電気電子材料 導 電性制御 とエネルギー変換の実際
松葉 博則 著
東京電機大学出版局
緒言 電 気,電
子 工 学 で は,材 料 の 知 識 を欠 くこ とは で きな い 。 ハ ー ドウエ ア と呼 ば
れ る も...
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電気電子材料 導 電性制御 とエネルギー変換の実際
松葉 博則 著
東京電機大学出版局
緒言 電 気,電
子 工 学 で は,材 料 の 知 識 を欠 くこ とは で きな い 。 ハ ー ドウエ ア と呼 ば
れ る もの は,す べ て 何 らか の材 料 を用 い て作 られ て い る 。電 気 電 子 機 器 の性 能 は, そ の使 用 す る材 料 の性 質 に よ り支 配 さ れ る。 機 器 の進 歩 は,多 開 発,改
くの 場 合,材 料 の
善 に よ っ て な さ れ る。 また,新 材 料 の 出 現 は,こ れ まで に なか った 機 器
を作 り出 す 。 そ れ ゆ え,新
しい材 料 の 開発,あ
る い は 材 料 性 能 の改 善 は,非 常 に
重 要 な研 究 課 題 と言 え よ う。過 去,現 在 を問 わ ず 材 料 の変 革 は精 力 的 に進 め られ, 電 気 電 子 材 料 は,最 も変 化 の 大 き い分 野 と な っ て い る。10年 経 過 す る と,使 わ れ て い る材 料 が,ま
っ た く異 な って し ま っ て い る分 野 も少 な くな い。
電 気 電 子 材 料 は,材 料 の電 気 的 性 質 を利 用 す る こ とが 主 眼 で あ るが,そ
の範 囲
はた い へ ん 広 い 。 物 質 は電 気 的 な 力 に よ っ て構 成 さ れ て い るか ら,極 端 な言 い方 をす れ ば,電 気 電 子 材 料 は,物 理 学,化 学,生
物 学 な ど,ほ
とん どの 科 学 技 術 分
野 と関係 が あ る。 この よ う に変 化 が 激 し く,そ の 扱 う学 問 分 野 の 広 い電 気 電 子 材 料 を,限
られ た
ペ ー ジ で ま とめ るの は,た い へ ん難 し い こ と と思 う。 しか し,電 気 電 子 材 料 は多 くの 場 合,電
荷 の 流 れ(電 流)と,光
な どの電 磁 波 との 変 換,フ
ォ ノ ン(熱)と
の 相 互 作 用 に基 づ く性 質 を利 用 して い る。 これ ら の観 点 か ら,材 料 を理 解 す る と い う試 み を本 書 で は行 っ て み た。 これ に より,電
気 電 子 材 料 に お い て現 れ る多 種
の 現 象 の 基 本 原 理 と,こ れ らの相 互 関 係 を理 解 す る こ と を一 つ の重 要 な 目的 と し た 。 そ の う えで,具 体 的 な各 材 料 に つ いて 述 べ た 。 材 料 分 野 の,変 遷 の激 しい こ と を考 慮 し,で
き るだ け最 新 の状 況 に 基 づ き,重 点 を置 い て 取 り上 げ た 。 さ ら に
電 気 電 子 材 料 の性 能 と し て,信 頼 性 は 重 要 な項 目で あ る。 これ は個 々 の材 料 に関 連 し,具 体 的 な記 述 はで き な いが,一 般 的 な考 え 方 を述 べ た 。 新 し い,独 創 性 の あ る材 料 の開 発 は,そ
の基 本 原 理 の,広 い 面 か ら見 た総 合 的
理 解 か ら始 ま る と考 え る。 違 う分 野 で使 わ れ て い る考 え方 を持 ち込 む と,新 た な 発 展 が 達 成 で き る と,よ く言 わ れ る。 また,電 気 電 子 材 料 を学 ぶ上 で も,「な ぜ 」,
「ど う して 」 とい う観 点 が,最
も興 味 を もち,か つ応 用 が 利 くこ とで は な い か と考
え る。 本 書 が そ の一 助 にで もな れ ば,と 願 っ て い る。 電 気 電 子 材 料 は非 常 に多 くの専 門 分 野 に また が り,こ れ らの 分 野 で,同
じ現 象
が 違 っ た見 方 で 見 られ て い る こ と も あ る し,使 う言 葉 や 単 位 が 違 う こ と もあ る。 単 位 の,分 野 ご との違 い を な くす た め,本 書 で は,単 位 は,す べ てSIユ
ニ ッ トで
表 現 し た。 これ に よ り,そ れ ぞ れ の 専 門 分 野 で,通 常使 わ れ て い る単 位 と異 な る こ とも あ る。 な お,SIユ
ニ ッ トが,あ
る分 野 で 全 く使 わ れ て い な い場 合 に は,そ
の使 わ れ て い る単 位 を併 記 した箇 所 も あ る。 また,現 象 の 取 り上 げ方 や 解 析 も, そ の 専 門 分 野 で の 通 常 の 扱 い と異 な る こ と もあ る。 これ ら は,材 料 を一 貫 して 見 渡 す とい う観 点 か ら,あ えて 行 っ て み た 。 な お,用 語 につ い て は専 門 分 野 ご と に 違 う も の もあ り,場 合 に よ っ て は,同 じ分 野 で あ る に もか か わ らず,例 え ば,「超 電 導 」,「超 伝 導 」 と2種 あ る こ と もあ る。 この よ う な 用 語 に つ い て は,著 者 の 独 断 に よ り統 一 した 。 しか し,用 語 に つ い て,主 義 主 張 が 著 者 に あ るわ け で はな い。 この よ う に統 一 的 に記 述 す る努 力 をす る こ とが,浅 学 非 才 に もか か わ らず,非 常 に 広 い分 野 に わ た る技 術 を,ひ
と ま とめ と して書 き記 す こ との 問題 点 を補 う こ
と を願 っ て い る 。 本 書 は大 学 に お け る電 気 電 子 材 料 の講 義 の メ モ を も と に,加 筆 し構 成 した もの で あ る。 出版 に ご支 援 い た だ い た東 京 電 機 大 学 の先 生 方 お よ び,内 容構 成 や 不 備 な文 章 の 改 善 等,多
くの お世 話 を頂 き,ま た ご迷 惑 を お か け した 東 京 電 機 大 学 出
版 局 編 集 課 の岩 下 行 徳 氏 に心 か ら御 礼 申 し上 げ た い。 1998年3月
松 葉博則
目 第1章
次
電 気 電 子 材 料 の 概 要
1
1.1 電 気 電 子 材 料 の 意 義 1 1.2 原 子 と 電 磁 気 力
3
1.3 原 子 の 構 造
4
1.3.1 原 子 内 の 電 子
第2章
4
1.3.2 原 子 の 結 合
6
1.4 他 の 粒 子 と の 相 互 作 用
7
物 質 の 導 電 性―
9
2.1 導 電 性―
電 流 と は 何 か
電荷 を もっ た粒 子 の移 動
2.2 各 種 の キ ャ リヤ
第3章
11
2.2.1 固 体
11
2.2.2 液 体
17
2.2.3 気 体
18
2.2.4 キ ャ リヤ 密 度 と移 動 度
18
キ ャ リ ヤ の 挙 動 と 電 流―
オ ー ム の 法 則 の 成 立 条 件
21
3.1 キ ャ リ ヤ を 動 か す も の
21
3.2 キ ャ リ ヤ の 運 動 法 則
22
3.2.1 電 界 に よ る流 れ
22
3.2.2 拡 散 に よ る流 れ
24
3.2.3 移 動 度 と拡 散 率 の 関 係―
9
3.2.4 化 学 ポ テ ン シ ャル 3.3 物 質 に 流 れ る 電 流 と電 圧 3.3.1 一 般 法 則
アインシ ュタイ ンの関係
24 25 25 25
3.3.2 3.4
第4章
導 電 性 に よ る 簡 略 化
27
熱 と 電 流
28
3.4.1
ゼ ー ベ ッ ク 効 果
28
3.4.2
ペ ル チ エ 効 果 と ト ム ソ ン 効 果
29
3.4.3
ケル ビンの関係
異 種 材 料 の 接 合―
30
界 面 電 荷 の 生 成 と非 線 形 電 流
31
4.1 異 種 材 料 の 接 合 時 の キ ャ リ ヤ 挙 動
31
4.2 同 一 キ ャ リヤ を も つ 物 質 の 接 合
32
4.2.1 接 合 界 面 の キ ャ リヤ 分 布
32
4.2.2 電 圧 と電 流 の 関 係
33
4.3 異 な る キ ャ リ ヤ を も つ 物 質 の 接 合
37
4.3.1 pn接 合
38
4.3.2 電 解 液 と金 属 の 接 合
40
4.3.3 電 解 液,固
体 電 極 を 用 い た エ ネ ル ギ ー コ ンバ ー タ(電 池,
電 気 化 学)
41
第5章 金 属の導 電性
45
第6章 絶 縁体 の電気伝導
49
6.1 絶 縁 体 中 の キ ャ リ ヤ
49
6.2 電 気 伝 導 を 表 す 式
50
6.3 電 極 か ら の キ ャ リ ヤ 注 入 に よ る 導 電 性
51
6.4 電 極 効 果
52
6.4.1 Fowler‐Nordheim 6.5
emission
ト ラ ッ プ に よ る 移 動 度 の 低 下― Frenkel効 果
53 ホ ッ ピ ン グ伝 導 とPoole 53
第7章
半 導 体 の 電 気 伝 導
55
7.1 半 導 体 と は
55
7.2 電 気 伝 導 を 表 す 式
55
7.3 半 導 体 の キ ャ リ ヤ 密 度
56
7.3.1 真 性 半 導 体
56
7.3.2 不 純 物 半 導 体
57
7.4 半 導 体 の 移 動 度
第8章
59
液 体 の 電 気 伝 導
61
8.1 液 体 の キ ャ リ ヤ
61
8.2 イ オ ン の 存 在 形 態
61
8.2.1 高 誘 電 率 溶 媒 に溶 解 した イ オ ン
61
8.2.2 溶 融 し た イ オ ン結 晶
65
8.3 イ オ ン の 移 動 度
65
8.3.1 高 誘 電 率 溶 媒 に 溶 解 し た イ オ ン の 移 動 度 8.3.2 溶 融 した イ オ ン結 晶 の移 動 度
第9章
67
超 電 導 の 電 気 伝 導
71
9.1 超 電 導 体 の 概 要 9.2 BCS超
65
71
電 導 体
72
9.3 高 温 超 電 導 体
74
9.4 超 電 導 の 電 磁 気 的 性 質
74
9.5 超 電 導 体 の 電 流
79
9.5.1 超 電 導 電 子 の 表 現
79
9.5.2 ロ ン ド ン方 程 式
80
9.5.3 ロ ン ド ンの 磁 場 侵 入 長 とMeissner効 9.5.4 ロ ン ド ン長 の 評 価
果
9.5.5 ロ ン ド ン方 程 式 を 用 い た 電 磁 場 計 算
81 83 83
9.5.6 Ginzburg-Landau(GL)方 9.5.7 Ginzburg-Landau(GL)の
9.5.8 GLの
程 式
86
コ ヒ ー レ ン ス長
88
磁 場 侵 入 長
9.5.9 Ginzburg-Landau(GL)の
88 パ ラ メ ー タ κ
9.6 超 電 導 連 結 リ ン グ 内 の 磁 束 の 量 子 化
90
9.7 第 二 種 超 電 導 体
91
9.7.1 渦 糸 の侵 入 開 始 磁 場Hc1
92
9.7.2 常 電 導 転 移 磁 場Hc2
93
9.7.3 渦 糸 の運 動 とそ れ に 基 づ く抵 抗
93
9.7.4 渦 糸 の ピ ン止 め
94
9.7.5 巨 視 的 電 磁 場
95
9.7.6 Beanの
臨 界 状 態 モ デ ル
9.7.7 第 二 種 超 電 導 体 線 の 電 流 と超 電 導 体 の 挙 動 9.8 超 電 導 の 応 用
第10章
88
絶 縁 体
・誘 電 体 の 誘 電 性
96 97 98
101
10.1 誘 電 分 極
101
10.2
102
分 極 の 時 間 遅 れ お よ び 損 失
10.3 誘 電 損 失 と 等 価 回 路
103
10.4
104
分 極 の 種 類
10.5 種 々 材 料 の 誘 電 特 性 と 用 途
106
10.6
106
強 誘 電 性
10.7 圧 電 性
108
10.8 焦 電 効 果
109
10.9
110
10.10
電 気 光 学 効 果 液 晶
110
10.10.1 温 度 転 移 型 液 晶
110
10.10.2 強 誘 電 性 液 晶
111
10.10.3 濃 度 転 移 型 液 晶
第11章
絶 縁 破 壊
と 高 電 圧 絶 縁
11.1
絶 縁 破 壊 の メ カ ニ ズ ム
11.2
気 体 の絶 縁 破 壊
第12章
113 113 114
11.2.1 モ デ ル
114
11.2.2 電 気 的 負 性 ガ ス
117
11.3 液 体 の 絶 縁 破 壊 11.4
111
固 体 の 絶 縁 破 壊
117 118
11.4.1 絶 縁 破 壊 の メ カ ニ ズ ム
118
11.4.2 絶 縁 劣 化
119
磁 性 体
123
12.1 静 磁 気 概 説
123
12.2
原 子 の 磁 性
125
12.3
磁 化 と強 磁 性 体
126
12.4
自 己 減 磁 作 用 と反 磁 界 係 数
129
12.5 軟 磁 性 材 料 と 硬 磁 性 材 料
131
12.5.1 軟 磁 性 鉄 心
131
12.5.2 永 久 磁 石
132
12.6
強 磁 性 体 の 磁 化 機 構
133
12.7
強 磁 性 体 の 交 流 特 性
135
12.7.1
ヒス テ リ シ ス 損 失
12.7.2 磁 気 余 効 12.7.3 渦 電 流 損 失
136 137 138
12.8 磁 性 と 他 の 物 理 量
141
12.9 各 種 磁 性 材 料
142
12.9.1 金 属 の 磁 性 と金 属 磁 性 材 料
142
12.9.2 12.10
第13章
酸 化 物 の 磁 性 と フ ェ ラ イ ト,希
土 類 鉄 ガ ー ネ ッ ト
そ の他 磁 気 応 用
光 デ バ
144 145
イ ス
149
13.1
光 の 利 用
149
13.2
光 検 出 器
150
13.3
13.4
13.5
13.2.1
光 検 出 用 ホ ト ダ イ オ ー ド
150
13.2.2
pnホ
150
13.2.3
pinホ
13.2.4
シ ョ ッ ト キ ー ホ トダ イ オ ー ド
151
13.2.5
ア バ ラ ン シ ェ ホ トダ イ オ ー ド(APD)
151
13.2.6
ホ ト トラ ン ジ ス タ
152
13.2.7
ホ ト コ ン ダ ク タ
152
ト ダ イ オ ー ド ト ダ イ オ ー ド
151
発 光 素 子
152
13.3.1
LED
152
13.3.2
エ レ ク ト ロ ル ミ ネ ッ セ ン ス(EL)
153
13.3.3
太 陽 電 池
154
レ ー ザ ー
154
13.4.1
レ ー ザ ー の 原 理
154
13.4.2
気 体 レ ー ザ ー
155
13.4.3
固 体 レ ー ザ ー
156
13.4.4
半 導 体 レ ー ザ ー
156
光 フ ァ イ バ ー
158
13.5.1
光 フ ァ イ バ ー の 原 理
158
13.5.2
モ ー ド
159
13.5.3
シ ン グ ル モ ー ド フ ァ イ バ ー とマ ル チ モ ー ド フ ァ イ バ ー 160
13.5.4
光 フ ァ イ バ ー 材 料
161
第14章 半導体 デバ イス 14.1
ト ラ ン ジ ス タ
163
14.1.1 接 合 トラ ン ジ ス タ
164
14.1.2 電 界 効 果 トラ ン ジ ス タ(FET)
1655
14.2 電 荷 結 合 デ バ イ ス(CCD)
第15章
電 池 15.1水
イ オ ン 原 子 と電 池 の 性 能
15.3 各 種 電 池
171 172 173
15.3.1 マ ン ガ ン電 池
173
15.3.2 鉛 蓄 電 池
174
15.3.3 ニ ッ ケ ル カ ド ミ ウ ム 電 池
175
15.3.4 ニ ッ ケ ル 水 素 電 池
175
15.3.5
リチ ウ ム電 池
175
リチ ウ ム イ オ ン 電 池
176
15.3.6
15.3.7 燃 料 電 池
第16章
168
171 素-水 酸 基 イ オ ン を 用 い た 電 池 の 原 理
15.2
163
信 頼 性 と 寿 命
177
179
16.1 材 料 の 化 学 変 化
179
16.2 材 料 に 潜 む 欠 陥
180
16.3 極 値 統 計 学 と ワ イ ブ ル 分 布
181
16.3.1
ワイ ブ ル 分 布
182
16.3.2 寿 命
183
16.3.3加
速 試 験
184
16.3.4体
積 効 果
185
付
録
187
付 録1 1種 キ ャ リヤ で の 異 種 接 合 の キ ャ リ ヤ 密 度 と空 間 電 荷
187
付1.1 電 荷 方 程式 の 一 般解
187
付1.2 接 合 で の解
188
付 録2 2種 キ ャ リヤ で の 異 種 接 合 の キ ャ リヤ 密 度 と空 間 電 荷
191
付2.1 2種 キ ャ リヤ で の電 荷 関 係 式
191
付2.2 pn接 合 で の解
192
付 録3 ロ ン ド ン方 程 式 を 用 い た 電 流,磁
場 計 算 例
195
第1章 電気電子材料の概要
1.1
電 気 電 子 材 料 の意 義
現 在,電
気 は 現 代 文 明 の 中 心 的 役 割 を 果 た して い る。 あ らゆ る工 業 や 生 活 に電
気 の 利 用 が そ の基 礎 とな っ て い る こ とは 言 う ま で もな い。 こ れ は電 気 の もつ それ ぞ れ優 れ た 特 長 に よ る もの で あ る。 現 代文 明 は エ ネ ル ギ ー と情 報 の 利 用 をそ の基 盤 とす るが ,こ れ ら を扱 う上 で 電 気 の もつ 特 長 は ① エ ネ ル ギ ー を送 る に は電 線 を用 い て 望 む場 所 まで 容 易 に送 れ る。 ② 機 械 力,光,化
学 反 応 な ど他 の エ ネ ル ギ ー 形 態 に容 易 に効 率 よ く変 換 で き
る。 ③ 複 雑 な電 流 の 流 れ な どの制 御 が 高 速 に か つ 容 易 にで き る。 な どで あ る 。 これ らの電 気 の 利 用 は 具体 的 な装 置 を構 成 す る こ とに よ り現 実 の もの とす る こ とが で き る が,電 気 電 子 材 料 は物 質 の もつ 光 学 的,電 磁 気 的性 質 を利 用 して,こ れ ら装 置 を作 るた め の基 本 的 な材 料 で あ る。 従 って,そ
の性 能 の優 劣 は装 置 の性 能 を決 定 す る と言 っ て も過 言 で は な く,新
しい よ り優 れ た装 置 の誕 生 は 新 しい材 料 の 開 発 と は無 縁 で は な い。 電 気 電 子 材 料 とし て物 質 を見 る と,そ の 電 磁 気 的 性 質 が 問題 とな る。 物 質 は原 子,電
子 に よ り構 成 され,こ
体,液
体,気
れ ら は電 磁 気 力 に よ り結 び付 け られ,我 々 が み る固
体 とい う形 態 を表 す 。 これ らの 物 質 は 種 々 の 外 部 か らの 電 磁 気 的 作
用 に対 し て多 様 な 応 答 を示 す。 この性 質 は物 質 に よ り異 な る こ とは 言 う まで もな い が,こ
れ らの違 い は物 質 の電 磁 気 的 力 に よ り結 び 付 け られ る有 様 に よ っ て 異 な
る。 電 気 電 子 材 料 は,こ れ らの物 質 に我 々 が 必 要 とす る電 磁 気 的性 質 を与 え る こ
表1.1 電 気 電子 材 料 の応 用 分野 と必 要 な性 能
とが そ の研 究 課 題 とな る。 そ れ ゆ え,そ の 基 本 は物 質 が どの よ う に して 構 成 され て い るか の 理 解 が まず必 要 とな る。 電 気 電 子 材 料 の 基 本 的 な事 項 はそ の 導 電 性 の利 用 で あ る。 この 導 電 性 は単 一 材 料 の導 電性 と異 種 材料 の 接 合 の 導 電性 と に分 か れ,そ れ ぞ れ 特 徴 の あ る 性 質 を示 す 。 これ は前 述 の 電 気 の もつ特 長 の①,③
と も関 連 し,重 要 な項 目で あ
る し物 質 中 の電 磁 気 現 象 の 基 本 で もあ る の で詳 し く述 べ る。 また,光,化
学反応
ヘ の変 換 は デ ィス プ レ イ,光 通 信,電 池 な どの応 用 と して 重 要 で あ る。 電 気 の利 用 形 態 は,大
き く分 けて エ ネ ル ギ ー お よび 情 報 と して の利 用 に分 け ら
れ る。 この 観 点 か ら分 類 した の が 表1.1で
あ る。 電 気 電 子 材 料 は,こ れ らの 応 用
に 必 要 と され る機 能 をで き るだ け満 た す こ とが望 ま し い が,理 想 的 な性 能 を もつ こ とは な い し,性 能 と経 済 性 と は相 反 す る こ と も多 い 。 従 っ て,用 途 に応 じて 材 料 の 最 も重 要 な性 能 を 考 え つ つ,経 済 性 との 兼 ね 合 い で 実 際 の 機 器 は構 成 さ れ る 。 電 気 電 子 材 料 の性 能 の 向上 は機 器 の 性 能 と経 済性 とを 同 時 に改 良 で き,電 気 電 子 機 器 の最 も重 要 な キ ー テ ク ノ ロ ジー で あ る た め,日 々 改 良 が 加 え られ る し, 新 しい 材 料 も開 発 さ れ て い る最 も変 化 の 激 し い分 野 で あ る。
1.2
原 子 と電 磁 気 力
我 々 が み る物 質 の 性 質 は,ほ
とん ど電 磁 気 的 相 互 作 用 に よ っ て 決 め ら れ て い
る。 これ は,電 磁 気 的 相 互 作 用 の式 と も う一 つ の 物 質間 に働 く重 力 とを比 べ て み る と興 味 深 い。 静 電 荷 相 互 に働 く力(静 電 力) (1.1) 磁 気 ダ イポール 相 互 に働 く力(磁 気 力) (1.2) 重力
(1.3) を表 す 式 の大 き さ を比 較 す るた め に,(陽 子 相 互 に働 く重 力)/(素 電 荷 相 互 に働 く 力)を
比 較 す る と,そ の 比 は8.09×10-37と
な り極 端 な差 が あ る。例 え ば,も し地
球 と太 陽 が 原 子 核 の み で 構 成 され た と し,こ の 重 力 と等 し い静 電 力 を もた らす た め に必 要 な陽 子 の質 量 は2μgに
す ぎ な い。す なわ ち,重 力 は無 視 して か まわ な い
こ とを意 味 す る。 従 っ て,我 々 が み る物 質 の性 質 は ほ とん ど電 磁 気 的 相 互 作 用 に よ っ て決 め られ て い る。 また,原 子 の 中 で は,静 電 力(式(1 (1.2))よ
.1))は
磁 気 力(式
り3万 分 の1程 度 とか な り大 き い。従 って,原 子 の 中 で は静 電 力 が 重 要
な 役 割 を果 た す。
1.3
原子 の構造
電 気 電 子 材 料 は,物 質 の 電 気 的 性 質 を利 用 して い る。 この性 質 の 大 部 分 は物 質 に 含 ま れ る電 子 の 振 舞 に関 与 し て い る。 従 っ て,電 気 電 子 材 料 を理 解 す る に は, 物 質 の な か で電 子 が ど の よ う に振 舞 うか を ま ず理 解 す る必 要 が あ る。 電 子 は物 質 を構 成 す る基 本 単 位 で あ る 原 子 の構 成 要 素 で あ り,9.11×10-31〔kg〕 の 質 量 と負 の 電 荷q=1.602×10-19〔C〕
を も っ た 非 常 に 小 さ い粒 子 で あ る。 し か し,一 方 で
は,原 子 中 や これ ら原 子 が 結 合 した 物 質 中 な ど電 子 が 小 さい 空 間 に閉 じ こ め られ て い る時 は,粒 子 と して の性 質 で は 説 明 で きな い 振 舞 もす る。 この と きは 波 動 と して の 性 質 を示 す 。 波 動 と して の性 質 の 最 大 の特 徴 は,電 子 の もつ エ ネ ル ギ ー が 連 続 的 な値 を取 れ ず,飛
1.3.1
び飛 び の(離 散 的 な)値
しか とれ な い こ とで あ る。
原 子 内 の電 子
原 子 は正 の 電 荷 を もつ 原 子 核 と電 子 とで構 成 され る。 原 子核 の正 の電 荷 量 は電 子 の 整 数 倍 で あ り,こ れ は原 子 核 に 含 まれ る 陽 子 の 数 で決 定 され る。 この 数 が 原 子 番 号 で,通 常 原 子 は 中性 と な る だ けの 数 の電 子 を もっ て い る。 この 原 子 内 の 電子 に は波 動 と し て の性 質 を示 し,そ の 特 徴 で あ る離 散 的 な値 の
エ ネ ル ギ ー しか取 れ な い。 また,電 子 は そ の性 質 か ら一 つ の エ ネ ル ギ ー状 態 を一 つ の 電 子 しか 取 る こ とは で き な い とい う 「パ ウ リの排 他 律 」 と呼 ばれ る法 則 が あ る。 電 子 は全 体 の エ ネル ギ ー が 最 小 に な る とい う物 理 の 基 本 法 則 に従 っ て,原 子 核 の電 荷 に よ るポ テ ン シ ャ ル に よ っ て 決 め られ る離 散 的 な値 の エ ネ ル ギ ー 準 位 の 低 い値 の 順 に そ の エ ネ ル ギ ー状 態 を 占 め て い く。 原 子 間 の 相 互 作 用 は外 側 の,す
な わ ち エ ネ ル ギ ー レベ ル の高 い位 置 に あ る電 子
に よ って 決 定 され る。 これ は,エ ネ ル ギ ー レベ ル の 高 い 電 子 は原 子 に よ る束 縛 が 小 さ く他 の 原 子 と相 互 作 用 を行 いや す い か らで あ る。 原 子 の 種 類 は原 子 番 号 に よ っ て分 類 で き る。 この 原 子 番 号 の順 に原 子 を 並 べ て み る と周 期 的 に似 た 原 子 間 の相 互 作 用,す な わ ち化 学 的性 質 が 現 れ る。図1.1に, この表 を示 す 。 これ は周 期 律 表 と呼 ば れ る。 これ は 外側 の 電 子 の 原 子 に よ る束 縛 が 周 期 的 に変 化 す る こ とを示 して い る。 あ る周 期 毎 に電 子 が 安 定 に原 子 に 束 縛 さ れ,こ
の 安 定 な原 子 は原 子 間 で 相 互 作 用 を ほ とん ど しな い。 す な わ ち,化
図1.1
元 素 の 周 期 律 表(以
http;//mwanal.llanl.gov/julie
下 よ り 転 載) imagemap/periodic//periodic.html
学的 に
不 活性 で あ る。 この 原 子 群 はヘ リウ ム,ネ オ ン な どの稀 ガ ス で あ る。 これ らは他 の 原 子 と相 互 作 用 を し な い た め 原 子 単 独 で存 在 し,広 い 温 度 範 囲 で 気 体 で あ る。 この安 定 な 電 子 の 数 か ら異 な っ た 数 を もつ原 子 は,電 子 を他 の原 子 とや り と り し 安 定 に な ろ う とす る。 この よ う に他 の 原 子 との相 互 作 用 を し,原 子 間 に結 合 を も た らす 電 子 を価 電 子 と呼 ぶ。こ
の価 電 子 に よ り原 子 間 に結 合 が 生 じ化 合 物,す
な
わ ち分 子 や 結 晶 を形 成 す る。 また,こ の 価 電 子 の 形 態 に よ っ て導 電 性 も支 配 され る。
1.3.2
原 子 の結 合
この よ う に,原 子 は電 子 の や り と りに よ り結 合 を行 う。 よ り一 般 的 に言 えば, そ の や り と りを 行 っ た結 果,エ
ネル ギ ー が 最 小 とな る よ うな,言
い換 え れ ば安 定
な 原 子 間距 離 を与 え る よ うな 状 態 に結 合 が行 わ れ る。 現 実 の結 合 は,そ の原 子 の 種 類,組
み 合 わ せ に よ り非 常 に多 種 多 様 の形 態 を示 す 。 し か し,そ の 結 合 に は次
の 四 種 に示 す 著 しい 特 徴 の あ る結 合 形 態 に分 け る こ とが で き る 。 この 分 類 は歴 史 的 に分 け られ て きた もの で あ る。 この た め,厳 密 な意 味 で 原 子 の 結 合 は この どれ か に分 類 で き る とい う もの で な く,あ らゆ る結 合 は他 の種 類 の結 合 形 態 を多 少 な り と も有 して い る。 (1) 共 有 結 合
不 完 全 な 電 子 配 置 を もっ た原 子 が 他 の 原 子 と電 子 を 原 子 間
に共 有 し,こ れ を合 わ せ る と安 定 な 電 子 配 置 とな る よ うな 結 合 の仕 方 で あ る。 例:ダ
イ ア モ ン ド,水 素 分 子,シ
(2) イ オ ン 結 合 原 子 は正,あ
リコ ン,プ ラ ス チ ック な どの有 機 物
原 子 が 電 子 を や り取 り して 安 定 な原 子 とな り,そ の 結 果
る い は 負 の イ オ ン に な り,結 合 は そ の 静 電 気 的 な 引 力 で もた ら され
る結 合 で あ る。 例:食
塩,セ
ラ ミ ック な ど
(3) 金 属 結 合
原 子 は正 イ オ ン と し て配 置 し,電 子 は特 定 の 原 子 に 占有 さ
れ る こ とな く全 部 の 原 子 に共 有 され る状 態 に な っ て い る。 従 っ て,こ 属 中 を 自 由 に移 動 で き る。 例:金
属
の電 子 は金
(4) フ ァ ン デ ル ワ ー ル ス 結 合
電 子 の 交 換 を し な いが,分
子等 の各構成 要
素 が 近 接 す る こ とに よ り双 極 子 を作 り,こ れ ら双 極 子 間 の 電 気 的 引 力 で 結 合 す る。 この 結 合 は他 の 結 合 に比 べ て 弱 い。 プ ラス チ ック 分 子 間 の 結合 な どが 挙 げ ら れ る。 例:プ
ラ ス チ ッ ク分 子 間 の 結合,液
1.4
他 の 粒 子 との 相 互 作 用
化希 ガス
物 質 中 の電 子 は化 学 結 合 や,光,熱,電
流 な どの 作 用 に よ っ て そ の もつ エ ネ ル
ギ ー を変 え る 。 こ の と きエ ネ ル ギ ー保 存 則 に よ り,そ の エ ネ ル ギ ー 変 化 は何 らか の 他 の エ ネ ル ギ ー 形 態 を もつ 粒 子 に変 換 され る。 これ らの粒 子 は次 の もの が挙 げ られ る。 ① 電 子:電 子 同 士 の エ ネ ル ギ ー 交 換 ② 光 子(ホ
トン):電 子 の エ ネ ル ギ ー の 変 化 分 に 相 当 す るエ ネ ル ギ ー を もつ
電 磁 波 で あ る 。通 常 は 光 周 波 数 領 域 。そ の 周 波 数 をν とす る と,hν の大 きさ の エ ネ ル ギ ー を も つ。hは プ ラ ン クの 定 数 で あ る。 ③ フ ォ ノ ン:物 質 の温 度 を規 定 す る原 子,分 ギ ー)で
子 の運 動 エ ネル ギ ー(熱 エ ネル
あ る。
この こ とか ら物 質 中 の 電 子 の エ ネ ル ギ ー を変 え る こ とに よ り光,熱
の発 生,吸
収 な どの 現 象 が起 き る。 これ らの 変 換 は電 気 電 子 材 料 が 他 の形 態 の エ ネ ル ギ ー 変 換,す
なわ ち光,熱
の
発 生,吸 収 が 可 能 で あ る こ と を示 して い る。 従 っ て,電 子 の もつ エ ネ ル ギ ー の 大 き さ と,光(電
磁 波),熱
の エ ネ ル ギ ー の大 き さが 興 味 の 対 象 とな る。図1.2に
そ
れ を示 す 。 常 温 で の 熱 エ ネ ル ギ ー は赤 外 線 の 波 長 領 域 に あ る し,化 学 結 合 に基 づ くエ ネ ル ギ ー は 可 視 光 よ り高 い エ ネ ル ギ ー を もつ 。 電 気 電 子 材 料 で 取 り扱 う の は,後
に述 べ る よ う に,価 電 子 帯,あ
る い は価 電 子 帯 か ら励 起 さ れ 高 い エ ネル ギ
ー 状 態 の伝 導 帯 に あ る電 子 の動 きが 中 心 で あ る。 こ のエ ネ ル ギー の変 化 は赤 外 線 ∼ 可 視 光 の領 域 に渉 る。 ま た,放 電 な ど気 体 の電 離 に よ るエ ネル ギ ー変 化 は紫 外
図1.2 エ ネ ル ギー と電磁 波 周 波数 の 関係
線 の領 域 とな る。 超 電 導 で は エ ネ ル ギ ー変 化 はマ イ ク ロ波 の領 域 で あ る し,電 子 の ス ピ ンの 変 化 に よ るエ ネル ギ ー 変 化 は磁 場 の 大 き さ に よ る が 電 波 周 波 数 に あ た る。従 っ て,こ れ らの 周 波 数 の 電磁 波 の 出 し入 れ を利 用 して光,電 磁 波 の 発 生 器, セ ン サ な どが 電 気 電 子 材 料 の も う一 つ の応 用 で あ る。
第2章
2.1
導 電 性―
物 質 の 導 電 性―
電流とは何か
電 荷 を もった 粒 子 の移 動
電 気 電 子 工 学 の 主 要 な部 分 は,物 質 の 導 電 性 と絶 縁性 を応 用 した もの で あ る。 従 っ て,電 気 電 子 材 料 で は,こ
の導 電 性 を考 え る こ とが 最 も重 要 で あ る。 物 質 の
導 電 率 の逆 数 で あ る抵 抗 率 は常 温 の銅 で の1.7×10-8Ω ・mか らガ ス,プ
ラスチ ッ
クの もつ1016Ω ・mを 超 え る非 常 に広 い 範 囲 にわ た り,さ ら に超 電 導 の も つ完 全 導 電 性 も存 在 す る。 この よ うな 広 範 囲 に わ た る物 理 量 は あ ま り他 に例 が な く,人 間 の 大 き さ か ら宇 宙 の 大 き さ の範 囲 に も匹敵 す る。 この よ う な非 常 に 大 き な導 電 率 の 違 い は,例
え ば,非 常 に細 い銅 線 を プ ラ ス チ ッ ク を絶 縁 体 と して 長距 離 に わ
た っ て あ る 目 的 の 場 所 に 引 い た と して も,こ の銅 線 を流 れ る電 流 の うち絶 縁 体 か ら逃 れ て 行 く量 は 無 視 で き る程 度 と な る とい う電 気利 用 の 非 常 に重 要 な特 長 を与 え る。 この よ うに,任 意 の場 所 に電 流 を漏 れ な く流 す こ とが で き る とい う性 質 は 電 気 の 広 範 な工 学 応 用 の基 盤 とな る 。 一 方,こ に見 られ る よ う に,他
の 導電 性 は,半 導 体 や 電 子 管 な ど
の電 流,電 圧 源 あ る い は光 な ど種 々 の 制 御 要 因 に よ り制 御
が 可 能 で あ る。 この こ とが も う一 つ の工 学 応 用 の基 盤 で あ る。 この よ うに,物 質 の 導 電 性 の 応 用 は電 気 電 子 工 学 の 基 本 技 術 と な っ て い る。 物 質 の導 電 性 は物 質 の 中 を電 流 が 流 れ る こ と に起 因 す る 。 電 流 は電 荷 を もっ た 移 動 可 能 な物 質(キ ャ リヤ と呼 ば れ る。)が存 在 し,こ れ が 移 動 す る こ とを意 味 す る。 物 質 は電 子 と原 子 核 で 構 成 され て い て,そ れ ぞ れ 電 荷 を も っ て い る。 電 子 は 負 の 電 荷e=1.602×10-19〔C〕 数,す な わ ち 原 子 番 号Nに
を有 し て い る し,原 子 核 は そ こ に 含 まれ る陽 子 の 比 例 した 正 の電 荷Neを
有 して い る。物 質 を構 成 す る
原 子 は 陽 子 の数 と電 子 の数 が 一 致 し電 気 的 に は 中性 で あ る。 従 っ て,原 子 が移 動
して も電 荷 の移 動 は起 き な い。 電 流 が 流 れ る場 合 は,電 子 単 独 か,あ
るい は電 子
を少 な く と も一 部 失 った 原 子 あ るい は余 分 に電 子 を もち それ ゆ え電 荷 を有 す る 原 子(イ オ ン と呼 ば れ る。)が移 動 可 能 で あ る こ とを意 味 す る。 す な わ ち,キ
ャ リヤ
は電 子 か イ オ ンで あ るわ け で あ るが,物 質 は電 子 と原 子 核 で 満 ち て い て,こ れ ら の 電 荷 の 和 は0で
あ り,電 気 的 に中 性 で あ る。 この 中 で 電 子 が抜 けた 部 分 が あ る
と,そ こ は正 の 電 荷 を有 す る場 所 に見 え る。 こ の よ う な部 分 を正 孔 も し くはホ ー ル と呼 ぶ 。 これ が 移 動 す る,す なわ ち隣 接 す る部 分 か ら電 子 が そ こ を埋 め,結 果 と して 新 た な電 子 の 抜 け た部 分 が 隣 接 した 場 所 に 生 ず る とい う過 程 をた ど り移 動 す る場 合 に も電 流 が 流 れ る こ と に な る。 この よ うに 電 子,イ る こ とが 可 能 な 物 質 は導 電 性 を有 す る。 電 流jは,単 電 荷 の量 で 定 義 さ れ る か ら,キ ャ リヤ の密 度nと そ の 平 均 速 度 に比 例 す る。 また,キ
オ ン,正 孔 が 移 動 す
位 面 積 を横 切 る単 位 時 間 の キ ャ リ ヤ1個 の 電 荷qお
ャ リヤ の 速 度 は多 くの 場 合 電 界Eに
よび
比例す
る。 す な わ ち, (2.1) の 関 係 式 で 表 され る。比 例 定 数 μ は移 動 度 と呼 ば れ,単 位 電 界 を与 えた 時 の キ ャ リヤ の 平 均 速 度 を表 して い る。電 流 と電 界 の 比 例 定 数 σ は導 電 率 と呼 ばれ,ま た 逆 数 ρ=1/σ は体 積 抵 抗 率 また は抵 抗 率 と呼 ば れ,こ
れ ら は物 質 の 導 電 性 を表 す
量 で あ る。 さ て,物 質 に よ っ て 導 電 性 が 大 き く変 わ る の はキ ャ リヤ の 数 と移 動 度 に か か わ るが,こ 式(2.1)の
れ は物 質 中 の 原 子 が ど う よ う に し て結 合 し て い るか に依 存 す る。 また, 関 係 が 成 立 す る の は,拘 束 を受 け な い キ ャ リヤ は熱 エ ネル ギ ー に よ り
自 由 に移 動 し,あ た か も気 体 中 の分 子 の よ うに運 動 す る,す
なわ ち ガ ス と同 じモ
デ ル が 適 用 で きる こ と に起 因 す る。 ガ ス と異 な る点 は粒 子 が 電 荷 を もっ て い る こ と と,粒 子 は粒 子 ど う し以 外 に も物 質 中 の他 の 原 子,電 子 と衝 突 しエ ネ ル ギ ー 交 換 を す る こ とで あ る。 また,こ
の キ ャ リヤ ガ ス は物 質 の 原 子 の 電 荷 に よ る電 気 力
に よ り閉 じ こめ られ て い て物 質 の外 にで る に は大 き な エ ネ ル ギー(仕 事 関数)を 必 要 とす るた め,物 質 内 部 か らは 出 て 行 か な い 低 い エ ネ ル ギ ー 状 態 に あ る こ とで あ る。 また,半
導体 や 絶 縁 体 の よ う に キ ャ リヤ の 数 が温 度 な どに よっ て大 き く変
化 す る物 質 も多 い こ と に あ る。 各 キ ャ リヤ粒 子 の 運 動 エ ネ ル ギ ー の 分 布 は,ガ
ス
で の マ ク ス ウ ェル ・ボ ル ツマ ン分 布 と多 くの場 合 は同 じ と考 えて よ い。
2.2
2.2.1
各 種 の キ ャ リヤ
固体
(1) 電 子 伝 導 (a) 金 属 と絶 縁 体 固体 は,基 本 的 に は固 体 を構 成 す る 原 子 が 強 い 電 気 力 に よ り結 合 し,相 互 の位 置 を変 え な い,す
な わ ち 結 晶 と して秩 序 だ っ た配 列 をす る
物 質 で あ る。 固 体 中 の 電 子 は原 子 核 の もつ 正 電 荷 に よ っ て 強 く拘 束 され て い る。 大 部 分 の電 子 は個 々 の 原 子 に強 く拘 束 され,そ
こか ら 出 て行 くた め に は非 常 に大
きな エ ネ ル ギ ー が 必 要 で あ る。通 常,こ のエ ネ ル ギ ー を表 現 す る に はeV(エ トロ ン ボ ル ト)と い う単 位 を用 い る。1eVは,電
子1個
を1Vの
レク
電 位 差 を移 動 す
る の に必 要 な エ ネ ル ギ ー で あ る。 仮 に物 質 外 部 に あ る電 子 の もつ エ ネ ル ギ ー を0 とす る と,物 質 内 部 の電 子 は 原子 に よ る正 電 荷 の た め 引 か れ,エ
ネルギーが低 い
状 態 に な る。 す な わ ち,負 の エ ネ ル ギ ー を もつ 。 しか し,電 子 は原 子 に 際 限 な く 近 づ い て い くわ けで な い の は電 子 が 波 動 性 を もつ 量 子 力 学 的 粒 子 で あ る か らで あ る こ とは 良 く知 られ て い る。 この 波動 性 の た め に固 体 の場 合,電 子 の もち う るエ ネ ル ギ ー は物 質 に よ り異 な る が あ る構 造 を もつ 。 バ ン ド理 論 に よれ ば,そ の エ ネ ル ギ ー は 特 定 の離 散 的 場 所(エ
ネ ル ギ ー 状 態)に
状 態 は 基 本 的 に は 原 子 の 数Nの2倍
指 定 さ れ る。 また,エ
ネルギー
が 一 ま と ま り とな る。 これ は電 子 に は ス ピ
ン と呼 ば れ る電 子 の 回転 の 状 態 が 右 回 り,左 回 り(upとdownと
も呼 ば れ る。)
の二 つ あ り,外 部 磁 場 が な い とき は同 じエ ネル ギ ー に2個 の電 子 が 存 在 で き る場 所 が あ る こ と に基 づ く。 この 一 ま とま りは エ ネ ル ギ ー バ ン ドと呼 ば れ るが,こ
の
バ ン ドの 間 は あ るエ ネ ル ギ ー で 離 れ て い る。 こ の電 子 が もつ こ との で き な いエ ネ ル ギ ー帯 を禁 制 帯 と呼 ぶ 。 こ こで,「 場 所 」と表 現 さ れ るの は,電 子 は 一 つ の エ ネ ル ギ ー状 態 に一 つ しか 存 在 で きな い 粒 子(フ
ェル ミ粒 子)で
あ る か らで あ る。 こ
の た め,電 子 は,エ
ネ ル ギ ー の低 い状 態 か ら 占 め て ゆ き,電 子 の 数 に 応 じて あ る
エ ネル ギ ー ま で に至 る。 低 いエ ネ ル ギ ー を 占 め た電 子 は個 々 の 原 子 に 拘 束 され て い る状 態 で,言
って み れ ば個 々 の原 子 の もつ 電 子 と言 え る 。 エ ネ ル ギ ー の 高 い状
態 に あ る電 子 は,も
との 個 々 の原 子 か ら見 れ ば一 番外 側 付 近 に存 在 す る電 子 で あ
る。 これ は個 々 の 原 子 核 か ら一 番 外 に あ るた め拘 束 力 が 小 さ く,ま た 外 に あ る か ら,希 ガ ス と呼 ばれ る す べ て の電 子 が 原 子 に しっ か り と拘 束 され て い る原 子 を 除 い て,隣 の 原 子 と相 互 作 用 を し,固 体 の 場 合 は多 くの 場 合,結
晶 と呼 ばれ る秩 序
だ っ た 原 子 の配 列 を作 る作 用 を す る。 す なわ ち,原 子 間 に 引 力 を もた らす 化 学 結 合 に寄 与 す る電 子 で あ り価 電 子 と呼 ばれ る。 また,こ
の価 電 子 の存 在 す る エ ネ ル
ギ ー バ ン ド を価 電 子 帯 と呼 ぶ。 価 電 子 の数 が 価 電 子 帯 の エ ネ ル ギ ー 状 態 の 数 に等 し い場 合,価 電 子 帯 の エ ネ ル ギ ー状 態 は す べ て 占 有 され て い るか ら,価 電 子 が エ ネ ル ギ ー を変 え る に は別 の バ ン ドに行 く必 要 が あ る。 エ ネ ル ギ ー の低 いバ ン ドは電 子 で す べ て 占有 され て い る か ら,よ 幅(バ
りエ ネ ル ギ ー の高 いバ ン ド(伝 導 帯 と呼 ばれ る)に 禁 制 帯 の エ ネ ル ギ ー
ン ドギ ャ ッ プ)を 乗 り越 え て行 く必 要 が あ る。 従 って,こ
の 電 子 が この バ
ン ドギ ャ ッ プの エ ネ ル ギ ー を得 る こ とが で き な い場 合 は,電 子 は エ ネ ル ギ ー を変 え る こ とは で き な い 。 これ は見 方 を変 えれ ば,電 子 は す べ て 個 々 の 原 子,正 確 に 言 え ば,化 学 結 合 に寄 与 す る原 子 群 に拘 束 され て 動 け な い 状 態 に あ る とい え る。 こ の よ うな 状 態 の 物 質 は,基 本 的 に はキ ャ リヤ が な い 物 質 で あ るか ら電 気 伝 導 は 起 きな い 。 す な わ ち,絶 縁 体 で あ る 。 一 方,価
電 子 の 数 が 価 電 子 帯 の状 態 の 数 の 半 分 で あ る物 質 が あ る。 エ ネ ル ギ ー
バ ン ドの も つ状 態 の 数 は2Nで
あ った か ら奇 数 の 原 子 番 号 を もつ物 質 が 典 型 で あ
る。 この物 質 は,価 電 子 の もつ エ ネ ル ギ ー 状 態 を変 え る こ とが で きる 。 空 い た 場 所 が あ るか ら電 子 全 体 と し て違 うエ ネ ル ギー を もて るか らで あ る。 これ は,電 子 が 個 々 の 原 子 に 拘 束 さ れ ず 自 由 に動 け る と見 な す こ とも で き るの で 自 由 電 子 と呼 ば れ る。す なわ ち,キ ャ リヤ が 非 常 に 多数 あ り電 気 伝 導 が 非 常 に よ い物 質 で あ る。 この物 質 群 は金 属 と呼 ばれ る。 な お,金 属 の場 合 で も正 孔 は キ ャ リヤ 電 子 の数 だ け存 在 し キ ャ リヤ で あ る と も見 な せ るが,後 述 の 半 導 体 と異 な っ て,こ の エ ネ ル
ギー 状 態 は電 子 と同 じ程 度 で あ り,通 常 電 子 だ け を問 題 と し,正 孔 は キ ャ リヤ と 見 な さな い の が 普 通 で あ る。 な お,金 属 に は原 子 番 号 が 偶 数 の 物 質 も存 在 す る。 これ は価 電 子 帯 と伝 導 帯 とが 一 部 重 な り合 い禁 制 帯 が 存 在 しな い物 質 で あ る。 (b) 半 導 体 こ の よ う に考 え る と,固 体 は導 電 性 の 非 常 に優 れ た 金 属 と,全 く導 電 性 を示 さな い絶 縁体 の 二 つ に分 け られ る よ う に見 え るが,我
々 の 住 む場 所
は太 陽 エ ネ ル ギ ー に よ り暖 め られ た 温 度 が 高 い 世 界 で あ る。 この た め 個 々 の 原 子,電 子 は熱 エ ネ ル ギ ー を与 え られ うる。 この 熱 エ ネ ル ギ ー は絶 対 温 度Tに ツ マ ン定 数kを
か け た平 均 値 を も つ。 これ は,常 温 で はkT=0.026〔eV〕
ボル 程 度で
あ る。 しか し,電 子 の 場 合 は先 ほ ど述 べ た エ ネ ル ギ ー バ ン ドで 示 され る よ う に, もち 得 る エ ネ ル ギ ー に制 限 が あ るか ら,絶 縁 体 で この熱 エ ネ ル ギ ー を与 え られ る に は,エ
ネ ル ギ ー ギ ャ ップ を越 え る熱 エ ネ ル ギ ー を与 え られ る場 合 に限 られ る。
従 っ て,絶 縁 体 で は電 子 に は ほ とん ど熱 エ ネ ル ギ ー は与 え らず,原 子 に の み与 え られ る と考 え られ る。 さて,フ ェル ミ粒 子 で あ る電 子 の場 合 は,温 度Tの ネ ル ギ ーEを
もつ確 率 は,フ
と きエ
ェル ミ分 布 関 数
(2.2)
に よ り与 え ら れ る。 温 度T=0で
はE>Efで
あ るか ら,す べ て の 電 子 はEf以 あ る。 す な わ ち,Efは
α(E)=0,E<Efで
下 の エ ネ ル ギ ー を も つ こ とを示 す 。最 大 はEfで
電 子 が もつ 最 大 の エ ネ ル ギ ー に 相 当 す る。 このEfは
ル ミエ ネ ル ギ ー も し くは フ ェル ミ準 位 と呼 ば れ る。金 属 の 場 合,Efは 中 にあ るが,絶
α(E)=1で
フェ
価電子 帯の
縁 体 で は価 電 子 帯 と伝 導 帯 の 間 に あ る こ とが これ まで の考 察 で 分
か る。 絶 縁 体 で は有 限 の温 度 で は,伝 導 帯 に存 在 し う る電 子 の 状 態 数 をNc,伝
導帯 の
一 番 低 い エ ネ ル ギ ー をE c,価 電 子 帯 の 一 番 高 い エ ネ ル ギ ー をEυ と した とき,バ ン ドギ ャ ッ プ はEg=Ec-Eυ
とな る。 また,伝 導 帯 に あ る電 子 の 数,す
なわ ち キ
ャ リヤ と し て の 電 子 の 数 は,伝 導帯 中 の 電 子 の エ ネ ル ギ ー の 範 囲 がバ ン ドギ ャ ッ プ に比 べ て 十 分 小 さ く,す べ てEcと
近似 す る と,
(2.3) とな る。 こ こで,積 分 はE-Ef≫kTと
して 行 っ た 。一 方,価 電 子 帯 に は電 子 は
完 全 に場 所 を 占め て お らず,式(2.3)と
同 じ よ う に価 電 子 帯 の 状 態 数 をNυ と し
て計 算 す る と,正 孔 の数 と して (2.4) が 得 られ る。 (2.5) の 関 係 が 成 立 す る。 この よ う にバ ン ドギ ャ ップ の比 較 的 小 さ い物 質 は,キ
ャ リヤ
が あ る程 度 存 在 し,導 電 性 を示 し,半 導 体 と呼 ばれ る。 バ ン ドギ ャ ッ プ が どの 程 度 な ら ば半 導 体 と呼 ばれ るか は 明 確 で は な い が,3eV程 (2.3)と 式(2.4)か
度 が 境 界 で あ ろ う。 式
ら半 導体 の 電 子 と正 孔 との 間 の 関 係 式(2.5)は
「質 量 作 用 の
法 則 」 と呼 ば れ る。 伝 導 帯 と価 電 子 帯 の 間 に電 子状 態 の な い 半 導体 は真 性 半 導体 と呼 ばれ るが,真 性 半 導体 で は伝 導 帯 に あ る電 子 は価 電 子 帯 か ら熱 エ ネ ル ギ ー に よ り励 起 さ れ た もの の み で あ るか ら,電 子 と正 孔 の 数 は 同 じで あ る。 従 っ て,式 (2.3),式(2.4)を
等 しい とお い て, (2.6)
が 得 られ る。 半 導 体 で は,微 量 の不 純 物 を添 加 す る こ と に よ りキ ャ リヤ の 数 を調 整 す る こ と が 可 能 で あ る。 例 え ば,不 純 物 と して この材 料 に対 して価 電 子 を1個 余 分 に もつ 原 子 を加 え る と,こ の余 分 の 電 子 は 原 子 に拘 束 す る力 が 弱 く,電 子 は小 さな 熱 エ ネ ル ギ ー で励 起 さ れ,伝 導 帯 に移 動 す る。 す な わ ち,キ
ャ リヤ とし て電 子 が 大 部
分 で あ るn型 半 導 体 が で き る。 これ は見 方 を変 え る と,こ の 不 純 物 に よ り伝 導 帯 と価 電 子 帯 の 間 に新 た な 電 子 状 態 が 作 られ,こ れ と伝 導 帯 との エ ネ ル ギ ー 差 が 小 さ い た め,こ
こ に存 在 す る電 子 は伝 導 帯 に励 起 され る。 一 方,こ
の エ ネ ル ギ ー状
態 と価 電 子 帯 の間 に はエ ネ ル ギ ー差 が 大 き く,こ こへ の価 電 子 帯 か らの 励 起 は ほ とん どな く,正 孔 は 作 られ な い た め キ ャ リヤ の 大 部 分 は 電 子 とな る と言 う こ とで
あ る。 この よ う に電 子 を キ ャ リヤ と して 作 る状 態 を ドナ ー と呼 ぶ 。 一 方,不 純 物 として この材 料 に対 して 価 電 子 が1個 少 な い原 子 を加 え る と,こ の不 足 の 場 所 に小 さ いエ ネ ル ギ ー で 隣 接 す る原 子 か ら電 子 を受 け 入 れ る こ とが で き る。 す なわ ち,キ
ャ リヤ の大 部 分 が 正 孔 で あ るp型 半 導 体 が で き る。 別 の見 方
で 言 え ば,こ の不 純物 に よ り伝 導 帯 と価 電 子 帯 の間 に新 た な 電 子 の 占 有 し な い電 子 状 態 が 作 られ,こ れ と価 電 子 帯 との エ ネ ル ギ ー差 が小 さい た め,価 電 子 帯 か ら 電 子 が励 起 さ れ る。 しか し,こ こ に励 起 され た 電 子 は この エ ネル ギ ー状 態 と伝 導 帯 の 間 の エ ネ ル ギ ー差 が 大 きい ため,こ
こか ら伝 導 帯 へ の励 起 は ほ とん どな く,
電 子 は作 られ な い 。 こ のた め キ ャ リヤ の大 部 分 は正 孔 と な る と言 う こ とで あ る。 この よ う に正 孔 を キ ャ リヤ と して 作 る状 態 をア クセ プ タ ー と呼 ぶ 。 (c) エ ネ ル ギ ー 状 態 固体 で の電 子 の エ ネ ル ギ ー状 態 を図2.1に で エ ネ ル ギ ー レ ベ ル の 大 き さ の 程 度,例
