亡き母 森下ちゑ子に捧ぐ
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本書の主題は,結び目理論と整数論の間の類似性である.基本的な考え方 は,3 次元多様体と代数体の整数環,結び目と素イデアルの類似性に基づく. 従って, 本書の目的は, この視点から,結び目理論と整...
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亡き母 森下ちゑ子に捧ぐ
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本書の主題は,結び目理論と整数論の間の類似性である.基本的な考え方 は,3 次元多様体と代数体の整数環,結び目と素イデアルの類似性に基づく. 従って, 本書の目的は, この視点から,結び目理論と整数論の基本的な概念・ 枠組みの間の類似性を平行的な形で論じることである.予備知識をあまり仮 定せずに読めるように,第 0 章に準備的な事柄をまとめた.読者の便利とな れば幸いである. 結び目理論と整数論の歴史を振り返るとき,今から約 200 年前の C.F. Gauss (1777–1855) の研究に両者の源泉の 1 つを見出すことができる.本書の目標 も,Gauss から分かれたこの 2 つの道を現在の視点から見直し,両者の間に 橋を架けることにある.本書が,Arithmetic Topology(数論的位相幾何学) とも称されるこの領域の基礎としての役目を果たし,読者がさらなる夢を膨 らませるとしたら,筆者にとって望外の喜びである. 本書の執筆を推薦下さった松本幸夫先生と本書の出版に際しお世話になっ たシュプリンガー・ジャパンに深くお礼申し上げます.また,原稿を読み,貴 重なコメントを下さった金子昌信,栗原将人,村杉邦男,寺嶋郁二の各氏に お礼申し上げます.特に,筆者がこの研究を始めて以来,結び目理論に関す る筆者の質問に懇切にお答え下さった J. Hillman,村杉邦男の両先生には心 から感謝申し上げます.本書は,筆者が過去数年間に行った集中講義(九州 大学,京都大学,東北大学及び東京大学)が基になっています.これらの講 義の準備と共に執筆を進め,講義後の反省から書き方を改善するように努め た.これらの講義の機会を与えて下さった方々,拙い講義を聞き,有益な質 問,助言を下さった数学の友に感謝申し上げたい.最後に,筆者が今日ある のは亡き母のお蔭である.母からもらった慈しみと愛情はどんなに返しても 返しきれない.本書を母に捧げます.
2008 年 12 月
森下 昌紀
߸هද
• N: 自然数 (ě 1) の集合 • Z: 整数の集合 • Q: 有理数の集合 • R: 実数の集合 • C: 複素数の集合 • #A: 集合 A の濃度 • 環 R に対し,Rˆ で R の可逆元のなす乗法群を表す. a • x “ px1 , . . . , xn q P Rn に対し,}x} :“ x21 ` ¨ ¨ ¨ ` x2n . • 位相空間 X, Y に対し,X « Y は X, Y が同相であること,X » Y は X, Y がホモトピー同値であることを表す. • 代数的な構造をもつ対象 A, B に対し,A » B は A, B が同型である ことを表す.
• 空間 X に対し,その Z 係数ホモロジー群を H˚ pXq で表す. • 群 G とその元 a1 , . . . , an に対し,xxa1 , . . . , an yy で a1 , . . . , an を含 む G の最小の正規部分群を表す. • 位相群 G の閉部分群 A, B に対し,rA, Bs で 交換子 ra, bs :“ aba´1 b´1 pa P A, b P Bq により生成される G の閉部分群を表す.
࣍
緒 言
§1 Gauss から分かれた 2 つの道 . . . . . . . . . . . . . . . . . . §2 整数論の幾何学化 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . §3 本書の概要 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 第 0 章 基本群と Galois 群
0.1 0.2 0.3
空間の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
. . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 類体論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 可換環の場合
第 1 章 結び目と素数,3 次元多様体と整数環
1 1 4 6 9 9 26 42 53
第 2 章 まつわり数と平方剰余記号
2.1 2.2
59 59 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 62
まつわり数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 平方剰余記号
第 3 章 結び目と素数の分解
3.1 3.2
65 結び目の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 65 素数の場合 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 68
第 4 章 ホモロジー群とイデアル類群 I
4.1 4.2 4.3
75 ホモロジー群とイデアル類群 . . . . . . . . . . . . . . . . . 75 絡み目の種の理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 77 素数たちの種の理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 79
xii
目 次
第 5 章 絡み目群と分岐条件付き Galois 群
5.1 5.2
83 83 分岐条件付き副-l Galois 群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 87 絡み目群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
6.1 6.2 6.3 6.4
Fox 自由微分法 . . Milnor 不変量 . . . 副-l Fox 自由微分法 多重べき剰余記号 .
. . . .
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第 7 章 Alexander 加群と岩澤加群
7.1 7.2 7.3 7.4
微分加群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
Crowell 完全系列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 完備微分加群 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 完備 Crowell 完全系列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . .
第 8 章 ホモロジー群とイデアル類群 II
8.1 8.2 8.3 8.4
93 93 101 107 110 119 119 124 128 131 133
絡み目の普遍まつわり行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . . 133 絡み目の高次種の理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 136 素数たちの普遍まつわり行列 . . . . . . . . . . . . . . . . . 140 素数たちの高次種の理論 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 143
第 9 章 ホモロジー群とイデアル類群 III
9.1 9.2
149 Alexander 多項式とホモロジー群 . . . . . . . . . . . . . . . 149 岩澤多項式と p-イデアル類群 . . . . . . . . . . . . . . . . . 152
第 10 章 トーションと岩澤主予想
159 10.1 トーションとゼータ関数 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 159 10.2 岩澤主予想 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 164
第 11 章 結び目群と素数群の表現のモジュライ
11.1 11.2 11.3 11.4
結び目群の指標多様体 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 結び目群の 1 次元表現のモジュライと Alexander イデアル . 素数群の表現の変形空間 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 素数群の 1 次元表現の変形と岩澤イデアル . . . . . . . . . .
169 169 170 172 173
xiii 第 12 章 双曲構造の変形と通常モジュラー Galois 変形
179 12.1 双曲構造の変形 . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . . 179 12.2 p-通常モジュラー Galois 変形 . . . . . . . . . . . . . . . . . 181
参考文献
187
あとがき
196
索 引
197
ॹ ݴ
§1 Gauss から分かれた 2 つの道 —– 平方剰余とまつわり数 —– C.F. Gauss は,若年,平方剰余の相互律を証明し,さらに背後にある構造 を探求し,今日のイデアル類群を発見,種の理論(2 元 2 次形式の分類論)に 到達した([Ga1], 1801 年). 奇素数 p と p で割り切れない整数 a に対し,2 次の合同式 x2 ” a mod p を考える.この合同式が整数解をもつか否かに従い,a は p を法として平方 剰余ないし平方非剰余と呼ばれ,平方剰余記号(Legendre 記号)が
´a¯ p
#
:“
`1, a は p を法として平方剰余 ´1, a は p を法として平方非剰余
により定義される.2 つの奇素数 p, q に対し,p が q を法として平方剰余で あることと q が p を法として平方剰余であることは一見関係なさそうに思わ れるが,実は両者の間に次のような精密な相互関係(平方剰余の相互律)が あることを Gauss は証明した:
´q¯ p
“
´p¯ p´1 q´1 p´1q 2 2 . q
特に,p または q ” 1 mod 4 のときは,次の対称性が成り立つ:
´q¯ p
“
´p¯ . q
? Gauss の種の理論は,今日の代数学の言葉では,2 次体 k “ Qp mq のイ デアルの分類論と言える.k の整数環を Ok とする.k の p0q でない分数イ デアル(k の有限生成 Ok -部分加群)a, b は,
2
緒 言
b “ apαq となる総正な α P k (m ą 0 のとき,α と α の共役は正)が存在するとき, 同じ類に属するという.この同値類の集合は,イデアルの乗法に関し Abel 群 をなし,k の狭義イデアル類群 H ` pkq という.簡単のため,m “ p1 ¨ ¨ ¨ pr (p1 , . . . , pr は相異なる素数),pi ” 1 mod 4 (1 ď i ď r) としよう.このと き,m と互いに素なイデアル a, b pĂ Ok q が同じ種に属するとは,
´ Na ¯ pi
“
´ Nb ¯ pi
p1 ď i ď rq
(Na :“ #pOk {aq) が成り立つことを言う.種は類より緩い同値関係を与え, H ` pkq を種で類別することができる.このとき,Gauss は,H ` pkq は有限 Abel 群をなし,単位類と同種なイデアル類の集合は H ` pkq2 と一致し,対 応 ras ÞÑ ppNa{p1 q, . . . , pNa{pr qq は,次の同型を導くことを示した: r ˇ ź ! ) ˇ H ` pkq{H ` pkq2 » pξi q P t˘1ur ˇ ξi “ 1 » pZ{2Zqr´1 i“1
この Gauss の研究が,現代の代数的整数論へ向かう発展の第一歩となったの である. 一方,Gauss は,後年(1833 年),電磁気学の研究を行う中で,まつわり 数 (Anzahl der Umschlingungen) の概念を発見し,その積分表示を与えた ([Ga2]).K, L を 3 次元 Euclid 空間 R3 内の交わらない 2 つの有向単純閉 曲線(2 成分絡み目)とし,そのパラメーター表示を各々a : r0, 1s ÝÑ R3 , b : r0, 1s ÝÑ R3 とする.a, b は C 1 級とする.L にその向きに大きさ I の 電流を流すとき,磁場 Bpxq (x P R3 ) が発生する.Biot–Savart の法則によ り,Bpxq は次式で与えられる: ż Iμ0 1 b1 ptq ˆ px ´ bptqq Bpxq “ dt. 4π 0 ||x ´ bptq||3 ここで,μ0 は真空の透磁率と呼ばれる定数.Gauss の積分公式は,pIμ0 q´1 ¨
Bpxq を K に沿って線積分するとある整数 lkpL, Kq になる,というもので ある:
1 Iμ0 すなわち,
1 4π
ż 1ż 1 0 0
ż1
Bpapsqq ¨ a1 psq ds “ lkpL, Kq,
0
pb1 ptq ˆ papsq ´ bptqqq ¨ a1 psq ds dt “ lkpL, Kq. ||apsq ´ bptq||3
§1 Gauss から分かれた 2 つの道
3
整数 lkpL, Kq は,K と L の絡み具合を表す量で,まつわり数と呼ばれ,次 のように定義される.まず,L を境界とする曲面を ΣL とする.ΣL には L の向きと同調する向きを与える.特に,ΣL の各点には法線ベクトルが定ま る.K は ΣL と ‘直交するように’ 交わっているとしてよい.各交点 P での 交わり方は,P での K の接線ベクトルが,P での ΣL の法線ベクトルと同 じ向きか逆向きかのいずれかである.前者の場合,εpP q :“ 1,後者の場合,
εpP q :“ ´1 と定める:
K と ΣL との交点を P1 , . . . , Pm とするとき, lkpL, Kq :“
m ÿ
εpPi q
i“1
と定義される.
この定義より,または Gauss の積分公式より,対称性
lkpL, Kq “ lkpK, Lq が成り立つことがわかる.
Gauss はまつわり数が今日の位相幾何学における対象であるという認識を もっていた.実際,lkpL, Kq は K, L を交わらないように連続変形しても不
4
緒 言
変な絡み目不変量の最初の例である.そればかりか,上の積分公式は,一世 紀半の後に,E. Witten, M. Kontsevich らにより,やはり物理的背景をもっ て組織的に構成された絡み目不変量の萌芽とみなされる ([Kn]). 上に述べた平方剰余とまつわり数は,一見何ら関係なさそうに見えるが, 第 2 章で述べるように,実は両者はまったく同じ考え方で定義され,2 つの 理論の間には親密な類似性が存在するのである.Gauss は平方剰余の研究の 前から結び目に興味をもっていたようで ([Du], p.218),もしかしたらこの類 似性の感覚をもっていたのではないか,と想像させられるところもある.し かし,それをはっきりと言い表すには時代が早過ぎ,Gauss から分かれた 2 つの道 —– 整数論と結び目理論 —– は,その後約一世紀半にわたり,別々 の歩みを進めた.そして,この長い年月の間にもたらされた「整数論の幾何 学化」という思想が,2 つの道を結びつけるために必要な視点と言葉となっ たのである.
§2 整数論の幾何学化 Gauss の整数論はその後,Kummer, Dedekind, Kronecker, Hilbert らに より代数体の整数論として発展し,現在の代数的整数論の基礎が築かれていっ た.そして,Gauss の相互律もその枠組みの中で,高木貞治–E. Artin の類 体論(代数体の Abel 拡大論)として完成された(1927 年).この発展を導 く重要な指針であったのが, 「代数体と 1 変数代数関数体の類似」という考え 方である.背後には,19 世紀が関数論の時代であった影響がある.この考え は,整数と多項式の類似を進めたもので,代数体の整数環の素イデアルは代 数曲線(Riemann 面)上の点の類似物とみなされる.特に,有限体上の代数 曲線との間で類似が著しく,E. Artin, A. Weil らにより深く研究された.一 方,I.M. Gelfand は,任意の可換 C ˚ 環は その極大イデアルの集合を土台 とするあるコンパクト空間上の関数環であることを示し,空間を考えること と環を考えることの同等性を明らかにした.これらの研究を任意の可換環へ 徹底的に一般化したものが A. Grothendieck によるスキーム理論である.特 に,代数体 k の整数環 Ok の素イデアルの集合 SpecpOk q は 1 次元のアフィ ンスキームで,“数論的曲線” と呼ばれる.この思想は,整数論と代数幾何学 を融合し,今日の数論的代数幾何学へと発展した. 一方,結び目の方はその後,Gauss の弟子 Listing や物理学者 Tait らによ る研究はあったものの,しばらく著しい進展はなく,19 世紀末の H. Poincar´ e による位相幾何学の創始(基本群,ホモロジー群の導入など)を待たねばなら
§2 整数論の幾何学化
5
なかった.しかし,Poincar´ e 以降,J.W. Alexander, S. Lefschetz らにより ホモロジー論が急速に整備されると,結び目も位相幾何学的,組み合わせ群 論的手法により研究が始められた(Alexander, Dehn, Seifert, Reidemeister ら).特に,Alexander は,任意の有向連結閉 3 次元多様体はある絡み目で 分岐する 3 次元球面 S 3 上の有限次被覆として実現できることを示して,結 び目の 3 次元位相幾何学における重要性を明らかにするとともに,結び目の 最初の多項式不変量である Alexander 多項式を導入した(1928 年).また, Reidemeister は,CW 複体のトーションの概念を導入し,3 次元レンズ空間 の分類を与えた(1935 年). 位相幾何学におけるホモロジー論の発展は代数的整数論にも影響を与えた. すなわち,中山正,J. Tate らは Galois コホモロジーの理論を整備し,そ の言葉で類体論の証明を与えた(1950 年代).一方,有限体上定義された 代数多様体の有理点の数論的な性質とその多様体に付随する複素多様体の位 相幾何学的な性質の間に密接な関係があるという Weil 予想に動機付けられ,
Grothendieck は,スキームのエタール位相の概念を創始し,位相幾何学にお いて形を記述する言葉である基本群,コホモロジー群などの諸理論をスキー ム上に展開した.エタールコホモロジーは特異コホモロジーと類似の性質を 満たし,そのこと自体がしばしば深い整数論的な事実を意味する.例えば,代 数体 k の類体論も,SpecpOk q が 3 次元 Poincar´ e 双対性の類似を満たすと いう形で述べることができる (M. Artin, J.-L. Verdier).さらに,M. Artin と B. Mazur は単体的スキームとエタールホモトピー型の概念を導入し,位 相幾何学におけるホモトピー理論をスキーム上に移入した.例えば,素数 p に対し,p 元体 Fp “ Z{pZ の素スペクトルのエタールホモトピー群は,
ˆ π´et pSpecpFp qq “ 0 pi ě 2q π1´et pSpecpFp qq “ Z, i ˆ は Z の副有限完備化)となるので,SpecpFp q は円周 S 1 の整数論的な (Z 類似物とみなすことができる.SpecpZq はエタールホモトピー的に 3 次元で, π1´et pSpecpZqq “ 1 なので,埋め込み
SpecpFp q ãÑ SpecpZq は結び目
K : S 1 ãÑ R3 の類似とみなされる.これより,結び目群 GK “ π1 pS 3 zKq には, ‘素数群’
Gtppqu “ π1´et pSpecpZqztppquq が対応する.より一般に,素数の有限集合 S に対し,エタール基本群 GS :“ π1´et pSpecpZqzSq は S と無限素点の外で不分
6
緒 言
岐な有理数体 Q 上の最大 Galois 拡大の Galois 群という代数的整数論におけ る古典的対象で,絡み目群 GL “ π1 pS 3 zLq に対応する.
§3 本書の概要 筆者は,上述の絡み目群と代数体の分岐条件付き Galois 群の類似性という 視点から出発し,結び目と素数の類似についての研究を始めた.本書の目的 も,この視点から Gauss から分かれた 2 つの道を見直し,結び目理論と整数 論の諸概念,諸理論の間の類似性を平行的に論じることである.本書の概略 は次の通りである.第 1 章で,3 次元多様体と整数環,結び目と素イデアルの 間の基本的な類似性について説明する.これを受けて,第 2 章から第 4 章に おいて,Gauss のまつわり数と平方剰余,種の理論を類似性の観点から統一 的に見直す.第 5 章で,絡み目群に関する Milnor の定理と分岐条件付き副-l
Galois 群(l は素数)に関する Koch の定理の類似性をみる.この群論的視点 から,まつわり数とべき剰余記号の類似性が明解に説明される.さらに,第 6 章において,素数たちに対して,絡み目の高次まつわり数(Milnor 不変量) の類似物を導入する.特に,古典的な R´ edei 記号(1939 年)が 3 重まつわり 数として解釈される.第 8 章では, (数論的)高次まつわり数を用いて,絡み 目の l 次巡回分岐被覆空間の 1 次元ホモロジー群と l 次巡回体のイデアル類 群の l パートの Galois 加群構造を記述する.これは,Gauss の種の理論の自 然な拡張を与える.第 7, 9, 10 章では,GL の商として現れる無限巡回被覆 と GS の商として現れる Zp -拡大を類似とみることにより,Alexander–Fox 理論と岩澤理論を平行的な形で扱う.さらに,第 11 章では,結び目群の表現 のモジュライと素数群の表現の変形の視点から,Alexander–Fox 理論と岩澤 理論及びその非 Abel 化を平行的に論じる.特に,第 12 章で,2 次元表現の 場合に,双曲幾何学と肥田理論の間に興味深い類似があることを論じる.こ れらが本書の内容である. 数学の歴史が明らかにしているように,類似性をたどり,刺激しあうこと により,2 つの分野のより深い理解と発展が促されることがしばしば見られ る.刺激しあうとは,ある概念,定理や考え方が一方にあり,他方にないと き,問題を提供しあうということである.結び目理論と整数論の歴史におい ても,上に述べたように,位相幾何学において導入された概念が何年か後に 洗練された形で整数論に移入されるというパターンがしばしば見られ,逆に, 整数論における理論(例えば,ゼータ関数など)の幾何学的な類似を考えるこ とが幾何学に有効な方法を与えることも知られている.近年,結び目理論で
§3 本書の概要
7
は,再び物理学と結びついた不変量(量子不変量)が組織的に構成され,新た な発展を向えている.この流れは,Gauss のまつわり数を生んだ古典電磁気 学を可換ゲージ理論と見るとき,非可換ゲージ理論の方向への発展とも言え る.一方,Gauss の相互律は可換類体論の芽ばえであり,非可換類体論への 発展が非可換ゲージ理論に呼応する.ここで,非可換類体論における Galois 表現(モチーフ)の L 関数と保型形式の L 関数の一致は,基本群の表現に 付随する幾何的不変量と量子不変量(経路積分による不変量)との関係に対 応すると考えられる: 可換ゲージ理論
ÝÑ
(まつわり数の積分表示) 可換類体論 (平方剰余の相互律)
ÝÑ
非可換ゲージ理論 (幾何的不変量 “ 量子不変量) 非可換類体論
(モチーフの L 関数 “ 保型 L 関数)
これらの数理物理学と関連する側面はこれからの発展が期待される領域であ る.筆者は,これらを含め,結び目理論と整数論の類似性の追求により,互 いが問題を提供しあい,両者のより深い理解と新たな発展に導かれることを 期待している.
ୈ
0 ষ جຊͱ܈Galois ܈
この章では,第 1 章以降に用いられる準備的な事柄をまとめる.特に,空 間の被覆と体の拡大,基本群と Galois 群の類似性は本書に一貫する主題なの で,0.1 節と 0.2 節で,後章で使われる例や基本的な事柄を含め,空間と可換 環の場合に基本群と Galois 理論について整理して述べる.0.3 節ではエター ルコホモロジーの双対定理として類体論を述べる.エタールコホモロジーに ついて定義から詳しく述べる余裕はないが,後章で類体論を使うという立場 からは,類体論の位相幾何学的な解釈と主内容を理解するだけで十分である. 基本群と被覆の Galois 理論について詳細は,[Mt], [Mr], [SGA1] を,Galois コホモロジー,エタールコホモロジーと類体論については,[Ha], [Mi1], [Mi2],
[Ne], [NSW] などを参照されたい.結び目及び代数体の基本的な事柄につい ては,[Hl], [Kw], [Ro] 及び [Kb] を薦める.
0.1 空間の場合 以下,考える空間は位相多様体とする.位相多様体では,連結性と弧状連 結性は同値であることに注意しよう.空間の間の写像は連続と仮定する.
X を連結な空間とし,点 x P X を固定する.X 内の 2 つの道 γ, γ 1 に対し,γ の終点と γ 1 の始点が一致するとき,γ に γ 1 をつなげた道を γ _ γ 1 と書く.x を基点とする X 内のループの集合を,x を止めてホモ トープ,という同値関係で類別したホモトピー類の集合を π1 pX, xq と書く. rls, rl1 s P π1 pX, xq に対し,積 rls ¨ rl1 s を rl _ l1 s と定義することにより, π1 pX, xq は群になる.これを x を基点とする X の基本群という.別の基点 x1 をとると,x から x1 への道 γ に対し,対応 rls ÞÑ rγ ´1 _ l _ γs は同型 π1 pX, xq » π1 pX, x1 q を導く.これより,基点を略して π1 pXq と書き,X の基本群と呼ぶこともある.写像 f : X Ñ Y に対し,対応 rls ÞÑ rf ˝ ls は,
10
第 0 章 基本群と Galois 群
準同型 f˚ : π1 pX, xq Ñ π1 pY, f pxqq を導く.ここで,f と g がホモトープ で f pxq “ gpxq なら,f˚ “ g˚ となり,基本群は基点付き連結空間のホモト ピー圏から群の圏への共変関手を与える.特に,ホモトピー同値な 2 つの空 間の基本群は同型である.rls P π1 pXq に l のホモロジー類を対応させるこ とにより,基本群の Abel 化 π1 pXq{rπ1 pXq, π1 pXqs は 1 次元ホモロジー群
H1 pXq “ H1 pX, Zq と同型になる(Hurewicz の定理). S 1 :“ tx P R2 | ||x|| “ 1u. 基点 x を出発し,S 1 を 1 回りして x に戻るループを l とすると,π1 pS 1 , xq は,rls で生成される無限巡回群 xrlsy である(図 0.1).
例 0.1.1(円周)
図 0.1
例 0.1.2(ソリッドトーラス)
V :“ D2 ˆ S 1 .ここで,D2 :“ tx P
R | ||x|| ď 1u(2 次元円盤). V は S 1 とホモトピー同値なので,π1 pV q “ π1 pS 1 q “ xrβsy.但し, β “ tbu ˆ S 1 , b P BD2 . (2 次元トーラス)T 2 :“ S 1 ˆ S 1 “ BV . 射影 pi : T 2 Ñ S 1 (i “ 1, 2) を p1 px, yq :“ x, p2 px, yq :“ y により定義す ると,p1 ˚ ˆ p2 ˚ は同型 π1 pT 2 q » π1 pS 1 q ˆ π1 pS 1 q “ xrαsy ˆ xrβsy を与え る.但し,α “ BD 2 ˆ tau, a P S 1 . T 上の 2 つのループ α と β は各々メリ ディアンとロンジチュードと呼ばれる(図 0.2). 2
S n :“ tx P Rn`1 | ||x|| “ 1u (n ě 2). S n から 1 点を除いた空間 S n zt˚u は,1 点とホモトピー同値なので, π1 pS n q “ t1u.このように自明な基本群をもつ空間を単連結と呼ぶ.Perelman により証明された Poincar´e 予想は「3 次元単連結位相多様体は S 3 に
例 0.1.3(n 次元球面)
同相」という主張である. 基本群を求める有力な方法が van Kampen の定理である.ここで,群を求
0.1 空間の場合
11
図 0.2
めるとは 生成元と関係式による表示を与えることを意味する.文字 x1 , . . . , xr により生成される自由群を F px1 , . . . , xr q とする.x1 , . . . , xr の語 R1 , . . . , Rs を含む F px1 , . . . , xr q の最小の正規部分群を xxR1 , . . . , Rs yy と書く.群 G が商群 F px1 , ¨ ¨ ¨ , xr q{xxR1 , . . . , Rs yy と同型のとき,
G “ xx1 , . . . , xr | R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rs “ 1y と書き,G の生成元と関係式による群表示と呼ぶ.すなわち,非可換な座標 系 x1 , . . . , xr において,方程式系 R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rs “ 1 により群 G を表示す るものである.r ´ s “ k のとき,G は不足数 (deficiency) k の表示をもつ という.いま,ある空間 X がその開部分集合 X1 , X2 の和であり,X1 X X2 は連結で,空でないとする.基点 x P X1 X X2 をとり,群表示
π1 pX1 , xq “ xx1 , . . . , xr | R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rs “ 1y, π1 pX2 , xq “ xy1 , . . . , yt | Q1 “ ¨ ¨ ¨ “ Qu “ 1y, π1 pX1 X X2 , xq “ xz1 , . . . , zv | P1 “ ¨ ¨ ¨ “ Pw “ 1y が与えられたとする.包含写像 i1 : X1 X X2 ãÑ X1 , i2 : X1 X X2 ãÑ X2 は準同型 i1 ˚ : π1 pX1 X X2 , xq Ñ π1 pX1 , xq, i2 ˚ : π1 pX1 X X2 , xq Ñ
π1 pX2 , xq を導く.このとき,van Kampen の定理は,π1 pX, xq は,次のよ うに π1 pX1 , xq と π1 pX2 , xq を π1 pX1 X X2 , xq 上で “貼り合わせたもの” (融合積と呼ばれる)であることを主張する:
π1 pX, xq C x1 , . . . , xr “ y1 , . . . , yt
ˇ G ˇ R “ ¨¨¨ “ R “ Q “ ¨¨¨ “ Q “ 1 ˇ 1 s 1 u . ˇ ˇ i1 ˚ pz1 qi2 ˚ pz1 q´1 “ ¨ ¨ ¨ “ i1 ˚ pzv qi2 ˚ pzv q´1 “ 1
例 0.1.4(ハンドル体) g 個のハンドル D 2 ˆ D1 “ D2 ˆ r0, 1s と 3 次元球 体 D3 を用意する.各ハンドルについて,写像 f : D 2 ˆ BD1 Ñ BD3 “ S 2
12
第 0 章 基本群と Galois 群
を決め,x P D2 ˆ BD 1 と f pxq を同一視して,g 個のハンドルを D 3 に接 着する.こうしてできた空間を種数 g のハンドル体と呼び,Hg と書く(図
0.3).
図 0.3
Hg は g 個の S 1 を 1 点 b で接着したブーケ Bg とホモトピー同値である (図 0.4).
図 0.4
よって,van Kampen の定理より,b を出発し i 番目の S 1 を 1 回りするルー プを xi とすると,π1 pHg q “ π1 pBg q “ F px1 , . . . , xg q. 例 0.1.5(レンズ空間) V1 , V2 を有向ソリッドトーラスとし,向きを逆にする «
同相写像 f : BV2 Ñ BV1 が与えられたとする.このとき,f を接着写像として
V1 と V2 を貼り合わせてできる有向閉 3 次元多様体 V1 Yf V2 をレンズ空間と 呼ぶ.BV2 のメリディアン α2 に対し,BD2 “ α2 となる V2 “ D 2 ˆS 1 内の 2 次元円盤 D2 “ D2 ˆtau (a P S 1 ) をとり,N pD2 q を V2 における D2 の正則 近傍 p« D2 ˆ r0, 1sq とする(図 0.5).X :“ V1 Yf N pD2 q, Y :“ V2 zN pD2 q とおき,V1 Yf V2 “ X Yf Y と考えると,Y は 3 次元球体 D 3 に同相で, X と Y の貼り合わさる部分は BY « S 2 なので,Alexander のトリック (BD3 上の同相は D3 上の同相に拡張される)により,V1 Yf V2 の位相形 は X で決まる.しかるに,X の位相形は,V1 と N pD2 q の貼り合せ部分
0.1 空間の場合
13
図 0.5
BV1 X f pBD2 ˆ r0, 1sq,すなわち f pα2 q のホモトピー類で決まる.BV1 上の メリディアンとロンジチュードを各々 α1 , β1 とすると,例 0.1.2 より,
rf pα2 qs “ prβ1 s ` qrα1 s, pp, qq “ 1 を満たす整数のペアー pp, qq が一意的に定まる.従って,V1 Yf V2 の位相形 はこの整数のペアー pp, qq で決まることになる.そこで V1 Yf V2 を Lpp, qq と書き,タイプ pp, qq のレンズ空間という.π1 pY q “ π1 pBY q “ 1 なので,
van Kampen の定理より,π1 pLpp, qqq “ π1 pXq.π1 pN pD2 qq “ 1, π1 pV1 q “ f xrβ1 sy で,i : BD2 ˆ r0, 1s Ñ BV1 ãÑ V1 とすると,i˚ pπ1 pBD2 ˆ r0, 1sqq “ xrf pα2 qsy “ xrβ1 sp y なので,再び van Kampen の定理より,π1 pLpp, qqq “ xrβ1 s | rβ1 sp “ 1y » Z{pZ.p “ 0 のとき,Lp0, ˘1q « S 2 ˆ S 1 で,例外的 に基本群は無限になる. 上の構成を一般化して,種数 g の有向ハンドル体 V1 , V2 に対し,向き «
を逆にする同相 f : BV2 Ñ BV1 が与えられたとき,有向閉 3 次元多様体
M :“ V1 Yf V2 ができる.これを M の種数 g の Heegaard 分解と呼ぶ. 逆に,任意の向け付け可能な連結閉 3 次元多様体はこのような Heegaard 分 解をもつことが知られている(証明については,[He, Ch.2] または [Mm, 6 章] を参照されたい).Heegaard 分解が与えられたとき,その基本群の求め 方はレンズ空間の場合と同様である. 例 0.1.6(結び目群,絡み目群) S 1 から S 3 への埋め込みを結び目と呼び, その像 K と同一視する.埋め込みは中への PL-同相写像と仮定する.K を 芯にもつソリッドトーラス VK を K の管状近傍という.VK の内部 intpVK q の補空間であるコンパクト 3 次元多様体 XK :“ S 3 zintpVK q は結び目補空間 と呼ばれる.結び目 K のメリディアン α とは,BXK 上の有向曲線で,VK における円盤 D 2 の境界 BD 2 となるものをいう.結び目 K のロンジチュー ド β とは,BXK における閉曲線で,メリディアンと横断的に 1 点で交わり,
14
第 0 章 基本群と Galois 群
XK においてヌルホモロガスとなるものをいう(図 0.6).
図 0.6
XK の基本群 π1 pXK q “ π1 pS 3 zKq を K の結び目群と呼び,GK と書く. まず,GK の群表示を求める手続きを述べよう.S 3 “ R3 Y t8u なので, K Ă R3 としてよい.結び目 K を R3 内のある平面へ射影すると,一般に 高々有限個の 2 重点をもつ射影図ができるが,その際,2 重点での結び目の 上下関係がわかるように描いた図を結び目の正則表示と呼ぶ.3 葉結び目を 例にとって説明しよう.
(0) まず,結び目の正則表示を 1 つ与える(図 0.7).
図 0.7
(1) K に向きを与え,弧 c1 , . . . , cn に分割する.但し,ci (1 ď i ď n ´ 1) は 2 重点で ci`1 につながり,cn は c1 につながるとする(図 0.8). (2) 基点 b を K の上方にとり,b を出発し,ci を右から左へ下を通過して b に戻るループを xi とする(図 0.9).
0.1 空間の場合
15
図 0.8
図 0.9
(3) 一般に,各 2 重点における ci たちの交差の仕方は次の通りである.前者 ´1 の場合,xi たちの関係式 Ri “ xi x´1 k xi`1 xk “ 1, 後者の場合,関係式 ´1 ´1 Ri “ xi xk xi`1 xk “ 1 が得られる(図 0.10). こうして,n 個の 2 重点 P1 , . . . , Pn につき,関係式 R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rn “ 1 が得られ,GK の群表示を得る:xx1 , . . . , xn | R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rn “ 1y (図 0.11). これら n 個の関係式のうち,任意の 1 個は他の関係式から導かれ,従って, GK は不足数 1 の表示をもつことが次のようにわかる.結び目 K の下方に 平面をとり,結び目の射影図を内部に含む向きのついた円 C を描き,基点 b から C 上の 1 点 Q への XK 内の道 を γ とする.l :“ γ _ C _ γ ´1 とお くと,GK の元として,rls は単位元である.また,平面上 Q から Pi へ進 み,Pi の回りを C と同じ向きに小円を 1 回りし,Q へ戻る道を li とする śn と,下図から見てとれるように,l は i“1 γ _ li _ γ ´1 とホモトープであ る(図 0.12).
16
第 0 章 基本群と Galois 群
図 0.10
図 0.11
図 0.12
0.1 空間の場合
17
Pi の回りの小円を 1 回りするループは,Ri (または Ri´1 )に対応するの で,ある zi P F px1 , . . . , xn q が存在して, p4q
n ź
zi Ri zi´1 “ 1
i“1
が成り立つ. 上のようにして得られる GK の群表示を結び目群の Wirtinger 表示という.
(3) の関係式から見てとれるように,x1 , . . . , xn は互いに共役である.これ より,GK の Abel 化 GK {rGK , GK s » H1 pXK , Zq は K のメリディアンの 類により生成される無限巡回群である.
Wirtinger 表示は,S 3 の代わりに任意のホモロジー 3-球面 M (すなわち, 有向閉 3 次元多様体 M で Hi pM, Zq “ Hi pS 3 , Zq (@i ě 0q を満たすもの) をとっても成り立つ ([Tu]).勿論,任意の連結有向閉 3 次元多様体 M 内の 結び目 K を考えることができ,管状近傍,結び目補空間などを同様に定義さ れる.このとき,XK “ M zintpVK q は,トーラスを境界にもつコンパクト 連結有向 3 次元多様体なので,XK は 2 次元複体 C に縮約し,XK の Euler 数が 0 であることから,結び目群 GK pM q :“ π1 pXK q “ π1 pCq は不足数 1 の群表示をもつ.しかし,一般には GK pM q は Wirtinger 表示をもつとは限 らない. さらに,r 個の S 1 の交わらない和集合から連結有向閉 3 次元多様体 M への PL-埋め込みないしその像 L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr を r 成分絡み目と いう.r “ 1 の場合が結び目である.L の管状近傍 VL “ VK1 Y ¨ ¨ ¨ Y VKn (VKi XVKj “ H (i ‰ j) とする)の内部 intpVL q の補空間 XL :“ M zintpVL q を絡み目補空間と呼び,GL pM q :“ π1 pXL q “ π1 pM zLq を L の絡み目群と いう. GL pM q も GK pM q と同様, 不足数 1 の群表示をもつ.特に,M “ S 3 のとき,絡み目の正則表示が結び目の場合と同様に定義され,絡み目群 GL の Wirtinger 表示も同様に得られる.但し,ループ xi と xj が共役関係に あるのは,ci と cj が同一の結び目上にあるときに限るので,GL の Abel 化
GL {rGL , GL s » H1 pXL , Zq は,各 Ki の回りのメリディアンの類により生 成される階数 r の自由 Abel 群である. 最後に,絡み目の間の同型を定義しよう.連結有向閉 3 次元多様体 M 内 « の 2 つの絡み目 L, L1 について,同相写像からなるホモトピー ht : M Ñ M p0 ď t ď 1q があり,h0 “ idM , h1 pLq “ L1 となるとき,L と L1 は同型 « という.この条件は,向きを保つ同相写像 f : M Ñ M があり,f pLq “ L1 となることと同値である.絡み目全体の集合上で定義され,同型で不変な量
18
第 0 章 基本群と Galois 群
を絡み目不変量という.特に,結び目全体の集合上で定義され,同型で不変 な量を結び目不変量という.結び目群は結び目不変量,絡み目群は絡み目不 変量である. 次に,被覆空間について述べよう.X を連結な空間とする.上への写像 h : Y Ñ X が(不分岐)被覆であるとは,任意の点 x P X に対し, $ Ů &p1q h´1 pU q “ Vj , Vi X Vj “ H pi ‰ jq jPJ
« %p2q h| : V Ñ U(同相) Vj j
となる x の開近傍 U が存在することである.但し,Vj は h´1 pU q の連結成 分で Y の開集合とする(図 0.13).
図 0.13
X 上の 2 つの被覆 h : Y Ñ X, h1 : Y 1 Ñ X に対し,写像 ϕ : Y Ñ Y 1 で h1 ˝ ϕ “ h を満たすものが存在すれば,ϕ も被覆になり,h1 : Y 1 Ñ X は h : Y Ñ X の部分被覆と呼ばれる.そのような ϕ の全体を CX pY, Y 1 q と書 くことにする.同相な ϕ P CX pY, Y 1 q が存在するとき,Y と Y 1 は X 上同型 であるという.同相な ϕ P CX pY, Y q の全体を被覆変換群と呼び,AutpY {Xq と書く. 被覆空間の理論において最も基本となる事実が,道とそのホモトピーの持 ち上げ性質である: 命題 0.1.7
被覆 h : Y Ñ X と 道 γ : r0, 1s Ñ X に対し,任意の y P h´1 pxq
を始点とする Y 内の道 γ ˆ : r0, 1s Ñ Y で γ の持ち上げ γˆ (h˝ γˆ “ γ を満た すもの)が唯一つ存在する.さらに,γt (t P r0, 1s) を両端を止めた γ のホ モトピーとするとき,γt の持ち上げで γ ˆ の両端を止めたホモトピーとなる ものが唯一つ存在する. 以下,被覆空間は連結と仮定する.命題 0.1.7 より,x 上のファイバー h´1 pxq
0.1 空間の場合
19
の濃度は x によらず,被覆次数と呼ばれ,degphq ないし rY : Xs と書かれ る.y P h´1 pxq と rls P π1 pX, xq に対し,y を始点とする l の持ち上げ ˆ l の終点を y.rls と定義することにより,π1 pX, xq は h´1 pxq に右から推移的 に作用し,命題 0.1.7 より,y の固定部分群は h˚ pπ1 pY, yqq である.この作 用による π1 pX, xq の h´1 pxq 上の置換表現 ρx : π1 pX, xq Ñ Autph´1 pxqq (ここで,Autph´1 pxqq は h´1 pxq 上の置換群で,σ1 , σ2 P Autph´1 pxqq に 対し,積 σ1 ¨ σ2 は写像の合成 σ2 ˝ σ1 と定義される)をモノドロミー置換 表現という.ρ は同型 Impρx q » π1 pX, xq{
Ş
h˚ pπ1 pY, yqq を導く. 被覆の同型類はモノドロミー置換表現の同値類で決まる.一方,AutpY {Xq は左から h´1 pxq に作用するが,この作用が単純推移的,すなわち,任意の y P h´1 pxq に対して,対応 AutpY {Xq Q σ ÞÑ σpyq P h´1 pxq が全単射と なるとき,h : Y Ñ X を Galois 被覆と呼ぶ.これは x のとり方によらな い.この場合 AutpY {Xq を GalpY {Xq と書き,Y の X 上の Galois 群と いう.以上のもと,被覆空間の Galois 理論の主定理は次のように述べること yPh´1 pxq
ができる: 定理 0.1.8(Galois 対応)
h
´1
対応 ph : Y Ñ Xq ÞÑ h˚ pπ1 pY, yqq py P
pxqq は次の全単射を導く: „
tX 上の連結な被覆 h : Y Ñ Xu{X 上同型 ÝÑ tπ1 pX, xq の部分群 u{共役. さらに,この対応について,次が成り立つ:
• h1 : Y 1 Ñ X が h : Y Ñ X の部分被覆 ô 共役を除き,h˚ pπ1 pY, yqq py P h´1 pxqq は h1˚ pπ1 pY 1 , y 1 qq py 1 P h1´1 pxqq の部分群. • h : Y Ñ X が Galois 被覆 ô h˚ pπ1 pY, yqq py P h´1 pxqq は π1 pX, xq の正規部分群.このとき,同型 GalpY {Xq » π1 pX, xq{h˚ pπ1 pY, yqq (“ モノドロミー群)が成り立つ. また,上の対応で,π1 pX, xq の代わりに X 上のある Galois 被覆 Z Ñ X の
Galois 群 GalpZ{Xq をとり,Z Ñ X の部分被覆と GalpZ{Xq の部分群の 対応を考えても同様の性質を満たす全単射が成り立つ. このように,空間 X の基本群は,X 上の被覆全体の対称性を統制する群と みなせる.この対応で,特に π1 pX, xq の単位群 t1u に対応する被覆(同型
˜:X ˜ Ñ X と書く.普遍被覆 を除いて唯一つ存在する)を普遍被覆と呼び,h は次の性質 (U) をもつことに注意する:
20 (U)
第 0 章 基本群と Galois 群
$ ’ &(i)
˜ を 1 つ決めると,被覆 h : Y Ñ X に対し,写像 点x ˜PX
’ % (ii)
例 0.1.9
˜ xqq. ˜ Y q Q ϕ ÞÑ ϕp˜ CX pX, xq P h´1 pxq は全単射 px “ hp˜ ˜ xqq. ˜ GalpX{Xq » π1 pX, xq px “ hp˜
円周 S 1 の普遍被覆は,
˜ ˜ : R Ñ S 1 ; hpθq :“ pcosp2πθq, sinp2πθqq h により与えられる.基点 x を出発し,反時計回りに S 1 を 1 回りするルー プを l とし,被覆変換 σ P GalpR{S 1 q を σpθq :“ θ ` 1 により定義する と,対応 σ n ÞÑ rln s (n P Z) が,同型 GalpR{S 1 q » π1 pS 1 , xq を与える.
π1 pX, xq “ xrlsy の部分群 p‰ t1uq は xrln sy (n P N) で与えられる.xrln sy に対応する被覆は
´ 2πθ ¯¯ ´ ´ 2πθ ¯ , sin hn : R{nZ Ñ S 1 ; hn pθ mod nZq :“ cos n n
である. 例 0.1.10
トーラス T 2 “ S 1 ˆ S 1 の普遍被覆は S 1 の普遍被覆の直積で
ある:
˜ 1 , θ2 q :“ ppcosp2πθ1 q, sinp2πθ1 qq, pcosp2πθ2 q, sinp2πθ2 qqq. ˜ : R2 Ñ T 2 ; hpθ h 被覆変換 σ1 , σ2 P GalpR2 {T 2 q を σ1 pθ1 , θ2 q :“ pθ1 ` 1, θ2 q, σ2 pθ1 , θ2 q :“
pθ1 , θ2 ` 1q により定義すると,σ1 とメリディアン rαs, σ2 とロンジチュー ド rβs を対応させる写像が同型 GalpR2 {T 2 q » π1 pT 2 q を与える. 例 0.1.11
Lpp, qq をレンズ空間とする(例 0.1.5).但し,p, q は互いに
素な整数とする.p “ 0 のとき,Lp0, ˘1q “ S 2 ˆ S 1 なので,普遍被覆 は S 2 ˆ R である.以下,p ‰ 0 とし,Lpp, qq の普遍被覆を求めよう1 .
S 1 “ R{Z, D2 “ pR{Z ˆ p0, 1sq Y tp0, 0qu と同一視する.ここで,px, rq P R{Zˆp0, 1s は pr cos 2πx, r sin 2πxq P D 2 と同一視する.ソリッドトーラスを V “ D2 ˆ R{Z, その境界であるトーラスを BV “ BD2 ˆ R{Z “ R{Z ˆ R{Z とみなす.V のコピー V1 , V2 , V11 , V21 を用意する.次の写像 ´ ¯ y f : BV2 Ñ BV1 ; f px, yq :“ qx ` , px p を考える.
˜
q p det 1{p 0 1
¸ “ ´1
以下の議論は,宮坂聡氏(京都大学理学研究科数学専攻修士 1 年(当時),2005 年)による.
0.1 空間の場合
21
より,f は向きを逆にする同相写像で,f により V1 と V2 を貼り合わせて できる多様体が Lpp, qq に他ならない:Lpp, qq “ V1 Yf V2 .次に,写像
g : BV21 Ñ BV11 ; gpx, yq :“ py, xq を考えると,g は向きを逆にする同相写像で,g により V11 と V21 を貼り合 わせた多様体は S 3 である:S 3 “ V11 Yg V21 .写像 h : S 3 “ V11 Yg V21 Ñ
Lpp, qq “ V1 Yf V2 を h|V21 : V21 Ñ V2 ; h|V11 px, r, yq :“ px, r, ppy ´ qxqq, h|V11 : V11 Ñ V1 ; h|V21 px, r, yq :“ px, r, pyq により定義すると,h は整合的に定義され,h|Vi1 (i “ 1, 2) はともに p 次巡
回被覆なので,h も被覆写像である.S 3 は単連結なので,h : S 3 Ñ Lpp, qq が普遍被覆を与える. 例 0.1.12
結び目 K Ă S 3 に対し,VK をその管状近傍, XK :“ S 3 zintpVK q
を結び目補空間,GK :“ π1 pXK q を結び目群とする.α を K のメリディア ンとする.GK {rGK , GK s は α の類で生成される無限巡回群なので,α を 1 へ送る写像は,全射準同型 ψ8 : GK Ñ Z を定める.Kerpψ8 q に対応する 被覆を h8 : X8 Ñ XK とする.X8 は α のとり方によらず,XK の無限 巡回被覆と呼ばれる.Galois 群の生成元 τ はメリディアン α に対応するも のがとれる:GalpX8 {XK q “ xτ y.自然数 n に対し,ψ8 と自然な準同型
Z Ñ Z{nZ の合成写像 ψn : GK Ñ Z{nZ の核 Kerpψn q に対応する被覆を hn : Xn Ñ XK とする.Xn は X8 の部分被覆で,GalpXn {XK q » Z{nZ となるものが唯一つのものである.GalpXn {XK q の生成元 τ |Xn も τ と書 くことにする.Xn , X8 は次のように具体的に構成される.まず,K を境界 にもつ有向曲面 ΣK (Seifert 曲面) をとる.XK X ΣK に沿って XK を切 り開いたものを Y とする.Σ` , Σ´ を図 0.14 のようにとる. ´ ` ´ n 個の Y のコピー Y0 , . . . , Yn´1 を用意し,Σ` 0 と Σ1 , . . . , Σn´1 と Σ0 と貼り合せたものを Xn とする(図 0.15). ´ 写像 hn : Xn Ñ XK は次のように定義する:y P Yi zpΣ` i Y Σi q なら, ` Yi “ Y により,hn pyq は対応する Y の点とする.y P Σi Y Σ´ i なら, ` ´ Σi , Σi Ă ΣK により,hn pyq は対応する ΣK の点とする.構成の仕方から, hn : Xn Ñ XK は n 次巡回被覆である.被覆変換 τ P GalpXn {XK q は Yi を Yi`1 (i P Z{nZ) へ ‘ずらす’ 写像である.この構成は n “ 8 へ拡張され ´ る.すなわち,Y のコピー Yi (i P Z) を用意し,Σ` i と Σi`1 を貼り合せた
22
第 0 章 基本群と Galois 群
図 0.14
図 0.15
図 0.16
ものが X8 である(図 0.16).τ P GalpX8 {XK q は Yi を Yi`1 (i P Z) へ
‘ずらす’ 写像である.
0.1 空間の場合
23
π1 pXq の Abel 化を X の Abel 基本群といい,π1ab pXq と表す. Hurewicz の定理より,H1 pX, Zq » π1ab pXq.定理 0.1.8 の Galois 対応にお いて,交換子群 rπ1 pXq, π1 pXqs に対応する X 上の被覆空間を最大 Abel 被 覆といい,X ab と書くことにする.π1ab pXq » GalpX ab {Xq なので,同型 例 0.1.13
H1 pX, Zq » GalpX ab {Xq を得る.これより,X の Abel 被覆はホモロジー群 H1 pX, Zq で統制される ことがわかる.これは,例 0.3.3.8 で述べる代数体に対する不分岐類体論の位 相幾何学的な類似とみなされる. 最後に,分岐被覆について述べよう.M , N を npě 2q 次元位相多様体, f : N Ñ M をその間の写像とする.SN :“ ty P N | y の任意の近傍で f は 同相でない u, SM :“ f pSN q とおく.SN , SM は共に pn ´ 2q 次元位相多様 体とする.D k :“ tx P Rk | ||x|| ď 1u とする.このとき,f : N Ñ M が SM 上分岐する分岐被覆であるとは次が成り立つことである: $ p1q f |N zB : N zSN Ñ M zSM は被覆である. ’ ’ ’ &p2q 任意の点 y P S に対し,y の近傍 V と ppyq の近傍 U 及び同 N « « ’ 相写像 ϕ : V Ñ D2 ˆ Dn´2 , ψ : U Ñ D2 ˆ Dn´2 と自然数 ’ ’ % e “ epyqpą 1q, が存在し,pge ˆ idDn´2 q ˝ ϕ “ ψ ˝ f が成り立つ. 但し,ge : D2 Ñ D2 は,ge ppr cos θ, r sin θqq :“ pr cospeθq, r sinpeθqq と定 める.自然数 e “ epyq を y における分岐指数という.また,f |N zSN を f に付随する被覆という.N がコンパクトなら,f |N zSN は有限次被覆である.
f |N zSN が Galois 被覆のとき,f を分岐 Galois 被覆という. S 3 内の結び目 K に対し,VK を K の管状近傍とし, XK “ S 3 zintpVK q を結び目補空間とする.hn : Xn Ñ XK を例 0.1.12 における n 次巡回被覆とする.hn |BXn : BXn Ñ BXK はトーラスの n 次巡回被覆で, BXK のメリディアン α に対し,BXn のメリディアンは nα になっている. そこで,ソリッドトーラス V “ D2 ˆ S 1 をそのメリディアン BD2 ˆ t˚u が nα となるように BV を BXn に貼り付ける.こうしてできる閉 3 次元多様 体を Mn とする(図 0.17). fn : Mn Ñ S 3 を fn |Xn :“ hn , fn |V :“ gn ˆ idS 1 と定義すると,fn は K 上分岐する分岐被覆で,付随する被覆は hn である.fn(ないし Mn )を hn (ないし Xn )の完備化という. 例 0.1.14
例 0.1.14 のような完備化は,絡み目補空間の任意の有限次被覆に対しても
24
第 0 章 基本群と Galois 群
図 0.17
一意的に存在し,Fox 完備化と呼ばれる ([Fo2])2 .実際,Fox 完備化は,局 所連結な T1 -空間の間の被覆(より一般にスプレッド (spread))に対して定 義されるが,ここでは 3 次元多様体内の絡み目補空間に対してその構成の概 略を説明しよう.M を連結有向閉 3 次元多様体,L を M 内の絡み目とす る.X “ M zL とし,有限次被覆 h : Y Ñ X が与えられたとする.このと き,L 上分岐する分岐被覆 f : N Ñ M で付随する被覆が h : Y Ñ X と なるものが一意的に存在する.ここで,一意的とは,そのような分岐被覆空 間 N, N 1 があるとすると,N から N 1 への同相写像で Y への制限が恒等 写像となるものが存在することをいう.f : N Ñ M の構成で問題となるの は,x P L のとき,f ´1 pxq をどう定義するかであるが,それは次のように考 える.g を h と包含写像 X ãÑ M の合成とする:g : Y Ñ M .x P M の 各開近傍 U に対し,g ´1 pU q の連結成分の 1 つ ypU q を対応させる.但し,
U1 Ă U2 なら ypU1 q Ă ypU2 q とする.この対応 y の全体を f ´1 pxq と定め, Ť N :“ xPM f ´1 pxq とおく.M の開集合 U と f ´1 pU q の連結成分 W に対 し,ty | ypU q “ W u の全体が開基となるような位相を N に入れる.y P Y なら,x “ f pyq の開近傍 U に対し,y を含む g ´1 pU q の唯一つの連結成分 ypU q を対応させることにより,Y Ă N とみなせる.感覚的には,x P L をそ の近傍 U を小さくしていったときの極限とみなすとき,g ´1 pU q の連結成分 ypU q の極限として y P N を定義しようという考え方である.y P f ´1 pLq の 近傍で条件 (2) のようになっていることは, L を芯にもつ x “ f pyq の近傍を W “ D2 ˆ D1 とするとき,局所的な被覆 f |h´1 pW zLq : h´1 pW zLq Ñ W zL に対する Fox 完備化の一意性から従う. 2
Fox 完備化については,加藤十吉氏に御教示頂いた.
