朝倉 国 語教育 講 座 書 く こ と の教 育
倉 澤栄 吉 監修 野 地 潤家
朝倉 書 店
4
監修者 倉 澤 栄 吉 日本国語教育学会会長 野 地 潤 家 広島大学名誉教授/鳴 門教育大学名誉教授
編 集...
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朝倉 国 語教育 講 座 書 く こ と の教 育
倉 澤栄 吉 監修 野 地 潤家
朝倉 書 店
4
監修者 倉 澤 栄 吉 日本国語教育学会会長 野 地 潤 家 広島大学名誉教授/鳴 門教育大学名誉教授
編 集 者()は
編 集担当巻
白 石 寿 文 佐 賀大 学名 誉教 授(第1巻,第3巻)
小 田 迫 夫 大阪教育大学名誉教授(第2巻) 浜 本 純 逸 神戸大学名誉教授/早 稲 田大学教授(第2巻) 松 山 雅 子 大阪教育大学教授(第2巻) 山 元 悦 子 福岡教育大学教授(第3巻) 菅 原 稔 岡山大学教授(第4巻) 中 西 一 弘 大 阪教 育大 学名 誉教 授(第4巻)
森 田 信 義 広島大学教授(第4巻) 世 羅 博 昭 鳴門教育大学教授(第5巻) 三 浦 和 尚 愛媛大学教授(第5巻) 大 槻 和 夫 広島大学名誉教授/安 田女子大学教授(第6巻) 吉 田 裕 久 広島大学教授(第6巻) 植 山 俊 宏 京都教育大学教授(第6巻)
刊 行 の言葉
昭 和 二 四 (一九 四 九 ) 年 四 月 に学 生 を 迎 え 入 れ て発 足 し た 新 制 大 学 も 、 既 に 半 世 紀 を 超 え る歳 月 を 閲 し た 。 そ
の間 、 教 育 ・研 究 両 面 に実 績 を 挙 げ て き た が 、 新 し い世 紀 に 入 って 、 組 織 ・運 営 面 に抜 本 的 改 革 が な さ れ る こと に な った 。 新 制 大 学 と 歩 み を 共 に し て 来 た 者 と し て深 い感 慨 を 覚 え る 。
( 当 初 、 修 士 課 程 、 続 い て博 士 課 程 ) が 設 置 さ れ てか
新 制 大 学 教 育 系 学 部 に は 、 国 語 科 教 育 法 担 当 者 が 配 置 さ れ 、 教 職 科 目 単 位 取 得 希 望 者 に ﹁国 語 科 教 育 ﹂ 関 係 の 授 業 を 担 当 し た が 、 昭 和 二 八 (一九 五 三 ) 年 四月 、 大 学 院
ら は 、 国 語 科 教 育 専 攻 の院 生 の指 導 も 担 当 す る こ と にな った 。
新 制 大 学 で 国 語 科 教 育 を 担 当 す る 教 官 方 は 、 石 井 庄 司 博 士 (東 京 教 育 大 学 教 授 ) の ご 先 導 ・ご 高 配 に よ って 、
昭 和 二 五 (一九 五 〇 ) 年 九 月 、 全 国 大 学 国 語 教 育 学 会 を 創 設 し 、 全 国 を 九 ブ ロ ック ( ① 北 海 道 ・② 東 北 ・③ 関
東・ ④ 東 海・ ⑤ 北 陸 ・⑥ 近 畿 ・⑦ 中 国 ・⑧ 四 国 ・⑨ 九 州 ) に 分 け 、 毎 年 二回 ( う ち 、 一回 は 東 京 で) 学 会 を 開 催 す る こと にな った 。 既 に 百 回 を 超 え る 学 会 が 重 ね ら れ てき た 。
( 初 代 所 長 、 西 尾 実 博 士 )、 文 化 庁 国 語
国 語 科 教 育 実 践 界 で は 、 日本 国 語 教 育 学 会 を 初 め 、 校 種 (小 ・中 ・高 ) 別 に、 さ ら に は 研 究 組 織 ご と に 研 究 会 が 設 立 さ れ 、 そ れ ぞ れ 活 発 に活 動 が 続 け ら れ た 。 ま た 、 国 立 国 語 研 究 所
課 、 国 立 教 育 政 策 研 究 所 な ど で 行 な わ れ た 研 究 ・調 査 等 も 、 国 語 科 教 育 の実 践 ・研 究 に 大 き く 寄 与 す る も の で
あ った 。 20世 紀 後 半 に お い て、 わ が 国 の国 語 科 教 育 研 究 の組 織 化 は よ く 整 備 さ れ 、 そ れ ぞ れ実 績 を 挙 げ て い った
と思 われる。
朝 倉 書 店 は 、 先 般 来 、 ︿朝 倉 国 語 教 育 講 座 ﹀ ( 全 六 巻 ) 刊 行 の 企 画 を 立 て ら れ た 。 企 画 に当 た って は 、 こ う し た
企 画 経 験 の豊 富 な 中 西 一弘 教 授 に 世 話 人 を お 願 いし 、各 巻 ご と に 編 集 担 当 者 を 依 頼 し 、 各 巻 の構 成 、 執 筆 者 ヘ の
連 絡 等 を 分 担 し ても ら う こ と にな った 。 こ のよ う な 経緯 か ら 、 日 本 国 語 教 育 学 会 西 日 本 集 会 の開 催 ・推 進 に協 力 を いた だ いた 方 々 に編 集 ・執 筆 を お 願 いし た 。
全 六 巻 か ら 成 る 、 本 講 座 の目 指 す と こ ろ は 、 内 容 を 清 新 な も のと し 、 記 述 に当 た って は 、 正 当 か つ平 易 な も の
た ら し め る こ と 、 ま た 、 そ れ ぞ れ 解 説 ・説 明 に 重 点 を 置 い て いく よ う に す る こ と で あ る 。 企 画 側 と し て は 、 学
生 ・院 生 の皆 さ んを 初 め 、 国 語 科 教 育 の実 践 ・研 究 に取 り 組 ん で い る人 た ち 、 関 連 分 野 の研 究 者 に も 、 一般 の
人 々 に も 、 手 に 取 って読 ん で いた だ け れば と 願 って いる 。 広 く 開 か れ た ﹁講 座 ﹂ で あ り た いと いう 思 いを こ め て いる 。
20 世 紀 にあ っては 、 国 語 教 育 講 座 が 数 社 か ら 既 に 刊 行 さ れ た 。 こ れ ら の講 座 が 国 語 科 教 育 実 践 者 ・研 究 者 に そ
れ ぞ れ 役 に立 つこ と も 多 か った と 思 わ れ る 。 講 座 は 刊 行 さ れ た 、 そ の時 期 そ の時 期 か ら の羅 針 盤 にも な り 、 相 談 窓 口 に も な った か と 思 わ れ る 。
単 行 本 の中 か ら 自 分 に と って の ﹁一冊 の本 ﹂ を 見 つけ 、 そ こ か ら 摂 取 し う るも のを 見 い出 し 、 自 己 の実 践 ・研
究 に 十 分 に 生 か し て いく こと が 望 ま れ る 。 同 時 に 、 ﹁講 座 ﹂ に 接 し て 、 そ の 質 量 に 押 さ れ る こと な く 、 活 用 し て
いく 方 途 を 自 ら発 見 し て いく こ と も 望 ま れ る 。 ﹁講 座 ﹂ と の出 会 い に よ って 、 国 語 科 教 育 ヘの視 野 が 開 け 、 何 を
ど う 耕 し 、 深 め て、 成 果 を ど う 導 き 出 し て いく の か に多 く の示 唆 が 得 ら れ る こと も 夢 で はな い。
国 語 科 教 育 界 で は、 戦 前 ・戦 後 、 著 作 集 ・個 人 全 集 ( 垣 内 松 三 ・西 尾 実 ・大 村 はま ・倉 澤 栄 吉 ) も 刊 行 さ れ 、
近 現 代 国 語 科 教 育 の み の り の豊 か さ が 見 ら れ る 。 ︿朝 倉 国 語 教 育 講 座 ﹀ 刊 行 に は 、 国 語 科 教 育 実 践 ・研 究 のみ の
り で あ る と 共 に 、 さ ら に未 来 に向 け て、 新 し い成 果 を 生 み 出 す 母 胎 と も な り 、 指 針 と も な る 、 役 割 を 期 待 す る こ と が でき る。
監 修 者 倉
地
澤
潤
栄
家
吉
本 講 座 が そ の使 命 ・役 割 を 十 分 に 果 た す よう 願 って 、 監 修 者 か ら の言 葉 と し た い。
野
ま え が き
カ ラオ ケ が普 及 し て か ら 、 日本 人 の多 く が 実 は 音 楽 好 き であ った こと が 明 ら か に な った 。 な か な か マイ クを 放
さ な い陶 酔 者 を よ く 見 か け る。 他 人 に 自 己 抑 制 を 説 く 人 で も 、 ひ と た び 歌 い始 め ると 、 別 人 と な る 。 音 楽 と は 、
人 を 変 え る魅 力 が あ る よ う だ 。 戦 前 、 音 楽 の時 間 に 、 音 程 の狂 いを 嘲 笑 の声 と と も に指 摘 さ れ つづ け た 者 にと っ
て は 、完 全 な 予 想 外 であ る 。自 己 紹 介 の席 で 、言 葉 のか わ り に 一曲 歌 う 学 生 も 出 る に 及 ん で は 、音 楽 の市 民 権 が 、 し っか り と 確 立 し た こと を 認 めざ る を え な い。
こ のよ う に 、 表 現 活 動 は 、 声 で あ れ 、 楽 器 であ れ 、 ま た は 色 ・形 、 さ ら に 体 であ れ 、 そ れ を 成 し 遂 げ た 者 を 一
変 さ せ る 魅 力 を も つ。 話 し 言 葉 も 同 様 であ る 。 人 前 で 話 し た 後 、 一度 でも 聞 き 手 の盛 大 な 拍 手 を 耳 にす る と 、 そ
の魅 力 に 逆 ら う こ と が で き ず 、 再 度 三 度 試 み る こ と に な る 。 内 に あ る も の を 外 に向 か って表 し て いく 行 動 の、 そ
れ 自 体 の快 感 と そ の評 価 が 、 た と え よ う も な い推 進 力 を 与 え てく れ る 。 書 き 言 葉 も 、全 く 等 し い。 書 き 上 げ た 手
応 え と だ れ か 一人 の賞 賛 が 、 以 後 、書 く 作 業 に 没 頭 さ せ て い った 経 験 は 、 よく 語 ら れ て い る。
何 で あ れ 、 表 現活 動 は 、成 就 でき れ ば 、 無 類 の快 感 を 授 け てく れ る 。 学 校 で の ﹁書 く こと ﹂ も ま た 、 例外 では
な い。 例 外 が あ ると す れ ば 、 そ れ は 表 現 活 動 ヘ の準 備 と 、 方 法 の手 引 き と 、 練 習 が 足 り な い (いや 、 全 然 な い)
(? ) で は 困 る ので あ る 。 上 に 記 し た よ う に 、
場 合 だ け で あ る。 ﹁遠 足 ﹂ と か 、 ﹁運 動 会 ﹂ な ど の題 だ け を 板 書 し て 、 あ と は仕 上 が り を 待 つ、 と いう の は指 導 で も 何 で も な い。 そ れ で は 書 け な い のが 当 然 であ る 。 書 け な い指 導
だ れ も が ﹁書 き た い。 書 け た ら ど ん な に す ば ら し いこ と か ﹂ と 心 の中 で叫 ん で いる 。事 実 、 だ れ も が 歌 え て、 走
れ る よ う に、 書 け る の が 普 通 であ る 。 文 字 、 語 、 文 、 連 文 、 そ れ か ら 段 落 へと 、 写 し た り 、 入 れ 替 え た り 、 は め
込 ん だ り し な が ら 、 少 し ず つ少 し ず つ、 言 葉 と 言 葉 と を ジ グ ソー パ ズ ル の よ う に組 み 合 わ せ て いく と 、 楽 し みな
が ら 文 が 、 段 落 が 、 作 品 が でき て いく 。 そ の快 感 を 与 え る こと は 、 そ れ ほ ど む ず か し い こと で は な い。
以 上 の よう な 態 度 で 、 第 四巻 ﹃書 く こ と の教 育 ﹄ を 編 集 し た 。 ま ず 、書 く こと の教 育 がも つ根 本 の考 え ( 第 一
章 ) を か か げ 、 今 に生 き る 先 達 の偉 大 な 遺 産 に 学 び ( 第 二章 )、 書 く 能 力 と 発 達 を ど う 見 て いく か の観 点 を 示 し
( 第 七 章 )。
( 第 五章 ) か ら 始 め 、 ﹁発 想 ・取 材 ﹂ か ら
( 第 三章 )、 指導 の枠 組 み を 例 示 し て ( 第 四章 )、 全 体 を 大 観 でき る よ う に し た 。 指 導 の 本 体 と し ては 、 生 活 化 ・習 慣 化 と いう ﹁書 く こと ﹂ の基 盤
﹁活 用 ﹂ ま で の過 程 ご と を 詳 説 し (第 六 章 )、 そ の成 果 を 問 う 評 価 の問 題 でし め く く った
最 後 の第 八章 で は 、 国 語 科 の枠 を こえ 、 言 葉 の表 現 力 が 及 ぶ 大 き な 範 囲 を 論 じ て 、 ﹁書 く こ と ﹂ の意 義 の 深 さ と広さ とを指摘 した。
分 量 の制 限 が あ り 、 十 分 に 意 を 尽 く し た と は いえ な いが 、 ま ず は ﹁ 書 く こ と の教 育 ﹂ に 踏 み出 し て いた だ く 、
第 四巻 編 者 菅
田
原
一
信
弘
義
と いう ね ら いに向 か って 、 一つ の手 が かり を 示 す こと は でき た の で はな いか 。さ ら に 、実 践 と 理 論 化 を 継 続 し て 、 次 の飛 躍 へと 努 め て いき た い。 二〇 〇六年 一月
森
西
稔
中
目
次
第 一章 書 く と いう こと ︱書 く こ と の教 育 の源 泉 ・中 核 と し て 一 道 標 と し て の ﹁書 く と いう こ と ﹂
︱脚 下照顧 二 ﹁書 く と いう こ と ﹂ の 概念 把 握 ・要 語 化 三 教 室 に お け る ﹁書 く と いう こ と ﹂ の 展 開 四 ﹁書 く こと の 教 育 ﹂ の実 践 上 の 課 題 五 ﹁書 く こと の 教 育 ﹂ の進 展 (← 深 化 ) のた め に 六 ﹁書 く と いう こと ﹂ か ら 生 ま れ た 最 期 の花
﹁書 く こ と ・綴 る こ と ﹂
第 二章 書 く こ と の歴 史 的 展 望 一 ﹁作 文 ・綴 方 ﹂ と
二 芦 田恵 之 助 (一八 七 三 ∼ 一九 五 一) のば あ い 三 鈴 木 三 重 吉 (一八 八 二∼ 一九 三 六 ) のば あ い
[野 地 潤 家 ] 1
1
4
[田 中 俊 弥 ] 21
14
16
17
22
24
27
7
四 小 砂 丘 忠 義
(一八 九 七 ∼ 一九 三 七 ) の ば あ い
五 国 分 一太 郎 (一九一一 ∼ 一九 八 五) の ば あ い
第 三 章 書 く こ と の能 力 と そ の発 達
︱研究史 を中心 に 一 書 く こと の能 力
︱児童作 品が示す 千差万 別 の実態 に迫 る ︿ 観点 ﹀を中心 に 二 ﹁書 く こ と ﹂ の能 力 の発 達 に つ いて
第 四 章 書 く こと の学 習 指 導 と そ の体 系
一 大 切な準備 学習 二 体 系そ の1 線状的指導 過程 による ︱題 材 指 導 か ら 活 用 ・評 価 へ
三 体系 そ の2 交差す る指導 過程 によ る ︱文 章 の 鑑賞 ・評 価 か ら 題 材 指 導 へ
四 体系 そ の3 全 過程を支 え る ︱動 機 付 け ( 必 然 性 )・意 図 ・相 手 意 識 ・文 種 五 体 系 そ の 4 書 く こと の中 心
9 2
[ 中 西 一弘 ] 38
[ 中 西 一弘 ] 60
33
39
52
60
61
64
69
実 践 の見 通 し
︱﹁記 述 ﹂ の体 系 六 体 系 そ の 5 ︱ 年 間 計 画 か ら 、 生 活 習 慣 ま で
第 五章 書 く こ と の生 活 化 と 習 慣 化 一 書 く こ と の生 活 化 と 習 慣 化 の目 指 す も の
二 書く こと の生活 化と習慣化 を促す指導 の方法 三 書く こと の生活 化と習慣化 指導 の実 践的展 開 四 むす び
[大 西 道 雄 ] 77
四 処 理 ・活 用 の指 導 と そ の方 法
三 記 述 ・推 敲 の指 導 と そ の方 法
二 構 想 ・構 成 の指 導 と そ の方 法
一 発 想 ・取 材 の指 導 と そ の方 法
[ 河野智文 ] 145
[ 児玉 忠 ] 130
[金 子 泰 子 ] 111
[田 中 宏 幸 ] 9 5
[森 田 信 義 ] 175
[ 村 井万里 子] 161
第 七 章 書 く こ と の学 習 指 導 に お け る 評 価
五 作品 の活用 の指導 とそ の方 法
第 六章 書 く こ と の学 習 指 導 と そ の方 法
73
75
77
79
85
93
95
一 ﹁評価 ﹂ の目 的 と 種 類 二 児 童 ・生 徒 の書 く こ と の活 動 と 作 品 の評 価 三 ﹁書 く こ と の 学 習 指 導 ﹂ の評 価 四 ﹁評 価 ﹂ 主 体 の育 成
書 く こと の学 習 指 導 の発 展 ・特 別 活 動 等 の中 で の発 展
引
︱書 く こ と の学 習 指導 の発 展 ・そ の可 能 性 と 必 要 性
五 おわり に
四
三 書 く こと の学 習 指 導 の発 展 ・他 教 科 の中 で の発 展
二 書 く こと の学 習 指 導 の発 展 ・国 語 科 の中 で の発 展
︱書 く こ と の学 習 指 導 の発 展 ・そ の可 能 性 と 多 様 性
一 は じ め に
第 八 章 書 く こと の学 習 指 導 と そ の発 展
索
[ 菅原
稔 ] 192
5 7 1
176
191 189
194 192
198
203
208
213
第 一章 書 く と いう こ と
︱ 書 く こと の教 育 の源 泉 ・中 核 と し て
一 道 標 と し て の ﹁書 く と いう こ と ﹂
︱脚 下照顧
書 く こ と の教 育 に 取 り 組 み 、 そ の実 践 と 考 究 を 積 み 上 げ 、 自 ら の書 く こと の教 育 を み のり ︵ 成 果 ︶ の豊 か な も
の にし た いと 念 じ つ つ、 そ の源 泉 ・中 核 と し て の ﹁書 く と いう こと ﹂ に思 いを め ぐ ら す と 、次 々 に こと ば ︵ 用語 ︶ が 湧 き 上 が ってく る 。
︵1︶① ﹁書 く と いう こと ﹂← ② ﹁書 け る と いう こ と ﹂←③ ﹁書 け な いと いう こと ﹂←④ ﹁書 け た り 、 書 け な か った り
す る と いう こと ﹂← ⑤ ﹁書 か ず に は いら れ な いと いう こと ﹂← ⑥ ﹁書 き 上 げ る と いう こと ﹂← ⑦ ﹁書 き 上 げ 、 読 み 返 す
と いう こと ﹂← ⑧ ﹁書 き 手 と し て振 り 返 ると いう こと ﹂← ⑨ ﹁ 書 き 手 と し て充 足 感 を 味 わ う と いう こ と ﹂
︵2 ︶① ﹁ 書 く と いう こと ﹂← ② ﹁書 き た いと いう こと ﹂← ③ ﹁書 こう と いう こ と ﹂← ④ ﹁書 いて み よ う と いう こと ﹂
←⑤ ﹁書 いて よ か った と いう こと ﹂←⑥ ﹁書 か ず に は いら れ な か った と いう こ と ﹂← ⑦ ﹁少 し ず つ書 け る よ う に な る
と いう こと ﹂← ⑧ ﹁書 く と いう こ と は マラ ソ ン であ る と いう こ と ﹂←⑨ ﹁書 く こと で 、 マ ラ ソ ン ラ ン ナ ー に な り た い
と いう こと ﹂
︵3 ︶① ﹁ 書 く と いう こと ﹂← ② ﹁書 いて は み た が 、 と いう こ と ﹂←③ ﹁書 く こと が い や に な る と いう こと ﹂← ④ ﹁で
も 、 書 く こ と が 好 き に な り た いと いう こ と ﹂← ⑤ ﹁一心 不 乱 に 書 い て いく と いう こと ﹂← ⑥ ﹁ふ と 気 づ く と 、 書 け る
よ う にな って いた と いう こと ﹂←⑦ ﹁油 断 を し な いと いう こ と ﹂← ⑧ ﹁読 み 返 し て は 、 書 く こ と を 工夫 し て み る と い う こと ﹂← ⑨ ﹁む だ のな い書 き 方 が でき る よ う に な る と いう こ と ﹂
︵4︶ ① ﹁書 く と いう こと ﹂← ② ﹁書 いて も 、 書 い ても 、 満 足 が いか な い、 う ま く 書 け な い、 際 限 が な いと いう こ
と ﹂← ③ ﹁ う ま く 書 こ う と は 思 わ な いと いう こと ﹂← ④ ﹁正 直 に 思 った ま ま 、 見 た ま ま を 書 く と いう こと ﹂← ⑤ ﹁書 き
た り な いこ と が な いよ う に書 く と いう こ と ﹂←⑥ ﹁でも 、書 き 過 ぎ てし ま わ な いよう に 気 を つけ て書 く と いう こ と ﹂
← ⑦ ﹁書 いた ら 、 じ っく り 読 み 返 し て み る と いう こ と ﹂←⑧ ﹁読 み 返 し な が ら 、 な お し た 方 が い いと こ ろ を 見 つけ 、
よ く し て いく こ と ﹂← ⑨ ﹁読 み 返 し て 、 手 を 入 れ れ ば 、 そ の文 ・文 章 は 、 き っと よ く な って いく と いう こ と ﹂
︵5︶ ① ﹁書 く と いう こ と ﹂←② ﹁書 き た いこ と 、 書 いて み た いこ と を 、 い つも 見 つけ る よ う 努 め て いく と いう こ
と ﹂← ③ ﹁気 が つ い て み れ ば 、 書 く こ と 、 そ の 材 料 は、 身 のま わ り に も 、 た く さ んあ る と いう こ と ﹂←④ ﹁朝 起 き て
か ら 、 夜 寝 入 る ま で、 い つも 書 く こ と ︵ 材 料 ︶ を さ が し て いく よう に心 が け る と いう こと ﹂← ⑤ ﹁夢 の中 でも 、 書
く こと に 出 会 う か も し れ な いと いう こと ﹂← ⑥ ﹁道 を 歩 く 時 も 、 自 分 の 目 に 飛 び 込 ん で く る花 や 草 や 、 川 の流 れ や
山 々 の姿 や、 空 の色 、 雲 の浮 か び 方 に も 気 を つけ て見 る と いう こ と ﹂←⑦ ﹁新 聞 を 読 ん で いても 、 本 や雑 誌 を 読 ん で いて も 、 書 き た い こと 、 書 い て み た い こと に 出 会 う と いう こ と ﹂
︵6︶ ① ﹁書 く と いう こ と ﹂← ② ﹁ 書 く の は容 易 な こと で は な いと いう こ と ﹂← ③ ﹁し か し 、 書 く と いう こ と は 、 必
ず 書 け ると いう こと ﹂← ④ ﹁書 け な いは ず は な い こと ﹂← ⑤ ﹁書 け ば 、 書 いて み れ ば 、 書 いて いけ ば 、 書 く こと が わ
か って く る と いう こと ﹂← ⑥ ﹁書 く こ と が 苦 にな ら な いと いう こと ﹂← ⑦ ﹁書 く こ と が お も し ろく 思 わ れ るよ う に な
る と いう こと ﹂← ⑧ ﹁書 く こ と は 、 書 く こ と に よ って多 く のこ と が わ か ってく る と いう こ と ﹂←⑨ ﹁書 く こと は 、 書 き 手 を し っか り と 支 え てく れ る と いう こ と ﹂
︵7︶ ① ﹁書 く と いう こと ﹂←② ﹁書 い て 、 先 生 か ら ほ め ら れ た う れ し さ ﹂←③ ﹁先 生 に 認 め ら れ た う れ し さ ﹂←④
﹁友 だ ち か ら ほ め ら れ た う れ し さ ﹂← ⑤ ﹁こう し た ら 、 も っと よ く な る と 言 わ れ て 、 そ の よ う に な お す こ と が で き
た う れ し さ ﹂← ⑥ ﹁書 き 上 げ た 自 分 の 文 章 を 大 切 に し て いく う れ し さ ﹂← ⑦ ﹁書 く こと に自 分 の 力 を 注 ぐ う れ し さ ﹂
←⑧ ﹁ 書 く こと で 、 多 く の う れ し さ に 包 ま れ る 、 そ のう れ し さ ﹂← ⑨ ﹁書 く と いう こと は 、 " う れ し さ " の泉 の よう だ と 思 わ ず に は い ら れ な いう れ し さ ﹂
︵8︶ ① ﹁書 く と いう こ と ﹂← ② ﹁書 いた 文 ・文 章 を 大事 にし て 、 " 文 集 " が 生 ま れ る よう に 心 が け る と いう こ と ﹂
← ③ ﹁個 人 文 集 を 作 る よ う 努 め ると いう こ と ﹂← ④ ﹁学 級 で も 、 学 級 文 集 を 作 る よ う に 努 め る と いう こと ﹂← ⑤ ﹁個
人 文 集 .学 級 文 集 を 読 み 返 し て 、 でき る 限 り 多 く の こ と を 読 み 取 り 読 み味 わ って いく よ う にす る と いう こと ﹂←
⑥ ﹁生 活 記 録 と し て の日 記 を つづ け て いく と いう こ と ﹂← ⑦ ﹁課 題 に つ い てま と め た レ ポ ー ト を 大 事 に し て いく と いう こ と ﹂← ⑧ ﹁"新 聞 " の編 集 を し て 、 そ の記 事 を 書 く よう に す る と いう こと ﹂
︵9︶ ① ﹁書 く と いう こ と ﹂←② ﹁童 話 や 詩 を 作 る と いう こと ﹂← ③ ﹁物 語 ︵小 説 ︶ を 生 み 出 し て いく と いう こ と ﹂
← ④ ﹁メ モを 書 き つづ け 、 生 か し て いく 工 夫 を す る と いう こ と ﹂← ⑤ ﹁日 記 を 書 き つづ け 、 自 分 の 一日 一日 の生 活
を 大 事 に し て いく と いう こ と ﹂← ⑥ ﹁教 室 で、 与 え ら れ た 題 目 で書 いた り 、 各 自 選 んだ 題 目 、 材 料 で 、 文 章 を 書 い
た り し て いく と いう こ と ﹂← ⑦ ﹁書 き た め た 文 章 を 一冊 の文 集 に仕 上げ て いく よ う にす る と いう こと ﹂
以 上 ︵1︶∼ ︵9 ︶ ま で 、 ﹁書 く と いう こ と ﹂ に つ い て 、 思 いめ ぐ ら し て み た が 、 そ の実 質 を 把 握 す る こ と は容 易 で は な い。 脚 下 照 顧 も や さ し いこ と で は な い。
二 ﹁書 く と い う こ と ﹂ の 概 念 把 握 ・要 語 化
﹁ 書 く と いう こ と ﹂ ︵﹁ 書 く こと の指 導 ﹂︶ に関 す る 重 要 用語 と し て 、 ﹃国語 科 重 要 用 語30の0 基 礎知識﹄ ︵ 大 槻和
夫 編 、 二 〇 〇 一年 五 月 、 明 治 図 書 刊 ︶ に は 、 左 のよ う に 二 八 語 が 取 り 上 げ ら れ 、 解 説 が な さ れ て いる 。
こ れ ら 二 八 語 の 一つひ と つに つ い て、 周 到 的 確 に 理 解 し て いく こと 、 そ の基 礎 知 識 を 生 か し て、 授 業 実 践 者 独 自 の書 く こ と の教 育 が 構 築 さ れ 、 独 自 の成 果 を 挙 げ て いく こ と が 望 ま れ る 。 前 掲 二 八 語 は 、 左 のよ う に類 別 す る こ と も でき る か と 思 わ れ る 。
︵1︶17課 8題 作 文 /17 随9意 選 題 ︵ 自 由 作 文 ︶/18 生2活 綴 方 /19 口1頭 作 文 /19 短2作 文 /20 レ1ポ ー ト /20 創2作 /204
文 集 /20 新5 聞
︵2︶18取 3材 /18 構4 想 /18 記5 述 /18 推6考 ︵ 推 敲 ︶/18 批7 正 /18 自8 己 評 価 /18 作9 文 の処 理
︵3︶19文 0種 /19 生3 活 文 /19 日4 記 ︵ 文 ︶/19 手5 紙 /19 感6 想 文 /19 意7 見 文 /19 説8 明文 ︵4︶18コ 0ン ポ ジ シ ョン 理論 /18 プ1ロセ ス ・ア プ ロー チ
な お 、 ﹁書 く こ と の指 導 ﹂・﹁読 む こと の指 導 ﹂ を 対 比 し て み れ ば 、 ﹁読 む こ と の指 導 ﹂ に つ いて は 、 五七 語 が 取
︵ 書く
り 上 げ ら れ て いる 。 ﹁書 く こ と の指 導 ﹂ に 比 べ れ ば 、 お よ そ 倍 加 し て いる 。 左 の よう に 取 り 上 げ ら れ て いる 。
読 む こ と .書 く こ と は 、 共 に 深 く 係 わ り 合 う が 、 用 語 の面 か ら 読 む こと の指 導 と 対 比 し て み る と 、 両 者
と いう こと 、 読 む と いう こと の指 導 ︶ のち が いに つ い ても 、 当 然 の こ と な が ら考 え さ せ ら れ る 。
つ い で、 ﹁言 語 事 項 の指 導 ﹂ で 取 り 上 げ ら れ て いる 用 語 を み る と 、左 のよ う に 五 六 語 を 数 え る。
こ れ ら の 用 語 群 の書 く こと の指 導 と の係 わ り に つ い て は、 一様 で はな いが 、 書 く こと の 指導 に当 た って、 心 に 留 め てお く べ き 用 語 は 、 数 多 く 見 い出 さ れ る 。
な お 、 ﹃国 語 科 重 要 用 語30の0基 礎 知 識 ﹄ に は 、 前 掲 領 域 のな か で 、 73 作 文 教 育 /10 個0人 差 に 応 ず る 指 導 /208
話 の組 み 立 て/27 読8み 書 き 能 力 /28 表0現力 /28 作6 文 力 /29 生6活 綴 方 と作 文 教 育 論 争 な ど が 取 り 上 げ ら れ て いる 。
三 教 室 に おけ る ﹁書 く と いう こと﹂ の 展開
︵I ∼Ⅳ ︶ か ら 編 成 さ れ て い る 。
大 村 は ま 先 生 の ﹃や さ し い文 章 教 室 ﹄ ︵一九 六 八 ︿昭 和 四 三 ﹀ 年 九 月 十 日 、 共 文 社 刊 ) は 、 中 学 生 を 対 象 に し て 、 左 の よう に 四 つ の章
Ⅰ こ ん な と こ ろ か ら ふ み だ そう
︵1︶ え ん ぴ つさ ん こ ん にち は / ︵2︶ こ のポ ス タ ー に 引 か れ る / ︵3︶ 身 の ま わ り の こ と を 書 く
︵4︶ 思 い出 し て書 く 想 像 し て 書 く / ︵5︶ いろ い ろ な こと を 書 こ う / ︵6︶ さ て こ の紙 は ?
︵7︶ ど う 書 き 出 す か / ︵8 ︶ 三 十 五 人 の三 十 五 の書 き 出 し / ︵9︶ 気 持 ち が 通 じ な い/ ︵10︶ 四 枚 のカ ー ド
Ⅱ 豊 か な こ と ば 正 し い表 現
︵11︶ "正 確 に 書 く " と は / (12︶ こ と ば を さ が す / ︵13︶ ぴ った り し た 表 現 / ︵14︶ こ の こと ば のほ う が
︵15︶ 同 じ こと ば が 何 回 も / (16︶ "麦 秋 " と "小春 び より "/ ︵17︶ な んと も いえ な い/ ︵18︶ お お ま か な こ とば
︵19︶ 動 詞 を 使 いこ な す / ︵2 0︶ 数 字 の魅 力 / ︵21 ︶ こ と ば を そ ろ え る / ︵22 ︶ 作 文 学 習 日記 / ︵23︶ 作 文 遊 び / ︵2 4︶ 意 識 し て目 を と め る / ︵25︶ 心 のな か を 字 で書 く
Ⅲ こ ん な と こ ろ を く ふ う し よう
︵26︶ め あ て を 決 め て / ︵2 7︶ 読 書 の感 想 を 書 く こと と 紹 介 を 書 く こ と と / ︵28 ︶ 心 に ひ び か な い文 章
︵29︶ 明 る い笑 い/ ︵30 ︶ 静 か な 驚 き / ︵31︶ も う 一歩 つ っこ ん で / ︵32 ︶ ど こ か も の 足 り な い/ ︵33 ︶ 真 実 が書 き 表 せ る と いう こ と
(34 ) き め の こ ま か い表 現 に / ︵35︶ 浮 き あ が った 文 章 と は / (36) よ り 正 確 に / ︵37 ︶ ほ ん と う に書 き た か った こと は ︵38︶ と る ・削 る ・省 く / ︵39︶ こ ん な と こ ろ で つかえ た ら
Ⅳ よ り 確 か に より 豊 か に
︵40 ︶ い ろ いろ の 日 記 / ︵41 ︶ 文 章 の書 き く ら べ / ︵42︶ 作 文 ク イ ズ / ︵43︶ 書 き つぎ / ︵44︶ そ う と れ ま す か / ︵45︶ 調 べ て 書 く
︵46︶ こ ん な と こ ろ に 目 を つけ て / ︵47︶ 段 落 を 切 って書 く / ︵48︶ 思 い がけ な い内 容 ︵49︶ 組 み 立 てと 表 現 / ︵50) 労 作 を
大 村 は ま 先 生 は 、前 掲 ︵1 ︶ か ら ︵50︶ ま で 、 文 章 を 書 き 表 し て いく の に 、 ど う す れ ば い いの か に つ い て、 中 学 生 に向 か って、 や さ し く 生 き 生 き と 語 り か け て お ら れ る 。
前 掲 ︵1︶ か ら ︵50︶ のう ち 、 ﹁︵40 ︶ い ろ いろ の 日記 ﹂ の項 を み る と 、 大 村 は ま 先 生 は 、 大 み そ か 、 来 年 こそ
は 、 日 記 を つけ よ う と ひ そ か に 心 に 決 め て いる 中 学 生 に向 か って 、﹁日 記 ﹂と は 言 っても 、﹁生 活 日 記 ﹂ では な く 、
︵一日 に 一語 ず つ、 自 分 に と っ て 新 し い こ と ば を 覚 え て い く ん で す 。 / 一日 に 一語
作 文 の勉 強 のた め に 、 毎 日 少 しず つ書 い て いく 工 夫 の 一つと し て 、 "日 記 " を 勧 め て お ら れ る 。 七 種 類 も の ﹁日
一日 一語 日 記
記 ﹂ が紹 介 さ れ て い る。
そ の 一
一日 一題 題 材 日 記
︵こ れ は 、 つ ま り 、 作 文 の 題 材 集 め で す 。 / 新 聞 を 見 た り 、 テ レ ビ を 見 た り
は 、 新 し い こ と ば を 覚 え ま し ょ う 。︶ そ の 二
︵ 新 聞 の投 書 ら ん を 見 な さ い。自 分 にも 考 え ら れ る よ う な 問 題 が あ り ま し た
す る で し ょ う ⋮ ⋮ と に か く 取 材 し て お く こ と で す 。︶ そ の 三 百 字 の 意 見 三 六 五 日
﹁べ ん と
﹁き ゆ
﹁お ぞ う に ﹂ と いう 題 で 、 書 き ま し た
﹁五 目 並 べ ﹂、 六 日 目 は
﹁日 記 ﹂ に 、 三 日 に は 、 ﹁き ﹂ で す か ら 、 た と え ば
︵こ れ も 短 い 文 章 を 書 く の で す 。 も し 元 日 に
ら 、 と り あ げ て 、 百 字 く ら い の 考 え を 書 く の で す 。︶ そ の 四 し り と り 日 記
ら 、 二 日 に は 、 ﹁お ぞ う に ﹂ の ﹁に ﹂ を と っ て
う り ﹂ と い う 題 で 、 四 日 目 は 、 ﹁り ん ﹂、 ﹁り ん ご ﹂ と い う 題 、 五 日 目 は
︵こ れ は 、 少 し 、 む し の い い 日 記 で す よ 。 だ れ で も い い で す か ら 、 だ れ か に 、 何 か
う ﹂ と い う ぐ あ い で す 。︶ そ の 五 話 し かけ 日 記
話 し か け る の で す 。 そ し て 、 そ の人 の話 し てく れ た こと を 書 く の で す 。 よ く 聞 い て い て、 な る べく 、 そ
︵こ れ は 、 た と え ば 、 ﹁日 々 の 研 究 事 典 ﹂ の よ う な 本 が あ り ま せ ん と 、 少
の 人 の 言 った と お り の こ と ば で 書 く の で す 。 ﹁ ﹂ を つ け て 書 く の で す 。︶ そ の六 き ょうは何 の日 、日記
し や り に く い の で す が 、 一日 一日 歴 史 的 に 考 え て 、 ど う いう 日 か 、 ど う いう 事 の あ った 日 か 、 ど う いう
人 が 生 ま れ た 日 か、 ま た 、 な く な った 日 か 、 と いう よう な こ と を 説 明 す る 、 百 字 く ら い の文 章 を 書 く の で す 。︶
そ の 七 写 生 日 記 ︵一枚 ず つ写 真 を と る つも り で 、 生 活 の 一場 面 を 書 く の です 。特 別 な 場 面 でな く て い い の で す 。 平 凡 な 一場 面 で い いの で す 。︶
大 村 は ま 先 生 は 、 こ のよ う に 七 種 類 も の日 記 を 挙 げ て、 や さ し く 丁寧 に語 り か け ら れ 、左 のよ う に ま と め の こ と ばを述 べておら れる。
さ て 、 七 種 類 の日 記 を あ げ て み ま し た 。 こ れを 、 ど の種 類 か 、 書 い て み る のも い い でし ょう し 、 いく 種 類
か 、 組 み 合 わ せ てみ る のも い い です ね 。 / ど れも お も し ろ そ う だ と 思 う 人 は 、 日曜 は ど れ 、 月 曜 は ど れ と い
う ふ う に 、 一週 間 に わ り ふ っ て も い い の で は あ り ま せ ん か 。 / 大 み そ か 、 来 年 は 、 日 記 を つ け る よ う に し た
い と 考 え て い る 皆 さ ん 、 こ う いう 日 記 を 書 い て み ま し ょ う 。 書 く 力 も 伸 び 、 い つ の ま に か 、 心 も 豊 か に な っ て いく で し ょ う 。
︵ 同 上 書 、 一七 四 ∼ 一七 七
︵ 文 章 ︶ の学 習 指 導 を す る教 室 にお け る 営 みが や さ し く 述 べら れ て いる 。 工夫 が 様 々 に な さ れ 、 生 徒
正 し い こ と ば 、 豊 か な 表 現 の 力 を 、 一日 一日 の 小 さ な 文 章 か ら も 養 いま し ょ う 頁 ︶。
書 く こと
た ち の意 欲 を 高 め る方 途 が 具 体 的 に示 さ れ て いる 。
﹁日 記 ﹂ と 言 え ば 、 白 石 寿 文 氏 ︵佐 賀 大 学 名 誉 教 授 ︶が 五 七 五 日 記 を 自 ら 試 行 し て 、 "五 七 五 日 記 ﹃ 匂 玉 ﹄"を ま
と め ら れ た 。 こ れ は 白 石 寿 文 氏 が 股 関 節 手 術 ︵人 工 股 関節 置 換 手 術 ︿二〇 〇 四 年 十 二 月 一日 入院 、 六 日手 術 、 二 十 四 日退 院 ﹀) を さ れ た 時 の ﹁日 記 ﹂ ︵記 録 ︶ であ る 。
入 院 さ れ てか ら の三 日 間 ︵十 二月 一日 ︿水 ﹀ ∼ 三 日 ︿ 金 ﹀︶ の日 記 は 、 左 の よう に 記 さ れ て い る 。
︵ 水 ︶ 11 時 諸 検 査 ・12 時 入 院
入 院と 呼 応す る のか 気力 萎 ︵ な ︶え 覚 悟し て 入院 し たれど 萎 ︵ しお ︶れ花
いざ往 かむ わ が 股関節 に 活力 を
04 年 12 月 1 日
1
2 3
朝 6時 夜 は 9時前 整然と 時 間守 れ スローガ ン だけ の 教 育界
4 5
大 阪 の 小 田 ︵ 注 、白 石氏 の級友 ︶も 教授 を 頼 れとぞ 沈 着な 釘 崎創 ︵はじ め︶さ ん わ が主治 医
執 刀 は 仏 渕 ︵ ほと け ぶち︶ 孝夫 教授 直 々に
釘 崎医 手 術 の詳細 教 えた り
6
8
7
9
11 人 工 の ニ ュー セ ラ ミ ック ス 強 固 な り
10 輪 切り たる ゆ で卵 の笠 股 関節 12 古 賀さ ん の ご挨 拶 あり 丁重 に 13 看護 師 の 古賀 志穂 里さ ん 要所 絞 め
7時半 仏 渕教 授 ご 回診
︵ 木︶
1
この方 は 真 の医者 だ と 受 け 止め り
午 後も また 病 室訪 問 感 動す
04 年 12 月 2 日 2
まず 患 者 そ れか ら朝 の ミ ー テ ィング 我 々は 始 め て いるか 子ど も から
3 4 5
先輩 の 話 に学 ぶ 術後 像 体 験が 語 られ る に つれ 脚 色化
6 食 事 ど き 8 ・0 ・6 に 狂 い な し
岩永 の 気 軽な 見舞 い 嬉 しけ り
7 8
(い か が ) と 、 問 わ れ ど も
9
10 岩 永 に 心 境 如 何 11 ﹁ 我 思 う 故 に 我 あ り ﹂ カ ン ト 流
12 これ から の 日記 で いかに 戯作 せ ん 04年 12月 3日 ( 金) 1 教 授 から 月曜 に手 術 楽 しみ に 2 麻酔 医 が 事前 に注 意 細 やか に 3 麻酔 医 の 注意 細や か 増す 不安 4 筋 力と 歩 行 の 二つ まず 目指す 5 釘崎 医 少 々気 にす る 不 整脈 6 壁 伝う 女 患者 は 泣き 声 に 7 附 属小 揃 って励ま す 手術 前 8 絵葉 書 に 切手 ま で添え 権 藤さ ん
( 上 掲 書 、 一∼ 二 頁 )
白 石 寿 文 氏 は 、 こ の よ う に 五 七 五 に詠 む手 法 を 用 い て、 二 〇 〇 四年 十 二 月 一日 に 入 院 し 、 二十 四 日 退 院 す る ま
で の 二 十 四 日 間 に 、計 四百 十 三も 詠 み 重 ね 、 "五 七 五 日 記 ﹃匂 玉 ﹄" を 完 成 さ れ た 。 こ の独 自 の ﹁日 記 ﹂ に つ い
命 の重 み 見 つめ得 ぬ
﹁ 患 者﹂ と 自 らを 呼ぶ 資格 な し
厳 しく
全体 に 明 るく 甘 い 表 現 に 溺 れて る 事 実 否め な い この 冊子
て は 、 ご 本 人 の自 己 評 価 を こ め て 、 巻 末 に左 の よう に 詠 ま れ て い る。
1
2
暇人 ︵ ひまび と ︶ の 時 と心 の 余裕 も て 五七 五に 名を 借 りし 虚 の世 界 手 術後 は よ ほど の こと が な い限 り
3
4
一定 の 経 過辿 れば 復 帰す る 身 障者 と は いえ恵 ま れし 者 の幸 噛 み しめ た 記録 ・報告 資料 です
5
こ こ に は 、 白 石 寿 文 氏 自 身 のき び し い自 己 へ の ﹁評 価 ﹂ が う か が わ れ る 。
こ の" 五 七 五 日 記 ﹃ 匂 玉 ﹄" に は 、 国 語 科 教 育 研 究 、 国 語 科 実 践 研 究 に お いて 、 た え ず 新 し い開 拓 、 創 成 を め
ざ し て 来 ら れ た 、 白 石 寿 文 氏 の面 目 躍 如 た るも のが う か が わ れ 、 深 い感 銘 と 示 唆 を 受 け る。
四 ﹁ 書 く こと の教 育 ﹂ の 実 践 上 の 課題
大 村 は ま 先 生 は 、 ﹁書 く こ と の 教 育 ﹂ ︵ 作 文 教 育 ︶ に 携 わ る 者 と し て 、 ﹁ど こ に 目 を つけ て、 何 を 探 し 出 し 、 そ
れ を ど ん な 実 践 と し て つけ 加 え て い った ら よ いか 。 こ れ が 作 文 教 育 に携 わ る 者 の 、 ど う し て も 考 え な け れ ば な ら
な い研 究 課 題 であ る ﹂ ︵﹃新 作 文 指 導 事 典 ﹄ ︿井 上 敏 夫 ・倉 澤 栄 吉 ・滑 川 道 夫 共 編 、 昭 和 五 七 年 十 一月 二 十 五 日 、
そ のた め に は 、 ﹁も っと身 近 な 生 活 の な か で こ ま め に書 く 人
第 一法 規 出 版 、 五 〇 六 頁 ﹀︶ と さ れ 、 以 下 のよ う に 六 つの 課 題 を 提 示 さ れ て いる 。
︵一︶ ﹁ 作 文 は嫌 い﹂ の声 を 聞 か な いた め に︱
﹁書 く こと が あ る よう にし て 、 書 く こ と を 教 え 、 書 く こ
を 目 指 す べき で は な いか ﹂、﹁﹃ 作 文 は 嫌 い﹄ の声 に 立 ち 向 かう に は 、ま だ ま だ 課 題 が 多 い﹂ ︵ 同上 ﹃ 事 典﹄、 五〇 六 ∼ 五 〇 七 頁 ︶。 ︵二︶ ﹁書 く こと が な い﹂ の声 を 聞 か な い た め に︱
と を 学 ば せ た ら ど う であ ろ う か﹂、 ﹁身 を も って取 材 し て み せ る 重 さ 、 書 く 時 間 に、 書 く こと が な いた め
﹁い つ、 ど の よ う な と き に 、 ど の 注 意 事 項 を 選 び 出 し て 示 す か 、
に 無 為 に 過 ご す 子 ど も を な く す 確 か さ を 求 め る実 践 的 課 題 であ る﹂ ︵ 同 上 ﹃事 典 ﹄、 五 〇 七 頁 )。 ︵三︶ 技 術 は 個 々 に 、 そ のと き ど き に︱
ま た 、 あ れ も こ れも と 心 に 浮 か ん で く る こと を 抑 え て 、 子 ど も の今 日 の能 力 が受 け 入 れ ら れ る 、 ど れだ
け を 取 る か 、 こ れ が 現 場 の教 師 の 課 題 であ る ﹂、 ﹁書 け る た め に 必 要 な 、 た く さ ん の指 導 す べき こ と 、 注
意 す べき こ と を 整 理 し て お き 、 子 ども の書 いた も の 、 書 く 様 子 か ら 、 補 う た め 、 伸 ば す た め に 必 要 な こ
と を 取 り 出 し て 指 導 す る わ け であ る が 、 そ の書 いて い るも の、 書 き ぶ り 、 書 い て いる様 子 の 、 ど う いう
こと が 、 ど の力 の指 導 の 必 要 を 示 し て いる か 、 ま こ と に、 実 践 的 と いう よ り も 、 実 践 そ のも の の課 題 で
あ る 。 こ れ は 、 子 ど も を 好 き と か 嫌 いと か 言 わ せ な い、 そ の代 わ り 、 上 手 と 下 手 で分 け ら れ な い本 当 の 学 習 の世 界 に 連 れ て いく た め の課 題 で あ る ﹂ ( 同上 ﹃ 事 典 ﹄、 五 〇 八 頁 )。
子 ど も た ち が 作 品 を 書 いて い る教 室 で、 ひ と り ひと り の書 き 出 し 文 を 見 、 必 要 な 子 ども に は 、 そ の場 で
書 いて与 え る と いう よう な 書 く 力 を も た な け れ ば な ら な い。 そ の場 そ の場 に 応 じ て 、 口 で指 示 や 注 意 す
る の で な く 、 実 際 に書 い て指 導 す る 、 そ のよ う な書 く 力 を つけ る こ と は 、 ど の教 え 方 を 覚 え る よ り も 優
先 さ せ な け れ ば な ら な いと 思 う が 、 実 際 に 、 ど う 取 り 組 んだ ら よ いか 、 大 き な 課 題 で あ る ﹂ (同 上 ﹃事 典 ﹄、 五 〇九 頁 )。
こ れ ら 六 つ の実 践 上 の課 題 は 、 大 村 は ま 先 生 が 戦 前 ・戦 後 を 通 じ て、 自 ら 会 得 ・体 得 さ れ て 実 践 さ れ 、 所 期 の
成 果 を 挙 げ ら れ た も の ば か り であ って 、 そ れ だ け 迫 力 を 持 った 説 述 (← 助 言 ) と な って い る (こ の節 は 、 小 稿
﹁表 現 教 育 の 現 状 と 課 題 ﹂ ︿昭和 六 〇年 八 月 六 日 稿 、 ﹃ 表 現 教 育 の理 論 と 実 践 の課 題 ﹄ ︿ 全 国大 学国語 教育学会 議、 一九 八 六 年 二 月 、 明 治 図 書 刊 ﹀ 所 収 に拠 っ て い る )。
五 ﹁ 書 く こと の教 育 ﹂ の 進 展 ( ←深 化 ) のた め に
な ん の た め に︱① い つ︱② な に を︱ ③ ど の よう に 書 か せ る か は 、 書 か せ た も のを 、 ど のよ う にと ら え 、 ど のよ
う に、 ま と め 、 か つ発 展 さ せ る か に よ って、 一層 生 か さ れ る 。 指 導 者 と し て 、 文 章 洞 察 力 ・文 章 解 析 力 が求 め ら れ る の は 、 こう し た 段 階 に お い て であ る 。
学 習 者 の書 き 表 し た も のを 、 ど の よう にと らえ 、 ま と め 、 生 か し て いく か 。 書 く こ と の教 育 のむ ず か し さ ・労
苦 は 、 こ こ にあ る と も いえ る 。 し か し 、 こ の むず か し さ ・労 苦 を 克 服 し 乗 り 超 え る こ と に よ って 、 初 め て書 く こ
と の教 育 の真 の効 率 化 が 期 待 さ れ る 。
学 習 者 の 発 達 段 階 に 即 す る 文 章 表 現 力 の実 質 ・実 態 を と ら え 、 そ こ か ら 指 導 す べ き 問 題点 ・事 項 を 見 い出 し 、
さ ら に そ れ ら を 書 く こと の 教 育 計 画 に盛 り 込 ん で いく よう に す る。 こ う し た実 地 に即 し た 臨 床 的 修 練 が 求 め ら れ る。
六 ﹁ 書 く と いう こと ﹂ から 生 ま れ た 最 期 の花
"詩 " で あ っ た 。
大村
はま
大 村 は ま 先 生 は 、 平 成 十 七 (二〇 〇 五 ) 年 四 月 十 七 日 に 九 八 歳 で遠 く へ旅 立 た れ た 。 大 村 は ま 先 生 が 最 期 にお 書 き に な った の は 、 左 に 掲 げ る
優劣 のかなた に
優か劣か そ ん な こと が 話 題 に な る 、 そ ん な す き ま のな い つき つめ た 姿 。 持 てる も の を 持 た せ ら れ た も のを
出 し切り 生 か し 切 って いる 、 そ ん な 姿 こ そ。
優 か劣か、 自 分 は いわ ゆ る でき る子 な のか でき な い子 な の か 、 そ ん な こと を 教師 も子どもも しば し忘れ て、 学び ひたり 教 え ひ た って いる 、 そ んな世界を 見 つめ てき た 。
学び ひたり 教え ひたる、 そ れ は 優 劣 の か な た 。
ほ んと う に
持 って い るも の
授 か って い るも のを 出 し切 って、 打 ち 込 ん で学 ぶ。 優劣を論 じあ い 気 に し あ う 世 界 で は な い、 優劣を忘 れ て ひ た す ら な 心 で ひ た す ら に励 む 。
今 は でき る でき な いを 気 にしすぎ て、 持 って い るも のが 出 し 切 れ て いな い の で は な い か 。 授 か って いる も のが 生 か し 切 れ て いな いの で は な いか 。
成 績 を つけ な け れ ば 、 合格者 をきめな ければ、 そ れ は そ う だ と し ても 、
そ れだ け の世 界 。 教師も 子どもも 優 劣 のな か で あ え いで い る。
学 びひたり 教 え ひ た ろう 優 劣 のか な た で 。
こ の ﹁優 劣 のか な た に ﹂ は 、 宮 澤 賢 治 の ﹁雨 ニ モ負 ケズ ﹂ と 共 に、 ﹁書 く と いう こと ﹂ か ら 生 ま れ た 名 花 のよ う に思わ れる。
(一九 九 八 ) に 学 習 指 導 要 領 の改 訂 が お こ な わ れ 、 国 語 科 教 育 の枠 組 み は 、 ﹁A表 現 ﹂、 ﹁B 理解 ﹂、
第 二章 書 く こ と の歴 史 的 展 望
は じ め に
平 成 一○ 年
︹ 言 語事 項 ︺ の 二領 域 一事 項 か ら ﹁A話 す こと ・聞 く こ と ﹂、 ﹁B書 く こと ﹂、 ﹁C 読 む こ と ﹂、 ︹言 語 事 項 ︺ の三 領
域 一事 項 へと 改 め ら れ た 。 と く に 今 次 の改 訂 にあ っては 、内 容 の取 扱 い にか か わ って 、言 語 活 動 例 が 明 示 さ れ る
こ と と な った 。 た と え ば 、 小 学 校 にあ って は 、 ﹁書 く こと ﹂ に か か わ って は 、 以 下 の よ う に示 さ れ て いる 。
︹第 一学 年 及 び 第 二 学 年 ︺
絵 に 言 葉 を 入 れ る こと 、 伝 え た い事 を 簡 単 な 手 紙 な ど に書 く こと 、 先 生 や 身 近 な 人 な ど に 尋 ね た 事 を ま と め る こと 、 観 察 し た 事 を 文 な ど に表 す こ と な ど ︹ 第 三 学 年 及 び 第 四学 年 ︺
手 紙 を 書 く こ と 、 自 分 の疑 問 に 思 った 事 な ど に つ い て調 べ てま と め る こと 、 経 験 し た 事 を 記 録 文 や学 級 新 聞 な ど に 表 す こと な ど ︹ 第 五学年及 び第六学年 ︺
(尺牘 ) と い った 日用 文
礼 状 や 依 頼 文 な ど の手 紙 を 書 く こ と 、 自 分 の課 題 に つ い て 調 べ てま と ま った 文 章 に表 す こと 、 経 験 し た 事 を ま と ま った 記 録 や報 告 にす る こ と な ど
あ ら た め て指 摘 す るま で も な く 、 こ こ で は ﹁手 紙 ・礼 状 ・依 頼 文 ﹂ な ど の書 簡 ・書牘
な いし 実 用 文 や 、 ﹁観 察 ・記 録 ・新 聞 ・報 告 ﹂ な ど の説 明 的 な 文 章 に 習 熟 し 、 そ の技 能 を 身 に つけ て いく こと が
実 (一八 八 九
(一九 〇 〇 ) の ﹁国 語 科 ﹂ 成 立 以 後 の近 代 国 語 科 教
(一八七 二) の ﹁学 制 ﹂ 発 布 以 後 、 法 令 上 のあ ま た の改 訂 を 経 て 、 今
﹁書 く こ と ﹂ の 主 軸 に な って い て 、 いわ ゆ る ﹁生 活 文 ﹂ と 称 さ れ る よ う な ﹁生 活 を 綴 る こ と ﹂ は そ の背 景 に押 し や ら れ て いる よ う な 状 況 であ る 。 明 治 五年
日 に 至 って いる わ け で あ る が 、 本 稿 にお い ては 、 明 治 三 三年
育 の進 展 の な か で、﹁書 く こと ・綴 る こと ﹂の 意 義 がど のよ う に把 握 さ れ て い った のか 、ま ず は 西 尾 ∼ 一九 七 九 ) の言 説 を お さ え る と こ ろ か ら 始 め て み た い。
一 ﹁作 文 ・綴 方 ﹂ と ﹁書 く こ と ・綴 る こ と ﹂
明 治 三 三年 の ﹁小 学 校 令 改 正 ﹂ にお い て ﹁国 語 ﹂ 科 が 成 立 し 、 そ れ ま で ﹁作 文 ﹂ と 呼 ば れ て いた 領 域 は ﹁綴 り
方 ﹂ と 定 め ら れ 、 小 学 校 にあ っては 、 昭 和 戦 後 の学 習 指 導 要 領 の導 入 ま で 一貫 し て ﹁つづ り かた ﹂ は 国 語 の教 科
目 であ り 、 ﹁読 み 方 ﹂、 ﹁書 き 方 ﹂ ( 、後 に ﹁ 話 し 方 ﹂)と と も に通 常 は 教 授 時 間 を 別 に し てそ の 指導 が な さ れ て いた 。
そ こ で は 、 ﹁正 確 に 思 想 を 表 彰 す る ﹂ 能 力 を 養 い、 ﹁兼 て智 徳 を 啓 発 す る ﹂ こ と が そ の主 要 な 目 標 であ った 。
か つ て西 尾 実 は 、 そ う し た作 文 ・綴 方 の 歴 史 を か え り み て、 ﹃ 書 く こと の教 育 ﹄ (一九 五 二 、 習 文 社 ) と いう
著 書 のな か で 、﹁作 文 ﹂と いう こと ば は 、 ﹁近 代 に お け る 国 語 教 育 で は 、 一般 に 、国 語 で 文章 を 作 る こと を 意 味 し 、
明 治 年 間 に は 、 講 読 と 並 ん で用 いら れ て いた 。 綴 方 と いう こと ば は 、 ス ペリ ン グ の訳 語 と し てと り あ げ ら れた も
の ら し く 、 最 初 は 、 か な で こ と ば を表 記 す る こ と であ った が 、 大 正 初 年 か ら 戦 時 に か け て の 国 語 教 育 に お い て は
か な と 漢 字 で文 章 を 綴 る こ と を 意 味 し 、 読 方 と 並 ん で 用 いら れ る よ う に な って いた ﹂ と し て 、 以 下 の よ う に、 そ の ﹁問 題 史 的 展 望 ﹂ を お こ な って いる 。
そ の後 、 国 語 教 育 が 、 そ の領 域 を 拡 張 し て 、 話 し 聞 く 談 話 と 書 き 読 む 文 章 と に わ た る 関 連 学 習 が 意 図 せ ら
れ る に 及 ん で、 こ れ ま で の作 文 ・綴 方 は 、 書 く こと の教 育 と な り 、 文 字 を 書 き 、 さ ら に 、 そ の文 字 に よ って
文 章 を 作 る こと を 、 話 す こ と ・聞 く こ と ・読 む こと と 関 連 し て 学 習 さ せ る 方 向 を と り 、 そ の方 法 を 立 て る こ と に な って き た 。
そ のよ う に 考 え て く る と 、 国 語 教 育 に お け る 文 章 を 作 る こと の学 習 は 、 そ れ が 作 文 と よ ば れ た時 期 と 、 綴
方 と よ ば れ た 時 期 と 、 書 く こ と と よ ば れ よ う と し て いる 時 期 の 三 つ にな る と い って よ い歴 史 であ る が 、 (中
略 、 引 用 者 ) ﹁作 文 ﹂ に は 、 成 人 社 会 の実 用 に 立 脚 し た 型 や 技 術 の 習 得 であ る と こ ろ に 特 質 が あ り 、 ﹁綴 方 ﹂
に は 、 近 代 文 学 の自 我 解 放 に導 か れ た 自 己 表 現 の自 得 で あ る と こ ろ に特 質 が あ った の に対 し て、 いま の ﹁ 書
く こ と ﹂ は 、単 な る実 用 的 準 備 でも な い、 ま た 、 単 な る自 己 表 現 でも な い、 社 会 的 存 在 と し て の自 覚 に立 っ
た 通 じ あ いの 一手 段 と し て の 、 は っき り し た 文 章 を 書 く 能 力 を 体 得 す る こ と であ る と こ ろ に 特 質 が あ る (中
略 、 引 用 者 ) そ う す る と 、 いま の書 く こ と の教 育 は 、 か つ て の作 文 が 目 ざ し て いた も の の革 新 と し て の社 会
生 活 文 と 、 綴 方 が 目 ざ し て いたも の の継 承 ・発 展 と し て の自 己 表 現 文 と 、 新 た にと り あ げ ら れ て来 た 、 文 化
遺 産 の 継 承 と し て の文 化 学 習 文 と の 三 つ の面 を 持 つも の で あ る こ と が注 目 せ ら れ な く て は な ら ぬ (﹃西 尾 実 国 語 教 育 全 集 ﹄ 第 三 巻 、 教 育 出 版 、 二 四 五 ∼ 二 四 七 頁 )。
西 尾 実 は 、 学 制 発 布 以 後 の近 代 国 語 教 育 の歩 み は 、 ﹁言 語 生 活 指 導 ﹂ を 発 見 す る た め の歴 史 的 過 程 で あ った と
す る 立 場 か ら 、 明 治 初 年 か ら 明 治 末 年 ま で の 第 一期 を ﹁語 学 教 育 的 教 授 法 期 ﹂、 大 正 初 年 か ら 昭 和 一〇年 頃 ま で
の第 二期 を ﹁文 学 教 育 的 教 材 研 究 期 ﹂、 昭 和 一二 年 か ら 今 日 (昭 和 二 〇 年 代 後 半 ) ま で の 第 三 期 を ﹁言 語 教 育 的
学 習 指 導 期 ﹂ と し 、 そ の立 場 か ら 作 文 ・綴 方 に つ いて も ﹁範 文 模 倣 期 ﹂、 ﹁自 己表 現 期 ﹂、 ﹁社 会 的 通 じ 合 い期 ﹂ の
三 期 に わ け て そ の 歴 史 を 展 望 し て いる 。 こ の西 尾 実 の 区 分 は 、 こと ば の 機 能 を ﹁社 会 的 通 じ 合 い (コミ ュ ニ
ケ ー シ ョ ン)﹂ にも と め た 結 果 、導 き 出 さ れ た仮 説 で あ り 、 近 代 国 語 科 教 育 の歴 史 を 実 践 的 に歩 ん でき た ひと り の研 究 者 と し て の把 握 でも あ った 。
も ち ろ ん こう し た 区 分 に 関 し て は 、 西 尾 実 のほ か に も 、 田 上 新 吉 、 峰 地 光 重 な ど のす ぐ れ た 実 証 的 ・実 践 的
な 研 究 も あ る が 、 本 稿 に お い ては 、 そ う し た 一連 の研 究 を 踏 ま え つ つも 、 いわ ゆ る ﹁生 活 綴 方 ﹂ の系 譜 に焦 点 を
(一八 七 三 ∼ 一九 五 一) の ば あ い
あ て、 人 物 本 位 に ﹁ 書 く こと ・綴 る こ と ﹂ の意 義 が ど んな ふう に実 践 的 に把 握 さ れ て い った のか と いう 点 か ら 記 述 を 試 み てみ た い。
二 芦 田 恵 之 助
樋 口勘 次 郎 ﹃ 統 合 主 義 新 教 授 法 ﹄ に お け る ﹁自 由 発 表 主 義 ﹂ の影 響 を 受 け つ つ、 芦 田 恵 之 助 は 、 綴 方 と は 、 教
師 に よ って書 か さ れ る も の で は な く 、 自 分 の こ と ば で自 分 の書 き た い こと を 子 ど も 自 ら が 書 く こ と ( 自 作 )、 す
な わ ち 、 綴 方 は 子 ど も の文 章 か ら 始 ま る と し た 。 そ れ は 、 ﹁綴 ら ん と す る 心 ﹂ に 出 発 す る ﹁随 意 選 題 ﹂ を 方 法 と す るも の であ った 。
そ の方 法 は 、大 正 中 期 か ら 実 践 的 に 検 証 さ れ て いく わ け であ る が 、 ま ず は そ の出 発 点 と も いう べき ﹃ 綴 り方教 授 ﹄ (一九一三 、 香 芸 館 出 版 部 ) に つい て見 てお き た い。 芦 田恵 之 助 は 、 同 書 の 冒 頭 にお いて 、 つぎ の よ う に述 べ て い る。
綴 り 方 と は精 神 生 活 を 文 字 に よ つ て書 き あ ら は す 作 業 で 、 綴 り 方 教 授 と は 綴 り 方 に 関 す る 智 識 を 授 け て、
之 に 熟 達 せ し む る教 師 の努 力 と 、 学 習 に 関 す る児 童 の努 力 と を あ は せ たも の であ る 。
精 神 生 活 は 或 は 之 を 声 に あ ら は し 、或 は之 を 筋 肉 に あ ら は し 、或 は 之 を 文 字 にあ ら は す 。 一を 談 話 と いひ 、
二 を 動 作 と いひ 、 三 を 文 章 と い ふ。 綴 り 方 教 授 に 於 て取 扱 ふ の は 文 章 であ る 。 談 話 ・動 作 ・文 章 は各 そ の形
式 は ち が ふ け れ ど も 、 精 神 生 活 を 外 界 に 発 表 す る も の であ る こと は 同 一で あ る 。 発 表 は 人 間 自 然 の慾 望 で、
吾 人 が も し 心 中 に 不 平 を 生 じ 、 又 は 満 足 を 感 ず れ ば 、 之 を 知 己 に 語 り 、之 を 朋 友 に 伝 へて 、 共 に喜 び 、 共 に
か な し ま ず に は お か ぬ 。 も し何 等 か の事 情 の た め に 、 こ の発 表 が 妨 害 さ れ る と 、 吾 人 は 殆 ど そ の苦 痛 に た へ
ぬ 。 綴 り 方 教 授 は こ の 人 間 自 然 の強 き 要 求 の上 に立 脚 す る も の で あ る (二 〇 ∼ 二 一頁 )。
芦 田恵 之 助 は、 ﹁精 神 生 活 を 文 字 に よ つて 書 き あ ら は す 作 業 ﹂ す な わ ち 思 想 の表 現 と いう 作 用 は 、 ﹁人 間 自 然 の
強 き 要 求 ﹂に も と づ く も の であ る と し 、 子 ど も も ま た表 現 す る存 在 であ る と と ら え て いる 。子 ど も は ﹁ 書 け な い﹂
︿﹁書 く こと ・綴 る こと ﹂ の教 授 体 系 ﹀
の で は な く 、 ﹁書 く こと ﹂ を 必 要 と す る 場 に
あ れ ば 、適 切 な指 導 のも と にお いて は ﹁書 く ﹂
のであ る。 芦 田恵 之 助 は、 同書 の な か で 、
﹁児 童 の実 生 活 よ り 来 る 必 要 な 題 目 に よ つて 、
発表 し な け れ ば な ら ぬ 境 遇 を 作 り 、 こ こ に 児
童 を 置 いて 、 実 感 を 綴 ら せ る の であ る﹂ と 述
べ 、 ﹁書 く こ と ・綴 る こと ﹂ を 上 記 のよ う な
教 授 体 系 のな か で と ら え 、 ﹁綴 ら せ て 導 く ﹂
方 向 へと そ の指 導 を 展 開 し て いく 。
実践知 に裏づけ られた発達 段階 に ついての
仮 説 、 高 学 年 の ﹁構 想 の指 導 ﹂ に お け る ﹁題
作 ﹂ (思 想 構 成 の錬 磨 の方 法 ) な ど 、 生 活 綴
方 の源 流 と し て の ﹃綴 り 方 教 授 ﹄ は 、 今 も な お 新 し い。
三 鈴 木 三 重 吉
(一八 八 二 ∼ 一九 三 六 ) の ば あ い
芦 田恵 之助が ﹁ 自 己 を 書 く ﹂ こ と を 根 本 と し た 随 意 選 題 の綴 方 教 授 を 展 開 し て いく 一方 で 、 ﹁練 習 目 的 ﹂ を 根
(一九 一八 )、 雑 誌
﹃ 赤 い鳥 ﹄ を 創 刊 し 、 芸 術 文 化 運 動 を 展
本 と す る課 題 主 義 の綴 方 が 友 納 友 次 郎 に よ って 提 唱 さ れ 、 両 者 の 間 に 随 意 選 題 論 争 が く り ひ ろ げ ら れ て いた 頃 、 夏 目 漱 石 の 門 下 でも あ った 鈴 木 三 重 吉 が 、 大 正 七 年
開 す る 。 鈴 木 三 重 吉 は 、 ﹁文 章 は 、 あ つた こ と 感 じ た こと を 、 不 断 使 つ て ゐ る ま ま のあ た り ま へ の言 葉 を 使 つ て、
あ り のま ま に書 く や う に な ら な け れ ば 、 少 く と も 、 さう い ふ文 章 を 一ば ん よ い文 章 と し て褒 め る やう に な ら な け
れ ば 間 違 ひ で す ﹂ と いう 立 場 か ら 、 子 ど も の文 章 を 募 集 し 、 ﹁見 た こと 聞 いた こ と 、 あ つた こと を 、 そ のま ま 書
いた 作 文 ﹂ を 選 抜 し て雑 誌 に 掲 載 す る と と も に 、 子 ど も な ら で は の芸 術 的 な 価 値 を 大事 にし た 。 そ の 結 果 、 読 者
か ら は ﹁ま る で志 賀 直 哉 氏 か な ん か の短 篇 を 見 る や う な 作 で し た 。下 ら な い文 士 の作 よ り ず つと よ いと 思 ひ ま す ﹂ と い った 感 想 も 寄 せ ら れ て いる 。
こ の ﹁あ り のま ま ﹂ を 基 調 と す る文 章 は ﹁文 芸 主 義 綴 方 ﹂ と も 呼 ば れ 、豊 田 正 子 と い った 少 女 は 、 そ の作 品 や
(一九 三 六 ) ま で続 き 、 鈴 木 三 重 吉 の死 を も って 終 刊 と な る。 晩 年 に 鈴 木 三 重 吉 は 、
掲 載 回 数 に よ っ て脚 光 を 浴 び る こ と と も な った 。 そ れ ほ ど に 影 響 力 を も った 雑 誌 ﹃ 赤 い鳥 ﹄ は 、 途 中 の休 刊 は あ った に せ よ 、 昭 和一一 年
﹃ 綴 方 読 本 ﹄ (一九 三 五 、 中 央 公 論 社 ) を 刊 行 し 、 ﹃ 赤 い鳥 ﹄ 綴 方 の意 義 に つ い て書 き 遺 し て いる 。
鈴 木 三 重 吉 は 、 ﹁綴 方 の 作 篇 は 根 本 に は 芸 術 の作 篇 でな け れ ば な ら な い﹂ と す る 立 場 か ら 綴 方 に よ る ﹁人 間 教
育 ﹂ を 標 榜 し て い る 。 そ の考 え は 、 ﹁綴 方 の芸 術 的 に す ぐ れ た 作 品 、 つま り 児 童 が 実 生 活 の 上 で経 験 し た 事 象 を
目 に 見 る や う に実 写 的 に 再 現 し た 作 品 ﹂ の製 作 を め ざ し な が ら 、 そ う し た﹁ 価 値 あ る製 作 品 を 作 り 出 す に至 る ま
で の錬 磨 に よ つて 、 物 の批 判 の正 確 さ と 、 感 情 の 細 化 と 、 感 覚 の敏 性 と を 得 る そ の効 果 と 、 芸 術 価 値 あ る 一つ の
作 篇 の成 功 に よ つて 、 な ほ数 々 の秀 作 が 予 約 さ れ 、 そ の重 な る 成 功 のた び に 、今 言 つた 批 判 の正 確 さ 、 感 情 の細
化 、感 覚 の敏 性 が 、な ほな ほ 加 はり 得 る 、そ の 効 果 ﹂ と に 第 一の価 値 を お く も の で あ った 。作 品 の到 達 点 と し て 、
﹁た だ 事 象 の表 面 を 普 通 の感 覚 の 一つな る視 覚 に よ つ て こま か く 見 た と いふ のと ち が ひ 、 も つと 奥 ま つた 叡 智 と 、
細 化 し た 感 情 と のた す け と を 併 せ た 、 鋭 尖 な 感 覚 か ら 得 た 叙 写 ﹂ す な わ ち ﹁感 覚 的 な 叙 写 ( 敏感 的な感受 によ る
叙 写 )﹂ の作 品 を 称 揚 し 、 そ う し た ﹁叙 写 の深 度 ﹂ を 作 品 評 価 の基 準 と し つ つも 、 ﹁表 現 と いふも の﹂ を ﹁記 叙 の
外形 たる﹂ ﹁ 表 出 ﹂ と ﹁そ の表 出 の中 に盛 り 入 れ ら れ て ゐ る記 叙 の実 質 的 内 容 ﹂ と を 併 合 し た も のと し てと らえ 、
外 形 は ﹁純 素 ﹂ で も 内 容 は ﹁不 純 ﹂ で あ り 得 る 場 合 が 多 い こと を 指 摘 し 、 反 対 に ﹁純 正 な 表 現﹂ が ﹁記 叙 の深 度
そ の も のを 加 へる積 極 的 な 働 き を さ へす る ﹂ と し て 、 ﹁平 浅 な 叙 写 にも 実 感 が 湧 い て 来 る﹂ 作 品 す な わ ち ﹁純 感 的 叙 写 ﹂ に よ る 子 ど も た ち の作 品 を と り わ け 重 視 し た 。
鈴 木 三 重 吉 は 、 ﹁書 く こと ・綴 る こと ﹂ に お いて は 、 そ の作 品 と し て の表 現 の品 質 、 品 格 を ﹁精 細 な 、 陰 影 的
な 叙 写 ﹂ にも と め 、 ﹁児 童 の内 面 に 眠 つ て ゐ る批 判 や 、 感 情 、 感 覚 な る も の﹂ が向 上 し 、 ﹁細 化 し 、 鋭 敏 と ﹂ な る
こ と 、 す な わ ち ﹁平 素 の事 象 に対 す る ふ か い観 察 感 受 が 、 や が て綴 方 の 題 材 を 作 り 出 す の で あ り 、 な ほ 綴 方 の製
作 に よ つて 、 そ の観 察 、 感 受 がま す ま す そ の性 能 を 深 め て、 お のお の の 児 童 の人 間 性 の潤 沢 さ と な る ﹂ こと を 目
的 と し た 。 そ れ は 、 あ る 意 味 で 子 ど も た ち の内 な る ﹁侮 る こと の出 来 な い叡 智 と 、 ぴ ち ぴち し た 感 情 と 、 す るど い感 覚 ﹂ と に 確 信 を お く 童 心 主 義 の芸 術 教 育 論 でも あ った 。
四 小 砂 丘 忠 義 (一八 九 七 ∼ 一九 三 七) のば あ い
大 正 期 に は 、 時 代 の趨 勢 も あ って、 さ き に み た よ う に 、 芦 田 恵 之 助 の ﹁随 意 選 題 ﹂ や 鈴 木 三 重 吉 の ﹁﹃赤 い鳥 ﹄
( 生 活 綴 方 )﹂ と よ ば れ る 機 運 も 高 ま り 、 そ の中
綴 方 ﹂ のほ か にも 、 ﹁写生 主 義 の綴 方 ﹂ や ﹁練 習 目 的 の綴 方 ﹂、 ﹁生 命 主 義 の綴 方 ﹂ (田 上 新 吉 ) な ど 、 旺 盛 な 展 開 が 見 ら れ た 。 そ う し た な か に あ って 、 の ち に ﹁生 活 主 義 の綴 方
枢 を な し て いた も のが 雑 誌 ﹃綴 方 生 活 ﹄ であ り 、 そ の代 表 格 に小 砂 丘 忠 義 が いた 。
小 砂 丘 忠 義 は 、 ﹁綴 方 ﹂ に ﹁逞 し き 原 始 子 供 ﹂ (﹃綴 方 生 活 ﹄ 昭 和 八年 八 月 号 ) を 発 見 し 、 ﹁全 教 育 合 力 の上 に立
つ綴 方︱ 真 実 に い い題 材= い い表 現︱ ﹂ (﹃ 綴 方 生 活 ﹄ 昭 和 七 年 一二月 号 ) を 開 拓 し て い った 。 鈴 木 三重 吉 に お い
ても 綴 方 に ﹁芸 術 的 価 値 と 参 考 価 値 ﹂ と を 認 め 、 綴 方 を 児 童 の ﹁人 ﹂ そ のも の の ﹁反 射 ﹂ であ る と と ら え 、 ﹁よ
い作 品 を 得 る に は ﹃人 ﹄ そ のも のか ら 仕 立 て て 来 な け れ ば な ら な い﹂ と し て、 ﹁す べ て の学 科 の進 行 に よ って 理
智 の開 発 を 図 る と 共 に 、 教 課 の と き の み でな く 、 課 外 でも 出 来 るだ け し ば し ば 接 触 し て 、 いろ い ろ の方 面 か ら 、
結 局 、 物 を 見 る こ と 、 感 受 す る こと の 興 味 と 深 度 を 、 し だ いし だ い に上 せ て いく ﹂ こ と を も と め 、 ﹁参 考 価 値 の
導 く 、 児 童 の人 そ のも のを 知 り 得 て の教 化 ﹂ や ﹁実 生 活 上 の指 導 ﹂ な ど を も 含 め 、 児 童 と の開 か れ た 関 係 性 に お
け る ﹁全 面 的 教 化 ﹂ を 、 綴 方 に よ る ﹁人 間 教 育 ﹂ と称 え て いた 。 そ れ に 対 し て 、 表 現 主 体 と し て の 子 ど も の 社 会
性 、 生 活 性 そ の も のを 問 題 と し 、 そ の指 導 論 と し て 登 場 し てき た のが 小 砂 丘 忠 義 た ち の ﹁生 活 教 育 論 ﹂ で あ り 、
そ の エ ッセ ン ス は 、 ﹁綴 方 が 生 活 教 育 の 中 心 教 科 であ る こと を 信 じ 、 共 感 の士 と 共 に綴 方 教 育 を 中 心 と し て 、 生