示 す 。 図2.1
え ばバ ン ドギ ャ ッ プ は数eV程
る。一 方,熱 エ ネ ル ギ ー の大 き さ は常 温 で は0.026eVで
度であ
あ るか ら,熱 エ ネ ル ギ ー
は そ れ ほ ど大 きな影 響 を与 え な い よ う に も見 え る。 しか し,熱 エ ネル ギ ー は そ の 大 き さ に分 布 を もち,確 率 は小 さい と言 え ど も大 き な熱 エ ネ ル ギ ーが 与 え られ, わ ず か の 電 子 は エ ネ ル ギ ー を変 え キ ャ リヤ にな りう る。 導電 性 を議 論 す る とき, 我 々 が 問 題 とす る電 流 の 大 き さ に 必 要 な キ ャ リヤ の 数 は,物 質 中 の電 子 の 数 に比 べ れ ば僅 か な数 で十 分 で あ る こ とが 多 い。 固 体 で は キ ャ リヤ は原 子 の 正 電 荷 に拘 束 さ れ エ ネ ル ギ ー が 低 い 状 態 で あ るか ら,物 質 内 で は移 動 が 可能 で あ る が,外 部 へ は大 き なエ ネ ル ギ ー を与 え な い と出 て 行 か な い 。 外 部 に電 子 を出 す た め に必 要 な エ ネ ル ギ ー は仕 事 関数 と呼 ば れ る。 これ は電 子 の エ ネ ル ギ ー の 一 番 高 い状 態 か ら,す な わ ち フ ェ ル ミエ ネ ル ギ ー か ら 測 られ る。 半 導 体 の場 合,フ
ェ ル ミエ ネル ギ ー に は電 子 は存 在 し な い の で伝 導 帯
の 一 番 低 い エ ネル ギ ー か ら測 られ,こ 代 表 的 な物 質 の例 を表2.1に (2) イオ ン伝 導
のエ ネ ル ギ ー 差 は電 子 親 和 力 と呼 ば れ る。
示 す。
固 体 中 の 原 子 は,原 則 として は移 動 しな い が,結 晶 構 造 に
よ っ て は イ オ ンが 移 動 可 能 な物 質 が あ る。 この よ うな物 質 は固 体 電 解 質 と呼 ばれ る。 ジ ル コニ ア,べ ー タ ア ル ミナ な ど酸 素 イ オ ンが キ ャ リヤ に な る も のが 燃 料 電
(a) 金 属
(b) 絶縁 体
(c) 真性 半 導 体
(d) n型 半 導 体
(e) p型 半 導体 図2.1 電 子 の エ ネ ル ギ ー 状 態
表2.1 仕 事 関数 と電 子親 和 力
池 な どに検 討 され て い る。 これ ら は固 体 で あ るた め 常 温 で は移 動 度 が 小 さ い が, 高 温 で は移 動 度 が 大 き くな り,か な りの導 電 率 を有 す る。 また,絶 縁 体 は導 電 率 は非 常 に小 さ い が,そ
2.2.2
の僅 か の 導 電 に イオ ンが 関 連 す る物 質 も多 い 。
液体
液 体 は原 子 の 移 動 が 可 能 で あ る た め イ オ ン が キ ャ リヤ とな る物 質 が あ る。 電 子 が 原 子 に拘 束 され キ ャ リヤ とな らな い 物 質 で も,水 の よ う に誘 電 率 の大 き な液 体 で は,金 属 の 酸 化 物,塩
化 物 な どイ オ ン結 合 物 質 が 溶 解 しイ オ ン とな る。 誘 電 率
の 大 き な物 質 中 で は,イ オ ン間 の電 気 的 結 合 力 が 小 さ くな り固 体 を形 成 で き ない か らで あ る。 こ の イ オ ンが 導 電 性 を もた ら し,か な り導 電 性 の 高 い液 体 が構 成 さ れ る 。 ま た,イ オ ン結 合物 質 を高 温 に す る と溶 解 して 液 体 とな るが(溶 解 した イ オ ン結 合 物 質 は溶 融 塩 と呼 ばれ る),こ の 場 合,イ
オ ンが 移 動 して 導電 性 を示 す 。
液体 の イ オ ン導 電 性 で 興 味 深 い の は,キ
ャ リヤ が 液 体 と接 す る固 体 か ら供 給 で
き る こ とで あ る。 例 え ば,金 属 と液 体 が 接 して い る とき,金 属 が 液 体 に溶 解 して イ オ ン化 しキ ャ リヤ に な る こ と も可 能 で あ る。 この イオ ン は 固体 部 分 か ら液 体 中 に拡 散 し て い くか ら電 流 が 流 れ る こ とに な る。 この 原 理 を利 用 して 発 電 が 可 能 で あ る。 これ は電 池 と呼 ば れ,広
く応 用 され て い る。 この 場 合 は,液 体 に電 子 が キ
ャ リヤ と して存 在 す る とイ オ ン電 流 を打 ち消 して し ま い電 池 と し て作 用 し な くな る 。 な お イ オ ンの み が キ ャ リヤ と して存 在 す る材 料 は電 池 に欠 か せ な い導 電 材 料 で あ る。 液 体 で も電 子 が キ ャ リヤ に な る物 質 も水 銀 な ど液 体 金 属 が 存 在 す る。 こ れ ら は固体 状 態 に比 べ て移 動 度 が 小 さ くな り導 電 性 は低 下 す る。
2.2.3
気体
気 体 は,通 常 状 態 で は キ ャ リヤ は存 在 しな い典 型 的 な絶 縁 体 で あ るが,気 体 分 子 が イ オ ン化 す る(電 離 す る)と 優 れ た 導 電 性 を有 す る物 質 とな る。 この場 合, キ ャ リヤ は電 子 とイ オ ン の両 者 が 存 在 す る。 この よ うな物 質 を プ ラ ズ マ と呼 ぶ 。 プ ラ ズ マ で は,電 子 の 移 動 度 が イ オ ンに比 して 非 常 に大 きい の で,導 電 性 は 主 に 電 子 に 負 う。 気 体 分 子 が イ オ ン化 す る の は,放 電 な ど電 子 電 流 が 気 体 分 子 を イ オ ン化 しつ つ 電 離 状 態 を保 つ場 合 と,他 の 要 因,例
え ば紫 外 線 照 射 下,あ
るいは高
温 下 で は光 あ る い は 熱 エ ネ ル ギ ー で 電 離 が起 き る場 合 が あ る。 電 離 層 や 高 温 炎 が そ うで あ る 。 プ ラ ズ マ の 導 電 性 そ の も の は放 電 管,避 雷 管 な どの 一 部 を除 い て あ ま り利 用 さ れ て い な い が,プ
ラ ズ マ の もつ 光 との 相 互 作 用 や 化 学 作 用 に は 多 くの 応 用 が あ
る。 す な わ ち,蛍 光 灯,ネ
オ ン管,プ
ラ ズ マ デ ィス プ レ イ な ど の光 発 生 装 置,オ
ゾナ イ ザ な どの オ ゾ ン発 生 装 置 な どが あ げ られ る。
2.2.4
キ ャ リ ヤ 密 度 と移 動 度
これ まで の考 察 で 導 電 性 を支 配 す る の は キ ャ リヤ 密 度 と移 動 度 で あ り,こ れ ら が物 質 の 性 質 で どの よ う に変 わ る か を概 略 考 え た が,実 際 の物 質 の キ ャ リヤ 密 度 と移 動 度 が どの範 囲 に あ るの か を示 した のが 図2.2で
あ る。 非 常 に広 い範 囲 に渡
図2.2 種 々の物 質の キ ャ リヤ密 度 と移動 度 [絶縁 体 の キ ャ リヤ密 度 は キ ャ リヤ 注 入や 不純 物 で 決 まるか ら,表 中は 目安 で あ る]
る こ とが理 解 で き よ う。 図2.2か
ら理 解 で き る の は,キ
ャ リヤ密 度 の 差 が 導 電 性
を 主 に支 配 す る こ とで あ る。 絶 縁 体 で もキ ャ リヤ を注 入 す るか,励 起 す る こ とに よ りキ ャ リヤ を作 れ ばか な り電 流 は流 れ る。
第3章 キ ャ リヤの挙 動 と電流 ―オーム の法則 の成 立条件
3.1
キ ャ リヤ を 動 か す も の
電 流 は キ ャ リヤ の動 きで あ り,電 流 は単 位 時 間 に単 位 断面 積 を通 過 す る電 荷 の 量 で あ る と,電 磁 気 学 で は 定 義 され て い る。 従 っ て,ど を知 る に は,キ ち,キ
ャ リヤ の電 荷 と数,そ
の よ うな 電 流 が 流 れ るか
の 平 均 速 度 を知 る こ と に帰 着 す る。 す な わ
ャ リヤ とい う物 質 の 流 れ を知 る こ とで あ る 。 キ ャ リヤ を動 か す,す
なわち
流 れ を作 り出 す 駆 動 力 が まず 問 題 とな る。 非 常 に 多 数 の 物 質 の移 動 を扱 う学 問 は 熱 力 学 あ る い は統 計 力 学 で あ り,化 学 ポ テ ン シ ャ ル とい う量 を用 い る。 物 質 は化 学 ポ テ ン シ ャ ル の 高 い と こ ろか ら低 い と こ ろへ 移 動 し,平 衡 状 態 で は化 学 ポ テ ン シ ャ ル が す べ て 等 し くな る とい うの が,そ
の 教 え る と こ ろで あ る 。 しか し,こ れ
は キ ャ リヤ が どち らへ 動 くか とい う こ と を知 る こ とが で きて も,電 流 の よ うに物 質 が 動 い て い る状 態 を扱 う こ とが で き る わ けで は な い 。 この よ うな非 平衡 状 態 を 扱 うに は,不 可 逆 過 程 の熱 力 学 が 必 要 とな る。 しか し こ こで は,経 験 的 な 法 則 を 用 い る こ とに す る。そ の法 則 と は,多 数 の粒 子 の 受 け る平 均 的 力Fは
化学 ポテ ン
シ ャ ルφ の 傾 きに比 例 す る とい う法 則 で あ る。 す な わ ち, (3.1) と表 現 され る。Kは
比 例 定 数 で あ る。式(3.1)で
表 さ れ る力Fは,粒
子の移動 を
もた らす 力 が 化 学 ポ テ ン シ ャルφ の 関 数 で あ る とい う平 衡 状 態 で の 考 察 か ら,力 を化 学 ポ テ ン シ ャル で 展 開 して一 次 の 項 を取 った もの で あ る。 これ は また,種 々 の 要 因 の もた らす化 学 ポ テ ン シ ャ ル か ら計 算 した 力 の足 し算 にな る とい う こ とを 暗 に含 ん で い る 。 化 学 ポ テ ン シ ャ ル は対 象 とす る物 質 の 密 度 の 関 数 で あ り,電 荷 を もっ て い る粒
子 で は電 位 の 関 数 で も あ る。 そ の ほか に も,温 度,他
の 物 質,こ
こで は,キ
ャリ
ヤ の あ る物 質 の 原 子 な ど との相 互 作 用 も化 学 ポ テ ン シ ャ ル に寄 与 す る。 しか し, こ こで の 議 論 で は,温 度 が 等 し く,同 一 物 質 の 中 を移 動 す る キ ャ リヤ につ い て, まず 考 え る こ と とす る 。 ま た,式(3.1)だ
け で はす べ て を知 る こ とが で きな い の で,そ
の他 の 法則 は熱
力 学 で表 現 され る,平 衡 状 態 で 成 立 す る法 則 や,単 独 粒 子 に働 く法 則 な ど を必 要 に応 じて 流 用 す る こ と とす る。 実 際 に も,電 流 が 流 れ る こ とに よ る法 則 の は ず れ や,単 独 粒 子 の 法 則 を あ て は め る こ とに よ る はず れ は,実 際 上 小 さい と信 じ られ て い るが,必
3.2
ず し も根 拠 が あ るわ けで は な い。
3.2.1
キ ャ リヤ の 運 動 法 則
電 界 に よ る流 れ
まず 結 論 か ら表 現 す る と,キ ャ リヤ は電 位Vの
傾 き,す な わ ち電 場Eに
より
力 を受 け,こ れ に よ る一 定 の 流 れ が 生 ず る。 そ の 流 れJeは, (3.2) で表 され る。 こ こで,nは
キ ャ リヤ密 度,μ は キ ャ リヤ移 動 度 と呼 ば れ る。これ ら
の式 は一 見 力 学 的 に は 不 思 議 な形 を して い る。 例 え ば,式(3.1)に リヤ の 受 け る平 均 的 力 はEに
よれ ば,キ ャ
比 例 す る し,単 独 荷 電 粒 子 に働 く力 も電 界 に比 例
す る。 これ に よ りキ ャ リヤ は加 速 さ れ て い くか ら,流 れJeは
時 間 と と もに増 加 す
る関 数 に な る は ず だ か らで あ る。 この こ と は,キ ャ リヤ の 運 動 エ ネ ル ギ ー が何 ら の 形 で 失 わ れ 一 定 の 速 度 で保 持 され る メ カ ニ ズ ム が 存 在 す る こ と を意 味 す る。 こ れ は,キ
ャ リヤ が物 質 中 の移 動 し な い原 子 とエ ネ ル ギ ー 交 換 を し,そ の エ ネ ル ギ
ー を与 え,失
っ て い く過 程 の存 在 を考 え る と納 得 で き る式 で あ る。 これ に は キ ャ
リヤ の 速 度υ に対 し,そ れ に比 例 す る逆 方 向 の力,粘 性 力 を考 え る こ と に よ り導 く こ とが で き る。 そ こで,こ
の考 え よ りキ ャ リヤ の運 動 が 単 独 粒 子 の運 動 で 表 さ
れ る と仮 定 して 考 え て み る。 そ うす る と,
(3.3) が 成 立 す る。 こ こで,τ は緩 和 時 間 とい う。さ て,外 部 か ら電 場 が 与 え られ た と き キ ャ リヤ の電 荷 をq,見
か け の 質 量 をmと
す る と,力 学 方程 式 よ り
(3.4) が 成 立 す る 。 こ の 解 は,
(3.5) で あ るか ら,緩 和 時 間 よ り十 分 大 きな 時 間 後 に は,速 度 は電 界 に比 例 す る一 定 の 大 き さ に な る。 流 れJeは,
(3.6) と な り,式(3.2)の
形 式 が 導 か れ る 。 式(3.2)と
式(3.6)を
比 べ る と,
(3.7) の 関 係 も得 られ る 。 な お,電 流 密 度jeは 流 れJeに 粒 子 の 電 荷qを
掛 けた もの で あ り,
(3.8) で 与 え ら れ る 。 式(3.8)と
式(3.2)よ
り,
(3.9) が 得 られ,電
流 密 度 は 電 界 に比 例 す る とい う関 係 が 得 られ る 。 こ の関 係 はオ ー ム
の 法 則 と呼 ば れ,比 例 定 数 σ を導 電 率 と呼 ぶ 。種 々 の 導 電 体 はキ ャ リヤ の もつ 電 荷,実 効 質 量(物
質 の 中 で は他 の原 子 との 相 互 作 用 が あ るた め,キ
ャ リヤ 単 独 の
質 量 か ら計 算 す る と上 式 は現 実 と合 わ な くな る。 そ の た め,こ の ず れ を キ ャ リヤ の質 量 に しわ よせ し,実 効 質 量 と して つ じつ ま を合 わ して い る。 従 っ て,キ
ャリ
ヤ の実 効 質 量 は物 質 に よっ て 違 っ て く る。),密 度,緩 和 時 間 は導 電 率 な ど種 々 の 実 測 可 能 な 量 か ら知 る こ とが で き る。 な お,キ よ っ て変 化 す る こ と に注 意 をす る必 要 が あ る。
ャ リヤ密 度,緩
和 時 間 は,温 度 に
3.2.2
拡 散 に よる流 れ
キ ャ リヤ の 物 質 中 の 密 度 をnと
す る と,密 度 の 勾 配 に比 例 し た流 れ が 生 ず る。
これ は熱 エ ネ ル ギ ー を もつ 粒 子 の 運 動 エ ネ ル ギ ー の流 れ(熱 拡 散)と で 拡 散 と呼 ばれ,キ ャ リヤ の流 れ をJdと
同 類 の現 象
し て次 の式 で 表 され る(Fickの
法 則)。 (3.10)
こ こで,Dは
3.2.3
拡 散 率 と呼 ば れ る。
移 動 度 と拡 散 率 の 関 係―
ア イ ンシ ュタイ ンの関係
電 界 に よ る移 動 で き ま る移 動 度 μ と,密 度 差 に よる移 動 で き ま る拡 散 率Dも, キ ャ リヤ の 動 き に伴 っ て 受 け る粘 性 力 は 同 じ と考 え られ るか ら,両 者 の比 は キ ャ リヤ を動 か す 力 の比 とな る と考 え られ る。 拡 散 は キ ャ リヤ が 熱 運 動 に よ って 動 い て い る こ とに 起 因 す る。1個 の キ ャ リヤ が もつ 運 動 エ ネ ル ギ ー は,マ ル ・ボル ツ マ ン の分 布 を して い る キ ャ リヤ で は平 均kTを 定 数 でTは 荷 をqと
クス ウェ
もつ 。kは ボ ル ツ マ ン
絶 対 温 度 で あ る 。一 方,電 界 に よ るエ ネ ル ギ ー は,キ ャ リヤ の もつ電 す る と,単 位 電 位 差 あ た りqで
あ る か ら,こ の 比 が 拡 散 率Dと
移 動度
μ との比 に等 し い と直 感 的 に は考 え られ る。 す な わ ち, (3.11) が 考 え ら れ る 。 式(3.11)で
表 さ れ る,キ
ャ リヤ の 運 動 エ ネ ル ギ ー が マ ク ス ウ ェ
ル ・ボ ル ツ マ ン の 分 布 を し て い る 場 合 の 関 係 は ア イ ン シ ュ タ イ ン に よ っ て 求 め ら た。 常 温 で は 単 位 電 荷(電
子1個
の も つ 電 荷)を
も つ キ ャ リ ヤ で, (3.12)
程 度 の値 を もつ 。 この値 は,拡 散 に よ る移 動 は通 常 考 え るボ ル ト単 位 の 電 圧 よ り 小 さ く,多
くの 場 合 電 界 に よ る移 動 が 支 配 的 に な る こ とを 示 して い る。
3.2.4
化 学 ポ テ ンシ ャル
式(3.2),式(3.10)の
関 係 式 を見 る と,電 位 と密 度 を 考 慮 した 化 学 ポ テ ン シ ャ
ル は, (3.13) で表 され る。 な お,化 学 ポ テ ン シ ャル お よ び電 位 は定 数 だ け の任 意 性 を もつ 。 従 っ て,式(3.13)に
は任 意 定 数 を加 え て い る。 電 流 は, (3.14)
と表 現 され る。
3.3
3.3.1
物 質 に流 れ る電 流 と電 圧
一般 法 則
物 質 中 の キ ャ リヤ は,電 界 が な く,キ ャ リヤ の発 生,消 滅 が な い場 合,拡
散に
よ りキ ャ リヤ 密度 が 等 し くな る よ うに分 布 し,平 衡 状 態 に な る。 従 っ て,電 流 は 発 生 しな い。 あ る物 質 に電 極 をつ け電 圧 を印 加 して電 界 を形 成 した場 合,ど
のよ
う に キ ャ リヤ が 動 き,流 れ る電 流 との関 係 が ど の よ うに な るか は,興 味 あ る 問題 で ある。 式(3.14)よ
り,物 質 に 流 れ る電 流 は,電 界 と拡 散 に よ る流 れ の和 (3.15)
で与 え られ る。 次 に,マ ク ス ウ ェ ル の 方 程 式 よ り,電 界 ベ ク トル の 湧 き出 し源 は 電 荷 で あ る か ら, (3.16) が 得 られ る。 こ こで,ε は この 物 質 の誘 電 率 で あ る。 物 質 中 に は キ ャ リヤ 以 外 の 原 子 電 子 の 電 荷 が存 在 し,こ れ ら は キ ャ リヤ に与 え る 電界 を変 化 させ る。 キ ャ リ ヤ が この物 質 か ら電 離 に よ り供 給 され る と し,そ の キ ャ リヤ 密 度 をn0と
す る と,
式(3.16)で, (3.17) と決 め る こ と が で き る 。 ま た,物 で あ り,電
質 中 の 電 流 ベ ク トル は 源 泉 を も た な い ベ ク トル
流 は 必 ず ル ー プ を 描 き,電
流 の 発 生,消
滅 は な い か ら, (3.18)
が 成 立 す る 。 式(3.15)∼
式(3.18)よ
り, (3.19)
が 得 ら れ る 。 こ の 式 を 物 質 の 境 界 で の 状 態 を与 え る 境 界 条 件 を 与 え て 解 け ば,課 題 の 回答 が 得 られ る。 し か し,こ
の 式 は 非 線 形 微 分 方 程 式 で あ り,一
析 的 に は で き な い 。 通 常 は,そ
般 の場 合 の解 を求 め る こ とは解
れ ぞれ の物 質 の 性 質 に 応 じ て無 視 で き る項 を探 し
出 し答 を 得 て い る。 こ こ で は,も
う 少 し こ の 式 を検 討 し,電
す る 。 ま ず,方
流 と電 圧 の 関 係 を 推 定 し て み る こ と と
程 式 の 係 数 の 値 を 評 価 し て み る 。Dと
関 係(式(3.11))を
用 い,n/n0→ν
μ との ア イ ン シ ュ タ イ ンの
と キ ャ リ ヤ 密 度 を 正 規 化 す る と,式(3.19)
は, (3.20) と な る 。 こ こ で, (3.21) で あ る 。 な お,σ=n0μqで
あ る。
ま ず 明 ら か な 解 と し てν=1(n=n0)が
あ る 。 こ の 場 合 は, (3.22)
が 成 立 し,物
質 中 の 至 る 所 で オ ー ム の 法 則 が 成 立 す る 。 こ の 場 合,電
で も 電 界,電
位,キ
ャ リ ヤ 密 度 が 等 し い 必 要 が あ る か ら,電
度 と の 平 衡 お よ び 電 界,電
極 との境 界
極 材 料 の キ ャ リヤ密
位 が 等 し い 必 要 が あ る 。 さ ら に,n=n0の
関 係 か らキ
ャ リ ヤ は 電 気 的 中 性 を 保 っ て い る こ と も 条 件 で も あ る 。 こ れ は 電 極 か ら余 分 の キ
ャ リヤ が入 っ て きた り出 て い っ た りす る場 合 に は成 立 しな い 。 この 条 件 は,例 え ば絶 縁 体 や 真 空 中 の 電 子 の電 流 で は満 た さ れ て い な い。 結 局,オ
ームの法則 は同
一 材 料 で電 極 が で きて い る場 合 の 解 で あ る こ とが 分 か る 。 式(3.19)は
境 界 か ら離 れ て い くに従 っ てn→n0に
で の 値 か ら式(3.22)で
単 調 に漸 近 し,電 界 は境 界
決 ま る値 に単 調 に漸 近 す る性 質 の解 を有 す る。 す な わ ち,
電 極 との 界 面 か ら あ る距 離 離 れ た 場 所 で は オ ー ム の 法 則 が 成 立 して い る と言 え る。
3.3.2
導 電 性 に よ る簡 略化
式(3.20)を
解 析 的 に求 め,そ の基 本 性 質 を知 る に は,よ り簡 略 な式 にす る必 要
が あ る。 この 場 合,電
流 が拡 散 あ る い は電 界 の どち らに よ り主 と して 支 配 さ れ る
か に着 目 す る。 式(3.20)で
一 次 元 座 標 を考 え,ν=ef(x)の
形 の 解 を考 え る と, (3.23)
が 得 られ る。 これ は,
あるい は (3.24) と書 け る 。 (1) 導 電 物 質 cE≪1の 金 属,半
導 体,電
体 で は 式(3.20)で
物 質,す
解 質 で は,こ
な わ ち 導 電 性 を有 して い る と認 め られ る
の 項 を 無 視 で き る と 考 え る 。 言 い 換 え れ ば,導
電 流 に よ る項 は 無 視 で き,電
荷 分 布 は 拡 散 に よ る項 が 支 配 す
る と考 え る 。 こ の 場 合 式(3.20)は, (3.25) と簡 単 に な り,一
電
次元座標 で は (3.26)
と表 さ れ る 。 こ の 式 は 解 析 的 に 解 く こ と が で き る 。 こ れ は 巻 末 の 付 録1に (2) 絶 縁 物 質
絶 縁 材 料 で は,キ
態 で 使 用 さ れ る か ら,cE≫1と
ャ リヤ 密 度 は 非 常 に 小 さ く,電 界 は 高 い 状
な る 。 こ の と き 式(3.24)のν'/ν
考 え る 。 キ ャ リ ヤ 分 布 は 電 流,電
示 す。
界 に よ り支 配 さ れ,こ
を無 視 で き る と
の 場 合 式(3.20)は, (3.27) (3.28)
一 次 元 座 標 で は, (3.29) で 与 え られ る。 こ の よ う に,導
電 体 と絶 縁 体 は そ の 満 た す べ き式 が 異 な り,外 部 か ら 見 た 電 流-
電 圧 特 性 な ど は異 な っ た様 相 を示 す こ とに な る。
3.4
熱
と電 流
こ れ ま で の 検 討 で は,キ
ャ リ ヤ の 動 き は,す
て き た 。 温 度 が 場 所 に よ っ て 違 う と,キ
べ て 同 じ温 度 の 物 質 中 で あ る と し
ャ リヤ の 化 学 ポ テ ン シ ャ ル は,温
っ て 変 化 す る た め,こ
れ に 伴 う 流 れ が 発 生 す る 。 ま た,キ
互 作 用 を す る か ら,キ
ャ リヤ が 動 く と(電 流 が 流 れ る と),こ
度 に よ
ャ リヤ は フ ォ ノ ン と相 れ に伴 っ て 熱 も輸 送
され る。
3.4.1 さ て,化
ゼ ーベ ック効 果 学 ポ テ ン シ ャ ル が 温 度 の 関 数 と し,温
度 の 一次 の 項 の み を とる とす れ
ば,式(3.13)は, (3.30) と な る 。 こ れ よ り,電
流jは (3.31)
と な る 。 図3.1の
よ う に,細
長 い 線 の 両 端 の 温 度 を 変 え,温 度 差ΔTを
与 え る と,
電 流 が 流 れ な い 状 態 で は,式(3.31)よ
り,
(3.32) の 電 界 が 生 ず る。 た だ し,キ ャ リヤ 密 度 の 変 化 は無 視 した 。 電 位 差ΔVは,
(3.33) とな る。ΔVは
熱 起 電 力 と呼 ば れ,Sを
ゼ ー ベ ッ ク係 数,あ
る い は絶 対 熱 電 能 と
呼 ぶ。
この よ うに,温 度 差 に よ り起 電 力 が 生 ず るの をゼ ー ベ ック 効 果 と呼 ぶ 。 ゼ ー ベ ッ ク係 数 は物 質 に よ っ て異 な る。 この た め,異 種 の 導 体 で 図3.1の
回 路 を構 成
し,電 圧 計 で電 圧 を測 定 す る と,両 者 の 図3.1 ゼ ー ベ ッ ク の 効 果 に よ る 起 電 力
熱 起 電 力 の差 が現 れ る。 この 熱 起 電 力 は
温 度 差 に比 例 す るか ら,片 一 方 の温 度 が 知 られ て い れ ば,も
う片 一 方 の 温 度 を測
定 す る こ とが で き る。 この よ う な 目 的 の 導 線 は,熱 電対 と呼 ば れ,そ
の構 成 の単
純 さ と,広 い温 度 範 囲 の測 定 が 可 能 で あ る こ とか ら,温 度 測 定 の 有 力 な手 段 で あ る。
3.4.2 電 流jが
ペ ル チ エ 効 果 と トム ソ ン効 果 流 れ る と,こ の キ ャ リヤ は 同 時 に熱Qを
運 ぶ 。 この 関 係 を (3.34)
と表 した とき,Π
を絶 対 ペ ル チ エ 係 数 と呼 ぶ 。絶 対 ペ ル チ エ 係 数 も物 質 に よ り異
な る。 な お,電 流 に伴 っ て ジ ュ ー ル熱j2/σ の 発 熱 が あ るが,こ 図3.2に
こで は省 略 した 。
示 す よ う に,異 種 の 導 体 を つ な い だ 回 路 に電 流 を流 す と,接 合A点
はQA=Q2-Q1の
発 熱 が起 き,接 合B点
で
で は,同 じ量 の吸 熱 が起 き る。式(3.34)
よ り, (3.35) の 関 係 が あ る。 こ こで,Π1,Π2は,そ
れ ぞ れ 導 体1,導
体2の 絶 対 ペ ル チ エ 係 数
で あ る。 ま た,Π21を ペ ル チ エ 係 数 と呼 ぶ。 この よ う に,電 流 を流 す こ と に よ り, そ の 異 種 の 導 体 の 接 合 点 に吸 熱 お よび 発 熱 が起 き る現 象 を ペ ル チ エ 効 果 と呼 ぶ 。 電 流 の 向 き を逆 転 す る と発 熱 点 は 吸 熱 点
図3.2 ペ ル チ エ 効 果 に よ る 熱 流
とな るか ら,電 流 に よ り自 由 に発 熱,吸 熱 を起 こ さ せ る こ とが で き る。 ペ ル チ エ 係 数 が 大 き く,ジ ュー ル 熱 の小 さい(導 電 率 の 高 い)材 料 を使 う と,可 動 部 分 の な い冷 蔵 庫(電 子 冷 凍 あ る い は熱 電 冷 却) が 製 作 で き る。 絶 対 ペ ル チ エ 係 数 が 温 度 に よ っ て変 化 す る と単 一 導 体 に 電 流 を流 した とき,こ の 導 体 に発 熱 あ る い は吸 熱 が 起 き る。 この 発 熱 を (3.36) と表 した と き,μ を トム ソ ン係 数 と呼 ぶ 。
3.4.3
ケ ル ビ ンの関 係
不 可 逆 過 程 の 熱 力 学 を 用 い る と,熱 に 関 す る これ ら三 つ の 量 の 関 係(ケ
ル ビン
の 関 係) (3.37) (3.38) が 求 め られ る。 ゼ ーベ ック 係 数 は,金 属 で ∼10μV/K,半
導 体 で ∼1mV/K程
度
で あ る。 半 導 体 は,多 数 キ ャ リヤ が,電 子 か正 孔 か に よ っ て,ゼ ー ベ ッ ク係 数 の 符 号 が 変 化 す る。 また,超 電 導 体 は,そ の キ ャ リヤ が フ ォ ノ ン と相 互 作 用 し な い か ら,こ れ ら の係 数 はす べ て0で あ る。
第4章 異種材料の接合 ― 界 面 電 荷 の 生 成 と非 線 形 電 流
4.1
異 種 材 料 の 接 合 時 の キ ャ リヤ 挙 動
異 な る物 質間 で は キ ャ リヤ の 密 度 や 仕 事 関 数 な どが違 い,そ れ故,化 シ ャル が 異 な る。 また,キ
学 ポテ ン
ャ リヤ の 種 類 が 異 な る場 合 も存 在 す る。 これ ら異 な る
物 質 を接 合 す る と,接 合 を通 して両 物 質間 で キ ャ リヤ の 移 動 が可 能 とな る。 キ ャ リヤ は化 学 ポ テ ン シ ャル が 等 し くな る よ う に物 質間 を移 動 す る。 キ ャ リヤ は電 荷 を も っ て い る か ら この 移 動 は電 位 の 変 化 を もた らす 。 接 合 部 分 に は キ ャ リヤ の集 積 あ る い は減 少 が 起 き,キ ャ リヤ の この よ うな 変 化 は接 合界 面 の非 常 に短 い 距 離
(4.1) に存 在 す る。 この距 離 を図4.1に
キ ャ リヤ 密 度 の 関 数 と して 示 す が,キ
図4.1 キ ャ リヤが接 合界 面 に集積 され る距 離
ャ リヤ 密
度 の大 きい 金 属 で は,こ の 距 離 は 原子 間 の 距 離(∼0.5nm)程
度 以 下 に もな る。こ
れ に伴 っ て 非 常 に 強 い 電 界 が 形 成 さ れ,両 物 質 間 に は電 位 差 が 発 生 す る。 また, こ こに蓄 え られ る電 荷 密 度 も大 き い。 しか し,半 導 体 の よ う に キ ャ リヤ 密 度 が比 較 的 小 さ い材 料 で,接 合 相 手 に キ ャ リヤ が 出 て い き,キ ャ リヤ 密 度 が減 少 す る場 合,こ
の距 離 で の減 少 で は キ ャ リヤ の 移 動 を止 め る電 位 差 を与 え る量 に は至 らな
い こ と も多 い。 こ の場 合 に は,キ
ャ リヤ の 存 在 しな い 層(空 乏 層)が
この 距 離 よ
り大 きな距 離 に で き る。 両 物 質 間 に発 生 す る電 位 差VJは,接
合 物 質 の種 類 に よ っ て変 わ るが,高 々1V
程 度 で あ る。 しか し,キ ャ リヤ が 短 い距 離 に 集 積 して い るた め,電 界 の 値 は お お よそ (4.2) で与 え られ,キ
ャ リヤ密 度 の 大 きい金 属,半 導 体 な どの 導 電 物 質 で は非 常 に大 き
な電 界 で あ る。 また,こ
れ に伴 っ て流 れ る電 流 もオ ー ム の 法 則 に は従 わ ず,非 線
形 の電 流 が 流 れ る。 この 性 質 は,電 流 の制 御 とい う電 気 工 学 上 の応 用 の 基 本 で あ る。接 合 の空 間 電 荷 や キ ャ リヤ を種 々 の デバ イ ス で 制 御 し,電 圧-電 流 特 性 を コ ン トロ ール す る半 導 体 工 学 は現 代 の エ レ ク トロ ニ ク ス の 中心 で あ る。 また,電 池 な どの エ ネ ル ギ ー 発 生 な どの 基 礎 原 理 で も あ る。
4.2
4.2.1
同 ー キ ャ リヤ を も つ 物 質 の 接 合
接 合 界 面 の キ ャ リヤ分 布
こ の場 合,化
学 ポ テ ン シ ャ ル に 各物 質 の キ ャ リヤ と原 子 との 相 互 作 用 に も とず
くエ ネル ギ ー の項 を加 え る必 要 が あ る。 異 種 物 質 で は,こ の エ ネ ル ギ ー の 大 き さ が 異 な るか らで あ る。 同一 物 質 内 で,電 流 の 流 れ な い 平 衡 状 態 で は,そ の キ ャ リ ヤ の化 学 ポ テ ン シ ャル は物 質 外 部 に キ ャ リヤ が あ る と きの エ ネ ル ギ ー か らみ て, フ ェ ル ミエ ネ ル ギ ー まで の エ ネ ル ギ ー 差,す
な わ ち仕 事 関 数 の 大 き さ だ け小 さ
い。そ れ ぞ れ の 仕 事 関 数 を ψa,ψbと す る と,仕 事 関 数 の差 に基 づ く電 位 差Vab= -(ψa-ψb)/qに 相 当 す る化 学 ポ テ ン シ ャ ル だ け異 な る。 この た め キ ャ リヤ は,接 合 時 に仕 事 関 数 の小 さ い物 質 か ら大 きな物 質 の 方 へ 拡 散 す る。 しか し,キ
ャ リヤ
は電 荷 を も っ て い るか ら,両 物 質 間 に電 位 差 が 発 生 し,こ の電 位 差 に よ り両 物 質 内 の キ ャ リヤ の 化 学 ポ テ ン シ ャ ル が 変 動 し拡 散 を 妨 げ る働 き を す る。 これ に よ り,あ る程 度 キ ャ リヤが 侵 入 した 時 点 で 化 学 ポ テ ンシ ャル が 等 し くな り,キ ャ リ ヤ の侵 入 は終 了 す る。こ の 入 った キ ャ リヤ は界 面 付 近 に止 ま る。電 流 が0の こ の 電 位 差 は接 合 か ら十 分 離 れ た 場 所 間 で は,キ
ャ リヤ 密 度ν=1の
と き,
条件 か ら
Vabと な る。 しか し,界 面 で は キ ャ リヤ 密 度 の 変 化 が 生 じ,こ れ に よ り電 圧-電 流 特 性 は 単 純 で な くな る。 この よ うな異 種 の 物 質 の接 合 の 電 流 を 考 え て み る。 この 場 合 は,境 界 条 件 を満 た す よ う に 式(3.20)を
解 く必 要 が 生 ず る。
さて計 算 の単 純 化 の た め,直 角座 標 でx>0に 質bが
あ っ て,電 流 はx方
物 質aが
あ り,x<0に
異 な る物
向 に流 れ て い る異 種 物 質 の界 面 で の 解 を考 えて み る。
異 種 物 質 接 合 面 の 境 界 条 件 は,電 位Vが
等 しい こ と と,キ ャ リヤ の化 学 ポ テ ン シ
ャ ルφ が 等 し い こ とで あ る。 こ こで は,金 属 とn型 半 導 体 の接 合 を考 え,金 属 の 仕 事 関 数 がn型
半 導 体 の仕 事 関 数 よ り大 き く,キ ャ リヤ で あ る電 子 がn型
か ら金 属 に拡 散 し て い く場 合 を考 え る。 巻 末 の付 録1に は,こ
の計 算 結 果 は 図4.2に
半導体
示 す よ う に,導 電 物 質 で
示 す よ う に な る。 こ こ に示 す よ う に,境 界 に キ ャ リ
ヤ が 入 っ て きた 方 の物 質 に は非 常 に大 き な空 間電 荷 が,計
算 上 は原 子 の 大 き さ よ
り短 い 距 離 に存 在 し,出 て い っ た 物 質 の側 の境 界 に は キ ャ リヤ の ほ とん ど存 在 し な い 領 域 が で き る。 この 領 域 の 幅 は この物 質 の キ ャ リヤ密 度 に依 存 し,キ ャ リヤ 密 度 が 小 さ くな れ ば 大 き くな る。 半 導 体 な どで は μm程 度 に もな る。
4.2.2
電 圧 と電 流 の 関係
まず,ν=ef(x)(x>0),ν=eg(x)(x<0)の 満 た す べ き方 程 式 は,こ れ を式(3.20)に
形 の解 を考 え て み る。f(x),g(x)の 代 入 す る と, (4.3) (4.4)
図4.2 電子 をキ ャ リヤ に もっ異 種 材 料 の 界 面 キ ャ リヤ,電 荷,電 界,電 位 分 布(金-n型 と な る 。 こ の 式 は,巻 て 解 析 で き る が,こ
末 の 付 録1に こ で は,一
化 学 ポ テ ン シ ャ ル は 式(3.13)で Cbと
半導 体)
示 す よ う に,導
電 性 物 質 の 場 合(cE=0)と
般 の 場 合 の 電 圧 と電 流 と の 関 係 を 考 え て み る 。 表 さ れ る 。 物 質aと
物 質bの
任 意 定 数 をCa,
す る と,
(4.5) と表 せ る 。 こ れ か らf(x),g(x)は,
し
(4.6)
の 形 で 表 現 さ れ る 。 化 学 ポ テ ン シ ャ ル は,境 x=-∞
でV(-∞)=0と
界x=0でφ(0)=0と
決 め る こ と と す る 。 電 流0の
学 ポ テ ン シ ャ ル は あ ら ゆ る 場 所 で 等 し く0と
決 め,電
位 は
平 衡 状 態 を 考 え る と,化
な る 。 こ れ とf(∞)=0か
ら,
(4.7) g(-∞)=0か
ら,
(4.8) が 得 られ る。 電 流 は
(4.9)
の 形 で与 え られ る。 電 流 は ど こで も等 しい か ら,両 辺 に〓
をか けdaか
らdbま
で に つ い て 積 分 す る と,
(4.10) こ こ で,境 と,式(4.10)は
界 か ら 十 分 は な れ,f(da)=g(db)=0と 式(4.7),式(4.8)の
見 な せ るda,dbを
考 え る
関 係 を 使 っ て,
(4.11) こ れ よ り式(4.11)は,外
部 か ら 与 え た 起 電 力Vext=V(da)-Vabを
用 い て,
(4.12) と表 現 で き る。 さて,電
流 を求 め る に は
(4.13)
を 知 る 必 要 が あ る が,こ がVabよ
れ に は 式(3.26)を
り小 さ い 場 合 や,半
解 く必 要 が あ る 。 し か し,電
導 体 な ど で キ ャ リ ヤ 密 度naが
大 き な 電 圧 依 存 性 は な い 。 従 っ て,式(4.12)は,こ
圧Vext
小 さ い 場 合,あ
ま り
の よ う な 場 合,
(4.14) と表 現 で き る。 この 式 は半 導 体 ダ イ オ ー ドの 電 圧-電 流 特 性 と し て 良 く知 られ た 式 で あ る。 こ の よ う に,電 流-電 圧 特 性 は非 線 形 に な り,電 圧 の 符 号 に よっ て 電 流 の大 き さが 変 化 す る 整 流 作 用 が あ る こ と に な る。 さて,こ
の 関 係 か ら,ど の よ う
な異 種 の 材 料 の 接 合 で も整 流 作 用 が あ る こ とに な るが,実
際 は空 間 電 荷 の で き る
領 域 の 幅daお 料 で は,キ
よ びdbを
考 え る必 要 が あ る。金 属 な どの キ ャ リヤ 密 度 の大 きい 材
ャ リヤ の ほ とん ど存 在 しな い 領 域 が 原 子 の 大 き さ程 度 で あ る。 この よ
う に小 さい 距 離 で は,キ
ャ リヤ の波 動 性 を考 え る必 要 が あ る。 キ ャ リヤ の 波動 性
を考 え るべ き距 離 は,キ
ャ リヤ の もつ ドブ ロ イ波 長 よ り短 い距 離 で あ る。 ドブ ロ
イ波 長 λは キ ャ リヤ の 質 量,速 度 を そ れ ぞ れm,υ
と した と き,プ ラ ンク の 定 数
hに 対 して
(4.15) の 関 係 で表 され る。 表4.1に 子 は,キ
種 々 の キ ャ リヤ の ドブ ロ イ 波 長 を 示 す 。 固 体 中 の電
ャ リヤ の エ ネ ル ギ ー と して フ ェ ル ミエ ネ ル ギ ー程 度,す
度 の 値 を もつ の で,ド ブ ロ イ 波 長 は1nm程
表4.1
な わ ち数eV程
度 で あ る 。質 量 が 小 さ く,速 度 の大 き
種 々 のキ ャ リヤの ドブ ロイ 波長
い キ ャ リヤ,す
な わ ち電 子 の み に対 して,実 際 的 に は,波 動 性 を考 慮 す る必 要 が
あ る こ と を意 味 す る。 電 子 をキ ャ リヤ とす る接 合 で は,波 動 性 に基 づ く トン ネ ル 電 流 が流 れ,こ れ が 支 配 的 に な る た め,式(4.14)の 要 が あ る。式(4.14)の と呼 ぶ)が
関 係 が 成 立 しな い場 合 が 多 い こ と に注 意 す る必
関 係 が 成 立 す る に は,キ ャ リヤ の 存 在 しな い 領 域(空 乏 層
トンネ ル 電 流 が 流 れ な い 程 度 の幅 を もつ 必 要 が あ る。 す な わ ち,キ ャ
リヤ 密 度 の 小 さい 物 質 に空 乏 層 が で き る必 要 が あ る こ とに な る。 従 っ て,半 導 体 の よ う に キ ャ リヤ 密 度 の 小 さ い材 料,あ
る い は,金 属 ど う しで も,そ の 間 に トン
ネ ル 電 流 が 無 視 で き る 程 度 の幅 の絶 縁体 を は さ む な ど の工 夫 を した場 合 に,こ の よ う な こ とが 起 き る。 例 え ば,金 属 とn型 半 導体 の 接 合 の 場 合 で も,金 属 の仕 事 関 数 がn型 き,キ
半 導 体 の 仕 事 関 数 よ り小 さ い と き は,電 子 はn型
ャ リヤ の 少 な い領 域 は金 属 側 にで き る。 この 幅 は非 常 に小 さ く,こ の た め
トン ネ ル 電 流 が 流 れ,整 また,金 がp型
半導 体 に入 って い
流 作 用 の な い オ ー ム の法 則 に従 う電 圧-電 流 特 性 に な る。
属 とp型 半 導 体 の接 合 で は,整 流 作 用 の 存 在 の 条 件 は,金 属 の仕 事 関 数
半 導 体 の仕 事 関 数 よ り小 さ い場 合 で あ る。 この 時 は,金 属 の電 子 がp型
半
導 体 に 入 っ て い き,正 孔 と結 合 しp型 半 導体 の 界 面 に空 乏 層 が で き る。 後 に述 べ るpn接
合 で は,空 乏 層 が で き るが,p型
半 導 体 とn型 半 導体 の キ ャ リヤ密 度 を 非
常 に大 き く して い く と,空 乏 層 の 幅 が 小 さ くな っ て い く結 果,ト
ンネ ル 電 流 が 流
れ は じ め,そ の 電 圧-電 流 特性 に,負 性 抵 抗 を もつ 領 域 が 生 ず る(エ サ キ ダ イ オ ー ド)。
4.3
異 な る キ ャ リヤ を も つ 物 質 の 接 合
この 場 合 に も,接 合 に伴 っ て キ ャ リヤ は相 手 の 物 質 に 入 っ て い くが,興 味 深 い の は キ ャ リヤ の 電 荷 が 異 な る場 合 で あ る。 これ は,正 孔 を もつp型 を もつn型 属,あ
半 導 体 も し くは 金 属 と の接 合,イ
半 導 体 と電 子
オ ン を キ ャ リヤ とす る 電 解 液 と金
る い は 半 導 体 との接 合 な どで あ る。 この 場 合,相
手 の物 質 に入 っ た キ ャ リ
ヤ は,電 荷 の 異 な るキ ャ リヤ と結 合 し消 滅 す る。 し か し,持 ち 込 まれ た電 荷 は変
化 しな い か ら,両 物 質 間 に電 位 差 が 発 生 す る。 これ は,こ の 接 合 の電 荷 分 布 を変 化 させ,電 圧-電 流 特 性 に非 線 形 性 が 生 ず る。 また,キ ャ リヤ の結 合 の エ ネ ル ギ ー は 熱,あ
るい は光 領 域 の 電 磁 波 に変 換 さ れ る。 イ オ ンが キ ャ リヤ の場 合 は,結 合
に 伴 っ て化 学 反 応 が 起 き,異 な る物 質 が 作 り出 され る。 これ らの 効 果 は光 発 生 装 置 や 電 気 化 学 の 基 本 技 術 で もあ る。 こ の よ う に,多 様 な異 種 接 合 が あ るが,こ
こ
で は代 表 的 な接 合 を考 え て み る。
4.3.1
pn接
合
p型 半 導 体 とn型 半 導 体 を接 合 す る と,そ れ ぞ れ の 多 数 キ ャ リヤ で あ る正 孔 と 電 子 が相 手 の半 導体 に拡 散 して い き,正 孔 と電 子 の再 結 合 に よ り消 滅 す る 。 しか し,持 ち 込 まれ た電 荷 の た め 電 位 差 が 生 じ,そ の電 位 差 の た め キ ャ リヤ の拡 散 は 止 ま り,平 衡 状 態 に 到 達 す る。 この と き,接 合 界 面 付 近 に は,キ ど存 在 しな い 領 域(空
乏 層)が
ャ リヤ の ほ と ん
で き,電 圧-電 流 特 性 に も非 線 形 特 性 が生 ず る。
平 衡 状 態 で の 電 位 差 は,電 子,正
孔 の化 学 ポ テ ンシ ャル が 等 しい 条 件 よ り求 め
られ る。 接 合 か ら十 分 離 れ た 場 所 で の,p型 ポ テ ン シ ャ ル は,式(3.13),式(4.5)∼
半 導 体 とn型 半 導体 で の 電 子 の 化 学
式(4.8)よ
り,そ れ ぞれ,
(4.16) (4.17) と な る 。Vp,Vnは プ タ ー 密 度,ド
そ れ ぞ れ の 電 位 で あ る 。 ま た,NA,ND,niは ナ ー 密 度,真
い 。 電 位 差Vpnは,こ
性 キ ャ リ ヤ 密 度 で あ る 。 詳 細 は 第7章
それ ぞれア クセ を参 照 され た
の 両 者 を 等 し い と お い て,
(4.18) で 与 え られ る。 正 孔 に つ い て 計 算 して も,同 じ結 果 が 得 られ る。 こ の キ ャ リヤ 分 布,電 圧 の例 を 図4.3に
示 す 。この 解 析 は巻 末 の 付 録1に
示す。
電 圧-電 流 特 性 は,同 一 キ ャ リヤ を もつ 物 質 の 接 合 と同様 に して,電 子,正 孔 に対 して 電 流 を計 算 す る と,式(4.14)と
同 じ形 式 の電 圧-電 流 特 性
図4.3 pn接 合 の 界 面 キ ャ リ ヤ,電 電 界,電
荷,
位分布
(4.19) が得 られ る。 電 流 の 流 れ て い る状 態 で は,接 合 領 域 に入 っ て い く電 子,正 結 合 に よ り消 滅 して い くが,こ
孔 は再
れ に は あ る時 間 を必 要 とす る。 この た め,接 合 領
域 に は再 結 合 して い な い 平 衡 状 態 に な い キ ャ リヤ が存 在 し,図4.3で
の キ ャ リヤ
分 布 と比 べ る とキ ャ リヤ 密 度 は少 し増 加 す る。 これ は キ ャ リヤ の動 き を減 少 させ る作 用 をす る。 この た め,j0は い く電 子,正
こ の再 結 合 時 間 の 関 数 とな り,接 合 領 域 に 入 っ て
孔 の再 結 合 時 定 数 を それ ぞ れτe,τpと し て,
(4.20) と概 算 され る。 こ こで,Dp,Deは
4.3.2 図4.4の
そ れ ぞ れ 正 孔,電
子 の拡 散 率 で あ る。
電 解 液 と金 属 の 接 合 よ う に,正 負 イ オ ン を キ ャ リヤ とす る電 解 液 の 中 に金 属 を浸 け た場 合
を 考 え て み る。 この 場 合,金
属 の キ ャ リヤ は電 子 で あ るが,電
解 液,金 属 そ れ ぞ
れ の キ ャ リヤ は相 手 に は入 っ て い け な い。 しか し,界 面 で電 子 のや り と りを行 い, 電 子 が 移 動 し て い く過 程 が起 き る。 これ は,金 属 と電 解 液 の種 類 に よ り種 々 の 過 程 が 考 え られ る。 金 属 か ら電 子 が 出 て い くと き は,こ の 電 子 は 電解 液 中 の正 イ オ ン に と ら え られ,こ
の イ オ ン を 中性 とす る(2価
の 正 イ オ ン を1価
に す る等 の過
程 もあ る)。 も し くは,電 解 液 中 の 中性 原 子 を負 イ オ ン に す る過 程 も考 え られ る。 逆 に,金 属 に電 子 が 入 っ て くる過 程 で は,負 イ オ ン を 中性 化 した り,正 イ オ ンを 作 る こ とが 行 わ れ る 。 また,場 合 に よ っ て は,金 属 原 子 が 正 イ オ ン化 して,電 子 を金 属 に残 して,電
解 液 に拡 散 して い く過 程 もあ る。 これ ら の どの 過 程 が 起 き る
か は,電 子 が 金 属 中 に あ る場 合 と,電 解 液 中 の(イ
オ ン)原 子 に あ る場 合 との 化
学 ポ テ ン シ ャ ル の 大 き さの 違 い に依 存 す る。 この よ うに,電 子 の移 動 が 起 き金 属 と電 解 液 と の界 面 に は電 位 差 が 生 ず る。 こ の 界 面 の 電 荷 分 布 な ど の 状 況 は,pn 接 合 な ど,固 体 ど う しの接 合 と類 似 で あ
図4.4 正 負 イ オ ンをキ ャ リヤ とす る電 解 液
る。
で の電 子 交 換
しか し,電 子 の や り取 りは,固 体 の場 合 は 単 に拡 散 で 移 動 で き るが,こ
の場 合
は,電 子 が 金 属 か ら出 て イ オ ン に到 達 す る,あ
ネルギ
る い は その 逆 の 過程 で,エ
ー の 高 い 状 態 を経 由 す る必 要 が あ る。 金 属 電 子 が 外 部 に出 る に は仕 事 関 数 の エ ネ ル ギ ー が 必 要 で あ る こ とか ら も これ は理 解 で き る と思 う。 図4.5に,こ
のエネル
ギ ー バ リア を 示 す 。 この エ ネ ル ギ ー の 最 高 値 まで 電 子 が エ ネル ギ ー を得 られ れ ば
電 子 が 移 動 で き る。 電 子 が金 属 か ら イオ ン に移 動 す る 確 率 は,印 加 電 圧 をVと し,こ
の う ち バ リ ア に か か る電 圧 分 を
ηVと す る と,
(4.21) に比 例 し,イ オ ンか ら金 属 に移 動 す る確 率 は, (4.22) に比 例 す る。 な お,金 属 中 の 電 子 とイ オ ン中 の電 子 の 化 学 ポ テ ン シ ャル は異 な る か らWは
同 一 の 値 で は な い が,こ
の違
い分 は界 面 に形 成 され る電 荷 に よ る電 位 差 の た め補 償 され,等
図4.5 電子 交 換 で のエ ネ ル ギ ー バ リア と印加 電圧 関 係
し くな る よ うな 状
態 が 無 電 圧 で 生 じて い るか ら,こ こで は 等 しい と置 き,印 加 電 圧 分 の み を考 慮 して い る。 電 流 は,こ の エ ネ ル ギ ー バ リア を越 え る確 率 の差 に比 例 し,
(4.23) の 形 で与 え られ る。な お,通 常 β は0.5に 近 い値 で あ る。従 っ て,非 線 形 で は あ る が 両 方 向 に電 流 が 流 れ る。
4.3.3
電 解 液,固
体 電 極 を 用 い た エ ネ ル ギ ー コ ンバ ー タ(電 池,電 気化 学)
電 解 液 中 で は,電 子 の 授 受 に伴 って,キ と異 な る特 徴 が あ る。 電 解 液 中 に 二 つ の,キ
ャ リヤ の 数 の 増 減 が 起 き る こ とに 固体 ャ リヤ を電 子 とす る材 料 で で き た電
極 を 置 き,こ の 電 極 か ら,電 子 を電 解 液 中 の イ オ ン に 出 し入 れ す る シ ス テ ム を考 え て み る。二 つ の 電 極 の材 質 が 異 な れ ば,電 解 質‐電 極 界 面 にで き る空 間電 荷 が 異 な り,電 極 の 電 解 質 に 対 す る電 位 差 は 異 な る。 従 っ て,こ
の 二 つ の 電 極 をつ な ぐ
と,電 子 が この 間 を移 動 し,電 流 が 流 れ る。 こ れ に 伴 っ て電 極 の 電 位 が 変 化 し,
平 衡 状 態 で な くな るか ら,新 た に電 極 とイ オ ン との間 に電 子 の授 受 が 起 き,電 流 が 流 れ 続 け る。 この場 合 は,片 一 方 の電 極 は電 子 を放 出 し,負 イ オ ン を作 るか あ る い は 正 イ オ ン を 中 性 原 子 に 変 化 さ せ て い る。 も う一 方 の 電 極 は 電 子 を 取 り入 れ,正
イ オ ン を作 る か あ る い は 負 イ オ ン を 中性 原 子 に変 え て い る。 これ は化 学 変
化 が 起 き て い る こ と を意 味 す る。 この 電 流 は,電 解 液 中 の イ オ ン が減 少 し,つ い に は原 料 とな るイ オ ンが な くな るか,あ
る い は イ オ ン量 の変 化 に伴 う化 学 ポ テ ン