0.1 空間の場合
25
L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr を有向閉 3 次元多様体 M 内の絡み目とし, XL を L の補空間,GL “ π1 pXL q, αi を Ki のメリディアンとする.すべての αi を 1 へ送る写像は,全射準同型 ψ8 : GL Ñ Z を定める.Kerpψ8 q に対応 する XL 上の無限巡回被覆を XL の全まつわり数被覆 (total linking number cover) という.各自然数 n に対し,ψn を ψ8 と自然な準同型 Z Ñ Z{nZ の合成写像とする:ψn : GL Ñ Z{nZ.Kerpψn q に対応する XL の n 次巡 回被覆 Xn に対し,Xn の Fox 完備化 Mn が存在する.Mn は L 上分岐す る M の n 次巡回被覆である. 例 0.1.15
例 0.1.16
L を 2 橋絡み目 Bpa, bq (0 ă b ă a, pa, bq “ 1) とする(a が奇
数なら結び目,a が偶数なら 2 成分絡み目,図 0.18).
図 0.18
L 上分岐する S 3 の 2 次被覆はレンズ空間 Lpa, bq である(例 0.1.5).こ れをみるために,Bpa, bq を 2 つの橋 B1 (線分 P P 1 Y 線分 QQ1 )と下を通 る弧 B2(a が奇数なら,弧 P Q1 Y 弧 QP 1 , a が偶数なら,弧 P P 1 Y 弧 QQ1 ) と分け,B1 , B2 を各々3 次元球体 D13 , D23 内の弧と見る(図 0.19). Heegaard 分解 S 3 “ D13 Y D23 に応じて,Bpa, bq “ B1 Y B2 と分解され る.Bi 上分岐する Di3 の 2 次被覆 Vi はソリッドトーラスなので,Bpa, bq 上分岐する S 3 の 2 次被覆 M はレンズ空間である.BV1 のメリディアン α1 (橋 P P 1 の V1 へのリフト)の BV2 における像を見ると,ホモロジー類として ap ロンジチュード q `bp メリディアン q となっていることがわかる(図 0.20). これより,M “ Lpa, bq.
26
第 0 章 基本群と Galois 群
図 0.19
図 0.20
0.2 可換環の場合 以下,考える環は,単位元をもつ可換環とする.環の間の写像は単位元を 単位元に写す環準同型と仮定する. 可換環 R に対し,その素イデアルの集合を SpecpRq と書き,R の素ス ペクトルと呼ぶ.a P R に対し,Ua :“ tp P SpecpRq | a R pu とおくと,
U :“ tUa | a P Ru を開基とする位相が SpecpRq に定まり,Zariski 位相と 呼ばれる.位相空間 SpecpRq 上には,OSpecpRq pUa q “ Ra :“ tr{an | r P R, n P Zě0 u pa ‰ 0q を満たす可換環の層 OSpecpRq が付随し,このペアー pSpecpRq, OSpecpRq q をアフィンスキームと呼ぶ.スキームとは,層付き位相 空間で,局所的にアフィンスキームであるものをいう.以後,簡単のため,層
OSpecpRq を略して,単に SpecpRq をアフィンスキームと言うことにする.可換 環の準同型 ψ : A Ñ B が与えられると,ϕppq :“ ψ ´1 ppq により定まる位相空 間の連続写像 ϕ : SpecpBq Ñ SpecpAq と ψ が導く自然な準同型 Aa Ñ Bψpaq
0.2 可換環の場合
27
pa P Aq により定まる SpecpAq 上の層の射 ψ # : OSpecpAq Ñ ϕ˚ OSpecpBq が 定義される.アフィンスキームの間の射とはペアー pϕ, ψ # q のことである. この対応により,可換環の圏とアフィンスキームの圏は反同値になる.こう して,可換環 R を考えることとアフィンスキーム SpecpRq を考えることは 同じことになり,環の代数的な性質はアフィンスキームについての幾何的な 言葉で言い表せる.しかし,この位相は粗過ぎ,例えば,空間内のループの 定義をそのまま SpecpRq で考えることはできない.前節で述べたように,空 間の形を記述する基本群を考えることと被覆全体を考えることは同等である. スキームの場合も,空間の被覆に相当する概念 —– エタール被覆と呼ばれ る —– を導入し,エタール被覆全体の有様を調べることによって,スキーム の形を(心の眼で)見ることができる.SpecpRq のエタール基本群も,前節 の点付き普遍被覆の性質 (U) の類似を追って定義される. 可換環 R と p P SpecpRq に対し,Rp を R の p における局所化,すなわち
Rp :“ tr{s | r P R, s P Rzpu, κppq をその剰余体とする:κppq :“ Rp {pRp . 環の準同型 A Ñ B が有限エタールとは, $ ’ &p1q B は有限生成,平坦 A-加群, p2q 任意の p P SpecpAq に対し, ’ % BbA κppq » K1 ˆ¨ ¨ ¨ Kr (κppq-代数の同型) が成り立つことである.但し,Ki (1 ď i ď r) は κppq のある有限次分離拡 大体である. 以下,A を整閉整域,F を A の商体とする.A-代数 B が A 上の連結有 限エタール代数とは,F のある有限次分離拡大 K が存在し,
# p1q B は K における A の整閉包, p2q 包含写像 A ãÑ B は有限エタール
が成り立つことである.A 上の有限エタール代数とは,有限個の A 上の 連結有限エタール代数 B1 , . . . , Br の直積 B1 ˆ ¨ ¨ ¨ ˆ Br と同型な A-代数 のことである.また,A-代数 B が有限 Galois 代数とは,B は連結有限エ タール代数で,p P SpecpAq と κppq を含む代数閉体 Ω に対し,AutpB{Aq :“
tσ | B の A-代数の自己同型 u の HomA-代数 pB, Ωq :“ tι | B から Ω への A-代数の準同型 u への作用 AutpB{Aq ˆ HomA-代数 pB, Ωq Ñ HomA-代数 pB, Ωq; pσ, ιq ÞÑ ι ˝ σ が単純推移的なことである.これは,p と Ω のとり方によらない.このと
28
第 0 章 基本群と Galois 群
き,AutpB{Aq を GalpB{Aq と書き,B の A 上の Galois 群という.B の 商体を K とすると,この条件は,K{F が Galois 拡大であることと同値で,
GalpB{Aq “ GalpK{F q である. 例 0.2.1(体) F を体とする.SpecpF q “ tp0qu である.定義より,F 上 の連結有限エタール代数とは,F の有限次分離拡大体のことであり,F 上の 有限エタール代数とは,有限個の F の有限次分離拡大たちの直積と同型な F 代数のことである.また,F 上の有限 Galois 代数とは,F の有限次 Galois 拡大に他ならない. 整数論において最も基本的な体は,ある素数 p に対する p 元体 Fp :“ Z{pZ である.より一般に,q 元からなる有限体 Fq は,その分離閉包の中に,各自 然数 n に対して唯一つの n 次分離拡大 Fqn をもつ.それに比べると,拡大
?
体の有様の点からは,有理数体 Q はずっと複雑な体である.2 次体 Qp mq だけをみても,同型でない無数の体が存在する. 環 R が離散付値環であるとは, # p1q R は単項イデアル整域である p2q R は (0) でない素イデアル p を唯一つもつ
例 0.2.2(完備離散付値環)
が成り立つことである.SpecpRq “ tp0q, pu.i ď j のとき,fij : R{pj Ñ
R{pi を自然な環準同型とすると,tR{pi , fij u は射影系をなす.その射影極限 ˇ ! ) ź iˇ ˆ :“ lim R{pi :“ pai q P f R{p pa q “ a pi ď jq R ˇ ij j i ÐÝ iPN
ś
iPN
ˆ に R{pi の部分環をなす.R{pi に離散位相を与え,R ˆ は位相環の構造をも 直積空間 i R{p の誘導位相を入れることにより,R ˆ ち,R の p 進完備化と呼ばれる.対応 x ÞÑ px mod pi q により,R は R ˆ のとき,R を完備離散付値環という.R の の部分環とみなせるが,R “ R は自然に直積環
ś
i
i
商体を K とする.p “ pπq となる素元 π を 1 つとると,任意の x P K ˆ は,x “ uπ n pu P Rˆ , n P Zq と一意的に書ける.このとき,vpxq :“ n とおくと,v は K 上の離散加法付値を与える(v は π のとり方によらな い) :すなわち,v : K ˆ Ñ Z は全射準同型で,vpx ` yq ě minpvpxq, vpyqq (@x, y P K; vp0q :“ 8 と約束する).v を p-進付値という.実数 c ą 1 をとり,p-進乗法付値を |x| :“ c´vpxq と定めると,dpx, yq :“ |x ´ y| によ り K 上に距離 d が定まる.この位相は c のとり方によらない.距離空間
ˆ を K の p-進完備化という.距離 d,従って離散付値 v pK, dq の完備化 K ˆ へ拡張され(同じく v と書く),R{p の完全代表系 S Ă R を 1 つ決 はK
0.2 可換環の場合
29
ˆ は, める(但し,0 の類の代表は 0 を選ぶ)と,vpxq “ n P Z となる x P K x “ an π n ` an`1 π n`1 ` ¨ ¨ ¨ pai P Sq と一意的に p-進展開される.ここで, ˆ | vpxq ě 0u が R ˆ の付値環 tx P K ˆ に他ならない.実際,x ÞÑ px mod pi q K ˆ はR ˆ の商体で,完備離散付値体と呼ばれる.R ˆの が同型対応を与える.K ˆ | vpxq ą 0u で,剰余体 R{ ˆ ˆp は p :“ tx P K 極大イデアルは付値イデアル ˆ R{p と一致する.例えば,素数 p に対し,Zppq は離散付値環である.付随 する p-進付値に関する Zppq 及び Q の完備化は各々 p-進整数環, p-進体と呼 ばれ,Zp 及び Qp と書く. A を完備離散付値環,F を A の商体,K を F の n 次分離拡大とし,K における A の整閉包を B とする.このとき,B も完備離散付値環をなし,K はその商体である.また,B は階数 n の自由 A-加群をなす.A, B の極大イ デアルを各々 p, P とすると,pB “ Pe pe P Nq と書けるが,e “ 1 のとき, K{F は不分岐拡大, e ą 1 のとき,K{F は分岐拡大といい,e を分岐指数と いう.e “ n のとき,K{F は完全分岐拡大と呼ばれる.B bA κppq » B{Pe なので,
B は A 上の連結有限エタール代数 ô K{F は不分岐拡大 が成り立ち,このとき κpPq{κppq は n 次分離拡大となる.これより,対応
K{F ÞÑ B{A ÞÑ κpPq{κppq は,次の全単射を与える: tF の有限次不分岐拡大 u{F -同型 „
Ñ tA 上の連結有限エタール代数 u{A-同型 „
Ñ tκppq の有限次分離拡大 u{κppq-同型. 特に,A “ Zp , F “ Qp のとき,B を p-進整数環, K を p-進体という.p は B の極大イデアルを表す. 例 0.2.3(Dedekind 環)
環 R が Dedekind 環であるとは, $ ’ &p1q R は Noether 整域である(体ではない) p2q R は整閉である ’ % p3q R の (0) でない素イデアルは極大イデアルである
が成り立つことである.定義より,単項イデアル整域は Dedekind 環である. 以下,可換環 R の極大イデアルの集合を MaxpRq と表し,R の極大スペ クトルという.条件 (3) は,SpecpRq “ MaxpRq Y tp0qu と同値である.イ デアル論的には,Dedekind 環は次の性質を満たす整域 R として特徴付け られる:“R の任意のイデアル a (‰ p0q) は相異なる極大イデアルのべき積
30
第 0 章 基本群と Galois 群
pe11 ¨ ¨ ¨ perr ppi P MaxpRq, ei P Nq の形に(順序を除いて)一意的に表せる”. このとき,Pi |a と書く.K を Dedekind 環 R の商体とするとき,K の有 限生成 R-部分加群 p‰ p0qq を R の分数イデアルという.分数イデアル a に対し,a´1 :“ tx P K | xa Ă Ru とおくと,a´1 も分数イデアルをなし, aa´1 “ R となる.分数イデアルは,負べきも許した相異なる極大イデアル のべき積 pe11 ¨ ¨ ¨ perr ppi P MaxpRq, ei P Zq に一意的に表せる.従って,分数 イデアルの全体は積に関し,MaxpRq を基底とする自由 Abel 群をなし,R の分数イデアル群と呼ばれる.単項イデアル paq “ aR pa P K ˆ q の全体の なす部分群による分数イデアル群の商群を R のイデアル類群という. Dedekind 環 R の 極大イデアル p に対し,局所化 Rp は離散付値環とな るので,例 0.2.2 における完備化 Rˆp が定義される.Rˆp は R の p-進完備化 と呼ばれる.同様に,Rp の商体(“ R の商体)K の完備化が定義されるが, それを K の p-進完備化と呼び,Kp と書く.また,Dedekind 環 R の任意 の積閉集合 Sp‰ Rzt0uq による局所化 S ´1 R も Dedekind 環であることに 注意する.
A を Dedekind 環,F を A の商体,K を F の n 次分離拡大とする.K に おける A の整閉包を B とすると,B も K を商体とする Dedekind 環になる. また,任意の p P SpecpAq に対し,B bA Ap は有限生成自由 Ap -加群なので, B は有限生成,平坦 A-加群である.p P MaxpAq に対し,B の Dedekind 性よ り,pB “ Pe11 ¨ ¨ ¨ Perr pPi P MaxpBq, Pi ‰ Pj pi ‰ jq, ei P Nq と一意的に 書けるが,ei “ 1 のとき,Pi は K{F で不分岐,ei ą 1 のとき,Pi は K{F で分岐するといい,ei を Pi の分岐指数という.また,e1 “ ¨ ¨ ¨ “ er “ 1 のとき,p は K{F で不分岐, 少なくともひとつの ei ą 1 を満たすとき,p は K{F で分岐するという.特に,r “ 1, e1 “ n のとき,p は K{F で完全 分岐するといい,r “ n, e1 “ ¨ ¨ ¨ “ en “ 1 のとき,p は K{F で完全分解 するという.任意の p P MaxpAq が K{F で不分岐のとき,K{F を不分岐 拡大,ある p P MaxpAq が K{F で分岐するとき,K{F を分岐拡大という. B bA κppq » B{Pe11 ˆ ¨ ¨ ¨ ˆ B{Perr なので, B は A 上の連結有限エタール代数 ô K{F は不分岐拡大 が成り立つ. スキームの基本群は,副有限群として定義されるので,次に,副有限群に 関することをまとめておこう.有限群の射影系 pGi , ψij q pi P Iq に対し,各
Gi に離散位相を与え,直積空間
ś
iPI
Gi の誘導位相を入れることにより,
0.2 可換環の場合
31
射影極限 limiPI Gi は位相群になり,副有限群と呼ばれる.位相群としては,
ÐÝ ‘コンパクトかつ完全不連結’ または ‘コンパクトかつ開部分群からなる単位 元の基本近傍系がとれるもの’ として特徴付けられる.ある素数 l について, 各 Gi が l 群のとき,射影極限 limi Gi は副-l 群と呼ばれる. ÐÝ G を群とする.G の指数有限正規部分群の全体 tNi | i P Iu を考 え,Nj Ă Ni のとき,i ď j と定める.i ď j に対し,ψij : G{Nj Ñ G{Ni を自然な準同型とすると,pG{Ni , ψij q は有限群の射影系をなす.このとき, 例 0.2.4
副有限群
ˆ :“ lim G{Ni G ÐÝ i
を G の副有限完備化という.また,ある素数 l に対し,G{Ni が l-群となる ような Ni のみを動かすとき,副-l 群
ˆ :“ Gplq
lim ÐÝ
G{Ni
G{Ni “ l-群
を G の副-l 完備化という.F を文字 x1 , . . . , xr により生成される自由群と するとき,F の副有限完備化 Fˆ 及び副-l 完備化 Fˆ plq を各々x1 , . . . , xr に より生成される自由副有限群, 自由副-l 群という.例えば,加法群 Z の副-l 完備化 limn Z{ln Z は l-進整数環 Zl の加法群に他ならない.Z の副有限完備
ÐÝ
ˆ と書かれる. 化 limn Z{nZ は Z
ÐÝ x1 , . . . , xr により生成される自由副有限群 Fˆ に対し,R1 , . . . , Rs P Fˆ を 含む Fˆ の最小の閉正規部分群を xxR1 , . . . , Rs yy とする.副有限群 G が Fˆ {xxR1 , . . . , Rs yy と位相群として同型のとき, G “ xx1 , . . . , xr | R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rs “ 1y と書き,G の生成元と関係式による群表示と呼ぶ.副-l 群の群表示について も,自由副-l 群 Fˆ plq の商群として同様に定義する.副-l 群 G の場合,次が 成り立つ ([NSW, Ch.III, §9]):
x1 , . . . , xr P G が位相的に G を生成するためには,その商 G{G rG, Gs において xi たちの像が生成系となることが必要十分である. 従って,極小生成系の数は,副有限群のコホモロジー H 1 pG, Fl q の Fl 上 の次元 dimFl H 1 pG, Fl q に等しい.極小生成系の間の極小関係式系の数は dimFl H 2 pG, Fl q に等しい. 命題 0.2.5 l
例 0.2.6
G を副有限群, l を素数とする.G の正規閉部分群 N で,G{N
32
第 0 章 基本群と Galois 群
が副-l 群となるものの集合には,包含関係に関し極小元 Nl が存在する(Zorn の補題).Nl は次の 2 つの性質で特徴付けられる:1) G{Nl は 副-l 群 2)
G{N が副-l 群なら,Nl Ă N.このとき,G{Nl を G の最大副-l 商といい, Gplq と書く.群 G の副-l 完備化は G の副有限完備化の最大副-l 商である. ˆ “ lim Z{nZ の最大副-l 商は,Z の 例えば,加法群 Z の副有限完備化 Z ÐÝn n 副-l 完備化 Zl “ limn Z{l Z (l-進整数環の加法群)と等しい. ÐÝ さて,再び A を整閉整域とし,X :“ SpecpAq とおく.X の基本群を共 変関手として構成するために,連結でない被覆を含めて考える.h : Y Ñ X が有限エタール被覆とは,A 上の有限エタール代数 B “ B1 ˆ ¨ ¨ ¨ ˆ Br (Bi は連結)があり,Y “ SpecpBq “
Ůr
SpecpBi q (スキームの直和)と書 けることである.被覆写像 h は包含写像 A ãÑ Bi が導くものとする.X 上の有限エタール被覆 h : Y Ñ X, h1 : Y 1 Ñ X に対し,スキームの射 ϕ : Y Ñ Y 1 で h1 ˝ ϕ “ h を満たすものが存在すれば,h1 : Y 1 Ñ X は p : Y Ñ X の部分被覆と呼ばれる.そのような ϕ の集合を CX pY, Y 1 q と書 く.同型な ϕ P CX pY, Y 1 q が存在するとき,Y と Y 1 は X 上同型という. 同型な ϕ P CX pY, Y q の全体は群をなし,h : Y Ñ X の被覆変換群と呼ば れ,AutpY {Xq と書く. p P X をとり,κppq を含む代数閉体 Ω を固定すると,x : SpecpΩq Ñ X が定まる.これを X の幾何学的基点,または簡単に,基点という.有限エ タール被覆 h : Y Ñ X に対し,x 上のファイバーを i“1
Fx pY q :“ HomX pSpecpΩq, Y q :“ ty : SpecpΩq Ñ Y | h ˝ y “ xu » HomA-代数 pB, Ωq と定義する.また,ϕ P CX pY, Y 1 q に対し,写像 Fx pϕq : Fx pY q Ñ Fx pY 1 q を Fx pϕqpyq :“ ϕ ˝ y により定義する(Fx はファイバー関手と呼ばれる).
Y が連結(すなわち,ある連結有限エタール代数 B があり,Y “ SpecpBq) なら,#Fx pY q は x によらず,h : Y Ñ X の被覆次数といい,degphq ない し rY : Xs と書かれる.h : Y Ñ X が有限 Galois 被覆とは,A 上の有限 Galois 代数 B があり,Y “ SpecpBq と書けることである.言い換えると, Y が連結で,AutpY {Xq の Fx pY q への作用 pσ, yq ÞÑ σ ˝ y が単純推移的 となることである.これは,基点 x (すなわち,p, Ω)のとり方によらない. 有限 Galois 被覆 h : Y Ñ X に対し,AutpY {Xq を GalpY {Xq と書き,Y の X 上の Galois 群という.有限エタール被覆 h : Y Ñ X と y P Fx pY q のペアーを点付き有限エタール被覆と呼ぶ.点付き有限エタール被覆の射と
0.2 可換環の場合
33
は,ϕ P CX pY, Y 1 q で,ϕ ˝ y “ y 1 となるもののことである.このとき,前 節の普遍被覆空間の性質 (U)-(i) の類似として次が成り立つ: 定理 0.2.7
h
点付き有限エタール Galois 被覆の射影系 ppYi Ñi X, y i q, ϕij q
で,次を満たすものが存在する:任意の有限エタール被覆 h : Y Ñ X に対 し,対応 CX pYi , Y q Q ϕ ÞÑ ϕ ˝ y i P Fx pY q は,次の全単射を導く:
lim ÝÑ CX pYi , Y q » Fx pY q. i
˜ x ˜ “ lim Yi , x ˜ “ py i q とおくと,ペアー pX, ˜q が X の点付き普遍被覆の X ÐÝi 役割を果たす.そこで,前節の (U)-(ii) の類似として, ˜ π1 pX, xq :“ GalpX{Xq :“ lim ÐÝ GalpYi {Xq i
と定義し,X の x を基点とするエタール基本群と呼ぶ3 .ここで射影極限は, 合成写像 Fx pϕij q
GalpYj {Xq » Fx pYj q ÝÑ Fx pYi q » GalpYi {Xq pi ď jq に関してとり,π1 pX, xq は基点 x のとり方によらず(非標準的に)同型であ る.これより,基点を略して,π1 pXq と書き,X のエタール基本群と呼ぶこ ともある.定理 0.2.7 より,任意の有限エタール被覆に対し,π1 pX, x ¯q は右か ら Fx pY q に連続的に作用する.この作用を y.σ pσ P π1 pX, xq, y P Fx¯ pY qq と書く.
A1 も整閉整域とし,A Ñ A1 を環準同型, f : X 1 :“ SpecpA1 q Ñ X を 対応するアフィンスキームの射とする.κpp1 q を含む代数閉体 Ω1 を固定し, x1 : SpecpΩ1 q Ñ X 1 を対応する X 1 の基点とする.x :“ f ˝ x ¯1 : SpecpΩ1 q Ñ X は X の基点を与える.このとき,任意の有限エタール被覆 h : Y Ñ X に対し,
Fx1 pY ˆX X 1 q “ HomX 1 pSpecpΩ1 q, Y ˆX X 1 q » HomX pSpecpΩ1 q, Y q “ Fx pY q と同一視される.ここで,Y が連結でも,Y ˆX X 1 は連結とは限らない X 1 上 の有限エタール被覆であることに注意されたい.この同一視において,Y を定 3
et pX, xq と記すことがあるが,本書では,単に π pX, xq, エタール基本群を表すために,π1´ 1
π1 pXq と書くことにする.
34
第 0 章 基本群と Galois 群
理 0.2.7 の Yi にとり,y i P Fx¯ pYi q に対応する Fx1 pYi ˆX X 1 q の点を y 1i とす ると,σ 1 P π1 pY 1 , y 1 q に対し,y 1i .σ 1 “ σi ˝y i となる σi P GalpYi {Xq が一意的 に定まる.f˚ pσ 1 q :“ pσi q とおくと,連続準同型 f˚ : π1 pX 1 , x1 q Ñ π1 pX, xq が定義される. h
X 上の(連結)有限エタール被覆の射影系 pYi Ñi X, ϕij q の射影極限 Y “ lim ÐÝi Yi を(連結)副有限エタール被覆と呼び,Fx pY q :“ tpy i q | y i P Fx pYi q, ϕij ˝ y j “ y i pi ď jqu と定める.また,y P Fx pY q のとき, Ş h˚ pπ1 pY, yqq :“ i hi ˚ pπ1 pYi , y i qq と定義する.また,各 Yi が X 上 Galois 被覆のとき,Y を副有限 Galois 被覆と呼び,Y の X 上の Galois 群を GalpY {Xq :“ lim ÐÝi GalpYi {Xq と定義する.X 上の Galois 理論(Galois 対
応)の主定理は次のように述べることができる.
定理 0.2.8(Galois 対応) 対応 ph : Y Ñ Xq ÞÑ h˚ pπ1 pY, yqq p¯ y P Fx pY qq は次の全単射を導く:
t 連結副有限エタール被覆 h : Y Ñ Xu{X 上同型 „
Ñ tπ1 pX, xq の閉部分群 u{共役. さらに,この対応で次が成り立つ:
• h : Y Ñ X は連結有限エタール被覆 ô h˚ pπ1 pY, yqq は開部分群. • h1 : Y 1 Ñ X が h : Y Ñ X の部分被覆 ô 共役を除き,h˚ pπ1 pY, yqq p¯ y P h´1 pxqq は h1˚ pπ1 pY 1 , y 1 qq p¯ y 1 P h1´1 pxqq の部分群. • h : Y Ñ X が Galois 被覆 ô h˚ pπ1 pY, yqq py P h´1 pxqq は π1 pX, xq の正規部分群.このとき,副有限群の同型 GalpY {Xq » π1 pX, xq{ h˚ pπ1 pY, yqq が成り立つ. また,上の対応で,π1 pX, xq の代わりに X 上のある副有限 Galois 被覆 Z Ñ
X の Galois 群 GalpZ{Xq をとり,Z Ñ X の部分被覆と GalpZ{Xq の閉 部分群の対応を考えても同様の性質を満たす全単射が成り立つ. 例 0.2.9
F を体とする.F を含む代数閉体 Ω に対し,Ω 内の F の分離閉
包を F とする.F の有限次 Galois 拡大 Ki Ă Ω の全体は帰納的に順序付け られ,F “ limi Ki と書ける.従って,定理 0.2.7 において,Yi “ SpecpKi q がとれ,
ÝÑ
π1 pSpecpF q, xq “ lim ÐÝ GalpKi {F q “ GalpF {F q. i
0.2 可換環の場合
35
特に,F を有限体 Fq とする.各自然数 n に対し,唯一つの n 次巡回拡大 n Fqn Ă Fq が存在し,Fq “ lim ÝÑn Fq .Frobenius 自己同型 σ P GalpFq {Fq q
を
σpxq “ xq px P Fq q により定義する.各 n P N に対し,対応 σ|Fqn ÞÑ 1 mod n は同型
GalpFqn {Fq q » Z{nZ を与える.従って, ˆ n π1 pSpecpFq qq “ lim ÐÝ GalpFq {Fq q “ lim ÐÝ Z{nZ “: Z. n
n
ˆ に対応する π1 pSpecpFq qq “ GalpFq {Fq q の位相的生成元である. σ は1PZ A を完備離散付値環とする.A の商体 F に対し,F を含む代 数閉体 Ω をとる.Ω 内の F 上の有限 Galois 代数 Bi の全体を考え,Bi の 商体 Ki の合併体を F˜ “ limi Ki とする.F˜ は Ω 内の F の最大不分岐拡大 ÝÑ 体と呼ばれる.定理 0.2.7 において, Yi “ SpecpBi q がとれ, 例 0.2.10
˜ π1 pSpecpAq, xq “ lim ÐÝ GalpBi {Aq “ lim ÐÝ GalpKi {F q “ GalpF {F q. i
i
A の極大イデアル p に対し,A Ñ κppq を自然な準同型,f : Specpκppqq Ñ SpecpAq を対応する射とする.κppq を含む代数閉体 Ω1 をとり,x1 : SpecpΩ1 q Ñ Specpκppqq, x :“ f ˝ x1 とおく.例 0.2.2 で述べたように,κppq の有限次分離拡大の κppq-同型類と F 上の有限次不分岐拡大の F -同型類と は 1 対 1 に対応するので,f˚ は同型 π1 pSpecpκppqq, x1 q » π1 pSpecpAq, xq を与える.
A を Dedekind 環とする.A の商体 F に対し,F を含む代数 閉体 Ω をとる.Ω 内の F 上の有限 Galois 代数 Bi の全体を考え,Bi の商 体 Ki の合併体を F˜ “ limi Ki とする.F˜ は Ω 内の F の最大不分岐拡大体 ÝÑ と呼ばれる.定理 0.2.7 において,Yi “ SpecpBi q がとれ, 例 0.2.11
˜ π1 pSpecpAq, xq “ lim ÐÝ GalpBi {Aq “ lim ÐÝ GalpKi {F q “ GalpF {F q. i
i
A を整閉整域,X “ SpecpAq とする.Yi を定理 0.2.7 におけ る有限 Galois 被覆とする.ここで,Yi Ñ X の被覆次数がある素数 l のべき であるものに制限して射影極限をとったものを X の副-l(エタール)基本群 と呼び,π1 pX, xqplq と書く: 例 0.2.12
π1 pX, xqplq :“
lim
ÐÝ rYi :Xs“l のべき
GalpYi {Xq.
36
第 0 章 基本群と Galois 群
π1 pX, xqplq は π1 pX, xq の最大副-l 商である(例 0.2.6).A が体 F のとき, 代数閉体 Ω 内の F の有限次 l-拡大 Ki(rKi : F s が l のべきとなる Galois 拡 大)の合併体 F plq は F の最大 l-拡大と呼ばれ,π1 pX, xqplq “ GalpF plq{F q となる.A が Dedekind 環のとき,A の商体 F を含む代数閉体 Ω における
F の有限次不分岐 Galois l-拡大の合併体 F˜ plq は F の最大不分岐 l-拡大と 呼ばれ,π1 pX, xqplq “ GalpF˜ plq{F q. Dedekind 環の代表的な例は,有限次代数体の整数環とその局所化である. ここで,代数体に関する事柄をまとめておこう.有理数体 Q の代数拡大 k を 代数体という.k における Z の整閉包を k の整数環と呼び,Ok と書く.以 下,k は有限次代数体,すなわち,n :“ rk : Qs ă 8 とする.このとき,Z は単項イデアル整域であるから,Ok は Dedekind 環である.さらに,Z-加 群として,Ok は階数 n の自由 Z-加群となす.p P MaxpOk q に対し,p X Z はある素数 p が生成するイデアルになり,剰余体 κppq は Fp の有限次拡大 となる.以下,有限体であることを示す意味をこめて,κppq を Fp と書くこ とにする.Ok の任意のイデアル ap‰ p0qq に対しても,素イデアル分解によ り,商環 Ok {a は有限である.その位数を Na :“ #pOk {aq と書き,a のノル ムという.負べきも許した素イデアル分解を用いて,分数イデアル ap‰ p0qq に対しても,ノルム Na が定義される.単項イデアル pαq (α P k ˆ ) に対し て,Npαq “ |Nk{Q pαq| が成り立つ.Dedekind 環 Ok の分数イデアル群, 単 項イデアルのなす部分群及びイデアル類群を各々代数体 k のイデアル群, 単 項イデアル群及びイデアル類群といい,各々 Ipkq, P pkq 及び Hpkq と書く. p P MaxpOk q に対し,代数的整数論の慣例に従い,Ok の p 進完備化を Op (局所化 pOk qp ではない),k の p-進完備化を kp と書く.Op , kp は各々 p-進整数環,p-進体である(例 0.2.2).剰余体 Fp が有限であることから, Op はコンパクト,従って,kp は局所コンパクトである.代数体の局所コン パクトな位相体への完備化は,p 進体の他に,実数体 R ないし複素数体 C がある.すなわち,k の共役体(“ k の C への埋め込みの像)が R の部分 体となるものを k p1q , . . . , k pr1 q , R の部分体ではない C の部分体となるもの pr1 `1q pr1 `r2 q pr1 `jq を k pr1 `1q , k , . . . , k pr1 `r2 q , k (k は k pr1 `jq の複素共役体) とするとき,ιj : k » k pjq Ă C p1 ď j ď r1 q 及び ιr1 `j : k » k pr1 `jq Ă C, pr1 `jq
ιr1 `j : k » k Ă C p1 ď j ď r2 q である pr1 ` 2r2 “ nq.a P k に対 し,|a|p :“ N p´vp paq (p P MaxpOk q, vp は p 進加法付値),|a|8i :“ |ιj paq| p1 ď j ď r1 q, |a|8r1 `j :“ |ιr1 `j paq|2 “ ιr1 `j paqιr1 `j paq p1 ď j ď r2 q とお くと,これらが k に入る同値でない非自明な乗法付値のすべてを与える.埋め込
0.2 可換環の場合
37
み ιj と付値 |¨|8j を同一視し,これらを k の無限素点と呼び,単に 8j または
v8j と書く.v81 , . . . , v8r1 を実素点, v8r1 `1 , . . . , v8r1 `r2 を虚素点と呼ぶ. 無限素点の集合を Sk8 :“ tv81 , . . . v8r1 `r2 u とおく.Sk :“ MaxpOk q Y Sk8 の元をしばしば v で表す.このとき, a P k ˆ に対し,積公式 ź |a|v “ 1 vPSk
が成り立つ.感覚的には,Sk8 を加えることにより,SpecpOk q は ‘コンパ クト化’ されるのである.SpecpOk q :“ SpecpOk q Y Sk8 と書くことにする.
a P k ˆ は,ιj paq ą 0 p1 ď j ď r1 q のとき,総正と呼ばれる.総正な元によ り生成される単項イデアル全体のなす群を P ` pkq と表す.商群 Ipkq{P ` pkq を k の狭義イデアル類群といい,H ` pkq と表す.また,Ok の Z-加群として の基底を ω1 , . . . , ωn とするとき,dk :“ detppιpωj qqιj q2 (ι は k の C への 埋め込みにわたる)は,基底 ω1 , . . . , ωn のとり方によらない整数 p‰ 0q で, k の判別式と呼ばれる. K{k を有限次拡大とする.素点 v P Sk8 に対し,v が K{k で分岐する とは,v は実素点で,K のある虚素点に延長されることである.それ以外, すなわち,v が k の虚素点,または v が実素点でその K への延長もすべて 実素点のとき,v は K{k で不分岐と呼ばれる.代数的整数論の慣例に従い, K{k が不分岐拡大であるとは,すべての p P MaxpOk q と v P Sk8 が K{k で不分岐なことをいう.すべての p P MaxpOk q が不分岐で,無限素点の分 岐を許すとき,K{k を狭義不分岐拡大と呼ぶので注意されたい. このように,有限次代数体 k ,従ってその整数環 Ok は,複素数体(ないし p 進体)に埋め込めるので,その性質も Dedekind 環という抽象的なものだけ では尽くされず,解析的な特性をもつ.その代表的なものが,判別式に関す る Minkowski の定理,イデアル類の有限性と Dirichlet の単数定理である:
(0.2.13) Minkowski の定理 k ‰ Q ならば,|dk | ą 1 である. (0.2.14) イデアル類の有限性 (狭義)イデアル類群は有限 Abel 群をなす. (0.2.15) Dirichlet の単数定理 単数群 Okˆ は k 内の 1 のべき根のなす 有限巡回群と階数 r1 ` r2 ´ 1 の自由 Z-加群の直積である. ? 例 0.2.16(2 次体) m を平方因子を含まない整数 p‰ 1q とし,k “ Qp mq とおく.このとき,
38
第 0 章 基本群と Galois 群
#
?
Zr 1`2 m s ? Zr ms
Ok “
m ” 1 mod 4 dk “ m ” 2, 3 mod 4,
$ t˘1u ˆ Z ’ ’ ? ’ & t˘1, ˘ ´1u Okˆ “ ’ t˘1, ˘ω, ˘ω 2 u pω :“ ’ ’ % t˘1u
# m 4m
m ” 1 mod 4 m ” 2, 3 mod 4.
mą0 m “ ´1 ? 1` ´3 q m “ ´3 2 m “ ´2, m ă ´3.
? n を 3 以上の自然数とし,ζn “ exppp2π ´1q{nq, k “ Qpζn q とおく.k は Q 上の有限次 Abel 拡大で,g P Galpk{Qq に対し, κpgq gpζn q “ ζn とすると,対応 g ÞÑ κpgq は同型 Galpk{Qq » pZ{nZqˆ を与 える.従って,rk : Qs “ φpnq(Euler の関数). 整数環は Ok “ Zrζn s, 単数 群は Okˆ » x˘ζn y ˆ Zφpnq{2´1 .判別式は,n がある素数 p のべき pe のと 例 0.2.17(円分体)
きは,
# dk “
´pp ppe´e´1q e´1 pp ppe´e´1q e´1
p ” 3 mod 4 または p “ e “ 2 その他.
一般に,n “ pe11 ¨ ¨ ¨ perr と素因数分解されるときは,ki :“ Qpζpei q として,
dk “ d
φpnq e φpp11 q k1
例 0.2.18
i
φpnq e φpprr q kr
¨¨¨d
.
Op を p-進整数環とする.例 0.2.10 より, ˆ π1 pSpecpOp qq » π1 pSpecpFp qq » Z.
Fp の分離閉包は,q :“ Np と互いに素なすべての自然数 n に対し,1 の n ˜p について, 乗根の全体で生成されるので,p 進体の最大不分岐拡大 k k˜p “ kp pζn | pn, qq “ 1q. P ˜ π1 pSpecpFp qq “ GalpFp {Fp q に対応する π1 pSpecpOp qq “ Galpkp {kp q の 元 σ も Frobenius 自己同型と呼ばれ,σpζn q “ ζnq により与えられる. ここで,ζn は 1 の原始 n 乗根 (P k p ).Frobenius 自己同型 σ
Minkowski の定理 (0.2.13) と後述の (0.2.21) より,Z 上の連結 有限エタール代数は Z のみである.従って,
例 0.2.19
π1 pSpecpZqq “ t1u. 例 0.2.20
k を有限次代数体,Ok を k の整数環とする.S を Ok の極大イデ
0.2 可換環の場合
39
アルの有限集合とする:S “ tp1 , . . . , pn u.イデアル類の有限性 (0.2.14) より,
pni i “ pai q となる ni P N, ai P Ok が存在する.A “ Ok r1{pa1 ¨ ¨ ¨ an qs とお くと,A は Ok の局所化なので Dedekind 環で,SpecpAq “ SpecpOk qzS .k を含む代数閉体 Ω をとる:x : SpecpΩq Ñ SpecpAq.有限次拡大 K{k にお いて,S に含まれない極大イデアルがすべて不分岐のとき,K{k は S Y Sk8 (Sk8 は k の無限素点の集合)の外で不分岐であるという.S Y Sk8 の外で 不分岐な k の有限次 Galois 拡大 ki の合併体を kS “ limi ki とする.kS は ÝÑ S Y Sk8 の外で不分岐な k の最大 Galois 拡大と呼ばれる.このとき, π1 pSpecpOk qzS, xq “ GalpkS {kq “ lim ÐÝ Galpki {kq. i
この副有限群を GS pkq と記すことにする.特に,k “ Q のときは,単に,
GS と表す.また,素数 l に対し,kS plq を S Y Sk8 の外で不分岐な k の最 大 l-拡大とすると,GS pkqplq “ GalpkS plq{kq. 最後に,Dedekind 環上の分岐拡大について延べよう.A を Dedekind 環,
F を A の商体,K を F の有限次分離拡大とする.K における A の整 閉包 を B とする.このとき,f : N :“ SpecpBq Ñ M :“ SpecpAq が分 岐被覆とは,K{F が分岐拡大のことである.どのような P P MaxpBq な いし p P MaxpAq が分岐するかについては,環の拡大 B{A に関する共役 差積ないし相対判別式をみればよい.F の分離閉包 F への埋め込みを ιj :
K Ñ F p1 ď j ď nq とするとき,K{F の跡 TrK{F とノルム NK{F を TrK{F paq :“ ι1 paq ` ¨ ¨ ¨ ` ιn paq, NK{F paq :“ ι1 paq ¨ ¨ ¨ ιn paq により定義す る.b :“ tb P K | TrK{F pabq P A @a P Bu とおくと,b は B を含む分数イデ アルになる.dB{A :“ b´1 を B{A の共役差積と呼び,dB{A :“ NK{F pdB{A q を B{A の相対判別式と呼ぶ.特に,F, K が有限次代数体のとき,dOk {OF を dK{F と書き,拡大 K{F の相対判別式という.特に,dOk {Z は k の判別 式 dk が生成する Z のイデアルと一致する.このとき,次が成り立つ: p0.2.21q
P が K{F で分岐 ðñ P|dB{A p が K{F で分岐 ðñ p|dB{A
これより,K{F で分岐する p P MaxpAq は有限個である.K{F で分岐する
p P MaxpAq の集合を SF , SK :“ f ´1 pSF q とおくとき,f |N zSK : N zSK Ñ M zSF を付随する有限エタール被覆と呼ぶ.また,f |N zSK が Galois 被覆の とき,f を分岐 Galois 被覆という.これは,K{F が Galois 拡大となること と同値である.最後に,K{F が従順分岐な拡大 (tamely ramified extension) とは,K{F で分岐する任意の P P MaxpBq に対し,P の分岐指数が剰余
40
第 0 章 基本群と Galois 群
体 κpPq の標数で割り切れないことと定義する.但し,κpPq の標数が 0 の ときは条件は付けないものとする.従順でない分岐を野性的分岐という.F を含む代数閉体 Ω に対し,Ω 内の F の有限次従順分岐 Galois 拡大 Ki の 合併体を F t とする.F t は F の最大従順分岐拡大と呼ばれる.このとき,
X “ SpecpF q の従順基本群を次により定義する: π1t pX, xq “
lim
ÐÝ Ki {F :従順
GalpKi {F q “ GalpF t {F q.
k を有限次代数体,dk をその判別式とする.(0.2.21) より, SpecpOk q Ñ SpecpZq は素イデアル ppq, p|dk , 上分岐する分岐被覆, SpecpOk r1{dk sq Ñ SpecpZr1{dk sq は付随するエタール被覆である. ? 例 0.2.23 素数 p を固定する.自然数 n に対し,ζpn :“ expp2π ´1{pn q, kn :“ Qpζpn q とおく.On :“ Okn , Mn :“ SpecpOn q, Xn :“ SpecpOn r1{psq とおくと,例 0.2.17, (0.2.21) より,Mn Ñ M0 “ SpecpZq は ppq 上分岐す る分岐 Galois 被覆,Xn Ñ X0 “ SpecpZr1{psq は付随する有限 Galois 被覆 をなす.その Galois 群は, 例 0.2.22
GalpMn {M0 q “ GalpXn {X0 q “ Galpkn {k0 q » pZ{pn Zqˆ . 自然な写像 Mn`1 Ñ Mn 及び Xn`1 Ñ Xn により,M8 :“ limn Mn は
ÐÝ M0 上の副有限分岐 Galois 被覆,X8 :“ lim X は X 上の副有限 Galois n 0 ÐÝn 被覆をなす.k8 :“ limn kn “ Qpζpn | n ě 1q とすると, ÝÑ n ˆ ˆ GalpM8 {M0 q “ GalpX8 {X0 q “ Galpk8 {Qq » lim ÐÝpZ{p Zq “ Zp . n
n
ppq の分岐は次のようになる:ζpn の Q 上の最小多項式は f pXq “ pX p ´ n´1 n´1 1q{pX p ´ 1q.従って,f p1 ` Xq ” X p pp´1q mod p なので,pOn “ n´1 pp pp´1q , ここで,p “ pp, ζpn ´ 1q “ pζpn ´ 1q.分岐指数 pn´1 pp ´ 1q は 拡大(被覆)次数 rk : Qs “ φppn q に一致する. 例 0.2.24
kp を p-進体,q “ Np, X “ Specpkp q とする.kp を含む代数閉
体 Ω をとり,k p を Ω 内の kp の代数閉包とする.例 0.2.18 より,kp の最大
˜p は kp pζn | pn, qq “ 1q に等しい.ここで,ζn は 1 の原始 n 乗 不分岐拡大 k 根 (P k p ) で,m|n のとき,ζnm “ ζn{m となるように選ぶものとする.自然な 包含写像 Op ãÑ kp が導く準同型 π1 pXq “ Galpk p {kp q Ñ π1 pSpecpOp qq “
Galpk˜p {kp q の核を kp の惰性群といい,Ikp と書く.X の従順基本群 π1t pXq ˜p {kp q の拡大として次のように記述 は,Ikp の最大従順商 Ikt p による Galpk
0.2 可換環の場合
41
される.π を kp の素元とする.このとき,kp の最大従順分岐拡大 kpt は,
? kpt “ k˜p p n π | pn, qq “ 1q
で与えられる.モノドロミー τ P Galpkpt {kp q を
? ? τ pζn q “ ζn , τ p n πq “ ζn n π
˜p q の生成元で,同型 により定義すると,τ は Ikt p “ Galpkpt {k Galpkpt {k˜p q »
ˆ pq1 q lim Z{nZ “: Z ÐÝ
pn,qq“1
を定める.ゆえに,次の短完全系列を得る:
/ Galpk t {k˜p q
1
p
/ Galpkpt {kp q
/ Galpk˜p {kp q
/ 1.
1
ˆ pq q Z
ˆ Z
Frobenius 自己同型 σ P Galpk˜p {kp q の Galpkpt {kp q への拡張を ? ? σpζn q “ ζnq , σp n πq “ n π と定めると,τ と σ の関係は,
στ “ τ q σ で与えられる.よって,
π1t pXq “ Galpkpt {kp q “ xτ, σ | τ q´1 rτ, σs “ 1y. q を割らない素数 l に対し,副-l 基本群 π1 pSpecpkp qqplq は π1t pXq の商群 で,副-l 群として同様の群表示をもつ. k を有限次代数体,S を MaxpOk q の有限部分集合,X “ SpecpOk qzS とおく.kS を S Y Sk8 の外で不分岐な k の最大 Galois 拡 大とする(例 0.2.20).p P MaxpOk q を 1 つとり,kp を p-進体とする.kp の代数閉包 k p を 1 つ決めると,基点 x : Specpk p q Ñ Specpkp q が定まる. 自然な射 Specpkp q Ñ X との合成は,基点 y : Specpk p q Ñ X を与える.こ れは,k 上の埋め込み kS ãÑ k p を定め,準同型 例 0.2.25
ϕp : π1 pSpecpkp q, xq “ Galpk p {kp q Ñ π1 pX, yq “ GS pkq を導く.k 上の埋め込み kS ãÑ k p は,p 上の kS の素点 p を定める.この
42
第 0 章 基本群と Galois 群
とき,ϕp の像は p の分解群
Dp :“ tg P GS pkq | gppq “ pu と一致する.以後,埋め込み kS ãÑ k p ,従って,p を固定することを了解し て,Dp を 拡大 kS {k における p 上の分解群といい,Dp とも書く.同様に, 惰性群 Ikp の ϕp による像を kS {k における p 上の惰性群といい,Ip と書く. 埋め込み kS ãÑ k p をかえると,Dp , Ip は GS pkq の共役な部分群にかわる.
p R S なら,p は拡大 kS {k で不分岐なので,Ip “ 1 となり,ϕp は Galpk˜p {kp q “ Galpk p {kp q{Ikp を経由する.Frobenius 自己同型 σ P Galpk˜p {kp q の像 σp :“ ϕp pσq P GS pkq を p 上の Frobenius 自己同型 という.埋め込み kS ãÑ k p をかえると,σp は GS pkq の共役元にかわるの で,GS pkq のある Abel 商における σp の像は p のみにより一意に決まる. 以上,エタール基本群について述べたが,緒言に述べたように,スキームの エタール(コ)ホモロジー群の理論も知られている ([Mi1], [SGA1]).また, 位相幾何学におけるように,単体的な方法で,スキームのエタール(コ)ホモ ロジー群やホモトピー群を扱うエタールホモトピー理論もある ([AM],[Frl]). 例えば,SpecpOp q と SpecpFp q はエタールホモトピー同値である.さらに, 最近の研究については,[VSF], [Sc2] などを参照されたい.
0.3 類体論 X “ SpecpAq のエタール基本群の Abel 化を X の Abel 基本群とい い,π1ab pXq と表す.Galois 対応で,閉交換子群 rπ1 pXq, π1 pXqs に対応す る X の副有限被覆を X の最大 Abel 被覆といい,X ab と表すことにする: π1ab pXq “ GalpX ab {Xq.A が体 F のとき,F の最大 Abel 拡大(F の有限 次 Abel 拡大の合併体)を F ab とすると,π1ab pSpecpF qq “ GalpF ab {F q.A が Dedekind 環のときは,A の商体 F の最大不分岐 Abel 拡大(F の有限次 不分岐 Abel 拡大の合併体)を F˜ ab とすると,π1ab pSpecpAqq “ GalpF˜ ab {F q である. 類体論とは,代数体 k に対し,Abel 基本群 π1ab pSpecpkqq “ Galpk ab {kq を k の言葉で記述する理論である.その局所体版,すなわち,p 進体 kp に 対し,π1ab pSpecpkp qq “ Galpkpab {kp q を kp の言葉で記述する理論は局所 類体論と呼ばれる.代数体の場合,π1ab pSpecpkqq “ lim π1ab pSpecpOk qzSq
ÐÝ
(S は MaxpOk q の有限部分集合を走る)なので,類体論は,GS pkqab “
π1ab pSpecpOk qzSq “ GalpkSab {kq を記述することに帰する.ここで,kSab は
0.3 類体論
43
S Y Sk8 の外で不分岐な k の最大 Abel 拡大である(例 0.2.20).これらの 記述は,いずれも Specpkp q, SpecpOk qzS のエタールコホモロジーの双対定 理として得られる. 以下,X “ SpecpAq に対し,π1 pX, xq が連続に作用する有限 Abel 群が 定める X 上の局所定数エタール層とそのエタールコホモロジー群を考える.
X 上のエタール層 M が局所定数 (locally constant) とは,ある連結有限エ タール被覆 Y Ñ X があり,M |Y が Y 上のある有限 Abel 群の定数層とな ることである.有限 π1 pX, xq-加群 M は,連結有限エタール被覆 Y Ñ X に対し,π1 pY, yq-不変な部分群 M π1 pY,yq (y P Fx pXq) を対応させること により,局所有限エタール層を与え,逆に,局所定数,有限エタール層 M に対し,茎 Mx は 有限 π1 pX, xq-加群となる.この対応により両者を同一 視する.特に,体 F に対しては,SpecpF q 上の有限 Abel 群のエタール層 は,π1 pSpecpF qq “ GalpF {F q が連続に作用する有限 Abel 群と同じことで あり,エタールコホモロジー群 H i pSpecpF q, M q は Galois コホモロジー群 H i pGalpF {F q, M q と等しい.簡単のため,これを H i pF, M q と表す.以下, 局所コンパクト Abel 群 G に対し,G˚ で G の Pontryagin 双対,すなわち, G から R{Z への連続準同型のなす位相群を表す. 0.3.1 有限体 F を有限体 Fq とする.有限 GalpFq {Fq q-加群 M に対し, M ˚ “ HompM, Q{Zq とおく.GalpFq {Fq q の M ˚ への作用は,pgϕqpxq “ ϕpg ´1 xq (g P GalpFq {Fq q, ϕ P M ˚ , x P M ).このとき,カップ積 H i pFq , M ˚ q ˆ H 1´i pFq , M q Ñ H 1 pFq , Q{Zq » Q{Z pi “ 0, 1q は有限 Abel 群の非退化なペアリングを与える.SpecpFq q のエタールコホ モロジー次元は 1 である.特に,GalpFq {Fq q が M に自明に作用するとき,
ˆ より,この非退化ペアリングは,双対定理 M » M ˚˚ を意 GalpFq {Fq q “ Z 味する.
0.3.2 p-進体 kp を p-進体とする.Op を p-進整数環,π を Op の素元,vp を vp pπq “ 1 なる p-進加法付値とする.有限 Galpk p {kp q-加群 M に対し, ˆ M 1 :“ HompM, k p q とおく.Galpk p {kp q の M 1 への作用は,pgϕqpxq “ gϕpg ´1 xq (g P Galpk p {kp q, ϕ P M 1 , x P M ). ˆ
(0.3.2.1) Tate の局所双対定理 標準的な同型 H 2 pkp , k p q » Q{Z があり, カップ積 ˆ
H i pkp , M 1 q ˆ H 2´i pkp , M q Ñ H 2 pkp , k p q » Q{Z p0 ď i ď 2q
44
第 0 章 基本群と Galois 群
は有限 Abel 群の非退化なペアリングを与える.Specpkp q のエタールコホモ ロジー次元は 2 である. 特に,i “ 1, M “ Z{nZ とすると,M 1 “ μn (1 の n 乗根のなす群) で,H 1 pkp , Z{nZq “ HompGalpkpab {kp q, Z{nZq, H 1 pkp , μn q “ kpˆ {pkpˆ qn (Kummer 理論)なので,局所双対定理は,同型
kpˆ {pkpˆ qn » Galpkpab {kp q{nGalpkpab {kp q を導く.射影極限 limn をとると,局所類体論の基本写像
ÐÝ
ρkp : kpˆ ÝÑ Galpkpab {kp q を得る.ρkp は単射で,稠密な像をもつ.また,ρkp による引き戻しにより,
Galpkpab {kq の開部分群と kpˆ の指数有限開部分群とは双一意に対応する.kp ˜p とすると,より詳しく,次の完全可換図式が成り立つ: の最大不分岐拡大を k
0
/ kpˆ
/ Opˆ
0
vp
ρkp
/ Galpk ab {k˜p q p
/ Galpkpab {kq
/Z
/0
X
/ Galpk˜p {kq “ Z ˆ
/0
ここで,左の縦の同型は ρkp の Opˆ への制限,右の縦の射は,1 を Frobenius
ˇ
自己同型 σ へ送る写像である.従って,ρkp pπqˇk˜ “ σ. 有限次 Abel 拡大 KP {kp に対し,基本写像
p0.3.2.2q
p
ρKP {kp : kpˆ ÝÑ GalpKP {kp q
を ρkp と自然な写像 Galpkpab {kp q Ñ GalpKP {kp q の合成として定義する.
