朝倉 国 語教育 講 座
倉澤 栄 吉 監修 野 地潤 家
朝倉書 店
監修者 倉 澤 栄 吉 日本国語教育学会会長 野 地 潤 家 広島大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授
編 集 者 ( )は編集担当巻 白 石 ...
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朝倉 国 語教育 講 座
倉澤 栄 吉 監修 野 地潤 家
朝倉書 店
監修者 倉 澤 栄 吉 日本国語教育学会会長 野 地 潤 家 広島大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授
編 集 者 ( )は編集担当巻 白 石 寿 文 佐 賀大 学名誉 教 授 ( 第 1巻
第 3巻)
小 田 迫 夫 大 阪教 育大 学教 授 ( 第 2巻) 浜 本 純 逸 神 戸大 学名誉 教 授/ 早稲 田大学教 授 ( 第 2巻 ) 松 山 雅 子 大 阪教 育大 学教 授 ( 第 2巻 ) 山 元 悦 子 福 岡教 育 大 学助教 授 (第 3巻 ) 菅 原 稔 兵 庫教 育大 学教 授 ( 第 4巻 ) 中 西 一 弘 大 阪教 育大 学名 誉教 授 ( 第 4巻 ) 森 田 信 義 広 島大 学教 授 ( 第 4巻 ) 世 羅 博 昭 鳴 門教 育大 学教 授 ( 第 5巻 ) 三 浦 和 尚 愛 媛 大学教 授 ( 第 5巻 ) 大 槻 和 夫 広 島大 学名 誉教 授 /安 田女 子大 学教 授(第 6巻) 吉 田 裕 久 広 島大 学教 授(第 6巻) 植 山 俊 宏 京 都教 育大 学教 授(第
6巻)
︵一九 四 九 ) 年 四 月 に 学 生 を 迎 え 入 れ て 発 足 し た新 制 大 学 も 、 既 に 半 世 紀 を 超 え る 歳 月 を 閲 し た。 そ
刊行 の言 葉
昭 和 二四
の間 、 教 育 ・研 究 両 面 に実 績 を 挙 げ てき た が 、 新 し い世 紀 に 入 って、 組 織 ・運 営 面 に抜 本 的 改 革 が な さ れ る こと に な った。 新 制 大 学 と 歩 みを 共 に し て来 た者 とし て 深 い感 慨 を 覚 え る 。
新 制 大 学 教 育 系 学 部 に は 、 国 語 科 教 育 法 担 当 者 が 配 置 さ れ 、 教 職 科 目 単 位 取 得 希 望 者 に ﹁国 語 科 教 育 ﹂ 関 係 の
授 業 を 担 当 し た が、 昭 和 二 八 (一九 五 三 ) 年 四 月 、 大 学 院 ︵当 初 、 修 士 課 程 、 続 い て博 士 課 程 ) が 設 置 さ れ て か
︵ 東 京 教 育 大 学 教 授 ) の ご先 導 ・ご高 配 によ って 、
ら は 、 国 語 科 教 育 専 攻 の院 生 の指 導 も 担 当 す る こ と にな った。 新 制 大 学 で国 語 科 教 育 を 担 当 す る 教 官 方 は 、 石 井 庄 司 博 士
昭 和 二 五 (一九 五 〇 ) 年 九 月 、 全 国 大 学 国 語 教 育 学 会 を 創 設 し 、 全 国 を 九 ブ ロ ック ︵ ① 北 海 道 ・② 東 北 ・③ 関
東 ・④ 東 海 ・⑤ 北 陸 ・⑥ 近 畿 ・⑦ 中 国 ・⑧ 四 国 ・⑨ 九 州 ︶ に 分 け 、 毎 年 二 回 ︵う ち 、 一回 は 東 京 で ) 学 会 を 開 催 す る こ と に な った。 既 に百 回を 超 え る学 会 が 重 ね ら れ てき た 。
国 語 科 教 育 実 践 界 で は 、 日本 国 語 教 育 学 会 を 初 め 、 校 種 ︵小 ・中 ・高 ︶ 別 に 、 さ ら に は 研 究 組 織 ごと に 研 究 会
が 設 立 さ れ 、 そ れ ぞ れ 活 発 に活 動 が続 け ら れ た。 ま た 、 国 立 国 語 研究 所 ︵ 初 代 所 長 、 西尾 実 博 士 ︶、 文 化 庁 国 語
課 、 国 立教 育 政 策 研 究 所 な ど で 行 な わ れ た 研 究 ・調 査 等 も 、 国 語 科 教 育 の実 践 ・研 究 に 大 き く 寄 与 す る も ので あ
った 。 20世 紀 後 半 に お い て、 わ が 国 の国 語 科 教 育 研 究 の組 織 化 は よ く 整 備 さ れ 、 そ れ ぞ れ 実 績 を 挙 げ て い った と
思 われる。
朝 倉 書 店 は、 先 般 来 、 ︿朝 倉 国 語 教 育 講 座 ﹀ ( 全 六 巻 ) 刊 行 の 企 画 を 立 て ら れ た。 企 画 に当 た って は、 こう し た
企 画 経 験 の豊 富 な 中 西 一弘 教 授 に 世 話 人 を お 願 いし 、 各 巻 ご と に 編 集 担 当 者 を 依 頼 し 、 各 巻 の構 成 、 執 筆 者 へ の
連 絡 等 を 分 担 し ても ら う こと にな った 。 こ のよう な 経 緯 か ら 、 日 本 国 語 教 育 学 会 西 日 本 集 会 の開 催 ・推 進 に協 力 を いた だ いた方 々 に編 集 ・執 筆 を お 願 いし た 。
全 六 巻 か ら成 る 、 本 講 座 の目 指 す と こ ろ は 、 内 容 を 清 新 な も のと し 、 記 述 に当 た って は、 正 当 か つ平 易 な も の
た ら し め る こと 、 ま た 、 そ れ ぞ れ解 説 ・説 明 に 重 点 を 置 い て いく よ う に す る こ と で あ る。 企 画 側 と し て は、 学
生 ・院 生 の皆 さ ん を 初 め、 国 語 科 教 育 の実 践 ・研 究 に 取 り 組 ん で いる 人 た ち、 関 連 分 野 の 研 究 者 に も 、 一般 の
人 々 にも 、 手 に取 って 読 ん で いた だ け れ ば と 願 って い る。 広 く 開 かれ た ﹁講 座 ﹂ であ り た いと いう 思 いを こ め て いる 。
20 世 紀 に あ って は 、国 語 教 育 講 座 が数 社 か ら 既 に 刊 行 さ れ た 。 こ れ ら の講 座 が国 語 科 教 育 実 践 者 ・研 究 者 に そ
れ ぞ れ 役 に 立 つこ と も多 か った と 思 わ れ る 。 講 座 は 刊 行 さ れ た 、 そ の時 期 そ の時 期 から の羅 針 盤 に も な り 、 相 談 窓 口 にも な った か と思 わ れ る。
単 行 本 の中 か ら 自 分 に と って の﹁一冊 の本 ﹂ を 見 つけ 、 そ こか ら 摂 取 し う る も のを 見 い出 し 、 自 己 の実 践 ・研
究 に十 分 に 生 か し て いく こ と が 望 ま れ る。 同 時 に 、 ﹁講 座 ﹂ に 接 し て 、 そ の質 量 に 押 さ れ る こ と な く 、 活 用 し て
いく 方 途 を 自 ら 発 見 し て いく こ と も 望 ま れ る 。 ﹁講 座 ﹂ と の出 会 いに よ っ て、 国 語 科 教 育 への視 野 が開 け 、 何 を
︵ 垣 内 松 三 ・西 尾 実 ・大 村 は ま ・倉 澤 栄 吉 ︶ も 刊 行 さ れ 、
ど う 耕 し 、 深 め て、 成 果 を どう 導 き 出 し て いく の か に多 く の示 唆 が得 ら れ る こ と も 夢 で は な い。 国 語 科 教 育 界 で は 、 戦 前 ・戦 後 、 著 作 集 ・個 人 全集
近 現 代 国 語 科教 育 の み のり の豊 か さ が 見 ら れ る 。 ︿朝 倉 国 語 教 育 講 座 ﹀ 刊 行 に は、 国 語 科 教 育 実 践 ・研究 の み の
り で あ る と 共 に 、 さ ら に 未 来 に向 け て、 新 し い成 果 を 生 み出 す 母 胎 と も な り 、 指 針 と も な る、 役 割 を 期 待 す る こ と が でき る。
監 修 者 倉
地
澤
潤
栄
家
吉
本 講 座 が そ の使 命 ・役 割 を 十 分 に 果 たす よ う 願 って 、 監 修 者 か ら の 言葉 と し た い。
野
ま え が き
戦 後 第 二 の教 育 改 革 と いわ れ る 平 成 の学 習 指 導 要 領 改 訂 以来 、 教 育 界 は 、 激 変 す る 時 代 の様 相 と 子 ど も の変 化
に 対 応 し た新 た な 教 育 のあ り 方 を 求 め て変 化 し 続 け て き た。 国 語 教 育 界 も 例 外 で は な く 、 読 解 を 中 心 と し た 文 字
言 語 の 学 習 に 重 点 を 置 いた も の か ら 、 人 と 人 と の コ ミ ュ ニ ケー シ ョ ン の仲 立 ち を 担 う 言 語 の役 割 に 注 目 し た 、 ﹁伝 え 合 う ﹂ 活 動 重 視 の 学 習 への転 換 が 模 索 さ れ て いる 。
こ の よ う な 時 代 状 況 の中 で、 話 し 言 葉 の教 育 領 域 は 、 読 む 書 く 領 域 に 押 さ れ な が ら 軽 く 扱 わ れ る も の か ら 、
日 々 の教 室 で交 わ さ れ る 聞 く 話 す や り と り の指 導 か ら 始 ま り 、 総 合 的 な 学 習 の時 間 を 始 め と す る学 校 教 育 課 程 全
般 で の音 声 言 語 活 動 を 視 野 に 入 れ 、 さ ら に は実 生 活 で の コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン力 に つな が る 実 際 的 な 言 語 運 用 力 の 教 育 を 担 う 領 域 と し て 大 き く 変 貌 を 遂 げ よ う と し て いる。
本巻 ﹃ 話 し 言 葉 の教 育 ﹄ は 、 こ の よ う な 新 し い時 代 に お け る話 し 言 葉 教 育 の新 たな 枠 組 みを 提 示 し よ う と し た 点 に特 色 が あ る。
話 し 言 葉 の教 育 は 、 自 ら の心 を 開 いて 人 の話 に 耳 を 傾 け る 心 、 真 摯 な 気 持 ち で自 分 の言 葉 で話 す 態 度 、 自 分 と
みん な のた め に協 力 し て話 し 合 おう と す る社 会 性 のあ る ふ るま い等 を 身 に つけ さ せ る も の であ り 、 いわ ば 人 間 性
の陶 冶 と 切 り 離 し て は考 え ら れ な いも の であ る 。 そ の指 導 は、 教 師 の人 間 性 を 鏡 と し な がら 日 々 の話 す 聞 く 活 動 の中 で 地 道 に積 み 重 ね ら れ て こそ 、 児 童 生 徒 の肌 身 に染 み こ む も のと な る だ ろ う 。
こ の よう な 立 場 か ら 、 本 巻 では 話 し 言 葉 の教 育 を 、 まず 、 ︵ 1 ︶ 日常 的 な 学 級 経 営 や普 段 の国 語 学 習 に おけ る
指 導 、 ︵2︶ 取 り 立 て て 系 統 的 計 画 的 に 行 う 指 導 、 ︵3︶ 学 校 教 育 課 程 全 般 を 通 し た指 導 、 ︵4︶ 実 生 活 で の活 用
を 視 野 に 入 れ た指 導 と に 切 り 分 け て 論 述 し て いる ︵ 第 3 章 ︶。 そ し て そ の上 で 特 に ︵2 ︶ 取 り 立 て て 系 統 的 計 画
的 に行 う 指 導 に つ い て、 詳 し く 述 べ て いく ︵ 第 4 章 ︶ と いう 編 集 方 針 を と った。 ま た、 そ れ ら の指 導 を 支 え る 重 要 な 要 素 と し て ﹁教 師 の話 し 言 葉 ﹂ を 取 り 上 げ て 別 に論 じ て い る ︵ 第 5章 ︶。
話 し 言 葉 の教 育 は 、 ﹁話 す こ と 聞 く こ と ﹂ 自 体 の学 習 の他 に、 読 む こ と の学 習 や 書 く こ と の学 習 を 支 え る ﹁話
す 聞 く 活 動 ﹂、 土 台 を 支 え る学 級 の コミ ュ ニケー シ ョ ンを よ り よ いも の に す る 働 き か け 等 、 国 語 科 授 業 と いう 枠
組 みを 超 え た大 き な 視 野 に 立 ち 、 日常 的 な 取 り 組 み の積 み 重 ね に よ って こ そ 効 果 がも た ら さ れ る 営 み であ る 。 本
第 三 巻 編 者 白
元
石
悦
寿
子
文
巻 が、 読 者 に と っ て話 し 言 葉 の教 育 に つ いて 認 識 を 新 た に し 、 こ れ に取 り 組 む 意 欲 と 手 が か り を 提 供 す る も の と な る こと を 願 って い る。 二〇 〇 四年九 月
山
目
次
一 話 し言葉 の特 質 と機能
6
2
1
[野 地 潤 家 ] 1
二 話 し言葉 の機 構 と形 態
8
第 一章 話 し 言 葉 学 習 の特 質
三 話 し言葉 の形成的機 能
五 学習話法 の種類 と機 能
四 教 育 に お け る 話 し 言 葉 の役 割
六 学習話法 の特質 と訓練
流行語を学 習個体史 に重ね た考 察
四 情 報 化 時 代 さ ら に情 報 時 代 、 そ し て国 際 化 社 会
三 中 等 高 等 教 育 は 理 科 系 重 視 、 初 等 教 育 は ?
二 朝鮮 戦争を 大きな契機 にし た高度 経済成 長期
一 戦後 の話し 言葉 学習指導 と教育 の出発
第 二章 話し 言葉教育 の戦後六 〇年史︱
七 授 業 創 造 に おけ る 話 し 言 葉 の重 い役 割
11
[白 石 寿 文 ] 18
14
14
19
26
28
31
第三章 話し言 葉学習 の機 会と場 一 日 常 的 な指 導 二 取 り 立 て指 導
三 学 校教育 課程全般 を通し た話 し言葉 の指 導 四 実 生 活 で の活 用 に つな が る 力 を 育 て る話 し 言 葉 学 習 にす る た め に ︱小 学 校 国 語 科 を 中 心 と し て
第 四 章 話 し 言 葉 学 習 の内 容 ・方 法 ・評 価 一 話 し 言 葉 学 習 の形 態 二 聞 く こと の学 習 指 導 三 話 す こ と の学 習 指 導
四 聞き話す 双方向 性 のあ る音 声言語活 動 の学習指導 ︱対 話 と 話 し 合 い
五 読む学習 と連動 させた学習指 導 六 話 し 言 葉 の育 ち を 評 価 す る と いう こ と
教育 話法
第 五章 話 し言葉教育 を支え る教 師 の話 し言葉 一 教師 の音声表 現︱
[ 前 田 真 証 ] 36
[山 元 悦 子 ] 48
[楢 原 義 顕 ] 61
[白 石寿 文 ] 72
[杉 哲 ] 82
[三 浦 和 尚 ] 182
[安 河 内 義 己 ] 169
[堀 泰 樹 ] 154
[山 元 悦 子 ] 134
[間 瀬 茂 夫 ] 114
[田 中 智 生 ] 99
36
82
182
索
二 教 師 の話し 言葉 の役割 三 学 習 材 とし て の教 師 の話 し 言 葉 四 音 声 表 現 モ デ ル とし て の教 師 の話 し 言 葉
引
184 183
191
20l
第 一章 話 し 言葉 学 習 の特 質
一 話 し 言 葉 の特質 と機 能
話 し 言 葉 の特 質 は、 そ の構 造 面 か ら、 ど の よ う に 求 め ら れ る であ ろ う か 。 話 し 言 葉 は、 ① 音 声 の時 間 的 線 条
︵ 伝 達 ︶ 内 容 を 具 象 化 す る。 話 し 言 葉 は、 話 し 手 .聞 き 手 の対
性 、 ② 表 現 の 一回 的 発 現 性 、 ③ 対 人 的 直 接 性 によ って 構 造 づ け ら れ て いる 。 話 し 言 葉 は 、 時 間 的 線 条 性 と 一回的 発 現 性 を 有 す る 音 声 活 動 を 中 軸 に し て、 そ の表 現
人 的 直 接 性 に よ って 、 そ の成 立 過 程 が特 色 づ け ら れ る 。 話 し 言 葉 の特 質 は 、 音 声 の時 間 的 線 条 性 と そ れ に立 つ表
現 行 為 の 一回 的 発 現 性 に規 定 さ れ て いる と い って よ い。 話 し 言 葉 の 微 妙 さ 、 むず か し さ 、 と ら え が た さ は、 そ の
特 質 か ら 発 し てく る こと が多 い。 話 し 手 ・聞 き手 の対 人的 直 接 性 は 、 両 者 間 に 成 立 す る 通 じ あ い ︵ 相 互 理解 ︶ を
特 色 づ け て いく 。 話 し 手 ・聞 き 手 間 の対 人 的 直 接 性 は 、 現 実 的 であ り 、 多 様 性 に富 む。 話 し 言 葉 の 対 人 的 性 格
は、 単 一的 固 定 的 で はな く 流 動 的 可変 的 であ る 。 そ こ に 話 し 言 葉 の態 度 面 ・心 理 面 のむ ず か し さ が 生 じ て く る。
次 に 、 話 し 言 葉 の機 能 は 、 ど の よう に と ら え ら れ る であ ろ う か 。 話 し 言 葉 の機 能 は 、 基 本 的 に は 音 声 表 現 に媒
介 さ れ る意 味 作 用 と し て と ら え る こ と が で き る。 意 味 を 内 包 す る話 し 言 葉 は、 そ の機 能 と し て 思 考 形 成 力 を も ち、 そ れ を 媒 介 にし て通 じ あ い の役 割 を 果 た し て いく 。
こ のよ う に み れ ば 、 話 し 言 葉 は 、 理 性 ・感 性 の 両 面 にわ た って 、 人 間 を 人 間 た ら し め て いく 、 人 間 形 成 に関 わ
る 根 本 機 能 を有 し て い る こ と が わ か る 。 さ ら に ま た、 話 し 言 葉 は そ れ を 用 いて 社 会 生 活 を 営 ん で いく 人 間 の集
団 .社 会 の形 成 に深 く 関 わ り 、 そ の内 面 的 精 神 的 な 連 帯 感 を 確 かな も の に し て いく 。 話 し 言 葉 は 、 そ の意 味 作
用 .思 考 作 用 を 軸 と し て 人 間 形 成 に 関 わ る根 本 機 能 を 有 し 、 そ の通 じ あ い の作 用 ・伝 達 作 用 を 軸 と し て 、 社 会 生 活 の 基 礎 を 固 め 、 そ の内 実 を 拡 充 し て いく 基 本 的 な 機 能 を 有 し て いる 。
人 間 は 本 来 感 性 的 存 在 であ る と 同時 に、 理 性 的 存 在 であ る。 感 性 ・理 性 の調 和 と 統 整 は、 容 易 で はな く 、 至 っ
て むず か し い。 話 し 言 葉 も ま た、 人 間 の両 極 的 な 矛 盾 し た あ り 方 に 深 く 関 わ って お り 、 決 し て単 直 に割 り 切 れ る
も の で は な い。 話 し 言 葉 が 軽 視 さ れ や す いの は 、 主 と し て 話 し 言葉 のと ら え に く さ 、 不 安 定 な 側 面 に偏 見 を 抱 き
や す いか ら であ り 、 話 し 言葉 が重 視 さ れ る の は 、 主 と し て 話 し 言 葉 の人 間 形 成 ・社 会 生 活 に おけ る 不 可 欠 の根 本 機能 に着 目 す る か ら であ る。
話 し 言 葉 は 、 時 間 的 線 条 性 に 立 つ、 一回 限 り の、 対 人 的 直 接 性 に 立 つ音 声 を 主 軸 とす る 、 意 味 ・思 考 の形 成 と
通 じ あ いに 、 そ の構 造 的 機 能 的 特 質 が あ る と す れ ば 、 そ れ が 人 間 生 活 に と って、 ど れ ほ ど 精 妙 であ り 、 ど れ ほ ど
極 度 に困 難 さ を 含 む も の であ る か がわ か って く る。 話 し 言 葉 の機 能 を 、 教 育 ︵ 教 授 ・学 習︶ の場 に お い て十 分 に
発 揮 さ せ る に は 、 ま ず 話 し 言 葉 の特 質 と機 能 に つ いて 的 確 に 認 識 す る こと が求 め ら れ る。
二 話し言葉 の機構と形態
話 し 言 葉 が① 音 声 の時 間 的 線 条 性 、 ② 表 現 の 一回 的 発 現 性 、 ③ 対 人 的 直 接 性 によ って 、 精 妙 か つと ら え が た い
構 造 性 を 有 す る こと は、 す で に指 摘 し てき た と お り であ る 。 こう し た 構 造 特 性 を 有 す る 話 し 言 葉 は 、 そ の機能 と
︵ 対象︶
し て は 、 話 し 手 ・聞 き 手 、 教 材 ・場 面 か ら な る 。 時 間 的 線 条 性 に 立 つ、 一回 限 り の音 声 表 現 行 為 と し て の話 し 言
葉 は 、一定 の場 面 を 話 し 手 ・聞 き 手 に よ る対 人 的 直 接 性 に お いて 形 づ く り 、 目 的 ︵意 図 ) に 応 じ て素 材 を こと ば た ら し め る 。
話 し 言 葉 に お け る素 材 は 、 話 す と いう 言 語 行 為 の材 料 ・資 料 ・内 容 を な す も ので あ って、 話 し 手 ・聞 き 手 の生
活 環 境 ・生 活 意 識 ・生 活 経 験 に応 じ て、 変 化 に富 み、 多 様 で あ る 。 も ち ろ ん話 し 言 葉 に よ る 話 す こ と の表 現 内 容
を 統 合 し 組 織す る の は 、 話 し 手 の表 現 ︵ 伝 達 ︶ の目 的 ・意 図 に 基 づく の であ って、 そ れ ら は一定 の 話 題 ・主 題 ・
︵ 話 す こ と の材 料 ・素 材 ) の 選 択 に困 る こと はな い で
課 題 等 によ って ま と め ら れ る こ と が 多 い。 話 し 手 の生 活 経 験 ・生 活 意 識 が 豊 か で あ り 、 話 し 手 の主 題 意 識 ・課 題 意 識 が 明ら か で、 か つ鮮 烈 であ る 時 、 話 し 手 は話 題 と 話 材
あ ろ う 。 話 し 手 によ って 、 話 題 や 素 材 が 自 在 に選 べる よ う に な って、 初 め て話 し 言 葉 は 自 由 に そ の機 能 を 発 揮 す
る よ う にな る 。 話 し 言 葉 が形 骸 化 し な いた め に は 、 常 に そ の素 材 ・話 題 が 用意 さ れ て いな け れ ば な ら な い。 話 す
こと の準 備 は 、 話 す 場 に臨 ん で な さ れ る の で は な く 、 ま た 話 す 直 前 に な さ れ る の でも な い。 も ち ろ ん 、 臨 機 に唐
突 に話 さ な け れ ば な ら な い こと も 多 く 、 日 常 生 活 にお いて は 、 そ う いう 話 す こと の 経 験 も 少 な く な い。 し か し 、
価 値 のあ る 話 し 言葉 た ら し め る に は、 か ね て か ら のし っか り し た準 備 を 必 須 と す る。
話 し 言 葉 に おけ る 場 面 は、 話 し 手 と聞 き 手 に よ って構 成 さ れ 、 多 様 性 に富 む 。 話 し 手 と 聞 き 手 と の実 社 会 に お
け る人 間 関 係 に よ って、 話 し 言 葉 の場 面 は、 緊 張 ・弛 緩 さ ま ざ ま の変 化 を み せ る。 ま た 、 話 し 手 と 聞 き 手 の目 的
意 識 に よ って、 話 し 言 葉 の 場 面 はさ ま ざ ま に変 容 す る。 話 し 言 葉 の構 造 上 の特 質 は 、 そ の基 本 を 対 人 的 直 接 性 に
求 め る こと が で き る が、 そ れ を 基 盤 とす る話 し 言 葉 の場 面 は 、 逆 に 話 し 言 葉 によ る 音 声 表 現 に さ ま ざま に 作 用 し
て いく 。 話 し 手 ・聞 き 手 の身 振 り も 表 情 も 眼 光 も 、 す べ て 両 者 の話 し こ と ば によ る 通 じ あ いに 関 わ って いく 。 話
し 言葉 によ る場 面 に、 ど のよ う に 習 熟 し て いく か は、 話 し 言 葉 習 得 上 の最 も 重 要 な 問 題 であ る 。
話 し 言 葉 の構 造 ・機 能 ・機 構 は、 す で に見 てき た と お り であ る 。 話 し 言 葉 の基 本 構 造 は、 ① 音 声 の時 間 的 線 条
性 、 ② 表 現 の一 回 的 発 現 性 、 ③ 対 人 的 直 接 性 に 見 出 さ れ る が、 そ れ ら は いず れ も 話 し 言 葉 の特 質 と し て 、 そ の精
妙 さ 、 至 難 さ を 認 め ざ る を え な いも のば か り であ った 。 ま た 、 話 し 言 葉 の機 能 と し て は 、 人間 形 成 ・社 会 生 活 に
そ の意 味 作 用 ・思 考 作 用 ・通 じ あ い ︵ 伝 達 ︶ 作 用 を 軸 と し て、 根 本 的 にあ ず か って いく こ と を 確 認 し た 。 話 し 言
葉 の根 本 機 能 に 思 いを いた す と 、 そ れ は 人 間 形 成 ・社 会 形 成 ・世 界 形 成 の根 基 に関 わ って お り 、 教 育 そ のも の の
機 能 と 軌 を 一に す る も ので あ る こ と が 明 ら か にな って く る 。 さ ら にま た、 話 し 言 葉 の機 構 と し て は、 話 し 手 ・聞
き 手 の対 人 的 直 接 性 を ふ ま え て、 素 材 ・場 面 と も に変 化 に富 み、 重 要 な 役 割 を 果 た し て いる こと が 明 ら か に さ れ た。
話 し 言 葉 の特 質 を 、 構 造 ・機 能 ・機 構 を 視 点 と し て 透 視 す れ ば 、 す で に み てき た よ う に 見据 え ら れ る 。 そ れ で は、 話 し 言 葉 の現 実 態 は ど のよ う に と ら え ら れ る であ ろ う か。
話 し 言 葉 の基 本 形 態 は 、 これ を ① 対 話 、 ② 会 話 、 ③ 公 話 ︵独話 ︶ の 三 つ に分 け る こと が で き る 。 ① 対 話 は、 話
し 手 ・聞 き 手 の対 人 的 直 接 性 に お い て成 立す る 、 話 し 言 葉 の諸 形 態 で は最 も 基 本 を な す も ので あ る。 ② 会 話 は、
︵ 独 話 ︶ は 、 話 し 手 が多 く の聞 き 手 に 対 し て、 あ る ま と ま り を も つ話 を し て いく 特 殊 な 形 態 であ る 。
話 し 手 に対 し て 聞 き 手 が 二 名 以 上 存 在 し 、 交 互 に話 し 言 葉 活 動 を 進 め て いく 、 か な り 自 在 性 に 富 む形 態 であ る。 ③ 公話
これ ら の基 本 形 態 に対 し 、 ① 問答 、 ② 討 議 、③ 討 論 を 、 専 門 形 態 と し て 取 り 上 げ る 場 合 も あ る 。 ① 問 答 法 、 ②
討 議 法 、 ③ 討 論 法 は在 来 、 教 育 上 、 学 習 上 、 政 治 上 、 研 究 上 、 宗 教 上 、 専 門 の ル ー ル ・方 法 に よ って運 用 さ れ て
き た。 そ れ だ け に、 生 活 形 態 でも あ る ① 対 話 、② 会 話 に 比 べ る と 、 特 殊 の専 門 性 も 加 わ って いる 。
話 し 言葉 の構 造 ・機 能 ・機 構 は 、 複 雑 であ って 、 そ の実 態 ・実 質 を と ら え る こと は容 易 でな い。 そ れ だけ に 、
話 し 手 と し て、 話 し 言 葉 の能 力 ・技 能 ・方 法 の習 得 と そ の熟 達 と を 希 求 す る者 は 、 話 し 言 葉 の何 を 手 が か り ・足
場 と し て、 会 得 ・洗 練 を 図 れ ば い いの か 、 そ の見 究 め が た さ に 迷 い、 途 方 に暮 れ る こ と が 多 い。 話 し 言 葉 の習
得 ・熟 達 の必 要 に迫 ら れ な が ら 、 実 地 に は ど こ か ら 着 手 す れ ば い い のか 手 を拱 く の み と いう 例 は 少 な く な い。
そ う いう 場 合 、 話 し 言 葉 の基 本 形 態 に 着 目 す る と 、 話 し 言 葉 の 習得 、 熟 達 に つ い て、 実 地 の修 練 への具 体 的 な
手 が か り を 得 ら れ る こ と が多 い。 話 し 言 葉 の形 態 のう ち、 最 も 基 本 的 であ る のは 対 話 形 態 であ る と わ か る と 、 話
し 言 葉 習 得 に つ いて 、 目 標 が 立 て やす く 、 か つ方 法 を 工 夫 す る こ と も 容 易 に な って く る 。 対 話 形 態 に、 話 し 手 と
し ても 、 聞 き 手 と し ても 、 習 熟 し て いく こ と、 自 覚 的 に 取 り 組 ん で いく こ と 、 意 図 的 に 対 話 経 験 を 積 み 上 げ て い
︵ 討 論 ︶ に つい ても 習 得 ・習 熟 の道 が開 け て く る。 基 本 形 態 と し て の対 話 に 打 ち 込 ん で いく こ と が 会
く こ と、 そ う す る こ と に よ って 、 対 話 力 を 身 に つけ て い く こ と が で き る ば か り で な く 、 さ ら に は 、 会 話 ︵ 討 議 )・公 話
話 にも 公 話 にも 発 展 さ せ て いく こ と が でき る と いう 見 通 し によ り 、 自 信 を 強 め 、 話 し 言 葉 の習 得 ・習 熟 に 迷 い が な く な って いく 。
わ が 国 の場 合 、 話 し 言 葉 に お け る 対 話 形 態 の発 達 は 、 平 安 朝 に お け る 宮 廷 生 活 、 江 戸 期 に お け る 遊 里 生 活 等
に、 そ の洗 練 さ れ た水 準 を 見 出 す こと が で き る 。 明治 期 以 降 に は 、 公 話 ︵独 話 ︶ と し て の政 治 演 説 が欧 米 か ら 移
入 さ れ 、 演 説 の盛 行 と普 及 が見 ら れ る よ う に な った。 ま た 、 会 議 ・討 議 に つ い て、 明 治 政 府 も 、 福 沢諭 吉 ら 洋 学
︵ 独 話 ︶・会 話 ︵ 会 議 ・討 議 ︶ の 両 形 態 の移 入 が 優 先 さ れ
者 グ ル ー プ も 、 欧 米 か ら の 移 入 を 図 り 、 理 論 ・実 際 の両 面 か ら の研 究 ・練 習 を 進 め、 や が て定 着 を み る に 至 っ た。 明 治 期 に お い て は 、 社 会 的 必 要 に迫 ら れ て 、 公 話
た。 基 本 形 態 と し て の対 話 は、 当 時 ま だ そ の重 要 性 と 価 値 が十 分 に は 認 識 さ れ て いな か った。 こ の 面 に お け る わ
が国 の話 し 言 葉 自 覚 の 立 ち 遅 れ は 否 めな い。
明 治 期 以 前 、 庶 民 集 落 に お いて は 、 今 日 の いわ ゆ る 話 し 合 い ( 会 議 な いし 討 議 形 態 の 一種 ) が行 わ れ て いた 。
そ れ は 、 近 代 議 事 法 の よ う に話 し 合 いを ルー ル に 照 ら し て、 手 際 よ く 進 行 さ せ る こと は で き な か った が 、 集 会 に
参 加 し た メ ン バー のす べて が納 得 し 合 意 す る ま で、 十 分 に時 間 を かけ 回 数 を 重 ね て、 共 同 思 考 を 徹 底 し て尽 く す
方 式 を 採 って い た。 そ のよ う な 伝 統 的 な 話 し 合 いの 精 神 と方 法 は 、 欧 米 か ら 移 入 さ れ 、 形 式 面 で整 え ら れ た 近 代 的話 し合 い ︵ 会 議 ・討議 ︶ に生 か さ れ た か ど う か。
いず れ に し ても 、 話 し 言 葉 の 三 つ の基 本 形 態 ︵ ① 対 話 、 ② 会 話 、 ③ 公 話 ︿独話 ﹀︶ お よ び そ の専 門 形 態 ︵ ①問
答 、② 討 議 ・会 議 、 ③ 討 論 ・講 演 ) が 明 治 以 降 の わ が 国 の社 会 に移 入 さ れ 摂 取 さ れ 、 試行 、 実 施 さ れ て、 よう や
く 百 三 〇 年 余 り を 経 過 し た と こ ろ であ る。 わ が国 の民 主 社 会 に いま だ 十 分 に は 根 を お ろ し て いな い面 があ る に し
て も 、 国 民 な いし 社 会 成 員 の 一方 的 な 怠 慢 に よ る と は 言 え な い。 し か し 、 教 育 の面 で、 これ ら 諸 形 態 を 十 分 に 配
﹃言 語 と 教 育 ﹄ に お い て 、 言 語 の 形 成 的 機 能 に つ い て 、 次 の よ う に 述 べ て い る
慮 し て 意 図 的 計 画 的 に 取 り 組 ん だ か ど う か と いう 問 題 に な る と 、 や は り 不 十 分 な 面 が あ った と 言 わ ざ る を え な い 。
三 話 し言葉 の形成的機能
0 ・F ・ボ ル ノ ー 教 授 は 、 自 著 (注 1 )。
世 界 は 人間 に 対 し て 、 言 語 の像 にし た が って形 成 さ れ る ので あ り 、 あ ら ゆ るあ ら た な 言 語 的 な 正確 な 表 現
は 同 時 に 、 か れ の世 界 の 増 大 で あ り 、 豊 富 化 であ る 。 こ の こ と は、 た だ 外 的 な 世 界 だ け で な く 、 内 的 な 世
界、 精 神 と 心 の世 界 に も 関 係 す る の であ る 。 子 ど も が 外 的 な 世 界 を 表 示 し 、 そ れ を 言 語 に よ って と ら え る こ
と を 覚 え る こと によ って 、 外 的 な 世 界 が 子 ど も の中 で分 節 さ れ 組 織 だ て ら れ る のと 同 じ よう に、 子 ど も の内
面 世 界 も ま た 言 語 的 表 現 に 即 し て 形 成 さ れ る。 す な わ ち 、 歓 喜 と苦 痛 、 愛 と 忍 耐、 退 屈 と 期 待 、 率 直 と 尊
大 、 な ど、 これ ら はす べ て言 語 が 人 間 に 準 備 し て く れ る言 語 の は た ら き のも と で、 はじ め て形 成 さ れ る の で
あ り 、 こ の過 程 に お い て、 人 間 の内 的 な 本 質 が 形 づ く ら れ る の であ る 。 こ の こと はも ち ろ ん 、 言 語 が こ れ ら
の感 情 を 単 純 に無 か ら 生 み出 す と いう こと を 意 味 す る ので は な い。 な ん ら か の心 的 な 生 活 が、 す で にそ こ に
あ る の で な く て は な ら な い。 し か し 、 こ の生 活 は 、 ま だ 形 を も たず 、 と ら え よ う も な いも の であ り 、 こ の生
、 あ る いは よ り適 切 に いえ ば 、 こ の生
こ の生 活 は そ の形 態 を 獲 得 し 、 し た が って ま た、 は
活 が言 語 に よ って指 し 示 さ れ た 形 式 の中 に流 れ 込 む こ と に よ って︱ 活 が そ れ ら の形 式 に 結 び つけ ら れ る こと によ って 、︱
じ め て そ れ 本 来 の現 実 性 を得 る の で あ る 。 そ う し て、 ど のよ う な 言 語 でも 、 さ き に く わ し く 述 べ た よ う に こ
のよ う な 態 度 を 、 そ の つど特 別 な し か た で、 は っき り と 表 し て いる ゆ え に、 人 間 も ま た 、 言 語 に お いて、 そ
の つど特 別 な し か た で形 成 さ れ る の で あ る。 こ の こ と は 、 そ れ ぞ れ の母 国 語 の ﹁世 界 の み か た ﹂ に つ いて い
え る だ け でな く 、 さ ら に そ れ 以 上 に 、 人 間 が ど のよ う な 範 囲 に お い て、 ま た ど のよ う な し か た で自 分 の 言 語
を 習 得 し 、 ま た か れ が そ れ を ど のよ う に 扱 っ て いる か と いう こ と に つ いて も いえ る の であ る。 言 語 を 通 し
て、 ま た 言 語 を 用 い て の 教 育 に お いて 、 わ れ わ れ は同 時 に人 間 全 体 を 教 育 し て いる の であ る。 そ う し て そ れ
ゆ え に 言 語 教 育 は全 教 育 の核 心 であ る 。
右 の ボ ルノ ー 教 授 の論 及 は、 言 語 のも つ形 成 的 機 能 を 明 ら か にし て お り 、 感 動 的 に迫 っ てく る。 ボ ル ノー 教 授
は 、 ﹁そう し て そ れ ゆ え に 言 語 教 育 は 全 教 育 の核 心 であ る 。﹂ と 、 確 信 に 満 ち て結 ぶ。
ボ ル ノー 教 授 は 、 話 し 言 葉 の 諸 形 態 のう ち 、 と り わ け 対 話 に つ い て 考 究 を 深 め て いる 。 ﹁対 話 への教 育 ﹂ を 強
調 さ れ る ボ ルノ ー 教 授 は 、 ﹁対 話 への 教 育 は、 そ のま ま 平 和 への教 育 であ る。﹂ と道 破 し て いる ︵ 注 2 ︶。
今 日 と も す れ ば 、 話 し 言 葉 の 混 乱 、 無 力 化 が 見 ら れ る 時 期 に 、 教 育 に お け る話 し 言 葉 の 形 成 的 機 能 が 徹 底 し て
掘 り 下 げ ら れ て い る の は 注 目 に値 す る。 ボ ルノ ー 教 授 に よ る話 し 言 葉 の 形 態 と機 能 の分 析 は 精 細 を き わ め 、 そ の
考 察 は 周 到 無 比 であ る。 話 し 言 葉 の形 成 的 機 能 に回 帰 し て、 そ の真 実 を と ら え て いく こ と が これ か ら の人 間 形 成 を 目 指 す 教 育 に と って最 も 切 実 な 課 題 と な ろ う 。
四 教 育 にお け る話 し 言葉 の役 割
︵ 学習 指導 ︶を教 授
教 育 に お け る話 し 言 葉 の 根 本 的 役 割 は 、 話 し 言 葉 が 人 間 形 成 ・社 会 生 活 に 最 も 深 く 関 わ って 、 人 間 を 人 間 た ら
し め、 社 会 を 社 会 た ら し め る も の と し て 機 能 し て いる こ と に 見 出 さ れ る。 話 し 言 葉 は 教 授
︵ 学 習 指 導 ︶ た ら し め、 学 習 を 学 習 た ら し め る た め 、 最 も 有 力 に働 く 。 話 し 言 葉 は 、 教 授 ︵ 学 習 指 導 ︶ の成 立 と
展 開 に不 可 欠 の存 在 であ る と い え る 。 教 授 ︵ 学 習 指 導 ︶・学 習 は、 基 本 的 に は話 し 言 葉 に よ って 媒 介 さ れ 、 話 し
言 葉 に よ って 教 授 ︵ 学 習 指 導 )・学 習 の作 用 ・活 動 が充 実 し て いく。
教育 に お け る 話 し 言葉 は 、 意 図 的 な 教 育 場 面 に お いて 、 そ の効 用 を 発 揮 す る だ け でな く 、 日 常 の生 活 場 面 に お いて も 、 思 いも かけ な い効 用 を 生 ず る こ と が あ る。
す ぐ れ た ジ ャー ナ リ スト とし て 活 躍 さ れ た 扇 谷 正造 氏 は、 自 ら の青 年 記 者 時 代 の 一つの 経 験 を 、 次 のよ う に述 べ て い る ︵注 3 ︶。
も う 三 十 年 も 前 の昭 和 十 年 の こ と であ る 。 私 は 、 朝 日 新 聞 の青 森 の支 局 に いた 。 担 当 は サ ツ回 り で あ っ
た 。 熱 心 な 記 者 だ った が、 何 し ろ かけ 出 し であ る 。 半 年 目 ぐ ら いの時 、 た て続 け に五 本 抜 か れ た。 私 は自 信
を 失 っ た。 何 よ り も 県 内 の読 者 に申 し わ け な いと 思 った。 支 局 長 の小 野 昌 次 氏 に辞 表 を 出 し た。 小 野 さ ん は 、 そ れ を 見 て、
﹁ウ ン 、 こ れ は 何 だ 。 辞 表 ? 君 は 、 ま だ 、 見 習 社 員 で 、 責 任 を 負 う ガ ラ じ ゃ な い ﹂ こう い って、 私 の辞 表 を 破 って捨 て た 。 そ れ か ら 、 し ず か に、 こう い った 。 ﹁君 は 、 い い 原 稿 を 書 い て い る ん だ よ 。 何 だ 、 あ ん な も の ﹂
私 は 、 感 動 し た。 危 う く 、 涙 が 出 そ う にな った。 こ の ひ と こ と に 励 ま さ れ 、 私 は ガ ン バ ッた 、 ガ ン バ ッ た 、 ガ ン バ ッた ⋮ ⋮ 。
これ は職 場 に お け る体 験 の 一つ であ る が 、 小 野 支 局 長 の扇 谷 見 習 記 者 への助 言 ︵ 励 ま し ︶ は 、 す ぐ れ た教 育 指
導 そ のも の と い って よ い。 扇 谷 正 造 氏 は、 続 け て、 ﹁後 年 、 何 か の本 で、 ﹃最 良 の批 評 と は いか に ひ と を 励 ま す か
と いう こ と だ﹄ と いう 一語 を 読 み 、 ハ ッと 目 が ひ ら か れ た。 中 年 以 後 の私 は、 こ の こ と ば を た いせ つな も の と し
て き た 。﹂ と 述 べ、 さ ら に ま た 、 ﹁小 野 さ ん は 、 いま盛 岡 で、 悠 々自 適 さ れ て いる 。 こ の ご ろ 、 とく に 、 も し 小 野 さ ん に め ぐ り会 わ な か った ら と思 う こ と 切 で あ る。﹂ ︵ 注 4︶ と 述 べら れ た 。
時 機 を 得 た、 適 切 な 、 し か も 本 人 ( 当 事 者 ) と し て は思 いも か け ぬ 助 言 ︵ 励 ま し ︶ に よ って 、 新 生 への契 機 を
つか み、 み ご と に立 ち 直 る こ と が で き た と いう 事 例 は 少 な く な い。 扇 谷 正 造 氏 の場 合 、 そ の典 型 例 と な っ て い
る。 こう いう 事 例 に見 ら れ る 助 言 者 の話 し 言 葉 は、 そ れ を 受 け る 人 に、 生 涯 を 貫 く 、 感 化 力 ・薫 化 力 と な る。
右 の事 例 に も 見 ら れ る よ う に、 話 し 言 葉 の教 育 的 機 能 に は、 学 び に打 ち 込 む者 の生 涯 を 貫 く 感 化 力 ・薫 化 力 に
な りう る も のが あ り 、 さ ら に 人生 への指 針 と な り う る も の が 見 出 さ れ る。 これ ら は 、 話 し 言 葉 を 媒 介 に し て営 ま れ る 、 人 間 対 人 間 の接 触 ・出 会 いに お いて成 り 立 って いく 。
教 育 にお け る 話 し 言 葉 の役 割 は 、 教 師 に は 教 育 話 法 と し て、 学 習 者 ︵児 童 ・生 徒 ︶ に は学 習 話 法 と し て見 出 さ
︵ 児 童 ・生 徒 ︶ が 学 習 行 為 を 成 立 さ せ 、 充 実 さ せ る た め に 要 請 さ れ
れ る 。 教 育 話 法 は 、 教 育 実 践 の場 に お いて 用 いら れ る 話 し 言 葉 の原 理 ・方 法 ・技 能 を 求 め た も の であ り 、 学 習話 法 は 、 同 じ く 教 育 実 践 の場 に お いて 、 学 習者
る話 し 言 葉 の方 法 ・技 能 を 求 め て 見 出 さ れ た も の であ る 。
五 学習話法 の種 類と機能
授 業 にお け る 学 習 話 法 の基 礎 の 一つは 、 話 し 手 の発 言 の内 容 ・意 図 を 、 正 確 に 理 解 す る 、 き ち ん と聞 き 取 る と
︵ 学 習 者 ︶ と し て 、 積 極 的 に か つ的 確 に発 言 し
いう こと であ る 。 正 確 に か つ的 確 に 受 け と め 、 理 解 し 、 そ れ に 反 応 し て いく こ と は 、 す べ て の学 習 活 動 の基 礎 と な る。 これ を 聞 解 力 と名 づ け る こと も でき よ う 。 つ い で、 学 習 の場 に お い て聞 き手 によ く わ か る よ う に 、 話 し 手
発 表 し て いく こと も 、 大 事 な 学 習話 法 であ る 。 こ れ を 話 表 力 ︵き っか り と 話 し 表 す 技 能 ︶ と名 づけ る こ とも で き よう。 学 習 話 法 と し て の話 表 力 は、 さ ら に左 のよ う に 五 類 に 分 け ら れ る 。
① 応 答 力︱ 問 答 ・発 問 に 対 し て答 え て いく 話 法 ② 質 疑 力︱ 自 ら 疑 問 を 発 し 、 問 いか け る、 質 問 を す る話 法 ③ 発 表 力︱ 意 見 ・感 想 を 述 べ、 調 べた こ と を 報 告 し て いく 話 法 ④ 討 議 力︱ 話 し 合 いに 加 わ り 、 適 切 に発 言 し 、 話 し 合 いを 高 め て いく 話 法 ⑤ 司 会 力︱ 話 し 合 いを 進 め 、 ま と め て いく 話 法
学 習 話 法 は 、 聞 解 力 ・話 表 力 か ら な り 、 こ の 両 者 は 、 話 し 言 葉 と し て 、 聞 く ・答 え る ・た ず ね る ・発 表 す る ・
話 し 合う ・話 し 合 い の進 行 を 図 る な ど の活 動 形 態 を と る 。
① 応 答 力 は、 対 話 形 態 に お け る典 型 的 な 能 力 の 一つで あ る。 発 問 ︵ 教 育 話 法 ︶ に 対 す る応 答 であ る が 、 そ れ は
一見 受 動 的 であ って そ う で は な い。 柔 軟 で的 確 な 、 即 決 的 な 判 断 に 立 って 、 答 え な く て はな ら な い。 学 習 の場 に お け る 応 答 のし か た の訓 練 は 、 や は り ゆ る が せ に でき な いも の の 一つであ る 。
② 質 疑 力 は、 応 答 力 と並 ん で、 学 習 話 法 の中 核 の 一つ であ る。 学 習 ・教 授 過 程 に お い て、 問 題 点 ・疑 問 点 を 把
握 す る こと 、 そ れ に 基 づ いて 質 疑 ・質 問 を す る こ と、 そ れ は自 主 的 な 学 力 水 準 を 反 映す る。 質 疑 の仕 方 に つ いて
︵ 独 話 ︶ 形 態 に お け る基 本 能 力 の 一つ であ る。 これ に は 対 話 ︵問答 ・応 答 ︶ と は別 のむ ず か
は、 学 習 者 の発 達 段 階 に応 じ て、 訓練 を 積 み 上 げ て いく よ う にす る 。 ③ 発表 力 は、 公話
し さ が あ る 。 話 し 言 葉 と し て の音 声 表 現 を ど のよ う に し て いく か に 加 え て、 発 表 す べ き 内 容 を ど のよ う に 組 み立
て、 ま と め 、 述 べて いく か の問 題 があ る 。 そ れ を 与 え ら れ た 条 件 のも と で、 主 題 ・分量 ・時 間 な ど を 考 慮 し てま
と め て いく の は、 容 易 な こと で はな い。 個 別 的 に 周 到 に 訓 練 し て いか な く て は な ら な い技 能 分 野 であ る ︵ 指導者 ︿授 業 者 ﹀ が機 会 を と ら え て自 ら手 本 ︿規 範 ﹀ を 示す こと は最 も 大 事 で あ る ︶。
④ 討 議 力 は 、 会 話 形 態 に お け る 中 心 能 力 であ る 。 共 同 思 考 に よ る 、 問 題 解 決 への話 し 合 いは、 学 習 活 動 を 充 実
さ せ る た め の根 幹 を な す 。 話 し 合 う 力 を 習 得 さ せ る こ と は 、 自 主 学 習 を 成 就 さ せ る のに 不 可 欠 で あ る 。 在 来 は こ
の こ と が 軽 く 扱 わ れ てき た き ら い があ った 。 学 習 者 た ち を 話 し 合 わ せ てお け ば 、 そ れ で そ の ま ま 話 し 合 いに な っ
て いく のだ と 早 合 点 さ れ て いた 。 真 の話 し 合 いは ど う あ る べき か に つ い て、 指 導 者 ︵ 授 業 者 ︶ が し っか り と ら え
て いな いと 、 結 果 的 に は卒 然 と し ゃ べ って い る だ け の、 時 間 を 浪 費 す る だけ の、 いわ ゆ る え せ話 し 合 いに陥 って し ま う 。 こ の こ と は たえ ず 戒 め て か か ら な く て は な ら な い。
︵ 話 し 合 い) の さ せ 方 、 こ れ ら は 、 司
⑤ 司会 力 は、 話 表 力 ︵ 応 答 ・質 疑 ・発 表 ・討 議 な どを 含 む︶・聞 解 力 の総 合 さ れ た も のと も み ら れ る 。 話 表 面 の総 合 力 と も いえ る 。 発 言 のさ せ方 、 質 疑 の さ せ 方 、 発 表 の さ せ 方 、 討 議
会 力 を 十 分 に発 揮 し て、 議 題 ︵ 課 題 ︶ を ま と め て いく のに 、 いず れ も 重 要 な も の ば か り であ る 。 学 習 者 に 司 会 力
を 習 得 さ せ る こと に は お のず と 限 界 も あ ろう が 、 でき る 限 り 司会 力 を 身 に つけ て いく よ う に導 き た い ︵指 導 者 自
身 がす ぐ れ た 司 会 力 を 身 に つけ て い て、 随 時 適 切 に 司 会 上 の手 本 ︿規 範 事 例 ﹀ を 学 習 者 に実 地 に示 す こと は、 な に よ り 大 事 であ る ︶。
学 習 話 法 に は 、 聞 解 力 ・話 表 力 が あ る こと 、 話 表 力 は 、 さ ら に いく つか の話 法 に 分 け て 考 え ら れ る こ とを 述 べ
てきた ︵ 聞 解 力 に つ いて も 、 さ ら に分 け て考 え る こと が でき る )。 広 義 に と れ ば 、 学 習 活 動 に 参 加 し 、 学 習 過 程
の展 開 に応 じ て、 学 習 者 が用 いる 話 し 言 葉 は 、 す べ て 学 習 話 法 と 考 え ら れ る。 狭義 に と れ ば 、 学 習 話 法 は、 学 習 活 動 を 可 能 にさ せ、 充 実 さ せ、 成 果 を あ げ さ せ る た め の話 法 と し て考 え ら れ る 。
学 習 話 法 の機 能 は 、 学 習 者 自 ら が学 習 活 動 を 可能 にさ せ、 成 立 さ せ 、 成 果 を あ げ さ せ る こ と に求 め ら れ る 。 そ
れ な し に は 、 学 習 活 動 は存 在 し な い。 学 習 話 法 の機 能 は、 学 習 を 中 核 にし た授 業 の創 造 に基 本 的 に関 わ る と ころ に 見 出 さ れ る。
六 学習話法 の特質と訓練
学 習 者 の 習 得 し て いく 生 活 話 法 ︵ 話 し 言 葉 ︶ も 、 そ の内 実 は 学 習 話 法 に ほ か な ら な い。 発 達 途 上 にあ る学 習 者
は 、 生 活 話 法 を 習 得 し つ つ、 そ れ を 活 用 し て 、 自 ら の生 活 を 学 習 を 充 実 さ せ確 か な も のと す る 。 生 活 話 法 ︵話 し
言 葉 ) のも って い る 人 間 形 成 力 ・社 会 形 成 力 を 考 え れ ば 、 こ れ は 自 明 の理 とも いえ る 。
学 習 話 法 は ま た、 生 活 話 法 の中 核 を な す も の と考 え ら れ る。 学 習 者 に 、 ① 応 答 力 、 ② 質 疑 力 、 ③ 発 表 力 、 ④ 討
議 力 、 ⑤ 司会 力 を どう 自 覚 さ せ、 ど う 努 め さ せ る か は 、 最 も 大 事 な 課 題 と な る。 各 学 習 話 法 の機 能 が 十 分 に 働 く よ う に 学 習 上 の基 礎 訓 練 を 施 し て いか な く て は な ら な い。
各 学 習 話 法 の基 礎 訓 練 に あ た って 念 慮 す べき は、 す で に述 べて き た話 し 言 葉 の 構 造 的 特 質 と し て の、 ① 音 声 の
時 間 的 線 条 性 、 ② 表 現 の 一回 的 発 現 性 、 ③ 対 人 的 直 接 性 を 十 分 に 踏 ま え る こ と で あ る 。 各 話 法 を 習 得 し て いく 基
本 の心 が ま え は 、 こ こ か ら 導 き 出 さ れ る。 各 話 法 に つ い て の方 法 も マナ ー も 、 話 し 言 葉 の特 質 を 見 つめ る と こ ろ か ら導 き 出 さ れ る 。
︵ 昭 和 二 ︿一九 二七 ﹀ 年 ∼昭 和 八 ︿一九 三 三 ﹀ 年 ︶ に 小 学 校 教 育 を 受 け た 。 四国 地 方 ︵愛 媛 県 ︶
七 授業創 造における話 し言葉 の重 い役割
私 は 昭 和 初 期
の山 村 に育 った 私 は 、 話 し 言 葉 の習 得 で は、 恵 ま れ た 言語 環 境 に あ った と は いえ ず 、 質 疑 力 ・発 表 力 ・討 議 力 に
つ いて 指 導 を 受 け る 機 会 も ほ と ん ど な か った。 応 答 力 も 、 指 導 者 の発 問 に応 じ て、 少 し ず つ身 に つけ た と は い え 、 十 分 で は な か った 。
あ れ か ら 七 ○ 年 を 経 て、 現 在 、 小 中 学 校 に学 ぶ 児 童 ・生 徒 た ち の話 し 言 葉 は 、 そ の 習 得 は 、 ど のよ う であ ろ う
︵ 発 表 力 ︶ と いう 場 合 、 事 前 の準 備 と 練 習 が周 到 に 行 わ れ 、 指 導
か 。 発 表 力 一つを 取 り 上 げ て み ても 、 小 中 学 校 で は 、 発 達 段 階 相 応 に し っか り し た話 し 方 を す る 児 童 ・生 徒 に少 な から ず 出 会 う 。 す ぐ れ た、 し っか り し た発 表
者 ( 授 業者 ︶・両 親 か ら 適 切 な 助 言 ・励 ま し が な さ れ て い る にち が いな い。 そ のよ う に し て、 そ の成 果 とし て人
前 で わ る び れ る こと な く 、 自 然 に か つ巧 み に 発 表 を や り お お せ る の であ ろう 。 そ れ に し ても 、 一人 ひ と り の学 習
者 ︵ 児 童 ・生 徒 ︶ の発 表 力 の確 か さ 、 着 実 さ 、 あ る いは 鋭 さ 、 よ く 整 って いる 典 型 性 を 見 出 し う る のは 大 き い喜 び であ る 。
子ども ︵ 学 習 者 ︶ に は 子 ど も の話 し 言 葉 の典 型 があ る こと 、 そ れ は時 と し て大 人 ( 成 人 ) に よ って は 到 達 し が
( 成 人 ) の 側 の認 識 不 足 があ る の
た いも の であ る こと 、 も っと 言 え ば 、 成 人 が 子 ども の話 し 言 葉 ・話 法 に 学 ぶ べ き も のを 見 出 す と いう こ と、 そ れ は 決 し て大 人 ︵ 成 人 ︶ の敗 北 で も な く 、 ま た 恥 辱 で も あ るま い。 し か し 、 大 人
で は な いか。 つま り 、 大 人 ( 成 人 ) の側 に 、 あ る 種 の油 断 が あ った の で は な いか と 思 わ れ る 。 教 育 実 践 の場 に あ
って 、 授 業 の成 果 を 急 ぐ あ ま り 、 や やも す る と、 教 育 話 法 ・学 習 話 法 が 型 に は ま ったも の にな り や す い。 これ は
最 も 用 心 し な け れ ば な ら な い こと であ る 。 授 業 の創 造 は 、 永 遠 の課 題 であ って 、 じ っく り と 肚 を 据 え て取 り 組 ま な け れ ば な ら な い。
授 業 に熟 達 し た実 践 者 は話 し 言 葉 ︵ 教 育 話 法〓 学 習 話 法 ︶ に心 を く だ いて精 進 さ れ る。 話 し 言 葉 を 軽 視 し 、 お
ろ そ か に し て授 業 が 成 り 立 つは ず は な い。 考 え て み れ ば 、 指 導 者 ・学 習 者 を 問 わ ず 、 わず か 一言 で授 業 を だ め に
し て し ま う こと は 容 易 で あ る 。 授 業 は ま た、一言 、 一言 によ って 形 づ く ら れ て いく と も いえ よ う 。
話 し 合 い学 習 は 、 話 し 言 葉 によ っ て生 み出 さ れ る授 業 の極 致 と も いえ る。 授 業 と し て の話 し 合 い学 習 に は 、 話
し 言葉 の機 能 と 方 法 のす べ て が動 員 さ れ る。 そ れ は決 し て 単 直 ・単 純 な も の で はな い。 そ れ だけ 、 話 し 合 い学 習
へ の準 備 過 程 、 進 行 過 程 、 終 結 過 程 に お い て、 働 き 続 け る 教 育 話 法 も 学 習 話 法 も 細 心 の配 慮 ・工 夫 が 求 め ら れ る。
話 し 合 い学 習 に お い て 、 発 問 ︵ 教育 話法︶ と応答 ︵ 学 習 話 法 ︶ は た え ず 緊 密 に関 わ り 合 う 。 発 問 の良 否 は 、 た
だち に 応 答 に ひ び い て いく。 教 育 話 法 ・学 習 話 法 の密 接 な 連 動 に よ って、 話 し 合 い学 習 は 、 そ の形 式 面 ・実 質 面
と も に 整 え ら れ る 。 話 し 合 い学 習 の成 立 、 そ の充 実 は、 授 業 の創 成 ・創 造 に 深 く 関 わ って いく 。
亜 流 でな い、 も のま ね で な い授 業 を創 造 し て いく こ と は 、 や さ し く は な く 、 む ず かし いけ れ ども 、 や り が いが
あ る。 個 性 的 な 授 業 の創 造 を 媒 介 し 、 そ の形 成 的 機 能 に直 接 関 わ る のは 話 し 言 葉 そ のも の であ る。 話 し 合 い学 習
︵ 教 育 話 法 ・学 習 話 法 ︶ と いう こと にな る 。 話 し 言 葉 に始 ま り 、 話 し 言 葉 によ って 完 成 さ せ ら れ る と も
にお いて は 、 と り わ け そ の こと が顕 著 で あ る 。 と す れ ば、 話 し 合 い学 習 を 主 軸 と す る授 業創 造 の足 下 の問 題 は 、 話し言葉
いえ る。 話 し 言 葉 の質 の深 さ と そ こ か ら 生 ず る力 と が 授 業 創 造 を 左 右 す る から で あ る。
以 上 、 話 し 言 葉 学 習 の特 質 に つい て、 一節 から 七 節 ま で 見 て き た が 、 す べ て 試 論 の域 を出 て いな い未 熟 さ を 抱
え て い る。 な お 、 本 章 は 、 小 著 ﹃話 し こと ば 学 習 論 ﹄ ︵昭 和 四 九 年 共 文 社 ) 所 収 の論 考 に加 筆 訂 正 を し た も の で あ る 。 ご 諒 承 を 得 た い。
付記 に 負 う と ころ が 大 き い。 厚 く 感 謝 申 し 上 げ る 。
話し 言葉 の構 造 に つ いて は、 ﹃ 国 語 教育 講 座﹄ 第 二巻 ︵ 刀江 書 院、 昭和 二 六 年︶ 所収 、土 井 忠生 先 生 稿 ﹁言語 構造 ﹂
注 1 0 ・F ・ボ ル ノ ー 著 ・森 田 孝 訳 ﹃ 言 語 と 教 育 ﹄ 川 島 書 店 一九 六 九 年 二 〇 八 ∼ 二 〇 九 頁 注 2 注 1 に 同 じ ︵二 八 七 頁 ︶
注 4 注 3に同 じ
︵ 四頁 ︶
注 3 扇 谷 正造 ﹃私 をさ さえ た 一言﹄青 春 出版 一九六 六 年 三∼ 四頁
注
︱流行 語 を学 習 個体 史 に重 ね た考 察
第 二章 話 し 言 葉教 育 の戦後 六〇 年 史
は じ め に
歴 史 と は 何 か 。 歴 史 と し て何 を 確 認 す べき であ ろう か 。 私 自身 の歴 史 観 が 問 い直 さ れ る 。 教 育 の歴 史 であ る 以
上 、 当 然 教 育 制 度 と 政 策 に注 目 し な け れ ば な ら な い。 文 部 省 の学 習 指 導 要 領 と 教 育 関 係 諮 問 等 が基 本 的 資 料 と な
る ︵ 指 導 要 領 が 新 た に な る 度 に 文 部 省 当 局 は じ め、 解 説 書 、 雑 誌 、 研 究書 、 教 育 辞 典 ・事 典 な ど の関 係 文 献 資 料
が 対 象 と な る ︶。 増 田 信 一著 ﹃ 音 声 言 語 教 育 実 践 史 研 究 ﹄ ︵学 芸 図 書 、 一九 九 四 年 十 月 ︶ は、 そ の 代 表 例 で あ ろ
う 次 に 教 育 理念 .理 論 と 実 践 に注 目 し 、 目 標 ・内 容 ・方 法 ・評価 、 あ る い は教 師 論 ・学 習 者 論 ・教 材 論 、 さ ら に
教 育 課 程 .学 力 ・時 代 背 景 な ど 、 授 業 の現 実 と内 質 に 踏 み 込 ん だ 研 究 的 提 言 も 多 い。 全 国 大 学 国 語 教 育 学 会 編
﹃ 国 語 科 教 育 学 研 究 の成 果 と展 望 ﹄ (明 治 図 書 出 版 、 二 〇 ○ 二 年 六 月 ) に は 、 学 会 貝 に よ る こ の五 〇 年 間 の歴 史 を
先 人 に 学 ぶ︱
① 大 村 は ま ・増 渕 恒 吉 ・藤
見 据 え た多 様 で 貴 重 な 六 六 編 の考 察 論 文 が収 め ら れ て いる 。 さ ら に 、 個 体 史 の対 象 に も な りう る 研 究 者 ・実 践 者 に注 目 し 、 例 え ば 雑 誌 ﹃月 刊 国 語 教 育 ﹄ ︵ 東 京 法 令 出 版 ︶ が ﹁特 集
原 与 一 .平 井 昌 夫 、 ② 垣 内 松 三 ・西 尾 実 ・石 森 延 男 ﹂ ︵ ① 一九 九 四 年 七 月 、 ② 一九 九 五 年 七 月 )で見 つ め直 し た
よ う に 、 そ の時 代 を 代 表 す る 先 達 の列 伝 で、 話 し 言 葉 教 育 史 を 跡 づ け る の も 、 展 望 を 導 く の に有 効 であ ろ う 。
本 章 で は 、 国 民 の話 し 言 葉 生 活 と 文化 に視 点 を 置 く 。 流 行 語 も そ の 一つ のキ ー ワー ド 資 料 と な る 。 た だ し 、 直
結 を 急 ぐ 安 易 な 短 絡 は 厳 に戒 め な け れ ば な ら な い の は当 然 で あ る。 私 個 人 の体 験 と実 感 を 学 習 者 の歩 み ﹁学 習 個
体 史 ﹂ と し て記 述 す る 。 本 章 で は ﹁学 習 指 導 ﹂ と ﹁教 育 ﹂ と を 峻 別 す る。 学 習 指 導 は、 達 成 確 認 可 能 な 目 標 レ ベ
ル であ り 、 教 育 は、 さ ら に 抽 象 度 を 高 め た 価 値 認 識 ・精 神 形 成 の 目 的 レ ベ ルを 指 す 。 例 え ば 、 目 標 レ ベ ル は、
