
③ 面 白 い のと 面 白 く な い のが 半 々
前 半 は 、 筆 者 が ミ ロの ヴ ィ ー ナ スを 見 た 時 の初 期 衝 動 が 、 感 じ た ま ま 書 か れ て いて 、 面 白 か った 。 " 美し い
腕 が ∼ 無 数 の美 し い腕 への暗 示 "、 "表 現 に お け る ∼質 の変 化 で あ る か ら だ "、 "お び た だ し い夢 を ∼ な ん ら か の
有 で あ る "等 、 本 当 に 共 感 でき る 部 分 があ った 。 先 に 書 いた様 に感 じ た ま ま を 書 い てあ る と こ ろ が気 に 入 った し 、 良 か った と 思 う 。
でも 、 最 後 の " 失 わ れ た も のが 腕 で な け れ ば ⋮ ⋮" と いう のが 気 に いら な か った 。 確 か に 失 わ れ た も の が 腕
だ った か ら こそ 感 じ た 部 分 は あ った だ ろ う し 、 筆 者 が 目 や鼻 でな く 、 腕 に こだ わ った の も 別 に い いと 思 う 。 い
け な か った のは 、何 故 腕 で な く て は いけ な か った か の理 由 に いち いち 説 明 を つけ て いる と こ ろ 、自 分 が 感 じ た
こと 、 自 分 の初 期 衝 動 な ん か は 言 葉 に 置 き か え ら れ る よ う な も のじ ゃな いと 思 う 。 筆 者 は "腕 は 人 間 存 在 の
⋮ ⋮" な ん て言 って い る け ど 、 も し 、 無 か った のが 、 腕 で は な く 、 目 であ った と し て も 、 "目 は 人 間 の ⋮ ⋮"
と か な ん と か言 ってた ん じ ゃな いか な と 思 った 。 論 じ な け れ ば 伝 え ら れ な いと いう のな ら 、 伝 え な く ても い い と 思 う 。 感 じ た こと を 論 じ よ う と し た と こ ろ が 面 白 く な か った 。
こ れ ら の記 述 か ら は 、学 習 者 の ︿価 値 判 断 ﹀ の差 異 を 典 型 的 に と ら え る こ と が でき る 。 続 いて 、 そ れ ぞ れ の記
述 に つ いて 若 干 の分 析 ・考 察 を 加 え て み た い。
① で は 、 最 後 に テ ク スト の叙 述 方 法 ︵﹁かき か た ﹂︶ への言 及 が 見 ら れ る が 、 記 述 の中 心 を な し て いる の は 、 叙
述 内 容 に 関 す る 評 価 で あ る 。 ① を 記 し た 学 習 者 は 、 既 読 の ﹁偶 然 から 生 ま れ た 芸 術 品 み た いな 書 き 方 を し て いる
本 ﹂ を 想 起 し 、 そ れ と 現 前 の テ ク ス ト ﹁ミ ロ の ヴ イ ー ナ ス ﹂ を 関 わ ら せ 、 連 続 性 を 見 出 し て い る (注 7)。 そ の
上 で、 ﹁な ぜ 偶 然 で な く て は いけ な い の か 。 も し か し た ら 、 作 者 も 、 今 、 私 た ち が 考 え て いる 様 に 、 人 間 が 、 他
の 動 物 と 比 べ て 、 発 達 し 、 芸 術 や文 化 を 造 ってき た 手 と いう も の に対 し て 、 自 分 の作 品 を 見 て く れ る 人 に 想 像 し
てく れ る こと を 期 待 し て 、 自 ら 切 り 落 と し た と し た ら ⋮ ⋮ と 、 私 は 考 え て し ま った﹂ と いう 自 ら の見 解 が 表 明 さ
れ て い る。 ジ ャ ン=マ リー ・グ ー ル モ は 、 ﹁読 む こ と と は 、 生 き ら れ た 図 書 館 、 す な わ ち そ れ 以 前 に 読 ま れ た す
ベ て の書 物 と 文 化 的 な 所 与 の記 憶 を 出 現 さ せ る こと 、 と いう ふ う に 定 義 さ れ る だ ろ う ﹂ ( 注 8) と 述 べ る 。 読 み
は 、読 者 が 内 的 に 有 す る様 々な テ ク スト ︵ 文 字 に よ って 記 さ れ た テク ス ト 以 外 を 含 む ) と の関 わ り の中 で 問 テ ク
スト 的 に 産 出 さ れ る 。 ① は 、 読 み の 間 テ ク ス ト 性 を 明 確 に と ら え ら れ る記 述 で あ る。
② も ま た 、 叙 述 の内 容 に つ い て の 評価 が 記 さ れ て いる 記 述 であ る 。 し か し 、 ② を 記 し た 学 習 者 は 、 筆 者 のミ ロ
のヴ イ ー ナ ス観 を 新 た な 知 識 と し て無 批 判 に受 容 し て いる 。 一方 、先 に示 し た① では 、他 の テ ク スト と 関連 づ け
な が ら 反 駁 が 加 え ら れ て いる 。 同 じ ク ラ ス の学 習 者 であ り な が ら 、 両 者 の記 述 か ら は 、 テ ク ス ト に 対 す る ︿価 値 判 断 ﹀ の違 いを 看 取 す る こと が でき る 。
最 後 に 掲 げ た③ で は 、 ① ・② と 違 って、 述 ベ方 に 焦 点 化 し た 評 価 が記 さ れ て い る 。 ﹁ミ ロ の ヴ イ ー ナ ス﹂ の 前
半 では 、 ミ ロ の ヴ イ ー ナ ス像 か ら 感 じ た 印 象 が 擬 人 法 等 の修 辞 を 駆 使 し て述 べ ら れ て おり 、 後 半 で は 、 そ の根 拠
が 説 明 さ れ ると と も に 、 話 題 が ミ ロ のヴ イ ー ナ ス像 の ﹁失 わ れ た 両 腕 ﹂ か ら ﹁ 手 ﹂ の役 割 へと 展 開 さ れ て い る。
後 半 で は 、﹁哲学 者 ﹂ や﹁ 文 学 者 ﹂ に よ る﹁ 手 ﹂ の役 割 に関 す る 発 言 の 引 用 も見 ら れ る。 前 半 に比 ベ て、 後 半 の
方 が よ り 説 得 的 な 叙 述 に な って いる の で あ る。 ③ を 記 し た 学 習 者 は 、 前 半 の叙 述 を ﹁感 じ た ま ま を 書 い てあ る ﹂
と 解 釈 し 、 後 半 の叙 述 に 対 し て は ﹁感 じ た こ と を 論 じ よ う と し た と こ ろ が 面 白 く な か った ﹂ と 評 価 し て い る。 こ
の 記 述 か ら は 、 テ ク ス ト の前 半 と 後 半 に お け る 述 べ方 のあ り よう の違 い へ の着 目 を 見 る こと が でき る。 ③ の学 習
者 も ま た 、 ① ・② を 記 し た 学 習 者 と 同 じ ク ラ ス に在 籍 し て いる 。① に は ﹁も っと わ か り やす く 、 素 直 な か き か た
を す れ ば 、 も っと 多 く の人 に読 ん でも ら え た の にな あ と も 思 った﹂ と あ る 。 叙 述 の方 法 に関 す る 記 述 であ る が 、
③ に 比 べ て 具体 性 に乏 し い。 ま た 、② に は叙 述 方 法 への言 及 は な い。 述 ベ 方 への着 目 は 、 一例 と し て あ ら か じ め
提 示 さ れ た 観 点 であ る 。 し か し な が ら 、 ① ・② と 比 較 す るな ら ば 、 ③ で は 、 叙 述 方 法 に焦 点 を 当 て て 、 そ れ に こ だ わ った ︿ 価 値 判 断 ﹀ が 行 わ れ て い ると いえ る 。
5 ︿価 値 判 断 ﹀ の 多 様 性
4 に示 し た 学 習 者 の記 述 は、 いず れ も ︿価 値 判 断 ﹀ の 一例 で あ る。 そ れ ぞ れ の ︿価 値 判 断 ﹀ が と ら え ら れ る と と も に 、 そ の違 い が明 確 に な る 対 照 的 な 記 述 を 意 図 的 に 取 り 上 げ た 。
" 面 白 さ " が漠 然 と した 評 価 の基 準 であ り 、 か つ初 読 の段 階 で の 記 述 であ る こと か ら 、 ︿ 価 値 判 断 ﹀ の根 拠 は 学
︵ 出 会 え な か った ︶ こと 、 述 べ ら れ て いる 意 味 内 容 を 理 解 で
習 者 に よ って 異 な る。 引 用 し た 記 述 以 外 も 含 め て 、 彼 ら が面 白 い ︵ 面 白 く な い︶ と 評 価 す る 根 拠 を 類 型 的 にと ら え る な ら ば 、 新 鮮 な 筆 者 の考 え や 述 べ方 と 出 会 った
き た ︵理解 で き な か った︶ こと 、 話 題 に 興 味 を 持 て た ︵ 持 て な か った ︶ こと が挙 げ ら れ る 。 さ ら に 、 テ ク ス ト の
ど のよ う な 側 面 に着 目 す る の か と いう 着 眼 点 に つ い ても 、 叙 述 の内 容 に 焦 点 を 当 てた も の、 述 べ方 に 目 を 向 け た
も の、 あ る いは 両 者 に 目 配 り し た も のが あ って、 一様 では な い。
本 稿 で学 習 者 の記 述 を事 例 と し て示 し た のは 、 彼 ら の ︿ 価 値 判 断 ﹀ の 実 態 や そ の根 拠 の内 実 を 詳 細 に 把 握 す る
た め では な い。 既 成 の 教 材 を 取 り 上 げ て、 初 読 時 に テク ス ト の叙 述 内 容 や 叙 述 方 法 の " 面 白 さ " に つ い て漠 然 と
問 い か け た だ け で も 、 様 々 な 反 応 が 見 ら れ る こと を 具 体 的 に 示 す た め で あ る 。 先 に 述 べ た よ う に 、 ﹁ミ ロ の
ヴ イ ー ナ ス﹂ は印 象 批 評 であ る 。 少 な く と も こう し た テ ク スト の 読 み に お いて は 、 学 習 者 の多 様 な ︿価 値 判 断 ﹀ が 産 ま れ る こ と を 、 彼 ら の記 述 は 示 唆 し て いる の で あ る 。
︵二︿ 価 ︶値判断﹀ が交流す る学習者 間の く 対話﹀ 1 ︿ 価 値 判 断 ﹀ の 差 異 に基 づ く 学 習 者 間 の く 対 話﹀
教 室 で論 説 ・評 論 を 読 む こと は 、 個 々人 の読 書 と 同 じ で は な い。 共 通 の テ ク ス ト を 級 友 と と も に読 む と いう こ
と は 、 社 会 的 な 行 為 だ か ら であ る 。 こ う し た 社 会 的 な 営 み を 実 践 さ せ る意 義 の 一つと し て、 学 習 者 間 の ︿対 話 ﹀
に よ る 読 み の 相 互 影 響 が 挙 げ ら れ る 。 論 説 ・評 論 の読 み に筆 者 と の ︿ 対 話 ﹀ が 求 め ら れ る よ う に、 そ こ で は学 習 者 の 間 で の ︿対 話 ﹀ も 求 め ら れ て いる と いえ よ う 。
一 の 5 で述 べ た よ う に 、 彼 ら は多 様 な ︿ 価 値 判 断 ﹀ を 行 って いる 。 だ か ら こそ 、 相 互 に 異 な る ︿ 価 値判断﹀ が
交 わ る ︿対 話 ﹀ に よ って 、 個 々 の変 容 を 望 む こ と が で き る。 例え ば 、一 の 4 で記 述 を 引 用 し た ② の学 習 者 は、 ①
の ︿ 価 値 判 断 ﹀ と 接 す る こ と に よ って 、 そ こ で 想 起 さ れ て いる他 の テ ク スト を 共 有 す る こ と が でき よう 。 そ の 結
果 と し て 、 筆 者 の考 え を 無 批 判 に受 容 す る読 み も 変 化 す る と 考 え ら れ る 。 ま た 、 ① ・② の学 習 者 は 、 ③ の ︿ 価値
判 断 ﹀ か ら 、 述 べ ら れ て いる 内 容 だ け で は な く 述 べ方 に も 着 目 す る 読 みを 実 践 す る き っか け が 得 ら れ る だ ろ う 。
いず れ も 仮 説 の域 にと ど ま る も の で あ り 、 理 想 的 な 姿 を 粗 描 し た に過 ぎ な いが 、 こう し た 差 異 あ る ︿ 価 値判断 ﹀ が 交 流 す る ︿対 話 ﹀ が 、 論 説 ・評 論 の学 習 指 導 に は 期 待 さ れ て い る ので あ る 。
2 ︿価 値 判 断 ﹀ の 更 新 の 実 際
学 習 者 間 で の読 み の交 流 を 取 り 入 れ た実 践 と し て 、 高 野光 男 によ る ﹁近 い旅 遠 い旅 ﹂ ︵ 辻 邦 生 ︶ の学 習指 導
がある ︵ 注 9︶。 本 稿 で は 、 こ の実 践 報 告 に掲 載 さ れ た 学 習 者 の記 述 を 事 例 と し て取 り 上 げ 、 ︿ 価 値 判 断 ﹀ の交 流 に よ る変 容 の 一端 を 指 摘 し た い。
︵ 内 容 ・文 章 ︶ ・疑 問 を カ ー ド に ま と め る 。
高 野 は 、 東 京 都 立 工 業 高 等 専 門 学 校 第 二 学 年 を 対 象 に 、 全 一〇 時 間 の学 習 指 導 を 行 って いる 。 各 時 の 概 要 は 、 次 のよ う に報 告 さ れ て い る。
第 一時 本 文 通 読 ・初 発 の 感 想
第 二 時 初 発 の感 想 な ど の紹 介 ・第 一段 落 の学 習 第 三 時 第 二 ・三 段 落 の学 習 第 四 時 第 四 段 落 の学 習 ・全 文 の 要 旨 を ま と め る。 第 五 時 要 旨 の添 削 ・補 足 第 六 ・七 時 感 想 文 を 書 く 。
﹁私 の日 常 ﹂ と いう 題 で 作 文 を 書 く 。
第 八 時 感 想 文 の読 み あ い。 感 想 文 に対 す る 批 評 文 を 書 く 。 第 九時
第 十 時 作 文 の紹 介 ・ま と め
本 実 践 では 、第 一時 に お け る 各 自 の ﹁初 発 の 感 想 ﹂、 ﹁疑 問 ﹂ が 公 開 さ れ た 後 、 そ れ ら は 読 解 指 導 に も 取 り 入 れ
ら れ て 、 教 材 に 反 発 を 示 す 感 想 を 軸 に 授 業 が展 開 さ れ て いる 。 そ し て、 読 解 指導 後 に 記 述 さ れ た ﹁感 想 文 ﹂ のう
ち 、 一〇 編 が 選 ば れ て全 て の学 習 者 に 紹 介 さ れ て い る。 こ こ で着 目 す る の は 、 紹 介 さ れ た 学 習 者 M ・D の ﹁感 想
文 ﹂ と 、 そ れ を 受 け て記 さ れ た H ・S の ﹁批 評 文 ﹂ であ る 。 ま ず 、 M ・D の ﹁感 想 文 ﹂ を 以 下 に 引 用 す る 。
⋮ ⋮ こう し て旅 と 日 常 を 考 え て い て 、今 は 子 供 だ った 頃 よ り ︿日 常 ﹀ を 脱 す る 機 会 が 少 な く な って い ると
思 いま す 。 時 と し て 、 ﹁天才 は いく つに な っても 子 供 心 を も って いる 。﹂ と い いま す が 、 こ れ は そ う い った 先
人 達 は 常 に ︿日常 ﹀ に し ば ら れず に いた 、 と 言 え る と 思 いま す 。 現 に 私 でも 子 供 の頃 は 全 て が 新 し い発 見 の
日 々 で あ り 、 そ の旅 に ︿日 常 ﹀ を 破 っ てき た と いう こ と で 、 そ れ が いま で は 昔 のよ う な 発 見 は な く 、 同 じ
日 々を 送 る毎 日。 お そ ら く こ れ が ︿日常 ﹀ にし ば ら れ て いる 状 態 な ので し ょう 。 も し 日常 の壁 が 年 と と も に
厚 く な って いく と す れ ば 、 ︿日 常 ﹀ を 破 る方 法 は 年 と と も に少 なく な って いき 、 そ れ が 筆 者 く ら い にな る と 、 い つも 世 界 を 一人 き り で旅 を す る し か な く な る のだ と 思 いま す 。 (中 略 )
子 供 の 頃 は 発 見 の毎 日 だ った のが 、 大 人 にな る に つれ て 発 見 が な く な って いく 。 これ は 大 人 に な る に つれ
て様 々 な こと を 知 り 、 ち ょ っと し た こと に 何 の感 慨 も 覚 え な く な る か ら だ と 思 いま す 。 大 人 に な った と き 、
旅 のと き だ け 日常 を 越 え て魂 を 昂 揚 さ せ る の で は な く て、 日 常 か ら 進 ん で様 々 な 発 見 が で き るよ う に 努 力 し
て いく こ と 、 例 え ば 、 帰 り 道 を 変 え て 、 ﹁こ ん な と こ ろ に こ ん な建 物 が あ った のか 。﹂ と いう よ う な さ さ いな
稿者 ︶
発 見 で も 、 そ れ を 知 る こ と に よ って 少 し でも ︿日 常 ﹀ の壁 を 越 え た こと に な り 、 そう い った 簡 単 な こ と でも 新 し い毎 日が 経 験 でき る と 思 いま す 。 ︵ 後 略︱
M ・D は 、 ︿日 常 ﹀ に 関 す る テ ク スト の叙 述 内 容 を 媒 介 と し て 、自 己 の現 在 の ︿日 常 ﹀︵﹁同 じ 日 々を 送 る毎 日 ﹂︶
ヘ、 そ し て か つ て の自 ら の ︿日常 ﹀ ︵﹁子供 の頃 ﹂ の ﹁全 て が新 し い発 見 の日 々﹂︶ ヘと ま な ざ し を 向 け 、 ﹁︿日常 ﹀
の壁 ﹂を 越 え る た め の ﹁発 見 ﹂ の重 要 性 を 記 し て いる 。 こ の ﹁感 想 文 ﹂ に 対 し て、 H ・S は 次 のよ う な ﹁批 評 文 ﹂ を 記 し て いる 。
前 回 の感 想 文 で 、 こ の評 論 は 自 分 に と って何 の 価 値 も な か った と 書 いた が 、 Dさ ん の 感 想 文 を 読 ん で、 そ う でも な か った の か な あ と 思 った 。
現 在 の自 分 の 生 活 を 考 え て み る と 、毎 日 が 同 じ こ と の繰 り 返 し で 、 何 の 発 見 も な い日 日 であ る 。 こ れ が
︿日 常 ﹀ な ん だ な あ と あ ら た め て 感 じ た 。 ⋮ ⋮ 筆 者 に と って 魂 の昂 揚 を 経 験 す る こ と は 、 旅 や 西 欧 社 会 で
あ って、 自 分 に と って は 何 か 他 の こと があ る のだ な あ と 思 った 。 そ う 考 え ると 、 こ の評 論 文 は 共 感 で き ると こ ろ が 結 構 あ る と 思 った 。
本 実 践 報 告 に、 第 二∼ 五 時 に お け る 読 解 指 導 の詳 細 は 示 さ れ て いな い ︵ 教 材 の段 落 ご と お よ び 全 体 を 通 し て の
﹁学 習 指 導 の ポ イ ント ﹂ は 記 さ れ て い る︶。 ま た 、 H ・S の ﹁初 発 の感 想 ﹂ や読 解 指 導 後 の ﹁感 想 文 ﹂ も 見 ら れ な
い。 そ れ ゆ え 、 H ・S の読 み と 読 解 指 導 と の関 連 、 あ る いは M ・D の ﹁感 想 文 ﹂ によ る H ・S の変 容 の過 程 を 描
き 出 す こと は 困 難 で あ る 。 し か し な が ら 、 H ・S の ﹁批 評 文 ﹂ か ら は 、 少 な く と も 彼 が 、 M ・D の ﹁感 想 文 ﹂ を
も と に 、 自 ら の ︿日常 ﹀ ( ﹁毎 日 が 同 じ こと の繰 り 返 し で 、 何 の 発 見 も な い 日 日 ﹂) へと ま な ざ し を 向 け て いる こ
と が わ か る 。 そ し て そ の結 果と し て、 ﹁こ の評 論 は 自 分 に と って何 の価 値 も な か った﹂ と いう 感 想 が 、 ﹁こ の 評 論