ρKP {kp は同型
ˆ kpˆ {NKP {kp pKP q » GalpKP {kp q
を導く(従って,kpˆ の指数有限開部分群は kp の有限次 Abel 拡大の乗法群 のノルム群と一致する).このとき,
p0.3.2.3q
KP {kp が不分岐拡大ðñ ρKP {kp pOpˆ q “ id ˆ ðñ NKP {kp pOP q “ Opˆ
が成り立ち,この場合,
ρkp pxq “ σ vp pxq が成り立つ.ここで,σ P GalpKP {kp q は Frobenius 自己同型である.他方,
0.3 類体論
45
KP {kp が完全分岐拡大のとき,ρkp の Opˆ への制限は,同型 ˆ Opˆ {NKP {kp pOP q » GalpKP {kp q
を導く. ある自然数 n ě 2 に対し,kp が 1 の原始 n 乗根を含むとする.このと き,Hilbert 記号
´,¯ : kpˆ {pkpˆ qn ˆ kpˆ {pkpˆ qn ÝÑ μn p n
を
´ a, b ¯ p
n
? ρkp pbqp n aq ? :“ n a
により定義する.Hilbert 記号は,双乗法的かつ歪対称性をもち,次の性質を もつ:
´ a, b ¯ p0.3.2.4q
p
特に,kp p
? n
n
? n n aq{k pkp p “ 1ðñ b P Nkp p ? aqˆ q p ? n ˆ n ðñ a P Nkp p ? bq{kp pkp p bq q.
aq{kp (a P kpˆ ) が不分岐拡大のとき(例えば,a P Opˆ のと
き),n べき剰余記号を
? σp n aq ? n p n p n a ? n n aq{k pπq P Galpkp p により定義する.σ “ ρkp p ? aq{kp q は Frobenius 自己 p ´a¯
p0.3.2.5q
:“
´ a, π ¯
“
同型である.このとき,
´a¯ p
n
“ 1ðñ a P pkpˆ qn n ˆ ðñ a mod p P pFˆ p q (a P Op のとき)
が成り立つ.奇素数 p に対し,kp “ Qp , a を p と互いに素な整数とすると き,p ap q2 は平方剰余記号 p ap q と一致する. 実数体 R についても,Tate の修正されたコホモロジー群を用いて,次の 双対定理が成り立つ:M を有限 GalpC{Rq-加群とし,M 1 “ HompM, Cˆ q とおく.GalpC{Rq の M 1 への作用は,p-進体のときと同様.このとき,カッ プ積
ˆ 2´i pR, M q Ñ H 2 pR, Cˆ q » F2 pi P Zq ˆ i pR, M 1 q ˆ H H は有限 Abel 群の非退化なペアリングを与える.特に,i “ 1, M “ μ2 とす
46
第 0 章 基本群と Galois 群
ると,同型
ρC{R : Rˆ {pRˆ q2 “ H 1 pR, μ2 q » H 1 pR, F2 q˚ “ GalpC{Rq を得る.実数体に対する基本写像 ρR は,自然な写像 Rˆ Ñ Rˆ {pRˆ q2 と
ρC{R の合成写像とする.従って,ρR は全射で,KerpρR q “ pRˆ q2 (単位元 の連結成分)である.
0.3.3 代数体の整数環 k を有限次代数体,Ok を k の整数環とし,X “ SpecpOk q とおく.X 上のエタール層 M が構成可能 (constructible) とは, M の茎がすべて有限で,ある開集合 U Ă X があり,M |U が局所定数と なることである.X 上の構成可能層 M に対し,無限素点も考慮に入れたエ ˆ i pX, M q (i P Z) が定義される.この定義につい タールコホモロジー群 H ては,[Z], [Kt1, §3] を参照されたい.M 1 :“ HompM, Gm,X q とおく.但 し,Gm,X は,連結有限エタール被覆 Y “ SpecpBq Ñ X に対し,乗法群 Gm,X pY q “ B ˆ を対応させるエタール層. (0.3.3.1) Artin–Verdier の双対定理 M を X 上の構成可能エタール層と ˆ 3 pX, Gm,X q » Q{Z があり,自然なペアリング する.標準的な同型 H ˆ 3 pX, Gm,X q » Q{Z ˆ i pX, M 1 q ˆ Ext3´i pM, Gm,X q Ñ H H X は有限 Abel 群の非退化なペアリングを与える.X “ SpecpOk q のエタール コホモロジー次元は,2-トーションを除き,3 である.
U を X の開集合とする.今後,X0 :“ MaxpOK q, U0 :“ U X MaxpOk q という記号を用いる.Sk8 を k の無限素点の集合とし,S “ XzU とおく.
π1 pU q “ GS pkq “ GalpkS {kq(例 0.2.20).M を有限 GS pkq-加群とし,対 応する U 上の局所定数,有限エタール層も M で表す.#M P OpU qˆ (S単数)と仮定する.j : U ãÑ X を包含写像とするとき,X 上の構成可能エ タール層 j! M を,有限エタール被覆 h : Y Ñ X に対し,hpY q Ă U な ら,j! M pY q “ M , それ以外のとき,j! M pY q “ 0 と定義する.このとき, ExtiX pj! M, Gm,X q “ H i pU, M 1 q となり,Artin–Verdier のペアリングは, カップ積
ˆ 3 pX, Gm,X q » Q{Z pi P Zq ˆ i pX, j! M q ˆ H 3´i pU, M 1 q Ñ H H となる.
V を U に含まれる X の開集合とする.ペアー V Ă X に対する相対コホ モロジー完全系列に,切除定理
0.3 類体論
$ ˆi ’ pv P Sk8 q &H pkv , M q i`1 i Hv pX, j! M q “ H pkp , M q pv “ p P Sq ’ % i`1 Hp pU, M q pv “ p P U zV q
47
を適用し,V を小さくして帰納極限 limV をとると,次の完全系列を得る:
ÝÑ i i ˆ ¨ ¨ ¨ Ñ H pX, j! M q Ñ H pk, M q à i à i à i`1 ˆ pkv , M q ‘ Ñ H pkp , M q ‘ Hp pU, M q H vPSk8 ˆ i`1
ÑH
pPS
pPU0
pX, j! M q Ñ ¨ ¨ ¨
次に,U を小さくして(S を大きくして), 帰納極限 limU をとる.Artin–
ÝÑ Verdier の双対定理と Hpi`1 pU, M q “ CokerpH i pFp , M q Ñ H i pkp , M qq に 注意すると,次の完全系列を得る:
(0.3.3.2) Tate–Poitou の完全系列 M を有限 Galpk{kq-加群とし,M 1 “ ˆ HompM, k q とおく.Galpk{kq の M 1 への作用は,pgϕqpxq “ gϕpg ´1 xq (g P Galpk{kq, ϕ P M 1 , x P M ).このとき,次の局所コンパクト Abel 群の 完全系列が成り立つ:
0 ÝÑ H 0 pk, M q ÝÑ P 0 pk, M q ÝÑ H 2 pk, M 1 q˚ ÝÑ
H 1 pk, M q Ó 1 P pk, M q Ó 0 1 ˚ 2 2 1 0 ÐÝ H pk, M q ÐÝ P pk, M q ÐÝ H pk, M q ÐÝ H pk, M 1 q˚
ここで,コホモロジー群 H i pk, ´q, H i pkv , ´q には離散位相を与え,コンパ クト群とみなす.P i pk, M q は,
P i pk, M q :“ と定義される.但し,
ś
ź
H i pkp , M q ˆ
pPX0
pPX0
ź
ˆ i pkv , M q H
vPSk8
H i pkp , M q は H i pkp , M q の
i Hur pkp , M q :“ ImpH i pFp , M q Ñ H i pkp , M qq
に関する制限直積,すなわち,
ź
i H i pkp , M q :“ tpcp q | 有限個の p を除き,cp P Hur pkp , M qu.
pPX0
P i pk, M q の位相は制限直積位相,すなわち,単位元の近傍の基底が, ź ź ź i ˆ i pkv , M q ˆ H i pkp , M q ˆ Hur pkp , M q H vPSk8
pPS
pPU0
48
第 0 章 基本群と Galois 群
(U は X の開集合にわたる)となる位相を入れる.
k のイデール群 Jk とイデール類群 Ck を ź ź p0.3.3.3q Jk :“ kpˆ ˆ kvˆ , Ck :“ Jk {k ˆ と定義する.但し,
pPX0
ś pPX0
vPSk8
kpˆ は,kpˆ の Opˆ に関する制限直積.k ˆ は Jk
に対角的に入り,Jk の閉部分群とみなす. 特に,M が 1 の n 乗根の群 μn のとき,
H 1 pk, μn q “ k ˆ {pk ˆ qn ,
P 1 pk, μn q “ Jk {Jkn , à H 2 pk, μn q “ n Brpkq, P 2 pk, M q “ n Brpkv q. v
但し,BrpRq は R の Brauer 群を表す ([NSW, Ch.VI,§3]).また,加群 A に対 し,n A :“ tx P A | nx “ 0u とおく.Brpkq Ñ
À
Brpkv q の単射性 (Brauer 群に関する Hasse の原理 ([ibid, Ch.VIII,§1]))と H 1 pk, Z{nZq˚ “ Galpk ab {kq{nGalpk ab {kq に注意すると,Tate–Poitou の完全系列より,次 vPX0 YSk8
の同型が導かれる:
Ck {Ckn » Galpk ab {kq{nGalpk ab {kq. ここで,射影極限 limn をとると,類体論の基本写像
ÐÝ
p0.3.3.4q
ρk : Ck ÝÑ Galpk ab {kq
を得る.ρk は全射で,Kerpρk q は Ck の単位元の連結成分と一致する.ま た,ρk による引き戻しにより,Galpk ab {kq と Ck の開部分群が双一意に対 応する.局所類体論との関係は次の通り:ιv : kvˆ Ñ Ck を v 成分へ入る写 像 ιv pav q “ rp1, . . . , 1, av , 1, . . . qs とすると,次の図式は可換である: ρk
p0.3.3.5q
v kvˆ ÝÝÝÝ Ñ Galpkvab {kv q § § § § ιv đ đ
ρ
Ck ÝÝÝkÝÑ Galpk ab {kq. 有限次 Abel 拡大 K{k に対し,基本写像
p0.3.3.6q
ρK{k : Ck ÝÑ GalpK{kq
を ρk と自然な写像 Galpk ab {kq Ñ GalpK{kq の合成として定義する.ρK{k は同型
Ck {NK{k pCK q » GalpK{kq
49
0.3 類体論
を導く(従って,Ck の開部分群は k の有限次 Abel 拡大のイデール類群の ノルム群と一致する).このとき,
p が K{k で完全分解 ðñ ρK{k ˝ ιp pkpˆ q “ id, v が K{k で不分岐 ðñ ρK{k ˝ ιp pOvˆ q “ id
p0.3.3.7q
が成り立つ.但し,v P Sk8 のとき,Ovˆ :“ kvˆ とする.
p P X0 がすべて不分岐であるような k の最
例 0.3.3.8(不分岐類体論)
˜ab とする.このとき, 大 Abel 拡大を k ` ab π1ab pSpecpOk qq “ Galpk˜` {kq.
(0.3.3.7) より,基本写像 ρk は 同型 ´ź ¯ ź ab Jk {k ˆ pkvˆ q2 ˆ Opˆ » Galpk˜` {kq. vPSk8
pPX0
ś
を導く.対応 Jk Q pav q ÞÑ
pPX0
pvp pap q P Ik により,左辺は k の狭義イ
デアル類群 H ` pkq と同型である.従って,次の標準同型が成り立つ: ab H ` pkq » Galpk˜` {kq.
k のすべての素点の集合 Sk が不分岐であるような k の最大 Abel 拡大(k ˜ab とする.このとき,Galpk˜ab {kq は k の の Hilbert 類体と呼ばれる)を k イデアル類群 Hpkq と同型である:
Hpkq » Galpk˜ab {kq. 上の 2 つの同型は例 0.1.13 の整数論的な類似とみなされる.
S を MaxpOk q の有限部分集合,kSab を S YSk8 の外で不分岐な k の最大 Abel 拡大とすると,GS pkqab “ π1ab pSpecpOk qzSq “ GalpkSab {kq (例 0.2.20).(0.3.3.7) より,ρk は 同型 ´ź ¯ M ź Jk k ˆ pkvˆ q2 ˆ Opˆ » GalpkSab {kq 例 0.3.3.9
vPSk8
pPXzS
˜ab {kq » を導く.ここで,k ˆ p¨ ¨ ¨ q は位相閉包を表す.例 0.3.3.8 より,Galpk ` L `ś ˘ ś ˆ 2 ˆ H ` pkq “ Jk k ˆ で, vPS 8 pkv q ˆ pPX0 Op kˆ
´ź vPSk8
k
pkvˆ q2 ˆ
ź pPX0
Opˆ
¯M
kˆ
´ź vPSk8
pkvˆ q2 ˆ
ź pPXzS
Opˆ
¯
50
第 0 章 基本群と Galois 群
»
ź pPS
»
ź
pPS
Opˆ
M ´ź
pPS
Opˆ X k ˆ
´ź
ź
pkvˆ q2 ˆ
vPSk8
Opˆ
¯¯
pPXzS
Opˆ {Ok` .
ここで,Ok` “ ta P Okˆ | a は総正 u で,Ok` は Ok` の
ś pPS
Opˆ への対角
像の位相閉包である.これより,次の完全系列を得る:
0Ñ
´ź
pPS
¯ Opˆ {Ok` Ñ GalpkSab {kq Ñ H ` pkq Ñ 0
Opˆ “ Fˆ p ˆ p1 ` pq であるから,この完全系列は,ある拡大で分岐する p に制限を与える.例えば,素数 l に対し,p がある副-l 拡大で分岐するなら, Np ” 1 または 0 mod l でなければならない. 例 0.3.3.10
例 0.3.3.9 で,特に,k “ Q, S “ tp1 , . . . , pr u の場合を考え
る.この場合,H ` pQq “ 1, Z` “ t1u なので,
Gab S »
r ź
Zˆ pi .
i“1 8 8 これより,Qab S “ Qpμpi q.但し,μpi :“
Ť dě1
μpdi , μpdi は 1 の pdi 乗根の
なす群を表す. 自然数 n ě 2 に対し,pi ” 1 mod n (1 ď i ď r) を満たすとする.mod
pi の原始根 αi を 1 つ決める:Fˆ pi “ xαi y.準同型 ψ:
r ź i“1
Zˆ pi “
r ź
Fˆ pi ˆ p1 ` pi Zpi q Ñ Z{nZ
i“1
を ψpαi q “ 1, ψp1 ` pi Zpi q “ 0 なる写像とする.Kerpψq に対応する Qab S の部分体を k とする.k は αi のとり方によらず,S Y t8u の外で不分岐か つ S 上完全分岐する Q の n 次巡回拡大となる. ab ˆ 8 8 次に,S “ tpu とする.Qab tpu “ Qpμp q, Gtpu “ GalpQpμp q{Qq » Zp .
# p (p は奇素数) q“ 4 pp “ 2q
とおき, ˆ ψ : Zˆ p “ Fq ˆ p1 ` qZp q Ñ 1 ` qZp » Zp
を 1 ` qZp への射影とする.Kerpψq に対応する Qab tpu の部分体を Q8 とす
0.3 類体論
51
る.Q8 は Q の Galois 拡大で,
GalpQ8 {Qq “ 1 ` qZp » Zp . Q8 は Q の Galois 拡大で,Galois 群が Zp と同型となる唯一つのものであ る.拡大 Q8 {Q では,p のみが完全分岐している.
一般に,有限次代数体 F に対し,F8 :“ F Q8 は,p 上の素イデアルのみ分 岐する F の Galois 拡大で,GalpF8 {F q » Zp を満たす.F8 を F の円分
Zp -拡大という. 上にみたように,類体論の主内容を含む Artin–Verdier の双対定理と Tate–
Poitou の完全系列は,各々位相幾何学における 3 次元 Poincar´e 双対定理と 相対コホモロジー完全系列(` 切除定理)に対応するもので,類体論の位相 幾何学的解釈とみることができる.読者は,例 0.3.3.10 と例 0.1.12, 0.1.15, 例 0.3.3.8 と例 0.1.13 の間に何か似たものを感じられたかもしれない.次章 から,これらの類似性をはっきりさせていこう.
ୈ
1 ষ ݁ͼͱૉɼ3 ࣍ݩଟ༷ମ ͱ
この章では,3 次元多様体と代数体の整数環,結び目と素イデアルの間に 見られる基本的な類似性について説明する.これらは,後章で論じる類似性 の基となる考え方である. 第 0 章の例 0.1.1,例 0.2.9 を比べると,円周 S 1 と 有限体 Fq の基本群の 間に類似性が見られる:
p1.1q
π1 pS 1 q “ GalpR{S 1 q “ xrlsy »Z
π1 pSpecpFq qq “ GalpFq {Fq q “ xσy ˆ »Z
ここで,1 回りするループ l と Frobenius 自己同型 σ ,普遍被覆 R と分 離閉包 Fq ,また,n 次巡回被覆 R{nZ Ñ S 1 と n 次巡回拡大 Fqn {Fq が対 応している.実際,高次ホモトピー群について πi pS 1 q “ 1,高次エタールホ モトピー群について πi pSpecpFq qq “ 1 pi ě 2q なので,S 1 は,ホモトピー 的に Eilenberg–MacLane 空間 KpZ, 1q として特徴付けられ,SpecpFq q は,
ˆ 1q である: そのエタールホモトピー的な類似物 KpZ, p1.2q
円周 S 1 “ KpZ, 1q
ˆ 1q 有限体 SpecpFq q “ KpZ,
円周 S 1 を芯にもつ管状近傍 V “ S 1 ˆ D2 は,S 1 にホモトピー同値 で,V zS 1 は 2 次元トーラス BV にホモトピー同値である.一方,Fq を剰 余体とする p-進整数環を Op , p-進体を kp とすると,SpecpOp q は SpecpFq q とエタールホモトピー同値で,SpecpOp qzSpecpFq q “ Specpkp q なので,管 状近傍 V と p-進整数環 SpecpOp q,その境界 BV と p-進体 Specpkp q が 類似物である.基本群の間の類似も次のように見てとれる.自然な準同型
π1 pBV q Ñ π1 pV q “ π1 pS 1 q において,l P π1 pS 1 q の逆像はロンジチュード β “ S 1 ˆ tbu (b P BD2 ),その核はメリディアン α “ tau ˆ BD2 (a P S 1 )
54
第 1 章 結び目と素数,3 次元多様体と整数環
で生成される無限巡回群である.π1 pBV q は α と β で生成され,関係式
rα, βs :“ αβα´1 β ´1 “ 1 で定義される自由アーベル群である(例 0.1.2). 一方,自然な準同型 π1 pSpecpkp qq Ñ π1 pSpecpOp qq “ π1 pSpecpFq qq にお いて,σ P π1 pSpecpFq qq の逆像(同じく σ と書く)は Frobenius 自己同型 の延長,その核は惰性群 Ikp である.Ikp の商群の元をモノドロミーと呼ぶ. どのモノドロミーをメリディアンの類似とみなすかは考えている状況による が,特に,惰性群の最大従順商 Ikt p は 1 元 τ で生成され,メリディアンに対 応する標準的な生成元をもつ.実際,Specpkp q の従順基本群 π1t pSpecpkp qq
は τ と σ で生成され,関係式 τ q´1 rτ, σs “ 1 で定義される副有限群である
(例 0.2.24): p1.3q p-進整数環 SpecpOp q p-進体 Specpkp q 1 Ñ Ikp Ñ π1 pSpecpkp qq Ñ xσy Ñ 1 σ : Frobenius 自己同型 τ :モノドロミー P pIkp の商 q 特に Ikt p “ xτ y π1t pSpecpkp qq “ xτ, σ|τ q´1 rτ, σs “ 1y
管状近傍 V 境界 BV 1 Ñ xαy Ñ π1 pBV q Ñ xβy Ñ 1 β :ロンジチュード α :メリディアン
π1 pBV q “ xα, β|rα, βs “ 1y
結び目とは,S 1 の 3 次元多様体 M への埋め込みのことである.一方,
0.3 節でみたように,有限次代数体 k に対し,その整数環を Ok と書くと, SpecpOk q は,エタールコホモロジー次元が 3 であり(実素点があるときは, 2-トーションを除く),3 次元 Poincar´e 双対性の類似である Artin–Verdier 双対性 (0.3.3.1) を満たすので,3 次元多様体の類似とみなされる: p1.4q
3 次元多様体 M
代数体の整数環 SpecpOk q
Ok の素イデアル p p‰ p0qq に対し,(1.2), (1.4) より,自然な射 SpecpFp q ãÑ SpecpOk q は結び目の類似とみなされる: p1.5q
結び目 S 1 ãÑ M
素イデアル SpecpFp q ãÑ SpecpOk q
特に,π1 pSpecpZqq “ 1(例 0.2.19)なので,SpecpZq に無限素点を加えて コンパクト化したものは,S 3 の類似と見ることができ,Z の素イデアル ppq (p は素数)は,R3 内の結び目に見える:
p1.6q
結び目
素数
S 1 ãÑ R3 Y t8u “ S 3
SpecpFp q ãÑ SpecpZq Y t8u
ここで,S 3 を R3 のエンドコンパクト化とみて,無限素点をエンドの類似
55 物とみる.一般の非コンパクト 3 次元多様体の場合,そのエンドの集合 EM が,代数体 k の無限素点の集合 Sk8 に対応する ([Dn], [Ra]): エンド EM
無限素点 Sk8
また,任意の有限次代数体がある素数の有限集合上で分岐する Q の有限次拡 大であるように,任意の連結有向閉 3 次元多様体はある絡み目上分岐する S 3 の有限次被覆である(Alexander の定理).
3 次元多様体 M 内の結び目 K に対し,VK を K の管状近傍, XK “ M zintpVK q を結び目補空間,GK “ GK pM q “ π1 pXK q “ π1 pM zKq を結 び目群とする(例 0.1.6).結び目群は,K の絡み具合を反映する群である. 実際,S 3 内の素な結び目はその結び目群で決まる,すなわち,素な結び目 K, L Ă S 3 に対し,次が成り立つことが知られている ([Wh], [GL]): p1.7q
GK » GL ðñ K » L.
ここで,K » L(同値)とは,S 3 の自己同相写像 h で,hpKq “ L となる ものが存在することをいう(同型なら同値).α, β を各々結び目 K のメリ ディアンとロンジチュードとする.自然な包含写像 BXK ãÑ XK が導く準同 型 π1 pBXK q “ xα, β | rα, βs “ 1y Ñ GK の像をペリフェラル群といい,DK と表す.また,メリディアンが生成する部分群 xαy の GK における像を IK と表す.M “ S 3 とすると,結び目群 GK の Wirtinger 表示より,GK は
IK の共役たちで生成されることがわかる(例 0.1.6). 一方,(1.3) より,Ok の素イデアル p に対し,p-進体 Specpkp q が,補空 間 Xtpu :“ SpecpOk qztpu の境界の役目を演じる.p の “絡み具合” は,基本 群 Gtpu :“ π1 pXtpu q に反映される.結び目群にならい,Gtpu を素イデアル 群と呼ぶことにする.素数群について,(1.7) の類似として,次が成り立つ: 素数 p, q に対し, p1.8q
Gtpu » Gtqu ðñ p “ q.
ˆ 実際,Gtpu の Abel 化は,Gab tpu » Zp となるからである(例 0.3.3.10).
ペリフェラル群 DK の類似は,自然な射 Specpkp q Ñ Xtpu が導く準同型 π1 pSpecpkp qq Ñ Gtpu の像,すなわち,p 上の分解群 Dp である1 .IK の類 1
結び目の場合との類似からは,Dtpu と書くべきであるが,以後,記号の簡単のため,Dp と も書く.同様に,Gtpu , Itpu も Gp , Ip とも表す.また,p が素数 p により生成されるイデ アル ppq のときは,Gtpu , Gp , Dtpu , Dp , Itpu , Ip などとも表す.
56
第 1 章 結び目と素数,3 次元多様体と整数環
似は,p 上の惰性群 Ip である(例 0.2.25).k “ Q のとき,Wirtinger 表示 の類似は,Gtpu が p 上の惰性群 Itpu の共役たちで生成されることである. 実際,Itpu の共役たちで生成される Gtpu の部分群 H に対応する Q 上の拡 大体を K とすると,K{Q は狭義不分岐拡大である.π1 pSpecpZqq “ 1 よ り,K “ Q,従って,H “ Gtpu である.
p1.9q
境界 BVK Ă M zintpVK q ペリフェラル群 DK
p-進体 Specpkp q Ă SpecpOk qztpu 分解群 Dtpu
一般に,代数体 k とその素イデアルの有限集合 S に対し,エタール基本群
π1 pSpecpOk qzSq,すなわち,SYSk8 の外で不分岐な k の S と無限素点上での み分岐するような k の最大 Galois 拡大 kS の Galois 群 GS pkq “ GalpkS {kq (例 0.2.20)が絡み目群の類似とみられる: 絡み目群
GL pM q “ π1 pM zLq
分岐条件付き Galois 群 GS pkq “ π1 pSpecpOk qzSq
群 GS pkq は一般に巨大で,Gtpu でも有限生成か無限生成かは知られていな い.Gtpu の構造,言い換えれば,ホモトピー的に, 「素数 SpecpFp q は SpecpZq の中にどのような入り方をしているか?」 を理解することは,整数論における基本的な問題の 1 つである.そして,こ の問題はまさに結び目理論が扱う問題なのである.Galois 群 GS が巨大で, その構造が捉え難いことは,S の SpecpOk q への入り方が大変複雑,不可思 議であることを示している.しかし,後章で述べるように,GS の種々の商 をとり,絡み目群 GL との類似を考えることにより,素数の “形” ,素数た ちの “絡み方” の片鱗を理解することができるのである.
(1.4), (1.5) の類似は,この 3 次元多様体にはこの代数体,この 結び目にはこの素イデアルが対応するといった 1 対 1 対応ではなく,概念的 なものである.例えば,類数が 1 の虚 2 次体 k はすべて π1 pSpecpOk qq “ 1 を満たすことが知られている.Poincar´ e 予想の類似は次の形では成り立つ: 注意 1.10
ˆ i pSpecpZq, Z{nZq pi P Z, n ě 2q ðñ Ok “ Z. ˆ i pSpecpOk q, Z{nZq “ H H これは,Artin–Verdier の双対性 (0.3.3.1) と Dirichlet の単数定理 (0.2.15) から従う.注意したいのは,Dirichlet の単数定理という “解析的方法” を使っ ている点である. 注意 1.11
従来,代数体の整数環 SpecpOk q とその素イデアルは,有限体
57 Fq 上の代数曲線 C とその上の点の類似物と考えられてきた.C “ C bFq Fq とおくと,C は 代数閉体上の代数曲線なので,エタールホモトピー的には, 2 次元,すなわち,曲面である(複素数体上の代数曲線は Riemann 面).ファ イブレーション C Ñ C Ñ SpecpFq q より,ホモトピー的には,C は S 1 上 の曲面束の類似とみなされる:
Fq 上の代数曲線
S 1 上の曲面束
代数体の場合,定数体がないので,π1 pSpecpOk qq は,π1 pCq と類似した構 造はもたず,極めて無秩序で,一般の 3 次元多様体の基本群 π1 pM q と対比 される.(1.7), (1.8) の類似も,アフィン直線上の 2 点に対しては成り立たな いことに注意されたい.代数体 k では,k に含まれる 1 のべき根が定数体の 類似であると見ることもできる.実際,岩澤理論では,この視点から,1 の p べき根を添加して生じる代数体の拡大 k8 {k を定数体の拡大 Fq {Fq の類似と みなし,代数関数体に類似する性質が示された ([Iw1], [NSW, Ch. XI, §5]). しかし,不分岐な定数拡大とは異なり,k8 {k では p 上の分岐が生じる.こ れも,結び目で分岐する無限巡回被覆の拡大の類似とみなすと自然に理解で きる(第 7 章参照).従って,ホモトピー的には,素数は,点というよりは, むしろ(不可思議な)結び目で,上述の Galois 群 GS も Riemann 面の基本 群の類似と見る(従来の視点)より,絡み目群の類似と見る方が自然である. これが本書の考え方である.また,ループを素数の類似と見る視点は,すで に Riemann 多様体上の閉測地線や力学系の周期軌道の研究において知られ ていたが ([Sn]),我々の類似は,(1.3), (1.9) のような局所的な類似を考える 点で,3 次元特有なものである.
ୈ
2 ষ ·ͭΘΓͱฏํ༨߸ه
緒言に述べた Gauss によるまつわり数と平方剰余を,第 1 章の結び目と素 数の類似の視点から見直すと,その間にすでに親密な類似性が見られる.
2.1 まつわり数 K Y L を S 3 内の 2 成分絡み目とする.まつわり数 lkpL, Kq は次のよう にモノドロミーとして捉えることができる.XL “ S 3 zintpVL q を L の補空 間,GL “ π1 pXL q を L の結び目群とする.L のメリディアン α に対し,α を 1 へ送る写像は全射準同型 ψ8 : GL Ñ Z を与える.Kerpψ8 q に対応す る XL の無限巡回被覆を X8 とし,1 P Z に対応する GalpX8 {XL q の生成 元を τ とする(例 0.1.12).ρ8 : GL Ñ GalpX8 {XL q を自然な準同型(モ ノドロミー置換表現)とする. 命題 2.1.1
ρ8 による rKs の像は τ lkpL,Kq である.
X8 を例 0.1.12 のように構成する.すなわち,L の Seifert 曲面 ΣL に沿って XL を切り開いたものを Y とし,Y のコピー Yi pi P Zq を下のよ うに張り合わせたものを X8 とする(図 2.1).
証明
図 2.1
˜ を K の X8 への持ち上げとする.K が ΣL を交点数 `1 (または K
60
第 2 章 まつわり数と平方剰余記号
˜ が Yi から Yi`1 へ(または Yi`1 から Yi へ) ´1) で通過することは,K ˜ の始点 y0 を Y0 内にとると,K ˜ の終点 うつることに対応する.従って,K は,Yl , l “ lkpL, Kq,にある.従って,ρ8 prKsqpy0 q P Yl .τ は Yi を Yi`1 へずらす写像なので,これは,ρ8 prKsq “ τ l を意味する.
˝
ψ8 と 自然な準同型 Z Ñ Z{2Z の合成 ψ2 : GL Ñ Z{2Z の核 Kerpψ2 q に 対応する XL の 2 次被覆を h2 : X2 Ñ XL とし,ρ2 : GL Ñ GalpX2 {XL q を自然な準同型とする.命題 2.1.1 より,直ちに次が従う. 系 2.1.2
ρ2
合成 GL Ñ GalpX2 {XL q » Z{2Z における rKs の像は lkpL, Kq
mod 2 である: GL [K ]
ρ
2 ÝÑ GalpX2 {XL q » Z{2Z ÞÝÑ lkpL, Kq mod 2
また,y P h´1 2 pxq px P Kq に対し,
ρ2 prKsqpyq “ y.rKs “ y を始点とする K の持ち上げの終点 なので,次が従う:
ρ2 prKsq “ idX2 ðñ h´1 (X2 内の 2 成分絡み目), 2 pKq “ K1 Y K2 ´1 ρ2 prKsq “ τ ðñ h2 pKq “ K(X2 内の結び目). よって,系 2.1.2 より,次を得る:
p2.1.3q 例 2.1.4
h´1 2 pKq
# K1 Y K2 “ K
lkpL, Kq ” 0 mod 2, lkpL, Kq ” 1 mod 2.
K Y L を次の絡み目とする(図 2.2).
図 2.2
lkpL, Kq “ 2 なので,h´1 2 pKq “ K1 Y K2 と分解する.実際,例 0.1.12
2.1 まつわり数
61
図 2.3
における X2 の図に h´1 2 pKq を描くと図 2.3 のようになる.
K Y L を次の絡み目とする(図 2.4).
図 2.4
lkpL, Kq “ 3 なので,h´1 2 pKq “ K と結び目に持ち上がる.実際,X2 に を描くと図 2.5 のようになる.
h´1 2 pKq
図 2.5
62
第 2 章 まつわり数と平方剰余記号
2.2 平方剰余記号 p, q を相異なる奇素数とする.Xtqu “ SpecpZqztqu “ SpecpZr1{qsq, Gtqu “ π1 pXtqu q を素数群とする.α を mod q の原始根とし,ψ2 : Gab tqu “ ˆ ˆ Zq “ Fq ˆ p1 ` qZq q Ñ Z{2Z を ψ2 pαq “ 1, ψ2 p1 ` qZq q “ 0 なる全射準 同型とする.Kerpψ2 q に対応する Q の 2 次拡大を k とする(例 0.3.3.10). k は 素数のうち q のみが分岐する Q の唯一の 2 次拡大である.具体的には, ? ? q´1 q ˚ :“ p´1q 2 q とし,k “ Qp q ˚ q である.X2 :“ SpecpZrp1 ` q ˚ q{2sq とし,h2 : X2 Ñ Xtqu を 2 次エタール被覆とする.自然な準同型 Gtqu Ñ GalpX2 {Xtqu q “ Galpk{Qq を ρ2 とする.(1.6) と系 2.1.2 に従い,p と q ρ2 の mod 2 のまつわり数 lk2 pq, pq を,合成写像 Gtqu Ñ Galpk{Qq » Z{2Z における p 上の Frobenius 自己同型 σp P Gtqu (例 0.2.25)の像として定義 する:
Gtqu σp
ρ
2 ÝÑ ÞÝÑ
GalpX2 {Xtqu q » Z{2Z lk2 pq, pq.
このとき,次が成り立つ. 命題 2.2.1
p´1qlk2 pq,pq “
´ q˚ ¯ p
.
証明
lk2 pq, pq “ 0 mod 2 ðñ ρ2 pσp q “ idX2 a a ðñ σp p q ˚ q “ q ˚ a ðñ q ˚ P Fˆ p 2 ðñ q ˚ P pFˆ pq
ðñ q ˚ は p を法として平方剰余 ´ q˚ ¯ “ 1. ðñ p ˝ 環同型 Ok {pOk » Fp rXs{pX 2 ´ q ˚ q より,pOk の素イデアル分解は,
# p1 p2 , pOk “ p,
q ˚ は p を法として平方剰余 q ˚ は p を法として平方非剰余.
命題 2.2.1 より,言い換えると,
2.2 平方剰余記号
# h´1 2 ptpuq “
p2.2.2q
63
tp1 , p2 u, lk2 pp, qq “ 0 p, lk2 pp, qq “ 1.
(2.2.2) は (2.1.3) の類似である.例えば,5 つの素数の組 t5, 13, 17, 29, 149u は mod 2 で図 2.6 のように絡まっている(オリンピック素数).
図 2.6
命題 2.2.1 より,平方剰余記号は mod 2 のまつわり数に他ならず,まつわり 数の対称性は,p, q ” 1 mod 4 なる素数に対する平方剰余の相互律と対応し ていることがわかる. 注意 2.2.3
緒言に述べたまつわり数に対する Gauss の積分表示の数論的類
似は何であろうか? これに答えるために,まず,R3 上の微分形式
ω“
1 px1 dx2 ^ dx3 ` x2 dx3 ^ dx1 ` x3 dx1 ^ dx2 q 4π}x}3
を用いて,Gauss の積分公式を次のように書き直す:
ż
ż
p2.2.3.1q
ωpx ´ yq “ lkpK, Lq. xPK
yPL
さらに,無限次元の積分を用いて,(2.2.3.1) の積分を次のようにゲージ理論 的に書き直す ([Kh, 3.3]):ApR3 q を R3 上の微分 1 形式の空間とするとき, (形式的に)次が成り立つ:
p2.2.3.2q
ż exp
´ ?´1 ż
ApR3 q
´? “ exp ´1π “ exp
´?
4π ÿ
a ^ da ` R3 ż ż
ÿ
1ďi,jď2
ż a` K1
¯
ωpx ´ yq
1ďi,jď2 xPKi
´1π
? ´1
yPKj
¯ lkpKi , Kj q .
? ´1
ż
¯ a Da K2
64
第 2 章 まつわり数と平方剰余記号
但し,左辺の積分は,ApR3 q 上の経路積分,K1 Y K2 は枠付き絡み目とし,
ş ş lkpKi , Ki q は自己まつわり数とする.ここで,積分 R3 a ^ da, Ki a は,各々 ApR3 q 上の 2 次,1 次形式と見れるので,平方完成すれば,(2.2.3.2) の経路 積分は Gauss 積分 ż e´x dx 2
R
の無限次元版とみなせる.一方,Gauss 積分の q 元体上の類似物は Gauss 和
ÿ
ζqx
2
xPFq
である.ここで,ζq は Fp の代数閉包内の 1 の原始 q 乗根とする.Gauss が 示したように,Gauss 和を用いて平方剰余記号を次のように書き表せる([Se,
3.3,補題 2]) : ´ÿ
ζqx
2
¯p´1
“
´ q˚ ¯
xPFq
p
“ p´1qlk2 pq,pq .
こう考えると,まつわり数の積分公式は,平方剰余記号を Gauss 和で表すこ とと一脈通じていることがわかる.
■まとめ まつわり数 lkpL, Kq
lkpL, Kq “ lkpK, Lq Gauss 絡み目積分
平方剰余記号
相互律
`q˘ p
“
`p˘ q
` q˚ ˘ p
pp, q ” 1 mod 4q
Gauss 和
ୈ
3 ষ ݁ͼͱૉͷղ
2.2 節でみたように,平方剰余記号は 2 次拡大における素数の分解の仕方 を記述する.より一般に,素数が Galois 拡大において分解される様子を調べ る群論的な手段として Hilbert の理論がある.Abel 拡大の場合に,これを進 めたものが類体論の相互律である.結び目と素数の類似に基づき,3 次元多 様体の被覆における結び目の分解についても Hilbert 理論の類似が成り立つ.
3.1 結び目の場合 h : M Ñ S 3 をある絡み目 L Ă S 3 上分岐する連結有向閉 3 次元多 様体の有限次 Galois 被覆とする.X :“ S 3 zL, Y :“ M zh´1 pLq, G :“ GalpY {Xq “ GalpM {S 3 q, n :“ #G pě 1q とおく.K を L の成分か L と交わらない S 3 内の結び目とし,h´1 pKq “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr (r “ rK 成 分絡み目)とする.K の管状近傍 VK に対し,VKi を h´1 pVK q の Ki を 含む連結成分とする.基点 x P BVK をとる.h´1 pxq “ ty1 , . . . , yn u とし, ρ : GL “ π1 pX, xq Ñ Autph´1 pxqq をモノドロミー置換表現とする.ρ は同 型 π1 pX, xq{h˚ pπ1 pY, yi qq » Impρq » G を導く.π1 pX, xq,従って,G は K 上の結び目の集合 SK :“ tK1 , . . . , Kr u に推移的に作用する.Ki の固定 部分群 DKi を Ki の分解群という: DKi :“ tg P G | gpKi q “ Ki u. 全単射 G{DKi » SK があるので,#DKi “ n{r は Ki によらない.実 際,gpKi q “ Kj なら,DKj “ gDKi g ´1 と共役にかわる.g P G は同相 «
g|BVKi : BVKi Ñ BVgpKi q を導くので,g P DKi なら,g|BVKi は BVKi の BVK 上の被覆変換を与え,対応 g ÞÑ g|BVKi は群の同型 DKi » GalpBVKi {BVK q
66
第 3 章 結び目と素数の分解
を導く.DKi に対応する Y Ñ X の部分被覆空間の完備化を Ki の分解被覆 空間といい,ZKi と書く.また,対応 g ÞÑ g :“ g|Ki は準同型
DKi Ñ GalpKi {Kq を導く.この準同型の核を Ki の惰性群といい,IKi と書く:
IKi :“ tg P DKi | g “ idKi u. Kj “ gpKi q なら,IKj “ gIKi g ´1 となる.これより,#IKi も Ki によら ない.#IKi “ eK “ e とおく.IKi に対応する Y Ñ X の部分被覆空間の 完備化を Ki の惰性被覆空間といい,TKi と書く: M ÝÑ TKi ÝÑ ZKi ÝÑ S 3 . Galois 群 G は h´1 pxq に単純推移的に作用するので,DKi , IKi は,h´1 pxq への作用を見ることにより次のように視覚的に理解することができる.K の 回りのメリディアンを α,ロンジチュードを β とし,yi1 P BVi を 1 つとる. DKi 及び IKi の作用による yi1 の軌道はそれぞれ α, β が生成する G の部 分群 ρpxα, βyq 及び α が生成する G の部分群 ρpxαyq の作用による yi1 の 軌道に他ならない.ρpxαyqpyi1 q “ tyi1 , . . . , yie u,すなわち,置換 ρpαq を 交わらない巡回置換の積として(一意的に)表すとき,yi1 を含む巡回置換 が pyi1 ¨ ¨ ¨ yie q であるとすると,e は 被覆 Ki Ñ K の分岐指数である.一 方,ρpxα, βyqpyi1 q は yj P BVKi となる yj P h´1 pxq の集合に他ならない. yim1 :“ ρpβ m qpyi1 q P tyi1 , . . . , yie u となる最小の自然数 m を f “ fK とす ると,f は Ki の K 上の被覆次数で, ρpxα, βyqpyi1 q “ tyj P h´1 pxq | yj P BVi u “ tyim1 , . . . , yime | 0 ď m ă f u (図 3.1). 従って,等式
#DKi “ #ρpxα, βyqpyi1 q “ ef, #IKi “ #ρpxαyqpyi1 q “ e,
#GalpKi {Kq “ f
がみてとれる.位数を比べて,DKi Q g ÞÑ g P GalpKi {Kq が全射であるこ ともわかる:
1 ÝÑ IKi ÝÑ DKi ÝÑ GalpKi {Kq ÝÑ 1 (完全). 特に,ef r “ n が成り立つ.従って,次が成り立つ:
3.1 結び目の場合
67
図 3.1
DKi “ 1 ðñ ZKi “ M ðñ e “ f “ 1, r “ n, DKi “ G ðñ ZKi “ S 3 ðñ ef “ n, r “ 1, IKi “ 1 ðñ TKi “ M ðñ e “ 1, f r “ n, IKi “ G ðñ TKi “ S 3 ðñ e “ n, f “ r “ 1. より一般には,結び目は次のように分解,被覆,分岐する.M Ñ TKi にお ける Ki の像を Ki,T , TKi Ñ ZKi における Ki,T の像を Ki,Z とする.
M Ñ TKi は e 次の分岐被覆で,Ki の Ki,T 上の分岐指数 は e.TKi Ñ ZKi は f 次の巡回被覆で,Ki,T の Ki,Z 上の被覆次数は f , ZKi Ñ S 3 は r 次の被覆で,K は Ki,Z を含む r 成分の絡み目に分解する.
定理 3.1.1
特に,G が Abel 群の場合,DKi , IKi 及び ZKi , TKi は Ki によらないの で,各々 DK , IK 及び ZK , TK と書く.このとき,K は,h : M Ñ S 3 に おいて,次のように分解,被覆,分岐する:
t1u e
IK f
DK r
G
K1 , . _. . , Kr
M
分岐
TK
被覆
ZK S3
分解
K1,T , . . . , Kr,T _ K1,Z , . . . , Kr,Z _ K
68
第 3 章 結び目と素数の分解
さらに,K が不分岐,すなわち K が L と交わらないときを考える.この とき, IK “ 1 なので,同型 DK » GalpKi {Kq が成り立つ.K を 1 回り するループに対応する GalpKi {Kq の生成元(例 0.1.9)の逆像として,DK の生成元 σK が一意的に定まる.f r “ n より,K が M で何成分の絡み目 に分解するかは,f ,すなわち,σK の G における位数で決まる. 注意 3.1.2
以上は,一般の 3 次元多様体の有限次 Galois 分岐被覆 M Ñ N
と N 内の結び目に対して成立する. 最後に,2.1 節で述べた,まつわり数と 2 次被覆における結び目の分解の 関係を任意の巡回被覆へ拡張しよう.K Y L Ă S 3 を 2 成分絡み目とする. 自然数 n ě 2 に対し,ψ : GL Ñ Z{nZ を L のメリディアンを 1 mod n へ 送る準同型,Xn Ñ XL を Kerpψq に対応する L の補空間の n 次巡回被覆,
hn : M Ñ S 3 をその完備化とする.1 mod n に対応する GalpXn {XL q の 生成元を τ とする(例 0.1.12).ρ : GL Ñ GalpXn {XL q を自然な準同型と する.このとき,σK の定義より, σK “ ρprKsq. 従って,命題 2.1.1 より,
p3.1.3q
σK “ τ lkpL,Kq .
よって,n の正の約数 m に対し,
lkpL, Kq ” m mod n ðñ h´1 n pKq “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Km . 特に,K が Xn で完全分解することと lkpL, Kq ” 0 mod n は同値である.
3.2 素数の場合 k{Q をある素数の有限集合 S 上分岐する有限次 Galois 拡大とする.h : SpecpOk q Ñ SpecpZq を付随する整数環の分岐被覆とし,X :“ SpecpZqzS, Y :“ SpecpOk qzh´1 pSq, G :“ GalpY {Xq “ Galpk{Qq, n :“ #G pě 1q とおく.p を素数とし,Sp :“ h´1 ptpuq “ tp1 , . . . , pr u pr “ rp q とする. śr Opi を Ok の pi -進完備化とすると,Ok bZ Zp “ i“1 Opi .Qp の代数閉 包 Qp を決め,包含 Zr1{Ss Ă Qp が導く基点 x : SpecpQp q Ñ X をとる. Fx pY q “ HomX pSpecpQp q, Y q “ ty1 , . . . , yn u とし,ρ : GS :“ π1 pX, xq Ñ AutpFx pY qq をモノドロミー置換表現とする.ρ は同型 π1 pX, xq{h˚ pπ1 pY, yi qq » Impρq » G を導く.π1 pX, xq,従って,G は p 上の素イデアルの集合 Sp
3.2 素数の場合
69
に推移的に作用する.pi の固定部分群 Dpi を pi の分解群という:
Dpi :“ tg P G | gppi q “ pi u. 全単射 G{Dpi » Sp があるので,#Dpi “ n{r は pi によらない.実際, „
pj “ gppi q なら,Dpj “ gDpi g ´1 と共役にかわる.g P G は同型 gˆ : kpi Ñ kgppi q を導くので,g P Dpi なら,gˆ は kpi の Qp 上の同型を与え,対応 g ÞÑ gˆ は群の同型 Dpi » Galpkpi {Qp q を導く.Dpi に対応する k{Q の部分体を pi の分解体といい,Zpi と書く. また,g P Dpi は自然に Fpi の Fp 上の同型 g を導き,対応 g ÞÑ g は準同型
Dpi Ñ GalpFpi {Fp q. を導く.この準同型の核を pi の惰性群といい,Ipi と書く:
Ipi :“ tg P Dpi | g¯ “ idFpi u. gppi q “ pj なら,Ipj “ gIpi g ´1 となる.これより,#Ipi も pi によらない. #Ipi “ ep “ e とおく.Ipi に対応する k{Q の部分体を pi の惰性体といい, Tpi と書く: k Ą Tpi Ą Zpi Ą Q. 補題 3.2.1
準同型 Dpi Q g ÞÑ g P GalpFpi {Fp q は全射である:
1 ÝÑ Ipi ÝÑ Dpi ÝÑ GalpFpi {Fp q ÝÑ 1 (完全). GalpFpi {Fp q は Frobenius 自己同型 σ で生成されるので,g¯ “ σ と ¯ θ¯ “ θ mod pi と なる g P Dpi の存在を示せばよい.θ P Ok を Fpi “ Fp pθq, なるようにとる.中国剰余定理より,α P Ok で,α ” θ mod pi かつ α ı 0 mod pgi , @g R Dpi , となるものが存在する.この α を用いて, ź f pXq :“ pX ´ gpαqq
証明
gPG
を考えると,f pXq P ZrXs で,f¯pXq :“ f pXq mod p P Fp rXs とおくと,
f¯pXq “ X m f¯1 pXq,
m ě 1,
f1 pXq :“
ź
pX ´ gpαqq.
gPDpi
¯ “ θ¯m f¯1 pθq ¯ (¯ ここで,0 “ f¯p¯ αq “ f¯pθq α :“ α mod pi ) で,θ¯ ‰ 0 より,
70
第 3 章 結び目と素数の分解
¯ “ 0. θ¯ の Fp 上の最小多項式を hpXq P Fp rXs とすると,hpXq|f¯1 pXq. f¯1 pθq ¯ は hpXq の根なので,f¯1 pXq の根である.よって,σpθq ¯ “ g¯p¯ ¯ σpθq αq “ g¯pθq となる g P Dpi が存在する. ˝ Ťr 剰余分解 G “ i“1 gi Dpi を pi “ gi pp1 q となるようにとる (g1 :“ 1).pi の分岐指数を ei とすると,pOk “ pe11 ¨ ¨ ¨ perr “ g1 pp1 qe1 ¨ ¨ ¨ gr pp1 qer .両辺 に g P G を作用させることにより,素イデアル分解の一意性から e1 “ ¨ ¨ ¨ “ er “ e が従う:pOk “ pp1 ¨ ¨ ¨ pr qe .また,Fpi “ Ok {pg1 » Ok {p1 “ Fp1 よ り,rFpi : Fp s “ fp “ f も pi によらない:N pi “ pf .pOk “ pp1 ¨ ¨ ¨ pr qe の 両辺のノルムをとると,pn “ pef g .よって,n “ ef r.#Dpi “ n{r “ ef . 補題 3.2.1 より,#Ipi “ e.これより,次が成り立つ: Dpi “ 1 ðñ Zpi “ k ðñ e “ f “ 1, r “ n, Dpi “ G ðñ Zpi “ Q ðñ ef “ n, r “ 1, Ipi “ 1 ðñ Tpi “ k ðñ e “ 1, f r “ n, Ipi “ G ðñ Tpi “ Q ðñ e “ n, f “ r “ 1. より一般には,素数は次のように分解,被覆,分岐する.pi,T :“ pi X OTpi ,
pi,Z :“ pi X OZpi とする.
定理 3.2.2 k{Tpi は e 次の分岐拡大で,pi の pi,T 上の分岐指数は e. Tpi {Zpi は f 次の巡回拡大で,pi,T の pi,Z 上の被覆次数は f , Zpi {Q は r 次の拡大で,p は pi,Z を含む r 個の素イデアルに分解する. 特に,G が Abel 群の場合,Dpi , Ipi 及び Zpi , Tpi は pi によらないので, 各々 Dp , Ip 及び Zp , Tp と書く.このとき,p は k{Q において,次のよう に分解,被覆,分岐する:
t1u
分岐
e
Ip
Tp 被覆
f
Dp
Zp 分解
r
G
p1 , . _. . , pr
k
Q
p1,T , . . . , pr,T _ p1,Z , . . . , pr,Z _ p
3.2 素数の場合
71
さらに,p が不分岐なときを考える.このとき, Ip “ 1 なので,同型 Dp »
GalpFpi {Fp q が成り立つ.GalpFpi {Fp q の Frobenius 自己同型(例 0.2.9)の 逆像として,Dp の生成元 σp が一意的に定まる.f r “ n より,p が k で何個の 素イデアルに分解するかは,f ,すなわち,σp の G における位数で決まる. 注意 3.2.3
以上は,一般の有限次代数体の有限次 Galois 拡大 k{F と F の
素イデアルに対して成立する. 最後に,2.2 節で述べた,平方剰余記号と 2 次拡大における素数の分解の 関係を巡回拡大へ拡張しよう.自然数 n ě 2 に対し,p, q を相異なる素数 で,p, q ” 1 mod n を満たすものとする.mod q の原始根 α を 1 つとり, ˆ ψ : Gab tqu » Zq Ñ Z{nZ を ψpαq “ 1, ψp1`qZq q “ 1 なる全射準同型とする. Kerpψq に対応する Q の n 次巡回拡大を k{Q, hn : SpecpOk q Ñ SpecpZq を付随する整数環の分岐被覆とする.τ を 1 P Z{nZ に対応する Galpk{Qq の生成元とする(例 0.3.3.10).(3.1.3) に従い,p, q の mod n のまつわり 数 lkn pq, pq P Z{nZ を
σp “ τ lkn pq,pq . により定義する(α のとり方による).q を q 上の唯一つの Ok の素イデア ルとすると,kq “ Qq p
? n
„
qq と書ける.標準写像 Galpk{Qq Ñ Galpkq {Qq q における τ の像は ρkq {Qq pαq に他ならない.但し,ρkq {Qq は局所類体論の 基本写像(例 0.3.2.2).1 の原始 n 乗根 ζ P Qq を ? ρkq {Qq pαqp n qq p3.2.4q ζ“ ? n q により定める. 命題 3.2.5
ζ lkn pq,pq “
´p¯ q
n
. ここで,
´˚¯ q
n
は Qq における n べき剰余
記号. 証明 まず,p´1 ” αl mod q とするとき,
lkn pq, pq “ l mod n が成り立つことを示そう.a を p 成分が p,他の成分が 1 である Q のイデー ル,b を q 成分が p,他の成分が 1 である Q のイデール,c を p, q 成分が
1,他の成分が p である Q のイデールとする (0.3.3.3).Q のイデール群 JQ において,p “ abc.ρk{Q : CQ “ JQ {Qˆ Ñ Galpk{Qq を類体論の基本写像 (0.3.3.6) とすると,ρk{Q pqq “ id, ρk{Q paq “ σp .また,k{Q は tq, 8u の外
72
第 3 章 結び目と素数の分解
で不分岐なので,(0.3.3.7) より,ρk{Q pcq “ id.よって,σp “ ρk{Q pb´1 q. 可換図式((0.3.3.5) より) ρkq {Qq
Qˆ q ÝÝÝÝÑ Galpkq {Qq q § § § § đιq đ ρk{Q
CQ ÝÝÝÝÑ Galpk{Qq より,
τ l “ ιq pρkq {Qq pαl qq “ ρk{Q pb´1 q pp´1 “ αl mod qq “ σp . よって,lkn pq, pq “ l mod n.また,
´p¯ q
n
“
´ p, q ¯
pp0.3.2.5qq q n ´ q, p´1 ¯ “ q n ? ρkq {Qq pp´1 qp n qq “ ? n q ? τ l p n qq “ ? n q “ ζ l (p3.2.4q より)
となるので,主張を得る.