活 教 育 の原 則 と そ の方 法 と を 創 造 せ ん と 意 企 す る﹂ と し た 同 人 た ち の ﹁宣 言 ﹂ (昭 和 五年 一〇 月 号 ) に 集 約 さ れ
て いる 。
小 砂 丘 忠 義 は 、 高 知 に お け る 八年 間 の 小 学 校 の実 践 を 経 て 上 京 し 、 雑 誌 編 集 な ど の仕 事 に た ず さ わ って いく わ
け で あ る が 、 そ の 間 の こ と を ふ り か え り 、 ﹁先 づ 綴 方 か ら ﹂ と 考 え て 教 壇 に 立 った こ ろ の こ と に つ い て 、 つぎ の よ う に 述 べ て いる 。
何 々式 だ の、 何 々 主 義 と いふ 縄 ば り 内 に こも る 流 行 の嫌 な 私 で あ る 。 無 定 見 に 近 い のん き さ で 、 ゆ つく り 私
は や つて き た 。 (中 略 、 引 用 者 ) 私 は 課 題 に 特 異 の価 値 を 認 め か ね る 者 で あ る 。 教 師 が し つか り し て ゐ る 限
り 、 あ つ て害 あ り と は 思 は ぬ が 、 な く て 不 自 由 な も の で は 尚 更 な い。 私 は 、 ( 中 略 、 引 用 者 ) す べ て自 由 選
題 で 自 由 な表 現 を 待 つこ と に し た 。 等 し く 自 由 選 題 に し ても 何 か 一文 書 か ね ば な ら ぬと いふ 考 で や つて は 何
の自 由 選 題 で も な い。 既 に完 全 な 課 題 勉 強 に な つ て ゐ る も のと 見 ね ば な ら ぬ 。 自 由 選 題 が 題 材 を のみ 子 供 に
(﹁私 の 綴 り 方 生 活 ﹂ ﹃私 の綴 方 生 活 ﹄ 一九 二 ∼
書 く 迄 待 た う 綴 方 でも な い。 書 か し て見 せ ん綴 り 方 で は 更 に な い。 やき も き せ ん で も 、 子 供
自 由 選 択 せ し め る程 度 で は いけ な い。 題 材 は勿 論 、 表 現 も 、 更 に 文 を 書 く か 書 か ぬ か も 当 然 自 由 で あ る べ き 筈 で あ る 。︱
は実 に見事 に書 き得 る も のだ と の全肯 定 に私 は出 発 した 一九 五 頁 )。
小 砂 丘 忠 義 は 、 ﹁人 生 は こ れ 綴 り 方 だ ﹂ と の 立 場 か ら ﹁教 師 と し て の ス タ ー ト ﹂ を 切 り 、 ﹁修 身 も 歴 史 も 地 理 も
理 科 も す べ て は 所 詮 綴 り 方 へま で の道 程 に す ぎ ぬ ﹂ と いう 立 場 か ら ﹁教 師 の仕 事 を な し 、 又 最 も 綴 り 方 の仕 事 を
熱 心 に さ う 思 つ て や つて 来 た ﹂と 回 顧 し て いる わ け で あ る が 、 ﹃ 綴 方 生 活 ﹄誌 に お い て は 、﹁書 く こ と ・綴 る こ と ﹂
に 関 し て、 ﹁綴 方 は 作 者 の主 張 であ り 要 求 で あ り 抗 議 であ る 。 理 論 のす ぢ みち が 立 つ て ゐ て わ か り や す く 、 対 者
を 説 伏 し 、 納 得 さ せ る も の が 効 果 的 であ り 、 い い文 で あ る﹂ と 述 べ 、 ﹁新 し き 生 活 へ の要 求 ﹂ す な わ ち 文 章 表 現
行 為 に自 ら の生 活 態 度 の更 新 、 社 会 への積 極 的 な 交 渉 を 求 め 、 ﹁ね う ち のあ る こ と を 考 へ て﹂ 書 く こ と 、 ﹁自 分 の
ひ と り が て ん で 書 く の で な く 、 ほ か の人 に も わ か る や う に ﹂ 書 く こと を 第 一義 と し た 。 し た が って 、 ﹃ 赤 い鳥 ﹄
綴 方 の よ う な ﹁あ り のま ま に 事 象 を 描 き 出 し 、 思 ふ が ま ま に 己 が 心 境 を 語 つ て ゐ る ﹂ も のは 、 ﹁第 三 者 と し て事
件 の圏 外 に 立 つ て静 観 す る と いふ態 度 ﹂ を 基 と す る も の であ り 、 小 砂 丘 忠 義 は 、 ﹁も う 一歩 進 ん で 、 自 ら そ の圏
内 に突 き 入 つて 問 題 を 究 明 す る 所 ま で ゆ か な く て は な ら ぬ ﹂ と し て 、 ﹁生 活 そ の も のが 表 現 であ り 、 文 章 であ る ﹂
と す る 立 場 を 綴 方 に 求 め て い った 。 そ し て 、 ﹁人 を 動 か す た め に は 、 ま づ 動 か さ う と す る目 的 が 確 把 さ れ な け れ
ば な ら ず 、 次 に は動 か す だ け の技 術 を 獲 得 し な け れ ば な ら ぬ ﹂ と し て、 そ の生 活 技 術 と し て の表 現 の技 術 の重 要
性 を 強 調 し 、 ﹁文 は 構 成 す べき で あ る 。 表 現 に 構 成 的 な 、 積 極 的 な 意 図 を 示 す こ と ﹂ を 綴 方 に お け る 緊 要 な 課 題
と し た 。 そ の こと は 、 一方 で は 、 綴 方 を 書 く 児 童 に対 す る 教 師 の アプ ロ ー チ自 体 の革 新 を も 要 求 し て いた 。
小 砂 丘忠 義 は 、 ﹁全 教 育 合 力 の上 に立 つ綴 方 ﹂ (一九 三 二 年 一二月 号 ) の な か で、 た と え ば ﹁い い題 材 を つか ん
で ゐ る が 書 き ぶ り が よ く な い﹂ と いう 児 童 文 の 批 評 に対 し て は 、 ﹁そ れ は 書 き ぶ り が いけ な い の で は な く て 、 真
実 に い い題 材 を つか ん で は ゐ な い の で あ る 。 真 実 に い い題 材 を つか ん だ と いふ のは 、 同 時 に真 実 に い い表 現 が で
或 は事 実︱
に 対 し て 示 す 反 応 が 微 弱 で あ る と か 強 力 で あ る と か いふ こと は 、 ひ と り 綴 方 が
き る の で な け れ ば な ら ぬ ﹂ と 断 じ 、 つぎ のよ う に 述 べ て いる 。
あ る 事 件︱
担 当 す べ き 批 評 で はな い。 地 理 や 修 身 や 国 語 や の全 教 科 が 、 校 長 は じ め 各 訓 導 の全 教 化 が 、 郷 土 や 国 家 の全
感 化 が 、 そ の批 評 を う く べき で あ る 。 全 教 育 が 綴 方 を 書 く た め に存 在 す るな ど と いふ の では な い。 綴 方 を か
いた 場 合 、そ の 綴方 に は 、全 教 育 の総 量 が 含 ま れ て ゐ ると 考 へる の で あ る。 二年 の子 供 は 二年 の 子 供 な み に 、 五 年 の 子 供 は 五年 の子 供 な み に 。
吾 々が 綴 方 を 研 究 す る意 味 は そ こ に あ る 。 綴 方 を か く 子供 は 、 そ の作 品 が よ く も あ し く も 、 今 ま で に 得 た
全 教 育 総 動 員 の形 で作 品 を 作 つ て ゐ る の で あ る 。 従 つて前 掲 の作 品 (﹁高 木 さ ん のく る し み ﹂ と いう 児 童 作
品 、 引 用 者 注 ) に 対 し て 、 よ り 以 上 の或 は よ り 異 種 の反 応 を 求 め よう と す れ ば 、 直 接 の指 導 者 は も と よ り 全 職 員 、 全 教 育 が合 力 し な け れ ば な ら ぬ も の であ る (二 三 頁 )。
小 砂 丘 忠 義 は 、 一貫 し て ﹁綴 方 は 、全 教 科 目 、全 教 化 力 の合 成 花 に 実 る果 実 だ ﹂と いう 立 場 か ら 教 科 目 と し て の
綴 方 科 の目 的 を 問 い 、 ﹁自 然 現 象 を 見 る場 合 も 、 社 会 事 象 を 見 る 場 合 も ど こ ま でも 自 分 の眼 で見 て 行 け と い ふ こ
と ﹂、 ﹁自 己 の眼 で見 、自 己 の心 で 感 じ た こ と を 書 く ﹂ と いう こ と を ﹁ 綴 方 の根 本 態 度 ﹂ と し て子 ど も の ﹁生 活 の
表 現 ﹂ を も と め 、 子 ど も の作 品 の研 究 を 通 し て子 ども の生 活 の現 実 を 認 識 し 、 教 育 そ のも の の内 実 を と ら え て き
た わ け であ る が 、 そ れ は 翻 って いえ ば 、 教 師 自 身 の生 活 や そ の文 章 表 現技 術 を も 問 う も の で も あ った 。 そ の こ と
は 、 子 ど も と 共 に 、 教 育 を と り ま く 社 会 や 世 界 の 現 実 に積 極 的 に 交 渉 し 、 ﹁生 活 の 必 要 ﹂ に 即 し て 積 極 的 に ﹁ 真
実 性 ﹂ を も と め て生 活 し 、 表 現 し つづ け て いく こと でも あ った 。 ま た 小 砂 丘 忠 義 は 、 ﹁文 章 を 書 く 技 術 を 錬 磨 す
る 学 科 ﹂ と し て の綴 方 科 独 自 の角 度 や方 法 を 強 調 し 、 子 ど も の ﹁素 地 の健 康 さ ﹂、 ﹁が ん ば り 性 ﹂、 ﹁や ん ち や性 ﹂、
変 な譬 喩 で あ る が︱
﹁埒に追 ひ こ ん でも 跳 ね 出 さ ね ば ゐ な い子 供 たち の〓剌 た る 野 性 ﹂、 ﹁真 実 性 ﹂ に 期 待 を か け 、 ﹁地 上 か ら 土 が 少 な
く な り 山 が 姿 を か く す こ と が 今 日 の文 化 で あ るが 如 く 、 人 間 の心 、 子 供 の生 活 か ら も︱
昔 な が ら の 土 や 山 は 漸 次 に影 を ひ そ め て ゆ く 。 そ れ が 当 然 な 過 程 であ る 。 だ が 影 を ひ そ め る のは 山 や 土 が 全 然 不
要 で あ る が故 に 消 滅 す る の で は な い。 時 代 的 な 必 然 に 従 つて形 を か へ つ つ い つま で も 現 れ来 る べき も の であ る と
信 じ 、 又 さ う な け れ ば な ら ぬ と 希 念 ﹂ し つ つ、 ﹁人 間 を 育 て る ﹂ 教 育 の仕 事 と し て 、 こ よ な く 子 ど も の 綴 方 作 品
(一九 一 一∼ 一九 八 五 ) の ば あ い
を 大 事 に し 、 そ こ に基 盤 を お い て ﹁理 論 が実 践 を 指 導 し 実 践 が 理 論 を 指 導 す る﹂ ﹃綴 方 生 活 ﹄ の運 動 を 展 開 し て い った 。
五 国 分 一太 郎
国 分 一太 郎 は 、 ﹃綴 方 生 活 ﹄ 創 刊 号 以 来 の 熱 心 な 読 者 であ り 、 そ れ を 指 針 の 一つと し て、 山 形 師 範 を 卒 業 後 は 、
郷 里 ・東 根 に 近 い長瀞 小 学 校 で綴 方 教 育 を 中 心 に 教 育 実 践 を 展 開 し 、昭 和 八 年 に北 方 教 育 社 の 同 人 にな って以 降 、
北 方 性 教 育 運 動 の主 要 な 担 い手 と し て 学 級 文 集 ﹃も ん ぺ﹄、 ﹃も ん ぺ の 弟 ﹄ を 刊 行 し 、 北 日 本 国 語 教 育 連 盟 の 結 成
に も 尽 力 し た 。 そ し て、 戦 後 は 、 ﹁日 本 綴 方 の会 ( 改 称 し て 日本 作 文 の会 )﹂ の リ ー ダ ー と し て、 か つて の自 分 た
(一九 五 一年 初 版 、 一九 五 二 年 増 補 版 )、 若 き 実 践 家 た ち に 多 大 な 影 響 を 与 え 、 戦 後 の民 主 教 育 に大 き な
ち が 担 って き た 財 産 を 復 興す る 運 動 に力 を 傾 け 、 ﹁綴 方 の復 興 と 前 進 のた め に﹂ を 母 胎 と す る ﹃ 新 し い綴 方 教 室 ﹄ を刊行
足 跡 を 残 し て い った 。 ﹁綴 方 、 こ のよ いも の﹂ は 、 ﹃ 新 し い綴 方 教 室 ﹄ の巻 頭 に か か げ ら れ た 文 章 で あ る が 、 これ
を 合 い言 葉 にし て生 活 綴 方 の運 動 は 興 隆 し て い った 。 無 着 成 恭 の ﹃や ま び こ学 校 ﹄ の実 践 は 、 そ の象 徴 的 な 存 在 であ る。
国 分 一太 郎 は 、 ﹁綴 方 、 こ のよ いも の﹂ の な か で 、 ﹁つく り ご と を す る と いう 気 分 が こめ ら れ て い る ﹂ ﹁作 文 ﹂
と は 、 ﹁な ん と いう 殺 風 景 な な まえ であ ろう! ﹂、 ﹁﹃ 生 活 を 綴 る﹄ と い った と き のう れ し い気 持 は ﹃ 生活 を作文す
る﹄ と い った の で は 、 ぶ ち こ わ し に な って し まう 。 綴 方 で よ いの だ 。 よ か った のだ 。 な にも 、 わ ざ わ ざ 作 文 と い
いか え る 必 要 は な か った のだ ﹂ と いう ふ う に 対 立 さ せ る こ と に よ って、 つぎ のよ う に ﹁綴 方 の精 神 ﹂ に つ い て述 べ て いる 。
生 活 と 文 章 と い った い のも の、 た く ま ず し てう ま れ る自 由 な 文 章 、 子 ど も た ち が 、 ほ ん き に な って、 あ り の
ま ま の こと を か いた 文 筆 的 表 現 、 作 った の で は な く 生 ま れ た も の、 そ れ を こ そ 、 わ た く し た ち は 心 か ら愛 し
て き た の だ 。 そ れ を よ む 若 いよ ろ こび に 、 胸 を と き め か し てき た のだ った 。 だ か ら 、 わ た く し た ち は 、 ﹁作
文 ﹂ と いう こ と ば が 、 つか わ れ て いよ う が いま いが 、 こ の綴 方 の精 神 だ け は 、 い つま で も 、 ま も り つづ け て いき た いと お も う ( 増 補 版 、 一四 頁 )。
国 分 一太 郎 は 、 ﹁あ り のま ま の こと ﹂ を ﹁あ り の ま ま に ﹂、 ﹁く わ し く ﹂ 書 いた 文 章 、 す な わ ち ﹁現 実 の 世 界 か
ら 、題 材 を つか ん で 、そ れ を 具 体 的 に か く ﹂ ﹁リ ア リ ズ ム の態 度 ﹂を ﹁書 く こ と ・綴 る こ と ﹂ に求 め 、 ﹁生 活 の現
実 を 題材 と し て 、真 実 な も のを 発 見 さ せ 、 認 識 さ せ て いく 意 識 的 な 入 間 形 成 の過 程 ﹂ す な わ ち ﹁歴 史 の 進 歩 の方
向 に 目 を む け た 正 し い物 の考 え 方 、 行 動 の し 方 を す る よ う な 、 社 会 的 人 格 に 発 展 さ せ て いく こ と ﹂、 つま り は
﹁子 ど も の世 界 観 の基 礎 を つく って いく ﹂ こ と に 綴 方 教 育 の 目 標 を お く わ け で あ る が 、 そ の基 底 を な す も の は 、
国 分 一太 郎 の ﹁コト バ の教 育 ﹂ 観 であ った 。 そ の こと に つ い て、 国 分 一太 郎 は 、 以 下 のよ う に 総 括 的 に 述 べ て い る。
も のご と を 具体 的 に つか ん で、具 体 的 に かく よ う な 文 章 表 現 、 つま り 、 ほ ん と う の こ と を あ り のま ま に か く 、
あ り のま ま のこ と か ら 、 あ る べ き も のを つか ん で そ れ を え が き だ す 、 あ る いは 、 具体 的 な も のご と に 、 知 識
の光 を ふり か け た 、 自 分 の思 想 を か く と いう よう な 文 章 表 現 能 力 が 、 基 礎 と し て で き て いな け れ ば 、 ど ん な
文 章 表 現 技 術 を 、 テ ク ニ ックと し て教 え こん でも 、 ほ ん とう に力 あ る も の 、 生 活 の役 にた つも のと は な ら な
いだ ろ う 。 こう 考 え る か ら であ った 。 コト バ は 、 具 体 的 な 世 界 を つ つむ も の であ る 。 そ し て 同 時 に 、 コト バ
そ のも のと し て は 抽 象 的 な も の で あ る。 わ た く し た ち が 、 子 ど も に 文 章 表 現 (コト バ によ る 表 現 ) の 力 を つ
け る の は 、 そ れ が 、 社 会 的 人 間 への入 門 期 に あ る 子 ど も で あ る場 合 に は 、 よ り い っそ う 具 体 的 な 世 界 ( 自然
や 社 会 ) と コト バ の 一致 を わ か ら せ て いく た め で あ る 。 そ し て、 や が て は 、 抽 象 的 な コト バも 、 自 由 に 、 生 活 のな か に つか いこ な す 力 を つけ る た め であ る ( 増 補 版 、 三 〇 二頁 )。
いわ ゆ る ﹁概 念 く だ き ﹂ も そ の 一環 で あ り 、 国 分 一太 郎 は 、 ﹁コ ト バ だ け で 、 よう り ょう よ く ま と め て し ま う
文 章 ﹂ や ﹁口先 だ け ﹂ の ﹁心 に も な い モ ン キ リ ガ タ の カ ザ リ 言 葉 ﹂ で は な く 、 ﹁生 活 の事 実 を つめ た コト バ ﹂、
﹁真 に生 き 生 き と し た 、 真 実 味 のあ ふ れ た コト バ ﹂ を つか わ せ る こと に そ の 最 も 重 要 な 意 義 を 見 出 し て いた 。 そ
し て 、 そ れ は 、 ﹁子 ど も た ち が 、 自 然 や 社 会 を ふ く め た 現 実 の世 界 と と っく ん で、 生 き た 姿 を つか み と り 、 真 実
な も のを え が き つづ け て いく リ アリ ズ ム ﹂ と 、 ﹁高 い世 界 観 を 把 握 し て いる 教 師 が 、 あ る が ま ま の 子 ど も の ﹃わ
た く し﹄=﹃ 魂 のあ り か た ﹄ を 、 す な お に つか ん で、 愛 情 と 知 性 に富 ん だ 、 飛 躍 のな い指 導 を し て いく 周 到 な リ ア
リ ズ ム 的 教 育 過 程 ﹂ と の ﹁ふ た つ の現 実 主 義 ﹂ のも と に 展 開 し て いく 実 践 的 な 教 育 学 で も あ った 。
お わ り に
﹃私 た ち の綴 方 會 議 ﹄ (一九 五 二 、 未 来 社 ) を は じ め と し て、 昭 和 三 〇 年 代 (一九 五 五 年 以 降 )、 国 分 一太 郎 の
﹃ 新 し い綴 方 教 室 ﹄ に 導 か れ た若 き 実 践 家 た ち の教 育 実 践 記 録 が 相 次 い で出 版 さ れ た 。土 田茂 範 の ﹃ 村 の 一年 生 ﹄、
小 西 健 二 郎 の ﹃学 級 革 命 ﹄、 野 名 龍 二 の ﹃か え る の学 級 ﹄、 戸 田唯 巳 の ﹃学 級 と い ふ な か ま ﹄ な ど で あ る 。 のち
に 、 野 名 龍 二は 、 ﹃綴 方 教 育 論 ﹄ (一九 七 四 ) に よ って ﹁生 活 を 綴 る こ と ﹂ の意 味 を 実 践 的 に 問 い直 し 、 土 田 茂 範
は 、 ﹃生 活 綴 方 と 母 語 ﹄ (一九 九 九 ) に よ って ﹁生 活 綴 方 の 土 台 ﹂、 ﹁生 活 綴 方 の 遺 産 ﹂ と は 何 か を 自 ら の実 践 を ふ
り か え り な が ら 追 究 し 、 母 語 ・方 言 の 問 題 を 提 起 し た 。 生 活 綴 方 と 国 語 科 作 文 の問 題 、 日 本 作 文 の会 の 一九 六 二
年 度 方 針 案 の問 題 、 森 岡 健 二 著 ﹃ 文 章 構 成 法 ﹄ の影 響 力 や 、 青 木 幹 勇 著 ﹃ 第 三 の書 く ﹄ の意 義 な ど 、 さ ら に 広 範
に論 究 す べき 課 題 は多 いが 、 ﹁書 く こ と の歴 史 的 展 望 ﹂ は 、 芦 田 恵 之 助 の こと は も と よ り 、 数 々 の教 育 実 践 そ の
も の の地 道 な 検 証 か ら き り ひ ら か れ て いく べき で あ り 、詩 歌 の表 現 を 含 め 、 子 ど も の文 章 表 現 そ のも の の成 果 を
も って こ た え て いか な け れ ば な ら な い、 そ う いう 段 階 に いま さ し か か って いる と の 認 識 を 新 た に し て いる 。 た い へん に遠 大 な 作 業 で あ る が 、 き わ め て 急 務 の課 題 でも あ る 。
峰 地 光 重 ﹃綴方 教 育 発 達 史﹄ 啓文 社 一九 三 九 [峰 地光 重 著 作 集 刊 行委 員会 編 ﹃ 峰 地 光 重 著作 集 13﹄ け やき 書房
参考文献 一九八 一︺
中内 敏夫 ﹃生活 綴方成 立史 研 究﹄ 明治 図書 一九 七七再 版
滑 川道夫
﹃日 本 作 文 綴 方 教 育 史 1 ・2 ・3﹄ 国 土 社 一九 七 七 ∼ 一九 八 三
太 郎良 信 ﹃生活 綴方 教育史 の研究﹄ 教 育史 料出 版会 一九九 〇 野 地潤家 ﹃ 作 文 ・綴 り方 教育 史資 料上 ・下﹄ 桜 楓社 一九七 六
︱研究 史 を 中 心 に
第 三 章 書 く こ と の能 力 と そ の発 達
は じ め に
こ の章 の課 題 は 、 そ の内 実 に迫 ろう と す る と 、 必 ず ﹁書 く こ と の教 育 ﹂ 全 域 に お よ ぶ 。 能 力 問 題 が 全 般 にわ た
る故 に 、 す で に 第 二章 で 、 先 人 の 優 れ た 業 績 を 取 り 上 げ 、 注 意 を う な が し て い る 。 そ れ ら を 参 照 し て いた だ く と
し て 、 こ こ で は 重 複 を さ け 、 他 の 業 績 を 主 に 述 べ て いき た い。 そ れ ら も 、 紙 幅 の都 合 で、 ご く 一部 に 限 ら ざ る を
え な い。 が 、 ﹁書 く こ と ﹂ の指 導 が 右 往 左 往 し て 沈 滞 状 況 にあ る 現 在 、 も う 一度 、 腰 を 据 え て読 み 返 し 、 参 考 に
し て いく べき 先 人 の業 績 が あ る。 そ れ に よ つて述 べ て いき た い。 し た が って、 先 人 の苦 労 の 跡 を た ど る ( 引用 す
る) こと に な る 。 そ れも 、 ほ ん の 一部 分 を 例 示 す る に す ぎ な いの で、 参 照 し た 書 目 に つ い て 、 具 体 的 に直 接 に 、
事 項 ・内 容 ・作 品 例 な ど に あ た ってほ し い。 そ の た め の手 引 き と な る こ と を 願 って いる 。 そ こ で、 歴 史 的 な 諸 業
績 で は あ って も 、 比 較 的 参 照 し や す いも のを 選 んだ 。 報 告 す る 発 達 の範 囲 は 、 小 学 校 段 階 に 限 った 。
一 書 く こと の能 力 ︱ 児 童 作 品 が 示す 千差 万 別 の実 態 に迫 る ︿ 観 点﹀ を 中 心 に
︵一︶ 学 校 における実態 は
書 く こと の活 動 は 、 紙 の使 用 が普 及 し て 以 来 、 そ の足 跡 を た ど る こと が で き る 。 こ れ は 教 育
( す る者も、 され
る者 に と っても 、 さ ら に家 庭 ・地 域 、 そ の他 の関 係 者 ) にと って 、 最 大 の利 点 で あ る 。 指 導 の適 否 、 そ の成 果 な
ど 、手 に 取 る よ う に判 明 す る 。記 録 にも 残 る 。 こ れを 手 が かり と す れ ば 、 こ れ か ら の前 進 が 、確 実 に は か ら れ る 。
国 語 科 教 育 だ け で な く 、教 育 全 般 の基 礎 力 と な り 推 進 力 と な り 、 到 達 点 を 示 す も のと な る。 こ れ を 教 育 の中 核 に
据 え な いわ け に は いか な い。 と こ ろ が 、 実 態 は ど う か。 敬 遠 さ れ る こと が 、 残 念 な が ら 、 多 い の で は な いか 。 だ が 、 そ れ に も 理 由 が あ る、 と も いえ よ う 。
事 実 、 ﹁書 く こ と ﹂ の活 動 ほ ど 、 そ の現 実 は 千 差 万 別 であ る 。 こう 表 現 す る し か 他 にな い。
私 自 身 の経 験 し た こ と で あ る が 、 小 学 校 の六 年 生 に な る ま で 、 一文 も 書 いた こ と が な い、 ﹁書 く のは 面 倒 だ ﹂
と いう 児 童 に出 会 った こと が あ る。 で き れ ば 書 き た く な い、 と いう 希 望 の持 ち 主 の多 いこ と は 、 し ば し ば 遭 遇 す
る 教 室 実 態 であ る 。 本 当 に書 か な い ので あ る。 書 い ても ご く わ ず か で 終 わ り と す る。 あ る 時 、 書 く こと に 熱 心 な
学 校 で 、 実 験 的 な 授 業 を し た こと が あ った が 、 そ こ で は 一人 の 児 童 が﹁︵五 年 の) 今 ま で、 三 行 以 上 書 い た こ と
が な い。 外 来 講 師 の 授 業 で、 そ の子 がど れ ほ ど 書 け る の か 、 楽 し みだ ﹂ と 口を そ ろえ て いわ れ た こ と が あ る 。 書
く こと の熱 心 な 学 校 で も こう いう こと が あ る 。 一般 的 に は 、 な か な か 書 け な い児 童 が ク ラ ス に何 人 か いると み ら
れ る (こ こ で 、 こ と わ って お き た いが 、 こ れ ら の児 童 は 、 国 語︱
読 み や 発 言︱
力 は 備 え て いる 。 課 題 と 方 法 に よ って、 時 間 を か け れ ば 、 書 け る の で あ る )。
の力 が な いわ け で は な い。 能
書 く こと の能 力 評 定 の場 合 、 こ のよ う な児 童 を ど う す る の か 。 分 析 困 難 であ る 。 が 、 実 際 に は、 こ の困 難 のた
め に 、 教 師 は 、 も っと も多 く の 時 間 を さ き 、 苦 労 し て取 り 組 む 。 書 け な い事 実 が 現 前 し て いる のだ か ら 。 あ る 教
師 は 、 他 の領 域 と は 異 な り 、 ﹁書 く こ と ﹂ に 関 し て は 、 前 年 度 か ら の引 き 継 ぎ を あ ま り 期 待 し な い。 そ れ よ り 、
﹃ わ たし は小学生﹄
こ の学 年 か ら 新 し く 出 発 す る覚 悟 で始 め る のだ 、 と も 語 って いた 。 指 導 が 困 難 だ と も 、指 導 そ のも のが な いと も いえ よ う 。 と も か く 、 実 際 に書 い ても らう と 、 そ の個 人 差 の大 き いこ と 。
と は いえ 、 小 学 校 の六 年 生 と も な る と 、 す ば ら し い文 章 の書 け る児 童 も いる 。 蒲 池 美 鶴 作
( 六 年 間 、 八 ○ ○ 編 中 、 七 七 編 を 選 ん で 一冊 に し た も の。 新 版 は 、 青 葉 図書 、 昭 和 五 三 年 六 月 ) は 、 ( 量と質 にお
い て) こ こ ま で書 け る のか 、 と の嘆 賞 が 思 わ ず わ き 出 る 。 小 学 生 に あ って、 書 く 力 の極 点 を 示 す も のだ 、 と 野 地
( 児 童 作 品 を ど う 読 む か 、 の 探 求 ) の 一つ の典 型 を み る こ と が でき る 。 戦
潤家先生 は ( 本 書 の解 説 、 さ ら には ﹃ 作 文 指 導 論 ﹄ 昭 和 五 〇 年 五月 刊 行 、 共 文 社 で) 指 摘 し て お ら れ る。 こ の解 説 に は 、 あ わ せ て 、 私 た ち の能 力 研 究
前 で は 、 豊 田 正 子 さ ん の個 人 文 集 と も いえ る ﹃綴 方 教 室 ﹄ が あ り 、 現 在 、 岩 波 文 庫 に 収 ま って いる 。 古 典 的 と 認
め ら れ た 証 拠 であ ろ う か。 こ れ ら の 、 例 外 と み ら れ が ち な も の の他 に 、 毎 年 募 集 さ れ 、 選 定 さ れ る 作 文 コ ン ク ー
ル の応 募 作 に、 多 く の実 に み ご と な 作 品 が 見 出 さ れ る。 入 賞 作 の作 者 は 、 も は や 十 分 な 手 応 え と 自 信 を 抱 き 、 ど
の学 年 に も 優 秀 作 を 提 出 し てく る。 こ れ ら の児 童 作 品 の 生 成 に は 、 共 通 し て 指 導 にあ た る 先 生 が お ら れ る 。 そ の 支 援 を う け な が ら 、 自 信 に 満 ち た 努 力 が 積 み重 ね ら れ て いる 。
︵二︶ 戦 前 の継 続 研 究 か ら ︱類 型 把 握 と 推 敲 の 重 視 、 作 品 形 成 と 自 己 鍛 錬
そ れ に し ても 、 個 人 差 の大 き い こと 。 目 の前 に 厳 然 と あ る だ け に 、 そ の現 実 か ら は 逃 れ ら れ な い。 で は、 そ の
よ う な ﹁書 く ( 綴 る ・作 文 す る ) 力 ﹂ は ど の よう に し て育 ち 、 ど の よう に 成 長 し て いく も のな の か 。 ど う 把 握 し
て いけ ば よ い のか 。 対 象 に 取 り 組 む 姿 勢 か ら 考 え る 必 要 が あ ろ う 。 こ れ に は 、 早 く か ら (昭 和 初 年 以 来 ) の指 摘
が あ る 。 少 し 長 いが 、 西 尾 実 先 生 の き わ め て貴 重 な 提 案 な の で 、 次 に 掲 げ た い ( 西 尾 実 ﹁綴 方 教 育 の方 法 ﹂、
﹃西 尾 実 国 語 教 育 全 集 ﹄ 第 三 巻 所 収 、 一六 二 ペ ー ジ 、 教 育 出 版 、 昭 和 五 〇 年 二 月 )。
﹁綴 る 働 き ﹂ と い っ ても 、 働 き そ のも の の真 相 は 容 易 に窺 知 を 許 さ な いも ので あ る 。 け れ ど も 、 綴 ら れ た
作 品 に つ い て、 観 察 し 、 分 析 を 試 み る こと に よ って 、 そ の大 要 を 類 別 し 、 そ の発 達 を 方 向 づ け る こと は け っ
し て不 可 能 で は な い。 私 一個 の経 験 に 基 づ い て いえ ば 、 こ の目 的 を 達 す るた め に ま ず 選 ば な く て は な ら な い
も の は、 作 品 解 釈 の方 法 で あ った 。 何 と な れ ば 、 私 が そ れ ま で に 遭 遇 し た 綴 方 研 究 会 な り 、 綴 方 に関 す る 論
文 .著 書 な り に お い て見 出 さ れ る共 通 の欠 陥 は 、 綴 ら れ た 作 品 に 対 す る 精 到 な 理 解 な し に 、 あ る いは 更 に 理
解 に つ い て の努 力 な し に評 価 を 急 ぐ と いう 事 実 であ った 。 し た が って 、 (中 略 ) な ん ら 研 究 と し て の成 果 を
も た ら し 得 な い場 合 が 少 な く な い実 状 に あ った 。 ( 中 略 ) 綴 方 作 品 の研 究 に お いても 、 読 方 の教 材 と 同 じ く 、
気 ま ぐ れ な 印 象 や 、 場 当 た り の解 釈 に 甘 ん ず る こと な く 、 理 解 に 関 す る 方 法 的 な 努 力 が 尽 く さ れ な く て は な ら な い こと を 思 わ せ ら れ た こと が 一再 で は な か った 。
﹁書 く こ と ( 綴 方 ・作 文 )﹂ の能 力 を と らえ る に は 、 ま ず 、 読 解 教 材 に劣 ら な い懸 命 な 理 解 ・研 究 が前 提 に な っ
て い る こ と 。 そ の た め に は 、 理 解 ・研 究 の た め の方 法 ・観 点 が 不 可 欠 な こと 。 そ れ ら を ふ ま え る と 類 型 的 な 考
察 ・研 究 の で き る こと 。 こ れ ら の指 摘 と そ の具 体 的 な 調 査 結 果 を 導 き 出 さ れ て いる 。 こ こ で は 、 発 達 への指 摘 の
前 に 、 そ れ を 支 え て いる 児 童 作 品 を 分 析 ・考 察 し て いく 場 合 の、 観 点 のみ を 掲 げ てお き た い。 何 に し ろ 、 千 差 万
別 で あ る。 一般 的 な 能 力 の提 示 が む ず か し い。 し た が って、 そ の多 様 な 作 品 を 、 ど の よう な 角 度 か ら 考 察 し て い
け ば い い のか 、 こ の章 で は 、 ︿観 点 ﹀ の み を か か げ て いき た い ( 資 料 と し て は 、 長 野 県 の 飯 田市 を 中 心 と し た 小
か ら 一作 品︱
を 選 ん だ も の)。
学 校 の先 生 方 が 中 心 と な り 、 昭 和 五 年 か ら 五 年 間 に わ た る継 続 研 究 を お こ な った 中 か ら 、 昭 和 七 年 に各 校 四 〇 〇 名 、 二 八 ○ ○ 名 の 一学年 の全 作 品︱
作 品 ︿主 題 ﹀ の類 型 化 は 主 体 的 と 対 象 的 の 二 つに す ぎ な いが 、 ︿ 構想 ( 構 成 ・組 み 立 て )﹀ と 、 ︿叙 述 ﹀ の 二 軸 は 、 よ り 細 分 化 さ れ て いる 。 ま ず 、 構 想 の類 型 で あ る 。
1 未 展 開 、 2 行 動 的 、 3 事 件 的 、 4 思 惟 的 、 5 観 察 的 、 6 完 成 的
不 明 、 2 表 出 的 、 3 記 述 的 、 4 表 現 的 、 5 論 証 的 、 6 描 写 的 、 7 説 明 的 、 8 完 成 的
次 に、 叙 述 の類 型 が 求 め ら れ て い る。
1
こ れ ら は 、 私 た ち が 児 童 の書 き 上 げ た 作 品 を ど う 考 察 し て いく
か 、 つ い では 、 ど のよ う に 導 い て いけ ば よ いか 、 そ の 見 通 し を も
つた め の観 点 と な る 。 手 探 り で始 め る 者 にと って、 き わ め て有 効 な 視 点 で は な いか 。
各 要 素 の類 型 が 決 ま ると 、 そ れ ら の上 に さ ら に考 察 が 積 み上 げ
ら れ て いく 。 叙 述 類 型 (1 ﹁不 明 ﹂ と 8 ﹁完 成 ﹂ を 除 いた ) の 六
類 型 を 柱 と し て 、 そ れ ら の 叙 述 が ど う 歩 ん で いる の か 、 展 開 の様
相 を 明 ら か に す る 構 想 と の組 み 合 わ せ が 試 み ら れ る。 児 童 作 品 が
示 す 全 体 の姿 ・傾 向 を 表 す た め に 、 類 型 化 が量 的 に、 分 布 状 況 を
加 え て、 整 理 さ れ た も のが 、 上 の表 で あ る 。
こ の表 を 一覧 す れ ば 、 二 八 ○ ○ 点 にも の ぼ る 作 品 のお か げ で 、
作 品 数 の欄 か ら 、 児 童 の ﹁綴 る ( 書 く ) 力 ﹂ の 傾向 が 、 た や す く
み て取 れ る 。 こ の 、 全 体 の 傾向 を 知 った 上 で、 百 分 率 の欄 を み れ
ば 、 各 叙 述 類 型 内 に お け る構 想 の重 点 は 明 白 で あ る 。
主 題 ・構 想 ・叙 述 の各 々 に よ る 類 型 化 が は か ら れ て いる の で 、
児 童 が 発 揮 す る 能 力 の偏 り は 根 本 的 な 姿 と し て 明 る み に 出 て い
る 。 分 布 のあ り 方 が 、 ま ず は 何 よ り も そ の事 実 を 語 って いよ う 。
こ れ は 、 他 類 型 の指 導 を く わえ る こと が 不 可 欠 で あ る、 と いう こ
(﹁ 綴 る ・書 く 力 ﹂) のあ る こ と 、 そ の 実 態 を 打 開 し て いか な く て は な ら な いこ と 、 自 分 を 前 進 さ せ る 指 導
れ か ら の指 導 の あ り 方 を も 示 し て いる 。 言 い換 え れ ば 、 言 葉 の拡 大 、 文 型 の展 開 だ け では 、 と う て い充 足 し え な い現状
を 待 ち 受 け て いる 姿 ( 能 力 の持 ち 主 ) が 浮 か ん でく る こ と な ど が 指 摘 でき よ う 。 事 実 、 優 れ た 、 有 効 性 のあ る教 育 調査 ほ ど 、 私 た ち に 、次 にく る 問 題 を 明 確 に 示 し てく れ るも のは な い。
では 、 西 尾 実 先 生 は ど の よ う に し て 、 こ れ ら の調 査 が 示 す 課 題 を 克 服 し よ う と さ れ て いた の か 。 先 生 自 身 の
真 の表 現 と は 、 既 に 意 識 せ ら れ て いる も のを 言 語 化 す る こと で は な く 、 そ う いう 言 語 化 に 即 し て 発 展 し
ま と め で示 し た い。
一
来 る 主 題 が定 位 せ ら れ自 覚 せ ら れ 来 る こ と であ る こ と 。
一 し た が って、 幾 度 と な く 書 き 直 す こ と 、 す な わ ち 推 敲 の労 作 のみ が真 の表 現を 完 成 さ せ る 営 み で あ る こ
換 言 す れ ば 、 推 敲 は いわ ゆ る修 飾 のた め のも の で は な く 、 か え って そ う いう 偶 発 的 な 要 素 を 除 去 し て表
と。 一
現 を 必 然 化 し 、 真 実 化 し て行 く 営 み に ほ か な ら な い こと 。
この ︿ 推 敲 ﹀ は 、 ど の よ う な 能 力 を み せ て く れ るも の で あ ろ う か 。 東 洋 美 術 ・美 学 の専 門 家 であ り 、 西 尾 実
先 生 と 同 郷 で 同 級 生 、 同 じ 長 野 県 で指 導 にも あ た って お ら れ た 金 原 省 吾 氏 に 優 れ た ︿ 推 敲 ﹀ の 研 究 が あ る。 ﹃ 構
想 の研究﹄ ( 昭 和 八年 七 月 刊 行 ) が そ れ であ る (﹃ 近 代 国 語 教 育 論 大 系 一八 ﹄ 再 録 、 昭 和 六 二 年 一二 月 、 光 村 図 書 )。
東 京 のあ る 一小 学 校 の甲 乙 二 ク ラ ス の児 童 を 対 象 に 、 昭 和 三年 一月 か ら 二 月 上 旬 に か け て の作 業 結 果 を 分 析 ・
考 察 し た も の で あ る。 課 題 ﹁雪 ﹂ に つ いて 、 予 告 な し の第 一回 目 、 二十 日 ほ ど 経 過 し て の第 二回 目 、 さ ら に そ の
三 日後 に 第 三 回 目 と いう よ う に 二 回 の推 敲 学 習 が お こ な わ れ 、 三 回 の作 品 に つ い て、 十 九 点 が 分 析 ・考 察 さ れ て
いる 。 適 切 な 時 間 を お いて の ︿ 推 敲 ﹀ 作 業 だ け に、 次 々と 課 題 を 変 え て書 か せ て いく 場 合 に は み え に く い能 力 の 解 明 が み ら れ る 。 甲 組 十 九 人 の作 品 に つ いて の考 察 に 限 って み て い る。
︿推 敲 ﹀ で あ る か ら 、 西 尾 実 先 生 も 重 点 を お か れ た ︿ 構 想 ﹀ が ど の よう に発 展 し て いる か に 主 眼 が お か れ る 。 そ の 類 型 は 、 次 のよ う に考 察 ・分 類 さ れ て いる 。
1、 展 開 形 式 。 一、 二、 三 (回 目 の作 品 のこ と ) 共 に 展 開 の 連 続 す る も の 。 適 応 の 遅 速 は 様 々 であ る が 、 当
然 の深 さ に到 る 可 能 の途 を 示 し て い る。 展 開 形 式 の 一変 体 に 一回性 展 開 形 式 が あ る 。 こ れ は 一回 の展 開 の 後 に そ の展 開 を 止 め る も の であ る。 一 ・二 ← 三 、 ま た は 一← 二 ・三 。
2、 反 復 形 式 。 何等 の展 開 な く 、 之 を 反 復 す る に 過 ぎ な いも の。 一 ・二 ・三 。 適 応 性 は 早 い の であ る が 、 深 さ に は あ ら わ れ な い。
3、 変 換 形 式 。 一、 二、 三 共 に無 関 係 な 変 更 を す る も の で あ る 。 こ の断 絶 的 な 変 更 を な す も の の適 応 性 は早 い の で あ る が 、 深 さ に は到 り 難 い。 一 ・二 ・三 。
4、 附 加 形 式 。 適 応 は 早 い。 こ の 形 式 は 展 開 が な く て、 一の 終 り に新 し いも のを 附 加 し て之 を 二と し 、 二 の
終 り に ま た 新 し いも のを 附 加 し て 之 を 三と す る ので あ る 。 これ は 展 開 で は な く て 延 長 であ る 。 全 体 な るも の の分 化 並 び に帰 一で はな く て、 附 加 に よ って 尾 部 を 延 長 す る形 で あ る 。
5、 雑 集 形 式 。 尾 部 延 長 で あ って 、 ( 附 加 には 、) 自 ら 一つの 統 一があ る 。 然 る に こ れ は 推 敲 毎 に 雑 然 と し て
採 集 す る も の で、 全 く 統 一が な い。 そ し て附 加 形 式 の適 応 性 大 な る に 対 し て 、 こ れ は 遅 い。
6 、 混 合 形 式 。 展 開 、 反 復 、 変 換 、 附 加 、 雑 集 の 五 個 の基 本 形 式 中 、 反 復 を 除 去 し た 他 の 四種 形 式 の混 合 で
あ る (十 九 作 品 中 は 、 一つ)。 展 開 変 換 形 式 で あ る 。 こう いう 混 合 形 式 は 一般 に適 応 は 早 い が 、 持 続 が 小 さ い。
こ のよ う に展 開 の基 本 形 式 は 見 出 さ れ た が 、 これ ら が 児 童 に 固 有 のも のか 、 変 化 し て いく も のな の か 、 一人 に
含 む 割 合 な ど 、 調 査 事 例 の数 か ら 結 論 を 下 す こ と が で き な い、 と 金 原 氏 は 述 べ て いる 。 こ の 後 を 継 ぐ 者 の責 務 で
あ ろう 。 が 、 少 な く と も 、 次 のよ う な 重 要 事 実 は 確 か め え た 、 と 断 言 し て お ら れ る 。 四 箇 条 あ る が 、 指 導 法 と 関 わ り が 深 く 、 能 力 に つ いて は 、 そ の第 一の問 題 だ け を 取 り 上 げ て み た い。
そ の第 一は 綴 方 の能 力 の 問 題 であ る 。 能 力 の劣 等 な 生 徒 は経 験 が 経 験 の形 で 其 の儘 に あ る か ら 、 最 初 か ら
生 彩 が あ る 。 し か し これ は内 観 化 の 傾向 を 取 り 得 な い の で、 推 敲 に よ る 展 開 が な い。 然 る に能 力 の優 秀 な 生
徒 は 経 験 を 思 惟 化 し て い る か ら 、 第 一回 に は 概 念 化 さ れ た 筋 書 の形 で 出 てく る 。 そ し て 第 二 回 か ら そ の 概 念
を 具 体 的 な 形 に 活 か し て行 く 。 一度 思 惟 化 さ れ た 経 験 で あ るだ け に、 そ れ は具 体 的 な 経 験 と な っても 、 心 の
全 体 の背 景 を 持 ち 、 随 って内 観 的 な 深 さ に達 し 得 る。 優 秀 と は 展 開 可 能 性 の無 限 な る意 味 であ る か ら 、 能 力 優 秀 な る生 徒 は 綴 方 に 於 い ても 亦 、 そ の 優秀 を 示 し 得 る の で あ る 。
こ の指 摘 は 、 ﹃構 想 の研 究 ﹄ の ﹁序 ﹂ に あ る 、 次 の考 え を 反 映 し た 言 及 で あ る 。
﹁綴 方 或 は 作 文 の成 績 は 思 わ し く な い。 素 質 のあ る生 徒 は ず ん ず ん 延 び る が だ め の生 徒 は い つ迄 た って も だ め
である。そ の上に この教科 ( 綴 方 の こと ) の才 能 は 、 他 の教 科 の才 能 と は ち が って い る。 他 の教 科 で は 鈍 才 のも
の が 、 か え ってよ く 出 来 た り す る 。 し か し 私 は こ の 二 つの上 に 久 し いこ と 疑 問 を 持 って いた 。 学 校 で 分 数 や電 気
を 教 え る 場 合 に は 、 理 解 力 のな い生 徒 にど う し て理 解 さ せ る か に 苦 心 す る のが 常 であ る。 し か る に綴 方 や 図 画 で
は 、 だ め な も のは だ め と し て、 才 能 のあ る も のだ け を 対 象 に し よ う と す る 傾 き が あ る 。 問 題 は こ のだ め の生 徒 を
如 何 に す る か に あ る。私 は 実 験 し て み た 。そ れ が ( 上 に引 用 し た ︿ 構 想 の展 開 形 式 ﹀に ふ れ て いる 部 分 ) であ る 。﹂ こ こ に は 、 ﹁書 く こ と ﹂ の能 力 を 考 え る 上 で、 いく つか の留 意 点 が含 ま れ て いる 。
(?) ば か り で あ る (つま り 、 指 導 が な い) こ と 。
︿成 績 が 思 わ し く な い﹀ こ と 。 個 人 の資 質 にば か り 頼 って いる こと 。 言 い換 え る な ら 、 ︿ 理解 さ せる苦心 なし﹀ の指 導
し か し 、 興 味 あ る指 摘 は 、 一回 限 り の表 現 活 動 で 、 他 教 科 の 理 解 に苦 心 す る児 童 が 、 生 彩 あ る 文 章 の書 け る こ
と で あ る 。 さ ら に 注 目 し た のは 、能 力 のあ る 児 童 は推 敲 を 重 ね る ご と に 深 み のあ る 表 現 に達 す る こと であ る。 推
敲 の 強 力 さ を み る 思 いが す る。 が 、 こ の ︿ 能 力 のあ る ﹀ と いう のは 、 他 教 科 の教 科 名 か ら 推 察 でき る よう に、 理
科 系 の教 科 を さ し て いよう 。 確 か に 、 理 系 に 強 い児 童 ・生 徒 は 、 抽 象 能 力 に 優 れ 、核 心 を 短 く 、 的 確 に 表 す 傾 向
を も つ。 そ の特 性 か ら 、 概 念 的 抽 象 的 表 現 に な り 、 記 述 分 量 は 増 加 し な い。 湯 川 秀 樹 博 士 も 京 都 の小 学 校 で学 ん
だ 折 、 作 文 の授 業 では 、 二五 〇字 以 上 は 書 け な い で 、 友 だ ち の動 か す 鉛 筆 の音 を 耳 に し て地 獄 の沙 汰 であ った 、
と ﹃本 の中 の世 界 ﹄ (岩 波 新 書 ) で 述 懐 し て お ら れ る 。 のび の び と 書 く 傾 向 に あ る文 系 に 比 べ て 、 理 系 に 適 性 の
あ る 学 習 者 は 、短 く 、 的 を 射 た 、凝 集 し た 表 現 を 得 意 と す る。 な ら ば 、 そ のよ う な 方 向 に適 し た 表 現 指 導 が あ る
べき で は な いか 。 理 系 の、 ま た 、 現 在 では 情 報 化 時 代 に 生 き る こ れ か ら の日 本 人 に求 め ら れ て い る の は 、 ま ず 簡
潔 で あ る こと 、 そ の上 で趣 旨 の明 快 な 文 章 表 現 と いう こ と にな ろ う 。 こ の点 を 金 原省 吾 氏 が ︿第 一﹀ に あ げ た 問
題 で 明 ら か に さ れ て いる 。 これ か ら の ﹁書 く こ と ﹂ の指 導 の大 切 な 力 点 に な って いく は ず 。
そ れ は そ れ と し て、 一度 でも ︿ 生 彩 あ る文 章 ﹀ が 書 け れ ば 、 ど ん な に救 わ れ る こ と か 。 最 初 に 少 し で も 書 け れ
ば 、後 は 指 導 の問 題 だ 、 と 考 え る こ と が でき よ う 。 実 は 、 ほ と ん ど の教 室 に は 、 あ る ま と ま り のあ る文 章 の書 け
な い児 童 が 、 ご く 少 数 で あ る が 、 いる の で は あ る ま いか 。 前 掲 の 西 尾 先 生 の表 に も 、 ︿未 展 開 ・不 明 ﹀ の 作 品 が
あ る 。 東 京 の小 学 校 六 年 生 甲 組 に は 、 女 子 四 五 名 も いる 。 残 り の作 文 に つ い ては ふ れ ら れ て いな い。 取 り 上 げ ら
れ て いな い層 が あ る の で は な いか。 書 け な い児 童 を ど う す る の か 、 こ の 問 題 が さ ら に 一段 と 大 き く 意 識 さ れ 、 指
導 の 重 点 に な って いく の は 、 戦 後 であ る 。 ﹁綴 方 ・作 文 ﹂ と いう 、 原 稿 用 紙 を す ぐ に 思 い浮 か べ 、 作 品 と し て個
人 の 成 果 を 問 いが ち な 名 称 か ら 、 ﹁ 書 く こと ﹂ と いう 、 記 述 活 動 の全 て を 取 り 上 げ よ う と す る 変 化 に 、 そ の動 き は 鮮 明 で あ る。 そ こ で 、次 に 、 戦 後 を 取 り 上 げ て いく 。
︵三︶ 戦後 の継続 研究 ︱書 く こと の 生 活 化 と 社 会 的 な 通 じ 合 い
ま ず は 、 戦 後 、 や や 生 活 が 安 定 を み せ 始 め た こ ろ の 調 査 (昭 和 二 八 年 か ら 三 六年 ま で の期 間 ) を み て い こ う 。
﹃ 小 学 生 の言 語 能 力 の 発 達 ﹄ ( 国 立 国 語 研 究 所 編 、 昭 和 三 九 年 一〇 月 、 明 治 図 書 刊 行 ) であ る。 タ イ ト ル に 示 さ れ
て いる よ う に、 ︿言 語 能 力 ﹀ 全 般 に わ た る 総 合 的 な 調 査 で、 綿 密 な 分 析 が ほ ど こ さ れ 、 貴 重 な 成 果 を あ げ て いる 。
が 、 こ こ でも 、 児 童 作 品 を み て いく 観 点 だ け に 限 ら ざ る を え な い。 そ れ も 、 項 目 に 限 ら れ る が 、 児 童 作 品 を み て
いく のに 有 効 な 支 え を あ た え てく れ る (﹁第 四 編 言 語 ス キ ル の発 達 ﹂ の ﹁Ⅱ 作 文 力 の発 達 ﹂ の 項 目︱ 目 次︱ よ り )。
(1) 取 材 能 力 、 (2) 主 題 把 握 の観 点 、 (3 ) 主 題 の 統 一度 、 (4) 構 想 力 、 (5)
段 落 、 (6) 記 述 力 、 (7) 使 用 語 彙 、 (8 ) 文 体 、 (9) 推 敲 能 力
(1) 文 法 と 表 記 能 力
(1 ) 文 字 量 、 (2 ) 文 数 、 (3) 記 述 速 度
内 容 面 に み ら れ る 発 達︱
計 量 面 か ら み た 発 達︱ 形 式 か ら み た 発 達︱
考 察 し て いく 場 合 の諸 項 目 が 、 整 然 と 並 ん で い る。 戦 前 の調 査 ・考 察 と も 重 な ると こ ろ があ り 、 そ の意 味 で は
変 わ ら ざ る観 点 の 保 持 さ れ て いる こと が 認 め ら れ よ う 。 特 に 、 ︿内 容 面 ﹀ に つ い て は 、 先 人 の業 績 を ふま え 、 そ
の細 分 化 を は か って い る面 が よ く わ か る。 大 規 模 で 、 地 域 の広 が り も あ る収 集 調 査 な の で 、発 達 研 究 と し ては 数
量 化 を は か り 、 よ り 客 観 的 な 提 示 に 努 め て いる 。 六 年 間 以 上 の調 査 であ り 、 そ の期 間 、 発 達 分 析 の観 点 は 模 索 さ れ 、見 出 さ れ 、数 量 化 さ れ て検 証 さ れ て でき た 観 点 であ ろ う 。
し か し 、 た く さ ん の作 品 を み れば 、 す ぐ に 見 方 が わ か る と いう こ と に は な ら な い。 一作 品 ご と に分 析 ・考 察 し
て いく 観 点 を し っか り も つ こと が第 一条 件 であ る 。そ れ を も ち つ つ、 一学 期 ご と 、 一学 年 ご と と 拡 大 し て いく と 、
修 正 し な が ら 徐 々 によ り 適 切 な 観 点 に 育 って いく 、 こ れ が 第 二条 件 であ る 。 さ ら に 、 六 年 間 の経 過 を 展 望 し て の
観 点 と も な れ ば 、 い っそう ふさ わ し いも の 、揺 れ の少 な いも の に 築 き 上 げ ら れ て いこ う 。 こ れ が 第 三 の条 件 であ
る。 す な わ ち 、 発 達 研 究 と いう 広 い視 野 の求 め ら れ る対 象 こ そ 、 児 童 作 品 の 一つひと つを み て いく 際 、 こ の上 な
い適 切 な 観 点 を あ た え てく れ る 。
が 、 こ こ で注 意 し て おき た い こと が あ る。 そ れ は ︿ 能 力 ﹀ と は いえ 、 日 ご と に成 長 を 重 ね て い る児 童 が 対 象 で
あ る 。 一所 に止 ま って は いな い。 動 き 回 って いる 児 童 の行 動 と 等 し く 変 化 を つづ け て いく の が ︿能 力 ﹀ の実 態 で
は あ る ま いか 。 な ら ば 、 固 定 で は な く 、 内 に 動 く 、 変 化 (す な わ ち 、 成 長 ) し て いく 、 ︿能 力 ﹀ と いう 観 点 が 、
観 点 全 体 を 支 え る も のと し て据 わ って いな く て は な ら な い。 た と え 固 定 さ れ 、 数 量 化 さ れ て い ても 、 そ れ ら は 、
も っと も 効 果 的 な 次 の指 導 ・支 援 を 営 む た め のも の であ る 。 そ こ に は 、 教 育 にお け る 調 査 ・研 究 の意 義 が あ る の だ から。
つま り 、 得 ら れ た 成 果 を 、 実 際 に 、 ど の よう に 活 用 す る か 、 そ れ が 問 題 に な る 。 そ のた め の、 実 に有 効 な 指 摘
を 、 倉 澤 栄 吉 先 生 が し て お ら れ る の で 、 次 に 引 用 し て お き た い (﹁作 文 教 育 に お け る 評 価 ﹂ 昭 和 四 五 年 六 月 刊 行 、 ﹃ 倉 澤 栄 吉 国 語 教 育 全 集 五 ﹄ 再 録 、 昭和 六 三 年 四 月 、 角 川書 店 刊 行 )。
今 ま で 私 た ち が子 ど も の作 文 を 見 る と 、 い つも 前 述 のよ う な 推 考 者 、 添 削 者 的 な 教 師 の立 場 で 子 ど も の作
文 に 接 す る こと が 多 か った 。 子 ど も の未 熟 さ を 指 摘 し て 、 直 し て や り た い と いう 立 場 で 臨 む 人 が 多 か っ
た 。 / こ れ に 対 し て 、 主 と し てよ さを み つけ て み よ う と いう 立 場 が 一方 に あ る 。 ( 中 略 )/ 欠 陥 発 見 と いう 立
場 と そ の子 ど も の持 って いる 良 さ と いう も の を 見 いだ し て い こう と す る 立 場 と を 比 べ ると 、 作 文 の見 方 上 、
あ と の ほう の立 場 に 立 てば 立 つほ ど お も し ろく 、 前 の ほ う に立 て ば 立 つほ ど 負 担 を 感 じ る こと に な る。 否 定
的 立 場 に立 つと め ん ど う く さ いな と いう 感 じ に な って し ま う 。 ( 中 略 )/ し た が って欠 陥 の発 見 助 言 は 、 書 い
て いる と き 、 作 品 が でき るま で の過 程 で 指 導 し て や る べ き であ って、 で き 上 が ってし ま った ら 、も う 、 も っ
ぱ ら ほ め 手 ・受 け 手 ・認 め 手 にま わ る と いう の が 、 教 育 者 と し ては 、 原 則 だ と 思 う 。
こ の よう な 指 摘 に 出 会 え ば 、 は っと し て、 立 場 を 変 え る 教 師 も いよ う 。 教 育 ( 者 ) の実 態 に 寄 り 添 う 観 点 活 用
の視 点 は 、 児 童 の 心 の動 き に 立 つこ と を 意 味 す る 。 そ こ か ら 、 倉 澤 先 生 は 、書 き 手 の ﹁想 ﹂ を み て いく こ と を 提
(﹃ 全 集 ﹄) に あ た って ほ し い。 こ こ で
案 し て お ら れ る。 ︿ 正 ・適 ・豊 ﹀、 ︿統 一 ・連 関 ( 連 続 ) ・強 調 ( 力 点 )﹀ な ど 、 羅 列 で は な く 、 有 機 的 に 関 連 す る 関 係 のも と に、 いく つか の観 点 を 示 し てお ら れ る の で、 ぜ ひ 引 用 し た 文 献
は 、 先 生 の意 図 が端 的 に提 案 の形 で表 明 さ れ て いる 部 分 に 限 ら ざ る を え な い。
ア 、 想 が ど の よ う に し て 出 た か。
︵ 筆 者 は な ぜ こう いう 文 章 を 書 こう と し た の か と いう 意 図 ・動 機 と い った も のを 想 定 す る 。)
イ 、 そ う いう 発 想 の 下 に 、 ど んな も の に目 を つけ た か 。 ど う いう 素 材 を 材 料 に選 択 し た か。 ︵ そ の 場 合 に 伝 達 意 識 の よう な も の は あ る の か ど う か と いう こと を 考 え る。) ウ、 ど う いう 角 度 でそ れ を 取 り 上 げ て いる か 。 エ、 頭 の中 で どう いう よう に 組 み 立 て て いる か 。
オ 、 実 際 に文 章 を 書 く と き に 、 頭 の中 に 湧 き 起 こ る さ ま ざ ま な イ メ ー ジ を ど う 結 び つけ 整 え な が ら文 章 化 し て いく か 。
︵ そ れ ぞ れ の文 章 に つ いて こ の作 者 が も って い る情 感 と いう も のが どう であ る か を 考 え て み る 。 こ れ は 品
詞 分 類 や、 キ ー ワ ー ド の考 察 か ら も 出 てく る が 、 こ の 子 ど も が こ う いう も のを 書 く と き に 、 あ る いは 書 き
な が ら 、 ど う いう 情 感 を いだ いた の で あ ろう か の想 像 は き わ め て た い せ つで あ る 。 / 最 後 に 表 現 のも つ屈
折 を 考 え る 。文 章 表 現時 の内 的 屈 折 と も いえ る も の が ど う であ る か を 洞 察 す る の で あ る 。)
( 丸 括 弧 内 は 、 そ れ だ け を 連 続 し て読 ん で いた だ き た い。 括 弧 の内 外 の も の は 、 そ れ ぞ れ 、 別 の個 所 に 述 べ ら れ た も の であ る が 、 補 完 関 係 にあ る の で 、 あ わ せ て 引 用 し た 。)
﹁書 く こ と ﹂ の 能 力 に つ い て 、 児 童 作 品 を ど う み て いく か の ︿ 諸 観 点 ﹀ を あ げ て き た 。 最 後 に は 、 そ れ ら の観
点 を ど う 活 用 す れ ば よ いか の ︿視 点 ・態 度 ﹀ を あ げ た 。 いよ いよ 、 能 力 の ︿ 発 達 ﹀ 面 に ふ れ て いき た い。
二 ﹁ 書 く こと ﹂ の能 力 の 発 達 に つ いて
同 じ 学 級 、 同 じ 児 童 の小 学 校 六 年 間 に お け る ﹁書 く こ と ﹂ の発 達 に つ いて は 、 戦 前 か ら 試 み ら れ 、 記 録 ・考 察
さ れ て き た 。 前 にあ げ た 西 尾 実 先 生 の飯 田市 に お け る 継 続 も そ れ であ った 。 ク ラ ス担 任 と し て直 接 指 導 に あ っ
た 教 師 の研 究 と し ては 、 飯 田 恒 作 著 ﹃綴 る力 の 発 展 と そ の指 導 ﹄ ( 昭 和 一〇 年 九 月 刊 行 、 ﹃近 代 国 語 教 育 体 系 一二
昭 和 期Ⅲ ﹄ 再 録 、 昭 和 五 一年一一 月 、光 村 図 書 ) が 有 名 で あ る。 ぜ ひ と も 手 に と って いた だ き た い。
こ こ で は 、 昭 和 一〇 年 代 の小 学 校 児 童 の課 題作 文 を 対 象 に し て いる が 、 分析 ・考 察 は 昭 和 の 五 〇 年 に 近 い こ ろ
にな さ れ た 、 藤 原 与 一先 生 著 の ﹃小 学 校 児 童 作 文 能 力 の発 達 ﹄ (昭 和 五 〇 年 二 月 刊 行 、 文 化 評 論 ) を 取 り 上 げ る
こと に し た い ( 対 象 の児 童 は 、昭 和 一四 年 か ら 一九 年 ま で 、広 島 高 等 師 範 学 校 附 属 小 学 校 で学 ん だ 二学 級 の 児 童 )。
こ こ で も 、 著 書 のご く ご く 一部 分 し か あ げ る こ と が でき な い。 全 体 に 目 を 通 さ れ る こ と を 願 い つ つ、 関 連 す る 個
所 のみ を 引 用 す る。 ま ず 、 ︿発 達 ﹀ を 研 究 す る 意 義 か ら 。
表 現 者 た ち の 作 文 を 、 内 容 ・形 式 に つ い て、 最 高 の善 意 で理 解 す る こと に し た い。 洞 察 に つと め 、 そ の心
(内 容 に つ い ては も ち ろ ん 、 形 式 に つ い て も ) を く む こ と に し た い。 た と え ば 、 腰 く だ け の内 容 の文 章 が
あ った ば あ いに も 、 そ の い わ ゆ る 腰 く だ け を 、 当 人 の 思 考 発 展 のあ り さ ま 、 深 刻 な あ り さ ま と し て理 解 す
る 。 / こ れ は と 思 う こと が あ って も 、 す ぐ に は 言 わ な い。 自 己 を お さ え て時 を ま つ。 忍 耐 づ よ い観 察 ・指 導
に つと め る 。 /作 文 教 育 は 、 長 期 計 画 の指 導 であ る 。 批 正 す べき こ と も 、 考 え てす こ し ず つと り た て て 、 気
な が に指 導 す る。 人 間 味 ゆ た か な 、 あ た た か い指導 にま さ る も の は な い。 ( 中略)
年 々 に 伸 び る のだ 、 と 期 待 し て ( 待 望 し て ) (忍 耐 し て )、 そ の時 々 の作 文 を 見 て いく 。 そ し て、 そ れ を や さ し く と り あ げ る 。 / 六 年 生 のも のを 見 ら れ た い。 み んな 、 伸 び て いる 。
す べ て は 、 し だ いに 発 達 し て いく も の です 。 いろ い ろ な 階 梯 を ふ ん で 、 人 は し ぜ ん に 発 達 し て いき ま す 。
( 中 略 ) ど う か 、 す べ て を 、 ほ ほえ み を 持 って 、 お 見 と ど け く だ さ いま せ 。 つね に 、 そ こ そ こ に 、 天 真 の作 者 の、 美 し い姿 が あ る は ず です 。
こ の段 落 に つづ い て、 藤 原 与 一先 生 は 、 ﹁私 は 、 研 究 上 、 す べ てを 、 た っと いも の と し て 、 ⋮ ⋮ ﹂ と 述 べ て お
ら れ る 。 く り 返 し 用 いら れ て いる ︿す べ て﹀ が 雄 弁 に 語 る よう に、 発 達 の視 点 に た てば 、 作 文 教 育 の 、 ﹁書 く こ
と ﹂ の 、 平 坦 と は いえ な いが 、 希 望 のも て る大 道 の みえ てく る こ と が わ か る ( 考察 された児童作 品 には、写真を
か か げ 、表 記 の実 態 ま でを ふ く め て ︿す べ て﹀ を 提 示 さ れ て い る 。 唯 一の 例 で は な いか )。
発 達 の全 面 信 頼 を 共 感 し つ つ、 先 生 の示 さ れ る ︿発 達 ﹀ の歩 みを み て みよ う 。
一年 生 か ら 二年 生 への歩 み では 、 ま こと に大 き な 伸 び を 示 す 。 二年 生 か ら 三年 生 へのう つり ゆ き も 注 目 す
べ き も の で あ る。 三 、 四 年 生 は 、 大 き く 総 合 し て観 察 す る こと も でき よ う か 。 五 、 六 年 生 が ま た 、 総 合 的 な
観 察 を ゆ る す と 思 う 。 そ れ に し ても 、 六 年 生 と も な る と 、 いわ ば 最 終 段 階 であ る の に ふ さ わ しく 、 高 次 元 の
構 想 力 ・整 頓 力 を 示 す の が注 目 さ れ る 。 / 小 学 校 児 童 の作 文 能 力 の発 達 を 学 年 順 に 見 て いく の に 、 発 達 相 を
小 き ざ み に と ら え て いく こと も 必 要 で あ ろう 。 が 、 他 面 、 発 達 相 を 大 き ざ み ・大 ぐ く り に と らえ て み る こ と も 、 ま た 、 必 要 か つ有 効 であ る と 思 わ れ る 。
多 人 数 に よ る 統 計 的 な 研 究 な ら 、 細 か いき ざ み の項 目 評 価 も 可 能 であ ろう 。 が 、 実 際 の指 導 に あ た って は 、 多
数 の項 目 か ら な る 分 析 ・考 察 、 か つ評 価 は、 む ず か し い。 現 実 問 題 と し て 可 能 か ど う か 。 ま ず は 、 大 き ざ み の発
達 の姿 を 描 いて お い て、 各 学 年 の発 達 を み て いく の が適 切 であ ろ う 。 次 に 、 先 生 の指 摘 さ れ る 学 年 ご と の発 達 相 を示す 。
第 一学 年 総 体 に 、 事 例 列 挙 の叙 述 体 が 目 だ つ。 こ と が らを つぎ へ つぎ へと 羅 列 し て いく 。 た だ し 、 こ れ
を 一年 生 な り の 文 章 展 開 と 言 う こと が で き よう 。 / 生 活 内 容 の流 露 ・展 開 に 即 応 す る か の よ う に、 (中 略 )
句 読 点 も ほ ど こ さ れ な いま ま 、 め ん め んと 、 文 章 の 展 開 を 見 せ て いる 。 / 文 表 現 を 現 在 法 の言 いか た で む す
ん だ り 、 完 了 法 の言 いか た (﹁た ﹂ ど め ︶ でむ す ん だ り す る こ と も ま た 、 表 現 者 た ち は 、 む と んち ゃく に こ
れ を お こ な って いる か の よう で あ る。 つま り 、 現 在 法 や完 了 法 の意 識 は 、 未 発 達 であ る と 言 え る 。
第 二学 年 も は や 相 当 量 の漢 字 も つか って 整 然 と 書 き あ ら わ し た 作 文 が 、 こ と に 、女 児 が わ に 見 ら れ が ち
か 。 /句 読 点 に も 見 ら れ る と お り 、 か れ ら の文 意 識 は 成 長 し て いる 。 ﹁文 ﹂ の と り あ つか いが 進 歩 し て いる
の であ る 。 結 果 と し て、 よ り 明 瞭 な 文 表 現 が 見 ら れ る よ う に な って いる 。 いわ ゆ る敬 体 と いわ ゆ る 常 体 と の
これと 文 意識 の進歩 と が相 即す
混 在 す る こ と も 、 思 いの ほ か にす く な い。 / 内 容 に 即 し て 言う な ら ば 、 当 然 の こと な が ら 、 生 活 の事 実 のと ら え か た が 向 上 し て い る 。 複 雑 に も な り 、 多 角 的 に も な っ て い る 。︱
る 。 /ず い ぶ ん 長 く 書 け る よ う に も な って き た 。 内 部 へ、 す こし であ る が 、会 話 を 入 れ る こと が でき る よ う に な って いる 。
第 三学 年 一年 生 の段 階 か ら 六 年 生 の段 階 ま で を 通 覧 し て 、 私 が注 目 し た く 思 う の は 、 こ の三 年 生 の段 階
であ る 。ど の表 現 者 も 、 こ の段 階 に な ると 、 いわ ば自 己 を 発 揮 し て、 あ る いは 興 を も って も のを 書 い て いる 。
生 活 表 現 の作 文 と いう し ご と が 、 こ の こ ろ に な る と 、 お のず か ら 軌 道 に の ってく る か のよ う で あ る 。 読 ん で
い て 、 か れ ら の 闊 達 な 成 長 を 感 じ る 。 印 象 ぶ か い のは 、 表 現 者 た ち の表 記 の状 況 が 、 か な り ど っし り と し て
き て いる こ と であ る 。 / 述 べ て い る内 容 に 、 各 自 の意 見 が 出 て い る 。 (中 略 ) 叙 述 に 深 み が で る よ う に な っ
て いる と 、 私 は 見 る の で あ る 。 / 会 話 を 入 れ て、 文 章 を つづ る こと に 関 し て も 、 あ る いは 、 女 児 た ち のも の
が 、 いち だ ん と 注 目 さ れ る か も し れ な い。 / 男 児 た ち に 、 ﹁であ る ﹂ 調 の見 ら れ る のも 、 な る ほ ど と 思 わ れ
る こと で あ る 。 ( お さ な さ か ら の脱 皮 と いう のが 、 今 、 私 の いち ば ん言 いた いこと であ る 。)
第 四 ・五 学 年 判 断 力 と も いう べき も の の成 長 が 認 め ら れ る 。 /会 話 が 、 自 由 に と り い れ ら れ る よ う に
な って いる 。 か り に 、 よ わ い文 章 と 言 え ば 言 え る よ う な ば あ い にも 、 会 話 が書 き あ ら わ さ れ て い る 。 / 複 文
の 使 用 さ れ る こと と 、会 話 を と り こむ 技 法 の見 ら れ る こと が 、並 行 し て いよ う か 。 こう な って、 お のず か ら 、
長 い文 章 も 生 産 さ れ て いる 。 と こ ろ で、 こ こ に 注 意 さ れ る の は 、 接 続 助 詞 が 用 いら れ て 、 長 い複 文 の セ ン テ
ン ス の つく ら れ る ば あ いに も 、 そ の 接 続 助 詞 は 、 順 接 のも の で あ ると いう こ と であ る 。 逆 接 の接 続 助 詞 が 出
て こな い。 か れ ら は ﹁∼ だ け れ ど も ﹂ な ど と は 言 って いな い。 ど う し て、 こう 逆 接 の 表 現 が で き て いな い の
だ ろ う か 。 思 考 法 の発 達 段 階 と いう も の かと 思 わ れ る 。 / 逆 接 表 現 は 見 せ て いな いけ れ ど も 、 長 く 書 く 興 味
を よ く 見 せ て いる 。 表 現 を く ふ う す る 力 も わ い てき て い る の で あ る 。 叙 景 も 、 巧 み に な って いる 。 /文 字 に な れ て、 や や 雑 にも 書 い て み た り す る よ う にな って い る。
第 六 学 年 六 年 生 の作 文 で、 多 く のば あ い、 思 わ れ る こと であ る が 、 そ の作 文 は 、 そ れ ま で に いろ いろ に
述 べ てき た こと を 、 最 終 的 に 総 ま と め す る よ う な も の にな って い る 。 / こ の 次 元 の作 文 は 、 お ち つき と 、 と き に客 観 化 と を 見 せ る 。
六 年 生 のも の で 、 か な り は っき り と う か が わ れ る 、 段 落 が え の意 識 も 、 す でに 、 五 年 生 のも の で 、 か な り
看 取 す る こ と が で き る。 / そ れ に し ても 、 六 年 生 の も のを 見 と お す と 、 も は や 、 おと な び て き た な と も 思 わ
せ ら れ る の で あ る 。 (中 略 ) お と な び た と いう こ と は 、 思 考 力 が た け た と いう こと で も あ る 。 分 析 力 ・総 合
力 が つ いた と いう こと で も あ る。 し た が って か れ ら は 、 事 実 を 把 握 す る つよ い力 を 見 せ る よう にな っても い
( 接 続 助 詞 を 用 い る セ ン テ ン ス ) の自 由 に書 け る 段 階 と も 言 え
る の であ る 。 (こ れ を 分 別 力 が でき て い ると も 言 う こ と が でき よ う か 。) 六 年 生 の段 階 は 、 ひと く ち に言 って、 複 文
よ う か 。 そ れ に し て も 、 逆 接 の表 現 が ほ と んど 出 て こな い のが 注 目 さ れ る 。
以 上 の よう な 考 察 を 導 か れ た 児 童 作 品 の ︿見 か た ﹀ を 、 参 考 ま で に次 に か かげ てお き た い。 比 較 参 照 の た め 。