シ ャル の 変 化 に よ り電 位 差 が な くな る ま で続 く。 も し,電 極 か ら イ オ ン を作 る 原 子 を供 給 す れ ば,こ の 電 流 は供 給 が 途 絶 え る ま で の 間 流 し続 け る こ とが で き る。 この 電 流 は,電 極 間 をつ な ぐ電 線 に 負 荷 がつ な が れ て い れ ば外 部 に電 気 エ ネル ギ ー を供 給 す る こ と に な るか ら,こ の シス テ ム は 化 学 変 化 を電 気 エ ネ ル ギ ー に変 換 す るエ ネ ル ギ ー コ ンバ ー タ で あ る。 この シ ス テ ム は,非 常 に多 様 な 構 成 で 実 現 で き,こ れ らは総 称 して 電 池 と呼 ばれ る。 ま た, 逆 に,外 部 電 気 エ ネ ル ギ ー 源 よ り電 子 を電 解 液 に 出 し入 れ し て や る と,化 学 ポ テ ン シ ャル か ら見 て 逆 向 き の 反 応 を起 こす こ と も可 能 で あ る。 これ は,例
えば アル
ミニ ウ ム イ オ ン を 中 性 原 子,す な わ ち ア ル ミニ ウ ム金 属 に 変 え る こ と(電 気 精 錬) に利 用 で き る。 この シ ス テ ム は,電 気 エ ネ ル ギ ー を化 学 反 応 に変 え る エ ネ ル ギ ー コ ンバ ー タ で あ り,電 池 も含 め て この技 術 は電 気 化 学 と呼 ば れ る 。 さ て,こ の よ うな こ とが 固体 接 合 で は な ぜ 起 き な い か を考 え て み る。 異 な る金 属 の接 合,あ
る い はpn接
合 で は 接 合 界 面 に電 位 差 が で き,両 物 質間 に は電 位 差
が 生 ず る。 従 っ て,こ の 両 物 質 を外 部 回路 で つ な い でや れ ば 電 流 が 流 れ る は ず で あ るが,こ
れ は一 瞬 の こ とで あ り,電 流 は す ぐに止 まっ て し ま う(実 際 は 流 れ る
こ と は な い 。 これ は接 合 を作 っ た 瞬 間 に,周
り を漏 洩 す る電 流 が す で に流 れ て し
ま って い る か らで あ る。)。 この 理 由 は,固 体 中 で は キ ャ リ ヤ の 数 の 変 化 が 連 続 し て起 き る こ とが な い か ら,電 流 が 流 れ る こ とに よ り,シ ス テ ム の キ ャ リヤ は直 ち に平 衡 状 態 に達 して し ま うか ら で あ る。 キ ャ リヤ が 平 衡 に な る よ うに動 く現 象 が 電 流 で あ る か ら,当 然 の こ とで あ る。pn接 合 で は 正 孔 と電 子 が 結 合 し キ ャ リヤ の減 少 が 連 続 し て 起 き う るが,外 部 か ら これ らキ ャ リヤ を供 給 す る機 構 が な けれ ば,電 流 は続 か な い。
た だ し,キ
ャ リヤ を発 生 す る メ カ ニ ズ ム が あ れ ば,電 流 が 流 れ 続 け る こ と は可 能
で あ る。例 えば,光 をpn接
合 に あ て,光 で 価 電 子 帯 の 電 子 を伝 導帯 に励 起 して 正
孔 と電 子 を作 れ ば,こ の 接 合 部 の 電 位 差 に よ り電 流 を流 し続 け る こ とが で き る (太 陽 電 池)。 これ らの こ とは,も
っ と根 本 的 に見 れ ば,電 流 を あ る起 電 力 で流 し続 け る た め
に は,こ の エ ネ ル ギ ー の散 逸 を補 うエ ネ ル ギ ー 源 が 必 要 で あ る,と い う こ とか ら 説 明 で き る。 固 体 接 合 で で きた シス テ ム で は,エ ネ ル ギ ー源 が 存 在 して い な い か ら と も言 え る。 固 体 シス テ ム で 電 流 を流 し続 け るた め のエ ネ ル ギー 源 と して は, ① 磁 場 中 で 導 体 を機 械 的 に動 か し(キ ャ リヤ を動 か す こ と を意 味 す る),こ れ に伴 う電 磁 力 に よ りキ ャ リヤ の 駆 動 す る。
(発 電 機)
② 導 体 シス テ ム に温 度 差 を与 え,化 学 ポ テ ン シ ャル の 差 を作 り出 して起 電 力 を得 る。
(熱電 発 電,熱 電 子 発 電)
な どが 存 在 す る 。
第5章 金属の導電性
金 属 は,多 くの 自 由電 子 と呼 ばれ るキ ャ リヤ が あ り,非 常 に 良 い 導 電 性 を 示 す 。 これ よ り,導 体 と して使 わ れ る。 導 体 とし て は 導 電 性 が 高 い こ とが 望 ま しい 。 こ の導 電 性 は電 界 に よ っ て加 速 され た電 子 が,金 ォ ノ ン)と 相 互 作 用 に よ り散 乱 され,電 れ る 。 一 般 的 に は,フ
属 の 熱 運 動 に基 づ く格 子 振 動(フ
界 方 向 の 速 度 を 失 う程 度 に よっ て 決 定 さ
ォ ノ ンの 数 が 増 えれ ば,電 子 との相 互 作 用 は増 え るで あ ろ
うか ら,温 度 上 昇 と と もに 導 電 率 は低 下 し て い く と考 え て よい 。 フ ォ ノ ンは,電 子 と異 な り,一 つ のエ ネ ル ギ ー 状 態 に任 意 の 数 の粒 子 が 占有 す る こ との で き る ボ ー ズ 粒 子 と呼 ば れ る粒 子 で あ る。 フ ォ ノ ンの エ ネ ル ギ ー は そ の振 動 周 波 数 に比 例 す る。 しか し,金 属 の 格 子 構 造 か ら考 え て フ ォ ノ ンの 波 長 が 原子 間 隔 よ り短 い も の は許 され な い。 言 い 換 え れ ば,フ
ォ ノ ンの 振 動 周 波 数 に上 限 が あ り,エ ネ ル ギ
ー が あ る値 以 上 は存 在 し な い。 この 上 限 の エ ネ ル ギ ー に相 当 す る温 度TD,す わ ち この エ ネ ル ギ ー を ボル ツ マ ン 定数kで
な
割 っ た値 はデ バ イ温 度 と呼 ばれ る 。 こ
の 温 度 は物 質 固有 の値 で あ るが,通 常,数 百Kの
程 度 で あ る。緩 和 時 間 の 温 度 依
存 性 は,こ の デバ イ温 度 を境 に大 き く異 な っ て くる。 デ バ イ 温 度 よ り高 い温 度 で は,金 属 は温 度 に反 比 例 す る導 電 率 を有 し て い る が,デ
バ イ温 度 よ り低 い 温 度 で はT5に
反 比 例 し著 し く導 電 率 は大 き くな っ て い
く。 金 属 の 抵 抗 率 は,Gruneisenの
経験式
(5.1) が 知 られ て い る。 こ こで,ρ(T)は 金 属 の デ バ イ温 度,β
温 度Tで
の抵 抗 率 を 示 し,Tdは
対 象 とす る
は金 属 固 有 の値 で 温 度 に よ ら な い定 数 で あ る。 また,実
の 金 属 の 測 定 値 を図5.1に
示 す。
際
図5.1 各 種 純 金属 の抵抗 率 測 定値 G.T. Plenum New
な お,式(5.1)は
Meaden:"Electric Press, York,
resistance
Plenum
1965よ
Publishig
of
Metals"
Corporation,
り
不 純 物 が な い 完 全 結 晶金 属 の 場 合 で あ り,実 際 の 金 属 で は,
導 電 率 に は不 純 物 や 格 子 欠 陥 の 影 響 が 大 きい 。 電 子 は,格 子 の 非 周 期 性 に よ り散 乱 され る か らで あ る。 この た め,良
い導 体 を得 る に は不 純 物 を極 力 小 さ く し,格
子 欠 陥 を減 らす た め に導 体 の 歪 み を小 さ くす る必 要 が あ る。 現 実 の 金 属 で は,純
度 をか な り高 くし な けれ ば 図5.1に
示 す 導 電 率 は得 られ な い 。 特 に,低 温 で は 導
電 率 が 高 い か ら純 度 の 影 響 が著 し く現 れ,こ
の領 域 で 十 分 な 導 電 率 を得 る の は,
か な り技 術 的 配 慮 と経 済 的 な コス トを必 要 とす る。 な お,金 属 の 自 由電 子 は フ ォ ノ ン と相 互 作 用 す るか ら,電 流 だ けで な く熱 を運 ぶ 。 導 電 率 σ と熱 伝 導 率 λeの比 に は,デ バ イ 温 度 よ り高 い温 度 で は,
(5.2) のWiedemann‐Franzの 上 昇 して い き,あ
法 則 が 成 立 す る。 デ バ イ温 度 よ り低 温 で も熱 伝 導 率 は
る温 度 か ら低 下 す るが,こ
の時 で も熱 伝 導 率 は比 較 的大 き い。
電 線 な どの導 体 材 料 に は金 属 が使 わ れ るが,常 温 で 導 電 率 が 大 き い の は 銀,銅, 金,ア
ル ミニ ウ ム 等 で あ る。 経 済 的 理 由 か ら,銅,ア
ル ミニ ウム が 導 体 と して 使
われ る。 大 量 に使 用 しな い た め,そ 用 途 の場 合 に は,金 れ る。 また,接
の コ ス トが 問題 に な らな い エ レ ク トロニ ク ス な ど の
な どが 細 線 が作 りや す い,酸 化 し に くい な ど の理 由 か ら使 わ
点 な ど,接 触 に よる 導電 性 を要 求 さ れ る場 合,銀
の よ うに 酸 化 し
に くい材 料 が 使 わ れ る。 この よ うに,用 途 に応 じ て種 々 材 料 が利 用 さ れ る。 しか し,あ
る金 属 の 導 電 性 を 高 め る に は,材 料 の 純 度 を上 げ る しか 方 策 は な い。 この
面 で 改 良 の 余 地 は 少 な い が,導 体 と して 要 求 され る性 能 は,導 電 性 だ け で な く, 接 続 し や す い,バ ネ 性 が あ る,酸 化 しな い,耐 熱 性 が あ る,屈 曲 に耐 え る,軽 い, 引 張 り強 度 が 強 い,化 学 的 に安 定 で あ る等 々,用 途 に 応 じて 種 々様 々 な特 性 を要 求 され る。 これ らの 特 性 を得 る た め導 電 性 を犠 牲 に して 合 金 と し,こ れ らの性 能 を発 揮 す る工 夫 が現 実 に は な され る。
第6章 絶縁体の電気伝導
6.1 絶 縁 体 中 の キ ャ リ ヤ
絶 縁 体 に は 基 本 的 に は キ ャ リヤが 存 在 し な い 。 しか し,半 導体 の よ うに 不 純 物 の存 在 に よ りキ ャ リヤ が 作 られ る。 また,電 極 か らキ ャ リヤ が供 給 され る こ とも あ る し,光,放
射 線 等 に よ る絶 縁 物 質 の 電 離 に よ りキ ャ リヤ が作 られ る。 一 方,
キ ャ リヤ は絶 縁体 中 の トラ ップ と呼 ば れ る,エ ネ ル ギ ー の低 い部 分(絶 縁 材 料 中 の 不 純 物 や 格 子 欠 陥 な どは電 荷 を持 ち や す くキ ャ リヤ をつ か まえ る こ とが 多 い) に捕 捉 され,動
き に く くな る こ と も考 え る必 要 が あ る。 また,高 電 界 で は,電 界
に よ りキ ャ リヤ が加 速 され,こ
れ との衝 突 に よ り絶 縁 材 料 が 電 離 され,キ
ャ リヤ
が 生 成 し導 電 率 は増 加 す る。 この よ う に キ ャ リヤ の 増 減 が伴 い,か つ キ ャ リヤ の 種 類 も,電 子,イ 温 度,電
オ ン両者 が 存 在 し,か つ,導 電 率 を決 め る キ ャ リヤ移 動 度 も,
界 な どに よっ て 変 化 す る。 電 界 が非 常 に強 くな れ ば,電 界 に よ り生 成 さ
れ る キ ャ リヤ が 著 し く増 加 し,電 流 の 急 増 が起 き る。 そ の結 果,電 力 損 失 は著 し く大 き くな る。 こ の結 果 と して,絶
縁 破 壊 と呼 ば れ る絶 縁 物 質 の 変 質 を伴 った 導
電 性 を示 す 。 この よ うに,絶 縁 体 の 電 気 伝 導 は キ ャ リヤ の性 質 や 電 極,印 加 電 圧 な ど の 関係 に よ り種 々 の複 雑 な様 相 を示 す。 この た め半 導 体 や 金 属 の 電 気 伝 導 と 比 べ て 非 常 に複 雑 で,簡 単 な モ デル で 表 現 す る こ と は困 難 で あ る。 こ こで は代 表 的 な モ デ ル を述 べ,電 気 伝 導 を理 解 す る手 助 け と した い 。 こ こで述 べ る モ デ ル は 絶 縁体 一 般 に 当 て は め る こ と はで き な い が,あ 適 用 で き る。 また,半 導 体 は絶 縁 体 の一 種 で,キ
る条件 の 絶 縁 体 の電 気 伝 導 に十 分 ャ リヤ 密 度 が 大 きい だ け で あ る
か ら,こ れ を考 慮 に入 れ れ ば,こ れ らの モ デル の適 用 が 可 能 で あ る。
6.2 電 気伝 導 を表 す式
基 本 的 に は式(3.20)を
用 い て 解 析 で き る が,絶 縁 体 で は キ ャ リヤ密 度 が 小 さ
く,拡 散 に よ り界 面 にで き る空 間 電 荷 の形 成 す る電 界 は小 さ い 。 か つ,導 電 率 が 非 常 に小 さい の で,問 題 とす る電 流 に対 して電 圧 は大 きい 。 従 っ て,界 面 に で き る空 間 電 荷 の 寄 与 は 無 視 で き る程 度 に な る。 この た め,拡 散 に よ る流 れ を無 視 し た 式(3.27)を
用 い て解 析 す る こ とが で きる 。 これ を再 び 書 くと,
(6.1) こ の式 は一 次 元 座 標 で
(6.2) の解 を もつ。 電 圧Vは,
(6.3)
こ れ は 式(6.2)の
関 係 を 使 い,導
電 率 σ=μqn0を
用 い る と,
(6.4) と変 形 で き る。 この 式 は,電 圧-電 流 特 性 が境 界 条 件 に よ っ て 変 わ る こ とを意 味 し て い る。 両 境 界 の キ ャ リヤ 密 度 が 等 しい と き は オ ー ム の 法 則 に 従 う こ とが 分 か る。
6.3 電極 か らの キ ャ リヤ注入 によ る導電性
絶 縁 体 の 場 合,キ ャ リヤ密 度n0は
非 常 に小 さ い か ら,こ れ に比 べ て非 常 に多 量
の キ ャ リヤ が 電 極 か ら注 入 され る条 件 が 考 え られ る。 こ の 条件 は,電 極 界 面 の 電 位 差 が 全 体 の 電 圧 に比 べ て無 視 で き る場 合 に 当 た る。 言 い換 えれ ば,絶 縁 体 厚 さ が大 き い場 合 で あ る。x=0に
そ の よ うな 電 極 が あ り,電 流 もキ ャ リヤ が注 入 され
る 向 き に流 れ て い る とす る と,ν(0)=∞
が 境 界 条 件 で あ る。 この と き,x=Lで
は キ ャ リヤ は注 入 され な い。 この 境 界 条 件 で は,式(6.4)と
式(6.2)
(6.5)
(6.6)
図6.1 空 間 電 荷制 御 電 流
の連 立 非 線 形 方 程 式 の 解 と し て電 圧-電 流 関 係 が 得 られ る。 この 数 値 計 算 結 果 を 図6.1に
示 す 。 この 図 か ら も分 か る よ う に,
(6.7) の と き,す
な わ ち 電 流 が 小 さ い か,電
〓1と な る か ら,式(6.5)の
極 間 距 離 が 大 き い と き,式(6
右 辺 括 弧 内1項
目 は無 視 で き,オ
.6)よ
りν(L)
ー ム の 法則
(6.8) が 成 立 す る 。 ま た,電
流 が 大 き く な り,
(6.9) の と き は,式(6.6)よ
りν(L)≫1が
得 ら れ る か ら,式(6.6)の
対 数 を級 数 展 開 し
て 三 次 の 項 ま で 取 る と,
(6.10) が 得 ら れ る か ら,式(6.5)よ
り,
(6.11) こ れ よ り,
(6.12) と電 圧 の 自乗 に比 例 した 電 流 が 流 れ る。 この よ う に電 流 が大 きか っ た り電 極 間距 離 が 小 さ い場 合,オ ー ム の 法 則 に従 わ な い電 流 が 流 れ る。この 電 圧-電 流 特 性 は注 入 され た キ ャ リヤ が 作 る空 間 電 荷 に よ り起 き るの で,空 間 電 荷 制 御 電 流 と呼 ばれ る 。 式(6.12)は
チ ャ イ ル ドの 法 則(Child's
Law)あ
るい はMott-Gurneyの
自
乗 則 と も呼 ば れ る 。
6.4 電 極 効 果
絶 縁 厚 さ が小 さ くな り,電 極 界 面 に か か る電 圧 が 全 体 の電 圧 に比 して 無 視 で き
な くな る と,こ の部 分 の キ ャ リヤ注 入 が 支 配 す る電 流 特 性 が 観 測 され る。 半 導 体 デ バ イ ス のMOS電
6.4.1
界 効 果 トラ ン ジ ス タ の 絶 縁 層 な どが その 例 で あ る。
Fowler-Nordheim
電 極 表 面 に強 い 電 界Eが
emission 存 在 す る と,電 極 中 の キ ャ リ ヤ は トン ネ ル 効 果 に よ
り電 極 材 料 と絶 縁 材 料 の伝 導 帯 と の 間 を,仕 事 関 数 φdの バ リア を通 り抜 けて 出 て く る こ とが で き る。 そ の 結 果 は,温 度 の効 果 を無 視 した 式
(6.13)
で 与 え ら れ る 。 こ こ で,e,h,m*は
そ れ ぞ れ 電 子 の 電 荷,プ
体 中 の 電 子 の 実 効 質 量 で あ る 。 こ れ は,電
界 放 出(field
ラ ン ク の 定 数,絶
emmision),あ
縁
るい は金
属 か ら 強 電 界 に よ り真 空 中 に 電 子 が 放 出 さ れ る 現 象 を 観 測 し たFowlerとNord heimの
6.5
名 を と っ て, Fowler-Nordheim放
―
出 と呼 ば れ る 。
トラ ッ プ に よ る 移 動 度 の 低 下 ホ ッ ピ ン グ 伝 導 とPoole-Frenkel効
果
これ まで の考 察 で は,移 動 度 の大 き さ に つ い て は触 れ て こな か った が,こ れ は 温 度,電
界 に よ り変 化 す る。 この効 果 に つ い て は多 くの 考 察 が あ るが,こ
こで は
代 表 的 な考 察 を述 べ る。 絶 縁 体 に は キ ャ リヤ を捕 捉 す る トラ ップ が 存 在 す る。 キ ャ リヤ の移 動 は この トラ ッ プか らの 脱 出 過 程 が支 配 す る。 トラ ッ プ に捕 捉 され た キ ャ リヤ は,熱 エ ネル ギ ー に よ り,そ の トラ ップ か ら抜 け 出 し,よ
り電 位 の低 い
場 所 に あ る トラ ッ プ に移 動 す る。 この よ うな モ デ ル をホ ッ ピ ング 伝 導 と呼 ぶ 。 ト ラ ッ プ か ら抜 け出 す た め に必 要 な エ ネ ル ギ ー をWと
す る と,こ れ か ら抜 け出 す
確 率 は,
(6.14) に比 例 す る か ら,移 動 度 が これ に比 例 す る と見 な す こ とが で き る。 従 って,等 価
的 な移 動度 は (6.15) と な る 。 こ こ で,μ
は トラ ッ プ の な い と き の 移 動 度,γ
決 ま る 定 数 で あ る 。 こ の よ う に 移 動 度,従 な る 。 ま た,強
い 電 界 で は,図6.2の
は トラ ップ の 性 質 に よ り
っ て 導 電 率 は 温 度 上 昇 に伴 っ て 大 き く
よ う に 電 界 に よ りエ ネ ル ギ ー の 傾 き が 生 ず
る 。 トラ ッ プ を 抜 け 出 す エ ネ ル ギ ー は 電 界 に よ り変 化 す る こ と を 考 慮 す る と, Poole-Frenkel効
果 と呼 ば れ る式
(6.16) が 得 られ る。 こ の よ う に,導 電 率 は温 度 と電 界 に よ り支 配 さ れ る。
図6.2
Poole-Frenkel効
果
第7章 半導体の電気伝導
7.1 半 導体 とは
半 導 体 は絶 縁 体 の 一 種 で あ り,熱 に よ る励 起 に基 づ くキ ャ リヤ 密 度 が 大 きい 。 この た め,導 電 性 は導 体 と見 な し う る ほ ど高 くす る こ とが 可 能 で あ る。 キ ャ リヤ は電 子 と正 孔 の2種 が あ り,両 者 が 導 電 に 寄 与 す る。 この キ ャ リヤ は不 純 物 添 加 な ど に よ り制 御 が 可 能 で あ り,自 由 に キ ャ リヤ の 量,種 類 を変 え る こ とが で き る。 この 意 味 で は半 導 体 と称 され て い て も,エ ネ ル ギ ー ギ ャ ッ プが か な り大 き く,不 純 物 を入 れ な け れ ば 絶 縁 性 を示 す物 質 も多 数 あ る。 半 導 体 と言 わ れ る ゆ え ん は, 不 純 物 添 加 に よ り導 電 性 を示 す こ とが で き る物 質 と も言 え よ う。 半 導 体 の キ ャ リヤ は,励 起 お よ び再 結 合 に よ り増 減 す る。 この励 起,再 熱(フ
ォ ノ ン)に
結合 は
よ る もの だ け で は な く,光 周 波 数 の電 磁 波 との相 互 作 用 に よる
こ と も半 導体 の種 類 に よ って は存 在 す る。 この よ う に,半 導体 で は キ ャ リヤ の 制 御 が可 能 で,か
つ2種 存 在 す るた め,異
種 の 半 導 体 の 接 合 に よ り,他 方 に な い キ ャ リヤ を入 れ て や る こ と も可 能 で あ る。 これ らの キ ャ リヤ の制 御 性 は金 属,絶 て,非
縁 体 に な い 特 長 で あ り,こ の性 質 を利 用 し
常 に 多 種 多 様 の 電 流 を制 御 す る デ バ イ ス が 可 能 とな る。 また,光
作 用 を利 用 し て,光 を 出 す,あ
との 相 互
る い は検 出 す る デ バ イ ス も可 能 とな る。 この よ う
に,半 導 体 の 性 質 の応 用 はエ レ ク トロ ニ ク ス技 術 へ の基 本 とな って い る。
7.2 電 気伝導 を表 す式
電 気 伝 導 は絶 縁 体 で 述 べ た考 え方 と何 ら変 わ る こ と は な い が,キ
ャ リヤ密 度 が
絶 縁 体 に 比 して非 常 に大 き い こ とに 特徴 が あ る。 この た め,式(6.12)で
表 され る
よ うな 空 間 電 荷 制 御 電 流 が 起 き る電 流 は非 常 に大 き く,通 常 は,電 圧-電 流 特性 は オ ー ム の 法 則 に従 う。 この 点 は金 属 と同 様 で あ る。 金 属 と大 き く異 な る 点 は,半 導 体 で は キ ャ リヤ 密 度 が 金 属 ほ ど大 き くな く,導 電 性 は キ ャ リヤ 密 度 に よっ て 大 き く支 配 され る こ とで あ る。 そ れ故,温
度 に よ っ て大 き く変 化 す る。 金 属 で は キ
ャ リヤ 密 度 は温 度 に よ っ て 変 化 せ ず フ ォ ノ ン との相 互 作 用 で移 動 度 あ る い は緩 和 時 間 が 決 ま り,こ れ に よ り,導 電 性 が与 え られ る こ と と対 照 的 で あ り,半 導 体 で は金 属 と逆 に,温 度 上 昇 と と もに導 電性 は高 くな る 。
7.3 半 導 体 の キ ャ リヤ 密 度
7.3.1
真性半導体
キ ャ リヤ 密 度 は,伝 導 帯 に励 起 さ れ た 電 子 の数(電 子),あ 励 起 され て 出 て い った 電 子 の数(正
孔)で
るい は価 電 子 帯 か ら
あ る。 価 電 子 帯 と伝 導 帯 との 間 に,電
子 が存 在 す る こ との で き る状 態 が な い純 粋 な半 導 体(真 電 子 と正 孔 の数 は等 しい 。この 場 合,式(2.6)よ
性 半 導 体 と呼 ぶ)で
は,
りキ ャ リヤ の 数 は 求 め られ るが,
こ こで 用 い た バ ン ドギ ャ ッ プが 伝 導 帯 あ る い は価 電 子 帯 の エ ネ ル ギ ー 幅 よ り十 分 大 きい と い う仮 定 は,バ
ン ドギ ャ ップ の 小 さ い半 導体 で は必 ず し も妥 当 な もので
は な い 。 この と き は,伝 導 帯 中 に存 在 し う る電 子 の状 態 密 度 をf(E)と
(こ こ に,E-Ef≫kTと
考 慮 し て も式(7.1)の
(7.1)
し た 。)
で 計 算 す る 必 要 が あ る 。 積 分 を 実 行 す る に はf(E)を 積 分 は 式(2.3),式(2.4)の
して,
知 る 必 要 が あ る が,こ
れ を
形 式
(7.2) (7.3)
で 与 え られ る。Nce,Nυeは,そ 導 帯,価
れ ぞ れ伝
電 子 帯 の 実 効 状 態 密 度 と呼 ば れ
る。 ま た,質 量 作 用 の 法 則
(7.4) が 成 立 す る。 図7.1に
キ ャ リヤ 密度 の 温
度 依 存 性 の 例 を示 す 。 金 属 に比 して,キ ャ リ ヤ 密 度 は か な り小 さ い こ とが 分 か る。
7.3.2 n型
不純 物 半導 体
あ る い はp型 半 導 体 で は,ド ナ ー
あ るい は ア ク セ プ タ ー か ら の励 起 は 常 温 付 近 で ほ とん ど行 わ れ,電
子 あ る い は正
孔 の どち らか が 大 部 分 を 占 め る。 この量 は不 純 物 原 子 濃 度 に 比 例 す る。 こ の た め,ド
ナ ー 密 度,あ
る い は ア クセ プ タ ー
密 度 を それ ぞ れND,NAと
す る と,ND≫ 図7.1 キ ャ リヤ密 度 の 温度 依 存性
NA,ND≫niの
と き はn型
半 導 体 とな
り,キ ャ リヤ密 度 は,
(7.5) (7.6) で 与 え らら れ る 。
NA≫ND,NA≫niの
と き はp型
半 導 体 と な り,
(7.7) (7.8)
とな る。す な わ ち,温 度 に依 存 しな い ほ ぼ一 定 の キ ャ リヤ 密 度 を 有 す る。 しか し, 温 度 が 高 くな る と,式(7.4)で
表 さ れ る価 電 子 帯 か らの 励 起 に よ り電 子 と正 孔 が
増 加 し,不 純 物 に基 づ くキ ャ リヤ の数 を追 い越 す。 この た め,導 電 率 は大 き くな り,式(7.4)に
従 った,温 度 に大 き く依 存 す る導 電 性 を示 す 。 一 方,低
温 にな る
と,ド ナ ー あ るい は ア ク セ プ タ ー か らの励 起 が 減 少 し,キ ャ リヤ密 度 は,
(7.9) に従 っ て 小 さ くな っ て い く。 こ こで,EDは
ドナ ー と伝 導 帯 との エ ネ ル ギ ー 差 あ
る い はア ク セ プ タ ー と価 電 子 帯 との エ ネ ル ギ ー 差 で あ る 。 キ ャ リヤ 密 度 が 一 定 の領 域 を 出払 い 領 域,あ 低 温 を不 飽 和 領 域,高
る い は飽 和 領 域 と呼 び,こ れ よ り
温 の 領 域 を真 性 領 域 と呼ぶ 。 通 常 の半 導体 デバ イ ス は出 払
い領 域 で 動 作 す る よ う設 計 され て い る。 これ は,大 部 分 の デ バ イ ス が,キ が 電 子,あ
る い は正 孔 の どち らか が 大 部 分 で あ るn型,あ
ャ リヤ
る い はp型 半 導体 の 性
質 を利 用 して い る か らで あ る。 こ の た め,動 作 温度 領 域 はバ ン ドギ ャ ッ プ の 大 き
図7.2 不純 物 半 導 体 の キ ャ リヤ 密 度 の 温度 依 存 性
さで 支 配 され,バ
ン ドギ ャ ッ プ が大 き い半 導体 ほ ど,高 温 まで 動 作 させ る こ とが
可 能 で あ る。 図7.2に,シ と した と きの,キ
リコ ン半 導 体 に不 純 物 を添 加(ド ー プ)し,n型
半導体
ャ リヤ 密 度 の温 度 依 存 性 を示 す 。
7.4 半導体 の移 動度
半 導 体 中 の キ ャ リヤ は電 界 に よ る移 動 に伴 い,フ い,そ
ォノ ン とエ ネ ル ギ ー 交 換 を行
の 電 界 方 向 の速 度 を失 う。 従 っ て,金 属 と同様 な メ カニ ズ ム で移 動 度 が 決
ま る。 しか し,金 属 で は フ ェ ル ミ準 位 が キ ャ リヤ の もつ エ ネ ル ギ ー と同 じ程 度 で あ る の に対 し て,半 導 体 で は キ ャ リヤ は励 起 され て作 られ るか ら,フ ェル ミ準 位 と異 な る エ ネ ル ギ ー を もつ 。 この こ とか ら起 き る キ ャ リヤ の エ ネ ル ギ ー分 布 の違 い に基 づ き,そ の 温 度 依 存 性 が 異 な って く る。 その 結 果 は, (7.10) の 関 係 が 導 か れ る。 常 温 付 近 で は,金 属 に比 べ て 半 導 体 の移 動 度 はか な り大 き い の が 普 通 で あ る。 また,金 くが,キ
属 と同様 に,温 度 上 昇 に よ り移 動 度 は 小 さ くな って い
ャ リヤ の 数 の 増 加 が,移 動 度 の 低 下 よ りも は るか に大 きい た め,導 電 率
は金 属 とは逆 に大 き くな っ て い く。 また,移 動 度 は大 き くて も,金 属 に比 して キ ャ リヤ 密 度 は圧 倒 的 に小 さ く,導 電 率 は 金 属 よ り も小 さ い。 半 導 体 の 常 温 で の 物 性 値 を表7.1,表7.2に
示す。
表7.1 代 表 的 な(真 性)半 導体 の 常 温 で の物 性値
表7.2 各 種(真 性)半 導体 の 常温 で のエ ネ ル ギ ー ギ ャ ップ (化合物 半 導体 で は元 素比 を変 え る こ とに よ りエ ネル ギー ギ ャ ップ は連続 的 に変 え うる)
第8章 液体の電気伝導
8.1 液 体 の キ ャ リ ヤ
液 体 は,そ の 密 度 は固 体 と大 差 は な いが,原
子 が 動 くこ とが で き る のが 固体 と
異 な っ た 点 で あ る。 液 体 の電 気 伝 導 は,固 体 と同 様 に価 電 子 の状 態 に支 配 され, 絶 縁 体 と金 属 に分 け る こ と も可 能 で あ る。 しか し,液 体 の 場 合,こ
の分類で絶縁
体 とな る物 質 も導 電 性 を示 す もの が あ る。 これ は,原 子 が 電 荷 を もっ た 状 態,す な わ ち イ オ ン と し て移 動 す る こ とが可 能 で あ る こ と に よる 。 液 体 の 導電 性 は,イ オ ン に よ る もの が 実 用 的 に も興 味 の対 象 で あ る。 イ オ ン に よ る 導 電 は,原 子 が 動 く こ とで あ り,一 方,こ は 固 体 の 導 電 性 物 質,す
れ に用 い る電 極 な ど に
な わ ち金 属 や 半 導 体 で あ る か ら,電 子 が 動 く こ とに よ り
そ の 導 電 性 が もた ら され る。 この こ とか ら,液 体 と固体 導 電 物 質 とを組 み合 わ せ た 系 で電 流 が 流 れ る と,電 極 界 面 で は イ オ ン と電 子 の 結 合 あ る い は分 離 が 起 き る。 す な わ ち,化 学 反 応 が 引 き起 こ され る。 この 化 学 反 応 は,ア ル ミニ ウ ム な ど の 金 属 の 精 錬 や,電
池 な どの発 電 に応 用 さ れ る 。
8.2 イオ ンの存在 形態
8.2.1
高 誘 電 率 溶 媒 に溶解 した イオ ン
イ オ ン 結 合 で作 られ た 固体 物 質 は,原 子 間 で 電 子 の や り と り を し て正 負 イ オ ン とな り,そ の イ オ ン間 の静 電 力 で 結 合 し,固 体 を作 る。 一 方,イ
オ ン を高 誘 電 率
溶 媒 中 に入 れ た 場 合 は,真 空 中 に イ オ ンが あ る場 合 に比 べ て,こ
の静電力が小 さ
い た め,そ Δ Esolと
の 結 合 エ ネ ル ギ ー が 小 さ く な る。 こ の エ ネ ル ギ ー の 低 下 の 大 き さ を
し,イ
オ ン が 固 体 を 作 る 場 合 の 結 合 エ ネ ル ギ ー をΔElatticeと す る 。 こ の
差ΔEs-l=ΔEsol-ΔElatticeが
正 で あ る と き は,イ オ ン は 溶 媒 中 に 溶 解 す る ほ う が
安 定 で あ る 。 こ の 関 係 を 図8.1に
図8.1
示す。
イ オ ン の 移 動 に 伴 うエ ネ ル ギ ー 関 係
真 空 中 に あ るイ オ ンの 電 荷 を取 り去 り(正 イオ ンの場 合 は電 子 を与 え る),中 性 原 子 と した場 合 に は,こ れ を溶 媒 中 に もっ て きて も静 電 力 は働 か な い か らエ ネル ギ ー は不 要 で あ る。 この こ とを利 用 し てΔEsolを 求 め る る こ とが で き る。 こ の 中 性 原 子 に溶 媒 中 で 電 荷 を与 え るエ ネ ル ギ ー と,真 空 中 で も との イ オ ンに す る エ ネ ル ギ ー を比 較 す れ ば よい 。 よ っ て,ΔEsolは
真 空 中 で 電 荷 を取 り去 るエ ネ ル ギ ー
Δ Edisと 溶 媒 中 で 電 荷 を与 え る エ ネ ル ギ ーΔEchaと の差 で あ る こ と に な る。 イ オ ン半 径 をri,溶
媒 の誘 電 率 を εsolとす る と,そ れ ぞ れ
(8.1) (8.2) で あ る か ら,
(8.3) で 与 え られ る。 εsは溶 媒 の比 誘 電 率 で あ る。 これ は 固体 中 の 電 子 を外 に取 り出 す エ ネ ル ギ ー,す
な わ ち仕 事 関 数 に相 当 す る量 と見 な せ る。 種 々 の イ オ ン を水 を溶
媒 に した場 合 の計 算 値 と実測 値 を表8.1に
示す。計算値 のエネ ルギーが実測値 よ
り大 きい の は,溶 媒 中 の イ オ ンの 近 傍 の水 の 分 子 が 完 全 に整 列 す る効 果,す
なわ
ち この近 傍 の誘 電 率 は非 常 に小 さ い こ と を考 慮 し て い な い た め で あ る。 表8.1
また,こ
イ オ ン を水 中 か ら取 り出す の に必 要 な エネ ル ギ ー
れ と,真 空 中 の イ オ ンか ら結 晶 を形 成 す るエ ネル ギ ー との比 較 を表8.
2に 示 す 。こ こで,各 化 合 物 のΔEsolは,各
構 成 イ オ ンの 表8.1に
示 すΔEsolの 和
と して 求 め られ る。 この 表 か ら分 か る よ う に,溶 媒 中 の イ オ ン は 結 晶 中 の イ オ ン とほ ぼ 同 じ程 度 の エ ネ ル ギ ー を もち,イ オ ン は 固体 を形 成 せ ず,溶
媒 中に分散す
る こ とが で き る。 こ の よ う に,溶 媒 に 溶 解 す る イ オ ン結 晶 を電 解 質 と呼 ぶ。 この よ うに 電 解 質 を溶 解 させ,イ
オ ン を溶 媒 中 の キ ャ リヤ とす る に は,溶 媒 は 高 誘 電
率 を もつ 必 要 が あ る。 高 誘 電 率 の液 体 の例 を表8.3に
示 す 。 常 温 で 液 体 で あ り,
沸 点 も高 く粘 度 も低 い の が溶 媒 と して適 して い る。 これ ら多 くの理 由 か ら,溶 媒 と して 最 も適 して い る の は水 で あ る。 しか し,水 はLi等 の ア ル カ リ金 属 中 に 入 れ
表8.2
イ オ ンが 結 晶 を作 るエ ネ ル ギー と水 中 に存 在 す る と き のエ ネ ル ギー比 較
表8.3 高 誘 電 率 の液 体 の 例
る と,水 素 を発 生 し爆発 等 の 危 険 が あ る の で,電
池 で の使 用 は難 しい 。 この た め
Li電 池 で は有 機 溶 媒 が 使 わ れ る。
8.2.2
溶 融 し た イ オ ン結 晶
高 温 で は イ オ ン結 晶 は溶 融 して 液 体 とな る。 この と き個 々 の イ オ ン は動 く こ と が 可 能 で キ ャ リヤ とし て扱 え る。
8.3 イ オ ン の 移 動 度
8.3.1
高 誘 電 率 溶 媒 に 溶 解 した イ オ ン の 移 動 度
簡 単 な モ デル と して,溶 媒 中 の イ オ ン は そ の速 度 に比 例 した 粘 性 抵 抗 を受 け, そ の 大 き さFは,流 (Stokes)の
体 中 の半 径rの
球 が 速 度υ を も つ と き受 け る ス トー ク ス
式 に基 づ く値
(8.4) で あ る と考 え る 。 η は 溶 媒 の 粘 度 で あ る 。 こ う す る と,Fが 釣 り 合 う と き の 速 度 か ら,式(3.6)を
参 考 に し て,移
電 界 に よ る 力qEと
動度 は
(8.5) で 与 え ら れ る 。 ア イ ン シ ュ タ イ ン の 関 係(式(3.11))か
ら拡 散 率
(8.6) も得 られ る。 導 電 率 は正 負 イ オ ン の二 種 が 存 在 す る こ とを考 え て,
(8.7) と な る 。 この よ うに,導 電 率 はイ オ ン の単 位 体 積 当 た りの数 に比 例 す る。従 っ て, 種 々 イ オ ン の導 電 性 の 評 価 に は当 量 導 電 率 が使 わ れ る。 等 量 導 電 率 は,単 位 体 積 (1cm3)の
溶 媒 に,96485〔C〕
の電 荷 を もつ イ オ ン を溶 解 した と きの 導 電 率 が 用
い ら れ る 。 こ の イ オ ン の 量 は イ オ ン1モ
ル(ア
オ ン)を,そ
の イ オ ン の も つ 電 荷 を 電 子 の 電 荷e=
の イ オ ン の 電 荷 数z(1個
1.6022×10-19クーロ
ン で 割 っ た 値,す
ボ ガ ド ロ 数Na=6
な わ ち1,2,3,…
.022×1023の
の 整 数)で
イ
割 った 量 に相
当 す る。 実 際 は,溶 で,当
解 す る イ オ ン 濃 度 が 高 くな る と 当 量 導 電 率 は 徐 々 に 低 下 し て い くの
量 導 電 率 は 非 常 に 希 釈 さ れ た 濃 度 で の 導 電 率 で 定 義 さ れ る 。 当 量 導 電 率Λ
は,
(8.8) で与 え られ る。当 量 導 電 率 は移 動 度 の定 数 倍 で あ る こ とが 分 か る。式(8 .8)よ り, (8.9) の関 係 が 想 定 さ れ る。 表8.4に,種
々 の 有 機 溶 媒 また は水 に,ヨ
ウ化 カ リ ウム ま
た は塩 化 ナ トリウ ム を溶 解 した と きの,当 量 導 電 率 と粘 性 率 お よび この積,移
動
度 との関 係 を示 す 。 移 動 度 は金 属 や 半 導 体 中 の 電 子 に比 べ て大 変 小 さ い。 当量 導 電 率 と粘 性 率 の 積 は,水 表8.4
と有 機 溶 媒 とで若 干 違 いが あ る 。 これ は水 中 の イ オ ン と
種 々 の溶 媒 に電 解質 を溶 か した と きの導 電 率 と粘 度,移 動 度 の関 係
有 機 溶 媒 の イ オ ン は,動
く とき の み か けの イオ ン半 径 が 異 な る た め と考 え られ て
いる。
8.3.2
溶 融 した イオ ン結 晶 の移 動 度
イ オ ン結 晶 は,そ
の融 点 以 上 の液 体 で は,密 度,表 面 張 力,粘
は,常 温 の水 とお お よ そ同 じ程 度 を示 す 。表8.5に 融 解 温 度 は200℃
性 率 な どの物 性
イ オ ン結 晶 の 融 解 温 度 を示 す 。
程 度 よ り高 い 温度 で あ る。溶 解 に伴 っ て絶 縁 性 が な くな り,導
電 率 は急 増 す る。 これ は溶 解 に伴 い,イ オ ンが 移 動 可 能 と な る こ と を意 味 す る。 イ オ ン結 晶 が 溶 解 した と き,イ オ ン間 の距 離 は,イ オ ン 結 晶 で の 距 離 よ りむ し ろ 小 さ くな る こ とが,X線
回 折 で の 観 測 に よ り知 られ て い る 。 そ れ に も か か わ ら
ず,溶 解 に伴 っ て体 積 は増 大 す る。 この実 際例 を表8.6に 解 し た状 態 で は,多
示 す 。 この こ とは,溶
くの 空 孔 を有 して い る こ と を示 して い る。 イ オ ンの 移 動 は,
この 空 孔 に基 づ い て起 き る と考 え られ て い る。 空 孔 は熱 的擾 乱 に よ り形 成 さ れ, イ オ ンが この 空 孔 を埋 め る こ とに よ り移 動 す る。 イ オ ン が空 孔 を埋 め る と,イ オ ンの 抜 け た場 所 が 新 た な空 孔 とな る。 この よ う に し て,空 孔 が 移 動 す る とい うモ デ ル が 形 成 で き る。 これ は半 導 体 で の 正 孔 と類 似 の モ デ ル で あ る。 この モ デ ル で
表8.5
表8.6
イ オ ン結 晶 の融 解 温度
イ オ ン結 晶 と融 解 液体 で のイ オ ン間距 離 と融 解 に伴 う体 積膨 張
は,溶 媒 に溶 け た イ オ ン と同様 に して 空 孔 の移 動 を考 えれ ば よい 。 式(8 .6)に 対 応 して,空 孔 の拡 散 率 は,
(8.10) とな る。rhは 空 孔 の平 均 半 径 で あ る。熱 的 擾 乱 に よ り空 孔 が で き る とい うモ デ ル で の 粘 性 率 は,
(8.11) で 表 さ れ,nhは
空 孔 密 度, mは
見 か け の 空 孔 質 量 で あ る。 Eaは 活 性 化 エ ネ ル ギ
ーで,
(8.12) で表 され る。Tmpは
イ オ ン結 晶 の 融 解 温 度 で あ る。一 方,液 体 の 表 面 張 力 γを用
い て,rhは
(8.13) と表 さ れ る。 こ こで,融 点 で の,結
晶 と液 体 との 体 積 差ΔVmと
体 積Vmの
比υE
との 関 係
(8.14) を 用 い る と,式(8.10)は
(8.15) と な る。 ア イ ン シ ュ タ イ ン の 関 係 か ら,移
動度 μは
(8.16) とな る。 この 関 係 か ら,拡 散 率 や 移 動 度 は温 度 に よ っ て大 き く変 化 す る こ とが 分 か る。 な お,移 動 度 を,導 電 率 の 実 測 か ら計 算 す る とす る と,式(8
.16)で の 計 算
値 よ りは,導 電 率 お よ び活 性 化 エ ネル ギ ー はか な り小 さ い。 表8.7に 活 性 化 エ ネル ギ ー と移 動 度 を示 し,図8.2に
実 測 され た
導 電 率 を示 す 。 これ は正 負 イ オ ンが
電 界 に よ り反 対 方 向 に動 くた め,相 互 の干 渉 や 正 負 イ オ ンが 一 塊 に な っ て移 動 す
る作 用(電 流 とは な らな いが 拡 散 は起 き る)に
よ り,ア イ ンシ ュタ イ ン の 関 係 が
適 用 で き な くな り,導 電 率 は小 さ くな るた め と考 え られ て い る。 表8.7
溶 融塩 の活 性化 エ ネル ギ ー と移 動 度
図8.2 溶 融 塩 の 導 電率 の 温 度依 存 性
第9章 超電導の電気伝導
9.1 超 電導 体 の概 要
これ ま で述 べ た 電 気 伝 導(常
電 導)で
は,電 流 は拡 散 と電 界 に よ る力 に よ り流
れ た 。 この 考 え 方 の 基 本 は,非 常 に 多 数 の キ ャ リヤ が,そ れ ぞ れ独 立 の 運 動 を し, あ る エ ネ ル ギ ー 分 布 を もつ とい う こ と に あ る。 拡 散 に よ る流 れ は,熱 エ ネ ル ギ ー に よ り独 立 に運 動 す る キ ャ リヤ が,統 計 的 に数 の多 い と ころ か ら少 な い と こ ろ に 移 動 す る よ う に見 え る現 象 で あ る し,電 界 に よ る動 き も統 計 的 に キ ャ リヤ が ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー の 低 い 場 所 に移 動 す る現 象 で あ る。 固 体 中 の 電 子 で は,電 子 が フ ェ ル ミ粒 子 で あ る た め す べ て異 な る運 動 エ ネ ル ギ ー を もつ こ と もす で に述 べ た 。 こ の よ う に常 電 導 で は,電 流 は統 計 的現 象 で あ る。 超 電 導 で は,キ
ャ リヤ は 固体 中 の 電 子 で あ る が,そ
の電 磁 気 的 性 質 か ら推 定 し
て,こ れ ら の電 子 は あ る一 つ の量 子 状 態 に あ る と考 え られ て い る。言 い換 え れ ば, 同 一 の 運 動 エ ネ ル ギ ー を もつ と考 え られ て い る。 この 現 象 は,フ
ェ ル ミ粒 子 で あ
る電 子 が,同 一 の 量 子 状 態 を持 ち う るボ ー ズ 粒 子 の よ う に振 る舞 う こ とを 意 味 す る。 この た め,電 子 は常 電 導 と異 な り,集 団 で 同 じ歩 調 を 合 わ せ て 動 く。 これ は, あ た か も非 常 に 多 数 の 電 子 が 一 つ の ま と ま った秩 序 を有 す る集 団 で あ るか の ご と く見 え る。 多 数 の 電 子 が 同 一 エ ネル ギ ー を もつ こ とか ら格 子 とエ ネ ル ギー の交 換 を しな い。 す な わ ち,電 子 の運 動 は損 失 を伴 わ な い 。従 っ て,も し電 界 が あ れ ば, 電 子 は力 学 の 法 則 に 従 っ て,そ の 速 度 は際 限 な く大 き くな っ て い く。 電 流 は無 限 大 とな る こ と に な る 。 実 際 は,電 流 は電 場 を必 要 と し な い 。 言 い換 えれ ば,抵 抗 が0の
導 体 で あ る と見 な せ る。 また,常 電 導 で は個 々 の電 子 が 異 な るエ ネ ル ギ ー
を もち,独 立 に 運 動 して い る た め に,平 均 化 され て見 え な い 電 子 の波 動性 が 見 え
て くる 。電 流 は,常 電 導 で は そ の大 き さ と向 きで 定 義 され て いた が,超 電 導 で は, 位 相 とい う概 念 が つ け加 わ り,そ れ に伴 って,電 流 の量 子 化 が 起 き る。 「電 流 の量 子 化 」 と は,電 流 ル ー プ が あ る飛 び 飛 び の大 き さの 電 流 値 しか 許 さ れ な い こ とを 意 味 す る。 電 流 値 を変 え る に は,あ
る ま と まっ た エ ネル ギ ー を必 要 と し,結 果 と
して 外 部 の 擾 乱 に よ っ て電 流 が 変 化 し な い非 常 に安 定 な永 久 電 流 が 流 れ る。 これ は,単
に抵 抗 が ゼ ロの 導 体 を流 れ る電 流 は,僅 か な 擾 乱 で もそ れ に応 じて 電 流 が
変 化 す る こ と と対 比 す る と,全
く違 った 意 味 を もつ 。 これ らの こ とか ら,電 気 伝
導 は常 電 導 で解 析 した 式 と は全 く異 な る特 性 を示 す 。 超 電 導 体 は,古
くか ら知 られ て い て,現 在 で は低 温 超 電 導 体 と も呼 ば れ る金 属
の超 電 導 体 と,銅 酸 化 物 の セ ラ ミ ック を中 心 と した 高 温 超 電 導 体 等 が 知 られ て い る。 これ らの超 電 導 体 の 電 子 が,な ぜ ボ ー ズ 粒 子 の よ う に振 る舞 うか は十 分 に知 られ て い な い。 金 属 超 電 導 体 で はBardeen-Cooper-Schrieffer(BCS)理
論があ
て は ま る と考 え られ て い る。
9.2 BCS超
BCS理
電導 体
論 で は,超 電 導 は,運 動 量 が 反 対 符 号 で,ス
ー パ ー 対)が
ピ ン も反 平 行 の 電 子 対(ク
形 成 さ れ て い る状 態 で あ る と考 えて い る。 ク ーパ ー 対 は一 つ の量 子
状 態 に凝 縮 で き る。 電 子 間 に弱 い 引 力 が あ る場 合 に は,こ の状 態 の ほ うが エ ネ ル ギ ー が 小 さ く安 定 とな り,こ の状 態 が 実 現 可 能 と な る。BCS理
論 で は,こ の 引 力
の 源 泉 と して 電 子 とフォ ノ ン との相 互 作 用 を 考 え て い る。1個 の 電 子 がフォ ノ ン を放 出 し,も う1個 の電 子 が こ のフォ ノ ン を 吸収 す る過 程 を 考 え る と,2個
の電
子 は運 動 量 の や り と りを し,相 互 作 用 を行 う こ と にな る。 この過 程 で は,フ
ェル
ミ準 位 を中 心 と し て デ バ イ エ ネ ル ギ ーkTDよ 電 子 間 で は,負 の相 互 作 用,す
り小 さい 範 囲 の エ ネ ル ギ ー を もつ
なわ ち 引 力 が 働 き う る。 従 っ て,ク ー パ ー 対 を作
る電 子 は フ ェル ミ準 位 近 傍 の電 子 とな る 。 この よ う に,フ
ェル ミ準 位 近 傍 の 電 子 が ク ーパ ー対 を形 成 し,よ
り低 い エ ネ ル
ギ ー レ ベ ル に凝 縮 して い る場 合,ク ー パ ー 対 を こわ す に は あ るエ ネ ル ギーΔ を必
要 とす る。 これ に よ り,フ ェ ル ミ準 位 の上 下Δ の2Δ の 範 囲 は量 子 状 態 が 存 在 し な い。 す な わ ち,エ ネ ル ギ ー ギ ャ ッ プが 形 成 され る。 この ギ ャ ッ プ の大 き さ は お お よ そ λ≪1の 近 似 で
(9.1) ま た,
(9.2) の 形 で も与 え られ る。 こ こで,λ は フ ェル ミエ ネ ル ギ ー を 中心 と したkTDの
バン
ド幅 の 電 子 間 の 引 力 係 数 で あ る。Δ の 大 き さ は金 属 超 電 導 体 で は1meV程
度で
あ る。Δ は温 度 と共 に減 少 し て い き,超 電 導 臨 界 温 度Tcで0と
な る。
また,有 限 温 度 で は,フォ ノ ン に よ っ て ク ー パ ー 対 は一 部 破 壊 され て い る。ク ー パ ー 対 が 壊 れ た2個 の常 伝 導 電 子 は ,そ れ ぞ れ 電 子 的,正 孔 的 に振 る舞 うが 半 導 体 の よ うに完 全 で は な い の で,準 電 子,準
正 孔 と呼 ばれ る。 この こ とか ら超 電
導 体 にお い て も,半 導 体 と類 似 の バ ン ド構 造 で 電 子 の状 態 を表 現 で き る。 さ て, 臨 界 温 度TcはΔ=0か
ら求 め られ,お
お よそ
(9.3) で 与 え られ る。 図9.1に
超 電 導 体 の バ ン ド構 造 を金 属 と比 較 して 示 す 。
(a)金 属(常 電 導状 態) 図9.1
(b)超 電 導体(超
超 電 導 体 の バ ン ド構造
電 導 転 移 後)
9.3 高温超 電導体
高温 超 電 導 体 で も,電 子 対 の形 成 が あ る こ とは 間 違 い な い もの と考 え られ て い る。 し か し,電 子 対 の性 質,エ
ネル ギ ー ギ ャ ップ の性 質 な ど,BCS理
論 か ら考 え
られ る も の か ら は異 な って い る と言 う議 論 が な さ れ て い る。 高 温 超 電 導 体 は 空 間 的 異 方性 が 大 き く,二 次 元 の 面 を構 成 す る超 電 導 体 が 重 な り合 っ て い る特 殊 な超 電 導 体 で あ る と考 え られ て い る。 また,電 子 対 を作 るの に必 要 な電 子 間 の 引力 が 何 に 由 来 す る か な ど,超 電 導 発 現 機 構 に つ い て は まだ 明 らか に は され て い な い 。
9.4 超電 導 の電磁気 的性 質
(1) 電 流 の 起 動 力
超 電 導 体 の 電 流 は,定 常 状 態 で は 外 部 か ら与 え られ た
電 界 に よ っ て 決 め る こ とは で きな い 。 そ の電 流 は,ベ ク トル ポ テ ン シ ャル に比 例 して そ の 向 き と反 対 方 向 に流 れ る。 言 い 換 え れ ば,磁 場 に よ っ て電 流 が 流 れ る。 こ のベ ク トル ポ テ ン シ ャル は,超 電 導 電 流 自 身 に よ っ て 誘 起 さ れ た もの も含 め る。 こ の こ とか ら,電 界 が0の 抵 抗 が0で
と き に も電 流 が 流 れ る こ とが で き る。 これ は電 気
あ る こ と を意 味 す る。
(2) 波 動 性
超 電 導 電 流 は巨 視 的 な波 動 の 性 質 を 有 して い る。この た め,大