文 は 共 感 でき る と こ ろ が 結 構 あ ると 思 った ﹂ へと 変 わ って い る 。 H ・S は 、 M ・D の言 葉 か ら 、 自 己 の ︿日 常 ﹀
を 想 起 す る と と も に 、 テ ク ス ト に 対 す る ︿価 値 判 断 ﹀ を 改 め て いる 。 級 友 の記 し た ﹁感 想 文 ﹂ を 読 む こと に よ っ
て、 自 ら の ︿価 値 判 断 ﹀ を 相 対 的 に眺 め 、 そ れ を 更 新 し て いる の であ る 。 個 々 の読 み で は 生 じ な か った ︿ 価値 判
断 ﹀ が 、 他 の読 み を 手 が か り に し て産 ま れ る。 複 数 の読 み が 併 存 す る 教 室 で こ そ 起 こ りう る 出 来 事 であ る と 言 え よう。
3 学 習 者 間 に お け る ︿対 話 ﹀ の意 義
高 野 は 、 ﹁感 想 文 ﹂ に 対 す る ﹁批 評 文 ﹂ を 書 か せ た 理 由 と し て、 ﹁感 想 を 交 流 さ せ る こ と で、 さ ら に 理 解 を 深 め
さ せ る た め であ る ﹂ と 記 し て い る。 そ し て、 そ の場 で産 ま れ た ﹁批 評 文 ﹂ に 対 し て は ﹁こ の よう な 感 想 文 の読 み
あ いに よ る ダ イ ナ ミ ック な 相 互 批 評 は 、 いわ ゆ る 読 解 中 心 の授 業 形 態 か ら は 生 ま れ て こ な い の で は な いか ﹂ と 評
価 し て い る 。 学 習 者 の感 想 を 授 業 に 活 か そ う と す る考 え の基 底 に は 、 ﹁学 習 者 は 私 た ち 教 師 が 思 う 以 上 に 、 他 の
人 の感 想 を 読 み た が って いる ﹂ と いう 学 習 者 観 が あ り 、 級 友 の感 想 に 対 す る 彼 ら の 興 味 を 活 かす こと が ﹁授 業 の
活 性 化 ﹂ に結 び つく と いう 仮 説 が あ った 。 そ れ ゆ え 、 ﹁初 発 の感 想 ﹂ を 読 解 指 導 に 取 り 入 れ た り 、 ﹁批 評 文 ﹂ を 書
か せ た り し て い る の であ る 。 高 野 は 、 ﹁特 に 私 の勤 務 校 のよ う に 工 業 系 の学 校 で は 、 国 語 の 授 業 そ のも の に 学 習 者 の 関 心 が 薄 く 、 授 業 の活 性 化 は 私自 身 の大 き な 課 題 で あ った ﹂ と 述 べ て いる 。
こ こ で取 り 上 げ た 学 習 指 導 に限 ら ず 、 読 解 指 導 を 乗 り 越 え よ う と し て指 導 上 の 工 夫 が試 み ら れ て いる 実 践 は 、
授 業 と いう 現 象 の 活 性 化 が 目 指 さ れ て いる 場 合 が多 い。 し か し 、 学 習 者 間 で の ︿対 話 ﹀ を 促 す こ と は 、 授 業 の活
性 化 に資 す る だ け で は な い。 H ・S の ﹁批 評 文 ﹂ に 見 ら れ る よ う に 、 差 異 あ る ︿価 値 判 断 ﹀ と 出 会 い、 各 自 のそ
れ が 問 い直 さ れ 変 容 し て いく 内 的 な プ ロセ ス に こ そ 、 そ の意 義 が 認 め ら れ る べ き な の であ る 。
︵三︿ 価 ︶ 値 判 断 ﹀ と ︿対 話 ﹀ を 重 視 す る 論 説 ・評 論 の学 習 指 導 1 ︿ 事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ と ︿対 話 ﹀ が 併 行 す る 指 導 過 程
︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ に終 始 す る 論 説 ・評 論 の 授 業 で は 、 教 材 は 筆 者 の モ ノ ロ ー グ と し て 学 習 者 に 受 容 さ れ る
こと に な る。 そ の 一方 で 、 彼 ら の内 面 では 、 筆 者 の モ ノ ロー グ だ け が 響 いて い るわ け で は な い。
テ ク ス ト を 読 む と いう 行 為 は 、 自 ら を 全 く 無 化 し て 実 践 す る こ と が でき な い。︵一の︶4 に 引 用 し た ジ ャ ン= マ
リ ー .グ ー ル モ に よ る 読 み の間 テ ク ス ト性 の指 摘 も 、 こ の こ と を 支 持 す る 。 す な わ ち 、 学 習 者 の内 面 で は 、 ︿価
値 判断﹀ を伴う何 らか の ︿ 対 話 ﹀ が 行 わ れ て いる と 考 え ら れ る︵ こ こ ま で に 引 用 し た 学 習 者 の記 述 に も 、 筆 者 と
の ︿ 対 話 ﹀ の痕 跡 が 見 ら れ よ う︶。 も ち ろ ん 彼 ら に よ る ︿ 対 話 ﹀ の中 に は 、 漠 然 と し た印 象 を 得 る に 過 ぎ な いも
のや 、 テ ク ス ト の断 片 的 な 理 解 に 基 づ く も の、 自 覚 的 に行 わ れ て い ると は 言 え な いも のも 含 ま れ て い る だ ろう 。
だ か ら こそ 、 学 習 者 自 身 も 意 識 し て いな いよ う な 内 面 の営 み を 授 業 空 間 に 表 出 さ せ 、 テ ク スト の理 解 を ふま え た
自 覚 的 な ︿対 話 ﹀ へと 導 い て いく 学 習 指 導 が 望 ま れ る 。 換 言 す る な ら ば 、 一人 ひ と り の内 的 な 読 み︵=︿対 話 ﹀、
あ る いは ︿ 対 話 ﹀ 的 な 営 み︶ と 、教 室 の読 み ︵=︿事 実 確 認 的 な 読 み﹀︶と のず れ を 解 消 し 、 両 者 を 統 合 す る学 習 指導 が必要な のである。
︿価 値 判 断 ﹀ を 通 し て 、 筆 者 と 相 対 し ︿対 話 ﹀ す る 読 み の主 体 が 顕 在 化 す る 。 さ ら に 、 他 の学 習 者 と
︿ 対 話﹀
︵ 筆 者 や 他 の学 習 者 ︶ と の ︿対 話 ﹀ が ︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ と 併 行 す る 指 導 過 程 が 望 ま れ る 。 教 師
交 わ す 学 び の主 体 も 形 成 さ れ る。 そ れ ゆ え 、 論 説 ・評 論 の授 業 では 、 学 習 者 の ︿ 価 値 判 断 ﹀ を 中 核 に 据 え て、 差 異 あ る他 者
主 導 に よ る ︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ を 終 え た 後 に 、 一人 ひ と り の ︿価 値 判 断 ﹀ を 表 明 さ せ た の では 、権 威 的 な モ ノ
ロー グ に よ って相 当 に 抑 圧 さ れ た ︿価 値 判 断 ﹀ が表 出 さ れ る こ と にな ってし ま う であ ろう 。 そ こ で は 、 依 然 と し
て学 習 者 の内 面 の ︿対 話 ﹀ ︵︿ 対 話 ﹀ 的 な行 為 ︶ は ︿事 実 確 認 的 な 読 み﹀ と 乖 離 し てお り 、 問 題 は 解 決 さ れ な いま まな のである。
2 ︿対 話 ﹀ を 通 し た 認 識 力 ・表 現 力 の向 上
国 語 科 の授 業 に お い て論 説 ・評 論 を 扱 う 目 的 は 、 教 材 の 読 み を 通 し て 、 文 章 を 正 確 に 読 解 す る能 力 を 伸 ば す と
と も に 、事 物 事 象 に 対 す る 認 識 力 を 高 め る こと 、 さ ら に は 他 者 の説 得 に 資 す る 表 現 力 を 向 上 さ せ る こと に あ る 。
こ れ ら の目 的 を 達 成 す る た め に は、 取 り 上 げ ら れ て いる事 物 事 象 を は じ め と し て、 筆 者 の立 場 と そ こ で 見 出 さ
れ た 問 題 、 そ し て 論 の展 開 と そ れ か ら導 か れ る主 張 を 正 確 に 読 解 す る ︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ を 無 視 す る こ と は で
き な い。︵三の︶1 で言 及 し た ︿価 値 判 断 ﹀ と ︿対 話 ﹀ を 重 視 す る論 説 ・評 論 の学 習 指 導 は 、 ︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀
と し て筆 者 に焦 点 を 当 て た 読 解 を 進 め る と と も に 、 学 習 者 の ︿ 価 値 判 断 ﹀ の具 体 化 、 顕 在 化 を 促 し 、 他 者 と の
︿ 対 話﹀ を求め るも のであ る。差異あ る他者 と の ︿ 対 話 ﹀ に お いて 、 各 自 が 既 有 す る 認 識 内 容 や 認 識 方 法 、表 現
方 法 は 問 い直 さ れ る こと に な る 。 そ の 結 果 と し て 、 認 識 力 や 表 現 力 の向 上 が 期 待 でき る の であ る 。 こ のプ ロセ ス は 、 テ ク スト の叙 述 を 確 認 す る だ け の ︿事 実 確 認 的 な 読 み ﹀ で は得 ら れ な い。
論 説 ・評 論 は 、 事 物 事 象 に対 し て何 ら か の見 解 を 持 つ読 者 に 対 し て、 筆 者 が 説 得 的 に 自 ら の考 え を 主 張 す る 文
章 で あ る 。 こ の よ う な 文 章 の特 性 に即 し て、 ︿ 対 話﹀を 実践 させな がら、ま た、学 習集団 とし て教材を読 ま せる
こと を 念 頭 に置 い て多 層 的 な ︿ 対 話 ﹀ を 求 め な が ら 、 学 習 者 の読 解 力 、 認 識 力 、 表 現 力 の向 上 が 目 指 さ れ な け れ ば な ら な いと 考 え る 。
お わ り に
本 稿 で は 、 ︿事 実 確 認 的 な 読 み﹀ に終 始 し や す い論 説 ・評 論 の授 業 を 改 善 す る た め に 、 学 習 者 の ︿価 値 判 断 ﹀ を 促 し 、 彼 ら に他 者 と の ︿対 話 ﹀ を 求 め る 学 習 指 導 に つ い て考 察 し た 。
論 説 ・評 論 と いう ジ ャ ン ル に 属 す る 個 々 の テ ク スト に 目 を 向 け る と 、そ れ ら は 決 し て 一様 では な い。そ れ ゆえ 、
そ の全 て を 網 羅 す る よ う な 学 習 指 導 を 提 案 す る こ と は 難 し い。 本 稿 で は 、 極 め て 一般 的 な 議 論 に 陥 る こと を 避 け
る た め に 、 随 筆 と の境 界 に位 置 す る印 象 批 評 を 念 頭 に置 いて 論 述 し た 。 そ の 一方 で、 筆 者 の印 象 に根 拠 を 置 か な い論 説 ・評 論 も 多 い。 そ れ ら に つ い て の考 察 は 、 別 稿 に譲 る こ と と し た い。
注および引 用文献 注 1 論 説 ・評 論 は 、 例 え ば 次 の よ う に定 義 さ れ て い る 。
﹃ 評論 文﹄ は、 ﹃ も のご と のあ
﹁﹃ 論 説 文﹄ は 、 ﹃ も のご と に つ いて定立 し た見 解 を、 客観 的 に根 拠 づけ 、 す じみ ちだ てて論 証 し、 そ の見 解 の
正 当 性 を 認 定 さ せ よ う と す る 文 章 ﹄ で あ り 、 さ ら に そ の機 能 領 域 が 拡 大 さ れ た
り よ う や も の ご と に つ いて の 見 解 ・評 価 の 不 完 全 性 や 不 当 性 を 検 証 し 、 あ る べ き あ り よ う や 見 解 ・評 価 の 完 全
性 や 正 当 性 を 論 証 し 、 さ ら に は 自 分 の 理 念 ・心 情 に 同 調 さ せ よ う と す る 文 章 ﹄ であ る 、 と す る の が 一般 の共 通
理解 であ ろう ﹂ ︵ 土 部 弘 ﹁論説 ・評論 の表 現 特性 ﹂ 土部 弘 編 ﹃ 表 現 学大 系 各 論篇 第 二七 巻 論 説 ・評 論 の
表 現﹄ 教育 出版 セ ンタ ー 一九九 〇 二 一頁)。 本稿 では、 論説 と評 論 の連 続性 ( ﹁機能 領 域﹂ の ﹁拡大 ﹂) から 、両者 を 別個 に取 り上 げ て の考 察 は行わ な い。 桜楓 社 一九 八 一
一五 ∼一六 頁
注 2 大 槻 和夫 ﹁論 説 ・評 論 の指 導と 教 材分 析 ﹂野 地 潤家 ・大 槻和夫 編 ﹃ 国 語 教材 研究 シリ ーズ 8 論 説 ・評論 編 ﹄
た だ し 、 論 点 の拡 散 を 避 け る た め に 、 本 稿 で は 既 存 の教 材 を 念 頭 に置 いて 論 述 を 進 め る こ と と す る 。
注 3 ︿事 実確 認 的 な読 み﹀ を 必 然 とし な い教 材 の開発 も 、論 説 ・評論 の学習 指 導 研究 にお け る重 要な 課 題 であ る 。
﹃ 現 代 文 学 理論
﹃ 他 者﹄ と の関 係を 強 調 した パ フチ ン
の 対 話 理 論 ﹂ (土 田 知 則 ﹁対 話 あ る い は テ ク ス ト の多 声 性 ﹂ 土 田 知 則 ・神 郡 悦 子 ・伊 藤 直 哉
注 4 本 稿 に お け る ︿対 話 ﹀ の 根 底 に は 、 ﹁あ く ま でも 異 質 で あ る べ き 主 体 と
テ ク スト ・読 み ・世 界 ﹄ 新 曜 社 一九 九 六 一六 七 頁 ) が あ る 。 パ フ チ ン ︵BaXTNH,M ︶.に Mよ . る ﹁対 話 ﹂ のと ら え 方 の端 的 な 説 明 と し て 、 以 下 に 桑 野 隆 の 論 述 を 引 用 す る 。
バ フ チ ン自 身 、 こ の ︿ 対 話 ﹀を
︿ 論 争 ﹀と か
︿ 闘 い ﹀ と い いか え る こ と が あ る 。 む ろ ん 、 ︿対 話 ﹀ と は 、 相 手
﹁バ フ チ ン の いう ︿対 話 ﹀ は 、 円 満 な ﹃ 妥 結 ﹄ を 図 った り 、最 終 的 な ﹃ 解 答 ﹄ を 導 き だ そ う と す るも の で は な い。
の独 自 性 を 認 め つ つ も 共 同 性 を め ざ し て 、 相 手 を 了 解 せ ん と す る 行 為 で あ る わ け だ が 、 た だ し そ の さ い 、 ﹃了
て は な ら な い。 了 解 行 為 に あ っ て は 闘 いが 生 ず る の で あ り 、 そ の 結 果 、 相 互 が 変 化 し 豊 饒 化 す る の で あ る ﹄、
解 し よ う と す る 者 は 、 自 己 が す で に抱 い て いた 見 解 や 立 場 を 変 え る 、 あ る いは 放 棄 す ら も す る 可 能 性 を 排 除 し
( 中 略︱
稿 者)
と パ フ チ ン は いう 。
︿ 対 話 ﹀ と は 論 争 、 闘 争 で も あ り 、 ﹃脱 中 心 化 ﹄ で あ り 、 す べ て の も の の自 己 同 一性 の 否 定 と な って いる 。 つま
り 、 こ の ︿対 話 ﹀=論 争 に よ って 不 動 の 自 己 同 一性 が 確 認 さ れ る の で は な い 。 た が いを 生 成 状 態 に導 き 、 自 己
﹃ 未 完 の ポ リ フ ォ ニー︱ バ フチ ン と ロ シ ア ・ア ヴ ァ ン ギ ャ ル ド ﹄ 未 來社 一九 九 〇 一一 ∼ 一
の内 な る 他 者 性 を あ ら た に 見 い だ す 。 そ う し て は じ め て 両 者 のあ いだ に ︿意 味 ﹀ も 生 ま れ てく る と いう わ け で あ る﹂ ︵ 桑野 隆 三 頁 )。
注 5 ︿価 値 判 断 ﹀ を 行 う た め に は 、 テ ク ス ト を 吟 味 し な が ら 読 む 必 要 が あ る 。 そ の 意 味 で 、 ︿ 価 値 判 断﹀ を 伴う 論
説 ・評 論 の 読 み は 、 説 明 的 文 章 の学 習 に お い て 提 唱 さ れ てき た 、 いわ ゆ る 批 判 読 み に 通 底 す る と 考 え ら れ る 。
な お 、 説 明 的 文 章 の 学 習 指 導 研 究 に お い て は 、 植 山 俊 宏 ﹁言 語 論 理 の 教 育︱ 説 明 的 文 章 学 習 に よ る 論 理 的 認 識
力 育 成 の 実 質︱ ﹂ ︵ 田 近 洵 一 ・府 川 源 一郎 ・大 熊 徹 編 ﹃ 国 語 教 育 の 再 生 と 創 造︱ 21世 紀 へ発 信 す る 17 の 提 言︱ ﹄
教 育 出 版 一九 九 六 一五 六 ∼ 一六 八 頁︶ が 、 ﹁説 明 的 文 章 の読 み に お け る 間 接 的 認 識 ﹂ の ﹁ 実 質 を確 保 、充
実 させ るた め の視点 ﹂と し て ﹁ 実 感 的認 識﹂ とと も に ﹁ 価 値 認 識 ﹂ を 設 け て い る 。 そ こ で は 、 今 日 の 情 報 のあ
り よう とそ れ に関わ る主 体 のあ り方 に対 す る ﹁ も は や 、 情 報 は そ の価 値 判 断 を 抜 き に 扱 え な いよ う に な っ て い
る と い っ て よ い し 、 ま た 、 そ の情 報 の価 値 を 見 抜 い て 自 ら の 生 活 に 活 か し て いけ る 能 力 が な いと 真 の 生 活 力 を
備 え た 主 体 と は いえ な いと い っ ても よ いだ ろう ﹂ と いう 確 認 の 後 、 ﹁ 読 み に よ って 得 ら れ る 認 識 の 実 質 を 確 保
し 、 充 実 さ せ て いく た め に は 、 価 値 の認 識 の 方 向 性 を 持 った 内 容 と 形 式 の 統 合 的 な 読 み が 必 要 な の で あ る ﹂ と
述 べ ら れ て いる 。 本 稿 で の議 論 に 関 わ る 先 行 研 究 と し て 、 こ こ に 掲 げ て お き た い 。
両 ク ラ ス と も 、 ﹁ミ ロ の ヴ ィ ー ナ ス ﹂ の 読 み と 評 価 の記 述 を 一時 限
︵ 五 〇 分 ︶ で行 って い る 。
注 6 一九 九九 年 一〇 月 二五 日 に、近 畿 大学 附 属東 広島 高 等学 校第 一学年 二ク ラ スに所 属 す る八 ○名 が 記し た文 章 。
﹃手 の 変 幻 ﹄
注 7 た し か に 、 両 腕 の喪 失 に よ って ミ ロ の ヴ ィ ー ナ ス 像 が 偶 然 の芸 術 性 を 得 た と いう と ら え 方 は 、 ﹁ミ ロ のヴ ィ ー
ナ ス﹂ の 筆 者 独 自 の見 方 で は な い 。 例 え ば 、 ﹁ミ ロ の ヴ ィ ー ナ ス ﹂ の原 典 は 、 清 岡 卓 行 の 短 編 集
一九 六 四 年 三 月
︵ 美 術 出 版 社 一九 六 六 ︶ 収 録 の ﹁失 わ れ た 両 腕 ミ ロ の ヴ ィ ー ナ ス﹂ で あ る 。 こ の 原 典 が 発 行 さ れ る 二 年 前
に 、 ミ ロ の ヴ ィ ー ナ ス像 が 日 本 で 公 開 さ れ て い る 。 そ れ を 特 集 す る 当 時 の 朝 日 新 聞 の 夕 刊︵
︵ 水 林 章 ・泉 利 明 ・露 崎
三 〇 日 ∼ 四 月 八 日 ︶ に 掲 載 さ れ た 芸 術 家 一〇 名 の エ ッ セ イ と 原 典 を 比 較 す ると 、 両 者 の ミ ロ のヴィ ー ナ ス 観 に は共 通性 のある こと がわ か る。
注 8 ジ ャ ン= マ リ ー ・グ ー ル モ ﹁ 意 味 生 産 行 為 と し て の 読 書 ﹂ ロ ジ ェ ・シ ャ ル チ エ編
俊和 訳 ︶ ﹃ 書 物 から読 書 へ﹄ みすず 書房 一九 九 二 一四 八頁 ︵ 原著 一九 八五︶