①作文内 容 ( 作 者 の生 活 経 験 、 作 文 の価 値 内 容 を な す も の) ② 発 想 ・着 想 (き り こ み か た 、 問 題把 握 )
む し ろ、 ﹁ま と め る力 づ よ さ ﹂。 集 中 力 が 発 揮 さ れ ては じ め て、
表 現力 ( 第 一に 語 彙 、 第 二 に表 現 法 す な わ ち 生 き た 文 法 、 第 三 、 一作 文 で の全 体 に み ら れ る集
③全体構 造 ( 作 品 に 即 し て 、 段 落 の 状 況 を 大 観 し た 時 、全 体 構 造 が み ら れ る ) ④ 叙 述 面︱ 中 度 ・緊 縮 度 、 つま り 、ま と ま り の よ さ︱ テ ー マの は っき り と し た 作 文 が でき る)
⑤表 記法 ( 表 記 は 、 け っし て作 文 の末 端 では な い。 作 文 のし あ げ そ のも のが 表 記 面 で あ る 。 叙 述 面 は 表 記 面 と 、 ま った く 一枚 のも の であ る ) ⑥ 推 敲 ・念 入 れ
よ り 詳 し い学 年 別 、 観 点 別 の発 達 に つ い ては 、 こ れ ま で に あ げ た 文 献 を 参 照 し て いた だ き た い。 飯 田恒 作 氏 の
も の、 特 に 国 立 国 語 研 究 所 のも の には 、 細 か い、 項 目 別 の 、 て いね いな 分 析 ・考 察 が あ る の で、 細 部 は そ れ に 譲
り、小学校 六年間を見 通し た、量的な ( 字 数 の) 学 年 別 の変 化 を 示 し て、 発 達 の大 観 と し た い。
石 森 延 男 先 生 のも の は 、 ﹃綴 方 への道 ﹄ (昭 和 一〇 年 刊 行 、 ﹃ 石 森 延 男 国 語 教 育 選 集 ﹄ 第 一巻 再 録 、 昭 和 五 三 年 九 月 、 光 村 図 書 ) の巻 末 に 原稿 が す べ て 掲 載 さ れ て い る。
次 表 を み る と 、 六年 間 が 均 等 に 、 ま た は 同 じ 割 合 で、 発 達 し て いる の では な い事 実 が わ か る。 一年 か ら 二年 へ
の伸 び 、 三年 の目 を 引 く ほ ど の伸 び 、 高 学 年 で の停 滞 気 味 の 実 態 な ど 、 大 き ざ み な 発 展 の姿 と し て 、 こ の数 量 を 記 憶し ておこう。
な お 、 石森 先 生 の作 文 教 育 論 は 、 上 記 の選 集 に 五 点 あ る。 いず れ も 平 明 で 、実 作 家 であ り 、 教 育 者 であ り 、 教
育 行 政 家 であ った 先 生 の、 経 験 と 発 想 豊 か な 、 ユ ニー クな 作 文 教 育 論 に 出 会 う こ と が で き る 。 発 達 の姿 を 個 人 の
六 ヶ年 に み る こと に つ い て、 先 生 は 次 の よ う に述 べ てお ら れ る 。 発 達 のま と め と し て 、読 ん で いた だ く こと に し た い。
各 学年 の 一般 の程 度 と か 、 傾 向 と か 、 形 式 と か いう も のを よ く 察 知 す る こ と が 、 綴 方 教 育 に 於 い ては 、 大
切 な こ と であ る こと は いう ま でも な いが 、 又 、 一人 の子 ど も が 、 いか に、 学 年 のす す む に し た が っ て、 成 長
し 、 変 化 し 、 停 滞 し 、 展 開 し て いく か 、 そ の六 ヶ年 を 通 じ て 描 か れ た 紆 余 曲 折 す る 生 き た 文 章 行 路 を 、 静 か
に反 省 し 、 展 望 し 、 追 懐 し て 、整 理 し て み る こと も 、 子 ど も の文 を 知 る上 に 、 貴 重 な 手 が か り にな る の で は あ るま いか と 思 う の であ る 。
幸 い僕 の長 女 が 、 書 き つづ け た 文 が 、 一年 生 か ら 六 年 生 ま で のも の が 、 そ のま ま 保 存 さ れ て あ る の で 、 こ
れ を こ こ に掲 げ る こ と に し よ う 。 長 女 の綴 方 能 力 は 、 そ ん な に 劣 って い る方 だ と も 思 え な いが 、 と い って 、
す ぐ れ て い ると は 、 な お さ ら 思 え な い。 いわ ば 中 ど こ ろ の成 績 であ ろ う 。 僕 た ち が 、 い ろ いろ と 問 題 に す る
綴 方 能 力 は 、 む し ろ こ の 中 ど こ ろを 、 目 標 に し て い ると いう こ と か ら す れ ば 、 こ こ に 掲 げ よう と す る 文 は 、 適 切 なも のと 考 え る の であ る 。
児 童 作 文 は 千 差 万 別 の実 態 故 に、 本 稿 で は 観 点 のみ を 示 し た 。 具 体 的 な 作 品 に つ いて は 、 い っさ い掲 載 で き て いな い。
こ れ か ら 手 に さ れ 、 目 に ふ れ る児 童 作 品 に、 以 上 の観 点 を 適 用 し て 、 児 童 た ち 一人 ひと り が 、 ﹁書 く こと ﹂ が 楽 し く 、好 き にな る よ う に活 用 し ても ら う こと を 、 願 って い る。
第 四 章 書 く こ と の学 習 指 導 と そ の体 系
一 大切な準 備学 習
ど の学 習 にも 実 効 を あ げ る た め に は 、準 備 の前 段 階 が 欠 か せ な い。と く に苦 労 の 予感 を 与 え が ち な ﹁書 く こ と ﹂
で は 、 そ の準 備 段 階 の有 無 が 、 以 後 の成 果 を 決 め て しま う ほ ど の 重 要 性 を も って いる 。 そ の準 備 と は 、時 間 と 教
科 を 問 わ ず 、 印 を つけ た り 、 メ モ ふう に 書 いた り す る こ と を 含 め て 、 折 り あ る ご と に ご く 気 軽 に 書 き つけ て いく
誘 い で あ る 。 作 文 と か 書 く と いう 意 識 な し に、 さ っさ と 印 を つけ て いる と か 、 ひ と こ と感 想 を 書 い て いる と か と
い った 活 動 を く り 返 す 。 折 り あ るご と に 書 いて いく 経 験 が 重 な り 、書 く こと を 苦 痛 と も 感 じ な い で、 書 い て い る
よ う にす る 。 こ の態 度 を ﹁書 き 慣 れ て いる ﹂ と いう 。 そ の態 度 の で き て いる こ と が 、 国 語 科 で計 画 し てお こ な う
﹁書 く こと の学 習 指 導 ﹂ を 有 効 に 開 始 す る 条 件 であ る 。 準 備 学 習 のこ の よ う な 重 要 性 か ら 、 と く に ﹁ 短 作 文 の指
導 ﹂ と 名 づ け て積 極 的 にお こ な ってき た 。 書 く こ と の学 習指 導 の基 盤 と な り 、支 え と な り 、 い た る と こ ろ で効 果
を 発 見 さ せ る 営 みだ と 位 置 づ け る こと が で き る。 さ ら に は、 そ の範 囲 と 意 義 と を 示 す た め 、書 く こと の ﹁生 活 化 ﹂
と 名 づ け た り 、 ﹁習 慣 化 ﹂ と 呼 ん だ り し て き た 。 国 語 科 に お け る 書 く こと の体 系 的 な 指 導 の重 要 な 前 提 条 件 な の で 、 こ の問 題 は 、 章 を 改 め て (第 五 章 で ) 取 り 上 げ て い る。
二 体 系 そ の l 線 状 的 指 導 過程 に よ る ︱ 題 材 指 導 から 活 用 ・評価 へ
体 系 を ど う 構 築 し て いく か 、 こ れま で にも 幾 種 類 も 考 案 さ れ 実 行 さ れ てき た 。
も っと も 簡 単 で 理 解 し や す い のは 、 書 く 前 の指 導 、 書 いて い る最 中 の指 導 、 書 いた 後 の指 導 の 三段 階 で あ る 。 こ の 三 段 階 を 知 る だ け で 、 指 導 の 心 構 え は相 当 でき る と 言 いた い。
第 一に 、 課 題 と な る 題 名 ( 例 え ば 、 遠 足 、 運 動 会 な ど ) を 板 書 し て 、 ち ょ っと し た 注 意 だ け で 、 す ぐ に 原稿 用
紙 に 書 か せ て いく 授 業 は 、 姿 を 消 す だ ろう 。 第 二 に 、 書 く 前 に 何 を 指 導 ・助 言 す れ ば い い のか 、 指 導 者 自 身 で考
え て いく よ う に な る。 第 三 に 、 書 い て い る 最 中 も 助 言 が いる こ と 、 つま り 、 個 別 指 導 が いる こと 。 し た が って 、
も っと も 忙 し い時 で あ る こと を 知 る。 第 四 に、 書 いた ら 、 後 は 先 生 が 評 価 し て 終 わ り に な る の で は な く 、 書 いた
後 の活 動 が 児 童 ・生 徒 にも あ る こと な ど な ど 、 いく つも 指 導 す べ き こと が浮 か ん でく る 。
が 、 こ の三 段 階 は 、 区 切 り の明 白 な 点 で 理解 し やす い利 点 を も つが 、 何 を ど う 指 導 す れ ば い い の か 、 区 切 り だ
( 発 想 )← 構 想
( 構
け で は 明 ら か で は な い。 全 体 の 三 つ の段 階 だ け が 明 白 で あ る。 ね ら いも 、内 容 も 、 そ れ ぞ れ の段 階 ご と に、 さ ら に考 え て いか な く て はな ら な い。
こ れ に 対 し て 、 も う 少 し 複 雑 な 過 程 を 用 意 す る の が 、 一般 的 で あ る 。 つま り 、 題 材 ← 取 材
成 )← 記 述 ← 推 敲 ← 活 用 ← 評 価 で あ る。 こ のよ う な 命 名 を 見 る だ け で 、 各 過 程 に お け る指 導 の ね ら いは 明 ら か に
な る 。 そ れ に 、 細 か な ス テ ップ を ふ ん で いく こと で 、 一つひ と つの段 階 で はあ ま り 苦 労 す る 感 じ を も た な く さ せ
る利 点 を も つ。 記 述 ま で に 、 書 く 内 容 が だ ん だ ん と 明 ら か に な り 、 こ れ な ら 書 け そ う だ と いう 予 感 も 出 て き て、
記 述 に 勢 い が生 ま れ る。 も っと も 精 力 を 要 す る 記 述 作 業 だ け に 、 心 理 的 に も 期 待 感 を も って 作 業 に当 た ら せ る こ
と が で き る 。書 く の は つら い作 業 で あ る が 、 後 の活 用 と 評 価 で は 、 他 の学 習 で は と う て い実 感 でき な い手 ご た え と 誇 り を 得 て 、 学 習 の喜 び を 味 わ う 。 苦 労 し た だ け に 、 得 るも のが 大 き い。
細 か い段 階 を も つ指 導 体 系 は 、 学 習 者 の実 力 を 少 し 越 え る課 題 に取 り 組 む 時 が 、 も っと も 効 果 が あ る 。 簡 単 に
書 け る 課 題 で 、 す ぐ に で も 書 き た いと いう 場 合 に は 、 こ の よう な 過 程 を ふ む 必 要 は 、 な い。 遠 足 や 運 動 会 な ど の
狭 い対 象 を 課 題 に し た場 合 は 、 題 材 指 導 も いら な い。 す で に 、 教 師 の ほう で題 材 を 選 ん で いる のだ か ら 、 取 材 か
ら始 め れ ば よ い。課 題 読 書 の感 想 文 も 同 じ で あ る 。 が 、ど の過 程 段 階 を 重 視 す れ ば よ いか 、課 題 に よ って変 わ る。
し た が って、 体 系 的 な過 程 が あ る に し ても 、 細 か い過 程 が 必要 な 場 合 と 、 そ う で な い場 合 と の判 別 が 、 当 然 な が ら いる 。
例 え ば 、 題 材 指 導 は 、 体 系 的 な 過 程 の 最 初 にあ る が 、 こ れ は 広 い視 野 に た ち 、 国 語 科 は無 論 の こ と 、 他 教 科 の
中 で も 、 生 活 指 導 の 中 で も 、 随 時 、 書 く 題 材 を 見 つけ る よ う 注 意 を 促 す のが 最 上 の指 導 であ る 。 ど の過 程 で も 、 最 初 に く る 、 と は 限 ら な い。
こ のよ う に 細 か い過 程 を も つ体 系 は 、 自 分 が 実 践 す る指 導 計 画 を 見 通 す た め に 効 果 が あ る の であ って、 そ の 一
つひ と つに つ い ては 、 課 題 に よ って 変 化 さ せ 工 夫 し て いく 必 要 が あ る 。 そ れだ け 、 機 械 的 に 実 施 す る も の で は な
い。 重 点 と 工 夫 のあ り か を 見 定 め な が ら 、 活 用 し た い。 言 い換 え れ ば 、 過 程 の 一つ ひと つが 有 効 に 働 い て いる か
ど う か の点 検 を 、 各 々に つ いて お こな う 。 ス テ ップ を いく つか ふ ん で いく 作 業 が 続 く の で あ る か ら 、 ス テ ップ ご
と に 意 欲 が 高 ま り 、 予感 が 期 待 に な り 、 期 待 が 確 信 に な って いく よ う に盛 り 上 げ て いく 必 要 が あ る 。 一挙 に は そ
こま で も って いけ な い の で 、 徐 々 に、 押 し 上 げ て いく た め の過 程 で あ る。 一例 を 挙 げ る と 、 構 想 指 導 の段 階 で 、
細 かな と こ ろま で 構 想 表 に 記 入 さ せ 、 見 事 な 表 に 仕 上 げ ても 、 肝 心 の記 述 さ れ た 文 章 は 期 待 し た よ り も 生 彩 の乏
し いも の に な って いる こと が 、 よ く あ る 。 も し 、 時 間 が 許 さ れ るな ら 、 題 材 学 習 だ け 、 次 は 、 題 材 と 取 材 学 習 、
さ ら に 、 題 材 と 取 材 と 構 想 学 習 で終 わ る 。 こ のよ う に し て、 各 段 階 で の学 習 に力 を 注 ぐ 。 評 価 も 過 程 ご と にお こ
な う 。 各 段 階 の学 習 法 が わ か って応 用 でき る よ う に な ってか ら 、 次 の段 階 に す す む 。 文 章 に し て いく 材 料 と 書 い
て いく 順 番 を 決 め な が らも 、 新 た に書 く 材 料 が 加 わ り 、 構 想 表 を 書 い て いく 意 義 が の み こめ て か ら 、 次 に いく 。
つま り 、 記 述 と いう も っと も 精 力 の いる 作 業 ま で に 、次 々と 材 料 が 集 ま り 、 順 序 も 決 ま り 、期 待 感 が 高 ま る よう
に し て 、 記 述 に 入 る。 こ の学 習 の リ ズ ムが 大 切 であ る 。 前 の過 程 で の活 動 に よ り 、 次 の過 程 の学 習 に勢 いを も っ て 取 り 掛 か る と いう の が 、 体 系 的 な 過 程 で の指 導 の 要 点 と な る 。
推 敲 の学 習 も 体 系 で位 置 づ け ら れ て いる が 、 成 功 し た 実 践 を 見 る こと が 少 な い。 推 敲 学 習 が 成 功 し な い の で、
推 敲 す る よ り も 、 ク ラ ス全 体 に見 ら れ る問 題点 を 次 に書 く 学 習 で の最 重 要 点 と し て 取 り 上 げ 、 改 善 し て いく 、 と
いう 考 え も あ る 。 成 人 で も 書 い てす ぐ に 自 分 の文 章 を 推 敲 す る こ と は 困 難 であ る 。 書 き間 違 い ( 変 換 ミ ス )、 文
の ね じ れ と い った 、 不 注 意 の ミ スを 直 す 癖 を つけ る の は大 切 で あ る 。 そ の意 味 だ け な ら 、 ﹁読 み 返 し ﹂ だ け で よ
く 、 推 敲 と は 言 い にく い。 本 格 的 に 推 敲 に値 す る学 習 を す る に は 、 あ る 冷 却 期 間 を お く こ と 。 そ の間 に、 関 連 す
る 優 れ た 文 章 を 読 む と いう 学 習 が いる 。 精 一杯 書 いた 文 章 を 、 す ぐ に推 敲 せ よ 、 と 注 文 す る のは 、 あ ま り 文 章 で
苦 労 し た こと のな い先 生 では な いか 。 書 いた 経 験 が あ る か ら こ そ 、 他 人 の書 いた も のを 、 こ れ ま で 以 上 に注 意 し
て 読 む 。 な る ほ ど と 感 心 す る表 現 に も 出 会 う 。 た だ 読 む だ け で は 気 づ か な い特 徴 を 見 出 す こ と が あ る 。 文 章 研 究
と いう ほ ど で な く と も 、 そ れ に 類 し た 勉 強 は さ せ て お き た い。 目 が 高 く な って 、 初 め て自 分 の文 章 に も 改 良 点 の
あ る こ と に気 づ く 。 読 む こ と が 書 く こと と 深 く 関 連 し て いる 部 分 であ る 。 書 く こと が 書 く こ と だ け で は 学 習 で き な い事 実 を 示 し て いる 。
細 か い体 系 的 な 過 程 を 生 か す 観 点 を 一つ、 二 つ述 べ て き た 。 体 系 を 知 る こ と で 細 か な 指 導 が 可 能 に な る 。 実 力
を 向 上 さ せ る こ と が で き る よ う に な る。 が 、 体 系 は あ く ま で 、 そ れ を 活 用 す る指 導 者 と 学 習 者 のた め に あ る。 体
系 を 生 み 出 す 苦 労 は あ った ろう が 、 でき あ が った も のが 万 能 と いう わ け で は な い。 あ く ま で も 、 学 習 者 の学 習 実
態 か ら 目 を 離 さ ず 、 よ り 有 効 に体 系 を 生 か し て いく よ う 、 変 化 と 工夫 を 用 意 す る 必 要 があ る 。 そ のた め の 一つ の観 点 と し て 、 ま た 別 の体 系 を 示 し て みよ う 。
三 体 系 そ の 2 交 差 す る指 導 過 程 に よ る ︱ 文 章 の鑑 賞 ・評 価 か ら 題材 指 導 へ
これ ま で の過 程 に よ る 体 系 は 、 頭 脳 に あ る も のを 要 素 に 分 割 し た り 選 んだ り並 べた り し て、 言 語 に 表 し て いく
過 程 で でき て いる 。 一度 に 一語 し か 表 せ な いと いう 、 言 語 の 線 状 性 に 着 目 し て 、 大 き な 部 分 か ら小 さ な 部 分 に 及
び な が ら 、 頭 の中 の ﹁想 ﹂ を ﹁一語 一語 ﹂ に置 き 換 え て いく 。 こ の よ う な 諸 過 程 を 一直 線 に並 べ てみ せ た 体系 で
あ る 。 一方 向 に進 む 過 程 であ って、 そ れ だ け に組 み 立 て て いく 諸 段 階 が 階 段 状 に 現 れ る 。 一歩 一歩 と 進 ん で いけ ば よ いと の印 象 を 与 え る 体 系 で あ る。
これ に対 し て、 常 日 頃 か ら文 章 に親 し み 、 でき あ が った文 章 か ら表 現 の仕 方 を 学 ぶと いう 観 点 も 、 当 然 のこ と
な が ら 、 あ る 。 当 然 と いう のは 、 読 む文 章 と 書 く 文 章 と は 、 日 本 人 に と って は 、 ど ち ら も 同 じ 日 本 語 だ か ら であ
る。 程 度 の差 は あ り 、 質 の差 も 大 き い。 にも か か わ らず 、 同 じ 日 本 語 であ る 点 は 否 定 で き な い。 文 体 を 模 倣 し た
り 、語 彙 を 借 用 し た り 、文 型 を 生 か し た り 、 発 想 を 学 ん だ り 、 取 り 入 れ る べき と こ ろ は 、数 え 切 れ な いほ ど あ る 。
ち ょう ど 、 研 究 を 希 望 す る 者 が 研 究 法 や 研 究 入 門 書 か ら 入 る の が 普 通 であ る が 、 優 れ た 研 究 書 に 出 会 い、 衝 撃 と
と も に 研 究 の方 法 を 学 ぶ こ と も あ る 、 と いう の が そ の好 例 であ る 。 何 事 を 学 ぶ にも 、 最 初 は意 欲 的 な 模 倣 が 出 発 点 であ る 。 優 れ た 文 章 全 体 が 模 倣 の 、 学 ぶ対 象 に な る。
﹁こ れ が よ い、 こ れ で いく ぞ ﹂ と 学 ぶ対 象 に出 会 え ても 、 全 体 を 一度 に 学 ぶ こと は でき な い。 部 分 部 分 か ら 模
倣 し て い こう と す る 。 練 習 し て いく 観 点 を 手 に 入 れ て いく 、 と いう のが 実 情 に近 いで あ ろう か 。 こ の よう な 態 度
で、 書 く こと に お い て模 倣 し た り 、 取 り 入 れ た り 、 応 用 し た り し て いく こ と を 、 具 体 例 を 示 し な が ら 、 学 習 し て いく 。 た と え ば 、
① 題 名 (タ イ ト ル、 小 見 出 し ) ② 書 き 出 しと 書 き お さ め (の首 尾 照 応 ) ③ 段 落 相 互 の 連 携 ぶり ④ 各 段 落 の構 成 の仕 方 (長 ・中 ・短 の段 落 が に な う 役 割 分 担 ) ⑤ 文 の長 短 や 、 文 頭 ・文 中 ・文 末 な ど を 構 成 す る文 型 の選 択 ⑥ 語 彙 の選 定 ⑦ 表 記 法 の活 用
な ど 、 文 章 が も つ形 式 面 か ら の諸 観 点 を 念 頭 に お いて お く と 、 優 れ て いる 部 分 の指 摘 ・学 習 に 落 ち が な く 、 安 心 し て 活 用 し て いけ る。
形 式 面 か ら の長 所 発 見 は 、 必 ず 内 容 面 と 結 び つく 。 結 び つか な い形 式 面 は 、 機 械 的 な ド リ ル、 ス キ ル にな り が
ち で 、 面 白 み に も 意 欲 に も つな が ら な い。 ﹁書 き 手 は 、 こ の よ う な 意 図 で 、 こ の よ う な 効 果 を ね ら って い る 。 だ
か ら 、 こ の よう な 表 現 形 式 を と った のだ な ﹂ と いう 理 解 が いる 。 し か し 、 こ れ は 見 事 だ 、 優 れ て いる と 判 断 す る
と き 、 そ の判 断 を 生 む 契 機 と し て、 実 感 し て いる も の であ る 。 し た が って、 実 感 を 形 式 面 で再 確 認 し て いけ ば よ
い。自 分 の感 じ を 意 識 し て、分 析 す る癖 を つけ て いく 。紙 数 の 都 合 で詳 し く 例 示 で き な いが 、 一例 だ け 挙 げ る と 、
﹁ご ん ぎ つね﹂ ( 新 美 南 吉 ) の第 一部 で 、 ご ん が 最 初 に兵 十 に 出 会 う 場 面 が あ る 。 そ こ で は 、 一つ の段 落 が ﹁ふと
見 ると ﹂ で 始 ま って い る。 ご ん が 見 た も のを 、 こ れ か ら 描 い て いく 段 落 だ な 、 と 読 者 に は す ぐ わ か る。 段 落 の内
容 を 予 告 す る トピ ッ ク セ ン テ ン ス の役 割 を し て い る。 こ の役 割 を 知 って ﹁書 き 悩 ん で 、 鉛 筆 の止 ま って い る﹂ 児
童 の助 言 に活 用 す る 。 立 ち 止 ま って いる 原 稿 に 、 ﹁ふ と 見 る と ﹂ と 書 き 加 え て や る 。 す る と 、 ﹁あ あ 、 こ こ で 、見
た も のを 書 け ば い い のだ な ﹂ と 思 い出 し て書 い て いく 。 文 章 の許 す 範 囲 で の展 開 の 一つの観 点 を 指 示 す る。 こ の
よ う に 段 落 の最 初 の表 現 は 、 新 た に 段 落 を 設 け て新 た な 展 開 を 作 って いく 一種 の 標 徴 な の で 、 想 の 展 開 に悩 ん で
いる児 童 に有 効 な 観 点 を 与 え る こ と が で き る 。 こ れ は ご く 一例 に す ぎ な い。 上 に 挙 げ た 観 点 を 活 用 す れ ば 、 作 品
の全 て の部 分 を 生 か す こ と が で き る 。し か し 、 一度 に 、全 部 は 無 理 であ る 。応 用 可 能 な 部 分 部 分 か ら 取 り 上 げ て 、
少 し ず つ少 し ず つ、 学 習 さ せ て いく 。 交 差 す る体 系 と し た の も 、 こ の よ う に多 面 的 な 結 び つき を 想 定 し て のこ と
で あ る 。 こ れ な ら 、 学 ぶ 必 要 性 に 応 じ、 い つでも ど こ でも 、 生 か せ る 表 現 技 法 だ と 認 め た な ら 、 取 り 上 げ て 活 用
し て いく こ と が でき る 。 一方 向 の階 段 式 の体 系 に 、 柔 軟 な体 系 を 加 え て いく こ と で、 相 補 し な が ら 全 体 で 効 果 を
あ げ る こ と が 期 待 で き る。
日本 で は 、 体 系 そ の l に従 う 場 合 が多 い。 最 初 か ら 、 書 く 内 容 を 自 分 で探 し 、 自 分 で 構 成 し 、 文 章 の初 め か ら
終 わ り ま で、 自 分 の力 で書 い て いく 。 日 本 語 の特 質 で、 そ れ が小 学 校 の低 学 年 か ら 可 能 にな り 、 事 実 、 書 け る 児
童 も 多 い。 だ が 、 書 け な い児童 、 書 き 方 が ま だ のみ こ め て いな い児童 に は ど う であ ろ う か 。 他 人 の文 章 に 寄 り か
か り な が ら 、 そ の空 欄 を 埋 め て いく な ど の ド リ ルか ら 始 め て み る 。 つづ いて 、 主 語 を 代 え た り 、 述 語 を 別 のも の
に し た り し て いく 。 こ のよ う に書 く 観 点 と 方 法 を 具 体 的 に 与 え て 、 少 し ず つ、 自 分 で 書 い て いく 部 分 を 増 や し て いく と いう 練 習 方 法 は 、 手 探 り 状 態 の児 童 にと って は有 効 で はな いか 。
フ ラ ン ス で は 、 文 法 規 則 を 知 ら な いと 、 正 確 な 一文 も 書 け な い の で、 最 初 か ら 自 分 の力 で書 く よ う に 、 と いう
課 題 は な い。 文 法 や綴 り 字 を 学 び な が ら の書 く こと な の で、 正 し く 書 か れ た 成 人 の文 章 が モ デ ル にな る 。 模 倣 練
習 か ら 始 ま る ので あ る。 そ の模 倣 も 範 囲 は 広 く 、 文 を 越 え 、 文 の連 接 に 及 び 、 段 落 に ま で至 る 。 し た が って、 読
む た め の文 章 も も ち ろ ん 、 文 法 の 例 文 、 綴 り 字 の語 彙 な ど 、 大 は 段 落 か ら 、 小 は 一語 、 句 読 点 に 至 る ま で模 倣 練
(の モデ ル) に よ り な が ら 、 自 分 の世 界 を 広 げ て いく のは 当 然 と し て、 そ の上 に、 優 れ た 文 章
習 の モ デ ル に な ら な い表 現 は な い。 ( 優 れ た 文 章 の) 全 てが 書 く こと の モ デ ルに な る と い って過 言 で は な い。 そ の意 味 では 、 文 章
の良 さ を 存 分 に 摂 取 し な が ら 、徐 々に 自 分 の 文 章 に取 り 入 れ て いく 。そ の よ う な 道 筋 を 歩 む 。最 初 か ら 、 つま り 、
小 学 校 段 階 か ら す ぐ さ ま 個 性 的 表 現 を 求 め る と いう こ と は な い。 と は いえ 、 モ デ ル のも つ特 徴 を 学 び な が ら 、 そ
の特 徴 を 理 解 し 、 応 用 し て いく こ と が 求 め ら れ る。 理 解 を ふ まえ た 応 用 の段 階 で 、 学 習 者 な り の個 性 的 な 表 現 が
発 揮 さ れ る よう に 練 習 問 題 が 用 意 さ れ て いる 。 没 個 性 では な い。 言 い換 え れ ば 、 模 倣 と 独 創 が 直 ち に 対 立 的 な 関
係 に あ る 、 の で は な い。 優 れ た 表 現 に出 会 い、 そ れ を 学 び な が ら 自 分 の も のを 創 っ て いく 。 いわ ば 傑 作 と の格 闘
を と お し て、 真 の意 味 で の個 性 が 、 個 性 だ と 主 張 で き る ゆ る ぎ な い個 性 が 構 築 さ れ て いく 。 これ が教 育 観 の基 本 にある。
書 く こと の 教 育 にお いて も 、 こ れ に 従 って い る の で 、 模 倣 練 習 を 厭 わ な い。 技 能 主 義 だ 個 性 無 視 だ 、 と いう 声
(例 、 古 代 ギ リ シ ャ の叙 事 詩 ) 専 攻 生 に は 、 卒 業 認 定 試 験 にホ メ ロ ス の詩 体
も 出 な い。 逆 に 、 傑 作 のパロ デ ィ や 模 作 (パ ス テ ィ ー シュ ) は 、 中 等 教 育 段 階 以 上 でも 有 効 性 のあ る も のと さ れ て い る 。 大 学 段 階 で の古 典 文 学
(﹁イ リ アッド ﹂ か、 ﹁オデュッ セ イ ア﹂ か の ス タ イ ル ) で書 く こと が 求 め ら れ て いる 。 し た が って、 中等 教 育 段
階 で も 、 例 え ば 、 ﹁シ ャ ト ー ブ リ ア ン ふ う に 書 け ﹂ と い った 作 家 の文 体 に そ った 文 章 表 現 が 課 題 に な っ て いる
( 江 戸 時 代 の 漢 文 学 習 法 に は 、 こ れ を 似 た 性 格 を 見 出 す こと が でき る の で は な いか 。 達 意 の文 体 は 、 古 典 か ら 学 ん だ 、 漢 籍 訓 読 の伝 統 を 生 か し た も の でな か った か )。
つま り 、 言 葉 の学 習 に は 、 理 解 と 表 現と が 相 即 の関 係 にあ る と さ れ て い る ので あ る。 理 解 だ け で 、 理 解 学 習 は
終 わ ら ず 、 表 現 学 習 も 表 現 だ け で は 終 わ ら な い。 理 解 し た も の を 前 提 に 表 現 し て いく 、 何 か 学 習 す べ き 文 化 遺 産
( 文 学 作 品 ) が あ って、 そ の理 解 を 前 提 と し た表 現 が 、 そ の 学 習 者 の学 力 で あ る と の認 定 であ る 。 課 題 作 文 が 中 心 に あ り 、 認 定 制 度 の徹 底 し た 国 の教 育 観 で あ ると も 言 え よう 。
(必 然 性 ) ・意 図 ・相 手 意 識 ・文 種
四 体 系 そ の 3 全 過程 を 支 え る ︱動機付け
︵一︶ なぜ書く のか ︱書 く 広 場 の確 保
な ぜ 書 く のか 、 と いう 問 題 は 、 国 語 科 全 体 で考 え て いく べ き こと であ る 。 綴 り 方 と か作 文 と か か ら 、 書 く こ と
に 用 語 が 変 わ って い った こと も 、 配 慮 し た い。 原 稿 用 紙 に書 い て いく こ と だ け で な く 、 書 く 行 為 があ れ ば 、 そ れ
らは全 て ﹁ 書 く こと ﹂ に 入 る 。 こ の ﹁書 く こと ﹂ と いう 概 念 を 用 いる な ら 、 国 語 科 だ け で な く 、 ど の教 科 に お い
て も 、考 え る こ と に直 結 し てく る 。頭 脳 活 動 中 心 の算 数 し か り 。 調 査 を す る社 会 科 も し か り 。国 語 科 に お い ても 、
フ ラ ン ス の 例 で述 べ た よ う に 、 理 解 を 測 る には 表 現 し な く て は な ら な い。 全 教 科 に 有 力 に 働 く 活 動 は 、 学 校 教 育
の 基 盤 で あ る 。 学 習 の 基 盤 を な し 、 発 展 し て いく 姿 を 示 し 、 応 用 の成 果 を 華 々 し く 目 に見 え る も の にす る のは 、 書 く 活 動 に他 な ら な い。
ど の教 科 に も 教 科 書 が あ る よ う に、 ノ ー ト も 用意 さ れ て いる 。 が 、 教 科 書 ほ ど ノ ー ト は 活 用 さ れ て いる だ ろ う
か 。 あ っても 先 生 の書 いた 板 書 が 写 さ れ て い るだ け 、 と いう のが 多 い。 そ れ さえ も あ ま り な い の は 、 板 書 さ れ た
言 葉 が 多 く な いか ら で あ ろう か 。 要 す る に 、 児 童 ・生 徒 の書 く 広 場 で あ る ノ ー ト が あ ま り 埋 め ら れ て いな い のは
困 る 。 も ち ろ ん 、 ノ ー ト は ペ ー ジ が 固 定 さ れ 、 罫 線 が 入 って いて 、 多 様 な 課 題 に 対 応 し て いな い。 し た が って 、
学 習 の広 場 を 与 え よう と 努 力 す る 教 師 は 、 プ リ ン ト を 用 意 す る こと が多 い。 と も か く 、書 く 広 場 を 確 保 し て 、 そ
の広 場 に 縦 横 に書 い て いく 活 動 が いる 。 そ れ ら は 、 記 録 と し て残 る 。 自 分 の考 え は わず か であ っても 、 残 って い
く 。 わ ず か であ る だ け に 、 そ の記 録 は 尊 い。 毎 時 の記 録 が 重 な れ ば 、 原 稿 用 紙 何 枚 も の学 習 記 録 文 にな る 。 自 分
の意 見 は わ ず か でも 、ど の よ う な 場 面 で の意 見 か 、そ の場 面 で の先 生 の発 言 と 友 人 の意 見 が 記 録 さ れ て いる な ら 、
﹁こ ん な 道 筋 を 通 って き た のか ﹂ と いう 貴 重 な 感 慨 を 与 え て く れ る 。 ま し て 、 そ れ が 高 い評 価 で も 得 ら れ れ ば 、
い つま でも 心 の支 え に な る 。 小 学 生 の時 、書 いた 紙 に 先 生 の大 き な ○ と良 い評 語 を 見 て、 意 欲 を も や し た 経 験 を
も つ人 は多 い。 理 解 活 動 と 違 い、 表 現 活 動 は ど れ で あ れ 、 自 分 の本 質 に 関 わ る 思 い でそ の 評 価 を 受 け 取 る。 書 い
た も の へ の高 い評 価 は 、 そ れだ け に、 い っそ う 励 み に な る。 書 く 意 欲 を 生 み、 次 の書 く 作 業 への有 力 な 動 機 付 け と な る。
︵二︶ 必 要性を生 む実の場 ︱動 機 付 け の 性 格
書 く こと の学 習 には 、 開 始 に当 た って、 学 習 の動 機 付 け が 他 の領 域 より も 大 き な 比 重 を も って い る。 そ の配 慮
が 学 習 の勢 いを 左 右 す る 。 書 く 必然 性 のあ る 場 合 な ら 、 少 し ぐ ら い の苦 労 も 意 に介 さ な い。 例 え ば 、遠 足 と いう
課 題 で も 、 た ま た ま 病 気 で 参 加 で き な か った 友 だ ち が いた 場 合 、 そ の友 だ ち に遠 足 の様 子 を 知 ら せ よう 、 と 提 案
す る な ら 、 み ん な で何 を 書 こう か と 、 主 体 的 に 取 材 が 始 ま り 、 共 同 で 思 い出 し て は 書 いて く れ る。 姉 妹 校 が あ っ
て 、 行 き 来 す る 機 会 が あ れ ば 、 招 待 状 や 歓 迎 のプ ログ ラ ム作 り は 、 熱 気 を 生 む ほ ど の表 現 活 動 を 引 き 出 す 。 実 の 場 の設 定 が 、 必 要 性 を 実 感 さ せ る 最 善 の策 であ る 。
そ う いう 機 会 が な く ても 、 何 を ど う 書 く か 、 の材 料 と 手 順 と 方 法 が 直 ち に 思 い浮 か ぶ 課 題 であ れ ば 、 意 欲 を 生
( 自 尊 心 ) のあ る こ と であ る 。
み出 す 。 でき る 、 でき そ う だ 、 と いう 予感 が 意 欲 を も た ら す 。 そ の意 味 で、 何 よ り も 大 切 な のは 、 上 に 記 し た よ う に 、 こ れま で の評 価 に よ る自 信
だ が 、 動 機 付 け でも って、 意 欲 を 高 く 盛 り 上 げ る のは い いが 、 高 す ぎ る と 、 最 初 の活 動 で 、 早 く も ﹁自 分 に は
でき な い﹂と いう 結 果 を 招 く こ と が あ る 。頭 に描 く のが 理 想 的 で あ れ ば あ る ほ ど 、実 際 の技 量 と の差 が 大 き く て 、
す ぐ に あ き ら め る こと に な る 。 最 初 は 苦 痛 だ な と いう 課 題 でも 、 こ れま で に克 服 し てき た 経 験 が あ り 、 努 力 し た
ら で き る と いう 自 信 が 、 書 く こと の必 要 性 や 動 機 付 け と と も に 、 以 後 の活 動 を 推 進 し て いく 。 さ ら に 言 え ば 、 書
く こ と の意 欲 は 、 書 き な が ら ( く り 返 し書 く こと で ) 生 ま れ て く るも のだ 、 と 表 現 でき よう 。 ま た 、 苦 痛 を 感 じ
る活 動 は 、 苦 痛 を 克 服 し た 快 感 な く し て は 継 続 でき な い、 と も 言 え よう 。 そ の結 果 、 平 然 と 活 動 に 立 ち 向 かう 態
度 の でき る こ と が 理 想 で あ る。 学 習 の最 初 に 欠 か せ な い意 欲 (動 機 付 け 、 必 然 性 に も と づ く ) 喚 起 に は 、 こ のよ う な 留 意 点 に 注 意 し た い。
︵三︶ 自 分 の意 図 を 求 め て ︱何 を 伝 え た いの か
書 く こと の 学 習 は、 課 題 の意 図 ・ね ら い の明 確 化 か ら 始 ま る 。 これ な く し ては 、活 動 が 始 ま ら な い。と は いえ 、
意 図 と ね ら いが は っき り し ても 、 な か な か手 が 下 せ な い場 合 が あ る 。 考 え が ま と ま ら ず 、あ れ こ れと 試 行 錯 誤 を
しな が ら 、 材 料 を 集 め 、 構 成 を 練 って いく 。 記 述 も し てみ る。 記 述 の終 わ り ご ろ に な って 、 よ う やく ﹁自 分 は こ
れを 書 こう と し て いた の か 。 そ れ な ら 、 最 初 か ら 、 こ う 書 け ば い いな 。 書 き かえ よ う ﹂ と 、 改 め て 課 題 に対 す る
自 分 の意 図 ・ね ら い の真 意 が わ か る 。そ う な って 初 め て 、そ の具 現 化 の道 筋 も 見 え てく る 。書 く 意 図 ・ね ら いは 、
最 初 にあ る と と も に 、 活 動 の途 中 に お い て、 ま た 、 最 後 に 至 って 、 見 出 せ る も の でも あ る 。 そ こ が 、 学 習 の学 習 た る所 以 であ り 、 そ こが ま た 魅 力 でも あ る 。 冒 頭 だ け です む 問 題 で は な い。
と は いえ 、指 導 計 画 で は 、相 手 と 意 図 ・ね ら いが 決 ま る と 、し ぜ ん と 、書 く こ と が う か ん で く る 題 材 を 選 ん で 、 のび のび と 表 現 を 始 め さ せ た い。
︵四︶文 種 は 、 相 手 意 識 と 課 題 ( 意 図 ・ね ら い) に 結 び つけ て
そ も そ も 書 く に は 、 誰 に あ て て 書 く の が 書 き や す いで あ ろう か 。 誰 に せ よ 、 よ く 知 った 個 人 に あ て た も の が 、
書 き やす い。 低 学 年 では 先 生 や 親 、 隣 の座 席 の友 だ ち に あ て る のが 、 も っと も 書 き や す い。 相 手 に こ れ ら の人 た
ち を 選 ぶ のも 、 こ の条 件 を 考 え て のこ と であ る 。 次 は 、自 分 自 身 への独 り 言 のよ う な も の であ る 。 も っと も 書 き
にく い のが 、不 特 定 多 数 の 相手 (ク ラ ス のみ ん な な ど ) にあ てた も の で あ る。 こ のよ う な 難 易 度 を 考 慮 す る な ら 、
一学 期 に は 手 紙 、 二 学 期 に は 日 記 、 三 学 期 に は いわ ゆ る 生 活 文 ( 経 験 し た こ と を 表 現 し た も の) と な ろう 。 中 学
生 でも 高 校 生 でも 、 特 定 の友 人 にあ て た 手 紙 の形 式 を と る と 、 書 き にく そう に 見 え た 課 題 が 、意 外 に の び のび と
書 け る こ と が あ る 。 これ も 、 相 手 意 識 の効 果 で あ る 。 こ れ ら の条 件 を 配 慮 し て 課 題 ( 意 図 ・ね ら い) に合 わ せ て
文 種 を 選 ぶ。 日記 に つ いて言 え ば 、 そ の自 由 さ に よ る ( 書 き 慣 れ の) 効 用 は 、 す で に 広 く 認 め ら れ て いる 。 効 用
のあ るあ ま り 、 指 導 助 言 な し に家 庭 作 業 と な る ほ ど 普 及 し て いる 。 そ れ だ け に 、 指 導 助 言 が あ れ ば 、 く り 返 し を 避 け る こ と が でき 、 ど れ ほ ど 効 果 のあ が る こと か 。
不 特 定 多 数 を 相 手 に書 く 文 種 は む ず か し いが 、 皮 肉 な こ と に種 類 も ま た 多 い。 そ の点 が 困 難 点 であ る が 、 そ れ
だ け に幸 いな 面 も も って いる 。 出 来 事 を 述 べ る 生 活 文 ふう に は 書 き に く い児 童 でも 、 同 じ 題 材 を 説 明 文 のよ う に
書 い て いく のは 苦 に し な い、 と いう 例 も あ る 。 種 類 が 多 いだ け に 、 そ の中 か ら 自 分 の得 意 な も のを 見 つけ て いく
可 能 性 に富 ん で い る。多 様 な 量 と 質 の文 章 を ふ く む 新 聞 作 り な ど は 、得 意 発 見 のよ い活 動 を 提 供 す る も の で あ る 。
得 意 な 文 種 を 見 出 せば 、 あ る期 間 は 、 課 題 が 何 であ れ 、 そ の文 種 で書 い てよ い、 と す ると 、 気 軽 に取 り 組 ん で く
れ る 。 広 告 文 、 帯 、 ニ ュー ス原 稿 、 シ ナ リ オ 、 記 録 報 告 文 、 意 見 文 、 感 想 文 、 短 詩 型 の創 作 、 物 語 作 文 な ど 、 で き る か ぎ り 多 様 な 文 種 に 出 会 う こ と で、 得 意 を 発 見 さ せ て いき た い。
五 体 系 そ の 4 書 く こと の中 心 ︱ ﹁記 述﹂ の体 系
後 に ﹁記 述 ﹂ の項 が あ る の で、 こ こ では 記 述 の体 系 、 つま り 記 述 練 習 を 組 織 的 な 観 点 か ら見 通 す た め に 、 関 係 す る主 だ った 項 目 だ け を 掲 げ る こと に し た い。
( 物 語 ・語 り ) の 類 型= 人 物 、 舞 台 (場 所 ・時 間 )、 出 来 事 (の経 過 )、 会 話 文 と 地 の文 な ど 。
︵1︶ 文 種 の基 本 類 型 を 知 って、 叙 述 ( か ら 構 成 へ、 さ ら に取 材 や 題 材 ) に 生 か す 。 ①叙事
②叙景 ( 描 写 ) の 類 型= 個 人 ・集 団 、 動 物 、自 然 ・都 市 と 人 間 、 動 き 、 視 点 ( 仰 角 と俯 角 、 遠 景 ・中 景 ・近 景 、 中心 と円周、外姿 と精神) など。
(テ ー ゼ )、 根 拠 、 見 方 ・観 点 ・立 場 、 反 論 、 演 繹 、 帰 納 、 弁 証 法 、 前 提 と 帰 結 な ど 。
③ 説 明 の類 型= 命 名 、 定 義 、 解 説 、 事 例 、 要 素 、 分 析 、統 合 、 関 係 、 機 能 、 構 造 な ど 。 ④ 議 論 の 類 型= 主 張
︵2︶ 連 文 の諸 類 型 を 知 って 、 意 図 的 な 文 の展 開 に 。 ・順 接 、 逆 接 、 付 加 、 挿 入 、 中 止 、 転 換 な ど 。
(選 択 )、 理 由 、 原 因 、 結 果 、 対 立 、 条 件 、 仮 定 、 譲 歩 、 付 加 ・並 列 、 累 加 と 減 少 、婉 曲 と 強 調
︵3︶ 思 考 の基 本 類 型 を 構 文 に 結 び つけ て ・目 的 、 比 較 など。
︵4︶ 語 彙 の網 の 目 を 活 用 し て 、 表 現語 彙 を 増 や す 。
( 主︱ 従 、 修 飾︱ 被 修 飾 な ど で、 結 び つく も の)
A. 文 と 関 係 づ け て ① 前 後 関係
( 類似 と対比、 上位概念と 下位概念 、抽象と 具象)
( 例 、 家 に 関 係 す る 語 句 の 一覧 )
② 類 義 関係 B. 語 彙 単 独 で ③ 関 係 のあ る 語 句
④ 漢字 など ( 結 び つく 語 句 、 熟 語 、 慣 用 句 な ど )
六 体 系 そ の 5 実 践 の見 通 し ︱ 年 間 計 画 から 、 生 活 習 慣 ま で
指 導 ﹁体 系 ﹂ を 組 織 化 の見 通 し だ と す れ ば 、 具 現 策 も ま た 体 系 の 最 後 に 挙 げ る こと が でき よう 。 年 間 を と お し
て、 少 し ず つ計 画 を 具 現 化 し て いく 配 分 が な く て は な ら な い。 学 習 を 時 間 の上 か ら 明 確 に 保 証 し て いく も の であ
る 。時 間 の決 定 が 軸 に な る の で 、そ の時 間 内 で可 能 な 内 容 と 方 法 が 問 題 と な る。 予定 と し て 、可 能 であ る と し て 、 一年 間 に わ た る 配 分 を す る。
こ の よう な 計 画 が 意 味 を も つ のは 、 第 一に 時 間 を 確 保 し て 実 行 す る 決 意 を う な が す 点 に あ る。 第 二に は、 学 習
者 の実 態 に 合 わ せ て 、 時 間 配 分 の変 更 も ま た 、 ど の程 度 可 能 で あ る か を 見 通 す のに 役 立 つ。 何 事 も 計 画 は 予定 に
し て、 変 更 は 常 にあ る 。 ま し て 、 これ か ら 受 け 持 つ学 習 者 の実 力 は ま だ よ く 知 って いな い。 書 か せ てみ な いこ と
に は 、 ど こ を ど のよ う に 指 導 し て よ いか 見 当 も つか な い。 実 際 に表 現 し ても ら ってか ら 、 初 め て次 の 一歩 が 踏 み
出 せ る 。 こ れ が 指 導 の実 態 であ る と す れ ば 、 理 念 的 に 計 画 を 立 て る の で は あ る が 、 学 習 に活 用 でき る ﹁時 間 ﹂ か
( 課 題 の 設 定 や、 そ の変 更 ) も 、 明 確 な 時 間 の配 分 ( 計 画 ) が あ って こ そ 、 無 理 な く で
ら見 極 め て いく のが 、実 際 的 であ る 。 こ の意 味 でも 、 頭 の中 に あ る ﹁書 く こと ﹂ の計 画 は 、 し っか り 樹 立 さ せ て おき た い。 具 体 的 な 対 応
き る 。 書 く 学 習 を 続 け て いく こと で、 少 しず つだ が確 実 に向 上 さ せ て いく 見 当 が何 と か 見 通 す こと が で き る よう
にな る 。 第 三 の 意 義 と し て、 こ の段 階 に至 る こと を 期 待 し 続 け る こと が あ る 。 こう な って初 め て、 年 間 の指 導 計 画 の生きた働 きが実感 できる。
年 間 の時 間 が 決 ま り 、 徐 々 に 、 書 く こと の学 習 がす す み 、 活 動 が 軌 道 に のり だ す と 、 予定 し た 時 間 以 外 にも 目
がと ど く よ う に な る。 習 得 し た 、 こ の書 く 力 を ど こ で 、 ど の よ う に 発 揮 さ せ て いく か 、 無 理 を し な いで 、 喜 び な
が ら 書 い てく れ る 、 そ の範 囲 を 拡 大 し て いく 。 ご く 短 い分 量 な ら 、 書 く と いう 意 識 な し に し て く れ る 。 そ の程 度
に し て 、 し ば し ば 書 いて も ら う 。 癖 に な ると し め た も の であ る 。 成 果 が し っか り し た 手 ご た え でも って 実 感 でき れ ば 、 書 く こ と は さ ら に 前 進 し て いく 。
百 年 を こえ る 作 文 教 育 の積 み重 ね が あ り 、 多 く の先 達 か ら 学 ん だ こと を 記 し た 。 参 考 ( 引 用 ) 文 献 は 、 第 六巻 に ゆ ず る こと に し た 。
第 五 章 書 く こ と の生 活 化 と 習 慣 化
︵一︶ 書 く こと の 指 導 の今 日 的 状 況
いわ ゆ る ﹁書 く こと ﹂は 、従 来 の ﹁ 作 文 ﹂ だ け で な く 、 ﹁作 文 ﹂ と は言 え な い小 さ な 書 く こ と も 含 ん だ 書 き 言 葉
に よ る 表 現 行 為 を 内 容 と し て いる 。 今 期 (一九 九 八 年 )改 訂 で、 学 習 指 導 要 領 の指 導 領 域 が 、 ﹁書 く こ と ﹂ に改 め
ら れ た と いう こ と は 、 ま と ま った 内 容 を 、 あ る 長 さを も った文 章 に完 成 す る能 力 の育 成 を 目 標 と し た作 文 を 主 と
す る 指 導 か ら 、短 く 小 さ な 書 く こと の 技 能 の育 成 ま でも 目 標 と す る ﹁書 く こと ﹂ の指 導 に 移 った こ と を 意 味 す る。
﹁書 く こと ﹂ の指 導 は 、 単 に 、 短 く 小 さ な 書 く こと を も 指 導 対 象 と す る に と ど ま ら ず 、書 く 生 活 の指 導 を も 対
象 と す る考 え 方 に向 か って い る こ と を 、 現代 の国 語 教 育 界 の動 向 は 示 し て い る 。 す で に 、 一九 五 〇年 代 の後 半 に
は 、 藤 原 与 一氏 (一九 五 五 ) の短 作 文 に よ る 指 導 の提 唱 が あ り 、 書 く 生 活 の充 実 を 目 標 と し た 、 一語作 文 、 一文
作 文 、 二百 字 作 文 な ど の短 く 書 き 表 す 技 能 の育 成 の方 法 が 実 践 的 に示 さ れ た 。 ﹃こと ば の生 活 のた め に﹄ (一九 六 六 ) に は 、 こ のよ う な 考 え 方 に立 つ、 理 念 と 方 法 が 具 体 的 に説 か れ て いる 。
一九 七 〇 年 以 降 に は 、 輿 水 実 氏 の ﹁学 習 作 文 ﹂ (一九 八 二)、 高 森 邦 明 氏 の ﹁言 語 生 活 的 作 文 ﹂ (一九 八 四)、
青 木 幹 勇 氏 の ﹁第 三 の書 く ﹂ (一九 八 六 ) な ど の提 唱 が あ い つ いだ 。 大 村 は ま 氏 が 一九 四 〇 年 代 頃 か ら 創 造 的 に
取 り 組 ん で来 ら れ た ﹁ 単 元 学 習 ﹂ に お け る ﹁学 習 記 録 ﹂ の指 導 は 、 全 集 の中 の 一冊 と し て ﹃大 村 は ま 国 語 教 室 12
学 習 記 録 の指 導 ﹄ (一九 八 四 ) に ま と め ら れ た 。 ま た 、 大 西 道 雄 は 藤 原 与 一氏 の 提 唱 を 継 承 、 展 開 す る 立 場 で 、
﹃短 作 文﹄ (一九 八 ○ ) の著 作 を 出 し 、 作 文 教 育 界 で は 、 一九 八 ○年 代 か ら 九 〇年 代 に か け て 、 ﹁ 短 作 文 ﹂ の名 称 を 冠 し た 実 践 的 著 作 が次 々と 刊 行 さ れ た 。
こ の よう に見 て く る と 、 ﹁作 文 ﹂ の レ ベ ルを 越 え た ﹁書 く こ と ﹂ の指 導 の 流 れ は 、 ほ ぼ定 着 し てき て い る と 考 え られる。
こ のよ う な 教 育 界 の動 向 に対 し て 、 現 実 の児 童 ・生 徒 の書 く こ と の生 活 の実 態 は ど う であ ろ う か 。 二〇 〇 一年
九 月 の福 岡 市 内 のあ る小 学 校 で の作 文 意 欲 調 査 ( 注 1)で は 、四 年 生 で好 き 嫌 いが 五 〇 %ず つ で同 率 に な り 、五 ・
六 年 生 では 、嫌 いが 五 七 % と 逆 転 す る 。中 学 校 に な ると 、こ の傾 向 が いち だ ん と 進 む こ と は 、容 易 に 推 測 で き る。
国 立 教 育 政 策 研 究 所 が 、 二〇 〇 二年 八 月 に 小 ・中 ・高 校 生 の 国 語 力 の 調 査 結 果 を 発 表 し た 。 中 ・高 校 生 の 国語
力 の低 下 を 認 め る 教 師 が 八 割 あ り 、 基 本 的 な 漢 字 が 書 け な い こと が 目 立 つと さ れ て い る。 ま た 、 書 く 力 、 話 す 力 と い った 表 現 力 の低 落 傾 向 の顕 著 さ も 指 摘 さ れ て い る 。
児 童 ・生 徒 の書 く こ と の生 活 の実 態 で著 し い の は 、 携 帯 電 話 で の コ ミ ユ ニケ ー シ ヨ ン活 動 で あ る 。 いわ ゆ る
﹁ケ ー タイ ﹂ で の E メ ー ル の や り と り が 日 常 化 し て いる こと で あ る。 メ ー ル で打 ち 出 さ れ る 文 章 は 、 省 略 が多 く 、
略 記 号 が多 用 さ れ て お り 、心 情 表 現 に は 絵 文 字 が 用 いら れ て いる 。 使 用 さ れ る 言 葉 は 、 話 し言 葉 で、 若 者 言 葉 と
言 わ れ て い るも のが 一般 化 し て い る 。つま り 、プ ラ イ ベー ト な書 く 活 動 が 盛 ん に 行 わ れ て いる と いう こと であ る 。 前 述 の書 く 力 、 話 す 力 の低 落 は 、 パ ブ リ ック な 場 面 で のも のと 考 え ら れ る 。
こ の よう な 児 童 ・生 徒 の書 く こと の生 活 、 書 く 力 の 問 題 状 況 を 克 服 す る に は 、 パ ブ リ ックな 言 語 生 活 場 面 にも
通 用 す る書 く 力 の育 成 、 書 く こ と の生 活 の充 実 を 図 る 必 要 が あ る 。 国 語 教 室 に お け る書 く こと の教 師 の指 導 意 識
と 、 児 童 ・生 徒 の 日 常 的 な 言 語 生 活 に お け る 書 く 意 識 と の 間 に ズ レ が 生 じ な いよ う な 教 育 的 方 策 が 求 め ら れ る 。
︵二︶ 書く ことの生活化 と習慣化 が目指すも の
書 く こと の生 活 化 と 習 慣 化 と を 通 し て 、 実 現 す る こと が 求 め ら れ て いる の は 、 自 覚 的 で 考 え 深 い表 現 生 活 人 の
育 成 であ る 。 書 く こ と の生 活 化 と 習 慣 化 は 、 目 的 と 必 要 に 応 じ て書 く こと を 活 用 し 、 言 語 生 活 の充 実 を 図 る こと
で あ る 。 言 葉 は 、 通 じ 合 い の機 能 を 基 本 と す る 。 通 じ 合 い活 動 は 、 書 く 読 む の場 合 で も 、 話 す 聞 く の場 合 でも 、
活 動 に あ た って は 、 そ れ ぞ れ の主 体 が自 分 の立 場 と 目 的 と を 明 確 に し 、 何 を ど のよ う に 、 と いう 通 じ 合 い の内 容
と 表 現 の方 法 と を 適 切 に 整 え る こと が求 め ら れ る 。 そ れ は 、 ど の よう に 小 さな 通 じ 合 い の活 動 に お い ても 同 様 で
あ る 。 と り わ け 、 書 く こと の 場 合 は 、 文 字 言 語 に よ って書 き 表 さ れ 、 記 録 と し て残 ると いう 特 質 を も つ。 ま し て
や 現 代 の児 童 ・生 徒 、 学 生 の よ う に パ ブ リ ックな 場 で の書 く こと の態 度 と 力 と が 不 十 分 な 学 習 者 に は 、 自 覚 的 で 考 え 深 い表 現 生 活 力 の育 成 は 、 緊 要 な 実 践 課 題 で あ る 。
書 く こと の生 活 化 と 習 慣 化 は 、 自 覚 的 で考 え 深 い表 現 生 活 人 と し て の基 礎 的 な 態 度 能 力 と 言 う こ と が でき る 。
二 書 く こと の生 活 化 と 習 慣 化 を 促 す指 導 の方 法
︵一︶短作文 による指導 法
書 く こと の生 活 化 と 習 慣 化 を 促 す 方 法 と し て は 、 藤 原 与 一氏 に よ って創 唱 さ れ た 短 作 文 によ る方 法 が 有 効 であ
る 。
︵1 ︶
コン ポ ジ シ ヨン 理 論 にも と づ い て 、文 章 を 制 作 す る こと 。
対 象 を リ ア ル に と ら え 、 平 明 に表 現す る こと 。
現 代 の書 く こ と の指 導 の基 本 的 な 考 え 方 と し て は 、 次 の 四 原 則 を あ げ る こと が でき る 。
︵2 ︶
︵3︶ 文 章 の構 成 、 作 文 過 程 、 指 導 コー スを 分 節 化 し てシ ス テ ム 化 す る こ と 。 ︵4︶ 書 く 場 の条 件 を 生 か し て活 動 の活 性 化 を 図 る こ と 。
短 作 文 に よ る 指 導 法 は 、 右 のう ち 、 主 と し て 、 (3)・(4) の原 則 に 拠 って い る 。 す で に 述 べ た よ う に 、 短 作
文 に よ る指 導 の方 法 は 、 藤 原 与 一氏 によ って 創 唱 さ れ た も の で あ る が 、 そ の意 図 す る と こ ろ は 、 作 文 の 基 礎 的 力
の育 成 にと ど ま ら ず 、 書 く 生 活 の充 実 と 確 立 を 目 指 す も の で あ った 。 短 作 文 と いう こと で提 案 さ れ て いる の は 、
一語 作 文 、 一文 作 文 、 二 文 作 文 、 三 文 作 文 、 二百 字 限 定 作 文 な ど であ る。 文 章 は 、 目 的 ・必 要 に 応 じ て 、 長 ・短
さま ざ ま な も のが 書 か れ る 。 長 作 文 力 ・短 作 文 力 の いず れ も が 、書 く こと の力 と し て育 成 の対 象 と さ れ る 。 短 作
文 は 、 作 文 の基 礎 力 と し て長 作 文 力 に 付 属 す る だ け で は な く 、 自 立 的 存 在 と し て機 能 す る 。 と は いう も の の、 短
作 文 力 は 直 ち に 長 作 文 力 と し て通 用 す る こと は な いの で 、 シ ス テ ム 化 の考 え 方 を 適 用 し て、 短 作 文 を 長 作 文 化 す
る方 法 が と ら れ る こ と に な る 。 文 章 が 、 語 ・文 ・段 落 な ど のサ ブ シ ス テ ムを 有 す る シ ス テ ム構 成 体 であ る こ と を 生 か し た 方 法 で あ る 。 文 章 構 成 の シ ス テ ム化 と いう こと が でき よう 。
一語 や 一文 と いう 極 め て 小 さ な 単 位 の書 く 技 能 は 、 具 体 的 な 言 語 活 動 の場 に お い て、 そ の働 き が 目 立 つも のと
な る 。 そ れ は 、 言 葉 の機 能 が あ ら わ に発 現 す る か ら であ る 。 場 の条 件 を 生 か し た 活 動 化 の原 則 に し た が った 方 法 と 言 う こと が でき る 。
書 く こ と の生 活 化 と 習 慣 化 を 促 進 す る方 法 と し て は 、 短 作 文 の機 能 を 生 か し た 方 法 に 拠 る の が よ い。 筆 者 は 、 か つて、 短 作 文 の機 能 に つ いて 、 次 の 五 機 能 を あ げ た こと が あ る ( 注 2)。
創構
( イ ン ベ ンシ ヨ ン) の機 能
︵1︶ 書 く 場 の自 在 性 ︵2 ︶
︵3︶ 学 習 技 能 と し て の機 能 ︵4︶ 社 会 的 生 活 的 機 能 ︵5︶ 詩 的 表 出 の機 能
︵1︶ 書 く 場 の自 在 性 は 、 短 く 書 く と いう 短 作 文 の 形 態 的 特 質 か ら 生 ず る も ので 、 さ ま ざ ま な 機 会 と 場 に お い
て 短 作 文 が 活 用 さ れ る こと を 言 う 。 筆 者 は 、 短 作 文 の量 的 範 囲 を 、 藤 原 与 一氏 の説 を 継 承 し つ つそ の限 度 を 四 百 字 以 内 と し て い る。
︵2︶ 創 構 の機 能 は 、 述 べ表 し 、 通 じ 合 おう と す る 内 容 を 生 み出 し 、 組 織 す る働 き を 言 う 。 創 構 は 、invention
の 訳 語 で 、 アイ デ ア を 創 出 し 、 組 織 す る と いう 意 味 で用 いら れ る 。 アイ デ ア の小 さ な も のは 、 語 や 文 の レ ベ ル の
技 能 で言 語 化 さ れ る 。 これ ら が 組 織 さ れ て、 あ る ま と ま った 文 章 の中 心 思 想 と し て表 さ れ る と 、 お お よ そ 二 百 ∼ 三 百 字 程 度 に な ると 考 え ら れ る 。 短 作 文 の範 囲 で あ る 。
︵3 ︶ 学 習 技 能 と し て の機 能 は 、 言 語 のも つ思 考 ・認 識 ・想 像 ・記 銘 な ど の働 き を 短 作 文 の技 能 を 媒 介 と し て
発 現 さ せ 、 活 用 す るも の であ る 。 具 体 的 に は 、 書 き 込 み、 要 約 的 書 き 抜 き 、 触 発 さ れ た 疑 問 や 感 想 、 着 想 な ど を
書 き 留 め る技 能 と し て 活 用 さ れ る 。 教 師 の説 明 や学 友 の発 言 な ど を 要 約 記 録 す る こ と も 含 ま れ る。
︵4 ︶ 社 会 的 生 活 的 機 能 は 、 通 じ 合 い、 記 録 の機 能 と も 言 いか え ら れ る 。 日 常 の言 語 生 活 の 中 で、 も っと も 多
く 活 用 さ れ る のは 、 こ の機 能 で あ る 。 日常 生 活 で 用 いら れ る書 く 技 能 は 、 短 作 文 の範 囲 に 入 る も の が ほ と ん ど で
あ る 。 例 え ば 、 は が き は 二五 〇字 位 であ り 、 伝 言 メ モな ど は 三 文 程 度 で あ ろう 。 新 聞 の 投 書 欄 でも 五 百 ∼ 六 百 字 の字 数 制 限 で あ る。 毎 日 の生 活 日 記 も 短 作 文 で書 か れ る。
︵5︶ 詩 的 表 出 の機 能 は 、 短 い言 葉 で表 す と いう 特 質 か ら 生 ず る凝 縮 的 表 現 性 に認 め ら れ る 。 凝 縮 的 表 現 は 、
アピ ー ル性 が高 い。 読 む 人 に 強 い印 象 を 与 え 、 端 的 な 内 容 を 記 憶 に刻 ま せ る。 キ ャ ッチ コピ ー や標 語 な ど は 、 そ の 例 であ る 。 必 ず し も 文 学 的 表 現 に 限 ら な い。
短 作 文 に よ る 指 導 は 、 こ の 五機 能 にも と づ いて行 わ れ る 。 言 語 の機 能 は 、 具 体 的 な 言 語 活 動 の場 に お いて 発 現
す る 。 し た が って、 書 く こと の指 導 の原 則 と し てあ げ た 、 書 く 場 の条 件 を 生 か し た 活 動 化 に 指 導 展 開 の基 盤 を 設
︵3︶
︵2︶
︵1︶
場 の条 件 に よ る 活 動 化 の原 理
機能 性 の原理
シ ス テ ム化 の原 理
全 体性 の原理
定 す る こと に な る。 こ のよ う な考 え 方 に立 って短 作 文 指 導 の基 本 的 原 理 を 整 理 す る と 、 次 のよ う に な る 。
︵4︶
︵1︶ 全 体 性 の 原 理 は 、 短 作 文 の分 量 的 な 短 小 性 を 生 か し た 方 法 で、 長 作 文 が 、 取 材 ・構 成 ・叙 述 と い った 分
節 に よ る指 導 を す る の に対 し て 、 常 に全 体 を 対 象 と し た 指 導 を す る と いう こ と で あ る 。
︵2 ︶ シ ス テ ム 化 の原 理 は 、 考 え 方 と し て は 、 現 代 の書 く こ と の指 導 の 原 則 と し て 述 べた こ と と 同 じ で あ る。
︵3 ︶ 機 能 性 の原 理 は 、 (4) 場 の条 件 に よ る活 動 化 の 原 理 と 一体 的 に と ら え る こと が で き る。 機 能 は 、 場 の条 件 に も と づ い て発 現 す る か ら で あ る 。
こ れ ら の短 作 文 指 導 の基 本 的 原 則 が 、 書 く こと の生 活 化 と 習 慣 化 に ど のよ う に 活 用 で き る か 、 と いう こ と に つ いて 、 以 下 に 述 べ る こ と にす る 。
︵二︶ 短 作 文 に よ る 書 く こ と の生 活 化 と 習 慣 化 を 促 す 指 導 法
書 く こと に は 、 大 き く ま と ま った 文 章 を 書 く 技 能 を 活 用 す る 場 合 と 、 小 さ く 短 い書 く こ と の技 能 を 活 用 す る 場
合 と が あ る。 こ の両 者 を 目 的 と 必 要 に 応 じ て自 在 に 運 用 す る こ と が でき る た め に は 、 書 く こ と の生 活 化 と 習 慣 化
が な さ れ て いる こと が 、前 提 と な る 。 書 く こ と の生 活 化 ・習 慣 化 は 、 書 く こと の指 導 の 目 標 であ る 、 考 え 深 い自 覚 的 な 表 現 生 活 人 のも つ べき 態 度 能 力 であ る 。
書 く こ と の生 活 化 と 習慣 化 を 促 す 指 導 は 、 短 作 文 に よ る方 法 が 有 効 で あ る と 考 え る 。 言 う ま でも な く 、 長 く ま
と ま った 文 章 を 目 的 と 必 要 に応 じ て 、 機 会 を 逸 す る こ と な く 書 く こと が で き る態 度 能 力 も 重 要 であ る 。 た だ 、 日
常 の言 語 生 活 に お い て書 く こと が求 め ら れ る 文 章 が 、ほと ん ど 短 作 文 の範 囲 に収 ま るも の であ る こ と を 考 え る と 、 生 活 化 と 習 慣 化 の基 盤 づ く り は 、短 作 文 に よ る のが よ いと 判 断 さ れ る。
現 代 の書 く こ と の指 導 の原 理 と し て 一般 化 し て いるも の に 、 シ ス テ ム化 の方 法 が あ る 。 特 に 指 導 コー ス の シ ス
基盤
( 書 き 慣 れ ) コー ス
テ ム 化 が 、 書 く こ と の生 活 化 と 習 慣 化 には 有 益 であ る 。 指 導 コー ス の シ ステ ム化 は 、 次 の 四 コー ス で な さ れ て い る。
︵1 ︶
︵2 ︶ 基 礎 ( 書 く 活 動 の基 礎 と し て の 言 語 事 項 の学 習 ) コー ス
応用
( 実 際 的 な 目 的 ・必 要 に 応 じ て 書 く こ と ) コ ー ス
︵3 ︶ 基 本 ( 基 本 的 な 作 文 方 法 の学 習 ) コー ス ︵4 ︶
( 書 き 慣 れ ) コー ス は 、 朝 の十 分 間 読 書 な ど と 同 じ よ う に 、 朝 の短 時 間 を 継 続 的 に書 く こと にあ て
こ のう ち 、 (1 ) と (4) の コー ス が 、 生 活 化 ・習 慣 化 に 直 接 的 に 関 わ る。 ︵1 ︶ 基 盤
て 、 登 下 校 途 中 の見 聞 や 体 験 し た こ と 、 帰 宅 後 の で き ご と や テ レ ビ ・読 書 な ど に つ い て書 く 活 動 であ る 。 十 分 間
作 文 は 、 小 学 校 に は か な り 普 及 し て い る。 十 分 間 作 文 に 書 く こ と を メ モ し てお く な ど の活 動 ま でも 含 め る と 、 書
き 慣 れ 、 習 慣 化 に 培 う と こ ろが 大 き い指 導 コー ス で あ る 。 工夫 次 第 で は 、 中 学 校 で も 可 能 な方 法 であ る 。
︵4︶ 応 用 コ ー ス は 、 実 際 的 な 目 的 ・必 要 に 応 じ て 、 リ ア ルな 活 動 の場 で 展 開 さ れ る 書 く こと の活 動 の指 導
コー ス であ る 。 こ こ で は 、 目 的 と 必 要 に応 じ て、 長 い文 章 も 短 い文 章 も 書 か れ る 。 そ の文 章 は 、 発 現 す る 機 能 に
ふ さ わ し い文 章 形 態 を 形 づ く って活 用 さ れ る 。 例 え ば 、 は が き ・手 紙 、 投 書 ( 意 見 文 )、 レポ ー ト ( 報 告 文 )、 日
記 ・紀 行 文 、 標 語 、 キ ャ ッチ コピ ー な ど で あ る 。 場 合 に よ って は 、 詩 や 俳句 ・短 歌 と い った 文 芸 的 作 品 が 書 か れ
る こ と も あ り う る 。 こ の コ ー ス は 、 書 く こ と の生 活 化 を 図 る こ と を 主 た る ね ら いと し て いる 。 す な わ ち 、 基 礎 ・
基 本 コー スで 学 習 し た こ と に 習熟 し 、 生 活 に生 か す こ と が で き る よう に す る こ と を 目 標 と し て いる 。
短 作 文 の場 合 も 含 め て 書 く こ と の指 導 の原 理 と し てあ げ た 、 場 の条 件 によ る活 動 化 の方 法 は 、 書 く 場 の形 成 要
因 で あ る 、① 誰 が ・② 誰 に ・③ 何 のた め に ・④ 何 を ・⑤ ど のよ う に 、を 書 く 活 動 の促 進 条 件 と し て 設 定 し 、活 動
化 を 図 るも の であ る。 活 動 を 意 欲 的 で活 性 化 し た も のに す る に は 、 書 く 活 動 の 目 的 が 、 書 き 手 にと って、 切 実 で
リ ア ルな も の であ る こ と が 必 要 で あ る 。 そ のよ う な 目 的 意 識 に 書 き 手 が 立 つと 、 そ の活 動 は 、 達 成 結 果 を 想 定 し
つ つ意 欲 的 に 取 り 組 ま れ る こと に な る 。 つま り 、 ﹁生 活 化 ﹂ と いう こ と は 、 書 く こ と が 、 リ ア ル で切 実 な 、 そ し て や り が いの あ る 目 的 達 成 の活 動 と し て取 り 組 ま れ る こ と であ る 。
書 く こ と の ﹁生 活 化 ﹂ の指 導 は 、 究 極 的 に は 、 書 く 生 活 の指 導 に 進 む 。書 く こ と を 要 求 す る 場 に立 ち 、 書 く こ
と を 通 し て達 成 し な け れ ば な ら な い諸 条 件 を 発 見 し 、 そ れ を 実 現 す る営 み は 、 書 く 生 活 そ のも の であ る 。 単 な る
作 文 技 能 の育 成 指 導 だ け で な く 、 自 覚 的 な 表 現 生 活 人 の育 成 指 導 が 、 こ こ で は 求 め ら れ る。
三 書く こ と の生 活 化 と 習 慣 化 指 導 の 実 践的 展 開
︵一︶ 目 的 的 な 書 く 活 動 を ユ 二 ット と す る 授 業 の構 成 と 展 開
書 く こ と の生 活 化 と 習 慣 化 を 促 進 す る授 業 に は 、 具 備 す べ き 二 つ の条 件 が あ る 。 一つは 、 書 き 手 に と って 、 切
実 で リ ア ル な 目 的 的 な 言 語 活 動 に お け る書 く 活 動 で あ る こと 、 いま 一つは 、 反復 と 継 続 性 のあ る 目 的 的 な 書 く 活
動 で あ る こと であ る 。 これ ら の 書 く 活 動 を ユ ニ ット と し て授 業 を 構 成 し 、 展 開す る の であ る 。
目 的 的 な 書 く 活 動 は 、① リ ア ル で切 実 な 書 く 目 的 、② 目 的 達 成 の た め の書 く 媒 材 、 ③ 目 的 に対 応 す る 書 く 活 動