˝
lkn pq, pq の定義より,n の正の約数 m に対し, lkn pq, pq “ m mod n ðñ h´1 n ptpuq “ tp1 , . . . , pm u. 特に,p が k で完全分解することと lkn pq, pq “ 0 mod n は同値である. 注意 3.2.6
(1) n “ 2 のとき,pp{qq2 “ pq ˚ {pq2 なので,命題 3.2.5 は命
題 2.2.1 の拡張である.
(2) n ą 2 のときは,Q は 1 の原始 n 乗根 ζn を含まないので,pq{pqn に 対して相互律は成り立たない.相互律を得るには,ζn を含む代数体の 2 つの 単項な素イデアル p, q について,まつわり数の類似と n べき剰余を考える のが自然である ([Hib, §154]).
3.2 素数の場合
■まとめ n 次 Galois 被覆 h
3
M ÑS Ki ÞÑ K Ki の惰性群 IKi , #IKi “ e 惰性被覆空間 TKi Ki の分解群 DKi , #DKi “ ef 分解被覆空間 ZKi ef r “ n (h´1 pKq “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr )
n 次 Galois 被覆 h
SpecpOk q Ñ SpecpZq pi ÞÑ ppq pi の惰性群 Ipi , #Ipi “ e 惰性体 Tpi pi の分解群 Dpi , #Dpi “ ef 分解体 Zpi ef r “ n (h´1 ptpuq “ tp1 , . . . , pr u)
73
ୈ
4 ষ ϗϞϩδʔͱ܈ΠσΞϧྨ ܈I —– छͷཧ
この章では,Gauss の種の理論を絡み目のトポロジーの視点から眺め直し てみる.Gauss による種の定義にまつわり数の考え方が現れていることがわ かるであろう.これから逆に,種の理論の位相幾何学的な類似を示すことが できる.
4.1 ホモロジー群とイデアル類群 まず,1 次元ホモロジー群とイデアル類群の類似性を見よう.M を連結有 向閉 3 次元多様体とする.M 内の結び目 K たちは,1 次元サイクルの群
Z1 pM q を生成する.2 次元チェイン D P C2 pM q の境界 BD たちは,Z1 pM q の部分群 B1 pM q をなし,その商群が M の 1 次元ホモロジー群 H1 pM q で ある:
H1 pM q “ Z1 pM q{B1 pM q. 一方,k を代数体とする.整数環 Ok の素イデアル pp‰ 0q たちは,イデ アル群 Ipkq を生成する.数 a P k ˆ (または総正な a P k ˆ )が生成する単 項イデアル paq たちは,Ipkq の部分群 P pkq(または P ` pkq)をなし,その 商群が k のイデアル類群(または狭義イデアル類群)である:
Hpkq “ Ipkq{P pkq (または H ` pkq “ Ipkq{P ` pkq). ここで,BD “ 0 となる D たちは M 内の閉曲面たちが生成する 2 次元ホモ ロジー群をなし,一方,paq “ Ok となる a P k ˆ たちは単数群 Okˆ をなす. 以上より,第 1 章の結び目と素イデアルの類似性から,表 4.1 の類似が見 てとれる.
76
第 4 章 ホモロジー群とイデアル類群 I 表 4.1
C2 pM q Ñ Z1 pM q D ÞÑ BD B1 pM q 1 次元ホモロジー群 H1 pM q “ Z1 pM q{B1 pM q 2 次元ホモロジー群 H2 pM q
kˆ Ñ Ipkq a ÞÑ paq P pkq pP ` pkqq (狭義)イデアル類群
Hpkq “ Ipkq{P pkq pH ` pkq “ Ipkq{P ` pkqq 単数群
Okˆ
最後に,Hurewicz の定理(の 3 次元多様体版)と Artin の相互律の類似 性をまとめよう.
Hurewicz の定理 f : M Ñ S 3 をある絡み目 L 上分岐する有限次 Abel 被覆 とする.X :“ S 3 zL, Y :“ f ´1 pXq, G :“ GalpY {Xq とおく.結び目 K Ă X ř に対し,3.1 節で述べたように,σK P G が定まる.1-サイクル c “ K nK K P ś nK Z1 pXq に対し,σc :“ K σK と拡張すると,準同型 σM {S 3 : Z1 pXq Ñ G; c ÞÑ σc が定義される.このとき,σM {S 3 は全射で,KerpσM {S 3 q “ f˚ pZ1 pY qq ` B1 pXq.従って,σM {S 3 : H1 pXq{f˚ pH1 pY qq » G. Artin の相互律 k{Q をある素数の有限集合 S 上分岐する有限次 Abel 拡大とする.f : SpecpOk q Ñ SpecpZq を付随する整数環の被覆,X :“ SpecpZqzS, X0 :“ MaxpZqzS, Sk :“ f ´1 pSq, Y :“ SpecpOk qzSk , Y0 :“ MaxpOk qzSk , G “ Galpk{Qq とおく.また, à IpXq :“ Z, P pXq :“ tpaq P P ` pQq | a ” 1 mod q p@q P Squ, pPX0
HpXq :“ IpXq{P pXq, à Z, P pY q :“ tpαq P P ` pkq | α ” 1 mod q p@q P Sk qu, IpY q :“ pPY0
HpY q :“ IpY q{P pY q とおく.素数 p P X0 に対し,3.2 節で述べたように,σp が定義される.
ś ś n a “ pPX0 pnp P IpXq に対し,σa :“ pPX0 σp p と拡張すると,準同 型 σk{Q : IpXq Ñ G; a ÞÑ σa が定義される.このとき,σk{Q は全射で, Kerpσk{Q q “ Nk{Q pIpY qqP pXq.従って,σk{Q : HpXq{Nk{Q pHpY qq » G.
4.2 絡み目の種の理論
77
4.2 絡み目の種の理論 L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr Ă S 3 を r 成分絡み目とし,XL :“ S 3 zintpVL q を絡 み目補空間,GL “ π1 pXL q を絡み目群とする.整数 n ě 2 に対し,各 Ki のメリディアン αi を 1 P Z{nZ へ送る写像は,全射準同型 ψ : GL Ñ Z{nZ を定める.Kerpψq に対応する XL の n 次巡回被覆を h : Y Ñ XL ,その Fox 完備化を f : M Ñ S 3 とする(例 0.1.15).f は L 上分岐する S 3 の n 次巡回被覆である.1 P Z{nZ に対応する GalpM {S 3 q の生成元を τ とす る.以下,H1 pM q の各ホモロジー類の代表は f ´1 pLq と交わらない 1-サイ クルをとる.そこで,ras, rbs P H1 pM q が同じ種に属する —– ras « rbs と 書く —– ことを lkpf˚ paq, Ki q ” lkpf˚ pbq, Ki q mod n p1 ď i ď rq が成り立つことと定義する.この定義がホモロジー類の代表元のとり方によ らないことは次のようにわかる.ras “ 0 P H1 pM q とすると,相対ホモロ B
ジー完全系列 H2 pM, Y q Ñ H1 pY q Ñ H1 pM q により,Y のホモロジー類 として,ras P ImpBq.切除定理より,H2 pM, Y q は f ´1 pLq の各成分のメリ ディアン α ˜ i を境界とする 2-サイクルの類で生成されるので,ImpBq は rα ˜is たちで生成される.f˚ prα ˜ i sq “ nrαi s P H1 pXL q なので,lkpf˚ paq, Ki q ” 0
mod n.これより,定義はホモロジー類の代表元のとり方によらない. 定理 4.2.1 ([M4]) 準同型 χ :
H1 pM q Ñ pZ{nZqr ; ras ÞÑ plkph˚ paq,
Ki q mod nq, について,次が成り立つ: r ˇÿ ! ) ˇ Impχq “ pεi q P pZ{nZqr ˇ εi “ 0 ,
Kerpχq “ pτ ´ 1qH1 pM q.
i“1
これより,H1 pM q を種で類別すると,
H1 pM q{ « » H1 pM q{pτ ´ 1qH1 pM q » pZ{nZqr´1 . 証明
包含写像 j : Y ãÑ M に対し,j˚ : H1 pY q Ñ H1 pM q は全射で,定理
前に述べたように,B :“ Kerpj˚ q “ Zprα ˜ 1 sq ‘ ¨ ¨ ¨ ‘ Zpr˜ αr sq.ここで,α ˜i は Ki 上にある f ´1 pLq の成分のメリディアン.従って,f˚ pBq “ h˚ pBq “
Zpnrα1 sq ‘ ¨ ¨ ¨ ‘ Zpnrαr sq Ă H1 pXL q “ Zrα1 s ‘ ¨ ¨ ¨ ‘ Zrαr s.鎖複体の完 全系列
τ ´1
h˚
0 Ñ C˚ pY q ÝÑ C˚ pY q ÝÑ C˚ pXL q Ñ 0 より,長完全系列
78
第 4 章 ホモロジー群とイデアル類群 I τ ´1
h˚
¨ ¨ ¨ ÝÑ H1 pY q ÝÑ H1 pY q ÝÑ H1 pXL q ÝÑ ¨ ¨ ¨ が従う(Wang 完全系列).これより,次の可換完全図式を得る:
0
0
B
f˚
/ f˚ pBq
/0
/ H1 pY q
f˚
/ f˚ pH1 pY qq
/0
0
/ pτ ´ 1qH1 pY q
0
˚ / pτ ´ 1qH1 pM q
˚ / H1 pM q
0
0
j
j
これより,次の完全系列を得る:
p4.2.1.1q
0 Ñ pτ ´ 1qH1 pM q Ñ H1 pM q Ñ f˚ pH1 pY qq{f˚ pBq Ñ 0.
ϕ : H1 pXL q Ñ pZ{nZqr を ϕpcq :“ plkpc, Ki q mod nq により定める.明 らかに,ϕ は全射で,Kerpϕq “ Zpnrα1 sq ‘ ¨ ¨ ¨ ‘ Zpnrαr sq “ f˚ pBq.n 次 被覆 Y Ñ X に付随して次の可換完全図式がある:
0
0
0
f˚ pBq
f˚ pBq
/ f˚ pH1 pY qq
/ H1 pXL q
f˚ pH1 pY qq{f˚ pBq
pZ{nZqr
0
0
/ GalpY {XL q
ϕ
ここで,Σ : pZ{nZqr Ñ Z{nZ は和 Σppεi qq :“
/0
/ Z{nZ
Σ
řr
i“1 εi
をとる準同型であ
る.GalpY {XL q » Z{nZ は τ を 1 mod n へ対応させる同型.これより,
p4.2.1.2q
ϕ
f˚ pH1 pY qq{f˚ pBq » KerpΣq » pZ{nZqr´1 .
(4.2.1.1), (4.2.1.2) 及び χ “ ϕ ˝ f˚ に注意すると,完全系列 χ
0 Ñ pτ ´ 1qH1 pM q Ñ H1 pM q Ñ pZ{nZqr´1 Ñ 0
4.3 素数たちの種の理論
79 ˝
を得る.これより,主張は示された. 特に,n “ 2 の場合,次の Gauss の定理の類似を得る:
f : M Ñ S 3 を r 成分絡み目 L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr 上分岐する 連結有向閉 3 次元多様体の 2 次被覆とする.このとき,準同型 H1 pM q Ñ pZ{2Zqr ; ras ÞÑ plkpf˚ paq, Ki q mod 2q,は次の同型を導く: 系 4.2.2
r ˇÿ ! ) ˇ H1 pM q{2H1 pM q » pεi q P pZ{2Zqr ˇ εi “ 0 » pZ{2Zqr´1 . i“1
定理 4.2.1 より,pτ ´ 1qH1 pM q “ 2H1 pM q を示せばよい.f˚ : H1 pM q Ñ H1 pS 3 q と移送 tr : H1 pS 3 q Ñ H1 pM q の合成 tr ˝f˚ : H1 pM q Ñ H1 pM q は 1 ` τ なので,H1 pS 3 q “ 0 より,τ “ ´1.ゆえに,pτ ´ 1qH1 pM q “ 2H1 pM q. ˝ 証明
a を偶数 (ě 2) とし,L “ Bpa, bq を 2 橋絡み目とすると,L 上 分岐する S 3 の 2 次被覆はレンズ空間 Lpa, bq である(例 0.1.16).このと き,H1 pM q » Z{aZ で,H1 pM q{ « “ H1 pM q{2H1 pM q » Z{2Z.
例 4.2.3
4.3 素数たちの種の理論 n ě 2 を自然数,S “ tp1 , . . . , pr u を相異なる r 個の素数の集合で,pi ” 1 mod n p1 ď i ď rq を満たすものとする .GS :“ π1 pSpecpZr1{pp1 ¨ ¨ ¨ pr qsqq “ GalpQS {Qq とおく(例 0.2.20).各 pi について,mod pi の原始根 αi を śr śr ˆ ˆ 1 つとり,ψ : Gab S “ i“1 Zpi “ i“1 Fpi ˆ p1 ` pi Zpi q Ñ Z{nZ を ψpαi q “ 1, ψp1 ` pi Zpi q “ 0 p1 ď i ď rq なる全射準同型とする.Kerpψq に対応する Q の n 次巡回拡大を k とする.1 P Z{nZ に対応する Galpk{Qq の生成元を τ とする(例 0.3.3.10).μn Ă Q を 1 の n 乗根のなす群とし, 埋め込み Qpμn q Ă Qpi を固定する.以下,狭義イデアル類群 H ` pkq の各 イデアル類の代表は,各 pi と互いに素な Ok のイデアルをとる.そこで, ras, rbs P H ` pkq が同じ種に属する —– ras « rbs と書く —– ことを ´ Na ¯ ´ Nb ¯ “ p1 ď i ď rq pi n pi n が成り立つことと定義する.但し,p p˚i qn は Qpi における n べき剰余記号 で,μn に値をとる.この定義がイデアル類の代表元のとり方によらないこ とは次のようにわかる.ras “ 0 P H ` pkq とすると,ある総正な α P k ˆ が
80
第 4 章 ホモロジー群とイデアル類群 I
あり,a “ pαq と書けるので,Na “ Nk{Q pαq “ Nkpi {Qpi pαq (ここで,pi は pi 上の k の素イデアル,kpi “ Qpi p
? n
pi q).よって,(0.3.2.4), (0.3.2.5)
より,pNa{pi qn “ 1.これより,定義はイデアル類の代表元のとり方によら ない. 定理 4.3.1 ([IT]) 準同型 χ : H ` pkq Ñ μrn ; ras ÞÑ p
` Na ˘ pi
n
q, について,
次が成り立つ: r ˇ ź ! ) ˇ Impχq “ pζi q P μrn ˇ ζi “ 1 ,
Kerpχq “ H ` pkqτ ´1 .
i“1 `
これより,H pkq を種で類別すると,
H ` pkq{ « » H ` pkq{H ` pkqτ ´1 » pZ{nZqr´1 . ś ˆ JQ , Jk を各々Q, k のイデール群, Uk :“ pPMaxpOk q Op ˆ ś ˆ 2 ˆ ` vPSk8 pkv q とし,標準同型 Jk {Uk k » H pkq に注意する(例 0.3.3.8). 次に,イデール類群上のノルム写像 Nk{Q : Jk {k ˆ Ñ Nk{Q pJk qQˆ {Qˆ の 核は,pJk {k ˆ qτ ´1 となることを示す.pJk {k ˆ qτ ´1 Ă KerpNk{Q q は明らか. a P Jk について,Nk{Q paq P Qˆ とせよ.Hasse のノルム定理 証明
Nk{Q pJk q X Qˆ “ Nk{Q pk ˆ q より,Nk{Q paq “ Nk{Q pαq となる α P k ˆ がある.Hilbert の定理 90
b P Jk について,Nk{Q pbq “ 1 ñ Dc P Jk , b “ cτ ´1 より,a “ αcτ ´1 となる c P Jk がある.よって,ak ˆ “ cτ ´1 k ˆ P
pJk {k ˆ qτ ´1 .以上より,次の可換完全図式を得る: 0
0
Uk k ˆ {k ˆ
Nk{Q
/ Nk{Q pUk qQˆ {Qˆ
/0
Nk{Q
/ Nk{Q pJk qQˆ {Qˆ
/0
0
/ pJk {k ˆ qτ ´1
/ Jk {k ˆ
0
/ H ` pkqτ ´1
/ H ` pkq
0
0
これより,次の完全系列を得る:
4.3 素数たちの種の理論
81
p4.3.1.1q 0 Ñ H ` pkqτ ´1 Ñ H ` pkq Ñ Nk{Q pJk qQˆ {Nk{Q pUk qQˆ Ñ 0. ś ˆ HQ` “ 1 なので,JQ “ Qˆ ppRˆ q2 ˆ p Zˆ p q と表せる.ゆえに,JQ {Q の各類の代表として,a “ ppap q, a8 q, ap P Zˆ p p@p P MaxpZqq, a8 ą 0 の形 のイデールが一意的にとれる.そこで,準同型 ϕ : JQ {Qˆ Ñ μrn を `´ api ¯ ˘ ϕpaQˆ q :“ pi n u ˆ i により定義する.p α pi qn は 1 の原始 n 乗根なので,Zpi Q u ÞÑ p pi qn P μn は全
射 p1 ď i ď rq.従って,ϕ も全射である.次に,Kerpϕq “ Nk{Q pUk qQˆ {Qˆ を示す.pi を pi 上の k の素イデアルとすると,p
api pi qn
“ 1 ô api P (0.3.2.4).また,p R S なら,p は k{Q で不分岐なので,p 8 上の k の任意の素イデアル p に対し,Nkp {Qp pOpˆ q “ Zˆ p (0.3.2.3), v P Sk ˆ 2 ˆ 2 ˆ ˆ なら Nkv {R ppkv q q “ pR q .よって,Kerpϕq “ Nk{Q pUk qQ {Q .また, 類体論の同型 (0.3.3.6) ρk{Q : JQ {Nk{Q pJk qQˆ » G に注意すると,次の可 Nkpi {Qpi pOpˆi q
換完全図式を得る:
0
0
Nk{Q pUk qQˆ {Qˆ
Nk{Q pUk qQˆ {Qˆ
/ Nk{Q pJk qQˆ {Qˆ
/ JQ {Qˆ
Nk{Q pJk qQˆ {Nk{Q pUk qQˆ
μrn
0
0
0
ρk{Q
/G
/0
ϕ Σ
/ Z{nZ
i ここで,Σ : μrn Ñ Z{nZ は,p α pi qn を 1 mod n へ対応させる同型を ξi :
řr „ „ μn Ñ Z{nZ とするとき,Σppζi qq :“ i“1 ξi pζi q とする.G Ñ Z{nZ は τ を 1 mod n へ対応させる同型である.これより, p4.3.1.2q
ϕ
Nk{Q pJk qQˆ {Nk{Q pUk qQˆ » KerpΣq » μr´1 n .
(4.3.1.1), (4.3.1.2) 及び χ “ ϕ ˝ Nk{Q に注意すると,完全系列 0 Ñ H ` pkqτ ´1 Ñ H ` pkq Ñ pZ{2Zqr´1 Ñ 0 χ
82
第 4 章 ホモロジー群とイデアル類群 I
˝
を得るので,主張が示された. 特に,n “ 2 の場合,次の Gauss の定理を得る: 系 4.3.2
k{Q を r 個の奇素数 p1 , . . . , pr 上分岐する 2 次拡大とする.こ ` Na ˘ pi q,は次の同型を導く:
のとき,準同型 H ` pkq Ñ t˘1ur ; ras ÞÑ p
r ˇ ź ! ) ˇ H ` pkq{H ` pkq2 » pζi q P t˘1ur ˇ ζi “ 1 » pZ{2Zqr´1 . i“1
証明 定理 4.3.1 より,H ` pkqτ ´1 “ H ` pkq2 を示せばよい.ras P H ` pkq について,H ` pQq “ 1 なので,Nk{Q prasq “ rasrasτ “ 1.ゆえに,rasτ “
ras´1 .よって,H ` pkqτ ´1 “ H ` pkq2 . ˝ ? 例 4.3.3 k “ Qp 145q とする.k は,t5, 29u 上分岐する Q の 2 次拡大. ? p “ p2, p1 ` 145q{2q とおくと,H ` pkqp“ Hpkqq “ xrpsy » Z{4Z で, H ` pkq{ « “ H ` pkq{H ` pkq2 » Z{2Z. Hilbert 理論,種の理論の他,代数体における単項化問題,類 体塔問題などについても 3 次元多様体における類似が調べられている ([Fl], [Mn], [M6], [Rz1], [RM], [Si]).
注意 4.3.4
■まとめ 1 次元ホモロジー群 H1 pM q
(狭義)イデアル類群 H ` pkq
まつわり数による
平方剰余記号による
ホモロジー類の分類
イデアル類の分類
H1 pM q{2H1 pM q » pZ{2Zqr´1 (M Ñ S 3 : 2 次被覆)
H ` pkq{H ` pkq2 » pZ{2Zqr´1 (k{Q : 2 次拡大)
第 2–4 章において,第 1 章の結び目と素数の類似の視点から,Gauss によ るまつわり数と平方剰余及び種の理論を統一的に見直すことができた.これ から我々のやりたいことは,Gauss 以後分かれて発展した結び目理論と整数 論を類似性の視点から見直し,両者の間に橋を架けることである.
ୈ
5 ষ བྷΈͱ܈ذ͖݅ Galois ܈
第 1 章で述べたように,我々の基本的な考えは,分岐条件付き Galois 群
GS “ π1 pSpecpZqzSq, S “ tp1 , . . . , pr u,を絡み目群 GL “ π1 pS 3 zLq, L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr ,の類似とみなすことである.しかるに,副有限群 GS は 巨大なので,ある素数 l について,その最大副-l 商 GS plq を考えると,S の “絡み具合” の片鱗を引き出すことができる.代数体の l-拡大については, ˇ I. Safareviˇ c, H. Koch らによる古典理論があり,Galois 群 GS plq に関する Koch の定理が,絡み目群に対する J. Milnor の定理に対応していることが わかる. 以下,位相群 G の中心降下列を,Gp1q :“ G, Gpd`1q :“ rGpdq , Gs によ り定義する.また,素数 l に対し,l-中心降下列を Gp1,lq :“ G, Gpd`1,lq :“
pGpd,lq ql rGpd,lq , Gs により定義する.ここで,G の閉部分群 A, B に対し, rA, Bs は ra, bs :“ aba´1 b´1 pa P A, b P Bq により生成される閉部分群を 表す.
5.1 絡み目群 L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr を S 3 内の r 成分絡み目,GL “ π1 pS 3 zLq を絡み目 群とする.Ki のメリディアン αi を表す語 xi (1 ď i ď r) で生成される自 由群を F とする. pdq
定理 5.1.1 (Milnor [Ml1]) 各 d P N に対し,yi
P F で次を満たすもの
が存在する: pdq
pdq
GL {GL “ xx1 , . . . , xr | rx1 , y1 s “ ¨ ¨ ¨ “ rxr , yrpdq s “ 1, F pdq “ 1y, pdq
yi
pd`1q
” yi
pdq
ここで,yi
mod F pdq . pdq
は GL {GL
において Ki のロンジチュード βi を表す語であ
84
第 5 章 絡み目群と分岐条件付き Galois 群
る.また,次が成り立つ:
βj ”
ź
lkpKi ,Kj q
αi
p2q
mod GL .
i‰j
証明 例 0.1.6 におけるように,L の正則表示を 1 つとり,Ki を弧 αi1 , . . . ,
αiλi と分割する.上方の基点 b を出発し,αij の下を右から左へ通過して b に戻るループを xij とすると,GL の Wirtinger 表示は次のように書ける: p5.1.1.1q GL ´1 ˇ G Rij :“ xij uij x´1 ˇ i j`1 uij “ 1 ˇ . “ xij p1 ď i ď r, 1 ď j ď λi qˇ p1 ď i ď r, 1 ď j ă λi q ˇ ´1 ´1 Ri λi :“ xi λi ui λi xi1 ui λi “ 1 p1 ď i ď rq
C
ここで,uij は xkl たちの語である(図 5.1).
図 5.1
vij :“ ui1 ¨ ¨ ¨ uij とおく.このとき,vi λi は Ki のパラレル (parallel [Ml1]) を表し,Ki のロンジチュードは,vi λi xki1i “ ui1 ¨ ¨ ¨ ui λi xki1i により表される ことに注意する.但し,整数 ki は,語 vi λi xki1i において xij (1 ď j ď λi ) のべきの和が 0 となるように決める. # ´1 p1 ď j ă λi , 1 ď i ď rq sij :“ xi1 vij x´1 i j`1 vij ´1 ´1 si λi :“ xi1 vi λi xi1 vi λi p1 ď i ď rq とおくと,
p5.1.1.2q
#
Ri1 “ si1 ´1 Rij “ vi´1 j´1 si j´1 sij vi j´1
p1 ď i ď rq p1 ă j ď λi , 1 ď i ď rq.
85
5.1 絡み目群
(5.1.1.1), (5.1.1.2) より, p5.1.1.3q GL “ xxij p1 ď i ď r, 1 ď j ď λi q | sij “ 1p1 ď i ď r, 1 ď j ď λi qy. F を xij p1 ď i ď r, 1 ď j ď λi q たちで生成される自由群, F を xi1 p1 ď i ď rq たちで生成される自由群とする.F は自然に F の部分群とみなされ る.各 d P N に対し,準同型 ηd : F Ñ F を次のように帰納的に定義する: $ ’ &η1 pxij q :“ xi1 , ηd`1 pxi1 q :“ xi1 , ’ % ´1 ηd`1 pxi j`1 q :“ ηd pvij xi1 vij q p1 ď j ă λi q. N :“ xxRij p1 ď i ď r, 1 ď j ď λi qyy “ xxsij p1 ď i ď r, 1 ď j ď λi qyy とお くと,次が成り立つ:
p1d q
ηd pxij q ” xij mod F
pdq
N,
ηd pxij q ” ηd`1 pxij q mod F pdq .
p2d q
p1d q の証明 d “ 1 または j “ 1 のときは,明らかに正しい.p1d q pd ě 1q を pdq ´1 仮定すると,ηd pvij q ” vij mod F N . ηd pxi1 q “ xi1 より,ηd pvij xi1 vij q ” ´1 vij xi1 vij mod F
p˚q
pd`1q
N .ここで,次を用いた:
x P F, a ” b mod F
pdq
N ñ a´1 xa ” b´1 xb mod F
pd`1q
N.
´1 ´1 ηd pvij xi1 vij q “ ηd`1 pxi j`1 q. また,sij “ xi1 vij x´1 i j`1 vij P N より, ´1 vij xi1 vij ” xi j`1 mod N .従って,ηd`1 pxi j`1 q ” xi j`1 mod F となり,p1d`1 q は正しい.
pd`1q
N ˝
p2d q の証明 d “ 1 または j “ 1 のときは,明らかに正しい.p2d q pd ě 1q を 仮定すると,ηd pvij q ” ηd`1 pvij q mod F pdq . ηd pxi1 q “ ηd`1 pxi1 q “ xi1 よ ´1 ´1 り,ηd`1 pxi j`1 q “ ηd pvij xi1 vij q ” ηd`1 pvij xi1 vij q “ ηd`2 pxi j`1 q mod F pd`1q (ここで,p˚q で F て,p2d`1 q が成り立つ.
pdq
N を F pdq に置き換えた主張を用いた).従っ ˝
よって,(5.1.1.3) より, pdq
GL {GL “ xxij | sij “ 1, F
pdq
“ 1y
“ xxij | sij “ 1, xij “ ηd pxij q, F
pdq
“ 1y (p1d q より)
86
第 5 章 絡み目群と分岐条件付き Galois 群
» xxi1 | ηd psij q “ 1, F pdq “ 1y
pηd pF
pdq
q “ F pdq q.
ここで,1 ď j ă λi に対し,
ηd psij q “ ηd pxi1 qηd pvij qηd pxij`1 q´1 ηd pvij q´1 ” xi1 ηd pvij qηd`1 pxij`1 q´1 ηd pvij q´1 mod F pdq
pp2d qq
´1 xi1 vij q´1 ηd pvij q´1 “ xi1 ηd pvij qηd pvij
“1 となるから, pdq
GL {GL “ xxi1 p1 ď i ď rq | ηd psi λi q “ 1, F pdq “ 1y. pdq
´1 xi :“ xi1 , yi :“ ηd pvi λi xki1i q とおくと,ηd psi λi q “ ηd pxi1 vi λi x´1 i1 vi λi q “ pdq ki ´1 ´ki ´1 ηd pxi1 vi λi xi1 xi1 xi1 vi λi q “ rxi , yi s なので, pdq
pdq
GL {GL “ xx1 , . . . , xr | rx1 , y1 s “ ¨ ¨ ¨ “ rxr , yrpdq s “ 1, F pdq “ 1y. ś lkpK ,K q pdq pd`1q p2q また,p2d q より,yi ” yi mod F pdq . βj ” i‰j αi i j mod GL は命題 2.1.1 より従う. ˝ (1) r 成分絡み目 L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr , L1 “ K11 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr1 に Ťr « 対し,ホモトピー ht : rS 1 :“ i“1 S 1(直和)Ñ ht prS 1 q Ă S 3 が存在して, L “ h0 prS 1 q, L1 “ h1 prS 1 q となるとき,L と L1 はイソトピックと呼ばれ る.2 つの絡み目は同型ならイソトピックである.L と L1 がイソトピックの pdq pdq とき,GL {GL と GL1 {GL1 は同型であり,Ki , Ki1 のメリディアン,ロン ジチュードのペアーを各々pαi , βi q, pαi1 , βi1 q とすると,この同型で,pαi , βi q は pαi1 , βi1 q の同時共役元 pγαi1 γ ´1 , γβi1 γ ´1 q へうつる ([Ml1]). (2) Milnor の定理 5.1.1 は,任意のホモロジー 3 球面内の絡み目に対しても 同様に成り立つ ([Tu]). pdq (3) L が純組み紐絡み目(純組み紐を閉じて得られる絡み目)のとき,yi は d によらず,GL 自身が次の群表示をもつ(E. Artin の定理.[Bi, Theorem 2.2]): 注意 5.1.2
GL “ xx1 , . . . , xr | rx1 , y1 s “ ¨ ¨ ¨ “ rxr , yr s “ 1y. l を素数とする.指数が l のべきとなる GL の任意の正規部分群 N に対し, pd,lq ˆ L plq :“ lim GL {Gpd,lq 十分 d を大きくとれば GL Ă N となるので,G L ÐÝd は GL の副-l 完備化を与える.同様に,Fˆ plq :“ limd F {F pd,lq は x1 , . . . , xr ÐÝ
5.2 分岐条件付き副-l Galois 群 pdq
87
pd`1q
mod F pd,lq なので,yi :“ ˆ L plq において,Ki mod F pd,lq q P Fˆ plq.yi は,自然な準同型 Fˆ plq Ñ G のロンジチュードを表す副-l 語である.次の定理は,どんな絡み目も,副-l で生成される自由副-l 群である.yi pdq pyi
” yi
完備化すれば,純組み紐絡み目に見えることを述べている.
ˆ L plq は次の群表示をもつ: 定理 5.1.3 ([HMM]) 副-l 群 G ˆ L plq “ xx1 , . . . , xr | rx1 , y1 s “ ¨ ¨ ¨ “ rxr , yr s “ 1y. G pdq
証明 Nd :“ xxrxi , yi s p1 ď i ď rqyy とおくと,定理 5.1.1 より, pd,lq
GL {GL
» F {Nd F pdq .
ここで,射影極限 limd をとれば,主張を得る.
ÐÝ
˝
5.2 分岐条件付き副-l Galois 群 l を素数とし,S “ tp1 , . . . , pr u を pi ” 1 mod l p1 ď i ď rq なる相異 なる素イデアルの集合とする.eS :“ maxte | pi ” 1 mod le p1 ď i ď rq u とし,m “ le p1 ď e ď eS q を固定する.Q の代数閉包 Q (基点 x)を決 め,GS plq を π1 pSpecpZqzS, xq の最大副-l 商,すなわち,S Y t8u の外で 不分岐な Q の最大副-l 拡大 QS plqpĂ Qq の Galois 群 GalpQS plq{Qq とす る(例 0.2.20).各 Qpi の代数閉包 Qpi をとり,埋め込み Q ãÑ Qpi を定 める.Qpi plqpĂ Qpi q を Qpi の最大 l-拡大とする(例 0.2.24). Qpi plq “ Qpi pζln ,
?
ln
pi | n ě 1q.
s
ここで,ζln P Q は 1 の原始 ln 乗根で,ζllt “ ζlt´s pt ě sq を満たす.m の とり方から,ζm P Qpi p1 ď i ď rq に注意.GQpi plq :“ GalpQpi plq{Qpi q と おく.GQpi plq は,
? ? τi p ln pi q “ ζln ln pi , ? ? σi pζln q “ ζlpni , σi p ln pi q “ ln pi τi pζln q “ ζln ,
p5.2.1q
により定義されるモノドロミー τi と Frobenius 自己同型の延長 σi で生成さ p ´1
rτi , σi s “ 1 をもつ(例 0.2.24).一般に,Frobenius 自己 同型の延長は,惰性群を法として決まるが,(5.2.1) はその正規化を与える. 埋め込み Q ãÑ Qpi は埋め込み QS plq ãÑ Qpi plq (従って pi 上の QS plq の 素点)を与える.これより導かれる準同型 GQpi plq Ñ GS plq において τi , σi れ,関係式 τi i
88
第 5 章 絡み目群と分岐条件付き Galois 群
の像を同じく τi , σi と書く.Fˆ plq を τi を表す語 xi (1 ď i ď r) で生成され る副-l 群とする. 定理 5.2.2 (Koch [Kc2, 6]) 副-l 群 GS plq は次の群表示をもつ:
GS plq “ xx1 , . . . , xr | x1p1 ´1 rx1 , y1 s “ ¨ ¨ ¨ “ xpr r ´1 rxr , yr s “ 1y. ここで,yi P Fˆ plq は σi を表す副-l 語.また,次が成り立つ:
σj ”
ź
lkppi ,pj q
τi
mod GS plqp2q ,
lkm ppi , pj q :“ lkppi , pj q mod m
i‰j
により,lkm ppi , pj q P Z{mZ を定めると, lkm ppi ,pj q ζm “
´p ¯ j
pi
. m
ここで,p p˚i qm は Qpi における m べき剰余記号を表す (0.3.2.5).
GS plq については,Wirtinger 表示の類似は知られていないので,定 理 5.1.1 または 5.1.3 の類似を得るために,Tate–Poitou の定理 (0.3.3.2) を 用いる.GS plq の Abel 化 GS plq{GS plqp2q における τi の像を τi1 とすると, 例 0.3.3.10 より, 証明
GS plq{GS plqp2q “ xτ11 y ˆ ¨ ¨ ¨ ˆ xτr1 y » Z{lf1 Z ˆ ¨ ¨ ¨ ˆ Z{lfr Z. ここで,pi ´ 1 “ lfi qi , pl, qi q “ 1,とする.ゆえに,副-l 群 GS plq は τi
p1 ď i ď rq たちで位相的に生成される(命題 0.2.5).以後,簡単のため,副 有限群 G に対し,H i pG, Fl q を単に H i pGq と書く.τ1 , . . . , τr たちの間の 極小関係式系の数は dimFl H 2 pGS plqq であり(命題 0.2.5),これらの関係 p ´1 式が局所 Galois 群 GQpi plq の関係式 τi i rτi , σi s “ 1 からくるための条件 は,自然な写像 GQpi plq Ñ GS plq から誘導される Galois コホモロジー群上 の準同型
ϕ : H 2 pGS plqq Ñ
r ź
H 2 pGQpi plqq
i“1
が単射となることである ([Kc2, Proposition 1.14]).以下,これを示す.
GQ :“ GalpQ{Qq とおく.自然な準同型 GQ Ñ GS plq の核を IS とする: 1 ÝÑ IS ÝÑ GQ ÝÑ GS plq ÝÑ 1 (完全). これより,次の Hochschild–Serre 完全系列が従う:
p5.2.2.1q
H 1 pGQ q ÝÑ H 1 pIS qGS plq ÝÑ H 2 pGS plqq ÝÑ H 2 pGQ q. res
tra
inf
5.2 分岐条件付き副-l Galois 群
89
各素数 p に対し,GQp :“ GalpQp {Qq, IQp を惰性群とする.GQp plq を GQp „
の最大副-l 商とすると,自然な準同型 GQp Ñ GQp plq は同型 H i pGQp plqq Ñ
H i pGQp q pi ě 1q を導くことに注意する.実際,T :“ KerpGQp Ñ GQp plqq とすると,H i pT q “ 0 (i ě 1) となるからである.そこで,次の図式を考 える:
H 2 pGS plqq § § ϕđ
p5.2.2.2q
r à i“1
ÝÝÝÝÑ
i
H 2 pGQpi plqq ÝÝÝÝÑ
H 2 pGQ q § §j đ à
H 2 pGQp q
p
ここで,i は pi 成分たちに入る自然な写像,j は局所化写像である.p R S な ら,合成写像 H 2 pGS plqq Ñ H 2 pGQ q Ñ H 2 pGQp q は自明なので,図式は可 換である.上の注意より,i は単射.また,Tate–Poitou の完全系列 (0.3.3.2) より,
´ ¯˚ ź Kerpjq » Ker H 1 pQ, μl q ÝÑ H 1 pQp , μl q (μl は 1 の l 乗根の群) ´
» Ker Qˆ {pQˆ ql ÝÑ
p
ź
ˆ l Qˆ p {pQp q
¯˚
p
“0 なので,j も単射である.よって,(5.2.2.1), (5.2.2.2) より,完全系列
H 1 pGq ÝÑ H 1 pIS qGS plq ÝÑ Kerpϕq ÝÑ 0 を得る.ここで,次の可換完全図式を考える:
ここで,SQ :“ MaxpZq Y t8u, S :“ S Y t8u とおいた.GQ8 “ GalpC{Rq.
90
第 5 章 絡み目群と分岐条件付き Galois 群
ˆ Ñ 1 から従う.中 中央横の完全系列は,短完全系列 1 Ñ IQp Ñ GQp Ñ Z 央縦の完全系列は Tate–Poitou の完全系列から,右縦の単射は IS の定義か ら従う.これより,
Kerpϕq ãÑ Coker ´
´ź
H 1 pGQv q ˆ
vPS
» Ker Qˆ {pQˆ ql Ñ
ź
ź
1 Hur pGQp q Ñ H 1 pQ, μl q˚
pRS ˆ l Qˆ v {pQv q ˆ
vPS
ź
¯
ˆ ˆ l Qˆ p {Zp pQp q
¯˚
pRS
“ 0. よって,Kerpϕq “ 0. pj , pi の mod m のまつわり数 lkm ppi , pj q について
˝
の主張は,命題 3.2.4 と同様に示される.
定理 5.1.1, 5.1.3 と定理 5.2.2 の類似は明解である.べき剰余記号とまつわり数 の類似も群論的によくわかる.また,各々の群表示における関係式 rxi , yi s “ 1,
xpi i ´1 rxi , yi s “ 1 は局所的な基本群 π1 pBVKi q, π1t pSpecpQpi qq の関係式 (1.3)
から来ていることも見てとれる.
Koch の定理もより一般の代数体とその素イデアルたちに対し 拡張される.k を 1 の原始 l 乗根 ζl を含む有限次代数体,S “ tp1 , . . . , pr u を Npi ” 1 mod l (1 ď i ď r) なる相異なる素イデアルの集合とし,次を仮 l 定する:(1) k の類数は l と互いに素. (2) BS :“ tα P k ˆ |pαq “ a( a“イ ˆ l ˆ l デアル), α P pkpi q p1 ď i ď rqu{pk q “ 1. このとき,π1 pSpecpOk qzSq の 最大副-l 商 GS pkqplq は次の群表示をもつ: p5.2.3.1q 1 ´1 GS pkqplq “ xx1 , . . . , xr | xNp rx1 , y1 s “ ¨ ¨ ¨ “ xrNpr ´1 rxr , yr s “ 1y. 1 注意 5.2.3
ここで,xi は pi 上のモノドロミー, yi は pi 上の Frobenius 自己同型の拡張 を表す副-l 語である.仮定 BS “ 1 は,H 2 pGS pkqplqq Ñ
śr
i“1
が単射であるための十分条件である ([Kc2, Theorem 4.2]).
H 2 pDpi plqq
5.2 分岐条件付き副-l Galois 群
■まとめ Milnor の定理 pdq GL {GL “ ˇ ˇ rx1 , y pdq s “ ¨ ¨ ¨ G C ˇ 1 ˇ x1 , . . . , xr ˇ “ rxr , yrpdq s ˇ ˇ “ 1, F pdq “ 1 xi : Ki のメリディアン pdq yi : Ki のロンジチュード
Koch の定理 GS plq “ C
ˇ p ´1 ˇ x 1 rx1 , y1 s “ G ˇ 1 ˇ x1 , . . . , xr ˇ ¨ ¨ ¨ “ xrpr ´1 rxr , yr s ˇ ˇ “1 xi : pi 上のモノドロミー yi : pi 上の Frobenius 自己同型
91
ୈ
6 ষ Milnor ෆมྔͱ ଟॏ͖༨߸ه
高次まつわり数(Milnor μ-不変量)は,Milnor により導入された ([Ml1]). 第 5 章で述べた絡み目群と Galois 群の類似性から,素数たちに対しても Milnor 不変量の類似物を導入することができる.これはべき剰余記号,R´ edei のト リプル記号の多重化を与える.
6.1 Fox 自由微分法 群 G と可換環 R に対し,
RrGs :“
ˇ ) ˇ ag g(形式的有限和)ˇ ag P R, 有限個の g を除き,ag “ 0
!ÿ
gPG
とおく.α “
ř
ř ag g, β “ bg g P RrGs, c P R に対し, $ ř ’ :“ pag ` bg qg &α ` β ř cα :“ pcag qg ’ ř ř % α ¨ β :“ g p h ah bh´1 g qg
と定義すると,RrGs は R 上の代数になり,G の R 上の群環と呼ばれる.
α“
ř
ag g を G 上の R-値関数 α : g ÞÑ ag と同一視すれば,上の演算は関
数の通常の加法とスカラー倍及び合成積に相当する. 群の準同型 ψ : G Ñ H は自然に R 上の群環の R-代数の準同型に拡張さ れる.これも ψ と書く:
ψ : RrGs Ñ RrHs;
ψ
`ÿ
ÿ ˘ ag g :“ ag ψpgq.
特に,H が単位群 teu のとき,a P R を ae と同一視すると,R-代数の準 同型
RrGs : RrGs Ñ R; RrGs
`ÿ
ÿ ˘ ag g :“ ag
を得る.これを添加写像という.核 KerpRrGs q を RrGs の添加イデアルと
94
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
いい,IRrGs と書く.
ZxxX1 , . . . , Xr yy を変数 X1 , . . . , Xr の Z 上非可換形式的べき級数環と する:
ZxxX1 , . . . , Xr yy :“
!
ÿ
ˇ ) ˇ ai1 ¨¨¨in Xi1 ¨ ¨ ¨ Xin ˇ n ě 0, ai1 ¨¨¨in P Z .
1ďi1 ,...,in ďr
ř ai1 ¨¨¨in ‰ 0 となる最小の n を f “ f pX1 , . . . , Xr q “ ai1 ¨¨¨in Xi1 ¨ ¨ ¨ Xin の次数といい,degpf q “ n と書く. F を文字 x1 , . . . , xr により生成される自由群とし,群準同型 M : F Ñ ZxxX1 , . . . , Xr yyˆ を
M pxi q :“ 1 ` Xi ,
2 M px´1 i q :“ 1 ´ Xi ` Xi ´ ¨ ¨ ¨ p1 ď i ď rq
により定義する.M を Z-線形に拡張した Z-代数の準同型も
M : ZrF s Ñ ZxxX1 , . . . , Xr yy と表す. 補題 6.1.1 証明
M は単射である(M を Magnus 埋入という).
f “ xei11 ¨ ¨ ¨ xeinn p1 ď i1 , . . . , in ď r, ij ‰ ij`1 , ej p‰ 0q P Zq を簡約語
とする. e
M pxijj q “ 1 ` ej Xij ` Xi2j gj pXij q,
gj pXij q P ZxxXij yy
と書くと,
M pf q “ p1 ` e1 Xi1 ` Xi21 g1 pXi1 qq ¨ ¨ ¨ p1 ` en Xin ` Xi2n gn pXin qq. ここで,単項式 Xi1 ¨ ¨ ¨ Xin の係数は,e1 ¨ ¨ ¨ en ‰ 0 なので,M pf q ‰ 1.ゆ えに,群準同型 M : F Ñ ZxxX1 , . . . , Xr yyˆ は単射となり,群環へ拡張し
˝
た写像も単射である.
α P ZrF s に対し, M pαq “ ZrF s pαq `
ÿ
μpI; αqXI ,
XI :“ Xi1 ¨ ¨ ¨ Xin
I“pi1 ¨¨¨in q
1ďi1 ,...,in ďr
を α の Magnus 展開,μpI; αq pP Zq を Magnus 係数という.次に示すよ
6.1 Fox 自由微分法
95
うに,Fox 自由微分は,Magnus 展開に,非可換な座標系 x1 , . . . , xr に関す る Taylor 展開としての解釈を与える. 定理 6.1.2 ([Fo1]) 任意の α P ZrF s に対し,
α “ ZrF s pαq `
r ÿ
αj pxj ´ 1q
j“1
となる αj P ZrF s が唯一つ存在する.αj を α の xj に関する Fox 自由微分 と呼び,αj “ Bα{Bxj と書く. 証明 f “ xei11 ¨ ¨ ¨ xeinn pej “ ˘1q に対し,
$ en Bxe1 Bxe2 Bf en´1 Bxin ’ ’ :“ i1 ` xei11 i2 ` ¨ ¨ ¨ ` xei11 ¨ ¨ ¨ xin´1 & Bxj Bxj Bxj Bxj ´1 Bx Bx ’ i ´1 i ’ % :“ δij , :“ ´xi δij pδij “ 1pi “ jq, “ 0pi ‰ jqq Bxj Bxj ř と定義し,一般の α “ af f P ZrF s に対しては, ÿ Bα Bf “ af Bxj Bxj と Z-線形に拡張して定義する.pBxei i {Bxj qpxi ´ 1q “ pxei i ´ 1qδij に注意す ると,
1` “ 1`
r ÿ Bf pxj ´ 1q Bx j j“1 r r ÿ ÿ Bxei11 Bxe2 pxj ´ 1q ` xei11 i2 pxj ´ 1q ` ¨ ¨ ¨ Bxj Bxj j“1 j“1
¨¨¨ ` “ “
r ÿ
e
n´1 xei11 ¨ ¨ ¨ xin´1
j“1 1 ` pxei11 ´ xei11 ¨ ¨ ¨ xeinn
Bxeinn pxj ´ 1q Bxj e
n´1 1q ` xei11 pxei22 ´ 1q ` ¨ ¨ ¨ ` xei11 ¨ ¨ ¨ xin´1 pxeinn ´ 1q
“ f となるので,一般の α P ZrF s に対して,
α “ ZrF s pαq ` が成り立つ.
r ÿ Bα pxj ´ 1q Bx j j“1
96
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
次に,
α “ ZrF s pαq`
r ÿ
αj pxj ´1q “ ZrF s pαq`
j“1
r ÿ
αj1 pxj ´1q
pαj , αj1 P ZrF sq
j“1
と 2 通りに表せたとすると, r ÿ
pM pαj q ´ M pαj1 qqXj “ 0
j“1
が ZxxX1 , . . . , Xn yy において成り立つ.これより,
M pαj q “ M pαj1 q p1 ď j ď nq. 補題 6.1.1 より,αj “ αj1 p1 ď j ď nq. 命題 6.1.3
˝
B{Bxj : ZrF s Ñ ZrF s は次の性質を満たす:
Bxi “ δij pδij “ 1 pi “ jq, “ 0 pi ‰ jqq. Bxj Bα Bβ Bpcαq Bα Bpα ` βq “ ` , “c pα, β P ZrF s, c P Zq. (2) Bxj Bxj Bxj Bxj Bxj Bα Bβ Bpαβq “ pβq ` α pα, β P ZrF sq. (3) Bxj Bxj ZrF s Bxj (1)
(4)
Bf Bf ´1 “ ´f ´1 Bxj Bxj
pf P F q.
証明 (1) は定義より従う.(2) は読者自ら試みられたい.(3), (4) を示そう.
(3) 定理 6.1.2 より, r r ´ ¯ ´ ¯ ÿ ÿ Bα Bβ αβ “ ZrF s pαq ` pxj ´ 1q ¨ ZrF s pβq ` pxk ´ 1q Bxj Bxk j“1 k“1 “ ZrF s pαβq ` `
r ÿ Bα Bβ pxj ´ 1q pxk ´ 1q Bxj Bxk j,k“1
“ ZrF s pαβq ` `
r r ÿ ÿ Bα Bβ ZrF s pβqpxj ´ 1q ` ZrF s pαq pxk ´ 1q Bx Bx j k j“1 k“1
r ´ ÿ
r ÿ Bα ZrF s pβqpxj ´ 1q Bx j j“1
ZrF s pαq `
k“1
r ¯ Bβ ÿ Bα pxj ´ 1q pxk ´ 1q Bxj Bxk j“1
“ ZrF s pαβq `
r ´ ÿ j“1
6.1 Fox 自由微分法
Bα Bβ ¯ pxj ´ 1q. ZrF s pβq ` α Bxj Bxj
97
表示の一意性より,主張を得る.
(4) f ¨ f ´1 “ 1 の両辺を xj に関して Fox 微分すると,(3) より, Bf Bf ´1 `f “ 0. Bxj Bxj ˝
これより,主張を得る. 高次の微分は,帰納的に
Bn α B ´ B n´1 α ¯ :“ Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin Bxi1 Bxi2 ¨ ¨ ¨ Bxin
pα P ZrF sq
により定義される.簡単のため,これを DI pαq (I “ pi1 ¨ ¨ ¨ in q) とも表す.
Magnus 係数との関係は次で与えられる. 命題 6.1.4
α, β P ZrF s, I “ pi1 ¨ ¨ ¨ in q に対し,次が成り立つ:
(1) μpI; αq “ ZrF s pDI pαqq. ÿ μpJ; αqμpK; βq. ここで,和は I “ JK なる多重イン (2) μpI; αβq “ I“JK
デックスのペアー pJ, Kq にわたる. 証明 (1) 定理 6.1.2 より,
α “ ZrF s pαq ` “ ZrF s pαq ` “ ZrF s pαq `
r ÿ Bα pxj ´ 1q Bx j j“1
r ´ ÿ
ZrF s
j“1 r ÿ j“1
ZrF s
´ Bα ¯ Bxj
`
¯ B2 α pxi ´ 1q pxj ´ 1q Bxi Bxj i“1 r ÿ
´ Bα ¯ ÿ B2 α pxj ´ 1q ` pxi ´ 1qpxj ´ 1q Bxj Bxi Bxj 1ďi,jďr
¨¨¨ ´ Bα ¯ pxi1 ´ 1q ` ¨ ¨ ¨ Bxi1 i1 “1 ´ ¯ ÿ Bn α pxi1 ´ 1q ¨ ¨ ¨ pxin ´ 1q ZrF s Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin ,...,i ďr
“ ZrF s pαq ` ` 1ďi1
n
r ÿ
ZrF s
98
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
ÿ
`
1ďi1 ,...,in`1 ďr
B n`1 α pxi ´ 1q ¨ ¨ ¨ pxin`1 ´ 1q. Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin`1 1
よって,
´ Bα ¯ Xi1 ` ¨ ¨ ¨ Bxi1 i1 “1 ´ ¯ ÿ Bn α X i1 ¨ ¨ ¨ X in ZrF s ` Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin 1ďi1 ,...,in ďr ¯ ´ ÿ B n`1 α Xi1 ¨ ¨ ¨ Xin`1 . ` M Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin`1 1ďi ,...,i ďr
M pαq “ ZrF s pαq `
1
r ÿ
ZrF s
n`1
Xi1 ¨ ¨ ¨ Xin の係数を比べて,主張を得る. (2) 命題 6.1.3, (2), (3) より, B n pαβq Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin
“
n´1 ´ ¯ ÿ Bm α B n´m β Bn α ZrF s pβq ` ZrF s Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxim Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin´m m“1 ´ ¯ n B β `αZrF s . Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin
両辺の ZrF s をとると,(1) より,主張を得る.
˝
Magnus 係数と中心降下列の関係について,次が成り立つ.多重インデック ス I “ pi1 ¨ ¨ ¨ in q に対し,その長さを |I| :“ n と表す. 命題 6.1.5
d ě 2 に対し,次は同値.