﹃ た のし く わ か る 高 校 国 語 I ・Ⅱの 授 業 2説 明 ・論 説 ・作 文 ﹄ あ ゆ み 出 版 一九 九 〇 九 四 ∼ 一 一五 頁
注 9 高 野光 男 ﹁﹃近 い旅 遠 い旅 ﹄ の授 業︱ 生 徒 の多 様 な感 想を 生 か した 授業 ﹂ 田近 洵 一・浜本 純逸 ・大槻 和 夫編
て、 簡 略 に 整 理 さ れ ても いる ︵ 注 1︶。 そ れ ら の論 と は 別 に、 学 習 者 の考 え る 古 典 学 習 の意 義 は 、 調 査 に よ れば 、
古 典 学 習 指 導 の意 義 に つ い ては 、 こ れ ま で諸 家 に よ って 様 々 に論 じ ら れ てき た 。 そ れ ら は 、 植 垣 節 也 氏 に よ っ
値があ る。
活と 精神を相 対化 し、認 識 ︵ 感 動 ︶、 も の の 見 方 、 考 え 方 、 反 省 を 新 た に さ せ る 。 そ こ に 古 典 の生 命 が あ り 、 価
文 化 伝 統 と 結 び つ い て今 日 に 生 き て いる 。 そ れ は 、 読 む 者 に応 じ 、 時 に応 じ て 様 々 な姿 で立 ち 現 れ 、 読 む者 の生
古 典 は 、虚 構 の文 芸 作 品 を 含 め て、時 代 状 況 を 生 き た 人 々 の生 活 と 精 神 の 記 録 であ る 。時 代 を 経 て読 み 継 が れ 、
︵一︶古 典 の学 習 指 導 の意 義
を 求 め て、 授 業 活 性 化 の方 法 と そ の 具 体 例 を 紹 介 し 、 豊 か な 古 典 の学 習 指 導 のあ り 方 に つ いて考 え た い。
の視 点 か ら 整 理 す る と と も に 、 学 習指 導 の問 題 点 と そ の改 善 方 法 を 提 起 し た い。 つ いで 、 豊 か な 古 典 の 学 習 指 導
改 善 す べき 重 い課 題 の 一つと いえ よう 。 こ こ で は 、 古 典 ( 古 文 ) の学 習 指 導 に 関 し て 、 ま ず 、 そ の意 義 を 学 習 者
化 の継 承 と 発 展 と に深 く 関 わ る こ と を 考 え れ ば 、 学 習 者 の古 典 離 れ 、 古 典 嫌 い の現 状 は 、 国 語 教 育 に携 わ る 者 の
後 の 早 い時 期 か ら な さ れ 、 今 日な お そ の傾 向 は 強 ま って い ると 見 え る 。 古 典 の学 習 が 、 歴 史 意 識 に つな が り 、 文
古 典 に対 し て 学 習 者 が 興 味 ・関 心 を 持 た ぬ ば か り か 、 古 典 離 れ 、 古 典 嫌 いに 至 っ て い ると いう 実 態 の 報 告 は戦
は じ め に
古典 の学習指導
六
︵1︶ 内 容 的 意 義︱ ① 文 化 の根 を 明 ら か にす る意 義 、 ② 人 間 を 発 見 す る意 義 、 ③ 現 実 認 識 を 深 め る 意 義 、 ︵2 ︶ 言
語 的 意 義︱ ④ 豊 か な 言 語 使 用 に資 す る意 義 、 ︵3︶ 教 養 的 意 義︱ ⑤ 教 養 を 高 め る 意 義 、 ︵4 ︶ 情 意 的 意 義︱ ⑥ 読
む こと が楽 し いと いう 意 義 、 に 概 括 でき た ︵ 注 2 ︶。 学 習 者 の意 識 に 探 った こ れ ら の意 義 は 、 次 の よう に、 古 典 学 習 指 導 の 可 能 性 を 示 唆 す る も のと も な って いる 。
︵1 ︶ 内 容 的 意 義
① 文 化 の 根 を 明 ら か に す る意 義 に つ い ては 、 次 のと お り で あ る。 古 典 は 、 読 む 者 にも のご と を 時 間 の流 れ にお
い て考 え る 姿 勢 を 喚 起 す る。 学 習 者 は 、 古 典 に表 現 さ れ た 時 代 社 会 、 風 俗 、 習 慣 、 も の の見 方 ・感 じ 方 ・考 え 方
等 を 、 現 在 のそ れと 比 較 す る こ と を 通 し て、 今 日 の文 化 の 根 を 歴 史 的 に と らえ る 。
② 人 間 を 発 見 す る 意 義 の示 唆 す るも のに つ いて は 、 次 のよ う に考 え ら れ よう 。 古 典 を 読 み 、 古 典 に 表 現 さ れ た
人 間 の心 を 今 日 の そ れ と 比 較 す る こと に よ って 、 人 間 の普 遍 的 な 心 と 、 時 代 状 況 に よ って 変 化 す る 心 と を と ら え
る こと が で き る 。 ま た 、 古 典 は 、 あ る時 代 状 況 に 生 き る 人 間 を 描 き 出 す 。 そ れ は 、 今 日 の状 況 に生 き る人 間 を 照 ら し 出 し、 私 た ち の 人 間 に 関 す る 認 識 を 深 いも のに す る。
③ 現 実 認 識 を 深 め る 意 義 は 、次 の点 に見 いだ さ れ る 。学 習 者 の古 典受 容 の 実 際 に は 、古 典 に 表 れ たも の の見 方 、
感 じ 方 、考 え 方 を 学 習 者 自 身 のそ れ と し て生 か し た り 、 批 判 し た り し な が ら 、 現 実 認 識 を 深 め る 例 が 見 いだ さ れ た。
︵2 ︶ 言 語 的 意 義
④ 豊 か な 言 語 使 用 に資 す る 意 義 に つい て は 、 次 の よ う に いえ る 。 古 典 は 意 味 内 容 と 表 現 を 合 わ せ 持 つ。 古 典 の
学 習 は 、 意 味 内 容 の把 握 に 力 が 注 が れ が ち で あ る が 、古 典 の表 現 に 学 ぶ こ と の意 義 に 学 習 者 は 気 づ いて いる 。 古
典 の古 い こと ば は 、重 層 的 な意 味 や情 感 を 伝 え て 、今 日 の こと ば を 深 み の あ る も のと し て生 か す 力 が あ る 。ま た 、
現 在 失 わ れ た 生 活 と 心 の動 き を 伝 え 、 今 日 の 生 活 と こ と ば を 見 直 さ せ る 。古 典 の明 瞭 簡 潔 な こ と ば と 文 体 、 繊 細 優 美 な こ と ば と 文 体 な ど 、 言 語 使 用 に お いて今 日 な お 学 ぶ べき こ と は 多 い。
︵3︶ 教 養 的 意 義
⑤ 教 養 を 高 め る 意 義 は 、 以 下 のと お り に考 え ら れ よ う 。 古 典 を 読 む こと を 通 し て、 古 の時 代 に 生 き た 人 々 の生
活 やも の の見 方 、感 じ 方 、考 え 方 が 立 ち 現 れ る 。そ れ は 、読 む 者 の知 識 と な り 、認 識 と な って も の の見 方 を 広 げ 、
深 め 、 と き にう る お いを 与 え る 。 こ こ に 、 教 養 的 意 義 と そ れ を 求 め る 古 典 学 習指 導 の 可 能 性 を 見 いだ す こ と が で き る。
︵4︶ 情 意 的 意 義
⑥ 読 む こ と の楽 し さ に 関 す る意 義 は 、次 のよ う に 考 え ら れ る 。 古 典 は 古 に生 き た 人 々 の生 活 や心 の動 き を 生 き
生 き と 描 き 出 し 、 豊 か な 世 界 、美 的 世 界 を 表 現 す る 。 今 日 に重 な り 、 つな が る 、 あ る い は大 き く 異 な り 途 絶 え て
し ま った 古 典 の世 界 は 、 読 む 者 を 引 き つけ 、 心 を 動 か せ る 。 古 典 学 習 の意 義 は、 こ のよ う な 古 典 を 読 む 楽 し さ自 体 に も 見 いだ さ れ よう 。
︵二︶古 典 学 習 指 導 の 問 題 点 と 学 習 指 導 の 改 善
古 典 の学 習 指 導 は 、改 善 の方 向 が 見 いだ さ れ ると は いえ 、 な お 、 解 決 し な け れ ば な ら な い多 く の 問 題 を 抱 え て
いる 。そ の 一つに 言 語 抵 抗 の問 題 があ る 。言 語 抵 抗 を 取 り 除 く た め と いう 理 由 で 、訓詁 注 釈 、通 釈 、古 語︵ 語 彙︶、
古 典 文 法 の指 導 に力 が注 が れ て き た 。 そ れ ら の指 導 の多 く は 、 古 典 の内 容 に関 す る 学 習 者 の興 味 ・関 心 や問 題意 識 と は 別 に 、 し ば し ば形 式 的 に な さ れ 、 学 習 者 か ら古 典 を 遠 いも の に し た 。
︵ 史 的 価 値 ) 等 を 説 明 す る と い った指 導 は 、 よ く 見 ら れ る 。 ま た 、 内 容 を 読 み
古 典 の歴 史 的 背 景 ︵時 代 ・風 俗 習 慣 ・有 職 故 実 ︶ に 関 す る学 習 指 導 に も 問 題 が あ る 。 古 典 の内 容 を 読 み進 め る 前 に 、 作 品 の成 立 、 作 者 、 文 学 史
進 め る過 程 に お いても 、 時 代 背 景 や、 有 職 故 実 、 風 俗 習 慣 等 に つ いて 予 め プ リ ント を 用 意 し て説 明 す る と い った
実 践 例 も 見 いだ さ れ る 。 これ ら の学 習 指 導 が 、 内 容 に 深 く 関 わ る こと な く 、 断 片 的 な 知 識 の 一方 的 注 入 や既 成 の
価 値 観 の押 し つけ に な っては 、古 典 に主 体 的 に向 き 合 い、 古 典 の生 命 に 触 れ る読 み には な り 得 な い。 さ ら に 、自
立 し た 古 典 の学 び 手 を 育 て る た め には 、古 典 を 読 む力 を 育 成 し な け れ ば な ら な い。 し か し 、 古 典 を 読 む 力 の 習 得
は 、 今 日 な お 十 分 で は な い。 ほ か にも 、古 典 教 材 の開 発 、 編 成 、 指 導 過 程 、 指 導 体 系 な ど多 く の 課 題 が 残 って い る。
こ こ に 取 り 上 げ た 問 題 に対 し て、学 習指 導 を どう 改 善 し て いけ ば よ い のか 、﹁初 冠 ︵﹃伊 勢 物 語﹄ 初 段 ︶を 例 に 、 具 体 的 に考 え て みた い。 ﹁初 冠 ﹂ 本 文 は 、 次 のと お り で あ る 。
昔 、 男 、 初 冠 し て 、 奈 良 の 京 春 日 の 里 に し る よ し し て 、 狩 り に 往 に け り 。 そ の 里 に 、 いと な ま め いた る 女 は ら か ら
住 み け り 。 こ の 男 か いま み て け り 。 思 ほ え ず 、 ふ る 里 に いと は し た な く て あ り け れ ば 、 心 地 ま ど ひ に け り 。 男 の 、 着
た り ける狩衣 の裾を 切 りて 、歌 を書 きて やる 。そ の男 、信 夫摺 の狩衣 を な む着 たり ける 。
春 日 野 の 若 紫 の す りご ろ も し の ぶ の 乱 れ か ぎ り し ら れ ず
み ち の く の し の ぶ も ぢ ず り た れ ゅ ゑ に乱 れ そ め に し わ れ な ら な く に
と な む 追 ひ つき て 言 ひ や り け る 。 つ いで お も し ろ き こ と と も や 思 ひ け む
と いふ 歌 の 心 ば ヘな り 。 昔 人 は 、 か く いち は や き み や び を な む し け る 。
1 言 語 抵 抗 ︵1︶ 傍 注資料
︵﹃日本古 典 文学全 集 ﹄ によ る︶
言 語 抵 抗 を 取 り 除 く た め の方 法 の 一つ に、 注 釈 を 丁 寧 に つけ ると いう 方 法 が あ る。 し か し 、 古 典 を 注 釈 に よ っ
て読 む こと に つ い て 、 大 村 は ま 氏 は 、 ﹁よ ほ ど 勉 強 好 き な 生 徒 で な いと や り お お せ な い、 大 部 分 の生 徒 にと って
わ ず ら わ し 過 ぎ る﹂ と 、 学 習 者 の側 に 立 って疑 問 を 呈 し た 。 これ は 、 中 学 生 のみ な ら ず 、 今 日 の多 く の高 校 生 に
鷹 狩り に
往 っ たそぅ だ。
も 当 て は ま る 。 大 村 氏 は 、 ﹁中 学 生 の古 典 学 習 には 、 ど う し ても 、 ま ず 中 学 生 の た め に 工 夫 し た 資 料 ・テ キ スト
で 、
よ し し て 、 狩 り に 往 に け り 。
領 地を 持 って いる 縁
が必要 である﹂ ︵ 以 上 、注 3︶ と 述 ベ、 次 の よ う な 傍 注 資 料 を 作 成 し て いる 。
〓が 元 服を終 え て
昔 、 男 、 初 冠 し て 、 奈 良 の京 春 日 の里 に し る う ひかう ぶり ︵ う い こう ぶ り︶
〓
こ の傍 注 資 料 は 、 次 の よう に 作 成 さ れ て いる ︵ 注 4︶。
① 原 文 の左 に 読 み が 、 歴 史 的 か な づ か いで書 か れ 、 発音 が か っこ し て示 さ れ て いる 。 歴 史 的 か な づ か いを 用 い
た の は 古 語 辞 典 を 引 こう と す る 場 合 を 考 え て の こと で あ る 。 ま た 、 右 側 に は 意 味 が書 か れ て いる が 、 単 語 が 意 識 さ れ る よ う に 配 慮 し て いる 。
② こ と ば を 補 う と す じ が 明 ら か に な ると こ ろ に、〓 印 を つけ て 補 う こと ば を 書 いて い る。
③ 意 味 を 強 め た り 、 調 子 を 整 え た り し て いる 助 詞 は 、 か っこ し て ︵ 強 め ︶ と 左 側 に 書 き 、 そ れ が 現代 文 と し て
生 か す 工 夫 ので き た 場 合 は 、 ← や → を 使 って 、 ど こ に 生 か し た か 気 づ か せ るよ う に し た 。
こ の よう な 傍 注 資 料 の効 果 は 、 ﹁先 生 が し ず か に 、 古 典 の本 文 を 読 ん で いら っし ゃ る 。 そ れ に つれ て 、 私 た ち
は 、 横 にあ る わ け や ら 、 入 れ る こ と ば を い っし ょ に 目 に いれ て ゆ く 。 ふ し ぎ に な め ら か な 文 章 の ひ び き を 耳 に し
な が ら 、 意 味 が 胸 にう つ ってく る 。 私 は夢 中 にな って いた 。 だ れ も 同 じ と みえ て 、 ふと 気 づ く と 、 あ た り は しー
ん と し て いた 。 お も し ろく て お も し ろ く て 、 休 み 時 間 も 休 ま ず に 、 先 生 に読 ん で いた だ いた 。 二 時 間 を 読 み ふ
け って終 わ った と き 、 も う 私 は す っか り 古 典 に心 を つか ま え ら れ て し ま って いた ﹂︵注 5︶ と いう 学 習 者 の 声 に
よ って明 ら か であ る 。 古 典 の言 語 抵 抗 を 超 え て直 接 内 容 に踏 み 込 む 方 法 と し て 、 傍 注 資 料 によ る教 材 を 有 効 に 利 用 し た い。
︵2︶ 構 造 の読 み
古 典 作 品 の構 造 ︵ 場 所 ・時 ・登 場 人 物︱ 行 動 と 心 情 ︶ を 切 り 口 と し 、 興 味 ・関 心 、 問 題 意 識 を 持 た せ つ つ、 想
像 力 を 働 か せ て読 み を 深 め さ せ る 。 そ う す る こ と で 、 言 語 抵 抗 を 乗 り 越 え る こと が 可 能 に な る 。 こ こ で は 、 ﹁初
構造図 ( 板書)
( 鷹 狩 り ・若 紫 )
て いる か 。
( 場 所) は ど こか。
⑨ 語 り手 の男 の行動 と 心情 にす る感 想 はど のよう に述 ベられ
⑤ 女 はら から は、 ど んな人 物 か。
⑧ 歌 は ど う いう と こ ろ が 優 れ て い る と 思 わ れ る か 。
⑦ 男 が ﹁心 地 ま ど ひ に け り ﹂ と いう 状 態 に な った の は な ぜ か 。
⑥ 男 の行 動 と 心 情 は 、 ど のよ う に描 か れ て い る か 。
④ 男 は、 ど んな 人物 か。
③ 登 場人 物 は誰 か。
② 時 は いつご ろ のことか 。
① 物 語 の舞台
*範 読 、 音 読 練 習 、 内 容 想 像 の後 に 発 問 す る 。
主 要な 発問
冠 ﹂ を 取 り 上 げ 、 物 語 の構 造 か ら 切 り 込 み 、 内 容 理 解 に 至 る 学 習 指 導 を 構 想 し た い。
春
春 日 の里 → し る よ し
○場所︱ 奈 良 の京 ○ 時︱
○人物
信夫 摺 り の狩 衣 を な む 着 た り け る 。
男︱ 初 冠 、 狩 り に 往 に け り
いと は し た な く て あ り け れ ば
か いま 見 て け り
心 地ま ど ひ にけり 狩 衣 の裾 を切 り て、歌 を書 き て
春 日 野 の若 紫 の摺 り衣 し のぶ の乱れ 限り知 ら れず 女 は ら か ら︱ いと な ま め か し き
語 り手 昔 人 は 、 か く いち は や き み や び を な む し け る
⑫
⑪
⑩
﹁み や び ﹂ の意 味 は 何 か 。
﹁か く ﹂ の 指 示 内 容 は 何 か 。
﹁昔 人 ﹂ と は 誰 の こ と か 。
下段 には 、① ∼ ⑫ の番 号 によ って 発 問 す る 順 番 を 明 ら か に し 、 上 段 に は 、 発 問 と 応 答 と に よ って 明 ら か にな る と 想 定 さ れ る ﹁初 冠 ﹂ の構 造 と 内 容 を 板 書 の形 で掲 げ た 。
ま ず 、 ① ﹁物 語 の舞 台 ︵ 場 所 ︶ は ど こ か ﹂、② ﹁時 は い つ こ ろ の こと か ﹂、 ③ ﹁登 場 人 物 は誰 か ﹂ と 発 問 す る 。 こ
れ ら の発 問 に よ って、 物 語 の構 造 を と ら え さ せ ると と も に、 興味 ・関 心 、 あ る いは 問 題 意 識 を 持 た せ る 。 ① に つ
いて は 、 さ ら に 、 な ぜ 、春 日 の 里 が 舞 台 と な った の か と 尋 ね 、場 所 意 識 を 深 め る 。② は 、 注 釈 も 交 え て明 ら か に
す る こ と が 必 要 で あ ろう 。 ③ の 人物 に つ いて は 、 ﹁男 ﹂ と ﹁女 は ら か ら ﹂ を 挙 げ さ せ た後 、 ④ ﹁男 は 、 ど ん な 人 物
か ﹂、 ⑤ ﹁女 は ら か ら は 、 ど ん な 人物 か ﹂ と 発 問 し 、 明 ら か に し て いく 。 ﹁男 ﹂ に つ い て は 、 さ ら に 、 ⑥ ﹁男 の行 動
と 心 情 は ど の よ う に描 か れ て いる か ﹂ と 尋 ね 、 原 文 に従 って明 ら か にす る 。 以 下 、 さ ら に踏 み 込 んだ 細 や か な 読 みを 、 発 問 ⑦ ∼⑫ によ って 行 う 。
こ こ に 述 べ た の は 、 言 語 抵 抗 を 、 発 問 に よ る 作 品 構 造 への 切 り 込 み と 構 造 的 な 板 書 、 喚 起 さ れ る 作 品 への 興 味 ・関 心 、 問 題 意 識 に よ って乗 り 越 え つ つ、 理 解 を 深 め る 方 法 で あ る 。
( 注 6)。
う 。 そ のよ う な 学 習 の成 立 に よ って 、 群 読 は 、 古 典 の 一斉 授 業 に よ る 、 訓 詰 注 釈 、 時 代 説 明 な ど の 一方 的 な 注 入 指 導 に よ って陥 る 沈 滞 ム ー ド を 打 ち 破 る 力 を 持 つと いう