き さ と向 き以 外 に も,位 相 を有 して い る電 流 で あ る。 この位 相 の そ ろ い は コ ヒー レ ンス 長 と呼 ばれ る距 離 の 範 囲 まで 及 ぶ 。 これ が,常 電 導 電 流 と大 き く異 な る特 異 な点 で あ る 。 この た め,超 電 導 特 有 の種 々 の現 象 が 起 き る。 そ の一 つ は,磁 束 の 量 子 化 で あ る。 超 電 導循 環 電 流 を考 え る と,位 相 の 一 価 性 の た め,循 環 電 流 に よ る磁 束 は任 意 の 値 を取 れ ず,
(9.4) を単 位 に し た磁 束 の みが 存 在 で き る。 これ は 見 方 を変 えれ ば,循 環 電 流 が 量 子 化 され て い る こ と を意 味 す る。 こ こで,hは
プ ラ ン クの 定 数,eは
電 子 の電 荷 で あ
る。 (3) Meissner効
果
超 電 導 体 の 電 流 が ベ ク トル ポ テ ン シ ャ ル に よ っ て 流
れ る と言 う こ と か ら,超 電 導 独 特 の 性 質 で あ るMeissner効
果 が 現 れ る 。 Meis
sner効 果 は,超 電 導体 内 部 に は そ の薄 い 表 面 層 :ロ ン ドン(London)長 部 に は磁 場 が 存 在 しな い性 質 で あ る。 す な わ ち,図9.2に
λよ り内
示 す よ う に,予 め磁 場
の あ る場 で冷 却 し超 電 導 転 移 を起 こ させ る と,超 電 導 体 の あ る場 所 に存 在 し て い た 磁 場 を外 部 に排 除 す る性 質 で あ る。 単 に抵 抗 が0の 導 体 で は,磁 場 は 外部 に排 除 さ れ な い。
図9.2
Meissner効
果
超 電 導体 は常電 導 状 態 に あ った と きの 磁 場 の有 無 に 関 わ らず超 電 導 転 移 時 に 磁 場 を外 部 に排 除 す る。 この 排 除 のエ ネル ギ ー は常 電 導-超 電 導 間 の エ ネ ル ギ ー差 に よっ て供 給 され る。
(4) 臨 界 磁 場
Meissner効
果 は,超 電 導 の 体 積 部 分 に あ っ た磁 場 の エ ネ ル
ギ ー を0と す る の で あ る か ら,そ の 分 の仕 事 を超 電 導体 が 行 う と言 う こ と を意 味 す る。 この 過 程 を 熱 力 学 的 に考 え る と,こ の 仕 事 は常 電 導 か ら超 電 導 転 移 時 の 自 由 エ ネ ル ギ ー の 差,す
なわ ち凝 縮 エ ネ ル ギ ー に よ っ て な され る。 従 っ て,磁 場 が
強 くな り,こ れ を排 除 す る仕 事 が凝 縮 エ ネル ギ ー を超 え た と き,超 電 導 転 移 は起 き な くな る。 この 境 界 の 磁 場 をHcと
す る と,
(9.5) の 関 係 が 得 られ る。 こ こで,fs(T)は (T)は
超 電 導 状 態 の 自 由 エ ネ ル ギ ー で あ り,fn
常 電 導状 態 の 自由 エ ネ ル ギ ー で あ る 。超 電 導 転 移 は磁 場Hc以
下 で起 き る
と考 え られ る。 これ を熱 力 学 的 臨 界 磁 場 と呼 ぶ 。Hcは 温 度 の 関 数 で あ り,経 験 的 に
(9.6) で与 え られ る。 こ こで,Tcは
磁 場0で
の超 電 導 転 移 温 度 で あ り,Hc0はT=0で
の熱 力 学 的 臨 界 磁 場 で あ る 。従 って,図9.3の 外 部 磁 場 に よ っ て 決 定 さ れ る。 表9.1,表9.2に 場,臨 界 温 度,ロ
ン ドン長,コ
よ う に超 電 導-常 電 導領 域 が 温 度 と 各種超 電導体 の熱 力学 的臨界 磁
ヒー レ ンス 長 を示 す 。
図9.3 超電 導‐ 常 電 導 領域 の温 度 と外 部 磁 場 に よる変 化
(5) 第 一 種,第 二 種 超 電 導 体 の磁 場 が 侵 入 す るの で,実
な お,超 電 導 体 内部 に も,ロ ン ド ン長 λ程 度
際 の超 電 導 体 は,必 ず し もHc以
上 で超 電 導 体 全 体 が
常 電 導 転 移 す る と は限 らな い。Hcを
境 に超 電 導-常 電 導 の 転 移 が起 き る の は,第
一 種 超 電 導 体 と呼 ばれ る もの で ,主
と し て純 金 属 の超 電 導 体 で あ る。 しか し,こ
の場 合 で も超 電 導 体 の大 き さが,ロ
ン ドン長 λの程 度 の 寸 法 を も って い る場 合 は
異 な る。 また,後
述 の 第 二 種 超 電 導 体 で は異 な っ た転 移 磁 場 を もつ 。 特 に,第 二
表9.1
表9.2
純 金 属超 電 導 体 の 臨界 磁 場,臨 界 温度,ロ
ン ドン長,コ
ヒー レ ンス 長
代 表 的 な酸 化 物 超 電 導体 の特性 コヒー レ ンス長 さ,ロ ン ドン長 さ は測 定 が難 し くお お よそ の 目安 で あ る。
種 超 電 導 体 で は,図9.4に
示 す よ う に,超 電 導体 内 部 に無 数 の 非 常 に細 い糸 状 の
磁 束 を伴 っ た 常 電 導 部 分 を形 成 し,そ の周 囲 の常 電 導-超 電 導 境 界 か ら,ロ ン ドン 長 λ程 度 の 距 離 に磁 場 を超 電 導 体 内部 に入 れ る こ と に よ り,超 電 導 全 体 と し て は,多
くの体 積 に磁 場 を侵 入 さ せ る。 これ に よ り磁 場 を排 除 す るエ ネ ル ギ ーが 小
図9.4 第 二 種超 電 導 体 へ の磁 場 侵 入 超電 導 内部 は細 い 糸状 の磁 場 侵 入 が 起 き中心 部 分 は常 電 導 と なっ て い る
さ くな る。 この減 少 量 が 糸状 の 常 電 導 部 分 を作 る エ ネ ル ギ ー よ り大 き いた め 常 電 導転 移 磁 場 がHcよ
り非 常 に大 き くな る。
(6) ジョセ フ ソ ン効 果
二 つ の 超 電 導 体 を 弱 い結 合 で接 合 し,両 者 の間 に
位 相 の ず れ を可 能 とす る と,両 者 の 波 動 の干 渉 に よ り,ジョセ
フ ソ ン効 果 と呼 ば
れ る特 異 な 現 象 が 観 測 され る。 接 合 点 で は,超 電 導 電 流 は位 相 差 γの 関 数 とな り,従 っ て,最 大 値 を もつ 。 そ の 式 は, (9.7) とな り,電 圧 は必 要 と しな い 。J0の 値 は,こ の 弱 い超 電 導 体 の形 態 に よ っ て決 ま る が,結 合 の 臨 界 電 流 密 度 と見 な して よい 。位 相 は磁 場 に よ って も変 化 す るの で, 磁 場 の 高 感 度 セ ン サ を作 る こ とが で き る。 また,超 電 導 電 流 は減 衰 せ ず 保 持 さ れ る か ら,メ モ リー,論 理 回 路 等 の デ バ イ ス も可 能 とな る。 弱 結 合 に 外 部 電 源 に よ っ て電 位 差Vを 対 が 移 動 す る と,2eVの
印 加 した と き,こ れ を跨 い で ク ー パ ー
エ ネ ル ギ ー の変 化 が あ る。 この エ ネ ル ギ ー は,ク ーパ ー
対 が 格 子 と相 互 作 用 を しな い た め,光 子(ホ 周 波 数 は,
トン)に 変 換 され る。 従 っ て,そ
の
(9.8) で与 え られ る。 これ に伴 っ て,二 つ の 強 い 超 電 導体 間 の位 相 差 γは 時 間 的 に変 化 し,そ の 変化 の 割 合 は,
(9.9) で与 え られ,こ れ に伴 っ て 電 流 は,
(9.10) とな る。 この 比 例 定 数 は2.07μV/GHzで
あ り,非 常 に 高 い周 波 数 の マ イ ク ロ波
の領 域 で あ る。 また,電 圧 印加 下 で の電 流 は,常 電 導 電 子(準 粒 子)の 流 れ を伴 い,電 圧-電 流 特 性 に非 線 形 が 生 ず る。 これ に基 づ く多 くの エ レ ク トロニ ク ス デ バ イ ス も可 能 で あ る。 常 電 導 デ バ イ ス が 異 種 材 料 の 接 合 に 伴 う非 線 形 特 性 等 を利 用 し て い る た め,動 作 電圧 が1V弱 つ,そ
を必 要 とす るが,超 電 導 デ バ イ ス で は数mVと
の 動 作 が,常 電 導 体 の よ う に,キ
あ る の で,数psの
小 さ く,か
ャ リヤ拡 散 移 動 に基 づ か な い量 子 効 果 で
動 作 時 間 が実 現 で き る こ とで あ る。従 って,低 消 費 電 力,超 高
速 の デ バ イ ス が 可 能 とな る。
9.5 超 電導体 の電流
超 電 導 体 中 の電 流 は,電 圧 に よ って 流 れ るわ け で な い の で,常 電 導体 中 の電 流 の 測 定 の よ うに,電 圧 測 定 とい う手 段 で は知 る こ とは で きな い。こ れ を知 る に は, 電 流 に よ っ て 引 き起 こ され た 磁 場 を測 定 す る こ とに よ り行 わ れ る。 また,超 電 導 で は磁 場 に よっ て 電 流 が 引 き起 こ され る か ら,超 電 導 電 流 と磁 場 と は一 体 不 可 分 の 密 接 な 関 連 が あ る。 従 っ て,超 電 導 の電 流計 算 は,同 時 に磁 場 計 算 で もあ る。
9.5.1 BCS理
超 電 導 電 子 の表 現 論 に よ る と,フォ ノ ン を媒 介 と して 電 子間 に引 力 が働 き,ク ー パ ー 対 と
呼 ば れ る電 子 の対 を作 る。2電 子 間 の 引 力 とク ー ロ ン反 発 力 が 打 ち 消 し合 う平 均 距 離 を コ ヒー レ ンス 長 ξ と呼 ぶ 。 ξ は クー パ ー対 を作 る2電 子 間 の平 均 距 離 で あ り,超 電 導体 に よ っ て 異 な るが,10nmか
ら1μmの
電 子 間 の 平 均 距 離 よ り もず っ と大 きい 。 従 って,こ
程 度 で あ る。 この 拡 が りは, の距 離 内 に あ る ク ーパ ー対 は
非 常 に多 数 あ り,こ れ らの 間 に も相 関 が生 ず る。 各 ク ー パ ー 対 は一 つ の量 子 状 態 に存 在 す る。 そ の た め,超 電 導 体 の す べ て の クー パ ー対 は,同 一 の 波 数 と角 運 動 量 を もつ の で,こ
の 状 態 を記 述 す る一 つ の波 動 関 数 で 全 体 を表 現 で き る。 この 関 数 は,秩 序
パ ラ メ ー ター と呼 ば れ,
(9.11) で 表 現 で き る 。 こ こ で,rは
座 標 で あ り,ψ
は ク ー パ ー 対 密 度ns(r)を
に 規 格 化 さ れ る 。 す な わ ち,ψ(r)ψ*(r)=ns(r)で
あ り,θ(r)は
表 す よう
位 相 で あ る。 こ
の よ う に超 電 導 体 の電 子 は 巨視 的 な波 動 と して観 測 され る。
9.5.2
ロ ン ド ン方 程 式
ロ ン ドン(London)兄
弟 は,超 電 導体 中 の格 子 と相 互 作 用 し な い,同
じ状 態 を
有 す る電 子 の 電 磁 場 で の運 動 を考 慮 して 次 の 式 を求 め た 。 ロ ン ド ンの 第 一 方 程 式
(9.12) お よび,ロ
ン ド ンの 第 二 方 程 式
(9.13) で あ る 。 こ こ で,
(9.14) で 表 され,mは
電 子 の 質 量,eは
式(9.12)はE=0で ρ=E/J=0と
もJ=Cの
電 子 の 電 荷,nsは
超 電 導 電 子 の 数 密 度 で あ る。
定 常 状 態 の 解 が あ る こ と を 示 して い て,抵 抗 率
い う超 電 導 体 の 抵 抗 が0と い う特 徴 を表 現 して い る。
ロ ン ドン方 程 式 はnsが
空 間 的 に一 定 で 場 所 に依 存 しな い と考 え る と導 く こ と
が で き る。式(9.12),式(9.13)の
二 つ の方 程 式 は独 立 の 方 程 式 で は な く,本 質 的
に は,こ れ らの 方 程 式 はベ ク トル ポ テ ン シ ャルAを
用 い て,一 つ の方 程 式 (9.15)
で 表 す こ とが で き る。 式(9.15)に 有 す る た め,Jが
お いて,ベ
ク トル ポ テ ン シ ャルAは
任意性 を
定 ま らな い。 これ を定 め る境 界 条 件 と して ロ ン ドンゲ ー ジ が あ
る。ロ ン ドンゲ ー ジで は,超 電 導 体 表 面 と垂 直 方 向 の超 電 導 電 流 は0,す
な わ ちベ
ク トル ポ テ ン シ ャル の超 電 導 表 面 の 法線 成 分A⊥ が
(9.16) お よ び,超 電 導 体 内部 で は電 流 が保 存 され る,す な わ ち
(9.17) の 両 者 が 満 た さ れ る よ う にAを
決 め る。
ロ ン ドン方 程 式 は,磁 場 が 弱 くク ーパ 対 密 度 が 超 電 導 体 内 で均 一 で あ る とい う 前 提 で 成 り立 つ,と
い う制 限 が あ るが,比 較 的簡 単 な式 で あ る た め,多
くの 計 算
に 用 い られ る。
9.5.3
ロ ン ドン の 磁 場 侵 入 長 とMeissner効
果
超 電 導 電 流 を求 め る に は,一 つ の物 理 量 を含 む 式 が 使 い や す い。式(9.15)と
変
位電 流 密 度 を無 視 した マ ク ス ウ ェル の 方 程 式 を 用 い る と,
(9.18) が 得 ら れ る 。 ま た,こ
れ は,
(9.19) と表 され る。 こ こで,λ は長 さ の 単 位 を有 して い る量 で あ り,ロ
ン ドン長 あ る い
は ロ ン ドン の磁 場 侵 入 長 と呼 ば れ る。
(9.20)
で あ る 。 ま た,
(9.21) お よび
(9.22) の 関 係 も得 られ る。 式(9.19)を た め,図9.5の
用 い て,超 電 導体 の 電 磁 場 の 様 子 を眺 め て み る。解 析 を 容 易 に す る よ うな 半 無 限 超 電 導 体 の表 面 に,B0の
て 考 え る。 式(9.19)を
図 に示 す よ うに一 次 元x座
磁 場 が存 在 す る場 合 に つ い
標 に て解 く と,
(9.23) が 得 ら れ る 。 こ れ と,式(9.13)と
式(9.14)か
ら,
(9.24) が 得 られ る。 この こ とか ら,磁 束 密 度 お よび 電 流 は,超 電 導体 表 面 か ら λ程 度 し
図9.5 半無 限超 電 導体 中 の 磁 場,電 流
か 侵 入 せ ず,内 部 に は磁 束 密 度,電
9.5.4
流 は存 在 し な い こ とが 分 か る。
ロ ン ドン長 の 評 価
ロ ン ド ンの 侵 入 距 離 を表 す 式(9.20)は,ク
ー パ ー 対 密 度nsを
っ て い る が,そ の最 大 値 は常 伝 導 電 子 の 数nで
未 知 数 と して も
あ る こ とは 明 らか で あ る。 この場
合,式(9.20)は,
(9.25) とな る。 温 度T=0に 子,準
お いて,nsは
この 値nで
あ り,温 度 の上 昇 と と もに準 粒 子(準 電
正 孔)の 励 起 に よ り減 少 し,T=Tcで
Casimirは
ゼ ロ とな るべ きで あ る。Gortorと
超 電 導 電 子 と伝 導 電 子 の両 者 の存 在 を考 え る2流 体 モ デ ル を た て,こ
の温 度 依 存 性 を次 の 式 の よ う に考 え る と,超 電 導 体 の 熱 的 性 質 を よ く説 明 す る こ とが で き る こ とを 見 い だ し た。
(9.26) この 式 か ら,ロ ン ドン長 の温 度 依 存 性 は,
(9.27)
で 表 す こ とが で き る。
9.5.5
ロ ン ド ン方 程 式 を 用 い た 電 磁 場 計 算
超 電 導体 を含 む系 の電 磁 場 解 析 を,ロ
ン ドン方 程 式 を 用 い て 超 電 導体 を流 れ る
電 流 な どを計 算 す る と,常 電 導 の場 合 と異 な り,境 界 条 件 を与 え て も解 は一 意 で な い こ とが 分 か る。 こ れ は,超 電 導 にお い て は,同 一 条 件 で も種 々 の状 態 が あ り 得 る こ とを意 味 す る。 この こ とは,超 電 導 は 電 流 な ど,初 期 状 態 を保 持 す る こ と が 可 能 で あ り,電 流 な どは そ の 超 電 導 の 履 歴 に依 存 す る こ と を意 味 して い る。 (1) 電流 源 が 与 え られ て い る場 合
図9.6に
示 す よ うな 系 の 電 磁 場 解 析 を
考 え て み る。 境 界 条 件 と し て超 電 導 体 外 部 に あ る電 流 源Jeを
与 えれ ば,一 般 的
な場 合 に対 応 で き る。 本 来,電
場,磁 場
を決 定 す る に は電 荷 と電 流 を与 え る必 要 が あ るが,超
電 導 で は,か な り高 い 周 波
数 まで 電 荷 の 存 在 に よ る電 場 を無 視 で き る か らで あ る。 図9.6 超 電 導体 を含 む系 の 電磁 場
この電 流 に よ り作 られ るベ ク トル ポ テ ン シ ャ ル をAe,超 ル をAsと
電 導 体 中 を 流 れ る電 流Jsに
よ り作 られ るベ ク トル ポ テ ン シ ャ
す る と,全 空 間 に形 成 され るベ ク トル ポ テ ン シ ャ ルAは,そ
の和
(9.28) で表 され る 。 さて,超 電 導 体 内 部 で
(9.29) お よ び,ロ
ン ドン ゲ ー ジ を用 い て,超 電 導 体 表 面 で,垂
直 成 分 が0の
条件
(9.30) と超 電導体 内部 で (9.31) の 両 者 が 満 た さ れ る よ う にAを
決 め る こ とが で き る 。
こ れ に よ り,式(9.15),式(9.20)か
ら得 られ る式
(9.32) よ り超 電 導 内 部 の 電 流Jsを が で き る の で,全 よ り,例
決 め る こ と が で き る 。一 方,Jsか
らAsを
空 間 の ベ ク トル ポ テ ン シ ャ ルA=Ae+Asを
え ば 磁 場 はB=rotAに
よ り求 め ら れ る 。 な お,こ
決 定 で き る。 これ れ らの 解 は 一 般 の場
合 不 定 と な り未 定 定 数 が 残 る 。 こ れ は,式(9.29),式(9.30),式(9.31)を す 任 意 の 解Apを
式(9.28)に
加 え て も,や
決 め るこ と
満 た
は り これ が 解 と な る こ とか ら理 解 で
き る 。 す な わ ち,外 部 電 流 源 に よ らな い 電 流 が超 電 導 体 中 に は存 在 し う る こ とを 意 味 す る。 超 電 導 体 に は,永 久 電 流 や超 電 導 に つ なが る別 の 外 部 電 源 の 電 流 な ど が 存 在 す る た め で あ る。従 って,こ れ らの 条 件 を設 定 して 解 を 求 め る必 要 が あ る。 通 常,永
久 電 流 や,超
電 導 に つ な が る外 部 電 源 の 電 流 が ゼ ロ で あ る とい う想 定,
言 い換 え れ ば,超 電 導 体 中 に流 れ る電 流 は外 部 電 流 源 に よ り誘 起 さ れ た もの の み で あ る と言 う想 定 が 妥 当で あ ろ う。この 時 は,全 空 間 の ベ ク トル ポ テ ン シ ャル は, 外 部 電 流 源 の 電 流 に比 例 す る とい う条 件 を付 して 解 く こ とが で きる 。 (2) 外 部 磁 場 の み を求 め る方 法
超 電 導 体 の 大 き さが ロ ン ド ン長 よ り も十
分 大 き く,超 電 導 体 内 部 に存 在 す る磁 場,ベ 合 は,超 電 導 体 をA=0,B=rotA=0の
ク トル ポ テ ン シ ャル が無 視 で き る場
均 一 な媒 質 で あ る とみ な す こ とが で き
る。 この 場 合 に は,境 界 条 件 は,図9.7に 示 す よ う な超 電 導 体 表 面 を 内部 に含 む 面 積Sを
有 す る非 常 に薄 い 体 積Vの
考 え る と,こ
のVに
板を
入 り 込 む 磁 束S
(Bout・n)は 超 電 導 体 外 部 か ら の も の だ け で あ る。 超 電 導 内部 はB=0で
あ り,
板 の 側 面 か ら の磁 束 は板 の厚 さ を小 さ く
図9.7 超 電 導体 表 面 を内部 に
す れ ば無 視 で き る か らで あ る。divB=0
含 む面 積Sの 板
で あ るか ら,板 の 内 部 に入 り込 む磁 束 の 総 和 は ゼ ロ で あ り,結 局,超 法 線 方 向 の単 位 ベ ク トル をnと
電導体表面
して,
(9.33) が 成 立 す る。 同様 に し て,
(9.34) が 成 立 す る。 この よ う に,超 電 導体 表 面 に垂 直 方 向 の磁 束 密 度 お よび ベ ク トル ポ テ ン シ ャ ル は0で
あ る とい う境 界 条 件 が 得 られ る。
こ の こ とか ら,超 電 導 体 を μ→0あ る い は 完 全 反 磁 性 の 媒 質 で あ る とみ な して 超 電 導 体 外 部 の磁 場 を求 め る こ とが で き る。 この 方 法 で は,こ れ まで 多 くの磁 性
体 に つ い て解 析 され て い る方 法 が 適 用 で き る。 な お,こ の 場 合 に得 られ る解 は, 超 電 導 体 を均 一 な 媒 質 と見 な して い るた め,超 電 導 体 の 境 界 条 件 の 一 部 の 場 合 の み の 解 を与 え る こ とに注 意 す る必 要 が あ る。 一 般 的 に,こ の場 合 の 解 は,超 電 導 体 中 に流 れ る電 流 は,外 部 電 流 源 に よ り誘 起 さ れ た もの の み で あ り,か つ,超 電 導 体 が ル ー プ状 に 連 結 さ れ て い る部 分 を もた な い場 合 を与 え る。 な お,超 電 導 に 流 れ る電 流 は求 め た 磁 場 か ら計 算 す る。 この よ う に,ロ
ン ドン方 程 式 を用 い て 電 流,磁 場 を求 め る こ とは で き る が,や
や 複 雑 な 計 算,考 察 が 必 要 で あ る。 超 電 導 円 筒 の 内部 に 電 流 を流 す線 が あ る場 合 の,円 筒 内 外 部 の電 流 お よ び磁 場 の分 布 の 計 算 例 を巻 末 の付 録3に
9.5.6
Ginzburg-Landau(GL)方
示す。
程式
ロ ン ドンの 方 程 式 で は,超 電 導 体 に与 え られ る電 磁 場 が空 間 的 に均 一 で あ り, 従 っ て,そ れ に伴 う ク ー パ ー 対 密 度 な ど も一 定 で あ る,と 見 な せ る場 合 を扱 っ て きた 。 しか し,こ の よ うな 扱 い は,強 化 して い る場 合,例
い磁 場 な どでク ー パ ー対 密 度 が 空 間 的 に変
え ば,超 電 導 状 態 と常 電 導 状 態 が 境 界 を接 して い る場 合 を扱
う こ とが で きな い 。Ginzburg-Landau理
論 は,こ の よ う な場 合 を扱 え る理 論 を導
き,第 二 種 超 電 導 体 の磁 場 下 で の解 析 に大 きな有 用性 を与 え る。 GL理
論 の考 え方 は,式(9.11)で
表 さ れ る秩 序 パ ラ メ ー タ ー ψ(r)を 用 い て,
超 電 導 状 態 と常 電 導 状 態 との 自 由 エ ネ ル ギ ー差 を,|ψ(r)|2の級 数 展 開 で 表 され る と考 えた もの で あ る。 従 っ て,|ψ(r)|2(以後|ψ|2と 表 現 す る。)の 値 が 小 さい と き,言 い換 え れ ば,臨 界 温 度 に 近 い と き に妥 当 性 が あ る。GL方 数 展 開 は2項
目 まで 取 る。電 子 の質 量 をm,電
質 量 は2m電
荷 は2eと
な り,電 子 密 度 をns(ク
とす る と,(Helmholtzの)自
荷 をeと
程 式 で は,こ の 級
した と き,ク ー パ ー対 の
ー パ ー 対 の 密 度 はns/2と
由 エ ネ ル ギ ー密 度fは,
な る。)
(9.35) で 表 さ れ る 。 こ の 内,fnoは
超 電 導 で な い と き の 自 由 エ ネ ル ギ ー で あ り,
(9.36) はク ーパ ー 対 が 作 られ る た め に増 加 す る 自由 エ ネ ル ギ ー を2項
まで 級 数 展 開 し た
も の で あ り, (9.37) はク ーパ ー対 の 密 度 勾 配 を与 え るた め の エ ネ ル ギ ー と,ク ー パ ー対 の 運 動 エ ネ ル ギ ー(超 電 導 電 流)で
あ り,
(9.38) は磁 場 の エ ネ ル ギ ー を 表 し て い る。 超 電 導 体 の 秩 序 パ ラ メ ー タ ー ψ(r)と 35)の
ベ ク トル ポ テ ン シ ャ ルA(r)は,式(9.
自 由 エ ネ ル ギ ー を 最 小 と す る よ う に 変 化 す る 。 従 っ て,式(9.35)を変
題 と し て 解 を 求 め る 。ベ ク トル ポ テ ン シ ャ ルA(r)に
分 問
つ い て 最 小 化 を 行 う と,GL
の微 分 方 程 式
(9.39) が 得 ら れ,秩
序 パ ラ メ ー タ ー ψ(r)に
つ い て 最 小 化 を 行 う と,
(9.40) が 得 られ る。 この変 分 で は,超 電 導 体 表 面 の 境 界 条 件 と し て
(9.41) が 用 い られ て い る。nは 超 電 導 体 表 面 の法 線 方 向 の 単 位 ベ ク トル で あ る。これ は, 超 電 導 体 表 面 法 線 方 向 の 電 流 が0で 料 に接 して い る時 に成 立 す る 。
あ る こ と を意 味 して お り,超 電 導 体 が 絶 縁 材
9.5.7
Ginzburg‐Landau(GL)の
次 に,式(9.40)を
コ ヒー レ ン ス 長
ψ が ψ0に 近 く,磁 場 が 弱 い,す
な わ ちA=0と
して 解 い て
み る 。 ま ず,式(9.40)で
(9.42) と変 数 変 換 す る と,
(9.43) が 得 られ る。 こ こ で,ψ=ψ0+δ
ψ と し,δ ψ を ψ0に 比 し て 十 分 小 さ い 値 と す る と,f=1+δf,
δf≪1と 置 く こ とが で き,式(9.43)の
線 形 化 を す る と,
(9.44) が 得 ら れ る 。 こ の 解 は,rを
位 置 ベ ク トル と し て,
(9.45) で あ る 。 式(9.45)か
ら,秩
序 パ ラ メ ー タ は ξ程 度 の 長 さ の も と で 変 化 す る こ と
が 分 か る 。 ξ をGinzburg‐Landau(GL)の
9.5.8
GLの
コ ヒー レン ス長 と呼 ぶ 。
磁 場 侵 入 長
弱 い 磁 場 で は,秩
序 パ ラ メ ー タ は ほ ぼ 一 定 で,ψ0で
置 き換 え ら れ る 。 こ の 時,
式(9.39)は,
(9.46) と な り,ロ
9.5.9
ン ド ン 方 程 式(式(9.15))と
Ginzburg‐Landau(GL)の
9.5.6,9.5.7でGL方
程 式 か ら,超
同 じ とな る 。
パ ラ メー タ κ 電 導 を 特 徴 づ けるGLの
コ ヒ ー レ ン ス 長ξ
と磁 場 侵 入 長 λ が 求 め ら れ た 。 コ ヒ ー レ ン ス 長 ξ は ク ー パ ー 対 の 密 度 が 変 化 し う
る長 さ の 単 位 を表 し,磁 場 侵 入 長λ は 磁 場 が 変 化 し う る長 さ の 単 位 を表 し て い る。図9.8に
示 す よ う に,常 電 導 部 に熱 力 学 的 臨 界 磁 場 を 印加 し た場 合,超 電 導,
常 電 導境 界 で は常 電 導 側 に存 在 す る磁 場 が λ程 度 超 電 導 内 部 に侵 入 し,ク ー パ ー 対 は境 界 か ら超 電 導 内部 に 向 か っ て ξ程 度 で定 常 値 に達 す る。 この 場 合,境 界 か
図9.8 超 電 導,常 電 導境 界
ら離 れ た 超 電 導 部 お よび 常 電 導 部 の 自由 エ ネ ル ギ ー は等 しい が,超 電 導,常 境 界 で は,磁 場,ク
電導
ーパ ー対 が 変 化 して い る の で 自 由エ ネ ル ギ ー は境 界 以 外 と異
な る。 こ の境 界 の 自 由 エ ネ ル ギ ー と,常 電 導 部 あ る い は超 電 導 部 の 自 由 エ ネ ル ギ ー との大 小 は ,λ と ξ との 大 き さ の比 に よ っ て 決 ま る。 この 比
(9.47) をGinzburg‐Landau(GL)の κ=1/√2を
パ ラ メー タ と呼 ぶ 。
境 と し,こ れ よ り κが 大 きい とき は,境 界 の 自 由 エ ネ ル ギ ー は常 電
導 部 あ る い は超 電 導部 の 自 由 エ ネ ル ギ ー よ り小 さ くな り,κ が 小 さ い と き は,自 由 エ ネ ル ギ ー は大 き くな る。 この値 を境 に して超 電 導 体 の 性 質 は大 き く異 な っ て くる 。 κ>1/√2の
超 電 導 体 で は,あ る磁 場 を境 に して,超 電 導 内部 に常 電 導,超 電 導
境 界 を作 っ た 方 が 自 由 エ ネ ル ギ ーが 小 さ くな り,超 電 導 内部 に無 数 の渦 糸 あ る い はVortexと
呼 ば れ る,磁 束 量 子 を抱 い た 常 電 導 の 管 が 形 成 され る。 この 超 電 導
体 は第 二 種 超 電 導 体 で あ る。 また,κ <1/√2の 超 電 導 体 で は,こ の よ う な渦 糸 は 形 成 され ず 第 一 種 超 電 導体 とな る。
9.6 超 電導連 結 リング内 の磁 束の量子化
内 部 に 非 超 電 導 部 分 が 含 ま れ て い る,超 る。 図9.9に (9.39)を
示 す よ う に,穴
電 導 体 で 作 られ た ル ー プ を考 え て み
を 内 部 に も つ ル ー プ に 沿 っ て 積 分 路Cを
と り,式
積 分 す る と,
(9.48) が 得 ら れ る。 こ の 各 項 を評 価 し て み る 。 ま ず,積 超 電 導 内 部 に 取 れ る と す る と,こ 式(9.48)左
辺 は0と
分 路Cが
ロ ン ド ン 長 さ よ り十 分
こ に は 電 流 が 存 在 し な い の でJ=0が
な る。 次 に,式(9.48)右
辺 第2項
は,Stokesの
成 立 し, 定 理 をあ て
は め て,
(9.49) が 得 られ る 。 こ こ で,SはCを る 。 ま た,式(9.48)の
周 とす る 面 で あ り,ΦsはCと
右 辺 第1項
は,
図9.9 連結 され た超 電 導 体の 内 部 の穴 を囲 む積 分
鎖 交 す る磁 束 で あ
(9.50) と な る。 こ こ で,Θ
はCに
沿 っ て 一 周 の 位 相 の 増 加 分 で あ る 。位 相 の 一 価 性 に よ
り,こ れ は2π の 整 数 倍 だ け 異 な る値 を も た な け れ ば な ら な い 。従 っ て,こ 2nπ
と な る は ず で あ る 。nは0か,整
の値 は
数 で あ る 。 よ っ て,式(9.48)は
(9.51) とな る。 これ よ り,超 電 導 体 に囲 まれ た非 超 電 導 体 の穴 に存 在 す る磁 束 は,
(9.52) を単 位 に存 在 す る こ とが わ か る。 これ を磁 束 量 子 と呼 ぶ 。 こ の性 質 は,超 電 導 体 の 電 子 が 巨視 的 な 波 動 の性 質 を表 す こ とか ら出 て くる もの で あ る。 これ に伴 う電 流 も,量 子 化 され,通
常 の 常 電 導 体 に は存 在 しな い 特 異 な性 質 を示 す 。
9.7 第二種超 電導 体
先 に検 討 した よ うに,第 二 種 超 電 導体 で は,臨 界 磁 場Hcに
お い て,超 電 導 部 と
常 電 導 部 の境 界 の 自 由 エ ネ ル ギ ー は周 りに比 べ て小 さ い。 この た め,超 電 導 体 内 部 に 多 くの境 界 を作 る と い う形 で磁 束 が 侵 入 した状 態 が 安 定 と な る。 す な わ ち, 磁 束 が 可 能 な 限 り小 さ く分 割 され,超 電 導 部 と常 電 導 部 の境 界 を最 大 にす る よ う な状 態 が 超 電 導体 内部 に形 成 され る。 言 い換 え れ ば,超 電 導 体 内 部 に 存 在 し う る 磁 束 の 最 小 の大 き さ で あ るΦ0の 磁 束 量 子 を抱 え た 常 電 導 部 の 管 が,超 電 導体 内 部 に侵 入 して い く。 この 常 電 導 部 の 管(渦 糸)の 構 造 を 図9.10に
示 す 。秩 序 パ ラ
メ ー タ ー ψが この 管 の 中 心 で ゼ ロ に 向 か って ξの距 離 で 減 少 し,一 方,磁 場 は中 心 で最 大 で,外 部 に 向 か っ て λの 距 離 で 減 少 して い く。 また,磁 束 量 子 を作 る管 の 中 心 を回 る電 流 が 存 在 す る。 超 電 導 体 中 に 渦 糸 が 入 っ た状 態 を混 合 状 態(mixed
state)と 呼 ぶ 。 渦糸 の数,
言 い換 えれ ば,超 電 導 体 内 部 の 巨視 的磁 束 密 度 は,渦 糸 ど う しの 相 互 作 用,す わ ち反 発 力 に よっ て,自 由 エ ネ ル ギ ー が 増 大 し て い くた め,あ
な
る値 で平 衡 に到 達
図9.10
す る。Hcで
渦 糸 の 周 り の 磁 場,秩
流
渦 糸 が 侵 入 した ほ うが 自 由 エ ネ ル ギ ーが 減 少 す る こ とか ら考 え る と,
渦糸 が 侵 入 し始 め る の はHcよ たHcよ
序 パ ラ メ ー タ ー,電
り小 さい磁 場Hc1で
あ る こ とが 考 え られ る し,ま
り大 きい磁 場 で も,渦糸 の 侵 入 量 が 増 加 し て い くだ けで,超
完 全 に失 わ れ ず,あ
る磁 場Hc2に
電導部 分 は
至 っ て す べ て の超 電 導部 分 が 失 わ れ,常 電 導 に
転 移 す る と考 え られ る 。
9.7.1
渦糸 の 侵 入 開 始 磁 場Hc1
渦 糸 が侵 入 開 始 す る磁 場Hc1で (Gibbs自
由 エ ネ ル ギ ー)と,侵
は,渦糸
が 侵 入 し た超 電 導 体 の 自 由 エ ネ ル ギ ー
入 して い な い超 電 導 体 の 自由 エ ネル ギ ー とが 等 し
い とい う条 件 で求 め られ る。 そ の 結 果 は
(9.53) が 得 られ る。 渦糸 が侵 入 開 始 す る磁 場Hc1は,お
お よ そ 熱 力 学 的 臨 界 磁 場Hcの
1/√2κ
の 大 き さ で,か
9.7.2
な り小 さ い 値 で あ る 。
常 電 導 転 移 磁 場Hc2
第 二 種 超 電 導 体 が強 い磁 場 下 に あ る と,渦 糸 が 非 常 に 多 数 内 部 に形 成 され,や が て磁 場 が あ る値 に達 す る と常 電 導 に転 移 す る。 この 磁 場Hc2の
大 き さ は,GL
方 程 式 を解 くこ とに よ り得 られ,
(9.54) と な る 。 こ れ は ま た 次 の よ う に も表 現 で き る 。
(9.55) これ よ り,Hc2>Hcで
あ る第 二 種 超 電 導 体 と, Hc2<Hcで
との 境 を決 め る境 界 は κ=1/√2で
9.7.3
あ る第 一 種 超 電 導 体
あ る こ とが 分 か る。
渦 糸 の 運 動 と そ れ に 基 づ く抵 抗
Hc1以 上 の磁 場 で は超 電 導 体 内部 に渦 糸 が 存 在 す る 。 こ の 渦 糸 に,自 分 自 身 の 作 る電 流 以 外 の 外部 起 因 の電 流,例 送 電 流,ま
え ば,他 の 渦 糸,あ
る い は外 部 電 源 か らの 輸
た は 他 の 要 因 に よ る永 久 電 流 な どが存 在 す る と,こ の 電 流 との 間 に力
が 働 く。 さ て,外 部 起 因 の 電 流 をJextと し,こ れ に 伴 う磁 束 密 度 をBextとす
と,
渦糸 に働 く力 は,
(9.56) とな る。 渦糸 は 外部 電 流 と直角 方 向 に力 を受 け,こ れ を止 め る力 が な い場 合,こ の 力 の 方 向 に運 動 す る。 この力 に よ り,渦糸
は超 電 導体 中 を運 動 す るが,こ
渦糸 は速 度 に比 例 した 力 を与 え る粘 性 力 ηに よ る力fを
の時
受 け,
(9.57) で き ま る平 衡 速 度υ に落 ち着 く。 こ の動 き に よ り,超 電 導 体 に フ ァ ラ デー の誘 導 法 則 に よ り電 場Eが誘
起 さ れ る。 こ の大 き さ は,
(9.58) で あ り,超 電 導 体 に は電 流 に伴 う起 電 力 が 発 生 し,そ の 抵 抗 率 は,
(9.59) で 与 え られ る。 こ こ で,抵
抗 率 ρsを 求 め る に は,η の 値 を 知 る 必 要 が あ る が,こ
れ は 渦糸 の 構
造 に 立 ち 入 っ て 検 討 す る 必 要 が あ る 。 これ に つ い て は,BardeenとStephanの
簡
単 な モ デ ル に よ る と,
(9.60) で 与 え ら れ る 。 こ こ で,ρnは
常 電 導 状 態 で の 抵 抗 率 で あ る 。 従 っ て,式(9.59)
よ り,
(9.61) と表 され る。通 常,第 二 種 超 電 導 体 は異 種 金 属 の化 合 物 で あ り,そ の ρnは 非 常 に 大 きい 。従 っ て,渦糸
が動 き う る第 二 種 超 電 導 体 は,Hc1以
上 の磁 場 中 で は,こ の
渦糸 の 運 動 に よ り実 用 に耐 え られ な い抵 抗 を生 じ,抵 抗 ゼ ロ とい う超 電 導 の有 力 な用 途 か ら見 る と価 値 の な い もの に な っ て し ま う。
9.7.4
渦糸 の ピ ン 止 め
渦 糸 の 運 動 に よ っ て 抵 抗 が 生 ず る が,渦 糸 を,超 電 導 体 中 を動 か な い よ う に ピ ン止 め す る こ とが で きれ ば,こ の抵 抗 は発 生 せ ず,大
き な 電 流 を抵 抗 な し に流 す
こ とが で き る。この ピ ン止 め は,超 電 導 体 が 空 間 的 に不 均 一 で あ れ ば可 能 で あ る。 こ れ は,超 電 導 体 の性 質 が 不 純 物 や 欠 陥 な どで場 所 に よ り変 化 し,こ れ に よ り, 渦 糸 は 自 由 エ ネ ル ギ ー の 小 さ くな る場 所 に落 ち着 くこ とに な るか らで あ る。 渦糸 は 中心 付 近,半 径 ξ程 度 超 電 導 電 子 を壊 して 作 られ て い る。 ピ ン止 め が非 超 電 導 体 粒 子 の 場 合 を考 え て み る と,こ の部 分 に渦 糸 が あ れ ば,超 電 導 電 子 を壊 す 必 要 が な い か らそ の エ ネ ル ギ ー は不 要 で あ る。 従 っ て,渦 糸 は この 位 置 に あ る ときエ ネ ル ギ ー が 小 さ い状 態 にあ る。 この こ とか ら,ピ ン止 めの 大 き さ は半 径 ξ程 度 の 非 超 電 導 の 球 が 最 適 で あ る こ とが 分 か る。 大 きな 電 流 を 損 失 な しで 流 す 必 要 の あ る実 用 用 途 で は,こ の ピ ン止 め力 をで き
る だ け大 き くす る こ とが 重 要 とな る。 ピ ン止 め は実 際 の超 電 導 体 で は,結 晶 の歪 み や境 界,不
純 物 な ど種 々 の要 因 に よ って 自然 に作 られ る。 人 工 的 に不 純 物 を入
れ て ピ ン止 め を作 る こ と もあ るが,通 常 は,超 電 導 体 加 工 時 に 自然 にで き る ピン 止 め が で きる だ け強く な る よ う,加 工 条 件 を検 討 す る こ とが 多 い。
9.7.5
巨視 的 電磁 場
第 二 種 超 電 導 体 は ピ ン止 めす る こ と に よ り,大 き な輸 送 電 流 を損 失 な しで 流 す こ とが で き る 。 こ の よ うな 強 い ピ ン止 め が 存 在 す る超 電 導 体 の 磁 気 特 性 を考 えて み る こ と は実 用 上 重 要 で あ る。 無 限 に 広 い 超 電 導 板 にz方
向 に 単 位 幅 当 た りの
ITの 大 き さ の輸 送 電 流 を 流 す 場 合 を考 えて み る。超 電 導 体 中 に渦 糸 が な い場 合, こ の輸 送 電 流 は ロ ン ドンの 式 に従 い,表 面 か ら λ程 度 の深 さ を流 れ る。 な お,輸 送 電 流 は超 電 導 板 の両 面 を流 れ るが,簡 単 の た め,こ
こで は 片 面 の み に流 れ る電
流 を考 え る こ と とす る 。 この 電 流 に よ っ て作 られ る磁 場BがHc1以 渦 糸 が 表 面 に作 られ,図9.11に
上 とな る と,
示 す よ う に,輸 送 電 流 に よ り内部 に向 か う力 を受
け,超 電 導 体 内部 に運 ば れ る。 こ の結 果,輸
送 電 流 分 布 は変 化 す る。 渦 糸 の周 囲
を 回 る電 流 に よ り,渦 糸 の位 置 よ り表 面 側 の 電 流 は減 少 し,渦 糸 よ り内 側 に こ の 分 の輸 送 電 流 が 流 れ る。 渦 糸 の ピ ン止 め 力 が こ の輸 送 電 流 に よ る力 よ り小 さ い と き は,新 り,さ
た に 表 面 に 作 られ る渦 糸 に よ
らに 内 側 に この 渦 糸 が移 動 す る。
最 後 に は,各 渦 糸 に働 く力 が ピ ン止 め力 に 等 し くな っ た 時 点 で 渦 糸 の移 動 が 止 ま り,平 衡 状 態 とな る。 この 状 態 を も う少 し考 察 し て み る。渦 糸 の密 度 をnと
し,
(9.62) に よっ て 与 え られ る超 電 導 体 中 の磁 束 密 度BGを
巨 視 的 磁 束 密 度 と呼 ぶ。 これ
図9.11
輸 送 電 流 に よ る 渦糸 の 発 生,侵
入
と,こ の 渦糸 の周 囲 を 回 る電 流 の 総 和 に よ って 作 られ る 平 均 的 な 巨視 的 電 流 密度 JGとの 間 に は,
(9.63) とマ ク ス ウ ェル の 方 程 式 類 似 の関 係 が 得 られ る。 こ の よ うに,渦 糸 が 超 電 導 体 内 部 に入 る こ とに よ り,ロ ン ドン長 を越 えて,は
るか に 深 くの超 電 導体 内 部 にJG
とい う電 流 が 流 れ る よ う に な る。 また,こ れ ら渦 糸 が 動 い て 巨 視 的磁 束 密 度 が 変 化 す る とき電 場 が 発 生 す るが, この平 均 的 電 場,言
い 換 え れ ば巨 視 的電 場 は,
(9.64) で 与 え られ る。 この よ う に,渦 糸 の 超 電 導体 内 部 へ の侵 入 に よ り超 電 導 体 内部 に は電 磁 場 が形 成 さ れ る。これ らの 巨 視 的 電 磁 場 の 間 に は,式(9.63),式(9.64)の よ う な一 般 的 なマ ク ス ウ ェル の 方 程 式 類 似 の電 磁 場 方 程 式 が成 立 す る 。 しか し, 渦 糸 が ピ ン止 め され る こ とや,粘 性 的 移 動 す る こ とか ら分 か る よ う に,こ れ らの 巨 視 的 電 磁 場 はマ ク ス ウ ェル の 方程 式 で 表 さ れ る電 磁 場 の関 係 式 を,す べ て そ の ま ま適 用 す る こ と はで きな い こ とに 注 意 す る必 要 が あ る。
9.7.6
Beanの
臨 界状 態 モ デ ル
渦 糸 の 受 け る力 の 平 均 を,巨 視 的 磁 束 密 度BGの と,式(9.56)よ
受 け る力 の 密 度 α と考 え る
り
(9.65) が 得 られ る。 平 衡 状 態 で は,α が ピ ン止 め 力 αPに ど の場 所 で も等 しい こ と に な る。 この よ う な状 態 を 臨 界 状 態 と呼 ぶ 。従 っ て,αPが るか が 巨視 的 電 流 密 度JGを JGの 大 き さが 一 定 値Jpで BGに
決 め る。Beanの
臨 界 状 態 モ デ ル で は, BGに
度JGが
よ らず
あ る こ とを仮 定 し て い る。す な わ ち,ピ ン止 め 力 αPは
比 例 す る こ と に な る。 この結 果,式(9.63)よ
従 って,こ
どの よ うな 特 性 を有 し て い
りBGの
勾 配 は一 定 とな る。
の 臨 界状 態 モ デ ル で は,渦 糸 の存 在 す る どの 場 所 で も,巨 視 的 電 流 密
一 定 値Jpで
あ り,均 一 な 電 流 が 超 電 導体 中 を流 れ る。 輸 送 電 流 を0か
ら
増 や して い った 場 合,平 衡 状 態 で は,表 面 か らIT/Jpの 深 さ まで 均 一 な 電 流 が 流 れ る こ とに な る。 輸 送 電 流 を減 少 さ せ る な ど,電 流 を変 化 させ て い く場 合,あ
る い は,外 部 磁 場
を変 化 させ て い く場 合 にお い て は,必 ず し も臨界 状 態 に な る と は限 ら な い。 渦糸 の 配 置 は輸 送 電 流 あ るい は外 部 磁 場 が 同 じで も,過 去 に どの よ う な配 置 で あ っ た か に も依 存 す る。 これ は,渦糸
は これ に か か る 力 が ピ ン止 め力 よ り小 さ けれ ば動
か な いか らで あ る。
9.7.7 第 二 種 超 電 導 体 線 の 電 流 と超 電 導 体 の 挙 動 半径a≫ λの超電 導体 に電 流ITを 外部か ら流 す。 電流ITが (9.66) 以 下 の と き は,第 一 種 超 電 導体 と同 様 に,電 流 は超 電 導 体 表 面 近 く λの程 度 の 部 分 を流 れ る。 この値 を超 え る と,渦糸 が 超 電 導 体 に侵 入 す る。 この 渦糸 は,超 電 導 線 の 回転 方 向 θ を 向 き,こ れ を取 り巻 く リン グ とな る。 こ の渦糸 は超 電 導体 に ピ ン止 め され,こ
の ピ ン止 め 力 で 支 配 され る渦糸 の密 度(巨 視 的磁 束 密 度)の
き で安 定 と な る。 これ に伴 っ て,電 流 は 巨視 的 な大 き さ の距 離 まで,す よ り も大 き な距 離 まで 内 部 を流 れ る よ う にな る。 この様 子 をBeanの デ ル に よっ て 考 え て み る。 この 時,式(9.63),式(9.65)よ
傾
なわ ち λ
臨 界状態 モ
り
(9.67) が 成 立 す る か ら,電 流ITは 表 面 か ら半 径bの
間 を均 一 電 流 密 度Jpで
流 れ,
(9.68) が 得 られ る。 抵 抗 の 発 生 し な い最 大 電 流,す
な わ ち線 の臨 界 電 流Icはb=0の
時
で あ る か ら,
(9.69) が 得 られ る。 第 二 種 超 電 導 体 は,数 千A/mm2に
もな る大 き な電 流 をゼ ロ抵 抗 で 流 せ, 大 電
流 用途 の マ グ ネ ッ トな どに 使 わ れ る。 また,実 用 上 は熱 的 安 定 性 等 か ら,数
μm
直径の超 電 導 線 を多 数 銅 や ア ル ミに埋 め 込 み,極 細 多 心 線 の構 造 を有 した 線 が 用
い られ る。
9.8 超 電 導 の 応 用
超 電 導 体 は導 体 と して 抵 抗0で
あ る な ど,理 想 的 な特 性 を 有 し て い る。従 っ て,
基 本 的 に は どの よ うな 電 気 機 器 に も応 用 が 可 能 で,そ
の特 性 を向 上 させ る こ とが
で き る。 この よ うな意 味 で は超 電 導 は 何 に で も応 用 で きる 。 しか し,応 用 を考 え る に は超 電 導 を用 い る こ とに よ る メ リ ッ ト と,冷 却 な ど,超 電 導 を用 い るた め に 生 ず るデ ィ メ リ ッ トとを比 較 す る必 要 が あ る。 この こ とか ら,非 超 電 導 技 術 で は 実 現 で き な い機 器 が まず 実 用 化 され て い る。 ま た,高 温 超 電 導 体 の 発 見 以 来,こ れ が 液 体 窒 素 で 冷 却 が 可 能 とい う こ とで,冷 却 の デ ィ メ リ ッ トが軽 減 され る こ と か ら,そ の 応 用 に期 待 が もた れ て い る。 超 電 導 体 が もつ 常 電 導 に な い最 大 の特 長 は,量 子 化 現 象 で あ る。これ に伴 う永 久 電 流 は驚 異 的 な磁 場 の 安 定 性 を もた らす 。 また,量
子 干 渉/ジ ョセ フ ソ ン効 果 を 用 い たSQUIDは
磁 束 計 と して も非 常 に高
感 度 で あ る し,ま た 高 速 の動 作 が 可能 で あ り,か つ 周 波 数 電 圧 変 換,非 な ど応 用 範 囲 は広 い 。 抵 抗0で
線形特性
あ る こ と と,大 電 流 が可 能 で あ る こ と を利 用 す れ
ば,小 型 軽 量 で 強 力 な マ グネ ッ トが実 現 で き る。 こ の よ うな 超 電 導 特 有 の性 質 を 用 い た 機 器 が 実 用 化 あ るい は開 発 中 で あ る。 この状 況 を表9.3に
示 す。
表9.3 超電 導応 用 製 品
第10章 絶縁体 ・誘電体 の誘 電性
絶 縁 材 料 とは,電 界 が 印加 され た と き,材 料 を構 成 す る電 子,原 もつ 粒 子 が 束 縛 さ れ,ほ
子 な ど電 荷 を
とん ど動 く こ とが な い 材 料 で あ る。 し か し,電 界 印 加 に
よ っ て電 荷 を もつ物 質 は変 位 し,誘 電 性 とい わ れ る性 質 を示 す 。
10.1 誘 電 分 極
絶 縁 体 に外 部 か ら電 界 を 印加 す る と,電 荷 を もつ 粒 子,す
なわ ち 電 子,原 子 は
電 界 か らの 力 を受 け,そ の平 均 位 置 か らの偏 り を生 ず る 。 こ の こ と は,電 界 の増 加 過 程 で 電 荷 の動 きで あ る電 流 が 絶 縁 体 に生 ず る こ とに な るが,電
界の増加が止
まれ ば,電 流 が な くな る。 電 界 を作 る外 部 電 源 か ら見 れ ば,絶 縁 体 内 部 に増 加 過 程 で 流 れ た電 流 に相 当 す る電 流 が 流 れ る こ とに な る。 この電 流 は,絶 縁 体 を通 過 す る こ とな く,電 極 表 面 に電 荷 と し て蓄 え られ る。 一 方,絶 は,絶 縁 体 表 面 に電 荷 と して蓄 え られ,こ
縁 体 内 を流 れ た 電 流
の大 き さ は電 極 表 面 に蓄 え られ た 電 荷
と等 し く符 号 が 異 な る。 この よ う に,電 極 間 に絶 縁 体 が 存 在 す る と,電 極 に供 給 され る電 荷 は増 大 す る。 また,こ の 状 態 か ら外 部 電 界 を減 少 させ る と,こ の蓄 え られ た 電 荷 が も との 平 衡 状 態 に戻 り,こ の過 程 で 逆 向 き の電 流 が 流 れ る。 この現 象 を誘 電 分 極 も し くは分 極 と呼 ぶ 。 この よ うに分 極 を起 こす 材 料 は誘 電 材 料 と も 呼 ばれ る。 電 荷 を も った もの で 構 成 され る物 質 は,言 い換 えれ ば,あ
ら ゆ る我 々
が 目 にす る こ との で き る物 質 は誘 電 材 料 で あ る と言 え る。 しか し,導 電 性 を もつ 物 質 は,電 荷 の移 動 に伴 う電 流 が 分 極 に よ る電 流 よ り大 きい ので,通
常誘電材料
と は呼 ば れ な い。 電 極 に与 え られ る電 圧 をV,こ
の 電 圧 を与 え る た め に 供 給 され た 電 荷 をQと
す る と,こ の 電 極 間 の 静 電 容 量Cは,次
の よ う に定 義 され る。
(10.1) 電 極 が 置 か れ て い る媒 質 が 誘 電 材 料 の 場 合 の静 電 容 量 をCd,真 電 容 量 をC0と
空の場 合 の静
す る と,こ の比
(10.2) を比 誘 電 率 と呼 び,誘 電 材 料 の 固 有 の値 で あ る。 この値 は,分 極 の程 度 を評 価 す る指 標 とな り,か つ 実 用 的 に も有 用 な量 で あ る。 この値 は1よ 電 磁 気学 に よれ ば,単 位 体 積 当 た りの分 極 をPと
り大 きい 。
す る と,電 束 密 度Dは
(10.3) で 表 され る。Dと
電 界Eと
の 比 は物 質 の 誘 電 率 と呼 ばれ,
(10.4) で 表 され る。ε=ε0εsの関 係 が あ る。 この よ う に,誘 電 体 中 の分 極 は,電 束 密 度 に 繰 り込 み 取 り扱 う こ とが で き る。 な お,物
質 に よ っ て は 分極 の 大 き さ は外 部 電 界