(1) f P F pdq (2) 1 ď |I| ă d なる任意の I に対し,μpI; f q “ ZrF s pDI pf qq “ 0. すなわち,F pdq “ tf P F | degpM pf q ´ 1q ě du. 証明
Fpdq :“ tf P F | degpM pf q ´ 1q ě du とおく.pFpdq qdě1 は F の
正規部分群の降下列をなす.まず,F pdq Ă Fpdq を d に関する帰納法で示す. 定義より,F p1q “ Fp1q .F pd´1q Ă Fpd´1q と仮定する.f P F, g P F pd´1q ,
M pf q “ 1 ` P, M pgq “ 1 ` Q pdegpP q ě 1, degpQq ě d ´ 1q とすると, M prf, gsq “ M pf qM pgqM pf q´1 M pgq´1 “ p1 ` P qp1 ` Qqp1 ´ P ` P 2 ´ ¨ ¨ ¨ qp1 ´ Q ` Q2 ´ ¨ ¨ ¨ q
6.1 Fox 自由微分法
99
“ 1 ` pP Q ´ QP q ` p より高次の項 q. degpP Q ´ QP q ě d より,rf, gs P Fpdq となり,F pdq Ă Fpdq .これより,各 d ě 1 に対し,自然な準同型 ϕd : F pdq {F pd`1q Ñ Fpdq {Fpd`1q が定まる.もし,任意の ϕd が単射であることが示されれば,0 “ Kerpϕd q “ Fpd`1q {F pd`1q より,F pd`1q “ Fpd`1q が示される.ϕd の単射性は次のよう À pdq に示される.まず,写像 π : F Ñ {F pd`1q ; πpf q “ pπpf qd q, を dě1 F 次のように定義する:f P F pdq , f R F pd`1q なら,πpf qd :“ f mod F pd`1q , À πpf qj :“ 0, j ‰ d.次に,λ : dě1 Fpdq {Fpd`1q Ñ ZxxX1 , . . . , Xr yy を 次のように定義する:fd P Fpdq に対し,M pfd q “ 1 ` Pd ` Pd`1 ` ¨ ¨ ¨ , Pj = 次数 j の単項式の和,とするとき,λpfd mod Fpd`1q q :“ Pd .一般の À ř f “ pfd q P dě1 Fpdq {Fpd`1q に対しては,λpf q :“ dě1 λpfd q と定める. ϕ “ ‘dě1 ϕd とおくと,合成写像 ϕ à λ π à pdq F ÝÑ F {F pd`1q ÝÑ Fpdq {Fpd`1q ÝÑ ZxxX1 , . . . , Xr yy dě1
dě1
は pλ ˝ ϕ ˝ πqpf q “ M pf q ´ 1 pf P F q を満たす.M は単射なので,合成
λ ˝ ϕ ˝ π は単射.これより,ϕ も単射.
˝
最後に,Magnus 係数の間のシャッフル関係について述べる.多重インデック ス I “ pi1 ¨ ¨ ¨ im q, J “ pj1 ¨ ¨ ¨ jn q に対し,2 つの整数列 a “ pap1q, . . . , apmqq,
b “ pbp1q, . . . , bpnqq のペアー pa, bq が I と J のシャッフルであるとは, 1 ď ap1q ă ¨ ¨ ¨ ă ap|I|q ď |I| ` |J|,
1 ď bp1q ă ¨ ¨ ¨ ă bp|J|q ď |I| ` |J|
をみたし,次が成り立つような多重インデックス H “ ph1 ¨ ¨ ¨ hl q が存在す ることである:
$ ’ &1q hapsq “ is ps “ 1, . . . , mq, hbptq “ jt pt “ 1, . . . , nq, 2q 任意の u “ 1, . . . , l に対し,u “ apsq または u “ bptq とな ’ % る s または t が存在する(u “ apsq “ bptq となってもよい).
I と J のシャッフルから上のように決まる多重インデックス H “ ph1 ¨ ¨ ¨ hl q pl ď m ` nq をシャッフルの結果という.例えば,I “ p12q, J “ p123q の とき,a “ p12q, b “ p134q でも a “ p13q, b “ p124q でもシャッフルの結果 は同じ H “ p1223q である.ShpI, Jq を重複も含めた I と J のシャッフル の結果の集合とする(すなわち,I, J のシャッフルの集合と 1 対 1 に対応す
100
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
る).apsq ‰ bptq p1 ď s ď m, 1 ď t ď nq となるとき,シャッフル pa, bq を真のシャッフルという.このとき,シャッフルの結果 H は長さ m ` n を もつ.I, J の真のシャッフルの結果の集合を P ShpI, Jq と表す.Magnus 係 数は,次のシャッフル関係式を満たす. 命題 6.1.6 ([CFL]) 多重インデックス I, J p|I|, |J| ě 1q と f P F に対し, 次が成り立つ:
ÿ
μpI; f qμpJ; f q “
μpH; f q.
HPShpI,Jq
語 f の長さに関する帰納法で示す. f “ xi のとき:両辺とも,I “ J “ piq 以外のときは,0. I “ J “ piq のと き,Shppiq, piqq “ tpiq, piiq, piiqu, μppiq; xi q “ 1, μppiiq, xi q “ 0 より両辺=1. f “ x´1 のとき:両辺とも,I “ pi ¨ ¨ ¨ iq, J “ pi ¨ ¨ ¨ iq の形以外のとき i は 0. I “ pi ¨ ¨ ¨ iq, |I| “ s, J “ pi ¨ ¨ ¨ iq, |J| “ t とする.このとき,左辺は ´1 s t s`t μpI; x´1 . H “ pi ¨ ¨ ¨ iq P ShpI, Jq で, i qμpJ; xi q “ p´1q p´1q “ p´1q řs`t |H| “ u となるものの数を ps, tqu と表すと,右辺は u“maxts,tu p´1qu ps, tqu . 証明
よって,次を示せばよい:
p6.1.6.1q
p˚qs,t
s`t ÿ
p´1qu ps, tqu “ p´1qs`t .
u“maxts,tu
(6.1.6.1) の証明 t に関する帰納法で示す.まず,ps, 1qs “ s, ps, 1qs`1 “ s ` 1 より,p´1qs s ` p´1qs`1 ps ` 1q “ p´1qs`1 となるので,p˚qs,1 は任 意の s に対して正しい.t ě 1 とし,p˚qs,t が任意の s に対して正しいと仮 定する.このとき,
tp´1qs`t ` pt ` 1q
s`t`1 ÿ
p´1qu ps, t ` 1qu
u“maxts,t`1u
“
t`1 ÿ
s`v ÿ
p´1qu ps, vqu p1, tqv (帰納仮定)
v“t u“maxts,vu
“
s`1 ÿ
w`t ÿ
w“s u“maxtw,tu
p´1qu ps, 1qw pw, tqu pShpI, Shppiq, Jqq “ ShpShpI, piqq, Jqq
6.2 Milnor 不変量
“
s`1 ÿ
101
p´1qw`t ps, 1qw (帰納仮定)
w“s
“ p´1qs`t`1 . これより, s`t`1 ÿ
p´1qu ps, t ` 1qu “
u“maxts,t`1u
1 pp´1qs`t`1 ´ tp´1qs`t q “ p´1qs`t`1 t`1
となり,帰納法が成立し,(6.1.6.1) が成り立つ. 語 f の長さが 1 より大きいとき:f “ f1 f2 pf1 , f2 P F q と書ける.この とき,
μpI; f qμpJ; f q ´ ÿ ¯´ ÿ “ μpI1 ; f1 qμpI2 ; f2 q I“I1 I2
J“J1 J2
ÿ
“
(命題 6.1.4, p2q)
μpI1 ; f1 qμpJ1 ; f1 qμpI2 ; f2 qμpJ2 ; f2 q
I“I1 I2 ,J“J1 J2
ÿ
ÿ
“
¯ μpJ1 ; f1 qμpJ2 ; f2 q
μpH1 ; f1 qμpH2 ; f2 q
I“I1 I2 ,J“J1 J2 H1 PShpI1 ,J1 q,H2 PShpI2 ,J2 q
ÿ
ÿ
“
μpH1 ; f1 qμpH2 ; f2 q
HPShpI,Jq H“H1 H2
ÿ
“
μpH; f q (命題 6.1.4, p2q).
HPShpI,Jq
これより,帰納法が成り立ち,命題の主張が示された.
˝
6.2 Milnor 不変量 L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr を S 3 内の絡み目,GL “ π1 pS 3 zLq とする.以下,5.1 節と同じ記号を用いる.Ki のメリディアン αi を表す語 xi (1 ď i ď r) で pdq 生成される自由群を F とする.定理 5.1.1 より,各 d ě 1 に対し,yi P F があり, pdq
pdq
GL {GL “ xx1 , . . . , xr | rx1 , y1 s “ ¨ ¨ ¨ “ rxr , yrpdq s “ 1, F pdq “ 1y, pdq
yi
pd`1q
” yi
mod F pdq
p1 ď i ď rq
102
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号 pdq
が成り立つ.ここで,yi pdq である.yi
pdq
は GL {GL で Ki のロンジチュード βi を表す語
の Magnus 展開を
ÿ
pdq
M pyi q “ 1 `
μpdq pIiqXI
I“pi1 ¨¨¨in q 1ďi1 ,...,in ďr
とする.定理 6.1.4 (1) より, pdq
μpdq pIiq “ ZrF s pDI pyi qq. 命題 6.1.5 より,μpdq pIq は,d ě |I| なら,d のとり方によらないので,各
I に対し,d を十分大きくとり,μpdq pIq を μpIq と表し,Milnor 数 とい う.多重インデックス I に対し,μpJq(J は I の真の部分列の巡回置換に わたる)で生成される Z のイデアルを ΔpIq とおく.但し,|I| “ 1 のとき, μpIq “ 0 と定める.従って,|I| “ 1, 2 なら,ΔpIq “ 0 とする.このとき, Milnor μ-不変量を μpIq :“ μpIq mod ΔpIq により定義する. 定理 6.2.1 ([Ml1])
(1) μpijq “ lkpKi , Kj q pi ‰ jq. (2) 2 ď |I| ď d のとき,μpIq は L の絡み目不変量である(実際,イソト ピー不変量である).
(3) (シャッフル関係) 任意の I, J p|I|, |J| ě 1q と i p1 ď i ď rq に対し, ÿ μpHiq ” 0 mod g.c.dtΔpHiq | H P PShpI, Jqu. HPPShpI,Jq
(4) (巡回不変性) μpi1 ¨ ¨ ¨ in q “ μpi2 ¨ ¨ ¨ in i1 q “ ¨ ¨ ¨ “ μpin i1 ¨ ¨ ¨ in´1 q. 証明
ś lkpK ,K q p2q (1) 定理 5.1.1 より,βj ” i‰j αi i j mod GL . 従って, ÿ pdq M pyj q “ 1 ` lkpKi , Kj qXi ` p2 次以上の項 q. i‰j
よって,μpijq “ μpijq “ lkpKi , Kj q.
(2) μpIq が GL のみから決まり,メリディアン,ロンジチュードのとり方 によらないことを示せばよい.I “ pi1 ¨ ¨ ¨ in q, 2 ď n ď d とする.次を示せ ばよい:
6.2 Milnor 不変量
103
pdq
(i) yin をその共役にかえても μpIq は不変. (ii) xi をその共役にかえても μpIq は不変. pdq pdq (iii) yin に rxi , yi s の共役をかけても μpIq は不変. pdq (iv) yin に F pdq の元をかけても μpIq は不変. I 1 :“ pi1 ¨ ¨ ¨ in´1 q とおく. 2 (i) の証明 f P F に対し,M pxi f x´1 i q “ p1`Xi qM pf qp1´Xi `Xi `¨ ¨ ¨ q ´1 1 1 1 の両辺の XI 1 の係数を比べると,μpI ; xi f xi q ” μpI ; f q mod apI q.ここ で,apI 1 q は I 1 のすべての真部分列 J に対し,μpJ; f q で生成される Z のイ pdq 1 1 デアルを表す.同様に,μpI 1 ; x´1 i f xi q ” μpI ; f q mod apI q.特に,f “ yin とすると,apI 1 q Ă ΔpIq より,(i) が従う.
(ii) の証明 xi を x ¯i “ xj xi x´1 にかえるとする.xi “ x´1 ¯i xj より, j j x 2 ¯ i qp1`Xj q.ゆえに,Xi “ X ¯ i `pXj X ¯ i また 1`Xi “ p1´Xj `Xj ´¨ ¨ ¨ qp1`X pdq ¯ は Xi Xj を含む項 q.Magnus 展開 M pyj q に Xi が現れるごとに,前式で置 pdq ¯i ¯ i たちによる新しい Magnus 展開における X ¯i ¨ ¨ ¨ X き換えると,y の X in
1
の係数は,
μpIq `
ÿ
n´1
μpJin q (J は I 1 のある真部分列)
J
¯i “ x´1 の形なので,mod ΔpIq をとると不変.同様に,xi を x j xi xj におき かえても,μpIq は不変.
(iii) J “ pi1 ¨ ¨ ¨ is q p1 ď s ă nq を I 1 の頭部分,J 1 “ pj1 ¨ ¨ ¨ jt q を J の 部分列とする.等式
` pdq ´1 ˘ pdq pdq pdq M prxi , yi sq “ 1 ` pM pxi yi q ´ M pyi xi qqM px´1 i qM yi における XJ 1 の係数をみることにより, pdq
ここで,
pdq
#
pdq μpJ 1 ; xi yi q
(i ‰ j1 のとき), μpJ 1 iq 1 μpJ j1 q ` μpj2 ¨ ¨ ¨ jt j1 q (i “ j1 のとき),
“ #
μpJ
pdq
μpJ 1 ; rxi , yi sq ” μpJ 1 ; xi yi q ´ μpJ 1 ; yi xi q mod ΔpIq.
p6.2.1.1q
1
pdq ; y i xi q
“
が容易にわかるので,
(i ‰ jt のとき), μpJ 1 iq 1 1 μpJ jt q ` μpJ q (i “ jt のとき),
104
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号 pdq
pdq
μpJ 1 ; xi yi q ´ μpJ 1 ; yi xi q $ 1 ’ &μpj2 ¨ ¨ ¨ jt j1 q ´ δj1 jt μpJ q (i “ j1 のとき), “ μpj2 ¨ ¨ ¨ jt j1 qδj1 jt ´ μpJ 1 q (i “ jt のとき), ’ % 0 (その他) ” 0
mod ΔpIq.
ゆえに,(6.2.1.1) より, pdq
μpJ 1 ; rxi , yi sq ” 0 mod ΔpIq. これより,(i) の証明と同様,次を得る:
p6.2.1.2q pdq pdq μpJ; xεj rxi , yi sx´ε j q ” μpJ; rxi , yi sq ” 0 mod ΔpIq
pε “ ˘1q.
命題 6.1.4 (2) より, pdq
pdq
p6.2.1.3q μpI 1 ; xεj rxi , yi sx´ε j yin q “
ÿ
pdq
μpJ; xεj rxi , yi sx´ε j qμpKin q.
I 1 “JK
(6.2.1.2), (6.2.1.3) より, pdq
pdq
pdq
1 μpI 1 ; xεj rxi , yi sx´ε j yin q ” μpI ; yin q “ μpIq mod ΔpIq.
I 1 の末部分 J とその部分列 J 1 に対して同様の考察をすることにより, pdq pdq 1 pdq μpI 1 ; yin xεj rxi , yi sx´ε j q ” μpI ; yin q “ μpIq mod ΔpIq を得る. (iv) n ď d なら,|I 1 | ă d なので,定理 6.1.5 より,f P F pdq に対し, pdq pdq pdq pdq μpI 1 ; yin f q “ μpI 1 ; yin q.同様に,μpI 1 ; f yin q “ μpI 1 ; yin q. イソトピー不変量であることは注意 5.1.2 (2) による. (3) シャッフル関係:命題 6.1.6 より, ÿ μpIiqμpJiq “ μpHiq. HPShpI,Jq
ここで,mod g.c.d tΔpHiq | H P PShpI, Jqu をとると,左辺は 0 に合同. また,右辺の和において,H R PShpI, Jq のときは,μpHiq は 0 に合同な ので,主張を得る.
(4) 巡回不変性:定理 5.1.1 の証明中の記号を用いる.d ą n なる d を固 定する.例 0.1.6, 4) より,ある zij P F が存在して,
p6.2.1.4q
λi r ź ź i“1 j“1
´1 zij rij zij “ 1.
6.2 Milnor 不変量
105
pdq
ηd prij q ” 1 mod F pdq p1 ď j ă λi q, ηd priλi q ” rxi , yi s mod F pdq なので, zi “ ηd pziλi q とおくと,(6.2.1.4) より, r ź
p6.2.1.5q
pdq
zi rxi , yi szi´1 P F pdq .
i“1
ř
D :“ t I cI XI P ZxxX1 , . . . , Xr yy | cI ” 0 mod ΔpIq |I| ď du とお pdq くと,D は ZxxX1 , . . . , Xr yy の両側イデアルである.M pyi q “ 1 ` wi p1 ď i ď rq と書くと,Ii は jiI, jIi, iIj, Iij の真部分列の巡回置換なので, Xj Xi wi , Xj wi Xi , Xi wi Xj , wi Xi Xj P D.ゆえに, pdq
pdq
pdq
M pzi rxi , yi szi´1 q “ 1 ` M pzi qpM pxi qM pyi q ´ M pyi qM pxi qq pdq
´1 qM pzi´1 q ˆ M px´1 i qM ppyi q pdq
´1 qM pzi´1 q “ 1`M pzi qpXi wi ´wi Xi qM px´1 i qM ppyi q
” 1 ` Xi wi ´ wi Xi mod D. řr よって,(6.2.1.5) より, i“1 pXi wi ´ wi Xi q P D.この和における XiJ の 係数は,μpJiq ´ μpiJq なので,μpJiq ” μpiJq mod ΔpiJq, |iJ| ď d.これ より,巡回不変性が従う. ˝ まつわり数は Abel 被覆の不変量であったが,Milnor 不変量はべき零被覆 の不変量を与える.可換環 R に対し,Nn pRq を R 上の n 行 n 列の上 3 角 べき単行列のなす群とする.I “ pi1 ¨ ¨ ¨ in q (n ě 2), ΔpIq ‰ Z とする.写 像 ρI : F Ñ Nn pZ{ΔpIqq を
ρI pf q ¨ ´
´ ¯˛ Bf ¯ ´ B 2 f ¯ B n´1 f ¨¨¨ ˚1 Bx Bxi1 Bxi2 Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin´1 ‹ i1 ˚ ‹ ˚ ´ ¯‹ ´ Bf ¯ B n´2 f ˚ ‹ ¨¨¨ 1 ˚ ‹ ˚ Bxi2 Bxi2 ¨ ¨ ¨ Bxin´1 ‹ ˚ ‹ :“ ˚ ‹ mod ΔpIq .. .. .. ˚ ‹ . . . ˚ ‹ ´ Bf ¯ ˚ ‹ ˚ ‹ 1 ˚ ‹ Bxin´1 ˝ ‚ 1
0
により定義する(簡単のため, “ ZrF s とおいた).命題 6.1.4 より,ρI は 群の準同型である.
106
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
定理 6.2.2 (cf. [Mu2])
(1) ρI は絡み目群 GL を経由し,i1 , . . . , in´1 が相異なるならば全射である. (2) i1 , . . . , in´1 は相異なるとする.KerpρI q に対応する被覆を XI Ñ XL とする.このとき,XI Ñ XL は,GalpXI {XL q “ Nn pZ{ΔpIqq となる Galois 被覆である.ΔpIq ‰ 0 のとき,MI Ñ S 3 を XI Ñ XL の Fox 完備化とすると,MI Ñ S 3 は,Ki1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kin´1 上分岐する Galois 被覆である.Kin のロンジチュード βin に対して, ˛ ¨ 1 0 ¨ ¨ ¨ 0 μpIq ‹ ˚ ˚ 1 ¨¨¨ 0 ‹ ‹ ˚ ˚ .. ‹ .. ˚ . . ‹ ρI pβin q “ ˚ ‹ ‹ ˚ ˚ 1 0 ‹ ‚ ˝ 1
0
が成り立つ.これより,
μpIq “ 0 ðñ Kin が XI Ñ XL で完全分解する. 証明 (1) ρI が GK を経由すること:d ą n なる d をとる.Milnor の定理 pdq
5.1.1 より,ρI prxi , yi sq “ I p1 ď i ď rq, ρI pf q “ I pf P F pdq q を示せば よい.前者は,定理 6.2.1 の証明中の (iii) と同様にして示せる.後者は命題 6.1.5 より従う.次に,i1 , . . . , in´1 が相異なるとする.
より,ρI pxi1 q, . . . , ρI pxin´1 q は Nn pZ{ΔpIqq を生成するので,ρI は全射.
(2) (1) より,GalpXI {XL q “ Nn pZ{ΔpIqq.ρI pxj q “ I pj ‰ i1 , . . . , in´1 q より,ΔpIq ‰ 0 のとき,MI Ñ S 3 は Ki1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kin´1 上でのみ 分岐する.また,J “ pip ¨ ¨ ¨ iq q p|J| ă n ´ 1q に対し,ΔpIq の定義より, μpJ; yin q ” 0 mod ΔpIq.よって,最後の主張を得る. ˝ 例 6.2.3
(1) L “ K1 Y K2 Y K3 を Borromean 環とする(図 6.1).
6.3 副-l Fox 自由微分法
107
図 6.1
任意の i, j に対し,μpijq “ lkpKi , Kj q “ 0 となることが見てとれる.また,
β1 “ α2 α3 α2´1 α3´1 , β2 “ α3 α1 α3´1 α1´1 , β3 “ α1 α2 α1´1 α2´1 も見てとれる. これより,例えば,
M py3 q “ p1 ` X1 qp1 ` X2 qp1 ´ X1 ` X12 ´ ¨ ¨ ¨ qp1 ´ X2 ` X22 ´ ¨ ¨ ¨ q “ 1 ` X1 X2 ´ X2 X1 ` p3 次以上の項 q から,μp123q “ 1, μp213q “ ´1,その他の μpij3q “ 0 がわかる.同様にし て,ijk が 123 の置換なら,μpijkq “ ˘1,その他の μpijkq “ 0 がわかる.
Milnor 不変量は,補空間 XL “ S 3 zintpVL q のコホモロジーの Massey 積を用いて解釈される ([Tu], [P]).この解釈では,XL の被覆を用 いないので,Milnor 不変量が XL のみによることが直ちにわかる. 注意 6.2.4
6.3 副-l Fox 自由微分法 i R をコンパクト完備局所環,m をその極大イデアルとする:R “ lim ÐÝi R{m . G を副有限群,tNj |j P Ju を G の開正規部分群の集合とする.i1 ě i, Nj 1 Ă 1 pi1 ,j 1 q Nj のとき,自然な環準同型 R{mi rG{Nj 1 s Ñ R{mi rG{Nj s を ϕpi,jq とす pi1 ,j 1 q
ると,tR{mi , ϕpi,jq u は有限環の射影系をなす.射影極限 limi,j R{mi rG{Nj s
ÐÝ
を G の R 上の完備群環といい,RrrGss と書く.RrrGss は副有限環,特に コンパクトな位相環である.副有限群の連続準同型 f : G Ñ H は完備群環 の間の連続準同型 f : RrrGss Ñ RrrHss を導く.特に,H が単位群 teu の とき,
RrrGss : RrrGss Ñ R
108
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
を添加写像といい,その核 IRrrGss :“ KerpRrrGss q を添加イデアルという.
l を素数とし,Fˆ plq を文字 x1 , . . . , xr により生成される自由副-l 群とす る.Zl xxX1 , . . . , Xr yy を変数 X1 , . . . , Xr の Zl 上の非可換形式的べき級数 環とする.環準同型
Zl xxX1 , . . . , Xr yy Ñ Zl ; f pX1 , . . . , Xr q ÞÑ f p0, . . . , 0q の核を I とする:I “ pX1 , . . . , Xr q.両側イデアル plj , Id qj,dě1 を 0 の基 本近傍系とする位相を Zl xxX1 , . . . , Xr yy に入れて,Zl xxX1 , . . . , Xr yy をコ ンパクト位相 Zl -代数とみなす.Magnus 埋入 M : F ãÑ ZxxX1 , . . . , Xr yy と包含写像 ZxxX1 , . . . , Xr yy Ă Zl xxX1 , . . . , Xr yy の合成を M 1 : F Ñ
Zl xxX1 , . . . , Xr yy とする.命題 6.1.5 より,M 1 は Zl -代数の準同型 Z{lj ZrF {F pd,lq s ÝÑ Zl xxX1 , . . . , Xr yy{plj , Id q を導く.ここで,射影極限 limj,d をとると,Fˆ plq “ limd F {F pl,dq より,連
ÐÝ
続準同型
ÐÝ
ˆ : Zl rrFˆ plqss ÝÑ Zl xxX1 , . . . , Xr yy M ˆ の ZrF s への制限は Magnus 埋入 M である. を得る.M 補題 6.3.1
ˆ は位相 Zl -代数の同型 M Zl rrFˆ plqss » Zl xxX1 , . . . , Xr yy
ˆ を副-l Magnus 同型という). を与える(M 証明 Zl rrFˆ plqss の中で,pxi ´ 1qd は,d Ñ 8 のとき,0 に収束するので,
ˆ : Zl xxX1 , . . . , Xr yy Ñ Zl rrFˆ plqss を定め 対応 Xi Ñ xi ´ 1 は連続準同型 N ˆ とN ˆ は互いに逆写像なので,M ˆ は位相 Zl -代数の同型を与える.˝ る.M α P Zl rrFˆ plqss に対し, ˆ pαq “ ˆ M Zl rrF plqss pαq `
ÿ
μ ˆpI; αqXI ,
XI :“ Xi1 ¨ ¨ ¨ Xin
I“pi1 ¨¨¨in q
1ďi1 ,...,in ďr
を α の副-l Magnus 展開,μ ˆpI; αq pP Zl q を副-l Magnus 係数という.副-l 群の場合,定理 6.1.2 の類似は,補題 6.3.1 より容易にわかる. 定理 6.3.2 ([Ih1], [Od]) 任意の α P Zl rrFˆ plqss に対し,
α “ Zl rrFss pαq `
r ÿ j“1
αj pxj ´ 1q
6.3 副-l Fox 自由微分法
109
となる αj P Zl rrFˆ plqss が唯一つ存在する.αj を α の xj に関する副-l Fox 自由微分といい,αj “ Bα{Bxj と書く.
ˆ pαq “ f pX1 , . . . , Xr q P Zl xxX1 , . . . , Xr yy は, 証明 M f pX1 , . . . , Xr q “ f p0, . . . , 0q `
n ÿ
fj Xj ,
fj P Zl xxX1 , . . . , Xr yy
j“1
と一意的に書ける.よって,補題 6.3.1 より主張は従う.
˝
B{Bxj : Zl rrFˆ plqss Ñ Zl rrFˆ plqss は連続で,ZrF s への制限は,Fox 自由微分 に等しい.副-l Fox 自由微分の基本性質は,命題 6.1.3 と同様である(証明 は同様なので省略する): 命題 6.3.3
B{Bxj : Zl rrFˆ plqss Ñ Zl rrFˆ plqss は次の性質を満たす:
Bxi “ δij pδij “ 1 pi “ jq, “ 0 pi ‰ jqq. Bxj Bpα ` βq Bα Bβ Bpcαq Bα (2) “ ` , “c pα, β P Zl rrFˆ plqss, c P Zl q. Bxj Bxj Bxj Bxj Bxj Bpαβq Bα Bβ (3) “ Zl rrFˆ plqss pβq ` α pα, β P Zl rrFˆ plqssq. Bxj Bxj Bxj Bf Bf ´1 “ ´f ´1 pf P Fˆ plqq. (4) Bxj Bxj (1)
高次微分も帰納的に
Bn α B ´ B n´1 α ¯ :“ Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin Bxi1 Bxi2 ¨ ¨ ¨ Bxin
pα P Zl rrFˆ plqssq
により定義される.これを DI pαq (I “ pi1 ¨ ¨ ¨ in q) とも表す.Magnus 係数, 中心降下列との関係も命題 6.1.4, 6.1.5 と同様である(証明略). 命題 6.3.4
α, β P Zl rrFˆ plqss, I “ pi1 ¨ ¨ ¨ in q に対し,次が成り立つ:
(1) μ ˆpI; αq “ Zl rrFˆ plqss pDI pαqq. ÿ μ ˆpJ; αqˆ μpK; βq. ここで,和は I “ JK なる多重イ (2) μ ˆpI; αβq “ I“JK
ンデックスのペアー pJ, Kq にわたる. 命題 6.3.5
d ě 2 に対し,次は同値.
(1) f P Fˆ plqpdq (2) 1 ď |I| ă d なる任意の I に対し,μ ˆpI; f q “ Zl rrFˆ plqss pDI pf qq “ 0.
110
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
ˆ pf q ´ 1q ě du. すなわち,Fˆ plqpdq “ tf P Fˆ plq | degpM 命題 6.3.6
多重インデックス I, J p|I|, |J| ě 1q と f P F に対し,次が成
り立つ:
μ ˆpI; f qˆ μpJ; f q “
ÿ
μ ˆpH; f q.
HPShpI,Jq
F は Fˆ plq の稠密な部分群で,μ ˆpI; ˚q の F への制限は μpI; ˚q に等 しい.よって,命題 6.1.6 より主張は従う. ˝
証明
注意 6.3.7
有限生成副有限群に対しても,副有限 Fox 自由微分が定義され,
副-l 群の場合と同様な性質が示される ([Ih2, Appendix]).
m “ le (e ě 1) を固定する.副-l Magnus 同型において,自然な準同型 Zl Ñ Z{mZ により係数をうつすと,mod m Magnus 同型 Mm : Z{mZrrFˆ plqss » Z{mZxxX1 , . . . , Xr yy を得る.α P Z{mZrrFˆ plqss に対し,その mod m Magnus 展開を
Mm pαq “ Z{mZrrFˆ plqss pαq `
ÿ
μm pI; αqXI
I
と書き,μm pI; αq を mod m Magnus 係数という.副-l 群 G と d ě 1 に 対し,
Gpm,dq :“ tg P G | g ´ 1 P pIZ{mZrrGss qd u と定めると,tGpm,dq udě1 は G の正規部分群の中心降下列をなす.これを G の Zassenhaus フィルトレーションという.定義より,f P Fˆ plq, d ě 2 に 対し,次が成り立つ:
p6.3.8q
f P Fˆ plqpm,dq ô 1 ď |I| ă d なる任意の I に対し, μm pI; f q “ 0.
6.4 多重べき剰余記号 S “ tp1 , . . . , pr u を相異なる素数の集合とし,pi ” 1 mod l p1 ď i ď rq を 満たすとする.GS plq “ π1 pSpecpZqzSqplq “ GalpQS plq{Qq とおく.但し, QS plq は S Y t8u の外で不分岐な Q の最大副-l 拡大.eS :“ maxte | pi ” 1 mod le p1 ď i ď rqu とおき,m “ le p1 ď e ď eS q を固定する.以下,5.2 節と同じ記号を用いる.pi 上のモノドロミー τi を表す語 xi p1 ď i ď rq で 生成される自由副-l 群を Fˆ plq とする.定理 5.2.2 より,pi 上の Frobenius
6.4 多重べき剰余記号
111
自己同型を表す語 yi P Fˆ plq があり,
GS “ xx1 , . . . , xr | x1p1 ´1 rx1 , y1 s “ ¨ ¨ ¨ “ xpr r ´1 rxr , yr s “ 1y. yi の副-l Magnus 展開を ˆ pyi q “ 1 ` M
ÿ
μ ˆpIiqXI
とする.定理 6.3.4 (1) より,
μ ˆpIiq :“ Zl rrFˆ plqss pDI pyi qq. μ ˆpIq を l-進 Milnor 数という.また,yi の mod m の Magnus 展開を ÿ Mm pyi q “ 1 ` μm pIiqXI とするとき,
μm pIq “ μ ˆpIq
mod m
を mod m Milnor 数という.1 ď |I| ď leS なる多重インデックス I に対 し,
`leS ˘ t
(1 ď t ă |I|) と μm pJq(J は I の真の部分列の巡回置換をわた
る)で生成される Z{mZ のイデアルを Δm pIq とする.このとき,Milnor
μm -不変量を μm pIq :“ μm pIq mod Δm pIq と定義する. 定理 6.4.1 ([M1, M2, M8]) μ pijq
p
(1) ζmm “ p pji qm (ζm は (5.2.1) に与えられた 1 の原始 m 乗根). (2) 2 ď |I| ď leS に対し,μm pIq は S と l のみで決まる不変量である. (3)(シャッフル関係)r を 2 ď r ď leS なる整数とする.多重インデックス I, J (|I| ` |J| “ r ´ 1) と i p1 ď i ď rq に対し, ÿ μm pHiq ” 0 mod g.c.dtΔpHiq|H P PShpI, Jqu. HPPShpI,Jq
証明 (1) 定理 5.2.2 より,σj ”
ˆ pyj q “ 1 ` M
ÿ
ś
lkppi ,pj q i‰j τi
mod GS plqp2q .従って,
lkppi , pj qXi ` p2 次以上の項 q.
i‰j
これより,μm pijq “ lkm ppi , pj q.よって,定理 5.2.2 より主張は従う.
112
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
(2) μm pIq が GS plq のみから決まり,pi 上モノドロミー, Frobenius 自己 同型のとり方,すなわち,pi 上の QS plq の素点のとり方によらないことを 示せばよい.I “ pi1 ¨ ¨ ¨ in q, 2 ď n ď leS とする.次を示せばよい.
(i) yin をその共役にかえても μm pIq は不変. (ii) xi をその共役にかえても μm pIq は不変. (iii) yin に xpi i ´1 rxi , yi s の共役をかけても μm pIq は不変. I 1 :“ pi1 ¨ ¨ ¨ in´1 q とおく. (i), (ii) の証明は,定理 6.2.1 (2) の証明中の (i), (ii) と同様である. (iii) の証明 J を I 1 の頭部分とし,J 1 を J の部分列とするとき, μm pJ 1 ; rxi , yi sq ” 0 mod Δm pIq となることは,定理 6.2.1 (2) の証明中の (iii) と同様である.Δm pIq の定義 より,
ˆ pxpi ´1 q “ p1 ` Xi qpi ´1 M i ” 1 ` pdeg ě |I| の項 q p ´1
従って,μm pJ 1 ; xi i
mod Δm pIq.
rxi , yi sq ” 0 mod Δm pIq.これより,
pi ´1 μm pJ; xεj xpi i ´1 rxi , yi sx´ε rxi , yi sq j q ” μm pJ; xi
” 0 mod Δm pIq pε “ ˘1q. よって,命題 6.3.4 (2) より,
μm pI 1 ; xεj xipi ´1 rxi , yi sx´ε j yin q ” μm pIq mod Δm pIq. I 1 の末部分 J とその部分列 J 1 に対して同様の考察をすることにより, 1 μm pI 1 ; yin xεj xpi i ´1 rxi , yi sx´ε j q ” μm pI ; yin q “ μm pIq mod Δm pIq を得る. (3) 命題 6.3.6 より,命題 6.2.1 (3) の証明と同様である. ˝ 注意 6.4.2
数論的 Milnor 不変量 μm pIq の巡回不変性は相互律の多重化に
相当するので,l ą 2 では期待できない(Q に 1 の原始 l 乗根が入らない).
l “ 2 のときは,|I| “ 2 の場合(平方剰余の相互律)と,I “ pijkq で ijk がみな相異なる場合(R´ edei 記号の相互律,例 6.4.4 参照)に巡回不変性が成 り立つことが知られている. 絡み目の場合と同様, Milnor μm -不変量は,Q のあるべき零拡大における
6.4 多重べき剰余記号
113
素数の分解法則を記述する.I “ pi1 ¨ ¨ ¨ in q, 2 ď n ď leS , Δm pIq ‰ Z{mZ とする.表現 ρpm,Iq : Fˆ plq ÝÑ Nn ppZ{mZq{Δm pIqq を
ρpm,Iq pf q ¨ ´ Bf ¯ ´ B 2 f ¯ ˚1 Bx m Bx Bx m i1 i1 i2 ˚ ˚ ´ Bf ¯ ˚ 1 ˚ ˚ Bxi2 m ˚ :“ ˚ .. ˚ . ˚ ˚ ˚ ˚ ˝
0
¯ ˛ B n´1 f Bxi1 ¨ ¨ ¨ Bxin´1 m‹ ‹ ¯ ‹ ´ B n´2 f ‹ ¨¨¨ ‹ Bxi2 ¨ ¨ ¨ Bxin´1 m‹ ‹ ‹ mod Δm pIq .. .. ‹ . . ‹ ´ Bf ¯ ‹ ‹ 1 ‹ Bxin´1 m ‚ 1 ´ ¨¨¨
と定義する.但し,α P Zl rrFˆ plqss に対し,pαqm :“ Zl rrFˆ plqss pαq mod m とおく. 定理 6.4.3 ([M8])
(1) 表現 ρpm,Iq は Galois 群 GS plq を経由し,i1 , . . . , in´1 が相異なるなら, 全射である.
(2) i1 , . . . , in´1 は相異なるとする.kpm,Iq を Kerpρpm,Iq q に対応する Q の 拡大体とすると,kpm,Iq {Q は,Galpkpm,Iq {Qq “ Nn ppZ{mZq{Δm pIqq なる pi1 , . . . , pin´1 上分岐する Galois 拡大で,pin 上の Frobenius 自己 同型 σin に対し, ˛ ¨ 1 0 ¨ ¨ ¨ 0 μm pIq ‹ ˚ ‹ ˚ 1 ¨¨¨ 0 ‹ ˚ ‹ ˚ . . . . ‹ ˚ . . ρpm,Iq pσin q “ ˚ ‹ ‹ ˚ ‹ ˚ 1 0 ‚ ˝ 1
0
が成り立つ.これより,
μm pIq “ 0 ðñ pin は kpm,Iq {Q で完全分解する. p ´1
証明 (1) Koch の定理 5.2.2 より,ρpm,Iq pxi i
rxi , yi sq “ I p1 ď i ď rq を 示せばよい.これは,定理 6.4.1 の証明中の (iii) と同様にして示せる.あと は,定理 6.2.2 (1) の証明と同様. (2) も定理 6.2.2 (2) の証明と同様. ˝
114
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
例 6.4.4(R´ edei 記号)
l “ 2, S :“ tp1 , p2 , p3 u を相異なる 3 つの素数
とし,
p6.4.4.1q
pi ” 1 mod 4, ?
´p ¯ j
pi
“ 1 p1 ď i ‰ j ď 3q
を満たすと仮定する.ki “ Qp pi q pi “ 1, 2q とおく. 補題 6.4.4.2 ([Rd])
(1) ある α2 P Ok2 で,次を満たすものが存在する: (i) Nk1 {Q pα2 q “ p2 z 2 (z は 0 でないある整数), (ii) Npdk1 p?α2 q{k1 q “ p2 (dk1 p?α2 q{k1 は相対判別式). (2) p3 上の Ok1 の素イデアルの 1 つを p3 とする.上のような α2 に対 ? ? し,p3 は k1 p α2 q{k1 で不分岐なので,k1 p α2 q{k1 における p3 上の ? ? k p α q{k Frobenius 自己同型 σp3 “ p 1 p32 1 q P Galpk1 p α2 q{k1 q が定まる. このとき,σp3 は α2 と p3 のとり方によらない. 注意 6.4.4.3
補題 6.4.4.2 (1) における α2 は次のように得られる:仮定
(6.4.4.1) より,Hilbert 記号の計算から,x2 ´ p1 y 2 ´ p2 z 2 “ 0 は非自明な整 ? 数解をもつ([Se, 第 3 章]).このとき,α2 “ x ` y p1 とおくと,(1) が成り 立つ.さらに初等的考察から,px, y, zq “ 1, y ” 0 mod 2, x ´ y ” 1 mod 4 としてよい.このとき,(2) が成り立つことが示される. 定義 6.4.4.4
補題 6.4.4.2 の記号のもと,
#
rp1 , p2 , p3 s “
1 σp3 “ idk1 p?α2 q ´1 その他
edei 記号という. と定義する.rp1 , p2 , p3 s を R´ ? 2 ? ? ? α1 :“ α2 ` α ¯ 2 ` 2 p2 z “ p α2 ` α ¯ 2 q P k2 とおく.k :“ k1 k2 p α2 q “ ? ? ? Qp p1 , p2 , α2 q とおくと,k{Q は位数 8 の 2 面体群を Galois 群とする Galois 拡大で,補題 6.4.4.2 (1) より,p1 , p2 , 8 の外で不分岐である.中間 体は次のように与えられる:
115
6.4 多重べき剰余記号
gggngn k WPPWPWPWPWWWWW gggngngnnn PPP WWWWW g g g g WWWWW g P n ggggg ? n ? ? ? k1 p α2 q k2 p α1 q ¯1q k1 p α ¯2q k1 p α k1 k2 N NNN NNN p pp p p NNN p N p NNN pp pp NN N ppp ? ppp Qp p1 p2 q k2 OO o k1 OOO ooo OOO o o OOO oo ooo Q s, t P GalpF {Qq を ? ? ? ? ? ? sp p1 q “ p1 , sp p2 q “ ´ p2 , sp α2 q “ α2 ? ? ? ? ? ? tp p1 q “ ´ p1 , tp p2 q “ ´ p2 , tp α2 q “ ´ α ¯2 と定めると,s, t は Galpk{Qq を生成し, 関係式は,
s2 “ t4 “ 1,
sts´1 “ t´1 ?
で与えられる.s 及び t が生成する部分群と対応する中間体は各々 k1 p α2 q 及
?
?
び Qp p1 p2 q である.t2 , st が生成する部分群は 各々k1 k2 “ Qp p1 ,
?
? p2 q,
k2 p α1 q に対応する.仮定 (6.4.4.1) より,p3 は k1 k2 {Q で完全分解する. p3 上の k1 k2 の素イデアルの 1 つを P3 とすると,P3 が k{k1 k2 で分解する ? ことと p3 が k1 p α2 q{k1 で分解することは同値なので,定義 6.4.4.4 より, # 1 σP3 “ idk p6.4.4.5q rp1 , p2 , p3 s “ ´1 その他. 定理 5.2.1 より,
GS p2q “ GalpQS p2q{Qq “ xx1 , x2 , x3 | xp11 ´1 rx1 , y1 s “ x2p2 ´1 rx2 , y2 s “ x3p3 ´1 rx3 , y3 s “ 1y. Fˆ p2q を x1 , x2 , x2 で生成される自由副-2 群とし,π : Fˆ p2q Ñ GS p2q を自 然な準同型とする.k Ă QS p2q より,自然な準同型 ψ : GS p2q Ñ Galpk{Qq がある.ϕ :“ ψ ˝ π : Fˆ p2q Ñ GalpF {Qq を合成写像とすると,xi たちの 像は,
ϕpx1 q “ st,
ϕpx2 q “ s,
ϕpx3 q “ 1
で与えられる.ゆえに,s, t の関係式は次と同値である:
p6.4.4.6q
ϕpx1 q2 “ ϕpx2 q2 “ 1,
ϕpx1 x2 q4 “ 1,
ϕpx3 q “ 1.
116
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
一方,仮定 (6.4.4.1) より,μ2 pijq “ 0 p1 ď i, j ď 3q なので,μ2 p123q “
μ2 p123q P F2 . 定理 6.4.4.7 ([M1, M2, M8]) 次が成り立つ:
p´1qμ2 p123q “ rp1 , p2 , p3 s. 証明
(6.4.4.5) より, # (rp1 , p2 , p3 s “ 1 のとき), 1 ϕpy3 q “ 2 t “ ϕppx1 x2 q2 q (rp1 , p2 , p3 s “ ´1 のとき).
(6.4.4.6) より,Kerpϕq は Fˆ p2q の正規部分群として,x21 , x22 , px1 x2 q4 , x3 に より生成され,
M2 px21 q “ p1 ` X1 q2 “ 1 ` X12 , M2 px22 q “ p1 ` X2 q2 “ 1 ` X22 , M2 ppx1 x2 q4 q “ pp1 ` X1 qp1 ` X2 qq4 ” 1 mod deg ě 4, M2 px3 q “ 1 ` X3 . 従って,μ2 pp1q; ˚q, μ2 pp2q; ˚q, μ2 pp12q; ˚q は Kerpϕq 上 0 であることに注意 する.
ϕpy3 q “ 1 なら,y3 P Kerpϕq より,μ2 p123q “ μ2 pp12q; y3 q “ 0. ϕpy3 q “ t2 “ ϕppx1 x2 q2 q なら,y3 “ px1 x2 q2 R, R P Kerpϕq,と書ける. M2 py3 q “ M2 ppx1 x2 q2 qM2 pRq より, μ2 p123q “ μ2 pp12q; y3 q “ μ2 pp12q; px1 x2 q2 q ` μ2 pp12q; Rq ` μ2 pp1q; px1 x2 q2 qμ2 pp2q; Rq “ 1. ˝
よって,主張が証明された.
定理 6.4.4.7 より,特に,補題 6.4.4.2 (2) も従う.すなわち,mod 2 Milnor 不変量は R´ edei 記号の親玉とみなせる.また,対応
¨ 1 ˚ s ÞÑ ˝0 0
0 1 0
˛ 1 ‹ 1‚, 1
¨ 1 ˚ t ÞÑ ˝0 0
1 1 0
˛ 0 ‹ 1‚ 1
は,同型 Galpkp2,p123qq {Qq » N3 pF2 q を与え,定理 6.4.3 の ρp2,p123qq は合
6.4 多重べき剰余記号
117
ϕ
成 Fˆ p2q Ñ Galpkp2,p123qq {Qq » N3 pF2 q に他ならない:
ρp2,p123qq :
Fˆ p2q Ñ y3
Galpkp2,p123qq {Qq
ÞÑ
σP3
»
N3 pF2 q ˛ 1 0 μ2 p123q ‹ ˚ Þ Ñ 0 ‚. ˝0 1 0 0 1 ¨
次の定理は R´ edei による: 定理 6.4.4.8 ([Rd]) 次が成り立つ:
rpi , pj , pk s “ rp1 , p2 , p3 s (ijk は 123 の任意の置換). 定理 6.4.4.8 より,μ2 pijkq は ijk の置換に関して不変である.また,D.
Vogel ([V1], [V2]) は,ijk に重複を許した場合にも μ2 pijkq を求め,例え ば,S “ t13, 61, 937u に対し,
μ2 pijq “ 0
p1 ď i, j ď 3q,
μ2 pijkq “ 1 (ijk は 123 の置換),
μ2 pijkq “ 0(その他)
が成り立つを示した.例 6.2.3 と比べると,これらは Borromean 素数とも 呼ぶべき素数の 3 つ組である(図 6.2).
図 6.2
注意 6.4.5 (1) 絡み目同様,数論的 Milnor 不変量も,補空間 XS “ SpecpZqz
S のエタールコホモロジー上の Massey 積を用いて解釈される ([M8]).こ れは,べき剰余記号とカップ積の関係 ([Kc1, 8.11]) の高次化を与える.特 に,R´ edei のトリプル記号のトリプル Massey 積による解釈が得られる.ま た,Milnor 不変量は Galois 群 GS plq を用いて定義されたのだが,Massey 積による解釈は,それが補空間 XS のみに依存することを示している.
118
第 6 章 Milnor 不変量と多重べき剰余記号
(2) より一般の代数体への拡張について述べよう.k, S を注意 5.2.3 の仮定 (1), (2) を満たすペアーとする.このとき,表示 (5.2.3.1) より,Milnor 不変 量 μm pIq が上とまったく同様にして構成される.|I| ă n なる任意の I に対 し,μm pIq “ 0 とすると,μm pi1 ¨ ¨ ¨ in q P Z{mZ が S と l のみによる不変 量として定まる.このとき,素イデアルたちの多重べき剰余記号が, μm pi1 ¨¨¨in q
rpi1 , . . . , pin s :“ ζl
により定義される.これは R´ edei 記号の代数体における多重化とみなされる.
■まとめ Fox 自由微分 Milnor 数 ` Bn´1 ypdq ˘ μpi1 ¨ ¨ ¨ in q “ ZrF s Bx1 ¨¨¨Bxiin n´1
Milnor 不変量 μpi1 ¨ ¨ ¨ in q
副-l(副有限)Fox 自由微分
l-進 Milnor 数 ` Bn´1 y μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in q “ Zl rrFˆ ss Bx1 ¨¨¨Bxiin
˘
n´1
mod m Milnor 不変量(多重べき剰余記号) μm pi1 ¨ ¨ ¨ in q
ୈ
7 ষ Alexander Ճؠͱ܈ᖒՃ܈
この章では,群の準同型に対する微分加群を導入し,群の短完全系列に付 随する Crowell 完全系列を示す.特に,絡み目群からの準同型に適用すると,
Alexander 加群が得られ,Crowell 完全系列は Alexander 加群と絡み目加群 を結びつける.この群論的な議論は,副有限群(副-l 群)に対しても並行的に 行うことができ,完備 Alexander 加群と完備 Crowell 完全系列が得られる.完 備 Crowell 完全系列を分岐条件付き Galois 群に適用すると,完備 Alexander 加群と Galois(岩澤)加群を結びつける完全系列を得る.
7.1 微分加群 G, H を群, ψ : G Ñ H を準同型とする.ψ が導く群環の準同型 ZrGs Ñ ZrHs も同じ ψ で表す. ψ-微分加群 Aψ とは,記号 dg (g P G) により生成される左自 À gPG ZrHsdg を dpg1 g2 q ´ dg1 ´ ψpg1 qdg2 pg1 , g2 P Gq なる 元たちにより生成される左部分 ZrHs-加群で割って得られる商 ZrHs-加群で 定義 7.1.1
由 ZrHs-加群
ある:
Aψ :“
´à
¯ ZrHsdg {xdpg1 g2 q ´ dg1 ´ ψpg1 qdg2 pg1 , g2 P GqyZrHs .
gPG
定義より,対応 g ÞÑ dg が導く写像 d : G Ñ Aψ は ψ-微分,すなわち,
dpg1 g2 q “ dpg1 q ` ψpg1 qdpg2 q pg1 , g2 P Gq を満たし,次の普遍性をもつ:
(7.1.2) A を左 ZrHs-加群,B : G Ñ A を ψ-微分とすると,ZrHs-準同型 ϕ : Aψ Ñ A で ϕ ˝ d “ B を満たすものが唯一つ存在する.
120
第 7 章 Alexander 加群と岩澤加群
例 7.1.3
H “ G, ψ “ idG とする.δ : G Ñ IZrGs を δpgq :“ g ´ 1 によ
り定義すると,g1 g2 ´ 1 “ g1 ´ 1 ` g1 pg2 ´ 1q により,δ は idG -微分で,
(7.1.2) の普遍性を満たしている(ϕpdgq :“ g ´ 1 とすればよい).従って, AidG » IZrGs である. N :“ Kerpψ : G Ñ Hq とおく. 補題 7.1.4
次が成り立つ:
Kerpψ : ZrGs Ñ ZrHsq “ IZrN s ZrGs. 従って,ψ が全射なら,右 ZrGs-加群の同型
ZrGs{IZrN s ZrGs » ZrHs が成り立つ.但し,ZrGs は ψ を通し,右乗法により ZrHs に作用する. 証明
ψpIZrN s q “ 0 より,IZrN s ZrGs Ă Kerpψq.α “
とする.
ÿ
0 “ ψpαq “
ag ψpgq “
gPG
ÿ
p
ř
ÿ
gPG
ag g P Kerpψq
ag qh
hPψpGq ψpgq“h
ř
より,任意の h P ψpGq に対して,
ψpgq“h ag “ 0.これより,同型 N zG » ψpGq において,h P ψpGq に対応する N zG の元を N gh と書くと, ÿ ÿ ag g “ ag pg ´ 1q gPN gh
ψpgq“h
“
ÿ
angh pngh ´ 1q
nPN
“
ÿ
angh tpn ´ 1qgh ` pgh ´ 1qu
nPN
“ よって,α “
ÿ
angh pn ´ 1qgh P IZrN s ZrGs.
nPN
ř gPG
ag g “
ř
ř
hPψpGq p
張は明らかである.