群 読 を 行 う 際 、 ﹁分 か ち 読 み ﹂ ︵ ど こ で 区 切 る か ︶と ﹁担 い読 み ﹂ ︵ 誰 が 読 む のか ︶が 問 題 と な る 。 ﹁分 か ち 読 み ﹂
① 内 容︱
ァ・ 漸 層 的 に 盛 り 上 が る 部 分 、 イ・ 強 調 ︵卓 立 ︶ 部 分 、 ウ・ 対句 表 現 ・並 立 的 表 現 、 エ・ 文 体 の リ
ア・ 場 面 転 換 、 イ・ 登 場 人 物 の 交 替 、 ウ・ 作 者 の視 点 ・語 り 手 の位 相 の変 化 、 エ・ 内 容 の ま と め
の観 点 は 、 整 理 す ると 、次 のよ う に な る ︵ 注 7︶。
② 表 現︱ ズム
群 読 と いう 創 造 的 表 現 を 志 向 す る 学 習 者 の主 体 的 な 目 は 、 ﹁分 か ち 読 み ﹂ の 観 点 を 通 し て内 容 に 迫 る 。 こ の観
点 は 、 読 み深 め のた め の構 造 読 み の観 点 に通 じ る 。 群 読 への意 欲 と ﹁分 か ち 読 み ﹂ の 観 点 が、 古 典 の言 語 抵 抗 を 退 け て内 容 に迫 ら せ る と いえ よ う 。
2 歴 史 的 背 景 ( 時 代 ・風 俗 習 慣 ・有 職 故 実 ︶ に 関 す る 学 習 指 導
歴 史 的 背 景 は 、 でき るだ け 文 章 表 現 に即 し て 理 解 す る よ う に努 め 、 読 み の過 程 で問 題 意 識 を 持 た せ た 上 で指 導
し た い。 ﹁初 冠﹂ に例 を と れ ば 、 ﹁初 冠 ﹂・﹁春 日 の里 ﹂・﹁狩 り ﹂ ・﹁か いま み ﹂・﹁狩 衣 ﹂・﹁歌 ( を 書 き て や る)﹂ が
歴 史 的 背 景 に 関 わ る 古 語 で あ る。 し か し 、 指 導 は 網 羅 的 に 行 う の では な く 、 読 み を 深 め る 上 で 必 要 と さ れ る 範 囲
で行 え ば よ い。 そ う 考 え れ ば 、 指導 は 、絞 れ ば 、 ﹁初 冠 ﹂・﹁か いま み ﹂・﹁歌 (を 書 き て や る )﹂ で よ いで あ ろう 。
作 品 の世 界 を 膨 ら ま せ る こ と を 考 え れ ば 、 読 み に 関 連 さ せ て ﹁狩 り ﹂ や ﹁狩 衣 ﹂ に つ い て絵 を 見 せ た り 説 明 を 加
え た り す る のも 一つ の方 法 であ る 。 ﹁春 日 の里 ﹂ は 、 古 来 、 春 を 迎 え た貴 族 た ち の歌 垣 、 遊 宴 の由 緒 あ る 場 所 で
あ った が 、 説 明 は省 く か 簡 略 でよ い。
指 導 の実 際 に お いて は 、 ま ず 、 ﹁男 ﹂ の行 動 と し て ﹁か いま み﹂ と ﹁歌 を 書 き て や る ﹂ に至 る 行 動 を と ら え さ
せ る。 つ いで 、 改 め て ﹁男 ﹂ が こ の よう に 行 動 し た 理 由 を 尋 ね て疑 問 を 喚 起 し た 後 に 、貴 族 の ﹁ 色 好 み﹂ と し て
の行 動 の 型 に つ い て 理 解 さ せ る 。 そ れ は ﹁み や び﹂ の理 解 に つな げ る指 導 でも あ る 。 ﹁初 冠 ﹂ に つ いて は 、 ﹁男 ﹂
の人 物 像 を と ら え さ せ る 過 程 で 、 ﹁初 冠 ﹂ を 行 う 年 齢 や 儀 式 の内 容 、 そ の意 味 に つ いて 説 明 し た い。
3 古 語 ・語 彙 と 古 典 文 法 の学 習 指 導 ︵1︶ 古 語 ︵ 語彙 ︶
古語 ( 語 彙 ) の 学 習 指 導 は 、 網 羅 的 に 行 う の で は な く 、 読 み を 深 め る 上 で必 要 な 古 語 に焦 点 化 し て 行 いた い。
﹁初 冠 ﹂ を 例 に 取 れ ば 、 ﹁な ま め く ﹂、 ﹁は し た な し ﹂ は 、 読 み を 深 め る 上 で 指 導 を 必 要 と す る語 であ る 。 ﹁な ま め
いた る 女 は ら か ら ﹂ が ど の よ う な 女 か 想 像 さ せ 、 考 え さ せ つ つ、 ﹁な ま め く ﹂ が 、 ﹁な ま ︵ 生 ︶﹂+﹁め く ﹂ で 、 ﹁な
ま ﹂ の持 つ未 成 熟 と いう 本 義 を 踏 ま え 、初 々 し い美 し さ を 表 す こと を 理 解 さ せ る 。 併 せ て、 ﹁な ま め か し﹂ に つ
い ても 、 現 代 の意 味 と の違 い に注 意 し つ つ理 解 さ せ 、 語 彙 を 広 げ た い。 ﹁は し た な し ﹂ は 、 ﹁は し た ( 端 )﹂+﹁な
し ︵ 如 し ︶﹂ で 、 ﹁は し た ﹂ の中 途 半 端 で あ る こと が 本 義 で あ る 。 ﹁男 ﹂ が 、 ﹁心 地 ま ど ひ に け り ﹂ と いう 状 態 に い
た った 理由 を と らえ さ せ る過 程 で、現 代 語 の ﹁は し た な い﹂と の違 い にも 留 意 し 、本 義 に触 れ つ つ ﹁は し た な し﹂
の意 味 を 明 ら か に し て いく 。 文 脈 の把 握 に 重 ね 、 古 語 の本 義 に 基 づ き な が ら 指 導 す る こと で、 古 語 への理 解 も 深 ま る であ ろう 。 取 り 立 て指 導 、 体 系 的 指 導 は 、 こう し た 指 導 の後 に行 いた い。
︵2︶ 読 み に お け る古 典 文 法 の扱 い
文 法 を 読 み に機 能 す るも のと し て扱 いた い。 古 典 文 法 の 学 習 指 導 を ど の程 度 行 って いる か に よ って取 り 扱 い方
が 異 な る 。 ﹁初 冠 ﹂ に 例 を 取 れ ば 、 中 心 人 物 で あ る ﹁男 ﹂ の行 動 と 心 情 を と ら え る 中 で 、 次 の よ う な 文 法 の 学 習 指 導 も 可能 であ ろう 。
男− 初 冠 、 狩 り に往 に け り 信 夫 摺 り の狩 衣 を な む 着 た り け る。 か いま 見 てけ り いと は し た な く てあ り け れ ば
心 地まど ひにけり
﹁昔 、 男 ∼ 狩 り に 往 に け り ﹂ に つ い て 、 ﹁男 ﹂ の行 動 であ る ﹁往 にけ り ﹂ の意 味 を 尋 ね る 。 つ い で、 ① ﹁け り ﹂
が ③ ⑤ ⑦ ⑧ の よ う に 文 末 に多 く 使 わ れ て いる こ と も 指 摘 し な が ら 、 ﹁け り ﹂ が 、 間 接 体 験 を 表 す 過 去 で あ る こ と
を 説 明 す る と と も に 、 語 り の表 現 方 法 で あ る こ と も 理 解 さ せ る。 既 習 であ れ ば 、 詠 嘆 の意 味 を 持 つ こと も 確 認 す
る 。 ﹁男 ﹂ が ﹁心 地 ま ど ひ にけ り ﹂ と いう 気 持 ち に な った 理 由 を 考 え さ せ る 過 程 で 、 ﹁は し た な く て あ り け れ ば ﹂
の ﹁け れ ば ﹂ が 、⑥ ﹁け れ ﹂ ︵ 已 然 形 ︶+﹁ば ﹂ ︵ 接 続 助 詞 ︶ で、 原 因 ・理 由 を 表 す こ と を 説 明す る 。 ﹁か いま み てけ
り ﹂ の④ ﹁て け り ﹂ と ﹁心 地 ま ど ひ に け り ﹂ の⑦ ﹁に け り ﹂ と の相 違 に つ いて 問 題 を 投 げ か け 、 ⑥ が 意 識 的 ・作 為
的 な 動 作 の完 了 であ る こ と 、 ⑦ が無 意 識 的 ・自 然 的 な動 作 の完 了 であ る こ と を 明 ら か にす る 。 こ の よう に 指 導 す
れ ば 、 ﹁か いま み ﹂ が ﹁男 ﹂ の意 識 的 な 行 為 であ った こ と が 理 解 さ れ 、 ﹁み や び ﹂、 ﹁色 好 み ﹂ に 生 き よ う と す る
﹁男 ﹂ の姿 勢 が 浮 か び 上 が る 。 ﹁信 夫 摺 の狩 衣 を な む 着 た り け る ﹂ の② ﹁な む ﹂ が 、 な ぜ 強 調 さ れ て い る か と いう
点 を 意 識 さ せ 、 歌 の ﹁し の ぶ の乱 れ ﹂ の伏 線 と し て強 調 さ れ て いる こと を 明 ら か にす る 。 こ のよ う に文 法 を 読 み
に機 能 さ せ る こ と で、 作 品 世 界 の読 み が 深 ま る こと が実 感 さ れ る と き 、 自 ず と 古 典 文 法 を 学 ぶ こと の意 味 も 理 解 さ れ よ う 。 こ のよ う な 読 み を 積 み重 ね て後 に 、 体 系 的 な 指 導 を 精 選 し て行 いた い。
4 古 典 を 読 む 力
自 立 し た 古 典 の読 み 手 を 育 成 す る た め に は 、 古 典 を 読 む 力 を 高 め る こと を 念 頭 に 置 か ね ば な ら な い。 し か し 、
学 習 者 に 独 力 で古 典 を 読 む 力 を 求 め る こ と は適 切 では な い。 そ れ は 、 注 釈 、辞 書 、 参 考 書 、 必 要 な ら ば 口 語 訳 を
も 利 用 し な が ら 読 む 力 であ る と 考 え る のが 妥 当 で あ る。 古 典 を 読 む力 を 高 め る た め に は 、 そ れ を 構 造 的 に と ら え
る 必 要 が あ る。 そう す る こ と に よ って 、 授 業 の個 々 の場 面 で 、 ど のよ う な ね ら い のも と に ど の よう な 力 を 育 成 す
る か が 明確 と な り 、 よ り 効 果 的 に展 開す る こと が 可 能 にな る 。 古 典 を 読 む 力 の究 明 は 、 な お 今 後 に 待 た ね ば な ら な い課 題 で あ る。 今 は 、 仮 に次 のよ う に と ら え て お き た い ︵注 8︶。
[ 知識] ① 言語要 素に関す る知識。 a. 発 音 ・発 声 に 関 す る知 識 。
b. 歴 史 的 か な づ か いに 関 す る知 識 。 c. 古 語 ・語 彙 に関 す る 知 識 。 d. 文 法 に 関 す る知 識 。 ②言 語表現 に関する知識 。 a. 表 記 法 に 関 す る知 識 。 b. 文 体 ・修 辞 法 ・文 章 構 成 法 に 関 す る知 識 。 c. ジ ャ ン ル に 関 す る知 識 。 ③ 古 典 に 表 れ る生 活 ・社 会 、 有 職 故 実 、 宗 教 な ど に 関 す る 知 識 。 ④ 古 典 の書 か れ た 時 代 背 景 や 時 代 思 潮 に 関 す る 知 識 。
[ 技能] ① 文 章 の内 容 のあ ら ま し を 、 よ り す ば や く 、 よ り 的 確 に把 握 す る能 力 。 ② 語 句 の 意 味 を 理 解 す る能 力 。 a. 自 己 の経 験 と こ と ば と を 結 び つけ る 能 力 。 b. 辞 書 を 有 効 に 利 用 す る能 力 。 c. 語 句 の意 味 を 文 中 に定 着 す る 能 力 。 d. 漢 字 の構 造 ・語 句 の構 造 を 理 解 し 、 そ れ を 意 味 の理 解 に 応 用 す る 能 力 。 e. 助 詞 ・助 動 詞 の文 中 に お け る 意 味 ・用 法 を 理 解 す る能 力 。
③ 文 の組 立 を と ら え 文 意 を 明 ら か にす る 能 力 。 ④ 指 示 す る こと ば が 文 中 の何 を 指 し て いる か を 指 摘 す る能 力 。 ⑤ 文 と 文 と の連 接 関 係 を と らえ る 能 力 。 ⑥ 文 ・文 章 の内 容 と 表 現 の強 弱 軽 重 を と ら え る能 力 。 ⑦ 必 要 な ら ば 、 注 釈 書 、 参 考 書 、 口語 訳 を 利 用 す る 能 力 。 ⑧ 表 現 形 態 に 即 し た 読 み方 を す る 能 力 (文 学 的 文 章 の場 合 )。 a.作 品 の形 態 や 傾 向 に応 じ た 読 み方 を す る能 力 。 b. 作 品 の場 面 を と ら え 、 あ ら す じ ・場 面 ・構 成 を 読 み 取 る 能 力 。 c.作 中 人 物 の 思 想 や性 格 お よ び 心 理 の動 き を 読 み 分 け る 能 力 。 d. 文 体 の特 色 や表 現 のう ま み な ど を 感 得 す る能 力 。 e.作 品 を 通 し て 、 も の の見 方 ・感 じ 方 を 理 解 す る能 力 。 f. 作 品 の主 題 を 読 み取 る能 力 。 ⑨ 読 ん だ古 典 を 主 体 と の関 わ り にお いて 理 解 し 、 批 評 す る能 力 。
[ 態度] ①古 典 へ の興 味 ・関 心 。 ② 古 典 に 親 し み、 進 ん で読 も う と す る態 度 。 ③ 古 典 を 読 む こと に よ って 、豊 か に生 き よ う と す る 態 度 。
︵三︶古 典 の 授 業 活 性 化 の 方 法 1 授 業 活性 化 の方 法
古 典 学 習 指 導 の問 題点 と そ の改 善 に つ いて 考 え てき た が 、 こ こ では 、 さ ら に古 典 の学 習 を 、 魅 力 あ る 生 き 生 き
と し た も の にす る た め の方 法 に つ い て考 え た い。 学 習 者 が 主 体 的 に古 典 の価 値 を 発 見 し 、 自 立 し た 古 典 の学 び 手
と し て 育 って いく た め に 、 授 業 の 活 性 化 は 不 可 欠 であ る 。 授 業 活 性 化 の方 法 を 、 一覧 の形 に し て掲 げ れ ば 、 次 の と お り であ る ︵注 9︶。
︵1︶ 古 典 を 学 ぶ 主 体 の育 成
︵ 興 味 ・関 心 、 意 欲 を 喚 起 す る テ ー マ の設 定 ︶
① 学 習 者 の 興 味 ・関 心 と 意 欲 の喚 起 ア. 学 習 テ ー マの設 定
イ. 導 入 の 工 夫 ︵ 短 期 ・長 期 に わ た る導 入 の工 夫 ︶
ウ. 学 習 目 標 の明 示 ︵方 向 目 標 、 達 成 目 標 を 明 ら か に し 、 学 習 への意 欲 を 喚 起 ︶
エ. 学 習 の進 め 方 の 明 示 ︵ 学 習 課 題 、 学 習 の手 引 き に よ る授 業 計 画 と 授 業 内 容 の明 示 ) ② 主 体 的 ・積 極 的 学 習 オ. 班 別 学 習 、 個 別 学 習 ︵ 学習者 を生か し、主体的参 加を促す 形態︶ ③ 学 習 の充 実 感 と 達 成 感 、 反 省 と 課 題
力. 学 習 成 果 の集 積 ︵ 学 習 の記 録 ・ア ン ソ ロジ ー 作 成 ・文 集 な ど の冊 子 作 成 ) ④ 単 元学習
キ. 単 元 学 習 ︵ 主 題 に よ る学 習指 導 の統 合 、 多 様 な方 法 に よ る 言 語 能 力 の育 成 、指 導 形 態 の多 様 化 、 教 材 の 開 発 と 編成 、 基 本 ← 応 用 ← 発 展 等 の指 導 過 程 の工 夫 )
︵ 基 本 ← 応 用 ← 発 展等 に よ る ﹁読 み﹂ の深 化 と 言 語 能 力 の育 成 )
︵2︶ 学 習 の時 期 ・場 ・形 態 ・過 程 へ の配 慮 ア. 指 導 過 程 への配 慮
︵ 学 ぶ に 足 る価 値 を 有 す る 教 材 の開 発 ︶
︵ 三 年 間 の指 導 計 画 の立 案 )
イ. 指 導 形 態 の多 様 化 ︵一斉 ・班 別 ・個 別 の指 導 形 態 を 目 的 、 指 導 段 階 、 指 導 過 程 によ り採 用 ) ウ. 古 典 の 指導 体 系
︵3︶ 教 材 の開 発 と 編 成 の 工夫 ア. 発 見 を も た ら す 価 値 あ る教 材
イ. 主 題 ︵テ ー マ︶追 求 の た め の教 材 ︵ 主 題 の 発 展 ・深 化 、主 題 に基 づ く 重 ね 読 み ・比 較 読 み のた め の教 材 ︶
ウ. 指 導 過 程 ・指 導 段 階 に応 じ た 教 材 ︵ 指 導 過 程︱ 基 本 ← 応 用 ← 発 展 に 応 じ た 教 材 、 発 達 段 階 、 学 力 実 態 に 応じた 教材︶
︵ 朗 読 、群 読 ・討 議 、 虚 構 の表 現 等 に適 切 な 教 材 ︶
︵ 学 習 者 が 興 味 ・関 心 によ って 選 んだ 教 材 、 学 習 の成 果 の教 材 化 、学 習 者 の表 現 の教
エ. 様 々な 言 語 活 動 のた め の教 材 オ. 学 習 者 に よ る教 材 材化︶
︵4︶ 古 典 を 読 み ・味 わ い ・批 評 す る力 の育 成
ア. 学 習 の手 引 き
︵ ﹁読 み ﹂ の方 法 、 鑑 賞 の方 法 の提 示 、 学 習 の進 め 方 の提 示 ︶
︵ 感 想 文 、 小 論 文 に よ る 理 解 の深 化 、 鑑 賞 力 ・批 評 力 の育 成 ︶
︵ 登 場 人 物 の 日記 ・登 場 人 物 への手 紙 、 作 品 に 基 づ く 創 作 、 続 き 物 語 の創
イ. 表 現 に よ る理 解 の深 化 と 鑑賞 ・批 評 ウ. 虚 構 の表 現 に よ る 認 識 の 深化 作)
エ. 板 書 ︵ 発 問 と 板 書 事 項 と を 関 連 づ け 、 作 品 の構 造 に 即 し た 板 書 に よ る 確 か な 理 解 )
古 典の授業 活性化 の実 際
オ. 機 能 的 文 法 指 導 ︵読 み に機 能 す る 文 法 学 習 )
2
授 業 活 性 化 の方 法 を 生 か し た 例 と し て 、 ﹃徒 然 草 ﹄ の学 習 指 導 を 、 次 に紹 介 す る ︵ 注 10︶。
︵1︶ 指 導 目標
をと らえさ せる。
わ け 、 ア・ 世 界 観 、 イ ・ 人 生 観 、ウ・ 社 会 観 、 エ・ 自 然 観 、 オ・ 人 間 観 に つ い て 理 解 さ せ 、 兼 好 の人 間 像
① 徒 然 草 の いく つか の段 を 学 習 す る こ と を 通 し て、 兼 好 のも の の見 方 ・考 え 方 ・感 じ 方 を 理 解 さ せ る。 と り
② ① を 通 し て、 自 ら のも の の 見 方 ・考 え 方 ・感 じ 方 を 深 め さ せ る。
③ 徒然草 に頻出す る語、助 詞 ︵ 副 助 詞 、 係 助 詞 )、 助 動 詞 、 な ら び に表 現技 巧 ( 対 句 ・比 喩 ) を 理 解 さ せ る 。 ④ 徒 然 草 に 関 心 を 持 ち 、 積 極 的 に 学 習 に参 加 さ せ る よ う にす る 。
(2 ) 時 期 ・対 象 ・教 材
① 時 期 一九 九 五 年 一学 期 前 半 ②対象 三年生 二 クラス ( 文系) 五 五段
(﹃ 古 典 総 合 ﹄ 一九 九 四 年
(﹃日 本 古 典 文 学 大 系 ﹄)
③ 教 材 序 ・二 ・ 一九 ・五 九 ・七 三・一 七 四 ・ 一三 七 ・ 一四 二 ・ 一七 一段
(3) 学 習 指 導 の展 開
角 川 書 店 刊 )、 七 ・二 五 ・五 六 ・
学 習 指 導 は 、 大 き く は 、 導 入 、 基 本 学 習 、 発 展 学 習 に 分 け 、 さ ら に 基 本 学 習 を 、 展 開 、 ま と め に 分 け て 、 次 の よう に展開した。
(4) 活 性 化 の方 法
右 の ﹃徒 然 草 ﹄ の学 習 指 導 に お いて は 、 主 に 次 のよ う な 活 性 化 の 方 法 を 用 い て いる 。 ① 教 材 の開 発
理 解 の た め の観 点 設 定
導 入 に お け る ﹃徒 然 草 ﹄ 紹 介 の た め の教 材 開 発 、 学 習 テー マの た め の教 材 開 発 を 行 った 。 ② 学 習 テ ー マ の設 定︱
学 習 者 の関 心 に も 配 慮 し 、 兼 好 の理 解 を 目指 し て 、 テ ー マを 設 定 し た 。 テ ー マ の設 定 に よ って 、 読 み の切 り 口
基本 学習から発 展学習 へ
が 見 いだ さ れ 、 教 材 と の対 話 の 通 路 が 開 け 、 理 解 が 深 ま ると 考 え た 。 ③ 指 導 過 程︱