﹁目的 や 意 図 に 応 じ 、 考 え た事 や 伝 え た い事 な どを 的 確 に 話 す こと や 相 手 の意 図 を つか み な が ら 聞 く こ と が で き
る よ う に す る と と も に、 計 画 的 に話 し 合 おう と す る態 度 を 育 て る 。﹂ ︵ 学 習 指 導 要 領 五 ・六 年 目 標 ︶の到 達 を願 う 。
目 的 レ ベ ル は、 ﹁教 育 は 、 人 間 の完 成 を め ざ し 、 平 和 的 な 国 家 及 び 社 会 の 形 成 者 と し て 、 真 理 と 正義 を 愛 し 、 個
人 の価 値 を た っと び 、 勤 労 と 責 任 を 重 ん じ、 自 主 的 精 神 に充 ち た 心 身 と も に健 康 な 国 民 の育 成 を 期 し て 行 わ れ な
け れ ば な ら な い。﹂ ︵ 教 育 基 本 法 第 一条 教 育 の 目 的 ) に 代 表 さ れ る 。 目 標 は 、 技 能 目 標 を 含 み 、 達 成 が客 観 的 に
確 認 さ れ 、 漸 層 的 に高 め ら れ る。 目 的 は、 価 値 目 標 を 含 み、 評 価 が主 観 的 にな ら ざ る を え な い。 主 観 を 畏 れ る べ
き で は な い。 そ れ だ け 専 門 職 と し て の教 師 のし か る べき 評 価 力 量 が問 わ れ る が 、 む し ろ誇 る べき 責 任 であ る 。
一 戦後 の話し言葉学習指導 と教育 の出発
ま ず 戦 後 復 興 期 に 注 目 す る。 一九 四 五 年 九 月 二 〇 日 、 ﹁終 戦 二伴 フ教 科 用 図 書 取 扱 方 二関 ス ル件 ﹂ の指 示 で 教
科 書 に墨 を 塗 ら さ れ 、 糊 付 け や 切 り 取 る 作 業 で始 め ら れ た 授 業 は、 一学 期 と は 真 反 対 の国 家 観 ・価 値 観 の も と 、
指 針 を 失 った 混 乱 と 混 迷 そ のも の で あ った こ と が 、 下村 哲 夫 著 ﹃実 感 的 戦 後 教 育 史 ﹄ ︵ 時 事通 信社、 二〇 〇二年
十 二 月 ︶ で 回 想 さ れ て いる。 映 画 ﹃瀬 戸 内 海 少 年 野 球 団 ﹄ に も 墨 塗 り す る シ ー ン があ る 。 翌 年 四 月 か ら の 一年 間
は暫定教 科書 ︵ 第 五 期 国 定 で墨 塗 り を 免 れ た 教 材 を タブ ロイ ド 版 印 刷 し た も の) で、 当 時 二年 生 であ った 私 は 、
ひ たす ら 本 文 の 読 み書 き を し て いた 。 話 し 言 葉 学 習 で は 、 中 年 男 性 の H先 生 か ら お辞 儀 の仕 方 と 挨 拶 言 葉 、 お 礼
の言 い方 と を 一人 一人 繰 り 返 し 指 導 さ れ た こ と が 記 憶 に 残 って いる 。 文 部 省 は 、 一九 四 五 年 九 月 ﹁新 日本 建 設 ノ
教 育 方 針 ﹂、 十 月 、 戦 時 教 育 令 廃 止 、新 教 育 方 針 中 央 講 習 会 な ど、 教 育 改 革 に 取 り 組 ん だ 。 G H Q は 四 大 指 令
︵○ 日 本 教 育 制 度 二対 ス ル管 理 政 策 二関 ス ル件 、 ○ 教 貝 及 教 育 関 係 官 ノ調 査 、 除 外 、 認 可 二関 ス ル件 、 ○ 国 家 神
道 、 神 社 神 道 二対 ス ル政 府 ノ 保 証 、 支 援 、 保 全 、 監 督 並 ビ ニ弘布 ノ 廃 止 二関 又 ル件 、 ○ 修 身 、 日 本 歴 史 及 ビ地 理 停 止 二関 ス ル件 ︶ を 出 し 、 基 本 方 針 を 規 定 し た 。
一九 四 六 年 一月 、 の ど自 慢 素 人 演 芸 会 、 二 月 、 英 語 会 話 、 五 月 、 街 頭 録 音 な ど N H K ラ ジ オ 放 送 に人 気 が 集 ま
る 。 十 一月 三 日 ( 現 ・文 化 の日 、 旧 天 長 節 ︶、 日本 国 憲 法 公 布 ︵ 翌 年 五 月 三 日 ︵現 ・憲 法 記 念 日 ︶ 施 行 ︶。 一九 四
六 年 九 月 文 部 省 ﹃く に のあ ゆ み﹄ 発 行 。 歴 史 観 が 変 わ った 。 私 は 、 四 月 に 台 湾 か ら 福 岡 県 の小 倉 に引 き 揚 げ 、 本
来 三 年 生 であ る 私 は 、 父 と 学 校 と の話 し 合 いで 二 年 生 に 編 入 さ れ た 。 台 湾 高 雄 市 の 日 本 人 学 校 で就 学 が 十 分 でな
︵ 葦 北 生 活 こと ば) に 溶 け 込 めず 、 近 所 の子 ども た ち から 一種 の い
か った た め であ る 。 食 糧 難 で母 方 縁 者 の農 家 が多 い熊 本 県 葦 北 郡 日 奈 久 町 に 一学 期 途 中 か ら 転 校 し た。 台 湾 の植 民 地 共 通 語 を 身 に つけ て いた 私 は、 日 奈 久 弁
じ め に あ った。 二 学 期 が始 ま り 、 級 長 に選 ば れ て か ら 、 いじ め は な く な った 。 ﹁言 葉 で の排 他 を 叱 責 し た軍 隊 的 指 導 だ った ﹂ と 、 後 日 H先 生 が 、 イ ンタ ビ ュー で回 想 さ れ た 。
翌 九 一四 七 年 三 月 、 文 部 省 学 習 指 導 要 領 一般 編 ︵ 試 案 ︶ が 発 表 さ れ た。 国 語 科 編 の ﹁話 し か た ﹂ で発 達 段 階 を
四・ 制 、 男 女 共 学 ︶ が 公 布 さ れ 、 四 月 か ら 新 制 小 学 校 ・中 学 校 が発 足 し た。
﹁入 学 当 初 ・ 一年 前 期 ・ 一年 後 期 か ら 三 年 ま で ﹂ と し て 発 展 を 示 し て いる こ と に留 意 す る 。 教 育 基 本 法 ・学 校 教 育 法 ︵六 ・三・三
︵注 1 ︶。 学 ぶ べ き 貴 重 な 資 料 で あ る 。
文 部 省 は 次 に 示 す よ う に ﹃新 教 育 指 針 ﹄ の ﹁討 議 法 に つ い て ﹂ ︵一九 四 七 年 二 月 ︶ で、 意 義 ・目 標 ・方 法 ・内 容 を 解 説 ・例 示 し て い る
討 議 法 と は 、 い ふま で も な く Discussion のM こe とtで hあ od って 、 いま ま で も 学 会 な ど で は 行 は れ て ゐ
た が 、 わ が 国 の 習 慣 や 伝 統 にわ ざ は ひ さ れ て 、 一般 化 す る ま で に は いた つ て ゐ な か つた 。 し か る に、 終 戦
後 、 ま づ 教 育 の新 し い方 法 と し て と り あ げ ら れ た ば か り で な く 、 一般 青 年 の 間 に も 行 は れ る や う に な り 、
﹁放 送 討 論 会 ﹂ と か ﹁紙 上 討 論 会 ﹂ な ど も 行 は れ る や う にな っ て き た 。 そ れ は討 議 法 が 、 民主 的 な 態 度 を つ
く り 、 民 主 的 な 生 活 を き づ き あ げ てゆ く のに 、 も つと も 効 果 的 な 方 法 だ か ら であ る 。 1 討 議 法 のめ あ て
学 習 指 導 の 一方 式 と し て の討 議 法 は 、 あ る 問 題 に つ い て、 各 自 が平 等 の立 場 で、 自 由 に意 見 を の べ あ ひな
が ら 、 た が ひ に ひ は ん し 検 討 す る こと に よ つ て、 正 し い結 論 を みち び き だ さ う とす る 方 法 で あ つて、 共 同 し て真 理 を 発 見 す る と こ ろ に、 そ のめ あ ても あ り そ のね う ち も あ る ︵ 中 略 ︶。
① 自 分 の意 見 を 、 正 し く 、 わ か り や す く 、 発 表 す る能 力 と、 い ふ べ き こと は は つき り と い ふ態 度 を 養 ふ こ
と/ ② 他 人 の意 見 を す な ほ に き く と とも に 、 そ の真 意 を ま ち が ひな く つか み得 る能 力 を 養 ふ こ と/ ③ 各 人
の意 見 を 比 較 す る こ と によ つて 、 批 判 力 や 反 省 力 を養 ふ こ と/ ④ 討 議 を 通 じ て結 論 を 導 き だ し 、 且 つか く
し て 得 た結 論 のね う ち を 認 め、 これ に従 は し め る こと / ⑤ 社 会 的 経 済 的 政 治 的 な 各 種 の問 題 に対 す る 認 識 を 深 め る こ と/ ⑥ 会 議 の開 き 方 進 行 の仕 方 な ど を 身 に つけ さ せ る こ と
これ ら の め あ てを 達 成 す る こと が でき れ ば 、 ︵ 中 略 ︶ 民 主 主 義 の土 台 と な る べ き 精 神 、 す な は ち 、 真 実 を
求 め る こ と、 自 主 的 に考 へる こと 、 共 同 的 な 精 神 、 そ れ ら の何 れ も お のづ から 養 は れ て ゆ く 。 か く て 討 議 法
は 民 主 的 な 性 格 を つく る にも つと も 適 し た 学 習 の方 法 であ る が 、 そ れ は 討 議 法 そ のも の が 、 も つと も 民 主 的 な 方 法 であ る か ら であ る 。 2 討 議 法 の実 施 ① 準 備 イ 、 問 題 の選 定 ロ、 調 査 研究 ハ、 座 長 と し て の準 備 ② 実 施 イ 、 座 席 の作 り 方 ロ、 始 め る に あ た つて 注 意 す べ き こ と
ハ、 討 議 進 行 中 座 長 の注 意 す べ き こ と 二、 妥 当 な 結 論 が得 ら れ な い時 は どう す る か
ホ 、 し め く く り へ、 座 長 が 児 童 であ る時 、 教 師 は ど ん な態 度 を と つた ら よ いか 3 注 意
① 児 童 の能 力 に応 じ た 問 題 を 選 ぶ こ と/ ② な ご や か な 雰 囲 気 を つく る こ と/ ③ な る べ く多 く の者 に 発 言 の
機 会 を 与 へて 、 少 数 者 の独 占 に な ら ぬ や う に/ ④ 一時 の思 ひ つき を の べ たり 、無 責 任 な放 言 を し な いや う
に 導 く こ と /⑤ 他 人 の意 見 に 耳 を 傾 け る 寛 容 さ を 失 は ぬ こと / ⑥ 感 情 に 走 ら ず 、 あ く ま で 理 性 的 に 進 行 せ し め る こ と / ⑦ わ き道 にそ れ な いや う に 注 意 す る こと
討 議 法 の精 神 は 、 討 議 法 実 施 のた め に特 に 設 け た時 間 の み で な く 、 教 育 のあ ら ゆ る機 会 に い か さ れ な け れ
ば な ら な い。 国 語 に おけ る 鑑 賞 、 算 数 に お け る 解 法 の発 見 や解 法 の検 討 、 歴 史 や 地 理 に お け る 各 種 の比 較 考
察 、 理 科 に お け る 実 験 観 察 の結 果 の検 討 、 芸 能 科 に お け る作 品 の鑑 賞 な ど 、 も つと も よ い機 会 であ る 。 さ ら
に教 科 外 に お け る 運 動 や 作 業 な ど に お いて も 、 計 画 を た て た り 結 果 を 反 省 し た り す る 場 合 や、 映 画 を 見 た
り 、 放 送 や 講 演 を き いた り し た後 に 、 そ の感 想 を 話 し あ ふ時 な ど 、 機 会 は い つでも あ る 。 む し ろ 、 かう い ふ
時 の方 が 、 固 く な ら な いで 、 自 由 に 、 の び の び と 話 し あ ふ こ と が で き る の で は な いだ ら う か 。 / 低 学 年 で
は、 討 議 と い ふや う な こと ご と し い名 称 を 用 ひな いで 、 児 童 の身 近 な 問 題 を と り あ げ て、 自 由 に話 し あ ふ間
に 発表 す る能 力 を の ばす こと に お も き を お く が よ いで あ ら う 。 そ し て三 四 年 頃 の、 自 己 意 識 が 目 覚 め か け 、
理 知 的 な 方 向 に 向 ひ かけ る 時 か ら、 時 々時 間 を 特 に と つ て少 し づ つ本 格 的 に実 施 し 、 学 年 の進 む にし た が つ て、 だ ん だ ん組 織 的 に行 つ てゆ く が よ い であ ら う 。 討 議 法 の実 際
1 、 時 日 昭 和二一 年 月 一二 三 日 2、 学 年 初 等 科 第 六 学 年 3、 児 童 数 男 二 五 人 、 女 三 一人 4 、
所 要 時 間 予定 五 〇︱ 六 〇 分 5 、 主 題 の選 択 に つ い て 食 料 問 題 26、 闇 市 場 問 題 9、 省 線 電 車 に つ い て
( 混 雑 の緩 和 策 と車 体 の修 理 ・清 掃 ︶、 強 盗 問 題 5、 汽 車 の乗 車 券 購 入 に つ い て、 停 電 問 題 3 、 等 。 よ つ て 絶対 多数 たる食料問題 を取りあげ た。
6、 討 議 の目 標 児 童 の研 究 討 議 の発 展 を 、 指 導 的 に ま と め て ゆ く プ ラ ン で はあ る が 、 教 師 と し て は 、 大
体 道 徳 的 ・政 治 的 ・経 済 的 な 面 を 、 お も な 関 連 の中 心 と し て、 多 角 的 な 児 童 活 動 を ま と め て ゆ く 意 図 であ つた 。
7、 討 議 前 の過 程 あ ら か じ め討 議 の要 素 的 ト ピ ック にな り さ う な 項 目 を 全 児 童 に 提 出 さ せ 、 さ ら に これ
を 整 理 さ せ、 児童 を そ の素 質 や傾 向 に よ つて 適 当 に組 み 合 せ て、11 組 分 団 に 構 成 し た 。 各 分 団 は相 談 の 上、 適応す る仕事を分 担した。
8、 実 施 後 の 反 省 児 童 は 調 査 や 活 動 の進 む に従 ひ 、 し だ いに 真 剣 にな つ てき た 。 か れ ら は 、 毎 日 の新 聞
や ラ ジ オ の中 から 速 記 し た り書 き ぬ いた り 、 又 父 兄 の意 見 を も 持 ち よ つ て討 議 し た。 速 記 録 だけ 見 る と 、
応 は整 理 さ れ た理 解 に 到 達 し つ つあ る こと がう か が はれ る 。
そ れ は 子 供 で あ り 、 純 消 費 地 の イ ンテ リ層 の子 女 で あ る だけ に 、 理 知 に 支 配 さ れ た 観 念 的
い か に も 大 人 の 口 真 似 のや う に も 思 は れ る が、 そ れ は案 外 自 然 的 な 観 念 の発 展 であ つた。 観 念 の 発 展︱ な も の で あ る とし て も︱一
具体的 展開 ︵ 教 師 と 生 徒 の 具 体 的 発 言 で展 開 、 引 用 者 要 約 ︶
序 盤 米 の減 収 、 不 足 の原 因 調 査 結 果 の報 告 確 認 内 地 ・朝 鮮 ・台 湾 産 米 高 の棒 グ ラ フ
昭 和 二 〇年 の産 米 高 、 一二 年 の絶 対 必 要 高 、 米 の供 出 配 給 組 織 の図 表 な ど の提 示 中 盤 消 費 者 側 と 生 産 者 側 そ れ ぞ れ の立 場 か ら 意 見 交 換
終 盤 標 準 カ ロリ ー ・配 給 カ ロリー ・絶 対 必 要 カ ロリ ー の表 を 使 って、 研究 結 果 の報 告
こ の よう に 徹 底 し た 討 議 例 が 、 自 由 討 議 に馴 染 ん でき て いな い教 師 の力 量 を は る か に 越 え て いる こと は想 像 に
難 く な い。 私 が小 学 校 に在 籍 し た 時 代 と 重 な る。 引 用 にあ る よ う な討 議 を し た記 憶 は な い。 口 の達 者 な 多 弁的 お
り こう さ ん が 授 業 展 開 の主 役 で あ った。 旅 館 の息 子 、 店 の手 伝 いに慣 れ た少 女 な ど、 知 ら ぬ大 人 と のや り と り に
怖 じ け な い子 ども た ち がよ く 発 言 し て いた 。 農 村 部 の子 ど も たち は お 客 さ ん 然 と し て いた よ う に記 憶 し て いる 。
今 日 の教 師 の ど れ く ら いが 上 記 の討 議 のよ う に 扱 え る で あ ろ う か。 ﹁討 議 法 の 実 際 ﹂ に 先 立 つ討 議 の目 的 と方 法
の解 説 と の つな が り に欠 け る が 、 討 議 ・討 論 を は じ めデ ィ ベー ト 、 プ レ ゼ ンテ ー シ ョ ン、 ポ ス タ ー セ ッシ ョ ンな ど の今 日 的 中 級 教 材 に活 用 で き る。
因 に デ ィ べー ト は 、 現 在 教 育 に導 入 さ れ て いる が 、 一九 〇 六 年 、 樋 口勘 次 郎 ﹁話 方 練 習 ﹂ に討 論 題 目 例 と し て
﹁海 と 陸 と の優 劣 。 人 間 に与 ふ る利 害 の点 よ り 見 る も のと す ﹂ 他 を 示 し て い る。 戦 後 も 大 学 対 抗 討 論 会 でデ ィ べ
ー ト が 一時 盛 ん に 行 わ れ た。 結 局 は利 害 か ら 結 論 づ け る 判 定 に帰 納 す る こ と か ら 低 迷 し 消 え て い った 。 現 在 は 三
回 目 の復 活 であ る 。 デ ィ べ ー ト 甲 子 園 な ど で、 フ ォー マ ット を 工夫 す る な ど の改 善 は 見 ら れ る が 、 国 語 科 と し て
聴 取 力 に 支 え ら れ た 論 理 的 思 考 育 成 、 作 戦 タ イ ム の指 導 、 日 本 人 と 日 本 語 に 馴 染 ま な いな ど の問 題 点 が多 いと 批
判 す る見 方 も 根 強 い。 S ・I ・ハヤ カ ワ 著 、 大 久 保 忠 利 訳 ﹃思 考 と 行 動 に お け る 言 語 ﹄ で二 値 的 考 え 方 に つ い て
論 じ た中 で ﹁二値 的 考 え 方 は 闘 争 心 を 呼 び 起 す が 、 そ れ 以 外 の役 に は 立 たな い。 闘 争 以 外 の目 的 でそ れ を 用 い て
も 、 実 際 に は常 に 所 期 に反 対 の結 果 を 得 る に過 ぎ な い。﹂ ︵ 注 2︶ と いう 指 摘 は 忘 れ て は いけ な い。
復 興 と と も に雑 誌 ﹃文 芸 ﹄ ﹃文 学 ﹄ ﹃新 潮﹄ 復 刊 、 翌 一九 四 六 年 、 ﹃世 界 ﹄ ﹃展 望 ﹄ ﹃思 想 の科 学 ﹄ ﹃群 像 ﹄ の 創
刊 。 児童 雑 誌 ﹃子 ども の広 場 ﹄ ﹃コド モ ノ ク ニ﹄﹃銀 河 ﹄ ﹃詩 の国 ﹄、 一九 四 七 年 ﹃こ ど も の村 ﹄、 一九 四 九 年 ﹃少 年 少 女 ﹄ ﹃き り ん ﹄ な ど が 次 々に創 刊 さ れ た 。
私 も 娯 楽 は読 書 し か な く 、 本 に飢 え て 図 書 委 員 にな った 。 一九 四 七 年 三 月 、 選 抜 中 等 学 校 野 球 大 会 復 活 。 十 一
月 一日、 N H K ﹁二 十 の扉 ﹂ 放 送 開 始 。 教 室 で よ く や った 。 ラ ジ オ が な か った た め、 都 会 か ら の転 校 生 に どう し
︵ 三 年 生 ︶一 ・二 学 期 ま で優 良 可 で あ る が 、 三 学 期 は 、 国 語 科 と
ても 敵 わ ず 、 悔 し い思 いを し た の で よ く 覚 え て いる 。 四 八 年 十 一月 、 文 部 省 は 小 学 校 五 段 階 評 価 を 通 達 し た 。 私 の 一九 四 六 年 度 ﹁通 信 表 ﹂ は 優 良 可 、 四 七 年 度
︵ 四 年 生 ︶ は 、 国 語 ︵読 む力 ・読 み と く
し て は優 良 可 で、 興 味 ・読 解 ・作 文 な ど の下 位 項 目 に◎ ○ △ があ り 赤 で塗 り つ ぶす よう にな って い る。 話 し 言 葉 関 係 は 、 言 語 力 に ﹁発 音 ﹂、 態 度 及 関 心 に ﹁言 葉 遣 ﹂ と あ る 。 四 八 年 度
力 ・書 く 力 ・作 文 の力 ・総 評 ) で◎ ○ △、 総 評 は 依 然 と し て優 良 可 と な って いる 。 四 九 年 度 ︵五 年 生 ︶ で 、 国 語
︵ 目 標 、 聞 く・ 話 す ・読 む ・書 く ・作 る ︶ に
[+2
( 中 学 一年 )
・+ 一 ・ 0 ・-1 ・-2 ] の 五 段 階 と な っ て い る 。 五 〇 年 度
︵ 六 年 生 ︶ は ﹁大 そ う 優 れ て い る ・優 れ て い る・ 普 通 ・少 し 劣 っ て い る ・劣 っ て い る ﹂、 一九 五 一年
で は 5 ・4 ・3 ・2 ・1 で あ る 。 中 学 国 語 は 、 読 む 能 力 ・理 解 と 鑑 賞 ・書 く 能 力 ・話 す 能 力 で 聞 く 能 力 な し の 四 目 標 と な って い る。
一九 四 九 年 、 新 制 大 学 が 発 足 し 、 大 宅 壮 一か ら ﹁駅 弁 大 学 ﹂ と 皮 肉 ら れ た 。 十 一月 に 湯 川 秀 樹 が ノ ー ベ ル賞 を
受 賞 し た 。 高 等 教 育 ・中 等 教 育 ・初 等 教 育 の 問 に 整 備 格 差 、 都 会 と 地 方 と の 学 習 環 境 の 差 が あ り 、 話 し こ と ば 教 育 に は そ の違 い が 影 響 し て い た よ う で あ る 。
二 朝鮮戦争を大きな契機 にした高度経済成長期
一九 五 〇 年 六 月 二 五 日 、 朝 鮮 戦 争 勃 発 。 ド ッジ ・ラ イ ンで 息 苦 し いデ フ レ不 況 の産 業 界 が 、 軍 需 産 業 で特 需 ブ
ー ムと な った 。 レ ッド パー ジ、 新 聞 な ど の ジ ャ ー ナ リ ス ト、 映 画 ・電 力 ・運 輸 ・石 炭 ・私 鉄 な ど で 組 合 指 導 者 の
解 雇 追 放 が続 き 、 思 想 信 条 の自 由 に疑 問 が も た れ た 。 高 度 経 済 成 長 の歩 み と と も に、 教 育 政 策 は 経済 政 策 と の関
連 が 強 ま り、 経 済 団 体 か ら は能 力 主 義 の教 育 要 求 が 目 立 つよ う にな る。 一九 五 一年 三 月 、 無 着 成 恭 編 ﹃山 び こ学
校 ﹄ で生 活 綴 り 方 の気 運 が高 ま る 。 四 月 に マ ッカ ー サ ー が 解 任 さ れ 、 ﹁老 兵 は 死 な ず 、 消 え 去 る の み﹂ の言 を 残
し た 。 七 月 、 学 習 指 導 要 領 ︵試 案 ︶ が提 示 さ れ た。 経 験 主 義 に 系 統 主 義 を 絡 め た 能 力 表 に 改 め て注 目 し た い。 九
月 のサ ン フラ ン シ ス コ講 和 条 約 、 日 米 安 全 保 障 条 約 が 十 月 に 国 会 で 承 認 さ れ た。 戦 後 民 主 化 政 策 か ら の逆 方 向 、
公 職 追 放 者 が 復 帰 、 再 軍 備 な ど の ﹁逆 コー ス﹂ ﹁反 動 化 ﹂ が 流 行 し 、 日本 教 職 貝 組 合 は ﹁教 え 子 を 戦 場 に 送 る な ﹂
の運 動 を 展 開 し た 。 民 間 ラ ジ オ 放 送 開 始 で コ マー シ ャ ル と と も に ﹁P R﹂、 ﹁社 用 族 ﹂ ﹁B G L﹂ が 流 行 し た。 黒 沢
明 監 督 の ﹃羅 生 門﹄ ベ ニス 映 画 祭 で グ ラ ン プ リ 受 賞 。 パチ ン コ全 国 に 大 流 行 。 手 塚 治 虫 ﹃鉄 腕 ア ト ム﹄ ︵ 雑誌
﹃少 年 ﹄︶ 連 載 。 こう し て生 活 に元 気 が 出 た 一方 、 生 活 難 か ら 人 身 売 買 な ど の児 童 福 祉 法 違 反 事 件 が 急 増 し た 。 貧 富 の格 差 が広 が った 例 で あ る 。
一九 四 八 年 に 設 立 さ れ た国 立 国 語 研 究 所 が 編 集 し た雑 誌 ﹃言 語 生 活 ﹄ が 一九 五 一年 十 一月 に創 刊 さ れ、 話 し 言
葉 に関 係 す る多 く の情 報 が 含 ま れ、 話 し 言 葉 の学 習 指 導 に 関 心 のあ る学 生 と 教 師 に愛 読 さ れ た。 五 二 年 四 月 、 N
H K 連 続 放 送 劇 ﹁君 の名 は ﹂ が始 ま り 、 放 送時 間 に女 湯 が 空 に な る ほ ど の 人 気 であ った 。 五 月 、 メ ー デ ー 事 件 。
学 生 の主 張 が ﹁ヤ ンキ ー ・ゴ ー ホ ー ム﹂ ﹁火 炎 ビ ン﹂ の 流 行 に 反 映 し た。 六 月 、 文 部 大 臣 の 諮 問 機 関 ﹁中 央 教 育
審 議 会 ﹂ 設 置 。 雑 誌 ﹃明 星 ﹄ 創 刊 。 七 月 、 朝 鮮 休 戦 協 定 。 一方 、 安 保 体 勢 の 強 化 が 進 め ら れ た 。 一九 五 三 年 二
月 、 N H K テ レ ビ、 八 月 、 民 放 本 放 送 開 始 。 ゼ スチ ャー ゲ ー ムが 流 行 し た。 五 四 年 に は プ ロ レ ス人 気 が高 ま る。
三 月 、 第 五 福 竜 丸 、 ビ キ ニ の水 爆 実 験 放 射 能 灰 ﹁死 の灰 ﹂ 被 災 。 ﹁パー ト タ イ ム﹂ ﹁美 容 体 操 ﹂ ﹁H ラ イ ン﹂ な ど
女 性 に つな が る 言 葉 が流 行 し た 。 文 部 省 ﹁偏 向 教 育 の 二 四 事 例 ﹂ を 衆 議 院 に 提 出 、 N H K ラ ジ オ ﹁ユー モ ア 劇
場 ﹂ が 放 送 を 終 了 さ せ ら れ 、 作 者 三 木 ト リ ロー は ﹁圧 力 に負 け た ﹂ と語 った 。 視 聴 者 の増 加 の中 で社 会 批 判 ・政
治 批 判 に赤 信 号 が灯 さ れ た 。 国 民 生 活 で は 三 種 の神 器 ( 電 気 洗 濯 機 ・冷 蔵 庫 ・掃 除 機 ) が憧 れ にな る ほ ど 、 家 庭 電化 時代 に入る。
一九 五 五 年 、 神 武 景 気 と呼 ば れ る ほ ど の好 景 気 に 。 ﹃広 辞 苑﹄ ﹃大 漢 和 辞 典 ﹄ ﹃世 界 大 百 科 事 典 ﹄ 刊 行。 七 月 、
国 語 審 議 会 ﹁片 かな ひ ら か な 並 行 学 習 ﹂ を 答 申 。 八 月 、 民 主 党 ﹁う れ う べ き 教 科 書 ﹂ を 発 表 し 、 ﹁偏 向 教 育 の 四
タ イ プ ﹂ を 指 摘 し た。 政 治 か ら の教 育 介 入 が あ ら わ に な さ れ た 。 五 六年 、 石 原 慎 太 郎 ﹃太 陽 の季 節 ﹄ に よ り 、 一
見不 道 徳 無 軌 道 な ﹁太 陽 族 ﹂ が 若 者 の 人 気 を 集 め 、 流 行 語 ﹁ド ラ イ ・ウ ェ ット ﹂ が 当 時 の人 々 の 困惑 を 象 徴 し て
いる 。 貸 本 マン ガ の ブ ー ム で ﹃鉄 腕 ア ト ム﹄ ﹃赤 胴 鈴 之 助﹄ ﹃鉄 人 28 号 ﹄ ﹃スー パー マ ン﹄ な ど に 人 気 が あ った 。
テ レ ビ セ ット 売 れ 行 き 急 上 昇 で 大 宅 壮 一が﹁一 億 総 白 痴 ﹂ と 問 題 提 起 し た。 メ デ ィ ア ・リ テ ラ シ ー に 通 じ る マス
メ デ ィ ア 教 育 問 題 と し て 今 日 に 続 く 。 中 野 好 夫 の ﹁も は や 戦 後 で は な い﹂ 以 降 、 ﹁戦 中 派 ﹂ の 流 行 語 と と も に ﹁戦 後 ﹂ 論 議 が盛 ん にな さ れ た。
私 は鉄 道 列 車 で 二 駅 、 二 〇 分 の入 代 に 出 て、 徒 歩 で 二〇 分 の入 代 高 校 に 一九 五 四 年 か ら 五 七 年 ま で学 ん だ 。 こ
の間 、 話 し こ と ば で は 、 自 ら 方 言 を 控 え よ う と し て、 ﹁君 の家 ﹂ を ﹁き み ん ち ﹂ な ど と キ ザ っぽ い こ と ば 選 び を
し て 、 我 な が ら 気 恥ず か し い思 い がし た の で、 は っき り 記 憶 し て いる 。 国 語 の 授 業 で は音 声 言 語 に つ い て の 指 導
を 受 け な か った。 放 課 後 のド イ ツ語 の 授 業 が お も し ろ く 、 そ の発 音 に 大 き な 魅 力 を 感 じ た 。 家 族 の間 でも 方 言 を 使 って いた 思 い出 は な い。
三 中等高等教育 は理科系重視、初等教育 は?
ソ連 と ア メ リ カ の 人 工 衛 星 競 争 に巻 き 込 ま れ て 理 科 系 重 視 の中 等 高 等 教 育 の中 で は、 いか な る初 等 話 し 言 葉 の
学 習 指 導 ・教 育 と な った の か。 ﹃音 声 言 語 教 育 実 践 史 研 究﹄ で ﹁昭 和 後 期 ・音 声 言 語 教 育 が 軽 視 さ れ た 時 代 ﹂ と 増 田 信 一は 総 括 す る 。 果 たし て 世 の中 は ど う だ ろ う か 。
一九 五 七 年 十 月 、 ソ連 人 工 衛 星 スプ ー ト ニク 1 号 、 打 ち 上 げ に成 功 、 ア メ リ カ も 翌 年 一月 に成 功 し た。 わ が 国
も国 産 ロケ ット 第 一号 の発 射 実 験 に成 功 し た。 五 七 年 三 月 ﹃チ ャ タ レー 夫 人 の恋 人 ﹄ 裁 判 で 有 罪 。 五 月 、 カ ッパ
ブ ック ス ﹃三 光 ﹄ が右 翼 の攻 撃 のた め に 発売 中 止 に な った。 日 中 戦 争 時 代 の 日本 軍 の非 人道 的 な 作 戦 の中 国 側 の
呼 称 ﹁三 光 ﹂ は 、 殺 光 ︵ 皆 殺 し ︶・〓光 ︵ 掠 奪 ︶・焼 光 ︵ 焼 き 払 う ︶ を 意 味 す る。 歴 史 を どう 正 視 す べき かを わ れ
わ れ に問 いか け る問 題 であ る。 五 八 年 三 月 、 文 部 省 道 徳 教 育 の実 施 を 通 達 、 五 月 、 公 立 小中 学 校 の学 級 定 員 五 〇
人 制 、 十 月 、 法 令 と し て の学 習 指 導 要 領 を 告 示 ︵第 八 ○ 号 ︶、 教 育 委 員 会 ・勤 務 評 定 を めぐ る闘 争 が起 こ り 、 政
府 は いわ ゆ る 警 職 法 改 正 を 国 会 に提 出 し て取 り 締 ま り 強 化 を 図 ろ う と し 、 ﹁デ ー ト も 邪 魔 す る警 職 法 ﹂ と〓〓 さ
れ た 。 波 乱 の教 育 界 で、 経 済 は 鍋 底 不 況 だ った 。 十 一月 の正 田美 智 子 皇 太 子 妃 発 表 で ミ ツチ ー ブ ー ム、 ﹁ご 清 潔
で、 ご 誠 実 で﹂ の記 者 会 見 で の言 葉 が 話 題 に な った。 ハイ テ ィー ン ・ロー テ ィ ー ン、 な が ら 族 、 神 サ マ仏 サ マ稲
尾 サ マな ど の流 行 語 は、 受 験 生 の実 態 を 示 し て い る。 私 は 大 学 生 と し て三 年 生 への 家 庭 教 師 で 広島 弁 を 習 得 さ せ
ら れ た 。 十 二月 に 一万 円 札 が 登 場 し 、 翌 五 九 年 は景 気 回 復 し 、 岩 戸 景 気 と 呼 ば れ た が 、 石 炭 産 業 の不 況 は 深 刻 化
し た。 四 月 の皇 太 子 結 婚 パ レー ド中 継 で テ レ ビ の売 れ 行 き が急 増 し 、 同 時 にト ラ ンジ スタ ・ラ ジ オも 一〇 〇 〇 万
台 を 突 破 し た。 週 刊 誌 ブ ー ム で ﹃週 刊 少 年 マガ ジ ン﹄ ﹃週 刊 少 年 サ ンデ ー ﹄ ﹃朝 日 ジ ャー ナ ル﹄ ﹃ 週 刊 文 春 ﹄ ﹃週 刊 平 凡﹄ な ど が創 刊 さ れ た 。
一九 六 〇 年 、 安 保 改 定 、 東 大 生 樺 美 智 子 が 反 対 デ モ中 に圧 死 す るな ど 、 学 生 運 動 が 熱 気 を 帯 び、 七 月 に は全 学
連 が 三 派 に 分 裂 し 、 や が て主 流 派 と 反 主 流 派 の激 し い対 立 のま ま 、 ノ ンポ リ学 生 を 生 む結 果 に つな が った。 若 者
は 、 カ ミナ リ 族 や睡 眠 薬 あ そ び ︵ ラ リ ル︶ に 引 か れ た。 テ レ ビ が カ ラ ー 化 し、 第 二 次 池 田 内 閣 は ﹁国 民 所 得 倍 増
計 画 ﹂ を出 し た。 三 種 の神 器 は 電 気 冷 蔵 庫 ・マイ カ ー ・カ ラ ー テ レビ と 高 級 化 し 、 大 学 生 の就 職 は 好 調 で ﹁青 田
買 い﹂ ︵ 公 的 に は 六 二年 に 日経 連 が 申 し 合 わ せ を 中 止 ) に な る ほ ど の求 人 難 で あ っ た。 六 一年 春 、 テ レ ビ は 一〇
〇 〇 万 台 を 突 破 し 、 ラ ジ オ は 後 退 し た 。 四 月 、 ソ連 宇 宙 船 ヴ ォ スト ー ク1 号 地 球 一周 有 人 飛 行 に 成 功 。 ガ ガ ー リ
ン少 佐 ﹁地 球 は青 か った ﹂ が 流 行 し た。 スキ ー や 登 山 な ど の ﹁レ ジ ャー ﹂ ブ ー ム。 不 快 指 数 ・プ ラ イ バ シ ー な ど
個 人 感 情 に 目 が向 い た 一方 、 ﹁ベ ト ナ ム に平 和 を ! 市 民 連 合 ﹂ の運 動 が 広 が り 、 ﹁声 な き 声 ﹂ が 流 行 語 に な っ
た 。 六 二 年 、 テ レ ビ の人 気 か ら タ レ ント 議 貝 が 誕 生 し た 。 国 づ く り 懇 談 会 ・人 づ く り 懇 談 会 が 発 足 し た の は 、
﹁無 責 任時 代 ﹂ のた め であ ろう 。 六 三 年 、 農 家 の 男 性 は 現 金 収 入 の た め 都 会 に 出 て、 残 さ れ た じ いち ゃ ん ・ば あ
ち ゃ ん ・かあ ち ゃ ん の ﹁三 ち ゃ ん 農 業 ﹂ で 支 え た。 十 一月 、 日 米 間 テ レ ビ宇 宙 中 継 実 験 放 送 中 、 ケネ デ ィ大 統 領
暗 殺 の ニ ュー ス。 ボ ー ダ レ ス時 代 の始 ま り と いえ る 。 流 行 語 に バ カ ン ス ・ ハ ッ ス ル ・番 長 ・カ ワ イ コち ゃ ん な
ど、 女 性 と の関 わ り が 強 い。 六 四 年 四 月 に 海 外 旅 行 が 自 由 化 さ れ た 。 十 月 、 東 京 オ リ ン ピ ック に合 わ せ て東 海 道
新 幹 線 、 高 速 自 動 車 道 が 開 通 し た 。 オ レ に つ い て来 い ・ウ ルト ラ C ・着 地 に失 敗 な ど が 流 行 語 と な った 。 中 卒 者
は ﹁金 の卵 ﹂ と も て は や さ れ た が 、 言 葉 の 問 題 な ど で離 職 ・帰 郷 が 相 つ いだ 。 聞 く 話 す 活 動 と 、 共 通 語 に偏 った 話 し 言葉 の学 習 指 導 が生 ん だ 不 幸 な結 果 と いえ る 。
一九 六 五 年 一月 、 中 央 教 育 審 議 会 ﹁期 待 さ れ る 人 間 像 ﹂ の中 間 草 案 発 表 、 し ごき ・公 害 ・夢 の島 と と も に 流 行
語 と な った 。 下 半 期 か ら 経済 は ﹁いざ な ぎ 景 気 ﹂ と な った 。 共 稼 ぎ に よ る鍵 っ子 が増 加 し た 。 大 学 生 が 一〇 〇 万
ー ﹁対 話 ﹂
人 を 突 破 し 、 知 識 優 先 の学 歴 志 向 が進 む 。 六 六年 は 新 三 種 の神 器 が 3 C ︵カ ラ ー テ レビ ・カ ー ・ク ー ラ ー ︶ と な
った 。 交 通 事 故 死 が 史 上 最 悪 に な り 、 交 通 戦 争 と いわ れ た。 六 七 年 、 美 濃 部 亮 吉 東 京 都 知 事 の モ ット
が 流 行 語 。 怪 獣 ブ ー ムと な る 。 ﹁冬 景 色 ﹂ 論 争 。 六 八 年 七 月 、 学 習 指 導 要 領 改 訂 告 示 、 創 造 性 開 発 の国 語 教 育 、
情 報 化 に 即応 す る国 語 教 育 、 教 育 機 器 の利 用 と 国 語教 育 、 国 語 科 読 書 指 導 な ど が 強 調 さ れ た 。 シ ンナ ー 遊 び で 死
者 が 出 た。 ﹃あ し た の ジ ョー ﹄ ﹃ア タ ック. 1 ﹄ ﹃タ イ ガ ー マスク ﹄ ﹃巨 人 の星 ﹄ な ど の根 性 マ ンガ に 人 気 。 全 国 の
大 学 で学 園 紛 争 が 激 化 し た 。 十 二 月 、 川端 康 成 ノー ベ ル文 学 賞 受 賞 。 六 九 年 、 G N P 世 界 第 二 位 ︵G N P 神 話 時
代 の幕 開 け ︶ と な る。 学 生 の 拠 点 安 田 講 堂 で警 官 隊 と 火 炎 ビ ン の攻 防 が テ レ ビ中 継 、 や が て 封 鎖 は解 除 さ れ た。
新 宿 西 口 地 下 鉄 広 場 で の反 戦 フ ォー ク ソ ング 集 会 に 七 〇 〇 〇 人 参 加 。 以 降 、 反 体 制 フ ォー ク が 流 行 し 、 自 分 の言
葉 で語 る歌 い方 が広 が った。 私 も ギ タ ー を 手 に入 れ 、 練 習 し た 。 米 ア ポ ロ11号 、 月 面 着 陸 衛 星 中 継 放 送 。 子 ど も
た ち は、 同時 通 訳 の 日 本 語 と そ の音 調 を 模 倣 し た 言 い方 を 楽 し ん だ。 経 済 的 に恵 ま れ た 児童 が 、 社 会 の流 行 を 教
室 に 持 ち 込 み 、 他 の 児童 が共 鳴 圏 を 構 成 す る 二極 状 況 が鮮 明 に な って い ったよ う で あ る。
四 情 報 化 時 代 さら に情 報時 代 、 そ し て国 際 化 社 会
や が て バ ブ ル が弾 け て不 況 に 傾 斜 し て いき な が ら 、 ど の よう な 変 遷 が 辿 ら れ た のか 。 情 報 化 さ ら に 情 報 時 代 、
話 し 言 葉 教 育 は 、 I T は じ め ブ ロー ド バ ンド な ど の情 報 過 多 と メデ ィ ア ・リ テ ラ シ ー に いか に応 え る か 。 さ ら に 国 際 化 社 会 に 生 き る 日 本 人 に どう 培 う か。
一九 七 〇 年 、 大 阪 で 日 本 万 国 博 覧 会 ︵テ ー マ 人 類 の進 歩 と 調 和 ) 開 催 、 国 際 化 が 進 む 。 日 航 機 よ ど号 が 赤 軍
派 学 生 に ﹁ハイ ジ ャ ック ﹂ さ れ 、 ウ ー マ ンリ ブ 、 スキ ンシ ップ と とも に 流 行 語 に も な った。 七 月 に 政 府 は 、 日本
の呼 称 を ﹁ニ ッポ ン﹂ に統 一し た 。 七 一年 、 沖 縄 の返 還 、 中 国 の国 連 加 入 、 ド ルシ ョ ック ︵七 三 年 、 変 動 相 場 制
に 移 行 ︶、 ヘド ロ、 ス モ ッグ 、 ゴ ミ な ど の 公 害 問 題 が 看 過 で き な く な り 、 環 境 庁 が 発 足 し た 。 脱 ○ ○ 、 ガ ン バ ラ
な く っち ゃ 、 シラ ケ の流 行 語 に は 、 懸 命 に 働 く 者 と 距 離 を 置 く 者 と の対 照 的 日本 人 像 が見 ら れ る。 十 月 に は N H
K の総 合 テ レ ビ全 放 送 が カ ラ ー 化 さ れ 、 子 ど も た ち を 引 き つけ た。 七 二 年 は 一月 横 井 庄 一元 軍 曹 の ﹁恥 ず かし な
が ら ﹂ で始 ま った。 冬 季 オ リ ンピ ック 札幌 大 会 、 田中 通 産 相 ﹁日本 列 島 改 造 論 ﹂ で 地 価 高 騰 の引 き金 と な った。
日中 国 交 回復 。 後 に 日本 語 教 育 (北 京 の大 平 学 校 な ど ) が盛 ん にな る。 浅 間 山 荘 事 件 を テ レ ビが 終 日中 継 放 送 。
九 一年 の湾 岸 戦 争 、 二 〇 〇 一年 九 月 の 同時 多 発 テ ロな ど 、 大 事 件 情 報 が お 茶 の間 に そ のま ま 持 ち 込 ま れ 、 映 画 を
見 る か の よう な 感 覚 の マヒ、 人 間 感 情 の希 薄 化 に繋 が る怖 さ を テ レ ビ が も って いる こと に気 づ か さ れ る 。 流 行 語
﹁総 括 ﹂ ﹁あ っし に は か か わ り のね え こ と で﹂ に は ニヒ ルな 悪 魔 的 魅 惑 が 感 じ ら れ る 。 七 三年 、 江 崎 玲 於 奈 ノ ー ベ
ル賞 受 賞 。 ﹁せ ま い 日本 、 そ ん な に 急 い で ど こ へ行 く ﹂。 七 四 年 、 高 校 進 学 率 九 〇 % を 越 す 。 ﹁石 油 シ ョ ック、 省
エネ 、 じ っと 我 慢 の子 であ った ﹂。 足 尾 鉱 山 鉱 毒 問 題 の補 償 解 決 。 田 中 正 造 が 問 題 提 起 し て か ら 入 ○ 年 が 経 過 し
た 。 七 五 年 、 小 学 生 の塾 通 い六 二 % 、 中 学 生 四 六 % の ﹁乱 塾 ﹂。 流 行 語 ﹁チ カ レ タ ビ ー 、 死 刑 ! ﹂。 即 席 ラ ー メ ン
のC M ﹁わ たし 作 る 人 、 ぼ く 食 べ る 人 ﹂ は女 性差 別 と し て 放 映 を 中 止 。 七 六年 、 ロ ッキ ー ド 事 件 国 会 証 人喚 問 テ
レ ビ放 送 、 流 行 語 ﹁灰 色 高 官 、 記 憶 に ござ いま せ ん、 ピ ー ナ ッツ、 は し ゃ ぎす ぎ ﹂ を 生 ん だ。 小 中 学 校 主 任 制 、 教 育 課 程 審 議 会 が 授 業 時 間 一割 減 ら す 構 想 発 表 、 学 習 塾 全 盛 。
一九 七 七 年 七 月 、 学 習 指 導 要 領 改 訂 告 示。 ゆ と り の教 育 強 調 。 流 行 語 ﹁落 ち こ ぼ れ 、 よ っし ゃ よ っし ゃ ﹂。 生
活 実 態 と は 異 な る国 民 の ﹁中 流 ﹂意 識 。 大 学 進 学 率 の 低 下 。 七 入 年 、 流 行 語 ﹁嫌 煙 権 、 な ー ん ち ゃ って、 窓 際
族 、 不 確 実 性 の時 代 、 サ ラ 金 、 家 庭 内 暴 力 ﹂ に は不 安 感 が漂 う 。 七 九 年 、 大 学 共 通 一次 試 験 実施 。 子 ど も た ち に
口 裂 け 女 の 流 言 。 イ ン ベー ダ ー ゲ ー ム の 流 行 。 死 への畏 敬 の 念 喪 失 。 流 行 語 ﹁ウ サ ギ 小 屋 、 ワ ン パ タ ー ン、 天中
殺 、 ナ ウ い、 ダ サ い﹂。 八 ○ 年 、 校 内 暴 力 急 増 。 ﹁そ れ な り に 、 ピ ッカ ピ カ 、 カ ラ ス の 勝 手 で し ょ ﹂。 八 一年 、 国
際 障 害 者 年 。 心 の荒 廃 的 流 行 語 ﹁ハチ の 一刺 し 、 少 年 少 女 ツ ッ パ リ 、 な め ん な よ 、 ブ リ ッ子 ﹂。 検 定 内 容 と 自 民
党 提 起 の ﹁教 科 書 問 題 ﹂。 八 二 年 、 中 国 ・韓 国 な ど ア ジ ア 諸 国 か ら 批 判 さ れ た ﹁教 科 書 問 題 ﹂。 ﹁ネ ク ラ ・ネ ア カ﹂
の人 間 性 批 評 が許 さ れ る の か 。 八 三 年 、 ワ ー プ ロと パ ソ コ ン の普 及 。 ﹁お し ん ド ロー ム﹂ は 良 質 の 日本 人 像 。 弱
点 に つけ 込 む ﹁戸 塚 ヨ ット ス ク ー ル﹂。 親 と 子 の ﹁積 木 く ず し ﹂。 八 四 年 八 月 、 臨 時 教 育 審 議 会 設 置 ︵ 三 年 間 ︶。
国 民 の生 活 中 流 意 識 九 〇 % に 。 ﹁ピ ー タ ー パ ン症 候 群 、 く れ な い族 、 甘 え ﹂ に幼 児 化 が 見 ら れ る 。
一九 八 五 年 、 均 質 的 な 大 衆 でな く 、 多 様 化 個 性 化 分 散 化 し た ﹁分 衆 ﹂ は、 八 六 年 の自 分 勝 手 で無 感 覚 な ﹁新 人
類 ﹂ へ、 都 合 が悪 い と、 そ の場 を ご ま かす ﹁プ ッ ツ ン﹂ へと 繋 が る 。 意 識 的 思 想 的 な シ ニカ ル、 無 欲 な 自 然 生 活
を 求 め 文 化 的 生 活 を 軽 蔑 、 社 会 生 活 の伝 統 や 見 栄 を 意 識 的 に無 視 す る 生 活 態 度 のキ ニク 主 義 ︵シ ニシ ズ ム︶ な ら
意 味 も あ る が、 九 四 年 の 独 断 と偏 見 に充 ち た 傲 慢 主 義 ﹁ゴ ー マ ニズ ム﹂、 さ ら に 二 〇 〇 〇 年 の ﹁ジ コチ ュー ﹂ へ
と続 いて い る の では 、 問 題 は 深 刻 であ る。 八 八 年 の管 理 社 会 に 生 き る画 一的 ﹁カイ ワ レ族 ﹂ は 、 どう 育 つ の か。
一九 八 九 年 三 月 、 学 習 指 導 要 領 改 訂 告 示 。 吉 野 ケ 里 遺 跡 の発 掘 。 四 月 、 消 費 税 導 入 。 ﹁セ ク シ ャ ル ハラ ス メ ン
ト 、Hanak、0ォ バ タ リ ア ン、 マ スオ さ ん 現 象 、 N 0 と 言 え る 日 本 ﹂。 九 〇 年 、 大 学 入 試 セ ンタ ー 試 験 実 施 。 父
親 観 の 凋 落 。 七 月 、 校 門 圧 死 事 件 。 バブ ル の崩 壊 に も か か わ らず 、 若 者 は 3 K を 嫌 う 。 浮 か れ る 日 本 人 の 実 像
﹁ち び ま る 子 ち ゃ ん 現 象 ﹂、 科 学 の転 換 ﹁フ ァ ジ ィ ﹂。 九 二 年 、複 合 不 況 。 国 公 立 小 中 高 の第 二 土 曜 休 校 。 厚 生 事
業 の貧 弱 さ の9 K 。 九 三 年 三 月 、 最 高 裁 、 検 定 制 度 合 憲 。 J リ ー グ 開 幕 。 九 四 年 、 いじ め の増 加 。 松 本 サ リ ン事
件 。 向 井 千 秋 宇 宙 飛 行 士 。 大 江 健 三 郎 ノ ー ベ ル文 学 賞 受 賞 。 ﹁就 職 氷 河 期 、 価 格 破 壊 、 同 情 す る な ら カネ を く れ 、
イ チ ロー 、 ヤ ン マ マ﹂。 九 五 年 、 阪 神 淡 路 大 震災 。 サ リ ン事 件 。 ﹁ボ ラ ンテ ィ ア、 マイ ンド コント ロー ル、 コギ ャ
ル、 NO M O ﹂。 九 六 年 七 月 、 中 央 教 育 審 議 会 ﹁ゆ と り 、 生 き る 力 、 基 礎 基 本 、 個 性 、 横 断 的 ・総 合 的 な 学 習 の
時 間 ﹂ の提 言 。 携 帯 電 話 の 急 増 。 ﹁チ ョべ リ バ 、 ア ムラ ー 、 援 助 交 際 、 スト ー カ ー 、 イ ン タ ー ネ ット ﹂。 九 七 年 ﹁た ま ご っち、 ポ ケ モ ン、 透 明 な 存 在 、 マイ ブ ー ム﹂ 自 己 中 心 で 協 調 が苦 手 な 姿 。
一九 九 八 年 十 二月 、 学 習 指 導 要 領 改 訂 告 示 。 ﹁話 す 聞 く 、 伝 え 合 う 力 、 生 き る力 、 総 合 的 学 習 の時 間 ﹂、 小 学 校
不 登 校 ○ ・三 四 % 。 九 九 年 学 校
( 学 級 ) 崩 壊 、 ブ ッチ ホ ン 、 Y 2 K 、 癒 し 、 i モ ー ド 。 二 〇 〇 〇 年 I T 革 命 、 お
っ は ー 、 ジ コチ ュ ー 、 十 七 歳 、 私 的 に は 。 二 〇 〇 一年 、 明 日 が あ る さ 、 ヤ だ ね っ た ら ヤ だ ね 、 ブ ロ ー ド バ ン ド 、
ド メ ス テ ィ ック ・バ イ オ レ ン ス 、 抵 抗 勢 力 。 二 〇 〇 二 年 、 W 杯 、 ダ ブ ル 受 賞 、 貸 し 剥 が し 、 内 部 告 発 。
﹁話 す ﹂ よ う に 導 く こ と が 求 め ら れ て い る 。 し か も 双
声 の 大 き な 者 が 発 言 し 、 声 無 き 者 の 声 に 耳 を 傾 け ら れ な い 時 代 状 況 が あ る 。 た め に 、 こ と ば で ﹁伝 え 合 う ﹂ 力 を 合 言 葉 に 、 話 す 聞 く 指 導 の 重 視 と、 何 よ り も 先 に 、 ま ず
︵チ ュ
方 向 が 基 本 状 況 で あ る 。 と す れ ば 、 ﹁権 利 の 反 対 は 、 義 務 ﹂ と 教 え る こ と 以 上 に 、 ﹁権 利 の 反 対 は 、 他 の 人 の 権
利 ﹂ と 教 え る こ と が 大 切 で あ る 。 こ れ か ら の 話 し こ と ば 教 育 の 背 景 に は 、 こ う し た 自 他 を 見 つ め 、 ジ コ虫
ー ︶ か ら の 脱 皮 を 図 ら な け れ ば な ら な い。 ど の 子 も 話 せ る よ う に と 指 導 す る こ と は 尊 い。 話 し た が り や 聞 き た が
り や を 育 て る の は 、 初 等 教 育 の基 礎 で は あ ろ う 。 し か し 、 朴 訥 な 話 し 手 の ぎ こ ち な い 話 に も じ っ と 耳 を 傾 け る 、
さ ら に 聞 い て は い け な い こ と は 尋 ね な い、 相 手 が 話 す こ と を 躊 躇 す る よ う な こ と を 話 さ せ な い 思 い や り も 不 可 欠
で あ る 。 う る さ い ほ ど の 賑 や か な 社 会 状 況 で の ﹁生 き る 力 ﹂ は 、 し っ か り し た 自 己 と 他 人 へ の慈 し み の 感 性 を 酒
養 す る こ と で 育 つ。 こ れ か ら の 話 し こ と ば 教 育 は 、 プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン技 能 に 先 ん じ て 、 こ う し た 言 語 人 格 の 内
︵ 化 ︶ 社 会 に生 き る た め に 英 語 学 習 が 奨 励 さ れ て いる 。 外 国 人 ・外 国 語 への 日 本 人 独特 の恥 じ
言 を 豊 か に す る こ と に も っと 心 す べ き で あ ろ う 。
お わ り に
小 学 生 にも 国 際
ら い と 距 離 感 を 払 拭 し 、 物 怖 じ し な い国 際 人 に 培 う 意 味 は あ ろ う が 、 英 語 力 を 、 と いう 目 的 に は 、 に わ か に 賛 同
で き な い。 大 津 由 紀 雄 ・鳥 飼 玖 美 子 ﹃小 学 生 でな ぜ 英 語 ?﹄ に ﹁言 語 の価 値 が低 い ﹃察 し ﹄ の文 化 で育 った人 間
が 、 言 語 に こそ 価 値 を お い て主 張 す る 文 化 と 渡 り 合 う こ と は き ついも の です 。 し か し 多 文 化時 代 に生 き る 日本 人
は 、 言 語 を 駆 使 し て主 張 し 、 説 得 し 、 発 信 し て いか な け れ ば な り ま せ ん 。 日本 語 で説 得 力 が な い の に 英 語 で外 国
人 と 丁 々 発 止 や り あ う こと な ど 不 可 能 です 。﹂ ︵ 注 3 ︶ と の指 摘 が あ る。 佐 藤 隆 三 ﹃ア メ リ カ豊 か な る 没 落 ﹄ に も
﹁表 現 力 の訓 練 は 、 ま ず 母国 語 で行 う の が順 序 と いう も の だ。 秩 序 だ つた 概 念 を 日 本 語 で表 現 で き な け れ ば 、 英
語 習 得 に カ ネ を 注 ぎ 込 ん でも 一言 も 口 が き け な い はず で あ る。 存 在 し な い思 考 を 翻 訳 す る こ と は でき な いか ら だ 。﹂ ︵ 注 4 ︶ とあ る。
これ ま で以 上 に、 わ れ わ れ国 語 教 師 が、 国 語 科 の授 業 で、 こ のよ う な 警 鐘 に応 え る だけ の国 語 力 を 育 てな け れ ば な ら な い。
注 1 文 部 省 ﹁討 議 法 に つ いて ﹂ ﹃ 新 教 育 指 針 ﹄ 一九 四 七 年 二 月 一二 八 ∼ 一四 六 頁
注 2 S ・I ・ ハヤ カ ワ 著 ・大 久 保 忠 利 訳 ﹃思 考 と 行 動 に お け る 言 語 ﹄ 岩 波 書 店 一九 五 一年 二一 〇 頁
注 3 大津 由紀 雄 ・鳥飼 玖美 子 ﹃小学 生 でな ぜ英 語 ?﹄岩 波書店 二 〇〇 二年三 月 四 〇 ∼四六 頁 注 4 佐藤 隆三 ﹃ア メリカ豊 か な る没落﹄ 日本経 済新 聞社 一九九 八年 十月 一六八 頁
注
第 三章 話 し 言 葉学 習 の機 会 と場
一 日常的な指導
学 習 者 が 話 し 言 葉 を 用 いる機 会 はあ ふ れ る ほ ど あ る。 そ の事 実 の重 み を 知 れ ば 知 る ほ ど 、 教 授 者 は 一体 ど こか
ら 手 を つけ れ ばよ いか 途 方 に暮 れ る こ と に も な る。 大 村 は ま 氏 は、 次 の二 種 の いず れ か を 見 据 え る よ う に と提 案 さ れ て いる 。 A ﹁話 し 合 い の力 を つけ る た め に 、 話 し合 いを さ せ て いる ﹂ 授 業 な の か
B ﹁他 の 目 標 ー た と え ば 文 学 作 品 を 味 わ う ﹂ と いう 目 的 で、 ﹁﹃話 し 合 い﹄ と いう 方 法 を と っ て いる ﹂ 授 業 な のか ︵ 注 1︶
※右 の ﹁話 し合 い﹂ は話 し言葉 学 習を包 括 す る語 で、そ こに、対 話、 発表 、 司会な どを置 き換 え る ことが可能 であ る。
A こ そ話 し 言 葉 学 習 で取 り 上 げ る べ き も の で、 B は そ れ ま で に蓄 え た 話 し 言 葉 を 活 用す る 機 会 で あ る か ら 目 標 に せず 、 問 題 にな った 時 に記 録 に と ど め る べき だ と さ れ る。
大 村 は ま 氏 は さ ら に 、 A の 以 前 に次 の三 点 が確 実 にな さ れ る べき だ と 指 摘 さ れ る。 a 話 し こ と ば の生 産 性 ・豊 か さ を 身 に し み て感 じ さ せ る こと 。 b よ く 聞 く と いう 習 慣 を身 に つけ て 、 正 し く 深 い聞 く 力 を 養 う こと 。
c 学 級 を 誰 も が 心 置 き な く 発 言 で き る 場 に す る こ と
( 注 2 )。
( 話 表 力 ) を 育 て る A に も 及 ん で い る。 し た が って 本 章 で は 、 上 記 の四 点 に つ いて 何 を 目 ざ し て、
以 上 の A ・B 、 a ・b ・c の う ち 、 日 常 的 な 指 導 は 、 話 し 言 葉 の 根 底 を 耕 す a ・b ・ c ば か り か 、 話 し 言 葉 そ のも の の能 力
ど の よ う な 話 し 言 葉 学 習 の機 会 と場 に す る か を 明 ら か に し 、 教 師 と し て どう 修 練 を積 む か探 る こと に し た い。
︵一 ︶ 話 し こ とば の生 産 性 を 悟 る機 会 ・場 1 対 話 の場 合
教 師 が学 習 者 一人 ひ と り と個 々 の可 能 性 に目 覚 め る よ う な 言 葉 を 交 わ す よ う に 心 がけ る 。 そ し て、 徐 々 に学 習
者 の方 か ら 目 を 輝 か せ 、 心 を 開 い て語 り か け て く る よ う に し 、 ﹁水 入 ら ず の対 話 ﹂ に よ って ﹁わ か り 合 え た 時 の 喜 び﹂ ( 注 3) を 実 感 さ せ る 。 そ の た め に 、 次 の機 会 ・場 が 利 用 でき よ う 。
① 一斉 授 業 の中 で も 、 教 師 が 個 人 個 人 に関 わ れ る よ う な 発 表 や 話 し 合 い準 備 、 調 査 、 読 ん で考 え つ つ書 く な ど の時 間 を 設 け る 。
② 授 業 開 始 直 前 に は 、 今 か ら の授 業 への期 待 を 盛 り 上 げ る よ う な話 、 授 業 後 に は、 開 放 感 を 持 って伸 び や か に話 せ る こ と な ど 、 個 々 の学 習 者 を触 発 す る よ う な 話 題 を 提 供 す る 。
これ ら の機 会 ・場 を の が さず に 、 対 話 の実 り 豊 か さ に目 を 開 か せ る に は、 学 習 記 録 や 日 記 ・生 活記 録 を 手 が か
り に、 こ の子 に は こん な こ と を 話 し てあ げ た い、 こ の子 か ら は こ ん な 発 言 を 引 き 出 し た いと 、 指 導 者 とし て事 前 に心を ふくらま せておく ことが不可欠 になろう。
2 公 話 (発 表 ) の場 合
教 師 の ほう で短 く て も 完 結 性 のあ る話 を 用 意 し 、 授 業 展 開 の随 所 に 入 れ る よう に す る。 途 中 で急 に 話 す 必 要 性
が生 じ た時 で も 、 題 を つけ て構 成 も 工 夫 し 、 ま と ま った 話 が聞 け る場 に す る。 そ れ によ って 、 児 童 ・生 徒 が新 た
に 現 前 し て く る 世 界 の豊 か さ と教 師 の話 の みず みず し さ に目 を 見 は り、 自 ら も あ あ いう 話 が でき る よ う にな れ ば と いう 憧 憬 の念 が 湧 く よ う にす る 。 そ れ に は、 次 のよ う な 機 会 ・場 が あ ろう 。
① 文 学 や 説 明 ・評 論 の読 解 ・読 書 に お い ても 、 作 文 や 話 し こと ば、 言 語 の授 業 にお いて も 、 一単 元 に少 な く
と も 一度 、 でき れ ば 毎 時 間 に 一個 所 ま と ま った話 を 聞 か せ る よ う に 計 画 し 、 実 地 に試 み て、 手 応 え が 得 ら れ る 題 材 と 表 現 にす る 。
② 授 業 の 進 行 上 、 予 想 外 の で き ご と が起 こり 、 明 ら か に脱 線 か と思 え る 状 態 に 出 く わ し ても 、 怒 り にま か せ
て ど な り 散 ら し 、 言 葉 を 連 発 す る の で な く 、 き ち ん と し た 題 を つけ 、 着 想 も 展 開 も 、 新 鮮 な 聞 く 学 習 の場 に し て いく 。
こ れ ら を 実 現 し て いく た め に は、 国 語 科 各 領 域 ・各 単 元 ・各 時 間 に関 し て 、 学 習者 の伸 び た い と いう 願 い に応
え る話 題 を 発 掘 し よ う とす る 熱 意 と、 突 発 的 な 話 す 場 で も 、 繰 り 返 し に 堕 さ ず 、 新 鮮 さ を 盛 り 込 も う とす る 話 し
( 討議 ) の場合
手 と し て の向 上 心 が求 め ら れ よ う 。
3 会 話
次 に あ げ る話 し 合 いの生 産 性 ・必 要 性 を 機 会 あ る ご と に 説 き 、 学 習 者 の心 に浸 透 さ せ る よ う に 努 め る。
・量 的 にも 質 的 にも 一人 では 到 底 無 理 な こ と が 目 的 を 同 じ く す る 人 た ち の相 談 に よ っ て可 能 に な る こ と。
・話 し 合 う な か で、 本 筋 と は直 接 に つな が ら な く ても 、 参 加 し て い る 人 の心 を 活 発 にし 、 全 く 新 し い着 想 を 育 む こと 。
・テ スト な ど 目 前 の 課 題 に対 し て も 話 し 合 い の即 決 の場 で鍛 え た 頭 は有 効 に働 く こと 。
・世 界 の方 向 を 決 め る 重 大 事 か ら 日 々 の商 売 ・学 問 ・生 活 ま で、 話 し 合 い に よ って 、 共 同 し て 進 め ら れ る こ と。 こ れ ら を 会 得 さ せ る に は 、 次 の よ う な 機 会 ・場 を 生 か す よ う に し た い。
︵1︶ テ スト の直 前 で、 誰 も 話 し こと ば の授 業 な ど身 に 入 ら な いと いう 空 気 が教 室 に 満 ち て いる 時 、 ま た こ ん な
学 習 が何 の役 に立 つか と いう 批 判 が出 た時 、 学 級全 体 を 相 手 に 説 き 、 納 得 の いく も の にす る 。
︵2︶ 発 言 は し な い が、 優 れ た考 え を 持 ち 、 自 分 の 世 界 で深 ま る こ と で安 住 し て いる 学 習 者 に は 、 授 業 中 でも 授 業 外 でも 、 個 人 的 に 語 り か け 、 そ の意 識 を 見 直 さ せ る。
そ れ に は、 教 師 の話 し 合 う こ と の価 値 に関 す る実 地 の会 得 と 論 理 的 な 解 明 と が不 可 欠 であ る 。 ま た 、 学 級 全 体
の国 語 学 習 の歩 み と 学 習者 各 々 の学 習 心 情 と を 洞 察 す る 目 も 当 然 求 めら れ てく る。
4 司 会 の場 合
日 々 の授 業 に お いて 、 教 師 が 司 会 を 鮮 や か にし て 見 せ 、 学 習者 の内 に 混 沌 と し て い たも のが 整 然 と し た 時 の 快 さ を お ぼ え さ せ 、 次 第 に あ のよ う に でき た ら と いう 願 い が育 ま れ る よ う に す る。 具 体 的 に は 、 次 の機 会 ・場 が 想定 でき よう 。
︵1︶ 話 し こ と ば の授 業 に お いて 、 対 話 、 公 話 、 会 話 の いず れ が 主 にな る 場 合 でも 、 教 師 の司 会 で、 凛 と し たも の にな る。
︵2︶ 読 み の 授 業 でも 、 作 文 の 授 業 でも 、 言 語 の授 業 でも 、 学 習 者 が、 こ の先 生 に導 かれ る と 、 計 画 が 順 調 に進 行 し 、 ど の発 言 も 生 か さ れ て 確 か に成 長 し て いる と 実 感 で き る 。
︵ 発 問 法 ・助 言 法 ・説 明 法 を 中 心 と す る ︶ の力 も 、 そ れ を 体 現 す る国 語 科 授 業 実
司 会 力 はす べて の話 し こ と ば の能 力 が結 集 さ れ る も の であ り 、 教 師 の全 国 語 科 授 業 力 の結 実 と も 見 ら れ る。 そ れ だ け に、 教 材 把 握 ・授 業 構 想
践 力 も 、 見 直す 際 の国 語 科 授 業 評 価 力 も 、 ゆ る が せ に は でき な く な る。
︵二︶聞 く 習 慣 を 確 立 し 、 正 し く 深 く 聞 く カ を 養 う 機 会 ・場 1 堅 固 な し っか り 聞 く 習 慣 を 身 に つ け る
前 項 2 の 公話 の生 産 性 に気 づ く前 に、 教 師 の方 で学 習 者 が思 わ ず 聞 き 入 ってし まう 話 を 豊 か に聞 か せ 、 聞 く こ
と の大 切 さ を 自 覚 さ せ る こ と が 、 ま ず 求 め ら れ よ う 。 な か で も 、 対 話 に お け る聞 く 、 発 表 に お け る聞 く 、 話 し 合
いに お け る聞 く と いう よ う に、 各 々 の聞 く こと の意 義 に 徐 々 に気 づき 、 少 々 の状 況 の変 化 、 相 手 の 発表 の つた な さ では 揺 る が な い、 堅 固 な 聞 く 習 慣 が身 に つく よ う に す る。 そ れ に は 、 以 下 の よう な 機 会 ・場 が見 出 せ る 。