ψpgq“h
ag gq P IZrN s ZrGs.後半の主 ˝
以下,ψ は全射とする: ψ
1 ÝÑ N ÝÑ G ÝÑ H ÝÑ 1 (完全). 命題 7.1.5
対応 dg ÞÑ g ´ 1 は,左 ZrHs-加群の同型
Aψ » IZrGs {IZrN s IZrGs
121
7.1 微分加群
を与える.但し,β P ZrHs は,任意の α P ψ ´1 pβq に対し,α 倍で右辺に 作用する. 証明 ψ を通して,ZrHs を右 ZrGs-加群とみると,定義 7.1.1 より,
Aψ “ ZrHs bZrGs AidG . よって,例 7.1.3,補題 7.1.4 より,次の左 ZrHs-加群の同型が成り立つ:
Aψ » pZrGs{IZrN s ZrGsq bZrGs IZrGs » IZrGs {IZrN s IZrGs ˝ 次に,G が有限表示
G “ xx1 , . . . , xr | R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rs “ 1y をもつとき,Fox 自由微分を用いて Aψ を記述する.F を x1 , . . . , xr で生 成される自由群, π : F Ñ G を自然な準同型とし,ZrHs-準同型
d2 : ZrHss Ñ ZrHsr ; pβi q ÞÑ
´ BR ¯¯ i βi pψ ˝ πq Bx j i“1
s ´ÿ
を考える. 定理 7.1.6
対応 dg ÞÑ ppψ ˝ πqpBf {Bxj qq は,左 ZrHs-加群の同型
Aψ » Cokerpd2 q を与える.但し,f P F は πpf q “ g なる任意の元とする. 証明 ZrHs-準同型 ξ :
À
ZrHsdg Ñ Cokerpd2 q を ´ ´ Bf ¯¯ mod Impd2 q pπpf q “ gq ξpdgq :“ pψ ˝ πq Bxj gPG
により定める.k P Kerpπq に対し,
´ ´ Bf ´ ´ Bf ¯¯ ´ ´ Bpf kq ¯¯ Bk ¯¯ “ψ π ”ψ π ψ π `f Bxj Bxj Bxj Bxj
mod
Impd2 q
なので,ξ は πpf q “ g なる f の取り方によらない.また,g1 “ πpf1 q, g2 “
πpf2 q P G に対し,命題 6.1.3 (3) より, ξpdpg1 g2 q ´ dg1 ´ ψpg1 qdg2 q ´ ´ Bf ¯ ´ ´ Bf ¯¯ ´ ´ Bpf f q ¯¯ 1 2 1 2 ´ψ π q ´ ψpg1 qψ π “ ψ π Bxj Bxj Bxj
122
第 7 章 Alexander 加群と岩澤加群
“ 0 なので,ξ は ZrHs-準同型
ξ : Aψ ÝÑ Cokerpd2 q を導く.一方,η : ZrHsr Ñ Aψ を
ηppαj qq :“
r ”ÿ
ı
αj dπpxj qs
j“1
により定義すると, r ´ ´ ´ BR ¯¯¯ ” ÿ ´ ´ BR ¯¯ ı i i “ dπpxj q . η ψ π ψ π Bxj Bxj j“1
命題 7.1.5 の同型が導く ZrHs-準同型 IZrGs Ñ Aψ を μ と書くと,dπpxj q “ μpπpxj q ´ 1q なので, r r ´ ´ BR ¯¯ ´ ´ BR ¯¯ ÿ ÿ i i dπpxj q “ pμpπpxj q ´ 1qq ψ π ψ π Bx Bx j j j“1 j“1 r ´ÿ ´ BR ¯ i “μ pπpxj q ´ 1qq π Bx j j“1 r ¯¯ ´ ´ÿ BRi pxj ´ 1q “μ π Bxj j“1
“ μpπpRi ´ 1qq “ 0. よって,η は ZrHs-準同型
η : Cokerpd2 q ÝÑ Aψ を導く.
´´ ´ ´ Bf ¯¯¯¯ pπpf q “ gq ψ π Bxj r ´ÿ ´ Bf ¯ ¯ “ψ dπpxj q π Bxj j“1
pη ˝ ξqpdgq “ η
“
r ´ ´ Bf ¯¯ ÿ μpπpxj q ´ 1q ψ π Bxj j“1
7.1 微分加群
123
“ μpπpf ´ 1qq “ μpg ´ 1q “ dg より,ηξ “ idAψ .ξη “ idCokerpd2 q も容易に示される. 系 7.1.7
˝
ψ-微分加群 Aψ は,ZrHs 上の自由分解 Qψ
ZrHss ÝÑ ZrHsr ÝÑ Aψ ÝÑ 0 をもち,
´ ´ BR ¯¯ i Qψ :“ pψ ˝ πq Bxj
が表現行列を与える.G が自由群のときは,Aψ » ZrHsr である. 一般に,可換環 Z と有限生成 Z-加群 M に対し,Z 上の自由分解 Q
Z s ÝÑ Z r ÝÑ M ÝÑ 0 が与えられたとする.整数 d ě 0 に対し,Ed pM q を Q の pr ´ dq 次小行列式 たちが生成する Z のイデアルとする.但し,r ´ d ď 0 のとき,Ed pAψ q “ Z,
r ´ d ą s のとき,Ed pM q “ 0 とする.Ed pM q は自由分解のとり方によ らず,M のみで決まり,M の d 番基本イデアル(Fitting イデアル)とい う ([CF]).上に述べた Z “ ZrHs, M “ Aψ の場合,H が Abel 群のとき,
Ed pAψ q が定義される.さらに,Z が Noether 一意分解環のとき,Ed pM q を含む最小の単項イデアル(Ed pM q を含む単項イデアルの共通部分)の生 成元が Z ˆ の元による乗法を除いて決まる.これを Δd pM q と表す. L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr Ă S 3 を r 成分絡み目,GL “ πpS 3 zLq を絡 み目群とする.GL は Wirtinger 表示 例 7.1.8
GL “ xx1 , . . . , xn | R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rn´1 “ 1y をもつ(例 0.1.6).GL のある商群 H を決め,自然な準同型 ψ : GL Ñ H を考える.このとき,ψ-微分加群 Aψ を絡み目 L の ψ-Alexander 加群 p2q
と呼ぶ.特に,H が GL の Abel 化 Gab L “ GL {GL
のとき,H は Ki
の回りのメリディアン αi のホモロジー類たちにより生成される自由 Abel 群なので,αi に対応する変数を ti とすると,ZrHs は Laurent 多項式環 ˘1 Λr :“ Zrt˘1 1 , . . . , tr s と同一視される.従って,Aψ は Λr -加群となる.こ の Λr -加群 Aψ を L の Alexander 加群といい,AL と書く.この場合,表
124
第 7 章 Alexander 加群と岩澤加群
現行列 QL は,Λr に成分をもつ pn ´ 1q ˆ n 行列で,L の Alexander 行 列と呼ばれる(これは Wirtinger 表示のとり方による).Λr が Noether 一 意分解整域なので,d ě 1 に対し,Ed pAL q 及び Δd pAL q が定義され,各々
L の d 番 Alexander イデアル及び d 番 Alexander 多項式と呼ばれる. 次に,H “ Z とし,ψ : GL Ñ Z を ψpαi q “ 1 なる準同型とする(例
0.1.14).1 P Z と変数 t を同一視すると,ZrHs は 1 変数の Laurent 多項 式環 Λ :“ Λ1 “ Zrt˘1 s で,Aψ は Λ-加群となる.この Aψ も GL のみに よる絡み目不変量で,L の被約 Alexander 加群と呼ばれ,Ared L と書く.表 red 現行列 QL は Λ に成分をもつ pn ´ 1q ˆ n 次行列で,被約 Alexander 行列と呼ばれる.L が結び目 K のときは,AK “ Ared K である.環準同型 η : Λr Ñ Λ; ηpti q “ t,を通し,Λ を Λr -加群とみなすと,Ared L “ AL bΛr Λ. red ηpEd pAL qq “ Ed pAL q, ηpΔd pAL qq (d ě 0) を各々 d 番被約 Alexander イデアル,d 番被約 Alexander 多項式という.
7.2 Crowell 完全系列 7.1 節と同じく,群の完全系列 ψ
p7.2.1q
1 ÝÑ N ÝÑ G ÝÑ H ÝÑ 1
が与えられたとする. 定理 7.2.2
左 ZrHs-加群の完全系列 ZrHs
θ
θ
1 2 0 ÝÑ N ab ÝÑ Aψ ÝÑ ZrHs ÝÑ Z ÝÑ 0
が成り立つ.ここで,N ab は N の Abel 化 N {N p2q , θ1 は n ÞÑ dn pn P N q が導く準同型,θ2 は dg ÞÑ ψpgq ´ 1 pg P Gq が導く準同型である.この完 全系列を (7.2.1) に付随する Crowell 完全系列という ([Cr]). 証明
左 ZrN s-加群の完全系列 ZrGs
0 ÝÑ IZrGs ÝÑ ZrGs ÝÑ Z ÝÑ 0 から N -ホモロジーをとると,長完全系列
H1 pN, ZrGsq Ñ H1 pN, Zq Ñ H0 pN, IZrGs q Ñ H0 pN, ZrGsq Ñ H0 pN, Zq を得る.ここで,
H0 pN, Zq “ Z.
7.2 Crowell 完全系列
125
補題 7.1.4 より,H0 pN, ZrGsq “ ZrGs{IZrN s ZrGs » ZrHs. 命題 7.1.5 より,H0 pN, IZrGs q “ IZrGs {IZrN s ZrGs » Aψ .
H1 pN, Zq “ N ab . Shapiro の補題より,H1 pN, ZrGsq “ H1 pG, ZrG{N s bZ ZrGsq で, ZrG{N s bZ ZrGs は自由 ZrGs-加群なので,H1 pN, ZrGsq “ 0. よって,完全系列 ZrHs
0 ÝÑ N ab ÝÑ Aψ ÝÑ ZrHs ÝÑ Z ÝÑ 0. を得る.各写像 θi が定理に与えられたものであり,ZrHs-準同型であること
˝
は容易にわかる. 次に,G が有限表示
G “ xx1 , . . . , xr | R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rs “ 1y をもつとき,Crowell 完全系列を Fox 自由微分を用いて記述する.ZrHs-準 同型
d1 : ZrHsr Ñ ZrHs; pαj q ÞÑ
r ÿ
αj pψ ˝ πpxj q ´ 1q
j“1
を考える.まず,Impd1 q “ IZrHs .
´ ´ BR ¯¯¯ i βi ψ π Bx j i“1 r ´ÿ s ´ ´ BR ¯¯¯ ÿ i pψπpxj q ´ 1q “ βi ψ π Bx j j“1 i“1
pd1 ˝ d2 qppβi qq “ d1
“ “
s ´ÿ
r ´ ´ÿ ¯¯ BRi βi ψ π pxj ´ 1q Bxj i“1 j“1 s ÿ
r ÿ
βi ψpπpRi ´ 1qq
i“1
“0 より, d
d
2 1 ZrHss ÝÑ ZrHsr ÝÑ ZrHs
は複体をなす.よって,左 ZrHs-加群の完全系列 d
ZrHs
2 0 Ñ Kerpd1 q{Impd2 q Ñ Cokerpd2 q ÝÑ ZrHs ÝÑ Z Ñ 0
126
第 7 章 Alexander 加群と岩澤加群
を得る.定理 7.1.6 の同型により,Cokerpd2 q と Aψ を同一視すると, r ´ ´ ´ Bf ¯¯¯ ÿ ´ ´ Bf ¯¯ “ dπpxj q “ ψpπpf q ´ 1q d1 ψ π ψ π Bxi Bxj j“1
なので,d1 は θ2 と一致する.よって,
N ab » Kerpθ2 q » Kerpd1 q » Kerpd1 q{Impd2 q. ここで,n mod N p2q は pψpπpBf {Bxj qqq mod Impd2 q pπpf q “ gq にうつる. 特に,G が自由群のときは,Crowell 完全系列は, ZrHs
d
1 0 ÝÑ N ab ÝÑ ZrHsr ÝÑ ZrHs ÝÑ Z ÝÑ 0
となり,Blanchfield–Lyndon 完全系列と呼ばれる.
L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr Ă S 3 を絡み目,GL を絡み目群とする.G “ GL のとき,Crowell 完全系列は次のような位相幾何的な意味をもっている.h : XH Ñ XL を N に対応する絡み目補空間 XL “ S 3 zintpVL q の被覆とする: GalpXH {XL q “ H .基本群 GL の基点を x0 P XL とする:GL “ π1 pXL , x0 q. y0 P h´1 px0 q を決め,N “ π1 pXH , y0 q とすると,群の完全系列 h˚
ψ
1 ÝÑ N ÝÑ GL ÝÑ H ÝÑ 1 を得る.このとき,付随する Crowell 完全系列は,
p7.2.3q
θ
θ
ZrHs
1 2 0 ÝÑ N ab ÝÑ Aψ ÝÑ ZrHs ÝÑ Z ÝÑ 0.
一方,空間対 pXH , h´1 px0 qq に対する相対ホモロジー完全系列を書くと,
p7.2.4q j δ i 0 Ñ H1 pXH q Ñ H1 pXH , h´1 px0 qq Ñ H0 ph´1 px0 qq Ñ H0 pXH q Ñ 0. 完全系列 (7.2.3) と (7.2.4) は次のように同一視される.
• 対応 1 ÞÑ ry0 s は,Z-同型 ϕ0 : Z » H0 pXH q を導く.XH は弧状連結なので,σ P H に対し,rσpy0 qs “ ry0 s.よっ て,ϕ0 は ZrHs-同型である.
À À • H0 ph´1 px0 qq “ yPh´1 px0 q H0 ptyuq “ yPh´1 px0 q Z で,対応 σ ÞÑ σpy0 q は全単射 H Ñ h´1 px0 q を導くので,Z-同型 ϕ1 : ZrHs » H0 ph´1 px0 qq; σ ÞÑ rσpy0 qs
7.2 Crowell 完全系列
127
を得る.σ1 , σ2 P H に対し,
ϕ1 pσ1 σ2 q “ rσ1 σ2 py0 qs “ σ1 prσ2 py0 qsq “ σ1 ϕ1 pσ2 q なので,ϕ1 は ZrHs-同型である.
• g “ rls P GL に対し,y0 を始点とする l の持ち上げを ˜l とすると, ˜l P C1 pXH , h´1 px0 qq.これより,写像 B : GL Ñ H1 pXH , h´1 px0 qq;
Bpgq :“ r˜ls
が定義されるが,この B は ψ-微分である.実際,g1 “ rl1 s, g2 “ rl2 s P GL に対し,y0 を始点とする l1 , l2 及び l1 _l2 の持ち上げを 各々˜l1 , ˜l2 及 ˜ ˜1 び lČ 1 _ l2 , l1 p1q を始点とする l2 の持ち上げを l2 とすると,Bpg1 g2 q “ ˜ ˜1 ˜ ˜ ˜ ˜1 rlČ 1 _ l2 s “ rl1 s`rl2 s, Bpg1 q`ψpg1 qBpg2 q “ rl1 s`ψpg1 qrl2 s “ rl1 s`rl2 s より,Bpg1 g2 q “ Bpg1 q ` ψpg1 qBpg2 q.よって,ψ-微分加群の普遍性よ り,ZrHs-準同型
ϕ2 : Aψ Ñ H1 pXH , h´1 px0 qq; dg ÞÑ r˜ls が導かれる.
• Hurewicz の定理より,次の ZrHs-同型がある: ϕ3 : N ab » H1 pXH q. 以上より,次の図式を得る:
0
/ N ab
0
3 / H1 pXH q
θ1
ϕ
j
/ Aψ
ϕ2 / H1 pXH , h´1 px0 qq
θ2
δ
/ ZrHs
ZrHs
ϕ1 / H0 ph´1 px0 qq
/Z
/0
0 / H0 pXH q
/0
ϕ
i
この図式は可換である.
• 右の四角 σ P H に対し,pi ˝ ϕ1 qpσq “ iprσpy0 qsq “ ry0 s, pϕ0 ˝ ZrHs qpσq “ ϕ0 p1q “ ry0 s.ゆえに,i ˝ ϕ1 “ ϕ0 ˝ ZrHs . • 中央の四角 写像は ZrHs-準同型なので,rdgs P Aψ の行き先をみれ ばよい.pδ ˝ ϕ2 qprdgsq “ δpr˜ lsq “ r˜lp1qs ´ r˜lp0qs “ r˜lp1qs ´ ry0 s, pϕ1 ˝ θ2 qprdgsq “ ϕ1 pψpgq ´ 1q “ rpψpgq ´ 1qpy0 qs “ r˜lp1qs ´ ry0 s.ゆえに, δ ˝ ϕ2 “ ϕ1 ˝ θ2 .
128
第 7 章 Alexander 加群と岩澤加群
• 左の四角 n “ r˜ls P N とすると,pϕ2 ˝ θ1 qpnq “ ϕ2 rdns “ r˜ls, pj ˝ ϕ3 qpnq “ jpr˜lsq “ r˜ls.ゆえに,ϕ2 ˝ θ1 “ j ˝ ϕ3 . よって,ϕ0 , ϕ1 , ϕ3 が同型なことから,ϕ2 も同型になる.従って,Crowell 完全系列は,対応する被覆についての相対ホモロジー完全系列に他ならない.
H “ Gab L , ψ が自然な準同型のとき,XH は XL の最大 Abel 被覆 ab XL となり,Λr -加群 N ab “ H1 pXLab q は L の絡み目加群と呼ばれる.また, H “ xty で,ψ が,すべての Ki のメリディアンを t へ送る準同型であると き,XH は XL の全まつわり数被覆 X8 となり,Λ-加群 N ab “ H1 pX8 q は L の被約絡み目加群と呼ばれる.L が結び目 K のときは,絡み目加群と被約 絡み目加群は一致し,K の結び目加群という.定理 7.2.2 と IΛ » Λ より,Λ同型 Ared L » H1 pX8 q ‘ Λ を得る.従って,被約 Alexander イデアルと被約 Alexander 多項式について,Ed pH1 pX8 qq “ Ed`1 pAred L q, Δd pH1 pX8 qq “ red Δd`1 pAL q pd ě 0q が成り立つ. 例 7.2.5
7.3 完備微分加群 G, H を副有限群,ψ : G Ñ H を連続準同型とする.l を素数とし,ψ が 導く Zl 上の完備群環の準同型 Zl rrGss Ñ Zl rrHss も同じ ψ で表す. 定義 7.3.1
完備 ψ-微分加群 Aψ とは,記号 dg (g P G) により生成される
左自由 Zl rrHss-加群
À
gPG
Zl rrHssdg を
dpg1 g2 q ´ dg1 ´ ψpg1 qdg2
pg1 , g2 P Gq
なる元たちにより生成される左部分 Zl rrHss-加群で割って得られる商である:
Aψ :“
´à
¯ Zl rrHssdg {xdpg1 g2 q ´ dg1 ´ ψpg1 qdg2 pg1 , g2 P GqyZl rrHss .
gPG
定義より,対応 g ÞÑ dg が導く写像 d : G Ñ Aψ は ψ-微分,すなわち,
dpg1 g2 q “ dpg1 q ` ψpg1 qdpg2 q pg1 , g2 P Gq を満たし,次の普遍性をもつ:
(7.3.2) A を左 Zl rrHss-加群,B : G Ñ A を ψ-微分とすると,Zl rrHss-準同 型 ϕ : Aψ Ñ A で ϕ ˝ d “ B を満たすものが唯一つ存在する. 例 7.3.3
H “ G, ψ “ idG とする.G “ lim ÐÝi Gi (Gi は有限群)とし,
7.3 完備微分加群
129
δi : Gi Ñ IZl rGıs を δi pgq :“ g ´ 1 により定義すると,δi は idGi -微分であ る.射影極限 limi をとると,idG -微分 δ : G Ñ IZl rrGss を得る.δ は (7.3.2) ÐÝ の普遍性を満たす (ϕpdgq “ g ´ 1). N :“ Kerpψ : G Ñ Hq とおく. 補題 7.3.4
次が成り立つ:
Kerpψ : Zl rrGss Ñ Zl rrHssq “ IZl rrNss Zl rrGss. 従って,ψ が全射なら,右 Zl rrGss-加群の同型
Zl rrGss{IZl rrNss Zl rrGss » Zl rrHss が成り立つ.但し,Zl rrGss は ψ を通し,右乗法により Zl rrHss に作用する. 証明 G “ limi Gi , H “ limj Hj (Gi , Hj は有限群)とする.ψij を自然な
ÐÝ ÐÝ ψ 写像の合成 Gi Ñ G Ñ H Ñ Hj とし,Nij :“ Kerpψij q とおく.補題 7.1.4 と同様にして,Kerpψij : Zl rGi s Ñ Zl rHj sq “ IZl rNij s Zl rGi s が成り立つ. ここで,射影極限 limi,j をとると,主張を得る.後半は明らか. ˝ ÐÝ 以下,ψ は全射とする: ψ
1 ÝÑ N ÝÑ G ÝÑ H ÝÑ 1 (完全). 次の命題は,命題 7.1.5 と同様に証明される(証明略): 命題 7.3.5
対応 dg ÞÑ g ´ 1 は左 Zl rrHss-加群の同型
Aψ » IZl rrGss {IZl rrNss IZl rrGss を与える.但し,β P Zl rrHss は,任意の α P ψ ´1 pβq に対し,α 倍で右辺 に作用する. 次に,G が有限表示
G “ xx1 , . . . , xr | R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rs “ 1y をもつ副-l 群のとき,副-l Fox 自由微分を用いて Aψ を記述する(有限表 示をもつ副有限群についても,副有限 Fox 自由微分を用いて同様の記述が 得られる.注意 6.3.7).Fˆ plq を x1 , . . . , xr により生成される自由副-l 群,
π : Fˆ plq Ñ G を自然な準同型とし,Zl rrHss-準同型 r ´ ´ ´ BR ¯¯¯¯ ´ÿ i d2 : Zl rrHsss Ñ Zl rrHssr ; pβi q ÞÑ βi ψ π Bx j j“1
130
第 7 章 Alexander 加群と岩澤加群
を考える.定理 7.1.6 と同様に,次を得る(証明略). 定理 7.3.6 ([M2]) 対応 dg ÞÑ ppψ ˝ πqpBf {Bxj qq は,左 Zl rrHss-加群の 同型
Aψ » Cokerpd2 q を与える.但し,f P Fˆ plq は πpf q “ g なる任意の元とする. 系 7.3.7
完備 ψ-微分加群 Aψ は,Zl rrHss 上の自由分解 Qψ
Zl rrHsss ÝÑ Zl rrHssr ÝÑ Aψ ÝÑ 0 をもち,
´ ´ BR ¯¯ i Qψ :“ pψ ˝ πq Bxj が表現行列を与える.G が自由副-l 群のときは,Aψ » Zl rrHssr である.
H が Abel 群のとき,整数 d ě 0 に対し,Aψ の d 番基本イデアル(Fitting イデアル)Ed pAψ q は,離散的な場合と同様に定義される. k を有限次代数体,S を k の極大イデアルの有限集合とする.G を GS pkq “ π1 pSpecpOk qzSq のある(標準的な)商群とする.G のある 商 H を決め,自然な準同型 ψ : G Ñ H を考える.このとき,完備 ψ-微 分加群 Aψ を S の完備 ψ-Alexander 加群という.H が Abel 群のとき, Ed pAψ q を S の d 番完備 ψ-Alexander イデアルという.どのような H を とるかは考えている状況による.例えば,G が,第 5, 6 章で扱った Galois 群 GS plq pk “ Q, S “ tp1 , . . . , pr u, pi ” 1 mod lq の場合,H として Z{mZ pm “ le , pi ” 1 mod mq, ψ として,ψpτi q “ 1 mod m なる準同型がと れる.この場合,Aψ は,Zl rrZ{mZss “ Zl rrXss{pp1 ` Xqm ´ 1q 上の加 群である(これは次章で扱われる).S が l 上の k の素イデアルの集合を 含むとき,k の任意の Zl -拡大 k8 は S Y Sk8 の外で不分岐なので,G の 商として,Galpk8 {kq “ Zl がとれる.この場合,副-l Magnus 同型により, ˆ :“ Zl rrT ss となり,Aψ は Λ ˆ 上 Zl rrGalpk8 {kqss は 1 変数べき級数環 Λ ˆ ˆ は の加群となる(これは第 9–11 章で扱われる).Λ を岩澤代数という.Λ 例 7.3.8
Noether 一意分解環なので,Δd pAψ q pd ě 0q が定義される.補題 9.2.3 に 述べるように,Δd pAψ q として Zl 上の多項式がとれる.
7.4 完備 Crowell 完全系列
131
7.4 完備 Crowell 完全系列 この節では,7.2 節の Crowell 完全系列の完備版を与える ([Ng, 1], [NSW,
§6]).副有限群の完全系列 ψ
p7.4.1q
1 ÝÑ N ÝÑ G ÝÑ H ÝÑ 1
が与えられたとする. 定理 7.4.2
左 Zl rrHss-加群の完全系列 θ
Z
θ
rrHss
l 1 2 0 ÝÑ Nab plq ÝÑ Aψ ÝÑ Zl rrHss ÝÑ Zl ÝÑ 0
が成り立つ.ここで,Nab plq は N の Abel 化 N{Np2q の副-l 商,θ1 は n ÞÑ dn
pn P Nq が導く準同型,θ2 は dg ÞÑ ψpgq ´ 1 pg P Gq が導く準同型である. この完全系列を (7.4.1) に付随する完備 Crowell 完全系列という. 証明 左 Zl rrNss-加群の完全系列 Z
rrGss
l 0 ÝÑ IZl rrGss ÝÑ Zl rrGss ÝÑ Zl ÝÑ 0
から N-ホモロジーをとると,長完全系列
H1 pN, Zl rrGssq ÝÑ H1 pN, Zl q ÝÑ H0 pN, IZl rrGss q ÝÑ H0 pN, Zl rrGssq ÝÑ H0 pN, Zl q を得る.ここで,H1 pN, Zl q “ Nab plq となる.他の項は,補題 7.3.4,命題
7.3.5 を用い,定理 7.2.2 の証明と同様に記述されるので,主張の完全系列が 得られる. ˝ G が有限表示をもつ副-l 群のときは,離散的な場合と同様に,定理 7.3.6 に基づき,副-l Fox 自由微分による完備 Crowell 完全系列の記述が得られる. 例 7.4.3
有限次代数体 k と k の極大イデアルの有限集合 S に対し,G を
GS pkq “ π1 pSpecpOk qzSq の商群とする.G のある商 H を決め,自然な準 同型 ψ : G Ñ H を考える.このとき,Nab plq を ψ-Galois 加群という.特 に,S が l 上の k の素イデアルの集合を含み,H “ Zl のとき,ψ-Galois 加 ˆ ˆ 群 Nab plq を岩澤加群と呼ぶ.このとき,定理 7.4.2 と IΛ ˆ » Λ より,Λ-同型 ˆ を得る.従って,Ed pNab plqq “ Ed`1 pAψ q, Δd pNab plqq “ Aψ » Nab plq ‘ Λ Δd`1 pAψ q pd ě 0q が成り立つ.Δ0 pNab plqq は,岩澤理論において,Alexanˆ 加群 Nab plq の “岩 der 多項式に対応するものであるが,岩澤理論の慣例で Λ澤多項式” というときは,別の意味に用いるので注意されたい(9.2 節参照).
132
第 7 章 Alexander 加群と岩澤加群
ˆ 加群で,非自明な有限 Λˆ 部分群をもたないと Nab plq が有限生成ねじれ Λˆ ˆ を除き)等しい ([Ws, き,Δ0 pNab plqq は Nab plq の “岩澤多項式” と(Λ p.299, Ex.(3)], [MW, Appendix])).この条件については,H が k の円分 ˆ 加群で,非 Zl -拡大(例 0.3.3.10)の Galois 群のとき,Nab plq は有限生成 Λˆ 部分群をもたないこと,さらに k が総実代数体(無限素点が 自明な有限 Λˆ 加群で, すべて実素点からなる代数体)のとき,Nab plq は有限生成ねじれ Λˆ 部分群をもたないことが知られている ([Iw2, Theorem 18], 非自明な有限 Λ[Ws, Theorem 13.31]), [NSW, 11.3.2]).
■まとめ Alexander 加群 Aψ ψ:GÑH Crowell 完全系列 0 Ñ N ab Ñ Aψ Ñ IZrHs Ñ 0 (N “ Kerpψ : G Hq) 絡み目加群 N ab (G “ GL , H “ Z のとき)
完備 Alexander 加群 Aψ
ψ:GÑH 完備 Crowell 完全系列
0 Ñ Nab Ñ Aψ Ñ IZl rrHss Ñ 0 (N “ Kerpψ : G Hq) 岩澤加群 Nab (G “ GS pkq, H “ Zl のとき)
ୈ
8 ষ ϗϞϩδʔͱ܈ΠσΞϧྨ ܈II —– छͷཧͷߴ࣍Խ
第 4 章の種の理論より,S 3 の 2 次被覆である有理ホモロジー球面 M のホ モロジー群 H1 pM q 及び 2 次体 k の狭義イデアル類群 H ` pkq について,そ の 2-Sylow 部分群はともに, r´1 à
Z{2ai Z pai ě 1q
i“1
という形に表せる.ここで,r は,2 次被覆 M {S 3 ないし 2 次拡大 k{Q で 分岐する結び目ないし素数の数である.H ` pkq については,その 2d -ランク
pd ě 1q を分岐する素数たち p1 , . . . , pr に関する量で表すことは,Gauss 以 来多くの人たちにより研究されてきた問題である ([Y]).特に R´ edei ([Rd]) は,4-ランクを記述するために,pi たちの平方剰余記号を成分とするある行 列を用いたが,まつわり数と平方剰余記号の類似(第 2 章)によれば,これ はまつわり行列に相当することがわかる.従って,一般の 2d -ランクについ ても,Milnor 数を用いた高次のまつわり行列による表示を考えることが自然 な一般化となる.我々は,まず絡み目について対応する問題を解き,その方 法を真似て,Gauss の種の理論の高次化を求めてみよう. この章を通じ,l は固定された素数を表す.
8.1 絡み目の普遍まつわり行列 L “ K1 Y ¨ ¨ ¨ Y Kr を S 3 内の r 成分絡み目,XL “ S 3 zintpVL q を絡み 目補空間,GL “ π1 pXL q とする.定理 5.1.3 より,絡み目群 GL の副-l 完 ˆ L plq は, 備化 G ˆ L plq “ xx1 , . . . , xr | rx1 , y1 s “ ¨ ¨ ¨ “ rxr , yr s “ 1y G なる表示をもつ.ここで,xi は Ki のメリディアンを表す語,yi は Ki のロン
134
第 8 章 ホモロジー群とイデアル類群 II
ˆ L plqab “ Zr を Abel 化写像 ˆ L plq Ñ G ジチュードを表す副-l 語である.ψˆ : G l ˆ 微分加群とする.ψpx ˆ i q “ τi とすると,Zr “ xτ1 yˆ¨ ¨ ¨ˆ ˆL を完備 ψとし,A l ˆ L plqab ss “ Zl rrZr ss xτr y, xτi y “ Zl .対応 τi ÞÑ 1`Ti により,完備群環 Zl rrG l ˆ r :“ Zl rrT1 , . . . , Tr ss と同一視される.よって,AˆL は は可換べき級数環 Λ ˆ r -加群である.L の Alexander 加群を AL とすると,定義より,AˆL は Λ ˆ r に他ならない.但し,対応 ti ÞÑ 1 ` Ti によ AL の係数拡大 AL bΛr Λ ˆ r とみなす.AˆL を L の完備 Alexander 加群という.同様 り,Λr Ă Λ red ˆ L plq Ñ Zl を ψˆred pxi q “ 1 p1 ď i ď rq なる準同型とし, に,ψˆ : G ˆred -微分加群とする.Aˆred は岩澤代数 Λ ˆ “ Zl rrT ss 上の加 Aˆred L を 完備 ψ L red ˆred ˆ 群である.L の被約 Alexander 加群を Ared L とすると,AL “ AL bΛ Λ. red ˆr Ñ Λ ˆ を AˆL を L の被約完備 Alexander 加群という.環準同型 η : Λ ˆ ˆ ηpTi q “ T p1 ď i ď rq により定める.η を通じ Λ を Λr -加群とみなすと, ˆ である. Aˆred “ AˆL b ˆ Λ L
Λr
yi の副-l Magnus 展開を ˆ pyi q “ 1 ` M
ÿ
μ ˆpIiqXI ,
XI :“ Xi1 ¨ ¨ ¨ Xin
I“pi1 ¨¨¨in q
1ďi1 ,...,in ďr
とする.ここで,μ ˆpIq は,自然な包含写像 Z ãÑ Zl による Milnor 数 μpIq “
μpdq pIq pd ě |I|q の像に他ならない. 定義 8.1.1
ˆ L pijqq1ďi,jďr を次で ˆ r 上の普遍まつわり行列 Q ˆ L “ pQ LのΛ
定義する:
ˆ L pijq “ Q
$ ÿ ÿ ’ ´ μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in iqTi1 ¨ ¨ ¨ Tin ’ ’ ’ & ně1 1ďi1 ,...,in ďr
pi “ jq,
ÿ ’ ’ ’ μ ˆ pjiqT ` i ’ %
pi ‰ jq.
in ‰i
ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in jiqTi Ti1 ¨ ¨ ¨ Tin
ně1 1ďi1 ,...,in ďr
ˆ L q により定義する. ˆ 上の被約普遍まつわり行列を Q ˆ red :“ ηpQ また,L の Λ L ˆ L は AˆL の Λ ˆ r 上の表現行列を与える: 定理 8.1.2 ([HMM]) Q ˆ
QL ˆ r ˆ r qr ÝÑ pΛ pΛr q ÝÑ AˆL ÝÑ 0 (完全).
ˆ red は Aˆred の Λ ˆ 上の表現行列を与える. Q L L ˆ ˆ ˆ Aˆred ˆ r Λ より,前半を示せば十分.F plq を x1 , . . . , xr によ L “ AL bΛ ˆ L plq を自然な準同型とする.系 7.3.7 り生成される自由副-l 群, π : Fˆ plq Ñ G 証明
8.1 絡み目の普遍まつわり行列
より,
´ Brx , y s ¯ i i ˆ L pijq, “Q pψˆ ˝ πq Bxj
135
1 ď i, j ď r
を示せばよい.まず,命題 6.3.3 より,
Brxi , yi s Byi “ p1 ´ xi yi x´1 . i qδij ` pxi ´ rxi , yi sq Bxj Bxj ˆ r “ Zl rrT1 , . . . , Tr ss; Xi ÞÑ Ti ,を Abel 次に,ϕ : Zl xxX1 , . . . , Xr yy Ñ Λ 化写像とするとき, π
Zl rrFˆ plqss § § ˆđ M
ˆ L plqss Zl rrG § §ˆ đψ
ÝÝÝÝÑ
ϕ ˆ r “ Zl rrT1 , . . . , Tr ss Zl xxX1 , . . . , Xr yy ÝÝÝÝÑ Λ
ˆ は副-l Magnus 同型(補題 は可換図式であることに注意する.ここで,M 6.3.1)で, ˆ pyi q “ 1 ` M
ÿ
ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in iqXi1 ¨ ¨ ¨ Xin ,
ně1 1ďi1 ,...,in ďr
¯ ´ ÿ ÿ ˆ Byi “ μ ˆpjiq ` M Bxj ně1 1ďi ,...,i 1
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in jiqXi1 ¨ ¨ ¨ Xin . n ďr
従って,
´ Brx , y s ¯ i i pψˆ ˝ πq Bxj ´ Byi ¯ “ pψˆ ˝ πq p1 ´ xi yi x´1 i qδij ` pxi ´ rxi , yi sq Bxj ´ ¯ ˆ q p1 ´ xi yi x´1 qδij ` pxi ´ rxi , yi sq Byi “ pϕ ˝ M i Bxj ÿ ÿ μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in iqTi1 ¨ ¨ ¨ Tin “ ´δij ně1 1ďi1 ,...,in ďr
`ˆ μpjiqTi `
ÿ
ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in jiqTi Ti1 ¨ ¨ ¨ Tin
ně1 1ďi1 ,...,in ďr
“
$ ÿ ÿ ’ ´ μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in iqTi1 ¨ ¨ ¨ Tin ’ ’ ’ & ně1 1ďi1 ,...,in ďr in ‰i
ÿ ’ ’ ’ ˆpjiqTi ` ’ %μ
ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in jiqTi Ti1 ¨ ¨ ¨ Tin
pi “ jq, pi ‰ jq.
rě1 1ďi1 ,...,in ďr
よって,主張が従う.
˝
136
第 8 章 ホモロジー群とイデアル類群 II
自然数 d ě 2 に対し,L の d 番項切 (d-th truncated) まつ
定義 8.1.3
pdq
pdq
ˆ pijqq を次で定義する: ˆ “ pQ わり行列 Q L L
ˆ pdq pijq “ Q L
$ d´1 ÿ ÿ ’ ’ ’ ´ μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in iqTi1 ¨ ¨ ¨ Tin ’ ’ ’ & n“1 1ďi1 ,...,in ďr
pi “ jq,
in ‰i
’ d´2 ’ ÿ ’ ’ ’ ˆpjiqTi ` ’ %μ
ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in jiqTi Ti1 ¨ ¨ ¨ Tin
pi ‰ jq.
n“1 1ďi1 ,¨¨¨ ,in ďr red,pdq
ˆ また,L の d 番項切被約まつわり行列を Q L 例 8.1.4
ˆ pdq q により定義する. :“ ηpQ L
red,p2q
ˆ d “ 2 のとき,Q “ T ¨ CL .ここで,CL “ pCL pijqq は, L ÿ $ lkpKj , Ki q i “ j のとき, &´ j‰i CL pijq “ % lkpKj , Ki q i ‰ j のとき
により定義されるまつわり行列である.
8.2 絡み目の高次種の理論 ψ8 : GL Ñ Z を Ki のメリディアン αi をすべて 1 へ送る準同型とし, X8 を Kerpψ8 q に対応する XL の全まつわり数被覆とする.1 に対応する GalpX8 {XL q の生成元 τ と t を同一視し,ZrGalpX8 {XL qs “ Λ とみなす. 自然数 n に対し,ψ8 と自然な準同型 Z Ñ Z{nZ の合成を ψn : GL Ñ Z{nZ とする.Xn を Kerpψn q に対応する XL の n 次巡回被覆,Mn を Xn の Fox 完備化とする(例 0.1.14).1 mod n P Z{nZ に対応する GalpXn {XL q の生成元も同じく τ と書く.以下,νn ptq :“ tn´1 ` ¨ ¨ ¨ ` t ` 1 とおく. f : Mn Ñ S 3 を分岐被覆写像とすると,f˚ : H1 pMn q Ñ H1 pS 3 q と移送 H1 pS 3 q Ñ H1 pMn q との合成は νn pτ q˚ で,H1 pS 3 q “ 0 なので,H1 pMn q は On :“ Λ{pνn ptqq 上の加群とみなせる.1 の原始 n 乗根 ζpP Qq を 1 つ決 めると,対応 t mod pνn ptqq ÞÑ ζ により,On は Dedekind 環 Zrζs と同一 視される. 定理 8.2.1
次の On -加群の同型が成り立つ:
H1 pX8 q{νn ptqH1 pX8 q » H1 pMn q, red Ared L {νn ptqAL » H1 pMn q ‘ Λ{pνn ptqq.
8.2 絡み目の高次種の理論
137
証明 Λ-同型 IΛ » Λ に注意すると,Crowell の完全系列(定理 7.2.2)から
Λ-加群の同型 Ared L » H1 pX8 q ‘ Λ を得る.ここに,bΛ Λ{pνn ptqq すれば,第 2 式は第 1 式から従う.よって, 最初の同型を示せばよい.XL 上の係数加群の完全系列 ˆνn ptq
0 Ñ Z ÝÑ Λ{ptn ´ 1q Ñ Λ{pνn ptqq Ñ 0 は,長完全系列 t
t
1 0 ¨ ¨ ¨ Ñ H1 pXL q Ñ H1 pXn q Ñ H1 pXL , Λ{pνn ptqqq Ñ H0 pXL q Ñ H0 pXn q
を導く.ここで,ti (i “ 0, 1) は移送を表す.t1 の像は,f ´1 pLq の各成分の メリディアンの類たちにより生成されるので,Cokerpt1 q » H1 pMn q.また,
t0 は n 倍写像 H0 pXL q “ Z Ñ H0 pXn q “ Z なので,単射.よって, p8.2.1.1q
H1 pMn q » H1 pXL , Λ{pνn ptqqq.
一方,鎖複体の完全系列 νn ptq
0 Ñ C˚ pX8 q Ñ C˚ pX8 q Ñ C˚ pX8 q bΛ Λ{pνn ptqq Ñ 0 より,長完全系列 νn ptq
¨ ¨ ¨ Ñ H1 pX8 q ÝÑ H1 pX8 q Ñ H1 pX8 , Λ{pνn ptqqq νn ptq
Ñ H0 pX8 q ÝÑ H0 pX8 q を得る.νn ptq は H0 pX8 q “ Z に n 倍で作用するので,
p8.2.1.2q
H1 pX8 , Λ{pνn ptqqq » H1 pX8 q{νn ptqH1 pX8 q.
(8.2.1.1), (8.2.1.2) より,第 1 式を得る.
˝
以下,n “ l とし,M :“ Ml , O :“ Ol とおく.M は有理ホモロジー球面 と仮定する.H1 pM q の l-Sylow 部分群を H1 pM qplq と書く:H1 pM qplq “ ˆ :“ O bZ Zl “ Zl rζs 上の加 H1 pM q bZ Zl “ H1 pM, Zl q.H1 pM qplq は O ˆ 群とみなされる.O は完備離散付値環で,極大イデアル p は :“ ζ ´ 1 で ˆ “ Fl .種の理論 4.2 節より,次が従う. 生成され,剰余体は O{p 補題 8.2.2
dimFl H1 pM qplq bOˆ Fl “ r ´ 1.
証明 定理 4.2.1 より,
138
第 8 章 ホモロジー群とイデアル類群 II
H1 pM q{pτ ´ 1qH1 pM q » Fr´1 . l ここで,左辺 “ H1 pM q bO O{pζ ´ 1q » H1 pM qplq bOˆ Fl なので,主張を
˝
得る.
ˆ 加群として, 補題 8.2.2 より,OH1 pM qplq “
r´1 à
ˆ ai O{p
pai ě 1q
i“1
ˆ 加群としての構造を決めることは,各自 と表せる.よって,H1 pM qplq の O然数 d ě 2 に対して,pd -ランク
ed :“ #ti | ai ě du を決めることと同値である.ここでは,8.1 節で導入した d 番項切まつわり red,pdq
ˆ ˆ red , Q 行列を用いて ed を記述する.Q L L
において,T “ とおいた行 ˆ ˆ 上の d 番項切被約まつわり 列を各々 L の O 上の被約普遍まつわり行列,O
行列という. このとき,定理 8.1.2,定理 8.2.1 より,次が従う.
ˆ red pq は H1 pM qplq ‘ O ˆ のO ˆ 上の表現行列を与 定理 8.2.3 ([HMM]) Q L red,pdq
ˆ える.d ě 2 に対し,Q L
ˆ d の O{p ˆ d 上の表 pq は H1 pM qplq{pd ‘ O{p
現行列を与える. 証明
ˆ 上の同型を得る: 定理 8.2.1 より,次の O H1 pM qplq » pH1 pX8 q{νl ptqH1 pX8 qq bZ Zl » H1 pX8 q bΛ ppΛ bZ Zl q{pνl ptqqq ˆ l p1 ` T qq » H1 pX8 q bΛ Λ{pν ˆ » H1 pX8 q bΛ O.
ここで,最後の同型は,対応 T ÞÑ による.これより,Λ-同型 Ared L »
ˆ を得 ˆ すると,Oˆ 同型 Ared bΛ O ˆ » H1 pM qplq ‘ O H1 pX8 q ‘ Λ に bΛ O L red ˆ 上の表現行列は Q pq なので,最初の主張を得る.2 番目 る.左辺の O L
˝
の主張は,最初の主張を mod pd で考えたものである. これより,次を得る. red,pdq
ˆ 定理 8.2.4 ([HMM]) d ě 2 に対し,Q L pdq
pdq
pdq
pdq
εr´1 , εr “ 0, εi |εi`1 とする.このとき,
pdq
pq の単因子を ε1 , . . . ,
8.2 絡み目の高次種の理論 pdq
ed “ #ti | 1 ď i ď r, εi 系 8.2.5
139
” 0 mod pd u ´ 1.
d “ 2 に対し,次が成り立つ: e2 “ r ´ 1 ´ rankFl pCL mod lq.
但し,CL はまつわり行列を表す(例 8.1.4). red,p2q
ˆ 証明 Q L
pq “ CL より,主張は定理 8.2.4 から従う.
˝
特に,r “ 2 のときは,
ˆ a H1 pM qplq “ O{p
pa ě 1q
となり,ed “ 0 または 1 である. 系 8.2.6
r “ 2 とする.d ě 1 に対し,ed “ 1 と仮定する.このとき,次
が成り立つ:
ed`1 “ 1 ðñ
$ d ÿ ’ ’ ’ ’ &
ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in´1 21qn ” 0 mod pd`1 ,
n“1 i1 ,...,in´1 “1,2
d ÿ ’ ’ ’ ’ %
ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in´1 12qn ” 0 mod pd`1 .
n“1 i1 ,...,in´1 “1,2 red,pdq
ˆ 証明 任意の d ě 1 に対し,Q L
red,pdq
ˆ p12qpq “ ´Q L
p11qpq,
ˆ red,pdq p21qpq “ ´Q ˆ red,pdq p22qpq に注意すると, Q L L ed`1 “ 1 ˆ red,pd`1q pq ” O2 mod pd`1 ô Q L ˆ red,pd`1q p12qpq ” 0 mod pd`1 , Q ˆ red,pd`1q p21qpq ” 0 mod pd`1 . ô Q ˝
定義 8.1.3 より,最後の条件を書き下すと,主張を得る.
L “ K1 Y K2 を Whitehead 絡み目とする(図 8.1).μp12q “ μp21q “ 0 と系 8.2.6 より,e2 “ 1.2 成分絡み目について,一般的に次が成 り立つことに注意する ([Mu1, Remark, p.100], [Fo1, (3.9), p.555]): ˙ ˆ lkpK1 , K2 q mod Δplo io¨mo ¨ ¨oin jq. p8.2.7.1q μ ¯plo io¨mo ¨ ¨oin jq ” n 例 8.2.7
n個
n個
ここで,pi, jq “ p1, 2q または p2, 1q とする.μp12q “ μp21q “ 0 より,
140
第 8 章 ホモロジー群とイデアル類群 II
図 8.1
Δp112q “ Δp221q “ 0.ゆえに,(8.2.7.1) より,μp112q “ μp221q “ 0.巡 回不変性 (定理 6.2.1 (4)) より,μp121q “ μp212q “ 0.よって,系 8.2.6 よ り,e3 “ 1.Δp1112q “ Δp2221q “ 0 より,(8.2.7.1) から,μp1112q “
μp2221q “ 0.巡回不変性より,μp1121q “ μp2212q “ 0.シャッフル関係式 (定理 6.2.1 (3)) より,μp1221q`μp2121q`μp2211q “ 0, μp1212q`μp2112q` μp1122q “ 0.一方,[Mu2, Example 2, p.131] または [Mu1,Theorem 4.1] ˆ より,μp1122q “ μp2211q “ 1 なので,系 8.2.6 より,e4 “ 0.よって,O加群として,
ˆ 3. H1 pM qplq “ O{p
8.3 素数たちの普遍まつわり行列 S “ tp1 , . . . , pr u を相異なる r 個の素数の集合とし,pi ” 1 mod l p1 ď i ď rq とする.以下,5.2 節と同じ記号を用いる.GS plq :“ π1 pSpecpZqzSqplq “ GalpQS plq{Qq とおく.QS plq は S Y t8u の外で不分岐な Q の最大副-l 拡 大.このとき,副-l 群 GS plq は, GS plq “ xx1 , . . . , xr | xp11 ´1 rx1 , y1 s “ ¨ ¨ ¨ “ xpr r ´1 rxr , yr s “ 1y なる表示をもつ(定理 5.2.2).ここで,xi , yi は,(5.2.1) で与えられた pi 上の モノドロミーと Frobenius 自己同型を表す.ψ : GS plq Ñ GS plqab を Abel 化 写像とし,AS を完備 ψ-微分加群とする.pi ´1 “ mi qi , pmi “ lei , pl, qi q “ 1q と書くと,類体論より,GS plqab は Z{m1 Z ˆ ¨ ¨ ¨ ˆ Z{mr Z と同型である(例
0.3.3.10).各 Z{mi Z の生成元 1 mod m を 1 ` Ti に対応させることにより, ˆ r {pp1 ` T1 qm1 ´ 1, . . . , p1 ` Tr qmr ´ 1q 完備群環 Zl rrGS plqab ss は ΛS :“ Λ
8.3 素数たちの普遍まつわり行列
141
と同一視される(補題 7.3.4).このことは,Zp rrGS plqab ss “ Zp rGS plqab s “ mr 1 Zp rt1 , . . . , tr s{ptm ´ 1q と後述の補題 9.2.3 (1) から得られる 1 ´ 1, . . . , t m1 ˆ r {pp1 ` T1 qm1 ´ 1, . . . , p1 ` 同型 Zp rt1 , . . . , tr s{pt1 ´ 1, . . . , tmr ´ 1q » Λ Tr qmr ´ 1q pt Ø 1 ` T q からも従う.よって,AS は ΛS 上の加群とみなさ れる.これを S の完備 Alexander 加群という. pi ” 1 mod m p1 ď i ď rq なる l のべき m を 1 つ決める.m は各 mi の約数である.ψ red : GS plq Ñ Z{mZ を ψ red pxi q “ 1 mod m p1 ď i ď rq red なる準同型とし,Ared -加群とする.対応 1 mod m ÞÑ 1 ` T に S を完備 ψ red ˆ より,完備群環 Zl rrZ{mZss は ΛS :“ Λ{pp1 ` T qm ´ 1q と同一視される. red よって,Ared S は ΛS -加群とみなされる.これを S の被約完備 Alexander red 加群という.η : ΛS Ñ Λred S を ηpTi q “ T なる準同型とし,η を通し,ΛS red を ΛS -加群とみなすと,Ared S “ AS bΛS ΛS . μ ˆpIq を S の l-進 Milnor 数とする (6.4).
定義 8.3.1
S の ΛS 上の普遍まつわり行列 QS “ pQS pijqq1ďi,jďr を次で
定義する:
QS pijq $ ÿ ÿ ’ Ti´1 pp1 ` Ti qpi ´1 ´ 1q ´ μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in iqTi1 ¨ ¨ ¨ Tin ’ ’ ’ ’ ně1 1ďi ,...,i ďr 1 n ’ ’ in ‰i ’ & pi “ jq, “ ÿ ÿ ’ ’ μ ˆ pjiqT ` μ ˆ pi ¨ ¨ ¨ i jiqT T ¨ ¨ ¨ T i 1 n i i1 in ’ ’ ’ ’ ně1 1ďi1 ,...,in ďr ’ ’ % pi ‰ jq. ˆ r Ñ ΛS における像)と ここで,右辺のべき級数は,ΛS の元(自然な写像 Λ red みなす.また,S の Λred S 上の被約普遍まつわり行列を QS :“ ηpQS q によ
り定義する. 定理 8.3.2 ([M12]) QS は AS の ΛS 上の表現行列を与える: Q
S pΛS qr ÝÑ pΛS qr ÝÑ AS ÝÑ 0 (完全).
red red Qred S は AS の ΛS 上の表現行列を与える. red ˆ 証明 Ared S “ AS bΛS ΛS より,前半を示せば十分.F plq を x1 , . . . , xr に
より生成される自由副-l 群, π : Fˆ plq Ñ GS plq を自然な準同型とする.系
7.3.7 より,
142
第 8 章 ホモロジー群とイデアル類群 II
´ Bxpi ´1 rx , y s ¯ i i i “ QS pijq pψ ˝ πq Bxj p ´1
を示せばよい.命題 6.3.3 (3) 及び pψ ˝ πqpxi i
q “ p1 ` Ti qpi ´1 “ 1 P ΛS
より,
´ Bxpi ´1 ¯ ´ Brx , y s ¯ ´ Bxpi ´1 rx , y s ¯ i i i i i i “ pψ˝πq `pψ˝πq . Bxj Bxj Bxj
p8.3.2.1q pψ˝πq
右辺の第 1 項については,
Bxpi i ´1 xpi ´1 ´ 1 Bxi “ i Bxj xi ´ 1 Bxj より,
´ Bxpi ´1 ¯ i “ Ti´1 pp1 ` Ti qpi ´1 ´ 1qδij . pψ ˝ πq Bxj
p8.3.2.2q
第 2 項は,定理 8.1.2 の証明中の計算と同様に,
(8.3.2.3) ´ Brx , y s ¯ i i pψ ˝ πq Bxj ÿ ÿ “ ´δij ně1 1ďi1 ,...,in ďr
`μ ˆpjiqTi `
ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in iqTi1 ¨ ¨ ¨ Tin ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in jiqTi Ti1 ¨ ¨ ¨ Tin .
ně1 1ďi1 ,...,in ďr
˝
(8.3.2.1)–(8.3.2.3) より,主張を得る.
自然数 d ě 2 に対し,S の ΛS 上の d 番項切まつわり行列 pdq pdq QS “ pQS pijqq を次で定義する: $ d´1 ÿ ÿ ’ ’ ’ ´ μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in iqTi1 ¨ ¨ ¨ Tin pi “ jq, ’ ’ ’ & n“1 1ďi1 ,...,in ďr pdq in ‰i QS pijq “ ’ d´2 ’ ÿ ÿ ’ ’ ’ μ ˆ pjiqT ` μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in jiqTi Ti1 ¨ ¨ ¨ Tin pi ‰ jq. ’ i % 定義 8.3.3
n“1 1ďi1 ,...,in ďr
red,pdq
また,S の Λred S 上の d 番項切被約まつわり行列を QS
pdq
:“ ηpQS q に
より定義する. 例 8.3.4
red,p2q
d “ 2 のとき,QS
“ T ¨ CS .ここで,CS “ pCL pijqq は,
8.4 素数たちの高次種の理論
CS pijq :“
$ ÿ μ ˆpjiq i “ j のとき, &´ %
143
j‰i
μ ˆpjiq
i ‰ j のとき
により定義される.CS を S の(l-進)まつわり行列と呼ぶ.
8.4 素数たちの高次種の理論 K を ψ red : GS plq Ñ Z{mZ の核 N に対応する QS plq{Q の部分体 とする.1 mod m に対応する GalpK{Qq の生成元 τ と 1 ` T を同一視 し,Zl rGalpK{Qqs “ Λred とみなす.k を K{Q の次数 l の部分体とし, S Galpk{Qq の生成元 τ |k も τ と表す.M を QS {K の最大 Abel 部分体とす る:Nab “ GalpM {Kq とおく.g P GalpK{Qq に対し,g˜ を g の GalpM {Qq への延長とすると,内部自己同型 xg :“ g˜x˜ g ´1 (x P Nab ) により,GalpK{Qq ` ab は N に作用する.Lk を k の狭義 Hilbert l-類体(k のすべての有限素点が 不分岐であるような k の最大 Abel l-拡大),H ` pkqplq を k の狭義イデアル ` 類群の l-Sylow 部分群とする.Artin の相互律より,GalpL` k {kq » H pkqplq (例 0.3.3.8, 4.1).