基 本 学 習 の 理 解 に立 って、 さ ら に 関 心 の あ る 章 段 を 選 び 、 主 体 的 に読 み 、 表 現 す る 学 習 を 発 展 学 習 と し て設 定 した。 ④ 理 解 と 表 現 の関 連 指 導
基 本 学 習 に お け る、 ア. 感 想 文 、 イ. 小 論 文 と 感 想 文
( 選 択 ) と 、 発 展 学 習 と し て の ウ. 要 約 と 感 想 と の三 つ
の表 現 の場 を 設定 し て いる 。 ア. 感 想 文 は 、 ひ と ま と ま り の教 材 を 学 習 す る ご と に書 か せ た 。感 想 文 は 、 読 みを
意 識 化 さ せ 、 そ れ が 学 習者 各 自 にと って の読 み のお も し ろ さ を 引 き 出 し 、 興 味 ・関 心 を 深 め る と 考 え る 。 イ. 小
論 文 は 、 基 本 学 習 の結 び と し て、 兼 好 のも の の見 方 ・感 じ 方 ・考 え 方 を と ら え さ せ る 一つの方 法 と し て課 し て い る。
( 古文) の学習指導 の探究
ほ か に 、 学 習 課 題 ・学 習 の手 引 き の作 成 な ど の方 法 を 用 い て いる が 、 こ こ では 割 愛 に 従 う 。
お わ り に ︱ 豊 かな古典
以上 、古典 ( 古 文 ) の学 習 指 導 の意 義 を 学 習 者 の視 点 に 探 り 、 従 来 行 わ れ てき た 学 習 指 導 の問 題 点 と そ の改 善
方 法 を 考 え 、 併 せ て古 典 の 授 業 の活 性 化 の方 法 と そ の実 例 を 紹 介 し た 。 こ こ で は 言 及 で き な か った が 、 魅 力 あ る
古 典 の学 習 指 導 の創 造 のた め に は 、 授 業 者 の授 業 力 の育 成 も 、 ま た 、 授 業 者 自 身 の古 典 学 習 の内 実 も 問 わ れ て い る と いえ る 。
古 典 の 学 習 指 導 は 、 つま る と こ ろ は 、 生 涯 に わ た る言 語 生 活 の豊 か さ に資 す る も の で な け れ ば な ら な い。 こ の 観 点 を 見 失 う こと な く 、 さ ら に 豊 か な 古 典 の学 習指 導 を 探 究 し た い。
注 1 植 垣節 也 ﹁古典 教育 の意義 ﹂ ﹃ 古典 解釈 論 考﹄ 和泉 書院 一九 八四年 六月
注
年 八月
注 2 渡 辺 春美 ﹁ 古 典 教育 の可能 性︱ 生 徒 の感想 を 中 心 に︱﹂ ﹃ 語 文 と教 育﹄ 鳴 門 教育 大学 国 語教 育 学会 一 九 九 五
注 3 大村 はま ﹁中 学生 の古 典 学習 ﹂ ﹃ 大 村 は ま 国語 教 室 3 古 典 に親 し ま せ る学 習 指導 ﹄ 筑 摩 書房 一九 九 一年 七月 六頁 注 4 注 3 に 同 じ 六 ∼ 八 頁
注 5 大村 は ま ﹁ 古 典 入門﹂ ( 注 3に同 じ 四五頁 ) 注 6 高橋 俊 三 ﹁古典 教育 に おけ る授業 理 論 への提 言﹂ 小和 田仁 ・小川 雅子 編集 ・解 説 ﹃ 国 語教 育基 本 論文 集成 第
17巻 国語科 と古 典教 育論 古 典 教育 論と 指導 研究﹄ 明 治図 書 一九 九 三年 四三三 頁 注 7 注 6 に 同 じ 四 三 六 ・四 三 七 頁
三九 ∼ 五六頁
注 8 増 淵恒 吉 ﹁教 材 研究 法序 説 ﹂ ﹃国語 科 教材 研究 ﹄ 有精 堂 一九 七 一年 四月 二∼ 二七 頁 、 田近洵 一 ﹁国語 学力 論 の構 想 ﹂全 国 大 学 国語 教育 学 会 編 ﹃ 国 語 科教 育I 国 語 学 力論 と 実 践 の課 題﹄ 明 治 図書 一九 八 三年 二月
一九 九 八 年 八 月 三 三 九 ∼ 三 四 一頁
注 9 渡 辺 春 美 ﹁豊 かな 古 典 教育 を 求 め て﹂ ﹃国 語科 授 業 活性 化 の探 究Ⅱ︱ 古 典 (古文 ) 教 材 を 中心 に︱﹄ 渓 水 社
注 10 渡辺 春美 ﹁﹃ 徒 然 草﹄学習 指導 の試 み− 表 現を 軸と し て−﹂﹃ 国 語教 育 研究﹄広島 大 学教 育学 部光 葉会 一九 九七 年三 月
︱認 識 世 界を 広 げ 、確 か な 国語 学 力 を育 て る
第 四 章 こ れ か ら の読 む こ と の学 習 指 導
は じ め に
本 は これ ま で に 生 き て き た 人 び と の体 験 の宝 庫 であ る 。 そ こ に は 体 験 が 言 葉 と な って 結 晶 し て い る 。
私 た ち は 、 文 字 を た ど り つ つ表 現 の意 味 を 見 いだ し て いく 。 人 生 と は どう いう も のか 、 私 を 取 り 囲 み 私 を 組 み
込 ん で いく 社 会 と 歴 史 と は ど う いう も のか 、 人 や社 会 を 生 成 さ せ包 み込 ん で い る自 然 と は ど う いう も のか 、 な ど の問 いに 、 本 は 、 答 え て く れ る。 さ ら に問 いを 投 げ か け てく れ る 。
本 を 読 む楽 し み は 、 ﹁他 者 ﹂ と の 出 会 いに あ る 。 ど の よ う な ﹁他 者 ﹂ と 出 会 う か 、 ど の よ う に出 会 う か 、 そ れ
は読 ん で みな け れ ば わ か ら な い。 読 ん でも 出 会 え な いか も し れ な い。 読 み手 に応 じ て 軽 い出 会 い にな った り 重 い
出 会 いに な った り す る 。 読 者 に応 じ て、 本 は浅 く 、 ま た 深 く ﹁ 意 味 ﹂ を あ ら わ す か ら であ る 。
読 み の目 当 て と 対 象 は さ ま ざ ま で あ る。 こ れ か ら の 生 涯 学 習 社 会 にお い ては 、 単 に 文 章 の よう な 連 続 し た テ キ
ス ト だ け でな く 、 図 表 や 統 計 グ ラ フな ど 非 連 続 の テ キ スト を 読 む 状 況 も 多 く な ってく る であ ろう 。 いず れ にし て
も 、 私 た ち は 、 テキ ス ト に そ って 、 意 味 を 自 分 な り に 見 いだ し つ つ ( 批 判 し つ つ、創 り つ つ) 読 ま な け れ ば な ら な い。
こ れ か ら の ﹁読 む こと ﹂ の学 習 指導 に お け る 大 き な 目 標 は、 自 分 の生 き 方 と 関 わ ら せ て主 体 的 に意 味 を 見 いだ
す 力 を 育 て、 考 え を ま と め て表 現 す る 、 自 覚 的 な 読 者 を 育 て る こ と にあ る 。 読 み の目 的 に応 じ て本 を 選 ぶ力 を 持 ち 、 自 分 の読 み方 に 意 識 的 な 読 者 を 育 て る こ と であ る 。
一 子 ど も 時代 の 読書 体 験
河 合 雅 雄 氏 は、 小 学 校 の頃 の読 書 体 験 を 次 のよ う に 回想 し て いる 。
小 学 校 三年 の時 、 不 幸 にも 小 児 結 核 に か か り 、 大 学 ま で学 業 と は 縁 が薄 く 、 私 を 育 て た 豊 か な 境 地 は 読 書
であ った 。 兄 弟 取 り 合 い で読 ん だ ﹁少 年 倶 楽 部 ﹂ で は 、 高 垣 眸 の ﹃ 怪 傑黒 頭巾﹄ や乱歩 の ﹃ 怪 人 二十 面 相 ﹄
が 待 ち 遠 し か った 。 吉 川 英 治 の ﹃ 神州 天馬侠﹄ や大佛次 郎 の ﹃ 鞍 馬 天 狗 ﹄ は 、 古 雑 誌 を 引 っ張 り だ し て耽 読 した。
少 時 何 よ り も 病 床 で の大 き な 支 え と な った の は 、 昭 和 初 期 に刊 行 さ れ た ア ル ス社 の ﹃日 本 児 童 文 庫 ﹄ 七 六
巻 であ る 。 面 白 そ う な も のを 手 当 た り 次 第 広 げ て いた が 、 中 でも 民 話 や童 話 な ど の物 語 系 や 、 考 古 学 と 動 植
物 関 係 の著 作 が 気 に入 って いた 。 伝 説 ・民 話 は柳 田 國 男 、童 話 は 藤 村 や未 明 、 動 物 は 石 川 千 代 松 、 西 洋 史 は
大 類 伸 と い った 、 当 代 一流 の 人 が 執 筆 し て いた 。 石 原 純 、 鶴 見 祐 輔 の名 も あ る。 ( 中略)
一流 の人 の著 作 は 、 子 ど も に大 き な 影 響 を 与 え る 。 繰 り 返 し 読 む こ と に よ り 、 知 識 は も と よ り い つ のま に
か 文 章 力 も 身 に つ いた と 思 う 。 そ し て 抄 訳 で あ れ 、 す ぐ れ た 作 品 は 感 動 を く っき り と 心 に刻 み 込 む も のだ 。
( 中略)
テ レ ビ と 違 う 読 書 の効 用 は 、 創 造 力 の涵 養 であ る。 想 像 力 は創 造 力 の源 泉 だ ︵ 注 1 ︶。
こ れ は 、 家 庭 で の豊 か な 読 書 体 験 であ る が 、 ﹁取 り 合 い﹂ で本 を 読 み た が る よ う な 体 験 を 教 室 でも さ せ た いと 思 う 。
二 読 む こと の種 類
︵一︶文 学 を 読 む 楽 し さ
文 学 を 楽 し く 読 み 、 読 んだ 後 に 面 白 か った 、 と 思 う 体 験 を さ せ た い。 文 学 を 読 む 楽 し み は 、 虚 構 の世 界 に生 き
る 体 験 で あ る 。 虚 構 の世 界 を 生 き ると は 、 作 品 の 言 葉 を 手 が か り に 、読 み 手 が非 現 実 の 世 界 を 想 像 し な が ら生 き
て いく こ と であ り 、 そ れ は 読 み手 な り の ﹁作 品 ﹂ を 創 造 し つ つ読 む こ と であ る 。 そ の過 程 で 、 読 者 は 自 己 の 人 間
観 、 世 界 観 を 揺 さ ぶ ら れ 、 新 し い人 生 の見 方 へと 導 か れ 、 新 し い価 値 観 の入 り 口 に 立 つ。読 ん で面 白 か ったと い う 体 験 は 、 さ ら に 、 ﹁も っと 読 み た い﹂ と いう 次 な る読 書 への意 欲 を 喚 び 起 こ す 。 物 語 を 読 ん で得 ら れ る 面 白 さ に は 四 つ の要 素 があ る 。
一つは 、 ス ト ー リ ー を 追 う 楽 し さ で あ る 。 ﹃怪 傑 黒 頭 巾 ﹄ や ﹃ 怪 人 二十 面 相 ﹄ が 、 河 合 雅 雄 少 年 を 待 ち 遠 し が
ら せ た よ う に 、 現 代 の子 ど も は ﹁ハリ ー ・ポ ッタ ー ﹂ シ リ ーズ を 楽 し む 。 主 人 公 の上 に つぎ つぎ と 事 件 が 持 ち 上
が り 、読 者 を は ら は ら さ せ な が ら意 外 な 展 開 が 繰 り 広 げ ら れ る面 白 さ は 、ペ ー ジ を めく る のを 待 ち 遠 し く さ せ る。
二 つめ は 、 ﹁こ こ﹂、 ﹁今 ﹂ を 超 え て生 き る 喜 び であ る 。 子 ど も の生 命 は 、 ﹁こ こ﹂、 ﹁ 今 ﹂ を 超 え て伸 び 広 が ろう
と す る 。 幼 児 の好 む 物 語 の 一つに ﹁お 使 いも の﹂ が あ る 。 お 母 さ ん に 頼 ま れ て 、 果 物 や パ ンを 買 い に行 く 。 町 角
の向 こ う に は 犬 が う ず く ま って いた り 、 水 た ま り が あ った り す る 。 さ ら に年 齢 が 上 が ると 、 ﹁山 の向 こう ﹂ に 出
か け る物 語 を 好 む 。 あ の峠 の向 こう に は 、 何 か美 し いも の、 何 か素 晴 ら し いも のが あ る に 違 いな い、 と 主 人 公 は
出 か け て いく 。 子 ど も 読 者 は 主 人 公 と と も に ﹁あ こが れ﹂ を 抱 いて 小 さ な 旅 を す る 。
あ る いは 、 ﹁今 ﹂ を 超 え て、 昔 の世 界 に入 って い った り 未 来 の 国 に 入 って い った り す る 。 ト ンネ ル の向 こう や
扉 の向 こ う は 時 間 を 超 え た 場 所 で あ り 、 想 い は過 去 や未 来 に広 が る。 ﹁今 ﹂ と は 異 な った 世 界 が あ る こ と へ の興
味 と 関 心 は つき な い。 時 に時 間 を 超 越 し た ﹁永 遠 な る も の﹂ に 触 れ て心 を 震 わ せ る こと も あ る。 こ の ﹁永 遠 な る も の﹂ に触 れ て いる 時 を 、 鶴 見 俊 輔 氏 は 、 ﹁ 神 話 的 時 間﹂ と 言 って い る。
︵ 真 実 ︶﹂ に 触 れ る
扉 の向 こう は ﹁夢 の国 ﹂ でも あ り 、 心 の世 界 でも あ る。 人 間 の心 があ や な す 幻 想 の世 界 で あ る 。 フ ァ ン タ ジ ー
の世 界 に 遊 ぶ こ と に よ って、 心 の世 界 の深 さ 、 妖 し さ を 感 じ と る 。 事 実 を 超 え た ﹁ほ ん と う 時 でもあ る。
言 葉 を 手 が か り に 想 像 の世 界 に 生 き る 過 程 に お い て、 人 は 想 像 力 を 養 う 。 批 評 精 神 を 媒 介 に し た ﹁こ こ ・今 ﹂
を 超 え る想 像 力 は 、 新 し い ﹁も の ・こと ﹂ や 世 界 像 を 生 み出 す 。 河 合 雅 雄 氏 が ﹁読 書 の効 用 は 、 創 造 力 の涵 養 で あ る 。 想 像 力 は 創 造 力 の 源 泉 だ ﹂ と 言 わ れ る 所 以 であ る 。
三 つめ は 、 ﹁他 者 の生 を 生 き る﹂ 面 白 さ で あ る 。 物 語 の中 で は き つね や 植 物 も 人 間 と 同 じ よ う に 心 を 持 った 存
在 と し て描 か れ る こと が多 い。 こ れ ら す べ て ﹁人 物 ﹂ で あ る。 読 者 は そ の作 品 の読 み に お いて ﹁人 物 ﹂ と 同 化 し
た り 、 異 化 し た り し て生 き る 。 ﹁は ら は ら す る﹂ のは そ の た め であ る 。 読 書 を と お し て他 者 の生 を 生 き る体 験 は 、
自 己 の内 面 に 他 者 を 住 ま わ せ る こ と であ り 、 他 者 への 認 識 を 深 め 自 己 のも の の見 方 や 感 じ 方 を 豊 か に し て いく 。 そ れ は 同 時 並 行 的 に自 己 の ﹁ 内 面 ﹂ を 見 いだ し て いく 過 程 で も あ る 。
人 は 、 こ の よう な 自 分 と は 違 う 人 物 と の ﹁出 会 い﹂ に お い て、事 実 や現 実 を 超 え た ﹁何 か﹂ に触 れ る 。 そ れ は 、
精 神 的 な も のと の 出会 い であ り 、 現 実 の自 己 を 超 え て ﹁何 か ﹂ に出 会 う と いう 意 味 にお い ては 超 自 然 的 な も のと
の触 れ 合 い であ る 。 人 は そ の時 、 身 の震 え るよ う な 感 動 に浸 り 、 言 葉 で は あ ら わ し が た い瞬 間 を 生 き る。 真 実 の 世 界 に触 れ た の で あ り 、 ﹁ 神 話 的 世 界 ﹂ に生 き た 、 と も 言 え よ う 。
こ の真 実 の世 界 に触 れ る体 験 ま た は 神 話 的 世 界 に 生 き た 体 験 は 、 人 の心 にあ た た か い ﹁ 灯 ﹂を ともし、生涯 に
亘 って人 生 を 肯 定 す る よ り ど こ ろ と な り 、 明 日も 生 き よ う と す る意 欲 の源 泉 と な る 。 ま た 、 真 実 の世 界 に触 れ た
体 験 は 、 現 実 の さ ま ざ ま な 出 来 事 を 批 評 す る ﹁眼 ﹂ と な る 。 生 活 を 真 実 の世 界 に 近 づ け よ う と す る 批 評 精 神 は 、 人 び と の未 来 への 認 識 を よ り 確 か な よ り 豊 か な も のに す る。
四 つは 、表 現 の 方 法 にも 関 心 を も って 読 む こ と で あ る 。 こと ば の ﹁あ や ﹂と ﹁深 さ ﹂ を 楽 し む と 言 っても よ い。
例えば、 ﹃ かさ ごじぞう﹄ ( 岩 崎 京 子 ) に お い て、 お じ いさ ん は 売 れ な か った 笠 を お 地 蔵 さ ん にか ぶ せ て帰 る 。 そ
し て 老 夫 婦 は ﹁つけ な か み か み 、 お ゆを のん で休 み ま し た ﹂ と 書 か れ て いる 。 こ の表 現 は貧 し さ と そ れ に耐 え て
生 き る 二 人 のお お ら か さ と た く ま し さ を 感 じ さ せ る 。 語 り 手 も 貧 し さを 楽 し く 耐 え て い る よ う であ る 。 子 ど も 読
者 も 二人 の心 に共 鳴 し て いく 。 説 明 文 や広 告 文 に お い ても 、 そ の用 語 の 選 び 方 、 レ ト リ ック 、 レイ アウ ト な ど に
留 意 し て読 む と 、 送 り 手 の立 場 が 明 確 にな り 、 共 鳴 し た り 批 判 し た り す る こと が 可 能 に な る 。
︵二︶知 識 を 広 げ る読 み
南 野 理 子 さ ん は 、 ﹁幼 稚 園 で も ら った じ ゃが 芋 に は 土 が つ い て い る の に 、 ど う し て胡 瓜 に は 土 が つ いて な い
の? ﹂ と いう 息 子 さ ん の質 問 に 、 野 菜 に は 、① 実 を 食 べ る 野菜 、② 葉 を 食 べ る 野 菜 、 ③ 根 を 食 べ る 野 菜 、 の 三種
が あ り 、 じ ゃが 芋 は ③ だ か ら 土 が つ い て いる 、 と 説 明 す る 。 と こ ろ が 、 ﹃ 講 談 社 カ ラ ー科 学 大 図 鑑 野菜 と く だ
も の﹄ で 調 べ る と 、 そ れ は 間 違 い で、 ほ ん と う は ﹁茎 ﹂ であ る こと が わ か り 、 ④ ﹁茎 を 食 べ る 野 菜 ﹂ も あ った こ
と を 知 る 。 さ ら に じ ゃが 芋 の花 の色 は ﹁何 色 ? ﹂ と いう 疑 問 を 抱 い て 、 ﹃不 思 議 が わ か る 自 然 図 鑑 し ょく ぶ つ﹄
(フレ ー ベ ル館 刊 ︶ を 借 り る と 、 じ ゃが 芋 が 地 下 の茎 の 膨 ら ん だ も の で あ る こ と が よ く わ か る図 が 載 って いた の
で 、 図 鑑 を 使 って息 子 さ ん への 誤 った 説 明 を 訂 正 す る こと が で き た 。 こ の経 験 か ら 、 図 書 館 と 本 屋 さ ん と の違 い
に気 づ く 。 ﹁花 の こ と に疑 問 を も た な け れ ば 、 こ の本 に 出 会 わ な か った の で す 。 本 屋 さ ん で は 野菜 を 調 べ て いる
と き に、 ま ず こ の本 を 手 に と る こ と は な い でし ょう 。 し か し、 図 書 館 で は 疑 問 に 関 し た 本 が す ぐ 目 の前 に 並 べ て あ る の で、 便 利 です 。 そ し て おも わ ぬ 収 穫 も 得 る の で す ﹂ ( 注 2) と 述 べ て いる 。
そ し て 、 さ ら に 別 の 図 鑑 に よ って 、 ﹁じ ゃが 芋 は 茄 子 科 ﹂ で あ る こ と を 知 り 、 ほ か にも 発 見 が あ る かも し れ な