に比 例 す る とは限 らな い し,分 極 の 向 き も電 界 の 向 き と一 致 す る とは限 らな い。 従 っ て,一 般 的 に は誘 電 率 は テ ンソル 量 に な り,か つ,電 界 依 存 性 の あ る量 に な る。 しか し,多
くの誘 電 体 は均 質 か つ 等 方 性 を有 し て い て,分 極 の 方 向 は電 界 の
方 向 と一 致 し,か つ,そ の 大 き さ も電 界 に比 例 す る。 従 っ て,誘 電 率 は ス カ ラー 量 の 定 数 とみ なせ る こ とが 多 い。
10.2 分 極の時 間遅 れ お よび損 失
分 極 が 起 き る とき,誘 電 体 中 の 電 荷 の 動 きに は種 々 形 態 が あ る。 これ は,電 荷 の 平 衡 位 置 か らの ず れ に対 して,ど
の よ う な力 が働 くか に よ っ て 異 な る。 基 本 的
に は,平 衡 位 置 か らの ず れ量 に比 例 す る逆 向 きの力 と,動
く速 度 に比 例 す る粘 性
力 が 考 え られ る。外 部 か ら の電 界 に よ り,新 た な 平 衡 位 置 に電 荷 が 移 動 す る に は, あ る時 間 を必 要 とす る。 この 時 間 は分 極 の メ カ ニ ズ ム に よ っ て異 な る。 電 磁 波 周 波 数 領 域 で は 分 極P0を
与 え た電 界 をt=0で
と り去 っ た と き,分 極Pの
時間変
化 は,通
常,次
の 式 に 従 う。
(10.5) τ を 緩 和 時 間 と 呼 ぶ 。 ま た,
(10.6) を緩 和 周 波 数 と呼 ぶ 。 分 極 の 時 間 遅 れ に対 応 して,誘 電 率 も時 間 の 関 数 とみ な せ る。角 周 波 数 ω の正 弦 波 交 流 を 印 加 した 場 合,交
流 理 論 に対 応 して,誘 電 率 は複 素 数 とみ な せ る。 こ
れ を実 数 部 と虚 数 部 に分 けて, (10.7) と表 す 。 これ を複 素 誘 電率 と呼 ぶ 。ε"は 時 間 遅 れ の 項 を表 し,交 流 を 印加 し た場 合 に 起 き る損 失 を示 す 項 で あ る。 この よ う に分 極 の 時 間 遅 れ の た め に,電 界 と電 流 と の位 相 差 が π/2で な くな り,損 失 が 発 生 す る。 これ よ り,交 流 の 電 界 を 印加 した 場 合 に は,損 失 が誘 電 材 料 に発 生 す る。 この た め,発 熱 や,電 源 の エ ネ ル ギ ー の 散 逸 が 起 き る。
10.3 誘電損 失 と等価 回路
誘 電 体 に交 流 電 界 を印 加 した場 合 の 電 気 的 性 質 を 考 えて み る。 この場 合,誘
電
体 の 等 価 回 路 を考 え る と理 解 しや す い 。 先 に述 べ た誘 電 体 の性 質 を表 す電 気 的 等 価 回 路 は 図10.1の
よ うに 構 成 さ れ る。
この 等 価 回路 で は,外 部 か ら印 加 され る 電 圧 の角 周 波 数 を ω とす る と,こ の ア ド 図10.1 誘 電 体 の電 気 的等 価 回路
ミ ッ タ ン スY(ω)は,
(10.8) で 与 え ら れ る 。 こ こ で,τ=CdcRで
あ り,誘
電 体 の 緩 和 時 間 に 相 当 す る 。 静 電容
量 は,式(10.8)の
虚 数 部 分 を ω で 割 っ た 値 で,
(10.9) で 表 さ れ る。 また,損
失 角 は,実 数 部 分 と虚 数 部 分 の 比 で
(10.10)
とな る。 実 効 値Vの
電 圧 を 印加 した 時 の損 失 は,
(10.11) で 与 え られ る 。 こ こで,Re(z)はzの
実数部分 を示す。
この損 失 は 電 圧 の 自乗 に比 例 す るか ら,高 電 圧 で は大 き くな り,電 力 送 電 で は 発 熱 に伴 う機 器 の 破 損 等 が 問 題 とな る し,ま た,周 波 数 に比 例 す る こ とか ら,通 信 で は高 い周 波 数 成 分 の 減 衰 が 大 き くな り,通 信 周 波 数 の制 限 を与 え る要 因 とな る。
10.4 分 極 の 種 類
実 在 の 誘 電 体 は,多
くの分 極 の メ カ ニ ズ ム を有 し て い る 。 こ の た め,そ の 緩 和
時 間 も広 い範 囲 に わ た り,か つ,一 つ の 誘 電 体 が 多 くの緩 和 周 波 数 を もつ 。 こ こ で は,こ
の分 極 の種 類 を述 べ る。
(a) 電 子 分 極 原 子 内 の原 子 核 と電 子 とが 外 部 電 界 に よ り分 極 す る。従 っ て, あ らゆ る材 料 に電 子 分 極 が 起 きる 。一 般 的 に,こ の 分 極 の 大 き さ は,単 位 体 積 当 た りの 原 子 の 数 に比 例 す る。 また,個 々 の 原 子 内 の 分 極 の 大 き さ は 原子 の 半 径 の 3乗 に比 例 す る の で,原 子 の 大 き な もの ほ ど増 加 す る 。この 緩 和 周 波 数 は,可 視 光 線 ∼ 紫外 線 の 周 波 数 で あ り,非 常 に高 い周 波 数 で あ る。 従 って,通
常我 々 が 対 象
とす る電 磁 波 領 域 で は一 定 の 誘 電 率 を与 え る。 (b) 原 子 分 極 イ オ ン結 合 を して い る物 質 な ど,原 子 間 で 電 子 をや り と り し
てそれ ぞ れ の原 子 が 電 荷 を有 して い る とき,こ れ ら原 子 が 外 部 電 界 で その 位 置 を 変 え,分 極 す る。原 子 は 電 子 よ り も質 量 が 大 き い た め,緩 和 周 波 数 は小 さ くな り, 赤 外 線 の周 波 数 で あ る。 従 って,原 子 分 極 をす る材 料 は,電 子 分 極 か らの 寄与 と 合 わ せ て誘 電 率 が 大 き くな る。 イオ ン結 合 物 質 の 代 表 的 な もの はセ ラ ミ ッ クな ど の金 属 酸 化 物 で あ る。 (c) 配向 分 極 分 子 内 で 電 子 をや り と り して 電 荷 の 偏 りが あ る と き,こ の分 子 は外 部 電 界 が な くて も分 極 して い る こ とに な る 。 こ の電 荷 の 偏 りが 空 間 に対 し て対 象 中 心 を もた な い と き,外 部 か ら双 極 子 と して観 測 さ れ る。 これ を永 久 双 極 子 と い う。 な お,外 部 か ら電 界 を与 え る と,双 極 子 が 生 ず る物 質 もあ るが,こ
の よ う に,
外 部 電 場 に よ り作 られ る双 極 子 は誘起 双 極 子 と よ ばれ る。 永 久 双 極 子 を もつ 分 子 を有極 性 分 子 と い う。 こ の よ うな 分 子 は,外 部 電 界 が な い とき は,永 久 双 極 子 が 熱 平 衡 に よ りラ ン ダ ム な 方 向 を 向 き,多 数 の分 子 の 集 合 体 で は そ の総 和 は ゼ ロ と な る。 従 っ て,分 極 は観 測 され な い。 外部 電 界 が与 え られ る と,こ れ ら永 久 双 極 子 は熱 運 動 に逆 ら っ て 電 界 の 方 向 に配向 す る。 こ の よ う な 分 極 を配向 分 極 と い う。配向 分 極 で は,温 度 が 高 い ほ ど分 極 の大 き さが 小 さ くな り,緩 和 周 波 数 は高 くな る。 また,こ
れ は,誘 電 体 の 分 子 の並 び 方(内 部 構 造)に よ っ て も変 化 す る。
この よ う に,有極
性 分 子 の配向 に よ る分 極 は そ の 動 き に 時 間 が か か り,緩 和 周 波
数 は,通 常 我 々 が 利 用 し て い る交 流 周 波 数 ∼ 電 波周 波 数 の 領 域 で あ り,材 料 に よ り様 々 な値 を と る。 従 っ て,工 学 的 に 重 要 な分 極 で あ る。 (d) そ の 他 の 分 極 誘 電 体 内 に動 き う る電 荷(キ ャ リヤ)が あ る とき,電 界 に よ り これ が移 動 す るが,電 極 まで 到 達せ ず,電 極 界 面,あ の 界 面 等 に捕 捉(ト
る い は誘 電 体 中 の 異 種
ラ ッ プ)さ れ る ものが あ る。 この よ う な分 極 を界 面 分 極 ,あ
る い は 空 間 電 荷 分 極 と呼 ぶ 。 一 般 的 に,こ の よ うな 分 極 の 緩 和 周 波 数 は きわ め て 低 く,数Hz以
下 で あ る。
10.5 種 々材 料 の誘電特 性 と用途
誘 電 材 料 は,主
とし て電 気 絶 縁 に 用 い られ る。 プ ラス チ ック材 料 は成 形 加 工 を
行 い や す く,非 常 に多 種 類 の 絶 縁 と して 広 く用 い られ る。 プ ラ ス チ ッ ク は誘 電 率 が 小 さ く,か つ無 極 性 物 質 で は,誘 電 損 失 が 小 さ く,か つ 絶 縁 破 壊 電 圧 も高 い と い う,絶 縁 材 料 と して 優 れ た性 質 を有 して い る。 セ ラ ミッ ク は耐 熱性 が 高 く,化 学 的 に安 定 な材 料 で あ り,屋 外 な ど太 陽光 線 や 風 雨 に さ らさ れ る絶 縁 が い しや, 高 温 で の 絶 縁,高 温 の 製 造 プ ロ セ ス を 必 要 とす るハ イ ブ リ ッ ドICの 基 板 な ど の 用 途 に 用 い られ る。 他 に も,強 誘 電 性,圧
電 性 な どの 特徴 を有 して い る材 料 が あ
り,こ れ を利 用 した機 器 に用 い られ る。
10.6 強 誘 電 性
誘 電 体 の な か に は,外 部 か ら電場 を印 加 しな い状 態 で も,分 極 が起 き て い た り (自発 分極),分
極 に履 歴 効 果 が あ る一 群 の物 質 が 存 在 す る。 この よ う な物 質 を強
誘 電 体 と呼 ぶ 。 若 干 の例 外 を除 い て,強 誘 電 体 は低 温 で は 自 発 分 極 を有 して い る が,あ
る温 度(キ
ュ ー リ温 度)以 上 で は 自発 分 極 が 消 滅 す る 。 こ の こ とは,強 誘
電 体 は原 子 間 に 分 極 を有 す る よ うに 配 列 す る よ う な力 を有 して い て,温 度 が 高 く な る と熱 運 動 に基 づ く この 秩 序 を破 壊 す る力 が,こ れ を超 え る よ うに な り自発 分 極 が起 き な くな る と考 え られ て い る。 強 誘 電 体 は電 場 が な い状 態 で も 自発 分 極 が 起 き る。 この 自 発 分 極 は,あ つ が,各
る小 さ な 分 域(ド
メ イ ン)内 部 で は同 一 の 向 きを も
ドメ イ ンで の分 極 の 向 きは様 々 な方 向 を 有 し て い る。 従 っ て,全 体 と し
て 見 れ ば分 極 は 現 れ な い か,小 さ くな る 。図10.2に O点 に 分 極 は あ るが,こ
示 す よ う に,電 場 が0の
とき
れ に外 部 か ら電 場 を与 え る と,電 場 方 向 を向 い た 分 極 の
ドメ イ ンが 成 長 し,そ うで な い ドメ イ ン は縮 小 し,全 体 の分 極 はA点
を通 る線 に
沿 っ て 急激 に増 大 す る。 電 場 が あ る値 を超 え る と,全 体 が 電 場 の 向 き の単 一 ドメ イ ン とな り,B-C点
の よ うに 急 激 な分 極 の 増 大 は な くな る。電 場 を再 び0に 戻 し
図10.2 強誘 電 体 の分 極 と電界 との 関係
い っ て も,電 場 方 向 の分 極 は残 り,B-Dを
た ど り,電 場 が0の
時 も分 極Psが
残
る。電 場 を逆 方 向 に増 や して い け ば,分 極 は図 の 矢 印 に沿 って の 曲線 上 を た ど り, 分 極 の 履 歴 特 性 が 生 ず る。 強 誘 電 体 の誘 電 率 は一 般 に大 き く,キ ュ ー リ温 度Tcよ
り高 い 温 度T>Tcで
(10.12) の キ ュ ー リ ワ イス の法 則 に従 う。 この よ う に,誘 電 率 は キ ュー リ温 度 付 近 で極 大 を示 す。 キ ュ ー リ温 度 は誘 電 体 の 結 晶 構 造 が 変 化 す る相 転 移 温 度 で あ る。 古 くか ら知 られ て い る,強 誘 電 体 の代 表 的 な物 質 で あ る チ タ ン酸バ リウ ム を例 に とっ て そ の 特 性 を考 えて み る。 この 化 学 式 はBaTiO3で あ る。そ の誘 電 率 の 温 度 依 存 性 を 図10.3に
あ り,キ ュ ー リ温 度 は120℃
で
示 す 。誘 電 率 の急 変 点 を境 に結 晶 構 造
が変 化 す る。 従 っ て,チ タ ン酸 バ リウ ム は4種 の相 が あ る こ とが 分 か る。120℃ 以 上 で 式(10.12)に
従 っ た 誘 電 率 の 変 化 が 起 き る。
強 誘 電 体 は誘 電 率 が 大 きい こ とや,履 歴 効 果 等 の 性 質 を利 用 して 小 型 大容 量 コ ン デ ンサ,強 誘 電 体 メ モ リー 等 に用 い られ る し,相 転 移 温 度 で の 誘 電 率 が大 き く な る こ と を利 用 して 温 度 セ ンサ,赤 外 線 セ ンサ 等 に応 用 され る。 また,後 述 の 圧 電 性 を 用 い る用 途 も多 い。 現 在,強 誘 電体 は,履 歴 効 果 を応 用 した 半 導 体 メ モ リ ー と して 低 電 圧 ,高 速 動 作,不
揮 発 性 とい う非 常 に優 れ た 特 長 が 期 待 さ れ,実 用
化 が 始 ま って い る。 強 誘 電 体 に は多 数 の種 類 が あ る が,代 表 的 な物 質 は以 下 の も
図10.3 チ タ ン酸 バ リ ウム単 結 晶 の比 誘 電 率 と温 度 の関 係 (W.J. Merz:Phys.Rev.75,687p,1949)
の が あ る。
ジ ル コ ン酸 チ タ ン酸 鉛(PZT)Pb(Zr,Ti)O3
種 々 の添 加 物 を加 え た組 成 が
存 在 す る。 強 誘 電 体 メ モ リー,圧 電 効 果 応 用 等 に 用 い られ る。 ス トロ ン チ ウ ム ビス マ ス タ ン タル 酸 化 物(SBT)
強 誘 電 体 メモ リー用 に検
討 さ れ て い る。
10.7 圧 電 性
誘 電 体 に圧 力 を加 え る と,歪 み に よ り分 極 が 起 き る。 これ は,誘 電 体 結 晶 の非 対 称 性 に起 因 す る と考 え られ て い る。 結 晶 が対 称 中心 を もた な い と,変 形 が 起 き た とき正 負 電 荷 の 中 心 が 分 離 して分 極 が 起 き る。 この よ う に,応 力 に よ っ て分 極 が 起 き る性 質 を圧 電 性 と呼 ぶ 。 強 誘 電 体 は 同 時 に圧 電 性 を有 す る。 一 方,圧
電 性 を有 す る誘 電 体 に電 界 をか け る と変 形 が起 き る。 これ は,歪 み に
よ っ て 分 極 が 起 き る こ とか らの 熱 力 学 的 な 当然 の 帰 結 で あ る。 従 っ て,観 測 で き る電 界 と応 力 とを,あ
る関 係 で 結 び つ け る こ とが で き る。
歪 み の成 分 は6個 あ り,電 界 の成 分 は3個 あ るか ら,圧 電性 を表 す に は テ ン ソ
ル 量 が 必 要 で あ る 。 歪 み をxh(h=1,2,…,6),電
界 をEm(m=1,2,3)で
表 す と
き,
(10.13) を圧 電 定 数 と呼 ぶ 。 この よ う に,圧 電 性 を有 す る誘 電 体 は,機 械 的 変 位,振
動を
電 気 的 信 号 に 変 え,か つ,電 気 的 信 号 を機 械 的変 位,振 動 に変 え る こ とが で き る。 この た め,振 動 子 と して電 子 回 路 の フ ィル タ,発 振 器,超 音 波 セ ンサ/発 信 器,圧 力 計,ア
ク チ ュ エ ー タ な ど多 方 面 に使 わ れ る。 圧 電 誘 電 体 の例 と して 次 の もの が
あ る。 水 晶SiO2
最 も広 く使 わ れ る圧 電 結 晶 で あ る。 圧 電 定 数 は最 大 成 分 でd11=
2.3×10-12〔m/V〕 程 度 で あ る。 水 晶 は,熱 膨 張 率 が 非 常 に小 さ く,他 の 電 気 的 特 性 の 温 度 変 化 も小 さ い 。 また,機 械 的 振 動 に よ る損 失 も小 さい 。 従 っ て,そ
の機
械 的 固 有 振 動 の 温 度 変 化 が 非 常 に小 さ い た め,こ の 共 振 周 波 数 を基 準 と した 水 晶 振 動 子 は,安 定 な周 波 数 の 発 振 器,フ
ィル タ な ど に広 く使 わ れ る。 また,温 度 に
よ る変 化 が 小 さい こ とを利 用 して,圧 力 セ ンサ,ジ
ャ イ ロ な ど機 械 的 変 化 の セ ン
サ に適 した 材 料 で も あ る。 チ タ ン酸 バ リウ ム
こ れ は 強 誘 電 体 で も あ る 。d15=3.9×10-lO〔m/V〕
程度 の
圧 電 定 数 を もつ。 ジ ル コ ン酸 チ タ ン酸 鉛(PZT)Pb(Zr,Ti)O3
チ タ ン酸 バ リウ ム の2倍 程 度
の圧 電 定 数 を もち,絶 縁 破 壊 強 度,機 械 的 強 度 が 高 い な どで 圧 電 材 料 の利 用 の 中 心 で あ る。 セ ンサ と して の 利 用 の ほ か に,ア を10nm程
度 の精 度 で 高 速(10μs)で
ク チ ュエ ー タ と して 数 十 μmの 変 位
制 御 で き,か つ,大
き な力(40MPa)を
出 す こ とが で き る。 プ リ ンタ の 印 字 ヘ ッ ド,超 音 波 モ ー タ,ア ク テ ィ プ除 震 台 な どの 利 用 が され て い る。
10.8 焦 電 効 果
強 誘 電 体 の 自発 分 極 に よ り作 られ る電 荷 は,表 面 や 内 部 の 漏 洩 抵 抗 に よ り,長
時 間後 に は消 失 し,外 部 か ら観 測 さ れ な い が,温 度 変 化 に応 じて 自発 分 極 が変 化 し,そ の結 果,表
面 に電 荷 が 誘 起 さ れ る。 こ の よ うに,温 度 変 化 に応 じて電 荷 が
誘 起 さ れ る効 果 を焦 電 効 果 と呼 ぶ 。 温 度 の僅 か の変 化 を検 出 で き るた め,赤 外 線 セ ン サ や 温 度 セ ン サ と し て 用 い ら れ る。PZT,TGS((NH2-CH2-COOH)4 H2SO4);硫
酸 グ リ シ ン),PVDF(CH2-CF2)n;ポ
リ フ ッ化 ビ ニ リデ ン)な
どが
知 られ て い る。
10.9 電 気 光 学 効 果
誘 電 体 で 可視 光 や 赤 外 光 を透 過 す る多 くの物 質 が あ る。 この 物 質 の な か で,電 界 を印 加 す る と屈 折 率(誘
電 率)が
変 化 す る物 質 が あ る。 屈 折 率 の変 化 は,主
と
して 屈 折 率 の異 方 性 と し て現 れ る。 光 の 屈 折 率 が,印 加 電 界 に 比 例 して 起 き る効 果 をポ ッケ ル ス 効 果,印
加 電 界 の 自乗 に比 例 して起 き る効 果 を力― 効 果 と呼 ぶ 。
これ は,誘 電 体 結 晶 が電 場,応
力 に よ り歪 む た め起 き る。 これ らの 効 果 は,光 の
高速 変 調 や 光 ス イ ッチ な ど に用 い る こ とが 検 討 され て い る。PZTにLaを PLZTは
加 えた
ポ ッ ケ ル ス 効 果 や カ ー 効 果 を組 成 に よ っ て与 え る こ とが で き る。PLZT
は 同 時 に,強 誘 電 体 で圧 電 性 を有 す る組 成 も あ り,こ の性 質 の 応 用 も考 え られ て い る。
10.10
液 晶
10.10.1
温度転移型液晶
液 晶 は,温 度 上 昇 に よ り固体 か ら液 体 に相 変 化 す る と き,固 相 と液 相 との 中 間 に あ る温 度 範 囲 で,液 晶 相 と呼 ばれ る状 態 が存 在 す る物 質 で あ る。 液 晶 相 で は, 流 動 性 を示 す が,光
学 的 に は 等 方 性 を有 して お らず,温 度 が 高 くな り,液 相 に移
る と等 方 性 を有 す る状 態 とな る。 液 晶 相 を有 す る物 質 の多 くは,環 状 基 を有 す る 細 長 い分 子 構 造 を有 す る高 分 子 化 合 物 で あ る。 細 長 い 分 子 構 造 の 中 心 部 は剛 直 な
結 合 構 造 で,そ
の両 端 に ア ル キル 基 な どの屈 曲性 の 末 端 基 が 存 在 す る。 この よ う
な 構 造 の分 子 は,液 晶 相 で は 流 動 性 は示 す が分 子 長 軸 の配 列 方 向 に は 一 定 の長 距 離 秩 序 が存 在 す る。分 子 の 長 軸 が 同 一 方 向 に配 列 す る こ とか ら,誘 電 率,屈 折 率, 磁 化 率 な どの 電 気 的性 質 に異 方 性 が 現 れ る。 この よ う な配 列 の 存 在 は,一 種 の 固 体 結 晶 の特 長 を もち合 わ せ て い るが,液
晶相 は流 動性 を もつ た め に,そ の 配 列 状
態 は電 界 な どの 弱 い外 力 で も変 化 す る。 また,配 列 方 向 は,液 晶 の接 す る他 の 固 体 物 質 の表 面 の 影 響 を受 け る。液 晶 は,そ の配 列 の 形 態 に よ り,ネ マ テ ィ ック 相, コ レス テ リ ッ ク相,ス
メ ク テ ィ ッ ク相 な どに分 け られ る。 液 晶 を誘 電 体 と して み
た場 合,緩 和 時 間 が100ms程
度 の誘 起 双 極 子 に よ る 配 行 分 極 を起 こす 物 質 と見
な せ る。 液 晶 は電 界 を印 加 す る こ とに よ り,屈 折 率 の異 方性 の 方 向 を容 易 に変 化 させ る こ とが で き る た め,光 学 的 応 用 が 広 く行 わ れ て い る。 液 晶 デ ィス プ レ イ,液 晶 プ ロ ジ ェ ク タ な どで あ る。
10.10.2
強誘電性液晶
液 晶 に は,自 発 分 極 を もち,強 誘 電 性 を有 す る液 晶 相 も存 在 す る。 この液 晶 を 1μm程
度 の 間 隔 を もつ2枚
の 基 板 に夾 む と,基 板 表 面 の 影 響 を受 け て 基 板 に 長
軸 が 平 行 に 配 列 す るが,長 軸 の 面 内 の 向 きが 異 な る二 つ の 安 定 状 態 が 存 在 す る。 これ に電 界 を 印加 す る と,自 発 分 極 と電 界 との 関 係 で,そ
の 向 き を変 え る こ とが
で き る 。こ の 向 きの 変 化 速 度 は10μs程 度 と,通 常 の 液 晶 の100ms程
度 に比 べ て
非 常 に速 い 。 ま た,電 界 を取 り除 い て も この状 態 を保 持 す る。 この た め,高 速 動 作 液 晶 デ ィス プ レイ や メ モ リ と して の応 用 が期 待 され て い る。
10.10.3
濃 度 転移 型液 晶
あ る種 の物 質 を,あ
る濃 度 で 溶 媒 に溶 か した と き液 晶 相 を呈 す る物 質 が あ る。
この 物 質 は濃 度 転 移 型 液 晶 と呼 ばれ 生 物 組 織 に多 く見 られ る。
第11章 絶縁破壊 と高電圧絶縁
電 力 送 電 な ど を行 う場 合,送
られ るエ ネ ル ギ ー は送 電 電 圧 と電 流 の積 と な る か
ら,高 電 圧 で送 電 を行 う こ と は重 要 な 技 術 課 題 で あ る。 これ に は,高 電 圧 絶 縁 の 技 術 が 基 本 とな る。 また,送 電 以 外 の あ らゆ る分 野 で も,高 電 圧 絶 縁 の 技 術 は絶 縁 厚 さ の減 少 な ど小 形 化,経
済 性 か ら重 要 な技 術 で あ る。
11.1 絶 縁 破 壊 の メ カ ニ ズ ム
絶 縁 材 料 に高 電 界 を 印加 す る と,あ る電 界 を超 え た と こ ろで,電 つ い に は絶 縁 破 壊 に到 る。 こ の こ と は,高 電 界 で は,何
流 が 急 増 し,
らか の導 電 メ カ ニ ズ ム が
存 在 す る こ とを意 味 す る。 絶 縁 破 壊 は非 常 に複 雑 な過 程 をた どる こ とが 多 い が, 基 本 的 に は 非 常 に少 な い 数 の 動 き う る荷 電 物 質,例 ギ ー を得 て,絶 縁 体 物 質 か ら動 き う る電 子(以
え ば,電 子 が 電 界 か らエ ネ ル
後,自
由 電 子 と呼 ぶ)を 作 りだ し
て い く 自己 増 殖 作 用 に基 づ く。 こ こで は,単 純 な モ デ ル を考 え絶 縁 破 壊 を理 解 す る こ とを考 え て み る。 絶 縁 材 料 中 に は非 常 に少 な い 数 で は あ るが,自 由 に 動 け る電 子 が 存 在 す る。 この 電 子 は, 電 界 下 で は 電 界 に よ り加 速 さ れ,他
の 原 子 や 分 子 に衝 突 しそ の エ ネ ル ギ ー を 失
う。 しか し,こ の電 子 が 衝 突 した 原 子 や分 子 か ら電 子 を分 離 す る,言 い換 えれ ば, 電 離 し う る だ け の エ ネ ル ギ ー を有 し て い る場 合 は,新 た な 自 由電 子 を作 りだ す 。 この 場 合 は,こ の電 子 も電 界 で加 速 さ れ,衝 突 に よ りさ らに 自 由 電 子 を産 み 出 す の で,自
由 電 子 の 数 は指 数 関 数 的 に増 大 し大 きな 電 流 が 流 れ る。 これ が 絶 縁 破 壊
の 基 本 的 メ カ ニ ズ ム で あ る。 この メ カ ニ ズ ム か ら,絶 縁 破 壊 電 界 が ど の よ う な大 き さ に な る か を考 え る う え で 必 要 な こ と は,次 の 二項 目 とな る。 ① 電 子 が 他 の 分 子,原 子 と衝 突 して 電 離 を行 う に は,ど の 程 度 の エ ネ ル ギ ー
が必要 か。 ② 電 子 が他 の 分 子,原
子 に衝 突 す る まで に,ど の 程 度 の 距 離 を走 れ るか 。
項 目① は電 離 電 圧 と呼 ばれ る。 これ は原 子,分 子 の 種 類,そ
の結合形態 によっ
て 異 な る こ とは 言 う まで も な い。 一 般 的 に言 え ば,電 子 が 絶 縁 材 料 を構 成 す る原 子 に ど の よ う な 強 さで 捕 わ れ て い るか と言 う こ と で あ る 。絶 縁 材 料 は電 子 が 原 子,分 子 に常 温 付 近 の熱 エ ネ ル ギ ー に よ って 電 離 さ れ な い程 度 に強 く拘 束 され て い るの で,そ
の大 き さ の レベ ル は1∼ 数10eV程
度 で ある。
項 目② は 電 子 の平 均 自 由行 程 と呼 ば れ る。 これ は単 位 体 積 当 た り どの程 度 の 数 の 原 子,分
子 が 存 在 す る か , また 一 つ の原 子,分
子 が どの 程 度 の 大 き さ を もつ か
(衝突 断 面 積 と言 う)に よ って 決 ま る。 これ は あ ら ゆ る電 子 が い つ も同 一 の 距 離 を 走 れ る と言 う こ とで は な く,あ る電 子 は よ り長 距 離 を走 り,あ る電 子 は よ り短 距 離 を走 る。 従 っ て,こ の 走 る距 離 の 平 均 値 で表 され る。 さて,電 離 電 圧 を1eV,平
均 自由行 程 を λ〔m〕とす る と,電 界Eに
よ っ て電 子
は平 均 自 由行 程 λだ け走 る の で,電 界 か ら電 子 はEλ の エ ネ ル ギ ー を得 る。 こ の 値 が 電 離 電 圧Iに
な っ た と き,絶 縁 破 壊 が起 き る と考 え る と,
(11.1) が 絶 縁 破 壊 電 界 と な る。
11.2 気 体 の 絶 縁 破 壊
11.2.1
気 体 は,先
モ デ ル
に述 べ た 絶 縁 破 壊 の メ カニ ズ ム が ほ ぼ適 用 で き る性 質 を もつ 。 気 体
は そ の 圧 力,温 度 に よ っ て 単 位 体 積 当 た りの 原 子,分 子 の 数 が 変 化 す るが,常 温, 常 圧 で は固 体 や 液 体 に比 し て原 子,分 子 の 数 が1/1000程
度 で あ る。従 っ て,電 子
の平 均 自由 行 程 も大 き く,破 壊 電 圧 も低 い。 こ こで は,気 体 の 絶 縁 破壊 電 圧 が そ の圧 力 と電 極 間距 離 に よ っ て どの よ う に変 化 す る か を考 え て み る。 気体 中 に は,
僅 か な が ら放 射 線 な どに よ って 電 離 さ れ た 電 子 が 存 在 す る。 電 界 が 式(11.1)で 示 す 値 を超 え る と,こ の電 子 は他 の気 体 分 子 を 電 離 す る こ とが で き る よ う に な り,電 子 増 殖 作 用 が 起 き,絶 縁 破 壊 に い た る。 図11.1に
電 子 が 気 体 分 子 に衝 突
し,電 離 を 引 き起 こ し て電 子 増 殖 作 用 を 起 こ し て い くプ ロ セ ス を示 す。 これ は, 実 際 は,気 体 分 子 は そ の 熱 運 動 の た め に 高 速 で 移 動 して い る し,電 子 の衝 突 まで の 移 動 距 離 は個 々 の電 子 に よ り異 な る, 統 計 的 な もの で あ る。 この 図 は理 解 す る た め の モ デ ル で あ る こ と に注 意 さ れ た 図11.1 気 体 絶縁 破 壊 の模 式 図
い。
単 位 体 積 当 た りの 原 子,分 子 の数 は気 体 の 圧 力 に比 例 す る。 ま た,電 子 の平 均 自 由行 程 は圧 力 に反 比 例 す る と考 え られ る。従 っ て,破 壊 電 界 は圧 力 に比 例 す る。 この 考 え 方 で 絶 縁 破 壊 電 圧 を考 え る と,気 体 の 圧 力 をP,電 絶 縁 破 壊 電 圧 をVb,絶 (11.1)の
縁 破 壊 電 界 をEbと
極 間距 離 をdと
す る と,Vb=Ebdの
し,
関 係 を 用 い て,式
関 係 か ら,
(11.2) で 表 さ れ る。 こ こで,Kは
気 体 の 種 類 に よっ て 変 わ る定 数 で あ る。 な お,平 均 自
由行 程 が 電 極 間 距 離 よ り十 分 小 さい とい う条 件 が 前 提 で あ る。 圧 力 が 小 さ くな るか , あ るい は電 極 間 距 離 が 小 さ くな り,平 均 自 由行 程 が電 極 間 距 離 に近 づ くか 大 き くな っ た場 合 は,電 子 が 気 体 原 子,分
子 に衝 突 す る前 に電
極 に衝 突 す る こ とに な る。 この場 合 は,電 子 の増 殖 作 用 が 行 え な い の で,絶 縁 破 壊 は起 き に く くな る。 こ の時 は,絶 縁 破 壊 電 界 は上 昇 す る。 この場 合 で も,電 極 間距 離 と平 均 自 由行 程 の 比 が 同 じな ら ば,電 子 増 殖 作 用 は 同 じ で あ るか ら,同 破 壊 電圧 を もつ と考 え られ る。 これ は言 い換 えれ ば,破 壊 電 圧 はpdが
じ
同 じな ら
ば 同 じで あ る と言 う こ と を意 味 す る 。 従 っ て,一 般 的 に気 体 の 絶 縁 破 壊 電 圧Vb は,
(11.3) で 表 さ れ,pdの
関数 と な る。 これ はパ ッ シ ェ ン の 法 則 と呼 ば れ る。 この 関 数 形 は
pdの 大 き い と こ ろでpdに
比 例 し,小 さ くな る に従 っ て 最 低 値 を有 し,や が て増
大 し て い く。 この モ デル を よ り精 密 に 構 成 して 計 算 した と き,気 体 の破 壊 電 圧 は
(11.4) の形 式 を もつ 。C1とC2は
気 体 の 種 類,電
に よ っ て 決 ま る定 数 で あ る。 この 式 はpdの
極 へ の イ オ ン衝 突 に よ る電 子 放 出係 数 非 常 に 大 き い と き,も
し く は非 常 に
小 さ い と き,実 際 の測 定 値 と違 っ て くる が,破 壊 電 圧 最 低 値 付 近 で は比 較 的 測 定 値 と一 致 す る。 こ の破 壊 電 圧 とpdの
関 係 を 図11.2に
示す。
図11.2 気 体 の破 壊 電 圧 と圧 力-電 極 間距 離 の 関係 (パ ッ シ ェ ン の 法 則)
この よ う に,気 体 の破 壊 電 圧 は圧 力 と電 極 間距 離 の 積 の 関数 で あ り,破 壊 電 圧 は最 小 値 を もつ。 従 っ て,こ の 最 小 値 よ り小 さな 電 圧 で は,い か な る電 極 間 距 離 で も気 体 は絶 縁 破 壊 が 起 き な い 。
11.2.2
電気 的負 性 ガ ス
気 体 の 中 に は,電 子 と親 和 性 を有 し,電 子 を付 着 し負 イ オ ン に な りや す い もの が あ る。 この よ う な ガ ス は,電 子 増 殖 中 の電 子 を付 着 し減 少 させ る。 負 イ オ ン は 質 量 が 大 き く,電 界 で加 速 され て も他 の気 体 分子 を電 離 す る に は至 らな い の で, 絶 縁 破 壊 電 圧 が 高 くな る。 電 子 親 和 性 の あ る 気体 は電 気 的 負性 ガ ス と呼 ば れ,破 壊 電 圧 が 高 い た め,気 体 を用 い た 高 電 圧 絶 縁 に用 い られ る 。電 気 的 負 性 ガ ス と し て は,フ レ オ ンガ スやSF6の 電 圧 を有 す る。SF6が
ハ ロ ゲ ン を含 む気 体 が あ り,空 気 の3倍 程 度 の破 壊
化 学 的 に 不 活 性 で,か つ,高
い圧 力 まで 液 化 し な い た め 実
用 に供 せ られ る。 これ は加 圧 した状 態 で は,破 壊 電 圧 は油 浸 絶 縁 に匹 敵 す る。 気 体 絶 縁 体 は誘 電 率 が 小 さ く,か つ,誘 電 体 損 失 が きわ め て小 さい 。 従 っ て,高 周 波,あ
る い は高 電 圧 の絶 縁 に適 して い る。 気 体 絶 縁 に は そ れ を保 持 し,加 圧 す る
容 器 が 必 要 で あ るが,多 で あ る。 こ の た め,ガ
くの 異 な っ た 高 電 圧 機 器 を ま とめ て絶 縁 す る の に は便 利
ス絶 縁 変 電 所(GIS)な
どにSF6ガ
ス絶 縁 が 使 わ れ る。
11.3 液体 の絶縁破 壊
液 体 誘 電 体 は,気 体 に比 して 原 子 の 数 密 度 が 大 きい た め,高 い破 壊 電 界 を有 す る と考 え られ て い るが,そ
の メ カニ ズ ム は複 雑 で あ ま りよ く知 られ て い な い 。 こ
れ は固 体 の 絶 縁 破 壊 と同 様 に,他 の 要 因 に よ り現 実 の破 壊 が 起 き る こ とが 多 い 。 液 体 は不 純 物 を取 り込 み や す く,ま た ガ ス を溶 解 させ る た め,空 気 中 な どか ら水, 窒 素,酸
素 な どを溶 か し込 む 。 電 界 が 印加 され る と,こ れ ら溶 解 され た ガ ス は気
泡 を形 成 し,そ の気 泡 内 で の部 分 放 電 が 液体 の 破 壊 を もた らす こ とが 知 られ て い る。 ま た,不 純 物 な どの 欠 陥 部 で 部 分 破 壊 が 起 き る と,こ の 部 分 は ガ ス化 し,こ の 部 分 放 電 が 液 体 全 体 の 絶 縁 破 壊 を もた らす 。 実 用 液 体 絶 縁 機 器 は,こ
の よ うな 破 壊 現 象 を防 止 す るた め,液 体 中 に溶 解 して
い るガ ス を取 り除 く。 液 体 絶 縁 体 を真 空 層 に 導 き,溶 解 ガ ス を放 出 さ せ る脱 ガ ス 処 理 と,脱 ガ ス で も放 出 で き な い 成 分,不 純 物 を酸 性 白土 な ど の濾 過 , 吸 着 剤 で
取 り除 く こ とが 行 わ れ る。 液 体 単 独 で は絶 縁 と して 用 い られ る こ とは少 な く,紙 や プ レ ス ボ ー ド,ブ ラ ス チ ック 不 織 布 な どに含 浸 し て用 い られ る油 浸 絶 縁 が 通 常 実 施 され る。 油 浸 絶 縁 は 絶 縁 破 壊 電 圧 が 安 定 で,信 頼 性 が高 い と考 え られ,高 電 圧 変 圧 器,高
電圧電力 ケ
ー ブ ル と して 用 い られ て い る。液 体 絶 縁 体 は,そ れ を流 動 す る こ とが で き るた め, 冷 却 媒 体 を兼 ね る こ とや,絶 縁 劣 化 の診 断 に絶 縁 油 を採 取 し て分 析 で き る な どの 有 用 性 が あ る。 しか し,油 を保 持 す る容 器 が 必 要 で,か
つ,温 度 変 化 に対 し て そ
の 体 積 が 大 き く変 化 す る こ とか ら,体 積 変 化 を吸 収 す る装 置 が 必 要 で あ る。また, 容 器 破 損 時 の 問 題 や 取 り扱 い の 不 便 さ の た め,固 て,固
体絶 縁 技術 が進歩 す るに伴 っ
体 の絶 縁 に置 き換 え ら る方 向 に あ る。
11.4 固体 の絶縁 破壊
11.4.1
絶 縁 破 壊 の メ カニ ズ ム
固 体 の 絶 縁 破 壊 電 圧 は気 体 に比 べ て非 常 に大 き い。 これ は,気 体 に比 して 原 子 の 数 密 度 が 大 き い た め,動 い,他
き う る 電 子 は す ぐ に格 子 に 衝 突 し て エ ネ ル ギ ー を失
の 原 子 を電 離 す るだ けの 加 速 電 圧 を得 る こ とが で きな い こ とに よ る。 電 界
が 強 くな り,格 子 と衝 突 し て失 わ れ る エ ネ ル ギ ー よ り,電 界 に よ る加 速 エ ネ ル ギ ー の 方 が 大 き くな る と,電 子 の 運 動 エ ネ ル ギ ー が増 大 して い き,格 子 か ら電 子 を 電 離 す る に至 る。 この よ う に し て電 子 増 殖 が 起 き,絶 縁 破 壊 に至 る。 また,高 電 圧 で の 電 気 伝 導 に よ る発 熱 が,絶 縁 材 料 の 放 熱 よ り大 き くな っ て温 度 が 上 昇 して い き,絶 縁 破 壊 に至 る とい う熱 的 破 壊 の 考 え方 も あ る。 さ ら に,電 界 に よ る機 械 的 圧 力 に よ り,絶 縁 材 料 が機 械 的 に破 壊 され る とい う考 え 方 もあ る。こ の よ う に, 実 際 の 固 体 絶 縁 材 料 の破 壊 は,そ の材 料 と使 用 条件 に よ って,破 壊 の メ カ ニ ズ ム が 異 な る と考 え られ て お り複 雑 で あ る。 な お,こ
の よ う に 固体 絶 縁 材 料 自体 が 電 界 に よ っ て破 壊 す る こ とは,そ の 破 壊
電 圧 が 非 常 に 高 い こ と もあ って,現 実 の 使 用 条 件 で は珍 しい 。 実 際 の 固体 の 絶 縁
破 壊 は,主
と して 絶 縁 体 の 欠 陥 を起 因 とす る。 な お,欠 陥 に よ らな い 固 体 の絶 縁
破 壊 電 界 を真 性 絶 縁 破 壊 電 界 と呼 ぶ 。 固 体 絶 縁 体 は,電 極 間 を この 絶 縁 体 で 機 械 的 に支 え る こ とが で き る とい う,気 体,液
体 絶 縁 に な い特 長 が あ り,気 体,液 体 絶 縁 に も一 部 は必 ず必 要 な も ので あ
る。 固 体 絶 縁 の 中 で も,有 機 高 分子(プ 電 率,誘
ラ ス チ ック)材 料 は破 壊 電 圧 が 高 い,誘
電 損 が 小 さい,成 形 加 工 が しや す い,コ
ス トが 低 い とい う,絶 縁 材 料 と
して は非 常 に優 れ た 性 質 を有 して い るの で,非 常 に広 い 分 野 で使 用 され る。 しか し,有 機 高 分 子 は無 機 絶 縁 に比 べ て 化 学 的 に は不 安 定 で あ るた め,放 電,熱,光, 他 の 化 学 物 質 な ど に よ っ て変 化 し,劣 化 が 起 き る とい う問 題 点 が あ り,こ の考 慮 が 重 要 で あ る。 絶 縁 材 料 と して 用 い られ る有 機 高 分 子 の種 類 は,必 要 とす る特 性 か ら種 々 の もの が あ るが,高 電 圧 あ るい は高 周 波 の絶 縁 に は誘 電 率 が 小 さ く,か つ,誘 電 損 が 小 さい こ とが 望 ま しい 。 この た め,ポ EPRに
リエ チ レ ン,ポ リプ ロ ピ レ ン,
代 表 され る の ゴ ム,テ フ ロ ン な どの 無 極 性 高 分 子 が 用 い られ る。 ま た,複
雑 な 形 状 や 剛 性 の必 要 な用 途 に は,エ ポ キ シ樹 脂 な ど液 状 物 質 を絶 縁 形 状 に応 じ て架 橋 に よ り固 化 す る樹 脂 が 主 と して 用 い られ る。
11.4.2
絶 縁 劣化
固体 絶 縁 体 は,気 体,液
体 絶 縁 体 よ り高 い破 壊 電 界 を有 して い る た め,通 常,
そ の絶 縁 破 壊 は 固体 絶 縁 体 に内 包 さ れ て い る か,あ 低 い気 体,あ
る い は 周 囲 に あ る破 壊 電圧 の
る い は 液体 の 部 分 の絶 縁 破 壊(部 分 放 電)に
よ り もた らさ れ る。 こ
の 部 分 放 電 は,徐 々 に 固 体 絶 縁 体 に化 学 変 化 を 引 き起 こ して 固 体 絶 縁 体 を 浸食 し て い き,あ
る時 間 の後,絶
縁 破 壊 に至 る。 ま た,絶 縁 体 は通 常,常 温 よ り高 い 温
度 で使 用 さ れ,こ れ に よ り,長 期 間 の 間 に は酸 化 等 の 化 学 的 変 化 が 起 きる し,熱 的 な ヒー トサ イ クル は機 械 的 な 変 化 を もた ら す。 また,外 部 の 水 が 電 界 の作 用 に よ り絶 縁 体 内部 に拡 散 す るな どの 種 々 変 化 が 固 体 絶 縁 体 に は もた ら され る。 この よ うに 固 体 絶 縁 体 は 長 期 間 の 後 に は破 壊 電 圧 が 低 下 して い くこ とが 知 られ て い る 。 これ を絶 縁 劣 化 と呼 ぶ 。 (1) トラ ッ キ ング 劣 化
固体 絶 縁 体 の表 面 が,図11.3の
よ う に外 気 に さ ら
さ れ て い る と き,こ
の表 面 の電 界 に よ
り,絶 縁体 表 面 に 微 少 放 電 が 起 きる 。特 に,表 面 が 汚 損 され 水 分 が 付 着 す る と, これ が起 きや す い 。 こ の微 少 放 電 は,絶 縁 体 が 有機 物 で あ る と,こ の 分 子 を分 解 し炭 化 物 を析 出 させ る。 この 炭 化 物 は導 電 性 で あ るた め,表 面 に導 電 路(ト
ラッ
ク)を 作 り,こ の 先 に微 少 放 電 を発 生 さ せ つ つ成 長 し て い く。 この よ う な劣 化 を 図11.3
トラ ッ キ ング 劣 化 と呼 ぶ 。 トラ ッキ ング
トラ ッ キ ン グ 劣 化
劣 化 は,屋 外 で 有 機 絶 縁 材 料 を使 用 す る こ と を困 難 に して い る。 この た め,通 常 放 電 に対 して 化 学 的 に比 較 的安 定 で,か
つ,炭 化 物 を生 成 し な い セ ラ ミ ック無 機
絶 縁 材 料 が が い し と し て広 く使 わ れ る。 な お,有 機 絶 縁材 料 は軽 量,か 機 械 的 強度 を もた せ る こ とが で き,コ ス トも安 くで き るた め,ト
つ,高 い
ラ ッ キ ン グ劣 化
を起 こ しに くい材 料 が 望 まれ て い る。 トラ ッ キ ン グ劣 化 は絶 縁 材 料 の 表 面 に起 き る現 象 で あ る の で,表 面 に シ リコ ン樹 脂 な ど炭 素 を含 まな い 有 機 絶 縁 材 料 で覆 う な どが 検 討 され て い る。 (2) 部 分 放 電 劣 化
固 体 絶 縁 体 中 に気 体 の 微 少 な泡(ボ
イ ド)が 存 在 す る
と,そ の部 分 の電 界 は誘 電 率 が 小 さ い た め,絶 縁 体 中 よ り大 き くな る。 また,気 体 の破 壊 電 界 は 固体 よ りは るか に小 さい た め,こ
の ボ イ ド中 に放 電 が 起 き る。 こ
の よ う に,絶 縁 体 中 の 一 部 の 絶 縁 破 壊 に至 ら な い放 電 を部 分 放 電 と呼 ぶ 。 交 流 電 圧 の場 合 は こ の放 電 が 継 続 す る。 この部 分 放 電 は周 囲 の 絶 縁 を浸 食 す る。 特 に, 絶 縁 体 が有 機 物 で あ る と き は,有 機 高 分 子 を分 解 し低 分 子 の ガ ス を生 成 す る。 こ の 放 電 の絶 縁 体 を 浸 食 す る速 さ は そ れ ほ ど大 き くな い 。 しか し,こ の 浸 食 は不 均 一 で,こ れ が トリー イ ン グ劣 化 と呼 ば れ る劣 化 形 態 に移 る こ と も多 い 。 この場 合 は,急 速 な 劣 化 が 引 き起 こ され,絶 縁 破 壊 に 至 る こ とが 多 い。 ま た,絶 縁 油 で は, 固 体 に比 べ て 破 壊 電 圧 が 低 い た め,強 い 電 界 部 分 で 部 分 放 電 が 起 き る こ とが あ る。 この場 合,こ
の 放 電 に よ り,油 や絶 縁紙 が 分 解 し,水 素,メ
タ ン等 の ハ イ ド
ロカ ー ボ ン,一 酸 化 炭 素,炭
酸 ガ ス等 の低 分 子 の 生 成 物 を発 生 す る。 これ は,固
体 の よ う に ト リー イ ン グ 劣 化 に は 転 化 し な い が,油
の絶 縁 特 性 を徐 々 に 劣 化 さ
せ,長 期 間 の 後 に は絶 縁 破 壊 を もた らす こ とに な る。 この た め,絶 縁 油 を採 取 し そ の溶 解 成 分 を分 析 す る こ と に よ り,劣 化 の程 度 を診 断 す る こ とが 行 わ れ て い る。 (3) ト リー イ ン グ 劣 化 現 象 で,そ
主 と し て,プ
ラス チ ッ ク絶 縁 体 に起 き る部 分 破 壊
の形 状 が 木 の枝 に似 て い るの で トリー イ ング 劣 化 と呼 ばれ る。 ト リー
の枝 は数 μm程 度 の 直 径 を もつ 中 空 の管 で あ り,そ の 内部 で の 放 電 が,枝 先 端 の 部 分 の 強 電 界 に よ り固 体 絶 縁 材 料 を分 解 し て進 展 し,急 速 な 絶 縁 破 壊 を もた らす こ とが多 い 。 トリー は先 に述 べ た ボ イ ド 中 の部 分 放 電 か らス タ ー トす る ほか,絶 縁 材 料 中 の 異物,電
極 の 突 起 な ど,強 い
電 界 を生 ず る部 分 の絶 縁 体 が破 壊 す る こ と に よ っ て も引 き起 こ され る。 固体 絶 縁 体 は,こ の ト リー の生 成 に よ り最 終 段 階 で の破 壊 が 起 き る と考 え られ て い る。 な お,こ の トリー は,こ の 後 に述 べ る放 電 を 伴 わ な い 水 ト リー 劣 化 と 区 別 す る た め,電 気 トリー と も呼 ぼれ る 。図11.4に そ の例 を示 す 。 (4) 水 トリー 劣 化 な ど外 部 物 質 の 侵 入 劣 化
図11.4
電 気 トリー
有 機 高 分 子 は水,そ
の 他 の化
学 物 質 を透 過 す る。 これ は分 子 間 が フ ァ ンデ ル ワー ル ス力 とい う,弱 い エ ネル ギ ー で つ なが れ て い る こ とが そ の 主 原 因 で あ る。 この た め,有 機 高 分 子 絶 縁 体 は, 外 部 か ら化 学 物 質 が 内部 に入 っ て くる。 しか し,絶 縁 材 料 と して 用 い られ る有 機 高分 子 自体 の水 な どの化 学 物 質 溶 解 度 は通 常 きわ め て 小 さ く,絶 縁 特 性 に影 響 を 与 え る こ とは な い 。 しか し,電 界 中 で は,水 な どの液 体 物 質 の誘 電 率 が 大 きい 物 質 は,絶 縁 材 料 内部 で は,液 体 状 態 の ほ うが エ ネ ル ギ ー 的 に安 定 とな る場 合 が あ
る。 これ は,物 質 は,よ
り自 由 エ ネ ル ギ ー が 低 い状 態 に 相 変 化 す る とい う,熱 力
学 の 法 則 に従 うか らで あ る。 電 界 中 で は,自
由 エ ネ ル ギ ー は そ の誘 電 率 の 増 大 分
εに対 し て,自 由 エ ネ ル ギ ー はεE2/2だ け減 少 す る。 従 って,絶 縁 体 中 の 溶 解 し た 水 分 は,液 体 の 水 とし て凝 縮 した ほ うが誘 電 率 が 大 き くな り,安 定 とな る条 件 が 存 在 す る。 水 の 液 滴 の誘 電 率 は絶 縁 体 に比 し て非 常 に 大 き く,そ の 周 辺 に高 電 界 を形 成 す る た め,絶 縁 体 中 に トリー 状 に凝 縮 液 滴 群 が 形 成 され る。 これ が 水 ト リー と呼 ばれ る現 象 で あ る。 これ が 絶 縁 を橋 絡 す る と,絶 縁 破 壊 が 起 き る。図11. 5に そ の例 を示 す 。 水 トリー は ゴム,プ
ラ ス チ ッ ク ケ ー ブ ル 絶 縁 に主 と し て起 き
る劣 化 現 象 で あ る。 また,有 機 物 の腐 食,分
解 な ど に よ り発 生 す る硫 化 水 素 等 の
硫 黄 化 合 物 が 凝 縮 す る,化 学 トリー な どの 劣 化 も存 在 す る。
図11.5
水 ト リ ー(架
橋 ポ リエ チ レ ン絶 縁 電 力 ケ ー ブ ル 中 の 実 測 例)
第12章 磁性体
12.1 静 磁 気 概 説
電 気 的相 互 作 用 に は,電 荷 に よ り形 成 さ れ る電 場 に よ る クー ロ ン力 と,電 流 に よ り形 成 され るベ ク トル ポ テ ン シ ャル,あ 流 は,divJ=0の
るい は磁 場 に よ る磁 気 力 とが あ る。 電
関 係 か ら,電 流 の 湧 き出 し は存 在 せ ず,閉 回路,す
ル ー プ を形 成 す る。図12.1に の 電 流 ル ー プ は,電 流 をi,電
なわち電流
示 す よ う に,非 常 に小 さ な電 流 ル ー プ を考 え る。 こ 流 の 囲 む面 積 をS,電
る 法 線 方 向 の 単 位 ベ ク トル をnと
流 と右 ネ ジ方 向 のSに
対す
す る と,磁 気 モ ー メ ン ト
(12.1)
図12.1
小 さな電 流 ル ー プ
図12.2
任 意 の 大 き さ を もつ 電 流
ル ー プ の微 少 電流 ルー プ に よる 合成
を もつ 。任 意 の大 き さ を も つ電 流 ル ー プ は,図12.2に
示 す よ う に,非 常 に 小 さい
電 流 ル ー プ の,平 面 上 に並 ん だ 集 ま りの合 成 と見 な せ るか ら,電 流 に よ る磁 場 は, 対 応 した 磁 気 モ ー メ ン トの 集 ま り と等価 で あ る とみ な し て考 え る こ と もで き る。 さ て,こ
の磁 気 モ ー メ ン トが磁 界He中
に あ る と き,そ の ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ
ーは
(12.2) で 表 さ れ る 。 こ こ で,θ
また,こ
は磁 気 モ ー メ ン トMと
れ が 球 座 標 の原 点 にあ り,Mが
磁 界Heと
ψ=0方
の な す 角度 で あ る。
向 を向 い て い る と き,外 部 に
磁場
(12.3)
を 作 る 。 こ の こ と か ら,図12.3に
示 す よ う な,2個
の 磁 気 モ ー メ ン トの 系 の ポ テ
ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー は,
(12.4) とな る。 この ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギー は,磁 気 ダ イ ポ ー ル の 向 き に よ り正 に も負 に も な る が,距 離 が 一 定 の場 合,そ の 最 大 最 小 の 差 は
(12.5) で与 え られ る。 最 大 は磁 気 ダ イ ポー ル が 互 い に 向 き合 っ た場 合 で あ り,最 小 は 同 じ方 向 を向 い た 場 合 で あ る。2個 の磁 気 図12.3
2個 の 磁 気 モ ー メ ン ト
ダ イ ポ ー ル の 位 置 が 固 定 され,回 転 が 自 由 で あ れ ば 系 の エ ネ ル ギ ー が 最 小 に な る よ う に動 く。す な わ ち,同 じ向 き を向 く。 これ は計 算 は複 雑 に な る が,空 間 に作 る磁 場 の エ ネ ル ギ ー が 最 小 に な る よ う に動 くこ と と等 価 で あ る。 多 数 の磁 気 ダ イ ポ ー ル が あ る と き は,各 磁 気 ダ イ ポ ー ル は 空 間 に 作 る磁 場 の エ ネ ル ギ ー を で き る だ け小 さ くす る よ う に 向 くの が 安 定 とな る。