( 媒 材 )、 ③ 支 援 活 動 と 方 法 、 ④ 評 価 を 組 織 す る 。 一般 に 単 元 学
と 方 法 、④ 目 的 に 即 応 し た 活 用 と いう 四 つの 要 素 で組 織 さ れ る 。 こ の目 的 的 な 書 く 活 動 を 学 習 活 動 と し てと ら え 直 し 、 授 業 構 成 の 要 素 で あ る 、 ① 目 標 、② 教 材
習 と いわ れ て いる も の の授 業 構 造 を 、 こ の よ う に重 層 的 にと ら え 、 学 習 者 主 体 の 授 業 展 開 を 図 ろう と いう ので あ る。
具 体 的 に述 べ る。 総 合 的 な 学 習 の時 間と の関 連 で 国 語 科 に お い て手 紙 学 習 を 組 織 す る と す る。 ゴ ミ問 題 に つい
て 調 べ、 報 告 し 合 い、 問 題 解 決 を 図 る と いう 活 動 の 一環 と し て、 ゴ ミ 処 理 場 の見 学 、 市 役 所 の環 境 対 策 課 への取
材 、 地 域 の家 庭 の ゴ ミ 出 し 状 況 の実 地 踏 査 な ど のた め に 、 関 係 機 関 に 依 頼 の手 紙 を 書 く こと は 、 切 実 で リ ア ル な
活 動 であ る 。 こ の 目 的 的 活 動 の媒 材 は 、ゴ ミ処 理 問 題 の学 習 のた め の見 学 依 頼 、と いう こ と であ る 。見 学 の 目 的 、
見 学 希 望 の施 設 ・設 備 、 見 学 人 数 と 日 時 な ど が 手 紙 に盛 り 込 ま れ る べき 内 容 と な る 。 目 的 の た め の書 く 活 動 と 方
( 学 級 ) を 代 表 す る 立 場 で 、 公 的 機 関 に 依 頼 文 を 書 く と いう パ ブ リ ックな 活 動 であ る
法 は 、 依 頼 を 手 紙 と いう 文 章 様 式 に し た が って 書 く 、 活 動 お よ び方 法 と いう こと に な る 。 こ の活 動 は 、 一個 人 と し て書 く の で は な く 、 学 校
こと を 認 識 す る 必 要 が あ る 。 活 用 は 、 書 き あ げ た 手 紙 を 封 筒 に 入 れ 、 宛 先 と 発 信 人 を 書 き 、 切 手 を 貼 って投 函 す ると いう 行 為 で あ る。
授 業 は 、 こ の 学 習 者 の目 的 的 書 く 活 動 を 、 授 業 活 動 と し て組 織 、 展 開 す る こ と であ る 。 国 語 科 の授 業 目 標 は 、
① 内 容 価 値 的 目 標 ・② 能 力 的 目 標 ・③ 態 度 的 目 標 の三 つが 設 定 さ れ る のが 一般 で あ る。 内 容 的 価 値 は 、 目 的 ・媒
材 か ら 、能 力 は 活 動 ・方 法 か ら 、態 度 は活 動 の全 過 程 か ら 導 き 出 さ れ る 。教 材 ( 媒 材 )は 、書 く こと の授 業 の場 合 、
書 く こと の技 術 ・方 法 を 学 習 す る 媒 材 が そ れ に当 た る 。 し た が って 、 授 業 活 動 と し て の活 動 ・方 法 に お いて 、 援
助 ・支 援 の手 段 と し て用 いら れ る 、 手 引 き ・モ デ ル ・文 話 な ど は 、 教 材 ( 媒 材 ) であ る と 同 時 に 援 助 ・支 援 の方
法 と し て機 能 す る場 合 が あ る 。援 助 ・支 援 は 、 学 習 者 が そ の目 的 を 達 成 す る活 動 が 円 滑 に 遂 行 さ れ る こと を 保 障
す る も の で あ る か ら で あ る。 評 価 は 、 目標 を 達 成 す る 学 習 活 動 が 円 滑 に 進 行 し て い るか 、 そ れ を 援 助 ・支 援 す る
活 動 ・方 法 は 適 切 であ った か 、 と いう こと を 、 学 習 者 の反 応 に も と づ い て評 定 し 、 授 業 方 法 の改 善 に 資 す る 教 育
的 な 営 み であ る 。 評 価 に は 、 授 業 過 程 に お い て行 わ れ る 形 成 的 評 価 と 授 業 後 に実 施 さ れ る 総 括 的 評 価 と が あ る 。
評 価 活 動 に は 、 教 師 の立 場 か ら だ け でな く 学 習 者 の立 場 か ら のも のも あ る 。 目 的 遂 行 活 動 が 円 滑 に 進 展 し て い
る か ど う か を 反 省 的 に 見 極 め な が ら 、 つま ず き を 克 服 し つ つ活 動 が 展 開 さ れ る。 こ れ は 、 学 習 者 の形 成 的 自 己 評
価 活 動 と いう こと が でき る 。 ま た 、 目 的 的 活 動 の活 用 段 階 で は 、 意 図 し た こと が 、 適 切 に達 成 さ れ た か ど う か 、
必 ず 確 か め ら れ る 。 意 図 通 り にな ら な か った 際 に は 、 そ の理 由 を 反 省 的 に 認 識 す る 。 場 合 に よ って は 、 や り 直 し
も あ り う る。 活 用 は 、 自 己 評 価 と 密 接 に つな が って いる の であ る 。 書 く こ と の活 動 を 生 活 化 、 習 慣 化 し 、 学 習 者
を 自 覚 的 な 表 現 生 活 人 と す る た め に も 、 自 己 評 価 力 を つけ る こ と は 、 重 要 で あ る 。
︵二︶ 書 く こ と の指 導 の単 元 的 展 開 に よ る 生 活 化 と 習 慣 化 の 促 進
書 く こ と 、 特 に 短 作 文 を 書 く こと の指 導 の単 元 構 成 に は 、 次 の三 つの類 型 が 考 え ら れ る。
︵1︶ 独 立 的 単 元 ・(2) 関 連 的 単 元 ・(3) 帯 的 単 元 であ る 。 (1) 独 立 的 単 元 は 、 書 く こと の活 動 の場 を 独 立
的 に 設 定 し て 、 書 く こ と の力 の育 成 を 目 標 と す る も の 、 (2) 関 連 的 単 元 は 、 書 く こ と の活 動 の場 を 、 国 語 科 内
の他 の領 域 や他 教 科 、 教 科 外 活 動 と 関 連 づ け て 、 書 く こ と の力 の育 成 を 中 心 的 目 標 と す る も の 、 (3 ) 帯 的 単 元
は 、 国 語 科 の授 業 の 一部 分 や 教 科 外 活 動 の時 間 、 特 設 さ れ た 時 間 の 一部 を 割 い て、 短 時 間 で連 続 し て書 く こ と の 活 動 を 展 開 し 、 書 く こ と の力 ・態 度 ・習慣 の形 成 を 目 標 と す る も の 、 で あ る 。
以 下 、 具 体 的 な 実 践 例 に よ って 説 述 す る 。
1 独 立 的 単 元
中 学 校 の 一年 生 の例 で あ る (注 3 )。 本 の カ バ ー と 帯 を 一体 化 し た も の を 作 成 し 、 完 成 し た ら 図 書 館 の掲 示
コー ナ ー に 展 示 す ると いう 目 的 的 活 動 を 授 業 の ユ ニ ット と し て いる 。 書 く 目 的 は 、 本 の紹 介 と いう こ と に あ る 。
書 く 力 の育 成 目 標 と し ては 、① 本 の紹 介 と いう 目 的 にか なう よ う に 、 本 の内 容 の要 点 を 適 切 に盛 り 込 ん で、 限
ら れ た ス ペー ス に叙 述 す る こと が でき る 、② そ の本 に 興 味 を も ち 、 読 み た く な る よ う な 表 現 のく ふう を す る こ と が でき る 、 と いう 二 つ の目 標 を た て て いる 。
学 習 活 動 は 、 ① 図書 館 で紹 介 し た い本 を 探 し 、 借 り 出 す 、② B 4 用 紙 を 用 いて 、 本 の帯 と カ バ ーを 一体 的 に 書
く た め に 、 紹 介 す べ き 内 容 を 、 ど の よう な 形 で 、 ど の位 置 に 配 置 す る か 、 プ ラ ンを た て る 、③ プ ラ ン にし た が っ
て、 本 の 帯 と カ バ ー を 完 成 し 、 図 書 館 の掲 示 コー ナ ー に展 示 す る、 と いう 順 序 で 展 開 さ れ て い る。
支 援 と 評 価 は、 学 習 の手 引 き に よ っ て行 わ れ て いる 。 す な わ ち 、 作 業 手 順 と 注 意 事 項 、 作 業 経 過 の確 か め のた
め の チ エ ック リ ス ト を 書 き 入 れ た も の を 配 布 し 、 主 体 的 に 学 習 に取 り 組 む こ と が でき る よ う にし て い る。 チ エッ
クリ ス ト は 、 形 成 的 自 己 評 価 であ り 、 教 師 の総 括 的 評 価 は 、 目 標 を 基 準 と し て 行 わ れ て いる 。
独 立 的 単 元 は 、 書 く こと の基 本 的 な 力 を 育 成 す る こと に 力 点 が 置 か れ るた め に 、 習 慣 化 に 至 ら な い こと が あ り
う る。 し か し 、 学 習 者 の生 活 意 識 、 興 味 ・関 心 を 生 か し た 学 習 活 動 の組 織 と 展 開 が 、 こ の授 業 の基 本 的 意 図 で あ るか ら 、 生 活 化 に は 有 効 に働 く と 考 え ら れ る。
2 関 連 的 単 元
こ れも 中 学 校 の実 践 例 で あ る ( 注 4)。 国 語 科 を 拠 点 と し な が ら 学 校 行 事 と 関連 づ け た単 元 であ る 。
N 中 学 校 は 、広 島 湾 の はず れ に位 置 す る N島 に あ る 公 立 中 学 校 で あ る 。 近 年 、 過 疎 化 現 象 が 目 立 ち 、生 徒 数 が
減 少 し て き た の で 、 市 の教 育 委 員 会 は 、 学 区 を 越 え て生 徒 を 受 け 入 れ る こ と を 認 め た 。 小 学 校 な ど で行 わ れ て い
る山 村 留 学 な ど と 同 じ よう に 、 島 へ の留 学 を 認 め よ う と いう わ け で あ る。 こ の こと は 、 市 の広 報 紙 や教 育 委 員 会 の通 達 に よ って告 知 さ れ た 。 一般 の新 聞 でも 報 道 さ れ 、 関 係 者 の関 心 を 集 め た 。
学 校 当 局 と し ても 、 四 月 の入 学 期 以 前 に 学 校 を 開 放 し て、 関 係 者 、 希 望 者 に参 観 し ても ら う こ と を 計 画 し た 。
こ の こ と を 受 け て 生 徒 た ち の間 にも 、 何 か 協 力 し よ う と いう 気 運 が 生 じ 、生 徒 会 が 発 議 し て 、 国 語 科 の先 生 に指
導 を お 願 いし て 学 校 紹 介 の新 聞 を 発 行 す る こ と に な った 。 こ の よう な 実 際 的 で 切 実 な 目 的 意 識 のも と に新 聞 づ く り の 学 習 が 始 ま った の であ る 。
新 聞 づ く り の学 習 に つ いて は 、 N I E ︵N ewspaperi n educati教o育 nに 新 = 聞 を ) 運 動 の 一環 と し て 行 わ れ
て いた A 新 聞 社 の新 聞 づ く り の出 前 授 業 の援 助 も 受 け て いる 。 た だ 、 記 事 の文 章 指 導 は 、 国 語 科 の教 師 に よ って
行 わ れ た 。 取 り 組 ん だ 生 徒 は 、 一年 か ら 三 年 ま で の十 二名 の全 員 で あ った 。 分 担 は 、 一面 と 二 面 に大 別 し 、 記 事
の内 容 に よ って決 め て いる 。 記 事 だ け でな く 写 真 や図 解 な ど も 取 り 入 れ て 、 割 り つけ 、 編 集 の勉 強 も し て い る。
こ の実 践 経 過 を 、 関 連 的 単 元 の授 業 の仕 組 み と いう 観 点 か ら 整 理 す ると 、 次 のよ う に な る。 ま ず 、 生 徒 の 目 的 的 活 動 の条 件 か ら の整 理 を す る 。
︵1︶ 誰 が= 留 学 生 を 受 け 入 れ る N 中 学 校 の生 徒 と し て 。
︵2︶ 誰 に= 留 学 希 望 を も って いて 、 判 断 の た め の情 報 を 求 め て いる 児 童 ・生 徒 、 保 護 者 に。
( 生 徒 の立 場 か ら と ら
︵3︶ 何 の た め に= N中 学 校 の情 報 を 提 供 し て 、 N中 学 校 に 留 学 し よ う と いう 決 断 を し ても ら う た め に 。
︵4︶ 何 を= 留 学 希 望 者 の児 童 ・生 徒 や 保 護 者 が 知 り た いと 思 っ て い る N 中 学 校 の情 報 え た 、 授 業 ・行 事 ・ク ラ ブ ・生 徒 ・人 気 の 遊 び や 場 所 な ど ) を 。
︵5︶ ど の よう に= 新 聞 形 式 で。 ま た 、 視 覚 的 に も アピ ー ル性 の あ る 表 現 、 編 集 で。
次 に 、 教 師 の授 業 活 動 の視 点 か ら の整 理 を す る 。
こ の目 的 的 な 活 動 を 、 授 業 の、 目 標︲ 教 材 ( 媒 材 )- 活 動 ・方 法︲ 評 価 と いう 実 践 構 造 と し て と ら え る と 、 次 のよ う に な る 。
︵l︶ 目 標 ① 価 値 的 目 標 と し て。 母 校 で あ る N 中 学 校 の よ さ を 認 識 す る こと が で き る 。
② 能 力 的 目 標 と し て 。 読 み 手 の必 要 意 識 を 把 握 し 、 そ れ に 応 え う る情 報 を 集 め 、 新 聞 と いう 形 式 に 編 集 し て、 わ か り や す い記事 に 書 き 表 す こと が で き る 。
③ 態 度 的 目 標 と し て 。 常 々 、 課 題 解 決 に 必 要 な情 報 を 探 索 す る 構 え を 身 に つけ る と と も に 、 学 校 に 対 す る 関 心
( 活動媒 材)
を 深 め 、 母 校 に 対 す る愛 情 を 養 う 。 ︵2 ︶ 教材
① 新 聞 の作 り 方 の手 引 き と 新 聞 の モ デ ル 。
② オープ ンスクー ルに必要な さまざまな情 報材。 ︵3︶ 活 動 ・方 法 ① 支 援 活 動= 分 担 グ ル ー プ ご と に 、 随 時 、 個 別 的 助 言 。 ②方 法 ア. 学 習 の手 引 き の提 示 。 イ. A 新 聞 社 の出 前 授 業 。 ︵4︶ 評 価 ①形成 的評価
ア. 教 師 に よ る も の= 個 別 指 導 の 中 で、具 体 的 に評 価 し て、修 正 す べき 点 な ど を 指 摘 し て返 す 。記 事 の表 現 、 割 り つけ な ど に つ いて 。
イ. 生 徒 に よ る も の= 手 引 き の中 に 提 示 し て お いた チ ェ ック リ スト に よ って行 う 。 ②総括 的評価
ア. 共 同 作 文 活 動 な の で 、 一人 ひ と り に記 事 の文 章 、 新 聞 の出 来 栄 え に つ い て評 価 し て返 す こ と は し て いな い。
イ . 参 観 者 か ら の感 想 や N 中 学 校 の他 教 科 の教 師 な ど か ら の意 見 な ど を も 含 め て 、 オ ー プ ン ス ク ー ル後 に開
いた 反 省 会 で 生 徒 に紹 介 し 、 話 し 合 う 。 ま と め と し て、 目 標 を 意 識 し た 授 業 者 と し て の評 価 ・意 見 を 生 徒 に返す。
こ の実 践 は 、 関連 的 単 元と いう より も 総 合 的 学 習 の学 習 ユ ニ ット と し てと ら え た 方 が よ いかも し れ な い。 あ る
いは 、 関 連 ・融 合 的 単 元 と も 言 う こと が でき る か も し れ な い。 いず れ にし て も 、 活 動 目 的 が 、 切 実 な 学 校 生 徒 に
お け る 問 題 意 識 にも と づ く も の であ る の で、 書 く こと の生 活 化 と いう 点 で は 、 効 果 を あ げ て いる と 見 る こ と が で き る。
関 連 的 単 元 でも っと も 多 く 行 わ れ て い る の は 、 読 む こ と と の 関連 で あ る 。 文 学 的 教 材 の読 む こと の学 習 に お い
て、 一次 感 想 を 書 いた り 、作 中 人 物 の内 面 の 思 いを 書 き ふ く ら ま せ た り 、 作 中 人 物 へ手 紙 の 形 式 で感 想 を 書 いた
り な ど の方 法 が あ る 。 説 明 的 教 材 で も 、 要 約 し た り 、 敷衍 し た り な ど 、 書 く こと を 学 習 技 術 ・方 法 と し て取 り 入
例 え ば 学 習 の手 引 き に よ る 方 法 提 示 な ど を 講 ず る こ と が 、 必 要 であ る 。 実 際 的 目 的 に書 く こと を
れ る こ と は 、 一般 化 し て いる 。 読 む こ と の指 導 が 主 目 標 であ る が 、 学 習 技 術 と し て の書 く こ と を 確 か に 生 か す た め の手 だ て︱
活 用 す る こと で 、 生 活 化 、 習 慣 化 が 促 進 さ れ る 。
3 帯 的 単 元
帯 的 単 元 は 、 リ ア ルな 目 的 にも と づ い て 、 短 い時 間 を 継 続 的 に 割 いて 、 書 く 活 動 を 連 続 し て 行 う と いう 学 習 の
ユ ニ ット であ る 。 こ の単 元 で目 標 と す る の は 、 書 く こ と の習 慣 化 であ る 。 こ こ で動 員 、 活 用 さ れ る書 く こと の機 能 は 、 短 時 間 で 書 き 留 め 、 書 き 表 す た め に短 作 文 機 能 が 活 用 さ れ る 。
小 学 校 で よく 実 践 さ れ て い る の は 、 朝 顔 や チ ュー リ ップ 、 菊 な ど を 一人 一鉢 担 当 し て育 て な が ら 、栽 培 、 観 察
の 記 録 、 感 想 を 書 か せ る と いう 書 く こと の活 動 であ る 。 育 て る 対 象 に変 化 の節 目 が あ り 、生 長 の世 話 の報 いと し て 開 花 ・結 実 な ど の喜 び が 得 ら れ る 。 文 章 の内 容 も 豊 か にな る 。
中 学 校 の 実 践 例 (注 5) で は 、 国 語 科 の時 間 内 で 行 わ れ た ﹁こと ば と の出 会 い コー ナ ー ﹂ と いう 帯 的 単 元 が あ
る 。 国 語 ノ ー ト に 、 ﹁こと ば と の出 会 い コ ー ナ ー ﹂ と いう 欄 を 設 け 、 学 校 生 活 のさ ま ざ ま な 場 面 で出 会 った 感 銘
を 受 け た 言 葉 を 記 録 し てお く も の であ る 。 時 ・所 ・場 面 ・感 想 も 一緒 に書 き 留 め る。 こ の記 録 が あ る期 間 蓄 積 さ
( 注 6) が あ る。 こ れ は 、 毎 日 届 く 新 聞 の中 か ら季 節 感 を 表 現 し て いる 語
れ た ら 、 ﹁こと ば と の出 会 い﹂ と いう 単 元 を 構 成 し て ま と め を す る と いう も の であ る 。 こ の 他 に も 、 ﹁季 節 感 表 現 辞 典 づ く り ﹂ と いう 帯 的 単 元 の実 践 例
句 や文 例 を 採 集 し て 、 最 後 に 分 類 し て辞 典 にま と め る、 と いう 活 動 で 構 成 さ れ て いる 。 季 節 感 を 表 す 言 葉 を 書 き
抜 く だ け で な く 、 そ れ の用 いら れ て いる 文 章 を 切 り 抜 く と と も に 、 合 わ せ て 気 づ き や コ メ ン ト を つけ て お く 。 季 節 の終 わ り に整 理 し て、 辞 典 づ く り を す る。
す
び
評 価 は 、 生 徒 同 士 の相 互 評 価 、 自 己 評 価 活 動 、 教 師 の 国 語 ノ ー ト 、 作 成 さ れ た 辞 典 への評 語 の記 入 で な さ れ て い る。
四 む
書 く こと の生 活 化 と 習慣 化 は 、 言 語 主 体 が 、 学 習 者 が 考 え 深 い自 覚 的 な 表 現 生 活 人 と し て育 って いく た め の基
礎 条 件 であ る 。そ の指 導 方 法 は 、 リ ア ルな 目 的 的 活 動 の場 にお い て、反 復 、継 続 的 に書 く こと の活 動 が組 織 さ れ 、
展 開 さ れ る こ と 、 短 作 文 に よ る方 法 を 採 用 す る こと の有 効 性 に つ い て 述 べ てき た 。
書 く こと の生 活 化 と 習 慣 化 は 、 た だ 、 書 く こと を 反 復 、 継 続 す るだ け では 、 そ の目 標 と す ると こ ろ を 達 成 す る
こ と は でき な い。 書 く こ と の基 礎 ・基 本 の 能 力 ・技 能 の習 得 を 確 実 に し てお く こ と が 前 提 と な る 。 書 く こ と の指
導 コー スと し て 、 基 盤 ・基 礎 ・基 本 ・応 用 の五 コー スを あ げ た が 、 書 く こ と の指 導 の場 の シ ス テ ム化 の意 義 を 改 め て考 え る 必 要 が あ る。
︵1︶福 岡市 立青 葉中 学校 平 川徳幸 教 諭 の調査 ︵2︶大 西稿 ﹁短 作文 ﹂ ﹃国語教 育辞 典﹄ 朝倉 書 店 二〇 〇 一 ︵3︶北九 州 市立 大蔵 中学 校 江 口恵子 教諭 の実 践 ︵5︶ 注
(3 ) に 同 じ
︵4︶広島 市 立似 島中 学校 寺 沢紀 子教 諭 の実践 ︵6︶ 福岡 教育 大 学附 属福 岡中 学校 武内 純 夫教 諭 の実 践
引 用 ・参 考 文 献 ( 本 文 中 に書 名 を 引 用 し た も の以 外 ) 青 木幹 男 ﹃ 第 三 の書 く﹄ 国 土社 一九 八六 大 西道 雄 ﹃ 短作 文指 導 の方法 ﹄ 明治 図書 一九 八○ 大 西道 雄 ﹃ 短作 文 の授業 ﹄国 土社 一九 九 一 輿 水 実編 ﹁ 学 習作 文指 導細 案﹄ 明治 図書 一九 八 二 高森 邦 明 ﹃言語 生活 的作 文 の実 践研究﹄ 文 化書 房博 文社 一九 八 四 藤 原与 一 ﹃ 毎 日 の国 語教 育﹄ 福村 書店 一九 五 五 藤 原与 一 ﹃国語 教育 の技 術と 精神﹄ 新 光閣 書店 一九六 五
注
第 六 章 書 く こと の学 習 指 導 と そ の方 法
一 発 想 ・取 材 の 指 導 と そ の方 法
︵一︶ はじ めに ︱ 学 習 者 の つまず き を 克 服 す る た め に
﹁書 く こと ﹂ に関 す る 学 習 者 の つま ず き は 千 差 万 別 で あ る 。だ が 、 そ の内 容 を 整 理 し て いけ ば 、結 局 は ﹁何 を ﹂、
﹁ど う 書 け ば よ い の か ﹂ と いう 二 つ の問 題 に集 約 さ れ る だ ろう 。 こ の ﹁何 を 書 いた ら よ い のか わ か ら な い﹂ と い
う つま ず き に対 応 す る のが ﹁発 想 ・取 材 ﹂ の指 導 で あ り 、 ﹁ど う 書 いた ら よ い の か わ か ら な い﹂ と いう つま ず き に対 応 す る のが ﹁構 想 ・構 成 ﹂ 及 び ﹁記 述 ・推 敲 ﹂ の指 導 であ る 。
学 習 者 は 、書 く べき こ と を 持 って いな いわ け で は な い。 毎 日生 活 し て いる 中 で 、 見 聞 き し て いる こ と や、 感 じ
た り 考 え た り し て い る こ と は 山 ほ ど あ る。 た だ 、 そ れ を 焦 点 化 し た り 、 深 化 ・拡 充 し た り す る 方 法 が わ か ら な い
た め に 、 表 現す る こと (と り わ け手 間 の か か る ﹁書 く こ と ﹂) を や め て し ま う の であ る 。
こ の状 態 を 克 服 す る に は 、 ま ず 、 書 く べき 内 容 や材 料 を 発 見 で き る よう に 導 く 必 要 が あ る 。 そ れ に は 、 文 章 表
現 の各 段 階 ご と に 必 要 な 技 術 を 明 確 に し 、 そ の技 術 習 得 の手 だ て を 考 案 す る こと が 欠 か せ な い。 た だ 、 こ のと き
用 心 し てお か な く ては な ら な い の は 、各 段 階 ご と の指 導 を 単 な る ﹁練 習 学 習 ﹂ にと ど め な いこ と だ 。 書 く 必 然 性
のあ る 場 を 設 定 し 、 書 く 意 欲 を 喚 起 し な い限 り 、 ﹁書 く こと ﹂ の指 導 は 効 果 を あ げ る こと が でき な い。 目 的 意 識 、
相 手 意 識 、 場 意 識 を 高 め 、 目 指 す べ き 目 標 や 表 現 形 態 を 明 確 に し 、 学 習 者 が 自 ら の ﹁想 ﹂ を 生 み 出 し発 展 さ せ て
いけ る よ う に条 件 設 定 す る こと が大 切 であ る 。 本 節 で は 、 こう し た 考 え 方 に 立 って 、 発 想 ・取 材 の指 導 の実 際 的 な あ り 方 に つ い て検 討 を 加 え た い。
︵二︶ 発 想 ・取 材 の 指 導 の位 置 と 役 割 1 文 章 表 現 過 程 に お け る ﹁発 想 ・取 材 ﹂ の位 置 付 け
﹁発 想 ﹂ と は 、 課 題 や 主 題 を 見 付 け た り 、 論 証 の 材 料 ・方 法 を 探 し 出 し た り す る こと で あ る 。 一方 、 ﹁取 材 ﹂ と
は 、書 く べ き 材 料 を 集 め 、 そ こ か ら 適 切 な も の を 選 び 取 る こ と であ る 。 ﹁発 想 ﹂ を 確 か な も のと す る た め に ﹁取
材 ﹂ が 行 わ れ る こと も あ る し 、 ﹁取 材 ﹂ が 新 た な ﹁発 想 ﹂ を 導 き 出 す こ と も あ る 。 ﹁取 材 ﹂ に は 、 材 料 を 集 め る こ
と も 材 料 を 選 ぶ こ と も 含 ま れ て いる の で、 こ れ を ﹁集 材 ﹂、 ﹁選 材 ﹂ と 呼 び 分 け る こ と も あ る。
文 章 表 現 過 程 は 、 一般 に ︿取 材 ← 構 想 ← 記 述 ← 推 敲 ﹀ と いう 四段 階 に分 節 し て 捉 え る こ と が で き る 。 こ の 他 、
文章構成 に重点 を置 いて ︿ 主 題 ← 取 材 ← 構 成 ← 記 述 ﹀ と 捉 え る考 え 方 ( 森 岡 健 二 ﹃文 章 構 成 法 ﹄ 至 文 堂 、 一九 六
三 ) や 、 内 的 な 思考 活 動 に 視 点 を 置 い て ︿ 発 想 ← 着 想 ←構 想 ← 連 想 ﹀ と 捉 え る 考 え 方 ( 倉 澤 栄 吉 ﹁作 文 教 育 に お
け る評 価 ﹂ 第 一法 規 出 版 、 一九 七 〇 ) な ど も あ る が 、 ﹁発 想 ・取 材 ﹂ が そ の冒 頭 部 に位 置 し て い る こ と に 変 わ り は な い。
文 章 表 現 過 程 を こ のよ う に 分 節 し て 捉 え る考 え 方 は 、古 代 ギ リ シ ア や ロー マ の こ ろ か ら 実 行 さ れ て いた も の で
あ る。 当 時 は 、 五 段 階 に 分 け て考 え ら れ て いた 。 す な わ ち 、 ①inventio-inv発 en 想t・ i 構o想n= ・創 構 、 ②dispositio
i spositio 配n 置=、 ③elocute il oocut修 io 辞n 、= ④memoria︲memo記 r憶 y= 、⑤actio︲act発ion=
表 ・所 作 であ る 。 こ のう ち 、 ① か ら③ ま で が 文 章 表 現 過 程 、 ④ ⑤ は 演 説 に 至 る 過 程 であ る。
も ち ろ ん 、実 際 に は 、 こ の手 順 ど お り に書 き 進 め ら れ ると は 限 ら な い。 記 述 し な が ら 、 も う 一度 取 材 し 直 す こ
とも あ るし 、主 題 そ のも のが 変 わ ってく る こ と も あ る 。 し か し 、 だ か ら と い って 、 ど こ か ら で も 適 当 に 手 を 付 け
て よ いと いう も の で は な い。 書 く べ き 手 順 を 分 節 し 、 各 過 程 ご と に確 か な 手 応 え を 得 な が ら 書 き 進 め て こそ 、自 分 の つま ず き が 明 確 に な り 、 克 服 の手 だ て も 明 ら か に な ってく る の であ る 。
こ の文 章 表 現 過 程 は 、 料 理 に な ぞ ら え る と わ か り や す い。料 理 で は 、 ま ず 献 立 を 決 め 、材 料 を 集 め 、 手 順 を 考
え て手 際 よ く 調 理 し 、盛 り 付 け る 。 献 立 は ﹁主 題 ﹂、 材 料 は ﹁取 材 ﹂、 手 順 は ﹁構 成 ﹂、 調 理 は ﹁記 述 ﹂、 盛 り 付 け
は ﹁推 敲 ﹂ に そ れ ぞ れ 相 当 す る の であ る 。 そ の際 、 材 料 を 探 し て いるう ち に献 立 が 変 わ る こと も あ る し 、 調 理 し
な が ら ふ と 思 い付 いて 別 の料 理 が で き あ が る と いう こと も あ る 。 こ の よ う に自 由 自 在 に 進 め る こ と が でき る が 、
基 本 的 手 順 が 変 わ る も の で は な いと いう 点 も 同 じ で あ る。 ま た 、 調 理 法 を 習 得 す る に は 、各 段 階 ご と に 、 手 順 を
踏 ん で練 習 を 重 ね な け れ ば 、 い つま で た っても 腕 が 上 が ら な い。 さ ら に 、 お いし い料 理 を 味 わ った こと が な け れ
ば 、 よ い味 は 出 せな いと いう 点 ま で、 文 章 表 現 と よ く 似 て いる 。 名 文 を 読 み、 そ こか ら新 し い発 想 を 得 る こ と の 大 切 さ も 推 し て知 る べし と 言 え よ う 。
2 学 習 指 導 要 領 に お け る 位 置 付 け
一九 五 八 (昭 和 三 三 ) 年 に コ ン ポ ジ シ ヨ ン理 論 が 紹 介 さ れ て 以 来 、 学 習 指 導 要 領 に お いて は 、 ﹁主 題 ・要 旨 ﹂、
﹁取 材 ・選 材 ﹂、 ﹁構 成 ﹂、 ﹁記 述 ﹂、 ﹁推 敲 ﹂ の 提 示 順 が定 着 し てき た 。 一九 九 八 ( 平 成 一〇 ) 年 度 改 訂 版 で も 、 ﹁書
d
く こと ﹂ の指 導 事 項 は 、 ﹁発 想 や 認 識 ﹂、 ﹁事 柄 や 意 見 ﹂、 ﹁選 材 ﹂、 ﹁構 成 ﹂、 ﹁記 述 ﹂、 ﹁推 敲 ﹂、 ﹁評 価 ・批 評 ﹂ の七
項 目 と な って い る。 ﹁評 価 ・批 評 ﹂ が 新 た に加 わ る な ど 若 干 の変 化 は あ る が 、 基 本 は従 来 ど お り の 文 章 表 現 過 程 に 沿 った 配 列 順 であ る 。
そ の中 か ら 、 ﹁発 想 ﹂ ﹁取 材 ﹂ に関 す る 指 導 事 項 を 抜 き 出 す と 、 以 下 のよ う に な る 。
◇ 小学校国語 ( 第 一学 年 及 び 第 二学 年 ) イ 書 こう と す る 題 材 に必 要 な 事 柄 を 集 め る こ と 。 ︵ 第 三 学年 及 び 第 四 学 年 ) イ 書 く 必 要 のあ る事 柄 を 収 集 し た り 選 択 し た り す る こ と 。 ︵ 第 五 学年 及 び 第 六 学 年 ) イ 全 体 を 見 通 し て 、 書 く 必 要 のあ る事 柄 を 整 理 す る こ と 。 ◇ 中学校国語 ︵ 第 一学年 )
ア 身 近 な 生 活 や学 習 の中 か ら 課 題 を 見 付 け 、 材 料 を 集 め 、 自 分 の考 え を ま と め る こ と 。 ウ 自 分 の考 え や気 持 ち を 的 確 に 表 す た め に、 適 切 な 材 料 を 選 ぶ こ と 。 ︵ 第 二 学年 及 び 第 三 学 年 )
ア 広 い範 囲 か ら 課 題 を 見 付 け 、 必 要 な材 料 を 集 め 、 自 分 のも の の 見 方 や考 え 方 を 深 め る こと 。
◇高等 学校 国語総合 ア 相 手 や 目 的 に応 じ て題 材 を 選 び 、効 果 的 な 表 現 を 考 え て 書 く こ と 。
こ こ で特 に 注 目 し な け れ ば な ら な い のは 、 次 の 三 点 であ ろ う 。
一つは 、 ﹁集 材 ﹂ か ら ﹁選 材 ﹂ へと いう 発 展 性 であ る 。 た だ 材 料 を 集 め て く る だ け で な く 、 書 く 必 要 性 を 判 断
し 、目 的 や場 面 や 相 手 に 応 じ て適 切 な 選 択 を 行 う こ と が 強 く 求 め ら れ て いる 。し か し 、 いき な り ﹁価 値 あ る 素 材 ﹂
を 探 そ う と す る のは 得 策 で は な い 。 ま ず ﹁集 材 ﹂、 つ い で ﹁選 材 ﹂ と いう 手 順 を 踏 む よう に 配 列 さ れ て い る こ と に 注 意 し た い。
二 つは 、 自 分 自 身 で ﹁課 題 を 見 付 け ﹂ る こと であ る 。 興 味 を 持 ち 関 心 を 抱 いた こ と や 、疑 問 に思 った こと な ど
を 大 切 に し 、そ の 課 題 解 決 のた め に 、材 料 や 情 報 を 集 め 、自 分 の考 え を 確 かな も のと す る こと が 求 め ら れ て いる 。 課 題 発 見 と 主 題 発 見 が 重 要 な カ ギ と な る。
三 つは 、 取 材 範 囲 を 、 自 己 を 中 心 と し た ﹁ 身 近な 生活﹂ から ﹁ 社 会 生 活 全 般 ﹂ へと 広 げ る こ と で あ る 。 ﹁コン
ピ ュー タ に よ る 情 報 の検 索 、 学 校 図 書 館 や 地 域 の図 書 館 あ る いは 博 物 館 等 を 利 用 し た 資 料 の 収 集 な ど 、 情 報 活 用
の能 力 を 養 う ﹂ (﹃中 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 国 語 編 ﹄ 東 京 書 籍 、 一九 九 九 ) こ と が 求 め ら れ て いる 。 情 報 収 集 力 と 情 報 発 信 力 の向 上 が 新 た な 課 題 と し て 示 さ れ て い る の で あ る。
こう し て み ると 、 ﹁書 く こ と の学 習 ﹂ に お い て 、 ﹁発 想 ﹂、 ﹁取 材 ( 集 材 ・選 材 )﹂ の 指 導 が いか に 重 視 さ れ て い
る か が よ く わ か る 。 ﹁何 に つ いて 書 く か﹂ を 決 定 す る ﹁発 想 ﹂ の段 階 、 ﹁そ のた め に何 を 選 ん で書 く か ﹂ を 決 定 す
る ﹁選 材 ﹂ の段 階 、 こ の 二 つは ま さ に 作 文 の中 核 と な る 部 分 で あ る 。 そ れ に よ って作 文 の成 否 が 左 右 さ れ る と
言 っても よ い。 文 章 表 現 の最 初 の段 階 で、 発 想 や 取 材 に 重 点 を 置 いた 指 導 が 行 わ れ れ ば 、 書 き た いと 思 う 内 容 が
明 確 に な り 、 全 体 を 見 通 し て 必 要 な材 料 を 集 め て いこう と す る姿 勢 が 形 成 さ れ る。 ま た 、 そ の後 の表 現活 動 の方 向 性 も 定 か な も のと な り 、 達 成 感 も 確 実 に得 ら れ る の で あ る。
︵三︶ ﹁発 想 ・取 材 の指 導 ﹂ の 具 体 化
で は 、 こ の重 要 な ﹁発 想 ・取 材 ﹂ 段 階 に お い て、 学 習 者 の表 現 活 動 を 支 援 し て いく に は 、 ど の よう な 指 導 法 が
有 効 な のだ ろ う か 。 ﹁主 題発 見 の た め の発 想 ・取 材 の指 導 ﹂ と ﹁主 題 の補 強 ・主 題 の深 化 拡 充 のた め の取 材 指 導 ﹂ と に 分 け な が ら 整 理 し て み よう 。
1 ブ レ ー ン ス ト ー ミ ン グ と マ ッピ ング に よ る方 法
ま ず 、 学 習 者 が ﹁書 く べ き 内 容 ﹂ ( 主 題 ) を 見 付 け た り 考 え た り す る よ う に導 く 指 導 法 を 取 り 上 げ よ う 。 これ は 発 想 指 導 であ る が 、 主 題発 見 の た め の取 材 指 導 でも あ る 。
ブ レ ー ン スト ー ミ ン グ は 、 川 喜 田 二 郎 が ﹃ 発 想法﹄ ( 中 公 新 書 、 一九 六 七 ) な ど に よ って 紹 介 し た 発 想 のト
レ ー二 ン グ 法 であ る 。 ﹁頭 の 中 に嵐 を 起 こ す ﹂ よう に、 思 い付 く こ と す べ てをカ ー ド な ど に 書 き 出 し 、 書 き 出 し
た こ と を グ ル ーピ ン グ し た り 、 関 連 付 け た り し な が ら 、 新 し い発 想 を 導 き 出 そ う と す る も の で あ る。
マ ッピ ン グ (﹁思 考 マ ップ ﹂、 ﹁リ ン ク マ ップ ﹂ な ど と も 呼 ば れ る ) と いう のは 、各 項 目を 関 連 付 け る 際 に 、 あ
た か も 地 図 を 作 成 す る か のよ う に 、 整 理 し て い こう と す る も の であ る。 ブ レー ン スト ー ミ ング だ け で は 、 いたず
ら に 拡 散 す る ば か り で 、 収 束 で き な く な る こ と が 多 い の で 、 図 形 化 す る こ と で 、主 題 の発 見 を 導 き や す く し たも
のだ と 捉 え た ら よ い。
近 年 は 、 デ ィ ベ ー ト が 盛 ん に行 わ れ る よ う に な った が 、 そ の 立 論 作 り の段 階 で、 こ の方 法 が よ く 用 いら れ て い
る。 例 え ば 、 ﹁中 学 校 の給 食 は 必 要 か ﹂ と いう タ イ ト ル で デ ィ ベ ー ト を 行 う 場 合 、 賛 成 意 見 と 反 対 意 見 、 廃 止 し
た 場 合 の メリ ット と デ メ リ ット な ど と 大 別 し な が ら 、 思 い付 く こ と を 書 き 上 げ 、 そ の後 、 そ れ ぞ れ の項 目 の関 連
性 を 矢 印 な ど を 用 い て分 類 整 理 し て いく の であ る 。 こ のよ う に 思考 内 容 を 視 覚 化 す る こ と で 、主 張 す べ き 点 や論 点 が 明 確 化 し 、 反 論 も 予 想 し やす く な って いく と 考 え ら れ て いる 。
2 観 点 提 示 に よ る 方 法
﹁思 考 内 容 を 視 覚 化 す る ﹂ と いう 手 だ てを 用 いて いる も の に 、 観 点 提 示 の方 法 が あ る。 例 え ば 、 ﹁見 た こ と 、 感
じ た こ と ﹂ を 作 文 に す る場 合 に、 ﹁舌 ・目 ・鼻 ・耳 ・心 ・手 ﹂ な ど の ﹁取 材 の観 点 ﹂ を 示 し て 、 思 い付 く こ と を
書 か せ る と いう 方 法 であ る 。 ﹁自 己 紹 介 文 ﹂ を 書 か せ る 場 合 に も 、 ﹁長 所 ・短 所 ﹂、 ﹁将 来 な り た いも の﹂、 ﹁好 き な
スポ ー ツ ・食 べ物 ﹂、 ﹁大 切 に し て いる も の﹂ な ど と ﹁取 材 の観 点 ﹂ を 示 す と 、 書 く べき 内 容 を 見 付 け 出 す 手 掛 か りとな る。
だ が、用 心 し て お か な く て は な ら な い のは 、こう し た 観 点 は パ タ ー ン化 し マンネ リ 化 し や す いと いう 点 であ る 。
発 想 の殻 を 破 って いこ う と す る 姿 勢 を 失 う と 、 表 現 意 欲 を 喚 起 す る こ と も で き な く な る 。 ﹃作 文 技 術 指 導 大 事 典 ﹄
( 明 治 図 書 、 一九 九 六 、 六 九 ∼ 七 〇 頁 ) に は 、 ﹁自 分 の名 前 の漢 字 の 意 味 を 調 べ る ﹂、 ﹁自 分 の名 前 に つい て ク ラ ス
の友 達 に イ ン タビ ュー す る﹂、 ﹁ 自 分 の名 前 の由 来 に つ いて家 族 に聴 取 す る﹂ と いう 三 つ の観 点 を 示 し て、 新 た な
観 点 を 持 た せ ると と も に 、 幅 の広 い取 材 方 法 を 身 に 付 け さ せ る 実 践 例 が 紹 介 さ れ て いる 。 こう し た 工 夫 が常 に 求
め ら れ て いる 。
3 題 名 の 工 夫 か ら ︱大 村 は ま の場 合
主 題 を 明 確 化 さ せ る た め に、 題 名 を 工夫 さ せ ると こ ろか ら 始 め ると いう 方 法 が あ る。
例 え ば 、 学 校 行 事 後 の感 想 文 で も 、 何 も 指 導 し な け れ ば 、 ほ と んど の学 習 者 は ﹁修 学 旅 行 の思 い出 ﹂、 ﹁修 学 旅
行 を 終 え て﹂ と い った 漠 然 と し た タ イ ト ル し か 付 け な い。 こ のタ イ ト ル の曖 昧 さ は 、 そ のま ま 主 題 の曖 昧 さ を 意
味 し てお り 、 こう し た 題 名 で書 き 始 め た作 文 は 、 た い て い総 花 的 で平 板 な 内 容 に 終 始 す る の であ る 。
こ う し た 状 況 を 克 服 す る方 法 は 、 大 村 はま の実 践 (﹃大 村 は ま 国 語 教 室 第 六 巻 ﹄ 筑 摩 書 房 、 一九 八 三 ) に 学 ぶ
こ と が で き る 。 大 村 は 、 意 見 文 を 書 か せ る に あ た って、 ﹁こ ん な に 言 いた い こと が あ る﹂ と 、 五 十 六 通 り の 題 名
例 を 提 示 し た 。 こ れ は 大 村 が 個 々 の生 徒 と の 日常 会 話 の中 か ら 見 付 け 出 し た 話 題 を 一覧 に し た も の であ る 。 そ の
( 類 比 ) 的 視 点 の提 示︱
﹁∼ と ∼ ﹂ や ﹁∼ の功 罪 ﹂ と いう 形 で、 二 つ のも の を 対 比 さ せ 、 そ の
提 示 の仕 方 に 、 次 の よ う な 工夫 が 凝 ら さ れ て い る こ と に注 目 し た い。
① 二項対比
相 違 点 や 共 通 点 に 目 を 向 け さ せ た り 、物 事 を 多 面 的 に捉 え さ せ た り す る 。例 え ば 、﹁ユー モ アと だ じ ゃれ ﹂、
ス ト レ ー ト に 問 いか け 、 問 題 を 焦 点 化 し 、 思 考 を 揺 さ ぶ る 。 例 え ば 、
﹁無 口 の功 罪 ﹂、 ﹁﹃ま ね す る ﹄ こと の功 罪 ﹂ な ど 。 ② 問 い か け に よ る 問 題 の焦 点 化︱
﹁心 さ え あ れ ば 形 は 問 わ な いか ﹂、 ﹁時 間 を 使 う か 、 紙 を 使 う か ﹂ な ど 。
③ 分 析 的 視 点 の提 示︱
語 の構 成 要 素 や 表 現 の差 異 が も た ら す 意 味 の 違 い に つ い て考 え さ せ 、 対 比 的 ・分 析
空 所 や 中 断 を 含 む 表 現 を 用 い て、 欠 如 部 分 を 補 わ せ る こと を 通 し て 、 各 自
的 に主 題 に迫 ら せ る。 例え ば 、 ﹁う た わ な い人 、 う た え な い人 ﹂、 ﹁気 に な る こ と 、 気 に す る こと ﹂ な ど 。 ④ 空 所 や 中 断 に よ る誘 いか け︱
) と いわ れ る こ と ﹂、 ﹁同 じ こ と ば で も ﹂ な ど 。
逆 説 的 表 現 を 用 い て 、 常 識 的 発 想 の見 直 し を 図 る 。 例 え ば 、 ﹁ユー モ ア
の発 想 を 導 く 。 例 え ば 、 ﹁日本 人 が ( ⑤ 逆 説 的 表 現 に よ る 発 想 の転 換︱
同じ テー マでも 、抽 象度 に差を 設け 、多 面 的な 切 り 口を提 示す る。例 え ば、
のむ り じ い﹂、 ﹁お し ゃべ り の効 用 ﹂ な ど 。 ⑥ 多 面 的 な 切 り 口 の提 示︱
﹁心 さ え あ れ ば 形 は 問 わ な いか ﹂ と ﹁内 容 と 外 観 ﹂、 ﹁気 に な る こと 、 気 にす る こ と ﹂ と ﹁真 に 憂 う べ き こ と﹂ など。
題 名 の ヒ ン ト を 与 え る 際 に も 、 こ のよ う に 多 彩 な 提 示 の仕 方 を 行 う こ と に よ って 、 ﹁ 書 く べき内容﹂ を発 見さ
せ る と と も に 、 今 後 の ﹁着 想 のヒ ント ﹂ と し て活 用 さ せ る こ と が 可 能 と な る の で あ る。
4 課 題 分 析 か ら 導 く 方 法 ︱ 変 形思考法
課 題 は 、自 分 で設 定 す る 場 合 も あ れ ば 、 他 者 か ら 与 え ら れ る 場 合 も あ る。 いず れ の場 合 でも 、 そ の設 定 の 仕 方
いか ん に よ って、 解 決 困 難 な 抽 象 的 難 問 に も な れ ば 、 克 服 可能 な 具 体 的 課 題 に も な る。 そ のと き 大 切 な の は 、 そ
の 課 題 を よく 分 析 す る こ と であ り 、 アプ ロー チ の仕 方 を 探 る こ と で あ る 。 そ の方 法 を 技 術 化 し た のが ﹁変 形 思 考
題 目 を 分 け て み る 。 例 え ば 、 ﹁環 境 保 護 ﹂ と いう 題 目 であ れ ば 、 ﹁環 境 ﹂ と ﹁保 護 ﹂ の 二 つ に分 け 、
法﹂ ( 樺 島 忠 夫 編 ﹃文 章 作 法 事 典 ﹄ 東 京 堂 出 版 、 一九 七 九 ) であ る 。 ﹁変 形 思 考 法 ﹂ では 、 次 のよ う な 方 法 を 提 案 し て い る。
① 分 割︱
題 目 に別 の 言 葉 を 結 び 付 け て み る 。 例 え ば 、 ﹁旅 ﹂ と いう 題 目 に 、 ﹁読 書 ﹂、 ﹁ 鏡 ﹂、 ﹁情 報 ﹂、 ﹁ 掃除
そ れ ぞ れ に つ いて ブ レ ー ン スト ー ミ ング す る 。 ② 添 加︱
機 ﹂ な ど を 添 加 し て考 え て み る 。 さ ら に 、 こう し た 二語 を ﹁は ﹂ で 結 ん で み ると 、 ﹁旅 は 鏡 だ ﹂ の よう な
﹁∼ が な け れ ば ﹂ と 逆 に 考 え て み る 。 例 え ば 題 目 が ﹁水 ﹂ な ら 、 ﹁水 が な け れ ば ﹂ と 考 え て み る の
比 喩 が 生 ま れ 、 新 し い発 想 が でき る よ う に な る 。 ③ 逆 転︱
であ る 。 ま た 、物 事 を 裏 返 し て考 え て み る 。 ﹁地 球 を 守 る ﹂、 ﹁子 ど も を 守 る ﹂ と いう 表 現 を ﹁地 球 が 守 る ﹂、
﹁子 ど も が 守 る ﹂ と 言 い換 え て み る と 、 改 め て ﹁地 球 と 人 間 の 関 係 ﹂ や ﹁大 人 と 子 ど も の 関 係 ﹂ に つ い て
題 目 の 具体 例 を 考 え て み た り 、 条 件 や 状 況 を 限 定 し て み た り す る。 ﹁敬 語 ﹂ と いう 題 目 な ら ば 、
見 つめ直 す き っか け にな る 。 ④ 特 殊 化︱
﹁部 活 動 に お け る先 輩 に対 す る 敬 語 ﹂ と いう ふ う に 、 条 件 を 限 定 し て考 え て み る の で あ る 。 す る と 、 論 じ
題 目 の概 念 を 広 げ た り 、 抽 象 化 し た り 、 条 件 や 状 況 を 取 り 除 いた り し て考 え る 。 例 え ば 、 ﹁学
る べき 点 も 明 確 に な ってく る 。 ⑤ 一般 化︱
校 食 堂 の値 上 げ ﹂ を ﹁値 上 げ ﹂ 一般 の問 題 と し て考 え た り す る 類 で あ る 。 こ れ によ って 大 き な 視 野 に立 つ こと が で き 、 問 題 のあ り か が 見 え てく る こと が あ る 。
こ の ﹁変 形 思 考 法 ﹂ は 小 ・中 学 生 に は 使 え な いと 思 わ れ る か も し れ な いが 、 そ ん な こと は な い。 中 西 一弘 は 、
﹃子 ど も と と も に学 ぶ作 文 指 導 の課 題 と 方 法 ﹄ (明 治 図 書 、 一九 九 六 ) に お いて 、 理 解 教 材 の題 名 か ら 取 材 の視 点
を 発 見 さ せ る 方 法 を 多 様 に 紹 介 し て いる 。 例 え ば 、 ﹁お 父 さ ん の ∼ ﹂ の よ う に 、 ﹁⋮ ⋮ の ∼ ﹂ と いう 形 式 で ﹁∼ ﹂
の部 分 に 入 れ る言 葉 を 出 し合 って み る 方 法 。 さ ら に焦 点 化 の度 合 いを 進 め て 、 ﹁お 父 さ んと の上 手 な付 き 合 い方 ﹂
の よう に ﹁△ △ が ⋮ ⋮ す る ∼ ﹂ と いう 形 式 を 用 い て み る 方 法 。 さ ら に ま た 、 ﹁お 父 さ ん と 弟 ﹂ の よう に、 他 のも
のと 組 み 合 わ せ て 書 く 材 料 を 探 さ せ て み る 方 法 。 こ の よう に題 名 を 生 か せ ば 、 取 材 の幅 を ど ん ど ん 広 げ る こ と が
でき る と 解 き 明 か し て いる 。 これ らも 、 ﹁ 変 形 思 考 法 ﹂ の 一例 で あ り 、今 後 是 非 と も 活 用 し た い方 法 で あ る。
5 範 文 の レ ト リ ック に学 ぶ 方 法 ︱枠 組 み 作 文
文 章 構 成 の指 導 も 視 野 に 入 れ な が ら 発 想 や取 材 の ヒ ント を 与 え る方 法 に 、 ﹁ 枠 組 み 作 文 ﹂ が あ る 。 範 文 の発 想
(﹃新 し い授 業 の工 夫 20 選 ︿ 第 4集 ﹀﹄ 大 修 館 書 店 、 一九 九 八 ) は 、森 毅 の エ ッ セイ ﹁雑 木
法 と レ ト リ ック と を 活 用 し て 、 文 章 を 書 いて み よ う と す る 方 法 で あ る 。 例 えば 、澤田英史
林 の 小道 ﹂ か ら 、 ﹁⋮ ⋮ が 苦 手 だ ﹂ と いう 書 き 出 し と 、 ﹁ 自 己 の流 儀 を 示 し 、 そ の弱 み を 述 べ て お い て 、 あ ざ やか
に切 り 返 す ﹂ と いう 流 れ 、 及 び ﹁自 分 の流 儀 を 擬 態 語 で キ ー ワ ー ド 化 す る﹂ 方 法 を 取 り 出 し 、 こ の ﹁枠 組 み ﹂ を
用 いて 文 章 を 書 か せ て いる 。 こ の実 践 例 は 、与 え ら れ た 形 を 用 いる こと に よ って、 論 の進 め 方 を 学 ば せ よ う と す
るも ので あ る 。 し か し 同 時 に 、 お のず か ら 自 己 の発 想 法 を 再 認 識 し た り 、新 た な 思 考 法 や認 識 法 を 獲 得 し た り す る こと を 促 す 発 想 指 導 であ る と 位 置 付 け る こと が でき る 。
同 じ よ う に、 寺 田 寅 彦 の短 章 ﹁柿 の種 ﹂ (﹃寺 田寅 彦 全 集 第 11巻 ﹄ 岩 波 書 店 、 一九 六 一) に着 想 を 得 て、 ﹁⋮ ⋮
は 、 存 外 不 便 な も の であ る ﹂ と いう 主 題 文 を 用 いた エ ッセ イ を 書 い て み る と よ い。 一見 便 利 だ と 思 わ れ て いるも
の を 探 し 、 そ れ が な ぜ 不 便 な のか を 説 明 す る 必 要 が 生 じ て き て 、 あ れ こ れ と 知 恵 を 絞 る こ と に な る 。 と り わ け
﹁存 外 ﹂ と いう 言 葉 が 機 能 し て 、 平 凡 な も の の見 方 を く つが え す 思 考 の訓 練 に な り 、 物 事 を 多 面 的 に 捉 え る こと
が で き る よ う に な る の で あ る (田 中 宏 幸 ﹃ 発 見 を 導 く 表 現 指 導 ﹄ 右 文 書 院 、 一九 九 八 )。
6 虚 構 の 作 文 を 活 用 す る方 法 ︱視 点 の転 換 によ る書 き 足 し ・書 き 換 え
虚 構 の作 文 を 活 用 す る こと に よ って 、 発 想 ・取 材 の指 導 を 行 う こ と も 可能 で あ る 。 例 え ば 、 ﹁吾 輩 は 猫 であ る ﹂
( 夏 目 漱 石 ) や ﹁の は ら う た ﹂ ( 工 藤 直 子 ) にな ら って、 何 か に成 り 代 わ って そ の立 場 か ら 身 の 上 話 や詩 を 書 い て
み る と いう 学 習 は 、 学 習 者 を 表 現 す る喜 び に導 い てく れ る 。 視 点 の 転 換 が、 新 し い発 想 を 導 き 、 視 野 を 広 げ てく れる のである。
こ れ は 、 意 見 文 や手 紙 文 を 書 く と き にも 活 用 で き る方 法 であ る 。 例 え ば 、 ﹁割 り 箸 ﹂ の立 場 か ら 環 境 保 護 の問
題 を 取 り 上 げ た り 、 ﹁魚 ﹂ や ﹁木 ﹂ の 立 場 か ら 原 子 力 発 電 所 の 問 題 を 論 じ た り す る 。 ま た 、 芥 川 龍 之 介 の恋 文
﹁文 ち ゃ ん﹂ を 読 ま せ た 上 で、 文 ち ゃん に 成 り 代 わ って 芥 川 龍 之 介 に お 断 り の手 紙 を 書 い て み る の で あ る 。 平 生
な ら ば 、 気 負 い や気 恥 ず か し さ が 先 行 し て 筆 が 止 ま ってし ま う も のだ が 、 虚 構 の場 であ る か ら 、 心 伸 び や か に 話
題 を 探 し 、主 題 の明 確 な 文 章 が書 け る よう に な る。 中 学 生 か ら 大 学 生 に 至 る ま で 、 幅 広 い校 種 で応 用 でき る方 法 であ る 。
7 取 材 帳 (力 ー ド ・メ モ ) と 題 材 表 に よ る方 法
以 上 、 これ ま で の実 践 事 例 を 紹 介 し な が ら 、 アイ デ ア豊 か な 指 導 法 を 紹 介 し てき た が 、 最 も 肝 心 な こ と は 、 日
常 の 言 語 生 活 の中 で 、 常 に ﹁書 こ う と す る 心 ﹂ を 持 ち 続 け る よ う に し て お く こと であ る 。 ﹁書 く こ と ﹂ の 学 習 が
授 業 の 中 で の み行 わ れ るも の であ れ ば 、 ま だ 本 当 の ﹁生 き る力 ﹂ と は な り え て いな い。 日頃 か ら ﹁取 材 帳 ﹂ を 用 意 し 、 思 い付 いた と き に い つ でも メ モを す る 習 慣 が 身 に 付 く よ う に 指 導 し た い。
し か し 、 こ の地 道 な 学 習 を 全 員 に 課 す こと が 難 し いと いう こと も あ ろう 。 な ら ば 、 ﹁題 材 表 ﹂ を 活 用 し 、 主 題
発 見 の糸 口と す れ ば ど う か 。 二 〇 〇 二 ( 平 成 一四 ) 年 度 版 中 学 校 国 語 教 科 書 巻 末 に は 、 親 し み や す い形 の題 材 一
覧 が 示 さ れ て いる 。 三 省 堂 の場 合 は 、 [ 自 分 自 身 / 家 族 / 友 達 ・学 校 ・地 域 / 社 会 ] と いう ふう に 取 材 範 囲 を 広
げ な が ら 同 心 円 上 に テ ー マ例 を 示 し て い る 。 東 京 書 籍 の場 合 は 、 [観 察 ・説 明 ・記 録 ・報 告 / 意 見 ・主 張 / 手
紙 ・通 信 / 感 想 / そ の他 ] の文 種 別 に 表 形 式 で題 材 例 を 示 し て いる 。 こう し た 一覧 表 を ヒ ン ト に 、 書 い て みた い
題 材 を 探 す のも 、 主 題 発 見 の 一助 と な る はず で あ る。 毎 回 完 成 し た 作 文 を 書 か な け れ ば な ら な いと 窮 屈 に 考 え る
の で は な く 、 折 に触 れ て こ の 題 材 表 を 眺 め て は 、 心 動 か さ れ る も のに つ い て数 行 だ け 書 い て み ると いう 指 導 が あ って も よ い の であ る。
8 外 部 探 索 に よ る 情 報 収 集 ︱新 聞 ・書 物 ・ウ 工ブ の検 索 、 観 察 ・実 験 ・調 査
続 い て、 ﹁主 題 の補 強 ・主 題 の深 化 拡 充 のた め の取 材 指 導 ﹂ を 取 り 上 げ よ う 。 学 習 者 に よ って は 、 主 題 が ほ ぼ
明 確 に な り 、 書 き 進 め て い こう と し ても 、 そ れ を 支 え る 事 例 が 乏 し く 、説 得 力 のあ る 文 章 に 仕 上 が って こな いと
いう こと が あ る 。 ま た 、 自 ら の体 験 が 不 足 し て いる た め に考 察 が 浅 く 、主 題 に 深 ま り や広 が り が な いと いう こ と
も 少 な く な い。 こう し た 問 題 を 克 服 す る に は 、 外 部 に 探 索 す る 場 を 求 め る ﹁取 材 指 導 ﹂ が欠 か せ な い。
そ の代 表 は 、 学 校 図書 館 等 を 活 用 し た 新 聞 ・書 物 ・文 献 の探 索 であ り 、 イ ン タ ー ネ ットを 活 用 し た ウ ェブ の検
索 で あ る。 情 報 収 集 能 力 及 び 情 報 活 用 能 力 の向 上 のた め にも 、 こ う し た学 習 の充 実 が 欠 か せ な い。 た だ 、 そ の際
に特 に 留 意 し て お か な け れ ば な ら な い の が 、 メ デ ィ ア ・リ テ ラ シ ー の向 上 であ る 。 容 易 に大 量 の情 報 が 入 手 で き
る よ う にな った が 故 に 、 情 報 の信 頼 性 を 的 確 に 判 断 す る と と も に 、 必 要 な 情 報 で あ る か ど う か を 適 切 に 選 択 で き
る力 を 養 って お か な け れ ば な らな い。 今 後 の実 践 研 究 が 強 く 求 め ら れ る分 野 であ る 。
ま た 、 こ れ か ら の実 践 研 究 課 題 と な って いる の が 、 観 察 ・実 験 ・調 査 に よ る 情 報 収 集 であ る 。 こ れ ら は 、 理科
や社 会 の分 野 の活 動 と し て考 え ら れ 、 国 語 科 の指 導 内 容 と し て 取 り 上 げ ら れ る こと が 少 な か った 。 し か し 、 こ れ
か ら の国 語 科 教 育 に お いて は 、 是 非 取 り 組 ま せ た い学 習 であ る 。 と り わ け 調 査 の 一形 態 であ る イ ン タ ビ ユー は 、
未 知 の人 と 直 接 対 面 し て 行 う 活 動 であ り 、 ﹁伝 え 合 う 力 ﹂ を 育 成 す る こ と に大 い に寄 与 す る も の で あ る 。 テ ー マ
の設 定 か ら 、 取 材 の申 し 込 み 、 事 前 の情 報 収 集 、 質 問 事 項 の整 理 、 イ ン タ ビ ュー、 事 後 の報 告 に 至 るま で、 総 合
的 な 力 を 養 う 単 元 学 習 が 成 立 す る 。 ﹁書 く こ と ﹂ と ﹁話 す こと ・聞 く こ と ﹂ と の関 連 指 導 と し ても 大 い に活 用 し た い。
9 話 し 合 い の活 用
﹁主 題 の補 強 ・主 題 の深 化 拡 充 ﹂ を 図 る に は 、 学 級 内 に お け る話 し 合 いや 討 論 を 活 用 す る のも き わ め て効 果 的
であ る 。 例 え ば 、 問 題 提 起 と な る 文 章 を 読 ん で最 初 に考 え た こと を 一覧 表 に し て提 示 し 、 お 互 い の意 見 に つ い て
話 し 合 わ せ る。 す る と 、 学 習 者 にと っては 、 同 じ 問 題 で あ っても 多 様 な 考 え 方 が あ る こ と を 知 る こ と に な り 、 一
般 的 考 え 方 と 自 分 独 自 の考 え 方 と の差 異 も 見 出 し やす く な る 。 ま た 反 論 も 予 想 し や す く な り 、 再 反 論 す る 材 料 の 探 索 と 選 択 が 、 実 際 的 な 学 習 と し て 展 開 さ れ る よ う に な る の であ る 。
こ の話 し 合 いを 生 か す ﹁発 想 ・取 材 ﹂ の指 導 は 、 推 敲 ・批 正 の段 階 に お い ても 活 用 す る こ と が でき る 。 下 書 き
が で き あ が った 段 階 で相 互 添 削 さ せ 、 付 箋 紙 な ど を 用 い て 、 ﹁納 得 さ せ ら れ た と こ ろ ﹂ や ﹁も っと 詳 し く 説 明 し
て ほ し いと 思 った と こ ろ ﹂ な ど を 書 き 込 む よ う に さ せ る と 、 必 要 な 材 料 が 何 であ った か を 考 え 直 し て 、 も う 一度
取 材 活 動 を 行 う よ う に な る 。 ま た 、 主 題 と 話 題 と が整 合 性 を 持 つも の か ど う か な ど も 、 他 者 の批 評 を 参 考 に し て 検 討 す る よう に な り 、 文 章 の質 も 高 ま って く る の で あ る 。
ず で あ る 。 書 く 必 然 性 のあ る学 習 の場 を 設 定 し 、 表 現 技 術 を 知 り た いと いう 思 いを 高 め た 上 で、 こ れ ら の指 導 が 展 開 さ れ る よう に 、 さ ら に 工夫 を 凝 ら し て いき た い。
森 岡健 二 ﹃ 文 章構 成 法﹄ 至文 堂 一九 六 三
参考文献
規出 版 一九 七 〇/ 再録: ﹃ 倉 澤栄 吉国 語教 育全 集 5 過程 重視 の表 現指導 ﹄角 川 書店 一九 八八 )
倉 澤 栄吉 ・青 年 国語 研究会 ﹃ 作 文 の指導 過程 ﹄ 全 三巻 新光 閣書 店 一九 六 六 倉 澤 栄 吉 ﹁作 文教 育 にお け る評価 ﹂ ( 初 出: 文 化庁 著 作権 所有 ﹃ 作文 教 育 にお け る評価 /国 語表 現法 の教育 ﹄ 第 一法 佐 藤 信夫 ﹃レト リ ック感覚﹄ 講 談社 一九七 八 樺 島 忠夫 編 ﹃文章作 法事 典﹄ 東 京堂 出版 一九 七九 篠 崎久 躬 ﹃ 文章 表 現力 を高 め る取材 指導﹄ 明 治 図書 一九 八 一 大 村 はま ﹃ 大村 は ま国語 教室 第 五巻 ・第 六巻﹄ 筑 摩書 房 一九 八 三 大 西道 雄 ﹃ 意見 文指 導 の研究﹄ 渓 水社 一九 九 〇
兵 庫県 高等 学校 教育 研究 会国 語 部会 編 ﹃ 自 己 を ひらく表 現 指導 ﹄右 文書 院 一九九 五 中 西 一弘編 ﹃ 基 礎文 章表 現法 ﹄朝 倉書 店 一九 九 六 中 西 一弘 ﹃子ど もと とも に学 ぶ 作文 指導 の課 題と 方法 ﹄ 明治 図書 一九九 六 国語 教育 研究 所 編 ﹃作文 技術 指導 大事 典﹄ 明治 図書 一九 九六
尾木 和英 編 ﹃ 作文 指導 改善 ハンド ブ ック﹄ (﹃ 月 刊国 語教 育﹄ 一九 九 七年 五月号 別 冊) 東京 法令 出版 一九九 七 大西 道雄 ﹃ 作 文 教育 にお ける創 構指 導 の研 究﹄溪 水 社 一九 九 七 大平 浩哉 編著 ﹃ 新 し い授業 の工夫 20選 ︿ 第 4集 ﹀﹄大 修館 書店 一九 九 八 田中 宏幸 ﹃ 発 見を導 く表 現指導 ﹄右 文書 院 一九九 八
﹃月刊 国語 教育﹄ 一九九 八年 一二月 号 ( 特集 ﹁取 材 ・選材 に着 目す る作 文指 導 ﹂)東 京法 令出 版 文 部省 ﹃中学校 学 習指導 要 領解 説︱ 国語 編︱﹄ 東 京書 籍 一九 九九
府 川源 一郎 ・高 木ま さき 他編 ﹃ 認 識力 を育 てる ﹁ 書 き換 え ﹂学 習︳ 中学校 ・高校 編︳ ﹄東 洋館 出版 首藤 久義 ﹃書く こと の学 習支 援﹄ 東洋 館出 版 二〇〇 四 大 西道雄 ﹃作文 教育 にお け る文章 化過 程指 導 の研究 ﹄渓 水社 二〇 〇 四
二 構 想 ・構 成 の指 導 と そ の方 法
は じ め に こ の節 で は 、 文 章 全 体 の設 計 図 (アウ ト ラ イ ン) の作 成 に つ いて 述 べ る。
二〇 〇四
主 題 を 支 え る た め に 集 め た 材 料 を いか に 効 果 的 に 配 列 す る か が 文 章 作 成 の根 幹 であ る 。 文 章 全 体 の ア ウ ト ライ
ンを 作 る 過 程 が 構 想 であ り 、 出 来 上 が った ア ウ ト ライ ン が 文 章 の構 成 図 と な る 。 叙 述 に 入 る 前 の、 構 想 過 程 か ら ア ウト ラ イ ン の完 成 ま でが こ の節 の対 象 範 囲 であ る 。
文 章 表 現 は 、 時 間 的 ・継 時 的 ・線 状 的 性 格 を 持 って い る と いう 特 異 性 が あ る 。 絵 画 や彫 刻 で の表 現 は 、 作 成 過
程 でど の部 分 か ら 先 に 手 を つけ て完 成 さ せ た か と いう こと は 、 完 成 作 品 を 鑑 賞 す る 場 合 に は 問 題 に な ら ず 、 作 品
は 丸 ご と 同 時 的 ・空 間 的 存 在 と し て受 け 止 め ら れ る 。 と こ ろ が 、 音 楽 で も そ う だ が 、 言 語 に お いて は 、 表 現 のあ
と さ き の配 列 が 重 大 な意 味 を 持 って いる 。 読 み 手 は 、 書 き 手 の表 現 に導 か れ な が ら 、 順 次 文 章 表 現 の展 開 を た ど
る ので あ る 。読 む 前 に 、 読 み手 が 文 章 全 体 の構 成 を 把 握 す る こ と は 不 可能 だ 。 冒 頭 か ら 結 末 ま で、 先 へ先 へと 読
み進 め て、 最 後 に よ う や く そ の全 体 像 を つか む の であ る 。 目次 や 見 出 し 、 索 引 な ど は 、 そ の特 徴 を 補 う も のと 言 え る だ ろう 。
文 章 表 現 の 順 序 性 の重 要 性 は上 記 の こと に 由 来 す る が 、 そ の意 味 か らも 、 材 料 の 配 列 図 で あ る ア ウ ト ライ ン の 作 成 は 文 章 作 成 の命 と も 言 え る。
︵一︶ アウ ト ラ イ ンと は
文 章 作 成 に ア ウ ト ライ ン が 重 要 な こ と は ﹁は じ め に ﹂ で 述 べた と お り だ が、 し か し 、 そ れ はあ く ま でも 文 章 作
成 の 一手 段 と し て で あ り 、 ア ウト ラ イ ンそ のも のが 目 的 で は な い。 構 想 の過 程 では 、 材 料 を 差 し 替 え た り 、 主 題
を 確 認 し た り す る 作 業 が 何 度 と な く 繰 り 返 さ れ る 。そ の 間 に 新 し い考 え が 芽 生 え 、主 題 が 変 わ る こと も あ り 得 る 。
こ の プ ロセ ス が 、 書 き 手 の思 考 を 確 か に し 、 同 時 に、 叙 述 の順 序 の工 夫 に つな が る ので あ る 。 図 式 (マ ップ ) 化
が ア ウ ト ライ ン の目 的 で は な く 、 創 造 ( 新 し い考 え の 発 見 ) こ そ が 本 来 の 意 義 であ る 。
アウ ト ラ イ ンは 、 記 述 に 弾 みを つけ る た め の スプ リ ング ボ ー ド であ る べ き だ 。 順 序 を 明 確 に し 、 論 理 を 通 す と いう 原 則 さ え 理 解 でき れ ば 、 ア ウ ト ライ ン作 成 の 目 的 は 達 せ ら れ る 。
こ こ で、 著 名 な 独 文 学 者 高 橋 義 孝 の ﹁読書 と エ ンピ ツ﹂ の 一部 分 を 紹介 し よう 。 著 者 の 文 章 作 成 法 が 披瀝 さ れ て い て 興味 深 い。
⋮ ⋮ 論 文 で も 書 こう と いう 場 合 の こ と だ が 、 そ ん な と き 、 私 は 思 い浮 ぶ か ぎ り の手 持 ち の書 物 を 書 架 か ら
引 張 り 出 し て き て 、 机 の上 に 積 み 上 げ る 。 白 状 す ると 私 の方 法 は 、 学 問 的 と いう よ り も 文 学 的 だ 。 つま り あ
ら か じ め 頭 の中 に は っき り と し た 結 論 が でき て い て 、 そ れ を 証 拠 に よ ってか た め て いく た め に諸 書 を 参 照 す
る と いう ふう では な い のだ 。む ろ ん ぼ ん やり と し た こと は 考 え て いる 。お よ そ こう だ ろう と いう も のは あ る 。
し か し いざ 論 文 を 書 い て み る と あ ら か じ め 考 え て いた も のと は 、 よ ほど ち が って く る の で あ る。 先 入 主 は 最 小 限度な のである。
さ て積 み 上 げ た 書 物 を 片 端 か ら 読 み は じ め る 。 ち ょ っと でも 自 分 の注 意 を ひく 個 所 に は 遠 慮 な く エ ンピ ツ
で し る し を つけ る。 そ う いう ふ う に し て予 定 し た 書 物 を 全 部 読 ん で し ま う 。 そ れ か ら し る し を し た 個 所 を も
う 一度 読 ん で 、 そ の内 容 を 要 約 し て 、 大 き な 紙 片 に 要 約 の見 出 し 語 を 書 き な ら べ て い って 、 そ の あ と に各 書
の該 当 ペ ー ジ 数 を 書 き 加 え て いく 。 見 出 し 語 に よ って は そ の ペ ー ジ 数 が いく つも いく つも つな が る のも あ れ
ば 、 た った ひ と つし か な いの も あ る 。 大 き な 紙 片 と いう のは た い て いは 原 稿 用 紙 を 使 う が 、 ノ リ で つな いで
四枚 に も 五枚 に も な る こと が あ る。 そう いう 整 理 が 終 る と こ ん ど が いち ば ん た の し い仕 事 で あ る 。 す な わ ち
幾 日 か の間 、 そ の幅 広 で タ テ 長 の巻 紙 を ぼ ん や り と 眺 め 暮 ず の で あ る。 こ のと き が いち ば ん た の し い。 論 文
は ま だ でき て いな い。 これ か ら の やり よ う に よ って は 、 い い論 文 も でき あ が るだ ろ う し 、 ま た 、 く だ ら ぬ論
文 し か 書 け な いか も し れ な い。 成 否 の鍵 は な お わ が 掌 中 に あ る。 し か し 綿 密 に文 献 に あ た る と いう 辛 い仕 事
は す ん で いる 。 ご 馳 走 を な ら べ て 、 酒 の カ ン の つく のを 待 って いる と き のよ う な も のだ 。
と こ ろが そ のと き ふ し ぎ な こ と が 起 る 。 た く さ ん の見 出 し 語 た ち が そ れ ぞ れ の内 容 に し た が って 、 お のず
か ら グ ルー プ を 形 成 し て行 く の であ る 。 た だ 眺 め て いれ ば 、 そ れ が し ぜ ん と わ か る 。 こ っち で手 を 下 さ な く
と も 、 先 方 で し ぜ んと グ ル ー プ を 形 成 し て いく 。 そ う し た ら 似 た も の同 士 を ひと ま と め に す る 。 つま り 番 号
で第 一組 、 第 二 組 と いう ふう に わ け る 。 こ れ が で き た ら 、 論 文 は 完 成 し た のも 同 様 で あ る 。 紙 を 展 べ てそ の
巻 紙 を 片 方 に 置 い て、 番 号 順 に 諸 書 の当 該 個 所 を 見 な が ら 、 文 を つづ って いけ ば よ い。 使 用 ず み のペ ー ジ 数
は 片 端 か ら 消 し て いく 。 ( 高 橋 義 孝 ﹁読 書 と エンピ ツ﹂ ﹃思 想 の抜 け 穴 ﹄ 読 売 新 聞 社 昭 和 三 〇 年 四月 発 行 )
書 き 慣 れ た 学 者 の文 章 作 法 を 、 誰 も が そ の ま ま 踏 襲 で き ると は 思 え な いが 、 そ れ で も 、 な る ほ ど と 同 感 でき る
部 分 は あ る 。 と り わ け 最 後 の段 落 は 、 ま さ しく ア ウト ラ イ ン の作 成 そ のも ので あ ろう 。
( 著 者 は こ こ で ﹁た だ 眺 め て いれ ば 、 そ れ が し ぜ ん と わ
﹁⋮ ⋮ 似 た も の同 士 を ひ と ま と め にす る 。 つま り 番 号 で第 一組 、 第 二組 と いう ふ う にわ け る 。 こ れ が でき た ら 、 論 文 は完 成 し た のも 同 様 で あ る。 ⋮ ⋮ ﹂ 材 料 の収 集 か ら 選 択 、 そ し て何 よ り も 深 い思 索 の過 程
か る 。 こ っち で手 を 下 さ なく と も 、先 方 でし ぜ ん と グ ル ー プ を 形 成 し て いく ﹂ と 述 べ て い る が) を 経 て 、 いよ い よ ア ウ ト ライ ン の作 成 であ る 。