5.2 節のように,pj 上の QS plq の素点 pj を定める.Ij “ Ij pM {kq を pj |M の M {k における惰性群とする(1 ď j ď r). sj :“ τj |M とおくと,Ij は slj で生成される.L` k は S 上不分岐な M {k の最大 Abel 部分拡大なので, p8.4.1q
H ` pkqplq » GalpL` k {kq » GalpM {kq{xGalpM {kqp2q , Ij p1 ď j ď rqy.
sj |K “ s1 |K “ τ より,sj “ uj s1 , uj P Nab (1 ď j ď r) と書ける.但し,
144
第 8 章 ホモロジー群とイデアル類群 II
u1 “ 1 とする.以下,νl ptq :“ 1 ` t ` ¨ ¨ ¨ ` tl´1 とおく. 補題 8.4.2
ν pτ q l s1
GalpM {kq “ Nab Ij , slj “ uj l
(1 ď j ď r).
sj |K “ τ , Ij “ xslj y より,合成 Ij ãÑ GalpM {kq Ñ GalpM {kq{Nab “ GalpK{kq “ xτ l y は全射.これより,前半が従う.後半は次の通り: 証明
slj “ puj s1 ql ´pl´1q l s1
l´1 2 “ uj s1 uj s´1 1 s1 ¨ ¨ ¨ s1 uj s1 sl´1
“ uj usj 1 ¨ ¨ ¨ uj 1 sl1 ν pτ q l s1 .
“ uj l
˝ 補題 8.4.3
GalpM {kqp2q “ pτ l ´ 1qNab .
任意の a, b P GalpM {kq をとる.a “ αx, b “ βy, x, y P Nab ,
証明
α “ τ˜ , β “ τ˜lj ,と書ける.但し,τ˜l は τ l の GalpM {kq への延長.この li
とき,
ra, bs “ αxβyx´1 α´1 y ´1 β ´1 “ xα pyx´1 qαβ αβα´1 y ´1 β ´1 “ pxα q1´β py β qα´1 . ここで,β “ 1, α “ τ˜l とすると,任意の y P Nab に対し,y τ˜
l
´1
“ ra, bs. よって,pτ ´1qN Ă GalpM {kq .一方,1´β “ 1´ τ˜ “ p1´ τ˜l qνj p˜ τ lq より,pxα q1´β P pτ l ´ 1qNab .同様に,py β qα´1 P pτ l ´ 1qNab .従って, ra, bs P pτ l ´ 1qNab .よって,GalpM {kqp2q Ă pτ l ´ 1qNab . ˝ l
ab
p2q
lj
tr : H ` pQq Ñ H ` pkq をイデアルの拡張による自然な準同型とすると, ˆ :“ Zl rGalpk{Qqs{ tr ˝Nk{Q “ νl pτ q で,H ` pQq “ 1 なので,H ` pkqplq は O red pνl pτ qq “ ΛS {pνl p1 ` T qq 上の加群とみなされる.1 の原始 l 乗根 ζ pP Qq ˆ は完備離散付値環 Zl rζs と同一視 を 1 つ決めると,対応 τ ÞÑ ζ により,O ˆ の極大イデアルは p は “ ζ ´ 1 で生成され,O{p ˆ “ Fl . される.O ˆ 加群として,次の同型が成り立つ: 定理 8.4.4 ([M12]) ONab {νl pτ qNab » H ` pkqplq. 証明
ˆ 同型が成り立つ: (8.4.1),補題 8.4.2, 8.4.3 より,次の O-
8.4 素数たちの高次種の理論
p8.4.4.1q
M
ab GalpL` k {kq» N I1 pM {kq
ν pτ q l s1 p1
xτ l ´ 1qNab , uj l
145
ď j ď rqy
» Nab {νl pτ qxpτ ´ 1qNab , uj p2 ď j ď rqy. k を Q に置き換えると,同様に, 1 “ H ` pQqplq “ Nab {xpτ ´ 1qNab ,
p8.4.4.2q
uj p2 ď j ď rqy. ˝
(8.4.4.1), (8.4.4.2) より,主張を得る. 定理 8.4.5
ˆ 加群の同型 Ored red ˆ ˆ » H ` pkqplq ‘ O Ared O S {νl pτ qAS “ AS bΛred S
が成り立つ. 証明 完備 Crowell 完全系列(定理 7.4.2)より,Λred S -加群の完全系列 θ
θ
2 1 0 ÝÑ Nab ÝÑ Ared ÝÑ 0 S ÝÑ IΛred S
ˆ をとると,定理 8.4.4 より,次の Oˆ 加群の完 が成り立つ.ここで,bΛred O S 全系列を得る: δ ˆ ÝÑ ˆ ÝÑ IΛred bΛred O ˆ ÝÑ 0. Tor1 pIΛred , Oq H ` pkqplq ÝÑ Ared O S bΛred S S S S
ˆ “ Λred {pνl pτ qq ξ :“ pτ m ´ 1q{νl pτ q “ pp1 ` T qm ´ 1q{νl p1 ` T q とおき,O S の巡回的 Λred 自由分解 S νl pτ q
ξ
ξ
νl pτ q
red red red ˆ ¨ ¨ ¨ ÝÑ Λred S ÝÑ ΛS ÝÑ ΛS ÝÑ ΛS ÝÑ O ÝÑ 0
を考える.これより,
ˆ “ O, ˆ IΛred bΛred O S S ˆ “ ξΛred , Oq » Λred Tor1 pIΛred S {ξIΛred S {pτ ´ 1, νl pτ qq » Fl S S を得る.2 番目の同型で ξ mod ξIΛred と 1 mod l が対応している.さら S
m red に,θ1 pτ1m ´ 1q “ νl pτ qξ, θ2 psm 1 q “ τ1 ´ 1(ここで,AS “ IZl rrGS plqss {
IZl rrNss IZl rrGS plqss と同一視した)より, ˆ Ñ Nab {νl pτ qNab » H ` pkqplq δ : Fl » Tor1 pIΛred , Oq S ab における 1 mod l の像は sm 1 mod νl pτ qN .しかるに,定理 8.4.4 の証明
中の同型 „
ν pτ q l s1 p1
Nab {νl pτ qNab Ñ GalpM {kq{xpτ l ´ 1qNab , uj l
ď j ď rqy
146
第 8 章 ホモロジー群とイデアル類群 II
ab ˆ 加群 における sm の像は 0 なので,δ は 0 写像.従って,O1 mod νl pτ qN
の完全系列 red ˆ 0 ÝÑ H ` pkqplq ÝÑ Ared S {νl pτ qAS ÝÑ O ÝÑ 0
˝
を得る.これより,主張は従う. さて,種の理論より,次が従う. 補題 8.4.6 証明
dimFl H ` pkqplq bOˆ Fl “ r ´ 1.
定理 4.3.1 より,
H ` pkq{pτ ´ 1qH ` pkq » Fr´1 . l ˆ ここで,左辺 “ H ` pkqplq bOˆ O{pζ ´ 1q » H ` pkqplq bOˆ Fl なので,主張
˝
を得る.
ˆ 加群として, 補題 8.4.6 より,OH ` pkqplq “
r´1 à
ˆ ai O{p
pai ě 1q
i“1
ˆ 加群としての構造を決めることは,各自 と表せる.よって,H ` pkqplq の O然数 d ě 2 に対して,pd -ランク
ed :“ #ti | ai ě du red,pdq
において T “ とおいた行 ˆ 上の被約普遍まつわり行列,O ˆ 上の d 番項 pq を O red 切被約まつわり行列 という.ここで,QS piiq の定義における項 T ´1 pp1 ` T qpi ´1 ´1q は T “ とおくと 0 になることに注意する.従って,Qred S pq “ red,pdq limdÑ8 QS pq. 定理 8.3.2 と定理 8.4.5 より,定理 8.2.3, 8.2.4,系 8.2.5 の証明と同様にし を決めることと同値である.Qred S , QS red,pdq
列 Qred S pq, QS
て,次を得る. ` ˆ ˆ 定理 8.4.7 ([M12]) Qred S pq は H pkqplq ‘ O の O 上の表現行列を与え red,pdq
る.d ě 2 に対し,QS
ˆ d の O{p ˆ d 上の表現 pq は H ` pkqplq{pd ‘ O{p
行列を与える. red,pdq
定理 8.4.8 ([M12]) d ě 2 に対し,QS pdq
pdq
pdq
pdq
εr´1 , εr “ 0, εi |εi`1 とする.このとき,
pdq
pq の単因子を ε1 , . . . ,
8.4 素数たちの高次種の理論 pdq
ed “ #ti | 1 ď i ď r, εi
147
” 0 mod pd u ´ 1.
特に,d “ 2 のとき,次の R´ edei の定理([Rd], l “ 2 の場合)が従う. 系 8.4.9
d “ 2 に対し,次が成り立つ: e2 “ r ´ 1 ´ rankFl pCS mod lq.
但し,CS は S のまつわり行列を表す(例 8.3.4). 特に,r “ 2 のときは,
ˆ a H ` pkqplq “ O{p
pa ě 1q
となり,ed “ 0 または 1 である. 系 8.4.10
r “ 2 とする.d ě 1 に対し,ed “ 1 と仮定する.このとき,
次が成り立つ:
ed`1 “ 1 ðñ
$ d ÿ ’ ’ ’ ’ &
ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in´1 21qn ” 0 mod pd`1 ,
n“1 i1 ,...,in´1 “1,2
d ÿ ’ ’ ’ ’ %
ÿ
μ ˆpi1 ¨ ¨ ¨ in´1 12qn ” 0 mod pd`1 .
n“1 i1 ,...,in´1 “1,2 red,pdq
任意の d ě 1 に対し,QS
red,pdq
p11qpq, “ に注意して,あとは系 8.2.6 の証明 と同様. ˝ ? 例 8.4.11 l “ 2, r “ 3, pp1 , p2 , p3 q “ p13, 41, 937q, k “ Qp 13 ¨ 41 ¨ 937q 証明
red,pdq QS p21qpq
p12qpq “ ´QS
red,pdq ´QS p22qpq
とする.このとき,
#
p1 ď i, j ď 3q, μ2 pijq “ 0 μ2 pijkq “ 1 (ijk は 123 の置換),
μ2 pijkq “ 0 (その他) ppi ´1q{4
が成り立つ(例 6.4.4).さらに,i ‰ j のとき,pj で,μ4 pijq “
red,p2q 0.これより,QS p´2q
¨ 0 ˚ red,p3q p´2q ” ˝4 QS 4
4 0 4
” O3 ˛ ¨ 4 4 ‹ ˚ 4‚ „ ˝0 0 0
” 1 mod pi なの
mod 4 p “ ´2q, ˛ 0 0 ‹ 4 0‚ mod 8. 0 0
従って,e2 “ 2, e3 “ 0.よって,H ` pkqp2q » Z{4Z ‘ Z{4Z.
148
第 8 章 ホモロジー群とイデアル類群 II
8.1 節,8.2 節は整数論的な方法の結び目理論への応用であり,8.3 節,8.4 節 は結び目理論的な考え方の整数論への応用と言える.
■まとめ À ˆ ai H1 pM qplq “ r´1 i“1 O{p d p -ランクの Milnor 数
絡み目の高次種の理論
À ˆ ai H ` pkqplq “ r´1 i“1 O{p d p -ランクの l-進 Milnor 数
素数たちの高次種の理論
による記述
による記述
ୈ
9 ষ ϗϞϩδʔͱ܈ΠσΞϧྨ ܈III —– ۙެࣜ
第 7 章でみたように,結び目補空間の無限巡回被覆に付随する結び目加群 と代数体の Zp -拡大に付随する岩澤加群の間には群論的な類似性がある.こ れに基づき,Alexander–Fox 理論と岩澤理論の間には並行性が見られる.こ の章では,この類似性の帰結として,部分巡回分岐被覆(部分巡回拡大)のホ モロジー群(p-イデアル類群)の位数について漸近公式を示す.第 8 章まで は主に,GS pkq “ π1 pSpecpOk qzSq の従順な分岐をもつ商を扱ったが,この 章以降, GS pkq の野生的分岐をもつ商を扱い,結び目群との類似を考察する. 岩澤理論についての参考文献として,[KKS,第 10 章], [Ws] を挙げる.
9.1 Alexander 多項式とホモロジー群 K を有理ホモロジー球面 M 内の結び目とする.α を K のメリディアン, XK :“ M zintpVK q を結び目補空間とし,GK “ π1 pXK q とおく.以下,K はヌルホモロガス,すなわち,ある有向曲面 Σ Ă M があり,BΣ “ K と仮 定する.このとき,
H1 pXK q » xrαsy ‘ H1 pM q,
xrαsy » Z.
実際,1-サイクル c P Z1 pXK q と Σ との(符号付き)交点数を ϕpcq とすると,
ϕ : H1 pXK q Ñ Z は全射準同型で,ϕpαq “ 1.従って,H1 pXK q “ xrαsy ‘ Kerpϕq, xrαsy » Z.相対ホモロジー完全系列と切除定理より,H1 pXK q » xrαsy ‘ H1 pXK , BVK q » xrαsy ‘ H1 pM, VK q » xrαsy ‘ H1 pM q.よって, Kerpϕq » H1 pM q. 自然な射影 ψ : GK Ñ H1 pXK q Ñ xrαsy “ Z の核に対応する XK の無 限巡回被覆を X8 とし,1 P Z に対応する GalpX8 {XK q の生成元を τ と する.Λ :“ Zrt˘1 s “ ZrGalpX8 {XK qs pt Ø τ q とおく.自然数 n に対し, X8 Ñ XK の n 次巡回部分被覆空間を Xn , Xn の Fox 完備化を Mn と
150
第 9 章 ホモロジー群とイデアル類群 III
する.
命題 9.1.1
次が成り立つ:
H1 pMn q » H1 pX8 q{ptn ´ 1qH1 pX8 q pn ě 1q. 証明
tn ´1
Wang 完全系列 H1 pX8 q Ñ H1 pX8 q Ñ H1 pXn q Ñ Z Ñ 0 より, H1 pXn q » H1 pX8 q{ptn ´ 1qH1 pX8 q ‘ Z.
ここで,1 P Z は rαn s の Xn への持ち上げ rα ˜ n s に対応する(αn の
GalpXn{XK q » Z{nZ における像が 0 なので,Xn へ持ち上がる).H1 pMn q “ H1 pXn q{xr˜ αn sy なので,主張を得る. ˝ GK “ xx1 , . . . , xm | R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rm´1 “ 1y を GK の群表示とし(例 0.1.6),π : F px1 , . . . , xm q Ñ GK を自然な準同型とする.ψ-微分加群を K の Alexander 加群といい,AK と表す.QK :“ ppψ ˝ πqpBRi {Bxj qq は Λ-加 群 AK の表現行列を与える(系 7.1.7).Crowell 完全系列(定理 7.2.2)より, AK » H1 pX8 q‘Λ(Λ-同型)なので, (必要なら基本変形して)QK “ pQ1 |0q としてよい.ここで,Q1 は Λ-加群 H1 pX8 q の表現行列を与える. H1 pX8 q は有限生成ねじれ Λ-加群である.また,E0 pH1 pX8 qq “ pdetpQ1 qq, Δ0 pH1 pX8 qq “ detpQ1 qp‰ 0q.
命題 9.1.2
H1 pX8 q “ Λm´1 {Q1 pΛm´1 q より,H1 pX8 q は有限生成 Λ-加群. rankΛ H1 pX8 q ě 1 とすると,命題 9.1.1 と Λ{pt ´ 1qΛ » Z より, rankZ H1 pM q ě 1.これは矛盾.後半も明らか. ˝ 証明
ΔK :“ Δ0 pH1 pX8 qq “ detpQ1 q とおき,K の Alexander 多項式という. ΔK は Λˆ の元倍を除き決まる.ΛQ :“ Λ bZ Q “ Qrt˘1 s は単項イデアル 整域なので,
H1 pX8 q bZ Q »
s à i“1
ΛQ {pfi q,
fi P ΛQ
9.1 Alexander 多項式とホモロジー群
151
と書ける.ここで,τ は右辺に t 倍で作用するので, 1 p9.1.3q ΔK ptq “ f1 ¨ ¨ ¨ fs “ detpt ¨ id ´ τ | H1 pX8 q bZ Qq mod Λˆ Q .
特に,M がホモロジー球面のときは,命題 9.1.1 と次の補題 9.1.4 より,
ΔK p1q “ ˘1 なので,ΔK ptq と detpt id ´ τ | H1 pX8 q bZ Qq は mod Λˆ で等しい. 次に,代数的補題を用意する.証明については,[Hl, Theorem 3.13] を参 照されたい.
N を有限生成ねじれ Λ-加群, E0 pN q “ pΔq とする.定数で ない f ptq P Zrts に対し,N {f ptqN がねじれ Abel 群であるための条件は, f ptq “ 0 の任意の根 ξ P Q に対し,Δpξq ‰ 0 となることである.さらに, śn f ptq “ ˘ j“1 pt ´ ξj q と分解されるなら, 補題 9.1.4
#pN {f ptqN q “
n ź
|Δpξj q|
j“1
が成り立つ.
gptq “ c0 td ` ¨ ¨ ¨ ` cd P Zrts (c0 ‰ 0, d ě 1) に対し,gptq の Mahler 測度 mpgq を ´ż 1 ¯ ? mpgq :“ exp log |gpe2π ´1x q| dx 0
śd により定義する.gptq “ c0 i“1 pt ´ θi q とすると,Jensen の公式([Fm, śd 命題 5.29])より,mpgq “ c0 i“1 maxp|θi |, 1q. ΔK ptq “ 0 の任意の根は 1 のべき根でないと仮定する.このと き,すべての Mn は有理ホモロジー球面で,
定理 9.1.5
lim
nÑ8
1 log #H1 pMn q “ log mpΔK q. n
証明 命題 9.1.1,補題 9.1.4 と仮定より,すべての H1 pMn q は有限で,
#H1 pMn q “
n´1 ź
|ΔK pe2π
?
´1j{n
q|.
j“0
よって, 1
a ” b mod Rˆ とは,ある u P Rˆ が存在し,b “ au となることを意味する.
152
第 9 章 ホモロジー群とイデアル類群 III ? 1 1 ÿ log |ΔK pe2π ´1j{n q| log #H1 pMn q “ lim nÑ8 n nÑ8 n j“0 ż1 ? “ log |ΔK pe2π ´1x q| dx n´1
lim
0
“ log mpΔK q. ˝ 注意 9.1.6
定理 9.1.5 の漸近公式は,M がホモロジー球面のとき,[GoS],
[No2] で示された.絡み目の分岐被覆のホモロジーへの拡張及び 9.2 節で述 べる岩澤類数公式型の漸近公式については,[HMM], [KaM], [SW] を参照さ れたい. 例 9.1.7
K Ă S 3 を 8 の字結び目 Bp5, 3q とする(図 9.1).
図 9.1
´1 ´1 ´1 GK の群表示 xx1 , x2 |x2 x´1 1 x2 x1 x2 “ x1 x2 x1 x2 x1 y を用いて,ΔK “ t2 ´ 3t ` 1 を得る.従って, ? 1 3` 5 lim log #H1 pMn q “ log mpΔK q “ log . nÑ8 n 2
9.2 岩澤多項式と p-イデアル類群 k を有限次代数体とし,素数 p を固定する.k8 を k の円分 Zp -拡大とす る(例 0.3.3.10).以下,拡大 k8 {k において,k の唯一つの素イデアル p が分岐し,かつ完全分岐する,と仮定する.類体論より,p は p 上の素イデ アルであることに注意する.以下,μpd で 1 の pd 乗根のなす群を表す.仮
153
9.2 岩澤多項式と p-イデアル類群
定を満たす k としては,k “ Qpμpd q やその部分体がある. 整数 n ě 0 に対し,kn を k8 {k の pn 次巡回部分拡大とし,Hn を kn の イデアル類群の p-Sylow 部分群とする:Hn :“ Hpkn qppq.Ln を kn の最大 不分岐 Abel p-拡大(Hilbert p-類体)とすると,不分岐類体論より,次の同 型が成り立つ(例 0.3.3.8, 4.1.2) :
ϕn : Hn » GalpLn {kn q; ϕn prasq “ σa . n ě m に対し,Nn{m : Hn Ñ Hm をノルム写像とすると,次は可換図式で ある: ϕ
p9.2.1q
Hn ÝÝÝnÝÑ GalpLn {kn q § § § § Nn{m đ đ ϕ
Hm ÝÝÝmÝÑ GalpLm {km q ここで,右縦の写像は自然な制限写像である.tHn uně0 はノルム写像に関し 射影系をなし,その射影極限を H8 :“ limn Hn とおく.L8 :“
ÐÝ
Ť
ně0
Ln
とおくと,(9.2.1) より,次の副-p Abel 群の同型を得る:
ϕ8 : H8 » GalpL8 {k8 q. Ln は kn の最大な不分岐 Abel p-拡大なので,Ln は k 上の Galois 拡大, 従って,L8 {k は Galois 拡大である.
˜p を L8 の p 上の素イデアルとし,Ip を ˜ p の惰性群とする.仮定より,Ip » GalpL8 {kq{GalpL8 {k8 q » Galpk8 {kq.Galpk8 {kq の位相的生成元 γ を決 ˆ :“ Zp rrT ss と Zp rrGalpk8 {kqss を同一視す める.対応 γ Ø 1 ` T より,Λ る.自然な準同型 ψ : GalpL8 {kq Ñ Galpk8 {kq » Zp に対し,GalpL8 {k8 q は例 7.4.3 の意味で,岩澤加群(ψ-Galois 加群)である.g P Galpk8 {kq は
154
第 9 章 ホモロジー群とイデアル類群 III
内部自己同型により,GalpL8 {k8 q に作用する:gpxq “ g˜ ˝ x ˝ g˜´1 (但し,
ˆ は自然に H8 へ作用するが,ϕ8 g˜ は g の GalpL8 {kq への延長).一方,Λ はこれらの作用と可換である.次は,結び目の場合の命題 9.1.1 に対応する 命題である. 命題 9.2.2
次が成り立つ: n
Hn » H8 {pp1 ` T qp ´ 1qH8 pn ě 0q. 証明
pn
まず,Hn » GalpLn {kn q » GalpL8 {kn q{GalpL8 {Ln q.次に,Ip »
Galpk8 {kn q に注意すると, n
n
GalpL8 {kn q “ GalpL8 {k8 q ¨ Ipp , GalpL8 {Ln q “ xGalpL8 {kn qp2q , Ipp y. また,定理 8.4.3 と同様にして,
GalpL8 {kn qp2q “ pγ p ´ 1qGalpL8 {k8 q n
が示される.よって, n
n
n
Hn » GalpL8 {k8 qIpp {xpγ p ´ 1qGalpL8 {k8 q, Ipp y n
» GalpL8 {k8 q{pγ p ´ 1qGalpL8 {k8 q n
» H8 {pp1 ` T qp ´ 1qH8 . ˝ ˆ ˆ 次に,岩澤代数 Λ 及び Λ-加群の構造に関する代数的補題を用意する.gpT q P Zp rT s は,gpT q “ T λ ` c1 T λ´1 ` ¨ ¨ ¨ ` cλ , c1 , . . . , cλ ” 0 mod p,の形の とき,Weierstrass 多項式という(λ “ 0 のとき,Weierstrass 多項式は 1 n と約束する).例えば,p1 ` T qp ´ 1 pn ě 0q は Weierstrass 多項式である. 補題 9.2.3
ˆ は, (1) g を次数 λpě 1q の Weierstrass 多項式とする.任意の f P Λ f “ qg ` r,
ˆ r P Zp rT s, degprq ď λ ´ 1 q P Λ,
の形に一意的に書ける.
ˆ は, (2) (p-進 Weierstrass 準備定理)任意の f pT qp‰ 0q P Λ f pT q “ pμ gpT qupT q, ˆˆ μ P Zě0 , gpT q は Weierstrass 多項式,upT q P Λ
9.2 岩澤多項式と p-イデアル類群
155
と一意的に表すことができる.f から一意的に決まる μ “ μpf q, λ “
λpf q :“ degpgq を各々 f の μ-不変量,λ-不変量という. 補題 9.2.3 の証明については,[NSW, 5.3.1, 5.3.4] を参照されたい.
ˆ 加群 N, N1 に対し,ある Λˆ 準同型 ϕ : N Ñ N1 で,Kerpϕq, 2 つの ΛCokerpϕq が有限となるものが存在するとき,N と N1 は擬同型である (pseudo-isomorphic) といい,N „ N1 と書く. 補題 9.2.4
ˆ 加群とする. N をコンパクト Λ-
ˆ 加群であるための条件は,N{pp, T qN (1) (中山の補題) N が有限生成 Λが有限となることである.
ˆ 加群とすると, (2) N を有限生成 Λˆr ‘ N„Λ
s à
ˆ mi q ‘ Λ{pp
i“1
t à
ei ˆ Λ{pf i q.
i“1
ここで,r は 0 以上の整数,mi , ei は自然数,fi は既約な Weierstrass 多項式. 補題 9.2.4 の証明については,[NSW, 5.2.8, 5.3.8] を参照されたい.
ˆ 加群とする.補題 9.2.4 (2) より, N を有限生成ねじれ ΛN„
s à
ˆ mi q ‘ Λ{pp
i“1
śs
t à
ei ˆ Λ{pf i q.
i“1
śt mi
ei ˆ f :“ i“1 p i“1 fi で生成されるイデアルは Λ-加群 N のみで決まり, ˆ ˆ で N から決まり,N の岩澤 N の特性イデアルと呼ばれる.f は,mod Λ ˆ 加群をもたないとき,特性イデ 多項式と呼ばれる.N が非自明な有限部分 Λアルは 0 番基本イデアル E0 pNq と等しく,f “ Δ0 pNq となる ([Ws, p.299, ˆ Q :“ Λ ˆ bZ Qp “ Qp rrT ss とおくと, Ex.(3)], [MW, Appendix]). Λ p p
N bZp Qp »
t à
ˆ Q {pf ei q Λ p i
i“1
となり,γ ´ 1 は右辺に T 倍で作用するので,
ˆ Q qˆ f “ detpT ¨ id ´ pγ ´ 1q | N bZp Qp q mod pΛ p řt řs また,μpf q :“ i“1 mi , λpf q :“ i“1 degpfiei q も N により一意的にきま p9.2.5q
156
第 9 章 ホモロジー群とイデアル類群 III
る量で,各々 N の μ-不変量,λ-不変量と呼ばれ,μpNq, λpNq と書かれる.
ˆ ˆ で等しい. μpNq “ 0 なら,f と detpT id ´ pγ ´ 1q | N bZp Qp q は mod Λ 命題 9.2.6
ˆ 加群である. H8 は有限生成ねじれ Λ-
証明 イデアル類群の有限性 (0.2.14) より,Hn は有限.よって,命題 9.2.2
ˆ 加群.H8 がねじれ Λˆ 加群でない と命題 9.2.4 (1) より,H8 は有限生成 Λˆ r ‘ ¨ ¨ ¨ , r ě 1. Λ{T ˆ Λ ˆ » Zp は無限なので,命題 9.2.2 とすると,H8 „ Λ ˝
に矛盾. 結び目の場合の定理 9.1.5 に対応して,次の漸近公式が成り立つ.
定理 9.2.7(岩澤類数公式) μ “ μpH8 q, λ “ λpH8 q とおく.十分大きな
n に対し, logp #Hn “ μpn ` λn ` ν が成り立つ.但し,ν は n によらない定数. 証明 補題 9.2.4 (2) と命題 9.2.6 より,
H8 „ E :“
s à
ˆ mi q ‘ Λ{pp
i“1
t à
ei ˆ Λ{pf i q.
i“1
但し,mi , ei は自然数,fi は既約な Weierstrass 多項式.これより,n によ らないある定数 c があり,
p9.2.7.1q
n
n
#pH8 {pp1 ` T qp ´ 1qH8 q “ pc #pE{pp1 ` T qp ´ 1qEq
ˆ m q のとき: が成り立つことが示される ([Ws, p.284]). E “ Λ{pp n
n
#pE{pp1 ` T qp ´ 1qEq “ #pZ{pm ZrT s{pp1 ` T qp ´ 1qq pn
“ ppm qdegpp1`T q
(9.2.7.2)
´1q
n
“ pmp . ˆ E “ Λ{pgq (g は Weierstrass 多項式,degpgq ě 1) のとき: n
n
#pE{pp1 ` T qp ´ 1qEq “ #pZp rT s{pg, p1 ` T qp ´ 1qq ź “ |gpζ ´ 1q|´1 p . ζ pn “1 p ここで,| ¨ |p は |p|´1 ´ 1qE の有 p “ p なる p-進乗法付値(E{pp1 ` T q n
限性から,任意の 1 の pn 乗根 ζ に対し,gpζ ´ 1q ‰ 0 となることに注
9.2 岩澤多項式と p-イデアル類群
157
意).vp を p-進加法付値 (|x|p “ p´vp pxq ), gpT q “ T d ` a1 T d´1 ` ¨ ¨ ¨ ` ad ,
ai ” 0 mod p,とする.n が十分大きいとき,1 の原始 pn 乗根 ζ に対し, vp ppζ ´ 1qd q ă vp ppq より,vp pgpζ ´ 1qq “ vp ppζ ´ 1qd q.従って,n が十分 大きいとき,
vp
ˆ ź ˙ ¯ d gpζ ´ 1q “ vp pζ ´ 1q ` C
´ ź
n
ζ pn “1
ζ p “1 ζ‰1
“ vp ppnd q ` C “ nd ` C. ここで,C は n によらないある定数.よって, n
p9.2.7.3q #pE{pp1 ` T qp ´ 1qEq “ pnd`C . řs řt μ “ i“1 mi , λ “ i“1 degpfiei q と (9.2.7.1)–(9.2.7.3) より,求める漸近 式が従う. ˝ ˆ 加群 H8 ,従って,μpH8 q, λpH8 q は k と p のみで決まる Λ量である.k が Q 上の Abel 拡大のとき,μpH8 q “ 0 が知られている ([Ws, 7.5]). Ť 例 9.2.9 k “ Qpμp q とする.このとき,k8 “ Qpμp8 q, μp8 “ dě1 μpd , となり,仮定が満たされる.注意 9.2.8 より, 注意 9.2.8
logp #Hn “ λn ` ν
pn " 0q.
Qpζ ` ζ ´1 q の類数が p で割れない(Vandiver 予想)と仮定すると, ź #Hn “ |f pζ ´ 1q|´1 p ζ pn “1
がすべての n ě 1 に対して成り立つことが知られている ([Ws, Theo-
rem10.16]).但し,f pT q は H8 の岩澤多項式.
158
第 9 章 ホモロジー群とイデアル類群 III
■まとめ 無限巡回被覆 X8 Ñ XK GalpX8 {XK q “ xτ y » Z 結び目加群 H1 pX8 q Alexander 多項式 detpt ¨ id ´ τ | H1 pX8 q bZ Qq #H1 pMn q の漸近公式
円分 Zp -拡大 k8 {k Galpk8 {kq “ xγy » Zp 岩澤加群 H8 岩澤多項式
detpT ¨ id ´ pγ ´ 1q | H8 bZp Qp q #Hpkn qppq の岩澤類数公式
ୈ
10 ষ τʔγϣϯͱؠᖒओ༧
岩澤主予想とは,代数的に定義された岩澤多項式が久保田–Leopoldt の p進解析的ゼータ関数に一致するというものである.これは,p-進ゼータ関数 の行列式表示ともみれ,元々合同ゼータ関数に対する Weil–Grothendieck の 行列式表示の類似として予想された関係である.7, 9 章でみた Alexander 多 項式と岩澤多項式の類似によれば,岩澤主予想の結び目理論における類似は, 別の由来をもつゼータ関数と Alexander 多項式との関係と言える.Milnor
([Ml2]) が指摘したように,これは結び目補空間の無限巡回被覆に付随する Lefschetz ゼータ関数と Reidemeister–Milnor トーションの関係とみること ができる.ゼータ関数として Ray–Singer のスペクトラルゼータ関数をとれ ば,解析的トーションと Reidemeister トーションの関係ともみることがで きる.
10.1 トーションとゼータ関数 V を体 F 上の n 次元ベクトル空間とする.V の 2 つの基底 b “ pb1 , . . . , bn q, řn c “ pc1 , . . . , cn q に対し,bi “ j“1 aij cj とするとき,rb{cs :“ detpaij q P F ˆ と定義する. B
Bm´1
B
B
m 2 1 C : 0 Ñ Cm ÝÑ Cm´1 ÝÑ ¨ ¨ ¨ ÝÑ C1 ÝÑ C0 Ñ 0
を F 上の基底付き有限次元ベクトル空間からなる非輪状複体とし,各 Ci の 与えられた基底を ci とする.Bi :“ ImpBi`1 q “ KerpBi q の基底 bi を 1 つ 選ぶ.短完全系列 B
i 0 ÝÑ Bi ÝÑ Ci ÝÑ Bi´1 ÝÑ 0
˜i´1 q は Ci の基底を与 ˜i´1 の組 pbi , b より,bi と bi´1 の Ci への持ち上げ b える.但し,b´1 は空とする.このとき,C のトーションを
160
第 10 章
トーションと岩澤主予想
τ pCq :“
m ź
˜i´1 q{ci sp´1qi`1 rpbi , b
i“0
˜i´1 のとり方によらない.次に,R を Noether により定義する.τ pCq は bi ,b 一意分解整域とし, B
Bm´1
B
B
m 2 1 D : 0 ÝÑ Dm Ñ Dm´1 ÝÑ ¨ ¨ ¨ ÝÑ D1 ÝÑ D0 Ñ 0
を 有限階数の自由 R-加群からなる複体で,任意の i に対し,ホモロジー群
Hi pDq はねじれ R-加群であると仮定する.Δi :“ Δ0 pHi pDqq とし,F を R の商体とするとき,D のホモロジートーションを τ h pDq :“
m ź
p´1qi`1
Δi
pP F q
i“0
により定義する.τ h pDq は mod Rˆ で決まる.各 Di の R-基底 di を与え,
C :“ D bR F とおくと,C は F 上の基点付きベクトル空間の非輪状複体を なすので,トーション τ pCq が定義される.このとき,次が成り立つ.証明 は,[Hl, Theorem 3.1.5] を参照されたい. 補題 10.1.1
τ pCq “ τ h pDq mod Rˆ .
K Ă S 3 を結び目,XK “ S 3 zintpVK q を結び目補空間,GK “ π1 pXK q を結び目群とする.Abel 化写像 ψ : GK Ñ Gab K “ xαy » Z の核に対応 する無限巡回被覆を X8 とする.Λ :“ Zrt˘1 s “ Zrxαys pt Ø αq とお く.GK “ xx1 , . . . , xn | R1 “ ¨ ¨ ¨ “ Rn´1 “ 1y を Wirtinger 表示とし, π : F “ xx1 , . . . , xn y Ñ GK を自然な準同型とする.これより,Λ-加群の 複体
p10.1.2q
B
B
2 1 D : 0 Ñ D2 “ Λn´1 ÝÑ D1 “ Λn ÝÑ D0 “ Λ Ñ 0
を得る.但し,B2 “ ppψ ˝ πqpBRi {Bxj qq は Alexander 行列,B1 “ ppψ ˝
πqpxi ´ 1qq である.XK は GK の表示から得られる 2 次元複体に縮約する ので,複体 D を C˚ pX8 q “ C˚ pXK , Λq とみなすことができ,ホモロジー 群 Hi pX8 q “ Hi pXK , Λq は Hi pDq に等しい. 命題 10.1.3
任意の i ě 0 に対し,Hi pX8 q は有限生成ねじれ Λ-加群である.
さらに,Hi pX8 q “ 0 pi ě 2q, E0 pH1 pX8 qq “ pΔK ptqq, E0 pH0 pX8 qq “
pt ´ 1q.但し,ΔK ptq は K の Alexander 多項式. 証明
Hi pX8 q “ 0 pi ě 3q と E0 pH0 pX8 qq “ pt ´ 1q は明らか.H1 pX8 q
10.1 トーションとゼータ関数
161
に関する主張は命題 9.1.2 より従う.(10.1.2) より,Λ-加群の完全系列 B
2 0 ÝÑ H2 pX8 q ÝÑ Λn´1 ÝÑ Λn ÝÑ AK ÝÑ 0
が従う.但し,AK は K の Alexander 加群. H2 pX8 q は自由 Λ-加群 Λn´1 の 部分 Λ-加群なのでねじれがない.一方,AK の Λ-階数は 1 なので,H2 pX8 q の Λ-階数は 0.よって,H2 pX8 q “ 0.
˝
k を Q の拡大体とし,F “ kptq とおく.命題 10.1.3 より,任意の i に対し, Hi pX8 q は有限生成ねじれ Λ-加群なので,C˚ pXK , F q “ C˚ pXK , ΛqbΛ F “ C˚ pX8 q bΛ F は,各 Di の標準的 Λ-基底をとれば,F 上の基点付きベク トル空間の非輪状複体をなす.よって,補題 10.1.1 と 10.1.3 より次が従う: 命題 10.1.4
τ pC˚ pXK , F qq “ τ h pC˚ pX8 qq “
ΔK ptq mod Λˆ . t´1
τ pC˚ pXK , F qq “ τ h pC˚ pX8 qq を XK の Reidemeister–Milnor トーショ ンといい,τ pXK , Λq と表すことにする. 注意 10.1.5 (1) トーション τ pXK , Λq は行列式加群 ([KnM]) の言葉を用い ると次のように記述される.完全系列 α´1
0 ÝÑ C˚ pX8 q ÝÑ C˚ pX8 q ÝÑ C˚ pXK q ÝÑ 0 に bZ Λ すると,Λ-加群の完全系列 α´1
0 ÝÑ C˚ pX8 , Λq ÝÑ C˚ pX8 , Λq ÝÑ C˚ pXK , Λq ÝÑ 0 を得る.Euler 同型 detΛ C˚ pXK , Λq » detΛ H˚ pXK , Λq より,Λ-同型
Λ » detΛ C˚ pX8 , Λq bΛ detΛ C˚ pX8 , Λq´1 » detΛ C˚ pXK , Λq » detΛ H˚ pXK , Λq を得る.1 P Λ の detΛ H˚ pXK , Λq における像を ζpXK , Λq とする.このと き,同型 detΛ H˚ pXK , Λq bΛ F » detF H˚ pXK , F q “ detF p0q “ F によ る ζpXK , Λq の F における像が τ pXK , Λq に他ならない.ζpXK , Λq は,加 藤のゼータ元 ([Kt2], [Kt4]) の結び目理論における類似物である.
(2) より一般に,結び目群の表現 ρ : GK Ñ GLpV q (V は k 上の有限 次元ベクトル空間)に付随する Reidemeister–Milnor トーションが次のよう に定義される ([KiL], [KGM]).Λk :“ Λ bZ k とし,V rt˘1 s :“ V bk Λk ,
162
第 10 章
トーションと岩澤主予想
V ptq :“ V bk F とおく.表現 ρ b ψ : GK Ñ GLpV rt˘1 sq により,V rt˘1 s ˜ K , kq bkrG s V rt˘1 s を左 krGK s-加群とみなし,C˚ pXK , V rt˘1 sq “ C˚ pX K ˘1 を考える.C˚ pXK , V rt sq “ C˚ pXK , Λk q bk V なので,任意の i に対し, Hi pXK , V rt˘1 sq “ Hi pXK , Λk q bk V は有限生成ねじれ Λk -加群である(命 題 10.1.3).V の基底を 1 つ選ぶと,C˚ pXK , V ptqq :“ C˚ pXK , Λk qbΛk F は 基点付きベクトル空間の非輪状複体である.Δi,ρ ptq :“ Δ0 pHi pXK , V rt˘1 sqq とすると,補題 10.1.1 より, τ pC˚ pXK , V ptqqq “ τ h pC˚ pXK , V rt˘1 sqq “
Δ1,ρ ptq Δ0,ρ ptq
mod pΛk qˆ .
ここで,主要部 Δ1,ρ は表現 ρ に付随した結び目 K のねじれ Alexander 多項式と呼ばれる. モノドロミー作用 α : X8 Ñ X8 は,X8 上の固定点をもたない離散力 学系を定める.トーション τ pXK , Λk q はこの力学系の Lefschetz ゼータ関数 として表される.自然数 n に対し,αn の Lefschetz 数 Lpαn q を
Lpαn q :“
1 ÿ
p´1qi Trppα˚ qn | Hi pX8 , kqq
i“0
により定める.このとき,Lefschetz ゼータ関数が
ζK ptq :“ exp
8 ´ÿ
Lpαn q
n“1
tn ¯ pP krrtssq n
により定義される. 定理 10.1.6 ([Ml2], [No1]) ζK ptq “ τ pXK , Λk q mod pΛk qˆ . 証明
行列 A P MN pkq に対し,krrtss において,等式
detpI ´ tAq´1 “ exp
8 ´ÿ
TrpAn q
n“1
tn ¯ n
が成り立つので,
ζK ptq “
1 ź
detpI ´ tα˚ | Hi pX8 , kqqp´1q
i`1
i“0
“ τ pXK , Λk q
mod pΛk qˆ . ˝
次に,Reidemeister トーションとスペクトラルゼータ関数の関係(Hodge
10.1 トーションとゼータ関数
163
理論的解釈)を述べる.ρ : GK Ñ OpV q を直交表現とする(V は R 上の 計量ベクトル空間).ρ を係数とする相対チェイン複体 C˚ pXK , BXK , V q :“
C˚ pXK , BXK q bZrGK s V が非輪状であるとする.XK のセル分割,V の正 規直交基底を決めると,Reidemeister トーション τ pXK , BXK , V q が定義さ れる.トーションは mod ˘1 で決まる([KGM,補題 5.2.5–5.2.7]).一方, XK に Riemann 計量を与える.但し,BXK の近くでは,計量は BXK 方向 と BXK に垂直な方向の直積であるとする.このとき,XK 上の V -値 i-形式 の空間 Ωi pXK , V q 上に内積が与えられ,Hodge ˚ 作用素 ˚ : Ωi pXK , V q Ñ Ω3´i pXK , V q と微分作用素の随伴作用素 δ :“ ´ ˚ d3´i ˚ : Ωi pXK , V q Ñ Ωi´1 pXK , V q が定義される. Ωi pXK , BXK , V q :“ tω P Ωi pXK , V q | ω|BXK “ δω|BXK “ 0u とおくと,Laplace 作用素 Δi :“ di´1 ˝ δ i ` δ i`1 ˝ di は Ωi pXK , BXK , V q 上の自己随伴作用素になる.その Ray–Singer スペクトラルゼータ関数を
ζΔi psq :“
ÿ
λ´s ,
ζΔ psq :“
3 ÿ
p´1qi iζΔi psq
i“0
λą0
により定める.ここで,λ は Δi の正の固有値にわたる.ζΔi psq,従って,
ζΔ psq は複素平面全体へ解析接続され,s “ 0 で解析的となる.このとき,次 が成り立つ. 1 定理 10.1.7 ([L¨ u]) exppζΔ p0qq “ ˘τ pXK , BXK , V q 1 ここで,exppζΔ p0qq は pXK , BXK , V q の解析的トーションと呼ばれ,Rie-
mann 計量のとり方によらない量になる. 注意 10.1.8
M が閉 3 次元双曲多様体のときは,整数論との類似がより詳
1 しく示される.すなわち,解析的トーション exppζΔ p0qq は,ゼータ関数
ZM psq :“
ź
detpI ´ ρppqe´slppq q´1
p
(p は M の素な閉測地線にわたる.lppq は p の長さ)の s “ 0 での主要項 の係数 Rp0q˚ に初等的因子 (P Qˆ ) を除いて等しい.これより,Rp0q˚ は本 質的にトーション τ pM, V q で表される ([Fr]).これは,整数論における類数 公式の幾何学的な類似とみられる.さらに,M が無限巡回被覆をもつとき,
Reidemeister–Milnor トーションの t “ 1 での位数と ZM psq の s “ 0 での 位数の関係も得られている ([Sg]).
164
第 10 章
トーションと岩澤主予想
10.2 岩澤主予想 p を奇素数とし,Xtpu :“ SpecpZr1{psq, Gtpu :“ π1 pXtpu q を素数群とする. Abel 化写像 ψ : Gtpu Ñ Gab tpu の核に対応する Xtpu の副エタール被覆を X8 ab n とする.類体論より,Gtpu “ GalpQpμp8 q{Qq » Zˆ p .但し,μpn は 1 の p 乗 Ť ˆ ˆ 根のなす群として,μp8 “ ně1 μpn である.分解 Zp “ Fp ˆp1`pZp q に応 じ,GalpQpμp8 q{Qq “ H ˆ Γ, H “ GalpQpμp8 q{Q8 q “ GalpQpμp q{Qq “ Fˆ p , Γ “ GalpQpμp8 q{Qpμp qq “ GalpQ8 {Qq “ 1 ` pZp » Zp ,と分解す る.ここで,Q8 は Q の円分 Zp -拡大とする(例 0.3.3.10).X8 は Xtpu の Qpμp8 q における整閉包である.Xp :“ SpecpZrμp , 1{psq とし,X8 を Xtpu の Q8 における整閉包とする.
κpgq g P GalpQpμp8 q{Qq に対し,κpgq P Zˆ (ζ P μp8 ) に p を gpζq “ ζ ˆ より定めると,類体論の同型 GalpQpμp8 q{Qq » Zp は κ により与えられ る.κ を円分指標という.ω :“ κ|H : H ãÑ Zˆ p とおく.H の生成元 δ と ˆ “ Zp rrT ss “ Zp rrΓss (1 ` T Ø γ), Γ の位相的生成元 γ を固定する.Λ ˜ “ Zp rrGab ss “ Zp rHsrrΓss とおく. Λ tpu 各 j mod p ´ 1 に対し,H-加群 Z{pn Zrjs (n ě 1) を Abel 群とし ては Z{pn Z で,δ P H が ωpδqj 倍で作用するものと定める.Zp rjs :“ À n ˜ pjq :“ Zp rjsrrΓss lim Zp rHs “ j Zp rjs と分解する.Λ ÐÝn Z{p Zrjs とおくと, À pjq ˜ “ ˜ pjq ˜ ˜ pjq とおく. とおくと,Λ :“ M bΛ˜ Λ j Λ . Λ-加群 M に対し,M pjq j M は δ P H が ωpδq 倍で作用するような M の最大商である.また, ˆ 加群 Zp pnq を Abel 群としては Zp で,γ P Γ の作用が n P Z に対し,Λˆ 加群 A に対し,Apnq :“ A bZ Zp pnq κpγqn 倍で作用するものと定める.Λp (Tate ひねり)と定義する. Xtpu 上の有限エタール層で Xp 上定数層となるものと H-加群を同一視す ˜ pjq q とも書く)を る.このとき,Hi pX8 , Zp rjsq (Hi pXtpu , Λ
10.2 岩澤主予想
165
i n ˚ Hi pX8 , Zp rjsq :“ plim ÝÑ H pX8 , Z{p Zrjsqq n
により定義する.但し,˚ は Pontryagin 双対を表す(エタールホモロジー とエタールコホモロジーの関係 ([Frl, 7]) からすると,右辺の Z{pn Zrjs は その双対層 pZ{pn Zq_ “ Z{pn Zr´js とすべきであるが,以下の記述の簡単 のため,上のように定義する).最後に,X8 の副-p エタール基本群の Abel 化を M と表す.p の外で不分岐な Qpμp8 q の最大 Abel p-拡大を M とす ると,M “ GalpM {Qpμp8 qq.内部自己同型により,Gab tpu が M へ作用し,
˜ 加群とみなされる. M はコンパクト Λ-
任意の i と偶数 j に対し,Hi pX8 , Zp rjsq は有限生成ねじれ ˆ Λ-加群である.より詳しく,
命題 10.2.1
Hi pX8 , Zp rjsq “ 0 (i ě 2, j は任意), H1 pX8 , Zp rjsq “ Mpjq (j は任意), # # Zp pj “ 0q, pT q pj “ 0q, E0 pH0 pX8 , Zp rjsqq “ H0 pX8 , Zp rjsq “ 0 pj ‰ 0q, p1q pj ‰ 0q. j が偶数のとき,E0 pH1 pX8 , Zp rjsqq は H1 pX8 , Zp rjsq の特性イデアルと pjq pjq 一致し,Δp :“ Δ0 pH1 pX8 , Zp rjsqq により生成される.また,Δp は, ˆˆ Δpjq p “ detpT ¨ id ´ pγ ´ 1q | H1 pX8 , Zp rjsq bZp Qp q mod Λ を満たす.
H i pX8 , Z{pn Zrjsq の計算は [BN, Proposition 5.5] に従う.#H は p と互いに素なので,Hochschild–Serre のスペクトル列 証明
H k pH, H i pX8 , Z{pn Zrjsqq ñ H k`i pX8 , Z{pn Zrjsq は退化し,次を得る:
H i pX8 , Z{pn Zrjsq “ H 0 pH, H i pX8 , Z{pn Zrjsqq “ H 0 pH, H i pX8 , Z{pn Zqpjq q “ H i pX8 , Z{pn Zqp´jq . Zrμp8 , 1{ps は Dedekind 整域で,μp8 を含むので,X8 “ SpecpZrμp8 , 1{psq のコホモロジー p-次元は 2.従って,H i pX8 , Z{pn Zrjsq “ 0 pi ě 3q.よっ て,Hi pX8 , Zp rjsq “ 0 pi ě 3q.また, H 2 pX8 , Z{pn Zqp´jq “ pH 2 pX8 , μpn qp´1qqp´jq
166
第 10 章
トーションと岩澤主予想
“ ppCl pX8 q bZ Z{pn Zqp´1qqp´jq “ pCl pX8 q bZ Z{pn Zqp1´jq p´1q. 但し,Cl pX8 q は Zrμp8 , 1{ps のイデアル類群を表す.Xk :“ SpecpZrμpk , 1{psq とおくと,Cl pXk q は有限 Abel 群なので,Cl pX8 q “ limk Cl pXk q はねじれ
ÝÑ 2 n p´jq Abel 群.従って,lim “ pCl pX8 q bZ Qp {Zp qp1´jq p´1q ÝÑn H pX8 , Z{p q “ 0.よって,H2 pX8 , Zp rjsq “ 0.次に, H 1 pX8 , Z{pn Zqp´jq “ Hom連続 pM, Z{pn Zqp´jq “ Hom連続 pMpjq , Z{pn Zq. よって,H1 pX8 , Zp rjsq “ HompMpjq , Qp {Zp q˚ “ Mpjq .j が偶数のと
ˆ 加群で,非自明な有限 Λˆ 部分群をもたず, き,Mpjq は有限生成ねじれ ΛμpMpjq q “ 0 ([BN, Lemma 5.3], [Ws, Proposition 15.36]).よって,基本 pjq ˆˆ イデアル E0 pH1 pX8 , Zp rjsqq は特性イデアルに一致し,Δp は mod Λ で主張の特性多項式と等しい.最後に,明らかに
#
H 0 pX8 , Z{pn Zqp´jq “ pZ{pn Zqp´jq “
Z{pn Z pj “ 0q 0 pj ‰ 0q
なので,H0 pX8 , Zp rjsq “ Zp pj “ 0q, “ 0 pj ‰ 0q. E0 pH0 pX8 , Zp rjsqq
˝
に関する主張は明らか.
命題 10.2.1 より,偶数 j に対し,H˚ pX8 , Zp rjsq のホモロジートーションを
˜ pjq q :“ τ pXtpu , Λ
# pjq Δp {T pjq Δp
pj “ 0q, pj ‰ 0q
ˆ ˆ で決まる. により定義する.これは,mod Λ ˜ pjq q は久保田–Leopoldt の p-進解析的ゼータ関数に トーション τ pXtpu , Λ ř8
n´s を Riemann ゼータ関数とする.ζQ psq は 複素平面全体に解析接続され,任意の自然数 n に対し,ζQ p´nq P Q となる. 特に,ζQ p´nq ‰ 0 となるのは n が奇数のときに限る.久保田–Leopoldt は, ζQ p´nq を p-進的に補間する関数 —– p-進ゼータ関数という —– を構成 より表される.ζQ psq “
n“1
した. 定理 10.2.2 ([KuL]) 各 j mod p ´ 1 に対し,p-進解析関数
ζp pω j , q : Zp zt1u Ñ Qp
167
10.2 岩澤主予想
で,任意の n ” j ´ 1 mod p ´ 1 に対し,
ζp pω j , ´nq “ p1 ´ pn qζQ p´nq となるものが唯一つ存在する. 定理 10.2.2 の証明については,[Kul], [KKS, 第 10 章], [Ws, Ch.5, Ch.7] を 参照されたい.