︵1︶ 授 業 の最 初 に、 教 師 の話 す こ とを 一度 で聞 き 取 る よ う 習 慣 づけ る。 そ の た め の話 を す る 。
︵2︶ 教 師 が 心 か ら 話 し た いと 思 う 話 を 話 し 出 し 、 話 全 体 の組 み 立 て、 結 び を 練 って 、 国 語 の授 業 の導 入 ・展 開 のどこに用 いるかを見き わめて話し 、学習者 の耳を養う。
③ 学 習 の指 示 な ど 一旦 話 し た こ と は 、 これ も 書 い て念 を 押 す よ う な こと は せず 、 学 習 者 が 緊 張 感 を も って聞 く 場 に 臨 め る よう にす る。
こ のよ う な 機 会 と場 を つく る に は、 話 題 の収 集 と そ れ を ど の程 度 ど ん な ふう に話 す か と いう 練 り 上 げ が 不 可 欠
に な ってく る 。 教 師 の、 話 し 言 葉 の教 材 を 口頭 で提 供 す る努 力 が 、 実 践 を 支 え て いる と言 って よ か ろう 。
2 正 し く 深 く 聞 く 力 を 育 て る
対 話 形 態 か ら 公 話 形 態 へ、 ま た 会 話 形 態 へと、 じ っく り と 正 し く 聞 き 取 る 力 を 養 い、 そ の上 で話 し 手 の真 意 に
迫 った り 、 話 そ う と 決 め て 一層 集 中 し て 聞 い た り し て、 深 く 聞 く こ と の醍 醐 味 を 悟 ら せ る。
こ こ に至 る と 、 日常 的 な 指 導 の機 会 ・場 と い え ど も 、 以 下 のよ う に 事前 の基 礎 訓 練 と の関 連 を 考 え 、 工 夫 し て お く の が よ い。
① ま ず 、 対 話 に お い て誤 っ て答 え て し ま い やす い事 例 を 投 げ かけ 、 ﹁内 容 が ず れ た り ﹂ ﹁方 向 の ち が う こ と を
言 った り ﹂ (注 4) し な い で、 ま る ご と 理 解 す る こと か ら 尋 ね ら れ て いる こ と の核 心 を 正 し く と ら え さ せ る
こ と へと 進 め 、 公 話 、 会 話 に お い て 初 め て 求 め ら れ る 正 し さ の 理 解 へと 行 き 着 か せ る。 さ ら に、 対 話 ・公
話 ・会 話 の いず れ の形 態 に お い ても 、 話 の展 開 に注 意 し て 話 し 手 の真 意 を 汲 み取 った 上 で、 そ こ に 込 めら れ
た 真 意 の違 いを 見 抜 く 一方 で、 話 す 立 場 に 立 っ て切 実 さ を も って聞 き 、 深 く 理 解 す る よ う に練 習 さ せ る。
② 日 々 の国 語 学 習 にお いて も 、 ① に あ げ た基 礎 訓 練 の構 図 を 念 頭 に 置 い て、 学 習 者 に聞 く 力 を 定 着 さ せ、 深
め て いく よ う にす る 。 右 のよ う な 基 礎 訓 練 や 日常 的 な 指 導 を 推 進 す る に は、 基礎 訓 練 と し て取 り 上 げ る べ き
問 い の話 型 を 探 す 、 公 話 ・会 話 の事 例 収 集 、 読 み書 き の 学 習 、 言 語 の学 習 に お け る事 例 への着 目 な ど が必 要
にな っ てく る。
︵三︶ 誰 もが 自 在 に のび のび と 発 言 でき る 学 級 に す る た め の 機 会 ・場
授 業 の中 で、 教 師 が 学 習 者 一人 ひ と り に直 接 関 わ る時 間 と 場 を 設 け 、 当 面 の学 習 活 動 に つ いて 個 性 と能 力 に応 じ た助 言 を 工 夫 し 、 し かも 学 習 者 自 ら が 学 習 の成 果 に自 信 が も て る よ う にす る 。 そ の た め の機 会 ・場 は、 下 記 の 二 つ であ ろう 。
︵1︶ 発 表 や話 し 合 い の場 にお いて 準 備 す る時 間 を 取 り 、 個 別 に ヒ ント を 与 え た り、 材 料 の探 し 方 を 指 導 し た り し て 、 発 言 内 容 を 新 鮮 な も の に し 、 聞 く 人 に共 感 を お ぼ え さ せ る も のに す る。
︵2︶ 文 章 の 理 解 や 表 現 、 言 語 事 項 の学 習 の際 にも 、 優 れ て いる と 認 め ら れ た子 が で き な い子 に対 等 に 接 し て い く よ う に 工 夫 す る。
こ のよ う な は た ら き か け を す る に は 、 児童 ・生 徒 の学 力 と学 習 意 識 と ま わ り の 人 た ち の評 価 と を 洞 察 し 、 発 表
や 話 し 合 いに出 し て誰 か ら も 見 直 さ れ る だけ の個 々 に応 じ た 題材 発 掘 や、 多 様 な 学 習 方 法 の提 示 が望 ま れ る。 毎
時 間 試 行 錯 誤 が あ って も 、 そ れ を生 か し て いく 教 師 と し て の 取 り 組 み が 求 め ら れ よう 。
そ の場 の雰 囲 気 を 変 えず に自 然 に 気 づ か せ て いく 。 具 体 的 に は 、 以 下 のよ う な 機 会 ・場 が 見 出 せよ う 。
︵1︶ 教 師 が 問 い方 を さ ま ざ ま に 変 え て み る ︵ 大 村 は ま 氏 に よ れ ば 、 中 学 生 に は 二 ○ 種 ぐ ら い の誤 り が あ る と い
う ︵ 注 6 ︶︶ だ け でな く 、 学 習 者 に 自 由 に尋 ね さ せ て み るな ど 、 何 を どう 聞 か れ る か 見 当 も つか な い場 も 設 け て、 多 様 な 問 いに ふれ る よ う にす る。
︵2︶ 実 際 の場 で ど のよ う に答 え さ せ る か は 、 問 いに 答 え る 用 意 が ど の程 度 で き て い る か で 、 以 下 のよ う に導 き 方 も 異 な ってく る。
・途 方 に暮 れ る時 に は 、 教 師 が 間 を 置 かず に答 え て み せ、 ﹁あ のよ う に答 え れ ば よ い の か。﹂ と いう 見 通 し を つ け させる。
・言 いた い こ と は 決 ま って も 、 そ れ に表 現 が伴 わず 、 口 に出 せ ず に いる 時 は、 学 習 者 の 最 も 困 って い る言 い出
し を 提 供 し て、 答 え を 仕 上 げ さ せ、 適 切 な 表 現 に し 得 た時 の充 足 感 を お ぼ え さ せ る。 そ し て、 これ ら の答 え 方 の 示唆 が 、 以 後 応 答 の適 否 に 対 す る敏 感 さ と し て は た ら く よ う に す る。
こ のよ う な 指 導 が で き る た め に は 、 教 師 が 常 に応 答 の的 確 ・不 的 確 を と ら え る 評 価 力 を 持 ち 続 け 、各 々 の国 語
学 習 個 体 史 と 照 ら し 合 わ せ て、 答 え ら れず に いる学 習 者 の内 面 の困 惑 を 推 測 し 、 答 え を 引 き 出 す 必 要 が あ ろう 。
質疑力 の養成
日 々、 教 師 自 ら 言 語 生 活 を どう 向 上 さ せ て い る か が 、 根 底 か ら 問 わ れ る こ と に な る 。
2
質 疑 力 は ﹁みず か ら 疑 問 を 発 し 、 問 いた だ し て いく ﹂ 力 で 、 同 じ 対 話 領 域 で伸 ば す 応 答 力 と と も に、 ﹁学 習 話
法 の中 核 ︵ 注 7 ︶﹂ に 位 置 つ く。 わ か ら な い から 尋 ね る と いう 質 問 を 越 え て、 ﹁話 し 手 を 生 か し た り 、 話 を 意 義 づ
け た り ﹂ し て 、 ﹁聞 き 手 も 話 し 手 も な に か を 発 見 で き る ( 注 8 )﹂ よ う な 問 いか け を 目指 す 。 そ のた め に 、 次 に述 べ る よ う な 機 会 ・場 を 用 意 し た い。
︵1︶ 教 師 の 方 か ら 望 ま し い問 いか け を す る こと に と ど め ず 、 本 当 の質 問 は 、 相 手 の話 を 一層 実 り 多 いも の にし
よ う とし て 聞 き 入 る と ころ か ら 出 てく る も の で、 話 に 心 動 か さ れ 、 評 価 し て いる ゆ え に湧 く 問 いや 、 新 たな 可 能 性 を 引 き 出 す 問 題 提 起 と な って表 れ る こ とを 説 き 、 学 習者 に試 み さ せ る。
︵2︶ 教 師 自 身 が 、 生 徒 の 一人 と し て実 地 に 問 いを 発 し て、 そ の場 で どう 問 う かを 悟 ら せ る。
こ のよ う な 機 会 や 場 を の が さず に利 用 で き る た め に は 、 教 師 自身 が いか な る 発 表 でも 生 産 的 に とら え て い こう
とす る 姿 勢 を 確 立 し て お り 、 し か も 学 ぶ者 の立 場 にな って、 どう 問 え ば 自 ら も 出 し う る と思 え る も の に な る かを
( 注 9) で
推 察 す る、 そ し て実 際 に 立 場 を 変 え て発 言 し う る よ う に 、 柔 軟 な 思 考 を は た ら か せ る こ と が 要 請 さ れ る 。
3 発 表 力 の伸 長
発 表 力 は、 人 前 で意 見 ・感 想 な ど 一ま と ま り の話 を 組 み立 て て発 表 す る 力 で、 公 話 に は た ら く 能 力
あ る 。 発 表 力 は 場 、 話 題 、 構 想 、 口述 に分 節 化 で き る が 、 肝心 な の は、 準 備 し て き た こ とを 平 生 の自 己 を 見 失 わ
ず に率 直 に 、 あ り の ま ま に、 誠 実 に表 す こと であ ろう 。 そ れ に よ って話 し 手 の 人間 性 を 聞 き 手 にま る ご と 受 け と めてもら えるよう になろう。 学 習 者 を そ のよ う に いざ な う 日 常 的 な機 会 ・場 は、 次 の よう にま と め ら れ よ う 。
︵1︶ ま ず 、 賛 成 の時 、 積 極 的 に ﹁賛 成 で す 。﹂ と き ち ん と み ん な の前 で言 う こ と の 大 切 さ に 気 づ か せ る 。 そ れ
が 確 実 に 言 え る よう にな れ ば 、 そ の 理 由 も 加 え て 、 少 し ず つま と ま り のあ る意 見 にし て いか せ る。 そ れ だけ
でき れ ば 話 し 手 と し て 一人 前 な の だ と 自 覚 さ せ、 言 い づ ら い意 見 に つ い ても 、 み んな のた め に言 って みよ う と す る意 欲 を 育 て る 。
︵2︶ 発 表 に 消 極 的 な 学 習 者 に 対 し て は 、 ど う いう 機 会 を 用 意 し 、 いか な る感 想 ・意 見 を 述 べさ せ る か と いう 見
通 し を つけ 、 こ の点 に つ いて な ら 発 表 し た いと いう 表 情 を 見 の が さず に発 言 さ せ 、 脱 皮 のき っか け を 得 さ せ
る 。 逆 に 、 発 表 し た が り、 冗 長 に過 ぎ る よ う な 学 習 者 に つい て は 、 発 表 練 習 を 活 用 し て凝 縮 し て 発 表 さ せ た
り 、 本 当 に言 う べ き 実 質 を 備 え て いる か 問 い直 さ せ た り し て、 練 り 上 げ さ せ る ︵ 注 10 ︶。
︵2 に︶ 記 し た よ う に 、 こ の よう な 日常 的 な 指 導 は 、 他 方 に お い て発 表 の基 礎 訓 練 と あ いま つて効 果 を あ げ る も の
で あ る。 し た が って 、 教 師 に は 、 発 表 に 関 す る基 礎 訓 練 に対 す る見 通 し と 、 学 習 者 の発 表 に対 す る 恐 れ やう ぬ ぼ れ な ど を の がさ ず に 感 じ 取 り 把 握 し て いく 力 量 の いず れ も 備 わ る よう にし た い。
4 討 議 力 の練 磨
討 議 力 は 、 会 話 形 態 に は た ら く 能 力 で、 話 し 合 い の際 、 共 同 思 考 を 深 め解 決 の方 策 を 見 出 す 力 であ る ︵ 注 11 ︶。
そ の能 力 を 身 に つけ よ う とす れ ば、 自 ら の こう あ る べき だ と いう 思 いを 分 析 し て論 理 づ け 、 そ の根 拠 が確 か か ど
う か吟 味 せ ざ る を え な く な る 。 正反 対 の主 張 も 相 手 の 立 場 か ら 見 れ ば 真 実 に な る の か も し れ な いと 考 え 、 し っか
り 聞 き 分 け て、 さ ら に 深 め ら れ る 可 能 性 を 追 究 し よ う と いう 意 欲 も 湧 いて く る 。 討 議 の目 的 を 達 成 す る た め に
は、 自 ら の主 張 が ど う 表 明 さ れ れ ば 、 み んな の納 得 し う る も の に な る かも 、 探 る 必 要 が 出 てく る 。
そ れ ら の能 力 を 養 う た め の 日常 的 な 指 導 の機 会 ・場 に は 、 中 学 校 で は、 次 のよ う な 段 階 が 見 出 せ よう 。
︵1︶ ま ず 意 見 を 聞 く 時 に 、 隣 の人 の意 見 を 聞 い て自 分 の意 見 と並 べ て報 告 し たり 、 二 人 の意 見 を ま と め て 答 え
た り 、 相 手 と話 し 合 い触 発 さ れ て 自 ら 育 て た 考 え を 述 べ たり さ せ て、 一対 一で話 し 合 う こ と に 慣 れ さ せ る 。
︵2︶ そ の上 で、 三 、 四 人 ︵ ← グ ル ープ ) で相 談 し て ち ょ っと し た こと を ま と め ら れ る よ う にす る 。
大 村 は ま 氏 に よ れ ば 、 以 後 、 グ ル ープ 学 習 と し て、 あ る 学 習 活 動 だ け 一〇 ∼ 一五 分 、 四 ∼五 人 の班 で話 し 合 わ
せ 、 成 果 を ま と め さ せ る← 一時 間 の活 動 だ け 班 に 分 か れ て 取 り 組 ま せ る ← 何 時 間 か の つな が った学 習 活 動 を 班 で
取 り 組 ま せ る ← 一単 元 全 体 を 班 活 動 に し て成 果 を 結 集 さ せ る と いう よ う に 進 む と あ る が ︵ 注 12 ︶、 日 常 的 な 指 導
と し て は、 ① ・② ま で で十 分 で あ ろ う 。 ① ・② に し て も 、 基 礎 訓 練 と し て ど こ か で集 約 的 に 扱 って お い た方 が 定 着 性 は高 いと い え よ う 。
以 上 のよ う な グ ルー プ 指 導 は 、 大 村 は ま 氏 の場 合 、 一年 近 く か け て や っと軌 道 に 乗 せ る こと が で き る と いう 。
( 目 標 ) 別 に力 動 的 に編 成 し
そ う だ とす れ ば 、 教 師 は 年 間 指 導 計 画 への見 通 し を つけ て、 日 々国 語 の学 習 集 団 を 一歩 一歩 着 実 に育 て て いか な け れ ば な ら な い と いえ よ う 。 意 図 的 計 画 的 な 指 導 を これ ぐ ら い続 け な け れ ば 、 目 的 て 活 躍 す る学 習 集 団 にす る こ と は 難 し い。
5 司 会 力 の素 地 の育 成
︵ そ れ ぞ れ の発 言 の願 いを 見 抜 き 、 誰 も が 納 得 す る 地 点 に行 き 着 か
日 々 の国 語 学 習 の中 で 司 会 者 と し て の聞 く 力 ︵いく つも の発 言 の共 通 点 と 相 違 点 を 見 抜 き 、 ど う いう 方 向 に い ざな え ば ま と ま る か に気 づ く こ と ) と 話 す 力 せ る こと ) の素 地 に培 う よう 心 がけ る 。
注
最 も 系 統 立 て に く い話 し 言 葉 の 日常 的 指 導 に し ても 、 国 語 科 担 当 者 の力 量 に よ って 必 要 な 網 の目 を 張 り め ぐ ら
す こ と が 可 能 で あ る 。 話 し こ と ば の育 成 が学 習者 の人 間 的 成 長 に 深 く 関 わ る と す れ ば、 日 常 的 な 指 導 は、 目 立 た な い面 も あ ろう が 、 そ の中 核 を 担 って い る。 心 し て 日 々 いそ し む よ う にし た い。
書 房 一九 八三 年三 月三 十 日 一七 六頁 より作 成
注 1 大 村 は ま ﹁﹃話 し 合 い﹄ 指 導 に つ い て ﹂ ﹃聞 く こ と ・話 す こ と の指 導 の実 際 ﹄ ︵ 大 村 は ま国 語教 室 第 二巻 ) 筑摩
注 2 注 1 に 同 じ 一七 八 頁 よ り 作 成
注 3 野 地潤 家 ﹁人間 関係 を ひら く話 し ことば の指 導﹂ ﹃教育 話法 入 門﹄ 明治 図書 一九九 六年 七月 二 一六頁
月 十 五 日 一七 一∼ 一七 二 頁
注 4 大 村 はま ﹃や さし い国語 教室 ﹄毎 日新聞 社 ︵ 後 に共文 社︶ 一九 六 六年三 月十 五 日 四六 頁 注 5 野 地潤 家 ﹁話 し ことば の特 質 と機 能 ー教 育話 法 と 学習 話 法ー ﹂ ﹃話し こと ば学 習論 ﹄ 共文 社 一九 七四 年 十 二
房 一九 八三 年三 月三 十 日 八 三頁
注 6 大 村 は ま ﹁人 と 学 力 を 育 て る た め に ﹂ ﹃ 聞 く こ と 、 話 す こ と の指 導 の実 際 ﹄ ( 大村 はま国 語教室 第 二巻 )筑 摩書
注 7 注 5 に 同 じ 一七 一∼ 一七 二 頁
三年 三月 三十 日 一五 三頁
注 8 大 村 は ま ﹁私 の授 業 か ら ﹂ ﹃聞 く こ と ・話 す こ と の指 導 の 実 際 ﹄ ( 大 村 は ま 国 語 教 室 第 二 巻 ) 筑 摩 書 房 一九 八
注 9 注 5 に 同 じ 一七 一∼ 一七 二 頁
頁よ り作 成
注 10 野 地 潤 家 ﹁コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン技 術 の 訓 練 ﹂ ﹃ 話 し こと ば学 習論﹄ ︵ 共 文 社 一九 七 四 年 十 二 月 十 五 日 二 二 〇
注 11 注 5 に 同 じ 一七 二 頁 注 12 大 村 は ま ﹃ 国 語 教 室 の 実 際 ﹄ 共 文 社 一九 七 〇 年 十 二 月 一日 二 八 ∼ 三 一頁
︵一︶ ︵二︶
二 取 り 立 て 指導
取り立 て指導 とは何 か
こ こ で論 じ る 取 り 立 て 指 導 と は、 第 一節 で 論 じ て いる 日 常 的 継 続 的 な 指 導 を ベー ス にし な が ら 、 そ れ と は 別 に 国 語 科 の授 業 時 間 内 で計 画 的 系 統 的 に行 わ れ る 指 導 を 指 し て いる。
話 し 言 葉 の指 導 内 容 を ど う と ら え る か
で は 、 取 り 立 て 指 導 の 計 画 を 立 て る 際 、 わ れ わ れ は ど のよ う な 指 導 内 容 の枠 組 み を 念 頭 に置 く べき だ ろう か。
話 し 言 葉 指 導 の領 域 は、 学 習 指 導 要 領 で は聞 く こ と ・話 す こ と ・話 し 合 いと 分 け ら れ て い る。 ま た 、 そ の領 域 を
形 態 に 注 目 し て 設 定 し、 聞 く こと ・独 話 ︵ 話 す こ と ︶・対 話 ・話 し 合 い ︵パ ネ ル デ ィ ス カ ッシ ョ ン ・デ ィ ベ ー ト
等 ︶ のよ う に分 け る こ と も あ る 。 筆 者 は か つて 、 話 し 言 葉 の指 導 領 域 を 以 下 のよ う に 設 定 し た 。
① 基盤領 域 ︵ 自 分 の話 し 言 葉 に つ い て 自 覚 化 さ せ た り 、 言 葉 への信 頼 感 や 、 言 葉 を 通 し て他 者 と よ り よ い つ な が り を も と う とす る 態 度 を 育 て る ︶
② 音 読 ︵文 章 を 音 読 す る こ と を 通 し て、 声 を 相 手 に 届 け る 方 法 ・意 味 を 伝 え る た め の間 の 取 り 方 等 を 教 え る ) ③ 独話 ④ 対話 ⑤ 会話 ︵ 話 し 合 い︶ ︵ 注 1︶
こ の よう な 領 域 区 分 に よ って 取 り 立 て指 導 の 内 容 を 整 理 す る と 、 指 導 の枠 組 みを つけ や す い と いう 利 点 があ る。
し か し、 こ れ ら は あ く ま で領 域 区 分 であ って そ れ が そ の ま ま 学 習 者 の学 習 事 項 に は な ら な い。 独 話 ︵ス ピ ー
チ ) に せよ 話 し 合 いに せ よ 、 そ れ ら は言 語 活 動 を 指 し た 言 葉 に す ぎ な い の で、 そ の言 語 活 動 を 通 し て 、 ど の よう
な 言 語 能 力 を 育 て る か を 見 据 え る 必 要 が生 じ てく る。 例 え ば 聴 く 能 力 を 分 析 し 、 系 統 的 指 導 を 行 う 手 が かり と し て いる も の に 次 頁 に 示 し た表 1 のよ う な も の があ る ︵ 注 2︶。
ま た 、 話 し 合 いの能 力 に関 す る 分 析 と 系 統 表 は 、 第 四 章 第 四 節 に掲 載 し て いる 。 指 導 す る にあ た って は、 こ の
よう な 研 究 を 参 考 に し な が ら 、 自 ら 担 当 し て いる学 年 に応 じ た 話 し 言 葉 指 導 の た め の能 力 表 を 作 成 し て おく 必 要 が あ る だ ろう 。
︵三︶ 取 り 立 て 指 導 を す る際 の基 本 的 な 方 針 1 土 台 を築 く
聞 く こと 話 す こ と に関 す る 指 導 内 容 に は 、 スキ ルと し て 取 り 出 せ る 技 能 も あ る が、 ま ず 肝 心 な のは そ のよう な
技 能 で は な く 、 聞 こう と す る 意 欲 を も って いる こと や 、 他 者 と 話 し合 う こ と を 楽 し く 思 う な ど の情 意 的 側 面 を 育
て る こ と が 土 台 と な る 。 こ の情 意 的 側 面 の耕 し が な く て は 、 スキ ルと し て指 導 でき る技 能 、 例 え ば ﹁わ か った か
ど う かう な ず き な が ら 聞 く ﹂ ﹁結 論 を 先 に 言 って か ら話 す ﹂ ﹁ス ピ ー チ す る と き に はナ ンバ リ ング ・ラ ベ リ ング を
し て﹂ と い った よう な 技 術 を 教 え ても 土 台 が な い の で生 か さ れ な い。 であ る か ら 、 話 し 言 葉 の計 画 的 な 指 導 を す
る 場 合 、 情 意 的 な 側 面 を 体 験 を 通 し て 肌 身 に つ いた 態 度 と し て定 着 さ せ る こと を 出 発 点 に し な が ら 、 必 然 的 な 場
表 1 聴く 力 の能 力 表
注 数 字 に○ が つ いて いる も のは、 態 度 的 な系 列 に属す る ﹁聴 く 力 ﹂
を 設 定 す る中 で技 能 的 な も のを 授 け て いく 方 針 を 取 る べき で あ ろ う 。
2 発 達 段 階 に 応 じ た指 導 内 容 の重 点 化 を は か る
聞 く 話 す と いう 行 為 は 、 文 字 と いう 形 に 残 ら な いだ け に、 学 習 者 の能 力 の実 態 が 見 え に く い。 し か し 、 わ れ わ
れ は 年 齢 に 応 じ て学 習 者 の聞 き 方 話 し 方 の特 徴 と いう も の が あ る こ と は 体 験 的 に知 つて いる。 そ こ で、 以 下 に 児
童 の聞 き 方 話 し 方 の年 齢 によ る特 徴 と考 え ら れ るも のを 指 摘 し 、 そ れ に 応 じ た聞 く話 す こ と の指 導 内 容 を 示 し て み た い。 ︻低 学 年 の聞 き 方 話 し 方 の特 徴 ︼
小 学 校 一年 生 の話 し ぶり を 見 て い る と 、 自 分 の思 い つく ま ま に 言 葉 を 発 し 、 こ の こ とを 言 わ ね ば ︵ 説 明しなけ
れ ば ︶ 相 手 に は わ か ら な い だ ろう と いう 意 識 を 働 か せ て話 す こと が困 難 であ る こ と が わ か る。 例 え ば、 教 師 に向
か っ て自 分 の楽 し か った 体 験 を 話 し かけ る 時 、 あ る 男 児 が ﹁あ の ね ぼ く が 乗 った や つは ね。 水 が び し ゃ ー っと か
か って 魚 が 食 べ に く る ん よ 。﹂ と 話 し 始 め た の だ が 、 そ れ が ど こ で の出 来 事 か が わ か ら な い。 そ こ で、 聞 き 手
︵ 教 師 ︶ は そ の 児童 の言 葉 の端 々 の情 報 を つな い で聞 き 、 や っと大 阪 に あ る テ ー マ パー ク の乗 り 物 に 乗 った 時 の 体 験 談 な の だ と わ か った と いう よ う な 例 で あ る 。 低 学 年 の 場 合 、 そ の話 し 方 の 特 徴 は、 次 のよ う な 点 に認 め ら れ る。 ・も って いる 語 彙 が 少 な いた め 客 観 性 に 乏 し い表 現 にな る こと ・相 手 に わ か る よ う に話 さな け れ ば な ら な い と いう 意 識 が働 き にく い こと
・自 己 の 興 味 ・関 心 に忠 実 な 聞 き 方 を し 、 場 か ら 判 断 し て 何 を 聞 き 取 れ ば よ いか 選 択 し て聞 く こ と が でき に く
いこ と
・そ の場 で 話 さ れ た こと を 記 憶 に と ど め て、 そ れ に つな い で話 す こ と が 困 難 で あ る こ と
こ のよ う な 児 童 の特 徴 を ふ ま え た指 導 内 容 と そ れ を 指 導 す る 効 果 的 な 学 習 活 動 と し て、 例 え ば次 のよ う な も の が考え られよう。
・二 人 で 一緒 に相 談 し て何 か を つく り 上 げ た り 発 表 し た り す る 中 で 、 相 手 意 識 を も って 説 得 的 に話 し か け る 習
慣 を つけ る 。 具 体 例 で いえ ば 、 お話 を 読 ん で、 二 人 で続 き 物 語 を 鉛 筆 対 談 で つく って いく と いう よ う な 活 動 であ る 。
・お 互 いに 聞 き あ った こ と を 記 憶 に と ど めな が ら そ れ を 別 の第 三 者 に 伝 え て いく 。 具 体 例 で いえ ば 、 ペ ア に な
って 私 の宝 物 紹介 を 実 物 を 示 し な が ら 二 人 で 行 い、 そ の後 み んな の前 で相 手 の宝 物 と な ぜ そ れ が 宝 物 な のか を 相 手 に 代 わ って み ん な に 説 明 す る 。
低 学 年 の場 合 、 長時 間 の単 元 は 意 識 の持 続 が難 し い の で、 小 刻 みな 練 習 学 習 、 そ れ も 楽 し く で き る も のを 数 多
く 継 続 的 に 用 意 し て 根 気 よ く 積 み上 げ て いく 方 針 を と る こと が望 ま し い だろ う 。 例 え ば、 輪 にな って 隣 の 人 の言
った こ とを 復 唱 し な が ら 自 己 紹 介 を す る。 最 初 の人 が ﹁私 は ア イ ス ク リ ー ム が 好 き で す 。﹂ と 言 った ら 、 隣 の 児
童 が ﹁私 は ア イ ス ク リ ー ム の好 き な ○ ○ さ ん の隣 の 、 犬 が好 き な △ △ で す 。﹂ と つな いで いく よ う な ゲ ー ム で あ
る 。 こ の よ う な 練 習学 習 を す る 一方 で、 日 常 の 国 語 の授 業 で意 見 を 出 し 合 う 時 に、 ﹁今 ○ ○ さ ん は ⋮ ⋮ と 言 いま し た 。 私 は 、 そ れ と似 て いて ⋮ ⋮ です 。﹂ と いう 発 言 スタ イ ルを 習 慣 化 し て いく 。
こ のよ う な 練 習 学 習 と 日常 的 な 指 導 が 補 完 し あ い、 友 達 の話 を 聞 き そ れ に つな い で話 す こと が低 学 年 のう ち に
習 慣 化 さ れ れ ば 、 学 年 があ が る に つれ て ﹁今 ○ ○ さ ん は ⋮ ⋮ と 言 いま し た。﹂ の部 分 を いち いち 言 語 化 し な い で
も そ のよ う な 聞 き 方 が内 化 さ れ 、 ﹁人 の話 を 聞 いて 自 分 の考 え を 産 み出 し 話 す ﹂ と いう 聞 き 方 話 し 方 が 習 得 さ れ る の で は な いだ ろ う か。
こ れ ま で、 言葉 の発 達 の筋 道 と し て 、 児 童 の言 葉 は 一次 的 な 話 し 言 葉 の世 界 か ら 二 次 的 な 言 葉 の世 界 へ広 が っ
て いく こと が 言 及 さ れ て き た ︵ 注 3 ︶。 そ し て そ れ は書 き 言 葉 へ の移 行 に よ ってな さ れ る と いわ れ る が、 話 し 言
葉 自 体 に お いて も 二 次 的 な 言 葉 と いう も のが 考 え ら れ る 。 つま り 、 公 的 社 会 的 な や り と り を 司 る 話 し 言 葉 で あ
る。 し か し そ のよ う な 話 し 言 葉 は、 与 え ら れ な け れ ば 自 然 発 生 的 に 児 童 の中 から 生 み 出 せな いも の であ る 。 公 的
社 会 的 な 話 し 言葉 を 使 え る よ う に な る た め に は 、 公 的 社 会 的 な 発 話 スタ イ ルを 具 体 的 に提 供 す る こ と が効 果 的 だ ろう。
話 型 提 示 に つ い て は、 型 に は め て いく 方 針 が 批 判 さ れ る こ と も あ る が、 話 型 に よ る 指 導 も 、 二 年 生 か ら 三 年 生
に か け て は必 要 な も の で は な いだ ろ う か。 二 年 生 く ら い から 、 秩 序 だ った 公 的 な 話 し 方 ・つな い で いく話 し 方 を
積 極 的 に 教 え て いき た い。 具 体 的 に は 、 次 のよ う な 聞 い て話 す と き の話 型 や 態 度 を教 え る の で あ る。
・相 手 の意 見 に 賛 意 を 示 す こ と の大 切 さ を 説 き 、 ﹁賛 成 です 。﹂ を 面 倒 が ら ず に伝 え る こ と を 奨 励 す る ︵﹁い い
で す ﹂ は避 け た い。 と いう の は 友 達 の意 見 に つ いて よ い悪 いを 判 断 さ せ るわ け で はな いか ら であ る ︶。 ・﹁違 う 意 見 があ り ま す 。﹂ ・﹁○ ○ さ んを 助 け ま す 。﹂ ・﹁○ ○ さ ん の 言 って いる こと は こう いう こ と では な いで す か。﹂ ︻中 学 年 の聞 き 方 話 し 方 の特 徴 ︼
中 学 年 で は、 低 学 年 の頃 に比 べ れ ば 、 自 分 の言 いた い こ と を 整 理 し て話 そ う と いう 意 識 が働 い てく る。 し かし
思 考 す る 中 で 同 時 に配 慮 でき る要 素 が 多 く な い た め、 自 分 の言 いた いこ と を 整 え て 言 葉 にし よう と す る あ ま り 、
相 手 への配 慮 や 場 の目 的 を 見 失 って いき が ち であ る。 中 学 年 で は 、 小 グ ルー プ で お 互 い に聞 き 合 い話 し 合 う 活 動 を 積 極 的 に取 り 入 れ 、 協 同 性 を 育 て る こ と を 重 点 に考 え た い。
話 し 合 い の指 導 は、 まず 学 級 全 体 で話 し 合 いを 行 い、 望 ま し い話 し 合 い の進 め方 を 具 体 的 な イ メー ジ と し て つ
かま せ る こ と か ら 始 め る べき だろ う 。 そ の上 で 、 小 グ ルー プ ︵四 、 五 人 のグ ルー プ ︶ にな って 話 し 合 いを 行 う 。
そ の 場 合 、 話 し 合 い の進 め 方 を プ リ ント 等 で教 え 助 け な が ら 、 自 分 たち の手 で進 め る こ とを 始 め た い。
グ ルー プ 学 習 によ って 、 メ ンバ ー で協 力 しあ いな が ら 話 す こ と 、 目 的 に 添 って そ れ な いで話 す こ と、 相 手 の話
を 聞 いて そ れ に つな い で話 す こ と を 指 導 し 始 め た い。 し か し 、 ま だ これ ら の こと は中 学 年 で は 理 解 は で き て も
︵ ワ ー ク シ ー ト に示 さ れ た のを 見 てや り 方 は わ か って も ︶、 実 際 に でき る 児童 はそ う 多 く な いで あ ろ う 。 根 気 よ く こ の よ う な 学 習 活 動 を 積 み 上 げ る こと で習 熟 を 図 り た い。
こ のよ う な 話 し 合 い活 動 の指 導 と 同 時 並 行 で 力 を 入 れ た いの は、 主 体 的 に 聞 く こ と の指 導 で あ る。 四 年 生 にも
な る と 筆 速 が上 が り 、 聞 き な がら メ モを 取 る こと が で き る よ う に な る。 四 年 生 で は メ モを 取 る こと を 通 じ て聞 く
こ と の指 導 を 意 図 的 に始 め た い時 期 で あ る。 メ モを す る よ う に と指 示 を し た 場 合 、 未 経 験 の 児童 は 、 聞 いた こ と
を そ のま ま 書 き 取 ろ う とす る 。 そ れ を 一歩 進 め て、 目 的 に 応 じ て話 の内 容 を 聞 き 取 る 、 キ ー ワ ー ド で聞 き 取 る、
友 達 の意 見 の違 いを 聞 き 取 って メ モす る と い った こ と を 指 導 し た い。 聞 く こと の指 導 は 、 テ ープ を 聴 か せ て内 容
を 紙 に書 か れ た 問 いに 従 っ て再 生 さ せ る よ う な こと で は 不 十 分 で あ る。 メ モす る こ と に よ って 選 択 的 に 聞 き 取
り 、 聞 き 取 った こと を も と に 自 分 の考 え を 発 表 す る こ と で 、 主 体 的 な 聞 き手 と な る よ う 導 き た い。 ︻高 学 年 の聞 き 方 話 し方 の特 徴 ︼
九 歳 から 十 歳 に かけ て 児 童 の思 考 操 作 力 は ぐ ん と伸 び てく る。 そ の伸 び と は次 のよ う な 面 に 見 ら れ る 。
・自 分 の 体 験 や 、 友 達 の話 し 方 を 聞 いて 、 よ い話 し 方 や 話 し 合 い の こ つ等 の法 則 や ポ イ ント を 一般 化 し て取 り 出 せ る よう にな る 。
・話 す 内 容 を 生 み出 す こ と と 、 そ れ を 効 果 的 に話 す と いう 二 つの要 素 を 同 時 に意 識 ・操 作 す る こ と が でき る よ う になる。
・聞 き手 の反 応 を 見 て自 分 の話 し ぶ り を 反 省 し た り 、 話 し 合 い の流 れ を モ ニタ ー し な が ら 話 し た り 聞 い た り す る と いう メタ 認 知 的 活 動 が でき る よ う にな る ︵注 4︶。
心 理 学 の知 見 で も 、 九 ∼ 十 歳 あ た り で メ タ 認 知 的 な 能 力 の 高 ま り が 見 ら れ る と いう 指 摘 が な さ れ て い る (注 5)。
こ の よ う な 特 徴 を も つ高 学 年 で は、 自 ら の学 習 体 験 ︵ 聞 く 話 す 話 し 合 い活 動 ︶ を 振 り 返 って、 そ こ で学 ん だ こ
と を 振 り 返 る と いう メ タ認 知 的 活 動 を 促 し て いく 学 習 が有 効 に働 く よ う にな る 。 例 え ば 、 話 し 合 い活 動 を し た 後
に、 誰 のど う い った 発 言 が話 し 合 いを 深 め た の か を 振 り 返 る 活 動 を 仕 組 む と いう 形 で の取 り 立 て 指 導 が有 効 な の
で は な いか 。 ま た 、 こ の よう な 取 り 立 て 指 導 に よ って意 図 的 に自 覚 化 し た話 し 合 い方 の スキ ルを 、 他 の場 面 で活
用 す る こと を 積 極 的 に促 し て こ そ定 着 す る 。 教 師 は 、 他 の学 習 場 面 や 学 校 生 活 で こ れ ら の スキ ル の活 用 を は か る こ と を 忘 れ て は な ら な い。
ま た 、 高 学 年 の児 童 は学 習 の意 味 ・意 義 を 問 い、 自 分 にと って や り が い のあ る 学 習 か ど う か を 判 断 で き る よ う
に な る 時 期 であ る 。 つま ら な い学 習 な ら 拒 否 す る し 、 自 分 に と って 意 味 が 見 出 せ る学 習 に つ いて は ひ た む き に が
ん ば れ る 純 粋 さ と エネ ルギ ー を も って いる。 こ のよ う な 特 徴 を も つ児 童 を 対 象 にし て 学 習 活 動 を 計 画 す る 場 合 、
必 要 感 のあ る 単 元 のテ ー マ、 実 の場 、 新 鮮 な 内 容 を 工 夫 し て か か る こ と が 求 めら れ る 。
ま た、 高 学 年 で は、 児 童 会 活 動 や 総 合 的 な 学 習 と 連 動 し た 学 習 を 仕 組 み 、 話 し 合 い によ って 組 織 や社 会 が動 い
て いく こ と を 実 感 さ せ 、 自 分 た ち の手 で 学 校 生 活 や社 会 に働 き か け 、 よ り よ い方 向 に 変 え て いく こ と が で き る と
いう 実 効 性 も 経 験 的 に 掴 ま せ た いも の で あ る 。 そ の こと が主 体 的 に聞 き 話 し 、 自 分 を 表 現 す る こ と への積 極 性 を 産 む と 考 え ら れ る か ら であ る ︵注 6 ︶。
3 話 し 言葉 の指 導 は 個 性 に応 じ て な さ れ る べき で あ り 、 個 々 の力 を 結 集 し てよ り よ い コミ ュ ニ ケ ー シ ヨ ンが は か れ る よ う 導 く こと であ る 。
話 し 言 葉 に よ る 表 現 力 は 個 人 差 が 大 き く 、 聞 き 方 も 目 に は 見 え な いが 千 差 万 別 の実 態 があ る よ う に思 わ れ る。
学 習 の中 で話 し 合 って いる 場 面 を 考 え る と、 も っぱ ら聞 き 手 に 回 り 、 話 す 機 会 も 多 く な い児童 も いれ ば 、 必 ず 発
言 す る 児 童 も あ り 、 そ の役 割 が 固定 化 し が ち であ る と いう 実 態 が あ る。 こ のよ う な 実 態 を 考 え た時 、 聞 く こと 話
す こと の指 導 は 一律 な 目 標 に向 か って み ん な が 達 成 す る よ う に指 導 す る と いう 考 え で臨 む こと 自 体 が無 理 な こ と のよ う に思 え て く る。
例 え ば、 話 し 合 いの指 導 の場 合 、 自 分 の考 え が つく れ ず 発 言 で き な いで い る児 童 に は 、 メ モし な が ら 聞 く こ と
に 専 念 す る こと で場 への主 体 的 参 加 を さ せ る 道 を 残 し て お く こと も よ いだ ろ う 。 ま た 、 発 言 す る こ と に は 何 ら 抵
抗 が な く 、 言 いた いこ と を 思 い つけ ば す ぐ に 発 言 す る 児 童 に は、 場 に応 じ た 発 言 のタ イ ミ ング を 意 識 さ せ る こ と
が 必 要 な 場 合 も あ る。 相 手 から の反 対 を 恐 れ て 発 言 し か ね て いる 児 童 があ れ ば 、 反論 さ れ ても 言 い返 そう と 思 わ
な い で も よ い こ と、 反 対 意 見 に納 得 す れ ば そ のよ う に 伝 え れ ば よ い こ と、 納 得 し か ね れ ば そ の 理 由 を 言 え ば よ
く 、 即 答 で き な いと き は時 間 を く だ さ い と言 え ば よ い こと な どを 伝 え て安 心 さ せ る こと が大 事 にな る。 こ のよ う
に、 学 習 者 一人 ひ と り の状 態 は ま ち ま ち であ り 、 必 要 な 支 援 の方 向 も 異 な ってく る。
話 し 合 い の指 導 で は、 こ のよ う な 個 性 に応 じ た 指 導 を 施 す こ と で、 全 体 と し て構 成 員 の個 性 が 協 同 的 な 精 神 の
も と で よ い方 向 に 結 集 す る こと を 目 指 す べき で あ ろ う 。 集 団 の力 によ って 個 々 の考 え が 深 ま った り 新 し い発 想 を
得 た り す る 中 で 、 全 体 で よ り よ い結 論 が 導 き 出 さ れ る よ う に導 く こと を 話 し 合 い指 導 の基 本 的 な 方 針 と し た い。
︵ 四︶ 取 り 立 て指 導 の計 画 作 成 にあ た って
聞 く こと 話 す こと の領 域 に関 し て 年 間 指 導 計 画 を 考 え る 場 合 、 情 意 的 な 面 で の 土 台 作 り や、 他 教 科 や 学 級 の 一
日 を通 し て の 日 常 的 な 指 導 を 視 野 に 入 れ て計 画 を 立 て る こと が望 ま し い。 聞 く こ と話 す こ と の指 導 の計 画 は 、 ①
土 台作 り と 継 続 指 導 、 ② 聞 く 話 す こ と の指 導 を 目 的 と し た 単 元 ︵ 目 的 単 元 ︶ や 練 習 学 習 、 ③ 目 的 単 元 や練 習 学
習 で 培 ったも のを 活 用 す る 単 元 ︵ 活 用 単 元 ︶ の三 種 を 念 頭 に置 い て立 て て み て は どう だ ろ う か 。 以 下 、 小 学 校 高 学 年 を 念 頭 に置 いて 、 さ ら に 具 体 的 に 述 べ た い。
1 土 台 作 り と継 続 指 導
年 度 当 初 の学 級 開 き の際 に、 聞 き 合 う こ と を 柱 にし た 、 聞 く ・話 す ・話 し 合 う こ と に関 す る 約 束 事 を 取 り 決 め
た り、 教 師 の短 話 と そ れを 聞 き 取 る メ モ学 習 等 を 、 一定 期 間 にく り 返 し 継 続 的 に行 う 練 習 学 習 を 始 め る。
2 目 的 単 元
次 に五 月 あ た り に、 目 的 単 元 を 配 置 す る 。 例 え ば、 高 学 年 な ら ば 、 ビ デ オ レタ ー 作 り 、 ポ スタ ー 発 表 な ど を 組
み 入 れ た単 元 であ る。 ま た 、 総 合 的 な 学 習 の時 間 で 必 要 な 聞 く 話 す スキ ル、 例 え ば 誰 か にイ ンタ ビ ューす る と い
う 活 動 が総 合 的 な 学 習 の時 間 の中 であ る のな ら ば 、 そ れ と 関 連 のあ る技 能 を 学 習 す る時 間 を 設 け る。
3 活用単 元
活 用 単 元 と は 、 目 的 単 元 で学 習 し た内 容 を 方 法 的 に 活 用 す る こと で習 熟 を 図 る単 元 であ る。 例 え ば 読 む こ と の
指 導 に関 連 さ せ て読 書 会 や 意 見 交 流 会 を 行 い、 話 し 合 いを 方 法 的 に 活 用 す る 中 で習 熟 を 図 る と い っ た も の であ
る。 読 む こ と の学 習 や書 く こ と の学 習 の中 に 、 積 極 的 にお 互 い の考 え を 聞 き 合 い、 出 し 合 う 活 動 や 、 話 し 合 って 協 同 で何 か を 決 め た り、 考 え を 深 め 合 う 活 動 を 方 法 的 に取 り 入 れ た い。
こ のよ う に 、 目 的 単 元 と 目 的 単 元 で培 った 力 を 活 用 す る ﹁活 用 単 元 ﹂ を 配 列 し 、 必 要 に応 じ て 小 刻 み な 練 習 学
習 を 設 け な が ら 年 間 の指 導 計 画 を 立 て る こと が年 間 指 導 計 画 作 成 にあ た って の要 点 であ ろ う 。
取 り 立 て指 導 と は、 目 的 単 元 ・練 習 学 習 を 指 す が、 こ のう ち 目 的 単 元 を 構 成 す る際 の要 点 と し て、 次 のよ う な こと が考 え ら れ る。 ・学 習 者 に と って 必要 感 ・必然 性 のあ る テ ー マ単 元 にす る こと
・単 元 の始 め に学 習計 画 を 明 示 し 、 ゴ ー ルと 手 順 を つかま せ て お く こ と で、 主 体 的 な 言 語 活 動 ( 聞 く話 す 読 む 各活動︶ が行わ れるよう留意 す ること。
・発 表 会 や イ ンタ ビ ュー ・ポ スタ ー 発 表 等 の場 があ る 場 合 、 本 番 の前 に そ れ に向 け て の練 習時 間 や 事 前 検 討 学
習 な ど の方 法 学 習 を 意 図 的 に 設 け る こ と。 ・授 業 の終 わ り や 単 元 の終 わ り に学 ん だ こ と を 自 覚 化 す る 時 間 を 設 け る こ と 。
学 習者 に身 に つけ さ せ た い能 力 を 明 確 に し な が ら 、 こ のよ う な 点 に留 意 し て 単 元 を 構 成 し 、 年 間 のあ ら ゆ る 学 習 を 通 し て学 習者 の話 し 言葉 の向 上 を 図 って いき た い。
注 1 森 田信義 ・山元 隆春 ・山 元悦 子 ・千 々岩 弘 一 ﹃新 ・国語 科教 育学 の基 礎﹄ 渓水 社 二 〇〇 〇年 四月 二〇四 頁 注 2 高橋 俊 三 ・声 と こと ば の会 ﹃聞く 力を 鍛 える授 業﹄ 明治 図書 出 版 一九九 八年 九月 二四 ∼二 五頁
注 3 岡本 夏木 ﹃こと ばと 発達﹄ 岩 波書店 一九 八五 年 一月 注 4 こ の知見 は、 以 下 の調査 研究 の成 果 によ るも の であ る。 ﹃ 国 語 科教 育 改善 のた め の国 語能 力 の発 達 に関 す る総 九 六 年 三 月 ∼ 一九 九 八 年 三 月
合 ・実証 的 研究﹄ ﹃ 同 I﹄ ﹃ 同Ⅱ ﹄ 文部 省科 学 研究 費 補助 金 研究 成 果中 間 報告 書 ( 研 究 代表 者 大 槻和 夫) 一九
と展 望﹂ ﹃ 国 語科 教育 学 研究 の成果 と展 望﹄ ︵ 全 国大 学国 語教 育学 会) 二 〇〇 二年六 月 明 治図書 出 版
注 5 山 元 悦 子 ﹁Ⅱ話 す こ と ・聞 く こ と の学 習 指 導 研 究 の 成 果 と 課 題 6 話 す こ と ・聞 く こ と の 発 達 論 的 研 究 の成 果
ユニケー シ ョン能 力 の発達 に関す る実 証的 ・実 践的 研究 ﹄平 成十 三年 度 ∼平成 十五 年度 科学 研究 費補 助金 ︵ 基
注 6 高 学 年 の 発 達 特 性 に つ いて は 、 以 下 の 調 査 研 究 か ら の 成 果 に 負 っ て い る 。 ﹃国 語 科 教 育 改 善 の た め の 言 語 コミ
盤 研究(B () 1) 研 究成 果報 告書 ︵研究代表 者 位藤 紀美 子 ︶ 二〇 〇四年 四月
注
三 学校教育課 程全般を通 した話し言葉 の指導
は じ め に
﹁口 コ ミ ほ ど 確 か な も の はな い。﹂ ふ と 耳 に し た こ と ば に 、 考 え さ せ ら れ た。 落 語 家 ・三 遊 亭 円 楽 師 匠 の ﹁死
神 ﹂ のく だ り で あ る ︵ 平 成 十 四 年 十 一月 三 日 、 午 前 五 時 二 五 分 視 聴 、 ﹁日 本 の話 芸 ・死 神 ﹂ 再 放 送 、 N H K 総 合 テ レビ 、 本 放 送= 平 成 十 四 年 六月 九 日 ︵日︶、 東 京 ・イ イ ノ ホー ルで 録 画 ︶。
本 節 は、 学 校 教 育 に お け る話 し こと ば の指 導 、 わけ ても 、 国 語 科 と 他 教 科 、 およ び ﹁総 合 的 な 学 習 の時 間 ﹂ と
の 連 携 を 中 心 と す る 諸 課 題 を 考 察 す る こ と を 目 的 と す る。 話 し こ と ば ︵ 音 声 言 語 ︶ は 文 字 言 語 と の対 比 に お い
て 、 通 時 的 に も 共 時 的 に も 劣 位 に お かれ 、 言 語 生 活 の大 半 を 占 め る 言 語 活 動 であ り な が ら、 そ の優 位 性 が 省 み ら
れ る こ と は 少 な い。 ﹁口 コミ ほ ど 不 確 か な も のは な い。﹂ が 常 識 と な っ て、 話 し こ と ば の特 質 と 機 能 を 曖 昧 にす
る 。 話 し こ と ば の特 質 であ る線 条 性 ・ 一回 的 発 現 性 ・対 人 的 直 接 性 は ﹁口 コミ ほ ど 確 か な も のは な い。﹂ と いう
非 専門的専 門主義 の時 代
理 念 を 支 え 、 そ の優 位 性 を 実 現 す る も の でな け れ ば な ら な い。
︵一︶ 制度 の変 容︱
平 成 元 ︵一九 八 九 ︶ 年 の小 学 校 学 習 指 導 要 領 の改 訂 に お い て ﹁生 活 科 ﹂ が設 け ら れ 、 さ ら に、 平 成 十 (一九 九
九 ) 年 の小 学 校 ・中 学 校 学 習 指 導 要 領 の改 訂 、 お よ び 平 成 十 一 (一九 九 九 ) 年 の高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 の改 訂 に
お いて 、 ﹁総 合 的 な 学 習 の時 間 ﹂ が 新 設 さ れ た。 そ れ ま で の 教 科 を 中 心 と す る 学 校 教 育 の枠 組 み が変 容 し、 教 科 に対 応 す る 既 存 の学 問 と の関 係 も 曖 昧 にな った 。
例 え ば 、 教 員 養 成 を 目 的 と す る 大 学 ・学 部 に お いて 、 生 活 科 に 対 応 す る学 問 が存 在 せ ず 、 教 科 専 門 科 目 と 教 職
専 門 科 目 を 担 当 す る 教 官 の選 出 に難 渋 し た こ と は 記 憶 に新 し い。 ま た 、 ﹁総 合 的 な 学 習 の時 間 ﹂ の新 設 によ って 、
教 科 の 指 導 ・学 習 に 固 定 さ れ て いた 教 員 の職 務 が 拡 張 し 、 他 教 科 と の関 わ り が 増 大 す る と と も に 、 教 科 を 越 え た
指 導 ・学 習 への 取 り 組 み が 中 心 と な って、 従 来 の専 門 的 な 職 務 が 流 動 化 す る こと にな った 。
教 育 制 度 の こ のよ う な 変 容 は、 学 校 教 育 に 限定 さ れ た 固 有 の 現象 で はな い。 む し ろ、 地 域 や社 会 の変 化 に 呼 応
し た学 問 ・研 究 領 域 の変 動 の結 果 と 見 る こ と が でき る。 情 報 科 学 や バ イ オ科 学 、 生 命 科 学 の登 場 と 進 展 は、 既 存 の学 問 ・研 究 を攪拌 ・総 合 す る こ と に よ って 実 現 し た新 し い動 向 で あ る 。
メ デ ィ ア 論 研 究 の先 駆 け と な った マー シ ャ ル ・マク ルー ハ ンは、 一九 六 四年 に刊 行 し た ﹃メ デ ィ ア 論︱ 人 間 の
拡 張 の諸 相︱ ﹄ に お いて、 将 来 の学 校 と そ の カ リ キ ュラ ムを 予 想 し て 、 次 のよ う に述 べ て い る ︵注 1︶。
最 近 のあ る新 聞 の見 出 し に、 こ ん な の が あ った 。 ﹁立 派 な 道 路 が 新 設 さ れ る と、 小 さ な 赤 レ ンガ の校 舎 が
消 え る 。﹂ 一つ の教 室 で 、 全 科 目 を 全 学 年 の生 徒 に 同 時 に 教 え る よ う な 学 校 は、 交 通 が便 利 に な って 、 専 門
分 化 し た 教 室 と 専 門 分 化 し た 授 業 が 可 能 に な る と 、 消 え て いく。 し か し 、 交 通 そ の他 に よ る 移 動 の ス ピ ー
ド ・ア ップ が極 限 ま で進 む と 、 空 間 と 科 目 の専 門 分 化 主 義 は も う 一度 姿 を 消 す こと に な る 。 オ ー ト メ ー シ ョ
ン の出 現 によ って 、 専 門 分 化 し た職 務 が 消 え る だ け でな く 、 そ れ に 代 わ って複 合 的 な 役割 が ふ た た び 登 場 し
てく る 。 ︵ 中 略 ︶ オー ト メ ー シ ョ ンは 情 報 であ り 、 そ れ によ って仕 事 の 世 界 か ら 職 務 が消 え る だ け で な く 、
学 習 の 世 界 か ら も 科 目 が消 え る 。 し か し 、 オー ト メ ー シ ョ ンも 、 学 習 の世 界 そ のも の を な く し て し ま う わ け
で はな い。 将 来 は 、 オー ト メ ー シ ョ ン時 代 に お け る 生 き 方 の学 習 が 、 人 び と の仕 事 の内 容 にな る で あ ろ う 。
︹文 法 、 修 辞 、 論
︹ 算 術 、 幾 何 、 音 楽 、 天 文 ︺ が ルネ ッサ ン ス 後 に た ど っ た 運 命 と 同 様 に 、 す で に 時 代 遅 れ の も の
︵ 中 略 ︶ 教 育 の分 野 で は 、 カ リ キ ュラ ムを 科 目 に 分 割 す る従 来 の や り か た は、 中 世 の三 学 理︺ や四科
と な って いる 。 ど ん な 科 目 でも 、 深 いと こ ろ で と ら え れ ば 、 た だ ち に 他 の科 目 と 関 連 し て く る。
マー シ ャ ル ・マク ルー ハ ンは 、 情 報 科 学 の視 点 か ら 専 門 主 義 の終 焉 を 説 き 、 ﹁生 き 方 の学 習 ﹂ や ﹁学 問 の統 合 ﹂
を 示 唆 し て 、 今 日 に お け る ﹁生 き る力 ﹂ や ﹁学 問 の関 連 性 ・総 合 性 ﹂ に つな が るプ ロセ スを 素 描 し た 。 し か し 、
そ の妥 当 性 を 云 々す る こ と は 早 計 であ ろ う 。 む し ろ 、 マー シ ャ ル ・マク ルー ハ ン の描 き 出 し た時 代 に 教 育 は ま だ 辿 り 着 いて いな いと 見 る こ と も でき る 。
た だ 一つ確 認 し な け れ ばな ら な いこ と は 、 学 校 教 育 に お け る ﹁教 科 ﹂ の壁 が低 く 薄 く な った現 状 と 、 そ れ に 伴
っ て、 従 来 の教 科 を 越 え た非 専 門 的 な 専 門 主 義 が 学 校 教 育 の新 し い理 念 にな ら な け れ ば な ら な いこ と であ る。
︵二﹁︶ こと ば の勉 強 会 ﹂ の構 想
結 論 を 先 取 り す れ ば、 各 教 科 や ﹁総 合 的 な 学 習 の時 間 ﹂ に お い て、 指 導 者 と 学 習 者 が と も に ﹁こ と ば の勉 強 会 ﹂ を 新 し い専 門 と し て組 織 す る 必 要 が あ る と いう こ と に な る 。
以 下 に は、 そ の事 例 と し て、 山 本 安 英 の会 によ る ﹁こと ば の勉 強 会 ﹂ を 取 り 上 げ る 。
女 優 の山 本 安 英 さ ん は ﹁夕 鶴 ﹂ の舞 台 公 演 を 続 け な が ら 、 昭 和 四 二 ︵一九 六 七 ︶ 年 か ら ﹁こ と ば の勉 強 会 ﹂ を
ス タ ー ト さ せ、 講 演 や 問 題 提 起 、 実 験 、 実 演 、 討 論 等 を 中 心 に 活 動 を 展 開 し て、 昭 和 五 九 ︵一九 八 四 ︶ 年 ま で の
一九 六 九 年 五 月 二 十 日
未 来社
十 八 年 間 に統 べ て 一八 七 回 の ﹁勉 強 会 ﹂ を 主 催 し た。 こ の ﹁こ と ば の勉 強 会 ﹂ は、 現 在 、 次 の記 録 資 料 に よ って 足 跡 を た ど る こと が で き る 。 ① ﹃日 本 語 の発 見︱ こ と ば の勉 強 1﹄ 山本 安 英 の会 編
未来 社 未来 社
一九 七 四 年 十 一月 十 五 日 一九 八 四 年 六 月 五 日
② ﹃き く と よ む︱ こ と ば の勉 強 2 ﹄ 山 本 安 英 の会 編 ③ ﹃自 分 の こと ば を つく る ﹄ 山本 安 英 の会 編
こ の三 冊 の記 録 資 料 を 特 徴 づけ て いる の は 、 次 の 二 点 であ る。
① 山 本 安 英 の会 は演 劇 を 目 的 と す る組 織 であ り 、 ﹁こ と ば ﹂ の勉 強 ( 学習) はそ の目的を 達成 す るため の方法 的 な模索 として位置 づけら れる。
② 方 法 的 な 模 索 の過 程 は 、 ﹁日 本 語 の問 題 ﹂ に 始 ま り 、 ﹁聞 く こ と と読 む こ と の関 係 ﹂ を 経 て、 ﹁自 分 の こ と ば
を つく る﹂ と いう 創 造 的 な 課 題 に 至 る。 書 名 自 体 、 話 し こ と ば 教 育 の カ リ キ ュラ ムを 考 え る 上 で示 唆 的 であ
る が 、 さ ら に 、 こ の 過 程 は、 ﹁こ と ば ﹂ の相 対 化 の取 り 組 み であ り 、 ﹁こと ば ﹂ を直 接 の目 的 と す る取 り 組 み
で は 当 面 で き な い、 あ る意 味 で グ ロー バ ルな 経 緯 を 辿 って い る。 勉 強 会 に 招 か れ 、 会 員 た ち に 講 演 ・講 義
し、 問 題 提 起 を 行 って議 論 す る ゲ スト た ち は 、 いず れ も 演 劇 を 専 門 と し な い専 門 家 であ り 、 そ こ に、 領 域 の 越 境 、 異 領 域 の総 合 と い った事 態 が 生 成 す る の であ る 。
以 下 に 、 演 劇 と いう 領 域 を 越 え たグ ロー バ ルな 展 開 に焦 点 を 当 て 、 何 が問 題 にな った か を 略 述 す る 。
︵ 注 2 ︶。
哲 学 者 で あ り 、 そ の後 半 生 を フラ ン ス で過 ご し た 森 有 正 氏 は 、 そ の独 特 の感 性 に基 づ いて 、 日本 語 の 特 殊 性 を 次 のよ う に 指 摘 す る
フ ラ ン ス語 を 教 え て おり ま し て気 が つく こ と は 、 こ と ば と 、 そ の こと ば の持 って いる法 則 性 の 問 題 です 。
つま り 、 こと ば と いう の は 法 則 性 を も って いる 。 ︵ 中 略 ︶ フラ ン ス語 は 文 法 を 勉 強 し 、 語 彙 を 知 って いれ ば
書 く こ と が でき る 。 日 本 語 は ど んな に 詳 し く 文 法 を 学 ん で も 絶 対 に 文 章 を 書 く こ と は で き な い。 ︵中 略 ︶ た
と え ば 、 ﹃こ れ は 本 で す ﹄ と いう 言 い か た が フ ラ ン ス人 に は どう し ても わ か ら な い。 ﹃これ は⋮ ⋮﹄ と いう の
は 、 フ ラ ン ス語 で は 、 日本 語 のよ う な 場 合 も あ る に はあ り ま す け れ ど も 、 正確 な 文 章 のな か で は 、 前 の文 章
のな か に 出 てく る 何 かを 指 す わ け で す 。 日本 語 では 、 そ こ にあ る も のを 指 す 。 だ から 、 日 本 語 の 文 章 のな か
に は こと ば で は な く て、 現 実 に存 在 す る も のが 文 章 の 一部 に入 って き て いる の です 。 こと ば だ け で 一つの完
結 し た 世 界 を つく る こ と が でき な い。 そ れ が 文 法 を 使 う こと が で き な い最 大 の理 由 だ と 思 いま す 。
森 有 正 氏 は 、 こ の よ う な 問 題 提 起 か ら は じ め て、 日 本 語 の主 語 ・敬 語 ・動 詞 の活 用 ・人 称 の問 題 に 言 及 し て 、
is
a と bい oう ok 一. 文" が 、 実 は、 日本 語 と 英語 、 英 語 と フラ ン ス語 、 フ ラ ン ス語 と 日 本 語 の対 比 の中
や が て は 自 ら の ﹁経 験 ﹂ 観 を 説 いて いく 。 "This
で、 そ れ ぞれ の文 化 や 社会 構 造 の問 題 を 逆 照射 す る こと を 、森 有 正氏 は具 体 的 に わ か りや す く 解 き 明 かし て いる 。
こ の よ う な 現 象 に 直 面 し て い る の は 、 国 語 科 の教 師 や外 国 語 科 の教 師 と いう よ り は、 国 語 と外 国 語 を 共 時 的 に
学 習 し 、 異 言 語 の接 点 に 立 つ児 童 ・生 徒 自 身 で あ る はず で あ る。 し か し 、 実 際 に ﹁総 合 的 な 学 習 の時 間 ﹂ に 国 際
交 流 と し て 行 わ れ て いる のは ﹁外 国 の こ と を 学 ぶ﹂ で あ り 、 ﹁日 本 の こ と を 学 ぶ﹂ で は な い。 小 学 校 や 中 学 校 に
招 か れ る 大 学 留 学 生 の多 く が 、 ﹁自 分 の国 ﹂ の こと を 話 す こ と に 終 始 し 、 外 国 語 か ら 見 た ﹁日本 語 の 問 題 ︵ 特殊
性 や 難 し さ )﹂ に言 及 で き な い のは 奇 異 な こと であ る 。 森 有 正 氏 の提 起 し た 日 本 語 の問 題 は 、 日本 語 学 ・日 本 語
教 育 と いう 新 し く生 成 し た領 域 で、 ﹁日本 語 文 法 ﹂ と し て体 系 化 ・更 新 さ れ つ つあ る 。
﹁こ の 道 は ﹂ と いう シ ラ ブ ル が あ り ま し た ら 、
次 に、 音 楽 と こと ば ︵日本 語 ︶ の 問 題 に つ いて 、 作 曲 家 であ り 名 エ ッセイ スト でも あ る 團 伊 玖 麿 氏 が 、 次 のよ う に述 べ て い る ︵ 注 3 ︶。