12.2 原 子 の 磁 性
原 子 を構 成 す る 電 子 は,原 子 核 の 周 わ り を回 っ て い るた め,ル ー プ電 流 を構 成 す る と考 え る こ とが で きる。 従 って,こ
の電 子 は磁 気 モ ー メ ン トを作 る。 この磁
気 モ ー メ ン トの 大 き さ は,電 子 の 軌 道 に よっ て 異 な る が,あ
る最 小 単 位 の整 数 倍
で あ る。 この 最 小 単 位 の磁 気 モ ー メ ン トをボ ー ア 磁 子 と呼 ぶ 。 ボ ー ア 磁 子 の大 き さ は,電 子 の 質 量m,電
荷e,プ
ラ ン クの 定hを
使 って
(12.6) で 表 さ れ る 。 ま た,電
子 は 自 分 自 身 で 回 転 し(ス
ピ ン),や
は り磁 気 モ ー メ ン トを
も つ 。 こ の 大 き さ は ボ ー ア 磁 子 と等 し い 。 な お,原
子 核 も ス ピ ン に よ る磁 気 モ ー
メ ン ト を も つ が,そ
し た と き,核
の 大 き さ は 陽 子 の 質 量 をmpと
磁子
(12.7) 程 度 で あ る(原 子 核 に よっ て 異 な り,か つ,そ の 大 き さ は核 磁 子 の 整 数 倍 で は な い)。 従 っ て,電 子 の磁 気 モ ー メ ン トに比 べ て非 常 に小 さ く,物 質 の 磁 性 とい う観 点 か ら は無 視 で き る大 きさ で あ る。 電 子 の 磁 気 モ ー メ ン ト相 互 間 の も つ ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー の 大 き さ は,距 を 原 子 の 大 き さ 程 度0.1nmと
し て,式(12.5)よ
離
り
(12.8) と な る 。 こ れ を 電 子 の ク ー ロ ン力 に よ る ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル ギ ー
(12.9) と比 較 す る と非 常 に小 さ い。 従 っ て,磁 気 モ ー メ ン ト間 の相 互 作 用 は小 さ く,原 子 中 の電 子 配 置,原
子 間 の 結 合 は,ク ー ロ ン力 が ほ と ん ど を支 配 す る。 先 に述 べ
た よ う に,原 子 内,あ ず,パ
るい は結 晶 内 の 電 子 は離 散 的 な エ ネ ル ギ ー状 態 しか もち得
ウ リの 排 他 律 に よ り,一 つ の エ ネ ル ギ ー 準 位 に 一 つ の 電 子 しか存 在 で き な
い 。 ま た,電 子 は 全 体 と して クー ロ ン力 と磁 気 モ ー メ ン ト力 を合 わ せ た エ ネ ル ギ
ー が 最 も低 い よ うに,パ
ウ リの 排 他 律 を 満 た しつ つ,配 置 され る。 この た め電 子
は エ ネ ル ギ ー の低 い状 態 か ら順 にエ ネ ル ギ ー レベ ル を埋 め て い く。 普 通 は,磁 気 モ ー メ ン ト も相 殺 しあ う よ う に埋 め て い くの が エ ネ ル ギ ー の 低 い順 と な るが,原 子 の種 類,結
合 状 態 に よ っ て は,磁 気 モ ー メ ン トが 残 る埋 め 方 の ほ うが,よ
り低
い エ ネ ル ギ ー に な る こ とが あ る。 この よ う な こ とは,楕 円 で あ る軌 道 を埋 め つ く して い な い 電 子 数 を有 す る 原 子(遷 移 元 素 と呼 ばれ る)に 起 きる こ とが あ る 。 ま た,原
子 間 の結 合 時 に も,パ ウ リの排 他 律 を満 た す た め に,磁 気 モ ー メ ン トが 隣
同 士 同 じ向 き,あ
るい は反 対 向 き な ど,秩 序 立 っ た 向 き を し た ほ うが エ ネ ル ギ ー
が 低 い 状 態 とな る場 合 が あ る(交 換 力)。 こ の よ うな材 料 は外 部 に 自発 的 に磁 気 モ ー メ ン トを現 す。 これ ら は,ク ー ロ ン力 が圧 倒 的 な 力 を も つ電 子 の世 界 で は,ク ー ロ ン力 の ほん の僅 か な都 合 に よ り,多 少 磁 気 エ ネ ル ギ ー が 大 き くな っ て も磁 気 モ ー メ ン トが 揃 え られ て し ま う とい うふ う に例 え られ よ う。
12.3 磁 化 と強 磁 性 体
物 質 を磁 界 の 中 に入 れ た と き に,磁 気 モ ー メ ン トを示 す,あ て も磁 気 モ ー メ ン トを示 す 物 質 を磁 性 体 と呼 ぶ 。 また,こ
る い は磁 界 が な く
の磁 気 モ ー メ ン トを も
つ こ とを磁 化 と呼 ぶ 。 この 磁 化 が特 に強 い物 質 を強 磁 性 体 と呼 ぶ 。 な お,超 電 導 体 も大 き な磁 化 を もつ が,こ れ は 強 磁 性 体 の範 ち ゅ うに は入 れ られ て い な い 。 ほ とん どの 物 質 は多 か れ 少 な か れ 磁 場 中 に お い て 磁 化 す る の で,磁 性 体 と言 え な くな い が,強 磁 性 体 以 外 は そ の 磁 化 の 大 き さが 測 定 が 困 難 な ほ ど非 常 に 小 さ く,物 質 の性 質 を調 べ る とい う意 味 で の測 定 以 外 に は,磁 性 利 用 の実 用 的 意 味 は な い と言 え る。 磁 性 体 が一 様 に磁 化 され た と き,単 位 体 積 当 た りの磁 気 モ ー メ ン トの 大 き さ を 磁 化 の 強 さ,あ る い は磁 気 分 極 と呼 ぶ。外 部 か ら磁 界Hが の 強 さIの
加 え られ た と き,磁 化
物 質 中 の磁 束 密 度Bは,
(12.10)
で 表 さ れ る。磁 束 密 度 は,こ の よ う に磁 化 の 存 在 に よ っ て変 化 す る が,こ
れ は磁
気 モ ー メ ン トが 電 流 ル ー プ に よ って 形 成 され る と考 え る と,こ の 電 流 に よ る磁 場 が,新
た に磁 界H(こ
れ も外 部 に あ る電 流 に よ り形 成 さ れ た もの で あ る 。)に 加
わ る と考 え て よい 。 もし,磁 化 が 外 部 磁 場 に比 例 し て変 化 す る と し,そ の比 例 定 数 をxと
す る と,
式(12.10)は
(12.11) で 表 され る が,BとHの
比 例 定 数 μ を透 磁 率 と呼 ぶ 。 ま た,真 空 の 透 磁 率 で 正
規 化 した 値 μs=μ/μ0を比 透 磁 率 と呼 ぶ 。 強磁 性 体 は外 部 磁 場 に よ っ て磁 化 し,そ の磁 化 は非 常 に大 きい 。 式(12.10)で μ0Hの 項 は無 視 で き る ほ どに な り,比 透 磁 率 に して102∼106に 外 部 磁 場 に よ る磁 化 の 強 さ の 変 化 は複 雑 で あ る。 図12.4に の と き,そ の大 き さが0で
あ る とす る。 す な わ ち,O点
増 加 して い く と,磁 化 がA点 超 え る と,B-C点
もな る。 しか し,
示 す よ うに,磁 界 が0
に あ り,こ こ か ら磁 界 を
を通 る線 に沿 っ て 急 激 に増 大 す る。磁 界 が あ る値 を
の よ う に 急激 な磁 化 の増 大 は な くな り,飽 和 磁 化ISに 達 す る。
こ こか ら磁 界 を減 ら し て い く と,磁 化 はB-Dを
た ど り,磁 界 が0のD点
で も磁
化Irが 残 る。 この 磁 化Irを 残 留 磁 化 と呼 ぶ 。さ ら に,磁 界 を反 対 向 き に し,増 加 して い く と磁 化 はD-Eを
た ど り,磁 化 が0に
図12.4
な るE点
磁 化の ヒス テ リシス環 線
に到 達 す る に は,磁 界Hc
を必 要 とす る。 この 磁 界 の値Hcを
保 持 力 と呼 ぶ 。 また,D-E曲
い う。 さ ら に,磁 界 を逆 方 向 に増 や して い け ば,磁 化 は図12.4の
線 を減 磁 曲 線 と 矢 印 に沿 っ て の
曲 線 上 を動 き,磁 界 を正 方 向 に か け た とき と同様 の 曲線 を た ど る。 この よ う に, 磁 界 を正 負 に 変 化 させ た と き に磁 化 はB-D-E-F-G-Bの
ル ー プ を た ど り履 歴 特
性 が 生 ず る。 この 磁 化 の履 歴 特 性 を ヒス テ リシス 環 線 と呼 ぶ 。 さ て,式(12.2)よ
り,単 位 体 積 当 た り の こ の 磁 性 体 の も つ ポ テ ン シ ャ ル エ ネ ル
ギー
で あ るか ら,磁 界 が 一 定 の も とで,磁 化 をdIだ ギ ー はdW=HdIで
け増 加 させ るの に必 要 な エ ネ ル
あ る。 ヒ ス テ リシ ス 環 線 でGの
点 か らCま
で磁 化 を す るの
に必 要 な エ ネ ル ギ ー は,
(12.12) と な る 。 こ れ は,図12.5で
面 積S1とS2の
和 に 相 当 す る 。 ま た,Cか
らEま
で変
化 さ せ る 場 合 に は,
(12.13) で あ る 。 こ れ は,図12.5で
面 積-S2とS3の
和 に 相 当 す る 。Gか
図12.5 磁 化 に伴 う損 失 計 算
らEま
で に必 要
は
だ っ た エ ネル ギ ー は,こ の 両 者 の和 で あ るS1+S2と
な る。 この 過 程 をE-F-Gと
た ど り,ヒ ス テ リシ ス環 線 を一 回 りし て も との 状 態 に戻 った と きに 必 要 で あ っ た 仕 事 は2(S1+S3)で
あ り,こ れ は ヒ ス テ リ シス 環 線 の 囲 む面 積 とな る。 この仕 事
は,磁 界 を正 負 に変 化 した と き,磁 界 を作 る電 流 源 か ら供 給 さ れ,電 流 源 の損 失 とし て 失 わ れ る こ とに な る。 この 損 失 は,単 位 時 間 に ヒ ス テ リ シス 環 線 を 回 る回 数,す
な わ ち磁 界 周 波 数 に比 例 す る。 この 損 失 を ヒス テ リシ ス損 失 と呼 ぶ 。
12.4 自 己減磁作 用 と反磁 界係数
式(12.11)に
示 さ れ た 関 係 は,磁 性 体 が 全 磁 場 空 間 を 占 め て い る場 合 に成 立 す
る式 で あ る。 しか し,現 実 に は磁 性 体 は有 限 の大 き さ を もつ か ら,磁 性 体 の 外 部 か ら磁 界 を印 加 し,こ れ を磁 化 す る と き に は,磁 性 体 の 内部 の 磁 界 は外 部 の 磁 界 と等 し くな くな る。 これ は,磁 性 体 の磁 化 に よ り,磁 性 体 内 部 に は逆 向 きの 磁 界 (反 磁 界)が 発 生 し,外 部 か ら印加 され た 磁 界 を打 ち消 して しま うか らで あ る。 こ の反 磁 界 は,
(12.14) で 表 され,Nを
反 磁 界 係 数 と呼 ぶ 。Nは
磁 性 体 の形 状 に よ っ て 決 ま る 定 数 で あ
り,無 限 に長 い磁 性 体 を長 さ方 向 に磁 化 す るか , あ る い は,磁 性 体 ル ー プ を ル ー プ 方 向 に磁 化 す る場 合 は0で あ り,こ の時 は,磁 性 体 内 部 磁 界 は 印加 磁 界 と等 し くな る。 そ うで な い場 合,Nは0か
ら1ま で の 値 を もつ 。任 意 形 状 の 反 磁 界 係 数
の計 算 は 解 析 的 に はで き な い が,楕 円体 で は解 析 解 が あ る。 これ を平 た い,球 形, 細 長 い な ど の形 状 の 磁 性 体 に近 似 し,お お よそ の値 を 知 る こ とが で き る。 楕 円体 を 回転 対 称 と し,各 主 軸 をa,b,cと
した と き, a>b=cの
長 形楕 円体 を考 え る
と,楕 円 体 の 離 心 率 を
(12.15) と定 義 し て,a軸
方 向,b軸
方 向 に それ ぞ れ 磁 化 した とき の反 磁 界 係 数 は,
(12.16)
(12.17) で あ る。
ま た,a<b=cの
扁 平 楕 円体 を考 え る と,楕 円体 の 離 心 率 を
(12.18) と定 義 して,反 磁 界 係 数 は
(12.19) (12.20) で 与 え ら れ る 。 さ て,楕 る と,図12.6の
円 体 の 長 さ の 比re=a/bに
対 し て,Na,Nbの
値 を計 算 す
よ う に な る。
図12.6 回転 楕 円 体 形状 磁 性 体 の反 磁 界係 数
結局反磁 界係数 を考慮 す る と,外 部磁 界H0に 対 して磁性体 内部 の磁界Hfは (12.21)
と な る。 磁 化 が 外 部 磁 界 に対 し て,式(12.10)で
示 さ れ る 関 係 を 考 え る と,
(12.22) の 関 係 が 成 立 す る か ら,
(12.23) が 得 られ る。 強 磁 性 体 で はx≫μ0で あ るか ら,Nが0に
近 い数 で な い 限 り
(12.24) とな り,弱 い 磁 界 で 大 きな 磁 化 を す る磁 性 体,す な わ ちxが
非 常 に大 き な磁 性 体
で も,非 常 に 強 い 磁 界 をか け な い と十 分 な磁 化 が起 き な い こ とが 分 か る。 この よ うに,反 磁 界 は,磁 性 体 の外 部 磁 界 に よる磁 化 を考 え る と き,非 常 に大 きな影 響 を与 え る。 応 用 上 は,磁 性 体 の形 状 を工 夫 しな い と,透 磁 率 が 大 きい 材 料 で も, 有 効 に利 用 で きな くな る こ とに注 意 す る必 要 が あ る。
12.5 軟磁 性材料 と硬磁 性材料
磁 性 の 用 途 は,大 別 して 二 つ に分 け られ る。
12.5.1
軟 磁 性 鉄 心
一 つ は,変 圧 器 の 鉄 心,電
動 機,発
電 機 の 鉄 心 な どで あ り,磁 束 密 度 の 変 化 を
利 用 して,電 圧 を発 生 した り機 械 力 に変 換 す る な どの応 用 が あ る。こ の用 途 で は, 磁 化 が で き るだ け 大 き く,か つ,磁 場 は時 間 的 に 変 化 す る交 流 磁 場 で 用 い る か ら, ヒス テ リ シス 損 が で き る だ け小 さ い こ とが 望 ま しい 。 す なわ ち,ヒ
ス テ リシ ス環
線 の ル ー プ の 面 積 が で き る だ け小 さ い こ とが 必 要 で あ る。 この た め,残 留 磁 化, 保 持 力 と も にで き る だ け0に 近 い 材 料 が 望 まれ る。 こ の よ う な性 質 の磁 性 材 料 を,軟 磁 性 材 料 あ る い は高 透 磁 率 材 料 と呼 ぶ 。
12.5.2
永 久 磁 石
も う一 つ は,永 久 磁 石 材 料,あ
る い は磁 気 メ モ リー な どの よ う に,外 部 磁 場 が
な い と きの 磁 化 を利 用 す る用 途 で あ る 。 永 久 磁 石 で は,で
きる だ け強 い 磁 場 を発
生 す る こ とが 必 要 だ か ら,残 留磁 化,保 持 力 と もに大 き な材 料 が望 ま し い。 この よ うな性 質 の磁 性 材 料 を硬 磁 性 材 料 あ るい は永 久 磁 石 材 料 と呼 ぶ。 永 久 磁 石 で は,磁 石 外 部 に で き る磁 場 を利 用 す るか ら,反 磁 界 係 数 は0で な く 磁 石 内部 に は反 磁 界 が存 在 す る。 外 部 磁 場 が0の
と き は, (12.25)
の 内 部 磁 界 が 存 在 す るか ら,図12.4の
減 磁 曲線 上 に磁 化 が 存 在 す る。 図12.4の
縦 軸 を,磁 化 の代 わ りに磁 束 密 度 に変 えて 表 示 した 図12.7(こ μ0Hだ けの 差 が あ るが,多
くの 場 合,こ
常 に近 い もの とな る。)に 示 す よ う に,P点
こで,BとIと
は
の差 は小 さ く,実 際 上 は二 つ の 曲線 は非 に磁 化 が 存 在 す る とす る と,こ の 磁 石
の単 位 体 積 当 た りの 蓄 え られ た 磁 場 の エ ネ ル ギ ー は,
(12.26) とな る。 ま た,こ の エ ネ ル ギ ーUpの
大 き さ は,単 位 体 積 当 た りの 磁 石 材 料 の 外
部 に作 りう る磁 場 の エ ネ ル ギ ー の 大 き さ に 等 し い 。BpHpの BmHmの
最 大 を与 え る点
値 を最 大 エ ネ ル ギ ー 積 と呼 び,
永 久 磁 石 材 料 の よ さの 評 価 指 標 と な る。 反 磁 界 係 数 が この 動 作 点 を与 え る形 状 が,最
も磁 石 と して有 効 に利 用 した状 態
と な る。
図12.7
減 磁 曲 線 と最 大 エ ネ ル ギ ー
12.6 強磁 性体 の磁化機 構
先 に述 べ た よ う に,物 質 に よ っ て は原 子 の もつ磁 気 モ ー メ ン トが,相
互 に平 行
あ る い は反 平 行 に向 け られ る性 質 を有 す る。 この よ う な物 質 は,物 質 全 体 と して 外 部 に磁 気 モ ー メ ン トを有 す る こ とに な る。図12.8に
示 す よ う に,磁 気 モ ー メ ン
トが 平 行 に 向 け られ る性 質 を もつ 磁 性 体 を フ ェ ロ磁 性 体 と呼 び,反 平 行 に向 け ら れ る磁 性 体 を フ ェ リ磁 性 体 と呼 ぶ 。 フ ェ リ磁 性 体 は,反 平 行 に 向 け られ た 原 子 の 磁 気 モ ー メ ン トが 同 じで あ れ ば磁 化 は し な い が,そ
の大 き さが 原 子 間 で 異 な る
か , あ る い は数 が 異 なれ ば,磁 化 が 起 き る。 この よ う に,フ ェ ロ磁 性 体 と フ ェ リ 磁 性 体 は強 い 自発 磁 化 が 起 き,こ れ が 強磁 性 体 の性 質 の 源 泉 で あ る。
(a)フ ェ ロ磁 束 性 ス ピ ン構 造
図12.8
こ の 自発 磁 化 は,も
(b)フ
ェ リ磁 性 ス ピ ン構 造
フ ェ ロ 磁 性 体 と フ ェ リ 磁 性 体 の 原 子 磁 気 モ ー メ ン ト配 列
し,す べ て の 原 子 の磁 気 モ ー メ ン トが 同 じ向 き を 向 くと,
そ の 内部 の 反 磁 界 の た め,磁 気 エ ネ ル ギ ー が 大 き くな る。 こ のた め,図12.9の
よ
う に磁 化 の部 分 が 分 か れ て 異 な る 向 き を もつ と,磁 気 エ ネ ル ギ ー が 小 さ くな るか ら,よ
り安 定 に な る こ とが 普 通 で あ る。 この磁 化 の部 分 を磁 区 とよ び,そ
の境 界
を磁 壁 と呼 ぶ 。磁 壁 で は,原 子 の磁 気 モ ー メ ン トが 徐 々 に 回 転 し,隣 接 す る磁 区 の 向 き に近 づ い て い く。 磁 壁 は磁 気 モ ー メ ン トが 同 じ向 き を向 い て い な い た め,磁 区 よ り もエ ネ ル ギ ー が 高 い状 態 に あ り,こ れ を作 る に は あ るエ ネ ル ギ ー を必 要 とす る。 また,磁
区に
お け る磁 気 モ ー メ ン トの 向 き も,磁 性 体 材 料 の結 晶 構 造 等 で 決 ま る特 定 の 向 き を 向 く場 合 が,エ
ネ ル ギ ー が 低 い状 態 で あ
る(磁 気 異 方 性)。 この こ とか ら,磁 性 材 料 が どの よ うな磁 区構 造 を とるか は,外 部 磁 界 だ け で な く磁 壁 を 作 る エ ネ ル ギ ー ,磁 化 の 容 易 方 向,磁 性 体 の形 状 等 か ら み て,ど
の よ う な磁 区 構 造 が 最 小 の エ
図12.9 磁 区 の形 状 と磁 化 の向 きの列 (消磁状 態)
ネ ル ギ ー とな るか に か か って い る。 例 え ば,非 常 に小 さ な磁 性 体 で は,ど の よ う に磁 壁 を作 っ て も,磁 壁 を作 る エ ネ ル ギ ー が,磁
区 に分 か れ る こ とに よ り減 少 す
る反 磁 界 の エ ネ ル ギ ー を超 え て し ま う。 この た め磁 壁 は発 生 せ ず 単 一 磁 区 と な る。 しか し,磁 性 体 が大 き くなれ ば,多 数 の磁 区 に分 割 した ほ うが,磁 壁 を作 る エ ネ ル ギ ー は,反 磁 界 の エ ネ ル ギ ー を下 回 る こ と とな り,結 果 と して磁 区構 造 が で き る。隣 接 した 磁 区 ど う しの 磁 化 の 向 き は,反 対 向 き(180°)と 直 角(90°)と が あ る。 これ ら を境 とす る磁 壁 を,そ れ ぞ れ180° 磁 壁,90° 磁 壁 と呼 ぶ 。 磁 区 ど う しが 磁 化 を打 ち消 し合 っ て,外 部 に磁 化 を起 こ さ な い状 態 を消磁 状 態 と呼 ぶ 。 こ の状 態 に,外 部 か ら磁 界 を印加 す る と,磁 化 が 外 部 磁 界 方 向 を向 いた 磁 区 が成 長 し,逆 方 向 の 磁 区 は減 少 して,大
きな磁 化 が 現 れ る。 これ は,外 部 磁
界 が あ れ ば,こ の 方 向 の 磁 区 は ポ テ ン シ ャル エ ネ ル ギ ー が よ り低 い か ら,こ の増 大 に よ り全 体 と し て エ ネ ル ギ ーが 最 小 と な る か らで あ る。 これ は磁 壁 の 移 動 過 程 と も見 な せ る 。 な お,磁
区 の変 化 は,磁 界 の方 向 に磁 化 が 回 転 す る過 程 も存 在 す
る。 磁 界 が 強 くな る と,磁 区 は磁 界 方 向 を 向 い た 単 一 の もの とな る。磁 界 の 向 き に よ っ て は,磁 気 異 方 性 の た め単 一 磁 区 は 必 ず し も磁 界 方 向 を 向 い て い な い か ら,さ ら に磁 界 が 強 くな る と,こ の磁 区 の 磁 気 モ ー メ ン トは回 転 を は じ め(こ の 過 程 を回 転 磁 化 とい う),そ れ が 磁 界 の 向 き にな る と,磁 化 は最 大 の 一 定 値(飽 和 磁 化)に
達 す る。 こ こで,磁 界 を減 少 させ て い く と,や が て 単 一 の磁 区 か ら逆 向
き の磁 区 が 生 成 し,成 長 す る こ と に よ り磁 化 が 減 少 し て い く。 この よ う に,強 磁
性 体 の 磁 化 は磁 区 の 発 生,増 加,減 少,回 転,も 従 っ て,こ
れ ら に どの 程 度 の エ ネ ル ギ ー を必 要 とす る か で 磁 性 材 料 の性 質 が 決 め
られ る。 図12.4に 料 は,こ
し くは磁 壁 の 移 動 に よ り起 き る。
示 す 磁 化 の ヒ ス テ リシ ス 環 線 の 囲 む 面 積 が 小 さ い 軟 質 磁 性 材
の エ ネ ル ギ ー が 小 さ い もの で あ る。 これ は同 時 に,小
さ い磁 界 で 大 き な
磁 化 が起 き る こ とを意 味 す る か ら,透 磁 率 の 大 き な 磁 性 体 で も あ る。 磁 壁 が 移 動 して も,磁 壁 の 面 積 が変 わ ら な け れ ば,全 体 の エ ネ ル ギ ー は変 わ らな い か ら,磁 壁 の 移 動 を妨 げ るの は磁 壁 を作 るエ ネ ル ギ ー の 場 所 ご との変 化 で あ る。 この 場 所 ご と の変 化 は,磁 性 体 の非 一 様 性 や 歪 み に 支配 され る。 ま た,磁 気 異 方 性 が あ る 場 合 は,そ の 異 方 性 の一 様 性,す
なわ ち そ の 向 きが 揃 っ て い るか ど うか に も関 係
す る。 従 っ て,一 般 的 に は透 磁 率 の 大 き い軟 磁 性 材 料 は 磁 気 異 方性 が な いか,揃 う か し,不 純 物 や 欠 陥 が な く歪 み の な い材 料 で あ る。 一 方,硬 磁 性 材 料 は磁 壁 が 移 動 し に く く,か つ,回 転 磁 化 も起 き に くい もの で あ る 。 従 っ て,単 磁 区 構 造 で あ り,か つ 一 方 向 に強 い 磁 気 異 方 性 を もつ こ とが最 適 とな る。 この た め,単 磁 区 構 造 とな る微 粒 子 磁 性 体 が 分 散 さ れ た構 造 が 用 い られ る。 一 軸 異 方 性 を もた せ る た め,磁 気 異 方 性 結 晶 微 粒 子 の 向 き を揃 え る か , あ る い は 非 常 に細 長 い 微 粒 子 (図12.6で
示 した よ うに,反 磁 界 が 向 きに よ っ て大 き く異 な るの で,磁 化 の エ ネ
ル ギ ー が 向 き に よ っ て大 き く異 な る。 これ を形 状 異 方 性 と呼 ぶ)を 同 方 向 に 揃 え る手 法 が 取 られ る 。
12.7 強磁 性体 の交流 特性
強 磁 性 体 を 交 番 磁 界 で磁 化 す る と き,そ の 磁 化 の 大 き さ は そ の 周 波 数 に 依 存 し,ま た エ ネ ル ギ ー 損 失 が 起 き る。 これ らの 原 因 に は,ヒ ス テ リシ ス損 失,磁 気 余 効,渦
電 流 損 失 が あ り,実 際 の磁 性 体 で は,こ れ らが 混 ざ り合 っ て損 失 を起 こ
す 。 この損 失 を鉄 損 と呼 ぶ 。 こ の 中 で も,変 圧 器 な ど交 流 で 用 い られ る磁 性 体 は 軟 磁 性 体 で あ り,か つ,優
れ た 軟 磁 性 体 は金 属 で あ るの で,そ
渦 電 流 損 失 が 最 も主 要 な要 因 とな る。
の 導 電 性 に基 づ く
12.7.1
ヒ ス テ リシ ス 損 失
消 磁 状 態 に近 い強 磁 性 体 に,弱 い磁 界⊿Hだ
け増 や した とき の磁 化 の大 き さ の
変 化 分⊿Iは,
(12.27) で 表 さ れ る 。x0は 初 磁 化 率,η こ れ か ら磁 界 を-Hpか 12.10の
は レ ー リ ー 定 数(Rayleigh
らHpま
constant)と
呼 ばれ る。
で 正 負 に 変 化 さ せ た と き の 磁 化 の 変 化 は,図
よ う な 環 線 を た ど る 。 こ の 環 線 を レ ー リ ー ルー プ と 呼 ぶ 。 こ の ル ー プ は,
図12.10
必 ず し も磁 界 を0を
レー リー ルー プ
中心 とす る必 要 は な く,あ る程 度 の磁 界 か らの 変 動 で も成 り
立 つ 。 この ル ー プ の もつ面 積 は,ル ー プ1回
り当 た りの ヒ ス テ リ シ ス損 失Whで
あ るか ら,
(12.28) で 与 え られ る。 周 波fの
交 番磁 界 で は,単 位 時 間 当 た りの 損 失 は,
(12.29) とな る か ら,ヒ ス テ リシ ス損 失 は磁 界 振 幅 に大 き な依 存性 を有 す る。 ま た,こ れ は損 失 だ け で な く,変 圧 器 等 の磁 芯 に 用 い る とき,磁 化 の 非線 形 の た め に電 圧 波 形 に歪 み を もた ら し,高 調 波 の発 生 原 因 とな る。
12.7.2
磁 気 余 効
交 流 磁 界 を印 加 す る と,磁 化 は この磁 界 の 変 化 に対 して,一 部Iiは 直 ち に 変 化 す るが,時
間 的 遅 れ を 伴 った 磁 化Inが
そ の後 に続 く。 これ を磁 気 余 効 と呼 ぶ 。
磁 界 を印 加 した と き,時 間 遅 れ に対 応 す る磁 化 の 時 間 的変 化 は,
(12.30) で 表 され る。 τは緩 和 時 間 と呼 ば れ る。外 部 磁 界 が〓 とす る と,磁
の交流磁界 で ある
化 は
(12.31) の 形 で 表 さ れ る 。 δ は 損 失 角 と 呼 ば れ る 。 こ こ で,〓
と して
(12.32) (12.33) で 与 え られ る。 この た め,交 流 磁 界 の 周 波 数 が 高 くな る と,磁 化 は小 さ くな っ て い く。 言 い 換 え れ ば,透
磁 率 は 周 波 数 が 高 く な る と減 少 し て い く。tanδ
は
(12.34) で最 大 値 を もつ 。 これ よ り,緩 和 時 間 を知 る こ とが で き る。 また,δ の 位 相 遅 れ の た め に 損 失 が 発 生 し,こ の 大 き さ は
(12.35) で 与 え ら れ る 。 ωτ≪1の 低 い 周 波 数 の と き は,
(12.36) ωτ≫1の 高 い 周 波 数 で は,
(12.37) と近 似 で き る 。 こ れ ら の 関 係 を ζ=1,τ=1と
し て 図12.11に
示 した 。
さ て,一 般 的 に緩 和 時 間 は 温 度 が 高 くな る と,磁 壁 が 移 動 しや す くな るた め小
さ くな る。 また,緩 和 時 間 は必 ず し も単 一 で は な く,多
くの緩 和 時 間 を与 え る磁
化 の変 化 が 起 き る磁 性 体 も多 い。 緩 和 時 間 を もた らす 機 構 は種 々 あ り,例 え ば, 永 久 磁 石 材 料 等 は非 常 に長 い多 数 の緩 和 時 間 を有 して い る。 この た め,磁 化 の変 化 も これ らの 合 成 に な り,そ の 結 果 磁 化 の変化 も 図12.11 磁 気余 効 に基づ く磁化 損 失
の周波数変化
(12.38) の 形 を有 す る。 この 場 合 は,長 時 間 経 過 後 は ゆ っ く りし た変 化 とな る。
12.7.3
渦電流損失
磁 性 体 内 部 で磁 化 変 化 が 起 き る と,そ れ に伴 って 電 磁 誘 導 に よ り起 電 力 が 発 生 す る。 磁 性 体 が 導電 性 を有 す る と,こ の 起 電 力 に よ り電 流 が 流 れ,損 失 が生 ず る と と もに,こ
の電 流 に よ る磁 界 が,磁 化
変 化 を打 ち 消 し,磁 化 の 大 きさ が減 少 す る。 図12.12の
ご と き,磁 性 体 を厚 さd
の 幅 が 非 常 に広 く長 い 薄 板 を考 え,長 さ 方 向 に 外 部 か ら〓
の交 流 磁
界 が加 え られ て い る場 合 を考 え て み る。 磁 性 体 内 部 の 磁 束 密 度 をBと 磁 性 体 内部 で 成 立 す る式
す る と,
図12.12
幅 が 非 常 に 広 く長 い
薄板磁性体の内部磁場 と電流
(12.39) よ り,
(12.40) が 得 られ,こ
れ を磁 性 体 表 面 で の 境 界 条件B=μHextを
用 い て解 くこ と に よ り得
られ る。 な お, (12.41) で あ り,こ の絶 対 値
(12.42) は 表 皮 深 さ と呼 ば れ,磁 性 体 内部 に どの 程 度 磁 場 が 入 っ て い くか の指 標 とな る。 ρFは 磁 性 体 の抵 抗 率,μ は透 磁 率 で あ る。後 の式 の 簡 略 化 の た め,λ=√2δ
とし
て解 く と,
(12.43)
が 得 ら れ る 。 電 流 は μi=rotBの
関係か ら
(12.44)
図12.13
磁 性 体 に 流 れ る 電 流,磁
場分布
とな り,場 所 ご とに位 相 の異 な る複 雑 な電 流 が 流 れ る こ とが 分 か る 。 図12.13に 表 皮 深 さが 厚 さ の1/5の
と きの,磁 性 体 に流 れ る電 流,磁 場 分 布 を 示 す 。
磁 性 体 内部 に 入 る単 位 幅 当 た りの磁 束 の 量Ф は,
(12.45) で与 え られ る 。 従 っ て,厚
さ方 向 に平 均 した 磁 化 の 強 さIは
(12.46) 誘 起 さ れ た 電 流 に よ る単 位 体 積 当 た りの 損 失 は,損 失 の 時 間 平 均 を求 め る には 実 効 値(ピ
ー ク値 の1/√2)を
用 いれ ば よい こ とに注 意 して
(12.47)
と な る 。 こ れ は,λ≫dの
とき は
(12.48) とな り,周 波 数 の2乗
に 比 例 す る こ とが 分 か る。 図12.14に
厚 さ依 存 性 を示 す 。 図12.14か
磁 化 と損 失 の 磁 性 体
ら も分 か る よ うに,磁 性 体 の 渦 電 流 損 失 を避 け る
た め に は,磁 性 体 の厚 さ を表 皮 深 さ よ り十 分 小 さ くす る必 要 が あ る。 鉄 の もつお お よ そ の 値 μ/μ0=500,ρF=10-7Ω・mの
場 合,式(12.42)よ
り50Hzの
交 流で
図12.14 磁 化 と損 失 の 磁性 体 の 厚 さ依 存 性
は,表 皮 深 さ は0.7mmと mmよ
な る か ら,損 失 を小 さ くす る に は,磁 性 体 の厚 さ を0.7
り薄 くす る必 要 が あ る。 この た め,変 圧 器 の 鉄 心 は薄 板 を絶 縁 し て,積 層
す る構 成 が使 わ れ る 。 高 周 波 で 強 磁 性 体 を利 用 す る に は,板 の 厚 さ を薄 くす る に は 限 度 が あ るの で,導 な お,実
電 率 の 小 さ い絶 縁 性 の磁 性 体 が 用 い られ る。
際 に渦 電 流 損 失 を 測 定 して み る と,こ の 計 算 値 よ り大 き い損 失 を与 え
る場 合 が 多 い 。 こ れ は,こ
の計 算 で は,磁 化 は一様 に起 き る と して い る が,実 際
は磁 壁 の 移 動 と言 う形 で 起 き る。磁 壁 の移 動 を考 え る と,磁 壁 付 近 の磁 場 変 化 に 基 づ く ミク ロ な 渦 電 流 を考 慮 す る必 要 が 生 ず る。 こ の効 果 の た め,渦 電 流 は よ り 大 き くな る と考 え られ て い る。
12.8 磁 性 と他 の 物 理 量
磁 性 は磁 性 の み で な く磁 化 に伴 っ て種 々 他 の 物 性 と相 互 作 用 をす る。 (1) 磁 気 歪 み
磁 化 に伴 っ て,磁 性 体 の 形 状 が 変 形 す る。 これ は,一 般 的 に
は体 積 の変 化 は な く,磁 化 方 向 に対 して,伸 び る もの や 縮 む もの が あ る。 これ を 磁 気 歪 み とい う。 磁 気 歪 み は,結 晶 磁 気 異 方性 と密 接 な 関 係 が あ り,磁 壁 の 移 動 に影 響 を及 ぼ す 。 この 応 用 と して,超 音 波 振 動 素 子 が 代 表 的 な もの で あ る。 (2) 磁 気 抵 抗,ホ ー ル 効 果
導 電 体 に磁 界 を印 加 す る と,電 気 抵 抗 が変 わ る
の を磁 気 抵 抗 効 果,起
電 力 が 発 生 す る の を ホ ー ル 効 果 と呼 ぶ 。 これ は磁 性 体 に 限
った もの で な く,キ ャ リヤ の動 きが 磁 界 に よ り曲 げ られ る こ とに よ るが,強 磁 性 体 で は 自発 磁 化 を 通 して この効 果 が 大 き くな り,種 々応 用 が 考 え られ て い る。 (3) 磁 気 光 学 効 果
光 が 強 磁 性 体 表 面 で 反 射 した り,あ る い は透 明性 の 高
い強 磁 性 体 を透 過 す る とき,光 の 偏 光 面 が 回 転 した り,屈 折 角 が変 化 した りす る 材 料 が あ る。 光 は電 磁 波 で あ るか ら,透 磁 率 の変 化 に対 し て影 響 を 受 け る た め で あ る 。 力 ー 効 果 と呼 ばれ る もの は,反 射 に よ る偏 光 面 の 回 転 で あ り,フ ァ ラ デ ー 効 果 は磁 性 体 を光 が 透 過 す る とき,偏 光 面 が 回転 す る現 象 で あ る。 これ らの効 果 は,光
を用 い た磁 場 のセ ンサ や 光 通 信 へ の 応 用 が あ る。
12.9 各 種 磁 性 材 料
12.9.1
金 属 の 磁 性 と金 属 磁 性 材 料
原 子 の うち,遷 移 金 属 は原 子 が 磁 気 モ ー メ ン トを有 して い るが,そ ち 強 磁 性 を 示 す の はFe,Co,Niの
遷 移 金 属 と, Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tmの
の金属 の う 重希土
類 金 属 で あ る。 重 希 土 類 金 属 は,低 温 で 強 磁 性 を示 す の に対 し て,Fe,Co,Niや これ らを 主体 と した合 金 は常 温 で 強磁 性 を 示 し,主 で あ る。 これ らは常 温 で 自発 磁 化 が 大 き い,フ
と して 軟 磁 性 材 料 とし て重 要
ェ ロ磁 性 を生 ず る こ とが 多 い 。 こ
の 磁 性 は,金 属 の 自由 電 子 が そ の 主 役 を担 っ て い る と考 え られ て い る。 磁 性 は 金 属 に磁 場 が か か っ た とき,電 子 の ス ピ ン の 向 き に よっ て,こ ル ギ ー が 変 化 す るが,こ
のポテ ンシャルエネ
の エ ネ ル ギ ー の違 い は電 子 の 占有 す る状 態 を変 え る。 こ
れ に よ り,電 子 ス ピ ンの 磁 場 方 向 と反 対 方 向 の数 が 異 な り磁 化 す る。 この磁 化 に よ っ て,自 分 自 身 に も磁 界 を作 るが,電
子 の 状 態 密 度 の分 布 の形 に よ っ て は,こ
の磁 化 は電 子 の 系 の エ ネ ル ギ ー を減 少 させ,外 部 磁 界 が な くて も 自発 磁 化 が 起 き る。 これ が 強 磁 性 の 出現 条 件 で あ る。 (1) 鉄 けい 素 合 金(け
い素 鋼 板)
な軟 磁 性 材 料 で あ る。 変 圧 器,発
磁 性 材 料 と して最 も広 く使 わ れ る,安 価
電 機,電
動 機 な ど,大 量 に磁 性 材 料 を必 要 とす
る電 力 機 器 が そ の利 用 の 主 体 で あ る。 以 下 に述 べ る け い 素 鋼 板 とけ い 素 含 有 量 の 少 な い 低 炭 素 鋼 と とも に,総 括 し て電 磁 鋼 板 と呼 ば れ る。 鉄 に けい 素 を加 え る と,鉄 の もつ 磁 性 体 とし て の欠 点 を改 善 で き る。 け い素 の 増 加 と と も に,飽 和 磁 化 は減 少 して い くが,こ れ は僅 か で あ る に もか か わ らず, 導 電 率 が 減 少 し渦電 流 損 を小 さ くで き る 。 さ ら に,結 晶磁 気 異 方 性 や磁 気 歪 み を 著 し く小 さ くす る こ とが で き る。 こ のた め,透 磁 率 の大 きな 軟 磁 性 材 料 が 可 能 と な る。 しか し,け い 素 の 増 加 と と も に,材 料 の脆 性 が 増 し,加 工 性 が 悪 くな り, か つ強 度 が 小 さ くな る た め,発 電 機 な ど の 動 く力 の 加 わ りや す い もの は1∼3% 程 度,変 圧 器 で3∼4.5%程
度 の け い素 含 有 量 に制 限 され る。 この た め,さ ら に特
性 を向 上 させ る た め,結 晶 軸 の 方 向 を揃 え磁 気 異 方 性 の一 様 性 を もた せ る,方 向 性 け い 素 鋼 板 が 実 用 化 さ れ て い る。 これ は圧 延 し た 後 熱 処 理 を行 う こ と に よ っ て,結 晶 の磁 化 容 易 軸 を圧 延 方 向 に揃 え る。 (2) 鉄-ニ ッケ ル 合 金
鉄 とニ ッケ ル の合 金 は,鉄 か らニ ッケ ル 量 を増 や し
て い く と飽 和 磁 化 が 徐 々 に減 少 し,ニ ッ ケル 量30%で
飽 和 磁 化 が 急 激 に下 が り,
常 温 で は強 磁 性 で な くな る。 こ の下 が りは じめ の組 成 の合 金 は,熱 膨 張 係 数 の 小 さ い特 性 を有 し,イ ンバ ー(Invar)と
呼 ばれ,磁 性 体 用 途 で は な い が,熱 膨 張 の
小 さ い こ とを利 用 す る材 料 と して 使 わ れ る。ニ ッ ケ ル量 が80%程
度 で,結 晶磁 気
異 方性 や 磁 気 歪 み が ほ ぼ0と な る の で,非 常 に透 磁 率 の 高 い強 磁 性 体 とな る。 こ の 合 金 はパ ー マ ロイ と呼 ば れ,78.5%の
ニ ッケ ル を含 む78パ
ー マ ロ イ は,高 い 透
磁 率 を もつ 軟 磁 性 材 料 の 代 表 的 な もの で あ る。 この 合 金 は600℃
よ り急 冷 す る
こ とに よ り,特 に高 い 透 磁 率 を有 す る特 徴 が あ る が,こ れ にMo,Cr,Cu等
を添 加
す る こ とに よ り,急 冷 不 要 で か つ 導 電 率 を 小 さ く した パ ー マ ロ イ が 作 ら れ て い る。 また,36∼50%の
ニ ッ ケ ル を 含 む 合 金 も1200℃
の 高 温 水 素 中 で焼 鈍 す る こ
と に よ り,高 い透 磁 率 を実 現 で き る。 これ はニ ッケル 含 有 量 が 小 さ い た め原 料 費 が 安 価 で あ る特 長 が あ る。 (3) セ ン ダ ス ト
5%A1,10%Si,85%Feの
合 金 は結 晶 磁 気 異 方 性 や 磁 気
歪 み が ほ ぼ0の 条 件 を満 た し,高 い 透 磁 率 を示 す 。 しか し,こ の合 金 は脆 く成 形 で き な い の で,10μm程
度 の粉 末 と し,固 め て加 圧 成 形 す る方 法 や 塊 の ま ま,磁
気 記 録 用 の ヘ ッ ド材 と して 用 い られ る。 (4) ア モ ル フ ァス 磁 性 材 料
ア モ ル フ ァス 合 金 は10ms程
度 よ り短 い 時 間
に 溶 融 状 態 か ら急 冷 す る こ とに よ っ て得 られ る,結 晶 を作 らず 原 子 間 に長 距 離 秩 序 の な い 金 属 で あ る。 急 冷 の 工 程 か ら薄 板,細
線,粉
末,薄 膜 等 の 形 状 が 作 られ
る 。 結 晶 を作 らな い た め,磁 気 異 方 性 が な く,か つ磁 歪 み が0の 合 金 も存 在 す る の で,極
め て 優 れ た 軟 磁 性 材 料 と もな る。 また,ア
モ ル フ ァス の 非 結 晶 構 造 か ら
導 電 率 が 小 さ く,渦 電 流 損 が 小 さ くな る。 この こ と と,非 常 に 薄 い20μm以
下の
薄 板 が 可 能 な の で,高 周 波 に も使 用 で き る。 多 くの 合 金 が 試 作 さ れ て い るが,主 な もの と してFeが で あ る の で,電
主 成 分 で あ る合 金 は,高
い飽 和 磁 束 密 度 を有 し,価 格 も低 廉
力 用 変 圧 器 へ の 応 用 が 期 待 さ れ て い る。Coが
主 成 分 で あ る合 金
は,磁 歪 み が ほ ぼ0で あ り,極 め て 高 い透 磁 率 を有 し,磁 気 ヘ ッ ド,高 周 波 トラ ンス な どの 用 途 に実 用 化 され て い る。 (5) ア ル ニ コ 磁 石
た名 称(Alnico)で
A1,Ni,Coを
あ る。非 磁 性 のNiA1相
含 ん だ 鉄 合 金 で,こ
の 主 要 原 料 名 を並 べ
の 中 に,磁 性 のFeCo相
の柱状微粒 子
を分 散 析 出 させ る。 これ が単 磁 区 とな り,大 きな 形 状 磁 気 異 方 性 を もつ こ とに よ り,高 い保 持 力 を もつ 永 久 磁 石 材 料 とな る。 (6) 希 土 類 磁 石
SmCo5,SmCo17,Nd2Fe14Bの
希 土 類 金 属 間 化 合 物 は,
非常 に 強 い 一 軸 性 の結 晶磁 気 異 方 性 を もつ 。 これ を利 用 して,粉 末 を圧 縮 成 形 す る か ,Cu主 成 分 の 非 磁 性 相 に磁 性 相 を析 出 し て,単 磁 区構 造 に す る方 式 に よ り,非 常 に高 い 保 持 力 を もたせ る こ とが で き る。 この 希 土 類 磁 石 は,ア ル ニ コ な ど,他 の 永 久 磁 石 に比 して 最 大 エ ネ ル ギ ー積 が5倍 以 上 もの 強 力 な もの とな る。 現 在 の 最 も強 力 な 永 久 磁 石 材 料 で あ る。
12.9.2
酸 化 物 の 磁 性 と フ ェ ラ イ ト,希 土 類 鉄 ガ ー ネ ッ ト
金 属 と酸 素 と の イ オ ン結 晶 を酸 化 物 と呼 ぶ が,金
属 イ オ ンが 磁 性 を もつ 場 合,
磁 性 イ オ ン間 に酸 素 イ オ ン を介 して,超 交 換 相 互 作 用 と呼 ばれ る作 用 に よ り,そ れ らの金 属 イ オ ン の磁 気 モ ー メ ン ト(ス ピ ン)を そ ろ え る作 用 が あ り,強 磁 性 が 発 現 す る もの が あ る。 そ の代 表 的 な 酸 化 物 は,MO・Fe2O3の
分 子 式 を もつ フ ェ
ラ イ ト と,3R2O3・5Fe2O3の
分 子 式 の 希 土 類 鉄 ガ ー ネ ッ トで あ る 。 こ こ で, Mは
Ca,Sr,Ba,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Zn,Mgな
ど,あ
る い は こ れ ら の 混 合 物 で あ る 。R
は 希 土 類 元 素 で あ る 。 これ ら は 絶 縁 性 物 質 で あ る の で,渦
電 流 損 が な く高 周 波 用
途 に適 し て い る。
Mn-Znフ
ェ ラ イ トは,MnO,ZnOの
性 と磁 気 歪 み が ほ ぼ0と な るFe2O3の られ る。 また,BaO・6Fe2O3,ま
混 合 比 率 が1の
フ ェ ラ イ トで,磁 気 異 方
量 が 存 在 し,軟 磁 性 高 周 波 材 料 と して 用 い
た はSrO・6Fe2O3フ
ェラ イ トで は,磁 気 異 方 性
と磁 化 が 大 き く,微 粒 子 粉 末 を磁 化 容 易 軸 を磁 界 中 で そ ろ え,圧 縮 成 形 した の ち 焼 結 した もの は永 久 磁 石 材 料 と して用 い られ る。 フ ェ ラ イ ト磁 石 は金 属 磁 石 に比 べ て 軽 量 で あ り,か つ材 料 も低 廉 で 製 造 もや さ しい 。 ま た,フ
ェ ラ イ ト磁 石 は飽
和 磁 化 が 小 さ い が,保 持 力 が 大 き い特 長 を もつ の で,反 磁 界 が 大 き い と き にエ ネ ル ギ ー 積 が 大 き く,平 た い磁 石 で も吸 引力 が 大 き い 。 フ ェ ラ イ トの 粉 末 を ゴ ム や プ ラ ス チ ッ ク に混 合 した ボ ン ド磁 石 は,成 形 加 工 が容 易 で,価 格 も低 廉 で あ るた め 鉄 黒 板 の 用 紙 保 持 用 な どの文 具 とし て身 近 な もの で あ る。 ガ ー ネ ッ トは マ イ ク ロ波 領 域 で 損 失 が 少 な く,マ イ ク ロ波 領 域 の 磁 気 素 子 とし て使 わ れ る他,透
明性 が 高 い の で,フ
ァ ラ デ ー効 果 を利 用 し た光 磁 気 検 出装 置 等
に も使 わ れ る。 種 々 の 代 表 的 な磁 性 材 料 の特 性 を表12.1に
12.10
示 す。
そ の他 磁 気 応 用
磁 気 応 用 と して の最 も大 き な用 途 は,軟 磁 性 材 料 を用 い た 変 圧 器,発 動 機 な ど電 力 応 用 や,電
電 機,電
子 回路 に用 い る種 々 トラ ン ス,磁 気 ヘ ッ ド等 磁 束 変 化 を
応 用 した機 器 で あ る。 また,永 久磁 石 は,小 型 モ ー タ,ス
ピー カ,MRIな
ど に用
い ら れ る強 力 な磁 場 発 生 装 置 な ど応 用 の 範 囲 は広 い 。 磁 性 材 料 と して は,他 に磁 気 記 録 へ の応 用 が あ る 。 磁 気 記 録 は切 符,テ
レホン
カ ー ド等 の 磁 気 カ ー ド,磁 気 テ ー プ,フ ロ ッ ピ ー デ ィ ス ケ ッ ト,ハ ー ドデ ィス ク, 光 磁 気 デ ィス ク な どが あ るが,共 通 し て必 要 な 特 性 は,で
き るだ け高 密 度 に異 な
表12.1 (a) 電 力 用 軟 磁 性 材 料(変
圧 器,電
(b) エ レ ク トロ ニ ク ス 用 軟 磁 性 材 料(ト
(c) 永 久磁 石 用 硬 性 材 料(小
代 表的 な磁性 材 料 の特 性
動 機,発
型 モ ー タ,ス
電 機)
ラ ン ス,リ
ピー カ等)
レ ー,磁 気 ヘ ッ ド等)
っ た 磁 化 を行 い う る こ と と,そ の 磁 化 の 高速 性,安
定 性 で あ る。 この 性 質 か ら,
硬 磁 性 材 料 の 特 性 が 要 求 され る。 磁 気 記 録 で 最 も広 く用 い られ る の は,γ-Fe2O3 フ ェ ラ イ トの針 状 微 粒 子 を薄 く塗 布 し た もの で あ り,前 に述 べ た 大 部 分 の磁 気 記 録 装 置 に広 く用 い られ て い る。 そ の 他 に も,Co-Ni,Co-Cr等
の金 属 を真 空 蒸 着
を した メ タル テ ー プ な どが 使 わ れ る。 光 磁 気 デ ィス ク は,レ ー ザ ー光 の 熱 エ ネ ル ギ ー を利 用 し て,磁 性 薄 膜 に磁 区 を作 り情 報 を記 録 し,読 み 出 し は カ ー 効 果 を利 用 した 光 の偏 光 を用 い て行 う。 この 方 式 は レ ー ザ ー 光 が 非 常 に小 さ い面 積 に絞 り 込 み う るた め,高 密 度 の記 録 が 可 能 で あ る こ と と,熱 を与 え て磁 化 を す るた め, 熱 が か か らな い と きの 安 定 性 が 非 常 に 良 く,記 録 保 存 に高 い信 頼 性 が 得 られ る こ とで あ る。
第13章
13.1
光 デバ イ ス
光 の利 用
電 気 の 最 初 の 応 用 は,光 の発 生,す 波 で あ り,電 子,原
な わ ち 照 明 と して の 利 用 で あ る。 光 は電 磁
子 のエ ネ ル ギ ー 状 態 が変 化 す る と き電 磁 波 に変 換 され る し,
逆 に電 磁 波 に よ りエ ネ ル ギ ー状 態 が 変 化 す る。 これ ら は,物 質 が 静 電 力 に よ り結 合 し て い る こ とか ら出 て くる帰 結 で あ る。 光 の発 生 は,古 さ れ て,電 気 の 応 用 の 非 常 に大 きな 分 野 で あ るが,近 信,光
くか ら照 明 とし て利 用
年 この光 を,情 報 処 理,通
エ ネ ル ギ ー に よ る加 工 等 に応 用 す る技 術 が 著 し く進 ん だ。 これ は,レ ー ザ
ー の 発 明 と光 フ ァイ バ ー の実 用 化 が 大 き な 契 機 で あ る。 これ まで光 の 応 用 は,照 明 な ど コ ヒ ー レ ン トで な い,す な わ ち位 相 が 揃 っ て い な い光 で あ った が,レ
ーザ
ー の 発 明 に よ り,電 波 と同 じ くコ ヒー レ ン トな光 が 可 能 とな っ た 。 これ に よ り, 光 を電 波 と同 様 に扱 う こ とが で き る よ う に な り,光 の 波 長 程 度 の 範 囲 へ の 収 束 や,干 渉 作 用,光 フ ァ イバ ー に よ る伝 送 な ど,従 来 の電 波 の 利 用 概 念 に近 づ い た 。 光 は非 常 に高 周 波 の 電 磁 波 で あ るか ら,そ れ に よ り送 りう る情 報 量 も著 し く大 き い 。 従 って,現
在 で は情 報 伝 送 の 主 要 な地 位 を 占 め る に至 っ て い る。 光 フ ァイ バ
ー の 通 信 は情 報 量 が 大 きい だ けで な く,電 力 系 統 等 か らの 電 磁 誘 導 も受 け な い の で,電
気 雑 音 の 妨 害 も存 在 しな い 。 この た め,電 力 系 統 と併 設 も可 能 で,場 所 を
選 ば な い メ リ ッ ト も大 きい。 この こ とか ら,道 路,送 電 線,鉄 道 な どに も沿 っ て, 広 範 囲 に敷 設 が な され て い る。
13.2 光 検 出 器
光 検 出 の 目的 は,光
の有 無 や 光 の 強 度 を検 出 し,光 信 号 な どの情 報 を知 る こ と
と,光 の エ ネ ル ギ ー を電 力 に変 換 す る太 陽 電 池 に,大 別 で き る。 光 信 号 の 検 出 で は,検
出 す る光 の波 長 に感 度 を有 し,必 要 な応 答 速 度 を もつ こ と と,雑 音 の小 さ
な こ とで あ り,電 力 に 変 換 す る に は,効 率 の 高 い こ と と価 格 が 他 の手 段 よ り低 い こ とが 重 要 で あ る。 光 の 検 出器 の 基 本 原 理 は,光
に よ り導 電 体 の キ ャ リヤ を光 励 起 に よ り作 り出 す
こ とで あ る。 この キ ャ リヤ を電 界 に よ り動 か せ ば,光 の 有 無 を検 出 で き る し,異 種 接 合 部 分 に光 に よ りキ ャ リヤ を作 り出 せ ば,界 面 に あ る強 電界 中 で,キ
ャ リヤ
は輸 送 され エ ネ ル ギ ー を取 り出 す こ とが で き る。
13.2.1
光 検 出 用 ホ トダ イ オ ー ド