˜ pjq q 次の Mazur–Wiles による定理(岩澤主予想)が,トーション τ pXtpu , Λ とゼータ関数 ζp pω j , sq の関係を与える. pjq
定理 10.2.3(岩澤主予想 [MW]) 偶数 j に対し,ある生成元 Δp pjq
P
E0 pH1 pX8 , Zp qq がとれ, ˜ pjq q|T “q1´s ´1 ζp pω j , sq “ τ pXtpu , Λ が成り立つ.但し,q :“ κpγq. 定理 10.2.3 の証明については,[MW] の他,[Ws, Ch.15], [Ln, Appendix] を参照されたい. 注意 10.2.4
より一般に,ある種の p-進表現 ρ : Gtpu Ñ AutpLq (L は有
限階数の自由 Zp -加群)に対し,岩澤加群の一般化が定義される.ただ,数 論の方では,単に X8 のエタールホモロジー群をとるのでなく,エタールコ ホモロジー群 H 1 pX8 , V {Lq (V “ L bZp Qp ) にある p 上の局所的な条件を 課した部分群 SelpX8 , ρq —– Selmer 群と呼ばれる —– の Pontryagin 双 対 SelpX8 , ρq˚ として定義される ([Gr], [Kt3]).SelpX8 , ρq˚ の特性イデア ルの生成元が,ねじれ Alexander 多項式に対応する,ねじれ岩澤多項式であ る.ρ がモチーフ H m pY qpnq(Y は Q 上の非特異射影的代数多様体)から くるとき,p-進 L-関数が定義され,ねじれ岩澤多項式と一致することが予想 されている(一般化された岩澤主予想. [CP], [Gr], [Kt2]).
■まとめ Alexander 多項式と Lefschetz
岩澤多項式と p-進解析的
(スペクトラル)ゼータ関数の関係
ゼータ関数の関係(岩澤主予想)
ୈ
11 ষ ݁ͼͱ܈ૉ܈ͷදݱͷ ϞδϡϥΠ
結び目群 GK “ π1 pS 3 zKq と素数群 Gtpu “ π1 pSpecpZqztpuq を類 似と見るとき,その表現のモジュライの間にも類似性が期待される.特に,
Alexander–Fox 理論と岩澤理論はそれぞれ結び目群と素数群の 1 次表現のモ ジュライとその上の不変量の理論とみることができる.
11.1 結び目群の指標多様体 結び目 K Ă S 3 と自然数 N に対し,RK,N を結び目群 GK の複素 N 次 元表現の全体とする:
RK,N :“ HompGK , GLN pCqq :“ tρ : GK Ñ GLN pCq | ρ は準同型 u. GK の Wirtinger 表示を GK “ xx1 , . . . , xn | r1 “ ¨ ¨ ¨ “ rn´1 “ 1y とす ると,対応 ρ ÞÑ pρpx1 q, . . . , ρpxn qq により,RK,N は,r1 pX1 , . . . , Xn q “
¨ ¨ ¨ “ rn´1 pX1 , . . . , Xn q “ I で定義される GLN pCqn 内のアフィン代数的 集合と同一視される:
RK,N “ tpX1 , . . . , Xn q P GLN pCqn | r1 pX1 , . . . , Xn q “ ¨ ¨ ¨ “ rn´1 pX1 , . . . , Xn q “ Iu RK,N の座標環を RK,N とし,トートロジカル表現 ρK,N : GK ÝÑ GLN pRK,N q;
xk ÞÑ Xk p1 ď k ď nq
を考える.ρK,N は次の普遍性をもつ:任意の表現 ρ : GK Ñ GLN pCq に対 し,C-代数の準同型 ϕ : RK,N Ñ C で,ϕ ˝ ρK,N “ ρ を満たすものが唯一 つ存在する. 群 GLN pCq は RK,N に,pg, Xk q ÞÑ gXk g ´1 p1 ď k ď nq により作用す GL pCq
る.この共役作用で不変な部分環を RK,NN
と表す.このとき,GK の N
170
第 11 章
結び目群と素数群の表現のモジュライ GL pCq
次元表現の指標多様体 XK,N :“ RK,N {{GLN pCq を,RK,NN
を座標環と
する複素アフィン代数的集合と定義する: GL pCq
p11.1.1q
XK,N :“ pSpecpRK,NN
GL pCq
qqpCq “ HomC-代数 pRK,NN
, Cq
GL pCq
ãÑ RK,N から導かれる射 RK,N Ñ XK,N における ρ P RK,N の像を rρs P XK,N と書くことにする.このとき,ρ, ρ1 P RK,N に対し,rρs “ rρ1 s ô Trpρq “ Trpρ1 q が成り立つ ([CS]). 包含写像 RK,NN
11.2 結び目群の 1 次元表現のモジュライと Alexander イデ アル 結び目 K のメリディアン α を 1 つ決める.GK の 1 次元表現は,GK ab の Abel 化 Gab K を経由する.GK は α の類で生成される無限巡回群なので,
GK の 1 次表現の指標多様体について次が成り立つ.Λ :“ Zrt˘1 s “ ZrGab Ks prαs Ø tq とおく. 定理 11.2.1
対応 ρ ÞÑ ρpαq は同型
XK,1 » Cˆ を導く.従って,XK,1 の座標環 RK,1 は C 上の Laurent 多項式環 ΛC :“
Λ bZ C “ Crt˘1 s で,トートロジカル表現 ρK,1 : GK Ñ Λˆ C は,Abel 化写 ˆ ab 像 GK Ñ Gab と包含 G Ă Λ の合成である. K K C
AK を K の Alexander 加群とし,各自然数 d ě 1 に対し,Ed pAK q を d 番 Alexander イデアルとする.結び目補空間 XK “ S 3 zintpVK q の無限 巡回被覆 X8 の言葉では,Ed pAK q は H1 pX8 q の d ´ 1 番基本イデアル Ed´1 pH1 pX8 qq に等しい(例 7.2.5).E0 pH1 pX8 qq は Alexander 多項式 ΔK で生成される(命題 9.1.2).このとき,XK,1 上の d 番 Alexander 集 合を
AK pdq :“ tρ P XK,1 | 任意の f P Ed pAK q に対し,f pρpαqq “ 0u により定める:XK,1 Ą AK p1q Ą ¨ ¨ ¨ Ą AK pdq Ą ¨ ¨ ¨ .一方,ρ P XK,1 に 対し,GK -加群 Cpρq を,加群としては C, g P GK の作用を ρpgq 倍により 定める.このとき,XK,1 上の d 番コホモロジージャンプ集合を
CK pdq :“ tρ P XK,1 | dimC H 1 pGK , Cpρqq ě du により定める:XK,1 Ą CK p1q Ą ¨ ¨ ¨ Ą CK pdq Ą ¨ ¨ ¨ .
11.2 結び目群の 1 次元表現のモジュライと Alexander イデアル
171
定理 11.2.2 ([Hr], [Le]) 次が成り立つ:
AK pdq “ CK pdq pd ą 1q,
AK p1q Y t1u “ CK p1q.
但し,1 は GK の自明な表現を表す. 定理 11.2.2 の証明のため,補題を 1 つ用意する.t P Λ, z P Cpρq に対し,
t.z “ ρpαqz により,Cpρq を Λ-加群とみて,AK pρq :“ AK bΛ Cpρq とおく. 補題 11.2.3
(1) 次の群の同型が成り立つ: HomC pAK pρq, Cq » Z 1 pGK , Cpρqq. ここで,Z 1 pGK , Cpρqq は 1-コサイクルの群を表す.
(2) 次が成り立つ:
# dim AK pρq ´ 1, ρ ‰ 1, dim H pGK , Cpρqq “ 1, ρ “ 1. 1
証明 (1) 定義 7.1.1,例 7.1.8 より,
AK pρq “
´ à
¯ Cpρqdg {xdpg1 g2 q ´ dg1 ´ ρpg1 qdg2 yC .
gPGK
よって,
HomC pAK pρq, Cq » tc : GK Ñ C | cpg1 g2 q ´ cpg1 q ´ ρpg1 qcpg2 q “ 0u “ Z 1 pGK , Cpρqq. (2) ρpgqz “ z ô ρpgq “ 1 または z “ 0 に注意すると,1-コバウンダリーの 群 B 1 pGK , Cpρqq は, # C, ρ ‰ 1, 1 B pGK , Cpρqq “ t0u, ρ “ 1. よって,(1) とあわせて主張は従う. 定理 11.2.2 の証明
p11.2.2.1q
˝
Λ-加群 AK の表現行列を QK とする: Q
K Λn´1 ÝÑ Λn ÝÑ AK ÝÑ 0 (完全).
Ed pAK q は,d ă n なら,QK の pn ´ dq 次小行列式たちで生成される Λ
172
第 11 章
結び目群と素数群の表現のモジュライ
のイデアル,d ě n なら Λ である.(11.2.2.1) に bΛ Cpρq すると, ρpQK q
Cpρqn´1 ÝÑ Cpρqn ÝÑ AK pρq ÝÑ 0 (完全). ここで,ρpQK q は Λ Q t ÞÑ ρpαq P C から得られる C 上の行列.ゆえに,
dimAK pρq “ n ´ pρpQK q の階数 q.よって,d ą 1 のとき, dimH 1 pGK , Cpρqq ě d ô dimAK pρq ě d ` 1 (補題 11.2.3, p2q) ô ρpQK q の階数 ď n ´ pd ` 1q ô ρpQK q の任意の pn ´ dq 次小行列式 “ 0 ô 任意の f P Ed pAK q に対し,f pρpαqq “ 0. また,d “ 1 のとき,
dimH 1 pGK , Cpρqq ě 1 ô ρ ‰ 1 かつ dimC AK pρq ě 2,または ρ “ 1 (補題 11.2.3, p2q) ô ρ ‰ 1 かつ 任意の f P E1 pAK q に対し,f pρpαqq “ 0, または ρ “ 1. これより,定理 11.2.2 は示された. 系 11.2.4
˝
ρ ‰ 1 とする.このとき, ΔK pρpαqq “ 0 ðñ H 1 pGK , Cpρqq ‰ 0.
証明
E1 pAK q “ pΔK ptqq 及び ΔK p1q “ ˘1 より,定理 11.2.2 から従う. ˝
11.3 素数群の表現の変形空間 p を素数とし,Gtpu “ π1 pSpecpZr1{psqq “ GalpQtpu {Qq を素数群とする. 但し,Qtpu は tp, 8u の外で不分岐な Q の最大 Galois 拡大.以下, p ą 2 とする.Gtpu の表現を考えよう.群 Gtpu は巨大な(有限表示かどうか知ら れていない)副有限群なので,結び目群の場合のようにナイーブにある環上 の N 次元表現の全体を考えてもよいモジュライ空間を得ることはできない. そこで,B. Mazur ([Mz2]) に従い,与えられた剰余表現の p 進的な変形の 集合を考える.
ρ : Gtpu ÝÑ GLN pFp q を与えられた N 次元連続剰余表現とする.ペアー pA, ρq が ρ の変形である とは,
11.4 素数群の 1 次元表現の変形と岩澤イデアル
# 1q A は完備 Noether 局所 Zp -代数で,剰余体 A{mA “ Fp , 2q ρ : Gp Ñ GLN pAq は連続表現で,ρ mod mA “ ρ.
173
が成り立つことである.Fp の代数閉包 Fp に対し,ρ と包含 GLN pFp q Ă
GLN pFp q の合成 Gtpu Ñ GLN pFp q が既約表現のとき,ρ は絶対既約と呼 ばれる.また,ρ の 2 つの変形 pA, ρq, pA, ρ1 q が強い意味で同値である —– ρ « ρ1 と書く —– とは,ある P P I ` MN pmA q があり,ρ1 pgq “ P ρpgqP ´1 pg P Gtpu q が成り立つことである.次が B. Mazur による基本定理である. 定理 11.3.1 ([Mz2, 1.2]) ρ は絶対既約と仮定する.ρ の変形
ρp,N : Gtpu ÝÑ GLN pRp,N q で次の普遍性を満たすものが存在する:任意の ρ の変形 ρ : Gtpu Ñ GLN pAq に対し,Zp -代数の準同型 ϕ : Rp,N Ñ A で,ϕ ˝ ρp,N « ρ となるものが唯 一つ存在する(Rp,N は一般に ρ¯ に依存するので,Rp,N p¯ ρq と記すべきだが, 簡単のために略記する).
ρ の変形 pA, ρq, pA1 , ρ1 q が上の普遍性を満たすなら,ある Zp -代数の同型 „ ϕ : A Ñ A1 があり,ϕ ˝ ρ « ρ1 となる.その意味で,pRp,N , ρp,N q は一意 的で,ρ の普遍変形と呼ばれる.ρ の普遍変形空間 を p11.3.2q
Xp,N pρq :“ pSpecpRp,N qqpQp q “ HomZp -代数 pRp,N , Qp q
により定義する.ここで,Qp は Qp の代数閉包で,Xp,N pρq は p 進解析空 間である.ϕ P Xp,N pρq に対し,ϕ ˝ ρp,N を ρϕ と表す.
11.4 素数群の 1 次元表現の変形と岩澤イデアル 簡単のため,p ą 2 とする.Gtpu の 1 次元表現は,Gtpu の Abel 化 ab 8 Gab tpu を経由する.類体論より,Gtpu “ GalpQpμp q{Qq “ H ˆ Γ, H :“ ˆ GalpQpμp q{Qq “ Fp , Γ :“ GalpQ8 {Qq “ 1 ` pZp(記号は 10.2 節に従う). ˆ Abel 化写像 Gtpu Ñ Gab tpu “ Fp ˆ p1 ` pZp q における g P Gtpu の像を rgs “ ppq ˆ :“ Zp rrT ss “ Zp rrΓss pg , gp q と表す.Γ “ 1 ` pZp の生成元 γ を決め,Λ (1 ` T Ø γ) と同一視する. ˆ ˆ ρ¯ : Gtpu Ñ Fˆ p を 1 次元剰余表現とする.Fp を Zp 内の 1 の p ´ 1 乗根 ˆ ˆ の群と同一視することにより定まる包含 Fp ãÑ Zp と ρ¯ の合成 Gtpu Ñ Zˆ p を ρ˜ と表す.ρ˜ を ρ¯ の Teichm¨ uller 持ち上げという.次が定理 11.2.1 の数 論的類似を与える.
174
第 11 章
結び目群と素数群の表現のモジュライ
ˆˆ を 定理 11.4.1 ([Mz2, 1.4]) ρp,1 : Gtpu Ñ Λ ρp,1 pgq :“ ρ˜pgqgp ˆ ρp,1 q は ρ¯ の普遍変形である.従って,Xp,1 p¯ により定める.このとき,pΛ, ρq は p-進単位円板 Dp :“ tx P Qp | |x|p ă 1u と同一視される: „
Xp,1 p¯ ρq Ñ Dp ;
ϕ ÞÑ ϕpT q.
ρp,1 pgq mod mΛˆ “ ρ˜pgq mod p “ ρ¯pgq より,ρp,1 は ρ¯ の変形である. pA, ρq を ρ¯ の任意の変形とする:A{mA “ Fp , ρpgq mod mA “ ρ¯pgq. Zp -代 ˆ Ñ A を ϕpgp q :“ ρpp1, gp qq, gp P GalpQ8 {Qq,により定 数の準同型 ϕ : Λ 義する(ρ は 1 次元なので,ρprgsq :“ ρpgq は矛盾なく定義される).任意の g P Gtpu に対し, 証明
pϕ ˝ ρp,1 qpgq “ ϕp˜ ρpgqgp q “ ρ˜pgqρpp1, gp qq “ ρpgq p˜ ρpgq “ ρppg ppq , 1qqq. ˆ ρp,1 q は ρ¯ の普遍変形.Xp,1 p¯ ϕ の一意性は明らか.よって,pΛ, ρq に関する 主張は明らか. ˝ Alexander 多項式と同様,岩澤多項式の零点は,1 次元表現の変形空間 Xp p¯ ρq 上の Galois コホモロジーの変動により記述される.ここでは,10.2 節の岩 pjq
澤多項式 Δp pT q についてこのことを示す.以下,10.2 節と同じ記号を用 いる.
ω ¯ : Gtpu Ñ H “ GalpQpμp q{Qq » Fˆ p を自然な準同型とする.10.2 節 の ω はω ¯ の Teichm¨ uller 持ち上げである.各 j mod p ´ 1 に対し,ρpjq : pjq ˆ j ˆ をω Gtpu Ñ Λ ¯ の普遍変形とし,Xp :“ Xp,1 p¯ ω j q を普遍変形空間とす pjq
る.ϕ P Xp
pjq
に対し,ρϕ :“ ϕ ˝ ρpjq とおく.
ψ : Gtpu Ñ GalpQpμp8 q{Qq “ H ˆ Γ を Abel 化写像とし,Ap を完備 ψ˜ :“ Zp rrH ˆ Γss “ Zp rHsrrΓss とおくと,Ap は Λ˜ 加群 微分加群とする.Λ pjq pjq ˜ である.Ap :“ Ap bΛ とおく.Crowell の完全系列(定理 7.4.2) ˜ Λ 0 ÝÑ M ÝÑ Ap ÝÑ IΛ˜ ÝÑ 0 ˜ pjq することにより,各 j mod p ´ 1 に対し,Λ ˜ pjq -加群の完全系列 に bΛ ˜Λ 0 ÝÑ Mpjq ÝÑ Apjq ˜ pjq ÝÑ 0 p ÝÑ IΛ
175
11.4 素数群の 1 次元表現の変形と岩澤イデアル pjq
を得る.これより,d ě 1 に対し,Ed´1 pMpjq q “ Ed pAp q. j が偶数のとき,
pjq pjq E0 pMpjq q “ E1 pAp q は岩澤多項式 Δp pjq このとき,Xp 上の d 番岩澤集合を
により生成される(命題 10.2.1).
Appjq pdq :“ tϕ P Xppjq | 任意の f P Ed pApjq p q に対し,f pϕpγq ´ 1q “ 0u pjq
pjq
により定める:Xp
pjq
pjq
Ą Ap p1q Ą ¨ ¨ ¨ Ą Ap pdq Ą ¨ ¨ ¨ .一方,ϕ P Xp に pjq pjq 対し,Gtpu -加群 Qp pρϕ q を,加群としては Qp , g P Gtpu の作用を ρϕ pgq pjq 倍により定める.このとき,Xp 上の d 番コホモロジージャンプ集合を Cppjq pdq :“ tρ P Xppjq | dimQp H 1 pGK , Qp pρpjq ϕ qq ě du pjq
により定める:Xp
pjq
pjq
Ą Cp p1q Ą ¨ ¨ ¨ Ą Cp pdq Ą ¨ ¨ ¨ .
定理 11.4.2 ([M11]) 偶数 j (mod p ´ 1) に対し,
Appjq pdq “ Cppjq pdq pd ą 1q, Ap0q p p1q
Y t1u “
Appjq p1q “ Cppjq p1q
pj ‰ 0q,
Cpp0q p1q.
但し,1 は Gtpu の自明な表現を表す. pjq pjq ˜ 加群とみなし,Ap pρpjq Qp pρϕ q を自然に Λϕ q :“ Ap bΛ ˜ Qp pρϕ q とお く.Qp pϕq を,加群としては Qp , γ P Γ の作用を ϕpγq 倍として定めると, pjq pjq Ap pρϕ q “ Ap bΛˆ Qp pϕq.
補題 11.4.3
(1) 次の同型が成り立つ: 1 pjq HomQp pAp pρpjq ϕ q, Qp q » Z pGtpu , Qp pρϕ qq. pjq
ここで,Z 1 pGtpu , Qp pρϕ qq は連続 1-コサイクルの群を表す.
(2) 次が成り立つ: dim H
1
#
pGtpu , Qp pρpjq ϕ qq
証明 (1) 定義 7.3.1 より,
Ap pρpjq ϕ q“
´ à
gPGtpu
よって,
“
pjq
dim Ap pρϕ q ´ 1, pj, ϕq ‰ p0, 1q, 1, pj, ϕq “ p0, 1q.
¯ Qp pρpjq qdg {xdpg1 g2 q ´ dg1 ´ ρpjq ϕ ϕ pg1 qdg2 yQp .
176
第 11 章
結び目群と素数群の表現のモジュライ
HomQ pAp pρpjq ϕ q, Qp q » tc : Gtpu Ñ Qp | cpg1 g2 q ´ cpg1 q ´ ρpjq ϕ pg1 qcpg2 q “ 0u “ Z 1 pGtpu , Qp pρpjq ϕ qq. pjq
(2) ρpjq の定義より,ρϕ “ 1 ô pi, ϕq “ p0, 1q.これより,1-コバウンダ pjq リーの群 B 1 pGtpu , Qp pρϕ qq は, # Qp , pj, ϕq ‰ p0, 1q, 1 pjq B pGtpu , Qp pρϕ qq “ t0u, pj, ϕq “ p0, 1q. ˝
よって,(1) とあわせて主張は従う.
ˆ 定理 11.4.2 の証明 j を偶数とする.このとき,Mpjq は有限生成ねじれ Λpjq
ˆ 加群 Ap 加群である.Λ-
pjq
の表現行列を Qp
とする:
Qpjq
p ˆ m ÝÑ ˆ n ÝÑ Appjq ÝÑ 0 (完全). Λ Λ
p11.4.2.1q pjq
pjq
ˆ Ed pAp q は,d ă n なら,Qp の pn ´ dq 次小行列式たちで生成される Λ ˆ のイデアル,d ě n なら Λ である.(11.4.2.1) に bΛ ˆ Qp pϕq すると, ϕpQpjq p q
pjq Qp pϕqm ÝÑ Qp pϕqn ÝÑ Ap pρϕ q ÝÑ 0 (完全). pjq
ゆえに,dim Ap pρϕ q “ n ´ pϕpQpjq q の階数 q.よって,d ą 1 のとき, pjq dim H 1 pGtpu , Qp pρpjq ϕ qq ě d ô dim Ap pρϕ q ě d ` 1 (補題 11.4.3, p2q)
ô ϕpQpjq p q の階数 ď n ´ pd ` 1q ô ϕpQpjq p q の任意の pn ´ dq 次小行列式 “ 0 ô 任意の f P Ed pAp pρpjq ϕ qq に対し, f pϕpγq ´ 1q “ 0. また,d “ 1 のとき,
dim H 1 pGtpu , Qp pρpjq ϕ qq ě 1 piq pjq ô ρpjq ϕ ‰ 1 かつ dim Ap pρϕ q ě 2, または ρϕ “ 1 (補題 11.4.3, p2q)
ô pj, ϕq ‰ p0, 1q かつ 任意の f P E1 pAp pρpjq ϕ qq に対し,f pϕpγq ´ 1q “ 0, または pj, ϕq “ p0, 1q. これより,定理 11.4.2 は示された. 系 11.4.4
偶数 j (mod p ´ 1) に対し,
˝
11.4 素数群の 1 次元表現の変形と岩澤イデアル
177
1 pjq Δpjq p pϕpγq ´ 1q “ 0 ðñ H pGtpu , Qp pρϕ qq ‰ 0. pjq
pjq
証明 E1 pAp q “ pΔp q と定理 11.4.2 から従う. 注意 11.4.5
˝
Alexander 加群 AK (または結び目加群 H1 pX8 q)の自由分
解として,Seifert 行列による標準的な分解が知られている ([Kw, 5.4]).岩 piq
澤加群 H8 については,栗原により Euler–Kolyvagin 系を用いた分解が得 られ,岩澤主予想の精密化が示されている ([Kr1], [Kr2]).
■まとめ 結び目群 GK の N 次元複素表現
素数群 Gtpu の N 次元 p-進表現
の指標多様体 XK,N
の変形空間 Xp,N pρq ˆ
ˆ Q p q “ Dp XK,1 “ HomC-代数 pΛ, Cq “ C Xp,1 pρq “ HomZp -代数 pΛ, ˘1 ˆ (Λ “ Zrt s) (Λ “ Zp rrT ss) pjq d 番 Alexander 集合 AK pdq d 番岩澤集合 Ap pdq pjq (Alexander 多項式 ΔK の零点) (岩澤多項式 Δp の零点) とコホモロジージャンプ集合
とコホモロジージャンプ集合
ୈ
12 ষ ߏۂͷมͱܗ ௨ৗϞδϡϥʔGalois มܗ
前章でみたように,Alexander–Fox 理論と岩澤理論はともに 1 次元表現 のモジュライ上の理論とみることができる.肥田 ([Hd1,2]),Mazur ([Mz2]) は,この視点から,高次の Galois 表現の変形に対し,岩澤理論を非 Abel 化 する理論を創始した.同様なことを結び目群の高次な表現のモジュライ上に 行うことは Alexander–Fox 理論の自然な非 Abel 化を与える.特に,結び目 補空間上の双曲構造の変形から生じる 2 次元表現の族と p-通常保型形式の p進的な変形から生じる 2 次元 p-通常 Galois 表現の族の間には興味深い類似 性が見られる.
3 次元双曲幾何及び保型形式についての参考文献として,[Kj], [Hd3] を挙 げる.
12.1 双曲構造の変形 K を S 3 内の双曲的結び目とする.すなわち,intpXK q “ S 3 zK はカスプ 付き完備双曲多様体で,有限体積をもつとする.H3 を 3 次元双曲空間とする と,PSL2 pCq “ AutpH3 q のある離散部分群 Γ があり,S 3 zK “ H3 {Γ と表せ る.ここで,Γ “ π1 pXK q “ GK . K の管状近傍を VK , XK :“ S 3 zintpVK q とし,K のメリディアン α とロンジチュード β (α, β Ă BXK ) を固定する. S 3 zK の双曲構造のホロノミー表現を ρ¯h : GK Ñ P SL2 pCq とする. 2 H pGK , F2 q “ H 2 pXK , F2 q “ 0 なので,完全系列 1 Ñ t˘Iu Ñ SL2 pCq Ñ PSL2 pCq Ñ 1 より,ρ¯h P H 1 pGK , PSL2 pCqq は ρh P H 1 pGK , SL2 pCqq へ 持ち上がる.この章では,双曲構造の変形から生じる GK の表現を考える. そこで,以下,GK の SL2 pCq-表現の指標多様体を考え, RK :“ HompGK , SL2 pCqq,
XK :“ RK {{SL2 pCq
とおく. DK “ π1 pBXK q は Abel 群なので,ρ P HompGK , SL2 pCqq に対
180
第 12 章
双曲構造の変形と通常モジュラー Galois 変形
し,ρ|DK は上 3 角表現と同値になることに注意する:
˜
p12.1.1q
ρ|DK »
χρ 0
˚ χ´1 ρ
¸
.
˝ ここで,χρ : GK Ñ Cˆ は 1 次表現.ρh を含む XK の連結成分を XK pρh q
とおく.このとき,W. Thurston による次の定理が成り立つ(証明について は,[Th], [BP, Appendix B] を参照されたい). 定理 12.1.2
対応 ˝ ΨK : XK pρh q ÝÑ C; ΨK prρsq :“ Trpρpαqq
˝ は rρh s のある近傍 W 上双正則写像を与える.特に,XK pρh q は複素代数曲
線である. ˝ XK は双曲構造の変形空間と次のように関係する.H3 において,0, 1, z, 8 (z P Czt0, 1u) を 4 頂点とする理想(双曲)4 面体を Spzq と表す.S 3 zK の 理想 4 面体への分割を
S 3 zK “ Spz1˝ q Y ¨ ¨ ¨ Y Spzn˝ q とする.各辺において,4 面体の 2 面体角の和が 2π となることから,z ˝ “
pz1˝ , . . . , zn˝ q は p12.1.3q
n ź
r1
2
zi ij p1 ´ zi qrij “ ˘1 pj “ 1, . . . , nq
i“1
の形の方程式を満たす.p12.1.3q で定義される pCzt0, 1uqn 内のアフィン代 数的集合を Y とする.Neumann–Zagier ([NZ]) は,z ˝ を含む Y の既約成 H ˝ H ˝ 分 XK pz q は複素代数曲線となることを示した.XK pz q を双曲構造の変形 H ˝ ˝ 曲線という.このとき,XK pz q は W Ă XK pρh q 上 2 重被覆を与える.す
なわち,z ˝ の近傍 U と xK pz ˝ q “ 0 なる U 上の局所座標 xK があり,次 の可換図式が成り立つ:
xK
W
ΨK
U π
/C h
/ C.
ここで,hpxq :“ ex{2 ` e´x{2 , π は z ˝ で分岐する 2 重被覆.実際,各 z P U
Č 3 zK Ñ H3 が構成される.ρ に対し,ホロノミー表現 ρ¯z をもつ展開写像 S ¯z
12.2 p-通常モジュラー Galois 変形
181
の SL2 pCq-表現への持ち上げ ρz は,局所的切断 t : W Ñ RK を用いて,
ρz “ tpπpzqq と表せ,次が成り立つ: ¸ ˜ ˜ ˚ exK pzq{2 eyK pzq{2 , ρz pβq » ρz pαq » ´xK pzq{2 0 e 0
˚ e´yK pzq{2
¸ .
ここで,(12.1.1) の χρ を用いると,
xK pzq “ 2 log χρz pαq,
yK pzq “ 2 log χρz pβq pz P U q
と書ける.各 z P U に対し,pq, pq P R2 Y t8u “ S 2 を,z “ z ˝ のとき,
? pq, pq :“ 8, z ‰ z ˝ のとき,qxK pzq ` pyK pzq “ 2π ´1 により定めると, 対応 z ÞÑ pq, pq は U から S 2 の 8 の近傍への同相写像を与える.特に,p, q が互いに素な整数のとき,K に沿った手術係数 q{p の Dehn 手術により得 られる空間,すなわち,ソリッドトーラス V と メリディアン m Ă BV に対 « し,rf˚ pmqs “ qrαs ` prβs なる同相写像 f : BV Ñ BVK “ BXK による貼 り合わせで得られる空間 XK Yf V は 3 次元閉双曲多様体となる.このよう な pq, pq に対応する z P U または z ˝ を整係数 Dehn 手術点という.
xK は U の局所座標なので,yK は xK の関数とみなせる.Neumann– Zagier は,ある正則関数 τ pxK q が存在し,yK “ xK τ pxK q と書け,τ p0q はトーラス(楕円曲線)BXK の周期(モジュラス)を与えることを示した. ? qK :“ expp2π ´1τ p0qq とおくと,これは次のように言い換えられる. 定理 12.1.4 ([NZ, Lemma 4.1]) ˆ
qK は BXK の乗法的周期を与える:BXK “
Z
C {pqK q .また,次式が成り立つ: ˇ dyK ˇˇ 1 ? log qK . “ ˇ dxK xK “0 2π ´1 yK の積分は ρz の SL2 pCq-Chern–Simons 不変量(汎関 数)CS pρz q を与える ([MT2]): ż xK pzq 1 yK dxK ´ xK yK “ 8π 2 CS pρz q pz P U q. 2 0
注意 12.1.5
12.2 p-通常モジュラー Galois 変形 p を奇素数,Gtpu を素数群,Dtpu , Itpu を各々 p 上の分解群,惰性群 とする(例 0.2.25).Gtpu の 2 次元表現の変形を考える.まず,結び目群 の場合に自動的に成り立つ境界条件 (12.1.1) の類似を得るため,類似 (1.9)
182
第 12 章
双曲構造の変形と通常モジュラー Galois 変形
に従い,Gtpu の表現に p-通常的と呼ばれる “境界条件” を課す.すなわち,
ρ : Gtpu Ñ GL2 pAq が p-通常的 (ordinary) であるとは,ρ|Dtpu が次のよう な上 3 角表現と同値になることをいう: ¸ ˜ χ1 ˚ , χ2 |Itpu “ 1. ρ|Dtpu » 0 χ2 絶対既約かつ p-通常的な剰余表現 ρ¯ : Gtpu Ñ GL2 pFp q を 1 つ与える.こ のとき,ρ¯ の p-通常的な変形 —– p-通常変形という —– について,定理
11.3.1 と同様,次が成り立つ: 定理 12.2.1 ([Mz2, 1.7]) ρ の p-通常変形
ρ˝p : Gtpu ÝÑ GL2 pRp˝ q で次の普遍性を満たすものが存在する:任意の ρ の p-通常変形 ρ : Gtpu Ñ GLN pAq に対し,Zp -代数の準同型 ϕ : Rp˝ Ñ A で,ϕ ˝ ρ˝p « ρ となるもの が唯一つ存在する.
pRp˝ , ρ˝p q は同値を除き一意的で,ρ の普遍 p-通常変形と呼ばれる.ρ の普遍 p-通常変形空間 を Xp˝ pρq :“ pSpecpRp˝ qqpQp q “ HomZp -代数 pRp˝ , Qp q ˝ により定義する.Xp˝ p¯ ρq を XK の数論的類似とみなす.det ρ˝p : Gtpu Ñ pRp˝ qˆ
は det ρ¯ : Gtpu Ñ Fˆ p の変形なので,定理 11.4.1 より,Zp -代数の準同型
ˆ Ñ R˝ で,ι˝ ˝ ρp,1 “ det ρ˝ となるものが唯一つ存在する.ι˝ を介 ι˝ : Λ p p ˆ 代数とみなされる. し,Rp˝ は ΛXp˝ p¯ ρq は,肥田理論で構成される普遍通常 p-進 Hecke 環から得られる Galois 表現の族と次のように関係する1 .まず,保型形式に伴う Galois 表現 について必要事項をまとめる.f をレベルが p のべきの合同部分群 Γ0 ppm q (m ě 1) に関する重さ wf ě 2,指標 εf をもつ尖点固有形式とする.ここ で,固有形式とは,各素数 l ‰ p に対し,Hecke 作用素 Tl の,素数 p に対 し,Atkin 作用素 Up の固有関数になっていることを意味する.f の 8 で ? ř の Fourier 展開を f “ ně1 an pf qe2π ´1nz とすると,Fourier 係数 al pf q (l ‰ p), ap pf q は,各々 Tl , Up の固有値である.Of を環 Zran pf q|n ě 1s の C における整閉包とする.Of はある有限次代数体 kf の整数環である.p 1
p-進 Hecke 環については,肥田晴三氏にご教示頂いた.
12.2 p-通常モジュラー Galois 変形
183
を p 上の Of の任意の素イデアルとし,kf,p を kf の p での完備化,Of,p をその整数環とする. 定理 12.2.2
(1) ([Dl]) 絶対既約な連続表現 ρf,p : Gtpu ÝÑ GL2 pOf,p q で,任意の素数 l ‰ p に対し,
Trpρf,p pσl qq “ al pf q,
detpρf,p pσl qq “ εf plqlwf ´1
を満たすものが kf,p 上の同値を除いて一意的に存在する.ここで,σl P
Gtpu は l 上の Frobenius 自己同型を表す. ˆ (2) ([MW2]) f が p-通常的,すなわち,ap pf q P Of,p と仮定する(これは p のとり方によらない).このとき,ρf,p は p-通常的な表現である: ¸ ˜ χ1 ˚ , χ2 |Itpu “ 1. ρf,p |Dtpu » 0 χ2 以下,p-通常尖点固有形式 f ˝ で,Of ˝ {p “ Fp なるものをとり,絶対既約 な剰余表現
ρ¯ “ ρf ˝ ,p mod p : Gtpu ÝÑ GL2 pFp q を固定する.肥田 ([Hd1], [Hd2]) は,Hecke 環のある完備化から次のような 普遍性を満たす Galois 表現を構成した. 定理 12.2.3 ([Hd1], [Hd2]) p-通常的な ρ¯ の変形 H ρH p : Gtpu ÝÑ GL2 pRp q
で次の普遍性を満たすものが存在する:f がレベルが p のべきの p-通常的な 尖点固有形式で,ρf,p : Gtpu Ñ GL2 pOf,p q が ρ¯ の変形なら,ある Zp -代数 の準同型 ϕ : RpH Ñ Of,p で,ϕ ˝ ρH 2 « ρf,p となるものが唯一つ存在する.
pRpH , ρH ¯ の普遍 p-通常モジュラー変形(肥田変形)という.普遍 p-通 pq をρ 常モジュラー変形空間(肥田変形空間)を
XpH p¯ ρq :“ SpecpRpH qpQp q “ HomZp -代数 pRpH , Qp q H と定める.ϕ P XpH p¯ ρq に対し,ϕ ˝ ρH ¯ の普遍変形を p を ρϕ と書く.det ρ
184
第 12 章
双曲構造の変形と通常モジュラー Galois 変形
ˆ ρp,1 q とすると,Zp -代数の準同型 ιH : Λ ˆ Ñ RH で,ιH ˝ ρp,1 “ pRp,1 “ Λ, p H H ˆ 代数とみなす. det ρH を満たすものが唯一つ存在する. ι を介し, R を Λp p H ι は p-進解析写像 xp : XpH p¯ ρq ÝÑ Dp ;
ϕ ÞÑ pϕ ˝ ιH qpT q
を導く.高さ 1 の素イデアル P P SpecpRpH q が数論的な点とは,ある整数 H w ě 0 と mod p べきの Dirichlet 指標 ε があり,自然な準同型 Rp,2 Ñ H w´2 Rp,2 {P における 1 ` T の像が εp1 ` pqp1 ` pq となることと定める.P は,重さ w,指標 ε をもつ尖点固有形式 f に対応する点である.ϕ P XpH p¯ ρq が数論的な点とは,P “ Kerpϕq が数論的な点のことである.数論的な点は, H ˝ 双曲構造の変形空間 XK pz q における整係数 Dehn 手術点に対応するとみら H ˆ れる.Rp の Λ-代数構造に関し,次の肥田による定理が我々にとって基本的
である.
ˆ 代数で,任 定理 12.2.4 ([Hd1, Corollary 1.4], [Hd2]) RpH は有限平坦 Λˆ p 上のエタール代数で 意の数論的な点 P P SpecpRpH q に対し,pRpH qP は Λ ある.但し,p :“ pιH q´1 pPq.特に,xp は数論的な点 ϕ の近傍で局所座標 を与える.
Q8 を Q の円分 Zp -拡大とする(例 0.3.3.10).GalpQ8 {Qq “ 1 ` pZp の ˆ を同一 生成元 γ を決め,対応 γ Ø 1 ` T により,Zp rrGalpQ8 {Qqss と Λ 視する.自然な写像 Gtpu Ñ GalpQ8 {Qq において γ にうつる τ P Gtpu を 決める.次が定理 12.1.2 の肥田変形空間における類似である2 . 定理 12.2.5 ([MT1]) 対応
Ψp : XpH p¯ ρq ÝÑ Qp ;
Ψp pϕq :“ TrpρH ϕ pτ qq
˝ H は ϕ˝ の近傍で双 p-進解析的である.但し,ρH ϕ˝ “ ϕ ˝ ρp « ρf ˝ ,p .
証明
ϕ P XpH p¯ ρq に対し,ρH ϕ は p-通常的なので, ¸ ˜ ˚ χ1,ϕ H , χ2,ϕ |Itpu “ 1. ρϕ » 0 χ2,ϕ
これより,
χ1,ϕ pτ q “ detpρH ϕ pτ qq 2
˝ pρ q と X H p¯ XK h p ρq の類似性は初め藤原一宏氏により指摘された ([Fw]).
12.2 p-通常モジュラー Galois 変形
185
“ ϕpdetpρH p pτ qqq “ ϕpιH ˝ ρp,1 pτ qq “ ϕpωpτ qιH pγqq “ ωpτ qϕpιH pγqq “ ωpτ qp1 ` xp pϕqq
pγ “ 1 ` T q.
ここで,ω は det ρ¯ の Teichm¨ uller 持ち上げ.よって, H H ΨH p pρϕ pτ qq “ Trpρϕ pτ qq
“ χ1,ϕ pτ q ` 1 “ ωpτ qp1 ` xp pϕqq ` 1. 定理 12.2.4 より xp は ϕ˝ の近傍で双 p-進解析的なので,ΨH p もそうである.
˝ pRp˝ , ρ˝p q の普遍性より,Zp -代数の準同型 ψ : Rp˝ Ñ RpH で,ψ ˝ ρ˝p « ρH p ˆ 代数の準同型であ となるものが唯一つ存在する.ιH ˝ ψ “ ι˝ より,ψ は Λる.Mazur ([Mz3]) は ψ が同型となることを予想し,A. Wiles により示さ れた.
?
定理 12.2.6 ([Wi], [TW]) k “ Qp p˚ q, p˚ “ p´1qpp´1q{2 p,とおく.f ˝ のレベルを p とし,ρ¯|GalpQ{kq は絶対既約と仮定する.このとき,ψ は同型 である.従って,XpH p¯ ρq “ Xp˝ p¯ ρq. 注意 12.2.7
定理 12.2.6 は,0.3.3 で述べた類体論の非 Abel 化とみなされ
ś Qp ˆ R を Q のアデール環とする.但し, p は Qp の Zp に 関する制限直積.イデール群 JQ 及びイデール類群 CQ “ JQ {Qˆ (0.3.3.3) は ˆ ˆ Aˆ Q “ GL1 pAQ q 及び AQ {Q “ GL1 pAQ q{GL1 pQq に他ならない.このとき, 類体論の基本写像 ρQ : CQ Ñ GalpQab {Qq (0.3.3.4) を介し,GalpQab {Qq と GL1 pAQ q{GL1 pQq のある種の 1 次元表現たちの間に双一意な対応が生じ る.一方,尖点固有形式は,GL2 pAQ q{GL2 pQq 上の関数とみれるので,定 理 12.2.6 は,GalpQ{Qq のある種の 2 次元表現たちと GL2 pAQ q{GL2 pQq 上 のある条件を満たす関数たちの間の双一意な対応 —– Langlands 対応とい う —– があることを述べている.従って,定理 12.2.6 は類体論の GL2 版と みなされる.詳しくは,[Hd3, 1] を参照されたい. る.AQ “
ś
p
ρf ˝ ,p が Q 上定義されたの楕円曲線 E から生じる表現の場合を考える: n ‘2 ρf ˝ ,p “ ρE .但し,ρE は E の Tate 加群 lim ÐÝn Erp s “ Zp への GalpQ{Qq
186
第 12 章
双曲構造の変形と通常モジュラー Galois 変形
の作用から生じる表現で,tp, 8u の外で不分岐とする.特に,f ˝ の重さ wf ˝ “
2, Of ˝ ,p “ Zp である.さらに,E は p で分裂乗法的 (split multiplicative), すなわち,E は Zp 上の滑らかな群スキーム E へ拡張され,Fp 上 E bZp Fp » Gm となるものとする.ここで,Gm “ SpecpFp rX, Y s{pXY ´ 1qq は Fp 上 の乗法群スキーム.
˜ ρH p
»
χ1 0
˚ χ2
¸ ,
χ2 |Itpu “ 1
とし,yp :“ χ2 pσp q とおく.但し,σp は p 上の Frobenius 自己同型.ϕ˝ P H Xp,2 p¯ ρq を ρE “ ρf ˝ ,p に対応する数論的な点とすると,xp は ϕ˝ の近傍で 双 p-進解析的で,ϕ˝ ˝ ιH pT q “ 0 なので,yp は 0 P Dp の近傍で xp の p進解析関数とみなされる.このとき,次の Greenberg–Stevens による定理が
成り立つ. 定理 12.2.8 ([GrS], [Hd4,1.5]) qE を E の Tate 周期とする:EpQp q “ ˆ
Qp {pqE qZ .このとき,次式が成り立つ: ˇ logp pqE q dyp ˇˇ 1 “´ . ˇ dxp xp “0 2 logp pγq ordp pqE q 但し,logp は p-進対数関数を表す.logp pqE q{ordp pqE q は 楕円曲線 E の L不変量と呼ばれる.
■まとめ 双曲構造 ホロノミー表現 H ˝ 変形空間 XK pz q
メリディアン関数 xK ロンジチュード関数 yK
BXK のモジュラス
p-進通常保型形式 Galois 表現 変形空間 XpH p¯ ρq モノドロミー関数 xp Frobenius 関数 yp L-不変量
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結び目理論と整数論の類似性について述べてきました.この類似性を通し, 筆者が伝えたかったことは,数学は諸分野が有機的に関連しあった 1 つの文 化である,ということです.それは私たちの身体の内部が密接につながって いるのと同様です.自分は脳が専門だからと言って,身体の他の部分との関 連をよく診ないと,患者さんの重大な病気を見逃してしまいます.現在,数 学は便宜上たくさんの分野に分かれていますが,それらは皆つながっていて, 本来,数学の分野は 1 つなのだと思います.従って,数学の中の様々な類似 性,関連を知ることは,それ自体が面白いことであると同時に,数学をより 深く理解することにつながると思います. もし,読者の方々が本書から何かを感じとり,今度はご自身の数学をつくっ てみようと思われるなら,そして,筆者などには想像もつかない面白い数学 がどんどん生まれるとしたら,どんなにか素晴らしいことでしょう.
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■欧文先頭和文索引
Abel 基本群, 23, 42 Alexander イデアル, 124 Alexander 加群, 123, 150 Alexander 行列, 124 Alexander 集合, 170, 177 Alexander 多項式, 124, 150 Alexander の定理, 55 Artin–Verdier の双対定理, 46 Artin の相互律, 76 Blanchfield–Lyndon 完全系列, 126 Borromean 環, 106 Borromean 素数, 117 Chern–Simons 不変量(汎関数), 181 Crowell 完全系列, 124–126 Dedekind 環, 29 Dehn 手術, 181 Dirichlet の単数定理, 37 Eilenberg–MacLane 空間, 53 Fox 完備化, 24 Fox 自由微分, 95 Frobenius 自己同型, 35, 38, 42 Galois 群, 19, 28, 32, 34 Galois 対応, 19, 34 Galois 被覆, 19, 34 Gauss 積分(和), 64 Gauss の積分公式, 2, 63 Heegaard 分解, 13
Hilbert 記号, 45 Hilbert 理論, 65 Hilbert 類体, 49 Hurewicz の定理, 10, 76 Langlands 対応, 185 Lefschetz ゼータ関数, 162 l-進 Milnor 数, 111 l-進まつわり行列, 143 l-中心降下列, 83 L-不変量, 186 λ-不変量, 155, 156 Magnus 係数, 94 Magnus 展開, 94 Magnus 埋入, 94 Mahler 測度, 151 Massey 積, 107, 117 Milnor μm -不変量, 111 Milnor μ-不変量, 102 Milnor 数, 102 Minkowski の定理, 37 mod 2 のまつわり数, 62 mod m Magnus 係数, 110 mod m Magnus 展開, 110 mod m Magnus 同型, 110 mod m Milnor 数, 111 mod n のまつわり数, 71 μ-不変量, 155, 156 p 元体, 28
198
索
引
p-進 Weierstrass 準備定理, 154 p-進完備化, 28, 30 p-進整数環, 29 p-進整数環, 29 p-進ゼータ関数, 166 p-進体, 29 p-進体, 29 p-進付値, 28 p-進付値, 29 p-通常的, 182 p-通常変形, 182 R´edei 記号, 114 Reidemeister–Milnor トーション, 161 Seifert 曲面, 21 Selmer 群, 167 S Y Sk8 の外で不分岐な k の最大 Galois 拡大, 39 S Y Sk8 の外で不分岐な k の最大 l-拡大, 39 Tate–Poitou の完全系列, 47 Tate の局所双対定理, 43 Teichm¨ uller 持ち上げ, 173 van Kampen の定理, 10 Weierstrass 多項式, 154 Wirtinger 表示, 17 ψ-Alexander 加群, 123 ψ-Galois 加群, 131 ψ-微分加群, 119 Zassenhaus フィルトレーション, 110
岩澤加群, 131, 153
■和文索引
完備 ψ-Alexander 加群, 130
●あ行
完備 ψ-微分加群, 128
アフィンスキーム, 26
完備群環, 107
イソトピック, 86
完備離散付値環, 28
一般化された岩澤主予想, 167
完備離散付値体, 29
イデアル群, 36
幾何学的基点, 32
イデアル類群, 30, 36
擬同型, 155
イデアル類の有限性, 37
基本イデアル(Fitting イデアル), 123,
岩澤集合, 175 岩澤主予想, 167 岩澤代数, 130 岩澤多項式, 131, 155 岩澤類数公式, 156 エタール基本群, 33 エタールコホモロジー群, 43, 46 エタールホモトピー, 42 エンド, 54 円分 Zp -拡大, 51 円分指標, 164 円分体, 38 同じ種に属する, 2, 77, 79 ●か行 解析的トーション, 163 絡み目, 17 絡み目加群, 128 絡み目群, 17 絡み目不変量, 18 絡み目補空間, 17 管状近傍, 13, 17 慣性群, 181 完全分解, 30 完全分岐, 30 完全分岐拡大, 29 完備 Alexander 加群, 134, 141 完備 Crowell 完全系列, 131 完備 ψ-Alexander イデアル, 130
イデール群, 48 イデール類群, 48
130 基本群, 9
199 基本写像, 44, 46, 48
スペクトラルゼータ関数, 163
狭義イデアル類群, 37
整係数 Dehn 手術点, 181
狭義不分岐拡大, 37
整数環, 36
共役差積, 39
正則表示, 14, 17
局所定数, 43
ゼータ元, 161
局所類体論, 42
全まつわり数被覆, 25
極大スペクトル, 29
素イデアル群, 55
虚素点, 37
双曲構造の変形曲線, 180
群環, 93
相対判別式, 39
群表示, 11, 31
素数群, 55
構成可能, 46
素スペクトル, 26
項切被約まつわり行列, 136, 138, 142,
ソリッドトーラス, 10
146 項切まつわり行列, 136, 142 コホモロジージャンプ集合, 170, 175
●た行 代数体, 36 多重べき剰余記号, 118
●さ行
惰性群, 40, 42, 66, 69
最大 Abel 拡大, 42
惰性体, 69
最大 Abel 被覆, 23, 42
惰性被覆空間, 66
最大 l-拡大, 36
単項イデアル群, 36
最大従順分岐拡大, 40, 41
中心降下列, 83
最大副-l 商, 32
添加イデアル, 93, 108
最大不分岐 Abel 拡大, 42
添加写像, 93, 108
最大不分岐 l-拡大, 36
点付き普遍被覆, 27, 33
最大不分岐拡大, 35
点付き有限エタール被覆, 32
最大不分岐拡大体, 35
特性イデアル, 155
実素点, 37
トーション, 159
指標多様体, 170, 179 シャッフル, 99 シャッフル関係式, 100, 102, 111 シャッフルの結果, 99 従順基本群, 40 従順分岐な拡大, 39
●な行
2 次体, 37 2 橋絡み目, 25 ねじれ Alexander 多項式, 162 ねじれ岩澤多項式, 167
自由副-l 群, 31
●は行
自由副有限群, 31
パラレル, 84
種の理論, 1, 75–82
ハンドル体, 12
純組み紐絡み目, 86
判別式, 37
真のシャッフル, 100
肥田変形, 183
数論的な点, 184
肥田変形空間, 183
スキーム, 26
被覆次数, 19, 32
200
索
引
被覆(不分岐), 18
普遍まつわり行列, 134, 141
被覆変換群, 18, 32
分解群, 42, 65, 69
被約 Alexander イデアル, 124
分解体, 69
被約 Alexander 加群, 124
分解被覆空間, 66
被約 Alexander 行列, 124
分岐, 30, 37
被約 Alexander 多項式, 124
分岐 Galois 被覆, 23, 39
被約絡み目加群, 128
分岐拡大, 29, 30
被約完備 Alexander 加群, 134, 141
分岐指数, 23, 29, 30
被約普遍まつわり行列, 134, 138, 141,
分岐被覆, 23, 39
146
分数イデアル, 30
ファイバー関手, 32
分数イデアル群, 30
副-l Fox 自由微分, 109
平方剰余記号, 1, 45
副-l Magnus 係数, 108
平方剰余の相互律, 1
副-l Magnus 展開, 108
べき剰余記号, 45
副-l Magnus 同型, 108
ペリフェラル群, 55
副-l(エタール)基本群, 35
変形, 172
副-l 完備化, 31
ホモロジートーション, 160, 166
副-l 群, 32 副有限 Fox 自由微分, 110 副有限 Galois 被覆, 34 副有限エタール被覆, 34 副有限完備化, 31 副有限群, 30, 31 付随する被覆, 23 付随する有限エタール被覆, 39 不足数, 11 不分岐, 30, 37 不分岐拡大, 29, 30, 37 不分岐類体論, 49 部分被覆, 18, 32 普遍 p-通常変形, 182 普遍 p-通常変形空間, 182 普遍 p-通常モジュラー変形空間(肥田変 形空間), 183 普遍 p-通常モジュラー変形(肥田変形),
183
●ま行 まつわり行列, 136, 143 まつわり数, 3, 59 無限巡回被覆, 21 無限素点, 37 結び目, 13 結び目 K のメリディアン, 13 結び目 K のロンジチュード, 13 結び目加群, 128 結び目群, 14 結び目不変量, 18 結び目補空間, 13 メリディアン, 10, 13 モノドロミー, 41, 54 モノドロミー群, 19 モノドロミー置換表現, 19 ●や行 野生的分岐, 40
普遍被覆, 19, 33
有限 Galois 代数, 27
普遍変形, 173
有限 Galois 被覆, 32
普遍変形空間, 173
有限エタール, 27
201 有限エタール代数, 27
●ら行
有限エタール被覆, 32
離散付値環, 28
有限次代数体, 36
理想(双曲)4 面体, 180
有限体, 28
類体論, 42
融合積, 11
連結有限エタール代数, 27 レンズ空間, 13 ロンジチュード, 10, 13
著 者
シュプリンガー現代数学シリーズ編者
森下 昌紀(もりした まさのり)
松本 幸夫(まつもと ゆきお)
1961 年 東京に生まれる 1986 年 東京大学理学部数学科卒
学習院大学理学部教授
現在 九州大学大学院数理学研究院教授 専門分野:数論的位相幾何学
谷島 賢二(やじま けんじ) 学習院大学理学部教授
シュプリンガー現代数学シリーズ 第 15 巻
結び目と素数 2009 年 4 月 2 日 初版発行 著 者 発行者 発行所
森下 昌紀 深田 良治 シュプリンガー・ジャパン株式会社 〒102-0073 東京都千代田区九段北 1 丁目 11 番 11 号 第 2 フナトビル TEL (03) 6831-7005(営業直通)
http://www.springer.jp 印刷所
シナノ書籍印刷株式会社
<検印省略> 許可なしに転載,複製することを禁じます.落丁本,乱丁本はお取り替えします.
ISBN 978-4-431-10052-2 C3041 c Springer 2009
Printed in Japan