音 符 を 一 つ 一 つ の 語 に あ て て いく 一音 符 一語 主 義 、 ︵つま り
﹁こ の み ち は ﹂ で す か ら 、 五 つ の 音 符 が い や で も 必 要 に な る 。 ︵ 中 略 ︶ こ の 一音 符 一語 主 義 の 非 常 に 困 る こ と
は 、 日 本 語 と いう 独 特 な こ と ば の 責 任 に も な る わ け で す け れ ど も 、 沢 山 の 音 符 が 必 要 だ と い う こ と な ん で
す 。 西 洋 は ど う か と いう と 、 一音 符 が 一音 で は あ り ま せ ん 。 例 え ば 、 ﹁ア イ ・ラ ヴ ・ ユ ー ﹂ と いう こ と ば が
﹁わ た く し は ﹂ で 五 つ の音 符 が 、 ︵ 中 略 ︶ ﹁あ な た を ﹂
ご ざ います 。 す る と 、 これ は 三 つ の音 符 で 書 く の で す 。 ︵ 中 略 ︶ 短 い音 符 で、 これ だ け の こと ば が 語 ら れ る の に た いし て、 日本 語 は、 大変 な こ と にな って 、 ま ず
が 四 つ、 ﹁あ い し ま す ﹂ が 五 つ、 十 四 の 音 符 を ど う し て も 書 か な け れ ば な ら な く な る 。
を 明ら か に し 、 さ ら に ア ク セ ント に つ いて 言 及 す る
︵ 注 4 ︶。
詩 の こ と ば の 音 楽 化 の こ と を 考 え て み ま す と 、 音 と いう も の は 基 本 的 に は 、 三 つ の書 き 方 し か で き な い わ
け で す 。 こ の こと を 、 ぜ ひ 把 握 し て いた だき た い と思 いま す 。 音 と いう も のは あ が る か 、 お ん な じ と こ ろ に
い る か 、 さ が る か と いう 三 つ し か な い。 ( 中 略 ) そ う し ま す と 、 作 曲 で は 、 非 常 に 困 っ た こ と が ま た 別 の意
味 で で て き ま す 。 も し も い ま 、 一番 、 二 番 、 三 番 と わ か れ た 、 普 通 の く り か え し の 歌 が あ る と し ま す 。 一番
﹁山 ﹂ と い う こ と ば が き て し ま い ま す と 、 よ く あ る こ と で す が 、
は 、 例 え ば 、 ﹁海 ﹂ と いう こ と ば で は じ ま る 。 す る と そ れ は 、 ﹁海 ﹂ で す か ら 、 ﹁う ﹂ が 高 く て 、 ﹁み ﹂ が ひ く い。 ︵ 中 略 ︶ と こ ろ が 二 番 の頭 に、 今 度 は
﹁山 ﹂ は 反 対 の わ け で す 。 ﹁ま ﹂ の 方 が 高 い。 そ う す る と 、 お ん な じ 旋 律 で 一番 と 二 番 は 歌 え な く な る わ け で す。
一音 符 一語主 義 を どう いう ふう に 、 整 理 し て いく べき な の か 、 そ れ か ら 標 準 語 と いう も のは 、 果 し て 、 そ
ん な に大 切 な も のな のか 、 も し も 、 標 準 語 の旋 律 ど お り の抑 揚 の旋 律 を書 かな いと 、 非 常 に お かし いと いう
こと が あ り 得 る な ら ば 、 東 京 で作 ら れ る歌 曲 は、 大 阪 に行 った 場 合 、 大 阪 の人 は お かし く感 じ る ん じ ゃ な い だ ろ う か、 と いう 問 題 が お こ って き ま す 。
團 伊 玖 麿 氏 は 、 日本 語 と 英 語 の歌 詞 を 入 口 と し て、 ア ク セ ント や 標 準 語 の ﹁こ と ば の問 題 ﹂ を 明 ら か に し て い
く 。 音 楽 と こ と ば の境 界領 域 に踏 み 込 み、 ﹁こ と ば ﹂ を 音 と し て解 き ほ ぐ し て いく 。 旋 律 か ら 見 た 標 準 語 ア ク セ
ント の矛 盾 の指 摘 も 斬 新 で あ る が 、 国 語 科 に お け る 俳 句 や 短 歌 の音 律 ・リ ズ ム の問 題 を 考 え る契 機 も 与 え て い
る。 五 七 五 の俳 句 と 、 五 七 五 七 七 の短 歌 は、 な ぜ 音 数 が 奇 数 な のか 、 そ れ を 音 読 す る と ど う し て 二 拍 子 に な る の
か、 いわ ゆ る 百 人 一首 読 み にな ぜ ﹁間 ︵ま ︶﹂ が 必 要 な の か な ど 、 日 本 の伝 統 芸 術 の特 質 が顕 在 し て く る。 こ こ
に、 音 楽 科 と国 語 科 の重 な り あ った 境 界 領 域 が 新 たな 学 習 の場 と し て生 成 し て い る と 見 る の は 、 は たし て 錯 覚 で あ ろう か 。
さ ら に 、 社 会 学 者 の久 野 収 氏 は 、 言 語 の発 生 を ﹁聞 き 手 ﹂ の 存 在 ( 発 生) に求 め、 次 のよう に述 べる ︵ 注 5 ︶。
発 声 器 官 に よ る生 理的 発 声 が、 意 味 を 持 った こ と ば と いう 資 格 を か ち と る の は、 そ れ を 聞 いた 相 手 に 受 け
と め ら れ 、 す な わ ち 、 き き と どけ ら れ 、 き き わ け ら れ て、 そ れ ぞ れ の微 妙 な ち が い の発 声 に ふ さ わ し い反 応
で答 え ら れ る か ら な ん で す 。 き き 手 が、 呼 び か け に ふ さ わ し い反 応 を し な け れ ば 発 声 は い つま で た って も 、 こ と ば にな ら な い。 ︵ 中略︶
相 手 の さ け び 声 、 あ る い は ほ え 声 がな に を 要 求 し て い る の か 、 な にを 主 張 し て いる の か、 な にを 記 述 し て
いる の か と いう そ の意 味 が、 き き 手 の ほう で き き と ら れ て相 手 の要 求 や主 張 に ふ さ わ し い反 応 を す る。 あ る
いは 逆 に いう と 意 図 的 に 反 応 し な い、 き きす てら れ る 、 き き 流 さ れ る、 あ る い は意 識 的 にき き ま ち が え ら れ
る と いう ふ う な 態 度 が つみ重 な って、 だ ん だ ん と わ れ わ れ の発 声 、 ノ ド を 通 し て の生 理 的 発 声 が分 節 し て い き 、 意 味 を も った こと ば にな っ て いく の では な いか 。
久 野 収 氏 は、 ま た 、 ﹁聞 く ﹂ と いう 視 点 か ら 、 言 語 の歴 史 を 通 観 し て 、 音 声 言 語 の優 位 性 に着 目 す る ︵ 注 6 ︶。
近 代 の こ と ば と いう のは 、 ほ と ん ど 、 話 し 聞 き あ い で は な く て、 書 く こ と と 読 む こ と か ら 成 り 立 っ て い
る 。 書 いた ほう が非 常 に え ら いん であ っ て、 ぼく のよ う に各 所 へ い っ てし ゃ べ って、 も う あ と な ん にも 残 ら
︵ 中 略 ︶、 書 く と い
な いよ う な 場 合 は 、 軽 蔑 さ れ る 。 研 究 室 に こ も っ て 、 本 を 読 み 、 本 を 書 い て い る ほ う が 学 者 と し て え ら い と
いう 評 価 に な って いる 。 し か し これ は む し ろ 近 代 の特 色 で あ って、 ︵ 中 略 ︶ ギ リ シ ャ では
う 作 業 は 、 反 響 が 生 き 生 き と は ね 返 っ て こ な い の だ か ら 、 む な し く 水 の 中 に 書 き こ む こ と だ と いう ふ う に わ
れ わ れ の場 合 の "し ゃ べ る " と 全 く 逆 転 し て い る わ け で す 。 書 く こ と は 黒 い水 を つけ て 羊 皮 紙 な ど に 書 く わ
け です か ら 、書 く こと の方 が、 水 の中 に書 く よ う な も ん であ って、 し ゃ べ る こ と のほ う が、 も っと だ い じ
だ 、 し ゃ べ る と いう 、 き き 手 と の 間 に 本 当 に 対 話 を す る と い う こ と が 、 ギ リ シ ャ 人 の 精 神 の 最 高 の 活 動 形 式 だ った。
久 野 収 氏 が 、 音 声 言 語 の優 位 性 を 再 確 認 す る のは 、 社 会 に お け る 対 話 の成 立 を 希 求 し て の こ と に ほ か な ら な い。 久 野 収 氏 は 、 対 話 や 弁 論 の二 重 構 造 を 次 のよ う に モ デ ル化 す る ︵注 7︶。
発 言 者 の主 張 の出 発 点 と し て の確 信 は 信 念 と い って も い い の で す が、 も う 一度 内 側 へ向 っ て 問 いか け ら
れ 、 是 認 さ れ て 、 そ れ が 外 に向 った 主 張 に転 じ る と、 発 言 者 の出 発 点 と し て の確 信 を た だ ひ た む き に主 張 し
て い る の で は、 心 情 的 主 張 にす ぎ な い。 そ う で はな く て、 外 側 への主 張 が も う 一度 、 内 側 へ向 け か え ら れ
て 、 内 側 の き き 手 の 理解 と 是 認 を通 って、 そ れ か ら外 側 への主 張 に転 じ ら れ る場 合 、 そ の主 張 は 相 手 に 理 解
さ れ る 度 合 を ふ か め る のだ と いえ る 。 相 手 のき き 手 か ら 問 い返 さ れ ても 、 主 張 の 理 由 を 述 べ 、 ひろ げ る こと
が で き る。 自 分 の確 信 が も う 一度 自 分 の内 側 で是 認 さ れ る 場 合 、 相 手 の是 認 を え や す い。 自 分 の内 側 で 話 し
手 と き き 手 に 分 れ 、 外 側 のき き 手 も ま た、 き き 手 と話 し 手 に分 れ る 。 つま り 、 き き 手 ・聴 取 者 は外 側0 に いる
だ け でな く 、 内 側 に も いる 。 き き 手 が 二重 構 造 を も つと いう のが 、 対 話 と か 弁 論 と か を 成 り 立 た せ る 必 要 か く こと の で き な い結 論 だ と いう こと にな る。
現 在 、 国 語 科 の みな らず 、 他 教 科 や ﹁総 合 的 な 学 習 の時 間 ﹂ を 通 し て、 話 す こ と ・発 表 す る こと ・発 言 す る こ
と が 重 視 さ れ て いる。 ま た、 小 学 校 か ら 高 等 学 校 を 通 し て 、 デ ィ べー ト が各 教 科 で盛 ん に行 わ れ て い る。 久 野
収 氏 の指 摘 す る 心 情 的 主 張 に と ど ま る こ と な く 、 学 習 集 団 に おけ る 対 話 や 弁 論 が成 り 立 つた め に は、 学 習 者 の中
に よ き 聞 き 手 を 育 て る と と も に 、 発 表 者 の内 部 にも よ き 聞 き 手 を 育 成 し な け れ ば な ら な い。 聞 き 手 と いう 自 己 と
︵ 創
他 者 を 自 覚 し 意 識 し て 、 そ の 反 応 を 自 ら の内 部 で 問 い質 し 、 話 す こ と に 悩 み、 も ど か し さ を 感 じ な が ら も 、 無 関
心 や 沈 黙 に 正 面 か ら対 峙 し 、 克 服 す る こ と 、 そ のよ う な 聞 き 手 を く ぐ った自 己 の成 長 と 自 分 の こ と ば の勉 強
語 彙 教 育 拡 張 の視 点
造 ) を 、 教 科 を 越 え た 学 習 の場 で 実 現 す る 必 要 があ る 。
︵三︶お わ り に︱
学 校 で は、 異 文 化 交 流 や 地 域 の人 材 活 用 を 目 指 し て、 学 校 と 社 会 の融 合 を 図 り つ つあ る が 、 ま ず 教 師 自 ら が 専
門 性 を 更 新 し つ つ、 そ れ ぞ れ の教 科 の 専 門 家 と し て ﹁こ と ば ﹂ を ど のよ う に と ら え て いる の か、 ま た 、 各 教 科 を
通 し て学 習 者 に ど のよ う な 言 語 活 動 を 典 型 とし て 求 め て いる の か、 こ のよ う な 視 点 に 基 づ く ﹁こ と ば の勉 強 会 ﹂
を 、 教 科 を 越 え た場 で 学 習 者 と と も に組 織 す る こと が で き る の で は な い か。 語彙 教 育 を国 語 科 教 育 の み に 限 定 せ
ず 、 各 教 科 と ﹁総 合 的 な 学 習 の時 間 ﹂ を包 括 し た 広 い領 域 でと ら え 直 す こ と も 必 要 な 時 代 を 迎 え て い る。 山 本 安
英 の会 の ﹁こと ば の勉 強 会 ﹂ は 、 三 〇 年 も 前 に スタ ー ト し た 試 み で あ り な が ら 、 現 代 の ﹁こ と ば の学 習 ﹂ を 更 新
し て いく た め の モ デ ルを 、 可能 性 とし て 提 示 し て い た と いえ る 。 過 去 の優 れ た 取 り 組 み を 継 承 し 、 歴 史 的 な 可 能
性 を 読 み取 り 、 未 来 に む け て 実 現 し て いく こ と も 、 ﹁口 コ ミ ほ ど 確 か な も の は な い。﹂ と いう レベ ル を 目 指 す 上 で 、 必 要 な 決 断 で は な い だ ろう か 。
注
注 1 マー シ ャ ル ・ マク ル ー ハ ン ﹃メ デ ィ ア 論︱ 人 間 の拡 張 の 諸 相︱ ﹄ みす ず 書 房 一九 六 四 年 三 六 三 ∼ 三 六 四 頁
注 2 山 本 安 英 の 会 編 ﹃き く と よ む ー こ と ば の勉 強 2 ﹄ 未 来 社 一九 七 四 年 十 一月 十 五 日 一九 ∼ 二 〇 頁
注 6 注 2 に 同 じ
注 5 注 2 に 同 じ
注 4 注 3 に 同 じ
︵ 七 八頁 ︶
︵ 七 三 ∼七四 頁︶
︵ 六 九 ∼七〇 頁︶
︵一〇 一∼ 一〇 二 頁 )
注 3 山本 安 英 の会編 ﹃日本語 の発 見︱ ことば の勉強 1﹄ 未来 社 一九六 九年 五月 二十 日 九九 ∼ 一〇 〇頁
注 7 注 2 に 同 じ
︱ 小学 校 国 語科 を 中 心 と し て
四 実 生 活 で の活 用 に つな が る力 を 育 て る話 し 言葉 学 習 に す るた め に
は じ め に 話 し 言 葉 の学 習 指 導 と話 し 言 葉 の教 育 と を 峻 別 し て お き た い。
前 者 は 、 ① 話 し 言 葉 そ の も の、 す な わ ち 音 声 言 語 の言 語 的 特 性 と 言 語 音 声 の音 声 的 特 性 の双 方 に つ いて 、 知 識
を 習 得 さ せ 実 践 で き る よ う に 導 く 、 ② 話 し 言 葉 を 用 いた 言 語 行 為 の 実 行 、 す な わ ち 聞 いた り 話 し た り 、 話 し 合 っ た り が、 思 い のま ま に でき る よ う に導 く 、 いわ ば 知 識 と技 能 の育 成 が 目 標 で あ る 。
後 者 は、 話 し 言 葉 の学 習 指 導 によ って 、 よ り 人 間 ら し い人 格 に 培う こ とを 目 的 とす る。 例 え ば 、 前 者 は 、 聞 き
た がり や話 し た が り や 、 聞 き 上 手 ・話 し 上 手 が育 ち 、 言 いた い こ と が 言 え 、 聞 き た い こと が聞 け 、 思 う 存 分 に 話
し 合 え る 人 を 目 指 す 。 し か し 、 後 者 は 、 何 を こそ 言 う べ き か、 聞 く べ き か 、 言 っ て は いけ な い こ と を 口 に し な
い、 聞 いて は いけ な い こ と は尋 ね な い、 言 う べ き 言 い方 、 聞 く べ き聞 き 方 を 自律 的 に 判 断 し て、 相 手 と自 己 の人
権を守 り尊重す る人を目指 す。
前 者 は達 成 が客 観 的 に確 認 で き る ﹁目 標 ﹂ レベ ル で あ り 、 後 者 は 価 値 観 を 反 映 し た 抽 象 的 理 想 と し て の ﹁目 的 ﹂ レ ベ ル であ る と も いえ る 。
以 下 は 、 表 題 の ﹁実 生 活 で の活 用 ﹂ と ﹁話 し 言 葉 学 習 ﹂ と し て 前 者 を 対 象 と す る。 そ の上 で 、 後 者 に つな いで
いく。 義 務 教 育 九 カ年 の中 で論 じ な け れ ば いけ な いが、 こ こ で は 小 学 校 に 限 定 し て述 べ る。
︵一︶ 問 題 の所 在
な ぜ ﹁実 生 活 で の活 用 に つな が る 力 を 育 て る 話 し 言 葉 学 習 にす る﹂ 必 要 が あ る のか 。 ま た 、 い つ活 用 さ れ る こ と を 期 待 す べ き であ ろう か 。
文 部 科 学 省 の学 習 指 導 要 領 は 、 学 校 教 育 法 第 十 八 条 小 学 校 教 育 の目 標 第 四 項 ﹁日 常 生 活 に 必 要 な 国 語 を 、 正 し
く 理 解 し 、 使 用 す る能 力 を 養 う こと ﹂ を 承 け て学 年 と 領 域 別 に 目 標 と 指 導 事 項 を 示 し て いる 。 そ れ を 具 体 化 し た
検 定 教 科 書 を 使 って いる の に、 な ぜ ﹁実 生 活 に つな が る 力 を 育 て る﹂ を 問 題 に し な け れ ば な ら な い のか 。 ﹁︵ 国語
科 で の︶ 話 し 言 葉 学 習 が 、 実 生 活 に つな が ら な い﹂ 事 例 に ど のよ う な も の があ る か を 見 て みよ う 。
ス ピー チ を 毎 時 間 や って いる の に、 人前 で の話 が でき な い。 イ ンタ ビ ュー を 指 導 し た の に い か さ れ な い。 話 し
合 い の進 め 方 を 教 科 書 に加 え て 、 わ ざ わ ざ マ ニ ュア ルま で つく って学 習 さ せ た の に、 実 行 でき な い、 等 々。 直 接
的 に つな が ら な いと いう 、 現 象 面 に の み 応 用 ・活 用 を 即 時 に 求 め た意 見 。 ス ピ ー チ の た め に取 材 に 力 を 入 れ た 日
記 指 導 、 イ ンタ ビ ュー に備 え た 調 査 、 教 科 書 の事 例 か ら 発 展 し た 自 分 た ち の生 活 に題 材 を 求 め た話 し 合 いな ど 、
中 長 期 的 に ﹁つな が る 力 ﹂ を 意 識 し て授 業 し て いる の に、 目 標 に十 分 達 す る こと が で き な い、 と いう 踏 み 込 ん だ
悩 み 。 特 に総 合 的 な 学 習 の時 間 の活 動 に 言 語 的 表 現 と 理 解 と が 大 き く 関 わ り 、 国 語 科 に そ の基 礎 基 本 を 期 待 し 、 す ぐ に 役 に 立 つよ う 指 導 し て お く べき だ とす る 声 は 強 い。
国 語 科 話 し 言 葉 学 習 の目 標 ・内 容 ・方 法 のど こ に、 他 教 科 や 実 生 活 に つな がら な い原 因 が あ る の か。 即 効 性 を
期 待 し 、 評 価 が 現 実 的 す ぎ る の か。 基 礎 的 基 本 的 な 学 習 事 項 が精 選 さ れ れ ば さ れ る ほ ど、 応 用 面 か ら か け 離 れ た
も のと な り 、 頭 の い い子 、 機 転 の利 く 子 、 人 見 知 り し な い子 な ど 、 水 準 以 上 の児 童 、 特 別 の才 能 に秀 で た 児 童 だ け が、 学 習 と は ほ と ん ど無 関 係 に 活 躍 す る 状 況 にな って いる ので あ ろ う か 。
︵二︶児 童 の実 生 活 と 話 し 言 葉 力 発 揮 の場 面
起 床 か ら 就 寝 ま で の 一日 の家 庭 生 活 に お いて は 、 家 族 間 の挨 拶 や お し ゃ べり 中 心 の会 話 (問 答 、 依 頼 、 応 答 、
説 明 な ど を 含 む ) と いう 私 的 な 話 し 言 葉 が使 わ れ る。 ご く 普 段 の日 常 生 活 で は 、 学 習 の活 用 を 意 識 し な け れ ば な
ら な い質 の高 い話 し 言 葉 の必 要 性 は な い。 く つろ い で いる だけ に 、 の び のび と 何 の用 心 も な く 思 いを 口 に す る物
言 いこ そ が 安 ら ぎ に誘 う 。 と こ ろ が 、 家 族 の中 に他 人 が 混 じ って く る と、 日 常 生 活 で は な く な り 、 あ た か も 普 段
場面 A
着 から 外 出 着 に着 替 え る よ う に、 言 葉 遣 いも 改 ま ったも のと な る 。 心 遣 いが 必 要 とな り 、 こ の時 に学 習 成 果 が発 揮さ れ る 必 然 性 が 生 ま れ る 。︱
登 下 校 の途 中 で は 、 友 人 仲 間 で の お し ゃ べ り ・会 話 以 外 に、 近 所 の大 人 を 初 め 、 いろ いろ な 人 と 言 葉 を 交 わ す
場 面 が あ る 。 休 日 のお 使 い でも 、 大 人 と のき ち ん と し た 言 葉 遣 いを 子 ど も な り に 意 識 す る。 ︵こ れ も 場 面 A に 含
ま れ る。 平 田 オ リ ザ 著 ﹃演 劇 入 門 ﹄ で ﹁他 人 と交 わ す 新 た な 情 報 交 換 や 交 流 の こ と﹂ と さ れ る ﹁対 話 ﹂ も こ の場
面 と いえ る 。 た だ し 、 国 語 教 育 で の ﹁対 話 ﹂ 概 念 と は異 な る 。 安 直 に 授 業 に導 入 す べ き で はな い。︶
始 業 前 に 校 長 や教 師 の話 を 聞 き 、 質 問 に 答 え る が、 こ の時 は 、 話 す 大 人 が わ か り や す く く ど いほ ど 丁 寧 に言 っ
場 面B
て く れ る の で、 さ ほ ど 注 意 し な く と も 聞 き 取 れ る。 学 習 の活 用 な ど 全 く 問 題 に さ れ な い。 他 教 科 の授 業 中 も ほ と ん ど 条 件 は 同 じ であ ろう 。︱
国 語 の時 間 、 そ れ も話 し 言 葉 学 習 指 導 を 意 図 し た時 に、 や っと 教 師 の意 識 に上 る 。 あ た か も 書 写 の時 間 にな る
と 姿 勢 を 注 意 す る が、 そ れ 以 外 で の文 字 を 書 く 際 に は 全 く 注 意 が さ れ な い のと 同 じ であ る。 取 り 立 て 指 導 で のみ
目 標 .内 容 と し て見 定 め ら れ 、 他 の学 習 指 導 で は、 留 意 さ れな い の が 一般 では な いか 。 国 語 科 で培 った は ず の話
表 力 ・聴 取 力 ・問 答 力 ・討 議 力 ・説 明 力 ・総 括 力 ・司 会 力 な ど が 、 ほ と ん ど 発 揮 さ れ て いな く と も 、 そ の時 間 の
場 面C
学 習 内 容 の 扱 い に の み精 一杯 で、 次 の国 語 科 で の補 充 に つな ごう と 記 録 に 残 し た り は し な い。 ま し て や 児 童 は話 し 言 葉 の学 習 の活 用 な ど 思 いも 及 ば な い。︱
場 面D
昼 休 み や放 課 後 の校 内 放 送 、 集 中 し て聞 か な く とも 何 の不 利 益 も 生 じ な い。 断 片 的 に聞 いた 友 人 や 担 任 教 師 が
親 切 に 補 っ て く れ る 。 放 送 す る 側 も 、 ど う 聞 こ え て い る か 、 聞 き 取 っ て い る か は 問 題 に し な い 。︱
特 定 教 科 を 越 え た 総 合 的 な 学 習 の時 間 、 ゲ スト テ ィ ー チ ャー へのイ ンタ ビ ュー 、 普 段 親 密 で は な い上 ・下 級 生
の説 明 を 聞 く 、 自 分 も 説 明 す る、 あ る 程 度 ま と ま った と ころ で中 間 発 表 に臨 む 、 多 く の聴 衆 を 相 手 にプ レ ゼ ンテ
ー シ ョ ンし 、 質 問 に答 え る 、 時 に 司会 を す る。 こ のよ う な 、 児 童 に と って の パブ リ ック な 場 面 に 立 た さ れ る と、
場 面E
国 語 科 で話 し 言 葉 の学 習 を し た こ と は 思 い出 す 。 し か し、 ど う 応 用 し た ら い い の か見 当 が つかず 、 力 を 発 揮 す る ま で に は 至 ら な い 。︱
さ ら に 校 外 に 出 て 資 料 収集 、 調 査 活 動 を す る 。 相 手 方 に 事 前 交 渉 し 、 訪 問 の理 由 と 日 時 な ど受 け 入 れ側 と 相 談
の上 、 実 際 の場 と な る。 一応 所 期 の目 的 を 達 成 し て辞 去 の挨 拶 に至 る 。 事 後 の礼 状 、 訪 問 調 査 内 容 の整 理 、 追 加
調 査 の検 討 、 報 告 な ど、 一連 の言 語 活 動 に は 、 話 し 言 葉 学 習 で 培 わ れ た 力 を 活 用し な け れ ば な ら な い多 く の場 面
場 面F
が含 ま れ る 。 そ の準 備 の話 し 合 い、 実 際 場 面 で の質 問 や 聴 取 、 確 認 、 事 後 の 整 理 と 報 告 に 向 け て の話 し 合 い な ど 、一 つ 一 つ の 学 習 に 、 こ れ ま で に は な い 真 剣 さ が み な ぎ る 。︱
帰 宅 後 は、 家 族 と の団欒 で、 話 振 り と気 持 ち は 私 的 では あ る が 、 話 題 内 容 に非 日 常 的 な 文 化 ・パブ リ ック 性 が
場 面G
反 映 す る 。 休 日 に 一人 で 留 守 番 し て い る時 、 大 人 の訪 問 客 や 電 話 の応 対 、 そ の内 容 を 正 確 に 家 族 に報 告 し な け れ ば な ら な い 。︱
話 し 言 葉 を 、 井 上 ひ さ し 氏 は、 ﹃話 し こと ば大 百 科 ﹄ の 中 で ﹁文 法 な ど の諸 規 則 か ら 遠 ざ か る ﹂ 順 に、
一 講演 ニ ス ピ ー チ ・談 話
三 会議 で の会話
四 日常 会 話 A ︵や や 堅 苦 し いも の。 お 見 合 い の席 で の会 話 、 上 役 や お 得 意 先 の いる席 で の会 話 な ど︶ 五 日常 会 話 B ︵く だ け たも の。 夫 婦 間 、 親 子間 、 友 人間 の会 話 な ど ︶
︵ 注 1 ︶。 講 演 は 、 児 童 に と っ て 、 調 査 結 果 の 発 表 ・プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン が 相 当 す る 。
六 日常 会 話 C ︵ 非 常 時 、 あ る い は感 動 。 火 事 を 発 見 し た と き 、 殺 人 を 目 撃 し た と き な ど︶
の六 項 目 に 分 け て いる
︵三︶
五 ・六 は、 学 習 の対 象 と し て は 、 発 音 ・発 声 な ど 声 の問 題 と感 性 が中 心 に な ろう 。
児 童 の学 習 と 実 生 活 と を つな ぐ ポ イ ン ト
学 習 の場 面 で は皆 無 に等 し く 、 実 生 活 では 当 然 の前 提 と な る も の で 重 要 な も のが 二 つあ る 。 ① 相 手 が 好 意 的 な 話 し 手 ・聞 き 手 と は 限 ら な い。 ② 準 備 な し に当 意 即 妙 の 対 応 を す る。 そ こ に 発 話 者 の責 任 が伴 う 。
場 面 A か ら G 、 井 上 ひさ し 氏 の四 か ら 一ま で に 、 こ の 二 つを 導 入 す る こ と で 、 直 接 実 生 活 に つな が って いく 学
習 にな る の では な いか 。 た だ し 、 そ れ が話 し 言 葉 教 育 とし て 最 善 であ る と は限 ら な い。 這 い回 る 経 験 主 義 に 直 結 し か ね な いか ら であ る 。
場 面 A か ら G で の、 好 意 的 で は な い話 し 手 ・聞 き 手 は、 教 師 の仕 事 であ る。 児童 は、 あ く ま でも 好 意 的 な 姿 勢
が 基 本 であ る 。 児 童 が ひ どく 傷 つか な い程度 に非 好 意 的 な 話 し 方 ・聞 き 方 が で き る 教 師 で あ り た い。 大 人 の役 割 が でき る のが 教 師 で あ る 。
﹁教 師 は 自 分 の こと ば で 話 し て欲 し い﹂ と N H K の杉 澤 陽 太 郎 氏 は ﹁音 の こ と ば か ら の出 発 を ﹂ と 題 し て ﹁教
師 の中 に は 、 子 供 の と ころ に 下 り て行 く と いう こ と と 、 自 分 の話 し こ と ば ま で 子 供 の こ と ば や 若 者 方 言 にす る こ
と と を 混 同 し て いる 人 が い る。 女 の先 生 の荒 い男 こと ば も 同様 であ る 。 話 し こ と ば は自 分 自 身 のも の であ り 、 自
分 の人 生 と 一体 のも のだ と いう 、 話 し こ と ば 教 育 の原 点 を 放 棄 し た こ と にな る。 し かも 、 子 供 は誰 に よ って 、 パ
ブ リ ック で豊 か な 話 し こ と ば を 覚 え て いく の だ ろう 。 現 在 で は 教 師 以 外 にな い。 ま た、 二 十 代 は 二 十 代 、 五 十 代
は 五 十 代 の自 分 の こ と ば で、 生 徒 と コミ ュ ニケー シ ョン が 図 れ な いと し た ら 、 そ れ は教 師 と し て大 変 残 念 な こと
だ と 思 う 。﹂ と ﹃国 語 科 教 育 ﹄ ( 注 2) の中 で述 べ て い る。
① ② の ヒ ント と モ デ ル が こ こ にあ る。 例 え ば ﹁地 域 の物 づ く り 名 人 に イ ンタ ビ ュー し て 、 我 が 町 の特 産 (物 づ
く り ) 紹 介 のプ レゼ ンテ ー シ ョ ンを 制 作 し よ う ﹂ と いう 単 元 で、 話 し 言 葉 学 習 が 学 習 者 の実 生 活 に つな が る 展 開
過 程 を 設 定 し よ う 。 こ こ で、 教 師 に は① の モ デ ルを 求 め る。 児 童 どう し の や り 取 り に加 え て、 大 人 が 登 場 す る 。
ど のよ う な 大 人 にす る か が、 教 師 の 工 夫 と な る。 児童 と言 葉 を 交 え る 必 然 性 が な け れ ば な ら な い。 一方 、 学 習 者 に は ② の 大 切 さ を 実 感 さ せ た い。
① 我 が 町 の特 産 を 洗 い出 す 。 (場 面 C / 井 上 ひ さ し に お け る 三 会 議 で の会 話 )
② 班 に な って、 特 産 ご と に 分 担 し 、 名 人 候 補 を 選 ぶ。 ( 井 上 の五 日常 会 話 B )
③ イ ンタ ビ ュー の仕 方 を 練 習 し 、 実 行 に移 す 計 画 を 話 し 合 う 。 ( 場 面 A/ 井 上 の四 日常 会 話 A )
④ ど ん な プ レゼ ンテ ー シ ョ ン に仕 上 げ る か、 各 自 の ビ ジ ョ ンを 出 し 、 共 通 目 標 を は っき り さ せ る。 ( 場 面
B/ 井 上 の五 日 常 会 話 B ) ⑤ イ ンタ ビ ュー の交 渉 を 進 め る。 ( 場 面 E/ 井 上 の 四 日常 会 話 A ) ⑥ イ ンタ ビ ュー す る 。 ( 場 面 E/ 井 上 の 四 日常 会 話 A )
⑦ イ ンタ ビ ュー を先 行 し た 班 が、 留 意 点 を ア ド バ イ スす る 。 ( 場 面 A / 井 上 の 五 日 常 会 話 B )
⑧ 学 級 全 体 の仕 上 げ への 編集 の話 し 合 いを す る 。 ( 場 面 C / 井 上 の三 会 議 で の会 話 )
⑨ 地 域 のゲ スト に 参 加 し て も ら って 、 ア ド バ イ スを も らう 。 ( 場 面 A / 井 上 の 三 会 議 で の会 話 )
︵1 必0 要︶に応 じ て補 充 のイ ン タ ビ ュー を す る 。 ︵ 場 面 E/ 井 上 の四 日 常 会 話 A ︶
︵1 仕1 上︶ げ の編 集 会 議 を し 、 報 告 会 の計 画 に入 る。 ︵ 場 面 F / 井 上 の三 会 議 で の会 話 ︶
︵1 プ2 レ︶ゼ ンテ ー シ ョ ン に よ る 報 告 会 を 開 催 し 、 質 問 に答 え る。 ( 場 面 D ・E / 井 上 の 一 講演 と井上 の二 ス ピ ー チ ・談 話 )
場 面 と 井 上 氏 の分 類 の適 応 は、 授 業 者 に よ って異 な って い い。 要 は、 温 室 内 の話 し 言 葉 に と ど め な い こと であ
る。 ① ② に出 会 わ せ る。 教 師 は、 多 様 な 大 人 を 網 羅 す る の で は な く 、 目 標 によ って 役 務 を 設 定 し 、 登 場 す る。 例
え ば 、 教 師 が 断 片 的 に し か 言 わ な い大 人 に な って いた と す る。 相 手 の感 情 を 傷 つけ な いで、 正 確 に聞 き 取 って、
誤 った 結 果 に つな が ら な いよ う に し な け れ ば な ら な い。 適 宜 、 そ のや り 取 り を 、 教 材 と し て 学 習 対 象 に す る。 ②
の臨 機 応 変 と 発 話 者 と し て の責 任 と いう も の に つ いて の愉 快 さ ︵ 話し 言葉学習︶ と真剣 さ ︵ 話し言葉 教育︶ とを 実感 さ せ る 授 業 にし て いく 。
お わ り に
小 学 校 に お け る話 し 言 葉 の学 習 指 導 お よ び 教 育 は 、 中 学 校 も 含 め た義 務 教 育 九 力 年 の中 に 位 置 づ け て お か な け
れ ば な ら な い。 二 〇 〇 二 ︵ 平 成 十 四 ︶ 年 四 月 から 完 全 実 施 さ れ て いる学 習 指 導 要 領 で は、 目 標 と 指 導 事 項 が 一 ・
二 年 、 三 ・四 年 、 五 ・六 年 、 中 学 一年 、 二 ・三 年 の 5 ス テ ップ で括 ら れ て いる。 話 し 言 葉 の発 達 と し て、 こ の ス
テ ップ が最 適 か どう か は 、 学 習者 を 目 の前 にし て いる 教 師 が 判 断 し 、 修 正 の上 、 実 践 す べ き であ る 。 例 え ば 、 一
年 ず つ が 二 回 (二 巡 ) とす る か 、 そ れ と も 二 年 間 か け て 六 つ の学 期 に す る か でも 異 な る。 野 地 潤 家 氏 は 、 一 ・
二・ 三年 、 四 ・五 ・六 年 、 中 学 一 ・二 ・三 年 と いう 三 力年 の ス パ ンで の成 長 把 握 と 指 導 展 開 を 提 示 し て いる 。 私
は 、 小 学 一年 は 入 門 期 、 二 二 二年 は 基 礎 基 本 期 、 四 ・五 年 は 発 展 応 用 期 、 六 年 は ( 小 学 校 の) 完 成 期 、 中 学 校
も 、 こ の4 ステ ップ を 当 て は め 、 中 学 三 年 の ( 義 務 教 育 ) 完 成 期 で、 全 体 を 見 通 す こ と を 提 案 し て い る。 本 節 の
課 題 ﹁実 生 活 で の活 用 ﹂ の真 の活 用 は、 中 学 校 の発 展 応 用 と 完 成 期 に 音 声 言 語 文 化 と合 わ せ て見 定 め ら れ た 授 業 と し て展 開 さ れ る べ き も の で あ ろ う 。
大 村 は ま 氏 の ﹁ほ ん と う に 聞 く こ と が 学 力 の第 一歩 ﹂ ( 注 3) と いう 指 摘 でし め く く り とす る 。
一度 で 聞 く と か 、 本 気 で 聞 く と か いう こ と は 、 そ れ は 人 を 作 る 上 に 、 ど う い う こ と で し ょ う か 。 人 の 話 、
つま ら な い 話 も あ れ ば 、 あ ま り お も し ろ く な い 話 も あ る 。 い ろ い ろ な へ た な 話 、 は っ き り し な い 話 も あ る わ
け です け れ ど も 、 そ の話 し 手 の気 持 ち に な って聞 く 、 集 中 し て聞 く 、 そ れ は エチ ケ ット でも あ る か も し れ ま
﹁静 か に 聞 き な さ
せ ん が、 そ う い った よ う な 心 構 え のな い生 徒 に 、 も の が聞 け る と は 思 え ま せ ん 。 で、 毎 日 毎 日、 先 生 の話 、
ま た 友 だ ち の 話 を 聞 い て い ま す 。 そ の 態 度 を 、 た だ ﹁よ く 聞 き な さ い﹂ と か 、 そ れ か ら
い﹂ と か いう ふう な 注 意 で は な く て、 も っと人 間 性 を 目 ざ め さ せ る よう な 注 意 のし か た は な いで し ょう か。
人 の 話 を 、 ほ ん と う に 人 情 を 持 っ て 聞 く と いう か 、 へ た な 話 、 話 の へた な 人 の 精 い っ ぱ い の 、 し か し や っ ぱ
り へ た な 話 、 そ う いう 人 が 情 け な い気 持 ち に う ち か ち な が ら 話 し て い る 、 そ う い う 気 持 ち を 考 え な が ら 聞 く
と こ ろ に 、 そ し て そ う い う 注 意 の し か た の 中 に 、 人 間 と いう も の が 育 っ て く る の で は な い か 。 も し こ と ば と
いう も のが 、 人間 性 、 人 間 と いう こ と を 離 れ て は な いと し た ら 、 そ し てま た 、 こ と ば が 、 最 後 に お い て人 と
人 と の 通 じ 合 う も の で あ る と す れ ば 、 そ う いう 心 構 え の 育 た な い 所 に は 、 冷 た く 批 判 的 に の み す る 所 に は 、
人 間 と いう も のは 育 って こな いよ う な 気 がし ま す 。 で、 ま ず 、 そ ん な 所 を 出 発 点 に し て 、 ほ ん と う に話 を 聞
く こ と は 、 学 力 の た め に も 、 人 間 の た め に も 、 ま ず 第 一歩 で あ る の で は な い か 。 す ぐ で き る こ と で す け れ ど も 忘 れ そ う な 、 毎 日 の で き ご と だ と 思 いま す 。
注 1 井 上 ひ さ し 編 ﹃ 話 し こ と ば 大 百 科 ﹄ べ ネ ッ セ コー ポ レー シ ョ ン 一九 九 六 年 十 一月
2
筑摩書 房 一九 八 三年 三月 七 九 ∼八○ 頁
注 2 全国 大学 国語 教育 学 会 ﹃国語 科教 育﹄ 第 三八集 一九九 一年 三 月 一二 頁 注 3 大村 は ま ﹃大村 はま 国語 教室 ﹄
注
第 四 章 話 し 言 葉 学 習 の内 容 ・方 法 ・評 価
一 話し言葉学習 の形態
︵一︶ 談 話 形態 の構 造 的 図 式
﹁話 し 言 葉 学 習 の形 態 ﹂ と いう 時 、 西 尾 実 の形 態 分 類 案 が 立 論 の出 発 点 にな ろ う 。
西 尾 実 の提 案 を 確 か め る こ と か ら 始 めよ う 。 西 尾 実 は こ と ば の機 能 を ﹁通 じ 合 い﹂ と し て の コ ミ ュ ニケ ー シ
ョ ンと とら え る 。 そ れ は 一方 通 行 的 な 、 個 人 心 理 的 な ﹁伝 達 ﹂ で は な い。 ﹁話 し 手 であ る 主 体 と 聞 き 手 であ る 主
体 と の相 互 規定 ﹂ に よ って成 立す る 、 社 会 的 な ﹁通 じ 合 い﹂ で あ る とす る ︵ 注 1 ︶。
こと ば は、 す で に いわ れ て いる よ う に、 人 間 と 人 間 と の ﹁通 じ 合 い﹂ の手 段 で あ る。 し た が って 、 主 体 と
主 体 と の社 会 的 な 行 為 であ る。 あ る 主 体 か ら あ る主 体 への伝 達 が 主 要 な 働 き であ る が、 そ れ は主 要 な 働 き だ
け を 抽 象 し た 考 え 方 で あ って、 あ る が ま ま の働 き の認 識 で は な い。 ( 中 略 ) こ の こ と は サ イ バネ テ ィ ク ス に
お け る フ ィ ー ド バ ック の 一事 実 と し て説 明 さ れ る。 す な わ ち 、 話 し 手 で あ る 主 体 が 何 ら か の こと ば を と り あ
げ る た め に は 、 聞 き 手 であ る主 体 か ら の何 ら か のイ ン フ ォ メ ー シ ョ ンを 受 け 取 って いな く て は な ら な い。 そ
︵二︶
の意 味 で 、 主 体 と の ﹁通 じ 合 い﹂ と し て の こ と ば は、 話 し 手 であ る 主 体 と聞 き 手 で あ る 主 体 と の相 互 規 定 で
あ る と し な く て は な ら な い。 わ た し た ち が コミ ュ ニケ ー シ ョ ンを ﹁通 じ 合 い﹂ と解 さ な く て は な ら な い理 由 であ る。
西 尾 実 は 、 こ のよ う な 言 語 認 識 の も と に、 形 態 の 観 点 か ら ﹁談 話
︵ 話 し こ と ば)﹂ を 分 類 整 理 し て いる 。 そ の 一つ の達 成 を 、 ﹃ 国 語 教育 学
序説﹄ ︵ 筑 摩 書 房 一九 六 七 年 四 月 ︶ に認 め る こと が でき る 。 本 書 に お
け る 西尾 実 の提 案 を 図 式 化 し てま と め る と、 上 の表 のよ う にな ろ う 。
談話 形態論 の現況
﹃ 国 語 教 育 学 序 説 ﹄ の刊 行 後 、 五 十 年 近 く が 過 ぎ た 。 西 尾 実 の提 案 以
降 、 ﹁談 話 ( 話 し こ と ば )﹂ の形 態 に関 わ る 研 究 は 、 ど のよう に展 開 し て
き た の だ ろ う か。 ま た 、 現 在 、 ど ん な 問 題 を 抱 え て い る のだ ろ う か 。
研 究 史 に つい て み て みよ う 。 調 べ得 た 範 囲 で は 、 甲 斐 雄 一郎 ・長 田 友
紀 ﹁話 す こ と ・聞 く こ と の教 育 課 程 に 関 す る 研 究 の成 果 と 課 題 ﹂ ︵ 全国
大 学 国 語 教 育 学 会 編 ﹃国 語 科 教 育 学 研 究 の成 果 と 展 望 ﹄ 明 治 図 書 出 版
二 〇 〇 二 年 六 月 ︶ に 、 よ り よ い形 でま と め ら れ て いる ︵ 注 2 ︶。
甲 斐 雄 一郎 ︵一九 九 二 ︶ は 、 西 尾 の言 語 生 活 論 に つ いて ﹁言 語 生 活 の 種 類 を 数 え る こと に のみ 腐 心 し て い
る た め に 、 そ こ に は ﹃言 語 生 活 向 上 の契 機 が な い。 方 向 が な い﹄﹂ と す る 輿 水 実 の 指 摘 を 受 け 、 石 山 脩 平
﹃ 新 学 習 指 導 要 論 ﹄ ︵一九 三 八 ︶ によ る ﹁教 科 の本 質 的 領 域 ﹂ を 媒 介 と し て 日 常 生 活 の向 上 を 図 ろ う と す る
﹁教 科 生 活 モデ ル﹂ を 援 用 し て、 西 尾 モ デ ル の動 的 な 発 展 の 方 向 性 を 提 案 し て いる 。
山 元 悦 子 ︵一九 九 五 ︶ は 、 甲 斐 の議 論 を ふ ま え ﹁西 尾 の言 う 言 語 生 活 態 を 、 言 語 活 動 態 と し て と ら え な お
︵一九 八 五 ︶ の﹁一 次 的 こと ば﹂ ﹁二 次 的 こと ば﹂ 概 念 を ふ ま え 、
し 、 そ こ で指 導 し う る言 語 技 能 ・態度 を 明確 にす る こ と が 西 尾 の静 的 言 語 生 活 モ デ ルを 動 的 な 発 展 過 程 ﹂ に す る と主 張 す る 。 そ のた め に、 岡 本 夏 木
話 し こと ば の 発 達 を ﹁日 常 的 話 し こと ば﹂ ︵ 幼 年 期 ︶ ﹁教 室 こ と ば ﹂ ︵ 学 童 期 ︶ ﹁社 会 的 話 し こと ば ﹂ ︵ 青年 期︶
と設 定 す る。 ﹁教 室 で の 子 ど も の話 し こ と ば ( 教 室 こ と ば ) は 、 社 会 的 自 己 と の自 己 内 対 話 を 促 し な が ら 、
社 会 的 話 し こと ば の獲 得 に むけ て 成 熟 さ せ る べき 、 過 渡 期 の こと ば と し て とら え ﹂ る と、 社 会 と いう 視 点 か
ら教 室 と の接 点 を 見 いだ し 、 形態 領 域 の系 統 案 を 提 案 す る。 基 本 的 な 考 え 方 は 、 ︵一︶ 義 務 教 育 で の 指 導 目
標 を 社 会 的 通 じ 合 い の能 力 を 育 て る こ と に お く 。 ︵ 二 ︶ 国 語 教 室 で営 ま れ る 音 声 活 動 か ら 指 導 可 能 な 範 囲 で
設定 す る。 ︵ 三 ︶ 各 形 態 領 域 に おけ る 言 語 活 動 を 支 え る 言 語 能 力 ・基 礎 と な る 態 度 意 欲 を 取 り 出 し 、 指 導 事
項 への視 野 を 確 保 す る 、 であ る 。 こ の 立 場 に立 ち 、 ﹁音 読 ﹂ ﹁ス ピー チ ﹂ ﹁対 話 ﹂ ﹁話 し 合 い﹂ の 四 領 域 に つ い て 、 各 領 域 間 の特 性 と 指 導 段 階 が 詳 細 に 検 討 さ れ て い る。
山 元 の 形 態 区 分 の特 徴 は、 活 動 を 発 想 の原 点 と す る だけ でな く 、 各 活 動 領 域 間 の ﹁系 統 ﹂ を 明 ら か に し、
さ ら に スキ ルと し て の ﹁支 持 能 力 ﹂ を 発 達 段 階 に 即 し な が ら 有 機 的 に 関 連 づ け て いる点 にあ る だ ろ う 。 ま た
﹁音 読 ﹂ を 基 本 領 域 と し て押 さ え 、 他 の領 域 と の関 係 を 明 示 し て いる 点 も 参 考 と な る。
ほ か にも 、 村 松 賢 一 ︵ 二 〇 〇 一︶ は 同 じ く 岡 本 ︵一九 八 五 ︶ や 対 話 能 力 を 考 慮 し 、 三 形 態 の応 用を ﹁音 声
言語 の重 層 的 学 習 モ デ ル﹂ と し て 独 自 に提 案 し て いる 。 ま た、 白 石 寿 文 ︵一九 九 六 ︶ は 自 律 的 言 語 文 化 生 活
者 を 目 指 す た め ﹁生 活 こと ば ﹂ を 重 視 し 、 ﹁話 体 ﹂・﹁聴 型 ﹂ を 踏 ま え た カ リ キ ュラ ムを 提 案 し て いる 。
︵ 注 3 ︶。
甲斐 雄 一郎 .長 田 友 紀 両 氏 は、 こと ば を 継 い で、 西 尾 実 の形 態 区 分 に つ いて 、 ﹁今 後 二 つの 方 向 か ら の研 究 の 進 展 が 期 待 さ れ る ﹂ と し て 、 次 のよ う に述 べ て いる
一つは 形 態 区 分 そ のも の の見 直 し を は か る こと であ る。
安 直 哉 ︵一九 九 六 ︶ は 、 西尾 の形 態 区 分 を 歴 史 的 に検 討 し 、 そ の 問 題 点 を 指 摘 す る。 ︵ 中略︶ 西尾 の言語
生 活 主 義 国 語 教 育 の理 念 と は 関 係 な く 、 三 形 態 の淵 源 が歴 史 的 に は 教 授 法 の分 類 法 であ った と いう 点 に 問 題
を 見 いだ し て いる の であ る。 そ し て こ の点 が、 現 在 の話 す こと ・聞 く こ と の学 習 指 導 に お け る目 標 と 方 法 の
混 同 の遠 因 であ る と も 指 摘 す る 。 こ の こと は、 形 態 区 分 を 機 能 か ら も 検 討 す る こと の重 要 性 を 示唆 し て いる よ う に思 わ れ る。 ︵ 中略 ︶ も う 一つ の方 向 性 は 、 参 加 者 の形 態 間 の差 異 の活 用 であ る 。 ︵ 中略︶
近 年 の イ ンタ ー ネ ット な ど の コミ ュ ニケー シ ョ ン ・メ デ ィ ア の発 達 を み て も 、 西 尾 の 三 形 態 の参 加 者 ︵聴
衆 ︶ ネ ット ワ ー ク で は視 野 に収 め き れ な い状 況 が おき つ つあ る。 コン ピ ュー タ ー リ テ ラ シー や メ デ ィ ア リ テ
ラ シ ー な ど と結 び つく 新 た な 形 態 区 分 の究 明 、 又 形 態 間 の差 異 そ のも のを 指 導 内 容 と す る カ リ キ ュラ ム開 発
︵ 話 し こと ば ︶﹂ 形 態 論 の展 開 を ま と め る と 、 次 の よう にな ろう 。
︵ 話 し こ と ば ︶﹂ 形 態 論 に 関 わ る 研 究 状 況 は、 こ の よう であ った。
が必 要 であ る と 思 わ れ る 。
西尾 実 の ﹁談 話
︵三︶問 題 の所 在 西 尾 実 の ﹁談 話
西 尾 実 が談 話 分 類 に つ い て形 態 の観 点 か ら 体 系 化 を 試 み た の は、 昭 和 十 八 (一九 四 三 ) 年 の こ と で あ る。 こ
の年 の 二月 七 日 に信 濃 教 育 会 で 行 わ れ た 講 演 ﹁国 民 科 国 語 の教 育 ﹂ に お い て であ った 。 以 後 、 修 正 を 加 え つ つ、
徐 々 に体 系 が 整 備 さ れ て いく 。 そ し て、 昭 和 三 二 ︵一九 五 七 ︶ 年 四月 刊 行 の著 書 ﹃国 語 教 育 学 序 説 ﹄ にお いて 、 形 態 分 類 の体 系 が 一応 の完 成 を み せ る こと にな る ︵ 注 4︶。
西尾 実 は ﹃ 国 語 教 育 学 の構 想 ﹄ ︵ 筑 摩 書 房 一九 五 一年 一月 ) に お い て、 相 手 の性 質 と 数 に依 拠 し て談 話 形 態
を 分 類 し て い た。 相 手 の 性 質 は ﹁話 手 と 何 ら か の人 間 的 な つな が り が 予 想 で き る ﹂ か で き な い か に関 わ って い
た 。 こ れ に 対 し て 、 ﹃国 語 教 育 学 序 説 ﹄ で は、 相 手 の 性 質 は ﹁た が い に相 手 の 立 場 が わ か って いる 関 係 と 、 そ れ
が わ か って いな い関 係 ﹂ と し て 説 か れ て い る。 ﹁人 間 的 な つな が り ﹂ か ら ﹁相 手 の 立 場 ﹂ へと 展 開 し て い る の で
あ る。 ﹁立 場 ﹂ の発 見 に よ り 、 談 話 形 態 が と ら え 直 さ れ る 。 一方 は ﹁立 場 の わ か って いる 相 手 と の 通 じ 合 い﹂ で
あ り 、 相 手 と の数 的 関 係 が 一対 一の場 合 が ﹁対 話 ﹂ と し 、 一対 多 の場 合 を ﹁会 話 ﹂ とす る 。 他 方 、 ﹁立 場 のわ か
って いな い公 衆 と の通 じ 合 い﹂ を ﹁公 話 ﹂ と す る 。 ﹁対 話 ﹂ ﹁会 話 ﹂ ﹁公 話 ﹂ は 、 ま た 、 そ れ ぞ れ ﹁特 殊 形 態 ﹂ と
し て 、 ﹁問答 ﹂ ﹁討 議 ﹂ ﹁討 論 ﹂ を 伴 う 。 ﹁討 論 ﹂ は 、 これ ま で ﹁会 話 ﹂ の ﹁特 殊 形 態 ﹂ とし て 扱 わ れ て いた 。 そ れ
が、 ﹁公 話 ﹂ の ﹁特 殊 形 態 ﹂ と し て位 置 づ け ら れ て いる 。 位 置 づ け の変 更 は、 ﹁討 論 ﹂ が ﹁立 場 のわ か って いな い
公 衆 ﹂ を 相 手 に す る こ と に あ った 。 ﹁公 話 ﹂ は 、 従 来 、 ﹁独 話 ﹂ と 呼 ば れ て い た。 そ れ が 、 ﹃ 国 語教 育学序 説﹄ に
お いて 改 称 さ れ た 。 話 し手 で はな く 、 ﹁相 手 ﹂ ︵ 聞 き 手 ︶ か ら の名 づ け に変 わ った ので あ る。 ﹁独 話 ﹂ から ﹁公 話 ﹂
への改 称 に、 西尾 実 の相 手 意 識 の深 ま り を 認 め る こと が で き る 。 か く し て、 相 手 と の 質 的 ・量 的 関 係 に よ って 、
談 話 形 態 は ﹁対 話 ﹂ を 中 核 と す る ﹁二 種 三 類 ﹂ に 体 系 化 さ れ た の で あ る 。 ﹁二 種 三 類 ﹂ の分 類 が、 能 楽 の 基 本 形
態 であ る 二 曲 三体 に比 し た も の で あ る こ と は いう ま で も な い。 先 に 、 ﹁一つ の 達 成 ﹂ を ﹃国 語 教 育 学 序 説 ﹄ にあ る と し た の は、 こ のよ う な 意 味 に お い て であ った 。
こ のよ う な 経緯 の た め で あ ろ う か 。 西 尾 実 の ﹁談 話 ︵ 話 し こと ば︶﹂ 形態 論 の 研 究 は 、 そ の多 く が ﹃ 国 語教育
学 序 説 ﹄ ま で の提 案 を 対 象 にし て論 じ る 傾 向 に あ る 。 さ ら に い え ば 、 西 尾 実 の ﹁談 話 ︵ 話 し こ と ば ︶﹂ 形 態 論 に
対 す る 評 価 が、 提 唱 期 の主 張 に集 中 し て い る の で あ る 。 し かし な が ら 、 ﹃国 語 教 育 学 序 説 ﹄ 以 降 も 、 西 尾 実 の
探 究 は 続 け ら れ て いた 。 し か も 、 そ の探 究 は深 化 を 遂 げ て い た の で あ る 。 だ が 、 西 尾 実 に お け る新 た な 主 張 は 、
研 究 の 上 に、 十 二 分 に は生 か さ れ て いな いよ う に みえ る。 以 下 、 調 べ得 た範 囲 で、 談 話 形 態 論 に お け る 西 尾 実 の達 成 を記 述 す る こと にし た い。
︵四︶ 言 語 主 体 の ﹁態 度 ﹂ に着 眼
西尾 実 は 、 昭 和 三 五 ︵一九 六 〇 ︶ 年 五 月 の ﹁社 会 的 行 為 と し て の こと ば ﹂ に お い て、 ﹁こ と ば の機 能 は 、 主 体
の社 会 意 識 す な わ ち 相 手 の数 的 な 広 が り と、 そ の相 手 に 対 す る主 体 の態 度 の深 ま り を 基 準 と し た 発 展 で あ る と し
な け れ ば な ら な い。 と く に 、 そ の質 的 な 発 展 は 、 こ と ば の機 能 の深 さ と し て 、 言 語 生 活 の上 に 重 大 な 意 義 を も た
ら す 。﹂ ︵ 注 5︶ と 述 べ て、 従 来 の形 態 論 の中 に ﹁相 手 に 対 す る主 体 の態 度 の深 ま り ﹂ と いう 観 点 を 導 入 す る ︵ 注 6)。
わ たし は 、 こ と ば を 社 会 的 な 通 じ 合 いと 考 え る 立 場 から し て も 、 そ の機 能 を 生 か す も のは 、 主 体 の社 会 意
識 であ る と 考 え な く て は な ら な く な って いる 。 こ と ば の能 力 と いえ ば 、 話 し 聞 き 、 書 き 読 む 能 力 で あ る が、
そ れ を さ ら に つき つめ て いう と 、 話 し 聞 き 、 書 き 読 む 技 術 を 基 礎 づ け て い る、 主 体 の社 会 意 識 の 広 さ と 深 さ
であ る と し な く て は な ら な い。 そ う し て 、 そ の社 会 意 識 の 広 さ にも 、 深 さ にも 、 無 限 の 程度 な り 段 階 が あ る
が 、 そ れ を 大 局 的 に 段 階 づけ る と 、 広 さ に お いて は 一対 一、 一対 多 と 、 一対 衆 の三 類 が あ り 、 深 さ に お いて
は 、 相 手 の求 め て いる も のを 知 って話 し 聞 き 、 書 き 読 む 立 場 と 、 相 手 の求 め て いる こ と だ け でな く 、 求 め て
いる 気 も ち ま で、 よ く 理 解 し て 話 し 聞 き 、 書 き 読 む 立 場 と 、 さ ら に 深 く 、 相 手 の立 場 に な り き って 、 す な わ ち 、 主 体 が 相 手 と 一体 にな って 話 し 聞 き 、 書 き 読 む 立 場 の三 段 階 で あ る 。
︵ 注 7 ︶。
西 尾 実 の新 た な主 張 は、 ど のよ う に 評 価 さ れ て い る の で あ ろ う か。 調 べ得 た 範 囲 で は、 安 直 哉 氏 が、 こ の主 張 に 対 峙 し て いる 。 安 氏 の評 価 は、 次 のよ う に あ る
こ こま で ︵﹃国 語 教 育 学 序 説 ﹄ 昭 和 三 二 年︱ 引 用 者 注 ︶ の西 尾 実 の形 態 分 類 に 関 わ る 問 題 は、 基 本 的 に は
ど れ も 国 語 教 育 史 の流 れ か ら 受 け 継 いだ 三 形 態 に対 す る 西 尾 実 の解 釈 の 問 題 と いえ る 。 し か し 、 昭 和 三 五 年
五 月 に書 か れ た ﹁社 会 的 行 為 と し て の こと ば ﹂ に は 、 形 態 分 類 に 関 わ って新 し く 別 の尺 度 が 加 え ら れ て い
る。 / 同 論 文 で は 、 言 語 行 為 主 体 の社 会 意 識 が 論 述 さ れ て い る。 ︵ 中 略 ︶ ﹁通 じ 合 い﹂ と いう こ と ば の機 能 を
生 かす た め に、 主 体 が有 し て いな け れ ば な ら な い条 件 と し て社 会 意 識 があ げ ら れ て いる 。 ︵ 中 略 ︶ 西 尾 実 は、
﹁社 会 的 行 為 と し て の こと ば﹂ で 、 従 来 の三 形 態 分 類 に 、 社 会 意 識 の深 さ と いう 教 育 的 価 値 の観 点 か ら の尺
度 を 重 ね 合 わ せ 、 か つ、 そ のよ う に し て も 従 来 の ﹁対 話 ﹂ ﹁会 話 ﹂ ﹁公 話 ︵独 話 ︶﹂ と いう 形 態 分 類 は 、 そ の
独 自 性 と有 効 性 を 失 わ な い こ と を 確 認 し た。 こ の作 業 を 通 じ て 、 西 尾 実 の国 語 教 育 論 体 系 の基 礎 部 分 に、
﹁対 話 ﹂ ﹁会 話 ﹂ ﹁公 話 ︵ 独 話 ︶﹂ と いう 形 態 分 類 を 位 置 づ け る の が 可 能 であ る こ と を 明 確 に し た と 解 釈 で き る。
安 氏 の指 摘 のよ う に 、 こ こ に は 、 従 前 の談 話 形 態 論 の 再 構 築 があ る 。 再 構 築 の視 点 は 、 ﹁主 体 の社 会 意 識 ﹂ と
いう 考 え で あ った 。 ﹁主 体 の 社 会 意 識 ﹂ を ﹁広 さ ﹂ と ﹁深 さ ﹂ の 二 つに 分 け る 。 ﹁広 さ ﹂ に、 従 前 ま で の相 手 と の
数的関係
︵ 形 態 の 分 類 区 分 ︶ を あ て る。 そ の上 で 、 新 た に 導 入 さ れ た 言 語 主 体 の ﹁態 度 ﹂ を ﹁深 さ ﹂ と し て 措 定
す る。 従 前 の考 え を 放 棄 し て 、 新 た な 考 え を 導 入 す る の で は な い。 ﹁主 体 の社 会 意 識 ﹂ と いう 新 たな 考 え のも と 、 従 前 の 体 系 の再 構 築 が 図 ら れ て いる の であ る。
言 語 主 体 の ﹁態 度 ﹂ が ﹁主 体 の社 会 意 識 ﹂ の ﹁深 さ ﹂ と し て、 新 た に導 入 さ れ た。 言 い か え れ ば 、 言 語主 体 の
内 面 に着 目 し 、 内 面 に おけ る 表 現 活 動 のあ り よ う に メ スを 入 れ よ う と し た の で あ る 。 ﹁広 さ ﹂ に お いて と ら え 直
さ れ た 相 手 と の数 的 関 係 は 、 ﹁広 さ に お い て は 一対 一、 一対 多 と 、 一対 衆 の三 類 が あ り ﹂ の よ う に、 従 前 のと お
り で あ る。 これ に 対 し て 、 ﹁態 度 ﹂ と し て の ﹁主 体 の社 会 意 識 ﹂ の ﹁深 さ ﹂ は 、 ﹁広 さ ﹂ ︵ 相手 と の数的関 係︶を
横 断 し 、 超 越 す る 。 ﹁深 さ ﹂ ︵ 相 手 に対 す る主 体 の態 度 ︶ に 応 じ て ﹁広 さ ﹂ ︵ 相手 と の数的関 係︶ は機能す る。基
軸 は、 ﹁深 さ ﹂ にあ る 。 ﹁広 さ ﹂ の基 盤 に、 ﹁深 さ﹂ を 位 置 づ け る 二 層 構 造 と な って いる。 ﹁広 さ ﹂ に 立 脚 す る 形 態
論 か ら 、 ﹁深 さ ﹂ と いう 表 現 者 の内 面 に依 拠 し た 形 態 論 へと 様 変 わ り し て いる の であ る。
︵五︶相 手 意 識 の 体 系 化
西尾 実 は 、 昭 和 四 一 ︵一九 六 六 ︶ 年 に 、 ﹁人 間 と こ と ば ﹂ と いう 同 じ 題 名 の論 考 を 二 つ発表 し て いる 。 一つは
﹃国 語 通 信 ﹄ の四 月 号 であ り、 今 一つは ﹃文 学 ﹄ の五 月 号 で あ る。 同 じ 題 名 の論 考 が 二 カ 月 続 け て 掲 載 さ れ た こ
と に な る。 二 つは とも に 、 ﹁相 手 に対 す る 主 体 の 態 度 の深 ま り ︵ 相 手 意 識 ︶﹂ が 論 考 の主 題 に な って いる 。 ﹁社 会
的 行 為 とし て の こ と ば ﹂ ︵昭 和 三 五 ︿一九 六 〇 ﹀ 年 ︶ と 比 べ て 、 一体 、 何 が 変 わ った のだ ろう か。 ま ず 気 が つく
こ と は 、 ﹁立 場 の 三 段 階 ﹂ の関 係 性 が 明 ら か に さ れ て いる こと であ る。 関 係 性 は 、 ﹁相 手 意 識 ﹂ の深 ま り と し て、 発 展 の相 の も と に統 合 さ れ て いる ︵ 注 8︶。
こ と ば の展 開 す る 根 本 動 因 と な る も の は、 主 体 の 立 場 であ り、 そ れ は ま た 、 相 手 を ど う 意 識 す る か で あ
る 。 こ のよ う な こと ば の主 体 的 な 立 場 で あ る 相 手 意 識 は 、 そ の場 合 場 合 に応 じ て 、 千 差 万 別 で あ る 。 し か
し 、 そ の千 差 万 別 であ る 相 手 意 識 の間 に も 、 そ の深 さ に お い て、 幾 つか の段 階 を 認 め る こと が で き る と 思
う 。 し か も そ の深 さ と いう の は、 主 体 の立 場 が 相 手 の 立 場 と 別 な 立 場 と し て そ れ ぞ れ 独 立 し て いる 場 合 と 、
も う 一歩 深 く 、 相 手 の 立場 を 理 解 し て いる場 合 と 、 さ ら に 深 く 相 手 の立 場 に な り き って いる 場 合 と の三 つ の