異 種 接 合 に よ り作 られ た 半 導 体 ダ イ オ ー ドの空 乏 層 に光 を入 射 し,こ こ に励 起 に よ り正 孔 と電 子 を作 りだ し,空 乏 層 の 電 界 で 分 離 して,電 流 と して 取 り出 す 光 信 号 検 出 器 で あ る。従 っ て,検 出 す る光 の エ ネ ル ギ ーEphotonは,半
導体 のエネル
ギ ー ギ ャ ッ プEgよ
の振動数 を レ
り大 きな もの を もつ もの に な る。 す な わ ち,光
とす る と,
が 条 件 で あ る。 従 って,エ 検 出 で き るが,熱
13.2.2
図13.1の
pnホ
ネ ル ギ ー ギ ャ ップ の 小 さ な 半 導 体 ほ ど長 波 長 の光 か ら
に よ る励 起 の 妨 害 を う け,低 温 動 作 を行 う必 要 が 出 て く る。
トダ イ オ ー ド
よ う に,pn接
合 を 逆 バ イ ア ス し,空 乏 層 中 の電 界 で加 速 し,電 流 と
し て検 出 す る。 外 部 か らの光 は,p型
半 導体 を通 り接 合 に 到 達 し,空 乏 層 中 の電
界 で,正 孔 と電 子 は 逆 方 向 に加 速 され 分 離 さ れ る。p型 層 で も キ ャ リヤ は励 起 さ れ るが,表 面 付 近 は表 面 再 結 合 中 心 の 濃 度 が 高 く,再 結 合 に よ り電 流 は失 わ れ る。
また,n型
半 導 体 中 に励 起 さ れ た キ ャ リ
ヤ も再 結 合 し,電 流 成 分 に な らな い 。従 っ て,波 長 が 短 くな る と,半 導 体 中 の光 吸 収 が 増 加 し,空 乏 層 に 到 達 しな くな り,短 波 長 で の 光 検 出 の 限界 とな る。 ま た,応 答 速 度 は,励 起 さ れ た キ ャ リヤが 図13.1
pnホ
トダ イ オ ー ド
電 極 に吸 収 され る まで の時 間 で 決 ま る。 ま た,接 合 の作 る静 電 容 量 と外 部 回 路 の抵 抗 分 の 時 定 数 も,応 答 速 度 を決 め る。 従 っ て,空 乏 層 の 幅 を広 く して 静 電 容 量 を減 ら し,空 乏 層以 外 の大 き さ を小 さ く し,空 乏 層 以 外 で 励 起 され た キ ャ リヤ の 寿 命 を再 結 合 中心 を作 り短 くす る な どで 高 速 化 を図 る。
13.2.3
pinホ
トダ イ オ ー ド
空 乏 層 の 幅 を大 き く し,他 の 部 分 を減 ら し て,応 答 速 度 お よび 感 度 を向 上 した ホ トダ イ オ ー ドで あ る。 この た め に,不 純 物 濃 度 を小 さ く しキ ャ リヤ 密度 を小 さ くして 空 乏 層 の 幅 を大 き くす る。pinのiは
真 性 半 導体 の 意 味 で あ り,接 合 の 中 心
に不 純 物 の 少 な い真 性 半 導 体 層 を入 れ,こ
の 目的 を達 成 す る。
13.2.4
シ ョ ッ トキ ー ホ トダ イ オ ー ド
金 属 と半 導 体 との接 合 を シ ョ ッ トキー 接 合 と言 うが,光
が 通 過 す る ほ ど薄 い 金
属 層 と半 導 体 との 接 合 の 空 乏 層 を利 用 した ホ トダ イ オ ー ドで あ る。 表 面 再 結 合 な どが な く光 が 空 乏 層 の キ ャ リヤ生 成 に有 効 に利 用 で き る。 紫 外 線 領 域 の 短 波 長 ま で 使 え 高効 率 高 速 の ホ トダ イオ ー ドで あ る。
13.2.5
ア バ ラ ン シ ェ ホ トダ イ オ ー ド(APD)
逆 バ イ ア ス 電 圧 を大 き く し,空 乏 層 の電 界 を強 く して い く と,こ
こで加 速 され
た キ ャ リヤ は 半 導体 エ ネ ル ギ ー ギ ャ ッ プ よ り大 き な エ ネ ル ギ ー を得 る よ う に な る。 この と き,こ の キ ャ リヤ は新 た な励 起 を行 い,電 子 と正 孔 を 生 み 出 す 。 これ
が 繰 り返 され る と キ ャ リヤ の数 が 増 倍 され る。 この 過 程 を電 子 雪 崩(ア )と 呼 ぶ 。 この よ う に し て,光 す る電 流感 度 を増 や した の がAPDで
13.2.6
バ ラ ン シェ
に よ り生 み 出 さ れ た キ ャ リヤ を増 倍 し,光 に対 ある。
ホ ト トラ ン ジ ス タ
接 合 トラ ン ジ ス タ構 造 と し,べー ス-コ レ ク タ接 合 に光 を入 射 させ る。こ の接 合 に 発 生 した キ ャ リヤ は,べー ス に蓄 積 され,べー ス-エ ミ ッタ を順 バ イ ア ス 状 態 と す る の で,ト
ラ ン ジ ス タ 作 用 に よ り電 流 が増 幅 され,高 感 度 光 検 出器 が構 成 で き
る。
13.2.7
ホ トコ ン ダ ク タ
光 に よ る キ ャ リヤ の生 成 に よ り,導 電 率 が 増 加 す る こ とを利 用 した 光 検 出 器 で あ る。 接 合 を作 る必 要 が な く,単 純 な構 造 な の で,ほ で き る。 しか し,良 好 な接 合 が つ くれ るSi,Ge,GaAsな
とん どの 半 導 体 材 料 が 使 用
ド,APDな
どで はpinホ
トダ イ オ ー
ど に信 号 対 雑 音 比 は劣 る。 この た め,良 好 な接 合 を作 るの が 困難 な 長
波長 赤 外 領 域 の セ ンサ とし て使 わ れ,熱 の用 途 が あ る。 また,CdSの
イ メ ー ジ,放 射 温 度 測 定,分
光計測 な ど
よ う に価 格 が 安 く,か つ大 電 流 も制 御 で き る も の は,
灯火 自 動 点 滅 装 置 の セ ンサ な どの 用 途 に使 わ れ る。
13.3 発 光 素 子
13.3.1
図13.2に
LED
示 す よ う に,pn接
合 に順 方
向 に電 流 を 流 し,接 合 で の 正 孔 と電 子 の 再 結 合 に伴 って 出 る光 を利 用 し た 発 光 素 子 で あ る。 発 光 す る光 の 波 長 は エ ネ ル ギ ー ギ ャ ップ に よ り決 ま り,各 材 料 の代 表
図13.2
LEDの
原理構造例
表13.1
的LEDの
発 光 色 を表13.1に
LEDの
発 光色
示 す 。 な お,再 結 合 に伴 っ て光 が 出 る に は フ ォ ノ ン
を 介 さ な い直 接遷 移 で あ る 必 要 が あ り,SiやGe半
導 体 で の 再 結 合 は発 光 は起 き
ない。 LEDは
発 光 効 率 が 電 球 な ど の他 の 照 明 よ り高 く,か つ 長 寿 命 で あ る。光 通 信 の
発 光 素 子 や 表 示 素 子 と して 広 く使 わ れ る ほ か,3色
を利 用 した 交 通 信 号 器 な どへ
の 応 用 が され て い る。
13.3.2
エ レ ク ト ロ ル ミ ネ ッ セ ン ス(EL)
(1) 無 機 エ レ ク トロル ミネ ッ セ ンス(EL)素 を添 加 したZnSを
発 光 中 心 と してMnな
ど
薄 い絶 縁 膜 で 挟 み,そ の外 側 に電 極 を付 けた構 造 で あ る。電 極
に交 流 電 圧 を 印加 し,ZnS中 ZnSに
子
に 高 電 界 を 作 る。 電 子 が 電 極 か ら トン ネ ル 効 果 で
注 入 され,高 電 界 で加 速 され て発 光 中 心 を励 起 す る。 発 光 中心 が緩 和 し,
元 に戻 る と き に発 光 が起 き る。 発 光 中 心 を選 ぶ と種 々 の色 の光 を出 す こ とが で き る。 (2) 有 機 エ レク トロル ミネ ッセ ンス(EL)素
子
非 常 に薄 い有 機 絶 縁 膜 に
電 極 を取 り付 け,電 圧 を印 加 す る と,そ れ ぞ れ の 電 極 か ら電 子 と正 孔 が注 入 さ れ, 絶 縁 膜 中 に キ ャ リヤ が で き る の で 電 流 が 流 れ,導 電 性 を示 す 。 この 導 電 性 は多 量 の 電 荷 注 入 に基 づ くもの で あ り,絶 縁 体 の 導 電 機 構 で あ る空 間 電 荷 制 限 電 流 の特 性 に従 う。 こ の注 入 され た 電 子 と正 孔 が 再 結 合 す る と き,有 機 中 性 分 子 の励 起 を
引 き起 こ し,こ れ が 緩 和 す る とき発 光 す る。 有 機 薄 膜 は,電 極 か らの 電 子 の 注 入 に適 した 材 料,正
孔 の 注 入 に適 した 材 料,お
よ び電 子 と正 孔 を集 め結 合 しや す く
す る材 料 の3層 構 造 等 が検 討 され て い る。 こ れ らエ レ ク トロ ル ミネ ッセ ン ス(EL)素
子 は,画 像 デ ィス プ レイ な どに応 用
され て い る。
13.3.3
太陽電池
原 理 は光 検 出用 ホ トダ イ オ ー ド と同 一 で あ り,異 種 接 合 に よ り作 られ た ダ イ オ ー ドの 空 乏 層 に太 陽 光 を入 射 し
,励 起 に よ り正 孔 と電 子 を作 りだ す。 空 乏 層 の電
位 差 の 起 電 力 に よ り,こ の キ ャ リヤ を外 部 回路 に流 しエ ネ ル ギ ー を得 る光 電 力 変 換装 置 である。 接 合 を作 れ ば よ い の で,非 常 に多様 な 種 類 の 太 陽 電 池 が 考 え られ るが,接 合 を 大 面 積 で,か
つ 低 コス トで 作 る こ とが 重 要 で あ る。 また,太
厳 しい も の が あ る。 現 在,低 の 基 板 の 上 に シ ラ ン(SiH4)や
コ ス ト化 が 可 能 な の で,ガ ジ シ ラ ン(Si2H6)の
し,生 成 さ せ た ア モ ル フ ァ ス シ リ コ ン のpn接 こ の方 式 は,ま だ 光-電 気 変 換 効 率 は10%程
陽 光 に よ る劣 化 に も
ラス あるいはステ ンレス
ガ ス を プ ラズ マ な どで 分 解
合 を作 る 方 法 が 主 な もの で あ る。 度 で,あ
ま り高 くな く,寿 命 の 点 も
改 善 す る必 要 が あ る と考 え ら れ て い る。 太 陽 光 の エ ネ ル ギ ー 密 度 は1kW/m2で あ り,太 陽 電 池 の 変 換 効 率 は10∼20%程
度 が 現 在 得 られ て い る値 で あ る。 従 っ
て,天 気 の 良 い 日中 で は100∼200W/m2の
エ ネ ル ギ ー が 得 られ る。太 陽 電 池 はエ
ネ ル ギ ー 問 題 を 解 決 す る有 力 な手 段 の 一 つ と考 え ら れ て お り,精 力 的 に 低 価 格 化,長
寿 命 化,高 効 率 化 の 努力 が され て い る 。
13.4
13.4.1
レー ザ ー
レー ザ ー の 原 理
レー ザ ー は二 つ の エ ネル ギ ー準 位 の 間 で,エ
ネ ル ギ ー の 高 い準 位 に 何 ら か の 方
法 で,原 子,分
子 が 存 在 す る状 態(反
転
分 布 あ る い は 負 温 度 状 態 と呼 ぶ)を
作
り,こ れ を図13.3に
示 す よ うな,一 対 の
非 常 に正 確 な平 行 度 を もつ 反 射 鏡(フ ブ リー ぺ ロー 干 渉 計),あ
ァ
る い は壁 面 に
周 期 的 凹 凸構 造 を も たせ た 導 波 路,よ
り
な る光 学 的 な 共 振 器 中 に置 い た 装 置 で あ る。 エ ネ ル ギ ー準 位 差 に等 しい光 子(ホ トン)が
こ こ に入 っ て くる と,反 転 分 布
媒 質 中 で,誘
導 放 出 に よ り新 た な光 子 を
図13.3
フ ァ ブ リー ぺ ロー 型 レー ザー の 原 理
作 りそ の 数 を増 す 。 光 は この共 振 器 中 で 増 幅 さ れ るわ け で あ る。 従 って,こ 幅 光 の一 部 を 反 射 鏡 に よ り戻 して や れ ば,コ
の増
ヒー レ ン ト光 の 発 振 器 が で き る。 こ
れ が レ ー ザ ー の 原 理 で あ る。 反 転 分 布 を もつ 材 料 は,気 体,液 体,固 せ るエ ネ ル ギ ー供 給(ポ
ン ピ ング)に
で は キ ャ リヤ の注 入,化 学 反 応,プ
体 に わ た る し,ま た,反 転 分 布 を持 た
も光 照 射,電
子 ビ ー ム 照 射,放 電,半
導体
ラ ズ マ,衝 撃 波 な ど多 種 多様 な 方 法 が あ る。
な お,そ の 他 に も,コ ヒー レ ン ト光 を 出 す 方 法 と して,高 速 電 子 を磁 界 中 に通 し, 電 子 軌 道 の 曲 が り に伴 っ て 出 る光 を利 用 す る方 式 が あ る。 これ は 自 由 電 子 レーザ ー と呼 ばれ ,電 子 の速 度,磁 界 の 変 化 周 期 を変 え る こ と に よ り,任 意 の 波 長 の強 力 な光 発 振 が で き る。 こ の よ うに,レ ー ザ ー は その 出 す 光 の 波長 も遠 赤 外 か らX線
領 域 まで あ り,多
種 類 の 方 式 が 存 在 す る。
13.4.2
気 体 レーザ ー
気 体 レー ザ ー の 出 す 光 の 波 長 は,紫 外 線 領 域 か ら遠 赤 外 領 域 まで 広 い範 囲 に分 布 す る。 これ は,気 体 材 料 と して 非 常 に 多種 の もの が存 在 す る こ と に よ る。 (1)CO2レ
ー ザ ー
CO2が3原
子 分 子 で あ り,こ
モ ー ドの遷 移 を利 用 し て波 長10.6μmの
の3原
子 間 の 振 動,回
転
赤 外 線 で発 振 す る。 ポ ン ピ ング は 直 流 あ
る い は高 周 波 放 電 で あ る。大 き い もの で は 数 十kWを
上 回 る連 続 出力 が 得 られ,
切 断 な どの加 工 用 と して 多 くの産 業 で利 用 され て い る。 (2) エ キ シ マー レー ザ ー
紫 外 線 領 域 の 短 波 長 レ ー ザ ー とし て リソ グ ラ フ
イー な どの半 導体 製 作 工 程 や 光 化 学 反 応 等 の応 用 が な され て い る。 希 ガ ス は他 の 原 子 と結 合 しな いが,一
方 の原 子 が 励 起 状 態 で あ る と,結 合 し分 子 を作 る。 これ
が エ キ シ マー で あ る。 エ キ シ マー 状 態 と基 底 状 態(も
との解 離 原 子)と
の 間 の遷
移 を利 用 した もの が エ キ シマー レー ザ ー で あ る。 非 常 に多 種 の レー ザ ー が 可 能 で あ るが,大
出力 の も の と してKrF(波
的 な もの で あ る。 これ らは,ポ
長249nm)やXeC1(波
長308nm)が
代表
ン ピ ング は放 電 も し くは電 子 ビー ム に よ る 。 パ ル
ス 出 力 で 動 作 し,連 続 出力 は技 術 的 に困 難 で あ る。
13.4.3
固 体 レー ザ ー
固 体 レ ー ザ ー は,結 Ho3+な
晶 や ガ ラ ス の 母 体 材 料 の 中 に 希 土 類 イ オ ン(Nd3+,Er3+,
ど)や 遷 移 金 属 イ オ ン(Cr3+,Ti3+,Co2+な
ど)を 入 れ,こ
の 電 子 準 位 の 遷 移 を 利 用 す る 。 ポ ン ピ ン グ に は 光 を 用 い,こ
れ ら活 性 イ オ ン
の光源 としてキセ ノ
ン や ク リ プ トン な ど の 希 ガ ス の 放 電 や ハ ロ ゲ ン 電 球 な ど が あ る 。 母 体 材 料 の 代 表 的 な も の はYAG(Y3A15O12)で 広 く使 わ れ,YAGレ る 母 体 で あ る が,発
あ り,こ
れ にNd3+を
ドー プ し た レ ー ザ ー が 最 も
ー ザ ー と 呼 ば れ る 。 し か し,YAGが 振 波 長 に 対 し て 透 明 で あ る,活
光 る わ け で な く,単
性 イ オ ン を 溶 か せ る,熱
率 が 小 さ い な ど 多 く の 条 件 を 満 た す 必 要 が あ る。Nd3+YAGレ 1.064μmで
発 振 し や す く,CO2レ
過 す る 波 長 で も あ る 。 時 に は,光
ー ザ ー よ り波 長 が 短 く,か
ー ザ ー は,波
な
膨 張 長
つ 光 フ ァイ バ ー に透
フ ァ イバ ー に組 み 合 わ せ た りして 精 密 な 加 工 や
マ ー キ ン グ な どの 産 業 用 途 に使 用 され て い る。
13.4.4
半 導 体 レー ザ ー
半 導体 レ ー ザ ー は,半 導体 中 の電 子,正 たもの で あ る。 これ は,小 型 軽 量,低 よ り高 速 変 調 が 可 能(10GHz以
孔 の再 結 合 に よ り発 生 す る光 を利 用 し
消費 電 力,高 効 率,長 寿 命,電
上),量
流 の変調 に
産 に よ る低 価 格 な どの 優 れ た 特 長 を も
ち,光
フ ァ イ バ ー 通 信,CDな
録,再
生 に と ど ま ら ず,幅
どの光記 広 く利 用 が 進
ん で い る。 光 フ ァ イ バ ー 通 信 で は,光 1.55μmの
赤 外 線 が,損
で あ る が,光
の波 長 が
失 が最小 で最 適
記 録 再 生 な ど で は,波
長の
短 い ほ う が 記 録 密 度 を 高 くで き る の で 望 ま し い 。 現 在,実
用 化 さ れ て い る半 導体
レ ー ザ ー はInGaAsP系
の化合 物半 導体
で1.3∼1.55μm,A1GaAs系 ∼0 .89μm程
で0.68
度 の 発 振 波 長 で あ る が,さ
ら に 短 い 波 長 と し て,GaNを 色(∼0.46μm)の
用 い て青
図13.4
製 作 が行 わ れ て い る。
フ ァ ブ リ― べ ロ ー 形 半 導 体 レ ー ザ
ーの構 造
半 導 体 レ ー ザ ー は,再 結 合 の起 き る場 所 を 図13.4の
よ う な構 造 に よ り限 定 し,
この部 分 を 活 性 層 と して レ ー ザ ー 発 振 を行 う。 図13.4に GaAs半
お い て,活 性 層 はp型
導 体 で あ り,こ の 両 側 に,バ ン ドギ ャ ッ プ の大 き いp型A1xGa1-xAsお
よ びn型A1xGa1-xAs半
導 体(こ
れ らは光 を活 性 層 か ら 出 さ な い 作 用 もす る た め
ク ラ ッ ド層 と呼 ば れ る)で 挟 ん だ 構 造 を し て い る。 な お,原 GaAs半
導 体 で も よい 。p型A1xGa1-xAsにn型A1xGa1-xAsに
理 上 活 性 層 はn型 対 して,正 の電 圧
(順 方 向)を 印 加 す る と,正 孔 お よ び電 子 は 活 性 層 に注 入 され るが,バ
ン ドギ ャ ッ
プ の よ り大 きな , そ の先 の ク ラ ッ ド層 に は入 っ て い け な い。 この た め,再 結 合 は 活 性 層 の み で行 わ れ,効
率 の良 い発 光 が で き る。
量 子 井 戸 型 半 導 体 レ ー ザ ー
活 性 層 の 厚 さ を量 子 効 果 が 顕 著 とな る厚 さ,す
な わ ち ドブ ロ イ 波 長 程 度(∼20nm)に
す る と,電 子,正 孔 のエ ネ ル ギ ー準 位 が 量
子 化 され,状 態 密 度 分 布 が小 さ い範 囲 に 分裂 す る。 この よ う な,量 子 効 果 が 現 れ る薄 い活 性 層 を量 子 井 戸 層 と呼 ぶ 。 量 子 井 戸 層 が 一 つ の もの を単 ー 量 子 井 戸 構 造 (SQW),複 ーザ ーでは
数 の もの を多 重 量 子 井 戸 構 造(MQW)と
呼 ぶ 。量 子 井 戸 型 半 導体 レ
,キ ャ リヤ再 結 合 に よ る光 へ の変 換 効 率 が 著 し く高 くな り,少 な い 電
流 で,高
出 力,高
速 変 調 が 可能 と な り,光 通 信,光
情 報 処 理 な ど に広 い応 用 が 期
待 され て い る。
13.5
13.5.1
光 フ ァ イバ ー
光 フ ァイバ ー の原 理
光 フ ァイ バ ー は,図13.5に
示 す よ うな 同 軸 構 造 で,中 心 の コ ア と呼 ばれ る部 分
の屈 折 率 を,周 囲 に あ るク ラ ッ ドと呼 ば れ る部 分 よ り大 き く した,光 の 伝 送 線 路 で あ る。 光 は コ ア を伝 わ っ て い く。 光 は電 磁 波 で あ るの で,光
フ ァイ バ ー を どの
よ う に し て 伝 搬 す る か は,マ ク ス ウ エ ル の方 程 式 を誘 電 率(屈 折 率 の 平 方 根 に比 例 す る。)の 異 な る境 界 条 件 を解 い て 得 られ る。 しか し,こ れ は大 変 複 雑 な 計 算 で
図13.5
図13.6
光 フ ァイバ ー
光 の入 射 と反射
あ る。 光 の 波 長 が 光 フ ァイバ ー の コ ア の直 径 よ り十 分 小 さ い と考 え る と,幾 何 光 学 の 考 え方,す
な わ ち 光 を粒 子 と し て見 な す 考 え 方 が 使 え,理 解 しや す い。 これ
に よれ ば,図13.6に
示 す よ う に,光 は屈 折 率 の大 きい 物 質1か
入 射 す る と き,一 部 は反 射 され,残
ら小 さ な物 質2に
りは屈 折 が 起 き て 物 質2に 入 って い く。 物 質
2に 入 る光 の 角 度 の関 係 は,
(13.1) と な る が,θ1が
小 さ く な る と,式(13.1)に
はθ2を 与 え る 解 が 存 在 し な くな る 。
こ の 角 度 θ は,
(13.2) の条 件 で与 え られ る。 この場 合 は,物 質2に 入 る光 は な く,入 射 した光 はす べ て 物 質1中
に全 反 射 さ れ る。 光 フ ァイ バ ー で は,コ
ア の 部 分 を進 む光 の 角 度 を式
(13.2)の 条 件 を満 た す よ う に もた せ る。 こ うす る と,光 は ク ラ ッ ド との界 面 で全 反 射 さ れ,外
部 に出 る こ と な くコ ア を伝
搬 し て い く。 こ れ を 図13.7に て,光
フ ァイ バ ー の フ ァイ バ ー 端 面 か ら
光 を 入 れ る と き,コ は,外
示 す 。従 っ
ア を伝 わ っ て い くの
部 空 気 中 か ら の 入 射 角 が 式(13.1) 図13.7
の 関 係 か ら計 算 し て,
受光角
(13.3) よ り 小 さ い 場 合 に 限 られ る。2θmaxを
受 光 角 と呼 ぶ 。 ま た,
(13.4) を開 口 数NAと
呼 び,光
フ ァイバ ー の 特 性 を 示 す 重 要 な 量 で あ る。
以 上 の 考 え方 か らみ る と,光 フ ァ イバ ー の 信 号 の 到 達 時 間 は入 射 角 に依 存 す る。 例 え ば,入 射 角 が 小 さ い と,光 は コア の 軸 方 向 に対 して小 さい 角 度 で進 む か ら,到 達 時 間 は早 くな る。 従 っ て,同 時 に 光 源 か ら種 々 の 角 度 を も って 入 射 した 光 は,長
さ 方 向 の 速 度 が 異 な るた め,反 対 端 に到 達 した と き,そ の 入射 角 に応 じ
た 時 間 差 を もつ 。 この た め,信 号 を送 っ た場 合,そ
の 信 号 が 時 間 的 広 が りを も っ
て 到 達 す る。 これ は 高 速 通 信 に 障 害 を与 え る。
13.5.2
モー ド
実 際 の 光 フ ァ イバ ー は,コ ア の 直径 が,光
の 波 長 に比 べ て十 分 大 き くな い もの
が 主 と して 使 わ れ る。 こ の場 合 は,幾 何 光 学 で 考 え た伝 わ り方 とは 異 な り,波 動 と し て考 慮 す る必 要 が あ る。 この考 えで は,光 の コ ア に対 す る角 度 は飛 び 飛 び の 値 に制 限 され る。 そ の コ ア に対 して の 許 さ れ る角 度 は,
(13.5) と な る 。aは
コ ア の 半 径,Nは0か
で あ る。 式(13.5)で
式(13.2)の
の 値 に 対 応 す る,光 度)は,光
正 の 整 数 で あ る 。k0=λ/2π 関 係 を 満 た す 必 要 か ら,Nに
で,λ
は光 の 波長
は 上 限 が あ る 。N
の 伝 わ る 形 態 を モ ー ド と呼 ぶ 。 光 の コ ア 軸 方 向 の 速 度(群
の 真 空 中 の 速 度 をcと
速
して
(13.6) で 与 え ら れ,モ
13.5.3 式(13.5)と
ー ドに よ っ て速 度 が 異 な る こ とが 分 か る。
シ ン グ ル モ ー ドフ ァ イ バ ー と マ ル チ モ ー ドフ ァ イ バ ー 式(13.2)よ
り,
(13.7) が 得 られ るが,コ
ア の 直 径 を小 さ くして い く と,モ ー ドの 数 は減 少 し,や が てN=0
の モ ー ド しか 存 在 し な い直 径 と な る。 さ ら に直 径 を減 ら す と,モ ー ドが 存 在 しな くな り,コ ア を光 は伝 搬 しな くな る。N=0の
モ ー ド しか 伝 搬 しな い 直 径 を
有 す る光 フ ァイ バ ー をシ ン グル モ ー ド光 フ ァイバ ー と呼 ぶ 。 実 用 の シ ン グ ル モ ー ド石 英 光 フ ァ イ バ ー は,材 料 の屈 折 率 な ど の特 性 か ら,コ ア の 直 径 は8∼10μm 程 度 で あ り,ク ラ ッ ドの 直 径 は125μmが ー は光 の伝 達 速 度 が1通
使 わ れ る。 シ ング ル モ ー ド光 フ ァ イバ
りしか な く ,到 達 時 間 差 が 生 じ な い 。 これ よ り高 速 通 信
が 可 能 とな る。 光 通 信 の用 途 に は,大 部 分 この シ ン グ ル モ ー ド光 フ ァイ バ ー が 用 い られ る。 モ ー ドが 複 数 あ る光 フ ァイバ ー は,マ ル チ モ ー ドフ ァイ バ ー と呼 ば れ る。 これ は コア の 直 径 が 大 き い た め,接 続 が や さ しい な どの 利 点 が あ る。 過 去 に は,シ
ン
グ ル モ ー ド光 フ ァ イバ ー の 製 造 技 術 が 十 分 で な か っ た 頃 に使 わ れ た が,現 在 で は 長 距 離 通 信 に は あ ま り用 い られ ず,短 距 離 の通 信 用 と して 用 い られ て い る。
13.5.4
光 フ ァイバ ー材 料
一 般 に,光
に対 す る損 失 要 因 と して は,紫 外 吸 収,赤
外 吸 収 お よ び レイ リー 散
乱 損 失 が,物 質 の 結 合 エ ネ ル ギ ー に対 応 し て本 質 的 に 存 在 す る。 紫 外 吸 収 は,電 子 分 極 の 緩 和 周 波 数 が 紫 外 領 域 に あ る こ とに よ る。 こ れ は 可 視 光 か ら見 て い く と,光 の 波 長 が短 くな る ほ ど大 き くな る。 赤 外 吸 収 は 原 子 の位 置 の 振 動 に基 づ く もの で,原
子 分 極 の 緩 和 周 波 数 が 赤 外 領 域 に あ る こ と に よ る。 これ は可 視 光 か ら
見 て 行 くと,光 の 波 長 が 長 くな る ほ ど大 き くな る。 レ イ リー 散 乱 損 失 は,光 の 波 長 よ り短 い距 離 で の 屈 折 率 の 不 均 一 性 に よ って 生 ず る。 これ は材 料 の密 度 と組 成 の本 質 的 な揺 ら ぎ に よ る もの で,避
け る こ とは で き な い 。 光 フ ァイ バ ー は,こ れ
らの 損 失 が小 さ い領 域 の波 長 を使 用 して低 損 失 を実 現 す る。 (1) 石 英 光 フ ァ イバ ー るた めGeO2,P2O5,B2O3な
これ はSiO2が
主 成 分 で あ り,こ れ に 屈 折 率 を変 え
どが 添 加 さ れ る。通 信 用 光 フ ァ イバ ー は,大 部 分 石 英
光 フ ァイ バ ー で あ る 。石 英 光 フ ァイ バ ー は,O-H基 が 低 損 失 波 長 領 域 で あ る0.8∼1.7μmに
が 存 在 す る と,こ の 吸 収 波 長
存 在 し,害 を与 え る。従 っ て,水 分 の製 造
過 程 で の 侵 入 を極 力 排 除 して製 造 され る。石 英 光 フ ァイ バ ー の伝 送 損 失 を図13.8
図13.8
石英 光 フ ァイバ ー伝 送 損 失
に示 す 。 最 も伝 送 損 失 の 少 な い 波 長 は1.55μmの (2) 多 成 分 系 光 フ ァイ バ ー
赤 外 領 域 にあ る。
多 成 分 ガ ラ ス を 用 い る もの で,多
くの 組 成 が
考 え られ る。 石 英 フ ァイ バ ー と比 べ て,製 造 工 程 が単 純 で コ ス トが 安 い 利 点 が あ るが,低 損 失 は実 現 で きて い ず,短
い距 離 の 画 像 伝 送 をす る医 療 用 光 フ ァ イバ ー
な ど に使 わ れ る。 (3) プ ラス チ ッ ク光 フ ァイ バ ー が,安 価 で使 いや す く,数10m程
プ ラ ス チ ッ ク は 石 英 ほ ど低 損 失 で は な い
度 の 距 離 の光 伝 送 に用 い られ て い る。非 常 に コ
ア の 直 径 も大 き く,手 軽 に接 続 や 光 入 射 が で き,自 動 車,船,飛 配 線 に応 用 さ れ る。 プ ラ ス チ ッ クのC-H基 か か るの で,プ
行 機 や,機 器 内
の 光 吸 収 は近 赤 外 域 か ら可 視 光 域 に
ラス チ ッ ク光 フ ァ イバ ー の 損 失 最 小 波 長 は可 視 光 領 域 で あ る。 プ
ラ ス チ ッ ク材 料 と して はPMMA(ポ
リメ チ ル メ タ ア ク リレ ー ト)が 使 わ れ る が,
ポ リス チ レ ン な ど他 の 材 料 の検 討 も さ れ て い る。
第14章 半導体 デバ イス
半 導 体 デバ イ ス は,電 流 の 制 御,光 が あ る。 これ らの機 能 の多 く は,p型
の発 生,検 お よびn型
出 な ど多 くの 機 能 を有 す る もの 半 導 体 を使 い,pn接
合 を作 る こ
と に よ り実 現 され る。 接 合 にで き る空 間 電 荷 層 に よ る非 線 形 電 流 特 性 や,空 荷 層 の大 き さの 制 御,正
孔 と電 子 の2種
間電
の キ ャ リヤ の結 合 や 拡 散 を利 用 す る技 術
で あ る。 この こ とは,す で に述 べ た 異 種 材 料 の 接 合 の性 質 が,そ の 技 術 の 基 本 と な る。 シ リコ ン半 導体 で は, ① プ レー ナ ー 構 造:シ
リ コ ン単 結 晶 基 板 表 面 に二 酸 化 シ リ コ ン(SiO2)絶
縁
酸 化 膜 を作 り,そ の酸 化 膜 の 窓 開 け と,そ の 窓 を通 した不 純 物 の拡 散 を繰 り 返 す こ とに よ りp型 あ る い はn型
半 導 体 の 形 成,ト ラ ンジ ス タ な どの デバ イ
ス を多 数 形 成 す る。 ② エ ピ タ キ シ ャル 成 長:結 液 相 か ら,も
晶 の上 に,そ れ に揃 った 結 晶 層 を気 相,あ
るいは
し くは真 空 中 で 蒸 発 され た 原 子 に よ り,成 長 さ せ る。
を基 本 と して デバ イ ス を製 造 す る方 法 が,半 導 体 技 術 の 中心 で あ る。 これ ら の技 術 に よ り,ホ
トマ ス ク を通 じて 紫 外 線 で露 光 し,こ れ に よ りエ ッチ ン グ な どの 微
細 加 工 を行 っ て,非 常 に多 数 の トラ ン ジ ス タ な どの デ バ イ ス を小 面 積 に集 積 し, 集 積 回路 が で き る。 年 々 集 積 度 が 向 上 さ れ,大 容 量 の 半 導 体 メ モ リー やCPUな どの 論 理 回路 が 生 産 され て い る 。
14.1
トラ ン ジ ス タ
トラ ン ジ ス タ に は,pn接
合 を二 つ 組 み 合 わ せ た接 合 トラ ンジ ス タ と電 界 効 果
トラ ンジ ス タ に大 別 さ れ る。 前 者 は,少 数 キ ャ リヤ の注 入 に よ る効 果 を利 用 して
お り,正 孔 と電 子 の両 方 が 伝 導 に か か わ るの で,バ イ ポ ー ラ トラ ン ジ ス タ と も呼 ば れ る。 後 者 は,多 数 キ ャ リヤ の み が伝 導 に か か わ っ て お り,ユ ニポ ー ラ トラ ン ジ ス タ と も呼 ば れ る。
14.1.1
接 合 トラ ン ジ ス タ
これ はpnp型
とnpn型
の 二 種 が あ り,
動 作 原 理 は 同 じ で あ るが,正
孔 と電 子 の
役 割 が 逆 転 し て い る の で,電 圧-電 流 特 性 は逆 に な る。npn型 造 を 図14.1に
トラ ン ジス タ の 構
示 す 。 べース で あ るp型
半 導 体 は 非 常 に 薄 く,エ ミ ッ タ とコ レ ク タ のn型
半 導 体 に挟 まれ て い る構造 で
あ る。 べース‐ エ ミ ッ タ 間 に順 方 向 の 電 圧 を 印加 し,コ
レ ク タ‐べース 間 に は逆
方 向 の 電 圧 を印 加 し て動 作 させ る。 べース‐ エ ミ ッ タ 間 の 電 圧 が 小 さ く,こ の 部 分 の ダ イ オ ー ドの 電 流 が0に
図14.1
近 い と き,コ
npnト
ラ ン ジ ス タ動 作 原 理
レ ク タ‐べース 間 ダ イ オ ー ドに は 逆 方
向 電 圧 が 印加 さ れ て い るた め,こ ち ら に も電 流 が 流 れ な い 。べース‐ エ ミ ッタ 間 の 電 圧 を増 や して 電 流 を流 して や る と,エ
ミ ッタ か らは 多 数 キ ャ リヤ で あ る電 子 が
べース に入 っ て い く。 こ の電 子 は,一 部 は,べース 結 合 し,な くな るが,べース
の 多 数 キ ャ リヤ で あ る正 孔 と
が 薄 い た め,大 部 分 は コ レ ク タ‐べース 接 合 部 まで拡
散 す る。 こ の部 分 で は,逆 方 向 の電 圧 が 印 加 され て い て,べース,コ れ ぞ れ の 多 数 キ ャ リヤ で あ る正 孔,電
レクタのそ
子 は,こ の 接 合 に あ る電 位 差 の た め,こ
こ
を通 過 しな い が べース に あ る少 数 キ ャ リヤ で あ る電 子 に と っ て は,電 荷 が 正 孔 と 符 号 が 異 な る た め,こ た め,こ
の接 合 電 位 差 は む し ろ通 過 を促 進 す る作 用 を 有 す る。 この
の 接 合 に拡 散 して きた 電 子 は コ レ ク タ に入 っ て い く。 結 局,エ
ミ ッタ か
ら出 発 した 電 子 に よ る電 流 をJと す れ ば,こ の一 部 は正 孔 との 再 結 合 に よ りべース で 失 わ れ,αJ(α <1)だ けが コ レ ク タ電 流Icと
な る。再 結 合 した 電 流 分(1-α)
Jは,べース
電 流IBと
し て観 測 さ れ る。 この 他 に も,各 部 の 少 数 キ ャ リヤ に よ る
電 流 が 常 に存 在 す るが,通 常 の使 用 条 件 で は無 視 で き る大 き さで あ る。 結 局,べ ース‐ エ ミ ッタ 間 に,(1-α)Jの V程 度)で
電 流 を順 方 向 接 合 電 位 差VBE(シ
リコ ンで は0.6
流 す こ と に よ り,コ レ ク タ‐エ ミ ッ タ 間 に 逆 バ イ ア ス電 圧VCE-VBE
(逆 バ イ ア ス時 の 耐 圧 まで 印 加 し う る。設 計 に よ り異 な る が,通 常 の 信 号 用 トラ ン ジ ス タ で60V程
度,高
耐 圧 の もの で1500Vを
超 え る もの もあ る。)で 電 流αJ
を流 す こ とが で き る。 この よ う に,小
さ なべース 電 流 の 制 御 に よ り,よ
り大 き な電 流 を,高 い電 圧 の
も とで 制 御 で き る 能 動 素 子 とな る。 (14.1) はエ ミ ッ タ接 地 電 流 増 幅 率 と呼 ば れ る。 接 合 トラ ン ジ ス タ の性 能 評 価 の一 つ の 指 標 で あ る。 これ は60∼1500程
度 の値 の も の が製 作 さ れ て い る。
接 合 トラ ン ジ ス タ を高 周 波 で使 う に は,べース
に 注 入 され た 少 数 キ ャ リヤ が,
で き るだ け速 くコ レ ク タ に入 っ て い くよ うに す る必 要 が あ る。 この た め,べース の幅 を小 さ くす る こ とや,キ るが,種
ャ リヤ の 移 動 度 を大 き な 材 料 を使 うな どの工 夫 が あ
々 の 理 由 か ら限 界 が あ る。
14.1.2
電 界 効 果 トラ ン ジ ス タ(FET)
(1) 接 合 型 電 界 効 果 トラ ン ジス タ(JFET)
この構 造 と動 作 を 図14.2に
示 す 。 ド レイ ン と ソー ス に電 圧 を印加 す る と,n型 トのp型
半 導 体 を電 流 が 流 れ る。 ゲ ー 半 導 体 と このn型
半 導 体 との
間 の ダ イ オ ー ドに 逆 方 向 の電 圧 を印加 す る と,空 乏 層 が 生 ず るが,こ
の幅 は巻 末
の付 録1に 示 す よ う に,お お よそ 電圧 の 平 方 根 に比 例 す る か ら,こ の逆 電 圧 を増 加 す る と大 き くな っ て くる。 この た め,
図14.2
接 合 型 電 界効 果 トラ ンジ ス タ (JFET)の
構 造 と動作
n型 半 導 体 の電 流 通 路 が 狭 め られ,電 流 が 減 少 す る。 空 乏 層 で 狭 め られ た 電 流 通 路 を チ ャネ ル と呼 ぶ 。 逆 電 圧 が あ る値 に達 す る と,チ ャネ ル は消 滅 し,電 流 が 流 れ な くな るが,こ
の
状 態 を ピ ンチ オ フ状 態 と呼 ぶ 。 ゲ ー トに は電 流 は 流 れ な い か ら,ゲ ー ト電 圧 の み で ドレ イ ン‐ソー ス 間 を流 れ る電 流 を制 御 で き る。 こ の タ イ プ は,チ 型 半 導体 とし,n型
ャ ネ ル をp
半 導 体 の ゲ ー トとの 組 み合 わせ で も作 製 で き る。 この場 合 は,
電 圧 関係 が 逆 に な る。 電 界 効 果 トラ ン ジ ス タ は多 数 キ ャ リヤ の 電 流 を利 用 して い る た め,接 合 トラ ン ジ ス タ の よ うに,べ ー ス に存 在 す る注 入 キ ャ リヤ の 蓄 積 に よ る動 作 周 波 数 の制 限 は生 じな い。 チ ャネ ル を走 行 す る時 間 の逆 数 が,そ
の動作周
波 数 の上 限 とな る。 こ の た め,移 動 度 の大 きい キ ャ リヤ を もつGaAs半
導体 を用
い たFETは,シ
リコ ンFETよ
り高 周 波 動 作 をす る。 ま た,デ バ イ ス の 寸 法 を小
さ くす る こ とに よっ て も,高 周 波 化 が 図 れ る。 この よ う に,接 合 型 電 界 効 果 トラ ン ジ ス タ は異 種 接 合 に伴 う空 乏 層 の制 御 に よ り動 作 す る。従 っ て,pn接
合 の代 わ
りに金 属 との 接 合 に よ る電 界 効 果 トラ ン ジ ス タ も存 在 す る。 これ をMESFETと 呼 ぶ 。GaAs半
導 体 で は,こ
の タ イ プ の もの が使 わ れ る。
この他 に も,ゲ ー ト長 を非 常 に短 くしチ ャ ネ ル長 も小 さ く して,高 る静 電 誘 導 型 トラ ンジ ス タ(SIT)な
ど多 くの デバ イ ス が あ る。
(2) 絶 縁 ゲ ー ト電 界 効 果 トラ ンジ ス タ(MISFET) 型 半 導体 に,薄
n型 半 導 体 あ る い はp
い絶 縁 層 を介 し て ゲ ー ト電 極 を設 けた トラ ンジ ス タ で あ る。 そ の
代 表 的 な構 造 で あ る シ リコ ンMOSFETを シ リコ ン(SiO2)が れ はMISFETの
周波化 を図
図14.3に
使 わ れ るの でOxideのOを
示 す。絶縁 層 として二酸化
と りMOSFETと
呼 ば れ る。 こ
一 種 で あ る。 絶 縁 膜 は コ ン デ ン サ の役 割 を果 た す 。 ゲ ー ト電 圧
が 負 の と き は,絶 縁 膜 に か か る電 圧 はp型 半 導 体 側 に正 の 電 荷 を誘 起 す る か ら, こ この正 孔 密 度 が 増 加 す るの みで あ る。 ドレ イ ン‐ソー ス 間 にか け られ た電 圧 は, p型 半 導 体 との ダ イ オ ー ドに対 して 逆 方 向電 圧 で あ る の で 電 流 は流 れ な い 。 ゲ ー ト電 圧 を 正 方 向 に増 加 して行 く と,ゲ ー ト電 極 に は正 の 電 荷 が蓄 積 さ れ,絶 縁 層 とp型 半 導 体 との 界 面 に は負 の電 荷 が 蓄 積 され て,絶 縁 層 の 電 界 を 形 成 す る。従 っ て,p型
半 導 体 の正 孔 密 度 は減 少 して い き,や が て な くな って 空 乏 層 が で き る。
さ らに,電 圧 を増 加 して い く と,少 数 キ ャ リヤ の電 子 が 電 界 に よ り引 き寄 せ られ るか , キ ャ リヤ の熱 励 起 で生 成 し,絶 縁 層 界 面 に集 積 し,負 の 電 荷 層 を作 るた め n型 層 が形 成 され る。 こ の よ うに,電 圧 印 加 に よ りp型 半 導 体 中 にn型 き る の で,こ
層がで
れ を反 転 層 と呼 ぶ 。反 転 層
が で き る と,ド レイ ン お よび ソ ー ス 間 に は電 流 が 流 れ る よ う に な る。 こ の よ う に し て,ゲ ー ト電 圧 に よ り,絶 縁 層 を介 し て 半 導 体 表 面 の キ ャ リヤ 密 度,種 え る こ と に よ り,ド
類 を変
レイ ン‐ソ ー ス 間 に
流 れ る電 流 を制 御 で き る。 な お,こ 合 は,正 が,絶
の場
の あ る電 圧 か ら電 流 が 流 れ る
縁 層 す ぐ下 のp型
半導体層表面
に,予 めn型 半 導体 層 を作 って お くと, ゲ ー ト電 圧0で
電 流 が 流 れ,ゲ
ー ト電 圧
図14.3
シ リ コ ンMOSFETの
構造
と 動 作
を負 の あ る値 に す る と電 流 が 流 れ な くな る,FETを
作 る こ とが で き る。 これ をデ プ レ ッ シ ョ ン形 と呼 び,正 の 電 圧 で電 流
が 流 れ るFETを
エ ンハ ンス メ ン ト形 と呼 ぶ 。 また,こ こで の 例 は,n型
チ ャネ ル を電 流 が 流 れ るの でnチ 転 しpチ
ャ ネ ルMOSFETも
ャ ネ ルMOSFETと
半導体 の
呼 ぶ。 半 導 体 の タイ プ を逆
同 様 に して 作 製 で き る。 シ リ コ ン以 外 の 半 導 体 で
は,そ の 酸 化 膜 が 化 学 的,熱 的 に安 定 度 が 悪 く,MOSFETを
作 製 す るのが困難
で あ る 。 二 酸 化 シ リコ ン は化 学 的 に安 定 で あ り,プ レー ナ ー 構 造 を作 る に も欠 か せ な い 材 料 で あ るの で,集 積 回 路 を作 る に は シ リ コ ンが 非 常 に優 れ た 材 料 で あ る。MOSFETは
メ モ リー や 論 理 集 積 回 路 の素 子 と して 広 く使 わ れ て い る。
14.2 電 荷 結 合 デ バ イ ス(CCD)
図14.4に
この 構 造 と原 理 を示 す。MOSFETの
ゲ ー トを横 に 多 数 並 べ,ゲ ー ト
下 の反 転 層 に電 荷 を蓄 え,ク ロ ッ ク に よ り他 方 の電 極 に電 荷 を転 送 す る デバ イ ス で あ る 。 各 ゲ ー トの電 圧 を正 に す る と,空 乏 層 が 各 電 極 の 下 にで きる 。 入 力 電 極 GIの 下 に はInput電
極 の 電 圧 で 決 ま る電 荷 が蓄 え られ るが,こ の電 荷 は ク ロ ック
電 圧 で 決 ま る各 電 極 下 の 空 乏 層 に は さ ま れ て 電 極 下 を順 に運 ばれ,出
力電 極 に至
る 。 こ の負 電 荷 はp型 半 導 体 に対 し て逆 バ イ ア ス の電 圧 を有 して い るの で,電 極 下 か ら リー ク して い か な い 。
図14.4
CCDに CCDは
電 荷 結 合 デ バ イ ス(CCD)の
は埋 め 込 み チ ャ ネ ル型,BBD等
構 造 と原 理
の 改 良 型 も存 在 す る。
シ フ トレ ジ ス タ等 の論 理 回 路 と し て用 い られ 得 るが,特 に,基 板 内 の ホ
トダ イ オ ー ドに光 に よ り生 成 され た電 荷 を,CCDに
よ り転 送 し,読 み 出 す イ メ ー
ジ セ ン サ と して 利 用 が主 要 な もの で あ る。 これ は ビ デ オ カ メ ラ,デ ラ な ど に広 く使 わ れ る。
ィジタル カメ
ま た,ク
ロ ック 周 波 数 に よ っ て 電 荷 移 動 速 度,す
な わ ち 電 流 が 変 え られ る こ と
を 利 用 す れ ば,周 波 数 に よ る可 変 抵 抗 の 機 能 も実 現 で き,可 変 周 波 数 ア ナ ロ グ フ ィル タ な どの デバ イ ス が 作 られ て い る。
第15章
電池
そ の 原 理 は,異 種 接 続 の と こ ろで述 べ た よ うに,電 池 は 電 子 を キ ャ リヤ とす る 二 つ の電 極 と,イ オ ン をキ ャ リヤ とす る電 解 液,お 貯 蔵 庫 の 組 み 合 わ せ に よ る,化 学 エ ネ ル ギ ー〓 で あ る。 また,電
よ び イ オ ン を供 給 す る原 子 の 電 気 エ ネ ル ギ ー の コ ンバ ー タ
気 エ ネ ル ギ ー を,原 子 の電 荷 と言 う形 で 貯 蔵 す るエ ネ ル ギ ー 貯
蔵 装 置 で もあ る。
15.1 水素‐水酸 基 イオ ンを用 いた電池 の原 理
図15.1に
水 溶 液 を 電 解 質 とす る電 池
の 原 理 図 を示 す 。 水 は水 分 子 が 一 部 電 離 し,水
素 イ オ ンH+と
水 酸 基 イオ ン
OH-が
存 在 す る。 この 電 池 は,こ れ らの
イ オ ンの 生 成 も し くは消 滅 を 原理 とす る 電 池 で あ る。電 極Aで
は,電 極 に 水 酸 基
イ オ ン を作 る原 子 が 含 まれ て い る か,あ るい は これ と結 合 す る物 質 が 含 まれ い て い る。 この 機 構 は,基 本 的 に は酸 素 原 子
図15.1 水 溶液 を電 解 質 とす る 電 池 の原 理
の イ オ ン化‐非 イ オ ン化 過 程 で あ り,
も し く は
の 反 応 に よ り,酸 素 原 子 は水 と反 応 して 水 酸 基 イ オ ン を作 る こ とが で き るか らで あ る。 す な わ ち,電 極Aは
酸 素 の 出 し入 れ が 可 能 で あ る こ とが 条 件 で あ る。 一
方,電 極Bで
は,電 極 に水 素 原 子 が 含 まれ て い るか,あ
るい は水 素 原 子 と結 合 可
能 な物 質 で,水 素 原 子‐水 素 イ オ ン の交 換 を電 解 液 と行 う。 この シス テ ム が,ど ち ら に外 部 電 流 を流 す か は電 極 中 の水 素,あ
るい は酸 素 原 子 の状 態 と,こ れ らが電
解 液 中 の水 素 イ オ ン と水 酸 基 イ オ ン と な っ た と きの 状 態 の,ど ち らが エ ネ ル ギ ー が 低 い か に よ って き ま る。 も し,イ オ ン状 態 よ りも電 極 中 の 原 子 状 態 の ほ う が エ ネ ル ギ ーが 低 けれ ば,電 極Aが て 電 極Bに
負 極 とな り,電 子 が この電 極 か ら外 部 回路 を通 っ
移 動 し,外 部 に電 気 的 な仕 事 をす る。 この 電 流 は,水 溶 液 が な くな る
か , あ る い は各 電 極 が 水 素 お よ び酸 素 を保 持 で きな くな る ま で続 く。 逆 に,原 子 状 態 の 方 が エ ネ ル ギ ー が 高 けれ ば,電 極Aは
正 極 とな り,逆 向 き に電 流 が 流 れ,
電 極 の保 持 す る水 素 あ る い は 酸 素 が な くな る まで 電 流 は続 く。
15.2 イ オ ン 原 子 と 電 池 の 性 能
電 池 の性 能 は,外 部 に取 り出 し う る電 気 エ ネル ギ ー の 大 き さで 評 価 され る。 こ れ は,電 極 と電 解 液 との 間 に生 ず る電 位 差 と,各 イ オ ンの も つ電 荷 量 で 評 価 で き る。 水 素原 子 の 出 し入 れ を行 う電 極 を片 一 方 の電 極 と し,種 々 の イ オ ン を 出 し う る電 極 との 間 の 電 位 差 と,外 部 に取 り出 し う るエ ネル ギ ー量 を表15.1に
示 す 。実
際 の電 池 は 二 つ の電 極 の 組 み合 わ せ で あ るか ら,起 電 力 は これ ら の差 とな る。 例 え ば,リ チ ウム と フ ッ素 の組 み 合 わ せ の リチ ウ ム 電 池 で は5.92V,水 組 み合 わ せ の燃 料 電 池 で は1.23Vの
素 と酸 素 の
起 電 力 が 得 られ る。 これ は 理 想 的 な 条 件 で
あ り,電 池 を作 る た め の 種 々 材 料 や 溶媒 の重 量 な ど は考 慮 して い な い の で,実 際 の 電 池 で は,こ れ よ りか な り小 さ い エ ネ ル ギ ー 量 しか 出 し得 な い 。 しか し,ど の よ うな イオ ン材 料 の 組 み 合 わ せ を使 え ば よ り良 い か を,評 価 す る こ とは で き る。 リチ ウム とベ リ リ ウ ム は優 れ た 材 料 で あ る。 しか し,ベ 材 料 で あ る た め利 用 され な い 。
リ リウ ム は非 常 に 有 毒 な
表15.1
各種 イ オ ン元 素 の 水 素 にた いす る電 位 と外 部 に取 り出 し う るエ ネル ギ ー量
15.3 各 種 電 池
15.3.1
マ ンガ ン電 池
亜 鉛 を負 極 と し,二 酸 化 マ ンガ ン を正 極 とす る電 池 で あ る。 マ ンガ ン乾 電 池 と 呼 ば れ る,電 解 液 が 酸 性 のH2O-ZnC12-NH4C13成
分 で で きた 電 池 で は,負 極 の
反応 は
で あ るが,こ
の イ オ ン は電 解 液 との反 応 に よ り
とな り,結 局OH‐
イ オ ンが 吸 収 さ れ る。
正 極 で は
の 反 応 が 起 き,H+イ
オ ンが 吸 収 され る 。
ア ル カ リマ ンガ ン電 池 と呼 ばれ る,電 解 液 がKOH-H2Oで
あ る電 池 で は,負 極
の反応 が
と な り,同 様 にOH‐
イ オ ンが 吸 収 さ れ る。Zn(OH)2は
電 解 液 中 でZn(OH)2-4イ
オ ン とな り,電 解 液 に溶 解 して い る。 正 極 の 反 応 はマ ン ガ ン電 池 と同 じで あ る。 ア ル カ リマ ンガ ン電 池 は,マ
ン ガ ン電 池 に比 べ て 同 体 積 で3∼4倍
の エ ネル ギ ー
容 量 が あ る。 これ ら の電 池 は,他 の 電 池 と比 べ て重 量 あ た りの容 量 は小 さ く,か つ充 電 の で き な い一 次 電 池 で あ るが,価 格 が 低 廉 で あ る こ とか ら広 く使 わ れ て い る。
15.3.2
鉛蓄電池
正 極 にPbO2,負
極 にPbを
用 い,電 解 液 と して 硫 酸(H2SO2)水
充 電 可 能 な 二 次 電 池 で あ る。 自動 車,産
溶 液 を用 い た
業 用 と し て広 く使 わ れ る。放 電 時 の 反応
は,正 極 で
負 極で
とな り,電 解 液 か らH+イ 逆 の反 応 が 起 き る。
オ ン とSO2-2イ オ ンが 吸 収 され る。充 電 時 に は,こ れ と
15.3.3
ニ ッケル カ ドミウム電 池
正 極 にNiOOH,負
極 にCdを
用 い,電 解 液 と して 水 酸 化 カ リ ウム(KOH)水
溶 液 を 用 い た二 次 電 池 で あ る。KOHは
反 応 に関 与 し な い が,電
解 液 の イ オ ン導
電 性 を 高 め る役 割 をす る 。放 電 時 の反 応 は,正 極 で
負極 で
とな り,電 解 液 か らH+イ
オ ン とOH‐
イ オ ンが 吸 収 され る。充 電 時 に は,こ れ と
逆 の 反 応 が 起 き る。 鉛 蓄 電 池 よ り軽 量 で高 出 力 が 得 られ る の で,小 型 機 器 に 用 い られ る。
15.3.4
ニ ッケ ル 水素 電 池
正 極 にNiOOH,負
極 に水 素 を用 い,電 解 液 と して 水 酸 化 カ リウ ム(KOH)水
溶 液 を用 い た 二 次 電 池 で あ る。 負 極 の 水 素 は 水 素 吸 蔵 合 金 中 に保 た れ る。 放 電 時 の反 応 は,正 極 で
負極 で
とな り,電 解 液 か らH+イ
オ ン とOH‐
イ オ ンが 吸 収 され る。充 電 時 に は,こ れ と