いと 、 も う 一度 四 冊 の 本 を 読 み直 す 。 こ れ を き っか け に 南 野 さ ん は つぎ つぎ と 本 を 借 り て知 識 を 広 げ て いき 、 つ いに は 、 天 王 寺 蕪 に つ い て調 べ 、 漬 け て食 べ る に いた った 経 験 を 報 告 し て い る。
南 野 さ ん は 、 本 で知 識 が つぎ つぎ と 広 が っ て いく 体 験 を ﹁ワ ク ワク ﹂ と 記 し て い る 。 書 物 を 整 理 し て保 管 し 、
レ フ ァレ ン スサ ー ビ ス を受 け る こ と も でき る 図 書 館 利 用 の効 用 も 述 べ て いる 。 本 を と お し て新 し い知 識 に 出 会 う ﹁ワ ク ワ ク ﹂ 体 験 を 子 ど も た ち の学 校 時 代 に 多 く も た せ た い。
︵三︶イ ン タ ーネ ット の活 用
私 の場 合 、 書 籍 や 言 葉 に つ い て の情 報 は イ ン タ ー ネ ット か ら 得 る こ と が 多 い。 新 刊 情 報 は 以 前 は新 聞 広 告 に 頼
る こと が多 か った が 、 近 年 は イ ン タ ーネ ット を 利 用 し て いる 。 イ ン タ ー ネ ット の情 報 に は 目 次 や読 者 の読 後 感 な
ど が 添 え ら れ てお り 、 情 報 量 が 多 いか ら で あ る。 た と え ば 、 方 言 に つ い ては 北 海 道 か ら 沖 縄 ま で広 く 知 識 を 得 る
こ と が で き る 。 若 者 言 葉 に関 し て は 、 流 行 語 と の 関 連 を 考 慮 し た 時 代 に よ る変 化 を 知 る こと が でき る 。 つま り 、
イ ン タ ーネ ット を 使 う こと に よ って場 所 と 時 間 を 超 え た 情 報 を 得 る こと が でき る の であ る 。
二十 一世紀 は 情 報 化 社 会 であ る 。 I T革 命 の進 行 は 、 テ レビ 、パ ソ コン 、ケ イ タ イ な ど の メ デ ィ アを 発 達 さ せ 、
必 要 な 情 報 のほ と ん ど を 居 な が ら にし て手 に 入 れ る こ と を 可 能 に し つ つあ る 。 し か し 、 便 利 さ と いう 光 の反 面 に
は 、 人 び と を 受 け 身 に し た り 、 間 接 情 報 に よ って自 然 や 出 来 事 に 直 接 触 れ る こと を 妨 げ た り す る 場 合 も あ る。 ま
た 瞬 時 に流 れ て いく 情 報 は 、 人 び と を 感 覚 的 に す る 。 じ っく り と 、 感 じ 、 考 え 、 判 断 す る 時 間 を 奪 う こ と にな り
が ち であ る 。 活 字 情 報 に お いて は 、 ゆ っく り と 時 間 を か け て考 え な が ら 読 む こと や 繰 り 返 し 読 む こと が 可 能 で あ
る 。 I T 情 報 と 活 字 情 報 への接 し 方 の 違 いに つ い て 、 ﹁思 考 力 ﹂ ・﹁主 体 性 ﹂・﹁表 現力 ﹂ と いう 点 か ら 比 較 考 察 し て 双 方 の特 質 を 生 かす ﹁読 み方 ﹂ を 生 み出 し て いく 必 要 が あ ろう 。
こ れ か ら の 情 報 化 社 会 に お いて は 、 人 び と は 送 り 手 に な る よ り も 受 け 手 に な る場 と 機 会 が多 く な る 。受 け 手 と
な った 場 合 に は テキ ス ト の価 値 を 判 断 し 、 選 択 し 、 加 工 し て生 活 に 生 か す 力 が 求 め ら れ る。 生 活 の必 要 に 応 じ て
情 報 を 集 め、 そ れ を 生 活 に 役 立 て 、 熟 考 し 批 判 し 、 自 分 の考 え を ま と め て表 現 す る力 が 求 め ら れ て いる 。 テキ ス
ト の 、 いわ ば ﹁新 し い読 み 手 ﹂ に な る こと が 必 要 であ る 。 情 報 の主 体 的 な 受 け 手 に な る こと が 求 め ら れ て いる の であ る 。
三 読 む こ と の学 習 指 導
︵一︶読 書 の 三方 法 読 書 の方 法 と し て は 、① 精 読 、 ② 多 読
︵・摘 読 ︶、 ③ 再 読 ︵・味 読 ︶ の 三 つが 考 え ら れ る。
精 読 は 、 本 の内 容 を 精 確 に読 む こと であ る 。 語 句 を た ど って ﹁語 ﹂ の意 味 を 捉 え 、 文 脈 に 即 し て ﹁文 ﹂ の意 味
を 把 握 し 、 文 章 構 造 を 考 え て段 落 ご と の要 旨 を 理 解 し 、 文 章 全 体 の要 旨 を 捉 え る 。 そ の過 程 で 、 必 要 に応 じ て 、
音 読 す る 、 辞 書 を 引 く 、 主 要 語 句 を 関 係 づ け てイ メ ー ジ マ ップ を 作 る、 要 点 を 書 き 抜 い て 箇 条 書 き に す る 、 な ど の活動をす る。
多 読 ︵・摘 読 ︶ は 、 関 心 に応 じ て多 く の本 を 読 む こ と であ る 。 必 ず し も は じ め か ら 終 わ り ま で読 み 通 す 必 要 は
な い。 関 心 や 問 題 意 識 に し た が っ て、 目 次 、 小 見 出 し 、 索 引 を 手 が か り に 必 要 な こ と を 読 み と る 。 関 心 や 問 題 に
関 わ る 事 項 を メ モし た り カ ー ド に書 き う つし た り す る 。 一冊 の本 を 読 む と 、 関 連 す る 事 柄 へと 問 題 は網 の目 の よ
う に広 が って いく であ ろう 。 引 用 さ れ て いる文 献 が 読 み た く な り 、 掲 げ ら れ て いる参 考 文 献 を 読 みた く な る。 そ
う し て 関 連 す る本 を つぎ つぎ と 読 ん で いく の で あ る 。 多 読 は 読 書 への意 欲 を 刺 激 し 、 読 書 生 活 を 豊 か に す る。 多
︵・味 読 ︶ は 、 わ か ら な か った 意 味 を 問 い直 し た り 、 自 己 の 理 解 を 確 か め た り 、 表 現 の良 さ を 味 わ った り
読 は思 考 を 展 開 さ せ 、 問 題 を 多 角 的 に 認 識 し て いく ﹁眼 ﹂ を 養 う 。 再読
す るた め に 二度 三 度 と 繰 り 返 し 読 む こ と であ る 。 五 年 後 あ る い は 十年 後 に思 い出 し て 読 み 返 す こ と も あ る であ ろ
う 。 す ぐ れ た 作 品 は 、 再 読 を 促 す 力 を 持 って いる 。 再 読 す る た び に 、 読 者 の読 み は 深 ま る 。 読 者 の中 で言 葉 と 思
想 が 捉 え な お さ れ 豊 か に な って いく 。 読 者 の中 で教 養 が身 に つ いて いく の で あ る 。
︵二﹁読 ︶ む こ と ﹂ の指 導 の 展 開 国 語 科 教 育 に お い て は 、 読 解 指 導 、 読 書 指 導 、 読 書 生 活 の指 導 を お こ な う 。
1 読 解 指 導
文 章 を 精 確 に読 む 力 を 育 て る 指 導 で あ る 。 精 読 す る力 を 育 て ると 捉 え る こと も でき よう 。 これ ま で の国 語 科 の
学 習 指 導 に お いて 最 も 時 間 を か け てお こ な わ れ て き た 。 そ の歩 み の中 で 、 文 学 作 品 の読 み 方 と 説 明 的 文 章 の読 み
方 と は 区 別 し てお こ な う べき で あ る、 と いう 考 え 方 が 共 有 さ れ る よ う に な ってき た 。
文 学 作 品 の読 み に お い て は 、① 叙 述 を 手 が か り に 、 ② 構 想 を 明 ら か に し て、 ③ 主 題 を 捉 え る 、 と いう いわ ゆ る
三 読 法 が と ら れ てき た が 、 近 年 で は ﹁主 題 を 捉 え る こと ﹂ に こ だ わ ら な い で、 子 ど も は 一人 の自 立 し た 読 者 で あ
る と 考 え て 、 子 ど も 読 者 が 読 者 な り の意 味 を 見 いだ し て いく 方 法 が お こ な わ れ る よ う にな ってき た 。 そ の 一つ の 方 法 お よ び内 容 と し て 、 私 は次 のよ う な 指 導 の観 点 を 提 起 し て き た 。
①何 を感じた か。 ② ど の表 現 が 心 に 残 った か 、 そ れ は な ぜ か 。 ③ 誰 が 変 わ った か 。 ④ ど のよ う に変 わ った か 。
⑤ な ぜ 変 わ った か 。 ⑥ 変 わ った こ と を ど の よう に思 う か 。
こ の文 学 を 読 む 観 点 を 、 自 己 の方 法 と し て生 か せ る よ う に 自 覚 さ せ て いき た い。
4
3
2
1
題 名 に つ いて考 え る︱
読 み の過 程 で 思 った こと を 書 き つけ 、 そ れ を 関 係 づ け る 。
自 己 の生 活 と 関連 さ せ て読 む 。
人 物 の行 動 の変 換 点 に立 ち 止 ま って ﹁な ぜ ﹂ と 問 う 。
心 に残 った 表 現 の視 写 と 音 読 。
指 導 の方 法 と し て は 、 次 の よ う な 観 点 で 話 し 合 いを と お し て お こ なう こと が考 え ら れ よ う 。
5
作 品 か ら 読 者 と し てど の よ う な 意 味 を 見 いだ す か 。
サ ブ タイ ト ルを つけ る 。
6
説 明 的 文 章 の読 み に お い ては 、 読 む 目 的 に応 じ て、 要 点 や要 旨 を 捉 え る力 を 育 て る 。 これ ま で 、 次 のよ う な 指 導 過 程 が と ら れ てき た 。
①全 体 を 通 読 す る 。 ② 冒 頭 の段 落 か ら 順 に小 段 落 ご と に内 容 を 読 み 取 る。
③ 各 段 落 の要 旨 を 関 係 づ け 大 段 落 に 分 け る 。 ④ 大 段 落 を 関 係 づ け て 全 体 の要 旨 を 捉 え る 。
こ の方 法 は 、 こ れ か ら も 生 か さ れ て よ いが 、 子 ど も 読 者 を い っそ う 主 体 的 ・積 極 的 な 読 者 に育 て る た め に 、 次
4
3
2
1
題 名 お よ び 冒 頭 の段 落 と 深 い関 連 のあ る 語 句 を キ ー ワ ー ド と し 、 キ ー ワ ー ド を 関 連 づ け て マ ップ を 作
小 段 落 、 あ る いは 大 段 落 ご と に小 見 出 し を つけ る 。
既 知 の こと ( ま た は 経 験 し た こと ) と 文 章 の内 容 と を 照 ら し 合 わ せ な が ら読 む 。
段 落 ご と に次 の内 容 を 予 想 し な が ら読 む 。
題 名 か ら 文 章 の内 容 を 予 想 す る。
のよ う な 観 点 で話 し 合 いを と お し て お こ な う こ と も 考 え ら れ よ う 。
5
6
文 章 の要 旨 お よ び 述 べ か た を 批 評 す る 。
文 章 の要 旨 を 捉 え る た め に 要 約 す る 。
る。
7
文 学 作 品 の読 み に お いても 説 明 的 文 章 の読 み に お いても 、 意 味 マ ップ を 書 き な が ら読 む 方 法 が 開 発 さ れ つ つあ
る。 題名 やキ ー ワー ド か ら連 想 さ れ る 語 を メ モ と し て書 き 留 め る の であ る。 そ し て 、書 き 留 め ら れ た 語 を 線 で結 ん で マ ップ に し て いく 。 こ の方 法 は 、 二 つの点 で 意 義 があ る 。
一つは 、 読 み の過 程 で ひ ら め いた 思 い つき や 連 想 し た こと を 一語 で即 座 に 書 き 留 め る 。 読 み は 意 味 を 求 め て前
後 を 関 係 づ け て いく の で あ る が 、 時 間 の経 過 の中 で忘 れ ら れ て いく 出 来 事 や 言 葉 も 多 い。 そ れ を メ モ と し て書 き
留 め よ う と いう わ け であ る 。 脳 研 究 で は 、 右 脳 が 感 性 的 に直 感 を 働 か せ て イ メ ー ジ (映 像 的 ) 思 考 を し て お り 、
左 脳 が 論 理 的 に 思 考 し線 条 的 に関 係 づ け る 働 き を し て いる と いわ れ て いる 。 マ ップ 作 り は 、 一瞬 に し て 消 え て い く ひ ら め き を 書 き 留 め 、 次 な る左 脳 の線 条 的 思 考 へと 発 展 さ せ る 契 機 と な る 。
いま 一つは 、 読 み の前 後 に お い て、 題 名 や キ ー ワ ー ド か ら 連 想 す る語 句 を 書 き 留 め 、 読 み な が ら連 想 さ れ る語
句 を 書 き 留 め 視 覚 化 す る こと に よ って、 そ の読 者 ら し い読 み の 観 点 や傾 向 を 自 覚 す る こと が でき る。 読 者 に よ る
主 体 的 な 読 み を 創 り 上 げ て いく こ と を 助 け る の であ る 。 ひ ら め き や 連 想 を メ モす る 過 程 で言 語 化 能 力 が 育 て ら れ
( リ ー デ ィ ン グ ・リ テ ラ シ ー ) の 指 導
←
何を
ど んな に
と いう 、
動機
←
目 的← 対 象 ︵ 資 料︶
る。 意 味 マ ップ を 生 か し た ﹁確 か な 読 み﹂ と ﹁個 性 的 な 読 み﹂ と を 育 て る 実 践 を 試 み て いき た い。
2 読 書 力
︱ 読書 行為を経 験さ せる
何 のた め に ︵ 注 3 ︶。
←
野 地 潤 家 先 生 は 、 読 書 行 為 に つ い て次 の よ う に述 べ て いら れ る 。
読 書行 為 ︵ 読 書 活 動 ︶ は き っか け ← 方法 と し て と ら え る こ と が で き る
読 書 指 導 は 、 こ の読 書 行 為 を 指 導 す る こ と であ る。 つま り 、 読 書 への意 欲 を 育 て る こと 、 目 的 を 持 って読 書 さ
↓
せ る こ と 、 資 料 を 探 し 選 択 す る力 を 育 て る こ と 、 各 自 の読 書 方 法 を 自 覚 さ せ 豊 か にす る こと 、 で あ る。
国 語 科 で お こ な う 読 書 指 導 と し て 開 発 さ れ て き た 方 法 を 、 次 の五 つの パ タ ー ン にま と め る こ と が でき よ う 。
こ こ で は 、 こ の う ち の ブ ック リ ス ト 作 り ︵③図 書 紹 介 型 )と 調 べ 学 習 ︵④情 報 活 用 能 力 育 成 型 )を と り あ げ る 。
(1) ブ ック リ スト 作 り の 実 践 ( 小 学 校 三年 生 )
岡 本 貢 和 ( 福 岡 県 筑 紫 野 市 立 原 田小 学 校 ) 教 諭 は 、 三学 年 ﹁白 いぼう し ﹂ の学 習 指 導 に お い て 、第 一次 で 、 ① 次 の よう な ク イ ズ を 出 し て いる 。
Q 1 車 の中 に 入 れ て いた 夏 み か ん は 、 だ れ か ら 送 って き た の で し ょう 。 Q 2 白 い ぼ う し は ど こ に 落 ち て い た の で し ょ う 。
Q 3 ぼ う し の 中 か ら 何 が 出 てき ま し た か 。
Q 4 ぼ う し の持 ち 主 は だ れ です か 。 Q 5 松 井 さ ん は ぼ う し の か わ り に何 を 入 れ ま し た か 。 Q 6 女 の子 は ど こ へ行 き た いと 言 いま し た か 。 Q 7 ﹁よ か っ た ね ﹂、 ﹁よ か っ た よ ﹂ と は だ れ が 言 っ て いる の で し ょう か 。
そ の後 、 ﹁手 び き ﹂ を 使 っ て 、 ② 心 に 残 った と こ ろ を 書 き 抜 く 、 ③ 使 って み た い言 葉 や 表 現 を カ ー ド に 書 き 取 る 、 ④ ﹁好 き な 場 面 、 そ の わ け ﹂ を 書 か せ る 、 な ど の活 動 を さ せて いる。① は、作 品をき ち んと読 み取ら せるた め のア ニ マシ オ ン の 一変 形 で あ る 。 ② ∼ ④ は 、 物 語 の 読 み方 、 そ の 着 眼 点 を 学 ば せ る ﹁手 び き ﹂ であ る 。 こ のよ う に ﹁読 み の 方 法 ﹂ を 身 に つけ た 後 、 第 二 次 で、 あ ま ん き み こ 氏 の他 の 本 を 紹 介 し 、 読 書 の 時 間 を 設 け て ﹁続 け 読 み ﹂ を し 、 学 級 の全 員 が 一人 一枚 の リ ス ト を 書 き 合 冊 し て ブ ック リ ス ト を 作 った 。 下 に示 す の は そ の 一例 で ある ( 注 4)。 第 三 次 は 、 図 書 室 や 廊 下 への掲 示 、 市 民 図 書 館 で の展 示
︿児 童 の作 成 し た ブ ック リ ス ト の例 ﹀
を お こ な った 。 あ ま ん き み こ 氏 の フ ァ ン タ ジ ー の 面 白 さ を 感 じ 取 ら せ 、フ ァ ン タ ジ ーを 読 む 方 法 を 学 ば せ 、心 で
感 じ 取 る し か な い ﹁ほ ん と う のも の﹂を 認 識 さ せ 、言 葉 で表 現 す る 方 法 を 学 ば せ て いる 。 精 読 、 多 読 、 本 を 選 択 し て紹 介 (表 現 ) す る 、 と いう 力 を 育 て て いる の で あ る 。
目 的 を 持 った 読 書 を 経 験 さ せ る た め に 、 学 習 指 導 の 中 に 調 べ る 活 動 を 設 定 し た り 、 読 書 会 を 開 いた り す る 。
﹁い ろ い ろな 遊 び に つい て 調 べ て報 告 し よ う ﹂ と いう 課 題 を 出 し た り 、 ﹁ 友 情 と いじ め ﹂ と いう テ ー マ で読 書 会 を
し た り す る の で あ る。 ﹁読 み な が ら 調 べ﹂ ・﹁調 べ な が ら 読 む ﹂ 学 習 指 導 を 積 極 的 に 勧 め た い。 前 掲 の南 野 さ ん が
し た よ う に 、 ︿な ぜ 、 じ ゃが 芋 に は 土 が つ い て いる か ﹀ と いう よ う な 疑 問 を 持 って 調 べ始 め る と 、 問 いに 答 え て
いる 本 はど れ か 、 と 数 冊 の本 を 比 べ、 適 切 な 本 を 選 ぶ 経 験 を ひ と り で に お こな う よう にな る 。
( 川 口市 立 在 家 中 学 校 ) 教 諭 は 、 中 学 校 二学 年 の教 室 で説 明 文﹁三 十 年 後 の森 林 ﹂ を 核 の学 習 材 に
︵2︶ 調 べ 学 習 の実 践 五十嵐清美
︵△印 ︶ を 補 充 し た 学 習 指 導 を お こな って いた ( 注 5)。
し て ﹁調 べ読 み ﹂ の基 礎 的 方 法 と し て ﹁比 べ読 み ﹂ の学 習 指 導 を し て いる 。 五 十 嵐 教 諭 は 、 ﹁三 十 年 後 の森 林 ﹂ ま で に 、 次 の よ う な プ リ ント 教 材
﹁朝 の光 の中 で ﹂ ︵川 端 康 成 ︶ △ ﹁こ と ば の力 ﹂ ︵ 筑摩 教科書 ︶ △ ﹁こ と ば の発 生 ﹂ ︵イ リ ン ﹁人 間 の歴 史 ﹂︶ △ ﹁こ と ば の種 類 と 働 き ﹂ ︵ 西 尾 実 ﹁日 本 人 の こ と ば ﹂︶