段 階 が あ る こ と は 、 誰 で も そ の経 験 を 反 省 し、 又 は観 察 す る こ と に よ って、 肯 認 さ れ る と こ ろ で は な いだ ろ
う か。 と す る と、 こ の三 つ の立 場 のう ち 第 一次 的 立 場 は 相 手 を 相 手 と し て認 識 し て いる に過 ぎ な い場 合 で あ
り 、 第 二 次 的 立場 は 相 手 の立 場 を 理解 し て いる 場 合 であ り 、 第 三 次 的 立 場 は 相 手 の 立 場 にな り き って いる 場
合 であ る 。 し て み る と 、 こ の立 場 の三 段 階 は、 知 的 認 識 に は じ ま っ て、 同 感 同 情 的 理解 に深 ま り 、 さ ら に意
志 的 な 人 間 性 の根 源 に徹 す る 、 相 手 意 識 の 立体 的 な 深 ま り であ る と も 考 え ら れ る 。 そう な る と、 こ の深 ま り は 結 局 、 相 手 に対 す る 愛 の深 浅 に ほ か な ら な いと す る こと も で き る であ ろう 。
﹁社 会 的 行 為 と し て の こと ば ﹂ と 比 べ て 、 次 に 気 が つく こと は、 言 語 生 活 の ﹁方 法 ﹂ の問 題 が 取 り 上 げ ら れ て
いる こ と で あ る 。 ﹁方 法 ﹂ は ﹁相 手 に対 す る主 体 の態 度 の深 ま り ︵ 相 手 意 識 ︶﹂ か ら ﹁導 か れ る ﹂ と いう の で あ る ︵ 注 9 ︶。
言 語 生 活 が 、 話 す 主 体 と聞 く 主 体 、 ま た は、 書 く 主 体 と 読 む主 体 と の間 に 行 わ れ る 通 じ 合 いと し て の社 会
的 行 為 で あ る こ と を前 提 と し て 、 そ の主 体 的 構 造 を 、 ま ず 、 い か な る 相 手 意 識 であ る か に よ って 規 定 さ れ 、
そ れ に よ って、 話 し ・聞 く 態度 およ び 読 み ・書 く 態 度 が いか に決 定 さ れ る か を 考 え て き た わ た し は 、 さ ら に そ こ か ら 導 か れ る 、 言 語 生 活 の方 法 の問 題 を 跡 づ け な く て は な ら な い。
で は、 ﹁方 法 ﹂ の 問 題 は 、 ど のよ う に 取 り 扱 わ れ て いる だ ろ う か 。 西 尾 実 は、 こ れ ま で に 発 見 さ れ て い た主
題 ・構 想 ・叙 述 の ﹁叙 述 ﹂ の中 に新 た な 位 置 を 見 出 す 。 ﹁叙 述 ﹂ と の相 関 に お い て、 ﹁方 法 ﹂ を 体 系 の内 に回 収 し
よ う と す る の であ る 。 主 題 ・構 想 ・叙 述 は、 文 学 作 品 の意 味 構 造 を 解 明 す る 解 釈 の方 法 体 系 で あ った。 そ こ に
は 、 主 題 の 立 体 的 展 開 が 表 現 作 用 を 形 成 し て いく とす る 考 え があ る 。 西 尾 実 は 、 こ の考 え 方 を 用 いて 、 相 手 意
識 の表 現 構 造 を 説 明 し よ う と す る。 ﹁相 手 に 対 す る主 体 の態 度 ︵ 相 手 意 識 ︶﹂ を ﹁主 題 ﹂ に 見 立 て る 。 そ し て 、
﹁主 題 ﹂ と し て の相 手 意 識 が 自 律 的 展 開 ︵﹁構 想 ﹂︶ を 遂 げ て、 ﹁具 体 的 叙 述 ﹂ と し て ﹁定 着 ﹂ す る、 そ の ﹁叙 述 ﹂
︵ ﹁第 三 次 的 立 場 ﹂︶ であ り 、 ﹁主 体 的 真 実 ﹂ と し て説 明 さ れ る ︵注 10 ︶。
に ﹁方 法 ﹂ を あ て る の であ る 。 あ わ せ て、 ﹁相 手 に 対 す る主 体 の態 度 ︵相 手 意 識 ︶﹂ の 深 ま り の極 致 が 、 ﹁相 手 の 立 場 にな り き って いる ﹂ 段 階
言 語 生 活 の 方 法 は 、 一語 ・ 一句 を 発 し 、 一語 ・ 一句 を 聞 き 、 ま た 一語 ・ 一句 を 書 き 、 一語 ・ 一句 を 読 む こ
と か ら 出 発 す る と 考 え ら れ て い る 。 そ れ は そ れ に 違 い な い。 が 、 そ れ は 現 わ れ た 作 業 で あ っ て 、 そ う い う 作
業 に 先 立 っ て 行 わ れ て い る 現 わ れ な い思 考 は 、 セ ン テ ン ス の イ メ ー ジ に 導 か れ て い な く て は な ら な い 。 さ ら
わ た し は こ れ を 主 題 と 呼 び な ら わ し て い る︱
に よ って い る。 さ ら に 言 う と、 こ の 主 体 的 真 実 が 一
に 、 そ の セ ン テ ン ス の イ メ ー ジ は 、 も っ と 深 く 、 そ う いう セ ン テ ン ス の イ メ ー ジ を 根 基 づ け て い る 主 体 的 真 実︱
語・一 句 と し て 具 体 的 叙 述 を 定 着 さ せ る 前 に 、 構 想 と か 構 成 と 呼 ば れ て い る 展 開 過 程 を 含 む こ と は 見 の が し て は な ら な い。
自 ら が 唱 導 し て き た 主 題 ・構 想 ・叙 述 の体 系 に 繰 り 込 む と いう や り 方 に は、 前 例 があ る 。 西 尾 実 は、 ﹁通 じ 合
︵ 注 11 ︶。
い﹂ と いう 新 た な 考 え を 体 系 化 す る 際 、 こ のや り 方 を 採 用 し て いた の で あ る。 ﹁通 じ 合 い﹂ に おけ る体 系 化 の跡 を 確 か め て お こう
通 じ 合 い の手 段 と し て の文 章 は 、 ど ん な 機 能 と構 造 を も って いる か。 ま ず 、 何 を 通 じ 合 う か と いう 意 味 に
お け る ﹁主 題 ﹂ と 、 そ れ が ど う いう 組 み 立 て で 通 じ 合 え る か と いう ﹁構 想 ﹂ と 、 ど う いう 音 声 や 表 情 や 身
振 ・動 作 な ど で通 じ 合う か、 ま た 、 そ れ を ど う いう 文 字 と符 号 で通 じ合 う か と いう ﹁叙 述 ﹂ と が備 わ って い
な く て は な ら な い。 ︵ 中 略 ) これ は 日 常 の談 話 に お い ても 、 ま た 文 章 に お い ても 、 し た が って ま た、 いか な
る ジ ャ ン ル の 文 化 に お いて も 共 通 な 機 構 で あ る 。
早 く 見 出 さ れ て い た 、 主 題 ・構 想 ・叙 述 の 体 系 と 、 新 た に 明 ら か に さ れ た 通 じ 合 い と い う こ と ば の 働 き と が 、
︵一九 五 九 ︶ 年 の
こ こ に 、 矛 盾 な く 構 成 さ れ て い る 。 こ れ に よ り 、 主 題 ・構 想 ・叙 述 の 体 系 が 文 学 言 語 だ け で は な く 、 広 く 言 語 文
化 一般 、 さ ら に は 生 活 言 語 に ま で 適 用 さ れ る 共 通 な 機 構 と し て 定 位 さ れ た の で あ る 。 昭 和 三 四 こ と であ った 。
︵ 注 12 ︶。
通 じ 合 い と い う こ と ば の 機 能 、 そ れ に 基 づ く 主 題 ・構 想 ・叙 述 と いう こ と ば の 機 構 、 こ れ ら を 、 さ ら に そ の 根 底 に お い て 支 え て い る も の が あ った 。 こ と ば の 産 出 に つ い て の 考 え で あ る
﹁思 う ﹂ は た ら き と 、 ﹁見 る ﹂ は た ら き と の結 合 点 は 、 文 学 の生 産 点 で あ る と 同 時 に 、 も っと 根 本 的 に は 、
こ と ば そ のも の の発 生 点 であ る と 考 え な く て は な ら な く な って き て いる。 と いう の は 、 人 間 の思 考 の は た ら
き を 、 概 念 と 判 断 と 推 理 と の三 つと し て考 え る こ と は、 論 理 学 の教 え る と ころ であ る が 、 ︵ 中略) ︵ 引 用者 注
︱ブ レ ンタ ー ノ に よ る と︶ こ の三 つの な か で 基 本 と な る も の は 判 断 であ る 。 ︵ 中 略 ︶ し か も、 そ の 判 断 は 、
客 体 的 統 一意 識 と 主 体 的 思 考 と の 統 一で あ る か ら 、 ﹁見 る ﹂ ︵ 客 体 的 認 識 ︶ が ﹁思 う ﹂ ︵ 主 体的 思考) と結 合 す る そ の結 合 点 で あ る とし な く て は な ら な いと 思 う 。
こ と ば の 産 出 に つ い て は 、 ま た 、 次 の よ う に も 説 か れ て い る
︵注 13 ︶。
﹁見 る ﹂ と い う 東 西 軸 と 、 ﹁思 う ﹂ と いう 南 北 軸 と の ク ロ ス し た と こ ろ に 、 言 語 の 発 生 点 が あ り 、 文 学 の 発
生 点 が あ る。 ︵ 中 略 ︶ ま た、 こ の結 合 点 、 そ れ が主 体 的 真 実 で あ り 、 そ れ が テ ー マであ る ⋮ ⋮ 。
﹁思 う ﹂ ︵ 主 体的思考︶
﹁見 る ﹂ こ と だ け で は う ま れ な い。 ﹁思 う ﹂
こ の よ う に 、 ブ レ ン タ ー ノ の 論 理 学 を 一 つ の 論 拠 と し て 、 ﹁見 る ﹂ ︵ 客体的 認識︶働 きと 働 き と の結 合 点 に 、 こ と ば の 生 産 点 が 位 置 づ け ら れ て い る 。 こ と ば は
こ と だ け か ら も う ま れ な い。 ﹁思 う ﹂ と ﹁見 る ﹂、 こ れ ら 主 客 の 一元 化 が あ っ て 、 は じ め て こ と ば は 産 出 さ れ る と
い う の で あ る 。 こう し た 考 え が 、 そ の意 味 に お い て 最 も よ く 具 現 さ れ た も の と し て 、 ﹁主 体 的 真 実 ﹂ を あ げ る こ と ができる。 ﹁通 じ 合 い﹂ の 体 系 化 は 、 こ の よ う に し て 整 え ら れ た の で あ った 。
︵六﹁対 ︶立的 な立場﹂ の発見
西 尾 実 は、 昭 和 四 四 ︵一九 六 九 ︶ 年 の論 考 よ り 、 自 ら の ﹁相 手 意 識 ﹂ 論 に ﹁反 省 ﹂ を 加 え る よ う に な る 。 話
の相 手 は ﹁い か に親 し い立場 のわ か りあ った仲 間 でも 、 本 来 、 対 立的 な 立 場 に 立 つも の で あ る と いう 根 本 を 見 失 っ て い た。﹂ と いう ﹁反 省 ﹂ であ る ︵ 注 14︶。
一対 一の通 じ 合 い であ る 対 話 ・問 答 が 基 礎 に な って、 一対 多 数 の 通 じ 合 いで あ る 会 話 ・討 議 も 成 立 し 、 さ
ら に 一対 公 衆 の通 じ 合 い で あ る 公 話 ︵パブ リ ック ・ス ピ ー キ ング ︶・討 論 も 展 開 さ れ る と 考 え た 。 け れ ど も 、
そ の 一対 一の対 話 ・問 答 は 、 親 し い立 場 のわ か り あ った仲 間 の、 いわ ゆ る水 入 ら ず の通 じ 合 いであ る と いう
面 だ け を 強 調 し て 、 そ れ は 、 いか に親 し い立 場 のわ かり あ った 仲 間 でも 、 本 来 、 対 立 的 な 立 場 に 立 つも の で
あ る と いう 根 本 を 見 失 って いた 。 も ち ろ ん 、 こ れ は 私 の 対 話 観 の不 備 であ り 、 足 り な さ であ った け れ ども 、
私 た ち が 経 験 し て いる 対 話 で は 、 こ の本 来 が対 立 的 立 場 で あ る こ と に 気 づ か な い で、 そ れ を 気 分 的 に そ れ ぞ
れ の立 場 が 相 互 に 理 解 さ れ 、 む し ろ 一体 にな って 話 し 合 う こと さ え 可能 だ と思 い こ ん で し ま って いる 場 合 が 少なく な いことが反省 される。
西 尾 実 は、 これ ま で、 ﹁対 立 ﹂ に お い て相 手 と の関 係 を と ら え る発 想 は し て こ な か った 。 ﹁主 体 の態 度 の 深 ま
り ﹂ に端 的 に現 れ て いる よ う に 、 西 尾 実 は 内 面 の探 究 に お い て関 係 性 を 構 築 し よ う と し て き た 。 そ こ に は 、 話
し 手 の内 面 ︵ 態 度 ︶ を 深 め て いく こ と に よ り 、 や が て は相 手 ︵ 他 者 ︶ と 一体 化 でき る と いう 予 定 調 和 が あ る 。 他
者 と は 一体 化 が可 能 であ る と いう 立 場 を と る 。 西 尾 実 の場 合 、 従 前 、 こ と ば 本 来 の意 味 に お け る ﹁他 者 ﹂ は 想
定 の外 に 置 か れ て いた ︵ 注 15 ︶。 だ が、 こ こに お いて、 ﹁他 者 ﹂ と いう も の のも つ異 質 性 の自 覚 が表 明 さ れ た の で あ る。 相 手 は 自 分 と は 異 質 な 存 在 であ る と 。
﹁社 会 的 行 為 と し て の対 話 ﹂、 言 いか え る と、 通 じ 合 いと し て の話 し 合 いは、 相 手 と自 分 と は 違 う 存 在 であ る と
互 いに 認 め る と ころ に発 し て、 ﹁お 互 いに め いめ い の自 己 を 乗 り 越 え て 、 相 手 の 立 場 を 理 解 す る ﹂ 境 位 を 共 有 す
︵ 注 16 ︶。
る、 そ こ に真 の出 発 があ る と す る に 至 る 。 西 尾 実 にお け る ﹁通 じ 合 い﹂ とし て の ﹁相 手 意 識 ︵ 社 会 意 識 ︶﹂ の探 究 は、 ここに終着を迎 える
社 会 的 行 為 と し て の対 話 と いう も の は お 互 い の 立 場 を 、 お 互 い の立 場 と し て認 識 し 、 理 解 し 合 う こ と によ
って 、 出 発 し な く て は な り ま せ ん 。 し た が って、 対 話 は 、 お 互 い の立 場 のく いち が いを 発 見す る こ と の反 省
か ら 、 お 互 い にめ いめ い の自 己 を 乗 り 越 え て、 相 手 の立 場 を 理 解 す る こ と か ら 出 発 し な く て は な り ま せ ん 。
注 1 西 尾 実 ﹁言語生 活 の体 系 とそ の要素 的分 析﹂ ﹃こと ば の研 究﹄ 国立 国語 研究 所論 集 一 一九 五九年 三月 引用
果 と展 望﹄ ︵ 全国 大 学国 語教 育学 会編 ︶ 明治 図書出 版 二 〇〇 二年 六月 一〇〇 頁
本文は ﹃ 言 語生 活 の探究 ﹄岩 波書 店 一九六 一年 一月 二七 日 一二七頁 注 2 甲 斐雄 一郎 ・長 田友 紀 ﹁話す こと ・聞 く こと の教 育 課程 に関 す る 研究 の成果 と課 題﹂ ﹃国 語科 教育 学 研 究 の成 注 3 注 2 に 同 じ ︵一〇 〇 ∼ 一〇 一頁 ︶
二月 二五 日
注 4 杉 哲 ﹁西尾 国語 教育 論 に おけ る ﹃こと ば の形 態﹄ に関 す る 一考 察﹂ ﹃ 国 語教 育学 研究 誌﹄ 第 二号 一九 七 七年
注 5 西 尾 実 ﹃言 語 生 活 の探 究 ﹄ 岩 波 書 店 一九 六 一年 一月 二 七 日 一五 〇 ∼ 一五 一頁 注 6 注 5 に 同 じ ︵一五 七 頁 ︶
注
∼五 二頁
注 7 安 直 哉 ﹃聞 く こと と話 す こと の教 育 学︱ 国 語 教育 基 礎 論︱ ﹄ 東 洋 館 出 版社 一九 九 六 年 十 二月 十 日 五〇
注 9 注 8 に 同 じ ︵六 四 頁 ︶
注 8 西 尾 実 ﹁人間 と こと ば︱言 語生 活 の主体 的構 造︱ ﹂ ﹃文学 ﹄ 一九六 六年 五月 号 五 八頁 注 10 西 尾 実 ﹁人 間 と こ と ば ﹂ ﹃ 国 語 通 信 ﹄ 一九 六 六 年 四 月 号 二 〇 頁
注 11 西 尾 実 ﹁ことば の機 構 的構 造﹂ ﹃ 国 語構 文演 習﹄ 一九 五九 年七 月 法政 大学 通信 教育 部 引 用本 文 は ﹃ 言 語生 活 の探 究﹄ 岩 波書店 一九 六 一年 一月二 七 日 四 九頁
注 12 注 1 に 同 じ 。 引 用 本 文 は ﹃言 語 生 活 の探 究 ﹄ 岩 波 書 店 一九 六 一年 一月 二 七 日 一三 五 ∼ 一三 六 頁
注 13 ﹃近代国 語教 育 のあ ゆ みⅡ﹄ 新光 閣書 店 一九 七 〇年十 一月 六 一頁
注 14 西 尾 実 ﹁対話 の再 発見 ﹂ ﹃ 岩 波 ホー ル﹄第 十 四号 一九六九 年 六月 引 用本 文 は ﹃西尾実 国語 教育 全集 ﹄第 六
巻 四 二五 頁 注 15 桑 原 隆氏 は、 ﹃言語 活動 主義 ・言 語生 活主 義 の探 究︱ 西尾 実国 語 教育 論 の展開 と 発展 ﹄ ︵ 東洋 館 出 版社 一九
西 尾 は 戦 後 二 〇 年 代 に、 自 己 表 現 を 否 定 、 あ る い は 止 揚 し て 、 通 じ 合 い を 主 張 し た 。 自 己 表 現 と いう 概 念
九 八 年 七 月 十 五 日 ) に お い て 、 西 尾 実 の 他 者 意 識 に つ い て 、 次 のよ う に 述 べ て いる 。
に は 、 対 他 意 識 の 欠 如 、 ま た は そ の 希 薄 性 が 潜 ん で い る こと は 確 か で あ る が 、 こ の こ と は 主 体 的 真 実 と いう
思 想 に お い て も いえ る 。 そ こ に は 、 対 他 意 識 や 、 主 体 が 置 か れ て いる 場 や 状 況 への意 識 を 踏 ま え た 通 じ 合 い
と いう よ り も 、 主 体 的 真 実 が 主 体 の な か で 深 ま れ ば 深 ま る ほ ど 、 そ れ が 通 じ 合 う 力 に な る と いう 、 東 洋 的 な 弁 証 法 と 称 し て も い いよ う な 考 え が あ る (二 九 〇 頁 )。
七巻 一五 七頁
注1 6 西尾 実 ﹁対 話 の再発 見﹂ ﹃ 国 語 の教室 ﹄ 一九 七〇年 二月 信 濃教 育会 引用本 文 は ﹃西尾 実国 語教 育全集 ﹄ 第
引 用 文 献 の漢 字 表 記 は、 新 字 体 に 改 め た 。
付記
二 聞 く こ と の学 習 指導
︵一︶ 話 し 言葉 学 習 に お け る聞 く こと の学 習 の位 置
聞 く こと の 学 習 は 、 話 す こ と の学 習 と 表 裏 一体 の関 係 に あ る と いう 認 識 が 一般 で あ る。 し か し 、 昭 和 初 期 に
は、峰地光 重氏 の ﹃ 聴 方 教 育 の新 研 究﹄ ︵一九 二 七 年 、 日 本 教 育 学 会 ) の よ う に、 聞 く こと の 学 習 指 導 に焦 点 を
当 て た 研究 が す で に 試 みら れ て いる 。 峰 地 の聴 き 方 教 育 は、 今 で いう 読 み聞 か せ を 中 心 に し た も の で あ った が、
︵ 関 連 学 習 ︶ か個 別 ︵ 独 立学 習 ︶ か は 、 次 のよ う に 整 理 で き
ど のよ う な 話 を ど のよ う に提 示 し て いく か を 教 授 細 目 の形 に ま でま と め て い る。 聞 く こ と話 す こ と の関 係 で は な く 、 学 習指 導 のあ り方 と し て考 え た 場 合 、 表 裏 一体 る。
一つめ のあ り 方 は、 話 す 聞 く の活 動 が 相 互 交 代 的 に 連 続 す る 、 話 し 合 い活 動 の中 で の学 習 指 導 で あ る 。 聞 く こ
と の学 習 が 話 す こ と の学 習 と表 裏 一体 の関 係 にあ る と いう 認 識 は 、 こ のあ り 方 に お い て のも の であ る 。 話 し 合 い
の活 動 の中 で は 、 聞 く こと は話 す た め に 欠 か せ な い行 為 と し て 位 置 づ け ら れ 、 話 し 合 い活 動 が 真 剣 な 場 と し て 用 意 さ れ れ ば 、 必 然 的 に 聞 く 行 為 も 真 剣 に な る と いう も の であ る 。
二 つめ のあ り 方 は、 聞 く 行 為 を 分 析 的 に と ら え て 、 個 々 の知 識 技 能 を 学 習 指 導 す る も の であ る。 こ の中 に は、
関 心 や 意 欲 の喚 起 、 認 識 思 考 力 を 含 む聴 解 力 の訓 練 、 聞 き 取 り メ モ の 技能 学 習 な ど が 含 ま れ る 。 聴 解 力 の訓 練 に
は 、 読 む こと の学 習 に よ って鍛 え ら れ る 認 識 思 考 力 と 重 な る 部 分 も 多 いが 、 話 し 言 葉 の時 間 的 線 条 性 に 鑑 み て、
即 時 的 な 反 応 が 求 め ら れ る 点 が 特 徴 的 であ る 。 ま た 、 入 力 情 報 の性 質 と し て、 文 字 情 報 に 比 べ て、 言 葉 の意 味 以
外 の周 辺 の情 報 が 大 き な 割 合 を 占 め る 点 も 特 徴 であ る。 こ のあ り 方 は 、 聞 く こと の学 習 指 導 を 話 す こ と の学 習 指 導 と い った ん 切 り 離 し て取 り 組 むも の であ る。
三 つめ のあ り方 は 、 日常 的 な 学 習 指 導 であ る 。 教 師 の意 識 的 な 働 き か け に よ り 、 学 校 生 活 全 般 にお いて 、 先 の
二 つ の学 習 の成 果 を 実 践 す る 場 とす る こと であ る 。 生 き て 働 く 学 力 を 志 向 す る 上 で重 要 な 役 割 を も つと 同 時 に、 教 師 の意 識 のあ り よ う に よ って は、 何 も 指 導 が な さ れ な い可 能 性 も 出 て く る 。
いず れ のあ り方 にお いて も 重 要 な 点 は 、 児 童 ・生 徒 に よ って無 自 覚 に行 わ れ て いる 話 し 言 葉 の使 用 を 、 教 師 の 意 図 的 な 働 き かけ によ り 、 意 識 的 な 話 し 言 葉 の使 用 へと 導 い て いく こ と であ る 。
︵二︶聞 く こと の機 会 と 聞 く こと の学 習 の機 会
︵一 で︶ 述 べ た よ う に、 聞 く こ と の学 習 指 導 のあ り 方 に 三 つ のも の が 考 え ら れ る と し て 、 そ れ ら の学 習 指 導 の中
で、 ど のよ う な 聞 く こ と の機 会 を 想 定 し 、 そ の機 会 に対 応 す る ど のよ う な能 力 を 高 め る の か、 教 師 が意 図 的 に学 習 者 に 働 き かけ て いく た め にと ら え 直 し て おく 必 要 があ る 。
Ⅱ 会 話 ・討 議
Ⅰ 対 話 ・問答
(一対 衆 )
(一対 多 )
(一対 一)
聞 く こと の機 会 を と ら え る に は、 次 に示 す 西 尾 実 氏 によ る 対 人 関 係 に基 づ く 形 態 分 類 が 基 本 に な る ︵ 注 1 ︶。
Ⅲ 独 話 ・講 演
西 尾 氏 は、 対 話 ・会 話 ・独話 を 生 活 的 、 問 答 ・討 議 ・講 演 を 文 化 的 と と ら え て い る。 相 手 と の関 係 で 分 け る と 、
対 話 ・問 答 ・会 話 ・討 議 を 個 人 的 (パ ー ソ ナ ル コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン)、 独 話 ・講 演 を 衆 団 的 ︵マ ス コミ ュ ニケ ー
シ ョ ン︶ と と ら え て いる。 パー ソ ナ ル コミ ュ ニケー シ ョ ン と と ら え ら れ て いる も のは 、 相 互 交 代 可 能 な話 し 言 葉
形 態 で あ り 、 マ ス コミ ュ ニケー シ ョ ンと と ら え ら れ て いる も の は 、 話 し 手 と 聞 き 手 が 固 定 さ れ て いる話 し 言 葉 形
態 であ る 。 こ れ に 、 最 近 教 材 化 も 見 ら れ る よう にな った イ ンタ ビ ュー を 独 立 さ せ る 考 え 方 も で き る。 イ ンタ ビ ュ
ー は、 話 し 手 と聞 き 手 が 固 定 さ れ て いな が ら、 話 の 流 れ を 聞 き 手 が 作 り 、 話 の内 容 を 話 し 手 が 作 る特 殊 な 形 態 と
いえ る 。 マス コミ ュ ニケ ー シ ョ ンで あ げ ら れ て い る 形態 の場 合 も 、 対 人 的 直 接 性 と いう 性 格 を も って お り 、 話 し
手 は聞 き 手 の 反 応 を フ ィ ー ド バ ック し な が ら、 予 定 し て い る話 を 修 正 し て いく こ と を 考 え る と 、 これ らす べ て を 通 じ て 、 対 話 ・問 答 を 基 本 形 態 と考 え る こ と は 妥 当 な こと と いえ る 。
以 上 の こ と か ら 、 聞 く こと の学 習 に お いて は 、 対 話 ・問 答 に お け る聞 く こ と の機 会 と 能 力 の獲 得 を 保 証 す る こ
と を基 本 と し 、 相 互 交 代 可 能 な 話 し 言 葉 形 態 と 、 話 し 手 と 聞 き 手 が 固 定 さ れ て いる話 し 言 葉 形 態 と特 殊 形 態 と し て の イ ンタ ビ ュー と を 意 識 的 に育 て て いく 必要 が あ る。
︵三︶聞 く こ と の 学 習 指 導
こ れ ま で に述 べ て き た 聞 く こ と の機 会 と学 習 の機 会 を 踏 ま え 、 そ の中 で の 具 体 的 な 学 習 指 導 の あ り 方 に つ い
て、 聞 き 取 り メ モ の学 習指 導 と 、 話 し 言 葉 な ら で は の認 識 思 考 能 力 の学 習指 導 に つ い て言 及す る 。
聞き取 りメ モの学習指導
︵﹃ 国 語 教 育 学 序 説 ﹄ で は 、 ﹁公 話 ・討 論 ﹂ と な っ て いる ) に お け る 聞 き 取 り に つ い
て、 聞 く 目 的 の いか ん に よ って次 の三 つに分 類 し て いる 。
西尾 実 氏 は 、 独話 ・講 演
1
①要 点 が何 で あ る かを 聞 き 分 け よ う とす る 場 合 ② そ の上 、 何 が ど う いう 組 立 て で話 さ れ る か を 知 ろ う と す る 場 合 ③ そ れ ら と と も に、 気 に入 った こと ば や 部 分 を み つけ よ う と す る 場 合
そ の話 が大 事 な 話 で、 記 録 し て お か な く て は な ら な い場 合 に は 、① な ら ば 摘 要 を 、 ② な ら ば 構 成 表 を、 ③ な ら ば メ モを と って分 類 し て お く こ と が 必 要 であ る ︵ 注 2︶。
摘 要 、 構 成 表 、 メ モ と分 け て記 さ れ て い るも のを ひ と ま と め に し て メ モと いう こと も 多 い。 聞 く 姿 勢 を 問 題 に
す る と 同 時 に、 聞 く 目 的 の いか ん に よ って、 取 る べき メ モ の中 身 が 異 な って く る こと を 指 摘 し て いる。 これ に続
く 部 分 で は、 ﹁機 械 的 な 全 体 筆 記 を し て いる と 、 筆 記 にと ら わ れ て講 義 を 理 解 す る た め の関 心 が薄 く な る。 結 局 、
そ の ノ ー ト を 読 ん で は じ め て理 解 が 成 り 立 つ場 合 さ え あ る 。﹂ と、 聞 き 取 り メ モ と聞 き 方 の関 係 を 問 題 に し て い
る。 目 に見 え る聞 き 取 り メ モ の能 力 を 育 て る こ と で、 目 に 見 え な い聞 く 力 を 育 て る 可 能 性 を 見 出 す こ と が で き る。
先 の① ∼③ に続 く も のと し て、 ﹁も う 一歩 進 む と 、 話 さ れ る こ と を 話 さ れ る と お り に聞 き 分 け る だ け で な く 、
話 す 人 の こ と ば に は 現 れ な か った意 味 や 感 情 を 聞 き 分 け る こと が 必 要 に な って く る 。﹂ こ と を あ げ て いる 。 独 話
の よう に 、 一定 時 間 聞 き手 と し て の役 割 が 固定 さ れ て いる 場 合 に あ って、 何 を 目 的 に 聞 く か と いう こ と と 、 メ モ
の中 身 に 何 を 想 定 す る か と いう こ と と は 密 接 な 関 係 にあ る 。 認 識 思 考 内 容 ま で踏 み 込 ん だ聞 く 力 を 育 て よ う とす
る場 合 、 聞 き 取 り メ モ の学 習 指 導 に お いて、 期 待 す る メ モ の中 身 を 観 点 に よ って指 示 す る 段 階 も 必 要 に な ってく
る。 そ のよ う な聞 く 目 的 を 指 定 す る 聞 く こ と の学 習 の積 み重 ね に よ って、 主 体 的 に 目 的 を 措 定 し 、 必 要 な メ モ が 取 れ る 段 階 へと育 て て いく 道 筋 が見 え てく る。
メ モ の指 導 全 体 の系 統 に つ いて は、 ﹃メ モ に 関 す る学 習 の理 論 と 実 践 ﹄ ︵ 小 学 校 の国 語 を 語 る会 編 一九 九 八 年
八 月 二十 日 ) に お いて 、 実 践的 な 検 証 を 行 って いる 。 聞 き 取 り メ モ の能 力 と し て は、 聴 解 力 ︵ あ る い は聞 解 力 ︶
や 要 約 力 、 主 体 的 受 け 止 め の能 力 、 一定 の状 況 の中 で メ モ を 取 る書 写 力 な ど の他 、 メ モ の有 効 性 に 気 づき 、 メ モ
独 自 の簡 略 表 現 の 工 夫 が で き 、 場 面 に 応 じ て メ モ活 動 が で き る ︵ 習 慣化︶な ども想定 される。
次 に引 用す るも のは 、 聴 解 力 、 メ モ の有 効 性 の認 識 、 簡 略 表 現 の 工 夫 を 主 た る ねら いと す る実 践 例 であ る。 先
の ﹃メ モ に関 す る学 習 の理 論 と 実 践 ﹄ に 収 めら れ て い る松 本 博 子 氏 に よ る小 学 校 三 年 生 の ﹁正し く 伝 え ら れ る か な ー メ モ を 取 り な が ら 聞 こう ー ﹂ の報 告 の 一部 であ る ︵注 3 ︶。
○ 目標
・話 の要 点 や 中 心 を 正し く 聞 き 取 り な がら 、 メ モ に ま と め る こ と が でき る よ う にす る 。
・メ モ の仕 方 に つ い て考 え 、 メ モす る 事 柄 を 単 語 で書 き 出 し た り 、 項 目 を つけ て メ モし た りす る こ と が でき る
︵ 全二時間 ︶
よ う に す る。 ○ 指導計画
第 一時 教 材 1 ︵ キ ャ ンプ の話 ︶ を 使 って、 メ モ に ま と め る。 第 二時 教 材 2 ︵ ド ッジ ボ ー ル大 会 の話 ︶ を 使 って、 メ モ に ま と め る。 ○ 指 導 のポ イ ント [教 材 に つ いて ]
・児 童 の生 活 の中 で 起 こ り そ う な 場 面 を 設 定 し た 。
・伝 え る 相 手 が いる 場 面 を 設 定 す る こと で、 ﹁メ モ を し て、 正確 に伝 え よ う ﹂ と いう 気 持 ち を 起 こ さ せ た。
・伝 え る 項 目 を 、 教 材 1 で は 、 ① 日 付 、 ② 時 刻 、 ③ 持 ち 物 二 つの 4 項 目 と し 、 教 材 2 で は、 ① 時 刻 、 ② 集 合 場
所 、 ③ 持 ち 物 三 つの 5 項 目 と、 自 転 車 に乗 る 場 合 の こと を つけ 加 え た。 教 材 1 と 共 通 す る 項 目 と 新 た に増 え た項目、少 し変則的な 項目を設定 した。
・教 材 1 で は、 前 文 に ﹁日 に ち な ど の変 わ った こ とを 伝 え に 来 て く れ ま し た 。﹂ と いう 内 容 を 入 れ る こ と で、 何 を 書 け ば い い の か ヒ ント に な る よ う に 工 夫 し た。 [メ モ 用 紙 に つ いて ] ・必 要 な 単 語 や メ モす る 事 柄 だ け を 書 く よ う に B 6 大 の用 紙 を 用 意 す る 。 ・教 材 1用 のメ モ用 紙 に は、 伝 え る 項 目 の数 だけ ﹁.﹂ を 記 し て おく 。 ・三 年 生 と いう 学 年 を 考 え て 、書 き やす いよ う に 縦 の罫 線 を 入 れ て お く 。 [そ の他 ]
・楽 し く 学 習 でき る よ う に、 設 定 場 面 の絵 を 見 せ た り 、 ゲ ー ム感 覚 で 答 え を 合 わ せ て話 し 合 った り す る。 ○ 教 材 文教材1
今 ぼ く が 楽 し み に し て い る の は 、 子 ど も 会 で 行 く キ ャ ン プ で す 。 10 日 も 前 か ら リ ュ ッ ク サ ッ ク を 出 し て 持 っ て いく も の を 用 意 し て い ま す 。
と こ ろ が 、 今 日 の夕 方 、 子 ど も 会 の世 話 を し てく だ さ って いる 花 子 ち ゃ ん の お母 さ ん が 、 日 にち な ど の変 わ
った こ と を 伝 え に来 て く れ ま し た 。 お 母 さ ん が買 い物 に行 って 留 守 な の で、 ぼ く は 、 大 切 な こと を メ モし て、 お母さ んに伝え ることにしま した。
8 日 の 土 曜 日 に 行 く こ と に な っ て い た キ ャ ンプ が 、 15 日 の 土 曜 日 に 変 わ り ま し た 。 集 合 時 刻 は 、 1 時 半 だ っ
た け ど 、 2 時 に 変 わ り ま し た 。 お 米 は 、 一人 2 合 持 っ て い っ て く だ さ い。 ゲー ム を す る の で 、 軍 手 が い り ま す。
教材 2
今 ぼく が 一番 楽 し み に し て いる の は、 ド ッジ ボ ー ル大 会 です 。 優 勝 を 目 指 し て 、 チ ー ム の友 達 と毎 日 一生 懸 命 練 習 を し て いま す 。
今 日 の 昼 休 み に、 各 チー ム の代 表 の 人 が 集 め ら れ て、 先 生 か ら チ ー ム の み ん な に伝 え る こ とを 聞 き ま し た。
ど の チー ム の 人 も そ ろ い ま し た ね 。 み ん な 一生 懸 命 練 習 し て い ま す ね 。 そ れ で は 、 こ れ か ら お 話 し す る こ と を よ く 聞 い て 、 チー ム の み ん な に 正 確 に 伝 え て く だ さ い。
明 日 の ド ッ ジ ボー ル 大 会 の 集 合 時 刻 は 、 8 時 30 分 で す 。 集 合 場 所 は 、 4 丁 目 の 公 園 で す 。 持 っ て 行 く 物 は 、
上 履 き と タ オ ル と 水 筒 で す 。 自 転 車 で 行 く 人 は 、 必 ず ヘ ル メ ット を か ぶ っ て い き ま し ょ う 。 で は 、 明 日 の ド ッ ジ ボ ー ル 大 会 で は 、 ど の チー ム も が ん ば り ま し ょ う 。
話 し言葉な らでは の認識 思考能力 の学習指導
○ メ モ用 紙
2
次 に紹 介 す る実 践 は 、 ﹃小 学 校 国 語 科 教 育 の課 題︱ 実 践 的 探 究︱ ﹄ ︵ 注 4︶ に 収 め ら れ て い る森 下 響 子 教 諭 に よ
る 小 学 校 四 年 生 の ﹁応 じ て 返 す 対 話 の授 業︱ ニ ュー スキ ャ スタ ー と リ ポ ー タ ー に な って︱ ﹂ の 報 告 の ﹂部 であ
る。 ニ ュー スキ ャ ス タ ー と リ ポ ー タ ー と いう 役 割 設 定 を す る こと に よ って 、 ﹁聞 く ・応 じ る ・は こ ぶ﹂ と いう 技
術 に 焦 点 化 し た 学 習 指 導 の例 であ る 。 話 す こと の学 習 と の関 係 か ら いえ ば 、 表 裏 一体 の関 係 で展 開 さ れ る 例 であ る。
聞 く 技 術 ・応 じ る 技 術 ・話 す 技 術 ・は こ ぶ 技 術 と いう 考 え 方 は 、 対 話 の能 力 に つ いて 村 松 賢 一氏 が 示 し た も の
であ る 。 村 松 氏 は 、 ﹃対 話 能 力 を 育 む 話 す こ と ・聞 く こ と の学 習︱ 理 論 と実 践︱ ﹄ ( 明 治 図 書 出 版 二 ○ ○ 一年
三 月 ) に お い て、 対 話 の能 力 と し て 、 情 意 的 要 素 、 技 能 的 要 素 、 認 知 的 要 素 を あ げ 、 技 能 的 要 素 に、 ① 聞 く 技
能 、 ② 応 じ る技 能 、 ③ 話 す 技 能 、 ④ は こ ぶ技 能 を 、 認 知 的 要 素 に 、 ① 思 考 力 、 ② コミ ュ ニケ ー シ ョ ンリ テ ラ シー を 想 定 し て いる ( 注 5)。
こ の実 践 で は 、 V T R を 用 い た レ ンタ ル ビ デ オ作 成 と いう 実 の場 を 設 定 す る こ と に よ っ て、 特 に ﹁応 じ る 技
術 ・は こ ぶ技 術 ﹂ を 対 象 化 し て と ら え さ せ る こと に成 功 し て いる。 パタ ー ン化 さ れ た話 型 だけ を 覚 え て も あ ま り
大 き な 成 果 に は な ら な いか も し れ な いが 、 こ の実 践 で は、 モ デ ルを 提 示 す る こ と に よ って 、 場 面 と と も に 、 応
じ ・は こ ぶ パ タ ー ン が提 供 さ れ た こと にな る。 そ の こ と に よ って、 相 手 の話 の内 容 の受 け 止 め ( 聴解力) や自己 内 で の認 識 思 考 活 動 の学 習 に も な る と 考 え ら れ る 。
○ 指導 の概要
モ デ ルを 提 示 し た り 、 録 画 原 稿 を つく り 工夫 を話 し 合 った り 、 実 際 にそ の 録 画 を 見 合 った り す る 学 習 を 工 夫 す
指 導 の ポ イ ント
る と 、 確 か に 聞 く ・的 確 に 話 す ・相 手 の 話 に 応 じ る な ど の 対 話 の 力 を 身 に つ け る こ と が で き る 。 ○
本 単 元 は 、 子 ど も た ち が ニ ュー ス キ ャ ス タ ー と リ ポ ー タ ー に な り 、 ﹁ 夏 休 み の思 い出 1 ﹂ を V T R に 収 録 し た
︻実 の場 の 設 定 ︼
﹁夏 休 み の 思 い 出 1 ﹂ と し て V T R に 収 録
り 、 そ れ を 見 合 った り す る こ と を 通 し て 、 確 か な 対 話 力 を つけ た い と 願 い 構 想 し た 。
﹁夏 休 み の思 い出 ﹂ と し て V T R に 収 録 す る︱ ニ ュー ス キ ャ ス タ ー と リ ポ ー タ ー に な り 、 夏 休 み の 一番 の 思 い 出 を
し 、 ﹁レ ン タ ル ビ デ オ に し て お う ち の 人 に 貸 し 出 そ う ﹂ と い う 実 の 場 を 設 定 す る 。 こ の こ と に よ り 、 子 ど も の 中
に ﹁お う ち の 人 に 楽 し か った こ と を 伝 え よ う 。 楽 し ん で も ら お う 。﹂ と いう 目 的 意 識 ・相 手 意 識 が 明 確 に な る 。
ま た 、 V T R と いう 設 定 にす る こ と によ り 、 お よ そ 二 分 ぐ ら いと いう 時 間 の意 識 や 、 身 振 り 手 振 り な ど 非 言 語 コ
︻モデ ル の提 示 ︼
ミ ュ ニケー シ ョ ン の大 切 さ な どを 子 ど も た ち が と ら え る 。 さ ら に、 完 成 し た レ ンタ ル ビ デ オ を 見 た保 護 者 か ら の 感 想 を も ら う こと で、 子 ど も た ち は 自 分 の学 習 に つ い て手 応 え を 得 る。
教 師 の モ デ ル V T R を 見 て話 し 合 う︱
教 師 の V T R を モ デ ル に し て 提 示 し 、 話 し 合 う こ と に よ り 、 ﹁ニ ュ ー ス キ ャ ス タ ー と リ ポ ー タ ー ﹂ と い う 学 習
の見 通 し を も つと とも に 、 対 話 力 のポ イ ント を 感 じ 取 る こ と が でき る。 ま た、 関 心 を 高 め る こ と が 期 待 で き る 。
︻対 話 力 を つけ る話 し 合 い︼
V T R と いう 特 性 に よ り 、 身 振 り や 手 振 り な ど 非 言 語 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン も モ デ ル と し て 参 考 に な る 。
V T R を も と に話 し 合 う︱
録 画 原 稿 を 書 いた り 、 自 分 や友 達 の V T R を 見 て 話 し 合 わ せ た り す る こと に よ り 、 対 話 す る 際 の話 し 方 ・聞 き 方 ・応 じ 方 な ど を 具 体 的 に と ら え 、 よ り よ い 対 話 力 を 身 に つ け る こ と が で き る 。
○ 実践 [単 元 の目 標 ]
・ 目 的 ・相 手 ・時 間 意 識 な ど を も って、 工 夫 し な が ら ニ ュー スキ ャ ス タ ー と リ ポ ー タ ー の対 話 を す る こ と が できる。
・ 実 際 に原 稿 を 書 いた り 、 自 分 た ち の作 品 を 見 て 話 し 合 った り す る こ と で、 正 確 に聞 く ・的 確 に 話 す・ 話 に
応 じ る な ど の対 話 能 力 を 身 に つけ た り 、 動 き な ど を 工 夫 し た りす る こ と が でき る。
教 師 の夏 休 み の思 い出 1 の V T R を 見 て、 学 習 の目 当 て や見 通 し を も つ。
[学 習 計 画] 第 一時
︵ 省 略 ︶]
本 番 の録 画 を し 、 見 せ 合 う 。
V T R を 見 合 い、 話 し 合 い や聞 き 方 、 応 じ 方 な どを 考 え る。
第 二 ・三 時 自 分 た ち の録 画 原 稿 を つく り 、 V T R に収 録 す る。
第 四時 [指 導 の実 際 教 師 の モデ ルV T R 原 稿
注 ・太 字 は 、 返 事 や 相 手 の話 を 受 け て話 が つな が る よ う に し て いる 言 葉 。
・﹁太 字 ﹂ は 、 相 手 の話 を 聞 き 、 そ の 中 心 と な る 言 葉 を 繰 り 返 す 大 切 な 言 葉 ﹁キ ー ワ ー ド ﹂。
・波 線 は 、 相 手 の話 に質 問 し た り 、 次 の 話 に 続 く よ う に 問 い か け た り し て い る と こ ろ 。 ・傍 線 は 、 相 手 の気 持 ち を 理 解 し 、 感 想 を 言 っ て い る と こ ろ 。 網 掛 け は 、 身 近 な 例 を 述 べ 、 話 の内 容 を 詳 し く わ か る よ う に し て い る と こ ろ 。
モ デ ル V T R を 見 た 子 ど も た ち の気 づ き か ら 、 注 の該 当 個 所 へ注 目 さ せ 、 ﹁話 の中 心 ﹂、 ﹁応 じ 方 ﹂ 、 ﹁は こ び
方 ﹂ へ目 を 向 け さ せ て い る。 第 二 ・三 時 で子 ども た ち の V T R 収 録 と 批 評 会 が 行 わ れ 、 本 番 へ向 け て 発 表 原 稿 の
修 正 が行 わ れ て いる 。 そ の修 正 に は、 ﹁応 じ 方 ﹂ だ け を 見 て も 、 返 事 ・質 問 ・感 想 に加 え て、 言 い換 え ・確 か め も でき る よ う にな った こ と が 報 告 さ れ て いる 。
こ の実 践 報 告 のま と め に は 、 ﹁低 学 年 で は、 対 話 を 続 け て いく お も し ろ さ を 経 験 す る こ と が 大 切 であ る。 中 学
年 で は、 的 確 に話 す こ と ・正 確 に聞 き 取 る こ と に 指 導 の中 心 が 置 か れ る。 今 回 の実 践 は 、 応 じ 方 に つ いて の実 践
であ る。 対 話 力 の中 心 で あ る 応 じ 方 ・話 のは こび 方 も 、 中 学 年 後 半 か ら 実 践 し た いと 考 え て いる 。﹂ と 、 発 達 の 見 通 し の中 に実 践 を 位 置 づ け て いる 。
︵四︶ 聞 く こ と の学 習 指 導 の今 後 の 見 通 し
言 葉 を 介 し て 得 ら れ る 情 報 の多 く が 、 話 し 言 葉 に よ る こ とを 考 え る と、 む し ろ読 解 力 よ り も 聴 解 力 の ほう が、
よ り 生 活 に影 響 を 及 ぼす 基 本 的 な 能 力 と いう こと も で き る。 し か も 、 相 互 交 代 可能 な 話 し 言 葉 形 態 に お いて は 、
話 さ れ る のを 待 つだけ で な く 、 よ り 有 益 な 情 報 を 引 き 出 す こ と さ え で き る 。 し か し 、 そ の能 力 は、 無 自 覚 な 経 験
の蓄 積 だけ か ら で は、 効 果 的 な 習 得 は期 待 で き な い。 社 会 性 を 備 え た意 識 的 な 使 用 へと高 め て いく た め に、 教 師
に よ る 意 図 的 計 画 的 な 指 導 が求 め ら れ る。 聞 く こ と の学 習 は 、 単 な る技 術 や 態 度 の学 習 で な く 、 認 識 思 考 と 深 く 関 わ る 能 力 の学 習 と し て 、 国 語 教 師 の強 く意 識 す べき 領 域 で あ る 。
倉 澤 栄 吉 氏 は 、 戦 後 早 い時 期 に 、 子 ど も た ち の実 態 の観 察 か ら 、 小 学 生 か ら 高 校 生 ま で の 発 達 の 概 要 を と ら
え 、 聞 く 力 の技 能 に つ いて、 次 のよ う な 見 通 し を 提 出 し て い る
1 き い た こ と が わ か る 、 す ぐ に つか め る。 2 こま か い こと を き き お ぼ え る。 3 た い せ つな 点 を き き わ け る 。 4 組 み立 てを 考 え て再 組 織 し 、 そ れ を 批 判 す る 。 5 立 論 の根 拠 や 、 話 し 手 の立 場 を つき と め る 。
︵ 注 6 ︶。
と 分 け る と 、 1、 2 、 3 は小 学 校 、 2、 3 、 4 は中 学 校 、 3 、 4、 5 は 高 校 と いう よ う に 発 達 す る も の であ
って、 し か も 、 1 は 2 の レデ ィ ネ ス、 2 は 3 の レデ ィネ スと いう 関 係 に な って いる 。
ま た 、 斉 藤 美 津 子 氏 は 、 ﹃き き 方 の 理 論 ﹄ ︵ サ イ マ ル 出 版 会 、 一九 七 二 年 ︶ の ﹁ま え が き ﹂ で 、 次 の よ う に 、 聞
く と いう こ と と 認 識 思 考 と の関 係 に 言 及 し 研 究 を 進 め た ( 注 7 )。
﹁き く ﹂ と いう こと は、 人 のた め に き く の で は な く 、 学 ぶ た め に 、 人 間 成 長 のた め に、 自 分 自 身 の た め に
﹁き く﹂ の です 。 ﹁き く ﹂ こと の 訓 練 は 、 知 識 の導 入 だ け で は な く 、 人 間 に 対 す る 忍 耐 と 理 解 ︵寛 容 で は な
い︶ の精 神 を養 う た め の近 道 だ と 信 じ ま す 。 子 供 た ち の ﹁注 意 集 中 ﹂ の 訓 練 にも な る と同 時 に 、 批 判的 な 考
え 方 を涵 養 す る 最 も て っと り 早 い方 法 で あ る と 思 いま す 。 現 在 は ﹁話 し こと ば の時 代 だ﹂ と いわ れ ます が 、
コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン の分 野 に お い て、 話 し こと ば は 、 き く こ と の訓 練 か ら 自 己 の創 造 性 開 発 を 始 め、 ま た 深 め て いく と さ れ て いま す 。
現 在 で は 、 村 松 賢 一氏 や 山 元 悦 子 氏 ら の研 究 に よ って、 認知 心 理 学 の成 果 を 取 り 入 れ つ つ、 発 達 段 階 に応 じ た
働 き かけ の 試 案 も 提 出 さ れ て き て い る。 聞 く こ と の理 論 的 な解 明 は、 さ ら に続 け て いく 必要 があ る が 、 発 達 が働
き か け の 影 響 を 受 け る も の で あ る 以 上 、 これ ま で の成 果 を 踏 ま え て、 実 際 的 な カ リ キ ュラ ム に移 し て 検 証 し て い く 段 階 に あ る と いえ る の で は な い だろ う か 。
注 1 西尾 実 ﹃これ から の国 語 教育 のため にⅣ 書く こと の教 育﹄ 習 文社 一九 五 二年 五月 五 六 ∼五 七頁 によ る 注 2 西尾 実 ﹃ 国 語教育 学序 説 ﹄筑摩 書 房 一九 五七 年 四月 九 一頁 注 3 小学 校 の国語 を語 る会 編 ﹃メ モに関 す る学 習 の理論 と実 践﹄ 岡 山大学 附属 小学 校国 語 研究室 一九 九八 年八 月 二 十 日 七 一∼七 二 頁
三 一日 七∼ 一二 頁
注 4 田中 智生 ・小 川孝 司 編著 ﹃小学 校国 語 科教育 の課題︱ 実 践的 探究︱ ﹄ 小学 校 の国語 を語 る会 二〇 〇二 年十 月
六 ∼ 五 一頁 に よ る
注 5 村松 賢 一 ﹃ 対 話能 力 を育 む 話 す こと ・聞 く こと の学習︱ 理 論 と実 践︱﹄ 明 治図書 出 版 二〇 〇 一年三 月 四
注
注 6 倉 澤栄 吉 ﹃倉 澤栄 吉国 語 教 育全 集 ﹄第 十巻 ﹁ 話 し こと ば によ る人 間 形成 ﹂角 川 書店 一九八 九 年 二月 二 八 日 三 一 一頁 注 7 斉 藤美 津 子 ﹃きき 方 の理論﹄ サ イ マル出 版会 一九 七二年 まえ がき 二頁 参考 文献 野地 潤家 ﹃ 話 し こと ば学 習論﹄ 共 文社 一九七 四年 十二 月十 五 日
福 岡 教育 大学 国語 科 .福 岡 教育 大学 附属 中学 校︱ 福 岡 ・久留 米 ・小 倉 ﹃ 共 生時 代 の対話能 力 を育 てる国語 教育 ﹄ 明治 図書 出 版 一九 九七 年十 一月
話 す こと と書 く こ と
三 話 す こと の学 習指 導
︵一︶ は じ め に︱
こ こ で は 、 独 話 す な わ ち スピ ー チ や報 告 ・発 表 な ど 一方 向 性 の側 面 の強 い話 す こ と の学 習 指 導 に つ い て述 べ て いく 。
と ころ で、 音 声 言 語 指 導 の重 要 性 が言 わ れ る 時 に は 、 文 字 言 語 に対 す る 音 声 言 語 の独 自 性 を 前 提 に す る 場 合 が
多 い。 音 声 によ る 談 話 に は 、 生 じ て は消 え る 一回 性 や 聞 き 手 と 場 を 共 有 し 即 時 的 な や り と り が 行 わ れ る と い っ
た、 文 字 によ る 文 章 と は 異 な る特 質 が あ り 、 そ れ が談 話 の構 造 のあ る部 分 を 際 立 た せ て いる。 本 節 で も 、 ま ず 話 す こ と の特 質 に 留 意 す る。
し か し 、 何 ら か の手 段 に よ って相 手 に情 報 を 伝 え る コミ ュ ニケ ー シ ョ ン の本 質 と いう 点 で は、 文 字 か音 声 か の
媒 体 の違 い は決 定 的 な も ので は な いと の見 方 も あ る ︵ 注 1︶。 文 章 と 談 話 と の間 に は 、 構 造 的 な 共 通 性 も 多 い。
特 に独 話 は 、 原 稿 を 作 成 す る場 合 があ る な ど 準 備 段 階 の生 成 過 程 にも 共 通 す る 部 分 があ る 。 し た が って、 以 下 で は 、 書 く こと と 共 通 す る点 に つ い ても 述 べ る。
︵ニ︶談 話 の構 造
中 村 桂 子 ﹁体 を 守 る 仕 組 み ﹂ ︵ 光 村 図 書 ・四 年 下 ︶ は 、 人 間 の体 が 、 ど のよ う な 仕 組 み で 外 か ら 侵 入 す る 微 生
物 の悪 影 響 か ら 自 ら を 守 って い る か と いう こ と を 内 容 とす る 、 小 学 校 四 年 生 の説 明 的 文章 教 材 で あ る 。 そ のま ま
話 し て聞 か せ る こ と も でき そう で、 話 す こ と の学 習 指 導 と いう 点 か ら 見 ても 示 唆 深 い。 は じ め の二 段 落 は 次 のと お り であ る 。
さ あ 、 深 こ き ゅう し て み ま し ょう 。
今 、 何 を す い こ み ま し た か 。 た いて い の人 は 、 空 気 と 答 え た で し ょ う 。 も ち ろ ん 、 そ れ で 正 解 です 。 で
も 、 空 気 中 に は 、 目 に 見 え な いも の が た く さ ん た だ よ って い て 、 そ れ も い っし ょ に す い こ ま れ ま す 。 そ の 中
に は、 病 気 の 原 因 に な る 微 生 物 も いま す 。 こ のよ う な 微 生 物 は、 手 にも た く さ ん付 いて いて、 そ れ が 口 を 通 し て体 に 入 って く る こ と も あ り ま す 。
こ の文 章 で最 も 重 要 な のは 、 目 に 見 え な い微 生 物 が体 に侵 入 し てく る と いう ﹁事 実 ﹂ を 説 明 す る こ と であ る。
こ の事 実 は 、 小 学 校 四 年 生 にと って お そ ら く 未 知 で意 外 性 を も ち 、 事 実 自 体 が読 み 手 に と って 興 味 深 い。 談 話 に お いて も 、 受 け 手 にと って 興 味 深 い事 実 は真 っ先 に必 要 な 要 素 で あ る。
し か し 、 こ の文 章 は ﹁深 こ き ゅう ﹂ と いう 動 作 を 読 み 手 に 要 求 す る 文 で 始 ま り 、 質 問 へと 続 く 。 こ れ ら の 文
は 、 要 求 と いう 発 話 機 能 を 用 い、 相 手 と ﹁か か わ り あ う ﹂ こ と に よ って話 を 起 こ し 、 後 に続 く 事 実 の お も し ろ さ
を い っそ う 引 き 出 し て いる 。 発 信 者 と 受 け 手 と が ﹁か か わ り あ う ﹂ 表 現 は 、 音 声 言 語 によ る コミ ュ ニケ ー シ ョ ン に お いて さ ら に 重 要 と な る 。
つ い で、 こ の文 章 を 話 す 場 面 を 想 像 し て み る 。 す る と 、 話 し 手 が 聞 き 手 と い っし ょ に深 呼 吸 を し た り 、 空 気 を
凝 視 す る 所 作 を す る 様 子 が 目 に浮 か ぶ。 談 話 が 、 音 声 を 含 め た身 体 性 を 帯 び たも の であ る こと にも 注 目 し た い。
こう し た 、 受 け 手 に と っ て の情 報 性 の意 識 や 、 引 き 込 む た め の表 現 の 工 夫 、 話 し 手 の所 作 な ど は、 発 信 者 の も
つ強 い相 手 意 識 に よ っても た ら さ れ る も の で あ る 。 談 話 で は、 相 手 が目 の前 に いる だ け に、 相 手 意 識 は 非 常 に 大 きな要 素とな る。
以 上 、 ﹁体 を 守 る仕 組 み﹂ と いう 教 材 か ら 、 話 す こ と に お いて 重 要 な 要 素 を 四 つ︱ 事 実 の表 現 ・﹁か か わ り あ
う ﹂ 表 現 ・身 体 性 ・相 手 意 識︱ 指 摘 し た。 これ ら の こ と を 観 点 に し て、 話 す こ と の学 習 指 導 の内 容 と方 法 に つ い て さ ら に理 解 を 深 め て いき た い。
︵三︶話 す こと の学 習 指 導 の内 容 1 事 実 の表 現
談 話 の中 で、 ﹁事 実 ﹂ を 述 べ る こと は重 要 な 役 割 を 果 た し て いる 。 スピ ー チ や 説 明 な ど で 、 ﹁具 体 的 に話 す ﹂ と
い った場 合 の ﹁具 体 的 ﹂ の 中身 は、 多 く の場 合 事 実 とし て の出 来 事 や 事 象 で あ る 。 聞 き 手 の知 り た い の は 具 体 的
な 事 実 で あ り 、 そ れ を 積 み 重 ね て いく こと で生 き 生 き と し た 談 話 と な る 。 ま た 、 意 見 や 主 張 を 述 べる 場 面 にお い
て も 、 受 け 手 は事 実 ( デ ー タ ) に基 づ いた 合 理 的 な 理 由 づ け が行 わ れ て主 張 が 述 べ ら れ て い る か を 判 断 す る 。 説
得 力 と 言 わ れ るも の の中 身 も 事 実 が 重 要 な 位 置 を 占 め る の であ る。 これ ら の こと は書 く こ と に お い ても 同 じ であ る。
こ こ で ﹁事 実 ﹂ の定 義 に つ い て確 認 し て おき た い。 言 語 技 術 の会 では 、 事 実 ︵ 真 ︶ と し て述 べ た こ と が 実 際 に
は 誤 り ︵偽 ︶ であ る こ と があ る の で ﹁事 実 の記 述 ﹂ とす べき だ と し て 、 意 見 と の対 比 に お い て 次 のよ う に 定義 し て い る ︵注 2 ︶。
︵ホ ント ウ か 否 か ︶ を 確 か め る こと の で き る も の を 事 実 の記 述
自 然 現 象 や 、 人 間 の関 与 し た 事 件 の記 述 で、
事実 の記述 a
と いう 。
b 然 る べ き テ スト や調 査 によ って 真 偽
意見
A 推 測 ・推 定 何 か の根 拠︱ 必 ず し も 明記 し てな い、 ま た必 ず し も 確 実 でな い︱ にも と づ く 推 理 。 B 評 価 ・判 断 も のご と や 人物 な ど に つ い てそ の人 な り の価 値 判 断 。 C 意 見 狭 義 で は、 ﹁ そ の人 な り に考 え て到 達 し た結 論 ﹂ を さ す 。
事 実 を述 べ る表 現 は 、 幼 児 でも 日本 語 と し て平 生 用 いて い る言 い方 であ り 、低 学 年 段 階 でも 練 習 によ り 意 識 化
す る こ と が でき る。 秋 山 欣 彦 氏 は、 小 学 校 高 学 年 の実 践 に お い て、 次 の よ う な 例 文 等 に よ って、 ﹁判 断 が 入 って
イ ル カ の 名 前 は テ リ ー と 言 い ま す 。
イ ル カ が 火 の 輪 を く ぐ り ま し た 。
イ ル カ は か わ い い で す 。
イ ル カ が 水 の 中 に い ま す 。
イ ル カ が 一頭 い ま す 。
判断
︵ と ても り こう ︶
判断 無
判断 無
判断
︵ 上手︶
判断 無
判断 無
い る か どう か ﹂ の意 識 の定 着 を 図 って いる ︵ 注 3 ︶。
イ ル カ は と て も り こ う な 動 物 で す 。
判断
︵ か わ い い︶
イ ル カ は 、 泳 ぐ の が 上 手 で す 。
判断 無
イ ル カ は 、 哺 乳 類 と い っ て 、 お 乳 で 子 ど も を 育 て ま す 。 判断 無 こ の イ ル カ は 、 バ ン ド ウ イ ル カ と 言 い ま す 。
イ ル カ が お こ って いま す 。
判断︵
お こ って ︶
た だ し 、 実 際 の 談話 に お いて は 、 ど ち ら か 迷 う よ う な 表 現 も 多 い。 事 実 の表 現 と 意 見 の表 現 と を 相 対 的 に区 別
し よ う と し た り 、 出 来 事 や 現象 に つ いて で き る だ け 語 り 手 の価 値 判 断 を 入 れ な い表 現 で述 べよ う と し た り す る 意 識 や 感 覚 を 育 て る こと が重 要 で あ る。
2 話 す こと の順 序 ・構 成
こう し た 一つ 一つ の事 実 の表 現 を 、 あ る ま と ま り とし て ど のよ う な 構 成 で話 す か と いう こ と が 次 な る課 題 と な
る 。 談 話 研 究 に お いて は、 談話 の整 合 性 ︵ 談 話 全 体 の自 然 さ 、 意 味的 つな が り 、 一貫 性 ︶ に つ いて 、 例 え ば ﹁意
図 ・目 的 構 造 ﹂ ﹁整 合 関 係 ﹂ ﹁修 辞 関 係 ﹂ な ど 数 々 の提 案 が な さ れ て い る が ︵ 注 4 ︶、 国 語 科 に おけ る スピ ー チ や
発 表 な ど の学 習 場 面 を 考 え る と 、 文 章 論 を も と に し た高 橋 俊 三 氏 に よ る 次 の 整 理 がわ か り や す い ︵ 注 5︶。
︵1 ︶ 自 然 の順 序 事 柄 自 体 が持 って いる 順 序 関 係 に 従 って並 べ る方 式 。
話 し 手 の頭 の中 にあ る 秩 序 の概 念 を 通 し て 組 み立 て ら れ る 順序 。
① 時 間 的 経 過 に 従 って並 べ る。 ② 空 間 的 配 置 に 従 って並 べ る。 ︵2 ︶ 論 理 の順 序
① 並 列 す る。 ② 全 体 か ら 部 分 へと並 べ る。 ③ 一般 か ら特 殊 へと並 べ る。 ④ 原 因 か ら 結 果 へと 並 べ る。 ⑤ 理 由から帰結 ︵ 結 論 ︶ へと並 べ る。
︵3 ︶ 効 果 の順 序
( 対 他 的 順 序 ) 聞 き 手 への伝 わ り 方 を 予 想 し て、 効 果 の上 か ら 組 み 立 て ら れ る 順 序 。
① 既 知 か ら 未 知 へと 並 べ る。 ② 易 か ら 難 へと並 べる 。 ③ 軽 か ら 重 へと 並 べ る 。 ④ 倒 置 す る 。 ⑤ 対 比 す る。
⑥ 課 題 か ら 解 決 (解 答 ) へと並 べ る。 ⑦ エピ ソ ー ド を 入 れ る 。 ⑧ 屈 折 さ せ る。 ⑨ ク ラ イ マ ッ ク スを つく る。
談 話 を 展 開 す る順 序 が 、 大 き く は (1 ) 自 然 の 順 序 、 ︵ 2 ︶ 論 理 の順 序 、 ︵3 ︶ 効 果 の順 序 の三 つ に分 類 さ れ て