以 下 、 素 人 の 私 た ち が ア ウ ト ラ イ ンを 作 る場 合 に注 意 し た い事 項 を 考 え て い こう 。
︵二︶ アウトライ ンの作り方 ︵1︶ 文 章 の構 成
文 章 の構 成 に は 、 いく つか の型 が あ る 。 よ く 知 ら れ て い るも の に 、 ﹁起 ﹂ ・﹁承 ﹂・﹁転 ﹂・﹁結 ﹂ の 四 段 構 成 が あ
る が 、 こ れ は 本 来 、 漢 詩 の 、 起 句 ・承 句 ・転 句 ・結 句 を 文 章 構 成 に応 用 し た も の で あ る 。 小 説 や 物 語 な ど で は 、
﹁発 端 ﹂・﹁経 過 ﹂・﹁結 末 ﹂ な ど に区 分 さ れ る こと があ る 。 ま た 、 論 説 文 な ど で は 、 ﹁序 論 ﹂・﹁本 論 ﹂・﹁結 論 ﹂ に分 け ら れ る のが 一般 的 であ る。
こ の よ う に 、 文 章 の組 み立 て に は い ろ いろ の型 が あ る が 、 も っと も 一般 的 な 型 と し て、 ﹁冒 頭 ﹂・﹁展 開 ﹂・﹁結
尾 ﹂ の 三 段 構 成 が あ げ ら れ る 。 こ の場 合 、 ﹁展 開 ﹂ 部 を いく つか に 区 分 け す れ ば 、 四段 、 五 段 、 六 段 と 、 いく つ
も の バ リ エー シ ョ ンに 発 展 さ せ る こと が でき る。 三 段 構 成 は 、 短 い文 章 か ら 長 い文 章 ま で 、 様 々 に 応 用 でき る 安
定 した構成法 と言え る。
︵2︶ 文 章 の冒 頭
文 章 を 書 く 際 に は 、 誰 も が 、 最 初 の ]文 を ど う 書 き 始 め る か に苦 労 す る 。 文 章 全 体 の主 題 や ア ウ ト ライ ン が 決
ま って い ても 、第 一文 が な か な か 書 き 出 せ な い こと があ る 。 逆 に 、 書 き 出 し が 決 ま れ ば あ と は案 外 楽 に 筆 が 進 む
と いう 経 験 は 、誰 も が す る と こ ろ で あ ろう 。 文 章 表 現 の継 時 的 特 徴 を 考 え る と 当 然 のこ と でも あ る。
書 き 出 し を 考 え る 際 に は 、 た だ 単 に 最 初 の 一文 や 、 最 初 の 一段 落 の書 き 出 し だ け を 考 え る の では な く 、 冒 頭 部
が 、 文 章 全 体 の構 成 上 ど の よ う な 働 き を 担 う のか を 考 慮 す る と 最 後 ま で無 理 な く つづ る こと が で き る。 以 下 、 文 章 の 冒 頭 類 型 に つ い て見 て み よ う 。 ︿ 冒 頭 の類 型 ﹀ A 全 内 容 の集 約 型 ① 主 題 ・主 旨 ・結 論 ・提 案 な ど を 書 く 。 ② 話 題 、 ま た は 課 題 に つ い て書 く 。 ③ あ ら す じ ・筋 書 き を 書 く 。 B 主 内 容 に 対 す る 前 置 き ・導 入 型 ① 書 き 手 の立 場 や 意 向 、 こ と わ り な ど を 書 く 。 ② 時 ・所 ・登 場 人 物 な ど を 紹 介 す る。 ③ 主 な 内 容 への糸 口 と な る事 柄 を 書 く 。
C 主 内 容 の構 成 の 一部 型 ・いき な り 本 文 に 入 って 、 前 置 き や導 入 に当 た るも の を 書 か な い。
文 章 の種 類 に よ り 一概 に は 言 え な いが 、 小 説 や 物 語 な ど 、 読 み手 の興 味 付 け の意 図 が 強 く 働 く 場 合 は B 、 C型
が 効 果 的 で、 論 説 や 解 説 文 の よ う な 、 論 理 性 を 重 視 した 文 章 の場 合 は A型 の書 き 出 し が わ か り や す い。
︵3︶ 文 章 の結 尾
冒 頭 と 結 尾 は 、 首 尾 照応 す る こと が 文 章 全 体 のま と ま り に つな が る 。 上 述 の冒 頭 と 対 応 さ せ な が ら 、 結 尾 の類 型 を 見 て み よう 。 ︿結 尾 の 類 型 ﹀ A 全 内 容 の集 約 型 ① 主 題 ・主 旨 ・結 論 ・提 案 な ど を 最 後 に ま と め る 。 ② 話 題 、 ま た は 課 題 に つ いて ま と め て し め く く る 。 ③ あ ら 筋 ・筋 書 き を ま と め て 最 後 に書 く 。 B 主 内 容 に 対 す る 付 け 足 し型 ① 書 き 手 の立 場 ・意 向 ・こと わ り な ど を 書 く 。 ② 主 内 容 を 枠 でま と め る。 ③ 感 想 や 反 省 な ど を そ え て締 め く く る 。 C 主 内 容 の構 成 の 一部 型
・いわ ゆ る結 尾 を 書 かず に 、 主 内 容 の 一端 を 叙 述 し て 、 そ のま ま 文 章 を 終 わ ら せ る 。
論 説 文 や 解 説 文 の結 尾 と し ては 、 結 論 を は っき り と 伝 え る た め にも 、 A の観 点 が 大 事 で あ る。 相 手 を 意 識 す る
通 信 文 や 説 明 文 の 場 合 に は、 A に 加 え て B の書 き方 も 多 い。 近 代 以 降 の小 説 な ど では 、 場 面 描 写 で余 韻 を 持 た せ て終 わ る C 型 が 多 く 見 ら れ る 。 学 生 の意 見 文 か ら 、 文 章 の 冒 頭 と 結 尾 を 取 り 出 し て 、 そ の型 を 探 って み よ う 。
例 1. タ イ ト ル ﹁敬 語 ﹂ 副 題︳ ど う し て こ ん な に 変 わ った の︳ 主 題 文 ﹁敬 語 は 互 い の心 理 的 距 離 を 測 る 物 差 し で あ る ﹂ 冒 頭: メ ー ル友 だ ち の男 の子 は 高 校 三年 生 だ った 。 ⋮ ⋮ B②
結 尾: 敬 語 は 、相 手 の存 在 を 遠 く に 感 じ さ せ た り 近 く に 感 じ さ せ た り す る 。私 と 彼 の場 合 は 、距 離 が縮 ま り 、 お 互 い の存 在 が 近 く な った 。 ⋮ ⋮ A ② 例 2. タ イ ト ル ﹁短 大 生 生 活 ﹂ 副 題︲ 危 機 感 迫 る 、 理 想 と 現 実 の ギ ャ ップ︳ 主 題 文 ﹁目 標 を 定 め て 軌 道 修 正 を し よ う ﹂
冒 頭: ラ ンチ タ イ ム は 友 人 と 語 ら いな が ら 、 手 作 り のお 弁 当 を 味 わ う 。 ⋮ ⋮ B③
結 尾: 興 味 を ひ か れ る 本 を 読 み 、 ピ ア ノ の練 習 に励 み 、 今 後 は サ ー ク ル 活 動 や ボ ラ ン テ ィ アな ど にも 積 極 的 に参 加 し て いく つも り だ 。 ⋮ ⋮ A①
冒 頭 と 結 尾 を 読 め ば 、 展 開 部 のお お よ そ は 思 い描 く こ と が でき る 。 文 章 の 中 心 は 何 と い っても 展 開 部 で 、 選 ん だ 材 料 (話 題 ) を ど う 配 列 す る か が ポ イ ント で あ る 。
︵4︶ 材 料 の配 列
原因から結 果 へ
(ア ウ ト ライ ン で の番 号 の付 け 方 ) を 考 え て み よ う 。
文 章 の 中 心 部 で 、 材 料 を どう 配 列 し 、 論 を 進 め れ ば 効 果 的 か 。 森 岡 健 二 (一九 六 三 ) は 、 材 料 配 列 の型 を 次 の
時 間的順序
よ う に紹 介 し て いる 。 これ を 参 考 に、 論 の進 め方
空 間的順序
e
結 果から 原因 へ ( 漸 層法)
こ こ で 、 例 を 見 な が ら そ の配 列 順 に つ いて考 え て み よ う 。 次 に 示 す も の は 、 筆 者 が 所 属 機 関 の公 開 講 座 ﹁地 域
る。
い。 短 い文 章 の場 合 に は そ のよ う な こ と も あ る が 、 多 く は 、 いく つか のも のを 併 用 し て 、 変 化 を つけ るも の であ
こ のよ う に いく つも 配 列 法 が あ る が 、 現 実 に は 、 一つ の文 章 が 一つの配 列 法 だ け を 使 用 す る と いう こ と では な
k 動 機付け の順
j 重 要性 の順
i 問題解決順
h 既 知 か ら未 知 へ
g ク ラ イ マ ッ ク ス
f
d 特 殊 か ら 一般 へ
一般 か ら 特 殊 へ
a c
b
( 下 書 き メ モ) で あ る 。
と ジ ャー ナ リズ ム ﹂ を 受 講 し 、 期 末 の筆 記 テ スト と し て ﹁私 と 新 聞 ﹂ と いう 課 題 を 与 え ら れ た と き に考 え た 文 章 の ア ウ ト ライ ン
例 ﹁私 と 新 聞﹂ I 生 活 の 中 の情 報 メ デ ィ ア 1・ 新 聞 と の関 わ り の実 際 2・ テ レビ と の関 わ り 方 の違 い
( 新 聞)に寄せ る信頼
Ⅱ 活 字 メ デ ィ アと 映 像 メ デ ィ ア 1・ 活 字 情 報 A 仕事 と新聞 B 生 活 と 新 聞 2. 映 像 情 報 の信 頼 性 への疑 問 A テ レビ 、 イ ン タ ー ネ ット情 報 への 不 信 感 B テ レビ 番 組 制 作 に 関 わ った 経 験 談 3. 映 像 メ デ ィ ア情 報 の価 値 判 断 Ⅲ 今 後 の関 わ り 方 1. 主 体 的 な 情 報 活 用 の意 義 2. 新 聞 と の 関 わ り 方 と今 後
こ の場 合 、 全 体 と し て は d ﹁特 殊 か ら 一般 へ﹂ ( 新 聞 ・テ レ ビ か ら 情 報 メ デ ィ ア の活 用 の仕 方 へ) と いう と ら
え 方 であ る が 、 テ レ ビ 番 組 制 作 に 関 わ った 経 験 談 の 部 分 は a ﹁時 間 的 順 序 ﹂ で の記 述 で あ る 。Ⅱ の 3 やⅢ の 1 、
2 は 、 書 き手 の 思 索 部 分 で、 e ﹁原 因 か ら 結 果 ﹂、 f ﹁結 果 か ら 原 因 ﹂ へ、 お よ び i ﹁問 題 解 決 順 ﹂ に よ るも の と 考 え る こと が でき る 。
論 の進 め方 と いう の は 、 書 き 手 が 材 料 (話 題 ) を わ か り やす く 関 係 づ け 、 配 列 し て、 自 ら の思 考 過 程 を 整 理 ・ 再 構 築 す る過 程 でも あ る 。
﹁句 ﹂ で 、 簡 潔 に 図 式
(マ ッ プ ) 化 し た も の を 、 ト ピ ッ ク ・ ア ウ ト ラ イ ン と 呼 ぶ 。 一方 、 各 項 目 を 、
︵5 ︶ ト ピ ッ ク ・ア ウ ト ラ イ ン と セ ン テ ン ス ・ア ウ ト ラ イ ン ﹁語 ﹂ や
﹁私 と 新 聞 ﹂ の 下 書 き メ モ は 、 ト ピ ッ ク ・ア ウ ト ラ イ ン で あ る 。 こ の 際 の メ モ を 用 い て 書 き 上 げ た 文 章
き ち んと し た 文 で 、 細 部 ま で わ か り や す く 書 き 記 し た も の を セ ン テ ン ス ・アウ ト ラ イ ンと 呼 ぶ 。 材 料 の 配 列 の所 で示 し た
を 基 に セ ン テ ン ス ・ア ウ ト ラ イ ン を 作 成 す る と 、 以 下 の よ う に な る 。
例 ﹁私 と 新 聞 ﹂ セ ン テ ン ス ・ア ウ ト ライ ン Ⅰ 新 聞 と 生 活 の関 わ り に つ いて詳 し く 述 べ る 。 1. 朝 日 ・日 経 ・信 毎 と 地 方 紙 三 種 に 目 を 通 す 生 活 を 送 って い る。
2. 新 聞 は 、 テ レビ と 違 い、 好 き な 時 間 に 好 き な 情 報 を 自 由 に 選 択 し て楽 し め る 。 Ⅱ 活 字 メ デ ィ アと 映 像 メ デ ィ ア の違 いを 考 え る。
1. 活 字 メ デ ィ ア は 信 頼 性 が 高 い。 A 新 聞 は 仕 事 に 役 立 つ豊 か な 情 報 源 であ る 。 B 生 活 上 の様 々な 問 題 解 決 に際 し ても 、 大 き な 助 け に な る 。 2. 映 像 メ デ ィ ア は 価 値 判 断 が 難 し い。
A テ レビ や イ ンタ ー ネ ット 情 報 に は 、 新 聞 の活 字 情 報 ほ ど に は 信 頼 感 が も てな い。
B 育 児 中 に 関 わ った テ レ ビ の ド キ ュ メ ン タ リ ー 番 組 の制 作 現 場 は 虚 構 で あ った 。
a 制 作 協 力 を 依 頼 し な が ら 、 担 当 者 に は す で に出 来 合 い の シ ナ リ オ が あ った 。 b 番 組 制 作 者 は 、 時 に 自 ら の力 以 上 の権 力 を ま と う 。 3. 情 報 の価 値 判 断 は 受 け身 であ って は な ら な い。 Ⅲ 新 聞 と の関 わ り 方 と 今 後 に つ いて 述 べ る。 1. 主 体 的 に活 用 す る姿 勢 が あ れ ば 、 理 解 が 深 ま り 正 し い判 断 も で き る 。
2. 豊 か な 生 活 を 送 る た め に も 、 新 聞 は 毎 日 の生 活 に欠 か せ な い存 在 であ る 。
セ ン テ ン ス ・ア ウ ト ライ ン は 、 文 を 続 け て読 み進 め れ ば 、 ほ ぼ 完 成 原 稿 に等 し いほ ど に内 容 が 細 部 ま で詳 し く
再 現 でき る 。 ア ウ ト ラ イ ン の 原 理 を 理 解 す る た め に 、 一度 こ のよ う な セ ン テ ン ス ・ア ウ ト ライ ンを 作 って み る の
も よ い。 し か し 、 一目 で 思 考 の過 程 を 概 観 す る 図 式 と し て は 、 細 か す ぎ てか え って わ か り づ ら い面 も あ る。
一方 、 トピ ッ ク ・アウ ト ラ イ ンは 、 方 向 性 を 簡 潔 に 示 し た計 画 表 であ る 。 細 部 に 関 し て は 書 いた本 人 以 外 に は
わ か り づ ら い部 分 も あ り 、 ま た 、 本 人 でも 、 時 間 が 経 てば 忘 れ てし ま う 可 能 性 も あ る 。 し か し 、 限 ら れ た 時 間 内
で文 章 を 仕 上 げ る 場 合 の アウ ト ラ イ ンと し て は 、 こ れ で 十 分 で あ る 。 セ ン テ ン ス ・ア ウ ト ラ イ ンを 短 時 間 に仕 上
げ る のは 困 難 で あ り 、 ま た そ れ を 仕 上 げ て か ら で は 、 一か ら 書 き 上 げ る意 欲 は 消 え てし ま う 。 ト ピ ック ・ア ウ ト
ライ ン で、 あ る 程 度 の方 向 性 を 決 め さ え す れ ば 、 あ と は 勢 いを 大事 に 一気 に 書 き 進 む べき で あ る 。 興 に 乗 った 軽 や か な筆 の運 び が 、 文 章 の味 を 創 り 出 す の で あ る。
︵6︶ ト ップ ダ ウ ン ( 演 繹 型 ) と ボ ト ム ア ップ ( 帰 納型)
上 述 の ﹁私 と 新 聞 ﹂ は 、 既 に述 べ た よ う に 、 学 期 末 試 験 と し て 提 示 さ れ た 記 述 試 験 の課 題 で あ った 。 制 限 時 間
は 八 十 分 で 、 ﹁思 う と こ ろを 述 べ よ ﹂ と いう 指 示 を 受 け た 。 こ れ に対 し て筆 者 は 、 ま ず 、 主 題 文 ﹁新 聞 は テ レ ビ
に比 べ て信 頼 度 が 高 い。 主 体 的 に 活 用 す ると 生 活 が豊 か に な る ﹂ を 確 定 し 、 お お よ そ の構 成 計 画 を 先 に 立 て た 。
主 な 論 点 と し て 、Ⅰ で 現 状 の詳 し い説 明 、Ⅱ に 情 報 メ デ ィ ア の 比 較 、 最 後 にⅢ で主 体 的 な 活 用 法 を 提 示 す る こ と
と し た 。 論 点 を 立 て る の と 並 行 し て 、 そ れ ら に 見 合 う 材 料 集 め と 配 列 作 業 を 行 う 、 ト ップ ダ ウ ン ( 演 繹 法 ) の構 想方法 を採用 した。
こ れ に 対 し て 、 は じ め に 文 章 の主 題 を 定 め た り 構 成 を 考 え た り す る こ と な し に 、 ま ず 材 料 か ら 集 め て 、 そ れ を
分 類 整 理 し な が ら 、 主 題を 考 え 、 全 体 を 組 み 立 て て いく 、 ボ ト ム ア ップ ( 帰 納 法 ) の構 想 方 法 も あ る 。 次 に示 す
も の は 、 短 期 大 学 で ﹁短 大 生 生 活 ﹂ の課 題 のも と に 、 学 生 が 材 料 を 集 め 、 比 較 し な が ら 主 題 を 考 え 、 そ の主 題 を
(二 つ の段 落 ) か ら 展 開 を 考 え て み よ う ﹂ と いう 指 導
展 開 す る に ふ さ わ し い材 料 を 追 加 す る と いう 経 緯 で作 成 さ れ た アウ ト ラ イ ン であ る 。 書 き 慣 れ な い学 生 が 八 百 字 程 度 の短 い意 見 文 を ま と め る に際 し て 、 ﹁ま ず 二 つ の材 料 のも と に でき た ア ウト ラ イ ン であ る 。
例 ﹁短 大 生 生 活 ﹂ ︿は じ め の材 料 ﹀ ・高 校 時 代 に 夢 見 た 理 想 の短 大 生 生 活 ・現 実 の自 分 の姿 二 つの材 料 ( 段 落 ) を 比 較 し て考 え た 結 果 、 主 題 は 次 の よ う にな った 。
主 題 ﹁こ のま ま で は 、 目 指 す 保 育 士 に は な れ そ う も な い。 生 活 を 改 め な け れ ば ﹂
こ の主 題 を 展 開 す る た め に 必 要 な 材 料 と し て新 た に 二 つ の段 落 を 加 え 、 次 のよ う な アウ ト ラ イ ンが で き た 。 ﹁短 大 生 生 活 ﹂ 副 題︳ 危 機 感 迫 る 、 理 想 と 現 実 の ギ ャ ップ︳
主 題 文 ﹁か つて 理 想 と し た 生 活 と 現在 の生 活 に は 隔 た り が あ り す ぎ る。 理想 を 現 実 に 近 づ け る た め に 、 生 活 内 容 を 変 え 、 生 活 を 充 実 さ せ た い﹂ ︿ア ウ ト ラ イ ン﹀ 1. 理想 の短 大 生 像
(ア ル バ イ ト に よ る 生 活 の乱 れ が 一番 の問 題 点 )
2. 現実 の自 分 の姿 3. 反省 と 問 題 点
4. 解 決 策 の提 示 ( 当 初 の目 標 を 思 い出 し 、 生 活 を 充 実 さ せ る )
普 段 文 章 を 書 き 慣 れ ず 、主 題 の確 定 に 時 間 のか か る学 習 者 の場 合 は 、 む し ろ こ の よ う な 構 想 の方 法 を と る こと
が 多 い。 ま た 、 感 想 文 や生 活 文 な ど の規 模 の小 さ い文 章 の場 合 も 、 ボ ト ム ア ップ の 方 法 は 便 利 に利 用 で き る。 し
か し 、書 き 慣 れ て、あ ら か じ め 文 章 の 全 体 像 が イ メー ジ で き る よう にな って く ると 、ト ップ ダ ウ ン の構 想 の方 が 、
無 駄 な く楽 に文 章 を 完 成 さ せ る こと が で き る 。 ま た 、 書 き 始 め の段 階 で は ボ ト ム ア ップ ( 帰 納 型 ) に よ る構 想 を
行 い、 主 題 が 定 ま り 、 内 容 の充 実 が 図 れ て後 に ト ップ ダ ウ ン ( 演 繹 型 ) の構 想 で ア ウ ト ライ ン を 再 チ ェ ック す る
こと も 可 能 であ る 。 こ の よう に す れ ば 下 か ら と 上 か ら の 両 方 向 か ら論 理 の 一貫 性 が 確 認 で き 、 効 果 的 であ る 。
高 校 入 試 や大 学 入 試 、ま た 就 職 試 験 な ど で小 論 文 が 課 さ れ る こと が多 く な って い る。そ のた め の対 応 策 と し て 、
教 育 現 場 では 、 ト ップ ダ ウ ン ( 演 繹 型 ) の構 想 指 導 が 重 点 的 に行 わ れ て いる 。 明 快 で読 み 手 に わ か り やす い文 章
を 書 く た め に は 、 た し か に ト ップ ダ ウ ン構 成 が有 効 であ る 。 し か し 、 そ の指 導 に際 し て は 、 学 習 者 の発 達 段 階 を
考 慮 す る 必 要 が あ る 。 人 生 経 験 の少 な い中 学 生 レ ベ ル の 学 習 者 の ト ップ ダ ウ ン思 考 で は 、 作 文 に 十 分 な 内 容 が 伴
わ な い の であ る 。 一方 で ボ ト ム ア ップ ( 帰 納 型 ) の思 考 力 を 鍛 え な が ら 、 徐 々 にト ップ ダ ウ ン ( 演繹型 )思考 で 論 理 の筋 を 通 す 力 を 伸 ば す と いう 、 両 面 か ら の地 道 な 指 導 を 心 が け た い。
(三) 魅力 的な構成 のため に ︱寺 田 寅 彦 ﹁コ ー ヒ ー 哲 学 序 説﹂ を 例 と し て
良 質 な 文 章 表 現 と し て 例 に と ら れ る こ と の多 い科 学 者 の寺 田 寅 彦 の文 章 は 、各 段 落 の最 初 に トピ ック ・セ ン テ
ン ス の位 置 す る こ と が 多 く 、 そ れ ら を 通 し て読 む と 、 そ のま ま 文 章 全 体 の要 約 文 にな る と 言 わ れ て い る。 最 初 の
ト ピ ック ・セ ン テ ン ス に続 け て 、 ト ピ ッ ク に 関す る 例 を 挙 げ た り 説 明 し た り す る 手 法 な の で、 トピ ック ・セ ン テ
ン スを 通 し て 読 め ば 、 論 点 が そ のま ま 抜 き 出 さ れ 、 セ ン テ ン ス ・ア ウ ト ライ ンが 出 来 上 が る 都 合 であ る 。 以 下 、
﹁コー ヒ ー 哲 学 序 説 ﹂ のト ピ ック ・セ ン テ ン スを 抜 き 出 し て 一覧 (部 分 ) し て み よ う 。 各 ト ピ ッ ク セ ン テ ン ス の 前 の数 字 ① ∼ ⑱ は段 落 番 号 を 示 し て いる 。
段 落 の 統 一と 配 列
﹁コ ー ヒ ー哲 学 序 説 ﹂
寺 田 寅彦
⑩ 研 究 し て いる 仕 事 が 行 き 詰 ま って し ま っ て ど う に も な ら な い よ う な 時 に 、 前 記 の 意 味 で の コ ー ヒ ー を 飲 む 。
伴 奏 も し く は 前 奏 が 必 要 で あ る ら し い。
⋮ ⋮ コー ヒ ー の 味 は コ ー ヒ ー に よ って 呼 び 出 さ れ る 幻 想 曲 の 味 で あ っ て 、 そ れ を 呼 び 出 す た め に は や は り 適 当 な
⑨ し かし 自分 が コーヒ ーを飲 む の は、ど う も コーヒ ーを飲 む ため に コーヒ ーを飲 む の では な いよ うに 思わ れ る。
⑧ 自 分 は コ ー ヒ ー に 限 ら ず あ ら ゆ る 食 味 に 対 し て も い わ ゆ る ﹁通 ﹂ と いう も の に は一 つも 持 ち 合 わ せ が な い。
⑦ 西 洋 か ら 帰 って か ら は 、 日 曜 に 銀 座 の 風 月 へよ く コ ー ヒ ー を 飲 み に 出 か け た 。
⑥ 国 々 を 旅 行 す る 間 に も こ の 習 慣 を 持 って 歩 いた 。
に は む し ろ は な は だ 必 要 で あ った の で あ る 。 ⋮ ⋮
よ う に 全 市 を 封 じ 込 め て い る よ う に 思 わ れ た 。 ⋮ ⋮ こ の 眠 け を 追 い 払 う た め に は 実 際 こ の 一杯 の コ ー ヒ ー が 自 分
⑤ ベ ル リ ン の 冬 は そ れ ほ ど 寒 いと は 思 わ な か った が 暗 く て 物 う く て 、 そ う し て 不 思 議 な 重 苦 し い眠 け が 濃 い霧 の
﹁オ ー ネ ﹂ の コ ー ヒ ー を ち び ち び な め な が ら 淡 い郷 愁 を瞞 着 す る の が 常 習 に な っ て し ま った 。
れ な い時 間 を カ フ エー や コ ン デ ィ ト ラ イ の 大 理 石 の テ ーブ ル の 前 に 過 ご し 、 新 聞 で も 見 な が ら ﹁ミ ッ ト ﹂ や
あ った 。 ひ ど く いば った ば あ さ ん で あ った が コ ー ヒ ー は よ い コ ー ヒ ー を の ま せ て く れ た 。 ⋮ ⋮ そ れ で も つ ぶ し き
④ ベ ル リ ン の 下 宿 は ノ ー レ ン ド ル プ の 辻 に 近 いガ イ ス ベ ル ク 街 に あ っ て 、 年 老 い た 主 婦 は 陸 軍 将 官 の 未 亡 人 で
記 憶 に 残 っ て いな い よ う で あ る 。
て 三 十 二 歳 の春 ド イ ツ に 留 学 す る ま で の 間 に お け る コ ー ヒ ー と 自 分 と の 交 渉 に つ いて ほ と ん ど こ れ と いう 事 項 は
③ 高 等 学 校 時 代 に も 牛 乳 は ふ だ ん 飲 ん で いた が コー ヒ ー の よ う な ぜ いた く 品 は 用 い な か った 。 ⋮⋮ 月 日 が め ぐ っ
の コ ー ヒ ー を 配 剤 す る こ と を 忘 れ な か った 。
② 始 め て 飲 ん だ 牛 乳 は や は り 飲 み に く い ﹁お く す り ﹂ で あ った ら し い。 そ れ を 飲 み や す く す る た め に 医 者 は 少 量
① 八 九 歳 の こ ろ 医 者 の命 令 で 始 め て 牛 乳 と い う も の を 飲 ま さ れ た 。
1
コーヒ ー茶 碗 の縁 が まさ にく ちび ると 相触 れ ようと す る瞬 間 にぱ っと頭 の中 に 一道 の光 が流 れ込 むよう な気 が す る と同時 に 、やす やす と 解決 の手 掛 かりを 思 いつく こと が しば しば ある よう であ る。 ⑪⑫⑬ ⑭ 略
⑮ 芸 術 でも哲 学 でも宗 教 でも 、そ れが 人間 の人 間と し ての 顕在的 実 践的 な活 動 の原動 力と し てはた らく と きに は じ めて現 実的 の意 義 があ り価値 が ある の ではな いかと思 う が、そ う いう意 味 から 言えば 自 分 にと って は マーブ ル
の 卓上 に お かれ た 一杯 の コーヒ ー は自 分 のた め の哲 学 であ り宗 教 で あ り芸 術 であ る と言 って も い いかも し れ な い。
ヒ ーの酔 いの効果 であ る かも しれな い。
(﹃ 寺 田寅 彦 随筆 集第 四巻 ﹄岩 波文 庫 )
⑯⑰略 ⑱ コー ヒー漫 筆が つ いつ いコーヒ ー哲学 序説 のよう なも の にな って しま った 。 これも今 し がた 飲 んだ 一杯 の コー
な お 、 ト ピ ック ・セ ン テ ン ス は 、 段 落 の最 初 だ け で な く 、 中 間 や 最 後 に 置 か れ る 場 合 も あ る 。 ま た 、 一文 と は
限 ら ず 、 二文 、 三 文 に わ た る こ と も あ る 。 ﹁コ ー ヒ ー 哲 学 序 説 ﹂ の② ③ ④ の段 落 の 場 合 は 、 そ れ ぞ れ 二文 を ト
ピ ック .セ ン テ ン スと し て 認 め る こ と が でき る 。⑤ の トピ ック ・セ ン テ ン スは 中 間 に 位 置 し て い る。
いず れ に し ても 、 書 き 手 は 、 そ の段 落 の小 主 題 を 意 識 し 、 そ れ を ト ピ ック ・セ ン テ ン スと し て 表 現 す る こと に よ って段 落 を 統 一す る の で あ る 。
2 段 落 相 互 の 緊 密 な 関 係 づ け
文 章 を 、 積 み 木 に 例 え て み よ う 。 基 礎 と な る積 み 木 が き ち ん と 組 み 合 わ さ って いな け れ ば し っか り し た 家 が で
き な い のと 同 様 、 文 章 も 段 落 が 緊 密 に組 み 合 わ さ って こ そ主 題 が 明 確 に 浮 か び 上 が る。 ﹁コー ヒー 哲 学 序 説 ﹂ で 、 こ の段 落 相 互 の つな が り を 見 てみ よう 。
② 段 落 目 は ① 段 落 目 の ﹁八九 歳 の こ ろ 医 者 の命 令 で始 め て 牛 乳 と いう も の を 飲 ま さ れ た ﹂ を 受 け て ﹁始 め て飲
ん だ 牛 乳 は ⋮ ⋮ ﹂ と 、 同 じ こと ば の反 復 使 用 で 関 連 を 明 確 に し て いる 。 ③ 段 落 目 の ﹁ 高 等 学 校 時 代 にも 牛 乳 は ふ
だ ん 飲 ん で いた が ⋮ ⋮ ﹂ は 、 ① ② 段 落 の 子 ど も 時 代 か ら 時 間 的 順 序 で ﹁高 等 学 校 時 代 ﹂ に 移 った こ と を 示 し 、 ま
た 、 話 題 の ﹁牛 乳 ﹂ に つ い ても 繰 り 返 し 使 用 し て 、 つな が って い る 。 同 じ ③ 段 落 目 の最 後 の文 で は 、 さ ら に 時 間
が 経 過 し て ﹁月 日が め ぐ って 三 十 二歳 の 春 ド イ ツに 留 学 す る ま で の 間 に お け る コー ヒ ー と 自 分 と の交 渉 に つ い て
は ほ と んど こ れ と いう 事 項 は記 憶 に 残 っ て いな いよ う であ る ﹂ と す る 一文 で ﹁ド イ ツ留 学 ﹂ の情 報 を 伝 え 、 次 の
④ 段 落 の書 き 出 し 文 ﹁ベ ル リ ン の下 宿 は ⋮ ⋮ ﹂ に無 理 な く 空 間 的 関 係 づ け が な さ れ て いる 。⑤ 段 落 目 の ﹁ベ ル リ
ン の冬 は ⋮ ⋮ ﹂ の書 き 出 し 文 は 、 ④ 段 落 と 同 じ 空 間 ベ ル リ ン であ る が 、 新 た な 情 報 と し て ﹁冬 ﹂ が 加 わ り 、 ﹁冬
と コー ヒ ー ﹂ に 関 す る段 落 が 展 開 す る 。 ⑥ の ﹁国 々を 旅 行 す る 間 に も こ の習 慣 を 持 って歩 いた ﹂ で は 、 ﹁こ の 習
慣 ﹂ の指 示 詞 ﹁こ の﹂ の使 用 で 前 段 落 と 連 携 が と ら れ て いる 。 ⑦ で は 、 ﹁西 洋 か ら 帰 って か ら は ⋮ ⋮﹂ と いう 空 間 の移 動 を 示 す 一文 で前 段 と つな が る 。
段落 の種類と 冒頭 ・結 尾の段落
こ のよ う に 、 ど の段 落 も 相 互 に連 携 が と ら れ 、 緊 密 に 関 係 づ け が な さ れ て い る こ と が わ か る 。
3
段 落 は 、 そ れ ぞ れ の目 的 や役 目 が様 々 で 、 長 短 も 異 な って いる 。 森 岡 健 二 (一九 六 三 ) の段 落 分 類 を 参 考 に ﹁コー ヒ ー哲 学 序 説 ﹂ の段 落 配 置 を 詳 し く 調 べ て み る と 次 の よ う にな る 。 a 主 要 段 落 ( ④⑤ ⑨) b 冒 頭 ( ① ② ③ )・結 尾 ( ⑱ ) の段 落
c つな ぎ ・補 足 の段 落 ( ⑥⑦⑧⑩ ) d 強 調 の段 落 e 会 話 の段 落
全 体 の構 成 の中 で は 、 と り わ け 冒 頭 の段 落 と 結 尾 の段 落 が 大 き な 意 味 を 持 つ。 冒 頭 は 、 文 章 全 体 の目 的 や テー
マを あ ら か じ め 書 き 記 し た り 、 問 題 の主 旨 や 書 き 手 の態 度 を 示 し た り す る 部 分 で あ る。 簡 潔 であ る こ と が 望 ま し
く 、 主 要 段 落 のよ う な 長 い説 明 や 証 明 は 必 要 で は な い。 簡 潔 に 問 題 を 述 べ て、 読 み 手 の 注 意 や 関 心 を ひ き 、 読 み
た いと いう 意 欲 を 起 こ さ せ る こと が 大 切 で あ る 。 ﹁コー ヒ ー 哲 学 序 説 ﹂ の 場 合 、論 題 の コー ヒ ー と は 異 質 な 、 こ
れ ま た 当 時 と し て は ハイ カ ラ で 西 洋 の香 り が し た であ ろう 牛 乳 を 冒 頭 に起 用 し 、 読 者 の興 味 を 引 き 出 し 、段 落 ① ② ③ で徐 々 に コー ヒ ー と 書 き 手 と の意 外 な つな が り を 示 し て い る。
結 尾 の段 落 は 、 主 題 に関 す る 議 論 を 完 成 さ せ て 、 読 み 手 に 議 論 が 完 了 し た と いう 充 足 感 を 与 え る 部 分 であ る 。
簡 潔 に ま と め て 、 主 題 の意 義 や 強 調 点 を 改 め て 読 み手 に印 象 づ け な け れ ば な ら な い。 ﹁コー ヒ ー哲 学 序 説 ﹂ で は 、
既 に⑮ で 結 論 は 述 べ てあ る の で、 ⑱ の最 後 の 段 落 で は 、 幾 分 固く な った 内 容 を 柔 ら か な 表 現 で ま と め て 終 了 を 告 げ て いる 。
ま た 、 冒 頭 段 落 と 結 尾 段 落 の首 尾 の照 応 は 、 文 章 の ま と ま り を 強 く 印 象 づ け る た め にも 重 要 であ る 。 推 敲 時 に
は 、 こ の 二 つの 段 落 を よ く 吟 味 し て ま と ま り のあ る文 章 に仕 上げ た い。 冒 頭 と 結 尾 の段 落 を 読 め ば 、文 章 全 体 の
でき が ほ ぼ つか め る と も 言 わ れ る 。 ﹁コー ヒー 哲 学 序 説 ﹂ で は 、 寺 田寅 彦 自 ら ⑱ で ﹁コー ヒ ー 漫 筆 ﹂ と 述 べ て い
る よう に、 随 筆 であ る こ と か ら 、 冒 頭 も 牛 乳 か ら コー ヒ ー へと 三 つの段 落 を つな いで の緩 慢 な 導 入 で あ り 、 結 尾 は 、 二文 で構 成 さ れ る 最 終 段 落 で簡 潔 に文 章 の終 わ り を 告 げ て い る。
並 べ ら れ た 段 落 は 、 文 章 全 体 の中 で そ れ ぞ れ の役 割 を 果 た し 、 相 乗 効 果 を 発 揮 し な が ら 全 体 を ま と め 上 げ る の で あ る。
お わ り に ︱効 果的 な アウ ト ラ イ ン作 成 を
ア ウ ト ラ イ ン の作 成 は 論 理 的 思 考 の 訓 練 過 程 そ のも の で あ る 。 材 料 の収 集 や 選 択 と 同 時 に ア ウ ト ライ ン の作 成 は 始 ま って いる 。
文 章 表 現 の持 つ線 状 的 特 徴 を 十 分 に 理 解 し 、 読 み 手 の 理 解 に 届 く 効 果 的 な ア ウ ト ライ ン を 作 成 し た いも のだ 。
ア ウ ト ラ イ ンが でき れ ば 、 あ と は 一気 に書 き 進 む だ け 。 文 章 の完 成 は 間 近 であ る 。
参考 文献 森 岡健 二 ﹃ 文章 構成法︳ 文 章 の診断 と治 療︳﹄ 至 文堂 一九 六三 時 枝誠 記 ﹃ 時枝 誠 記博 士著 作選Ⅲ 文章 研究 序説 ﹄明 治書 院 一九七 七 市 川 孝 ﹃ 新訂 文章 表 現法﹄ 明 治書 院 一九 七 八 木 下是 雄 ﹃ 理科 系 の作 文技 術﹄ 中公 新書 一九 八 一
﹃ 実 践 ・言 語 技 術 入 門︳ 上 手 に 書 く コ ツ ・話 す コ ツ﹄ 朝 日 選 書 一九 九 〇
﹃レ ポ ー ト の組 み 立 て 方 ﹄ ち く ま ラ イ ブ ラ リ ー 一九 九 〇
全 国大 学国 語教 育学 会 編 ﹃国語科 教育 研究 4 表 現教 育 の理論 と 実践 の課 題﹄ 明治 図書 一九 八六 木 下是 雄
言 語技 術 の会編
中 西 一弘編 ﹃ 基 礎文 章表 現法 ﹄朝 倉書 店 一九九 六
中村 明代 表、杉 戸清樹 ・半 沢幹 一編 集 ﹃テキ スト日本 語表 現︳ 現代 を生 き る表 現行 動 のた めに﹄明治 書院 一九 九九
高橋 昭男 ﹃ 仕事 文 を みがく ﹄岩 波新 書 二〇〇 二 塚 田泰 彦 編著 ﹃国語教 室 の マ ッピ ング﹄ 教育 出 版 二 〇〇 五
三 記述 ・推 敲 の指 導 と そ の 方 法
︵一︶記 述 指 導 国 語 教 育 に お け る ﹁記 述 ﹂ に 関 す る定 義 は 、 以 下 の通 り で あ る。
作 文 活 動 に お い て実 際 に文 字 で書 き 記 す こと を 記 述 (叙 述 ) と いう 。 記 述 前 (取 材 ・主 題 ・構 想 ) と 記 述
後 (推 敲 ・清 書 ) の 間 に 位 置 し 、 記 述 中 な ど と 用 い ら れ る 。 一般 的 に は 、 説 明 と 対 応 す る 語 と し て使 わ れ て
いる が 、 作 文 指 導 では 、 説 明 や描 写 な ど を 含 め た 広 い意 味 で 記 述 と い って い る (注 1)。
こ の定 義 に そ え ば 、 ﹁記 述 ﹂ と は ﹁取 材 ﹂・﹁主 題 ﹂・﹁構 想 ﹂ の次 の段 階 ( 過 程 ) と し て位 置 づ け ら れ た 活 動 で ある。
し か し な が ら そ れ は 、 学 習 者 の側 か ら み た ば あ い の ﹁書 く こと ﹂ の活 動 に お け る創 作 プ ロセ スと し て そう な の
で あ って、 指 導 者 の 側 か ら み た も の で は な い。 す な わ ち 、 ﹁指 導 の場 ﹂ と いう 観 点 か ら ﹁記 述 ﹂ を 考 え て み る と 、
そ う し た 行 為 の順 序 や 位 置 づ け を 越 え た 、よ り 広 い地 平 が 開 け てく る。そ し て 、そ の指 導 に 思 いを めぐ ら す と き 、
対 象 と な る ﹁場 ﹂ は豊 か に 多 様 に 存 在 し て いる こと に 気 づ か さ れ る の で あ る 。そ う し た ﹁記 述 にお け る 指 導 の場 ﹂
に つ い て、 大 村 は ま 氏 は次 のよ う に 述 べ て いる 。
記 述 の指 導 の場 は 、 いろ い ろ な と こ ろ にあ る 。 ま ず ﹁読 む こ と ﹂ ﹁話 す こと ﹂ の目 標 を も って学 習 を 進 め て いる 間 に 、 記 述 に 備 え た 指 導 を す る こ と が あ る 。
ま た 、 い ろ いろ な 記 述 の 仕 方 を 、 小 さ な 練 習 に し て 、 短 い時 間 に行 う こと も あ る。 そ れ ぞ れ 、 ど んな 機 会
に 、 ど ん な 内 容 を 、 ど ん な方 法 で指 導 し た ら よ い か 、 こ こ に書 き た いと こ ろ で あ る が 、 そ の 一方 を も 、 こ の 機 会 に は書 く ペ ージ が な い。
次 に、 も っと 直 接 的 な 、文 字 ど お り の記 述 の指 導 と し て、 生 徒 が 記 述 し て いる そ のと き 、 そ の記 述 活 動 の
な か にと び こ ん で いく よ う な 気 持 ち で、 書 い て い る途 中 で、 創 り 上 げ ら れ て いく 過 程 のな か で 、書 か せ て い く 方 法 が あ る 。 な ま な ま し い記 述 の指 導 で あ る。
も う 一つ、 当 然 、 作 文 が書 か れ た 後 、 そ の作 品 を 材 料 にし た 記 述 の指 導 が あ る 。 そ れも 、 ひ と り ひと り の
生 徒 に 個 別 に 行 う 指 導 と 、 学 級 で 共 同 学 習 と し て 展 開 す る場 合 と が あ る ( 注 2 )。
こ こ に は 、 四 つ の ﹁場 ﹂ が 示 さ れ て い る 。 箇 条 書 き に ま と め れ ば 、 以 下 の よ う に な る 。
︵1︶ 読 む こ と や話 す こと に つ い て の学 習 指 導 の場 ︵2︶ 練 習 課 題 と し て の ﹁記 述 ﹂ を 取 り 立 て指 導 す る 場 ︵3︶ 作 文 学 習 で学 習 者 が ま さ に ﹁記 述 ﹂ し て いる 場
︵4 ︶ で き あ が った 作 文 を 読 み 合 う 学 習 を し て いる 場
こ のう ち 、 指 導 者 が 授 業 前 の準 備 と し て意 図 的 ・計 画 的 に指 導 内 容 を 構 想 し う る 指 導 の場 は (1) や (2) で
ある ( 注 2 )。 指 導 す べ き 内 容 を 、 教 材 と な る文 章 や観 点 別 に整 理 さ れ た 先 行 文 献 に あ ら か じ め も と め る こと が でき る か ら で あ る 。
し か し 、 そ の 一方 で、 (3) や (4 ) の場 で は 、 指 導 内 容 を 教 材 文 や 先 行 文 献 だ け に 頼 る こと は む ず か し い。
な ぜ な ら 、 そ のと き ど き の、 し か も 個 々 の 学 習 者 の 反 応 や 学 習 成 果 を 起 点 に し て タ イ ム リ ー に 指 導 す べき 内 容 を 構 想 し な く て は な ら な いか ら であ る 。
な か で も 、 指 導 に お い ても っと も 困 難 を 極 め る の は (3) ﹁作 文 学 習 で 学 習 者 が ま さ に ﹃記 述 ﹄ し て い る 場 ﹂
で あ ろう 。 そ のた め 、 こ の指 導 は 手 薄 に な り や す い。 し か し 、 学 習 者 に と って も っと も 指 導 の手 を 必 要 と す る
( 組 み 立 て) で 表 現 す
( 記 述 ) 以 前 に 、 書 く 目 的 や読 み手 を 考
﹁切 実 さ﹂ を も つの も 、 こ の (3) の 場 であ ると いえ る。 そ れ を 裏 づ け る よう に 、 次 のよ う な 指 摘 が あ る 。
文 章 を 書 く 場 合 、 ど ん な 文 章 でも 、 多 か れ 少 な か れ 、 文 章 を 書 く
え 、 ど ん な 題 材 で 、 ど のよ う な 主 題 ・要 旨 を 、 ど ん な 材 料 を 使 って 、 ど の よ う な 構 想
る か 、 を 考 え る 。作 文 指 導 で は 、 こ こ ま で の ﹁記 述 前 の指 導 ﹂ に多 く の時 間 を と って 指 導 し て いる 。
ま た 、 作 文 が 書 か れ た 後 、 そ の作 文 を 読 み 返 し た り 、 批 正 ・推 敲 し た り 、 あ る いは 清 書 し て 鑑 賞 し あ った り す る ﹁記 述 後 の指 導 ﹂ にも 時 間 を 確 保 し て いる 。
し か し 、題 材 指 導 ← 取 材 指 導 ← 選 材 指 導 ← 主 題 指 導 ← 構 想 指 導 ま で は 、比 較 的 て いね いに 指 導 し て き ても 、
﹁そ れ で は 、 構 想 メ モ にそ って、 書 い て いき な さ い﹂ と 指 示 し て、 後 は 、 児 童 が 作 文 を 書 き 上 げ る時 間 待 ち 、 と い った 作 文 教 室 が 意 外 と多 い。
し か し 、 作 文 力 を よ り 確 か な も の にす る た め に は 、 作 文 と いう 活 動 の中 核 と な る記 述 そ のも の の力 を つけ
な く て は な ら な い。 す な わ ち 、 記 述 そ のも の の指 導 を 重 視 し な く て は な ら な い。
作 文 と いう 活 動 の 一般 的 な 過 程 は 、 前 述 の よう に 、 取 材 ← 鑑 賞 の コ ー ス を と る が 、 し か し 、 い つで も 、 ど
ん な 作 文 でも 、 こ のよ う な 一定 コー ス で完 成 さ れ ると は 限 ら な い。 つま り 、 書 く こ と に よ って、 初 め て主 題 ・要 旨 が 明 確 に な った り 、 構 想 が は っき り 見 え てく る 場 合 だ って あ る。
こ の よ う な 実 態 か らも 、 記 述 そ のも の の指 導 の意 義 を 見 直 し 、 そ の指 導 を 充 実 さ せ な く て は な ら な い ( 注 4 )。 (傍 線 引 用 者 )
最 初 の傍 線 に あ る よ う に 、 た し か に多 く の国 語 教 室 にお いて は 、 構 想 メ モを 完 成 さ せ る ま では 直 接 的 な 一斉 指
導 を す る が 、 そ の後 の ﹁記 述 学 習 ﹂ に 関 し ては そ れ ぞ れ 学 習 者 の活 動 に ま か せき り にな って い る場 合 は 少 な く な
い。 な か に は 、 時 間 内 に 書 き き れ な か った 学 習 者 に 対 し て ﹁自 宅 で書 き 上 げ てく る よ う に﹂ と いう 指 示 が な さ れ る場 合 さ え あ る 。
こ のよ う な と き 、 ﹁記 述 ﹂ の学 習 は 、 学 習 者 の つま ず き を よ そ に 、 完 全 に 指 導 の外 に お か れ て し ま う わ け で あ
る。 授 業 で仕 上 が ら な か った 分 を 自 宅 で仕 上 げ さ せ た 場 合 はあ ま り う ま く 書 け て いな いと いう 声 を 指 導 者 か ら 一
般 に 聞 く こと が あ る。 け れ ど も そ れ は ﹁記 述 ﹂ 学 習 を 指 導 の外 に お いた のが そ の原 因 であ る 。
そ も そ も 、 書 く こと の 学 習 は 、 国 語 科 の 学 習 のな か でも 学 習 者 一人 ひ と り の個 別 性 が も っと も 発 揮 さ れ る こ と
を 特 徴 と し て いる 。 し か し 、 そ の こと が 逆 に 、 同 一内 容 の 一斉 指 導 では な か な か 指 導 の実 を 上 げ にく い原 因 にも
な って いる 。 そ れ が 、 多 く の国 語 教 室 で上 記 のよ う な 指 導 実 態 が多 い理 由 で あ る。
そ の 一方 で 、 あ と の傍 線 にあ る よ う に 、 ﹁書 く こと に よ って 、 初 め て 主 題 ・要 旨 が 明 確 に な った り 、 構 想 が
は っき り 見 え てく る 場 合 ﹂ も あ る の が 、 じ つは 書 く こと の学 習 がも つ特 徴 と も な って い る。 こ れ ら の特 徴 は 、 書
く こと の学 習 経 験 が 浅 い時 期 や、 構 想 の学 習 が 不 十 分 な 場 合 に 、 と り わ け多 く み ら れ る 特 徴 で あ る。
そ の意 味 で 、指 導 者 は な お の こと 、 一人 ひ と り の学 習 ( 記 述 ) の進 捗 状 況 に対 し て、 敏 感 か つ柔 軟 に 対 応 す る
能 力 がも と め ら れ て いる 。 具 体 的 に は ﹁個 別指 導 に よ る 記 述 指 導 ﹂ が ひ と つ の有 効 な 方 法 で あ る 。 も ち ろ ん、 指
導 に は物 理 的 な 困 難 を 伴 う が 、 こ こ を 突 破 し な け れ ば豊 か で確 か な 書 く こ と の指 導 は な か な か ひ ら か れ て ゆ か な い 。
と こ ろ で、 以 下 に示 す のは 、 記 述 過 程 に お け る ﹁学 習 者 の つま ず き ﹂ に 焦 点 を あ てた 、 間 瀬 泰 男 氏 に よ る報 告 であ る 。
子 ど も が 記 述 中 に 筆 を 止 め る 様 子 を 観 察 し て み る と 、 いろ い ろな タ イ プ が あ る が 、 止 ま る時 間 で停 留 、 停 滞 、 中 断 の三 つに分 け て考 え る こと が指 導 上 にも 便 利 であ る 。 停 留 は 、 次 の よう であ る。 ① 文 字 が わ か ら な い。 ② 適 当 な 語 句 が浮 か ん で こ な い。 ③ 書 こう と す るも の の名 が わ か ら な い。
④ 用 紙 の使 い方 、 符 号 の使 い方 が わ か ら な い。 ⑤ 腕 が 疲 れ 、 小 休 止 、 息 一つ つ い てま た書 き は じ め る 。
停 滞 は 、 こ れ よ り 少 し 時 間 が長 く 、 筆 が つか え て進 ん で いか な い状 態 に 陥 る。 ① ど う 続 け て いく か迷 って いる 。 ② 続 け 方 が わ か ら な く な って し ま う 。 ③ 連 想 が 働 か な く な ってし ま う 。 そ し て、 中 断 は 、 次 のよ う であ る 。 ① 書 き 悩 ん で 筆 を 置 い てし ま う 。 ② 始 め か ら読 み 返 し始 め る。 ③ 構 想 を 立 て 直 そ う と す る。 こ の状 態 を よ く 観 察 し て、 対 応 し た 指 導 が 必 要 に な ってく る ( 注 5)。
学 習 者 の記 述 過 程 に お け る ﹁つま ず き ﹂ の さ ま を 分 類 し た も の で あ る 。 子 ど も の ペ ンが 止 ま って いる時 間 の長
さ に よ って 、 ﹁停 留 ﹂、 ﹁停 滞 ﹂、 ﹁中 断 ﹂ に 分 け 、 そ の様 子 を 具 体 的 に指 摘 し て いる 。 言 う ま で も な く 、 ﹁停 滞 ﹂、
﹁中 断 ﹂ へと 進 む に つれ て個 別 指 導 の必 要 度 は 増 し て く る 。 こ れ ら を 一人 ひ と り の記 述 状 況 の観 察 か ら 指 導 者 が 、
ど う 見 極 め 、 そ の 原 因 に柔 軟 か つ的 確 に 対 応 で き る か、 も と め ら れ て い る 課 題 は 大 き い。
前 述 の 間 瀬 氏 は 、 こう し た ﹁つま ず き ﹂ のな か でも 、 ど のよ う に 書 け ば よ いか で学 習 者 が ﹁停 滞 ﹂ し て い る 場 合 の指 導 と し て、 以 下 の 八 項 目 を 提 示 し て いる 。
① 一、 二 文 前 か ら 読 み 直 しを さ せ て み る 。
② つか え て い るそ の 場 の情 景 、 書 こう と し て いる事 柄 に つ い て話 さ せ て み る 。
③ 問 題 の箇 所 を 教 師 が 取 り 上 げ て 、 板 書 し て 見 直 さ せ ると か 、 用 紙 に 書 いて 読 み上 げ さ せ て み る と か し て みて、問題点 に気づ かせる。 ④ 使 う と よ い こと ば を 例 示 し て 選 択 さ せ て み る 。 ⑤ 類 似 語 、 反 対 語 な ど を 示 唆 し て やり 、辞 書 を 使 って調 べ さ せ る。 ⑥ 取材表を見 直さ せる。 ⑦ グ ルー プ で 取 り 上 げ て 話 し 合 わ せ て み る 。
⑧ 教 師 が 、 こ と ば を 与 え て や る 。 こ の場 合 、 で き るだ け 子 ど も 自 身 に書 き た い事 柄 を 話 さ せ 、 そ の こと を
ぜ ひ書 き た いと いう 表 現 意 欲 を も た せ て か ら 、 そ の こと の書 き 表 し 方 は こ う だ 、 そ の こと を 表 す に は こう い う こと が 大 切 だ と 教 え て や る よ う に す る 。
書 き 上 げ てし ま って か ら 批 評 し た り 添 削 し た り す る 方 法 が よ く と ら れ る が あ ま り 効 果 的 で な い。 や は り、
何 と か表 現 し よう と 意 欲 の わ い て いる 記 述 中 を と ら え て 指 導 す る のが 効 果 のあ る方 法 であ る 。 ( 傍 線引用者 )
① や③ 、 そ し て⑥ は 、 記 述 に お い て近 視 眼 的 な 状 況 に陥 って い る学 習 者 に 、自 分 の文 章 を でき る だ け俯瞰 さ せ
る こ と で ﹁対 象 化 ﹂ さ せ て記 述 を 促 す 指 導 であ る。 ② や ⑦ 、 そ し て⑧ は 、 学 習 者 に 話 さ せ る こと を 主 た る方 法 と
しな が ら 、 ﹁対 話 ﹂ に よ って 記 述 を 促 す指 導 であ る 。 ④ や⑤ は 、 コト バ そ のも のを 誘 い水 にす る 、 言 い換 え れ ば 、
語 や フレ ー ズ に内 在 す る ﹁も の の見 方 ・と ら え 方 ﹂ を 起 点 に 記 述 を 促 す 指 導 で あ る 。 並 べ 方 の観 点 に 疑 問 は残 る
が 、 実 際 の指 導 経 験 を ふま え た 記 述 過 程 に お け る指 導 者 の サ ポ ー ト の方 法 が さ ま ざ ま に指 摘 さ れ て い る。
じ つは 、自 分 の文 章 を ﹁対 象 化 ﹂ し て な が め て み た り 、受 け 手 の 反 応 (﹁対 話 性 ﹂) を も と に内 容 や 表 現 を 構 想
し た り 、 語 や フ レ ー ズ に内 在 す る ﹁も の の見 方 ・と ら え 方 ﹂ を 起 点 に 内 容 や表 現 を 想 起 し た り す る 活 動 は 、 大 人 の書 き 手 な ら 書 く 過 程 にお い て個 人 の内 部 で行 って い る活 動 であ る 。
つま り 、 こ こ で の指 導 者 は 、 学 習 者 のお か れ た 局 面 に応 じ て、 学 習 者 自 身 の想 に立 ち 入 った り 読 み 手 に な った
り し な が ら 、 学 習 者 の書 こう と す る内 容 や 表 現 が ス ム ー ス に 展 開 で き る よう に サ ポ ー ト し て いる わ け であ る 。 書
く こ と の学 習 指 導 、 な か でも 個 別 の活 動 と し て の記 述 学 習 に お い て 、 ﹁個 別 指 導 に よ る 記 述 指 導 ﹂ が 必 要 性 と 効 果 を も つ ゆえ ん で あ る 。
私 自 身 の指 導 経 験 か ら言 っても 、 記 述 過 程 に お け る こ の個 別 指 導 で、 読 む こと の学 習 に比 べ て ﹁言 葉 の力 が つ
い て いく ﹂ と いう 実 感 を も つ学 習 者 は 多 か った 。 そ の 意 味 か ら も 、 こ の個 別 指 導 のも つ役 割 は 大 き い。 そ し て 、
指 導 者 は 、 こう し た 個 別 的 か つ具 体 的 な サ ポ ー ト を 受 け る 経 験 を 学 習 者 に つま せ る こ と によ って 、 や が て サ ポ ー
ト を 必 要 と し な い独 り 立 ち し た 活 動 が でき る よ う にな って ゆく こと を 期 待 す る の であ る 。
そ の際 、 傍 線 部 に あ る よ う に 、 ﹁書 き 上 げ てし ま って か ら 批 評 し た り 添 削 し た り す る 方 法 が よ く と ら れ る が あ
ま り 効 果 的 で な い。 や はり 、 何 と か表 現 し よう と 意 欲 のわ いて いる 記 述 中 を と ら え て 指 導 す る のが 効 果 のあ る方 法 であ る ﹂ と いう 指 摘 を 、 と く に重 く 受 け 止 め て み た い。
学 習 過 程 のど う いう 局 面 で 学 習 者 の国 語 学 力 が 活 性 化 し て いる のか を 考 え て み た場 合 、 ﹁記 述 ﹂ と いう 過 程 は 、
書 く こ と の学 習 過 程 に お いて も っと も 国 語 学 力 が 活 性 化 し て いる 局 面 の ひ と つと み ら れ るか ら で あ る 。 そ の 一方
で 、 記 述 後 に お いて ﹁書 き き った ﹂ と いう 手 応 え を も った 学 習 者 ほ ど 、 そ の後 の学 習 指 導 に 対 し て の意 欲 や 緊 張 感 が 低 下 し て し ま って い る場 合 が 多 い。
次 な る段 階 ( 過程) であ る ﹁ 推 敲 指 導 ﹂ に 内 在 す る 困 難 さも 、 じ つは こ こ に起 因 し て いる の で は な いか と 思 わ れる。
︵二︶ 推 敲 指 導
学 年 が 上 が る ほ ど 、 で き あ が った 自 分 の 文章 が 相 手 に ど う 読 ま れ る か に 関 心 が つよ く な る 。 け れど も そ の 一方
で、 記 述 後 に ﹁書 き き った ﹂ と いう 手 応 え を も った 学 習 者 ほど 、 推 敲 学 習 に は力 が 入 ら な い こと が多 い。 学 習 者
にと っては 、 で き あ が った 作 文 は す で に作 品 と し て は 完 成 し て お り 、 完 成 ま で に自 分 の エネ ルギ ー の多 く は使 い
(4 ) ﹁で き あ が った作 文 を 読
果 た し てし ま った と いう 思 いが あ る か ら であ る 。 こ の よ う な 場 合 、 学 習 課 題 を う ま く 設 定 で き な け れ ば 、 個 別 学 習 に よ る 推 敲 指 導 は な か な か 効 果 が 上 が り に く いも の で あ る。 と こ ろ で、 大 村 は ま 氏 に よ る前 述 の論 考 ( 注 6)で は 、 引 用 者 の箇 条 書 き で いう
み合 う 学 習 を し て い る場 ﹂ の指 導 例 が 提 示 さ れ て い た 。 こ の論 考 のタ ィ ト ルは 、 ﹁記 述 ・展 開 の指 導 ﹂ であ る が 、
そ こ に提 示 さ れ て い る の は 以 下 の よう な ﹁共 同 学 習 に よ る 推 敲 指 導 ﹂ であ った 。 推 敲 指 導 の むず か し さ を ふま え
つ つ、も っと も 効 果 が 上 が る 指 導 を 構 想 す ると き 、 ﹁共 同 学 習 に よ る推 敲 指 導 ﹂ は ひ と つ の有 効 な 方 法 であ る 。 こ の方 法 に つ い て、 大 村 氏 は 以 下 の よ う に述 べ て い る 。
次 のは 、 友 だ ち ど う し 、 力 を か し あ って問 題点 を 見 いだ し 、 学 級 で の学 習 に生 か し て い こう と す る も の で
ある。
こ れ は 4人 の グ ル ー プ であ る 。 ( 人 数 の都 合 のわ る い場 合 は 、 3 人 の グ ル ー プ を 作 り 、 5 人 に は し な い。
授 業 時 間 が 五 十 分 で あ る 以 上 は 、 こ の 作 業 は 4人 以 下 で な け れば む り であ る 。) 作 文 を 読 み 合 う が 、 ひと り の生 徒 か ら 考 え れ ば 、 3人 の友 だ ち に自 作 を 読 ん で も ら う こ と にな る 。
よ く 、 作 文 を 読 み 合 って 、 よ いと 思 う と こ ろ 、 よ く な いと 思 う と こ ろ を 、 知 ら せ 合 った り 、 あ る いは 、 そ
れ ほ ど は っき り と よ く な いと こ ろ を 指 示 は さ れ ず 、 批 評 を 書 き 合 う と いう こと が あ る 。
次 の は 、 そ れ と は 少 し違 う 方 向 か ら 、 作 文 に 向 か わ せ 、 そ れ を も と に し た 作 者 の反 省 か ら 、結 果 と し てし
ぜ ん に 問 題 点 が出 てく る よ う にく ふ う し た も の であ る 。 こ の ほ う が 、 ほ んと う の問 題 点 が 浮 か び あ が っ てく
る か ら で あ る。 批 評 と いう 形 で は 、 と う て い出 て こ な いよ う な 文 章 の欠 陥 が 、 し ぜ ん に 、 は っき り 出 て く る か ら であ る ( 注 8 )。
大 村 氏 は ﹁批 評 ﹂ と いう 語 を 用 い て いる が 、 一般 に は ﹁感 想 を 交 流 す る ﹂ と いう 形 で、 学 習 者 相 互 に 読 み合 わ
せ を さ せ る こと が あ る 。 ﹁よ いと 思う と こ ろ 、 よ く な いと 思 う と こ ろ﹂ を 知 ら せ 合 う 活 動 で あ る 。 そ し て 、 こう し た 学 習 は 学 習 のま と め の段 階 に設 定 さ れ る こと が多 い。
し か し 、 こう し た 観 点 で の活 動 の場 合 、 読 み 合 う 学 習 が な か な か 文 章 そ のも の に 迫 る こと が でき な い こと が少
な く な い。 相 手 を 傷 つけ な いあ た り さ わ り のな いほ め 言 葉 が 大 半 を 占 め 、 批 判 的 な 指 摘 は ほ と ん ど な く 、 あ って
も 誤 字 の指 摘 程 度 だ った り す る 。 大 村 氏 も そ こ を 感 じ 取 って い た の であ ろ う 。 そ こ で 、 ﹁ほ ん と う の問 題 点 が 浮
か び あ が ﹂ る よ う に 、 4人 と いう グ ル ー プ 設 定 を し た う え で 、 以 下 の観 点 でグ ル ー プ 内 の学 習 者 が 書 いた 文 章 と
向 き 合 わ せ て いる 。
① あ な た が こ の作 文 に書 こう と し た こ と は 、次 のよ う な こ と だ と 思 いま す 。 ② 次 のと こ ろ は 、 と く に力 を 入 れ て書 か れ て いる と 思 いま す 。 ③ 次 のと こ ろ が 、 ち ょ っと よ く わ か り ま せ ん が ⋮ 。 ④ 次 の こと ば は 、 合 わ な いよ う に 思 いま す 。 (⋮ し た ら ど う か と 思 いま す 。) ⑤ 次 の表 記 は違 う の で は あ り ま せ ん か 。 ⑥ そ の他 ( 注 9)
① は ﹁主 題 ( 要 旨 )﹂ に 関 し て 、 ② は 筆 者 の思 いが 強 く で て いる ﹁内 容 ﹂ に 関 し て 、③ は 筆 者 の意 図 が 伝 わ り
にく い ﹁ 内 容 ﹂ に 関 し て、 ④ は わ か り に く い ﹁ 表 現 ﹂ に 関 し て、 ⑤ は 間 違 いと 思 わ れ る ﹁表 記 ﹂ に 関 し て 、 を 指 摘 さ せ る 課 題 であ る 。 観 点 も 並 べ方 も 理 にか な った みご と な も の で あ る 。
学 習 者 は 、 こ の 課 題 に 一つ 一つ丁 寧 に 答 え る べ く 、 グ ル ー プ 内 の学 習 者 の文 章 と 向 き 合 って いく 。 文 章 に 向 き
合 い、 文 章 そ のも のに 迫 って いく わ け で あ る。 そ し て、 次 に 示 す シ ー ト ( 注 10 ) に順 に 記 入 さ せ 、 シ ー ト の 一番
下 の欄 に そ の文 章 を 書 いた 学 習 者 が グ ル ー プ 内 の指 摘 に答 え る よ う に な って いる 。
大 村 氏 は 、 こ の シ ー ト を 用 いて 以 下 の よ う な 学 習 を 展 開 さ せ る と いう 。
A の作 文 は 、 B C D を ま わ り 、 そ の 三 人 か ら 、 そ れ ぞ れ 記 入 し た プ リ ント を 受 け 取 る。 そ れ を 前 の表 (引
用 者 注︳ 前 記 の シ ー ト を さ す ) のよ う に ま と め て 、 個 人 的 にま ず 活 用 し 、 さ ら に 、 適 当 な も のを 選 ん で 、 学 級 の 学 習 の材 料 にす る こ と にな る の であ る ( 注 11)。
こ こ で いう ﹁個 人 的 にま ず 活 用 し ﹂ が 、書 き 手 に と って の 推 敲 活 動 と な って いる 。他 者 の意 見 や指 摘 を も と に 、
自 分 な り に 判 断 さ せ 文 章 を 改 善 さ せ る わ け であ る 。 意 見 や指 摘 を 受 け 止 め る に し ても 、 指導 者 と いう 存 在 や 自 分
の頭 の中 に想 定 し た だ け の読 者 と いう 存 在 と 、 実 際 に い っし ょ に学 習 活 動 を し てき た メ ンバ ーと を 比 べ る と 、 学 習者 が 受 け止 め る ﹁重 さ ﹂ が 異 な る 。
す な わ ち 、 こ の指 導 は 、 同 じ学 習 を 経 験 し てき た ク ラ ス メ イ ト の存 在 を 最 大 限 に 活 用 し た 、 ま さ に ﹁共 同 学 習 に よ る 推 敲 指 導 ﹂ と 言 ってよ い。
し か し 、 こ の方 法 の欠 陥 に つ いて も 、大 村 氏 は 目 配 り を し て いる 。そ れ は 、こ の共 同 学 習 の展 開 過 程 に お い て、
指 導 者 が 介 在 し な いと いう 点 に つ い て であ る 。 そ う し た 欠 陥 を 補 う た め 、 大 村 氏 は 以 下 の よう な 配 慮 が 必 要 だ と し て いる 。
な お 、 こ の学 習 作 業 は 、 読 む 生 徒 の能 力 が 問 題 にな る わ け であ る 。 グ ルー プ の 編 成 に当 た って 、 次 の こ と
を 条 件 にし て い る。 A B C D 、 4人 のう ち 、 Aを 中 心 に考 え て み る 。 B は 、 A 以 上 、 ま た は Aと あ ま り 程 度
の差 のな い生 徒 。 C は 、 Aと 同 程 度 、 D は Aと 同 程 度 、ま た は 劣 って いる 生 徒 。 つま り 、 少 な く と も 一人 は Aを 理解 でき る よう に編 成 し て いる 。
ま た 、 読 む 力 が 弱 いた め に 、 主 旨 を 取 り 違 え た の であ って 、 作 文 の方 を 直 す 必 要 は な いと いう 意 見 も 当 然
出 てく る も のと 思 わ れ る 。ま った く 、読 み 手 のカ が 弱 け れ ば 、不 当 な 結 果 が 出 て く る こと に も な る で あ ろう 。
12)。
し か し 、 こ れ は そ の作 文 の価 値 を 決 め る も の では な く 、 問 題点 の発 見 のた め で あ る か ら 、 力 が 弱 いた め の取
り 違 い の と こ ろ は 、そ れ な り に 、取 り 上 げ て の学 習 の材 料 、反 省 の資 料 に す る こ と が で き る の で あ る ( 注
こ こ に は 、 学 習 者 の国 語 学 力 差 を ふま え た グ ル ー プ 編 成 に 関 す る配 慮 が 述 べ ら れ て いる 。 能 力 の差 に 配 慮 す る
こ と で 、 学 習 が よ り 効 果 的 に 展 開 さ れ る こと が 指 摘 さ れ て いる 。 ま た 、 こ の 学 習 の目 的 を ﹁( 書 か れ た 作 文 の)
問 題 点 の発 見 のた め﹂ と す る こ と に よ って 、 最 終 的 に は 書 き 手 であ る 学 習 者 自 身 に 判 断 さ せ る 活 動 と し て位 置 づ け よ う と し て い る こと が わ か る 。
こう し た 学 習 過 程 に 指 導 者 が介 在 し な い こと は見 方 に よ っ ては 問 題 が あ る のだ が 、 ク ラ ス メイ ト と いう 読 み手
の反 応 を な に よ り 大 切 に し 、 共 同 学 習 に よ って得 ら れ た 成 果 を な に よ り 大 切 に し た 指 導 に な って いる 。 そ の意 味
で 、 こ の学 習 指 導 に 関 す る かぎ り 、 学 習 者 を 自 立 し た存 在 と し て み よう と す る大 村 氏 の指 導 観 は 貫 か れ て いる 。
以 上 、 本 節 で は ﹁記 述 ・推 敲 の指 導 と そ の方 法 ﹂ と し て 、 ﹁記 述 指 導 ﹂ と ﹁推 敲 指 導 ﹂ そ れ ぞ れ に つ い て、 以 下 の点 を 述 べ た 。
﹁推 敲 指 導 ﹂ に お い て は 、 間 瀬 泰 男 氏 の提 案 を も と に 、 学 習 者 が ﹁記 述 活 動 ﹂ を し て いる 過 程 に ﹁個 別 指 導 に
よ る 記 述 指 導 ﹂ を 取 り 入 れ る例 を 紹 介 し た 。 そ のた め に は 、 学 習 者 の つま ず き を 個 別 に把 握 し 、 そ れ に 対 し て敏 感 か つ柔 軟 に 対 応 す る 能 力 が 指 導 者 に必 要 と な る こ と を 述 べ た 。
ま た 、 ﹁推 敲 指 導 ﹂ に お い て は 、 大 村 は ま 氏 の 提 案 を も と に 、 推 敲 活 動 を 学 習 者 た ち が グ ル ー プ で行 う ﹁共 同
学 習 に よ る 推 敲 指 導 ﹂ の 例を 紹 介 し た 。こ の方 法 に よ り 、推 敲 活 動 は た んな る 個 別 の事 後 処 理 的 な 活 動 で は な く 、 学 習 者 が 共 同 で行 う 活 動 を 通 し た 文 章 そ のも の に迫 る 活 動 に な る こと を 述 べた 。
な か でも 、 推 敲 指 導 で 述 べた ﹁で き あ が った 文 章 を 次 の段 階 で の学 習材 に す る﹂ 指 導 は 、書 く こと の教 育 に お いて 、 今 後 な お 検 討 さ れ な け れ ば な ら な い問 題 であ る 。
八 六頁
注 ︵1︶ 国 語教育 研 究所 編 ﹃国語 教育 研究 大辞 典﹄ 明治 図書 一九 九 一年七 月 一六三頁 ︵2︶ 大 村 はま ﹁記 述 ・展 開 の指導 ﹂ ﹃ 作 文指 導 講座 第 三 巻 作文 指 導﹄ 明 治書 院 一九 六七 (昭和 四 二)年一二 月
(国 語 教 育 研 究 所 編 明 治 図 書 一九 九 六 年 九 月 ) が あ る 。 こ の 事 典 で は ﹁記 述 ﹂ に 関 す る 技 術 と し て 、 以 下 に
︵3 ︶ (2 ) ﹁練 習 課 題 と し て の ﹁記 述 ﹂ を 取 り 立 て 指 導 す る 場 ﹂ に 関 す る 先 行 研 究 と し て 、 ﹃ ﹁作 文 技 術 ﹂ 指 導 大 事 典 ﹄
示 す 二 十 二 項 目 も の 指 導 内 容 が 示 さ れ て いる 。 指 導 者 と し て 知 っ て お き た い内 容 が 網 羅 さ れ て い る 。
( 語 と 語 、 文 と 文 、 段 落 と 段 落 ) の 技 術 ﹂、
﹁1 凡 そ の 文 の 長 さ ﹂、 ﹁2 一文 作 文 の 技 術 ﹂、 ﹁3 読 み手 に よ って 語 句 や 文 体 を 変 え る 技 術 ﹂、 ﹁4 主 語 述 語 を 照 応 さ せ る 技 術 ﹂、 ﹁5 む だ のな い文 に す る 技 術 ﹂、 ﹁6 接 続
( な り き り 作 文 )﹂、 ﹁12 効 果 的 な 表 現 の技 術 ﹂、 ﹁13 時 間 的 順 序 ・空 間
﹁7 修 飾 ・被 修 飾 の 技 術 ﹂、 ﹁8 適 切 な 語 句 を 選 ぶ 技 術 ﹂、 ﹁9 効 果 的 な 文 章 符 号 の 技 術 ﹂、 ﹁l0 敬 語 を 適 切 に 使 う 技 術 ﹂、 ﹁11 三 人 称 作 文 の技 術
的 順 序 に よ る 記 述 の 技 術 ﹂、 ﹁14 5 W 1 H に よ る 記 述 の技 術 ﹂、 ﹁1 5 省 略 ・詳 述 の 技 術 ﹂、 ﹁16 文 体 の 統 一の技
術 ﹂、 ﹁17 事 実 と 意 見 を 振 り 分 け る 技 術 ﹂、 ﹁18 要 約 し て 書 く 技 術 ﹂、 ﹁19 箇 条 書 き の 技 術 ﹂、 ﹁20 メ モ ・カ ー
ド を と る 技 術 ﹂、 ﹁21 効 果 的 な 図 表 ・イ ラ ス ト ・写 真 の 技 術 ﹂、 ﹁ 22 書 き 出 し と 結 び の照 応 の 技 術 ﹂。 ( 昭 和 五 五 ) 年 九 月 一八 二∼ 一八 三 頁
︵4︶ 樺 島 忠 夫 ・中 西 一弘 編 ﹃作 文 指 導 事 典 ﹄ 東 京 堂 出 版 一九 八 ○
︵5︶ 井 上 敏 美 ・倉 澤 栄 吉 ・滑 川 道 夫 編 ﹃ 新 作 文 指 導 事 典 ﹄ 第 一法 規 出 版 一九 八 二 (昭 和 五 七 ) 年 一 一月 一七 四 ∼
注
(1 ) に 同 じ 。 九 八 頁
(1 ) に 同 じ 。
(4 ) に 同 じ 。 一七 六 ∼ 一七 七 頁
一七 五頁 ︵6 ︶ 注
(1 ) に 同 じ 。 一〇 二 頁
︵7 ︶
注
(1 ) に 同 じ 。 一〇 一∼ 一〇 二 頁
︵8︶ 注
注
(1 ) に 同 じ 。 一〇 一頁
︵10 ︶
注
(1 ) に 同 じ 。 九 九 頁
︵11 ︶
︵9︶ 注
︵12 ︶
四 処 理 ・活 用 の 指導 と そ の方 法
は じ め に
﹁書 く こと ﹂ の学 習 指 導 に お け る ﹁処 理 ﹂ は 、 二通 り に と ら え ら れ て いる よ う であ る 。 ひ と つは 、 ﹁ 書 いた 後 の過 程 ﹂ を ﹁処 理 ﹂ と す る も の であ る。
村 井 万 里 子 (二 〇 〇 一) は 、 作 文 指 導 を ﹁大 き く 分 け て﹂、 ﹁書 き 上 げ る ま で の過 程 ﹂ と ﹁書 いた 後 の過 程 ﹂ に
二分 し 、 ﹁こ の書 いた 後 の取 り 扱 いを 指 し て ﹃作 文 の処 理 ﹄ と 言 う 用 語 が 広 く 使 わ れ て き た ﹂ と し て い る。 さ ら
に そ れ を 、 ﹁1 1編 ず つ読 ん で 評 価 し 、 評 語 を 書 き 入 れ 、 書 き 手 に 返 す 。 2 作 文 の束 の中 か ら 数 編 を 選 ん で
﹃通 信 ﹄ や ﹃文 集 ﹄ に 載 せ る。 3 よ り よ い文 章 を 目 指 し て ﹃推 敲 ( 考 )﹄ の 授 業 を 行 い、 作 文 を 完 成 さ せ て個 人
文 集 に ま と め さ せ て いく 。 4 特 定 の目 的 を も って書 か れ た 作 文 を 特 定 の視 点 か ら み ん な で読 み 合 い、 そ れ を も