△ ﹁も の言 う こと ﹂ ︵桑 原 武 夫 ︶ ﹁会 議 を さ さ え る も の﹂ ︵ 宮 地 裕 ︶ △ グ ル ー プ 研 究 ﹁討 議 の形 式 と 役 割 ﹂ ﹁会 議 の進 め 方 ﹂/ ﹁方 言 と 共 通 語 ﹂ △ ﹁方 言 と 共 通 語 ﹂ ︵ 筑摩 教科書︶ ﹁サ ー カ ス の馬 ﹂ ︵ 安 岡章 太 郎 ︶ △ ﹁女 工 哀 史 ﹂ ︵ 木下順 二︶ △ ﹁水 ﹂ ︵ 佐多稲 子︶
中 学 二 年 生 に、 言 葉 への 関 心 と 理 解 を 深 め 、 話 し 合 い の仕 方 を 学 ば せ 、 時 代 状 況 の 中 の人 間 の 生 き 方 に つ い て 考 え さ せ た 後 、 ﹁三十 年 後 の森 林 ﹂ の学 習 指 導 に入 っ て い る。
﹁三 十 年 後 の森 林 ﹂ で は 、 ま ず 文 章 を 読 ま せ 、 内 容 、 こ の 文 章 の考 え 、 主 張 を グ ル ー プ ご と に ま と め さ せ て い る。
次 に 、 い った い現 実 には 自 然 の問 題 が ど う な って い る の か を 子 ど も た ち に調 べ さ せ た 。各 グ ルー プ ご と に 、
新 聞 の切 り 抜 き な ど で き るだ け多 く の資 料 を 集 め さ せ 、 そ れ を 読 み 合 い、 発 表 さ せ 合 った 。 そ の結 果 、 尾 瀬
の自 然 破 壊 の問 題 を は じ め 、 驚 く ほど そ う し た 問 題 が 日本 の い た る と こ ろ で起 き て いる こと を 知 って 、 子 ど
も た ち は 次 第 に 自 然 破 壊 の事 実 に 目 が 向 い て い った 。 今 ま で新 聞 な ど 読 ま な か った 子 ど も が 、 毎 日新 聞 に目
を 通 す よ う にな って い った 。
集 ま った 資 料 の中 か ら 、 読 売 新 聞 の社 説 ﹁都 市 の自 然 を 回 復 す る た め に﹂ を プ リ ン ト し 、 教 科 書 の ﹁三 十
年 後 の森 林 ﹂ と 比 較 さ せ て読 ま せ た 。 社 説 の内 容 は 、 ﹁五 十 年 後 に は 東 京 の緑 が 全 滅 す る﹂ と いう 自 然 の危
機 か ら 、 ど う 自 然 を 回復 し て いく か に つ いて 書 いて いる 。 そ し て、 自 然 保 護 は 単 に 緑 だ け の 問 題 で は な く 、
自 然 の生 態 系 を 抜 き に し ては 考 え ら れ な いと し て 、 そ れ を 無 視 し ブ ル ド ー ザ ー で開 発 し て いく こと に 強 い警
告 を 与 え て いる 。 さ ら に 、 環 境 保 護 、 自 然 保 護 は 基 本 的 人 権 を 守 る も の であ る と し て いる 。
社 説 と ﹁三十 年 後 の森 林 ﹂ は自 然 のと ら え 方 が ま った く 対 照 的 で あ る 。 こ の 二 つの 文 章 を 比 較 し 、 ど こが
ど う ち が う か を グ ル ー プ で 話 し 合 い、 発 表 し 合 って い った 。 そ の中 で ﹁三 十 年 後 の森 林 ﹂ の 文 章 の 部 分 が 、 全 体 の主 張 であ る バ ラ色 の未 来 に つな が ら な いこ と を 発 見 し て い った ( 注 4)。
こ の よ う に 、 調 べ る 活 動 は 、 ﹁資 料 を 集 め る ﹂← ﹁比 べ る ﹂ ( 話 し 合 う )← ﹁違 いが わ か る﹂← 新 し い見 方 の発 見
︵ 認 識 の変 化 ︶ と いう 過 程 を と お し て、 子 ど も た ち に 発 見 を も た ら し 、 新 し い認 識 へと 向 か わ せ て い る 。 多 く の
資 料 を 集 め て 比 べ る学 習 活 動 は 、 批 判 力 を 養 う 大 事 な 初 歩 で あ る 。 問 題 点 が 見 え て く ると 、 子 ど も た ち は 積 極 的
に な り 、 主 体 的 に 調 べ 始 め る。 自 分 の意 見 を 表 現 す る よ う にも な る 。 主 体 的 な 読 者 に な って いく の で あ る 。
読 書 指 導 方 法 の五 つ のパ タ ー ン を 念 頭 に お い て、 学 年 初 め に カ リ キ ュラ ム を 編 成 す ると 、各 学 期 ・各 学 年 に お いて方 法 に変 化 を つけ 内 容 を 高 め て いく 系 統 化 が 可 能 に な る で あ ろ う 。
3 読 書 生 活 の指 導
私 た ち は 、 本 を 読 ん で未 知 であ った こ と を 既 知 に し 、 新 し い考 え 方 を 知 る 。 本 を 読 み な が ら 、 自 分 の考 え 方 と
突 き 合 わ せ 、 新 し い考 え 方 、 認 識 の仕 方 を 学 ぶ 。 そ し て 、 明 日 の生 活 に 対 し て の意 見 を 形 成 し 、 展 望 を 持 つ。 時
に は そ れ を ま と め て、 新 し い認 識 と し て生 み出 し て いく 。 本 を 読 ん で 、 自 分 、 社 会 、 自 然 を 認 識 し 、 生 活 を 豊 か
に し 、 将 来 の自 分 の生 き 方 を 創 り 出 す 生 活 が ﹁読 書 生 活 ﹂ であ る。 こ の よう な 読 書 生 活 に 習 熟 さ せ 、 習 慣 化 さ せ る 指 導 が ﹁読 書 生 活 指 導 ﹂ で あ る 。
二十 世 紀 の第 4四 半 期 に は 、 大 量 活 字 情 報 社 会 お よび マ ンガ 、 テ レビ 、 ア ニ メな ど の普 及 に よ る 映 像 情 報 社 会
にな って 、 子 ど も に 自 覚 的 な 読 書 生 活 を 確 立 さ せ る た め に 、 読 書 生 活 指 導 が 必 要 にな ってき た 。 読 書 生 活 を 習 慣
化 さ せ る た め に 、 ブ ック スタ ー ト ( 乳 児 の時 期 か ら 本 に 出 会 わ せ る ) 運 動 が 進 め ら れ 、 読 み聞 か せ が 家 庭 や 学 校
でお こ な わ れ 、 小 ・中 ・高 に お け る ﹁朝 の十 分 間 読 書 ﹂ 運 動 、 ア ニ マシ オ ン の紹 介 と 普 及 、 な ど が お こ な わ れ て
き て いる こと は 周 知 の事 実 で あ ろう 。 こ の よう な 運 動 を 継 続 し 、発 展 さ せ る こと は今 後 と も 重 要 であ る 。 これ に
合 わ せ て 、 学 校 に お いて ﹁読 書 生 活 指 導 ﹂ を お こな って いく こと が 期 待 さ れ て い る 。
大 村 は ま 氏 は 、 一九 六 六 ∼ 一九 六 八 年 の 三年 間 持 ち 上 が り の実 践 に基 づ い て ﹁読 書 生 活 指 導 ﹂ の計 画 案 を 発 表 し て いる 。 こ こ で は 、 そ の二 学 年 の部 分 を 抄 出 し て紹 介 す る ( 注 6)。
四月 読書 生活 の記録 充 実 さ せ る く ふ う 、 新 し いく ふう の発 表
︿資 料 ﹀ ○ 記 録 の各 種 用 紙 (プ リ ン ト) ○ ﹁週 刊 読 書 人 ﹂ ○出版案内 、目録類 五 月 ノ ー ト のと り方 数 冊 の本 を 読 み 、 項 目 別 の カ ー ド に 、 そ れ ぞ れ 、 内 容 を 区 別 し て書 き 分 け る。 ︵ 例 ︶ 主 題 少 年 時 代 を ど う 過 ごし た ら よ いか 。 ︿資 料 ﹀
○伝記数 冊、そ れぞれ、少年 時代 ︵ 左 の項 目 で書 く 材 料 の あ る 箇 所 ︶ を 抄 出 し た プ リ ン ト 項 目 別 のカ ー ド の例 項 目の例 1 少 年 時 代 の 学 習 2 友 情 、 友 人 関 係 3 生 涯 の仕 事 が ど んな 機 会 に 決 ま って いる か 六 月 あ る こと が ら を 調 べ る た め に、 適 当 な 本 を 探 す
書名 ( 著 者 名 )、 は し が き 、 目 次 、 索 引 に よ って 調 べ た い こと が 、 ど の本 に あ ってど の本 に な いか を 見 いだ
す。 ( 例 ) 問 題 各 生 徒 よ り 出 さ れ た 、 こ と ば に 関す る 質 問 ︿資 料 ﹀ ○ 生 徒 か ら の質 問 を そ のま ま 名 簿 順 に並 べ た プ リ ント ○ 次 の本 の、 は し が き 、 目 次 、 索 引 ◇ こと ば の教 室 ︵ 永野 賢︶ ◇ 日 本 の文 字 ︵山 田 俊 雄 ︶ ◇ コト バ ・こと ば ・言 葉 ︵ 藤 田圭雄︶ ◇ こと ば の秘 密 ︵石 黒 修 ︶ 七月 読 む心を、新鮮 に開く ために ( 感 想 文 の 指 導 ) (以 下 、 指 導 内 容 省 略 ) 九 月 百 科 事 典 を 含 め 各 種 の本 の 活 用 十 月 批判的 に読む準 備とし ての比べ読 み 十 一月 いろ いろ の読 書 法 を 読 み 、 読 書 に つ い て の 考 え を 広 く す る 十 二月 本 で 本 を 読 む 一月 読 書 会 の いろ いろ の 進 め 方 を 学 ぶ ︿ そ の 一﹀ A型 実 習 二月 ︿ そ の 二﹀ B型 実 習
三月 ︿そ の 三﹀ C型 実 習
こ こ に は 、 典 型 的 な ﹁読 書 生 活 の指 導 内 容 ﹂ が 示 さ れ て いる 。 こ の よう な ﹁読 書 生 活 の 指 導 ﹂ を め ざ す こと に よ って、 読 書 の習 慣 化 が な さ れ 、 自 覚 的 な 読 書 生 活 が 確 立 し て いく であ ろ う 。
4 映 像 を 読 む 力 を 育 て る
私 た ち は 映 像 文 化 の時 代 に生 き て いる 。 テ レビ ニ ュー ス や そ の解 説 に 従 って自 分 の意 見 を 作 って い る こと が あ
る 。 ア ニメ や マン ガ は 日常 的 に 接 し て いる 娯 楽 で あ るが 、視 覚 ・聴 覚 を と お し て 五 感 に訴 え る の で 、 そ の刺 激 と
感 化 力 は 大 き い。 生 活 にお いて 模 倣 行 動 を 生 み や す く 、 流行 や ブ ー ム を 作 り 出 す こと も あ る 。 生 き 方 を 方 向 づ け
る ほ ど の 感 化 力 も あ る 。 例 え ば 、 十 代 のと き に出 会 った マ ンガ ﹃ 鉄 腕 アト ム﹄ に よ って夢 を 育 ん だ 少 年 が 、 大 人
に な って 二十 一世 紀 に ロボ ット を 作 り 上 げ た 、 と いう 事 例 も あ る。 現 代 で は 映 像 文 化 は 、 子 ど も た ち の人 間 形 成 に 深 く 関 わ って いる 。
現 代 の 子 ど も た ち は 、 マ ンガ 、 ア ニ メー シ ョ ン、 映 画 、 テ レビ 、 テ レビ ゲ ー ムな ど に 親 し ん で いる 。 こ れ ら の
メ デ ィ アに は 、 そ の いず れ に も 映 像 性 と ﹁物 語 性 ﹂ が あ り 、 二 つ の特 質 が子 ど も た ち の興 味 を 喚 起 し 想 像 力 を か
き た て て い る。 そ の物 語 性 が 、 日頃 漠 然 と で は あ る が自 分 の将 来 や 生 き 方 に つ い て考 え て いる 子 ど も たち を 惹 き
つけ て い る の であ る 。 こ の映 像 文 化 を 学 習 材 化 し て、 ﹁映 像 を 読 み 解 き 、 映 像 を 価 値 づ け 、新 し い意 味 を 発 信 す
る ﹂ 能 力 を 育 て て いく こと が 、 こ れ か ら の ﹁ 読 む こと の指 導 ﹂ に求 め ら れ て お り 、す で にさ まざ ま な 実 践 も 試 み ら れ て いる 。
遠 藤 瑛 子 (神 戸 大 学 附 属 住 吉 中 学 校 ) 教 諭 は 、 宮 崎 駿 の ア ニメ ー シ ョ ン ﹁千 と 千 尋 の神 隠 し ﹂ を 中 核 学 習 材
に し て国 語 科 総 合 単 元 (一学 年 ) を 、 次 の よう な 三 つの ﹁単 元 のね ら い﹂ の も と に展 開 し て いる 。
( 思 い) を 区 別 し た 文章 が 書 け る 。
①﹃ 千 と 千 尋 の神 隠 し ﹄ に 興 味 を も ち 、 テ ー マに 従 って画 像 や セ リ フを 読 み 取 る こと が でき る 。 ② 視点 ( 役 割 ) に 基 づ き 、 画 像 の説 明 ( 事 実 ) と 自 分 の考 え
③ テ ー マに基 づ いた ﹁私 た ち の 選 ん だ 四 シ ー ン﹂ の プ レゼ ン テ ー シ ョン を す る こ と が でき る 。
実 践 は 十 五 時 間 か け てお こ な わ れ た 。
1︶﹃千 と 千 尋 の神 隠 し ﹄ の鑑 賞 。 見 る テ ー マを 決 め る 。 役 割 を 決 め る 。 見 終 わ った 場 面 ご と に ﹁役 割 ﹂ の観 点 か ら 感 想 を 書 く 。 (一∼ 六 時 間 生 徒 が 選 んだ テ ー マ (例 )。 ○ キ ャ ラ ク タ ー の表 情 の変 化 ○ 千 尋 の表 情 の変 化 ○ 千 尋 の表 情 と と も に変 わ る 言 葉 ○ カ オ ナ シ と 千 の関 係 の変 化 ○ 今 の 世 界 と 向 こう の世 界 2︶四十 人 が 役 割 に し た が って 説 明 と 意 見 を 書 く 。 (七 時 間 )
3︶相 談 し な が ら 四 つ の シ ー ンを 選 び 、絵 コ ン テを 描 き な が ら 説 明 の方 法 を 話 し 合 う 。 ( 八 、九 )
4︶各 班 が 選 んだ 四 シ ー ン の発 表 会 。 千 尋 を 変 え て いく 数 々 の言 葉 に つ い て意 見 を 言 う 。 (一〇 ∼ 一二) 5︶四 シ ー ン発 表 会 か ら 学 んだ こ と を ま と め る。 二 百 字 作 文 を 書 く 。 (三 一 )
6︶○ ○ ︵ス ス ワ タ リ 、 釜 爺 な ど の セ リ フ のな い場 面 ) の詩 を 書 き 、班 ご と に朗 読 会 を す る 。 (一四 )
( 分 担 の観 点 ) を 決 め て作 品 を 鑑 賞 さ せ て い ると こ ろ に 、 学 習 者 を 夢 中 に さ せ る指 導 の
7︶単 元 のふ り 返 り 。 自 分 の成 長 や言 葉 に つ い て考 え た こと を 書 く 。 (一五)
テー マ ( 課 題 )、 役 割 工夫 があ る 。
こ の学 習 を と お し て生 徒 た ち は 、 ﹁言 葉 に つ い て﹂、 ﹁ 自 分 に つ い て﹂ 深 く 考 え る よう にな っ て い る。
○ 今 で は 言 葉 は 深 い意 味 が あ る と 思 って いま す 。 そ の 理 由 は言 葉 は 言 い方 に よ って 相 手 へ の伝 わ り 方 が 違 い、
ま た 、 勇 気 を 与 え る こと も でき 説 得 力 も あ り 、 思 いを 伝 え る こ と の でき る こ と が わ か って こ のよ う な 言 葉 の 力 を 知 った か ら で す 。 千 は 言 葉 のお か げ で成 長 で き た と 思 いま す 。
言 葉 を 発 す ると いう こ と は 責 任 感 が あ り 、 傷 つき や す い の で今 後 か る は ず み な 発 言 は つ つし み た い で す 。 ︵ M ・M)
○ こ の 二 学 期 の 国語 で は 、 ﹁伝 え る ﹂ と いう こ と の喜 び と 、 楽 し さ を 覚 え ま し た 。
﹁伝 え る ﹂ こと は 、 ﹁自 分 を さ ら け 出 す ﹂ と いう こと と つな が って い て、 い つも 自 分 を 出 す こと に お び え て 、
ふ る え て 、 と じ こ も って し ま う 傾 向 の あ る 私 に は 、 そ れ が 少 し 、 ラ ク な こ と だ った の か も し れ ま せ ん 。
結 局 、 カ オ ナ シ と 大 差 な い と 気 づ い た 時 は シ ョ ッ ク で し た が ⋮ ⋮ ︵H ・T ︶ ( 注 7)
生 徒 は 、 教 室 で級 友 と と も に ﹁千 と 千 尋 の神 隠 し ﹂ を 見 る こ と を と お し て、 ﹁千 ﹂ に出 会 い、 言 葉 に出 会 い、
自 分 に出 会 って いる 。 読 者 と し て の自 己 の生 き 方 や 言 語 生 活 と 関 わ ら せ て読 み 、 感 想 を ま と め て 表 現 し 、各 自 の
未 来 を 見 と お す 地 平 に歩 み出 て い る。 こ の よう な 、 自 己 の未 来 の生 き 方 と 関 わ ら せ る ﹁読 み ﹂ を 映 像 文 化 の ﹁読
み ﹂ に お い ても 成 立 さ せ 、 自 分 の生 き 方 と 関 わ ら せ て ﹁読 む (み る ) 力 ﹂ を 育 てた い。
お わ り に ︱これ か ら の 課 題
1 再 読 の 意 味
私 は、 六 十 歳 を 過 ぎ て、 あ る 研 究 会 に お い て ﹃竹 取 物 語 ﹄ の面 白 さ に 出 会 い、 いま 、 繰 り 返 し 読 ん で楽 し ん で
いる 。 こ れ ま で 、 私 は こ の作 品 を ﹁か ぐ や 姫 ﹂ の 物 語 と し て読 ん で いた 。 こ れ を 題 名 ど お り 、 ﹁竹 取 ﹂ の翁 の物
語 と し て 読 む と 、竹 取 の翁 のか ぐ や 姫 への恋 物 語 と し て 読 め る 。五人 の貴 公 子 に 不 可 能 な 難 題 を 出 す ﹁か ぐ や姫 ﹂
は 残 虐 な 性 格 で は な いか 、 と 思 わ れ て く る 。 天 皇 の求 婚 を 拒 否 す る 場 面 の設 定 に は 、 時 の天 皇 へ の批 判 が あ る の
で は な か ろ う か 、 ま た 地 上 の権 力 に天 上 の権 力 を 対 置 し て 天皇 制 を 相 対 化 し よう と いう メ ッセ ー ジ が こ め ら れ て
いる の で は な いか 、 月 の世 界 へ帰 って いく か ぐ や 姫 に は 美 を 永 遠 にと ど め よ う と す る古 代 人 の ロ マネ ス ク が 働 い
て い る の で は な か ろ う か 、 な ど と 読 み直 し て いく と 非 常 に 興 味 深 い。 再 読 す る た び に 読 み が ふ く ら み 、 豊 か に な って いく よ う であ る。
数 日 後 、 ま た は 数 年 後 の再 読 だ け でな く 、 こ の よう に 人 生 の半 ば や晩 年 に お こな う 再 読 も あ る 。 学 校 の国 語 科
に お い て は 再 読 三 読 に よ る 深 い読 み も お こな わ れ る が 、 古 典 を 扱 う 場 合 は 親 し ま せ ると いう 程 度 の読 み を す る 、 と いう 配 慮 も あ ってよ いで あ ろう 。
2 自 覚 的 な 読 者 を 育 て る
生 活 の 中 では 、 私 た ち は 必 要 に 応 じ て 主 体 的 に 積 極 的 に新 聞 を 読 ん だ り 、 本 を 読 ん だ り し て い る。 そ こ に は 、
物 語 や 趣 味 の 本 な ど を 楽 し む た め の読 みが あ り 、 生 活 のた め の情 報 を 得 る た め の情 報 読 みが あ り 、 人 生 の見 方 を
豊 か に す るた め の教 養 読 み が あ る 。 さ ら に は活 字 で は な く 映 画 な ど の映 像 読 み も あ る 。 そ の よう な 目 的 に 応 じ た