いる 。 これ ら は、 文 字 か 音 声 か と いう こと や ス ピ ー チ や 報 告 な ど 話 す こと の ジ ャ ン ル に よ って 固定 さ れ るも の で
は な い。 し か し 、 発 表 や 報 告 ・説 明 な ど 、 あ る 程度 同 じ 興 味 や 課 題 を 共 有 し た 集 団 を 対 象 にし 、 正 確 さ が求 め ら
れ る場 面 に お いて は 、 ﹁自 然 の 順 序 ﹂ や ﹁論 理 の順 序 ﹂ が 談 話 展 開 の軸 と な る だ ろ う 。 一方 、 ス ピ ー チ な ど聞 き
︵ス ピ ー チ ︶ に お け る 接 続 語 の使 わ れ 方 の実 態 調 査 か ら、 上 手 だ と 評 価 さ れ る 独
手 の志 向 や 興 味 が多 様 な 場 面 で は 、 ﹁効 果 の順 序 ﹂ が軸 と な る と 思 わ れ る。 ま た高 橋 氏 は、 中 学 生 の 独話
話 に は多 彩 な 接 続 語 が たく さ ん 使 わ れ て いる こ と を 指 摘 し て い る ︵注 6 ︶。 高 橋 氏 に よ れ ば 、 一般 の 独 話 に は 、
添 加 型 ︵そ れ か ら ・そ し て等 ︶ と 順 接 型 ︵ そ れ で ・だ か ら等 ︶ が多 く 、 全 接 続 語 句 の 八割 以 上 に の ぼる 。 上 手 な
独 話 に お い ても こ の二 類 型 が多 い が、 そ れ は全 体 の三 分 の二 程 度 に と ど ま る。 一方 、 次 のよ う な 接 続 語 句 は 圧 倒
︵ ね ︶ け れ ど ︵も ︶ だ け ど ︵も ︶ と こ ろ が
的 に上 手 な 独 話 の方 に 多 い。 逆 説 型 ⋮ でも
対 比 型 ⋮ そ れ に 対 し て そ れ と は 反 対 に 一方 そ れ と も
同 列 型 ⋮例 え ば 要 す る に つま り 結 論 と し て は 補 足 型 ⋮ と いう の は な ぜな ら ︵ ば ︶ な ぜ か と 言 う と 転 換 型 ⋮ さ て と こ ろ で 話 は だ い ぶ飛 ぶ の です が と に か く
そ し て、 こ れ ら の接 続 語 句 を 意 図 的 に使 わ せ る 指 導 を 行 う と、 よ い結 果 を 得 た と いう 。
以 上 の こ と は 、 談 話 構 成 の 一般 的 な 原 則 で あ る 。 実 際 の授 業 に お け る話 す こと の学 習 活 動 の場 面 で は 、 そ の単
元 に お け る 学 習 課 題 な ど 個 別 の要 素 が あ り 、 そ れ ら が 談 話 の全 体 構 成 を か な り 規 定 す る 。 特 に 、 報 告 や 発 表 な ど
は、 設 定 さ れ た 課 題 に よ っ て報 告 す る 内 容 と そ の順 序 が 決 ま って く る 場 合 も 多 い。 大 村 は ま 氏 は、 ﹁単 元 ど の
本 を 買 お う か﹂ に お け る学 習 の手 引 き 作 成 に つ い て、 次 のよ う に 述 べ て いる ︵ 注 7︶。
次 の ﹁発 表 の て び き﹂ には 、 二 つ の目 的 が あ る 。 一つは 、 こう いう 発 表 の形︱ 自 分 た ち の考 え た案 を 理 解
し て も ら う た め に、 こ と に、 そ の長 所 を よ く 理 解 し て も ら う た め に、 そ の案 の陰 に 、 ど ん な 考 え や根 拠 が あ
る か を 説 明す る 一つの形 を 具 体 的 に 教 え る こ と であ る 。 順 序 を よ く 考 え て 話 す よう に、 と い ったよ う な 教 え
方 で は 、 とう て いむ り で あ る 。 無 用 に苦 し ま せ る こ と にな り 、 そ の苦 労 が 実 を 結 ば な い。
も う 一つ の目 的 は 、 こ の発 表 は 、 ど の本 を 買 う か決 め る た め の原 案 と し て、 役 に 立 つも の でな け れ ば な ら
な い。 あ ま り 下 手 な 発 表 では 役 に 立 た な い。 次 の学 習 の充 実 のた め に、 ぜ ひ、 そ れ だ け の内 容 のあ る 、 よ く わ か る 発 表 で な く て はな ら な い。 教 材 にな る 発 表 にす る た め で あ る 。
話 す こと の構 成 の指 導 は 、 内 容 に 沿 って具 体 的 に行 う 必 要 が あ る 。 構 成 自 体 を 工 夫 す る こと は 、 小 学 校 高 学 年
以 降 で 学 習 課 題 にな り う る が 、 そ の場 合 も 、 学 習 の手 引 き な ど の支 援 をす る こ と で 、 過 ぎ た 課 題 にな ら な いよ う に し た い。
3 ﹁か か わ り あ う ﹂ 表 現 の役 割
筋 の通 った 順 序 で事 実 と 意 見 を 並 べる こ と が でき れ ば よ く で き た原 稿 に は な る が 、 そ れ だ け で は ﹁話 し こ と ば
ら し い﹂ も の に は な ら な い。 こ こ で 再 び ﹁体 を 守 る 仕 組 み ﹂ で見 た 受 け 手 と ﹁か か わ り あ う ﹂ 表 現 に 注 目 し た い 。
文章 や 談 話 に お いて、 こと ば は単 に意 味 を 伝 え る だ け で は な く 、 発 し 手 と 受 け 手 の間 で何 ら か の機 能 を 果 た し て いる 。 談 話 に お け る 発 話 機 能 に は 、 次 のよ う な も のが あ る ︵注 8︶。
要求 注 目 要 求 ⋮呼 び か け る 発 話 。 情 報 要 求 ⋮相 手 に質 問 し て情 報 を 求 め る 発 話 。3
5
4
同意 要 求 ⋮相 手 の同 意 を 求 め る 発 話 。
言 い直 し 要 求 ⋮ 相 手 の発 話 が聞 き 取 れ な か った場 合 の ﹁問 い返 し ﹂ の 発 話 。
単 独 行 為 要 求 ⋮ 聞 き 手 単 独 の行 為 を 求 め る 発 話 。 ﹁依 頼 ﹂ ﹁勧 告 ﹂ ﹁命 令 ﹂ が あ る。
共 同 行 為 要 求 ⋮ 話 し 手 の参 加 す る 行 為 に参 加 を 求 め る 発 話 。 ﹁勧 誘 ﹂ が多 い。
6
1 Ⅰ 2
Ⅱ 表 示 ・提 供 7 談 話 表 示 ⋮ 談 話 の展 開 の仕 方 を 述 べ る 発話 。 ﹁接 続 表 現 ﹂ 8 情 報 提 供 ⋮内 容 を 伝 え る 発 話 。 質 問 に対 す る 答 えも 含 む 。 9 意 思 表 示 ⋮ 話 し 手 の感 情 や 意 志 を 示 す 発話 。 10 言 い直 し ⋮ 5 の ﹁言 い直 し 要 求 ﹂ に先 行 す る発 話 を 繰 り 返 す 発 話 。 Ⅲ 受容 11 関 係 作 り ・儀 礼 ⋮ 人 間 関 係 を 作 る 発 話 。 感 謝 ・陳 謝 ・挨 拶 が あ る 。
12 注 目 表 示 ⋮ 相 手 の 発 話 を 認 識す る 発 話 。 6 の ﹁同意 要 求 ﹂ に 対 す る答 え も 含 む。
全 部 で 十 二 種 類 あ り 、 そ れ ら は 大 き くⅠ 要 求 、Ⅱ 表 示 ・提 供 、Ⅲ 受 容 の三 つに 分 け ら れ て い る。 これ ら の 発話
機 能 の分 類 か ら 、 ﹁体 を 守 る 仕 組 み ﹂ の談 話 の仕 組 み を 分 析 す る と 次 のよ う に な る。
今 、 何 を す い こ み ま し た か 。
深 こ き ゅ う し て み ま し ょ う 。
︿同意 要 求 ﹀ ︽" ︾
︿情 報 要 求 ﹀ ︽" ︾
︿単 独 行 為 要 求 ﹀ ︽" ︾
︿注 目 要 求 ﹀ ︽要 求 ︾
た い て い の 人 は 、 空 気 と 答 え た で し ょ う 。
︿注 目 表 示 ﹀ ︽受 容 ︾
さ あ 、
も ち ろ ん 、 そ れ で 正 解 で す 。
で も 、
空 気 中 に は 、 ⋮ ⋮ 体 に 入 っ て く る こ と も あ り ま す 。
︿談 話 表 示 ﹀ ︽表 示 ・提 供 ︾
︿情 報 提 供 ﹀ ︽
こ こ に は、 ﹁要 求 ﹂ に よ って 相 手 の興 味 や 注 目 を 呼 び 起 こし 、 相 手 の 既 有 知 識 を ﹁受 容 ﹂ し な が ら 、 新 し い情
報 を ﹁表 示 ・提 供 ﹂ す る 談 話 の 展 開 が 見 て 取 れ る 。 こ のよ う に 、 物 事 を 説 明 す る 文 章 や 談 話 で は 、 ﹁要 求 ﹂ や
﹁受 容 ﹂ の表 現 に よ って 受 け 手 に働 き か け な が ら 、 情 報 を ﹁表 示 ・提 供 ﹂ し て いく の で あ る が 、 談 話 で は こ の
﹁か か わ り あ う ﹂ 表 現 が よ り 顕 著 で あ る。 多 用 し す ぎ る と ﹁話 が 進 ま な い﹂ と いう 印 象 を 与 え か ね な い が、 こう し た 表 現 を 効 果 的 に 用 いる こ と を 意 識 し て 話 す こ と を 行 わ せ た い。
4 身 体 と 相 手 意 識
表 現 さ れ た ﹁事 実 ﹂ は 、 現 実 そ のま ま で は な く 、 発 信 者 に よ って 切 り 取 ら れ た も の であ る 。 そ の 切 り 取 り 方 に
語 り 手 の個 性 が スタ イ ル ︵ 文 体 ︶ と し て表 れ る。 談話 の場 合 、 そ れ は身 体 の 一部 の器 官 を 通 し て声 と し て発 せ ら
れ る ば か り で な く 、 語 り 手 そ の人 が受 け 手 の目 の前 に 身 体 を と も な って 存 在 す る。 し た が っ て、 同 じ 表 現 を 用 い
ても 、 話 し 手 の声 の出 し 方 や 身 体 の動 き に よ って、 音 声 の届 き 方 や 目 に 映 る 話 し手 像 は 異 な り 、 そ れ は 内 容 の解
釈 や 信 頼 性 な ど に影 響 を 及 ぼす 。 自 分 の身 体 を 用 いて ど の よう に表 現 す る か と いう こと も 課 題 と な る 。
一方 の聞 き 手 も 話 し手 の前 に 現 前 す る。 そ れ は話 し 手 か ら は 相 手 意 識 と し て と ら え ら れ る 。 一方 向 的 な コミ ュ
ニケ ー シ ョ ンに お いて は 、 談 話 を 準 備 す る 段 階 で、 聞 き 手 を ど のよ う に 意 識 し 、 談 話 の内 容 や 表 現 形 式 に取 り 入
れ る か と いう こと が成 否 に大 き く 影 響 す る 。 ま た、 談 話 の最 中 にも 、 聞 き 手 の反 応 や 周 囲 の状 況 な ど 相 手 と 共有
︾
す る情 報 を 談 話 に 取 り 入 れ る こ と は、 話 を よ り生 き 生 き と し た も のに す る。
︵四︶ 話 す こと の学 習 指 導 過 程 と 実 際 1 話 す こと の学 習 の種 類 と 指 導 過 程
話 す こと の学 習 に は、 次 の三 つの 種 類 が考 え ら れ る (これ ら は、 話 す こ と に 限 定 さ れ る も の で は な く 、 こと ば の学 習 の種 類 で も あ る︶。
︵ 実 演 や 原 稿 ︶ を 対 象 と し 、 そ の仕 組 み や 構 造 、 原 則 や ルー ル、 影
a 談 話 に つ い て の学 習 ︵ 談 話 の仕 組 み や意 味 の学 習 ︶ 例 え ば 教 師 や 学 習 者 に よ る モ デ ル的 な 談 話
響 を 及 ぼし て いる 要 素 や条 件 、 話 す こと の意 味 そ のも の に つ いて 考 え る学 習 。 b 談 話 のた め の学 習 ︵ 技 能 の練 習 学 習 ︶
事 実 の表 現 と 意 見 と を 区 別 す る 述 べ方 、 時 間 的 な 順 序 あ る いは 空 間 的 な 順 序 で述 べ る こ と な ど 、 特 定 の音 声 言 語 技 能 ・技 術 を 取 り 立 て て 身 に つけ る学 習。 c 談 話 をす る 学 習 ︵ 実 演 を 通 し て の学 習 ︶
スピ ー チ や報 告 な ど を 実 際 に 行う 学 習 。 テ ー マを 設 定 し 、 取 材 し 、 構 成 を 考 え、 声 に出 し て 練 習 す る 段 階 や 終 え た 後 の評 価 を 含 む。
これ ら の学 習 の種 類 は 、 必 ず し も a ・b ・c と 順 番 に進 む も の で は な いし 、 一つ の単 元 の中 です べ て が行 わ れ
な く て はな ら な い と いう も の で も な い。 し か し 、 学 習 の順 序 は 入 れ 替 わ っても 、 aを 抜 き に し たb や c の学 習、
逆 に a の み の学 習 は、 生 き て働 く 力 の学 習 と はな ら な い。 いく つか の単 元 のま と ま り 、 あ る い は学 期 単 位 で、 三
つの 種 類 の学 習 を 実 現 し た い。
こ の中 で、 特 に cの ス ピー チ や 報 告 な ど の学 習 を 行 う 際 の指 導 過 程 ( 学 習 指 導 の順 序 お よ び 段 階 ) を 示 す と、 次 の と お り であ る ( 注 9 )。 ① 意 欲 の 喚 起 と 方 法 の理 解 ② 話 題 の決 定 ③ 情 報 の収 集 と 選 択 ・提 示物 の準 備 ④ 話 の組 み 立 て と修 辞 の検 討 ⑤ グ ル ー プ ごと の発 表 と検 討 ⑥ ク ラ ス全 体 で の発 表 ⑦ 評 価 (自 己 評 価 ・相 互 評 価 ・教 師 に よ る評 価 )
大 き く は、 準 備 ︵ ① ・② ・③ ・④ ︶、 発 表 ︵ ⑤ ・⑥ ︶、 評 価 ︵ ⑦ ︶ と 分 け る こ と が でき 、 作 文 な ど書 く こ と の指 導 過 程 と 共 通 性 を も つ。
2 事 実 の表 現 の練 習 学 習
練 習 は、 先 の文 単 位 のも の か ら 、 談 話 の展 開 や構 成 を 範 囲 と す るも のま で いろ いろ な レベ ル で設 定 でき る。
次 の三 森 ゆ り か氏 の ﹁シ ョウ ・ア ンド ・テ ル﹂ の実 践 は、 事 実 を 描 写 し て述 べ る 順 序 に つ い て の 取 り 立 て指 導
の例 で あ る ︵注 10︶。 学 校 教 育 に おけ る 実 践 で は な く 、 ま た 、 ﹁作 文 技 術 を 獲 得 さ せ る た め の基 本 的 な 訓 練 ﹂ に 位
置 づ け ら れ た も の であ る が、 小 学 校 低 学 年 段 階 か ら の順 序 よ く 事 実 を 述 べ る学 習 と し て大 変 参 考 に な る 。
三 森 氏 に よ れ ば 、 一年 生 で も 六 年 生 で も 、 は じ め は 次 の よ う な も の に な る と いう 。
これ は 鞄 です 。 こ こ にポ ケ ット が つ いて いま す 。 鞄 の色 は 青 です 。 形 は 、 四角 です 。 ポ ケ ット の色 は赤 です 。 あ と 、 丸 い形 です 。 こ こ に紐 も つ い て いま す 。
三 森 氏 は 、 子 ども に は ま ず 情 報 の ﹁大 き さ ﹂ を 峻 別 す る 目 を 養 う 必 要 が あ る と 考 え る。 そ こ で、 指 導 者 と の問
答 によ って 、 一年 生 に ﹁全 体 ︵ 大 き いこ と ︶ か ら 部 分 ︵ 小 さ い こ と ︶﹂ と いう ﹁視 点 の移 動 の方 法 ﹂ を 次 の よう
答
問
﹁形 で す ね 。 す ご い 。 よ く わ か っ た ね 。 全 体 の 色 は 青 で す ね 。 次 に こ こ に つ い て い る ポ ケ ッ ト に つ い て 話
﹁形 ⋮ ⋮ ? ﹂ ( 抽 象 的 な 情 報 の 大 き さ を 問 わ れ て 、 明 ら か に 戸 惑 っ た が 、 回 を 重 ね る う ち に 理 解 し た 。)
﹁ポ ケ ット の 色 と 鞄 の 形 で は ど ち ら が 大 き い こ と か な 。 ど っち を 先 に 言 っ た 方 が わ か り や す い か な 。﹂
に 理 解 さ せ て い る。
問
答
﹁そ の 通 り 。 よ く わ か っ た ね 。 ポ ケ ット の 形 は 丸 で 、 色 は 赤 で す 。 で は 、 こ こ の 紐 、 こ れ は い つ 言 っ た ら
﹁形 か な ? ﹂
し ま し ょ う 。 色 の こ と と 形 の こ と で は ど ち ら が 大 き い か な 。﹂
問
問
答
﹁だ っ て 、 紐 は 鞄 に つ い て い る か ら 形 に 関 係 し て い る 。﹂
﹁ど う し て そ う 思 う の 。﹂
﹁鞄 の 形 と 一緒 か な 。﹂
い い か な 。﹂
答
﹁い い 考 え で す ね 。 で は も う 一度 最 初 か ら 言 って み ま し ょ う 。﹂
﹁シ ョ ウ ・ア ン ド ・テ ル ﹂ は 、 次 の よ う な も の で あ る 。
問
こ う し た 問 答 の結 果 、 再 び 行 わ れ た
これ か ら 僕 は 僕 の鞄 の説 明を は じ め ま す 。 こ れを 見 てく だ さ い。
こ れ は 鞄 です 。 形 は 四 角 です 。 こ こ の と ころ に鞄 を 持 つた め の紐 が つ いて いま す 。 全 体 の色 は 青 です 。 こ こ に は ポ ケ ット が つ いて いま す 。 ポ ケ ット の形 は丸 く て、 色 は 赤 です 。 こ れ で 僕 の説 明 を 終 わ り に し ま す 。 皆 さ ん 、 聞 い て く れ て あ り が と う 。
三 森 氏 は 、 ﹁視 点 の移 動 の方 法 ﹂ と し て、 他 に次 のよ う な も のを あ げ て いる 。 ・上 か ら 下 / 下 か ら 上 ・右 か ら 左 / 左 か ら右
・手 前 か ら 奥 ・外 側 から 中 / 中 側 か ら 外
先 の高 橋 氏 の整 理 に あ て は め る と 、 ﹁空 間 的 配 置 に従 って並 べ る﹂ を さ ら に具 体 化 し た も の であ る が、 他 の方
法 に つ いて も 同 様 に練 習 学 習 を 行 い、 繰 り 返 す こ と で、 一年 生 でも 大 き な 進 歩 を 見 せ 、 そ の効 果 は 三 森 氏 の実 践
の本 来 の ね ら い であ る 作 文 に も 現 れ た と いう 。 話 す こと と書 く こ と と の関 連 学 習 と いう 点 で も 示 唆 が あ る。
3 談 話 の 仕 組 み の学 習
教 師 に よ る 話 す こ と の実 演 を モデ ルに し て学 習 す る 方 法 は 、 談 話 の 仕 組 み や ルー ルを 意 識 化 し て 取 り 出 し 、 確 認す る上 で有 効 であ り 重 要 で あ る 。
次 の ﹁子 ど も と個 性 ﹂ と題 さ れ た 二 つ の ス ピ ー チ 原 稿 は 、 あ る中 学 校 教 師 に よ る ス ピ ー チ の実 践 に お いて 教 師 が モデ ルと し て行 った ス ピ ー チ の原 稿 を も と に、 つく り 直 し た も の で あ る 。
A 学 校 で は、 個 性 と いう こと ばを よ く 耳 に し ま す が、 個 性 は か な り 小 さ な と き か ら 現 れ ま す 。
四 歳 にな る 私 の娘 は、 女 の 子 ら し いキ ャラ ク タ ー よ り 男 の 子 が 好 む よう な も のに 興 味 を 持 ち ま す 。 花 柄
の服 を 着 せ よう と す る と 嫌 が り、 黄 色 の シ ャ ツ に赤 いズ ボ ンと いう 変 な組 み合 わ せ を 好 ん だ り し ま す 。 こ
う あ って ほ し いと いう 親 の願 いは 壊 さ れ る ば かり です 。 好 み と いう 個 性 ひ と つを と って み て も 、 二 、 三 歳 の 頃 か ら ハ ッキ リ と親 に も 変 え ら れ な い形 で存 在 し て いま す 。
個 人 よ り 集 団 を 重 ん じ る学 校 で す が、 そ ん な 中 で も 皆 さ ん の個 性 は た く ま し く 発 揮 さ れ て いま す 。 社 会
の 一員 と し て の自 覚 ・集 団 の規 律 を 身 に つけ る の は、 学 校 の大 切 な 目 的 で す 。 で も 、 教 育 と いう 名 の も と に、 個 性 が薄 め ら れ な いよ う に教 師 は 配 慮 す べき であ る と 思 って いま す 。
B 自 分 の 個 性 は コ レ ! と い う こ と を 数 え て み て く だ さ い 。 い く つ挙 げ ら れ ま す か 。 そ れ は 、 い つ、 ど の
よ う に し て作 ら れ た の で し ょう か 。
私 に は 四 歳 の娘 が いま す が 、 子 育 てを し て い る と よ く 戸 惑 った り 困 った り し ま す 。 キ テ ィ ち ゃ ん よ り 仮
﹁あ な た は 小 さ い と き か ら こ う だ っ た ﹂ な ど と 言 わ
面 ラ イ ダ ー が好 き 。 花 柄 の服 よ り 黄 色 の シ ャ ツと 赤 いズ ボ ン の組 み合 わ せ を 好 むな ど 、 娘 に こう あ って ほ し いと いう 私 の願 い は壊 さ れ て ば か り です 。 皆 さ んも
れ る こ と は 一 つ や 二 つあ る で し ょ う 。 こ れ は 好 み と いう 一 つ の 個 性 で す が 、 小 さ な 頃 か ら こ ん な に ハ ッ キ リ し て い て親 に も 変 え る こと は で き ま せ ん。
学 校 生 活 の中 で、 皆 さ ん は 自 分 の個 性 が損 な わ れ て し ま う よ う に 感 じ る こと があ る の で は な い でし ょう
か 。 そ ん な 中 で も 、 たく ま し く 発 揮 さ れ る皆 さ ん の個 性 に 、 私 は し ば し ば 圧 倒 さ れ ます 。 でも 、 教 師 は、
教 育 と いう 名 の 下 に皆 さ ん の個 性 を ゆ が め て いや し な いか 。 い つも 振 り 返 って みな け れ ば な ら な い と思 っ て います 。
一読 し て (一度 聞 い て も ) わ か る よ う に、 B は 、 ﹁か か わ り あ う ﹂ 表 現 や ﹁私 ﹂ と いう 主 体 を 表 す 表 現 、 具 体
的 な 事 例 を 示 す 表 現 を多 く 採 り 入 れ たも のと な って いる ( 傍 線 部 )。 授 業 で は 、 二 種 類 の ス ピー チ を 教 師 が 行 い、
学 習者 に対 し 、 ﹁始 め の と後 のと の違 いは 何 か ? ﹂ と か、 ﹁後 の ス ピー チ のど う いう 点 が話 し こと ば ら し いか ﹂ と
問 え ば 、 学 習者 は談 話 の特 徴 を 指 摘 す る こと が で き る 。 ま た、 細 か い点 に ま で気 付 か せ た いと き に は、 教 師 に よ
る ス ピー チ の後 、 プ リ ント にし た も のを 配 布 し 、 スピ ー チ 原 稿 の比 較 分 析 を さ せ て も よ い。 こ こ で意 識 化 さ れ た
こと が 、 後 の段 階 で 、 自 分 自 身 が 話 す こ と を 考 え る際 の留 意 点 にな り 、 ま た評 価 基 準 の 一つ にな る。
スピ ーチ の学 習 の指導過程 の実際
ら え る こ と が でき る 。 ﹁説 得 力 ﹂ を も った 話 す 力 を 育 て る た め 、 手 厚 い指 導 過 程 を 踏 ん で い る。 意 識 す る 段 階
これ ら は、 意 識 す る、 内 容 を 準 備 す る 、 スピ ー チ を 準 備 す る、 評 価 し合 う と いう 大 き く 四 つ の段 階 に 分 け て と
︵8︶ スピ ー チ を し て相 互 評 価 を 行 う
︵7︶ スピ ー チ メ モを 作 り 、 ス ピー チ の練 習 を す る
︵ 6︶原稿 を推敲す る
︵5︶ スピ ー チ 原 稿 を 作 成 す る
︵ 4 ︶ 構 想 メ モを 作 る
︵ 3 ︶ 着 想 メ モを 作 る
︵ 2︶ スピーチ原稿 を検討す る
︵ 1︶ スピーチを聞 かせる
践 は、 次 のよ う な指 導 過 程 で行 わ れ て いる ( 注 11 )。
単 元 と し て の話 す こと の学 習 指 導 過 程 は 、 ど のよ う に構 成 さ れ る か 。 建 石哲 男 氏 に よ る 中 学 校 の ス ピー チ の実
4
︵五︶
︵1 ・2 ︶ で は 、 音 声 ︵実 際 の ス ピ ー チ ︶ と 文 字 (ス ピ ー チ 原 稿 ) の両 方 の教 材 を 用 い、 スピ ー チ のも つ特 徴 や
これ か ら 自 分 た ち が 行 う ス ピ ー チ の目 標 を 意 識 さ せ て いる。 後 者 に つ い て は、 地 域 で 発 刊 さ れ て いる 文 集 に 掲 載
さ れ た 弁 論 大 会 優 秀 弁 論 を 用 い、 グ ルー プ で構 成 の特 徴 や 読 み手 への効 果 を 分 析 さ せ て い る。
︵ 森 岡 健 二 ﹃文 章 構 成 法 ﹄ か ら のも の ) を 読 ま せ 、 題 材 を と ら え る と き に
内 容 を 準 備 す る 段 階 ︵3 ・4 ︶ で は、 説 得 力 を も った スピ ー チ を 行 わ せ る た め の指 導 の工 夫 を 重 ね て行 って い る 。 一つ に は、 発 想 法 に つ いて の教 材
視 点 を 変 え る こ と の重 要 性 を 考 え さ せ て い る。 も う 一つに は 、 陳 述 ・論 証 ・反 論 ・結 論 と いう 構 成 から な る ﹁ス
︵5 ∼ 7︶ で は、 原 稿 を 作 成 す る 段 階 と 、 そ れ と は 別 に スピ ー チ メ モを つく り練 習 す
ピー チ 構 成 メ モ ﹂ に よ り 、 ス ピー チ の内 容 お よ び 構 成 に論 証 性 を も た せよ う と し て いる 。 スピ ー チ を 準 備 す る 段 階
る 段 階 を 設 定 し て いる 。 実 践 報 告 に こ の段 階 の指 導 の詳 細 は 記 さ れ て いな いが 、 し っか り し た 論 述 を 行 わ せ る と と も に 、 原 稿 を 朗 読 す る こ と に終 わ ら な い スピ ー チ を 実 現 さ せ る意 図 であ ろ う 。
評 価 し 合 う 段 階 ︵8︶ で は 、 お互 い に ス ピー チ を し 合 いな が ら 、 ﹁ス ピー チ 聞 き 取 り メ モ﹂ に よ っ て、 聞 く こ と の学 習 と 相 互 評 価 を 行 わ せ て いる。
説 得 や 論 証 と いう こ と は 、 書 く 学 習 や 読 む こ と の学 習 でも 共 通 し て指 導 す る 内 容 で あ る 。 し た が って、 話 す こ
と の単 元 と し て ど れ だけ 指 導 す る か は 学 習 指 導 の状 況 に よ る が、 他 の領 域 で の学 習 と 関 わ ら せ て 相 互 に 効 果 を 高 め た い。
お わ り に
あ る 中 学 校 の国 語 の先 生 か ら 、 ス ピー チ の単 元 を し た と き の話 を 聞 いた こと があ る 。 日頃 教 師 の指 示 が よ く 通
り 学 習 態 度 も よ いク ラ ス で、 各 自 発 表 原 稿 は 書 いて いる にも か か わ らず 、 減 点 覚 悟 で発 表 を 辞 退 す る者 が続 出 し
た と いう 。 逆 に普 段 は 多 少 騒 が し い く ら い の ク ラ ス で、 皆 が お 互 い の ス ピー チ に 聞 き 入 った と いう 。 話 す こ と の
( 項 目 の執筆 は半 澤幹
学 習 指 導 が コミ ュ ニケー シ ョ ン の教 育 全 体 の中 で 行 わ れ な く ては 成 り 立 た な い こと を 改 め て 考 え さ せ ら れ た が 、
﹃ 文 章 ・談 話 の し く み ﹄ お う ふ う 一九 九 七 年 十 一月 二 五 日 一九 頁
これ に つ い て は ま た の機 会 に と り あ げ た い。
一に よ る )
注 1 佐久 間 まゆ み他編
一九 九 四年 六月 五 〇 ∼五 一頁
注 2 言語 技術 の会 編 ﹃実践 ・言 語技 術 入門﹄ 朝 日新聞 社 一九九 〇年 二月 二十 日 四 〇頁 ・四七 頁 注 3 秋 山欣彦 ﹁事 実 の言 い方を 身 に つけ る﹂ ﹃話す こと の指 導﹄ ︵ 高 橋 俊 三編 著︶ 講座 音 声 言語 の授業 第 一巻 明 治 図書出 版
注 4 亀 山 恵 ﹁談 話分析︱ 整合 性 と結束 性﹂ ﹃談話 と文脈﹄ ︵ 田窪行 則他 ︶岩 波 講座 言語 の科 学 七 岩 波書 店 九九 年 三月 二五 日 一〇九 頁
注 5 高橋 俊 三 ﹃ 対 話能 力を 磨 く﹄ 明治 図書出 版 一九九 三年 三月 一一 二∼ 一一三頁 注 6 同 注 5文献 七 二 ∼七三 頁 ︵ 項 目 の 執 筆 は ポ リ ー ・ザ ト ラ ウ スキ ー に よ る )
注 7 ﹃ 大 村 はま国 語教室 7﹄筑 摩書 房 一九 八 四年 六月 三十 日 一九 一頁 注 8 同 注 1 文 献 一六 八 頁
る ︶
注 9 高 橋俊 三 編 ﹃音 声言 語 指導 大事 典 ﹄ 明治 図書 出 版 一九 九 九 年 四月 一二 〇頁 ( 項 目 の執筆 は高 橋 俊 三 に よ
注 10 三 森ゆ りか ﹃言語 技 術教育 の体系 と指導 内 容﹄ 明治 図書 出版 一九九 六 年四月 一〇 七 ∼ 一一六頁 注 11 建 石哲 男 ﹁﹃説得 力﹄ の意 味を 理解 す る﹂ 同注 3文献 所 収 九 八 ∼ 一〇七 頁
注
四 聞 き話す 双方向性 のある音 声言語 活動 の学習指導︱ 対 話と話し合 い
本 節 で説 明 し て いる ﹁対 話 ﹂ ﹁話 し 合 い﹂ は ど ち らも 双 方 向 性 を も つ聞 く 話 す 活 動 であ り 、 こ の 二 つ の活 動 は、
本 質 的 な 共 通 性 を も っ て いる。 そ れ は、 音 声 言 語 を 仲 立 ち と し た コミ ュ ニケ ー シ ョ ン活 動 であ る と いう 共 通 性 で
あ る 。 こ の二 つは 切 り 離 し て並 置 し て別 個 に指 導 を 考 え る の で は な く 、 対 話 能 力 の延 長 上 に話 し合 う 力 があ る と
考 え る べ き で あ ろ う 。 そ こ で本 節 で は両 者 を 音 声 言 語 を 仲 立 ち に対 人 コミ ュ ニケー シ ョ ンを 円 滑 に 行 う 能 力 ︵ 以
下 コミ ュ ニケ ー シ ョ ン能 力 と 称 す る ︶ と 位 置 づ け 、 そ の育 成 に つ いて 考 え て み た い。
︵一︶ 対 話 指 導 1 な ぜ 、 ﹁対 話 ﹂ を 問 題 に す る の か
話 し 言 葉 の教 育 と は 何 を す る こと か。 話 し 言 葉 の指 導 に 取 り 組 も う と 考 え た時 、 教 師 の頭 の中 に 思 い浮 か ぶ の
は 何 だ ろ う か 。 音 読 によ って 発 音 発 声 の指 導 を し た り 、 朝 の 会 の ス ピ ー チ な ど の 指 導 は す ぐ に思 い浮 か ん で く
る 。 一方 で普 段 の教 室 の授 業 で 実 際 に必 要 な 聞 く 話 す 力 と し て、 教 師 の指 示 を聞 いて わ か る 、 友 達 の意 見 を 聞 い
て 考 え る、 友 達 の意 見 に応 じ て意 見 が言 え る な ど の能 力 は ぜ ひ身 に つけ さ せ た いと 誰 し も 思 う だ ろ う 。 こ のよ う
な能 力 は、 授 業 を 進 め て いく 上 で、 ま た 社 会 に出 て集 団 や組 織 の中 で 物 事 を 運 ん で い く た め に は不 可 欠 な 聞 く 話 す 力だ からである。
話 し 言 葉 の指 導 内 容 は、 これ ま で 一般 的 に ﹁発 音 ・発 声 の指 導 ﹂ ﹁音 読 ・朗 読 の指 導 ﹂ ﹁話 す こ と の指 導 ﹂ ﹁聞
く こ と の指 導 ﹂ ﹁話 し 合 いの指 導 ﹂ に分 け て論 じ ら れ る こと が多 か った。 そ し て こ の中 でも ﹁話 し 合 い の指 導 ﹂
は、 話 し 合 いが学 級 活 動 等 でも 取 り 組 め る こと でも あ り 、 国 語 科 の指 導 内 容 とし て 意 図 的 に 指 導 さ れ て き た と は
言 い難 い領 域 で あ った。 し か し 、 今 日 の ﹁伝 え 合 う 力 を 育 て る ﹂ こ と が 目 指 さ れ る 時 代 にあ って は、 総 合 的 な 言
語 運 用 力 とし て の聞 く 話 す 力 、 つま り 、 状 況 の中 で 場 や 目 的 を 念 頭 に置 い てそ の 場 に ふ さ わ し い言 葉 のや り と り
が相 手 と でき る コミ ュ ニケー シ ョ ン能 力 を 育 て る こ と が 重 要 視 さ れ 始 め 、 対 話 や 話 し 合 い の指 導 への必 要 感 が 高 ま って き た の であ る。
2 対 話 の定 義 と 価 値
﹁対 話 ﹂ と は 、 形 態 面 か ら 説 明 す る な ら ば 、 一対 一で行 わ れ る 双 方 向 性 のあ る 話 し 言 葉 のや り と り を 指 す 。 そ
こ で 交 わ さ れ る や り と り の質 を 問 題 にす る な ら ば、 相 手 の意 見 を 傾 聴 し つ つ自 分 の意 見 を 伝 え 、 情 報 交 換 ・合 意 形 成 ・相 互 理 解 に向 け て や り と り を 交 わす こと だ と 説 明 で き る だろ う 。
﹁対 話 ﹂ と は本 来 、 生 産 性 のあ る行 為 であ る。 対 話 す る こ と で、 自 分 も 、 そ し て 相 手 も 対 話 す る前 に 比 べ て 何
か を 得 た よう な 経 験 に よ って、 人 は対 話 の意 義 を感 じ 人 間 的 に 成 長 す る こ と が で き る。
ま た 、 対 話 過 程 で他 者 の話 を聞 き 、 自 己 と の 異 質 性 を 感 じ る こ と に よ って 自 己 認 識 が 図 ら れ る 。 そ し て 、 そ の
違 いを 乗 り 越 え て 協 同 で 新 た な 考 え が創 造 さ れ た時 、 人 は 人 と 関 わ る こ と (コミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン) の価 値 を 知 り 、 協 同 で社 会 を 築 いて いく 態 度 を 身 に つけ る こ と にな る のだ 。
そ も そ も 、 日常 生 活 で実 際 に 営 ま れ て い る聞 く 話 す 行 為 は 、 相 手 と のや り と り の中 で 行 わ れ る 双 方 向 的 な も の
である ( 講 演 な ど を 聴 く 場 合 は 別 であ る が )。 よ って 、 聞 く 時 に 黙 って 聞 き っぱ な し で相 手 に何 のリ ア ク シ ョ ン
も 示 さ な い時 は 、聞 いて い な い と受 け 止 め ら れ て し ま う 。 ま た、 聞 く と いう 行 為 は 、 漫 然 と 聞 く 場 合 は 別 と し
て 、 単 純 に相 手 の 話 の内 容 を 正 し く 聞 く と いう こと で は な く 、 む し ろ 状 況 の中 で相 手 の伝 え た い意 図 を つか ん で
いく と いう 積 極 的 な 行 為 だ と も いえ る 。 話 し 言 葉 は 状 況 依 存 的 で と て も 不 十 分 な も の で あ る 。 そ の不 十 分 な 相 手
の言 葉 か ら 相 手 の 言 いた いこ と を 汲 み 取 る よ う な 積 極 的 な 聞 き 方 が 日常 的 に は 要 求 さ れ る 。
ま た 、 話 す と いう 行 為 は、 自 分 の中 の混 沌 と し た 感 情 や考 え を 言 葉 化 し 、 相 手 に 伝 え る こ と であ る 。 し か し 、
伝 え た と思 った こ と が 伝 わ ら ず 、 相 手 が 自 分 の 文 脈 の中 で し か 受 け 取 って いな い こと に愕 然 と す る こと も 多 い。
そ のた め、 話 す 時 に は 、 自 分 の思 いを 言 葉 化 す る意 識 と 、 き ち ん と 意 図 ど お り伝 わ った か相 手 の反 応 や 理 解 を モ
ニタ ー し な が ら 、 言 い方 を 変 え た り 補 った り す る意 識 を も って 調 節 的 に 話 す こ と が 必 要 と な る 。
こ のよう な 聞 く 話 す 行 為 の実 情 を 考 え れ ば 、 聞 く 話 す 力 を 育 て る に は 、 具 体 的 な 相 手 に対 し て や り と り を す る
と いう 応 答 的 な 状 況 、 つま り 聞 く 話 す こ と が 一体 と な った 場 が 必 要 で あ る こ と が わ か る だ ろ う 。 ﹁対 話 ﹂ や ﹁話
し 合 い﹂ を 、 話 し 言 葉 の指 導 の大 切 な 領 域 と 考 え た い のは こ の よう な 点 か ら であ る。 コミ ュ ニケ ー シ ョ ン能 力 と
し て の聞 く 話 す 活 動 を 円 滑 に 進 め ら れ る言 語 能 力 を 育 て る こ と こそ 、 社 会 生 活 で実 際 に 必 要 と さ れ る聞 く 話 す 力 の指 導 に つな が っ て いく ので あ る。
対話能 力はど うとらえ られ るか
・相手発話 の言語的 な意味 の理解
デ ルを 設 定 し た。 これ によ って 対 話 能 力 を 説 明 し た い。
人 が対 話 す る時 に 働 か せ る意 識 や 、 対 話 活 動 を 支 え る諸 要 素 を 明 ら か にす る た め に、 図 1 のよ う な 対 話 行 為 モ
3
図1 対 話行為 モ デ ル
人 が相 手 の話 を 聞 い て いる と いう 状 態 に は、 た だ 音 が聞 こえ て いる と いう 状 態 、 音 を 言 語 的 な意 味 に変 換 し て
聴 い て いる 状 態 、 相 手 の話 の意 味 や意 図 を 自 分 で 解 釈 ・吟 味 し な が ら 聴 いて いる 状 態 と いう 三 つ の レ ベ ルが 考 え
ら れ る 。 相 手 と コミ ュ ニケー シ ョ ンを 図 ろ う と いう 積 極 的 な 態 度 があ る場 合 、 聞 き 手 は 第 二 か 第 三 の 状 態 に あ
る 。 ま ず 相 手 発 話 の音 声 を 言 語 に変 換 し 、 そ の意 味 を 理 解 す る ﹁相 手 発 話 の 言 語 的 な 意 味 の理 解 ﹂ が 行 わ れ る 。 ・話 し手 の意 図 の 理 解
人 は相 手 の発 話 の意 味 を 理解 す る と と も に、 意 味 と は別 に そ の発 話 の意 図 を 受 け 取 って いく 。 例 え ば 、 冬 の寒
い 日 に自 分 の部 屋 に 招 いた友 人 が、 つ いて いな い電 気 ス ト ー ブ に目 を や り な が ら ﹁こ の部 屋 寒 いね ﹂ と 言 った 場
合 、 友 人 の発 話 の意 図 と し て、 ﹁電 気 スト ー ブ を つけ て 欲 し い﹂ と いう も の が 伝 達 さ れ る。 こ の よ う な 発 話 の意
図 の理 解 は 、 状 況 と いう 文 脈 ︵場 、 相 手 と 自 分 と の関 係 、 相 手 の非 言 語 的 な メ ッ セー ジ、 コミ ュ ニケ ー シ ョ ン の
目 的 ) か ら の情 報 に聞 き 手 が 配慮 す る こと によ って な さ れ て いく 。 児童 期 の場 合 、 こ の部 分 ( 状 況 判 断 ) が未 熟
で あ る た め 、 場 の状 況 よ り 自 分 の経 験 に 引 き つけ て 相 手 の言 葉 を 理 解 し が ち であ る 状 態 だ と いえ よ う 。 ・先 行 情 報 の取 り 込 み
対 話 時 に 相 手 と そ れ ま で に 一連 の言 葉 のや り と り を 交 わ し て い た場 合 、 先 に相 手 と 話 し た 中 で先 行 情 報 と し て
聞 き 手 が保 持 し て いる 情 報 も 、 相 手 発 話 の意 味 や 意 図 を 判 断 す る 情 報 と し て利 用 さ れ る。 これ が で き る に は、 相
手 が そ れ ま で に 話 し た 内 容 を 記 憶 の中 に保 持 し て参 照 す る こ と が 必 要 で 、 複 雑 な 思 考 操 作 が 要 求 さ れ る 。 人 の 認 知 構 造 が精 緻 化 す る に と も な って 参 照 が 可能 に な る要 素 だ と いえ よ う 。 ・長 期 記 憶
長 期 記 憶 と は 、 人 の 頭 の中 に 一時 的 に で は な く 長 期 的 に保 持 さ れ て いる 情 報 や 記 憶 を 指 し て い る。 これ を 手 が
かり に 人 は相 手 の発 話 内 容 や 意 図 を 理 解 し 、 自 分 の伝 え た い内 容 を 生 み出 し て いく と考 え ら れ る 。 長 期 記 憶 を 整 理 す る 枠 組 み は いろ いろ と 考 え ら れ る が、 次 のよ う な も のを 設 定 し た い。
話 題 に関 す る 記 憶 当 事 者 間 で 話 題 にな って い る事 柄 に つ いて の体 験 や 知 識
自 分 のも って い る情 報 ・知 識 ・方 略 を 今 自 分 が直 面 し て いる 状 態 で、 ど のよ う に 利 用 す れ
物 語 や ひ と ま と ま り の体 験 と し て記 憶 さ れ て いる も の
命 題化さ れた知識 言葉 の辞書 的な意 味に関す る知 識 エピ ソー ド記 憶
敬 語 や 言 葉 遣 い、 言 い表 し 方 に つ い て の知 識
比 較 ・類 推 ・帰 納 ・演 繹 ・ 一般 化 ・拡 張 ・仮 定 等 の 思 考 方 法
ば よ いか に つ い て の知 識
思 考法
手 続き的知 識
修 辞的知識
・自 己 表 現 産 出 過 程
人 は、 相 手 発 話 の意 味 や意 図 を 受 け 取 り な が ら 、 そ れ に 関 連 さ せ て 自 分 の表 現 内 容 を 生 み出 し て いく 。 そ の際
長 期 記 憶 の内 容 が 呼 び 出 さ れ 、 使 いな じ ん だ思 考 方 法 が と ら れ 、 そ し て状 況 に ふさ わ し い言 い回 し が選 択 さ れ て いく の で あ る 。 ・コ ミ ュニ ケ ー シ ョ ン への意 欲 ・関 心 ・欲 求
こ の 一連 の理 解 表 現 産 出 過 程 ( 図 1 ) の根 底 を 司 る エ ンジ ン の役 割 を 担 って いる の が 、 コミ ュ ニケー シ ョ ン へ
の意 欲 ・関 心 ・欲 求 であ る。 相 手 とよ り よ い コミ ュ ニケー シ ョ ンを 図 り た いと いう 気 持 ち が 根 底 に な け れ ば 、 建 設 的 な 対 話 は 望 め な い。
以 上 のよ う に、 対 話 行 為 を 構 成 す る 諸 要 素 を 取 り 出 し て み た。 こ の こ と か ら 、 対 話 能 力 と は コミ ュ ニケ ー シ ョ
ン へ の意 欲 を 土 台 と し な が ら 、 こ れ ら の諸 要 素 で 構 成 さ れ る 理 解 過 程 ・展 開 過 程 ・表 現 過 程 を よ り 自 在 に 進 め て いく 能 力 だと 説 明 で き よ う 。
こ の モ デ ル は、 一往 復 の対 話 行 為 を 扱 って いる 。 こ のよ う な 対 話 の 究 明 を 試 み て い る 論 と し て、 村 松 賢 一氏
は、 こ の モデ ルに 欠 け て いる 対 話 のや り と り の面 も 視 野 に 入 れ 、 次 のよ う な 対 話 能 力 を と ら え る 柱 を 設定 し て い る ( 注 1 )。
︵ 2︶技能的 要素
① 思 考 力 、 ② コミ ュ ニケ ー シ ョ ンリ テ ラ シー
① 聞 く 技 能 、 ② 応 じ る 技 能 、 ③ 話 す 技 能 、 ④ は こ ぶ技 能
︵ 1︶情意 的要素
︵ 3︶認知 的要素
村 松 氏 によ る と 、 対 話 能 力 は こ のよ う な 情 意 面 、 技 能 面 、 認 知 面 を 総 合 し た 力 と と ら え る べ き であ り 、 ﹁聞 く
こ と の大 切 さ を 学 ん だ こ と に よ る 認知 的 変 容 が 、 他 人 の話 を 真 剣 に 聞 こう と す る態 度 を 産 み、 そ れ に よ り ま た的
確 な 質 問 が で き る よ う に な る と い った 具 合 に 相 互 依 存 関 係 に あ る ﹂ (同 注 1 五 一頁 ) と 諸 要 素 間 の 関 係 を 説 明 し て いる 。 あ わ せ て 参 照 し て 欲 し い。
4 対 話 能 力 指 導 の系 統
対 話 と は 生 産 的 な 行 為 で あ る と 先 に 述 べ た 。 対 話 は 、 人 と 人 と を つな ぐ コ ミ ュ ニケ ー シ ョ ン の基 本 単 位 で あ
り 、 社 会 を 民 主 的 な 話 し 合 いと いう 運 営 方 法 で 進 め て いく た め の基 本 的 な 行 為 であ る。 こ の よう な 意 義 あ る 対 話 と し て 、 実 際 に は ど のよ う な 性 質 のも のを 学 習 者 に体 験 さ せ る べ き な の だ ろ う か。
対 話 の 質 と し て 以 下 の三 つ のも の が 考 え ら れ よう 。 一つは 相 互 融 和 的 な 対 話 であ り 、 お 互 いを 理 解 し 感 情 を 共
有 し 合 う よ う な 対 話 であ る。 二 つ目 は相 互 啓 発 的 な 対 話 で あ り 、 自 分 も 他 者 も 対 話 に よ って自 己 照射 と自 己変 容
が も た ら さ れ 、 新 た な 認 識 や 境 地 を 得 る よ う な 対 話 であ る 。 三 つ目 は 、 問 題 解 決 的 な 対 話 で、 異 質 性 を も った も
の どう し が そ れ を 乗 り 越 え つ つ合 意 形 成 を 図 って いく よ う な 対 話 で あ る 。 先 の 対 話 行 為 モ デ ル で 説 明 し た よ う
に 、 対 話 能 力 の中 で も 、 コミ ュ ニケー シ ョン への意 欲 が対 話 行 為 の土 台 とな る こと を 考 え れ ば、 ま ず は情 意 的 な
意 欲 面 を 耕 す こ と か ら 始 め る べき であ ろ う 。 そ こ で、 相 互 融 和 的 な 対 話 か ら始 め 、 そ れ か ら 協 同 し て問 題 を 解 決 す る 対 話 や 、 相 互 啓 発 的 な 対 話 へと分 化 発 展 さ せ て いく よ う にし た い ︵ 注 2 ︶。
5 対 話 能 力 を 育 て る 学 習 指 導
以 上 のよ う な 質 の対 話 を 念 頭 に置 いて 、 対 話 の指 導 を 積 み上 げ て いく とし た ら 、 具 体 的 に は ど のよ う な 学 習 活
動 が考 え ら れ る だ ろ う か 。 近 年 、 多 様 な 対 話 指 導 実 践 が開 発 さ れ て いる が、 こ こ で は 以 下 、 学 年 の特 性 に 合 わ せ て事 例 を いく つか 紹 介 し た い。 ︻小学 校 低 学 年 ︼
楽 し さ の中 にも 、 相 手 の話 を よ く 聞 か な け れ ば こと が進 ま な いよう な 場 を 工 夫 し て、 相 手 意 識 を も って 話 を す
継 ぎ 足 し 話 作 り 。 四 コ マ漫 画 を 二 人 で 並 べ替 え な が ら 作 る 。 お 互 い の名 前 の由 来 や 名 前 に こ め ら れ た願
る 体 験 を 積 む 。 ま た 、 相 手 の言 って いる こ とを よ く 聞 き 取 ろ う とす る 態 度 が 必 要 な 活 動 を 仕 組 む 。 例︱
いを 聞 き 合 って そ れ を 第 三 者 に伝 え る。 友 達 の持 っ てき た 宝 物 の説 明 を 聞 き 、 そ れ を み ん な に 紹 介 す
る 。 自 分 の作 った お も ち ゃ の作 り 方 を 紹 介 。 三 つ の質 問 で 回 答 者 の持 って いる も の を 当 て る ク イ ズ 。
︻小 学 校 中 学 年 ︼
違 う 意 見 を も つ者 どう し で対 話 し 、 そ の意 見 の違 いを と ら え て 整 理 す る よ う な 対 話 を 仕 組 む 。 ま た グ ルー プ で
グ ルー プ で、 宝 の地 図 と解 説 書 を も と に相 談 し 合 って 宝 探 し を す る 等 の、 協 同 で相 談 し 合 って 解 決 し た
協同 して何 かを成し遂げ るような 活動を始 める。 例︱ り 作 り 上 げ た りす る ゲー ム ( 注 3 )。 ︻小 学 校 高 学 年 ︼
意 見 の違 う も のど う し が 対 話 し 、 違 いを 認 め つ つ妥 協 点 や統 合 点 を 見 出 そ う とす る 対 話 を 仕 組 む。 自 分 の行 っ
二項 対 立 的 な 論 題 を 立 て て 対 話 す る 。
た対 話 を 振 り 返 り 、 よ り よ い対 話 に つい て のメ タ 意 識 を 育 て る 活 動 も 合 わ せ て行 う 。 例︱
例 え ば 登 校 班 を つく って 登 校 し た ほ う が い いか 、 自 由 に 登 校 し た ほ う が い いか 等 の論 題 で、 異 な る意 見 を も つも の どう し が対 話 す る 。
対 話 は取 り 立 て指 導 単 元 を 設 け て数 回 指 導 す る よ り も 、 日常 の学 習 活 動 の中 で 頻 繁 に機 会 を 設 け 、 支 持 的 な 風
土 の中 で お互 い の意 見 を 聞 き 合 い交 わ し 合 う や り と り が 日常 的 にさ れ る ほ う が、 学 習 効 果 が あ る だ ろ う 。 学 習 者
対話 から話し合 い へ
に と って無 理 のな い質 や 程 度 の対 話 を 用意 し 、 実 りあ る 対 話 と な る よ う 配慮 し な が ら 指 導 し て いき た い。
6
話 し 合 いに 必 要 な 聞 く 話 す 力 は 、 対 話 時 に お け る そ れ の延 長 上 にあ る と 考 え ら れ る 。 対 話 にお いて は 意 識 を 向
図 2 対話 か ら話 し合 いへ の指 導 の道筋
け る 相 手 が 一人 であ る の に対 し て 、 話 し 合 い の場 合 は 複 数 の他 者 を 意 識 し て、 そ の意 見 の違 いを と ら え な け れ ば
な ら な い。 ま た 、 話 し 合 いは 目 的 や テ ー マが は っき り し て い る の で、 そ の目 的 や、 目 的 に添 った 話 し 合 い にな る
よ う 流 れ を 意 識 す る こ と も 必 要 に な る 。 タ イ ミ ング を 見 計 ら って 発 言 す る と いう よう な 意 識 で あ る 。 さ ら に、 そ
の場 に お け る自 分 の役 割 (司 会 ・構 成 員 ・記 録 係 ) も 意 識 し な け れ ば な ら な い。 話 し 合 い は 対 話 に比 べ て 複 数 の 要 素 を 同 時 に意 識 し な け れ ば な ら な い、 よ り 複 雑 な 聞 く 話 す 活 動 な の であ る 。
こ の よ う な こ と を 配 慮 し な がら 対 話 か ら 話 し 合 い へ の指 導 の道 筋 を 次 の よう に考 え て み た。 な お 各 項 目 の内 容 に つ いて は 、 図 1、 表 1 の説 明 を 参 照 し て欲 し い。
︵二︶話 し合 い の指 導 1 話 し合 い の定 義
こ こ で 扱う 話 し 合 いと は、 複 数 の人 が 協 同 し て あ る 課 題 を 解 決 し た り 、 考 え を 深 め合 う こ とを 目 的 に意 見 を 交
換 し 合 う 言 語 行 為 を 指 し 、 討 議 や 会 議 の よ う に は 改 ま って いな い段 階 のも のを 指 し て いる ︵ 注 4 ︶。
話 し 合 いを 大 き く 分 け る と、 あ る課 題 に 対 す る結 論 を 得 る た め に意 見 を 交 換 し 合 い、 合意 形 成 に 向 け て知 恵 を
出 し 合 う も のと 、 特 に結 論 は出 さ な いも の の互 い の意 見 を 出 し 合 う こ と で問 題 を 掘 り 下 げ た り 、 新 た な 発 想 を得
た り す るも のに 分 け ら れ る 。 例 え ば 、 地 球 環 境 を 守 る た め に 私 た ち は何 を す る べ き か 、 ク ラ ス の き ま り 五 箇 条 を
決 め よ う と いう よ う な 話 し 合 いが 前 者 で あ り 、 後 者 は 、 ﹁ご ん ぎ つね ﹂ を 読 ん だ 後 、 ご ん の いた ず ら は許 せ る か に つ い て考 え を 交 流 し 合 う と い った も の で あ る 。
ど のよ う な 話 し 合 いを 指 導 す る か は 、 つけ さ せ た い能 力 によ って 異 な って く る。 つま り 、 論 理 的 に物 事 を 追 求
し て いく よ う な 思 考 で話 し 合 う 力 を 育 て た い場 合 や 、 限 ら れ た 時 間 や 条 件 の中 で で き る だ け 合 意 を 得 な が ら 意 見
を ま と め て いく よう な 力 を 育 て た い場 合 は 、 前 者 のよ う な 話 し 合 いで あ ろ う し 、 相 手 の意 見 と自 分 の意 見 を 照 ら
し 合 わ せ な がら 浮 か ん でく る 自 由 な 考 え に こ そ価 値 を 置 く な ら ば、 後 者 の よう な 質 の話 し 合 いが 向 い て いる 。
両 者 の指 導 の 順序 は 、 話 し 合 いの楽 し さ を まず 体 験 さ せ る こ と で 話 し 合 いに 対 す る積 極 性 を 培 う こ と を第 一義
と す る な ら ば 、 後 者 のよ う な 話 し 合 いを ま ず 始 め る こ と が よ いの で は な いだ ろ う か。
2 学 習 者 に育 て た い話 し 合 い の能 力
話 し 合 いを 進 め て いく 能 力 を と ら え る 枠 組 み に は ど のよ う な も のが ふ さ わ し いの だ ろ う か。 話 し 合 いをう ま く
進 め る た め に は 、 グ ルー プ の メ ンバ ー 一人 ひ と り が適 切 な 行 動 や 発 言 を す る こ と が 大 切 にな る 。 集 団 の中 で協 同
性 を 発 揮 す る力 を と ら え る た め に は 、 聞 く 話 す能 力 と いう 面 か ら だ け で はす く い上 げ ら れ な い要 因 を 配 慮 し な く
て は な ら な い。 そ れ は、 一人 ひ と り が 協 同 的 な 話 し 合 いを 進 め る 際 に、 必 要 な 態 度 を も って 発 言 し て いく こ と で
あ る 。 そ こ で、 話 し 合 い の能 力 を 協 同 的 態 度 と 、 聞 く 話 す 能 力 に 分 け て と ら え て み た 。 ︵1︶ 協 同 的 態 度 具 体 的 に は、 次 の よう な 行 動 や 発 言 と し て 表 れ る態 度 であ る 。 ① 課 題 達 成 に向 け て の態 度
・課 題 に つ い て自 分 の意 見 を 考 え よ う と し 、 浮 か ん だ意 見 を 積 極 的 に 伝 え よ う と す る態 度
﹁○ ○ さ ん は どう 思 う ?﹂
・構 成 員 の意 見 を 引 き 出 そ う と す る態 度 発 言 例︱
表 1 話 し合 いの能 力 の構造 とそ の成長 段階
・意 見 を ま と め て い こう と す る態 度
発 言 例︱ ﹁話 が ず れ て る よ ﹂ ﹁二 人 の意 見 は こ こが 違 う ね ﹂ ﹁二 人 の意 見 の共 通 点 は ﹂
・いろ いろ 意 見 が 出 た時 、多 数 決 で決 めな い で妥 協 点 を 見 いだ し た り 、 統 合 でき な いか を 考 え る 態 度 発 言 例︱ ﹁ど こ が違 う か は っき り さ せ よう ﹂ ② 集 団 維 持 に 向 け て の態 度 ・み ん な が気 持 ち よ く 意 見 が言 え る よ う に 気 配 り す る 態 度
相 づ ち を 打 った り 、 な る ほ ど と 思 った こと を 伝 え た り 、 も っと 話 す よ う に促 し た り す る。 ・参 加 し て いな い ・で き て いな い人 に気 配 り す る態 度
参 加 で き な い で いる 人 を 励 ま し た り 、 関 係 な い こと を し て いる 人 に声 を かけ た り す る。 ・自 分 が言 いた いこ と だ け に と ら わ れ な い態 度
︵2︶ 聞 く話 す 能 力
話 し 合 いの能 力 を 、 聞 く 話 す 能 力 と いう 面 か ら と ら え た の が 表 1 であ る 。 こ こ に 設 け た第 一段 階 か ら 第 四 段 階
は、 段 階 があ が る に つれ て 高 度 な 思 考 操 作 が 必 要 に な る 聞 き 方話 し 方 と な って いる 。 し か し これ は そ のま ま 学 年
発 達 段 階 を 示す も の で は な く 、 小 学 校 一年 生 か ら 根 気 よ く 育 て た 場 合 は学 年 に応 じ て 高 ま って いく だ ろ う が、 そ
う で な い場 合 は 中 学 校 一年 生 で も 第 一段 階 か ら 積 み 上 げ て いか な け れ ば な ら な いと いう 性 質 のも の で あ る 。
こ の表 のう ち 、 対 話 能 力 に は な い、 新 た に 付 加 し た 項 目 に 司 会 力 が あ る 。 話 し 合 い に お け る 司会 の 役 割 は重 要
で あ る 。 こ の司 会 を う ま く 切 り 盛 り でき る 力 ︵司会 力 ︶ は、 話 し 合 いに 参 加 す る 構 成 員 と は 質 の異 な る 、 さ ら に
高 度 な 思 考 活 動 を 要 求 す る 能 力 に 位 置 づけ ら れ る。 だ か ら 、 実 際 の話 し 合 いを す る 場 合 は 、 司 会 者 は 児 童 に始 め
か ら す っか り 任 せ る こ と は 無 理 な の で、 小 学 校 段 階 では 、 話 し 合 い の流 れ を 管 理 し 整 理 す る と いう 司 会 の役 割 を
ま ず 意 識 さ せ る と こ ろ か ら 始 め た い。 つま り 、 児 童 に 司 会 を 任 せ は す る も の の教 師 が 強 力 に 導 い て、 場 合 によ っ
て は 代 行 し た り 引 き 取 った り し て 進 め るく ら い の心 構 え で臨 み た い。 そう でな いと 話 し 合 い自 体 が実 り のな いも
の に な ってし ま い か ね な い。 司会 力 は 、 ど の程 度 の 司 会 が学 校 教 育 段 階 で でき れ ば い い の か 見 定 めな が ら 、 中 学 校 高 等 学 校 段 階 ま で視 野 に 入 れ て徐 々 に育 て て いき た い。
以 上 のよ う な態 度 や 能 力 を 育 て る こと を 念 頭 に置 き、 具 体 的 な テ ー マや 場 、 話 し合 う 人 数 の規 模 を 考 え て、 話 し 合 い活 動 を 指 導 す る単 元 を つく って いき た い。
な お 、 こ の表 は 福 岡 教 育 大 学 附 属 小 倉 小 学 校 教 諭 成 重 純 一氏 ・同 小 倉 中 学 校 教 諭 加 来 和 久 氏 と 共 同 で考 案 し た も の に 今 回 新 た な 修 正 を 加 え た も ので あ る。
3 話 し 合 い指 導 の段 階
話 し 合 い の指 導 は ど のよ う な 系 統 性 を も って 積 み上 げ て いく べ き な の だ ろう か 。 こ こ で は大 ま か な 段 階 を 提 案 し て み た い。 ︻小 学 校 低 学 年 ︼
ま ず 、 学 級 全 体 で は 教 師 を 仲 立 ち に し な がら も 友 達 に向 か って意 見 を 言 う よう にさ せ 、 友 達 の 発 言 に つな い で
いく 発 言 を 心 が け さ せ る 。 そ れ によ って 相 手 意 識 を も って話 す こ と、 相 手 の話 を 理 解 し よ う と し て 聞 く 態 度 を 日
常 的 な も のに す る 。 相 互 交 流 的 な 活 動 と し て は、 対 話 を 中 心 にす る。 ペ ア で協 力 し て何 か を 成 し 遂 げ るよ う な 楽
し い活 動 を 短 い時 間 で小 刻 み に実 施 す る 。 ︻小 学 校 中 学 年 ︼
三 人 か ら 五 人 のグ ル ープ 活 動 を 中 心 に、 先 に 措 定 し た よ う な 協 同 的 態 度 を 育 て る こと に重 点 を 置 く 。 話 し 合 い
の 流 れ を 意 識 す る た め に 、 話 し 合 い の手 順 を 示 し た学 習 プ リ ント を 用 意 し た り 、 話 し 合 い の流 れ を 振 り 返 り 意 識
化す るよう な活動 ( 評 価 シー ト な ど を 活 用 し て) を 行 い、 話 し 合 い に関 す る イ メ ー ジを も た せ 、 よ り よ い話 し 合 いに つい て のメ タ 意 識 を 高 め て いく 。 ︻小 学 校 高 学 年 ︼
話 し 合 い の値 う ち を 体 感 さ せ 、 学 級 で 一体 感 を も って高 め 合 う 意 識 を 育 て る 。 よ り よ い話 し 合 い のし か た に つ い て体 験 か ら 帰 納 し つ つ意 識 化 さ せ て いく 。
以 下 の話 し 合 い の こ つ (スキ ル) は 、 筆 者 が 福 岡 教 育 大 学 附 属 小 倉 小 学 校 でよ り よ い話 し 合 い が で き る よ う に