と に 新 た な 学 習 活 動 を 展 開 す る﹂ の 四段 階 に区 分 し た う え で 、 ﹁以 上 のう ち 、 普 通 ﹃処 理 ﹄ と 言 わ れ て いる の は
l や 2 の仕 事 で あ る ﹂ と 述 べ て いる 。本 節 の題 目 で あ る ﹁処 理 ・活 用 ﹂ に あ ては め る と 、 3 や 4 の段 階 は ﹁活 用 ﹂ とと らえら れよう。
も う ひと つは 、 ﹁添 削 ﹂、 ﹁評 価 ﹂と 並 立 す るも のと し て 、 ﹁処 理 ﹂ を と らえ る も の で あ る 。 岩 下 貞 保 (一九 八 四 )
は 、 ﹁書 か れ た 作 文 が 、 学 習 者 た ち の 生 活 の中 で 、 そ の作 文 と し て の役 割 を 果 た し て いく よ う に し て や る こ と ﹂
が ﹁処 理 ﹂ で あ り 、 ﹁添 削 ﹂ や ﹁評 価 ﹂ は ﹁処 理 への 一つ の過 程 ﹂ で あ ると し て い る 。
中 西 一弘 (一九 八 一) は 、 ﹁戦 前 は 添 削 、 戦 後 は 評 価 、 そ し て現 在 は 処 理 の時 代 と いわ れ て いる ﹂ と し な が ら
も 、 ﹁情 報 化 の時 代 に 入 った 今 、 文 章 表 現 を 情 報 と し て活 用 す る ﹃処 理﹄ の方 法 が 喧 伝 さ れ る に至 った 。 適 切 有
効 な 着 眼 であ る こ と は 否 定 でき な いが 、 添 削 を やめ 、 評 価 を 中 止 し て、 処 理 法 ば か り を 適 用 す る こと に は 、 無 理 が あ る こ と も 事 実 であ る﹂ と 述 べ て いる 。
﹁添 削 ﹂、 ﹁評 価 ﹂ を 全 く 含 め ず に ﹁処 理 ﹂ を と ら え る こ と は 、 現 在 の ﹁書 く こと ﹂ の学 習 指 導 の 実 情 に は 合 わ
な い。 本 節 で は 、 ﹁活 用 ﹂ の方 向 性 に 重 点 を 置 く ﹁処 理 ﹂ 観 に も 留 意 し つ つ、 ﹁書 いた 後 の過 程 ﹂ に ひ ろ く あ て は
ま るも のと し て ﹁処 理 ﹂ を と ら え 、 ﹁﹃ 評 価 ﹄ と し て の ﹃処 理 ﹄﹂ と ﹁﹃活 用﹄ に ひ ら く ﹃処 理 ﹄﹂ の 両 面 か ら 、 述 べることとす る。
︵一︶﹁評 価 ﹂ と し て の ﹁処 理 ﹂ 1 指 導 者 に よ る処 理 ︵1︶ ま ず は ﹁ほ め る﹂
指 導 者 が 、 学 習 者 の文 章 のど こ に注 目 し 、 ど のよ う に評 価 し た か 、 こ の こと を 端 的 に あ ら わ す のが 、 いわ ゆ る
﹁赤 ぺ ん ﹂ で あ る 。 学 習 者 の文 章 を 処 理 す る方 法 と し ては 、 こ の ﹁赤 ぺ ん ﹂ が 依 然 と し て 主 流 で あ り 、 基 本 で も あ る。
﹁赤 ぺ ん﹂ の第 一の機 能 は 、 指 導 者 が文 章 を 読 ん だ 、 と いう こと を 、 書 き 手 であ る 学 習 者 に確 か に伝 え る こ と
に あ る 。 学 習 者 が 想 定 す る読 み手 は 、 や は り 、 ま ず は 指 導 者 で あ る 。 指 導 者 が 、 ﹁読 ん だ ﹂ こ と を 、 学 習 者 は ﹁赤 ぺ ん﹂ に よ って 確 認 す る の であ る 。
相 手 が 、 確 か に 自 分 の文 章 を 読 ん で く れ た 、 と いう 実 感 は 、 ﹁書 いて よ か った ﹂ と いう 感 情 を 、 学 習 者 に 喚 起
す る 。 そ し て こ れ は 、 ﹁ま た 書 こう ﹂ と いう 感 情 に つな が る 。 書 く こ と は 決 し て楽 な 作 業 で は な い。 学 習 者 の 達 成 感 や 成 就 感 を 保 証 す る こ と が 、 ま ず 重 視 さ れ る べき で あ ろう 。
こ の こと を ふま え ると 、 ま ず な す べ き は 、 ﹁よ い点 を 見 つけ て ほ め る ﹂ こ と であ る 。 叙 述 の順 序 に 沿 って、 部
分 的 な 内 容 や表 現 に即 し て 、 行 間 に 短 い評 語 を 書 き 込 む 方 法 も あ れ ば 、 文 章 全 体 を 読 み 終 え た 後 で、 末 尾 に、 総
合 的 な 感 想 を ま と め る方 法 も あ る。 題 材 でも よ い、 構 成 でも 、 表 現 でも よ い。 書 き 終 え た こと や 、 あ る 分 量 を 満 た し た こ と を ほ め ても よ い。 受 け と め 、 認 め 、 共 感 す る こと か ら は じ め た い。
︵2︶ 観 点 を 絞 る
﹁ほ め る ﹂ だ け で終 わ って し ま って は 、 学 習 は 成 立 し な い。 前 述 の 、 処 理 の 第 一段 階 が 満 た さ れ て いれ ば 、 改
善 す べ き 点 に つ い て の建 設 的 な 助 言 は 、必ず 届 く 。確 か に 読 ん でく れ た 指 導 者 によ る助 言 だ か ら こ そ 、学 習 者 は 、 そ れを 受 け 入 れ よ う 、 と いう 気 にな る 。
学 習 者 の文 章 に は 、 多 く の価 値 あ る観 点 が あ る 。 そ のひ と つ ひと つ に、 豊 か な 指 導 の 可 能 性 が 隠 さ れ て いる 。 ど こ か ら でも 助 言 し 、 指 導 す る こと が でき る の であ る。
し か し 、 留 意 し た い こと は 、 目 に つ いた と こ ろ か ら ﹁順 不 同 ﹂ に指 導 し よう と し な いこ と だ 。 評 価 した い、 指
導 し た い点 が 多 く 見 つか る 学 習 者 の文 章 の、 ど こ に 絞 って は た ら き か け る か 、 そ れ が 、 処 理 を 有 効 に お こ な う う え で の重 要 な 観 点 に な る。
︵3︶ 指 導 事 項 の検 証
一回 の ﹁書 く こ と ﹂ 学 習 で、 多 く の ﹁書 き 方 ﹂ を 指 導 す る こと は でき な い。 学 習 者 の留 意 で き る項 目 数 の限 界
や、 学 習 内 容 の系 統 性 に基 づ く 順 序 の問 題 も あ る 。 既 習 の事 項 を 反 復 し 、 理 解 を 深 め る こと も 同 時 に 目 指 さ れ ね ば な ら な い。
そ れ は 、重 点 を 置 い て指 導 し た 事 項 に 重 な る︱
そ れ が 、学 習 者 の文 章 に ど れ だ け 反 映 さ れ て いる か を 、
こ のよ う に し て 精 選 さ れ 、 設 定 さ れ た 指 導 事 項 か ら 、 処 理 の観 点 の ひ と つが 導 か れ る。 今 回 習 得 さ せ た か った こと︱ 処 理 の観 点 と し て 設 定 す る の であ る 。 そ のた め に留 意 し て お か な け れ ば な ら な いこ と は 、 二点 あ る 。
第 一は 、 系 統 性 への意 識 であ る 。 前 述 の よ う に、 学 習 者 の 文 章 を 分 析 す る 観 点 は 、 多 種 多 様 であ る 。 多 く の価
値 あ る可 能 性 の前 で、 指 導 者 が 考 え る べき は 、 ﹁何 を 教 え る か ﹂ で は な く ﹁何 を 教 え な いか ﹂ に あ る 。 あ る観 点
に つ いて 、 ﹁今 回 は 見 送 る ( 指 導 し な い)﹂ と 判 断 す る た め には 、 ﹁次 回 以 降 に必 ず 扱 う ﹂ と いう 見 通 し が 必 要 で
あ る 。﹁一学 期 に は 、 取 り 立 て て指 導 し な いが 、 今 回 重 点 を 置 い て指 導 し た こ と を ふ ま え 、 そ れ と 関 わ ら せ て 、
三 学 期 に指 導 し よ う ﹂ と 見 通 せ て いれ ば 、 ﹁見 送 る ﹂ と いう 決 断 が 可 能 に な る の であ る 。
第 二は 、処 理 の際 の ﹁基 準 ﹂ を でき るだ け 具 体 的 な も の に す る 、 と いう こと で あ る 。 評 価 に関 す る 最 近 の議 論
は 、 文 章 の処 理 に も 多 く の示 唆 を 与 え てく れ る 。 ﹁○ ○ が で き る 、 身 に つ い て いる ﹂ と いう ﹁規 準 ﹂ に 、 ど の程
度 接 近 で き て いる か を み る た め の ﹁基 準 ﹂ は 、 学 習 者 の表 現 に 即 し て 、 具 体 的 に 設 定 さ れ て いる 方 が 、 効 果 的 に 機 能 す る こ と にな る 。
た と え ば ﹁順 序 ﹂ を ふ ま え た 文 章 を 書 か せ た いと 考 え た と き 、 そ れ が 達 成 さ れ て い る か ど う か の ﹁基 準 ﹂ は 、
﹁ま ず ﹂、 ﹁つぎ に﹂ な ど の語 が 正 し く 使 用 さ れ て い る か 、 段 落 が 適 切 に分 け ら れ て い る か 、 の よ う に な る 。 こ の
点 か ら 考 え る と 、 あ る 事 項 を 身 に つけ さ せ る た め の方 法 と し て 、 白 紙 の作 文 用紙 に ひと ま と ま り の文 章 を 書 か せ
る こと 以 外 に も 、 ﹁枠 組 み作 文 ﹂ な ど が 目 的 に 応 じ て随 時 取 り 入 れ ら れ れば 効 果 を う む こと が わ か る 。
指 導 事 項 に 対 応 し た 処 理 の観 点 を 定 め る こと で 、 指 導 方 法 の有 効 性 を 検 証 す る こと も で き る 。 こ れ は 、 指 導 者
に フ ィ ー ド バ ック さ れ る 評 価 で あ る 。 指 導 者 は そ の 後 の指 導 方 法 を 再 考 し 、 必 要 に 応 じ て 復 習 や補 充 学 習 の機 会
を 設 け ね ば な ら な い。 同 時 に 、 個 々 の学 習 者 に応 じ た 定 着 の 状 況 を 知 る こと が で き 、 個 に 応 じ た 指 導 のた め の 根 拠も得ら れる。
( 学 習 の め あ て) に 応 じ た 評 語 ( 赤 ぺ ん ) が 機 能 す る こと に な る。 何
学 習 者 に と って は 、提 示 さ れ た 、あ る いは 自 ら 設 定 し た ﹁め あ て﹂ が 達 成 で き た か 、と いう こ と を ふり か え り 、 自 己 評 価 す る た め の根 拠 と し て 、 指 導 事 項
を 身 に つけ た か 、 何 が 課 題 と し て 残 った か 、 これ か ら 何 を め ざ す べ き か 。 こ れ ら の こと を 、 自 ら に 向 け た メ ッ
セ ー ジ と し て 示 し てく れ る ﹁赤 ぺ ん ﹂ は 、 文 章 を 書 いた 、 と いう 経 験 に と ど ま らず 、 書 く こ と に よ っ て何 を 身 に
つけ た か 、と いう レ ベ ル で、 学 習 者 にそ の 成 果 を 具 体 的 に示 す は た ら き を も って いる 。
︵4︶ 価 値 を す く い上 げ る
指導 事 項 を 精 選 し 、 そ れ に応 じ た 処 理 の観 点 を 明 確 に 定 め る こ と は 、 目 標 ・指 導 ・評 価 を 一体 のも のと し て学 習 指導 を 構 想 す る う え で 、 有 効 に機 能 す る 。
そ の 一方 で重 要 な の は 、 ﹁そ の他 ﹂ への 目 配 り で あ る 。 観 点 を 絞 る と い って も 、 そ こか ら 外 れ る も のを 見 な い
わ け で は な い。 課 題 が 与 え ら れ 、条 件 が 付 さ れ た 文 章 表 現 であ って も 、 そ こ には 、 学 習 者 そ れ ぞ れ の個 性 が 発 現
す る こと にな る 。 指 導 の重 点 が散 漫 に な る こ と に留 意 し つ つ、 個 性 的 な 表 現 を 評 価 対 象 と す る こと は 、 絞 ら れ た
ね ら いが いわ ゆ る ﹁ノ ル マ﹂ と な ってし ま う 窮 屈 な 学 習 指 導 に 陥 ら な いた め の方 策 と し て も 有 効 であ る 。
と く に 重 要 な のが 、 書 き 手 で あ る 学 習 者 に自 覚 さ れ て いな い ﹁価 値 ﹂ で あ る。 記 述 中 の 学 習 者 はと に か く ﹁書
く こ と ﹂ に夢 中 で、 そ れ を 対 象 化 し て ふり か え る、 と いう 意 識 は ほ と ん ど な い。 推 敲 の際 に も 、 ま ず は 表 記 や 表
現 が 気 に か か り 、文 章 そ のも の や 、そ れ を 書 く こと に よ って得 た ﹁価 値 ﹂ に は 気 づ かな い こと の 方 が 多 いだ ろう 。
指 導 者 の ﹁眼 ﹂ が 、 そ れ を 確 か に す く い上 げ 、 ﹁ 赤 ぺ ん﹂ に よ って 学 習 者 に 示 さ れ る こ と にな る の であ る 。 ﹁今 ま
で 、こ ん な こと に気 が つ いた こ と は な か った ね﹂、﹁こ の書 き 方 は 、今 ま で書 いた 文 章 の 中 に は出 て こな か った ね 。
新 し く お ぼえ た ん だ ね ﹂ のよ う な 評 語 は、 こ の文 章 で 見 せ た 学 習 者 の価 値 あ る成 長 を 意 味 づ け る も の であ り 、 学
習 者 を 励 ま す も の にな る と 同 時 に 、 指 導 者 への信 頼 感 を 強 め る こ と にも つな が る 。
︵5︶ ﹁書 こう と し た こと ﹂ の評 価
処 理 の観 点 を 絞 る こ と 、 そ れ 以 外 の価 値 も す く い上 げ る こ と が 重 要 で あ る こと を 述 べた 。 文 章 表 現 の学 習 指 導
に の み あ て は ま る こと で は な いが 、 処 理 に 代 表 さ れ る 評 価 の 際 の姿 勢 に つ い ても ふ れ て お き た い。 そ れ は 、 比 喩
的 に 述 べ ると 、 ﹁し た こと ・で き た こ と ﹂ の評 価 か ら ﹁し よ う と し た こ と ﹂ の 評 価 へ、 と いう こ と に な る 。
絵 を 例 にと って み る 。 私 た ち は ﹁よ い絵 ﹂ と そ う で は な い絵 、 あ る いは ﹁上 手 な 絵 ﹂ と そ う で はな い絵 を 、 そ
の 基 準 は 客 観 的 な も の で は な いに し て も 、 見 分 け る こ と が でき る 。 つま り 、 絵 を 評 価 す る ﹁眼 ﹂ は も って いる 、
と いう こと に な る 。 と こ ろ が 、 絵 を 描 いて み る と 、 自 分 が 思 っ て い る ﹁よ い絵 ﹂、 ﹁上 手 な 絵 ﹂ に はな ら な い。 そ
れ は ﹁手 ﹂ が 、 ﹁眼﹂ に 及 ん で いな いこ と を 示 し て い る。 こ れ を ﹁眼高 手 低 ﹂ と よ ぶ こ と も あ る 。
文 章 な ど の表 現 や製 作 の学 習指 導 に お い て は 、 こ の こと を 意 識 し て お く こと が 重 要 で あ る 。 文 章 表 現 に 即 し て
述 べ ると 、 ﹁書 こう と し た こ と ﹂ が 、 そ の通 り書 け て いる わ け で は な いこ と 、 ﹁ 書 いた こ と ﹂ は ﹁書 こ う と し た こ
と ﹂ に比 べ る と 、 満 足 でき な いも の に な って いる こ と を ふ まえ て、 評 価 す る こ と が 重 要 な の であ る 。
し か し 、 ﹁書 いた こと ﹂ す な わ ち 、 提 出 さ れ た 文 章 か ら 、 学 習者 が ﹁書 こう と し た こ と ﹂、 ﹁ 書 き た か った こと ﹂ を 推 し 量 る こ と は 容 易 で は な い。 ふた つ の方 法 を 提 案 し た い。
ひ と つは 、 学 習 に 際 し て ﹁め あ て﹂ を 設 定 さ せ る こと で あ る 。 書 き 始 め る前 に 、 書 く こ と に よ って実 現 し た い
こ と 、 身 に つけ た いこ と を ﹁め あ て﹂ の形 で明 確 に 設 定 さ せ る の で あ る 。 こ れ に よ って指 導 者 は 、 学 習 者 が こ の
文 章 を 書 く こ と で何 を め ざ そ う と し て いる のか を 把 握 す る こ と が で き 、 そ れ を 指 導 の手 だ て や評 価 の観 点 に 反 映 さ せ る こ と が でき る 。
ま た 、 ﹁め あ て﹂ を 設 定 す る段 階 で ﹁指 導 ﹂ を 加 え る こと が でき る 。 学 習 者 が ﹁自 ら ﹂ 設 定 し た こ と を 重 視 す
る 立 場 が あ る が 、 そ の ﹁め あ て ﹂ が 、 学 習 者 の 現 状 と 照 ら し 合 わ せ て、 著 し く か け 離 れ て い る場 合 、 指 導 者 は 積
極 的 に関 わ って修 正 さ せ る方 が よ い。 実 態 か ら 距 離 が あ り す ぎ る め あ て に基 づ く 活 動 は 、 結 局 の と こ ろ、 困 難 す
ぎ る か 容 易 す ぎ る か のど ち ら か に な って し ま い、価 値 あ る ﹁学 習 ﹂ が 成 立 す る こ と に は な ら な い。
も う ひ と つは 、 完 成 し た 文 章 を 、 学 習 者 自 身 に ﹁解 説 ﹂ さ せ る こ と であ る 。 観 点 と し ては ﹁工 夫 し た と こ ろ ﹂、
﹁難 し か った と こ ろ ﹂、 ﹁や ろう と 思 って いた け れ ど で き な か った と こ ろ﹂ な ど が 考 え ら れ る 。 こ れ に よ り 、 指 導
者 は 、 学 習 者 が ﹁書 こ う と し た こと ﹂ を 知 る こ と が でき る 。 学 習 者 自 身 も 、 自 ら の文 章 や 学 習 活 動 を ふり か え る
こ と が で き る 。 ま た 、 ﹁難 し か った ﹂、 ﹁でき な か った ﹂ と 学 習 者 が 自 覚 し て いる 点 に 対 す る建 設 的 な 助 言 で あ れ ば 、 受 容 さ れ 効 果 的 に 定 着 す る 可 能 性 も 高 い、 と いう こと に な る。
︵6︶ 先 行 研 究 に 学 ぶ
処 理 の第 一歩 と な る評 価 の方 法 の基 本 は 、 や は り 、 ﹁赤 ぺ ん ﹂ であ る 。 そ の方 法 に つ いて は 、 教 室 と いう 生 き た 場 で 、 学 習 者 の文 章 表 現 に 即 し て、 追 究 が 重 ね ら れ てき た 。
亀 村 五 郎 (一九 七 九 ) は 、 ﹁赤 ぺ ん十 一か 条 ﹂ と し て 、 ﹁1. ね ら いを も って 、 ま と を し ぼ る 2. 子 ど も の顔
を 目 の前 に 3. 子 ど も のな ま え を 入 れ て 4. はず か し が ら ず 、 気 ど ら ず 5. い つも の こと ば 、 話 し か け の
書 き 方 で 6. よ いと こ ろ を み つけ て ほ め る 7. 楽 し く 、 わ か り や す く 8."く わ し く 書 け " は く わ し く な
い 9. 赤 ぺ ん は 、欄 外 に も 書 く 10. 子 ど も のま ね と 赤 ぺ ん 11. 書 か な い子 ど も へ の赤 ぺ ん﹂ を 挙 げ て い る。
戸 田 唯 巳 (一九 九 二) は 、 ﹁赤 ペ ン で ﹂ ﹁気 を つけ た いと 思 う こと ﹂ と し て、 ﹁わ かり や す ﹂ く 、 ﹁子 ど も が 楽 し
み に し た り 、 励 み を 覚 え た り す る も の﹂ を 挙 げ 、 ﹁多 く 入 れ る な ﹂ と 呼 び か け て いる 。 ま た ﹁子 ど も の 作 文 を 一
編 で も 多 く 読 む こ と ﹂ を す す め 、 ﹁見 方 の 拠 り ど こ ろ﹂ と し て ﹁書 いた 子 ど も の顔 が 浮 か ぶ か ﹂、 ﹁わ か る よ う に
書 け て い る か ﹂ を 挙 げ て いる 。 本 節 は 、 こう し た 実 践 的 追 究 の成 果 に多 く を 学 ん で いる 。
2 学 習 者 自 身 に よ る 処 理 ︵1︶ 蓄 積 す る こと
文 章 表 現 は 、 確 か な も のと し て手 元 に残 る 。 形 あ る も のと し て蓄 積 さ れ る 、 と いう こと を ふた つ のこ と に生 か した い。
ひ と つは、 達 成 感 と 意 欲 を 喚 起 す る 手 だ て にす る こ と であ る 。 四 月 に は 薄 か った フ ァイ ル が 、 次 々に 綴 じ ら れ
た 作 文 用 紙 に よ って ふく ら ん で いく こと は 、 無 条 件 に 学 習 者 の意 欲 を 喚 起 す る 。 散 逸 を 防 ぐ と いう 意 味 では ノ ー
ト を 活 用 す る こと にも 意 義 は あ る が 、 書 く 機 会 や ね ら い に応 じ て様 々 な 形 式 や条 件 を 変 化 さ せ て いく こと を 考 え
る と 、 プ リ ント や ワ ー ク シー ト の方 が 柔 軟 性 が 高 く 、 学 習 指 導 を 展 開 し や す く な る であ ろう 。 学 習 を 進 め て いく
上 で の ル ー ルと し て 、 そ う し たも のを 全 て 、 ひ と つ の フ ァイ ル に綴 じ込 ん で いく こ と を 、 四 月 か ら徹 底 し て いく
ので あ る 。 プ リ ン ト 類 に あ ら か じ め 綴 じ 穴 を 開 け る こ と や 、 サ イ ズ に留 意 す る こ と な ど 、 ち ょ っと し た 工 夫 が 必 要 に も な ろう 。
も う ひ と つは 、 学 習 を ふり かえ るた め の手 段 に す る こと で あ る。 学 習 プ リ ン ト や 作 文 用 紙 は 、 そ こ に書 き と め
ら れ て い る こ と だ け を 記 録 し て いる の で は な い。 学 習 者 が そ れ を 見 直 す と き 、 そ こ に 書 き 込 ま れ て い る こ と は 、
様 々な こ と を 想 起 す る 糸 口 に な る 。 こ のこ と は 、自 ら の成 長 を 実 感 さ せ るた め に も 、 ま た 、 課 題 を 発 見 さ せ る た
め に も 重 要 な こと で あ る 。 文 種 や 題 材 を 観 点 と し てふ り か え ら せ た と き 、 自 分 の得 意 な も の や苦 手 な も の に 気 づ
か せ る根 拠 に も な り 、 以 前 の学 習 方 法 を 適 用 し た り 、 組 み 合 わ せ て応 用 し た り す る と き の 示 唆 も 与 え てく れ る 。
そ れ ぞ れ の書 く 機 会 が 、 ば ら ば ら に設 定 さ れ て いる の で は な く 、 あ る ね ら いの も と に、 一年 間 を 見 通 し て 設 定 さ
れ て いる こ と を 学 習 者 に気 づ か せ る こ と も でき る 。 そ のね ら い は、 自 己 評 価 の 規 準 と し ても 、 有 効 に 機 能 す る で あ ろう 。
中 西 一弘 (一九 八 一) は 、 ﹁児 童 ・生 徒 の 作 品 に た い し て 客 観 的 で冷 静 な 判 断 を く だ す と 同 時 に、 そ の作 品 が
内 にも つ可 能 性 ・潜 勢 力 を 引 き 出 す 、 行 動 的 な す す め を 示 す も の で 、 評 価 は な く て は な る ま い﹂ と 述 べ 、 そ の具
体 的 な 方 法 と し て、 ﹁学 習 者 一人 ひ と り の作 品 を 一つだ け 精 査 す る の で な く 、 個 人 別 に 作 品 を いく つか 集 め 、 そ
の作 品 群 を 一貫 し て いる 特 徴︳ 長 所 ・短 所 と も︳ を 求 め る ﹂ こ と 、 ﹁そ こ に 見 出 さ れ た 実 態 分 析 か ら 、 いま 指 導
す べき 点 は ど こ か を 帰 納 し 、実 態 に 応 じ た 指 導 を 加 え る ﹂こ と を ふ ま え 、指 導 前 の作 品 と 指 導 を 経 た後 の作 品 を 、
教 師 も 学 習 者 も 評 価 す る こと を 提 案 し て いる 。 こ のよ う な 指 導 のた め に も 、 文 章 表 現 の蓄 積 は 必 要 で あ る。
︵2︶ 学 習 記 録 と し て
こ う し て蓄 積 さ れた も のは 、 そ れ ぞ れ の ﹁学 習 記 録 ﹂ と し て も 活 用 す る こと が 可 能 に な る 。 書 き 上 が った文 章
と と も に、前 述 の ﹁書 こう と し た こ と ﹂ の ﹁解 説 ﹂を 保 存 す る。 さ ら に 、毎 時 の学 習 を 記 録 し た 用 紙 も 綴 じ 込 む 。
こ の 記 録 に は 、 学 習 し た 内 容 にと ど ま ら ず 、 個 々 の 学 習 者 が感 じ た こと 、 考 え た こ と を 自 由 に 書 き 込 め る欄 を 設
け る よ う にす る 。 こ れ に よ り 、 指 導 者 は 、 個 別 の学 習 者 の ﹁つぶ や き ﹂ を す く い取 る こと が 可 能 に な る 。
書 く こと の学 習 指 導 は 、 個 別 に 進 め ら れ る 側 面 が 強 い。 数 十 人 の学 習 者 が 、 ど のよ う な 思 い や考 え を も ち な が
ら学 習 を 進 め て い る か 、 と いう 点 の把 握 は 、 か な り 困 難 であ る 。 学 習 記 録 の ﹁つぶ や き ﹂ 欄 は 、 こ れ を 助 け て く
れ る 。指 導 の手 だ てや 方 向 性 を 再 検 討 す る 手 が か り にも な る 。学 習 記 録 は 、指 導 者 にと っても 効 果 的 な の で あ る 。
さ ら に 、 指 導 者 にと っても 、 学 習 記 録 を ﹁厚 く ﹂ す る こと が 目 標 にな る 。 書 く 機 会 を 多 く 設 け る、 と いう こ と
であ る 。 機 会 を多 く し よ う と す れ ば 、 一回 の活 動 や成 果 を 大 が か り な も のに す る こ と は 難 し く な る。 そ れ は 、 ね
ら いを 絞 った 学 習 指 導 の 設 定 のた め に は有 効 な 条 件 に な る 。 一回 ご と の負 担 は そう 重 く な く 、 焦 点 化 さ れ 、 年 間
を 通 し て ﹁筋 の通 った ﹂ 学 習 指 導 を 展 開 す る こと が 可 能 に な る の であ る 。 ま た 、 頻 繁 に書 く こと を 設 定 し 、 活 用 す る こ と は 、 抵 抗 感 を 減 じ 、 習 慣 化 さ せ る こ と にも 役 立 つ であ ろ う 。
3 学 習 者 相 互 の 処 理 相 互 評 価 に は 、 多 く の 不 安 も あ る が 、 効 果 的 にな さ れ た 場 合 の成 果 は大 き い。
不 安 の 要 因 は 、 前 述 の ﹁眼 高 手 低 ﹂ に あ る 。 自 ら の実 力 と は 無 関 係 に 、 他 者 の文 章 に 対 す る評 価 眼 は 高 く 、 未
熟 な 点 を 鋭 く 見 抜 く こと が で き る 。 減 点 法 の評 価 に 慣 ら さ れ て しま った 学 習 者 に 、 相 互 評 価 を 試 み さ せ る と 、 足
ら ざ る点 のみ を 指 摘 し 、 否 定 的 な 評 価 に 偏 って し ま った う え 、 評 価 を 受 け た本 人 は 学 習 に 対 す る 意 欲 を 喪 失 し て
し ま う 、と いう こ と に な り か ね な い。も ち ろ ん 、 マイ ナ ス の面 を 指 摘 す る 建 設 的 な アド バ イ スは 重 要 で は あ る が 、
相 互 評 価 の場 に お い て、 教 師 の ﹁口癖 ﹂ を 真 似 た だ け の 、 し か し言 い方 は 鋭 い コメ ント が 発 せ ら れ 、 学 習 の改 善
に は 至 ら な い、 と いう 事 態 が 想 定 さ れ る う ち は 、 相 互 評 価 は 、 ま った く お こ な わ な いか 、 肯 定 的 な コメ ント の み
に と ど め る べき であ ろう 。 ま ず な す べ き は 、 認 め 合 い、受 け と め合 え る受 容 的 な 学 習集 団 づ く り であ る 。 こ の こ と は 、 教 科 の指 導 を 支 え る学 級 づ く り の重 要 性 を 再 認 識 さ せ てく れ る 。
た だ し 、 学 習 者 の評 価 力 の到 達 段 階 と し て 、 あ る いは相 互 評 価 を お こな う 学 級 の 目指 す べき 姿 と し て 、 建 設 的
な 改 善 に つな が る相 互 評 価 、 す な わ ち 、 否 定 的 、 批 判 的 な コ メ ン ト が 、 抵 抗 な く 行 き 来 す る 教室 が 志 向 さ れ ね ば な ら な い。 理 由 は 、 ふた つあ る 。
ひ と つは 、 相 手 に 対 し て有 効 な 批 判 を し よ う と す れ ば 、 そ の前 提 と し て 、 相 手 を し っか り と 理 解 す る こ と が 必
要 にな る 点 に あ る 。 大 人 の場 合 でも も ち ろ ん そう だ が 、 た と え ﹁耳 に 痛 い﹂ 助 言 で あ っても 、 ﹁な る ほ ど そう か ﹂
と 納 得 で き る の は 、 相 手 が自 分 の こ と を 理 解 し た う え で 言 ってく れ て いる 、 と 実 感 で き た 時 に 限 ら れ る 。 理 解 な
く し て 批 判 は で き な い、 と いう こ と にな れ ば 、児 童 生 徒 は 、 相 互 評 価 し よう と す る 相 手 の表 現 を 真 摯 に 理 解 し 、 受 け と め よ う と す る 姿 勢 を と る よ う に な るは ず で あ る。
も う ひ と つは 、 指 導 者 か ら の ア ド バ イ スよ り も 、 同 じ空 間 で 、 同 じ 課 題 に 取 り 組 ん で い る友 人 か ら の 助 言 の方
が 、 より 具 体 的 で 、受 け と め ら れ やす い、 と いう 点 であ る 。 学 級 に ﹁傍 観 者 ﹂ を つく ら ず 、 目 標 に 向 か って全 員
が 学 習 を 進 め て いる 、 そ う し た 意 識 が 共 有 さ れ た と き 、 ﹁当 事 者 同 士 ﹂ と し て の相 互 評 価 が 、 も っと も 有 効 に 機 能 す る で あ ろう 。
自 己 否 定 的 な 感 情 を 起 こ さ せ ず 、 建 設 的 な 批 判 が 含 ま れ る 相 互 評 価 を 実 現 す る た め の方 法 の ひ と つに 、 ﹁め あ て の 明 示 ﹂ と 、 そ れ に応 じ た 相 互 評 価 が あ る。
予 め 学 習 者 に ﹁と く に こ の点 を 読 ん で ほ し い﹂、 ﹁こ の点 が う ま く 書 け て いる か 確 か め て ほ し い﹂ と 観 点 を 明 確
にさ せ て お き 、 そ の点 に絞 って相 互 評 価 を お こ な う の で あ る 。 こう す れ ば 、 予 想 外 の コ メ ン ト に 驚 か さ れ る こと
も な く 、 有 益 な ア ド バ イ ス も も らえ て、 ﹁公 開 し て良 か った ﹂、 ﹁意 見 を も ら え て 良 か った ﹂ と いう 感 情 を 喚 起 す
る こと が で き る だ ろ う 。 相 互 評 価 に お け る ﹁評 価 票 ﹂ は 、 根 拠 や基 準 のは っき り し な い数 字 よ り は 、 短 く て も 良
いか ら 、 評 価 者 の ﹁ひ と こ と ﹂ が あ る 方 が 、 生 産 的 だ 。 書 き 込 み に 要 す る時 間 を 短 縮 す る た め に も 、 評 価 の観 点
は でき る だ け 絞 り 込 む 方 が よ い。 ま た 、 個 人 や グ ルー プ ご と の観 点 と 合 わ せ て 、 学 級 全 体 で統 一的 に目 ざ し た い ﹁め あ て﹂ を 指 導 者 が指 定 し ても よ い。
お 互 いに 文 章 を 読 み 合 い、 アド バ イ スを も ら った り 送 った り し て 、 高 め 合 え る、 そ の こと こ そ が 、 相 互 評 価 の
意 義 と いえ るだ ろう 。 本 節 で は 、 文 集 づ く り の効 果 や 、生 活 指 導 へ展 開 す る 可 能 性 に つ い て は ふ れ な いこ と にす る。
︵二︶﹁活 用 ﹂ に ひ らく ﹁処 理﹂ ︵1︶ 表 現 す る こ と の 不安
前 提 と し て、 ﹁表 現﹂ に は 、 大 き な 負 担 と 不 安 がと も な う こと を 、 押 さ え て おき た い。
表 現 し た い こと を 見 つめ直 し 、 ま と め 、 整 え る 過 程 は平 坦 では な い。 指 導 者 は 、 表 現 活 動 を 設定 し た り 、 ま と
ま った 表 現 行 為 を 要 求 し た り す る こと を 安 易 に お こな って は な ら な いし 、 必 要 以 上 の負 担 を 課 さ な いよ う 、 留 意
し な く て は な ら な い。 表 現 さ れ た も のを 、 そ う し た 過 程 を 経 てき た も のと し て 、 尊 重 す る こと も 忘 れ て は な ら な い。
ま た 、 そ う し た苦 労 を と も な って ま と め ら れ た も の が 、 ど う 受 け と め ら れ る か 、 と いう こと に 、 学 習 者 は 大 き
な 不 安 を 抱 いて いる と いう こ と も 考 慮 せ ね ば な ら な い。 学 習 者 の表 現 に対 す る 意 欲 や 姿 勢 は 一様 で はな い。 書 き
た く な い、 と いう 学 習 者 も いれ ば 、 読 ま れ た く な い、 と いう 学 習 者 も いる だ ろ う 。 そ れ ら を 尊 重 す る こ と が 必 要
な 場 面 も あ る。 し か し 、 学 習 指 導 と し て必 要 で あ れ ば 、 書 か せ、 交 流 さ せ な け れ ば な ら な い。
表 現 と そ の公 開 、 あ る いは 交 流 と いう 学 習 の場 合 、 失 敗 か ら 学 ぶ と いう こ と は ほ と ん ど な いと い って よ い。 大
き な 負 担 を 克 服 し 、 不 安 を 乗 り 越 え て公 表 し た も の が受 け と め ら れ な か った と き 、 学 習 者 本 人 に 残 る のは 、 自 己
否 定 と 意 欲 喪 失 のみ であ る 。学 習 者 が 不慣 れ であ る ほ ど 、表 現 し た も のを 公 開 す る と き に は 、失 敗 は 許 さ れ な い。
当 た って砕 け る 、 な ど も って の ほ か であ る。 甘 いと 感 じ ら れ る か も し れ な いが 、 こ う し た 感 情 は 大 切 に し た い。
失 敗 さ せ な いた め に必 要 な の は 、徹 底 し た 個 別 指 導 で あ る。幸 い、文 章 表 現 の場 合 は 、書 き 直 し が 可 能 で あ る。 個 別 指 導 を 効 果 的 に組 織 し 、 表 現 行 為 を 成 功 に 導 き た い。
全 体 に公 開す る 前 の段 階 と し て 、 少 人 数 に よ る グ ル ー プ で相 互 に ア ド バ イ ス し合 う 活 動 も 効 果 的 で あ る。 相 互 評 価 に 関 す る留 意 点 を ふ ま え 、 積 極 的 に組 織 し て いき た い。
文 章 を 公 開 し 、 交 流 し て 活 用 さ せ て いく う え で は 、 学 習 者 の個 別 の事 情 に最 大 限 の配 慮 を す る の は 、 いう ま で も な い こと であ る 。
︵2︶ 効 力 感 を 保 証 す る 活 用
﹁活 用 ﹂ で 最 も 重 要 な の は、 ﹁表 現 し て よ か った ﹂、 ﹁公 開 ・交 流 し て よ か った ﹂ と いう 感 情 を 喚 起 す る こ と であ る 。 そ のた め に 、 前 述 の個 別 指 導 が 重 要 にな る の であ る 。
掲 示 や 文 集 づ く り な ど の 具 体 的 ・実 践 的 な 方 法 に つ い ては 、多 様 な 提 案 がな さ れ て いる 。こ こ で は 詳 述 を 避 け 、 や や抽 象 的 にな る が 、 次 の 二 点 を 挙 げ てお き た い。
ひと つは 、 読 み 合 う こと 、感 想 を 述 べ合 う こ と が 、 単 な る 楽 し い活 動 の み に と ど め ら れ るば か り でな く 、 そ こ
か ら 学 ぶ こ と や 、考 え る こ と が 、 意 図 的 に仕 組 ま れ る こ と も あ って よ い、 と いう こと で あ る。 学 級 や友 人 の抱 え
る 問 題 に つ い て の話 し 合 いに 展 開 し て いく 生 活 指 導 的 な も のも も ち ろ ん だ が 、表 現 の方 法 に つ い て学 び 合 った り 、
工 夫 を 交 流 し 合 った り す る よう な 、 相 互 評 価 を さ ら に展 開 し た 学 習 場 面 も 、機 会 を と ら え て設 定 し て み た い。 読
み 合 い、 話 し 合 いに よ って気 づ いた こと 、 次 の機 会 に生 か し た い こと を ふり か え ら せ れ ば 、 交 流 の意 義 を 自 覚 さ せ る こと が 可 能 にな る だ ろう 。
も う ひと つは 、 活 用 や 交 流 の 機 会 を 、 一連 の表 現 過 程 の終 末 、 す な わ ち ﹁ゴ ー ル﹂ と し て の みと ら え ず 、 次 の
﹁書 く 機 会 ﹂ に つな が るも のと し て と ら え さ せ る こと で あ る 。 す な わ ち 、 ﹁書 く こ と ﹂ に 関 す る 、 何 ら か の課 題 意
識 を も た せ て 終 わ る 、と いう こと であ る 。 こ こま で で 何 を 確 実 に 習 得 さ せ 、次 の学 習 のた め に 何 を 自 覚 さ せ る か、
と いう 判 断 のた め にも 、 年 間 を 見 通 し た 指 導 計 画 づ く り は 欠 か せ な い。 交 流 に よ って、 新 た な 課 題 が 見 え て く る
よ う に 、 活 用 の段 階 を 仕 組 め ば 、 学 習 者 も そ の意 義 に 気 づ く こ と が でき る であ ろう 。
︵3 ︶ 自 己 学 習 力 と し て の ﹁ 処 理﹂力
文 章 表 現 の指 導 過 程 に お いて ﹁処 理 ﹂ と いう 用 語 が 用 いら れ た の は 、 最 近 の こ と では な い。 し か し 、 は じ め に
述 べた よう に 、 ﹁情 報 処 理 ﹂ と いう 用 語 と 重 ね ら れ る よう に し て 、 ﹁処 理 ﹂ の概 念 は 再 考 さ れ て いる 。 そ れ を ふ ま
え る と 、 前 述 の ﹁活 用 ﹂ に重 点 を 置 いて 考 え る こ と と あ わ せ 、 自 己学 習 力 と し て の ﹁処 理 ﹂ 力 に つ い ても 、 意 識 する必要 がある。
自 己 評 価 の過 程 を 重 視 す る こ と は も ち ろ ん であ る が 、 目 的 を 明 確 に し た 文 章 表 現 や 、 他 領 域 の学 習 活 動 に ﹁書
く こと ﹂ を 積 極 的 に 生 か そ う と す る 姿 勢 づ く り も 重 要 な も の に な る 。 指 導 者 の手 び き に よ って 、 ﹁書 く こと ﹂ の
意 義 や効 果 を 自 覚 し な が ら 、 次 第 に そ れ を 主 体 的 に活 用 で き るよ う に 、 長 期 的 な 見 通 し のも と 、 学 習 指 導 の機 会 を 設 け て いく の で あ る。
︵4︶ 指 導 記 録 ・実 践 記 録 と し て の活 用 蓄 積 さ れ る文 章 表 現 を 、 指 導 者 も 活 用 し た い。
﹁赤 ぺ ん ﹂ の記 述 は 、 指 導 者 の メ ッ セ ー ジ を 学 習 者 に伝 え る は た ら き を す る 。 作 文 用 紙 上 に あ ら わ れ る ﹁赤 ぺ ん﹂ は 、 指 導 者 と 学 習 者 が 共 有 す る も の であ る 。
そ の 一方 で 、 学 習 者 に は 伝 え な いが 、 指 導 者 が 、 そ の学 習 者 に つい て の ﹁情 報 ﹂ と し て把 握 し て お き た いも の
も 、 文 章 に は あ ら わ れ て い る。 た と え ば 、 題 材 、 表 現 の技 能 、 学 習 者 の背 後 にあ る 環 境 や 問 題 、 な ど で あ る 。 文
章 が書 き 手 の多 く の面 を あ ら わ し 、 多 く のこ と を 知 る 手 が か り を 内 包 し て い る と いう こと が 、 こ の点 か ら も う か がえ る。
可能 であ れ ば 、 学 習 者 の文 章 は 、 コピ ー を と り 、 一部 を 手 元 に置 い て お き た い。 学 習 者 ご と に ま と め て お き 、
そ の推 移 が た ど れ る よ う に も し て お き た い。 学 習 者 に 返 す も のに は 書 き 込 め な いこ と を 、 手 元 の コピ ー に記 入 し
てお く の であ る 。 ﹁赤 ぺ ん ﹂ も 貴 重 な 資 料 と な る の で、 記 入 後 の文 章 を コピ ー し て保 存 し てお く 方 が よ い。
個 々 の学 習 者 が 見 せ る成 長 や 課 題 、 個 に応 じ た 指 導 の手 だ てを 構 想 す るう え で、 個 別 の文 章 フ ァイ ル は 必 ず 役
立 つ。 そ し てそ れ は 、 指 導 者 の実 践 記 録 と し て も 機 能 し 、 自 ら の力 量 を 高 め る た め の 示 唆 を 与 え てく れ る 貴 重 な 資 料 群 と も な る であ ろう 。
お わ り に
村 井 万 里 子 (二 〇 〇 一) は 、 作 文 の処 理 が ﹁厄 介 視 ﹂ さ れ る 理 由 のひ と つに ﹁時 間 のか か る こ と ﹂ を 挙 げ て い
る 。 こ の こ と か ら 目 を 逸 ら し た り 、 単 な る 努 力 至 上 論 にま と め て しま った り す る だ け で は 、 問 題 は 解 決 し な い。
戸 田 唯 巳 (一九 九 二 ) は 、 ﹁作 文 の 処 理 と いえ ば 、 な に が し か の赤 ペ ンを 入 れ て 返 さ ね ば な ら な い﹂ と いう
﹁思 い込 み﹂ を 、 ﹁結 構 な 思 い込 みな の です が 、 あ ま り 実 際 的 と は 言 え ま せ ん ﹂ と 述 べ 、 ﹁赤 ペ ンは 入 れ る こ と が
で き た が 、 そ の た め に 返 す の が 十 日も 後 に な った ﹂ と いう 場 合 よ り も 、 ﹁赤 ペ ン は 入 れ ら れ な か った が 、 翌 日 返 し た 。 口 で 一言 添 え て﹂ の方 を ﹁す す め たく 思 いま す ﹂ と 述 べ て い る 。
ど の場 合 にも あ て はま る 有 効 な 方 法 論 があ る と いう わ け で は な い。 学 習 者 の文 章 を 処 理 し 活 用 す る こ と の効 果
を 指 導 者 が 自 覚 し 信 頼 す る こと を 基 盤 に 、 そ れ ぞ れ の 学 級 や学 習 者 の実 情 に 応 じ て 、 様 々な 手 だ てを 実 践 的 に 工 夫 し て いく 中 に 、 解 決 へ の示 唆 が 見 出 せ る の で は な いだ ろう か 。
亀村 五郎 ﹃子ども を はげ ます 赤 ぺ ん ︽評 語︾ の書 き方﹄ 百 合出 版 一九 七九
文献
中西 一弘 ﹁ 作 文 教育 の回顧と 展望 ﹂全 国大 学国 語教育 学会 編 ﹃ 表 現指導 の整 理と展 望﹄ 明治 図書 一九 八 一 岩 下貞保 ﹁ 作 文 の処 理﹂ 田近洵 一 ・井 上尚 美編 著 ﹃ 国語 教育 指導 用語 辞典 ﹄教 育出 版 一九 八四 戸 田唯 巳 ﹃﹁作文 嫌 い﹂ は こう し て生ま れ る﹄ 明治 図書 一九 九 二
村井 万 里子 ﹁作 文 の処理 ﹂大槻 和 美編 著 ﹃国語 科 重要 用語30 の0 基礎 知識 ﹄ 明治 図書 二〇 〇 一
五 作 品 の 活 用 の指 導 とそ の方 法
︵一︶﹁作 品 の 活 用 ﹂ 裏 面 に 潜 む 問 題
( 単 元 ) と な る 。 ﹁作 品 の活 用 ﹂ が 問 わ れ る 現 状 に は 、
﹁書 く こ と の 学 習 ﹂ で は 、 作 品 の で き あ が り は 学 習 の前 半 分 で し か な く 、 でき あ が った 作 品 を ﹁評 価 ・交 流 ﹂ す る 後 ろ 半 分 が そ ろ って は じ め て 、 ひ と ま と ま り の学 習
﹁書 い て終 わ り ﹂ と いう 学 習 が 見 え 隠 れ し て危 う い。 す ぐ れ た 実 践 記 録 に は 、 ﹁作 品 の活 用= 評 価 ・交 流 ﹂ の 具体
的 な 姿 が必 ず 記 さ れ て い る の で 、 こ れを 熟 読 し て ﹁ 作 品 活 用 ・評 価/ 交 流 指 導 ﹂ の参 考 に し た い。
学 習 の後 ろ半 分 で あ る ﹁作 品 の活 用= 評 価 ・交 流 指 導 ﹂ を 盛 ん にす る に は 、 2 つ の条 件 が あ る。 1 つは 、 指 導
者 が 先 の 2 つ の部 分 で 成 り 立 つ ﹁基 本 的 指 導 過 程 ﹂ を は っき り と 自 覚 し て計 画 す る こ と 、 2 つめ に ﹁作 品 作 り ﹂
の前 半 部 分 に時 間と 労 力 を 掛 け す ぎ な い こと 、 で あ る 。 も ち ろ ん 大 き な 作 品 を 作 る に は 、 途 中 いく つか の ス テ ッ
プ と そ の つど の ﹁ 形 成 的 評 価 ﹂ を 要 す る 。 し か し 、 でき あ が った 時 点 です で に自 他 に内 容 ・面 白 さ が わ かり 尽 く
し 、 改 め て 評 価 ・交 流 す る 興 味 や余 力 が 教 師 ・生 徒 と も に 残 さ れ て いな い よう な ﹁大 作 ﹂ は 、 成 長 の早 い児 童 ・
少 年 の学 習 に は ふ さ わ し く な い。 作 品 が でき あ が った 時 、 ﹁早 く (み ん な のも ) 読 み た い! み ん な に 読 ん で も
ら いた い! ﹂ と いう 熱 意 が 高 ま って いる よ う な 学 習 過 程 が 構 想 さ れ る べき であ る。
( 批 正 )﹂ 時 間 であ った ( 注 1)。 し た が って、 1年 間 に少 な く と も 30 編 ほ ど の ﹁作 文
( 作 品 )﹂
戦 前 、 ﹁綴 り 方 ﹂ の 時 間 が 週 2時 間 あ った 時 代 は 、 基 本 的 に 1時 間 が ﹁作 品 を 作 る ( 記 述 )﹂ 時 間 、残 り 1時 間 が ﹁作 品 を 読 む
が 1人 ず つ に生 み出 さ れ て いた 。 こ の数 か ら み て 、 戦 後 の ﹁書 く こ と の指 導 ﹂ は、 教 科 書 の記 述 に左 右 さ れ て極
端 に 数 が少 な く 、大 作 主 義 に 陥 って いる と 言 え よ う 。 短 いひ と ま と ま り の ﹁作 品 ﹂ を た く さ ん 書 く こと が ﹁書 く 力 ﹂ を 伸 ば す 基 礎 で あ る こと を 、 指 導 者 は 肝 に銘 じ て おく 必 要 が あ る 。
( 批 評 ・評 価 を 含 む )
以 上 を ふ ま え て 現 在 切 り 開 か れ て いる ﹁作 品 の活 用 ﹂ を 眺 め ると 、 大 き く 分 け て次 の 3 つの タ イ プ に整 理 でき る。
A 作 品 の交 流
( ジ ャ ン ル) の変 換
B 作 品 の編集 C 文 種
B と Cは 、 A と いう 根 基 か ら 枝 分 か れ す る 2 つの太 い幹 であ る 。
︵二︶ 活 用 の 基 礎 ・基 本 は ﹁評 価 と 交 流 ﹂ 1 ﹁生 き て いる 作 文 ﹂ を 見 分 け る
作 品 の ﹁評 価 ﹂ と ﹁交 流 ﹂ は 、 ﹁活 用 の基 礎 ・基 本 ﹂ であ る 。 さ ら に 踏 み 込 め ば 、 ﹁交 流 ﹂ のも と は ﹁評 価 ﹂ に
あ る 。 欠 点 を 指 摘 し 、 良 く な い所 と そ のわ け を 明 確 に す る だ け で は 、 評 価 では あ っても 交 流 で は な い。 ﹁ほ め て
終 わ り 、注 文 を つけ て終 わ り ﹂も 意 義 あ る交 流 に な ら な い。ま ず 指 導 者 が 、長 所 は も ち ろ ん 作 品 の欠 点 も 含 め て 、
そ の作 品 が ど のよ う に し て 生 ま れ た か を 追 求 し な が ら ま る ご と 味 わ う 評 価 を 行 う 必 要 が あ る 。作 品 の内 側 に入 り
込 ん で 行 う こ のよ う な 評 価 が 生 徒 に影 響 を 及 ぼ し て 、自 分 の作 品 を 愛 読 し 、 他 の作 品 か ら 刺 激 を 受 け 、 次 の表 現
( 創 作 ) へ の意 欲 を か き 立 て て いく 、 意 欲 と 一体 化 し た 自 己 評 価 力 と な る 。 ﹁評 価 ﹂ は も と よ り 一種 の ﹁ 交 流﹂ で
あ り 、 ﹁よ い交 流 ﹂ は ﹁評 価 ﹂ の側 面 を 持 って いる と 言 って よ い。 評 価 こそ は ﹁活 用 ﹂ の基 本 であ る 。 ど ん な に
多 彩 に 展 開 さ れ る ﹁方 法 的 活 用 法 ﹂ であ って も 、 そ こ で 真 に力 を 発 揮 し て い る の は こ の基 礎 ・基 本 で あ る 。 こ れ を 見 失 う な ら ば 、 指 導 は た ち ま ち 形 骸 化 す る危 険 が あ る 。
2 生 き た 作 文 例
次 の作 品 は 、文 章 と し て の ﹁お 手 本 ﹂ に は な ら な いが 、生 き 生 き と 書 け て い て内 容 を 楽 し む ﹁交 流﹂ が で き る 。
書 い て い ると き の作 者 の 心 の弾 み が 、 文 の 長 短 リズ ム に そ のま ま 現 れ て いる 。 最 後 は 一文 に た く さ ん のこ と を 詰
め込 ん だ 窮 屈 な 書 き ぶ り だ が 、 全 文 の眼 目 は 、 お 母 さ ん の ﹁さ か な つれ た か い﹂ の 一言 が 生 む 爆 笑 で あ る ( 笑い
は言 葉 に さ れ て いな い)。 ﹁ね こ の あ か ち ゃん よ り ち ょ っと お お き い﹂ の 比 喩 が 巧 ま ず し て効 い て いる 。 大 人 の 誰
か が こ の時 言 った 言 葉 か も し れな い。 いず れ に し て も 、 こ の最 後 を 書 き た いが た め に こ の作 文 を 書 き 出 し た のだ
か ら 、 ど ん な に息 が つま って も 、 こ こ ま で 一気 呵 成 に書 か ざ るを 得 な か った の であ る ( 文 の長 短 を 示 す た め 、 番
﹁に い か っぷ の 山 で さ か な つり ﹂ ( 小学 2年生 )
号 を 付 し た 。 ( )、 傍 線 と も 引 用 者 )。
① 昼 ご は ん を 食 べ て か ら お と う さ ん た ち が ﹁さ か な つ り に 行 く よ ﹂ って 言 って 、 お と う さ ん と だ い す け に い
ち ゃ ん と 、 し ん じ に いち ゃ ん と 、 いと こ の す ず き り ょ う ち ゃ ん た ち が 、 さ か な つり の え さ を か い に 行 き ま し た 。
② そ の あ いだ の こ って いる ひ と た ち が さ か な つり に も つも の を 、じ ゅ ん び し て い ま し た 。③ お か し は 、ポ テ ト と 、
チ ョ コレートも も ちま した 。④ それ とシ ー トもも ちま した 。⑤ つりざ おも 、も ちま した 。⑥ そし て おとう さ んた
お と う さ ん の 車 と わ か れ て 、 り ょう ち ゃ ん の 車 に の る の は 、 わ た し と 、 し ん じ に い ち ゃ ん と 、 り ょう ち ゃ ん の お
ち が 、 か え って き て 、 車 の ト ラ ッ ク に 、 さ っき の お か し や 、 シ ー ト や つり ざ お を 、 つ ん で 、 り ょ う ち ゃ ん の 車 と
じさ んと、 り ょう ち ゃんで した 。⑦ おと うさ ん の車 にの るの はり ょうち ゃん のおば さん と、 お かあさ んと 、 だ い
ら つ り ざ お と か を だ し て 草 の 上 か ら あ る いて お り て 、 つり ざ お に え さ を つ け て つ って わ た し は 、 シ ー ト で す わ っ
す け に いち ゃ ん と 、 ま さ き に い ち ゃ ん で し た 。 ⑧ そ れ で 、 山 の 上 に ど ん ど ん 、 行 って 、 つ い て 、 車 の ト ラ ッ ク か
て い ま し た 。 ⑨ ど ん ど ん 、 さ む く な って わ た し た ち は 車 に も ど って ヤ ク ル ト を の ん で い て 、 だ いす け に いち ゃ ん
の あ か ち ゃ ん よ り ち ょ っと お お き いぐ ら い で し た 。
が か え って き て 、 み ん な も か え って き て 、 お か あ さ ん が ﹁さ か な つ れ た か い。﹂ って 言 っ て 、 そ の さ か な は ね こ
⑩ かえ り に車 でね て いきま した 。
こ のよ う な 作 品 を 上 学 年 の 3 ・4年 生 に 見 せ て 様 子 を 想 像 さ せ 、 ﹁自 分 な ら こ う 書 く ﹂ と いう ﹁リ ライ ト ( 書
き 直 し) 作 品 作 り ﹂ を さ せ て み る のも よ い。 つ い こ の間 ま で こ んな 作 文 を 書 い て いた 子 ど も た ち であ る。 自 己 の 書 く 力 の ﹁成 長 の 証 ﹂ を 具 体 的 に 握 ろう と し て力 の こも った 作 品 が でき る。
次 の 6年 生 の作 品 は 、 主 題 が は っき り し て いる の で、 ど こを ど の よ う に直 せ ば 、 文 章 と し ても ﹁お 手 本 ﹂ に な
る か に つ い て吟 味 でき る 。 な ぜ 最 後 に 敬 体 が 出 てき た か を 考 え さ せ る のも 面 白 い。 こ の作 品 の テ ー マは 班 長 と し
て の気 苦 労 であ る 。 こう いう と き ど のよ う に さ ば いた ら 気 持 ち よ く 班 活 動 が 進 む か 、 な ど と 考 え る ﹁実 用 的 ﹂ 内
容 吟 味 も 作 者 に と って は意 義 深 い。 作 品 を 仕 上 げ る方 向 と し て は 、 あ れ こ れ 悩 む 細 か な プ ロセ スを こ のま ま 生 か
し て ユ ー モ アを 込 め て描 き 、 苦 労 も あ った が楽 し か った 、 と いう 余 裕 あ る 文 章 、 す な わ ち 、 ﹁エ ッ セ イ ﹂ にす る
か 。 あ る い は班 員 ( 友 達 ) に も 、 と も に問 題 を 考 え て も ら お う と す る ﹁意 見 文 ﹂ に 仕 上 げ る か 。 後 者 の場 合 は無
駄 な 叙 述 を 勢 いよ く 削 り 取 って、 簡 潔 に し て いく 必 要 が あ る (( ) と 傍 線 は 引 用 者 )。
﹁大 変 だ った 映 画 村 ﹂ ( 小 学 6年 生 ) ぼ くた ち の班 は、先 生 たち に ﹁弁 当 持 って お 茶 持 っ て 食 べ て 来 な さ い 。 ﹂
( 班 の ) 人 は 気 づ い て いな いの で ぼ く
と 言 わ れ 、早 く 食 べ て 遊 び た いか ら 日 な た で い いと 言う 人 と 、暑 い か ら 日 か げ が い い と 言 う 人 が い て も め て いた 。 も め て い る 最 中 に ス タ ス タ 班 のー と K 君 が ど こ か に い って し ま って 、 他 の
( 中 略 、 2 回 探 し に 行 き 、 や っと 探 し 出 せ た )。
が 行 こう と し た け ど 、 分 か れ て し ま う の で ど う し よ う か と ま よ って いる 最 中 に 、 み ん な が 日 か げ へ行 こ う と し た の で 、 まず 日 か げ に 行 って か ら 探 そ う と 決 め た
昼 食 が 食 べ 終 わ り 、 ぼ く た ち の 班 は 、 お ば け や し き が 先 と 言 う 人 と 、 お み あ げ が 先 と いう 人 が い た 。 そ れ で
決 ま ら な い の で 、 か って に お ば け や し き 組 が お ば け や し き に 行 っ て し ま って 、 お み あ げ 組 と ま た わ か れ た 。 し か
いと こ た ち の お み あ げ を 全 ぶ 買 った 。
た が な い か ら お み あ げ を 買 う こ と に し た 。 キ ー ホ ル ダ ー や 、 お か し 、 ハ ン カ チ な ど た く さ ん あ って ま よ った が 、
お み あ げ を 買 い終 わ った ぼ く た ち は 、 お ば け や し き へ向 か った 。 向 か っ て い る と ち ゅう に か っこ い い侍 に 会 っ
た 。 す れ ち が って お ば け や し き に 行 った 。 お ば け や し き に つ い て も 、 ま だ み ん な 見 つか ら な い。 だ け ど お ば け や
し き の 出 口 の 方 を 見 る と 1 、 2 、 3 人 。 や っと 見 つ け た 3 人 に こ こ に い て と 言 っ て 、 あ と 2 人 を 探 そ う と 思 っ た。
( 作 者 の 名 ) じ ゃ 。﹂
そ し て 、 お ば け や し き の 前 に あ る お 店 を 見 な が ら 探 し て い て も 、 お 店 に 気 を と ら れ 、 お 店 で 遊 ん で いた ら 、 声 が ﹁あ 、K と 言 った と 同 時 に2 人 の 人 が こ っち へ歩 いて 来 て いる の だ 。
て も か っ こ よ か った の で あ く 手 し て も ら いま し た 。 と て も う れ し く て 、 天 国 へ行 った 気 ぶ ん で し た 。
友 と 再 会 し て い る と 時 間 が せ ま っ て き て 集 合 場 所 へ向 か う こ と に し た 。 お ば け や し き に 向 か う と き の 侍 が と っ
そ し て 集 合 時 間 と な り ま し た 。 ま だ 班 の 人 が 帰 って き て い ま せ ん 。 ﹁2班 そ ろ い ま し た 。﹂
﹁1班 男 子 そ ろ い ま し た 。﹂
と 声が 聞 こえて き まし た。
1 班 も そ ろ っ た み た い で す 。 ぼ く は だ ん だ ん 不 安 に な って お く れ る の で は な いか と 思 って き ま し た 。 す る と 、
班 の 人 が や っと 帰 って き ま し た 。 お こ ら れ な が ら 、 お く れ な が ら バ ス に 入 って いく の で し た 。
な お 、 ﹁小 学 生 の文 章 と し て のお 手 本 ﹂ と な る 作 品 を 得 る に は 、各 学 年 段 階 で 小 学 生 の作 品 が 到 達 し う る 最 高
レ ベ ルを 知 ら し め る 、蒲 池 美 鶴 著 ﹃わ た し は 小 学 生 ﹄ (青 葉 図 書 一九 七 八 )が あ る ( 注2 )。 こ の中 の作 品 群 は 、
昭 和 三 〇年 代 の時 代 背 景 のも と で生 み 出 さ れ た も のな の で 、 子 ど も に 直 接 読 み 聞 か せ る の で はあ ま り 効 果 は 得 ら
れ な いかも し れ な い。 指 導 者 本 人 が 愛 読 し て ﹁よ い文 章 ﹂ 像 を 確 立 す る た め に 啓 発 を 受 け た い作 品 群 であ る 。
( 公 表 ) な ど であ る 。 ど
﹁作 品 を 味 わ う ﹂ 活 用 の定 石 は 、 ① 教 師 に よ る 音 読 ・コメ ント 、② 作 者 本 人 に よ る音 読 、 ③ 共 同 鑑 賞 ・共 同 批
正 、 ④ 自 作 か ら 自 信 あ る 1編 を 選 ん で発 表 し あ う ﹁作 文 発 表 会 ﹂、⑤ 通 信 な ど へ の掲 載
れ も 珍 し く な い方 法 だ が 、 そ こ に ど ん な内 容 ・作 品 が 盛 ら れ る か に よ って、 新 鮮 な 世 界 が 開 け 、 子 ど も に は ﹁作
品 を 読 み 味 わ う 力 ﹂、 教 師 に は ﹁子 ど も の成 長 を 読 み味 わ う 力 ﹂ が 鍛 え ら れ て いく の であ る 。
︵三︶ ﹁編 集 ﹂ の学 習 ︱﹁スケ ッチ 文 ﹂ の 編 集 を 例 に
でき あ が った 複 数 の作 品 を 集 め て 、 さ ら に 大 き な 作 品 を 作 る活 動 が ﹁編 集 ﹂ で あ る 。 ﹁編 集 ﹂ に は 、① は じ め
に 編 集 の全 体 方 針 が 決 め ら れ 個 々 の作 品 が そ の方 針 に 従 って作 ら れ て いく ﹁編 集 ﹂ と 、 ② 個 々 の作 品 が 生 み 出 さ
れ て か ら 、で き あ が った 作 品 群 に 応 じ て方 針 を 立 て る ﹁編 集 ﹂と があ る 。新 入 生 のた め の学 校 ガ イ ド 、 学 校 便 覧 、
見 学 ・修 学 ・体 験 旅 行 ガ イ ド 、 図 書 ・読 書 新 聞 、 学 校 ・学 級 新 聞 な ど は 、 お お む ね ① に あ た り 、 1年 間 に書 いた
作 文 を 集 め て作 る個 人 文 集 、 読書 の記 録 や 感 想 を ま と め る ﹁読 書 の あ ゆ み ﹂ の よ う な 記 録 性 の強 いも の は② に あ
た る 。 言 葉 や 物 事 を 調 べ て具 体 的 な 用 例 を 考 え た り 意 味 を 簡 略 にま と め た り し て作 る辞 書 や 事 典 作 り は 、 ① と② の中 間 に あ た る だ ろ う 。
① のよう な編集 は、 ﹁ 作 品 の 活 用 ﹂ で は あ っても 、 は じ め か ら ﹁編 集 し て仕 上 げ るも の﹂ が 目 的 に な って い る
の で 、個 々 の作 品 は 全 体 が要 求 す る内 容 や 水 準 に か な り 強 く 縛 ら れ る 。 個 々 の作 品 の自 由 度 が高 く 、 編 集 す る 人
にも ﹁作 品 に 合 わ せ る ﹂ 自 由 が あ って、 編 集 作 業 そ のも のが 楽 し く で き る の は 、 や は り ② のよ う な 編 集 であ る 。
学 習 記 録 や 読 書 記 録 は 、 いろ い ろな 観 点 で編 集 を す る こと が でき 、 編 集 の途 中 で新 た に 発 見 があ って楽 し い。 大
村 は ま 氏 の開 発 し た ﹁学 習 記 録 の編 集 ﹂ は 、 苦 し く て面 白 い発 見 学 習 の宝 庫 に な って い る ( 注 3)。 ﹁学 習 記 録 の
編 集 ﹂ は 大 が か り な も の で あ る が 、 ほ か に ﹁編 集 の楽 し み﹂ を 手 軽 に 味 わえ るも のと し て 、 ﹁言 葉 に よ る ス ケ ッ
チ ﹂ の文 集 作 り があ る 。 ス ケ ッチ の対 象 は 、 ﹁学 校 ﹂、 ﹁街 角 ﹂、 ﹁ 身 の 回 り ﹂ 等 、 あ る程 度 範 囲 を 限 る と 行 い やす
い。 次 に 示 す 作 品 は 、 校 舎 建 て替 え を 控 え た 教 室 を 中 学 生 が ﹁ス ケ ッ チ﹂ し た も の で あ る。 古 く な って ぼ ろ ぼ ろ
にな った 教 室 を 、 上 か ら 下 へ、 横 ぐ る り へと 視 線 を 移 動 さ せ な が ら 、 一種 の愛 着 を こ め て観 察 し て いる 。 ﹁安 全 ﹂
の貼 り 紙 のお か し 味 に気 づ い て、 ユー モ アが 加 わ り 、 文 章 の着 地 も 鮮 や か に 決 ま って いる 。
﹁取 り 壊 し 前 の 家 庭 科 室 ﹂ ( 中 学 1年 )
い る 。 木 製 の 古 いた な に 古 そ う な テ レ ビ 。 私 た ち の 使 う 机 は ぐ ら ぐ ら ゆ れ る 。 床 は で こ ぼ こ の 木 で 、 歩 い た ら み
天 井 を 見 た ら 、 よ ご れ は つ い て い る し 、 か べ 紙 は と こ ろ ど こ ろ 破 れ て い る 。 真 横 に はミ シ ン が ぽ つ ぽ つ 並 ん で し みし いいそう 。
た な の 上 の 花 は 、 か れ て し ょ ぼ し ょぼ に な って いる 。 黒 板 の 上 に ﹁安 全 ﹂ ﹁整 頓 ﹂ と いう 紙 が あ る 。 こ の 部 屋 は あ ま り 安 全 で は な いと 思 う 。 ガ ラ ス が わ れ て 、 ガ ム テ ープ を は って あ る 。
﹁言 葉 に よ る ス ケ ッチ ﹂ は 、 個 々 の ス ケ ッチ を す る こ と も 楽 し く 、 み ん な の ス ケ ッチ を 読 ん で か ら 観 点 を 決 め
て グ ルー プ に 分 け 、 章 立 てを し 、 全 体 を 生 き 生 き し た 読 み やす い文 集 に 仕 上 げ る 編 集 も 楽 し い。 編 集 す る人 の考
︻ 立 体編 集 ︼
え や 腕 前 に よ って、 非 常 に 印 象 の 違 う 文 集 に な る。 次 の例 は 、 同 じ 作 品 群 を 対 象 に 大 学 生 が 編 集 し た2 つの 目次
A ・ N 編
・夜 明 け の台 所 K ・S
︻ 平 面編 集 ︼
であ る 。 こ の2 つ の対 照 的 な 目 次 は 、 私 が宝 物 に し て いる ﹁目 次 ﹂ 教 材 で あ る ( 注 4)。
K ・T 編
・明 け 方 の風 景 S ・K
1. グ ッド モ ー ニ ング
・朝 は 眠 い Y ・T
第 1章 自 宅 にて私 は
・夕 方 の 50分 T ・N
・だ れ も し ら な い あ さ ひ か わ の あ さ T ・M
K ・A
・ム シ
・T
・朝 は 眠 い
Y
・夜 明 け の台 所 K ・S
・教 育 棟 屋 上 に て H ・M
・朝 と 夜 の キ ャ ン パ ス H ・T
2 . マイ ス ク ー ル
・旭 川 の 夜 景︱ 高 砂 台 か ら の見 晴 ら し G ・Y
・喫 茶 の窓 か ら こ ん に ち は N ・K
窓 から見 え るも の
・日 曜 日 の風 景︱ 女 子 寮20 号6室 の窓 か ら S ・H
第 2章
・部 屋 の 窓 か ら 見 た 風 景 H・ M
・雨 の 日 に 思 う こと
・教 育 心 理 学 演 習 室 か ら 見 た 風 景 H ・H
︱ 人 文 第 2演 習 室 の 窓 を 見 つめ て︱ K ・T
・明 け 方 の風 景 S ・K
・あ る 授 業 の風 景 T ・Y
・見 慣 れ た 風 景 I ・H ・ア パ ー ト の 窓 か ら の 風 景 H ・Y
・ベ ラ ン ダ の 窓 か ら T ・H
・喫 茶 の 窓 か ら こ ん に ち は N ・K
・教 育 心 理 学 演 習 室 か ら 見 た 風 景 H ・H
・部 屋 の窓 か ら 見 た 風 景 H ・M
・窓 か ら グ ラ ウ ン ド が 見 え る Y ・K
・ア パ ー ト の窓 か ら の 風 景 H ・Y
・部 屋 の窓 よ り K ・T
3 . マイ ル ー ム
・窓 か ら グ ラ ウ ン ド が 見 え る Y ・K ・雨 の 日 に 思 う こ と
・ち び っ子 広 場 四月 十 九 日 A ・N
・日 曜 日 の風 景︱ 女 子 寮20 号6室 の窓 か ら S ・H
︱ 人 文 第2 演 習 室 の 窓 を 見 つめ て︱ K ・T
・部 屋 の 窓 よ り K ・T ( 本人 )
・下 宿 の ま わ り K ・K
・ベ ラ ン ダ の 窓 か ら T ・H
・見 慣 れ た 風 景 I ・H
・車 の窓 か ら S ・Y
第 3 章 自 宅 付 近 を ぶ ら つく
・買 い物 公 園 デ パ ー ト 外 観
4. マイタウ ン
・常 磐 公 園 を 歩 く
N ・T
・夕 方 の空 S ・T
・﹁春 光 台 ﹂ か ら の風 景 A ・N
・﹁ 春 光 台 ﹂ か ら の 風 景 A ・N
・夜 の 風 景
・だ れ も し ら な いあ さ ひ か わ のあ さ T・ M
・旭 橋 通 過 T ・A
T・ T
・大 学 か ら ア パ ー ト ま で Y ・A
S ・S
・ ア パ ー ト の ま わ り H ・N
・下 宿 の ま わ り K ・K
・忠 別 川 の 堤 防 に て S ・Y
・忠 別 橋 を 渡 る T ・Y
・ち び っ子 広 場 四 月 十 九 日 A ・N ( 本 人)
・ア パ ー ト の ま わ り H ・N
・大 学 か ら ア パ ー ト ま で Y ・A
・四 月 十 七 日︱ バ ス スト ラ イ キ 決 行 中︳ 0 ・Y
・お ふ ろ 案 内 M ・M
・安 売 り の 日 の 旭 友 ス ト ア ー 旭 町 店 H ・R
第 4章 も う ち ょ っと 遠 く へ
・大学前 旭 町通 り 村井 万里 子
・大 学 前 旭 町 通 り 村 井 万 里 子
︱ 旭 川 タ ウ ン ウ ォ ッチ ン グ
・視 力 0 ・0 3 の世 界 の 中 で 0 ・A
・買 い 物 公 園 デ パ ー ト 外 観 T ・T
・常 磐 公 園 を 歩 く S ・S
・安 売 り の 日 の旭 友 スト ア ー旭 町 店 H ・R
・ひ と り ぼ っち の登 校 Y ・K
・あ な た も 汽 車 に 乗 って み ま せ ん か ? E ・K
・視 力 0 ・0 3 の世 界 の 中 で 0 ・A
5. ミ ス テ リ ーゾ ー ン
・四 月 十 七 日︱ バ ス ス ト ラ イ キ 決 行 中︱ 0 ・Y ・夜 、 九 時 三 十 分 の バ ス 停 M ・A
・忠 別 橋 を 渡 る T ・Y
・車 の窓 か ら S ・Y
・旭 橋 通 過 T ・A
・忠 別 川 の 堤 防 に て S ・Y
・夕 方 の 空 S ・T
6.グ ッドナ イト
・ム シ K ・A
・僕 の左 手 I ・T
・お ふ ろ 案 内 M ・M
第 5章 こ こで大学 をも う 一度 見直 し て見 ると ⋮ ・朝 と 夜 の キ ャ ン パ ス H ・T ・教 育 棟 屋 上 に て H ・M
・夕 方 の 50 分 T ・N
・夜 、 九 時 三 十 分 の バ ス停 M ・A
・夜 の 風 景
・旭 川 の 夜 景︱ 高 砂 台 か ら の見 晴 ら し G ・Y
︱や っぱり 人 間が 一番 面白 い
第 6章 最 後 に ・ひ と り ぼ っち の登 校 Y ・K
N ・T
・あ る 授 業 の 風 景 T ・Y
・あ な た も 汽 車 に 乗 って み ま せ ん か ? E ・K ・( 番 外 編 ) 僕 の左 手 I ・T
あ とが き
あと がき
2 つ の 目次 の特 徴 を 、 仮 に ﹁平 面 編 集 ﹂、 ﹁立 体 編 集 ﹂ と 名 付 け て み た 。 前 者 は 、 分 類 の主 た る観 点 と し て 用 い
て いる も の が ﹁場 所 ﹂ 1 つ で、お そ ら く 題 目 に 使 わ れ て いる 表 現 を 最 重 視 し て似 た も のを 集 め て い る。 そ のた め 、
最後 に置 か れ て いる ﹁僕 の左 手 ﹂ は 、 ど う あ が いても ﹁番 外 ﹂ にす る ほ か は な か った (こ の K ・T生 は 、 最 後 に
﹁人 間 ﹂ の章 を 加 え て 曲 が り な り に そ こ に 入 れ た の で 、 ま だ ま し な 方 で あ る )。 実 は こ のと き 、 こ の ﹁僕 の 左 手 ﹂
を ﹁番 外 ﹂ に お いた ﹁編 集 者 ﹂ は 他 に も 大 勢 い て 、 み な こ の 1作 に悩 ま さ れ て いた 。 提 出 さ れ た 41編 の ﹁目 次 ﹂
を 次 々 に 眺 め て い て 、 ﹁番 外 ﹂ が 続 出 す る 中 、 こ の A ・N 生 の 目 次 を 見 つけ た 時 は 、 息 を の ん だ 。 ﹁番 外 ﹂ が な い! ﹁左 手 ﹂ は ど こ へ い った ?