選 書 の方 法 や 本 の読 み方 を 知 り 、 目 的 や対 象 に 応 じ て読 み 方 を 変 え て いく こ と が 望 ま れ る。 読 書 生 活 指 導 を と お
し て自 己 の読 み方 を 対 象 化 す る眼 を 育 て て いく の であ る 。 自 ず と 、 書 物 や映 像 作 品 に 対 す る批 評 眼 も 育 って いく
であ ろ う 。 自 己 の読 みと る力 を 自 ら磨 き 、 対 象 を 選 ぶ 眼 を 鍛 え 、 対 象 に応 じ て読 み方 を 工 夫 し 、 自 己 の生 活 と の 関 わ り に お いて創 造 的 に意 味 を 創 り 出 し て いく 、 自 覚 的 な 読 者 を 育 てた い。
3 生 涯 学 習 社 会 の 自 己学 習 力
こ れ か ら の社 会 は 、 ま す ま す 交 通手 段 が 発 達 し 世 界 は狭 く な る。 情 報 化 が 進 み 生 活 の均 一化 と 意 識 の差 異 化 が
進 ん で いく であ ろ う 。 いず れ にお いて も 急 激 な 変 化 は 免 れ な い。 変 化 す る社 会 に 豊 か に 生 き て いく に は絶 え ざ る
学 習 が 必 要 で あ る。 生 活 環 境 の 中 で読 み こ な し て いか な け れ ば な ら な い テキ ス ト ︵テ レビ 、 広 告 、 宣 伝 ビ ラ、 通
知 な ど ) は ま す ま す 多 様 にな る 。 そ れ ら の多 様 な 情 報 ・テ キ スト を 、 生 き る た め に 活 用 し て いく 力 が 求 め ら れ て
いる 。 情 報 ・テキ ス ト を 収 集 ・選 択 し 、生 活 に活 用 す ると いう 自 己 学 習 の デザ イ ン力 の育 成 が 望 ま れ る 。
注 1 河 合雅 雄 ﹁い つもそ ば に本 が 下﹂朝 日新 聞 二〇〇 四年 一月 十 八日 注 2 南 野 理子 ﹁本 の中 の ︿ワ ク ワク﹀ を求 め て﹂鶴 見 俊輔 編 ﹃本と 私﹄ 岩波 新書 二〇 〇三 注 3 野地潤 家 ﹃ 個性 読 み の探究﹄ 共文 社 一九七 八
注 4 岡本 貢 和 ﹁あま んき み こさ ん のブ ック リ ストを 作 ろう ︵三学年 ︶﹂福 岡 国語 教室 の会 研 究 発表 会 ︵二〇 〇 一年 八月 二十 五 日) 資料 注 5 五十嵐 清美 ﹃私 の国語 教室﹄ 風 濤社 二〇 〇四 注 6 大村 はま ﹃ 大 村は ま国 語教 室 7﹄ 筑摩 書房 一九 八 四
注 7 遠藤 瑛子 ﹁中 学校 動画 リ テ ラシー教 育 の実 践﹂ ﹃両輪﹄ 四十 一号 両輪 の会 二〇 〇三
参考 文献 井 上 一郎 ﹃読者 と し ての子 どもと 読 み の形 成﹄ 明 治図書 一九 九 三 府 川源 一郎 ・長 編 の会編 ﹃ 読 書を 教室 に 小 学校 編﹄ 東洋館 出 版社 一九九 五
﹄ 東 洋館 出版 社 二〇〇 一
府 川源 一郎 ・長 編 の会編 ﹃ 読 書を 教室 に 中 学校 編﹄ 東洋館 出 版社 一九九 六 塚 田泰 彦 ﹃ 語彙 力 と読書 力︱ マ ッピ ングが 生き る読 み の世界︱ 町田守 弘 ﹃ 授業 構想 の展開﹄ 三省 堂 二〇〇 三
注
分銅惇作 44
黙 読 56
ラ 行
物 語 化 70 編 集 67
物 語 的 な 説 明 114
傍 注 資 料 139,140
物 語 の 学 習 指 導 47
理 解 と表 現 の 関 連 指 導 154
物 語 の 共 有 53,54
リテ ラ シー 48
物 語 の 構 造 142
マ 行
物 語 リテ ラ シー 47,52,54,
増 田 信 一 20
歴 史 意 識 135 歴 史 過 程 的 な論 証 ・実 証 過 程
60 モ ノ ロー グ 130
マ ップ 作 り 168
112 歴 史 的 背 景 138,143
ヤ 行
ま ど ・み ち お 83‐85
レパ ー トリ ー 75
学 ぶ 主 体 の 育 成 149 マ ニ ュ アル 103
要 点 164
朗 読 52‐54 ロー リー,ロ
マ ニ ュ ア ル的 な 文 章 103
ロ ッ ジ,デ
イ ス 64 イ ヴ ィ ッ ド 62
マ ル チ メデ ィ ア 60
余暇
湊 吉 正 25,45
『読 み 方 教 授 』 30
南 野 理 子 162
読 み 方の 学 習 101
論 説 文 101
( 趣味) のための読み (読 書 行 為 ) 3,16
論 説 ・評 論 117 ―の 学 習 指 導 117
ミハ イ ル ・バ フ チ ン 78
読 み の理 想 像 13
論 理 構 成 106
宮 崎 駿 178
読 み 深 め 10
論 理 的 思 考 力 102,107
宮 脇 理 23
読 む こ と の価 値 4
論 理 的整 合 性 104,115
読 む こ と の機 能 1
論 理 的 整 理 力 105
読 む こ と の技 能 (ス キ ル ) 2
論 理 的 認 識 力 115
読 む こ と の 究極 目標 7
論 理 的 表 現 力 116
「め が さ め た 」 89
読 む こ と の 指 導 体 系 27
論 理 的 文 章 40,41
メ タ 言 語 54,57
読 む こ との 設 計 5
メ タ 情 報 読 み 35,37
読 む 作 用 の体 系 29,44
村石昭 三 20
ワ 行
メ デ ィ ア 163,177 メ デ ィ ア ・ リ テ ラ シ ー 76, 101
ワ イ ダー リー デ ィ ン グ 59 分 か ち 読 み 143
索 た の しみ読 み 2,11,16
―
短期決戦型 の読書行為 8
読 書 指 導 28,31
の 典 型 11
単 元 学 習 119
―
断 片 67
読 書 習 慣 15
俳 句 の 美 94
読 書 情 報 6,16
「は じめ て 小 鳥 が 飛 ん だ と き」
ハ 行
の 課 題 13
長 期 持 久型 の 読 書 行 為 8
読 書 生 活 5,7,8,14
「チ ョウ チ ョ ウ」 83
―
の 向 上 18
「走 れ メ ロ ス」 63,66
95
―
の 設 計 17
「は た ら く じど う 車」 108
通言 売 30,31
読 書 生 活 指 導 174,181
発 見 72
通 読 力 29,32,33 つ づ け よみ 82
読 書 成 果 の 交 換 18
発 展 学 習 152,154
読 書 設 計 14
鶴 見 俊 輔 160
読 書 体 験 7,57
話 の 要 点 63 バ フチ ン,ミ ハ イル 133
『徒 然 草 』 151
読 書 仲 間(読
原 田 直 友 95
書 グ ル ー プ)
15,17
反 復 学 習 36,44
提 喩 71
読 書 の 習慣 化 177
テ ク ス ト解 釈 74
読 書 離 れ 18
テ ク ス ト産 出 の 過 程 74
図 書 館 利 用 162
「ひ だ ま り」 88
テ ク ス トに 対 抗 す る テ ク ス ト
読解 71
筆 者 と読者 の 信 頼 関 係 108
77
反 復 と対 比 97
読解 作 用 31,37
否 定 75
テ ク ス ト分 析 力 55
読 解 指 導 28,31,32,120
批 判 的態 度 77
テ ク ス トを 語 りな おす 行 為
読 解 力 118
批 判 力 173
58 手 順 的 な 合 理 性 105
―の根 幹 10 取 り立 て指 導 144
テ レ ビ欄 100 天 気 予 報 102
投 書 欄 100
表 現 の読 み 111 表 現 方法 の は た ら き ・効 果
内容 的 意義 136 中谷 雅 彦 87
統 合 読 み 33
批 評 精神 161 表 現 効果 111
ナ 行
典型体験 6 電 子 メ デ ィア 54
批 評 77
43 表 現 力 131
ナ シ ョナ ル ・カ リキ ュ ラ ム (イ ギ リ ス)48,49,60
『フ ィ ク シ ョ ンの 修 辞 学 』 67
「ど うぶ つ の 赤 ち ゃ ん 」 108
『難 波 土 産 』 65
ブ ー ス,ウ
通 し読 み 33
「ナ ンデ モ ア リ」 の読 み 76
藤 原与 一 36
ドキ ュ メ ン タ リー ・ノベ ル 62
ェ イ ン 67
ブ ック ス タ ー ト運 動 174 西 尾 実 29,30,36,44
ブ ック リス ト 169
読 者 反 応 74
担 い 読 み 143
不 動 産広 告 102
読 者 反 応 理 論 76
認 識 法 の学 習 99
普 遍 的 な心 136
読 者 論 76
認 識 力 131
読 書 環 境 15
プ ロ ッ ト読 み 57 文 学 学 習 39
読 書 機 能 8
野 地 潤 家 22‐25,87
文 学 作 品 の読 み方 165
読 書 行 為 1,3,4,14,16,32,
の だ 文 105
文 章 構 成 106
『の は ら うた 』 87
文 章 構 成 把 握 力 102
168 ―の 省 察 18
分 析 批 評 68
―の 展 開 17
分 析 読 み 33
引
実 感 的 読 み 深 め 111
「素 顔 同盟 」 64
国 語 科 総 合 単 元 178
展 望 』 19
実 質 的 論 理 107,111
ス コ ー ル ズ,ロ
バ ー ト 77
『国 語 教 育 基 本 論 文 集 成 』 20
指 導 過 程 154
ス トー リー(物
語 内容) 63
『国 語 教 育 史 資料 』22,23
指 導 事 項 の 系 列 化 37
ス トー リー 読 み 57
『国 語 教 育 通 史』 24
指 導 者 の 自 己満 足 116
ス トラ テ ジー 75
『国 語 教 室 の 問題 』 30
指 導 体 系 26
す や ま た け し 64
『国 語 国 文 の 教 育 』 29
自発 的 な 読 み 12
個 性 読 み 9,12‐16,18
社 説 100
生 活認 識 の 能 力 102
古 典 学 習 の 意 義 135,137
集 団 的 学 習 142
生 活 読 み 28
古 典 嫌 い 135
自由 読 み 9‐11,17
省 察(探
古 典作 品 の構 造 140
授 業 活 性 化 135,149
古 典 の 学 習 指 導 135
授 業 力 の 育 成 155
精 読 1,9,11,16,164
古 典 の 生命 135
主 体 131
精 読法 57
古 典 離 れ 135
主 体 性 163
世 界 の 異 化 69
古 典 を 読 む態 度 148
主 体 的 学 習 142
説 明書 き 101,104
古 典 を 読 む た め の 技 能 147,
受 動 的 な 読 み 12
説 明 的 文 章 の 学 習 指 導 99
受 容 理 論 76
説 明 的 文 章 の 読 み 方 165
古 典 を 読 む 力 138,146
情 意 学 力 115
瀬 戸 仁 23
個 別 読 み 14,15,17
情 意 的 意 義 136,137
全 国大 学 国 語 教 育 学 会 19
小 説 62
「千 と千 尋 の 神 隠 し」 178
146
サ 行
索)の
た め の読 み
(読 書 行 為) 3,16
―の 学 習 指 導 62 ―の 脆 弱 さ 77
創 作 シ ス テ ム の 場 の 創 造 54
『ザ ・ギ バ ー 』64
小 説 的 思 考 72
創 造 的学 習 142
「サ ー カス の 馬 」 68
情 報 受 容 ・情 報 整 理 の 読 み
想 像 力 160,177
西 郷 竹 彦 93
110
再 読 68,69,164
情 報 的 文 章 101
作 者 側 に立 つ 73
情 報 読書 45
作 者 の意 図 を 追 う誤 り 75
情 報 の論 理 的 理 解 41
体 系 的指 導 144
作 品 159
情 報 読 み 1,9,11,16,34,36
対 象 認 識 力 115
作 品 構 造 142
序 破 急 106
対 読 者 的 表 現 104
佐 佐 木 幸 綱 91
し らべ 読 み 2,11,16,171
タ 行
対 話 117,118,125,129-131
佐 藤 照 雄 23
事 例 列挙 型 教 材 108
対 話 的 な読 み 108
作 用 美 学 75
「白 い ぼ う し」 169
多 角 的 な論 証 ・実 証 過 程
「山 月 記 」 63
新 聞 100
三 読 法 115
思 考 力 163
112
―の折 り込 み 広 告 102
鷹 羽 狩 行 92
『新 編 中 学 校 ・高 等 学 校 国語
竹 内常 一 69
科 教 育 法 』25
『竹 取 物 語 』 180
自己 学 習 力 181
心 理 的 な 契 約 関 係 101
他 者 131,157,160
仕 事(職
「人 類 よ、 宇 宙 人 に な れ」
多 層 的 世 界 観 67
業)の
ための読み
(読書 行 為) 3,16 自在 な読 み 12
107 神 話 的時 間 160,161
事 象 の 認 識 42 事 象 変 化 型 教 材 110
田 近 洵 一 36 立 花 隆 107 多 読 l,11,16,164
随 筆 132
谷 川 俊 太 郎 79
索
ア 行 「愛 の サ ー カ ス」 70
大 村 は ま 86,139,174
機 能 的 文 法 指 導 151
小 田迪 夫 19
基 本学 習 152,153
音声 表現 力 53
『教 科 教 育 百 年 史』 23
音 声 メ デ ィア 53
教 材 の 開 発 と編 成 150
ア ヴ ィ 62
共 有 地 66
カ 行
朝 の 十 分 間 読 書 169蘆 ( 芦 ) 田 恵 之 助 30
教 養 的 意 義 136,137 教 養読 書 45
ア ニマ シ オ ン 170
外 的 な 評価 手段 116
虚 構 の 世 界 を生 きる 159
阿 部 治 悦 94
科 学 的 実 証 過 程 111
虚構 の 表 現 151
あ ま ん き み こ 170
科 学 的 な 厳 密性 114
「虚 実 皮 膜 」 説 65
「ア リ」 84
科 学 物語 101
ア ン ソ ロ ジ ー の 授 業 86
科 学 読 み物 114
空 所 75
垣 内松 三 30
工 藤 直 子 87
五 十 嵐 清 美 171
学 習 テ ー マ 154
倉 澤栄 吉 28
生 江 義 男 23
学 習 読 み 28
比 べ 読 み 171
石 山脩 平 36 一 読 総 合 法 115
「か さ こ じぞ う」 63
比 べ る 173
課 題解 明型 教 材 111
訓詁 注 釈 138
一 斉 読 み 14
課 題 読 み 9,11,17
群 読 の学 習 指 導 80
逸 脱 的 な読 み 108
語 りの 表現 方 法 145
伊 藤 信 隆 23
価 値 判 断 117,119,120,124‐
イ メー ジマ ップ 164
126,130
形式 的論理 106 形 象読
み l,9,11,16
印 象 批 評 121
学 校 知 116
激変
イ ン タ ー ネ ッ ト 163
活 字 離 れ 18
言語化 能力
韻 文 の 学 習 指 導 79
活 字 メ デ ィア 53,54,60
言語技術 教育 68
韻 文 の 表 現 学 習 93
「か っぱ 」 79
言 語 ス キ ル 52,54
韻 文 の リ ズ ム 79
河合 雅雄 158
言 語 生 活 13,16,155
鑑 賞 文 の活 用 91
言語抵抗 138‐140,142
鑑 賞 読 み 35‐37
言 語 的 意 義 136,137
間 テ ク ス ト性 123
言語要素 146
「初 冠(う
い こ うぶ り)」
138,142
( ペ リペ テ イ ア ) 72,73 168
植 垣 節 也 135 キ ー ワ ー ド 167
『行 為 と して の 読 書 』 75
映 像 文 化 177,180
起 承 転 結 106
構 造 的 な板 書 142
映 像 メ デ ィ ア 54,60
「きつ つ き」 の 作 り方 103
構 造 の読 み 140
遠 近 法 の 交 替 72
「きつ ね の お き ゃ くさ ま」
「コオ ロギ 」 85
遠 藤 瑛 子 178
170
『国 語 科 教 育 学 研 究 の 成 果 と
引
執 筆者
( 執筆順)
野 地 潤 家 広島大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授 *小 田迪
夫 大 阪教 育大 学名 誉教授
*松 山 雅 子
大 阪教 育大 学教 育学 部教授
山 元 隆 春 広島大学大学院教育学研究科助教授 足 立 悦 男 島根大学教育学部教授 植 山 俊 宏 京都教育大学教育学部教授 守 田 庸 一 静岡大学教育学部助教授 渡 辺 春 美 沖縄国際大学総合文化学部教授 *浜 本 純 逸
早稲 田大学 大学 院教育 学研 究科教 授 (*編者 )
朝倉国語教育講座2 読 む こ との 教 育 2005年11月25日
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初版 第 1刷
野
澤 地
栄 潤
吉 家
発行者 朝
倉
邦
造
監修者 倉
株式 発行所 会社
朝 倉 書 店
東 京 都 新 宿 区 新 小 川 町 6‐29 郵 便 電 FAX
〈検 印省略 〉
4‐254‐51542‐1
03(3260)0180
http://www.asakura.co.jp
〓2005〈 無断 複写 ・転 載 を禁ず〉 ISBN
番 号 162‐8707 話 03(3260)0141
C3381
教 文堂 ・渡辺製 本
Printed in Japan
◆国語 教 育 実 践 ・研 究 の た め の羅 針 盤◆
《朝 倉 国語 教 育 講 座 》 全 6巻 倉 澤 栄 吉 ・野 地潤 家 監修
第 l巻 国語教育入門 白石 寿 文 編集 232頁 本 体3500円 国語教室へ ようこそ/話 したが りや ・聞きたが りやの国語教室/書 く喜 びを分か ち合 う国語教 室/文学 に遊ぶ 国語教室/説明 ・論説に挑 む国語教室/ こ とば ・文字の魅力 に満 ちた国語教室/授 業を愉 しめ る 国語教 師に
第 2巻 読 む こ との 教 育 小 田迪 夫 ・浜 本 純 逸 ・松 山 雅 子 編集 200頁 読む ことの機 能 と教育/読む ことの指導体系/ 読むこ との指導の内容 と方法/ これか らの読むこ との学 習指導
第 3巻 話 し言葉の教育 白 石 寿 文 ・山 元 悦 子 編集 216頁 本 体3200円 話 し言葉学習の特質/話 し言葉教 育の戦後60年 史/話 し言葉学習の機会 と場/話 し言葉学 習の内容 ・ 方 法 ・評価/話 し言葉教育 を支える教 師の話 し言葉
第 4巻 書 くこ との 教 育 中 西 一 弘 ・森 田 信 義 ・菅 原 稔 編集 書 く と い う こ と/ 書 く こ との 歴 史 的 展 望 / 書 く こ と の 能 力 と そ の 発 達 / 書 くこ との 学 習 指 導 と そ の 体 系/ 書 く こ との 生 活 化 と習慣 化 / 書 くこ との 学 習 指 導 と そ の 方 法/ 書 くこ との 学 習 指 導 に お け る評 価 / 書 くこ との 学 習 指 導 と そ の発 展
第 5巻 授業 と学 力評価 世 羅 博 昭 ・三 浦 和 尚 編集 224頁 本 体3200円 国語科授 業構築 ・研究の基本課題/ 国語科 授業研 究の成果 と試行/ 国語科 授業構築 の原理 と方法/ 国語 科授業 の構 築 と展開/ 国語科授業 の構築 ・研 究の集積 と深化/評価研究 の意義 と方法/学習者把握 をめ ざす評価 の開発/望 ましい評価方法 の開発 と試行/学力 ・指導 力の評価 と授 業力の向上
第 6巻 研 究必 携 大 槻 和 夫 ・吉 田 裕 久 ・植 山 俊 宏 編集 国語教育学総 論/国語教育課程お よび方法の研 究/話す こと ・聞 くこ との指 導研 究/ 書 くことの指導研 究/読 むこ との指導研究/読書指導 の研 究/ 言語事項指導の研究/ メディア ・リテラ シー教育の研究/ 国語教育 史の研 究/ 比較国語教育研究/ 国語教 育研 究 と隣接諸科学 上 記 価 格(税
別)は2005年10月
現在