な る こと を 目 当 て と し た 読 書 会 (五 年 生 ) の実 践 を 行 った際 に、 児 童 が考 え 出 し た も の であ る 。 ① よ く 聞 こえ るよ う に、 大 き な 声 で話 す 。 ② 聞 こ え や す いよう に話 す 。
︵ご び︶ を は っき り さ せ る。
③ 間 ︵ま ︶ を あ け て言 う 。 ④ 語尾
⑤ 聞 き 取 り やす く メ モ し や す いよう に話 す 。 ⑥ こま か く わ か り やす く 話 す 。 ⑦ 一文 を 短 く 。 。( 句 点 ) でく ぎ って話 す 。
︵ れ い︶ を 出 し て話 す 。
⑧ 結 論を先 に言う。 ⑨例 ⑩ つな ぎ 言 葉 を 使 う 。 ⑪ な る べく 話 し ぐ せを な く す 。 ⑫ 本 文 の ど こに 書 いてあ る か を 伝 え る 。 ⑬ 根 拠 ︵こ ん き ょ︶ を 入 れ て話 す 。 ⑭ 話 を つな げ て く わ し く 発 言 す る。 ⑮ 聞 い て は、 合 わ せ て話 す 。 ⑯ 人 の話 を よ く 聞 き 、 そ の意 見 を も と に発 言 す る 。 ⑰ 自 分 と相 手 の意 見 を 比 べ る。 ⑱ 無 理 矢 理 意 見 を お し 通 さ な い。 ⑲ だ れ に対 す る 賛 成 ・反 対 かを は っき り 言 っ て発 表 す る 。 ⑳ 自 分 の意 見 と み ん な の意 見 を ま と め た り関 連 さ せ る ︵ 注 5︶。
こ の よう な 話 し合 い の こ つを 実 際 に 自 分 た ち が 行 った話 し 合 いを 振 り 返 り な が ら 発 見 し 、 積 み上 げ て いく こと
は 、 構 成 員 そ れ ぞ れ が 自 分 の課 題 を 見 つめ 、 お互 い のよ いと ころ を 発 見 し あ う こと にも な る 。 ま た 共 同 で探 っ て
いく こ と が 、 学 級 で 一体 感 を も って高 め 合 う 意 識 を 育 て る こと にも つな が って いく 。
高 学 年 で は問 題解 決 に向 け て 意 見 を 調 整 し た り 合 意 形 成 し た り す る 討 論 も 始 め た い。 が 、 そ の問 題 は 、 ク ラ ス
行 事 を 決 め よ う 等 、 学 校 生 活 な ど身 近 な 所 に材 を 取 り 、 複 雑 な 要 因 を 配 慮 し て 話 さ な け れ ば な ら な いよ う な も の
は避 け る。 ︻中 学 校 前 半 ︼
場 や 構 成 メ ン バー が 一新 す る時 期 であ る。 再 び構 成 メ ン バ ー の協 同 性 を 育 て る こと から 始 め な が ら 、 表 1 の第
三 段 階 に示 し た よ う な 聞 き 方 話 し方 を 育 て る こと に重 点 を 置 き た い。 ま た 、 自 分 と は 何 か を 探 り 始 め る 時 期 であ
る の で、 一人 ひ と り の 個 性 を 大 事 に す る こ と も 大 切 で あ る。 話 し 合 いは 、 お 互 い の個 性 を よ い方 向 に結 集 す る こ と が 大 事 な の だ と いう こと を 強 調 し た い。
ま た 、 中 学 校 で は問 題解 決 に向 け て意 見 を 調 整 し た り 、 合 意 形 成 し た り す る討 論 に 力 を 入 れ 始 め た い。 ︻中 学 校 後 半・高局等 学 校 ︼
表 1 の第 四 段 階 に示 し た よ う な聞 き 方 話 し 方 を 育 て る こ と を 目 指 す 。 批 判 的 ・建 設 的 討 論 や 、 パ ネ ルデ ィ スカ ッシ ョ ン の よう な 複 数 の意 見 を 検 討 す る討 論 を 行 う 。
4 お わ り に
話 し 合 いは 人 間 の叡 智 を 結 集 さ せ て民 主 的 な 社 会 を 運 営 し て いく 上 で 不 可 欠 な 言 語 活 動 で あ る。 こ れ ま で の国
語 教 育 は、 特 に 高 等 学 校 に お いて 受 験 学 力 を つけ る こと に腐 心す るあ ま り 、 社 会 に 出 て か ら本 当 に 必要 と な る こ
の話 し 合 う 力 を 育 て る こと に無 関 心 であ りす ぎ た。 実 践 の低 迷 だ け で は な く 、 理 論 的 にも 話 し 合 いの指 導 に つ い
て の明 確 な 指 針 を 国 語 教 育 関 係 者 は いま だ に 示 し え な い で いる よ う にも 思 え る。 こ こ に述 べた 論 も そ の限 り で は
な く 、 あ く ま で 一つの提 案 にす ぎ な い。 こ の提 案 を た た き 台 に し て、 そ れ ぞ れ の教 室 で話 し 合 い の指 導 のあ り 方 が さ ら に考 究 さ れ て い って 欲 し いと 願 って いる 。
︵ 注 1 ︶ に よ る と 、 村 松 氏 は 対 話 能 力 を 育 て る 系 統 と し て次 の よ う な も のを 設 定 し て お り 、 参 考 に な る 。
︵ 続 ・学 校 G W T ︶﹄ ︵ 板 野 公 信 監 修 遊 戯 社 一九 九 四 ︶ で 提 案 さ れ て いる グ ル ー
協 働的 対話 能力
プ ワ ー ク が参 考 に な る 。
﹃ 協 力す れ ば何 かが変 わ る
中学 校︱
小学 校低 学年 ・中 学年︱ 受容 的対 話能 力 小学 校高 学年︱ 対論 的対 話能 力
注 2 村 松
注注 1 村 松賢 一 ﹃対話能 力 を育 む 話す こと ・聞 く こと の学 習︱ 理論 と実 践︱ ﹄ 明治図 書出 版 二 〇〇 一年三 月
注3
定義 がなさ れ て いる。
注 4 ﹃ 国 語教 育 研究大 事典 ﹄ ︵ 明 治 図 書 出 版 、 一九 八 八 年 ︶、 ﹃ 国 語 教育 辞 典﹄ ︵ 朝 倉 書 店 、 二 〇 〇 一年 ︶ に く わ し い
注 5 二〇〇 二年 十 一月 に筆者 が福 岡教 育大 学 附属小倉 小 学校 五年 の学 級 で試 みた実践 であ る。 この実践 は、 物語 を ね ら った も の で あ った 。 対 照 的 な 意 見 を も つ 四 人
︵ な いし 六 人 ︶ が 代 表 者 と し て前 で 意 見 を 述 べ、 お 互 い に 質
読 み 、 内 容 に つ い て の話 題 を 設 定 し て 話 し 合 う 読 書 会 形 式 の実 践 で 、 そ れ を 通 し て 話 し 合 う 力 を 育 て る こ と を
(四 つ) を 読 み、 話 題 に関 す る 自 分 の考 え を ま ず 書 き 留 め さ せ た 。 そ の内 容 を 見 て 代 表 者 を 教
問 し 合 った 後 、 全 体 で の 話 し 合 いを 行 う と いう 形 式 の読 書 会 であ る 。 学 習 材 と 話 題 は こ ち ら が 用 意 し た 。 ま ず そ れぞ れ の物語
師 が 選 ん だ 。 毎 回 、 話 し 合 い に 入 る 前 に、 話 し 合 い で が ん ば り た い こ と ︵ 自 己 の 課 題 ︶ を ワ ー ク シ ー ト に書 き
つも 書 か せ た 。 次 の話 し 合 い の前 に児 童 の 発 見 し た ひけ つを 集 約 し て 提 示 し 、 よ い話 し 合 い の し か た に つ い て
留 め 、 話 し 合 い 終 了 後 は 、 今 日 の 話 し 合 い名 人 を 選 び そ の 理 由 を 書 い た 。 話 し 合 い で 見 出 し た 名 入 にな る ひ け
の意 識 の積 み 上 げ を 図 った 。 こ の 一覧 は 、 そ こ で 児 童 が 見 出 し た ひ け つ で あ る 。 ︵ 山 元 悦 子 ﹁話 し 合 う 力 を 育
て る 学 習 指 導 の 研 究︱ メ タ 認 知 の 活 性 化 を 図 る 手 だ て を 通 し て ー ﹂ ﹃国 語 科 教 育 ﹄ 第 五 十 四 集 全 国 大 学 国 語 教育 学 会論 二〇〇 三年 三月 )
五 読む学習と連動させた学 習指導
︵一︶﹁ 読 む こ と﹂ に お け る音 読 ・朗 読 の位 置 づ け
﹃小 学 校 学 習 指 導 要 領 ﹄ ︵ 平 成 十 一年 度 版 ︶ で は 、 ﹁C 読 む こと ﹂ の内 容 に ﹁声 に 出 し て読 む こ と に関 す る指 導 事 項 ﹂ と し て 、 次 のよ う に掲 げ ら れ て いる 。
・語 や 文 と し て の ま と ま り や内 容 、 響 き な ど に つ いて 考 え な が ら 声 に 出 し て 読 む こ と。 ︵ 第 一学 年 お よ び 第 二 学年)
・書 か れ て い る内 容 の中 心 や場 面 の様 子 が よ く 分 か るよ う に 声 に出 し て 読 む こと 。 ︵ 第 三 学 年 お よ び第 四 学 年 ︶
こ の こ と に つ いて、 ﹃小 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 国 語 編 ﹄ で は 、 次 のよ う に、 読 む こ と の学 習 指 導 に お け る音 読 ・朗 読 の 位 置 と留 意 点 を 述 べ て い る。
従 来 、 ﹁朗 読 ﹂ は 表 現 領 域 に、 ﹁音 読 ﹂ は 理 解 領 域 に分 か れ て いた。 今 回 の改 訂 に お いて は 、 両 者 を 文 字 言
語 を 声 に 出 し て読 む こ と と し 、 両 者 を ﹁読 む こ と ﹂ の領 域 に ま と め 、 ﹁声 に出 し て 読 む こと ﹂ と し て位 置 付 けた。
第 一学 年 お よ び 第 二学 年 で の声 に 出 し て読 む こ と の ね ら いは 主 に 理 解 のた め と いう こ と が 中 心 と な る。
﹁語 や 文 とし て のま とま り や 内 容 、 響 き な ど に つ い て 考 え な が ら ﹂ と は、 は っき り し た 発 音 で 文 章 を 読 む ご
と が で き るよ う に す る と と も に、 意 味 内 容 が 明 瞭 に な る よ う に、 拾 い読 み で な く ひ と ま と ま り の語 や 文 と し て読 む こ と が で き るよ う に す る こ と であ る。
そ こ で、 第 一学 年 お よ び 第 二 学 年 に お いて は 、 言 語 事 項 ︵1 の︶ ア ﹁発 音 ・発 声 に関 す る 事 項 ﹂ の ﹁︵ア 姿︶ 勢、
口形 な ど に注 意 し て、 は っき り し た 発 音 で 話 す こ と。﹂ と の関 連 を 図 り な が ら 、 必 要 に応 じ て 繰 り 返 し 練 習
でき る よ う 工夫 し て指 導 す る こ と が 必 要 で あ る 。 た だ し 、 内 容 理解 がね ら い であ る ので 、 登 場 人 物 な ど の気
持 ち を 声 に出 し て 読 む際 に 、 必 要 以 上 に感 情 を 込 め て表 現 し よ う と す る な ど の読 み方 に 偏 る こと のな いよ う に留 意 し た い。
ま た、 詩 な ど の韻 文 に つ い て は、 第 一学 年 お よ び第 二 学 年 のう ち か ら 声 に 出 し て読 む こと を 積 極 的 に学 習
に取 り 入 れ る 工 夫 が望 ま れ る 。 こ れ は 日本 語 の リ ズ ム や 響 き を 大 切 にす る た め であ る 。 ︵ 第 一学 年 お よ び 第 二学年 ︶ ︵ 注 1︶
第 三 学 年 お よ び 第 四 学 年 に お いて 、 声 を 出 し て読 む こと は、 第 一学 年 お よ び 第 二学 年 と 同 様 に 、 理 解 を そ
の主 た る 目 的 とす る も の で あ る 。 ﹁書 か れ て いる内 容 の中 心 や 場 面 の様 子 が よ く 分 か る よ う に 声 を 出 し て 読
む こ と。﹂ に お け る ﹁よ く 分 か る よ う に ﹂ と は、 自 分 でも 内 容 が よ く 分 か る よ う に 読 む と いう こ と であ る 。
﹁中 心 や 場 面 の様 子 が よ く 分 か る ﹂ と いう こ とも 、 区 切 り 目 や 大 事 な 言 葉 が 明 瞭 に表 さ れ て いる と いう こ と
であ り 、 十 分 な 理 解 が 前 提 と な るも の であ る。 理 解 す る こと が目 的 と な る の で、 大 げ さ な 抑 揚 や 必 要 以 上 の 感 情 を 込 め た 表 現 には 留 意 す る よ う に し た い。
ま た、 相 手 意 識 や 目 的 意 識 を も ち な がら 、 言 語 事 項 ︵1 の︶ ア ﹁発 音 ・発 声 に 関 す る事 項 ﹂ の ﹁︵そ アの ︶場 の状
況 や 目 的 に 応 じ た適 切 な 音 量 や 速 さ で 話 す こと 。﹂ と 関 連 付 け る と と も に 、 自 分 の声 を 自 分 で聞 き な が ら 声
に 出 し て読 む 習 慣 を 付 け た り 、 他 の人 に聞 いて も ら った りす る な ど、 聞 く と いう こと を 意 識 でき る よ う に 工 夫 し て指 導 す る こ と が 望 ま し い。 ︵ 第 三 学 年 お よ び第 四学 年 ︶ ︵ 注 2︶
音 読 ・朗 読 を ﹁声 に出 し て読 む こと ﹂ と く く り 、 内 容 理 解 を主 た る ね ら いと し て ﹁読 む こと ﹂ に位 置 づ け て い る ので あ る。
声 に 出 す と いう 言 語 活 動 は 、 そ の活 動 の姿 は﹁ 話 す こ と ﹂ と 同 じ で あ る。 ﹁読 む こ と ﹂ に お い て声 に 出 す と い
う 言 語 活 動 が、 そ こ で つま ず く こ と な く 行 わ れ る た め には 、 ﹁は っき り し た発 音 で文 章 が 読 め ﹂ た り 、 ﹁ひと ま と
ま り の語 や 文 と し て読 む ﹂ こ と が で き た り、 ﹁抑 揚 ﹂ や ﹁感 情 を 込 め た 表 現 ﹂ を 適 度 に行 え た り 、 適 切 な ﹁音 量 ﹂ や ﹁速 さ ﹂ で話 せ る こ と な ど の学 習 指 導 が必 要 と な る 。
︵二︶小学生 の音読 ・朗読 の実態
秋 田 ・大 阪 ・佐 賀 に お け る 小 学 校 六 年 生 の 音 読 ・朗 読 の実 態 に つ い て の調 査 報 告 に よ れ ば 、 次 のよ う な 実 態 が 明ら か に さ れ て いる 。
1 テ ンポ が 速 過 ぎ る こと や 、 ポ ー ズ が多 過 ぎ て ぶ つ ぶ つ切 れ た 感 じ に な る こと 、 ま た 、 音 声 パ ワー の出 方 が
滑 ら か でな いな ど の音 読 の問 題 点 が 認 め ら れ た。 し か し 、 こ れ ら の問 題点 は 、 呼 吸 と 発 声 の基 礎 的 な 訓 練 に
よ って 一息 で音 読 で き る 分 量 を 増 や し 、 音 読 の繰 り 返 し によ って 眼 声 距離 こ と に よ って 克 服 可 能 な も の で あ る 。
︵アイ ・ボ イ ス ス パ ン︶ を 伸 ば す
2 強 調 し た い所 を 強 め て 言 う な ど 、 強 弱 を つけ る 程度 の知 識 は あ る が、 音 声 表 現 を 豊 か にす る た め のそ の他
の知 識 ・技 術 ︵テ ンポ 、 イ ント ネ ー シ ョ ン、 プ ロミ ネ ン ス、 ポ ー ズ 、 フ レー ジ ング 等 ︶ は、 あ ま り 身 に つ い て いな いこ と が 予 想 さ れ る 。
3 漠 然 とし た 聞 き 手 意 識 はあ る が 、 ど のよ う に音 読 ・朗 読 す る こ と に よ って、 聞 き 手 に ど のよ う な 感 じ や イ メ ー ジを 起 こさ せ る か の知 識 や 技 術 も 不 足 し て いる よ う であ る 。
4 小 学 校 6 年 生 の音 読 の実 態 と し て、 さ ま ざ ま な 問 題 点 が あ る こ と も 確 かな よう だ が、 秋 田 市 の小 学 校 6年
生 のす ぐ れ た 音 読 が 示 す よ う に 、 仮 に、 小 学 校 6 年 生 の音 読 ・朗 読 の レ ベ ル が 低 いと いう 実 態 があ る と す れ ば 、 そ れ は 音 読 ・朗 読 指 導 の不 在 に よ る も の と推 測 さ れ る。 ︵注 3 ︶
こ の調 査 で は 、 声 に 出 し て読 む 活 動 を 支 え る呼 吸 ・発 声 の基 礎 訓 練 、 音 声 表 現 技 術 に つ いて の知 識 ・技 術 の 不 足 、 音 声 言 語 技 術 の効 果 に つ いて の知 識 ・技 術 の不 足 が指 摘 さ れ て いる 。
こ の調 査 で指 摘 さ れ て い る音 声 表 現 技 術 に関 し て いえ ば、 例 え ば ア ナ ウ ン ス の基 礎 に つ い て 一般 向 け に書 か れ
た書 物 に は 、 次 に掲 げ る こ と が ﹁読 ん で 伝 え る﹂ と き のポ イ ント と し て 取 り 上 げ ら れ て いる 。
1 読 ん で伝 え る と き 、目 指 す のは 、自 然 で、 わ か り やす く ﹁意 味 のと お り に話 す よ う に読 む﹂ こ と です 。 決 し
て明 瞭 な 発音 でト チ ら な いけ れ ども 、 意 味 が 伝 わ り にく い ﹁単 語 強 調 の読 み﹂ や ﹁流 し読 み﹂ で は あ り ま せ ん。
2 文章 の意 味 を 正 確 に 伝 え る た め に は、 語句 、 文 、 段 落 の意 味 の つな が り が わ か る よ う に音 声 化 す る 必 要 が あ ります。
文 の意 味 に関 係 な く 、 自 分 の息 で 音 読 す る の で は、 意 味 の つな が り は わ か り ま せ ん 。 ど こま でも 、 意 味 の つな が り に息 を 合 わ せ る の です 。
3 意 味 のと お り に 読 むう え で、 も う ひと つ心 得 てお か な く て はな ら な い の は 音 の高 低 の使 い分 け です 。 音 の
高 低 で意 味 が変 わ ってし まう か ら で す 。 音 の高 低 に は 三 つの要 素 が あ り ま す 。 ア ク セ ント 、 イ ント ネ ー シ ョ ン、 プ ロミ ネ ン ス ︵ 卓 立 ︶ の三 つです 。
4 だれ で も 、 話 す と き 、 文 節 の切 れ 目 や 息 継 ぎ のた め に 間 ︵ ポ ー ズ ︶ を と って いま す 。 間 も こ と ば の ひ と つ
で す 。 語 り 手 の 工 夫 で、 意 味 の伝 達 を 効 果 的 にす る た め に 、 必 要 に応 じ て、 長 く と った り 、 短 く し た り 、 時
に は 、 同 じ 間 を 続 け て と った り 、 ま った く と ら な か った り し ま す 。 工 夫 す る場 合 で大 事 な こと は、 聞 き 手 の 理 解 を 助 け る た め の間 です 。
5 読 む 速 度 を 変 え る こと で、 大 事 な と ころ を 際 立 た せ て表 現 す る こ と が でき ま す 。 際 立 た せ た い単 語 や 文 を
ゆ っく り 読 ん で強 調 し ま す 。 ニ ュー ス の ﹁見 出 し ﹂ を 本 文 に 比 べ て少 し ゆ っく り 読 ん だり 、 初 め て出 て く る
固 有 名 詞 な ど 重 要 な 意 味 を も って い る単 語 を 前 後 の こと ば よ り ゆ っく り 丁 寧 に読 ん だ り し て 強 調 し ます 。
さ ら に、 速 度 は間 と 同 じ よ う に 口調 を つく る重 要 な 要 素 の ひ と つです 。 速 い遅 いで 、 明 る く 活 発 に聞 こえ た り、 ゆ った り と 落 ち着 い た調 子 に 聞 こ え た り す るも の です 。 ︵ 注 4︶
こ のよ う な ﹁伝 え る 読 み﹂ の力 は 家 庭 で の音 読 練 習 や 子 ど も の自 力 だ け で は伸 び な い。 国 語 科 の 授 業 の中 で 声
に出 し て 読 む こ と を 通 し て 、 こ のよ う な 音 声 表 現 に つ いて の知 識 ・技 術 を 意 図 的 ・計 画 的 に育 て た い。
︵三︶ 音 読 ・朗 読 のカ リ キ ュラ ム の 一試 案
こ の よう に み て く る と、 読 む 学 習 の中 で音 読 ・朗 読 を 小 学 校 段 階 で ど の よう に指 導 す る か 、 そ のカ リ キ ュラ ム
が 必 要 と な る。 いま 、 そ の試 案 とし て作 成 さ れ た も の のう ち 、 宮 地 裕 ・中 西 一弘 ・栗 原 一登 氏 ら の作 成 に か か
・場 面 の様 子 や 人 物 の気 持 ち が 伝 わ る よう に、 符 号 や 文 末 表 現 の読 み方 を 工 夫 し て 読 む︱ ﹁ダ ッシ ュ︱ ﹂ の読 み方 を 意 識 さ せ る。
あ ﹂ を 少 し 強 め に読 む な ど。 詩 の全 体 に つ いても 、 大 き さ を 考 え る。
・声 の大 き さ や 強 め方 に 注 意 し て 読 むー ﹁あ あ い いに お いだ。﹂ の 全 体 を ゆ っく り と読 み、 ﹁あ
さ を と れ ば い いか を 考 え る。
・読 む 速 さ や 間 の取 り 方 を 工 夫 し て読 む︱ 行 の中 の言 葉 、 行 と 行 と の中 で、 ど の よ う な 間 と 速
を 表 す 言葉 に注 意 し て 、 少 し 調 子 を 変 え て読 む。
・声 の大 き さ や 調 子を 工 夫 し て読 む︱ そ の場 面 の様 子 が よ く わ か る よ う に 、 色 や に お い、 状 況
る。
・会 話 文 と 地 の文 と の読 み分 け を 工 夫 し て 読 む︱ 地 の文 か ら 、 会 話 文 の 読 み 方 の ヒ ン ト を 得
るも の ︵ 第 四 学 年 ︶ を 次 に 掲 げ る ︵注 5︶。
白 い ぼう し
春 の歌 ー 詩 ー
一つの 花
る と い い。
・会 話 文 の読 み方 を 工 夫 さ せ る た め に 、 地 の文 の な い会 話 文 に つ いて は 地 の 文 を 付 け 加 え さ せ 両 者 と も 、 ク ラ イ マ ック ス の場 面 を 取 り 上 げ る 。
と びこめ
ご ん ぎ つね
体を守 る皮 ふ
・場 面 の様 子 や 人 物 の気 持 ち の変 化 が 伝 わ る よ う に 読 む 速 さ を 工 夫 し て読 む ー 冒 頭部 の平 穏 な 甲 板 の様 子 を 描 い た部 分 、 マ スト の上 で ゆ ら ゆ ら し て い る息 子 を 見 た船 長 の衝 撃 、 と っさ の
判 断 と 決 行 と い った変 化 に富 む 場 面 を 、 ど のよ う な速 さ で読 む と い いか 工 夫 さ せ る 。 転 調 の 学 習。
マ スト を 駆 け 登 る こ と に な る、 猿 と 船 長 の息 子 と速 い動 き を 表 す 部 分 の音 読 も 、 速 さ を 考 え さ せ る の に、 適 し て いる 。
る部 分 ︵ ﹁じ っと のぞ いて み ま し た﹂ か ら 、 あ ま り 大 き な 声 に な ら な いよ う に、 声 を お さ え
・場 面 の様 子 や 人 物 の気 持 ち が表 れ る よ う に 工 夫 し て音 読 す る。︱ 兵 十 の は り き り 網 で 漁 を す て読 む 。︶ の論 理 的 な 推 理 を 音 読 で 表 す 。︶
穴 の中 で ご ん が 後 悔 す る 部 分 ︵﹁ち ょ っ、 あ ん な いた ず ら し な け り ゃ よ か った。﹂ に 至 る ご ん 夜 の場 面 で 二 人 の話 し を 聞 く 部 分 を 役 割 分 担 し て読 む。
の で間 の取 り 方 に 、 いく つか 用 意 す る 必 要 が あ る 。
・文 と文 、 段 落 と 段 落 のあ いだ の間 の 取 り 方 に気 を つけ て 読 む︱ 行 あ き の構 成 法 を 使 って い る ・指 示 語 や 接 続 語 、 文 未 の読 み 方 な ど に 注 意 し て 読 む。
こ の カリ キ ュラ ム 試案 で は 、 先 に み た音 声 言 語 技 術 を 読 む 学 習 の中 に 位 置 づけ て 、 ﹁1 文 字 ・語 ︵ 句 ︶ に着
目 し て お こな う 発 音 ・読 み方 の学 習 ﹂、 ﹁2 文 の単 位 でー 意 味 のま と ま り ・息 づ か い の区 切 り に注 意 し てー お こ
な う 読 み方 の練 習 ﹂、 ﹁3 文 章 を 対 象 とす る 読 み方 の学 習 。 こ の場 合 が教 材 化 の中 心 部 を な す ﹂ と いう 語 ︵ 句︶
レ ベ ル ・文 レベ ル ・文 章 レ ベ ル の三 つの レベ ルを ﹁教 材 化 の観 点 ﹂ と し て 設 定 し て いる 。 こ こ では 、 声 に 出 し て
読 む 活 動 を 支 え る 読 み手 の表 現 技 術 のう ち、 意 味 のま と ま り ・息 づ か いに つい て は 、 文 レ ベ ル に位 置 づ け ら れ、 練 習 学 習 が想 定 さ れ て いる よ う で あ る 。
こ の試 案 のう ち 、 主 と し て ﹁読 む 学 習 ﹂ に 関 連 す る の は、 ﹁3 文 章 を 対 象 と す る 読 み方 の学 習 ﹂ で あ り 、 次 に掲 げ る こ と が 留 意 点 と し て述 べら れ て いる ( 注 6 )。
︵1︶ 作 品 の全 部 を 取 り 上 げ る の で はな く、 そ の 一部 分 に 限 る こと が多 い。 そ の方 が 、 緊 張 を 求 め る音 読 ・朗 読 の教 材 と し て は、 適 し て いる 。
︵2︶一部 分 で はあ って も 、 作 品 の全 体 構 造 を ふ ま え た読 み 方 にな る。 む ろ ん、 取 り 上 げ た 部 分 の全 体 構 造 は 十 二 分 に考 慮 さ れ な く て は な ら な い。
︵3︶ 音 読 ・朗 読 の た め に お こ な う の は む ろ ん で は あ る が 、意 味 構 造 と 不 可 分 の関 係 に あ る の だ か ら 、 選 択 す る
部 分 は作 品 理 解 に な く て は な ら な い部 分 の はず であ る。 そ こ が 明 ら か にな る よ う に音 読 ・朗 読 学 習 を 展 開 さ せ る。
こ の試 案 では 教 科 書 教 材 に 即 し な が ら 教 科 書 を 活 用 す る 立 場 で、 カ リ キ ュラ ム化 が図 ら れ て お り 、 ま た、 作 品
の全 部 を 取 り 上 げ る の で はな く 、 作 品 理 解 にな く ては な ら な い部 分 を 取 り 上 げ て声 に出 し て読 む こと の指 導 を 展 開 す る と いう 立 場 が 明 示 さ れ て い る。
読 む 学 習 と 連 動 さ せ る 学 習 指 導 に お い て は、 た だ 声 に出 し て読 む と いう 活 動 を 設 定 す れ ば い いと いう ので は な
く 、 作 品 形 象 への ア プ ロー チ に おけ る プ ロセ ス に必 要 な 活 動 と し て 位 置 づ け る と いう 、 実 践 に 即 応 す る ﹁教 材
化 ﹂ が構 想 さ れ て いる 。 読 む 学 習 と連 動 さ せ る話 し 言 葉 の学 習 指 導 を 考 え る時 、 そ の 活 動 が作 品 の意 味 構 造 の理
解 に結 び つく も のと し て機 能 す る こ と は むろ ん で あ る が、 さ ら に は 学 習 者 自身 の 日頃 の音 声 表 現 を 振 り 返 ら せ、
内 省 と 表 出 の試 みを 促 す も の で あ る こ と が 求 めら れ る 。
四 音 読 ・朗 読 指 導 の 実 際
さ て 、 音 読 .朗 読 、 さ ら に は 群 読 と い った 声 に 出 し て 読 む こ と と 読 解 と の関 連 的 指 導 に つ い て、 ﹁物 語 ﹂ と の
場 合 に お い て、 大 友 み どり 氏 は、 指 導 の実 際 を ① 会 話 文 の音 読 、 ② 動 作 化 と 音 読 、 ③ 劇 化 と 音 読 、 ④ 役 割 読 み、 ⑤ 群 読 に 整 理 し て 、 次 の よ う な 事 例 を 提 示 し て い る ︵ 注 7 ︶。
① 会 話 文 の音 読
子 供 た ち は、 物 語 を 読 む と き 登 場 人 物 と 一体 と な り 、 情 景 の中 に 入 り 込 ん だ り、 出 来 事 と 向 か い合 った り す
る 。 そ の登 場 人 物 の会 話 文 を 取 り上 げ 、 どう 音 声 表 現 す る か を 工 夫 す る こ と は 、 登 場 人 物 の心 情 を 考 え る こ と に
つな が る 。 声 の大 き さ、 話 し 方 のテ ンポ 、 イ ント ネ ー シ ョン、 視 線 、 表 情 な ど の 工 夫 を 通 し て 、 そ の時 の登 場 人 物 の心 や 状 況 を 表 現 す る こと にな る のだ 。
例 え ば 、 ﹁わ ら ぐ つ の中 の神 様 ﹂ で は 、 次 の マサ エと お ば あ ち ゃ ん の 会 話 文 を どう 音 読 す る か で、 二 人 の わ ら ぐ つに 対 し ても って い る感 情 の違 いを 表 現 す る こ と が で き る 。
﹁そ う い っ た も ん で な い さ 。 わ ら ぐ つ は い い も ん だ 。 あ っ た か い し 、 軽 い し 、 す べ ら ん し 。 そ う そ う 、 そ れ に 、 わ ら ぐ つ の 中 に は 神 様 が いな さ る で ね 。﹂
﹁わ ら ぐ つ の 中 に 、 神 様 だ っ て 。﹂
さ ら に お ば あ ち ゃ ん の話 を 聞 き 終 え た後 の会 話 文 か ら 、 マサ エの気 持 ち の変 化 を 読 み取 る こと が で き る 。 前 半 と
後 半 の マサ エの話 し 方 の違 いを意 識 す る こと で、 マサ エの精 神 的 な 成 長 を 読 み 取 る こ と も でき る。 ② 動作 化と音読
低 学 年 の子 供 たち は 、 動 作 化 が 大 好 き で あ る。 物 語 の 一部 分 を 音 読 し な が ら 動 作 化 す る と 、 子供 た ち は 一気 に 物 語 に入 り 込 ん でし ま う 。
一、 二 、 三 。﹂
例 え ば、 ﹁く じ ら ぐ も ﹂ では 、 ﹁天 ま で と ど け 、
と 、 み ん な で手 を つな い で輪 に な り 、 ジ ャ ンプ し な が ら 大 き な 声 で音 読 を 繰 り 返 せ ば、 気 持 ち はも う 雲 のく じ ら に 飛 び乗 っ て い る。 ︵ 中略 ︶ ③ 劇 化と音読
動 作 化 と 同 様 に劇 化 も 子供 た ち の好 む 学 習 形 態 であ る。 役 にな り き って表 現 し よ う と 一生 懸 命 に な る。 演 じ て
いる 友 達 に も 注 目 し 、 自 分 も や り た いと 主 張 す る 。 劇 化 を 通 し て全 身 で物 語 を 味 わ いリ ズ ムを 体 感 し て いく 。
一年 生 の ﹁大 き な か ぶ﹂ で は 、 体 の大 き さ や声 の高 さ か ら 、 班 ご と に お じ いさ ん ・お ば あ さ ん ・ま ご ・犬 ・ね
こ ・ね ず み の役 を 決 定 す る話 し 合 いを 子 供 た ち に 委 ね る と お も し ろ い。 お お き な か ぶ に 見 立 て た も のを 、 ナ レー タ ー 役 の音 読 に合 わ せ て、 ﹁う ん と こ し ょ 、 ど っ こ い し よ 。﹂
と 声 を 合 わ せ て力 一杯 引 っ張 る こと の繰 り 返 し を 、 ク ラ ス み ん な で楽 し む こ と が でき る。 劇 を 楽 し む 中 で、 物 語
の繰 り 返 し のリ ズ ム に気 付 き 、 声 を 合 わ せ る 中 で、 力 を 合 わ せ て 仕 事 す る 喜 び に も 気 付 いて いく 。 ︵ 中略 ︶ ④ 役割 読 み
物 語 の登 場 人 物 や 語 り を 分 担 し て 役 割 読 み を 取 り 入 れ た い。 動 作 化 も劇 化 も し な い が、 中 学 年 以 上 の子 供 た ち
は 、 役 割 を 分 担 す る話 し 合 いの中 で、 登 場 人 物 の 人柄 や 気 持 ち を 読 み 取 って いく。 ま た、 班 ご と に 役 割 読 み の練
習 の際 に どう 表 現 し た ら よ い のか 話 し 合 い、 必 然 的 に 正 確 な 読 解 も 要 求 さ れ て いく 。 登 場 人 物 の 読 み だ け で な
く 、 語 り の重 要 性 に気 付 き 、 間 の取 り 方 ・強 弱 ・明暗 ・テ ンポ な ど 情 景 や 心 情 表 現 を 大 き く 左 右 す る も の と し て 工 夫 し て いく よ う に な る 。
四 年 生 の ﹁ガ オー ッ﹂ で は、 百 獣 の王 と し て威 厳 を 保 と う とす るラ イ オ ン と、 心 と 裏 腹 に 振 る舞 う ク ロヒ ョウ
の関 係 を 、 動 物 園 を 訪 れ た 幼 稚 園 児 と 語 り が 引 立 て て いく 役 割 読 み が で き る。 ど の役 も 設 定 が 明 確 で表 現 し やす
い の で、 子 供 た ち も す んな り と 役 にな り き れ る 。 最 後 に、 班 ご と の 発 表 会 を 開 き 、 互 い の 役 割 読 み を 聞 き 合 う と 、 表 現 の 工 夫 を 確 か め 合 う こ と も でき る。 ︵ 中 略︶ ⑤ 群読
物 語 の音 声 表 現 に群 読 を 取 り 入 れ 、 声 を 響 き 合 わ せ る 楽 し さ と 、 共 に 一つ の表 現 を 作 り 出 す 喜 び を体 験 さ せ た
い。 物 語 の ど の部 分 を 群 読 にす る か を 選 び、 ど う 響 き 合 わ せ る のか を 話 し 合 い、 音 声 表 現 を 聞 き 合 って 作 り 出 し て いく 活 動 であ る 。
二 年 生 の ﹁スイ ミー ﹂ で は 、 明 る く 輝 く 場 面 、 ま ぐ ろ が 襲 いか か る 場 面 、 元 気 を 取 り 戻 す 場 面 、 一生 懸 命 考 え
る場 面 、 そ し て 力 を 合 わ せ てま ぐ ろ を 追 い出 す 場 面 と そ れ ぞ れ め り は り を つけ 、 一人 で ・二 人 で ・グ ルー プ で ・
全 員 で と 読 み分 か ち と 読 み 担 いを 話 し 合 い、 強 弱 や 速 さ を 工 夫 し た い。 群 読 練 習 で精 一杯 声 を 出 し 、 スイ ミ ー と と も に ま ぐ ろを 追 い出 す 充 実 感 を 味 わ う こ と が でき る。
こ こ に は 、 ﹁物 語 ﹂ を 教 材 と し て の音 読 ・朗 読 ・群 読 の活 用 の実 際 が 述 べら れ て い る が 、 作 品 の読 み を 音 声 を
通 し て 学 習 者 に ど のよ う に し て 成 立 さ せ る か、 そ の代 表 的 な 扱 い方 が ま と め ら れ て いる 。
ま た 、 話 し 言 葉 の指 導 と結 び つ いた 音 読 指 導 を 目 指 し た 事 例 と し て は、 高 梨 敬 一郎 氏 が 指 導 し た 説 明 文 ﹁あ な た は だ あ れ ﹂ を 、 田 中 俊 彌 氏 が 分 析 し た も の を あ げ る こ と が でき る 。
こ の説 明 文 指 導 の最 終 段 階 に お いて 、 次 の よう に 指 導 が 展 開 さ れ て い る。 田 中 氏 は ﹁話 し こ と ば の指 導 と 結 び
つ いた 音 読 指 導 ﹂ ︻ 音 読 の基 本 を 自 覚 さ せ 、 そ の技 術 を 向 上 さ せ る 指 導 ︼ と し て、 ま と め て いる 。 そ の指 導 の実 際 は、 次 のよ う で あ る ︵ 注 8 ︶。
43 45
高 梨: あ の ね 、 い い か 、 も う ち ょ っ と う ま く な ろ う か 。 う ま く な る っ て 、 変 な 言 い方 だ な あ 。 私 た ち は 、 さ ま ざ ま な 人 と の つ な が り の 中 で 生 活 し て い ま す 。 * 一定 の 速 度 で 平 板 に 音 読 す る さ っき 、 ︵ 塚 田 く ん が ︶ ﹁お は よ う ご ざ い ま す ﹂ っ て 言 っ た の と 似 て な い ?
︵ 正 木 さ ん は 、 ﹁お は よ う ご ざ い ま す ﹂ と 二 度 く ち ず さ み 、 読 み 分 け て い る 。︶
44: 10
﹁生 活 し て いま す 。﹂ の 部 分 よ り も 遅 く 読 む 。︶
ね 、 そ う す る と 、 ﹁わ た し た ち は ﹂ ね 、 ﹁い ろ ん な ひ と の つ な が り の 中 で 生 活 し て い ま す 。﹂ ︵﹁つ な が り の中 で﹂ の部 分 を そ う いう ふ う に 思 っ て 、 こ れ 読 ん で ご ら ん な さ い 。 T 私 た ち は 、 さ ま ざ ま な 人 と の つ な が り の中 で 生 活 し て い ま す 。 高 梨 .う ん 、 そ れ で ?
T そ し て 、 そ の と き ど き に 、 い ろ い ろ な よ び 方 で 、 人 を よ ん だ り 、 人 か ら よ ば れ たり し ま す 。 44: 17
高 梨 う ん 。 あ の ね 。 正 木 さ ん わ か っ た か な 。 難 し い ん だ け ど ね 、 さ っ き は ね 、 ﹁そ の と き ど き に 、 い ろ い
ろ な よ び 方 で 、 人 を よ ん だ り 、 人 か ら よ ば れ た り し ま す 。﹂ っ て 、 お ん な じ ス ピ ー ド で 言 っ て た の 。
〓 田 く ん な 、 い ま は ね 、 ﹁そ し て 、 そ の と き ど き に 、 い ろ い ろ な よ び 方 で 、 人 を よ ん だ り 人 か ら よ ば
︵ 笑 い︶
め て 会 った と き い った ら、 こ の お や じ な ん だ と 思 う で し ょ ?
わ か る ? ﹁〓田 く ん 、 こ ん に ち は 。﹂ (平 板 に 同 じ よ う な ス ピ ー ド で 読 む ) っ て 、 ぼ く が 今 日 は じ
こ ん に ち は 。﹂ ︵ 普 通 に 話 す ︶ っ て 言 った ら 、 そ う は 思 わ な い で し ょ う 。
じ よ う な ス ピ ー ド で 読 む ︶ っ て 言 わ れ た ら 、 バ カ に さ れ た み た い に 聞 こ え る で し ょ う 。 ﹁正 木 さ ん 、
ぼ く た ち 、 こ う 会 話 し て る で し ょ う 、 お 話 し て る で し ょ う 。 ﹁正 木 さ ん 、 こ ん に ち は 。﹂ ︵ 平板 に同
れ た り し ま す 。﹂ っ て ね 、 そ れ ぞ れ が 少 し ず つ ス ピ ー ド が 変 わ っ て き た の 。
児童
M お や じ と は 思 わ な いけ れ ど 。
高 梨 ぅ う ん ? バ カ に さ れ て る よ う に 思 う 。 だ け ど 、 ﹁〓田 く ん 、 こ ん に ち は 。﹂ っ て 普 通 に 言 っ た ら 、
﹁こ ん に ち は 。﹂ っ て 言 っ て く れ る で し ょ う ?
ね 。 そ う いう ふ う に、 普 通 に、 私 た ち が お友 達 や 先 生 や お 父 さ ん お 母 さ ん と 話 し て い るよ う に 、こ
れ が 読 め る よ う に な っ て く る と 、 も っと も っ と 読 む の が 楽 し く な っ て き ま す よ 。
こ の指 導 から 、 田 中 氏 は 次 のよ う に 音 読 の技 術 指 導 に つ い て述 べて いる。
音 読 は 、 書 か れ たも のを 読 む と いう こ と で、 どう し て も 文 字 を 含 め た テ ク スト のあ り よ う に ひき ず ら れ てし ま
い、 普 通 に話 す よ う に 読 も う と し て も な か な か 読 め な いも の で あ る 。 そ う いう 意 味 で、 高 梨 氏 も 指 摘 し て い る よ
う に 、 こ の こ と は た い へん 高 度 な こと であ り 、 そ れ 相 当 の技 術 を 必 要 と す る 。 だ か ら 、 こう し た 技 術 指 導 は、 音
読 の基 本 す な わ ち 自 然 な イ ント ネ ー シ ョ ン にも と づ く 音 読 が相 手 に伝 わ る 音 読 と な り 、 そ れ は 文 章 の内 容 や意 味
構 造 を 正 し く 理 解 し な け れ ば 成 立 し な いも の であ る と いう 自 覚 が あ り、 そ れ 相 当 の音 読 の基 礎 が で き て いな け れ
ば無 理 であ り 、 か え って そ う し た 技 術 指 導 は 、 音 読 は むず か し いも のと いう 印 象 を あ た え か ね な い。 も ち ろ ん 、 指 導 者 は 、 一度 は そう いう 段 階 を 経 な け れ ば な ら な い。
要 す る に、 大 切 な こと は、 学 習 者 の 発達 段 階 に 即 し な が ら 、 音 読 す る こ と が、 本 文 の意 味 ど お り に 音 読 す る こ
と が ま す ま す 好 き にな る よ う な指 導 を 目 指 し て いく こ と こ そ が 、 指 導 の根 幹 に据 え ら れ な け れ ば な ら な いと いう こ と であ る。 技 術 指 導 は 、 そ のた め にあ る こ と を忘 れ て は な ら な い。 ( 注 9)
こ の指 導 か ら も う か が え る が、 指 導 者 が 自 然 な 読 み ぶり を 学 習 者 の面 前 で 示範 し つ つ、 学 習 者 に 耳 か ら そ のあ
り よ う を 伝 え る こ と が で き る こと が指 導 者 に求 め ら れ て いる。 学 習 者 への モ デ ルと し て、 指 導 者 の読 み ぶ り が 示 さ れ る こ と が 望 ま し い。
︵五︶お わ り に
以 上 、 声 に 出 し て読 む こと のう ち 、 音 読 を 主 と し て 取 り 上 げ た 。 読 む 学 習 に お い て、 音 読 が 文 字 言 語 の音 声 化
の正 確 さ の み を み る た め でな く 、 そ こ で ど のよ う な 音 声 言 語 技 術 と そ の習 得 への 志 向 を 育 ん で いく のか に つ い て、 見 通 し を つけ つ つ、 臨 む よう であ り た い。
国 語 の授 業 で学 習 者 が 音 読 を 指 名 さ れ て 読 む と き 、 緊 張 し な い学 習 者 は いな い。 声 も 小 さ く な った り 、 読 み 誤
った り す る こと も あ ろ う 。 そ の こと を咎 め た り す る の で は な く 、 教 師 や 他 の学 習 者 に いら ぬ 気 遣 いや 心 配 を し た
りす る こ と のな いよ う な 雰 囲 気 の中 で、 声 を 発 す る こと が心 安 く で き る 環 境 作 り も 大 切 な こと であ ろ う 。
付記
読 む 学 習 と 連 動 さ せ た 学 習 指 導 に つ いて 、 こ れ ま で にも さ ま ざ ま な 指 導 の 工夫 が 報 告 さ れ て い る が 、 こ れ に つ いて は ま た別 の機 会 に 記 し た い。
注 1 文部省 ﹃ 小 学校 学 習指導 要 領解 説 国 語 編﹄ 東洋 館出 版社 一九九 九 年五 月三 一日 四 四頁
注
注 2 注 1 に 同 じ
︵ 八 ○ ∼ 八 一頁 ︶
注 3 北 条 常 久 ・白 石 寿 文 ・余 郷 裕 次 ・牧 戸 章 ﹁3 地 点
︵ 秋 田 ・大 阪 ・佐 賀 ︶ に お け る 小 学 校 6 年 生 の音 読 ・朗 読
注 5 ﹁小 学 校 に お け る 音 読 ・朗 読 カ リ キ ュラ ム 試 案 A︱ 宮 地 裕 ・中 西 一弘 ・栗 原 一登 案 ﹂ ﹃国 語 教 育 に お け る 音
の実 態 調査 ︵1︶﹂ ﹃ 国 語 教育 におけ る音声 教育 の方策 に関す る研究﹄ ︵ ﹃日本 語音 声﹄ 総括 班 刊行書 ︶宮 地 裕、 中 西 一弘編 一九九 一年 三月 三四八 頁 注 4 半 谷進彦 ・佐 々木瑞 ﹃ 基 礎 から学 ぶアナ ウ ン ス﹄ 日本放 送 出版 協会 二〇 〇〇年 十月 二五 日 六 六 ∼八四 頁
( 三 〇八 頁)
声教 育 の方 策 に関す る 研究 ﹄ (﹃日本 語 音声 ﹄ 総括 班 刊行 書 )宮 地 裕、 中 西 一弘 編 一九 九 一年 三 月 三 〇五 ∼三〇 六頁 注 6 注 5 に 同 じ
二三 二∼ 二三三 頁
注 7 大 友 みどり ﹁物 語 と音 声 言語 の指導 ﹂ ﹃音声 言 語 指導 大事 典 ﹄ ︵ 高 橋 俊 三 編︶ 明治 図書 出 版 一九 九 九 年 四月
︵一八 二 頁 ︶
聞 き 方 の練 習 学 習 小 学 3 年 ﹄ ︵ 中 西 一弘 ・竹 内 啓 二 編 ︶ 明 治 図 書 出 版 一九 九 六 年 十 一月 一八 ○ ∼ 一八 一
注 8 高 梨 敬 一郎 ・田 中 俊 彌 ﹁物 語 文 ﹃ち いち ゃ ん の か げ お く り ﹄ と 説 明 文 ﹃あ な た は だ あ れ ﹄ の 指 導 ﹂ ﹃話 し 方 ・
頁 注 9 注 8 に同じ
六 話 し 言 葉 の育 ち を 評価 す る と いう こ と
与 え ら れ た 標 題 に沿 え ば 、 本 節 で論 じ な け れ ば な ら な い の は 、 ﹁評 価 す る と いう こと ﹂ に つ いて であ る 。 し か
し 、 こ こ で、 多 く の国 語 教 室 が 看 過 し て いる 一事 が あ る 。 ﹁評 価 す る と いう こ と ﹂ が 教 室 の学 習 と し てあ る た め
に は 、 そ の前 提 と し て 、 評 価 す る に 値 す る ﹁話 し 言 葉 の育 ち ﹂ を 国 語 教 室 が具 現 し て いな け れ ば な ら な い。 と こ
ろ が 、 そ の ﹁育 ち ﹂ も な い の に 、 ﹁評 価 す る と いう こ と﹂ だ け が 独 り 歩 き し て いる 教 室 風 景 の多 い こ と 、 そ し て
そ のう そ 寒 さ。 読 者 諸 賢 に はし ば し ば 実 感 さ れ て いよう 。 そ こ で本 節 で は 、 次 の二 点 に つ い て述 べ る こ と とす る 。 ① 評 価 す る に値 す る 話 し 言 葉 の育 ち を 、 ま ず は教 室 に見 る よ う に し よ う 。
( 位= そ の必 要 性 、 相= そ の様 相 の こと 。 一つ目 の位 相 は ﹁伝 え る ﹂、 二
② 育 ち が ま ず あ って、 次 に そ れ を 評 価 す る と いう だ け で は な く 、 評 価 す る こ と 自 体 が 話 し 言 葉 の育 ち を 促 す と いう 、 そ のよ う な 評 価 を し よ う 。 以 上 を 、 ﹁話 し 言葉 ﹂ の 三 つ目 の位 相
︿2 時 間 ﹀
つ目 の位 相 は ﹁伝 え 合 う ﹂) で あ る ﹁話 し 合 う ﹂ の、 そ し て そ の 一様 態 と し て の シ ンポ ジ ウ ム と パネ ル デ ィ ス カ ッシ ョ ン、 と いう 二 つ の具 体 の場 に 即 し て提 案 す る。
︵一︶ 評 価 す る に 値 す る話 し 言 葉 の育 ち を 例 え ば 中 学 校 二 学 年 の二 学 期 、 次 の活 動単 元 を 設 定 す る 。
﹃走 れ メ ロ ス﹄ を 読 み 、 シ ンポ ジ ウ ム の テ ー マを 三 つ 設 定 す る 。
活 動単 元 ﹁シ ンポ ジ ウ ム ﹁走 れ メ ロ ス﹄ ︵ 太宰 治︶ をしよう ﹂ ︵ 全 12 時 間 ︶ 一次
* こ れ は 小 3 ・4 レ ベ ル の 読 み
* 次 のよ う に 難 易 度 が 段 階 的 に高 ま るテ ー マが 設 定 さ れ る よ う 援 助 す る。 テ ー マ 1 ﹁メ ロ ス は 、 単 純 な 男 ﹂ で あ る か 。
テ ー マ 2 メ ロ ス を 走 れ な く し て い る も の は い く つあ っ て 、 そ の 中 で 一番 メ ロ ス を 走 れ な く し て い る も
の は ど れ か 。
* こ れ は 小 5 ・6 レ ベ ル の 読 み
︿4 時 間 ﹀
テ ー マ3 後 半 場 面 で多 く 描 写 さ れ る 赤 のイ メ ー ジ の意 味 は 、 ど れ も 同 じ か 。
読み テ ー マ1 で シ ンポ ジ ウ ム 1 を す る。
*こ れ が 中 2 レ ベ ル の
︿3 時 間 ﹀
二次
フ ォ ー マ ット に 従 って シ ンポ ジ ウ ム 1 の準 備 を す る。
シ ン ポ ジ ウ ム 1 の フ ォ ー マ ット を 設 定 す る 。
シ ンポ ジウ ム1 と そ の 評 価 を す る。
三次
︿3 時 間 ﹀
←は、基準① が
ⅠⅡⅣ の ス テ ー ジ で、 基 準 ② がⅠ 、③ ④ がⅡⅣ 、 ⑤ ⑥ がⅢⅣ の ステ ー ジ で適 用 さ れ る こ と を 示 す 。 ﹁○ の合 計 数 ﹂
② が ク リ アー さ れ た か どう か を 評 定 す る た め のデ ー タ 収 集 の観 点 と レベ ルを 示 す 。 表 中 縦 線 →
合 う ﹂ に おけ る 評 価 規 準 の系 統 番 号 が 4② 番 目 であ る こと を 示 す 。 同 じ 横 軸 に示 し た 評 価 基 準① ∼⑥ は 、 規 準 4
氏 名 の具 体 が記 入 さ れ る 。 横 軸 に 示 し た評 価 規 準 4② が 、 こ の シ ンポ ジ ウ ム で ク リ ア ー す る 規 準 。 4② は ﹁話 し
し た よ う に、 こ の シ ンポ ジウ ム はⅠ ←Ⅳ の ステ ー ジ か ら な り 、 こ の順 に 進 行 す る。 シ ンポ ジ スト の欄 A B C に は
次 の表 1 は、 こ の活 動 単 元 計 画 の四 次 ﹁テ ー マ3 で シ ンポ ジ ウ ム 3を す る ﹂ の フ ォー マ ット であ る 。 縦 軸 に 示
二 次 を 踏 ま え 、 二 次 の 2 ∼ 4 に従 いテ ー マ2 で シ ンポ ジ ウ ム 2を す る 。
四 次 三 次 を 踏 ま え 、 二 次 の 2 ∼ 4 に 従 い テ ー マ 3 で シ ン ポ ジ ウ ム 3 を す る 。
︵1︶
(2)
シ ン ポ ジ ウ ム 1 の 評 定 を し 、 シ ン ポ ジ ウ ム 2 の フ ォ ー マ ット を 設 定 す る 。
(1)
1 2 3 4
表 1 シ ンポ ジ ウ ム フ ォ ー マ ット
︵二 〇 〇 二 年 十 一月 二 六 日 ︿ 月 ﹀模 擬授 業
対 象 ・長 崎 県 対 馬 中 ・高 教 諭 ︶
の欄 に は収 集 し た デ ー タ ﹁よ い○ ﹂ の数 が集 計 さ れ る 。
1 育 ち に 必 要 な 評 価 規 準 ︵1︶ 学 習者 が育 ち を 自 覚 す る た め に
評 価 は 、 一つは 学 習者 が 自 分 の育 ち を 自 分 で納 得 す る た め にす る。 そ のた め に は納 得 で き る だ け の 根 拠 と し
て、 本 活 動 単 元 で設 定 す る 評 価 規 準 に至 る ま で の経 過 の確 認 が 要 る 。 表 1 で は規 準 4 ② の ﹁し た ﹂ レ ベ ルを ク リ ア ー す る 学 習 を す る。 これ ま で に 次 の規 準 が ク リ ア ー さ れ て き た か ら で あ る 。
規 準 1 簡 単 な 討 議 の形 式 を と り な が ら意 見 と そ の理 由 を 話 し た り 聞 いた り し た ← し て いる ← でき る 。 * こ の
規 準 1 と次 の規 準 2 と 3 は 小 学 校 五 ・六 学 年 に適 用 さ れ る評 価 規 準 で あ る 。
規 準 2 自 分 の立 場 を は っき り さ せ 、 話 し た り 聞 いた り し た ← し て いる ← でき る 。
規 準 3 自 分 の意 図 を は っき り さ せ 、 話 し た り 聞 いた り し た ← し て いる ← でき る 。
規 準 4① 結 論 が ま と ま る よ う に 、 話 し 合 いを 進 め る こと を し た ← し て いる ← で き る 。
評 価 規 準 4① は 一七 〇 頁 の活 動 単 元 計 画 の三 次 ﹁テ ー マ2 で シ ンポ ジ ウ ム 2を す る ﹂ で、 規 準 3 は 二 次 ﹁テ ー
マ1 で シ ンポ ジ ウ ム 1 をす る ﹂ で ク リ アー さ れ た 。 評 価 規 準 が、 そ の系 統 と あ わ せ 、 こ のよ う に 学 習 者 に も 理 解 でき る 形 で示 さ れ る と、 自 分 の育 ち が 納 得 し て と ら え ら れ る。 ︵2︶ 援 助 者 が 育 ち を指 呼 す る た め に
評 価 は、 二 つは こ れ か ら の育 ち の方 向 と レ ベ ルを 、 教 師 が学 習 者 に的 確 に指 差 し す る た め にす る。 表 1 の規 準 4② の次 に、 筆 者 が設 定 し て いる 評 価 規 準 は 次 の と お り であ る ︵ 注 1︶。
*こ こ
*ここから
規 準 4③ 決 ま った こと を 確 認 し た り し な が ら 、 話 し 合 いを 進 め る こ と を し た← し て いる← が でき る 。 ま でが 小 学 校 五 ・六 学 年 に適 用 さ れ る評 価 規 準
規 準 5 自 分 の考 え を も って、 シ ンポ ジ ウ ムな ど で 話 し 合 う こと を し た ← し て いる ← が で き る 。 は 中 学 校 一学 年 に適 用 さ れ る評 価 規 準
規 準 6 何 のた め に 、 何 に つ いて 話 し 合 っ て い る のか を 的 確 に と ら え 、 シ ンポ ジ ウ ムな ど で話 し 合 う こ とを し た ← し て いる ← が で き る 。
規 準 7 友 達 の考 え と 比 較 し て 、 シ ンポ ジウ ムな ど で話 し 合 う こ とを し た ← し て いる ← が でき る。
規 準 8 シ ンポ ジ ウ ムな ど で話 し 合 う と き は 、 自 分 の考 え を ま と め る こと を し た ← し て いる ← が で き る 。
評 価 規 準 に こう いう 系 統 があ る か ら 、 教 師 は 育 ち の方 向 を 学 習者 に指 差 し でき る 。 ま た、 規 準 の文 末 に見 る よ
う に ﹁し た← し て いる ← でき る﹂ と 、 学 ぶ 体 験 の質 的高 ま り への見 通 し が あ る か ら 、 次 の段 階 の学 習 レ ベ ル が指
差 し でき る。 多 く の教 室 は ﹁Aよ く でき る ← B でき る ← C 努 力 が 必 要 ﹂ と 評 定 結 果 だ け を 学 習者 に示 す 。 これ で
は学 習 者 は、 何 を 、 どう す れ ば育 つ こ と と な る か わ か ら な い。 表 1 の学 習 で規 準 4② が ク リ ア ー さ れ た と いう こ
と は ﹁し た﹂ 体 験 が得 ら れ た と いう こ と で あ って、 ﹁で き る﹂ レ ベ ルま で育 った わ け で は な い。 し た が っ て、 指 差 し は 、 次 の ﹁し て いる ﹂ レ ベ ル、 つま り ド リ ルす る こと に向 け て 行 う の であ る。
2 個 に応 じた 育 ち に必 要 な 評 価 基 準 ︵ 1 ︶ 個 に よ る 違 いが 発 揮 せ ら れ る た め に
表 1 の基 準 の 文 言 ﹁① 十 分 か ﹂ ﹁② ③ は っき り さ せ て いる か ﹂ ﹁④ 工 夫 があ る か ﹂ ﹁ ⑤ 明確 か ﹂ ﹁⑥ 的 確 に ﹂ に着
目 さ れ た い。 話 し 言 葉 は書 き 言 葉 に 比 し て個 性 の発 揮 は は る か に 強 烈 と な る 。 そ れ だけ に個 性 に 応 じ た話 し 言 葉
の成 長 も 図 り やす い。 そ のた め に は 、 何 は と も あ れ 、 個 に よ る違 いを 十 全 に 発 揮 さ せ る 。 基 準 ①∼ ⑥ の 文 言 はそ
の た め の仕 掛 け であ る。 例 え ば ﹁① 十 分 か ﹂ をⅠ の ステ ー ジ で 見 て み る。 こ こ は所 要 時 間 2 分。 そ う す る と 2分
間 を ど れ だけ オ ー バー し て 語 る こ と と す る か 、 オー バ ー す る た め に は ど れ だ け 多 様 な 内 容 を 語 る こ と と す る か、
と質 量 両 面 か ら 個 によ る 違 いが 発 揮 さ れ る こ と と な る 。 ﹁④ 工 夫 が あ る か﹂ で は 、 頭 括 式 ・尾 括 式 ・双 括 式 を ど う 使 い分 け る か 、 個 に よ る 違 いが多 様 に発 揮 さ れ る こと と な る 。 ︵2︶ 個 のよ さ が 認定 さ れ る た め に
︵ 国 語 科 の場 合 は ど ん な 言 語 活 動 を と る か ︶ の学 力 、
他 の 三 つは 思 考 ・判 断 す る に必 要 な 学 力 と 位 置 づ け る。 そ う す る と 規 準 の設 定 は
思 考 ・判 断 は行 動 知 創 出
図 1 のよ う に構 造 化 し て と ら え る。
これ で 、 即 、 個 のよ さ ︵ 個 性 ︶ が認 定 さ れ た と は な ら な い。 そ こ で 四 つの学 力 を
え 、 そ れ ぞ れ に評 価 規 準 を 設定 す る。 確 か に こ れ で個 の違 い は認 定 でき よ う が 、
学 力 を 関 心 ・意 欲 ・態 度 、 知 識 ・理 解 、 表 現 ・技 能 、 思 考 ・判 断 の 四 つ と と ら
る 。 そ う な った時 、 これ を 個 性 と 言 う 。 多 く の教 室 は、 学 習 指 導 要 領 に 従 って、
個 に よ る 違 い が 個 のよ さ と し て認 定 さ れ る た め に は 、 違 いが そ の人 の人 格 と し て 統 合 さ れ る こ と が 必 要 であ
図 1 学力 の構 造
思 考 ・判 断 に つ い て だけ と し 、 他 の三 つは基 準 と し て 設 定 す れ ば よ い、 と な る。 例 え ば 表1 で いえ ば、 基 準 ① ⑤
⑥ は 主 と し て関 心 ・意 欲 ・態 度 、 ② ③ は表 現 ・技 能 、 ④ は知 識 ・理 解 の面 から 設定 し て いる の であ る 。
︵二︶評価す ると いう こと自 体が 話し言葉 の育 ちを促 す
( 全 5時 間 )
例 え ば 小 学 校 六 学 年 の二 学 期 、 次 の活 動 単 元 を 設定 す る。 表2 は、 二 次 の3 ﹁パネ ルデ ィ ス カ ッシ ョ ンと そ の 評価 を す る ﹂ の フ ォ ー マット であ る 。
︿1時 間 ﹀
活 動 単 元 ﹁パ ネ ルデ ィ ス カ ッシ ョ ンを ﹃体 を 守 る 仕 組 み ﹄ で し よ う ﹂ 体 を 守 る 仕 組 み﹄ を 読 み、 テ ー マを 設定 す る。 一次 ﹃ *次 の よう な テー マが 設 定 さ れ る よ う 援 助 す る 。
換 え た ら よ いか 。 パネ ルデ ィ スカ ッシ ョ ンを す る。
︿4時 間 ﹀1
テ ー マ ﹁安 心 し て く だ さ い ﹂ (4段 落 ) と 筆 者 が 言 う と お り の 文 章 と す る に は 、 段 落 5 ∼ 12 を ど う 並 べ
二次
パネ ルデ ィ ス カ ッシ ョン の フ ォー マ ット を 設 定 す る 。 フ ォ ー マ ッ ト に 従 っ て パ ネ ル デ ィ ス カ ッ シ ョ ン の 準 備 を す る 。 パ ネ ル デ ィ ス カ ッ シ ョ ン と そ の 評 価 を す る 。
評 価 を も と に評 定 を す る。
(1) (2)
(1)
2 3 4
表 2 パ ネ ル デ ィ ス カ ッ シ ョ ン フ ォ ー マ ッ ト (二 〇 〇 二年 八 月 十 九 日
︿ 月 ﹀ 模 擬 授 業 対 象 ・佐 世 保 市 小 教 諭 )
1 育 ち を 促 す 評 価 と 評 定 の峻 別
授 業 で学 習 者 に 評 価 表 を 持 た せ る の は よ い。 し か し そ こ で記 入 さ せ て い る こ と は、 多 く の教 室 が ◎ ○ △ であ
る。 こ れ は 評 価 で は な い。 評 定 であ る 。 進 行 中 の学 習 と 同 時 進 行 で 評 定 は でき な い。 評 価 は で き る 。 だ か ら 評 定
は、 評 価 を し た 後 で 、 評 価 で 得 ら れ た デ ー タ ﹁よ い○ ﹂ の数 に拠 って 行 う 。 ﹁だ め ×﹂ の デ ー タ で は ダ メ で あ る 。
芭 蕉 は ﹁物 い へば 唇 寒 し 秋 の 風 ﹂ の前 書 に ﹁人 の 短 を い ふ事 な か れ ﹂ と 言 う 。 こ れ は 真 実 で あ る。 ﹁だ め ×﹂ を 指 摘 さ れ て 、 心 底 喜 び勇 ん で ﹁よ い○ ﹂ と な ろう と 志 す 人 は 大 人 で も いな い。
2 育 ち を 促 す 適 時 ・適 材 ・適 処 の評 価
適 時 の評 価 教 師 は ﹁よ い○ ﹂ の具 体 が見 え た そ の 時 点 で、 何 が、 な ぜ ﹁よ い○ ﹂ か を 瞬 時 に摘 出 し て み せ
る 。 ﹁ハイ 、 スト ップ 。 今 、 C さ ん は 段 落 カ ー ド を 黒 板 に並 べ つ つ自 分 の考 え を 述 べま し た。 マタ ー 言 語 ︵ 注 2︶
の有 効 な 活 用 です ﹂ ︵ 基 準 ③ で ス テ ー ジⅢ を 評 価 ︶ と。 後 か ら で は ﹁よ い○ ﹂ の 具 体 は 再 現 でき ず 、 そ の分 ﹁よ
い○ ﹂ の 実 感 も 薄 れ る 。 こ の教 師 発 言 に 要 し た時 間 は ロ スタ イ ム と し 、 ス テ ー ジ に配 当 し た時 間 に は カ ウ ント し な い。