逆 の 反 応 が起 き る。 ニ ッケ ル カ ド ミ ウム 電 池 よ り軽 量 で,高
出力 が 得 られ る の で
小 型 機 器 に 用 い られ る。
14.3.5
リチ ウ ム 電 池
リチ ウ ム をイ オ ン とす る と,高 電 位 差 と軽 量 の性 質 か ら,表14.1よ
り分 か る よ
う に,あ
ら ゆ る材 料 の 中 で,最
も高 エ ネ ル ギ ー 密 度 を有 す る電 池 が 形 成 で き る。
現 在,最
も小 型 軽 量 で,高 い エ ネ ル ギ ー 密 度 を有 す る電 池 で あ る。 さ ら に,よ
り
高 出 力 と二 次 電 池 と して の長 寿 命 を 目指 し て 開発 が 進 め られ て い る。 携 帯 電 話,
ノー トパ ソ コ ン な ど,ポ ー タ ブ ル 小 型 電 子 機 器 の 普 及 や 電 気 自動 車 の 開 発 か ら, 小 型 軽 量 で高 い エ ネ ル ギ ー 密 度 を有 す る電 池 の必 要 性 が 高 ま っ て お り,リ チ ウ ム イ オ ン電 池 と と もに そ の 生 産 は拡 大 し て い る。 リチ ウム は,水 溶 液 中 で は水 と反 応 し水 素 を発 生 させ 危 険 で あ る し,自 己 反 応 が 起 き るの で,電 解 液 は有 機 溶 媒 が 使 わ れ る。 リチ ウム 電 池 は,リ チ ウム 金 属 を負 極 と し,正 極 と し て は二 酸 化 マ ン ガ ン(MnO2)や
フ ッ化 炭 素 等 が 用 い られ る。 これ ら は主 とし て一 次電 池 で あ る。
負極 で
の 反 応 が起 き,リ チ ウ ム イ オ ン は正 極 で
も し くは フ ッ化 炭 素 電 極 で は
の 反 応 が 起 き る。 有 機 溶 媒 は,一 般 的 に は導 電 率 が 小 さ く,こ れ を大 き くす る た め の 工 夫 が さ れ る。 正 極 材 料 との組 み 合 わ せ で,種 々 有 機 溶 媒 の 混 合 物 に溶 解 す る塩 類 を溶 か した もの が 用 い られ る。 リチ ウ ム電 池 は,二 次 電 池 と して使 う検 討 が な され て い て一 部 実 用化 が 始 まっ て い る。
14.3.6
リチ ウ ム イ オ ン 電 池
リチ ウ ム 金 属 を 負 極 とす る電 池 は,充 電 過 程 で リチ ウ ム が 金 属 と し て戻 り に く く,脱 落 しや す い の で,実
用 に耐 え る充 放 電 特 性 を もつ二 次 電 池 を得 る こ とが 難
し い。 リチ ウ ム イ オ ン電 池 は,炭 素 材 料 を 負 極 とす る二 次 電 池 で あ り,実 用 的 な 充 放 電 特 性 を 有 し,か つ,リ の で,ハ
チ ウム 金 属 とい う空 気 中 で 不 安 定 な材 料 を用 い な い
ン ド リン グ が 易 し く,製 造 工 程 が楽 に な る特 長 が あ る。 リチ ウム イ オ ン
電 池 の 正 極 に は,LiCoO2,LiNiO2な
どの リチ ウム イ オ ン含 有 金 属 が 使 わ れ る。
また,よ り軽 量 化 の た め,有 機 硫 黄 化 合物 のDMcT等 の 反応 は,正 極 で は
も し く は
が 検 討 さ れ て い る。放 電 時
が 起 き,負 極 で は
と な り,リ チ ウ ム イ オ ンが 負 極 か ら正 極 に移 動 す る。 リチ ウ ム イ オ ン電 池 の容 量 は,正 極 材 料 の 外 に も,カ ー ボ ン電 極 の リチ ウ ム イ オ ン吸 蔵 量 に支 配 され る が, これ は リチ ウム 金 属 に等 し くな る こ と は な い た め,容 量 は リチ ウ ム電 池 よ り も小 さ くな る。 しか し,電 池 の 安 全 性 が 重 視 され る の で,二 次 電 池 と して は炭 素 電 極 が 主 と して 用 い られ る。
14.3.7
燃 料 電 池
水 素 を負 極 と し,酸 素 を正 極 とす る電 池 で あ り,水 素 は外 部 の 水 素 発 生 源 か ら 供 給 され,酸
素 は空 気 か ら供 給 され る。 電 解 液 と して は,水 溶 液 以 外 に も多 くの
タ イ プ が 存 在 し,常 温 で 動 作 す る もの と,溶 融 塩 や 固 体 を 電 解 質 とす る高 温(200 ∼1000℃)で
動 作 す る もの が あ る。 正 極 の 反 応 は
負極 の反応 は
で あ り,水 が 生 成 す る。 た だ し,こ れ ら の反 応 は 電 解 液 や 動 作 温 度 で 異 な り,実 際 は複 雑 で あ るが,基 本 的 に は 負 極 で 電 子 が 放 出 され,正
極 で 電 子 が 吸 収 され,
正 負 電 極 か 電 解 液 中 の ど こか で水 が 生 成 され る。 な お,高
温 動 作 で な い もの は 負
極 の水 素 イ オ ン化 過 程 で,電 子 の,水 素 か らの離 脱 の エ ネ ル ギ ーバ リアが 高 い た め,こ れ を小 さ くす る 白 金 な どの触 媒 が 使 わ れ る。 燃 料 電 池 の 特 長 は,そ の電 気 エ ネ ル ギ ー へ の 変 換 効 率 の 高 さ に あ る。 ハ イ ドロ カ ー ボ ン(天 然 ガ ス,ア ル,石 油 等)や 石 炭 の 燃 料 は,水 現 在,電
ル コー
との 反 応 に よ り水 素 を生 成 す る こ とが で きる 。
気 エ ネ ル ギ ー は,こ れ らの燃 料 を燃 焼 に よ り機 械 エ ネ ル ギ ー に変 え,こ
れ に よ り発 電 機 を動 か す こ とに よ り得 て い る。 機 械 エ ネル ギ ー 変 換 器 の 効 率 は, そ の 燃 焼 温 度 に支 配 され,発 電 所 の ボ イ ラ で40%程
度,ガ ス タ ー ビ ン,デ ィー ゼ
ル エ ン ジ ン な どで は20∼40%程
度 で あ る。 燃 料 電 池 で は40∼60%に
達 し,か つ
高 温 動 作 型 燃 料 電 池 で は,そ の 排 熱 を利 用 し て総 合 効 率 を上 げ る こ とが で き る。 また,燃 焼 と異 な り,排 ガ ス に 有 害 物 質 が 非 常 に 少 な い 。 この た め,将 来 の発 電 装 置 と して 有 望 視 され,小 型 高 出力,長
寿命 を 目指 して 開 発 が 進 め られ て い る。
また,電 気 自動 車 の電 源 と し て も利 用 が 始 ま って い る 。
第16章 信頼 性 と寿命
16.1 材 料 の 化 学 変 化
あ らゆ る装 置 は有 限 の寿 命 を有 す る。 装 置 は使 用 の 有 無 を問 わ ず,徐
々 にその
性 能 を劣 化 し,や が て使 用 に耐 え な くな る。 これ は,そ の装 置 の 信 頼 度 の 値 が 低 下 す る と い う こ とを 意 味 す る。 こ の 原 因 は,そ 徐 々 に,あ
の装 置 を構 成 す る材 料 の 性 質 が
るい は突 然 変 化 し,設 計 の 意 図 と異 な る性 質 を もつ よ う に な る た め で
あ る。 電 気 電 子 装 置 に用 い る電 気 電 子 材 料 も,も ち ろ ん例 外 で はな い。 電 気 電 子 材 料 の 評 価 で,最
も重 要 な の は,そ の 信頼 性 で あ り,ほ とん どの装 置 開 発 で 最 大
の 研 究 課 題 は,材 料 が 装 置 に必 要 な時 間 の 寿 命 を有 す る よ うに す る こ とで あ る。 こ の よ う な材 料 の性 質 の 変 化 は,一 般 に,化 学 変 化 に よ り もた ら され る。 化 学 変 化 とは,原 子間 の結 合状 態 の 変化 で あ る か ら,電 磁 気 的 な エ ネ ル ギ ー が,こ
の結
合 状 態 を変 え る よ うな 意 図 しな い 働 きを す る こ とで あ る。 従 っ て,装 置 に よ りそ の 原 因 が 異 な る。 そ の装 置 が 扱 うの が 光 で あ れ ば,そ の光 に よ り材 料 の 変 化 が も た らせ られ よ う し,キ ャ リヤ の動 き,す な わ ち電 流 で あ れ ば,キ ャ リヤ の エ ネ ル ギ ー が そ の よ うな作 用 を もた らす で あ ろ う。 しか し,こ れ ら劣 化 に共 通 す る 要 因 は,熱 エ ネ ル ギ ー に よ る変 化 で あ ろ う。 これ は,そ の 装 置 の使 用 の 有 無 を 問 わ ず, 常 温 とい う温 度 に曝 され て い る。 使 用 温 度 が 高 くなれ ば,よ き くな り,劣 化 は促 進 され る。 多 くの 装 置 は,そ
り熱 エ ネ ル ギ ー は 大
の意 図 の 有 無 にか か わ らず 高 温
状 態 で動 作 す る もの が 多 い 。 材 料 の 化 学 変 化 は,そ の材 料 の 持 つ活 性 化 エ ネ ル ギ ーEaを
基 準 に,単 位 時 間 当 た り
(16.1)
に従 っ て 変 化 す る。 従 っ て,温 度 が 高 い ほ ど,そ の変 化 が 指 数 関 数 的 に大 き くな り,寿 命 が 短 くな る と言 え よ う。 長 い寿 命 を得 る に は,活 性 化 エ ネ ル ギ ー の大 き い 物 質 が 良 い こ と に な る。 これ は,一 般 的 に は,材 料 の 結 合 エ ネ ル ギ ー の大 きな もの が 大 き く,無 機 材 料 や 金 属 な ど は結 合 エ ネ ル ギ ー が 大 き く長 寿命 で あ る。 し か し,材 料 の 結 合 エ ネル ギ ー よ り,む し ろ,材 料 の 目的 とす る性 質 を もた らす 結 合 の エ ネ ル ギ ー が,ど
の程 度 で あ るか が 問 題 と な る。 従 っ て,一 般 的 に こ れ を評
価 す る こ と は で きず,個 々 の材 料 と,そ の使 用状 態 に立 ち 入 っ て考 え る必 要 が あ る 。 し か し,大 雑 把 な言 い 方 を す れ ば,高 い温 度 で 使 用 す る もの ほ ど寿 命 は短 い と言 え よ う。 寿 命 が 長 く,高 い 信 頼 性 を有 して い る シ ス テ ム の 代 表 格 は生 物 で あ ろ う。 これ は,有 機 物 と い う活 性 化 エ ネ ル ギ ー の 小 さ な材 料 を用 い て い なが ら,長 寿 命 で あ る の は 自 己 修 復 作 用 も あ るが,何
と言 っ て も常 温 付 近 で 動 作 す る こ と に大 き な理
由 が あ ろ う。 一 般 の電 気 機 器 は効 率 が100%で
はな く,動 作 に伴 っ て 熱 が 発 生 し,高 温 とな
り寿命 を低 下 させ る。 出 力 と寿 命 は相 反 す る 関係 に あ る理 由 で あ る。 電 気 機 器 の 設 計 で の重 要 な要 素 は,放 熱 性 と耐 熱 性(活 る ゆ え んが,こ
16.2
性 化 エ ネル ギ ー を大 き くす る)で あ
こに あ る。
材 料 に潜 む 欠 陥
あ ら ゆ る機 器 は,意 図 した とお りの よ う に は,製 作 す る こ とは で き な い 。 あ ら ゆ る材 料 に は,必 ず 不 純 物 や 結 晶 形 態 の異 な る部 分 が,多 か れ少 な か れ 存 在 す る。 装 置 を 設 計 す る と き,こ れ らの 不 均 一 性 を考 慮 して,こ
れ らが性 能 に影 響 を与 え
な い よ う に考 え る の が そ の 基 本 で あ る。 さて,性 能 に影 響 を与 え る材 料 の 不均 一 性 を欠 陥 と呼 ぶ 。 この欠 陥 は,最 初 か ら機 器 の性 能 に影 響 を与 え,所 定 の性 能 を 発 揮 で きな い の は論 外 で あ るが(こ れ は不 良 品 で あ る。),最 初 は性 能 に影 響 を与 え な くて も,時 間 と と もに 変 化 し,欠 陥 が拡 大 し,機 器 の性 能 を劣 化 し,や が て 使 用 に耐 え な くな っ て し ま うの が,通 常 の材 料 の性 能 で あ る 。
理 想 的 に は,欠 陥 が 少 な く,時 間 と と もに変 化 の な い材 料 を使 うの が 望 ま しい が,こ
れ は,機 器 の性 能 とコ ス トとの トレ ー ドオ フの 関 係 に あ る。 必 要 の な い長
寿 命 は意 味 が な く,単 に コ ス トが 高 くな る の み で あ る。 従 って,機 器 の 要 求 さ れ る寿 命 に応 じて 欠 陥 を制 御 す べ きで あ ろ う。 常 時 使 用 さ れ,高
い信 頼 性 と長 寿 命
を要 求 さ れ る 電 力 機 器 や,修 理 が 容 易 で な い人 工 衛 星 搭載 の 長 期 観 測 機 器 な ど は,時 間 と と も に拡 大 す る欠 陥 を少 な くす べ き で あ ろ う が,ミ サ イ ル に搭 載 され, 一 緒 に 飛 ん で 行 く電 子 機 器 の 材 料 は,ス タ ー ト動 作 時 の信 頼 性 は要 求 され るが, 時 間 と と もに 拡 大 す る欠 陥 は あ ま り問 題 に は な ら な い で あ ろ う。 これ ら の欠 陥 が,機 器 の 性 能 に どの よ う に影 響 す る か,言
い換 え れ ば,材 料 に
ど の 程 度 の 欠 陥 が許 容 され る か を知 る こ と は,実 用 上 は非 常 に重 要 な こ とで あ る。 しか し,欠 陥 は普 通 は意 図 して作 られ る もの で な い ゆ え,そ の制 御 は困 難 で あ り,し か も欠 陥 が 何 で あ る か,そ の 量 あ る い は 時 間 的 な 変 化 を知 る こ と も,一 般 的 に は困 難 で あ る 。 に もか か わ らず,正 体 不 明 の 欠 陥 を相 手 に して,機 器 の不 良 率,寿
命 を 予 測 す る必 要 が あ る。 不 良 率 を い た ず ら に低 くす る,も
し くは寿 命
を い た ず らに 長 くす るの は技 術 的 に は最 適 の こ とで は な い か らで あ る。 この よ う な,正 体 不 明 の 相 手 を対 象 とす る学 問 は統 計 学 で あ る。 本 来 は,欠 陥 の 正 体 を物 理 学,化
学 等 で 見 極 め,そ れ の対 策 を打 つ のが 望 ま し い こ とで は あ るが,そ れ が
困 難 で あ る と き は,こ の 統 計 学 の助 け をか り,場 合 に よ っ て は統 計 学 か ら欠 陥 の 正 体 に 迫 る こ と もで き る。
16.3
極 値 統 計 学 と ワイ ブ ル 分 布
材 料 も し くは部 品(総 称 し てパ ー ツ と呼 ぶ)で 構 成 さ れ る シ ス テ ム(機 器)の 寿 命 を考 え て み る。 シス テ ム の寿 命 は,こ れ を構 成 す るパ ー ツ の どれ か が,そ
の
必 要 と され る性 能 を発 揮 で き な くな る まで の時 間 で あ る。 な ぜ な らば,性 能 を発 揮 しな くな っ て もシ ス テ ム が 正 常 に動 作 し て い る の で あ れ ば,そ のパ ー ツ は不 要 なパ ー ツで あ るか らで あ る。 この寿 命 が 来 た こ と を 「破 壊 す る」 と表 現 す る。 す なわ ち,破 壊 は 最 も弱 い部 分 に よ り支 配 され る。 この よ うな 破 壊 の性 質 を弱 点 破
壊 と呼 ぶ 。 また,こ
の よ う に何 らか の,最
も大 きい か 小 さ い もの の 性 質 に よ り,
そ の 集 合 の 性 質 が 支 配 さ れ る現 象 を扱 う統 計 を極 値 統 計 学 と呼 ぶ 。
16.3.1 さて,こ
ワ イ ブル 分 布 の よ うな 弱 点 破 壊 の シ ス テ ム で,
① 一 番 弱 い,最 初 に壊 れ るパ ー ツが 発 生 した と き に,そ の 破 壊(寿
命)が
く
る。 ② この シ ス テ ム で は,欠 陥 に与 え られ る ス トレス(温 度,出
力 な どの 欠 陥 を
拡 大 す る要 因)が 強 けれ ば強 い ほ ど,破 壊 しや す くな る。 また,ス
トレ スが
0で は破 壊 は しな い と考 え る。 ③ シス テ ム が破 壊 す る(寿 命 が くる)確 率 が,こ とす る あ る分 布 関 数1-F(s)で
の ス トレ スsを パ ラ メー タ
表 され る とす る。 また,シ ス テ ム の 大 き さ,
す な わ ちパ ー ツ の量 の 大 小 に もか か わ らず,シ
ス テ ム の破 壊 す る確 率 は,同
一 形 式 の分 布 関 数 で表 せ る もの と考 え る,す な わ ち分 布 関 数 が 存 在 す る。 の想 定 を置 け る もの とす る。 こ の シ ス テ ム の 破 壊 しな い 確 率 はF(s)で し,こ の シ ス テ ム と同 一 の シ ス テ ム を,n個 る と,こ の破 壊 し な い確 率 は[F(s)]nで
組 み 合 わ せ た大 き な シ ス テ ム を考 え
表 され る。想 定③ よ り この 大 きな シ ス テ
ム の分 布 関 数 は ス トレ ス の 一 次 結 合 で 表 され る関 数F(ans+bn)で こ で,an,bnはsに
よ らな いnの
あ る。 も
表 さ れ る。 こ
み の 関 数 で あ る。 従 っ て,
(16.2) が 成 立 す る 。 想 定 ② よ り式(16.2)にs=0を ら れ る が,bn>0だ す る し,負
得
と ス トレ ス の 増 大 と と も に 破 壊 し や す く な る と い う 法 則 に 反
の ス ト レ ス は 定 義 で き な い と す る とbn<0で
0で な け れ ば な ら な い 。 同 じ 理 由 でan>0も をm乗
代 入 す る とF(0)=F(bn)=1が
は な い 。 す な わ ち,bn=
得 られ る 。 こ れ よ り式(16.2)の
両辺
す る と,
(16.3) が 得 ら れ,ま
た,式(16.2)よ
り直 接
(16.4)
が 得 られ るか ら,
(16.5) の 関 係 が 求 め られ る。 この解 は, (kは 定 数) と な る 。 こ れ を 式(16.2)に
(16.6)
代 入 す る と,
(16.7) が 得 られ るが,こ
れ がnに
よ らず 成 立 す る関 数 は
(16.8) と な る 。 こ こ で,s0は
正 の 定 数 でa=1/kで
あ る 。 破 壊 す る確 率 は,
(16.9) で表 され,こ れ は ワ イ ブ ル 分 布 と呼 ば れ る。s0とaは
ワ イブ ルパ ラ メ ー タ と呼 ば
れ る。 ワ イ ブ ル 分 布 は,弱 点 破 壊 をす る シス テ ム の破 壊 確 率 を表 す分 布 関 数 で あ る。
16.3.2
寿 命
ス トレス を時 間 で あ る と考 え る こ と もで き る。 問 題 とす る時 間 が 長 い ほ ど,破 壊 確 率 は大 き くな り,か つ時 間 が 無 限 に経 過 す れ ば 破 壊 は必 ず起 こ る し,時 間0 で は破 壊 しな い か らで あ る。 式(16.9)か
ら あ る時 間tま で 生 存 し て い た 装 置 が,
次 の 単 位 時 間 に破 壊 す る確 率w(t)は
(16.10) で 表 され るか ら,a<1で
は時 間 と と もに 破 壊 す る確 率 が 減 少 す る し,a>1で
時 間 と と もに破 壊 す る確 率 が 増 加 す る。 前 者 は初 期 故 障 型 破 壊 と呼 ば れ,何
は らか
の 欠 陥 が 初 期 に取 り除 か れ る と,以 後 は信 頼 性 が 向上 す る性 質 を想 像 さ せ る し, 後 者 は磨 耗 破 壊 と呼 ば れ,徐 々 に何 か が 劣 化 して行 き,そ の 結 果 信 頼 性 が 低 下 す る機 構 が 想 像 さ れ る。a=1で
は時 間 と と も に破 壊 確 率 は 変 化 し な い か ら偶 発 破
壊 と呼 ば れ る。 この グ ラ フ を ワ イ ブ ル 分 布 と合 わ せ て,図16.1,図16.2に
示 す。
ワ イ ブ ル 分 布 を用 い る と,寿 命 とそ の 信頼 性 を推 定 す る こ とが で き る。 複 数 の
図16.1
時 間 に対 す る ワ イブ ル分 布
図16.2 破 壊確 率 の変 化
機 器 を 試 験 し,そ の 破 壊 の時 間 に対 す る値 か らaとt0を
決 め て や れ ば,将 来 の信
頼 性 を推 定 す る こ とが で き る か らで あ る。 形 式 的 に は,2個 ブ ル パ ラ メ ー タaとt0を
決 め る こ とが で き る が,実 際 は多 数 の デ ー タ か ら ワ イ
ブ ル 分 布 関 数 に従 うか ど うか を含 め て,こ
16.3.3
の破壊 デー タで ワイ
れ らの 定 数 を定 め る。
加 速 試験
通 常 の装 置 と して は,試 験 す る 時 間 程 度 で 破 壊 す る もの は,実 用 に耐 え る装 置 で は な い。 実 際 問題 と して,そ 易 で は な い 。寿 命 と して30年
の装 置 の 使 用 す る期 間 を超 えて 試 験 す る こ とは容 を 要 求 され た とき は,試 験 期 間 は100年 以 上 に もな
ろ う。 この よ う な と き,短 い 時 間 で 破 壊 す る よ うな 条 件 で 試 験 し,そ の結 果 か ら,実 使 用 条 件 で の 寿 命 を推 定 す る。 装 置 あ る い は材 料 の ス トレス は,時 間 だ け で は な
く温 度,出
力 な ど様 々 な も の が あ る 。 こ れ ら の ス トレ ス をs1,s2,…snと
す れ ば,
ワ イ ブル 分 布 は次 の表 現
(16.11) で 表 せ る。 この う ち,一 つ の ス トレ ス は時 間 で あ る。 何 らか の ス トレ ス を大 き く す る と,破 壊 確 率 が 高 くな り,短 い時 間 で 破 壊 を起 こす こ とが で き る。 従 って, 例 え ば,装 置 の 温 度 を高 くし,寿 命 試 験 をす れ ば 短 い 時 間 で試 験 を終 え る こ とが で き る。 この と き,こ の ス トレスsと
時 間tと
の 関 係 は,式(16.11)で
破壊 確率
が 同 じで あ る とい う条 件 か ら求 め る と,
(16.12) と な る 。 ス ト レ ス を 大 き く,か
つ,そ
の 程 度 を い くつ か 定 め て 寿 命 試 験 を し,ス
ト レ ス と寿 命 と の 関 係 を 両 対 数 グ ラ フ 上 に プ ロ ッ トす る と,式(16.12)の ら,こ
関係か
の プ ロ ッ トは あ る直 線 上 に 乗 る こ と を 意 味 す る 。 こ の こ と か ら,NとCと
を 求 め れ ば,よ
り弱 い ス ト レ ス で あ る,実
際 使 用 条 件 で の 寿 命 を推 定 す る こ と が
で き る。
16.3.4
体積効果
機 器 は そ の部 品 数 が 多 くな れ ば な る ほ ど,信 頼 性 は低 下 す る。 また,使 用 す る 材 料 が 増 え るほ ど欠 陥 が 増 え るか ら,信 頼 性 は低 下 す る。これ ら は そ の部 品 の 数, あ る い は使 用 材 料 の 体 積 をυ と表 す と,ワ イ ブ ル 分 布 関 数 上 でa=1の
形で表 現
さ れ る。 す な わ ち,
(16.13) の 形 で 表 現 され る。使 用部 品 数 あ る い は使 用 材 料 の 量 がυ0に 近 づ くと,急 速 に信 頼 性 が 低 下 して い く。例 え ば,1個
の トラ ン ジス タ で で きた 装 置 と,100万
ラ ン ジス タ で で きた 装 置 に対 して,同
じ信 頼 性 を与 え る た め に は,100万
個の ト 個 の装
置 で は,お お よそ1個 の トラ ン ジ ス タ の破 壊 確 率 を100万 分 の1に す る必 要 が あ る。 この よ うに,大 型 の 装 置 の信 頼 性 を 高 くす る の は,個 々 の材 料 の 信 頼 性 を非 常 に 高 くす る必 要 が あ る。
あ る 目的 の機 能 を もっ た シス テ ム を設 計 す る に は,で
き る だ け少 な い部 品 と材
料 で 構 成 す る こ とが 重 要 で あ る こ とが分 か る。 複 雑 で 大 き な装 置 は信 頼 性 が低 い だ けで な くコ ス ト も高 くな る。"Simple
is the best"は 工 学 の基 本 で あ る。
付 録
付 録1
付1.1
1種
キ ャ リヤ で の 異 種 接 合 の キ ャ リヤ 密 度 と空 間 電 荷
電 荷 方 程 式 の 一般 解
CE≪1の 物 質,す なわ ち導 電性 を有 して い る と認 め られ る もの につ いて は, (付1.1)
を 解 け ば よ い 。 こ こ で,一
次 元 座 標 を 考 え,解
の形 で あ る とす る と,f(x),g(x)の
がν=ef(x)(x>0),ν=eg(x)(x<0)
満 た す べ き方 程 式 は, (付1.2) (付1.3)
と表 さ れ る 。 これ よ り (付1.4)
の 関 係 を 使 う と,式(付1.2)は (付1.5)
と な り,こ れ をf(x)で
積 分 す る と, (付1.6)
さ て,こ
こ で,こ
の 式 にf(x)→-f(x)と
置 き 換 え て 式 を作 る と (付1.7)
が 成 立 す る か ら,式(付1.5),式(付1.6)よ
り
(付1.8)
さ て,x→
∞ で (付1.9)
の 境 界 条 件 か ら,式(付1.7)は (付1.10)
と な る 。 従 っ て,
(付1.11)
が 得 ら れ る。 λaの符 号 は 境 界 条 件 に よ り決 ま る符 号 を取 る。 こ の式 の 解 は, (付1.12)
で 与 え られ る。xaは
境 界 条 件 に よ り決 め ら れ る任 意 定 数 で あ る。
付1.2 接 合 での 解 さ て,こ
こで 領 域aは
キ ャ リヤ 密 度 が 領 域bよ
さ い 物 質 で あ る と考 え る 。例 え ば,領 域bは あ る。 ま た,キ ヤ は領 域aか
金 属 で,領 域aはn型
半 導 体 で あ る場 合 で
ャ リヤ は 電 子 を想 定 し,負 の 電 荷 を もつ もの とす る 。 この 場 合,キ ら領 域bに
0と な り,一 方g(x)>0と ν =ef(x)=0も
り もか な り小 さ く,か つ 仕 事 関 数 の 小
拡 散 し,領 域bの
キ ャ リヤ 密 度 は増 加 す る。す な わ ち,f(x)<
な る 。 こ れ に対 応 して,式(付1.12)の
符 号 を 定 め る。 また,
解 で あ る か ら,こ れ を解 に加 え,境 界 条 件 を考 慮 し て 解 を定 め る と,
(付1.13)
(付1.14)
が 得 ら れ る。 これ よ り電 界 は,
ャリ
(付1.15)
(付1.16)
(付1.17) (付1.18)
(付1.19)
境 界 条 件Ea(∞)=0を
用 い る と,
(付1.20)
が 得 ら れ る。 電 位 は,
(付1.21)
(付1.22)
(付1.23)
(付1.24)
(付1.25)
(付1.26) こ こ で,λa,λbは
正 の 値 と し た 。Va(∞)=Vabの
境 界 条 件 か ら,
(付1.27)
が え られ る。 式(付1.20)を
書 き直 した式 (付1.28)
と組 み 合 わ せ て,xa,xbを
決 め る こ とが で き る 。 これ を書 き直 す と, (付1.29)
(付1.30)
こ こで,-Vab/4VTは,1よ
りか な り大 き な 数 で あ る こ とが 普 通 で あ り,接 合 材 料 の
仮 定 か らλa≫ λbで あ る こ と を利 用 し て,近
似 解 を 求 め る と, (付1.31)
(付1.32)
と評 価 で き る。 従 っ て,式(付1.31)よ がxaの
り見 て,領
幅 だ け で き,そ こ か ら λa程 度 の 距 離 で,キ
域aで
は キ ャ リヤ の存 在 し な い 領 域
ャ リヤ 密 度 が 回 復 す る。領 域bで
は,
キ ャ リヤ の 多 い領 域 が λb程 度 に で き る こ とが 分 か る。 キ ャ リ ヤ密 度 の 最 大 値 は,領 域b の 境 界 で, (付1.33)
とな る。最 大電 界 は (付1.34)
付 表1 接合 部 計 算 の物 性 値 と一部 計 算 結果(300K)
とな る。金 とシ リコ ンn型 半導体 との接合 の,キ ャ リヤ密 度,電 荷密 度,電 界,電 圧 分 布 を求 め てみ る。 これ ら物 質 の物性 と一 部計 算結 果 を,付 表1に 示す。 また,こ れ らの 分布 を本文 図4.2に 示す。
付 録2
2種
キ ャ リヤ で の 異 種 接 合 の キ ャ リ ヤ 密 度 と 空 間 電 荷
付2.12
種 キ ャ リヤ で の 電 荷 関 係 式
キ ャ リヤ が2種 あ り,こ れ らの キ ャ リヤ の電荷 は,電 子 の電 荷-qeと
そ の逆符 号 の電
荷 を もつ もの とす る。例 えば,正 孔 を もつp型 半 導体 と,電 子 を もつn型 半 導体 もし く は金属 との接 合や1価 イオ ンをキ ャ リヤ とす る電 解液 と,金 属 も しくは半導体 との接 合 が これ にあ た る。この とき,そ れ ぞれ の キ ャ リヤ の諸量 に対 して,+お
よび-の
添字 を
つ けて表 して, (付2.1) (付2.2) (付2.3)
お よ び
(付2.4)
が そ の 関 係 式 とな る 。 これ を 解 け ば よ い が,導
電 性 を 有 し て い る と認 め られ る もの につ
い て は,電 流 の 電 荷 分 布 に対 す る寄 与 が な い と見 な せ る か ら,j+=j-=0と (付1.1)と
見 な して式
同 じ形 式 の 方 程 式 (付2.5)
が 得 られ る 。 こ こ で, (付2.6)
(付2.7)
(付2.8) で あ る。
付2.2
pn接
合 で の 解
こ こで,式(付2.5)に
対 して,一
次 元 座 標 を考 え,x>0にn型
解 がν-=-ef(x)と
し,x<0にp型
る。f(x),g(x)の
満 た す べ き方 程 式 は,
半 導 体 が あ り,こ の
半 導 体 が あ り,こ の 解 がν+=eg(x)の
形 で あ る とす
(付2.9) (付2.10)
で あ る 。 こ こで,n型
半 導 体 で は,電 子 が 多 数 キ ャ リヤ で あ り,電 子 密 度 が 正 孔 密 度 よ り
は るか に 多 く,n0-=n0e≫n0+=n0pで
あ る か ら, (付2.11)
と近 似 で き る 。p型
半 導 体 で は,正
孔 が 多 数 キ ャ リ ヤ で あ り,n0+=n0p≫n0-=n0eで
あ
る か ら,
(付2.12)
と近 似 で き る。 境 界 条 件 は無 限 遠 方 で 平 衡 状 態 で あ る こ と か ら,f(∞)=g(-∞)=0で あ り,か つ,多 数 キ ャ リヤ は 平 衡 状 態 よ り増 え る こ とは な い か ら,f(x)の <0,g(x)<0で あ る 。 こ の 解 は,付 録1で
の 結 果 と同 様 に して,λp=1/√CDp,λe=1/√CDeと
お い て,
(付2.13)
(付2.14) (付2.15)
(付2.16)
と求 め ら れ る 。 電 界 は
(付2.17)
(付2.18)
(付2.19)
(付2.20)
で 与 え られ る。 こ こで,境
界条件 よ り (付2.21)
の関係 が あ る。電 圧 は電 界 を順 に積 分 し,
(付2.22)
(付2.23)
(付2.24)
(付2.25)
とな る。 先 に 検 討 し た よ う に (付2.26)
の 関 係 が 成 立 す る。 これ と,式(付2.21)よ
り,空 乏 層 の 座 標 は, (付2.27)
(付2.28)
で 与 え ら れ,空
乏層 の幅 は (付2.29)
と な る。 電 子,正
孔 の 密 度 は,こ
こ で 得 られ た 解(式(付2.7)) (付2.30)
と質量 作用 の法 則 (付2.31)
よ り,p型
半 導体 中で は (付2.32)
(付2.33)
n型 半 導体 中で は (付2.34)
(付2.35)
とな る。 シ リコ ン不 純 物 半 導 体 で の,pn接 め て み る。n型 半 導 体,p型
合 の キ ャ リヤ 密 度,電 荷 密度,電
半 導 体 と も 多 数 キ ャ リ ヤ の 電 子 密 度,正
界,電
圧 分 布 を求
孔 密 度 は1021/m3
(1015/cm3)と
し,そ
の他 の計 算 に 必 要 な物 性 は図7.1よ
り得 た 。 この 計 算 結 果 を本 文 図
4.3に 示 す 。
付 録3 ロン ドン方 程式 を用 いた電流,磁 場 計算例 無 限 長 中空 円筒 の中心 に電 流線 の電 磁 場 を求 めてみ る。 付 図1の よ うに,無 限 に長 い,内 半 径a, 外半 径bの 超 電 導体 円筒 の 中心 に,電 流I を流 す細 い線 が あ り,か つ,こ の超電 導体 円 筒 に平行 にbに 比 して,十 分大 き い距 離D に,反 対 方 向 に向 か う超 電 導体 円筒 と同 一 の電 流 を流 す細 い線 が あ る場 合 の,円 筒 内 外 部 の磁 場 を求 め る。 中 心 に あ る線 の 作 る ベ ク トル ポテ ン シャル は, (付3.1)
で 与 え られ る 。超 電 導 体 に 流 れ る電 流 は,中 心 に あ る線 に 流 れ る 電 流 に よ り誘 起 さ れ る も の を 対 象 に 考 え る と,そ れ の 作 る ベ ク ト ル ポ テ ン シ ャ ル は,円
筒 中 心 軸 に対 し て 回
転 対 称 で あ り,か つ,z方
向 成 分 の み を有 し
付 図1 無 限長 い 内 半径a、 外 半 径bの 超 電 導体 円 筒 の 中心 に電 流Iを流 す
て い る こ と に な る。 そ の 形 状 か ら,超 電 導 体 円 筒 の 軸 をz座 超 電 導 体 に 流 れ る 電 流 は,円
筒 中 心 軸 に対 し て 回 転 対 称 で あ り,か つ,z方
み を有 し て い る 。 従 っ て,式(9.16)よ 式(9.22)よ
標 とす る円 筒 座 標 を 用 い る 。 向成 分 の
り,そ れ の 作 るベ ク トル ポ テ ン シ ャル も同 じ で,
り, (付3.2)
が 超 電 導 内部 で の ベ ク トル ポ テ ン シ ャ ル を 与 え る式 と な る。 この 解 は,
(付3.3)
の 形 で 与 え ら れ る 。 こ こ で,I0(z),K0(z)は に 流 れ る電 流Jz(r)は,式(9.16)よ
変 形 され た ベ ッ セ ル 関 数 で あ る。 超 電 導 体
り (付3.4)
で与 え られ る。 この超電 導体 中の電 流 が作 る円筒 内部 の磁 場 は0で あ るか ら,超 電 導体 円筒 内部 の磁 束 密度 は,中 心 に ある線 の電流 の作 る磁 束 密度 と等 し く (付3.5)
で 与 え られ る。 さ て,超 電 導 体 に流 れ る 電 流 は,中 心 に あ る線 に 流 れ る電 流 に よ り誘 起 され る もの で あ る条 件 は,全 空 間 の ベ ク トル ポ テ ン シ ャ ル が 電 流Iに で あ る が,こ
比例 してい る こ と
こ で は,磁 束 密 度 が 比 例 して い る とい う,こ れ と等 価 な 条 件 で 考 え て み る 。
超 電 導 体 円 筒 内 面r=aに
着 目す る と, (付3.6)
の 関 係 が 得 られ る 。 これ よ り
(付3.7)
(付3.8)
とな る 。 こ こで,pは こ こで,円
ま だ 決 め られ な い 定 数 で あ る。
筒 外 部 の 磁 場 を 考 え て み る。 円 筒 外 部 の ベ ク トル ポ テ ン シ ャ ル は,線
れ る電 流 と超 電 導 体 に 流 れ る電 流 の 作 るベ ク トル ポ テ ン シ ャ ル の 和 で あ る か ら,
(付3.9)
こ こ で,
に流
(付3.10)
は,超 電 導 円 筒 にz方
向 に 流 れ る 全 電 流 を 表 し て い る。 超 電 導 円筒 が 両 無 限 遠 で 連 結 さ
れ て い な い と き は,Is=0で テ ン シ ャ ル は0と
な け れ ば な ら な い か ら,こ れ に よ る 円筒 外 部 の ベ ク トル ポ
な り,超 電 導 円 筒 は 円 筒 外 部 の 磁 場 に寄 与 せ ず,線
に 流 れ る電 流 に よ
る 磁 場 が 形 成 さ れ る 。次 に,超 電 導 円 筒 が 両 無 限 遠 で 連 結 され て い る時 は,Is=0の は 必 要 な く,計 算 を進 め る こ とが で き る。式(付3.8)を
式(付3.9)に
条件
代 入 して 計 算 す る
と,
(付3.11)
が 得 られ る。 さて,こ ル は,D≫r〓bの
こ で,Dだ
け離 れ た 線 の こ の 円 筒 付 近 に作 るベ ク トル ポ テ ン シ ャ
関 係 か ら,
(付3.12)
と定 数 で あ る。 こ れ を考 慮 し て,超
電 導 体 円 筒 外 面 で,ベ
で 等 し い とお い て,式(付3.7),式(付3.11),式(付3.12)か
ク トル ポ テ ン シ ャ ル がr=b ら,
(付3.13)
の 関 係 が 得 られ る 。 これ を解 い て,
(付3.14)
これ よ り,外 部 磁 場 は
(付3.15) で 与 え ら れ る 。 さ て,a,b,a-b≫
λ の 時,式(付3.15)は
(付3.16)
と非 常 に 小 さ な 値 と な り,事 実 上,円
筒 外 部 に磁 場 が 存 在 しな い 。 す な わ ち,線
を流 れ
る 電 流 に よ る磁 場 を ほ ぼ 完 全 に 遮 蔽 す る。 こ の よ う に,線
に 被 せ られ た 超 電 導 体 被 覆 は,付
が 繋 が れ て い る か ど う か に よ っ て,遮
図2に
示 す よ う に,両 端 で超 電 導 体
蔽 の有無 が決 まる。
付 図2 両端 で超 電 導体 が 繋が れているか どうか による遮 蔽 の有 無
索 引 エ サ キ ダ イ オ ー ド
あ 行 ア イ ン シ ュ タ イ ン の 関 係 重 希 土 類 金 属
24 142
ア ク セ プ タ ー
37
SF6
15
n型
117 半導 体
14
エ ネル ギ ー ギ ャ ップ
73
エ ネ ル ギ ー と電 磁 波 周 波 数 の 関 係
8
圧 電 性
108
エ ネル ギ ーバ リア
圧電定数
109
エ ネ ル ギ ー バ ン ド
ア バ ラ ン シ ェ ホ トダ イ オ ー ド(APD)
151
エ ピタ キ シ ャル 成 長
ア モ ル フ ァ ス 磁 性 材 料
144
FET
165
ア ル カ リ マ ン ガ ン 電 池
174
エ ミッタ接 地 電 流増 幅 率
165
ア ル ニ コ磁 石
144
LED
152
エ レ ク トロ ル ミ ネ ッ セ ン ス(EL)
153
エ ン ハ ン ス メ ン ト形
167
イオ ン
10
イオ ン結 晶
67
イ オ ン結 合
6
イ ォ ン伝 導
15
異 種 物質 接 合 面 の 境 界条 件
33
位 相 一 次電 池 移 動 度
72 174 10,18(キ
ャ リヤ 移動 度 も参照)
イ ンバ ー
143
オ ー ム の法 則
40 11 163
23
か 行 カ ー効 果 開 口 数NA 回 転 磁 化 界面電荷
110,142 159 134 31
界 面 分 極
105
47
化 学 ト リー
122
渦糸 の侵 入 開 始磁 場
92
化 学 ポ テ ン シ ャ ル
渦 糸侵 入 磁 場
92
拡 散 率
24
渦 糸 の 運 動
93
核 磁 子
125
渦 電 流 損 失
138
Wiedemann‐Franzの
法 則
加速 試 験
21,25
184
活 性 化 エ ネ ル ギ ー
永久磁石 永 久 双 極子
68
132
活 性 層
157
105
価 電 子
6,12
エ キ シマ ー
156
価 電 子 帯
エ キ シマ ー レ ーザ ー
156
緩 和 時 間
液晶
110
緩 和 周 波 数
液 晶相
110
液 体 の絶 縁 破 壊
117
稀 ガ ス
12 23,103,137 103
6
け い素 鋼板
143
116
ケル ビン の関 係
30
144
減 磁 曲線
128
144
原 子 の構 造
4
キャ リヤ
21
原 子 分極
キャ リヤ移 動 度
22
元 素 の周 期 律 表
キャ リヤ注 入
51
キャ リヤ密 度
22
コア
18
光子
気 体 の絶 縁 破 壊
114
気 体 の破 壊 電 圧 希 土類 磁 石 希 土類 鉄 ガ ー ネ ッ ト
キャ リヤ密 度 と移 動 度
104 5
158 7
キ ュ ー リ温 度
106
硬磁 性 材 料
132
キ ュ ー リワイ ス の法 則
107
高透 磁 率 材料
131
90°磁 壁
134
高誘 電 率 溶媒
強磁 性 体
126
固体 電 解 質
凝 縮 エ ネル ギ ー
75
固体 の絶 縁破 壊
強誘 電 性 液 晶
111
コ ヒー レ ンス長
強誘電体
106
混 合 状 態(mixed
極 値 統 計 学
181
61 15 118 74 state)
91
さ 行
巨視 的 磁 束密 度
95
巨視 的 電磁 場
95
再結 合
巨視 的 電 流密 度
96
最大 エ ネ ル ギー 積
132
SmCo5
144
SmCo17
144
残 留 磁 化
127
禁制帯
11
金 属 の 電 気伝 導
45
金属結合
6
クー パ ー対 作 成 自由 エ ネル ギ ー クー パ ー対 の 密 度勾 配,お
87
よび運 動 の エ
ネルギー
87
空 間 電荷
33
55
GLの
コ ヒー レン ス長
88
GLの
磁 場 侵入 長
88
GLの
パ ラ メ ー タ κ
Ginzburg‐Landau(GL)の
空 間 電荷 制 御 電 流
52
GLの
空 間 電荷 分 極
105
Ginzburg‐Landau(GL)方
空孔
67
CO2レ
183
CCD
空乏層
32
JFET
クラッド
158
磁化
偶 発破 壊
クラ ッ ド層
157
Gruneisenの
形状 異 方 性
経験 式 。 金 属 の電 気 伝 導 45
135
88 パ ラ メ ー タ 89
微 分 方程 式
ー ザ ー
紫 外 吸収
87 程 式
86 155 168 165 126 161
磁化の強さ
126
磁 気 異 方性
134
磁 気光 学 効 果
142
磁 気 ダ イ ポー ル
124
真 性 領 域
磁 気 抵抗
141
Simple
磁 気 歪 み
141
信 頼 性
179
磁 気 分極
126
磁 気 モ ー メ ン ト
123
水 晶
109
137
ス トレ ス
182
磁 気 余効 磁 気 力
3
磁 区
133
自己 減磁 作 用
129
58
is the
best
186
ス トロ ン チ ウ ム ビ ス マ ス タ ン タ ル 酸 化 物 (SBT)
108
ス ピ ン
11
126
ゼ ー べ ッ ク係 数
29
磁 束 の ピン止
94
ゼ ー べ ッ ク効 果
28
磁 束 の量 子 化
90
正 孔
磁 束 量子
91
静 電 誘 導 型 トラ ン ジ ス タ
166
実 効 質量
23
静 電 容 量
101
実 効 状態 密 度
57
静 電 力
仕 事 関数 磁 性 体
質 量 作 用 の法 則
10,15
57,14
10
3
整 流 作 用
37
自発 分極
106
石 英 光 フ ァ イ バ ー
161
磁 壁
133
赤 外 吸 収
161
自 由電子 自 由電子 レー ザ ー
12 155
重 力
3
寿 命
183
絶 対 熱 電 能
29
絶 対 ペ ル チ エ 係 数
29
接 点
47
絶 縁 ゲ ー ト電 界 効 果 トラ ン ジ ス タ (MISFET)
166
準 正 孔
73
準 電 子
73
絶 縁 物 質
28
消 磁 状 態
134
絶 縁 劣 化
119
焦 電 効 果
110
接 合 型 電 界 効 果 ト ラ ン ジ ス タ(JFET)
165
常 電 導 自由 エネ ル ギ ー
87
接 合 トラ ン ジ ス タ
163
常 電 導状 態 の 自由 エ ネル ギ ー
76
遷 移 金 属
142
常 電 導転 移 磁 場
93
セ ン ダ ス ト
143
衝 突 断面 積
114
初 期 故 障型 破 壊
183
初 磁 化 率
136
シ ョッ トキ ー ホ トダ イ オー ド
151
ジ ル コ ン酸 チ タ ン酸鉛(PZT)
線 の 臨 界 電 流
損 失 角
137 た 行
108,109
シ ン グル モ ー ド光 フ ァイバ ー
160
第 一 種,第
真 性 絶 縁破 壊 電 界
119
第 一 種 超 電 導 体
真 性 半 導体
14
97
体 積 効 果
二 種 超 電 導 体 の 境 界
93 76 185
体 積 抵 抗 率
10
電 子 の 電 荷 と質 量
第 二 種 超 電 導体
76
電 子 分 極
104
第 二 種 超 電 導体 線 の挙 動
97
電 子 冷 凍
30
電 池
42
太 陽 電 池
43,154
多 成 分 系光 フ ァイバ ー
162
伝 導 帯
単 一 磁 区
134
電 離 電 圧
チ タ ン酸 バ リウ ム
107,109
秩 序 パ ラ メ ー タ ー
80
チ ャイ ル ドの法 則
52
チ ャネ ル
166
4
12 114
電 流 の 起 動 力
74
電 流 の 量 子 化
72
電 流 密 度
23
透 磁 率
127
超 電 導状 態 の 自 由エ ネ ル ギー
76
導 電 物 質
超 電 導‐常 電導 境 界
86
導 電 率
超 電 導 体表 面 の境 界 条件
87
当 量 導 電 率
超 電 導 体 の熱 起 電 力
30
ドナ ー
15
超 電 導 転移 温 度
76
ドブ ロ イ 波 長
36
超 電 導 の電 磁 気 的 性 質
74
トム ソ ン 係 数
30
トム ソ ン 効 果
29
27 10,23 65
DMcT
176
ドメ イ ン
106
TGS
110
トラ ッ キ ン グ 劣 化
119
鉄 けい 素合 金
142
トラ ッ プ
鉄‐ニ ッケ ル合 金
143
ト リ ー イ ン グ 劣 化
Debye温
度
45
デ バ イ 温度
45
出 払 い領 域
58
デ プ レ ッシ ョン形 電 界効 果 トラ ン ジス タ(FET) 電 解 質 電 界放 出
167
49
ト ン ネ ル 電 流
121 37
な 行 鉛 蓄 電 池
174
163,165
軟 磁 性 材 料
131
63
軟 磁 性 鉄 心
131
53
電 荷 結合 デバ イ ス(CCD)
168
二 次 電 池
174
電 荷 方程 式 の一 般 解
187
2種 キ ャ リヤ で の 電 荷 関 係 式
191
ニ ッ ケ ル 水 素 電 池
175
ニ ッ ケ ル カ ド ミ ニ ウ ム 電 池
175
電 気化 学 電 気 的 負性 ガ ス
42 117
電 気電 子 材 料 の応 用 分野 と必 要 な性能 2 電 気 トリー
121
電磁 鋼 板
143
2流 体 モ デ ル
Nd2Fe14B
83
144
電 子親 和 力
15
Nd3+YAGレ
電子 対(ク ー パ ー対)
72
熱 エ ネ ル ギ ー の 大 き さ
ー ザ ー
156 15
熱 起 電 力
29
熱 的破 壊
118
比 透 磁 率
127
43
180° 磁 壁
134
熱 電 対
29
比 誘 電 率
102
熱 電 発 電
43
表 皮 深 さ
139
熱 電 冷 却
30
ピ ン チ オ フ 状 態
166
熱 と電 流
28
ピ ン 止 め
熱 力 学 的 臨 界磁 場
76
ピ ン 止 め 力
65
pinホ
熱 電 子 発 電
粘 性 抵 抗 粘 性 力
非 線 形 電 流
31
94 96
トダ イ オ ー ド
151
22,93
燃 料 電 池
177
濃 度 転 移 型 液 晶
111
Poole‐Frenkel効
果
フ ァ ブ リ ー ペ ロ ー 干 渉 計
155
フ ァ ラ デ ー 効 果
142
フ ァ ン デ ル ワ ー ル ス 結 合
は 行
54
Fickの
7
法 則
24
パ ー マ ロ イ
143
フ ェ ラ イ ト
144
配 向 分極
105
フ ェ リ磁 性 体
133
バ イ ポ ー ラ トラ ンジス タ
164
フ ェ ル ミ準 位
パ ッシ ェ ンの 法則
116
フ ェ ル ミ粒 子
波動 性
74
フ ェ ロ磁 性 体
反磁 界
129
負 温 度 状 態
反磁 界 係 数
129
Fowler‐Nordheim
反転 層
167
フ ォ ノ ン
反転 分布
155
複 素 誘 電 率
半 導体 ダ イオ ー ドの電圧‐ 電 流 特性
13 11 133 155 emission
53 7 103
36
負 性 抵 抗
37
半 導体 レ ーザ ー
156
部 分 放 電
120
バ ン ドギ ャ ップ
12
部 分 放 電 劣 化
120
バ ン ド構 造
73
不 飽 和 領 域 プ ラ ス チ ッ ク 光 フ ァ イ バ ー
pnホ
トダ イオ ー ド
p型 半 導 体 BBD PVDF Beanの
臨 界 状 態 モ デル
光 に対 す る損 失 要 因 BCS理
論
ヒス テ リシ ス環線 ヒス テ リシ ス損 失
150
プ ラ ズ マ
58 162 18
フ レオ ン ガ ス
117
168
プ レー ナ ー 構 造
163
110
分 域
106
96
分 極
101
15
161 72
平 均 自 由 行 程
114
128
ペ ル チ エ 効 果
29
129,136
ペ ル チ エ 係 数
30
有機 エ レ ク トロ ル ミネ ッセ ンス(EL)素 ボ ー ア 磁 子 ホ ー ル(正
125
孔 を参 照)
子
153
誘 起 双 極 子
105
ホ ー ル 効 果
141
有極 性 分 子
105
方 向 性 け い 素 鋼 板
143
誘 電 材 料
101
誘 電 性
101
誘 電 体 の 等価 回路
103
飽 和 磁 化
127,134
飽 和 領 域
58
保 持 力
128
誘 電 分 極
101
ポ ッ ケ ル ス 効 果
110
誘 電 率
102
ホ ッ ピ ン グ 伝 導
53
油 浸 絶 縁
118
ホ ト コ ン ダ ク タ
152
ユ ニ ポー ラ トラ ン ジス タ
164
ホ ト ト ラ ン ジ ス タ
152
ポ リ フ ッ化 ビ ニ リ デ ン
110
ボ ン ド磁 石
145
溶 融 塩
17 ら 行
ま 行
リチ ウム イ オ ン含 有 金属
176
磨 耗 破 壊
183
リチ ウム イ オ ン電 池
176
マ ル チ モ ー ド光 フ ァ イ バ ー
160
リチ ウム電 池
175
Mn‐Znフ
145
硫 酸 グ リシ ン
110
マ ン ガ ン乾 電 池
173
量 子 井 戸型 半 導 体 レー ザ ー
157
マ ン ガ ン電 池
173
臨 界 磁 場
75
臨 界 状 態
96
MISFET
166
水 ト リ ー 劣 化
121
ェ ラ イ ト
レー リー定 数
136
励 起
子
161
153
無 極 性 高 分 子
119
MESFET
166
モ ー ド
159
MOSFET
166
Mott‐Gurneyの
55
レ イ リー散 乱 損 失
無 機 エ レ ク トロ ル ミ ネ ッ セ ン ス(EL)素
自 乗 則 や
行
52
ロ ン ドン長 の温 度 依存 性
83
ロ ン ドンの侵 入 深 さ
82
ロ ン ドン の第 二 方程 式
80
ロ ン ドン方 程 式
80 わ 行
ワイ ブ ルパ ラ メー タ
184
ワイ ブ ル分 布
181
〈著 者紹 介 〉 松葉 博 則 学 歴 東 京 大 学工 学 部大 学 院 電気 工 学 科修 士課 程 修 了(1966) 工 学 博 士(1977) 職 歴 古 河 電気 工 業 株式 会 社 入社 日本 シュル ンベ ル ジ ェ検 層 技 術部 長 古 河 電工 横 浜研 究 所 応 用物 理研 究 部 長 古 河電 工 開 発本 部 補 佐 東 京電 機 大 学講 師
電気電 子材料 ―導電 性 制 御 とエ ネル ギ ー変 換 の実 際― 1998年4月20日
第1版1刷
発行
著 者 松 葉 博 則
発行者 学校法人 東京電機大 学 代 表 者 丸 山孝一郎
発行所 東 京電機 大学 出版局 〒101‐8457 東 京 都 千 代 田 区 神 田 錦 町2-2 振 替 口 座
印 刷(株)精 製 本(株)徳
興社 住 製 本所
00160-5-71715
電 話 03(5280)3433(営
業)
03(5280)3422(編
集)
〓
Matsuba
Hironori
Printed in Japan
*無 断 で 転 載 す る こ とを禁 じ ま す. *落 丁 ・乱 丁 本 はお 取 替 え いた し ま す.
ISBN
4-501-10800-2
C3054
R〈日本複 写 権 セ ン ター 委託 出 版 物 ・特 別 扱 い〉
1998
東京 電機 大学 出版局 出版 物 ご案 内 Mathematicaに
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