彼 A ・N 生 編 集 の決 め 手 は ﹁5・ ミ ス テリ ーゾ ー ン﹂ で あ る 。 42 編 の全 作 品 の中 か ら 、 日 常 の 風 景 の中 に ほ ん
の少 し ミ ス テリ ア スな 気 分 を 漂 わ せ て いる 作 品 を か き 集 め 、 こ の章 を 立 て た の であ る。 す ると そ こ に、 し っく り
と ﹁僕 の左 手 ﹂ が と け 込 んだ 。 ﹁5・ ミ ステ リ ー ゾ ー ン﹂ は いわ ば こ の文 集 の ハイ ライ ト と な った 。 ﹁時 ﹂ と ﹁場
所 ﹂ の 2 つ の軸 で前 後 の章 を 構 成 し 、 2 つの軸 の交 差 す る 所 に ﹁ミ ス テ リ ー ゾ ー ン﹂ が あ ると いう 構 成 が 心 にく
いま で に決 ま り 、 ど の作 品 も そ の所 を 得 て、 読 み 手 に ﹁飽 か せ ず に﹂ 全 編 を 読 ま せ る も のに な って いる 。 ﹁教 官
(村 井 ) の作 品 ﹂ も 、 自 作 と 並 べ て ﹁ミ ス テ リ ーゾ ー ン﹂ 直 前 の章 末 に 置 いて あ る のも さ り げ な い心 遣 いか 。 彼
︵四︶
は 幼 児 教 育 専 攻 の学 部 2 年 生 であ った 。
も と も と の作 品 が 全 て場 所 の ﹁ス ケ ッチ ﹂ で あ る か ら 、 ﹁場 所 ご と に 分 類 し よ う ﹂ と は 誰 も が 考 え る 。 そ れ だ
け で突 き 進 ん で いく と 特 定 の章 が膨 張 す る の は 避 け ら れ な い。 K ・T生 は 愚 直 と い ってよ いほ ど 真 っ正 直 に 最 初
の方 針 を 貫 いた 。 章 題 の付 け 方 に も そ の正 直 さ が ま っす ぐ 現 れ て い て ﹁清 々し い拙 さ ﹂、 と も いう べ き も のが 現
れ て いる 。 こ れも ひ と つの 味 わ いで あ る 。 こ れ に 対 し 、 A ・N生 は ﹁僕 の左 手 ﹂ を 難 題 と し て は っき り つか ん で
正 面 か ら 取 り 組 み 、 ﹁場 所 +時 間 ﹂ の 観 点 に 、 さ ら に ﹁内 容 ﹂ を 加 味 し て 上 記 のよ う な ﹁立 体 編 集 ﹂ を 可 能 にし た 。 作 品 1編 ず つを 十 分 読 み 込 ん で いる こと が感 じ ら れ る 。
﹁編 集 ﹂ は 作 品 を 活 用 す る典 型 的 な 活 動 であ る が 、 や は り 対 象 と な る 1 つ 1 つ の作 品 が 充 実 し て いな け れ ば 良
い編 集 に は な ら な い。 ス ケ ッチ の場 合 は ( 実 は ほ か でも 同 じ だ が )、 は じ め に ﹁良 い具 体 例 ﹂ を ﹁いく つか 示 す ﹂
こ と が 、 ﹁良 い作 品 作 り ﹂ の決 め手 に な る。 ﹁ス ケ ッチ ﹂ は 小 学 1、 2年 生 で は無 理 だ が 、 3、 4年 生 ぐ ら いに な
れ ば か な り でき る よ う に な ってく る 。 5、 6年 生 か ら 中 学 生 に な る と 、 集 中 し さえ す れ ば 、 先 に 示 し た よ う な
﹁引 き 締 ま った 佳 品 ﹂ が 容 易 に得 ら れ る 。 ﹁スケ ッチ ﹂ は 少 年 か ら 大 人 ま で、 ﹁作 品 作 り ﹂ と ﹁編 集 ﹂ と を 二度 楽 し め る 得 難 い学 習 であ る 。
文種 ( ジ ャ ン ル) の変 換
あ る作品を種 ( 素 材 ) に し て別 作 品 を つく る 活 動 が 3 つめ の ﹁活 用 ﹂ であ る。 これ に は 次 のよ う な① 自 作 解 説 、 ② 作 品 批 評 、 ③ 別 作 品 作 り 、 の 3種 類 が あ る 。
①自 作解 説
自 分 の 作 品 に つ いて 、 発 想 、 苦 心 、 見 ど こ ろ 、 な ど 多 方 面 か ら わ か り や す く 解 説 す る ﹁説 明 文 ﹂ で あ る。
作 品 の作 者 だ け が 作 り 出 せ る も う 一つ の作 品 で あ る 。 作 家 の自 注 な ど は そ れ 自 身 が 作 品 に 準 じ る も のと し て 重 ん じ ら れ て い る。 ② 作品批 評
作 品 を 読 ん で の感 想 ・批 評 ・鑑 賞 文 が こ れ であ る 。 友 達 の作 品 を いろ いろ な 観 点 か ら 分 析 し 、 感 想 の根 拠
を 明 ら か に し た り 作 品 か ら 得 た も の、 触 発 さ れ た も のを 書 き 述 べた り 、 価 値 を 論 じ た り す る 。 程 度 が 高 ま る と 評 論 ・論 説 に近 づ く 。 ③別 作品作り
作 品 の内 容 を ﹁素 材 ﹂ に し て別 作 品 を 作 る 。 ジ ャ ン ル の変 換 や 続 編 作 り が これ で あ る。
( 脚 本 )﹂ 化 す る .
ア ﹁物 語 ﹂ の続 き を 書 く 。 イ 事 実 を﹁ 舞 台 作 品
ウ 昔 話 を ﹁詩 ﹂ に 歌 う 。 エ 俳 句 、 短 歌 、 詩 、 ( 加 え て写 真 、 絵 画 ) な ど か ら物 語 を 作 る 。 そ の逆 。 オ 科 学 的 説 明 文 か ら 意 見 文 を 書 く 。 力 登 場 人 物 にな り き って 、﹁独 白 ﹂ や﹁ 詞 論 ﹂ を 作 る。 キ 立 場 を 変 え て ﹁弾 劾 文 ﹂ を 書 く 。 ク 研 究 レ ポ ー ト か ら ﹁研究 こ ぼ れ 話 ﹂ を 書 く 。
ケ 異 な る 時 代 の 歴 史 上 の 人物 に共 通 の問 題 に つ い て話 し合 わ せ る 。 コ あ る本 の著 者 を 想 定 し 直 接 読 者 に語 り か け さ せ る 、 な ど な ど 。
世 間 に 流 布 し て いる さ ま ざ ま な ﹁作 品 ﹂ を よく 見 ると 、 こ のよ う な ﹁作 品 の活 用 ﹂ に よ って生 み 出 さ れ た も の
が 多 い。 創 造 の源 と し て広 く 使 わ れ て いる 方 法 で あ る 。 児 童 ・生 徒 に ふ さ わ し い材 料 を 選 ん で 、積 極 的 に挑 戦 さ せ る こと が 望 ま し い。
指 導 者 と し て必 要 な こ と は 、 子 ど も に さ せ る 前 に 、 ま ず 自 分 が こ の種 の ﹁創 作 ﹂ を 体 験 し 、 そ の良 さ ・面 白
さ ・意 義 や 難 し さ を 十 分 に 確 か め てお く こ と であ る 。 そ の体 験 基 盤 が な いと 、 子 ど も の活 動 は 駄 作 の山 を 築 く 時
間 つ ぶ し の ﹁遊 び ﹂ に な って し ま う の で用 心 し な け れ ば な ら な い。 方 法 の面 白 さ や 子 ど も の喜 ぶ 顔 に 惑 わ さ れ 、
駄 作 を そ れ と 気 づ か ず に ほ め た り 放 置 し た り す る こと を 積 み重 ね る と 、 さ ら に 危 い。
﹁作 品 の活 用﹂ は つね に ﹁ 基 礎 ・基 本 ﹂ に か え り 、 実 践 記 録 の中 に豊 富 に ふ く ま れ て い る 具 体 的 な 指 導 を 参 考 に し て 、 十 分 計 画 を 練 って 取 り か か り た い。
芦 田 恵之 助 が考案 した 、 ﹁ 随 意 選題 ﹂を 中心 と す る綴り方 指導 を 展 開す るた め の基 本 的指 導過 程 であ る。 ﹁綴り 方
(1 )
教 式﹂ と呼 ば れ る。
﹁作文 能力 を向 上 させ る授業 ﹂ ﹃ 中学 校国 語科 教育 実 践講座 1﹄ ニチ ブ ン 一九 九 七 一九 九 頁 ﹃ 大村 はま 国語 教室 第 12巻 国語 学 習記 録 の指導﹄ 筑 摩書 房 一九 八 四
野地潤 家 ﹃ 芦 田恵之 助 研究第 3巻 綴り方 授 業編 ﹄明 治図 書 一九八 三参 照 (2 ) 小 田迫 夫
﹃一九 八九年 度 ﹁国語 表 現法﹂ 授業 記 録﹄ 北海道 教育 大 学旭 川校
同 ﹃ 資 料編 1 学習 記録 たけ の こ 栄光 ﹄筑 摩 書房 一九八 五
(3 ) 大 村 はま
(4 ) 村 井万 里子
﹁評 価 ﹂ の 目 的 と種 類
第 七 章 書 く こ と の学 習 指 導 に お け る 評 価
一
︵一︶ 二つの側 面 書 く こと の学 習 指 導 の評 価 を 、 次 の 二 つ の側 面 か ら 検 討 し て いく 。
① 児 童 ・生 徒 の書 く こと の活 動 と 作 品 の評 価 ② 指 導 者 に よ る ﹁書 く こ と の学 習 指 導 ﹂ のデ ザ イ ンと 実 践 の 評 価
常 識 的 に 考 え る な ら 、 ① で 十 分 と 考 え ら れ る で あ ろう が 、② を お ろ そ か に し た 場 合 に は 、 問 題 は 、 す べ て 学 習
( 評 価 の 目 的 )﹂、 ﹁ど の よ う に
( 評価 の
者 に転 嫁 さ れ る か 、 せ いぜ い、 単 な る技 術 ・方 法 の反 省 に 終 わ って し ま う 危 険 性 が あ る 。 書 く こ と の学 習 指 導 の
( 評 価 の 主 体 )﹂、 ﹁な ん の た め に
改 善 の た め に② の評 価 の視 点 と 方 法 を 検 討 す る こ と の意 味 は 大 き い。
︵二︶評価 の種類 評 価 は 、 ﹁い つ ( 評 価 時 点 )﹂、 ﹁だ れ が
手 法 )﹂ 行 う の か に よ って 様 々 な 分 類 が 可 能 で あ る 。 こ の よ う な 観 点 に し た が って、 例 え ば 、 次 の よう に分 類 し
( あ る いは 、 ﹁到 達 度 評 価 ﹂ の診 断 的 評 価 ・形 成 的 評 価 ・総 括 的
て み る こ と も でき よ う ( 複 数 の観 点 に 関 係 のあ る も のも あ り う る)。
︻い つ︼ 事 前 評 価 ・事 中 評 価 ・事 後 評 価 評 価 )。 ︻だ れ が ︼ 自 己 評 価 、 相 互 評 価 、 指導 者 に よ る 評 価 。
︻何 のた め に ︼ 教 育 的 評 価 ・客 観 的 評 価 、 相 対 的 評 価 ・絶 対 評 価 。
︻ど の よう に ︼ 客 観 的 評 価 ・主 観 的 評 価 、 あ る い は分 析 的 評 価 ・総 合 的 評 価 、 ポ ー ト フ ォ リ オ 等 。
こ のよ う に 分 類 さ れ た 個 々 の 方 法 は 、 そ れ ぞ れ に存 在 理由 が あ り 、 ま た 、 そ れ ぞ れ のカ テ ゴ リ ー内 にあ って、
相 対 的 、あ る い は相 補 的 な 機 能 を 有 す る も の でも あ る 。書 く こ と の評 価 は 、極 め て複 雑 か つ多 面的 な 行 為 で あ る。
作 品 や 文 章 の価 値 と 問 題 を 明 ら か に す る た め に は 、 多 様 な 方 法 が 併 用 さ れ る こと に な る。
二 児童 ・生徒 の書 く こと の活 動 と 作 品 の 評 価
︵一︶ 学 習 指 導 の過 程 で 行 う 評 価
以 下 の節 では 、特 に ﹁書 く こと ﹂ の単 元 計 画 に 基 づ いて 展 開 さ れ る 一連 の授 業 の中 で 実 施 さ れ る 作 文 の評 価 の 内 容 と 留 意 点 に つ い て明 ら か に し て いく 。
次 に 掲 げ る の は 、 小 学 校 二 年 生 の児 童 に よ る作 品 であ る ( 注 1)。
﹁バ ス に の った こと ﹂
H ・T
き ょう 、 学 校 で 五 時 間 目 に な る と 、 し ゃ か い け ん が く に い き ま し た 。 え き に つく と 、 バ ス が き ま し た 。 で も そ
の バ ス は 、 ぼ く た ち の ま え を と お り こ し ま し た 。 あ と 、 タ ク シ ー が い っぱ いき ま し た 。
三 時 に な る と バ ス が き ま し た 。 そ の バ ス に み ん な の り ま し た 。 ぼ く のと な り は いと う く ん で し た 。 バ ス に の っ て そ と を み る と 、 で ん し ゃよ り い いな が め だ な あ と お も い ま し た 。 いと う く ん が 、 ﹁ま え に つ いて い る テ レビ な に か ね 。﹂
﹁あ と み た ら わ か る ん じ ゃな い 。 ﹂
と いいまし た。 ぼく は、
と いいまし た。
が っこ う ま え ら ヘ ん に く る と ぼ た ん を お し ま し た 。 お し た ら 、 ま え に あ る テ レ ビ に そ と の け し き が う つ り ま し
た 。 あ と お り る と き 、 お か ね を は ら って 学 校 に かえ り ま し た 。 か え る と 、 か え り の か いを し て か え り ま し た 。
1 事 前 の 評 価
書 く こ と の単 元 に 入 る に先 立 って 、児 童 ・生 徒 の書 く こ と の能 力 を 診 断 、 判 定 す る 必 要 が あ る 。 こ の作 品 ﹁バ
ス に の った こと ﹂ を 、 児 童 の書 く こ と の能 力 の実 態 を 把 握 し 、 学 習 指 導 の 目 標 、 内 容 、 方 法 を デザ イ ン す る た め
に 評 価 す る こと を考 え て み よ う 。教 科 書 中 の数 少 な い作 文 単 元 ( 単 元 と し て自 立 し て いる こと は決 し て多 く な い)
を 児 童 ・生 徒 に と って、 学 習 し が い のあ るも のに す る た め に は、 例 え ば 、 こ の作 品 は 、 主 題 意 識 の乏 し いま ま に
書 き 進 め 、 書 き 終 え た も の であ る こ と を 発 見 し 、 ど の よ う な 学 習 と 指 導 の 結 果 が 、 こ のよ う な 作 品 を 生 み 出 す こ
と にな った のか 、 同 様 の作 品 を 再 び 書 か な いで済 む よ う に す る に は ど う す れ ば よ いの か 、 そ の手 だ てを 講 じ るた
書き進 める過程 におけ る評価 そ の一
め に 生 か さ れ な く て は な らな い。
2
︱記 述 前 の段 階
国 語 教 室 に お いて は 、 作 品 ・文 章 作 成 のた め に 、 一定 の 目 標 を 掲 げ 、 相 応 の 時 間 を 用 意 し 、 段 階 を 踏 ん で 学 習
( 主 題 、 取 材 、 構 想 の活 動 ) 指 導 と 言 わ れ る段 階 に お け る 評
指 導 が な さ れ る 。 し た が って 、創 造 の諸 過 程 にお い て児 童 ・生 徒 の学 習 活 動 が 展 開 さ れ 、 そ の活 動 の評 価 が 実 施 さ れ る こと に な る。 こ のよ う な活 動 のう ち の記 述 前 価 に つ い て考 察 し て お こ う 。
一般 に 、 学 習 ( 指 導 ) の過 程 (プ ロ セ ス ) の初 期 段 階 お よ び 途 中 の段 階 にお い て評 価 が 十 分 に行 わ れ て いる と
は いえ な い。 表 現 活 動 、 あ る いは 表 現 の学 習 指 導 の 全 過 程 のう ち で 、 ﹁評 価 ﹂ の活 動 は 、 最 終 段 階 に位 置 づ け ら
れ て お り 、 作 品 ・文 章 の評 価 ( 振 り 返 り や改 善 の取 り 組 み ) は 最 終 段 階 に お い てま と め て行 う こと が多 いと いう
のが 実 情 であ る 。 し か し 、 し ば し ば 指 摘 さ れ る よ う に 、 最 終 段 階 、 つま り 書 き 終 え てし ま った 後 の評 価 は 、 だ れ
が 評 価 の主 体 で あ る に せ よ 、 書 く こ と の改 善 に 期 待 す る ほ ど の効 果 を 生 む こ と は で き な い。 す で に力 を 尽 く し た 後 の出 来 事 だ か ら で あ る 。
こ の よ う な 問 題を 避 け る た め に は 、学 習 指 導 の過 程 ( 記 述 前 、記 述 中 、記 述 後 ) のう ち の記 述 前 、記 述 中 に も 、
必 要 に し て 十 分 な 評 価 が 実 施 さ れ な く て は な ら な い。 記 述 前 、 記 述 中 にお け る 評 価 は 、 作 品 の質 の改 善 に 大 き な 効果があ る。
例 え ば 、 先 の児 童 作 品 に よ る事 前 の実 態 把 握 の結 果 が 記 述 前 指 導 の デ ザ イ ン に ど のよ う に 関 係 し て く る の で あ ろう か 。
ま ず 、 主 題 把 握 の方 法 にか か わ る 学 習 指 導 に力 を 入 れ る こ と に な る で あ ろう 。 主 題 と は 、 単 な る 対 象 ( 例え ば
﹁社 会 見 学 ﹂) を 意 味 す る の で なく 、 そ の対 象 と 書 き 手 であ る児 童 ・生 徒 と の切 実 な か か わ り 方 を 指 し て いう の で
あ る 。 こ れ か ら 書 こう と す る 対 象 ・こ と が ら を 時 間 を か け て何 度 も 見 つめ た り 、 あ る いは 角 度 を 変 え て見 た り 、
ほ か のも のと 関 係 づ け て みた り す る こ と を 通 し て 、 自 分 と こ の事 象 と の切 実 な 関 係 を 発 見 な いし は 創 造 さ せ な く
ては な ら な い。 評 価 の結 果 と し て 、 こ の よ う な 指 導 が 展 開 さ れ る こと に な る 。 主 題 に か か わ る 問 題 は 、 いわ ば
﹁も の の見 方 ・考 え 方 、 感 じ 方 (=認 識 の仕 方 ) の問 題 であ る ﹂。 評 価 の観 点 の重 さ と いう 点 か ら は 、 最 重 要 視 さ れ る べき も の であ る 。
つづ い て、 主 題 と の関 連 で 、 取 材 の方 法 と 結 果 が 評 価 の対 象 に な る であ ろ う 。 こ の作 品 を 書 いた 児 童 の主 題 意
識 が 希 薄 であ った こ と は 、 取 材 に も 、 当 然 の こ と な が ら 反 映 し て いる 。 思 い つく ま ま に 、 そ の 順 番 で 非 構 造 的 、 羅 列 的 に 収 集 し て い る の で あ る。
さ ら に 、 記 述 前 の学 習 活 動 は 、 ﹁構 想 ﹂ と いう 形 で明 ら か に さ れ る。 こ の ﹁構 想 ﹂ を 対 象 にし て 、 記 述 前 の評
( 設計 図)を
( 文 章 の 組 み 立 て )﹂ を 含 み つ つ、 そ れを 超 え て、 文 章 ・作 品
価 に お いて 最 も 総 合 的 に 評 価 が行 わ れ る 。 ﹁構 想 ﹂ と は 、 や が て 完 成 す る文 章 ・作 品 全 体 の青 写 真 意 味 す る 。 し ば し ば 混 同 さ れ る の で あ るが 、 ﹁構 成
に か か わ るす べ て の要 素 を 抱 え 込 ん でお り 、 し か も 、 実 際 に書 き 進 め る前 の段 階 で あ り 、 修 正 可 能 と いう 性 格 の も の であ る。
主 題 、 取 材 、 構 想 と いう 記 述 前 の段 階 に お け る 評 価 の観 点 ・基 準 ( 事 後 評 価 の際 に用 いら れ る評 価 の観 点 ・基
準 で も あ る) は 、 児 童 ・生 徒 にも 理 解 さ れ 、 運 用 可 能 であ る こ と が 望 ま れ る 。 常 に 指 導 者 が 評 価 を す る と いう 方
法 の み に 頼 って い て は、 主 体 的 な 表 現 者 は生 ま れ な い。 書 き 手 は 、 書 こう と す るも の や表 現 の仕 方 に つ い て 、自
ら が 、 そ の価 値 と 問 題 を 認 識 し つ つ、 さ ら に よ いも の を 目 指 す 存 在 でな く ては な ら な い。
3 書 き 進 め る 過 程 に お け る 評 価 そ の 二 ︱記 述 中 の 評 価
児 童 ・生 徒 が書 き 始 め る と 指 導 者 の介 入 を 控 え る べ き だ と いう 考 え が な いわ け で は な いが 、多 く の 児童 ・生 徒
は 、 記 述 の過 程 に 問 題 を 抱 え て いる 。 指 導 者 は 、 机 間 巡 視 の よう な 活 動 を と お し て 、 学 習 者 の表 現 の 過 程 に 立 ち 会 う こ と にな る 。
文 章 ・作 品 の 冒 頭 の難 し さ は 、だ れ しも 経 験 があ る であ ろう 。指導 者 は 、児 童 ・生 徒 の 困 惑 を いち 早 く と ら え 、
彼 ら の記 述 の事 実 と そ の 問 題 を 把 握 し (評 価 し )、 書 き 手 の相 談 に 応 じ た り 、 改 善 策 を ア ド バ イ スし な く ては な
ら な い。 書 き 進 め る う ち に 、 主 題 の把 握 が 十 分 でな か った り 、 取 材 の偏 り や 不 足 のあ る こ と に自 ら 気 付 いた り 、
指 導 者 に 指 摘 さ れ た り 、 構 想 段 階 に お け る 文 章 構 成 の 不適 切 であ る こと に気 付 いた り と いう 評 価 活 動 が め ま ぐ る し く 行 わ れ て いる は ず であ る 。
作 文 は 、 児 童 ・生 徒 の個 々人 の内 的 行 為 と し て 展 開 さ れ 、 外 部 か ら 把 握 し き れ な い要 素 を 抱 え ては いる が 、 指
導 者 は 、 彼 ら の草 稿 を か いま 見 る と いう 行 為 に よ って、 内 的 行 為 の断 片 を 把 握 し 、 全 体 を 推 測 し 、 創 造 し つ つあ
る 文 章 ・作 品 を 評 価 し 、 問 題 が あ る場 合 は 、 改 善 策 を 提 示 す る こと が 求 め ら れ る 。 こ のよ う な 流 れ に沿 って 問 題
に即 応 す る こと は 困 難 な こと であ る が 、表 現 の教 師 は 、自 ら の表 現 の経 験 と そ こ か ら 得 ら れ た 知 見 を 手 が か り に 、
こ の難 事 を 切 り 抜 け な く ては な ら な い。
も っと も 、多 く の児 童 ・生 徒 が 共 通 に抱 え て い る問 題 に つ い ては 、 そ の問 題 を 確 認 し た 上 で ( 問 題 が あ ると 評
価 し た 上 で )、 ク ラ ス の全 体 に対 す る 指 導 を す る こ と も 考 慮 し な く て は な ら な い。 表 記 、 文 章 構 成 等 に は 、 共 通 性 の高 い問 題 が 少 な く な い。
ま た 、 机 間 巡 視 と いう 方 法 に よ ら ず 、 児 童 ・生 徒 の方 か ら指 導 者 に相 談 を 持 ち か け ると いう シ ス テ ム を 考 案 す
る こ と の方 が よ い場 合 も あ ろう 。 こ の場 合 も 、 問 題 の把 握 と 評 価 、 改 善 の アド バ イ スが 迅速 、 的 確 に 実 践 でき る こ と が 指 導 者 の必 要 条 件 であ る 。
4 記 述 後 に お け る評 価
作 文 の 評 価 は 、 多 く の場 合 、 記 述 後 に ま と め て行 わ れ る 。 記 述 前 の 評 価 、 記 述 中 の評 価 が な さ れ 、 改 善 の手 だ
てが 施 さ れ て最 終 段 階 に 行 わ れ る 評 価 は 、 一連 の授 業 の学 習指 導 目 標 に 照 ら し て 、 達 成 状 況 を 評 価 す る こと に な り 、 さ し て 困 難 な 仕 事 に は な ら な い であ ろ う 。
国 語 科 の 授 業 と し て行 わ れ る 書 く こ と の学 習 指 導 に お いて 、 単 一の 単 元 、 単 一の授 業 は 、 そ れ ほ ど 多 く の 教 科
内 容 を 抱 え 込 む も の で は な い。 そ れ ぞ れ の授 業 に お い て目 標 と す べ き こ と が ら は 限 ら れ て お り 、 そ れ が 児 童 ・生
徒 に よ って 達 成 さ れ た か ど う か を 明 ら か に す る こ と が 、 当 面 の評 価 の 任 務 であ る 。 一般 に 、 作 文 は 、 そ の評 価 が
困 難 であ る こ と ( 何 を 評 価 す れ ば よ いの か わ か り に く い、 評 価 基 準 が 明 確 でな い、 主 観 的 な 評 価 に な り がち であ
る な ど ) を 理 由 に敬 遠 さ れ が ち であ る が 、 作 文 の す べ て の 要 素 、 側 面 を 、 常 に 評 価 し よう と す る こ と が 指 導 者 の
負 担 を 増 加 さ せ て いる 。 ま ず は 、 単 元 や 授 業 の目 標 の達 成 状 況 を と ら え る た め の評 価 を 実 施 し た い。
記 述 前 か ら 表 現 過 程 に 即 し てき め 細 か に 行 わ れ る 評 価 が 、児 童 ・生 徒 が 努 力 し て作 成 し た 文 章 ・作 品 の質 と 表
現 の能 力 の育 成 を 保 障 す る こと に 直 結 す る も の であ る こと を 考 え る な ら 、 少 な く と も 、 日 常 的 に 国 語 科 の授 業 と
し て 行 わ れ る 書 く こと の学 習 指 導 に あ って は 、 こ れ ま で の記 述 後 に偏 った 、 非 生 産 的 で 、 報 わ れ る こ と の少 な い 評 価 の実 情 は 改 め な く て は な ら な い。
前 述 のよ う に 、 特 定 の単 元 、 授 業 の 目 指 す と こ ろ は 限 定 さ れ 、焦 点 化 さ れ て いる 。 し た が って 、 学 期 や年 度
( 学 年 ) 全 体 を 通 し て 、 ど のよ う な 教 科 内 容 を 用 意 し 、 ど の よ う な 手 だ て で 学 習 を 成 立 さ せ 、表 現 力 を 保 障 し て
いこ う と す る の か を 明 ら か に し てお く の が よ い。 こ れ が 、 ﹁書 く こ と の カ リ キ ュラ ム﹂ に な り 、 評 価 の指 標 と も
な る 。 一般 に は 、 書 く こ と の学 習 指 導 も 、 国 語 教 科 書 に依 拠 し て行 わ れ る こと が多 いで あ ろ う 。 し か し 、 教 科 書
の中 に は 、 書 く こと の独 立 し た 単 元 を ほ と ん ど 持 た な いも の が あ る。 ま た 、 断 片 的 な 学 習 指 導 の プ ロ グ ラ ム が 、
あ ち こち に散 在 し 、 全 体 の構 造 が と ら え に く く な って いる こ と が 少 な く な い。 ﹁読 む こと ﹂ の教 育 に比 し て、 ﹁書
く こ と ﹂ や ﹁話 す こ と ・聞 く こ と ﹂ の学 習 指 導 は 、 教 科 書 レ ベ ル で 見 る と 貧 弱 で、 わ か り に く い。 教 科 書 に お け
る書 く こと の学 習 指 導 の内 容 と系 統 を 構 造 的 に把 握 し 直 す こ と から 始 め て、 学 校 独 自 、 学 級 独 自 、 指 導 者 独 自 の 書 く こと ( 作 文 ) の プ ログ ラ ム を デザ イ ンす る こ と を 勧 め た い。
︵二︶ 授業 から独立 した作品 の評価
一連 の授 業 の 過 程 で 、 き め 細 か に行 わ れ る 評 価 の重 要 性 に つ い て言 及 し てき た が 、 私 た ち は 、 し ば し ば 、 児
童 ・生 徒 に よ る 完 成 品 と し て の文 章 ・作 品 を 評 価 す る 必 要 に 迫 ら れ る こと があ る 。 例 え ば 、 読 書 感 想 文 、 夏 休 み
の宿 題 と し て の作 文 、 国 語 科 の授 業 以 外 の場 で書 か れ る諸 々 の文 章 ・作 品 等 で あ る 。
前 掲 の児 童 の作 品 を 、記 述 前 、 記 述 中 、 記 述 後 の指 導 を 経 な いで 完 成 し た も の であ り 、 評 価 の対 象 に な って い ると 想 定 し た 場 合 、 少 な く と も 、 次 のよ う な 指 摘 を し な く ては な ら な い。
ア こ の作 品 は 、 実 は ﹁社 会 見 学 ﹂ の体 験 を 書 く よ う に 求 め ら れ て いた も の で あ る。 し か し 、 作 品 に は 、
社 会 見 学 と いう 体 験 の掘 り 下 げ を 十 分 に し て いる と いう 証 拠 は見 ら れ な い。
イ ア と も 関 連 す る が 、 こ の児 童 は主 題 意 識 が 乏 し い。 体 験 と 自 分 と の 関係 が 希 薄 で あ る。
ウ 主 題 意 識 の乏 し いこと を 反 映 し て 、 こ の児 童 独 自 の目 で発 見 し 、 肌 で感 じ た 材 料 が 乏 し い。
エ 作 品 の構 成 は 、 時 間 の順 序 を 追 っ て書 か れ て い る が 、 そ の時 間 の流 れ は 、 バ スに 乗 る前 か ら 帰 り の会 ま で の出 来 事 が 羅 列 し て あ る に 過 ぎ な い。
オ バ ス か ら の眺 め に つ いて は自 分 の感 想 、 感 動 を 書 いて い る が 、 大 半 は 、 あ った こと が 単 に事 実 と し て 表 現 さ れ て いる だ け で あ る 。
作 文 の授 業 か ら 切 り 離 さ れ た 評 価 で は 、 こ の よう な 評 価 が 、 書 き 手 に 返 さ れ て も 、 作 品 を 改 善 す る アド バ イ ス
に な り にく いと いう 問 題 が あ る 。 た だ し 、 こ の よう な 作 品 の抱 え て いる 問 題 を 、 国 語 科 の書 く こ と の学 習 指導 に
結 び つけ て 、 次 に書 く 作 品 が 同様 の問 題 を 抱 え 込 む こと の な いよ う な 配 慮 と 実 践 を す る こ と は 可 能 であ る 。 そ の
場 合 は 既 に 述 べた よう に 、 こ の作 品 の 評 価 は、 児童 の表 現 の実 態 と 問 題 を 提 供 す る た め の診 断 的 評 価 の機 能 を 果 た し て いる こと に な る 。
と こ ろ で 、 国 語 科 の教 師 が作 文 の評 価 を 困 難 で あ る と す る の は、 国 語 科 、 書 く こと の 学 習 指 導 の結 果 と し て生
ま れ た 作 品 の評 価 で は な く 、そ れ と は 切 り 離 さ れ て 作 成 さ れ 、提 出 さ れ る も の の評 価 を 指 す こ と が 多 い。そ し て、
困 難 であ る こと は 事 実 な ので あ る。 こ のよ う な 評 価 に 際 し ては 、何 が 必 要 な の であ ろう か 。
ま ず 、 評 価 の観 点 と 評 価 の基 準 を 用 意 し な く て は な ら な い。 評 価 の観 点 や 基 準 に つ い て は 、 わ が 国 で も 多 様 な
も の が作 成 さ れ て い る。 学 習 指 導 要 領 に準 拠 す る な ら 、 書 く こ と の ﹁指 導 事 項 ﹂ を 視 野 に お く こと に な る であ ろ
う 。 ま た 、 生 活 綴 り 方 の実 践 家 で あ る江 口季 好 は 、 ︿綴 方 の客 観 的 評 価 の観 点 ﹀ と し て、 次 のよ う な も のを 挙 げ て いる ( 注 2)。 ﹁意 欲 ﹂、 ﹁取 材 内 容 ﹂、 ﹁ 構 成 ﹂、 ﹁記 述 ﹂。 ち な み に、 こ のう ち の ﹁構 成 ﹂ の内 容6 項 目 を 引 用 し てお こう 。
ア 書 き 出 し に 工 夫 が あ る か 。 イ 中 心 に 力 を 入 れ て書 いて いる か ウ 結 びは適切 であるか。 エ 段 落 は 適 切 で あ る か 。 オ 内 容 に 応 じ た 表 現 の形 体 を 工 夫 し て い る か 。 カ 文 章 全 体 に論 理 的 な す じ み ち が 通 って いる か 。
評 価 の観 点 と 基 準 を 運 用 す る こ と の難 し さ が 一目 瞭 然 であ る 。 ﹁工夫 ﹂、 ﹁力 を 入 れ る ﹂、 ﹁適 切 ﹂、 ﹁論 理 的 す じ みち ﹂ な ど の基 準 は 、 だ れ に と って も 共 通 に 理 解 でき る 基 準 で は な い。
﹁取 材 内 容 ﹂ の中 か ら も 、 評 価 の基 準 の 要 を な す 言 葉 を 抜 き 出 し て み る と 、 次 の よ う な も のが あ る 。
﹁ 事 実 を よ く つか む ﹂、 ﹁し っかり と ら え る﹂、 ﹁正 し く 豊 か な 成 長 に 役 立 つ﹂、 ﹁個 性 的 な 見 方 ・感 じ 方 ・考 え 方 ﹂、
﹁切 実 な 気 持 ち ・願 い﹂、 ﹁新 鮮 で 、 深 み が あ り 、 真 実 感 が あ る ﹂、 ﹁あ た た か く 、 美 し い人 間 味 豊 か な も の﹂ 等 、
ど の よ う に客 観 的 な 基 準 を 目 指 し ても 、 必 ず 、 こ の よ う に し か 表 現 でき な いも の が あ る 。 問 題 は 、 いか に し て、 こ れ ら の基 準 を 適 用 す る能 力 を 開 発 す る か で あ る。
ま ず 、文 章 ・作 品 を 読 み 、分 析 し 、価 値 づ け る と いう 経 験 を 重 ね る こと が 必 要 であ る 。 いか な る 詳 細 な 基 準 も 、
そ れ だ け で は 機 能 し な い。 基 準 が 基 準 と し て生 か さ れ る た め に は 、 そ れ を 適 用 す る 評 価 者 の訓 練 が前 提 と な る 。
ま た 、 右 のよ う な 多 義 的 な 基 準 を 用 いる た め に は 、 そ れ ぞ れ の基 準 に 対 応 す る 作 品 ・文 章 のイ メ ー ジ を 描 け る
よう でな く て は な ら な い。 児 童 ・生 徒 に求 め ら れ て いる ﹁書 き 出 し に お け る 工夫 ﹂ と は 、何 を ど のよ う にす る こ
と を 意 味 す る の か 、 ﹁結 び が 適 切 ﹂ で あ る と は 、 ど の よ う に 結 ぶ こと な の か 等 、 実 際 の文 章 ・作 品 に 照 ら し て 、
具体 的 に 判断 、 判 定 が で き な く て は な ら な い。 そ れ は だ れ に で も でき る こと で は な い。 安 易 な 道 を 選 ん で は 実 現
で き な い課 題 であ る 。 し た が って 、 こ のよ う な こ と を 実 現 で き る資 質 を 持 つ作 文 の教 師 、 国 語 の 教 師 が 専 門 家 と さ れ る の で あ る。
﹁目 標 ﹂ と ﹁評 価 基 準 ﹂ は 対 応 し て い ると 考 え て よ い であ ろう 。 到 達 度 評 価 の 理 論 は 、 目 標 を 細 分 化 、 具 体 化 、
行 動 化 し て 、 そ の内 容 を 理 解 し やす い も の に す る 努 力 を し て い る 。 し か し 、 いか に 細 分 化 し 、 行 動 化 し ても 、
﹁工 夫 ﹂ や ﹁個 性 ﹂、 ﹁効 果 的 ﹂、 ﹁は っき り ﹂ な ど の 表 現 は 、 依 然 と し て 残 る こ と が 多 い。 さ ら に 、 目 標 の 細 分 化
に よ って 評 価 作 業 が 煩 雑 に な る と いう 新 し い問 題 も 生 じ る 。 ま た 、 到 達 度 を ど のよ う に 判 定 す る のか と いう 問 題
も 残 る。 これ ら の問 題 は 、 いず れ も 評 価 基 準 が 存 在 す る だ け で は解 決 でき な い。 具 体 的 、 か つ地 道 な 実 践 の努 力
を 重 ね る こ と によ って のみ 可 能 で あ ると いわ ざ るを え な い。
︵三︶ 文 章 ・作 品 を 評 価 す る 前 提 条 件 ︱ 書 く こと の 能 力 構 造 を ど う 見 る の か
書 く と いう 行 為 は 、 ど のよ う な 能 力 群 に よ って支 え ら れ 、 実 現 す る も の で あ る のか 、 そ れ は、 ど のよ う に 発 達
し て いく も の であ る のか に つ いて 考 察 し て お き た い。 こ の こ と に つ い て の考 え 方 の相 違 が 、 評 価 に も 反 映 す る か ら で あ る。
文 章 ・作 品 を 作 成 す る と いう 行 為 は 、 主 題 把 握 、 取 材 、 構 想 、 記 述 、 推 敲 に 関 す る す べ て の能 力 群 が 総 合 的 、
関 連 的 に機 能 し て初 め て可 能 で あ る。 学 習 指 導 要 領 の学 年 目 標 には 、 こ れ ら が 重 点 的 に 切 り 離 し て提 示 さ れ て い
る が 、 こ のこ と は 、 あ る 学 年 に な る ま で特 定 の能 力 が 存 在 し な いと いう こと を 意 味 し な い。
例 え ば 、 平 成 元 (一九 八 九 ) 年 版 学 習指 導 要 領 で は 、 主 題指 導 は 、第 五 学 年 の重 点 目 標 に な っ て いた が 、 低 学
年 で は 、 主 題 を 問 題 に す る必 要 が な いと いう 意 味 で は な い。 ど の発 達 段 階 に お い ても 、 自 ら が 書 き 上 げ る文 章 や
作 品 には 、主 題 や要 旨 と いう 焦 点 が な く て は な ら な い。 発 達 段 階 は 、 こ のよ う な 能 力 の有 無 を 意 味 す る の で は な く 、 機 能 す る 程 度 や水 準 を 示 し て い る の で あ る 。
ご く わ ず か な 例 外 を 除 い て 、 認 識 と 表 現 の能 力 は 、 いく つも の能 力 が セ ット と し て総 合 的 に機 能 し 、 そ れ が 螺 旋 的 (ス パ イ ラ ル) に 発 展 し て いく の であ る 。
評 価 に際 し ては 、 こ のよ う な 能 力 の仕 組 み が わ か る よ う に 、 評 価 表 を 作 成 し 、 評 価 の観 点 、 基 準 を 明 示 し て お
く のが よ い。 評 価 表 は 、 書 く こと の能 力 の構 造 を 示 す 役 割 も 担 って いる 。 表 現 技 術 の み の評 価 に走 ら な いよう に
す る た め に は 、 評 価 表 の作 成 に 際 し て は 、 書 く こ と の能 力 の構 造 と し て、 ﹁も の の 見 方 ・考 え 方 、 感 じ 方 ﹂ ( 認識
能 力 ) を 明 確 に 位 置 づ け て お き た い。 つま り 、 ﹁も の の見 方 ・考 え 方 、 感 じ 方 ﹂ の カ テ ゴ リ ー と 、 そ のも の の見
方 ・考 え 方 、感 じ 方 を ﹁言 葉 で表 現 す る 力 ﹂ ( 表 現 能 力 ) のカ テ ゴ リ ー そ れ ぞ れ の特 性 と 関 連 を 認 識 し て 評 価 の
基 準 を 明 示 す る のが よ い。 さ ら に いえ ば 、 前 述 のよ う に 評 価 の観 点 、 基 準 を 示 し た 一覧 表 は 、 児 童 ・生 徒 に も 理
解 で き 、 自 分 の文 章 ・作 品 の評 価 に適 用 でき る も の で あ る こと が 望 ま し い。 こ の よう な 目 的 を 実 現 す る た め に作
成 さ れ た 評 価 項 目 表 の例 を 挙 げ て お こう ( 中 学 校 第 一学 年 、 第 二 学 年 段 階 の生 活 文 の評 価 項 目 表 の例 ) ( 注 3)。
︿評 価 表 の例 ﹀
三
﹁ 書 く こと の学 習 指 導 ﹂ の 評価
こ こま で は 、 児 童 ・生 徒 の書 く こ と の活 動 お よ び 彼 ら の作 成 し た 文 章 ・作 品 の評 価 に つ いて考 察 し て き た 。 書
く こと の学 習 指 導 の評 価 と し ては 、 極 め て当 た り 前 の こ と であ る 。 し か し な が ら 、 児童 ・生 徒 の書 く 活 動 や そ の
結 果 と し て の文 章 ・作 品 が 、 教 師 に よ る 指 導 のも と で 実 現 し て いる こと を 考 え るな ら 、 指 導 者 の営 み そ のも の を
も 評 価 の対 象 に 据 え る必 要 も 出 てく る 。 つま り 、生 徒 の実 態 を ふ ま え な が ら 、書 く こと の学 習 指 導 を デザ イ ンし 、
実 践 し 、 特 定 の結 果 を 生 み 出 す 仕 組 み を 作 った 指 導 者 の行 為 の評 価 であ る 。 こ のよ う な 評 価 は 、 ﹁授 業 研 究 ﹂ と
し て行 わ れ る こ と が 多 く 、 特 に 目新 し いも の では な いが 、 形 式 化 し 、 指 導 技 術 に か か わ る 些 末 な 論 議 に 終 始 す る
こ と も 少 な く な い。 児 童 ・生 徒 の書 く こと の活 動 が 、 指 導 者 の構 想 し た 学 習 指 導 の め ざ す 成 果 を 挙 げ て いる か 、
つま り 書 く こ と の学 び が 成 立 し て い る か ど う かを 解 明 し 、 問 題 が あ れ ば 改 善 の工 夫 を 施 し 、 学 習指 導 の質 の向 上 に つな が る よ う に 、 改 め て そ の意 義 を 認 識 し て お く 必 要 が あ る 。
児 童 ・生 徒 が 文 章 ・作 品 を 生 み 出 す た め の学 習 指 導 の諸 段 階 に お け る デ ザ イ ン やそ の デザ イ ンに 基 づ く 実 践 の
質 は 、 ど のよ う に 評 価 さ れ る こ と に な る であ ろう か 。 次 のよ う な 観 点 を 設 定 す る こと が 考 え ら れ る 。
︵一︶ 実態 の把握
学 習 指導 を 開 始 す る に際 し て、 児 童 ・生 徒 の書 き 言 葉 によ る表 現 活 動 の実 態 、 表 現 能 力 の実 態 が 正 確 に 把 握 で
き て いる か 、 ど のよ う な方 法 に よ って、 そ の実 態 と 問 題 を 把 握 し て いる か を 評 価 し た い。 児 童 ・生 徒 の行 う 表 現
活 動 は 、 国 語 科 に お け る、 時 間 的 に 限 定 さ れ た 書 く こと の学 習 指 導 の他 にも 様 々 なも のが あ る 。 児 童 ・生 徒 の 国
語 科 内 外 で の表 現 活 動 と そ の結 果 を 視 野 に 入 れ 、 ま た 、 実 態 把 握 のた め に 用 意 し た テ スト 等 に よ り 、 児 童 ・生 徒 が 切 実 に 必 要 と す る も のを 用意 す る前 提 を 正 確 に 把 握 す る努 力 を し た い。
︵二︶ 目標 の設定
教 科 書 を 使 用 し て行 わ れ る書 く こと の学 習 指 導 は 、 教 科 書 単 元 の趣 旨 に 従 って、 目 標 を 設 定 す る こと が 多 い。
し か し 、 児 童 ・生 徒 の 実 態 に照 ら し た 場 合 に は 、 設 定 さ れ た 目 標 が 常 に 妥 当 であ る と は 限 ら な い。 学 習 指 導 要 領
に規 定 さ れ た 目 標 や内 容 に 準 拠 し 、 児 童 ・生 徒 の実 態 を ﹁想 定 ﹂ し て作 成 さ れ た 教 科 書 や 単 元 であ っても 、個 々
の教 室 の実 態 を 反 映 し たも のと は いえ な い場 合 も 多 い。 実 態 と 大 き く ず れ た 目 標 を 設 定 し た 場 合 に は 、 書 く こ と の学 び の成 立 は 難 し い。
︵三︶ 教材 、学習活 動の創造と 編成
目 標 達 成 のた め に 教 材 が 選定 さ れ 、 学 習 活 動 が デザ イ ンさ れ る 。 選 定 さ れ た 教 材 や 用 意 さ れ た 活 動 が 、 学 習 者
に と って妥 当 な も ので あ った か ど う か は 、 学 習 指 導 を 展 開 す る過 程 お よ び 結 果 と し て 明 ら か に な る が 、 特 に 、 学
習 指 導 の過 程 で、 そ の妥 当 性 を 判 断 し 、 問 題 が あ る と 判 断 さ れ た 場 合 は 、 直 ち に 改 善 さ れ な く て は な ら な い。
教 科 書 は 周 到 な 配 慮 の産 物 で は あ るが 、 す べ て の 学 級 や学 習 者 に最 適 と いう わ け で は な い。 ま た 、 周 到 に 配 慮
さ れ た 存 在 で あ る が 故 に 、 書 く こ と の カ リ キ ュラ ム を 指 導 者 自 ら が 創 造 す る 余 地 を 奪 っても い る 。 学 習 者 の 興
味 ・関 心 ・意 欲 、 能 力 の実 態 を 踏 ま え 、 彼 ら にと って 最 も 必 要 と さ れ る 教 材 と 学 習 活 動 を 自 前 で用 意 す る姿 勢 で
臨 む こ と が 、 既 存 の教 材 や 、 モ デ ルと し て提 示 さ れ て いる 学 習 活 動 の質 を 評 価 す る こと に つな が る。
デザ イ ンさ れ 、 実 施 さ れ た 学 習 指 導 の計 画 の質 は 、 授 業 研 究 に お いて 検 討 さ れ 認 定 さ れ る べき こ と であ る が 、
授 業 は 、 年 間 指 導 計 画 や 単 元 と の関 係 で存 在 す る と いう 視 点 を 失 う こ と な く 、 し か も 、 緻 密 な 分 析 と 評 価 を 実 施 す る こと が 求 め ら れ る 。
前 掲 の児 童 作 品 が 、 一連 の学 習 指 導 の結 果 生 み 出 さ れ た も の であ る と 想 定 す る な ら 、 そ の指 導 者 の学 習指 導 の
デ ザ イ ンと 実 践 は 、 こ の学 習 者 に と って は 、 残 念 な が ら 、 適 切 な も の であ った と は いえ な い。 す べ て の面 に わ
﹁評 価 ﹂ 主体 の育 成
た って改 善 が 求 め ら れ る と 評 価 し な く ては な ら な い。
四
こ こ ま で 、書 く こと の学 習 指 導 に お け る 評 価 のあ り 方 を 二 つ の側 面 か ら 考 察 し て き た 。 そ のよ う な 評 価 の先 に あ る のは 、 自 ら が 評 価 で き る主 体 と し て の児 童 ・生 徒 の育 成 で あ る。
児童 ・生 徒自 ら が 、 国 語 教 室 、 さ ら に は そ れ を 超 え た ﹁実 の場 ﹂ で 、 自 ら の書 く こと の活 動 の質 や 、 作 成 さ れ
た 文 章 や作 品 の質 の 評 価 を し 、 さ ら に質 の高 いも のを 目 指 す 力 を 育 成 す る こと を 目 指 し た い。 指 導 者 の学 習 指 導
の構 想 力 と 実 践 力 は 、 最 終 的 に は 、 こ の よ う な 児 童 ・生 徒 を 育 成 しえ た か ど う か によ って 評 価 さ れ る 。
︵l︶ 広島 県内 の小 学生 に よる作 品 ( 森 田信義 ﹃ 表 現 教育 の研 究﹄溪 水 社 一九 八九 五六 ∼五 九頁参 照 )
注
︵ 3︶ 福岡 教育 大学 国語 科 研究室 ﹃認識力 を育 てる作 文教 育﹄ 明治 図書 一九 七五
︵2︶ 江 口季好 ﹃ 綴 方 の鑑賞 と評 価﹄ 百合 出版 一九 七 二 三 四 三∼ 三四 四頁
第 八 章 書 く こ と の 学 習 指 導 と そ の発 展
一 は じ め に ︱ 書 く こと の学 習 指 導 の発 展 ・そ の 可 能 性 と多 様 性
国 語 科 で指 導 す る べ き 領 域 お よ び 内 容 は 、 一般 に 、 ﹁話 す こと ﹂、 ﹁聞 く こと ﹂、 ﹁書 く こと ﹂、 ﹁読 む こと ﹂ の 四
領 域 と し て 、 あ る いは 、 ﹁話 す こ と ﹂ と ﹁聞 く こと ﹂ を ﹁話 す こ と ・聞 く こと ﹂ と 一つ に し た 三 領 域 と し て 考 え
ら れ る 。 も ち ろ ん 、 これ ら の各 領 域 は 、 そ れ ぞ れ を 個 別 に 指 導 す る だ け で は な い。 いく つか を 組 み 合 わ せ て、 例
え ば ﹁読 む こと ﹂ の指 導 の中 に 、 感 想 を 書 き と め た り 小 見 出 し を 書 き 加 え た り す る ﹁ 書 く こと ﹂ の活 動 を 取 り 入
れ る。 ま た 、 ﹁話 す こと ﹂ の指 導 の中 で 、 話 の素 材 や 題 材 を メ モと し て書 き 込 ん だ り 要 点 を 箇 条 書 き に し た り す
る ﹁書 く こと ﹂ の活 動 を 行 う 。 さ ら に、 ﹁書 く こと ﹂ の活 動 は 、 こ のよ う な 国 語 科 だ け では な く 、 理科 や社 会 科
等 の他 の教 科 の中 で も 行 わ れ る 。 授 業 の内 容 や実 験 ・調 査 等 の結 果 を ノー ト や 黒 板 に ﹁書 く こと ﹂ は 、 他 の教 科
の学 習 の中 でも 、 当 然 の こと と し て 行 わ れ る 。 さ ら に、 ﹁書 く こと ﹂ の活 動 は 、 特 別 活 動 ( 学 級活動 、児童 会活
動 、 ク ラ ブ 活 動 等 ) や道 徳 、 総 合 的 な 学 習 の中 でも 行 わ れ る 。 こ の よう に、 ﹁書 く こと ﹂ は 、 国 語 科 の中 だ け で
は な く 、 学 校 に お け る す べ て の 学 習 活 動 の中 で、 そ れ ら と 切 り 離 す こ と の でき な いも のと し て、 様 々に 用 いら れ 活 用 さ れ て いる の であ る 。
﹁書 く こ と ﹂ が 、 こ のよ う に 活 用 さ れ る の は 、 そ れ が 、 狭 義 の言 語 活 動 だ け に と ど ま ら ず 、 子 ど も た ち に 、 対
象 を よ く 観 察 し 、 深 く 考 え 、 豊 か に感 じ る内 面 的 な 思 考 ・認 識 活 動 を 促 し 、 さ ら に は 、 そ の活 動 の内 容 と 結 果 を
記 録 し 保 存 す る 働 き を す る か ら で あ る。 ﹁書 く こ と ﹂ は 、 思 う こ と であ り 、 考 え る こ と であ り 、 ま た 、 感 じ る こ
と で も 、 と らえ る こと で も あ る。 さ ら に は 、 振 り 返 り 、 整 理 し 、 保 存 す る こと でも あ る 。 そ れ は 、 課 題 や 問 題 を
追 求 し 記 録 す る 心 の働 き と も 言 え る 。書 く こ と の学 習 指 導 は 、 直 接 的 に は 、 狭 義 の言 語 技 能 、 す な わ ち 、 ﹁書 く
こ と ﹂ の技 術 や 能 力 の 習 得 を 目 指 し て行 わ れ る 。し か し 、そ の指 導 は 、言 語 の技 術 や能 力 の範 囲 に と ど ま ら な い。
よ り 広 く 、 思 考 や認 識 を 培 い、 課 題 や問 題 を 追 求 し 、 そ の 結 果 を 保 存 す る 機 能 を も 担 う の であ る。 こ の よう に 考
え る と 、 ﹁書 く こ と ﹂ は 、 国 語 科 の他 の領 域 や 社 会 科 ・理 科 等 の他 の教 科 、 さ ら に は 教 科 外 の 特 別 活 動 や道 徳 と
深 く か か わ り 、 そ れ ら と 相 互 に 支 え 合 い補 い合 う 関 係 にあ る と と ら え る こと が でき る 。 ま た 、 理科 ・社 会 科 等 の
他 の教 科 や 特 別 活 動 の中 で 、 も の の見 方 や考 え 方 、 あ る いは 行 動 の仕 方 を 指 導 す る こ と は 、 何 に つ いて 、 ど う と
ら え 考 え る べ き かを 教 え る こと で も あ る 。 そ れ は 、 ま た 、 ﹁書 く こと ﹂ の指 導 か ら は 、 何 を 話 題 に し 、 ど のよ う
な 順 序 で、 ど の よ う な 角 度 か ら 取 り 上 げ て書 く べき か と いう 、 [取 材︱ 構 想︱ 記 述 ] の指 導 に も な って いる の で あ る。
子 ど も た ち は 、 余 程 のこ と が な い限 り 、 文 章 の書 き 方 を 身 に つけ よう と し て 、 あ る いは 、 そ の技 術 や 能 力 を 習
得 し よ う と し て、 ﹁書 く こ と ﹂ に取 り 組 む の で は な い。 だ れ か に 何 か を 伝 え た く て、 あ る い は 、 ﹁書 く こと ﹂ の必
要 性 や 必 然 性 を 感 じ て 、 鉛 筆 を 握 る の で あ る 。 こ のよ う に考 え ると 、 国 語 科 の他 の領 域 や 他 の教 科 、 さ ら に は 特
別 活 動 や 道 徳 等 の学 習 活 動 は 、 す べ て、 ﹁書 く こ と ﹂ の学 習 の基 底 を 支 え る も のと し て 、 ま た 、 そ れ を 発 展 さ せ る も のと し て、 欠 か す こと ので き な い働 き を す る も のと と ら え ら れ る 。
こ の よう な ﹁書 く こ と ﹂ の学 習 と 他 領 域 ・他 教 科 の学 習 と の関 係 は 、 左 の よ う な 図 に 示 す こと が でき る 。
子 ど も た ち は 、 一方 で 、 ﹁書 く こと ﹂ に よ って 国 語 科 の他 の領 域 や 他 教 科 等 に か か わ る 思 考 力 や 認 識 力 を 培 い、
ま た 、 国 語 科 の他 の領 域 や 他 教 科 等 の学 習 に よ って ﹁書 く こと ﹂ に か か わ る 思 考 力 や 認 識 力 を 育 ん で いる の であ る。
﹁書 く こ と ﹂ の学 習 指 導 は 、 す で に 述 べ た よ う に 、 国 語 科 の 四 つま た は 三 つ の領 域 のう ち の 一つと し て 位 置 づ
け ら れ る 。 し か し 、 そ の機 能 や学 習 の場 は 、 狭 く 限 ら れ るも の では な い。 ﹁書 く こと ﹂ は 、 子 ど も た ち の 学 習 活
動 のす べ て の場 に欠 か す こと の でき な いも の であ り 、 ま た ﹁書 く こ と ﹂ の活 動 のあ る と こ ろ は 、 す べ て が 、 子 ど も た ち の学 習 活 動 の 働 く 場 な の であ る 。
二 書 く こと の学 習 指 導 の 発 展 ・国 語科 の中 で の発 展
国 語 科 の指 導 の中 で ﹁書 く こ と ﹂ を 取 り 上 げ る の は 、 完 全 無 欠 な 、 優 れ た 文 章 の書 き 手 を 作 る た め で は な い。
す べ て の子 ど も が 、 気 軽 に 自 在 に 、 書 き た い こと を 書 き た いだ け 書 け る よ う にす る 。 そ れ が 国 語 科 に お け る ﹁書
く こと ﹂ の指 導 の 最 も 大 き な 目 的 であ る 。 大 切 な の は、 優 れ た 作 品 では な い。 ま し て や 、 一握 り の作 文 選 手 を 作
る こと で も な い。 大 切 な の は 、 書 き 手 と し て の子 ど も を 育 て る こ と であ る。 ま た 、 豊 か な ﹁書 く こと ﹂ の活 動 の
場 を 与 え 、 子 ど も ら し い個 性 的 な 認 識 や 思 考 、 そ れ に基 づ く 表 現を 生 み出 さ せ る こと で あ る。
も ち ろ ん 、 一ま と ま り の優 れ た ﹁作 品 ﹂ が 書 け る の に 越 し た こと は な い。 し か し 、 優 れ た ﹁作 品 ﹂ は 結 果 で
あ って 目 的 で は な い。 し た が って 、 優 れ た ﹁作 品 ﹂ だ け を 目 指 し た ﹁書 く こ と ﹂ の指 導 を す る べ き で は な い。
﹁書 く こ と ﹂ の目 的 は 、 あ く ま でも 、 ﹁書 く こ と ﹂ に よ る 思 考 や 認 識 の深 化 と 、 他 者 と 通 じ合 う た め の文 章 表 現 力
の育 成 で あ る 。 ﹁書 く こと ﹂ の活 動 、 あ る い は ﹁書 く こ と ﹂ の過 程 そ のも の が 大 切 に さ れ る 指 導 が 目 指 さ れ な け
れ ば な ら な い。 ﹁作 品 ﹂ と し て の 上 手 ・下 手 で は な い。 そ の よ う な 考 え 方 の外 に あ る 、 言 い換 え れ ば 、 一ま と ま
り の作 品 で は な く 、﹁書 く こと ﹂ の活 動 そ のも の と 、そ こ か ら 生 み出 さ れ る文 章 と を 大 切 にし よう と す る ので あ る 。
こ の よう な 考 え 方 を 前 提 と す る と き 、 国 語 科 の 中 で の ﹁ 書 く こと ﹂ の学 習 指 導 の発 展 と し て、 次 の よう な 活 動 が考え られる。
① 視 写 ・聴 写 を す る 。 ② 初 発 の感 想 を 書 く 。 ③ 学習 のまと めや続き物語を 書く。 ④ 文図 や構造図を書 く。 ⑤ 中 心 と な る言 葉 を 丸 で 囲 ん だ り 書 き 抜 い たり す る 。 ⑥ 小 見 出 し や要 点 を 書 く 。
⑦ 一つ 一つ の言 葉 や 語 句 、表 現 に対 す る 感 想 や 思 いを 書 く 。 ⑧ 文 と 文 と の つな が り や 関係 を 表 に書 く 。 ⑨ 登 場 人 物 の関 係 や つな がり を 図 や表 に ま と め る 。 ⑩ 心 情 変 化 や 様 子 を 折 れ 線 や 絵 に 書 いた り す る 。
こ れ ら の他 に 、 登 場 人 物 に な って 思 い や考 え を 書 く 、筆 者 の 工夫 や配 慮 に つ いて の意 見 を 書 く 、 述 べ ら れ て い る意 見 や 主 張 に対 す る自 分 の考 え を 書 く 等 の活 動 が 考 え ら れ る。
いず れ に せ よ 、読 み終 わ った 後 に 、追 究 の 結 果 を 感 想 や ま と め と し て書 く だ け で は な く 、読 み進 め て いく 中 で 、
読 み な が ら 書 く 、 あ る いは 、 書 き な が ら 読 む 活 動 、 す な わ ち 、 探 求 と し て の ﹁書 く こ と ﹂ を 大 切 にし た い。 そ の
た め にも 、 ま ず 、① と し てあ げ た 視 写 ・聴 写 の 持 つ意 義 と 価 値 を 、 書 く こと の学 習 指 導 の発 展 と し て、 大 切 にし て いき た い。
こ こ で 言 う 視 写 ・聴 写 と は 、 た だ 書 き 写 す だ け の活 動 を いう の で は な い。 も ち ろ ん 、 ﹁読 む こ と ﹂ の最 初 の段
階 で は、 書 く こと に 慣 れ 文 字 に 慣 れ る た め に、 た だ 右 か ら左 に 写 す だ け の、 狭 い意 味 で の書 写 も 行 わ れ る 。 そ こ
で は 、 ﹁ご ん は 、 ぐ った り と 目 を つぶ った ま ま 、 う な ず き ま し た ﹂ と いう 文 を 与 え ても 、 ﹁ご / ん / は / ぐ / っ/
た / り / と / ⋮ ⋮﹂ と 文 字 を た ど って書 き 写 す だ け であ る 。 し か し 、 慣 れ てく る と 、 す ぐ に ﹁ご ん は 、 / ぐ った
り と / 目 を / つ ぶ った ま ま 、 / ⋮ ⋮ ﹂ と 、 語 句 の ま と ま り を と ら え 、意 味 を 理解 し て読 み な が ら 書 く こと が で き
る よ う に な る 。 最 初 は 一文 字 一文 字 を 機 械 的 に書 き 写 し て いた 子 ど も た ち も 、 語 や 句 の 区 切 り を 意 味 のま と ま り
と し て と ら え な が ら 、 内 容 を 理 解 し た 上 で ﹁書 く こと ﹂ が でき る よ う に な る 。 そ の 時 の 子 ど も た ち は 、 ﹁ご /
ん / は / ⋮ ⋮ ﹂ と 一文 字 ず つを 書 き な が ら 、 意 識 は 文 字 に な い。 子 ど も た ち の目 と 心 は 、 眼 前 に イ メ ー ジ と し て