適 材 の評 価 ﹁よ い○ ﹂ 見 つけ は 学 習 者 も し て いる 。 教 師 が学 習 者 と 同 じ ﹁よ い○ ﹂ を 摘 出 し て いて は、 評 価 力 は 育 て ら れ な い。 そ こ で次 の① ∼③ の観 点 から 摘 出 し て 見 せ る。
① ﹁ハイ 、 スト ップ 。 今 、 B さ ん は A ・C さ ん 二 人 にそ れ ぞ れ 質 問 し ま し た 。 そ れ も 自 分 の考 え を 一言 い って
お いて。 こう す る と パネ ラ ー が四 、 五 人 と 増 え て も 、 ど の パ ネ ラ ー も 発 言 し や す い です ね ﹂ ︵ 基 準 ④ で ステ
ー ジⅢ を 評 価 ) な ど 、 次 単 元 、 次 々単 元 で 予 定 し て い る ﹁話 し 合 う ﹂ の力 と な って い く ﹁よ い○ ﹂ の摘 出
②
③
を。 ﹁ハイ 、 ス ト ップ 。 今 、 A さ ん は 事 実
︵ 根 拠 ︶ ← わ け ← 結 論 と いう 順 で 提 案 し ま し た 。 聞 い て い て と て も わ
か り や す い 。 い い で す ね え 。﹂ ︵ 基 準 ① で ス テ ー ジⅠ を 評 価 ) な ど 、 設 定 し た 基 準 ① ∼ ⑥ の 適 用 の 仕 方 に 習 熟 す る た め の ﹁よ い○ ﹂ の 摘 出 を 。
﹁ハイ 、 ス ト ップ 。 今 、 B さ ん は C さ ん が 板 書 し た と こ ろ に 赤 を 入 れ な が ら 、 わ た し こ れ に 変 え よ う か な
と 、 ニ コ ッと し ま し た ね 。 フ ロ ア ー も 思 わ ず ニ コ ッ と な っ た で し ょ う 。 こ れ で い い話 し 合 い の 雰 囲 気 と な り
﹁よ い○ ﹂ を 、 ﹁話 し 合 う ﹂ 共 同 体 全 員 の 前 で 、 個 人 に 伝 え る 。 こ の ﹁全 員 の 前
ま し た 。 い い で す よ 。﹂ ︵ス テ ー ジⅣ を 評 価 ) な ど 、 設 定 し た 基 準 ① ∼ ⑥ 以 外 の 観 点 か ら の ﹁よ い○ ﹂ の摘 出 を。 適 処 の評 価 一つは 、 個 人 の
で ﹂ が 肝 要 。 そ う す る と 、 早 速 次 の パ ネ ラ ー が そ の ﹁よ いO ﹂ を 採 り 入 れ よ う と 、 意 気 込 ん で ア タ ッ ク す る 。 評
価 す る こ と 自 体 が 育 ち を 促 す と は こ の こ と で あ る 。 表 2 の 模 擬 授 業 の ﹁よ い ○ ﹂ の集 計 結 果 は 、 A さ ん 23 個 、 B
さ ん 21 個 、 C さ ん 28 個 と な っ た 。 こ れ が い く つ以 上 あ れ ば 規 準 4 ③ を ク リ ア ー し た と 判 定 す る か 、 そ れ が 評 定 と な る。
( 表 1 ) な の に 、 小 学 校 六 学 年 で は パ ネ ル デ ィ ス カ ッ シ ョ ン ︵表
適 処 の 評 価 の 二 つ め は 、 共 同 体 の ﹁よ い○ ﹂ を 共 同 体 に 伝 え る こ と で あ る 。 個 人 の ﹁よ い○ ﹂ で は な い 。 気 づ か れ た よ う に 、 中 学 校 二学 年 で シ ンポ ジ ウ ム
2 ) と な っ て い る 。 こ れ は 発 達 段 階 に 即 応 し た 学 習 で は な い 。 な の に こ う い う 学 習 が な ぜ 可 能 か 。 ﹁話 し 合 う ﹂
力 は 、 大 人 で も 学 習 さ れ る こ と が な け れ ば 六 六 討 議 さ え でき な い、 そう いう 力 だ か ら であ る 。 だ か ら 小 学 校 で あ
っ て も 、 六 六 討 議 ← シ ン ポ ジ ウ ム ← パ ネ ル デ ィ ス カ ッ シ ョ ン← デ ィ べ ー ト ← ポ ス タ ー セ ッ シ ヨ ン と 系 統 的 に 学 び
体 験 を 積 み上 げ て いけ ば、 ポ スタ ー セ ッシ ョ ンま で が でき る よ う に な る 。 こ こを 踏 ま え 、 ﹁す ご い! パネ ルデ
ィ ス カ ッ シ ョ ンは 、多 く の 学 校 が中 学 の三 年 生 でや っと し て い る話 し 合 い の方 法 だよ 。﹂ と 、 ﹁よ い○ ﹂ を 摘 出 し
て 見 せ る 。 こう いう 教 師 に よ る 価 値 づ け が共 同 体 の育 ち を 加 速 さ せ 、 そ れ が ま た 個 の育 ち を 後 押 し す る。
年 二月号 明治 図書出 版 一七頁 )を 参照 され た い。
注 1 評 価 規 準 1 ∼ 8 を ど う いう 根 拠 に よ って 設 定 し た か に つ い て は 、 安 河 内 義 己 ︵﹃教 育 科 学 国 語 教 育 ﹄ 二 〇 〇 二
︵こ れ が 位 ︶ に
注 2 話 し 言 葉 は 、 言 語 、 パ ラ 言 語 、 ボ デ ィ 言 語 、 マ ター 言語 、 ア イ コ ン タ ク ト の 五 言 語 で 構 成 さ れ る 。 ユ ニ ホ ー
ム ・物 品 ・ポ ス タ ー ・図 表 な ど に 語 ら せ る の が マタ ー 言 語 。 話 し 言 葉 と いう も の は 、 そ の 必 要
応 じ て 、 次 の表 3 ﹃﹁伝 え 合 う ﹂ 活 動 系 統 表 ﹄ 中 に 示 し た よ う に 、 ﹁ 伝 え る ﹂ と いう 相 、 ﹁伝 え 合 う ﹂ と いう 相 、 ﹁話 し 合 う ﹂ と いう 相 を も つ。
表 3 ﹁ 伝 え合 う﹂ 活動 系統 表 ( ○ 印は 学習 の場 を示 す)
注
第 五 章 話 し言 葉 教育 を 支 え る教 師 の話 し言 葉
一 教師 の音 声表 現︱ 教育話法
国 語 科 学 習 指 導 に 限 ら ず 、 学 習 を 進 め て いく 上 で、 教 師 は 子 ど も た ち に 何 ら か の 働 き か け を し て い る 。 そ れ
は、 資 料 を 提 示 し たり 、 板 書 や ワ ー ク シー ト で内 容 を 伝 え た り 、 モデ ルと し て や って 見 せ た り と 、 多 様 な 姿 で た
ち あ ら わ れ る が 、 最 も 一般 的 で 日常 的 な 働 き か け は、 教 師 の 言葉 によ る も の であ る 。
教 室 で の実 態 か ら いえ ば 、 教 師 は 子 ども と の対 話 的 な 関 わ り を そ の仕 事 の中 心 に し て いる と い って も 過 言 で は な い。
野地潤家氏 は、 ﹃ 教 育 話 法 の研 究 ﹄ ︵注 1︶ で 、 ﹁教 育 話 法 は 、 公 的 生 活 に 立 つ教 育 者 と し て の話 法 で あ り 、 そ
れ は 私 的 生 活 に 立 つ市 民 と し て の話 法 が、 いわ ば 日常 話 法 ・生 活 話 法 で あ る の に 対 し て、 専 門 話 法 ・職 業 話 法 と
も いう べき も の であ る。﹂ と 述 べ、 教 師 と いう 職 業 が 必 然 的 に も つ こ と に な る 話 す こ と に つ い て の 専 門 性 を 指 摘 し て いる 。
こう い った ﹁教 師 の話 し 言 葉 ﹂ の重 要 性 に つ いて は 、 研 究 的 ・実 践 的 に は 繰 り 返 し 言 及 さ れ て いる と ころ で あ
る が 、 ま と ま った 著 作 物 と し て は 、 前 述 の ﹃ 教 育 話 法 の 研 究 ﹄ ま た そ れ を 発 展 再 編 し た と いえ る ﹃教 育 話 法 入 門﹄︵ 注 2 ︶、 さ ら に は ﹃教 師 の話 術 ﹄ ︵ 注 3︶ な ど があ る 。
二 教師 の話 し言葉 の役割
子 ども と の対 話 的 な 関 わ り と し て の教 師 の話 し 言 葉 は、 大 き く 、 ・生 活 指 導 場 面 で の関 わ り ・教 科 等 の指 導 場 面 で の関 わ り に 分 け て と ら え る こ と が でき る 。
こ のう ち 、 教 科 等 の学 習 指 導 にお け る 教 師 の話 し 言 葉 の 役割 は 、 次 のよ う に と ら え る こ と が 可 能 で あ る。
① 学 習 の成立
教 師 の言 葉 が学 習者 に届 か な け れ ば、 学 習 そ の も の が展 開 ・成 立 し な い こ と が 想 定 さ れ る 。 教 師 の言 葉 は ﹁き ち ん と 、 何 を 言 っ て い る の か わ か る ﹂ と いう こ と が 前 提 と な る 。
② 学 習 の活性化
教 師 の言 葉 が 生 き 生 き と活 力 に あ ふ れ て いれ ば、 学 習 者 も 自 然 に生 き 生 き と し て く るも の であ る。 そ の逆 も ま
た 真 な り と いえ よ う か 。 これ は無 論 態 度 的 な も の も 含 むけ れ ど も 、 言 葉 の問 題 と し ても と ら え る こ と が でき る。
ま た 、 例 え ば 発 問 の言 葉 が的 確 で、 学 習者 の思 考 を 真 に促 す も の と な ったり 、 指 示 が的 確 で、 学 習 活 動 が ゆ れ
な く 展 開 し た り す る な ど 、 言 葉 の的 確 性 が 学 習 に影 響 を 与 え る こと は、 いう ま で も な い。
③ 音 声 に よ る 学 習 材 の提 示
例 え ば 、 先 生 の お話 を 聞 い て、 そ れ に つ い て考 え た こと を 作 文 に書 いた り 要 約 し た り す る 、 先 生 の朗 読 を 聞 い
て、 読 み方 の工 夫 に つ い て考 え る な ど の学 習 は 、 実 態 と し て ど のく ら い行 わ れ て いる か は と も か く 、 十 分 に可 能
で、 取 り 組 ん でよ い学 習 であ る。 教 科 書 と いう 制 約 の中 で、 これ ま で学 習 材 が 文字 言 語 に偏 る 傾 向 があ った が、
音 声 言 語 そ のも のを 学 習 材 と し て いく こ と を 考 え た時 に、 教 師 の音 声 表 現 は、 そ の有 力 な 材 料 と な る。 ④ 子 ど も の音 声 表 現 の モデ ル
﹁教 師 は す べ て 言 葉 の教 師 で あ る﹂ と いう フ レー ズ が あ る 。 特 に 音 声 表 現 に つ い て は 、 子 ど も が き ち ん と 話 を
聞 く 対 象 と し て 、 教 師 の言 葉 が 日 常 的 に 大 き な 割 合 を も つこ と を 考 え る と 、 そ の影 響 は き わ め て重 要 な 意 味 を も
つ こと にな る 。 生 ま れ た 時 か ら身 近 な 人 間 の言 葉 を 聴 い て育 ち 、 そ の ま ま そ の 言 語 を 受 け 継 い で いく こと を 考 え る と 、 教 師 の言 葉 の モデ ル性 は 、 決 し て 軽 視 す る こと は で き ま い。
教 師 の話 し 言 葉 の 役 割 を 以 上 のよ う に と ら え た上 で、 こ こ では 、 教 師 の話 し 言 葉 と 子 ど も の音 声 言 語 の学 習 と の関 連 に つ い て、 具 体 的 に論 じ て いく こ と と す る。
三 学 習 材 と し て の教 師 の話 し 言葉
︵一︶音声 言語 の学 習材
国 語 科 学 習 に お いて 、 ﹁教 科 書 ﹂ は 一つの学 習 モ デ ル と し て機 能 し、 そ れ が あ る一定 の学 習 レ ベ ル の 維 持 に 役
立 って いた こと は否 定 でき な い。 教 科 書 は何 ら か の形 で ﹁教 室 に 必 要 な も の﹂ であ り 、 そ れ は 今 後 も 基 本 的 な 変 化 は な いで あ ろ う 。
し か し 一方 、 子 ど も た ち の実 態 か ら 出 発 し た学 習 を 組 織 し よ う と し た 時 に 、 ﹁教 科 書 ﹂ が あ る 種 の制 約 と な る 側 面 を も って い た こ と も 否 定 で き な い。
音 声 言 語 の学 習 指 導 に つ いて は 、 そ の ﹁制 約 ﹂ と し て の側 面 が 強 く 現 れ る 傾 向 が あ る 。 そ れ は 、 現 在 の教 科 書
が 基 本 的 に ﹁文 字 言 語 ﹂ で構 成 さ れ て お り、 音 声 言 語 の学 習 指 導 に不 可欠 な ﹁音 声 言 語 そ のも の﹂ が、 教 科 書 と
いう 形 で の学 習 材 と し て は、 子 ど も に与 え ら れ て いな いと いう 現 実 が、 結 果 と し て ﹁学 習 の制 約 ﹂ と し て働 いて
いる と いう こと であ る 。 言 い方 を 変 え れ ば、 教 科 書 は 教 室 に 必 要 な も ので あ り な が ら 、 学 習 材 と し て 必 要 な す べ て を 具 備 し て いな いと いう こ と に な る。
教 育 機 器 の普 及 に と も な って 、 録 音 テ ープ や C D 等 の音 声 言 語 学 習 材 が 準 備 さ れ る よ う に な り 、 典 型 的 に は朗
読 テ ー プ のよ う な 形 で、 国 語 科 学 習 の内 容 を 変 え て き た 歴 史 的 経 緯 はあ る 。 し か し そ れ ら は 、 今 日 な お 、 教 師 の
手 元 にあ って 、 教 師 の都 合 で使 用 す るも のと いう 枠 組 みを 超 え た も の と は な って いな い。
そ のよ う に 考 え れ ば 、 録 音 テ ー プ や C D に 代 わ って 、 教 師 の音 声 表 現 そ のも のが 話 し 言 葉 学 習 の学 習 材 と な る 可能 性 は、 経 験 的 に も 明 ら か で あ ろ う 。
︵二︶音声 言語 学習材 の可能性
教 師 の音 声 表 現 そ のも のを 学 習 材 と し て学 習 を 展 開 す る こ と に は 、 お お よ そ 次 のよ う な ケ ー ス が考 え ら れ る。
① 読 み聞 か せ
読 み聞 か せ は 、 国 語 科 学 習 指 導 の有 力 な 方 法 の 一つ であ る。 特 に学 齢 が 低 い学 習 者 の場 合 、 読 み聞 か せ は読 書 に 代 わ るも のと し て も 、 ﹁読 む こ と﹂ に 代 わ る も の と し て も 有 効 に 機 能 す る 。 ② 聞 く こ と の学 習 と し て、 教 師 のお 話 や 朗 読 を 聞 く
聞 く こ と を 中 心 に据 え た 学 習 指 導 実 践 は 、 現 状 で は 決 し て 日 常 的 な も の で は な い。 し か し 、 ﹁聞 く こ と ﹂ を
﹁話 す こと ﹂ に付 随 し た も のと し て と ら え る の で はな く 、 ﹁聞 く こ と ﹂ と し て学 習 し て いく こ と は 、 理 論 的 に も 実
践 的 にも こ れ か ら 要 求 さ れ て く る こ と で あ ろ う 。 ﹁聞 く こと ﹂ の学 習 は 、 原 則 と し て ﹁聞 く 材 料 ﹂ を 抜 き に し て
は 考 え に く く 、 そ の時 、 教 師 のお 話 や 朗 読 が 学 習 材 と し て 提 示 さ れ る こと は当 然 想 定 さ れ る 。 ③ 音 声 表 現 の あ り 方 を 考 え る た め に 、 教 師 の お 話 や 朗 読 を 分 析 的 ・批 評 的 に 聞 く
典 型 的 に は 、 発 音 ・発 声 な ど の学 習 指 導 の場 合 に、 教 師 が や って 見 せ る と いう ケー スが あ る。 音 読 ・朗 読 を 工
夫 し よ う と いう 学 習 の場 合 に も 、 い ろ いろ な 読 み 方 を 提 示 し て み せ る と いう こと があ り う る であ ろ う 。 た だ し そ れ ら は必 ず し も 、 ﹁優 れ た 表 現 を 聞 く ﹂ と いう ス タ ン ス に常 に 立 つ必 要 は な い。 ④ 文 章 表 現 や 話 し 合 い の材 料 と し て 、 教 師 の お 話 や 朗 読 を 聞 く
先 生 のお 話 や 先 生 が 読 む物 語 を 聞 いて 、 自 分 の考 え を 意 見 と し て 書 い た り 、 話 し 合 い の材 料 と し た り す る よ う
な 学 習 は 、 実 は道 徳 の学 習 な ど で は特 別 な 方 法 で は な いで あ ろ う 。 国 語 科 学 習 指 導 の中 の書 く こと や 話 し合 う こ と の学 習 材 料 と し て 、 教 師 の音 声 表 現 が 機 能 す る 場 合 も 当 然 考 え ら れ る。 ⑤ 学 習 内 容 と し て 、 教 師 のお 話 を 聞 く
例 え ば こ と わ ざ の意 味 や 用 法 を 学 習 す る た め に、 教 師 が そ の こ と わ ざ に つ いて の話 を す る と い った 場 合 で あ
る。 そ の学 習 内 容 の定 着 のた め に は 、 そ の話 自 体 が 優 れ た も の で あ る 必 要 が あ る 。
こ れ ら の ﹁学 習 材 ﹂ と し て の教 師 の音 声 表 現 は 、 既 製 ・市 販 の 録 音 テ ー プ や C D な ど で代 え る こと が で き る も
の が多 い。 そ のほ う が良 質 の表 現 を 保 証 す る こと に はな ろ う 。 し か し 、 例 え ば 低 学 年 の読 み聞 か せ な ど、 教 師 が
呼 吸 を 計 り な が ら 読 ん で や って こ そ 、 ま た、 教 師 の肉 声 だ か ら こ そ 学 習 が成 立 す る と いう 側 面 が あ る こ と に 留 意
し た い。 基 本 的 に は、 既製 の録 音 テ ー プ で こそ 学 習 効 果 が 上 が る と いう 場 合 のほ う が、 む し ろ ま れ であ る と 考 え る べ き で はな いか 。
し か し 一方 、 教 師 の音 声 表 現 を 学 習 材 と し て 位 置 づけ る 場 合 、 そ の表 現 の質 が 問 わ れ る こ と は 疑 いな い。 そ れ
は、 学 習 材 と し て の文 章 表 現 が、 そ の質 を 問 わ れ る こと と 同 じ で あ る 。 そ の こと が、 ま さ に ﹁職 業 話 法 と し て の
大 村 は ま ﹃国 語 教 室 お り お り の話 ﹄
専 門話 法 ﹂ と いわ れ る意 味 の 一つで あ り 、 豊 か な 国 語 科 学 習 の展 開 の た め に 、 教 師 の音 声 表 現 力 の豊 か さ が 求 め ら れ る と いう こと も で き る 。
︵三︶聞 く こ と の学 習 材︱
大村 はま 氏 は 、 ﹃ 国 語 教 室 お り お り の話 ﹄ ︵ 注 4 ︶の ﹁あ と が き ﹂ で 、 次 の よ う に 述 べ て い る 。
﹃国 語 教 室 お り お り の 話 ﹄ は 、 ふ つう の 授 業 時 間 、 そ の と き そ の と き の 、 い ろ い ろ な 必 要 か ら 、 ま た 、 い
ろ いろ な 目 的 で話 し た も の です 。 こ の よう な 本 に な る こ と が あ ろ う と は 、 思 って も いま せ ん でし た。 ま った
く 、 わ た く し の 話 し 方 の 反 省 と く ふ う の た め に 、 授 業 時 間 は 、 教 室 の 片 隅 に テ ー プ ・レ コ ー ダ ー を ま わ し て
お く の が 習 慣 にな って いま し た 。 ︵ 中 略 ︶ こう いう わ け です か ら 、 お 話 のな か に は、 あ る 事 を 説 明 し て い る
話 、 生 徒 の話 な り 、 書 い た も の な り 、 学 者 の 批 評 を し て い る 話 、 そ う い う ふ つう の 授 業 で の 話 の ほ か 、 聞 き
書 き 、 要 旨 を 聞 き 取 る 、 聞 き な が ら メ モを と るな ど の練 習 のた め の話 、 聞 い た話 を そ のま ま 再 現 し て みる た
め の 話 と い ろ い ろ あ り ま す 。 ス ピ ー チ の学 習 を す る と き 、 実 例 と し て い く つ か の 話 を 聞 か せ た も の 、 作 文 の 題 材 を さ がす ヒ ント のた め、 ま た 、 題 材 そ のも のを 提 供 し て いる 話 も あ り ま す 。
こ こ で大 村 氏 は 、 自 ら の教 師 と し て の話 し 方 の ﹁反 省 と く ふう ﹂ の た め に テ ー プ ・レ コー ダ ー を 回 し た と 、 そ
の 研鑚 の実 例 を あ げ て いる 。 大 村 氏 の中 に、 専 門 話 法 と し て の教 師 の話 し 方 に つ いて の自 覚 が 深 く 存 在 し た こ と は 明 ら か であ る 。
﹃国 語 教 室 お り お り の話 ﹄ の中 の そ れ ぞ れ の 内 容 は 、 聞 く 力 の育 成 を は じ め 、 国 語 科 学 習 指 導 の展 開 の中 で の
﹁いろ いろ な 必 要 ・いろ いろ な 目 的 ﹂ に よ るも の で あ り 、 そ れ ぞ れ の意 味 を 有 し て い る。 教 師 の ﹁お 話 ﹂ が 、 学
習 材 と し て ど のよ う な 多 様 な 機 能 を も つか に つ い ても 、多 く の 示 唆 を 得 る こと が で き る 発 言 であ る 。
大 村 氏 は ま た 、 ﹃こと ば を 豊 か に 大 村 は ま の国 語 教 室 ﹄ ︵ 注 5 ︶ で、 次 のよ う に述 べて いる。
私 は と に か く い い話 を し て 聞 か せ よ う と 思 い ま し た 。 お も し ろ い な あ と 思 っ た り 、 つ い 一生 け ん め い に な
っ て 聞 い て い た り し て 、 そ し て も う 話 と い う も の は 、 こ う いう よ う に 一生 け ん め い 聞 く も の だ と いう ふ う に
癖 が つ い て し ま いま す ね 。 そ う い う と こ ろ へも っ て い か な い と 、 お 説 教 し た か ら 聞 け る と い う も の で も あ り
ま せ ん の で 、 思 わ ず 緊 張 し て聞 け る よ う な 話 を 聞 か せ る こ と 、 じ つに むず かし いけ れ ど も 、 これ な し に は聞 く 耳 は 育 た な い だ ろう と 思 って いる の で す 。
﹃国 語 教 室 お り お り の話 ﹄ の実 践 の根 底 に こ のよ う な 認 識 があ る と す れ ば 、 大 村 氏 の実 践 は お そ ら く 、 ﹁い い話
︵ 教 師 の話 し 言 葉 ︶ が ど の よう に機 能 す る か 、 ま た 、 ど の よ う
を し て聞 か せ ﹂ る こ と な し に は ﹁聞 く 耳 は 育 た な い﹂ と いう 意 識 に貫 か れ て いる のだ と考 え ら れ る。 聞 く 力 の育 成 の た め の学 習 材 と し て、 教 師 の話
に 具 体 的 に学 習 材 と し て成 立す る か と い った点 に つ い て、 学 ぶと こ ろ が 大 き い。
物語 を耳 で楽 しもう
筆 者 は、 ﹁﹃読 み聞 か せ﹄ を 用 い た学 習 指 導 の 実際 ﹂ ︵ 注 6︶ と し て、 次 のよ う な 実 践 を 報 告 し た 。
単元名
三 浦和尚 愛 媛大学教育 学部附属 小学校 五年花組
指導者 対象
学 習材
﹁一メ ー ト ル の リ レー ﹂ ︵ 桜 井 信 夫 ﹃日 本 児 童 文 学 ﹄ 一九 九 二 年 六 月 掲 載 ︶
単 元 目 標 .音 声 で表 現 さ れ る物 語 を 聞 いて 、 場 面 を豊 か に思 い描 き 、 そ の表 現 を 味 わ い楽 し む 。 ・﹁聞 く 力 ﹂ を 自 覚 的 に と ら え る 。
・﹁一メ ー ト ル の リ レー ﹂ と いう 表 題 か ら 、 障 害 者 の思 い への理 解 を 深 め る。
メー ト ル の リ レ ー ﹂ に つ い て 考 え る 。
学 習 指 導 過 程 ︵一時 間 扱 い︶ 表 題﹁一
教 師 の朗 読 を 聞 く ︵通 読 ︶。 感 想 、 疑 問 点 に つ いて 話 し 合 う 。
教 師 の朗 読 を聞 く ︵ 若 干 の言 葉 を 教 師 が添 え て いる ︶。 内 容 に つ いて話 し 合 う 。 教 師 の朗 読 を 聞 く ︵ 味 読 ︶。 [注 ] 作 品本 文 は学 習 終 了 後 、 児 童 に渡 し た 。
本 学 習指 導 に は、 次 のよ う な ﹁教 師 のね ら い﹂ が 記 さ れ て い る。
本 学 習 指 導 で は、 教 師 の読 み 聞 か せ に よ る 音 声 を 教 材 と し 、 物 語 を 味 わ い楽 し む こ と を ね ら いと し て い
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る。 基 本 的 な 学 習 過 程 と し て は、 読 む こ と に お け る 三 読 法 ︵ 通 読 ・精 読 ・味 読 ︶ を 聞 く こ と に 応 用 し 、 物 語 に 描 か れ る 世 界 のイ メ ー ジ形 成 を 促 し た い。
物 語 を 文字 で な く 音 声 で と ら え る こ と は 、 作 品 の内 容 を 受 け 止 め る と いう 意 味 で は 違 いが あ る と は考 え に
く い が、 物 語 を 聞 く こと ︵ 読 み聞 か せ︶ の楽 し さ を 味 わ う 、 ま た 、 耳 を 傾 け て聞 く 体 験 を 通 し て 、 聞 く こと
を 意 識 す る と いう 意 味 で は 、 文字 によ る学 習 と は違 う 効 果 を 期 待 す る こ と が でき る であ ろ う 。 作 品 を 文 学 と
し て と ら え 味 わ いな が ら 、 そ の過 程 で聞 く こと に つ い て の意 識 化 が でき る よ う な 学 習 を 組 織 し た い。
こ こ で は 、 読 み の学 習 指 導 過 程 であ る ﹁三 読 法 ﹂ を ﹁聞 く こ と ﹂ に応 用 し な が ら、 文 学 を 味 わ う と と も に、
﹁聞 く こ と の意 識 化 ﹂ が ね ら わ れ て いる 。 一度 聞 い た の で は よ く わ か ら な いと いう 事 実 を 突 き つけ 、 繰り 返 し て
聞 く と 新 し い発 見 があ る と いう 体 験 は、 自身 の聞 く こと に つ いて の意 識 を 変 え る き っか け と な った と思 わ れ る。
事 実 、 児 童 の感 想 に は そ のよ う な も の が多 く 見 ら れ た 。 話 し 言 葉 の学 習指 導 に お いて 、 教 師 の音 声 表 現 ︵ 朗読︶ が 学 習 材 と し て機 能 す る 姿 を 典 型 的 に 示 し た も の で あ る と いえ る 。
四 音 声 表 現 モデ ルと し て の教 師 の話 し 言葉
︵一︶言語 環境 とし て の教 師 の話 し言葉
子 ど も は 生 ま れ た と き か ら、 耳 に 入 る 話 し 言 葉 を 聞 き な が ら 言 語 を 獲 得 し て いる 。 親 の 方 言 や 話 し癖 を 子 ど も
が 受 け 継 ぐ と いう の は 、 そ の典 型 であ る。
人 間 の言 語 発 達 と し て 、 文 字 言 語 によ って 言 語 獲 得 す る割 合 が 高 く な る の が い つ頃 から か は 定 か で は な いが、
少 な く と も 中 学 生 く ら い の発 達 レ ベ ル で いえ ば 、 慣 用 的 な 言 い回 し な ど 、 話 し 言 葉 の中 で 言 語 を 獲 得 し て いる割
合 は 決 し て 小 さ く はな い。 少 な く と も 、 生 活 言 語 と いう 概 念 が あ る とす れ ば 、 そ の範 囲 で は 、 話 し 言葉 に よ る 獲 得 が 中 心 に な って いる であ ろ う 。
そ のよ う に 考 え た時 、 例 え ば 小 学 生 が 一番 多 く 接 す る 話 し 手 は 誰 で あ ろ う か。 無 論 、 切 実 な 言 葉 が家 庭 生 活 の
中 で 体 にし み こむ よ う な 形 で入 って く る こ と は あ ろう が 、 一般 的 に いえ ば 、 き ち ん と 聞 か な い と いけ な い話 を 一 番 長 く し て いる の は教 師 であ る。
教 師 の話 し 言 葉 は、 子 ど も た ち が 言 語 を 獲 得 し て いく た め の言 語 環 境 と し てき わ め て重 い意 味 を 有 し て いる。
丁 寧 で優 し い言 葉 か 、 荒 々し い乱 暴 な 言 葉 か 。 整 理 さ れ た 正 確 な 言 葉 か 、 論 理 性 に 欠 け る無 造 作 な 言 葉 か。 品
のあ る 物 言 いか 、 否 か。 そ う い った 教 師 の話 し 言 葉 を 聞 き な が ら 、 子 ど も は 学 校 で の 一日 を 過 ごす の で あ る。 そ の質 は 、 必 ず 子 ど も の話 し 言 葉 の獲 得 に 影 響 す る で あ ろ う 。
そ の こ と は、 例 え ば、 音 読 ・朗 読 の上 手 な 教 師 の 担 当 す る学 級 で は、 必 ず 子 ど も た ち も 音 読 がう ま く な る と い
った 経 験 知 に よ っても 証 明 さ れ よう 。 そ の時 、 教 師 の音 読 ・朗 読 が、 子 ど も たち の憧 れ 的 な モデ ル と し て 機 能 し て いる こ と は疑 いな い。
子 ど も た ち の日 常 言 語 の モデ ルと し て の教 師 の話 し 言 葉 の 問 題 は、 こ れ ま で漠 然 と は いわ れ てき た が 、 具 体 的
に教 師 の具 備 す べき 能 力 と し て と ら え ら れ た り 、 そ の研鑽 の方 法 が模 索 さ れ たり と い った こと は 、 必 ず し も 広 い
議 論 と はな って こな か った 。 子 ど も たち の話 し 言 葉 の発 達 を 考 え る 時 、 教 師 の話 し 言 葉 が ど のよ う に影 響 す る の
か 、 そ の重 大 性 の 自 覚 と と も に 、 研鑽 の 方 法 の 開 発 が 求 め ら れ る と こ ろ で あ る 。
︵二︶ 学習支 援 の中 の教 師 の話 し言葉 大 村 は ま 氏 は話 し 合 い の指 導 に つ いて 、 次 の よ う に述 べ て い る ︵ 注 7︶。
こ う い う ふ う に 、 ど う いう ふ う に と 言 わ ず に 、 話 し 合 い の な か に 入 っ て 、 一員 に な り き る の が 一番 だ と 思
いま す 。 生 徒 は 習 っ た と いう 感 じ が あ ん ま り し な い の で す が 、 そ れ が 一番 だ と 思 い ま す 。 ︵ 中 略 ︶ ﹁こ う いう
こ と を 先 生 に 習 った な あ 、 司 会 は こう だ と 言 った な あ ﹂ と い っ た こ と が 心 に 残 っ て い て も 、 や は り そ れ を 一
回 り 、 何 か し な い と 生 活 の な か に 生 か せ ま せ ん 。 と こ ろ が 、 仲 間 に な っ て い て 、 な ん と な く 入 っ て し ま った も の は 、 そ の ま ま 、 す ん な り と生 活 のな か に 生 き る だ ろ う と思 う の です 。
大 村 氏 は 、 話 し 合 い学 習 場 面 に お い て生 徒 の 一貝 と し て 参 加 し 、 し か る べ き 時 にし か る べき こと を い って み せ
る 、 そう す る こ と が ﹁生 活 のな か に 生 き る だ ろ う ﹂ と述 べ て いる 。 これ は 、 こう いう 時 に は こう いう も のだ 、 こ
う いう 時 に こう いう こ とを いえ ばう ま く いく のだ と いう こと を 、 モデ ル と し て示 す 支 援 であ る。
大 村 氏 は さ ら に 続 け て、 司 会 を し て い る生 徒 に ﹁な り 代 わ って ﹂ 発 言 し 、 話 し 合 いをう ま く 進 め た経 験 を 紹 介
し た上 で、 ﹁話 し こ と ば の指 導 と いう も のは 、 な り 代 わ って 言 う 実 際 の こ と ば を 聞 か せ な い こ と に は 、 注 意 で は
や れ な いも のな の だ と いう こ と を 、 いま さ ら のよ う に 考 え ま し た 。 私 は ﹁子 ども に な り 代 わ っ て﹂ と いう こと を
覚 え た の です 。 話 し こと ば の指 導 は 、 な ま でし な け れ ば な ら な いと いう こと を 、 ほ ん と う に考 え ま し た ﹂ ︵ 注 8︶ と 述 べ て いる 。
大 村 氏 の こ の叙 述 に は 、 話 し 合 い学 習 に お い て、 こ こ で か く あ る べ き だ と いう 姿 を 、 教 師 が 意 図 的 に モデ ル と
し て 示 す こ と が 、 子 ど も た ち の ﹁生 活 に生 き る ﹂ 本 当 の力 と な る と いう 筋 道 が端 的 に 示 さ れ て いる 。 そ し てそ れ は 、 音 声 言 語 の学 習 指 導 の典 型 的 な 支 援 の方 法 であ る と いう こと も で き る 。
︵三︶対 話 的 関 係 の中 の教 師 の話 し 言 葉
生 活 場 面 ・学 習 場 面 を 問 わ ず 、 教 師 と 子 ど も が対 話 的 関 係 を も ち 、 そ の時 の教 師 の言 葉 が 子 ど も に大 き な 影 響
を 与 え る こ と は 、 従 来 も さ ま ざ ま な 経 験 と し て語 ら れ て き た こと であ る。 ま た、 先 に も 述 べ た よ う に、 ト ピ ック
と し て 意 識 さ れ な く と も 、 教 師 の言 葉 が何 ら か の影 響 を 子 ど も に 与 え て いる と いう 側 面 も あ る 。
対 話 的 関 係 に お け る 教 師 の話 し 言 葉 に つ いて 、 古 田 拡 氏 は 次 の よう にそ のあ り 方 を 述 べ て いる ︵注 9︶。
第 一段 落 の 問 答 を 終 え て 、 こ の 第 二 段 落 の 問 答 に は い っ た と き で あ る 。 先 生 が ﹁こ こ に 美 し い も の は あ り
﹁そ
ま せ ん か ﹂ と き く 。 す る と 、 最 前 列 に い た 、 色 の 青 白 い ひ よ わ そ う な 女 の 子 が 手 を 上 げ た 。 先 生 は ﹁○ ○ ち
ゃ ん ﹂ と そ の 名 を 呼 ぶ 。 そ の 女 の 子 は た って 、 ﹁家 が 建 っ た り ﹂、 と 答 え た 。 そ の 答 え を 聞 い て 、 先 生 は
う そ う 、 こ の間 、 ○ ○ ち ゃ ん のお 家 は、 き れ いに建 ち ま し た ね ﹂ と 言 った 。 女 の 子 は 、 う れ し そ う に に こ に
こ し な が ら 、 後 ろ を 振 り 向 い た り し な が ら 腰 を お ろ し た 。 そ こ で 、 女 の 先 生 は 、 語 を 次 い で 、 ﹁今 の は 、 第
一段 に あ っ た こ と で す ね 。 そ れ で は 、 今 度 は 、 次 の 段 を 読 ん で 考 え て み ま し ょ う ﹂ と 言 っ た の で あ る 。 授 業 後 、 そ の女 の 子 の こと に つ いて 聞 く と、 女 の先 生 は 次 の よ う に話 さ れ た 。
﹁以 前 は あ の 女 の 子 の 家 は 家 庭 訪 問 を す る に も 気 の 毒 で 、 行 き 兼 ね る ほ ど の 小 さ な 家 で し た 。 ︵中 略 ︶ と こ ろ
が 、 そ の 子 の 家 は 、 こ の 一週 間 ほ ど 前 、 家 を 建 て 直 し ま し た 。 ( 中 略 ) あ の子 は、 そ れ ほ ど で き る 子 で は な
﹃家 が 建 った り ﹄ で し た 。 ︵ 中 略 ︶﹂
く 、 挙 手 も し た り 、 し な か った り な の です 。 と ころ が、 き ょう は う れ し そう に手 を 上 げ た の で 、 聞 い て み ま す と
こ の 話 を 聞 い て 、 わ た し は 全 く 感 動 し た 。 も し わ た し が そ の と き の 教 師 で あ っ た な ら 、 ﹁そ れ は 第 一段 の
こ と で は な い か 。 今 は 、 第 二 段 の こ と を 聞 い て い る の だ ﹂ と 、 一言 の も と に 、 切 り 捨 て て し ま っ た で あ ろ う 。 そ れ を 、 こ の女 の先 生 は 、 暖 か く そ の答 え を 受 け と め て や った の であ る 。
次 の 学 期 に な っ て 、 そ の 学 校 に 行 っ て み る と 、 そ の教 室 に は い る 前 か ら 聞 こ え て い た 子 ど も の 声 は 、 実 に 生 き 生 き と、 し か も ま る み を 帯 び て いた 。
子 ど も のも って いる 背 景 、 そ の 子 ど も が そ う いう 発 言 を し た 経 緯 、 そ の 子 ど も の心 情 、 そ う い った も のを す べ
て自 身 の内 部 に受 け 止 め た上 で、 対 話 的 に関 わ る 教 師 の姿 が こ こ に は あ る と いえ る 。 こ の教 室 の 子 ど も たち は 、
こう いう 質 の言 葉 を モデ ル的 に受 け 止 め つ つ、 そ こ に生 ず る 対 話 的 関 係 の心 地 よ さ を 体 で感 じ な が ら 育 つこ と に な る。
こ う い っ た対 話 的 関 係 の 中 で育 って いく 子 ど も た ち は 、 古 田 氏 が いう よ う に ﹁子 ど も の声 は 、 実 に生 き 生 き
と、 し か も ま る みを 帯 び ﹂ る よ う な育 ち を し て いく こと で あ ろ う 。 こ の こ と は 、 ﹁話 の 仕 方 ﹂ な ど と い った 技 能
を 超 え 、 ま さ に 言 葉 によ って 人 格 を 形 成 す る と い った、 話 し 言 葉 教 育 、 ひ いて は国 語 教 育 の本 質 と し て と ら え る べ き 問 題 であ る 。
お わ り に
野 地 潤 家 氏 は 、 ﹁教 育 話 法 の 特 質 ﹂ と し て 、
﹁雨 が ふ っ て 、 そ と で あ そ べ な い の で 、 ろ う か で 、 う ま っ こ と び を し て あ そ ん で い た ら 、 ぼ く が お さ れ て 、 ガ
﹁だ れ 、 け が し な い ﹂ と い っ た と き は 、 ぼ く は い ち ば ん 先 生
ラ ス に あ た っ て 、 ガ ラ ス が ガ チ ャ ン と わ れ て し ま っ た 。 / ぼ く は び っ く り し た 。 そ こ へ先 生 が 、 教 室 で か き も の を し て いた が 、 いき な り が た が た は し って 来 て、 / が す き だ っ た 。﹂
と 、 ﹃親 と 教 師 へ の 子 ど も の 抗 議 ﹄ ︵ 鈴 木 道 太 一九 五 一年 国 土 社 ︶ か ら こ の 小 学 生 の 文 章 ほ か 、 い く つ か の 子 ど も の文 章 を 引 いた 上 で、
﹁こ れ ら に は 、 ﹁救 い の 話 法 ﹂ が 挿 話 的 に 語 ら れ て い る 。 し か し 、 こ れ ら の 挿 話 の 底 に は 、 深 い愛 情 ・誠 実 が 流
﹁救
れ て い て 、 そ れ が 一回 限 り の 挿 話 で は な い こ と を 思 わ せ る 。 真 心 の こ も っ た 話 法 に よ っ て 、 児 童 た ち の 心 が 清 め
ら れ 、 そ の苦 悩 か ら 救 わ れ て いく あ り さ ま が、 端 的 に 示 さ れ て いる と 思 う 。 / これ ら の挿 話 は、 教 育 話 法 が
い の 話 法 ﹂ で あ り 、 ﹁愛 の 話 法 ﹂ で あ る こ と を 、 ま ぎ れ も な く 示 し て い る の で あ る 。﹂
と 述 べ て いる
︵ 注 10 ︶。
こ こ に は 、 ﹁救 い の話 法 ﹂ と いう 教 育 話 法 の本 質 が 示 さ れ て お り 、 こ の本 質 を 根 底 に 蔵 し て こ そ 、 教 師 の話 し 言 葉 が 子 ど も の言 葉 の育 ち に機 能 す る の だ と 了 解 さ れ る 。
注 1 野地 潤家 ﹃教育 話 法 の研究﹄ 柳 原書 店 一九 五三 年十 一月 二 八日 四頁 注 2 野地 潤家 ﹃ 教 育話 法入 門﹄ 明治 図書 出版 一九九 六年 七月 注 4 大村 はま
﹃ 国 語 教 室 お り お り の話 ﹄ ﹁あ と が き ﹂ 共 文 社 一九 七 八 年 十 月 二 五 日 、 ﹃大 村 は ま 国 語 教 室 13 ﹄ 筑 摩
注 3 古 田 拡 ﹃教師 の話 術﹄ 共 文社 一九 六 三年 十 一月二 十 日
書 房 一九八 三年 六月 に再 掲。 注 5 大村 はま ﹃ことば を豊 か に 大村 はま の国 語 教室 ﹄小 学 館 一九 八 一年七 月 十 日 七七 頁、 ﹃大 村 はま 国 語教
注 9 注 3に同 じ
注 8 注 5に同 じ
注 7 注 5に同 じ
︵ 三三 七頁 ︶
︵ 六 二∼六 三頁 ︶
︵ 六六 ∼六 七頁 ︶
︵ 六四 ∼六 五頁 ︶
室 2﹄ 筑 摩書 房 一九 八 二年三 月三 十 日 に再 掲。 注 6 三浦和 尚 ﹃ ﹁話 す ・聞 く﹂ の実 践学﹄ 三省 堂 二 〇〇 二年 七月 二五 日所 収
注 10 注 1 に 同 じ
注
読 み 聞 か せ 186
『音 声 言 語 教 育実 践 史 研 究 』
『 思考 と行動にお ける言語』
18,28
ラ 行 リ ズム 68
『聴 方 教 育 の新 研 究 』 99
『自分 の こ とば を つ く る』 64
『き く とよ む 一 こ とば の 勉 強
『小 学 生 で なぜ 英語?』 35
2』 64 『教 育 話 法 の 研 究 』 182
練習学 習 53
25 『実 感 的 戦 後 教 育 史』 19
『き き方 の理 論』 112
『小 学 校 国 語科 教 育 の 課 題 一 実 践 的 探 究 』 106
『くに の あ ゆ み 』 20
『 新 教 育 指 針』 21
朗 読 154
『月刊 国 語 教 育 』 18
『 対 話 能 力 を育 む 話 す こ と ・
論 理 の 順 序 120
『言語 生 活 』 27 『言語 と教 育 』 6
ワ 行
『国語 科 教 育 』 78 『国語 科 教 育 学 研 究 の成 果 と
話 型 提 示 54
展 望 』 18
話 表 力 11,37,42
『国 語 教 育 学 序 説 』 83 『国 語 教 育 学 の 構 想 』 86
書
名
『国 語 教 室 お りお りの 話 』 187
『ア メ リカ豊 か な る 没 落 』 35 『演 劇 入 門』75
『こ とば を豊 か に 大 村 は ま の 国語 教 室 』 188
聞 くこ と の学 習一 理 論 と 実 践 』 107 『日本 語 の 発 見 一 こ とば の 勉 強 1』 64 『話 し こ とば 大 百 科 』 76 『メデ ィア 論 一 人 間 の 拡 張 の 諸 相 一 』 62 『メモ に 関 す る学 習 の 理 論 と 実 践 』 102 『山 び こ学 校 』 26
接 続 語 120
評 価 169,178
ナ 行
説 明 法 40
評 価 基 準 131,171 評 価 規 準 171
総 合 的 な学 習 57
中野好夫 28
―の時 間 62
タ 行
表 示 123 標 準 語 ア ク セ ン ト 68
西 尾 実 82,100
評 定 178
(対 話 や 弁 論 の ) 二 重 構 造
平 田 オ リザ 75
70 対 人的 直接 性 1,61
「二種 三 類 」 の 分 類 87
古 田 拡 194
対 立 的 な立 場 95
日本 語 学 66
聞解 力 11
対 言舌 4,36,37,135
日本 語 教 育 66
文 章 論 119
対 話 的 関 係 194
人間 形 成 8
対話への教育 8 高 橋 俊 三 119
ボ ル ノー
(0.F. Bollnow)
6
年間指導計画 46
「立場 」 の発 見 86 團 伊 玖 麿 66
野 地 潤 家 182
マ 行
談 話 116
ハ 行
― (話 し こ とば ) の 形 態 83
間
(ま)
68
マ ー シ ャ ル ・マ クル ー ハ ン
―の 整 合 性 119
パ ー ソナ ル コ ミュニ ケー シ ョ ン 100
(M.McLuhan) 62 マ ス コ ミュ ニ ケ ー シ ョ ン
通 じ合 い 82,93
発 表 36,38
通 信 表 25
発 表 力 12,49
増 田信 一 18
伝 え合 う 170
発 問 法 40
マ ッ カー サ ー 26
伝 え る 170
発 話機 能 116,122
伝 え る読 み 158
話 し合 い 142
100
峰 地 光 重 99
話 し合 い 学 習 16 提 供 123
話 し合 う 170
無 着 成 恭 26
デ ィべ ー ト 25,48,70
話 方 練 習 25
村 松 賢 一 107
評価
話 し言葉 学 習 79
適 材 の―
178
話 し言葉 の学 習 指 導 72
メ タ認 知 56
適 時 の―
178
話 し言葉 の機 能 1
メモ 55,101
適 処 の―
179
話 し言葉 の教 育 72,79 話 し言葉 の 教 育 的機 能 10
目的 単 元 59
討 議 4,38
話 し 言葉 の 特 質 1
森 有 正 65
討 議 法 21,23
話 し言 葉 の 日常 的指 導 46
問答 4
討 議 力 12,45
話 す こ との 学 習 指 導 117 パ ネ ル デ ィ ス カ ッ シ ョン
動 作 化 163 討論 4 独 話 4,114
ヤ 行
48,170 パ ブ リッ ク な場 面 75
取 り立 て 指 導 48,126,142
役 割 読 み 164 山本 安 英 の 会 64
樋 口勘 次郎 25 非専 門的な専門主義 63
要 求 122
索
学 習指 導 過 程 125
国語 科 授 業 力 40
学 習指 導 要 領 61
国語 科 授 業実 践 力 40
学 習 の手 引 き 121
国語 科 授 業 評 価 力 40
相 手 意 識 87,116,124
学 習話 法 10,11,43
こ とば の 機 能 82
ア ク セ ン ト 67
学 力 80
―の産 出 94
学校 教 育 法 73
―の勉 強 会 64
ア 行
生 きる 力 63
活 用単 元 59
意 見 117
カ リキ ュ ラム 64,159
意 識 119
感覚 119
位 相 170 一 音 符一 語 主 義 67
聞 き手 68
暫 定 教 科 書 20
一 回 的発 現 性 1,61
聞 くこ との学 習 指 導 101
三 読 法 190
井 上 ひ さ し 76
聞 く力 41,189
意 味 の とお りに 読 む 158
教 育 19
司会 36,39
教 育 機 器 185
司会 力 13
内側 の き き手 70
英語 学習 34
サ 行 斉 藤 美津 子 112
教 育話 法 10,182
時間 的 線 条性 1,61
境 界領 域 68
事 実 116,117
教 科 の 壁 63
―の 定 義 117
教 師 の話 し言 葉 182
自 然 の順 序 120
協 同 的精 神 58
質疑 力 12,43
音 声 言語 技 術 157,160
ロ コ ミ 61
下 村 哲 夫 19
音 声 言 語 指 導 114
久 野 収 68
社 会 的 行 為 と して の 対 話 96
音 声 表 現 技 術 157
倉 澤栄 吉 111
主題 ・構 想 ・叙 述 の体 系 92
音読 154
群 読 162,164
主体 的真 実 95
劇 化 163
受 容 123
言 語環 境 191
助 言 法 40
言 語 人格 34
身体 性 116
言 語生 活 43
シ ン ポ ジ ウム 170
語 彙教 育 71
ス ピー チ 131
応 答 力 12,42
(体 験 の ) 質 的 高 ま り 174
大 村 は ま 36,80,121,187
主体 の社 会 意 識 90
音 読 指 導 165
力 行 会 話 4,38 会 話 文 162 「か か わ りあ う」 表 現 116, 122
効 果 の順 序 120
学 習個 体 史 19,43
公 話 4,38
生 活科 61
学 習 指 導 19
声 に 出 して 読 む 154,168
生 活話 法 14
引
執筆 者
( 執筆順)
野 地 潤 家 広島大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授 *白 石 寿 文 佐 賀大 学名 誉教 授
前 田 真 証 福岡教育大学教育学部教授 *山 元 悦 子 福 岡教 育大 学教 育学部 助教 授
楢 原 義 顕 宮崎大学教育文化学部助教授
杉
哲
熊本大学教育学部教授
田 中 智 生 岡山大学教育学部助教授 間 瀬 茂 夫 島根大学教育学部助教授 堀 泰 樹 大分大学教育福祉科学部教授 安 河 内義 己
前長崎大学教育学部教授
三 浦 和 尚 愛媛大学教育学部教授 (*編者 )
株式
朝倉国語教育講座 3 話 し言 葉 の教 育 2004年11月110日
定価 は カバー に表示
初 版 第1刷
監修者 倉
澤
栄
吉
野
地
潤
家
発行者 朝
倉
邦
造
発行所 会 社 朝
倉
書
店
東 京 都 新 宿 区 新 小 川 町6‐29 郵
便 番
号 162‐8707
電 話 03(3260)0141 FAX 03(3260)0180
〈検 印 省 略 〉
http:〃www.asakura.co.jp
〓2004〈 無 断 複 写 ・転 載 を禁 ず 〉
ISBN
4‐254‐51543‐Ⅹ
C3381
シナ ノ ・渡 辺 製 本 Printed
in Japan
Ⅰ Ⅱ 語 言
朝 倉 日本 語 講 座 〈 全10巻〉 北 原保 雄監 修 /最新 の研 究成 果 に基づ く高 度 な内容 を平 易 に論 述 前筑波大北原保 雄監修 筑波大林 史典編 朝倉 日本語講座 2
文
字
・
書 A5判
51512‐Ⅹ C3381
280頁 〔近
記 刊〕
前筑波大 北原保 雄監修 東大上野善道編 朝倉 日本語講座 3
音
声
・ A5判
51513‐8 C3381
音
韻
304頁 本 体4600円
前筑波大北 原保雄 監修 東北大斎藤倫 明編 朝 倉 日 本PI1座
語
彙
・ A5判
304頁 本 体4400円
288頁 本 体4200円
〔 内容〕文法について/文の構造/名詞句 の格 と副 /副詞 の機 能/連体 修飾の構造/名詞句 の諸相/ 話 法における主観表現/否定の スコー プ と量化/ 日本語 の複文/普遍文法 と日本語/句構造文 法理 論 と日本語/認知 言語学か らみ た 日本語研 究
意
前筑波大 北 原 保 雄 監修 ・編
朝倉 日本 語講座 5
文
法 A5判
51515‐4 C3381
前筑波大北原保雄 監修 束大 尾上 圭介編 朝倉 日本語 講座 6
文
法 A5判
51516‐2 C3381
320頁 本 体460円
前筑波大北原保雄 監修 早大佐 久間まゆみ編 朝倉 日本語 講座 7
文 51517‐
章 C3381
・ A5判
談
話
320頁 本 体4600円
前筑波大北原保雄監修 東大菊地康 人編 朝倉 日本語 講座 8
敬 51518‐9 C3381
A5判
304頁 本 体4600円
前筑波大北原保雄監修 都立大荻野綱男編 朝倉 日本語講座9言語行動
51519‐7 C3381
A5判
280頁 本 体4500円
前筑波大 北原保 雄監修 広島大 江端 義夫編 朝倉 日本語講座10
方 51520‐0 C3381
A5判
〔内容〕( 現代 日本語の) 音声/ ( 現代 日本語 の)音韻 とその機能/音韻史/ アクセン トの体 系 と仕組み / ア クセ ン トの変遷/ イン トネー シ ョン/音韻 を 計 る/音声現象の 多様性/音声 の生理/ 音声の物 理 /海外の音韻理論/音韻研究の動 向 と展望/他 語 彙 ・意味についての諸論 を展開 し最新 の研 究成 果 を平易に論述。 〔 内容 〕 語彙研究 の展開/ 語彙の 量的性 格/意味体 系/語種/語構成/位相 と位相 語/ 語義の構造/語彙 と文法/語彙 と文 章/対照 語彙論 /語彙史/語彙研究史
4
SISI4‐6 C3381
〔内容〕日本語の文字 と書記/現代 日本語の文字 と 書記法/漢字の 日本語への適応/ 表語文字か ら表 音文字へ/書記法の発達 (1) (2) /仮 名遣いの発生 と歴史/漢字音 と日本語 ( 呉音系,漢 音 系,唐 音系 字音) / 国字問題 と文 字 ・書記の教育/他
280頁 本体4200円
〔内 容 〕文 法 と意 味 の 関 係 / 文 法 と意 味 / 述 語 の 形 態 と意 味 / 受 身 ・自発 ・可 能 ・尊 敬 / 使 役 表 現 / テ ン ス ・ア ス ペ ク トを文 法 史 的 に み る/ 現 代 語 の テ ン ス ・ア スペ ク ト/ モ ダ リ テ ィの 歴 史/ 現代 語 の モ ダ リテ ィ/ 述 語 をめ ぐる文 法 と意 味 / 他
最新 の研 究成果 に基づ く高度 な内容 を平易 に論述 した本格 的な 日本語講座 。 〔 内容〕文章 を生 み出す 仕組み、文 章の働 き/文章 ・談話の定義 と分 類/ 文章 ・談話 の重 層性 /文章 ・談話におけ る語 彙の 意味/文章 ・談 話におけ る連文の意義/他 〔内 容 〕敬 語 とそ の 主 な研 究 テ ー マ / 狭 い意 味 で の 敬 語 と広 い 意味 で の 敬 語 / テ キス ト ・デ ィ ス コー ス を敬 語 か ら 見 る/ 「表 現 行 為 」の 観 点 か ら 見 た 敬 語 / 敬 語 の現 在 を読 む/ 敬 語 の 社 会 差 ・地 域 差 と 対 人 コ ミュ ニ ケー シ ョン の 言 語 の 諸 問 題 / 他
〔 内容 〕日本 人の 言語行動 の過 去 と未来/ 日本 人の 言語行動 の実態/学校 での言語行 動/近隣社会 の 言語行動/地域社会 と敬 語表現の使 い分け行動/ 方言 と共通語の使 い分 け/ 日本語 と外国語の使 い 分け/外国 人との コ ミュニケー ション/他 方言の全体像 を解明 し研 究成 果 を論述。 〔 内容〕方 言の実態 と原理/方 言の音韻/ 方言のア クセン ト /方言の文法/方言 の語 彙 と比喩/方言の表現, 会話/全国方言の分布/ 東西 方言の接点/琉球方 言/方言の習得 と共通語 の獲得/ 方言の歴史/他
シ リ ー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉〈 全1巻 〉 小 池 清治編 集 宇都宮大 小 池清 治 著
基 礎 か ら論 文 ま で。〔内容 〕「日本 」は 「に ほ ん 」か 「に っぽ ん 」か / ラ抜 き言 葉 が 定 着 す る の は なぜ か /
シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉1
現 代 日 本 語 探 究 法 51501‐4 C3381
A5判160頁
本 体2800円
宇都宮大 小 池 清 治 ・宇都宮大 赤 羽 根 義 章 著 シ リー ズ<日本 語 探 究 法 >2
文
法
探
51502‐2 C3381
究
A5判
法
168頁 本体2800円
筑波大 湯 澤 質 幸 ・広島大 松 崎 寛 著 シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉3
音
声 ・音
韻
51503‐0 C3381
探
A5判
究
法
176頁 本 体2800円
愛知県大 犬飼 隆 著
字
・表
記
51505‐7 C3381
A5判
探
究
法
164頁 本 体2800円
広島大 柳 澤 浩哉 ・群馬大 中村 敦 雄 ・宇都宮大 香 西 秀 信 著 シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉7
レ
ト
リ
ッ
ク
51507‐3 C3381
〔内容)与 謝 野 晶 子 は 文 法 を知 ら な か った の か?/ 「言 文 一 致 体 」は 言 文 一 致 か?/ 『夢 十 夜 』( 漱 石 )は 一 つ の文 章 か?/ 飛 ん だ の は シ ャ ボ ン 玉 か?屋 根 か?/ 真 に 文 を完 結 させ る も の は な に か?/ 語 で 一番 短 い 文 は な に か?/ 他
日本
〔内 容 〕音 声 と意 味 とは ど う い う関 係 に あ るの か/ 美 しい 日本 語 とは何 か / オ ノマ トべ とは何 か/ 外 国 人 に とっ て 日本 語 の 発 音 は 難 し いか / 五 十 音 図 は 日本 語 の 音 の一 覧 表 か / 「バ イ オ リ ン」か,「ヴ ァ イ オ リン」か / 他 〔内容 〕「『あ』とい う文 字 」と「『あ 』とい う字 」は 同 じ こ とか / 漢 字 は 表 意文 字 か,そ れ と も表 語 文 字 か
シ リー ズ く日本 語 探 究 法 〉5
文
「そ れ で い い ん じゃ な い?」 は なぜ 肯 定 に な るの か / 父 親 は い つ か ら「オ トウ サ ン」に な った の か / 夏 目漱 石 は なぜ 「夏 目噺 石 」と署 名 した の か / 他
A5判
探
究
法
168頁 本 体2800円
/ 漢 字 の 部 首 は 形 態 素 か / 「世 界 中 」は 「せ か い じ ゅ う」か 「せ か い ち ゅ う」か / 横 書 き と縦 書 きは ど ち らが 効 率 的 か / 他 〔内容 〕事 実 は 「配 列 」さ れ て い るか / グ ル メ 記事 は い か に して 読 者 を魅 了 して い るか / 人 は 何 に よ っ て 説 得 され るか / 環 境 問題 は な ぜ 注 目 され るの か / 感 情 は 説 得 テー マ と ど う か か わ る か / 言 葉 は 「文 字 通 りの 意 味」を伝 達 す る か /他
前烏取大 森 下 喜 一 ・岩手大 大 野 眞 男 著
〔内容 〕方 言 は どの よ う に と らえ られ て き たか / 標
シ リー ズ〈日本語 探 究 法 〉9
準 語 は どの よ うに 誕 生 した か/ 「か た つ む り」の 方 言 に は どん な もの が あ るの か / 方 言 もア イ ウエ オ の5母 音 か / 「橋 」「箸 」「端 」の ア クセ ン トの 区 別 は
方
言
51509‐Ⅹ C3381
探
究
A5判
法
144頁 本体2800円
/ 「京 へ 筑 紫 に坂 東 さ」とは 何 の こ とか / 他
朝倉漢字講座〈 全 5巻〉 漢字 の種 々相 を最新 の知 見 を と り入れ体 系化 神戸女大 前 田 富 膜 ・早大 野 村 雅 昭 編
朝 倉漢字講座 3
現
代
51533‐2 C3381
の A5判
漢
字
264頁 本 体4800円
神戸女大 前 田富 棋 ・早大 野 村 雅 昭編
朝倉漢字講座 5
漢
字
51535‐9 C3381
の A5判
未
来
264頁 本 体4800円
漢字 は長 い歴 史 を経て 日本語に定着 してい る。本 巻 では現代 の諸分 野での漢字使用の実 態 を分 析。 〔 内容 〕 文学 と漢字/ マ ンガの漢字/広告 の漢字/ 若者 と漢字/書道 と漢字/漢字のデザ イ ン/ルビ と漢字/地名 と漢字/人名 と漢字/漢字 の クイズ 情報化社会の 中で漢字文化 圏での漢字 の役 割を解 説。 〔 内容 〕 情報化社会 と漢字/ インター ネ ッ トと 漢字/ 多文字社会 の可能性 /現代 中国 の漢字/韓 国の漢字/東南 アジアの漢字/出版文化 と漢字/ ことばの差別 と漢字/漢字 に未来はあ るか
◆ 国語教 育実 践 ・研 究 の ため の 羅針 盤 ◆
《朝 倉 国 語教 育 講座 》 全 6巻 倉 澤栄 吉 ・野 地 潤 家 監修
第 1巻 国語 教育入 門 白石寿 文 編集 国語教 室へ ようこそ/話 したが りや ・聞 きたが りやの 国語 教室/書 く喜 びを分か ち合 う国語教 室/文学 に遊 ぶ国語教室/ 説明 ・論説に挑む国語教室/言葉 ・文 字の魅力に満 ちた国語教室/授 業を愉 しめ る国 語教 師に
第 2巻 読 む こ との教 育 小 田迪 夫 ・浜 本 純 逸 ・松 山 雅 子 編集 読む ことの 原理 と教育,そ の歴 史的展望/読 むこ との指導体系/読 むこ との指 導の内容 と方法/ これか らの読む こ との学習指導
第 3巻 話 し言葉 の教育 白 石 寿 文 ・山 元 悦 子 編集 話 し言葉学 習の特質/話 し言葉教 育の戦後60年 史/ 話 し言葉学習の機会 と場/ 話 し言葉学 習の内容 ・ 方 法 ・評価/ 話 し言葉教育 を支 える教 師の話 し言葉
第 4巻 書 くこ との 教 育 菅 原 稔 ・中西 一 弘 ・森 田 信 義 編集 書 く と い うこ と/ 書 く こ と の 歴 史 的 展 望 / 書 く こ との 能 力 とそ の 発 達 / 書 く こ との 学 習 指 導 とそ の 体 系 / 書 くこ との 生 活 化 と習慣 化 / 書 くこ との 学 習 指 導 とそ の 方 法 / 書 くこ との 学 習 指 導 に おけ る評 価 / 書 くこ との 学 習 指 導 とそ の 発 展
第 5巻 授業 と学 力評価 世 羅 博 昭 ・三 浦 和 尚 編集 224頁 本体3200円 国語科 授業構築 ・研 究の基本課題/国語科授業研究 の成 果 と試行/国語科授業構築 の原理 と方法/国語 科授 業の構築 と展 開/国語科授業の構築 ・研究 の集積 と深化/評価研究 の意義 と方法/学 習者把握 をめ ざす評価の開発/望 ましい評価方法の開発 と試行/学 力 ・指導力の評価 と授業 力の向上
第 6巻 研 究必携 大 槻 和 夫 ・吉 田 裕 久 ・植 山 俊 宏 編集 国語教 育学総論/ 国語教育課程 および方法 の研 究/ 話す こと ・聞 くこ との指 導研 究/書 くこ との指導研 究 /読む ことの指 導研究/読書指導の研究/ 言語事 項指導の研究/ メディア ・リテ ラシー教育の研究/ 国語教育 史の研 究/比較国語教育研究/ 国語教 育研 究 と隣接諸科学 上記価格
( 税 別 ) は2004年10月
現在