浮 か ん で いる ﹁ご ん ぎ つね ﹂ の形 象 に 注 が れ て いる 。 ﹁ご ん は 、 ぐ ったり と 目 を つぶ った ま ま 、 う なず き ま し た ﹂
と いう 一枚 の絵 や 一つの映 像 を と ら え な が ら 、文 字 ど お り 鉛 筆 で手 で 、 文 や 文 章 を 読 ん で い る の であ る 。 ﹁書 く
こと ﹂ に よ って 、 手 で鉛 筆 で 読 む こ と 、 そ れ に よ って 二重 三 重 に文 章 の世 界 に ひた る こ と 、 こ こ に、 ﹁読 む こ と ﹂ の学 習指 導 と し て の ﹁書 く こ と ﹂、 す な わ ち 視 写 ・聴 写 の第 一の働 き が あ る。
さ ら に 、 ﹁ご ん は 、 ぐ った り と 目 を つぶ った ま ま 、 う な ず き ま し た ﹂ と いう 文 も 、 普 通 に 読 む だ け で は 、 子 ど
も た ち の意 識 は ﹁ご ん﹂ の ﹁目 を つぶ った ま ま ﹂、 ﹁ う な ず き ま し た ﹂ と いう 様 子 や動 作 だ け に 向 か って し ま い 、
﹁ぐ った り と ← 目を つぶ った ま ま ﹂ であ る こと に は 向 か わ な い。 子 ど も た ち の目 に は 、 当 然 、 ﹁ぐ った り と ﹂ と い
う 言 葉 は 写 って いる 。 し か し 、 目 に は 写 って い て も 、 そ の言 葉 を 本 当 に は 見 て いな い。 見 え て い な い の で あ る 。
そ の よう な 子 ど も た ち に 、 いわ ば 目 で 読 む だ け で は な く 、手 で読 む 活 動 と し て の視 写 ・聴 写 を さ せ る の で あ る 。
﹁目 を つぶ った ま ま ﹂、 ﹁う な ず き ま し た ﹂ と いう 二 つ の言 葉 だ け を 意 識 し て い た 子 ど も た ち も 、 視 写 ・聴 写 を す
る こと に よ って 、 ﹁ぐ った り と ﹂ と いう 言 葉 を 意 識 し 、 そ の言 葉 に 着 目 せ ざ るを え な く な る 。 こ の よ う な 視 写 ・
聴 写 に よ って、 語 句 だ け で は な く 、 見 落 と し がち な 助 詞 や 助 動 詞 に も 、 あ る いは ﹁く り が ﹃固 め て ﹄ 置 いて あ る
⋮ ⋮ ﹂、 ﹁青 いけ む り が 、 ﹃ま だ ﹄ つ つ口 か ら ⋮ ⋮ ﹂ 等 の言 葉 の違 い や表 現 の細 部 に も 、 改 め て 目 を 向 け さ せ る こ
と が で き る 。 表 現 を 大 切 に し 、 言 葉 や語 句 を 見 落 と さず 敏 感 に 反 応 す る こと の で き る 子 ど も を 育 て る こ と 、 ﹁読
む こと ﹂ の学 習 指 導 と し て の ﹁書 く こ と ﹂、 す な わち 視 写 ・聴 写 の第 二 の働 き で あ る 。
話 し合 い に終 始 し が ち な ﹁読 む こ と ﹂ の学 習 指 導 の 中 に 、 こ のよ う な 、視 写 ・聴 写 を は じ め と す る ﹁書 く こ と ﹂
を 繰 り 返 し 取 り 入 れ た いも の であ る 。 学 習 活 動 の中 で 、 文 や文 章 に 読 み浸 る た め に ﹁書 く こ と ﹂ も 、 有 効 な 方 法
であ る 。 ま た 、気 に 入 った表 現 を 含 む 一文 を 視 写 ・聴 写 さ せ 、 そ れ に感 想 や 意 見 を 書 き 添 え さ せ る のも 意 味 のあ
る こ と であ る 。 ﹁書 く こ と ﹂ を 繰 り 返 す こと に よ って、 集 中 力 や 持 続 力 を 培 う と と も に 、 言 葉 や表 現 に敏 感 に反
応 す る感 性 や 、鋭 く 豊 か な 言 語 感 覚 を 身 に つけ さ せ る こ と が で き る 。 そ の よ う な 指 導 は 、 ま た 、 豊 か で 活 力 のあ る国語 教室を作り 出す基と なると考え られ る。
三 書 く こと の学 習 指 導 の発 展 ・他 教 科 の中 で の 発 展
学 習 指 導 の中 で の ﹁書 く こ と ﹂ は 、 国 語 科 の中 だ け で は な く 理 科 や 社 会 科 等 の他 の教 科 の中 で も 行 わ れ る 。 そ
こ で は 、 調 べた こ と や わ か った こと を 箇 条 書 き の形 で書 く 、 板 書 を ノー ト に 写 す 、 考 え た こと や 思 い つ いた こと
を 備 忘 の た め に メ モ を す る等 の活 動 が 中 心 と な る 。 理 科 や 社 会 科 等 の指 導 は 、 そ れ ぞ れ の教 科 独 自 の目 標 や 内 容
を と らえ るた め に行 わ れ る の であ って、 ﹁書 く こと ﹂ の指 導 を 目 指 し て行 わ れ る の で は な い。 し た が って 、 そ こ
で の ﹁書 く こと ﹂ は 、 あ く ま で も 、 そ れ ぞ れ の 教 科 の学 習 指導 を 有 効 な も の に す る た め の手 段 や 方 法 と し て 用 い ら れ る の で あ る。
理 科 や社 会 科 の学 習 指 導 で は 、 様 々 な 実 験 や観 察 、 あ る いは 資 料 や 調 査 等 が 駆 使 さ れ る 。 そ の た め に、 子 ど も
た ち は 、 何 のた め に何 を し て いる のか を 見 失 い、実 験 の面 白 さ や資 料 の珍 し さ等 、 目 先 の表 面 的 な事 柄 に振 り 回
さ れ てし ま いが ち であ る 。 例 え ば 、 理 科 で 、 水 成 岩 と 火 成 岩 の組 成 の違 いを 調 べ る た め に金 づ ち で 小 石 を 割 って
いる う ち に 、 そ の 目的 を 見 失 い、 た だ 金 づ ち で 石を 割 る こと 自 体 に 、あ る い は火 花 が 散 る こ と 自 体 に 喜 び を 感 じ
て し ま って いる 子 ど も の姿 等 は 、 そ の典 型 的 な も の で あ る 。 そ のよ う な事 態 を さ け る た め に も 、 理科 や 社 会 科 等
の学 習 指 導 の中 に ﹁ 書 く こと ﹂ を 活 用す る こと が有 効 であ る 。
子 ど も た ち は 、 ﹁書 く こ と ﹂ に よ って 各 教 科 の学 習 の中 で の体 験 や 思 考 ・認 識 を と らえ 直 し 、 何 が解 決 し何 が
残 さ れ た 課 題 や 問 題 で あ る のか を 確 認 す る 。 ま た 、 ﹁書 く こ と ﹂ に よ って 、 物 事 に 対 す る 見 方 や 考 え 方 を 確 か な
も の に し 、 首 肯 で き る も の と で き な いも のと を 区 別 す る 。 あ る いは 、 新 た な 知 識 や認 識 を 主 体 化 し 自 ら の も のと
す る こ と も でき る し 、学 習 の 現 状 と 歩 み を 確 認 し 、そ の足 跡 を 保 存 す る こ と も で き る。 さ ら に 、書 き な が ら 考 え 、
書 き な が ら 追 究 す る こと に よ って、 そ の筋 道 を 客 観 的 な も のと し て確 か めな が ら 、 学 習 を 進 め る こ と も で き る 。
例 え ば 、 理 科 や 社 会 科 の 学 習 の中 で 、 ま ず 、 説 明 的 な 文章 の基 本 的 な 型 で あ る 、 次 のよ う な 柱 立 てを 示 し て か ら 、 学 習 活 動 を 開 始 さ せ て は ど う だ ろう か 。
①事 実を あ げ て 問 題 や課 題 を 提 示 す る 。 ② 仮 説 と そ の根 拠 や理 由 を 示 す 。 ③ 調 査 や 実 験 の内 容 ・方 法 ・結 果 を 報 告 す る 。 ④調 査や実験と 仮説と の関係を説 明する。 ⑤ 調 査 や実 験 に つ いて の意 見 を 述 べ る 。 ⑥ 意 見 が 正 し い こと を 論 証 す る。 ⑦ 予 想 さ れ る 反 論 を 想 定 し 、 そ の反 論 への再 反 論 を す る 。 ⑧ 結 論 や今 後 の課 題 、残 さ れ た 問 題 等 を 述 べ る 。
も ち ろ ん 、 これ ら の項 目 のす べ てを 取 り 上 げ る 必 要 は な い。 学 年 に よ って 、 あ る いは 、 子 ど も た ち の能 力 や 興
味 ・関 心 に よ って 、 あ る程 度 選 択 し て 示 す こと が 必 要 で あ る 。 ま た 、 理 科 や 社 会 科 の 教 科 書 でと ら れ て いる 説 明
や 論 述 の方 法 ・構 成 を 考 え さ せ た り 、 国 語 の教 科 書 の中 の ﹁あ り の 行 列 ﹂ ( 三 年 ) や﹁一 秒 が 一年 を こ わ す ﹂ (五
年 ) 等 の 説 明 文 教 材 の構 造 や 組 み 立 て 、 そ の背 後 に あ る筆 者 の 工夫 や 配 慮 に つ い て考 え さ せ る のも よ い。
いず れ に せ よ 、 子 ど も た ち に 課 題 や 問 題 を 与 え 、 そ れ を自 主 的 ・主 体 的 に 追 究 す る 主 体 的 な 学 習 を 行 わ せ る に
し ても 、 ど の よ う な事 柄 を な ぜ 今 ど う 取 り 上 げ て 行 く べき か を 、 一つ の例 と し て 示 し て や る こ と が 必 要 であ る 。
そ う でな け れ ば 、 課 題 や問 題 を 追 究 す る 出 発 か ら 、 子 ど も た ち が つま ず く こ と に な って し ま う 。 そ の よう な 意 味
で、先 の① か ら ⑧ の 柱 立 て は 、課 題 や 問 題 を 追 究 す る た め に ふ ま え な け れ ば な ら な い事 柄 や 段 階 で あ る と と も に 、 そ れ を 説 明 す る た め の項 目 や 組 み 立 て の例 示 で も あ ると いう こと が でき る 。
戦 後 の優 れ た 教 育 実 践 者 の 一人 であ る東 井 義 雄 は 、 そ の実 践 記 録 ﹃村 を 育 て る 学 力 ﹄ (昭 和 三 二 ︿ 一九 五 七 ﹀
年 五 月 明 治 図 書 ) の中 で 、 こ の よう な 教 科 の学 習 指 導 に お け る ﹁書 く こ と ﹂ を ﹁ 作 文的方法 ﹂と名付 け、次 の よ う に 述 べ て いる 。
子 ど も た ち の感 じ 方 や 、 思 い方 、 考 え 方 、 行 い方 は 、 単 に 、 作 文 の 時 間 、 あ る いは 国 語 の時 間 だ け の も の
で は な い。 算 数 の時 間 に は 、 算 数 的 感 じ 方 、 思 い方 、 考 え 方 、 物 事 の処 理 の仕 方 が あ り 、 理 科 の時 間 に は 、
理 科 的 な ﹁は て な ? ﹂ ﹁お や お や ﹂ ﹁な ぜ だ ろう ﹂ ﹁こう か も し れ な いそ ﹂ ﹁こ う し て み た ら ど う な るだ ろ う ﹂
﹁な る ほ ど ﹂ ﹁でも 、 い つで も 、 ど こ でも そ う だ ろう か ﹂ ⋮ ⋮ と いう よ う な 、 感 じ 方 、 思 い方 、 考 え 方 、 行 い 方 が 、 存 分 に 働 か な く ては な ら な い。 ( 中 略− 引 用 者 )
と こ ろが 、 こ れ に ﹁ 作 文 的 方 法 ﹂ を と り 入 れ て 、 理 科 の時 間 の 一片 の ﹁は てな ? ﹂ も 、 ﹁な ぜ ? ﹂ も 、 ﹁こ
う か も し れ な いそ ﹂ も 、 ﹁な る ほ ど ﹂ ⋮ ⋮ も 、 そ れ を ノ ー ト の 上 に書 き つけ て いく よ う に し た ら ど う で あ ろ う か。
書 く と いう こと は 、 粗 末 に し な いこ と であ る 。 う っか り し て お れ ば 、 反 古 の よう に 忘 れ 去 ら れ て いく も の を 、 いた わ って や る こ と であ る 。 (中略︳ 引 用者 )
ま た 、 ﹁作 文 的 方 法 ﹂ は 、 一定 の形 を 持 た な い生 命 の活 動 に 、 形 を 与 え て いく 方 法 で あ る か ら 、 手 に と っ
て 見 る こと の でき な いも のを 、手 に と っ て見 る こ と が でき る よ う にす る 方 法 で も あ る。
(﹃村 を 育 て る 学 力 ﹄ 一八 一∼ 一八 二頁 )
東 井 義 雄 は 、 子 ど も た ち の内 面 活 動 であ る 思 い方 ・考 え 方 ・行 い方 ・感 じ 方 等 の 思 考 ・認 識 活 動 を 、 文 章 に書
く 以 前 の 、 形 を 持 た な い、 心 の中 で の ﹁書 く こと ﹂ であ る と す る 。 そ れ を ﹁書 く こと ﹂、 す な わ ち 、 形 を 与 え る
こ と によ って 、 思 考 ・認 識 の 深化 ・拡 充 ・整 理 ・保 存 と と も に 、 客 観 化 ・主 体 化 が 図 ら れ る と す る の であ る 。
こ の よ う な 考 え に立 つ東 井 義 雄 の 教 室 で は 、 ﹁く ら し の教 科 ﹂ と 呼 ば れ る 作 文 が 書 か れ る 。 子 ど も た ち の ﹁く
ら し ﹂、 す な わ ち 生 活 の 中 に 各 教 科 指 導 の萌 芽 を 見 い出 す と と も に 、 各 教 科 で学 習 し た事 柄 の生 活 化 が ﹁書 く こ と ﹂ に よ って図 ら れ る の であ る 。
いま 、 そ の ﹁く ら し の教 科 ﹂ のう ち の ﹁ふ ろ 水 の算 数 ﹂ の 一部 を 取 り 出 す と 、そ れ は 、次 のよ う な も の であ る 。
﹁ふ ろ 水 の 算 数 ﹂
五年 T M
き ょう 学 校 で 、 バ ケ ツ の 水 、 一升 び ん の か さ 、 や か ん の 水 な ど を 、 は か っ て み る 算 数 を し た 。 ぼ く は 、 家 に
﹁ふ ろ 水 の か さ を し ら べ て み よ う か い﹂ と 、 そ う だ ん し た 。 ( 中 略︱ 引 用 者 )
帰 っ て か ら も 、 何 か は か って み よ う と 思 った 、 Y ち ゃ ん と 、
(﹃ 村 を 育 て る 学 力 ﹄ 二 五 七 ∼二 五 八 頁 )
そ れ で 、 こ の 、 ふ ろ の 水 は 、 バ ケ ツ に な ん ば い 分 は い って い る か 、 か ん じ ょう し た 。 て つ の と こ ろ ま で ⋮ ⋮ 10 ぱ い タ イ ル 一つ ぶ ん ⋮ ⋮ ⋮ 1 ぱ い カ ラ ンで入 れた ぶ ん⋮ 4は い
1 0 × 1 5=1 5 0
み ん な で 、 十 五 は いだ 。 一ぱ いに 十 リ ット ル だ か ら 、 ぜ ん ぶ で は 、
百 五 十 リ ット ル 水 を いれ た こ と が わ か った 。 しら べがす ん だ ので、す ぐ 、 ふろを わ かし はじ めた 。
国 語 科 以 外 の他 教 科 の学 習 の中 で の ﹁書 く こと ﹂ の活 動 が 、 文 章 表 現 技 能 の育 成 を 直 接 の目 標 と し た も の で は
な い こと は、 す で に述 べ た と おり であ る。 し か し 、 子 ど も たち は 、 国 語 科 の ﹁書 く こと ﹂ の学 習 に よ って蓄 え ら
れ た 知 識 や 技 術 ・能 力 を 用 いて 、 理 科 や 社 会 科 の 中 で ﹁書 く こと ﹂ に取 り 組 む の であ る 。 ﹁書 く こと ﹂ を ﹁書 く
こと ﹂ と 意 識 し な い、 手 段 や 方 法 と し て の ﹁書 く こ と ﹂ の指 導 の積 み重 ね に よ って 、 結 果 的 に文 章 表 現 力 が高 ま
ると と も に、 優 れ た 思 考 力 や 認 識 力 、 さ ら に は 、 理 科 や 社 会 科 等 の教 科 の学 習 へ の主 体 的 な 姿 勢 を 持 った 子 ど も た ち を 育 て る こ と が でき る の であ る 。
こ こ で取 り 上 げ た 東 井 義 雄 の ﹁く ら し の教 科 ﹂ の実 践 は 、 昭 和 二 〇 年 代 後 半 に 行 わ れ た も の であ る 。 し か し 、
決 し て色褪 せ た古 び た も ので は な い。 む し ろ逆 に 、 そ の 現 代 的 価 値 を 再 評 価 し 、 今 取 り 組 む べ き 、 優 れ た ﹁書 く こと の学 習 指 導 の発 展 ﹂ と し て の指 導 と いう こ と が で き よ う 。
四 書 く こと の 学 習指 導 の発 展 ・特 別 活 動 等 の中 で の 発 展
国 語 科 だ け で は な く 、 理 科 も 社 会 科 も 、 学 習 の 経 験 や結 果 を 生 活 化 す る こと を 大 切 に し て い る 。各 教 科 で 学 ん
だ こと を 生 活 に 活 用 ・応 用 し た り 、 生 活 の中 で の 経 験 を 学 習 活 動 に 取 り 入 れ た り も す る 。 そ れ は 、 国 語 科 も 理 科
も 社 会 科 も 、 そ れ ぞ れ の教 科 の独 自 の 知 識 や技 術 ・能 力 、 あ る いは 思 考 や 認 識 の方 法 を 学 ぶと と も に、 そ の こと
によ って 、 も の の見 方 や考 え 方 、 感 じ 方 を 鍛 え 鋭 く す る こ と を 目指 す か ら で あ る。 子 ど も 一人 ひ と り の 生 き 方 や
行 動 の 仕 方 は 、 そ れ ぞ れ の子 ど も ら し い、 個 性 的 な も の の見 方 や 考 え 方 、 感 じ 方 を 基 礎 に し 、 様 々な 現 象 的 な 動
き と な って表 れ る 。 そ の よ う な 子 ど も の生 き 方 や 行 動 の仕 方 は 、 そ れ ま で の学 習 活 動 で習 得 さ れ た 、 各 教 科 独 自
の知 識 や技 能 等 に よ って 大 き く 左 右 さ れ る。 子 ど も た ち は 、 ﹁書 く こ と ﹂ に よ って 、 対 象 を よく 観 察 し 、 深 く 考
え 、 感 受 性 を 鋭 く す る 。 ま た 、改 め て自 ら の個 性 や特 質 と 向 き 合 い、 言 葉 を 媒 介 と し て自 然 や 社 会 の状 況 と も か
か わ って いく 。 ﹁書 く こと ﹂ に よ って、 自 分 ら し い考 え 方 や感 じ 方 と 出 会 い、 自 分 が ど のよ う な 思 考 や 認 識 の型 や方 法 を 持 って いる のか に気 づ か さ れ る の であ る 。
﹁書 く こ と ﹂ の持 つ機 能 を こ の よ う に と ら え る と 、各 教 科 が そ れ ぞ れ に 持 つ独 自 の知 識 や技 術 ・能 力 、 あ る い
生 き 方︱
の指 導 を す る 特 別 活 動 等 の指 導 の中 に お い ても 、 そ の手 段 や 方 法 と
は 思 考 や 認 識 の方 法 を 学 ぶ 国 語 科 や 理科 、 社 会 科 だ け で は な く 、 そ れ ら の成 果 を ふま え て直 接 的 に 子 ど も た ち の も の の 見方 や考 え 方 、 感 じ方︱
し て、 ﹁ 書 く こと ﹂ が 大 き な 意 味 や機 能 を 持 つも のと な る 。
例え ば 、 学 校 の行 事 で あ る遠 足 の行 き 先 を 相 談 す る に し ても 、 生 活 の指 導 と し て ﹁み ん な 仲 良 く ﹂ と 指 導 す る
に し て も 、た だ 話 し 合 い活 動 を す るだ け では 、そ の場 だ け の単 な る 思 い つき の交 換 に 終 わ って し ま う 。あ る いは 、
﹁いけ な いこ と だ と わ か って い て も 、 な ぜ 意 地 悪 を し て し ま う の か ﹂、 ﹁ど ん な と き に意 地 悪 を し てし ま う の か ﹂
等 に つ い て の議 論 が 深 ま らず 、 他 人 事 のよ う に 、 簡 単 に ﹁明 日 か ら 気 を つけ て、 意 地 悪 を し な いよ う に し ま し ょ
う ﹂ と 決 議 し て話 し 合 いが 終 わ って し ま う 。 そ のよ う に な ら な いた め に も 、 ﹁ 書 く こ と ﹂ の 活 動 を 用 い る の であ る。
こ の よ う な 、 ﹁話 し 合 う こと ﹂ と ﹁書 く こと ﹂ を 切 り 離 す こ と の で き な いも のと し て結 び 付 け た 実 践 の う ち 、
先 の東 井 義 雄 と 並 ぶ著 名 な 教 育 実 践 者 で あ る 小 西 健 二郎 が 二年 生 の子 ど も を 対 象 と し て行 った 指 導 の構 成 を 取 り
(H E)
(H J)
(H S ) ( ⑤ と は 別 人︱ 引 用 者 )
出 す と 、 そ れ は 、 次 のよ う に な って い る 。
① Y Sさ ん の こ と
(YS )
② Y Sく ん の こ と ③ し から れた
(A Y )
④ Y S さ ん へ ・み ん な か ら ・み ん な か な ん
(H K )
・お ま い ら の け よ いう て す る や ね ・こ れ か ら な か よ う か え れ よ
・ごん た せ ん と か え ろ
(Y K)
・手 を つ な い で か え った ら よ い ( A F)
( H S)
⋮ ⋮ し ゅ う いち く ん と み な さ ん へ ( 小 西 健 二郎 )
(H M )
(IM)
( 小 西 健 二郎 )
⑤ せ ん せ い が お こ っち ゃ った ⑥ おや おや おや おや ⑦ ひ ろ こ さ ん は し ん せ つで す ⑧ おか あち ゃんにし から れた とき
右 は 、 [子 ど も た ち が事 件 や 出 来 事 を 話 題 と し た文 章 を 書 く ← プ リ ン ト に 印 刷 し て 配 布 し 、 そ れを 読 ん で 話 し
合 う ← 話 し 合 いを 踏 ま え て文 章 を 書 く ← プ リ ン ト に 印 刷 し て配 布 し 、 そ れ を 読 ん で話 し 合 う ← ⋮ ⋮ ] と いう 活 動
を 繰 り 返 し 、 後 、 そ れ ら の プ リ ン トを 合 冊 製 本 し 学 級 文 集 と し たも の ( 学 級 文 集 ﹁た ん ば の こ﹂ 第 六 号 兵 庫 県
氷 上 郡 大 路 第 二小 学 校 二年 生 小 西 学 級 一九 五 七 ︿昭 和 三 二 ﹀年 三 月 二 五 日 刊 二七 ∼ 四 〇 頁 ) の目 次 ・構 成 で あ る。
小 西 健 二郎 は、 ﹁H J ﹂ と ﹁H E﹂ の 日 記 に よ って 、 ﹁YS ﹂ が 下 校 途 中 に 雪 を 投 げ て 数 人 の児 童 を いじ め た こ
と を 知 り 、 ﹁Y S﹂ に注 意 を 与 え よ う と す る 。 し か し 、 ﹁Y S﹂ が 嘘 を つ いた た め に 厳 しく 叱 り 、 ﹁Y S﹂ が 泣 き
出 し て し ま う 。 こ のよ う な 経 過 を 踏 ま え 、 小 西 健 二郎 は 、 学 級 の児 童 に 、 ﹁Y S ﹂ が 数 人 の児 童 を いじ め た こ と 、
嘘 を つ いた こと に つ い て話 し 合 いを さ せ る た め に 、 日記 と し て書 か れ 提 出 さ れ た ① ② ③ の文 章 を 印 刷 し て 配 布 す
る 。 こ れ ら の文 章 を 用 いた 話 し 合 いの 後 に 、 そ の話 し合 い に参 加 し た 児 童 が 書 いたも の の いく つか と 小 西 健 二郎
が 自 ら の考 え を 記 し た の が 、 ④ に収 め ら れ て いる 文 章 で あ る。 さ ら に、 ④ の文 章 を 読 み 合 った 後 の話 し 合 いを 踏
ま え 、小 西 健 二郎 が 大 声 で 叱 った こと への疑 問 を 書 いた⑤ 、 児 童 の文 章 の中 にあ った 表 現 や表 記 の誤 り を 小 西 健
二郎 が指 摘 を し た ⑥ 、 いじ め る こと と 逆 の親 切 な 行 動 の気 持 ち 良 さ を 書 いた⑦ 、 自 分 の叱 ら れ た 経 験 を 書 いた ⑧
の文 章 を 加 え て 一連 の [ 書 く こ と〓 話 し 合 う こ と ] の指 導 が行 わ れ て いる の で あ る 。 こ のよ う な 中 で書 か れ た
① か ら⑧ ま で の文 章 のう ち 、 と く に 注 目 さ れ る の は、 ④ に 収 め ら れ て いる 文 章 であ る 。 いま 、 そ れ ら の文 章 の中
か ら 、 ﹁H K﹂ の ﹁こ れ か ら な か よ う か え れ よ ﹂ と 小 西 健 二郎 の ﹁Y S く ん と み な さ ん へ﹂ の冒 頭 部 分 を 取 り 出 す と 、 そ れ は 、 そ れ ぞ れ 、 次 の よう な も の で あ る 。
﹁こ れ か ら な か よ う か え れ よ ﹂
HK
Y Sく ん 、 み ん な の ま え で し か ら れ ん な ん の は 、 か な ん や ろ 。 ほ ん で 、 ぼ く と さ い な ら し て か ら も 、 な か よ う
かえ れよ 。 ﹁ も う こ れ か ら 、 ご ん た し ま せ ん 。﹂ と 、 み ん な の ま え で 、 な み だ を こ ぼ し て い わ ん な ん の は 、 か な ん やろ 。
せん せ い
ぼ く は 、 Y Sく ん が 、 せ ん せ い に し か ら れ る と き 、 ぼ く も 、 し か ら れ そ う や った じ ょう 。 せ ん せ い 、 し か る ん や った ら 、 ふ つう の こ え で し か って く だ さ い。 ぼ く は 、 は ら が ど き ど き し ま し た 。
﹁Y Sく ん と み な さ ん へ﹂
せ ん せ い は 、 ち ょ っと ゆ き を か け た ぐ ら い の こ と は 、 そ う わ る い こ と だ と は お も い ま せ ん 。 そ れ で も 、 ふ た り
も に っき に か い て い た の で 、 み ん な が こま る か ら 、 そ ん な こ と を し な い よ う に 、 Y S く ん に お は な し し よ う と お も って い た の で す 。
け れ ど も 、 せ ん せ いが ﹁Y S く ん 、 ゆ き を か け た だ ろ う 。﹂ と 、 い った と き 、 Y Sく ん が 、 ﹁は し っと って 、 し
ら ん と か け た 。﹂ と い う の で 、 み ん な に 、 も う 一ど き いて み た ら 、 や っぱ り 、 わ ざ と か け た こ と が わ か った の で す 。 ﹁せ ん せ い に う そ を いう た な 。﹂ と 、 お も った の で す 。 ( 以 下略︱ 引 用 者 )
こ こ では 、 ﹁H K﹂ も 小 西 健 二 郎 も 、 ﹁Y S﹂ を 責 め ては いな い。 話 し 合 い の話 題 が 、 ﹁Y S ﹂ が 数 人 の児 童 を
いじ め た こ と 、 嘘 を つ いた こと に つ い て で あ る 限 り 、 そ の話 し 合 いは 、 ﹁Y S ﹂ を 責 め 、 そ の非 を 指 摘 す る も の
に な り が ち で あ る 。 ﹁正 し いこ と ﹂ と ﹁正 し く な いこ と ﹂、 ﹁善 ﹂ と ﹁悪 ﹂ が は っき り と し て い る か ら であ る 。 し
た が って、 そ れ は 、 時 と し て、 非 を 指 摘 さ れ る 側 の児 童 を 糾 弾 し て孤 立 さ せ 、 人 間 関 係 を 失 わ せ る こと に な って
し ま う 。 し か し 、 小 西 健 二 郎 は 、 そ のよ う に な る こと を さ け 、 非 は 非 と し て指 摘 し な が ら も 、 学 級 の児 童 相 互 の
共 感 ・共 鳴 と 仲 間 意 識 、 さ ら に は 、 教 師 と 児 童 と の心 の交 流 を 図 ろ う と す る 。 い じ め る と いう 行 為 、 あ る い は嘘
を つく と いう 行 為 は 許 さ れ る べき も の で は な い。 そ れ は 厳 し く 指 導 さ れ 正 さ れ る べ き こと で あ る。 た だ 、 そ の よ
う な 指 導 に よ って児 童 相 互 の仲 間意 識 、 あ る いは 、 学 級 全 体 と し て の集 団 意 識 、教 師 と 児 童 と の信 頼 関 係 等 が失
わ れ る の で は な く 、 こ のよ う な 機 会 に、 逆 に そ れ ら が 高 ま る こ と を 目 指 そ う と す る の であ る 。 小 西 健 二郎 の こ の
よ う な 指 導 の姿 勢 が 、 こ こ に引 用 し た ﹁H K ﹂ の ﹁こ れ か ら な か よ う か え れ よ ﹂ や 、 ⑦ の ﹁I M﹂ の ﹁ひ ろ こ さ
ん は し ん せ つ で す ﹂、 あ る いは ⑧ の ﹁H M ﹂ の ﹁お か あ ち ゃん に し か ら れ た と き ﹂ 等 の や さ し く あ た た か い文 章 が 生 み 出 さ れ る こと に つな が った も のと 考 え ら れ る 。
こ の よ う な [書 く こ と〓 読 み合 い話 し 合 う こと ] の 反 復 の中 で 、 子 ど も た ち は 思 いや 考 え を 深 め 、 豊 か で 広
いも の にし て いく 。 ま た 、 不 完 全 で 不 十 分 な 文 章 は 、 読 み合 い話 し 合 う こと の 中 で、 よく わ か ら な い文 章 と し て
コミ ュ ニケ ー シ ョン︱
の素 材 と し て適 切 な 、 詳 し く わ か り や す い文 章 に書 き 換 え ら れ て い
質 問 を 受 け 、書 き 足 り な い部 分 を 補 った り 書 き 間 違 って いる 部 分 を 訂 正 し た り し て、 より わ か り や す い文 章 、 学 級 で の伝 え 合 い︱ く。
し た が って 、 こ のよ う な [書 く こ と〓 読 み 合 い話 し 合 う こ と ] の指 導 は 、 特 別 活 動 等 の 中 で の指 導 であ る と
お わ り に
と も に 、 優 れ た 文 章 表 現 指導 と も な って いく の であ る 。
五 ︱ 書 く こと の学 習 指 導 の発 展 ・そ の 可 能性 と 必 要性
す で に何 度 か 繰 り 返 し た よ う に 、 ﹁書 く こ と ﹂ は 考 え る こと で あ り 整 理 す る こと で あ り 、 ま た 、 と ら え 直 し 振
り 返 る こ と でも あ る 。 こ の よ う な 書 く こ と の機 能 と 、 形 を 与 え 保 存 し 、 ま た 読 み合 う た め の書 か れ た も の の機 能
に よ って、 ﹁書 く こと ﹂ は 、 国 語 科 の 枠 を 越 え た 多 様 な 場 で活 用 し 育 て る こと の でき る も の と な る 。 言 い換 え れ
ば 、 そ れ は 、 書 き方 を 教 え る コ ンポ ジ シ ョン の指 導 と 、書 き 手 を 育 て る コミ ュ ニケ ー シ ョ ン の指 導 と の車 の両 輪
のよ う な 働 き に よ って、 結 果 と し て 、 子 ど も た ち の文 章 表 現 力 を 育 て て いく こ と にも な る 。
これ か ら の教 育 に は 、 自 ら の考 え を 確 か に持 ち 広 く 深 く 考 え る こ と の でき る 子 ど も 、 他 者 と の伝 え 合 いを 積 極
的 に行 い豊 か な 人 間 関 係 を 形 成 す る こ と の でき る 子 ど も が 求 め ら れ る 。 そ のよ う な 目 的 のた め に も 、 ﹁書 く こ と ﹂ の学 習 指 導 の持 つ可 能 性 と 必 要 性 と を 大 切 に し た いも の で あ る。
四段 構 成 114
冷却 期 間 63
ワ 行
連 文 の諸 類 型 74 ラ 行 螺 旋 的 発展 186
論 述 200
枠組 み 作 文 105
論証 的叙 述 43
『わ た しは小 学 生 』 40,166
論 の進 め 方 120 リア リズ ム 35
欧 文
論理 の 一 貫 性 124
理 科 198 立 体 編 集 168,171
NIE運
動 89
西 尾 実 22,41
題 』 16
冒 頭 の 類 型 115
『西 尾 実 国 語 教 育 全 集 」 41
表現 語 彙 74
ポ ー トフ ォ リオ 176
日本作 文 の 会 33,36
表現 生 活 人 79
ボ トム ア ップ の構 想 方 法
人 間 関 係 208
表現 的叙 述 43
認 識 193
表 現 能 力 187
―の 仕 方 179 認 識力 194
能 力 193
マ 行
表 現 力 の低 落 傾 向 78 評 語 150 描 写 的 叙 述 43
年 間計 画 75
l22
表 出 的 叙 述 43
間 瀬(ま せ)泰 男 134 マ ッ ピ ン グ 100
評 論 173
マ ッ プ化 112
広 島 高 等 師 範 学 校 附属 小 学 校
―の 差 143
52
未展 開の構想 43
野 地 潤 家 40 ノ ー ト 69
附(付)加
野 名 龍 二 36
複 文 56
形 式 の 構 想 45
村 井 万 里 子 145,160 『村 を育 て る学 力 』 200
―の 使 用 55 ハ 行
場 95,106,130,191
藤 原与 一 52
明瞭 な 文 表現 55
ブ レ ー ンス トー ミ ン グ 100
メ デ ィア ・リテ ラ シ ー 108
プ ロ グ ラ ム 182
―の 条 件 に よる 活 動 化 の
分 割 104
目次 168
原理 83
文 芸 主 義 綴 方 27
目的 意 識 96
場 意 識 96
文 型 の 選 択 65
目的 的 な書 く活 動 85
発 想 61,96
文 種 72
目的 的 な言 語 活 動 85
―の 指 導 95 話 し合 い(活 動) 108,204 パ ブ リ ッ ク な 言語 生活 場 面
―の 基 本 類 型 73
目標 149
―の 変 換 172
もの の 見 方 ・考 え 方 、 感 じ方
文章
(と ら え方) 137,179,
78
―の 結 尾 116
187,199
番 外 171
―の 構 成 114
模 倣 と独 創 67
判 断 力 の 成 長 55
―の 冒頭 115
模 倣練 習 67
反 復 形 式 の 構 想 45
文 章 研 究 63
森 毅 105
範 文 模 倣 期 24
文 章 全 体 の 設 計 図 111
森 岡健 二 36,96
文 章 表 現 過 程 96
問題 史 的展 望 23
批 正 109,162
文 章 表 現 力 195
評 価 61,87,88,149,154,
分 析 的 評 価 176
161,176,180,181 評 価 基 準 181
ヤ 行
文 の 長 短 65 文 の 長 短 リ ズ ム 163
評 価 表 186
『や さ しい 文 章教 室 』 7 野 性 32
表 記 140
平 面 編 集 168,171
表 記 法 の 活 用 65
別 作 品 作 り 172,173
融 合 的 単 元 92
表 現 140
変換 形 式 の 構 想 45
「優 劣 のか な た に」 17,20
―す る こ とに 伴 う負 担 と
変 形 思 考 法 103
不 安 156
編 集 167
『表 現 教 育 の 理 論 と実 践 の 課
―の ハ イ ラ イ ト 171
要 旨 140 要 約 文 124
『小 学 校 児 童作 文 能 力 の 発 達 』
120
「綴 方 教 育 の 方 法 」 41
52
『綴 方 教 室 』 40
小 主 題 126
総 括 的 評 価 88,176
『綴 り方 教 授 』 25
情 報 収 集 107
総 合 的 学 習 92
『綴 方 生 活 』 29
小 論 文 124
総 合 的 評 価 176
『綴 方 読 本 」 27
叙 写 28
創 構 の 機 能 81
『綴 方 へ の 道 』 57
叙 述 42
相 互 評 価 154,176
綴 る力 43
相 対 的 評 価 176
『綴 る力 の 発 展 と そ の指 導 』
―の 類 型 42,43
52
処 理 の 観 点 149 タ 行
白石 寿 文 11,13
綴 る働 き 41
事 例 列 挙 の 叙 述 体 54 『新作 文 指 導 事 典 』 14
体 験 基 盤 174
デ ィベ ー ト 101
診 断 的 評 価 176
題 材 61
デ ザ イ ン 175
真 の 表 現 44
題 材 指 導 62
寺 田 寅 彦 106
題 材 表 107
添加 104
随 意 選 題 25
対 象 化 136
展 開 形 式 の構 想 45
推 敲 44,45,61,109
態 度 能 力 79
展 開 部 117
―の 学 習 63
タイ トル 65
図式 化 112
題 名 61,65
東 井(と
鈴 木三 重 吉 27
対 話 137
動 機 付 け の 性 格 70
逞 し き原 始 子 供 29
童 心 主 義 28
田 中 宏 幸 106
到 達 度 評 価 176
弾 劾 文 173
討 論 108,173
学習 経 験 ・結 果 の―
単 元 学 習 86
特 殊 化 104
203
短 作 文 60,77
読 書 感 想 文 182
生 活 化 79,203 書 くこ との―
79
―の 機 能 81
生 活教 育 29 生 活綴(り)方
29,184
生 活 の 指 導 204
独 立 的 単 元 87 戸 田 唯 巳 36,152,160
生 活 文 22
―の 構 成 の仕 方 65
接 続助 詞 56
―の 種 類 127
絶 対 評価 176
―の 統 一 126 段 落 相 互 の つ な が り 126 段 落 相 互 の 連 携 ぶ り 65
トッ プ ダ ウ ンの 構 想 方 法 122 トピ ッ ク ・ア ウ トラ イ ン 120 トピ ッ ク ・セ ン テ ンス 124 ―の 役 割 66 豊 田正 子 40
説 明 200 説 明 的 叙 述 43
独 白 173
段落 ―が に な う役 割 分 担 65
―を用 い る セ ンテ ンス
雄 200
短 作 文 指 導 の 基 本 的 原 理 82
生 活 表 現 の 作 文 55
56
うい)義
調 査 192 ナ 行
説 明 的 文 章 199 全 過 程 を支 え る 69
伝 え合 い 207
戦 後 の 研 究 48
土 田茂 範 36
内 容 140
選 材 96
綴 らせ て 導 く 26
内 容 面 に み ら れ る 発 達 49
線 状 的 指 導 過 程 61
綴 らん とす る心 25
中西 一 弘 105,145,153
全 体 性 の 原 理 83
綴 り方 22,162
長 野 県 飯 田 市 42
セ ンテ ンス ・ア ウ トラ イ ン
「綴 方 、 こ の よ い もの 」 33
基 本 的 指 導 過 程 161
『構 想 の 研 究 』 44
自 己評 価 153,176
逆 接 の 接 続 助 詞 56
構 想 方 法 122
事 後 評 価 176
逆 転 104
行動 的構 想 43
自 己表 現 期 24
脚 本 173
公表 166
自作 解 説 172,173
脚 下 照 顧 1,4
交 流 157
指 示 詞 「こ の」 127
客 観 的 評 価 176
効 力 感 158
視 写 196
教 育 実 践 記 録 36
国語 科 の授 業 目標 86
シス テ ム化 80
教 育 的 評 価 176 教 育 の 中 核 39
国分(こ くぶ ん)一 太 郎 33 "五 七 五 日記 『匂 玉 』" 11 ,13
シス テ ム構 成 体 80
共同学習 による推敲指導
言 葉 に よ る ス ケ ッチ 167
事 前 評 価 176,177
言 葉 の 機 能 81
下 書 き メモ 119
共 同 鑑 賞 166
小 西 健 二 郎 36,209
事 中 評 価 176
共 同 批 正 166
個 別 指 導 134,157
実験 192
虚 構 の 場 106
細 か い き ざみ の項 目評 価 54
実 践 構 造 90
『近 代 国語 教 育 体 系 』 52
細 か なス テ ッ プ 61
実 の 場 191
『近 代 国語 教 育 論 大 系 』 44
小 見 出 し 65
詩 的 表 出 の 機 能 82
コ ミ ュニ ケー シ ョン 24,
視 点 の 転 換 106
138
空 間 的 関 係 づ け 127 空 間 の 移 動 127
207,208
―の 原 理 83
指 導 54,61‐64,77,94,130,
コ ンポ ジ シ ョン 208
134,149,153,157,161,
組 み 立 て 42
176,178
倉 澤 栄 吉 50,96
―の場 130
サ 行
『倉 澤 栄 吉 国語 教 育 全 集 』 50
―の場 の シス テ ム 化 94
く ら しの 教 科 201
最 終 的 総 ま とめ 56
ク ラ ス メ イ トの 存 在 142
材 料 の 配 列 118
自 分 の 意 図 71
作 品 195
社 会科 198
形 式 か らみ た 発 達 49
作 品 批 評 172,173
社 会 的 生 活 的 機 能 82
形 成 的 自 己 評 価 活 動 87
作 文 77
社 会 的 通 じ合 い 24
形 成 的評 価 87,161,176
指 導 コー ス の シス テ ム 化 84
―の 基 礎 的 力 80
社 会 的 通 じ合 い 期 24
敬 体 165
「作 文 教 育 にお け る評 価 」 50
ジ ャ ンル の 変 換 172
計 量 面 か らみ た 発 達 49
『作 文 指 導 論 』 40
思 惟 的構 想 43
結 尾 の類 型 116
作 文 的 方 法 200
研 究 こ ぼ れ 話 173
小 砂 丘(さ
言 語 活 動 例 21
雑 集形 式 の構 想 46
主 観 的 評価 176
澤 田英 史 105
取 材 61,96,178 ―の 指 導 95
語 彙 の 網 の 目 74
さお か)忠
三段 構 成 114
語 彙 の 選 定 65
集 材 96 義 29
自 由選 題 30
取 材 帳 107
交 差 す る指 導 過 程 64
詩 173
主 題 140,178
構 成 42,61
時 間的 順 序 127
主 題 意 識 177
構 成 図 111
事 件 的 構 想 43
主 題 把 握 179
構 想 42,43,45,61,111.178,
思 考 193
首 尾 の 照 応 128
179 ―の類 型 42 構 想 指 導 63
―の 基 本 類 型 74 思 考 力 194 自 己学 習 力 159
準 備 学 習 60 『小 学 生 の 言 語 能 力 の 発 達 」 48
索
(第二 学 年) 55 ア 行
カ 行
(第三 学 年) 55 (第四 ・五 学 年) 55 (第六 学 年) 56
相 手 意 識 72,96
書 い た 後 の 指 導 61
ア ウ トラ イ ン ll1,112
書 い て い る 最 中 の 指 導 61
書 く場 の 形 成 要 因 85
青 木 幹 勇 36
概 念 くだ き 35
書 く必 然 性 の あ る 場 95
青 写 真 179
会 話 を 入 れ て 文 章 をつ づ る
書 く広 場 の 確 保 69
『赤 い 鳥 』 27
55
書 く前 の 指 導 61
『赤 い 鳥 』綴 方 27,31
書 き換 え 106
書 こ う と した こ と 150
赤 ぺ ん 146,149,150,152,
書 き足 し 106
課 題 72
書 き出 し と書 きお さ め の 首 尾
学 級 文 集 33
159 芦 田 恵 之 助 24
照 応 65
学 級 文 集 「た ん ば の こ」205
『新 しい 綴 方 教 室 』 33
書 き慣 れ 60,84
学 校 図 書 館 108
あ りの ま ま 27
書 く こ と 77
活 用 61
―の カ リキ ュ ラ ム 182 飯 田 恒 作 52
―の 基 礎 ・基 本 の 能 力 ・
―の 基 礎 ・基 本 163 金 原 省 吾 44
意 見 文 165
技 能 93
蒲 池 美 鶴 40,166
石 森 延 男 57
―の 習 慣 化 79
亀 村 五 郎 152
『石 森 延 男 国 語 教 育 選 集 』 57 一 般 化 104
―の 生 活 化 79
川 喜 田二 郎 100
『書 くこ との 教 育 』22
観 察 108
イ ン タ ビ ュ ー 108
学 習 技 能 と して の 機 能 82
観 察 的構 想 43
学 習 記 録 154
感 想 192
学 習 指 導 要 領 21,186
観 点 提 示 101
学習者
関連 的 単 元 87,92
ウ ェ ブ の検 索 108
江 口 季 好 184 エ ッ セ イ 165
―が 主 体 の 授 業 展 開 86
演 繹 型 の構 想 方 法 122
「価 値 」 150 ―の つ まず き 134
記 述 61,162
応 用 コ ー ス 84
―の 発 達 段 階 124
技 術 193
―に 自覚 さ れ て い な い
聴 写 196 ―の体 系 73
大 き ざ み の 発 達 の 姿 54
学 習 の 手 引 き 92
記 述 後 評 価 181
大 村 は ま 7,8,14,16,17,
書 く生 活 の 指 導 77
記 述 中 評 価 180
書 く力 43
記 述 的 叙 述 43
書 く とい う こ と 1‐4,7,17,
記 述 前 指 導 178
102,131,138 お さ な さか らの 脱 皮 55 同 じこ とば の 反 復 使 用 127 帯 的 単 元 87
20
帰 納 型 の 構 想 方 法 122
学 年 ご との 発 達 相 54
機 能 性 の 原 理 83
(第一 学 年) 54
基 盤 コー ス 84
引
執 筆 者(執 筆順)
野 地 潤 家 広島大学名誉教授/鳴門教育大学名誉教授 田 中 俊 弥 大阪教育大学教育学部助教授 *中 西 一 弘 大 阪教育 大学 名誉 教授
大 西 道 雄 安田女子大学文学部非常勤講師 田 中 宏 幸 ノ ー トル ダム清心 女子大 学文 学部助 教 授 金 子 泰 子 信 州 大学 留学 生 セ ンター非常勤 講 師/ 長野 大学 非常 勤講 師
児 玉 忠
弘前大学教育学部助教授
河 野 智 文 福岡教育大学教育学部助教授 村 井万 里 子 鳴門教育大学教育学部教授 *森 田 信 義 広島大学大学院教育学研究科教授 *菅 原
稔
岡山大 学教 育学 部教授 (*編 者)
朝倉 国語 教育講座4 定価 はカバ ーに表 示
書 く こ との教 育 2006年2月25日
初版 第1刷
監修者 倉
澤
栄
吉
野
地
潤
家
発行者 朝
倉
邦
造
株式 発行所 会社
朝 倉 書 店
東 京 都 新 宿 区 新 小 川 町6‐29 郵 便 電 FAX
〈 検 印省 略〉
03(3260)0180
http://www.asakura.co.jp
〓2006〈 無 断複写 ・転載 を禁ず 〉 ISBN 4‐254‐51544‐8
番 号162‐8707 話 03(3260)0141
C3381
教文堂・渡辺製本 Printed in Japan
宇都宮大 小 池 清 治 ・京都女大 小 林 賢 次 ・早大 細 川 英 雄 ・ 愛知県大 犬飼 隆 編
日 本 語 学 キ ー ワ ー ド事 典 A5判
51022‐5 C3581
544頁 本体17000円
宇都宮大 小 池 清 治 ・京都女大 小 林 賢 次 ・早大 細 川 英雄 ・ 十文字女短大 山 口佳 也 編
日 本 語 表 現 ・文 型 事 典 A5判
51024‐1 C3581
520頁 本 体16000円
本 書 は 日本 語 学 の キ ー ワ ー ド400項 目 を精 選 し,こ れ ら に対 応 す る英 語 を付 した 。 各 項 目 につ い て 定 義 ・概 念,基 礎 的知 識 の 提 示 ・解 説 を主 と して, 便 利 ・正 確 ・明解 を モ ッ トー に ペ ー ジ単 位 で平 易 に ま とめ て,五 十音 順 に 配 列 。内容 的 に は,総 記, 音声 ・音 韻,文
字,語
彙,文
法,文
体,言
語生 活
等 の 従 来 の観 点 に加 え て,新 し く表 現 ・日本 語 教 育 につ い て もふれ る よ うに した 。学 部 学 生(留 学 生 を含 む),国 語 ・日本 語 教 育 に携 わ る人 々,日 本 語 に関 心 の あ る 人々 の ため の 必携 書 本 事 典 は 日本 語 に お け る各 種 表 現 を と りあ げ,そ れ らの 表 現 に 多用 さ れ る単 語 を キ ー ワー ドと して 提 示 し,か つ,そ れ ら の 表現 に つ い て 記 述 す る際 に 必 要 な術 語 を術 語 キー ワー ドと して 示 し た後, お もに その 表 現 を特 徴 づ け る文 型 を中 心 に 解 説 。 日本 語 に は 文 生 成 に役 立 つ 有 効 な文 法 が 存 在 し な い と指 摘 され て久 し い。 本 書 は 日本 語 の 文 法 の 枠 組 み,核 心 を提 示 し よ う とす る もの で あ る。 学 部 学 生(留 学生 を 含 む),院 生,国 語 ・日本 語 教 育 従 事 者 お よび 研 究 者 の ため の 必 携 書 言 語 の 研 究 は,こ こ半 世 紀 の間 に 大 きな 発 展 を遂 げ て きた 。言 語 学 の 中核 的 な領 域 で あ る音 や 意 味,
学習院大中島平三編
言
語
の
51026‐8 C3581
事
B5判
典
760頁 本 体28000円
文 法 の研 究 の 深 化 ば か りで な く,周 辺領 域 に も射 程 が拡 張 され,様 々 な領 域 で言 語 の学 際 的 な 研 究 が 盛 ん に な って きて い る。 一 方 で研 究 は 高 度 な専 門 化 と多 岐 な 細 分 化 の 方 向 に進 ん で お り,本 事 典 で は こ れ らの 状 況 をふ ま え全 領 域 を 鳥瞰 し理 解 が 深 め られ る内 容 と した 。 各 章 で こ れ ま で の研 究 成 果 と関連 領 域 の 知 見 を紹 介 す る と共 に,そ の 魅 力 を 図 表 を 用 い て 平 明 に 興 味 深 く解 説 した 必読 書
前筑波大 北 原保 雄 監修
大東文化大 早 田 輝 洋 編
朝倉 日本語講座1
世
界
の
中
の
日 本
A5判
51511‐1 C3381
前筑波大北 原保雄 監修
語
筑波大林
256頁 本 体4500円
史典編
朝倉 日本語 講座2
文
字
・
51512‐X C3381
書
記
A5判264頁
本 体4500円
神戸女大 前 田富 棋 ・早大 野 村 雅 昭 編
朝倉漢字講座1
漢
字
51531‐6 C3381
と
日 A5判
本
語
280頁 本 体4800円
神戸女大 前 田富 棋 ・早大 野 村 雅 昭 編
朝倉漢字講座4
漢
字
51534‐0 C3381
と A5判
社
会
292頁 本 体5200円
〔 内容〕 諸 言語の音韻 と日本語の音韻/諸 言語 の語 彙 ・意味 と日本語の語彙 ・意味/ 日本語 の文構 造 / 諸言語 の文 字 と日本語の文字/諸言語 の敬 語 と 日本語 の敬語 /世 界の方言 と日本語の方 言/ 日本 語 の系統/ 日本語教 育/ 他 〔 内容〕日本語 の文字 と書記/現代 日本語 の文 字 と 書 記法/漢字 の 日本 語への適応/表語文字か ら表 音文字へ/書 記法の発達(1)(2)/ 仮名遣 いの発 生 と歴史/漢字 音 と日本語(呉音系,漢 音系,唐 音系 字音)/国字問題 と文字 ・書記の教 育/他 中国で生 まれた漢字 が 日本で如何 に受容 され 日本 文化 を育 んで きたか総合 的に解 説 〔 内容〕漢字文化 圏 の成立/漢字 の受容/ 漢字か ら仮名へ/ あて字 / 国字/漢字 と送 り仮名/ ふ り仮 名/漢字 と語彙 /漢字 と文章/字書 と漢字/ 日本語 と漢字政策 情報伝達技術 に伴 い,教 育 ・報道 をは じめ と して 各 分野 での漢字使用 のあ り方 と問題 点 を解説。〔 内 容〕 常 用漢字表 と国語施策/ 漢字 の工業規格 /法 令 ・公用文の漢字使用/新 聞 と漢字/放送 と漢字 /学 術情報 と漢字/古典 デー タベ ース と漢字/他
シ リー ズ 〈日 本 語 探 究 法 〉〈 全10巻 〉 小 池清治 編集 字都宮大 小 池 清 治 著
基礎 か ら論 文 ま で。〔内 容 〕「日本 」は 「に ほ ん」か 「に っ ぽ ん 」か / ラ抜 き 言 葉 が 定 着 す る の は な ぜ か /
シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉1
現 代
日 本 語 探 究 法 A5判
51501‐4 C3381
160頁 本 体2800円
字都宮大 小 池 清 治 ・宇都宮大 赤羽 根 義 章 著 シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉2
文
法
探
究
A5判
51502‐2 C3381
法
168頁 本 体2800円
「そ れ でい い ん じゃ な い?」 は なぜ 肯 定 に な る のか / 父親 は い つ か ら「オ トウ サ ン」に な っ た の か/ 夏 目漱 石 は なぜ 「夏 目漱 石 」と署 名 した の か/ 他 〔内 容 〕与謝 野 晶 子 は 文 法 を知 ら な か っ た の か?/ 「言 文 一 致 体 」は 言 文 一 致 か?/ 『夢 十 夜 』(漱石)は 一つ の文 章 か?/ 飛 ん だ の は シ ャ ボ ン玉 か?屋 根 か?/ 真 に 文 を 完 結 させ る もの は な に か?/ 語 で一 番 短 い 文 は な に か?/ 他
日本
筑波大湯 澤 質 幸 ・広島大 松 崎 寛 著
〔内 容 〕音 声 と意 味 とは ど うい う関 係 に あ る の か/
シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉3
美 しい 日本 語 とは何 か / オ ノマ トべ とは何 か/ 外 国 人 に とっ て 日本 語 の 発 音 は 難 しい か /五 十 音 図 は 日本 語 の 音 の一 覧 表 か / 「バ イオ リン」か,「ヴ ァ イ オ リ ン」か / 他
音
声
・音
韻
探
A5判
51503‐0 C3381
究
法
176頁 本 体2900円
字都宮大 小 池 清 治 ・県立島根女子短大 河 原 修 一 著
〔内容 〕「綺 麗 」と「美 しい」は ど う違 うか / 「男」の 否
シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉4
定形 は 「女 」か / 「副 食物 」は フ ク シ ョ クブ ツ か,フ クシ ョ クモ ツ か / 『吾輩 は猫 で あ る』の猫 は なぜ 名
語
彙
探
法
究
愛知県大 犬 飼 隆 著
〔内容 〕「『あ 』と い う文 字 」と「『あ』とい う字 」は 同 じ こ とか / 漢 字 は 表 意 文 字 か,そ れ と も表語 文 字 か
シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉5
文
字
・表
記
探
A5判
51505‐7 C3381
究
法
164頁 本 体2800円
宇都宮大 小 池 清 治 ・7都 宮大 鈴 木 啓 子 ・ シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉6
体
探 A5判
51506‐5 C3381
究 ..法 224頁 本 体3500円
広島大柳 澤 浩 哉 ・群馬大 中 村 敦 雄 ・宇都宮大 香西 秀 信 著 シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉7
レ
ト
リ
ッ
ク
探
A5判
51507‐3 C3381
究
法
168頁 本 体2800円
京都女子大 小林 賢 次 ・相模女子大 梅 林 博 人著
本
語
51508‐1 C3381
史
探
A5判
究
粋 な 和 文 とは / 『竹 取物 語 』は本 当 に 『伊 勢 物 語 』よ り新 し い か / 『土 佐 日 記 』は 「日 記 」か 「物 語 」か / 『枕 草 子』の ラ イバ ル は 「史 記 」か /他 〔内容 〕事 実 は 「配列 」さ れ て い る か / グル メ記 事 は い か に して 読 者 を魅 了 して い る か / 人 は何 に よ っ て 説 得 され るか / 環 境 問題 は なぜ 注 目 され るの か / 感 情 は 説得 テー マ と ど う か か わ る か / 言 葉 は 「文 字 通 りの 意 味 」を伝 達 す る か / 他 〔内容 〕「古 代 語 」か ら「近 代 語 」へ は,い つ どの よ う に 変 わ っ た の か / 古 代 語 で9種 類 あ っ た動 詞 の 活
シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉8
日
/ 漢 字 の部 首 は 形 態 素 か / 「世 界 中」は 「せ か い じ ゅ う」か 「せ か い ぢ ゅ う」か / 横 書 き と縦 書 き は ど ち らが効 率 的 か / 他 〔内容 〕ナ シ ョナ リ ズム が エ ク リチ ュ ー ル を生 ん だ の か / 『古 今 和 歌 集 』「仮 名 序 」は純 粋 な 和 文 か /純
宇都宮大松井貴子著
文
無 しの 猫 な の か / 「薫 」は 男か 女 か/ なぜ 笹 の 雪 が 燃 え 落 ち るの か / 他
法
164頁 本 体2800円
用 形 式 が 現 代 語 で は なぜ5種 類 に な っ た の か / 「係 り結 び」は 現 代 語 で は なぜ な くな っ た のか / 芭 蕉 の 「旅 」は 現 代 の 「旅 」と同 じか/ 他
前鳥取大 森 下 喜 一 ・岩手大 大 野 眞 男著
〔内容 〕方 言 は どの よ うに と らえ られ て き たか / 標
シ リー ズ 〈日本 語 探 究 法 〉9
準 語 は どの よ うに 誕 生 した か / 「か た つ む り」の 方 言 に は どん な もの が あ るの か / 方 言 も ア イ ウ エ オ の5母 音 か / 「橋 」「箸 」「端 」の ア クセ ン トの 区別 は
方
言
51509‐X C3381
探 A5判
究
法
144頁 本体2800円
/ 「京 へ 筑 紫 に 坂 東 さ」とは何 の こ とか / 他
国語 教 育 実践 ・研 究 の た めの 羅針 盤
《朝倉 国語教 育 講座 》 全 6巻 倉 澤 栄吉 ・野 地 潤 家 監修
第 1巻 国語教 育入門 白 石 寿 文 編集 232頁 本 体3500円 国語 教室へ ようこそ/話 したが りや ・聞 きたが りや の国語教室/書 く喜び を分か ち合 う国語教 室/文 学 に遊 ぶ国語教室/ 説明 ・論説に挑む国語教室/ ことば ・文字の魅力 に満ちた国語教室/授業 を愉 しめる 国語 教師に
第 2巻 読 む こ との 教 育 小 田 迫 夫 ・浜 本 純 逸 ・松 山 雅 子 編集 200頁
本 体3500円
読 む ことの機能 と教育/ 読むこ との指導体系/読 むことの指導の内容 と方法/ これか らの読 むことの学 習指 導
第 3巻 話 し言葉の教育 白 石 寿 文 ・山 元 悦 子 編 集 216頁 本 体3200円 話 し言葉学習の特質/話 し言葉教育の戦後60年 史/ 話 し言葉学習の機会 と場/話 し言葉学 習の内容 ・ 方 法 ・評価 /話 し言葉教育 を支 える教師 の話 し言葉
第 4巻 書 くこ との 教 育 中西一 弘 ・森 田信 義 ・菅 原 稔 編集 228頁 書 く と い う こ と/ 書 くこ との 歴 史 的 展 望 / 書 くこ と の能 力 と そ の発 達 / 書 くこ との 学 習指 導 と そ の 体 系 / 書 くこ との 生 活 化 と習 慣 化 / 書 くこ との 学 習指 導 と その 方 法 / 書 くこ との学 習 指 導 に お け る評 価 / 書 くこ との学 習 指 導 とそ の 発 農
第 5巻 授業 と学力評価 世 羅 博 昭 ・三 浦 和 尚 編 集 224頁 本 体3200円 国語科授業構築 ・研 究の基本課題/国語科授業研 究の成果 と試行/ 国語科授業構築 の原理 と方法/国語 科 授業 の構築 と展開/国語科授業の構築 ・研 究の集積 と深化/評価研究 の意義 と方法/学習者把握 をめ ざす評価 の開発 /望 ましい評価方法の開発 と試行/ 学力 ・指導力の評価 と授業 力の向上
第 6巻 研 究必 携 大 槻 和 夫 ・吉 田裕 久 ・植 山 俊 宏 編集 国語教育学総論 /国語教育課程お よび方法 の研 究/ 話す こと ・聞 くこ との指導研 究/書 くこ との指導研 究/ 読む こ との指 導研究/読書指導の研究/ 言語事 項指導の研究/ メディア ・リテ ラシー教 育の研究/ 国語 教育 史の研 究/ 比較国語教育研究/ 国語教 育研 究 と隣接諸科学 上 記 価 格(税
別)は2006年1月
現在